DNPグループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題は次のとおりであります。
文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、DNPグループが判断したものであります。
DNPグループは、サステナブルな社会の実現を目指し、「人と社会をつなぎ、新しい価値を提供する。」ことを企業理念に掲げています。この理念に基づき、持続可能なより良い社会と、より心豊かな暮らしを実現するために、長期を見据えて、自らがより良い未来をつくり出すための事業活動を展開していくことを「経営の基本方針」としています。
さまざまな活動を通じて、社会課題を解決するとともに、人々の期待に応える新しい価値を創出し、それらの価値を生活者の身近に常に存在する「あたりまえ」のものにしていきます。人々にとって「欠かせない価値」を生み出し続けることで、DNPグループ自身が「欠かせない存在」になるように努めており、こうした姿勢を「未来のあたりまえをつくる。」というブランドステートメントで表明しています。
DNPグループは、「経営の基本方針」に沿った取り組みを通じて、持続的に事業価値・株主価値を創出していきます。また、事業活動の評価指標としてROEやPBRなどを用いて、価値向上の達成状況を評価・分析し、次の施策の効果を高めていきます。
DNPグループは、「経営の基本方針」に基づき、2026年3月期を最終年度とする3か年の中期経営計画を2023年4月から実行しています。この計画では、「事業戦略」を中心に持続的な価値創出の具体策を実行するとともに、それを支える経営資本の強化に向けて「財務戦略」と「非財務戦略」を推進し、事業価値・株主価値を高めていきます。

<三つの戦略>
〔1:事業戦略〕
〔1-1:中長期の事業ポートフォリオの考え方〕
「事業戦略」では、市場成長性・魅力度と事業収益性を基準として、目指すべき中長期の事業ポートフォリオを明確にしています。市場成長性・魅力度が高い「成長牽引事業」(*1)と「新規事業」(*2)を「注力事業領域」と位置付け、この領域の事業にリソース(経営資源)を集中的に投入し、必要な組織・体制なども十分に整備して、利益を一層拡大させていきます。また、DNP独自の強みを進化・深耕させるほか、DNPならではの社会・関係資本である多様なパートナーとの共創(DNPと異なる強みを持った企業とのM&Aなど)も加速させて、「No.1」の獲得に努めていきます。
*1 成長牽引事業:デジタルインターフェース関連、半導体関連、モビリティ・産業用高機能材関連
*2 新規事業:コンテンツ・XRコミュニケーション関連、メディカル・ヘルスケア関連
一方、市場成長性・魅力度の伸びは低水準ながら収益性の高い「基盤事業」(*3)については、事業プロセスの効率向上などによって、安定的なキャッシュの創出に努めていきます。また、現状では市場成長性と収益性がともに低い水準にある「再構築事業」(*4)については、生産能力や拠点の縮小・撤退を含めた最適化を進めるとともに、注力事業領域へのリソースの再配分や、独自の強みを有した製品・サービスの強化などを推進していきます。
*3 基盤事業:イメージングコミュニケーション関連、情報セキュア関連
*4 再構築事業:既存印刷関連、飲料事業
〔1-2:各セグメントにおける戦略〕
〇スマートコミュニケーション部門
当部門では、投下資本とキャッシュ創出のバランスを見ながら効率的・効果的な投資を行うほか、DNP独自の強みを活かし、国内外の企業との協業やサービス開発を進めていきます。また、紙メディアの印刷関連については、再構築事業の一つとして市場規模に対応した合理化・適正化をさらに進めます。
新規事業の「コンテンツ・XRコミュニケーション関連」では、リアルとバーチャルの空間をシームレスかつセキュアに行き来できるメタバース上のDX(デジタルトランスフォーメーション)サービス等を実現し、人々の体験価値を高めていきます。国内外の多様なIPホルダーやクリエイターとの連携を深め、高精細画像処理やセキュリティ基盤を活かしたデータ処理の技術などの強みも活かし、人々のコミュニケーションの価値を高める新規市場を創出していきます。また、着実に収益を積み上げる基盤事業として、写真プリント等の多様な製品・サービスを展開する「イメージングコミュニケーション関連」や、国内トップシェアのICカードや各種認証サービス等の「情報セキュア関連」の事業で、グローバルな投資を拡大していきます。そのほか、企業・自治体等の業務効率化やDXのニーズを捉え、業務プロセスを最適化して関連業務を受託するBPO事業の拡大を図ります。
〇ライフ&ヘルスケア部門
成長牽引事業である「モビリティ・産業用高機能材関連」では、世界シェアトップのリチウムイオン電池用バッテリーパウチのEV向けのグローバル展開について、海外拠点への積極的な設備投資などを推進します。この製品とモビリティ(移動用車両)向けの多様な内外装加飾材を中心に事業を展開し、数十年先を見据えて、EVの航続距離の延伸や自動運転、快適な移動空間の実現に取り組んでいきます。
新規事業の「メディカル・ヘルスケア関連」では、各種印刷物や包装・半導体等の事業で培った画像処理やカラーマネジメント、無菌・無酸素充填、ミクロ・ナノ造形、精密有機合成などの技術を掛け合わせ、原薬製造・製剤・剤形変更・医療パッケージ製造などの製薬サポート事業を展開していきます。関連するパートナーとの相乗効果の最大化にも取り組み、画像診断やオンライン診療などのスマートヘルスケア事業の拡大に努め、人々の健康寿命の延伸に貢献していきます。
包装関連事業等については、拠点の再編などによる収益性の改善・向上を図るとともに、「DNP透明蒸着フィルム IB(Innovative Barrier)-FILM®」等の独自製品や環境に配慮した各種包材のグローバル供給能力の拡大などに努めていきます。
〇エレクトロニクス部門
当部門では、積極的な設備投資を推進するとともに、DNP独自の強みを活かした新製品の開発、社外のパートナーとのアライアンスによる半導体サプライチェーンへの提供価値拡大などによって、事業の拡大を加速させていきます。
成長牽引事業の一つ「デジタルインターフェース関連」では、有機ELディスプレイ製造用メタルマスクやディスプレイ用光学フィルムなど、世界トップシェアの製品を中心に、技術革新の最新の潮流も捉えて、リアルとバーチャル、アナログとデジタルをつなぐ新しい価値を創出していきます。
もう一つの成長牽引事業「半導体関連」では、自動運転や遠隔教育・遠隔医療、クラウド環境やデータセンターの広がりなどによって全世界のデータ流通量が飛躍的に増大するなか、半導体サプライチェーン全体に不可欠なファインデバイスを開発・提供していきます。
■中期経営計画における主な経営目標
〔2:財務戦略〕
持続的な事業価値と株主価値の創出に向けて、安定的な財務基盤を構築・維持した上で、キャッシュを成長投資に振り向けるとともに、株主還元にも適切に配分していきます。
〇キャッシュ・アロケーション戦略
注力事業領域への積極的な投資と個々の事業の効率化を推進し、成長投資の原資となる営業キャッシュ・フローを安定的に創出していきます。資産効率の改善に向けては、政策保有株式の売却を加速し、遊休不動産の縮減にも着実に取り組んでいきます。また、有利子負債の活用を含む適切な資金調達方法を検討するなど、資金効率の最大化に努めていきます。
創出したキャッシュは、注力事業領域に集中的に投資するとともに、経営基盤の構築に向けた投資にも配分していきます。長期にわたって企業活動を推進し、社会や人々に価値を提供し続けていくため、成長投資の推進と株主還元のバランスを考慮した上で、株主還元にも積極的に配分していきます。
〔3:非財務戦略〕
〇人的資本の強化
DNPグループは、引き続き「人への投資」を積極的に進めていきます。2022年には「人的資本ポリシー」を策定しており、「人への投資」を企業価値の向上にさらに明確に結びつけ、グローバルでの「人的創造性(付加価値生産性)」を飛躍的に高めていくための取り組みを進めています。
価値創造に向けた社員のキャリア自律支援と組織力の強化に向けて、DNP版「よりジョブ型も意識した処遇と関連施策」を展開しています。また、複線型のポスト型処遇、キャリア自律支援に向けた人的投資、競争力の高い報酬の水準と体系の維持・確保、組織開発の充実などを進めています。
健康経営については「DNPグループ健康宣言」に基づき、多様な個の強みを引き出すチーム力の強化とマネジメント改革に取り組んでいます。「DNP価値目標(DVO:DNP Value Objectives)制度」や組織のエンゲージメントを高める施策を展開し、社員の幸せ・幸福度を高めるよう推進しています。
事業戦略に基づく適材適所の人材配置の実現については、タレントマネジメントシステムを活用したICT人材・DX人材のスキルレベルの可視化、人材ポートフォリオに基づく採用・育成、人材再配置に必要なリスキリングの強化などを進めていきます。
また、DNPグループは、社員のあらゆる多様性を尊重し、一人ひとりの多様な強みを掛け合わせることが価値の創出に欠かせないと考え、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の推進を重要な経営課題の一つとしています。D&I推進の基本方針である「多様な人材の育成」「多様な働き方の実現」「多様な人材が活躍できる風土醸成」の具現化に向けた施策をさらに進めていきます。
〇知的資本の強化
DNP独自の強みと、DNPとは異なる強みを持った社外のパートナーとの連携を活かして、知的資本を強化していきます。
研究開発の方針として、DNP自身がつくり出したい「より良い未来」の姿を描き、それを起点とした“未来シナリオ”を実現するため、独自の技術等の強みを強化・連動させて、新製品・新サービスの開発・提供につなげていきます。注力事業領域を中心とした新規テーマの創出、基盤技術の強化と新製品開発、オープンイノベーションによる戦略的な技術の獲得と製品化・事業化などを推進します。ライフ&ヘルスケア部門をはじめ、3つの事業セグメントで海外での事業展開・マーケティング・研究開発の強化にも努めます。また、多様な事業を通じて獲得してきた特許等の知的資本の新製品・新サービスへの展開、社内外の強みを積極的に掛け合わせる組織風土の構築・醸成なども進めて、既存事業と新規事業の両方で新しい価値を創出していきます。
DNPグループにとっての「DX」は、アナログとデジタル、リアルとバーチャル、モノづくりとサービスなど、異なる分野での強みを融合し、独自のビジネスモデルや価値を生み出すことであると位置付けています。新規事業の創出と既存事業の変革、生産性の飛躍的な向上、社内の情報基盤の革新などを進めていきます。
〇環境への取り組み
DNPグループは常に、事業活動と地球環境の共生を考え、地球環境問題への対応を重要な経営課題の一つに位置付けています。「価値の創出(事業の推進)」と「基盤の強化」の両輪で環境関連の課題の解決に取り組み、「脱炭素社会」「循環型社会」「自然共生社会」の実現に貢献していきます。
「価値の創出(事業の推進)」については、環境負荷の低減と事業の付加価値の向上をともに実現する事業ポートフォリオへの転換、環境をテーマとした新規事業の創出、低炭素材料・素材の開発・活用、製品単位のCO2排出量の算定と削減、循環型社会に向けたリサイクルスキームの構築、リサイクル材の活用促進などに取り組んでいきます。
「基盤の強化」では、環境負荷の見える化、再生可能エネルギーの導入、環境負荷を考慮した省エネ設備への投資、生産拠点の最適化、プラスチックを中心とした資源の効率的な利用、原材料のトレーサビリティの確保、生態系への負荷の低減などに取り組んでいきます。
〔4:ガバナンス〕
DNPグループは、環境・社会・経済の急激な変化など、経営に大きな影響を与えるリスクを評価して中長期的な経営戦略に反映し、そのリスクを事業機会に転換していくプロセスの強化に取り組んでいます。
この取り組みを加速させるため、代表取締役社長を委員長とする「サステナビリティ推進委員会」を運営しています。当委員会では、中期経営計画の実行の過程で環境・社会・経済の急激な変化を捉え、適切に経営戦略に反映していくため、経営会議・取締役会に報告・提言しています。
DNPグループのサステナビリティに関する考え方及び取り組みは、次のとおりであります。なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社が判断したものであり、結果は社会動向の変化などにより異なる可能性があります。
(1)DNPグループのサステナブル経営の取り組み
DNPグループは、企業理念に基づき、サステナブルな経営の考え方として「持続可能な社会と心豊かな暮らしの実現」を目指しており、自らが主体となって「より良い未来」をつくり出すための事業活動を展開しています。「より良い未来」を実現するとともに、当社自身が長期的に成長していくためには、多様かつ急激な環境・社会・経済の変化が当社の経営に及ぼす影響を捉え、適切にリスクを評価したうえで中長期的な経営戦略に反映し、リスクを低減するとともに、事業機会に転換する必要があります。
さらに、さまざまな変動要因に対して、経営リスクに柔軟かつ機動的に対応するだけでなく、変化を先取りして自らが変革を起こし、ビジネスチャンスに変えていくことで、企業としての持続可能性と環境・社会・経済の持続可能性をともに高めていきます。
(ⅰ)ガバナンス
当社は、健全な社会と経済、快適で心豊かな人々の暮らしは、サステナブルな地球の上でこそ成り立つと考えています。近年は特に、環境・社会・経済が急激に変化しており、経営に影響を与える変動要因もますます多様かつ広範囲に及んでいます。
このようななか、環境・社会・経済の持続可能性をともに高め、DNPグループ自身の持続的な成長をさらに推進していくため、代表取締役社長を委員長、代表取締役副社長を副委員長、本社の各部門を担当する取締役・執行役員を委員とする「サステナビリティ推進委員会」が、中長期的な経営リスクの管理、事業機会の把握及び経営戦略への反映を担っています。この委員会が、自然災害をはじめとする有事の際も社員の安全を確保し、生産活動を維持していくための「BCM推進委員会」、社員のコンプライアンス意識の向上を図ってリスクの低減を図る「企業倫理行動委員会」と密に連携することで、全社的リスクを網羅し、柔軟で強靭なガバナンス体制を構築しています。
サステナビリティ推進委員会は、サステナビリティに係るDNPグループのあり方を適切に経営戦略に反映していくため、年4回の定例開催を基本として必要に応じて適宜開催し、以下の内容の協議を行い、取締役会に報告と提言を行います。
・サステナビリティに関する中長期的な経営リスク管理、事業機会の把握及び経営戦略への反映
・サステナビリティ活動方針の策定と各部門での実行の統括
・サステナビリティに関する課題の掌握、目標・計画の策定、計画推進・活動状況の評価及び是正・改善
取締役会は、当委員会で協議・決議された事項の報告・提言を受け、サステナビリティに関するリスク及び機会への対応方針並びに実行計画等について、審議・監督を行っています。
当社のガバナンス体制のさらなる詳細は、「
(ⅱ)戦略
当社は、企業理念に「人と社会をつなぎ、新しい価値を提供する。」ことを掲げ、サステナブルな経営の考え方として「持続可能な社会と心豊かな暮らしの実現」を目指しています。これらに基づき、長期を見据えて、自らが「より良い未来」をつくり出すための事業活動を展開しています。2024年3月には、DNPが「より良い未来」として目指す、それぞれ相互関係にある「4つの社会」の実現に向けて、また、DNPが社会とともに成長し続けるために重要なこととして、DNPが何をすべきか、どのような価値をつくり出していくのかを具体化した「マテリアリティ」を特定しました。
■DNPが目指す「より良い未来」とマテリアリティ
・安全・安心かつ健康に心豊かに暮らせる社会
自ら変化を生み出し、変化に柔軟に対応することで、環境・社会・経済の持続可能性を高めていきます。
・快適にコミュニケーションができる社会
リアルとデジタルをつなぐことで、得られる体験価値の質を高めるとともに、人々の活動の機会を拡げていきます。
・人が互いに尊重し合う社会
相互に理解を深め、認め合うことで、誰もがいきいきと活躍できる場をつくっていきます。
・経済成長と地球環境が両立する社会
環境保全・環境負荷の低減に取り組むことで、ネイチャーポジティブなバリューチェーンを実現していきます。

マテリアリティに基づく活動として、中期経営計画における「事業戦略」「財務戦略」「非財務戦略」に沿った取り組みを推進し、新しい価値の創出と経営基盤の強化により、DNPグループの持続的な成長を図っていきます。
持続的な成長を支える基盤となる非財務戦略においては、企業価値の向上と事業競争力の強化の両面で特に重要だと考えている「人的資本の強化」「知的資本の強化」「環境への取り組み」を加速させています。また、当社が事業活動を継続していくためには、法令を遵守することはもとより、全社員が社会倫理に基づいた誠実な行動をとることが重要であると考えています。これらの社員の行動のあり方を定めた「DNPグループ行動規範」を基本とする当社の視点と、国際規範をはじめとする社会全体の視点の両面から重要性を分析し、「公正な事業慣行」「人権・労働」「環境」「責任ある調達」「製品の安全性・品質」「情報セキュリティ」「企業市民」を重点テーマとし、サプライチェーン全体を通じたリスクマネジメントの徹底を図っています。そのなかでも特に、事業活動のグローバル化が進むことにより、サプライチェーン全体を通じた「人権の尊重」がこれまで以上に重要になると認識しており、2020年3月に「DNPグループ人権方針」を策定し、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づいた人権デュー・ディリジェンスを進めています。特に、深刻な人権リスクの懸念がある原材料の調達においては、鉱物資源や木材・紙を中心に、リスク評価やトレーサビリティの確保などの「責任ある調達」を推進しています。
<DNPグループ行動規範>
<マテリアリティ>
<サステナビリティ・マネジメント>
(ⅲ)リスク管理
当社は、柔軟で強靭なガバナンス体制のもとで、変動要因によるマイナスの影響を最小限に抑えるとともに、事業機会の拡大につなげるため、統合的なリスクマネジメントを推進しています。
環境・社会・経済に関する中長期的なリスクと機会は、サステナビリティ推進委員会が年に1回以上特定し、評価・管理しています。また、事業計画や財務・非財務戦略への影響、市場の変化や環境・社会に与える影響、マイナス影響の発生可能性等の観点で、優先課題の特定や活動の優先順位付けを行ったうえで、最適な目標を設定して、経営に反映させています。特に重要度や優先度が高いリスクについては、リスク管理部門を選定し、経営会議での協議を経て事業戦略・計画に反映しています。機会については、DNPグループ全体で注力する事業を定め、戦略的な事業展開につなげています。
具体的なリスクの内容と対応施策については、「
(ⅳ)指標及び目標
当社は、中期経営計画における「事業戦略」「財務戦略」「非財務戦略」に基づく具体的な取り組みを通じ、長期にわたって事業価値・株主価値を創出することを目指しています。これらの活動を着実に推進していくため、中期経営計画における具体的な指標と目標を設けてモニタリングを継続的に実施しています。
指標及び目標に対する進捗状況については、当社の「2025年3月期 通期決算説明会」の資料を参照ください。
<2025年3月期 通期決算説明会資料>
(2)サステナビリティに関する具体的な取り組み
①人的資本の強化
DNPグループが「より良い未来」をつくり出していくための“重要な基盤”であり、“強みの源泉”は社員一人ひとりの存在にほかなりません。社員が安心して挑戦を重ねることで、それぞれの強みを伸ばし、その強みを「対話」を通じて掛け合わせていくこと(協働)によって、社会と人々に新しい価値を提供し続けることが可能となります。
こうした“人に対するDNPグループの普遍的・基本的考え方”を「人的資本ポリシー」として制定し、「一人ひとりが強みを伸ばし、社会(社内・社外)で活躍できる人財に成長してもらいたい」という思いと、「社員を大切にし、大切にした社員によって企業が成長し、その社員が社会をより豊かにしていく」という信念を明確にしています。DNPグループは引き続き、人的資本の強化と最大化を加速させていきます。
<人的資本ポリシー>
(ⅰ)ガバナンス
「人的資本ポリシー」に基づく「人的資本の強化」に向けて、当社は「採用」「人材育成」「組織開発」「人事諸制度」「ウェルビーイング」「安全衛生」「ダイバーシティ」などを注力テーマとして、主管部門を定めて具体的な取り組みを進めています。これら人的資本の注力テーマの重要課題については、取締役会にて審議・決定しています。なお、取締役会に付議しないテーマの意思決定や業務執行については、取締役会で担当委任された各基本組織の担当取締役または執行役員が適切に実施しています。
(ⅱ)戦略
価値創出の要であり、成長の原動力である「人的資本」を強化するにあたり、「人的資本ポリシーに基づき人への投資を拡大する」という方針のもと、「人への投資」が企業価値向上に貢献するという好循環ループの確立に向け、「人的創造性(付加価値生産性)」をグローバルで飛躍的に高めていくことを社内外に宣言しています。

そのための人材育成方針として、社員一人ひとりが自律した個として主体的に必要な知識と技術を身につけ、最大限に自身の役割を果たし、自らの成長と自己実現を図ることができる人材の継続的な輩出を目指しています。社内環境の整備として「DNPグループダイバーシティ宣言」や「DNPグループ健康宣言」に基づき、多様な個の強みを引き出すチーム力や組織力の強化に向けてDNP独自の「DNP価値目標(DVO:DNP Value Objectives)制度」によるチーム目標の設定、組織のエンゲージメントを高める施策、さらには「キャリア自律型」の仕組みであるDNP版「よりジョブ型も意識した処遇と関連施策」などを展開しています。社員は自律的にキャリアを描くなかで自らを磨き、会社は「価値創造に向けた社員のキャリア自律」を支援していくことで、人的資本ポリシーに掲げる「社会(社内・社外)で活躍できる人財」の輩出を目指しています。この実現に向けて、次の「4つの重要課題」を特定し、それぞれに具体策を定め、取り組みを進めています。
<ダイバーシティ宣言>
<健康宣言>
<人材開発・育成の取り組み・制度>
○社員のキャリア自律支援と組織力の強化
「人的資本ポリシー」に基づいて、社員一人ひとりの「自律的なキャリア形成」と「挑戦」を後押しするための施策を導入・展開しています。DNP独自の「価値関連性分析」によって、キャリア自律を支援する各制度とエンゲージメントとの相関性を分析した結果、キャリア支援制度利用者が増加することでエンゲージメントが向上し、生産性の向上につながることが明らかになったことから、自律的キャリア形成を支援する取り組み・制度のさらなる充実を図っています。具体的には、マネジメントまたはスペシャリストのどちらかを自律的に選択する複線型の役割等級制度を基盤として、管理職・専門職向けの職務・職位をより重視した等級格付や、管理職向けの部下からのマネジメントフィードバックなど、メンバーシップ型とジョブ型の双方の処遇のメリットを活かした独自のハイブリッドな「キャリア自律型」の仕組みであるDNP版「よりジョブ型も意識した処遇と関連施策」を展開しています。また、社員本人の主体的・自律的な意志を重視し、「人材公募制度」や、未経験の職種にも安心して挑戦できる「研修付き人材公募」、意思決定のスピードやマネジメント手法等がDNPとは大きく異なるスタートアップ企業に副業や出向ができる「スタートアップ企業派遣制度」を展開するなど、継続的な制度の拡充を行っています。
また、次世代経営リーダーを計画的に育成するために、選抜研修を継続的に実施しています。具体的には、社外の機関も活用した厳格な「エグゼクティブリーダーシップ&マネジメント研修(ELM研修)」を通じて、経営リテラシーの習得、リーダーシップやマネジメントスキルの強化を図っています。併せて、この研修の対象者に、人事ローテーションを活用して複数の部門で経験を積ませることで、より広い視野と高い視座を持つ次世代経営リーダーの計画的な育成を進めています。
■人的資本の強化における価値関連性分析

○社員の幸せ(幸福度)を高める健康経営
「人的資本ポリシー」のもと、「DNPグループ健康宣言」でめざす健康経営として、心身の健康に加えて、一人ひとりの「こころの資本(前向きな心)の醸成」や、組織・チームの「心理的安全性(信頼関係)の構築」に取り組んでいます。具体的には、チーム力の強化とマネジメントの変革を一層進めていくため、DNP独自の価値目標(DVO)制度を展開し、1on1ミーティング、チームミーティングと3点セットで運用することで、一人ひとりの「挑戦」とそれを支える組織の「信頼関係」の向上を図っています。また、価値創出の基盤となる活力ある職場風土づくりと、組織力・チーム力強化のために、DNPグループ全員が共通してめざすべき状態として「DNPウェルビーイング」を定義しています。これは、「心身の健康」と「安全で快適な職場環境」に「幸せ(挑戦心・信頼感)」を加えた3つの要素が満たされた「個人も組織も良好な状態」のことです。こうした定義に基づいた「DNPウェルビーイング表彰」を定期的に実施することで、グループ全体への拡充・浸透を進めています。こうした取り組みに加え、エンゲージメントサーベイによって組織の強みや課題などを可視化することによって、対話を通じた働きがいの向上にもつなげています。2022年度のエンゲージメントサーベイ導入当初から2024年度末までに、総合スコアは4.5%アップし、DNPが最も重視している社員の挑戦心の醸成度と組織の挑戦への支援度を表す「挑戦」指標は13.8%向上するなど、着実に取り組みの成果が表れています。引き続き、2025年度末までの総合スコア10%アップという目標達成に向けて、取り組みをさらに加速させていきます。
○人材ポートフォリオに基づく採用・人材配置・リスキリング
各社員の役割や保有する専門性・マネジメント能力によって、複数のタイプに類型化した人材ポートフォリオを策定しています。事業戦略と人材戦略のより密接な連動に向けて、各事業で真に求められる人材についてタイプごとに過不足を検討し、人材の質的側面を重視した採用・育成・人材配置での活用を推進しています。また、再構築事業から注力事業領域等への人材の再配置・リスキリングや、高度専門人材を高処遇で受け入れるプロフェッショナルスタッフ等の制度を運用するなど、強靭な事業ポートフォリオの構築に取り組んでいます。また、経済産業省が定めたデジタルスキル標準に準拠して、DNPグループとしてのDX(デジタルトランスフォーメーション)人材を定義し、「P&I(Printing & Information:印刷と情報)イノベーション」による価値創造を実現できる人材を育成しています。具体的には、DXリテラシーを持ち、DXを自分のこととして捉えている人材を「DX基礎人材」、各部門のDX推進を支える一層専門的な人材を「DX推進人材」と定義しました。こうした考えのもと、DNPグループ全社員を「DX基礎人材」の対象と位置付け、現時点のスキルレベルを可視化するためのDXリテラシーレベル診断を行っています。この結果を踏まえ、各自のレベルにあったe-ラーニングや、社内研修等のDXリテラシー標準基礎教育によるレベルアップを図っています。2025年度末までに対象社員約27,500名の受講完了をめざすなかで、2024年度末時点で25,473名(約92.6%)が修了しており、順調に進捗しています。
○多様な個を活かすD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)推進
DNPグループは、「人的資本ポリシー」に基づき多様な個を活かすD&Iを推進することで、「人的創造性」が飛躍的に高まると考えています。こうした考えのもと、D&I推進の中期ビジョンとして「“インクルージョンがあたりまえになっている”状態にすること」を掲げ、その実現に注力しています。その一環として、社長・役員をはじめ、DNPグループ社員約30,000人を対象に、自分に向き合う「アンコンシャス・バイアス研修」を実施するなど、各種施策を実行しています。
また、当社が持続的に発展していくためには、意思決定層における多様性を高めていくことが重要であると認識しています。この認識のもと、女性の上級管理職登用に向けて、管理職だけでなく若手・中堅も含めて女性の育成に努め、意思決定層の女性比率を継続的に高めるパイプラインの形成に注力しています。こうした取り組みにより、2024年度末時点で女性管理職比率が10.4%に、また、多様な働き方の実現に取り組むなかで、男性育児休業取得率が96.4%に達するなど、中期的な目標の達成に向けて順調に推移しています。
<ダイバーシティ&インクルージョン>
○グローバル人事労務戦略の推進
上記の4つの重要課題に加えて、「グローバル人事労務戦略」の策定と推進にも取り組んでいます。DNPグループの海外事業の成長を支えるため、新たに設置した専門部署と現地法人との密なコミュニケーションを通じて、「駐在員候補者育成」「マネジメント力のあるグローバル人材育成」「現地人的資本の明確化」「本社機能強化」「国際標準・情報開示対応」「市場競争力・水準の確認」「リスクマネジメント(労働法・税制・健康管理等)」という7つの課題を抽出しました。これらの課題の解決に向けて、「タレントの可視化とマネジメント」「人材マネジメント基盤の整備」「リスクマネジメント力強化・体制の整備」を大きな3つの柱とし、グローバル人事労務戦略を推進しています。
(ⅲ)リスク管理
当社は統合的なリスクマネジメントを推進しており、その取り組みについては「
(ⅳ)指標及び目標
DNPグループの「人的資本の強化」の指標については、関連する各指標のデータ管理とともに具体的な取り組みを推進しています。そのなかで、連結グループに属する各社の取り組み内容が異なっている場合があり、グループ全体での記載が困難な次の指標に関する目標及び実績は、主要な事業を営む提出会社のものを記載しています。
*1 対象:大日本印刷株式会社
*2 対象:大日本印刷株式会社及び国内の主要な連結グループ会社
②知的資本の強化
DNPグループは、グローバルに通用する商材を増やして継続的に成長するために、長年培った「P&I(印刷と情報)」の独自の強みを進化・深耕させるとともに、社外のパートナーとの連携を深めることで知的資本を強化させています。新規事業の創出、新製品・新サービスの開発、生産技術等の開発など、幅広い研究開発を続けており、その活動は事業成長の原動力として機能しています。
研究開発の方針としては、DNP自身が「より良い未来」の姿を描き、それを起点とする「未来シナリオ」の実現に向けて、独自技術を強化し、新製品・新サービスの開発・提供につなげていくことを掲げています。研究開発関連の投資については、毎年300億円を超える規模の投資を継続的に実施しており、事業の成長戦略に応じて適宜増額していきます。
さらに、事業の成長と生産性の革新の両面で「DX」を強力に推進しており、そのための技術や人材の充実を図っています。重要な成長戦略の一つとして、社内のDX人材の育成と必要な外部人材の獲得、パートナー企業との連携等を位置付けており、DXによる価値創出のためのリソースをさらに拡充していきます。
DNPグループは常に変革に挑戦し、「オールDNP」で相乗効果を高めて「より良い未来」を実現するために、事業部門/研究開発部門/知財部門が三位一体となって新しい価値を創出していきます。
(ⅰ)ガバナンス
「知的資本の強化」に向けて、当社は「技術・研究開発」「知的財産獲得」「DX基盤構築」などの具体的な取り組みに対する主管部署を定めて活動しています。また、知的資本における「研究開発投資」や「M&A」などの重要課題については、取締役会において審議・決定しています。なお、取締役会に付議しないテーマの意思決定や業務執行については、取締役会で担当委任された各基本組織の担当取締役または執行役員が適切に実施しています。
(ⅱ)戦略
事業成長の原動力である「知的資本の強化」において、「長年培った『P&I(印刷と情報)』の独自の強みを進化・深耕させるとともに、社外のパートナーとの連携を深めることで知的資本を充実させていく」という考え方のもと、次の「4つの重要課題」を特定し、それぞれに具体策を定め、取り組みを進めています。
(ⅲ)リスク管理
当社は統合的なリスクマネジメントを推進しており、その取り組みについては「
(ⅳ)指標及び目標
当社は知的資本の強化に向けて、次の指標と目標を設定しています。
*1 対象:大日本印刷株式会社及び連結グループ会社
*2 対象:大日本印刷株式会社及び主要な連結グループ会社
③環境への取り組み
DNPグループは、事業活動と地球環境の共生を絶えず考え、行動規範のなかに「環境保全と持続可能な社会の実現」を掲げ、環境問題への対応を重要な経営課題の一つに位置付けています。近年は特に地球環境に対する負荷の低減が強く求められるなか、サプライチェーン全体で環境に配慮した活動を強化・推進しています。2020年3月には「DNPグループ環境ビジョン2050」を策定し、「脱炭素社会」「循環型社会」「自然共生社会」の実現に向けた取り組みを加速させています。
また、事業活動による自然環境への影響を適切に評価し、「環境への取り組み」を拡充して効果を高めるため、TCFD(Taskforce on Climate-related Financial Disclosures)が提言するフレームワークを活用した情報開示に加え、TNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures)の開示提言にも賛同し、情報開示の質と量の充実に努めています。
<環境ビジョン2050>
(ⅰ)ガバナンス
「環境への取り組み」を着実に推進するため、当社は環境マネジメントの主管部署を定めて活動しています。この環境マネジメントの方針・戦略や大型の環境投資などについては、サステナビリティ推進委員会で議論を尽くし、取締役会にて審議・決定しています。なお、取締役会に付議しないテーマの意思決定や業務執行については、取締役会で担当委任された各基本組織の担当取締役または執行役員が適切に実施しています。これらの手続きを経て決定した環境課題に対する戦略・方針等については、事業部門ごとに設けている「各事業部・グループ会社環境委員会」と連携して、DNPグループが一体となって取り組んでいます。

(ⅱ)戦略
当社は「環境への取り組み」を重要な経営課題の一つに位置付けています。事業活動にともなう気候変動リスクの抽出と長期リスクに対する戦略の検討に向けて、TCFDが提言するフレームワークに沿って、「移行」及び「物理的影響」に関するシナリオ分析に基づく定性的・定量的な財務影響と、影響を受ける期間の評価・分析を実施しています。また、自然資本への影響評価や取り組みについて、TNFDの提言に沿った評価・分析を進め、情報開示の質と量の充実に取り組んでいます。
環境課題に対するリスクの抽出及びリスクに対する戦略の検討にあたり、気候変動については、国際的な機関が公表している複数のシナリオを用いて評価を実施しています。また、当社のバリューチェーンにおいて、自然資本への依存と、インパクトが大きい自社事業拠点の製造プロセスのインプット・アウトプットについて分析を進めています。これらの情報を基に設定したシナリオから環境関連のリスクと機会を特定し、定性的・定量的な財務影響と、影響を受ける期間について評価を実施しています。これらのリスクへの対応によって事業活動のレジリエンスを中長期的に高め、機会に転換していく取り組みによって、社会課題の解決に寄与するとともに当社の事業を拡大させていきます。

■DNPグループのバリューチェーンにおける依存とインパクトが大きい自然資本



(ⅲ)リスク管理
当社は統合的なリスクマネジメントを推進しており、その取り組みについては「
(ⅳ)指標及び目標
「DNPグループ環境ビジョン2050」の実現に向けて、中期目標を掲げて具体的な活動を進めています。
*1 対象:大日本印刷株式会社及び連結グループ会社
*2 対象:大日本印刷株式会社及び連結グループ会社の製造拠点
*3 対象:大日本印刷株式会社及び国内の主要な連結グループ会社
*4 自社独自の基準で特定した環境配慮に優れた製品・サービス
*5 GHG排出量削減目標は、パリ協定の努力目標である「1.5℃目標(温度上昇を1.5℃以内に抑える水準の目標)」に準じて「基準年度比で年率4.2%の削減」とする。
④ 人権への取り組み
DNPグループは、「人権の尊重」について、企業が社会の一員として果たすべき責任の一つであると認識しており、「社員」「地域社会」「サプライヤー」「顧客」「株主・投資家」といった多様なステークホルダーとの対話を通して、人権デュー・ディリジェンスの取り組みを強化しています。
(ⅰ)ガバナンス
人権尊重の取り組みの方針や戦略などについては、サステナビリティ推進委員会での議論を経て、取締役会にて審議・決定しています。サプライチェーン全体における人権に関する課題については、取締役会でもその重要性及び取り組みの必要性を審議しており、2022年度からサプライチェーン管理の強化を図っています。2024年度には、サステナビリティ推進委員会で人権デュー・ディリジェンス推進に向けた審議を行いました。なお、取締役会に付議しないテーマの意思決定や業務執行については、取締役会で担当委任された各基本組織の担当取締役または執行役員が適切に実施しています。
(ⅱ)戦略
当社は、全ての社員が取るべき行動を示した「DNPグループ行動規範」のなかに「人類の尊厳と多様性の尊重」を掲げ、あらゆる人が固有に持つ文化、国籍、信条、人種、民族、言語、宗教、性別、年齢や考え方の多様性を尊重することを定めています。2020年には、取締役会の審議を経て、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づく「DNPグループ人権方針」を策定しました。この方針では、「国際人権章典」や「労働における基本的原則及び権利に関するILO宣言」等が定め、国際的に認められた人権をDNPグループが尊重することを表明しています。その他にも、人権尊重に資する「DNPグループ環境方針」や「DNPグループサステナブル調達ガイドライン」(2024年7月改定)を定めて、さまざまな活動を推進しています。
当社は、自社の事業活動が、社員だけでなく、サプライヤーや地域社会をはじめとする、事業活動のサプライチェーン上の全てのステークホルダーの人権に影響を及ぼすことと、それにともなって人権尊重への取り組みが企業に求められていることを深く認識しています。当社は常に、社員の労働安全衛生や職場環境に関するリスク、サプライチェーン上の人権問題等の負の影響を防止・軽減する各種施策を実行しています。近年は特に人権を尊重する企業の取り組みの重要性が高まっており、2024年度からは当社の事業活動に関わる人権リスクの特定・評価を加速させています。具体的には、社外の専門家を起用して、当社の国内外の拠点(一部の子会社等を除く)に人権リスクに関するアンケート及びヒアリングを実施し、潜在的なリスクの分析を行いました。これらの結果と、印刷関連業界特有の人権リスクの特徴を踏まえ、当社として考慮すべき人権リスクの全体像を見極めるとともに、特に重要な人権リスクの特定を進めています。
また、人権デュー・ディリジェンスで求められる救済へのアクセスを確保するために、退職者を含む社員やビジネスパートナーなどのステークホルダーが利用できる通報窓口を設置し、対話の促進に努めています。特に、社員の通報窓口においては、弁護士が相談・通報を受け付ける外部窓口を設置するほか、多言語対応しています。サプライチェーンにおける人権リスクについては、取引規模や事業継続の観点での重要なサプライヤーを対象として、「サステナブル調達ガイドライン」に基づく書面調査やヒアリングを継続的に行い、各社の遵守状況の確認と課題の改善に取り組んでいます。さらに、人権課題の実態を把握するため、サプライヤーの人権マネジメントの方針・体制等の整備状況や、強制労働の懸念、紛争状態にある国・地域との関与についても併せて確認しています。

特に、深刻な人権リスクの懸念があり、当社の事業活動にも欠かせない鉱物資源については、「OECD紛争地域および高リスク地域からの鉱物の責任あるサプライチェーンのためのデュー・ディリジェンス・ガイダンス」に基づいて「DNPの責任ある鉱物調達フレームワーク」を定め、RMI(Responsible Minerals Initiative)のRMAP(Responsible Minerals Assurance Process)を用いて責任ある鉱物調達に取り組んでいます。
(ⅲ)リスク管理
当社は統合的なリスクマネジメントを推進しており、その取り組みについては「
(ⅳ)指標及び目標
人権尊重の取り組みをさらに強化するため、サプライチェーン全体の重要な人権リスクについて、2024年度には、人権デュー・ディリジェンスの負の影響の特定・評価のプロセスを通じて明らかにするよう取り組んできました。2025年度は、これらの人権課題を踏まえて、サプライチェーン管理及び当社の人事労務施策などについて具体的な指標と目標を策定し、人権デュー・ディリジェンスの実効性を高めていきます。
DNPグループは、地球環境の持続可能性を高め、健全な社会と経済、快適で心豊かな人々の暮らしを実現していく新しい価値の創出に努めており、それによって当社自身の持続的な成長を達成していきます。社会環境の急変など、経営に影響を与える変動要因がますます多様かつ広範囲になるなか、全社のリスクを適切に評価・分析して中長期的な経営戦略に反映し、事業機会へと変換するプロセスを強化することが、よりサステナブルな社会への貢献と、当社が標榜する「未来のあたりまえ」につながると考えています。こうした考えに基づき、中長期的なリスクの管理と事業機会の把握、経営戦略への反映を担う「サステナビリティ推進委員会」を代表取締役社長が委員長に就いて運営しています。また、自然災害をはじめとする有事の際も社員の安全を確保して生産活動を維持し、企業継続を担保する「BCM推進委員会」、企業継続の基本となる社員のコンプライアンス意識の向上を図り、リスクの低減を図る「企業倫理行動委員会」を合わせた3つの委員会が互いに連携し、全社的リスクを網羅する体制を構築して、統合的なリスクマネジメントを推進しています。
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりです。なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在においてDNPグループが判断したものです。
(1)人権に関するリスク
人権に関する課題に対しては常に、自社だけでなくサプライチェーン全体を通じて、企業が責任を果たすことが求められています。強制労働や児童労働、低賃金や未払い、長時間労働、安全や衛生が不十分な労働環境、ハラスメント等の社会課題の解決に向けて、デュー・ディリジェンスによるサプライチェーンの可視化や、人権侵害が懸念される国・地域からの輸入禁止など、法規制も含めて人権の尊重を担保する動きが加速しています。また、AIの活用範囲の拡大など、技術革新による新たな人権問題も生じています。これらの社会課題を解決していくため、国際的な基準や規制の整備も進むなか、企業に対しても適切な取り組みが求められています。こうした対応を行わない企業は、社会的信頼を失うだけでなく、法的なリスクのマイナスの影響や経済的損失を被る可能性があります。これら企業を取り巻く状況の変化は、当社グループの事業環境にも大きな影響があると認識しています。
これらの人権に関するリスクの事業への影響に対して、当社は「DNPグループ人権方針」に基づいて、多様な活動を行っています。また、当社の事業活動が、自社の社員だけでなく、サプライヤーや地域社会を含むサプライチェーン上の全てのステークホルダーの人権に影響を及ぼすことを認識しています。それらに対する負の影響を防止・軽減するため、人権デュー・ディリジェンスの実施や各ステークホルダーが利用できる通報窓口の実効性の強化、ステークホルダーとの対話などをそれぞれの責任部署を定めて強化・推進しています。
<人権の取り組み>
https://www.dnp.co.jp/sustainability/report/pdf/DNP_sustainabilitywebarchive2024.pdf#page=36
(2)労働安全に関するリスク
近年ますます多様化する働き方や労働環境の変化により、社員の健康と安全を確保する企業の責任が一層重要となっています。特に、労働災害やメンタルヘルスの問題に対する社会的関心が高まっており、企業にはその具体策を講じることが求められています。また、各国・地域で労働安全に関する法律や規制が強化され、違反が発覚した場合には企業の信用失墜や経済的損失につながる可能性があります。これらの環境変化は、当社グループの事業運営にも深刻な影響を及ぼす可能性があると認識しています。
こうした状況に対して当社は常に、社員が業務を通して負傷することなどはあってはならないとの認識のもと、人権上の重要課題である労働安全の確保のために、労使一体でグループ全体の安全衛生のレベル向上に努めています。さらに、人的資本ポリシーに基づいて定めた「DNPグループ安全衛生憲章」及び「DNPグループ健康宣言」のもと、代表取締役社長をトップとして安全衛生活動を推進しています。労働災害の防止に向けては、国の示す労働災害防止計画や社内の労働災害発生の動向を踏まえて、3年ごとに基本計画を見直し、具体的な活動を強化・推進しています。製造部門の全拠点においては、「真に健康と安全を全てに優先させる風土」の実現に向けて、「月1時間の対話・教育(ツキイチキョーイク)活動」を継続的に実施しています。特に重篤な災害につながる設備の対策については、既存・新規を問わず全ての設備について、リスク部位を抽出して“見える化”を行っています。そのなかでも特に重篤度の高い部位から優先して、全ての職場において、当社が独自に策定した設備安全規格に準じた安全対策を展開することで、「不安全な状態」や「不安全な行動」の見直しと改善を実践し、リスクアセスメント活動とそれに基づく対策に重点的に取り組んでいます。
<労働安全の取り組み>
https://www.dnp.co.jp/sustainability/report/pdf/DNP_sustainabilitywebarchive2024.pdf#page=57
(3)製品・サービスの安全と品質に関するリスク
製品・サービスの安全と品質は、企業の社会的信頼の基盤を形成する重要な要素です。顧客企業や生活者は、企業が提供する製品やサービスに対して高い安全性や正確性を求めており、これに応えることは企業の責務です。近年はこうした企業責任に対する社会からの要請が一層高まっており、世界の各国・地域で新たな規制や品質基準の検討・制定が進行しています。このような環境変化は、当社グループの事業活動に対して深刻な影響を及ぼす可能性があります。特に、製品の不具合や品質問題が発生した場合、企業のブランドイメージや顧客からの信頼に対するダメージは非常に大きく、法的な責任や経済的損失を引き起こす可能性があります。したがって、製品安全・品質に関するリスクを適切に管理し、継続的な改善を図ることが不可欠です。
当社は「品質経営」の基本方針として、自社の製品・サービスに関して、必要な規格や法の規制に適合させることはもちろん、顧客企業や生活者のニーズと期待を上回る安全性と品質を提供し、企業としての社会的責任を果たすことを定めています。その実現に向けて当社は、製品・サービスの安全性と品質の確保のために実施すべき事項を全社ルールとして定めるとともに、品質マネジメントシステムと製品安全管理の体制を構築・運用しています。また、当社が提供する全ての製品・サービスに対し、設計段階からリスクの抽出・評価を行い、検出したリスクの負の影響の低減を図り、安全性と品質の両面から、顧客企業や生活者等が安心できる品質・価値の継続的な提供に努めています。
また、品質マネジメントシステムの運用状況の確認や品質不正の防止の観点から、本社の品質保証統括部門による「品質システム検査」を年1回実施しています。この点検の結果は「DNPグループ品質保証・製品安全委員会」及び「企業倫理行動委員会」に報告し、指示に基づく改善を進めています。
<製品・サービスの安全と品質の取り組み>
https://www.dnp.co.jp/sustainability/report/pdf/DNP_sustainabilitywebarchive2024.pdf#page=76
(4)情報セキュリティに関するリスク
社会の急速なデジタル化にともない、世界規模な情報ネットワークでのデータ連携が活発化する一方で、サイバー攻撃や情報漏えいなどのリスクが一層高まっています。近年は特に、個人情報の保護が重要視されるなか、各国・地域で規制の強化などが進められています。これらの環境変化は、当社グループの事業運営に対して深刻な影響を及ぼす可能性があると認識しています。仮に情報漏えいが発生した場合、顧客企業や生活者の信頼を失うだけでなく、法的責任や経済的損失を招く恐れがあり、その影響はサプライチェーン全体に派生する可能性があります。そのため情報セキュリティに関するリスクを適切に管理し、常に最新の対策を講じることが不可欠です。
当社は国内外の環境変化を先取りして、いち早く対応し、一層の情報セキュリティ施策の強化に努めています。具体的には、全社の統括組織として、本社に情報セキュリティ委員会と情報セキュリティ本部を設置し、事業部・グループ会社への検査・指導を実施しています。また、サイバーセキュリティの対応組織としてDNPシーサート(DNP Computer Security Incident Response Team)を本社に設置し、不測事態(インシデント)発生時の事業継続性を維持・強化しています。当社はこうしたマネジメント推進体制のもと、「組織的対策」「人的対策」「物理的・技術的対策」を柱として、情報セキュリティ関連の施策を進めています。
<情報セキュリティの取り組み>
https://www.dnp.co.jp/sustainability/report/pdf/DNP_sustainabilitywebarchive2024.pdf#page=107
(5)法令・社内規定の遵守に関するリスク
近年は特に、企業の社会的責任や倫理的な行動を重視する傾向が強まっており、法令や社内規定を遵守することは、企業の信頼性を維持・向上させるためにますます不可欠となっています。仮にコンプライアンス違反が発生・発覚した場合、企業のブランドイメージや顧客の信頼を損なうだけでなく、法的な責任や経済的損失を引き起こすリスクがあります。これらのリスクは、当社グループの事業運営にも深刻な影響を及ぼす可能性があると認識しています。当社は、あらゆるステークホルダーから信頼される企業であり続けるために、事業活動を遂行するにあたり、社員一人ひとりが単に法令を遵守するだけでなく、高い倫理観を持つ必要があると考えています。それによって、常に公正・公平な態度で秩序ある自由な競争市場の維持・発展に寄与することで初めて、社会や人々からの信頼を得ることができると認識し、グループ全体での企業倫理の浸透・定着を図っています。
具体的な取り組みの一つとして、当社は社員に対する研修・教育を徹底し、統合的なコーポレート・ガバナンスの充実に努めています。また、企業活動において全ての社員が取るべき行動を「DNPグループ行動規範」として制定し、そのなかで「法令と社会倫理の遵守」などの10の項目を定めています。この規範の各項目については、社会環境などの変化に合わせて定期的に見直しを行い、「階層別研修」や国内外の全グループ社員を対象とした「自律的企業倫理研修」を通じて、教育・浸透を図っています。また、社員が万が一不正行為等に遭遇した際、上長や周囲の社員に適時・適切に相談するとともに、自部門だけでは解決できない場合の相談・通報の窓口として、2002年に「オープンドア・ルーム」を設けました。加えて、2015年には弁護士が相談・通報を受け付ける「オープンドア・ルーム」の外部窓口を、2020年には多言語に対応した「グローバル内部通報窓口」を整備し、組織の自浄能力をDNPグループ全体でさらに適正に機能させるよう努めています。
<公正な事業慣行の取り組み>
https://www.dnp.co.jp/sustainability/report/pdf/DNP_sustainabilitywebarchive2024.pdf#page=99
(6)サプライチェーンに関するリスク
近年、グローバル・サプライチェーンの拡大にともない、人権・労働、汚職・腐敗等の社会課題や、気候変動をはじめとした環境問題など、企業活動が社会と環境に及ぼす影響は一層大きなものになっています。そのなかで、原材料の調達から生産・利用・廃棄・リサイクルまでのサプライチェーン全体を見据え、起こりうるリスクを把握・分析して、適切に課題を解決するマネジメントの強化がさらに重要となっています。加えて、グローバルに広がるサプライチェーン全体のリスクを的確に捉え、多様な課題を解決して持続可能な社会に貢献するため、国内外のサプライヤーや業務委託先(以下「ビジネスパートナー」)とともに「責任ある調達」に取り組むことがますます重要になっていると、当社は認識しています。
当社は、「DNPグループ サステナブル調達ガイドライン」に則した取り組みを条項の一つとして定めた「取引基本契約書」をビジネスパートナー各社と締結しています。特に重要度が高い個別のテーマについては、「DNPグループ印刷・加工用紙調達ガイドライン」や「DNPグループ化学物質に関するグリーン購入ガイドライン」などを制定し、ビジネスパートナー各社の指導に努めています。また、ビジネスパートナーに対する定期的な「サステナブル調達ガイドライン」遵守状況の調査とその結果のフィードバック、各種説明会を通じたサプライチェーンマネジメントの強化なども継続的に行っています。また、毎年、年間購入額の上位9割程度を占めるサプライヤーや事業継続上重要なサプライヤーに対し、「サステナブル調達ガイドライン」に基づく調査及びリスクアセスメントを実施しています。リスクが認められる一部のサプライヤーに対しては、改善計画の提出を求め、書類指導や個別面談を行い、課題や改善策を確認して次年度の活動に反映するといった継続的なマネジメントを行っています。
<責任ある調達の取り組み>
https://www.dnp.co.jp/sustainability/report/pdf/DNP_sustainabilitywebarchive2024.pdf#page=68
(7)自然災害等に関するリスク
気候変動による豪雨や洪水等の水リスクや、大規模地震発生の可能性の高まり、新たな感染症の発生なども含む自然災害等によるリスクは増大しています。仮に甚大な規模の自然災害等の緊急事態が発生して、社員や家族の安全が脅かされ、建物・設備・インフラや取引先・サプライヤー各社の被害によって事業活動が中断することは、自社だけではなく、顧客企業や取引先で働く人たちをはじめ、さまざまなステークホルダーに影響を及ぼすことになります。
DNPグループはこれらのリスクの負の影響を低減するため、対策推進組織として本社にBCM推進委員会を設置するとともに、各事業部に事業部グループBCM推進委員会を設置しています。この体制を活かし、「災害発生時の人的安全対策を最優先すること」「会社の災害に対する対応力と復旧力を高めること」を基本として、日頃から災害リスクを正しく認識し、適切な予防対策などを推進しています。具体的には、製造設備やその他の主要施設に防火・耐震・水害対策等を施すとともに、製造拠点や原材料調達先の分散を図り、生産活動の停止や製品供給の混乱を最小化する事業継続計画(BCP)を策定し、その適切なマネジメント(BCM)を推進しています。各種保険によるリスク移転も図っており、事業の存続を脅かすような緊急事態が発生した場合でも、事業活動が早急に復旧できる強い企業体質の構築に努めています。
体制としては、当社グループ全体の基本的な防災対策を整備・推進する「中央防災会議」、各事業の特性に合った具体的な防災対策を推進する「事業部・グループ会社防災会議」、地区・エリアでの連携を深めて防災対策を推進する「地区防災会議」を設置し、防災計画の作成や予防対策の推進を行っています。災害等の不測の事態に対しては、「DNPグループ災害基本規程」として基本方針や推進体制を定め、社員と家族、関係者の安全を確保し、多様なステークホルダーに安心していただけるようにさまざまな防災対策を進めています。
(8)中長期的に特に対応が必要なリスク
① 環境関連のリスク・機会となる変動要因
‐ 気候変動による自然災害の頻発・激甚化、渇水や洪水等の水リスクの高まり
‐ プラスチック汚染や生物多様性の損失の加速
‐ ネイチャーポジティブ・カーボンニュートラル・循環経済への移行の加速、規制の強化
‐ 環境ポジティブな市場拡大、技術革新の加速 など
地球環境の持続可能性を高めていくことは、企業活動や社会全体において、ますます重要なテーマとなっています。気候変動による自然災害の頻発や激甚化は、企業の運営に直接的な影響を及ぼし、特に渇水や洪水といった水リスクの高まりは、サプライチェーンや生産工程に深刻な影響を及ぼす可能性があります。さらに、プラスチック汚染や生物多様性の損失が加速しており、これらの問題は企業の社会的責任も強く問うものとなっています。
グローバルな市場においては、ネイチャーポジティブやカーボンニュートラル、循環経済への移行が強く求められるようになっており、それにともなう規制の強化が進んでいます。これらの変化に適応できない企業は、競争力を失うだけでなく、法的リスクや経済的損失を被る可能性もあるため、環境ポジティブな製品・サービスの市場拡大に対応した技術革新を加速させることが強く求められています。
こうした状況に対してDNPグループは、事業活動と地球環境の共生を絶えず考え、「DNPグループ環境ビジョン2050」を掲げて「脱炭素社会」「循環型社会」「自然共生社会」の実現に向けた取り組みを加速させています。このビジョンを実現していくため、2030年をターゲットとした中期目標を設定し、環境負荷の低減・削減を計画的に進めています。一方で、GHG排出量削減のさらなる強化、脱石化製品への移行の加速と代替素材への切り替え要請の高まりなどによって、当社の目標の一層の引き上げや、製品・サービスの仕様の見直しなどが必要となる場合があり、その際は事業に大きな影響が及ぶ可能性があります。
また、当社の事業は、印刷用の基材である紙やプラスチックフィルム、鉱物資源等の原材料、製造工程で使用する水やエネルギー等の資源、事業所における土地利用など、さまざまな形で自然の恩恵を受けています。さらに、グローバルなサプライチェーンの構築にも関わり、原材料の原産地やビジネスパートナーがいる地域社会とも密接に関係しながら、事業活動を展開しています。
現在はさらに、気候変動への対応や生物多様性の保全に関する法規制や要請が、各国・地域で厳格化する傾向にあります。当社は、こうした変化を先取りし、迅速かつ柔軟に対応していくことに加え、自ら主体的に「より良い未来」の実現に向けた変革を起こすことによって、価値創造と基盤強化の両輪で環境課題の解決に取り組んでいます。
具体的な当社の活動については、「2.サステナビリティに関する考え方及び取組」及び当社Webサイトにて紹介しています。
<環境関連の取り組み>
https://www.dnp.co.jp/sustainability/report/pdf/DNP_sustainabilitywebarchive2024.pdf#page=14
② 社会関連のリスク・機会となる変動要因
・人的資本関連
‐ グローバルビジネスの進展(グローバルでの人口増加)
‐ 国内生産年齢人口の減少・少子高齢化・労働力不足
‐ 人々の尊厳(人権・労働環境)に関する意識の変化
‐ 経済的な不均衡
・サプライチェーン関連
‐ 地政学的リスク・カントリーリスクの拡大
‐ 文化や制度・ルールの違いによるリスクの顕在化
‐ 企業の社会的責任・倫理的行動の重要性の高まり など
社会関連の中長期的なリスクは、企業の持続可能性にとって、ますます重要な要素となっています。
「人的資本」の観点では、世界人口の増加と国内の少子高齢化が進むなかで、国内の労働力不足や、グローバルでの雇用の流動化が加速しています。これによって企業は、高い専門性を持つ人材の確保・育成が一層困難になり、競争優位性を維持・強化するための組織体制構築の課題がさらに顕在化する可能性があります。また、心身の健康や安全衛生など、あらゆる人が心地よく生きるための条件や環境も国内外で変化しており、企業はこれらに対応した職場環境の整備も求められています。加えて、人口動態の変化などによる地域間の格差や、世帯間での教育格差なども拡大しており、社会的な分断が一層深まることも懸念されています。
「サプライチェーン」に関しては、各国・地域の法制度や政治制度等の変化、地政学的リスクやカントリーリスクの拡大が加速しています。これらによって企業は、国際的な取引や原材料調達において、新しい急激なリスクに直面する可能性が高まっています。特に、労働環境の適正化や人権への配慮が強く求められるなかで、当社及びビジネスパートナーが活動する国・地域の法制度やルールを遵守するだけでなく、現地の文化にも寄り添って事業を展開することがますます重要になると認識しています。
こうした状況に対して当社は、“人に対するDNPグループの普遍的・基本的な考え方”を「人的資本ポリシー」として制定し、人的資本の強化・最大化を加速させるため、社員の心理的安全性が高く、健康で活力ある職場の実現に注力しています。具体的には、注力事業領域等の強靭な事業ポートフォリオの構築に向けた採用・人材配置・リスキリングや、多様な強みを掛け合わせる「ダイバーシティ&インクルージョン」の取り組みを推進し、社員一人ひとりの状況に配慮した働き方を実現しています。これらの取り組みを通じて当社は、社会関連の中長期的なリスクに適切に対処し、持続可能な成長につなげています。企業としての社会的責任を果たしながら、変化する社会環境に柔軟に対応することに加え、DNP自らが変革を起こしていくことが、今後の発展にとって不可欠であると考えています。
当社のサプライチェーンについては、グローバルに拡大しているため、原材料の調達から生産・利用・廃棄・リサイクルまでのサプライチェーン全体を見据え、起こりうるリスクを把握・分析して、適切に解決していくマネジメントの強化がますます重要になっていると認識しています。当社は、グローバルに広がるサプライチェーン全体のリスクを的確に捉え、多様な課題を解決して持続可能な社会に貢献するため、DNPグループとサプライヤーや業務委託先の各社が取り組むべき事項として、「サステナブル調達ガイドライン」を定めています。特に、調達段階において重要度が高いテーマについては、「印刷・加工用紙調達ガイドライン」や「化学物質に関するグリーン購入ガイドライン」など、自社とサプライヤーが取り組むべき事項を個別に制定し、周知・徹底を図っています。また、定期的な「サステナブル調達ガイドライン」遵守状況の調査とその結果のフィードバック、各種説明会を通じたサプライチェーンマネジメントの強化も継続的に行っています。グループ内では、例えば購買業務のスタッフに対して、調達に関する基本的な知識やマネジメント手法の習得を目的とした専門資格取得のフォロー研修を実施するなど、社員の理解と適切な行動を促進しています。
具体的な当社の活動については、「2.サステナビリティに関する考え方及び取組」及び当社Webサイトにて紹介しています。
<社会関連の取り組み>
https://www.dnp.co.jp/sustainability/report/pdf/DNP_sustainabilitywebarchive2024.pdf#page=34
③ 経済関連のリスク・機会となる変動要因
・経済活動関連
‐ 市場・サプライチェーンのグローバル化
‐ 地政学的要因によるバランス変化やサプライチェーンの分断化
‐ 経済指標の急激な変動
‐ 各種規制の強化
・技術的動向関連
‐ DXの推進・AI利用の拡大
‐ デジタル技術の革新による生活・ワークスタイルの変化、グローバルネットワーク等の加速
‐ 情報・サイバーセキュリティの脅威、規制の強化
‐ 情報格差の拡大やプライバシー侵害 など
経済関連の中長期的なリスクは、企業の持続的な成長に直結する重要な要素であり、特にグローバル市場における経済活動や技術動向の変動が大きな影響を及ぼします。DXの推進やAIの利用拡大、デジタル技術の革新は、ビジネスモデルやワークスタイルを大きく変革させるとともに、企業の生産性や業務効率の向上、取引先等のビジネスパートナーとの接点の強化などにつながります。一方で、情報セキュリティやサイバーセキュリティへの脅威も増大しており、各国・地域での規制強化が進むなか、企業はこれらの変化を適切に把握し、迅速に対処するための体制を整える必要があります。
また、地政学的要因による世界経済のバランス変化や分断化のリスクも高まっています。各国・地域の政策の変化や法令・規制等の強化、各種経済指標の急激な変動、エネルギーや資源の供給不足・価格高騰などは、企業の経営戦略に影響を与え、事業運営の不確実性を増加させています。
こうした状況に対して当社は、特定の業種・業態に偏らない数万社の企業や、自治体・各種団体、生活者と多様な事業活動を行うことで、強靭で安定的な事業基盤を強みとして構築しています。グループ全体の「オールDNP」の相乗効果を強みとし、社外のパートナーとの連携も深化・強化させて、「成長牽引事業」と「新規事業」の「注力事業領域」と、安定的に長期間キャッシュを生み出す「基盤事業」、新たな市場開拓と構造改革をともに進める「再構築事業」の4つの事業で価値創出を加速させることで、事業環境の変化に対しても揺らぐことのない強い事業ポートフォリオの構築に努めています。
また、デジタル技術の進展、AIの利用拡大にともない、リアルとデジタルをつなぐ価値の創出や、事業化のスピードアップに取り組んでいます。AIを取り巻くリスクに対しても、「DNPグループAI倫理方針」を策定するなど、AIの適切かつ効果的な利活用を推進しています。このような情報システムの技術革新や利活用が進むなかで、日々巧妙化するサイバー攻撃に対しては、情報セキュリティを経営の最重要課題の一つとして捉え、体制の強化や社員教育、セキュリティ人材の採用強化などに取り組み、システムとデータの持続的な運用・保守・管理を実現するために万全を期しています。これらの情報セキュリティに対する取り組みは、当社の社会的信用を高めるだけでなく、当社が保有する知的財産やノウハウの適切な保護と活用に対しても重要な役割を果たしており、他にはない競争力の維持・向上にも寄与しています。
原材料の調達における経済的な変動要素に対しては、国内外の複数のメーカーから印刷用紙やフィルム材料等を購入するなど、安定的な数量の確保と最適な調達価格の維持に努めています。しかし、地政学的リスクの高まり、石油価格や為替の変動、新興国での急激な需要の増加、天然資源の枯渇、気候変動の影響などによって需給バランスが大きく崩れる懸念があります。為替相場のリスクに対して当社は、現地生産化や為替予約などによってリスクをヘッジしていますが、これらの状況が急激に変動する場合には、業績に影響を与える可能性があります。
当社は、これらの経済関連の中長期的なリスクに対して、戦略的な事業展開とリスクマネジメントを通じて、持続可能な成長に努めています。引き続きDNPグループは、未来の不確実性に立ち向かい、市場環境の変化に柔軟に対応するだけでなく、DNP自身による技術革新の挑戦を続けて、企業価値の向上に努めるとともに、持続可能な社会の実現に貢献していきます。
具体的な当社の各活動については、Webサイトにて紹介しています。
<部門別事業戦略>
https://www.dnp.co.jp/ir/library/annual/pdf/DNP_integrated2024j.pdf#page=17
<知的資本の強化>
https://www.dnp.co.jp/ir/library/annual/pdf/DNP_integrated2024j.pdf#page=30
<情報セキュリティ>
https://www.dnp.co.jp/sustainability/report/pdf/DNP_sustainabilitywebarchive2024.pdf#page=107
<責任ある調達>
https://www.dnp.co.jp/sustainability/report/pdf/DNP_sustainabilitywebarchive2024.pdf#page=68
当連結会計年度におけるDNPグループの状況の概要は次のとおりであります。
当連結会計年度におけるDNPグループを取り巻く状況は、国内の雇用・所得環境の改善による個人消費の持ち直しやインバウンド需要の拡大等により、景気に緩やかな回復が見られました。一方で、株価・為替の急激な変動、地政学リスクの長期化、原材料や燃料等のコストの高止まり、米国をはじめとする各国・地域の政策動向、国内の物価上昇など、景気の先行きは依然として不透明な状況にあります。また、地球環境や人権問題等への対応、AI(人工知能)やXR(Extended Reality)等の先進技術などによって、ビジネスはより複雑かつ多様になり、競争も激化しています。
DNPグループは、環境・社会・経済の急激な変化やリスクに対応するだけでなく、自らが長期を見据えて変革を起こし、「より良い未来」をつくり出す事業活動を展開しており、独自の「P&I」(印刷と情報)の強みを掛け合わせ、多様なパートナーとの連携を深めて、事業領域の拡張と業績の向上に努めています。
当期は2023-2025年度の3か年の「中期経営計画」の2年目として、「事業戦略」「財務戦略」「非財務戦略」に基づく具体的な取り組みを通じて、持続的な事業価値・株主価値の創出に注力しました。
事業戦略では、中長期にわたって強みを発揮できる事業ポートフォリオの構築を進めるとともに、注力事業領域を中心に新しい価値の創出を加速させています。財務戦略では、創出したキャッシュを事業のさらなる成長のための投資と株主還元に適切に配分していきます。非財務戦略では、「人的資本の強化」「知的資本の強化」「環境への取り組み」を中心に推進し、サステナブルな成長を支える経営基盤の強化を図っています。三つの戦略のより詳細な内容は、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (2)中長期的な会社の経営戦略 <三つの戦略>」に記載しています。
また、常に経営環境の変化を見極めながら、グループを挙げて事業継続マネジメント(BCM)の徹底を図り、企業活動の持続的な推進に努めています。
これらの結果、当連結会計年度のDNPグループの売上高は1兆4,576億円(前期比2.3%増)、営業利益は936億円(前期比24.1%増)、経常利益は1,159億円(前期比17.4%増)、親会社株主に帰属する当期純利益は1,106億円(前期比0.2%減)となりました。また、DNPグループが収益性指標の一つとしている自己資本利益率(ROE)は9.6%となりました。
セグメントごとの経営成績は、次のとおりであります。
イメージングコミュニケーション関連は、写真プリント用の昇華型熱転写記録材が欧米市場で好調に推移しました。また、国内の証明写真サービスや欧米での撮影サービスの増加もあり、前年を上回りました。
情報セキュア関連は、1つのICチップで接触型と非接触型の規格に対応可能なデュアルインターフェイスカード等のICカードが堅調に推移したものの、BPO(Business Process Outsourcing)の大型案件が減少し、前年を下回りました。
マーケティング関連は、長年培ったマーケティング施策の実績や知見とデジタルの強みを掛け合わせた価値の提供に努めましたが、紙媒体の市場縮小の影響もあり、前年を下回りました。
出版関連は、図書館運営業務が受託館数の増加により堅調に推移したものの、雑誌等の市場縮小の影響などにより、前年を下回りました。なお、出版印刷事業は、意思決定の迅速化及び部門間の連携強化とともに、市場環境の変化の先取りをしていくため、2025年4月に組織再編を行い、製造・販売一体の事業推進体制に移行しました。
コンテンツ・XRコミュニケーション関連のうち、コンテンツ関連は、国内外で人気の知的財産(IP:Intellectual Property)を活用した大型企画展の主催をはじめ、イベント・物販ビジネスや、日本のIPの海外展開など、新たな価値の創出に努めました。XRコミュニケーション関連は、専門の強みを持つ社外のパートナーとの連携などに力を入れています。こうした取り組みやDNPの先進技術などが高く評価され、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)における「日本政府館」のバーチャルパビリオンの企画制作に採択されました。今後も多様なパートナーとの共創を拡げ、仮想空間(メタバース)の活用を通じて、不登校の子どもの教育機会や居場所の創出など、社会課題の解決や体験価値の提供に向けてさらに事業を強化・拡大していきます。
その結果、部門全体の売上高は7,155億円(前期比0.5%減)となりました。営業利益は、紙媒体等の市場縮小による減収の影響を受けたものの、為替のプラス効果、人的資本や固定資産の適正化などの事業構造改革により、346億円(前期比32.5%増)となりました。
モビリティ・産業用高機能材関連は、リチウムイオン電池用バッテリーパウチが、スマートフォンやタブレット端末等の新機種用を中心にIT向けの需要が伸長しました。一方、車載向けは、2024年10月以降に需要の回復が見られたものの、年間を通じて電気自動車(EV)市場の需要停滞の影響が大きく、前年を下回りました。太陽電池関連は、世界的な需要の高まりにより、封止材を中心に好調に推移しました。自動車用部材の加飾フィルムは、内装用製品の販売が好調に推移しました。M&Aも積極的に行っており、2025年1月に、多様な成形品製造技術を駆使して、独自の自動車部品や産業機器向けの加飾部品等の事業を手掛ける株式会社光金属工業所の完全親会社であるHKホールディング株式会社の全株式を取得しました。2025年2月には、二次電池外装材・包装材などを手掛ける株式会社レゾナック・パッケージング(株式会社DNP高機能マテリアル彦根に社名変更)の全株式を取得しました。各社とDNPグループが培ってきた経営資源や技術・ノウハウなどの強みを掛け合わせることで、顧客への対応力をさらに強化し、競争力を向上させていきます。
包装関連は、原材料の値上げの影響を受けたものの、価格転嫁が進展したことに加え、スナックや日用品向け包材、ペットボトル用無菌充填システムなどが増加しました。また、「DNP環境配慮パッケージング GREEN PACKAGING®」や各種機能性包材の開発・販売にも注力し、前年を上回りました。
メディカル・ヘルスケア関連は、医療用パッケージの開発・販売に注力しました。また、メディカル・ヘルスケア業界向けの物流拠点として、2025年4月に、東京都に「小豆沢(あずさわ)センター」を開設しました。各企業が個別に行っている医薬品・医療機器の保管からセット作業、配送までをBPOとして請け負うことにより、低コストで物流の効率化を実現いたします。また、この施設は、商業印刷関連の製造拠点をメディカル物流向けに転用したもので、投資の効率化を実現するとともに、事業ポートフォリオの変革につながっています。
生活空間関連は、高い耐久性とデザイン性を両立させた外装材「アートテック®」が国内外で好調に推移したものの、国内の新設住宅着工戸数(持家)の減少などによって住宅向け内装材が減少し、前年を下回りました。
飲料事業は、北海道外のボトラーへの販売が減少したものの、主要な販売チャネルでの価格改定の効果や、自動販売機・コンビニエンスストア・Webサイトでの販売が好調に推移し、前年を上回りました。
その結果、部門全体の売上高は4,960億円(前期比5.0%増)となりました。営業利益は、包装関連事業の売上増加に加え、固定費の圧縮等のコストダウン、為替のプラス効果なども寄与し、237億円(前期比78.2%増)となりました。
デジタルインターフェース関連は、有機ELディスプレイ製造用メタルマスクが前期の旺盛な開発需要からの反動で減少したものの、光学フィルムが液晶テレビ用パネルの大型化にともなう出荷面積の拡大等で堅調に推移し、前年を上回りました。なお、当期は、福岡県北九州市の黒崎工場内に新設したメタルマスクの生産ラインが稼働を開始しており、タブレット端末やノートPC、車載デバイスでの有機ELディスプレイの採用拡大の状況を先取りしていきます。
半導体関連は、市場の回復によって半導体製造用フォトマスクが堅調に推移し、前年を上回りました。
その結果、部門全体の売上高は2,477億円(前期比5.3%増)となりました。営業利益は、デジタルインターフェース関連を中心に注力事業の売上が増加しましたが、メタルマスクの生産ライン増設による設備費増加の影響を受け、573億円(前期比1.4%減)となりました。
当連結会計年度末の資産、負債、純資産については、総資産は、現金及び預金の増加や、退職給付に係る資産、有形固定資産の減少などにより、前連結会計年度末に比べ377億円減少し、1兆9,178億円となりました。
負債は、未払法人税等の増加や、支払手形及び買掛金、繰延税金負債の減少などにより、前連結会計年度末に比べ98億円減少し、7,090億円となりました。
純資産は、当期純利益による増加や、剰余金の配当、自己株式の取得、その他有価証券評価差額金、退職給付に係る調整累計額の減少などにより、前連結会計年度末に比べ279億円減少し、1兆2,087億円となりました。
当連結会計年度末の現金及び現金同等物は、前連結会計年度末に比べ160億円増加し、2,506億円となりました。
営業活動によるキャッシュ・フローは、税金等調整前当期純利益1,686億円、減価償却費537億円などにより1,327億円の収入(前連結会計年度は725億円の収入)となりました。
投資活動によるキャッシュ・フローは、有形固定資産の取得による支出570億円、投資有価証券の取得による支出878億円、投資有価証券の売却による収入1,193億円などにより367億円の支出(前連結会計年度は183億円の収入)となりました。
財務活動によるキャッシュ・フローは、自己株式の取得による支出648億円、配当金の支払額150億円などにより874億円の支出(前連結会計年度は1,186億円の支出)となりました。
当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
(注)金額は販売価格によっており、セグメント間取引については相殺消去しております。
当連結会計年度における受注状況をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
(注)金額は販売価格によっており、セグメント間取引については相殺消去しております。
当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
(注)セグメント間取引については相殺消去しております。
経営者の視点によるDNPグループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。
DNPグループの当連結会計年度の経営成績等は、売上高は、前連結会計年度(以下「前期」)に比べて327億円増加し、1兆4,576億円(前期比2.3%増)となりました。
売上原価は、前期に比べて82億円増加して1兆1,193億円(前期比0.7%増)となり、売上高に対する比率は前期の78.0%から76.8%となりました。販売費及び一般管理費は、前期に比べて64億円増加して2,446億円(前期比2.7%増)となり、この結果、営業利益は前期に比べて181億円増加して936億円(前期比24.1%増)となりました。
営業外収益は、持分法による投資利益の減少等により前期に比べて20億円減少して263億円(前期比7.3%減)となり、営業外費用は、前期に比べて11億円減少して40億円(前期比22.0%減)となりました。この結果、経常利益は前期に比べて172億円増加して1,159億円(前期比17.4%増)となりました。
特別利益は、投資有価証券売却益の増加等により、前期に比べて445億円増加して1,304億円(前期比51.8%増)となり、特別損失は、減損損失の増加等により前期に比べて360億円増加して776億円(前期比86.8%増)となりました。
この結果、親会社株主に帰属する当期純利益は1,106億円(前期比0.2%減)となりました。
DNPグループの経営成績に重要な影響を与えた要因は以下のとおりです。
当連結会計年度におけるDNPグループを取り巻く状況は、国内の雇用・所得環境の改善による個人消費の持ち直しやインバウンド需要の拡大等により、景気に緩やかな回復が見られました。一方で、株価・為替の急激な変動、地政学リスクの長期化、原材料や燃料等のコストの高止まり、米国をはじめとする各国・地域の政策動向、国内の物価上昇など、景気の先行きは依然として不透明な状況にあります。また、地球環境や人権問題等への対応、AI(人工知能)やXR(Extended Reality)等の先進技術などによって、ビジネスはより複雑かつ多様になり、競争も激化しています。
セグメントごとの財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容は、次のとおりです。
スマートコミュニケーション部門については、イメージングコミュニケーション事業や金融機関向けのICカードが増加したほか、図書館運営業務も堅調に推移しましたが、紙媒体の市場縮小の影響を受けて出版印刷物や商業印刷物が伸び悩んだことに加え、BPOの大型案件が減少し、結果、部門全体の売上高は前期比0.5%減の7,155億円となりました。営業利益は、紙媒体等の市場縮小による減収の影響を受けたものの、為替のプラス効果、人的資本や固定資産の適正化などの事業構造改革により、前期比32.5%増の346億円となりました。営業利益率は、前期の3.6%から1.2ポイント上昇し、4.8%となりました。
ライフ&ヘルスケア部門については、包装関連事業は、価格転嫁が進展したことに加え、スナックや日用品向け包材、ペットボトル用無菌充填システムなどが増加し、前年を上回りました。生活空間関連事業は、国内の新設住宅着工戸数(持家)の減少などによって住宅向け内装材が減少し、前年を下回りました。モビリティ・産業用高機能材関連は、太陽電池関連が、世界的な需要の高まりにより、封止材を中心に好調であったほか、自動車用部材の加飾フィルムも、内装用製品の販売が好調に推移しましたが、年間を通じて電気自動車(EV)市場の需要停滞の影響が大きかった車載向けのリチウムイオン電池用バッテリーパウチが減少し、前年を下回りました。飲料事業は、主要な販売チャネルでの価格改定の効果もあり、前年を上回りました。メディカル・ヘルスケア関連は、医療用パッケージの開発・販売に注力しました。その結果、部門全体の売上高は前期比5.0%増の4,960億円となりました。営業利益は、包装関連事業の売上増加に加え、固定費の圧縮等のコストダウン、為替のプラス効果なども寄与し、前期比78.2%増の237億円となりました。営業利益率は、前期の2.8%から2.0ポイント上昇し、4.8%となりました。
エレクトロニクス部門については、デジタルインターフェース関連は、有機ELディスプレイ製造用メタルマスクが前期の旺盛な開発需要からの反動で減少したものの、光学フィルムが液晶テレビ用パネルの大型化にともなう出荷面積の拡大等で堅調に推移し、前年を上回りました。半導体関連は、市場の回復によって半導体製造用フォトマスクが堅調に推移し、前年を上回りました。その結果、部門全体の売上高は前期比5.3%増の2,477億円となりました。営業利益は、デジタルインターフェース関連を中心に注力事業の売上が増加しましたが、メタルマスクの生産ライン増設による設備費増加の影響を受け、前期比1.4%減の573億円となりました。営業利益率は、前期の24.7%から1.5ポイント低下し、23.2%となりました。
セグメント資産の状況については、スマートコミュニケーション部門は前期末に比べて、613億円減少して7,532億円(前期末比7.5%減)となりました。
ライフ&ヘルスケア部門は前期末に比べて、631億円減少して4,847億円(前期末比11.5%減)となりました。
エレクトロニクス部門は前期末に比べて、956億円増加して3,857億円(前期末比33.0%増)となりました。
報告セグメント合計では前期末に比べて、288億円減少して1兆6,237億円(前期末比1.7%減)となりました。
DNPグループの当連結会計年度末の現金及び現金同等物は、前期末に比べ160億円増加し、2,506億円となりました。
営業活動によるキャッシュ・フローは、税金等調整当期純利益1,686億円、減価償却費537億円などにより1,327億円の収入(前期は725億円の収入)となりました。
投資活動によるキャッシュ・フローは、有形固定資産の取得による支出570億円、投資有価証券の取得による支出878億円、投資有価証券の売却による収入1,193億円などにより367億円の支出(前期は183億円の収入)となりました。
財務活動によるキャッシュ・フローは、自己株式の取得による支出648億円、配当金の支払額150億円などにより874億円の支出(前期は1,186億円の支出)となりました。
a.財務戦略の基本的な考え方
DNPグループは、社会課題を解決し、人々の期待に応える新しい価値の創出のため、成長領域を中心とした事業へ集中的に事業投資(研究開発投資、設備投資、戦略的提携やM&A投資)を行うとともに、それらを支える人財投資に経営資源を投入していきます。そのほか、資本効率の向上、財務基盤の安定化と株主還元の実施など、さまざまな資本政策を総合的に勘案して推進していきます。
b.DNPグループの資本の財源
DNPグループは、主に営業活動により確保されるキャッシュ・フローにより、成長を維持・発展させていくために必要な資金を確保しております。
設備投資資金などの資金需要については自己資金で賄うことを基本としておりますが、自己資金に加え、他人資本も活用し、成長投資資金を調達していきます。
c.DNPグループの経営資源の配分に関する考え方
DNPグループは、成長領域を中心とした注力事業への投資などを進めていきます。
重要な資本的支出の予定及びその資金の調達源泉等については、「第3 設備の状況 3 設備の新設、除却等の計画 (1)新設等」に記載のとおりであります。
また、利益の配分については、「第4 提出会社の状況 3 配当政策」に記載のとおりであります。
DNPグループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成しております。この連結財務諸表を作成するにあたって、資産、負債、収益及び費用の報告額に影響を及ぼす見積り及び仮定を用いておりますが、これらの見積り及び仮定に基づく数値は実際の結果と異なる可能性があります。
連結財務諸表の作成にあたって用いた会計上の見積り及び仮定のうち、重要なものは「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項 (重要な会計上の見積り)」に記載しております。
(2)その他
DNPグループは、新規事業の創出・新製品開発から生産技術の開発に至るまで、幅広い研究開発活動を続けており、その活動は事業活動の原動力として機能しております。
DNPグループの研究開発は、研究開発・事業化推進センター、技術開発センター、AB(アドバンストビジネス)センター及び各事業分野の開発部門を中心に推進しております。
当連結会計年度におけるグループ全体の研究開発費は
当連結会計年度における各セグメントごとの主な研究開発とその成果は次のとおりです。
(1) スマートコミュニケーション部門
マーケティング分野では、小売業が新店舗をオープンする際の地域特性等に合わせた宣伝予算配分の効率化が求められています。そこで、AIを活用して宣伝手段の予算配分を最適化する「DNP販促最適化AI」を開発しました。これにより、企業はより効果的な宣伝活動を行い、費用対効果を最大化することが可能になります。店舗を持つ小売業を中心にサービスを展開し、精度向上や機能拡張を行っていきます。
認証・セキュリティ分野では、データの改ざんや漏洩、なりすましなどのプライバシーリスクが社会的な課題となっているため、より安全・安心なデータ流通が求められています。そこで、個人が管理しているアイデンティティ情報を保証するデジタル証明書の発行・検証を行う「DNP分散型ID管理プラットフォーム」を開発しました。金融・通信・旅行・自動車・教育などの業界を中心にプラットフォームを提供し、関連する製品・サービスの展開を目指します。
BPO(Business Process Outsourcing)分野では、郵便料金や人件費の増加、利用者の利便性向上のため、通知物のデジタル化が求められています。そこで、取引明細書や契約内容確認書などの通知物をWebサイト上で閲覧可能にする「DNP電子交付・web通知サービス」を開発しました。金融業界をはじめ幅広い業界へサービスを展開し、機能拡充を進めて企業の業務効率化を支援していきます。
XRコミュニケーション分野では、少子高齢化による人口減少や労働力不足が公共サービスの維持を困難にしているため、デジタル技術を活用した効率化が求められています。そこで、生活者が自治体の各種サービスをインターネット上の仮想空間「メタバース役所」で利用できるサービスを開発しました。継続的にサービスの機能を改善・強化することで、自治体のデジタルトランスフォーメーション推進を支援していきます。
イメージングコミュニケーション分野では、昇華型熱転写方式の8インチ両面フォトプリンターで最軽量クラスの「DP-DS820DX」を開発しました。折り目加工機構や縦横カッターを搭載することで、フォトブックやグリーティングカード等の多様なフォト関連製品を様々なサイズでオンデマンドプリントすることができます。今後も、生活者の体験や感動をより楽しく、より印象的にする「写真」の価値を高める事業を展開していきます。
当部門に係る研究開発費は
(2) ライフ&ヘルスケア部門
包装分野では、水分を吸収する「吸湿剤」を樹脂に混ぜてフィルムにして、パッケージの内部で湿度を一定にすることができる「DNP吸湿包材」を開発しました。経口剤や温湿度影響を受けやすいセンサー等の機器をターゲットとしています。本開発により、パッケージ内部に乾燥剤を入れる必要がなくなり、従来、乾燥剤が入れることができなかった小さいパッケージの内容物も水分から守ることができます。また、最適な寸法で製品を提供できるため、包装全体の省資源化に寄与します。今後も持続可能な社会に向けて環境に優しい製品を開発していきます。
生活空間分野では、マンションや各種施設等の室内ドアや収納・内装向けの化粧シート「DNP EBオレフィンシート サフマーレ」を展開しています。この製品には、シート基材に塗布する各種機能性材料に電子線(Electron Beam)を照射し、耐傷性・耐汚染性・加工性等を高めるDNP独自のEBコーティング技術を用いています。生活者の環境意識が高まり、社会や企業等の環境配慮の取り組みが強化される中、表面コーティング層のコート剤に植物由来(バイオマス)原料を一部使用したバイオマス仕様を開発しました。植物由来のバイオマス原料により、環境負荷の低減につながるとともに、EBコーティングによって従来品と変わらない機能を実現することで長期間の使用に対応します。今後も環境に配慮した製品を開発し、建装材メーカー等に提供して、カーボンニュートラルと持続可能な社会の実現に貢献していきます。
モビリティ分野では、リサイクルに貢献するポリプロピレン(PP)をベースとした自動車用加飾フィルムの量産技術を確立しました。DNPが長年培ったPPフィルムへの印刷・加工技術を活かして高い意匠性・成形性を実現したこの新製品は、温室効果ガス排出量の削減も期待できます。
また、自動車部品や産業機器向けの加飾部品等の多くの成形品製造技術を保有する株式会社光金属工業所の完全親会社であるHKホールディング株式会社の全株式を2025年1月31日に取得しました。両社の技術、ネットワークを組み合わせることで、顧客への対応力を強化するとともに、大きく変化する市場に対し、先進的な商材の開発・提供を推進していきます。
高機能マテリアル分野では、2017年から提供している真空断熱材を用いた「DNP多機能断熱ボックス」の重量を従来から約27%削減した軽量の新製品を開発、提供を開始しました。電源を使わずに内部の温度を長時間一定に保ち、長距離の輸送も可能な「DNP多機能断熱ボックス」の新製品は、一般的な発泡断熱材を用いた製品と比べ、保冷剤の使用量を大幅に削減でき、4時間は保冷剤なしでの保冷維持が可能です。また、保冷材量が同じ場合は、保冷時間を約2.2倍向上しました。保冷剤の使用量を大幅に削減することで、多くの荷物の搭載と配送の効率化につなげることができます。DNPは本製品の主なターゲットとして、冷凍・冷蔵食品、チルド食肉類、医薬品、化学薬品類等を想定しており、これらの輸送を手掛ける流通・小売業を中心に本製品を販売し、輸送に関する課題解決と環境負荷の低減に貢献していきます。
メディカル・ヘルスケア分野では、医療・医薬分野における新たな価値創出を目的として、iPSC(人工多能性幹細胞)専門の韓国バイオ企業であるNEXEL Co.,Ltd.(本社:韓国ソウル特別市)と、ヒトiPS細胞由来の心筋細胞の培養に関する技術提携を行いました。本提携により、当社の細胞培養技術とNEXEL社のiPS細胞分化技術を融合し、新薬の研究開発に使用される高品質な心筋細胞の大量製造法の確立と販売を目指します。さらに、ヒトの臓器細胞をチップ上に模擬的に再現する生体模倣システム(Microphysiological System:MPS)の開発にも取り組んでいます。これらの取り組みは、動物実験の代替技術としての需要拡大が見込まれる中、当社のメディカル・ヘルスケア分野における事業拡大と収益基盤の強化に寄与するものと考えています。
当部門に係る研究開発費は
(3) エレクトロニクス部門
福岡県北九州市の黒崎工場で有機EL(OLED)ディスプレイ製造用メタルマスクの新しい生産ラインを稼働開始しました。この新ラインは、第8世代(G8)サイズのガラス基板に対応し、生産能力が従来の2倍になります。またDNPが進める事業継続計画(BCP)の一環として既存工場(広島県三原市)のバックアップ機能を果たします。新ラインはOLEDディスプレイの大型化ニーズに対応し、スマートフォンやタブレット、ノートパソコンなどのIT製品向けに高品質なメタルマスクを供給します。この新ラインの稼働により、DNPはOLEDディスプレイ市場での競争力をさらに強化し、事業の拡大を目指します。
最先端のロジック半導体では極端紫外線(EUV)光源を用いる生産が進み、国内でもRapidus株式会社が最新露光装置を導入し4月から試作を開始しています。DNPは国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」において、Rapidus株式会社の再委託先として参画しています。DNPは2ナノメートル世代のロジック半導体向けフォトマスク製造プロセスの開発を本格的に開始し、製造プロセスおよび保証にかかわる技術を提供します。また次世代の露光装置の高開口数(High-Numerical Aperture:高NA)に対応したフォトマスクの基礎評価を完了しました。2025年度までに製造プロセスの開発を完了し2027年度の量産開始を目指します。また、1ナノメートル世代も見据えた技術開発を推進します。
ミニLEDディスプレイ向けの光拡散フィルムを開発しました。本フィルムは、従来の拡散板と比較して約40分の1の50μmの薄さにも関わらず、LED素子(ドット)の映り込みを効果的に抑えディスプレイの厚みや重量を低減することができます。また、光の透過率が高く、消費電力を抑えながら高輝度を維持します。ミニLEDディスプレイだけでなく、今後拡大が見込まれるマイクロLEDなどの次世代ディスプレイにも対応します。この新技術により、ディスプレイ市場での競争力をさらに強化し事業の拡大を目指します。
当部門に係る研究開発費は