<ミッションと長期ビジョン>
ニッスイグループは2022年、ミッション (存在意義) を改めて定義しました。時代や環境の変化に応じた“食”の新たな可能性の追求を通じて、社会課題を解決することが当社グループの使命であり、存在する意義です。ミッションは土台にある 「創業の理念と5つの遺伝子」 とステークホルダーへのコミットを示す 「サステナビリティ行動宣言」 に基づいています。ミッションを体現し、長期ビジョン 「GOOD FOODS 2030」の実現と持続的な成長を目指します。

当社がこれまで110余年かけて培った資源アクセス力、研究開発力、生産技術、品質保証力、世界各国に張り巡らせたグローバルリンクス・ローカルリンクスで構成される*バリューチェーンの強みと特長を活かし、「心と体を豊かにする新しい食」、「社会課題を解決する新しい食」を提供してまいります。
*「バリューチェーンの強みと特長」の詳細は「統合報告書2024」P.10をご覧ください。
https://www.nissui.co.jp/ir/download/integrated_report/2024_integrated_report_a4all.pdf
<長期ビジョン「2030年のありたい姿」>

長期ビジョン「GOOD FOODS 2030」の達成に向け、マルチステークホルダーへ配慮しながら持続可能な社会への価値を創造する“サステナビリティ経営”を推進するとともに、ROIC活用により成長分野へ経営資源を集中する“事業ポートフォリオマネジメント”を強化し、企業価値向上に努めます。
海外マーケットでの伸長、養殖事業・ファインケミカル事業の成長と差別化を加速し、2030年には、海外所在地売上高比率を50%、売上高1兆円、営業利益500億円を稼げる企業を目指します。

<マテリアリティ>
ニッスイグループでは、2016年度に特定したマテリアリティ(重要課題)に基づきサステナビリティ経営への進化に取り組んできましたが、外部環境の複雑化に対応すべく、2023年度にマテリアリティの見直しを行いました。見直しにあたっては、マテリアリティの位置づけを「ニッスイグループの持続的な成長と中長期的な企業価値向上(ミッションの体現・ビジョンの実現)に向けて優先的に取り組むべき経営上の重要課題」としています。2024年度は、長期ビジョン「GOOD FOODS 2030」の達成に向けて、マテリアリティをベースに新中期経営計画「GOOD FOODS Recipe2」における戦略の策定やKPIの設定を進めました。また、見直したマテリアリティについては、それぞれ対応する推進組織を設置し、執行役員以上が責任者を務め経営視点で取り組むことで、持続可能な社会に向けて価値を創造するサステナビリティ経営を推進しています。

マテリアリティの特定プロセス

STEP1:ニッスイグループが取り組むべき社会課題の抽出と整理
多様な社会ニーズ・要請に対応するため、SDGsやサステナビリティ情報開示ガイドライン、ESG評価項目、規制当局や行政からの要請事項、ステークホルダーエンゲージメントの内容などから社会課題を抽出。ニッスイグループの事業領域や各部門で行ったリスクと機会の分析や役員によるワークショップの結果をもとに、マテリアリティ候補をリストアップしました。
STEP2:サステナビリティ委員会におけるレビュー
サステナビリティ委員会において、ニッスイグループのビジネスモデルの持続性に関するディスカッションを実施。リストアップしたマテリアリティ候補について、不足している項目がないか、レビューを行いました。
STEP3:ステークホルダーによる重要度評価
サステナビリティ委員会でレビューしたマテリアリティ候補について、社内外のステークホルダー(従業員、労働組合、海外グループ会社、NPO/NGO、学識経験者、投資家(株主)、国際機関、行政、業界団体、取引先、将来世代)にアンケートを実施し、ステークホルダーにとっての重要度とニッスイグループにとっての重要度の二軸で課題の重要度を測定しました。
STEP4:役員ワークショップ、社外取締役によるレビュー
重要度評価の結果をもとに、役員によるワークショップを実施。マテリアリティマトリックスを最終化し、マテリアリティ候補を特定しました。また、社外取締役によるマトリックスおよびマテリアリティ候補のレビューも実施しました。
STEP5:外部有識者による妥当性評価
外部有識者4名(投資家、NGO、学識経験者)より、マテリアリティの特定プロセスおよび最終案について、妥当性の評価をいただきました。
STEP6:役員による再討議を経て取締役会にて決議
外部有識者からのご意見を踏まえ、サステナビリティ委員会と執行役員会で複数回の討議を重ね、サステナビリティ委員会にてマテリアリティ最終案を審議。その後、取締役会決議によりニッスイグループが取り組むマテリアリティを特定しました。
(注)マテリアリティ及びマテリアリティ特定プロセスの詳細については、サステナビリティサイトをご参照ください。
https://nissui.disclosure.site/ja/themes/85
マテリアリティ推進体制
見直したマテリアリティについては、それぞれ対応する推進組織を設置し、執行役員以上が責任者を務め経営視点で取り組むことで、持続可能な社会に向けて価値を創造するサステナビリティ経営を推進しています。

<中期経営計画と基本戦略>
前中期経営計画「GOOD FOODS Recipe1」の課題と外部環境変化を分析・整理し、2030年の長期ビジョン実現に向け、中期経営計画「GOOD FOODS Recipe2」において以下3つの基本戦略で取り組みます。




(基本戦略)
〇事業ポートフォリオマネジメントの深化
事業のROICスプレッド・成長性・ミッション親和性を評価し、最適な経営資源配分と事業戦略を推進します。

〇グローバル展開の加速
北米・欧州を中心に事業規模拡大を加速。
水産フライに加え第二の柱を育成するとともに、アジア事業の拡大とグローバルサウスでの事業機会を探索します。

〇新規事業・事業境界領域の開拓
“心と体を豊かにする”“さまざまな社会課題を解決する”イノベーティブな食を通じて成長に繋げます。

〇DXの推進
全体最適を志向したDXにより、業務はもとより製品・サービス・働き方などを革新します。
〇サステナビリティと事業戦略の連動強化
サステナビリティ基点でのビジネスモデルを構築し競争優位を獲得します。また、ステークホルダーとの共創でマテリアリティに取り組み、企業価値を向上します。

〇人的資本経営とブランディングの推進
ニッスイの競争力の源泉を強化し、Recipe2は人的資本とブランディングの取組みを強化し企業価値を向上します。

〇経営戦略と連動したリスクマネジメント
重要リスク対応を一元管理し、優先順位をつけ経営戦略に落とし込みます。
〇グループガバナンスの強化
グループ会社取締役会の実効性を高め、グループ経営の基盤を強化します。
<中期経営計画における投資と財務戦略>
成長と財務安全性の両立を図り、3年間の株主還元は総還元性向40%以上を目指します。

投資については、中計3年間で1,500億円程度を計画しています。(完成ベース)

(1)サステナビリティ全般
<ニッスイグループのサステナビリティ>
ニッスイグループは創業以来、さまざまな自然の恵みを活用して事業を行ってきました。創業の理念、ミッションに掲げるサステナブルな事業活動は私たちの重要な使命です。私たちはニッスイの5つの遺伝子(お客様を大切にする、現場主義、グローバル、イノベーション、使命感)、サステナビリティ行動宣言に基づき、ステークホルダーの皆さまとの連携・協働のもと、事業を通じてマテリアリティ(重要課題)に取り組み、社会課題の解決を目指します。
<ガバナンス>
当社グループでは、持続的な成長と企業価値向上の実現に向けてサステナビリティ経営を進めており、その推進組織として、全執行役員と社外取締役で構成し、CEOを委員長とするサステナビリティ委員会を設置しています。年6回開催するサステナビリティ委員会では、各部会からの報告や提案を受けてサステナビリティを巡る課題に係る具体的な目標や方針、施策を検討しており、取締役会への定期的な報告を通じて、取締役会からの意見や助言をその取り組みに反映しています。なお、サステナビリティを巡る各課題については、サステナビリティ委員会傘下のテーマ別の8つの部会および執行役員会・品質保証委員会・経営基盤リスク委員会傘下の部会において、委員長が指名した部会長(執行役員)と、部会長により任命されたメンバーで部門横断的に対応を行っています。
また2030年の長期ビジョン、経営計画達成に向けて役員報酬体系を2022年度より改定し、業務執行取締役の変動報酬部分の評価指標に、水産物の持続可能性や自社グループ拠点のCO2排出量削減等のサステナビリティ目標の達成度を加えています。

<戦略>
当社グループでは、サステナビリティ経営を長期ビジョン達成のための柱の一つとして位置付け、環境価値、社会価値、人財価値、経済価値の4つの価値創出を目指しています。サステナビリティ課題をリスクと機会の両面から捉え、環境価値、社会価値、人財価値の創出に取り組むことで非財務資本を強化し、経済価値の創出につなげます。
2025年度を初年度とする中期経営計画「GOOD FOODS Recipe2」においては、サステナビリティ経営の深化を基本戦略の一つとし、競争力の源泉となる人的資本とブランディングの取り組みを強化するとともに、マテリアリティ基点でビジネスモデルを構築することで競争優位を獲得し、企業価値の向上を目指します。
<リスク管理>
当社グループは、事業活動の妨げとなるリスクの未然防止に努め、緊急時には人命尊重を第一に損失の発生を最小限に抑え、経営資源の保全と事業の継続に最善を尽くすことで、企業価値を維持・向上していくことをリスクマネジメントの基本方針としています。サステナビリティ課題を含む重要リスクについては、執行役員会、サステナビリティ委員会、品質保証委員会、経営基盤リスク委員会が中心に対応し、社長直轄の組織であるリスクマネジメント委員会が、全社重要リスクを一元的に把握・管理する統合リスク管理機能として審議・承認し、取締役会へ報告することで、全社的リスクマネジメントシステムの構築とその維持・向上に努めています。リスクの詳細は
<指標と目標>
中期経営計画「GOOD FOODS Recipe2」において、経済価値、環境価値、社会価値および人財価値の創出に向け、10のKPIを定めました。関連するマテリアリティの推進組織により、各指標の進捗をモニタリングし、結果に基づき取り組みに反映していきます。
(注):対象範囲はニッスイ個別
(2)テーマ別課題
≪人的資本への対応≫
①人的資本に対する考え方
2030年長期ビジョン「人にも地球にもやさしい食を世界にお届けするリーディングカンパニー」の実現に向けて、私たちは「人財こそが欠かせない価値であり、競争優位の源泉である」との認識を共有しています。こうした考えのもと、当社グループでは、社員一人ひとりが自律的に成長し続けられる企業であること、そして多様な背景を持つ人財が融合しそれぞれの知見や経験を活かしイノベーションの創出や新たな価値創造につながる企業風土を築くことを、重要な経営課題と捉え下記体制で取り組んでいます。
② ガバナンス
「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載の通り持続的な成長と中長期的な企業価値向上に向けて優先的に取り組むべき経営上の重要課題としてマテリアリティを設定していますが、人的資本についても以下のとおり執行役員が責任者を務める推進組織が主体となり施策を立案・実行するとともに、取締役会・執行役員会等において取組の進捗を定期的にモニタリングし人財価値向上の取り組みを後押ししています。

③ 人財戦略の基本的な考え方
ミッションとして掲げた「健やかな生活とサステナブルな未来を実現する新しい“食”の創造」を実践していくためニッスイグループの「人財マネジメントポリシー」を策定しました。ポリシーでは「主体性」「変革」「挑戦」「共創」「完遂」を体現し、未来志向で事業変革と価値創造を牽引する人財が必要であることを明示しており、本人財マネジメントポリシーを基点に①成長事業領域への人財シフト、②個のキャリア自律と多様性を推進する仕組みの整備、③個々の成長を見守り支える組織文化醸成の3つの軸に基づいて人財戦略を推進しています。

④人財戦略の具体的内容
当社グループでは、以下の通り人財戦略に関する具体的な取り組みを推進しています。
なお、記載内容のうち、一部の施策、制度、目標、実績等については、グループ各社での実施がない、あるいは今後展開を予定しているものが含まれており、当社において先行的または独自に推進しているものです。これら取り組みについては、本文中において「当社」の表記を用いております。
(1)計画的な人財確保・育成・配置による成長事業領域への人財シフト
(イ)人財確保部会の設置
ニッスイグループは長期ビジョン「GOOD FOODS 2030」において「事業ポートフォリオマネジメント強化」と「サステナビリティ経営の推進」を両軸に企業価値向上を目指しています。事業ポートフォリオマネジメント強化では、持続的に成長が見込まれる領域に経営資源を集中する事としており、「海外事業」「ファインケミカル事業」「国内外養殖事業」を成長事業領域と定めています。成長事業領域に人財をシフトすべく、質・量の観点で「あるべき人財構成」を定義し、現在の人員構成とのGAPを分析、具体的な議論をスタートするため、各事業の副執行をメンバーとする人財確保部会を設置しました。採用、育成、配置の各プロセスに反映し、経営戦略と整合した人的資本経営を推進しています。
(ロ)公募の取り組み
「主体性」「挑戦」を引き出すため「挑戦したい」と考える社員に、自ら手を挙げる機会を提供し、支援する仕組みの構築を進めています。これにより従来の会社主導の人事異動に加え、社員の意思を尊重した人財配置を可能とし「成長を支える組織」と、「個人の挑戦」を後押し、意欲とスキルの両面を備えた人財の配置を進めることで、成長分野の加速度的な拡大を通じ企業価値を高めてまいります。
(ハ)経営人財育成
当社グループでは、長期的な企業価値向上を支える中核的要素として、「経営人財」の計画的な育成と継承体制の構築を重視しています。市場環境や事業構造の変化が激しさを増す中、意思決定を担う経営人財の計画的な確保と育成は、持続的成長の基盤となる重要課題です。この認識のもと、2024年度より「人財育成委員会」を新設し、社長を委員長とする体制のもと、グループ各社を含めた経営人財の後継者の確保と育成を推進しています。10年単位の長期的視点で、将来の事業リーダーに求められる要件を定義し、候補人財の選定から、必要な経験・スキルの明確化、育成プランの策定とモニタリングに至るまで、一貫したプロセスを整備しました。今後も経営人財の確保と育成にむけた仕組みの強化を目指してまいります。
(ニ)グローバル人財育成
当社グループは、海外事業展開の加速を掲げており、国や文化の枠を越えて価値を共創できる人財の確保と育成が急務と考えています。語学力や異文化理解力に加え、主体性や柔軟性、多様な価値観の中で協働し、新しい価値を創出する力を持つ「グローバル人財」の育成のため、海外への出向に加え、横断プロジェクトへの参加機会の提供等を通じ、実践的な成長機会を提供、国際競争力のある人財の強化を進めています。
その一方で、国内におけるグローバル業務に対応可能な人財、特に中堅以上の層における不足が課題となっており、計画的な育成と人財基盤の整備の強化を進めています。具体的には、候補者に対し、語学力や異文化理解、業務経験の習得を支援する研修や育成機会を提供するほか、海外拠点への出向やグループ横断プロジェクトへの参画といった実践の場を通じて、現場感覚とマネジメントスキルの双方を磨くキャリア形成を促進して参ります。また、グローバル業務に必要な知識・経験を段階的に習得できるキャリアパスの構築に取り組むとともに、人財不足が顕著な領域については経験者採用も活用し、多様な視点と専門性を持つ人財の登用を進めています。今後も、拡大する海外市場や複雑化する国際環境に対応できる人財基盤を整えることで、グループ全体の国際競争力と価値創造力を高めてまいります。
(ホ)専門性の高い人財の育成
R&D、サステナビリティ、ガバナンス、DXなどの専門性の高い人財の確保は、これまで以上に経営の重要なファクターとなっています。2024年度に導入した高い専門性を持つ人財を処遇する人事制度コース(ネクストエキスパート)を弾力的に運用し、専門性の高い人財の採用、登用を推進していきます。また、社内人財についても、専門性を身につけることができる〜など制度の整備に加え、コース異動の柔軟化を進めることで、専門性の発掘とキャリア形成を支援し、変化に強い組織構築を図っていきます。
(2)個のキャリア自律と多様性を支える仕組み
当社は社員が「ありたい姿」を自ら描き、自律的にキャリアを形成していけるよう、各自のキャリア意向に合わせた選択肢を提供するコース別人事制度、スキルアップサポート支援、公募制度、キャリア申告制度に留まらず、入社10年間の間には異分野で経験をつむことができるローテーション制度等を整備しています。また、性別・年齢・国籍・障害の有無などに関わらず、多様な社員がその力を発揮できる組織づくりを推進しており、経験者採用の充実に加え、女性活躍推進、障害者雇用、シニア活躍支援等、多様性を軸とした施策に取り組んでいます。
なお、グループについても、当社に準じてこれらの施策を今後さらに推進してまいります。
(イ)女性活躍推進
当社では、女性がより意欲的にキャリアを築き、意思決定層への登用が進むよう、継続的な育成と支援を行っています。特に2030年までに女性管理職比率20%を目指し「30% Club Japan」への参画、アンコンシャスバイアスのコントロール、育児支援策の拡充など、多角的な取り組みを推進しています。
採用者に占める女性比率は着実に上昇してきており、将来の管理職候補となる女性社員の母数が増加しています。一方で、育児休業や看護休暇の取得状況に性別差が残っていること、若手層におけるキャリア志向の醸成が課題であり、今後は女性職員に対するスキル向上支援に加え、更なる男性育休取得の促進など職場風土改革にも注力して参ります。
<男性育児休職取得率及び日数の推移>
(ロ)障害者雇用推進
障害のある社員が安心して働き、能力を発揮できる職場づくりにも積極的に取り組んでおり、就業部署と担当業務も徐々に多様化、近年では、契約社員から正社員登用への実績も生まれています。この結果、2025年3月時点の障害者雇用率は法定を超える3.00%となっています。
また、多様な人へ向き合うためのマインドと実践を体系的に学ぶ「ユニバーサルマナー検定」や、障害のある社員が自分の言葉で語る「合理的配慮研修」、成長と活躍を支える「雇用担当者会議」の実施など相互理解向上にも取り組み、雇用部門の偏り是正で活躍の場を増やしています。今後も障害特性を活かした多様なキャリア支援の強化に取り組み、多様性を活かす意識と実践を広げて参ります。
(ハ)シニア職員活躍推進
年齢に関わらず、すべての社員がその経験と知見を活かし持続的に活躍できる環境づくりに取り組んでいます。特に、長年にわたって培われた専門性や技能を持つシニア職員は職場における重要な人財と捉え、その活躍を積極的に支援しています。
2025年度からは、再雇用後の役割や処遇体系を再構築しました。新制度では、職務内容や専門性に応じた等級制度と評価体制を導入し、多様な働き方を可能にする柔軟な仕組みを整備しています。また、次世代への知識・技能の継承を明確な役割と位置づけ、世代間連携を通じた組織の持続的成長を目指しています。
加えて、健康や介護といった加齢に伴う課題に配慮した福利厚生制度の導入や、キャリア支援制度の再設計を通じ、シニア職員が安心して働き続けられる環境整備にも取り組んでいます。今後も、年齢や雇用形態にとらわれず、すべての人財がいきいきと活躍し続けられる企業風土の醸成に努めてまいります。
(3)個々の成長を見守り支える組織文化の醸成
当社グループでは「主体性・挑戦・変革・共創・完遂(5Words)」の精神を基に行動する社員が、グループ全体に広がっていく事を期待しています。その実現のためには、会社が一方的に方向を示すのではなく、社員と対話を重ね、互いの想いを共有しながら成長する組織文化を築いていくことが重要だと考えています。一人ひとりの志を大切にしながら、エンゲージメントを高めるとともに、5Wordsの精神を基に行動する社員を支える職場の風土を、共に育て、共に進化させる取組を進めています。
(イ)ミッション(ブランドプロミス)の社内浸透活動
2022年度のリブランディングにあわせ、ミッション(ブランドプロミス)の社内外浸透活動を行ってまいりました。当社向けには、2023年度「GOOD FOODS Talk」として、ミッションの理解・共感を深め、自らの行動に繋げるために職場で語り合う活動を継続した結果、各部門の「理念の発信と伝達」「理念の現場浸透度」については向上していることが確認できました。
一方、「全社の一体感」が十分でないという課題が見えてきたことから、2024年度には「GOOD FOODS Talk~Unity~」と題し、異なる部署同士を組み合わせミッションや会社について語り合う機会を設けることで、全社の一体感の醸成に努めつつ、共感を自らの行動に繋げる取り組みを進めてきました。また、ミッションを体現し行動した人を賞賛する「GOOD FOODS Prize」を創設、年に一度全社員が集まる経営方針説明会において賞賛する機会を設けました。
2025年度は社員一人ひとりの志と当社のミッションの重なりにフォーカスし、組織として行動する一歩を踏み出すため「ミッションワークショップ」を全社で実施する予定です。
グループについては、国内経営陣の集まるグループ経営会議においてミッションを共有することはもちろん、グループ会社の役員・部署長を対象にミッションへの理解および自社での展開を検討するワークショップを2023年度より2年間で7回(計256人)実施するとともに、グループ会社の全従業員を対象に、ミッション・ビジョンの理解度を上げるためのオンライン説明会を2回(2,171人参加)実施しています。2025年からは「GOOD FOODS Talk+」と称し、各社の職場において、ミッションの理解・共感を深め、自らの行動に繋げるため語り合う活動をスタートとしています。
<2024年度 ミッションの社内浸透活動取り組み一覧>

(ロ)エンゲージメント
当社では2021年から社員の思い入れや貢献意欲、愛着心等を測定するためにエンゲージメント調査を定期的に実施しています。導入以降、職場ごとに対処すべき課題を抽出し、アクションプランを実行してきた結果、2024年度の全体スコアは21年度比で16.8%アップしました。今後も、前述の「人財マネジメントポリシー」で定めた「個人が目的に向かって変化にチャレンジし続け、自由闊達に意見交換する事で、新しい価値を創造し、一体感を持って実現する組織作り」の実現に向けた、人事施策(制度・評価・処遇・教育等)を進めて参ります。
グループについては2025年より当社のミッション浸透に関する調査項目を活用しエンゲージメント調査を開始することとしており、課題の抽出を行うとともにアクションプランにつなげる活動を進めていきます。
<エンゲージメントスコアの推移>

⑤ 職場環境整備
多様な人財が自由闊達に意見を交わし議論できる、心理的安全性の高い組織風土はミッションに近づくための重要な要素ですが、同時にオフタイムも充実できることも大事だと考えています。ニッスイグループは、2017年一人ひとりが能力を十分に発揮できること、社員やその家族のQOLの向上を目指して心と体の健康をサポートする「健康経営宣言」をしています。「GOOD FOODS 2030」においても、健康経営は人財価値向上の重要施策のひとつであるとし、以下の取組みを進めております。
(1)働きやすい環境整備
<制度面>
当社では、目標取得率や取得推奨日を定め、休暇取得計画を作成し部署内で休暇予定を共有することで、業務の事前調整や休暇取得管理の一助としており、休暇取得率は向上しています。
また、コアタイムのないフレックスタイム、テレワーク、時間単位有給休暇などの柔軟な働き方に向けた制度改定をおこなうとともに、IT化や適正な人員配置などを通じた時間外勤務の削減を進めています。
(※1)従来、一定の事由により取得できる有給の特別休暇等を含めていましたが、理由を問わず自由に取得できる年次有給休暇の利用度合いを計る本来の趣旨に基づき、対象を年次有給休暇のみとし過去の実績から修正しています。
<オフィス環境>
当社では社員同士の円滑なコミュニケーションを促進し、多様な働き方を支えるオフィス環境の整備に努めています。
部署単位で利用できるエリアを設定し、その範囲で座席を柔軟に使用できる「グループアドレス席」を導入することで部署内の連携を高めるとともに、コロナ終息後の出社率の増加への対応や、働く場所の選択肢を拡げるために「フリーアドレス席」「個人用ブース」「ファミレス席」など、誰でも自由に利用できる座席も設置しています。さらに自宅近くや出張先でも業務が行えるよう、契約型のサテライトオフィスの活用も進めています。また、会議室や打合せスペースにはモニターやWeb会議機器を整備し、業務のペーパレス化も推進することで、時間や場所にとらわれない柔軟な働き方を実現しています。
こうした取組みにより、活発なコミュニケーションと生産性の向上を両立できる働きやすい職場環境を目指しています。
(2)健康経営
人財戦略の土台となる社員の心と身体の健康については、誰もが安心して活き活きと業務に専念できる状態になっていることを目指し、健康促進や疾病予防、早期発見、疾病時のケアから早期復職に向けた様々な仕組みを設け、施策を展開しています。2017年「健康経営宣言」以降、当社は2018年に水産・農林業で初めて「健康経営優良法人」に選ばれて以降、水産物由来の機能性成分を活かした施策で社員の健康づくりに注力していること等を評価頂き、2019年から5年連続で「健康経営銘柄」に選定されました。
2025年はその取り組みを更に強化し、ウォーキングやEPA摂取イベント、健康セミナー、産業看護職面談やストレスチェックフォロー、二次健診徹底など、改めて社内現場の声や産業看護職等専門者の意見もより積極的に反映して展開し、成果に繋げていきます。
グループの健康経営についても、各社で実態に沿った年度健康目標を定めるとともに、定期的に情報・意見交換の場を設け、各社間の協力・連携を推進することで成長を後押ししています。2024年度は取組の結果、前年より更に増加し10社が「健康経営優良法人2025」(うち2社は「ブライト500」「ネクストブライト1000」)に選定されました。2027年度には国内の全てのグループ会社が優良法人認定を得られるよう、専門者によるアドバイスを積極的に発信し、好事例を共有展開しながら取組を加速していきます。
⑥指標と目標
当社は人財戦略の実効性を管理するため、以下の人的資本に関する指標を設定しています。
≪人権の尊重に関する取り組み≫
企業活動のグローバル化と多様化が進む中、国内外のバリューチェーン全体で人権尊重の取り組みが求められています。ニッスイグループは、事業に関わるすべてのバリューチェーンにおいて、人権を最優先に尊重すべきとの認識のもと、「国際人権章典」および「労働における基本的原則および権利に関するILO宣言」に記された人権を支持し、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づいた取り組みを進めています。
<ガバナンス>
人権の尊重に関する取り組みは、サステナビリティ委員会傘下の「人権部会」、「サステナブル調達部会」の2部会を中心に対応しており、リスクに応じて関連するその他の部会と連携しながら対応を行っています(注)。各部会では方針や戦略の立案・実行を行い、サステナビリティ委員会に報告しています。年6回開催されるサステナビリティ委員会では、各部会からの報告や提案を受けてサステナビリティを巡る課題に係る具体的な目標や方針、施策を検討しています。また、取締役会への定期的な報告を通じて、取締役会からの意見や助言をその取り組みに反映しています。

(注):上記以外に経営基盤リスク委員会傘下の「労務安全衛生部会」、「倫理部会」とも連携しています。
<戦略>
ニッスイグループは、「人にも地球にもやさしい食を世界にお届けするリーディングカンパニー(GOOD FOODS 2030)」という長期ビジョンを掲げ、持続可能な社会の実現に向けて人権の尊重を企業価値向上の重要な要素と位置付けています。
人権への負の影響を防止・軽減するための取り組み

(イ)方針によるコミットメント(人権方針の策定)
当社では2020年9月に国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づいた「ニッスイグループ人権方針」を策定し、人権の尊重を経営課題として位置付けました。本方針は企業活動のグローバル化・多様化に伴い、国内外のバリューチェーンにおける人権尊重の取り組みが求められる中、ニッスイグループの事業に関わるすべてのバリューチェーンにおいて、人権は最優先に尊重されるべきであるとの認識のもと、この責任を果たしていくことを改めて表明したものです。また、本方針はニッスイグループの役員および従業員に適用するとともに、サプライヤーを含むビジネスパートナーの皆さまにも本方針を支持し人権の尊重に努めていただくことをお願いしています。
人権方針の周知
(ロ)人権デューデリジェンスの実施
重要人権リスクの特定
当社グループのバリューチェーンにおける実際のまたは潜在的な人権への負の影響の把握のため、2020年12月に部門横断型のワークショップ形式で人権リスクアセスメントを実施し、リスクを絞り込みました。その結果、以下の3つの重要リスクを特定し、重点的に対応を進めています。
人権リスクアセスメントのプロセスは「リスク管理」の項に記載しています。
(注)SAQ:Self-Assessment Questionnaire。自己評価調査票。
(ハ)救済措置(苦情処理メカニズムの整備)
当社グループでは、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づき、グリーバンスメカニズムを構築し、救済へのアクセスを確保しています。社内および社外の窓口で通報を受け付ける内部通報制度に加え、2023年度から国内の生産事業所や漁業における外国人労働者を対象として、責任ある外国人労働者受入れプラットフォーム(JP-MIRAI)が提供する企業協働プログラムに参画し、22言語に対応した相談窓口を設置しています。また、サプライヤーをはじめとする幅広いステークホルダーを対象として、ビジネスと人権対話救済機構(JaCER)に参加し、ビジネスと人権に関する苦情・通報窓口を設置しています。このように自社だけでなく専門の第三者機関と連携しながら、対話と救済の仕組みを整えています。

また、上記以外に、お客さまと直接対話する仕組みとして、お客様サービスセンターを設置しています。「消費者の安全や知る権利」も企業活動の中で尊重すべき人権と考え、お客さまの声をタイムリーに受け止め、正確な情報をお伝えすることを心がけています。
<リスク管理>
(イ)人権リスクを識別・評価・管理するプロセス
当社グループのバリューチェーンにおける実際のまたは潜在的な人権への負の影響を把握するため、人権部会で人権リスクアセスメントを実施しています。外部環境の変化に対応し、国や専門機関、NGOの報告書や苦情・通報窓口への通報・相談内容、ステークホルダーとの対話を通じて収集した情報をもとに、新たなリスクの特定や優先順位の決定を行っています。直近では2024年7月にアセスメントを実施し、サステナビリティ委員会での議論を経て、同年10月に重要リスクを特定しました。2025年度以降は人権部会で年に一度の見直しを行い、人権リスクアセスメントは中期経営計画の策定タイミング(3年に一度)を目安に実施する計画です。
リスクアセスメントの手法
バリューチェーンの各プロセスにおいて、「一般的・業界横断的な人権リスク」と「水産業・ニッスイグループ特有の人権リスク」の2つの視点からリスクの洗い出しを行っています(下図参照)。特に後者の分析では、国別リスクや魚種別リスクといった視点も取り入れ、より詳細な評価を行っています。抽出されたリスクに対しては、発生頻度や可能性、発生時の影響の大きさを基準とした「インパクトアセスメント」を実施し、重要なリスクを特定・絞り込んでいます。
人権リスクアセスメントワークショップにより抽出された人権リスク

(注):赤字は再特定した重要人権リスク、青字は追加した人権リスクを示しています。
2024年度の人権リスクアセスメントで特定した重要人権リスク
1.サプライチェーン上の強制労働、児童労働
2.日本における外国人労働者の労働環境
3.重大労働災害、事故
(ロ)総合的リスク管理への統合状況
2024年度に再構築したリスクマネジメント体制のもと、人権部会やサステナブル調達部会で特定された人権リスクもリスクマネジメント委員会に共有され、全社グループ視点で経営戦略への反映や優先度に応じた対応策の実行が図られています。
リスクマネジメント委員会で特定した人権に関連する重要リスクは以下の通りです。
リスクマネジメント体制と重要リスクについては、
<指標と目標>
当社グループは、人権の尊重に関する指標を設定し、その進捗をモニタリングしています。主要な指標と実績、および目標値は以下の通りです。
(イ)1次サプライヤーアセスメント比率
ニッスイ個別の1次サプライヤー(直接の取引関係がある国内・海外のサプライヤー)に対し、SAQによる確認を進めています。基準に満たない場合は、回答の意図確認や実態把握のため、サプライヤーに対して訪問/オンラインでヒアリングの機会を設けるとともに、改善に向けた要請やアドバイスを行っています。
2022年度に22%だったSAQへの回答率は2024年度には97.5%まで拡大しました。2030年までに海外も含めたグループの主要サプライヤーにも対象を広げ、100%実施を目標に取り組みを進めています。
(ロ)外国人労働者の労働環境モニタリング
国内のグループ会社で外国人を雇用する全生産事業所を対象に年1回の労働環境調査を実施しています。調査では深刻な人権侵害リスクの兆候は認められていませんが、一部の事業所において言語面の課題が確認されており、人権部会より国内のグループ各社に対して多言語化対応の周知を図っています。グループ全体で統一した対応を進め、その対応状況を人権部会で確認しています。また、国内グループ会社の生産拠点45事業所に在籍する外国人労働者を対象に、22言語に対応した第三者相談窓口(JP-MIRAIアシスト)を導入し、労働問題から生活まわりの相談まで、外国人労働者がワンストップで相談できるハードルの低い仕組みを導入しています。
(ハ)従業員に対する人権研修実施状況
従業員(注)を対象とした人権研修を継続的に実施しており、2024年度には3,134名がeラーニング研修を受講しました。今後も毎年研修を実施し、従業員一人ひとりへの人権方針の浸透と意識向上を図ります。
(注):2024年度はニッスイ個別の全従業員と国内グループ会社の幹部職以上が対象
これらのKPIは人権部会・サステナブル調達部会を中心にPDCAサイクルで取り組みを改善しており、サステナビリティ委員会や取締役会に定期報告され、目標達成度合いや課題が議論されています。また、目標と指標は外部環境の変化やステークホルダーの声を踏まえてアップデートしています。
≪自然資本の持続可能性向上に向けた対応≫
当社グループのビジネスは自然資本に依存しており、さまざまな生態系サービスの恵みを受けて事業を行っていることから、自然資本の持続可能性が損なわれることは、大きなリスクであると認識しています。特に気候変動は当社グループをとりまくさまざまなリスクと関連しており、また、生物多様性も気候変動と相互に影響しあって、原材料調達などのリスクに大きく影響します。そのためこれらの環境課題に対して、統合的なアプローチと対応が重要であり、リスクに対応することでレジリエンスを高め、成長機会につなげていくことが重要と考えています。
①気候変動への対応(TCFD提言への取組)
<ガバナンス>
気候変動問題については、CFOがプロジェクトオーナーを務める部門横断型プロジェクト「TCFD対応プロジェクト」において、リスク・機会の分析と財務インパクト対応策の検討を行っています。検討結果はサステナビリティ委員会での審議を経て取締役会に報告し、取締役会からの意見や助言を反映しています。CO2排出量削減などの気候変動緩和策については、サステナビリティ委員会傘下の環境部会がグループ全体の取り組みを推進しています。

<戦略>
連結売上高の95%以上を占める水産事業、食品事業、ファインケミカル事業を対象とし、TCFD提言に基づく気候変動のシナリオ分析を2つのシナリオで実施しました。気候変動リスクと機会の特定、財務インパクトの評価を行い、その対応策を検討しました。明確化された重要なリスクと機会に対して、対応策を講じることで、リスクの低減と機会の確実な獲得につなげ、気候変動に対してレジリエントな状態を目指します。
(イ)戦略におけるシナリオ分析の概要
TCFDの提言に従い、気候変動シナリオ分析を実施しました。分析対象は水産事業と食品事業、ファインケミカル事業とし、バリューチェーン全体を幅広く分析しました。1.5℃/2℃および4℃の気温上昇時の世界を想定し、リスク・機会の抽出と2030年における財務インパクトの評価、および対応策を検討しました。
その結果、1.5℃/2℃シナリオでは炭素税の導入による操業コストが事業成長の阻害要因となり、積極的な温室効果ガス削減とともに生産活動の効率化に取り組み、新たな顧客需要を捉えることにより、事業成長につなげることが可能であることがわかりました。また、4℃シナリオでは自然災害の激甚化に伴う物理リスクが事業成長の阻害要因となり、養殖事業の高度化に取り組みこれらのリスクに対応することで収益への影響を最小化することが必要であることがわかりました。
1.5℃/2℃シナリオ
影響時期は、短期(3年以内)、中期(3-10年以内)、長期(10-20年程度)とした。
(注1)ICP:インターナルカーボンプライシング
(注2)LCA:ライフサイクルアセスメント
4℃シナリオ
影響時期は、短期(3年以内)、中期(3-10年以内)、長期(10-20年程度)とした。
(ロ)カーボンプライシングの影響
財務インパクトの中でも特に影響が大きかったカーボンプライシングについては、将来CO2排出量(Scope1、2)を2030年売上予測に基づいて算出し、2℃シナリオ、4℃シナリオごとのIEAの予測(注1)による炭素価格を掛け合わせて運営コストの影響金額を算出しました。2030年目標であるCO2排出量を総量で30%削減することにより、グループ全体で2℃シナリオでは56.0億円、4℃シナリオでは17.4億円の削減につながることがわかりました。
炭素税:2℃シナリオ時 135ドル/t‐CO2、4℃シナリオ時 42ドル/t‐CO2と仮定、為替レートはいずれのシナリオも1ドル=150円と仮定
(注1)IEA World Energy Outlook 2023
(注2)対応策なし:Scope1、2を対象とし、基準年度(2018年度)と同様の原単位でCO2が排出されると仮定
(注3)対応策あり:Scope1、2を対象とし、2030年目標を達成することでCO2排出量が2018年度から30%削減されると仮定
(ハ)天然水産資源(カタクチイワシ・スケソウダラ)の影響評価
調達量が多く重要な魚種であるカタクチイワシとスケソウダラについて、FAOのモデルを使用して2種類のシナリオで2030年、2050年の漁獲可能量の変化を評価しました。その結果、1.5℃シナリオにおいては両魚種ともに微減が予想されました。4℃シナリオにおいては、カタクチイワシは2030年、2050年ともに減少となり、スケソウダラは2030年は微増、2050年は増加が予想されました。2030年時点での漁獲可能量の変化率は大きくないため、財務への影響は軽微であることが確認されました。しかし、2050年の漁獲可能量の変化率は比較的大きいため、特に減少が予想されるカタクチイワシについては、対応策を確実に進めていく必要があります。
漁獲可能量の変化率 (%)

出所:FAO (国連食糧農業機関)「Impacts of climate change on fisheries and aquaculture(2018)」を参考に当社推計
(ニ)水リスクの評価
水リスク評価のグローバルスタンダードのうち、2021年度は世界自然保護基金(WWF)のWater Risk Filterを用いて国内の製造・物流拠点全体の評価を行いましたが、水リスク評価の際には拠点別の影響額を試算するために浸水深のデータが必要であることから、2022年度以降は分析粒度が細かくより精緻なデータ収集が可能である世界資源研究所(WRI)のAqueduct(アキダクト)を用いて、国内・海外の生産・物流拠点別に評価を行いました。
水害による生産中断に伴う機会損失については、各拠点の所在地に示されるAqueductの浸水深により拠点別に運転停止日数・在庫毀損率を特定し、財務影響金額を算定しました。財務への影響は中程度であることを確認しました。また、水ストレス(渇水)については、最も高いリスクレベルに該当する拠点はありませんでしたが、日本、タイ、北米、南米の生産拠点の一部が、水ストレス下にある地域に所在していることがわかりました。今後は継続的に使用水の削減に取り組むとともに、水リスク評価方法の精緻化についても検討を進めていきます。
■Aqueductによる洪水リスク評価結果(拠点数)
■Aqueductによる渇水リスク評価結果(拠点数)と水使用量
(ホ)戦略への反映
シナリオ分析の結果を受けて、中期経営計画「GOOD FOODS Recipe2」でも引き続き、優先度の高い対応策から事業計画に反映し、戦略との整合を図っています。
<リスク管理>
当社グループでは、中長期的な経営戦略を見据えた重要リスクを特定するため、マテリアリティをリスクマネジメントの起点としています。2023年度に実施したマテリアリティの見直しに伴い、重要リスクについても見直しを行いました。特定した気候関連の重要リスクは以下の通りです。なお、マテリアリティの見直しに際しては、TCFDやTNFDの取り組みにおける「気候関連・自然関連のリスクと機会」の検討結果を反映させています。リスクの詳細は
気候変動に関連するリスク・機会の分析と対応策については、CFOがオーナーを務める部門横断型の「TCFD対応プロジェクト」が環境部会と連動して検討しています。
<指標と目標>
長期ビジョン「GOOD FOODS 2030」において、2018年度比で、2030年にCO2排出量を総量で30%削減し、2050年までにカーボンニュートラルを実現することを掲げています。グループグローバルでの目標達成に向け、各事業所における省エネ施策の実施やエネルギー使用量の少ない高効率設備への更新、再生可能エネルギーの使用など、CO2削減計画を策定し、積極的に取り組んでいきます。
Scope3についてはGHGプロトコルに整合した環境省のガイドラインに従い、15のカテゴリーに分け算定しました。今後はデータの精度向上を図り、排出量の多いカテゴリー1の削減方法の検討などを行い、当社グループにおけるCO2排出量の削減をさらに推進します。また、調達する天然水産物、プラスチック、フードロス、水などについても、持続可能な利用を実現するための目標と施策をそれぞれ掲げ、取り組みを推進していきます。
(イ)CO2排出量の推移(Scope1、2)

(ロ)CO2排出量の推移(Scope3)
(注):2022年度より対象範囲を変更しました。
(ハ)第三者保証について
2021年度から2023年度のCO2排出量(Scope1、2、3)の実績については、排出量データの信頼性向上を目的として、株式会社サステナビリティ会計事務所に第三者保証手続を依頼し、保証報告書を取得しています。
(ニ)目標と実績
(注)ODP:Ocean Disclosure Project。SFP(Sustainable Fisheries Partnership)が2015 年に設立した、シーフードの調達を自主的に開示するためのオンライン報告プラットフォーム。
②生物多様性への対応(TNFD提言への取組)
当社グループは生物多様性を守ることの重要性を考え、2014年に環境憲章を改訂し、行動方針に「生物多様性の保全」の推進をうたっています。当社グループの強みは、世界各地から水産物をはじめとした素材を調達できる資源アクセスであり、価値創造の源泉となっている一方で、事業活動を通じて自然資本に大きく依存し、また、影響を与えています。地球や海の恵みを受けて事業を営んでいることを常に心にとめ、バリューチェーンにおける生物多様性への依存と影響を把握し、その上で事業活動による負の影響の回避・低減に努めるとともに、復元・再生に取り組みます。
また、当社グループは、2023年9月にTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)フォーラムに加盟し、2023年12月にTNFD Adopterに登録しました。TNFD最終提言v1.0で推奨される開示推奨項目を、「ガバナンス」、「戦略」、「リスクと影響の管理」、「指標と目標」の4つの柱に沿って開示しています。
(注):TNFD提言への取り組みの詳細は、TNFDレポートをご参照ください。
https://nissui.disclosure.site/assets/pdf/89/2023_tnfd_ja.pdf
<ガバナンス>
自然資本・生物多様性に関連する取り組みは、「水産資源持続部会」、「サステナブル調達部会」、「海洋環境部会」、「プラスチック部会」、「環境部会」、「人権部会」の6部会を中心に対応しており、各部会では方針や戦略の立案・実行を行い、サステナビリティ委員会に報告しています。年6回開催されるサステナビリティ委員会では、各部会からの報告や提案を受けてサステナビリティを巡る課題に係る具体的な目標や方針、施策を検討しています。また、取締役会への定期的な報告を通じて、取締役会からの意見や助言をその取り組みに反映しています。

<戦略>
漁業と養殖における自然への依存と影響の関係を整理するため、LEAPアプローチ(注1)に沿って「依存と影響」の 診断と「リスクと機会」の評価を行い、以下のように整理しました。なお、今回の評価では、バリューチェーン最上流における自然との接点である「漁業」および「養殖」を対象とし、外部ツール「ENCORE(注2)」を使用した一次評価を行った上で、当社グループの操業実態に合わせた二次評価(定性評価)を行いました。その結果、漁業では海域や水産資源などの海洋生態系サービスに大きく依存し、漁獲によって水産資源量や生物種に影響を与えていることが分かりました。養殖では、陸域・水域・海域の利用に加え、水温や水質などの生態系調整サービスに大きく依存している一方で、給餌による水質悪化など、養殖場水域の汚染により自然へ影響を与えていることが分かっています。
(注1)LEAPアプローチ:TNFDが開発した、自然関連のリスクと機会を評価するためのガイダンス。分析プロセスであるLocate、Evaluate、Assess、Prepareの頭文字をとったもの。
(注2)ENCORE:ビジネスセクターと生産プロセスごとの自然資本への依存と影響を評価するツール。
■依存と影響の診断

■想定される主なリスクと機会
(イ)水産資源の持続的な利用
イ.取り扱い水産物の資源状態調査の概要
当社では、3年ごとに取り扱い水産物の資源状態調査を行っています。2023年度に実施した第3回の調査では、当社およびグループ会社(国内16社、海外20社)において、2022年に取り扱った天然水産物・水産物加工品は原魚換算重量で約276万トンでした。調査データの分析はSFP(注)へ委託し、第三者性を確保しました。
(注)SFP:Sustainable Fisheries Partnership。持続可能な漁業のためのパートナーシップ、サプライチェーンで漁業改善を推進する米国NGO。
調査方法

調達した天然水産物および水産物加工品の原産地(2022年)

ロ.資源管理状態の評価結果
SFPによる分析の結果、2022年に取り扱った天然水産物および水産加工品のうち、約75%が適切に維持・管理できている資源(「優れた管理」および「管理」)であることがわかりました。一方で、「要改善」状態の資源が8%、「プロフィール未登録(スコアが欠損しており判定できない資源)」が約17%ありました。

ハ.絶滅危惧種への対応
第3回資源状態調査の結果、取り扱った水産物の一部にIUCN(国際自然保護連合)で定められた絶滅危惧種Ⅰ類(IUCNレッドリストにおけるCR, EN)に該当する魚種が含まれていることが分かりました。2022年に「ニッスイグループ絶滅危惧種(水産物)の調達方針」を策定し、方針に基づいて魚種ごとに対応策を決定することで、持続性を確保しています。
2022年時点の分類に基づく絶滅危惧I類と、ニッスイグループの対応策
ニ.今後の対応策
・資源状態の把握が困難な魚種(特に魚粉・魚油・すり身の加工原料となる魚種)に対し、ラウンドテーブルへの参加やFIPの支援など、優先して対応します。
・漁獲情報の収集が困難な品目の資源特定や、サプライヤーとの協働によるトレーサビリティの確保に取り組みます。
・調達資源について、人権侵害リスクを把握するための評価方法を検討します。
<リスクと影響の管理>
当社グループでは、中長期的な経営戦略を見据えた重要リスクを特定するため、マテリアリティをリスクマネジメントの起点としています。2023年度に実施したマテリアリティの見直しに伴い、重要リスクについても見直しを行いました。特定した自然資本・生物多様性に関わる重要リスクは以下の通りです。なお、マテリアリティの見直しに際しては、TCFDやTNFDの取り組みにおける「気候関連・自然関連のリスクと機会」の検討結果を反映させています。リスクの詳細は
気候変動に関連するリスク・機会の分析と対応策については、CFOがオーナーを務める部門横断型の「TCFD対応プロジェクト」が環境部会と連動して検討しています。また、バリューチェーン上の自然資本関連のリスク・機会の分析と対応策については、水産資源持続部会、海洋環境部会、サステナブル調達部会、人権部会において検討し、サステナビリティ委員会での議論の後に取締役会に報告され、取締役会から受けた意見や助言を施策に反映しています。
<指標と目標>
当社グループは、水産資源の持続性確保や海洋環境の保全を経営課題と位置付けて取り組んでおり、以下の指標と目標を用いて自然関連の依存・影響、リスク・機会を管理しています。
(注1)ODP:Ocean Disclosure Project。SFP(Sustainable Fisheries Partnership)が2015 年に設立した、シーフードの調達を自主的に開示するためのオンライン報告プラットフォーム。
(注2)GSSI:Global Sustainable Seafood Initiative。持続可能な水産物認証プログラムを検証する国際パートナーシップ。
(注3)RFMO:Regional fisheries management organizations。水産資源の保存及び持続可能な利用の実現を目指し、個別の条約に基づいて設置される国際機関。
(1)当社グループのリスクマネジメント
①リスクマネジメントの考え方
当社は、「リスクマネジメント規程」において、企業の存続に影響を与えると考えられる事象発生の不確実性を「リスク」、企業が経営を行っていく上で事業に関連する内外の様々なリスクを適切に管理する活動を「リスクマネジメント」と定義しており、適切な「リスクマネジメント」の実行が経営の重要課題であると認識しています。
②リスクマネジメントの基本方針
当社及び当社グループは、事業活動の妨げとなるリスクの未然防止に努め、緊急時には人命尊重を第一に損失の発生を最小限に抑え、被災者支援など社会への配慮を行うとともに経営資源の保全と事業の継続に最善を尽くすことで、企業価値を維持・向上していくことをリスクマネジメントの基本方針として「リスクマネジメント規程」において定めています。
③リスクマネジメント体制
当社は、リスクマネジメントの実効性を高めるため、全社的リスクマネジメントシステムの構築とその維持・向上を任務とする、社長直轄の組織であるリスクマネジメント委員会を設置しています。同委員会は全執行役員によって構成され、社長が委員長を務め、リスクマネジメント担当執行役員は、取締役会へ定期的に活動報告をしています。
また2023年度からグループ全体のリスクを適宜、的確に捉える新しい体制への見直しを図り、リスクマネジメント委員会・サステナビリティ委員会・品質保証委員会・執行役員会の事務局が連携して、重要リスク対応を全社グループ視点で一元管理する体制へ移行し、リスク対応に優先順位を付けて経営戦略に落とし込み、将来の成長の機会とリスクの的確なマネジメントに取組んでいます。
新しいリスクマネジメント体制を踏まえ、リスクマネジメント委員会は全社重要リスクを一元的に把握・管理する統合リスク管理機能として、次の事項を審議・承認し、取締役会へ報告することで、全社的リスクマネジメントシステムの構築とその維持・向上の役割を果たしていきます。
(注1)重要リスク:当社のグループ経営において極めて重要度が高く優先的に対応すべきと判断したリスク
(注2)重要リスク管理組織:重要リスクごとに設置し、全社横断的なリスク対応計画の管理責任を負う組織
④リスクマネジメントプロセス
当社グループでは、新しいリスクマネジメント体制において、リスクマネジメントプロセスを年間のPDCAサイクルとして、リスクマネジメント活動を推進していきます。
中長期的な経営戦略を見据えた重要リスクを特定するため、マテリアリティをリスクマネジメントの起点としており、マテリアリティを見直すタイミングで、定期的に重要リスクの見直しを図っていきます。ただし大きな環境変化があった場合は、年度の進捗確認・評価で議論します。

⑤重要リスクの特定プロセス
当社グループは、中長期的に企業価値を維持・向上していくためには、政治・経済・社会・テクノロジーなどの外部環境の変化がもたらすリスクと機会に戦略的に対応することが重要と考えています。当社グループでは、「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記述の通り、昨今の外部環境の変化を捉えたマテリアリティの見直しを行い、その過程でマテリアリティに関連する機会とリスクを抽出・分析し、中長期的な重要課題・事業戦略に重大な影響を及ぼすと認識するリスク項目を重要リスクとして特定しました。
また、プラスとマイナスの影響を持ち併せたリスクとマイナスの影響を主とするリスクの両方を統合管理するリスクマネジメント体制へ移行するにあたり、前者を経営戦略リスク、後者を経営基盤リスクの2つに分類して整理しています。

■重要リスクの特定プロセス

<「リスク項目の特定」と「リスク評価」について>
マテリアリティに関連するリスクを抽出・分析し、リスク属性で整理した結果、17のリスク項目を特定しました。その中から、中長期的な重要課題・事業戦略に及ぼす影響を評価し、極めて重大と判断した11の重要リスクは以下の通りです。
■リスクマネジメント推進体制図

(2)重要リスク
当社グループの戦略・事業その他を遂行する上でのリスクについて、投資家の判断に重大な影響を及ぼす可能性があると考えられる主な事項を記載しています。以下に記載したリスクは、当社グループの全てのリスクを網羅したものではなく、記載以外のリスクも存在し、投資家の判断に影響を及ぼす可能性があります。なお、本文中における将来に関する事項は、別段の記載がない限り当年度末において当社が判断した内容に基づきます。
≪経営戦略リスク≫
(戦略1)人的資本への対応に関するリスク
<概要>当社グループの経営計画達成のために、事業創出・企画運営の能力のある経営を担う人財、海外国内を問わず活躍できるグローバル人財やプロフェッショナル人財、各生産拠点で成果を上げる人財の確保と育成が必要ですが、日本国内の少子高齢化と人口減少が進むにつれ、国内での優秀な人財確保が難しくなりつつあります。また、多様な人財が働けるダイバーシティ対応に後れをとると、必要な人財確保が困難になると想定されます。
<主な対応策>
当社グループでは、経営戦略と連動した人財戦略・人財育成を実行していますが、今後の事業展開にあたり、事業を牽引する人財育成が急務である一方、専門性をもって事業に貢献する人財の確保もまた重要であると考えており、社内の多様な価値観・キャリア志向尊重の観点から、外部にも通用する専門性の高い人財を育成・処遇しています。若手社員については、複数の事業・職種を経験することで、視座を高め、仕事の幅を広げ、変化対応力を高めることを狙いとした「育成ローテーション」を実施しています。将来海外で活躍するグローバル人財候補を育成する「グローバル人財育成制度」も2016年より展開しています。
従業員エンゲージメントは2021年度から測定しており、抽出された課題に対して個別にアクションプランを策定し実行することで組織風土の改善を促しています。また、ミッションの社内浸透を図るとともに、全社員が新しい“食”について考え、意見交換を行うことでエンゲージメントの向上につなげる取り組み「GOOD FOODS Talk」を2023年度より全職場で実施しています。引き続き国内グループ会社にも展開し、各社において自発的貢献意欲の向上と組織風土や職場状況を改善する施策を実施していきます。
少子高齢化による労働人口の減少に伴う人手不足の深刻化への対応としては、多様な働き方の実現、労働環境・労働条件の改善、地方自治体との連携による人財確保などにより、選ばれる企業を目指しています。人財のリテンションと同時に、自動化や業務改善による省人化・省力化で生産性向上を図ることで、変化に対応できる人財ポートフォリオを構築していきます。
※詳細は「第2 事業の状況 2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (2)テーマ別課題 人的資本への対応」をご参照ください。
(戦略2)気候変動への対応に関するリスク
<概要>近年、世界中で気候変動が深刻化しており、その影響はますます顕著になっています。温暖化による異常気象や自然災害は、当社グループの原材料調達、生産、物流、販売などあらゆる事業活動に深刻な影響を及ぼす可能性があります。また、気候変動への対応を目的とした新たな規制や市場動向の変化によって、当社のビジネスモデルが脅かされる可能性もあります。
<主な対応策>
当社グループでは、2018年度比でCO2排出量を2030年までに30%削減することをサステナビリティ目標として掲げ、削減に取り組んでいます。生産拠点においては、省エネルギーの推進や高効率機器への更新、自然冷媒への切り替え、燃料転換、魚油・廃油の燃料活用に加え、太陽光発電設備の導入や再生可能エネルギー由来電力への切り替えを積極的に進め、CO2排出量の削減に取り組んでいます。
気候変動に伴う漁獲量の減少や調達コストの上昇に対応するため、産地の分散化や調達ネットワークの強化、代替原料の開発などを進め、サプライチェーンのレジリエンスを向上します。
さらに、風水害の激甚化や渇水による事業停止リスクへの対応として、BCPの見直しやハザードマップ等を活用した詳細なリスク評価を行い、拠点の移転や分散の検討も進めます。
※詳細は「第2 事業の状況 2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (2)テーマ別課題 自然資本の持続可能性向上に向けた対応 ①気候変動への対応(TCFD提言への取組)」をご参照ください。
(戦略3)生物多様性への対応に関するリスク
<概要>水産資源の減少に伴い、漁獲制限などの規制が強化されることで、当社グループの漁業や原材料調達に影響を及ぼす可能性があります。また水産業界全体において水産物の流通量が減少した場合、水産物価格の上昇を招き、消費者の水産物離れが進むことで、市場の縮小につながる恐れがあります。
また、近年、日常生活に欠かせない飲食料品の容器包装や事業活動に使用されるプラスチックが海洋環境へ与える影響が社会課題として注目されています。プラスチックごみによる海洋汚染は、生態系の破壊や生物の減少を引き起こし、食品や水産事業における原料調達や食の安全性に影響を及ぼす可能性があります。
<主な対応策>
当社グループでは、2023年度よりTNFDのLEAPアプローチ(注1)を活用し、事業活動による自然への依存と影響を把握することで、負の影響の回避・軽減に努めています。
水産資源の持続的な利用に向け、持続可能な調達比率100%を2030年までのサステナビリティ目標として設定し、3年ごとに「取り扱い水産物の資源状態調査」を実施しています。調査結果を分析し、調達の見直しや認証品の取り扱い比率向上などの対応策を講じることで、持続可能な水産物の利用につなげています。
また、養殖においては、養殖漁場の沖合化や自動給餌制御システムの活用により、海洋環境への負荷軽減を図っています。さらに、天然種苗に依存しない完全養殖の魚種拡大や、陸上養殖の推進を通じた海洋環境への負荷低減にも取り組んでいます。
海洋のサステナビリティ課題の解決には、一社単独では対応が難しいケースも多いため、SeaBOS(注2)などの業界イニシアティブを通じて、国内外のステークホルダーと連携した取り組みを進めています。
(注1)LEAPアプローチ : TNFDが開発した、自然関連のリスクと機会を評価するためのガイダンス。
分析プロセスであるLocate、Evaluate、Assess、Prepareの頭文字をとったもの。
(注2)SeaBOS : Seafood Business for Ocean Stewardship、持続的な水産ビジネスを目指すイニシアティブ。
※詳細は「第2 事業の状況 2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (2)テーマ別課題 自然資本の持続可能性向上に向けた対応 ②生物多様性への対応(TNFD提言への取組)」をご参照ください。
(戦略4)サプライチェーンの環境・人権に関するリスク
<概要>企業活動のグローバル化が進む中、サプライチェーンにおける環境や人権への負の影響が顕在化しており、国際機関や各国政府による基準策定や法整備が進められています。
当社グループにおいても、事業活動に関連し、人間が本来持つべき自由や権利を侵害するリスクを正確に把握し、適切に対処することが求められます。サプライチェーン上で環境配慮や人権尊重が不十分な問題が発生した場合、調達の困難化にとどまらず、訴訟や行政処分、企業イメージの低下、不買運動などにつながる可能性があります。
<主な対応策>
当社グループでは、サプライチェーンにおける潜在的な人権リスクを把握し、適切に対処することで、ライツホルダー(企業が尊重すべき人権の主体)への負の影響を最小化することを重視しています。
また、サプライチェーンのあらゆる段階で環境・人権リスクを低減するためには、サプライヤーとの強固な協力関係が不可欠です。そのため、「サプライヤーガイドライン」を通じて、特に強制労働や児童労働の禁止、およびIUU漁業(違法・無報告・無規制漁業)による水産物や原材料の取り扱いを厳格に禁止するよう求めています。当社の一次サプライヤーに対しては、ガイドラインの配布と説明を行い、 同意確認書の署名回収を進めるとともに、SAQ(自己評価アンケート)や対話を通じて遵守状況を確認しています。今後は優先して確認すべき原材料や産地を特定し、より詳細な確認を進めていきます。
当社グループ内では、年に一度「外国人労働者の労働環境調査」を実施し、各事業所における外国人労働者の人権保護と負の影響防止・軽減に努めています。
また、救済の仕組みとして、当社グループ内の内部通報制度とは別に、外部のプラットフォームを活用した外国人労働者向けの相談窓口を設置しています。さらに、サプライヤーをはじめとするその他のステークホルダーに対しても、同様に外部のプラットフォームを活用した相談窓口を提供しています。
(戦略5)海外事業展開に関するリスク
<概要>当社グループ主要戦略のひとつとして、海外展開の加速を目指し、水産・食品事業における北米・欧州での更なる拡大とアジアでの事業基盤構築、ファインケミカル事業における医薬品原料の海外展開を掲げていますが、事業展開する国において、経済環境および法規制の変更等の各国固有のリスクが顕在化した場合、事業の基本的戦略や収支に影響を与える可能性があります。
<主な対応策>
当社グループでは、2030年に海外所在地売上高比率50%を目指しており、グループガバナンスの取り組みをより一層強化しています。具体的には、当社グループの強みの一つに「グローバルリンクス」があり、資源アクセスから生産・販売に至る各機能を担う国内外の企業ネットワークで、各社が独自の強みを生かしつつシナジーを発揮していることが特色ですが、食文化や価値観は世界各地で異なります。意思決定の迅速性の観点などから、現地マネジメントに裁量を委ねるべきところは委ね、一方で、リスクコントロールや資本効率などの観点では、グローバルガバナンスを強化し、グリップを効かせることが重要と考えています。
ガバナンスの実効性を高めるためには、ルールづくりや管理・監査などのシステムを強化することはもちろんですが、それ以上に、「新しい“食”の創造」というミッションを共有し、志を同じくすることが重要であると考えています。そのため、当社ではミッションや長期ビジョンの浸透に継続的に取り組むとともに、リスクと機会の特定とそれへの対策を通じて、これまで以上のシナジー創出や付加価値の向上に努めていきます。
(戦略6)地政学的問題に関するリスク
<概要>近年、地政学的な要因が事業に影響を及ぼす可能性を考慮する必要性が高まっていると認識されています。例えば、当社グループが事業を展開するエリアにおいて、国境封鎖、制裁、輸出入規制、主要輸送ルートの遮断など国際貿易が阻害されるリスクが想定され、これらが顕在化した場合には、当社グループの中長期経営方針の実行や業績に多大な影響を及ぼす可能性があります。
<主な対応策>
当社グループでは、地政学的リスクに関する動向の情報収集と分析をもとに、リスクシナリオの策定及びリスクの把握を行い、その影響を低減するための適切な対策の検討を進めてまいります。既に、事業展開国・地域におけるカントリーリスクの調査、情報収集、評価をもとに、調達先の分散の検討、複数拠点からの製品供給体制の構築を図っております。引き続き、情勢を注視しながら、事業活動に及ぼす影響の最小化に向けたサプライチェーンの強靭化に努めてまいります。
≪経営基盤リスク≫
(基盤1)製品の安全安心・品質に関するリスク
<概要>安全性や品質管理に対する消費者の関心が一層高まっているなか、国内外を問わず、安全、安心な商品を提供していくことが強く求められており、食を取り扱う当社グループでは、より一層の安全性、品質管理が求められていると認識しています。製品の品質事故や、表示偽装などの品質不正といったお客様の安全安心を脅かす事象が発生すると、当社グループ全体への信用が損なわれ、ブランド価値が大きく棄損し、事業継続に重大な影響を及ぼす可能性があります。
<主な対応策>
当社グループでは、品質保証憲章において、全ての役職員がお客様起点で品質と食品安全のリスクを考え行動が出来るよう、品質保証の理念をもとに品質方針・行動指針を制定し、その下に品質保証に関する各基準を定めています。
製商品の品質の安全性を確保する基準として、関連法規より厳格な当社独自の「ニッスイ品質保証基準」を設けております。同基準には、HACCP(注1)管理を前提としたニッスイ工場認定基準を核に、使用水基準、薬剤管理基準、防虫管理基準、樹脂部品基準、原材料基準、包材基準、アレルギー物質のコンタミ防止基準、フードディフェンス基準などを定めています。
ニッスイブランド商品はニッスイ工場認定基準により認定した工場のみで生産しており、認定後も品質保証部による定期的な監査を実施、工場指導を行っております。また工場間の情報共有や課題解決を目的とし、工場経営者会議、工場品質管理担当者会議などを定期的に開催しております。
また、食品安全の第三者認証であるFSSC22000(注2)の認証取得を生産工場で推進し、原材料情報の一元管理体制の構築、グローバルでの検査体制の確立およびエクセレントラボによる検査精度の向上などの取り組みも行っております。引き続き、従業員への品質教育の強化に努め、食品安全文化の醸成を図ってまいります。
(注1)HACCP : Hazard Analysis and Critical Control Pointの略。食中毒菌汚染や異物混入等の危害要因(ハザード)を把握した上で、原材料の入荷から製品の出荷に至る全工程の中で、それらの危害要因を除去または低減させるために特に重要な工程を管理し、製品の安全性を確保する衛生管理の手法。国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)の合同機関である食品規格(コーデックス) 委員会が発表し,各国にその採用を推奨しております。日本では2020年の食品衛生法の改正に伴いHACCPによる衛生管理が義務化されています。
(注2)FSSC22000 : Food Safety System Certificationの略。FSSC22000財団(Foundation FSSC22000)により開発された食品安全のためのマネジメントシステム規格。食品小売業界が中心の非営利団体、国際食品安全イニシアティブ(GFSI:Global Food Safety Initiative)により、食品安全の認証スキームの一つとして承認された規格です。
(基盤2)情報セキュリティに関するリスク
<概要>今後、生産・物流・販売でのシステム連携による効率化が進むにつれ、システム停止による事業活動への影響は増加すると考えられます。システム停止はハードウェア障害、ソフトウェアのバグや脆弱性、人為的ミスなど、様々な要因によって引き起こされますが、昨今では外部サイバー攻撃に代表される情報セキュリティリスクが最も懸念される要因となっています。また、情報セキュリティインシデントが生じた場合、システム停止による直接的な影響にとどまらず、信頼性が低下する他、損害賠償等の多額の費用負担発生など当社グループに重大な影響を及ぼす可能性があります。
<主な対応策>
グループ経営を進める中、当社グループ内でデータ漏洩、システム破壊が発生すると、グループ全体の事業に大きく影響を与える可能性があります。
そこで、国内グループでは、個人情報や経営、事業、研究などに関する重要な情報の漏洩・紛失を防止するため、「情報セキュリティ基本方針」などの規程やルールの徹底、システムの管理体制の強化、教育や訓練を含めた人的対策の領域において、各到達点を具体的に策定し、ニッスイグループIT部門会議を定期的に開催するなどの取り組みにより均質化を進めてまいりました。
また、2024年度からは海外グループを含む全グループに対し、サイバー攻撃を受けるリスクの高い社外公開サーバの脆弱性を検知するサービスを導入し、リスクを検知した場合、グループ会社に通知し是正措置を促す体制づくりを構築しました。
引き続き、グループ会社の情報セキュリティ対策が有効に機能しているかを定期的に確認し、情報セキュリティ確保への継続的な改善・向上に努めてまいります。
(基盤3)コンプライアンスに関するリスク
<概要>当社グループは、日本および事業を行う海外における多岐にわたる法規制の適用を受けており、当社グループによる法令違反や社会規範に反した行動等により、法令による処罰・訴訟の提起・社会的制裁を受け、規制遵守対応のためのコストが大きく増加する可能性があります。また、お客様をはじめとしたステークホルダーの信頼を失うことにより、レピュテーションやブランド価値が大きく毀損し、当社グループの事業継続に重大な影響を及ぼす可能性があります。
<主な対応策>
当社グループでは、企業としての責任を果たすため、倫理憲章を制定し、国内外の法令および社内諸規程の遵守といった、コンプライアンスの徹底に取り組んでいます。
これら当社グループのコンプライアンス向上施策の策定・実施を行うため倫理部会を設置しています。また、法令等に違反している疑いのある行為について、当社グループの役職員が通報できる内部通報制度を設けており(社内外に窓口を設置)、倫理部会は内部通報制度の適正な運営も担っています。
内部通報制度の運営やコンプライアンスアンケートの実施等により、法令等に違反する疑いのある行為やコンプライアンス課題を早期発見し、関係する役員・部門と協働して、個別事象の是正はもちろん、必要な場合に再発防止策も含めて検討のうえ実施しています。また、コンプライアンス向上施策として、2020年度より、当社グループの子会社と個別にコンプライアンスワークショップを実施しコンプライアンスに関するありたい姿を共有、各社のコンプライアンス課題・施策について協議を行うことにより、当社グループ全体のコンプライアンス向上を推進しております。
(基盤4)大規模自然災害・事故に関するリスク
<概要>大規模な地震、津波、台風、洪水等の自然災害に関連するリスクは年々高まっており、国内外問わず、世界各地で大規模災害が現実のものとなっており、今後も中長期的な継続や規模の拡大が懸念されています。このような大規模な自然災害の発生により、当社グループ従業員およびその家族への被害、事務所・工場等当社グループ拠点の損壊、ユーティリティー(電気、ガス、水)遮断による拠点稼働停止等、重要な経営資源喪失による事業活動の停止によって、当社グループの事業継続に重大な影響を及ぼす可能性があります。
<主な対応策>
当社グループでは、大規模災害に直面した場合でも人命を第一とした上で、従業員・お客様・ステークホルダーにとって必要な支援・サービス等を継続するため、「災害BCP基本方針」のもとに「災害BCP部会」が中心となり事業継続計画を推進しております。
近年、首都直下型や南海トラフなどの大型地震に関して高い確率で発生が予測されています。そこで、大規模災害の発生時に、災害対策本部が各拠点やグループ各社から迅速に情報を収集し、的確な判断・対応を取ることが出来るよう、安否確認や拠点被害報告等の情報収集システムを導入しました。災害対策本部訓練も定期的に実施し、引き続き初動対応力強化を図っております。従業員に対しては、防災意識の向上と災害時の初動確認を目的とし、各システムの操作確認訓練や防災教育eラーニングを実施しております。
また、地球温暖化による気候変動は、台風・洪水などの自然災害の頻度を増加させ、激甚化させる傾向にあります。その対応として、自然災害リスク(地震・風水災等)の影響度定量評価の実施やオールハザード型BCP(注1)への見直しに向けて取り組んでいます。
(注1) オールハザード型BCP : リスク(原因事象)を問わず、必要な経営資源が何らかの理由で被害を受けた場合の(結果事象)の影響に基づき、対応策を考える事業継続計画
(基盤5)労働安全衛生に関するリスク
<概要>企業価値向上に最も重要な要素は「人財」と考えていることから、労働環境の維持・向上が経営戦略に重要な影響を及ぼし、多様性を尊重して働きやすい職場環境の維持、向上に努める必要があると認識していますが、各施策が計画通りに進捗せず、労働災害や健康被害、ハラスメント等が発生した場合には、業務パフォーマンスの悪化や労災補償、ブランド価値の毀損が発生し、当社グループの事業継続に重大な悪影響を及ぼす可能性があります。
<主な対応策>
当社グループでは、何よりも従業員を守る「安全」を最優先とすべきことを永遠に不変の考え方としており、「ニッスイグループ安全宣言」のもとに、労務安全衛生部会を通じて各社各事業所の安全活動を推進しています。
2025年度からはその安全第一の原点に今一度立ち返り、管理者のみならず従業員ひとりひとりが自身と同僚を守るという決意を持って安全活動に自分事として参画し、それが当然になる「安全文化」が醸成されていることを目指し、その実現に向けた活動を展開していきます。具体的には、全事業所全社員において現場の実情やリスクなどからそれぞれの「安全宣言」を主体的に考えて実践することとします。あわせて、職長教育やリスクアセスメント実践者教育などの実施を強化するとともに、管理者や安全担当だけでなく全従業員が安全パトロールをできる状態を目指します。さらに、自職場だけでなく他職場とのクロスパトロールも拡充することで、従業員ひとりひとりの意識および安全活動全体のレベルアップを促進します。
ハラスメントおよびメンタルヘルスについては、社員ひとりひとりの意識向上と相談員レベル・相談体制の強化によりトラブルが深刻化する前に防止できる状態を目指して、相談員研修や一般社員向けの教育ツールを拡充し、また早期相談・早期対応ができるよう、相談窓口の継続的な周知も図っていきます。労働時間についても、ルールの周知徹底を繰り返し行うとともに毎月の勤怠状況確認も引き続き実施し法令・協定違反を防止します。グループ各社に対しても、その労働時間管理実態を正しく把握し、その課題への取り組み状況と適切な運営が確認できるように、定期的な実態調査と必要に応じた個別のフォローも行ってまいります。
(1)経営成績
当連結会計年度におけるわが国経済は、インバウンド需要の拡大や雇用・所得環境の改善などにより経済環境に改善傾向が見られましたが、ウクライナ情勢の長期化や中東地域における地政学リスクの高まり、米国の関税政策に伴う為替変動など不確実性が増す状況となっています。
世界経済(連結対象期間1-12月)についても、欧米においてインフレ緩和による実質賃金の増加を受け、個人消費の持ち直しが景気を下支えしましたが、足元ではわが国同様、米国の関税など予測不能な政策により、景気の下振れリスクが懸念されています。
当社および当社グループにおいては、海外の水産商事事業・食品事業および国内チルド事業が好調に推移し、ファインケミカル事業では医薬品原料の販売が回復、物流事業も価格改定が進み収益性が向上しました。一方で、北米の水産加工事業が引き続き苦戦、漁撈事業・養殖事業も天候不順や海水温上昇の影響を受け厳しい事業環境となったうえ、国内食品事業では米価の高止まりの影響を受けました。
このような状況下、当連結会計年度の営業成績は、売上高は8,861億26百万円(前期比547億50百万円増)、営業利益は317億79百万円(前期比21億15百万円増)、経常利益は353億1百万円(前期比33億37百万円増)、親会社株主に帰属する当期純利益は253億81百万円(前期比15億30百万円増)となり、売上高、各段階利益とも過去最高を更新しました。
(単位:百万円)
セグメント別の経営成績は次のとおりであります。
(単位:百万円)
①水産事業
水産事業につきましては、漁撈事業、養殖事業、加工・商事事業を営んでおります。
<当連結会計年度の概況>
水産事業では売上高は3,640億57百万円(前期比271億64百万円増)となり、営業利益は84億18百万円(前期比22億78百万円減)となりました。
漁撈事業:前期比で増収、減益
<日本>
・カツオ・サバの漁獲は堅調に推移しましたが、夏場の時化などによりイワシの漁獲が振るわず減益となりました。
養殖事業:前期比で減収、減益
<日本>
・飼料価格の上昇などのコスト増に加え海水温の上昇による斃死や生育不良の影響もあり、各魚種で苦戦しました。魚種毎では、マグロは供給過多で販売価格が低迷、ブリは出荷抑制や成長遅れ、ギンザケは早期水揚げしたことによる魚体重減少の影響があり、減収・減益となりました。
<南米>
・飼料価格の上昇などのコスト増や生簀繰りの影響による生残率の低下に加え、水揚げ時期が集中したことで加工原料向け商品の販売比率が増加したことにより平均販売単価が下落していましたが、期末にかけ市況が好転したことで増益となりました。
加工・商事事業:前期比で増収、増益
<日本>
・鮭鱒などの販売が好調に推移し増収となった一方、ブリ・飼料油飼の販売が減少したこともあり減益となりました。
<北米>
・商事事業は鮭鱒の販売が堅調に推移した一方で、加工事業において人件費を含むコスト上昇に加え、スケソウダラのすりみやフィレの販売価格が低迷したことから、増収・減益となりました。
<欧州>
・鮮魚ビジネスを展開する会社を連結子会社とした効果に加え、イタリアやベネルクス向けの販売が好調に推移し、増収・増益となりました。

②食品事業
食品事業につきましては、加工事業およびチルド事業を営んでおります。
<当連結会計年度の概況>
食品事業では売上高は4,710億58百万円(前期比277億61百万円増)となり、営業利益は287億11百万円(前期比14億19百万円増)となりました。
加工事業:前期比で増収、減益
<日本>
・家庭用の冷凍食品・フィッシュソーセージ、業務用冷凍食品の販売は堅調に推移し増収となりました。利益面では価格改定やすりみ原料安の効果はあったものの、米価の高止まりに加え、円安による輸入価格や物流費などの上昇も重なり、減益となりました。
<北米>
・家庭用の販売が好調に推移し、業務用の外食向け販売の苦戦をカバーしたことで全体では販売数量は増加、円安の影響もあり増収となりました。また、販売拡大に加え、白身魚・えびの原料価格が低位安定で推移したことから、家庭用・業務用ともに増益となりました。
<欧州>
・スペイン・イタリアへ販売エリア拡大を進めたことに加え、フランスでは販売数量が堅調に推移しました。また、販売拡大に加え、主原料である白身魚の価格が低位安定で推移したことで増収・増益となりました。
チルド事業:前期比で増収、増益
・人流回復に加えコンビニエンスストアの販売促進効果もあり、おにぎり・サラダの販売が好調に推移しました。また、株式会社グルメデリカ(注1)が2023年7月から連結子会社として加わったこともあり増収・増益となりました。

③ファイン事業
ファイン事業につきましては、医薬品原料、機能性原料(注2)および機能性食品(注3)などの生産・販売を行っております。
<当連結会計年度の概況>
ファイン事業では売上高は158億44百万円(前期比1億48百万円増)となり、営業利益は8億91百万円(前期比10億62百万円増)となりました。
・第4四半期に医薬品原料の国内向け販売が増加したことに加え、欧州への輸出がスタートしたことで増収・増益となりました。
④物流事業
物流事業については、冷蔵倉庫事業、配送事業、通関事業を営んでおります。
<当連結会計年度の概況>
物流事業では売上高は165億36百万円(前期比13億22百万円増)となり、営業利益は28億38百万円(前期比13億1百万円増)となりました。
・価格改定に加え、2024年1月の新物流センター開業効果もあり増収・増益となりました。
(注1) 2024年7月1日付で、日本クッカリー株式会社を存続会社として、NC・GDホールディングス株式会社及び
株式会社グルメデリカの3社が合併し株式会社日本デリカサービスに商号変更しました。
(注2) サプリメントの原料や乳児用粉ミルク等に添加する素材として使用されるEPA・DHAなど。
(注3) 主に通信販売している機能性表示食品「ごま豆乳仕立てのみんなのみかたDHA」、
特定保健用食品「イマークS」などの健康食品。
生産、受注及び販売の実績は、次の通りであります。
①生産実績
当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと次の通りであります。
(注) 1.金額は、販売価格によります。
②受注実績
受注生産は行っておりません。
③販売実績
当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと次の通りであります。
(注) 1.セグメント間の取引については相殺消去しております。
2.主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合
(単位:百万円)
資産合計は前連結会計年度末に比べて284億94百万円増の6,348億78百万円(4.7%増)となりました。
流動資産は74億1百万円増の3,325億68百万円(2.3%増)となりました。棚卸資産が109億34百万円増加したことが主な要因です。
固定資産は210億92百万円増の3,023億9百万円(7.5%増)となりました。設備投資などにより有形固定資産が146億31百万円増加しました。
負債合計は前連結会計年度末に比べて1億41百万円減の3,489億38百万円(0.0%減)となりました。
流動負債は133億63百万円増の2,261億79百万円(6.3%増)となりました。短期借入金が174億24百万円増加したことが主な要因です。
固定負債は135億4百万円減の1,227億58百万円(9.9%減)となりました。長期借入金が138億96百万円減少したことが主な要因です。
純資産合計は前連結会計年度末に比べて286億35百万円増の2,859億39百万円(11.1%増)となりました。親会社株主に帰属する当期純利益を253億81百万円計上したこと、剰余金の配当を81億1百万円行ったこと、円安の影響により為替換算調整勘定が109億77百万円増加したことなどによります。
①キャッシュ・フローの状況
(単位:百万円)
営業活動によるキャッシュ・フローは、403億79百万円の収入(前期比141億6百万円の収入減)となりました。税金等調整前当期純利益および減価償却費の合計が613億14百万円となった一方で、未払費用の減少をはじめ運転資本の増加による資金の減少が59億42百万円、法人税等の支払額が127億46百万円あったことなどによるものです。
投資活動によるキャッシュ・フローは、303億93百万円の支出(前期比73億28百万円の支出減)となりました。国内外における生産設備への投資等に伴う有形固定資産の取得による支出が298億41百万円あったことが主な要因です。
財務活動によるキャッシュ・フローは、114億52百万円の支出(前期比9億41百万円の支出減)となりました。配当金の支払額が80億90百万円あったことが主な要因です。
②資金調達方針
当社は、事業活動を円滑に行うため、コストを抑えた安定資金の調達を目指し、直接金融を含めた多様な手段の中から最適な資金調達方法を選択しています。
間接金融については、スワップ等を利用した長期固定資金と変動の短期資金のバランスを概ね1:1を基本に、経済情勢等に応じ長期固定資金の比率を上げるなど、機動的に対応することで金利変動リスクを低減し安定資金を確保しています。調達通貨は円・米ドル・ユーロを基本に各国の事業規模に応じた調達とすることで為替リスクを軽減しています。また、複数の金融機関とコミットメントラインを設定しており、経済環境の急激な変化による資金調達難等の流動性リスクに備えております。
資金の効率性の側面では、国内はキャッシュ・マネジメント・システム(CMS)を活用、海外は各国の税制等を考慮のうえ、海外グループ間の資金融通等を本社で一元管理しています。なお、北米は日本同様、統括会社でCMSを導入し北米における資金を管理しています。
③調達方法
四半期ごとにグループの資金需要を予想し市場環境を考慮したうえで、最適な資金調達方法を策定、取締役会で審議しています。
長期資金については、毎期の償還額にも配慮しつつ、長期間に亘り構築してきた幅広くかつ良好な関係にある複数の金融機関から借入を行っています。また、相対借入に加え、市場性の高いシンジケート・ローンや健康経営・環境対応などESG関連の格付けを活用した調達も行っています。短期資金については、借入枠を締結し資金需要に応じて機動的に調達しています。
今後もコストを抑えた安定資金を調達するため、信用格付「A」を活用した調達を含め、多様化を図ってまいります。
当社グループの連結財務諸表は、我が国において一般に公正妥当と認められる会計基準に基づき作成しております。連結財務諸表を作成するにあたって、棚卸資産の評価、固定資産等の減損、繰延税金資産の回収可能性などの資産、負債、収益及び費用の報告額に影響を及ぼす見積り及び仮定を用いております。過去の実績等を踏まえ合理的に判断しておりますが、見積り特有の不確実性があるため、これらの見積り及び仮定に基づく数値は実際の結果と異なる可能性があります。なお、特にIFRSを適用している在外子会社で保有する生物資産の評価(在池魚評価)については、生物資産を販売費用等の追加コスト控除後の公正価値で測定し、取得原価との差額の変動額を純損益として認識しており、その測定には生物資産の正味売却価額や生残率等を見積もる必要があることから、市場動向や養殖成績などによって公正価値評価額が大きく変動する可能性があります。海外及び国内養殖会社の仕掛魚の評価、国内養殖会社の固定資産の減損に関する見積りや前提条件については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載しております。
今後の方針については、「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載しております。
該当事項はありません。
当社グループは、水産品、食品、医薬品を含む機能性素材および養殖技術において「食」と「健康」に関する研究開発を行っています。
当連結会計年度におけるグループ全体の研究開発費は
当社は、東京イノベーションセンターを中心に水産・食品・ファイン事業に関連する技術開発、商品開発活動を展開しております。水産に関しては自然な外観と食感を維持する「シーフードプロ技術」の適応拡大を進めています。食品に関しては、味・香りの基礎研究や米、野菜、鶏等の原料まで遡った研究を行い、独自の加工技術と組み合わせた食品の高品質化に取り組んでいます。また、タンパク質摂取の在り方の多様化に対応するために、植物タンパク質の利用研究も行っています。機能性素材に関しては、高純度EPAの研究を深化させるとともに新しい医薬・機能性脂質の研究、スケソウダラのタンパク質「速筋タンパク」の研究開発を行っています。養殖に関しては、大分海洋研究センターを中心に、ブリをはじめとした養殖魚の育種、陸上養殖、データサイエンスなどの研究を行っています。