文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1) 経営方針
当社は、企業理念として掲げた「価値ある建造物とサービスで安心して暮らせる持続可能な社会をつくる」を実践するため、サステナビリティスローガン(基本方針)「みんなでつくる みんなが輝く」を策定しております。この基本方針のもと、当社は、ひと、まち、自然を大切につなぎ、人々が活き活きできる場を創ることで「みんなが輝く社会」を実現してまいります。
(2) 長期ビジョン、中長期的な経営戦略
当社は、コロナ禍やグローバル化の進展など社会・事業環境の絶え間ない変化と価値観の多様化を受け、自らの社会における存在価値や将来ありたい姿、提供していく価値について改めて見つめ直し、2023年2月に長期ビジョンを「西松-Vision 2030」に刷新するとともに、「中期経営計画2025」を策定いたしました。
「西松-Vision 2030」では、「あたりまえに安心でき 活力がわく地域やコミュニティを 共に描きつくる総合力企業へ」という長期ビジョンを掲げ、当社がこれまで取り組んできた国内外の建設事業を中心とする「社会基盤整備」に加え、エネルギー、環境保全、社会・都市機能、防災・安全、不動産開発など、地域に寄り添い共に社会課題を解決する「社会機能の再構築」に取り組んでまいります。これらの「価値共創活動」を拡大することで、当社グループの成長を目指すとともに、社会に対して「安心・活力・つながり」を提供してまいります。
「中期経営計画2025」では、2022年度に収益が悪化した建築事業と国際事業(土木)の収益改善に注力するとともに、「西松-Vision 2030」実現に向け、「脱炭素」や「価値を生み出すアセット」等へ積極的な投資を実施いたします。
なお、「西松-Vision 2030」及び「中期経営計画2025」につきましては、当社ウェブサイトに掲載しておりますので、併せてご参照ください(https://www.nishimatsu.co.jp/ir/library/plan.html)。
(3) マテリアリティ
当社は、「西松-Vision 2030」の実現に向け、既存の重要課題(マテリアリティ)をベースとして、企業理念及び長期ビジョンを踏まえたマテリアリティに進化させるため、以下のとおり、当社が事業を通じて取り組むべきマテリアリティを特定いたしました。
・安心でき、活力がわく社会の実現
・現場力を最大限発揮できる組織づくり
・価値創出を最大化できるパートナーシップの形成
・安心とワクワクにつながる技術戦略
・多様な人財がワクワクし活躍できる仕組みづくり
・コンプライアンスの遵守
当社は、特定したマテリアリティの重要性を認識したうえで、課題解決に向けた実効性のある経営、事業活動に取り組んでまいります。マテリアリティにつきましては、当社ウェブサイトに掲載しておりますので、併せてご参照ください(https://www.nishimatsu.co.jp/esg/materiality.html)。
<マテリアリティ>

(4) 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社は、「中期経営計画2025」において、目標とする業績指標として連結売上高及び連結営業利益を掲げております。また、目標とする財務指標として、ROE、自己資本比率、D/Eレシオ、連結配当性向及び自己資本配当率(DOE)を掲げております。特にROEは持続的成長への競争力を高めた結果として向上するものであり、当社の目指す経営方針と合致することから、目標とする財務指標として採用しております。
(5) 経営環境並びに優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
当社を取り巻く環境は、コロナ禍やグローバル化の進展、価値観の多様化を受け、絶え間なく変化しています。建設業界におきましては、政府建設投資、民間建設投資ともに増加傾向にありますが、建設資材価格の高止まりや人手不足、専門業者不足による労務費高騰の影響により、注視が必要な状況が続いております。
このような事業環境のもと、当社グループは、長期ビジョン「西松-Vision 2030」及び「中期経営計画2025」の達成に向けて、計画に掲げた施策を着実に実行してまいります。
国内土木事業におきましては、2024年度に低下した工事荒利益率の改善に取り組むほか、洋上風力等の新分野への挑戦を継続しております。また、公共工事の受注規模拡大に向けた技術提案部署の人財確保にも引き続き取り組んでまいります。
国内建築事業におきましては、2025年4月の中部支社設立により中部エリアにおける事業の拡大を目指すほか、生産性向上による更なる利益率の向上に取り組んでおります。また、人財の確保につきましても引き続き取り組んでまいります。
国際事業におきましては、土木は受注の期ずれへの対応を強化することで安定した収益の確保を目指しており、建築は受注規模拡大に向けた取り組みを強化してまいります。
アセットバリューアッド事業におきましては、市場環境や金利上昇により新たな事業の仕込み等が遅れておりますが、「循環型再投資モデル」への進化を目指すべく、強化策を拡充してまいります。
地域環境ソリューション事業におきましては、再生可能エネルギー事業の開発やまちづくり事業の内容の検討に取り組んでおります。また、事業におけるリスクの評価と管理に注力してまいります。
当社は2025年4月、コーポレート部門を設置する機構改革を実施しました。コーポレート部門の役割を明確化し、強化することにより、企業戦略と事業戦略が相互に連携し、全社的な視点での経営を推進してまいります。
財務上の課題として、「中期経営計画2025」の3年間につきましては、事業活動により獲得した資金に加え、有利子負債を活用し、成長投資に向けた資金を確保してまいります。また、財務健全性の観点から、2025年度の自己資本比率30%程度、D/Eレシオ1.5倍程度を堅持してまいります。
2025年度は、当社グループの「中期経営計画2025」の最終年度になります。計画の基本方針に基づき、引き続き企業価値向上を図るとともに、最終的には当社に関わる全員が幸せになる「魅力あるゼネコンNO.1」を目指して邁進してまいります。
(業績及び財務計画(連結))
(投資計画)
当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
当社グループは、サステナビリティに関する課題を検討・審議することを目的として、サステナビリティ委員会(取締役会の諮問機関として社内取締役、社外取締役及び外部有識者で構成)を設置しております。サステナビリティ委員会は、取締役会議長からの諮問に基づき、長期視点やマルチステークホルダーの視点に立ったマテリアリティや、マテリアリティに紐づく環境変化(リスク・機会)への対応方針等に関する事項を検討・審議し、取締役会に答申します。また、マテリアリティ解決及び持続可能な社会の実現に向けたサステナビリティ戦略について検討・実践することを目的として、サステナビリティ戦略会議を設置するとともに、同会議内にサステナビリティ推進のために必要な委員会(リスク・機会マネジメント委員会、人権委員会、DE&I委員会、環境委員会)を設置しております。
取締役会は、サステナビリティ委員会の答申を踏まえ、サステナビリティ課題に関する対応方針等を決定します。また、「リスク管理責任部署-サステナビリティ戦略会議(リスク・機会マネジメント委員会、環境委員会)-経営会議-取締役会」というサステナビリティに関するリスク・機会の報告体制及び監督・指示体制を構築するとともに、サステナビリティに関するリスク・機会への取組みに係る報告を受けて、その具体的対応策、目標、進捗状況について監督します。
経営会議は、取締役会による監督のもと、最高執行レベルの意思決定機関として、サステナビリティに関するリスク・機会への取組みに関する具体的対応策及び目標を決定し、進捗状況を管理します。
サステナビリティ戦略会議は、「長期視点に立ったリスク・機会のマネジメント」及び「事業活動におけるリスク・機会のマネジメント」を実施します。同会議は、サステナビリティに関するリスク・機会の情報を集約し、組織横断的にリスク等を監視し、当社グループのリスク等を全社的リスク管理プロセス(ERM)に統合し、総合的に管理します。
以上のガバナンス体制により、当社グループのサステナビリティ課題に関する取り組みを推進しております。
②リスク管理
当社グループのサステナビリティに関するリスク・機会の管理を適正に行うため、社内規程を定め、損失の最小化と持続的成長を図ります。
サステナビリティ戦略会議(リスク・機会マネジメント委員会、環境委員会)は、リスク等情報の集約を行い、組織横断的にリスクを監視し、当社グループのリスクを総合的に管理します。同会議は、個別リスクごとに責任部署を定め、当該リスクに関する「予防的リスク管理体制」と「発見的リスク管理体制」を構築します。
リスク管理の整備・運用上の有効性評価は同会議が行い、問題がある場合には、各々の責任部署に対し是正勧告を行います。同会議は、自ら定めた個別リスクの責任部署及び予防的リスク管理体制・発見的リスク管理体制並びに当該リスクの管理状況を経営会議及び取締役会に報告します。
経営会議はサステナビリティ戦略会議からの報告内容(重要リスク、具体的対応策及び目標)を審議・承認し、必要に応じ同会議に指示します。経営会議は承認した内容を取締役会に報告します。
取締役会は、「リスク管理責任部署-サステナビリティ戦略会議-経営会議-取締役会」というリスクに関する報告体制及び監督・指示体制を構築し、監査室はその運用状況を監視します。取締役会は経営会議からの報告内容を審議し、会社としての最終的な承認を行います。また必要に応じて経営会議に指示し、監督します。
(注)サステナビリティに関する考え方及び取組の詳細な情報については、2025年9月頃に当社ウェブサイト(https://www.nishimatsu.co.jp/esg/report/)において公表予定の「
(2) 気候変動への対応
当社グループの気候変動への対応に係る考え方及び取組は、以下のとおりであります。
①ガバナンス
(取締役会による監督)
当社は、気候関連リスクを回避・低減・移転し、また気候関連機会を実現するための戦略を重要な経営課題と位置づけ、企業として適切に対応することで持続的な成長につながると考えています。そのため「取締役会」は、気候関連課題に関する「経営会議」からの報告内容を諮問機関であるサステナビリティ委員会(社外有識者、社外取締役、社内取締役から構成)と連携し、気候関連リスクおよび機会に係る具体的対応策、進捗管理について監督します。
(経営会議による決定・承認)
「経営会議」は、気候関連課題に関し「サステナビリティ戦略会議」からの報告を受け、気候関連リスクおよび機会に係る重要事項と具体的対応策の決定、更に対応策の進捗状況の承認を、最高執行レベルの責任として行い、年2回の頻度で取締役会に報告します。
(サステナビリティ戦略会議による管理)
「本社(支社・現場)各部門」は、気候関連リスクおよび機会の重要項目を抽出し、リスクおよび機会対応策の立案と進捗報告を行います。「サステナビリティ戦略会議」に設置する 「環境委員会(作業部会:地球環境対策部会)」は、「本社(支社・現場)各部門」からの報告を受け、抽出した気候関連リスクおよび機会の特定を行い、対応策と進捗状況を確認し、サステナビリティ戦略会議に報告します。 「サステナビリティ戦略会議」は最終確認をし、全社リスク管理(ERM)と統合し、「経営会議」に報告します。

②リスク管理
気候変動への対応に係るリスク管理については、上記「①ガバナンス」に記載のとおりです。
③戦略
(戦略/シナリオ分析)
当社は不確実性の高い将来に対応するためTCFD※1が提言するシナリオ分析を行なっています。産業革命以前と比較した気温上昇1.5℃と4℃のシナリオを採用し、主軸の「建設事業」のほか、「アセットバリューアッド事業」、「地域環境ソリューション事業」を対象としており、これには協力会社や資材調達を含めたバリューチェーン全体を考慮しています。また、気候関連リスクおよび機会は長期間にわたり影響を与える可能性があるため、中期経営計画2025の年限にあたる2025年度までを「短期」、2026年度~2030年度までの期間を「中期」、2031年度以降を「長期」と設定しました。

(戦略/気候関連リスク及び機会の重要項目)
シナリオ分析により、事業に影響する気候関連リスクおよび機会を抽出のうえ、特に財務・事業戦略上で重大な影響を及ぼすものを重要項目として決定しました。

(戦略/1.5℃シナリオ 財務インパクト評価)
重要項目としたリスクおよび機会の財務インパクトは、ウォーターフォールグラフを用いて、2021年度の営業利益への「影響額の増減」として2030年度/2050年度および1.5℃/4℃の世界観でそれぞれ表しました。なお、2024年度は、財務インパクト試算のもととなる社内数値や外部のパラメータの一部を現状にあわせて見直しました。

(戦略/4℃シナリオ 財務インパクト評価)

(戦略/シナリオ分析結果)

④指標及び目標
(指標と目標/カーボンニュートラル社会移行計画(ZERO50ロードマップ/バリューチェーン全体))
ZERO50ロードマップは、2050年のCN社会にむけバリューチェーン全体でのネットゼロを実現する計画で、直接的なCO2削減施策に加え、ガバナンスの高度化・ステークホルダーとの連携などの削減を推進する関連活動の実践、CN社会にむけてビジネスモデルの転換を志向した内容となっております。

(指標と目標/カーボンニュートラル社会移行計画(ZERO50ロードマップ/スコープ1+2))
「ZERO50ロードマップ」の直接操業(スコープ1+2)部分のネットゼロにむけたロードマップとなります。再エネ電力の標準化、次世代燃料や、技術革新(脱炭素に資する建設機械や機器類)の導入に加え、ネガティブエミッション技術の活用によりCO2のネットゼロに挑みます。

(指標と目標/カーボンニュートラル社会移行計画(気候関連リスク及び機会の対応計画)


(指標と目標/カーボンニュートラル社会移行計画(ZERO30ロードマップ2023)
本ロードマップは、『ZERO50ロードマップ』のマイルストーンとして、2030年を年限とした脱炭素社会形成のためのCO2排出量削減計画です。SBT1.5℃認定基準※1を超える野心的なスコープ1+2の削減計画(目標①)、スコープ3カテゴリー11の削減計画(目標②)および再生可能エネルギー発電事業による創エネ計画(目標③)から成っています。

ZERO30ロードマップ2023では、2030年度までに、スコープ1+2を(再エネ電力や環境配慮型燃料の導入などで)54.8%、スコープ3カテゴリー11を(ZEB設計を推進する事により)27%削減し、同時に再エネ発電事業として2030年度における当社のスコープ1,2の残余排出量(3.2万t-CO2)を上回る108千MWhの再生可能エネルギー発電(4万t-CO2削減 相当量)を実施します。
スコープ1+2の削減状況は、基準年度である2020年度比においては38.4%減と堅調に推移しています。2024年度のCO2排出量は、再エネ電力の導入が進む一方で、土木事業における軽油使用量が増えたことにより目標に対し未達となっています。スコープ1の削減について、2024年度は新たな環境配慮型燃料の使用に関する実証を行い、現場での導入に向けて準備を進めました。2025年度以降は、再エネ電力のさらなる活用と新たな環境配慮型燃料を視野に入れ、スコープ1+2の削減を推進していきます。

2024年度のスコープ3カテゴリー11は、2023年度からは増加しているものの、削減計画に対しては進捗が進み、目標を達成しています。
これには、竣工建物における再エネ電力の導入が削減計画以上に進んだこと、設計施工物件におけるZEB設計(BEIの低減)が大きく寄与しています。

創エネ発電については、2023年度までの地熱発電や太陽光PPAに加え、2024年度は木質バイオマス発電施設が稼働しました。発電実績としては、約12千MWhで計画発電量には達しませんでしたが、前年度と比べ進捗しています。
現時点で、太陽光発電のPPA3件、地熱発電1件、木質バイオマス発電1件の計5件の再エネ発電施設が稼働し、約3MWの発電出力で再エネ電力を社会に供給しています。
2030年度の目標にむけて、2025年度は新たにメタン発酵バイオガス発電等の稼働を予定しており、今後も各所で太陽光、小水力など発電施設の稼働に向けた事業を推進します。

(指標と目標/CO2排出量実績)

(注)気候変動への対応に関する詳細な情報については、当社ウェブサイトの
(https://www.nishimatsu.co.jp/esg/environment/carbon_neutral/tcfd_archive.html)
人的資本にかかる考え方及び取り組みは、以下のとおりであります。なお、人財育成等について、連結グループの主要な事業を営む提出会社において、関連する指標のデータ管理とともに、具体的な取り組みが行われているものの、必ずしも連結グループに属する全ての会社では行われておらず、連結グループにおける記載が困難であるため、以下に記載する事項は当社グループにおける売上の大半を占める提出会社のものを記載しております。
①ガバナンス
人的資本に係るガバナンスについては、「(1)サステナビリティ全般 ①ガバナンス」に記載のとおりです。
②リスク管理
人的資本に係るリスク管理については、「(1)サステナビリティ全般 ②リスク管理」に記載のとおりです。
③戦略
「人財獲得競争の激化」、「人財の流動性の高まり」、「働き方に対する価値観の変化」といった社会変化の中で持続的に成長していくために、当社では、事業に必要な人財の確保と定着、育成・活躍支援を通して組織力を最大化する人財配置の実現、挑戦・連携意識が高い風土醸成を図りながら、社員エンゲージメントを向上させていくことが課題となっています。
当社は、西松-Vision2030、中期経営計画2025における変革プログラムである「意識・行動改革」「組織能力強化」「成長資源創出」の3つの枠組みに基づき、短・中期目標を掲げ具体的な取り組みを進めています。今後も当社がもつ人財の強みを活かしつつ、社員一人ひとりを「資本」としてとらえ、持続的に人財の価値を高めていく施策を実施していきます。
〈人財育成方針〉
〇多様な人財の確保
新卒採用については採用活動強化のため、2023年度よりリクルーター制度を導入しました。これにより学生の当社への志望度の高まりなど一定の効果が現れつつあります。今後もリクルーターと学生との接点を増やし当社の魅力を伝えていくことにより、採用はもとより採用後のミスマッチの減少にもつなげていきます。
キャリア採用者数については、2024年度は採用ターゲットの幅を拡げた結果、大きく増加しました。また、2024年度より、選考段階で採用に至らなかった学生を優遇して採用する「選考経験者優遇採用」、転職や結婚、出産などの理由で退職された方を優遇採用する「アルムナイ採用」を取り入れるなど、採用チャネルの拡大を図っています。
今後も新卒採用、キャリア採用の他、外国人の採用等にも多様性の枠を広げていきます。
〇社員育成機会の提供
当社では、高い技術力の養成と広い視野をもって社会の変化に対応できる人財の育成を目的として、社内の人財育成体系である西松社会人大学を2019年度に設置し、講座の拡充を図ってきました。2024年度は、自律的な学びを促進するため、これまでの画一的な階層別研修を主体としたものから、受けたい講義を受けたい時に受けられるオンデマンド講義も一部の学部で試験導入いたしました。今後も自律的に学ぶ人財づくりを強化すべく、社内研修講師の指導力強化、自らのありたい姿を描きやすくするキャリアデザイン研修や相談窓口の設置などを検討していきます。
〇挑戦者意識の醸成
当社では挑戦者意識を高めるための取り組みとして、社長と社員の対話を継続的に行っており、ビジョンの浸透と、社員が自由に発言できる風土づくりを行っています。2024年度は、社員の挑戦行動を人事評価の項目の一部として組み入れました。今後は、特に高い挑戦意識を持ち模範的な行動をした社員を表彰する仕組みを整えるなど、ビジョンや心理的安全性、挑戦意識を各職場の隅々まで行きわたらせる取り組みを計画しています。さらに2025年度より、社長と社員の対話に加え、全ての職場において上司部下間の定期的な対話を実施していきます。
〇連携意識の醸成
当社は2020年度より、全社組織体制及び組織横断的な人財配置について検討を行う「組織・人財検討会議」を開催し、部門を超えた人財の交わりを進めてきました。今後さらに、部門間・職種間の心理的な障壁を取り除き、より連携意識を高めるため、連携を賞賛するための仕組みについても実行していきます。
〇人財情報の見える化(タレントマネジメントシステムの構築)
当社は、社員1人ひとりの能力を最大限に活かすため、データに基づいたマネジメントへの転換を目指し、タレントマネジメントシステムの構築に取り組んでいます。これまで社内に散在していた情報を一元化し、社員の保有能力(自己申告)、性格や志向・仕事観(外部サーベイ)などの情報を収集・蓄積してきました。
今後は収集した社員の保有能力データを客観化し、社員の詳細な業務経験、キャリア志向、対話の記録などもデータとして蓄積し、人財の適正配置、自律的な学びの促進、サクセッションプランに活用していく予定です。
〈社内環境整備方針〉
多様な人財が活躍するための環境整備については、すべての人財が能力を最大限発揮できるように、コアタイムがないフレックスタイム制、在宅勤務制度などの導入、利用促進を進めています。また、女性社員が出産や育児などのライフイベントや女性特有の健康課題によってキャリアを諦めることがないよう、全国の女性技術系職員による「働き方紹介セミナー」の開催や、社長と女性社員との対話の機会を設けるなど、多様な人財が長く活躍し続けられる環境づくりも行っています。今後も多様な人財が働きやすい環境づくりに向けて積極的に取り組んでいきます。
〈社員エンゲージメントの向上〉
社員のエンゲージメントが高まることにより、人財の定着や生産性の向上につながることが期待されます。当社では、2023年度より「エンゲージメント調査」を実施しており、調査結果については分析のうえ、各組織にフィードバックし、全社及び各組織における改善に向けた取り組みにつなげていきます。今後も課題発見、対策立案、実行、モニタリング、対策の見直しのサイクルを着実かつスピード感をもって循環させ改善を図っていきます。
④指標及び目標
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりであります。
全社的リスク管理プロセス(ERM)として、サステナビリティ戦略会議において、長期視点に立ったリスクおよび事業活動におけるリスクの管理を行っております。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
長期視点に立ったリスクは、持続的な企業価値向上を目指し、中長期的なスパンにおいてバックキャストの視点でリスクマネジメントが必要な、企業レベルの重要リスクとして捉えております。サステナビリティスローガン(基本方針)やマテリアリティ等にもとづき、成長におよぼす影響度と発現時期の観点から評価した6項目と気候変動リスクを併せた下記7項目について、シナリオ分析をした上で対応方針を策定し、モニタリングしています。
①人財リスク(技術者不足)
②人財リスク(所長候補人財の不足)
③建設業担い手不足のリスク
④業界再編リスク
⑤技術開発リスク
⑥長期市場リスク
⑦気候変動リスク
※気候変動リスクの詳細に関しては、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (2)気候変動への対応」に記載のとおりです。
事業活動におけるリスクは、四半期ごとに個別リスクの管理状況のモニタリングと有効性評価を行います。個別リスクは影響度と発生可能性を3段階でリスクマップを用いて評価し、影響度については、財務、資産保全に関する定量的な指標、および業務継続に関する定性的な指標を社内で定めています。ただし、以下は、多岐にわたる個別リスクを主要なリスクとして、一部集約して記載しています。

リスクマップの抜粋(○の番号はリスク項目に対応する個別リスクです)
① 資材価格及び労務費等の上昇リスク
長期にわたる工事を受注する時点で将来の資材等調達価格を適切に予測することが困難な場合があるため、工期中に資材価格や調達の状況が大きく変わることがあります。これにより建設コストが大幅に増加することがありますが、当該建設コスト増加分を工事請負金額に反映させることができない場合には、受注時に計画していた工事損益が変動し、当社グループの業績等に重要な影響を及ぼす可能性があります。
上記のリスクに対応するため、工事請負契約の締結にあたり、適正な価格、適正な工期で工事を実施できるよう、発注者に対して協議の申し入れを行っております。また、施工条件や資材価格動向の精査による物価変動リスクの定量評価、主要資材の早期調達等により、工事損益の確保に努めております。
② 施工品質リスク
工事目的物の品質管理には万全を期しておりますが、重大な欠陥が発生した場合には、顧客からの信頼を損なうことに加え、契約不適合責任に基づく損害賠償金の支払等により、当社グループの業績等に重要な影響を及ぼす可能性があります。
上記のリスクに対応するため、各種の社内基準書に準拠した施工、品質パトロールの実施、社内組織を活用した施工管理検討の実施、契約不適合事例や不具合事例の全社水平展開、各種研修の実施等により、工事目的物の品質管理に努めております。
③ 長時間労働に関するリスク
長時間労働は、従業員の健康リスクを増大させるほか、エンゲージメントや生産性の低下および離職者の増加、さらには法令違反による行政指導を受けた場合の社会的信用の失墜など当社グループの事業遂行に重要な影響を及ばす可能性があります。
上記のリスクに対応するため、2017年度以降、フレックスタイム制度や在宅勤制度の導入、現場工務革新センターの設置による現場業務の見直し、具体的な時間外労働削減の取組の全社共有などを進め、段階的に36協定届出の時間を低減してまいりました。また、時間外労働状況の見える化システムによるリスク管理を徹底し、工事進捗状況などにより長時間労働リスクの高まった現場に対しては、人員の増強、支社・支店による支援強化などの対策を適時に講じております。
④ コンプライアンスリスク
当社グループは、事業活動に関連する法令・規制の遵守の徹底に加え、従業員等によるコンプライアンス遵守を推進しておりますが、個人的な不正行為等を含め、重大な法令違反等を引き起こした場合には、顧客その他ステークホルダーからの信頼を損なうとともに、当社グループの業績等に重要な影響を及ぼす可能性があります。
上記のリスクに対応するため、各部署に対するコンプライアンス監査によりコンプライアンスに係るリスク管理状況を確認し、問題があれば積極的に解決するとともに、企業風土の改善に取り組んでおります。また、危機意識の風化防止などを目的としてコンプライアンス研修を実施しております。その他、内部通報窓口を設置するなど、コンプライアンス違反事由が発生した際に適切かつ迅速に対応できる体制を整備しております。
⑤ 情報セキュリティリスク
当社グループの事業活動において、情報システムの利用とその重要性は増大しております。コンピュータウイルスその他の要因によって、かかる情報システムの機能に支障が生じた場合、当社グループの事業活動や業績等に重要な影響を及ぼす可能性があります。また、当社グループは、設計・施工をはじめとする事業活動を通じて構造物やお客様に関する情報、取引先の個人情報あるいは機密情報その他様々な情報を取り扱っております。これらの情報が外部からのサイバー攻撃や従業員の過失等によって漏洩又は紛失した場合、損害賠償、復旧費用等の発生により、当社グループの業績等に重要な影響を及ぼす可能性があります。
上記のリスクに対応するため、当社グループで情報セキュリティポリシーを定め、外部からの不正アクセス防止、コンピュータウイルス対策、従業員の教育等、情報セキュリティ対策の継続的な強化に努めております。
⑥ 人財確保に関するリスク
当社事業で必要とされる専門性を持つ人財や、リーダーの確保と育成が推進できない場合には、経営計画の遂行に影響を及ぼす可能性があります。
上記のリスクに対応するため、次の通り、人財の採用、育成、流出防止及び生産性向上に努めております。採用は、初任給の増額、現場勤務手当や若手社員の帰省旅費制度の創設など制度面の改定に加え、当社の魅力として評価されている「社員・社風の良さ」を体験してもらう機会としてのインターンシップや現場見学会の強化のためリクルーター制度などの新卒採用体制強化を図っております。育成は、専門力や一般教養を含めた多様な能力獲得の機会整備、マネジメント能力・リーダーシップ能力の開発を目的とした社員研修カリキュラムの充実を進めております。人財の流出防止のため、対話の活性化による心理的安全性の高い職場風土の醸成や柔軟な働き方の促進等を行うことでエンゲージメントの向上を図っております。加えて、現場における生産性向上に向けて、デジタル技術活用による「スマート現場」の実現をはじめとする、デジタルトランスフォーメーションの推進を積極的に進めております。
⑦ 開発事業・投資リスク(自社開発、投資)
不動産市況の悪化により出口戦略が予定どおり遂行されない場合の事業計画の変更や投資先の業績悪化等に伴う採算の悪化など、当社グループの業績等に重要な影響を及ぼす可能性があります。
上記のリスクに対応するため、事業管理体制の確立、プロジェクトリスク評価の実施、事業計画の適時見直し、代替出口戦略の確保等により、業績への影響を低減させるよう努めております。新規事業は、経験者・専門家・第三者の意見を取り入れリスク項目を抽出し、最大リスクを考慮した感度分析を実施して、そのリスクに対応していきます。
⑧ 事業環境の変化に関するリスク(市場)
景気悪化等による建設需要の減少や不動産市場の縮小等、当社事業に係る著しい環境変化が生じた場合には、建設工事受注高の減少や不動産販売事業・賃貸事業の低迷など、当社グループの業績等に重要な影響を及ぼす可能性があります。
上記のリスクに対応するため、当社グループは、長期ビジョン「西松-Vision2030」や「中期経営計画2025」を策定し、事業活動に取り組んでおります。また、計画時の想定を上回る事業環境の変化が生じた場合には、適宜計画の見直しを行い、業績等に与える影響の低減に取り組んでおります。
⑨ 労働災害リスク
施工中に予期せぬ重大事故や労働災害が発生した場合には、顧客その他ステークホルダーからの信頼を損なうとともに当社グループの業績等に重要な影響を及ぼす可能性があります。
上記のリスクに対応するため、過去事例の全社水平展開や定期的な現場パトロールのほか、当社職員や協力会社の職長・作業員に対する安全教育の継続的な実施により、労働災害を未然に防止するよう努めております。
⑩ 自然災害・感染症リスク
大規模な地震や台風・洪水等の自然災害は、施工中案件の被災、工程遅延、自社所有建物等への被害等、当社グループの業績等に重要な影響を及ぼす可能性があります。また、感染症の拡大により、当社および協力会社の職員の感染症患者が多数発生した場合には、感染拡大防止措置に伴う工程遅延や工事中断による工事損益の変動等、当社グループの業績等に影響を及ぼす可能性があります。
上記のリスクに対応するため、事業継続計画(BCP)の策定及び定期的なBCP訓練の実施により、建設会社の社会的責任としてインフラ復旧工事に積極的に協力し、被災地の復旧・支援やお客様の事業の早期再開に貢献できるよう努めております。また、自然災害に備え、施工中案件においてはリスクに応じて建設工事保険を、自社所有建物等においては損害保険等を付保し損害低減策を講じております。
⑪ 海外事業リスク(カントリーリスク、市場、戦略)
当社グループは東南アジア・南西アジアを中心に海外事業を展開しているため、進出国におけるテロの発生や政治経済情勢の変動、法制度の変更等があった場合には、当社グループの業績等に重要な影響を及ぼす可能性があります。また、進出国における外資企業の活動制限、日系企業の投資状況等による発注量の伸び悩み等により受注量が変動し、当社グループの業績等に重要な影響を及ぼす可能性があります。
上記のカントリーリスクに対応するため、外務省海外安全ホームページによる危険度レベルの定期的な確認や、「リスク確認チェックシート」によるカントリーリスクの定期的な評価や「海外危機管理マニュアル」の周知等により、事業継続や工事への悪影響を最小限に抑えるよう努めております。また、海外建築事業のリスクに対応するため、これまでの日系工場案件中心の取り組みから、現地・外資系案件の取り組みを拡大することで入札機会を増やすとともに、アセットバリューアッド事業本部との連携を強化します。運営体制のローカル化により価格競争力を高め、戦略的な受注を目指します。
⑫ 為替変動リスク
為替相場の大幅な変動等が生じた場合には、当社グループの業績等に重要な影響を及ぼす可能性があります。
上記のリスクに対応するため、海外工事では原則、工事取下金と工事支出金の通貨を合致させることで為替リスクを回避し、為替レート毎の為替差損益の試算を行い、外貨残高の適正な管理を行います。国内工事では海外より資機材の調達を行う際には、為替予約等を検討することで、業績への影響を低減させるよう努めております。
当連結会計年度における当社グループ(当社及び連結子会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は以下のとおりであります。
① 財政状態及び経営成績の状況
当連結会計年度におけるわが国経済は、雇用・所得環境の改善を背景に緩やかな回復が続きました。先行きについては、物価上昇の継続や、米国をはじめとする各国の通商政策等の動き、その影響を受けた海外の経済・物価動向、資源価格の動向などがリスクとなっております。また、金融・為替市場の変動等の影響に十分注意する必要があります。
建設業界におきましては、政府建設投資、民間建設投資ともに増加傾向にありますが、建設資材価格の高止まりや人手不足、専門業者不足による労務費高騰の影響により、注視が必要な状況が続いております。
このような状況の中、当社グループの連結業績は以下のとおりとなりました。
建設事業受注高は、国内建築工事が減少しましたが、国内土木工事及び海外工事が増加したことにより、前期比69,446百万円増加(19.3%増)の429,719百万円となりました。
売上高は国内建築工事及び不動産事業等が減少したことにより、前期比34,822百万円減少(8.7%減)の366,811百万円となりました。営業利益は、国内土木工事の完成工事総利益及び不動産事業等総利益が減少しましたが、国内建築工事の完成工事総利益が増加したことにより、前期比2,271百万円増加(12.1%増)の21,098百万円となりました。経常利益は、前期比647百万円増加(3.3%増)の20,225百万円となり、親会社株主に帰属する当期純利益は、投資有価証券売却益を特別利益に計上したこと等から、前期比5,154百万円増加(41.6%増)の17,543百万円となりました。
報告セグメント等の業績は以下のとおりであります。(セグメントの業績は、セグメント間の内部売上高又は振替高を含めて記載しております。)
イ 土木事業
当セグメントは主に国内土木工事の売上により構成されております。当セグメントの売上高は、工事が概ね順調に進捗したことから、前期比1.0%増の107,994百万円となりましたが、セグメント利益は、前期には大型工事での設計変更を獲得できた反動等もあり完成工事総利益が減少し、前期比20.4%減の8,839百万円となりました。
当社単体の国内土木工事の受注高は、大型官公庁工事の入手や随意契約の締結により、前期比70,372百万円増加(59.0%増)の189,553百万円となりました。
ロ 建築事業
当セグメントは主に国内建築工事の売上により構成されております。当セグメントの売上高は、一部大型工事が前期に竣工した反動もあり、前期比18.5%減の193,382百万円となりましが、物価上昇の影響を受けた工事の割合が減少したことから完成工事総利益率が改善し、セグメント利益は6,421百万円(前期は348百万円のセグメント利益)となりました。
当社単体の国内建築工事の受注高は、民間工事及び官公庁工事がともに減少したことにより、前期比16,225百万円減少(7.3%減)の205,302百万円となりました。
ハ 国際事業
当セグメントは主に海外土木工事及び海外建築工事の売上により構成されております。当セグメントの売上高は、前期比40.4%増の46,498百万円となりましたが、セグメント損失は802百万円(前期は553百万円のセグメント損失)となりました。
当社単体の海外土木工事及び海外建築工事の受注高は、シンガポールで大型土木工事を受注したこと等から、前期比4,512百万円増加(42.8%増)の15,048百万円となりました。
ニ アセットバリューアッド事業
当セグメントは主に保有不動産の販売及び賃貸収入により構成されております。当セグメントの売上高は、主に販売事業が減少したことにより、前期比5.4%減の27,096百万円となり、セグメント利益は、主に販売事業利益の減少に伴い、前期比16.0%減の7,479百万円となりました。
ホ 地域環境ソリューション事業
当セグメントは主に再生可能エネルギー事業及びまちづくり事業の売上により構成されております。当セグメントの売上高は、前期比155.7%増の535百万円となりましたが、セグメント損失は734百万円(前期は821百万円のセグメント損失)となりました。
当社グループの財政状態は以下のとおりであります。
当連結会計年度末の資産は、現金預金が減少しましたが、有形固定資産や投資有価証券が増加したこと等から、前連結会計年度末と比較して12,422百万円増加(2.1%増)の592,046百万円となりました。
負債は、支払手形・工事未払金等が減少しましたが、コマーシャル・ペーパーや長期借入金が増加したこと等から、前連結会計年度末と比較して8,088百万円増加(2.0%増)の410,855百万円となりました。
純資産は、その他有価証券評価差額金が減少しましたが、当期純利益を計上したこと等から、前連結会計年度末と比較して4,333百万円増加(2.5%増)の181,190百万円となりました。この結果、自己資本比率は、前連結会計年度末と同じ29.1%となりました。
② キャッシュ・フローの状況
当連結会計年度末における現金及び現金同等物の残高は、前連結会計年度末と比較して13,128百万円減少(23.2%減)の43,403百万円となりました。
営業活動によるキャッシュ・フローは、税金等調整前当期純利益が24,540百万円となり、仕入債務の減少や売上債権の増加等により資金が減少したものの、5,889百万円の収入超過(前連結会計年度は32,037百万円の収入超過)となりました。
投資活動によるキャッシュ・フローは、有形固定資産や投資有価証券の取得等により資金が減少し、36,250百万円の支出超過(前連結会計年度は41,819百万円の支出超過)となりました。
財務活動によるキャッシュ・フローは、配当金の支払により資金が減少しましたが、コマーシャル・ペーパーの発行等により資金が増加し、16,134百万円の収入超過(前連結会計年度は11,083百万円の収入超過)となりました。
③ 生産、受注及び販売の状況
当社グループが営んでいる事業の大部分を占める建設事業及び不動産事業等では、生産実績を定義することが困難であり、建設事業においては、請負形態をとっているため販売実績という定義は実態に即しておりません。
また、当社グループにおいては、建設事業以外では受注生産形態をとっておりません。
よって、受注及び販売の状況については、可能な限り「① 財政状態及び経営成績の状況」における各セグメントの種類に関連付けて記載しております。
なお、参考のため提出会社個別の事業の状況は次のとおりであります。
建設事業における受注工事高及び完成工事高の状況
イ 受注工事高、完成工事高、繰越工事高及び施工高
(注) 1 前期以前に受注した工事で、契約の変更により請負金額に変更があったものについては、当期受注工事高にその増減額を含めて表示しております。したがって、当期完成工事高にもかかる増減額が含まれます。
2 次期繰越工事高の施工高は、支出金により手持工事高の施工高を推定したものであります。
3 当期施工高は、(当期完成工事高+次期繰越工事施工高-前期繰越工事施工高)に一致します。
4 当期受注工事高のうち海外工事の割合は、第87期 3.0%、第88期 3.7%であります。
5 受注工事のうち主なものは、次のとおりであります。
第87期 請負金額100億円以上の主なもの
第88期 請負金額100億円以上の主なもの
ロ 受注工事高の受注方法別比率
工事の受注方法は特命と競争に大別され、その比率は次のとおりであります。
(注) 百分比は請負金額比であります。
ハ 完成工事高
(注) 1 海外工事の地域別割合は、次のとおりであります。
2 完成工事のうち主なものは、次のとおりであります。
第87期 請負金額100億円以上の主なもの
第88期 請負金額100億円以上の主なもの
3 完成工事高に対する割合が100分の10以上の相手先は、次のとおりであります。
ニ 手持工事高
(2025年3月31日現在)
(注) 手持工事のうち主なものは、次のとおりであります。
請負金額100億円以上の主なもの
経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
① 財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容
イ 経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容
当社グループの当連結会計年度の経営成績等の概要は、「(1) 経営成績等の状況の概要 ① 財政状態及び経営成績の状況」に記載のとおりであります。また「中期経営計画2025」に基づく当連結会計年度業績計画の達成状況及び前期比較の分析は次のとおりであります。
建設事業受注高は、前期比694億円増加(19.3%増)、期首計画比252億円減少(5.6%減)の4,297億円となりました。国内土木工事は道路やダム工事等を中心に受注し、前期実績を上回りました。国内建築工事は物流施設や工場等を中心に受注しましたが、前期実績を下回りました。海外工事は大型の地下鉄工事を受注し、前期実績を上回りましたが、応札済みのODA工事の結果が期ずれとなったため、期首計画は下回りました。以上の要因により上記の結果となりました。
売上高は、前期比348億円減少(8.7%減)、期首計画比218億円増加(6.3%増)の3,668億円となりました。大型工事が前期に竣工した反動により国内建築工事が減少したことが前期比減収の主な要因であります。
営業利益は、前期比22億円増加(12.1%増)、期首計画比30億円増加(17.2%増)の210億円となり、営業利益率は前期の4.7%から5.8%に改善しました。営業利益の増加につきましては、中期経営計画2025における国内建築工事の収益改善プランが順調に進捗していることや、物価上昇の影響を受けた工事で設計変更を獲得できたことから採算が改善し、国内建築工事の売上総利益率が前期比4.4ポイント増加の8.7%となったことが主な要因であります。
ロ 財政状態の状況に関する認識及び分析・検討内容
当社グループの当連結会計年度末の財政状態の概要は、「(1) 経営成績等の状況の概要 ① 財政状態及び経営成績の状況」に記載のとおりであります。
当連結会計年度末の総資産は、前期末比124億円増加(2.1%増)の5,920億円となりました。現金預金が131億円減少しましたが、有形固定資産が140億円増加したことや、投資有価証券が103億円増加したこと等が主な増加の要因であります。
負債は、前期末比80億円増加(2.0%増)の4,108億円となりました。これは、支払手形・工事未払金等が171億円減少しましたが、コマーシャル・ペーパーが200億円増加したことや、長期借入金が151億円増加したこと等が主な要因であります。また、有利子負債残高(有利子負債は短期債務及び長期債務の合計よりリース債務を除外して算出しております。)は前期末比15.1%増の2,142億円(D/Eレシオ1.2倍)となりました。翌期につきましては、アセットバリューアッド事業等を中心に466億円の設備投資及び出資を行う計画としております。
純資産は、前期末比43億円増加(2.5%増)の1,811億円となりました。これは、その他有価証券評価差額金が60億円減少しましたが、当期純利益175億円を計上したこと等が主な要因であります。この結果、自己資本比率は前期と同じ29.1%となりました。
ハ セグメント情報に記載された区分ごとの財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容
当社グループは、セグメント情報に記載された区分ごとに資産及び負債を配分していないため、セグメント別の財政状態の分析・検討は記載しておりません。
セグメント情報に記載された区分ごとの経営成績等の状況の概要は、「(1) 経営成績等の状況の概要 ① 財政状態及び経営成績の状況」に記載のとおりであります。また「中期経営計画2025」に基づく当事業年度業績計画の達成状況は次のとおりであります。なお、当社グループの受注高、売上高(完成工事高・不動産事業等売上高)及び売上総利益(完成工事総利益・不動産事業等総利益)は、その大半を当社単体で占めていることから、以下の分析・検討は、いずれも当社単体の数値を記載しております。
(土木事業)
受注高は、期首計画比で495億円増加(35.4%増)の1,895億円となりました。これは、大型官公庁工事の受注が想定を大きく上回ったことが主な要因であります。工事種別でみると鉄道が前期比で減少し、道路や治山・治水等が前期比で増加となりました。
完成工事高は、期首計画比で21億円増加(2.1%増)の1,071億円となりました。これは、工事が概ね順調に進捗したため、目標を達成することができました。
完成工事総利益は、期首計画比で16億円減少(9.8%減)の151億円となりました。これは、大型工事の竣工が少なく、設計変更の獲得が想定を下回ったこと等によるものです。この結果、完成工事総利益率についても期首計画比1.9ポイント減少の14.1%となりました。
(建築事業)
受注高は、期首計画比で253億円増加(14.1%増)の2,053億円となりました。これは、期首に見込んでいた工事を概ね受注できたことに加え、期首に見込んでいなかった一部大型工事を受注できたことが主な要因であります。工事種別でみると教育施設や事務所・庁舎などが前期比で減少し、物流施設などが前期比で増加となりました。
完成工事高は、期首計画比160億円増加(9.2%増)の1,910億円となりました。これは、工事が順調に進捗したことに加え、受注を見込んでいた工事が期首の想定より前倒しで受注できたことが主な要因であります。
完成工事総利益は、期首計画比で45億円増加(37.9%増)の165億円となりました。これは、物価上昇の影響を受けた一部の工事において設計変更を獲得できたことや、上記受注時期の前倒しによる完工高の増加及び受注時採算の向上によるものです。この結果、完成工事総利益率は、期首計画比1.8ポイント増加の8.7%となりました。
(国際事業)
受注高は、期首計画比で949億円減少(86.3%減)の150億円となりました。これは、シンガポールで大型の地下鉄工事を受注しましたが、応札済みのODA工事の結果が期ずれとなったことが要因であります。
完成工事高は、期首計画比で30億円増加(15.5%増)の230億円となりました。これは、各工事が順調に進捗したことによるものです。
完成工事総利益は、期首計画比で1億円減少(18.3%減)の8億円となりました。これは、手持ち工事の進捗は順調に推移しましたが、ODA工事が期ずれとなったことによるものです。この結果、完成工事総利益率についても期首計画比1.5ポイント減少の3.5%となりました。
(アセットバリューアッド事業、地域環境ソリューション事業)
不動産事業等売上高は、期首計画比で1億円減少(0.5%減)の233億円となりました。これは、アセットバリューアッド事業において、販売事業及び賃貸事業がともに概ね期首計画どおりに進捗したことが主な要因であります。
不動産事業等総利益は、期首計画どおりの85億円となりました。これは、上記のとおり販売事業及び賃貸事業が概ね計画通りに進捗したことが主な要因であります。
ニ 経営成績等に重要な影響を与える要因の分析
当社グループの経営成績等に重要な影響を与える主な要因は、景気動向に伴う建設市場の動向、資材価格の変動及び建設技能労働者確保の状況であります。
国内建設市場の今後の見通しにつきましては、政府建設投資、民間建設投資ともに増加傾向にありますが、建設資材価格の高止まりや人手不足、専門業者不足による労務費高騰の影響のほか、米国による政策転換の動向にも注視が必要な状況が続くと思われます。
これらの要因に対処しつつ、持続的な成長を遂げるため、当社グループは、「西松-Vision 2030」及び「中期経営計画2025」に掲げる各種施策に取り組んでおります。
ホ 目標とする経営指標の達成状況
当社グループは、2023年度を初年度とする「中期経営計画2025」において、「連結売上高4,200億円」「連結営業利益250億円」「ROE10%」「自己資本比率30%程度」「D/Eレシオ1.5倍程度」を目標とする経営指標として掲げ、この達成に向けて各種施策に取り組んでおります。
なお、計画2年目である当連結会計年度の達成状況は「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等(5)経営環境並びに優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題」に記載のとおりであります。
② キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報
当社グループの資金需要は、主として、建設事業(土木・建築・国際)に係る工事原価(材料費・労務費・外注費・経費)、アセットバリューアッド事業に係る固定資産の購入及び改修費用、地域環境ソリューション事業に係る再生可能エネルギー事業等への投資、営業費用としての一般管理費、並びに人財開発やDX等の投資資金等であります。
当社グループは「西松-Vision 2030」において、2030年度とその先に向けた成長投資として1,500億円を投資いたします。これにより、建設業中心の「社会基盤整備」から、アセットバリューアッド事業と地域環境ソリューション事業の成長により、グループの価値共創活動の領域を「社会機能の再構築」へと拡大させ、成長を目指してまいります。
これらの資金需要については、営業活動によるキャッシュ・フロー及び自己資金のほか、金融機関からの借入金、コマーシャル・ペーパー及び社債による調達で対応していくこととしております。
手許の運転資金については、子会社も含めたグループ全体としての余剰資金の管理に努め、資本効率の向上を図っております。また、機動的な資金調達を目的として主要取引銀行とコミットメントライン契約を締結しており、流動性リスクに備えております。
キャッシュ・フローの状況の概要は、「(1) 経営成績等の状況の概要 ② キャッシュ・フローの状況」に記載のとおりであります。次期につきましては、引き続き工事の立替資金の回収を図り、営業活動によるキャッシュ・フローの改善に努めてまいります。
③ 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されております。
この連結財務諸表作成にあたっては、経営者により、一定の会計基準の範囲内で見積り及び判断が行われている部分があり、資産・負債や収益・費用の数値に反映されております。これらの見積り及び判断については、継続して評価し、事象の変化等により必要に応じて見直しを行っておりますが、見積りには不確実性が伴うため、実際の結果は、これらとは異なることがあります。連結財務諸表の作成にあたって用いた会計上の見積り及び仮定のうち、重要なものは、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 注記事項 (重要な会計上の見積り)」に記載のとおりです。
(1) 当社は、2021年12月15日開催の取締役会において、伊藤忠商事株式会社(以下「伊藤忠商事」といいます。)との間で、資本業務提携契約(以下「本資本業務提携契約」といい、当該契約に基づく資本業務提携を以下「本資本業務提携」といいます。)を締結することを決議し、同日付で本資本業務提携契約を締結しております。
① 本資本業務提携契約の目的
当社は、伊藤忠商事の構築する国内トップクラスの資機材調達バリューチェーンの活用による資機材共同調達の実現や、住宅や物流特化型J-REITのスポンサーである伊藤忠商事グループの不動産運用ノウハウを取り入れた当社の開発・不動産事業における循環型不動産ビジネスの確立や資産効率の改善等、これまでにはない新しい建設業の在り方の可能性を確認し、異業種との協業によるシナジーの発現を実現する経営モデルの確立が当社の企業価値向上に資するものと判断しました。異業種である両社がそれぞれ有する経営資源やノウハウを結集することで、これまでになかった全く新しいシナジーを創出し、双方の企業価値を最大化することを目的として、本資本業務提携契約を締結しております。
② 本資本業務提携契約の内容
ⅰ 業務提携の内容
a 建設アライアンス構築
現場課題を解決する技術や工法を持つ建設業界の優良企業群と建設アライアンスを構築することにより、建設業界の省人化・効率化・DX化を共同推進する。
b 安心安全、脱炭素社会の実現
脱炭素社会の実現や国土強靭化といった社会課題を成長分野と捉え、公共施設・インフラPPPへの共同事業参画や再生可能エネルギー事業の共同取組等により事業領域を拡大する。
c 循環型不動産事業モデルでの協業
不動産開発・収益不動産への投資・運用を通じた循環型不動産事業を両社で推進することで、当社の安定成長基盤を確立するとともに、伊藤忠商事の不動産開発事業のモノづくり力向上による安心安全を強化する。
d 顧客基盤拡充・競争力向上
国内外のグループ会社・取引先等のネットワークや資機材調達機能、エンジニアリング機能等、両社の持つ顧客基盤や機能を融合することで、両社の事業収益力・競争力や安定性を強化する。
ⅱ 資本提携の内容
伊藤忠商事は、2025年3月31日現在、当社普通株式7,709,300株(議決権所有割合19.49%)を保有しております。
③ 本資本業務提携の相手先の概要
(注) 本資本業務提携契約は、当社の経営の独立性を確保しつつ、本資本業務提携契約による当社の企業価値向上を実現するため、伊藤忠商事の当社株式に係る議決権保有割合が10%未満となり得る行為を行う場合に事前に伊藤忠商事の書面による承諾を得る旨、伊藤忠商事が当社に対する議決権保有割合が25%超となる当社株式を取得する場合には事前に当社の書面による承諾を得る旨及び伊藤忠商事は、当社株式の全部又は一部を第三者に譲渡しようとする場合、当該株式の処分方法、時期、相手方等について誠実に協議を行わなければならない旨(以下、総称して「本合意」といいます。)を規定しております。当社は、2021年11月上旬から伊藤忠商事との協業に関する戦略やシナジーの協議・検討を開始し、取締役会での慎重な検討を経て、本資本業務提携契約を締結しており、上記のとおり本合意は、当社の経営の独立性を確保しつつ、本資本業務提携契約による当社の企業価値向上を実現するためのものであるため、本合意が当社の企業統治に及ぼす影響は軽微であると考えております。
なお、2025年5月30日に伊藤忠商事が当社株式を追加で取得し、当社株式8,700,300株(議決権所有割合22.0%)を保有することとなりました。これにより当社は、伊藤忠商事の持分法適用会社となりましたが、当社の経営の独立性に影響を及ぼすものではありません。
(2) 当社は、財務上の特約が付された金銭消費貸借契約等を締結しております。
なお、2024年4月1日前に締結された契約については、「企業内容等の開示に関する内閣府令及び特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」附則第3条第4項により記載を省略しております。
当社は技術研究所を中心として、社会や顧客からの要求・要望、社内の各事業部門からの課題解決の要請などに応えるべく、基礎研究から実践的な技術開発まで幅広く研究開発活動を行っております。
具体的には、省力化・生産性向上・高品質化に寄与する技術をはじめ、社会インフラのリニューアル技術、国土強靭化に資する防災・減災に関する技術、省エネ・脱炭素社会に貢献する各種の環境関連技術に関する研究開発を行っております。また、戸田建設株式会社との共同研究をはじめとして、大学などの研究機関や異業種・同業種企業、公共機関との共同研究も積極的に進めており、多くの分野において効率的な研究開発を推進しております。
当連結会計年度における研究開発活動に要した費用総額は
(建設事業(土木・建築・国際))
①板ジャッキを活用した床版切断撤去施工技術を開発
~合成桁形式の床版撤去時間の短縮化を実現~
コンクリートコーリング株式会社と共同で、板ジャッキを用いて合成桁床版を短時間で効率的に撤去することができる技術を開発しました。本技術は、既設床版のハンチ部や上面にカッター等で切断したスリット内へ板ジャッキ(厚さ2.4mm)を挿入し、専用ポンプで水圧を作用させてスリットを拡張・延伸させることで、床版コンクリートを合成桁から簡単に分離でき、撤去することが可能です。桁上に残るコンクリートは極めて少ないため、その後のはつり作業が大幅に低減され、施工時間は一般的なブレーカによる撤去方法に比べて20%~50%短縮できます。
②「NFJコアビット」の開発
~トンネル現場における品質管理業務の生産性向上に貢献~
フジモリ産業株式会社と共同で、ドリルジャンボを使って、吹付けコンクリートの品質管理に必要な供試体を短時間で採取できる「NFJコアビット」を開発しました。本技術は、山岳トンネル工事で使用するドリルジャンボにNFJコアビットを取り付けるだけで、トンネル壁面に施工した吹付けコンクリートのあらゆる箇所から供試体を直接採取することができます。従来は専用型枠を用いて供試体を採取するのに約70分を要していましたが、本技術では作業時間を約10分と大幅に短縮でき、現場での品質管理業務の生産性が向上します。
①ホイールローダ遠隔操作システムを山岳トンネル工事の実施工へ試験導入
~山岳トンネル無人化・自動化施工システム「Tunnel RemOS」の実現に向けた大きな一歩~
ジオマシンエンジニアリング株式会社、株式会社カナモトと共同開発した、ホイールローダ遠隔操作システム「Tunnel RemOS-WL(トンネルリモス-ホイールローダ)」を山岳トンネル工事に試験導入し、遠隔でのずり出し作業(掘削岩塊の運搬作業のこと)の施工性を確認しました。本システムは、過年度に開発した試作機を改良した実用機であり、高速かつ繊細な動作が要求されるホイールローダを遠隔操作でも実機搭乗に近い操作感覚で正確に制御することが可能です。今回の試験導入では、ずり出し作業にかかるサイクルタイムの検証とともに、システム機器の操作性向上と耐久性向上も確認できました。今後、実施工への本格的な導入や、自動化システムの開発に取り組む計画です。
②濁水処理設備の自動管理システム「FlocTrack」を開発
~AIを活用して大幅に時間と手間を短縮~
山岳トンネル工事などに設置される濁水処理設備における処理剤の添加量をAIで自動管理できるシステム「FlocTrack」を開発しました。濁水処理設備内で計測したpHや濁度、土粒子の凝集状況(フロックの形成状況)の映像をもとに、汚濁水の水質に合わせて各種処理剤の添加量をAIが最適に調整し添加します。本システムの活用により、濁水担当者の管理時間が約36%短縮され、省力化できます。なお、本システムは「官民研究開発投資拡大プログラム(PRISM)」の予算を活用した国土交通省の令和4年度「建設現場の生産性を飛躍的に向上するための革新的技術の導入・活用に関するプロジェクト」の試行技術として採用されました。
③地中連続壁工法における安定液の品質管理自動計測システムの開発
~現場で安定液(泥水)の粘性及び比重を自動で連続的に精度よく測定~
株式会社三央と共同で、鋼製連壁やRC連壁といった地中連続壁工法で使用する安定液の1つである泥水の品質管理に着目し、ファンネル粘度及び比重を現場にて自動で連続計測できる「品質管理自動計測システム」を開発しました。本システムの活用により、安定液の品質管理作業の省力化・省人化に加え、掘削時のトラブル防止や再生薬剤等の使用量及び廃棄泥水量の削減に寄与できます。また、泥水式シールドや場所打ち杭の工事などにも活用が可能です。
④場所打ちコンクリート杭の孔壁形状確認システムを開発
~孔壁測定結果をデジタル化、現場作業の省力化を実現~
場所打ちコンクリート杭の築造時における孔壁形状確認システムを開発しました。本システムは、孔壁の測定結果をデジタルデータとして自動で取り込み、サーバー上でデジタル帳票を自動的に作成することができます。また、デジタル帳票は、現場職員だけでなく社内の関係部署と簡単に共有可能です。本システムの利用により、孔壁測定結果をワンストップで作成・管理することが可能となり、現場職員の負担軽減、業務時間の短縮・効率化を実現します。
①場所打ちコンクリート杭工事の支持層到達管理システムを開発
~支持層への到達を見える化し、精度向上を目指す~
場所打ちコンクリート杭工事における支持層への到達確認を精度よくリアルタイムに行うことができる、アースドリル工法に特化した支持層到達管理システムを開発しました。本システムは、掘削機に取り付けた加速度センサーで測定したデータをもとに新たな加速度指標を定義し、深度計の表示から画像処理(OCR)で取得した深度情報を用いて、当該指標にもとづく深度分布をリアルタイムに作成・表示することができます。従来のような掘削土と地盤調査時のサンプル試料を目視で比較する確認方法だけでなく、掘削機の振動データといった新たな判断材料と併せることで、支持層への到達確認がより高い精度で行うことができ、支持層到達管理の信頼性向上を実現します。
②場所打ちコンクリート杭への高強度鉄筋の適用手法を確立
~設計手法に関して評定を取得~
株式会社安藤・間、株式会社奥村組、佐藤工業株式会社、鉄建建設株式会社、東急建設株式会社、戸田建設株式会社、株式会社長谷工コーポレーション、三井住友建設株式会社と共同で、高強度鉄筋を主筋に使用した場所打ちコンクリート杭の構造性能を確認し、その設計手法に関して、一般財団法人ベターリビングにて一般評定を取得しました。従来よりも強度の高い鉄筋を主筋に用いることで、杭の合理的な設計を可能とするとともに、施工性や施工品質の向上を実現します。
③構造ヘルスモニタリングシステムを開発
~地震リスク評価の精度向上を目的に、再現性の高い解析モデルを自動推定~
地震リスク評価の精度向上を目的に、地震時の計測データから建物の挙動再現解析モデルを自動推定できる構造ヘルスモニタリングシステムを開発し、当社が保有する東京都港区内の事務所ビルでの運用を開始しました。本システムにより、地震発生時に実際の建物から得られた計測データをもとに、将来予想される地震に対して、高い精度でのリスク評価を可能としました。なお、本システムは当社が検証実験などの開発全般を担当し、株式会社構造計画研究所がシステム設計を担当しました。
①アサヒ飲料株式会社と協業したカーボンネガティブコンクリートを開発
~大気中よりCO2を吸収した材料からコンクリートを製造~
アサヒ飲料株式会社と共同で、製造過程でのCO2排出量がマイナスとなるカーボンネガティブコンクリートの開発に着手しました。本開発では、アサヒ飲料株式会社の「CO2を食べる自販機」で大気中のCO2を吸収した特殊材を活用します。本材料をコンクリート1m3あたり約200kg以上混和し、さらに製鉄所の副産物である高炉スラグ微粉末をセメントの代替材料として多量に使用することで、一般のコンクリートと同等の強度を有しつつ、環境に優しいカーボンネガティブなコンクリートが作れることを確認しています。今後は、長期的な耐久性の確認や社会実装に向けた試験を行っていく予定です。
②火山ガラス微粉末を用いた環境配慮型コンクリートの共同研究に着手
~国内産出での天然資源を用いた環境配慮技術~
戸田建設株式会社と共同で、コンクリート用火山ガラス微粉末を用いた環境配慮型コンクリートについて、将来の発展性を考慮し、基本性状を確認する研究開発に着手しました。火山ガラスとは火山性堆積物を主原料とする天然ポゾランであり、これを一定の粒度に調整したものが火山ガラス微粉末です。火山ガラス微粉末は、国内で調達可能な天然資源であり、コンクリート用材料として注目されています。これまでに鹿児島県産の火山ガラス微粉末を用いたコンクリートの基本物性を確認しており、今後は実構造部への適用を目標に、レディーミクストコンクリート工場からの出荷を想定した試し練りや、模擬試験体による強度、耐久性、施工性等の確認を行う予定です。
①補助工法等の注入データの3D可視化・分析が可能な「GroutViz」を開発
~トンネル周辺地山を多面的に評価~
ジオマシンエンジニアリング株式会社、株式会社カテックスと共同で、山岳トンネル工事における地山への薬液注入データの三次元可視化やそれを基にした地山性状の定量評価を可能とするシステム「GroutViz(グラウトビズ)」を開発しました。本システムは、注入装置で記録した注入率、注入圧、注入量といったデータを専用の解析ソフトで読み込むことで、注入データの三次元可視化や、逆距離加重法等の空間データ補間機能を用いた分布傾向の分析を行うことができます。本システムを当社施工中のトンネルへ適用した結果、注入データは実際の地質構造と概ね同じ傾向を示しており、本システムが地山評価に有用であることが確認できました。
②XRを活用した空撮映像への3Dモデル重畳技術を開発
~BIM/CIMとリアルを融合、XR施工管理プラットフォーム実現に向けた要素技術を検証~
株式会社ホロラボと共同で、ドローンの空撮映像に3Dモデルをリアルタイムで重畳し、ヘッドマウントディスプレイと連携して現場全景を俯瞰した施工イメージの可視化、ドローンの操縦支援を行う技術を開発しました。本技術は、XRを活用した複数のデジタル情報を確認しながら直感的なドローン操作が可能となります。また、現場全景の施工イメージを可視化・共有化することが可能なため、現場状況に応じた、より的確で妥当性の高い施工計画の立案や高度な施工管理の実現に役立ちます。さらに、地震や水害等の災害復旧工事で人が近づけない危険な現場でも、ドローンを使った遠隔での広域を見渡した施工計画立案や施工管理支援ツールとしての活用も期待できます。
③AI による配筋検査サービス(AI カメラと専用アプリ)を2024年4月から導入開始
~配筋を立体検知する技術を活用し、プライム ライフ テクノロジーズとの継続的改善スキームを構築~
配筋検査システム協議会の会員会社(当社を含むゼネコン21社)とプライム ライフ テクノロジーズ株式会社は共同で、建設DXサービス「CONSAIT(コンサイト)」として、配筋検査における品質向上と業務効率化をサポートする配筋検査システムを開発し、2024年4月より本システムの先行導入を開始しました。本システムは、パナソニック株式会社の技術を活用して開発したAI カメラ「CONSAIT Eye」を使用します。本カメラで配筋状態を立体的に検知することで、鉄筋径や本数、ピッチ、鉄筋の配置を計測でき、登録した設計データと自動照合し、その結果をもとに帳票を自動作成します。配筋検査の事前準備となる検査用データの入力や各帳票の作成は、「CONSAIT Pro 配筋検査」で効率化されます。本システムにより、検査や記録の正確性、検査品質が向上し、配筋検査の繁雑な作業が効率化されることで作業時間の大幅な短縮を実現します。
(6) 新しい取り組み
①生物多様性保全を目的とするビオトープ「中津クロスポイント」を整備
~技術研究所内に地域性植栽を取り入れた生物多様性フィールドを整備~
箱根植木株式会社及びあいかわ自然ネットワークのご協力の下、技術研究所(神奈川県愛甲郡愛川町)の敷地内に地域性植栽を導入したビオトープ「中津クロスポイント」を新たに整備しました。本名称には、町内に流れる中津川と相模川の二つの一級河川流域に生息する生態系が交差する拠点になってほしいという願いが込められています。今後は、希少な地域性植栽の維持管理を図り、継続的な生物モニタリングを通して生物多様性の保全状況を定量的に評価することで、環境に配慮した緑地整備や地域に根差したまちづくりに貢献していきます。また、地元の小学生などが自然について学べる環境教育の場としての活用も計画しています。
②粗骨材に回収骨材を100%使用したコンクリートを施工中の建設現場に適用
~生コン工場の廃骨材を粗骨材としてフル活用~
生コン工場で発生する回収骨材を粗骨材として100%使用したコンクリートを、当社施工中の建設現場に適用しました。回収骨材とは、建設現場で使用されずに生コン工場に戻ってくるコンクリート(残コン・戻りコン)を洗浄して得られた骨材のことで、回収骨材を標準化している生コン工場は日本全国に少なく、あまり普及しておりません。今回、回収骨材を粗骨材に用いたコンクリートをレベルコンクリートとして現場で約300m3打設し、廃棄予定の回収骨材を約270t再利用することができました。今後、資源循環の観点から、回収骨材が広く認知されて普及するように取り組んでまいります。なお、ここでの活動は、一般社団法人生コン・残コンソリューション技術研究会(RRCS)の残コン・戻りコンの有効活用の一策として行ったものです。