文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものですが、予測しえない経済状況の変化等さまざまな要因があるため、その結果について当社が保証するものではありません。
(1)経営理念
当社グループは、1873年に抄紙会社として創立以降、「森林」を核とした事業を展開し、発展させ、グローバル企業へと成長しました。次の経営理念の下、変わり続ける時代のニーズを充足し、新しい未来を支えるモノづくりを、そして持続可能な社会の発展を目指して、王子グループは進み続けます。
「革新的価値の創造」
当社グループが今後大きく飛躍していくためには、イノベーションが不可欠です。画期的な新製品の開発と、それを導く研究・技術開発、また、組織の仕組みや従業員一人ひとりの行動に変革が求められています。斬新な発想で「チャレンジングなモノづくり」を行い、社会の潜在ニーズを充足していきます。
「未来と世界への貢献」
当社グループは多種多様な事業を抱え、アジア、北米、南米、欧州、オセアニアに事業拠点をもつグローバル企業へと成長しました。今後もグローバル展開を通じ、あらゆる国、地域、社会に「革新的価値」を提供し、新しい未来を創造する企業であり続けます。
「環境・社会との共生」
森林資源を核とする資源循環は、当社グループの基盤です。国内外に保有する広大な社有林の多方面での活用、各製造現場における環境負荷低減策の追求などを通じ、当社グループの事業そのものが持続可能な社会に貢献できるよう、取り組みを発展させていきます。
(2)パーパス(存在意義)
「森林を健全に育て、その森林資源を活かした製品を創造し、社会に届けることで、希望あふれる地球の未来の実現に向け、時代を動かしていく」
健全に育て管理された森林は、二酸化炭素を吸収、固定するだけではなく、洪水緩和、水質浄化等の水源涵養、防災という機能の他に、生物多様性や人間の癒し、健康増進等にも貢献する効果があります。
そして、森林資源を活かした木質由来の製品は、その原料が再生可能であり、化石資源由来のプラスチックフィルムや燃料等を置換えていくことができます。
1933年から1938年の間、当社社長を務めた藤原銀次郎は「木を使うものは、木を植える義務がある」と説き、現在では「持続可能な森林経営」や「再生可能な資源の循環的利用」は当社グループの「強み」となっています。森林を健全に育て管理し、その森林資源を活かした製品を創造し、社会に届けることで、地球の温暖化や環境問題に取り組み、希望あふれる地球の未来の実現に向け、時代を動かしていきます。
(3)長期ビジョン・中期経営計画
当社グループは、2030年までの長期ビジョンとして「成長から進化へ」をグループ基本方針とし、「環境問題への取り組み -Sustainability-」、「収益向上への取り組み -Profitability-」、「製品開発への取り組み -Green Innovation-」の3つの柱を掲げ、企業価値の向上に取り組むことにより、2030年までに連結売上高2.5兆円以上を目指し、また、2030年度に2018年度対比で温室効果ガス排出量70%以上の削減などを目標とする「環境行動目標2030」を達成し、企業価値の向上と社会への貢献をしていくことを目指してまいりました。
この長期ビジョンのマイルストーンとして策定した2022年度から2024年度を対象とする中期経営計画(2024年度目標 連結営業利益1,500億円以上、連結純利益(親会社株主に帰属する当期純利益)1,000億円以上<安定的に1,000億円以上を継続> 等)につきましては、原燃料価格や人件費、物流費等の高騰など厳しい事業環境の中、価格改定や事業構造の見直しを進めてまいりましたが、その取り組みが不十分であったことに加え、ニュージーランドのPan Pac社のサイクロン被災の影響もあって、2024年度連結営業利益677億円、親会社株主に帰属する当期純利益462億円と、計画を大きく下回りました。
厳しい事業環境、不透明な国際情勢においても、企業の社会的・経済的価値を持続的に増大させることができる企業グループに進化していくため、目指す姿への道筋を見直し、新たに「長期ビジョン2035」、「中期経営計画2027」 を策定しました。資本効率を意識したBS経営へ転換すること、また成長性のある新たな事業領域に進出していくことを基本方針とし、資本効率向上やポートフォリオ転換といった取り組みを進めてまいります。
①長期ビジョン2035
新たな長期ビジョンでは「サステナビリティへの貢献」を掲げ、「資本効率向上」、「ポートフォリオ転換」、「サステナビリティ促進」を基本方針とし、企業価値の最大化と社会課題の解決に向けた取り組みを通じて、サステナビリティに貢献する企業グループとなることを目指します。

・資本効率向上
投資基準を厳格に定め、非コア資産の売却など資産のスリム化を進め、コア事業に経営資源を集中することで、資本効率・収益性の高い資産構成に進化させていきます。2024年11月に公表した保有株式の縮減計画(政策保有株式に加え、当社グループ会社の退職給付債務に対し積立超過となっている退職給付信託拠出株式を見直すこととし、2024年度から2027年度までに総額700億円を縮減)については、より踏み込んだ検討を進め、2024年度から2030年度までに総額1,200億円(政策保有株式 850億円、退職給付信託株式 350億円)縮減することを計画します。さらに、自己資本と有利子負債のバランスを見直し(ネットD/Eレシオ1.0倍以内)、成長投資と株主還元の充実を図ります。配当性向は2025年度から50%とします。また、2024年度から2026年度末までに1,000億円の自己株式を取得することを、2024年12月に公表しましたが、さらに500億円追加し、2024年度から2027年度までに1,500億円取得します。
・ポートフォリオ転換
印刷用紙などの需要の減退が進む中、成長性のある事業やエリアへの進出を加速します。サステナブルな木質由来でリサイクル性も高い紙の強みを活かし、プラスチック包装から代替可能な紙包装などの新製品を拡充し、環境に配慮したいお客様の需要に応えてまいります。また、木質から付加価値の高い新たな素材を生み出す木質バイオマスビジネスを推進し、将来的には多くの製品を事業化し、当社グループの新たな柱に育てていきます。高い経済成長が見込まれるインドや東南アジアでの事業拡大を継続します。一方で、不採算事業の撤退基準を厳格化し、健全で強靭な事業ポートフォリオへの転換を実現します。
(木質バイオマスビジネス・サステナブル素材開発の取り組み)

創業当時から紙づくりや森づくりで培ってきた多様なコア技術と、国内外に保有する豊富な森林資源を活用することにより、当社グループならではの新たな価値を創造し、社会的課題を解決するためにイノベーションを推進しています。
木質由来の新素材として、セルロースナノファイバー(CNF)は、現在技術面で様々な試みを進めており、化粧品や塗料用途、卓球ラケットなどで実用化されたほか、フィルター事業製品の全熱交換エレメントへの採用、天然ゴムやポリカーボネートとの複合材の開発や燃料電池部材の開発など、新しい用途の探索や実用化を進めており、さらにCNFの新たな機能開発に取り組んでいます。また、セルロース素材を効果的に活用するため、大型の自動車用内装材などに使われるセルロース樹脂ペレットの商品化を進めています。さらに脱炭素化を目的として、木質由来の「糖液」や「エタノール」の製造に取り組んでいます。木質由来の糖液は、バイオマスプラスチックや合成繊維等の様々なバイオものづくりの基幹原料としてニーズの拡大が見込まれ、木質由来のエタノールは、持続可能な航空燃料(SAF)や基礎化学品製造の原料として期待されています。王子製紙㈱米子工場内に製紙工場のインフラを活用した国内最大級の木質由来糖液のパイロット製造設備を導入し、将来の事業化に向け実証試験を開始しました。2025年3月には木質由来エタノールのパイロット製造設備を立ち上げています。今後は量産化設備の設置に向けて操業条件や製造コストの最適化を行い、既存の製紙工場をバイオものづくり工場へ転換するとともに、バイオものづくり製品の社会実装に注力してまいります。さらに今般、原料に木質バイオマスを採用し、PFAS不使用(有機フッ素化合物を含まない)で、さらなる微細化を実現する次世代半導体向けEUV(極端紫外線)用バイオマスレジストの製品開発も進めています。
医薬・ヘルスケア分野については、木材の主要成分を利用することで、動物由来に依存する課題を回避できる医薬品の開発に取り組んでいます。2024年7月には、王子ファーマ㈱が「第一種医薬品製造販売業許可」と「第二種医薬品製造販売業許可」を取得しました。2025年2月には、医薬品事業の幅を広げるため、希少疾患であるホモシスチン尿症治療薬の国内における後発医療用医薬品の製造販売承認申請を行いました。また、創薬における動物実験の回避や再生医療の促進を目指し、細胞培養基材の開発にも注力しています。さらに、医薬品や化粧品、食品向けに幅広く使用されている薬用植物「甘草(カンゾウ)」についても大規模栽培技術を確立し、輸入品に依存せずに国産化することで、高いトレーサビリティと安全・安心を確保した持続可能なビジネスを進めていきます。

さらなるサステナブル素材として、ポリ乳酸のラミネート紙やポリ乳酸フィルムなどの商品化を進めています。2024年5月にポリ乳酸合成のベンチプラントが運転を開始し、今般、世界に先駆けて木質(非可食原料)由来のポリ乳酸の製造技術を確立しています。また、現行の紙リサイクルシステムでも再生が容易な紙コップ原紙を開発しています。なお、当社グループでは、主に焼却処分(サーマルリサイクル)されていた、プラスチックラミネート加工が施された使用済の紙コップやアルミ付きの紙容器を回収し、効率的に繊維(パルプ)分を回収するシステムを開発しました。紙コップ・紙容器の製造者や消費者と連携し、段ボールやペーパータオル等へのマテリアルリサイクルに取り組み、循環型経済(サーキュラーエコノミー)の実現に貢献していきます。
・サステナビリティ促進
当社は、石炭使用量ゼロに向けた燃料転換、再生可能エネルギーの利用拡大による温室効果ガス排出量削減や、植林地を取得・拡大し、有効活用することにより森林による二酸化炭素純吸収量の拡大を進めてまいりました。2025年5月に、新たに2040年をターゲットにした「環境行動目標2040」を公表しました。2040年度までに温室効果ガス排出量を2018年度対比で50%削減、50%相当分を当社が保有する森林により吸収固定することで、2040年度にスコープ1、2の正味ゼロ・カーボン化を目指します。
また、当社グループの事業の核は、大切な財産である「森林」です。森林を適切に育て、管理することは、二酸化炭素の吸収固定や生物多様性保全、水源涵養、土壌保全等、森林が持つ様々な公益的機能を高めることにつながり、森林資源を活用した製品群は、化石資源由来の素材・製品を置き換えていくことが可能です。当社は国内社有林の経済価値評価を実施し、2024年9月に価値総額が年間約5,500億円に達するという結果を公表しました。自然資本会計の時代へ向け、これからもネイチャーポジティブ経営を進化させてまいります。
環境行動目標2040
②中期経営計画2027
2025年度から2027年度を対象とする「中期経営計画2027」は、「長期ビジョン2035」 実現に向けた基盤を固める準備期と位置づけ、資本効率の改善に重点を置いた取り組みを進めます。
・財務戦略
長期ビジョンの資本効率向上の取り組みは、中期経営計画期間中に集中的に実施します。非コア資産の売却や資本コストを意識したハードルレートを適用した投資の厳選により、資産管理を厳格化します。配当性向引き上げ、自己株式取得実施により自己資本をコントロールし、借入も活用することで資本構成の見直しを進めます。これらの取り組みを通じて、成長投資や研究開発のための継続的な資金確保と株主還元強化を両立し、強固な財務基盤を構築します。
・事業戦略
外部環境の変化によるコスト高の着実な価格転嫁、製造拠点の安定操業及び競争力強化、グループ営業体制の強化、高付加価値品へのシフトなどを通じて、既存事業の収益力を強化し、2024年度に落ち込んだ利益率の立て直しを図ります。また、低収益事業については撤退を含めた構造改革を断行し、サステナブルパッケージなどの戦略事業や、高い経済成長が見込まれるインド・東南アジアなどの戦略エリアに成長投資を集中させることで、事業ポートフォリオの転換を推進します。将来の進化に向けた研究開発投資も継続して実行していきます。
これらの取り組みを通じて資本効率向上を実現し、2027年度にROE8%、連結営業利益1,200億円、親会社株主に帰属する当期純利益800億円を達成します。将来的には、木質バイオマスビジネスなど新事業の拡大により、さらなる利益の拡大及びROE10%を目指します。
中期経営計画 数値目標

(事業別の取り組み)
報告セグメントの業績をより適切に評価するため、2025年度第1四半期から、従来「その他」に区分していたサステナブルパッケージング事業及び液体紙容器事業につきましては「生活産業資材」に区分を変更し、また、従来各報告セグメントに配賦していた当社におけるグループ本社費用は、各セグメントには配賦せず「その他」に含めて表示する方法に変更します。このため、事業別の取り組みについては、区分変更後の報告セグメント別に記載しています。
(a) 生活産業資材
・産業資材(段ボール原紙・段ボール加工事業、白板紙・紙器事業、包装用紙・製袋事業、サステナブルパッケージング事業、液体紙容器事業)
国内市場では、当社グループが持つ多様なパッケージング製品の品揃えを活かし、グループ連携を強化してお客様の期待に応えることで、販売拡大に努めます。生産体制の効率化や原紙加工一貫生産化を進めるとともに、M&Aや生産拠点再編により、需要に見合った最適生産体制の構築を進めます。
海外市場のうち東南アジアでは、当社の多様な生産拠点が連携し、お客様に最適化したソリューションを提供することでさらなる販売拡大を目指します。段ボール需要の伸びが期待されるインドでは、さらなる事業拡大を目指すとともに、他の包装資材の拡大も進めてまいります。一方で、ニュージーランドでは、事業環境の変化を受け、2024年12月に段ボール原紙製造設備を1台停止し、2025年6月にさらに1台停止予定です。ヨーロッパでは、脱プラスチック包装の分野で最先端の原料加工技術を保有するフィンランドのWalki社、液体紙包装紙や充填機を製造販売するイタリアのIPI社を中心に、サステナブルパッケージをグローバルに拡大してまいります。
・生活消費財(家庭紙事業、紙おむつ事業)
王子ネピア㈱では、マーケティング戦略を通じて「nepia」ブランドのより一層の醸成を図るとともに、「人と地球に、ここちいい。」、人々のくらしと環境に寄り添う製品づくりを行っています。
家庭紙事業では、2024年7月に敏感肌に優しい“デリケートケアトイレットロール”という新しいコンセプトの「からだ想いのトイレットロール」、10月にコンパクト設計でフタつきのウェットティシュ「ネピア wetomo」を発売、2025年3月からはティシュの枚数や厚みをそのままにボックスティシュの箱サイズコンパクト化を進めています。今後も、お客様に寄り添う製品づくりを通じて、事業拡大を目指してまいります。
紙おむつ事業では、2024年度に国内の子供用おむつの生産販売を終了しました。国内では、今後も需要の拡大が予想される大人用おむつに注力していきます。介護・看護の現場に寄り添い、介護・看護をする人・受ける人双方から信頼される製品を供給してまいります。
2025年3月に、王子グループ初のスキンケア製品である洗顔ソープ「ネピア 鼻セレブSKINLISMモイストクリアバー・モイストクレンジングバー」を発売しました。今後も様々なスキンケア製品の発売を計画しており、スキンケアを事業の新たな柱に育ててまいります。
(b) 機能材(特殊紙事業、感熱紙事業、粘着事業、フィルム事業)
サステナブル素材及び製品の開発を進めるとともに、市場ニーズを先取りし、お客様の期待に応える製品やサービスを迅速に提供します。また、今後も市場拡大が期待されるような新たな事業領域で高付加価値製品を展開することにも積極的に取り組んでいます。
国内では、高機能なサステナブル製品の積極的な開発に継続的に取り組んでいます。2023年に王子エフテックス㈱から販売開始した、非フッ素タイプの耐油紙「O-hajiki(オハジキ)」や、農業用紙製マルチシート「OJIサステナマルチ」は、高い評価をいただいており、今後も販売拡大に努めてまいります。また、王子エフテックス㈱滋賀工場で、電動車のモーター駆動制御装置のコンデンサに用いられるポリプロピレンフィルムの生産設備増設を進め、2025年1月に4台目の製造設備が稼働しました。今後も需要の動向を見極め、生産体制の増強や高品質化への取り組みを進めてまいります。
海外では、感熱製品の世界市場での拡販と印刷・加工を含めた競争力強化を進めています。より高品質で付加価値の高い感熱紙やラベル製品を開発し、製品の差別化を通じて、既存市場での競争力強化、成長市場での販売拡大を目指してまいります。
(c) 資源環境ビジネス(パルプ事業、植林・木材加工事業、エネルギー事業)
「総合パルプメーカー」として世界的なパルプ事業の拡大・強化に加え、植林・木材加工事業、再生可能エネルギー事業等の拡大に注力しています。また、持続可能な森林の育成・拡大を推進し、その豊富な森林資源を活用して、様々な新しい価値を生み出してまいります。
パルプ事業では、事業基盤強化のため、海外主要拠点での戦略的収益対策を継続して実施しています。また、国内では、成長性のある溶解パルプ事業で増産・拡販を進めるとともに、高付加価値品の生産拡大による収益力向上を図っています。
植林事業では、国内外に保有する社有林において、森林を適切に管理し持続可能な資源活用を図るとともに、森林の成長性向上にも取り組んでいます。2024年7月にはウルグアイにおいて3.5万haの植林地を取得しました。また、2025年3月には森林アセットマネジメント会社New Forests社との提携により、森林投資ファンド「Future Forest Innovation ファンド」を設立しました。本ファンドを通じて、約7万haの植林地の取得を目指しています。「海外植林地面積を40万haへ拡大」という目標に向けて、持続可能な森林資源の取得を推進します。
エネルギー事業では、既存のバイオマス発電事業に加えた新たな再生可能エネルギー事業として、社有林地を活用した風力発電事業の検討を進めています。また、国内外の拠点を活かし、エネルギー事業の拡大に合わせたバイオマス燃料の調達・販売強化を進めてまいります。
(d) 印刷情報メディア(新聞用紙事業、印刷・出版・情報用紙事業)
需要動向を見極め、引き続きコストダウンを徹底すると同時に、保有するパルプ生産設備・バイオマス発電設備等の資産を最大限有効活用し、当社グループ全体としての最適生産体制再構築等を通じて、収益力・競争力の強化に取り組んでいます。構造的な環境変化から、2024年2月には新聞・印刷用紙生産設備1台、2025年3月には塗工紙・微塗工紙生産設備1台を停止しました。また、王子製紙米子工場では、既存のパルプ生産設備に連続工業プロセスを導入し、高品質な溶解パルプの生産を行っています。今後も、需要に見合った生産体制の最適化を進め、キャッシュフロー経営を徹底していくとともに、森林資源と既存事業のリソースを有効活用したポートフォリオ転換により、カーボンニュートラルな社会の実現へ貢献してまいります。
(e) その他(商事、物流、エンジニアリング、不動産事業、他)
当社グループは持続可能な社会の構築に貢献すべく、サステナブルな素材である木質資源の有効活用や新規事業の開発を推進し、新しいビジネスモデルの創出に取り組んでいます。
2025年3月に、製薬業界向け微結晶セルロースの製造、販売をグローバルに事業展開する、インドのChemfield社を買収しました。パルプ事業の下流工程にあたる同社を王子グループに加えることで、パルプ加工品の製造販売一貫体制を確立し、高付加価値事業にビジネスを拡大してまいります。
また、資産スリム化の取り組みとして、賃貸不動産の売却検討を進めてまいります。
③王子グループマーク・タグライン
長期ビジョンに示される変革への決意を発信し、グループ全体の一体感を醸成、変革を遂行するため、グループマーク・タグラインを一新しました。国内会社は2025年10月から、海外会社は2026年1月から順次運用開始予定です。

当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりです。なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。
(1)ガバナンス(共通)
当社は、「コーポレートガバナンスに関する基本方針」としてコーポレートガバナンスに関する基本的な考え方、枠組み及び運営方針を定めており、サステナビリティに関するリスク管理体制についても取締役会が整備及び運用状況の監督を行うとともに、独立した客観的な立場から、業務執行取締役及び執行役員に対する実効性の高い監督を行うこととしています。また、取締役会の実効性を高めるため、追加の情報や外部の専門家の助言を適切に入手するための支援体制の整備や社外役員(社外取締役及び社外監査役)による監督機能の強化を図るため、原則月2回、当社グループの重要な業務執行内容を社外役員(社外取締役及び社外監査役)に報告するなどの取組を行っています。
さらに、当社グループのサステナビリティに関するリスク及び対策について協議し、グループ一体となったサステナビリティについての取組を推進するため、取締役会による監督の下、グループ規程に基づき、当社代表取締役社長執行役員CEOを委員長、王子マネジメントオフィス㈱ サステナビリティ推進本部(以下、サステナビリティ推進本部)管掌/分掌役員、カンパニープレジデント、当社代表取締役社長執行役員CEOの指名する当社取締役(社外取締役を含む)、監査役、執行役員を委員とするサステナビリティ推進委員会を年2回開催し、以下の事項を協議することとしています。
サステナビリティ推進委員会の協議事項
・気候関連のリスク及び機会、並びにその対応に関する事項
・当社グループの自然関連の依存、影響、リスク及び機会とその対応、並びに自然資本の回復・拡大に関する事項
・上流・下流バリューチェーンの自然関連の依存、影響、リスク及び機会とその対応、並びに自然資本の回復・拡大に関する事項
・サーキュラーエコノミー推進に関する事項
・持続可能な森林経営に関する事項
・当社グループ及びサプライチェーンにおけるプラスチック汚染、使用量削減に関する事項
・水関連のリスク及び機会、並びにその対応に関する事項
・サプライチェーンリスク、及びその対応に関する事項
・環境リスク、及びその対応に関する事項
・人権リスク、及びその対応に関する事項
・腐敗防止に関する事項
・インクルージョン&ダイバーシティ推進に関する事項
・その他、サステナビリティに関する重要課題、及びその対応に関する事項
グループ横断的なサステナビリティに関するリスク及び機会は、サステナビリティ推進本部が特定し、その対応とともにサステナビリティ推進委員会で協議、承認します。重要事項については当社グループ経営会議で審議するとともに、グループガバナンスを徹底し、グループ各社に対してグループ戦略及び重要情報の共有を図ることとしています。
なお、グループ経営会議で審議された事項のうち、グループ経営戦略に関わる重要な事項については、取締役会において執行を決定します。
決定事項の執行については、CSOの所管の下、サステナビリティ推進本部が当社グループのサステナビリティに関する統括管理を担い、各カンパニープレジデントの下、グループ各社が施策を実行します。なお、グループ各社による施策の実行に際しては当社内に組織する各グループ管理部門が計画策定や実行支援等を行います。サステナビリティ推進本部は、毎月、グループ各社の取組進捗を取り纏めCSOに報告し、重要性に応じてグループ経営会議に付議・報告します。サステナビリティに関する重要なリスク及び機会はCSOの判断のもと、取締役会に随時報告します。
サステナビリティ体制図

(2)リスク管理(共通)
当社グループは、刻々と変化する社会動向を踏まえ、2019年に以下のプロセスで事業におけるサステナビリティに関するリスク及び機会を識別し、重要課題を特定しました。重要課題の特定プロセスにおいては当社グループのコア・コンピタンスを考慮し、SDGs、グローバルリスク、ESG評価、ステークホルダーとの対話の内容に基づき課題を抽出し、外部機関の意見を取り入れて評価しました。特定したサステナビリティ重要課題はグループ経営会議で妥当性を確認し、承認しました。
2020年には気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD: Task Force on Climate-related Financial Disclosures)提言に沿って気候変動に関する政府間パネル(IPCC: Intergovernmental Panel on Climate Change)等のシナリオを用いた気候変動関連のリスク及び機会の分析を行いました。評価及び対応の検討においては、国際エネルギー機関(IEA: International Energy Agency)のネット・ゼロ・エミッション(NZE: Net Zero Emissions)シナリオの2030年の炭素価格:140 USD/t-CO2を内部炭素価格(ICP: Internal Carbon Price)として参照しています。また、2024年には自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD: Taskforce on Nature-related Financial Disclosures)提言のLEAPアプローチ※に沿って自然関連の依存及びインパクトを特定、優先評価対象をCelulose Nipo-Brasileira S.A.(以下、CENIBRA社)の植林事業としてリスク及び機会を抽出し、シナリオ分析を行いました。
重要性が高いリスク及び機会については指標及び目標を設定し、サステナビリティ推進委員会で対応を協議するとともに、進捗を管理します。コア・コンピタンスを活かした当社グループの成長戦略を中核に据え、リスク及び機会を踏まえたサステナビリティに関する重要課題に取り組むことは、当社グループの持続的な企業価値の向上に資するものと考えています。
※LEAPアプローチとは、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)により開発された統合アプローチです。自然関連課題を発見(Locate)、診断(Evaluate)、評価(Assess)、準備(Prepare)の4つのフェーズで評価し、管理します。
サステナビリティ重要課題の特定プロセス

サステナビリティに関する重要課題
当社グループが持つ5つのコア・コンピタンス
(3)各サステナビリティに関する重要課題に向けた戦略、指標及び目標
当社グループにおけるサステナビリティに関する各重要課題に向けた戦略、指標及び目標は次のとおりです。
「気候変動の緩和・適応」課題に向けた取組
①戦略
当社グループは、2030年に向けた中期の炭素税等の政策・規制による移行リスク、2050年に向けた長期の降水・気象パターンの変化等の物理的リスク、中・長期の低炭素製品の需要増加機会を重要なサステナビリティ関連のリスク及び機会と識別しています。
これらのリスク及び機会に対応するため、環境に配慮した技術を向上し、森林保全・植林を通じた森林の二酸化炭素の蓄積並びに事業構造転換、製品製造、輸送部門の徹底した省エネルギー、再生可能エネルギーの利用量拡大により脱炭素社会への移行に対応し、2040年の正味ゼロ・カーボン化を目指しています。また、降水・気象パターンの変化による樹木の生育状況悪化に備え、分散調達による安定的調達の強化や、気候・地域に適した樹種の開発・選定に取り組んでいます。さらに、脱炭素化に貢献する木質由来の新素材の開発を進めています。
2021年度、2023年度に石炭ボイラを廃止するなど、移行段階として石炭からガスへの燃料転換を進めており、将来的には水素、アンモニア、e-methane(合成メタン)の導入を検討します。また、安定的な森林資源の確保により当社グループの事業基盤を強化するとともに、森林の二酸化炭素の蓄積を推進するため、2024年度においては、ウルグアイに設立したOji Uruguay Forest Company S.A.Sによる植林地の取得や、森林アセットマネジメント事業会社New Forests Pty Limitedとの提携によるグローバルに森林投資を行う「Future Forest Innovationsファンド」の設立等を実施しました。
気候関連のリスク及び機会と対応
※影響額(ICPを用いて評価) 小:100億円未満、中:100億円以上500億円未満、大:500億円以上 ※以外は定性評価
②指標及び目標
当課題の取組に関連する主な指標及び目標は、以下のとおりです。
・2030年度までにGHG排出量を2018年度対比で70%以上削減※(Scope 1、Scope 2)
※森林によるCO2吸収・固定を含める
・石炭使用量の低減等により、2030年度までに再生可能エネルギー利用率60%以上に向上
・2030年度までに海外植林地を40万haへ拡大
さらに、2025年5月には環境行動目標2040を策定し、以下の指標及び目標を設定しました。
・2040年度のGHG排出量を森林によるCO2吸収・固定で相殺し正味ゼロ・カーボン化(Scope 1、Scope 2)
・2040年度までに石炭使用量ゼロ
「持続可能な森林経営と生物多様性の保全」課題に向けた取組
①戦略
当社グループは森林を事業の核としており、特に林業において生態系サービスへの依存と土地利用による自然へのインパクトが大きいと認識しています。また、CENIBRA社の植林事業を対象としたシナリオ分析を通じて、報告義務の強化や新たな規制の導入、森林伐採に対するネガティブイメージの拡大による移行リスク、気温上昇に伴う木材生産性の低下、森林火災の発生頻度の増加による物理リスク、再生可能資源やサステナブル製品の需要増加、木材や水資源の利用効率の向上による機会を重要なサステナビリティ関連のリスク及び機会と識別しています。
当社グループは従来より「木を使うものは木を植える義務がある」という考えの下、長年にわたり実践してきた持続可能な森林経営を通じて、これらのリスク及び機会に対応してきました。引き続き持続可能な森林経営を推進して森林の多面的機能を高めるとともに、生態系を保全・回復する取組を継続・拡大し、世界のネイチャーポジティブの達成に貢献します。
2024年にはCENIBRA社が第三者機関の審査を受け、生物多様性保全活動等による生物多様性へのポジティブな影響が、企業活動による生物多様性への圧力を大幅に上回っていることが確認されました。また、森林には木材生産だけでなく、生物多様性や水源涵養といった多面的機能があり、当社グループの国内社有林の自然資本としての経済価値を2024年度に試算しました。
②指標及び目標
当課題の取組に関連する主な指標及び目標は、以下のとおりです。
・海外の森林認証取得率を向上(国内は100%維持)
・2024年度から2033年度までの期間に3,000 ha以上の天然林を所有地内で再生
・2024年度から2033年度までの期間に50万本以上の郷土樹種を所有地内で植栽
・2024年度から2033年度までの期間に3,500 ha以上の緑の回廊を所有地外で設置
さらに、2025年5月には環境行動目標2040を策定し、以下の指標及び目標を設定しました。
・森林破壊ゼロを継続
・2018年度から2040年度までの期間に5,000 ha以上の天然林を所有地内で再生
・2018年度から2040年度までの期間に90万本以上の郷土樹種を所有地内で植栽
・2018年度から2040年度までの期間に6,000 ha以上の緑の回廊を所有地外で設置
「資源の循環的利用」「環境負荷の低減」課題に向けた取組
①戦略
当社グループは、紙・パルプの生産工程で利用する「水」や、紙の原料である「古紙」の循環的利用の取組を行っており、社会のサーキュラーエコノミーへの移行に貢献してきました。また、環境配慮型紙製品の拡販により、社会のプラスチック使用量削減に貢献します。
<水に対する戦略> 当社グループが国内外に所有する森林資源は水源涵養機能を有し、特に国内の「王子の森」の水源涵養量は当社グループ事業場全体の取水量の約2.6倍に相当すると解析されています。森林の水源涵養機能により地域の水資源を創出していることを機会と考え、地域の水資源を支える森林の水源涵養機能を継続して維持していきます。一方で事業において使用している水資源は、過剰に使用することで地域の水資源枯渇を引き起こすリスクや、汚染物質を排出することで地域の生態系を脅かすリスクがあります。当社グループはステークホルダーと協働しながら、事業を展開する地域の状況に合わせた水資源の利用を行います。継続して取水量、水質汚濁物質の削減を進め、地域の生態系を保護しながら水資源を地域に戻していきます。また、当社グループの一部事業場は水リスクが高い地域で事業を行っています。水リスクの高い地域の売上高及び資産は、当社グループ全体に占める割合は低いため、財務的影響は小さいと見積もっています。一方で水リスクが高い地域での水使用の影響を認識しており、地域への影響の緩和を行っていきます。さらに水資源への取り組みにより得た水処理の知見に基づいて得られた水処理技術を拡大することは、社会において地域の生態系を保護しながら水資源を利用することにつながるため、当社グループにとって機会と考え、事業を展開しています。
<古紙に対する戦略> 再生されず処分されていた紙製品の再生利用に取り組んでいます。2023年度には、従来、耐水性を持たせるためプラスチックラミネート加工が施されているなどの理由により再資源化ができず一般的に焼却処分されていた紙コップを分別・回収し、繊維分を効率的に回収する技術を確立し、段ボール原紙としてリサイクルする取組を開始しました。技術開発による紙製品の再生利用の拡大を機会と考え、取組を推進します。2024年度には、さらに企業・業界の枠を超えた低炭素・資源循環型社会への取組として回収の規模を拡大し、ハンドタオル(ペーパータオル)としてリサイクルする取組を開始しました。
<プラスチックに対する戦略> 欧州などの規制強化、消費者意識変化によるプラスチック代替製品の需要増加を機会ととらえ、プラスチック製品から環境配慮型紙製品への置換を通じて、当社グループの顧客で使用される、さらには社会全体で使用されるプラスチックの量を削減します。
②指標及び目標
当課題の取組に関連する主な指標及び目標は、以下のとおりです。
・2030年度の取水原単位を2018年度対比で6%以上削減
・紙のリサイクル(古紙利用率)を国内70%以上に向上
・2030年度までに環境配慮型紙製品を5,000 t以上拡販
さらに、2025年5月には環境行動目標2040を策定し、以下の指標及び目標を設定しました。
・2040年度の取水総量を2018年度対比で10%以上削減
・高水リスク地域におけるステークホルダーエンゲージメントを年1回以上実施
・段原紙古紙利用率を国内90%以上に維持
「責任ある原材料調達」課題に向けた取組
①戦略
企業価値の向上には、当社グループだけではなくサプライチェーン全体での法令遵守と社会的責任の遂行が不可欠です。グローバル化の急速な進展とともに、社会的課題への対応が注目されており、特に原材料調達におけるサステナビリティへの配慮が強く求められています。サプライチェーン上で環境や社会への配慮に欠けた事例が発生することでステークホルダーからの信頼を失うリスクがあり、リスク低減に向けた対応が必要です。また、欧州の規制強化により森林破壊に対する関心が高まっており、当社グループで森林破壊や転換のない、持続可能な森林管理及び木材原料調達を行ってきたことは機会につながると考えます。
当社グループは、サプライヤーとの継続的な対話を通じて、責任ある原材料調達を推進し、持続可能な社会への貢献を目指しています。サプライチェーンリスク低減のため「王子グループ・サプライチェーン・サステナビリティ行動指針」と「木材原料の調達指針」を定めており、新規サプライヤーに取引前に両指針への理解を求めるとともに、指針改訂時には全サプライヤーに周知徹底を図っています。また、2020年度より取引額及び品目を基に選定した主要サプライヤーに対しサステナビリティ調査を行い、サプライチェーンの実態把握とリスク管理を行っています。
また、2024年12月には「森林破壊・転換ゼロコミットメント」を公表しました。本コミットメントの下でサプライチェーン全体で森林破壊・転換を行わない調達を継続します。
②指標及び目標
当課題の取組に関連する主な指標及び目標は、以下のとおりです。
・主要サプライヤーに対するサステナビリティ調査の100%実施
・「木材原料の調達指針」に基づくトレーサビリティ調査の100%実施
さらに、2025年5月には環境行動目標2040を策定し、以下の指標及び目標を設定しました。
・サプライヤー人権・環境デュー・ディリジェンス 1回/年 実施
「人権の尊重」
①戦略
人権の尊重はコア・コンピタンスの前提であり、サステナビリティ重要課題が成立するための不可避の条件です。当社グループは、人権への配慮欠如によるステークホルダーからの信頼低下のリスク、エンゲージメント向上の機会を重要なサステナビリティ関連のリスク及び機会と識別しています。
当社グループは、人権尊重の取組が当社グループの競争力強化の大前提と捉え、2020年に「王子グループ人権方針」を制定しました。本方針は、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づき、「国際人権章典」等の国際規範を支持・尊重しており、当社グループの全ての役員及び従業員に適用し、全ての事業活動に反映し、全てのステークホルダーに対して方針の理解と遵守を期待するものです。
同指導原則においては、人権尊重の責任を履行するものとして「人権方針の策定」「人権デュー・ディリジェンスの実施」「苦情処理メカニズムの整備」が定義づけられています。当社グループは企業活動に関連する人権の負の影響を特定・防止・軽減するための「人権デュー・ディリジェンス」を2022年度から実施しています。2024年度は潜在的人権リスクが高いと思われるサプライヤーを対象に、人権や労働慣行等を確認する人権アセスメントを実施したほか、当社グループ海外事業所の移民労働者を対象とした第三者機関によるインタビュー調査を実施しました。2025年2月には、これまで未対応だった「苦情処理メカニズム」を導入し、非司法的な苦情処理プラットフォームにより、あらゆるステークホルダーからの人権及び自然資本に関わる苦情処理を受け付ける体制を構築しました。これにより、ステークホルダーとのエンゲージメント向上に努めていきます。
②指標及び目標
当課題の取組に関連する主な指標及び目標は、以下のとおりです。
・人権デュー・ディリジェンス 1回/年 実施
・対象者への人権教育・研修の100%実施
(4)人的資本の強化
①戦略
当社グループは、サステナビリティに関する重要課題を解決し、世の中に求められる企業として存続していくためには「人」が重要であると考え、「企業の力の源泉は人財(人的資本)にあり」という大原則のもと、「王子グループ人財理念」に従って、人財確保、人財育成に取り組んでいます。
王子グループ人財理念
高い倫理観
経営理念・パーパス(存在意義)・経営戦略の理解と実践
変革意識と挑戦
自己研鑽と組織の成長・進化への貢献
世界を意識した行動
具体的な取組は以下のとおりです。
「人的資本の強化」が目指す姿である王子グループ人財理念を体現する人財の確保、育成の前提となるものは、「コンプライアンス・安全・環境の徹底」、「人権の尊重、インクルージョン&ダイバーシティ」、「人財活用(実力主義に基づく公正な処遇とエンゲージメント向上)」であり、この3つが、社内環境整備方針の基盤となります。
3つの基盤をしっかりと整えた上で、従業員一人ひとりの意識(行動)の改革や、管理職による部下の成長・進化を促すマネジメントを通じ、多様な人財の能力開発・キャリア形成及びワークライフマネジメントの向上を促し、従業員一人ひとりが能力を最大限に発揮し、多様な価値観・発想からクリエイティブな成果を通じてイノベーションを実現させることで、持続的な企業価値の向上を目指していきます。
「コンプライアンス・安全・環境の徹底」
当社グループは、「国連グローバル・コンパクト」の人権、労働、環境、腐敗防止の原則を織り込み、2004年に「王子グループ企業行動憲章」及びこの憲章の行動指針である「王子グループ行動規範」を制定し2020年度にSDGs等の社会環境及び、経営理念を反映させて改訂し、より時代の要求に即した内容としました。
企業行動憲章・行動規範の改廃は取締役会の決議事項であり、取締役会の関与の下、活動の規範として、グループ拠点のある各国の言語に翻訳され、グループに属するすべての役員及び従業員に周知しています。すべての役員及び従業員は、この企業行動憲章と行動規範を正しく理解し、実践することに努め、もし、反する行為を行っている場合、もしくは違反が疑われる場合は、速やかに上司あるいは会社・職場のコンプライアンス担当窓口、または企業ヘルプライン(グループ内部通報)窓口に通報、相談することとしています。
当社グループ全体にわたるコンプライアンス意識の醸成のために、国内外のグループ各社では、コンプライアンス責任者、コンプライアンス推進リーダーが推進活動の中心となり、半期ごとのコンプライアンス会議を実施するなど、コンプライアンス活動を推進しています。
「人権の尊重、インクルージョン&ダイバーシティ」
当社グループでは、すべての従業員に対して、経営理念、パーパス(存在意義)、人財理念など、核となるものについては、共通の価値観を求めています。さらに、当社グループは、人種、国籍、民族、出身地、思想信条、価値観、宗教、年齢、性別、性的指向、性自認、障がい、社会的身分、社内的地位等に関わらず、従業員一人ひとりの多様な価値観、発想、能力を最大限に活用し互いに成長することで企業の競争力強化に結びつく「個人・組織の活性化」に向け「インクルージョン&ダイバーシティ」を推進しています。なお、「人権の尊重」に関する戦略、指標及び目標については(3)各サステナビリティに関する重要課題に向けた戦略、指標及び目標において記載しています。
「人財活用(実力主義に基づく公正な処遇とエンゲージメント向上)」
・公正な処遇
価値創造の源泉となる人財を活用し、経営理念・パーパス(存在意義)を実践し、経営戦略(長期ビジョンを含む)に沿った課題を確実に遂行するため、「役割期待」及び「成果」を基準とする実力主義に基づく人事制度として、「役割等級制度」を適正に運用し、従業員一人ひとりが、その保有する能力を通じて発揮した役割の大きさに応じて処遇しています。
また、高年齢者にも会社生活で培った知識、技術、技能を存分に発揮し意欲をもって働けるよう、国内主要グループ会社にて、「65歳定年制」を導入し、また、2023年度より、一定の条件を満たす従業員を対象に、最長67歳までの再雇用制度を導入しました。
・エンゲージメントの向上
「人財育成、グループ内公募制度」
人財育成を進めるため、グローバル人財育成やDXリテラシー教育、管理職育成等の研修プログラムを実施するとともに、従業員の意思にもとづく自律的なキャリア形成を促進し、意欲の高い人財の適正配置、有効活用により、事業の強化、組織の活性化、従業員のエンゲージメント向上を図ることを目的として、2022年度から国内グループ会社正規従業員及び海外駐在員を対象として公募制度を実施しています。
「エンゲージメントサーベイの実施」
実態を把握・分析し改善を図るため2024年度よりエンゲージメントサーベイを拡充し、各職場にフィードバックしています。特にやりがい(仕事)と長期就労意欲(組織)に対する回答結果に着目し、スコアの低い職場への改善策の立案・実施や、労働環境の改善など、スコアの向上に向けて継続的に取組を進めています。
「タウンホールミーティングの実施」
経営理念をはじめとした経営方針、事業戦略を浸透させ、さらに現場の生の声を聞く(取り入れる)ことにより双方のコミュニケーションを深め、事業運営の意思統一、組織の一体感や風通しの良い職場の醸成、従業員のエンゲージメント向上を図ることを目的にタウンホールミーティング(経営陣と従業員の直接対話)を実施しています。
「スキルマップとポータルサイトの新設」
従業員の保有するスキルとレベルを正確に把握し、それに基づいた最適な人財配置と育成を実現するため、2025年度より「スキルマップ」の整備を開始しました。職種とスキル・レベルの組み合わせにより、約3,000種類に分類される予定です。また、グループ全体でのノウハウや情報の共有を促進し、経営理念・パーパス(存在意義)・経営戦略への理解を深めるとともに、従業員のリスキリングによる生産性とエンゲージメントの向上を目的として、王子グループ独自のコンテンツを集約したポータルサイト「Oji library」を新設しました。
②ガバナンス及びリスク管理に関する補足説明
サステナビリティ推進委員会において、当社グループを横断した安全・環境・人権・インクルージョン&ダイバーシティ等の推進方針・目標の共有を行っています。
また、2020年10月に「王子グループ健康宣言」を制定し、当社代表取締役社長執行役員CEOを最高健康責任者とし、健康の確保に取り組んでいます。
③指標及び目標
人的資本の強化の取組に関する指標及び目標、実績は下表のとおりです。
a コンプライアンス・安全・環境の徹底
b 人権の尊重、インクルージョン&ダイバーシティ
c 人財活用(実力主義に基づく公正な処遇とエンゲージメント向上)
※1 2024年10月1日から2025年3月31日までの対象期間
集計範囲:国内グループ会社153社
※2 2024年1月1日から2024年12月31日までの対象期間
※3 2025年3月31日から2025年5月23日までの対象期間 総受講者2,647名(対象25社)を対象に実施
※4 集計範囲:2015年9月集計開始時従業員数301名以上の国内グループ会社16社
2024年度(2024年4月1日から2025年3月31日までの対象期間)
※5 目標:法定雇用率達成 2024年6月1日時点
実績:2024年6月1日時点
グループ適用6社:王子ホールディングス㈱、王子ネピア㈱、王子イメージングメディア㈱、王子製紙㈱、王子マネジメントオフィス㈱、王子クリーンメイト㈱を対象に集計
グループ83社:2024年度の法定雇用率2.5%において1名以上の障がい者の雇用義務のある従業員40人以上の会社(国内グループ適用6社を含む)
※6 2024年度(2024年4月1日から2025年3月31日までの対象期間)
※7 集計範囲:2015年9月集計開始時従業員数301名以上の国内グループ会社16社
実績:2025年3月末
※8 集計範囲:2025年4月集計開始時従業員数301名以上の国内グループ会社14社と従業員数301名未満で王子マネジメントオフィス㈱一括採用(新卒総合職)対象の国内グループ6社
実績:2025年3月末
※9 実績:2025年4月1日入社
当社グループ主要会社の新卒採用総合職は、優秀人財の確保や業務効率化の観点より、2018年度入社者から王子マネジメントオフィス㈱にて一括採用しています。
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況等に重要な影響を及ぼす可能性のある主要なリスクには、以下のようなものがあります。
なお、これらはすべてのリスクを網羅的に記載したものではなく、記載されたリスク以外のリスクも存在し、それらのリスクが投資家の判断に影響を与える可能性があります。また、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。
リスク管理
王子グループは、取締役会による整備・監督のもと「グループリスク管理基本規程」を定め、次の流れでリスク管理に取り組んでいます。
王子ホールディングス取締役及び執行役員は、管掌する事業・部門におけるリスクに関するグループ経営会議への報告責任を持ちます。重要なリスクについては、取締役会に報告されます。
また、王子ホールディングス取締役会は、リスク管理の有効性について、毎年評価を実施しています。
リスク管理の流れ

王子グループのリスク管理体制は下図のように構成され、監査部門とは独立して運営されています。
監査役会及び内部監査部は、リスク管理状況についても監査を実施しています。
リスク管理体制

当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」といいます。)の状況及び経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりです。
なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものですが、予測しえない経済状況の変化等さまざまな要因があるため、その結果について当社が保証するものではありません。
中期経営計画の最終年度にあたる当連結会計年度におきましては、2024年4月に、「収益向上への取り組み-Profitability-」の一環として、世界に先駆けて環境規制が進む欧州においてパッケージング事業の基盤を構築することを目的に、包装・包装廃棄物規制に関連したリサイクル及び脱プラスチックの分野で最先端の原材料加工技術を保有するWalki 社( 本社: フィンランド) の買収を完了しました。「環境問題への取り組み-Sustainability-」につきましては、その一環として、「環境行動目標2030」に掲げる「気候変動問題への対応」に向けた取り組みの一つとして植林地の拡大を進めており、2024年7月にウルグアイにおいて3.5万haの植林地を取得しました。また、再生可能エネルギーの利用拡大による温室効果ガスの削減や、早生樹の植林による二酸化炭素純吸収量の拡大など、環境問題への対応に継続して取組んでいます。「製品開発への取り組み -Green Innovation-」につきましては、石油由来の燃料やプラスチックに置き換わる「木質由来の新素材」の開発のため、王子製紙米子工場内に国内最大級の木質由来糖液のパイロット製造設備を導入し、将来の事業化に向け実証試験を開始しました。また、2025年3月には木質由来エタノールのパイロット製造設備を立ち上げています。紙づくり・森づくりで培った多様なコア技術をベースに、サステナブル素材・製品をはじめとした木質由来の新製品・新素材等の開発・早期事業化を進め、「森林を健全に育て、その森林資源を活かした製品を創造し、社会に届けることで、希望あふれる地球の未来の実現に向け、時代を動かしていく」企業として、社会へ貢献してまいります。
3つの柱に取組む一方で、当社グループは、事業環境の変化に対応するため事業ポートフォリオの転換の一環として子会社株式の売却や低収益事業の見直し・撤退を進めています。最適生産体制の構築等を通じた既存事業の深化、海外パッケージング事業やサステナブル製品等の有望事業の伸長を図り、事業価値を高めてまいります。
このような取り組みの中、当連結会計年度の売上高は、Walki社の買収・連結子会社化や、サイクロン被災の影響により生産を停止していたニュージーランドのPan Pac社が段階的に復旧し、2024年11月には全ての生産ラインが稼働再開したこと等により、前期を1,530億円(9.0%)上回る18,493億円となり、海外売上高比率は前期を5.9ポイント上回る40.8%となりました。
営業利益は、海外でのパルプ市況良化や、販売数量の増加はあったものの、物流費や人件費等のコスト上昇等により、前期を49億円(△6.8%)下回る677億円となりました。
経常利益は、外貨建債権債務の評価替えによる為替差損の発生等により、前期を174億円(△20.3%)下回る686億円となりました。
税金等調整前当期純利益は、経常利益の減益に加え、特別損失にニュージーランドにおける段ボール原紙事業の見直し等に伴う事業構造改善費用108億円等を計上したものの、特別利益に政策保有株式等の売却に伴う投資有価証券売却益262億円や退職給付信託拠出株式の見直しに伴う退職給付信託返還益85億円等を計上したことにより、前期を68億円(8.7%)上回る844億円になりましたが、親会社株主に帰属する当期純利益は、前期を46億円(△9.1%)下回る462億円となりました。
当社グループの報告セグメントは、当社グループの構成単位のうち、経済的特徴、製品の製造方法又は製造過程、製品を販売する市場又は顧客の種類等において類似性が認められるものについて集約を実施し、「生活産業資材」、「機能材」、「資源環境ビジネス」、「印刷情報メディア」の4つとしています。報告セグメントに含まれない事業セグメントは、「その他」としています。
各セグメントの主要な事業内容は以下のとおりです。
生活産業資材・・・・・段ボール原紙・段ボール加工事業、白板紙・紙器事業、包装用紙・製袋事業、
家庭紙事業、紙おむつ事業
機能材・・・・・・・・特殊紙事業、感熱紙事業、粘着事業、フィルム事業
資源環境ビジネス・・・パルプ事業、エネルギー事業、植林・木材加工事業
印刷情報メディア・・・新聞用紙事業、印刷・出版・情報用紙事業
その他・・・・・・・・商事、サステナブルパッケージング事業、物流、エンジニアリング、不動産事業、
液体紙容器事業 他
○生活産業資材
当連結会計年度の売上高は前期比4.3%増収の8,327億円、営業利益は同60.1%減益の85億円となりました。
国内事業では、白板紙や包装用紙は需要回復により、売上高は前年に対し増収となりました。また、紙おむつの売上高は、大人用おむつは新規顧客獲得により前年に対し増収となりましたが、子供用おむつが2024年9月をもって国内事業から撤退したことを受け減収となりました。
海外事業では、段ボール原紙は為替影響等により、段ボールは東南アジアにおける更なる事業拡大の一環としてベトナムで新工場を立ち上げたこと等により、売上高は前年に対し増収となりました。
○機能材
当連結会計年度の売上高は前期比3.9%増収の2,364億円、営業利益は同6.3%増益の96億円となりました。
国内事業では、特殊紙は戦略商品である通販向けヒートシール紙、非フッ素耐油紙等の拡販や、半導体関連の需要回復、価格修正等により、売上高は前年に対し増収となりました。感熱紙は堅調な需要により、売上高は前年に対し増収となりました。
海外事業では、緩やかな需要回復により、売上高は前年に対し増収となりました。
○資源環境ビジネス
当連結会計年度の売上高は前期比9.1%増収の3,923億円、営業利益は同55.8%増益の305億円となりました。
国内事業では、パルプ事業は溶解パルプ市況の良化、円安影響により増収となりましたが、エネルギー事業において販売電力量が減少し、売上高は前年に対し減収となりました。
海外事業では、サイクロンの影響により停止していたニュージーランドのPan Pac社の復旧が進んだことにより、売上高は前年に対し増収となりました。
○印刷情報メディア
当連結会計年度の売上高は前期比2.1%減収の2,932億円、営業利益は同48.7%減益の86億円となりました。
国内事業では、新聞用紙、印刷・情報用紙は需要の減少傾向が継続しており、売上高は前年に対し減収となりました。
海外事業では、江蘇王子製紙において、生産効率の向上に伴う生産量増加により、売上高は前年に対し増収となりました。
○その他
当連結会計年度の売上高は前期比33.8%増収の4,228億円、営業利益は同58.4%増益の92億円となりました。
2024年4月に、脱プラスチックの分野で最先端の原料加工技術を保有するフィンランドのWalki社を子会社化したことなどにより、増収となりました。
当連結会計年度における生産実績をセグメント毎に示すと、次のとおりです。
(注)1.セグメント間取引については相殺消去前の数値によっています。
2.金額は、販売価格によっており、自家使用分を含んでいます。
当社グループは、エンジニアリング等一部の事業で受注生産を行っていますが、その割合が僅少であるため、記載を省略しています。
当連結会計年度における販売実績をセグメント毎に示すと、次のとおりです。
(注)セグメント間取引については相殺消去しています。
当連結会計年度末の総資産は、企業価値向上の取り組みの一環として実施した保有株式売却等により投資有価証券が200億円、退職給付に係る資産が93億円減少した一方で、Walki社の買収・連結子会社化やウルグアイにおける植林地の取得等により、前連結会計年度末に対し1,925億円増加し、26,350億円となりました。負債は、M&Aや植林地取得に伴う有利子負債の増加等により、前連結会計年度末に対し1,554億円増加し、15,022億円となりました。純資産は、資本効率性の改善と株主還元の充実を図るために自己株式の取得を実施し、純資産を圧縮する一方、利益剰余金や為替換算調整勘定の増加等により、前連結会計年度末に対し372億円増加し、11,328億円となりました。上記の結果、ネットD/Eレシオ(純有利子負債残高/純資産残高)は0.7倍となりました。
なお、自己株式の取得につきましては、2027年度までに1,500億円を取得する計画であり、その一環として2025年12月までに500億円を取得することとしています。当連結会計年度におきましては、293億円の自己株式を取得しました。
当連結会計年度末の現金及び現金同等物の残高は、655億円(前連結会計年度末は625億円)となりました。
営業活動によるキャッシュ・フローは、前連結会計年度に対して1,085億円収入が減少し、944億円(前連結会計年度は2,029億円の収入)となりました。主なキャッシュの内訳は、税金等調整前当期純利益に減価償却費を加えた金額1,735億円(前連結会計年度は1,571億円)、売上債権の減少111億円(前連結会計年度は175億円の減少)及び仕入債務の減少215億円(前連結会計年度は168億円の増加)、法人税等の支払額374億円(前連結会計年度は136億円の支払い)です。
投資活動によるキャッシュ・フローは、投資有価証券の売却による収入等がある一方で、有形及び無形固定資産の取得による支出や子会社株式の取得による支出等により、1,549億円の支出(前連結会計年度は1,180億円の支出)となりました。
財務活動によるキャッシュ・フローは、自己株式の取得による支出等がある一方で、借入金等の調達等により、610億円の収入(前連結会計年度は849億円の支出)となりました。
当社グループの営業活動に関する資金需要は、生産・販売活動のために必要な運転資金や研究開発費等です。投資活動に関する資金需要は、経営戦略の遂行に必要な投資、品質改善・省力化・生産性向上・安全・環境のために必要な設備投資等です。今後も海外事業や有望な事業等の成長分野に対しては、M&Aや設備投資等を積極的に行っていく予定であり、また、「環境行動目標2040」の達成に向けた取り組みも進めていきます。
資本効率性の改善と株主還元に関しては、配当性向を2025年度より50%に引き上げるとともに、長期的な企業価値向上に向けた成長投資に備えるための資金需要を勘案しつつ、財務の健全性が維持できる範囲において自己株式の取得を実施することとしています。
資金の外部調達は、営業活動によるキャッシュ・フローと資金需要の見通し、金利動向等の調達環境、既存の借入金や社債償還時期等を総合的に勘案の上、調達規模、調達手段等を適宜判断し実施しています。
財務の健全性は、主にネットD/Eレシオを用いて管理しています。
総資産効率向上と財務ガバナンス強化を目的として、国内主要子会社とはキャッシュ・マネジメント・システムを導入することで資金の一元管理を行い、海外子会社においても2025年2月にマレーシアで新たにキャッシュ・マネジメント・システムを導入するなど、同一地域内のグループ各社間で資金融通を行った上で、余剰となった資金は随時当社に集約し、現金及び現金同等物の保有は必要最小限に留めています。なお、不測の事態に備え、主要取引行とコミットメントライン契約等を締結しています。
連結財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載のとおりです。
(財務上の特約が付された金銭消費貸借契約)
(注) 上記は、すべて当社を借入人とするシンジケートローンです。
当社のイノベーション推進本部を中心に、創業当時より森づくりや紙づくりで培ってきた多様な技術と国内外に保有する豊富な森林資源を余すことなく活用し、資源の循環的利用、環境負荷の低減といった社会課題解決へ資する新しい価値創造に取組んでいます。また、既存事業の競争力強化として、国内外のグループ会社や各工場の研究開発部門は当社のグループ技術本部と連携し、新製品開発及び既存製品の品質向上、先端技術の導入等による操業の安定化やコストダウンの推進を図っています。
当連結会計年度の研究開発費の総額は
当連結会計年度の各セグメントの主な研究開発活動は次のとおりです。
(1)その他セグメント
[イノベーション推進本部]
「①木質由来新素材の開発」、「②未利用バイオマス資源の有価物化」、「③医薬・ヘルスケア分野への本格参入」、「④サステナブルパッケージの展開」の4つの軸で研究開発を進め、持続可能な社会への貢献を目指します。
①木質由来新素材の開発
化石資源に依存した燃料やプラスチック原料を、バイオマス由来原料に置き換えるべく、木質由来の「糖液」、「エタノール」、「ポリ乳酸」の技術開発を進めています。「糖液」はバイオものづくりの基幹原料として、「エタノール」はバイオ燃料(SAF、バイオ混合ガソリン)やバイオマスプラスチックをはじめ基礎化学品の製造原料としての需要拡大が見込まれます。「ポリ乳酸」は代表的なバイオマスプラスチックの一つであり、食品用容器・フィルムなどの包装材をはじめとする幅広い用途に利用拡大が期待されています。2024年12月には王子製紙米子工場内に工場のインフラを活用した国内最大級の木質由来糖液のパイロット製造設備を立ち上げ、2025年3月より稼働を開始しました。また、2025年3月には木質由来エタノールのパイロット製造設備を立ち上げました。製造条件の最適化等を行なうとともにサンプルワークを進め、事業化を推進します。また、2024年7月に(株)バッカス・バイオイノベーション、日揮ホールディングス(株)、(株)ENEOSマテリアル、大阪ガス(株)、東レ(株)と弊社で共同提案した「木質等の未利用資源を活用したバイオものづくりエコシステム構築事業」が国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「バイオものづくり革命推進事業」に採択されました。本事業では、バイオものづくり製品の社会実装及びその社会受容性の醸成を促す仕組みづくりを通じて、既存の製紙工場をバイオものづくり工場へと転換し、競争力のあるバイオものづくりのハブの実現を目指します。
木質由来素材のセルロースナノファイバー(CNF)は、透明で軽くて丈夫、変形にも強く、高い増粘効果を有する優れた材料として多種多様な分野での活躍が期待されています。2024年5月には天然ゴムとの複合材の量産試作設備を導入し、タイヤ市場への本格参入を目指して開発体制を強化しています。また、CNFを用いた全熱交換型換気システムの部材である全熱交換エレメントの開発のほか、燃料電池用高分子電解質膜の開発やポリカーボネート樹脂との複合材のロボット部材等への展開にも取組んでおり、今後も様々な用途で社会実装を進めます。
最先端半導体向けの木質由来バイオマスレジストの開発を進めています。今後さらなる成長が見込まれる半導体市場では高性能化に伴い微細加工技術の進化が求められているなか、独自技術によりPFAS不使用(有機フッ素化合物を含まない)かつ次世代EUV(極端紫外線)露光装置にも対応可能なレジストを実現しました。環境配慮と高性能を両立したレジストで顧客ニーズに沿った開発に取り組み、事業化を目指します。
抄紙パルプよりもセルロース純度の高い溶解パルプを製造しており、当社グループのコア技術を医薬品や食品添加剤などの高付加価値製品の原料への展開を目指した研究開発にも取り組んでいます。
②未利用バイオマス資源の有価物化
当社グループは豊富な森林資源、紙、エネルギー、水をうまく循環させ、資源を有効活用してきたノウハウを活かし、未利用バイオマス資源の有価物化に取組んでいます。その一つがバイオ炭による二酸化炭素削減と土壌改良です。植物をバイオ炭として炭化させることで、炭素を長期間固定し、大気中の二酸化炭素を削減することにより地球温暖化の緩和に寄与します。また土壌改良剤として、土壌の保水性や通気性を向上させ、植物の生育を促進する効果も期待されています。2025年度には植林木の未利用樹皮を原料としたバイオ炭をベトナム社有林で施用する実証試験を開始予定です。また、水環境関連の分野では、水処理に関する新規プロセスの検討や排水処理における廃棄物や副産物の有効利用などを検討しており、環境に配慮した事業展開に繋げていきます。環境負荷ゼロへ挑戦するとともに、副産物・未利用バイオマス資源から新たな価値を見出し、新たな事業へと繋げていきます。
③医薬・ヘルスケア分野への本格参入
医薬・ヘルスケア分野への本格参入のため、大きく3つのテーマを推進しています。そのうち2つのテーマは事業化を加速するため、イノベーション推進本部から立ち上げた2社において研究開発を行っています。
王子ファーマ㈱は、木材中の未活用成分でパルプ製造時の副産物であるヘミセルロースから得られる「硫酸化ヘミセルロース」を原薬とした医薬品の事業化を推進しています。木質由来の原料を使用することで、人畜共通感染症のリスク低減、環境負荷の低減、トレーサビリティ向上といった動物原料依存の課題を回避することが可能となります。動物用関節炎治療薬の承認取得とヒト用医薬品の研究開発を進め、併せて医薬品販売に必要な各種業許可の取得も進めており、2025年2月にはホモシスチン尿症治療薬の製造販売承認申請を実施しました。
王子薬用植物研究所㈱は、植林事業で培った植物育成の知見から薬用植物「甘草(カンゾウ)」の国内大規模栽培技術を確立しました。野生品の採取に伴う資源枯渇や輸出規制等のリスクのため、国産化が求められている背景がありました。社内シナジー創出により、2024年12月には王子ファーマ㈱より国産甘草を配合した漢方薬を商品化、テスト販売を実施しました。今後医薬・化粧品、食品分野へのさらなる展開を進めていきます。
また、独自の微細加工技術を用いた、細胞培養基材の開発にも取組んでいます。生体内により近い形態を再現することで細胞成熟化を促進することが可能となり、再生医療や創薬への活用が期待されます。技術改良を進め、製品価値の向上を目指します。
④サステナブルパッケージの展開
当社グループは、抄紙・塗工技術とフィルム製膜技術を基盤に、環境課題に対応するパッケージソリューションを提供しています。独自の材料設計技術と延伸加工生産技術で開発した100%植物由来のポリ乳酸フィルムは、2024年度に㈱伊藤園のティーバッグフィルターに採用されました。このフィルムは日本バイオプラスチック協会から生分解性バイオマスプラスチックとして認定され、高い透明性と厚みの均一性、強度を持つことが特徴です。
また、企業・業界の枠を超えた資源循環型社会への取り組みも進めています。2024年度には外食企業と協同し、紙コップを再び紙製品の原材料として活用する持続的なマテリアルリサイクルシステムを構築しました。回収規模の拡大や本取り組みに賛同・参画する企業・団体を積極的に募り、より効果的・効率的なリサイクルを推進します。
イノベーション推進本部は、日々変化する市場のニーズに対応するため、オープンイノベーションを通じて新しい価値の共創を進めるとともにDX推進にも取り組んでいます。今後も新たな企業価値を構築するため多方面からの研究・技術開発を進めていきます。
[液体紙容器事業]
アセプティック(無菌)紙容器事業では、アセプティック紙容器及び無菌充填機を取り揃え、主に牛乳やジュースをお取り扱いのお客様にソリューションを提供しています。現行製品よりもさらに環境に配慮したパッケージや充填機の開発や、東南アジア向けに特化した充填機の開発も進めています。また、充填機の安定性向上にも注力しています。
[サステナブルパッケージ事業]
Walki社では、これまで培ってきたコア技術を活用し、欧州の包装材規制に基づき、2030年までにEU内で流通するすべての包装材を100%リサイクル可能にする目標に対応するため、高いリサイクル性にフォーカスしたバリア紙包材、リサイクル可能なモノマテリアルプラスチックフィルム、環境に優しいラミネート材料等の開発に注力しています。これにより、環境に配慮し、持続可能で競争力のある製品を提供し、循環型社会の実現に貢献することを目指しています。
(2)生活産業資材セグメント
古紙利用拡大、抄紙条件、薬品の最適化によるコストダウン、品質・操業性改善を推進してきました。パッケージング関係では、お菓子用包装やボールペンパッケージ、自動車部品パッケージなど、従来はプラスチックが採用されていた用途において紙製品の採用が進み、「環境価値」と「生活・感性価値」を高める商品開発を行い、脱プラスチック社会への移行に貢献しています。
(3)機能材セグメント
温室効果ガスの排出量削減や循環型社会の実現に貢献するサステナブル素材及び製品を積極的に開発しています。
特殊紙事業では、環境と健康に配慮した非フッ素耐油紙「O-hajiki(オハジキ)」や、セルロースを主体原料とした作業負荷軽減型及び環境配慮型の農業用紙製マルチシート「OJIサステナマルチ」、成形性が良く深絞りや打抜きなどの成形加工に適したプレス成形用紙「ファインプレスW(ホワイト)」等のプラスチック代替素材の開発・販売をしています。不織布事業は、既存商品価値の向上や、土木・準医療関係を中心に、新製品開発、新分野の顧客への展開等を実施しました。
感熱事業では、米国の化学物質規制に対応する切替や顧客需要に応じた新技術・新製品の開発、市中回収古紙100%配合の環境対応製品の開発等を実施しました。
粘着事業では、タッチパネルの機能進化に追随し、高機能粘着フィルム等の開発に注力しており、ノートPC、ゲーム機、車載ディスプレイ等への採用が進んでいます。自動車用遮熱ウィンドフィルムを開発し、建材用途への展開も進めています。
フィルム事業では、二軸延伸ポリプロピレンフィルムで培った延伸製膜技術による電動車用の薄物コンデンサ用フィルムの開発やバイオマスプラスチックを配合したポリプロピレンフィルム「アルファンGPP」等の開発・販売を進めています。
(4)資源環境ビジネスセグメント
持続可能な森林経営と競争力向上のため、各林地の生育条件に最適なクローン開発などの品種改良や、広大な植林地において最新技術を活用した肥料散布や林地データ取得など林地の生産性向上のための研究開発を実施しています。
(5)印刷情報メディアセグメント
パルプ製造工程から紙製造工程までの製紙工程全般に関する技術開発に取組んでいます。需要が減少する中、生産体制の最適化や他の用途開発に取組んでおり、さらに、使用薬品や操業条件の最適化によるコストダウン、欠点・断紙削減等の操業性改善を推進し、収益向上に繋げています。また、製品の安定供給を図るため、BCP(事業継続計画)対応強化も進めています。
当社グループは、知的財産を重要な経営資源として位置付け、事業競争力及び持続可能な価値創造の源泉として戦略的に活用しています。また、当社グループの知的財産権は当社が集中的に保有・管理し、グループ方針に基づき権利の取得及び行使を行うとともに、当社グループ内での有効活用を図るため、グループ各社に対してライセンスを供与しています。今後も、将来の事業基盤となる知的財産権をグローバルに強化していきます。
当連結会計年度末における当社グループの保有特許権・実用新案権・意匠権の総数は国内2,784件、海外944件です。また、保有商標権の総数は国内1,039件、海外1,160件です。