文中の将来に関する事項は、本有価証券報告書提出日現在において、当社グループが判断したものである。
(1) 経営の基本方針
当社グループは国土づくりを通じて社会に貢献し続けるという使命をステークホルダーの皆様に広くご理解いただき、それに向けた価値観、目標を当社グループ内で共有するため、以下の通り経営理念を定めている。
<経営理念>
Mission (使 命): 豊かで安全・安心な国土づくりに貢献します
Value (価値観): あらゆる変化を進化に換えて未来に向かって歩み続けます
Vision (目 標): 世代を超えて生き続ける独自の技術を提供します
また、この経営理念を実現すべく、「土木、地盤改良、ブロックの3事業が協調し、海に陸に、持続的な成長を目指します」を経営方針としている。
(2) 経営環境及び対処すべき課題
国内の景気は引き続き緩やかな回復が続くことが期待されるが、海外景気の下振れが日本の景気を下押しするリスクとなっている。建設市場においては、建設投資は引き続き堅調に推移していくものと想定されるが、資材価格や人件費の高騰に加えて、次期から適用される時間外労働の上限規制への対応が課題となる。
また、当社グループの持続的な成長・発展のためには、建設需要の新規建設から維持管理・リニューアル事業への転換、建設物価上昇による事業量の減少、少子高齢化に伴う担い手不足など建設業界でおこる変化に対応して、市場ニーズに応じた技術開発、建設DXを軸とした生産性向上、働き方改革と人材確保などに加えて、カーボンニュートラルへの対応など地球環境や社会の持続性を重視する施策も取り入れながら対処していくことが課題となる。
このため2018年度より、長期的視点に立ち中期経営計画を3期に分け遂行することとし、3期目(2024~2026年度)は「収穫・実現」の期間と位置づけ、その基本方針に基づいて各種施策の展開に取り組む。
(3) 目標とする経営指標
<長期目標>
◆前中期経営計画の成長・拡大に引き続き、更なる経営資源への投資、収益基盤の多様化に取り組む。

<新中期経営計画(2024~2026年度)の概要と経営目標>
○基本方針
○セグメント別の事業方針と戦略
以上のように、長期目標及び新中期経営計画を実現するため、様々な課題への対応と持続的成長に向けて掲げた方針に取り組み、投資と株主還元を両立させながら、更なる企業価値の向上を目指していく。
(1) サステナビリティに関する考え方
当社は、経営理念のなかで当社の使命を「豊かで安全・安心な国土づくりに貢献する」としており、社会インフラの整備を通して、持続可能な社会の実現に向けて貢献していく意思を表したものである。
一方、世界の潮流として、SDGsに代表されるように、気候変動対策や人権の尊重など、持続可能な社会実現に向けた課題への対応は、国家やソーシャルセクターだけではなく、民間企業や個人に対しても、その責任を求められており、当社は、これらを推進する取組みを支持し、建設業に携わる企業として、社会インフラの整備にとどまらず、環境、エネルギー、まちづくり、人づくりなどを通して、社会的責任を果たしていくこととしている。
このようなサステナビリティに関する重要事項は、取締役や各本部長を委員としたサステナビリティ委員会を設置し、審議・検討を行っている。当委員会では、サステナブル経営の基本方針の策定やESGに関するリスクと機会の識別・評価、重要課題(マテリアリティ)の特定とその監視・測定及び分析評価を実施し、審議された内容は、取締役会に答申のうえ、同会にて審議・決定することとしている。

(2) 気候変動に関する取組
①取組方針
当社は、SDGsがめざす持続可能な社会の形成には環境課題への対応が重要な経営課題と捉えており、その課題への取組みを通じてESG経営を推進している。
なかでも気候変動は、水害・土砂災害の増大を招いており、当社グループの使命からも、重要なテーマであると考えている。このため、気候変動リスク及び機会が及ぼす影響を評価し経営戦略に統合することが、当社の企業価 値向上に資するものと考え、TCFD提言に則った情報開示を進めている。
②ガバナンス
サステナビリティに関する考え方で示した通り、サステナビリティ委員会を設置し、審議・検討を行っている。
③戦略
当社では、気候変動によるリスクと機会の特定及び、事業への影響度と対応策に関する考察・分析にあたり、 IPCCやIEAが公表する各種シナリオを参考に、4℃シナリオと2℃未満シナリオの2つを設定している。
(4℃シナリオ)
化石燃料需要の成行き的な拡大などを背景に、軽油・重油をはじめとしたエネルギー価格の上昇を予測しているほか、風水害の拡大による直接的な被害の最大被害額や屋外作業の作業効率低下や熱中症リスクの拡大も想定されることから、2℃未満シナリオと比較して2倍以上の財務的な被害を予測している。ただし、気象災害をはじめとした自然災害の被害緩和・回避・防止を目的とした関連工事はより拡大することが見込まれる。
(2℃未満シナリオ)
脱炭素化に向けたカーボンプライシングの影響が、新たな事業運営コストとして財務的なインパクトとなることを予測しているほか、サプライチェーンではカーボンプライシングによる影響が製品の販売価格に上乗せされることで原材料コスト増が想定される。一方、再生可能エネルギー需要の拡大から再生可能エネルギー施設の工事が増加することが見込まれ、関連工事への積極的な参画が事業機会となり得ると考えている。
④気候変動関連のリスクと機会
(リスク)
(機会)
(リスク管理)
気候関連リスクについては、品質環境委員会と連携し、サステナビリティ委員会が識別し、ESGに関わる様々なリスクと統合的に評価している。また、同委員会の答申を受けて取締役会が重要課題(マテリアリティ)を決定し、特定されたリスクや重要課題の管理については、同委員会をはじめとする各種委員会で、リスクの管理・緩和に取り組む方針である。
⑤指標と目標
当社ではCO2排出量を指標とした目標の設定と進捗の管理に取り組んでいる。
※Scope1+2を2030年度で2020年度比30%のCO2排出量の原単位削減(t-CO2/億円)、2050年までに実質ゼロとす
ることを目指し、※Scope3では 2030年度で2020年度比10%のCO2排出量の原単位削減(t-CO2/億円)を目指し活動を継続している。
Scope1:自社事業から直接的に排出されるCO2排出
Scope2:他社から供給された電気、熱、蒸気の使用に伴う間接排出
Scope3:Scope1、Scope2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)
(3) 人的資本・多様性に関する取組
①ガバナンス
当社の人的資本・多様性に関する課題については、サステナビリティに関する重要事項として、サステナビリテ ィ委員会での審議の対象としており、持続的な企業価値の向上には、人的資本への投資や多様性の推進が重要と認識し、様々な取り組みを行っている。
②リスク管理
人的資本リスクについては、サステナビリティ委員会が識別・評価することとしている。サステナビリティ委員会において、各部門・関係会社から報告された内容を、ESGに関わる様々なリスクと統合的に評価している。サステナビリティ委員会で審議された内容は、取締役会に付議・答申のうえ、取締役会が重要課題(マテリアリティ)を決定し、特定されたリスクや重要課題の管理については、サステナビリティ委員会と必要に応じてリスク管理委員会で、リスクの管理・緩和に取り組む方針である。
既に行っている取り組みの概要、成果(提出会社の状況)について以下に示す。
尚、当社の取り組みが連結グループに属する全ての企業において行われてはいないことから、当社以外の連結グループに属する企業の実績については記載を省略している。
○人材の確保
少子高齢化が進む中、建設業にとって人材確保は中長期的な最重要課題であり、当社においても、特に40歳前後の中堅世代が不足しているという課題を解消し、次世代の人材を確保する観点で、中途採用を含め、中長期的な社員の採用目標を掲げ、継続的に人材の確保を積極的に行っている。
直近の採用者数は以下のとおりである。
○多様性の推進
当社は、性別や国籍に関係なく、個々人の適性、能力、経験を重視した人材採用を行っている。また、社会環 境の変化や社員のニーズに対応した人事制度の改正を行うとともに、多様な働き方を実現するための支援制度を拡充している。
このなかで特に女性の活躍に力を入れており、2021年4月に「えるぼし」の3つ星の認定を受けている。
※「えるぼし」
女性活躍推進法における一般事業主行動計画の策定・届出を行った事業主のうち、女性の活躍推進に関する状況が優良である等の一定の要件を満たした場合に厚生労働省から認定される。
評価基準を満たす項目数に応じて3段階あり、当社は5つの項目全てを満たしており、3段階目(3つ星)認定を受けている。
当社は以下の目標を掲げ女性活躍を推進している。
その他多様性の推進に関する2023年度の人材データは以下のとおりである。
○人材の育成
当社は、豊富な知識と経験、高度な技術を持つ「人財」の育成に力を入れ、個々人が最大限の力を発揮できる ような環境整備を進めており、全社員のマネジメントスキル向上を目的として、各階層に応じた継続的な教育研修を行っている。
○働き方改革への取組
当社は、生産性向上と時間外労働削減の両立、社員の健康増進の課題について労使一体となり取り組み、社員 の働きやすさ、働きがい・満足度を高め、魅力ある会社・職場づくりを目指している。
このため、2020年度に働き方改革推進課を新設し、時間外労働時間の上限規制適用を視野に建設現場を中心とした働き方改革推進に取り組んできている。
また、ワークライフバランスの実現に向けた取り組みにも力を注ぎ、育児や介護などを行う従業員が安心して働き、仕事との両立ができるよう様々な支援制度を設けている。
○健康経営
当社は、2021年8月に健康経営宣言を行い、2022年3月以降「健康経営優良法人」の認定を受けており、生活習慣病などの疾病予防のための運動指導など、社員の健康増進に関わる様々な取り組みを行っている。
当社グループの事業に係るリスクについて、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある主な事項は、以下のようなものがある。
これらはリスク発生の可能性を認識した上で、発生の回避及び発生した場合の対応に努めていく。
なお、文中における将来に関する事項は、本有価証券報告書提出日現在において、当社グループが判断したものである。
①建設市場の変動
当社グループは社会資本の整備・維持に係る事業を主なターゲットとしており、政府建設投資の規模やその重点投資分野の変動または、政府及び地方公共団体等の発注内容や発注時期の変動等により、業績に影響を及ぼす可能性がある。
このため、常に将来の需要動向をリサーチし、顧客のニーズ等への対応に注力することでシェアの拡大を図るとともに、必要に応じて人材・設備などの経営資源の適正配分を行うこととしている。また、得意とする「防災・減災」分野に加えて「維持補修」分野など今後有望視される市場への参入など、事業領域の拡大にも努めている。
②少子高齢化の進展等による担い手不足
少子高齢化が想定を超え進行しており、建設業界への就労人口の減少が一層深刻化していくことが予想されるなか、十分な担い手を確保できない場合には事業活動に支障をきたし、業績に影響を及ぼす可能性がある。
このため、中長期的な視点に立って経営・事業を支える人材を計画的に獲得するため新卒採用、中途採用を強化している。併せて、働き方改革をはじめ、多様な働き方に対応する制度などの充実を進め、「働きやすい」、「働きがいがあり・魅力のある安心して働くことができる会社」を目指し、人材の確保と社員教育の充実を図っている。(前記「2.サステナビリティに関する考え方及び取組」(3)人的資本・多様性に関する取組 参照)
また各事業部門においては、ICTの開発・利用促進を通じて担い手不足への対応も同時に進めている。
③建設資材・労務費等の価格変動・調達困難
建設資材価格・労務費等の急激な高騰により、工事原価の上昇を招く可能性があるが、これを請負代金に反映することが困難な場合には、業績に影響を及ぼす可能性がある。
このため、購買部門が工事の受注検討や施工計画の段階から参画し、適正な調達価格で安定した調達を図ることができるよう努めている。
④取引先の信用不安
当社グループは国及び地方自治体等から発注される公共事業を主なターゲットとしているが、受注形態(元請・下請区分)により契約先の顧客は50%強が民間建設会社となる。
従って、これらの会社が信用不安に陥り、債権の回収遅延や貸倒れが発生した場合には、業績に影響を及ぼす可能性がある。また、顧客のみならず協力業者や共同施工会社が信用不安に陥った場合にも、施工進捗の遅れや共同企業体メンバーからの出資債権の未回収、債務の負担から、業績に影響を及ぼす可能性がある。
このため、取引先の与信管理については、日常的には信用情報を収集し、受注にあたっては信用調査機関からの調査書を基に社内審査を徹底するとともに、ケースに応じて債権に保証を付保する等の手段を講じ、信用リスクの回避に努めている。
⑤製品の欠陥
品質管理には万全を期しているが、工事目的及び商品について契約不適合責任などにより多額の損害賠償請求等を受けた場合には、業績に影響を及ぼす可能性がある。
このため、品質マネジメントシステムにより事業活動における営業、設計、購買、施工の各段階で継続的改善を図るとともに、工法別作業マニュアルに基づき、工事現場での品質管理を徹底している。また、内部監査部門が適宜監査を実施することにより契約不適合発生の防止に努めている。
①資金調達及び為替変動
金融危機が発生したり、急激な市場変動により業績が悪化した場合には、資金の調達に支障が出たり、調達コストが上昇し、業績に影響を及ぼす可能性がある。
このため、複数年度にわたるコミットメントライン契約を結ぶことなどにより、上記リスクが発生した場合でも、適正な手元流動性を確保し、財政状況の健全化を維持できるよう努めている。
また、海外取引から発生する為替変動リスクに対しては必要に応じて為替予約等によりリスクの低減に努めている。
②海外事業
当社グループは、主に東南アジア及び米国で事業を展開しているが、現地の政治・経済情勢、法規制に著しい変化が生じた場合や戦争・紛争・テロが発生した場合には、業績に影響を及ぼす可能性がある。
このため、危険度が高いとされている国、地域の工事の受注については、予め、リスクの評価・分析を行い、受注を決定している。
また、受注後においては、海外危機管理マニュアルに基づき、現地での医療リスクの回避やテロ・災害時の緊急避難体制について、危機管理会社への委託や海外安否確認システムを導入するなどにより、有事に備えた体制を構築し、社員ほか現地での従事者の安全を図っている。
①事故及び災害
一般的に建設現場は、特定の期間に多様な会社の人材や機械が混在しながら作業するという特性から、他の産業に比べて事故及び災害の発生率が高いというリスクがあり、重大な事故及び災害が発生した場合には、工事の中断、発注官公庁からの指名停止等の行政処分に加えて社会的な評価の低下にも及び、業績に影響を及ぼす可能性がある。
このため、安全品質環境本部が中心となり、安全週間等の運動、各拠点の安全大会、本社幹部パトロール等、定期的な安全衛生環境パトロールの実施をはじめ、若手の段階から安全衛生教育・啓蒙活動を継続的に実施し、事故及び災害の発生防止に努めている。
②自然災害
大規模な自然災害の発生により施工中の工事目的物が被災し、その修復や作業中断による工期の延長等により相応の費用が発生した場合や、社会インフラや会社施設に甚大な被害が及び長期にわたり事業が中断した場合には、業績に影響を及ぼす可能性がある。
このため、後者に対しては事業継続計画を策定し、国からの災害時の基礎的事業継続力評価の認定を受けるとともに、非常時に事業の早期復旧を可能とする体制を整備し、定期的な訓練、備蓄や諸施設の耐震化、社内情報の外部データセンターへの保管などを行い、有事への備えを進めている。
③気候変動
脱炭素社会への移行に向けて、工事施工時に排出される温室効果ガス排出量の規制や炭素税が導入された場合、事業活動の抑制によるコスト増加等の業績への影響や、気候変動の物理的影響として、平均気温の上昇、気象災害の頻発、激甚化が継続した場合、事業活動に影響を及ぼす可能性がある。
このため、施工段階における排出量を2050年までに実質ゼロにすることを目指し、省燃費運転の励行や燃費効率の高い建機・省エネ機器の採用及び、資機材の運搬距離の短縮・運搬方法の改善、施工工法の変更等に取り組んでいる。
またオフィス活動においても、自社保有施設を中心に使用電力について再生可能エネルギーを利用した電力へと移行する取組みを進めている。
なお、当社は、2023年2月に気候関連財務情報開示タスクフォース(以下TCFD)への賛同を表明し、気候変動課題への対応についてTCFDの提言に則った開示を行っている。
(前記「2.サステナビリティに関する考え方及び取組」(2)気候変動に関する取組参照)
④感染症等
感染症(パンデミック)が発生し事業活動に制限を受ける事態となった場合には、受注の減少、工事進捗の遅れ、コスト上昇などにより業績に影響を及ぼす可能性がある。
当社グループでは、新型コロナウイルス感染症に対しては、工事現場を除くオフィス勤務者については、在宅勤務の推進等により社員の安全を確保しつつ事業を継続する体制としている。
また、工事現場においては、協力会社を含めた社員の安全を確保しつつ施工を継続する体制としているが、施工中の現場内で感染症が発生した場合には現場が長期にわたり中断するなどの影響を受けることから、感染症対策の徹底を図った施工体制としている。
当社グループの事業は、建設業法、労働安全衛生法等多数の法的規制を受けているが、これらの法律の改廃、法的規制の新設、適用基準の変更等がなされた場合、業績に影響を及ぼす可能性がある。
このため、関係部署による法改正等の動向をモニタリングし、事前に法改正等に向けた対応方針の策定と当社グループとサプライチェーンへの具体策の展開に向けた体制を整備している。
また、法令等の改廃に伴う各種要領やマニュアルの整備と定期的な見直しを行い、説明会等を通じ当社グループ及び協力会社への浸透を図っている。万一これらの法令等に違反する事態が発生した場合は、業績に影響を及ぼす可能性がある。
このため、法令遵守と企業倫理の追求を経営の最重要課題と位置づけ、コンプライアンス体制の充実を図るとともに、関係法令の遵守を目的とした研修会を継続的に実施し、コンプライアンスマニュアルを作成、配布するなどにより教育、啓蒙活動を拡充している。また、外部窓口を有した実効性のある企業倫理ヘルプラインを設置し、法令遵守と企業倫理に関する通報、相談を適切に受付けることにより、法令等違反行為の早期発見と是正を図ることができる体制を整備している。
文中の将来に関する事項は、本有価証券報告書提出日現在において、当社グループが判断したものである。
(1) 財政状態の状況
当連結会計年度末の資産合計は、前連結会計年度末と比べて881百万円減少し、55,247百万円となった。主に設備投資による有形固定資産が増加したものの、売上債権(受取手形及び完成工事未収入金等)が減少したことなどによるものである。
負債合計は、前連結会計年度末と比べて2,302百万円減少し、21,978百万円となった。主に仕入債務(支払手形・工事未払金等)や短期借入金が減少したことなどによるものである。
純資産合計は、剰余金の配当により減少したものの、親会社株主に帰属する当期純利益の計上により利益剰余金が増加したことで前連結会計年度末と比べて1,421百万円増加し、33,269百万円となった。
この結果、自己資本比率は、前連結会計年度末と比べて3.4ポイント増加し、59.4%(前連結会計年度末56.0%)となった。当社は持続的な成長と経営の安定性を保つ観点から、成長投資や突発的なリスクへの備えとして、適正な株主資本の水準を維持することとしている。
当期のわが国経済は、コロナ禍後の経済社会活動は正常化に向かい、内需拡大やインバウンド需要等により国内景気は緩やかな回復が見られたものの、世界的な金融引き締めや中国経済の先行き懸念など、海外景気の下振れが国内経済を下押しするリスクとなっている。
建設業界においては、民間建設投資は、住宅や商業施設の建設需要に一時的な減少は見られたものの、公共建設投資は、防災・減災・国土強靭化対策の推進や補正予算もあり、堅調に推移した。また、供給面では建設資材・エネルギー価格の高止まりをはじめ、人手不足や賃金上昇等による建設コストの上昇が続いており、採算面においては押し下げ圧力が強い状況にある。
このような状況の中、当社グループの業績につきましては、期首手持ち受注高は71,023百万円(前期比5.3%増)、受注高が69,191百万円(前期比6.5%減)と減少、売上高は67,947百万円(前期比3.6%減)と減収となり、土木事業の営業損失の影響で営業利益は2,656百万円(前期比26.3%減)と減益となった。
経常利益は2,947百万円(前期比14.8%減)、親会社株主に帰属する当期純利益は2,009百万円(前期比7.3%減)とそれぞれ減益となった。
土木事業では、受注高は、配置技術者の逼迫が新規受注にも影響し27,374百万円(前期比19.9%減)と減少し、売上高は、複数の大型工事で進捗が遅れたこと等により26,017百万円(前期比19.1%減)と減収となった。営業損益は、減収に加えて、一部大型工事の採算悪化により、1,496百万円(前期1,303百万円の営業利益)の損失となった。
地盤改良事業では、受注高は、新技術適用工事の増加により38,563百万円(前期比2.9%増)と増加し、売上高は、39,149百万円(前期比10.9%増)と増収となった。営業利益は、増収に加えて採算性の高い工事の完成や保有船舶の高稼働に伴う採算改善もあり、4,060百万円(前期比56.3%増)と増益となった。
ブロック事業では、受注高は、大型プロジェクトの本格稼働により3,962百万円(前期比46.1%増)と増加し、売上高は、3,453百万円(前期比27.4%増)と増収となった。営業損益は、採算性の高い型枠賃貸の増収や販管費の圧縮もあり、70百万円(前期406百万円の営業損失)の黒字となった。
※1 全社計には3セグメント以外のその他事業及び連結調整が含まれるため、3セグメントの合算値と全社計は一致していない。
2 当連結会計年度前に外貨建てで受注した海外工事で、当連結会計年度中の為替変動により、外貨額を円貨に換算した金額が増減した場合については、期首手持ち受注高に反映している。
3 受注高、売上高については、セグメント間の内部売上高又は振替高を含めて記載している。
4 売上高総額に対する割合が100分の10以上の相手先別の売上高及びその割合は次のとおりである。
営業活動によるキャッシュ・フローは、税金等調整前当期純利益の計上や売上債権及び契約資産の減少などにより7,065百万円の収入超過(前連結会計年度は560百万円の収入超過)となった。
投資活動によるキャッシュ・フローは、有形固定資産の取得などにより3,626百万円の支出超過(前連結会計年度は1,288百万円の支出超過)となった。
財務活動によるキャッシュ・フローは、配当金の支払による支出や短期借入金の減少などから2,256百万円の支出超過(前連結会計年度は1,203百万円の収入超過)となった。
以上より、現金及び現金同等物の当連結会計年度末残高は、前連結会計年度末と比べて1,193百万円増加し、10,954百万円となった。
当社グループの資金需要のうち主なものは、土木事業での工事資金や地盤改良及びブロック事業での船舶・機械、ブロック型枠等の設備投資資金である。これらの財源は自己資金及び金融機関からの借入により調達している。
工事資金に対しては、工事立替金を対象とした特殊当座貸越契約及び債権の流動化契約を、また将来の成長投資や突発的なリスクへの備えとして、複数の金融機関とシンジケーション方式のコミットメントライン契約を締結しており、手元流動性と合わせて十分な資金の流動性を確保している。
当社グループの連結財務諸表は、我が国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されている。
この連結財務諸表作成にあたっては、経営者により、一定の会計基準の範囲内で見積り及び判断が行われている部分があり、資産・負債や収益・費用の数値に反映されている。
重要な会計方針については「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 注記事項(連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項)」に記載している。
また、見積りにあたっては過去の経験やその時点の状況に応じて妥当と考えられる様々な要素に基づき行っているが、見積りには不確実性が伴うため、実際の結果は、これらとは異なることがある。
連結財務諸表の作成にあたって用いた会計上の見積り及び仮定のうち、重要なものは「第5 経理の状況 1連結財務諸表等 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載している。
該当事項なし。
当社グループは、各事業における独自の技術とノウハウを有する分野を中心に、研究開発活動を行っている。
なお、当連結会計年度における研究開発費の総額は
セグメントごとの内訳は、土木事業
総合技術研究所は、海洋・水理、環境修復、地盤、材料・構造、基盤技術の5つのグループで研究開発活動を実施している。
海洋・水理グループは海域、河川域の各種構造物の水理安定性や水理機能を、環境修復グループは地下水・土壌の汚染浄化技術を、地盤グループは地盤改良技術を、材料・構造グループはブロックの構造強度を、基盤技術グループは中長期に利用可能な汎用技術を主な研究対象としているが、様々な経歴を有するメンバーの持てる力の結集と連携と協働により、社会のニーズに沿った新しい技術の研究開発を進めている。
当連結会計年度は、深海底でのコンクリートの耐久性、地球温暖化に伴う海面上昇や波浪の増大により懸念される砂浜の消失対策工法、自然の力により固化させた砂やグリーンインフラを用いた海岸保全技術、繊維補強コンクリートを再利用可能とするための環境に配慮した材料等に関する研究や地中に炭素を貯留する技術の開発を前期に引き続き実施した。
当分野では、環境修復技術及び土木施工技術について研究開発活動を行っている。
①環境修復技術
ふっ素汚染土壌の原位置対策として反応性を高めた不溶化剤の開発、当社の独自技術である土壌還元法の改善として、対象となるVOCs(揮発性有機化合物)の分解が長期間有効に働く徐放性栄養剤(一部食品廃棄物含む)の開発を進めている。また、今後大規模な市場になると見込んでいる自然由来重金属含有土壌(砒素、ふっ素、鉛)を対象とした汚染土処理についての対策工法の開発を継続的に進めている。さらに、環境省の実証事業である福島県内で発生し中間貯蔵施設で保管中の除去土壌の減容化技術の開発に取組んでいる。
②土木施工技術
当社では国土交通省の施策であるi-Constructionやデジタルトランスフォーメーションの推進に対応して、ICT施工の研究開発やデジタルデータの活用に取り組んでいる。このうちICT施工の開発ではブロック環境事業部と協働で「ICTを活用した消波工のメンテナンスの設計・施工手法の確立に向けた取り組み」として「第7回インフラメンテナンス大賞」に応募した結果、国土交通省技術開発部門、港湾・海岸分野で優秀賞を受賞した。また、デジタルデータの活用ではICT建機より取得されるlogデータを属性情報として盛土のBIM/CIMモデルへ自動付与するシステムを開発し施工管理の省力化を図るなどの取り組みを行っている。
当分野では、砂杭系や固化処理系等の地盤改良工法について、生産性向上や環境対策などの付加価値向上、コスト削減による競争力強化、さらにカーボンニュートラルといった時代のニーズに応じた視点から研究開発活動を行っている。
具体的には、総合技術研究所内に整備した多目的試験フィールドを活用し、材料実験室や実験棟の施設と併せて、種々の工法開発を進めている。
①液状化対策として実績の多いサンドコンパクションパイル工法を進化させ、建設現場で発生する土(建設発生土)を地盤改良工事に活用する技術「リソイルPro(プロ)工法」を開発し、昨年11月に発表した。この工法は、新たな材料供給システムを装備することで、建設発生土を改質せずに地盤改良材として利用できる範囲を拡大した。従来の機械と比較してCO2排出量を最大約50%削減し、トータルコストを最大約30%低減できるほか、材料や発生土の運搬・処分に関わる環境負荷や自然材料の採掘による環境負荷も低減できる。この技術より、サンドコンパクションパイル工法のさらなる市場拡大を目指していく。
②地盤改良のICT施工からBIM/CIM成果物の作成まで一貫して行えるシステム「FUTEOS-CIM(フテオス-シム)」を開発し、昨年6月に発表した。このシステムは従来のICT地盤改良システム(GNSS位置誘導システム「Tarpos(ターポス)3D」、施工管理システム「CONOS(コノス)®」、リアルタイム施工管理システム「Visios(ビジオス)®-3D」)の連携機能を強化して、各システムから出力される施工データ(属性情報)を自動で統合する事と、新たに開発した「ToolPileX(ツールパイルエックス)」により、CIMモデル(属性情報の付与された3Dモデル)の瞬時作成を可能とした。これにより、属性情報の付与に掛かる作業時間が従来比で90%短縮され、大幅な業務効率化の実現に成功した。今後は国土交通省のBIM/CIM対応に応じた地盤改良工事システムとして有効活用し、さらなる生産性向上を目指す。
③脱炭素社会の実現に向けた新たな地盤改良技術の開発も進めている。①で紹介した現地発生土を有効活用する地盤改良工法「リソイルPro工法」に加えて、一昨年からはバイオマス混合材料をサンドコンパクションパイル(SCP)工法の中詰め材料として適用する技術を研究開発している。この工法はCO2を吸収した竹をチップ化して中詰め材料に適用することで、砂地盤の液状化対策と炭素貯留技術、さらに放置竹林の問題を同時に解決できることが期待され、現在、他の研究機関と共同で開発に取り組んでいる。
当分野では、全国的に既設ブロックの老朽化が進んでいること、および最近の激甚災害への新たな対応として、ドローン等で撮影したデータを用いた消波ブロックの効率的な維持管理方法の検討、嵩上げに伴い撤去されたブロックの利用技術の開発を行っている。また、ブロック施工の担い手不足が懸念されるなか、機械化、省人化、高効率化として、3Dプリンタの活用を検討している。さらに、カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みとして、環境配慮型コンクリート技術の活用、ブルーカーボン生態系の増殖へ向けた技術開発を行っている。
①ICT技術を活用した消波工の維持管理
既設ブロックの変状をドローン等にて調査し、「港湾の施設の点検診断ガイドライン」に従って消波ブロックの点検診断を実施するとともに、消波ブロックの効率的な維持管理手法を確立するためのデータ蓄積を行っている。また、消波ブロックの据付をパソコン上で再現する据付システムを開発し、当社ブロックの技術提案に活用している。
②3Dプリンタの活用
建設用3Dプリンタによる様々な用途や新たな製品への展開を計画しているPolyuse社との共同研究を開始し、最初の取り組みとして3Dプリンタによるテトラポッド0.5t型造形物を製作した。3Dプリンタを用いた複雑な形状のブロックや環境商品などへの適用を進めていく。
③カーボンニュートラルの実現に向けた取り組み
脱炭素社会の実現に向けて、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)のグリーンイノベーション基金事業「CO2を用いたコンクリート等製造技術開発プロジェクト」を実施するコンソーシアムに参画し、消波・根固めブロックの現場打設に適した環境配慮型コンクリート技術の開発に取り組んでいる。今般、鹿島建設と共同で、カーボンネガティブコンクリートを用いた「CUCO®-SUICOMテトラッポッド」を製造し、一般的なコンクリートを用いた場合と比較してCO2を112%削減することができた。また、CO2の削減方策として「ブルーカーボン」に注目し、藻類の生長に必要な栄養塩を供給する素材の改良・開発、魚類等による食害から海藻を護る食害防御材の開発、当社製品に着生した海藻類を調査しブロック1個または群体としてのCO2固定量を明らかにする取り組みを行っている。