第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

 当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、次のとおりです。

 なお、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在において、当社グループが判断したものです。

 

(1)会社の経営の基本方針

 私たちは、経営理念である「世界中の人々へ やさしい未来をつむぐ」を実現するため、「誠意と熱意を持つ者が事を成す」という創業の精神を胸に、衛生・人生・再生の「3つの生きる」を成し遂げます。この「3つの生きる」は経営理念の4つの柱「ものづくりへのこだわり」「地域社会とのきずな」「安全で働きがいのある企業風土」「地球環境への貢献」を通じて展開しています。

 

<大王グループのパーパス>

 「誠意と熱意」をもって、「3つの生きる」を成し遂げ、「やさしい未来」を実現する。これが私たちの存在意義です。すなわち経営理念「世界中の人々へ やさしい未来をつむぐ」そのものです。

 

<大王グループのビジョン:3つの生きる>

衛生:人々の健康を守る

人生:人生の質を向上させる

再生:地球を再生する

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<経営理念4つの柱>

1.ものづくりへのこだわり(Dedicated)

 現場・現物・現実に基づいた新たな商品と付加価値の創造・提供を通じて、国際社会から信頼される企業グループであり続けます。

2.地域社会とのきずな(Attentive)

 各国・各地域の発展に寄与するために、「良き企業市民」として高い倫理観を持って地域社会との調和ある成長を目指します。

3.安全で働きがいのある企業風土(Integrated)

 持続的な企業価値の向上を図るために、安全で働きがいのある企業風土づくりに取り組み、社員相互の信頼関係に基づいた一体運営を推進します。

4.地球環境への貢献(Organic)

 地球環境と調和したグローバルな事業展開を通じて環境問題に積極的に取り組み、持続可能な社会の実現を目指します。

 

<大王グループのマテリアリティ>

 大王グループでは、ステークホルダーの関心ごとと、当社グループにおいて今対応しなければ、近い将来企業価値に影響を与えるという視点から、リスクと機会(対応)を抽出するとともに、将来のありたい姿からやるべき事項を抽出し、現時点では何が重要かを取締役会などで議論し、10のマテリアリティ(重要課題)を特定しています。

 

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(2)中長期的な会社の経営戦略

 当社グループは2024年度より3カ年計画の第5次中期事業計画「Reframe ~基盤の強化~」をスタートさせるとともに、第8次中計が終了する2035年度にはグループ連結売上高1兆2,000億円、営業利益率10%の達成を目標に掲げた長期ビジョン「Daio Group Transformation 2035」を策定しました。

 外部環境が目まぐるしく変化する中、経営陣と社員が常に目標を共有し、一丸となって取り組むことが、持続的な企業価値向上の第一歩になると考え、長期ビジョンでは4つのテーマ「エリアのTransformation:活動領域と発想の基準を日本中心から、グローバル視点へシフト」「強みのTransformation:環境変化に対応できる力、新しい商品やサービスを生み出す研究開発力・マーケティング力を当社の強みに」「エネルギーのTransformation:石炭依存のエネルギー構成から、地域共生型の廃棄物燃料や木質燃料への転換を進め、化石燃料由来のCO2排出量の削減」「価値創造の源泉強化:3つのTransformationの土台となる人財育成強化と企業文化の変革」に焦点を当て、事業ポートフォリオの変革に取り組んでいます。

 

 長期ビジョンの達成に向け、第5次中期事業計画ではさらなるステップアップに向けた力を蓄える期間とし、人財・財務基盤の強化を中心とした経営基盤の再構築に向けた取組を進めています。

 第5次中期事業計画の初年度である2024年度は、紙・板紙事業及びホーム&パーソナルケア国内事業は原価低減や価格改定の取組効果が発現し、想定通りの実績を確保しましたが、ホーム&パーソナルケア海外事業においては中国での業績不振を受け、当初見込みを下回る結果となりました。これらの状況を踏まえ、第5次中期事業計画の残り2ヵ年では、各セグメントにおいて以下の3点に取り組みます。

 

① ホーム&パーソナルケア海外事業の構造改革

 2025年3月に、中国においてはベビー用紙おむつ関連の固定資産売却を決定し、トルコからは事業撤退を決断しました。固定費削減と不採算事業の整理により、キャッシュ・フローを改善させ、ホーム&パーソナルケア海外事業の早期立て直しに取り組みます。

 

② ホーム&パーソナルケア国内事業の収益改善

 付加価値商品の販売を強化することで、他社との差別化を図るとともに、原燃料価格や物流費の高騰に対応した価格改定に取り組みます。

 

③ 紙・板紙事業の収益拡大と新規事業投資

 パッケージ分野の需要は安定しており、段ボール原紙や包装用紙分野の営業を強化します。加えて、2025年度にはCNF複合樹脂の商用プラントが稼働予定であり、新素材事業への投資を継続し、国内洋紙需要減退を補完できる体制を構築します。

 

(3)会社の対処すべき課題

 当社グループは、長期ビジョン「Daio Group Transformation 2035」のもと、国内市場の縮小や地政学リスクの増大、地球規模での気候変動といった急激な環境変化に対応し、持続的な成長と企業価値の向上を実現すべく、以下の6つの重点課題に取り組んでいます。

 

① ホーム&パーソナルケア海外事業:収益性改善と事業構造改革の断行

 ホーム&パーソナルケア海外事業では、地政学リスクや市場変動への対応遅れなどにより損失が継続しており、早急な構造改革を進めています。2025年3月、中国においてはベビー用紙おむつ関連の固定資産売却を決定し、経営資源をフェミニンケアのブランド育成に集中させるとともに、トルコからは事業撤退を決断しました。今後は、地域特性や生活者ニーズに対応したマーケティング・商品戦略の強化、収益性を確保できる事業モデルの確立、各国・各地域における現地幹部社員の育成や権限委譲などによる迅速な市場動向把握と意思決定体制の構築により、早期の黒字化を目指します。

 

② ホーム&パーソナルケア国内事業:収益力とブランド強化

 少子高齢化による市場縮小が見込まれる中、「エリエール」ブランドを中心に商品ラインナップの最適化や市場トレンドに合わせた供給体制を構築することで、市場シェアの維持・拡大を目指します。さらに、衛生用紙市場をけん引するメーカーとして、適切な市場環境を作り上げ、安定的な収益基盤の構築を図ります。また、成長分野であるペットケア事業のブランド確立、研究開発投資、組織体制の強化にも取り組み、収益基盤の多角化を進めます。

 

③ 紙・板紙事業:収益基盤の安定化とパッケージ分野へのシフト

 国内市場の需要構造が大きく変化する中、紙・板紙事業においては売上高拡大から安定収益の確保へと方針転換を図っています。段ボールなど加工度の高い最終製品や、脱プラスチック・減プラスチックに貢献可能なパッケージ分野の強化、北越コーポレーション株式会社との戦略的業務提携を通じたコスト構造改革などを推進します。

 

④ 環境対応:カーボンニュートラルに向けたエネルギー転換

 2050年カーボンニュートラルの実現に向け、2030年度までに化石由来CO₂排出量を2013年度比46%削減するという目標を掲げています。バイオマスボイラーの導入、省エネルギー設備の導入、生産品種の見直し、石炭ゼロ化の推進などの取組を進め、ロードマップに基づいた施策を着実に実行します。

 

⑤ 新規事業:新素材領域の事業育成

 中長期的な成長基盤の構築に向け、事業ポートフォリオの変革の一つとして、セルロースナノファイバー(CNF)やバイオリファイナリー領域の事業化を推進しています。2025年7月にはCNF複合樹脂商用プラントの稼働を予定しており、コスト競争力の確保と自動車部材や家電等の分野への展開を進めます。また、バイオリファイナリー領域におけるジェット燃料やバイオプラスチックなど、次世代素材の実装に向けた技術開発も加速しています。

 

⑥ 人財・ガバナンス:将来成長・変革を支える基盤の強化

 当社グループは、人財こそ価値創造の源泉であるとの認識のもと、グローバル人財の育成、多様性を尊重する企業文化の醸成、挑戦を後押しする組織風土の育成、キャリア制度や評価制度の見直しなどを通じた人的資本の戦略的活用を進めています。また、第5次中期事業計画では、経営基盤の再構築を最優先課題と位置づけ、ROIC経営の推進や投融資委員会の設置による資本コストを意識した経営を推し進めるとともに、ガバナンス体制の強化にも取り組んでいます。

 

 当社は以上の課題への対応を通じて、長期的な企業価値の向上と持続可能な社会の実現に貢献します。

 

(業績計画)

 

2024年度実績

2026年度計画

(第5次中計最終年度)

(参考)長期ビジョン

2035年度目標

売上高

6,689

億円

7,400

億円

1兆2,000

億円

営業利益

(営業利益率)

98

(1.5

億円

%)

300

(4.1

億円

%)

1,200

(10.0

億円

%)

経常利益

45

億円

210

億円

 

ネットD/Eレシオ

1.4

1.2

 

為替レート

152.6

円/ドル

150.0

円/ドル

 

 

(事業別計画)

 

2024年度実績

2026年度計画

 

売上高

(億円)

営業利益

(億円)

営業利益率

売上高

(億円)

営業利益

(億円)

営業利益率

紙・板紙事業

3,512

89

2.5%

3,500

100

2.9%

ホーム&パーソナルケア事業

2,952

△14

3,600

185

5.1%

(内訳)国内事業

2,043

113

5.5%

2,300

145

6.3%

    海外事業

908

△126

1,300

40

3.1%

その他事業

(調整額を含む)

226

23

10.1%

300

15

5.0%

 合 計

6,689

98

1.5%

7,400

300

4.1%

 

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

 当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりです。

 なお、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在において、当社グループが判断したものです。

 

(1)大王グループサステナビリティ・ビジョン

 大王グループでは、当社グループのサステナビリティ戦略として、2021年5月に「大王グループサステナビリティ・ビジョン」を策定しました。その戦略に沿った取組を推進するため、当社グループは、経営に社会課題解決を織り込んだサステナビリティ活動を進めていきます。

 

・大王グループサステナビリティ・ビジョン

https://www.daio-paper.co.jp/wp-content/uploads/2021_daio-sustainability-vision.pdf

 

① ガバナンス

 大王グループでは、代表取締役を委員長とした「サステナビリティ委員会」を設置し、サステナビリティに関する戦略や方針等を議論しています。サステナビリティ戦略である「大王グループサステナビリティ・ビジョン」についても「サステナビリティ委員会」で議論の上、取締役会で策定しました。

 「サステナビリティ委員会」の下にサステナビリティを巡る動きやマテリアリティと連動する7つの部会(①地球温暖化対策部会、②TCFD対応部会、③森林・生物多様性対応部会、④環境負荷低減部会、⑤価値共創部会、⑥SDGs調達推進部会、⑦ESG情報開示充実部会)を設置し、具体的なマイルストーンや取組項目を決めて実行しています。

 これらのサステナビリティに関する戦略・方針や課題に対する取組状況は、四半期ごとに経営会議に「サステナビリティの取組の進捗状況」として報告され、内容に応じて、経営会議から取締役会に報告しています。

 

0102010_003.png

 

② 戦略

 当社グループのパーパスは「誠意と熱意」をもって「3つの生きる(衛生・人生・再生)」を成し遂げ、「やさしい未来」を実現することです。経営理念の4つの柱「ものづくりへのこだわり」「地域社会とのきずな」「安全で働きがいのある企業風土」「地球環境への貢献」を体現するなかで、過去から取り組んできた社会課題解決とSDGsを連動させ、ありたい姿「やさしい未来」を実現していきます。

 「やさしい未来」の実現にあたっては、マテリアリティに沿った取組を進めています。マテリアリティについては、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (1)会社の経営の基本方針」を参照ください。

 マテリアリティのうち、「気候変動への対応」「循環型社会の実現」「森林保全と生物多様性の維持」は、「3つの生きる(衛生・人生・再生)」の3つ目の「再生(地球の再生)」に関する重要課題であり、特に「気候変動への対応」は当社グループにとっての最重要課題と認識しています。

 また、当社グループは、持続的な企業価値の創造に挑戦する人財を育成していくため、安全で働きがいのある企業風土の構築を目指しています。その実現のために、「人権尊重と人財育成、社員への思いやり」をマテリアリティの一つとしており、人的資本への対応を重要課題と位置づけ、取組を進めています。

 

③ リスク管理

 大王グループでは、サステナビリティに関する総合的な管理は「サステナビリティ委員会」に集約しています。

 「サステナビリティ委員会」の体制として、7つの部会(①地球温暖化対策部会、②TCFD対応部会、③森林・生物多様性対応部会、④環境負荷低減部会、⑤価値共創部会、⑥SDGs調達推進部会、⑦ESG情報開示充実部会)を設置し、部会で議論されたサステナビリティに関する取組、国内外の動向や当社グループを取り巻く状況変化、取組のKPIに対する進捗状況などの報告を受け、審議しています。

 「サステナビリティ委員会」で審議された事項は、四半期に1回、経営会議に「サステナビリティの取組の進捗状況」として報告され、内容に応じて取締役会にも報告され、当社グループの経営に反映されます。同様に、コンプライアンス違反、不祥事を含む経営に重大な影響を及ぼす恐れのあるリスクの識別・評価は、リスク・コンプライアンス担当の取締役を委員長とする「リスク・コンプライアンス委員会」で審議され、経営会議、内容に応じて取締役会にも定期的に報告の上、経営に反映されます。

 

④ 指標及び目標

 大王グループでは、サステナビリティ戦略と連動する以下のKPIを設定しています。上記のガバナンス体制に沿って、各指標の進捗状況を具体的に評価・確認し、目標達成に向け取り組んでいます。

 

経営理念の

4つの柱

マテリアリティ

貢献するSDGs

事業戦略・主な取組

事業を通じた主な社会課題解決

及び目標とする指標

(2030年度KPI)

2022年度

実績

(注1)

2023年度

実績

(注1)

1.ものづくりへのこだわり

事業ポートフォリオの戦略的変革

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0102010_008.png 0102010_009.png

0102010_010.png

新聞・洋紙事業

●生産体制・販売構成の見直し

●川下の印刷事業の強化

産業用紙・段ボール事業

●国内での安定供給の継続

●洋紙から板紙への転抄

→マシン稼働継続による雇用維持

(注2)

(注2)

グローバル展開の加速

ホーム&パーソナルケア国内事業

●吸収体事業の国内シェア向上

●衛生用紙と複合事業モデル確立

ホーム&パーソナルケア海外事業

●既存事業の基盤強化

●新規市場の開拓

●海外各拠点での地域発展に貢献

→技術・開発能力の向上・雇用維持・創出

(注2)

(注2)

新規事業の創出

新規事業

●セルロースナノファイバー

(CNF)

●バイオリファイナリー

セルロースナノファイバー商品化分野数

7

2

3

●RFIDによる業務効率化・働き方改革

(注2)

(注2)

●脱プラスチック・減プラスチックによる環境負荷低減

2.地域社会とのきずな

地域社会との共生

0102010_011.png 0102010_012.png

0102010_013.png 0102010_014.png

0102010_015.png 0102010_016.png

0102010_017.png 0102010_018.png

0102010_019.png

●チリ・プランケ市での生活用水・灌漑用水確保のためのインフラ整備

●介護職員向けの認定資格「アテントマイスター・プロ」の提供

(注2)

(注2)

アテントマイスター・プロ資格認定者

22,000名

4,787名

7,294名

持続可能なサプライチェーンの確立

●CSR調達:「大王グループSDGs調達ガイドライン」に基づいた調達

サプライヤーアンケート回収率

100%

96%

100%

 

5段階評価で3.5以上の取引先数

90%

61%

61%

●森林認証

国内外での森林認証の維持継続

100%

100%

100%

3.安全で働きがいのある企業風土

人権尊重と人財育成、社員への思いやり

0102010_020.png 0102010_021.png0102010_022.png 0102010_023.png    0102010_024.png

(注3)

公正で透明性の高い経営

4.地球環境への貢献

気候変動への対応

0102010_025.png 0102010_026.png0102010_027.png 0102010_028.png0102010_029.png 0102010_030.png0102010_031.png 0102010_032.png0102010_033.png 0102010_034.png  0102010_035.png

●バイオマス由来燃料への転換、廃棄物燃料の有効利用など

化石由来のCO2排出量削減

(対2013年度比)(注4)

46%

7.0%

18.0%

循環型社会の実現

●難処理古紙の利用促進(基幹工場である三島工場板紙への配合率)

板紙への配合率

30%

14.2%

17.0%

●ゼロエミッション

再資源化率

100%

97.1%

98.3%

●水の循環・再利用、適正な用排水処理による排水の浄化

用水・排水COD売上高当り原単位

(対前年度比)

1%/年削減

用水10.5%

COD 6.0%

用水 2.8%

COD 5.9%

森林保全と生物多様性の維持

●植林活動

約28,000haを天然林として維持

維持

維持

植林面積拡大 15,000ha

(2050年度までに)

約200ha

△約60ha

(注5)

(注1)2024年度実績につきましては未確定のため2023年度までの実績を掲載しています。

(注2)KPIの設定については今後検討していきます。

(注3)取組やKPIにつきましては、「(3)人的資本に対する考え方」を参照ください。

(注4)基準の2013年度以降に当社グループとなった子会社の排出量を含んでいます。

(注5)森林火災の影響で減少しています。

 

(2)気候変動への対応

 当社グループでは、「気候変動への対応」をマテリアリティの1つに掲げ、最重要課題として位置づけ、取り組んでいます。

 2021年5月の「大王グループサステナビリティ・ビジョン」の策定と同時にTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)への賛同を表明しており、TCFDの提言に沿った気候変動関連のリスク・機会評価を行い、経営戦略やリスク管理などに反映させ、財務上の影響などの情報開示の充実を進めています。

 

① ガバナンス

 気候変動への対応に関する基本的なガバナンスはサステナビリティ戦略全体のガバナンスに含まれます(詳細は「(1)大王グループサステナビリティ・ビジョン」を参照)。

 当社グループでは、特に「気候変動への対応」をマテリアリティのひとつに挙げ、石炭ゼロ化の推進に力を入れています。サステナビリティ戦略全体のガバナンスの中で、気候変動に関する具体的な取組については「サステナビリティ委員会」の下に設置した7部会のうち、「地球温暖化対策部会」「TCFD対応部会」「環境負荷低減部会」「森林・生物多様性対応部会」「価値共創部会」の5部会を中心に検討・推進しています。特に石炭ゼロ化は、生産部門担当の取締役常務執行役員を推進責任者として位置づけ、社内の取締役、執行役員の出席する「生産会議」でも、その取組を報告、モニタリングする体制としています。

 

② 戦略

 大王グループは、国内紙・板紙部門とホーム&パーソナルケア部門において、気候変動による事業への影響を1.5℃シナリオと4℃シナリオの2つのシナリオを基に、中期(2030年)、長期(2050年)で分析しました。

 各シナリオの前提条件はIPCC(気候変動に関する政府間パネル)やIEA(国際エネルギー機関)のシナリオなどを参照し、物理的リスクについては、TCFDのガイダンスなどにおいてシナリオ分析のプロバイダーとして紹介されているXDI(Cross Dependency Initiative)社の算定ロジックを基にリスク評価を行いました。

 

<気候変動におけるリスクと機会>

 以下で示す気候変動のシナリオ分析におけるリスクと機会の財務インパクトは、大:150億円以上、中:50億~150億円、小:50億円未満、-:分析中です。

 

リスク項目

事象の詳細

2030年1.5℃

2050年1.5℃

戦略・対応策

政策・

法規制

CO2排出量削減の義務化

GHG排出量の規制強化

カーボンプライシングの上昇

・GHG排出規制とカーボンプライシングの導入

・エネルギー価格上昇による原価アップ

・太陽光等の再生可能エネルギーの導入

・2030年までにリサイクルボイラーを設置、石炭ボイラー1缶停止による化石燃料から廃棄物燃料への転換

・省エネルギー技術導入、投資継続実施

・LNGへの燃料転換

・四国中央市カーボンニュートラル協議会等の取組推進

・リサイクルボイラー・石炭ボイラーでブラックペレット燃焼

・低炭素燃料(水素・アンモニア・合成燃料等)燃焼技術の導入

・CCUS

(四国中央市カーボンニュートラル協議会等にての取組)

・植林面積の拡大

・炭素税導入により、各種資材価格が上昇

・商品開発段階からGHG排出量がより少ない資材を選定しコスト上昇を抑制

市場

環境対応商品へのシフト

・環境不対応商品の販売減

・CFP開示遅れによる販売減

・エシカル消費による需要減少

・環境対応への設計変更

・CFP表示等の推進、対応

・再生プラスチック化推進

技術

商品物流を低炭素

エネルギーへ転換

・物流手段の低炭素化の取組として新技術の導入等によるコスト増加

・燃料転換

・トラックから内航船・RORO船へのモーダルシフトと輸送距離の短縮の推進、ダブル連結トラック等を推進

・今後の自動運転や水素・合成燃料トラック等の技術革新にあわせて導入を推進

 

 

リスク項目

事象の詳細

2030年4℃

2050年4℃

戦略・対応策

急性的

台風の多発、

集中豪雨の多発

・自然災害による生産活動への影響(洪水)

・道路・鉄道・港湾設備被害によるサプライチェーン寸断、製商品や原材料輸送の停止

・BCP(事業継続計画)・BCM(事業継続マネジメント)対応の推進

慢性的

降水・気象パターンの変化や平均気温上昇

・植林地、原料調達先が被害を受け、安定調達に影響が出る

・調達先の多角化による調達の安定化

・植林の推進による原材料の調達量の確保

・植林する地域・気候に適した樹種の選定、育種開発

 

機会項目

事象の詳細

2030年1.5℃

2050年1.5℃

戦略・対応策

商品とサー

ビス

需要家の品質要求が変化

技術革新による新商品・サービスの開発

・環境配慮型商品(FSC商品、脱プラ・減プラ商品)の需要増加

・環境貢献商品(制汗、防災・避難グッズ商品)の需要増加

・リサイクルに対する認識の変化

・産業廃棄物を減らす風潮

・水資源の節約から節水型商品の増加

 

(ホーム&パーソナルケア事業)

・脱プラスチック包装材への転換

・マスク、衛生用品等の気候変動対応商品の拡大

・制汗商品、熱中症対策商品の開発、販売拡大

・トイレに流しやすい商品等の開発、節水支援

(紙・板紙事業)

・脱プラスチック製品、包装機能材の拡大

・FSC等の認証品拡大

(新素材開発)

・複合樹脂を中心としたCNF素材、RFIDの開発推進、製品拡大

・製紙素材を利用したバイオリファイナリー事業によるバイオマス化成品・素材の開発、販売拡大

廃棄物、余剰の有効利用

・バイオ素材・製品の需要増加

資源効率

原料のリサイクル

資材の再利用

・原材料のリサイクルシステム構築による費用低減

・消費者環境政策要求の満足度向上

・使用済み紙おむつを回収、リサイクルする仕組みの構築

・素材を再利用する設備導入

・環境配慮型商品の発売

 

③ リスク管理

 気候変動への対応に関する基本的なリスク管理はサステナビリティ戦略全体のリスク管理に含まれます(詳細は「(1)大王グループサステナビリティ・ビジョン」を参照)。

 特に、気候関連リスクの識別・評価においてはシナリオ分析を行い、移行リスク、物理的リスク、機会に分けて網羅的に抽出して、財務に影響を与える項目を整理しました。また、リスクの特定や不確実性の高/低の評価、定性的・定量的な財務インパクトの検討を行っています。

 気候変動リスクの識別・評価は、「サステナビリティ委員会」の下に設置した7部会のうち、「地球温暖化対策部会」「TCFD対応部会」「環境負荷低減部会」「森林・生物多様性対応部会」「価値共創部会」の5部会において実施しています。

 

④ 指標と目標

 2021年5月の大王グループサステナビリティ・ビジョンの公表・TCFDへの賛同表明と同時に、事業戦略と連動させる形で、地球温暖化対策の長期ビジョンとして「2050年 カーボンニュートラル」を目指すことを発表しました。そのマイルストーンとして、Scope1+2における「2030年化石由来CO2排出量46%削減(2013年度比)」を掲げ、ロードマップも開示しています。また、Scope3については、国内カテゴリー1、4において2022年度比15%削減の目標を追加設定しました。

・大王グループ統合レポート2024(P55~P56、P67~P68)

https://www.daio-paper.co.jp/wp-content/uploads/pdf/2024/DAIO_2024_all.pdf

 ロードマップでは、2050年までに主要工場の三島工場で保有する石炭ボイラー全3缶停止の方針を掲げ、再生可能エネルギーや低炭素燃料(LNGなど)への燃料転換、省エネルギーを推進するとともに、地域における廃棄物等を燃料とするリサイクルボイラー導入により、地域全体でのCO2削減を進めていきます。

 さらに、植林拡大によるCO2吸収・固定量増にも取り組み、排出削減と吸収・固定で2050年までにカーボンニュートラルを実現していきます。

 Scope3については、2023年度に海外拠点を含むグループ全体のGHG排出量を算出しました。今後、国内カテゴリー1、4において2022年度比15%削減の目標達成に向けて取り組んでいきます。

 

目標の達成状況

項目

2023年度実績

2030年度目標

化石由来のCO2排出量削減(2013年度比)

18.0%

46%

Scope1,Scope2 GHG排出量削減(2013年度比)

19.2%

20%

Scope3国内カテゴリー1&4排出量削減(2022年度比)

11.6%

15%

(注)1.基準の2013年以降に当社グループとなった子会社の排出量を含みます。

2.2024年度の実績は2025年9月発行予定の当社「統合レポート 2025」をご参照ください。

 

<四国中央市カーボンニュートラル協議会について>

 当社グループは地域全体での脱炭素化に取り組んでいくため、四国中央市カーボンニュートラル協議会に幹事会社の1社として積極的に関わっています。2023年3月に公表したロードマップに基づき、製紙産業においてのカーボンニュートラルを実現するため、多様な関係者が連携した取組を進めています。本協議会は、事業者、自治体、地元地方銀行、地元教育機関、地元業界団体等の結節点として、地域のカーボンニュートラル実現及び地域課題の解決に今後も貢献します。

 

・四国中央市カーボンニュートラル実現に向けたロードマップ(当社ホームページ開示資料)

https://www.daio-paper.co.jp/wp-content/uploads/Attachment-Roadmap.pdf

 

(3)人的資本に対する考え方

 経営理念「世界中の人々へ やさしい未来をつむぐ」の実現を目指すべく、価値創造の源泉を「人財」であると考え、個々の挑戦を促し成長を支える組織風土・企業文化への変革に取り組んでいます。変化や挑戦に前向きな人財が大王グループの新たな価値創造に自律的に取り組み、企業変革を牽引することで企業価値の向上につながると考えています。安心していきいきと働くことができる環境への整備と、個人との対話をコミュニケーションの基軸とし、会社と社員との間に公正かつ共創できる関係性を構築し、心理的安全性の下に個人と会社の相互成長を目指します。

 

① ガバナンス

 大王グループでは、人事担当執行役員を委員長とした「人財戦略委員会」を設置、原則毎月開催し、人的資本に関する議論を行っています。当委員会では、経営戦略の実現に資する人財戦略の基本方針や中長期的な目標とKPI、ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(以下、「DE&I」という。)の方針、また採用や教育、制度改定等の各種人事施策の実施について議論、決定しています。上記の項目について、課題や取組状況を定期的に経営会議に報告し、内容に応じて、経営会議から取締役会に報告をしています。また、サステナビリティに関する項目については「サステナビリティ委員会」と連携を取りながら取組を進めています。

 

② 戦略

 中長期ビジョン「Daio Group Transformation 2035」に基づいた第5次中期事業計画では、経営基盤の再構築のための3年間と定めて3つのテーマである「営業キャッシュ・フロー創出力強化」「将来成長のための厳選した投資の実行」「財務基盤の強化」に取り組むことを掲げています。ビジネスモデルや財務基盤の再構築、カーボンニュートラルの実現に向けた化石由来CO2排出量削減を実行していくことで競争優位性を強化していきます。この経営戦略を実行していくための人財戦略として、「個の成長支援」「多様性を活かす」「変革・挑戦の促進」の3本柱を掲げています。会社が社員に活躍機会を提供し、成長に向けた投資や多様な発想・才能を活かすべく環境整備を行い、さらに社員の挑戦を後押しするため、指示命令型のマネジメントから支援型のマネジメントへと変えていくことで、求める人財像と目指す企業文化が融合し、価値創造につながると考えています。各戦略の概要については下記のとおりです。

 

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<個の成長支援>

個の学びと成長への意欲を活かしてスキル向上と経験値拡大を支援し、さらに意欲を高めて成長を促進することが組織力強化の鍵となります。教育投資を強化するとともに、各自がキャリア形成に積極的になれる環境と制度の充実に取り組みます。

 

<多様性を活かす>

多くの幅広い才能を活かすことにこだわり、雇用形態や採用経路、勤務時間・場所といった制約条件を超えて能力を発揮してもらえる組織風土づくりと環境整備に取り組みます。

 

<変革・挑戦の促進>

個々が持つ新たな発想を活かすには、マネジメントの変革が必要であり、各階層間での対話を通してビジョンを共有し、メンバーの変化の促進と挑戦の奨励が習慣化された状態を目指しています。管理職層への役割期待を見直し、教育研修などを通して理解浸透とスキル習得に取り組みます。

 

<個の尊重、会社と社員の公正かつ共創できる関係性>

当社グループが描く人財戦略の実現には、会社と社員の健全かつ良好で共創できるような信頼関係が不可欠と考えており、安全・安心が担保され社員が自己実現に向けていきいきと働ける職場づくりに取り組んでいます。特に今後は対話をキーワードに、社員の挑戦を後押しできるような組織風土を目指していきます。

 

これらの人財戦略に紐づく人事施策が効果的かどうかを測るべく、人財戦略ごとに達成目標項目(以下、「KPI」という。)を定めて進捗を確認しています。KPIについては2021年から導入しているエンゲージメントサーベイ(以下、「ES」という。)の質問項目に紐づけ、全体のスコアだけでなく特に重要と考える項目を定めてモニタリングしています。ESでは会社と社員の関係性の状態に加え、ESの結果から読み取れる組織や階層ごとの強みと弱みを分析しています。2024年度のESから分かった課題の一つとして、若手社員のエンゲージメントの低さなどが挙げられます。この結果を受け、これまで実施している目標ごとの人事施策に加え、タウンホールミーティング(2024年度から実施)によりパーパスや経営方針を浸透させ、社員の働きがいを醸成するとともに、上意下達からボトムアップの組織風土への変革を進めていきます。

 

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(a)人財育成方針

社員の学びの意欲と努力によるスキルの獲得が個人と会社双方の成長につながると考えており、意欲・自発性を高める教育・成長機会の提供を人財育成の基本方針としています。社員一人ひとりが画一的ではなく自律的にキャリアを形成できる環境づくりと教育体系の整備を進めています。

 

ア.自律的学習機会の提供

第5次中期事業計画での教育研修費(当社単体ベース)について、第4次中期事業計画比2.4倍で予算化しました。金額増額に伴い「グローバル人財の育成強化に向けた語学・異文化研修」「役職者層のマネジメント変革研修」「業務・スキル習得の早期化に向けた支援」を主な実行メニューとしています。2024年度は、次世代リーダー育成プログラムの拡充、若手社員を対象とした半年間の海外語学留学プログラム、各階層を対象とした異文化対応力研修の新設を実行しました。「変化や挑戦に前向きな自律人財の育成」を目的に教育体系の整備・拡充を進めていきます。

 

イ.グローバル人財の早期育成

グローバルに活躍する人財育成の強化を目的として、2024年度はオンラインツールを活用した英語学習費用補助制度の再構築、また若手社員を対象とした海外語学留学制度を新設し、計2名を米国語学学校へ2024年9月末より半年間派遣しました。さらに、語学のみならず異文化対応力を強化するため、若手・中堅・管理職の3階層にて異文化対応力研修を新設し、計95名が受講しました。2025年度も上記施策を継続して実施することで、グローバル人財の早期育成に取り組んでいきます。

 

ウ.次世代リーダー候補の育成

各事業の中核的役割を担う人財育成を目的として、次世代リーダー育成プログラムを2024年度より拡充しました。「変化や違いを受容しながら、全社の持続的成長を牽引できるリーダー」を求める人財像と定義し、計画的な異動及び外部研修を通じて、広い視野、高い視座をもった人財の育成を進めています。対象は、次期管理職層、課長層、部長層のうち資質要件を満たした選抜者から優先順位を決め、外部研修へ派遣しています。2024年度は、次期管理職層6名、課長層1名、部長層6名の計13名が受講しました。

 

エ.自律的なキャリア形成支援

社員のキャリア自律を促進する施策として「Daio Career Challenge」(キャリア選択社内公募制度)を2020年より実施し、現在29名がこの制度を利用して異動しています。また、「自己申告制度」(ジョブローテーションなどの希望を申告できる制度)やキャリア面談(担当者各々が自身のキャリアについて考えると共に、上司と共有することで成長に繋がるローテーションを実現していく制度)を導入しており、個々人の適性も考慮してローテーションに活かしています。また、他にも階層別教育として中堅社員対象のキャリアデザイン研修などを実施するとともに、社員の自己啓発を促進する通信教育受講補助制度などの教育制度を導入しています。

 

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(b)環境整備方針

変化や挑戦に前向きなマインドを持つ人財を多く生み出すために、企業の基本姿勢として全体最適に基づく発案を歓迎し、挑戦に報い、積極性を評価する制度の構築やメンバーの意見を積極的に促し傾聴し対話を通して変化・挑戦を支援していくことで「誰かの挑戦を後押しできる企業風土」への転換を進めています。

 

ア.女性活躍推進の強化

当社の多様性拡大の中心にジェンダーギャップの縮小(女性活躍)を置き、特に、当社グループの成長エンジンであり、女性活躍機会が拡大しているホーム&パーソナルケア部門を中心に、積極的な女性の採用・配置を進めるとともに、全部門で女性リーダー層の育成を目的に、異業種交流研修の実施などを通じた育成支援を行っています。加えて、女性が能力を最大限に発揮できる職場環境の整備にも取り組んでおり、女性特有の健康課題への対応として、生理痛体験会の実施や、生理休暇の名称を当社の生理用製品ブランドに基づく「エリス休暇」への変更などの施策を実施しました。これらの取組が評価され、2024年度には厚生労働省より「えるぼし認定(2つ星)」を取得しました。また、性別に関わらず働きやすい環境を整備する観点から、男性の家事・育児への参画も推進しており、男性の育児休業100%取得及び取得期間の伸長を目標に掲げています。育児休業の計画的取得を促す仕組みとして、子の出生予定の3ケ月前から上司・会社と取得希望を共有する制度を導入し、2024年度における男性社員の育児休業取得率は83.8%、平均取得日数は72日となっています。

 

女性リーダー※率(総合職)

男性育休取得率※

男性育休取得日数※

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※女性リーダーとは:役員・管理職ではない総合職の役職者(係長、主任、チーフなどの役職がつく者)。

※男性育休取得率の計算範囲:大王製紙株式会社単体。

 

イ.ウェルビーイングの推進

2014年度に公表した「大王グループ健康宣言」で、「活力ある健全な企業グループとして永続的に進化・発展していく」を掲げ、心身の健康増進に取り組んでおり、2025年3月には8年連続で「健康経営優良法人(大規模法人部門)~ホワイト500~」に選定されました。また、2025年2月には「スポーツエールカンパニー2025」の初認定も受けています。

健康の維持・増進に向け、「ライフ・ワークバランスの推進」「生活習慣の改善」「メンタルヘルスケアの充実」「疾病の早期発見・早期治療」を健康経営の4本柱として、全社員参加の下、実行、推進し、人も企業も健康であることに努めます。

 

ウ.安全衛生の取組について

「事業所内で働くすべての人の安全を守る」ことを経営の最重要事項の一つとして掲げ、「安全な意識」「安全な環境」「安全な仕事」を3本柱に、「大王グループ安全衛生目標」を設定し、重篤災害につながるリスク抽出と対策を継続実行しています。リスクアセスメントによる職場改善や安全教育の実施、さらに災害時対策訓練などの安全活動を通じて、社員の安全を守ると共に、地域社会からも信頼される事業活動を展開しています。

 

③ リスク管理

 第5次中期事業計画に連動する人財戦略を策定した際に人財戦略委員会にて議論を重ねて、「企業成長に必要な人財獲得・育成」「DE&I推進などによる多様な人財活用」「働き方・組織風土による生産性への影響」のリスクを当社の人財・組織風土に関わるリスクとして特定・管理しています。人事本部を中心に関連部署と連携して顕在化している事例などを検証するとともに対応策を検討し継続的なモニタリングをしながらリスク低減に努めています。

 

④ 指標と目標

主なKPI

単体

連結

対象範囲

2024年度

実績

2024年度

実績

2030年度

目標

女性管理職比率

2.8%

7.2

10.0

提出会社及び国内・海外の連結子会社

男性育休取得率

83.8%

(注1)

67.7

100.0

提出会社及び男性育休取得率の開示義務がある常時雇用の労働者300名を超える国内連結子会社

年次休取得率

77.8%

75.7

90.0

提出会社及び国内・海外の連結子会社

一般社員時間外労働

時間

21.1h/月

18.2h/月

10.0h/月

提出会社及び国内・海外の連結子会社

障がい者雇用率

2.6%

(注2)

2.5

2.8

提出会社及び障がい者の雇用義務がある常時雇用の労働者40名以上の国内連結子会社

3年後新卒定着率

(総合職)

76.3

(注3)

90.0

新卒総合職定期採用制を導入している大王製紙単体

※2020年度~2022年度入社者の平均値を算出

(注)1.「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(平成3年法律第76号)の規定に基づき提出会社及び常時雇用の労働者300名を超える国内連結子会社にて算出、開示しています。

(注)2.「障害者雇用促進法」(第43条第1項)の規定による雇用義務の対象でない国内連結子会社は、障害者雇用納付金の申告申請手続きをしていないため、集計に含んでいません。

(注)3.連結子会社については、新卒採用が定期に行われないなど採用方針が異なり、一律の設定が困難であるため、指標に関する目標及び実績は提出会社のみを記載しています。

 

3【事業等のリスク】

 有価証券報告書等に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、投資者の判断に重大な影響を及ぼす可能性のある事項には、以下のようなものがあります。

 なお、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在において、当社グループが判断したものです。

 また、リスク管理の体制については、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等(1)コーポレート・ガバナンスの概要」に記載しています。

 

(1)需要・市況変動による影響

 当社グループは、紙・板紙事業、ホーム&パーソナルケア事業及びその他の事業を行っていますが、主力製品である紙・板紙製品及び家庭紙商品の大幅な需要減少、製品市況の著しい下落により販売数量・販売金額の減少が生じた場合、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 紙・板紙事業においては、品種毎の需要変動や市況変動に対し、基幹工場である三島工場・可児工場及び生産子会社にて柔軟な生産品種のシフトを行うといった生産体制の整備・見直しを実施しています。

 また、ホーム&パーソナルケア事業においては、特定の商品カテゴリーにおける需要変動又は市況下落が全体に及ぼす影響を極小化できるよう、衛生用紙から吸収体製品まで幅広い商品ラインナップを持ち、それらを複合的に組み合わせた営業戦略を遂行するとともに、お客様の生活満足度を向上させる商品を提供することを通じて、市況の変動に負けない強い営業スタイルを確立しています。

 

(2)原燃料価格変動、及び為替相場の変動による影響

 当社グループは木材チップ・古紙・薬品・重油・石炭等の原燃料を国内及び海外から購入しており、原燃料価格の変動に加え、外貨建てで取引されている原燃料の調達に関しては為替相場の変動も、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 また、為替相場変動については、海外への紙・板紙製品及び家庭紙商品の輸出販売や海外子会社での販売活動にも影響を与える可能性があります。なお、当社グループでは為替相場変動による経営成績への影響を軽減する目的で、一部の取引に為替予約を利用したリスクヘッジを実施しています。また、原燃料価格変動に対する取引先を含めた体制強化や情報交換の活発化の重要性を踏まえ、「SDGs調達」を推進することで、取引先と一体となってCSRやSDGsに配慮しつつ、公平・公正な取引の実現、品質・技術力の向上、事業継続計画の策定による安定供給体制の確保を図っています。

 

(3)海外事業による影響

 当社グループは成長戦略のひとつとして、ホーム&パーソナルケア海外事業部が中心となって中国、韓国、東南アジア諸国、トルコ、ブラジル等での事業展開に取り組んでいますが、海外における事業展開には為替相場の変動や現地政府による規制、外交関係や国民感情の悪化、政治不安等による経済環境の変化等が発生するリスクがあり、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 これらに対し当社グループでは、グループ各社や日本の担当部署が収集した最新情報を関係者間で共有し、適切に対応することで、リスクの最小化を図っています。

 

(4)自然災害及び感染症等による影響

 当社グループの生産、物流拠点等がある地域で災害が発生した場合には、生産設備の破損、操業の中断や遅延、物流機能の停止、原材料・製品・商品の滅失、復旧費用の発生等により、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 また、感染症等の拡大が発生した場合には、世界的な景気の悪化により販売数量の減少や原材料価格の高騰、原材料確保の難化、物流機能の低下等が生じ、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 そうした中で当社グループでは、災害発生時の被害の極小化、事業の早期復旧を図るため、グループを横断したBCM(事業継続マネジメント)の整備、実効性向上に向けた取組を進めています。

 

(5)法的規制・訴訟による影響

① 法的規制に関するリスク

 当社グループは、環境規制、知的財産権、製品及び原材料の品質・安全性、商品の表示に関する法令や競争法、労働法令等その他様々な国内外の法規制等の適用を受けて事業を行っています。

 当社グループでは、海外子会社を含むグループ全体へ「大王グループ行動規範」を周知・教育する等してコンプライアンスの強化に取り組んでいますが、法規制等について遵守できなかった場合や変更・改正が生じた場合には、当社グループの事業又は業績に影響を及ぼす可能性があります。

 リスクを識別・評価するとともに、リスクの重要性に応じた適切な対応策を講じることで、リスクの顕在化を未然に防止し、法規制等を遵守した運営に取り組んでいます。

 

② 訴訟に関するリスク

 当社グループは事業活動に関連して各種の訴訟等に巻き込まれるおそれがあり、その結果によっては当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 訴訟等やレピュテーションに悪影響を及ぼす事象が生じた場合には、弁護士事務所と連携し、対応する体制を整備しています。迅速な対応を行い、必要に応じて適切な情報を公表することで、当社グループのレピュテーションの維持に努めていきます。

 

(6)情報セキュリティに関するリスク

 当社グループは、サイバー攻撃による事業停止や情報漏洩を重要なリスクと認識しています。そのため、ファイアウォールによる不正通信の遮断や次世代ウィルス対策ソフトの導入、不正アクセスの監視、メールフィルタリング、セキュリティパッチの適用、セキュリティ診断等を実施しており、復旧計画に基づき定期的なシステム復旧訓練も行っています。

 個人情報漏洩防止に関しては、AI機械学習等の最新のウィルス対策の導入やクラウドサービスの利用により特に強化を図っています。教育面では、標的型攻撃メール訓練を毎年実施するとともに、ITセキュリティ管理規則を制定し、外部デバイスの使用禁止等のセキュリティ対策を社員に徹底しています。

 

(7)金利変動による影響

 当社グループは有利子負債の削減に取り組んでいますが、大幅な金利の上昇が生じた場合には、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。なお、当社グループでは金利変動による経営成績への影響を軽減するため、主として固定金利の長期借入にて資金調達を行うことにより、短期的な金利上昇リスクへの対応を図っています。

 

(8)財務制限条項の付された金銭消費貸借契約による影響

 当社グループが金融機関との間で締結している金銭消費貸借契約の一部には、各年度の決算期の末日における連結貸借対照表の純資産の部の金額や、各年度の決算期における連結損益計算書の経常損益等を基準とした財務制限条項が付されており、これに抵触した場合には借入金の返済を求められ、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(9)投資有価証券の価格変動による影響

 市場価格のない株式等以外のその他有価証券は決算日の市場価格等に基づく時価法により評価するため、決算日の株価によっては、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。なお、当社グループでは政策保有株式の縮減を進めており、保有株式を削減することで価格変動による影響も総額として縮小させていく方針です。

 

(10)固定資産の減損会計による影響

 当社グループは、有形固定資産やのれん等の固定資産を保有していますが、これらの資産については減損会計が適用されており、当該資産から得られる将来キャッシュ・フロー又は当該資産の正味売却価額の何れか高い方の金額によって資産の帳簿価額の回収可能性を検証し、減損処理が必要な資産については適切に処理を行っています。しかし、経営環境の著しい悪化により事業の収益性が低下した場合や市場価格が著しく下落した場合等には、固定資産の減損会計の適用による減損損失が発生し、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(11)気候変動に関するリスク

 気候変動に関するリスク内容、対応策については、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (2)気候変動への対応」に記載のとおりです。

 

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

 当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)の状況の概要並びに経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりです。

 なお、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在において判断したものであり、次期の見通しについては、不確実性、あるいはリスクを含んでいるため、将来生じる実際の結果と乖離する可能性があります。

 

(1)経営成績の状況

 当社グループは、経営理念「世界中の人々へ やさしい未来をつむぐ」の実現に向け、2035年をターゲットとする長期ビジョン「Daio Group Transformation 2035」を策定し、当連結会計年度より開始する第5次中期事業計画(対象期間は2024年度から2026年度)において「営業キャッシュ・フロー創出力強化」「将来成長のための厳選した投資の実行」「財務基盤の強化」をテーマに掲げ、経営基盤の再構築に向けて各施策を実行しています。

 当連結会計年度の連結業績については、売上高は前年同期並みとなったものの、紙・板紙事業における国内需要の減退及び原燃料価格の高止まり等の影響に加え、ホーム&パーソナルケア事業の海外事業では構造改革を推進中であり、営業利益・経常利益は減益となりました。親会社株主に帰属する当期純利益は、これらに加え、在外子会社株式並びに固定資産の一部譲渡に伴う損失見込額を計上したこと等により減益となりました。

 当連結会計年度の連結業績は、以下のとおりです。

① 売上高

 売上高は、ホーム&パーソナルケア事業の国内事業が各カテゴリーにおいて販売好調であった一方で、海外事業の停滞及び紙・板紙事業における国内需要減退等の影響により、前連結会計年度に比べ2,776百万円減少(前年同期比 0.4%減)し、668,912百万円となりました。

 

② 営業利益

 営業利益は、原燃料価格の高止まりに加えて、修繕費・労務費等の製造固定費の上昇や物流費高騰等の要因により、前連結会計年度に比べ4,559百万円減少(前年同期比 31.7%減)し、9,807百万円となりました。

 

③ 経常利益

 経常利益は、営業利益の減少に加えて、為替差損を計上したこと等により、前連結会計年度に比べ5,092百万円減少(前年同期比 52.9%減)し、4,530百万円となりました。

 

④ 特別損益

 特別利益は、主に固定資産売却益の増加により、前連結会計年度に比べ2,255百万円増加し、7,531百万円となりました。特別損失は、主に事業構造改善費用の計上及び減損損失の増加により、前連結会計年度に比べ10,159百万円増加し、14,039百万円となりました。

 

⑤ 親会社株主に帰属する当期純損失

 親会社株主に帰属する当期純損失は、前連結会計年度に比べ15,669百万円減少(前年同期は親会社株主に帰属する当期純利益4,472百万円)し、△11,197百万円となりました。

 この結果、1株当たり当期純損失は△67円29銭となりました(前連結会計年度の1株当たり当期純利益26円89銭)。

 

 当連結会計年度のセグメントの状況は、次のとおりです。

 

① 紙・板紙

売上高

351,166百万円

(前年同期比   1.2%減)

セグメント利益

8,887百万円

(前年同期比   44.4%減)

 紙・板紙事業において、新聞用紙はデジタル化の進展やネット広告の定着化等といった構造的要因により発行部数及び頁数が減少しており、販売数量・売上高ともに前年同期を下回りました。

 洋紙(新聞用紙を除く。)は国内需要の減退は継続していますが、輸出販売増加により販売数量は前年同期を上回り、売上高は前年同期並みとなりました。

 包装用紙は需要が減少する中、環境配慮型製品や機能材分野及び輸出販売の増加により、販売数量・売上高ともに前年同期を上回りました。

 板紙・段ボールは国内段ボール需要の低迷が継続していることに加え、輸出販売も中国及び東南アジア市場の停滞の影響を受けたこと等により、販売数量・売上高ともに前年同期を下回りました。

 これらの結果、紙・板紙事業では、売上高は前年同期並みとなり、セグメント利益は前年同期を下回りました。

 

② ホーム&パーソナルケア

売上高

295,188百万円

(前年同期比   0.7%増)

セグメント損失(△)

△1,367百万円

(前年同期はセグメント損失△4,087百万円)

 ホーム&パーソナルケア事業において国内事業では、衛生用紙は需要が拡大するソフトパックティシューや長尺トイレットペーパー等の付加価値商品の販売が伸長するとともに、原燃料価格や物流費高騰を背景にした価格改定の浸透により、売上高は前年同期を上回りました。紙加工品については価格改定の定着化に取り組むとともに、生活者の要望を反映した新商品やリニューアル品が好評を得たほか、フェミニンケアやベビーケアでの企画品連続投入及び好調なヘルスケア関連商品が販売拡大を牽引しました。また、ペットケアは販売から1年が経ち、日本で唯一(注)のパンツタイプの犬用おむつを中心に導入店舗やEC市場においてユーザーの獲得が着実に進むとともに取扱店舗も増加したことから、販売数量・売上高ともに前年同期を上回りました。

(注)サイズ調整可能でお腹まわりにポケット構造ができるパンツ形状おむつとして先行技術調査及びMintel GNPDを用いた当社調べ(2023年4月)

 海外事業では、ブラジルにおいて、衛生用紙、ベビーケア、フェミニンケア等の付加価値商品の販売が伸長し、中国・タイでは、付加価値商品を中心にフェミニンケアの拡販が進みました。一方、ブラジルレアル安等の為替換算影響があり海外事業全体の売上高は前年同期を下回りました。

 これらの結果、ホーム&パーソナルケア事業の売上高は前年同期並みとなり、セグメント損失は縮小しました。

 

③ その他

売上高

22,557百万円

(前年同期比   3.3%減)

セグメント利益

2,221百万円

(前年同期比   8.2%減)

 主に売電事業、機械事業、木材事業及び物流事業であり、木材事業における海外での木材チップの販売減少等により、売上高及びセグメント利益は前年同期を下回りました。

 

<主要品種別販売数量・金額増減要因>

紙・板紙事業セグメント

品種

数量

金額

動向

新聞用紙

新聞発行部数及び頁数の減少

洋紙

国内の需要減少、輸出販売の増加

包装用紙

産業分野の回復、脱プラ・減プラ製品や機能材分野及び輸出販売の

増加

板紙・段ボール

段ボール需要の減少、輸出販売の減少

 

ホーム&パーソナルケア事業セグメント(国内)

品種

数量

金額

動向

ファミリーケア

(衛生用紙)

ソフトパックティシュー、長尺トイレットペーパー等の付加価値商品の販売伸長、価格改定の浸透

ベビーケア

紙おむつの新商品導入店舗拡大、価格改定の浸透

ヘルスケア

価格改定の浸透、夜用パンツや産学連携商品等の高機能・高付加価値商品の販売伸長、病院・介護施設への導入拡大

フェミニンケア

ショーツタイプの販売伸長、夜用ナプキンの販売回復、

価格改定の浸透

ハウスホールドケア

(ウエットワイプ)

除菌関連商品の需要減少、トイレクリーナーの販売伸長、

価格改定の浸透

ペットケア

商品使用ユーザー数の増加、「犬用おむつ」、「猫用システムトイレ用シート」を中心に商品導入店舗の拡大による販売伸長

 

(2)財政状態の状況

 当連結会計年度末の総資産は、現金及び預金や機械装置及び運搬具の減少等により、前連結会計年度末に比べ53,679百万円減少し、886,066百万円となりました。

 負債は社債や借入金の減少等により、前連結会計年度末に比べ43,306百万円減少し、636,352百万円となりました。

 純資産は為替換算調整勘定の増加があるものの、利益剰余金の減少等により、前連結会計年度末に比べ10,373百万円減少し、249,713百万円となりました。

 この結果、自己資本比率は前連結会計年度末に比べ0.3ポイント上昇し、26.7%となりました。

 

(3)キャッシュ・フローの状況

 当連結会計年度末の現金及び現金同等物(以下、「資金」という。)は、前連結会計年度末と比較して10,878百万円減少し、112,872百万円となりました。

 当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりです。

 

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

 営業活動により獲得した資金は、44,649百万円(前連結会計年度比14,648百万円の獲得の減少)となりました。これは主に、減価償却費44,815百万円によるものです。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

 投資活動により支出した資金は、20,901百万円(前連結会計年度比5,641百万円の支出の減少)となりました。これは主に、有形固定資産の取得による支出32,407百万円、有形固定資産の売却による収入10,327百万円によるものです。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

 財務活動により支出した資金は、35,486百万円(前連結会計年度比21,874百万円の支出の増加)となりました。これは主に、長期借入れによる収入71,700百万円、長期借入金の返済による支出90,478百万円、社債の償還による支出10,136百万円によるものです。

 

(4)資本の財源及び資金の流動性

 当社グループは、事業運営上必要な資金の流動性と資金源泉を安定的に確保することを基本方針としています。

 事業活動における資金需要の主なものは、運転資金需要と投資資金需要です。運転資金需要のうち主なものは、生産・販売活動における原材料及び商品仕入、製造費や販売費及び一般管理費等の営業費用です。投資資金需要の主なものは、事業戦略の遂行に必要な投資や品質改善・安全・環境のために必要な設備投資等です。

 運転資金につきましては主に金融機関からの短期借入金で調達し、投資資金につきましては主に長期社債及び金融機関からの長期借入金により調達しています。また、今後の資金需要や金利動向等の調達環境、既存借入金や長期社債の償還時期等を総合的に考慮し、調達額及び調達手段等を適宜判断して実施することとしています。

 なお、当社は国内子会社との間で導入しているキャッシュマネジメント・システムの一層の機能充実による資金効率化により、成長投資を進めながらも財務規律の維持に努めています。

 

(5)重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

 当社グループの連結財務諸表及び財務諸表は、我が国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して作成しています。その作成には、経営者による会計方針の選択・適用、資産・負債及び収益・費用の報告金額及び開示に影響を与える見積りを必要とします。経営者は、これらの見積りについて過去の実績等を勘案し合理的に判断していますが、実際の結果は見積り特有の不確実性があるため、これらの見積りと異なる場合があります。

 連結財務諸表の作成にあたって用いた会計上の見積り及び仮定のうち、重要なものは「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等(1)連結財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載しています。

 

(6)生産実績

 当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと次のとおりです。

セグメントの名称

金額(百万円)

前年同期比(%)

紙・板紙

319,483

99.5

ホーム&パーソナルケア

226,239

102.0

報告セグメント計

545,723

100.5

その他

31,549

103.5

合計

577,272

100.7

(注)金額は製造原価によっています。

 

(7)受注実績

 紙・板紙事業及びホーム&パーソナルケア事業の製品については、需要を予測して見込生産を行っており、特に受注生産は行っていません。

 

(8)販売実績

 当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと次のとおりです。

セグメントの名称

金額(百万円)

前年同期比(%)

紙・板紙

351,166

98.8

ホーム&パーソナルケア

295,188

100.7

報告セグメント計

646,354

99.7

その他

22,557

96.7

合計

668,912

99.6

(注)セグメント間の取引については相殺消去しています。

なお、総販売実績に対する割合が10%以上の相手先がないため、「相手先別の販売実績」は記載していません。

 

(9)次期の見通し

 当社グループを取り巻く事業環境は、国内外において景気の不透明感が続く中、原燃料価格の高止まりや物流費の上昇、人手不足によるコスト増加等に加え、新聞用紙、印刷用紙等のグラフィック用紙の市場縮小の傾向が顕著であり、引き続き厳しい状況が想定されます。一方、脱プラスチック・減プラスチックへの取組の加速等、持続可能な資源利用を目指す市場の広がりは、紙製品の需要拡大も期待されます。

 このような状況下において当社グループは、紙・板紙事業では国内生産子会社のいわき大王製紙においてバイオマスボイラーの復旧を予定しており、環境負荷低減及びエネルギーコスト改善を見込んでいます。また、今後の成長を担うホーム&パーソナルケア事業について、国内では、各カテゴリーにおける高付加価値商品の拡販や価格改定の浸透、ペットケア事業の拡大に取り組んでいます。海外では、中国事業における構造改革効果の早期発現を目指すなど、海外事業全体の再構築を進め、経営基盤の強化を図ります。

 これらの取組により、2026年3月期の連結業績については、売上高670,000百万円、営業利益22,000百万円、経常利益14,000百万円、親会社株主に帰属する当期純利益5,000百万円を予想しています。

 

5【重要な契約等】

(1)北越コーポレーション株式会社との戦略的業務提携に係る基本契約

 当社は、2024年5月15日付で北越コーポレーション株式会社との間で戦略的業務提携に係る基本契約(契約期間:契約締結の日より5年間、以降1年毎の自動更新)を締結しました。本業務提携により、生産技術、原材料購買、製品物流を中心とする取組から開始し、両社の中長期的な企業価値向上を図ります。

 

(2)固定資産の譲渡

 当社は、2025年3月6日開催の取締役会において、連結子会社である大王(南通)生活用品有限公司の固定資産の一部譲渡について決議し、同日付で譲渡契約を締結しました。

 

① 譲渡の理由

 当社は2024年度より開始した第5次中期事業計画において、営業キャッシュ・フロー創出力の強化を目指し、ホーム&パーソナルケア事業における海外事業の構造改革を進めており、今後の中国事業の展開を検討した結果、ベビー用紙おむつの生産に関連する固定資産を譲渡し、生理用品に経営資源を集中することとしました。

 

② 譲渡資産の内容

資産の名称及び内容

大王(南通)生活用品有限公司 第一工場

建物及び機械装置 他

所在地

中華人民共和国 江蘇省南通市

現況

工場

 

③ 譲渡先の概要

名称

杭州豪悦護理用品股份有限公司

所在地

中華人民共和国 浙江省杭州市

事業内容

紙おむつ及び生理用品、不織布、包装資材製品等の製造・販売

 

④ 譲渡の日程

取締役会決議日

2025年3月6日

契約締結日

2025年3月6日

所有権移転日

2025年7月(予定)

 

⑤ 業績に与える影響

 当該固定資産の譲渡に伴い、当連結会計年度において4,013百万円を特別損失(事業構造改善費用)として計上しています。

 

(3)子会社株式の譲渡

 当社は、2025年3月6日開催の取締役会において、連結子会社であるエリエール・インターナショナル・ターキーA.S.(以下、「EITR」という。)の全株式を譲渡することを決議し、同日付で譲渡契約を締結しました。

 

① 譲渡の理由

 当社は2024年度より開始した第5次中期事業計画において、営業キャッシュ・フロー創出力の強化を目指し、ホーム&パーソナルケア事業における海外事業の構造改革を進めており、今後のトルコの事業展開を検討した結果、トルコ国内でパーソナルケア用品の製造販売を行うEvyapグループへEITR株式を譲渡することが、EITRにとっても事業継続と企業価値向上につながると判断しました。

 

② 当該子会社の概要

名称

エリエール・インターナショナル・ターキーA.S.

所在地

トルコ共和国 ゲブゼ市

事業内容

紙おむつ・ウエットワイプ・液体石鹸等の製造販売

 

③ 譲渡先の概要

名称

Evyap Hijyenik Ürünler Sanayi ve Ticaret A.S.

所在地

トルコ共和国 イスタンブール市

事業内容

パーソナルケア用品等の製造販売等

 

名称

Evyap Sabun Yag Gliserin Sanayi ve Ticaret A.S.

所在地

トルコ共和国 イスタンブール市

事業内容

パーソナルケア用品等の製造販売等

 

④ 譲渡の日程

取締役会決議日

2025年3月6日

契約締結日

2025年3月6日

譲渡実行日

2025年6月下旬(予定)

 

⑤ 業績に与える影響

 当該株式の譲渡に伴い、当連結会計年度において3,278百万円を特別損失(事業構造改善費用)として計上しています。

 

(4)財務上の特約が付された金銭消費貸借契約

 当社グループでは、下記の財務制限条項の付された金銭消費貸借契約を締結しています。

 なお、2024年4月1日以前に締結された金銭消費貸借契約については、「企業内容等の開示に関する内閣府令及び特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」附則第3条第4項により記載を省略しています。

会社

契約締結日

相手先

当期末残高

(百万円)

弁済期限

担保

特約の

内容

当社

2024年7月29日

農林中央金庫、他7行

6,000

2031年7月31日

(注)1

2024年9月30日

株式会社みずほ銀行、他15行

13,000

2031年10月31日

(注)2

(注)1.①借入人は、各年度の決算期の末日における連結の貸借対照表における純資産の部の金額を2024年3月期の末日における連結の貸借対照表における純資産の部の金額の75%以上の金額に維持することを確約する。

②借入人は、各年度の決算期における連結の損益計算書に示される経常損益が、2024年3月期以降の決算期につき2期連続して損失とならないようにすることを確約する。

2.①2025年3月期決算以降、各年度の決算期の末日における連結の貸借対照表上の純資産の部の金額を当該決算期の直前の決算期の末日又は2024年3月に終了する決算期末日における連結の貸借対照表上の純資産の部の金額のいずれか高い方の金額の75%以上に維持すること。

②2025年3月期決算以降の決算期を初回の決算期とする連続する2期について、各年度の決算期における連結の損益計算書に示される経常損益が2期連続して損失とならないようにすること。

 

6【研究開発活動】

 当連結会計年度における当社グループ全体の研究開発費は3,751百万円であり、紙・板紙事業及びホーム&パーソナルケア事業等における研究開発活動の状況は以下のとおりです。

 

(1)紙・板紙事業

 紙・板紙事業では、メディア用途の紙から梱包・包装用途の紙へのシフトを進めており、営業と工場部門が一体で行動することで、マーケットの変化や需要動向をいち早く捉え、商品開発に活かせるよう取り組んでいます。

 研究体制は、国内の主要な生産拠点に開発部員を配置しています。商品開発・企画推進グループでは、特殊紙分野の新商品開発を担当しており、昨今の脱プラスチック・環境配慮の要求に対応しながら、市場ニーズに合った紙製品・プラスチック代替商品の企画提案・開発を行っています。生産技術グループでは、ユーザーと直接対話を行いながらFSC認証製品化、再生紙化といった国内ユーザーのニーズを満たす商品のリニューアルや新規紙商品開発の他、海外で差別化が図れる高強度の板紙生産技術開発に取り組んでいます。また、昨今の古紙資源の海外輸出増加による古紙不足に対応するため、未利用古紙(難処理古紙)のリサイクル技術確立を進めています。

 当連結会計年度における研究開発の取組は以下のとおりです。

① 脱プラ・減プラ商品の開発に関する取組

 紙という生分解性があり再生可能な原料を使用して脱プラ・減プラに貢献できるよう「FSエリプラ」ブランドの開発を進めてきました。ナイフ、マドラーなどの高い剛性と耐水・耐油性が求められるプラスチックや、食品の2次包材として使われているフィルムの代替となる強度の高い薄葉紙の開発品等計37品種(エリプラシリーズ15品種、その他22品種)をラインナップし、用途・要望に応じた提案活動を行っています。

 

② 輸出向け高破裂強度板紙開発の取組

 デジタル化による印刷用紙の需要減少に対し、新興国で需要が拡大する板紙需要を取り込むため、2020年4月に当社三島工場新7号マシンの板紙への転抄を行い、海外への販売を強化しています。新7号マシンでの板紙生産開始当初は、薄物クラフトライナーボード(古紙パルプの配合率が低く、強度が高い段ボール原紙)の代替として、高破裂強度製品の開発と増産を進めてきました。現在は、自動車部品のような重量物を運ぶケースや紙製パレットに使用される高米坪で強度の高いクラフトライナーボードの代替品を開発・生産し、国内外への販売を開始しています。

 また、簡易包装化による環境負荷低減のニーズに対応し、製袋用再生クラフト紙を開発し、提案活動を行っています。

 

③ 紙おむつ用フラッフパルプ開発の取組

 紙・板紙事業以外への用途転換として、当社三島工場15号マシンをフラッフパルプ生産設備へ転換し、2023年7月から営業運転を開始しました。当社グループでの使用以外に、国内外の紙おむつ製造会社に適応したフラッフパルプの開発と販売拡大に取り組んでいます。

 

④ 低透気度クラフト紙開発の取組

 小麦粉やセラミック粉末などの微粉体製造工場では、充填時の生産性向上を目的に輸入クラフト紙を使った低透気度のクラフト袋が一部利用されています。2024年に低透気度のクラフト紙の生産に成功し、各コンバーターへの提案と実機テストを進めています。

 

 紙・板紙事業に係る研究開発費は、1,890百万円です。

 

(2)ホーム&パーソナルケア事業

 ユーザーニーズの変化に対応した新商品開発と既存商品の改良に加え、SDGs推進の一環として環境配慮型商品の開発にも取り組み、付加価値商品の売上比率を増やすべく開発を進めています。

 研究体制は、国内・海外の市場変化への素早い対応だけでなく、グローバル市場全体で品質とブランド価値を確立できるよう東京本社と国内2工場に開発部員を配置しています。また、中国、タイ、インドネシア、トルコ、ブラジルの海外子会社5社にも開発部員を配置し、世界で共通した商品価値の提供ができるように努めています。

 当連結会計年度における研究開発の取組は以下のとおりです。

① 衛生用紙での取組

 市販用商品では、2024年9月に『ピーチ キッチンタオル』をリニューアル発売しました。国内で初めて新規クレーピングブレード(紙表面に縦溝を作る特殊技術)を採用することで、品質を維持しつつ製造コストを抑えることに成功しました。また、トイレットペーパーでは、従来のロールタイプに加えて、介護や育児での使用を想定し、片手で簡単に取り出せる仕様とした『エリエール トイレット シートタイプ』を2024年4月に発売しました。業務用商品では、セルロースナノファイバーを樹脂原料に配合して強度アップを図り、樹脂原料を低減したペーパータオルの中判・小判兼用の卓上ディスペンサーを2024年7月に発売しました。また、11月には厨房マルチクロスの素材を「パルプ+ポリプロピレン」から「パルプ+リヨセル」の天然素材100%に変更し、環境にやさしく、油こし等のキッチン周りでマルチな用途に使用でき、吸水性もアップした『超吸収キッチンタオル マルチクロス』を発売しました。

 

② ベビー用紙おむつでの取組

 肌へのやさしさを追求するベビー用紙おむつ「グーンプラス」シリーズをさらにやさしく、モレにくさを向上させてリニューアルし、テープタイプの『グーンプラス 敏感肌にやわらかタッチ』とパンツタイプの『グーンプラス やわらかタッチ パンツ』を2024年10月に発売しました。テープタイプの『グーンプラス 敏感肌にやわらかタッチ』には柔らかい肌触りの「ぽこぽこクッションシート」を肌に触れる部分に採用することで、肌への刺激を低減するほか、シートの凹凸がゆるウンチをキャッチすることでさらにモレにくくなりました(新生児・S・Mサイズに採用)。パンツタイプの『グーンプラス やわらかタッチ パンツ』には、動きやすく、はかせやすい「ふわふわのびーるウエスト」を採用することで従来品と比べふんわり感が約2倍アップし、さらに肌にやさしくなりました。また、テープタイプ・パンツタイプともに、おしっこをさっと吸収する「吸収ブーストシート」を採用し、従来よりもモレにくさを向上させました(各L・BIGサイズに採用)。

 

③ 大人用紙おむつでの取組

 市販用商品では、睡眠の質向上につなげる商品として、2024年10月に「アテント 夜1枚安心パンツ」シリーズに脚周りすっきり形状の『アテント 夜1枚安心パンツ はき心地すっきり4回吸収』と寝返りや脚周りのモレにも安心の『アテント 夜1枚安心パンツ 脚まわりロング丈4回吸収』を発売しました。また、様々な体型の方にもしっかりとテープを固定できる「どこでもピタッと!誰でもフィットテープ」を備え、サイズ選びに迷わないワンサイズを特徴とする『アテント 夜1枚安心パッドのためのうす型テープ式』を発売しました。業務用商品では、2024年9月に『アテント Sケア 前側吸収 おしりさらさらパッド』の立体ギャザーを柔軟化して、より肌にやさしい商品にリニューアルしました。また、2025年3月には『アテント Sケア 長時間安心パッド ダブルブロックタイプ』を、従来品より逆戻りを低減した商品にリニューアルしました。

 

④ フェミニンケア用品での取組

 人気のブラックカラーを採用したショーツ型ナプキン『エリスショーツ』は、「大きめのサイズが欲しい」との生活者からの要望に応えるべく、2024年4月に、L~LLサイズのラインナップを追加しました。また、憂鬱になりがちな生理期間中の気分が少しでも高められるよう、個包装とパッケージにアーティストデザインをあしらった「ヘラルボニー デザイン企画品」、「ヒグチユウコ コラボデザイン企画品」を発売しました。

 

⑤ ウエットワイプでの取組

 2024年4月に「除菌できるアルコールタオル」シリーズのボトル本体容器の高さを見直すリニューアルを行い、プラスチック使用量を約10%削減(従来比)しました。また、近年のアウトドア人気の高まりを受け、アウトドア・カジュアルブランド「CHUMS(チャムス)」とコラボレーションしたアウトドア専用ウエット商品として、共同開発4品種及びデザインコラボ1品種のコラボプロジェクト企画品を2024年4月に発売しました。さらに、ウエット用香料の新規開発を進め、癒し系キャラクター「すみっコぐらし」とコラボレーションした『キレキラ!トイレクリーナー 1枚で徹底おそうじシート すみっコぐらしデザイン企画品 ピンクグレープフルーツの香り つめかえ用20枚』と学習ドリル「うんこドリル」とコラボレーションした『キレキラ!トイレクリーナー 1枚で徹底おそうじシート うんこドリルデザイン企画品 幸うんの香り つめかえ用20枚』2品種の企画品をそれぞれ2024年6月と2024年10月に発売しました。

 

⑥ ペットケア用品での取組

 ペット用品ブランド「エリエールPetキミおもい」は、2025年春の新商品として、新次元の消臭力を実現した『キミおもい パワフル消臭・抗菌 システムトイレ用ネコ砂』、『キミおもい パワフル消臭・抗菌 システムトイレ用シート』、お散歩などの日常使いはもちろん、ドッグランや旅行などのアクティブなシーンでも動きやすく、ズレにくいパンツタイプおむつ『キミおもい のびのび動けるアクティブウェア』の新サイズ「Lゆったりサイズ」の開発を進めました。

 

 ホーム&パーソナルケア事業に係る研究開発費は、1,806百万円です。

 

(3)CNF(セルロースナノファイバー)

 第5次中期事業計画(2024年度から2026年度まで)期間中での本格的事業化を目標に、市場が期待でき汎用性材料としてコスト優位性がキーとなる複合樹脂について、パイロット設備での一貫製造プロセス開発を進め、2025年7月には商用設備を稼働する計画としています。また、水分散液や乾燥体についても既存パイロット設備での用途展開と量産プロセスの開発を進めています。

 研究体制は、CNF事業化に向けて、2021年度に稼働させた複合樹脂設備を含む3つの実証設備にてCNF製造技術確立を目指す製造課と、CNFの用途展開を進める開発課を三島工場と東京本社に拠点を設け、開発を進めています。また、東京本社には、主に商用設備を稼働するCNF複合樹脂を拡販するためにサステナブル・マテリアル営業部を設け、営業体制を強化しています。

 当連結会計年度における研究開発の取組は以下のとおりです。

① 製造プロセスに関する取組

 複合樹脂の製造プロセス開発は、パイロット設備での開発成果を基盤として、2025年7月の稼働に向けて年産2,000トンの商用プラントの建設工事、運転準備を遅滞なく進めました。

 

② 用途開発に関する取組

 複合樹脂の用途開発は、地元自治体四国中央市の「日常生活で身近にCNF製品を使用する」という企画の下、回覧板に採用されました。当社ホーム&パーソナルケア事業部の卓上ペーパータオルディスペンサーにも採用し、いずれも剛性アップ分を薄肉化することで減プラスチック設計を実現しました。また、自動車部材等の試作をユーザーと連携して進め、一部ユーザーでは品質合格を得られつつあるレベルまで試作評価が進展しました。

 

③ 水分散液に関する取組

 ハードプロテクト社の室内抗菌等空気改善塗料「サトヤマコート」へのCNF配合により塗料粘度が増し、化粧板や塗装面などの滑らかな面にも塗布できるようになり、塗料の定着性向上にもつながるとの評価を受け、添加剤としてCNF水分散液『ELLEX-S』が採用されました。また、当社ペットケア商品『キミおもい パワフル消臭・抗菌 システムトイレ用ネコ砂』に、日本初技術としてニオイを分解する銅イオンを配合したCNFを表面にコーティングし、消臭効果向上を実現しました。

 

 CNFに係る研究開発費は、紙・板紙事業に係る研究開発費に含んでいます。

 

(4)バイオリファイナリー

 木質バイオマス由来のパルプや古紙などを有効に活用したバイオリファイナリーの生産実証に向けた研究開発を進めています。本事業はNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の採択事業で共同研究者Green Earth Institute株式会社(以下、「GEI」という。)とともに研究開発を進めており、2030年までには数万キロL/年(エタノール換算)の商用設備稼働を目指しています。

 当連結会計年度における研究開発の取組は以下のとおりです。

① 製造プロセスに関する取組

 ラボスケールでのエタノール及びアミノ酸の目標収率での生成に成功し、GEI所有の既存ラボ機による連続糖化実験も予定通り完了しました。2024年度中にベンチスケール設備を稼働させ、現在連続試験結果の確認を進めています。また、アミノ酸生成菌種の開発も完了しました。

 

② サプライチェーン構築に関する取組

 石油元売り、化成品及びメーカー等へ事業計画の説明を開始しました。2025年度も引続きアライアンス先を広く募りながら、協働先を増やすことで、サンプル提供、事業性の確認等を進めていく予定です。

 

 バイオリファイナリーに係る研究開発費は、紙・板紙事業に係る研究開発費に含んでいます。