「第2 事業の状況」における各事項の記載金額には、消費税等は含まれていない。
文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものである。
(1) 経営方針
熊谷組グループビジョンのもと、持続的成長と企業価値向上を目指しており、現在は2017年11月に定めた中長期経営方針に基づき、2018年3月に策定した中期経営計画を着実に実行している。
■熊谷組グループビジョン〈熊谷組グループが目指す企業像〉
「高める、つくる、そして、支える。」
独自の現場力(優れた技術力を豊かな人間力で活かす現場力)を高め、独自の価値であるしあわせ品質(建造物の外形的・機能的な品質に加え、そこに集う人、そこを使う人が満足し続けられる品質)をつくり、時代を超えてお客様と社会を支え続ける。
■中長期経営方針〈5~10年先を見据えた経営の方針〉
良質な建設サービスを市場に提供し続けるために、建設業に内在する構造的課題を克服し、建設市場の質的・量的変化に柔軟に対応できる企業体質へとさらに変化していく。そして長期的な成長を実現し、かつ持続可能な社会の形成に貢献していくために、ESGの視点を取り入れた経営を強化していく。
■中期経営計画〈今後3年間の戦略と数値目標〉
中長期経営方針に基づき、①建設工事請負事業の維持・拡大、②新たな事業の創出、③他社との戦略的連携を戦略の柱とし、数値目標や投資計画、ESG課題への取組み、住友林業株式会社との協業取組みを定めた計画を実行する。
(2) 経営環境、優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
現下の建設市場は、激甚化する自然災害に備えた防災・減災対策事業や高度経済成長期に整備された社会インフラの老朽化対策事業の拡大に加え、全国における新幹線整備やIR構想及び大阪万博開催に伴う関連投資など、中期的には一定の需要が見込まれる環境にある。
一方、建設業界の構造的課題として、建設技術者・技能労働者の減少と高齢化が進んでおり、将来的に人口減少による国内建設需要の縮小や財政制約などにより公共投資が抑制されることから建設市場は新設が減少し、維持更新やPPP(Public Private Partnership)/PFI(Private Finance Initiative)/コンセッションが増加するなど質的・量的に変化していくことが予想される。さらに経済のグローバル化の進展と同時に、地球温暖化、資源の枯渇など様々な課題も地球規模で認識されるようになり、企業活動の土台となる地球そのものの有限性が意識される時代において、企業価値の長期的・持続的な向上が求められている。
なお、当社連結子会社の株式会社ガイアートは、全国におけるアスファルト合材の販売価格に関する独占禁止法違反の疑いで、2017年2月に公正取引委員会の立入検査を受け、以降、同委員会による調査に全面的に協力してきたが、2019年7月に同委員会より、独占禁止法に基づく排除措置命令及び課徴金納付命令を受けた。このような事態に至ったことは誠に遺憾であり、株主の皆様、お取引先をはじめ関係各位に多大なご迷惑とご心配をおかけしたことを深くお詫び申し上げる。
当該命令を受け、同社では、独占禁止法の遵守についての行動指針の改定及び社内周知の徹底や独占禁止法遵守のための監査体制の強化などの再発防止策を策定・実行しているが、当社グループとしてもこの度の事態を厳粛かつ真摯に受け止め、当社グループ役職員一同、今後とも法令遵守をあらためて徹底し、皆様からの早期の信頼回復に努めていく所存である。
(3) 経営戦略
建設市場の質的・量的変化に柔軟に対応し、良質な建設サービスを提供し続け、ESGの視点を取り入れた経営を強化して長期的な成長を実現し、かつ持続可能な社会の形成に貢献するため、当社グループは2017年11月に、5年後の連結売上高5,000億円・連結営業利益500億円を目指した中長期経営方針を定めるとともに、本方針に基づき、2018年3月に『熊谷組グループ 中期経営計画(2018~2020年度)~成長への挑戦~』を策定した。
戦略①:建設工事請負事業の維持・拡大
提案力を強化して受注を拡大し、技術開発を推進して生産性を高め、中核事業である建設工事請負事業で収益力を維持・向上する。
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提案力強化・受注拡大の取組み (注力する分野など) |
生産性向上の取組み (コスト低減・省人化など)
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国内土木事業 |
■ 老朽化した高速道路などのインフラ大更新分野 ■ 風力・バイオマス・水力・地熱などの再生可能エネルギー分野 ■ 激甚化する自然災害に備えた防災・減災対策分野 ■ 森林保全に役立つ土木工事活用分野
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■ ICT・AIの活用 ■ 現場力・技術力の強化 |
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国内建築事業 |
■ インバウンド需要の拡大を取り込んだ宿泊施設分野 ■ 高齢化社会に対応する医療・福祉施設分野 ■ 生産効率が高い生産・商業・流通施設分野 ■ 中大規模木造建築分野 ■ 集合住宅一棟まるごとリノベーション分野
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■ BIM・ITの活用 ■ プレキャスト化の推進 ■ 現場力・技術力の強化 |
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海外事業 |
■ 既存海外拠点(台湾・ミャンマー・インド等)における営業ネットワークの強化 ■ グローバル人財の確保とプロジェクトマネージャーの増強 ■ 現地企業とのパートナー関係を構築し、安定した生産体制を確保 ■ インフラ整備分野、リノベーション分野 |
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技術開発 |
■ 社会的ニーズに対応する技術開発(災害対応技術、老朽構造物更新・劣化予測技術、軽量・高強度新材料 等) ■ 循環型社会に対応する技術開発(再生可能エネルギー技術、中大規模木造建築技術、ZEB技術 等) ■ 生産性・安全性の向上に資する技術開発(ロボット技術、コスト低減技術、工期短縮技術 等) |
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人財開発 |
■ 施工体制増強のための人員確保、海外事業や不動産事業などの新事業分野に精通する人員確保 ■ ダイバーシティを推進し、多様な人財が能力を最大限に発揮できる職場環境と人事制度の整備 ■ 人財育成体系の整備による社員のスキルアップ(OJTの強化・集合研修の充実・自己啓発の支援) |
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戦略②:新たな事業の創出
グループが保有する技術・経験・ノウハウを活用するとともに、効果的な出資・投資を行い、建設工事請負事業以外の新たな収益源を創出する。
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国内 |
海外 |
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事業主体(注)としての取組み |
■ 再生可能エネルギー事業 ■ PPP/PFI/コンセッション事業 ■ 都市再生・再開発事業 ■ 本社ビル建替起点の周辺一体開発事業 ■ 森林資源活用事業
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■ 高級集合住宅開発事業 ■ 高級高齢者施設事業 ■ 再生可能エネルギー事業 ■ MOM事業 |
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技術開発商品の販売 |
■ インフラ大更新市場での橋梁部材販売事業 ■ 交通事故防止に資する道路用舗装材(FFP)販売事業 ■ 無人化施工技術を応用した特許商品化事業 ■ 鉄骨建方治具(エースアップ)リース事業 ■ 在宅自立歩行支援器(フローラ・テンダー)販売事業
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■ 鉄骨建方治具(エースアップ)リース事業 ■ 上記のほか、国内技術開発商品の海外展開 |
(注) 施設保有/管理や不動産開発等、出資を伴う事業参画(施工含む)。
戦略③:他社との戦略的連携
グループ連携による成長に加え、グループの枠を超えた協業を推進し、シナジー創出によるさらなる成長を目指す。協業先として住友林業株式会社、再生可能エネルギー事業者、設計会社、専門工事会社、海外事業パートナー等を想定している。
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事業分野 |
必要とする経営資源 |
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建設工事請負事業 |
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■ インフラ大更新事業 |
■ 橋梁設計技術 ■ PC製造技術 ■ 補修・補強技術
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新たな事業 |
国内 |
■ 再生可能エネルギー事業 ■ 中大規模木造建築事業 ■ 本社ビル建替起点の周辺一体開発事業 ■ 森林資源活用事業
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■ 企画・開発・運営ノウハウ ■ 耐火技術、木造設計・施工技術 ■ 木化・緑化技術 ■ 森林資源活用モデル構築ノウハウ
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海外 |
■ 海外建設事業 ■ 高級集合住宅開発事業 ■ 高級高齢者施設事業 ■ 再生可能エネルギー事業
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■ 海外事業(CM・施工)ノウハウ ■ 企画・開発・運営ノウハウ |
本計画期間中(2018~2020年度)に目指す4つの指標
・連結売上高 4,600億円
・連結営業利益 330億円 ※投資利益・受取配当金を含む
・ROE 12%
・配当性向 30%
(4) ESG課題への取組み
熊谷組グループビジョンのもと、事業活動を通じて社会課題解決に貢献し、持続的成長による企業価値向上を目指していくため、2019年4月に「ESG取組方針」を策定し、CO2排出抑制、再生可能エネルギー事業、都市再生事業、人財育成、ステークホルダーとの関係強化などに全社を挙げて取り組んでいる。
「ESG取組方針」
■当社は、環境(Environment)・社会(Social)・企業統治(Governance)の視点から解決すべき重要課題(マテリアリティ)を特定し、持続可能な事業活動を追求していく。
■当社は、グループが保有する技術・経験・ノウハウを活用して新たな価値を創造し、SDGsに代表される社会課題の解決に貢献する事業活動を展開していく。
■当社は、事業活動を通じてステークホルダーとのコミュニケーションによる信頼関係の構築に努め、企業価値の向上を目指していく。
ESG課題
(5) 新型コロナウイルス感染症の影響について
① 経営環境について
新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大により海外経済が急速に収縮するなか、政府から発令された新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言を受けて、個人消費は外出自粛や移動制限により停滞し、企業収益もインバウンド需要の消失や経済活動の抑制により大幅な悪化が避けられない状況となった。2020年5月25日をもって緊急事態宣言が全都道府県で解除されたものの、景気の見通しは極めて不透明な状況にある。
建設業界においては、民間企業による建設投資は経営環境の悪化により減少が予想されるが、公共投資は、気候変動による災害リスクの増大やインフラ老朽化対策などへの集中投資の必要性から2020年度当初予算に前年度とほぼ同水準の公共事業関係費が織り込まれており一定の水準は維持されると思われる。また、新型コロナウイルス感染症拡大の緊急経済対策として補正予算に計上されている国内投資促進事業費補助金2,200億円については、民間設備投資を一定程度下支えすると考えられる。
このような状況下において、新型コロナウイルス感染症拡大が当社グループに与える影響について「マイナス影響」と「プラス影響」に大別して認識している。
マイナス影響
・景気後退に伴う民間企業の設備投資の減少
・インバウンド需要縮小に伴う宿泊施設等の新設減少
・官庁工事における公告・入札の延期
・追加設計変更交渉等の難航
・海外工事減少に伴う国内競争の激化
・工事中断に伴う工程遅延
・部材の納入遅れによる工程遅延
・発注者、施工協力業者の倒産リスクの増加
・感染症対策に伴うコストの増加 等
プラス影響
・景気下支え策としての公共工事の増加
・デフレーションによる工事コストの低下
・医療、倉庫・流通施設の増設、移転
・海外における生産拠点の日本回帰や再編に伴う工場等の増設、移転
・生活・社会インフラの整備
・テレワーク増加に伴う通信インフラの整備
・行動様式の変容に合わせたリニューアル工事の増加
・集約型から分散型オフィスへのシフト
・M&Aの進展
・再開発事業に係る不動産購入コストの低下 等
受注環境・価格競争が厳しさを増していくと予想されるなか、新型コロナウイルス感染症の業績への影響について、2008年のリーマンショック時と同程度に民間工事の受注高が落ち込むことを想定しており、連結売上高・連結営業利益に影響を与えることを見込んでいる。
② 対応策について
2020年2月22日に危機管理委員会を事務局とした新型コロナウイルス対策本部を発足させ、全ての事業所で朝夕の検温、マスク着用、手洗いの徹底、時差出勤及び在宅勤務の実施、不要不急の出張の制限、不特定多数の人が集まるイベントの開催・参加の延期・中止の検討といった予防措置をとった。
政府から緊急事態宣言が発令された2020年4月7日にはより迅速な対応を可能とするため社長を対策本部の長とする体制へ移行したうえ、対象地域の内勤者に対して在宅勤務を原則とする交代勤務制を推奨するなど感染リスクの最小化に努めた。
2020年4月17日に緊急事態宣言の対象区域が全都道府県に拡大されたことを受けて、当社グループの社員及び協力会社などの関係者の生命・身体の安全を最優先する方針のもと、お客様と協議のうえ、施工中の一部工事を一時中断する措置をとり、全国の内勤者について当初の対象地域の対応と同様の措置をとった。
2020年5月7日にお客様から工事中断の要請がある工事を除いて感染防止策を強化・徹底する事を前提に工事を再開し、2020年5月25日の緊急事態宣言の解除後は中断していた全ての工事を再開させた。また、緊急事態宣言解除後も感染拡大防止に向けた対策を継続している。
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは以下のとおりである。ただし、当社グループに関する全てのリスクを網羅したものではなく、現時点では重要性が高くないと判断したリスクもあり、予見し難いリスクも存在し得る。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものである。
(1) 建設投資の動向
当社グループの建設事業は、官公庁及び民間企業が主な顧客であるが、官公庁は財政状況や施策等、民間企業は経済環境や消費動向等により中長期的に建設投資の動向が変動する。我が国の建設投資は2011年度以降、増加傾向で推移しているが、縮小に向かった場合は、状況により競合他社との受注競争が激化し、受注高が減少するほか工事採算が低下する可能性がある。
当社グループは、建設市場の質的・量的変化に柔軟に対応できる企業体質を確立すべく、中長期経営方針を定めるとともに、本方針に基づき策定した中期経営計画における各種施策に取り組んでいる。なお、当該中長期経営方針及び中期経営計画については、「第2 事業の状況」の「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載のとおりである。
(2) 建設資材市況及び労務単価の変動
建設工事請負契約にあたり、建設資材及び労務単価等について適正価格での契約に努めているが、契約締結後に建設資材市況や労務単価が高騰する場合がある。当該コスト増加分について、公共工事においては契約条項により一定の工事代金の変更を請求できるが、民間工事においては発注者との協議となり、状況によりコスト増加に見合う工事代金の追加を獲得できない可能性がある。このため市況等の上昇局面では、予め単価上昇を織り込んで工事価格を見積ることや資材の調達を早期に行うなどの対応が必要となる。
(3) 建設技能労働者の不足
建設業界における技能労働者は、高齢化が進むとともに若年層の入職率・定着率が伸びず、減少傾向にある。中長期的に高齢者の大量離職が見込まれるなか、技術継承へ向けた将来の担い手の確保・育成が喫緊の課題となっている。今後、技能労働者の減少がさらに進んだ場合、他社との人財獲得競争が激化し労務費が高騰するとともに、人員を確保できないことに伴う施工能力の縮小により、受注高が減少する可能性がある。
当社グループは、専門工事会社を中心とした施工協力業者で組織された「熊栄協力会」と連携し、安定した施工体制を確立するとともに、技能労働者不足の解消及び優秀な人財の確保に向けた取組みを行っている。現在の建設業界の命題である「技能労働者給与水準の全産業労働者平均までの向上」を目指した労務単価の引上げを軸に、手当の支給を含む優良技能労務者認定制度の運用、能力や経験に応じた処遇を受けられる環境を整備するための建設キャリアアップシステムの導入などを進めているほか、施工現場における完全週休二日への移行といった処遇改善施策を推進している。
(4) 人財の確保
建設業界では、建設投資が増加基調となっている一方で、建設技術者の減少が課題となっており、当社グループにおいても、収益及び品質の向上のために優れた人財の確保と育成が急務であると認識している。その対応として、新卒者に加え施工管理経験がある人財の中途採用をジョブ・リターン制度の整備等により拡大するとともに、ダイバーシティ推進の取組みもあり、高齢者、女性及び外国人等を積極的に活用している。
また、建設工事の入札や施工管理においては、担当技術者に工種毎の施工経験や特定資格の保有を求められることがあり、適任者が不足した場合は受注機会を逸し、受注高の減少につながる可能性がある。すでに一部の工種についてその発注時期によっては担当者を確保出来ず、入札参加を断念するケースも発生している。このため将来的な案件を見据え、技術者に計画的に多様な施工経験を積ませているほか、分野別や階層別に社内研修を実施し、専門知識を修得させている。また、技術士や一級建築士等の公的資格について受験者を対象に社内講習や模試を実施するなど資格取得の支援、促進に努めている。
(5) 海外における事業展開
当社グループの海外事業は、現在アジア諸国において建設事業を中心に展開している。海外における事業は、進出国において著しい政治、経済、社会情勢の混乱が生じた場合や法規制が強化された場合等は、事業が遅延する又は遂行不能に陥る可能性がある。また未成熟な法制度、社会制度、文化や商慣習の違い等により正当な工事代金の請求及び回収が困難となる場合や想定外のコストを負担するリスクが内在している。このため、当社グループは、各々の情勢等に精通した国・地域にのみ進出することとし、当社が請け負う建設工事については、原則として我が国ODA(政府開発援助)や日系企業による事業に限定している。
なお、海外事業においては、事業拠点の現地通貨や米ドル等による外貨建取引のほか、外貨建の資産、負債、収益、費用を一定の基準により円換算する。現在の当社グループの海外事業の規模では為替レートの変動による影響は小さいが、取引の収入と支出の通貨構成や入出金のタイミングを概ね一致させることにより為替リスクを軽減している。
(6) 建設事業における自然条件及び自然災害の影響
工事施工において、地質や地盤、天候等の自然条件に特殊性がある場合、事前にそれを把握できなかったことにより工法の変更や手戻りなどが生じ工事コストが増加する可能性がある。また、事業の特性として施工現場が地震や台風・豪雨等の自然災害に見舞われた場合、工事が中断するほか復旧に多大なコストと時間を要するなど著しい損害を被るおそれがある。
当社グループは、事前調査、工法検討等を徹底し、自然条件面における予期せぬ事象等により工事の採算が低下しないよう努めるとともに、自然災害に対しては、各種保険に加入するなど損失を極小化するよう対策を講じている。
(7) パンデミック
感染症が世界的に大流行した場合、工事中断や資機材の納入が滞ること等に伴う工程遅延や感染症対策に係るコストの発生などにより採算が低下することが見込まれ、また、民間企業を中心に設備投資が停滞することにより受注高が減少する可能性がある。なお、新型コロナウイルス感染症の影響については、「第2 事業の状況」の「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載のとおりである。
(8) 工事の瑕疵
工事施工にあたっては、建設物の仕様や施工条件が多岐にわたり、また、想定を超えて外的要素から影響を受けることがある。このような状況のもと、瑕疵の発生可能性を完全に排除することは困難であるため、瑕疵担保の費用に充てるべく一定金額を引当計上している。しかし、万が一、施工した建設物に重大な瑕疵があった場合、引当額を上回る多大な修復費用や損害賠償責任が生じる可能性がある。また、当社グループの社会的信用が低下し、受注高の減少につながるおそれがある。
当社グループは、建設物の設計・施工にあたり、品質マネジメントシステムの適切な運用及び継続的な改善により、高品質な製品・サービスの提供に努めている。
(9) 建設事業における労働災害及び事故
建設事業は、作業内容や作業環境などの特性により、他の産業と比較して重篤度の高い労働災害が発生するおそれがあり、また、第三者に対し損害を与える事故が発生する可能性が高い。万が一、重大な労働災害もしくは事故が発生した場合、多大な補償費等の負担が生じるとともに、社会的信用が低下し、関係諸官庁等の工事入札において指名停止になるなど、受注高の減少につながる可能性がある。
当社グループは、労働災害及び事故への対策を最優先課題と位置付け、安全教育の実施、日常的な安全点検、施工部門と安全部門との連携強化、入念な施工計画の策定といった安全衛生マネジメントシステムの厳格な運用により労働災害及び事故の撲滅に努めている。
(10) 固定資産及び投資有価証券の減損
当社グループは、都市再生・再開発事業といった新事業創出への取組みの一環として不動産の取得を進めているが、経営環境の著しい悪化などにより保有資産の収益性が低下又は市場価格が下落した場合、固定資産の減損損失が発生するおそれがある。また、収益機会の獲得や関係強化を図るため顧客や提携先等の有価証券を保有しているが、投資先の業績が悪化又は市場価格が下落した場合も同様に減損損失が発生する可能性がある。
当社は、各種資産の評価方法と投融資活動に係るリスクを定量的に管理するための投融資基準を定め、財政的影響が大きい案件については、経営会議及び取締役会において経営指標の見通しや財務規律の維持の観点を踏まえて取得の検討を行っている。取得後は、採算性検証のためのモニタリングによって採算悪化が見込まれ、将来的な収益率等が目標とする基準値を上回る可能性が極めて低いと判断された場合、また有価証券については、保有が当社グループの事業遂行上有用ではないと判断された場合は売却等を検討するなど、損失の最小化に努めている。
(11) 顧客及び取引先の信用
建設事業において、工事着工後に発注者が信用不安や経営破綻などに陥った場合、売掛金や受取手形などの債権が回収不能となるおそれがある。また、施工協力業者等の取引先が同様な状況となった場合、工程が遅延し工事コストが増加する可能性がある。
当社グループは、顧客の信用については、会議体及び専門部署により、顧客の与信判定、契約内容の審査、債権保全方法の検討等を実施している。また、債権管理規程、工事契約締結に向けた与信限度額設定基準等の社内規程を整備し、与信管理の徹底に努めている。取引先の信用については、新規に取引を開始する場合、直近の財務諸表をもとに審査を実施している。また、取引高が一定の規模以上の施工協力業者に対しては、財務面の評価に加え、ヒアリング等による経営全般の評価を年1回実施している。
(12) コンプライアンス違反
建設事業の運営に際しては、建設業法、独占禁止法等、様々な法律により規制を受けている。これらの法的規制に違反した場合や社会的要請に反した行動等により、法令等による刑事罰、行政処分、損害賠償責任等が課せられるほか、顧客、株主、取引先等の会社を取り巻くステークホルダーからの信用失墜につながる。
当社グループではこれらのリスクを払拭するため、「行動指針」「コンプライアンス行動ルール」をはじめとする各種規程を定め、内部機能を中心にコンプライアンス体制を構築するとともに、経営から独立した組織として「法遵守監査委員会」を設け、外部有識者による評価・勧告体制を執っている。また、このほかコンプライアンス研修等の教育を通じ、全役職員に対するコンプライアンス意識の向上、周知徹底を図っている。
(13) 環境問題
世界的な人口増加と産業活動の急拡大によって生じる資源の枯渇や地球温暖化等の環境問題は、世界共通の解決すべき社会課題として認識されている。社会資本の整備を担う建設業においては、工事施工時等に排出されるCO2をはじめ建設廃棄物や建設発生土などによる環境への負荷を社会的責務として積極的に削減する必要があり、そのためには継続的に一定の対策費用が発生する。また、工事施工にあたっては様々な環境関連法令等の規制を受けているが、土壌汚染や水質汚染等の環境事故が発生した場合は、復旧費用や損害賠償金、補償金等の負担が生じるほか、当社グループの社会的信用が低下し、受注高の減少につながるおそれがある。
当社では、環境マネジメントシステムの適切な運用及び継続的な改善により、環境負荷の低減及びより良い環境の創出を図っている。また、「エコファーストの約束」においてCO2排出量の削減や、工事現場における混合廃棄物排出量の削減、グリーン購入対象資機材の購入など低炭素社会の構築や循環型社会の形成を推進するともに、環境基準遵守のもと、環境事故の防止に努めている。
(1) 経営成績等の状況の概要
当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりである。
① 財政状態及び経営成績の状況
当連結会計年度における我が国経済は、海外経済の減速の影響を受けつつも好調な企業収益や雇用・所得環境の改善を背景に緩やかな回復基調を持続していた。しかしながら、年明けから新型コロナウイルス感染症が世界的に拡大し始めた影響により個人消費が急激に落ち込み、売上の減少や生産活動の停滞から企業収益が一転して悪化するなど、景気は年度末にかけて混沌とした状況となった。
建設業界においては、住宅建設は弱い動きが続き、企業の建設投資も前年度の消費税増税前の駆け込み需要による反動減となったが、公共投資は底堅く推移し、豊富な手持工事を背景に工事出来高は増加基調が継続するなど、総じて事業環境は良好な状況にあった。
当社グループはこのような状況のもと、『熊谷組グループ 中期経営計画(2018~2020年度)~成長への挑戦~』にグループ一丸となって取り組み、さらなる成長に向けて挑戦してきた。
この結果、当社グループの当連結会計年度における財政状態及び経営成績は以下のとおりとなった。
a 財政状態
・資産
総資産は、前連結会計年度末に比べ211億円(6.0%)増加し、3,748億円となった。
流動資産は、前連結会計年度末に比べ227億円(7.9%)増加し、3,106億円となった。売上高の増加に伴い受取手形・完成工事未収入金等が149億円、未収消費税の計上等により未収入金が141億円増加している。
固定資産は、前連結会計年度末に比べ15億円(2.4%)減少し、641億円となった。保有株式の時価下落等により投資有価証券が15億円減少している。
・負債
負債は、前連結会計年度末に比べ79億円(3.6%)増加し、2,268億円となった。
流動負債は、前連結会計年度末に比べ104億円(5.5%)増加し、2,015億円となった。独占禁止法関連損失引当金及び偶発損失引当金が支払いに伴う取崩し等により減少した一方、預り消費税の増加等により預り金が100億円、支払手形・工事未払金等及び電子記録債務といった仕入債務が60億円増加している。
固定負債は、前連結会計年度末に比べ24億円(8.9%)減少し、252億円となった。長期借入金が16億円減少している。
・純資産
純資産は、前連結会計年度末に比べ131億円(9.7%)増加し、1,480億円となった。利益剰余金が、剰余金の配当により46億円減少したものの、親会社株主に帰属する当期純利益194億円の計上等により147億円増加している。
なお、自己資本比率は、前連結会計年度末に比べ1.4ポイント向上し、39.5%となった。
b 経営成績
・売上高(完成工事高)
売上高は、期首繰越工事高の増加等により、前連結会計年度に比べ470億円(12.1%)増加し、4,361億円となった。
なお、当社グループの事業内容は、建設事業とその他の事業に大別されるが、その他の事業に重要性がないため、連結損益計算書上は区分していない。
・売上総利益(完成工事総利益)
売上総利益は、売上総利益率(完成工事総利益率)の低下により、前連結会計年度に比べ3千万円(0.1%)減少し、454億円となった。
・販売費及び一般管理費
販売費及び一般管理費は、処遇見直しによる人件費の増加等により、前連結会計年度に比べ9億円(5.2%)増加し、200億円となった。
・営業利益
営業利益は、主に販売費及び一般管理費の増加により、前連結会計年度に比べ10億円(3.9%)減少し、254億円となった。
・営業外損益
営業外収益は、持分法による投資利益の増加等により、前連結会計年度に比べ7千万円増加し、7億円となった。
営業外費用は、シンジケートローン手数料の減少等により、前連結会計年度に比べ1億円減少し、4億円となった。
・経常利益
経常利益は、営業利益の減少により、前連結会計年度に比べ8億円(3.1%)減少し、257億円となった。
・特別損益
特別利益は、独占禁止法関連損失引当金戻入額13億円及び会員権売却益7億円など合計20億円を計上した。
特別損失は、2014年に当社の施工不良が判明した横浜市西区所在のマンションに関する追加費用として偶発損失引当金繰入額2億円、投資有価証券評価損1億円など合計7億円を計上した。
・法人税等
法人税、住民税及び事業税61億円、繰延税金資産の回収可能性の見直し等により法人税等調整額14億円を計上した。
・親会社株主に帰属する当期純利益
以上により、親会社株主に帰属する当期純利益は、前連結会計年度に比べ61億円(46.1%)増加し、194億円となった。
セグメントごとの経営成績(セグメント間取引消去前)は次のとおりである。
a 土木事業
受注高は、前連結会計年度比40.7%減の923億円であった。
売上高は、同9.5%増の1,222億円、営業利益は、同11.6%減の76億円となった。
b 建築事業
受注高は、前連結会計年度比22.0%減の2,325億円であった。
売上高は、同17.7%増の2,299億円、営業利益は、同1.4%増の126億円となった。
c 子会社
売上高は、前連結会計年度比1.1%増の986億円、営業利益は、同3.3%減の51億円となった。
なお、当該セグメントにおいては、受注生産形態をとっていない子会社もあるため受注実績を示すことはできない。
② キャッシュ・フローの状況
営業活動によるキャッシュ・フローは、3億円のプラス(前連結会計年度は123億円のマイナス)となった。
投資活動によるキャッシュ・フローは、22億円のマイナス(前連結会計年度は73億円のマイナス)となった。
財務活動によるキャッシュ・フローは、53億円のマイナス(前連結会計年度は61億円のマイナス)となった。
為替換算による増加を含め、現金及び現金同等物の当連結会計年度末残高は前連結会計年度末に比べ72億円(8.8%)減少し、751億円となった。
③ 生産、受注及び販売の実績
当社グループが営んでいる事業の大部分を占める建設事業では「生産」を定義することが困難であり、子会社が営んでいる事業には「受注」生産形態をとっていない事業もあるため、グループとしての生産実績及び受注実績を示すことはできない。また、建設事業では請負形態を取っているため「販売」という定義は実態にそぐわない。このため、生産、受注及び販売の実績については、可能な限り「① 財政状態及び経営成績の状況」において報告セグメントの種類に関連付けて記載している。
なお、参考のため、提出会社個別の事業の状況は次のとおりである。
a 受注工事高、完成工事高及び次期繰越工事高
|
期別 |
区分 |
前期繰越 工事高 (百万円) |
当期受注 工事高 (百万円) |
計 (百万円) |
当期完成 工事高 (百万円) |
次期繰越 工事高 (百万円) |
|
第82期
(自 2018年4月1日 至 2019年3月31日) |
土木工事 |
174,257 |
155,751 |
330,009 |
111,657 |
(218,351) 218,351 |
|
建築工事 |
249,211 |
298,255 |
547,467 |
195,432 |
(352,034) 352,041 |
|
|
計 |
423,469 |
454,007 |
877,476 |
307,090 |
(570,385) 570,393 |
|
|
第83期
(自 2019年4月1日 至 2020年3月31日) |
土木工事 |
218,351 |
92,371 |
310,723 |
122,236 |
(188,487) 188,487 |
|
建築工事 |
352,041 |
232,587 |
584,629 |
229,988 |
(354,640) 354,626 |
|
|
計 |
570,393 |
324,959 |
895,353 |
352,224 |
(543,128) 543,113 |
(注) 1 前期以前に受注した工事で、契約の変更により請負金額の増減がある場合は、当期受注工事高にその増減額を含む。
2 次期繰越工事高の下段表示額は、当事業年度末の外国為替相場に基づき海外工事の繰越工事高を修正したものであり、上段( )内は修正前である。
b 受注工事高の受注方法別比率
工事の受注方法は、特命と競争に大別される。
|
期別 |
区分 |
特命(%) |
競争(%) |
計(%) |
|
第82期 (自 2018年4月1日 至 2019年3月31日) |
土木工事 |
24.4 |
75.6 |
100 |
|
建築工事 |
19.0 |
81.0 |
100 |
|
|
第83期 (自 2019年4月1日 至 2020年3月31日) |
土木工事 |
32.6 |
67.4 |
100 |
|
建築工事 |
23.7 |
76.3 |
100 |
(注) 百分比は請負金額比である。
c 完成工事高
|
期別 |
区分 |
官公庁 (百万円) |
民間 (百万円) |
合計 (百万円) |
|
第82期 (自 2018年4月1日 至 2019年3月31日) |
土木工事 |
62,520 |
49,137 |
111,657 |
|
建築工事 |
24,497 |
170,935 |
195,432 |
|
|
計 |
87,017 |
220,073 |
307,090 |
|
|
第83期 (自 2019年4月1日 至 2020年3月31日) |
土木工事 |
75,722 |
46,513 |
122,236 |
|
建築工事 |
25,015 |
204,973 |
229,988 |
|
|
計 |
100,737 |
251,487 |
352,224 |
(注) 1 完成工事のうち主なものは次のとおりである。
第82期
|
東日本高速道路株式会社 |
東北中央自動車道 やまがたざおうトンネル工事 |
|
中日本高速道路株式会社 |
中部横断自動車道 高山工事 |
|
RW久喜特定目的会社 |
(仮称)レッドウッド久喜ディストリビューションセンター新築工事 |
|
三井不動産レジデンシャル株式会社・野村不動産株式会社・三菱地所レジデンス株式会社・伊藤忠都市開発株式会社・東方地所株式会社・株式会社富士見地所・袖ヶ浦興業株式会社 |
(仮称)幕張新都心若葉住宅地区計画(B7街区) |
|
アイデン株式会社 |
(仮称)サカエ理研工業株式会社 伊勢崎工場 新築工事 |
第83期
|
東日本高速道路株式会社 |
東京外かく環状道路 大泉ジャンクション立坑工事 |
|
国土交通省 |
阿蘇大橋地区斜面対策工事 |
|
豊洲6丁目4-1B開発特定目的会社 |
(仮称)Dタワー豊洲新築工事 |
|
嘉新琉球COLLECTIVE株式会社 |
(仮称)CHC那覇ホテル新築工事 |
|
アパマンション株式会社 |
(仮称)アパホテル&リゾート<御堂筋本町駅タワー>新築工事 |
2 第82期及び第83期ともに、完成工事高総額に対する割合が100分の10以上の相手先はない。
d 次期繰越工事高(2020年3月31日現在)
|
区分 |
官公庁 (百万円) |
民間 (百万円) |
合計 (百万円) |
|
土木工事 |
55,948 |
132,538 |
188,487 |
|
建築工事 |
44,268 |
310,357 |
354,626 |
|
計 |
100,217 |
442,896 |
543,113 |
(注) 次期繰越工事のうち主なものは次のとおりである。
|
東日本高速道路株式会社 |
東京外かく環状道路 本線トンネル(南行)大泉南工事 |
|
環境省 |
平成29年度中間貯蔵(大熊3工区)土壌貯蔵施設等工事 |
|
三井不動産レジデンシャル株式会社・野村不動産株式会社・三菱地所レジデンス株式会社・伊藤忠都市開発株式会社・東方地所株式会社・株式会社富士見地所・袖ヶ浦興業株式会社 |
(仮称)幕張新都心若葉住宅地区計画(B-2街区) |
|
医療法人沖縄徳洲会 |
湘南鎌倉総合病院外傷・救命救急センター先端医療センター増築工事 |
|
独立行政法人国立病院機構仙台医療センター |
独立行政法人国立病院機構仙台医療センター建替等整備工事(建築) |
(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりである。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものである。
① 財政状態及び経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
a 経営成績の分析
当社グループの売上高については、一部の工事に資材納入の遅れや専門工事業者の配置難等の影響はあったものの、期首繰越工事高が増加しているなかで出来高が堅調に推移したことにより前連結会計年度の実績、計画値をともに上回った。当社においては、前事業年度は16期ぶりに売上高が3,000億円を上回ったが、当事業年度はさらに大きく上回る結果となった。
利益については、手持工事の採算性改善が期待したほど進まず、加えて工事原価が大きく悪化する工事が土木・建築ともに複数件発生したことにもあり、営業利益、経常利益ともに前連結会計年度実績、計画値を下回った。なお、親会社株主に帰属する当期純利益については、前連結会計年度に計上した株式会社ガイアートの課徴金納付命令に伴う引当のうち13億円の戻し入れがあったことから、前連結会計年度比で46%の大幅増となった。
親会社株主に帰属する当期純利益の積み上げにより、自己資本比率は39.5%、ROEは13.7%となり、配当性向は1株当たり配当額が前連結会計年度から20円増配したことで28.8%となった。これによりROEは中期経営計画の指標の目標値を上回り、配当性向も前連結会計年度35.0%、当連結会計年度28.8%とほぼ計画値の水準を維持している。
受注は、前連結会計年度に大型案件を受注した反動減や目標案件の発注が翌期に繰り越されたこと等により土木・建築ともに前連結会計年度を下回る結果となった。
新型コロナウイルス感染症の影響について、当連結会計年度における金額的影響の算定は困難であるが、感染症拡大により追加設計変更交渉が進展せず工事価格を上積みできなかったなどの事象があったものの、当連結会計年度の業績への影響は限定的である。
当社グループの経営成績に重要な影響を与える要因については、「第2 事業の状況」の「2 事業のリスク」に記載のとおりである。
b セグメントごとの経営成績の分析
・土木事業
受注高は、前連結会計年度に鉄道分野で大型工事を受注したことによる反動や発注が翌期に繰り越された案件があったことなどにより、前連結会計年度比40.7%減の923億円となった。
売上高は、期首繰越工事高が増加していたことにより同9.5%増の1,222億円となったが、営業利益は、低採算・不採算案件の発生による売上総利益率の低下に伴う売上総利益の減少、処遇改善等に伴う販売費及び一般管理費の増加により、同11.6%減の76億円となった。
・建築事業
受注高は、小売業のEコマース化により増大傾向にある倉庫・流通施設が受注高を牽引したものの、前連結会計年度における消費税増税前の駆け込み需要の反動により、前連結会計年度比22.0%減の2,325億円となった。
売上高は、期首繰越工事高が増加していたことにより同17.7%増の2,299億円となり、営業利益は、低採算・不採算案件の発生等により売上総利益率は低下したものの、売上高の増加に伴い売上総利益が増加し、同1.4%増の126億円となった。
・子会社
売上高は、株式会社ガイアートにおいて期首繰越工事高及び受注高の増加により売上高が増加し、全体として同1.1%増の986億円となり、営業利益は、売上総利益率の低下により、同3.3%減の51億円となった。
c 中期経営計画の達成・進捗状況
『熊谷組グループ 中期経営計画(2018~2020年度)~成長への挑戦~』で掲げた指標の計画値と実績値との比較及び経営戦略の進捗状況は次のとおりである。
|
指標 |
2019年度(計画値) |
2019年度(実績) |
差異 |
|
連結売上高 (百万円) |
420,000 |
436,151 |
16,151 |
|
連結営業利益 (百万円) |
26,000 |
25,440 |
△559 |
|
ROE (%) |
12.0 |
13.7 |
1.7 |
|
配当性向 (%) |
30.0 |
28.8 |
△1.2 |
(注) 連結営業利益の計画値は投資利益・受取配当金を含む。
戦略①:建設工事請負事業の維持拡大
豊富に積み上がった期首手持工事を順調に消化していったことから、連結売上高は計画値を達成することができた。一方、利益については、オリンピック関連需要の一巡等により受注環境・価格競争が徐々に厳しくなってきており、また、一部で資材の納入の遅れが工程を圧迫したケースもあり、期首の想定よりも利益の上積みが叶わず、計画値を達成することができなかった。建設工事請負事業の維持拡大の具体的取組みとして、土木事業ではCIM、IoT、無人化施工技術等のICTツールの活用が進み、トンネル、シールド、ダムの主要3工種では現場へAIを導入した。建築事業では需要拡大傾向である大型物流施設への営業展開や需要拡大傾向にある都心でのミッドサイズオフィスの実績づくり、ICT技術、施工BIMの活用による生産性向上に取り組んでいる。
戦略②:新たな事業の創出
再生可能エネルギー事業分野では、事業主体として太陽光発電事業を開始することができたほか、引き続き、住友林業株式会社との協業による木質バイオマス発電事業への参画について検討を進めている。都市再生・再開発事業分野について、本社ビルが立地する飯田橋駅東口地区では地域住民による勉強会・協議会が発足するなど再開発事業の機運が高まっており、行政サイドは再開発エリアの基盤整備ビジョン策定に向けて動きはじめていることから、当社も地権者としてまちづくりに積極的に関与し、事業参画に向けた取組みは順調に進捗している。また、いわき駅並木通り地区第一種市街地再開発事業の業務代行者としての事業参画が確定した。
戦略③:他社との戦略的連携
海外事業分野では、住友林業株式会社とシンガポールに合弁会社を設立し、インドネシアで高層コンドミニアム及び商業複合施設開発事業に着手した。また、連結子会社である台湾現地法人の華熊営造股份有限公司が子会社(華熊建設股份有限公司)を設立し、地元デベロッパーとの協働で不動産開発事業に乗り出すなど、アジア地域における不動産開発事業への参画の動きが加速している。
総じて中期経営計画2年目は、数値目標について連結営業利益は計画値を下回ったものの、収益源の多様化に向けた新事業創出の動きについては計画策定時の想定より遅れ気味ではあるが、着実に進捗している状況である。
② キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報
a キャッシュ・フローの状況の分析
営業活動によるキャッシュ・フローは、税金等調整前当期純利益270億円を計上したものの、売上債権の増加及び法人税等の支払いなどにより、3億円のプラス(前連結会計年度は123億円のマイナス)に留まった。
投資活動によるキャッシュ・フローは、設備の取得更新等及び関係会社株式の取得等により、22億円のマイナス(前連結会計年度は73億円のマイナス)となった。
財務活動によるキャッシュ・フローは、配当金の支払い等により、53億円のマイナス(前連結会計年度は61億円のマイナス)となった。
為替換算による増加を含め、現金及び現金同等物の当連結会計年度末残高は前連結会計年度末に比べ72億円(8.8%)減少し、751億円となった。
b 資本の財源及び資金の流動性
・資本政策の基本方針
当社グループは、事業運営上必要な流動性と資金の源泉を安定的に確保し、財務健全性を保つことを基本方針としている。当連結会計年度末において現金預金は751億円保有しており、自己資本比率も39.5%と一定水準を保っていることから、現状では新型コロナウイルス感染症の影響を考慮しても財務健全性に懸念はない。
短期運転資金は自己資金及び金融機関からの短期借入を基本としており、設備投資に係る資金や長期運転資金は自己資金及び金融機関からの長期借入を基本としている。当連結会計年度末における流動比率は154.1%、固定長期適合率は37.0%と高い安全性を保っている。
・資金需要
当社グループの運転資金需要のうち主なものは、建設事業に係る外注費や資機材費等の工事費、人件費を中心とした販売費及び一般管理費の営業費用である。売上高の増加及び人員数の増加により営業費用に対する資金需要は増加傾向にある。
成長投資を目的とした資金需要は、『熊谷組グループ 中期経営計画(2018~2020年度)~成長への挑戦~』に掲げている国内/海外アライアンス事業、国内/海外不動産事業、再生可能エネルギー事業等に係る設備投資が中心である。持続的成長と企業価値向上を目指し今後も投資を加速していく方針である。
なお、当連結会計年度末における有利子負債の残高は122億円となっている。
|
|
|
・株主還元
株主還元政策については、安定配当の方針のもと、連結配当性向30%を目標値としている。
なお、自己株式の取得及び消却については住友林業株式会社と業務・資本提携契約を締結していることから慎重に検討する方針である。
・資金調達
当社グループは、金融機関からの借入を主な資金調達の手段としており、長期借入を中心に必要資金を調達している。なお、資金調達のより一層の安定化と金融費用の圧縮を図るため、シンジケートローン契約を締結しており、当連結会計年度末の契約総額は70億円である。
また、運転資金の効率的な調達を行うため貸出コミットメント契約を締結しており、当連結会計年度末の契約総額は200億円(借入実行残高0億円)である。
安定的な資金調達手段を確保できており、新型コロナウイルス感染症の影響を含めた突発的な資金需要の発生にも十分対処可能な状況である。
③ 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社グループの連結財務諸表は、我が国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されている。連結財務諸表の作成にあたっては、当連結会計年度における資産、負債並びに収益、費用の金額に影響する見積り、判断及び仮定が必要となり、これらは継続した評価、過去の実績、経済等の事象、状況及びその他の要因に基づき算定を行っているが、本質的に不確実性を内包しており、実際の結果とは異なる場合がある。
当社グループの重要な会計方針のうち見積り、判断及び仮定による算定が含まれる主な項目は、貸倒引当金、完成工事補償引当金、工事損失引当金、偶発損失引当金、独占禁止法関連損失引当金、賞与引当金、株式給付引当金、退職給付費用、工事進行基準による収益認識、繰延税金資産の回収可能性等があり、当該見積り、判断及び仮定と実際の結果に重要な差異が生じた場合は、当社グループの連結財務諸表に影響を及ぼす可能性がある。
当連結会計年度において、新型コロナウイルス感染症が会計上の見積りに及ぼす重要な影響はないとしているが、新型コロナウイルス感染症の影響が長期化した場合、工事中断や資機材の納入遅れに伴う工程遅延や対策コストの増大などにより、工事進行基準による収益認識に影響を及ぼす可能性がある。
なお、当連結会計年度における工事進行基準による売上高は371,352百万円であり、連結財務諸表に与える影響は極めて大きい。そのため、当該見積り及び当該仮定の不確実性の内容やその変動により生じる影響を以下に記した。
工事収益総額に係る見積り
工事収益総額に係る見積りにあたっては、工事契約の追加設計変更について、いまだ契約を締結する前であっても契約締結に至る可能性が高いと判断される場合、当該未契約の金額を加算して工事収益総額を算出している。未契約の金額は、工事内容の施工指示が明記された着手指示書、変更指示書、特記仕様書、議事録等に基づき見積っている。そのため、例えば未契約の金額が過大に計上されていた場合、売上高が過大に計上される。
工事原価総額に係る見積り
工事原価総額の見積りにあたっては、工事契約内容の個別性が強いことから、全ての工事契約に適用可能な画一的な判断尺度を得られにくく、工事契約内容に関する専門的知識及び実務経験が必要となる。したがって工事原価総額の見積りは、工事契約の原価管理及び進捗管理に責任を有する者によって行われているが、その判断には不確実性が伴う。そのため、例えば工事原価総額が過小に計上されていた場合、売上高が過大に計上される。
該当事項なし。
当社グループの研究開発活動は、企業業績に対して即効性のある技術、商品の開発、各種技術提案に直結した技術の開発、中長期的市場の変化を先取りした将来技術の研究、開発技術の現業展開と技術部門の特性を生かした技術営業、総合的技術力向上のための各種施策からなっており、社会経済状況の変化に対し機動的に対応できる体制をとっている。
当連結会計年度は、研究開発費として
当連結会計年度における主な研究開発活動は次のとおりである。
(1) 土木事業
① 高速道路リニューアルプロジェクトの主力商品「コッター床版工法」
NEXCO各社が進める高速道路リニューアルプロジェクト(総事業費約3兆円)において、橋梁床版取替工事は、その50%強(事業費約1兆6,500億円)を占める同プロジェクトの主要工事である。当社は、急速施工、省人化、取替性の改善など生産性の向上を目的に、コッター式継手を用いた橋梁用プレキャストPC床版であるコッター床版を開発した。本工法は、熟練工を不要とし、床版の99%プレキャスト化が品質向上に大きく寄与している。福島県広野町発注の灰作橋長寿命化工事に採用し、その有効性を実証した。今後は2019年1月に受注したNEXCO東日本発注の東北自動車道十和田管内高速道路リニューアル工事の4橋梁での採用を予定し準備を進めており、そのうち2橋梁については、継手の軽量・コンパクト化を進めた新製品投入を予定しており、現在開発を進めているところである。
② 地震被害を受けたトンネルの補修に「T3パネル工法」を適用
T3パネル工法は、東日本旅客鉄道株式会社研究開発センターと共同で開発したトンネルはく落防止工法である。鉄道において、現在でも100年近く経過したトンネル(主にレンガトンネル)が供用されており、今後、はく落、ひび割れなどの変状の発生が予想される。本工法は、トンネル形状に加工した鋼製支保工に高じん性セメントボードを主材料とした薄型パネルを固定する構造により、トンネル覆工のはく落防止を図るものである。当工法の特徴は、内空をできるだけ侵さない薄型構造で耐荷力が高いことである。当工法専用に開発した機械であるTカッターを用いて施工した覆工面の溝にT形の鋼製支保工をはめ込む構造としており、内空への飛出量を抑えている。また薄型パネルは、セメントボードに曲率加工を行い、表面にアラミド繊維を接着させており、剛性及びじん性が高められている。このT型支保工と薄型パネルの組み合わせにより、無筋コンクリートあるいはレンガが厚さ40㎝程度はく落した場合にも耐える構造となっている。当社は、2016年の熊本地震でトンネル覆工にはく落・ひび割れが発生した、豊肥本線立野トンネル(立野~赤水駅間)において本工法を適用し、トンネル補修工法としての有効性を実証した。
③ 山岳トンネルにおけるAI技術の活用
山岳トンネルでは、掘削の際に地山の観察結果をもとに岩判定を行い、実施する支保パターンを確定している。この方法は判定者の経験に負うところが多く、掘削を一旦止めることにもなるため、作業負担や工程遅延などが課題であった。こうした課題に対し、当社は、2017年より長崎大学、五大開発株式会社と共同で、AI技術を活用しトンネル掘削時に得られるビックデータの分析・関連付けを行い、切羽前方地山の予測精度を向上させる研究を継続してきた。予測結果に基づいて最適な支保パターンが選定可能なシステムが構築できれば、施工管理の効率化、技術の継承に寄与することが期待される。国土交通省は、新技術導入促進(Ⅱ)型の技術提案テーマとして、「AI等を活用したトンネル切羽等の地山判定手法」を求める工事を発注しており、当社はこれらのうち日下川新規放水路(吐口側)工事、湯野上3号トンネル工事を受注し、トンネル切羽画像を用いたAIによる地山判定を行った。具体的には、発破孔やロックボルト孔等の削孔データを採取し、切羽画像とともにAI分析を行い、発破掘削においては風化変質や割れ目の頻度の分析の正当性が高いこと、機械掘削においては素掘り面の状態の正当性が高いことが確認された。今後は、さらなるデータ採取・分析を継続し正答率を向上させるとともに、他のトンネルでもデータ採取・分析を行い、本格的な実用化を目指していく。
④ 小断面トンネル施工機械の開発
トンネルの断面積が10㎡程度の小断面トンネルを新設掘削する際は、一般的にレール方式のNATM工法が採用されるが、汎用施工機械の老朽化と新規製作の敬遠により機械台数が逼迫しているのが現状である。当社ではトンネル施工時における生産性の向上と作業環境の改善並びに安全性の確保を目的とした「次世代トンネル施工システムの開発」を進めており、その一環として、小断面トンネルに特化した施工機械群を開発するKITプロジェクトを進めている。KITプロジェクトとは、Kumagai Innovative Tunnel Projectの略称で、従来には無い革新的な技術開発を目指すプロジェクトとして命名した。当プロジェクトは、一連のトンネル施工機械群をシステム的に構築することを目的とし、①1ブーム式削孔機械 ②遠隔爆薬装填装置 ③土砂掘削・積込機械 ④土砂搬送トレンローダー ⑤一体型吹付機械 の5機種をもって、小断面施工の欠点を補完すべく遠隔操作や自動運転並びにガイダンス機能等を採り入れる新規開発を行っている。2015年に開始した当プロジェクトは、いよいよ各機械が完成する予定である。完成した機械は、技術研究所内に設けた模擬トンネルにおいて実用化に向けた機能試験や検査を重ねた後、施工現場へ投入する予定である。
⑤ 無人化施工VR技術の開発
自然災害現場での無人化施工は、二次災害を防ぐための有効な手段となっている。オペレーターは、運転席に搭載したオペレーター目線のカメラ映像と現場全体を把握するために設置した定点カメラの俯瞰映像を頼りに遠隔操作室で操作している。操作に利用するそれらの映像は、モニター上の2次元情報であり、オペレーターは実際の建設機械の傾きや振動などを把握することは困難である。そこで、遠隔操作室内にいるオペレーターに、建設機械内のオペレーター目線の映像と建設機械の傾きや振動、音をリアルタイムにオペレーターに提供することで、搭乗操作に近い感覚で遠隔操作が可能な安全かつ効率の高い無人化施工VR技術を開発した。この無人化施工VR技術は、東京工業高等専門学校で開発したスポーツ観戦システム「シンクロアスリートⓇ」を応用し、建設機械側に360度カメラと加速度センサーを設置し、運転席内からの映像と音に加え、建設機械の動きを遠隔操作室にリアルタイムに伝送する。遠隔操作室では、映像をVRヘッドマウントディスプレイ等に表示し、音を再生すると共に操縦席が取り付けられたモーションベースで動きを再現する。この技術により、遠隔操作でありながら、実際に搭乗した状態に近い環境をオペレーターに提供することが可能となった。今後は技術の改良に加え、遠隔操作における作業効率のさらなる向上を目指し、実際の運用に向け開発を進めていく。
⑥ コンクリート温度ひび割れ抑制対策技術「注水併用エアクーリング工法」
コンクリート構造物の施工においては、水和熱の上昇による温度ひび割れ抑制対策を行うことが重要である。当工法は、従来のエアーによるクーリング工法をベースとし、送風時に少量の水を加えることによる気化熱冷却効果で、冷媒となるエアーの温度を低下させ、コンクリートの温度上昇抑制効果を高めるものである。通水によるクーリング工法と比較すると温度上昇抑制効果は若干劣るが、従来のエアーによるクーリング工法と比較して温度上昇抑制効果は高く、冷却設備が小規模で済み、コストが抑えられるのが長所である。2015年に開発して以来、函渠や橋脚など比較的中規模な構造物に対し試験施工を行っている。当工法の特長は、気化熱冷却効果を高めるため、注水をミスト(粒径100μm程度)化し、エアーの風速と注水流量を管理しながら噴霧することである。現在、稼働中も含めて当社で9現場、社外で1現場実績があり、発注者も国土交通省やNEXCOから民間工事までと幅広く使用されている。この期間に特許権取得と新技術情報提供システム(NETIS)の登録も完了した。今後は、コンクリートの温度ひび割れ抑制対策技術としてさらに普及させ、使用実績を増やしていく予定である。
(2) 建築事業
① 地盤アンカー工法におけるアンカー定着層確認技術の開発
地盤アンカー施工時に削孔用ケーシングに与える給進力、回転力及び打撃力を計測して得られる総貫入エネルギーを算定し、総貫入エネルギーの値をもとに定着層への到達確認を行う技術を開発した。地盤アンカーは山留め壁などの仮設構造物に加え、建築物などの本設構造物にも用いられているが、所定の引張抵抗力を確保するためには、アンカーの定着体(注)を良質な地盤である定着層に設置する必要がある。定着層はボーリング調査により設定しているが、施工時には地上に排出される削孔水及びスライムの目視確認と、削孔機の振動や削孔スピードなどによる確認を併せて行っている。しかし、施工時の確認は地層によっては困難な場合があることや、オペレータの感覚に頼ることが多く記録に残らないという欠点があった。そこで、削孔用ケーシングに与える給進力、回転力及び打撃力を計測し、それらの値から総貫入エネルギーEDの算定を行い、その深度分布をもとに定着層を確認する手法を用いた本技術を開発した。これにより、定着層に傾斜あるいは凹凸が予想される場合を含め、地盤アンカーの施工時に定着層の確認を1本毎に行うことが可能となった。今後は、当社の既開発工法であるSTK-Ⅱアンカー工法(大口径鉛直型本設地盤アンカー工法)や山留め壁などに用いる仮設地盤アンカー(定着層がN値20以上の砂質土地盤である斜め地盤アンカーなど)への適用も検討していく予定である。なお、今般、STK-Ⅱアンカー工法の設計施工指針に本技術を追加し、一般財団法人日本建築総合試験所の建築技術性能証明(GBRC性能証明 第11-08号 改定2)を取得している。
(注) 地盤アンカーを構成する部位のうち、地盤との摩擦抵抗力を期待する部分。
② 「木造CLT床の2時間耐火構造」の大臣認定取得
中大規模の木造建築を念頭にCLT(注1)床の1時間及び2時間耐火構造の大臣認定を取得した。今回、認定を取得したCLT床は、荷重支持部(芯材)の木材(CLT)の周囲に「燃え止まり層(注2)」を設置し被覆した独自の木質耐火構造を考案しており、燃え止まり層は断熱耐火パネルを普通硬質せっこうボードの間に組み込んで積層している。その結果、燃え止まり層の厚さを、最も薄い場合、1時間耐火構造で41㎜、2時間耐火構造で63㎜と従来工法と比べてスリム化することができた。また、表面仕上げ材は室内における様々な仕様が選択可能であり、お客様及び設計者のニーズに対応することができる。当社は、今後需要が高まると予測される中大規模の木造建築の実現に向けて技術開発を進めており、全ての建築物において使用できる防・耐火性能を保持する木質耐火部材の開発及び大臣認定の取得を目指している。今般CLT床について1時間と2時間の耐火構造の大臣認定を取得したことにより、CLT床とCLT壁は、1時間耐火構造であれば最上階から4階層まで、2時間耐火構造であれば最上階から全ての階において使用することが可能となった。今後は、柱と梁の1~3時間耐火構造の大臣認定について1年以内の取得を目指しており、今回のCLT床を含む、柱、梁、床、壁の1時間から3時間の木質耐火構造を有した部材を「断熱耐火λ-WOOD(ラムダ-ウッド)」の名称で展開するとともに、さらなる研究開発を進めていく。
(注)1 CLT(Cross Laminated Timber:直交集成板)は、複数枚のラミナ(ひき板)を木材の繊維方向が直交するように積層させて作った木質構造パネル。
2 燃え止まり層とは、荷重支持部材(CLT)の外側にある燃焼を停止させる層である。その基本性能の確認では、載荷加熱した際の構造安全性や、芯材表面が炭化しない(焦げていない)こと、非加熱側に燃え抜けないことなどが必要とされる。
③ 「木造CLT複合壁の遮音性能」の大臣認定取得
当社は、今後需要が高まると予想される中大規模の木造建築の実現に向けて技術開発を進めているが、共同住宅などでは高い水準の空気音遮断性能が要求されており、これまで高い遮音性能を持つCLTを用いた複合壁や複合床の開発を行ってきた。今般、当社が開発した木質耐火部材「断熱耐火λ-WOOD」シリーズのCLT耐火壁(注1)にふかし壁を施したCLT複合壁が遮音性能の大臣認定を取得し、JISの評価上最高値である遮音等級Rr(注2)-60を達成した。本開発の特徴は、①ふかし壁による低音域共鳴透過(注3)の低減及び幅広い周波数の空気音遮断性能を高める仕様、②実際の木造建築における部材取り合い部分の納まりに起因する遮音性能低下を想定し、試験体には実際の取り合い部を再現した仕様、③床及び壁をともに乾式工法とし、湿式工法による養生期間の短縮、施工の合理化を図り、さらに全体の重量も軽減させる仕様である。上記仕様の試験体を用いて、一般財団法人建材試験センターにおいて性能評価試験を実施し、JIS規格の空気音遮断性能として遮音等級Rr-60を達成した。さらに、「界壁の遮音性能」に関する大臣認定についても同時に取得した。今後は一昨年開発したCLT複合床乾式工法による床衝撃音遮断性能(Lr-45相当(注4))と合わせて、高い遮音性能を有した中大規模の木造建築物への採用を目指す予定である。また、構造、耐火、遮音を含め、総合的に中大規模の木造建築物への適用に向けた研究開発を進めていく。
(注)1 CLTを荷重支持部材(芯材)とし、普通硬質せっこうボードと、断熱耐火パネルの積層構造の被覆により燃え止まり層を被覆した当社開発の木質耐火部材「断熱耐火λ-WOOD」を用いた仕様の壁。「1時間耐火構造」に関する大臣認定を取得済み。
2 RrはJIS A 1416:2000「実験室における建築部材の空気音遮断性能の測定方法」及びJIS A 1419-1:2000「建築物及び建築部材の遮音性能の評価方法-第1部:空気音遮断性能」の実験室で求めた遮音性能。JIS A 1419-1ではRr-30からRr-60まで規定されている。
3 二重構造の場合に板同士が中空層の空気を介して共振し、低音域の遮音性能(透過損失)を低下させる現象のこと。
4 Lr相当は、CLT床単体の測定がJISで規定されていないため、残響室で床単体の重量床衝撃音(標準重量衝撃源)の測定結果をJIS A 1419-2にプロットして数値化し、相当値として表現したものである。
④ 微生物を利用したCO2変換技術の開発
CO2を原料に化成品原料であるエチレンを微生物反応によって生産する技術を開発した。エチレンは石油や石炭から生産されるのが主流であり、生産に伴い大量のCO2を排出するとされている。CO2からエチレンを生産することが可能になれば、CO2排出量の大きな削減効果が期待できる。さらに、CO2化学という産業分野の創出も期待され、持続可能な低炭素及び炭素循環型社会の実現に大きく貢献できると考えられる。今般、地球温暖化対策やSDGsの観点から「脱炭素」が世界的な潮流になっている。当社は、CO2排出量削減、低炭素及び炭素循環型社会実現に寄与し得る技術として、人工光合成・藻類利用などとは違う新しいバイオプロセスによるCCU技術開発に取り組み、鉄酸化細菌を利用してCO2を原料に主要化成品原料となるエチレンを生産する技術を開発した。CO2を炭素源として生育する鉄酸化細菌(Acidithiobacillus ferrooxidans: AF-WT)にエチレン生成酵素(EFE)遺伝子を導入し、CO2利用エチレン生産鉄酸化細菌組換え株(AF-rEF1)の構築に成功した。この組換え株(AF-rEF1)に高濃度CO2を封入し培養した結果、エチレン生産が認められた。また、鉄酸化細菌は電気培養技術(電力中央研究所特許技術)を適用することで、菌体密度を高密度化することが可能である。この電気培養技術を活用した通電型培養装置(エチレン製造装置)を製作した。通電型培養装置の電子供給による還元力の付与により、CO2の変換効率を高めることができると考えられる。電気培養には大きな電力は不要であり、CO2を原料として使用するだけでなく、生産プロセスにおいてもCO2排出量削減効果が期待できる。これら開発技術をもとに、CO2有効利用の基盤技術として特許「エチレン生産方法及びエチレン製造装置」(特開2019-154435)を出願した。現段階ではエチレンの生産性はまだ低く実用化には課題も多い。今後は高効率なエチレン生産システムの開発にさらに取り組む予定である。なお、茨城大学及び芝浦工業大学と共同研究契約を締結、さらに、一般財団法人電力中央研究所を加えた4機関で秘密保持契約を締結し、研究開発体制を強化した。
⑤ 集合住宅に使用されている乾式二重床の音環境に関する手引書「集合住宅の音環境-乾式二重床のQ&A-」、「シリーズ建築の音環境入門 10周年記念号」を発刊
当社は信州大学名誉教授山下恭弘監修のもと、泰成株式会社、フジモリ産業株式会社、野原産業株式会社、万協株式会社及び有限会社音研の各社で組織する床衝撃音研究会として、集合住宅に使用されている乾式二重床の音環境に関する手引書「集合住宅の音環境-乾式二重床のQ&A-」及び技術者向けの小冊子「シリーズ建築の音環境入門 10周年記念号」を発刊した。「集合住宅の音環境-乾式二重床のQ&A-」は、2007年6月に音環境に対する乾式二重床の性能をQ&A形式で分かりやすく解説した手引書として初版を発刊している。今般6年ぶりに改訂を行った3版(電子データ提供)では、最新の乾式二重床に関する知見(特に環境に配慮し合板を用いない乾式二重床)、実建物における床衝撃音遮断性能のデータの追加、集合住宅の基本設計から竣工までの間に音環境上配慮すべき事項及び読者からの質問をもとに見直し等を行っている。また床衝撃音研究会では、デベロッパー、設計事務所、建設会社などの技術者向けの小冊子「シリーズ 建築の音環境入門」を2008年11月から発刊している。読者からの意見や要望を取り入れながら、「読みやすくわかりやすい内容」と「適度なボリューム」を編集方針に掲げて制作しており10周年を迎える。本シリーズでは、これまで乾式二重床についても多く取り上げてきたことから、今回の「シリーズ建築の音環境入門 10周年記念号」では、「集合住宅の音環境-乾式二重床のQ&A-」の改訂3版の概要を紹介する特集号とした。今後もこれらの発行物を集合住宅の乾式二重床に関する重要なツールとして位置付け、デベロッパーや設計事務所などに対して積極的に提案していくと同時に、読者の評価・意見を参考にしながらより良い手引書としていくことを目指していく。
(3) 子会社
株式会社ガイアート
① 小粒径縦溝低騒音舗装(5mmTOP)の開発
大都市では低騒音舗装としてマップ工法が実施されていることが多いが、マップ工法は施工機械が大きく信号機等のある個所では施工が困難であることや、骨材飛散抵抗性が若干小さいことが懸念されている。これらのことをカバーできる低騒音舗装工法として、小粒径縦溝低騒音舗装の開発を行った。室内での検討を終了し、同社の子会社が運営する白糸ハイランドウエイで試験施工を実施して、路面騒音測定結果が目標の88dB以下となることを確認した。
② 移動式たわみ測定装置(MWD)の実用化に関する共同研究
舗装の効率的な管理に向けて、定期的な点検・維持修繕が求められている。現在、構造的な舗装の健全度を調べるためには、FWDによるたわみ測定が一般的に用いられるが、交通規制が必要であり定期的な点検には適さない。そのため、2つの公的機関、1つの大学、同社を含む5つの民間企業で、走行しながらたわみを測定できる移動式たわみ測定装置の実用化に関する共同研究に取り組んでいる。試作した移動式たわみ測定装置によるデータ収集、解析を白糸ハイランドウエイで実施したところ、FWDの測定結果と同様の結果が得られ、移動式たわみ測定装置が舗装の構造点検に使用できる可能性が高いことを確認した。