当社グループは、変化が激しく先行き不透明な今の時代において持続的な成長を実現していくため、長期ビジョン「安藤ハザマVISION2030」に掲げる4つの価値(お客様価値・株主価値・環境価値・従業員価値)の創造に向け、「企業価値向上」と「会社の魅力向上」を基本方針に掲げた「中期経営計画2025」を2023年5月に策定し、経営課題(事業強化・人的資本の価値向上・ESG経営の推進)に対して各種施策を推進しています。
計画2年目となる当連結会計年度においては、本業である建設事業のさらなる強化のために、ICTやAIに関する技術開発による施工の自動化・省人化の推進や、BIM・CIMの活用による生産プロセスの改革等を引き続き進めています。また、建設外事業としては、再生可能エネルギー事業の一環として系統用蓄電池事業に参入したほか、グループ事業として、中規模複合ビルの開発事業への取り組みや、低炭素型セグメントの製造方法確立、CARBON POOLコンクリートを用いたプレキャスト製品の製造試験開始等、施策を確実に推進しています。
人的資本の価値向上については、従業員のWell-beingを施策の中心に据え、報酬水準の見直しをはじめとする人事制度の改定や資格取得に向けた研修の拡充等人財への積極的な投資を継続しており、会社への貢献意欲や満足度等を測る従業員エンゲージメントスコアも前年度に引き続き向上しています。
ESG経営の推進については、脱炭素社会の実現に向け、温室効果ガス排出削減目標を「1.5℃水準」に更新しSBT認証を再取得したほか、人権尊重への取り組みとして、当社人権方針に関する全従業員への教育研修や、外国人技能実習生を雇用する国内の主要協力会社に対して人権デュー・ディリジェンスを実施するなど、各種施策を進めています。
なお、「安藤ハザマVISION2030」、「中期経営計画2025」の概要は以下のとおりです。
<「安藤ハザマVISION2030」の概要>
(1)長期ビジョン
~イノベーションの加速とたゆまぬチャレンジで新たな価値を創造、社会課題の解決に貢献~
「お客様価値の創造」/「株主価値の創造」/「環境価値の創造」/「従業員価値の創造」
(2)取組内容
・建設事業:受注力×現場力×収益力の更なる強化
・建設外事業:エネルギー関連事業を核とした収益源の確立
(3)長期目標数値
連結経常利益400億円、同利益に占める建設外事業収益比率25%
<中期経営計画2025の概要>
(1)計画期間
2024年3月期~2026年3月期
(2)基本方針
4つの価値創造に向けて ~ 企業価値向上+会社の魅力向上 ~
(3)取り組むべき課題と対応の方向性
①事業強化
外部環境変化に即応した事業運営、適切な資本施策の実現
・安全、品質の向上と利益の確保
・強みのあるセグメントの拡充など、建設事業の営業力、現場力、設計能力、及び技術力の強化
・成長投資の着実な実行による環境変化への耐性が高い事業ポートフォリオの構築
・グループ会社の専門性を生かしたコスト競争力の強化
・ノウハウの伝承などの人財育成と協力会社との関係強化による施工体制の強化
・DXへの取組強化によるデータに基づく戦略立案・実施と生産性向上
②人的資本の価値向上
積極的な人的資本投資による従業員価値の最大化
・人的資本投資の拡充
・多様な人財確保と従業員価値の最大化による経営基盤強化
③ESG経営の推進
環境・社会への貢献、ガバナンスの継続的な強化
・ESGへの取組強化等により環境変化への感度を高め、社会やお客様のニーズへの対応力強化
・ガバナンス強化による資本効率の高い経営推進と適切な成長投資の実行
(4)目標数値
今後の事業環境につきましては、引き続き回復が期待されますが、米国の通商政策による世界経済への影響や、物価上昇の継続による個人消費への影響が、わが国の景気を下押しするリスクとなっています。また、金融資本市場の変動等の影響に一層注意する必要があります。
建設業界では、長期的な人口減少等を背景にした建設投資の縮小や、建設技能労働者の減少と高齢化による担い手不足等が継続的な課題になっており、働き方改革や技術革新による生産性向上、並びに人的資本の向上に資する人財育成や処遇改善等への対応が必要になっています。加えて、気候変動や脱炭素への対応等、サステナブルな社会の実現への貢献が求められるとともに、足元では労務費の上昇、資材価格の高騰等に対して注視が必要な状況が継続しています。
当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりです。
なお、文中の将来に関する事項は、当報告書の提出日現在において当社グループが判断したものです。
(1)サステナビリティ全般に関するガバナンス及びリスク管理
当社グループは、長期ビジョン「安藤ハザマVISION2030」にて、「お客様価値の創造」「株主価値の創造」「環境価値の創造」「従業員価値の創造」の4つの価値創造を柱に据え、その実現に向けて「中期経営計画2025」(2023年度~2025年度)の各種施策を推進しています。サステナビリティ推進体制の強化に向けては、取締役会の諮問機関として代表取締役社長が委員長を務め、ESG諸課題を幅広く審議するサステナビリティ委員会を設置するとともに、サステナビリティ委員会と連携する専門委員会として環境戦略委員会、人的資本戦略委員会、内部統制・リスク管理委員会等を整備しています。サステナビリティ委員会は、変化する社会環境下における当社グループの持続可能性の観点から、企業価値を向上させることを目的として年に3~4回開催され、主に以下の内容を審議し、取締役会に答申、報告します。
・マテリアリティの特定、リスクと機会の特定
・サステナビリティに関する戦略、KPIの検討、開示資料の検討
・コンプライアンス、内部統制及びリスク管理に関する重要事項の特定
・サステナビリティに関する現状及び各種計画の進捗状況の確認(モニタリング)
代表取締役社長が議長を務める経営会議においては、各部門や専門委員会等で検討されたサステナビリティに関するリスクと機会についての対応方針、計画、対策等を審議し、取締役会に報告します。
取締役会は、サステナビリティ全般のリスク及び機会を監督する責任と権限を有しており、経営会議で審議されたサステナビリティに関するリスクと機会の対応方針、計画、対策等について、サステナビリティ委員会の答申・報告を踏まえて、審議・監督を行います。サステナビリティ課題への取組みの成果(温室効果ガス排出量や従業員エンゲージメントスコア等)は、各取締役(監査等委員である取締役及び社外取締役を除く)の報酬額の算定に反映されます。
② リスク管理
当社グループにおいて、全社的なリスク管理は、内部統制・リスク管理委員会において行っていますが、サステナビリティに関するリスクの識別、重点的に対応すべきリスクの特定については、各専門委員会の審議を経て、サステナビリティ委員会で詳細な検討を行い、共有します。重点的に対応すべきリスクの選定については、当社グループへの財務的な影響、社会的な影響度及び発生可能性を踏まえて行われます。重点的に対応すべきリスクは、各種計画に反映され、取締役会に報告、監督されます。サステナビリティに関するリスクへの対応状況は、サステナビリティ委員会においてモニタリングされ、取締役会に報告されます。サステナビリティに関する機会の特定及び評価は、各専門委員会での審議を経て、サステナビリティ委員会で行われます。重要な機会については、経営会議での審議を経て、各種計画等に反映され、取締役会に報告、監督されます。
(2)重要なサステナビリティ項目
上記ガバナンス及びリスク管理を通して識別された当社グループにおける重要なサステナビリティ項目は以下のとおりです。
・人的資本及び環境(気候変動)
① 人的資本
<経営戦略と人財戦略の連動>
当社グループは、「安藤ハザマVISION2030」の実現のためには、多様な個々の力をこれまで以上に高め集結し、更なる組織力の強化を図っていく必要があると捉え、「中期経営計画2025」では、「事業強化」「人的資本の価値向上」「ESG経営の推進」の3点を当社グループの経営課題と認識し、各種施策を展開しています。
「人的資本の価値向上」の実現に向け、納得性の高い人事評価制度の整備、報酬水準の向上、自律的なキャリア形成支援の強化、及び多様な働き方の実現等、各種施策を実施することで従業員エンゲージメントの向上に資する会社の魅力向上策を推進するとともに、多様な人財の確保と人的資本価値の最大化による経営基盤の強化を進めており、2025年度の全社KPIの一つとして「従業員エンゲージメントスコア80%以上」を掲げています。
当社グループは、建設業界で最も従業員を大切にする会社を目指しています。Well-beingを人財戦略の中心に据え、会社と従業員が価値を共有し、将来に向けて共に成長していくため、人財への投資と各種施策を積極的に推進していきます。
<人財育成方針>
人財育成は全員で取り組むべき課題であり、一人ひとりが自身の能力や専門性を高め積極的に人財育成に関わることが大切であるとの考えのもと、「人財育成基本方針」を定めるとともに、当社が人財に期待する姿を定義しています。当該方針等に基づき、「安藤ハザマVISION2030」における従業員価値の創造を実現し、会社と従業員が共に成長していくことを目指します。
当社グループは、「安藤ハザマVISION2030」にも掲げるとおり、継続的かつ戦略的な成長投資を行い、本業である建設事業の更なる強化に加え、事業ポートフォリオの変革に向けて建設以外の事業の強化にも積極的に取り組んでいます。
土木・建築事業:営業力及び現場力の強化を企図した育成・採用・配置を以下のとおり実施しています。
・技術部門からの計画的な人員配置による営業体制の強化
・現場職員のスキルアップ(各種専門技術研修の充実及び動画コンテンツ教育の実施、一級資格の早期取得
(資格取得支援、取得インセンティブ付与)、施工技術伝承に資する案件選定と若手職員計画配置、若手
役職者の早期育成、ICTリテラシー教育によるBIM/CIMの活用拡大)
・優秀人財の採用強化と入社後フォローの充実(キャリア採用の拡充と新卒採用強化、インターンシップ・
現場見学会・施工体験会などの積極的な展開、メンター制度導入による若手社員のフォロー充実)
・技術系職員が安全・品質管理業務に集中できる人財の適正配置
海外事業:地政学リスク等の不透明な外部環境を踏まえ、事業の安定化に軸足を置き、将来の着実な成長を支
える人財の育成を以下のとおり実施しています。
・国際事業本部の外国籍職員比率を10%以上に向上
・外国籍職員を含む有能な若手・中堅社員の計画的な育成及び役職者・プロジェクトマネージャーへの積極
登用を実施し組織活性化を促進
・インターナショナル・ナショナルスタッフの海外拠点幹部候補の育成
・国内の若手・中堅社員のキャリアパスとして短期海外勤務ローテーション制度を新設
・国際事業本部の幹部候補に対する特別教育制度を導入し、新規領域への進出も視野に入れた国際ビジネス
に通用する人財を育成
DX:当社グループの「DXビジョン2030」では、多様な働き方の実現、能力拡張の実現、イノベーション(新
たな価値の創造)を掲げています。その実現に向け、人財データのデジタル化と一元化、IT・DX
人財の確保を進めています。具体的には、職種に応じたITリスキリング教育、高度IT・DX人財
の育成・登用・採用、教育一元管理システムの導入・活用を行っています。
今後は、創エネ(再エネ)事業など注力する建設以外の事業を含む事業全体を視野に、戦略の実現に必要となる最適な人財像を精査のうえ、人財ポートフォリオ全体での中長期的な採用・育成・配置を念頭に置いた人財戦略を検討していきます。なお、当社グループでは、協力会社での事業の担い手確保に向けた教育・研修の支援も実施しています。
<社内環境整備方針>
当社グループは「安藤ハザマVISION2030」にて「従業員価値の創造」をビジョンの一つに掲げており、「中期経営計画2025」では、Well-being実現、自律的キャリア形成支援、「共育」「挑戦」「創造」の風土醸成などを従業員へコミットしています。
従業員エンゲージメントの向上は「安藤ハザマVISION2030」で定める施策であるほか、「中期経営計画2025」における全社KPI、そして役員報酬KPIにも定めている当社の人財戦略における最重要施策の一つです。従業員エンゲージメント調査では、Well-being、キャリア開発、職場風土、理念への共感等に関する項目を質問しており、中期経営計画等で従業員へコミットしている各種項目に対する、まさに効果測定の役割を果たしていると言えます。「中期経営計画2025」における全社KPIで従業員エンゲージメント関連項目の肯定的回答率80%以上を掲げていますが、2024年度の実績は77%となりました。今後も引き続き、調査結果の分析を通じて組織課題を特定のうえ、PDCAサイクルによってその改善に努めていきます。
また、技術士や一級建築士等の資格取得支援策を強化するとともに資格保有者に対する資格手当の支給を行い、社員の自律的キャリア形成を継続的に後押しするほか、社内でキャリア形成の取組事例等を全従業員に展開することで「共育」「挑戦」「創造」の風土醸成を図っています。
加えて、当社グループは多様な人財が「やりがい」と「ゆとり」をもって活躍しやすい職場を目指しています。より働きやすい環境となるように、コアタイムなしのフレックスタイム制度や在宅勤務制度を導入しており、育児や介護と仕事を両立するための様々な制度も整備しています。特に男性の育児休業取得推進に向けては、制度の整備のほか管理職向けの研修の実施や、育休取得対象者やその上長向けに制度の理解や育休取得促進を目的としたリーフレットによる周知を実施し、取得率も着実に増加しています。また、女性の活躍をダイバーシティ戦略の大きな柱の一つに据えており、女性比率・女性管理職比率の向上に向け、女性採用のための広報活動や働き続けられる職場環境整備にも力を入れて取り組んでいます。
※年度末時点での女性比率を記載しています。
<人的資本ガバナンス>
当社では、長期ビジョンに掲げる4つの価値創造の実現に相応しい多様性のある人財を取締役会の構成メンバーに選定していますが、「従業員の価値創造」実現にあたり、9名の取締役のうち過半数の5名が「人的資本」のスキルを有する取締役(うち社外取締役は4名)となっております。当社取締役会は人的資本に関する十分な議論を行う専門性を有しており、上記人財戦略の状況につき定期的なモニタリングを行っていきます。また、人的資本経営の執行を支える機能の一環として、戦略的な人財の確保・育成を主管するキャリア開発部と、ダイバーシティ・インクルージョンの推進を担う人事部ダイバーシティ推進グループを専門部署として設置しています。さらにESG諸課題を幅広く審議する「サステナビリティ委員会」を取締役会の諮問機関として設置するとともに、人的資本の価値向上をより一層強力に推進するため、サステナビリティ委員会と連携する「人的資本戦略委員会」を設置し、全社的に人的資本経営の加速化を図っています。
当社は、取締役(監査等委員である取締役及び社外取締役を除く)及び執行役員を対象として、中長期インセンティブとして業績連動型株式報酬制度(役員報酬BIP信託)を導入しており、「安藤ハザマVISION2030」及び「中期経営計画2025」の実現に向けた取締役のリーダーシップの発揮を促進し、多様な従業員が活躍できる環境づくりに向けて、経営陣がその責務を果たすよう、「従業員エンゲージメントスコア」を指標として設定しています。
また、当社従業員に対しても、従業員の処遇改善を図ること、人財育成制度の拡充を通じて従業員の成長と会社の発展が一体となること、当社の将来的な経営人財の成長・成果と当社の発展・企業価値向上との関連性を強化することを目指して、従業員を対象としたインセンティブプラン(株式付与ESOP信託)を導入しており、人的資本ガバナンスにつきましては、全社をあげて取り組んでいます。
② 環境(気候変動)
(イ)ガバナンス
気候変動に起因するリスク・機会に関しては、環境戦略委員会で審議されます。環境戦略委員会には事業部門の代表者及び役員が参加し、リスク・機会の特定及び顕在化した際の影響分析、その対応策の検討を年4回以上実施します。その結果は経営会議を通して取締役会に報告されます。気候変動を含む事業等に重要な影響を与える可能性のあるリスクについては、内部統制・リスク管理委員会において、リスクマネジメントの検討・審議が行われ、サステナビリティ委員会での審議を経て、取締役会へ報告されます。気候変動に起因するリスクに関しては、環境戦略委員会と連携し対応しています。
(ロ)リスク管理
当社グループでは、気候変動について将来における気温上昇のシナリオとして、1.5℃・2℃・4℃の3種類の温度帯を想定し、2030年及び2050年におけるシナリオ分析を実施しています。
具体的には、当社グループのサプライチェーン/バリューチェーンを念頭に、当社グループ全体への影響及び各プロセス(開発・設計→資材調達→施工→保守・修繕)において想定しうる影響を抽出し、4℃シナリオ・2℃シナリオ・1.5℃シナリオの下でどのような財務影響が起こり得るのか想定し、さらに「発生頻度」「影響期間」「影響の大きさ」「コアビジネスとの関連性」「顕在化する可能性」「顕在化する時期」といった評価軸を用いて、各リスク・機会を3段階で評価し、総合的に重要度を評価しています。
特定されたリスクに対して、取締役会及びサステナビリティ委員会の監督の下、環境戦略委員会及び内部統制・リスク管理委員会を中心にリスクの回避、軽減、移転、保有に関する方針の策定や対応策の立案など、全社を通じたリスクマネジメントを行います。また、対応策の実施状況並びにその効果についてモニタリングを実施します。
(ハ)戦略
<シナリオ分析によって特定した気候関連のリスク及び機会、当社グループ事業への財務影響>
当社グループでは、将来における気温上昇のシナリオとして、1.5℃・2℃・4℃の3種類の温度帯を想定し、2030年及び2050年におけるシナリオ分析を実施しています。
以下の表に示す政府機関及び研究機関で開示されているシナリオなどを参照して、重要度の評価及び財務影響の分析を実施しています。
当社グループでは、気候関連のリスク及び機会を評価する際に、Scope1、2、3排出量や電力消費量、また各シナリオで参照される炭素価格の予測、真夏日の増加日数割合などをパラメータ(指標)として活用しています。
それらのパラメータを用いて評価を行った、当社グループの事業に影響を及ぼす、気候変動に起因するリスク・機会と各リスク・機会の重要度(影響の大きさ)を以下の表に示します。
◆リスク
◆機会
当社グループは、環境方針及び環境目的・目標(3か年)を設定するとともに、SBT認定取得、RE100への加盟など、低炭素社会、循環型社会、自然共生社会の実現に向けて、各種施策を積極的に展開し、環境重視経営を推進しています。
具体的にはこれらのリスクの回避/機会の獲得に向けて、以下のような対応策の実施を推進しています。(検討中の策を含む)
気候関連のリスク及び機会の分析に活用した指標及びScope1、2、3排出量との関連・目標
・当社グループのScope1、2、3排出量は気候関連のリスク・機会の影響を受ける指標であり、例えば新たに炭
素税が導入されることで、エネルギーコストの増加や調達原材料の価格高騰といった財務影響につながりま
す。
・Scope1、2、3排出量は財務影響に直結するパラメータ(指標)となるため、当社グループでは、その影響を
軽減するためにScope1、2、3排出量の削減に努めています。なお、2050年カーボンニュートラルの実現に向
けてScope1、2は、1.5℃シナリオに基づく目標、Scope3はWB2.0℃に基づく目標を掲げており、またRE
100にも加盟しています。
表1.温室効果ガス削減目標
表2.RE100に関する再生可能エネルギー電力利用目標
当社は、リスクの発生防止及びリスクが発生した場合の損失の最小化を図り、会社業務の円滑な運営に資するため、リスクマネジメントに関する規定類及び体制を整備し、当社グループ全体で対応すべき重要なリスクの評価、当該リスクへの対応策のとりまとめ、及び当該対応策の推進を図っています。また、内部統制システム全般についての継続的改善を目的に、内部統制・リスク管理委員会が、リスクマネジメントの運営状況について、定期的に検証し、取締役会の諮問委員会として設置されたサステナビリティ委員会に報告し、サステナビリティ委員会は、当該運営状況を監督し、取締役会に報告する体制としています。
リスクマネジメント体制を含む内部統制システムの詳細については、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (1)コーポレート・ガバナンスの概要 (2)提出会社の企業統治の体制の概要及び当該体制を採用する理由 ④その他の提出会社の企業統治に関する事項」に記載のとおりです。
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりです。
なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末(2025年3月31日)現在において当社グループが判断したものです。
(1) 競争環境の悪化
想定を上回る建設市場の縮小や競争激化が生じた場合には、業績等に影響を及ぼす可能性があります。
当社は、当社グループを取り巻く事業環境の変化に対応すべく、長期ビジョン、中期経営計画及び事業計画(単年度)を策定した上で事業活動を営んでいますが、想定を上回る環境の変化が発生した場合には、適宜計画等の見直しを行い、業績等への影響を極小化すべく取組む方針です。
当社グループは会社法、金融商品取引法、労働基準法、独占禁止法、建設業法、建築基準法、宅地建物取引業法等の適用を受けています。役職員に対するコンプライアンスの徹底や法令リスク管理等を行っていますが、法令諸規制の改廃や新設が行われて、もしくは法令諸規制の違反が発生して当社グループの営業活動に大きな制約が生じた場合には、業績等に影響を及ぼす可能性があります。
当社は、当社グループにおいて一貫した方針のもと公正かつ透明な事業運営を確保するために、コンプライアンス推進委員会を設置するとともに各部門及び主要グループ会社にはコンプライアンス責任者・担当者を配置し、総務部主管のもと、各種推進活動の効果的な展開を図っています。
(3) 諸外国における事業環境の変化
諸外国で事業を行っているため、その国の法令諸規制・税制の予期せぬ改廃・新設、政治・経済・社会情勢の著しい変化、為替相場の大きな変動が発生した場合には、業績等に影響を及ぼす可能性があります。
当社は、既進出国の法令諸規則、税制、政治・経済・社会情勢に関する情報を当該国の専門家から入手し、重大な変更が見込まれる場合は事前に社内体制を強化する等、変化に対応すべく取組んでいます。また、新規進出国の事業環境に関する情報は、外部の専門家を使い情報を入手し、入手した情報に基づいて取締役会で進出の可否に関して慎重に検討しています。
(4) 気候変動リスク
「2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (2)重要なサステナビリティ項目 ②環境(気候変動) (ハ)戦略」に記載の「リスク要因」が顕在化した場合、当社の業績等に影響を及ぼす可能性があります。
当社は、事業継続に向けて自然災害に対する備えを適切に行うとともに、2020年2月に制定した長期ビジョン「安藤ハザマVISION2030」の中で「環境価値の創造」を掲げ、「脱炭素で低負荷な循環型社会の実現」への貢献を目指しており、SBT、RE100の計画に基づいた、事業活動における再生可能エネルギーの利用拡大や、建物のCO2排出量削減につながる環境配慮型技術の開発等、脱炭素社会の実現に向けた取組を推進しています。
また、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (2)重要なサステナビリティ項目 ②環境(気候変動) (イ)ガバナンス」に記載のとおり、気候変動に対するガバナンス体制を構築しています。
(5) 労務費・資材価格の高騰
国内外の急激な経済情勢の変化を受けて、労務・資材・エネルギーの不足や価格の急激な高騰により建設コストが大幅に増加した場合には、業績等に影響を及ぼす可能性があります。
当社グループは、集中購買や海外調達等によるコストダウンを図るとともに、物価及び賃金等の変動に基づく請負代金額の変更に関する規定を、発注者と締結する契約書の条項に含める等の対策を実施しています。
当社では計画的な人員計画により、継続的に新規人材を採用していますが、技術系社員について必要な採用数が確保できない場合、事業規模の縮小を余儀なくされ、業績等に影響を及ぼす可能性があります。また、建設業界においては技能労働者が減少傾向にあり、必要な労務が確保できなくなること、あるいは労務調達コストの上昇により、業績等に影響を及ぼす可能性があります。
当社は、2023年5月に策定した「中期経営計画2025」(2023年度~2025年度)において、Well-beingを人財戦略の中心に据え、従業員の報酬アップ、定年後再雇用者の処遇改善、納得性の高い人事制度及び評価システムの再構築、働き方改革の推進等、将来の人材確保、流出阻止に向けた施策に積極的に取り組んでいます。また、協力会社に対してDX化対応支援、人材育成支援、採用支援等を実施し、協力会社との関係強化を図り、将来の施工体制の維持に向けて積極的に取り組んでいます。
(7) 労働災害、第三者災害
労働災害等を未然に防止するため様々な安全対策の徹底を図っていますが、労働災害等が発生した場合、工事の一時中断、被災者に対する損害賠償等により、業績等に影響を及ぼす可能性があります。
当社は、安全衛生基本方針に「安全はすべてに優先する」を掲げ、労働安全衛生マネジメントシステムを構築、運用し、協力会社を含む全工事従事者に対し安全衛生管理の徹底を図っていますが、万が一労働災害等が発生した場合には、各支店に設置している安全環境部を中心に、営業、施工、管理の各部門と連携して迅速に対応する体制を整えています。
施工中の工事現場で火災事故等が発生した場合には、工事の一時中断による収益減少、復旧費用や被災者に対する損害賠償等により、業績等に影響を及ぼす可能性があります。
当社は、2018年7月26日に発生した東京都多摩市の当時施工中の建築物件における火災事故を踏まえ、再発防止策を策定し、すべての作業所で適切に運用を行っています。また、建設本部、各支店において運用状況の点検、パトロール等を行い、策定したルールを順守するよう指導を行っています。
(9) 潜在的な契約不適合
工事目的物の品質管理には万全を期していますが、重大な契約不適合が発生した場合には顧客からの信頼喪失、契約不適合責任等による損害賠償等の発生により、業績等に影響を及ぼす可能性があります。
当社は、品質マネジメントシステムに基づき、営業、設計、施工、アフターケアの各段階で顧客満足の向上に向けた生産活動に取組んでいますが、重大な契約不適合が発生した場合は、各支店に設置しているお客さま相談室を中心に、営業、施工の各部門と連携して迅速に対応する体制を整えています。
なお、経営上重要な潜在的なリスクを抱えている、又は一部リスクが顕在化している大型高難度工事に対して、的確かつ可及的速やかに対応していくため、施工と技術の両面からより一体的にリスクを抑制する対策、及びリスク発現後の的確な是正策を検討・実施する組織を設置しています。
(10) 情報漏洩
顧客の情報管理には細心の注意を払っていますが、万が一重要な情報が外部へ漏洩した場合には顧客や社会からの信用喪失、損害賠償等の発生により、業績等に影響を及ぼす可能性があります。
当社は、日々の情報管理の徹底に加えて、政府の定めるサイバーセキュリティ月間の活動にあわせた各種取組も実施し、グループ会社の全従業員に周知徹底すべく、啓発活動を行っています。
(11) DX(デジタルトランスフォーメーション)への対応遅れ
DXへの対応が遅れた場合には、業務の効率化が進まず、競合他社と比較して生産性の低下や人件費の増加等が発生し、価格競争に対応できなくなることで、業績等に影響を及ぼす可能性があります。
当社は、全社的なDX戦略策定と、個別プロジェクト推進のスピードアップを図るため、DX推進を担当する専門部署を設置しています。また、2022年11月には「DXビジョン2030」を作成・公開しており、DX推進により当社が目指す姿を明確にした上で、各施策への取組を加速させています。
工事現場や各拠点において、錯誤等何らかの要因により反社会的勢力と取引等を行った場合、社会的信用の失墜により業績等に影響を及ぼす可能性があります。
当社は、行動規範において反社会的勢力との関係遮断を掲げ、また、反社会的勢力対応マニュアルを策定し、全役職員に対して周知徹底を図っています。また、調達基本方針の中でも反社会的勢力の排除を掲げており、取引先に対しても当方針の理念を説明し、理解した上で当社との取引を行っていただいています。
当連結会計年度における当社グループ(当社、連結子会社及び持分法適用関連会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりです。
当連結会計年度におけるわが国の経済は、雇用・所得環境の改善が進む中で、緩やかな回復が続きました。
今後についても、引き続き回復が期待されますが、米国の通商政策による世界経済への影響や、物価上昇の継続による個人消費への影響が、わが国の景気を下押しするリスクとなっています。また、金融資本市場の変動等の影響に一層注意する必要があります。
建設業界におきましては、政府建設投資、民間建設投資ともに堅調に推移しました。一方で、資材価格や労務費等の動向に今後も注視が必要な状況となっています。
このような状況のもと、当社グループの当連結会計年度の業績は、売上高4,251億円(前連結会計年度比7.9%増加)、営業利益352億円(前連結会計年度比89.6%増加)、経常利益340億円(前連結会計年度比83.6%増加)、親会社株主に帰属する当期純利益は264億円(前連結会計年度比90.5%増加)となりました。
セグメントの業績は、次のとおりです。
受注高は1,299億円(前連結会計年度比12.4%増加)、売上高は1,327億円(前連結会計年度比0.3%減少)、営業利益は151億円(前連結会計年度比7.6%増加)となりました。
受注高は2,976億円(前連結会計年度比26.4%増加)、売上高は2,613億円(前連結会計年度比16.6%増加)、営業利益は269億円(前連結会計年度比199.8%増加)となりました。
売上高は237億円(前連結会計年度比24.8%減少)、営業利益は10億円(前連結会計年度比40.2%減少)となりました。
(その他)
売上高は72億円(前連結会計年度比41.3%増加)、営業利益は6億円(前連結会計年度比306.7%増加)となりました。
当連結会計年度末における財政状態は次のとおりです。
資産は、前連結会計年度末より378億円増加し、3,719億円となりました。これは受取手形・完成工事未収入金等326億円の増加が、未成工事支出金14億円の減少を上回ったことによります。
負債は、前連結会計年度末より201億円増加し、1,997億円となりました。これは短期借入金46億円の増加が、退職給付に係る負債3億円の減少を上回ったことによります。
純資産は、前連結会計年度末より177億円増加し、1,721億円となりました。これは利益剰余金168億円の増加や、繰延ヘッジ損益10億円の増加などによります。
現金及び現金同等物の当連結会計年度末残高は、期首残高と比較して69億円増加し、557億円となりました。当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況及び要因は次のとおりです。
営業活動によるキャッシュ・フローは、税金等調整前当期純利益382億円の計上などの資金増加要因が、売上債権の増加326億円などの資金減少要因を上回ったことにより、111億円の資金増加(前連結会計年度は111億円の資金減少)となりました。
投資活動によるキャッシュ・フローは、有価証券及び投資有価証券の売却による収入48億円などの資金増加要因が、有形固定資産の取得による支出41億円などの資金減少要因を上回ったことにより、16億円の資金増加(前連結会計年度は60億円の資金減少)となりました。
財務活動によるキャッシュ・フローは、配当金の支払額96億円、長期借入金の返済による支出45億円などの資金減少要因が、長期借入れによる収入39億円などの資金増加要因を上回ったことにより、57億円の資金減少(前連結会計年度は90億円の資金減少)となりました。
当社グループが営んでいる事業の大部分を占める土木事業、建築事業及びグループ事業の一部では生産実績を定義することが困難であり、これらの事業においては請負形態をとっているため、販売実績という定義は実態にそぐいません。
よって、受注及び販売の実績については、可能な限り「(1)経営成績等の状況の概要」において報告セグメントの種類に関連付けて記載しています。
なお、参考のため個別の事業の実績は次のとおりです。
建設事業における受注工事高及び完成工事高の実績
(注) 1.前期繰越工事高の上段( )内表示額は、期首における前期末の次期繰越工事高を表し、下段表示額は為替の影響を受ける海外工事について換算修正したものです。
2.前期繰越工事で、契約の更改により請負金額に変更があるものについては、当期受注工事高にその増減額を含みます。したがって、当期完成工事高にもかかる増減額が含まれます。
3.次期繰越工事高は(前期繰越工事高+当期受注工事高-当期完成工事高)です。
工事の受注方法は、特命と競争に大別されます。
(注) 百分比は請負金額比です。
(注) 1.海外工事の地域別割合は、次のとおりです。
2.完成工事のうち主なものは、次のとおりです。
前事業年度の主なもの
当事業年度の主なもの
3.完成工事高総額に対する割合が100分の10以上の相手先別の完成工事高及びその割合は、次のとおりです。
前事業年度
該当する相手先はありません。
当事業年度
該当する相手先はありません。
d.手持工事高(2025年3月31日現在)
(注) 手持工事のうち主なもの
経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりです。
なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末(2025年3月31日)現在において判断したものです。
当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されています。
この連結財務諸表の作成にあたっては、資産・負債並びに収益・費用の数値に影響を与える見積り、判断が一定の会計基準の範囲内で行われています。これらの見積り等については、継続して評価し、事象の変化等により必要に応じて見直しを行っていますが、見積りには不確実性を伴うため、実際の結果はこれらとは異なる場合があります。
当社グループの連結財務諸表で採用する重要な会計方針は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項 (連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項)」に記載していますが、特に次の重要な会計方針が連結財務諸表作成における重要な見積りの判断に影響を及ぼすと考えています。
完成工事高、完成工事原価及び工事損失引当金の計上
完成工事高及び完成工事原価の計上は、財又はサービスに対する支配が顧客に一定の期間にわたり移転する場合には、財又はサービスを顧客に移転する履行義務を充足するにつれて、一定の期間にわたり収益を認識する方法を適用しています。履行義務の充足に係る進捗度の測定は、各報告期間の期末日までに発生した工事原価が、予想される工事原価総額に占める割合に基づいて行っています。
また、工事原価総額の見積りが工事収益総額を上回る可能性が高く、かつ、その損失見込額を合理的に算定できる場合、当該損失見込額を損失が見込まれた期に工事損失引当金として計上しています。
なお、工事原価総額には、過去の工事の施工実績を基礎として、個々の案件に特有の状況を織り込んでおり、決算日ごとに見直していますが、外注価格及び資機材価格の高騰、手直し等による施工中の追加原価の発生など想定外の事象により工事原価総額が増加した場合は、将来の業績に影響を及ぼす可能性があります。
② 当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
(ⅰ) 財政状態
当連結会計年度末における資産は、前連結会計年度末より378億円増加し、3,719億円となりました。これは受取手形・完成工事未収入金等326億円の増加が、未成工事支出金14億円の減少を上回ったことによります。
負債は、前連結会計年度末より201億円増加し、1,997億円となりました。これは短期借入金46億円の増加が、退職給付に係る負債3億円の減少を上回ったことによります。
純資産は、前連結会計年度末より177億円増加し、1,721億円となりました。これは利益剰余金168億円の増加や、繰延ヘッジ損益10億円の増加などによります。
(ⅱ) 経営成績
売上高は、完成工事高が前連結会計年度比9.4%増加したこと等により、前連結会計年度比7.9%増加の4,251億円となり、売上総利益は前連結会計年度比40.7%増加し609億円となりました。
営業利益は主に建築工事の採算性向上を主因とし、前連結会計年度比89.6%増加の352億円となりました。
営業外収支は、前連結会計年度に比べ損害賠償金の増加等により11億円悪化したものの、営業利益の増加により、経常利益は340億円と前連結会計年度比83.6%の増加となりました。
特別損益は、前連結会計年度に比べ投資有価証券売却益の増加等により38億円増加しました。
以上により、親会社株主に帰属する当期純利益は264億円(前連結会計年度比90.5%の増加)となり、前連結会計年度に比べ125億円の増益という結果となりました。
(ⅲ) キャッシュ・フローの状況
現金及び現金同等物の当連結会計年度末残高は、期首残高と比較して69億円増加し、557億円となりました。
当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況及び要因は次のとおりです。
営業活動によるキャッシュ・フローは、税金等調整前当期純利益382億円の計上などの資金増加要因が売上債権の増加326億円などの資金減少要因を上回ったことにより、111億円の資金増加(前連結会計年度は111億円の資金減少)となりました。
投資活動によるキャッシュ・フローは、有価証券及び投資有価証券の売却による収入48億円などの資金増加要因が有形固定資産の取得による支出41億円などの資金減少要因を上回ったことにより、16億円の資金増加(前連結会計年度は60億円の資金減少)となりました。
財務活動によるキャッシュ・フローは、配当金の支払額96億円、長期借入金の返済による支出45億円などの資金減少要因が、長期借入れによる収入39億円などの資金増加要因を上回ったことにより、57億円の資金減少(前連結会計年度は90億円の資金減少)となりました。
当社グループの本業である建設産業は、景気動向の影響を受けやすい傾向にあります。
今後の事業環境につきましては、引き続き回復が期待されますが、米国の通商政策による世界経済への影響や、物価上昇の継続による個人消費への影響が、わが国の景気を下押しするリスクとなっています。また、金融資本市場の変動等の影響に一層注意する必要があります。
建設業界では、政府建設投資、民間建設投資ともに堅調に推移しました。一方で、資材価格や労務費等の動向に今後も注視が必要な状況となっています。
(ⅰ) 資金需要
当社グループの事業活動における資金需要の主なものは、本業である建設事業の生産活動に必要な運転資金、販売費及び一般管理費、事業用資産の取得、維持・更新にかかる設備投資資金、研究開発投資等です。
(ⅱ) 財務政策
当社グループの事業活動の維持拡大に必要な資金を安定的に確保するため、内部資金の活用及び金融機関からの借入と社債の発行により資金調達を行っています。
長期借入金、社債等の長期資金の調達については、事業計画に基づく資金需要、金利動向等の調達環境、既存借入金の返済時期等を考慮の上、調達規模、調達手段を適宜判断して実施しています。
当社においては、運転資金の効率的な調達を行うため、取引銀行とコミットメントライン(特定融資枠)契約(500億円)を締結しています。なお、当連結会計年度末において、コミットメントライン契約による借入残高はありません。
また、長期借入金の一部については、金利変動リスクを回避するため、金利スワップ取引を利用しています。
中期経営計画2025目標数値と計画期間中の実績
(注)上記のほか、GHG排出削減率を目標数値としています(実績値は2025年7月に確定予定)。
(参考)2025年3月期の年度事業計画と実績の差異
売上高につきましては、土木事業、建築事業ともに工事が概ね順調に進捗したことにより、計画数値を上回りました。
主に建築の完成工事において採算性が向上し完成工事総利益が計画数値を上回ったため、経常利益は計画数値を上回りました。
(土木事業)
受注高は、前連結会計年度比12.4%増加の1,299億円となりました。完成工事高は、前連結会計年度比0.3%減少の1,327億円となりました。営業利益は、前連結会計年度に一部工事の採算性が悪化したことの反動等により前連結会計年度比7.6%増加の151億円となりました。
当社個別の完成工事総利益率は、前期実績から0.2ポイント減少し、15.0%となりました。
(建築事業)
受注高は、前連結会計年度比26.4%増加の2,976億円となりました。完成工事高は、工事が概ね順調に進捗したことなどから、前連結会計年度比16.6%増加の2,613億円となりました。営業利益は、完成工事において採算性が向上したことなどにより、前連結会計年度比199.8%増加の269億円となりました。
当社個別の完成工事総利益率は、前期実績から5.7ポイント増加し、14.3%となりました。
土木事業及び建築事業に係るセグメント資産は、受取手形・完成工事未収入金等の増加などにより、前連結会計年度末から289億円増加の2,484億円となりました。
(グループ事業)
売上高は237億円(前連結会計年度比24.8%減少)、営業利益は10億円(前連結会計年度比40.2%減少)となりました。
セグメント資産は、前連結会計年度末から17億円増加の386億円となりました。
(その他)
売上高は72億円(前連結会計年度比41.3%増加)、営業利益は6億円(前連結会計年度比306.7%増加)となりました。
セグメント資産は、前連結会計年度末から13億円増加の113億円となりました。
該当事項はありません。
当社グループは、土木・建築・環境分野を柱に、更なる品質の安定と十分な顧客満足を確保するべく積極的に技術・研究開発活動を推進し、その成果の展開に取り組んでいます。
当連結会計年度における研究開発への投資総額は約
セグメントごとの内訳は、土木事業約
① 山岳トンネル
ICTにより山岳トンネル工事の生産性を大幅に高める取組として「山岳トンネル統合型掘削管理システム(i-NATM®)」の開発を推進しています。当連結会計年度には、山岳トンネルにおけるズリ出しの生産性向上を目指して、機械掘削工法において自動掘削・遠隔掘削を実現する「積込み機能付きAI-ロードヘッダ」、連続ベルトコンベヤ工法において延伸時の蛇行を抑制する「新型テールピース台車」及び建設機械の離隔が変化することを補う「遠隔操作移動式コンベヤ」を開発し、その有効性を確認しました。また、「吹付けコンクリートの自動施工技術」を開発し、施工中の現場に適用することで山岳トンネル工事における吹付けコンクリートの施工が無人化可能であることを確認しました。今後も自動化・無人化技術の開発を推進し、山岳トンネル工事の安全性、生産性向上を目指して取り組んでいきます。
② 建機の自動運転
建設現場での施工は、複数種の建設機械を使用する必要があります。これまでの振動ローラとブルドーザの自動運転システムの開発に加え、施工中のシールド工事現場において自動運転ショベルの実用性を検証して機能面、安全面、運用面で実用化の目途がつきました。2024年6月に国土交通省から安全ルールVer.1.0が公表され、同時に当社を含む4件の工事が試行現場に指定されました。今後はシールド工事以外の工種にも適用を進めていきます。
③ 生産性向上
地質評価AIとCIMを実装したデジタルツイン・アプリケーション「GeOrchestra®(ジオケストラ)」を開発しました。削孔に応じて排出されるスライムからAIが地質を解析評価し、解析評価した削孔位置の地質区分を現場全体のCIMモデル内に3次元データとして反映することにより、地中の不可視地質構造を関係者間で共有することが可能になります。国土交通省近畿地方整備局発注の「高原トンネル上部斜面対策工事」において適用し、孔曲がりのリスク回避及び現場判断の効率化を確認しました。また、関係者間の精度の高いコミュニケーションを醸成できました。今後も現場の生産性向上技術の開発を進めます。
(2) 建築事業
① BIM(設計技術)
BIM環境の整備・活用促進は喫緊の課題であり、BIM環境の基盤整備やその運用体制の構築を進めています。その一環として、設計者とBIMオペレータ間でブラウザを通じたBIMの設計指示や効率的なビジュアルチェックを可能にするシステムを開発しました。これにより、設計者はBIMの煩雑な操作を習得しなくても、ブラウザ上でBIMの3Dビジュアルチェックが可能になり、さらにBIMオペレータへの指示も行うことができます。また、BIMオペレータも設計者からの指示事項の確認と、BIMモデルへの反映を効率的に実施できます。本システムは、設計者がBIMによるコミュニケーションを円滑に進めていくための中長期的なBIMシステム環境整備計画の一部となります。
② 生産性向上
AIによる配筋検査システム「CONSAIT(コンサイト)」を共同で開発しました。本システムは、AI搭載の3眼カメラで配筋を立体検知し、撮影した画像から、鉄筋径、本数、ピッチを計測し、鉄筋の配置を登録した設計データと自動照合し、その結果を帳票フォーマットに自動的に反映します。施工中の建築現場に本システムを適用した結果、従来手法で管理した場合に比べ、現場管理業の時間を約60%短縮することができました。今後、RC造の建築現場を中心に本システムの適用を拡大し、さらなる生産性向上を目指していきます。
③ 安全性向上
高所作業車の安全設備として距離センサを用いた「挟まれ警報装置」を開発しました。本装置は、高所作業者の作業かご周囲にある手すりに取り付けることで、手すり上部にある物体を距離センサが検知し、作業員に障害物の接近を知らせるものです。従来から接触式センサや赤外線センサを用いた警報装置がありましたが、これらのセンサで検知できない障害物があることや、警報装置自体が作業の支障になるなどの課題がありました。本装置では、計測精度に優れたLiDARをセンサに使用することで、これらの課題を解消しました。また、高所作業車のメーカーや機種を問わず幅広く使用することが可能です。全国の現場へ展開することで、建設現場の安全性と作業性の向上を目指していきます。
(3) グループ事業
当連結会計年度は、研究開発活動は特段行われていません。
当社が保有する高度技術並びに研究所施設を活用し、社外からの受託研究業務を行っています。
① カーボンニュートラル
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構による、グリーンイノベーション基金事業である「CO2を高度利用したCARBON POOLコンクリートの開発と舗装及び構造物への実装(以下、「本プロジェクト」という。)」をCPコンクリートコンソーシアム(CPCC)の幹事会社として実施しています。本プロジェクトにより、主要建設資材であるコンクリートをカーボンネガティブ材料に転換させることを目指しています。これらの取組により、お客さまと当社の双方のサプライチェーン排出量の脱炭素化に貢献するとともに、当社のSBTとRE100の目標達成に繋げます。CPコンクリート用の材料を製造する国内初の専用工場「CPセンター栗東」を開設し、これまで産業廃棄物とされてきた戻りコンクリートやスラッジケーキ等の材料を粒状化骨材として再資源化することができる製造設備、ミキサー及び分級設備を設置しました。また、「いぶきグリーンエナジーバイオマス発電所」の排ガスを資源として再利用し、排ガスに含まれるCO2を吸収・固定させたプレキャストコンクリート床版ブロックの製造試験を実施しました。本試験で製造した床版ブロックは、CPCCが協賛する日本国際博覧会(大阪・関西万博)未来社会ショーケース事業「フューチャーライフ万博・未来の都市」のパビリオン内の通路の一部区間に設置し、今後の実装を見据えた各種耐久性能の測定を行います。
② エネルギーマネジメント
離れた敷地にある複数の遠隔建物(事業所)全体のエネルギーを統合・最適化することで、新たな広域的省CO2化を図る次世代エネルギープロジェクトを行っています。その一環として、遠隔地の太陽光発電設備からグリーン電力を自己託送するシステム(太陽光自己託送システム)を開発しました。そして、静岡県牧之原市に建設した営農にも適した太陽光発電所に本システムを適用し、2024年4月から当社静岡支店ビルへ電力供給を開始しました。今後は再エネ自己託送で得られたデータを基に、運用課題の検証やシステム制御の精度改善を行っていきます。
次期も引き続き、土木・建築・環境・エネルギー・宇宙といった多岐にわたる分野の技術開発成果を関連学会や全国の展示会を通じて積極的に社外へアピールするとともに、顧客満足度の向上に貢献します。