当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1) 経営の基本方針
当社グループは、「信を万事の本と為す」と「時代への適合」を社是に、「健康で豊かな生活づくりに貢献する」を企業理念として、1900年の創業以来、事業を通じて社会貢献を果たし、食の中心企業として成長を継続してまいりました。また、グループ各社は「健康」を常に念頭においた製品やサービスの開発と提供に努め、「信頼」を築き上げるという決意をこめて「健康と信頼をお届けする」をコーポレートスローガンとしております。
これらの基本的な理念のもと、当社グループは長期的な企業価値の極大化を経営の基本方針とし、コア事業と成長事業へ重点的に資源配分を行いつつ、グループ経営を展開しております。
また、企業価値を高める規律としてのガバナンス(G)を強化し、環境(E)・社会(S)への取組みを事業戦略と深く関連させたサステナビリティ経営を推進していくことで、持続可能な社会の実現に貢献するとともに、株主、顧客、取引先、社員、社会等の各ステークホルダーから積極的に支持され続ける企業グループとして発展を目指してまいります。
(2) 中長期的な会社の経営戦略及び目標とする経営指標
当社グループは、「事業ポートフォリオの再構築によるグループ成長力の促進」、「ステークホルダーとの関係に対する考え方を明確にした経営推進」、「ESGを経営方針に取り込み、社会の動きに合わせて実行」の3点を基本方針とする5年間(2022年度から2026年度)の中期経営計画「日清製粉グループ 中期経営計画2026」の達成に向けて取り組んでおります。なお、最終年度である2026年度の数値目標につきましては、業績の進捗を踏まえ、2024年度第2四半期決算時に上方修正し、売上高9,500億円、営業利益570億円、EPS(1株当たり当期純利益)140円としております。今後もEPS成長を継続することで、株主の皆様に対して、適切なTSR(株主総利回り)の実現を目指してまいります。
「日清製粉グループ 中期経営計画2026」の概要(2022年度~2026年度)
<基本方針>
①事業ポートフォリオの再構築によるグループ成長力の促進
120年以上の歴史の中で築いてきた高い技術力と生産性、お客様からの信頼に裏付けされた強固な販売基盤等、当社グループの強みを活かせる事業領域において、今後も事業ポートフォリオの再構築を行い、4つの戦略(事業競争力強化戦略、研究開発戦略、新規事業開発・M&A戦略、デジタル戦略)を柱にグループ全体及び各事業の競争力を強化します。
②ステークホルダーとの関係に対する考え方を明確にした経営推進
当社グループの第一の存在意義は、主要食糧である小麦粉や小麦粉関連製品を含めた「食」の安定供給にあることを認識し、すべてのステークホルダーを大切にし、世の中から信頼される企業を目指します。
③ESGを経営方針に取り込み、社会の動きに合わせて実行
持株会社である当社をはじめ各事業の経営トップの責務として、企業価値の極大化を追求し、社会の動きに合わせESG課題に主体的に取り組んでまいります。とりわけ世界の持続可能性に関わるE(環境)への対応を経営の最重要事項に位置付けます。
<環境政策>
当社グループでは、2050年にグループの自社拠点におけるCO2排出量実質ゼロを目指す長期目標を設定し、その通過点として2030年度までにグループの自社拠点におけるCO2排出量50%削減(2013年度比)を掲げております。目標達成に向けて、ロードマップに基づいて最大限の省エネ設備及び再生可能エネルギー設備の導入を行うとともに、オフサイト(当社グループ以外)の設備への投資や出資等によるエネルギー調達も検討してまいります。また、食品廃棄物、容器包装廃棄物、水使用量の削減への対応についても循環型社会形成に資する中長期目標を設定しており、目標達成に向け計画的に取組みを推進してまいります。
<資本政策>
小麦粉をはじめとした主要食糧等の安定供給という社会的責任を充分に勘案し、資本効率の向上と財務の安定性のバランスを取りながら資本構成を適切にコントロールしてまいります。中期経営計画期間5年間で得られる営業キャッシュ・フロー及び政策保有株式売却等で得られるキャッシュにつきましては、将来に向けた成長投資及びサステナブル投資、維持更新等の通常投資、株主還元等に適切に配分してまいります。
なお、企業価値向上のため、非効率資産の縮減や財務健全性を確保しつつ資本構成の改善を実行するとともに、事業部門別ROIC管理により、引き続き資本効率向上を図るべく、2024年度決算時までに以下の通り資本政策を見直しております。

・資本コストを上回る収益性の向上を目指すべく、事業部門別ROIC管理を導入いたします(2026年度目標(全社):7%)。
・保有合理性の薄れた政策保有株式は、2024年度から2028年度までの5年間で400億円以上(年平均80億円程度)縮減し、縮減によって得られたキャッシュは成長投資等に活用してまいります。保有現預金は、主要食糧の安定供給という当社グループの社会的責任を勘案しつつ、連結売上高の1ヶ月分程度を目安といたします。
・資本効率及び財務健全性の観点から、積極的な還元施策を推進するとともに、調達余力を活かし有利子負債も活用してまいります(中長期的にネットD/E比率0.3倍を目安)。
・株主還元につきましては、親会社株主に帰属する当期純利益から非経常的な特殊要因による損益を除外し、連結ベースでの配当性向を従来の「40%以上」から現中期経営計画最終年度までに「50%目安」へと引き上げることとしております。また、投資資金が余剰となった場合等は、更なる株主還元を検討してまいりたいと考えております。
(3) 経営環境及び対処すべき課題
国内外の食品業界では、原材料価格や人件費、物流費等は引き続き上昇することが見込まれ、今後もインフレ環境が継続するものと想定されます。加えて、米国関税政策等を巡る各国の対応により、従来の国際協調の枠組みは転換期を迎えており、当社グループを取り巻く環境の先行きは極めて不透明な状況となっております。また、中長期的には、世界の持続可能性に関わる地球温暖化や、人権問題等の社会課題への意識の高まり、デジタル技術やフードテック等の技術革新の急速な進展等、事業環境が大きく変化していくことも想定されます。
そのような中、当社グループでは、事業を通じて社会貢献を果たし、食の中心企業として成長を継続するために、小麦粉をはじめとする「食」の安定供給という社会的使命を果たしていくとともに、2025年度は、事業ポートフォリオの再構築によるグループ成長力の促進、インフレ環境での人件費を含むコスト増加への対応、豪州製粉事業の収益拡大と新戦略による構造改革、インドイースト事業の黒字化に向けた着実な業績向上、自動化省人化施策のスピードアップを最優先課題として取り組んでまいります。
<2025年度の最優先課題>
①事業ポートフォリオの再構築によるグループ成長力の促進
事業競争力強化戦略の重点テーマである「国内製粉、加工食品、酵母事業のコアビジネス(中核事業)としての継続、発展」、「成長事業である海外事業、中食・惣菜事業の収益拡大」、「健康・バイオ事業、エンジニアリング事業、メッシュクロス事業、新規事業の成長」に引き続き取り組んでまいります。
コアビジネス(中核事業)においては、利益成長を実現するために必要な投資を行い、また、成長事業においては、伸長が見込める市場への投資を加速させ、事業ポートフォリオの再構築を実行してまいります。
なお、事業の選択と集中の観点から、日清ファルマ株式会社において、医薬品原薬の製造・販売を行うファインケミカル事業を終了し、サプリメント製品の製造・販売等を行う健康食品事業を酵母・バイオ事業のオリエンタル酵母工業株式会社に移管することを決定しました。
今後も中期経営計画の達成及びその先の持続的成長に向けて、事業ポートフォリオの再構築を検討、推進してまいります。
②インフレ環境での人件費を含むコスト増加への対応
2024年度は、為替の円安影響等による原材料価格やエネルギー価格の高止まりに加え、人件費や物流費が大幅に上昇するなど、各事業においてコスト増加への対応が課題となりました。今後も引き続き人件費をはじめとする各コストの上昇が想定されることから、2025年度はこれらのコスト増加への対応を重要課題とし、生産性の向上や適正な価格改定等に着実に取り組んでまいります。
③豪州製粉事業の収益拡大と新戦略による構造改革
豪州製粉事業においては、インフレ環境が続き、今後も需要の停滞等が懸念されますが、2024年度に上市した新製品をはじめとした高付加価値製品の拡販に取り組んでまいります。また、サプライチェーンの見直し及び合理化、自動化の推進等、新たな構造改革戦略を推進することで、中期経営計画で掲げている2026年度に2021年度比で42百万豪州ドル(※)の増益目標の達成、及びその先の事業成長に向けて取り組んでまいります。
(※)約40億円(1豪州ドル=95円)。2022年度第2四半期に行った減損損失の計上に伴うのれんを含む固定資産の償却費負担減少の影響を除く。
④インドイースト事業の黒字化に向けた着実な業績向上
2024年度は、販売は堅調に推移した一方で、原材料コストの上昇に伴う製品価格への転嫁の遅れが課題となりました。2025年度は、引き続きイースト製品の販売拡大と適正な価格改定を実行していくとともに、生産性の向上によるコストダウンにも取り組むことで、中期経営計画期間中での黒字化に向け、着実に業績を向上させてまいります。
⑤自動化省人化施策のスピードアップ
当社グループでは、デジタル技術やロボット技術を活用し、従前より自動化、省人化の対応を進めてまいりました。2025年度においても、製粉事業において最新の自動化技術を導入した水島工場を稼働させるなど、引き続き各事業において自動化省人化対応を進めてまいります。特に、国内での成長事業と位置付けている中食・惣菜事業においてその取組みを加速させ、当社グループの競争優位性を高めてまいります。
当社グループは、従前より、持続可能な社会の実現に貢献し、社会にとって真に必要な企業グループであり続けるべく、「日清製粉グループの企業行動規範及び社員行動指針」並びに「日清製粉グループサステナビリティの考え方」を実践してまいりました。また、事業を通じて社会的価値の創出に取り組むことで、「健康で豊かな生活づくりに貢献する」という企業理念の実現を目指しております。
今後も当社グループが持続的に発展し続けていくためには、環境・社会への貢献を前提としたサステナビリティ経営を推進する必要があり、2019年に最も優先的に取り組む必要がある社会課題をリスクと機会の観点から5つの「サステナビリティ重要課題(マテリアリティ)」として特定し、経営の最重要課題の1つと位置付けて、グループ全社でサステナビリティへの取組みを進めております。
引き続き、事業を通じて社会に貢献するとともに、企業価値の向上に努めてまいります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(ガバナンス)
当社グループでは、社長を委員長、グループ会社の社長等を委員としたサステナビリティ委員会を原則年2回開催し、グループのサステナビリティの活動を推進しております。サステナビリティ委員会では、2021年に策定した「環境課題中長期目標」の取組みを含め、特定した「サステナビリティ重要課題(マテリアリティ)」の進捗確認やサステナビリティに関する新たな課題等についてその取組み方針や戦略を協議、確認しております。また、下部組織として気候変動対応や人権尊重、従業員の働く環境の整備等の個別課題についてグループ横断で対応を推進する、「環境委員会」・「人権推進委員会」・「働き方改革委員会」の3つの専門委員会の活動を監督、促進し、グループのサステナビリティへの取組み強化を図っております。
サステナビリティに関する重要事項については、適宜取締役会で協議・報告を行い、取締役会がサステナビリティに関する取組みを確認しております。当期は、CO2削減ロードマップの進捗状況について報告を行いました。
また、気候変動対応を推進するためのインセンティブとして、CO2削減ロードマップの目標達成状況に応じた評価を社内取締役(監査等委員である取締役を除く。)の賞与に反映しております。
(戦略)
当社グループとしてのサステナビリティ経営を推進するために、「安全で健康的な食生活の提供」・「持続可能な原材料の調達」・「食品廃棄物・容器包装廃棄物への対応」・「気候変動及び水問題への対応」・「働きがいのある労働環境の確保」を内容とする5つの「サステナビリティ重要課題(マテリアリティ)」を経営の最重要課題の1つと位置付け、中長期的な目標を設定し、リスクと機会の観点から取組みを推進しております。
さらに重要性が増しているビジネスと人権の取組みについては、「日清製粉グループの人権方針」に基づき人権デュー・ディリジェンスを進め、各事業における課題を特定し、必要な対応策の検討及びその実践を通じて、人権リスクの防止・低減に取り組んでおります。
(リスク管理)
気候変動等の環境問題や人権課題など、サステナビリティ関連リスクを含めた様々なリスクが事業に及ぼす影響については、「リスクマネジメント委員会」がグループ全体のリスクマネジメントを統括しており、リスク認識やインパクトの評価、リスク対策レビュー等を実施しております。また、事業機会に繋がる、環境への配慮や健康に貢献する製品・サービスの開発戦略および投資等については、当社グループの業務執行に関する重要事項の協議を行うために執行役員を中心にメンバー構成されたグループ運営会議にて協議しております。
サステナビリティ関連リスクについては、リスクマネジメント委員会とあわせてサステナビリティ委員会においても当該リスクに対する実施内容の進捗等について確認を行っております。
気候変動関連リスクと機会の特定・評価プロセスについては、
(指標及び目標)
指標及び目標は、
サステナビリティ重要課題(マテリアリティ)
(1) 安全で健康的な食の提供と責任ある消費者コミュニケーション
<重点テーマ>
・食品安全の確保
・責任ある消費者コミュニケーション
・健康的な食生活への貢献
安全・安心な製品をお届けするために、消費者視点からの品質保証を第一とした品質保証体制を構築しており、国際的なマネジメントシステムの認証を取得・維持することで製品安全体制の継続的な改善、強化に取り組んでおります。また、消費者の皆様の声や消費者行政関連の情報を収集し、対応の充実を図るとともに、研究開発から生産、販売等の関係部署で情報共有し、お客様の立場に立った製品づくりに繋げております。これまで培った小麦や小麦加工技術の知見を活かして、高食物繊維小麦粉「アミュリア」や小麦関連の健康素材(全粒粉・小麦ブラン等)を活かした製品の開発、認知拡大及び市場開拓に継続的に取り組んでおり、健康への貢献とおいしさを両立した幅広い製品・サービスを展開することで安全で健康的な食の提供を目指しております。
(2) 安定的かつ持続可能な原材料の調達推進
<重点テーマ>
・小麦の安定的な調達
・持続可能な原材料調達
各事業のサプライチェーンにおいて、環境や人権に配慮した安全な原材料の安定的かつ持続可能な調達に努めております。
持続可能な原材料の調達のため、当社グループの「責任ある調達方針」及び「サプライヤー・ガイドライン」に基づいて、取引先にも協力をいただき、公正で倫理的な取引を基本とした責任ある調達を推進するとともに、 国内外の原料原産地の状況把握に努め、小麦をはじめとした原材料の安定的な調達を通じて、「食」の安定確保に努めております。
2021年度より、グループ各社のお取引先(国内主要一次サプライヤー様、累計560社以上)を対象に、CSR調達セルフ・アセスメント調査を実施し、人権・労働、安全衛生、環境等へのお取引先の取り組み状況の把握に努めております。2022年度からは、お取引先へのフィードバックや訪問を通じて、課題の共有や取組みの重要性の周知等を行い、当社グループの調達方針やガイドラインの更なる浸透を図っております。
今後も継続してお取引先との対話に努め、対応が必要な課題がある場合には、お取引先と共にその是正に取り組んでまいります。
(3) 食品廃棄物、容器包装廃棄物への対応
<重点テーマ>
・食品廃棄物の削減
・容器包装廃棄物への取組み
当社グループでは循環型社会形成のために資源の有効利用に取り組んでおり、サプライチェーン全体の食品廃棄物の削減、製品の包装資材の使用量削減等に取り組んでおります。
食品廃棄物については、当社の国内グループ会社において、2030年度までに原料調達からお客様納品までの食品廃棄物を2016年度比で50%以上削減すること(トオカツフーズ㈱、㈱ジョイアス・フーズ、イニシオフーズ㈱は2019年度比)を目標とし、生産効率改善等による生産段階での発生抑制、飼料化・肥料化等による再生利用等に取り組んでおります。その結果、2023年度までの取組みにより、目標を前倒しで達成しました。
容器包装廃棄物については、当社の国内グループ会社において、容器包装における化石燃料由来のプラスチック使用量を2019年度比で25%以上削減することを目標とし、容器包装プラスチックの薄肉化・紙化、バイオマス素材・バイオマスインキの活用等、環境に配慮した製品づくりを進めております。
(4) 気候変動及び水問題への対応
<重点テーマ>
・気候変動への適応とその緩和
・水資源への取組み
気候変動影響への対応については、グループの自社拠点における2050年CO2排出量実質ゼロと2030年度までに2013年度比でCO2排出量50%削減の達成に向けて、省エネ活動や生産効率の改善、再生可能エネルギーの利用拡大等の施策を積極的に進めております。その一環として、当期は、株式会社日清製粉ウェルナの海外生産拠点において使用される電力のすべてにつき、再生可能エネルギーへの実質的な切替えを達成しました。
また、長期的な視点で大規模な設備投資を確実に実施していくために、CO2削減ロードマップを作成し、グループ全体で投資時期や規模の検討、効果の確認を行い、事業戦略の中で取組みを進めております。加えて、インターナルカーボンプライシング(ICP)を導入し、投資の意思決定に反映することで、省エネ投資の更なる推進を図っております。さらに、サプライチェーンのCO2排出量の削減に向け、家庭での調理段階のエネルギーを低減する製品の開発や他社との共同配送による物流の環境負荷低減等にも取り組んでおります。当期は、農林水産省が実施する加工食品のカーボンフットプリントの算定実証に参画し、家庭用小麦粉「日清フラワー」の1kgあたりのカーボンフットプリントを算定しました。環境配慮型製品の開発指標への活用や消費者への情報発信などに繋げてまいります。
水問題への対応については、サプライチェーン各段階の取引先とともに限りある資源である水の有効利用を目指しており、2040年度までにグループの工場の水使用量原単位を2021年度比で30%削減することを目標としております。グループ各工場にて、削減可能な水の利用場所や工程の特定、水の使用方法の見直し等を進めており、今後の水の使用量削減や再利用のための具体的な施策に繋げてまいります。
<気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言に基づく情報開示>
当社グループは、2021年にTCFD提言への賛同を表明するとともにTCFDコンソーシアムへ参加し、気候変動が当社グループに与える影響についてTCFDフレームワークに沿ったシナリオ分析を実施しております。
2023年度は国内主要事業における財務インパクトを評価し、当期も継続して分析の強化と内容の充実、対策の推進を図っております。
TCFD提言で提示されている4つのテーマと、それぞれに対する当社グループの活動内容は、次のとおりであります。
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TCFD開示 推奨事項 |
日清製粉グループの活動内容 |
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ガバナンス |
日清製粉グループは、気候変動への対応を含む地球環境保全への取組みを最重要経営課題と認識し、そのリスク対応についても、経営における最高責任者である日清製粉グループ本社の取締役社長が責任を持つ体制としております。 グループ本社の取締役社長を委員長、グループ会社の社長等を委員としたサステナビリティ委員会を設置して、2021年に策定した「環境課題中長期目標」の取組みを含め、特定した「サステナビリティ重要課題(マテリアリティ)」の進捗確認やサステナビリティに関する新たな課題等について、取り組み方針や戦略を協議、確認しております。また、下部組織として環境委員会を設置し、その活動を監督、促進しております。 環境委員会は、グループ本社の常務執行役員の技術本部長が委員長を務め、環境課題を管理し、中長期の環境目標の策定および進捗管理・評価を行っております。 重要事項はサステナビリティ委員会およびグループ運営会議、取締役会に報告しております。 取締役会では経営方針や事業活動に大きく影響を与える重要事項について、確認、協議しております。当期は、CO2削減ロードマップの進捗状況について報告を行いました。 また、気候変動対応を推進するためのインセンティブとして、CO2削減ロードマップの目標達成状況に応じた評価を社内取締役(監査等委員である取締役を除く。)の賞与に反映しております。 |
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戦略 |
2021年度に、1.5℃及び4℃シナリオにおける気候変動の影響を評価し、その対策を検討しました。1.5℃シナリオにおいては炭素価格の上昇等の法規制が、4℃シナリオにおいては異常気象に伴う災害の頻発化・激甚化、原料や水調達リスクの上昇等が、事業へ大きな影響を及ぼす可能性があります。 短中期的なリスクである異常気象に伴う災害の頻発化・激甚化に対しては、事業場ごとのハザード分析やタイムライン(防災行動計画)を活用した防災施策、設備改修による高潮対策等を進めております。 原料調達に関する中長期的なリスクについては、事業に大きな影響を及ぼすリスクとして以前から対策を事業戦略に織り込んでおり、生産者や研究機関、政府等関係者と連携し、気候変動を考慮した対策を推進しております。 炭素価格の上昇等の移行リスクや原料・水の調達リスクに対しては、1.5℃及び4℃シナリオの両方を踏まえて、CO2排出量、水使用量、食品廃棄物、容器包装廃棄物を削減する環境課題中長期目標を策定し、取り組みを進めております。 2023年度は、国内の製粉事業、食品事業(除く日清ファルマ㈱)、中食・惣菜事業における気候関連リスクの影響について、財務インパクトを含めた詳細分析を実施いたしました。
<国内の製粉事業、食品事業、中食・惣菜事業における重大な気候関連リスクの影響>
今後も積極的な取り組みにより、事業のレジリエンス(適応力、復元力)強化に努めます。 |
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リスク管理 |
事業に関わる環境課題を適切に管理する組織として環境委員会を設置するとともに、各事業会社で、それぞれの事業特有の環境課題に対応する環境管理責任者及び環境管理委員会を設置しております。 また、気候変動関連を含め、様々なリスクが事業に及ぼす影響については、グループ本社取締役社長を委員長とし、各事業会社社長を委員とする「リスクマネジメント委員会」にてリスク認識やインパクトの評価、リスク対策レビューを実施しております。ここでは、各事業会社の「リスクマネジメント委員会」で特定・評価したリスク・機会が適切にコントロールされているかについても確認しており、日清製粉グループ全体のリスクマネジメントを統括しております。またサステナビリティ委員会においても当該リスクに対する実施内容の進捗等について確認を行っております。 気候関連リスクを識別するための気候関連シナリオ分析の実施状況については、戦略に記載のとおりであります。 |
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指標と目標 |
日清製粉グループは気候変動の緩和と適応および環境負荷の低減に向けた指標と目標として、以下の環境課題中長期目標を設定しております。環境委員会において、進捗状況を定期的に確認し、達成に向けて計画的に取り組んでおります。
<環境課題中長期目標と進捗>
※進捗については2023年度の実績を記載しております。
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当社グループの「リスクと機会及びその対応策」は、次のとおりであります。
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リスク・機会項目 |
事業への影響(例) |
対応策 |
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項目 |
大分類 |
小分類 |
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移 行 リ ス ク |
政策/ 規制 |
炭素価格の上昇 |
炭素価格の上昇により、原料、製造、物流等幅広くコストが上昇 |
●2050年CO2排出量実質ゼロを目指す ●太陽光発電設備の導入促進、再生エネルギー電力への切替え、省エネ新技術の開発・導入等を実施 ●サプライヤーとの協働によるCO2排出量の削減を推進 |
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プラスチック規制 |
プラスチック資源の循環を考慮した持続可能な容器包装へ切り替えるためのコストが上昇 |
●2030年度までに化石燃料由来プラスチック容器包装量を25%削減(2019年度比) ●環境に配慮した容器包装設計に切替え ●バイオマスプラスチック等の持続可能な包装資材の利用拡大 |
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物 理 的 リ ス ク |
急性 |
異常気象の激甚化 |
暴風雨や高潮等の異常気象が激甚化し、原料産地や生産・保管拠点の被害が拡大 |
●事業場ごとのハザード分析及び気候変動を考慮してBCP対策を高度化 ●建物、設備等の高潮対策を強化 ●大規模停電、長期節電要請に対する備えを強化(非常用発電機の活用、燃料の備蓄等) |
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旱魃発生頻度の上昇 |
原料農産地の旱魃発生頻度の増加により、安定調達が困難 |
●複数の購買先を確保、代替原料を確保 ●調達、生産における継続的なローコストオペレーションを推進 ●気候変動や自然災害による原料農作物への影響を調査 ●生産者・研究機関と連携し、高温・旱魃耐性が高い小麦の育種を支援 ●2030年度までに食品廃棄物を50%削減(2016年度比) |
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慢性 |
平均気温の上昇 、降水パターンの変化 |
気温上昇や降水不順等により農作物の収量低下や品質劣化が発生し、原料価格が高騰 |
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病害虫や伝染病の発生 |
病害虫の発生による農作物の収量低下や品質劣化の発生、伝染病の蔓延による原料輸出国への影響等により原料価格が高騰 |
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海面水位の上昇 |
高潮発生頻度の増加により生産拠点の浸水被害が拡大 |
●建物、設備等の高潮対策強化 ●工場新設時の浸水リスク評価の徹底 |
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生産拠点の水調達リスク増加 |
水不足により生産拠点で使用する水の確保が困難となり、当該流域における操業困難 |
●2040年度までに工場での水使用量原単位を30%削減(2021年度比) ●工場での水のリサイクルや節水、サプライヤーとの協働による水使用量削減の取り組みを推進 ●工場新設時の水調達リスク評価を徹底 |
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機会 |
市場 |
顧客要求の変化 |
環境負荷を考慮した持続可能な商品の需要拡大 |
●時短製品や持続可能な容器包装の使用等、環境負荷の緩和につながる商品の開発を推進 ●サプライチェーンでの食品ロス削減につながる商品開発を推進 |
国内の製粉事業、食品事業(除く日清ファルマ㈱)、中食・惣菜事業における重大な気候関連リスクとその具体的な影響は、次のとおりであります。
①炭素価格の上昇に伴う影響
1.5℃シナリオにおいて、炭素価格の上昇の影響を試算いたしました。CO2排出量削減の取組みが停滞し、今後2022年度と同程度のCO2排出量が継続した場合、2030年度には約45億円の炭素価格負担額の増加が見込まれます。
一方で、CO2削減ロードマップに基づき、省エネ活動や生産効率の改善、再生可能エネルギーの利用拡大等の施策を推進することで、約20億円の炭素価格負担額を削減し、コストの増加を約25億円に抑えることが出来ると想定しております。
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CO2排出削減の取り組み状況 |
2030年度の財務影響 |
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削減の取組みが停滞した場合の炭素価格負担額 |
45億円 |
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計画通り削減施策を実施した場合の炭素価格負担額の削減額 |
▲20億円 |
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計画通りCO2削減ロードマップを実行した場合の炭素価格負担額 |
25億円 |
※炭素価格上昇による負担額は、国際エネルギー機関(IEA)のWorld Energy Outlook 2022で公開されているNZEシナリオ(2050年ネットゼロ排出シナリオ)を基に算出しております。
②異常気象の激甚化-水害(高潮・洪水)による操業停止などの機会損失
4℃、1.5℃いずれのシナリオにおいても、2030年および2050年には台風の大型化や集中豪雨の激甚化が進行し、生産拠点や物流への高潮・洪水等の水害の発生頻度や被害が増加すると想定されます。
過去の当社グループの被害事例および各自治体の洪水・高潮ハザード評価による想定浸水深等を参考に、各事業において被害が想定される地域を抽出し、操業および物流停止による機会損失の影響額を試算したところ、最大で1災害当たり6億円規模の売上高減につながると想定しております。
水害対策として、各生産拠点の想定浸水深を考慮した止水版の設置等の設備改修や、生産拠点間での連携強化等の施策を進めており、今後も継続してまいります。
③主要原材料である小麦調達への気候変動の影響
当社グループの主要原材料である小麦について、4℃、1.5℃シナリオにおける気温上昇や各種適応施策の影響を以下のように分析いたしました。中長期的な将来において、小麦の主要調達国の収量が大幅に減少する可能性は低いと想定しております。
<4℃シナリオ>
気温上昇により現在気温が高い低緯度地域の収量は低下いたしますが、現在低温が収量の制御要因となっている高緯度地域では気温上昇により栽培適性が向上することで収量が増加し、世界全体でみると小麦の平均収量の増加は維持すると想定しております。
<1.5℃シナリオ>
農地からの温室効果ガスの排出抑制や土壌回復などの持続可能性を考慮した農業への移行が進み、移行の過渡期においては収量の低下や移行コストの増加が見込まれますが、2050年に向けて収量は回復ないし増加していくと想定しております。
一方で、小麦を含めた食糧需給や調達コストの長期見通しには不透明な部分が多く、また気候変動による小麦調達リスクには、シナリオ分析で想定した収量変動や移行コストのほかにも、旱魃による貿易量への影響や品質の悪化等、考慮すべき事項があります。
そのため、中長期的な小麦調達リスクは無視できないものと考えており、関連する調査研究の最新動向を引き続き把握するとともに、生産者や研究機関と連携した育種支援や持続可能性を考慮した生産地の探索を行うなど、気候変動の緩和策や適応策を推進してまいります。
※小麦調達への影響は、国連食糧農業機関(FAO)や国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構等が公表している将来の収量予測情報等の文献調査を基に分析しております。
(5) 健全で働きがいのある労働環境の確保
<重点テーマ>
・人材育成
・従業員の労働環境と健康
・多様性の尊重
重点テーマを含め、人的資本への対応は、次のとおりであります。
当社グループは、2022年度策定の「日清製粉グループ 中期経営計画2026」で掲げているとおり、経営戦略の実行力を高めるとともに、全てのステークホルダーを大切にし、世の中から信頼される企業を目指しております。その実現のためには、経営戦略に紐づいた人材戦略の推進が必要不可欠であり、「人材力向上」、「組織力向上」の2つの観点から取り組むことで、時代の変化に適合しながら当社グループの持続的成長を目指すための基盤づくりを進めてまいります。
また、当社グループ全体で取組みを推進するために、グループ本社人事・労務本部長を委員長、事業会社人事・労務担当役員を委員とするグループ横断の働き方改革委員会を設置し、生産性の向上、ワーク・エンゲージメント向上に向けた具体的な施策策定のための議論・提言を行って実行に繋げております。
① 人材力向上
基盤事業の深化と新規・成長領域の発展を支えるべく、各事業ポートフォリオにおいて必要な人材の確保・育成を進めるとともに、既存事業で研鑽を積み当社グループのDNAを体得した人材を、今後の注力領域を担いうる人材へシフトさせてまいります。
a 人材の確保
人材の確保については、新卒採用におけるグループ一括採用(㈱日清製粉グループ本社、日清製粉㈱、㈱日清製粉ウェルナ、㈱日清製粉デリカフロンティアの4社合同採用)および職種別・事業別コース採用の実施により、採用活動のグループ連携や採用競争力の強化を図っております。一方、経験者採用においては、主要な採用チャネルである人材紹介会社との関係性を強化しつつ、自社社員からの紹介を通じたリファラル採用の仕組みを導入するなど、採用力の強化を図っております。今後も、採用マーケティング視点での採用活動の高度化による採用ブランディングの強化に向けた取組みを推進してまいります。
b 人材の育成
人材の育成については、今後の会社の成長を牽引する人材として、次代の当社グループの舵取りを担う経営人材・テクノロジーを取り入れオペレーションの効率化からビジネスモデルの変革までを担うデジタル人材・当社グループの成長ドライバーである海外事業を伸長させるグローバル人材等の育成に注力しております。また、社員個々人が必要なスキルの習得を支援するために、主体的な学びを促進する手挙げ式の育成プログラムを強化してまいります。今後も当社グループの企業価値向上に向けた教育訓練投資を行い、各種育成プログラムを強化してまいります。
<2024年度実績>(注)1
・教育訓練投資 572百万円、一人当たり研修時間25.6時間 (注)2
・事業経営者育成プログラムにおける各研修受講者 計110名
・IT関連試験合格者 計43名 (注)3
・グローバル人材育成研修受講者 計17名
・手挙げ式育成プログラム 計1,355名
(注)1 教育訓練投資を除く各実績値は、㈱日清製粉グループ本社、日清製粉㈱、㈱日清製粉ウェルナ、日清製粉プレミックス㈱、オリエンタル酵母工業㈱、日清ファルマ㈱、㈱日清製粉デリカフロンティア、日清エンジニアリング㈱、㈱NBCメッシュテック、日清サイロ㈱、日清アソシエイツ㈱を対象としております。
(注)2 教育訓練投資の実績値は、上述の(注)1に記載の会社に加え、トオカツフーズ㈱、㈱ジョイアス・フーズ、イニシオフーズ㈱を対象としております。
(注)3 IT関連試験は、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が認定している各種試験(ITパスポート試験、基本情報技術者試験、情報セキュリティマネジメント試験など)を対象としております。
② 組織力向上
多様な経験、価値観を活かし、変化に柔軟に対応できるレジリエントな組織風土を醸成するため、働き方改革、健康経営、ダイバーシティの推進等に、継続的に取り組んでまいります。
a 働き方改革
多様な社員が活躍するためには、個々の能力開発に加えて、自身の成長を実感でき働きがいを感じられる職場であること、活気に溢れ自由闊達な議論がなされる職場であることが必要です。当社グループの働き方改革では、「心理的安全性の向上」の取組みをはじめとする各種施策を通じ、社員が経営戦略の企画立案やその実行に注力し、事業や社会への貢献を感じられるように努めているほか、生産性向上のため業務効率化を通じた労働時間の削減や休暇の取りやすさ等、継続的に労働環境を整備し、働きやすさの向上にも努めております。
<実績>(注)1
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指標 |
2022年度 |
2023年度 |
2024年度 |
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年間総実労働時間 (一般社員) |
1,945時間 |
1,937時間 |
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15日 |
16日 |
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77.6% |
78.7% |
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b 健康経営
当社グループでは、従業員の健康が最優先事項の一つであると考え、従業員と会社が一体となって健康経営に取り組んでおります。グループ本社社長をトップとした体制で、「働く環境」・「身体のケア」・「メンタルヘルスケア」を健康経営実現の3本の柱と位置づけ、2026年度末までの目標を定め、これまで、健康な食事・食環境の認証制度であるスマートミール認証を受けた食事の本社地区社員食堂での提供、従業員の運動習慣の定着を目的としたウォーキングイベントの実施、従業員のメンタルヘルスの維持・向上を目的としたセルフケア・ラインケア研修の実施など、さまざまな施策に取り組んでまいりました。健康課題を明確にし、継続的に改善していくことで、社員一人ひとりが「健康」で「活き活き」と働ける労働環境の整備を目指しております。
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指標(注)4 |
2021年度 |
2022年度 |
2023年度 |
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働く環境 ・ ・ |
54.2 50.5 |
54.9 50.3 |
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身体のケア ・ |
68.5 |
68.1 |
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メンタルヘルスケア ・ |
90 |
85 |
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その他の健康指標 ・ ・ |
- - |
1.89 83.5 |
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(注)4 指標(実績・目標)は、㈱日清製粉グループ本社を対象としております。
(注)5 総合健康リスク値:ストレスチェックにおいて、「仕事の質」・「仕事の量」・「職場の上司の支援」・「職場の同僚の支援」を掛け合わせた指数であり、活き活きと働くことのできる環境であるか、権限を持って働けているかをみる指標。100が標準となり、低ければ低いほど仕事面・職場の環境面が良好であることを示しております。
(注)6 アブセンティーズム:傷病による欠勤の平均値(従業員へのアンケート調査による測定)。0に近いほど従業員の健康状態が良好であることを示しております。
(注)7 プレゼンティーズム:従業員が自分のパフォーマンスを振り返り、仕事の出来をパーセンテージで回答したものの平均値(「東大1項目版」による測定)。100に近いほど労働環境が良好であることを示しております。
c ダイバーシティの推進
変化していく時代において、性別・年齢・国籍等の属性に関わらず多様な意見・考えを尊重し、企業活動に活かすという「ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン」の重要性は高まっており、当社グループの持続的な成長に寄与するものと考えております。全ての人がお互いを尊重し、一人ひとりが働きがいを感じながら持てる能力を存分に発揮できるよう、女性の登用や育成、男性育休の取得推進を含む各種両立支援など様々な施策に継続的に取り組んでおります。
<実績>(注)1
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指標 |
実績 |
目標 ( |
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2022年度 |
2023年度 |
2024年度 |
||
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10.3% |
11.6% |
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(復職1年後在籍率) |
86.4% |
76.7% |
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87.0% |
84.9% |
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|
連結子会社の管理職社員に占める女性の割合及び男性育児休業取得者割合については、
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が経営成績等に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりであります。
当社グループでは、「日清製粉グループリスクマネジメント規程」「日清製粉グループクライシスコントロール規程」を制定し、リスクに対する適切な対応を確保し、リスクの予防・制御を目的とした日常的なリスクマネジメント活動を強化しております。また、当社社長を委員長、各事業会社社長等を委員とするリスクマネジメント委員会を設置し、当社グループ全体のリスクマネジメントを統括しているとともに、グループの主要事業会社においてリスクマネジメント委員会を設置し、各事業におけるリスク管理を実践しております。さらに、リスクマネジメント委員会の下部組織として、企画部会、災害部会、海外安全対策部会を設置し、課題ごとの具体策を検討・提言する体制を整備しております。
この体制のもと、リスクマネジメント委員会とその下部組織は、当社グループの事業運営において想定される様々なリスクを認識し、そのリスクへの具体的な対応策を整え、重大クライシス発生時等には確実に対策本部を立ち上げるなどの役割を果たし、当社グループの事業継続と安全・安心な製品の安定供給という使命を果たしてまいります。
以上述べた事項をリスクマネジメント体制図によって示すと次のとおりであります。
(米国を含めた世界各国の政治判断による影響について)
米国関税政策等を巡る各国の対応により、従来の国際協調の枠組みは転換期を迎えており、当社グループを取り巻く環境の先行きは極めて不透明な状況となっております。
当社グループとしては、世界情勢を見極め、適切に対応を進めてまいります。米国を含めた世界各国の動向については引き続き注視してまいります。
(ウクライナ情勢の影響について)
2022年2月24日に開始されたウクライナに対する軍事行動は、長期化しております。当社グループの業績に影響を及ぼしうるリスクは顕在化しておりませんが、紛争両国は世界有数の小麦輸出国であり、小麦の国際相場に影響を及ぼすリスクは継続しているため、情勢については引き続き注視してまいります。
以下の主要なリスクについては、そのリスクが将来的に顕在化する可能性の程度、顕在化した場合の影響度をそれぞれ3段階で評価しております。この評価は上記リスクマネジメント委員会で判断したものであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
① 国際貿易交渉の進展と麦政策の変更 可能性の程度:高 影響度:大
CPTPP協定(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)、及び日EU・EPA、日米貿易協定等、国際貿易交渉の進展により貿易の自由化に向けた潮流は加速しております。今後国内事業においては、小麦関連製品の国境措置低下に伴う需要変動、競争激化、主要先進国の政策変更の影響により、当社グループの製粉、加工食品事業を始めとする小麦粉関連業界に影響が及ぶことが予想されます。
また、国内での麦政策の見直し等により、現行の国家貿易のあり方など小麦の管理手法(調達・在庫・売渡方法など)の変更、国内小麦粉・二次加工品市場の混乱、関連業界の再編など製粉事業、加工食品事業においてリスクの発生の可能性があります。
<主要な対応策>
このような貿易自由化・麦政策変更等のリスクに対応するため、当社グループはグローバルな生産体制の整備や国内小規模工場の閉鎖と大型臨海工場への生産集約、新技術の活用によるローコストオペレーション、顧客ニーズの変化への適応、海外事業拡大の一層の加速等に取り組んでおり、今後もより強固な企業体質を構築してまいります。
② 製品安全 可能性の程度:低 影響度:大
食の安全・安心についての社会的関心が年々高まっており、食品業界におきましては、より一層厳格な対応が求められるようになっております。当社グループは、自社工場、及び生産の外部委託先に対して製品安全に関する取り組みを継続的に実施しておりますが、外的要因も含め、当社グループの想定範囲を超えた事象が発生した場合、製品回収、出荷不能品が発生する可能性があります。
<主要な対応策>
このような製品安全上のリスクに対応するため、当社グループは「消費者視点での品質保証」を基本とし、開発から製造・物流・営業まで、全ての業務に携わる従業員への教育・指導、新規原材料・新製品に対する安全性の総合的評価(セイフティレビュー)、食品防御(フードディフェンス)の取り組み強化、食品安全マネジメントシステムの国際規格であるISO・FSSC等の認証取得と継続的な実効性検証、生産の外部委託先に対する自社工場と同様の管理の徹底等、製品の品質保証体制の維持・向上に取り組んでおります。
③ 災害・事故・感染症 可能性の程度:中 影響度:大
当社グループは、安全・安心な製品を安定的に供給するために工場等の設備維持・安全確保に努めておりますが、地震や風水害などの大規模自然災害、火災・爆発などの事故や新たな感染症の流行が発生した場合、損害発生、顧客への製品供給に支障をきたすなどの可能性があります。
<主要な対応策>
このような災害・事故に係るリスクに対応するため、当社グループは地震・風水害など自然災害の発生時に人的被害・工場等の設備破損が生じないように主要工場の耐震補強、水害対策等を進めるとともに、火災・爆発などの事故発生防止の体制作りの強化(設備・安全監査の実施、設備安全に関する規程整備を含む)、大規模地震に備えたBCP(事業継続計画)及び風水害に備えたタイムライン等を整備しております。そして、当社グループに影響のある大規模自然災害が発生した場合に備え、訓練を適宜実施しており、早期に最高本部(グループ本社役員で構成)を設置し、グループ間の情報共有と初動から事業継続に至るまでの対応に備えております。南海トラフ地震の発生も差し迫ったリスクとして捉えており、気象庁から臨時情報(巨大地震警戒、巨大地震注意)が発令された際の対応について各事業場と共有し、被害が見込まれる事業場において必要な事前準備を進めるよう周知徹底を図っております。加えて火山噴火を想定した対応についても順次進めております。また、発生後の経過と終息を予測することの難しい新たな感染症に対しては、BCP(事業継続計画)及び感染防止対策等を整備しており、今後も新たな感染症の発生等に迅速かつ的確に対応するために、必要に応じて感染症対策会議(仮称)を開催可能な体制を維持します。なお、大規模自然災害対策にあたっては、近年の災害甚大化に伴う国の災害想定見直しを逐次確認し、それに対応した対策見直しを行っております。
④ 他社とのアライアンス及び企業買収、新たな事業展開の効果の実現 可能性の程度:中 影響度:大
当社グループは、事業ポートフォリオの強化を図り、長期的な企業価値の極大化を実現するため、国内外において他社とのアライアンス及び企業買収、また、新たな事業展開のための投資を行っております。アライアンス及び買収後の事業や新たに展開した事業が当初の想定通りに進捗しない場合等には、その効果を実現できない可能性があり、その結果新規事業等が期待されるキャッシュ・フローを生み出さない状況になるなど、収益性低下により投資額の回収が見込めなくなることにより、多額の減損損失を計上する必要が生じた場合、当社グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。
<主要な対応策>
当社グループは今後も事業ポートフォリオの強化を進めてまいりますが、他社とのアライアンス及び企業買収、また、新たな事業展開に向けた投資については、独自のガイドラインに基づく案件の事前検証を行ってまいります。また、適切なM&Aチーム体制の構築等を実施することでリスクの低減を図り、確実な事業継承・立上げやPMI活動の充実等に取り組んでまいります。また、リスクが顕在化した場合は、その経緯や状況の把握・分析に努め、実効性のある打ち手を講じるとともに、将来のアライアンスや企業買収、事業展開の実行に際しノウハウとして役立ててまいります。
⑤ 原材料調達 可能性の程度:中 影響度:大
当社グループは、各事業において環境・人権というサプライチェーン上の課題へも配慮しながら安全かつコスト競争力がある原材料の持続的な調達に努めております。一方で、感染症・天災・テロ・紛争等による原材料供給の停滞・途絶、異常気象による小麦を始めとする農産物の不作、新興国の経済成長による需要拡大、原材料生産地域等での地政学的リスクの顕在化等を要因とした主要原材料の高騰や供給不足、人件費及び輸送・物流コストの上昇等により、適正な調達コストの維持困難や既存製品の製造停止・減産等のリスクが発生する可能性があります。また、輸入小麦価格の大幅な引き上げ等による原材料調達コスト及びその他製造・販売・輸送に関するコストの上昇分を小麦粉及び製品の販売価格に織り込めず、価格改定を十分に行えない場合、当社グループの利益に悪影響を及ぼす可能性があります。さらに、原材料調達に係る環境・人権課題等の社会的課題に適切に対応しなかった場合、社会からの信頼が失墜し、企業ブランド・競争力の低下に繋がるおそれがあります。
<主要な対応策>
当社グループは原材料調達、生産における継続的なローコストオペレーションを推進するとともに、国内外の原材料原産地の状況把握に努め、調達先の分散化や代替原材料候補の探索を行い、原材料の安定調達に努めております。また、マーケットの変化に適合した新製品開発や高付加価値化戦略等により製品の適正価値維持に取り組むとともに、上昇した調達コストを適切に反映した製品の価格改定を着実に進めてまいります。併せて、サプライヤーの皆様のご協力のもと、サプライチェーンを通じて公正で倫理的な取引を基本とした責任ある調達活動を推進しております。
これらの取組みにより、安全な原材料を安定的かつ持続可能な形で調達することで、小麦粉や小麦粉関連製品を含めた「食」の安定供給を支え、ステークホルダーおよび社会から信頼される企業を目指してまいります。
⑥ 情報セキュリティ・DX(デジタルトランスフォーメーション) 可能性の程度:中 影響度:大
当社グループは、業務効率の最適化を実現するため基幹系を始めとして多くのシステムを活用しておりますが、システム運用上のトラブルの発生、当社グループの予測不能なウィルスの侵入・サイバーテロやグループ内情報への不正アクセスなどによるシステムダウンにより、支払処理を含む顧客対応に支障をきたす可能性や、営業秘密・個人情報の社外への流出などによる費用の発生、社会的信用の低下などにより事業活動に影響を及ぼす可能性があります。一方、生成AIをはじめ新たな情報技術を活用したデジタルトランスフォーメーションへの対応の遅れは、市場の環境変化に伴う事業競争力や不測の異常事態発生時における事業継続の対応力の低下を招く可能性があります。
<主要な対応策>
このようなリスクを低減するため、当社グループでは「情報セキュリティ基本規程」に基づく積極的な情報セキュリティ活動(教育訓練含む)を展開するとともにセキュリティ関連の情報収集に努め、より高度なコンピューターウィルス対策の実行、基幹系サーバの二重化、第三者機関によるセキュリティ診断等、グループ全体として適切なセキュリティ対策、及びIT管理体制の構築に取り組んでおります。また、新たな情報技術の活用においても、機動性重視の対応方針の下、グループ横断で優先順位をつけた業務のデジタル化やデジタルトランスフォーメーションによる事業モデルの変革に取り組んでおります。また、デジタル教育やその基盤となる人材育成等の取組み、生成AI等のデジタルツール類の社内導入・活用等を進めております。
⑦ 環境課題 可能性の程度:中 影響度:大
当社グループは、企業活動を通じて省エネルギー、廃棄物削減など環境負荷低減に積極的に取り組んでおります。しかしながら、当社グループの想定範囲を超えた環境に係る法的規制の変更、強化等の他、ステークホルダーからの環境対応要請の急激な高まり等により、これまでの想定を超える費用が発生する可能性があります。また、気候変動・水問題及び食品廃棄物・容器包装プラスチック廃棄物等のグローバルな環境課題に対して適切な対応ができなかった場合、地球環境保全に貢献できないだけでなく、当社グループの企業ブランド価値が低下し、事業活動に影響を及ぼす可能性があります。
<主要な対応策>
当社グループは地球環境保全を経営の最重要課題の一つとして「日清製粉グループ環境基本方針」を制定しております。ISO14001グループ認証を維持し、食品廃棄物の発生抑制や再利用、環境配慮設計の推進などの「食品廃棄物、容器包装廃棄物への対応」及び事業活動におけるCO2の排出量削減や水使用量削減などの「気候変動及び水問題への対応」を当社グループのサステナビリティ重要課題(マテリアリティ)に位置付け、2021年8月に、気候変動、食品廃棄物、容器包装廃棄物、水資源の4つの環境課題を中長期目標として設定し、環境保全、環境負荷軽減に取り組んでおります。
気候変動への対応といたしましては、目標年に向けた段階的な取組みを見える化するためのCO2削減ロードマップを作成し、また、CO2排出量の財務インパクトを可視化してCO2排出量削減に資する設備投資等を促進するため、インターナルカーボンプライシング(ICP)を導入しております。また、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言に基づくシナリオ分析を実施し、炭素価格の上昇、異常気象の激甚化、農産物の生産量低下の影響と対応策について有価証券報告書や統合報告書に開示しております。
環境課題中長期目標の取組みや新たな課題等については、2023年度に設置したサステナビリティ委員会にて協議、確認し、下部専門委員会である環境委員会にてグループ横断で対応を推進しております。
今後、グループの総合力を結集して環境課題中長期目標の達成に向け取り組み、気候変動影響による自社のリスクと機会への対応を継続してまいります。
⑧ 海外事業 可能性の程度:中 影響度:大
当社グループは、アジア、北米、オセアニアを中心に積極的にグローバル展開を推進し、海外売上高比率は30%超に達しております。また、コスト競争力強化のため、グローバルな最適生産体制の構築にも取り組んでおります。今後も海外事業基盤の拡大に取り組んでまいりますが、海外においては、政治あるいは経済の予期しない変動や法律・規制の変更、訴訟の提起、テロあるいは紛争等の発生、新型感染症の流行による事業活動の制約・停滞などにより、業績悪化、事業継続に支障が生じるなどの可能性があります。
<主要な対応策>
このような海外事業におけるリスクを低減するため、グループ横断のリスクマネジメント委員会の下部組織である海外安全対策部会や外部専門家等を通じて、現地経営環境を継続的にモニタリングし、それを踏まえた事業運営の適切な管理・サポート等の実施や、現地に派遣する従業員への研修などを行うとともに、現地従業員の安全確保に努めております。
⑨ 為替変動 可能性の程度:中 影響度:中
当社グループは、加工食品事業をはじめ各事業において、原材料・製品の一部を海外より調達しており、為替変動により調達コストが増加する可能性があります。また、製粉事業においては副産物のふすま価格が為替で変動する輸入ふすま価格の影響を受ける可能性があります。海外事業においては損益、財務状況の外貨から円貨への換算額が為替変動により悪影響を受ける可能性があります。
<主要な対応策>
このような為替変動によるリスクに対応するため、当社グループではグループ横断の為替委員会を設置し、為替予約ルールの設定、為替に関する情報共有及び対策の協議を行うなど、為替変動により業績が大きく左右されないよう取り組んでおります。
⑩ 人材の確保等 可能性の程度:中 影響度:中
当社グループは、事業競争力強化のため既存事業のモデルチェンジと事業ポートフォリオの強化に取り組んでおり、それらに対応するための多様な人材を確保・育成する必要があります。しかし、労働力人口の減少や雇用情勢の変動等により、当社グループのそれぞれの事業で必要とする人材の確保・育成等ができない場合には、長期的に当社グループの競争力が低下する可能性があります。
<主要な対応策>
このような人材の確保に係るリスクに対応するため、当社グループでは、新卒採用活動におけるグループ一括採用の導入やリファラル採用の導入等、様々な手法によって採用活動を強化するとともに、次世代の経営者、デジタル人材、グローバル人材を育成するための教育・研修の充実に取り組んでおります。また、多様な価値観を持つ従業員一人ひとりが能力を十分に発揮できる、健全で働きがいのある労働環境の確保や業務効率化等による労働時間の削減や適切な労務管理に努めております。また、女性活躍の推進に向け、女性の事業経営者候補に対する個人別育成計画策定、社外メンターを活用したメンタリングの実施等、様々な取り組みを進めております。
⑪ 人権課題 可能性の程度:低 影響度:大
国内外に広く事業領域を展開している当社グループにとって、自社及びそのサプライチェーン上の各種差別、ハラスメント、児童労働、強制労働等の人権諸課題への対応、及び関連法規制の順守は非常に重要な課題と認識しております。人種・国籍・性別・性的指向及び性自認・年齢・障がいの有無をはじめ、価値観・宗教・信条等の違いを認め合い、お互いを尊重し合う多様性に配慮した職場づくり及び企業活動が実現できない場合には、当社グループ及びブランドへのネガティブな評判が拡がるとともに、社員一人ひとりが能力を発揮出来ず、当社グループが求める優秀な人材の確保も困難になり、中長期的に当社グループの競争力が低下する可能性があります。
<主要な対応策>
当社グループは2019年に5つの「サステナビリティ重要課題(マテリアリティ)」を特定し、経営の最重要課題の一つと位置付けております。そしてマテリアリティの一つに「健全で働きがいのある労働環境の確保」を掲げており、従業員の健康や働きがいのある労働環境の確保等にグループ全体で取り組んでおります。人権課題への対応としては、人権に対する意識を高めるために専門部署を設置し、すべての役員・社員を対象に毎年人権啓発研修を実施しております。研修では、同和問題や職場のハラスメント問題をはじめ、LGBTQへの理解促進、ビジネス遂行上の人権問題等、様々なテーマを取り上げ、身近な問題として人権を考えるとともに、人権視点で日常業務に取り組むよう啓発を行っております。また、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づいた「日清製粉グループ人権方針」を制定し、2021年より、サプライチェーンを含む主要事業の人権デュー・デリジェンスに取り組んでおります。
⑫ 新技術への対応 可能性の程度:中 影響度:中
当社グループは、それぞれの事業において、急激な市場の変化や技術の進化・変化に適切な対応が取れず、製品開発技術力・生産技術力の低下、及び基盤技術の陳腐化に繋がった場合、顧客ニーズに適合した魅力ある新製品開発ができずに、出荷低迷、企業ブランド価値の低下により経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。
<主要な対応策>
このような新技術への対応遅れ等のリスクに対応するため、当社グループでは、グループ横断プロジェクト等を活用した技術の進化と技術者の育成、グループシナジー効果を活用した技術領域の拡大、産官学共同研究等外部からの技術導入の推進等、社内外のリソースを活用し最大化することで継続的に技術力を強化し、市場で求められる製品開発に取り組んでまいります。特にデジタル技術に関しては人材育成が急務となっており、グループのデジタル活用をリードする人材の育成に取り組んでおります。
上記以外にも当社グループが事業活動を展開するうえで、経済情勢や業界環境の変化に伴う主要製品の出荷変動、単価下落リスクの他、国内外での法的規制・訴訟リスク、商標権・特許権等の知的財産権に伴うリスク、取引先(生産委託先を含む)の経営環境の変化によるリスクなど、様々なリスクが当社グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性がありますが、これらのリスク回避、低減に向けて適切に取り組んでまいります。
当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要及び経営者の視点による分析・検討内容は次のとおりであります。なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。
(1) 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められる会計基準に基づいて作成しております。連結財務諸表の作成に際しては、決算日における資産・負債の報告数値及び偶発債務の開示、並びに収益・費用の報告数値に影響を与える見積り及び仮定を必要とします。当社グループはこれら見積り及び仮定について過去の実績等を勘案し合理的に判断しておりますが、見積り特有の不確実性があるため、これら見積り及び仮定と実績が異なる場合があります。
① 棚卸資産
棚卸資産は、「棚卸資産の評価に関する会計基準」に基づき、取得原価と正味売却価額のいずれか低い価額で測定しております。また、需要の変化によって過剰又は滞留する棚卸資産についても、簿価を切り下げております。市況の変動や需要動向により、追加の評価減が必要となる可能性があります。
② 貸倒引当金
当社グループは、金銭債権等の貸倒れによる損失に備えるため、一般債権については貸倒実績率により、貸倒懸念債権等特定の債権については個別に回収可能性を検討し、必要な貸倒引当金を計上しております。顧客の財政状態が悪化し、その支払能力が低下した場合、追加引当が必要となる可能性があります。
③ 投資有価証券の減損
当社グループでは投資有価証券を所有しておりますが、市場価格のない株式等以外のものについては時価法を、市場価格のない株式等については原価法を採用しております。当社グループでは、市場価格のない株式等以外のものについては、時価が取得価額に比べ50%以上下落した場合には減損処理し、30%から50%の下落の場合には、当該有価証券発行会社の業績等を勘案し必要に応じ減損処理しております。市場価格のない株式等については、その実質価額が取得価額に比べ著しく下落した場合、回復の見込が確実と認められる場合を除き、減損処理しております。
当社グループでは投資有価証券について必要な減損処理をこれまでに行ってきており、現状では減損すべき投資有価証券はありませんが、将来の市況悪化又は投資先の業績不振により、現在の簿価に反映されていない損失又は簿価の回収不能が発生し、減損処理が必要となる可能性があります。
④ 企業結合
当社グループは、企業結合により取得した企業又は事業の取得原価は、時価で算定しております。取得原価は、受け入れた資産及び引き受けた負債のうち企業結合日時点において識別可能なもの(識別可能資産及び負債)の企業結合日時点の時価を基礎として、当該資産及び負債に対して配分しております。取得原価が、企業結合日における識別可能資産及び負債の正味価額を上回る場合にその超過額をのれんとして会計処理しております。
取得した資産、特に無形資産の時価の算定は、多くの場合、経営者の重要な判断を必要とします。当社グループは、独立の第三者による評価結果を利用し、入手可能な過去の情報と将来の見通し及びその仮定に基づいて時価を算定しております。経営者は、これらの判断及び評価は合理的であると判断しておりますが、将来の不確実な経済条件の変動等の結果によって実際の結果と異なる可能性があります。
⑤ 固定資産の減損
当社グループは、固定資産の帳簿価額が回収不能であると判断された場合、回収可能価額まで減額しております。減損の兆候が生じた資産又は資産グループについて、当該資産又は資産グループから得られる割引前将来キャッシュ・フローを見積り、減損損失を認識するかどうかの判定を行っております。割引前将来キャッシュ・フローの総額が帳簿価額を下回る場合、減損処理が必要と判断し、当該資産又は資産グループの帳簿価額を回収可能価額まで減額しております。回収可能価額は、使用価値と正味売却価額のいずれか高い金額としております。減損損失を認識するかどうかの判定及び使用価値の算定において見積もられる将来キャッシュ・フローは、合理的な仮定に基づいております。また、使用価値の算定に際して用いられる割引率は、貨幣の時間価値及び当該資産に固有のリスクを反映しております。
経営者は、減損の兆候及び減損損失の認識に関する判断、及び回収可能価額の見積りに関する評価を行っており、これらの判断及び評価は合理的であると判断しております。当社グループには、現状では減損すべき固定資産はありませんが、将来の企業環境の変化等により、回収可能価額が帳簿価額を下回ることとなった場合には減損処理が必要となる可能性があります。
⑥ 繰延税金資産
当社グループは、繰延税金資産については、将来の課税所得の見込み及び税務計画に基づき、回収可能性を十分に検討し、回収可能な額を計上しております。しかしながら、繰延税金資産の回収見込額に変動が生じた場合には、繰延税金資産の取崩又は追加計上により利益が変動する可能性があります。
⑦ 退職給付に係る負債
当社グループの退職一時金制度及び既退職の年金受給者を対象とする確定給付企業年金制度における退職給付費用及び債務は、数理計算上で設定される前提条件に基づいて算出されております。これらの前提条件には、割引率、将来の給付水準、退職率、直近の統計数値に基づいて算出される死亡率及び年金資産の長期期待運用収益率などが含まれます。割引率は期末における複数の格付機関による直近の格付けがダブルA格相当以上を得ている社債等の市場利回りに基づき、長期期待運用収益率は保有している年金資産の運用方針や過去の運用実績等に基づき決定しております。実績が前提条件と異なる場合、又は、前提条件が変更された場合、将来期間において認識される費用及び計上される債務に影響を及ぼします。
(2) 財政状態及び経営成績の状況及び経営者の視点による認識及び分析・検討内容
① 当連結会計年度の経営成績の概況及び分析
当連結会計年度につきましては、国内景気はインバウンド需要の増加はあったものの、為替の円安影響等による原材料価格やエネルギー価格の高止まり、さらには物流費等が上昇する中、物価の高騰による節約志向が続き、個人消費の持ち直しには依然として足踏みが見られます。また、米国関税政策等を巡る各国の対応により、従来の国際協調の枠組みは転換期を迎えており、当社グループを取り巻く環境の先行きは極めて不透明な状況となっております。
このような中、当社グループは、小麦粉をはじめとする「食」の安定供給を確保し、各事業において安全・安心な製品をお届けするという使命を果たすとともに、2026年度を最終年度とする「日清製粉グループ 中期経営計画2026」の達成に向けて、事業ポートフォリオの再構築によるグループ成長力の促進、豪州製粉事業・インドイースト事業の業績回復施策の推進、研究開発戦略における目に見える成果の実現、自動化省人化施策の効果発現を当期の最優先課題として取り組んでまいりました。
その具体的な取組みとして、製粉事業につきましては、日清製粉株式会社において水島工場が本年5月に稼働し、これに伴い岡山工場及び坂出工場を閉鎖する予定としております。米国のMiller Milling Company,LLCにおいては、サギノー工場に新ラインを増設し、本年3月に稼働を開始しており、同工場の生産能力は約40%向上しました。加工食品事業につきましては、ベトナムのVietnam Nisshin Seifun Co., Ltd.及びVietnam Nisshin Technomic Co., Ltd.において、同国における家庭用製品の本格販売を昨年9月から開始しました。また、日清ファルマ株式会社において、医薬品原薬の製造・販売を行うファインケミカル事業を終了し、サプリメント製品の製造・販売等を行う健康食品事業を酵母・バイオ事業のオリエンタル酵母工業株式会社に移管することを決定しました。これに伴い、2025年度中に日清ファルマ株式会社としての事業活動を終了する予定です。
研究開発戦略につきましては、研究成果の実用化に向けた対応を進めており、製粉事業において高食物繊維小麦粉「アミュリア」の認知拡大及び市場開拓に継続的に取り組んでおります。なお、「みらい共創キッチン」をコンセプトとした新たな開発拠点は、2026年度に竣工予定としております。これにより、更なる開発力の発揮を目指すとともに、グループシナジーの創出を図ってまいります。
また、加工食品事業の子会社である株式会社日清製粉ウェルナは、ロサンゼルス・ドジャース所属の大谷翔平選手との広告出演契約を昨年11月に締結しました。同社は、本年で70周年を迎えた「マ・マー」のリブランディングを機とした製品の見直しや新製品の投入に加え、当該契約を生かした積極的な販売促進活動により、更なる製品需要の喚起に取り組んでおります。
当連結会計年度の業績につきましては、売上高は、国内製粉事業における輸入小麦の政府売渡価格引下げに伴う小麦粉価格改定や海外製粉事業における小麦相場下落の影響等により、8,514億86百万円(前期比99.2%)となりました。利益面では、海外製粉事業、中食・惣菜事業及びエンジニアリング事業の業績は堅調に推移したものの、各事業における原材料費や輸送費、労務費等のコスト上昇の継続、及び医薬品原薬の出荷減等により、営業利益は463億80百万円(前期比97.0%)、経常利益は492億10百万円(前期比98.4%)となりました。親会社株主に帰属する当期純利益は、政策保有株式縮減に伴う投資有価証券売却益及び日清ファルマ株式会社の事業活動終了に伴う事業構造再構築費用を計上したことにより、346億84百万円(前期比109.3%)となりました。
(前期比較) (単位:百万円)
|
|
2024年3月期 |
2025年3月期 |
前期差 |
前期比 |
|
売上高 |
858,248 |
851,486 |
△6,762 |
99.2% |
|
営業利益 |
47,791 |
46,380 |
△1,410 |
97.0% |
|
経常利益 |
49,992 |
49,210 |
△782 |
98.4% |
|
親会社株主に帰属する 当期純利益 |
31,743 |
34,684 |
2,941 |
109.3% |
セグメント別の経営成績及び経営者の視点による認識及び分析・検討内容は次のとおりです。
2025年3月期 売上高・営業利益 (単位:百万円)
|
|
売上高 |
営業利益 |
||
|
実績 |
前期差 |
実績 |
前期差 |
|
|
製粉事業 |
443,592 |
△14,634 |
28,119 |
△450 |
|
食品事業 |
206,252 |
5,178 |
6,405 |
△1,951 |
|
中食・惣菜事業 |
156,076 |
2,503 |
5,832 |
435 |
|
その他 |
45,565 |
189 |
6,250 |
840 |
|
調整 |
- |
- |
△228 |
△285 |
|
連結計 |
851,486 |
△6,762 |
46,380 |
△1,410 |
(注1)売上高はセグメント間取引消去後です。
(注2)営業利益の調整額はセグメント間取引消去等です。
1) 製粉事業
(単位:百万円)
|
|
2024年3月期 |
2025年3月期 |
前期差 |
前期比 |
|
売上高 |
458,226 |
443,592 |
△14,634 |
96.8% |
|
営業利益 |
28,570 |
28,119 |
△450 |
98.4% |
国内製粉事業につきましては、インバウンドをはじめとした人流の増加に伴う外食需要等の拡大に加え、拡販への取組み効果もあり、出荷は前年を上回りました。
また、輸入小麦の政府売渡価格が5銘柄平均で昨年4月に0.6%、10月に1.8%各々引き下げられたこと、及び輸送費や動力費等の上昇を踏まえ、それぞれ昨年7月及び本年1月に業務用小麦粉の価格改定を実施しました。
海外製粉事業につきましては、小麦相場下落の影響により、売上高は前年を下回りました。
この結果、製粉事業の売上高は、4,435億92百万円(前期比96.8%)となりました。営業利益は、海外製粉事業の業績は堅調に推移したものの、国内製粉事業の製造コスト等の上昇により、281億19百万円(前期比98.4%)となりました。
2) 食品事業
(単位:百万円)
|
|
2024年3月期 |
2025年3月期 |
前期差 |
前期比 |
|
売上高 |
201,073 |
206,252 |
5,178 |
102.6% |
|
営業利益 |
8,356 |
6,405 |
△1,951 |
76.7% |
加工食品事業につきましては、国内においては積極的な拡販施策を実施したことにより、家庭用小麦粉、プレミックス、パスタを中心に出荷が堅調に推移しました。また、海外においても業務用プレミックスの出荷が堅調に推移したことで、売上高は前年を上回りました。
酵母・バイオ事業につきましては、イースト等の出荷増及びインドイースト事業における販売数量の増加等により、売上高は前年を上回りました。
健康食品事業につきましては、医薬品原薬の出荷減等により、売上高は前年を下回りました。
この結果、食品事業の売上高は2,062億52百万円(前期比102.6%)となりました。営業利益は、加工食品事業における価格改定を上回る原材料費及び輸送費等の高騰、及び医薬品原薬の出荷減等により、64億5百万円(前期比76.7%)となりました。
3) 中食・惣菜事業
(単位:百万円)
|
|
2024年3月期 |
2025年3月期 |
前期差 |
前期比 |
|
売上高 |
153,573 |
156,076 |
2,503 |
101.6% |
|
営業利益 |
5,396 |
5,832 |
435 |
108.1% |
中食・惣菜事業につきましては、販売が堅調に推移したことにより、売上高は1,560億76百万円(前期比101.6%)となりました。営業利益は、原材料費及び労務費等のコスト上昇があったものの、販売増や生産性の向上により、58億32百万円(前期比108.1%)となりました。
4) その他事業
(単位:百万円)
|
|
2024年3月期 |
2025年3月期 |
前期差 |
前期比 |
|
売上高 |
45,375 |
45,565 |
189 |
100.4% |
|
営業利益 |
5,409 |
6,250 |
840 |
115.5% |
エンジニアリング事業につきましては、プラントエンジニアリングにおける大型工事の増加により、売上高は前年を上回りました。
メッシュクロス事業につきましては、自動車部品向けの成形フィルター等の出荷が堅調であったことから、売上高は前年を上回りました。
この結果、その他事業の売上高は455億65百万円(前期比100.4%)となり、営業利益は、エンジニアリング事業での業績が堅調に推移したことにより、62億50百万円(前期比115.5%)となりました。
② 当連結会計年度の財政状態の概況及び分析
(単位:百万円)
|
|
2024年3月期 |
2025年3月期 |
前期末差 |
|
流動資産 |
365,072 |
338,728 |
△26,343 |
|
固定資産 |
461,629 |
450,984 |
△10,644 |
|
資産合計 |
826,702 |
789,713 |
△36,988 |
|
流動負債 |
163,571 |
147,313 |
△16,258 |
|
固定負債 |
146,749 |
139,829 |
△6,920 |
|
負債合計 |
310,321 |
287,143 |
△23,178 |
|
純資産合計 |
516,381 |
502,570 |
△13,810 |
|
負債純資産合計 |
826,702 |
789,713 |
△36,988 |
当連結会計年度末における資産、負債及び純資産の状況は以下のとおりです。
流動資産は3,387億28百万円で、現金及び預金と受取手形、売掛金及び契約資産の減少等に伴い、前年度末に比べ263億43百万円減少しました。固定資産は4,509億84百万円で、保有している投資有価証券の縮減及び時価評価の減少等に伴い、前年度末に比べ106億44百万円減少しました。この結果、資産合計は7,897億13百万円となり、前年度末に比べ369億88百万円減少しました。
また、流動負債は1,473億13百万円で、支払手形及び買掛金の減少等に伴い、前年度末に比べ162億58百万円減少しました。固定負債は1,398億29百万円で、繰延税金負債の減少等に伴い、前年度末に比べ69億20百万円減少しました。この結果、負債合計は2,871億43百万円となり、前年度末に比べ231億78百万円減少しました。純資産合計は親会社株主に帰属する当期純利益の計上による増加、配当金の支出及び自己株式の取得による減少、その他の包括利益累計額の減少等により、前年度末に比べ138億10百万円減少し、5,025億70百万円となりました。
③ 当社グループの経営成績に重要な影響を与える要因
当社グループの経営成績に重要な影響を与える要因は、「3 事業等のリスク」に記載のとおりであります。
(3) キャッシュ・フローの状況及び資本の財源及び資金の流動性についての分析
① キャッシュ・フローの状況
(単位:百万円)
|
|
2024年3月期 |
2025年3月期 |
前期差 |
|
営業活動によるキャッシュ・フロー |
73,194 |
55,209 |
△17,984 |
|
投資活動によるキャッシュ・フロー |
△30,944 |
△34,961 |
△4,016 |
|
財務活動によるキャッシュ・フロー |
△19,539 |
△35,432 |
△15,893 |
|
現金及び現金同等物に係る換算差額 |
1,999 |
△512 |
△2,511 |
|
現金及び現金同等物の増減額 |
24,709 |
△15,696 |
△40,406 |
|
連結子会社の決算期変更に伴う 現金及び現金同等物の増減額 |
- |
21 |
21 |
|
現金及び現金同等物の期末残高 |
107,681 |
92,005 |
△15,675 |
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
税金等調整前当期純利益533億13百万円に、非資金損益項目である減価償却費、売上債権及び契約資産の減少等による資金の増加が、仕入債務の減少、未払金及び未払費用の減少、法人税等の支払等の資金減少を上回ったことにより、当連結会計年度の営業活動によるキャッシュ・フローは552億9百万円の資金増加(前連結会計年度は731億94百万円の資金増加)となりました。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
有形及び無形固定資産の取得に414億68百万円を支出したこと等により、当連結会計年度の投資活動によるキャッシュ・フローは349億61百万円の資金減少(前連結会計年度は309億44百万円の資金減少)となりました。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
株主の皆様への利益還元といたしまして配当に145億79百万円を支出したことに加え、自己株式の取得により141億30百万円を支出したこと等により、当連結会計年度の財務活動によるキャッシュ・フローは354億32百万円の資金減少(前連結会計年度は195億39百万円の資金減少)となりました。
以上の結果、当連結会計年度末の現金及び現金同等物残高は920億5百万円となりました。
② 資本の財源及び資金の流動性についての分析
当連結会計年度末の有利子負債(リース債務含む)残高は857億円でありますが、営業活動によるキャッシュ・フローや現金及び現金同等物の残高を考慮すると、当社グループの資金は、当面充分な流動性を確保しております。
当社グループは、「日清製粉グループ 中期経営計画2026」に基づき、小麦粉をはじめとした主要食糧等の安定供給という社会的責任を充分に勘案し、資本効率の向上と財務の安定性のバランスを取りながら資本構成を適切にコントロールしてまいります。持続的成長、EPS(1株当たり当期純利益)成長を実現するために、環境投資、デジタル投資、新規事業開発・M&A投資、研究開発投資、人材育成を含めた成長投資を促進するとともに、株主還元につきましては、親会社株主に帰属する当期純利益から非経常的な特殊要因による損益を除外し、連結ベースでの配当性向を現在の40%以上から現中期経営計画最終年度までに50%目安へ引き上げることとしております。また、投資資金が余剰となった場合等は、更なる株主還元を検討してまいりたいと考えております。なお、今後の重要な設備投資の計画につきましては、「第3 設備の状況 3 設備の新設、除却等の計画 (1)重要な設備の新設等」に記載のとおりであります。
そのための資金は、内部及び外部の両財源より調達してまいります。内部からの資金捻出は、既に導入しておりますキャッシュ・マネジメント・システム(CMS)を利用した国内連結子会社の資金の一元管理、及び政策保有株式の縮減を含めた資産の圧縮に引き続き取り組むことにより、外部からは当社グループの健全な財務体質を背景に有利子負債等により、調達してまいります。
(4) 中期経営計画「日清製粉グループ 中期経営計画2026」の数値目標及び資本政策
当社グループは、事業を通じて社会貢献を果たし、食の中心企業として成長を継続していくために、「日清製粉グループ 中期経営計画2026」を2022年10月に策定いたしました。
なお、最終年度である2026年度の数値目標につきましては、業績の進捗を踏まえ、2024年度第2四半期決算時に上方修正し、売上高9,500億円、営業利益570億円、EPS(1株当たり当期純利益)140円、ROE8.0%としております。
<数値目標及び実績>
|
(*年平均成長率) |
基準年度 (2021年度実績) |
当連結会計年度 (2024年度実績) |
最終年度 (2026年度) |
|
売上高 |
6,797億円 |
8,515億円 |
9,500億円 |
|
5年CAGR* |
|
|
6.9% |
|
営業利益 |
294億円 |
464億円 |
570億円 |
|
5年CAGR |
|
|
14.1% |
|
EPS(1株当たり当期純利益) |
59円 |
117円 |
140円 |
|
5年CAGR |
|
|
18.9% |
|
ROE |
4.0% |
7.0% |
8.0% |
当連結会計年度の業績につきましては、「(2) 財政状態及び経営成績の状況及び経営者の視点による認識及び分析・検討内容」をご参照ください。
<資本政策>
企業価値向上のため、非効率資産の縮減や財務健全性を確保しつつ資本構成の改善を実行するとともに、事業部門別ROIC管理により、引き続き資本効率向上を図ってまいります。
・資本コストを上回る収益性の向上を目指すべく、事業部門別ROIC管理を導入いたします(2026年度目標(全社):7%)。
・保有合理性の薄れた政策保有株式は、2024年度から2028年度までの5年間で400億円以上(年平均80億円程度)縮減し、縮減によって得られたキャッシュは成長投資等に活用してまいります。保有現預金は、主要食糧の安定供給という当社グループの社会的責任を勘案しつつ、連結売上高の1ヶ月分程度を目安といたします。
・資本効率及び財務健全性の観点から、積極的な還元施策を推進するとともに、調達余力を活かし有利子負債も活用してまいります(中長期的にネットD/E比率0.3倍を目安)。
・株主還元につきましては、親会社株主に帰属する当期純利益から非経常的な特殊要因による損益を除外し、連結ベースでの配当性向を従来の「40%以上」から現中期経営計画最終年度までに「50%目安」へと引き上げることとしております。また、投資資金が余剰となった場合等は、更なる株主還元を検討してまいりたいと考えております。
(5) 生産、受注及び販売の実績
a 生産実績
当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
|
セグメントの名称 |
前連結会計年度 (自 2023年4月1日 至 2024年3月31日) |
当連結会計年度 (自 2024年4月1日 至 2025年3月31日) |
増減率(%) |
|
金額(百万円) |
金額(百万円) |
||
|
製粉 |
440,727 |
427,987 |
△2.9 |
|
食品 |
120,786 |
126,041 |
4.4 |
|
中食・惣菜 |
144,204 |
146,796 |
1.8 |
|
その他 |
17,028 |
17,524 |
2.9 |
|
合計 |
722,747 |
718,348 |
△0.6 |
(注)1 金額は、期間中の平均販売価格等により算出しており、セグメント間の取引については相殺消去しております。
b 受注実績
重要な受注生産を行っておりませんので、記載を省略しております。
c 販売実績
当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
|
セグメントの名称 |
前連結会計年度 (自 2023年4月1日 至 2024年3月31日) |
当連結会計年度 (自 2024年4月1日 至 2025年3月31日) |
増減率(%) |
|
金額(百万円) |
金額(百万円) |
||
|
製粉 |
458,226 |
443,592 |
△3.2 |
|
食品 |
201,073 |
206,252 |
2.6 |
|
中食・惣菜 |
153,573 |
156,076 |
1.6 |
|
その他 |
45,375 |
45,565 |
0.4 |
|
合計 |
858,248 |
851,486 |
△0.8 |
(注)1 セグメント間の取引については相殺消去しております。
2 主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は次のとおりであります。
|
相手先 |
前連結会計年度 (自 2023年4月1日 至 2024年3月31日) |
当連結会計年度 (自 2024年4月1日 至 2025年3月31日) |
||
|
金額(百万円) |
割合(%) |
金額(百万円) |
割合(%) |
|
|
㈱ファミリーマート |
111,105 |
13.0 |
113,032 |
13.3 |
主要な原材料価格及び販売価格の変動については「(2) 財政状態及び経営成績の状況及び経営者の視点による認識及び分析・検討内容」に記載のとおりであります。
該当事項はありません。
当社グループ(当社及び連結子会社)では、当社の組織として主に基盤技術を研究開発する基礎研究所、及び主に各事業に導入する生産技術の開発とナノテクノロジー技術の開発を担う生産技術研究所を設置するほか、連結子会社である日清製粉㈱、Allied Pinnacle Pty Ltd.(以上製粉事業)、㈱日清製粉ウェルナ、オリエンタル酵母工業㈱、日清ファルマ㈱(以上食品事業)、㈱日清製粉デリカフロンティア(以上中食・惣菜事業)、日清エンジニアリング㈱、㈱NBCメッシュテック(以上その他事業)にそれぞれ研究開発組織を配置し、各事業領域に特化した研究開発を行っております。
これらの研究開発組織においては、新製品候補素材の探索や新技術の確立を目的とした基礎研究を行う一方、マーケットのニーズ・ウォンツに適合した新製品や調理加工技術の開発、既存製品の改良、生産システムの自動化、粉粒体関連技術の開発・応用など、幅広い研究開発活動を行っております。いずれも研究領域における専門性を高め最新技術を導入するため内外の研究機関などと積極的に連携を深め、研究開発の効率化と成果の事業化を強力に推進しております。
当連結会計年度におけるグループ全体の研究開発費は
なお、研究開発費には、特定のセグメントに関連付けられない研究費用1,287百万円が含まれております。
当連結会計年度の研究開発の概要と主な成果は次のとおりであります。
(1) 製粉事業
日清製粉㈱技術開発本部、つくば穀物科学研究所が中心となり、当社の基礎研究所、生産技術研究所と連携して、新しい小麦粉加工技術及び小麦・小麦粉を中心とした穀物科学と穀粉加工技術の研究開発などを行っております。主な成果としては、日清製粉㈱が製造・販売する日本初の高食物繊維小麦粉「アミュリア」において、含まれる多量(小麦粉中、約14%)かつ多様(5種類以上)な発酵性食物繊維の組成を明らかにし、これら発酵性食物繊維による腸内環境改善効果の可能性を培養試験で示しました。また、アミュリアの多様な発酵性食物繊維が、人々のQOL向上への寄与が見込まれることへの期待により、市場に対してインパクトを与える素材として「ウェルネスフードアワード2024」の最優秀賞および食品素材部門の金賞を受賞しました。Allied Pinnacle Pty Ltd.でもWISE WHEATとして高食物繊維小麦粉の市場創造を始めており、引き続き小麦粉、プレミックス、ベーカリー関連原材料の開発活動を行っております。つくば穀物科学研究所では、グルテンネットワークの新規解析手法及びグルテンミクロ構造に関する論文、及び小麦食物繊維の構造変化に関わるフェルラ酸の挙動に関する論文を国際誌に発表しました。
製粉事業に係る研究開発費は
(2) 食品事業
㈱日清製粉ウェルナの商品開発本部が中心となり、当社の基礎研究所、生産技術研究所と連携して、各種プレミックス・乾麺・パスタ・レトルト食品・冷凍食品等の全温度帯製品群の研究開発を行っております。主な成果としては、パスタカテゴリーのNo.1ブランド「マ・マー」のリブランディングに伴い、パスタ(乾麺)・パスタソース・冷凍ワンディッシュパスタの品質改良等を行いました。新製品として、デュラム小麦の製粉技術を駆使して「なめらか」な舌触りと「もっちり」とした食感を両立した「マ・マー なめらかもっちり 早ゆでスパゲティ FineFast 1.6mm チャック付結束タイプ 500g」を発売しました。また、家庭での揚げ物離れ(後片付けの煩わしさ等により、揚げ物の調理を諦めること)に対応する製品として、プレミックスを食材に直接付けて少量の油で焼くだけで、揚げずにサクッとした食感の天ぷらやフライ、から揚げを作れる製品「マジサクット」シリーズを発売しました。当社で独自開発した原料と長年培ってきた配合技術により、従来品では実現できなかった食感や外観を可能にした画期的な製品です。海外においては、ベトナム家庭用製品市場に本格参入しました。日本で培った技術・製品開発の知見を最大限活用しながら、現地の方の嗜好にあった製品の開発を行い、初期のラインアップとして、パスタソース3品、炊き込みご飯の素2品、プレミックス4品を発売しました。オリエンタル酵母工業㈱の食品部門では、食品研究所と3つの食品開発センターでイーストや製パン用をはじめとした食品素材及び日持・品質向上剤等の研究開発を行い、バイオ部門では長浜生物科学研究所と長浜工場CS開発部において再生医療関連製品等の研究開発を行っております。日清ファルマ㈱健康科学研究所では、独自の精製技術で高濃度抽出したタマネギ由来含硫アミノ酸を機能性関与成分とし、健常な中高年男性の心理面をサポートする機能性表示食品「メンズアミノ」を開発し、発売しました。
食品事業に係る研究開発費は
(3) 中食・惣菜事業
㈱日清製粉デリカフロンティアの研究開発部、生産技術開発部が中心となり、当社の基礎研究所、生産技術研究所と連携して、品質・日持向上を目的とした調理加工技術及び微生物制御技術と、省人化を目的とした自動化技術及びロボット技術の研究開発を行っております。これらの研究開発は早期の実用化を目指し、トオカツフーズ㈱、イニシオフーズ㈱、㈱ジョイアス・フーズと連携して取り組んでおります。
中食・惣菜事業に係る研究開発費は
(4) その他事業
日清エンジニアリング㈱では、粉体事業部が各種粉体の粉砕、分級などの機器、及び熱プラズマ法によるナノ粒子製造技術を当社の生産技術研究所と連携して研究開発しております。また、㈱NBCメッシュテックでは、スクリーン印刷用・産業用資材、化成品の各分野において新製品及び新素材の研究開発を行っており、2024年6月には、研究開発本部内に「スクリーン印刷研究所」を新設しております。
その他事業に係る研究開発費は