第2【事業の状況】

 以下、第2 事業の状況に記載している金額は消費税等抜きの額である。

 

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、次のとおりである。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものである。

(1)経営の基本方針

長期的な視点に立った会社経営を基本に、経営の効率化と収益力の向上によって、企業価値をより高めていくことを目標としており、その実現を通じて、株主、顧客、取引先、従業員、地域社会など、すべてのステークホルダーの信頼と期待に応えられる経営を目指している。

 

(2)経営環境及び対処すべき課題

① 経営環境

 当社グループの経営環境については、「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1)経営成績」に記載のとおりである。

 

② 対処すべき課題

ア 安全最優先への取組みについて

  当社は、2023年9月に「東京駅前八重洲一丁目東B地区第一種市街地再開発事業建設工事」において発生した、鉄骨建方作業中に鉄骨の梁が倒壊し、6名が被災、うち2名が死亡した重大災害に関して、引き続き被災者及びそのご家族に対して誠心誠意対応するとともに、捜査・調査中の当局に対して全面的に協力している。

  当社グループは、本災害を惹起したことにより工事に従事される方の安全を守れなかったことを極めて厳粛に受け止め、安全の確保が経営の最優先事項であることを改めて認識し、安全文化の変革に向けた取組みを進めている。

 

 

「安全最優先への取組み」の2024年度の実施状況

① 「9.19 安全の日」の制定

本災害の反省と教訓を永遠に忘れずに風化させることがないよう、災害発生日である9月19日を「9.19 安全の日」と定め、「安全は全てに優先する」という当社の理念を改めて誓う日とした。

<2024年「9.19 安全の日」実施事項>

・社長から当社グループ全役職員及び協力会社に対し、「『事業に関わるすべての人々を大切にする』という企業理念に従い、当社の事業場で働く人全員の安全確保に努める」旨のメッセージを配信

・当社国内本支店における特別安全大会、各工事事務所における当社役職員及び協力会社作業員に対する所長講話及び一斉安全点検

② 安全監察監の各本支店への配置

安全衛生に関する外部の客観的視点と法令に基づく厳格な指導・助言による当社の安全衛生管理活動の向上及び安全意識の更なる醸成を目的として、安全衛生に関する優れた専門知識を有する外部人材である「安全監察監」を各本支店に配置し、現場巡視及び安全指導を実施した。

<安全監察監の配置状況(2025年3月31日現在)>

札幌支店1名、東京本店1名、名古屋支店1名、大阪本店2名

(広島支店、四国支店、九州支店は2025年度に配置予定)

<安全監察監による国内現場巡視の実施状況>

国内本支店140件

③ 安全に対するコミットメントの強化

工事現場で発生するあらゆる災害の撲滅のため、国内本支店共通の安全指標としてTRIR(総災害度数率)を採用した。また、各本支店長が手持工事の状況を踏まえて期初に設定した目標に対し、その進捗状況を各会議体で経営陣が確認し、改善策を策定・実行するPDCAを実施している。

④ 安全に関する教育・研修の見直し

・工事現場の施工管理の中心を担う工事課長・工事係長の危険感受性の向上を目的に、当社の重大災害を題材としたケーススタディを通じた教育を実施

2024年度 開催回数38回 参加人数789名

・安全意識の啓発を目的として、死亡事故・重大災害のデータベースを再整備、社内に開示

⑤ 熱中症対策

・国内工事現場にポータブルWBGT測定機器を設置

・熱中症対策リストバンドによる協力会社作業員の体調管理

 

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イ 大林グループ中期経営計画2022追補について

  当社グループは、2022年3月及び昨年5月に公表した大林グループ中期経営計画2022及びその追補に基づき、「建設事業の基盤の強化と深化」、「技術とビジネスのイノベーション」、「持続的成長のための事業ポートフォリオの拡充」の3つの基本戦略を実行し、「事業基盤の強化と変革の実践」に取り組んでいる。

 

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  上記の持続的成長に向けた「変革実践への取組み」について、海外建設事業、開発事業、グリーンエネルギー

 事業及び新領域ビジネスの取組み状況は次頁以降に記載のとおり。

 

 

海外建設事業

 北米、東南アジア、オセアニアなどにおいて、各国・地域に根差したグループ会社を中心に建築・土木事業を展開している。半世紀以上にわたって築き上げてきた各国における事業基盤を活用し、国内外の大林グループ各社が有機的かつ双方向で技術・人材などの強みを提供し合うことにより、グローバル市場における建設技術とビジネスのイノベーションを実現し、新たな収益機会の獲得に取り組んでいる。

 北米においては、北米事業全体の戦略立案や事業推進・展開を担う北米支店の下、主にM&Aを活用して事業領域の拡大を図るビジネスモデルとしており、現在グループ会社7社が活躍している。直近では2023年12月に、水処理関連施設の建設などを行うMWH社が新たに加わり、当社グループの業績に貢献している。今後も当社グループの信用力を活用した財務面での支援、グループ会社との協働、技術や人材等のリソースの活用を通じて、さらなる成長が期待されている。

 東南アジアにおいては、シンガポールに拠点を置くアジア支店を中心として各進出国の現地法人等がクロスボーダーで連携する体制を構築し、ローカル事業基盤の強化、差別化、安定収益の獲得及び事業の拡大に取り組んでいる。半世紀以上前から当社グループが進出するシンガポールやタイをはじめとする域内各国では、ローカル人材の育成・経営幹部層への登用を着実に進めており、2025年4月にはシンガポール現地法人社長をアジア支店長に登用したほか、タイでは2代続けて生え抜きの人材が現地法人社長を務めている。

 シンガポールにおいては現地企業や多国籍企業の建築工事を現地法人で受注するだけでなく、これまで大林組で手掛けていた公共インフラ等の土木事業を現地法人に移管し、タイにおいても現地企業や王室からの発注工事を長年、現地法人で手掛けるなど、着実に業容を拡大している。また、2024年4月には、シンガポール建築建設庁(※1)のオープンイノベーション施設内に新たな研究開発拠点を開設(※2)した。本拠点にて地元大学やスタートアップ等との研究開発エコシステムを構築し、日本を含むアジア地域の建設現場へのアジア発・日本発の最新技術の適用支援を進めている。

 

※1 アジア支店長 兼 大林シンガポール社長のリー・アイクセンが2023年4月から同庁の取締役会メンバーを務めている。

※2 詳細は以下の当社プレスリリースのとおり。

「シンガポールに新たな研究開発拠点「Obayashi Construction-Tech Lab Singapore」を開設」

https://www.obayashi.co.jp/news/detail/news20240719_1.html

 

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開発事業

 開発事業では、賃貸事業を軸に販売事業、ノンアセット事業を行っている。

 賃貸事業においては、東京・大阪都心部の大型オフィスを主軸に安定的な運営を行っており、投資効率の向上と収益基盤の強化を図るため、継続的な新規投資と物件売却によるポートフォリオの入れ替えを行うとともに、アセットタイプの多様化とグローバル化を推進している。

 アセットタイプの多様化に向けては、国内でZEBなどの環境配慮型ビルや木造木質化技術を用いた新規物件の開発、付加価値の高い物流施設など成長分野への投資を行っている。物流施設については、需要が高まる中、建設事業で得た知見やネットワークを活用しながら、首都圏を中心に複数の施設の開発を進めている。

 また、グローバル化に向けては、ロンドン及びバンコックで賃貸オフィスの開発・保有・運営を行っている。直近の取組事例としては、大林プロパティズUKが2023年3月に取得したロンドン・シティ所在のオフィスビル「60 Gracechurch Street」の建替え再開発に向けて、2024年12月にロンドン市から開発許認可を取得した。2026年度の着工を目指し、現地のコンサルタントと共にロンドン市やテナントのニーズに応えた施設計画と環境に配慮した開発を進めている。

 

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グリーンエネルギー事業

 当社グループは、持続可能な社会の実現に貢献するという企業理念の下、収益の持続的拡大による主要事業への成長と当社グループのカーボンニュートラルの実現を目指し、国内外での再生可能エネルギー事業に取り組んでいる。

 国内においては、太陽光、風力(陸上・洋上)、バイオマス、地熱発電の開発・運営を行っている。また、㈱大林クリーンエナジーが㈱サイプレス・スナダヤの製材工場において、オンサイトPPA(※)により電力を供給している。

 海外においては、国内で得た知見を活かし、関連会社であるEastland Generation社を中心にニュージーランドにて地熱、小水力発電所等の開発・運営を行っており、今後も再生可能エネルギー事業のポートフォリオ拡充とさらなる収益獲得を目指している。

 また、ニュージーランドでは、2021年に現地企業と共同保有するプラントで製造したグリーン水素の試験販売を開始している。2024年6月には高速充填施設の営業を開始し、同水素を販売しているほか、フィジーへの海上輸送実証(環境省補助金事業)を行うなど、事業化に向けた水素サプライチェーンの構築を進めている。

 

※ 電力需要家とPPA事業者(発電事業者)が締結する「電力売買契約(PPA:Power Purchase Agreement)」の一つ。

PPA事業者が需要家の土地や施設に太陽光などの再生可能エネルギー発電設備を設置し、電力を供給する。

 

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新領域ビジネス

 当社グループでは、カーボンニュートラルやウェルビーイングなどの社会課題の解決や持続可能な社会への貢献を新規事業開発における最重要ミッションと捉えている。当社グループの強みである「構想力」「実現力」「人間力」を発揮できる分野であり、かつ今後成長が見込まれ十分なビジネス機会を得られる市場規模がある5つの注力領域(建設DX、都市プラットフォーム、アグリ&バイオ、グリーンエネルギー、宇宙)を設定し、新事業開発に取り組んでいる。

 都市プラットフォームとしてのスマートシティへの取組みとしては、データ活用による、まちに関わるあらゆる人の合意形成とウェルビーイングの実現を目指し、ビルオーナーやエリアオーナー、自治体などに高付加価値かつサステナブルなソリューションを提供するとともに、生活者のウェルビーイングを実現するサービス事業『みんまち®プロジェクト』を展開している。周辺企業や店舗とのマッチングサービス「みんまちSHOP」に加え、生活者の感情や価値観を蓄積させるWEBアプリ「みんまちDROP」(※)を2025年5月に新たに導入した。サービスやアプリから得られるデータを当社独自の分析指標とAIを用いて解析し、エリアの隠れた魅力や可能性を把握し可視化できる「エリアダッシュボード」を含むデータエコシステムを構築することで新たなまちづくりにチャレンジしている。

 「みんまちDROP」は、大阪・関西万博のシグネチャーパビリオン「Better Co-Being」及び万博会場全体に導入されている「Better Co-Beingアプリ」を実際のまちで展開する万博レガシーとしても位置づけられている。

 

※ 生活者が「今」「その場で」「感じたこと」を言葉にして表現することができる独自の投稿システム「DROPS」を備えるWEBアプリケーション。

 投稿には位置情報や角度といった視覚的データが付与され、生活者の感情や価値観とともに地図上に蓄積される。蓄積データは、独自の分析指標とAIを活用して分析し、本アプリにもフィードバックすることでアプリ体験価値をさらに高め、まちでの行動をより豊かにする。

 

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2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

 当社グループは、企業理念に『「地球に優しい」リーディングカンパニー』を掲げ、持続可能な社会の実現を目指している。

 創業以来受け継がれてきた精神である三箴「良く、廉く、速い」と「企業理念」、そして企業理念を実現するための指針である「企業行動規範」から成る「大林組基本理念」を全社員で共有し、社員一人ひとりが「大林組基本理念」を実践することこそが企業活動そのものであるという考えの下、企業活動を通じて社会的責任を果たすことで、持続可能な社会の実現に貢献し、企業価値の向上に努めている。

 また、2019年6月には、企業理念に基づき「Obayashi Sustainability Vision 2050」(OSV2050)を策定し、OSV2050で掲げた「2050年のあるべき姿:地球・社会・人のサステナビリティ」と自らのサステナビリティ実現に向け、さまざまな社会動向や当社グループを取り巻く事業環境の変化を捉え、ESG経営を基盤としてグループ一体で事業を通じた企業価値の向上と社会課題の解決に取り組んでいる。

 なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものである。

 

(参考)

 ◇基本理念

  https://www.obayashi.co.jp/company/philosophy.html

 ◇Obayashi Sustainability Vision 2050

  https://www.obayashi.co.jp/sustainability/vision.html

 ◇価値創造プロセス(OBAYASHI コーポレートレポート2024 P.22, P.23)

  https://ir.obayashi.co.jp/ja/ir/data/report/main/0/teaserItems2/07/linkList/05/link/CR2024_2.pdf

 

(1)ガバナンス

サステナビリティ課題に対する取締役会の実効的な監視・監督・関与を目的として、環境・社会のサステナビリティ課題に関する取締役会の諮問機関として「サステナビリティ委員会」を、企業のサステナビリティ課題(企業統治や経営戦略等)に関する取締役会の下部組織として「取締役座談会」をそれぞれ設置し、両課題の検討議論を行う体制としている。取締役座談会は取締役及び監査役により構成しており、企業統治や経営戦略などの企業のサステナビリティ課題について検討・討議を行っている。サステナビリティ委員会は、代表取締役社長 兼 CEOを議長としサステナビリティに関する専門性・経験を有する社外取締役などにより構成しており、サステナビリティ課題の特定、特定したサステナビリティ課題の対応方針の検討及び提言ならびに執行における実施状況のレビューを行っている。サステナビリティ委員会での議論を踏まえて、ESG経営推進及びSDGs達成のための経営方針が取締役会にて決定される。

また、業務執行においては、経営会議のもと、代表取締役社長 兼 CEOから委嘱をうけた経営計画委員会及び同委員会に設置する各サステナビリティ分野の専門委員会において、事業ポートフォリオ、人材組織戦略及び知的財産戦略等の方向性と具体的な施策の立案、推進及び実施状況の把握を行い、取締役会に諮る体制としている。

<サステナビリティ推進体制>

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(参考)

 ◇主な委員会の情報

  https://www.obayashi.co.jp/sustainability/organization.html

 ◇取締役の専門性と経験(スキルマトリクス)

  https://www.obayashi.co.jp/company/governance/statement.html

 

  (2)戦略

当社は、長期ビジョン「Obayashi Sustainability Vision 2050」を策定し、「地球・社会・人」と当社グループのサステナビリティの実現に向けたESG重要課題(マテリアリティ)の特定と具体的なアクションプラン及びKPIを設定している。同ビジョンに基づき2050年の「あるべき姿」実現に向け、カーボンニュートラルとウェルビーイングを中期的な社会課題であると同時にビジネス機会と捉え、省エネのさらなる推進やグリーンエネルギーの利活用、ダイバーシティ&インクルージョンの推進とともに革新的な技術開発を進めている。また、事業領域の深化・拡大とグローバル化を進めるため、各事業・各エリアの成長性と収益性、当社グループの技術やネットワークの優位性、リスク等を検証して最適な事業ポートフォリオを検討し、人的資本への投資や技術開発投資を含む将来に向けた投資配分の最適化を図っている。

①気候変動

気候変動に関するリスク及び機会については、2020年7月にTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言への賛同を表明し、関連リスクと機会を特定・評価し、気候変動関連問題が事業に与える中長期的なインパクトを把握するため、シナリオ分析を実施のうえ、2020年11月に同提言に沿った情報を開示した。また、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)による「IFRSサステナビリティ開示基準」の公開など、社会からの要請に応じるため、2024年4月に情報を更新した。

 ア リスク及び機会の特定

当社グループは、事業・戦略・財務計画の検討を行う際に、短期・中期・長期(「短期」:3年以内、「中期」:~2030年、「長期」:2031年~2050年を想定)の気候関連リスク及び機会による影響を判断する一連のプロセスの中で、気候変動の影響についても考慮している。影響度は大(100億円以上)・中(10億円以上100億円未満)・小(10億円未満)の3段階で評価している。

 イ シナリオ分析

   ・TCFDの提言に基づき、リスク及び機会を特定・評価し、気候関連問題が事業に与える中長期的なインパクトを把握するため、シナリオ分析を実施している。

   ・分析においては、産業革命前に比べ2100年までに世界の平均気温が4℃前後上昇することを想定した4℃シナリオと、1.5℃前後上昇する1.5℃シナリオを採用し、各シナリオにおいて政策や市場動向の移行(移行リスク・機会)に関する分析と、災害などによる物理的変化(物理リスク・機会)に関する分析を実施している。

2022年10月には、SBT(Science Based Targets)の認定を取得し、2030年度までに2019年度比で、Scope1+2を46.2%、Scope3を27.5%とするCO2排出量削減目標を掲げて、着実な取り組みを実行している。

 なお、これらの情報については、当社ウェブサイトやコーポレートレポートで開示している。

 

 シナリオ分析結果のまとめ

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(参考)

 ◇気候関連の情報開示

  https://www.obayashi.co.jp/sustainability/environment/tcfd.html

 ◇脱炭素社会

  https://www.obayashi.co.jp/sustainability/environment/action.html#section1

 

 

②自然資本

 自然資本に関するリスク及び機会については、2023年6月にTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)提言への賛同を表明した。TNFD提言で推奨されるLEAPアプローチに沿って、バリューチェーンでの自然への依存・影響の分析を行い、以下のとおり特定・評価のうえ、2025年2月に同提言に沿った情報を開示した。

 

   LEAP分析の概要

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L:自然との接点の発見、E:依存と影響の診断

当社グループの連結売上高のうち、7割程度を占める国内建設事業(建築・土木)に注目した。国内建設事業のバリューチェーンにおいて、自然への影響度が大きい「設計・施工」および調達のうち主要調達資材の「原材料採取地」について、ENCORE(※)を用いて自然資本に対する依存と影響度を抽出した。

 

 ※ENCORE:企業が自然資本に与える影響や依存を特定するためのツール

 

A:リスクと機会の評価

抽出した依存と影響度をもとに、リスクに関する項目として「生態系の利用」「温室効果ガス」「水資源」を、機会に関する項目として「グリーンインフラ」「木材」を特定し、対応策を策定した。

 

P:開示

フレームワークに沿って、「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」を開示した。「指標と目標」では、グローバル中核開示指標に対応する当社グループの目標と実績を開示している。

 

(参考)

◇自然関連の情報開示

 https://www.obayashi.co.jp/sustainability/environment/tnfd.html

◇自然共生社会

 https://www.obayashi.co.jp/sustainability/environment/nature.html

 

③人材マネジメント

当社グループは、事業に関わるすべての人を大切にすることを企業理念に掲げており、多様性を受け入れ相互に尊重し合える企業(組織)風土をこれからも変わらない当社グループの守るべきDNAと捉えている。この企業風土の下、仕事を通じた成長機会の提供や働きがいのある職場をつくり、働く人のエンゲージメントを向上させることを目指し、「大林グループ人材マネジメント方針」を定めている。

具体的には、執行側に設置した「人材マネジメント専門委員会」において、人事制度の運用、人材活用、ダイバーシティ&インクルージョンなどの推進に向けた取組みを行っている。

 

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ア 健康経営の推進

 当社グループは、健康経営を人材マネジメント戦略の重要な要素として位置付けている。2022年12月に健康経営方針を策定し、健康経営推進専門部会を設立するなど体制を整備し、健康経営課題、課題に対する最終目標と指標を定めて積極的に推進している。

 社長が健康経営責任者となり、経営会議の下、経営計画委員会及び同委員会に設置した人材マネジメント専門委員会が方針・戦略を策定し、その傘下に置かれた健康経営推進専門部会が、全国土木建築国民健康保険組合などと連携を図りながら、具体的な施策を推進している。同専門部会では、産業医や公認心理師・臨床心理士と協働し、グループ全社員の健康診断データなどの分析、検証を踏まえた職場環境の整備など、社員とその家族の健康保持・増進に向けた施策の立案、推進に継続的に取り組んでいる。

 

  (参考)

   ◇健康経営方針・健康経営推進体制

    https://www.obayashi.co.jp/sustainability/employee/hrm.html#section1

 

 イ ダイバーシティ&インクルージョンの推進

 当社グループは人材が最も重要な経営資源の一つであるとの考えのもと、社員一人ひとりが強みや能力を最大限に発揮できるよう、能力本位での登用を基本方針とするなど、ダイバーシティ&インクルージョンを推進している。2021年4月には「ダイバーシティ&インクルージョン推進部」を設置し、各人が働きがいを持って業務と向き合い、成長を促す環境や機会を整備・提供することによりウェルビーイングの実現を目指している。ジェンダー、国籍、文化、世代及び障がいの有無などにとらわれることなく、多様な人材が等しく活躍できる職場環境の整備や、さらなる人材の確保と活躍推進に取り組んでいる。

 

  (参考)

   ◇ダイバーシティ&インクルージョン

    https://www.obayashi.co.jp/diversity_inclusion/

 

 ウ 人材教育

 当社グループの持続的な成長を支えるには人材の育成が不可欠であることから、さまざまな教育施策を展開している。年代や職責に応じた階層別研修のほかに、職種別の専門研修、事業・業務領域別の研修を実施している。

 新卒採用の社員には、入社後の数週間は職種を問わず、社会人としてのビジネススキルを学ぶ集合研修を実施している。講義やディスカッション、グループワークなどの教育を終えた後、職種別に専門的なスキルを学ぶ教育を実施している。

 キャリア採用の社員は、新卒採用の社員と等しく活躍できるよう、入社時には、職種を問わず人事諸制度や情報セキュリティ教育、人権研修などを行った後、職種別に必要な教育を実施している。

 実務職層には、職場内において1年を通じてPDCAのサイクルを回すことによって、一人ひとりに即した成長を実現していく。また、同じ職場内で「指導員」を選任し、実務の基礎や知識、技術などを確実に身に付けられるようきめ細やかな指導を受けながら、各人の能力を伸ばしている。

 また、全階層を対象に職場外教育として、当社の社員として必要な知識やスキルを階層別に習得していく「共通集合研修」や、事業領域、業務領域に分かれた研修なども実施している。

 

  (参考)

   ◇大林組の教育制度

    https://www.obayashi.co.jp/sustainability/employee/hrm.html#section3

 

 エ エンゲージメント向上

 「大林グループ人材マネジメント方針」に沿って、社員のエンゲージメント向上に向けてさまざまな取り組みを行っている。2023年度から「従業員満足度70%以上の達成」をKPIとして設定している。エンゲージメントが高い状態=組織が好活性状態という考えのもと、全社員を対象にエンゲージメント調査を実施し、調査結果から「従業員満足度」を算出することで、その実効性を評価している(2024年度の従業員満足度84.5%、前年度比+3.6ポイント)。なお、2025年度からは従業員満足度のほかビジョンへの共感、協働意欲、成長意欲、評価・承認、報酬・評価の仕組み、成長機会の要素を加えた計7つの指標の平均を「エンゲージメント指標平均」とし、KPIに設定している(2024年度のエンゲージメント指標平均74.4%)。

 

 オ 賃上げ

 当社グループの業績や中長期的な成長への貢献に対して、適時適切に報い、各人のモチベーションの維持・向上に努めている。当社は2025年4月の賃金改定において、定期昇給にベースアップ(基本給は従業員平均で月当たり約18,000円の引き上げ)を加え、約5.5%の賃上げを実施すると共に、2025年4月入社以降の初任給も引き上げた。これらの賃上げは、インフレ経済が定着していく中、政府の「成長と分配の好循環」の達成に資するとともに、物価上昇を上回る賃上げを実施し、建設業の魅力を高めていくことが当社の社会的責務であるとの判断によるものである。

 

④人権

当社グループは、企業の社会的責任として多様な人材の活躍につながる人権の尊重を重要な課題の一つとして捉え、「人を大切にする企業の実現」を目指し、「ビジネスと人権に関する指導原則」など国際的な人権規範に則った「大林グループ人権方針」を策定の上、人権尊重の取り組みを進めている。

具体的には、執行側に設置したヒューマンライツ専門委員会及びサプライチェーンマネジメント専門委員会により、人権デュー・デリジェンスの取り組みとともに、サプライチェーンを含めた人権課題の解決及び人権啓発を推進している。

2019年度に主な事業である建設事業、不動産事業、新領域事業に分け、ステークホルダーごとにリスクを抽出、評価し、当社グループが優先的に取り組む人権課題(顕著な人権課題)を以下のとおり特定している。

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  (参考)

   ◇人権に関する取り組み年表

    https://www.obayashi.co.jp/sustainability/employee/humanrights.html

 

(3)リスク管理

当社グループは、企業活動に伴うリスクの的確な把握とその防止、または発生時の影響の最小化に努めることが、企業価値の向上とステークホルダーに対する社会的責任を果たすことにつながると考え、グループ全体を包括するリスク管理体制を構築している。環境・社会のサステナビリティについては、「サステナビリティ委員会」にて、企業のサステナビリティ課題(企業統治や経営戦略等)に関しては「取締役座談会」にて、それぞれリスク及び機会を抽出・評価のうえ、サステナビリティ課題の特定及びその対応方針の検討を行うとともに、執行における実施状況を評価し、その結果を取締役会に報告している。

各部門においては、業務プロセスに内在するリスクを把握し、必要な回避策・低減策を講じたうえで業務を遂行するとともに、機能別リスク管理委員会及びサステナビリティ分野専門委員会がリスク情報の報告を受け、指示・監督している。また、監査役会及び内部統制監査室が、各部門のリスク管理状況を監査している。

 

<リスク管理体制図>

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(4)指標及び目標

当社グループでは、ESG経営の推進にあたり「大林組基本理念」に基づき6つのESG重要課題を特定している。「Obayashi Sustainability Vision 2050」の目標達成に向けて、中期経営計画の事業施策にマテリアリティを組み込み、SDGsと関連付けて活動することで、中長期的な成長と持続可能な社会の実現を目指している。マテリアリティに紐付けて設定したアクションプラン・KPIに対して毎年度進捗状況を確認し、PDCAサイクルによる推進活動を行っている。

なお、取締役の報酬の一部である中長期業績連動株式報酬について、支給額算定の基礎となる業績指標としてESG指標(CO2排出削減量、死亡事故・重大災害発生件数、従業員満足度)を採用し、インセンティブとすることでESG経営の一層の推進を図っている。

詳細については、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (4)役員の報酬等」に記載している。

 

 

<マテリアリティ及びアクションプラン>

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<KPI>

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3【事業等のリスク】

 有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりである。
 なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものである。

 

(1) 事業に対する法的規制

 建設業法、建築基準法、宅地建物取引業法、独占禁止法、労働安全衛生法等の当社の事業に対する法的規制の改廃や新設、適用基準の変更等があった場合、これに伴う対応費用等が事業収支に反映され、業績に影響を及ぼす可能性がある。また、当社グループにおいて、これら法令等に対する違反が発生した場合には、刑事、行政等の処分を受け、営業活動の制約や信用の失墜等により、業績に影響を及ぼす可能性がある。

 当社グループは当該リスクへの対応策として、各事業部門や法務部等において、事業活動に影響を及ぼす法的規制の制定改廃動向を予め把握し、社内教育や研修等により周知し適正な事業活動の推進に繋げるとともに、これに伴う対応費用を見積原価や事業性判断のための収支予測に正しく反映することとしている。

 

(2) 建設市場の動向

 当社グループの主要事業である建設事業において、国内外の景気後退等により建設市場が著しく縮小した場合、工事受注量の減少等により当社グループの業績に影響を及ぼす可能性がある。

 当社グループは当該リスクへの対応策として、中長期的な市場動向を見越した要員計画の立案に加え、営業力、調達力の更なる強化、次世代生産システムの技術開発による生産性向上や施工能力の拡大に取り組んでいる。さらに、事業領域の拡大を通じた収益源の多様化に取り組むとともに、強固な財務体質の構築に取り組んでいる。

 

(3) 施工物等の不具合や重大事故

 当社グループの主要事業である建設事業において、設計、施工などの各面で重大な瑕疵があった場合や、人身、施工物などに関わる重大な事故が発生した場合、多額の補償等の費用が発生することなどにより当社グループの業績や企業評価に影響を及ぼす可能性がある。

 当社グループは当該リスクへの対応策として、品質マネジメントシステムの国際認証であるISO9001を取得・維持して厳格な品質マネジメント体制を構築している。また、安全管理の専任部門である安全本部を設置し、同本部において労働災害の撲滅に向けた全社的な安全管理体制を構築している。さらに、建設工事保険、賠償責任保険等の付保によるリスクヘッジも行っている。

 

(4) 取引先の信用リスク

 発注者、協力会社、共同施工会社及びその他取引先の信用不安などが顕在化した場合、資金の回収不能や事業遅延を惹起し、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性がある。

 当社グループは当該リスクへの対応策として、取引前・取引中の与信確認を徹底するとともに、主要事業である建設事業においては、出来高に応じた工事代金の受領・支払などの取引条件確保に取り組んでいる。

 

(5) 労務単価及び建設資材価格の変動と調達難に関するリスク

 当社グループの主要事業である建設事業において、労務単価の高騰や技能労働者の不足が生じた場合や、地政学的情勢、経済制裁措置によるサプライチェーンの混乱や分断、物価上昇や為替変動等による建設資材の急激な価格高騰や調達難が生じた場合、工事原価の上昇による利益率の低下や工期遅延による損害賠償のおそれなど、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性がある。

 当社グループは当該リスクへの対応策として、協力会社の施工余力の把握等に基づいて当社グループの将来の施工キャパシティを常に把握し、これに応じた受注水準の維持に努めているほか、国内工事に関して海外調達を行う場合は、必要に応じて為替予約取引を行い、リスクヘッジを図っている。また、地域ごとに協力会社の互助組織である「林友会」を組織するなど、安定的なサプライチェーンの構築に取り組むとともに、省人化に向けた自動化技術・機械の開発等を進めている。

 さらに、早期購買や将来予測を含めた正確な原価把握を徹底し、適切な見積原価を算出することとしており、加えて、複数のサプライヤーとの関係構築や代替品の探索等を検討するとともに、社内外の関係者との懸念事項の洗い出しや対応策の検討等のリスクコミュニケーションを強化し、リスクの分散や最小化に取り組んでいる。

 

 

(6) 保有資産等の価格変動

  当社グループが保有する販売用不動産、賃貸等不動産などの事業用不動産、投資有価証券等の時価が著しく低下した場合や、企業買収において事業環境の変化等により期待した成果が得られず、当該買収で発生したのれんの価値が著しく低下した場合、評価損や減損損失の計上等により当社グループの業績及び財務基盤に影響を及ぼす可能性がある。

  当社グループは当該リスクへの対応策として、中長期的な経営計画において財務基盤とのバランスを勘案した投資計画を立案するとともに、事業用不動産等の資産取得や企業買収等の個別投資においては決裁・審査基準を設けて投資委員会等による事前の審査を厳格に行うこととしている。投資後についても、投資先の運営・経営状況や時価を定期的に確認することとしている。

 

(7) 長期にわたる事業のリスク

 事業期間が長期にわたるPPP事業や再生可能エネルギー事業等において、その期間中に事業環境に著しい変化が生じた場合や業務遂行上重大な事故等が発生した場合、当該事業の収支悪化や対応費用の損失計上などにより、当社グループの業績や企業評価に影響を及ぼす可能性がある。

 当社グループは当該リスクへの対応策として、事前の取り組みにあたっては上記(6)と同様、財務基盤とのバランスを勘案した中長期の投資計画の立案及び個別投資の厳格審査を行うとともに、事業スキームに応じた事業パートナーや業務委託先との適切なリスク分担、保険付保等によるリスクヘッジを行っている。また、事業開始後においては、投資委員会や関連部門等による運営状況のモニタリングを随時行っており、収支状況によっては事業撤退を行い、損失の拡大を防止することとしている。

 

(8) 海外事業におけるリスク

 当社グループは主にアジア、米国等において事業展開を行っているが、それら進出国におけるテロ・紛争等による政情の不安定化、経済情勢の変動、為替レートの急激な変動、法制度の変更など事業環境に著しい変化が生じた場合、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性がある。

  当社グループは当該リスクへの対応策として、比較的政情の安定した国・地域で事業展開するとともに、アジア支店及び北米支店(それぞれシンガポール及び米国に設置)において、所管地域の適時的確な情勢の把握及びそれに応じた即時の対応に努めることとしている。また、為替リスクに関しては、原則として現地通貨で請負代金を受領し、現地通貨で下請負代金を支払うことで、売り上げと原価の通貨を一致させている。

 

(9) 機密情報漏洩

  外部からの攻撃や、従業員の不正等により個人情報、機密情報が漏洩した場合、社会的な信用の失墜、損害賠償の発生等により、当社グループの業績や企業評価に影響を及ぼす可能性がある。

  当社グループは当該リスクへの対応策として、「個人情報保護規程」や「情報セキュリティポリシー」を制定して、情報管理体制を確立している。セキュリティインシデントに対しては早期検知と迅速な対応を行い、被害を最小化するための専門チームを設置している。

  また、サイバー攻撃の多様化、巧妙化などに伴う新たなリスクに対応するため、定期的にリスク評価を行い、ゼロトラストの概念に基づくセキュリティ基盤の刷新などリスクの変化に応じた技術的な対策及び教育・啓発等の人的マネジメント対策を継続的に実施し、個人情報、機密情報を適正に管理している。

 

(10)大規模自然災害・感染症に関するリスク

  地震、津波、風水害等の大規模自然災害や感染力の強い感染症の流行が発生した場合、施工中の工事への被害や本社・本支店機能の麻痺等により、当社グループの事業活動や業績に影響を及ぼす可能性がある。

  当社グループは当該リスクへの対応策として、リスク種別ごとにBCP(事業継続計画)を策定し、教育・訓練を継続して実施するとともに、定期的にBCPの見直しを行い、有事の際の備えとしている。

  大規模自然災害BCPにおいては、発災時に速やかに従業員等の安否や施工中の現場の被害状況を確認するとともに、復旧要員や対応拠点、物資及び物流ルートの確保などを行い、現場の復旧だけでなく、顧客事業施設やインフラ・地域社会の復旧、復興支援に迅速に取り組める体制を構築している。

  感染症BCPにおいては、感染症の特性に応じて従業員等の安全の確保及び事業継続のために必要な対応施策を決定・実施することを基本方針とし、情報の収集や意思決定のために必要な組織体制等を予め定め、事業への影響を低減することとしている。

  なお、当社グループは大規模自然災害や感染症の流行等により一定期間、事業活動に重大な影響が生じた場合においても、企業継続に必要な財務基盤を確保している。

 

(11)気候変動に関するリスク

 脱炭素社会への移行に向けて、炭素税の導入等による脱炭素政策及び法規制強化がなされた場合、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性がある。また、物理的リスクとして、夏季の気温が上昇した場合や自然災害が激甚化した場合、当社グループの事業活動や業績に影響を及ぼす可能性がある。

 当社グループは当該リスクへの対応策として、2019年6月に改訂した「Obayashi Sustainability Vision 2050」において、2040~2050年の目標の一つとして「脱炭素」を掲げ、CO2排出量の削減など「環境に配慮した社会の形成」をESG重要課題に設定し、当社グループ及びサプライチェーン全体で環境負荷低減への取り組みを進めている。また、2020年7月にTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言への賛同を表明し、気候変動関連のリスク・機会を特定・評価しシナリオ分析を実施するとともに、分析結果に基づいた対応策を進めている。

 なお、大規模自然災害に関するリスク及びその対応策については上記(10)に記載のとおりである。

 

(12)サプライチェーンにおける人権問題に関するリスク

 当社グループ及び当社グループのサプライチェーンにおいて人権問題が発生した場合、社会的な信用の失墜等により、当社グループの企業評価や業績に影響を及ぼす可能性がある。

 当社グループは当該リスクへの対応策として、「大林グループ人権方針」を制定し、「ビジネスと人権に関する指導原則」など国際的な人権規範に基づき人権デュー・デリジェンスの取り組みを実施している。

 また、「大林グループCSR調達方針」及び「大林グループCSR調達ガイドライン」に基づき、サプライチェーン全体でCSR調達の実施を促進している。

 

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

当連結会計年度における当社グループ(当社、連結子会社及び持分法適用会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の概要並びに経営者の視点による分析・検討内容は次のとおりである。

 

(1)財政状態

 当連結会計年度末の資産合計は、前連結会計年度末比236億円(0.8%)増の3兆427億円となった。これは、政策保有株式の売却等により「投資有価証券」が減少した一方で、「現金預金」が増加したことや工事代金債権(「受取手形・完成工事未収入金等」及び「電子記録債権」の合計)が増加したことなどによるものである。

 当連結会計年度末の負債合計は、前連結会計年度末比87億円(0.5%)増の1兆8,325億円となった。これは、工事代金の支払に係る債務(「支払手形・工事未払金等」及び「電子記録債務」の合計)が減少した一方で、「短期借入金」などの有利子負債が増加したことなどによるものであり、有利子負債残高は前連結会計年度末比388億円(12.0%)増の3,627億円となった。

 当連結会計年度末の純資産合計は、前連結会計年度末比149億円(1.3%)増の1兆2,102億円となった。これは、「その他有価証券評価差額金」が減少した一方で、親会社株主に帰属する当期純利益の計上に伴い「利益剰余金」が増加したことなどによるものである。

 これらの結果、当連結会計年度末の自己資本比率は前連結会計年度末から変わらず、38.1%となった。

 

(2)経営成績

当連結会計年度におけるわが国経済は、個人消費の持ち直しや企業収益の改善を受け、緩やかな景気回復を続けた。先行きについては、雇用・所得環境の改善が緩やかな景気回復を支えることが期待されるが、米国の通商政策の影響による景気の下振れリスクが高まっている。加えて、原材料・エネルギー価格の高騰や金融・資本市場の変動等の影響にも引き続き注視が必要な状況にある。

国内の建設市場においては、米国の通商政策の影響や建設物価の高騰、為替の変動等が企業の設備投資意欲を減退させる可能性はあるものの、政府が推進する特定重要物資のサプライチェーンの強靭化政策等による民間工事の増加や堅調に推移している公共工事の発注を背景として、当面は底堅い受注環境が見込まれている。

こうした情勢下にあって、当連結会計年度における当社グループの連結業績については、売上高は国内建設事業における大型工事の進捗や海外土木事業におけるMWH社の連結子会社化等により、前連結会計年度比2,949億円(12.7%)増の2兆6,201億円となった。損益の面では、国内建設事業における採算性の良い案件への入れ替えや追加請負金の獲得等により、営業利益は前連結会計年度比640億円(80.7%)増の1,434億円、経常利益は前連結会計年度比618億円(67.6%)増の1,533億円となった。また、親会社株主に帰属する当期純利益は、政策保有株式の売却等により、前連結会計年度比709億円(94.6%)増の1,460億円となった。

 

セグメント情報

① 建設事業

 グループ全体の売上高は、国内建設事業における大型工事の進捗や海外土木事業におけるMWH社の連結子会社化等により、前連結会計年度比2,901億円(13.1%)増の2兆4,968億円となった。また、営業利益については、国内建設事業における採算性の良い案件への入れ替えや追加請負金の獲得等により、前連結会計年度比653億円(109.3%)増の1,250億円となった。内訳は以下のとおり。

(国内建築事業)   売上高は前連結会計年度比729億円(5.8%)増の1兆3,371億円、営業利益は前連結会計年度比385億円(159.4%)増の627億円となった。

(海外建築事業)   売上高は前連結会計年度比409億円(8.9%)増の4,987億円、営業利益は前連結会計年度比5億円(3.9%)増の134億円となった。

(国内土木事業)   売上高は前連結会計年度比328億円(8.9%)増の4,022億円、営業利益は前連結会計年度比141億円(53.8%)増の405億円となった。

(海外土木事業)   売上高は前連結会計年度比1,432億円(124.2%)増の2,586億円、営業利益は82億円(前連結会計年度は37億円の損失)となった。

 

② 不動産事業

 売上高は前連結会計年度比60億円(9.0%)増の729億円、営業利益は前連結会計年度比21億円(11.7%)減の161億円となった。

 

③ その他

 売上高は前連結会計年度比12億円(2.4%)減の502億円、営業利益は前連結会計年度比8億円(64.7%)増の22億円となった。

(3)キャッシュ・フローの状況

 営業活動によるキャッシュ・フローは、主に国内の建設事業収支が堅調に推移したことなどから856億円のプラス(前連結会計年度は503億円のプラス)となった。投資活動によるキャッシュ・フローは、事業用不動産の取得等による支出があったものの、政策保有株式の売却等により95億円のプラス(前連結会計年度は844億円のマイナス)となった。また、財務活動によるキャッシュ・フローは、借入金や社債が増加したものの、自己株式の取得や配当金の支払等により505億円のマイナス(前連結会計年度は519億円のマイナス)となった。

 これらの結果、現金及び現金同等物の当連結会計年度末残高は、前連結会計年度末に比べて534億円増加し、3,801億円となった。

 

(4)資本の財源及び資金の流動性に係る情報

 当社グループの運転資金需要のうち主なものは、建設事業に係る工事費、販売費及び一般管理費等の営業費用である。投資を目的とした資金需要のうち主なものは、建設事業に係る研究開発費用や工事機械の取得費用、不動産賃貸事業やグリーンエネルギー事業に係る施設購入費用等によるものである。

 当社グループは、事業運営上必要な資金を安定的に確保することを基本方針としている。

 短期運転資金は、自己資金、金融機関からの短期借入金やコマーシャル・ペーパーの発行により確保することを基本としており、長期運転資金や設備投資資金の調達については、自己資金、金融機関からの長期借入金及びノンリコース借入金や、社債の発行等により確保することを基本としている。

 なお、当連結会計年度末における有利子負債の残高は3,627億円となっている。また、当連結会計年度末における現金及び現金同等物の残高は3,801億円となっている。

 

(5)経営方針・経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等

 経営方針・経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等の達成・進捗状況については、「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載のとおりである。

 

(6)重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

 当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されている。この連結財務諸表の作成にあたっては、経営者により、一定の会計基準の範囲内で見積りが行われている部分があり、資産・負債や収益・費用の数値に反映されている。これらの見積りについては、継続して評価し、必要に応じて見直しを行っているが、見積りには不確実性が伴うため、実際の結果は、これらとは異なることがある。

 詳細については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等(1)連結財務諸表 注記事項(連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項)」及び「同 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載している。

 

(7)生産、受注及び販売の状況

  ① 受注実績

セグメントの名称

前連結会計年度

(自 2023年4月1日

至 2024年3月31日)

(百万円)

当連結会計年度

(自 2024年4月1日

至 2025年3月31日)

(百万円)

前連結会計年度比

(%)

国内建築事業

1,236,921

1,554,527

25.7

海外建築事業

520,387

496,853

△4.5

国内土木事業

423,190

533,428

26.0

海外土木事業

174,568

617,417

253.7

建設事業 計

2,355,067

3,202,228

36.0

不動産事業

73,707

84,682

14.9

その他

84,313

70,303

△16.6

合 計

2,513,088

3,357,214

33.6

(注)セグメント間取引については相殺消去している。

 

  ② 売上実績

セグメントの名称

前連結会計年度

(自 2023年4月1日

至 2024年3月31日)

(百万円)

当連結会計年度

(自 2024年4月1日

至 2025年3月31日)

(百万円)

前連結会計年度比

(%)

国内建築事業

1,264,181

1,337,171

5.8

海外建築事業

457,818

498,777

8.9

国内土木事業

369,367

402,252

8.9

海外土木事業

115,396

258,678

124.2

建設事業 計

2,206,764

2,496,880

13.1

不動産事業

66,888

72,932

9.0

その他

51,509

50,289

△2.4

合 計

2,325,162

2,620,101

12.7

(注)1 セグメント間取引については相殺消去している。

2 前連結会計年度及び当連結会計年度ともに総売上高に占める売上高の割合が100分の10以上の相手先はない。

 

なお、当社グループでは生産実績を定義することが困難であるため「生産の状況」は記載していない。

 なお、参考のため提出会社個別の事業の状況は次のとおりである。

受注高(契約高)及び売上高の状況

① 受注高、売上高及び繰越高

期 別

種類別

前期繰越高

(百万円)

当期受注高

(百万円)

(百万円)

当期売上高

(百万円)

次期繰越高

(百万円)

第120期

(自 2023年
   4月1日
 至 2024年
    3月31日)

建設事業

建 築

1,748,392

1,198,572

2,946,964

1,240,232

1,706,732

土 木

627,856

376,621

1,004,477

315,612

688,865

2,376,248

1,575,194

3,951,442

1,555,844

2,395,597

不動産事業等

26,358

26,358

26,354

4

合 計

2,376,248

1,601,552

3,977,801

1,582,199

2,395,601

第121期

(自 2024年
   4月1日
 至 2025年
    3月31日)

建設事業

建 築

1,706,732

1,516,284

3,223,016

1,297,716

1,925,300

土 木

688,865

503,811

1,192,677

338,632

854,044

2,395,597

2,020,096

4,415,693

1,636,348

2,779,344

不動産事業等

4

24,309

24,313

24,313

合 計

2,395,601

2,044,406

4,440,007

1,660,662

2,779,344

 (注) 前期以前に受注したもので、契約の変更により契約金額に増減のあるものについては、当期受注高にその増減額を含む。また、前期以前に外貨建で受注したもので、当期中の為替相場の変動により契約金額に変更のあるものについても同様に処理している。

 

② 受注工事高

期 別

区 分

国 内

海 外

官公庁

(百万円)

民  間

(百万円)

(A)

(百万円)

(A)/(B)

(%)

(B)

(百万円)

第120期

(自 2023年4月1日

  至 2024年3月31日)

建 築

72,891

1,121,934

3,746

0.3

1,198,572

土 木

213,329

114,748

48,542

12.9

376,621

286,221

1,236,683

52,289

3.3

1,575,194

第121期

(自 2024年4月1日

  至 2025年3月31日)

建 築

91,098

1,419,714

5,471

0.4

1,516,284

土 木

270,528

186,296

46,986

9.3

503,811

361,627

1,606,010

52,457

2.6

2,020,096

 

(注)工事の受注方法は特命と競争に大別され、受注金額の割合は次のとおりである。

期 別

区 分

特命(%)

競争(%)

計(%)

第120期

(自 2023年4月1日

 至 2024年3月31日)

建 築

45.7

54.3

100

土 木

26.7

73.3

100

41.2

58.8

100

第121期

(自 2024年4月1日

 至 2025年3月31日)

建 築

60.6

39.4

100

土 木

28.3

71.7

100

52.6

47.4

100

 

③ 売上高

   (イ)完成工事高

期 別

区 分

国 内

海 外

官公庁

(百万円)

民  間

(百万円)

(A)

(百万円)

(A)/(B)

(%)

(B)

(百万円)

第120期

(自 2023年4月1日

  至 2024年3月31日)

建 築

73,169

1,161,063

6,000

0.5

1,240,232

土 木

155,748

130,843

29,020

9.2

315,612

228,917

1,291,906

35,021

2.3

1,555,844

第121期

(自 2024年4月1日

  至 2025年3月31日)

建 築

73,304

1,217,612

6,798

0.5

1,297,716

土 木

192,208

116,991

29,433

8.7

338,632

265,512

1,334,604

36,231

2.2

1,636,348

 

 (注)1 海外工事の地域別割合は、次のとおりである。

地 域

第120期(%)

第121期(%)

アジア

57.6

51.9

北 米

36.0

37.4

その他

6.4

10.7

100

100

 

2 第120期に完成した工事のうち主なもの

発注者

工事名称

(仮称)みなとみらい21中央地区53街区開発事業者共同企業体

横浜シンフォステージ新築工事

九州旅客鉄道㈱

JR長崎駅ビル新築工事

日本郵政不動産㈱

五反田JPビルディング新築工事

学校法人 東洋大学

東洋大学朝霞キャンパス整備工事

合同会社道北風力

川西ウインドファーム建設工事

 

第121期に完成した工事のうち主なもの

発注者

工事名称

東日本旅客鉄道㈱

TAKANAWA GATEWAY CITY THE LINKPILLAR 1 NORTH/SOUTH

三菱地所㈱

大阪ガス都市開発㈱

オリックス不動産㈱

関電不動産開発㈱

積水ハウス㈱

㈱竹中工務店

阪急電鉄㈱

うめきた開発特定目的会社

グラングリーン大阪 新築工事

トヨタ自動車㈱

Toyota Woven City Phase1 建築本体工事

公益社団法人 2025年日本国際博覧会協会

2025年日本国際博覧会協会 施設整備事業 PW北東工区

鉄道省バングラデシュ国鉄

ジャムナ 鉄道橋建設工事 東工区 パッケージ WD1(バングラデシュ)

3 総完成工事高に対する割合が100分の10以上の相手先別の完成工事高及びその割合は、次のとおりである。

  第120期

    該当する相手先はない。

  第121期

   東日本旅客鉄道㈱  212,168百万円 13.0%

 

   (ロ)不動産事業等売上高

期 別

区 分

売上高(百万円)

第120期

(自 2023年4月1日

  至 2024年3月31日)

不動産販売

3,911

不動産賃貸

8,676

そ の 他

13,767

26,354

第121期

(自 2024年4月1日

  至 2025年3月31日)

不動産販売

604

不動産賃貸

9,296

そ の 他

14,412

24,313

 

④ 繰越工事高(2025年3月31日現在)

区 分

国 内

海 外

官公庁

(百万円)

民 間

(百万円)

(A)

(百万円)

(A)/(B)

(%)

(B)

(百万円)

建 築

138,840

1,771,992

14,467

0.8

1,925,300

土 木

476,109

263,292

114,642

13.4

854,044

614,949

2,035,284

129,110

4.6

2,779,344

 

 (注)繰越工事のうち主なもの

発注者

工事名称

雲井通5丁目再開発㈱

神戸三宮雲井通5丁目地区第一種市街地再開発事業に係る地下解体及び施設建築物新築工事

東日本旅客鉄道㈱

TAKANAWA GATEWAY CITY THE LINKPILLAR 2

 三菱地所㈱

 ㈱TBSホールディングス

赤坂二・六丁目地区開発計画(B工区)既存建物地下解体工事及び新築工事他

三菱地所㈱

(仮称)天神1-7計画 既存建物地下解体工事及び新築工事

東日本高速道路㈱

横浜環状南線 公田インターチェンジ工事

 

5【重要な契約等】

 当連結会計年度において、重要な契約等はない。

6【研究開発活動】

 当社グループは、社会及び顧客の多様なニーズに応えるため、環境保全、エネルギー対策等の社会に貢献する技術や、生産性向上、品質確保、コストダウン等に資する工法や技術のほか、事業領域の拡大を図るための技術開発など多岐にわたる分野の研究開発活動を実施している。

 また、研究開発活動の幅を広げ、効率化を図るため、国内外の大学、公的研究機関、異業種企業との技術交流、共同開発も積極的に推進している。

 当社グループの当連結会計年度における研究開発に要した費用の総額は163億円であり、主な研究開発成果は次のとおりである。

 なお、当社は研究開発活動を国内建築、海外建築、国内土木、海外土木、不動産及びその他の各セグメントには区分していない。

 

(1) 当社

① 施工計画から品質管理までを自動化する「統合施工管理システム」の実証施工に成功

新丸山ダム建設工事の盛土工事において、当社が開発した「統合施工管理システム」により、複数建機の自動・自律運転による盛土施工と計測ロボットを使った品質管理を行う実証施工に成功し、生産性の向上を確認した。

統合施工管理システムは、施工計画を自動作成する建設マネジメントシステム(CMS:Construction Management System)、盛土の品質管理を自動化するAtlasX®(アトラスエックス)、建機フリートマネジメントシステム(※)、品質管理のデータ共有を行う現場ダッシュボードから構成される。

本実証施工での1日当たりの盛土施工量は、土木工事積算基準の同種の建機を使用した場合の標準施工量260㎥を上回る285㎥を達成し、盛り土量50万㎥の施工では、施工管理者の施工計画業務を約88%削減可能な試算結果となった。

 

※ 建機フリートマネジメントシステム:作業内容を入力・指示することで、複数台の建設機械が連動して協調運転するよう制御するシステム。

 

② 木材を利用した鋼管柱の耐火被覆工法「O・Mega Wood X(オメガウッドエクス)コラム®」を開発し、90分耐火の大臣認定を取得

木材を利用した鋼管柱の耐火被覆工法「O・Mega Wood Xコラム」を開発し、90分耐火構造の国土交通大臣認定を取得した。

鉄骨造の耐火建築物において柱・梁を木質化する場合、従来は鉄骨にロックウール吹付などの耐火被覆を施していたが、耐火被覆材を木材に置き換えていくことが可能となれば、2050年のカーボンニュートラルに向け、木材利用のさらなる促進が期待できる。

本工法では、中高層建築で使用頻度の高い角形鋼管にヒノキやスギのCLT・集成材を被覆し、その内側に強化石こうボードによる耐火層を設けることで、木材使用量を増やしながら耐火性を確保している。耐火被覆ユニットは工場で製作し現場で簡単に取り付けられるため施工時間を短縮でき、解体も容易であるため木材のリユースやリサイクルも可能である。また、従来のロックウール吹付工法と同等のコストで、約5倍のCO2固定化効果を期待できる。今回、90分耐火の大臣認定を取得したことにより、建物の最上階から9層分の範囲で同工法を鋼管柱に適用することが可能となった。

 

③ 高精度な計測が可能なAI配筋自動検査システムを開発

鉄筋コンクリート工事における配筋検査を省力化する配筋自動検査システムを開発した。

配筋検査は、適切に鉄筋が施工されているかを設計図面と照合し、品質に問題がないか確認する重要な検査であるが、事前準備から検査後の報告書作成まで多大な時間を要することに加え、施工管理者の知識と経験が必要となる。検査不具合やミスがあった場合にその後の工事に大きく影響を及ぼすことから、高い精度を保ったうえで自動化及び省力化が求められていた。

本システムは、配筋を動画撮影するステレオカメラ(※)を搭載した検査パッケージ、計算用サーバー、タブレット端末で構成されている。ステレオカメラで配筋を動画撮影し、切り出した画像データと計算用サーバーで生成した点群データを基に、鉄筋径・間隔(ピッチ)をAIによって自動計測する。計測結果は、タブレット端末に表示されるWebアプリ上でBIMに入力された設計情報と照合し、最終的に施工管理者が設計通りの配筋がされているかの合否判定を行う。また、BIMデータを使用するため、検査前データ作成を簡略化でき、検査結果は帳票として自動作成されるため検査報告書が容易に作成できる。

本システムによって熟練度によらない効率的な検査が可能となり、配筋検査業務にかかる延べ作業時間は現在使用している専用検査システムより、約36%の縮減を実現した。

 

※ ステレオカメラ:二つのレンズで立体写真を撮影し、奥行き情報を記録。動画撮影で視点を動かし、隠れた物体を検知可能。

 

④ 国内初、建物解体後の鉄骨およびコンクリート製の構造部材を新築建物へリユース

建物解体後、通常、溶解や破砕され新たな建材としてリサイクルされる鉄骨やコンクリート製の構造部材を、新築建物の構造体にリユースする国内初の取組みを自社技術研究所(東京都清瀬市)内の実験棟オープンラボ3新築工事で行っている 。

建物の構造体をリユースする取組みは、これまでコンバージョンやリノベーション、耐震改修などでは実績があり、CO2排出量の削減効果が検証されているが、それらの手法は柱・梁の位置や形状を大きく変えないことが前提となるため、設計上の制約があることが課題となっていた。

本工事では、解体する実験棟の柱・梁・ブレースなど全種別の鉄骨部材及び基礎・基礎梁・小梁・床など全種別のコンクリート製構造部材を、新築建物に合わせて切断や加工を行ったうえで新実験棟の構造体としてリユースした。

解体後の鉄骨やコンクリートの部材を、新築建物の構造体としてリユースするのは日本国内では例を見ない取組みである。本手法により、リユースする場所を限定せずスパンも変更可能なため、より自由度が高い、構造部材の有効活用が実現した。

また、本工事では、新築建物の構造部材のうち鉄骨57%、コンクリート33%で、解体建物のリユース材を使用することにより、新たに全ての資材を調達する場合に比べ、約49%(65.8t-CO2)のCO2排出量削減を見込んでいる。

 

⑤ 植林用苗木の安定供給を可能とする人工光と自然光のハイブリッド型の苗木生産システムを開発

植林用苗木の安定供給を可能とする人工光と自然光を組み合わせた「ハイブリッド型苗木生産システム」を開発した。

当社は、木造木質化建築をはじめとした木材の利用推進と、森林資源の持続的な循環利用に取り組んでいるが、川上にあたる「植林・育林」では、従来の自然光による育成(露地栽培)は苗木の出荷までに最長2年程度を要し、季節や天候などが成長速度に影響を与えることから、安定供給が難しいことが課題となっていた。

本システムは、季節や出荷時期に応じて、育成に必要な光、温度・湿度、培地への潅水などの育成環境を制御できる人工光による育成期間と、自然光による育成期間を最適に組み合わせ運用するものであり、いずれかのみで育成した場合よりコストの抑制や出荷までの期間の短縮が可能となる。

2024年6月から鳥取県日野郡日南町にパイロットプラントを設置、主に周辺地域の林業事業者向けにカラマツの苗木生産を開始しており、本パイロットプラントでは年間約1万本の苗木の供給を予定している。この苗木1万本を植林し適切に育林した場合、50年後には約1,000㎥の木材供給と、約1,120tのCO2吸収・蓄積効果が見込まれる。

 

⑥ 建物計画の初期段階でCO2排出量削減効果とコストを比較検証できる「カーボンデザイナー E-CO BUILDER®」を開発

省エネ技術によるCO2排出量削減効果とコストを比較検証できるシステム「カーボンデザイナー E-CO BUILDER」を開発した。

2050年のカーボンニュートラル達成に向け、建築物の建設時と運用時のCO2削減が求められる中、早期段階に投資効果を検討したいという顧客のニーズが年々高まっている。しかし、カーボンニュートラルに向けた投資とその効果は、現状では建築物の詳細な仕様が決まらないと把握できないため、計画初期段階の意思決定が困難であるという課題がある。

本システムでは、建築物の幅・奥行き・階数を指定し、建築・設備仕様を設定することで、基準ビルに対しての省エネ効果やCO2排出量の削減効果、コストの変動が算出される。建築・設備仕様は詳細に設定可能であり、各種の仕様の設定を変更すると、瞬時にそのシミュレーション結果が算出され、さまざまなパターンでの検討が可能になることで、顧客の事業計画に基づいた迅速な方針決定を支援することができる。

 

⑦ 火薬装填作業を遠隔化・自動化する「自動火薬装填システム」を開発しトンネル切羽発破に成功

遠隔で力触覚を再現する技術(リアルハプティクス(※))を応用し、山岳トンネルの掘削面(切羽)での火薬装填作業を遠隔化・自動化する「自動火薬装填システム」を、慶應義塾大学と共同で開発し、トンネル切羽発破に成功した。

山岳トンネル工事における切羽直下での火薬の装填・結線作業においては、火薬や雷管などの危険性が高い材料や細かい脚線を取り扱うことから、手作業での繊細な力加減や手指の感覚が必要とされており、作業の安全性確保と生産性向上の両立が課題となっていた。

本システムは、リアルハプティクスにより力触覚が伝わることで、切羽から離れた安全な場所から、あたかも切羽で直接手作業を行っているかのように直感的な火薬の装填作業が行える。今回の実証実験は、本システムを長野県下伊那郡にあるトンネル工事現場(国土交通省中部地方整備局令和4年度三遠南信6号トンネル工事)に適用し、大型重機に搭載した装填ロボットを、切羽から30m地点と、切羽から320m離れたトンネル外で操作して、火薬の装填、発破を行った。

 

※ リアルハプティクス:現物との接触情報を双方向で伝送し、力触覚を再現する技術。

 

⑧ 擁壁工事に3Dプリンターを活用したプレキャスト部材を適用

新丸山ダム建設工事において、仮設の工事用管理施設の擁壁に規格品と建設用3Dプリンターで製作したプレキャスト部材を適用する擁壁工事のフルプレキャスト化を、日本ヒューム㈱と共同で実現した。

プレキャスト工法は、規格化された製品を多く適用する場合、量産化によるコスト削減もあり有効である一方、特殊な形状の場合、専用の型枠製作に時間とコストがかかることから効果的でない。そのため、特殊形状の部分には建設現場内で型枠を製作しコンクリートを打設することが多く、生産性に課題があった。

今回、当社がこれまで蓄積してきた建設用3Dプリンター技術を活用して特殊形状のプレキャスト部材の製造を行うことで、従来の専用の鋼製型枠を製作する方法と比べ約30%の作業工程の短縮と約5%のコスト削減を実現するとともに、建設現場内で型枠を製作しコンクリートを打設した場合と比べて、現場施工に係る日数を約20日から1.5日として約90%の工期短縮を実現した。

 

⑨ 特定のメーカーや機種に依存せず、後付けで簡易に導入可能なホイールローダ用の自動運転装置を開発

特定のメーカーや機種を選ばず後付けが可能で、作業員の熟練度に関係なく簡単に動作設定が可能、かつ、帳票機能により積み込みや投入数量なども管理できるホイールローダ用の自動運転装置を開発した。

ショベルカーやダンプトラックなどの建設機械は、建設業のみならず農業、採石業、製造業などでも使用されており、各産業において労働者不足や長時間労働をはじめとする労働環境の改善などの課題を抱えている。

本自動運転装置は自動運転システム、3D-LiDAR(※)や傾斜計などの各種センサー、自動運転制御盤、レバー制御装置で構成されており、すくい込み、運搬、積み込み、投入など自動運転に必要な作業設定は、遠隔で安全な場所から行うことができる。

ホイールローダは各作業場所の位置を認識し、運搬物の形状から効率よくすくい込みができる位置を、各種センサーで、機体の挙動・位置を把握しながら自動的に判断し、作業位置まで走行する。その後は事前に設定した経路で運搬し、積み込みや投入作業を行う。

すくい込み位置と積み込みや投入位置が固定された環境であれば昼夜に関係なく運用が可能であり、採石業やその他施設などでの活用も期待できる。

当社のグループ会社である大林神栖バイオマス発電所で実証試験を行い、本発電所の1日の安定稼働に必要な135トンの燃料を約2時間半で集積場所から燃料投入口まで運搬・投入することに成功した。

 

※ 3D-LiDAR:レーザー光を使って対象物までの距離を正確に測定し、遠方や周囲の状況をリアルタイムで立体的な点群データとして認識するセンサー。

 

(2) 大林道路㈱

アスファルトプラント運営業務の効率化を可能とするスマートマニュファクチャリングツールを開発し運用を開始

アスファルトプラント運営業務の効率化を目的とし、業務のデジタル化(DX)や製造設備の自動化に特化したスマートマニュファクチャリングツールを、田中鉄工㈱と開発した。

本ツールは受注管理や配車管理、出荷管理などの各システムを連携させる仕組みであり、大林道路九州支店大分センターアスコンに先行導入した。本ツールの導入によって工場内の各システムの一元管理が可能となり、作業効率の向上や無人化に繋がった。本アスコン内で導入されている世界初の再生骨材貯蔵サイロにおいては、本ツールによってプラント本体への供給ルートも自動化・設備化されたことから、ホイールローダの稼働の必要性がなくなり、燃料費のコストダウンやCO2排出量の削減も実現した。