第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中の将来に関する事項については、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものであり、その達成を保証するものではありません。

 

(1)当社グループの企業理念

当社グループは、創業者である渋沢栄一が座右の銘の一つとしていた『順理則裕』を企業理念としています。『順理則裕』とは、「なすべきことをする、なすべからざることはしない。順理を貫くことで、世の中をゆたかにし、自らも成長する。」という会社の創業精神です。いわゆるCSV(Creating Shared Value:社会課題の解決に貢献するとともに、経済的価値の向上を図り、企業価値を高める)の考え方を、当社グループは創業当時から140年間受け継いできました。

2019年、当社グループは、あらためて渋沢栄一の創業精神に立ち戻り、時代の変化に対応しながら、社会への貢献を通じて成長軌道を描き続ける会社となるために、企業理念体系「TOYOBO PVVs」として再整理しました。

 

■企業理念体系「TOYOBO PVVs」

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(2)サステナブル・ビジョン2030

企業理念体系「TOYOBO PVVs」に基づいて、2022年、長期ビジョン「サステナブル・ビジョン2030」を策定しました。2030年の事業環境変化・社会トレンドを想定し、「人」と「地球」に関する5つの社会課題を設定しました。さらに、それぞれの課題について、サステナビリティ目標を設定しました。当社のコア技術をベースにイノベーションを起こしながら、これらの目標を達成することにより、「安心してくらせる「ゆたか」な社会の実現と企業価値向上のスパイラルアップ」という当社グループのありたい姿を実現していきます。

 

■サステナブル・ビジョン2030

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■社会課題に対するサステナビリティ目標

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(3)マテリアリティ

当社グループは、ステークホルダーの要請・期待に応え、めざす姿「人と地球に求められるソリューションを創造し続けるグループ」に向かって、マテリアリティ(サステナブルな会社であるための重要課題)を特定しています。ステークホルダーにとっての影響度と当社グループにとっての影響度の2軸において、特に優先度の高い課題を明確にしています。

策定した「サステナブル・ビジョン2030」を踏まえて見直しを進め、化学物質を扱うメーカーとして、「品質」、「化学物質管理」は、基盤となる重要課題であると再認識し、「安全防災、コンプライアンス(品質を含む)、ガバナンス」から、「品質」を独立させ、「化学物質管理」を追加しました。

 

■マテリアリティ

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(4)2025中期経営計画(2022~2025年度)

① 経営環境

2025中期経営計画のビジョンの検討にあたって、当社を取り巻く経営環境は、以下のように想定いたしました。

・ステークホルダー資本主義により企業のあり方が変わる

・脱炭素、循環型経済、EV化の進展

・技術進歩・実装の加速(DX、ライフサイエンスなど)

・国内市場漸減、資源価格の高止まり、調達リスクの高まり

・人々の意識・価値観・行動の変容

 

 

しかしながら、昨今の世界情勢は、ロシアによるウクライナ侵攻に端を発する地政学的な緊迫、新型コロナウイルス感染症の影響の長期化、気候変動による自然災害の激甚化・多発化など、地球と社会の持続可能性が一段と問われる変化が当初の想定を上回るスピードで起こっています。

このような変化の激しい経営環境の中で、当社グループは、社会のサステナビリティに貢献し、サステナブルな成長を実現する会社になるため、2025中期経営計画を実行していきます。

 

② 基本方針

2025中期経営計画(2022~2025年度)は、「サステナブル・ビジョン 2030」で掲げる目標達成に向けた通過点として、この4年間を「つくりかえる・仕込む4年」と位置づけています。「4つの施策」を経営方針とし「サステナブル・グロース」への変革を図ります。

 

■基本方針と4つの施策

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③ 4つの施策

イ)施策1:安全・防災、品質の徹底

安全・防災については、現場総点検、防災総点検、老朽設備更新を含む安全・防災投資、安全防災研修の充実などを含む「安全・防災マスタープラン」を実行し、「ゼロ災」をめざします(サステナビリティ目標:全ての現場でゼロ災害達成)。また、品質については、品質保証研修の充実、PL/QAアセスメントの徹底、コンプライアンス教育の強化など、組織風土改革と品質文化づくりに注力し、ゆるぎない信頼の獲得をめざします。さらに、安全・防災、品質をはじめとするリスクの把握、回避・低減、適切な対応を可能とするため、リスクマップの作成、モニタリングシステムの拡充、グループ会社のガバナンス整備などを進め、グループ全体のリスクマネジメント体制を強化していきます。

 

ロ)施策2:事業ポートフォリオの組替え

「収益性」と「成長性」の2軸で各事業を「重点拡大事業」「安定収益事業」「要改善事業」「新規育成事業」に層別し、各々の位置づけに応じた事業運営を行います。「収益性」は営業利益を使用資本で除した使用資本利益率(ROCE)、「成長性」は年平均売上高成長率(CAGR)を指標としています。「収益性」は資本コストをベースにハードルレート6.5%、「成長性」は業界の年平均売上高成長率を参考にハードルレート4.5%を目安として設定しています。なお、当社グループ全体の資本効率性指標はROICとし、2025年度の目標を5.0%以上としていますが、各事業の層別においてはROCEを用いています。

フィルム事業およびライフサイエンス事業は、当社グループに優位性があり、市場の拡大が見込めるものとして「重点拡大事業」に位置づけ、中長期の成長拡大をめざして積極的な投資をしていきます。また、環境・機能材事業は、これまで安定収益事業に位置付けられていました。しかし、今後の事業環境を踏まえ、各商材のもつ成長機会および潜在力を再評価し、第三の柱とすべく、三菱商事との合弁会社を設立・運営することで、成長拡大に挑戦します。

「要改善事業」のエアバッグ用基布事業、医薬品製造受託事業、衣料繊維事業の3事業については、正常化に向けた対策を講じ、グループ全体の資産効率の向上に取り組み、2025中期経営計画期間中の黒字化をめざしています。

 

■事業ポートフォリオの組替え:事業層別の考え方

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■事業ポートフォリオの組替え:3分野での積極拡大

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ⅰ)フィルム事業

当社は他社に先駆け、すでに2010年にリサイクル樹脂の使用比率が60%で薄肉(18μm)のポリエステルフィルムを開発するなど、10年以上前からリサイクル・減容化(薄肉化)という環境に配慮した製品開発に取り組んできました。

現在、さらに省資源・循環型社会に貢献する製品を増やす取組みを進めています。以下の図はその取組みの一例です。

 

 

■フィルム事業の省資源・再資源化

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気候変動、廃プラ問題がグローバルな課題とされる中、当社は、上記の取組みにより環境配慮製品へのシフトを加速し、「プラスチックとの共生社会」の実現をめざしていきます。サステナビリティ目標として、2030年度にグリーン化(バイオマス、リサイクル、減容化)比率60%を掲げ、2050年度には100%をめざします。

一方、デジタル社会に貢献する製品としては、液晶偏光子保護フィルム、セラミックコンデンサ用離型フィルムを中心に拡販していきます。

a.液晶偏光子保護フィルムは、液晶テレビに使われています。当社独自の技術を駆使した超複屈折ポリエステルフィルムです。50%超の面積シェア(当社推定)をさらに高めていく予定です。

b.セラミックコンデンサ用離型フィルムは、MLCCの製造工程に使われています。平滑性に優れることが当社の強みです。市場の成長に応じて、2024年には、ハイエンドのセラミックコンデンサ用離型フィルムを、原反からコーティングまで1工程で製造する、当社独自の設備を新設・稼働予定です。

 

2025年度のフィルム事業の売上高は、2021年度に対して36%増の1,900億円を目標としています。

 

ⅱ)ライフサイエンス事業

バイオ事業は、1948年、レーヨン繊維の原料であるパルプの廃液処理のため酵母培養研究を開始したところから始まりました。現在、高機能たんぱく質を作る技術を強みに、生化学診断用原料酵素、遺伝子検査用原料酵素、研究用試薬、診断薬、診断システムまで幅広く展開しています。ポストコロナに向けて、感染症ソリューションビジネスを拡大していきます。メディカル事業は、製膜技術に強みがあり、その強みを生かして、慢性血液浄化膜から、急性血液浄化膜の市場に拡大していきます。以下は、主要製品の拡大計画です。

 

 

■ライフサイエンス事業の拡大

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2025年度のライフサイエンス事業の売上高は、2021年度に対して21%増の400億円を目標としています。

 

ⅲ)環境・機能材事業

当社は、三菱商事株式会社と機能素材の企画、開発、製造および販売を行う合弁会社として東洋紡エムシー株式会社を設立し、当社51%、三菱商事㈱49%の出資比率で、2023年4月に事業を開始しました。東洋紡エムシー㈱は、当社の技術力と、三菱商事㈱の総合力を融合し、グローバル市場でさらなる成長をめざします。特に、海水淡水化膜、VOC回収装置、浮体式洋上風力発電の係留ロープに使用可能な超高強力繊維などの「環境ソリューション」分野、自動車の軽量化に資するエンジニアリングプラスチック、5G・6Gの普及に貢献する接着剤・塗料原料などの「モビリティ・電子材料」分野での成長をめざします。

以下、環境・機能材事業の主要製品の拡大計画を示します。

 

■環境・機能材事業の拡大

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当社と三菱商事㈱の強みを生かすことで、環境ソリューション分野やモビリティ・電子材料分野を中心に、環境対応やEVを始めとするCASEの進展といったメガトレンドを先取りしながら、先進的な素材をエンドユーザーのニーズに繋げるソリューション提供力を強化していきます。

 

2025年度の環境・機能材事業の売上高は、2021年度に対して40%増の1,450億円を目標としています。

 

 

ⅳ)要改善事業

事業ポートフォリオの組替えにおいて、要改善事業には、エアバッグ用基布事業、医薬品製造受託事業、衣料繊維事業の3事業が該当します。全ての事業において、2025年度までに、事業の正常化・黒字化をめざします。

a.エアバッグ用基布事業は、2023年にタイのエアバッグ用原糸の新工場において商業生産を開始する予定です。

b.医薬品製造受託事業は、FDAからのWarning Letterに対して、早期の解決をめざして対応しています。

c.衣料繊維事業は、2022年4月に、東洋紡せんい株式会社を発足し、グループ会社の統合・再編を進め、収益力・資産効率の向上に努めています。また、2024年3月末を目途に、富山事業所の3拠点を集約します。井波工場、入善工場を休止するとともに、庄川工場の織布生産を縮小します。庄川工場は、井波工場、入善工場からの紡績工程の移管・集約を受け、新たな生産・開発体制のもと、マレーシアの生産拠点も活用しながら、国内の紡績・織布・加工のテキスタイル生産を継続していきます。

 

ハ)施策3:未来への仕込み

ⅰ)研究開発

当社の事業を支えているのは、合成繊維の開発から蓄積された、重合・変性・加工の「高分子技術」、酵母培養によるパルプ廃液処理研究から発展した「バイオ・メディカル」、高分子技術をベースに水・空気の浄化や廃棄・リサイクルを可能とする「環境技術」、人を中心とする生活シーン、モビリティ空間のための「快適性設計」の4つのコア技術です。これらのコア技術を駆使して、現在に至るまで、液晶偏光子保護フィルム、セラミックコンデンサ用離型フィルム、超高強力繊維、VOC回収装置、海水淡水化膜、生化学診断用酵素、PCR検査用試薬、人工腎臓用中空糸膜など、高付加価値製品を上市してきました。

さらなる新事業領域への展開に向けて研究開発を進めており、早期の実用化をめざしています。以下は、現在、取り組んでいる主要テーマです。

 

■未来への仕込み例

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研究開発は、新製品やサービスを生み出すための重要な投資であり、売上高研究開発費比率は3.6~3.8%を目安としており、売上高の増加に伴い研究開発費も増やしていく計画です。

 

ⅱ)デジタルトランスフォーメーション

ITの発展によって急速に社会のデジタル化が進んでいます。こうした中で当社グループは、バリューチェーン全体をカバーするITシステム基盤の再構築を進めるとともに、デジタル技術を活用したビジネススタイルへの変革、新たなソリューションの創出に取り組んでいます。それによって、業務の効率性向上だけでなく、社会やお客さまへの価値提供の強化も図っています。今後、2025年をマイルストーンとして定めたロードマップに従って、システム基盤の強化に加え、DX推進体制を整備・強化し、デジタルトランスフォーメーションを推進していきます。

 

ⅲ)カーボンニュートラル

当社グループは、カーボンニュートラルに向けて、2030年度は2013年度比GHG排出削減量46%、2050年度にはネットゼロをめざしています(Scope1,2)。さらには、当社グループバリューチェーン全体のGHG排出量に対して、当社が提供する海水淡水化膜、浸透圧発電などによるGHG削減貢献量が上回ることを目標としています。2022年12月には、当社グループの2030年度までのGHG排出量削減目標がSBTイニシアチブに認定されました。GHG排出量削減に向けて、策定したロードマップに従って、エネルギー転換、省エネ、再生可能エネルギーの導入などを着実に実行していきます。加えて、2022年4月より、インターナルカーボンプライシング(ICP)制度を導入しており、設備投資判断の基準の一つとして活用していくことで、低炭素・脱炭素設備、省エネ投資など、GHGの排出量削減に貢献する投資を加速しています。これらの活動はTCFDのフレームワークを活用して包括的に取り組んで参ります。

 

二)施策4:土台の再構築

土台の再構築として「人材育成・働き方改革・ダイバーシティ推進」「ガバナンス・コンプライアンス」「モノづくり現場力」「組織風土改革」「事業基盤の整備」を進め、サステナブル・グロースに必要な土台の強化を図ります。

「人材育成・働き方改革・ダイバーシティ推進」では、従業員一人ひとりが成長を感じ、誇りとやりがいを持って働くことができることをめざし、2022年7月に人事制度を大幅に刷新しました。①年功序列運用を脱却した昇格要件の見直し、②次世代経営人材の開発育成プログラムの開始、③高度な専門性を持つ人材を処遇するプロフェッショナル職の設定、④職能給・本人給の見直し、およびシニア社員制度の拡充を進めています。また、女性活躍をはじめとするダイバーシティの推進として、2025年度に、管理職に占める女性割合を5.0%以上とするよう取り組みます。さらに将来の女性管理職比率を高めていくため、グローバルコースの新卒採用の女性比率の目標を40%として採用を進めています。

「ガバナンス・コンプライアンス」においては、2022年6月、経営全般に関するスキルを持った社外取締役を1名増員し、取締役の50%が社外取締役という構成にしました。社外取締役比率を高め、当社経営に対する第三者の視点での意見を増やすことで、取締役会の実効性の向上を図っています。また、取締役会の諮問機関として、委員の過半数を社外取締役とする指名・報酬等諮問委員会(委員長は社外取締役)を設置し、取締役等の指名・報酬の決定に関し、透明性と客観性の確保を図っています。さらに、グループ管理総括部は担当部門およびスタッフ部門と連携し、グループ会社のリスクマネジメント体制の整備などを支援し、取締役会において、グループ会社のリスク管理に関する報告をしています。コンプライアンスについては、研修や勉強会を充実させ、コンプライアンスの徹底を図っています。また、サプライチェーンマネジメントにおいて、法令順守、公正な取引、環境配慮、人権尊重(児童労働・強制労働の禁止や、LGBTQを含むあらゆる属性の人々への差別の禁止を含む)などに対応する「CSR調達ガイドライン」を制定していますが、近年のグローバルな諸課題を踏まえ、2022年9月に改定しました。サプライチェーンを通じて、社会・環境面への配慮、公正・誠実な取引、人権を尊重した調達・物流を実現していきます。

「モノづくり現場力」では、技術者教育の整備および充実に取り組み、デジタル技術の活用(スマートファクトリーなど)、現場交流などにより、生産革新活動を全社に展開・推進していきます。

「事業基盤の整備」では、全社・事業所の拠点構想を検討し、リニューアル投資やレガシーシステムの更新などに取り組んでいます。

「組織風土改革」では、カエル推進部による企業理念体系「TOYOBO PVVs」の浸透活動を通じて、組織の垣根を越えて、気づきを改善・改革につなげる働きかけを続けています。また、「まじめな雑談」などによる対話の促進により心理的安全性の向上に努めています。

企業と従業員個人は対等な関係として、組織目標の達成と個人の成長のベクトルを一致させていく必要があります。エンゲージメントサーベイに基づく従業員の「働き方肯定度」の向上を図り、2030年に従業員エンゲージメントスコア70%を目標としています(サステナビリティ目標)。

 

 

④ 財務目標、および資本コストを意識した経営

2025中期経営計画(以下、「2025中計」といいます。)において、「売上高」「営業利益」「営業利益率」「EBITDA」「当期純利益」「自己資本利益率(ROE)」「投下資本利益率(ROIC)」「D/Eレシオ」「Net Debt/EBITDA倍率」を重要財務指標としています。持続的な成長に向けて、積極的な投資マインドを社内に形成するため、営業利益に減価償却費を加えた「EBITDA」を指標に加えるとともに、資本効率を重視した経営を推進する目的で、投下資本利益率(ROIC)を指標に加え、成長性と効率性の両側面から経営資源の最適な配分に努めます。

また、社債の発行体格付の維持向上等を通じて資金調達の安定性を確保する観点から、有利子負債と自己資本の比率(D/Eレシオ)を重視しています。2018~2021年度の中期経営計画では、D/Eレシオ1.0倍未満を目標とし、その目標を達成しました。2025中計では、将来の成長に向けた先行投資を、時機を逸することなく実施していくため、D/Eレシオの目標を1.2倍未満としています。併せて、キャッシュ・フローの創出力と有利子負債とのバランスを失することなくコントロールするため、Net Debt/EBITDA倍率の指標を加え、4倍台を目安にコントロールし、財務状態を安定的に管理していく方針です。

2022年5月の2025中計発表において、設備投資は4年間で総額2,400億円を計画し、そのうち成長投資を1,150億円としました。成長が期待される事業に積極的に投資をして収益力を高める計画としています。成長投資が営業キャッシュ・フローを超える投資となるものの、将来の成長には必要なことと判断しています。しかし、2025中計1年目の業績は、営業利益が約65%減の大幅減益となりました。その主原因は、原燃料価格高騰、MLCCの市況悪化などの外部環境によるところが大きく、2023年度は回復する見込みではありますが、今後、設備投資については、営業キャッシュ・フローの推移を見ながら、Net Debt/EBITDA倍率による管理を進め、投資の優先順位をつけて実施していく予定です。

当社は、資本コストを意識した経営を推進しており、2025中計の重要財務指標にROE、ROIC等を採用しています。現状、PBRが1.0倍を下回る状態にあることを重く受け止め、ROE、ROICをいかに高めるかが重要課題と認識しております。資産効率、収益性を高めることでROEを改善するとともに、「重点拡大事業」において成長への具体策を着実に実行し、ステークホルダーの皆さまの成長期待に応える成果を示し、PBRの向上を図ってまいります。

 

■財務目標

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⑤ 株主還元方針

株主への利益還元は最重要事項の1つであるとの認識のもと、安定的な配当の継続を基本としつつ、持続性のある利益水準、将来投資のための内部留保、財務体質の改善などを勘案した上で、今回の中期経営計画の対象期間においては、総還元性向 30%を目安として、自己株式の取得も選択肢に含めた株主還元策を講じてまいります。

 

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

 文中の将来に関する事項は、当社グループが有価証券報告書提出日現在において合理的であると判断する一定の前提に基づいており、実際の結果とはさまざまな要因により大きく異なる可能性があります。

 

(1)サステナビリティ戦略

 当社グループは、創業者である渋沢栄一が座右の銘の一つとしていた『順理則裕』を企業理念としています。2019年、改めて創業の精神に立ち戻り、時代の変化に対応しながら、社会への貢献を通じて、成長軌道を描き続ける会社となるべく、企業理念体系「TOYOBO PVVs」として再整理しました。さらにこの企業理念体系を具体的にするべく、2022年に、長期ビジョン「サステナブル・ビジョン2030」を策定しました。

 「サステナブル・ビジョン2030」は、今後の事業環境の変化を想定し、企業理念体系のビジョン「素材+サイエンスで人と地球に求められるソリューションを創造し続ける」を基軸として、当社グループの「2030年のありたい姿」と「サステナビリティ指標」およびその「アクションプラン」を示すものです。当長期ビジョンでは「サステナブル・グロースの実現」、すなわち「社会のサステナビリティに貢献するサステナブルな(成長を実現する)会社」を目指します

 

① ガバナンス

 当社グループは、社長執行役員を委員長とする「サステナビリティ委員会」を設置し、統括執行役員会議メンバー(事業本部長、コーポレート・スタッフ部門の管掌役員)が出席し、全社的なサステナビリティ活動を推進しています。当事業年度までは年4回、翌事業年度からは年6回開催し、当社グループのマテリアリティ(重要課題)として設定した項目に紐づくKPI設定、およびその進捗状況につき、モニタリングしています。また、マテリアリティの各項目に関し、社会動向等を踏まえ、議論しています。サステナビリティ委員会での議論は取締役会に適宜報告します。

 

② 戦略

 「サステナブル・ビジョン2030」では、サステナビリティ経営に向けたアプローチを「“Innovation”と3つの“P”、すなわち“People” “Planet” “Prosperity”」と整理しました。この“Innovation”は、1. 「人」と「地球」を最終的な「お客さま」と捉えたマーケティング思考、2. 「素材+サイエンス」に基づき、独自の工夫やアイディアによるサイエンスベースド・イノベーション、3. 多様なパートナーとのオープンイノベ―ション等を通じた価値共創、を意味します。

 また、“People”は、「人」を中心とした社会課題の解決策を、“Planet”は「地球」全体を意識した社会課題の解決策を、そして当社グループが考える“Prosperity”とは、企業理念に則り、課題解決を通じて「ゆたか」な社会を実現し、同時に当社グループの企業価値も向上させることを意味します。その実現に向けて、当社グループが事業等を通じて解決に貢献する5つの社会課題――「People」に関する「従業員のウェルビーイングとサプライチェーンの人権」「健康な生活&ヘルスケア」「スマートコミュニティ&快適な空間」、「Planet」に関する「脱炭素社会&循環型社会」「良質な水域・大気・土地&生物多様性」――を設定し、これらの解決にチャレンジします。

 

③ リスク管理

 当社グループは、社長執行役員を委員長とするリスクマネジメント委員会を設置し、統括執行役員会議メンバー(事業本部長、コーポレート・スタッフ部門の管掌役員)が出席し、全社的なリスクマネジメント活動を推進しています。本委員会は、当事業年度において4回開催しました。本委員会では、リスクマネジメント活動(特定・分析・評価・対応)を統括し、当社グループに重大な影響を与えるリスクを中心に、当該リスクの主たる担当部門を選定し、その回避・低減策を策定しています。各部門が中心となって対応し、本委員会でその活動状況を確認することにより、リスク管理体制の強化に努めています。

 リスクマネジメント活動の起点として、全社的なリスクに関するアセスメントを実施しました。各種リスクシナリオをベースとして影響度(※)と発生可能性(※)の2軸で評価した結果に基づき、重視すべき全社重大リスクを抽出しています。なお当該リスクについては、「3 事業等のリスク」に記載のとおりです。

(※)影響度と発生可能性の詳細

影響度:「影響範囲」、「業務停止期間」、「人的被害」、「レピュテーション」、「財務」に関して「大規模の被害に相当」、「中規模の被害に相当」、「小規模の被害に相当」の3段階で評価

発生可能性:「頻繁に発生」、「度々発生」、「稀に発生」の3段階で評価

 

④ 指標と目標

 マテリアリティの取組みの進捗管理を確実なものとするため、マテリアリティごとに担当役員を決定し、KPI(目標)を設定しています。事業活動によるマイナスの影響を最小化しつつ、プラスの影響を最大化する取組みを整理していきます。なお、この進捗はサステナビリティ委員会で管理し、指標・目標は年1回見直ししています。

 

(2)気候変動への対応(TCFD提言への取組み)

 当社グループでは、気候変動が当社グループやステークホルダーにもたらす影響の大きさを認識するとともに、「脱炭素社会&循環型社会」の実現を重要なサステナビリティ目標としています。また、2020年1月には、TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosure:気候関連財務情報開示タスクフォース)提言に賛同し、同提言にのっとった取組みと開示を進めています。

 2022年5月には、「カーボンニュートラルへのロードマップ」を含む「サステナブル・ビジョン2030」を公表しました。パリ協定が求める水準と整合させ、2030年度に事業活動におけるGHG排出量(以下、Scope1,2)を2013年度比で46%以上削減することを目標としています。また、2050年度までにネットゼロにすることを目指しています。さらには、自社のバリューチェーン全体のGHG排出量を上回る削減貢献量創出の実現を2050年度の目標としています。

<カーボンニュートラルへのロードマップ>

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① ガバナンス

 気候変動関連課題の最高責任者は、社長執行役員としています。社長執行役員を委員長とする「サステナビリティ委員会」を設置し、気候変動関連課題の解決に向けた上位方針や目標設定について審議しています。取締役会はその報告を受け、上位方針や目標などの重要事項を承認し、活動進捗の監督をしています。2022年5月には、取締役会での決議の下、「カーボンニュートラルへのロードマップ」を含む「サステナブル・ビジョン2030」を公表しました。

 また、2021年度からカーボンニュートラルの実現に向けた戦略策定と推進を目的として、「カーボンニュートラル戦略検討会議」および「カーボンニュートラル戦略検討クロスファンクションチーム(以下、CN-CFT)」を設置しています。カーボンニュートラルの実現に着実に取り組むために、全社横断的なメンバーで構成されるCN-CFT内に、ワーキンググループを設置しています。

<体制図>

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 2023年度からは、委員会体制を見直し、新たに「気候変動・生物多様性委員会」を設置しました。国際的なサステナビリティ基準等も視野に入れ、全社的な気候変動対応を進めます。なお、CN-CFTは同委員会の傘下で活動を展開し、カーボンニュートラル実現に向けた各種取組みを推進します。

 

② リスク管理

 当社グループは、気候変動課題を含むグループ全体のリスクを一元的に管理する「リスクマネジメント委員会」を2021年度に設置しました。本委員会では、リスクマネジメント活動(特定・分析・評価・対応)を統括する他、グループ全体のリスク管理に関する方針を策定し、PDCAサイクルを回すことにより、実効的かつ持続的な組織・仕組みの構築と運用及び、リスク管理体制の強化に努めています。

 「(1)サステナビリティ戦略 ③ リスク管理」に記載した、全社的なリスクに関するアセスメントの結果を踏まえ、気候変動により激甚化する水害(洪水・高潮等)リスクを含む自然災害リスク等を当社グループの重要なリスクとして管理しています。

 

③ 戦略

(イ)概要

 当社グループは、「サステナブル・ビジョン2030」の中で「脱炭素社会&循環型社会」の実現を重要なサステナビリティ目標の一つとしています。また、TCFD提言に沿い、パリ協定に基づく気候変動シナリオを前提とした将来リスクと事業機会を分析・整理しました。それらリスクと機会の影響と財務インパクトを特定した上で、対応策とそれに基づく指標・目標を設定し、経営戦略の強靭性(レジリエンス)向上を図ります。

 

(ロ)シナリオ分析

 温暖化対策の進展によってさまざまなシナリオが考えられる中、分析の前提として、以下のシナリオを典型的なものとして参照しました。

 今世紀末までの世界の平均気温の上昇が2℃未満に抑えられるシナリオと、4℃まで上昇するシナリオのそれぞれについて、2050年までの事業への影響と、当社グループの新たな機会を検討しました。

設定シナリオ

2℃未満シナリオ

4℃シナリオ

社会像

今世紀末までの平均気温の上昇を1.5℃に抑える努力を追求し、持続可能な社会の発展をかなえるため、大胆な政策や技術革新が進められる。脱炭素社会への移行に伴う社会変化が、事業に影響を及ぼす可能性が高い社会になる。

〈事例〉

●炭素税の導入・炭素価格の上昇

●自動車の電動化シフト、再生可能エネルギーの拡大

パリ協定に即して定められた約束草案等の各国政策が実施されるも、今世紀末までの平均気温が成り行きで最大4℃まで上昇する。温度上昇等の気候の変化が、事業に影響を及ぼす可能性が高い社会になる。

〈事例〉

●大雨による洪水被害の増大

参照シナリオ

●「SDS」(IEA WEO2021/ETP2020)

●「NZE」(IEA Net Zero by 2050 A Roadmap for the  Global Energy Sector)

●「RCP2.6」(IPCC AR5)

●「SSP1-1.9」(IPCC AR6)

●「RCP8.5」(IPCC AR5)

●「SSP5-8.5」(IPCC AR6)

●「STEPS」(IEA WEO2022/ETP2020)

リスクと機会の傾向

移行面でのリスクおよび機会が顕在化しやすい

物理面でのリスクおよび機会が顕在化しやすい

 

 

(ハ)シナリオ下のリスクと機会の洗い出し

 2℃未満シナリオと4℃シナリオを踏まえ、気候変動に特化した当社グループのリスク・機会の抽出を行いました。前期は、「フィルム事業」を対象にしましたが、当期は、当社グループの事業全体に対象を広げました。抽出されたリスク・機会の項目を集約し、社会の変化という観点でまとめ直した上で、それぞれの対策案を検討しました(下表参照)。影響度と発生可能性の2軸による評価の結果、特に重要であると認識したリスクと機会は、後述の通りです。

 当社グループでは、原材料調達を含むサプライチェーン全体でのGHG排出量の削減を、リスク低減と機会創出の両面で捉えています。具体的には、Scope1,2の計画的な削減により、将来の炭素価格負担を軽減するとともに、お客さまからの脱炭素化要求に確実に応えられるように備えます。また、原材料をリサイクル材やバイオマス由来素材へシフトすることにより、石油由来資源への依存度を下げ、将来の事業リスクを低減するとともに、事業機会の獲得・拡大につなげていきます。

 さらに、全世界でリスクが高まる水不足の問題に対して、低エネルギーで淡水の造水が可能な海水淡水化用膜を販売することで、社会課題の解決を通じた事業機会の獲得・拡大を図ります。

 

社会の変化およびその影響

リスク/機会項目

当社グループの対策

区分

期間

内容

脱炭素社会への移行に伴う影響

(広範囲に及ぶ政策・法規制・技術・市場の変化等)

移行・

リスク

短期

炭素価格の導入

・GHG排出量削減計画の推進

(省エネルギー、生産効率向上、燃料転換、再生可能エネルギー導入他)

・インターナルカーボンプライシング制度の活用

中期~

長期

原材料価格の上昇

(炭素価格の転嫁等)

・サプライヤーへの働き掛け・連携(低炭素原料開発、生産技術支援等)

・原材料調達手段の多様化(複数購買・現地調達を拡大)

省エネルギー化推進・高効率設備導入等に伴うコスト増加

・生産プロセスの革新・超高効率化の追求

・バリューチェーン全体における生産の高効率化(関係会社との統合・連携強化、M&A等)

再生可能エネルギー導入に伴うコスト増加

・再生可能エネルギーの調達手段の選定

製品製造時の低炭素/脱炭素化要求によるコスト増加

・再生可能エネルギーの導入・調達拡大

・生産プロセスの高効率化、省エネルギー化推進

・自家発電用燃料の転換(脱石炭)

・カーボンフリー燃料(水素、アンモニア等)利活用の検討

・CCU/CCS等の革新技術の導入検討

石油由来資源を削減や代替化する要請の高まり

・原材料のリサイクル材やバイオマス由来素材へのシフト加速

・石油由来資源に依存する汎用素材事業の見直し

移行・

機会

中期

低炭素/脱炭素型素材や製品の需要増加

・原材料のリサイクル材やバイオマス由来素材へのシフト加速

・原材料(リサイクル材やバイオマス由来素材)の調達課題(材料の逼迫)への対応

・低炭素/脱炭素型素材での製品開発・商品企画の推進

・低炭素/脱炭素型製品の生産/品質体制の強化

再生可能エネルギー・蓄電池関連市場の拡大

・再生可能エネルギー/蓄電池関連事業(※)の製品開発・商品企画の強化

(※)浸透圧発電用膜、定置型蓄電池用電極、浮体式洋上風力用特殊繊維・フィルム、リチウムイオン二次電池(LIB)工場用VOC回収装置、LIBリサイクル工場用分離膜、リチウム精製用分離膜等

 

 

社会の変化およびその影響

リスク/機会項目

当社グループの対策

区分

期間

内容

気候変動の進行に伴う影響

(資産に対する直接的な損傷や、サプライチェーンの寸断による間接的な影響、技術・市場の変化等)

物理的・

リスク

短期~

中期

自然災害による原材料の供給停止

・在庫水準見直し、複数購買の拡大

水害(洪水・高潮等)による設備損壊、操業停止

・BCP訓練実施

・生産設備/動力設備等の高耐久化や高台移設/かさ上げ

・生産拠点の分散・移転・集約

物理的・機会

中期

土木工事の需要増加

・減災/復旧工事用製品(※)の拡充

(※)防砂シート、コンクリート剥離防止シート、軟弱路床改善素材等

水不足や干ばつによる海水淡水化の需要増加

・海水淡水化用膜(RO/FO膜等)の販売拡大

・RO/FO膜等の省エネルギー/高耐久性化開発

・RO/FO膜等の生産/品質体制の強化

長期

気温上昇に伴う感染症対策

(予防・治療)の需要増加

・食品パッケージ関連製品の需要拡大

・感染症関連製品・技術の研究開発促進

 

(ニ)特に重要であると認識したリスクと機会

<重要リスク1:水害(洪水・高潮等)による建物・設備への被害リスク>

 当社グループの主力工場である、敦賀・岩国・犬山工場において、水害リスクがあることを認識しています。気候変動が進行する場合、海面上昇や降雨パターンの変化により、水害リスクはさらに高まると想定しています。2030年代における水害による資産減少額(建物および装置等の被害額)を簿価より試算した結果、当該3工場の合計金額は最大で約500億円となりました。なお、当算定は、それぞれの簿価に国土交通省の基準による被害率(※)を乗じて、概算しています。

 当社グループは、工場における水害リスクを気候関連の重要リスクと捉え、生産設備や動力設備等の高台移設/かさ上げ等の水害対策の強化を順次実施しています。

(※)国土交通省『治水経済調査マニュアル(案)』(令和2年4月)

 

<重要リスク2:炭素価格の導入>

 2030年度のGHG排出量(Scope1,2)は、2020年度(実績90万トン-CO2)を基準とした成り行き(BAU)(※)シナリオにおいて、売上拡大に伴い約130万トン-CO2に増加します。BAUシナリオにおいて2030年度の炭素価格単価を1.5万円/トン-CO2と想定した場合の年間コストは約200億円となります。

 当社グループは、GHG排出量(Scope1,2)の増加を気候関連の重要リスクと捉え、2022年度に2030年度までの「カーボンニュートラルへのロードマップ」を含む「サステナブル・ビジョン2030」を公表しました。このロードマップでは、省エネルギー化(生産効率向上含む)、燃料転換等、再生可能エネルギー導入を含むエネルギーの最適化等により2030年度のGHG排出量(Scope1,2)を65.5万トン-CO2以下に低減することを目標としています。この場合の炭素価格による年間コストは、約100億円となり、BAUシナリオと比較し、約100億円のコスト削減効果があります。この「カーボンニュートラルへのロードマップ」に沿った2025年までの累積投資額は、環境・安全・防災投資額(約330億円)に含まれる計画です。

(※)Business As Usualの略。ここでは特段のGHG排出削減対策を行わなかった場合を指します。

 

 

<重要リスク3:石油由来資源の削減や代替化する要請の高まり>および

<重要機会1:低炭素/脱炭素型素材や製品の需要増加>

 当社グループの主力事業であるフィルム・機能マテリアル事業はグループ全体の売上高の4割以上を占めます。今後の脱炭素に向けた社会変化(移行)の中で、お客さまを含む社会から石油由来資源の使用量削減や代替化の要請が高まることが予想され、気候関連の重要リスクとして認識しています。また、同時に低炭素/脱炭素型素材や製品の需要は増加し、事業機会が存在すると認識しています。

 現状のフィルム事業の売上高のうち、約90%の1,200億円が石油由来資源に依存したものです。2022年度に公表した「サステナブル・ビジョン2030」において、石油由来資源の使用量低減につながる技術や取組み(※)をグリーン化と定義し、2030年度にフィルム製品の60%でグリーン化を実現することを目標に設定しました。石油由来資源の使用量を減らすフィルム製品は、低炭素/脱炭素型製品でもあり、フィルム製品のグリーン化を推進することで、リスクの低減と共に、事業機会の獲得・拡大を図ります。

 フィルム事業の2030年度の目標売上高である約2,200億円のうち、約1,300億円が、当機会の獲得・拡大によるものです。

(※)バイオマス原料を用いたフィルムの開発、薄型軽量素材のフィルム開発(高強度化)、使用後のフィルムのリサイクルを容易にするための環境配慮設計(モノマテリアル化)、リサイクル原料を使用したフィルム開発およびリサイクル化自体の技術開発

 

<重要機会2:海水淡水化の需要増加>

 当社グループは、気候変動の進行により、全世界で水不足や干ばつの発生リスクが高まると認識しています。今後、多くの地域で工業用水だけでなく生活用水の確保にも課題が生じ、海水淡水化の需要がますます高まると予測しています。

 当社グループの中空糸型逆浸透膜モジュール“ホロセップ”は、汚れにくい特徴があり、特に閉鎖性海域(中東地域等)などの微生物が増殖しやすい海水での海水淡水化に強みがあります。耐塩素性に優れる“ホロセップ”は、塩素処理した原水をモジュールに直接供給できるため、比較的低コストでモジュール内の微生物増殖を抑制し、さらにはメンテナンスの容易性から淡水化設備の稼働率向上に寄与します。

 当社グループは、2022年度に公表した「サステナブル・ビジョン2030」において、2030年度に、膜による海水淡水化で1,000万人分の水道水相当量を造水する目標を設定し、社会課題の解決を通じた事業機会の獲得・拡大を図ります。

 

 

④ 指標と目標

 当社グループは、気候変動に対する目標を下表の通り設定し、それぞれの施策を進めています。なお、GHG排出量のScope1,2とScope3に対する目標はパリ協定が求める水準としており、2022年12月にSBTイニシアチブにより科学的根拠に基づいた目標(Science Based Targets)として認定されました。

 売上高が前期比6.4%増加する中、2022年度のGHG排出量(Scope1,2)は、89万トン-CO2となりました(前期実績90万トン-CO2,前期比1.0%削減)。

カテゴリ

指標

目標

主な施策

GHG

GHG排出量

Scope1,2

2030年度:

27%削減(SBT)(※)

(2013年度比:46%削減に相当)

(※)基準年度:2020年度

・省エネルギー化、生産効率向上、燃料転換、再生可能エネルギー導入等

2050年度:ネットゼロ

・カーボンフリー燃料導入、再生可能エネルギー調達、生産プロセス革新等

Scope3

(カテゴリ1と11)

2030年度:

12.5%削減(SBT)(※)

(※)基準年度:2020年度

・カテゴリ1:原材料のリサイクル材やバイオマス由来素材へのシフト加速

・カテゴリ11:VOC回収装置の省エネルギー化等

気候関連の

機会

フィルム製品のグリーン化比率

(移行リスクの低減も兼ねる指標として設定)

2030年度:60%以上

・マテリアル/ケミカルリサイクルの推進、バイオマス原料の開発と採用増、フィルムの減容化等

膜による海水淡水化

2030年度:

1,000万人分の水道水相当量

・海水淡水化膜(RO/FO膜等)の販売拡大

・RO/FO膜等の省エネルギー化/高耐久性化開発

・RO/FO膜等の生産/品質体制の強化

資本配備

設備投資額

2022-25年度累計:330億円

(環境・安全・防災設備投資額の合計)

自家発電設備の低炭素化、再生可能エネルギー設備の導入等

インターナルカーボンプライシング

・社内炭素価格を10,000円/トン-CO2と設定

(必要に応じ毎年見直し)

・CO2排出量の増減を伴う設備投資、開発設備への投資判断の拡大

報酬

GHG排出量削減状況に応じた役員報酬の設定を検討

 

 

(3)人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針及び社内環境整備に関する方針

 当社グループは、「現場が主役」の精神の下、経営方針・事業戦略の実現に向けた人事・労務施策を展開し、企業価値創出を加速させることを目指しています。

 企業理念体系 「TOYOBO PVVs」を根本とした経営方針・事業戦略を実現するためには、「人」こそが最も重要で大切な経営資本であり、「人」=従業員が誇りとやりがいを持ち活躍する“人材マネジメント”の仕組み構築が必要不可欠です。

 具体的には「TOYOBO PVVs」を体現するという“カエない”ものを柱にしつつ、経営方針や事業戦略の変化に応じて能力や専門性を“カエ続ける”人材活躍サイクルを実現します。同時に従業員が安心して働ける環境の土台を構築していきます。これらの実現が、従業員の幸せと当社グループの持続的成長に繋がると確信しています。

 人材マネジメントに関する実行責任者は、人事部門を統括する役員(執行役員)が選任されています。人事・労務総括部が主体となって、各事業所やグループ会社の人事部門責任者と定期的に情報交換・議論の場を設け、人材マネジメント関連の施策立案・実行につなげています。

 

① 戦略

(イ)人材育成

 当社グループでは、人材を最も重要な経営の源と考えています。多様な個性や意見を持つ従業員一人一人の成長をサポートし、社内外で活躍・自己実現できる環境を整えることで、グループ全体の存続・発展が可能になると考えています。

 当社の人材育成は、新入社員教育から幹部教育まで、階層別・職種別・目的別に定めた教育体系の下、運営しています。最も重要な経営資源である「人」を大切に育てるという考え方は、当社の長い歴史の中で醸成されており、今では全社の共通認識となっています。

 この考え方に基づき、2022年7月から運用がスタートした新人事制度においては、従業員全員が「成長」「誇り」「やりがい」を感じることができるように、「能力向上を促進・支援」「職責に応じた処遇と評価」「マネジメント力の強化」「多様な専門人材の活躍推進」という四つの方針を掲げて実行しています。

 当社グループでは、次世代経営人材育成の取組みとして、選抜した人材に対して、経営幹部育成のための社内外の研修を計画しています。当社グループでは、次世代経営人材の育成施策を討議する「人材会議」を運用しています。主にマネジメントポストの後継者を討議する「全社人材会議」と、主に業務専門性の高いポジションの後継者討議をする「部門人材会議」の二つの会議を連携させることで、人材の発掘と育成を実践し、より効果を高めていきます。併せて、ダイバーシティ&インクルージョンを推進し、女性活躍推進に加えて、社外の知識や経験を多く取り入れるようキャリア採用や外国人採用も積極的に行っていきます。

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 また、グローバル対応として、当社では、国内従業員を対象に、海外グループ会社で行う「短期海外業務研修」を実施しています。若手、中堅の従業員にとってグローバルビジネス参画への強い動機付けとなり、キャリアアップの大きな機会ともなっています。また、海外グループ会社の幹部候補を対象として、日本で教育を受ける「ナショナルスタッフ研修」を実施しています。いずれも新型コロナウイルス感染症の影響で中断していましたが、短期海外業務研修は2022年度下期から再開し、ナショナルスタッフ研修は2023年度から再開予定です。

(ロ)ダイバーシティ&インクルージョン

 当社グループでは、働き方・キャリア・性別・国籍・人種・信条の異なる人たちの中にあって、お互いを認め合い、協力して目標に向けた努力をすることが、個人と組織の成長につながると理解しています。

 異なる意見、多様な人材の存在価値を認め合い、高い目標へと力を合わせて努力することを大切にしています。

 女性の活躍推進のため、2015年から人事・労務総括部に女性活躍推進グループを設置し、女性の活躍推進活動に取り組んでいます。各事業所での説明会、上司向けセミナー、女性リーダー育成セミナーなどを継続して実施し、従業員の意識改革を図っています。女性管理職(課長職以上)比率の数値目標を設定し、当該目標の達成に向け、新卒採用の女性比率を40%とする取組みを推進しています。また、社外のイニシアチブへも積極的に参画し、活動しています。こうした活動を通じ、当社(東洋紡株式会社)は、女性活躍推進に関する「えるぼし(2段階目)」認定を2021年12月に取得しています。

 また、育児支援として総合研究所内(滋賀県大津市)に企業内保育園「おーきっずⓇ」を開設しています。育児休業からの早期復帰、計画的な復帰を可能にするだけでなく、安心して出産できる環境の整備にもつながっています。

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 当社は、女性活躍推進活動以外にも、性別や国籍などの違いによることなく能力を重視する評価と処遇を実施するとともに、多様な人材がそれぞれ働きがいを感じながら活躍できる企業風土の醸成を目指しています。

 60歳で定年退職した従業員で、本人が希望し、通常勤務が可能と認められた者を再雇用するシニア社員制度を導入し、雇用を推進しています。再雇用されたシニア社員は、若手の育成や技術伝承の担い手として活躍しています。

 障がい者雇用率の向上については、労働環境の問題点の洗い出しを行って環境整備につなげています。労働環境の整備として、敦賀事業所、犬山工場の事務所をバリアフリー化し、その他の事業所についてもバリアフリーを意識した建物への改良を順次実施し、積極的な採用を進めています。

 

(ハ)環境の土台の構築

 当社グループは、従業員が誇りとやりがいを持ち、互いに尊重しあい、心理的に安心して働ける職場の実現を目指します。従業員が意識を変えて効率的に働き、仕事と私生活の充実を図ることができるよう、「働き方改革」に取り組むとともに、育児・介護、フレックスタイム、テレワークなどの制度を整備しています。「東洋紡グループ企業行動憲章」では、「私たちは、従業員の個性を尊重し、個々の能力を発揮できる働き方をサポートします。また、健康と安全に配慮した働きやすい職場づくりを行います」と宣言しています。

 企業と従業員個人は対等な関係として、組織目標の達成と個人の成長のベクトルを一致させていく必要があります。そのために、2021年度から、全役員・全従業員を対象とする「組織風土・働きがい調査」を開始しました。同調査によって定期的に従業員エンゲージメントの状況を把握し、従業員が誇りとやりがいを持って主体的に業務に取り組める環境を整えていきます。

 当社は、法定基準を上回る内容の「育児短時間勤務」「介護休職」などの制度を導入している他、5日間の「育児休職」制度を設けています。子どもが生まれた男性従業員に個別に制度の案内を行い、上司からも取得を勧めることで、男性の育児休業取得を促しています。「男性の育児休業取得は当たり前」となるよう、引き続き奨励していきます。

 また、当社グループは、従業員の健康に配慮した働きやすい職場づくりを行うため、従業員の心身の健康保持・増進に向けて取り組んでいます。健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践する「健康経営」に着手し、従業員の健康保持・増進、生産性の向上などを通じて組織の活性化や業績向上に寄与する取組みを推進しています。健康管理最高責任者(CHO)である人事部門を統括する役員(執行役員)の下、労務部、産業医・看護職、健康保険組合が連携する推進体制を構築し、「TOYOBO健康経営宣言」における以下の重点施策に取り組んでいます。

・ 従業員の健康意識向上(啓発・教育)への取組み

・ 従業員の生活習慣改善(運動・食事・禁煙支援など)への取組み

・ メンタルヘルス対策の強化(高ストレス従業員・職場への改善対応など)への取組み

 2022年度には、受動喫煙やニコチン依存について解説する禁煙セミナーやオンライン禁煙外来の案内、女性特有の健康課題に対する理解促進を目的としたセミナーを開催するなど、従業員に対する啓発活動を強化しました。

 健康診断は、生活習慣病やがんなど、法定項目以上に充実した検査を実施しています。がん検診については、健康保険組合と協働で希望者(本人・被扶養者)に実施し、家族も含めた疾病の早期発見・早期治療に努めています。必要な場合には診療所での検査・治療、専門医療機関への紹介も行っており、健康に関する相談体制・環境整備を行い、従業員の健康保持・増進を支援しています。

 当社では、長時間労働抑制のため、3ヶ月連続で一定の基準を超えた場合、経営会議の場で再発防止策を検討することとしています。また、各事業所において労使で一定のラインを設定し、長時間労働につながる動きをチェックし、過度な労働時間の削減を進めています。さらに、各事業所で労使が協力し「定時にカエルデー」を設定して定時帰宅を促し、自分や家族のために時間を使うよう働きかけています。

 また、年1回、管理職向けにメンタルヘルスの研修を実施し、啓発・教育に取り組んでいます。ストレスチェックの結果を基に、高ストレス従業員への個別対応を行うとともに、2022年度の集団分析結果を各職場の管理職向けにフィードバックするなどの対応に取り組んでいます。

 当社は、グローバル展開の加速に伴って海外赴任者が年々増加しています。海外赴任者には赴任前に人間ドックの義務付け、予防接種、現地での医療体制支援および渡航先情報の提供など、健康状態を維持しながら従事できる支援を行っています。

 当社(東洋紡株式会社)は、経済産業省と日本健康会議が共同で実施する「健康経営優良法人認定制度」において、「健康経営優良法人2023(大規模法人部門)ホワイト500」を取得しました。今後も「ホワイト500」の認定取得継続を目指します。今後も従業員の健康保持・増進に積極的に取り組むなど、健康経営をより一層強化・推進することで、企業価値のさらなる向上を目指します。

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※本項において「当社グループ」と記載していない箇所は、特段の注記がない箇所を除き、東洋紡株式会社、東洋紡STC株式会社、株式会社東洋紡システムクリエートにおける記載です。

 

 

② 指標と目標

上記方針に関する指標の内容および、当該指標による目標と当期の実績は以下のとおりです。

戦略項目

指標(KPI)

目標

2021年度実績

2022年度実績

(イ)

人材育成

海外基幹人材の日本での研修受講者数

(注2)

15人/年

(注1)

コロナ禍のため

開催中止

コロナ禍のため

開催中止

従業員一人当たりの教育投資額(教育時間)

50千円/年

(21時間)

(注1)

50千円/年

(17.67時間)

50千円/年

(17.97時間)

(ロ)

ダイバーシティ&

インクルージョン

管理職に占める

女性比率

5.0%以上

(注1)

3.7%

4.7%

(ハ)

環境の土台の構築

年休取得率

75%以上

(注1)

72.3%

80.2%

年間法定時間外労働削減(360時間超の人数/対象者数)

2.0%以下

(2019年度比20%削減)

(注1)

3.8%

4.2%

男性の育児休業取得率

取得率80%以上、

平均取得日数14日以上(2020年度比20%増加)(注1)

取得率64.4%

平均取得日数9日

取得率104.3%

平均取得日数14.8日

健康経営ホワイト500

認定

取得・維持

(注1)

健康経営優良法人2022

健康経営優良法人2023(大規模法人部門)ホワイト500 認定

エンゲージメントサーベイに基づく従業員の「働き方肯定度」の肯定的回答率
①「日常業務の

やりにくさがない」
②「一人一人の多様な

意見や考え方を尊重」

肯定的回答率の向上

① 33%

② 42%

① 38%

② 50%

(注)1.2025年度目標です。

2.注2を除き、東洋紡株式会社、東洋紡STC株式会社、株式会社東洋紡システムクリエートにおける目標と実績です。

 

3【事業等のリスク】

当社グループの経営成績及び財政状態等の状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主なリスクは以下のとおりです。ただし、以下に記載したリスクは当社グループに関するすべてのリスクを網羅したものではありません。

なお、記載内容のうち、将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。

 

当社グループは、グループ全体のリスクを一元的に管理する「リスクマネジメント委員会」を2021年に設置しました。本委員会では、リスクマネジメント活動(特定・分析・評価・対応)を統括する他、グループ全体のリスク管理に関する方針を策定し、PDCAサイクルを回すことにより、実効的かつ持続的な組織・仕組みの構築と運用及び、リスク管理体制の強化に努めています。

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当社グループでは、事業を通じて社会課題の解決に貢献し、従業員が誇りとやりがいをもって働き続けられる会社、持続的に成長できるサステナブルな会社をめざし、2025中期経営計画を策定しています。「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載のとおり、2025中期経営計画では2025年度を最終年度とし、当社グループが特に重視する経営指標の目標を示しています。これらの目標については、策定時に当社グループが入手可能な情報に基づいて策定したものですが、ロシア・ウクライナ情勢を始めとする地政学リスクの影響については不確定要素が多く、原燃料価格の高騰、急激な為替相場の変動など事業環境の不透明な状況が続くことが見込まれます。

加えて、以下の(1)から(16)のリスクもしくは以下に記載したリスク以外のリスクが顕在化し直接的または間接的に影響を受けるなど外部環境が変化した場合、種々の対策を講じているものの、それらの対策が有効に機能しない場合や想定以上の事態が生じた場合などには、2025中期経営計画で定めた目標が達成できない可能性があるとともに、当社グループの経営成績および財政状態等に重要な影響を及ぼす可能性があります。

 

<既発生もしくは発生の蓋然性の高いリスク>

(1)災害・事故・感染症の発生

当社グループは、国内外の各地で生産活動ほかの企業活動を行っており、事故防止のため、それぞれの工場ほか各事業所で老朽設備の更新や設備管理の充実をはかるとともに、新型コロナウイルス感染症予防措置を継続し、事故を想定した訓練やオペレータ教育を推進するなど、可能な限り災害・事故・感染症の発生を未然に防ぐように努めています。しかしながら、それらの工場ほかで大規模な地震、風水害、雪害などの自然災害や火災等の事故および新型コロナウイルスをはじめとする新たな感染症の世界的な流行、原子力発電所の事故等が発生した場合、あるいは取引先において同様の災害等が発生した場合など、当社グループの事業等に重要な影響を及ぼす可能性があります。

2020年9月の当社犬山工場における火災事故を踏まえ、2022年4月より「私たちは『安全最優先』を徹底します。―労働安全、環境安全、製品安全、設備安全―」を当社グループの安全宣言としました。安全と保安防災に関する取組みを着実に進めるため、社長直轄の組織として「安全防災本部」を設置し、同組織が中心となって安全・保安防災のPDCAサイクルにより継続的な取組みを実施しています。また、第三者の視点を入れた防災管理プロジェクトとして、東洋紡7拠点、国内グループ会社22拠点の計29製造拠点に対して火災・爆発リスクの見える化を実施し、リスク低減をはかりました。この活動を定期的に実施することにより、リスク管理を強化していきます。「事業部門」「管理部門」「監査部門」が、それぞれの責任を踏まえたリスク低減活動を行う「スリーラインディフェンス」の考え方に基づいた体制を構築し、安全・保安防災リスクの低減に努めています。事業部門では、SMSやEMSに基づく防災総点検、現場総点検を実施、管理部門では、工場、管理プロジェクトでリスクを抽出し、「リスクマップ」に反映します。リスクマネジメント委員会では、リスクマップに基づき、安全防災本部とともに全社レベルでリスク低減を推進し、取締役会などにリスク低減のための各種施策を提言します。

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また、当社グループは、2024年11月の稼働開始を目指して、遺伝子検査に用いられるPCR検査試薬および酵素や抗体などの遺伝子診断薬原料を製造する設備の建設を行っています。これにより、新型コロナウイルスをはじめとする感染症に向け需要が高まるPCR検査試薬や遺伝子診断薬用原料の生産能力を増強し、将来、発生する可能性のある感染症向け検査薬や原料の開発・生産体制の一層の強化を図ります。

 

(2)政治・経済情勢の悪化

当社グループは、フィルム・機能マテリアル、モビリティ、生活・環境、ライフサイエンスなどの各種製品を、国内外の各地で生産し、国内外の様々な市場で販売しています。インフレ圧力に対する各国金融政策の見通しやロシア・ウクライナ情勢は依然として先行きが不透明であり、当社グループおよび仕入先の生産拠点や主要市場等において、深刻な政治的混乱や景気後退などが生じた場合には、当社グループの生産や販売が縮小する可能性があります。また、それらの事象による影響が長期にわたって続くことが予想される場合には、固定資産の減損損失の計上や繰延税金資産の取崩が生じるなど、当社グループの事業等に重要な影響を及ぼす可能性があります。なお、当連結会計年度におけるロシア、ウクライナにおける取引金額は僅少で、直接的な影響は軽微です。

販売及び委託加工に際しては、当社グループは与信取引を行っており、取引先の信用悪化や経営破綻などによる与信リスクを負っています。当社グループでは、売上債権等の貸倒れによる損失に備えるため、与信管理規程のもと、取引先別の信用度に見合う取引限度額を設定し管理を行うとともに、主な取引先の信用状況を決算期ごとに把握することに努めております。また、過去の貸倒実績率等に基づき貸倒引当金を計上することにより、与信リスクの低減を図っています。しかしながら、景気後退などにより重要な取引先が破綻した場合には、貸倒引当金を大幅に超える貸倒損失が発生するなど、当社グループの事業等に重要な影響を及ぼす可能性があります。

 

(3)第三者認証登録内容における不適切行為等

当社は、米国の第三者安全科学機関であるUnderwriters Laboratories(以下「UL」といいます)によって認証を受けているエンジニアリングプラスチック製品の一部の品番について、認証に関する確認試験時に、顧客に販売している製品と異なる組成のサンプルを提出していたことや、UL認証を取得している製品を製造する登録を受けていない工場で製造を行っていること等(以下「本件不適切行為」といいます)を確認しました。本件不適切行為についてULに報告等を行った結果、2020年10月28日付でUL認証を取り消された1製品に加えて、3製品について2021年2月3日付にてUL認証登録を取り消され、他の3製品の一部品番(以下、本件不適切行為のあった製品を「本件不適合製品」と総称します)について当社よりUL認証登録の取消しを申し入れた結果、2021年3月26日付にて取り消されました。これまで本件不適合製品を使用した最終製品に関して事故等の報告は受けていません。現在、UL再認証はお客さまと相談させて頂きながら順次再取得を進めています。

また、本件に関連し、ISO(国際標準化機構)の登録認証機関であるロイドレジスタークオリティアシュアランスリミテッドによる特別審査を受けた結果、2021年1月28日付で、当社が取得しているISO9001認証のうち、本件不適合製品を担当する部門に関わる認証範囲について認証を取り消されました。現在、ISO9001再認証に向けて取組みを進めています。

当社は、度重なる不適切な事案を重く受け止め、既に実施した第三者による調査等も踏まえて、実効性のある再発防止策を策定し、確実に実施してきました。再発防止策の一つとして、2022年3月17日付「品質に関する不適切な事案の類似案件調査に関するご報告」にて公表したとおり、2021年2月から同年3月にかけて無記名式で、2021年7月から2022年1月にかけては記名式で品質に関する不適切な事案の有無を調査する目的のアンケートを国内外の当社グループ役員、社員(契約社員や派遣社員を含む)を対象に実施し、品質に関する重大な不適切事案は確認されませんでした。引き続き、適切な品質管理体制の再構築やガバナンスの向上に取り組むことにより、信頼の回復に全力で努めます。

 

(4)訴訟等

当社グループは、当連結会計年度において重要な影響を及ぼす訴訟は提起されていませんが、一部の製品において特許権の抵触の疑いがあるとして通知を受け、当社特許権とのクロスライセンスを含めたライセンスについての協議を進めています。

その他にも、当社グループは国内外の各地で生産活動ほかの企業活動を行っており、その過程において、製造物責任、環境、労務、知的財産等に関し、当社グループに対し訴訟を提起される可能性があります。重要な訴訟を提起された場合には、当社グループの事業等に重要な影響を及ぼす可能性があります。

 

<中長期的なリスク>

(5)原材料の購入

当社グループの、フィルム・機能マテリアル、モビリティ、生活・環境、ライフサイエンスなどの各種製品は、石油化学製品であるポリエステル、ナイロン、ポリオレフィン樹脂などが主要な原材料です。「(1)災害・事故・感染症の発生」および「(2)政治・経済情勢の悪化」にて記載した、自然災害、事故、感染症や、経営破綻、事業撤退、縮小および深刻なサプライチェーンの混乱などが取引先において発生した場合、必要量の原材料が確保できなくなる可能性があります。また、原油価格や当該原材料等の急激な需給バランスの変動などにより、購入価格が高騰し、当社グループの生産、販売へ影響を及ぼす可能性があります。

これらに対し、当社グループでは、販売価格への転嫁や製造コストの低減に努めているほか、適正な取引方針を確立し、仕入先の分散による複数社購買や持続可能な社会の発展を支える責任ある調達・物流を行っています。法令遵守、公正な取引、人権尊重、環境配慮など、サプライチェーンの中でSDGsを達成していくために、「CSR調達ガイドライン」に基づく調達・物流の実現を目指しています。また、植物由来原料やリサイクル原料の使用を進めるグリーン化の取組みを行っています。

 

 

(6)製品の欠陥等

当社グループは、製品の欠陥等の発生リスクを未然に防止するため、所定の品質管理規程に基づいて、フィルム、環境・機能材、ライフサイエンス、機能繊維などの各種製品を生産しています。しかしながら、全ての製品に欠陥がなく、将来的に不具合が発生しないという保証はありません。特に、エアバッグ用基布などの自動車の安全に係わる製品や医薬品製造受託事業などにおいて何らかの原因により製品の安全性や品質に懸念が生じた場合には、お客様の生命にかかわるとともに、製品回収等により、お客様ならびに関係先に対する補償につながるリスクがあります。当社グループは、製造物責任賠償保険に加入しているものの、最終的に負担する損害額は保険によって十分カバーされないリスクがあります。このため、重大な製品の欠陥などが発生した場合には、多額の損害賠償の支払いや当社グループの信用失墜が生じるなど、当社グループの事業等に重要な影響を及ぼす可能性があります。

当社グループでは、PL(Product Liability:製造物責任)およびQA(Quality Assurance:品質保証)を統括する品質保証本部会を設けています。品質保証本部会は品質を統括する役員、各事業本部を担当する品質保証総括部長と品質保証統括部員で構成され、毎月開催しています。また、各事業本部の部長クラスを推進委員としたPL/QA推進委員会を年6回計画しており、2022年度も計6回開催しました。

また、事業推進から独立した品質保証本部および他部門の品質保証担当者によるPL/QAアセスメントを実施し、各部門、グループ会社のPS(Product Safety:製品安全)活動を客観的に確認し、改善の機会としています。さらに、PSとPLのリスク度合いを判定する基準を設け、この基準に基づき、製品開発から販売までの各段階で審査を行い、リスクに事前に対応することで、お客さま等に掛かるリスクの低減に努めています。

 

(7)人材の確保

当社グループでは、人材を最も重要な経営の源と考えています。多様な個性や意見を持つ従業員一人ひとりの成長をサポートし、社内で活躍・キャリアアップできる環境を整えることで、グループ全体の存続・発展が可能になると考えています。一方、少子高齢化に伴う労働力人口の減少や雇用情勢の変化などで、高度な専門性を有した人材や将来の幹部になりうるリーダーシップを兼ね備えた人材を確保、育成できない場合は、組織の競争力が低下し、事業活動が停滞するなどの可能性があります。

当社グループでは、成長戦略実現への寄与を目指し、次世代経営人材の育成に力を入れています。併せて、人材の多様性を活かすことを主眼に、キャリア採用者の教育や女性活躍推進活動にも積極的に取り組んでいます。

なお、当社グループの人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針及び社内環境整備に関する方針については、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組」に記載のとおりです。

 

(8)気候変動

地球温暖化に伴う気候変動の影響が、台風や集中豪雨といった自然災害の増加や亜熱帯化による自然生態系の変化といった形で顕在化し、社会にも多大な影響を及ぼしつつあります(物理リスク)。一方、移行リスクとして、脱炭素社会への移行に伴う社会変化が、温室効果ガス排出に対する規制強化や炭素税導入などにより、原材料価格の上昇や化石燃料の使用が難しくなることなどが想定されます。当社グループは2020年1月にTCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosure)提言に賛同し、同提言にのっとった取組みと開示を進めています。また、TCFD提言に沿い、パリ協定に基づく気候変動シナリオを前提とした将来リスクと事業機会を分析・整理しました。それらリスクと機会の影響と財務インパクトを特定した上で、対応策とそれに基づく指標・目標を設定し、経営戦略の強靭性(レジリエンス)向上を図ります。なお、当該リスクについては、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組」に記載のとおりです。

 

 

(9)環境負荷

近年、水質汚濁、大気汚染、土壌汚染や化学物質管理に関する法令や規制が強化されつつあり、国内では2022年4月に「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」が制定されました。

プラスチックは現代社会に不可欠な素材である一方、廃棄物の問題や天然資源の枯渇などの観点から課題があり、プラスチック資源循環を促進する重要性が高まっています。ポリマー(プラスチック)を基幹素材として幅広く事業展開する当社グループにとって、プラスチックに係る問題は重要な課題と認識しています。今後、プラスチックに関する規制がさらに強化されることで、対応コストの上昇や、プラスチック製品の需要減退による当社グループの売上減少など、当社グループの事業等に重要な影響を及ぼす可能性があります。

当社グループでは、持続可能な形で資源を利用する循環型経済(サーキュラーエコノミー)の実現に向け、環境負荷を低減する製品・技術を積極的に展開してきました。プラスチック製品においては、当社グループが提供する素材を「持続可能」なものにするため、バイオマス(植物由来)原料やリサイクル原料の使用比率を高めるとともに、高い機能性を保持するバイオマスプラスチックの実用化に取り組んでいます。

また、当社グループはさまざまな企業や団体と協力し、循環型経済の時代にふさわしいプラスチックバリューチェーンの構築に貢献するため、各種イニシアチブに積極的に参画しています。2021年12月にサントリーグループとAnellotech社の共同開発で発表された「植物由来原料を100%使用したペットボトルの試作品」の開発に、当社のコア技術の一つである重合技術が大きく貢献しました。また、㈱アールプラスジャパンに参画し、使用済みプラスチックを粗原料に戻し、高品質な再生プラスチックを生産するためのケミカルリサイクル技術開発を積極的に推進しています。その他、日本バイオプラスチック協会や、海洋プラスチックごみの削減に向けて日本で2019年に設立されたCLOMA(Clean Ocean Material Alliance)などにも参画しています。

 

(10)情報セキュリティ

当社グループは、事業の遂行に関連して顧客情報や機密情報など多くの重要情報を管理しています。これらの情報資産について様々なセキュリティ対策を講じていますが、自然災害等による通信障害、システムへの不正アクセスやサイバー攻撃を受けた場合、従業員の過誤など、システムの障害に伴う事業活動の停止、顧客情報や機密情報等の漏洩、詐欺被害などにより、当社グループの事業等に重要な影響を及ぼす可能性があります。

当社グループは、「情報セキュリティポリシー」を定め、情報セキュリティに関する各種規程を整備し、全情報資産の適切な運用・管理・活用に努めています。

また、代表取締役社長が任命した最高情報セキュリティ責任者(CISO)をリーダーとした情報セキュリティ部会(TOYOBO-CSIRT)を設置し、技術的対策の継続的な改善のほか、従業員教育による意識レベル向上、セキュリティ人材の育成を進めるとともに、事故対応体制の強化に取り組んでいます。

 

(11)法規制およびコンプライアンス

当社グループは、事業を展開する各国において、製品の製造、品質、安全、環境、競争、輸出入、情報、労働、会計などに関する様々な法令等による規制を受けています。たとえば、主要な事業所で、環境関連の法規制強化や取水制限などが行われる場合、あるいは、現在使用している化学物質が使用禁止になる場合や使用濃度規制が行われる場合には、生産活動ほかの事業活動が大幅に制限され、あるいは、同規制を遵守するために、多額の設備投資や租税ほかの費用負担を余儀なくされる可能性があります。海外の主要市場国において、アンチダンピング法などの規制により、関税引き上げ、数量制限などの輸入規制が課せられた場合には、輸出取引が制約を受け、当社グループの売上減少が生じるなど、当社グループの事業等に重要な影響を及ぼす可能性があります。さらに、これらの規制に対し、当社グループおよび取引先において、不遵守や違法行為が発生した場合には、当社グループの信用失墜や行政処分など多額の損害が生じる可能性があります。

また、当社グループでは、コンプライアンス活動の核として企業理念である「順理則裕」を掲げ、コンプライアンスマニュアルの推進に取り組んでいますが、国内外の法令等に抵触するなどのコンプライアンス違反が発生した場合には、当社グループの信用低下や行政処分、損害賠償責任が課されることなどにより、多額の損害が生じるおそれがあります。

当社グループでは、コンプライアンスを推進するため、具体的に様々な取組みを実施しています。例えば、「東洋紡グループ企業行動憲章」および行動規範である「東洋紡グループ社員行動基準」の解説や違反事例等をまとめたコンプライアンスマニュアルを、当社を含むグループ従業員に配付するとともに、職場にて読合わせを実施しルールの徹底に努めています。また、国内外グループ会社の管理者層を対象としたコンプライアンス勉強会を実施するとともに、法令違反等のトピックを掲載したケーススタディを毎月発行するなどコンプライアンス意識の向上を図っています。コンプライアンス徹底月間には、コンプライアンスアンケートを実施し、遵守状況や推進活動に関する課題の把握に努めるとともに、改善に向けた対応に取り組んでいます。

 

 

(12)海外での事業活動

当社グループは、米国をはじめ、欧州、中国、東南アジア、中南米などグローバルに事業を展開しています。そのため、世界経済全体の動向に加え、各国での予期しない法令、規制や政策等の変更、またはテロ、戦争、政変、疫病やその他の要因による社会的混乱などが生じた場合は、当社グループの事業等に重要な影響を及ぼす可能性があります。

当社グループでは、これらリスクに対し、グループ各社での情報収集や外部コンサルタントからの情報等を通じて早期に認識し、顕在化する前に具体的かつ適切な対処ができるよう、国ごとに「危機管理マニュアル」を策定し、当期には海外での有事に対しての退避マニュアルを充実させるなど、海外リスクマネジメント体制の整備に努めています。

また、当社グループでは、各国の税法に準拠し、適正に納税を行っており、適用される各国の移転価格税制などの国際税務リスクについても細心の注意を払っています。しかしながら、税務当局との見解の相違により、結果として追加課税が発生する可能性があります。

 

<財務リスク>

(13)為替レートの大幅変動

当社は、海外から原材料の一部を輸入し、国内で生産した製品の一部を海外へ輸出しています。製品輸出高と原材料輸入高の差は大きくないため、中期的に見ると為替変動による業績に与える影響額は大きくないものと考えています。しかし、短期的に著しい変動があった場合は、製造リードタイムが比較的長い製品などは業績に対して影響を与える可能性があります。このようなリスクに対して、先物為替予約などによりリスクを最小限にするよう努めていますが、完全にリスクが回避できるわけではありません。

また、海外の連結子会社や持分法適用会社の経営成績は、連結財務諸表作成において円換算されるため、換算時の為替レートにより連結財務諸表に影響を及ぼします。加えて、円高が進行した場合、在外子会社等の換算差額を通じて自己資本が減少するなど、当社グループの業績等に重要な影響を及ぼす可能性があります。

 

(14)金利の大幅上昇

当社グループは、事業資金を主に金融機関からの借入や社債の発行などにより調達しています。これらの有利子負債のうち、金利変動リスクに晒されている借入金の一部は、支払金利の変動リスクを回避するために、金利スワップを主としたデリバティブ取引を利用しています。また、当社グループは「有利子負債と純資産(非支配株主持分を除く)の比率(D/Eレシオ)」および「純有利子負債のEBITDA(営業利益と減価償却費の和)に対する倍率(Net Debt/EBITDA倍率)」を重視しています。当連結会計年度末ではD/Eレシオは1.21倍、Net Debt/EBITDA倍率は5.80倍となりました。

 

(15)株価の大幅下落

当社グループは、市場性のある株式を保有しており、株価変動リスクを負っています。株価が大幅に下落した場合には、その他有価証券評価差額金の減少や売却時に損失が発生する可能性があります。また、当社の企業年金においては、年金資産の一部を市場性のある株式により運用しており、株価の下落は年金資産を減少させるリスクがあります。当社は、純投資目的以外の目的である投資株式について、将来の事業戦略や事業上の関係などを踏まえ、当社の持続的な成長や中長期的な企業価値の向上に資するかどうかを毎年、取締役会で個別に検証を行い、株式保有継続の可否判断を行っています。当連結会計年度において、当社および当社の子会社は、保有する投資有価証券の一部を売却し、29億円の売却益を計上しました。

 

(16)固定資産の減損

当社グループは、工場用土地、建物、製造設備など事業用固定資産を保有し、生産・販売活動を行っています。これらの製造設備で生産される製品は市場や技術開発等の環境変化の影響を受け、収益状況が大きく低下する可能性があります。また、土地の時価下落等により保有資産の評価額が著しく低下するリスクもあります。収益性が低下した場合や保有資産価値が大幅に低下した場合、当該資産について減損損失の計上が求められるなど、当社グループの業績等に重要な影響を及ぼす可能性があります。

なお、当連結会計年度において、不織布マテリアル事業およびエンジニアリングプラスチック事業について82億円の減損損失を計上しました。また、当社および一部の子会社が保有する固定資産のうち、休止予定資産や事業用資産について減損損失16億円を計上したことから、当連結会計年度において合計98億円の減損損失を計上しました。

 

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1)経営成績等の状況の概要

当連結会計年度(以下、「当年度」といいます。)における当社グループを取り巻く事業環境は、ウクライナ情勢などの影響により原燃料価格が高騰し、欧米の金融引締め政策や中国のゼロコロナ政策(ロックダウン)も加わり、世界経済は減速しました。国内においては、年度後半以降、コロナ禍からの経済正常化がみられるものの、通年では原燃料価格の高騰や半導体などの原材料供給不足による自動車生産の回復遅れもあり、緩やかな景気回復にとどまりました。

こうした事業環境のもと、世界的な電気自動車化(EV化)に伴う、リチウムイオン電池セパレータ製造工程で使われるVOC(有機溶剤)回収装置の販売が堅調に推移しました。加えて、診断薬用および遺伝子検査試薬用の原料酵素が海外向けの販売を伸ばしました。一方、フィルム事業や不織布マテリアル事業などでは、製品価格改定を進めたものの、原燃料価格高騰の影響をカバーするには至らず、収益性の面で苦戦しました。また、フィルム事業では、セラミックコンデンサ用離型フィルムなどの一時的な需要減退を受けて、販売が減少しました。

財務面では、犬山工場の火災事故に係る受取保険金56億円、投資有価証券の一部売却による投資有価証券売却益29億円を特別利益に計上しました。一方、不織布マテリアル事業、エンジニアリングプラスチック事業などの事業用資産や休止予定資産に関して、減損損失98億円を特別損失として計上しました。

以上の結果、当年度の売上高は3,999億円と前年度比6.4%の増収、営業利益は101億円と前年度比64.6%の減益、経常利益は66億円と前年度比71.5%の減益、親会社株主に帰属する当期純損失は7億円(前年度は親会社株主に帰属する当期純利益129億円)となりました。

 

セグメント別の概況は、次のとおりです。

 

(フィルム・機能マテリアル)

当セグメントは、製品価格改定を進めましたが、原燃料価格高騰と需要減退の影響が大きく、減収減益となりました。

フィルム事業では、包装用フィルムは、原燃料価格高騰に対し製品価格の改定が追いつかず、さらに、年度後半には荷動きが鈍化しました。工業用フィルムは、原燃料価格高騰に加えて、セラミックコンデンサ用離型フィルムなどの需要減退の影響を受けました。

機能マテリアル事業では、工業用接着剤“バイロン”は、中国のゼロコロナ政策の影響を受けて、販売が減少しました。

この結果、当セグメントの売上高は前年度比3億円(0.2%)減の1,700億円、営業利益は同153億円(76.7%)減の46億円となりました。

 

(モビリティ)

当セグメントは、製品価格改定を進めましたが、原燃料価格高騰の影響が大きく、増収ながら営業損失が拡大しました。

エンジニアリングプラスチックは、国内では、原燃料価格高騰に対し製品価格の改定が追いつきませんでした。海外では、製品価格改定を進めましたが、原料価格・物流費の高騰、海外での加工費増加の影響を受けました。

エアバッグ用基布は、製品価格の改定を進めましたが、原糸などの原料購入価格の上昇により、収益性の改善に至りませんでした。

この結果、当セグメントの売上高は前年度比46億円(10.3%)増の493億円、営業損失は45億円(前年同期は営業損失18億円)となりました。

 

 

(生活・環境)

当セグメントは、VOC回収装置、高機能ファイバーの販売が堅調に推移したものの、不織布マテリアル事業における原燃料価格高騰の影響が大きく、増収減益となりました。

環境ソリューション事業では、世界的なEV化に伴うリチウムイオン電池の需要拡大を受けて、リチウムイオン電池セパレータ製造工程で使用されるVOC回収装置、および交換エレメントの販売が堅調に推移しました。

不織布マテリアル事業では、原燃料価格高騰に対する製品価格改定が追いつきませんでした。

高機能ファイバー事業では、“ザイロン”は建築補強用途、自転車タイヤ用途、“イザナス”は釣糸用途を中心に販売が堅調に推移しました 。

衣料繊維事業では、円安の影響を受け、海外仕入れコストが上昇しましたが、中東向け特化生地は、輸出採算が好転しました。

この結果、当セグメントの売上高は前年度比156億円(13.6%)増の1,299億円、営業利益は同5億円(13.2%)減の30億円となりました。

 

(ライフサイエンス)

当セグメントは、人工腎臓用中空糸膜は原燃料価格高騰の影響を受けましたが、海外向けの原料酵素が堅調に推移し、増収増益となりました。

バイオ事業では、第4四半期に新型コロナウイルス感染症の感染者数が大幅に減少したことで、PCR検査用試薬の販売が減少しました。一方、診断薬用および遺伝子検査試薬用の原料酵素は、海外向けの販売が堅調に推移しました。

医薬品製造受託事業は、FDA対応の費用が嵩みましたが、市販製剤の生産・出荷を順次再開したことで販売が回復しました。

メディカル事業では、人工腎臓用中空糸膜の販売は堅調に推移しましたが、原燃料価格高騰の影響を受けました。

この結果、当セグメントの売上高は前年度比31億円(8.9%)増の381億円となり、営業利益は同6億円(6.4%)増の92億円となりました。

 

(不動産、その他)

当セグメントでは、不動産、エンジニアリング、情報処理サービス、物流サービス等のインフラ事業は、それぞれ概ね計画どおりに推移しました。

この結果、当セグメントの売上高は前年度比12億円(10.5%)増の126億円、営業利益は同0億円(1.4%)減の22億円となりました。

 

②キャッシュ・フローの状況

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

当連結会計年度の営業活動によるキャッシュ・フローは、前年度比93億円収入が減少し、78億円の収入となりました。主な内容は、減価償却費191億円による資金の増加および運転資本の増加による資金の減少177億円です。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

投資活動によるキャッシュ・フローは、前年度比114億円支出が増加し、360億円の支出となりました。主な内容は、有形及び無形固定資産の取得による支出392億円および投資有価証券の売却による収入37億円です。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

財務活動によるキャッシュ・フローは、613億円の収入となりました(前年度は17億円の支出)。主な内容は、短期借入金の増加による収入306億円、非支配株主からの払込みによる収入300億円、長期借入れによる収入231億円、社債の発行による収入200億円および長期借入金の返済による支出370億円です。

 

この結果、当連結会計年度末の現金及び現金同等物の残高は、前年度末比338億円増の602億円となりました。

 

 

③生産、受注及び販売の実績

(イ)生産実績

当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。

セグメントの名称

金額(百万円)

前連結会計年度比(%)

フィルム・機能マテリアル

176,880

0.1

モビリティ

51,232

8.3

生活・環境

138,082

17.1

ライフサイエンス

41,666

10.8

不動産

その他(うち製造)

22,913

△0.6

合計

430,774

7.0

(注)1.金額は平均販売価格によっており、セグメント間の内部振替前の数値によっています。

2.外注生産を含んでいます。

3.不動産の生産実績はありません。

 

(ロ)受注実績

当社グループの製品は一部の受注生産を除き見込生産を行っています。

(ハ)販売実績

当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。

セグメントの名称

金額(百万円)

前連結会計年度比(%)

フィルム・機能マテリアル

170,028

△0.2

モビリティ

49,320

10.3

生活・環境

129,872

13.6

ライフサイエンス

38,134

8.9

不動産

4,053

2.4

その他

8,514

14.8

合計

399,921

6.4

(注)1.総販売実績に対する販売実績の割合が100分の10以上となる販売先はありません。

2.セグメント間の取引については相殺消去しています。

 

(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識および分析・検討内容は次のとおりです。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものです。

 

①重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

連結財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積りおよび当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについては、「第5経理の状況 1連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項 (重要な会計上の見積り)」に記載のとおりです。

 

②当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容

(イ)財政状態の分析

当連結会計年度末の総資産は、前年度末比711億円(13.7%)増の5,889億円となりました。これは主として現金及び預金や棚卸資産が増加したことによります。

当連結会計年度末の負債は、前年度末比469億円(14.6%)増の3,675億円となりました。これは主として社債や借入金が増加したことによります。

当連結会計年度末の純資産は、主として三菱商事株式会社から東洋紡エムシー株式会社に対する第三者割当増資に係る新株式申込証拠金の払込みにより非支配株主持分が増加したことから、前年度末比243億円(12.3%)増の2,214億円となりました。

 

また、財政状態に関する各種指標(連結ベース)は次のとおりです。

回次

 

第161期

第162期

第163期

第164期

第165期

決算年月

 

2019年3月

2020年3月

2021年3月

2022年3月

2023年3月

自己資本比率

(%)

38.3

36.4

37.8

37.6

32.2

時価ベースの自己資本比率

(%)

27.2

20.8

25.8

18.8

15.6

自己資本当期純利益率

(%)

△0.3

7.8

2.3

6.8

△0.3

キャッシュ・フロー対

有利子負債比率

(年)

21.0

4.0

5.3

11.2

29.4

インタレスト・カバレッジ・レシオ

(倍)

6.0

32.2

28.0

14.0

5.9

有利子負債自己資本比率

(D/Eレシオ)

(倍)

0.93

0.98

1.01

0.98

1.21

自己資本比率:非支配株主持分を含まない期末純資産/期末総資産

時価ベースの自己資本比率:株式時価総額[期末株価終値×自己株式控除後の期末発行済株式数]/期末総資産

自己資本当期純利益率:親会社株主に帰属する当期純利益/非支配株主持分を含まない期末純資産の期首・期末平均

キャッシュ・フロー対有利子負債 比率 :期末有利子負債/営業キャッシュ・フロー

インタレスト・カバレッジ・レシオ   :営業キャッシュ・フロー/(連結キャッシュ・フロー計算書)利息の支払額

有利子負債自己資本比率(D/Eレシオ):期末有利子負債/非支配株主持分を含まない期末純資産

 

当社グループは、財務の健全性の指標として特に有利子負債自己資本比率(D/Eレシオ)を重視しています。当連結会計年度末のD/Eレシオは1.21倍となりました。

 

(ロ)経営成績の分析

2025中期経営計画の二年目にあたる当連結会計年度は、期初において売上高4,100億円、営業利益240億円を計画し事業活動を進めましたが、原燃料価格高騰や工業用フィルムの需要回復遅れ等により売上高、営業利益ともに計画に対し未達となりました。

売上高については、原燃料価格高騰に対して価格改定を進めましたが、セラミックコンデンサ用離型フィルムの在庫調整局面の長期化などにより期初の計画には届きませんでした。

営業利益については、為替影響も含む原燃料価格高騰に価格改定が追いつきませんでした。また、品質、安全防災、研究開発などの基盤整備強化に伴う人件費の増加、コロナ禍からの経済活動再開に伴う営業活動費用の増加、さらに医薬品製造受託事業におけるFDA対応費用が嵩んだことなどもあり、期初の計画を大きく下回りました。

親会社株主に帰属する当期純利益については、期初において130億円を計画しましたが、当連結会計年度の実績は、親会社株主に帰属する当期純損失7億円となりました。これは、犬山工場の火災事故に係る受取保険金56億円、資産の効率化および財務体質の健全化を目的として当社および当社の子会社が保有する投資有価証券や固定資産の売却を進め、投資有価証券売却益29億円、固定資産売却益12億円を特別利益に計上したものの、営業利益が当初計画を下回ったことに加え、当社の不織布マテリアル事業およびエンジニアリングプラスチック事業の事業用資産等で減損損失98億円を特別損失に計上するなど合計157億円の特別損失を計上したことによります。この結果、「自己資本当期純利益率(ROE)」は△0.3%となりました。

(単位:億円)

 

2022年度

(計画(*))

2022年度

(実績)

増 減

(実績-計画)

売上高

4,100

3,999

△101

営業利益

240

101

△139

親会社株主に帰属する当期純利益又は

親会社株主に帰属する当期純損失(△)

130

△7

△137

(*) 期初において計画した計画値

 

当社グループは足元の業績悪化を受け、「稼ぐ力を取り戻す」ために以下のアクションプランを実行していきます。

フィルム・機能マテリアル

・包装用フィルム:一層の価格改定によるマージンの改善、新ライン・新製品の本格立上げ

・セラミックコンデンサ用離型フィルム:市況回復に合わせ、顧客の増産体制に対応、新ラインの建設

・液晶偏光子保護フィルム:顧客の増産体制に対応、価格改定

・工業用接着剤:一層の価格改定と数量回復、エレクトロニクス向けの新製品開発

モビリティ

・エンジニアリングプラスチック:品質保証体制の確立、一層の価格改定と数量回復

・エアバッグ:収益改善のために一層の価格改定、新原糸工場(タイ)の商業生産の開始

生活・環境

・環境ソリューション:LiBs向けVOC回収装置の海外加速、FO・BC膜の新用途立上げ

・衣料繊維:3工場の集約と海外拠点一体での事業運営による収益回復

ライフサイエンス

・バイオ:PCR検査試薬は売上減少も海外向け原料酵素の拡販、リニューアル増産投資

・メディカル:人工腎臓用中空糸膜は需要増への対応と一貫生産工場建設、急性血液浄化市場、抗体医薬製造プロセス市場への上市・新商品投入

・医薬品製造受託:FDAのWarning Letter対応・GMP体制、販売回復と収益改善

 

(ハ)経営成績に重要な影響を与える要因について

当社グループの経営成績に重要な影響を与える要因については、「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」に記載のとおりですが、特に、セラミックコンデンサ用離型フィルムの市況回復時期を注視しています。また、原燃料価格は2022年度に比べ2023年度は下落するものの高水準で推移すると予想するとともに、欧米はインフレ圧力の高まりを受けた金融引締め政策により、景気は減速することが懸念されます。そのため、原燃料などの価格動向や為替変動についても、引き続き注視していきます。

 

(ニ)当社グループの資本の財源および資金の流動性について

a.キャッシュ・フロー

当連結会計年度のキャッシュ・フローの分析については、「(1)経営成績等の状況の概要 ②キャッシュ・フローの状況」に記載のとおりです。

b.契約債務

2023年3月31日現在の契約債務の概要は以下のとおりです。

 

年度別要支払額(百万円)

契約債務

合計

1年以内

1年超3年以内

3年超5年以内

5年超

短期借入金

71,595

71,595

長期借入金

78,571

29,472

16,438

22,162

10,499

リース債務

2,809

766

1,035

417

590

預り金

1,430

1,430

上記の表において、連結貸借対照表の1年内返済予定の長期借入金は、長期借入金に含めています。

当社グループの第三者に対する保証は、関係会社の借入金等に対する債務保証です。保証した借入金等の債務不履行が保証期間内に発生した場合、当社グループが代わりに弁済する義務があり、2023年3月31日現在の債務保証額は、6,889百万円です。

c.財務政策

当社グループは、2025中期経営計画(2022~2025年度)の目標を達成すべく、安全・防災・環境対応を最優先としつつ、同時に成長事業への積極投資を行っていきます。必要資金に関しては、内部資金または外部調達により資金を調達し、外部調達は、直接金融・間接金融を活用し、D/Eレシオは1.2倍未満、Net Debt/EBITDA倍率は4倍台を目安として管理していきます。

また、マーケット環境の一時的な変化など、不測の事態への対応手段確保のため、当連結会計年度末において、複数の金融機関との間で合計17,500百万円のコミットメントライン契約を締結しています。(借入未実行残高17,500百万円)。

 

5【経営上の重要な契約等】

(1)供与技術契約

契約会社名

契約項目

契約の内容

相手先

契約締結年月

(有効期間)

対価

東洋紡㈱

(当社)

活性炭素繊維

Kフィルターによる溶剤吸着処理装置に関する技術援助の供与

(米国)

Met-Pro
Corporation

1980年7月1日

(1980年7月1日

自動延長)

技術使用料ほか

同上

同上

同上

(英国)

CJB Developments
Limited

1981年3月4日

(1981年3月4日

自動延長)

同上

同上

同上

同上

(ドイツ)

Durr Anlagenbau
GmbH

1984年10月18日

(1984年10月18日

1987年10月17日

自動延長)

同上

同上

同上

同上

(韓国)

斗山機械株式会社

1991年8月5日

(1991年9月25日

1994年9月24日

自動延長)

同上

同上

同上

同上

(台湾)

清隆企業股份有限公司

1993年9月1日

(1993年9月1日

1996年8月31日

自動延長)

同上

同上

同上

同上

(米国)

Durr Industries,
Inc.

1996年12月25日

(1996年12月25日

1999年12月24日

自動延長)

同上

 

(2)東洋紡エムシー株式会社との機能素材に係る事業の会社分割について

当社は、2023年1月25日開催の取締役会において、2022年9月5日に完全子会社として設立した東洋紡エムシー株式会社(以下「新会社」)に対して、吸収分割により当社の機能素材に係る事業を承継させることを決議し、同日付で吸収分割契約を締結しました。また、2023年3月15日開催の取締役会において、三菱商事株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:中西勝也、以下「三菱商事」)を割当先とする第三者割当による新会社の新株式の発行を行うことについて決議し、2023年3月17日付で三菱商事および新会社において募集株式総数引受契約を締結しました。なお、詳細は「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(重要な後発事象)」をご参照ください。

 

(3)株式会社東洋紡システムクリエートとの合併について

当社は、2022年12月26日開催の取締役会において、2023年4月1日を効力発生日として、当社の連結子会社である株式会社東洋紡システムクリエートを吸収合併することを決定し、同日付で合併契約を締結しました。なお、詳細は「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(重要な後発事象)」をご参照ください。

 

6【研究開発活動】

当社グループは、「私たちは、素材+サイエンスで人と地球に求められるソリューションを創造し続けるグループになります」というビジョンを掲げています。「素材+サイエンス」として、自社保有のコア技術のさらなる進化に加え、積極的なオープンイノベーションの考え方の下、新製品の拡大、新事業の創出に注力しました。

当社グループの研究開発は、セグメントごとに担当事業部が直接運営する事業部研究開発部門と、中長期的視点から次代を担う新製品・新技術を開発する全社共通のコーポレート研究部門とに大別されます。これらの研究開発のマネジメントは研究開発委員会方針のもとイノベーション戦略部が担当し、各部門相互の連携を図りながら、当社グループの総合力を発揮した研究開発活動を推進しました。

 

(フィルム・機能マテリアル)

包装用フィルム分野において、環境対応商品の拡販が進んでいます。バイオマス原料を使用した“バイオプラーナ”として、ポリエステルフィルム、ナイロンフィルム、シーラントの各該当製品の採用も拡大しました。薄肉化(プラ減量化)では高強度な熱収縮性ポリエステルフィルム“スペースクリーン”及び高耐熱高剛性ポリプロピレンフィルムの拡販に加え、ナイロンやシーラントフィルムでの開発も進めています。またポリプロピレンフィルムの新機台立ち上げに伴い、より高耐熱・高剛性のポリプロピレンフィルム“パイレンEXTOP”の開発にも注力しており、包装材の減容化・モノマテリアル化を促進し、循環型経済の実現に貢献できるよう努めていきます。

工業フィルムでは環境に配慮したリサイクル原料を使用したフィルム製品“クリスパー”、“カミシャイン”、“リシャイン”の開発・改良、販売促進に加え、環境負荷の少ないリサイクルシステムの開発も積極的に進めています。また、バイオマス原料を用いたポリエステルフィルムの開発を開始しました。さらに電子情報通信分野、自動車分野で拡大しているセラミックコンデンサ用離型フィルム“コスモピール”においても、薄層化による減量化、リサイクルによる環境対応に注力しています。また、液晶ディスプレイに最適な超複屈折フィルム“コスモシャインSRF”は、減量化のための薄層対応およびバイオマス原料による新製品の開発を積極的に進めています。加えて、力学的・熱的特性に優れたポリエチレンナフタレートフィルム“テオネックス”の開発を進め、自動車分野やエネルギー分野に貢献する商品としていきます。

重金属を含まず環境に優しいポリエステル重合触媒“TOYOBO GS Catalyst(GS触媒)”を用いたPETは、溶融時の劣化が少ないため、リサイクル性に優れます。その特徴を生かし、用途展開を進め循環型経済の実現に貢献しています。GS触媒ライセンス事業についても海外大手PETメーカーにおける商業生産を拡大させていきます。また、環境に配慮したバイオ由来の優れたバリア性樹脂の用途展開や植物由来原料を100%使用したバイオPETの開発を進め、プラスチックとの共生社会を目指します。今後もバイオマス原料の使用拡大・転換を推進していきます。

高機能共重合ポリエステル樹脂“バイロン”、高耐熱共重合ポリアミドイミド樹脂“バイロマックス”、変性ポリオレフィン樹脂“ハードレン”は、電気電子、自動車内外装の塗料、リチウムイオンバッテリー用包材接着用途等で開発を進めています。“バイロン”では通信、電子製品分野の接着用途で次世代高速通信に対応する高周波でも伝送損失が少ない低誘電性接着剤を新たにラインナップし、“バイロマックス”は、高耐熱と高耐久性が評価され、スマートフォン周辺デバイスでさらに拡大を続けています。“ハードレン”は接着が難しいポリオレフィン用の接着付与剤として、国内外の自動車外装プラスチック塗料用途での展開を強化し、リチウムイオンバッテリー用の包材接着剤としても拡大を続けています。“バイロン”、“ハードレン”共に、北米、欧州、中国での環境問題、カーボンニュートラル対応の観点から、自己架橋型、水性化、ホットメルト化、低温養生、次世代塗装をキーワードに取組みを強化しています。

以上、当事業に係る研究開発費は55億円です。

 

(モビリティ)

エンジニアリングプラスチック分野では、自動車産業における100年に一度の変革期の流れで、CASE、MaaSのキーワードに乗った、自動車の電動化、電気電子部品の増加に向け、特長を有する材料の開発を進めています。具体的には、5G通信、ミリ波レーダーなどの高度センシング・高速通信機器のギガヘルツ帯の周波数ノイズ対策として、様々な形状の筐体として適用可能な射出成形用樹脂を、展示会等で新規に展開し始めました。従来の、お客様の煩わしい部品組み立て作業が、一気に簡素化でき、コストダウンを図ることのできる製品提案です。また、これらの材料開発だけでなく、コンピューターによる解析技術(CAE解析(Computer Aided Engineering)、DX(Digital transformation)、MI(Materials Informatics))の導入によるメリットも享受し、お客様へのトータルソリューションの提案も継続しています。

エアバッグ事業では、カーボンニュートラルの取組みとして、CO2の排出が少ないポリエチレンテレフタレート(PET)繊維のエアバッグ織物の拡大を進めています。将来的には、植物由来のバイオ原料やリサイクル原料によるPET繊維を使った織物の開発も進めていきます。尚、現在主流のナイロン織物に関しましては、昨年立ち上げたタイのナイロン原糸工場の早期本格稼働を目指しグローバルに安定した織物供給体制の構築に取り組んでいきます。

以上、当事業に係る研究開発費は12億円です。

(生活・環境)

スーパー繊維“イザナス”は、浮体式洋上風力発電設備などの長期係留索用途を目指した高耐クリープ性を有する原糸の開発を進め、生産技術のスケールアップ化検討と長期係留索の実証試験の準備を行っています。“ツヌーガ”は、用途拡大を目指して多色糸を開発し、生産販売を開始します。

エステル短繊維や三次元スプリング構造体“ブレスエアー”及びスパンボンドは、環境負荷低減に貢献できる商品開発を進め、順次提案を開始しています。

フィルター材料においては、主力製品である静電フィルター“エリトロン”の基本性能である高集塵性能化はもとより、高寿命化、抗菌・抗ウィルス等の機能付与を図っており、上市に向けた開発検討を加速しています。更に、環境対応の製品開発も上市に向けて進めています。

水処理膜では、中空糸RO、FO膜の開発とモジュールの高性能化、ならびに省エネ海水淡水化や浸透圧発電、BC膜濃縮技術を用いた有価物回収、ZLD(Zero Liquid Discharge)などの応用研究を進め、実用化に進んでいます。

また、VOC処理装置では世界的なリチウムイオン電池セパレータ(LIBS)市場の拡大に対応した溶剤回収装置用Kフィルターの高性能化、並びにSDGs・カーボンニュートラルを背景とした省エネ化の技術開発を進めています。

衣料繊維分野では、綿でありながら速乾性に優れた“IC―DRY”を開発中です。原綿段階で特殊加工を施し、紡績/編成技術を駆使し清涼感も実現しています。

サステナブル分野で開発中の“UPTO CYCLE”は製造工程中に出る繊維端材や廃棄生地をプラスチック原料にアップサイクルする商品で、廃材焼却減によるCO2削減や石油資源使用量減に貢献します。

工業材料分野では、防災・安全資材として止水材および配管保護材開発および断熱シートの拡販を行いました。また、塗膜防水および路面緑化の検討を行っています。

機能資材分野では、第2種医療機器製造販売業、化粧品製造販売業、医薬部外品製造販売業の各許可証を得て今後、商品の拡大を積極的に行います。

機能樹脂分野では、リサイクルPET安全コーン“ECONEO”の上市に向けて支援を行っています。

以上、当事業に係る研究開発費は15億円です。

 

(ライフサイエンス)

感染症診断領域では、PCR法によりSARS-CoV-2とインフルエンザを同時に判定できる体外診断用医薬品の開発に成功し販売を開始しました。また、衛生検査向けのPCR法を用いた1液型ノロウイルス検出キットについても開発に成功し、販売を開始しました。

医療機器分野では、新製品である骨再生誘導材“ボナーク”を2022年6月に歯科領域で販売を開始しました。また、生体材料を原料とする新たな製品の開発に着手しました。

人工腎臓用中空糸膜では、透析患者の老廃物を効率良く除去できる性能を有し、更なる生体適合性の向上を目指した製品の開発を進めました。また、医療用製品の拡大に向け、新たに研究拠点の建設に着工しました。

以上、当事業に係る研究開発費は17億円です。

 

(全社共通)

イノベーション部門においては、全社成長戦略(ソリューション志向)に基づいた価値提供領域及び大型テーマの設定とテーマ推進の加速をはかりました。

全社共通の研究開発組織であるコーポレート研究所は、当社グループの将来を担う新製品・新技術の開発を行うだけでなく、各種分析・評価業務、コンピューターシミュレーションなどデジタル技術を用いた解析業務を通じて、研究開発全般および当社の製造、販売活動をも支援する全社インフラとしての機能も有しています。また、総合研究所長直下に設置したDX推進室の活動においては、MI(Materials Informatics)技術の展開を所内全域に広めており、研究所や技術センターの研究員が自らMI技術を活用できる体制構築を進めました。

一方、研究開発の中心拠点である総合研究所では所内インフラのリニューアルを進めており、2023年1月には第一期工事として「パイロットプラント棟」が竣工しました。

具体的な研究開発例として、サステナブル社会への貢献を目指し、コーポレート研究所と事業部研究開発部門の連携による、バイオマス原料を用いたポリエステル樹脂の開発及び同樹脂の応用製品開発や、大学発の新技術を取り入れた高接着力・易解体性を有する異種材料接着シートの開発等が挙げられます。

新規事業企画・開発においては、引き続き、オープンイノベーションの考え方の下、ナショナルプロジェクトへの参画や国内外の企業、大学、研究機関との連携を積極的に進めました。2022年4月に神戸大学と、同年6月には大阪公立大学と包括連携協定を締結し、それぞれの大学と「環境、ライフサイエンス分野における共同研究の成果を社会に実装する」ことと、「大阪を起点とした地域社会の発展、社会課題の解決に向けた貢献を目指す」ことを狙いとした取組みの検討を開始しました。さらに、バイオものづくりを推進するため、遺伝子の設計から生産プロセス・施策品の開発まで一括したサービス提供を目指す神戸大学発ベンチャーへ間接出資するなど、スタートアップ企業への投資活動拡大を積極的に進めました。

以上、全社共通のコーポレート研究に係る研究開発費は42億円です。