文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものです。
(1) 経営方針・経営戦略等

当社グループは、「事業活動を通じて社会に貢献する」ことを使命とし常に変化しています。企業理念「挑戦と変革。地球と人びとの未来を創る。」のもと、ポートフォリオ変革による成長を目指し、戦略的事業領域を「モビリティ」「インフラストラクチャー&セーフティー」「ライフ&ヘルスケア」の3つに定め、無線・通信事業、マイクロデバイス事業及びブレーキ事業を柱として企業活動を展開しています。
当社グループはこれまでもM&Aや事業譲渡を繰り返し、無線・通信事業、マイクロデバイス事業及びブレーキ事業を軸にした収益基盤の確立を目指してきましたが、収益性や利益の安定が課題でした。当社グループのPBRは1倍に満たず、株式市場の期待に応えられていない状況が続いてきました。
PBR向上のためには、まず利益率を高め、そのうえで持続的成長を果たし、株主の皆様のご期待に応える必要があります。そのため、正しく儲けて、企業価値を高め、株主の皆様に評価いただけるよう、既存事業の利益向上に努め、M&A・事業譲渡といった手法も駆使しながら事業ポートフォリオの変革を進め、今後もビジネスモデルの転換により収益性の向上を目指していきます。
前連結会計年度において当社グループは、TMDグループを譲渡し国際電気グループを取得しました。これにより、2024年12月期には、主力事業の無線・通信とマイクロデバイス両事業の売上高合計は連結全体の6割を超えました。このように当社グループの事業ポートフォリオがさらに大きく変化するタイミングを迎えたことから、2026年度を最終年度とする「中期経営計画2026」を2024年2月9日に発表しました。
日清紡グループの目指す姿
・当社グループは「事業活動を通じて社会に貢献すること」を使命とし、社会に貢献できる領域を軸に事業の組み換えを続けてきました。
・これからもグループの強みを活かしたソリューションを提供することで、社会課題の解決に貢献することを目指します。

(2) 中期経営計画2026について
当社グループは、「事業活動を通じて社会に貢献すること」を使命とし、企業理念「挑戦と変革。地球と人びとの未来を創る。」のもと、気候変動への要請の高まり、人口動態の変化、デジタル社会の発展など中長期的な事業環境の変化や機会に対し、「つなげる技術で価値を創る(Connect Everything, Create Value)」ことを目指し、センシング・無線通信・情報処理技術で、社会課題へのソリューションを提供していきます。
そのための重点施策として、「事業ポートフォリオ変革の追求」、「将来の成長に向けたビジネスモデル構築と経営資源の重点投入」、「経営基盤の更なる強化による経営リスクの低減」を掲げています。2023年には、無線・通信事業とブレーキ事業において大幅にポートフォリオを入れ替え、無線・通信、マイクロデバイス事業を核として、更なる成長を目指す姿勢を明確にしました。今後もビジネスモデル転換による収益性の向上を追求し、無線・通信事業を中心にデジタル技術を活用したビジネスモデルへシフトし、収益性の向上を目指します。併せて、企業理念との整合性や成長性、事業面・資本面の収益性を総合的に評価し、事業の見極めを加速していきます。
収益性の向上のための最優先課題は、無線・通信事業の構造改革です。無線・通信事業のビジネスは、公共インフラ事業や防衛関連事業を主体とする官公需ビジネスと民需ビジネス、それを支えるEMS(電子機器受託製造)に分かれますが、特に公共インフラ事業や防衛関連事業を主体とする官公需ビジネスにおいて、日本無線グループと国際電気グループの高シェア分野に重複が少なく、短期間のうちに両グループのシナジー発揮が可能で早期の収益性向上が期待できます。
地球温暖化で自然災害は激甚化するなど人々の暮らしに大きな影響を及ぼしますが、無線・通信技術を中心とするこうした活動で、人々の安全・安心のため、社会課題に貢献することを志として、顧客・株主・従業員・取引先・地域社会等、さまざまなステークホルダーの期待に応えてまいります。
サステナビリティ経営に関して、2030年に温室効果ガス排出量を50%削減(2014年比)し、2050年までにカーボンニュートラルを実現するという環境目標の達成に邁進すると同時に、イノベーションの源である多様性とイノベーションの加速装置であるDXにより、事業の変革と成長を目指します。また、遵法に止まらず、人としての倫理に基づき行動することを旨とし、粘り強く人権デューデリジェンスやD&I活動を推進し、事業の多様性・人の多様性・価値観の多様性を強みとして企業価値向上に取り組んでまいります。
2024年2月に「中期経営計画2026」を公表しました。初年度となる2024年度業績は計画を下回りましたが、将来目指す姿の実現に向けた礎を築く期間としての位置づけが揺らぐことはありません。前述の収益性の向上と並行して、当社のコーポレート研究開発体制を刷新し、これまで主体だったケミカル分野は各事業会社へ移し、無線通信技術主体の体制へ切り替え、従来よりも手厚い研究開発投資や人材配置を可能にします。5G時代の先、「産業のワイヤレス化」から「ワイヤレスの社会インフラ化」が進展していくことが展望され、無線通信技術へのニーズは一層の高まりを見せています。サービス、ソフトウエア、AIなどについて研究対象とし社会課題への貢献を第一に考え新たなビジネスモデル創出を図ってまいります。

2026年度に達成を目指す経営目標およびその進捗状況ならびに各事業の取組みや施策は以下のとおりです。
経営目標(財務)
※年間配当額は1株当たり36円でした。
経営目標(非財務)
※今後は2027年度を目標とする第6期サステナビリティ推進計画へ移行します。
(3) 各事業の取組み・施策
当社グループは、
当社グループでは2008年度より「CSR計画」を策定し、2016年度からKPIを定めて活動を進めてきました。また、2022年度からは「サステナビリティ推進計画」と名称を改め、社会と事業のサステナビリティの実現を目指し全従業員が目標達成に向けて活動しています。「第5期サステナビリティ推進計画(2022年度~2024年度)」では、第4期推進計画で設定していた目標20項目の達成度や実績をもとに計画内容とKPIを見直しました。さらに2023年度には、サステナビリティ経営を目指す当社グループの経営姿勢を社内外に示すため、活動をより推進する目標に改定しました。
①経営基盤強化(サステナビリティ全般)
2024年12月31日時点における経営基盤強化(サステナビリティ全般)に関する戦略は次のとおりです。




②気候変動対策
2024年12月31日時点における気候変動対策に関する戦略は次のとおりです。




(注)2024年度実績は集計中のため、2023年度実績を記載しています。
③人的資本・多様性への取組
2024年12月31日時点における人的資本・多様性への取組に関する戦略は次のとおりです。
人財育成
●経営幹部後継者の育成
・選抜型のリーダーシップ開発プログラム
目指す人物像を、顧客価値創造をリードする「共創型リーダー」に設定し、選抜型リーダーシップ開発プログラムを実施しています。
①アドバンス(執行役員級)、エグゼクティブ(部長級)プログラム
アドバンス(執行役員級)では、経営知識・マインド・役割行動を習得する選経営学講座・実践実学講座等を実施しています。
エグゼクティブ(部長級)では、経営学講座・実践実学講座に加え、技術知識と経営能力を兼ね備えた経営人財を育成するために技術経営大学院(MOT)や事業創出力・突破力を習得する実践型ワークショップを実施しています。
これらは、グループ共通のグローバルジョブグレードによる主要ポストの後継者候補リストを毎年作成するとともに、グレード及び後継者候補リストとプログラム受講を関連づけて実施しています。
②ミドル(課長級)、ベーシック(次世代リーダー層)プログラム
これらの下の層では各社推薦でミドル、ベーシックのプログラムも実施しています。ミドル(課長級)では、マネジメントプログラム、財務リーダーシッププログラム、マーケティングを社外派遣で実施、社内では事業力強化ワークショップを実施しています。そしてベーシック(次世代リーダー層)では、リーダーシッププログラムを実施しています。
優秀な人財の採用・定着
●優秀な人財の獲得および活躍促進
ビジネス環境が急速に変化する現代において、中期経営計画2026の達成に向けて当社グループでは、従業員一人ひとりのスキルや専門性、経験を最大限に活かしながら、事業環境の変化や事業計画に即時に対応できる柔軟かつ戦略的な人財運営を目指しています。各事業・各職種に必要な経験・スキル・能力を明確に定義し、これらに基づいた採用・配置・育成をグループ横断的にすることで人財価値を最大化し、市場での競争優位性を確保してまいります。
人員年齢構成是正に向け、新卒に加えキャリア採用を強化しています。多様性の確保のために特に女性、外国人については積極的求人活動を実施したほか、優秀なキャリア採用者の獲得および活躍促進のため、以下の施策を実施しています。
① 採用競争力のある給与水準の維持
② 職務内容を明確にする役割等級制度
③ 勤務年数にかかわらず早期昇格を可能とする人事制度
④ さまざまな働き方や職業観に対応する複線型人事制度
⑤ テレワーク制度やサテライトオフィスなど働く環境の整備
⑥ キャリア採用者受入れ教育の充実とフォロー
⑦ 社員の知人などを紹介する社員紹介制度(リファラル制度)
⑧ 自己都合退職者に対しての再入社制度(リジョイン制度)
⑨ 勤続5年ごとに休暇と手当を支給する制度(ディスカバリー休暇制度)
ダイバーシティ&インクルージョン
●グローバルサーベイを活用した職場環境づくり
当社グループでは、価値観や行動のアップデートを当たり前とし、誰もがいきいきと自分らしく活躍できる組織を目指しています。その実現に向けて、①組織の状態、②個人の状態、③環境や制度の3つの観点から取り組みを進めています。そして進捗を確認するため、グローバルサーベイ(エンゲージメントサーベイ)を実施し、スコアや自由記述コメントから現状を分析し、継続的に風土改善活動を進めてまいります。
各社のトップとメンバーが一体となって取り組むため、各社にはサーベイ担当者を配置し、取り組み事例をグループ全体で共有しています。さらに、2022年より開始した心理的安全性に関する教育を継続的に実施し、全社員に共通の認識を浸透させていきます。
●ジェンダーギャップの解消(女性リーダー育成プログラムの実施)
女性活躍推進に関する課題を明確にするために女性社員とその上司に対してヒアリングを行ったところ、主に次の3つの課題が挙がりました。①経験を積むことと個別育成、②ロールモデルやパーツモデルの提示、③女性同士を繋ぐ社内ネットワークの充実です。
これらの課題に対処するため、当社では、早い段階からの育成と経験を積ませる取り組みを進めています。具体的には、管理職候補層や次世代層、さらには後輩を指導する立場の層に対して、「女性リーダー育成プログラム」を2023年から実施しました。プログラム終了後には、受講者の行動変容について上司にアンケートを実施し、昇格推薦状況や上司へのヒアリングを行い、その効果を確認しています。
●ジェンダーギャップの解消(管理職向け研修の実施)
今後は管理職向けアンコンシャスバイアスに気付き、適切に対応できるようにするための研修や多様な人財を活かすためのマネジメント力強化を目的とした研修を導入してまいります。
その他、持続可能な環境づくりのために、多様な人財が活躍できる制度の整備や健康増進策、風土改善活動など、全体的な取り組みも進めています。
これらの施策により、ロールモデルが増え、その下の世代の女性の活躍が広がり、将来的にはジェンダーギャップの解消に繋がると考えています。
●自律的なキャリア形成のサポート(多様なキャリア観のサポート)
一人ひとりが自分自身の弱みを克服し強みを強化することで、自分らしく力を発揮できるようになること、そして自律的に成長し続けられるようになることを目指し、諸施策を講じています。例えば、30代から50代までの年代別キャリア研修を行い、キャリアを見つめ直しながら、前向きに成長していけるようなマインドを育む機会を提供しています。
また、キャリア相談窓口を設け、相談しやすい環境を整えているほか、異動の機会を広げるためにグループ公募制や自己申告制度があり、さらに社員の成長を支援する仕組みとして、メンター制度やキャリア面談を実施しています。そして自律的な学びをサポートするため、多様な学習コンテンツをいつでもどこでも受講することができるラーニングマネジメントシステムのメニューの拡充も進めています。
●多様な働き方の実現
当社グループは、多様性を尊重し一人ひとりの持つ個性と能力を活かして生産性の向上、働き甲斐の実感につなげるよう働き方改革を推進しています。テレワーク制度、フレックス制度や時差出勤制度により柔軟な働き方が可能となる仕組みの運用・導入も進めています。
当社において2023年度の男性育児休業取得率は100%でした。今後も取得率100%継続を目標にして関連制度の社内周知や職場の上司や同僚の理解を促進する活動をグループ全体で取り組んで参ります。
当社グループのサステナビリティ全般、気候変動対策、人的資本・多様性への取組に関するマテリアリティ、主要なリスク、リスクの内容、リスクへの対応については、
2024年12月31日時点における指標及び目標は次のとおりです。
①サステナビリティ全般及び気候変動対策
サステナビリティ全般及び気候変動対策に関する指標及び目標については、以下「a.第5期サステナビリティ推進計画」の重点活動項目のうち、環境(E)環境経営の推進、社会(S)品質・顧客満足度向上、労働安全衛生活動の推進、サステナブル調達の推進、社員の健康づくり、社会貢献活動の展開、ガバナンス(G)グループ企業理念の実践、コンプライアンスの徹底、内部統制の強化、リスクマネジメント活動の推進、情報セキュリティ対策の強化、並びに以下「b.温室効果ガス排出量」に記載しています。
②人的資本・多様性への取組
人的資本・多様性への取組に関する指標及び目標については、以下「a.第5期サステナビリティ推進計画」の重点活動項目のうち、社会(S)人権の尊重、人財獲得・育成、ダイバーシティの推進、エンゲージメントに記載しています。
a.第5期サステナビリティ推進計画



b.温室効果ガス排出量


(注)2024年度実績は集計中のため、2023年度実績を記載しています。
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりです。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。
(リスクマネジメント体制)
当社グループは、事業遂行上の経営リスクに対し適切に対応し経営リスク発生時の損失をミニマイズするために、下図のようにリスクマネジメント体制を定め運営しています。

(マテリアリティと関連する主要なリスクと機会および対応)
ESG:E環境への取り組み
マテリアリティ:環境・エネルギー分野の貢献
ESG:S社会への取り組み
マテリアリティ:安心・安全な社会づくり
ESG:Gコーポレート・ガバナンス
マテリアリティ:グローバル・コンプライアンス
その他
当連結会計年度における当社グループ(当社、連結子会社及び持分法適用会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」といいます。)の状況の概要並びに経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりです。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。
当連結会計年度の当社グループの売上高は、当連結会計年度の期首から国際電気グループ(㈱日立国際電気は2024年12月27日付で商号を㈱国際電気に変更しました。)の経営成績を反映した無線・通信事業や大型商業施設の分譲を行った不動産事業は増収となりましたが、市況低迷の長期化の影響を受けたマイクロデバイス事業や前連結会計年度末にTMDグループを譲渡したブレーキ事業が減収となったこと等により494,746百万円(前年同期比46,464百万円減、8.6%減)となりました。
営業利益は、マイクロデバイス事業の損益悪化やブレーキ事業の減益がありましたが、無線・通信事業や不動産事業が増益になったこと等により16,581百万円(前年同期比4,127百万円増、33.1%増)となり、経常利益は24,403百万円(前年同期比8,617百万円増、54.6%増)となりました。
親会社株主に帰属する当期純利益は、前年同期に計上したTMDグループに関する減損損失が当連結会計年度では計上がないこと等により10,277百万円(前年同期比30,322百万円改善)となりました。
事業セグメントの業績は下記のとおりです。セグメント利益またはセグメント損失は営業利益または営業損失ベースの数値です。
(無線・通信事業)
ソリューション・特機事業は、当連結会計年度の期首から国際電気グループの経営成績を反映したこと等により大幅な増収・増益となりました。
マリンシステム事業は、商船新造船用機器や商船換装用機器、欧州河川市場向けワークボート用機器が好調に推移しており増収・増益となりました。
モビリティ事業は、海外向け業務用無線の需要が一巡したことに加え、自動車用ITS(高度道路交通システム)の需要も減少したこと等により減収・減益となりました。
その結果、無線・通信事業全体では、売上高234,515百万円(前年同期比48.4%増)、セグメント利益7,577百万円(前年同期比59.7%増)となりました。
なお、当連結会計年度において船舶の自動運航に関する船体制御やセンサフュージョン技術を有するARGONICS GMBHを取得しました。マリンシステム事業におけるデジタルビジネスの拡大に向けて技術開発を加速し、自動運航システムの開発や有人自律運航の実現、データサービスの展開を目指します。
(マイクロデバイス事業)
電子デバイス事業は、前年同期好調に推移した車載製品はEV市場の成長鈍化や顧客の在庫調整を受け受注が減少し、産機製品も中国向け需要低迷に伴う顧客の在庫調整長期化により受注が大幅に減少、加えて、民生品(コンシューマ製品)もスマートフォン・PC関連市況の回復の勢いが鈍く、大幅な減収・損益悪化となりました。
マイクロ波事業は、国内向けセンサ関連製品や中国・欧州向けOEM、東南アジア向け船舶用電子管保守部品はおおむね堅調に推移したものの、米国・韓国向け船舶・地上固定局用の衛星通信関連が低調だったことにより減収・減益となりました。
その結果、マイクロデバイス事業全体では、売上高64,225百万円(前年同期比19.8%減)、セグメント損失7,093百万円(前年同期比8,028百万円悪化)となりました。
(マテリアル)
・ブレーキ事業
前連結会計年度末にTMDグループを譲渡したことによりブレーキ事業全体では減収・減益となり、売上高58,188百万円(前年同期比67.4%減)、セグメント利益2,333百万円(前年同期比50.2%減)となりました。なお、日本・米国・韓国等において市場環境や顧客動向等に違いがありますが、TMDグループの前期業績を除いたブレーキ事業全体は前年同期並みの売上となり、原価低減活動や価格転嫁が進んだことにより採算性が改善し増益となりました。
・精密機器事業
精密部品事業は、自動車用EBS部品が堅調に推移し増収となりましたが、インド拠点の立ち上げ費用増等により減益となりました。成形品事業は、空調関連製品の顧客の生産回復遅れや車載関連製品の受注減等により減収となりましたが、自動化・省人化等のコスト構造改善等により増益となりました。
その結果、精密機器事業全体では、売上高54,161百万円(前年同期比1.7%増)、セグメント利益1,641百万円(前年同期比23.6%増)となりました。
・化学品事業
断熱製品は、冷蔵冷凍設備・住宅用原液・土木用原液の受注減により減収・減益となりました。燃料電池用カーボンセパレータも、海外定置用や車載用の受注減により減収・損失拡大となりました。機能化学品は、自動車関連製品や海外向け生分解性樹脂が顧客の在庫調整終了等により受注が回復したことで増収・増益となりました。
その結果、化学品事業全体では、売上高11,040百万円(前年同期比3.4%減)、セグメント利益655百万円(前年同期比18.2%減)となりました。
・繊維事業
東京シャツ㈱を含むシャツ事業およびユニフォーム事業は市況回復が鈍く減収・損益悪化となりましたが、ブラジル拠点は旺盛な需要により増収・損益改善となりました。
その結果、繊維事業全体では、売上高36,842百万円(前年同期比1.7%減)、セグメント利益193百万円(前年同期比613百万円改善)となりました。
(不動産事業)
不動産事業は、静岡県島田市や愛知県岡崎市の宅地分譲に加え、大型商業施設のアリオ西新井(東京都足立区)を分譲したことにより大幅な増収・増益となりました。
その結果、不動産事業全体では、売上高23,539百万円(前年同期比109.0%増)、セグメント利益17,694百万円(前年同期比107.7%増)となりました。
(その他)
ニッシントーア・岩尾㈱(食品、産業資材等の商社機能)等の事業を、その他として区分しています。
その他の売上高は12,232百万円(前年同期比10.2%増)、セグメント利益は381百万円(前年同期比1.8%増)となりました。
生産、受注及び販売の実績は、次のとおりです。
当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。
(注) 1 金額は製造原価により算出しています。
2 不動産事業は生産活動を行っていないため、上記金額には含まれていません。
3 当連結会計年度において生産実績に著しい変動がありました。無線・通信事業については、当連結会計年度の期首から国際電気グループの経営成績を反映したことによるものです。マイクロデバイス事業については、前連結会計年度は好調だった車載製品の受注が減少し、産機製品や民生品の市況回復が遅れていることによるものです。ブレーキ事業については、前連結会計年度にTMDグループを譲渡したことによるものです。
無線・通信事業、マイクロデバイス事業及び精密機器事業のうち、一部の製品において受注生産を行っています。当連結会計年度における受注実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。なお、精密機器事業については金額的重要性が乏しいため記載していません。
(注) 当連結会計年度において、受注実績に著しい変動がありました。これは、無線・通信事業において、防災システムの更新需要、新造船用機器の好調な需要や防衛省向けの受注が増加したことによります。また、マイクロデバイス事業において、需給のひっ迫が解消し、通常のリードタイムに戻ったことにより、受注残高が大幅に減少しました。
③販売実績
当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。
(注) 1 主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合については、当該割合が総販売実績の10%未満のため記載を省略しています。
2 当連結会計年度において、販売実績に著しい変動がありました。その内容等については、「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1)経営成績」に記載しています。
当連結会計年度末における総資産は679,956百万円となり、前連結会計年度末と比較し4,914百万円増加しました。現金及び預金の減少2,090百万円、受取手形、売掛金及び契約資産の増加15,379百万円、棚卸資産の減少7,074百万円、有形固定資産の増加6,462百万円、退職給付に係る資産の増加5,962百万円、繰延税金資産の減少14,514百万円等が主な要因です。
当連結会計年度末における負債総額は382,507百万円となり、前連結会計年度末と比較し15,075百万円減少しました。支払手形及び買掛金の減少2,274百万円、電子記録債務の減少4,243百万円、短期借入金の減少36,580百万円、流動負債のその他の減少4,615百万円、長期借入金(1年内返済予定の長期借入金含む)の増加37,729百万円、繰延税金負債の減少4,319百万円等が主な要因です。
当連結会計年度末における純資産は297,449百万円となり、前連結会計年度末と比較し19,989百万円増加しました。利益剰余金の増加4,620百万円、為替換算調整勘定の増加9,930百万円、退職給付に係る調整累計額の増加2,680百万円等が主な要因です。
以上の結果、当連結会計年度末における自己資本比率は前連結会計年度末と比較して2.5ポイント上昇して39.6%となりました。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動の結果増加した現金及び現金同等物は28,371百万円となりました。これは主として、税金等調整前当期純利益23,919百万円、減価償却費25,937百万円、持分法による投資損益△3,639百万円、売上債権及び契約資産の増減額△13,389百万円、棚卸資産の増減額7,940百万円、仕入債務の増減額△7,590百万円、法人税等の支払額△4,376百万円によるものです。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動の結果減少した現金及び現金同等物は20,861百万円となりました。これは主として、定期預金の払戻による収入2,515百万円、有形固定資産の取得による支出△24,848百万円、投資有価証券の売却による収入3,640百万円、連結の範囲の変更を伴う子会社株式の取得による支出△1,110百万円によるものです。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動の結果減少した現金及び現金同等物は8,750百万円となりました。これは主として、短期借入金の純増減額△36,799百万円、長期借入れによる収入51,200百万円、長期借入金の返済による支出△13,528百万円、長期預り金の返還による支出△1,785百万円、配当金の支払額△5,657百万円、その他△1,960百万円によるものです。
以上の結果、現金及び現金同等物の当連結会計年度末残高は50,411百万円と前連結会計年度末に比べ492百万円増加しました。
(参考) キャッシュ・フロー関連指標の推移
(注) 自己資本比率:(純資産-新株予約権-非支配株主持分)/総資産
時価ベ-スの自己資本比率:株式時価総額/総資産
債務償還年数:有利子負債/営業キャッシュ・フロー
インタレスト・カバレッジ・レシオ:営業キャッシュ・フロー/利払い
①各指標は、いずれも連結ベースの財務数値により算出しています。
②株式時価総額は、期末株価終値×期末発行済株式数(自己株式控除後)により算出しています。
③営業キャッシュ・フローは連結キャッシュ・フロ-計算書の営業活動によるキャッシュ・フローを使用しています。有利子負債は、連結貸借対照表に計上されている負債のうち、利子を支払っている全ての負債を対象にしています。また、利払いについては、連結キャッシュ・フロー計算書の利息の支払額を使用しています。
(4)資本の財源及び資金の流動性についての分析
①財務戦略
当社グループは、2027年度以降のビジネスモデル転換と高収益化の実現に向け、2026年度までを目指す姿の実現に向けた礎を築く期間と定義しました。その間、資本効率の最適化と戦略的な資本調達が可能となる財務の健全性の両立を目指し、営業キャッシュ・フローの範囲内での投資、株主還元を基本とし、目指す事業ポートフォリオ実現のための注力領域への投資を優先します。資本効率向上の観点から資産の圧縮を計画的に進め、資産売却によって得た資金は投資、株主還元の原資として活用します。また、D/Eレシオは0.7倍以下を目安とし、ROE10%及びROIC6%を目指します。
株主還元は、2026年度にかけて配当性向40%を目指し、利益成長を通じて配当水準の向上を図ります。1株当たり年間配当36円を下限に配当維持または増配を基本方針としながら、成長投資に必要な資金を確保しつつ、資本構成や中長期的なフリーキャッシュフローの見通し等から自己株式取得を機動的に判断します。
②資金調達の方針と流動性の分析
当社グループの運転資金や成長投資等の必要資金については、主として営業キャッシュ・フローを財源としていますが、必要に応じて有利子負債を効果的に活用し資本効率の向上を図っています。主に短期的な資金についてはコミットメントライン等の短期銀行借入やコマーシャル・ペーパーによる調達を、設備投資、M&A投資等の長期的な資金については、金融市場動向や長短バランスなどを総合的に勘案し、適宜長期銀行借入を組成しています。
また、当社グループは、ガバナンス強化と資金効率向上を目的として、グループ一体となった資金調達と資金管理を実施しており、当社と国内子会社間、また海外の一部地域の関係会社間でCMS(キャッシュ・マネジメント・システム)やグループローンによる資金融通を行ない、グループ内の流動性確保と資本コストの低減に努めています。
なお、当社グループは、気候変動による事業機会の取り込みおよびリスクへの適切な対応を重要な経営課題の一つと認識しています。当社グループが取り組む環境貢献に資する投資についてわかりやすく整理、訴求し、サステナブルファイナンスにも取り組みたいと考えています。
重要な資本的支出の予定及び資金の調達方法については、「第3 設備の状況 3 設備の新設、除却等の計画」に記載のとおりです。
資金の流動性については、当連結会計年度においても当社は主要銀行とのコミットメントライン契約を同額で維持し、30,000百万円で更改しました。その他、当座貸越枠、コマーシャル・ペーパーも引き続き十分な調達枠を維持しており、必要とされる流動性を確保しています。
また、政策保有株式については、コーポレートガバナンス・ポリシーに基づき計画的に縮減していきますが、柔軟且つ機動的な売却の意思決定により、資金の流動性を補完することも可能です。
(5)重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社グループの連結財務諸表は、我が国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されています。海外子会社については、IFRS(国際財務報告基準)及び米国会計基準に準拠して作成され、現地監査法人の監査を受けた上で必要な調整を反映させています。
この連結財務諸表を作成するにあたって、資産、負債、収益及び費用の報告額に影響を及ぼす見積り及び仮定を用いていますが、これらの見積り及び仮定に基づく数値は実際の結果と異なる可能性があります。
連結財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び仮定のうち、重要なものは「第5 経理の状況 1連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載しています。
(6)経営者の問題認識と今後の方針について
「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載のとおりです。
(7)次期の業績見通し
無線・通信事業では、災害の激甚化を受けて水管理予算や防災情報システム需要等が増加傾向にあることに加え、防衛事業の拡大、収益性の改善により増収・増益を見込んでいます。
マイクロデバイス事業では、原価低減に加え、大きく落ち込んだ半導体市況が回復することを想定し、増収・損益改善を見込んでいます。
これらのことから、次期の連結業績見通しは、売上高506,000百万円、営業利益19,700百万円、経常利益21,600百万円、親会社株主に帰属する当期純利益18,300百万円となる見込みです。
なお、為替レートは通期平均で1米ドル=145円、1ユーロ=160円を前提としています。
業績見通しの詳細については2025年2月12日に公表しています「2024年12月期決算説明会資料」をご参照ください。
(1) 合弁会社設立に関する契約
(2) 技術導入に関する契約
(3) 技術供与に関する契約
(4) 株主間に関する契約
当社グループでは、「モビリティ」、「インフラストラクチャー&セーフティー」、「ライフ&ヘルスケア」に関わる3つの分野を戦略的事業領域に定め、これらの分野において高性能・高品質かつ競争力のある製品・技術の開発に力を注いでいます。そのために、グループ横断的な研究開発活動を行っており、無線・通信、マイクロデバイス、ブレーキ、化学品といった、多岐にわたる保有技術を融合してイノベーションを創出し、持続可能な社会へ資する新たなバリューを提供していきます。
当連結会計年度の研究開発費は
(1)無線・通信
日本無線グループでは、コア技術であるセンシング、通信ネットワーク、データ分析にAI、DX、IoT等の技術を加え、各種ソリューション技術の研究開発に注力してきました。
モビリティ分野に関しては、船舶の自動運航に関する研究開発において、公益財団法人日本財団の無人運航船プロジェクトMEGURI2040の第2ステージに引き続き参画し、災害時等の緊急事態にも場所を問わず継続して船舶の安全運航を支援することができるよう、車両を使った移動型FOC(Fleet Operating Center)の構築を進めています。さらにこの移動型FOCの利便性向上を目的に航海計画立案から入出港までのモニタリング、状況予測を考慮した運航支援機能等のアプリケーション開発に取り組んでいます。陸上においては自動運転やロボット化が進む建機・農機の安全機能向上を目指し、障害物の位置を正確に特定できるように3次元で分解能を高めたレーダの開発に取り組んでいます。また、遠隔通信技術では世界のどこでもつながるモビリティに向けて、LTE、5G、Wi-Fi、衛星等の多様な通信方式に対応する通信端末や小型アンテナを開発しています。
インフラストラクチャー&セーフティー分野に関しては、入川者検知システム、気象レーダ、災害時における通信インフラの確保等の研究開発を進めています。入川者検知システムでは、ドローンで撮影した映像をAI解析して河川に居る人を検出することで、放流前の河川のパトロール業務を支援する機能を開発し実証実験を開始しました。気象レーダでは、世界初となる二偏波気象レーダを用いた南極昭和基地での観測のため、寒冷地に対応したXバンド気象レーダの開発を行いました。また、台風や線状降水帯による大規模気象災害の減災に向けてC帯二偏波フェーズドアレイ気象レーダを開発し、実験無線局を富山県に設置し、気象観測の実証実験を開始しました。災害時の通信路の確保に関しては、Ka帯の静止衛星可搬局向け平面アンテナを開発し、可搬且つ高速化した通信を提供できる点から災害の初期対応用として注目されています。
ライフ&ヘルスケア分野に関しては、超音波センシング技術の高度化に関する研究開発を進めています。血管内超音波装置では、血管分岐部を効率的に検出する機能を実現して経皮的冠動脈形成術の時間を短縮する技術を開発しました。また、排尿ケアプローブや携帯型超音波診断プローブでは、診断部位を鮮明に描写する画像処理技術を開発しました。
国際電気グループでは、コア技術である「センシング」「伝送」「AI解析」を活用して、各分野における現場で働く人を支援するための映像・無線ソリューションや、ソリューションを支える標準化されたプロダクトを提供するための研究開発に注力してきました。
モビリティ分野に関しては、鉄道事業者を支える列車無線の高度化や、映像や3DセンサとAIを組み合わせた監視システムの高度化に重点を置いた研究開発を行いました。ネットワーク監視カメラと組み合わせてAI画像認識を行うAIエッジコントローラに、支援が必要な方や危険行為などを検知するアプリケーションを搭載したモデルを開発し、ワンマン化に向けた運転支援の取組みを推進しています。
インフラストラクチャー&セーフティー分野に関しては、防災減災に向けて、災害に関わる情報を収集、一元管理して災害対応時の自治体職員の業務を支援する防災業務支援サービスや、バッテリーと無線伝送機能を搭載し電源やケーブルが浸水しても稼働可能な防災監視カメラを開発しました。製造業のスマート化に向けては、位置情報を活用して現場のリソース管理を行うSaaS型現場最適化ソリューションを開発しました。通信インフラの5G普及に向けては、キャリア5Gとローカル5G両方に対応したアンテナ共用機を開発し、シェアリング事業者向けに提供を開始しました。放送のDX化に向けては、新技術を搭載した双方向FPU(映像伝送装置)の研究開発やコンテンツ制作を効率化する放送カメラ向けのIPによる遠隔制作支援機能の開発に取組みました。
当セグメントに係る研究開発費は
(2)マイクロデバイス
マイクロデバイス事業では、電子デバイス製品やマイクロ波製品等の企画、設計から生産技術まで総合的な研究開発を行っています。
モビリティ分野に関しては、沖電気工業㈱と共同し自動運転や高度運転支援システム(ADAS)機器の小型化に貢献する3次元集約技術の開発に成功しました。近年、AI、自動運転や高度運転支援システム(ADAS)において、センシング技術の進化が重要な役割を果たすと同時に、搭載されるアナログICも小型化、高性能化の要求が高まっています。これに対し、両社の技術を融合させ、アナログICの性能を維持したまま、積層により小型化を図る画期的な技術を開発しました。今後、両社は本技術による新たな付加価値をもつ製品開発を進め、パートナーリングやライセンシングも視野に2026年の量産化を目指します。
インフラストラクチャー&セーフティー分野に関しては、業界トップレベル※のアイソレーションを実現した5G基地局に最適なSPDTスイッチの量産を開始しました。5G基地局には多くのアンテナがあり、それぞれが強い電波を送信します。電波の相互干渉を防ぐために送信アンプには、非常に高いアイソレーションを有するスイッチが必要です。本製品は長年蓄積したRFデバイス技術により、5Gで使用しているsub-6帯域で60dB以上の高アイソレーションを実現し、隣接する素子間の干渉を低減させる事が可能です。海上やルーラルエリア(非都市圏)等、有線による通信インフラ構築が難しい地域・環境でニーズの高い衛星通信分野では、屋外設置送受信機の高周波化・高出力化を進め、高速化・大容量化といった社会の需要に対応しています。
ライフ&ヘルスケア分野に関しては、ハイエンドオーディオ機器に最適な「MUSES」シリーズのLDOレギュレータの量産を開始しました。本製品は高音質オーディオデバイス「MUSES」シリーズで初となるレギュレータ製品です。これまで「MUSES」シリーズは高音質オペアンプとオーディオ電子ボリュームをご提供しており、お客様から高い評価を得てきましたが、LDOレギュレータが加わることで、さらなる”真実の音”がご提供可能になります。また、マイクロ波・ミリ波センサでは引き続き水洗便座用センサユニットをより多くのラインアップや便座以外の用途に展開するための活動を継続しています。また危機管理型水位計向け60GHzセンサターミナルは、一部顧客向けに量産品供給がスタートしました。今後、他社への展開を進めていきます。その他介護・見守りやセキュリティ・環境モニター用途など幅広い用途向けの開発も進めています。
当セグメントに係る研究開発費は
※2024年9月26日 日清紡マイクロデバイス㈱調べ
(3)ブレーキ
ブレーキ事業では、モビリティ分野においてコスト競争力のある差別化商品の提供と技術力の強化を目標に掲げ、自動車用摩擦材の開発に取り組んでいます。
R&D機能では、重要保安部品としての高い信頼性を堅持し、銅規制等に対応した環境負荷物質を低減する製品の開発では、①xEV化で静粛性が高まる新世代車への適合における音・振動事象の撲滅、②効きの安定性、③摩耗粉塵の排出を抑制する優れた摩耗特性等、お客様ニーズへの対応に重点をおいて活動しています。開発した材質は、お客様にご好評を頂いており、国内外の数多くの車両プログラムへの適用が決まり、量産化が進捗しています。
開発シーンでは、従来のモノづくりと評価を主軸としたPDCAサイクルに加え、CAEによる摩擦のシミュレーションや、分子シミュレーション、データマイニングを主体としたデータ駆動型研究開発を加えることにより、開発期間の短縮化、開発品の高性能化、省力化及び開発費の最小化=開発効率の最大化を目指しています。その実現を支えるためにDX専任部署を立ち上げ、データプラットフォームを始めとした開発環境の整備に加え、デジタル人財育成を目指し教育プログラムを実行しています。加えて、2050年にCO2排出量ゼロに向けて独自の目標を掲げ、材質および製造工程の研究開発への取り組みも実行しています。また、当社グループ内のコラボレーションにより車両の安全、自律運転を見据えた足廻りのセンシングに関するマーケティングと研究を推進しています。
当セグメントに係る研究開発費は
(4)精密機器
精密機器事業では、新製品開発と上市の加速を重点取組みテーマと位置づけ開発活動を行っています。
モビリティ分野に関しては、射出成形技術、エレクトロニクス技術をベースとした配線機能一体型成形品(IM-E:In Mold -Electronics)の開発を加速していきます。
ライフ&ヘルスケア分野に関しては、医療分野において、優れた生体適合性等の高機能を備えたスーパーエンプラ樹脂を用いた新製品をはじめ、予防・予後・再生医療に貢献する製品の開発・上市を進めます。家電・住設分野においては、快適な居住空間や省エネに向けた空調機器用ファン等の開発に取り組んでいます。
なお、インフラストラクチャー&セーフティー分野に関しては、再生可能エネルギーや社会インフラの整備等持続可能な社会に向けた製品の開発を進めており、新たな事業創出に向けた活動に取り組んでいます。
当セグメントに係る研究開発費は
(5)化学品
化学品事業では、地球環境問題の解決に貢献する技術・製品の研究開発に取り組んでいます。
モビリティ分野に関しては、燃料電池事業において、モビリティ用燃料電池に使用されるカーボンセパレータの新生産方法や性能向上を重点に活動しており、新生産方法での量産化に向け開発を進めています。機能化学品事業では、カーボンニュートラルへの貢献を目的とし、自動車塗装工程の低温化を実現する水性架橋剤の開発を進めています。
インフラストラクチャー&セーフティー分野に関しては、断熱事業において、安全安心をテーマに不燃ノンフロンウレタンフォームの実用化を進めています。カーボン事業および機能化学品事業では、次世代・先端半導体向けの製品・添加剤の開発を進めています。
ライフ&ヘルスケア分野に関しては、機能化学品事業において、マイクロプラスチックによる海洋汚染の拡大防止に向けて、海洋環境で生分解性プラスチックの分解を促進する添加剤の開発を進めています。断熱事業では、次世代エネルギーである液化水素の輸送及び貯蔵施設向けの高性能断熱材の開発を進めています。
2025年1月及び4月に、当社の新規事業開発本部で実施している開発の一部を日清紡ケミカル㈱へ移管し、近年の環境規制を背景とした市場拡大の潮流を捉えた早期製品化を実現するべく、機動的な体制の構築及び経営・意思決定のスピードアップを図ります。
当セグメントに係る研究開発費は
(6)繊維
繊維事業では、ライフ&ヘルスケア分野において、環境・健康社会への貢献を重点取り組み事項として掲げ、グループ内外と幅広く連携し、研究開発を進めています。
当連結会計年度はノーアイロンシャツに代表される「アポロコット」シリーズの商品を拡充し、環境配慮型の次世代商品として、防汚、冷感、ノンホルマリンなどの機能加工商品の開発にも注力しています。
また、安心・安全を提供できる防透、抗菌防臭、抗ウイルス、綿100%のストレッチ生地などの健康快適商品の充実を図り、さらに、当社グループ内のマイクロデバイス事業と連携し、胎児見守り腹帯や騒音職場通信デバイスなどのスマートテキスタイルの開発も取り組んでいます。
「サーキュラーエコノミー」の実現を目指した、廃棄シャツから再繊維化し新たなシャツに生まれ変わらせる「シャツ再生プロジェクト」については、当連結会計年度にNEDO※先導研究プログラムが完了し、綿から再生セルロース繊維をつくる基礎技術に目途が付きました。また、当連結会計年度に経産省の資源自律に向けた資源循環システム強靭化実証事業において、綿・ポリエステルなど複合素材からセルロース成分の分離・抽出の基礎技術に関する研究開発を進めています。
当セグメントに係る研究開発費は
(7)全社共通
グループ内の研究開発においては、各事業セグメントを超えた連携によるシナジーにより、地球環境問題・社会課題の解決に貢献する新たな事業の創出に取り組んでいます。
・水素社会実現のための取組み
レアメタルを使用しない燃料電池用触媒や水素生成用触媒などの部材開発に加え、燃料電池活用のためのシステム開発に取組んでいます。これら取組みの一部は、NEDO※事業に採択をされています。
当社グループの持つ超音波技術を活用した水素ガスセンサの開発は、携帯型水素ガス漏れ検知器「MoLeTELL」の試験販売に加え、定置型漏れ検知器や水素濃度測定器など顧客ニーズに合わせた製品開発を進めました。
・地球環境問題への取組み
マイクロプラスチックによる海洋汚染の拡大防止に向けて、海洋生分解性プラスチックの開発に取組んでいます。本取組みの一部は、NEDO※事業に採択をされています。また、開発した微粒子はプラスチック微粒子代替材料として、ユーザーでの評価が進んでいます。
・安心・安全への取組み
食の安心安全・安定供給に向けて、「完全閉鎖型植物工場」「環境センサネットワークによる制御」「画像AIとロボットによる省力化」など、プラントファクトリーのスマート化に取組んでいます。
大容量化するデジタルコンテンツ情報をストレスなく送受信するための高速通信技術を活用した大容量のデータを瞬時に確実に伝送する「ミリ波通信システム」や、センサ及び通信技術を活用した「見守り機器・システム」などの開発、更にはこれらシステムを活用した「データ活用ビジネス」といったサービスへの取組みを強化しています。
なお、研究開発成果の早期製品化に向けて事業会社との連携を強化するとともに、研究開発テーマポートフォリオの見直しを行い、エレクトロニクス関連へのシフトを進めています。さらには、エレクトロニクス分野におけるビジネスイノベーションの創出と事業R&Dの推進を目的として、2025年4月1日付で「フューチャー・イノベーション本部」を発足させます。
全社共通に係る研究開発費は
※国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構