当社は、2025年4月1日を効力発生日として、当社を吸収合併存続会社、当社の完全子会社であった不二製油株式会社(以下、「旧不二製油㈱」)を吸収合併消滅会社とする吸収合併を行いました。また、同日付で商号を「不二製油グループ本社株式会社」から「不二製油株式会社」へ変更しております。
文中の将来に関する事項は、提出日現在において当社グループが入手可能な情報に基づき作成したものです。実際の成果や業績は、今後様々な要因によって、記載されている内容とは異なる可能性があります。
(1)経営の基本方針
当社グループは、食品企業としての責任を強く自覚し、私たちの使命、目指す姿、行動する上で持つべき価値観、そして行動原則を明文化した「不二製油グループ憲法」を経営の基本方針として掲げております。本憲法は、グループ社員全員の価値観の共有化を図るとともにグループガバナンスの基本であり、判断・行動の優先基準付けの拠り所となるものです。当社グループは、「不二製油グループ憲法」のミッション「私たち不二製油グループは、食の素材の可能性を追求し、食の歓びと健康に貢献します。」を会社運営の基本方針としています。
当社グループは創業以来、植物性素材のもつ可能性を追求し、おいしいもの、体によいものをお届けしたいという想いで製品を生み出し、価値を提供してきました。「不二製油グループ憲法」のミッションの下、当社グループが目指す姿として「植物性素材でおいしさと健康を追求し、サステナブルな食の未来を共創します。」をビジョンとし、社会課題の解決と持続的な成長を目指しています。
社員一人一人が本憲法に示されているバリュー(価値観)を共有し、プリンシプル(行動原則)を実践することで、ビジョンを実現し、全てのステークホルダーに対する貢献を果たしてまいります。
<不二製油グループ憲法>
(2)ビジョン実現に向けた考え方
食が消費者に届くまでには、複雑なサプライチェーンと多くのステークホルダーが関与しています。食の社会課題の解決には、一社のみならず消費者も含めたバリューチェーン全体で価値向上に取り組むことが重要です。不二製油グループは食のバリューチェーンにおける川中の機能を担い、研究開発や生産活動を通して、顧客とその先の消費者の困りごとに対するソリューションの提供に努めています。
当社グループは心身の健康・地球環境問題・人権等、食のバリューチェーン上の社会課題を機敏に捉え、当社の提供価値につながるESGマテリアリティを特定し、経営戦略の立案・推進に活用しています。
経営戦略に基づき、財務資本、製造資本、人的資本等、当社グループが有する経営資本を活用し、4つの事業が持つ強みを組み合わせて、当社グループならではの植物性素材を創出しています。この植物性素材により食の選択肢を広げ“おいしさと健康”“サステナブルな食のバリューチェーン”を構築することが、当社グループの提供価値であると考えています。
そして、当社グループの提供価値が顧客価値=消費者価値となり、獲得した利益やキャッシュ・フローは食のバリューチェーン全体のサステナビリティ向上に寄与する当社グループの持続的な成長を支える財務基盤の強化に資するとともに、提供価値の拡大及び新たな価値の創出のために再投資しています。
不二製油グループは価値創造プロセスの循環を通じ、持続的な成長を果たし、「サステナブルな食の未来」の実現を目指しています。
当社グループの経営資本は以下のとおりです。
“財務資本”とは、当社グループの事業活動により獲得した利益やキャッシュ・フローを持続的な企業価値向上へ向けて再投資することで構築される財務基盤です。2024年度において株主資本は1,749億98百万円、有利子負債は2,839億75百万円、営業キャッシュ・フローは506億31百万円の支出となりました。
詳細は「4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」及び「第5 経理の状況」に記載のとおりです。
“製造資本”とは、当社グループの安全・安心で安定した品質の製品を生産、顧客に提供するための製造拠点・製造能力です。2025年3月末時点においては、連結子会社38社、持分法適用会社3社がグループの生産を支えています。また、2024年度の設備投資額は257億43百万円となりました。
詳細は「第1 企業の概況 3事業の内容」、「第1 企業の概況 4関係会社の状況」及び「第3 設備の状況」に記載のとおりです。
“人的資本”とは、当社グループの企業活動を支え、持続的な成長を支える人材です。2025年3月末時点で連結従業員5,654名となり、うち約7割が海外エリアの従業員となりました。詳細は「第1 企業の概況 5従業員の状況」及び「2 サステナビリティに関する考え方及び取組(6)人的資本・多様性」に記載の、人的資本に関する当社の考え方及び取組をご覧ください。
“知的資本”とは、当社グループの技術革新と社会課題に貢献する製品の創出を支える研究成果と技術力です。2024年度の研究開発費は64億57百万円となりました。特許ポートフォリオ等の研究開発活動に関する情報は「6研究開発活動」に記載のとおりです。
“社会・関係資本”とは、食のバリューチェーンの川中に位置する存在として構築してきた、ステークホルダーとの共創関係です。ステークホルダーとの共創の詳細は「(3)会社の経営戦略・経営目標とその進捗 ③ サステナビリティの深化(経営戦略と一体化したサステナビリティ戦略)」に記載のとおりです。
“自然資本”とは、エネルギーや水、生態系サービス(注)に依拠した農産物であるパーム、カカオ、大豆、シアカーネル等の原料であり、当社グループの事業活動はこうした自然や生態系サービスの恩恵を受けると同時に負の影響を与える可能性があります。当社グループは環境負荷の低減や、持続可能な調達等の取組により、自然資本の保全と回復に努めています。
詳細は、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組(5)指標及び目標」に記載のとおりです。
(注)生態系サービス:食料や水の供給、気候の安定等、生物多様性を基盤とする生態系から得られる恵み
① 不二製油グループの強み
当社グループは創業当初から、南方系油脂と大豆たん白を中核に「植物性素材」にこだわり、パーム、カカオ、大豆を主原料とした技術の深掘りと横展開で植物性油脂事業、業務用チョコレート事業、乳化・発酵素材事業、大豆加工素材事業を発展させてきました。当社グループは、その歴史の中で培った各事業固有の技術で製品を創出するのみならず、各事業の持つ技術の融合により事業の垣根を越えた新しい、安全・安心な品質の製品を生み出しています。
また、創業の精神「挑戦と革新」の下、BtoBの食品素材メーカーとして、顧客の課題、困りごとに共に挑み、当社グループの製品・取組による解決策を提案するとともに、多様化する消費者の食シーンに貢献する‘食’を顧客と共に創造し、社会課題解決に取り組んでいます。
さらには、当社グループは持続可能な社会の実現に向けて、サプライチェーン上での環境、人権等の社会課題を解決するべく、事業活動全体を通じて、環境や人権等を尊重するサプライヤー等との信頼関係を構築し、エンゲージメントを高める取組を進めるとともに、これらサプライヤーから主要な原料を調達するサステナブル調達を進めています。
主要事業で培ってきた「技術の融合」、「顧客との課題解決力」、「サステナブル調達」は当社グループの歴史の中で育んできた、大きな強みであり、当社グループビジネスモデルの核となっています。
② ビジネスモデルと競争優位性
当社グループのビジネスモデルは、「植物性油脂事業」、「業務用チョコレート事業」、「乳化・発酵素材事業」、「大豆加工素材事業」から構成されています。
当社グループは当社グループと関わる顧客・消費者・社会等のステークホルダーが直面する食の課題解決に取り組む課題解決型ビジネスを展開しています。
a.植物性油脂事業
―南方系油脂を軸とした高度な利用技術(注1)・サステナブル原料のサプライチェーン―
当社グループは創業当初から、南方系油脂の加工、チョコレート用油脂(CBE:注2)に活路を見出し、南方系油脂を軸として、様々な油脂の高度な利用技術の革新を進め、植物性油脂事業を基盤事業として展開してきました。また、限りある資源の中で、自然との共生によるサステナブルな社会・事業活動を指向しており、サプライチェーン上での環境、人権等の社会課題を解決すべく、早くから農園・農家との協働に取り組み、信頼関係を構築しています。このような取組で構築してきた‘サステナブル原料のサプライチェーン’も植物性油脂事業の差別化戦略につながる強みとなっています。
(注)1.高度な利用技術:多様なニーズに合わせて、油脂加工技術と様々な油脂種の組み合わせにより油脂原料を余すことなく利用し、製品化する技術。
2.CBE:Cocoa Butter Equivalentの略。ココアバターと同等の物性を持ったチョコレート用油脂。
b.業務用チョコレート事業
―油脂技術の融合による多様化する価値を実現する機能性とおいしさの提供―
業務用チョコレート事業は、技術革新を進めてきた当社グループのチョコレート用油脂技術に支えられています。顧客の多様化する商品価値を具現化でき、価値を高める機能性と、口溶けのよさや豊かな風味といった消費者が求める‘おいしさ’を兼ね備えた高品質なコンパウンドチョコレートに強みを有しています。
c.乳化・発酵素材事業
―乳化・発酵技術により「おいしさと使いやすさ」を提供―
乳化・発酵素材事業は、顧客の商品製造過程における加工安定性や流通過程での保形性等の‘使いやすさ’を実現できる油脂を使用した乳化技術と、消費者にとっての‘おいしさ’につながる風味を生む発酵技術の融合により、製菓・製パン・調理用途等にクリーム、マーガリン、フィリングといった幅広い素材を提供しています。
d.大豆加工素材事業
―大豆のおいしさと栄養を活用した多様な製品群―
当社グループでは創業時から油脂とともに、大豆の豊富な栄養と大豆たん白の特性に着目し、研究を進め、用途拡大と技術革新を進めてきました。また大豆本来の‘おいしさ’を引き出す研究開発とともに、大豆たん白に含まれる機能性成分の研究により製品を創出し、多様な製品群を展開しています。大豆に含まれる植物性のタンパク質は食の未来を見据える中で、重要な食資源の一つです。大豆加工素材事業において社会課題の解決と消費者の要望に応える多様な高付加価値製品を創出、提供することで、社会貢献を果たしてまいります。
③ 不二製油グループの提供価値
持続可能な社会の実現に向けて、また食と健康への意識の高まりに伴い、消費者からはウェルビーイングにつながるおいしくて心と身体に良いものを食べること、つまり「おいしさと健康」の両立と「サステナブルな食のバリューチェーン」への貢献が求められています。当社グループは4つの事業の強みを活かした事業活動を通じ、「社会価値」と「経済価値」を創出し、ステークホルダーへの貢献を果たしてまいります。
「社会価値」
当社グループの事業活動では、創業以来培ってきた技術、顧客の課題や困りごとを解決する課題解決力、環境や人権等に配慮した原料の調達、そしてそれらを元に、様々なステークホルダーとの共創によって付加価値の高い製品を生み出しています。
当社グループは、事業活動を通じ、自然環境への負荷低減に取り組むとともにサステナブルな食資源の供給により、消費者の食の歓び、健康増進、雇用、人権尊重等のウェルビーイングの実現に貢献してまいります。
「経済価値」
当社グループの事業活動により得られた利益やキャッシュ・フローは当社グループの持続的な成長を支える財務基盤の強化に資するとともに、提供価値の拡大及び新たな価値の創出のために再投資してまいります。
(3)会社の経営戦略・経営目標とその進捗
当社グループは不確実性が高まる事業環境のもと社会変容に対応し、新しい価値を生み出せる企業グループとして生まれ変わっていくため、2022年度から2024年度までの3年間を現有資産、事業からの収益力を回復することと財務体質を強固にすることを優先事項とし、経営基盤を強化する期間と定め、中期経営計画「Reborn 2024」を実行してまいりました。
財務KPI
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中期経営計画目標(2024年度) |
実績(2024年度) |
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連結営業利益 |
235億円 |
99億円 |
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ROE(株主資本利益率) |
8.0% |
1.0% |
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FUJI ROIC(投下資本利益率)(注) |
5.0% |
1.6% |
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株主還元 配当性向 |
30.0%-40.0% |
200.4% |
(注)FUJI ROIC=税引後営業利益 ÷(運転資本+固定資産)
当社グループでは本指標を各事業で把握・管理可能な項目とすべく、分母となる投下資本を運転資本と固定資産に置き換えて使用しております。
非財務KPI
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目標(2024年度) |
実績(2023年度)(注3) |
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CO2排出量の削減(Scope1+2)(注1) |
総量23%削減 |
総量29%削減 |
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サステナブル調達 (パーム油TTP比率(注2)) |
85% |
比率95% |
(注)1.基準年:2016年度(全連結子会社)
2.パーム油TTP:パーム油の農園までのトレーサビリティ(Traceability to Plantation)
3.2024年度実績は2025年9月発行予定のサステナビリティレポートにて開示予定。
当中期経営計画期間における当社グループを取り巻く経営環境は、日本においては円安の進行や、原材料の値上がりが続いたものの、国内外からの観光客の増加等により、消費が回復し、景気は底堅く推移しました。一方、海外で安全保障問題に関連する経済的な影響、食糧、エネルギーコストの上昇に伴う世界的なインフレや金融引き締めによる景況感の悪化、特に中国経済の停滞と内需の不振等の影響を受けました。また、カカオ豆をはじめとする原材料価格の高騰、相場の急変、安定的な原料調達課題等に直面しました。
財務KPIにおいては、気候変動による不作を背景としたカカオ豆相場急騰及び関連費用の増加により、チョコレート製品並びにカカオ加工品製造を行うBlommer Chocolate Company, LLC (米国、以下「Blommer」)の収益性が悪化した一方、コンパウンドチョコレートの需要拡大を受けて、業務用コンパウンドチョコレート事業を展開する拠点では、チョコレート用油脂(CBE)を配合・設計することでカカオ豆相場急騰に対応するとともに、おいしさと機能性提案を進め、収益性を改善しました。
また、植物性油脂事業においても、コンパウンドチョコレートに使用するチョコレート用油脂(CBE)需要拡大による販売増加が収益に寄与しました。
しかしながら、上述のとおりカカオ豆相場の急騰に伴うBlommerの収益悪化の影響を受けて営業利益、ROE、FUJI ROICは当初目標に対して未達となりました。
非財務KPIについては、各グループ会社による積極的な省エネルギー活動の推進や、再生可能エネルギーの導入によるCO2排出量削減を進め、中期経営計画当初に掲げた2024年度目標 CO2排出量削減(Scope1+2)を上回る見込みです。さらに、TTPシステムを導入する等のパーム油のサステナブル調達に取り組んだ結果、中期経営計画当初に掲げた2024年度目標 サステナブル調達(パーム油TTP比率)も上回る見込みです。
当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容については、「4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」及び、2025年3月期 決算説明会資料をご参照ください。https://www.fujioil.co.jp/ir/library/hosoku/
当連結会計年度(2025年3月期)を最終年度とする中期経営計画「Reborn 2024」の基本方針の進捗結果は以下のとおりです。
① 事業基盤の強化(収益力復元と新しい価値創造)
「Reborn 2024」の柱の一つ「事業基盤の強化」では、「基礎収益力の復元」、「既存領域における高付加価値製品へのポートフォリオの入替え」、「成長・戦略分野への経営資源の集中」、「挑戦領域への展開」を進めてまいりました。
「基礎収益力の復元」では、適正な販売価格政策や原価管理を強化することで、事業別に運営・管理両面からの体制を強化することの一例として、乳化・発酵素材事業において、為替の影響を受けてシンガポール拠点からの日本市場向け粉乳調製品輸出のコスト競争力が低下したことに対して、東南アジア及び近隣諸国の経済成長と食生活の多様化を背景とした製菓・製パン市場の需要拡大をふまえ、日本市場向けから東南アジア及び近隣諸国向けへビジネスモデルを再編しております。
また、アプリケーションを含む商品提案、各国の地場市場での顧客・販売網、価格戦略の見直しを図り、基礎収益性の回復を図りました。
植物性油脂事業では、東南アジアを世界で求められるサステナビリティやトレーサビリティ基準に対応した油脂のグループサプライチェーン体制における中間原料供給の重要拠点としてビジネスモデルの転換を図り、植物性油脂事業の基礎収益力の向上を図りました。
さらにグループ共通の生産性指標を導入し、各社の工場生産性の改善を推進してまいりました。
「既存領域における高付加価値製品へのポートフォリオの入替え」において、コモディティ製品から差別化された付加価値の高い製品への展開を行うことで、競争優位性の確立に取り組むとともに、「成長・戦略分野への経営資源の集中」で、植物性油脂事業と業務用チョコレート事業を成長分野として優先的に経営資源を再配分することで、グループの収益拡大に向け取り組んでまいりました。
カカオ原料高騰を背景に、チョコレート用油脂(CBE)の需要が拡大する中、グループの植物性油脂事業会社間でのシナジーの創出を図るとともに各国の顧客に対して、複数製法・原料によりコスト優位性、安定供給性を確保した製品販売を行うことに加え、当社グループのおいしさと機能性を両立させるチョコレート製造技術を駆使した高付加価値なコンパウンドチョコレート製品としての拡販を図り、グループの競争優位性の確立に取り組みました。
成長・戦略分野の一つとして植物性油脂事業では、近年のトレーサブルで環境・人権に配慮したサステナブル調達に加え、油脂中に含まれる微量成分を低減した製品の欧州等での需要の高まりへの対応として、東南アジアでのサステナブル認証油の供給体制を強化し、グループ全体での顧客要望への対応・拡販を進めています。
さらに、今後需要の増加が見込まれる市場にもトレーサブルで持続可能なパーム油製品の提供を通じた社会課題解決に取り組むべく、前期にはマレーシアのパーム油・パーム核油の製造会社 Johor Plantations Group Berhadと持続可能なパーム油を原料とした高付加価値な油脂製品を製造・販売する合弁会社を設立し、2026年度の事業開始を予定しています。
業務用チョコレート事業においては、HARALD INDÚSTRIA E COMÉRCIO DE ALIMENTOS LTDA(ブラジル)で2023年4月に新工場の稼働を開始し、工場内にお客様と共創でアプリケーションを開発・提案する施設を新設し、新製品創出、新市場の開拓を進め、ブラジルで高まるチョコレート需要に対応しております。
また、東南アジア・オセアニア市場においてもカカオ価格高騰を背景としたコンパウンドチョコレートの需要が高まっており、PT.FREYABADI INDOTAMA(インドネシア)では国内市場のベーカリーや冷菓メーカー向けを中心として問屋施策等の推進により販路を拡大、INDUSTRIAL FOODSERVICES PTY LIMITED(オーストラリア)ではMade in Australiaが主流の国内市場のベーカリーや冷菓メーカー向けにグループの技術と知見を活かした高付加価値なコンパウンドチョコレート製品の提案、顧客対応を実施し、グループの収益改善に寄与しました。
「挑戦領域への展開」においては、当社グループの各事業固有の技術の組み合わせを行い、新たな市場アプローチにより、消費者視点での時代に合った製品を提供しています。また、新市場・新規顧客開拓を行うことにより新しい価値の創造への挑戦に取り組んでおり、コモディティ製品から高付加価値製品へのポートフォリオの入れ替えを図ってきました。
「新たな価値の提供」として、当社がこれまで培った植物性油脂とチョコレートの知見を活用し、ミルクチョコレートタイプながらカカオマスやココアバター等のカカオ豆由来の原料を全く使用せず、「おいしさ」、ミルクチョコレートと同様に取り扱える「簡便さ」、遜色のない「くちどけ」が特徴の当社初のチョコレート代替製品、「アノザM」を当期に上市し、新たな価値を提供しています。
日本においては、挑戦領域を牽引するフラッグシップとして、植物性に特化したブランド‘GOODNOON’を展開し、食が多様化する中、当社グループの植物性素材ですべての人にとって「おいしい」の食の選択肢を広げる提案をしてまいりました。代表商品の一つとして当社独自の大豆加工と油脂技術を融合した豆乳クリームバター(ソイレブール)の拡販、また、当社が開発したMIRACORE®(注)技術を駆使した植物性ダシ製品群のMira-Dashiシリーズ等の上市により、国内のインバウンド需要への対応のみならず、動物原料不使用による海外展開の可能性を広げる等当社グループの植物性素材の知見を活かした新たなビジネスへの取組を進めるとともに、グループ会社での小売商品の展開により、消費者との接点をより増やし、「おいしい」の体験機会の提供を加速させています。
(注)MIRACORE®:当社研究所が開発した動物性食品ならではのおいしさを植物性素材で実現する技術。
② グローバル経営管理の強化
「グローバル経営管理の強化」では、高収益な事業ポートフォリオの実現に向け、事業や経営単位ごとの資本効率の把握・管理を可能とする指標としてFUJI ROICを導入し、定期的に重要会議においてFUJI ROICの重要要素である運転資本や投資進捗をレビューし、各グループ会社によるFUJI ROIC改善施策の進捗をモニタリングし、資本効率を意識した経営を推進しました。
また、事業軸運営を強化し、各事業固有のリスク管理及びグループ各社の連携を強化し、各エリア共通の課題に横断的に対応するとともに、研究開発においては、事業戦略と一体となった運営体制を推進し、グローバルで求められる社会課題に対応する研究への取組、製品開発スピードの向上を図る等、グローバルでの経営管理の強化を図りました。
③ サステナビリティの深化(経営戦略と一体化したサステナビリティ戦略)
当中期経営計画期間では、当社グループとして特定したESGマテリアリティに基づき、各グループ会社のサステナビリティへの取組を加速させ、グループ全従業員による自律的な活動へ深化させてきました。また、パーム油やカカオ等の主原料のサステナブル調達、並びに気候変動や生物多様性への対応として、グループ全体のCO2排出量・水使用量原単位・廃棄物量原単位の削減や原料産地での森林保全・再生等各種施策に取り組んできました。
サステナブル調達においては、持続可能なパーム油への需要の高まりに対して、マレーシアのアブラヤシ栽培会社であるUnited Plantations Berhad(ユナイテッドプランテーション社)との合弁会社であるUNIFUJI SDN BHD(マレーシア)の生産能力を維持し、十分なパーム油供給量を確保する等、東南アジアでのサステナブル認証油の供給体制を確立しました。
生物多様性においては、2022年度に「不二製油グループ生物多様性方針」を制定し、世界各地の原料産地や事業拠点で、ステークホルダーとともに、生物多様性の保全と回復に向けた取組を推進しました。また、TNFDが提唱するLEAPアプローチに基づき、「不二製油グループのバリューチェーン上の自然関連リスク・機会」や「パーム及びカカオの自然関連リスク分析結果」を開示しました。(注1)
CO2排出量においては、各グループ会社での省エネ活動、再生可能エネルギー導入により、スコープ1+2の中期経営計画当初に掲げた目標を達成する見込みです。水使用量の削減については、生産ラインにおける水使用量の最適化や水の再利用の促進により削減が進みました。廃棄物量の削減についても、廃棄物の再資源化や副産物の高付加価値化により削減が進みました。また「環境ビジョン2030」を改定し、2050年度ネットゼロ目標及び1.5℃水準のGHG削減目標を策定、並びに水使用量削減目標も改定しました。(注2)
(注)1.詳細は「2 サステナビリティに関する考え方及び取組(4)リスク管理」に記載のとおりです。
2.「環境ビジョン2030/2050」の詳細は「2 サステナビリティに関する考え方及び取組(5)指標及び目標」に記載のとおりです。
不二製油グループの持続的成長を支えるのは人材です。「Reborn 2024」におけるサステナビリティの深化のテーマの一つを「人材活用」とし、3つの方針「グローバル経営を支える人材の確保・育成・適正配置」「DE&Iの推進」「コミュニケーションの強化」のもと、取組を進めてまいりました。
当中期経営計画期間においては、世界的なインフレの進行とそれに伴う金利水準の高止まりに加え、パーム油やカカオ等の主原料の高騰に伴う運転資本の増加等により、目標として定めた財務KPIを下回る結果となった一方で、より強固な財務体質に生まれ変わるための施策を着実に実行いたしました。
FUJI ROICの導入により事業別ROIC管理・評価を進め、各事業の資本効率が可視化することで、投資の厳選及び優先的な経営資源の配分を行い、グループ全体の事業ポートフォリオの最適化を図りました。その一環として、前連結会計年度以前に実施したFuji Oil New Orleans, LLC(米国)の固定資産譲渡に加え、当連結会計年度に実施したBlommerが保有するシカゴ工場の閉鎖及び大豆たん白食品事業の国内連結子会社の譲渡等、収益性の改善のための施策を実行いたしました。2025年3月に公表しましたとおり、当社グループは、2026年3月期第1四半期連結会計期間より国際財務報告基準(IFRS)の任意適用を予定しております。事業別ROIC管理に加え、IFRSでのグループ統一の財務報告に基づき比較可能性を高め、さらに実効性の高い事業評価を行う体制の構築に向け、準備を進めております。
また、金利水準の上昇に伴う金融費用の増加や原料高騰による運転資本の増加への対策として、グループファイナンスを活用したグループ資金の最適配分を行うことにより、当社グループを取り巻く厳しい状況においても安定的なキャッシュ・フローを創出するための施策を実行いたしました。持続的な事業成長のための投資を行うとともに、「Reborn 2024」において定めた配当性向30%~40%という水準を維持し、安定的かつ継続的な配当を実施してまいりました。
当社グループは、更なる企業価値の向上を図り、全てのステークホルダーから信頼される企業グループとなることを目指してまいります。
(4)対処すべき課題と今後の対応方針
近年の気候変動を一因とした不作等による当社グループ主要原料の一つであるカカオ原料の価格高騰、各国の金利政策による為替の変動等、世界的な経済・社会環境の変化、地政学リスクの影響を受けうる当社グループの事業環境では、サプライチェーン全体に及ぶ課題や、サステナビリティ課題への対応強化等は、事業ごとに各グループ会社の状況精査・対応検討をし、より迅速に推進する必要性があると認識しています。このため、2015年からの約10年間の純粋持株会社(グループ本社)体制下で培った財務経理やESG等の機能軸による管理強化は継続しつつ、人材をはじめとする経営資源の一元管理や最適配分、高利益なポートフォリオへの入れ替え、当社バリューチェーン上での事業戦略の立案・実行等を事業軸で推進・強化することを企図し、2025年4月1日付で、当社は事業持株会社制へ移行しました。
新体制の下、世界が直面するカカオをはじめとする原料ボラティリティに対しては、複数の製法・原料で供給が可能であり、コスト面、供給安定性で強みを有するチョコレート用油脂(CBE)のグループ供給体制の強化と油脂技術・チョコレート製造技術の融合による高品質なコンパウンドチョコレートの提供でカカオ豆高騰に対応するとともに、機能性を兼ね備えたコンパウンドチョコレートの更なる拡販等、バリューチェーン全体を俯瞰した適正な商品戦略立案と実行により成長戦略を実行してまいります。また、カカオ原料の価格高騰や金利の上昇及びインフレに伴う固定費増加等の大きな影響を受けたBlommerの構造改革の実行による収益性改善、欧州でのEU森林破壊防止規則(EU Deforestation Regulation:EU-DR)の適用が2025年12月に開始される見込みであることを受け、グローバルに展開する大手取引先とのビジネスのための当社グループ全体での環境・人権に配慮したトレーサビリティを確保した原料調達体制の強化等、グループ一体となり重要な経営課題に取り組んでまいります。
新しい価値を生み出せる企業グループに生まれ変わるという覚悟の下、2030年までのPhase1~Phase3の各3年間のうち、Phase1として「基盤の強化」に取り組んだ中期経営計画「Reborn 2024」でしたが、当初目標からのギャップがあることを強く認識しております。
現有資産、事業における収益力の強化は引き続き継続しつつ、グループ会社管理体制については今後とも強化を図ってまいります。現在の世界で起きているカカオ豆等原材料の需給バランスのギャップ、先進国での健康課題を抱える人口増加等、当社グループの事業環境における様々なリスクは、課題解決型ビジネスを展開する当社グループにとっての事業機会であると捉え、成長戦略に繋げてまいります。
(1)不二製油グループのサステナビリティ経営
当社グループは、「不二製油グループ憲法」のビジョンに「植物性素材でおいしさと健康を追求し、サステナブルな食の未来を共創します。」を掲げています。グループ全従業員が地球環境・人権・心身の健康等のバリューチェーン上の社会課題を機敏に捉え、リスクの低減のみならず、全てのステークホルダーの期待に応えるソリューションの提供に努め、社会価値を創造することで、サステナブルな食の未来の実現と当社グループの企業価値向上を目指しています。
詳細は「
(2)ガバナンス
① 取締役会とサステナビリティ委員会
当社グループは監査等委員会設置会社であり、取締役会の任意の諮問機関のひとつとしてサステナビリティ委員会を設置しサステナビリティ関連のリスク及び機会をモニタリングしています。同委員会は「サステナビリティ委員会規程」に基づき年2回以上開催し、取締役会は同委員会からのサステナビリティ事項に係る答申・報告を受け、中長期のグループ経営の方向性を決定しています。
2024年度は最高経営責任者(CEO)を委員長とし、CxO(Chief X Officer)に加え、その他の執行役員、事業部門長、社外取締役、ESGアドバイザーで構成し、経営戦略とESGマテリアリティの連動性を高めた審議に努めました。また、中長期的な社会・環境への影響と自社への財務影響の観点からESGマテリアリティを特定し、その戦略と目標について、マルチステークホルダー視点で審議・監督しました。
サステナビリティ委員会 2024年度審議事項
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第1回(2024年4月) |
・2023年度ESG活動実績の確認 ・2024年度ESG活動計画の決定 |
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第2回(2024年10月) |
・2024年度ESG活動進捗と課題の確認 ・サステナビリティ情報の制度開示について |
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第3回(2024年12月) |
・2025年度ESGマテリアリティと管掌役の決定 |
なお2025年度は、同委員会は代表取締役兼最高経営責任者(CEO)を委員長とし、COO、CFO、事業本部 及び機能部門の本部長、ESGアドバイザー(社外取締役)で構成することで、経営戦略とESGマテリアリティの連動性を高めるとともに社外の視点を取り入れ、中長期の視点で審議しています。
② サステナビリティに関連する役員報酬(業務執行評価連動型金銭報酬)
サステナビリティに関する重点領域の取組は、取締役の業務執行評価連動型金銭報酬の評価対象項目としています。また、執行役員についても、業務執行を兼務する取締役と同様の評価制度を適用しています。なお、2025年度の制度改定に伴い、取締役報酬制度及び執行役員報酬制度における業務執行評価連動型金銭報酬の考え方が変更され、業績連動型金銭報酬の個別支給額算出に用いる会社業績指標の一つに、ESGマテリアリティと連動した非財務評価KPIを設定しています。役員の報酬の詳細は、「
なお、当社及び旧不二製油㈱の管理職制度においては、経営と視点を合わせた目標設定を行うためのガイドラインを策定しています。このガイドラインに則して、短期の利益目標のみならず、中期経営計画で掲げる非財務領域、たとえば人的資本やその他サステナビリティに関する項目等を目標として設定し、業績目標含め適切なウェイトで評価することとしています。
(3)戦略
① ESGマテリアリティにもとづく経営戦略
当社バリューチェーン上の「サステナビリティ関連のリスク及び機会」に係わる重要な社会課題としてESGマテリアリティを特定し、各事業で課題解決を推進していくための経営戦略ツールとして活用しています。ESGマテリアリティに対し、「ポジティブ・インパクトの創出」あるいは「ネガティブ・インパクトの低減」に寄与する具体的な事業活動を推進することで、事業機会の創出及び事業リスクの低減を図っています。また、その進捗を取締役会がモニタリングすることで、中長期のグループの方向性を決定しています。
なお、ESGマテリアリティへ取り組む上で基本的なグループの姿勢をまとめた各種方針・規範を制定しています。各種方針・規範一覧は以下のURLよりご参照ください。
https://www.fujioil.co.jp /sustainability/policy/
② ESGマテリアリティの特定
ESGマテリアリティは、新たな社会課題の把握とステークホルダーエンゲージメントに基づき毎年レビューし、特定しています。特定されたマテリアリティは、管掌役のもと推進責任者を任命し、具体的な目標・対応策を定め取り組みを推進しています。
2024年度のESGマテリアリティは、「不二製油グループが社会・環境に与える影響度」と「社会・環境課題が不二製油グループに与える影響度」の2軸の評価と、ESGマテリアリティ管掌役、事業部門長及び各地域の代表者、社内外有識者との意見交換並びに投資家等のステークホルダーの意見を踏まえて作成し、サステナビリティ委員会における審議及び取締役会の承認を経て決定しました。
なお、2024年度は、グローバルなサステナビリティ開示基準に沿った特定プロセスへ変更しました。「インパクトマテリアリティ(社会・環境への影響度評価)」と「財務マテリアリティ(不二製油グループへの財務影響度評価)」の2軸による重要性評価に基づき、2025年度のESGマテリアリティを特定しました。
(注)
https://www.fujioil.co.jp /sustainability/materiality/
③ ESGマテリアリティと具体的な取組
2024年度は、以下のESGマテリアリティの重点項目を推進しました。
(製品の安全性と品質)
当社グループは、安全・安心な製品を社会に提供することを前提に事業活動を展開し、不二製油グループ「品質基本方針」(注)を定め、製品安全と安定品質の製品出荷を最優先に、製品設計からお客様にお届けするまでの品質保証体制の確立と強化に努めています。当重点項目では「品質保証規程」に基づく品質及び食品安全マネジメントの強化、従業員の継続的な品質意識向上のための活動を推進しています。
(注)「品質基本方針」は以下のURLよりご参照ください。
https://www.fujioil.co.jp/pdf/sustainability/environment/management.pdf
(健康と栄養、サステナブルな食資源の創造)
ライフステージの変化や食・生活習慣に起因する健康課題の増大が危惧されている中、人々が心身の不自由なく生きがいを持って暮らせる社会の構築を目指しています。当重点項目では、心身の健康増進に寄与する食品の市場拡大や、高齢者の認知機能の低下予防に寄与する研究及び製品開発、食料課題解決への貢献する多様な植物性素材の創造に注力しています。詳細は「
(気候変動、水資源、サーキュラーエコノミー、生物多様性)
当社グループの事業活動は、自然環境や生態系の恩恵を受けると同時に、気候変動や生物多様性に影響を与えており、気候変動や生物多様性の喪失は事業継続上のリスクです(注1)。
当社グループは、2015年10月に「環境基本方針」を制定しています(注2)。2018年策定の「環境ビジョン2030」では、グループ全体のCO2排出量・水使用量・廃棄物量の削減に関する2030年目標を掲げ、環境負荷を低減する取組を加速させてきました。
2024年度は「環境ビジョン2030」を改定し「不二製油グループ環境ビジョン2030/2050」を策定しました。既存の2030年度CO2排出量削減目標を改定し、GHGを対象に2050年度ネットゼロ及びScience Based Targetsイニシアティブ(SBTi)1.5℃基準に沿ってスコープ1+2、スコープ3の2030年度目標を策定しました。森林や土地・農業由来のGHG排出量を考慮し、新たにFLAG(Forest, Land and Agriculture)2030年度目標を設定しました(注3)。
また、2023年3月に制定した「不二製油グループ生物多様性方針」に基づき、バリューチェーン上の生物多様性への負の影響を回避または軽減を図り、自然生態系の保全と回復に取り組んでいます(注1)。
(注)1.詳細は「
2.
3.「環境ビジョン2030」につきましては「
(サステナブル調達)
当社グループは、食のバリューチェーンの川中に位置し、顧客である食品メーカー等に食品中間素材を販売しています。「サステナブルな食の未来」の実現に向け「サステナブルな食のバリューチェーン」を構築するため、社会課題を解決していく上で鍵となるサプライヤーや顧客とともに、環境保全、人権尊重、公正な事業慣行、リスクマネジメント等に取り組み、持続可能な食品素材を提供しています。
調達に関するグループの上位方針「サプライヤー行動規範」及び主原料であるパーム油、カカオ、大豆及び戦略原料であるシアカーネルについて原料別の責任ある調達方針を掲げ(注1)、中長期目標とKPI(注2)を公表し、取組を推進しています。
(注)1.
https://www.fujioil.co.jp /sustainability/procurement/
2.各原料別の中長期目標とKPIにつきましては「
(労働安全衛生)
従業員の安全を確保することは企業の社会的責任であり、持続可能な経営を行う上での前提条件です。「安全衛生基本方針」(注)に基づき、不二製油グループの従業員及び事業所内で働く全ての人々の命を守るとともに、労働災害ゼロの達成を目指しています。重点項目では、重大災害ゼロ、重大物的事故ゼロの達成に向け、従業員の安全意識を向上のための活動を推進しています。
(注)「安全衛生基本方針」は以下のURLよりご参照ください。
https://www.fujioil.co.jp/pdf/sustainability/environment/management.pdf
(DE&I、人材確保・育成)
多様化する顧客ニーズや価値観に対応し、イノベーションを創出するには、多様な価値観を受け入れ、個性を発揮できる職場環境を整えることが重要です。全ての人材が最大限に能力を発揮できるよう、従業員の多様性を尊重します。また、事業競争力を高めていくためには、新たな価値を創出する人材の確保と、各人に期待される技術やスキルの育成が、当社グループと従業員双方の成長にとって要となります。従業員の自律とエンゲージメントを促進する施策と組織風土醸成に取り組んでいます。詳細は「
(GRC)
不確実性が高い事業環境下では、レジリエンスを高め、リスクに強い事業経営を行うことが重要です。BCPの強化、情報セキュリティの強化、コンプライアンスの強化といったリスクの発生、並びにリスク発生時の影響を最小化する取組等、グループのガバナンス強化により企業価値向上を目指しています。詳細は「
なお、2025年度は以下のESGマテリアリティに沿って取組を推進します。
(注)2025年度ESGマテリアリティに関する情報は、2025年9月発行予定のサステナビリティレポートにて開示予定です。
(4)リスク管理
当社グループのリスクマネジメント体制の全体像の詳細は、「
また、「
① 人権リスクへの対応
(人権デュー・ディリジェンス)
当社グループは「不二製油グループ人権方針」を掲げ、事業活動が影響を及ぼし得る当社グループ内及びサプライチェーン上の人々の人権尊重責任の実行方針を示し、当方針に基づき人権デュー・ディリジェンスを実施しています。また、人権デュー・ディリジェンスの取組において、事業活動が及ぼし得る人権への負の影響を特定・評価し、優先的に対処すべき重要な課題を特定するため、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」で提唱されるプロセスに則り、外部の有識者の助言を得て、人権インパクトアセスメントを実施しています。
2024年度は、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」提唱プロセスに則り、外部有識者の助言のもと第3回人権インパクトアセスメントを実施し、優先的に対応する人権リスクを特定しました。なお、特定した人権リスクに関する情報は、2025年9月発行予定のサステナビリティレポートにて開示予定です。また、2024年度は、従来の人権インパクトアセスメントに加え、人権デュー・ディリジェンスについて国連「ビジネスと人権に関する指導原則」や食品業界の取組状況とのギャップ分析を行いました。
(救済の実施)
・内部通報制度
当社グループまたは当社グループの役職員等による法令違反行為、不正行為等をはじめ、その他ハラスメント・差別等あらゆる人権侵害を含む、法令やグループの行動規範や方針に違反またはそのおそれのある行為について、相談・連絡頂けるよう国内向けの「内部通報窓口」及び海外グループ会社の役職員等向けの「コンプライアンス・ヘルプライン」を設けています。
当社の内部通報規程では、法令違反行為等に関する通報の適正な仕組みを定めており、通報者保護のため、上記「内部通報窓口」及び「コンプライアンス・ヘルプライン」に通報したことを理由に、通報者となった役職員等を解雇及び不利益に取り扱うことを禁止しています。また、通報者に対して不利益な取り扱いや嫌がらせ等をした者に、就業規則等に従い処分を課すことができると定めています。
2024年度は、内部通報窓口の設計を見直しました。通報者の匿名性の確保及びプライバシー保護の強化、通報窓口の透明性・公正性を担保すると共に、社外の弁護士事務所に設置する通報窓口に一本化することで、通報窓口の会社の不正の吸い上げ機能を強化しました。また、通報窓口を当社のコーポレートサイトに掲載し、社外からもアクセス可能な通報窓口とすることに変更しました。
・サプライチェーン上の人権・環境リスクに対応するグリーバンス(苦情処理)メカニズム
「責任あるパーム油調達方針」を実現する目的で、2018年5月にグリーバンス(苦情処理)メカニズムを構築・公表しました。グリーバンスメカニズムは、ステークホルダーから当社グループに提起されたサプライチェーン上の環境・人権問題について、「責任あるパーム油調達方針」に基づいてパートナーとともにサプライヤーへエンゲージし、問題を改善する仕組みです。
当社ウェブサイトでは、グリーバンス手順書を掲載し、エンゲージ対象企業の定義や、グリーバンス対応プロセスを公開しています。また、四半期に一度、受け付けたグリーバンスへの対応状況を更新し、ステークホルダーへ情報を開示しています。
グリーバンスメカニズムについては以下のURLより当社ウェブサイト(英語)をご参照ください。
https://www.fujioil.co.jp/en/sustainability/grievance_mechanism/
② 気候変動・自然関連インパクト、リスク・機会への対応
(気候・自然関連インパクト、リスク・機会の管理)
(表1)不二製油グループにおける気候変動リスク・機会及び財務インパクトの影響度評価
(表2)不二製油グループのバリューチェーン上の自然関連リスク・機会
(5)指標及び目標
当社グループでは、サステナビリティに関する指標及び目標として、以下を設定しております。
① ESGマテリアリティ
ESGマテリアリティ毎に管掌者及び推進責任者を定め、目指す姿・目標・施策を設定し、取組を推進しています。
取組テーマの指標及び目標についてはサステナビリティレポートをご参照ください。
https://www.fujioil.co.jp/sustainability/sustainability_management/
(サステナブル調達)
主原料及び戦略原料である以下の4つの原料につき、持続可能な調達を実現するための中長期目標とKPIを設定し取組を推進しています。
(環境ビジョン2030)
2018年に策定した当社グループ全体のCO2排出量・水使用量・廃棄物量の削減に関する2030年度目標及び資源リサイクル目標に向けて環境への取組を推進してきました。
(環境ビジョン2030/2050)
2024年度に「環境ビジョン2030」を改定し「不二製油グループ環境ビジョン2030/2050」を策定しました。
② 中期経営計画「Reborn 2024」における非財務KPI
中期経営計画「Reborn 2024」における経営目標において非財務KPIを掲げて推進しました。
詳細は「
(6)人的資本・多様性
① 不二製油グループ人材戦略イメージ
当社グループは、中期経営計画「Reborn 2024」期間中に実行した大型M&Aにより事業拡大を進めてきたことで、連結従業員総数のうち約7割が海外エリアの従業員となりました。
このような変化の中で、改めて、不二製油グループ憲法のビジョンを実現し、持続的にグループを成長させるための鍵となるのは、グループの仲間一人ひとりの力の発揮と成長だと考え、2023年度に、不二製油グループ人材戦略を作成しました。目指すのは、国籍のみならず、ジェンダー、経験、スキル等が多様、多彩な人材が、一丸となって活躍・挑戦し続けられる集団です。
人材育成と組織風土改革は中長期的に時間をかけて進めていくものと認識しておりますが、一方で、経営戦略、事業戦略と連動した施策をタイムリーに実行し、状況変化にも柔軟に対応しながら、人材の育成と企業風土の醸成に取り組んでまいります。
② 中期経営計画「Reborn 2024」の人材方針と主要な施策
中期経営計画「Reborn 2024」の3つの基本方針のうち、「サステナビリティの深化(経営戦略と一体化したサステナビリティ戦略)」のテーマのひとつに「人材活用」を掲げ、以下の3つの方針のもと取組を進めております。
・方針1 グローバル経営を支える人材の確保・育成・適正配置
求める人材像として掲げる「グループの持続的成長を支える人材」の確保や育成、特に、日本においては、一人ひとりが自分なりの成長を続けるためのキャリア自律支援等の施策に注力しています。また、事業戦略と連動した重要施策として、世界で事業を継続的に推進・拡大するための要となる、グローバルに力を発揮できる人材の登用・育成を進め、グループ全体の持続的成長を実現していきます。
・方針2 DE&Iの推進
「不二製油グループ憲法」の行動原則の中で、「私たちは、不二製油グループ社員の多様性と人格、個性を尊重します」と定め、2020年に策定した「不二製油グループ ダイバーシティビジョン」のもと、DE&I推進活動を行っています。DE&Iの推進は、不二製油グループの強みにつながる企業風土を実現するために経営で取り組む最重要課題の一つと考えています。DE&Iの推進で取り組むべきポイントの明確化・改善の見える化を行うためにエンゲージメントサーベイを実施しています。
・方針3 コミュニケーションの強化
お互いをわかり合い、認め合う中で、心理的安全性を確保した双方向コミュニケーションの場として、ウェブ社内報 FUJI Connectを構築しています。多様な視点を持つメンバーが互いに助け合い、グローバルなシナジーを活かす企業風土を目指します。
また、これら3つの人材方針と2つの運営方針「経営環境に応じ、事業戦略と連動した施策をタイムリーに実行する」及び、「不二製油グループ憲法のビジョンを実現するための施策を中長期的に実施する」の元、主に以下の施策に取り組んでまいりました。
(事業持株会社体制への移行と役員報酬制度の改定)
当社グループは、2025年4月に、事業軸において人材をはじめとする経営資源の一元管理、最適配分を行い、事業戦略を推進・強化するため、純粋持株会社制から事業持株会社制へ体制を移行いたしました。新体制において人材の確保・育成・適正配置を進めていくにあたって、まずは、新体制における取締役と執行役員各々に求められる役割と責任を明確にし、各々の立場で企業の成長に貢献するインセンティブ制を持つような役員報酬制度を再構築することが肝要と考え、当社指名・報酬諮問委員会において、14回の議論を重ねてきました。
詳細は、「
(日本におけるキャリア自律支援施策の拡充)
当社及び旧不二製油㈱では、外部環境の変化が激しい中でもパフォーマンスを発揮する人材を育成すべく、教育プログラムを質・量ともに拡充しています。多種多様な語学研修の充実化、海外赴任予定者に対して日本で受けられる研修プログラムの拡充等「GLOBAL プログラム」を強化し、グローバルに力を発揮できる人材の育成を進めるとともに、2023年度に開始した従業員の成長意欲を刺激するための施策「FUJIラーニングカフェ」を強化し、自律自走を促す体系としています。また、2023年度から開始した社内公募制度、2024年度に導入した非雇用型業務を対象とした副業制度のいずれにおいても、全直接雇用従業員を対象とし、等しく、キャリアの自律を考え、成長する機会を提供しています。
(エンゲージメントサーベイの実施と課題認識)
不二製油グループでは、2023年度にエンゲージメントサーベイの実施を開始いたしました。
当社及び旧不二製油㈱の従業員に対しては、年2回、「働きがい」を測定する9つのキードライバーについて数値で見える化し、会社全体、また組織毎の課題を抽出、評価しています。これまでの合計4回のサーベイを通して、当社としての強みは、「組織風土」の構成要素の一つである「部署間での協力」に代表される『人間関係』、及び、「職務」の構成要素の一つである「裁量」のスコアの高さから『まかせる風土』であることが確認できました。これらは、新制度で掲げる「チームで成果を出す」「共創力」の基盤であり、「技術の融合」や「顧客との課題解決力」といった価値創造の源泉となる強みの風土であると考えています。一方で、全社的な課題と捉えたのは「理念戦略」のスコアが低位な点です。総合スコアは回を追うごとに改善していますが、この傾向は変化しておりません。ミッション・ビジョンへの共感や経営方針や事業戦略への理解・納得感を深めていくことは、経営が率先垂範で取り組むべき最重要課題と認識し、次期中期経営計画におけるESGマテリアリティにも掲げ、取り組んでまいります。
また、海外グループ会社の従業員に対しては、年1回、「HATARAKIGAI」を高めることを目的に、グローバルエンゲージメントサーベイを実施し、各社においてアクションプランを作成して改善を進めています。これまでの合計2回のサーベイを通して、「協働」や「チームワーク」等に強みがあることが示唆され、「チームで成果を出す」基盤があることが、日本も含め、当社グループ全体の強みであると捉えています。一方で、マネジメント層において、「個人を尊重して成長を支援する」といった今の時代の新しいリーダーに求められる考え方やスキルの不足、また、ミッション・ビジョンや方針・戦略を語れるリーダーの不足が見受けられ、これは日本も含めたグループ全社の傾向です。リーダー育成により全社風土を変えていくことが当社グループ全体の大きな課題と捉えています。
従業員が不二製油グループの一員であることにより価値を見出し、誇りを持って働くことができ、個人とグループの双方が成長できる不二製油グループとなるよう、サーベイの結果を活用したエンゲージメントの向上に一層注力してまいります。
(コミュニケーションの機会の提供、「FUJI Connect」による従業員への情報共有)
コミュニケーション機会の提供や情報共有の場を設けグループ全体のエンゲージメントの向上を図っております。
経営陣と従業員との直接対話の機会の創出、業績や事業に関する説明会の開催、グループ内ウェブコミュニケーションツール「FUJI Connect」での情報発信、相互コミュニケーション等、会社の方針や事業状況を知る機会を積極的に増やしています。特に、旧不二製油㈱では、社長のメッセージを伝えるだけでなく、従業員の質問に回答する双方向コミュニケーション動画番組を2023年から開始し、社長が継続的な出演を続けています。
従業員が不二製油グループと自ら双方の成長のために多様性を発揮できる環境のなかで、グループの経営目標や経営戦略を理解、共感し、一人ひとりがそれぞれの役割を認識して積極的に活動することが当社の持続的な成長につながると考えております。
また、昨今の当社を取り巻く事業環境においては、急速な市場環境の変化に加え、事業持株会社への移行や本社名変更により、コミュニケーションの重要性が一層高まっております。より活発なコミュニケーションを行い、全従業員がいきいきと働ける健全な企業風土の醸成に努め、経営参画意識の向上を目指します。
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(上写真)グループトップをはじめ経営メンバーが各拠点・グループ会社に赴き、対面での交流、意見交換を通して、経営目標、経営戦略の理解と浸透、経営参画意識の向上につなげています。
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ウェブ上のグループコミュニケーションの場として「FUJI Connect」を開設しております。トップメッセージの発信、市場状況、グループ各社の活動紹介等を写真や動画入りで掲載し、グループ従業員間のコミュニケーションに活発に活用されています。 従業員のモバイル端末や会社のパソコン等からアクセスができる、身近なコミュニケーションツールです。 |
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(下写真)グループ各社の展示会への参加の様子を掲載
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(人的資本に関する指標及び目標)
当社及びグループの中核の事業会社である旧不二製油㈱を指標の対象としております。
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指標 |
実績 |
目標 |
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(2023年度 73.2%) 2024年度 |
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新卒採用男女比率 (生産職を除く) |
2024年度 男性 0.8:女性 1 2025年度 男性 0.5:女性 1 |
男女比率 1:1 |
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(2023年度 75.9%) 2024年度 |
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・年次有給休暇取得率
2021年に、女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画におきまして、従業員の仕事と生活の調和を尊重しながら能力を十分に発揮できる環境を計る指標として有給休暇取得率目標を設定しております。2025年度まで65%以上を継続することを目標にしており、2024年度は77.3%の取得率となりました。今後も心身の健康を保つためのリフレッシュの機会としての有給休暇の高い取得率目標の達成を継続したいと考えております。
・新卒採用男女比率(生産職を除く)
「
2025年度の新卒採用における生産職を除く男女人数比は、上記の表のとおり男性0.5に対して女性 1 でした。また、生産職を含む全体の男女比率につきましては、男性55%、女性45%であり、男女の人数に顕著な偏りはありませんでした。
・育児休業取得率(男女計)
2025年度に80%の取得を目標として設定しております。関連指標として「
(健康経営への取組)
当社グループの健康経営への取組は、経済産業省及び日本健康会議より以下の評価を得ております。
・経済産業省及び日本健康会議 健康経営優良法人2025 大規模法人部門
不二製油㈱(8年連続)
㈱フジサニーフーズ(7年連続)
・経済産業省及び日本健康会議 健康経営優良法人2025 中小規模法人部門
オーム乳業㈱(7年連続)
また、従業員の健康維持と増進に関する取り組みとして、2025年4月1日より国内の事業所敷地内及び就業時間内を全面禁煙とし、従業員の受動喫煙の防止と禁煙に向けた取組のサポートを開始しております。
詳細は以下のURLよりご参照ください。
サステナビリティレポート「従業員の健康維持・促進(健康経営)」
https://www.fujioil.co.jp/sustainability/health/
不二製油㈱ウェブサイト「健康経営」
https://www.fujioil.co.jp/company/health/
文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末において、当社グループが判断したものです。
(1)不二製油グループのリスクマネジメント体制について
当社グループは、日本・米州・欧州・東南アジア・中国の各エリアで主要4事業を展開していることから、当社グループのバリューチェーンには社会課題・経済環境変化等の影響を受けた、様々なリスクが潜在しています。当社グループでは、本社である不二製油㈱の経営会議を全社リスクマネジメント機関と位置付け、グループを取り巻く環境を踏まえた情報ソースから、経営への影響度、発生可能性、顕在化時期等を総合的に判断して全社重要リスクを選定し、本社主導でグループ各社の対応策の立案、実施、進捗確認、評価・改善等を推進しています。さらに不二製油㈱の取締役会によるモニタリングの下、リスクを管理する全社リスクマネジメント体制を構築しています。
(2)不二製油グループの重要なリスク(全社重要リスク)
① 全社重要リスクの特定
本社である不二製油㈱では、グループのリスクマネジメント体制の下、グループ戦略上のリスクや財務リスク、ESGマテリアリティ(注)を踏まえてリスクを網羅的に把握し、全社重要リスク分科会での検討・議論、リスクマネジメント委員会での審議を経て、不二製油㈱の経営会議(全社リスクマネジメント機関)で全社として認識・対応すべき重要なリスクを特定し、モニタリング機関の取締役会に報告しています。加えて、グループ各社特有のリスクへのグループ一体での対応を図るべく、各社のリスクマネジメント委員会でのリスクアセスメントの実施を通じてリスクマップを作成し、本社主導でそれぞれのオペレーショナルリスクを特定しています。
(注)ESGマテリアリティの詳細は「2 サステナビリティに関する考え方及び取組(3)戦略」に記載のとおりです。
② 全社重要リスクの対応とモニタリング
特定された全社重要リスクについて、本社である不二製油㈱においてリスク主管本部・部門並びに対応策を定めています。また、リスク主管本部・部門の推進責任者による対応策の進捗状況、及び全社重要リスクの見直し・選定実施について、全社重要リスクの主管責任者より、定期的にモニタリング機関の取締役会に報告し、確認をします。2024年度に特定された12項目の全社重要リスクは、個別の進捗や課題状況を全社重要リスク分科会において議論し、適宜、全社リスクマネジメント機関である経営会議に報告しながらリスク低減を図りました。その対応策の進捗状況は経営会議に報告された後、全社重要リスクの管掌責任者から取締役会に報告され、顕在化したリスクの発生原因、対応策と妥当性、適時性等を確認する予定です。
③ 不二製油グループ全社重要リスク
当社グループにおいて、投資者の判断に重大な影響を及ぼす可能性があり管理すべき重要なリスクとして以下の12項目を特定し、本社である不二製油㈱において各リスクに対応する主管本部・部門を定め、対応方針を策定しています。なお、将来事項に関する記述につきましては、2025年3月31日現在において入手可能な情報に基づき、当社が合理的であると判断したものです。
(2025年度 全社重要リスク)
当連結会計年度における当社グループ(当社、連結子会社及び持分法適用会社)の財政状態、経営成績、キャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という)の状況の概要及び経営者の視点による経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は、以下のとおりです。なお、文中の将来に関する事項は、提出日現在において当社グループが入手可能な情報に基づき作成したものです。実際の成果や業績は、今後様々な要因によって、記載されている内容とは異なる可能性があります。
(1)重要な会計方針及び見積り
当社グループの連結財務諸表は、我が国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に基づき作成しております。重要な会計方針については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 注記事項(連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項)」に記載しております。連結財務諸表を作成するに当たり、必要な見積りを行っており、それらは資産、負債、収益及び費用の計上金額に影響を与えております。これらの見積りは、その性質上判断及び入手し得る情報に基づいて行いますので、実際の結果がそれらの見積りと相違する場合があります。特に以下の事項は、経営者の会計上の見積りの判断が財政状態及び経営成績に重要な影響を及ぼすと考えております。
なお、当連結会計年度の連結財務諸表に計上した金額が会計上の見積りによるもののうち、翌連結会計年度の連結財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある重要な会計上の見積りについては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載しております。
(繰延税金資産)
繰延税金資産は、将来の課税所得を合理的に見積り、回収可能性を十分に検討し、回収可能見込額を計上しております。繰延税金資産の回収可能性は、将来の課税所得の見積りに依存するため、その見積りの前提とした条件や仮定に変更が生じ、課税所得が減少した場合、繰延税金資産が取り崩され、税金費用を計上する可能性があります。
(有形・無形固定資産の減損処理)
減損の兆候のある資産又は資産グループについて、減損の認識を判定の上、回収可能価額に基づき減損処理を行っています。回収可能価額は、使用価値と正味売却価額のいずれか高い方により測定しております。回収可能価額は、事業計画や市場環境の変化により、その見積り金額の前提とした条件や仮定に変更が生じ減少した場合、追加の減損処理が必要になる可能性があります。
(退職給付費用及び退職給付債務)
当社グループは、退職給付費用及び退職給付債務について、割引率等、数理計算上で設定される前提条件に基づいて算出しております。実際の結果が前提条件と異なる場合、または前提条件が変更された場合、その影響は将来にわたって規則的に認識されるため、将来期間において認識される費用及び計上される債務に影響を及ぼす可能性があります。
(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
① 経営成績の状況の分析
当連結会計年度における当社グループを取り巻く事業環境は、米国の関税政策を巡る不透明感や、安全保障問題に関連する経済的な影響、中国の景気動向等が懸念要素としてありつつも、堅調な雇用・所得環境を背景として、欧米を中心に景況は底堅く推移しました。日本においては、物価指数の上昇は続いておりますが、雇用・所得環境の改善等により、個人消費は緩やかな拡大傾向が続いています。
パーム油の原材料価格は2024年前半と比較すると高値水準が続いており、2024年12月に再び高騰したカカオ豆の原材料価格についても、2025年1月以降は下落する傾向にあるものの、高値水準が継続する等、原材料相場は不安定に推移しています。
カカオ豆価格の高騰に伴い当社グループでは、当社グループの強みであり技術力を有するチョコレート用油脂及びコンパウンドチョコレート等の販売拡大の機会と捉え、顧客に対する提案・販売を強化しています。Blommer Chocolate Company, LLC(米国、以下「Blommer」)では、2024年3月22日に公表した構造改革の実行を進めており固定費の削減効果の顕在化が見られるものの、主原料であるカカオ豆の調達価格の上昇及び関連費用の増加に伴う採算の悪化により、当連結会計年度において営業損失となりました。
2024年度は、2022年に発表いたしました3か年の中期経営計画「Reborn 2024」の最終年度となります。カカオ豆価格の高騰に伴う外部環境の急激な変化の影響等により中期経営計画の財務KPIは未達となりましたが、中期経営計画の基本方針として掲げた「事業基盤の強化」、「グローバル経営管理の強化」、「サステナビリティの深化」は着実に成果を残せたと考えております。
「事業基盤の強化」においては、植物性油脂事業を中心に収益力の改善が進んだことに加え、コンパウンドチョコレートの販売数量は着実に増加しています。「グローバル経営管理の強化」においては、FUJI ROICの導入による資産効率の向上に加え、パーム油等の原材料ポジション管理の強化がグループ内に浸透出来たと考えております。また、「サステナビリティの深化」においては、トレーサビリティ等の非財務KPIは達成できる見通しです。サステナブル調達による差別化戦略を着実に実行しています。
以上の結果、当連結会計年度における連結経営成績は、売上高は6,712億11百万円、営業利益は98億95百万円、経常利益は53億4百万円、親会社株主に帰属する当期純利益は22億30百万円となりました。
(単位:百万円)
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売上高 |
営業利益 |
経常利益 |
親会社株主に帰属 する当期純利益 |
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2025年3月期 |
671,211 |
9,895 |
5,304 |
2,230 |
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2024年3月期 |
564,087 |
18,213 |
16,791 |
6,524 |
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前期比 増減 (前期比 増減率) |
+107,124 (+19.0%) |
△8,318 (△45.7%) |
△11,487 (△68.4%) |
△4,293 (△65.8%) |
セグメントごとの経営成績は、次のとおりです。
(単位:百万円)
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売上高 |
前期比 増減 |
前期比 (%) |
営業利益 |
前期比 増減 |
前期比 (%) |
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植物性油脂 |
207,274 |
+21,923 |
+11.8% |
26,270 |
+10,831 |
+70.2% |
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業務用チョコレート |
334,696 |
+81,287 |
+32.1% |
△15,833 |
△17,674 |
△960.3% |
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乳化・発酵素材 |
94,175 |
+4,320 |
+4.8% |
3,444 |
△349 |
△9.2% |
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大豆加工素材 |
35,065 |
△407 |
△1.1% |
656 |
△383 |
△36.9% |
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連結消去・グループ管理費用 |
- |
- |
- |
△4,642 |
△742 |
- |
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合 計 |
671,211 |
+107,124 |
+19.0% |
9,895 |
△8,318 |
△45.7% |
(植物性油脂事業)
売上高は米州における販売数量の減少はありましたが、東南アジアでの販売数量の増加及び円安の影響等により増収となりました。営業利益は、人件費等の固定費の増加はあるものの、東南アジアや日本を中心としたチョコレート用油脂の販売伸長等により増益となりました。
(業務用チョコレート事業)
売上高は、原材料価格の上昇に伴う販売価格の上昇や、日本や東南アジア等での販売数量増加、円安の影響等により増収となりました。営業利益は、日本や東南アジア、中国等において価格改定による採算性の改善が進みましたが、Blommerにおけるカカオ豆の調達価格の上昇及び関連費用の増加に伴う採算性の悪化により、減益となりました。
(乳化・発酵素材事業)
売上高は、日本での製パン向けの堅調な販売や東南アジアでの販売数量の増加、円安の影響等により増収となりました。営業利益は、人件費等の固定費の増加や中国での原材料価格の上昇に伴う採算性の悪化により、減益となりました。
(大豆加工素材事業)
売上高は、大豆たん白食品の販売数量の減少等により減収となりました。営業利益は販売数量の減少等により減益となりました。
② 財政状態の状況の分析
当連結会計年度末における連結財政状態は、以下のとおりです。
(単位:百万円)
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2024年3月期 |
2025年3月期 |
増減 |
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流動資産 |
236,858 |
354,830 |
+117,972 |
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有形固定資産 |
150,750 |
156,505 |
+5,755 |
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無形固定資産 |
55,221 |
51,185 |
△4,036 |
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その他資産 |
27,390 |
34,042 |
+6,652 |
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資産 |
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470,221 |
596,564 |
+126,343 |
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有利子負債 |
130,286 |
283,975 |
+153,689 |
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その他負債 |
95,643 |
98,064 |
+2,421 |
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負債 |
|
225,929 |
382,040 |
+156,110 |
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純資産 |
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244,291 |
214,524 |
△29,767 |
(資産)
当連結会計年度末の資産は、現金及び預金並びにカカオ豆等の原材料価格の上昇に伴う売掛金と棚卸資産の増加等により流動資産が増加しました。また、繰延税金資産の増加によりその他資産が増加しました。
以上の結果、前連結会計年度末に比べ1,263億43百万円増加し、5,965億64百万円となりました。
(負債)
当連結会計年度末の負債は、運転資本の増加等に伴う短期借入金等の有利子負債の増加により、前連結会計年度末に比べ1,561億10百万円増加し、3,820億40百万円となりました。
(純資産)
当連結会計年度末の純資産は、米ドル、ブラジルレアル等の円高影響による為替換算調整勘定の減少及び利益剰余金の減少等により、前連結会計年度末に比べ297億67百万円減少し、2,145億24百万円となりました。
1株当たり純資産額は前連結会計年度末に比べ252円56銭減少し、2,448円40銭となりました。自己資本比率は前連結会計年度末比14.1ポイント減少し、35.3%となりました。
③ キャッシュ・フローの状況の分析
当連結会計年度末におけるキャッシュ・フローの状況は、以下のとおりです。
(単位:百万円)
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2024年3月期 |
2025年3月期 |
増減 |
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営業活動によるキャッシュ・フロー |
48,242 |
△50,631 |
△98,873 |
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投資活動によるキャッシュ・フロー |
8,803 |
△21,738 |
△30,541 |
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フリー・キャッシュ・フロー |
57,045 |
△72,369 |
△129,415 |
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財務活動によるキャッシュ・フロー |
△50,007 |
114,931 |
+164,938 |
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現金及び現金同等物 |
27,480 |
69,846 |
+42,365 |
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
当連結会計年度の営業活動によるキャッシュ・フローは、506億31百万円の支出となりました。前連結会計年度に比べ、運転資本の増加等により、988億73百万円収入が減少しております。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
当連結会計年度の投資活動によるキャッシュ・フローは、217億38百万円の支出となりました。Fuji Oil New Orleans, LLC(米国)において有形固定資産の売却による収入が発生していた前連結会計年度と比べ、当連結会計年度は業務用チョコレート事業において設備投資額が増加していること等により、305億41百万円支出が増加しております。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
当連結会計年度の財務活動によるキャッシュ・フローは、1,149億31百万円の収入となりました。前連結会計年度に比べ、短期借入金の増加等により、1,649億38百万円収入が増加しております。
(3)資本の財源及び資金の流動性
当社グループは円滑な事業活動に必要十分な流動性の確保と財務規律の維持及び財務健全性の向上を基本方針とし、中長期的な企業価値向上を実現すべく、資本コストを意識した経営を実践しております。
当社グループの主な資金需要は、生産活動及び販売活動に必要な運転資金、生産性向上のための設備投資、成長基盤強化のための事業投資等です。資金の源泉は、営業活動によるキャッシュ・フローと金融機関からの借入やコマーシャル・ペーパー並びに社債の発行等による資金調達です。
短期運転資金は営業キャッシュ・フローとコマーシャル・ペーパー発行及び金融機関からの短期借入を基本としており、設備投資及び事業投資の資金は金融機関からの長期借入のほか、社債発行による資金調達を行っております。
当社グループは複数の金融機関との間で当座貸越契約を締結しているほか、コマーシャル・ペーパー発行枠及び国内社債発行枠の登録により資金調達手段の多様化を図り、事業運営に必要な資金の流動性を十分に確保しております。
なお、当連結会計年度末における有利子負債残高は2,839億75百万円となっております。また、当連結会計年度末における現金及び現金同等物の残高は698億46百万円となっております。
(4)生産、受注及び販売の実績
① 生産実績
当社グループの生産品目は広範囲、多種多様であり、かつ、製品のグループ内使用(製品を他のグループ会社の原材料として使用)が数多くあるため、セグメント別(連結ベース)に生産実績を、金額あるいは数量で示すことはしておりません。
このため生産の実績については、「(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容 ① 経営成績の状況の分析」における各セグメントの業績に関連付けて示しております。
② 受注実績
当社グループは需要予測に基づく見込み生産を行っているため、該当事項はありません。
③ 販売実績
当連結会計年度におけるセグメントごとの販売実績については、「(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容 ① 経営成績の状況の分析」に記載のとおりです。
(1)株式会社J-オイルミルズとの業務提携及び株式相互保有に関する契約
① 株式の持ち合い
相互に相手方株式を保有します。
② 原料・資材の効率的調達
原料・資材の共同調達により安定調達及びコスト低減を図ります。
③ 中間原料油の相互供給
双方の強みを活かした中間原料油の相互供給により、使用製品の機能強化、コスト削減を図ります。
④ 相互の生産設備の有効活用
両社が有する生産設備を相互に有効活用し、生産の効率化を図ります。
⑤ 物流業務の効率化
物流拠点の集約化、共同配送・共同輸送等により、物流業務の効率化、コスト低減を図ります。
⑥ その他
双方にメリットのある取組を行います。
(2)連結子会社の吸収合併
当社は、2024年5月23日開催の取締役会において、2025年4月1日を効力発生日として、当社を存続会社、当社の完全子会社である不二製油株式会社を消滅会社とする吸収合併を実施することを決議し、同日付で合併契約書を締結いたしました。なお、2025年4月1日付で本合併を実施しております。
また、当社は、合併の効力発生日において、消滅会社の資産、負債及びその他一切の権利義務を承継しております。
詳細は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(重要な後発事象)」に記載のとおりであります。
当社グループは、植物性の油脂とたん白を基盤とする新しい機能を持つ食品素材の開発に取り組んできました。長年積み重ねてきた研究成果と先進の技術力を生かし、不二製油グループ憲法のビジョン「植物性素材でおいしさと健康を追求し、サステナブルな食の未来を共創します。」に向けて、新技術・新素材の開発による事業シナジーの最大化や新たなビジネスモデルの創出を目指した研究開発活動を実施しています。世界中の方々の食べることの歓びと健康に貢献することをモットーに、「社会になくてはならない会社」になるための研究開発活動に努めています。
日本国内の「不二サイエンスイノベーションセンター」と「つくば研究開発センター」を研究開発の中核拠点とし、主に中国・東南アジア地域に設置した顧客との共創の場である「フジサニープラザ」、オランダのフードバレーの中心となるワーヘニンゲン大学キャンパス内に2021年度に開設した「フジグローバルイノベーションセンターヨーロッパ」、そして各グループ会社の研究開発部門が連携し、事業戦略と一体となったグローバルな研究開発を推進しています。また、イノベーションを推進するため、国内外の大学や研究機関とのオープンイノベーションや顧客との共創活動を強化しています。
知的財産部では、創業当初より植物性の原料を基礎原料にして植物性の油脂とたん白の加工技術を深掘しながら、磨き上げてきた成果を特許ポートフォリオとして構築しています。市場優位性や価格決定力に影響し得る重要特許シェア率(注1)では国内トップレベルに位置しております。今後は、将来の重要特許を生み出すための人材投資(≒新規発明者数(注2)に注力することで、グローバルでの市場優位性をさらに高めてまいります。
技術開発部では、「安全、品質、環境」にこだわり、コア技術の強化・革新に関する研究開発を進めております。
当連結会計年度の研究開発費の総額は
(注3)
(注)1.油脂、チョコレート関連特許は、2015年以降における油脂、チョコレート等に関する特許分類に基づいて抽出された母集団を定義。母集団の被引用数上位5%に該当するものを重要特許として定義。
2.2015年以降に新たに出願した発明者のみを集計して算出。
3.重要特許シェア率が1%を超えている企業をグラフに表示。
研究開発活動の概要は次のとおりです。
(植物性油脂事業)
安全・安心で環境に配慮した油脂の製造技術、新機能を有する油脂製品、及びその最適な応用法に関する研究開発を通して、顧客の要望を形にし、新しいおいしさの創造に貢献しております。
当連結会計年度の主な成果としては、価格が高騰している国内外のココアバターの代替需要への対応策として、低価格仕様のCBE(注1)の市場導入、多様な代用脂の利用方法等を顧客へ提案し、チョコレート菓子市場の安定化及び活性化に対応しました。エシカル消費の緩やかな拡大と動物性油脂の供給不安定化という環境において、プラントベースフード(植物性食品)向けとして開発した動物代用油脂では、当社独自技術の分散技術であるDTR技術(注2)を利用し、植物性油脂に不足しがちな風味の満足感の付与に加えて、加工適性の継続的な改良により冷凍食品や加工食品用途での実績化が進んでいます。
従来の油脂結晶制御技術や酵素応用技術の深掘も継続して技術革新を進めております。酵素技術を活用した新規改良法の導入によるココアバター代用脂の機能改良を図る等、日々改善取組の実現に向けた基盤技術開発にも取り組んでいます。欧州を中心に規制が強化されているプロセスコンタミナント(グリシドール脂肪酸エステル等)除去につながる製造技術開発に一層注力し、国内及びグローバルの市場環境にも対応可能な油脂素材として提案を継続しております。
また、栄養健康分野においては、風味劣化抑制技術を用いたDHA・EPA油素材やアマニ油素材の市場導入を進めており、DHA・EPA油では機能性表示制度対応の健康志向チョコレートに新たに採用されました。消費者への認知をさらに拡大するために、健康関連油脂の摂り方を伝える動画配信やウェブ配信記事を活用した製品案内を新たな市場展開ツールとして拡充させました。
当事業の研究開発費は
(注)1.CBE:Cocoa Butter Equivalentの略。ココアバターと同等の物性を持ったチョコレート用油脂。
2.DTR技術:水溶性成分を油脂に微分散させる技術で、素材の呈味(塩味、旨味、辛味等)や保存安定性を付与増強する技術。
(業務用チョコレート事業)
チョコレートを通して社会課題解決を行うべく、新技術開発・原料選定を行い、具現化したアプリケーションと共にソリューション提案を行っております。
未曽有のカカオ不足と価格高騰に苦慮するチョコレート業界を支えるべく、国内ではカカオ原料の使用削減と風味の維持を両立させたコンパウンドチョコレート(注1)製品の「CPチョコレート」シリーズ2品(ビター、ホワイト)をいち早く導入し(2024年6月に上市)、供給不安が広がりつつあった市場の混乱を未然に防ぐことができました。この「CPチョコレート」は、ココアバターを極力使わずに植物性代替油脂(CBE)の機能を最大限に活用したその品質に加えて、魅力的な価格や供給安定性を兼ね備えたことから、これまで海外ブランドを使用していたパティシエの方々が当社のチョコレートに目を向けるきっかけとなりました。本製品は、想定以上の販売数量で推移しており、急遽3品目のミルクタイプも上市(2025年2月)するに至る等、これまでクーベルチュールの独壇場であったパティシエの世界においてもコンパウンドチョコレートの定着が確実視されております。一方、海外のブラジル市場においてもチョコレートの価格上昇に対するソリューションの提案が必要でした。南米の子会社であるHARALD INDÚSTRIA E COMÉRCIO DE ALIMENTOS LTDAでは、従来から強みとするコンパウンドチョコレート製品を使ったアプリケーション紹介を増やすことに加えて、CBEコンパウンドチョコレート製品である「Inovare」をリニューアル発売してお客様の選択肢を増やす提案を行いました。これまでブラジル市場ではCBEコンパウンドチョコレートはあまり馴染みがないという課題がありましたが、チョコレートと同様に使えて美味しく、価格的にも求めやすい製品であることを直接消費者に説明して実感していただくために、店頭での試食キャンペーンの取組を行いました。その効果もあり「Inovare」は計画以上にお客様にご購入いただいています。米国の子会社のBlommer Chocolate Company, LLCは、CBEを活用したプレミアムコンパウンドチョコレートブランド「Elevate」を立ち上げました。従来のチョコレートよりも低価格で、風味や物性面ではココアバターを用いたチョコレートとそん色ない品質を有する「Elevate」シリーズは、発売と同時期に行われた北米最大の食品原料と食品技術の展示会IFTで大々的に紹介され、話題となりました。
カカオ非生産国である日本でカカオ輸入が全く困難になる状況を想定して、カカオ原料を一切使用しないミルクチョコレートタイプの「アノザM」を導入いたしました。国内外の顧客からの問い合わせもさることながら、メディアからの取材依頼も多く、当社のチョコレート市場における地位向上に寄与しております。
当事業の研究開発費は
(注)1.コンパウンドチョコレート:チョコレートの規格は国によって異なり、北米ではココアバター以外の油脂を配合すると「コンパウンドチョコレート」と分類される。
(乳化・発酵素材事業)
ホイップクリーム、調理用クリーム、ドリンクベース、マーガリン、フィリング、チーズ風味素材等の乳製品代替素材の開発、弊社独自のUSS製法による豆乳を活用した新技術・新製品開発、及びアプリケーション開発を通し、美味しさにこだわりながら社会課題のソリューションの提供を目指して活動しております。
当連結会計年度は、乳原料をはじめとする原料価格の高騰や供給の不安定化、急激な物価の上昇等、原料事情や市場の変化に迅速に対応した新製品開発を行い、大きく利益貢献を果たしました。マーガリン関連ではバターの濃厚な風味の強化に取り組み、従来に比べてバターの使用量を低減しながらも良好なバター風味を実現し、商品価値を向上させつつ原料コストを抑えるソリューションとして製菓製パン市場を中心に高い評価を得ております。ドリンクベース、フィリング類等の製品開発では、インバウンド等による外食市場での需要増加に対応し、乳化技術をベースとした機能性や風味づくりで顧客からの厚い支持をいただき採用が進みました。
また、新しい発酵技術開発に取り組み、本格的な熟成チーズ風味を実現する技術を開発しました。輸入中心で高価かつ物性面でも制約の多い熟成チーズに依存しなくとも、本発酵技術によって従来品とは異なるなめらかな物性と本格的な風味等を表現でき、高まるチーズ需要にリーズナブルに応える製品開発が可能となりました。すでに、製菓製パン、外食、加工食品等幅広い市場で高く評価いただき、実績化に大きく貢献しております。
植物性素材では、特においしさにフォーカスした製品開発に注力し市場で高く評価されております。豆乳クリームバター「ソイレブール®」はバターのようなクリーミーさ、ジューシーさを持ちながらも、バターとは異なる他素材との相性の良さという特徴で顧客の商品の幅を広げ、高い評価をいただくとともに年々実績を伸ばしています。さらに、USS製法による新しい価値として、独特のなめらかな食感と口当たりの「やみつき新食感スイーツ」を上市、外食市場等で簡便にスイーツを提供できるとして高い評価を受けております(関連:ESGマテリアリティ取組テーマ「多様な植物性素材の創造」)。
日本のパンや洋菓子のトレンドは、中国や東南アジア地域で非常に注目されています。当連結会計年度では数回にわたり中国の大手ベーカリーや洋菓子チェーン向けに日本のトレンドを紹介するツアーを行い、中国と日本の市場開発メンバーが協業して日本で人気のパンや洋菓子の紹介を実施しました。このような活動が功を奏し、マーガリンやクリームの採用につながっております。
当事業の研究開発費は
(大豆加工素材事業)
大豆たん白質や大豆たん白食品、大豆ペプチド、大豆多糖類等による、お客様の課題解決を目指した製品の開発・上市や改善に取り組んでいます。
粉末状大豆たん白素材では従来からの主要市場である畜肉、水産、総菜加工用途向けの「サンラバー®SY2000」を上市しました。これは粉体の分散性と物性に優れ、従来製品では対応できなかったミキサー攪拌機での乳化生地生産が可能となり、生産現場の作業効率化や省人化を可能とする点が高く評価され、市場での採用が進みました。
栄養健康市場用途では、2023年に開発した「プロリーナ®HD505」や「プロリーナ®23LG」のプロテイン飲料市場での採用が順調に伸長しました。「プロリーナ®1400H」は東南アジア向けとしてHALAL認証に対応し、栄養健康市場での海外採用が進みました。高騰する卵素材への対応としては、スポンジケーキ等の洋菓子利用に特化した大豆たん白製剤の「ウフリー®」を上市し、全卵の一部置き換え利用や卵を使わないプラントベースのスポンジケーキに採用されました。大豆多糖類素材では、高pH設計の酸性乳飲料用途向けに「ソヤファイブ®HP100」を開発し、競合となるペクチンにはない低粘度特性も高く評価されております。
粒状大豆たん白素材では、従来からの主要市場である総菜加工用途向けで肉を置き換えられ、噛み応えのある食感の新製品として「アペックス®TMR10」を上市し、採用が進んでいます。肉質感に優れた大豆ミート素材として「プライムソイ®」を提案し、「プライムソイ®国産大豆」はホテルメニューや流通PBのワンハンドスナック等に、海外では「プライムソイミート」がシンガポールの外食店に採用されました。また、焼き肉にも使えるスライス肉タイプや、外食・中食のお客様向けに小袋タイプを発売しました(関連:ESGマテリアリティ取組テーマ「多様な植物性素材の創造」)。
栄養スナック、バー市場では、プロテインのコンセプトをうたう商品の多様化が進んでいます。「ソヤパフ®10」は大豆の美味しさを活かした製品として発売し、たん白質訴求スナックで採用されました。新たにペットフード市場向けにも新製品を開発しており、大豆の栄養価に着目した市販商品に採用されました。
副産物のオカラから機能性食物繊維素材の「ソヤセル®」を開発・上市しました。小麦粉加工製品や畜肉総菜生地等での食感改良や保存性の向上、スープやソース類等での耐熱、耐冷性があり、粘度安定性に優れた特性を有しながらも食品添加物扱いではなく食品としての表示が可能です。加えて、呈味の増強効果があり、調味料低減にも対応できます。同じく大豆加工時の副産物から農業向け肥料「ソヤウェイ®」を上市し、大阪公立大学や各企業様との圃場試験において作物栽培への有効性データ取得を進めました(関連:ESGマテリアリティ取組テーマ「フードロスの削減とアップサイクル」)。
当事業の研究開発費は
(中長期視点での研究活動)
中長期視点の研究開発活動としては、大きくは、社会課題に対する研究開発及び新規事業につながる技術開発を行っています。
昨今、気候変動対策や世界的な人口増加、人権侵害等の多くの社会課題に対して、将来を見据えた取組が企業に求められています。未来創造研究所では、人口・経済・環境・食糧・ヘルスケアに関する定量情報を用いて2050年までの未来年表を作成することで将来起こりうる社会課題を把握し、これらの課題解決につながる研究テーマに取り組んでいます。中でも、社会・環境に対応したサステナブルな固体脂源等の創出と利用を掲げて、パーム・カカオ・大豆等による環境負荷の低減、安定調達に寄与する技術開発を推進しております。国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発」に参画し、新潟薬科大学との共同研究により、産業用スマートセルを用いたパーム油代替油脂の生産技術における開発成果も着実に出ていることから、さらに研究体制を強化し、油脂生産酵母による地球環境に優しいパーム油代替技術の社会実装を確実なものといたします。また、佐賀市・国立大学法人佐賀大学・伊藤忠エネクス株式会社と共同で推進する、ごみ焼却施設の排熱及びCO2を利用した大豆育成研究プロジェクトでは小型植物工場での栽培実験を継続しています。これまでの研究から、令和5年産の日本における大豆の平均収量169kg/反(農林水産省作物統計)と比較し、1作あたり約3倍(注1)に増加する結果を得ることができました。将来的にはCCU(注2)による温室効果ガスの低減を訴求できる大豆植物工場の完成と、栽培大豆を用いたプラントベースフードの開発を目指します(関連:ESGマテリアリティ取組テーマ「環境に配慮したものづくり」)。
「ヘルスケア」領域では、認知症やメンタルヘルス、フレイル(注3)等を重要な健康課題と設定し、当社独自の風味劣化抑制技術を用いたDHA・EPA油脂素材による研究により、脳機能に加え、骨代謝に関わる新たな知見を見出しており、「真価を発揮するドコサヘキサエン酸~“酸化していない”からこその可能性」と題して、第24回日本抗加齢医学会総会シンポジウムにて発表いたしました(関連:ESGマテリアリティ取組テーマ「高齢者の心身の健康課題の解消」)。
新規事業につながる技術開発として、当連結会計年度は植物性素材で動物性特有の満足感を表現するMIRACORE®技術により開発された新製品、貝出汁タイプ「MIRA-Dashi®C500」を上市しています。また、MIRA-Dashiシリーズを用いた植物性の業務用ラーメンスープも3種(製品名『MIRACORE®RAMEN T3(豚骨風)』、『味噌ラーメンスープ M1』及び『塩ラーメンスープ S1』)発売いたしました。これらのラーメンスープは、世界中の誰もが楽しめる地域色豊かなラーメンをつくるプロジェクト:Minna no Ramen. project(通称:みんラー)での中心的食材として活用が進められています。
未来創造研究所は、不二製油グループの将来の事業を創造する研究所として、積極的に国内外の大学を含む公的研究機関や企業とのコラボレーション、及び研究員の派遣に取り組んでいます。オーフス大学との共同研究では、水溶性エンドウ多糖類に関する内容が論文「Food Chemistry, 477, 143588 (2025)」として、ワーヘニンゲン大学との共同研究では、プラントベース肉代替組織における乳化物の挙動と影響に関する内容が論文「Journal of Food Engineering, 387, 112353 (2025)」及び「Current Research in Food Science, 10, 100989 (2025)」としてそれぞれの学術誌(査読有り)に受理されました。茨城大学に設置している「食の創造」講座での当社研究員による学生指導の成果としては、新規多糖類の開発に関する研究結果が論文「International Journal of Biological Macromolecules, 278, 134664 (2024)」及び「International Journal of Biological Macromolecules, 304, 140880 (2025)」として学術誌(査読有り)に受理されました。
当事業の研究開発費は1,466百万円です。
(注)1.1作あたり約3倍:実験面積を一反あたりに換算した上で全量収穫が前提。
2.CCU(Carbon dioxide Capture, Utilization):排出されたCO2を他の気体から分離して集め、新たな製品の製造に利用する技術
3.フレイル:健康な状態と要介護状態の中間に位置し、加齢とともに身体的機能や認知機能の低下が見られる状態のこと。