第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

 文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末時点において当社グループが判断したものであります。

  (1)経営方針

当社グループは、創業者が掲げた「食足世平」「食創為世」「美健賢食」「食為聖職」の4つの精神をもとに、常に新しい食の文化を創造し続ける「食文化創造集団」となり、環境・社会課題を解決しながら持続的成長を果たすことによって、グループ理念である「EARTH FOOD CREATOR」の体現を目指してまいります。

また、総合食品企業グループとして、各カテゴリーの中で常にNo.1ブランドを創造・育成していき、No.1ブランドの集合体として形成される「ブランディングコーポレーション」の実現を目指し、より一層、ゆるぎない経営基盤を築きながら、企業価値及び株主共同の利益の確保・向上に努めてまいります。

 

  (2)経営環境及び対処すべき課題等

当連結会計年度における世界経済は、各国の政策をめぐる不確実性や地政学リスクの高まりにより、先行きへの不透明感が継続しました。国内においては、雇用や所得環境の改善の動きがみられ、景気は緩やかに回復基調にありますが、物価上昇を受けた節約志向の高まりから、個人消費は力強さを欠く状況となりました。

かかる環境下、即席めん業界においては、相対的な価格の手頃感や利便性が再評価され、世界総需要は過去最高となりました。

こうした中で、当社グループは、2030年に向けた「中長期成長戦略2030」で掲げたビジョンの実現と持続的成長に向け、成長戦略テーマである①既存事業のキャッシュ創出力強化、②EARTH FOOD CHALLENGE 2030、③新規事業の推進に取り組んでおります。

 

① 日清食品グループのNext Milestone

急成長を遂げた2023年度に、2030年度までに通過するNext Milestoneとして、売上収益1兆円、既存事業コア営業利益1,000億円、時価総額2兆円を新たに設定いたしました。

 

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② 中長期的な経済価値ターゲット

持続的な利益成長に加え、効率的な資本活用、安全性ある負債活用、そして安定的な株主還元の4つをCSV経営上の中長期的経済価値ターゲットとしてコミットしてまいります。

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③ 中長期的な成長推移と今後の戦略

 海外事業の拡大とともに、売上収益・既存事業コア営業利益は、過去10年で大きく伸長いたしました。

 今後も、Next Milestoneに向けて、収益の柱である国内即席めん事業をベースに、海外事業のさらなる拡大を中心に持続的な成長を目指してまいります。

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④ 「完全メシ」は70億円突破。2025年度は100億円ブランドへ

・「完全メシ」とは

 「完全メシ」は、「日本人の食事摂取基準」で設定されたビタミン・ミネラルなど33種類の栄養素とおいしさの完全なバランスを追求したブランドであります。当社の最新フードテクノロジーを駆使することでたんぱく質、脂質、炭水化物の三大栄養素のほか、ビタミン、ミネラル、必須脂肪酸もバランスよく整え、さらに、栄養素独特の苦みやエグみを抑えることで、普段の食事と変わらないおいしさを実現しております。

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・ブランド認知とビジネス展開の加速

 「完全メシ」は、カップメシやカップめんといった常温品、温めていただくだけで召し上がれる冷凍食品だけでなく、社員食堂での提供、小売店でのお惣菜弁当、他メーカー様とのコラボ商品といった形でも展開しております。さらに通販チャネルや保険業界との協議を通じて、より多くのシーンで「完全メシ」をお届けし、その認知とビジネス展開を加速してまいります。0102010_006.png

 

⑤ EARTH FOOD CHALLENGE 2030

 日清食品グループ環境戦略「EARTH FOOD CHALLENGE 2030」を策定し、持続可能な社会の実現と企業価値の向上を目指したさまざまな取組を進めております。

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  (3)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等

 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等につきましては、「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容 ② 当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容 d. 経営方針・経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等」に記載しております。

 

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

 当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりであります。

 なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1)ガバナンス

当社グループは環境や社会の課題を解決しながら持続的成長を果たすため、2020年4月、「サステナビリティ委員会」を設置いたしました。委員長は代表取締役社長・CEOが務め、事務局は経営企画部、サステナビリティ推進部、広報部が担い、委員会傘下には、環境、人権、広報・教育、海外、ESG (環境、社会、ガバナンス) 評価向上をテーマにした5つのワーキンググループを設け、各グループに関係部署が参画しております。

委員会は、グループ全体のサステナビリティ・ESG課題に関する方針策定や施策を検討し、その活動内容を、サステナビリティ委員長及び取締役会へ定期的に報告しております。

また、2021年4月には取締役会の諮問機関として「サステナビリティ・アドバイザリーボード」を設置し、当社グループに影響を及ぼすESG課題について、社内経営層と社外有識者が協議する機会を年2回設けております。協議した内容はウェブサイトなどで開示し、会社の経営方針や各種施策に反映しております。

 

(2)戦略

当社グループは、人類を「食」の楽しみや喜びで満たすことを通じて社会や地球に貢献する「EARTH FOOD CREATOR」をグループ理念に掲げ、持続可能な社会の実現と企業価値の向上を目指しております。当社グループが果たすべき責任、取り組むべき社会課題は、食の安全管理体制の構築や環境負荷の低減、ガバナンスの確立など幅広い領域に及んでおります。その中でも、当社グループが特に力を入れて取り組むべき重要課題=マテリアリティを特定しております(「健康と栄養」、「製品の安全・安心」、「気候変動」、「人材開発」、「生物多様性」、「森林破壊」、「持続可能なバリューチェーンマネジメント」)。なお、その他の課題に関しては、主要なESG評価機関からの評価を各部門のKPIとして戦略を策定し、施策を実行しております。

 

 1) 気候変動などへの対応

近年、気候変動をはじめとする地球規模での環境問題が顕在化する中、世界中の人々の食を支えるグローバルカンパニーとして、より高いレベルでの環境対策推進を重要経営課題と位置付け、中長期成長戦略の一つとして環境戦略「EARTH FOOD CHALLENGE 2030」を2020年4月に策定しております。

環境戦略「EARTH FOOD CHALLENGE 2030」は、地球資源を取り巻く環境の保護及び資源の有効活用に挑戦する「資源有効活用へのチャレンジ (EARTH MATERIAL CHALLENGE)」と、当社グループの事業活動全般におけるCO2排出量削減に挑戦する「気候変動問題へのチャレンジ (GREEN FOOD CHALLENGE)」の2つを柱としております。「EARTH MATERIAL CHALLENGE」では「地球にやさしい調達」、「地球資源の節約」、「ごみの無い地球」の3つを、「GREEN FOOD CHALLENGE」では「グリーンな電力で作る」、「グリーンな食材で作る」、「グリーンな包材で届ける」の3つを活動テーマに据えております。

また、特に気候変動問題を、重要な経営リスクの1つとして位置付けております。原材料価格の高騰や製造工場の被害、消費者の購買活動の変化など、当社グループの事業は、気候変動によってさまざまな影響を受けるためであります。当社グループでは、2019年度に事業活動に気候変動が及ぼす影響を把握するために、プロジェクトチームを立ち上げ、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言を踏まえたシナリオ分析・インパクト評価を実施いたしました。分析には、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の温暖化の進行に関するシナリオ(RCP:代表的濃度経路)(注)と社会経済に関するシナリオ(SSP:共通社会経済経路)を用い、TCFDが求める2℃シナリオを含む複数の異なる条件下で分析いたしました。結果の概要は以下となっております。

 

(注)RCP2.6(1986~2005年を基準としておおよそ1℃前後の上昇)、RCP6.0(おおよそ2℃前後の上昇)、RCP8.5(おおよそ4℃前後の上昇)の3つシナリオを活用

 

 主なリスクによる事業への影響度とその対応策

 

主なリスク

想定される事業への影響

主な対応策

(財務影響軽減策)

移行

リスク

炭素税・国境炭素税などの規制

SBT目標WB2℃(世界の気温上昇を産業革命前より2℃を十分に下回る水準)に向け、取り組まなかった場合の影響額は2030年3,747百万円/年、2050年7,323百万円/年となった。SBT目標WB2℃を達成した場合の影響額は2030年2,623百万円/年、2050年1,465百万円/年となる。

製造工場への省エネ設備やシステムの導入、再生可能エネルギーの導入拡大、環境に配慮した製品の販売

物理

リスク

水リスク

洪水:リスクが高いと見られる製造拠点は国内4拠点、海外1拠点

製造工場などにおける水リスクの多角的な分析調査

高潮:リスクが高いと見られる製造拠点は国内4拠点

干ばつ:評価時点と比較して、2055年及び2090年までにリスクが増大すると判明した拠点は南米と欧州の拠点

水ストレス:国内で4拠点、海外で7拠点

水の再利用などをはじめとした製造工場における効率的な水の使用

原材料調達先の変遷

小麦:オーストラリアにおける小麦の2000年比面積単位収穫量はRCP2.6及びRCP6.0で増加、アメリカ、カナダは変化なし

植物代替肉や培養肉などの開発、植物代替肉や培養肉などを利用した製品の開発、持続可能なパーム油の調達

大豆:2000年比面積単位収穫量は、RCP2.6では増加傾向、RCP6.0とRCP8.5では減少傾向

エビ・イカ:RCP2.6では大きな変化はなし、RCP8.5では漁獲量が減少

パーム油:RCP2.6では収穫量減少の懸念あり、RCP8.5では収穫量減少

 (注) 分析結果の詳細は当社グループのサステナビリティサイトで公開しております。

    (https://www.nissin.com/jp/sustainability/)

 

また、2050年までにCO2排出量と吸収量を“プラスマイナスゼロ”にする「カーボンニュートラル」を2022年11月に宣言しております。

 

 2) 生物多様性(TNFD(注1))への対応

a. TNFD提言に基づく取組と情報開示

はじめに

当社グループの事業活動が生物多様性に与える影響を把握するため、当社は2023年に、TNFD(注1)が発表した「TNFD自然関連リスクと機会管理・情報開示フレームワークベータ版v0.3」を参考に、LEAPアプローチ(注2)を用いた自然関連リスク・機会評価をトライアルで実施し、その結果を開示いたしました。2024年には、評価対象とする調達品目 (原材料) の見直しを行ったうえで、「TNFD最終提言 v1.0」の開示推奨項目に基づき、より詳しい自然関連リスク・機会評価を実施いたしました。

 

(注)1 TNFD (Taskforce on Nature-related Financial Disclosures: 自然関連財務情報開示タスクフォース) は、民間企業や金融機関が自然資本及び生物多様性に関するリスクや機会を適切に評価、開示するための枠組みを構築する国際的なイニシアチブ

   2 TNFDが提唱する自然関連のリスクと機会を科学的根拠に基づき体系的に評価するためのプロセス。分析のスコープを選定した上で、自然との接点を発見する「Locate」、自然への依存とインパクトを診断する「Evaluate」、自然に関する重要なリスクと機会を評価する「Assess」、リスクと機会に対応しステークホルダーに報告する準備を行う「Prepare」の4ステップの順に進めることが特徴

 

 

「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)フォーラム」への参画

 当社グループは、自然や金融などの専門性を有する企業・団体などが参画し、TNFDによる枠組み構築をサポートするネットワークである「TNFDフォーラム」に参画しております。2023年12月には、TNFDに対応した情報開示を促進する企業として「TNFD Adopter(注)」に登録いたしました。

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(注)TNFD提言に基づく開示を行う意向をTNFDのWebサイトで登録した企業のことで、登録した企業は2024年もしくは2025年会計年度情報に基づく開示が必要とされる

 

b. TNFDに関するガバナンス

(ガバナンスA/B)

イ. 体制

当社グループでは、代表取締役社長・CEOを委員長とする「サステナビリティ委員会」を設置しております。事務局は経営企画部、サステナビリティ推進部、広報部が担い、委員会の傘下にはテーマごとにワーキンググループを設け、各グループに関係部署が参画しております。委員会は、自然関連のリスク・機会を含め、サステナビリティに関するさまざまな課題への対応方針や施策の検討を行い、その活動内容を、サステナビリティ委員長及び取締役会へ定期的に報告しております。

また、環境戦略「EARTH FOOD CHALLENGE 2030」で定める重要な非財務目標について経営会議で年に1回以上審議・決議し、取締役会へ付議・報告しております。取締役会は、気候変動や生物多様性などの環境課題、栄養不良の二重負荷をはじめとした健康・栄養課題に対する業務の執行を監督し、サステナビリティに関する基本方針や重要事項を審議し、決議を行っております。

(注)サステナビリティガバナンス - 体制の詳細は当社グループのサステナビリティサイトで公開しております。(https://www.nissin.com/jp/company/sustainability/management/governance/#structure)

 

ロ. サステナビリティ・アドバイザリーボード

「サステナビリティ・アドバイザリーボード」は、サステナビリティに関わるグローバルな動向を把握し、社内の推進体制強化を目的とした取締役会の諮問機関であります。社外有識者の提言を受けながら、当社グループが取り組むべきサステナビリティに関する課題を年に2回議論し、取締役会に対して年に2回以上、諮問や提言を行っております。

 

2025年1月に開催したアドバイザリーボードでは、社外有識者 (久保田 康裕氏/株式会社シンク・ネイチャー代表取締役CEO、琉球大学教授) を招き、TNFD提言に基づく自然関連リスク・機会評価の結果について当社グループCEOをはじめとする経営層へ報告し、今後の課題及び当社グループが取り組むべき事項について議論いたしました。とりわけ今回の評価結果から、気候変動や生物多様性の損失に伴い2050年にはパーム油収量の低下や病害増加といった自然関連リスクの発生が予測されること、その一方で、再生農業の実践や病気対策の実施を支援することで、パーム油収量の維持と生物多様性保全の双方に配慮した事業活動の実施が可能であることなどが提言されております。なお、本アドバイザリーボードで議論した内容は、取締役会にも報告しております。

(注)サステナビリティガバナンス - 「サステナビリティ・アドバイザリーボード」の設置の詳細は当社グループのサステナビリティサイトで公開しております。

   (https://www.nissin.com/jp/company/sustainability/management/governance/#structure)

 

(ガバナンスC)

イ. 影響を受けるステークホルダーに関わる人権方針

当社グループは、創業者精神の一つである「食為聖職」(食の仕事は聖職であり、人々の健康と世界の平和に貢献していかなければならない)のもと、当社グループの事業活動が影響を及ぼすすべての人の権利を尊重しております。「日清食品グループ人権方針」は、当社グループの事業活動における人権尊重への取組に関するすべての規範に適応され、サプライヤー・あらゆるビジネスパートナーにおいて人権への負の影響が引き起こされている場合には、適用される法・規制すべてを遵守し、国際基準及びベストプラクティスをとるよう努めることを掲げております。

また「日清食品グループ 持続可能な調達方針」では、原材料の調達を通じて影響を受ける可能性のあるステークホルダーに対して、人権の尊重と労働安全衛生への配慮に関する事項を定め、先住民族及び地域住民の権利の尊重に関しては、FPIC (Free, Prior, Informed Consent =自由意志に基づく事前の十分な情報を与えられた上での合意) の尊重を明記しております。

 

 

(注)「日清食品グループ 人権方針」の詳細は当社グループのサステナビリティサイトで公開しております。(https://www.nissin.com/jp/company/sustainability/management/policy/human-rights-policy/)

(注)「日清食品グループ 持続可能な調達方針」の詳細は当社グループのサステナビリティサイトで公開しております。(https://www.nissin.com/jp/company/sustainability/management/policy/basic-policy/)

 

ロ. 影響の低減などに向けた活動

当社グループでは、人権に配慮した事業活動を推進するため、人権デューデリジェンスを実施しております。国連が策定した「ビジネスと人権に関する指導原則」の手順に従い、「人権への負の影響評価及び課題の特定」、「適切な措置の実施」、「モニタリング・追跡評価」、「情報開示」に取り組んでおります。

サプライチェーンの中でも、特にパーム油生産農家 (小規模農園) に関連する人権・環境課題を最優先課題と位置づけ、油脂加工メーカーとのエンゲージメント構築に加え、サプライチェーンの上流に位置する搾油工場 (ミル) やパーム農園に対する包括的な支援の必要性を認識しております。当社グループのサプライチェーン上つながりのあるパーム油小規模農家に対しては、外部の専門家及び現地の小規模農家組合の協力を得ながら、アンケートやダイアログなどを通じた現地調査を順次行い、生産地の環境や労働者の人権に対する影響を定期的にモニタリングしております。

(注)パーム油調達の詳細は当社グループのサステナビリティサイトで公開しております。(https://www.nissin.com/jp/company/sustainability/environment/procurement/#procurement_materials)

 

c. TNFDに関する戦略

(戦略A)自然関連の依存、インパクト、リスク、機会

イ.評価対象の検討

食品の製造・販売を主要事業とする当社グループの事業活動が、特に原材料の調達活動を通じて自然資源に依存し、生物多様性にさまざまな影響を与えている点を考慮し、当社グループのバリューチェーンのうち原材料の調達を評価対象といたしました。

当社グループが調達する主要原材料9品目 (パーム油、大豆、カカオ、米、小麦、木材パルプ、エビ、イカ、すり身魚) を対象に、生物多様性に関する各種指標を総合的に評価し、LEAPアプローチにおける「Locate」以降の分析を実施する品目を選定いたしました。評価指標の詳細は以下1~4の通りであります。評価結果において、生物多様性の観点 (「生物多様性重要度」及び「生物多様性損失度」) からは「パーム油」、「カカオ」、「エビ」が、土地利用の観点 (「生産に必要な面積」) からは「小麦」が、より重要な課題であると判断いたしました。

 

1.生物多様性重要度 (BI:Biodiversity Importance)

 

原材料を生産、捕獲する地域の生物多様性の重要度。生物群ごとの分布と希少性を基に、保全すべき優先地域を順位付けしたもの

2.生産に必要な面積 (Area)

 

農林産物、漁獲物などの原材料の生産に必要な面積。FAO(注)の地域別の生産面積 (ha) と生産量 (ton) の関係から、収率 (ton/ha) を求め、当社グループの生産量 (ton) とかけあわせて算出

(注) FAO (Food and Agriculture Organization of the United Nations:国際連合食糧農業機関)

3.生物多様性損失度 (MSA:Mean Species Abundance)

 

原材料を生産、捕獲することによって、原生自然に対して生物多様性が損失する割合。

生物多様性へのインパクト指標

4.生物多様性影響指標 (BIM:Biodiversity Impact Metric) (注)

 

生物多様性重要度 (BI) × 生産に必要な面積 (Area) × 生物多様性損失度 (MSA)で表される数値。

(注)「BIM」は全ての指標を統合した値であるが、面積に寄った評価となる傾向があるため、例えば「BI やMSAを重視、生産面積やBIMで補足、森林リスク原材料などロジックの重点に置く」など、各種の値に対して複数のロジックを持って評価した。なお、森林リスク原材料とは、世界的に取引される商品及び原材料のうち、それらの生産過程が森林減少や森林劣化に寄与すると考えられるもの。具体的には、パーム油、大豆、カカオ、木材パルプ、牛製品、革製品、天然ゴムなどが含まれる。

 

 

 対象4品目の優先地域及び自然への依存・インパクトの概要

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ロ.自然関連の依存とインパクトの評価

絞り込んだ対象4品目 (パーム油、カカオ、小麦、エビ) のうち、陸域の原材料3品目 (パーム油、カカオ、小麦) について、ENCORE(注1)と150種以上の自然資本関連のビッグデータ (炭素貯留量データやハチ種数データなど) を組み合わせることで、調達地の地理的特性を加味しつつ、自然への依存・インパクト (依存している生態系サービス(注2)と、インパクトの原因であるインパクトドライバー(注3)) を定性的に評価いたしました。海域の原材料 (エビ) については得られる情報が乏しいため、漁獲量などの推移を事業継続性に係る主要な確認項目としつつ、調達地周辺で懸念される依存とインパクトを関連する論文に基づいて整理いたしました。

なお、パーム油については当社国内グループ会社及びニッシンフーズ(U.S.A.)Co.,Inc.並びにニッシンフーズKft.を対象に、その他3品目(カカオ、小麦、エビ)については国内グループ会社の調達データを対象に分析いたしました。

 

(注)1 ENCORE (Exploring Natural Capital Opportunities, Risks and Exposure) は、自然資本金融同盟 (Natural Capital Finance Alliance (NCFA)) や国連環境計画世界自然保全モニタリングセンター (UNEP-WCMC) などが共同開発したツールで、企業活動の自然への影響や依存度の大きさを把握することができる

2 食料や水の供給、気候の安定など人々の生活や産業を支えている、生物多様性を基盤とする生態系から得られる恵みのこと

3 事業活動が自然資本に及ぼすネガティブ又はポジティブな影響の要因であり、生産へのインプットとして使われる天然資源の計測可能な量 (例:建設に使われる砂と砂利の体積)、又はビジネス活動の計測可能な製品以外のアウトプット (例:製造施設から大気中に排出される窒素酸化物の質量) のこと

 

陸域の原材料3品目 (パーム油、カカオ、小麦) における自然関連のインパクトについては、インパクトの原因であるインパクトドライバーに関する定性評価に加え、インパクトドライバーによる生物多様性への影響を「生物多様性損失度」により定量評価いたしました。このとき、さまざまな地域で調査された63本の論文 (パーム油: 22論文、カカオ: 31論文、小麦: 10論文) のデータを基に、原材料の生産によって生じる各地点の「生物多様性損失度」を抽出し、生物の生息を規定する主要な要因となる降水量との関係を探っております。

 

 

表1 対象3品目 (陸域) の優先地域における自然関連の依存とインパクトの評価結果

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ハ.評価結果

(パーム油)

「依存」のカテゴリーでは、とりわけ「Disease control (病気の制御)」が高く、熱帯域の特徴を表しております。また、「インパクト」のカテゴリーでは「Land use (陸上生態系の利用)」と「Soil pollutants (土壌汚染物質)」が高く、熱帯域で実際にパーム農園の開発が進む現状を表しております。

 

(カカオ)

パーム油と同様、熱帯域を主産地としており、「依存」のカテゴリーでは「Disease control」が高いことが判明いたしました。また、「インパクト」のカテゴリーでは「Land use」と「Soil pollutants」が高く、特にエクアドルでは、「Water pollutants (水質汚染物質)」が高いことが判明いたしました。

 

(小麦)

土地や水資源を多く利用する大規模灌漑農業であるものの、「インパクト」のカテゴリーの「Water use (水利用)」は地域による差が大きく、オーストラリア西部では低いことが判明いたしました。これは、天水の活用が多いためであると考えられております。

 

(エビ)

科学的論文を調査した結果、インパクトドライバーについて「Marine Ecosystem use (海洋生態系の利用)」が最も重要である可能性が示されました。「依存」のカテゴリーについては、ENCOREにおける「Fibres and other materials (木材、繊維などに直接使用・加工使用されている植物や動物などから採れる素材)」などの天然資源の直接的な利用が重要である可能性があります。当社グループが原材料としている主要なエビの品種の調達地であるインド南部では、漁獲量の減少が懸念されております。

 

 

ニ.定量評価

陸域の原材料3品目 (パーム油、カカオ、小麦) における生物多様性へのインパクトの定量評価は、図2の通りであります。さまざまな変数 (年降水量を含む気候、土地利用、土壌変数、生物種数) と生物多様性へのインパクトとの関係を解析した結果、いずれの原材料についても、年降水量が多い地域ほど、生物多様性へのインパクトが大きいことが判明しました。詳細なメカニズムを断定することはできませんが、降水量が多い地域で森林を伐採し農地にすると、湿潤な森林から乾燥した農地へと環境が大きく変化するため、生物多様性が大きく減少すると考えられております。そのため、調達地を評価する際には年降水量や生物多様性へのインパクトに留意する必要があることが示唆されております。

 

図2 陸域の原材料3品目における生物多様性へのインパクトの定量評価結果

 

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ホ.パーム油における自然関連のリスク・機会

自然関連の依存とインパクトの度合いが大きく、かつ事業における重要性も大きいパーム油について、シナリオ分析を通じ、リスクと機会を検討いたしました。シナリオ分析の対象地域は、生物多様性及び調達量の観点から総合的に勘案し、マレーシア・サバ州とインドネシア・リアウ州としております。

分析の結果、自然への依存 (特に「Disease control」) に関連し、将来的にマレーシア・サバ州とインドネシア・リアウ州ともに、気温上昇やパーム植林の病気拡大、その他の要因が複合的に寄与し、収量が大きく減少する可能性があることが判明いたしました (表3)。また、自然へのインパクト (特に「Land use」) に関連し、このまま対策をせずにパーム植林を拡大した場合、土地利用の転換 (森林・泥炭地から農地) を通じて、2070年までに生物多様性が大きく損失する可能性があることが示されました。

 

表3 パーム油における依存、インパクト、リスク、機会の概要

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(注)移行リスクの内容については、2023年に実施したTNFDトライアル評価の結果をもとに記載しております。TNFD最終提言v1.0に基づく最新 (2024年) の評価では分析の対象外としております。

 

(すじ植え方式栽培 (Alley Cropping))

・樹木や低木の列を植えて、その間で複数の作物を近接して栽培することで、土壌の健康を改善し、生態系の再生に寄与する農法のこと。例えば、プランテーションのパームの列の間で、パーム以外の農作物を栽培することは、表面水の流出と浸食を減少させ、土壌の健康と肥沃度を改善し、風による浸食を減少させる効果がある。また、プランテーション作物のみの単一樹種栽培地においては病気が蔓延しやすいが、複数の作物栽培によって生物多様性が保たれた森林では根腐れ病などの病気が蔓延しづらい

・パームに加えて植える植物としては、カカオ、黒コショウ、パイナップルなどが挙げられる

・植生環境が多様になることで、昆虫や甲殻類といった陸上節足動物などが多様になる効果が立証されている

・すじ植えを行う植物の種類によって、生物多様性への効果の度合いが異なる (カカオや黒コショウが最も効果があるという報告例あり)

・収量に与える影響については、「変化がない」とする報告と、「減量する」という報告がある (パーム以外のメイン作物の栽培に関する報告も含む)

 

 

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(戦略B)自然関連の依存、インパクト、リスクと機会が当社グループの戦略に与えるインパクト

これら自然関連の依存、インパクト、リスクと機会が、当社グループのビジネスモデルやバリューチェーン、戦略、財務計画に与えるインパクト、及び移行計画や分析については、今後検討を進めていく予定であります。自然関連リスク・機会の財務的インパクトの算定に加えて、特定した自然関連リスク・機会への対応策をAR3T(注)などの国際的なフレームワークに沿って体系的に整理し、ネイチャーポジティブを目指した移行計画を策定することなどが、今後必要なステップであると認識しております。

(注)SBTs for Natureの行動枠組で、組織が自然へのネガティブな影響を回避・軽減し、自然の復元・再生に貢献しながら、自然喪失の間接要因に対処する一連のステップを体系的に整理したもの

 

 

(戦略C)自然関連のリスク・機会に対するレジリエンス

イ.シナリオ分析の方法

(戦略A/B)にも記載の通り、まず、自然関連の依存・インパクトの度合いや、事業における重要性が大きいパーム油を対象にシナリオ分析を行い、リスク・機会と今後のアクションを検討いたしました。次に、当社グループに関係のある自然へのインパクトドライバー及び依存が、地域の生物多様性や当社の事業継続性にどのような影響を与えるかを把握するために、複数のシナリオにおける生物多様性指標とパーム油収量の時系列変化を調査いたしました。

今回は「2000年代~24年まで」のデータを使って、2030年及び2070年までの推移を予測いたしました。対象地域は、生物多様性及び調達量の観点から総合的に勘案し、マレーシア・サバ州 (100km四方)とインドネシア・リアウ州周辺 (100km四方) の二地域を選定いたしました。評価にあたり、生物多様性指標とパーム油収量の両指標にとって重要な規定要因であり、TCFDにおける気候変動シナリオとも整合する「気候シナリオ (Business As Usual: RCP2.6及びRCP8.5)」と、自然関連の重要なリスク・機会へのアクションの有効性を検討するための「アクションシナリオ (生物多様性に配慮したパーム栽培を実施するシナリオ)」を検討いたしました。

 

ロ.シナリオ分析の結果

シナリオ分析の結果は表4 (シナリオ分析結果サマリー) 及び図5 (シナリオ分析結果における因果関係図) の通りであります。

 

表4 シナリオ分析結果サマリー

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(注)RCP2.6は1986年~2005年を基準として1℃前後上昇、RCP8.5は4℃前後上昇する可能性を鑑みたシナリオ

 

 

図5 シナリオ分析結果における因果関係図

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図5 (シナリオ分析結果における因果関係図) は、「外的要因」や「当社グループにおける自然への依存・インパクトドライバー」、及びそのインパクトドライバーに起因する「生物多様性への影響」、依存に起因する「事業への影響 (リスク)」、関連する「自然への影響 (機会)」と「アクション」について、それぞれの因果関係を矢印で示し、その因果関係の作用の方向が正か負かを丸で囲んだ矢印で示しております。

 

図5 (シナリオ分析結果における因果関係図) の各因果関係の詳細 (①~⑧)

①気温上昇がパーム油収量に与える影響

図6 (年平均気温とパーム油収量の関係) 及び図7 (IPCCの気温予測:RCP2.6及びRCP8.5を踏まえたパーム油収量予測) は気温上昇とパーム油収量の関係を表しており、年平均気温27.5℃をピークとして収量が著しく減少することが判明いたしました。この気温と収量の関係に気候変動シナリオを当てはめると、RCP2.6シナリオではサバ州、リアウ州ともに大きな収量減少は想定されない一方で、RCP8.5シナリオではサバ州は2050年においては微減であるものの、2070年には約30%の減少が想定され、リアウ州はRCP比で2050年に約25%の減少、2070年に約40%の減少が想定されております。

 

 

図6 年平均気温とパーム油収量の関係

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図7 IPCCの気温予測 (RCP2.6及びRCP8.5) を踏まえたパーム油収量予測

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表8 シナリオ毎の年別想定気温

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②パームの樹齢とパーム油収量の関係

図9 (パームの樹齢とパーム油収量の関係) は、パームの樹齢とパーム油収量の関係を表しており、樹齢9年まではパームの成長とともに直線的に収量が増加する一方、樹齢10年以上で収量は横ばいとなり、樹齢18年以上では収量は減少に転じております。

 

 

図9 パームの樹齢とパーム油収量の関係

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図10 (現在のパーム植林の樹齢分布) では、サバ州とリアウ州のパーム植林の樹齢の特徴を表しており、2023年時点でサバ州は樹齢20年以上の老齢林が多く、リアウ州は樹齢10年以下の若齢林が多くなっております。

 

図10 現在のパーム植林の樹齢分布

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③パームの樹齢と病気罹患率の関係

図11 (パームの樹齢と基部幹腐病罹患率の関係) と図12 (基部幹腐病罹患率の推移 – 地域別) は、パームの樹齢と病気罹患率の関係を表しており、パームの樹齢が上がるにつれて基部幹腐病に罹患する確率が高くなっていることが判明しております。サバ州では、因果関係②で示されるように、樹齢20年以上の老齢林が多いため、将来の基部幹腐病罹患率が指数関数的に上昇する可能性があります。これに対しリアウ州では、新たなパーム植林が拡大し、若齢樹も多いため、病気の罹患率はサバ州と比べると増加率が低いと予測されております。 また、図11に示されるように、パームの植え替えを繰り返し行うことで病気罹患率が上昇することも予測されております。

 

 

図11 パームの樹齢と基部幹腐病罹患率の関係

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(注)「パーム第2世代」と「パーム第3世代」は、最初の植栽サイクル (通常25~30年) を終えて植え替えられた新しいパームのことで、それぞれ2回目の植栽サイクル、3回目の植栽サイクルを指す。

 

図12 基部幹腐病罹患率の推移 – 地域別

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④パームの樹齢及び病気罹患率が収量に与える影響

図13 (樹齢と基部幹腐病罹患率を考慮した時のパーム油収量の推移) は、パームにおける樹齢及び病気罹患率、収量の関係を表しております。サバ州では、病気の拡大を考慮すると、分析対象地域では2015年をピークに収量が減少、さらにその後パーム植林の若齢化に伴い、収量の大幅な減少 (約40%) が推測されます。サバ州と比べ若齢樹が多いリアウ州でも、2030年以降は徐々に収量が減少する可能性が高いとみられております。

 

図13 樹齢と基部幹腐病罹患率を考慮した時のパーム油収量の推移

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⑤パームの病気罹患率及び気温上昇が収量に与える影響

図14 (基部幹腐病罹患率、気候変動を考慮した時のパーム油収量の推移) は、パームにおける病気罹患率と気温上昇、収量の関係を表しております。サバ州では、パームの植え替えによる収量の激減は避けられないうえ、収量が安定してくる「樹齢10年程度」に成長する2040年以降も、植え替え回数が増加すると連作障害により病気罹患率も高まるため、収量が急激に減少し最盛期の半分程度になると予測されております。リアウ州では2030年前後まで生産規模の拡大が続き、その後は減少局面になるとみられております。RCP2.6シナリオにおける減少勾配は緩やかで、2050年頃までは同水準を維持することが予想されております。

 

図14 基部幹腐病罹患率、気候変動を考慮した時のパーム油収量の推移

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⑥病気への対策によるパーム油収量改善の効果

図15 (気候変動及び病気への対策を講じた場合の収量の推移) は、病気罹患率上昇によるパーム油収量減少に対するアクションとして、病気への対策の効果を示しております。病気への対策を、パーム植林全体の50%の面積に限定して実施した場合であっても、同90%の面積で実施した場合と近い効果が得られることが判明しております。その効果を地域別に見た場合、サバ州では収量の増加も期待され、リアウ州では収量の低減が抑えられております。

 

図15 気候変動及び病気への対策を講じた場合の収量の推移 (RCP2.6ベース)

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⑦土地利用の変化による地域の生物多様性への負の影響

図16 (対象地域全体での生物多様性の変動推定) は、土地利用の変化、つまりパーム植林の拡大による生物多様性への負の影響を示しております。推定にあたり、文献などの情報を基に「1992年から2023年にかけて、パーム植林では生物種数が約75%減少、その他の農地では約20%減少、緑の多い市街地では約30%減少、一度破壊された後に自然回復した二次林では約3%減少している」と仮定いたしました。これらの土地利用別の生物種数減少率を、サバ州とリアウ州の対象地域 (200km四方) の土地利用に当てはめることで、対象地域全体の生物多様性がどれくらい減少したのかを推定いたしました。

対象地域では、パーム植林が拡大し始める1992年以前では90%以上の生物多様性が維持されていたにもかかわらず、パーム植林の拡大に伴い、2023年ではサバ州で約85%まで、リアウ州では約65%まで生物多様性が減少していることが推察されております。

 

図16 対象地域全体での生物多様性の変動推定

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⑧パーム栽培方法の見直しによる生物多様性への正の影響

図17 (パーム栽培方法の見直しによる生物多様性への影響予測) は、パーム植林の拡大による生物多様性への負の影響 (⑦) に対するアクションとして、パームの栽培方法の見直しを実施した場合の生物多様性への正の影響を示しております。今後新たに植栽されるすべてのパーム植林をすじ植え方式で栽培することでパーム植林内の生物多様性が30%増加すると仮定し、今後の生物多様性の変動を予測いたしました。

 

図17 パーム栽培方法の見直しによる生物多様性への影響予測

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サバ州は、さらなる開発の余地が残っていないほどパーム植林の開発が進んでおり、その急激なパーム植林の増加傾向から、今後一斉に植え替え時期を迎えることによる収量減や病気の拡大が懸念されております。そのためサバ州においては、植え替えの際にすじ植え方式栽培を採用するなど、パーム植林内の生物多様性の向上を目指すことが重要であると考えられております。

リアウ州は現在も森林伐採が増加しており、特に生物多様性が高い沿岸の泥炭地におけるパーム栽培は、海面上昇による高潮被害リスクがあり、病害の発生率も高い地域であります。そのためリアウ州においては、パーム植林内の生物多様性を向上させるよりも、新たな森林伐採、特に違法伐採を拡大させないことが生物多様性の保全上重要であると考えられております。

 

(戦略D)優先地域

TNFD提言における優先地域とは、マテリアルな地域 (企業にとって重要な自然関連の依存、インパクト、リスク、機会を特定した地域) 又は、要注意地域 (生物多様性にとって重要な地域、生態系の完全性が高い地域などと接する地域) のいずれかの地域であると定義されております。

戦略Aにも記載の通り、評価対象として選定した原材料4品目 (パーム油、カカオ、小麦、エビ) の優先地域の特定にあたっては、マテリアルな地域の主要指標として「当該原材料の調達に必要な生産面積」を、要注意地域の主要指標として「生物多様性重要度(注)」と「生態系の完全性」を採用し、3つの指標を総合的に考慮いたしました。

また、パーム油については、他3品目と異なり、サプライチェーンの上流に位置する搾油工場 (ミル) までのトレーサビリティの確保が進んでいるため、ミルレベル (ミルを中心とした半径50km圏内) での分析も実施いたしました。

(注)原材料を生産、捕獲する地域の生物多様性の重要度。生物群ごとの分布と希少性を基に、保全すべき優先地域を順位付けしたもの

 

図18 原材料4品目の優先地域 (代表地点)

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イ.ミルレベルでの生物多様性重要度の高い地域の確認

当社グループが調達していると考えられるサプライヤーの名称や所在地 (位置情報) を集約したミルリストをもとに、ミルが所在する周辺50kmの陸域を対象に「生物多様性重要度」を確認いたしました。いずれの地域も高い水準にあることが分かり、ボルネオ島北部のサバ州、マレー半島南部 (マレーシア・ジョホール州など)、スマトラ島が特に高いことが判明いたしました。

 

図19 マレーシア及びインドネシアにおける生物多様性重要度

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d. TNFDに関するリスクとインパクトの管理

(リスクとインパクトの管理A (ii) )バリューチェーン上流のリスク、機会の特定・評価・優先順位付けプロセス

「リスクとインパクトの管理A」については、「(ⅰ)直接操業」及び「(ⅱ)上流と下流のバリューチェーン」を対象に、「自然関連の依存、インパクト、リスクと機会を特定し、評価し、優先順位付けするための組織のプロセスを説明すること」がTNFDの開示提言となっております。今回当社では、「(ⅱ)上流と下流のバリューチェーン」を分析・評価、及び開示の対象といたしました。

まず、原材料4品目 (パーム油、カカオ、小麦、エビ) における優先地域を特定し、生物多様性への影響を定量的に評価いたしました。また、原材料4品目に対して調達量、社会的関心度の高さ、GHG (温室効果ガス)排出量に占める割合、生態系への負の影響の懸念などを考慮し、シナリオ分析を行う品目と地域を決定いたしました。その結果、パーム油調達地域のうち、マレーシア・サバ州とインドネシア・リアウ州を定量的なシナリオ分析を行う対象地域として選定いたしました。

気候変動シナリオ分析に基づき、2030年~70年の平均気温上昇によるサバ州とリアウ州におけるパーム油収量の長期変化、パーム植林の樹齢増加に伴う病気罹患率リスクの発生時期といった転換点の将来予測を行い、その影響の定量評価と対応策の検討を行っております。

 

(リスクとインパクトの管理B/C)自然関連のリスク・インパクトの全社マネジメント

自然関連のリスク・インパクトへの対応策は、当社グループの環境戦略「EARTH FOOD CHALLENGE 2030」や「カーボンニュートラル」、「ネイチャーポジティブ」の達成に向けたさまざまな戦略と整合性を図りながら、日清食品ホールディングスのサステナビリティ委員会が主管となって今後も検討してまいります。また、自然関連のリスク・インパクトの評価は、当社グループの全体的なリスクマネジメント・プロセスの一環として今後も継続的に実施する予定であります。

また、ガバナンス(A/B)に記載の通り、2025年1月に開催した「サステナビリティ・アドバイザリーボード」では、外部有識者 (久保田 康裕氏/株式会社シンク・ネイチャー代表取締役CEO、琉球大学教授) を招き、TNFD提言に基づく自然関連のリスク、機会の分析結果について当社グループCEOをはじめとする経営層へ報告し、今後の課題及び当社グループが取り組むべき事項について議論いたしました。

 

(パーム油)

自然関連の依存とインパクトの度合いが大きく、かつ事業における重要性も大きい「パーム油」については、環境戦略「EARTH FOOD CHALLENGE 2030」において「持続可能であると判断できるパーム油調達の比率を2030年度までにグループ全体で100%」にすることを目標に掲げており、できる限り早期に達成できるよう取り組んでおります。また、国内即席めん事業については、「持続可能であると判断できるパーム油調達の比率を2025年度までに100%」にすることを目標に掲げております。

さらに、2022年5月にはNDPE(注1)方針を含む「持続可能なパーム油調達コミットメント」の遵守に向けた取り組み指針を策定いたしました。加えて、搾油工場 (ミル) のトレーサビリティ向上を目指し、ミルリストを公開しております。今後は、トレーサビリティ確保の範囲をパーム農園まで拡大するほか、森林・泥炭地破壊のリスクが高い地域を中心とした森林フットプリント(注2)の導入を目指してまいります。

(注)1 No Deforestation, No Peat and No Exploitation (森林破壊ゼロ、泥炭地開発ゼロ、搾取ゼロ) の略

2 企業のサプライチェーンや金融機関の投融資先の事業が影響を与える森林と泥炭地の総面積

3 持続可能な調達の詳細は当社グループのサステナビリティサイトで公開しております。

    (https://www.nissin.com/jp/company/sustainability/environment/procurement/)

 

e. TNFDに関する測定指標とターゲット

(測定指標とターゲットA)戦略及びリスク管理プロセスに沿って、マテリアルな自然関連リスクと機会を評価し、管理するために使用している測定指標

TNFDの開示提言における、戦略B「自然関連の依存、インパクト、リスクと機会が、当社グループのビジネスモデルやバリューチェーン、戦略、財務計画に与えるインパクト、及び移行計画や分析」については、今後検討する予定であります。

対象とする調達地域をより細かい単位で把握し、それぞれの原材料に合わせた指標で定量評価をする必要があります。

 

 

(測定指標とターゲットB)自然に対する依存とインパクトを評価し、管理するために使用している測定指標

戦略Aに記載の通り、「短期・中期・長期にわたって特定した、自然関連の依存、インパクト、リスク、機会」に関して、当社グループが調達する主要原材料9品目 (パーム油、大豆、カカオ、米、小麦、木材パルプ、エビ、イカ、すり身魚) を対象に、各種指標を総合的に評価し、「Locate」以降の分析を行う4品目 (パーム油、カカオ、小麦、エビ) を選定しております。また、分析対象4品目における自然への依存、インパクトについて定性的に評価を実施しております。

パーム油及びカカオに関しては、「依存」のカテゴリーでは「Disease control (病気の制御)」が、「インパクト」のカテゴリーでは「Land use (陸上生態系の利用)」と「Soil pollutants (土壌汚染物質)」が高く出る結果となっております。

エビに関しては、「Marine Ecosystem use (海洋生態系の利用)」による「インパクト」が最も重要である可能性があることが判明いたしました。「依存」のカテゴリーについては、ENCOREにおける「Fibres and other materials (木材、繊維などに直接使用・加工使用されている植物や動物などから採れる素材)」が重要である可能性があります。

 

(測定指標とターゲットC)自然関連の依存、インパクト、リスクと機会を管理するために使用しているターゲットと目標、パフォーマンス

当社グループは、生物多様性に関連する目標として「持続可能であると判断できるパーム油調達の比率を2030年度までにグループ全体で100%」にすることを掲げており、できる限り早期に達成できるよう取り組んでおります。また、国内即席めん事業については、「持続可能であると判断できるパーム油調達の比率を2025年度までに100%」にすることを目標としております。本目標に関する進捗については、当社グループのウェブサイトの「持続可能な調達(https://www.nissin.com/jp/company/sustainability/environment/procurement/#target)」に詳しく開示しております。

 

また当社グループは、NDPE方針を含む「持続可能なパーム油調達コミットメント」を遵守するために、油脂加工メーカーとのエンゲージメント構築に加え、サプライチェーンの上流に位置する搾油工場 (ミル) やパーム農園に対する包括的な支援の実施を検討しております。現在、ミルのトレーサビリティ確保や衛星モニタリングツールを活用した森林破壊リスクの分析などを中心に行っており、リスクが高いと判断されたミルについては、購入元の油脂加工メーカーと事実関係を確認し、状況改善に向けた対応策を検討しております。リスクが高いミル周辺のパーム農園に対しては、外部の専門家とともにアンケートやダイアログを通じた現地調査を順次行い、生産地の環境や労働者の人権に対する影響を詳細にモニタリングしております。より詳しい取り組み内容及び進捗については、当社グループのウェブサイトの「持続可能な調達」にて開示しております。

(注)持続可能な調達 - パーム油調達の詳細は当社グループのサステナビリティサイトで公開しております。

(https://www.nissin.com/jp/company/sustainability/environment/procurement/#procurement_materials)

 

今後、TNFD提言に沿った自然関連の依存、インパクト、リスク、機会 の評価をさらに深めつつ、国際的な動向なども踏まえ、さらなる目標の設定や取組の開示が必要であると認識しており、対応を進めてまいります。

 

 3) 非財務価値の定量化

当社グループが重点的に取り組むESG活動が企業価値にどのような効果があるのか、ESGと企業価値との関係性の分析にも取り組んでおります。その一つが、企業価値を表す指標の一つPBRとの関係性の分析であります。ESG活動が何年後のPBRに効果をもたらすかを、学術的に信頼度の高い手法を使い分析しております。2024年に3回目となる本分析を実施した結果、CO2排出量の削減を行うと5年後に1.2%(2年目の分析では9年後に+0.8%)PBRが向上するなど、当社グループが重点的に取り組んでいるESG活動と企業価値向上との間に相関関係があることを定量的に確認することができております。

またESG指標同士の相関性を分析し、各ESGの取組がどのような経路を辿り企業価値の向上に繋がるのか、ストーリーの形で明らかにいたしました。「EARTH FOOD CHALLENGE 2030」の主要な取組がどのように財務価値につながるのかを可視化いたしました。例えば、エネルギー投入量に対する施策を行うことでCO2排出量は削減され、CO2排出量を削減したことで、自社が保有しているメディアで発信する機会が増加し、メディアで発信する機会を増やしたことで外部からの評価が向上し、地域や社会におけるブランド価値向上につながると考えております。次にブランド価値が上がると消費者の購買が増え売上が伸び、最終的には、当社グループが経営指標として掲げるEPSとPERが成長・拡大しシェアホルダー価値につながってまいります。引き続き非財務指標の分析に挑戦し、ESG活動と企業価値の関係性を明らかにしていきたいと考えております。

 

 

a. 俯瞰型分析

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b. 価値関連性分析

 

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 4) コミュニティ投資

 当社グループは、日清食品の創業者である安藤百福が創設した「公益財団法人安藤スポーツ・食文化振興財団」の理念「食とスポーツは健康を支える両輪である」に賛同し、子どもたちの健全な心身の育成のためのスポーツ振興事業と食文化の向上に貢献する事業活動をサポートしております。同財団の活動は、全国小学生陸上競技交流大会などのスポーツ支援、自然体験活動の企画コンテストやロングトレイルの普及・振興事業、独創的な基礎研究・食品開発・ベンチャーを対象にした表彰事業などの食文化振興事業、体験型食育ミュージアム「安藤百福発明記念館」運営の4つの事業活動が柱となっております。当社グループは、2021年度より、同財団とともに、食科学の発展に寄与する研究に取り組む大学院生を支援する給付型奨学金「日清食品・安藤百福 Scholarship」を設立し、返済義務のない奨学金の給付をスタートさせております。2024年度は大学院生100名に年100万円の奨学金を給付しております。また、当社グループは、同財団とともに、142か国で共同調査を行い、2023年度に食と主観的ウェルビーイングの関係を世界で初めて明らかにした「Recipes for Wellbeing Report」を、2024年度には、「食」と「ウェルビーイング」の強い関係性を改めて立証する第2回調査研究レポート「Nourishing Wellbeing」を発表いたしました。今後も「ウェルビーイング」の向上につながる「食」のあり方を大学や国際機関などと連携しながら探究してまいります。

 

 5) 人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針及び社内環境整備に関する方針

 a. 人材に対する考え方

「企業在人・成業在天」

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 この言葉は、創業者の安藤百福が2007年に社員に向けて年頭のメッセージとして記したものであります。

 

 「企業は人である。人に対する評価がそのまま企業の評価につながる。また成業とは、大衆の声が天に通じたときに、はじめて大きな評価として返ってくるものだ。」という意味が込められております。

 

 この言葉にも象徴されるように、かねてより当社グループは「人材」を企業価値の源泉として捉えてまいりました。

 

創業者は以下の言葉も残しております。我々日清食品グループは社員が仕事と職場環境を通じて人間として成長できる機会を提供することを使命と考えております。

 

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 b.人的資本開示の方針

2024年3月に人的資本に関する情報開示の国際的なガイドライン「ISO 30414」の認証を、食品企業として世界で初めて取得いたしました。また、認証取得に合わせ、当社グループの人的資本に関する取組をまとめた「Human Capital Report」を発行しております。

また、開示状況や取組内容を評価され、「人的資本調査 2024」(企画・運営:一般社団法人HRテクノロジーコンソーシアム、HR総研、MS&ADインターリスク総研株式会社)で「人的資本リーダーズ 2024」と「人的資本経営品質 ゴールド」に選定されております。

人的資本開示の要請が高まる中、積極的に現状の人的資本情報を開示することで様々なステークホルダーの皆様と対話を実施し、フィードバックをいただくことで、当社の人的資本の取組を高度化していきたいと考えております。

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(注)「Human Capital Report 2024」は当社グループのウェブサイト(https://www.nissin.com/jp/)で公開しております。

 

 

 c. 組織人材ポリシー(人材育成方針)

創業者が世界初の即席めんである「チキンラーメン」、世界初のカップめんである「カップヌードル」を、さらに宇宙でも食べられる世界初の即席めんである「スペース・ラム」を生涯かけて創造したように、当社グループでは常に新しい食の文化を創造しつづける「EARTH FOOD CREATOR(食文化創造集団)」であることをグループのビジョンとしております。

そのためには、多様な彩りや専門性を持った社員が互いに尊重し合い、グループのミッション・ビジョン・バリューに共感し、「EARTH FOOD CREATOR(食文化創造集団)」の一員として仕事を楽しみ、働きがいを感じながら活躍できる状態を目指しております。また自らが希望するキャリアを実現し、仕事を通して生涯成長できるよう様々な機会を提供することで、当社グループの持続的な成長を図ってまいります。

 

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 d. 社内環境整備

 イ.ハングリーで自律的なキャリア形成

当社グループは、社員が自らハングリーな気持ちで学び、キャリアを実現することを奨励しております。

社員のチャレンジを後押しするために2020年にはスキルやリーダーシップ等を学ぶ場として企業内大学“NISSIN ACADEMY”を設立いたしました。部門独自の専門的スキルを学ぶ講座、汎用的なビジネススキルを学ぶ講座、リーダーとして必要な資質やスキルを学ぶ講座など多数取り揃えております。

2024年には社員のデジタルリテラシーを向上させるべく、「NISSIN DIGITAL ACADEMY」を開講いたしました。「データ活用」、「アプリ開発」、「生成AI」など7つの重点領域ごとに用意された多彩なカリキュラムを、社員はオンラインで自由に受講することが可能となっております。

 

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2023年度からはラーニングマネジメントシステムを導入し、学びの情報を集約化・充実化させております。いつでもどこでもアクセスできる環境を整備することで、自律的な学びを支援してまいります。

また、よりチャレンジングな目標を設定し達成した社員に報いるために、2021年には人事制度を改定いたしました。一人ひとりの社員が日々の仕事の中で成長を実感できるように、上司とメンバーとの1on1ミーティングや成長実感会議(半期に一度、部門の管理職が集い、社員一人ひとりの成長度や今後のキャリアを議論する人材レビュー会議)といった仕組みも取り入れております。

 

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当社グループでは、働き方に対する考え方の多様化に対応するため、管理職を対象とした「日清流Job型」制度を2024年度から導入いたしました。

従来取り入れていた社員の能力と経験に基づき等級を決定する「職能等級制度」に加え、特定のスキルを持つ人材の確保・育成を目的とした「プロフェッショナルコース」や、次世代リーダー候補の早期育成を目的としたコースを取り入れているのが「日清流Job型」の特徴であります。

さらに、職務内容を詳細に記述した「ジョブディスクリプション」や就任要件を社内外に明示することで、社員のキャリアデザインをサポートするとともに、外部からの登用促進にもつなげております。

 

 また“意欲ある人が良い仕事をする”という信念のもと、公募制度を活性化させており、多くの社員が自らの意思で希望するキャリアに就いて活躍しております。公募ポストの就任要件と社員のスキル・経験とのマッチ度を表示させており、希望するキャリアへのステップを描きやすくしております。これらの一連の制度や取組を通して、適所適材を実現してまいります。

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<経営者人材育成>

 当社グループが「EARTH FOOD CREATOR(食文化創造集団)」として持続的に成長するために、経営者人材を育成することは最重要課題の一つと捉えております。主要ポストを設定し、当該ポストに必要なスキル・経験を定義づけ、後継者候補一人ひとりに対してジョブローテーションを含む育成計画を策定し、年に一度、CEOと部門長による面談で育成の進捗を確認しております。また、経営者に必要なマインドセットや知識・スキルを習得する研修プログラムを継続的に実施しております。

 現状のキーポストの後継者継承準備率(5年以内)は229%となっております。今後は250%以上を目指して計画的な人材育成に取り組んでまいります。

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また、経営者人材の育成には、できるだけ早い時期からマネジメント経験を積むことが重要であると考えております。

これまでも、公募制度を活用し、非管理職の若年層でも自ら手を挙げ、管理職ポストにチャレンジし、活躍している社員も多くおりましたが、早期にマネジメントにチャレンジできるポストを設定し、多くの候補者を抜擢することでマネジメント人材プールを厚くしてまいります。

 

<グローバル人材育成>

中長期成長戦略2030において、海外事業の更なる拡大を目指す中、グローバルで活躍できる人材プールを拡充することが急務となっており、現地法人ごとの人材要員計画と人材プールの見える化を実施しながら、充足のための採用・育成・定着施策を強化しております。

グローバルで活躍する人材プールを充足するために、海外勤務志向を高めるためのグローバル・キャリアパスの提示、若手社員を対象とした海外トレーニー制度の活性化、市場競争力のある処遇とライフイベントとの両立がし易くなるような評価報酬・福利厚生制度の充実、これらを推進するための専任組織の組成などの仕組みづくりを推進しております。

 

 2024年度は経営課題であるグローバルビジネスのさらなる飛躍を実現するための足掛かりとして、Global HR Meetingを開催いたしました。拡大する海外事業展開を支える人事機能拡充に向けた基盤づくりを狙いとしており、「グローバル人材プールの形成」、「グローバル人事インフラの構築」、「グローバルコミュニケーション・企業理念の浸透」を実現するための取組の一つであります。

 

 

 

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 ロ.当社グループのバリューへの共感

世界中で活躍する全社員が一体感を持って仕事をするため、また、全ての活動の拠り所として当社グループのミッション・ビジョン・バリューと行動指針である日清10則の浸透に力を入れております。

 

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年に7、8回開催する朝礼でトップメッセージを発信したり、入社時や周年イベントとして理念研修を実施したり、チーム単位で創業者精神やビジョン等をディスカッションする職場ミーティングを年2回実施したりと、あらゆるタッチポイントで啓発を行っております。また、様々な社内施策では、バリューである“Unique”、“Creative”、“Happy”、“Global”を社員が体感できるように工夫をしております。

 

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<NISSIN CREATORS AWARDの実施>

当社グループのミッション・ビジョン・バリューを体現する創造的な仕事を表彰する“NISSIN CREATORS AWARD”を年に1回実施しております。世界各地の事業会社・多様な職種から多数のエントリーがあり、役員による審査とともに従業員投票を実施することで全社員参加型のイベントとしております。表彰候補案件に対し、功績が生み出されたプロセスを動画配信することで、受賞者の行動や想いを伝えて、「EARTH FOOD CREATOR(食文化創造集団)」としてのスピリットを伝承していきたいと考えております。また社員の様々な創造的な仕事を理解し、互いに称え合い高め合う文化を創出しております。

 

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 ハ.多様性の尊重

当社グループは、「EARTH FOOD CREATOR(食文化創造集団)」であり続けるために、多様な強み・専門性を持った人材の採用、起用を積極的に進めております。

さらに「日清食品グループ人権方針」では人種、民族、国籍、宗教、信条、出身地、性別、性的指向、性自認、年齢、障がい等に基づく差別及びハラスメントの禁止を明示しており、多様な属性や価値観を持つ社員を尊重し、活躍できる職場を目指し、ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(以下「DE&I」という。)を推進してまいりました。

 

DE&Iの中でも女性活躍推進を経営の優先課題として捉え、育児と両立しながら働きやすい就業制度や社内の意識改革に力を入れてまいりました。その結果として国内中核企業において「プラチナくるみん(2019年認定)」、「準なでしこ(2019年、2020年認定)」に選定されております。現状は男性社員の育児参加を促すための啓発活動も実施しております。

 

働きやすさに加え、重要なポジションで女性の活躍を増やしていけるよう、2025年度末の女性管理職比率10%を数値目標として掲げております。また、経団連が推進する「2030年30%へのチャレンジ」に賛同し、女性の人材プールの拡充と育成を推進しております。

 

目標を達成するため、各部門での数値目標の設定、役員自らが育成にコミットするスポンサープログラムの実施、ダイバーシティ環境下でのマネジメントを学ぶ上司向けプログラムや女性自身のリーダーシップを開発するプログラムの実施、女性同士のネットワーク形成など、多方面で推進施策を行っております。

 

女性活躍推進施策として、各役員がスポンサーとなり、女性管理職及び候補者(スポンシー)の上位等級への登用を支援する「スポンサープログラム」を継続実施しております。スポンサーとスポンシーが1on1で定期的に面談し、一人ひとり個別の育成課題に沿った年間育成計画をすりあわせております。2024年度にはスポンサーである役員が集い、育成の好事例を紹介し合う勉強会を実施いたしました。スポンサープログラム対象者の管理職(上級含む)登用率は48%と実績が出てきております。

 

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(注)スポンサープログラム対象者の昇格率:2021年度以降プログラム対象者(当社グループ全体)のうち、係長級以上について上位等級への昇格割合を算出

 

女性社外取締役・監査役と当社幹部候補管理職による、DE&Iを題材とした座談会を実施いたしました。当社グループにおいてDE&Iを進めるにあたっての課題について、活発なディスカッションを実施し、双方気づきの多い時間となりました。

 

また、女性のリーダーシップ開発を目的とした「カタリスト研修」を継続実施しており、女性が感じやすいインポスター症候群の解消や、受講者同士のネットワーキングに繋がっております。本研修の前後に受講者の「管理職への昇格意欲」を確認したところ、ポジティブ回答者(7段階中6以上)の割合は研修前28%に対し、研修後は88%と大きく伸びており、施策効果を実感できております。

 

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中長期成長戦略実現には在籍している社員の育成だけではなく、外部人材の活躍が必要との認識のもと、新卒採用のみならずイノベーションの牽引役となるような専門人材や、グローバル経営人材のキャリア採用も推進しており、即戦力となる人材の採用に努めております。現在は社員の半数以上をキャリア採用社員が占めております。キャリア採用社員が早期に職場適応できるよう、会社全体でのオンボーディングプログラムを充実化させております。

 

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 ニ.健康経営

 当社グループは全従業員が常に健康な状態を維持し、能力を最大限に発揮して業務にあたることを重要な経営課題の一つと考えております。2018年8月に「日清食品グループ健康経営宣言」を策定し、健康経営の具体的な推進体制を構築いたしました。

 従業員一人ひとりの「Well-Beingと高いパフォーマンスの同時達成」を目的に、「従業員の働きがい」をKPIとして設定し、当社代表取締役社長・CEOの安藤宏基が責任者となり健康経営を推進しております。具体的には、産業保健体制を強化するために、生活習慣病の早期発見、早期治療を目的として、法定健診を上回る項目数で健康診断を実施しているほか、産業医、保健師、看護師による健診結果の分析や保健指導、健康相談を実施しております。

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また、社員の心身の状態や症状を把握するため、プレゼンティーイズム調査やエンゲージメント調査を定期的に実施するとともに、その調査結果を社員にフィードバックすることで、運動促進プログラムや健康に関するオンラインセミナーなど、心身の状態を良好に保つために会社が用意した施策を、社員自身が各自の状態に応じて選択できるようにしております。

 

ほかにも、生理痛やPMS(月経前症候群)、不妊、妊娠・出産などライフステージによって生じる健康課題の解決につながる施策として、低用量ピル処方の費用補助、妊活やキャリアに関する相談サービスの提供、月経や更年期に関する正しい知識の啓発にも取り組んでいます。

 

 

 こうした取組が評価され、「健康経営優良法人2025」の大規模法人部門において、特に優良な健康経営を実践している企業の1つとして「ホワイト500」に7年連続で認定されております。当社グループは、社員の生活に寄り添った健康増進活動の支援や、社員が健康に働ける労働環境づくりに向けて、これからも積極的に健康経営を推進してまいります。

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(3)リスク管理

 当社グループでは、取締役会の管理下に「総合リスク対策委員会」を設置し、リスクの管理状況を把握し、企業価値の毀損を回避するよう努めております。各年度に1度、事業会社社長及び各チーフオフィサーによるリスク評価報告を基に、発生可能性と影響度の2軸で構成されるリスクマップにて各リスクを4段階のステージに分けて評価し、管理方針を定めて管理状況を取締役会に報告しております。また環境・安全リスクに対応する組織をサステナビリティ委員会のもとに設置しており、環境面等における重大事故が発生した際は、マニュアルに従って直ちに対応し、事態の収拾と解決にあたります。

 リスクの抽出・評価アプローチ及び特定したリスクの管理方法について、「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」に記載しております。

 

(4)指標及び目標

1) EARTH FOOD CHALLENGE 2030

 当社グループは2020年4月に策定した環境戦略「EARTH FOOD CHALLENGE 2030」の中で、気候変動問題に対する取組や資源の有効活用に関する目標を定めております。

 

 環境戦略「EARTH FOOD CHALLENGE 2030」実績

2030年に向けた環境目標

目標値

2024年実績

有効資源活用へのチャレンジ

持続可能なパーム油の調達比率(注1)

100%

46.1%

水使用量…IFRS売上収益100万円あたり

12.3㎥/百万円

9.2㎥/百万

流通廃棄物削減率

…2015年度対比/日本国内

△50%

△34.6%

気候変動問題へのチャレンジ

CO2排出削減:Scope 1+2

…2020年対比/国内外(注2)

△42%

△17.6%

CO2排出削減:Scope 3

…2020年対比/国内外(注2)

△25%

△5.0%

(注)1 外部認証の活用及び独自アセスメントによる

   2 2023年5月にCO2排出削減率の目標値を上方修正

     Scope 1+2: △30%(2018年対比)→△42%(2020年対比)

     Scope 3: △15%(2018年対比)→△25%(2020年対比)

 

 なお、販売・流通領域における廃棄物削減の一つとして、フードロス対策を実施しております。支援団体への寄贈実績は以下となっております。

 

フードバンク寄贈実績

寄贈食数

2020年度

2021年度

2022年度

2023年度

2024年度

70,276

344,698

683,674

631,594

2,204,522

 

 

2) 人材育成方針及び社内環境整備の方針に関する指標の内容並びに当該指標を用いた目標及び実績

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※1 当社グループ全事業会社が対象。その他の指標は中核企業である当社グループ4社(日清食品ホールディングス㈱、日清食品㈱、日清食品チルド㈱、日清食品冷凍㈱)が対象

 

<主要指標の進捗>

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女性活躍推進における指標として、「女性管理職比率」に加え、その母集団となる「女性係長比率」、「女性総合職比率」、「女性正社員比率」をモニタリングしております。女性活躍推進を加速させた2020年度末から、多様な施策の効果もあり各指標の数値は上昇しており、特に「女性係長比率」は+10.0Pt上昇しております。

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対象:日清食品㈱原籍者

 

3【事業等のリスク】

 文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末時点において当社グループが判断したものであります。

 

(1) リスクの定義及び管理体制

当社グループ(以下「当社」という。)では、リスクを組織の収益や損益に影響を与える不確実性と定義しております。リスクにはプラス影響とマイナス影響の両面があり、環境変化の中で組織が行う事業・投資により発生するプラス・マイナス影響は機会、インシデントが与えるマイナス影響はリスクと区分しております。機会については、投融資委員会、経営会議、取締役会で判断され、リスクについては「総合リスク対策委員会」で管理されております。

当社では、代表取締役副社長・COOを委員長とする「総合リスク対策委員会」を設置し、「日清食品グループリスク管理規程」に基づき、当社グループに係る種々のリスクの予防・発見・管理及び対応を行っております。特に、商品事故、BCP(事業継続計画)、コンプライアンス、情報セキュリティをグループの重点リスクと位置付け、「委員会」を設置し対応を行っております。また、環境・安全リスクに対応する組織を、サステナビリティ委員会のもとに設置しており、環境面等における重大事故が発生したときは、マニュアルに従って直ちに対応し、事態の収拾、解決にあたっております。

リスク管理体制においては、3ラインモデルを確立し管理・運用しております。第1線は、各事業部門(国内外関連会社含む)で、各事業部門が所管するリスクオーナーとしてコントロールを行っております。第2線は、総合リスク対策委員会をはじめとする間接部門で、第1線のリスク管理状況をモニタリングし、必要な支援・助言・監督を行っております。そして、第3線は、内部監査部で、組織上独立性を有し、客観的にリスク管理状況を監査し、助言を行っております。

 

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(2) 総合リスク対策委員会の具体的な活動

総合リスク対策委員会はリスクを一元的に俯瞰し、各主管部門のリスクを洗い出し、リスク事象を予防する仕組みの構築を指示しております。当社グループに甚大な影響を及ぼすリスク事象が発生した場合は「グループ重大事案対策本部」を設置し、速やかにリスク事象に対処し、再発防止の対策をたてることとしております。また各年度に1度、事業会社社長及び各チーフオフィサーによるリスク評価報告を基に、発生可能性と影響度の2軸で構成されるリスクマップにて各リスクを4段階のステージに分けて評価し、管理方針を定めて管理状況を取締役会に報告しております。なお、2024年度は、災害・事故、法令等違反、人事労務、情報漏洩・不正アクセス、人材の5つを、最も発生可能性と影響度が高いリスクステージに分類しております。

 

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(2024年度日清食品グループ リスクマップ)

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(3) 投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項

 有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項には、以下のようなものがあります。

 

① PL(製造物責任)

当社は、食品メーカーとして、お客様に安全・安心な食品を提供していくことを使命と考え、厳密な品質管理基準を設け生産を行っております。製造工場では、異物混入対策として社員への衛生管理の徹底や、高性能X線検査機導入によりアルミニウム片等の異物検査を強化しております。製品に使われる原材料の自動トレースができるよう、原材料情報を管理して、トレーサビリティ、品質管理カメラ、生体認証設備により、問題が発生した場合に原因を究明できる体制を整えております。

グローバル食品安全研究所を中心とした独自の品質保証体制を築き上げ、原材料の安全性及び各工場での品質管理体制の強化を図っております。研究所では、原材料に対して、農薬や動物用医薬品、重金属などの危害物質や放射性物質を分析するほか、遺伝子組み換え農産物やアレルギー物質のコンタミネーションの有無、最終製品の栄養成分などを確認しております。また、各工場の製造管理状態を「食品安全管理」、「有害生物対策」、「製造規範」、「メンテナンス (機器の定期検査)」、「清掃活動」の5カテゴリーで評価する日清食品 食品安全監査基準 (NISFOS)に基づいて監査し、そこで抽出された課題に対する改善策を提案し、改善の実施を確認しております。

 

② BCP(災害・事故)

当社は、国内外に多数の事業所や工場を有しており、当該地域における大規模な地震や台風などによる風水害、その他の自然災害の発生に対して、事業継続計画(BCP)を策定の上、BCP委員会を設置し、定期的な見直しをしております。近年の異常気象による災害の激甚化やグローバルな地政学的リスクの高まり、そして感染症による本社機能・工場操業・物流供給停止等となるリスクが高まっております。このようなリスクを可能な限り回避するため、当社は、BCPに従い、被害状況に応じて災害対策本部を速やかに立ち上げ、社員の生命を守りながら、食品企業の使命として商品供給を第一に考えて、生産・供給体制を維持できる体制をとっております。

 

③ コンプライアンス

当社は、世界の各拠点で事業を展開しており、その中で各国の法令や企業倫理等の社会的規範に抵触することで、刑事罰、行政処分、損害賠償責任等の法的責任の追及や、社会的制裁を受ける懸念があります。こうした事象が発生した場合、当社に対する信頼やブランド価値を低下させる可能性があります。これらのリスクに対して、取締役・CSO 兼 常務執行役員を委員長とする「コンプライアンス委員会」を原則四半期に一度開催し、内部通報窓口への相談・通報の傾向や発生事例の共有、予防策ならびに再発防止策の検討等を実施しております。また、法務部コンプライアンスグループを中心に組成するコンプライアンス委員会事務局及び各社・各部署に配置する「コンプライアンス推進責任者」が、実務者として諸課題・諸事案への対応にあたっております。

 

④ 情報セキュリティ

当社は、生産、販売、管理等の情報をコンピュータを利用した情報システムにより管理しております。これらの情報システムの運用にあたっては、構成する機器の故障・不具合や、サイバー攻撃に対して、システム停止や外部への社内情報の漏えいが生じないよう万全の対策を講じております。また、クラウドサービスや外部委託先との連携が進む中、サプライチェーン全体に対するセキュリティリスクも重要視しております。しかしながら、当社の想定を超えた全世界的な大規模障害や、未知の技術による不正アクセスなどにより、システム障害や外部への社内情報の流出が発生した場合、当社の財政状態及び業績に影響を及ぼすおそれがあります。このようなリスクを可能な限り回避するため、全社的なセキュリティ戦略を策定し、外部要因による情報漏えい防止対策やシステム復旧対策、有事におけるインシデント対応(CSIRTによるリスク事案対応)、平時における教育・啓発活動及び委託先セキュリティチェック等を実施しております。さらに、製造現場を含むOT領域との連携や、グローバル拠点のセキュリティ体制の統一にも取り組み、当社グループのITガバナンスを強化することにより、リスクの低減を図っております。

 

⑤ 環境

当社は、気候変動やそれに起因する自然災害により、原材料価格の高騰、製造工場の被災、カーボンプライシング制度の導入や人々の行動様式の変容など、さまざまな影響を受ける可能性があります。そのため、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース:Task Force on Climate-related Financial Disclosures)提言に則ったシナリオ分析を進め、リスク及び機会となる要因について科学的根拠をもとに業績に及ぼす影響を引き続き分析・評価しており、将来の不確実性に応じた戦略立案を進めております。そのような中で、当社は2020年4月に2030年までの環境戦略「EARTH FOOD CHALLENGE 2030」を策定し、気候変動に対する取り組みや資源の有効活用に関する目標を定めております。なかでも、CO2排出量の削減を重要課題と位置付けており、世界で議論されている「今後の平均気温の上昇を1.5℃に抑える」といった水準を意識した目標(Scope1と2の合計排出量を2020年総量比42%削減、Scope3では同25%削減。)を掲げております。さらに2021年2月、事業活動で使用する電力の再生可能エネルギー100%調達を目指す国際イニシアチブRE100(Renewable Energy 100%)に参画し、「2030年度までに国内外の事業活動で利用する電力の60%を再生可能エネルギーで調達する」、「2050年度までに国内外の事業活動で利用する電力を100%再生可能エネルギーで調達する」ことを掲げ、国内外の製造工場を中心に電力の再生可能エネルギーへの切替えを進めており、規制対応リスクの軽減を図っております。

また、生物多様性方針を策定し、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース:Taskforce on Nature-related

Financial Disclosures)提言に基づき、自社の事業活動が生物多様性に与える影響を分析し、自然関連のリスクと機会の評価を実施しております。

 

⑥ レピュテーション

日本国内においては、当社グループのマーケティング力と技術開発力によって、「チキンラーメン」、「カップヌードル」をはじめとする主力製品が永年にわたりお客様に親しまれております。しかしながら、即席めん市場には毎年多くの新製品が投入されていることに加え、将来的に他社によって画期的な技術が生み出されたり、若年層を中心に価値観の変化が生じたりすることで、当社グループ製品のブランド価値が低下するおそれがあります。そのようなリスクを考慮し、当社グループは常に創造と革新を続け、消費者ニーズの変化に対応し、新たな顧客層を取り込むことで、ブランド価値の持続的な向上に努めております。

また、海外においては、「カップヌードル」のグローバルブランディング戦略を軸に、現地の市場環境や生活者の価値観を捉えたマーケティング活動を展開することで、ブランド価値を高めております。

一方で、ステークホルダーが世界的に広がり、レピュテーションリスクにつながる要因が複雑化するとともに、当社グループが応えるべき社会的期待や要請のレベルも高まっております。当社グループでは「日清食品グループ人権方針」や「日清食品グループ持続可能な調達方針」を策定し、食の安全、人権の尊重、地球環境の保全を重点課題として取り組んでおります。さらに、人的資本における国際的な情報開示のガイドライン「ISO 30414」の認証取得や、人的資本に関する取組をまとめた「Human Capital Report 2024」の発行など、人的資本経営の高度化を推進しております。

 

⑦ 有価証券の公正価値下落

当社は、配当・キャピタルゲインの獲得以外に、経営戦略上、取引先との良好な関係を構築し、効率的・安定的な取引や業務提携等により事業の円滑な推進を図ることで中長期的な企業価値の向上を実現する観点から、必要と判断する株式などの有価証券を保有することがあります。当社が保有する有価証券は、将来の市況の悪化による公正価値下落や投資先の業績不振等により減損処理が必要となる場合があり、当社の財政状態及び業績に影響を及ぼすおそれがあります。

 

⑧ 財務会計

当社は、事業の用に供するさまざまな固定資産を有しております。それらの固定資産から生み出される将来の収益性によっては減損処理が必要となる可能性があり、当社の財政状態及び業績に影響を及ぼすおそれがあります。このようなリスクを低減するために、投融資委員会において社内基準に基づき経済合理性を十分に吟味し、投資判断を行っている他、実行後も投資効果について継続的にモニタリングを実施しております。

また、主要な為替リスクとして為替相場の変動による外貨建て仕入値の高騰がありますが、為替予約をおこなうなど為替リスクを低減するための措置をとっております。さらに各海外地域において所在地国の通貨で作成された財務諸表は、連結財務諸表作成のために機能通貨である円に換算されており、為替相場の変動により当社の財政状態及び業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

⑨ コーポレート

国内においては生産年齢人口の減少や、コロナ禍後の働き方の変容により、優秀な人材、とりわけグローバルな事業領域拡大や新規事業の推進に応じた人材を適切に採用・育成することが課題となっており、企業経営や主要事業に影響を及ぼすおそれがあります。中長期成長戦略2030で掲げる戦略テーマを実現するためには、多様な経験・専門性・価値観を持った社員が“適所適材”で活躍することが不可欠との認識から新卒・キャリアとも積極採用を実施しております。多様な就業観を持つ社員の採用力と定着力を高めるため、2024年4月より管理職を対象に日清流Job型(ジョブディスクリプションを明確化し、処遇を市場連動させ、複線型のキャリアコースを設定)を導入いたしました。その他、キャリア採用社員のオンボーディングプログラムの強化、当社グループ理念の浸透施策の継続実施、企業内大学NISSIN ACADEMYを中心とした人材育成の強化、多様なバックグラウンドを持つ社員がその能力を存分に発揮できる状態を目指したDE&Iの取組、公募制度の活性化など自律的なキャリア形成を支援する取組、コアタイムなしのフレックスタイム制度やテレワーク制度の活用など生産性の高い働き方を目指した取組、適切な方法による賃金の引上げや福利厚生の拡充など総合的な人的資本への投資を強化しております。これらの取組を通して、社員のワーク・エンゲージメントを高め、EARTH FOOD CREATORとして創造的な仕事を創発する人づくり・組織づくりに努めてまいります。

 

 

⑩ SCM

当社製品の主要原材料は、小麦粉・パーム油などの農産物及び包材に使用する石油製品であり、その価格は市場の状況により変動いたします。これらの原産国で政情不安や国際紛争の発生、地球温暖化に伴う天候不順による農作物の不作など、原材料価格に影響を与える多くの要因があり、原材料価格が高騰した場合、当社の業績に影響を及ぼすおそれがあります。これらの課題に対応するため、市況情報を常に把握し適切なタイミングで購入することや、原材料の産地や購買先を分散化することで価格高騰リスクを低減するなど、安定供給体制の強化に努めております。物流業界におけるドライバー人材不足、倉庫内作業者不足の問題など、今後は市場供給力が停滞するおそれがあります。これに対して、「ホワイト物流」推進運動の趣旨に賛同し、自主行動宣言を行い、得意先のご協力のもとでのリードタイムの延長、パレットなどの活用、トラック予約受付システムの導入、荷主側の施設面の改善、物流の改善提案と協力などを行っております。また、複数企業との共同輸送や共同保管の取組、モーダルシフトの推進など、引き続き持続可能な物流体制にむけ活動してまいります。

 

⑪ 特定の取引先への依存

当社は、製品の販売及び一部原材料の仕入において、特定の取引先に大きく依存しております。販売において、一部の会社につきましては特定の取引先に依存しておりますが、信用力の極めて高い大手取引先に取引を集中させることで、与信管理の省力化及び信用リスクの低減を図ることが可能なためであります。また、一部原材料の仕入についても特定の取引先に依存しているのは、これらの原材料を効率的に、かつ安定的に調達することが可能であるためであります。取引先に対する与信管理は適切に実施しているものの、これらの取引先の経営状態が悪化した場合は、当社は売掛金の回収が困難となることにより、また、原材料の供給が断たれた場合には生産活動が停止することにより、当社の財政状態及び業績に影響を及ぼすおそれがあります。

 

⑫ 海外カントリーリスク

当社は、海外においても、現地生産・現地販売を基本スタンスに即席めんをはじめとする食品を製造しております。これらの進出国において政情不安や国際紛争が発生した場合には従業員の安全を最優先に対応する方針であります。このほか、食品の安全性を脅かす事態や各国での法的規制により生産が困難になる場合、それらの子会社又は当社の財政状態及び業績に影響を及ぼすおそれがあります。これらの課題に対応するため、当社に専門性を有するプラットフォームを設置し、各海外現地法人のサポートに努める体制を構築しております。

 

⑬ 人口動態

日本国内では、現在、少子高齢化が急速に進んでおり、当社の主たる購買層である若年ユーザー層の減少が続いており、即席めん市場は、近年の新型コロナウイルス感染症による需要増を除くと、長期的には横ばい傾向にあります。このような状況の中、当社では、シニア層・若年層・女性層など各ターゲット層に対応したきめ細かな製品開発により、新たな喫食機会や価値の創出を図り、顧客層の維持・拡大に努めております。一方で海外においては、若年層は増加しボリュームゾーンとなっているため積極的に若者へのアプローチを強化する製品開発・コミュニケーション活動を展開しております。このように国内と海外主要地域における様々な人口動態の変化に柔軟に対応しながら、グローバルでの顧客の継続的な拡大に取り組んでおります。

 

⑭ 顧客ニーズの多様化

食における顧客ニーズの多様化が進む中、オーバーカロリーによる肥満や生活習慣病などの健康の問題が世界中で拡大しております。さらには、間違ったダイエット方法などによる隠れ栄養失調、シニアの食欲低下に伴う栄養摂取不足などによるフレイル等、新たな社会課題も発生しております。

当社は、即席めん事業で培った独自のフードテクノロジーを駆使することで「見た目やおいしさはそのままに、カロリーや塩分、糖質、脂質などがコントロールされ、必要な栄養素のバランスを整えた食」を開発し、事業展開しております。この新規事業を中長期成長戦略の3つの成長戦略テーマの一つに掲げ、新たなビジネスモデルの創造を推進していくことで、社会課題の解決に努めてまいります。

 

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

    文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末時点において当社グループが判断したものであります。

 

  (1)経営成績等の状況の概要

 当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりであります。

 

① 財政状態及び経営成績の状況

 当連結会計年度における世界経済は、各国の政策をめぐる不確実性や地政学リスクの高まりにより、先行きへの不透明感が継続しました。国内においては、雇用や所得環境の改善の動きがみられ、景気は緩やかに回復基調にありますが、物価上昇を受けた節約志向の高まりから、個人消費は力強さを欠く状況となりました。

 かかる環境下、即席めん業界においては、相対的な価格の手頃感や利便性が再評価され、世界総需要は過去最高となりました。

 こうした中で、当社グループは、2030年に向けた「中長期成長戦略2030」で掲げたビジョンの実現と持続的成長に向け、成長戦略テーマである①既存事業のキャッシュ創出力強化、②EARTH FOOD CHALLENGE 2030、③新規事業の推進に取り組んでおります。

 

a. 財政状態

 当連結会計年度末の資産合計は、前連結会計年度末に比べ360億78百万円増加し、8,484億61百万円となりました。

 当連結会計年度末の負債合計は、前連結会計年度末に比べ591億87百万円増加し、3,365億59百万円となりました。

 当連結会計年度末の資本合計は、前連結会計年度末に比べ231億8百万円減少し、5,119億1百万円となりました。

 なお、詳細につきましては「(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容 ② 当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容」に記載しております。

 

b. 経営成績

 当連結会計年度の経営成績は、売上収益では前期比6.0%増の7,765億94百万円となりました。利益面では、既存事業コア営業利益(注1)は前期比3.6%増の835億39百万円、営業利益は前期比1.4%増の743億69百万円、税引前利益は前期比0.2%減の767億98百万円、親会社の所有者に帰属する当期利益は前期比1.6%増の550億19百万円となりました。

 また、為替変動による影響を除くと、売上収益では前期比5.2%増の7,712億25百万円、既存事業コア営業利益は前期比1.8%増の820億18百万円となりました。(注2)

 なお、詳細につきましては「(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容 ② 当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容」に記載しております。

 

(注1)既存事業コア営業利益とは、営業利益から新規事業にかかる損益及び非経常損益としての「その他収支」

を控除したものであり、中長期成長戦略上、2022年3月期以降、積極的かつ継続的な先行投資を予定する新規

事業にかかる損益を分離し、その成長投資の基盤となる既存事業の実質的な成長を測定することを目的に採用

している指標であります。

(注2)2025年3月期の外貨金額を、前期の為替レートで円換算して比較しております。

 

     <連結業績>

 

 

 

(単位:百万円)

区分

前連結会計年度

当連結会計年度

前期比

自 2023年4月1日

至 2024年3月31日

自 2024年4月1日

至 2025年3月31日

金額

売上収益

732,933

776,594

43,660

6.0

既存事業コア営業利益

80,601

83,539

2,937

3.6

営業利益

73,361

74,369

1,007

1.4

税引前利益

76,915

76,798

△116

△0.2

親会社の所有者に

帰属する当期利益

54,170

55,019

849

1.6

 

 

 

   報告セグメント別の経営成績は次のとおりであります。

 

  (日清食品)

 日清食品㈱の販売状況は、カップめん類、カップライス類が売上を伸ばし、前期比で増収となりました。カップめん類では、「カップヌードル」、「日清のどん兵衛」、「日清焼そばU.F.O.」ブランドの主力商品は売上が堅調に推移し、さらに2024年10月発売の「日清の利きどん兵衛」シリーズに加え、2025年2月に発売した「開運どん兵衛」が売上に貢献し順調に推移しています。カップライス類では、「日清カレーメシ」シリーズが引き続き好調を維持しています。袋めん類では、2024年3月発売の「日清ラ王 3食パック」シリーズが新たな需要を開拓しました。利益面では、原材料価格や物流費の上昇等がありましたが、増収効果により増益となりました。

 この結果、報告セグメントにおける日清食品の売上収益は、前期比2.8%増の2,387億81百万円、コア営業利益

(注3)は、前期比3.6%増の306億19百万円、営業利益は、前期比3.8%増の308億77百万円となりました。

 

  (明星食品)

明星食品㈱の販売状況は、多様なニーズに対応したマーケティング戦略が奏功し、カップめん類、袋めん類とも、前期比で増収となりました。カップめん類では、主力の「明星 一平ちゃん夜店の焼そば」シリーズや「明星 ぶぶか油そば」が大きく伸長し貢献しました。袋めん類では、「明星 チャルメラ」シリーズが堅調に推移しました。利益面では、増収効果により、前期比で増益となりました。

この結果、報告セグメントにおける明星食品の売上収益は、前期比4.4%増の453億74百万円、コア営業利益(注3)は、前期比11.9%増の30億63百万円、営業利益は、前期比10.9%増の31億26百万円となりました。

 

  (低温・飲料事業)

チルド事業は、「チルド 日清焼そばU.F.O.」が売上に大きく貢献したほか、「麺の達人」、「有名店シリーズ」や、夏場に冷し群が好調に推移したこと等により、前期比で増収となりました。利益面では、売上増となったものの原価率の上昇等により前期比で減益となりました。

冷凍事業は、ラーメン類では「冷凍 日清中華 汁なし担々麺」、「冷凍 日清まぜ麺亭 台湾まぜそば」、パスタ類では「冷凍 日清もちっと生パスタ」の好調に加え、新商品「冷凍 日清スパ王喫茶店」の貢献や、価格改定効果もあり、前期比で増収となりました。利益面では、原材料価格や物流費の上昇等によるコストアップがありましたが、増収効果により前期比で増益となりました。

飲料事業は、「ピルクルひざアクティブ」が新商品として加わった「ピルクル」シリーズが好調に推移したほか、「十勝のむヨーグルト」シリーズの貢献もあり、前期比で増収となりました。利益面では、原材料費の増加がありましたが、増収効果により前期比で増益となりました。

この結果、報告セグメントにおける低温・飲料事業の売上収益は、前期比6.4%増の1,013億49百万円、コア営業利益(注3)は、前期比12.7%増の86億81百万円、営業利益は、前期比12.9%増の86億85百万円となりました。

 

  (菓子事業)

㈱湖池屋は「湖池屋プライドポテト」シリーズや「湖池屋ストロング」シリーズ等の高付加価値商品の販売が拡大したことに加え、国内外での価格改定等が奏功したことで、原材料費等の増加を吸収し、前期比で増収増益となりました。日清シスコ㈱は「ごろグラ」や「シスコーン」シリーズといったシリアルに加え、「ココナッツサブレ」シリーズ等が好調に推移し、前期比で増収増益となりました。ぼんち㈱は「ぼんち揚」「ポンスケ」等のファミリーパックやバリュープライスアイテムが好調に推移し、前期比で増収増益となりました。

この結果、報告セグメントにおける菓子事業の売上収益は、前期比8.6%増の924億43百万円、コア営業利益

(注3)は、前期比16.9%増の57億66百万円、営業利益は、前期比19.9%増の53億92百万円となりました。

 

  (米州地域)

 米州地域全体では、引き続き新たな需要創造に向けた高付加価値商品の提案強化や導入推進に取り組んでいます。売上については、ブラジルにおける生産体制の強化による「Nissin Lamen」等の主力製品の販売数量増加に加え、価格改定に伴う売上の増加が、米国における一部流通の販売数量減少を補完し、セグメント全体で増収となりました。

 利益については、ブラジルでは増益となったものの、米国での販売数量減及び物流費用等の増加により、セグメント全体で減益となりました。

 この結果、報告セグメントにおける米州地域の売上収益は、前期比5.1%増の1,685億65百万円、コア営業利益

(注3)は、前期比11.7%減の190億17百万円、営業利益は、前期比12.0%減の189億8百万円となりました。

 なお、為替変動による影響を除くと、売上収益は、前期比5.3%増の1,688億38百万円となり、コア営業利益は、前期比12.3%減の188億82百万円となりました。(注4)

 

 

  (中国地域)

 中国地域においては、販売エリア拡大や中国版カップヌードル「合味道」ブランドの強化、及び高価格帯袋めんの販売拡大に取り組んでいます。中国大陸では景気回復が遅れている中、内陸部への販路拡大によりカップヌードル「合味道BIG」を中心にカップめんの販売が伸長しました。香港では、香港市民の消費行動の変化によって冷凍食品などの非即席めん商品の販売が減少しましたが、「出前一丁」等の袋めんの販売は堅調に推移しました。また、その他地域における即席めんの販売は販路拡大に伴い伸長しました。加えて、9月に韓国の菓子事業会社「Gaemi Food」を、12月に豪州の冷凍食品会社「ABC Pastry」を買収し、香港日清の連結子会社としております。

 こうした状況の下、売上収益は即席めんの販売増や買収効果もあり増収となりました。コア営業利益については、パーム油等の原材料価格高騰による影響を受けたものの、主力の即席めんの販売増や、子会社の買収効果、為替影響もあり増益となりました。

 営業利益ベースでは固定資産に対する減損損失を第3四半期で計上したことにより減益となりました。

 この結果、報告セグメントにおける中国地域の売上収益は、前期比10.6%増の734億74百万円、コア営業利益

(注3)は、前期比3.4%増の83億30百万円、営業利益は、前期比27.3%減の59億6百万円となりました。

 なお、為替変動による影響を除くと、売上収益は、前期比5.1%増の698億37百万円となり、コア営業利益は、前期比1.5%減の79億35百万円となりました。(注4)

 

 また、報告セグメントに含まれない事業セグメントである国内のその他事業並びに欧州地域、アジア地域、新規事業を含んだ「その他」の売上収益は、前期比13.0%増の566億4百万円となり、コア営業利益(注3)は、前期比47.5%増の114億80百万円、営業利益は、前期比62.8%増の116億34百万円となりました。

 なお、為替変動による影響を除くと、売上収益は、前期比9.0%増の545億98百万円となり、コア営業利益は、前期比34.8%増の104億90百万円となりました。(注4)

 

(注3)コア営業利益とは、営業利益から非経常損益としての「その他収支」を控除したものであります。

(注4)2025年3月期の外貨金額を、前期の為替レートで円換算して比較しております。

 

     <報告セグメントの売上収益及びセグメント利益>

 

 

 

 

 

(単位:百万円)

報告セグメント

売上収益

前期比

セグメント利益

前期比

2024年3月期

2025年3月期

2024年3月期

2025年3月期

日清食品

232,221

238,781

6,559

29,741

30,877

1,135

明星食品

43,450

45,374

1,924

2,818

3,126

307

低温・飲料事業

95,221

101,349

6,128

7,692

8,685

992

菓子事業

85,150

92,443

7,293

4,496

5,392

896

米州地域

160,333

168,565

8,231

21,486

18,908

△2,577

中国地域

66,452

73,474

7,022

8,129

5,906

△2,222

そ の 他

50,102

56,604

6,501

7,146

11,634

4,487

小  計

732,933

776,594

43,660

81,512

84,532

3,020

調 整 額

△8,151

△10,163

△2,012

合  計

732,933

776,594

43,660

73,361

74,369

1,007

 

② キャッシュ・フローの状況

 当連結会計年度末における現金及び現金同等物(以下、資金という。)は、730億36百万円となり、前連結会計年度末に比べ236億23百万円の減少となりました。当連結会計年度末における各キャッシュ・フローの状況は以下のとおりであります。

 

 

(単位:百万円)

区分

前連結会計年度

当連結会計年度

前期比

自 2023年4月1日

至 2024年3月31日

自 2024年4月1日

至 2025年3月31日

営業活動によるキャッシュ・フロー

94,123

57,058

△37,065

投資活動によるキャッシュ・フロー

△61,912

△76,708

△14,796

財務活動によるキャッシュ・フロー

△26,323

△591

25,731

現金及び現金同等物に係る換算差額

3,383

△3,381

△6,764

現金及び現金同等物の増減額(△は減少)

9,271

△23,623

△32,894

現金及び現金同等物の期首残高

87,388

96,659

9,271

現金及び現金同等物の期末残高

96,659

73,036

△23,623

 

 

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

 営業活動による資金の増加は570億58百万円(前期比370億65百万円の資金の減少)となりました。これは主に運転資金等の増加が261億41百万円、法人所得税の支払額が198億18百万円となったことに対して、税引前利益が767億98百万円、減価償却費及び償却費が332億37百万円となったことによるものであります。

 

 (投資活動によるキャッシュ・フロー)

 投資活動による資金の減少は767億8百万円(前期比147億96百万円の資金の減少)となりました。これは主に有形固定資産の取得による支出が706億79百万円となったことによるものであります。

 

 (財務活動によるキャッシュ・フロー)

 財務活動による資金の減少は5億91百万円(前期比257億31百万円の資金の増加)となりました。これは主に社債の発行による収入が498億29百万円となったことに対して、自己株式の取得による支出が404億82百万円、配当金の支払額が226億33百万円となったことによるものであります。

 

③ 生産、受注及び販売の実績

a. 生産実績

 当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

(単位:百万円)

 セグメントの名称

 当連結会計年度

(自 2024年4月1日

  至 2025年3月31日)

 前期比(%)

 

日清食品

167,341

2.9

 

明星食品

29,313

△3.3

 

低温・飲料事業

57,427

7.5

 

菓子事業

96,910

16.6

 

米州地域

114,496

6.1

 

中国地域

47,170

7.2

 

報告セグメント計

512,659

6.5

 

その他

32,104

8.5

合計

544,764

6.6

 (注)セグメント間の取引については相殺消去しております。

 

b. 受注実績

 重要な受注生産は行っておりませんので、記載を省略しております。

 

c. 販売実績

    当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

(単位:百万円)

 セグメントの名称

 当連結会計年度

(自 2024年4月1日

  至 2025年3月31日)

 前期比(%)

 

日清食品

238,781

2.8

 

明星食品

45,374

4.4

 

低温・飲料事業

101,349

6.4

 

菓子事業

92,443

8.6

 

米州地域

168,565

5.1

 

中国地域

73,474

10.6

 

報告セグメント計

719,989

5.4

 

その他

56,604

13.0

合計

776,594

6.0

 

 (注)1 主な相手先別の販売実績及び総販売実績に対する割合は、次のとおりであります。

(単位:百万円)

 相手先

 前連結会計年度

(自 2023年4月1日

  至 2024年3月31日)

 当連結会計年度

(自 2024年4月1日

  至 2025年3月31日)

金額

割合(%)

金額

割合(%)

三菱食品㈱

92,302

12.6

91,400

11.8

2 セグメント間の取引については相殺消去しております。

 

  (2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

 経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。

 

① 重要性がある会計方針及び見積り

 当社グループの連結財務諸表は、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」(以下「連結財務諸表規則」という。)第312条の規定によりIFRS会計基準に準拠して作成しております。この連結財務諸表の作成に当たって、必要と思われる見積りは、合理的な基準に基づいて実施しております。

 なお、当社グループの連結財務諸表で採用する重要性がある会計方針、会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定は、「第5[経理の状況]1[連結財務諸表等](1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 3.重要性がある会計方針 4.重要な会計上の見積り及び見積りを伴う判断」に記載しております。

② 当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容

a. 経営成績

 当連結会計年度の売上収益は、前期比6.0%増の7,765億94百万円となりました。

 国内即席めん事業においては、日清食品セグメントはコア商品、価格コンシャス品とも好調に推移し、また明星食品セグメントも主要ブランドが好調だったことにより増収となりました。

 国内非即席めん事業においては、菓子事業セグメントの㈱湖池屋及び低温・飲料事業セグメントの日清ヨーク㈱が牽引したことに加え、価格改定効果もあり、全事業会社で増収となりました。

 海外事業においては、米州地域セグメントのブラジル及び中国地域セグメントが牽引したことで増収となりました。

 

 当連結会計年度の既存事業コア営業利益は、前期比3.6%増の835億39百万円となり、また当連結会計年度の営業利益は、前期比1.4%増の743億69百万円となりました。

 国内即席めん事業及び国内非即席めん事業においては、資材価格上昇等によるコスト増がありましたが、増収効果がカバーし、増益となりました。

 海外事業においては、米州地域セグメントにおける資材価格上昇によるコストの増加、米国事業の販売数量減及び持分法適用会社であるマルベンフードホールディングスLtd.の利益減等により、減益となりました。

 

 当連結会計年度の税引前利益は、前期比0.2%減の767億98百万円となり、また当連結会計年度の親会社の所有者に帰属する当期利益は、前期比1.6%増の550億19百万円となりました。これらは主に、営業利益の増加、金融費用の増加及び法人所得税費用の減少によるものであります。

 

 なお、当社グループの経営に影響を与える主な要因は、「第2[事業の状況]3[事業等のリスク]」に記載しております。

 

b. 資本の財源及び資金の流動性

(キャッシュ・フローの状況)

 キャッシュ・フローの状況につきましては、「第2[事業の状況]4[経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析](1)経営成績等の状況の概要 ②キャッシュ・フローの状況」に記載のとおりであります。

 

(資金の需要と調達)

 営業活動により獲得したキャッシュ・フローは、企業価値向上に資する各種投資及び配当を中心とする株主還元に優先的に配分を行っておりますが、一時的に資金が不足する場合には、必要に応じて、社債発行、金融機関からの調達及び保有資産の売却等によりキャッシュ・フローの確保を行っております。

 

 

(資金の流動性)

 当社グループは、従来より営業活動により安定したキャッシュ・フローを得ており、今後も引き続き資金源になると見込んでいることに加え、主要な国内金融機関に対して、アンコミットメントベースの融資枠を設定しております。また、当社及び主要な国内連結子会社における余剰資金の一元管理を図り、資金効率の向上と金融費用の削減を目的として、CMS(キャッシュマネジメントシステム)を導入しております。

 

c. 財政状態

 当連結会計年度末の資産合計は、前連結会計年度末に比べ360億78百万円増加し、8,484億61百万円となりました。これは主に現金及び現金同等物が236億23百万円減少した一方、有形固定資産が362億17百万円、持分法で会計処理されている投資が169億36百万円増加したことによるものであります。

 

 負債は、前連結会計年度末に比べ591億87百万円増加し、3,365億59百万円となりました。これは主に営業債務及びその他の債務が167億49百万円減少した一方、非流動負債の社債及び借入金が556億8百万円、流動負債の借入金が250億97百万円増加したことによるものであります。

 

 資本は、前連結会計年度末に比べ231億8百万円減少し、5,119億1百万円となりました。これは主に利益剰余金が121億14百万円増加した一方、自己株式が197億7百万円増加(資本は減少)したことによるものであります。

 これらの結果、親会社所有者帰属持分比率は前連結会計年度末の60.7%から56.0%となり、4.7ポイント減少しております。

 

d. 経営方針・経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等

 当社グループは、2030年に向けた「中長期成長戦略2030」を策定しております。

 ビジョンの実現と持続的成長に向け、成長戦略テーマである①既存事業のキャッシュ創出力強化、②EARTH FOOD CHALLENGE 2030、③新規事業の推進に取り組んでおります。

 「中長期成長戦略2030」では、持続的な利益成長に加え、効率的な資本活用、安全性ある負債活用、そして安定的な株主還元の4つをCSV経営上の中長期的経済価値ターゲットとして掲げ、非財務目標との同時実現を追求してまいります。「中長期成長戦略2030」の進捗状況は下表のとおりであります。

 

 

項目

区分

項目

目標値

進捗レビュー

財務

成長性

既存事業コア営業利益成長率

(注1,2、3)

Mid-single Digit

(オーガニック)

(注4)

2020-2024年度 18.8%

2023-2024年度 3.6%

効率性

ROE(注3)

2030年度までを

目途に15%

2024年度

11.4%

安全性

Net Debt/EBITDA(注5)

2倍以下

2024年度

0.4x

安定的株主還元

累進的配当

配当性向:約40%

2024年度 38.0%

累進的配当継続

自己株式の取得

機動的な

自己株式取得

2021年度 約120億円

2022年度 約120億円

2024年度 約400億円

相対TSR(TOPIX食料品対比)(注6)

1倍超

2022年度 1.1倍

2023年度 1.1倍

2024年度 0.9倍

非財務

(注7)

有限資源の

有効活用

持続可能なパーム油の調達比率(注8)

100%

2024年

46.1%

水使用量(IFRS売上100万円あたり)

12.3㎥以下

2024年

9.2㎥

流通廃棄物削減率

(2015年度対比/日本国内)

△50%

2024年

△34.6%

気候変動

インパクトの

軽減

CO₂排出削減(Scope 1+2) (2020年対比)

(注9)

△42%

2024年

△17.6%

CO₂排出削減(Scope 3)(2020年対比)

(注9)

△25%

2024年

△5.0%

(注)1 IFRS会計基準上の営業利益から、積極的な先行投資を予定する「新規事業に係る損益」及び非経常損益としてのその他収支」を控除したNon-GAAPの重要経営管理指標

2 2023年3月期より既存事業コア営業利益成長率の計算方法を実績の為替レートに基づく方法に修正

3 2024年5月に中長期的目標を上方修正

既存事業コア営業利益成長率:「Mid-single Digit」→「Mid-single Digit(オーガニック)」

ROE: 「長期的に10%」→「2030年度までを目途に15%」

4 Mid-single Digit(オーガニック): インオーガニックグロース(M&A等)、外部環境の急変化(為替、インフレ率等)を含まない実力値としての成長性

5 2025年3月期より純有利子負債の計算方法を変更

6 相対TSR(TOPIX食料品対比)は、以下の算定式に基づき算出

      0102010_058.jpg

A:当事業年度の3事業年度前の1月~3月における3か月間の当社株式の終値平均

B:当事業年度の1月~3月における3か月間の当社株式の終値平均

C:当事業年度を含む過去3事業年度における1株当たり配当額の累計

D:当事業年度の3事業年度前の1月~3月における3か月間のTOPIX食料品(配当込み)の終値平均

E:当事業年度の1月~3月における3か月間のTOPIX食料品(配当込み)の終値平均

7 非財務目標については、2030年度の目標値

8 外部認証の活用及び独自アセスメントによる

9 2023年5月にCO₂排出削減の目標値を上方修正

Scope 1+2: △30%(2018年対比)→△42%(2020年対比)、Scope 3: △15%(2018年対比)→△25%(2020年対比)

 

5【重要な契約等】

 該当事項はありません。

 

 

6【研究開発活動】

(1)日清食品

「EARTH FOOD CREATOR」というグループ理念に基づき、即席めんを中心とした商品開発、健康と栄養に関する基礎・応用研究及び環境保全対策の研究を行っております。

即席めんでは、「カップヌードルPRO高たんぱく&低糖質」シリーズにおいては、塩味を強める当社独自の特許技術と、塩味を強める際に出てくるエグみを感じにくくする技術を組み合わせた「ちゃんとしょっぱい! 塩分控えめ製法」を新たに採用することで、“高たんぱく”“低糖質”に加えて塩分25%オフ(レギュラー品に対して)を実現いたしました。

また、日本人の食事摂取基準で設定されたビタミン・ミネラルなど33種類の栄養素とおいしさの完全なバランスを追求した「完全メシ」ブランドにおいて、カップヌードルシリーズでは初となる「完全メシ カップヌードル 汁なしシーフードヌードル」を2024年9月9日に発売し、さらにインスタントラーメンでNo.1の売上を誇る「カップヌードル」の味わいを、湯切りして作る“汁なし焼そば”で表現した「完全メシ 汁なしカップヌードル」を2025年3月24日に発売いたしました。

環境関連では、石油化学由来のプラスチック削減のため、PSP(発泡ポリスチレンシート)カップの一部を対象に、容器を成型する過程で生じた端材を回収し、リサイクル材料として再利用したカップの生産の拡大を行っており、石油化学由来のバージン原料の削減を行っております。

また、カップ製品の一部に使用されているシュリンクフィルムのプラスチック削減を実施しております。

その他、謎肉などの「大豆たんぱく加工」で培った技術を駆使してリアルな食感、リアルな見た目を追求した、“プラントベースうなぎ”の開発、将来的な食糧危機や地球温暖化解決の一助と期待される代替肉の開発や「培養肉」の研究(東京大学と共同研究)、パーム油を代替する酵母生産油脂の研究にも取り組んでおります。

グローバルイノベーション研究センターでは、この他にも菓子類の開発や、商品開発を支える取組として本格的な美味しさを低コストで実現するために調味料や天然香料の研究開発や味覚受容体などの基礎研究を行っております。今後も新しい技術開発を進め、顧客のニーズに迅速に応えるべく付加価値の高い商品開発を行ってまいります。

 

(2)明星食品

明星食品は2024年度も顧客の多様なニーズに応えるため、「明星五重塔戦略」と題した5つの異なる価格帯の商品ラインナップ戦略を強化しております。

まず、2024年7月に「明星 一平ちゃん夜店の焼そば」のからしマヨネーズをリニューアルいたしました。卵の配合量を増やし、濃いソースとの相性が良いコクと濃厚感を演出しております。また、マヨネーズの包材も環境対策としてアルミレスに変更いたしました。

次に、2024年9月には「明星 チャルメラ しょうゆラーメン」をはじめとするシリーズをリニューアル発売いたしました。チャルメラの特徴であるホタテのだし原料をすべて国産に切り替え、麺とスープの両方でホタテの旨みを楽しめる商品に仕上げております。

また、2024年9月には「青春という名のラーメン」シリーズを発売いたしました。このシリーズでは、熱湯1分で湯戻りができる滑らかさと弾力のある麺を実現し、各商品に特徴的な具材を取り入れております。「明星 青春という名のラーメン 胸さわぎでかミート しょうゆ味」ではハンバーグ風の「でかミート」、「明星 青春という名のラーメン 誘惑でかタマゴ チャンポン味」ではふんわり食感の「でかタマゴ」、「明星 青春という名のラーメン 純情でかポテト しおバター味」ではホクホク食感の「でかポテト」を1分で復元させ、商品化いたしました。

CSV活動の一環として、減塩対策にも取り組んでおります。2024年10月には、スープを内側下線まで残すことで食塩摂取量をコントロールできるカップの特許を取得いたしました(特許出願番号:特願2020-175341)。

これらの取組を通じて、明星食品は顧客満足度の向上と持続可能な社会の実現を目指しております。

 

 

(3)低温・飲料事業

(チルド食品)

当社独自の「おいしさ長持ち製法」により「行列のできる店のラーメン」、「有名店シリーズ」の生めん商品の賞味期限を延長することで食品ロス率を低減し、また、主要ブランドのプラスチックトレーのプラスチック削減を実施し、地球にやさしいエコ商品を目指しております。

喫茶店で味わえるレトロなメニューがフライパンで炒めるだけで味わえると大変好評を頂いております「スパ王喫茶店シリーズ」から「たらこクリーム/ミートソース」、「行列のできる店のラーメン」からは「中華あんかけ/特濃ちゃんぽん」、人気ラーメン店監修の「天下一品 濃厚鶏白湯」、焼そばでは「日清焼そばU.F.O.」、「アウトドアスパイス ほりにし監修焼そば」、「湖池屋カラムーチョ焼そば」などを新発売いたしました。アレンジを楽しめる素材めんとスープパック商品「麺の達人」「スープの達人」の拡充や1人前商品「最強のラーメン/究極のつけ麺/至極の辛麺」を発売するなど、外食品質の本格的な商品や環境に配慮した商品の開発、多様化するお客様のニーズに応える新価値の創造など、新技術や新製品の研究・開発に努めてまいります。

 

(冷凍食品)

冷凍食品の強みを活かした「簡単に調理できる本格的な美味しい料理」を、中華めん、パスタ、和物、米飯ジャンルからバラエティ豊かな商品の開発に取り組んでおります。

中華めんでは、麺のおいしさを追求した「日清本麺」の麺に全粒粉を配合し、小麦の香り、旨みを感じられるよう改良し「ホタテだしうま塩/豚骨醤油」を新発売いたしました。汁なし麺の「まぜ麺亭 海老まぜそば」、パスタでは、懐かしい喫茶店の味わいの「スパ王喫茶店のナポリタン/ミートソース/たらこバター/カルボナーラ」、スパ王プレミアムからは「クアトロフォルマッジ/モッツァレラトマト」、もちっと生パスタからは新たな細めの平打ちタリオリーニを使用した「完熟トマト/和風バター醤油」、和物では「日清のどん兵衛 湯葉のあんかけうどん」、米飯では皿いらずで外装パックが器になる「パパパックごはん焼豚炒飯/ビビンバ/チキンライス」などの新メニューを開発いたしました。これからも、「本格的な美味しさ」と「調理の簡便化」の研究開発を続け、お客様のニーズにお応えしてまいります。

 

(飲料)

日清ヨーク㈱においては、開発研究所が関東工場内にあるという立地を生かし、スピード感をもって新商品やリニューアル品の開発を行うと共に、乳酸発酵に関する研究を推進しております。開発商品群としては、発酵乳、乳製品乳酸菌飲料、乳酸菌飲料、清涼飲料があり、「みんなイキイキ!」のコーポレートスローガンのもと、主力である「ピルクル」や「十勝のむヨーグルト」ブランドのさらなる強化を図るとともに、当社のコア技術である発酵技術を活かした高付加価値製品の開発に注力し、美味しく健康に役立つ商品の創出に努めております。

乳製品乳酸菌飲料では、2022年に発売し大ヒットした「ピルクル ミラクルケア」に続き、「歩行時のひざ関節の違和感を軽減する」、「腸内環境を改善する」といった機能が期待される機能性表示食品「ピルクル ひざアクティブ」を発売し、シニア世代の身体の悩みに寄り添う商品展開を図っております。さらに、休売していた65ml商品の「ピルクル400 鉄分」の販売を再開するとともに、「ピルクル400 カロリーハーフ」として刷新・新発売いたしました。「ピルクル400」シリーズに加え、「りんご乳酸菌」も復活し、乳児用規格適用食品として、小さなお子さまを含むご家族皆さまに安心してお飲みいただける商品を取り揃えております。また、コンビニエンスストア向けには「ピルクル400」のエクステンション商品として「ピルクル フルーツオ・レ」を、清涼飲料水カテゴリーでは「あの日飲みたかった もも缶シロップ」、「のむりんご飴」を発売するなど、細分化するお客様の嗜好や健康意識に対応した商品ラインナップの強化を図り、日清ヨーク商品群の活性化と価値向上に努めてまいりました。

発酵乳では、「BMIが高めの方の日常活動時の脂肪の燃焼を高める」、「ウエスト周囲径を減らすのを助ける」機能を有する機能性表示食品「スリムケアのむヨーグルト」を発売し、生活習慣に寄り添った継続飲用につながる商品ラインの充実を進めております。

 

 

(4)菓子事業

㈱湖池屋は「湖池屋プライドポテト」、「ピュアポテト」、「湖池屋ストロング」等の高付加価値ブランドを中心として、社会変化・生活変化・意識変化に対応した新市場創造型の商品開発に取り組んでおります。

新商品として、世界中のじゃがいもの中から日本の風土にあうものとして選抜され日本のテロワールにて育成された湖池屋のブランド芋を使用する、究極に美味しいポテトチップスの実現のためのプロジェクト『究極のポテチ計画』より、「湖池屋ファーム 黄金の果肉 焼き塩」「湖池屋ファーム 旨味こぼれ すじ青のり」を発売いたしました。また、食の“分食化”に対応したスナック感覚で手軽に食べられる“新しい食の選択肢”として誕生したセイボリー(甘くない)パイブランド、「ランチパイ」をリニューアルし、新たに「ランチパイ ビーフカレー」をラインナップに加えております。更に、湖池屋の誇るロングセラーブランドの可能性を広げる新食感への取組として「カラムーチョクラッシュ」、「スコーンクラッシュ」を発売いたしました。

また、企業における地域貢献活動の一環として地域とともにテーマに取り組み、商品を通じた社会貢献を目指す「湖池屋 JAPAN PRIDEプロジェクト」を2018年より推進してまいりましたが、世界に誇れる日本の食材を使用し、発信することで日本を盛り上げたいとの思いから、2024年より“日本産食材の魅力”を支える匠の技と情熱の結晶である“日本の神業”に着目いたしました。「湖池屋プライドポテト 日本の神業」シリーズとして新たに展開し、「小豆島(手摘みオリーブ)」、「神戸(神戸ビーフ)」、「熊本(くまもとあか牛)」、「宗像(九州焼のり醤油)」、「金沢(金沢の甘えび)」、「京都(京都柚子七味)」の他、地域を跨ぎ「縄文遺跡群(北海道・青森・秋田・岩手)」をテーマとした「縄文(縄文香る帆立だし)」を加えた7商品を発売し、各地域の貢献・振興に沿った企画を実施いたしました。

今後も「食でくらしをゆたかに。」をテーマに、社会に貢献する食のイノベーションの実現に向けた商品・ブランド・コミュニケーションの開発を続けてまいります。

 

日清シスコ㈱は、「もっと楽しく、健やかに」をスローガンに掲げ、品質と健康機能を両立させた商品開発に尽力しております。日清シスコ㈱のシリアル部門は開発研究所第一グループが、菓子部門は第二グループが担当し、付加価値及び健康価値を高めた新規シリアルや菓子の基礎開発研究は第四グループが手掛けております。包装は第三グループが環境負荷を減らす設計や物流効率改善に努めております。

2024年度は創業100周年を記念し、菓子部門から「ココナッツサブレミニ ココナッツフィーバー!」や「チョコフレークコーンフィーバー!ミルク、ホワイト」を期間限定で発売いたしました。これらの商品は、コンセプトに遊び心を取り入れ、ココナッツやスイートコーンの風味を活かした点が特徴であります。

シリアル部門では、シスコーンシリーズからハートや星型の「シスコーン サクサクハートいちご味」と「シスコーン サクサクスターメープル味」を発売し、お子様の楽しい朝食の一助となっております。また、素材、製法、味わいにこだわり、コーンの甘みとうまみが感じられる「クラフトシスコーン」を新たに市場に投入いたしました。ごろグラシリーズからは、自社の菓子製造のノウハウを取り入れ、新具材さつまいもクッキーを配合した「ごろグラ さつまいもづくし」を発売し、顧客から大好評をいただいております。その他ごろグラシリーズでは具材を刷新し、果肉感を強化したマンゴーや新具材の自社製クランチを配合し、賞味期間を10ヶ月に延長して食品ロスの低減にも取り組んでおります。さらに、グラノーラの製造技術を活かして焼き上げた「おいしいオートミール じっくりロースト」を発売いたしました。

日清シスコ㈱は、当社グループの研究機関the WAVEと協力し、オリジナリティあふれるシリアルと菓子の開発に励んでおります。顧客の期待を超える商品を創出するために、今後も真摯に取り組み続けてまいります。

 

 

 

(5)食品安全や環境経営、栄養改善への取組

グローバル食品安全研究所では、食品安全に関する先進研究として新規危害物質の探索・合成・分析法や、健康影響を評価する細胞試験法などを確立してまいりました。2021年12月に開催された東京栄養サミットにおいて、食物アレルゲン推奨表示項目の一斉分析法の開発とその運用をコミットメントの一つとして発表し、分析法の開発を行っております。2023年度から製品検査への運用を開始しております。また、2023年3月の食品表示基準改正により新たに特定原材料に指定されたくるみのPCR検出技術を開発し、くるみを含む食品の検査方法として通知法に採用されております。消費者庁が加工食品などでの原材料表示を義務づける方針を示した「カシューナッツ」についても、PCR及び質量分析計を用いた検出技術を開発する消費者庁の事業に2023年度から参画しております。

さらに、当社グループの事業分野拡大やグローバル化に対応し、国内事業を対象に実施していた各工場と研究所による製品検査の二重管理体制、及び分析技術の精度管理試験を通じた集中管理体制について、新規事業や海外事業へも拡大しております。今後も、海外・新規事業での品質保証体制への支援強化を継続し、新規分析法や迅速検査法の確立によりグループ事業全体の食品安全向上に貢献してまいります。

製品や原料の生産現場における調査・監査体制につきましては、独自に定めた日清食品 食品安全監査基準NISFOS(Nissin’s Inspection Standards for Food Safety)による製造環境の調査を通じて改善を図っております。2022年にはIRCA(International Register of Certificated Auditors)より、NISFOSがISO22000規格と同等以上の監査規格であると認定されております。これを用いた監査により、今後も各工場における品質・食品安全管理を強化してまいります。

さらに、持続性のある地球環境を維持するためのCSV経営推進のための取組として、当社独自の環境活動検査基準RISEA(Food Safety Research Institute's Inspection Standards for Environmental Activities)による調査を通じて、グループ工場における環境関連法規への遵守状況や、省エネルギーによる温室効果ガス削減及び資源3R(抑制:Reduce、再利用:Reuse、再資源化:Recycle)などに関連する環境活動を評価しながら改善を図っております。

当社グループの環境戦略である「EARTH FOOD CHALLENGE 2030」の目標達成に向け設置されたサステナビリティ委員会及び環境ワーキンググループの事務局としての活動は、その重要性を増しております。加えて、2022年11月には、森林破壊などによる自然や生物多様性の減少をプラスに回復させる「ネイチャーポジティブ (Nature Positive)」に向けた活動を推進し、2050年までにCO2の排出量と吸収量を“プラスマイナスゼロ”にする「カーボンニュートラル」の達成を目指すことを宣言いたしました。2023年5月にはCO2削減目標を上方修正し、インターナルカーボンプライシング制度を導入することで、目標達成に向けた取組を加速しております。また、2023年度からは、国際的な環境情報開示プラットフォームであるCDPサプライチェーンプログラムに参画し、サプライチェーン全体の環境影響の管理と測定を開始しております。特に、温室効果ガス排出量の削減においては、サプライヤーが排出するSCOPE3の管理が重要であり、CDPサプライチェーンプログラムを通じて得られるデータを活用し、サプライヤーと協力して、SCOPE3の削減に向けた取組を推進してまいります。

CO2削減、プラスチック、水資源保全、食品廃棄物、資源循環など様々な環境課題に対し、データ解析など研究所としての視点と、工場や製品開発部門などの現場とも連携し、目標達成のロードマップ策定と施策を立案・実行することにより、当社グループのCSV経営の推進に寄与できるよう取り組んでまいります。

2023年9月には環境推進部をサステナビリティ推進部に発展させ、従来の環境問題対応に加え、栄養改善と食品安全に戦略的に取り組む体制を構築いたしました。2024年2月には栄養戦略の基本的な方針である栄養ポリシーを作成し、栄養改善のツールとして製品の栄養価をスコア化する独自の栄養プロファイリングシステム:NISSIN-NPSを開発、運用開始しております。また、オランダの非政府組織Access to Nutrition Foundation (ATNF) が発表している栄養課題に対する企業の取組を評価するATNi Global Index 2024の評価対象となり、当社は、世界の大手食品企業30社中16位となっております。今後、外部組織との対話を通じた栄養改善にも取り組んでまいります。

グローバル食品安全研究所での上記の様々な活動により、食物アレルゲン検査法開発、リスク評価手法開発及び栄養プロファイルモデルについて大学や公的機関と共同研究を推進し、2024年度には学会発表7件、学術論文2報の学術的成果も創出しております。

 

 当連結会計年度の研究開発費は11,972百万円であります。

 なお、当社グループの研究開発費用は、報告セグメント別に区分することが困難であるため総額で記載しております。