当社グループにおける経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりである。
なお、文中の将来に関する事項は、別段の記載がない限り当連結会計年度末現在において判断したものであり、また、様々な要素により異なる結果となる可能性がある。
当社グループは、経営理念として「全社一体となって、科学的合理主義と人道主義に基づく創造的な進歩と発展を図り、社業の発展を通じて社会に貢献する。」ことを掲げ、さらに、企業経営の根幹を成す安全衛生・環境・品質に関する基本方針として「関係法令をはじめとする社会的な要求事項に対応できる適正で効果的なマネジメントシステムを確立・改善することにより、生産活動を効率的に推進するとともに、顧客や社会からの信頼に応える。」ことを定めている。
こうした方針に基づく取組みを通して、より高い収益力と企業価値の向上を目指すとともに、社業の永続的発展により株主、顧客をはじめ広く関係者の負託に応え、将来に亘りより豊かな社会の実現に貢献していく。
当社グループを取り巻く経営環境は、近年、変化のスピードが加速している。
こうした経営環境において、当社グループが持続的に成長するためには、多様な人材を呼び込み、外部リソースと連携しながら価値を共創することが重要と考えている。この認識のもと、当社グループが目指す方向性を広くグループ内外と共有するため、ビジョンを定めている。
ビジョンは、目指す方向性を文章で表現した「ステートメント」とそれを実現するうえで「大切にしたい価値観」から構成されており、過去に対する敬意と未来への挑戦という2つの意を込めている。また、大切にしたい価値観は、当社グループを木に見立て、いかに大きく成長させるかという視点に基づいている。

当社グループは、SDGsをはじめとした社会課題と事業活動の関連を確認・整理したうえで、社会・環境への影響度が大きく、かつ当社グループの企業価値向上や事業継続における重要度が高い課題を抽出し、7つのマテリアリティを特定している。マテリアリティに取り組むことを通じて、社会課題解決と企業価値向上の両立を目指していく。

(4) 経営環境
当連結会計年度における世界経済は、インフレの鎮静化や政策金利引き下げの動きが次第に拡がり、地域差はあるものの景気は全体として安定的に推移した。我が国経済については、物価や金利が上昇する局面が続いたものの、雇用・所得環境の改善やインバウンド需要が支えとなり、緩やかな回復基調が継続した。
国内建設市場においては、公共投資が底堅く推移し、企業の設備投資は増加傾向が継続した。建設コストに関しては、資機材価格が総じて高い水準にとどまり、労務費も繁忙により一部の地域・職種において上昇が見られた。
今後の世界経済においては、各国・地域の通商・金融政策や地政学的リスクにより、景気の先行きに不確実性の高まりが見られる。さらに、人的資本が一段と重要視され、環境面では循環型経済への対応が求められるなど、社会の要請や顧客のニーズには変化が続くことが見込まれる。こうした様々な変化や課題を確実に捉え、確かな技術力をベースとしたソリューション、そして新たな価値を提供していくことが、持続的な成長を実現するために重要であると考えている。
建設市場では、国内、海外ともに堅実な建設需要が当面は継続すると見通している。特にインフラ老朽化対策やデジタル化に関連した投資は、中長期的な拡大が期待される。一方、建設コストの上昇には依然として留意が必要であり、旺盛な需要に応えられる施工体制を整えることが大きな課題となっている。コスト管理の徹底とともに、建設業従事者の処遇改善や生産性向上などによりサプライチェーンも含めた施工力の強化を図ることが一層求められている。
<「鹿島グループ中期経営計画(2024~2026)-中核をさらに強化し、未来を開拓する-」の推進>
このような経営環境の中、当連結会計年度を開始年度とする新たな中期経営計画を策定した。中核である国内建設事業、不動産開発事業、海外事業の更なる強化を進めるとともに、技術立社としてバリューチェーンの拡充やR&D、イノベーション推進により新たな価値を創出し、社会や顧客とともに未来を開拓していく計画としている。
① ありたい姿
中期経営計画の策定にあたり、経営理念や受け継いできた企業風土、価値観などを「ありたい姿」として具体化している。当社グループの基盤である人と技術をつなぎ合わせ、顧客、さらにその先にある社会に貢献することを目指していく。

② 成長戦略の取り組み状況
「ありたい姿」を念頭に置きつつ経営環境などを踏まえ、成長戦略は、1)国内建設事業を深める、2)成長領域を伸ばす、3)技術立社として新たな価値を創る、4)サステナビリティを4つの柱としている。

1)国内建設事業を深める
当社グループの提案力や設計・エンジニアリング力を結集し、生産施設や再開発事業などの重点分野において、大型工事を着実に受注している。また、生産性を高める新工法や自動化施工技術などの開発、進化により、顧客の求める工期、品質を実現する施工力強化を図っている。加えて、個々の人材が持つ知識やノウハウを体系的にデジタル化する取り組みは、業務効率や技術水準の向上に効果を発揮し始め、多様な人材が多様な働き方で活躍できる魅力ある現場づくりに寄与している。
2)成長領域を伸ばす
建設技術・ノウハウを活かした不動産開発事業を、当社グループの強みとして、国内・海外において積極的に展開している。海外では投資と売却による回収のサイクルが確立しつつあり、地域ごとの市場動向を見極めながら収益力強化を図っている。国内では、適時の物件売却を進めるとともに、将来の利益成長につながる優良プロジェクトへの投資を着実に進めている。
また、米国において、安定的な需要が見込まれる医療・教育分野に強みを持つ建設会社を買収するなど、M&Aや外部パートナーとの連携によるバリューチェーンの拡充を推進している。
3)技術立社として新たな価値を創る
日本国内の技術研究所やシンガポールの研究開発拠点「The GEAR」では、政府機関・大学・スタートアップなどの外部パートナーと協働し、社会の要請に応える実践的な研究を進めている。また、技術マーケティングに取り組み、鹿島グループの保有技術を必要とする顧客を探索し、新たな収益源の開拓を図っている。
4)サステナビリティ
「鹿島環境ビジョン2050plus」に基づき、脱炭素、資源循環、自然再興の取り組みを推進している。社会や顧客と協力して、環境保全と経済活動が両立する持続可能な社会の実現を目指している。
当期から建設業に適用された時間外労働上限規制に対しては、継続的に推進してきた働き方改革等により、時間外労働は大幅に減少している。社員のエンゲージメントを高める取り組みや重層下請構造改革の推進等により、成長・変革を担う人材の確保・育成と持続可能なサプライチェーンの維持・強化を図っている。
また、社会や顧客から信頼される企業グループであり続けるために、サプライチェーン全体でコンプライアンスや人権の尊重を徹底している。
<利益成長の加速と財務戦略の更新>
① 現状分析・評価
中期経営計画(2024~2026)において、企業価値・市場評価の向上を目指した財務戦略を策定した。取締役会では、複数回にわたり、資本コストを踏まえ、事業ごとの資本収益性を確認、評価している。加えて、市場評価を把握し、IR活動の実績を確認した上で、成長投資や株主還元などの財務戦略を検証している。
初年度となる当連結会計年度は、目標を上回る利益を確保しており、2026年3月期についても、親会社株主に帰属する当期純利益は過去最高益となる1,300億円を目指している。
当社グループの株主資本コストは、7~8%程度と認識している。当連結会計年度のROEは10.2%となり、2026年3月期以降も継続して10%を上回る水準を確保できると見通している。当連結会計年度の実績、2026年3月期の経営目標ともに、株主資本コストを十分に上回る資本収益性を確保していることを確認している。
また、当連結会計年度の業績予想の修正と増配を公表した2025年2月以降、当社の株価は上昇しており、タイムリーな業績予想の開示と業績向上に伴う機動的な株主還元の実施が、株式市場において評価されたと認識している。
② 経営目標の達成状況
③ 今後の取組み
こうした利益成長が加速している状況を踏まえ、企業価値・市場評価の更なる向上を図るため、財務戦略を更新した。引き続き、成長に向けた施策と投資を実行するとともに、株主還元の充実を図っていく。また、株式市場からの信頼と評価を得るために、今後も経営方針や業績見込みについてのタイムリーな情報開示と投資家・市場との対話を強化していく。
④ 財務戦略更新のポイント
⑤ 投資計画
投資計画を更新し、3年間の投資総額は700億円増加の1兆2,700億円、ネット投資額は300億円増加の5,400億円を計画している。デジタル投資は100億円増加させ、建設DXを推進する。AI技術の適用範囲拡大、自動化施工技術の進化、バリューチェーンにおけるデータ連携などにより、安全性・品質・生産性の向上と競争力の強化を図る。また、デジタル人材の育成を加速していく。国内・海外の開発事業に関しては、投資が為替変動影響を含め海外で600億円増加する一方で、売却による回収も400億円増加するため、ネット投資額は200億円増加する見通しである。
当連結会計年度のネット投資額は1,820億円となり、計画の概ね3分の1程度の進捗となった。
(6) 目標とする経営指標
2026年3月期の国内建設事業は、協力会社・技能者を含めた堅実な施工体制を構築することにより、高い水準の売上高を維持するとともに、建設コスト上昇への的確な対応や生産性向上を推進し、売上総利益率の向上を目指す。国内開発事業では、これまでの投資の成果が着実に現れており、複数の販売物件を売却することを計画している。海外事業については、リスク対策の徹底と時機を捉えた事業展開により、建設、開発の両事業における収益力向上を図る。各国・地域の通商政策による2026年3月期の業績への大きな影響はないと見ているが、景気動向を慎重に見極める必要があると考えている。なお、為替レートは1米ドル145円を想定している。
このような国内外の状況を勘案し、2026年3月期の業績は5期連続の増収増益を予想し、2025年5月14日に下記のとおり公表している。
また、中期経営計画(2024~2026)における経営目標として、国内建設事業における着実な利益成長と、成長領域である不動産開発事業、海外事業の収益拡大、バリューチェーン拡充により、ROE10%以上の継続と、2027年3月期の親会社株主に帰属する当期純利益1,300億円以上、2031年3月期の1,500億円以上を掲げている。2026年3月期に、1年前倒しで1,300億円の達成を予想した上で、2027年3月期以降も利益成長を継続し、1,500億円以上の早期達成を目指す。
当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりである。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものである。
「全社一体となって、科学的合理主義と人道主義に基づく創造的な進歩と発展を図り、社業の発展を通じて社会に貢献する。」という経営理念のもと、社会・環境問題に対応し、持続的に成長できる企業グループを目指すことを、サステナビリティの基本的な考え方としている。
また、社会課題と事業活動の関係を整理し、社会課題解決と当社グループの持続的成長を両立させるための「マテリアリティ(重要課題)」として7項目を特定している。(マテリアリティの詳細については、
なお、毎年発行している統合報告書にて、サステナビリティについての取組み内容の詳細を記載している。
<
(1) サステナビリティ全般(ガバナンスとリスク管理)
グループ全体のESG経営へのコミットメントを高め、企業価値を向上させることを目的として「サステナビリティ委員会」を設置し、環境関連(E)や人材の多様性確保、人権尊重、サプライチェーンマネジメント(S)など、サステナビリティに関する取組み方針の検討・意思決定とモニタリング、推進体制を明確化(G)している。
サステナビリティ委員会は、社長を委員長とし、委員は関係する執行役員などで構成され、サステナビリティに関する取組み方針の検討・意思決定とモニタリングの機能を担い、定期的に取締役会に報告している。サステナビリティ委員会での議論を踏まえ、当社内及び国内外のグループ会社と連携し、ESG経営の更なる推進を図っている。
サステナビリティに関連するリスク管理については、定期的に実施しているマテリアリティの見直しにおいて、リスクと機会を識別、評価しており、また、社長が委員長を務める「コンプライアンス・リスク管理委員会」において、あらゆるリスクを網羅・検証した上で、重要度に応じた活動を推進している。(リスク管理の詳細については、
サステナビリティ委員会
2024年度開催実績
開催回数:6回
取締役会報告回数:4回
2024年度サステナビリティ委員会の主な内容等
体制図

(2) 個別テーマ
① 人的資本
経営理念に謳っている「人道主義」に基づく家族的な社風が、伝統的に当社の価値創造の源泉の一つであり、社員と会社が互いにWin-Winとなる企業風土を構築するうえでも重要と捉えている。
鹿島グループ中期経営計画(2024~2026)では、ありたい姿として、「高いエンゲージメントのもと多様な人材が個性を発揮する」「一人ひとりが主体性をもって新しいことに挑戦し続ける」ことを掲げ、成長・変革を担う人づくり・仕組みづくりに関する施策を推進することとしている。具体的には、①国内建設事業、成長領域、技術開発を支える「人材確保」、②社員のポテンシャルを引き出す「人材開発・育成」、③DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)、健康経営、働き方改革を基盤とした「エンゲージメントの向上」の3つを柱とし、有機的につなぐ人材戦略を推進している。

人的資本に関わる方針・計画・制度及び戦略は、重要性に応じて、経営会議や取締役会に付議・報告される体制となっている。
当社グループにおける、人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針、社内環境整備に関する方針、及び当該各方針に関する指標の内容並びに当該指標を用いた目標及び実績は、以下のとおりである。
人材育成
当社グループは、人と技術を軸に、社会と顧客の期待に応え続けることができる高度な専門人材と、その専門人材を束ねるマネジメント人材の育成に積極的に取り組んでいる。中期経営計画で掲げる成長戦略を加速させるため、社員一人ひとりが、高い専門性に加え、ビジネスやマネジメントの教養・スキルをバランスよく習得し、継続的に高めることができるように研修体系の構築を進めている。社員一人ひとりの成長が、当社グループの持続的な成長とビジネス領域の拡大に寄与する取組みを推進している。
ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン
性別や国籍、宗教の違いや障がいの有無など多様なバックグラウンドと個性を持つ人材がその能力を最大限に発揮できる環境をつくることは、イノベーションを推進するうえで重要である。
近年は特に、様々なライフイベントを迎えても安心して働き、活躍し続けられるよう、育児・介護フレックス制度の拡充など、仕事と育児・介護の両立支援に向けた各種制度を充実させている。2024年度に、ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンの更なる推進に向け、サステナビリティ委員会の下部に部署横断組織として「DE&I推進委員会」を設置した。
(2024年度に設定した新たな指標・目標)

当社は、2024年度に「2028年度までに新卒採用における総合職女性比率30%」へ目標値を引き上げた(従来は20%)。また、「2035年度までに女性管理職(課長以上)比率を10%」とすることを新たな目標として設定した。
(総合職女性採用比率、女性管理職比率の推移) 各年度4月1日時点
(注) 女性管理職比率は、「女性活躍推進法」の規定に基づき算出したものである。
また当社は、2022年度に、2023~2025年度で男性社員の育児休業・育児目的休暇取得率を50%以上とすることを目標として、出生時育児休業(産後パパ育休)制度の新設や、育児休業の分割取得などの制度拡充を進めた。その結果、前倒しで目標を達成したことから、2024年度に「男性社員の育児休業・育児目的休暇取得率100%(取得期間30日以上の取得者を50%以上に)」を新たな目標として設定した。
(男性社員の育児休業・育児目的休暇取得率の推移)
なお、上記については、当社グループに属する全ての会社における指標・目標とはしておらず、当社グループにおける記載が困難であることから、当社単体での記載としている。
従業員エンゲージメント
従業員のエンゲージメント向上は、一人ひとりのモチベーション維持・向上につながり、人材確保にも重要な取組みである。当社では組織の状態を把握する年1回のエンゲージメントサーベイに加え、個人の状態を把握する年3回のパルスサーベイを実施している。
エンゲージメントサーベイでは、「経営」「やりがい」「信頼関係」「成長機会」「制度」の5項目に関する設問(各5点満点)の平均スコアの合計である「鹿島エンゲージメントスコア」(25点満点)を指標としている。2024年度のスコアは17.65と前年度17.45を上回った。前年度比向上を目標として、エンゲージメント向上に向けた取組みを進めている。
なお、上記については、当社グループに属する全ての会社における指標・目標とはしておらず、当社グループにおける記載が困難であることから、当社単体での記載としている。
② 気候変動関連(TCFD提言に沿った開示)
「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」提言への賛同を表明し、気候変動課題をグループの主要リスクとして管理するガバナンス体制を構築している。また、気候変動によるリスクと機会を特定したうえでその影響を明確化し、目標設定のもと取組みを強化している。
当社グループのCO2排出量削減目標
(注) ※印を付した削減目標は、スコープ3のうちカテゴリ1及びカテゴリ11を対象としたものである。
当社グループのCO2排出量実績
なお、2024年度のCO2排出量実績は、2025年7月頃に当社ウェブサイトに掲載する予定である。
スコープ1・2削減のロードマップ

スコープ3目標とKPI

参考:「鹿島環境ビジョン2050plus」
3つの分野「脱炭素」「資源循環」「自然再興」が相互に関連しあっていることを認識したうえで、グループの目標や行動計画を再構築し、2024年5月に公表した環境ビジョン。
<鹿島環境ビジョン2050plus>https://www.kajima.co.jp/sustainability/policy/vision/

NbS : Nature-based Solutions
目標とKPI

③ 人権
当社グループは、「鹿島グループ企業行動規範」に人間尊重を掲げ、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」などをもとに、「鹿島グループ人権方針」を定め、人権デュー・ディリジェンスの仕組みの構築・実施をはじめとした、人権尊重の取組みを推進している。
中期経営計画では、人権の尊重をサステナビリティの重点項目とし、サステナビリティ委員会の下部委員会である人権委員会を中心に施策を推進している。また、「鹿島グループサプライチェーン行動ガイドライン」を策定し、人権尊重を含めたサステナビリティ課題に対して、協力会社を含めたサプライチェーン全体で取り組むための指針として周知している。
当社グループにおいて配慮すべき主要な人権リスクとして、「労働時間」、「ハラスメント」、「サプライチェーン上の人権」等を特定し、リスク低減に向けた取組みを推進している。
2024年度は、当社が調達する建材のトレーサビリティに関し、人権と環境の両面からハイリスク原材料の特定などを実施した。また、「鹿島グループサプライチェーン行動ガイドライン」に定める、人権尊重など13項目について、当社の協力会社(鹿島事業協同組合の組合員)を対象に、セルフチェックアンケート(サプライチェーンアンケート)を実施した。アンケートの回答率は76.8%と、目標としていた前回(2022年度)以上の回答率となった。なお、アンケートの結果は、回答企業に対しフィードバックしている(当社単体での実施)。
アンケート調査結果は、
<アンケート調査結果>https://www.kajima.co.jp/partner/survey/pdf/survey_results.pdf
参考:鹿島グループ人権方針・鹿島グループサプライチェーン行動ガイドラインに基づく取組み実績と計画

当社グループは、事業遂行上のリスクの発生を防止、低減するための活動を推進している。新規事業、開発投資などの「事業リスク」に関しては、専門委員会等が事業に係るリスクの把握と対策について審議を行っている。法令違反などの「業務リスク」に関しては、コンプライアンス・リスク管理委員会が当社グループにおけるリスク管理体制の運用状況の把握、評価を行うとともに、リスク管理の方針及び重大リスク事案への対応などについて審議を行っている。
リスク管理活動の実効性を高めるためには、あらゆるリスクを網羅・検証した上で、重要度に応じた活動を推進することが有効であることから、毎年、発生頻度及び顕在化した際の影響度の両面から分析し、企業活動上、重点的な管理が必要とされる業務リスク事項をリスク管理重点課題として選定・展開し、予防的観点からのリスク管理を実施している。顕在化したリスク事案については、早期の報告を義務付け、組織的対応によるリスクの拡大防止と再発防止に努めるなど、PDCAサイクルに基づいた実効的なリスク管理活動を展開している。
本社のリスク所管部署の担当者によって構成するリスク管理連絡会議を定期的に開催し、当社グループに関するリスク顕在化事案や法令改正、社会動向、他社における事例、さらにはリスクマネジメントやリスクコミュニケーションの手法などの情報を報告・共有し、重要な情報については適宜コンプライアンス・リスク管理委員会に報告している。
なお、リスク管理体制の有効性については、内部統制委員会が確認し、取締役会に報告している。
リスク管理体制図

事業リスクの把握と対策を審議する専門委員会
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりである。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものである。
当社グループにおいては、これらの事業を取り巻く様々なリスクや不確定要因等に対して、その予防や分散、リスクヘッジ等を実施することにより、企業活動への影響について最大限の軽減を図っている。
景気悪化等による建設需要の大幅な減少や不動産市場の急激な縮小等、建設事業・開発事業等に係る著しい環境変化が生じた場合には、建設受注高の減少及び不動産販売・賃貸収入の減少等の影響を受ける可能性がある。
また、他の総合建設会社等との競争が激化し、当社グループが品質、コスト及びサービス内容等における競争力を維持できない場合、業績等が悪化する可能性がある。
変化する状況や市場動向を踏まえ策定した「鹿島グループ中期経営計画(2024~2026)-中核をさらに強化し、未来を開拓する-」に掲げる諸施策を推進することにより、経営目標の達成と企業価値の向上を目指している。
建設工事においては、工事期間が長期に亘る中で資機材及び労務の調達を行う必要があることから、建設コストの変動の影響を受ける。主要資材価格や労務単価の急激な上昇等による想定外の建設コスト増加を請負契約工事金額に反映させることができない場合には、工事採算が悪化する可能性がある。
建設コストの変動による影響を抑えるため、早期調達及び多様な調達先の確保を図るとともに、発注者との契約に物価スライド条項を含める等の対策を実施している。
当社グループは、中期経営計画に定めた投資計画に基づき不動産開発投資、R&D・デジタル投資、戦略的投資及び業務用不動産等への設備投資を推進することとしている。販売用不動産(当連結会計年度末の連結貸借対照表残高2,807億円)の収益性が低下した場合、賃貸等不動産(同3,437億円)及び投資有価証券(同3,974億円)等の保有資産の時価が著しく下落した場合には、評価損や減損損失等が発生する可能性がある。
開発事業資産については、案件毎に価値下落リスク等を把握し、その総量を連結自己資本と対比し一定の水準に収める管理を実施している。連結自己資本は、中期経営計画期間中の国内外開発事業資産の増加を考慮しても十分耐性を持つ財務基盤を維持できる水準を確保している。また、個別案件の投資に当たっては、本社の専門委員会(開発運営委員会、海外開発プロジェクト運営委員会)等においてリスクの把握と対策を審議した上で、基準に則り取締役会や経営会議において審議している。
投資有価証券のうち政策的に保有する株式は、毎年度、全銘柄について、中長期的な視野に立った保有意義や資産効率等を検証した上で、取締役会にて審議し、保有意義の低下した銘柄は原則として売却している。中期経営計画で定めた、政策的に保有する株式の残高を『2026年度末までに連結純資産の20%未満』とする縮減目標を、2024年度末に前倒しで達成し、今後も継続的に縮減を進める方針としている。
当社グループは、北米・欧州・アジア・大洋州等海外における建設事業及び開発事業を展開しており、中期経営計画に基づき、事業規模拡大に伴う経営基盤の整備、ガバナンスの強化等を推進していく方針である。進出国の政治・経済情勢、法制度、為替相場等に著しい変化が生じた場合には、業績等に影響を及ぼす可能性がある。
海外におけるM&Aや新市場への進出等に当たっては、本社の専門委員会(海外事業運営委員会)等においてリスクの把握と対策を審議した上で、基準に則り取締役会や経営会議において審議している。
また、テロ、暴動等が発生した場合に、社員・家族の安否確保を図り、現地支援を行うため、国際危機対策委員会を設置している。
建設業界においては、建設技能労働者が減少傾向にあり、十分な対策を取らなければ、施工体制の維持が困難になり、売上高の減少や労務調達コストの上昇による工事利益率の低下等の影響を受ける可能性がある。
当社グループは、将来の施工体制を維持するため、中期経営計画に基づき、建設技能者の処遇改善、原則二次下請までに限定した施工体制の実現を目指した重層下請構造改革、人材育成や連携強化をはじめとした協力会社支援の充実など各種施策を継続して実施する方針である。
当社グループは、建設業法、建築基準法をはじめ、労働安全衛生関係法令、環境関係法令、独占禁止法等、様々な法的規制の中で事業活動を行っている。そのため、法令等の改正や新たな法的規制の制定、適用基準の変更等があった場合、その内容次第では受注環境やコストへの影響等により、業績等に影響を及ぼす可能性がある。また、当社グループにおいて法令等に違反する行為があった場合には、刑事・行政処分等による損失発生や事業上の制約、信用の毀損等の発生により、業績等に影響を及ぼす可能性がある。
これらのリスクへの対応として、関係法令等の制定・改正については、担当部署を通じてその内容を周知し必要な対応を実施している。例えば、2024年4月から建設業に適用された時間外労働の上限規制については、働き方改革、デジタル化による業務効率化や質の向上、業務内容に応じた集約化、アウトソーシングなどを進めるとともに、人員配置など施工体制の十分な検討と必要な工期を考慮した見積の提出に努めている。
また、コンプライアンス・マニュアルである「鹿島グループ 企業行動規範 実践の手引き」を策定、法令等の改正や社会情勢の変化も踏まえ適宜改訂し、全役員・従業員に周知している。加えて、コンプライアンス意識の更なる向上と定着を図るため、当社グループの役員及び従業員を対象としたコンプライアンスに係るeラーニング研修を継続的に実施しているほか、各分野の担当部署が、規則・ガイドラインの策定、研修、監査等を実施し、適正な事業活動のより一層の推進を図っている。
当社グループが提供する設計、施工をはじめとする各種サービスにおいて、重大な人身事故、環境事故、品質事故等が発生した場合には、信用の毀損、損害賠償や施工遅延・再施工費用等の発生により、業績等に影響を及ぼす可能性がある。
安全衛生・環境・品質の確保は生産活動を支える前提条件であり企業存続の根幹であることから、基本方針並びに安全衛生方針、環境方針、品質方針を定め、関係法令をはじめとする社会的な要求事項に対応できる適正で効果的なマネジメントシステムにより生産活動を行っている。安全を実現するため「建設業労働安全衛生マネジメントシステム(COHSMS)」に準拠した安全衛生管理を行うとともに、環境については、ISO14001に準拠した環境マネジメントシステムを運用している。また、品質については、土木部門・建築部門それぞれでISO9001の認証を受けており、海外関係会社は個々に必要な認証を受けている。
当社グループは設計、施工をはじめとする各種サービスを提供するにあたり、建造物や顧客に関する情報、経営・技術・知的財産に関する情報、個人情報その他様々な情報を取り扱っている。このような情報が外部からの攻撃や従業員の過失等によって漏洩又は消失等した場合は、信用の毀損、損害賠償や復旧費用等の発生により、業績等に影響を及ぼす可能性がある。
これらのリスクに対応するため、当社グループでは情報セキュリティポリシーを定め、重点的なリスク管理を実施している。サイバー攻撃を想定した訓練を実施し組織的な対応力向上に取り組んでいるほか、当社グループの役員及び従業員を対象としたeラーニングを用いた教育、点検及び監査並びに協力会社に対する啓発活動を行っている。
発注者、協力会社等の取引先が信用不安に陥った場合には、工事代金の回収不能や施工遅延等により、業績等に影響を及ぼす可能性がある。特に、一契約の金額の大きい工事における工事代金が回収不能になった場合、その影響は大きい。
新規の営業案件に取り組むに当たっては、企業者の与信、資金計画並びに支払条件などを検証し、工事代金回収不能リスクの回避を図り対応している。新たな契約形態や工事代金の回収が竣工引き渡し後まで残る不利な支払条件を提示された場合等には、本社が関与しリスクの把握と対策を講じるとともに、基準に則り経営会議において審議している。
協力会社と新たに取引を開始する際には、原則として財務状況等を審査したうえで工事下請負基本契約を締結している。また、重要な協力会社に対しては、定期的に訪問し財務状況を含めた経営状況の確認を実施している。
大規模地震、風水害等の大規模自然災害が発生した場合には、施工中工事への被害や施工遅延、自社所有建物への被害などにより、業績等に影響を及ぼす可能性がある。
災害時の事業継続計画(BCP)を策定しており、首都直下地震や南海トラフ地震等を想定した実践的なBCP訓練を実施するなど、企業としての防災力、事業継続力の更なる向上に取り組んでいる。
パンデミック(感染症の大流行等)が発生した場合には、景気悪化による建設受注高の減少や工事中断による売上高の減少等、業績等に影響を及ぼす可能性がある。
例えば、感染症の大流行に対しては、感染予防と感染拡大防止を最優先としつつ、事業継続と被害最小化を図るため、情報収集とリスク想定を行い、国内外従業員や協力会社に対して必要な対策を指導する。
2025年度リスク管理重点課題(業務リスク)
気候変動に伴う物理的リスクとしては、台風や洪水等による施工中工事への被害や施工遅延、自社所有建物への被害等により、業績等に影響を及ぼす可能性がある。
災害時の事業継続計画(BCP)を策定し、豪雨災害等を想定した実践的なBCP訓練を実施すること等により、企業としての防災力、事業継続力の向上に取り組むことに加え、防災・減災及びBCP分野におけるR&Dを推進することにより、社会・顧客に対し関連サービスを提供するとともに、災害発生時には復旧・復興等に貢献することを目指している。
脱炭素社会への移行リスクとしては、温室効果ガス排出量の上限規制による施工量の制限や炭素税の導入によるコスト増等により、業績等に影響を及ぼす可能性がある。
中期経営計画及び「鹿島環境ビジョン2050plus」に基づき、建設現場等におけるCO2排出量削減と再生可能エネルギー電源への投資に計画的に取り組むことに加え、低炭素コンクリートや省エネルギー関連分野等における保有技術の活用や新たな技術の開発等により、脱炭素社会への移行に対し事業を通じて貢献することを目指している。(気候変動リスクの詳細については、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (2)個別テーマ ②気候変動関連(TCFD提言に沿った開示)」に記載している。)
当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の概要は次のとおりである。
売上高は、海外関係会社の売上高増加を主因に、前連結会計年度比9.3%増の2兆9,118億円(前連結会計年度は2兆6,651億円)となった。
利益については、建設事業、開発事業等ともに売上総利益が増加したことにより、営業利益は前連結会計年度比11.5%増の1,518億円(前連結会計年度は1,362億円)、経常利益は同7.0%増の1,606億円(同1,501億円)、親会社株主に帰属する当期純利益は同9.4%増の1,258億円(同1,150億円)となった。
セグメントごとの経営成績は次のとおりである。(セグメントの経営成績については、セグメント間の内部売上高又は振替高を含めて記載している。)
(当社における建設事業のうち土木工事に関する事業)
売上高は、大型工事を中心に施工が着実に進捗したことから、前連結会計年度比11.2%増の4,041億円(前連結会計年度は3,633億円)となった。
営業利益は、売上高の増加に加え、売上総利益率が向上したことから、前連結会計年度比53.4%増の357億円(前連結会計年度は232億円)となった。
(当社における建設事業のうち建築工事に関する事業)
売上高は、当期が大型工事の施工量が少ない時期に当たることから、前連結会計年度比4.6%減の1兆534億円(前連結会計年度は1兆1,042億円)となった。
営業利益は、売上高が減少したものの、売上総利益率の改善により前期と概ね同水準を確保し、前連結会計年度比3.9%減の512億円(前連結会計年度は533億円)となった。
(当社における不動産開発全般に関する事業及び意匠・構造設計、その他設計、エンジニアリング全般の事業)
不動産販売事業における計画に沿った売却により、売上高、売上総利益が増加し、売上高は前連結会計年度比19.9%増の1,023億円(前連結会計年度は853億円)、営業利益は同51.0%増の278億円(同184億円)となった。
(当社の国内関係会社が行っている事業であり、主に日本国内における建設資機材の販売、専門工事の請負、総合リース業、ビル賃貸事業等)
前連結会計年度は開発系関係会社が保有する販売用不動産の売却があり、売上高及び営業利益が高水準であったことから、売上高は前連結会計年度比3.5%減の3,546億円(前連結会計年度は3,674億円)となり、営業利益は同32.1%減の164億円(同241億円)となった。
(当社の海外関係会社が行っている事業であり、北米、欧州、アジア、大洋州などの海外地域における建設事業、開発事業等)
売上高は、建設事業、開発事業等ともに増加し1兆円を超え、前連結会計年度比29.6%増の1兆1,145億円(前連結会計年度は8,596億円)となった。
営業利益は、東南アジアの建設事業や米国の開発事業等における売上総利益の増加を主因に、前連結会計年度比18.6%増の200億円(前連結会計年度は169億円)となった。
当連結会計年度末の資産合計は、前連結会計年度末比3,194億円増加し、3兆4,545億円(前連結会計年度末は3兆1,351億円)となった。これは、受取手形・完成工事未収入金等の増加1,212億円、棚卸資産(販売用不動産、未成工事支出金、開発事業支出金及びその他の棚卸資産)の増加512億円及び有形固定資産の増加484億円があったこと等によるものである。なお、政策保有株式に関しては、当連結会計年度に34銘柄を203億円で売却したことなどにより、当連結会計年度末の残高は2,535億円(前連結会計年度末は3,161億円)となり、純資産に対する比率は19.8%(前連結会計年度末は25.8%)となった。
負債合計は、前連結会計年度末比2,651億円増加し、2兆1,766億円(前連結会計年度末は1兆9,114億円)となった。これは、有利子負債残高※の増加1,793億円、支払手形・工事未払金等の増加477億円及び未成工事受入金の増加466億円があったこと等によるものである。なお、有利子負債残高は、7,920億円(前連結会計年度末は6,126億円)となった。
純資産合計は、株主資本9,991億円、その他の包括利益累計額2,589億円、非支配株主持分198億円を合わせて、前連結会計年度末比543億円増加の1兆2,779億円(前連結会計年度末は1兆2,236億円)となった。
また、自己資本比率は、前連結会計年度末比2.2ポイント悪化し、36.4%(前連結会計年度末は38.6%)となった。
(注) ※短期借入金、コマーシャル・ペーパー、社債(1年内償還予定の社債を含む)及び長期借入金の合計額
当連結会計年度における営業活動によるキャッシュ・フローは、306億円の収入超過(前連結会計年度は1,237億円の収入超過)となった。これは、税金等調整前当期純利益1,761億円に減価償却費308億円等の調整を加味した収入に加えて、未成工事受入金及び開発事業等受入金の増加389億円の収入があった一方で、未払又は未収消費税等の増減による支出823億円、法人税等の支払額639億円、売上債権の増加557億円及び棚卸資産(販売用不動産、未成工事支出金、開発事業支出金及びその他の棚卸資産)の増加155億円の支出があったこと等によるものである。
投資活動によるキャッシュ・フローは、1,048億円の支出超過(前連結会計年度は629億円の支出超過)となった。これは、有形固定資産の取得による支出666億円、貸付けによる支出537億円及び投資有価証券の取得による支出115億円があった一方で、投資有価証券の売却等による収入226億円及び貸付金の回収による収入156億円があったこと等によるものである。
財務活動によるキャッシュ・フローは、短期借入金、長期借入金、コマーシャル・ペーパー及び社債による資金調達と返済の収支が1,426億円の収入超過となった一方で、配当金の支払額478億円及び自己株式の取得による支出300億円があったこと等により、616億円の収入超過(前連結会計年度は95億円の支出超過)となった。
これらにより、当連結会計年度末の現金及び現金同等物の残高は、前連結会計年度末から5億円減少し、3,495億円(前連結会計年度末は3,500億円)となった。
当社グループでは生産実績を定義することが困難であるため、また、受注高について当社グループ各社の受注概念が異なるため、「生産の実績」及び「受注の実績」は記載していない。
(注) 1 売上実績においては、「外部顧客への売上高」について記載している。
2 前連結会計年度及び当連結会計年度ともに売上高総額に対する割合が100分の10以上の相手先はない。
(注) 1 前事業年度以前に受注したもので、契約の更改により請負金額に変更があるものについては、当期受注高にその増減額を含む。したがって、当期売上高にもかかる増減額が含まれる。
2 期末繰越高は、(期首繰越高+当期受注高-当期売上高)である。
建設工事の受注方法は、特命と競争に大別される。
(注) 百分比は請負金額比である。
(注) 1 前事業年度及び当事業年度ともに完成工事高総額に対する割合が100分の10以上の相手先はない。
2 当事業年度の完成工事のうち主なものは、次のとおりである。
e 繰越工事高(2025年3月31日現在)
(注) 繰越工事のうち主なものは、次のとおりである。
経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりである。
なお、文中の将来に関する事項は、別段の記載がない限り当連結会計年度末現在において判断したものである。
① 経営成績及び財政状態の状況に関する認識及び分析・検討内容
当社グループの当連結会計年度の経営成績は、国内建設事業(土木事業・建築事業)の売上総利益率改善に加え、国内開発事業の不動産販売事業の利益拡大等により、4期連続で前連結会計年度比増収増益を達成し、ROE(自己資本利益率)は10.2%となった。売上高(2兆9,118億円)は海外関係会社の売上高増加を主因に過去最高、親会社株主に帰属する当期純利益(1,258億円)は過去2番目の水準である。国内建設事業については、建設コストの上昇や時間外労働上限規制等の課題に適切に対応しつつ、着実に利益を積み上げることができている。
業績予想との比較では、売上高が増加し、営業利益、経常利益、親会社株主に帰属する当期純利益も業績予想を上回った。
当連結会計年度の経営成績(連結業績予想との対比) (単位:百万円)
財政状態については、当連結会計年度末の資産合計が前連結会計年度末比3,194億円増加し、3兆4,545億円となった。建設事業における売上債権(受取手形・完成工事未収入金等)が増加し、計画に基づく国内外の不動産開発投資の進捗により、開発事業資産(販売用不動産及び有形固定資産等)も増加している。投資有価証券については、政策保有株式の中長期的な縮減に向けて、保有する株式の一部34銘柄を203億円で売却したことなどにより減少した。なお、当連結会計年度末の政策保有株式の残高は2,535億円、純資産に対する比率は19.8%となり、中期経営計画に掲げた政策保有株式の残高縮減目標(2027年3月期末までに連結純資産の20%未満)を前倒しで達成している。連結自己資本は、保有株式の株価下落などにより、その他有価証券評価差額金が391億円減少したものの、1,200億円を上回る親会社株主に帰属する当期純利益の計上に伴い前連結会計年度末から479億円増加の1兆2,581億円、自己資本比率は36.4%となった。連結有利子負債残高は、国内外の不動産開発投資において外部資金を活用したことや海外の借入金における為替変動に伴う外貨換算増により前連結会計年度末から1,793億円増加し、7,920億円となったものの、D/Eレシオ(負債資本倍率)は0.63倍であり、財務の健全性は十分に維持できていると考えている。
経営成績に重要な影響を与える主な要因は、国内外の建設事業及び開発事業における需要やコストの急激な変動等の事業環境の変化である。当連結会計年度において、国内建設需要は、底堅い公共投資と民間企業の旺盛な設備投資意欲により高い水準を維持し、そうした建設需要を背景に受注競争は緩和の動きが見られた。海外における建設需要は、米国を中心に住宅需要が底堅く、景気の影響を受けにくい医療福祉・教育関連施設等の需要も堅調である。また、東南アジアでは、コロナ禍における停滞から回復し、今後の着実な成長が見込まれる。コストに関しては、国内外ともに資機材価格は総じて高い価格水準に留まっており、労務費にも上昇の傾向が見られるため、動向を注視した適切な対応が必要と考えている。
今後については、国内における建設需要が当面、高い水準で推移することが予想されるため、旺盛な需要に応えられる施工体制を確保し、工期遵守や品質保全、着実な利益確保に取り組むとともに、ICTツール等を積極的に活用した施工の自動化、デジタル化、遠隔管理化などによる安全性・品質・生産性の向上などを推進していく。また、長期的には建設技能労働者が減少していく見通しであることから、賃金・休暇面での処遇改善やデジタル技術活用による建設業の魅力向上など次世代の担い手確保に向けた施策に取り組んでいる。国内開発事業、海外事業においては、各国・地域の通商・金融政策や地政学的リスクが事業環境に与える影響を見極めつつ、リスク管理の徹底と時機を捉えた事業展開により、収益力向上を図っていく。
セグメントごとの経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容は、次のとおりである。
a 土木事業
(当社における建設事業のうち土木工事に関する事業)
売上高は、大型工事を中心に施工が着実に進捗したことなどから前連結会計年度を大きく上回る4,041億円となった。2026年3月期についても、7,500億円を超える繰越工事高や大型工事が最盛期を迎えることなどを踏まえ4,000億円を予想し、それ以降も3,500億円を超える水準が継続すると見込んでいる。売上総利益率に関しては、大型工事における追加・設計変更の獲得などにより、前連結会計年度の利益率(13.7%)を上回る15.4%となった。2026年3月期についても、各工事の順調な施工進捗や竣工を迎える工事の損益向上などにより、売上総利益率は17.5%になると予想している。
土木事業における建設需要は、インフラ更新などの国土強靭化に関連した分野や、電力需要の増加に対応するエネルギー分野などの需要拡大が続き、今後も堅調に推移すると考えている。
b 建築事業
(当社における建設事業のうち建築工事に関する事業)
売上高は、前連結会計年度と比較して施工初期段階の工事が多かったことから減収となった。2026年3月期は、大型工事の着実な進捗により、増収となる1兆600億円を予想している。売上総利益率は、建設コスト上昇や時間外労働上限規制などの課題に適切に対応したことに加え、受注時の利益率改善が進んだことから、前連結会計年度における9.2%から9.6%に上昇した。2026年3月期も、引き続き建設コストの上昇に注意が必要であるものの、売上総利益率は9.7%に向上すると見込んでいる。
競争環境については、高水準の建設需要を背景に緩和の動きが見られ、受注時の利益率は改善傾向が継続している。サプライチェーンを含めた施工体制の確保に注力するとともに、技術力や提案力を軸とした受注活動により、採算性の維持・向上を図り、2027年3月期までの中期経営計画期間中に10%を上回る売上総利益率の達成を目指す。
c 開発事業等
(当社における不動産開発全般に関する事業及び意匠・構造設計、その他設計、エンジニアリング全般の事業)
開発事業等の売上高及び営業利益は、不動産販売事業において、大型分譲マンションの引渡しやオフィスビルの売却があったことを主因に、前連結会計年度を上回った。当社が保有する賃貸ビルは総じて高い稼働率を維持しており、不動産賃貸事業も堅調に推移した。
2026年3月期については、不動産販売事業において、複数物件の売却を計画していることから当連結会計年度を上回る売上高を予想している。営業利益は、高い水準であった当連結会計年度を下回る見通しではあるものの、物件売却益の最大化を図り、更なる上積みを目指していく。国内の不動産開発事業においては、中期経営計画(2024~2026)の投資計画に基づき、レパートリー拡充、優良資産の積み上げによる収益源の多様化及び収益機会の拡大を目指している。当連結会計年度に、開発・設計・施工を一貫して担う「KALOC(カロック)」ブランドの物流施設2件が完成した。今後も更なるレパートリー拡充を推進し、当社グループのネットワークを活用したテナント誘致による安定した賃貸収益に加え、市況を見極めた売却により利益水準の引き上げを図っていく。
d 国内関係会社
(当社の国内関係会社が行っている事業であり、主に日本国内における建設資機材の販売、専門工事の請負、総合リース業、ビル賃貸事業等)
当連結会計年度は、開発系国内関係会社の保有するオフィスの売却が実現した前連結会計年度と比較して、減収減益となったが、建設事業等は安定した利益を確保した。
2026年3月期は、建設事業等が引き続き堅調に推移する見通しであることに加え、開発系国内関係会社において不動産開発物件の売却を予定していることから、増収増益を予想している。
e 海外関係会社
(当社の海外関係会社が行っている事業であり、北米、欧州、アジア、大洋州などの海外地域における建設事業、開発事業等)
海外関係会社は、米国流通倉庫開発事業における16件の物件売却や、米国建設会社(ロジャーズ・ビルダーズ社)の買収などが寄与し、売上高は過去最高となる1兆1,145億円となり、営業利益も前連結会計年度を上回った。建設事業では、豪州の特定工事においてコロナ禍によるコスト上昇や人手不足などを主因とした一過性の損失が発生したものの、東南アジアにおける追加収入の獲得などにより、前連結会計年度を上回る業績を確保している。開発事業等は、米国の流通倉庫開発事業における物件売却件数が前連結会計年度を上回った一方で、その他の地域や事業において売却時期を変更した物件があった。
2026年3月期については、各地域における施工中工事の着実な進捗と開発事業における物件売却により、売上高は引き続き1兆円を上回る見通しである。利益面でも、各地域における建設事業の業績安定化と、時機を捉えた開発物件の売却を推進することにより増益を見込んでいる。建設事業では、大洋州における着実な業績回復を見込んでいる。開発事業では、主力である米国流通倉庫開発事業における物件売却を15件程度予定していることに加え、欧州の流通倉庫や再生可能エネルギー施設において、売却時期を当連結会計年度から変更した物件を含め、複数物件の売却を計画している。
海外事業は当社グループの成長領域であり、中期経営計画(2024~2026)に定めた施策や投資を推進する。各地域の経済情勢に的確に対応し、建設・開発両事業のプラットフォームを活かして、2027年3月期に当期純利益300億円以上の達成を目指す。
② キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報
当社グループは当連結会計年度において、国内建設事業で着実な利益を確保するとともに、国内外の不動産開発事業における物件売却などによりキャッシュを創出した。これに加え、政策保有株式の売却や有利子負債の活用等によるキャッシュを原資として、投資計画に基づくR&D・デジタル投資や事業領域を拡張する米国建設会社の買収、国内外の不動産開発投資など当社グループの着実な利益成長と経営基盤強化に繋がる投資を積極的に実施した。また、配当の引き上げとともに、機動的な株主還元として、300億円の自己株式取得を実施するなど、株主還元を拡充している。
当連結会計年度末の現金及び現金同等物の残高は、前連結会計年度末に比べ5億円減少し3,495億円となった。当連結会計年度は前連結会計年度を上回る利益計上に加え、政策保有株式の売却や有利子負債の増加などによる収入があったものの、増配や自己株式取得300億円などの株主還元拡充と、中期経営計画(2024~2026)に沿った成長投資の実施などによる支出が上回った。工事の大型化に伴い、協力会社等への支払先行による一時的な資金負担が増加しているものの、現金及び現金同等物の残高は月商程度の水準を上回り、D/Eレシオも0.6倍程度と財務健全性は維持している。また、コミットメントラインを設定する等、安定的な資金運営に向けた多様な資金調達手段を備えており、建設事業における資金需要の予測は難しいものの、資金面に懸念はないと考えている。なお、有利子負債による資金調達に関して、金利上昇が見込まれる国内においては、長期、固定金利による資金調達を進めている。
中期経営計画(2024~2026)の投資計画に基づき推進するR&D・デジタル投資やバリューチェーン拡充・新規事業創出等に向けた戦略的投資、国内外の不動産開発投資などの原資として、今後も国内外における建設事業の収益力を高め、キャッシュの創出に努めるとともに、開発事業資産の計画的な売却を進めていく方針である。株主還元については、配当性向の目安を40%としており、利益成長に連動した配当金の引き上げを目指すとともに、資本効率の向上と株主還元の充実のため、自己株式の取得を継続する方針である。自己株式の取得は、当面、政策保有株式の売却実績をベースとして機動的に実施することを予定している。
また、投資計画の実施に伴う資金需要に対しては、投資効率の向上に向けて、金利動向を見極めながら弾力的に外部資金を活用していく。2026年3月末の連結有利子負債残高は8,300億円に増加する見通しであるものの、拡大する開発事業資産などに対するリスク耐性を備えるため、D/Eレシオ0.7倍程度を目安として財務健全性を維持していく方針である。
③ 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社グループの連結財務諸表は、我が国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されているが、この連結財務諸表の作成にあたっては、経営者により、一定の会計基準の範囲内で見積りが行われている部分があり、資産・負債や収益・費用の数値に反映されている。これらの見積りについては、継続して評価し、必要に応じて見直しを行っているが、見積りには不確実性が伴うため、実際の結果は、これらとは異なることがある。
連結財務諸表の作成にあたって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものは「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項 (重要な会計上の見積り)」に記載している。
特記事項なし。
当社グループは、中期経営計画に基づき、施工の自動化やデジタル化など中核事業の一層の強化に資する技術とともに、社会課題解決型ビジネスやオープンイノベーションによる新たな価値創出への挑戦を目指して、CO2削減に寄与する環境配慮型技術などの開発を進めている。
当連結会計年度における研究開発費の総額は
当社は、高層建築物の鉄骨梁端部の接合部を合理化することで品質と生産性が向上した「鹿島式ストレート梁工法」を開発し、(仮称)札幌4丁目プロジェクト新築計画(札幌市中央区)ほか8件の工事に採用した。本工法では、CFT柱と鉄骨梁の接合部に、孔あき鋼板ジベル(*1)を用いて接合部を補強する技術を活用した。これにより、梁端フランジへの水平ハンチ(*2)の取付けが不要になることで、鉄骨梁の製作手間や現場での溶接作業量を軽減できる。同時に高い構造性能を確保しながら柱周りのスペースを広げることが可能となる。
*1:鋼材とコンクリート間の応力伝達を可能とする接合技術
*2:フランジ破断を防止するために、梁端のフランジを拡幅したもの
当社は、溶接量が多い大型鉄骨柱を主な対象として、柱の全周溶接に伴う一連の繰り返し作業を全自動化する新型の「マニピュレータ(多関節型アーム)型現場溶接ロボット」を開発し、横浜市内の当社施工中ビルにおいて実導入した。本ロボットは、開先(*3)形状計測、溶接、スラグ(*4)除去の一連のフローを熟練技能者と同等以上の高い品質を確保しながら全自動で繰り返すことができるため、昼夜連続作業が可能となるほか、技能者が作業中のロボットから離れ、同時に複数台のロボットを運用するなど他の作業を行うことが可能となる。
*3:部材同士を繋ぎ合わせるために、溶接材料で埋める隙間
*4:溶接時に表面に発生する不純物
当社は、岡部㈱、㈱丸久、㈱楠工務店と共同で、コンクリート構造物の施工に不可欠な型枠工事を省力化する「型枠一本締め※工法」を開発し、全国20件以上の現場に導入した。在来工法が普及し始めた1950年代以降、画期的な技術革新がなかった型枠工事において、約70年ぶりの新工法となる。本工法は、在来工法に比べて、使用するパイプの軽量化と本数の削減、並びに施工方法の簡素化により、歩掛を約20%向上できる。これにより、技能者の身体的負担を大幅に軽減するとともに、歩掛の向上は作業時間の短縮に直結するため、時間外労働時間の上限規制への対応にも繋がる。さらに、運搬由来のCO2発生量を約50%削減できるほか、パイプ等に採用したアルミ材はリサイクル率が高いことから産業廃棄物を削減できるなど、環境負荷低減にも貢献する。
*5:作業を行う場合の作業手間を数値化したもの
④ 国内で初めてUFC(*6)道路橋床版への床版取替工事を1車線規制で実現
当社は、UFC道路橋床版を、幅員方向分割(2車線道路の場合1車線規制)で施工する名神高速道路(特定更新等)河内橋他1橋床版取替工事(岐阜県不破郡関ケ原町~滋賀県彦根市)に国内で初めて導入した。床版取替えに伴う道路面の高さ調整が不要なUFC道路橋床版の採用や、一次床版と二次床版の接合部の工夫による確実な一体化により、片側1車線の通行が可能な幅員方向分割の施工を実現し、工事に伴う交通規制等によるソーシャルロスを低減した。
*6:Ultra-high strength Fiber reinforced Concrete(超高強度繊維補強コンクリート)
⑤ 安価で締固めが不要な高流動コンクリート「LACsコンクリート※(*7)」を開発
当社は、鉄筋コンクリート構造物の施工における生産性向上を目的に、安価で締固め作業(*8)が不要な高流動コンクリート「LACsコンクリート※」(ラックスコンクリート)を開発し、横浜環状南線公田笠間トンネル工事(横浜市栄区)に初導入した。その結果、普通コンクリートで施工した場合と比べ、作業人数を約80%削減、打設時間を約60%短縮できること及び材料分離が生じることなく充填が可能で、硬化後も所定の品質を確保できていることを確認した。また、セメントよりも安価な細骨材を増量することで、トータルコストの増加を抑制した。
*7:Low Action Casting / Low Actual Cost / Limited Abandoned Compaction / Lead Abbreviation Casting / 楽(らく)コンクリート
*8:コンクリート打設中にコンクリート中の空気と過剰な水を追い出し、型枠の隅々まで行き渡らせる作業
⑥ 山岳トンネルの自動化施工システム「A4CSEL※ for Tunnel」が完成
当社が2017年から開発を進めてきた、次世代の山岳トンネル自動化施工システム「A4CSEL※ for Tunnel」(クワッドアクセル・フォー・トンネル)が完成した。当社が各種実証試験を行っている神岡試験坑道(岐阜県飛騨市)にて当システムの実証施工を行い、山岳トンネルの掘削作業6ステップ(①穿孔 ②装薬・発破 ③ずり出し ④アタリ取り ⑤吹付け ⑥ロックボルト打設)で使用する重機の自動化・遠隔化に成功し、安全性向上並びに省力化及び生産性向上に貢献できることを確認した。
当社は、SolidSurface㈱及び㈱日新システムズと共同で、「Wi-SUN FAN」を活用したロボット遠隔誘導の実証実験を羽田イノベーションシティにて行っている。従来、4GやWi-Fiの通信電波は、壁などの障害物に影響を受けるため、建物の最奥部やエレベータ内に電波が行き届かず、ロボットが一時的にコントロール不能になるという課題があったが、「Wi-SUN FAN」を4GやWi-Fiの補助として用いることで“電波が途切れることで生じるコントロール不能時間”を大幅に短縮することに成功した。これにより、更に安定したロボットの遠隔誘導が可能となり、実際の運用においても高い信頼性が確保できることを確認した。
*9:Wireless Smart Utility Network for Field Area Network profile
Wi-SUNアライアンスが策定した通信仕様。2.4GHzや5GHz帯を使用するWi-Fiと異なり、920MHz帯で使用され、複数の中継器を経由した無線マルチホップ方式により屋外のような広い場所での通信に優れる。
当社は、英国サウサンプトン大学と共同開発した立体音響技術「OPSODIS※(*10)」(オプソーディス)を搭載した小型スピーカー「OPSODIS 1」のプロトタイプを開発し、クラウドファンディングサイト「GREEN FUNDING」で2024年6月から販売を開始した。その後、約8か月で単独の国内企業による製品開発プロジェクトとしては過去最高となる支援総額6億円を突破した。また、「GREEN FUNDING」で起案された優れたプロジェクトを選出する「GREEN AWARD 2024」で、その年を象徴する卓越したプロジェクトとして評価され、最優秀賞を受賞した。
*10:Optimal Source Distribution(最適音源配置)
当社は、森林内の自律飛行が可能なドローンなどを活用して取得した森林上空と森林内のデータを解析することで、森林を構成する樹種毎のボリュームや樹々毎の位置・樹高などを点群データ化し、評価する技術を開発した。本技術を用いて、自治体や企業などの森林所有者が行う森林づくり計画の提案から森林経営、活用支援までをトータルにサポートするサービス「Forest Asset※」(フォレストアセット)の提供を開始した。当サービスを活用することで、森林管理の生産性が向上するほか、森林資源を生かしたJ-クレジット制度や自然共生サイト認定の申請など、森林が持つ付加価値向上に向けた取り組みが可能となる。
当社と京都大学は、月面人工重力居住施設「ルナグラス※」の実現に向けた第一歩として共同研究を開始した。これまで、宇宙居住に必要な3つの構想(人工重力、縮小生態系、人工重力交通システム)を掲げ、基礎的な概念の構築を行ってきた。本共同研究においては、これまでの概念検証から一歩進め将来的な実現に向けて、月面での人工重力居住施設の構造成立性、施工成立性、居住性、人体への影響評価、閉鎖生態系(ミニコアバイオーム)の確立について、研究を進める。
(3) 成長・変革に向けた経営基盤整備とESG推進
① 大気中から回収したCO2を用いたコンクリート製造を実証
当社と川崎重工業㈱は、川崎重工業㈱が保有するDAC(Direct Air Capture)技術を用いて開発した、大気中から1日5kg以上のCO2を99%以上の高純度で回収できるCO2分離・回収装置と、当社らが開発したCO2吸収コンクリート「CO2-SUICOM※(*11,12)」(シーオーツースイコム)にCO2を吸収・固定させるための炭酸化養生槽(*13)とを組み合わせたシステムを構築した。このシステムをプレキャストコンクリート製品工場に設置して実証実験を行った結果、所定のCO2固定量並びにコンクリートとしての品質が得られることを確認した。同システムを用いて舗装ブロック「CUCO※(*14,15)-SUICOMブロック」を製造し、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)の「CUCO※-SUICOMドーム」(愛称:サステナドーム)のエントランスの一部に敷設した。
*11:CO2-Storage Utilization Infrastructure by Concrete Materials
*12:当社、中国電力㈱及びデンカ㈱の登録商標
*13:安定した環境でCO2を吸収・固定することを目的とした、CO2を封入したコンクリートの養生装置
*14:Carbon Utilized Concrete
*15:当社、デンカ㈱及び㈱竹中工務店の登録商標
② 低炭素型コンクリート「ECM コンクリート※(*16)」を成瀬ダム堤体へ本格導入
当社は、成瀬ダム堤体打設工事(秋田県雄勝郡東成瀬村)において、低炭素型コンクリート「ECM(エネルギー・CO2ミニマム)コンクリート※」計1,526m3を、ダム堤体と造成岩盤コンクリートの一部に国内で初めて導入した。当コンクリートは、普通セメントの代わりに、高炉スラグ微粉末を60~70%混合したECMセメントを使用する。当セメントは、一般的なダムコンクリートに用いられる中庸熱フライアッシュセメントと比べ、製造時に排出されるCO2を52%削減できる。これにより、本ダムの建設工事に伴い発生するCO2排出量を73t削減した。
*16:当社及び㈱竹中工務店の登録商標
③ フィリピンのサンゴ礁再生プロジェクトにおいてコーラルネット※と環境評価技術を実証
当社は、東京科学大学及びフィリピン大学と共同で、衰退の危機にあるサンゴ礁の保全と再生を目的としたプロジェクト「InCORE※(*17)」(インコア)をフィリピン・パナイ島タンガラン湾で2023年2月から2024年7月にかけて実施した。その結果、数値シミュレーション技術等による環境評価と当社の「コーラルネット※」を用いて行ったサンゴ再生試験において、複数の地点でサンゴの成長やサンゴ幼生の着生が認められるなどの効果を確認した。このプロジェクトはアジア開発銀行の国際公募事業に採択されたものである。
*17:Integrated Approach for Coral Conservation and Rehabilitation
(国内関係会社)
舗装に関する新技術の開発
建設副産物の有効利用とCO2排出量削減を目指し、100%リサイクル安定処理路盤材を開発した。この路盤材は、再生クラッシャランと高炉スラグ微粉末などのリサイクル材のみを原料としており、一般的なセメント安定処理路盤と同等の圧縮強度を有するため、舗装構造の高耐久化の効果も期待できる。
また、作業の省力化を図るため、25tタイヤローラ搭載式平板載荷試験機を開発した。この試験機は、試験に必要な反力を十分得ることができ、100㎏程度の載荷板の設置・撤去作業を自動化することで、省力化と安全性の向上を実現した。現在、この技術は、空港の滑走路舗装工事で採用している。
PFAS(*18)汚染対策技術の開発
PFAS汚染対策を目的として、新開発の特殊吸着材を用いた固定化技術及び低温による加熱浄化工法を開発した。
この特殊吸着材は、鉱物主体の原料に電荷を付与し、PFASの優先吸着性能を向上させており、室内実験では、一般的な吸着材の活性炭のPFAS溶出量75%減に対し、95%減と効率的な流出防止が期待できる。一方、熱処理の場合、PFASは1,100℃の高温加熱処理が推奨されているが、処分場への運搬による拡散リスクや汚染土の掘削除去コストが懸念される。新開発の浄化工法は、室内試験で450℃と低温での浄化に成功したものであり、規制対象を含めた49,000種類のPFASを除去できることが確認できた。
今後、温度と浄化効果の関係を評価するとともに、固定化技術及び原位置での加熱浄化工法の実証実験を行い、開発を進めていく。
*18:Perfluoroalkyl and Polyfluoroalkyl Substances
発がん性がある難分解性物質で、人体や環境中に長期間滞留するため「永遠の化学物質」とも呼ばれている。
研究開発活動は特段行われていない。
(注) 工法等に「※」が付されているものは、当社及び関係会社の登録商標である。