当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1)経営方針
当社グループは「For the ocean, for life -海といのちの未来をつくる-」をパーパスとして定め、海を起点とした価値創造力で食を通じて人も地球も健康にする「ソリューションカンパニー」への変革を目指してまいります。
また、当社グループはミッションとして「私たちは誠実を旨とし、本物・安心・健康な「食」から広がる豊かなくらしとしあわせに貢献します」を当社グループが果たす使命とし、全員で共有し、実践してまいります。
(2)経営戦略等
本物・安心・健康な「食」から広がる豊かなくらしとしあわせに貢献することが当社グループが果たす使命であり、食品安全を基盤とした品質保証体制、リスク管理体制及びグループガバナンス体制の強化に、引き続き取り組んでまいります。
また、2025年度から2027年度までの3カ年を対象とする、グループ新中期経営計画「For the ocean, for life 2027」を策定いたしました。計画の策定にあたりましては、企業価値向上と持続的成長の実現に向け、新長期ビジョンを設定いたしました。
まず、新長期ビジョンの設定にあたり、当社のアイデンティティに基づいた「海と地球環境」と「食といのち」の2つのレンズを通して、私たちを取り巻く様々な社会課題とマテリアリティとの関連性を整理し、当社が事業活動を通じて取り組むべき課題を以下のとおりフォーカスしております。
(当社が事業活動を通じて取り組むべき社会テーマ)
・気候変動
・地球・海洋環境
・生態系バランス
・循環型社会
・食の安全・安心
・栄養バランス
・多様な食文化・ライフスタイル
・サステナブルな事業性
以上のテーマに対して、「持続的なタンパク質の提供」と「健康価値の創造」を通じて、ソリューションを提案してまいります。
当社グループの強みの源泉である「資源調達力」、高度な食品加工技術力により、新たな価値提案を可能とする「加工技術力」、そして、多様なニーズに最適な食材をお届けする「食材提供力」、これら3つの強みを消費者起点のバリューサイクルによって、価値創造を更に強化してまいります。
消費者起点のバリューサイクルとは、消費者ニーズをしっかりと捉える「マーケティング」、そのニーズにこたえる、サステナブルで健康的なタンパク質を提案するための「研究・開発」、その2つの機能に、当社の強みである「調達」、「加工」、「食材提供力」の3つを繋げていき、そこで得たマーケットデータを更に活用してサイクルを回していく仕組みであります。
この価値創造の仕組みを、グローカルに展開することで、世界規模の社会課題に対し「持続的なタンパク質の提供」と「健康価値の創造」の実現を通じ、ソリューションを提案してまいります。
また、新たな価値創造を実現するために、当社グループ内部のつながりを強めることはもちろんのこと、外部ステークホルダーの皆様とも連携を積極的に図り、イノベーションを追求してまいります。
更に、この連携をより一層強化するため、DXを推進するとともに、これまでのやり方や考え方にとらわれず、変化を受け入れ、挑戦し、共創していく企業文化を醸成してまいります。
以上の新長期ビジョン達成に向け、グループ新中期経営計画「For the ocean, for life 2027」の3年間においては、「バリューサイクルの構築」、「グローカル戦略の推進」、「挑戦と共創の企業文化を醸成」の3つのアクションを着実に推進した上で安定的なキャッシュを創出し、収益性と資本効率の向上に努め、積極的な成長投資を実施するとともに、適切な財務バランスを維持しつつ、株主還元を充実させることにより、企業価値の向上に取り組んでまいります。
(3)経営環境
当社グループを取り巻く事業環境については、原材料及びエネルギー価格の高騰や、米国政府の経済政策を受けた世界経済の先行き不透明感の増大、ロシア・ウクライナ問題、中東情勢をはじめとした地政学リスクの高まり等、引き続き予断を許さない状況が継続するとともに、10年、100年先を見据えると当社グループを取り巻く環境は更に予測困難性が高まるものと考えております。
そのような経営環境が予想される中、当社はこれから先の100年を踏まえ、持続的な成長を目指し、食を通じて、人も地球も健康にする、ソリューションカンパニーへと変革してまいります。
(4)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
2025年度から2027年度までの3カ年を対象とするグループ新中期経営計画「For the ocean, for life 2027」の策定にあたり、当社グループは以下を主要な課題と捉えました。
(当社が捉える主要な課題)
• 環境的、経済的に持続可能性の高い事業への選択と集中
• 収益安定・向上のための事業構造改革、及び川下戦略強化
• 食材流通、加工食品領域における海外展開の強化
• 国内の生産拠点最適化へ向けた取組みの加速
新中期経営計画期間においては、事業セグメント毎のテーマ及び事業方針を明確に定めた上で、各課題の解決に取り組んでまいります。
(事業セグメント毎のテーマ及び事業方針)
また、長期的には、「資源調達力」、「加工技術力」、「食材提供力」という3つの強みを、消費者起点のバリューサイクルによって価値創造力を強化した上で、その仕組みを国内外各エリアのニーズに合わせ「グローカル」に展開することで、「持続的なタンパク質の提供」と「健康価値の創造」を実現してまいります。
当社グループは、「魚」をコアにした水産食品企業グループであり、同種の事業を同じ視点で評価できる組織体系を構築し、バリューチェーンの強化を図るため、「水産資源」、「食材流通」、「加工食品」の3つを報告セグメントとしております。
なお、次期における事業ユニットの編成については、主に事業類似性の観点から「水産資源」の北米ユニットにおける欧州事業を「食材流通」の水産商事ユニットに移管します。
各事業の次期における対処すべき課題は次のとおりであります。
水産資源事業
水産資源事業は、持続可能な資源調達へ向けたビジネスモデル変革を推進します。バリューサイクルを強化するために、川下戦略を推進して付加価値を向上させ、事業ボラティリティを軽減してまいります。
漁業ユニットは、燃油などの操業コストが引き続き高止まりすると見込まれますが、環境的及び経済的に不採算な事業・船の選択と集中を図るほか、新船を投入することにより操業効率を改善してまいります。
養殖ユニットは、当面ブリ・カンパチの相場が高値で推移し、生産コストも高値が継続すると見込まれますが、高水温対策を進め原価低減を図るほか、アジアを中心とした輸出拡大に取り組んでまいります。
北米ユニットは、主力のスケソウダラの相場は今後も改善が続く見通しです。生産拠点の統合などによる生産コスト低減は徐々に効果がでてきており、引き続き、収益性が高い製品の製造比率を上げ、生産性の向上と取扱数量の拡大に努めてまいります。
食材流通事業
食材流通事業は、グローカル戦略を推進し、海外展開を強化してまいります。グループにおける川下戦略をけん引する役割を担い、グローカルでの食材流通網の拡大を積極的に図ってまいります。
水産商事ユニットは、米国の関税の動向によっては、水産物の相場が下がる可能性も考えられますが、現在の国内水産物需要は安定しており、相場・在庫共に堅調に推移すると予想されます。欧州においては、更なる事業領域及び販売網の拡大を図ってまいります。国内・欧州共に、グループ内連携を一層加速させ、強固な事業基盤を構築してまいります。
食材流通ユニットは、冷凍食品・水産品・畜産品・農産品など全てのカテゴリーの商品を、外食・宅配生協・量販店・介護・CVS・給食などの顧客起点で販売強化してまいります。また、海外も含めグループ内の全体最適を推し進め、ニーズに応える付加価値商品の生産及び販売における効率化を推進し、収益の向上に努めてまいります。
農畜産ユニットは、国内外に渡る多様な調達網を活用し、市場のニーズに対応した商品や相場の影響を受けづらい高付加価値商品へ注力すると共に、グループ内連携強化により販路の拡大と収益の最大化を図ってまいります。
加工食品事業
加工食品事業は、国内の生産体制の最適化を継続して進めると共に、グローカルで求められる健康価値を提供してまいります。
加工食品ユニットは、国内においては、事業構造の見直しと転換を図ると共に、主力商品の販売拡大と宣伝広告の強化を進めます。また、海外では、北米向けの販売における関税影響が懸念されますが、商品開発や販路開拓による販売増加及び生産性向上に努め、収益を確保してまいります。
ファインケミカルユニットは、機能性表示取得による既存製品の深堀や医薬原薬事業の拡大を図るほか、微細藻類DHA事業への参入を進め、事業規模拡大に努めてまいります。
(5)目標とする経営指標
|
|
25年度計画 (A) |
27年度目標 (B) |
24年度実績 (C) |
差異 (A)-(C) |
差異 (B)-(C) |
|
営業利益(億円) |
270 |
400 |
304 |
△34 |
96 |
|
EBITDA(億円) |
500 |
640 |
516 |
△16 |
124 |
|
ROIC |
4.0% |
5.0% |
4.3% |
△0.3pt |
0.7pt |
|
ROE |
7.5% |
9.0% |
10.7% |
△3.2pt |
△1.7pt |
|
ネットD/Eレシオ |
1.0倍 |
1.0倍 |
1.0倍 |
0.0pt |
0.0pt |
当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組みは、次のとおりです。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1)サステナビリティ全般
当社グループは、社会環境課題が刻々と変化していく中、企業として変革していくことが必要不可欠と考え、2025年3月に企業としてのパーパス、ミッションを改めて策定しました。パーパスと定めた「For the ocean, for life -海といのちの未来をつくる-」は当社グループが何のために存在しているのか、その存在意義をあらわし、ミッションと定めた「本物・安心・健康な食から広がる豊かなくらしとしあわせに貢献する」は私たちが果たしていくべき使命です。これからも持続的に当社グループが存在し、使命を果たしていくためには、気候変動問題、天然水産資源の枯渇、世界的な食糧危機や人権侵害などの社会環境課題の中で特に重要な課題を当社グループのマテリアリティと特定し、リスクを低減するための施策を講じ、機会を価値としてステークホルダーの皆様に提供していくことが必要です。
当社グループの強みは、「資源調達力」、「加工技術力」、「食材提供力」にあり、これを消費者起点のバリューサイクルで強化しながら、グローカルに展開し、「持続的なたんぱく質の提供」及び「健康価値の創造」を実現していくことが10年後に向けた新長期ビジョンです。この達成に向けて、持続可能性と健康価値に関する当社の独自基準を設定し、その基準を満たす製品売上比率を2030年のKPIとして新たに掲げております。これらの取組みを全社一丸で進めることで、お客さまへ価値の提供、課題解決に努めてまいります。
当社グループは、変化への対応、社内への重点課題の浸透、社内外のステークホルダーの意見を経営に反映していくことを重視し、前中期経営計画において取り組んできた9つのマテリアリティに関する活動を更に推進するために、2025年度より開始した中期経営計画「For the ocean, for life 2027」を策定しました。9つのマテリアリティは下記のとおりそれぞれにグループ目標(KGI・KPI・施策)を設定し、進捗を管理しながら取組みを進めてまいります。
■中期経営計画2025~2027年度 サステナビリティ戦略
(2)ガバナンス
当社グループでは、サステナビリティ全体の戦略策定や、活動の評価、マテリアリティの進捗管理を行うサステナビリティ推進委員会を設置しております。同委員会は当社の取締役常務執行役員が委員長、サステナビリティ担当役員のもとサステナビリティ推進グループを事務局とし、当社代表取締役社長、取締役を兼務する役付執行役員、関連部署担当役員、関連部署長を委員、社外取締役、監査役をオブザーバーとし、構成されております(2025年度よりサステナビリティ担当常務執行役員が委員長)。同委員会は四半期ごとに年4回開催しており、各マテリアリティ推進を担当する責任者やマテリアリティ推進のために設けたプロジェクトのリーダーが報告し、積極的な討議を行っております。同委員会で討議された内容はサステナビリティに関するリスク、機会を含め、少なくとも年4回、経営会議を通じて取締役会へ報告しております。
各マテリアリティの推進体制では、マテリアリティ“気候変動問題への対応”のCO₂排出量削減プロジェクト、“循環型社会実現への貢献”のプラスチック使用量削減プロジェクト及び“健康価値創造と持続可能性に貢献する食の提供”プロジェクトにおいて、プロジェクトオーナーを管掌役員、プロジェクトリーダーを関連部署長としたプロジェクトチームにて、部署横断的に各種施策に取り組んでおります。
(3)リスク管理
当社グループが事業活動を行ううえでの全社的なリスク管理については、法務・リスク管理部を中心に、当社各部署やグループ各社のリスク管理責任者、リスク管理担当者が連携して取り組む体制を整えております(下図)。「環境」並びに「サステナビリティ関連」の短期的かつ影響度の高いリスクについては、毎年実施されるリスクマネジメントプログラムによりリスクの抽出から分析そして対応策の検討が行われ、経営会議に報告しております。
加えてESG・サステナビリティに関連する中長期的なリスク・機会に対しては、サステナビリティ推進委員会において管理(サステナビリティ推進体制図)し、討議しております。特に気候変動と生物多様性の保全におけるリスクは重要リスクの一つと位置づけており、TCFDフレームワークに基づくシナリオ分析やTNFDのLEAPアプローチによって分析・評価したリスクと機会、対応策などについて管理・討議しております。
(4)気候変動に係る戦略・指標及び目標
当社は2021年7月、TCFD提言に賛同を表明し、「TCFDコンソーシアム」へ参画しました。同年、環境省が主催する「TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言に沿った気候リスク・機会のシナリオ分析支援事業」の参加企業に選定され、養殖事業についてシナリオ分析を行い、分析結果が2022年3月環境省HPにて公表されました。2023年度は、水産バリューチェーンを対象にその他の事業(漁業、水産商事、海外、加工食品、食材流通の各ユニット※当時のユニット名)についてもシナリオ分析を行い開示しました。
今後も気候変動に伴う外部環境の変化によって起こるリスクへの適切な対応を進めながら、新たな事業機会を追究しシナリオ分析を更新のうえ精緻化し、開示していきます。
① 戦略
2023年度に実施したシナリオ分析により、各ユニット(※当時のユニット名)のリスクと機会及びその影響度、対応策と時間軸について以下のとおり評価いたしました。
<気候関連リスク>
|
リスク分類 |
リスク内容 |
指標 |
対象事業ユニット |
影響度 |
影響を受 ける期間 |
該当 シナリオ |
||||||
|
漁業 |
養殖 |
海外 |
水産 商事 |
加工 食品 |
食材 流通 |
|||||||
|
移 行 リ ス ク |
法規制 |
カーボンプライシングによる自社コスト増加 |
コスト増加 |
● |
● |
● |
● |
● |
● |
▼▼▼ |
中・長 |
1.5℃ |
|
省エネルギー設備・脱フロン設備の導入・切替による自社コスト増加 |
コスト増加 |
|
|
● |
|
● |
● |
▼▼ |
短・中 |
1.5℃ |
||
|
フロン規制強化に伴う保管料や物流コストの増加 |
コスト増加 |
|
|
● |
● |
● |
● |
▼▼ |
短・中 |
1.5℃ |
||
|
冷媒規制やミール装置設置義務化など、漁船への規制強化による操業コスト増加 |
コスト増加 |
|
|
● |
|
|
|
▼▼ |
中・長 |
1.5℃ |
||
|
環境関連の規制強化による漁船減少及び漁獲量減少 |
売上高減少 |
● |
|
● |
|
|
|
▼▼▼ |
中・長 |
1.5℃ |
||
|
市場 |
プラスチック代替原料の資材調達コスト増加 |
コスト増加 |
|
● |
● |
● |
● |
● |
▼▼ |
中・長 |
1.5℃ |
|
|
燃料価格の高騰による漁業の操業コスト増加 |
コスト増加 |
● |
|
● |
|
|
|
▼▼▼ |
短・中・長 |
4℃ |
||
|
気温上昇による食生活の変化に伴う、水産物消費の減少 |
売上高減少 |
|
|
● |
● |
|
● |
▼▼ |
中・長 |
4℃ |
||
|
平均気温上昇に伴う、生産拠点での室温管理や保冷コスト、防虫対策コスト等の増加 |
コスト増加 |
|
|
● |
● |
● |
● |
▼▼ |
中・長 |
4℃ |
||
|
評判 |
気候関連課題への対応遅れや、お客様の環境配慮商品ニーズに対応できないことによるレピュテーション低下及び売上減少 |
売上高減少 |
● |
|
|
● |
● |
● |
▼▼ |
中・長 |
1.5℃ |
|
|
物 理 リ ス ク |
急性リスク |
自社工場・協力工場・調達先の被災、生産・物流停止による売上減少及び復旧コスト増加 |
コスト増加 売上高減少 |
|
● |
● |
● |
● |
● |
▼▼ |
短・中・長 |
4℃ |
|
慢性リスク |
海水温上昇に伴う魚種や漁場の変化による漁獲量・売上の減少 |
売上高減少 |
● |
● |
● |
● |
● |
● |
▼▼▼ |
短・中・長 |
1.5℃/ 4℃ |
|
|
干ばつの影響で作物の調達が困難になることによるコスト上昇 |
コスト増加 |
|
|
|
|
● |
● |
▼▼▼ |
中 |
4℃ |
||
|
海水温上昇に伴う水産物調達コストの増加 |
コスト増加 |
|
● |
|
● |
● |
● |
▼▼▼ |
中 |
4℃ |
||
<気候関連機会>
|
機会分類 |
機会内容 |
対象事業ユニット |
影響度 |
影響を受ける期間 |
|||||
|
漁業 |
養殖 |
海外 |
水産商事 |
加工食品 |
食材流通 |
||||
|
資源効率 |
廃棄原料(残渣)をミール(魚粉)へ有効利用することによる売上増加 |
● |
● |
|
● |
|
|
▲▲ |
中・長 |
|
エネルギー源 |
再生可能エネルギー利用や省エネルギー推進によるコスト削減 |
|
|
|
|
● |
|
▲▲ |
中・長 |
|
製品・サービス |
低炭素商品や認証商品など環境配慮商品の売上増加 |
● |
● |
● |
● |
● |
● |
▲▲ |
中・長 |
|
漁場の変化への迅速な対応による漁獲量・売上増加 |
|
|
● |
● |
● |
● |
▲▲ |
中・長 |
|
|
海水温上昇に伴う魚種の変化により、代替たんぱく原料での売上増加 |
● |
● |
|
● |
● |
|
▲▲▲ |
中・長 |
|
|
異常気象ニーズに対応した災害食や冷涼なメニューなど新商品開発による売上増加 |
|
|
|
|
● |
● |
▲▲ |
中・長 |
|
|
|
|||||||||
|
1. ●:各事業ユニットにおいて影響度が中程度以上とされたリスクと機会 |
|||||||||
|
2. 影響度: リスク)▼▼=中 (経常利益への影響1%以上10%未満)、▼▼▼=大(10%以上) |
|||||||||
|
機会)▲▲=中 (経常利益への影響1%以上10%未満)、▲▲▲=大(10%以上) |
|||||||||
また、気候変動に対するレジリエンス向上のために事業インパクトへの対応策を以下のとおり抽出し、実践に向けて取り組んでおります。
|
リスク・機会要因 |
事業インパクト |
今後の対応策 |
|
|
新たな規制の導入 |
● |
カーボンプライシング(炭素税) |
<自社コスト増加に対して> ・再エネ、省エネの推進 ・生産工場の最適化による生産効率向上 ・価格転嫁について顧客の理解を得る ・自然冷媒設備の導入に向けた調査 ・省エネ設備投資(ノンフロン機器への転換、電気使用量の削減等) ・Austral Fisheries Pty Ltd.のカーボンニュートラル認証の取得、Climate Active NETWORKへの加入と植樹活動によるオフセット
<サプライヤーコスト増加に対して> ・保管料や物流コストに対し、規制・法令の方針及び動向をモニターし、適時・適切に対応 |
|
● |
省エネ設備・脱フロン設備導入によるコスト増 |
||
|
● |
再エネ利用・省エネ推進によるコスト削減 |
||
|
● |
環境関連規制の強化による漁船・漁獲量減少 |
・新船の投資判断基準及びプロセスの構築(インターナルカーボンプライシングの検討等) ・各国政府との協議・協働による対策 |
|
|
新たな規制の導入 |
● |
漁船への特殊規制強化への対応 |
・漁船へのミール装置導入により生産される魚粉の有効活用(漁業) ・国内残渣や食品としての未利用魚を利用した、廃棄原料の自社内循環の構築 ・ブリ、カンパチ、クロマグロ養殖の飼料原料への有効活用(養殖) |
|
資源効率化 |
● |
廃棄原料(残渣)の有効利用拡大 |
|
|
市場の変化 |
● |
環境配慮型の資材導入 |
・プラスチック代替原料について調達先との協業 ・規制や技術革新に注視し対応 ・顧客との協業によるバリューチェーン全体でのリサイクル推進 ・容器包装の資源効率化 |
|
● |
燃料価格の高騰 |
・燃料価格動向のモニタリング ・代替燃料の調査 |
|
|
製品・サービス |
● |
気温上昇に伴う食生活の変化による、水産物消費の減少 |
・気温上昇でも好まれる商品の品ぞろえ強化(鍋需要の減少を補完) |
|
● |
低炭素商品や認証商品など環境配慮商品の売上増加 |
・MSC、ASC認証取得の推進 ・カーボンオフセット、カーボンフットプリント製品の拡大 |
|
|
● |
異常気象ニーズに対応した新商品の売上増加 |
・災害食や冷涼なメニュー、気温に左右されない常温食などの拡大 |
|
|
評判 |
● |
気候関連課題への対応遅れ、エシカル消費への対応不足によるレピュテーション低下・売上減少 |
・気候変動への取組みの開示拡大 ・投資家との対話拡大 ・GHG排出の少ない調理方法・製品のPR推進 ・LCAやカーボンフットプリントによる製品のPR推進 |
|
自然災害の激甚化 |
● |
自社工場・協力工場・調達先の被災、生産・物流停止 |
・工場立地場所の最適化・再編 ・生産や物流の複線化 ・精度の高い気象予測での在庫管理 ・事業継続計画(BCP)の策定 ・共済、保険制度への加入 ・浮沈式生簀の導入(養殖) |
|
気温上昇 |
● |
生産拠点での室温管理や冷蔵コスト、防虫対策 |
・作業環境の温度管理の徹底 ・省エネや断熱を推進 |
|
● |
干ばつの影響による作物の調達コスト上昇 |
・干ばつリスクの高い調達先の洗い出し ・代替調達ルート、代替原料の模索(例:小麦粉から米粉+グルテン、米から麦へ等の置換え) ・耐暑性作物の捜索 |
|
|
海洋環境の変化 |
● |
魚種や漁場の変化による漁獲量・売上減少 |
・SeaBOSタスクフォースでの積極的な活動及び情報収集 ・北方市場における漁業権へのアクセス確保(海外) ・漁業権を持つパートナーとの提携(海外) ・海洋汚染リスクの低減(AIトラッキング魚体計数機の導入による給餌量の適正化等)(養殖) ・人口種苗の増産(クロマグロ完全養殖・孵化ブリ・孵化カンパチ)=天然種苗の補完・置換え(養殖) ・増養殖技術のR&D体制強化(養殖) ・魚類の細胞培養技術の確立(インテグリカルチャーとの共同研究) ・代替たんぱく源、培養魚肉の商業化生産及び食品加工の実装に向けた技術開発 |
|
● |
漁場の変化への迅速な対応による売上増加 |
||
|
● |
魚種の変化による、代替たんぱく原料の拡大 |
||
|
● |
海水温上昇に伴う水産物調達コストの増加 |
・調達先の迅速な変更(水産商事)(加工食品) ・代替原料の模索(魚種の変更) ・台風、赤潮等の外部要因に強い魚や養殖方法の研究開発(養殖) ・配合飼料の開発(餌料コスト・品質の安定化をはかり、育成に最適な栄養素を設計・転嫁)(養殖) ・ミールの積極利用(養殖) |
|
|
※ ●:リスク、 ●:機会 |
|||
② 指標及び目標
当社グループでは、中期経営計画「For the ocean, for life 2027」でマテリアリティの一つに“気候変動問題への対応”を定め、KGI(2030年のありたい姿)を“2050年カーボンニュートラルを目指し、脱炭素や気候変動に対して業界における主導的地位を確立している”としております。そのKPIの一つで国内グループのCO₂排出量を2030年度までに2017年度比30%以上削減を目指しております。
また、スコープ1・2のCO₂排出量のトレースを海外グループ会社に拡大するとともに、国内グループのスコープ3排出量の精緻化に努めてまいります。
■CO₂排出量実績推移
|
項目 |
2017年度 |
2018年度 |
2019年度 |
2020年度 |
2021年度 |
2022年度 |
2023年度 |
||
|
CO2 排出量 |
|
合計(t-CO2)(スコープ1+2) |
|
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スコープ1(t-CO2) |
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|
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|
|
|
スコープ2(t-CO2) |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
スコープ3(t-CO2) |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
カテゴリ1:購入した製品・サービス |
- |
- |
- |
- |
- |
3,900,278 |
4,076,851 |
|
|
|
カテゴリ2:資本財 |
- |
- |
- |
- |
- |
28,511 |
18,945 |
|
|
|
カテゴリ3:エネルギー関連活動 |
- |
- |
- |
- |
- |
37,852 |
36,444 |
|
|
|
カテゴリ4:輸送、配送(上流) |
- |
- |
- |
- |
- |
287,370 |
283,028 |
|
|
|
カテゴリ5:事業から出る廃棄物 |
- |
- |
- |
- |
- |
7,099 |
7,175 |
|
|
|
カテゴリ6:出張 |
- |
- |
- |
- |
- |
1,464 |
1,459 |
|
|
|
カテゴリ7:雇用者の通勤 |
- |
- |
- |
- |
- |
4,878 |
4,851 |
|
|
|
カテゴリ8:リース資産(上流) |
- |
- |
- |
- |
- |
算定対象外 |
算定対象外 |
|
|
|
カテゴリ9:輸送、配送(下流) |
- |
- |
- |
- |
- |
295,482 |
283,710 |
|
|
|
カテゴリ10:販売した製品の加工 |
- |
- |
- |
- |
- |
288,908 |
307,437 |
|
|
|
カテゴリ11:販売した製品の使用 |
- |
- |
- |
- |
- |
937,398 |
961,645 |
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カテゴリ12:販売した製品の廃棄 |
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24,156 |
23,072 |
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カテゴリ13:リース(下流) |
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算定対象外 |
算定対象外 |
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カテゴリ14:フランチャイズ |
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算定対象外 |
算定対象外 |
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カテゴリ15:投資 |
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算定対象外 |
算定対象外 |
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(5)生物多様性に係る戦略・指標及び目標
当社グループは、世界の海洋から漁獲・養殖される水産物を中心とした自然の恵みを生業として140余年にわたり事業を継続してきました。当社グループの事業は他にも農・畜産資源、水や土壌、昆虫等による花粉媒介などのさまざまな自然の恵み、つまり生態系サービスに大きく依存しておりますが、経済活動に伴う森林伐採や工業化、環境汚染などにより生物多様性の劣化が近年急速に進んでおり、これらを重要な社会課題であると認識しております。
生物多様性COP15にて採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組」のミッションである、自然を回復軌道に乗せるために、生物多様性の損失を止め、反転させるための行動「ネイチャーポジティブ」に貢献することを目指し、当社グループは、原材料調達から製品廃棄に至るバリューチェーン全体での事業活動において、生物多様性への依存と影響並びにリスクと機会を把握し、その保全・再生に向けた取組みを推進します。
① 戦略
当社グループは、事業において生物多様性が深く関連するため2024年度に自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)のフレームワークに基づき、事業と自然との関わりを評価しました。まず、生態系サービスと事業との依存と影響を評価するツール(ENCORE※)を活用して一時評価を行った後、当社グループの事業実態に合わせた依存度と影響度を二次評価したうえでマッピングして評価対象ユニットを漁業ユニット・海外ユニット・養殖ユニット(ユニット名は評価当時)と決定しました。ユニット単位では取り扱う魚種などが多いため、以降の分析を詳細に行うために対象魚種の選定を行いました。対象魚種は経営上の重要性を考慮し、天然魚において取扱いが38%占めるスケソウダラを対象とし、養殖魚においては国内養殖場で生産されるマグロ・ブリ・カンパチを対象としました。
TNFDのLEAPアプローチにより、これら対象魚種の漁獲・養殖エリアの事業と自然との接点を特定し(Locate)、依存と影響を評価して(Evaluate)2024年9月に開示しました。リスクと機会の評価(Assess)と対応策の検討と開示(Prepare)については、2025年度に実施いたします。
※生物多様性と環境変化の要因に関する地理空間データセット、及び生態系サービスを生産プロセスに結びつける定性的影響/依存度評価ツール
詳細は、当社サステナビリティウェブサイトをご参照ください。
https://www.maruha-nichiro.co.jp/corporate/sustainability/environment/maintenance/tnfd/
② 指標及び目標
当社グループは中期経営計画「For the ocean, for life 2027」において「生物多様性と生態系の保全」をマテリアリティとして以下の指標と目標を設定して取組みを進めております。
・取扱水産資源の資源状態確認率、評価不明魚種の取扱方針策定(グループ全体)
・電子トレーサビリティ方法を確立し、一部魚種で運用開始
・TNFDフレームワークにもとづく生物多様性リスク評価の拡大実施(国内グループ)
・グループ内全養殖場での認証レベル管理体制の構築(国内グループ)
(6)人的資本に係る戦略・指標及び目標
① 人的資本方針
当社グループの持続的な企業価値向上の源泉は従業員一人ひとりにあるとの考えに基づき、2022-2024年度の中期経営計画期間から「①非連続の成長に貢献できる中核人財の輩出 / グループ全体としての最適配置」、「②事業戦略の実行に必要な人財の確保」、「③従業員の自律的キャリア形成支援 / 成長実感を得られる機会の提供」を柱とするポリシーのもと、各施策に取り組んでまいりました。
2025年度から始まる新中期経営計画においても、上記3つの柱を人的資本方針の根幹として継続したうえで、新たに策定したパーパスとミッションのもと、新長期ビジョンの実現に向けた人財育成戦略を展開していきます。挑戦を奨励する風土を育むとともに、全社で人財を共有・活用する仕組みを整備することで、部門の壁を越えた共創を促進し、人財育成と価値創造を実現する組織づくりに重点的に取り組んでまいります。
<人的資本方針>

<人事施策の全体像>
② 人的資本経営の推進体制
人的資本経営の取組みを戦略的に推進するために、「人的資本経営推進プロジェクト」を設置しました。本プロジェクトは、経営企画部、人事部、事業企画部、DX推進部のメンバーで構成され、人的資本方針に掲げる3つの柱の実現に向けた活動を行っております。
2024年度は2025-2027年度の中期経営計画の策定と並行して活動を進め、中期経営計画の達成に重要となる人的課題の特定と対応策の検討を進めました。具体的には、経営戦略の実現に必要な人財要件の定義や、組織能力の強化に向けた準備を行い、中長期的な人的資本の強化に向けた基盤づくりに取り組みました。プロジェクトでの検討内容は、4部署の管掌役員によるステアリングコミッティでの審議を経て、経営会議に報告される体制を整え、全社的な人的資本経営の推進に取り組んでおります。
<2024年度プロジェクト体制図>

③ 人財育成プログラム
非連続的な成長に貢献する中核人財(「経営リーダー人財」「グローバル人財」「サステナビリティ人財」「DXリーダー人財」)を育成するプログラムを2024年度に策定しました。各人財カテゴリーにおいては2030年度KPIを設定し、これらの指標に基づいて計画的な人財育成と進捗管理を行ってまいります。
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a)経営リーダー人財育成 この育成プログラム(新サクセッションプログラム)は、既存の「経営リーダー人財育成プログラム」と「サクセッションプログラム」を再構築する形で策定しました。従来の取り組みでは、人財要件や選抜基準が明確でないことに加え、育成施策が一律であり、個々の能力に応じた最適な支援が行き届いていない点が課題となっておりました。 新サクセッションプログラムでは、新たに定義した人財要件に基づいて選抜した候補者について、指名・報酬委員会より任命された役員で構成される「人財投資会議」、及び「人事委員会」にて育成方針の検討とモニタリングを行い、経営に直結した後継者候補を計画的に育成する体制としました。本プログラムを通じて、中長期的な企業価値向上を牽引する経営人財の継続的な輩出を実現してまいります。 |
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b)グローバル人財育成
当社グループは、2025-2027年度の中期経営計画において「消費者起点のバリューサイクルをグローカルに展開する」という長期ビジョンを掲げております。海外市場への展開拡大や持続可能な資源アクセスの強化を重点テーマとして取り組む中、多様な文化や価値観に適応し、海外事業を牽引するグローバル人財の育成は最優先の課題となっております。
この課題に対応するため、2013年からグローバル人財育成プログラムを運用するなど、グローバル人財育成の取り組みを進めてきました。しかしながら、これまでは社内に点在する育成施策(グローバル人財育成プログラム、海外長期・短期トレーニー、買付業務などを行う部署における海外での実務経験)が体系化されていなかったため、グローバル人財の把握・管理が不十分な状況でした。特に買付業務などを行う部署では、海外での実務経験を通じて実践的なスキルを培った人財が多数存在するものの、これらを含めた全社的なグローバル人財の活用も十分でなく、新規事業創出やリージョンを統括する人財、経理・財務等の専門分野人財の育成も不十分といった課題も生じておりました。
そこで2024年度に、点在する育成施策を整理・体系化し、グローバル人財を計画的に育成・管理・活用していくスキームを確立しました。具体的には、グローバル人財を海外での実務経験や習熟度に応じた3段階のグレードに整理し、より実態に即した明確な定義づけを行いました。
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グローバル人財ビギナー |
海外での短期トレーニーを経験し、グローバル人財要件の基礎能力があると考えられる者 |
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グローバル人財レベルⅠ |
海外での業務に必要な一定の経験を積み、グローバル人財要件の基礎能力を有する者 |
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グローバル人財レベルⅡ |
海外実務に精通し、今すぐに海外で活躍できる人財及び海外で新しい事業を創出できるポテンシャルを持った人財 |
「グローバル人財レベルⅡ」の育成においては、レベルⅠの基礎能力を土台に実践的な海外業務経験を通じて高度な応用力と専門性を磨く機会を重視しております。このレベルⅡ人財には、複雑な状況判断や戦略的意思決定ができ、変化する環境に適応しながら海外事業の中核を担い、グローカル戦略に基づく新たな価値創造に貢献することを期待しております。なお、高度な専門性が求められるため、職種カテゴリーごとに具体的な要件を定義しております。
このグローバル人財レベルⅡの育成に関するKPIを設定し、計画的な人材育成と進捗管理を行っております。この新たな枠組みにより、グローバル人財の可視化と戦略的配置が可能となり、長期ビジョンの実現に向けた人的基盤の強化を図っております。
c)DX人財育成
変化の激しい外部環境に柔軟に対応し、企業として持続的に成長していくために、DXを推進できる人財の育成を人的資本戦略の重要な柱と位置づけております。特に、デジタル技術(D)の活用にとどまらず、事業・組織を変革する力(X)を発揮できる人財の育成に注力しており、DXを「手段」としてではなく「価値創造の変革」として捉えた人財戦略を推進しております。
2023年度には全従業員を対象にIT・DXのスキル・リテラシーの可視化調査を実施しました。この取り組みは、階層や部門によるスキルの偏りを正確に把握し、画一的な研修ではなく実態に即した育成施策を展開するための基盤となりました。この調査結果から得られた多くの気づきを施策に反映させる取り組みは、経済産業省が選定する「DX注目企業」において高く評価され、2年連続での選定につながっております。
2024年度より調査結果を踏まえて、事業戦略と連動した「DXリーダー」及び「デジタルアーキテクト」の育成を本格的に開始しました。「DXリーダー」はデジタルを利用した業務改革を企画し、他部署との連携調整を担う人財、「デジタルアーキテクト」は改革すべき課題を発見・提案し、DXリーダーの指示のもと実行を担う人財と定義しております。変革マインド醸成を主眼とした「越境リーダーシップ研修」など、実践的なプログラムを展開しております。
2025-2027年度の中期経営計画期間においては、育成したDXリーダーとデジタルアーキテクトによる現場主体の改革を推進し、2030年度には組織や企業の壁を越えた、事業戦略に基づく変革の実現を目指しております。これらの取り組みを効果的に進めるため、2024年度に設定した各人財カテゴリーのKPIに基づいて、計画的な人財育成と進捗管理を行ってまいります。
d)サステナビリティ人財育成
当社では、私たちのルーツである海を起点に、ステークホルダーや社会全体、そして地球と一体となって、「食」を通じて地球規模の社会課題を解決していく決意を込めて、2026年3月に社名変更を予定しております。
この新たな一歩に向け、2025年度にはサステナビリティ戦略部を新設し、事業活動を通じた経済価値、社会価値及び環境価値の創造を追求するサステナブル経営を体系的かつ効果的にグループ全体で推進する体制を整えました。
この体制のもと、持続可能な社会の実現と企業価値向上の両立を目指し、サステナビリティ人財の体系的な育成に取り組んでおります。2030年度のあるべき姿として、以下の4分野において、戦略策定・推進ができる人財を各事業ユニットに配置することを目標に掲げております。
・環境
・サプライチェーンマネジメント及び人権
・水産資源
・ステークホルダーコミュニケーション
この目標達成に向け、2025-2027年度の中期経営計画では、各分野における「社外で啓発活動を推進できるエキスパート人財」と「社内で啓発を主導できるエキスパート人財」の育成に関する定量的KPIを設定しました。更に、「ビギナー人財」として、4分野の基礎知識を持ち、社内外で啓発活動に参画できる人財の育成目標も設定しております。これらの人財は、学生向けのサステナビリティ講習などの社会貢献活動を通じて、当社の企業価値向上にも貢献していきます。
サステナビリティ人財の育成は、社名変更に込めた決意を実現し、新設したサステナビリティ戦略部を中心とした全社的なサステナブル経営の推進力となるものであり、今後も計画的かつ戦略的に取り組んでまいります。
④ 人財配置戦略
長期ビジョン及び中期経営計画の達成に向けて、従来の部門個別最適から脱却し、経営・事業・従業員の3つの視点のバランスを考慮した全体最適の人財配置を企業価値創造の基盤と位置づけ、この方針に基づく戦略的な取り組みを進めております。具体的には事業ポートフォリオ方針の実現に必要な人財の質・量を確保するため、人財ポートフォリオの作成に着手しております。現段階では、組織内の人財の能力・スキルの見える化を進めており、事業戦略と人財配置の整合性を高めるための基盤構築を行っております。
また、「消費者起点のバリューサイクル」を実現するためには、各セグメント・部門間の強固な連携が不可欠であるとの認識から、人財の流動化を促進する仕組みづくりも進めております。部門間の人財交流を通じて、組織の壁を越えた知識・経験の共有を促進し、事業環境の変化に柔軟に対応できる組織体制の構築を目指しております。
今後は、これらの取り組みを体系的に進め、事業戦略の実行力強化と従業員の成長機会の拡大を両立させ、持続的な企業価値向上の実現に取り組んでまいります。
⑤ 挑戦と共創を促す風土醸成の取り組み
当社では、創業145年のDNAを活かしながら、次の100年、更にその先の未来に向けて「社員が主役」のカルチャー改革を推進しております。2024年度には、地球規模の変化や世界的課題に対応するため、海を起点とした価値創造力で「食」を通じて人も地球も健康にするソリューションカンパニーへと生まれ変わるという新たなコーポレート・アイデンティティを策定しました。
このコーポレート・アイデンティティ変革を実現するためには、従業員一人ひとりが挑戦し、現状にとらわれず自由に社内外と共創する風土が不可欠です。そのため、部門の壁を越えた人財の流動性を高めるFA制度や社内公募制を整備し、新たな視点や発想が生まれる環境づくりに取り組んでおります。これらの制度により、従業員が多様な経験を積み、新たな価値創造につながる機会を提供しております。
また、従業員の挑戦を称え、さらなる成長を促進するため、イノベーションや業務改善、価値創造に貢献した取り組みを評価する表彰制度を設けております。この表彰制度では、単なる業績だけでなく、挑戦のプロセスや組織への波及効果も重視し、新たな価値創造に向けた積極的な行動を奨励しております。
カルチャー改革の中核となる取り組みとして、2024年度より「当社グループの目指す未来の共有と共感」と「改革を身近に感じられること」を重点に置いた組織横断のプロジェクトを展開しております。従業員と経営が一体となったこれらのプロジェクトでは、従業員が自ら手を挙げて参画する公募制を採用し、自己変革と自己成長が起こりやすくなるようなワークプレイス改革や、食を通じての多数のステークホルダーとの共創に取り組んでおります。この取り組みにより、多くの従業員が自発的に参画し、組織の壁を越えた協働が生まれております。
更に、2023年度から2024年度にかけて全ての事業所で「タウンホールミーティング」を開催し、社長と従業員との直接対話の場を設けました。そこで寄せられた様々なアイデアや提案を丁寧に検討し、実現に向けた取り組みを進めております。特に「他部署の業務を体験したい」という従業員の声に応え、「他部署体験」プログラムを実施しました。13の部署にて若手から管理職まで65名が参加しました。この取り組みは、部門間の相互理解を深め、組織の壁を越えた共創の基盤づくりに貢献しております。
このように、挑戦を応援する制度の整備と風土醸成を通じて、従業員一人ひとりのマインドセット変革と実践を推進し、自律的な組織づくりと企業価値創造の実現を目指しております。
⑥ 従業員エンゲージメント
当社グループは、従業員のエンゲージメント向上を、企業価値を高める重要な要素と位置づけております。2023年度からはサーベイの対象範囲をグループ会社へ拡大し、2024年度は10,232名が対象となりました。
当社では「挑戦と共創の文化構築」という長期ビジョンの実現に向けて、エンゲージメントサーベイの以下3項目を重要指標として選定し、2030年度に向けた目標を設定しております。これらの指標は、「挑戦と共創の文化」の定着度を測る重要な尺度であり、現状の課題を反映した項目として、その改善が価値創造の基盤強化につながると考えております。
・「会社の方針や事業戦略への納得感」
・「挑戦する風土」(失敗したこと以上に挑戦したことを称えられる組織文化)
・「発言・意見に対する承認」(周囲が自分の意見や発言を聞いてくれているか)
エンゲージメント向上に向けた具体的な取り組みとして、サーベイ結果に基づく組織別の課題解決を推進しております。職場風土に課題がある工場においては、通常は管理職層を対象とする360度サーベイの範囲を拡大し、現場社員まで含めた包括的な調査を特別に実施し、その結果に基づくマネジメント研修や小集団活動を展開するなど、きめ細かな対応を行っております。
これらの取り組みを皮切りに、今後は各指標の課題に応じた多様な施策を展開し、スコア向上を図ります。従業員が新たな挑戦に踏み出し、部門を越えた共創が活発に行われる組織文化を醸成していくことで、従業員の創造性と生産性を高め、持続的な企業価値創造につなげていきます。
⑦ ダイバーシティ&インクルージョンの推進
当社グループは、「多様な人財が安心して活躍できる職場環境の構築」を社会価値創造におけるマテリアリティとして特定し、年齢、性別、国籍、障がいの有無に関わらず、様々な違いを尊重し、従業員一人ひとりの能力を最大限に発揮できる環境づくりに取り組んでおります。この考えに基づき「ダイバーシティ&インクルージョン宣言」を策定し、従業員の意識啓発及び行動変容につなげるための取り組みを進めております。多様な視点や発想を融合させることで、「消費者起点のバリューサイクル」のグローカルな展開を加速するとともに、「挑戦と共創」の文化を醸成し、持続的な企業価値の創造を目指しております。
a)女性活躍推進
女性の活躍推進はダイバーシティ推進の重要施策と位置づけており、採用から登用までのあらゆる段階で機会の平等を確保する取り組みを強化しております。従来男性従業員が多くを占めていた職種や海外実務の場においても女性の積極的な登用を進め、多様な視点での事業展開を目指しております。長期ビジョンを実現するためには、同質的な視点や発想だけでは限界があり、多様なバックグラウンドを持つ人財、特に女性の視点や感性を積極的に取り入れることが不可欠であると認識しております。女性が意思決定プロセスに参画することで、従来にない発想や視点が生まれ、新たな価値創造につながると考えております。
女性の採用については、男女比50:50を指標とし、母集団形成段階からバイアス排除に努めております。また、女性管理職比率については、育成・登用の強化を図っております。具体的には、キャリア形成を支援する研修プログラムの提供や、ロールモデルとなる女性管理職の発信機会の創出など、成長機会の拡充と組織風土の醸成を同時に進めております。2030年度には女性従業員比率35%以上、女性管理職比率15%以上を目標に掲げ、新規管理職昇進者の女性比率向上に取り組んでおります。
○女性比率の推移
|
項目 |
2021年度 |
2022年度 |
2023年度 |
2024年度 |
2025年度 |
|
|
|
39.7% |
50.0% |
52.3% |
50.0% |
|
- |
|
|
24.6% |
26.2% |
28.1% |
29.3% |
|
|
|
|
4.5% |
5.5% |
7.0% |
7.7% |
|
|
(各年度4月1日時点、対象:当社)
b)障がい者雇用の推進
「障がいのある方たちと共に働く」の方針のもと、本社においては、障がいのある方が活躍できる専門チームを設置し、本社内の一部の業務を担う体制を整えております。また、工場では定着支援のための「キーチーム」を設立し、全社として障がいのある方々がより多くの職場で活躍できるよう、業務の選択と集中を行って障がいのある方々が担える業務を増やしております。この取り組みは、職場の多様性を高めるだけでなく、業務プロセスの見直しや効率化にもつながり、組織全体の生産性向上にも寄与しております。今後も継続して活躍の場を増やしてまいります。
○
|
2021年度 |
2022年度 |
2023年度 |
2024年度 |
2025年度 |
|
2.00% |
2.32% |
2.31% |
2.50% |
|
(各年度4月1日時点、対象:当社)
c)キャリア採用
多様なバックグラウンドを持つ即戦力人財や、高度専門職の採用を推進し、組織の多様性と創造性の向上に努めております。高度専門職については、その希少性と専門性の価値を適切に踏まえた処遇を行っており、専門人財の知見を通じて組織の対応力を高めております。
また、外部での経験を当社の価値創造につなげる取り組みとして、一度退職した従業員が社外で得た知見・人脈・経験を活かして再び当社で活躍できる「ジョブ・リターン制度」を導入しております。これらの取り組みを通じて、多様な視点と専門性を融合させ、組織全体での共創を推進しております。
○キャリア採用比率の推移
|
(単位:名) |
2020年度 |
2021年度 |
2022年度 |
2023年度 |
2024年度 |
|
新卒入社 |
75 |
58 |
50 |
86 |
80 |
|
キャリア採用 |
27 |
25 |
41 |
38 |
46 |
|
キャリア採用比率 |
26.5% |
30.1% |
45.1% |
30.6% |
36.5% |
(対象:当社)
⑧ ウェルビーイング向上の取り組み
当社グループでは、従業員一人ひとりのウェルビーイングを企業価値創造の基盤と位置づけております。ウェルビーイングは、身体的健康だけでなく、心理的充実、キャリア満足度、多様性の尊重など多面的な要素から成り、これらが調和することで従業員の創造性と生産性が最大化され、イノベーションの創出につながると考えております。
a)キャリア充実と自己実現の支援
ウェルビーイング向上の取り組みの一環として、従業員が自らの強みや志向に合わせたキャリアを構築できるよう支援しております。2022年度より開催している「ゼンカツ(=全員活躍)オープン講座」では、自己キャリア設計、多様性理解、メンタルヘルスケアなどのテーマで講座を展開し、従業員が自分らしさを知り、充実した人生を実現するための機会を提供しております。また、本人の異動希望調査をもとにしたキャリア形成支援や副業制度なども、従業員の自己実現と成長実感を促進する重要な取り組みとして位置づけております。
b)健康経営の推進
健康経営も重要な取り組みとして位置づけ、代表取締役社長を健康経営最高責任者とする推進体制のもと、「からだ」と「こころ」の両面から包括的なアプローチを行っております。主な取り組みとしては、「well-Bアクション」と総称する健康維持・増進プログラムを展開し、2025年度からは健康ポイントプログラムも導入して自発的な健康行動の定着を促進しております。メンタルヘルス対策としては社内サポート体制「ココロバ」の整備や1on1ミーティング「ブカシル」の活用により、心の健康維持にも注力しております。これらの取り組みが評価され、2025年度には「健康経営銘柄」を取得しました。
c)柔軟な働き方と両立支援
育児や介護などライフステージや、多様な価値観に対応した柔軟な働き方の実現も、ウェルビーイング推進の重要な柱です。「コアタイムなしのフレックス制度」、「在宅勤務制度」、「週休3日制度」等を整備し、個々のライフイベントとの両立を支援することで、働きやすさと働きがいの両立を図っております。また、育児や介護に関する専門窓口「はぐサポ」を設置し、従業員の悩みに寄り添ったサポートを提供するとともに、両立支援をテーマとした研修を定期的に開催し、管理職を含めた組織全体の理解浸透に努めております。当社の育児と仕事の両立支援の取り組みは、2023年に4回目となる厚生労働省の「くるみん」認定を取得しました。特に男性の育児参画を促進する取り組みを強化しており、その成果は男性育児休業取得率の着実な向上に表れております。
ウェルビーイングの成果を測定するため、健康状態に関する指標とエンゲージメント指標を設定し、継続的な改善を図っております。これらの指標に基づき、健康診断の事後措置強化、ヘルスリテラシー向上のためのセミナー開催、食・睡眠・運動に関する総合的な取り組みなど、具体的なアプローチを展開しております。また、育児休業取得率などの両立支援に関する指標も定期的に測定し、取り組みの効果検証を行っております。なお、「⑥従業員エンゲージメント」の項目も、ウェルビーイングを構成する重要な要素として、相互に連携しながら推進しております。
○
|
2020年度 |
2021年度 |
2022年度 |
2023年度 |
2024年度 |
|
42.5% |
35.5% |
52.3% |
69.7% |
|
(対象:当社)
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
|
リスク |
当該リスクが顕在化した場合に連結会社の経営成績等の状況に与える影響の程度 |
||
|
中 |
大 |
||
|
当該リスクが顕在化する可能性の程度 |
高 |
・市場ニーズの変化 ・債権管理 ・為替・金利変動 ・カントリーリスク |
・原材料価格の変動 ・原油価格の高騰 ・自然災害・感染症及び事故等 ・労働力の確保 |
|
中 |
・税務 ・知的財産 ・固定資産の減損 ・投資有価証券の減損 |
・情報管理 ・コンプライアンス ・資金調達 |
|
|
リスク項目 |
影響度 |
発生 可能性 |
関連する機会とリスク(○機会 ●リスク) |
主要な取り組み |
|
原材料価格の 変動 |
大 |
高 |
●原材料の需要動向、為替や漁獲高の変動などによる仕入価格の高騰等 ●棚卸資産の評価損 |
・取扱品目、調達先、調達時期の分散化 ・仕入価格、販売価格の適正維持 ・在庫水準の適正化 |
|
原油価格の 高騰 |
大 |
高 |
●動燃料コストの上昇 ●発送配達費等の上昇 |
・設備の省エネ化や効率的な操業 ・カートンモジュール化等による保管配送の効率化 ・在庫水準の適正化 |
|
地震など自然災害・感染症及び事故等 |
大 |
高 |
●地震など自然災害による生産設備の破損及び操業停止、物流機能の麻痺等による商品供給不能 ●養殖事業における予防困難な魚病等の発生による養殖魚の斃死 ●台風、赤潮等による養殖魚の斃死 |
・生産、保管拠点の分散と再編 ・事業継続計画(BCP)の策定 ・衛生管理の徹底、フレックスタイム勤務による時差出勤、在宅勤務等による従業員感染防止 ・共済、保険制度への加入 ・病気に強い魚、養殖方法の研究 |
|
労働力の確保 |
大 |
高 |
○DX推進による、ビジネスモデルの変革、カルチャー改革 ●労働力不足による操業停止、生産性の低下 |
・デジタル技術の有効活用や業務プロセスの標準化・平準化による生産性の向上 ・適正な賃金体系の構築 ・戦略的な操業エリアの選択及び生産拠点の再編 ・機械による省人化の更なる促進 ・キャリア採用の有効活用など人員募集方法の工夫 |
|
情報管理 |
大 |
中 |
●個人情報・機密情報の漏洩等 ●重要な情報の盗難、紛失、誤用、改鼠等 ●情報システムの停止等 ●サイバー攻撃による対応費用の発生 ●情報漏洩等による社会的信用の低下 |
・規程、マニュアル等の整備 ・従業員に対する教育の継続 ・システム管理体制の構築、運用 ・サイバー攻撃への対処(インフラの整備、インシデント対応訓練) |
|
コンプライアンス |
大 |
中 |
●食品衛生法、倉庫業法、独占禁止法等の法的規制違反による対応コストの発生 ●全てのステークホルダーからの信頼低下 |
・規程、マニュアル等の整備 ・従業員に対する教育の継続 ・内部通報制度、内部監査の機能強化 |
|
資金調達 |
大 |
中 |
●金融危機等による資金の枯渇 ●各種リスク要因により計画未達による追加の資金調達等 |
・資金調達先及び期間の適度な分散 ・財務体質の維持・強化 ・各種リスク要因の適時の分析と対応 ・最新の情報に基づく適時の計画の見直し ・CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)の適正化による資金効率向上 ・資金調達方法多様化の検討・実施 |
|
多様化する市場ニーズへの対応 |
中 |
高 |
○適切な市場マーケティングによる顧客層の拡大 ●国内の少子高齢化、人口減少に伴う需要減 |
・市場ニーズに応じたソリューション提供のための研究開発力・技術力強化と商品ラインナップ拡充 ・グループ全体での海外市場展開拡大 |
|
債権管理 |
中 |
高 |
●予期せぬ得意先の経営破綻の発生 ●追加的な貸倒損失や貸倒引当金の計上 |
・情報収集、与信管理及び債権保全等 |
|
為替・金利変動 |
中 |
高 |
●輸入製商品の仕入価格への影響 ●借入金の調達金利への影響 ○●為替による海外子会社業績の円貨への換算への影響 ●金利の変動による海外子会社業績への影響 |
・為替予約及び変動金利から固定金利へのスワップ等 ・財務体質の維持・強化 ・資金調達方法多様化の検討 ・CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)の適正化による資金効率向上 |
|
カントリーリスク |
中 |
高 |
●海外事業において進出国及びその周辺諸国の政治、経済、社会、法制度等の変化による経済活動の制約 ●テロ、暴動及び戦争の発生による経済活動の制約、サプライチェーンや流通網の遮断等 ○●他国の関税政策を受けた販売価格・調達コストの変動 |
・進出国の適度な分散 ・進出国及び進出エリアに関する情報収集 ・資源アクセス強化による調達先の適度な分散 ・加工食品事業における、外国産原料から国産原料への変更可否を検討 |
|
税務 |
中 |
中 |
●各国における租税制度の改正、税務行政の変更や税務申告における税務当局との見解の相違等による追加的な税務負担等 ○●将来課税所得の見積りの変更等による税金費用の減少又は増加 |
・各国における税法の遵守 ・各国における税制や税務行政の変更への対応策の実行 ・税金及び税金関連費用を踏まえた事業計画又は仕組みの計画・実行 |
|
知的財産 |
中 |
中 |
○競合他社に対する優位性の確保 ○●使用許諾料等 ●損害賠償、使用差止等 |
・適切な出願戦略の推進 ・ブランド・商標保護体制の整備 ・知財教育及び啓発による知財人材の育成 ・発明報奨制度 ・社内担当者や弁理士事務所等を通じた日常的な調査・確認 |
|
固定資産の減損 |
中 |
中 |
●物流事業の物流センター及び加工食品事業の生産拠点等の立地条件の悪化、設備の老朽化・陳腐化及び販売不振等による収益悪化による減損 ●金利の急激な上昇 |
・投資審議会・経営会議等における投資計画及び投資金額の適切性に関する審議 ・投資後の定期的なモニタリング及びフォローアップ |
|
投資有価証券の減損 |
中 |
中 |
●急激な株価変動や投資先の業績不振等による資産価値の下落及び減損等 |
・個別銘柄による投資価値の定期的な検証 ・当社が継続的に保有する意義や合理性が認められなくなった政策保有株式の売却による縮減 |
文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1)経営成績等の状況の概況
① 経営成績の状況
当連結会計年度におけるわが国経済は、雇用・所得環境が改善するなか、各種政策の効果もあり、景気は緩やかな回復傾向となりました。
一方、継続する物価上昇の個人消費への影響や米国の政策動向の影響が懸念され、先行き不透明な状況が続いております。
このような状況のもと、当社グループにおいては、中期経営計画「海といのちの未来をつくる MNV 2024」の最終年度を迎え、長期経営ビジョンの実現に向けて、引き続き「経営戦略とサステナビリティの統合」「価値創造経営の実践」「持続的成長のための経営基盤強化」に取り組んでまいりました。
(長期経営ビジョン)
①事業活動を通じた経済価値、社会価値、環境価値の創造により、持続可能な地球・社会づくりに貢献する
②総合食品企業として、グローバルに「マルハニチロブランド」の提供価値を高め、お客様の健康価値創造に貢
献する
③水産資源調達力と食品加工技術力に基づく持続可能なバリューチェーンを強化し、企業価値の最大化を実現す
る
その結果、売上高は1,078,631百万円(前期比4.7%増)、営業利益は30,381百万円(前期比14.5%増)、経常利益は32,254百万円(前期比3.7%増)、親会社株主に帰属する当期純利益は23,264百万円(前期比11.6%増)となりました。
各セグメントの経営成績は次のとおりであります。
なお、従来、報告セグメントについては、「水産資源」、「加工食品」、「食材流通」及び「物流」の4つを報告セグメントとしておりましたが、同種の事業を同じ視点で評価できる組織体系を構築し、バリューチェーンの強化を図るため、当連結会計年度より、「水産資源」、「食材流通」及び「加工食品」の3区分に変更しており、以下の前期比較については、前期の数値を変更後のセグメント区分に組み替えた数値で比較しております。
水産資源事業
水産資源事業は、国内外で漁業を行う漁業ユニット、国内において主にブリ、カンパチ、マグロの養殖を行う養殖ユニット、北米・欧州を事業拠点とし、北米の豊富な水産資源を背景とした水産物の加工・販売を展開する北米ユニットから構成され、国内外の市場動向を注視しながら、収益の確保に努めました。
漁業ユニットは、ミクロネシア海域のカツオ及び日本近海のクロマグロの魚価下落、大西洋のカラスガレイの漁獲減で苦戦も、オーストラリアのメロ、エビの堅調な販売、ニュージーランド事業のイカ、アジ、ホキの漁獲増により増収、損益改善となりました。
養殖ユニットは、ブリ・カンパチの販売価格の上昇等により増収も、高水温による成長遅れや餌料費等の高騰による原価上昇等により減益となりました。
北米ユニットは、北米ではカニ類の取扱い数量増等により増収となりました。一方、主力のスケソウダラのすりみ・フィレの相場は上昇傾向であるものの、ミール、魚油の相場下落もあり減益となりました。欧州では高利益商材の販売に注力し、取扱い数量を拡大したことにより増収増益となり、全体では増収増益となりました。
以上の結果、水産資源事業の売上高は252,607百万円(前期比11.7%増)、営業利益は1,586百万円(前期比45.8%減)となりました。
食材流通事業
食材流通事業は、国内外にわたり水産物の調達・市場流通も含む販売ネットワークを持つ水産商事ユニット、多様な業態に対して水産商材や業務用商材の製造・販売を行う食材流通ユニット、国内外の畜産物及び農産物を取り扱う農畜産ユニットから構成され、グループにおける原料調達力、商品開発力、加工技術力を結集して業態ニーズに応える商品を提案し、収益の確保に努めました。
水産商事ユニットは、適正在庫の管理を徹底し、運転資金の効率化に注力したことに加え、冷凍マグロの市況回復やホタテの販売が好調だったことにより売上は前年並みではあるものの増益となりました。
食材流通ユニットは、グループ内の連携を強化し販路拡大に努めたほか、量販・外食への販売や介護食事業が堅調に推移し、増収となりました。一方、業務効率の改善や生産性向上に努めたものの、生産・販売のコスト増加分を補いきれず、減益となりました。
農畜産ユニットは、取引条件や在庫の最適化など運転資金の効率化に向けた取組みを徹底したことにより、売上は前年並みも増益となりました。
以上の結果、食材流通事業の売上高は630,283百万円(前期比0.9%増)、営業利益は13,305百万円(前期比33.3%増)となりました。
加工食品事業
加工食品事業は、国内外において家庭用冷凍食品・缶詰・フィッシュソーセージ・ちくわ・デザート・調味料・フリーズドライ製品・ペットフード等の製造・販売を行う加工食品ユニット、化成品の製造・販売を行うファインケミカルユニットから構成され、お客様のニーズにお応えする商品の開発・製造・販売を通じて収益の確保に努めました。
加工食品ユニットは、主力製品の販売増加及び広告宣伝の強化、ペットフード事業の販売好調が売上に寄与し、ペットフード事業の主に北米向け販売が好調だったことにより増収増益となりました。
ファインケミカルユニットは、医薬品向けの販売が底堅く推移し、売上は前年並みも増益となりました。
以上の結果、加工食品事業の売上高は175,692百万円(前期比9.6%増)、営業利益は13,462百万円(前期比26.6%増)となりました。
② 財政状態の状況
総資産は681,211百万円となり、前期に比べ9,410百万円増加いたしました。これは、主として現預金及び有形固定資産の増加によるものであります。
負債は405,815百万円となり、前期に比べ20,505百万円減少いたしました。これは、主として有利子負債の減少によるものであります。
非支配株主持分を含めた純資産は275,396百万円となり、前期に比べ29,915百万円増加いたしました。
各セグメントの資産は次のとおりであります。
水産資源事業の総資産は197,380百万円となり、前期に比べ7,694百万円増加いたしました。これは、主として有形固定資産の増加によるものであります。
食材流通事業の総資産は228,605百万円となり、前期に比べ8,018百万円減少いたしました。これは、主として売上債権の減少によるものであります。
加工食品事業の総資産は153,773百万円となり、前期に比べ9,517百万円増加いたしました。これは、主として現預金の増加によるものであります。
③ キャッシュ・フローの状況
当連結会計年度における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は、営業活動の結果得られた資金を、主として設備投資及び借入金の返済に使用した結果、当連結会計年度末には48,422百万円と前連結会計年度末に比べ11,516百万円増加いたしました。
営業活動によるキャッシュ・フロー
営業活動の結果得られた資金は39,179百万円(前連結会計年度は53,604百万円の収入)となりました。これは、主として税金等調整前当期純利益及び減価償却費によるものであります。
投資活動によるキャッシュ・フロー
投資活動の結果使用した資金は1,886百万円(前連結会計年度は18,927百万円の支出)となりました。これは、主として設備投資及び投資有価証券の売却によるものであります。
財務活動によるキャッシュ・フロー
財務活動の結果使用した資金は29,352百万円(前連結会計年度は32,943百万円の支出)となりました。これは、主として借入金の返済によるものであります。
④ 生産、受注及び販売の実績
当期より、一部事業につき、報告セグメントの区分を変更しており、以下の前年同期比較については、前期の数値を変更後のセグメント区分に組み替えた数値で比較しております。
(ⅰ) 生産・仕入実績
当連結会計年度における生産・仕入実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
|
セグメントの名称 |
当連結会計年度 (自 2024年4月1日 至 2025年3月31日) |
前年同期比(%) |
|
水産資源事業(百万円) |
239,496 |
101.2 |
|
食材流通事業(百万円) |
538,601 |
107.4 |
|
加工食品事業(百万円) |
137,283 |
104.1 |
|
報告セグメント計(百万円) |
915,381 |
105.2 |
|
その他(百万円) |
15,655 |
88.9 |
|
合計(百万円) |
931,036 |
104.9 |
(注)セグメント間の取引については相殺消去しております。
(ⅱ) 受注実績
当社グループは見込み生産を行っているため、該当事項はありません。
(ⅲ) 販売実績
当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
|
セグメントの名称 |
当連結会計年度 (自 2024年4月1日 至 2025年3月31日) |
前年同期比(%) |
|
水産資源事業(百万円) |
252,607 |
111.7 |
|
食材流通事業(百万円) |
630,283 |
100.9 |
|
加工食品事業(百万円) |
175,692 |
109.6 |
|
報告セグメント計(百万円) |
1,058,583 |
104.7 |
|
その他(百万円) |
20,048 |
103.8 |
|
合計(百万円) |
1,078,631 |
104.7 |
(注)1.セグメント間の取引については相殺消去しております。
2.主な相手先別の販売実績及び総販売実績に対する割合については、販売実績額が総販売実績額の100分の10
以上となる販売先がないため省略しております。
(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。
① 経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容
(売上高)
売上高は前連結会計年度を47,957百万円上回る1,078,631百万円となりました。
セグメント別の主な増減の内訳は、水産資源事業の増収26,480百万円、加工食品事業の増収15,330百万円となります。
水産資源事業の主な増収要因は、北米ユニットにおける北米でのカニ類の取扱数量増及び欧州での高利益商材の販売に注力したことに伴う取扱数量増、漁業ユニットにおけるオーストラリアでのメロ、エビの堅調な販売及びニュージーランドでのイカ、アジ、ホキの漁獲増によるものであります。
加工食品事業の主な増収要因は、加工食品ユニットにおける主力製品の販売増加、広告宣伝の強化及びペットフード事業の主に北米向けの販売好調によるものであります。
連結会計年度のセグメント別売上高
|
|
|
|
(単位:百万円) |
|
|
セグメントの名称 |
前連結会計年度 (自 2023年4月1日 至 2024年3月31日) |
当連結会計年度 (自 2024年4月1日 至 2025年3月31日) |
前期比 |
増減率 (%) |
|
水産資源事業 |
226,126 |
252,607 |
26,480 |
11.7 |
|
食材流通事業 |
624,877 |
630,283 |
5,406 |
0.9 |
|
加工食品事業 |
160,362 |
175,692 |
15,330 |
9.6 |
|
その他 |
19,308 |
20,048 |
739 |
3.8 |
|
合計 |
1,030,674 |
1,078,631 |
47,957 |
4.7 |
(注)当期より、一部の事業につき、報告セグメントの区分を変更しており、前期の数値は変更後のセグメント区分に組み替えた数値となります。
(売上原価、販売費及び一般管理費)
売上原価は、売上高の増加に伴い、前連結会計年度から36,177百万円増加し、933,033百万円(前期比4.0%増)となりました。売上原価の売上高に対する比率は、0.5ポイント好転し、86.5%となりました。販売費及び一般管理費は、労務費及び発送配達費等の経費の増加により、前連結会計年度から7,932百万円増加し、115,216百万円(前期比7.4%増)となりました。販売費及び一般管理費の売上高に対する比率は、0.3ポイント悪化し、10.7%となりました。研究開発費は、前連結会計年度から33百万円増加し、1,843百万円(前期比1.8%増)となりました。
(営業利益)
営業利益は前連結会計年度を3,847百万円上回る30,381百万円(前期比14.5%増)となりました。
セグメント別の主な増減の内訳は、食材流通事業の増益3,326百万円、加工食品事業の増益2,828百万円、水産資源事業の減益1,341百万円となります。
食材流通事業の主な増益要因は、水産商事ユニットにおける冷凍マグロの市況回復やホタテの販売が好調だったことによるものであります。
加工食品事業の主な増益要因は、加工食品ユニットにおけるペットフード事業の主に北米向けの販売好調によるものであります。
一方で、水産資源事業の主な減益要因は、養殖ユニットにおける高水温による成長遅れや餌料費等の高騰による原価上昇等によるものであります。
なお、営業利益の売上高に対する比率は、2.8%(前連結会計年度は2.6%)となりました。
連結会計年度のセグメント別営業利益
|
|
|
|
(単位:百万円) |
|
|
セグメントの名称 |
前連結会計年度 (自 2023年4月1日 至 2024年3月31日) |
当連結会計年度 (自 2024年4月1日 至 2025年3月31日) |
前期比 |
増減率 (%) |
|
水産資源事業 |
2,928 |
1,586 |
△1,341 |
△45.8 |
|
食材流通事業 |
9,979 |
13,305 |
3,326 |
33.3 |
|
加工食品事業 |
10,633 |
13,462 |
2,828 |
26.6 |
|
その他 |
3,490 |
3,791 |
301 |
8.6 |
|
調整額 |
△497 |
△1,764 |
△1,266 |
- |
|
合計 |
26,534 |
30,381 |
3,847 |
14.5 |
(注)当期より、一部の事業につき、報告セグメントの区分を変更しており、前期の数値は変更後のセグメント区分に組み替えた数値となります。
(経常利益)
経常利益は前連結会計年度を1,148百万円上回る32,254百万円(前期比3.7%増)となりました。主な増減の内訳は、営業利益の増加3,847百万円、為替差益の減少1,571百万円、支払利息の増加741百万円、持分法による投資損益の減益581百万円となります。
(親会社株主に帰属する当期純利益)
親会社株主に帰属する当期純利益は前連結会計年度を2,411百万円上回る23,264百万円(前期比11.6%増)となり、1株当たり当期純利益は461円90銭(前連結会計年度は413円61銭)となりました。増減の内訳は、経常利益の増加1,148百万円、特別利益の増加2,361百万円、特別損失の減少2,543百万円、法人税等の増加951百万円、非支配株主に帰属する当期純利益の増加2,691百万円となります。
なお、特別損益は、前連結会計年度に比べ4,905百万円の増益となりました。これは主に、投資有価証券売却益の増加等により特別利益が2,361百万円増加し、また、損害賠償金等を計上した前連結会計年度に比べ特別損失が2,543百万円減少したことによるものであります。
法人税等合計は前連結会計年度に比べ951百万円増加しており、法人税等合計の税金等調整前当期純利益に対する比率が2.2ポイント減の28.9%となっております。
② 財政状態の状況に関する認識及び分析・検討内容
(総資産)
総資産は前連結会計年度末に比べ9,410百万円増加し、681,211百万円(前期比1.4%増)となりました。総資産のうち、流動資産は前連結会計年度末に比べ9,591百万円増加し、414,576百万円(前期比2.4%増)となり、固定資産は前連結会計年度末に比べ180百万円減少し、266,635百万円(前期比0.1%減)となりました。
主な増減の内訳は、現預金の増加11,295百万円並びに有形固定資産の増加5,991百万円となります。
なお、売上債権回転日数については45.1日(前期比3.9日減)、棚卸資産回転日数については85.3日(前期比2.4日減)となっており、いずれも正常な水準の範囲内と判断しております。
売上債権回転日数及び棚卸資産回転日数
|
|
|
|
(単位:百万円) |
|
|
|
前連結会計年度 (自 2023年4月1日 至 2024年3月31日) |
当連結会計年度 (自 2024年4月1日 至 2025年3月31日) |
前期比 |
増減率 (%) |
|
売上高(a) |
1,030,674 |
1,078,631 |
47,957 |
4.7 |
|
売上原価(b) |
896,856 |
933,033 |
36,177 |
4.0 |
|
受取手形、売掛金 及び契約資産(c) |
138,418 |
133,259 |
△5,159 |
△3.7 |
|
棚卸資産(d) |
215,333 |
218,005 |
2,672 |
1.2 |
|
売上債権回転日数(日) |
49.0 |
45.1 |
△3.9 |
△8.0 |
|
(c)÷(a)×365 |
||||
|
棚卸資産回転日数(日) |
87.6 |
85.3 |
△2.4 |
△2.7 |
|
(d)÷(b)×365 |
||||
なお、セグメント別資産の内訳は、次のとおりであります。
連結会計年度のセグメント別資産
|
|
|
|
(単位:百万円) |
|
|
セグメントの名称 |
前連結会計年度 (2024年3月31日) |
当連結会計年度 (2025年3月31日) |
前期比 |
増減率 (%) |
|
水産資源事業 |
189,686 |
197,380 |
7,694 |
4.1 |
|
食材流通事業 |
236,624 |
228,605 |
△8,018 |
△3.4 |
|
加工食品事業 |
144,255 |
153,773 |
9,517 |
6.6 |
|
その他 |
61,989 |
63,574 |
1,585 |
2.6 |
|
調整額 |
39,246 |
37,878 |
△1,368 |
△3.5 |
|
合計 |
671,801 |
681,211 |
9,410 |
1.4 |
(注)当期より、一部の事業につき、報告セグメントの区分を変更しており、前期の数値は変更後のセグメント区分に組み替えた数値となります。
(負債)
負債は前連結会計年度末に比べ20,505百万円減少し、405,815百万円(前期比4.8%減)となりました。負債のうち、流動負債は前連結会計年度末に比べ36,053百万円減少し、236,915百万円(前期比13.2%減)となり、固定負債は前連結会計年度末に比べ15,547百万円増加し、168,899百万円(前期比10.1%増)となりました。
主な増減の内訳は、借入金の減少33,438百万円、未払金の減少5,150百万円、社債の増加15,000百万円、コマーシャル・ペーパーの増加5,000百万円となります。
また、有利子負債残高は、前連結会計年度末に比べ13,438百万円減少し、270,912百万円となりました。
(純資産)
非支配株主持分を含めた純資産は前連結会計年度末に比べ29,915百万円増加し、275,396百万円(前期比12.2%増)となりました。
主な増減の内訳は、親会社株主に帰属する当期純利益等による利益剰余金の増加18,210百万円、為替換算調整勘定の増加7,831百万円、非支配株主持分の増加7,475百万円及びその他有価証券評価差額金の減少3,321百万円となります。
なお、自己資本比率は利益剰余金等の増加に伴う純資産の増加により、33.7%となり、前連結会計年度末(30.8%)に比べ、2.9ポイント好転いたしました。
また、1株当たり純資産は利益剰余金の増加等により、前連結会計年度末の4,112円65銭から4,557円73銭となりました。
自己資本比率及び1株当たり純資産
|
|
|
(単位:百万円) |
|
|
|
前連結会計年度 (2024年3月31日) |
当連結会計年度 (2025年3月31日) |
前期比 |
|
自己資本(a) |
207,128 |
229,568 |
22,439 |
|
総資産(b) |
671,801 |
681,211 |
9,410 |
|
自己資本比率(%)(a)÷(b) |
30.8 |
33.7 |
2.9 |
|
1株当たり純資産 |
4,112円65銭 |
4,557円73銭 |
445円7銭 |
③ キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報
連結キャッシュ・フローの状況
|
|
|
(単位:百万円) |
|
|
|
前連結会計年度 (自 2023年4月1日 至 2024年3月31日) |
当連結会計年度 (自 2024年4月1日 至 2025年3月31日) |
前期比 |
|
営業活動によるキャッシュ・フロー |
53,604 |
39,179 |
△14,425 |
|
投資活動によるキャッシュ・フロー |
△18,927 |
△1,886 |
17,040 |
|
財務活動によるキャッシュ・フロー |
△32,943 |
△29,352 |
3,590 |
|
現金及び現金同等物に係る換算差額 |
1,811 |
3,576 |
1,765 |
|
現金及び現金同等物の増減額 |
3,545 |
11,516 |
7,971 |
|
現金及び現金同等物の期末残高 |
36,905 |
48,422 |
11,516 |
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動によるキャッシュ・フローは、39,179百万円の収入(前連結会計年度は53,604百万円の収入)となりました。税金等調整前当期純利益41,945百万円及び減価償却費17,328百万円等によるものであります。
前連結会計年度に比べて営業活動の結果得られた資金が14,425百万円減少いたしましたが、主な増減の内訳は、法人税等の支払額の増加4,684百万円、棚卸資産の増減額の減少4,194百万円となります。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動によるキャッシュ・フローは、1,886百万円の支出(前連結会計年度は18,927百万円の支出)となりました。水産資源事業、加工食品事業及びその他これらに附帯する事業を中心とした有形固定資産の取得による支出19,003百万円、投資有価証券の売却による収入15,215百万円等によるものであります。
前連結会計年度に比べて投資活動の結果使用した資金が17,040百万円減少いたしましたが、主な増減の内訳は、投資有価証券の売却償還による収入の増加13,881百万円、投資有価証券の取得による支出の減少3,038百万円となります。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動によるキャッシュ・フローは、29,352百万円の支出(前連結会計年度は32,943百万円の支出)となりました。借入金の返済による支出36,885百万円、配当金の支払額5,037百万円、社債の発行による収入14,921百万円等によるものであります。
前連結会計年度に比べて財務活動の結果使用した資金が3,590百万円減少いたしましたが、主な増減の内訳は、コマーシャル・ペーパーの増加4,996百万円、借入金の返済による支出の増加3,425百万円となります。
(財務方針)
当社グループは、中期経営計画「海といのちの未来をつくる MNV 2024」の下、政策保有株式などの売却による資産圧縮を通じた収益性向上、財務規律の維持を前提とした財務レバレッジ活用による最適資本構成の検討と資本効率性の向上、資本市場との丁寧な対話と情報開示における量・質両面の強化等に取り組み、2025年3月には、R&I格付けがA-に格上げされました。
中期経営計画「For the ocean, for life 2027」においては、R&I格付けA-維持を前提とした財務健全性の確保、及び持続的な成長に向けた投資のバランスを確保しつつ、株主還元の充実により、企業価値の向上に取り組んでまいります。
(資金の流動性)
手元流動性確保のため、主要な金融機関との関係維持・強化を図るほか、当座貸越枠、コマーシャル・ペーパー発行枠等の調達手段を備えております。
また、当社グループは各社が月次に資金繰り計画を作成するなどの方法により流動性リスクを管理しております。
なお、当連結会計年度末における現金及び現金同等物の期末残高は、前連結会計年度末に比べ11,516百万円増加し、48,422百万円となりました。
(資本の財源並びに資金調達の方法及び状況)
短期運転資金は自己資金及び金融機関からの短期借入を基本としており、設備投資や長期運転資金の調達につきましては、金融機関からの長期借入を基本としております。短期運転資金においてはコマーシャル・ペーパー、長期運転資金においては社債による直接調達も組み入れております。
また、当社グループは国内連結子会社を含めたキャッシュマネジメントシステム(CMS)を導入しており、運転資金及び設備投資資金の調達は、主に当社の借入及びグループ各社の事業活動から生じるキャッシュ・フローを集中させた自己資金によっております。
社債の発行実績については、2022年11月2日、環境持続型の漁業・養殖事業等に資金使途を限定した本邦初となる債券「ブルーボンド」(第1回無担保社債)の発行により5,000百万円を調達しました。その後、2023年8月31日に第2回無担保社債の発行により13,000百万円、2024年4月25日に第3回無担保社債の発行により15,000百万円をそれぞれ調達しております。
(資金需要の動向)
当社グループでは、設備投資を含む成長のための戦略投資、運転資金、有利子負債の返済及び利息の支払い並びに配当及び法人税の支払い等に資金を充当しております。
また、当社は、10年後に向けた新長期ビジョン及び2025年度から2027年度までの3カ年を対象とする中期経営計画「For the ocean, for life 2027」を策定しております。
既存の事業基盤を維持・継続するための定常投資のほか、既存事業の中で競争優位の源泉となる領域及び将来の競争優位の源泉となる新たな領域への成長投資等のため資金を充当してまいります。
設備投資を目的とした資金需要のうち主なものは、食品生産拠点、漁船等の購入費用、物流センターの設備費用等であり、運転資金需要のうち主なものは、商品及び原材料の仕入、製造費用、生産拠点及び物流センターの運営費、販売費及び一般管理費等の営業費用であります。
各セグメントの資金需要の動向は次のとおりであります。
水産資源事業
漁船、漁業許可権利金、食品生産拠点、養殖設備等の購入・建設費用並びに商品及び原材料の仕入、養殖魚や養殖のために必要なエサ代、製造費用、生産拠点の運営費等の運転資金が必要となります。
食材流通事業
食品生産拠点の購入・建設費用並びに商品及び原材料の仕入、製造費用、生産拠点の運営費等の運転資金が必要となります。
加工食品事業
食品生産拠点の購入・建設費用並びに商品及び原材料の仕入、製造費用、生産拠点の運営費等の運転資金が必要となります。
その他
コーポレート・アイデンティティの変更等に伴う変革費用及び物流センターの運営費等の運転資金が必要となります。
④ 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社グループの連結財務諸表は、我が国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されております。この連結財務諸表の作成にあたって、当社の経営者は、重要な判断と見積りや計画の策定に対し、過去の実績や現状を勘案し合理的に判断しておりますが、これらは不確実性を伴うため、将来生じる実際の結果と大きく異なる可能性があります。
連結財務諸表の作成にあたって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、下記については、重要なものとして、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載しております。
(ⅰ)固定資産の減損
(ⅱ)棚卸資産の評価
(ⅲ)繰延税金資産の回収可能性
その他の重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定は以下のとおりであります。
(ⅳ)貸倒引当金
当社グループは、売上債権、貸付金等の貸倒損失に備えるため、一般債権については貸倒実績率により、貸倒懸念債権等特定の債権については個別に回収可能性を検討し、回収不能見込額を計上しております。
個別の回収可能性の検討にあたっては、取引先の財政状態、担保物の見積回収可能価額などの見積り・前提を使用しております。
当連結会計年度においては、流動資産で△373百万円、固定資産で△1,459百万円の貸倒引当金を計上しております。
取引先の財政状態、担保物の見積回収可能価額には不確実性を伴い、これらに対する経営者による判断が売上債権、貸付金等の貸借対照表価額に重要な影響を及ぼす可能性があります。
(ⅴ)投資有価証券の減損
当社グループは、その他有価証券のうち、市場価格のない株式等以外のものについては、期末日における時価が取得原価に比べ50%以上下落した場合に原則として減損処理を行い、30~50%程度下落した場合に、回復可能性を判断して減損処理を行うこととしております。市場価格のない株式等については、当該有価証券の発行会社の1株当たり純資産額が、取得価額を50%程度以上下回った場合には回復可能性がないものとして判断し、30%~50%程度下落した場合には当該有価証券の発行会社の財政状態及び将来の展望などを総合的に勘案して回復可能性を判断しております。
個別の回収可能性の検討にあたっては、当該有価証券の発行会社の財政状態、将来の展望などの見積り・前提を使用しております。
当連結会計年度においては、投資有価証券として44,671百万円計上しております。
有価証券の発行会社の財政状態、将来の展望などには不確実性を伴い、これらに対する経営者による判断が連結貸借対照表価額に重要な影響を及ぼす可能性があります。
(ⅵ)退職給付会計
当社グループは、確定給付型の制度として、確定給付企業年金制度及び退職一時金制度を採用しております。また、一部連結子会社では、確定拠出制度を採用しております。
当社においては、退職給付信託を設定しております。
退職給付型の制度において、退職給付債務及び関連する勤務費用は、数理計算上の仮定を用いて退職給付見込額を見積り、割り引くことにより算定しております。数理計算上の仮定には、割引率、退職率及び死亡率など年金数理計算上の見積り・前提を用いております。
割引率については、デュレーション法(加重平均期間アプローチ)により算出した期間に対応する国債のイールド・カーブから抜粋した利回りを加重平均割引率とする方法を採用しております。
当連結会計年度においては、退職給付に係る資産として6,582百万円、退職給付に係る負債として22,495百万円を計上しております。
これらの見積り・前提に用いる割引率、退職率及び死亡率などについては、現時点で妥当と判断したデータその他の要因に基づき設定しておりますが、実際の結果がこれらの見積り・前提と異なる場合には、将来の退職給付費用及び退職給付債務に重要な影響を及ぼす可能性があります。
なお、退職給付関係に関する事項は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項 (退職給付関係)」に記載のとおりであります。
⑤ 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標
中期経営計画「海といのちの未来をつくる MNV 2024」において掲げております「価値創造経営の実践」における「財務KGI」の状況は次のとおりであります。
当社グループでは、中期経営計画の最終年度となる2024年度計画において、MNEV12,000百万円以上、売上高1,050,000百万円、営業利益30,000百万円、EBITDA50,000百万円、ROIC4.3%、ROE9.0%及びネットD/Eレシオ1.1倍以下を目標にしておりました。
売上高は前連結会計年度を47,957百万円上回る1,078,631百万円となり、営業利益は前連結会計年度を3,847百万円上回る30,381百万円となり、EBITDAは営業利益の増加等により前連結会計年度を5,616百万円上回る51,580百万円となりました。また、ROICは運転資本の減少及び経常利益の増加等により前連結会計年度の4.2%から0.1ポイント好転し、4.3%となりました。ROEは前連結会計年度の10.8%から0.1ポイント悪化し、10.7%となり、ネットD/Eレシオは有利子負債が減少したことにより前連結会計年度の1.2倍から0.2ポイント減少し、1.0倍となりました。
この結果、MNEVは前連結会計年度を844百万円上回る12,776百万円となりました。新中期経営計画「For the ocean, for life 2027」においても、収益性・資本効率向上等掲げており、引き続き当社グループ全体の企業価値の向上に取り組んでまいります。
|
|
2023年度 |
2024年度 |
2024年度計画 (最終年度) |
前期比 |
計画比 |
|
MNEV(百万円) |
11,931 |
12,776 |
12,000 |
844 |
776 |
|
売上高(百万円) |
1,030,674 |
1,078,631 |
1,050,000 |
47,957 |
28,631 |
|
営業利益(百万円) |
26,534 |
30,381 |
30,000 |
3,847 |
381 |
|
EBITDA(百万円) |
45,963 |
51,580 |
50,000 |
5,616 |
1,580 |
|
ROIC(%) |
4.2 |
4.3 |
4.3 |
0.1 |
0.0 |
|
ROE(%) |
10.8 |
10.7 |
9.0 |
△0.1 |
1.6 |
|
ネットD/Eレシオ(倍) |
1.2 |
1.0 |
1.1 |
△0.2 |
△0.1 |
(注)MNEV(Maruha Nichiro Economic Value):事業活動の成果に伴う経済付加価値額として、投下資本利益率(ROIC)と加重平均資本コスト(WACC)の差(MNEVスプレッド)に、投下資本を乗じ算出しております。
特記すべき事項はありません。
当社グループでは、おいしさ、栄養、健康をはじめ、持続可能な水産資源の追求や、食品加工における卓越した技術・価値の創出等『食』の未来へ新たな価値を提供するため、食品・水産素材に関する基礎研究から、事業化に向けた応用研究・技術開発まで、幅広い領域での研究開発に取り組んでおります。
特に、中期経営計画に掲げている、「イノベーション・エコシステム」を効率的に推進するために、①フードテック領域、②マリンテック領域、③バイオテック領域等の領域に注力いたしました。
当連結会計年度における研究開発費の総額は
主なセグメント別の研究の目的、主要課題、研究成果は次のとおりであります。
水産資源事業
世界的な人口増加と新興国の経済成長により、良質かつヘルシーなたんぱく源である魚の需要が世界規模で急増しているなか、水産、養殖分野での取組みの重要性が高まっております。特にSDGs目標14「海洋と海洋資源を持続可能な開発に向けて保全し、持続可能な形で利用する」に貢献することを目指して、養殖魚のエサとなる天然魚や魚粉原料をできる限り使用しない飼料開発のための昆虫ミールに着目した研究や、魚類の生理機能を活用した飼育方法による生産性の向上等に取り組んでおります。また、おいしさの部分においても、呈味成分等を詳細に分析することで客観的な指標を見出し、更に高いレベルの品位を目指して改良を進めております。
沿岸域での海面養殖だけではなく、台風や赤潮等の自然環境に影響されにくく、残餌や糞により海洋環境を汚さない閉鎖循環型陸上養殖については、山形県遊佐町においてサクラマス陸上養殖実証試験に係る研究開発を進めておりましたが、現在三菱商事株式会社との合弁による「アトランド株式会社」において、アトランティックサーモン陸上養殖の事業化に向けた取り組みを継続中であります。
物流メリットのある都市部近郊の港湾における養殖の可能性を検討し、魚病等の外乱に影響の少ない、閉鎖式海面養殖システムの確立に向けて、川崎重工業株式会社と技術的検証を進めております。
海面養殖においても遺伝子情報を活用した高成長種苗の育種や魚類の生理機能を利用した高成長を目指した取り組み、更には国の定める“みどりの食料システム戦略”における水産施策にのっとり、国立研究開発法人 水産研究・教育機構との完全養殖マグロ育成に関する共同研究を推進し、クロマグロの人工種苗比率100%に向けて研究を進めております。
このように、陸上海面各養殖業において、新しい形態の養殖システムの構築と既存養殖業態の効率化、生産性向上について取り組みを進め、持続可能な養殖業の推進を目指して研究開発を進めていきます。
種苗生産研究では、「株式会社マルハニチロ養殖技術開発センター」にて、2024年度は更なる技術の革新に取り組み、陸上施設内でブリ類の稚魚に大きな被害を与える特定の魚病に罹患していないSPF種苗の作出を行い、種苗導入先への魚病拡散防止と環境保全に取り組みました。主力研究対象魚のブリでは、完全養殖を達成しており、人工授精技術の確立と高成長系統の選抜育種・継代も併用し、養殖の生産性を更に上げていく計画です。
水産・養殖現場では、AI(人工知能)、IoT(Internet of things)、ICT(情報通信技術)を活用して、生産性向上や省力化を目指した取り組みを進めております。それら技術と水産・養殖現場の課題を適切にマッチングさせ、費用対効果がでるような技術開発を行い、これまでにAI画像認識技術を活用した魚の尾数をカウントするシステム「かうんとと」、IoTを利用した養殖向けの環境データモニタリングシステムを実用化しました。現在は、AI画像認識技術とサイトグラスを利用して稚魚を計数する装置の実用化だけではなく、既に実用化している「かうんとと」のバージョンアップ等に取り組んでおります。なお、東京海洋大学が主催する「海洋AIコンソーシアム」に協力機関として参加し、東京海洋大学の行う卓越大学院プログラム、その他の海洋AIに関する教育及び研修に関する支援を行い、インターンシップの学生の受け入れ等を進めております。
食材流通事業
自然解凍冷凍食品、フローズンチルド商品等、多様な流通カテゴリーからなる当社商品に関して、商品の安全性担保のための基盤となる微生物制御技術の研究を進めております。独立行政法人製品評価技術基盤機構との共同研究では、近年注目を浴びているマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法(MALDI-TOF MS)を用いた、食中毒原因菌であるセレウス菌(Bacillus cereus)の迅速かつ精密な識別・同定(菌種特定)法を2018年に確立いたしました。また、食品の賞味期限を設定し、微生物のリスクを評価するには、製品中の微生物の増殖速度が指標の1つとなり、さまざまな条件下においてデータを取得するには、複数の検体の準備やデータ測定に多大な作業時間と労力を要します。そこで、微生物の増殖に伴い発生する熱量を直接計測する「カロリメトリ―法」を用い、食中毒の原因となるセレウス菌の増殖速度を簡便に算出することで、食品中の微生物リスクを短時間で把握することに成功しました。本研究の発表論文は、2024年公益社団法人日本食品衛生学会より「食品衛生学雑誌第64巻論文賞」を受賞しました。これらの技術は、適切な賞味期限の設定につながり、安全・安心な食の提供、食品ロスの削減や経済負荷・環境負荷の軽減が期待できます。安全・安心な商品の提供に貢献するため、当社グループ内における高度な微生物管理が要求される新商品の開発や生産等につなげてまいります。
生鮮魚の風味、物性の特徴を的確に捉え、重要な品質因子を特定することにより、生鮮魚の品質を高度に制御していく取り組みを進めております。また、保水エビ、定塩鮭等の水産物原料の品質を維持・向上させるため、添加剤の検討や加工処理方法の技術改良を行い、製品品位の向上に取り組んでおります。更に、水産加工現場から排出される未利用資源の有効利用に関する技術開発を行い、環境負荷低減の取り組みを進めております。
地球温暖化や海洋環境変化等に起因する水産物の供給量や価格が不安定な状況になっていることを背景に、将来的な水産物の資源枯渇に対応するため、代替食品製造の技術開発を進めております。水産物代替食品の技術開発だけではなく、畜産物代替品の技術開発を社内関連部署と進めており、代替食品の可能性の追求を目指しております。
加工食品事業
食品の見た目、香り、味や食感等の特徴を理化学分析及び官能評価で数値化し、プロファイリングを行い、栄養成分や物性等の美味しさに関わる科学的な要素を分析し比較することで、理論的に食品の特徴をコントロールする取り組みを行っております。
食塩を控える等健康志向の強い消費者に対応できるよう、減塩しても美味しさが変わらない技術や噛みやすく飲み込みやすい食感(物性)が必要な介護食を安定して製造するための技術開発に取り組み、当社商品への応用展開を進めております。また、当社の取り扱う加工原料の品質を可視化し、良質な素材の提供にむけた取り組みを推進しております。
特定保健用食品は、からだの生理学的機能等に影響を与える保健効能成分(関与成分)を含み、その摂取により、特定の保健の目的が期待できる旨の表示(保健の用途の表示)をする食品であり、この販売には、食品の有効性や安全性について国の審査を受け、許可を得なければなりません。当社では、長年続けてきた魚油由来の健康成分であるDHAとEPAに関する研究成果をもとに、2004年に中性脂肪が高めの方を対象にした特定保健用食品「リサーラ」の販売を開始しました。また、日本人の死因で2番目に多い疾患である心血管疾患に着目し、2024年にはDHAとEPAを関与成分とし、心血管疾患に対するリスク低減効果の可能性がある「疾病リスク低減表示特保」として日本で初めて許可を取得したフィッシュソーセージ「DHA入りリサーラソーセージω(オメガ)」の発売をいたしました。疾病リスク低減表示特保とは、関与成分の疾病リスク低減効果が医学的・栄養学的に確立されている場合に限り、「特定保健用食品(疾病リスク低減表示)」として消費者庁から許可されている食品であり、本製品は、疾病リスク低減表示の個別評価第一号に当たります。
また、機能性表示食品においても、開発にいち早く取り組みました。その結果、業界初やカテゴリー初となる機能性表示食品を次々に開発し、これまでに、DHA・EPAを関与成分とした中性脂肪を低下させる機能がある食品、DHAを関与成分とした情報の記憶をサポートする機能がある食品として、多数の品目について消費者庁で届出を受理されております。また、多様な生理活性を有する脂質研究を基に多くの医薬品を創製してきた小野薬品工業株式会社と協業し、エビデンスに基づく機能性脂質製品の商品開発に共同で取り組んでおります。具体的には、当社水産加工現場から排出される未利用資源よりDHAが結合したリン脂質を含むイクラ油を基にしたサプリメントを共同で開発しました。これには睡眠の質を向上させ、あるいは一時的な活気・活力の向上と日中の眠気の軽減に役立つ機能があることを臨床試験で確認し、機能性表示食品として受理され、2022年3月より「レムウェル」(小野薬品ヘルスケア)の販売に至りました。両社は、信頼できるパートナーとして、お互いの知見や事業ノウハウを有効活用し、引き続き脂質のもつ有用な生理活性に着目して、食品と医薬品の間に位置する予防・未病の分野を開拓し、より多くの方へ生涯にわたる健康をお届けしてまいります。
DHA以外にも、当社が原料調達等での優位性を有する他の素材についても検討を進めており、サケ白子に含まれるプロタミンの抗菌性を活用した口腔ケア等への応用研究、スケソウダラ由来魚肉タンパク質の機能性研究等、水産物由来の機能性成分に関する研究を推進しております。
また、新たな取り組みとして、持続可能な“次世代の魚タンパク”の商業化生産を目指し、2021年8月に細胞培養スタートアップのインテグリカルチャー株式会社と「魚類」の細胞培養技術の確立に向けた共同研究を開始しました。同社は、細胞農業(細胞培養)が普及する世界の実現に向けて、培養コストの低価格化と、細胞培養の大規模化技術の開発を行う革新的なスタートアップ企業です。同社が独自に展開する食品グレード培養液と汎用大規模細胞培養システム “CulNet System™”は、これまで牛と家禽の細胞で有効性が確認されており、本研究ではこれらを新たに魚類の細胞にも拡張してまいります。検証に必要な生きた魚(細胞)の提供を当社が担って、研究を推進してまいります。
更に、技術面及び法整備を含めた世界的な事業環境の変化を見据え、2023年8月 UMAMI Bioworks Pte Ltd.(本社:シンガポール)と協業契約を締結し、魚類の細胞培養技術の確立に向けた取り組みを推進いたします。同社は、シンガポールに本社を置くバイオテクノロジー企業で、培養魚の自動生産プラットフォームを構築しております。シンガポールは細胞性食品における法整備の可能性や市場形成の展望が世界的にも有望視されているなか、UMAMI Bioworksは培養魚研究開発においてすでに実用化に近い段階にあり、試食可能な細胞性水産物の開発に成功しております。当社は協業を通じて、UMAMI Bioworksの細胞培養プラットフォームと当社の水産サプライチェーンを活用して、細胞性水産物の普及に向けた取り組みを推進します。
2023年1月からは、細胞性食品(いわゆる「培養肉」)のルール形成を行う団体である一般社団法人日本細胞農業研究機構に参画して活動を進めております。当社は創業以来、良質な魚タンパクの供給を通じて人々の食と健康に貢献してまいりました。魚類細胞性食品の生産技術が実現できれば、世界中で高まる魚需要に対して、持続可能な次世代の魚タンパク質の提供が可能になると考えております。
更に、水産・食品分野のリーディングカンパニーとして、関連学会での発表はもとより、関連セミナーにおける講師、理科授業の実施等、成果や技術力の情報発信に加え、社会に対する貢献活動に継続して取り組んでまいりました。