第2 【事業の状況】

 

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループ(当社及び連結子会社)が判断したものであります。

(1) 会社の経営の基本方針

当社グループは、社会に存在する意義である「パーパス」を「化学技術でより良い生活環境の実現に貢献し続ける」こととし、この決意のもと企業活動において全構成員が共有すべき基本的・普遍的な価値観を表すものとして、基本理念と行動基準を定めております。

<基本理念>

・「社会」、「生命」、「環境」に貢献する。

・株主、顧客・取引先、地域社会、従業員を大切にする。

・遵法精神を重んじ、透明な経営を行う。

<行動基準>

・社会から信頼される事業活動を行うため、社会規範、法令、会社の諸規定を遵守し、高い倫理観と良識をもって行動する。

・ものづくりに際しては、地球環境との調和を図り、常に安全確保に万全を期し、無事故・無災害に努める。

・相互協力、相互理解により人権を尊重し、風通しのよい働きやすい職場をつくる。

・企業活動の透明性を保つため、企業市民としてコミュニケーションを重視し、企業情報を適時、的確に開示する。

 

(2) 目標とする経営指標、中長期的な会社の経営戦略及び会社の対処すべき課題

当社グループは、長期ビジョン「Vision 2030」とそれに基づく中期経営計画(2024~2026年度)「Vision 2030 Stage 」に取り組んでおります。

 

1.長期ビジョン「Vision 2030」

当社グループは、創立100周年を機に、10年先の2030年にありたい姿を描き、2030年に向けた長期ビジョン「Vision 2030」として「独創・加速・グローバル。化学の力で暮らしを変える。」を制定し、以下の経営目標や取組方針などの実現を目指します。

(1) 経営目標(2030年)

・連結営業利益 240億円以上(想定連結売上 1,800億円以上) ROE 10%以上の安定確保

・株主還元 安定的な株主還元の継続

(2) 基本的な取組方針

・コアコンピタンスである「化学技術」を中心として「独自の技術開発力」「品質・環境対応力」「グローバルな協業力」 の“3つの強み”とそれらを支える「経営推進力」により「Vision 2030」の達成に取り組んでいきます。

サステナブルな社会の実現に向けて貢献するとともに、その事業活動を通じて企業価値の向上を両立します。

(3) 事業方針と重点施策

1) 有機化学事業

事業方針:「顧客の価値向上に直結する独自製品を世界中に供給し、人々の食、健康、生命を支えてサステナブルな社会の実現に貢献する。」

重点施策:・バリューチェーンを意識した開発・商業化の推進

・自社技術の錬磨・進化による価値創造加速と成長路線復活
・主力製品の世界一低コスト製造と顧客への安定供給

2) 無機化学事業

事業方針:「酸化チタンで培った技術をベースとした新たなる価値を創造し、環境並びに情報化社会を支えてサステナブルな社会の実現に貢献する。」

重点施策:・酸化チタンの光学的特性を多様化させて、新たな価値創造を実現

・ICT普及や自動車EV化などの社会課題解決に機能性材料で貢献

・生産構造改革により環境負荷低減と生産効率化とを両立

 

2. 中期経営計画(2024~2026年度) 「Vision 2030 Stage

(1) 基本方針

長期ビジョン「Vision 2030」からバックキャストした2段階目の中期経営計画「Vision 2030 Stage  Ⅱ」は、「Vision 2030 Stage Ⅰ」から継続し、サステナブルな企業価値創造を目指すことを基本方針とします。そして、独創のための研究・技術開発力の強化と効率化、当社の技術力を海外市場で発揮するためのグローバル化の加速ROIC経営の推進、並びに、安定した株主還元の継続、等の重点施策の実施により、事業基盤の強化と事業構造の改革を推進します。

 

(2) 経営目標

・連結営業利益 190億円以上(想定売上高1,600億円以上)、ROE 10%以上

・株主還元方針:安定的な株主還元の継続

             -2026年度に向けて連結配当性向40%を目標とします。

                        -機動的な自社株買いを実施します。

 

 

2023年度実績(A)

新中期経営計画「Vision 2030 StageⅡ」

2024年度

2026年度(B)

(B)/(A)

売上高

1,384億円

1,440億円

1,607億円

1.2倍

営業利益

 114億円

  100億円

  198億円

1.7倍

経常利益

 148億円

   90億円

  193億円

1.3倍

親会社株主に帰属する当期純利益

  79億円

   60億円

  136億円

1.7倍

営業利益率

8.3%

6.9%

12.3%

1.5倍

ROE

7.9%

5.6%

11.2%

1.4倍

 

 

(3) 重点施策

全社及び各事業レベルの取り組むべき重点施策は次の通りで、毎年事業計画を見直し、最終年度の業績目標の達成に向け取り組みます。

 

全社

□ 独創のための研究・技術開発力の強化と効率化 

□ グローバル化の加速

□ ROIC経営の推進

□ 安定した株主還元の継続

□ 環境・社会への貢献

□ DX推進

□ 人的資本経営の推進

□ コーポレートガバナンスの継続・高度化

 

有機化学事業

□ 新規化学農薬及び動物用医薬品等の開発・商品化の促進

□ 農薬の安定供給・製造コスト低減により当社世界市場占有率の拡大

□ 世界各国での農薬登録の取得・維持

□ 動物用医薬品PANOQUELL®の米国での拡販、世界主要国への展開

□ 農薬の販社複数起用など戦略的・革新的な営業施策の実行

□ 他社M&Aや提携推進、他社剤導入による事業規模拡大

□ バイオロジカル分野の開発・商品化

 

 

無機化学事業

□  無機化学事業の構造改革

   -組織改編による無機化学事業本部の設置

   -汎用酸化チタンから機能性材料ドメインへの製品ポートフォリオの本格転換

   -製造拠点と製品ラインナップの集約と合理化

□  電子部品材料の拡販と生産能力増強

□  新規開発品の市場投入・新規ビジネスの創出によるビジネス拡大

□  海外での技術営業力の向上

□ 他社との協業による事業拡大

□ 主要原燃料の有利調達の実現

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

   当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりであります。

 なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

   2024年度から中期経営計画「Vision 2030 Stage Ⅱ」をスタートしました。その中でパーパスのもと、2050年の当

 社のありたい姿を「健康で心豊かな暮らしを実現し、人と社会から愛されるグローバルな会社」と定め、事業活動を

 通じて社会課題を解決することで、持続可能な地球環境・社会の実現に貢献し、新たな企業価値を創造し続けます。

 

(1)ガバナンス

「Vision 2030 Stage Ⅱ」を推進するにあたり、社長直轄であったサステナビリティ推進委員会を取締役会のもとに設置し、統制を強化しました。また、サステナビリティ推進室を新たに設け、サステナビリティ経営の施策の企画立案・推進を加速します。それぞれ具体的な取り組みは、サステナビリティ推進室の傘下にある各チームにて遂行しております。

・ 気候変動対策チーム・・・カーボンニュートラルに向けたCO排出量の把握・削減やICP(インターナル

              カーボンプライシング)の導入、環境配慮型製品の認定制度の設計、生物多様性の

                           保全を推進

・ 人権デューデリジェンス推進チーム・・・当社グループのみならず、サプライチェーンを含めた人権リスクに

                      ついて、PDCAを推進

・ 人的資本経営推進チーム・・・当社グループ全体の価値創造の源泉である人的資本の拡充や健康経営を推進

・ 統合報告書制作チーム・・・財務、非財務に係る当社グループの取り組み状況の的確な開示を推進

・ DX推進チーム・・・デジタル人材育成、生成AIの活用などにより生産性を向上し、既存ビジネスの強化と

                       新規ビジネスの創出を推進

各チームのメンバーは、取締役や執行役員をリーダー・サブリーダー等におき、当社関係部門、並びに関係会社も含めたメンバーで構成されております。

各チームの取り組みや施策については、1年に2回以上開催されるサステナビリティ推進委員会にて審議・報告され、承認事項は、取締役会に諮って決議されます。また、全チームを含めたサステナビリティ推進室の活動進捗状況は、3カ月ごとに取締役会に報告され、取締役会において監督を行っております。

 

(2)戦略

○気候変動

2023年度は、対象の範囲を当社全グループの全事業(有機化学事業/無機化学事業)へと拡大してシナリオ分析を行い、主な気候変動リスク・機会を外部情報に基づいて整理し、それぞれのリスク・機会に関する将来予想データを収集しました。

これに基づいて、脱炭素社会への移行に伴うリスク・機会と気候変動に起因する物理的リスク・機会について1.5~2℃/4℃シナリオのそれぞれで検討し、当社グループの事業に2050年までに影響を与え得る重要なリスクと機会を分析しました。

今後は、各事業を取りまく環境や社会の変化に応じ、シナリオ分析の見直しを定期的に行っていきます。

 

 

       表)リスク重要度評価及びシナリオ分析から特定した事業リスク・機会

 (時間軸)  短:0-5年、中:5-10年、長:10年以上

 (財務影響)      大:±10億円以上、小:±10億円未満

重要なリスク・機会の項目

対象事業

リスク・機会の説明

事業機会・対応

説明

時間軸

財務影響

移行

リスク

政策/

規制

炭素税の導入、CO2排出量規制の強化

有機

無機

CO2排出への炭素税賦課によるコストの増加

(1.5℃:約172億円(2050年)のコスト影響*)

中~長

大(▲)

・石炭ボイラー等の燃料転換

・生産体制の再構築

・CO2回収及び再生可能エネルギーの利用

技術

消費者ニーズの低炭素

型製品への変化

有機無機

低環境負荷製品の開発及び生産体制の強化

(財務影響は半導体需要の増加を試算対象として評価)

大(+)

・環境負荷低減につながる電子部品(半導体等)や資材(IPM製品)などの拡販

・新技術・新製品の創出(有機:AIやIoT等のスマート農業を視野に入れたIPM製品の開発)

・設備投資/製品の開発時における補助金や補助制度の活用

市場

原材料価格の上昇(チタン鉱石・コークスなど)

無機

調達コスト増や入手難による価格上昇

大(▲)

・収率の向上と廃棄物の削減

・サプライヤーや業界と連携した調達段階のCO2削減

エネルギー価格の変化

有機無機

石油・重油・ガス・電気などの急激な価格変化

短~中

小(▲)

・多様なエネルギーミックス

・徹底した省エネ

評判

顧客企業の環境配慮の意識の高まり

有機無機

脱炭素対応が遅れることによる受注減少や投資家評価の低下

・積極的な環境負荷低減への取り組み

・情報開示の充実

物理的リスク

急性

台風や洪水などの極端な異常気象の過酷さの増加

有機無機

被災による物損コスト及び逸失利益の発生

大(▲)

・BCP対策の拡充と訓練の実施

・調達先の複数化

・生産バックアップ体制の検討

有機無機

拠点の被災リスクが高まることによる保険料の上昇

小(▲)

・保険契約内容の見直し

有機

農家の洪水被害による農薬資材の売上減少

小(▲)

・異常気象によって発生する新たな課題に対応する資材の開発(耐雨性の高い資材や熱ストレスに対するバイオスティミュラントなど)

・不確実性の高い生態系の変化(病害虫・雑草の発生等)を予測した重点開発・販売国の設定

慢性

平均気温の上昇/気象パターンの極端な変動

有機

生態系の変化に応じた資材を販売することによる売上機会の増加

中~長

小(+)

 

 

*1.5℃シナリオ:2030年の炭素価格130ドル/tCO2、2050年の炭素価格250ドル/tCO2と想定(IEA Net Zero By 2050 参照)

 

〇人的資本、多様性

2030年までに国内外の社会で起こるとみられる、気候変動や食糧問題をはじめとする数々の変化を前提に、当社グループのパーパスのもと、サステナブルな社会の実現に向けて貢献するとともに、その事業活動を通じて企業価値の向上を両立させるためには、当社グループの価値創造のコアがドライビングフォースとして機能し続けることが必要です。それら価値創造のコアとその拡充に必要と考えられる人事施策である人的資本項目を図のように特定・関連付けております。

 


 

 

「人財が競争力の源泉」であるとの考えのもと、人的資本を拡充し経営戦略の達成につなげるためには、これまでの延長線上にない将来動向を踏まえ、新たな挑戦による改革・変革を評価する文化と仕組みが必要であることから、図のように当社グループの人財マネジメント方針を策定しました。これを常に人財に対する考え方の軸とすることで、会社のパーパスと個人のキャリアビジョンが重なりあい、会社と共に個人も成長できるようにすることを目指しております。

 


 

特に人財育成においては、目指す人財像を「ものごとの基本を理解し、実践した上で“変える”ために、“変わる”ことのできる人」と定めており、その具体化として以下の5つを掲げ、その実現のための研修教育体系を整えております。

1.プロフェッショナルとしての責任感を持ち、高い成果を生み出す人財

2.変化に対し、敏感・柔軟で、難局を乗り越える力のある人財

3.会社の進むべき道、取り組むべき課題を捉え、推進する人財

4.常に一段上、一歩前を目指し、進化し続ける人財

5.ステークホルダーと協働し、仕事を通じてともに成長できる人財

今後も「Vision 2030」の達成に向け、当該人財を育成するための施策、また当該人財が定着するための環境整備を推進するとともに、事業及びその事業環境の変化に応じ、必要なタイミングで戦略・施策の見直しや追加を実施します。

 

(3)リスク管理

当社グループは、16のマテリアリティ(重要課題)の中から、8つの最重要課題「気候変動・環境負荷低減」「技術開発力」「サプライチェーンマネジメント」「労働安全衛生・保安防災」「ダイバーシティ&インクルージョン」「BCP、リスクマネジメント」「コーポレート・ガバナンス」「DXの推進、業務効率化による働き方改革」を特定しております。

当社グループとして特に「気候変動対策の推進」、「人権リスクへの対応」や「人的資本経営の推進」は喫緊の重要課題であることを認識し、サステナビリティ推進室のもとに気候変動対策チーム、人権デューデリジェンス推進チーム並びに人的資本経営推進チームを設置しております。

各チームでは、気候変動、人権、並びに人的資本経営に係るリスクの検討を行い、その結果をサステナビリティ推進委員会で評価・管理し、必要に応じて企業リスク管理委員会への報告を行っております。

 

(4)指標及び目標

○気候変動

当社グループはCO2排出量(Scope1+Scope2)の削減目標を下記の通りに設定しております。今後も引き続きカーボンニュートラルに向けた排出量削減に取り組むことにより、気候変動影響の緩和と適応を推進してまいります。目標と2022年度までの進捗は、以下の通りです。2022年度からScope1+Scope2について、これまで算出していた当社国内グループ会社に加え、海外グループ会社の排出量も算出し、当社グループ全体を把握しました。さらに、サプライチェーン排出量であるScope3も算出し、当社グループの事業活動に伴うGHG排出量の全体像を把握しました。

 

2030年:CO2排出量30%削減を目指す(2019年度比)

 

2050年:カーボンニュートラル(実質排出ゼロ)に挑戦する

 

 

表)当社グループの温室効果ガス(GHG)排出量[千t-CO2]

GHG排出量

(千t-CO2)

2019年度

(基準年)

2020年度

2021年度

2022年度

Scope1

471

408

488

476

Scope2

20

19

23

22

合計

490

427

511

498

 

GHG排出量はGHGプロトコルに基づき算定

         表)Scope3のGHG排出量[千t-CO]

Scope3

カテゴリ

算出範囲

2022年度

カテゴリ1

購入した製品・サービス

単体

444.23

カテゴリ2

資本財

連結

14.55

カテゴリ3

Scope1、2に含まれない

燃料及びエネルギー関連活動

連結

52.71

カテゴリ4

輸送・配送(上流)

単体

4.33

カテゴリ5

事業活動から出る廃棄物

国内連結

3.00

カテゴリ6

出張

連結

0.23

カテゴリ7

雇用者の通勤

単体

0.47

Scope3排出量合計

519.52

 

 

当社の主力生産拠点である四日市工場では、石炭火力によるコージェネレーションシステムにより、最適なエネルギーコストを実現し生産活動を行ってきました。今後は、無機化学事業の構造改革に合わせ、当社グループ全体で、段階的にCO排出量を削減し、カーボンニュートラルに挑戦してまいります。

 


 

〇人的資本、多様性

価値創造のコアに関連するものとして特定した項目について、その指標と目標を以下のように設定しております。

人的資本項目

KPI

目標数値

目標年度

2023年度実績

外部ナレッジ活用

中途採用者比率

安定的に50以上

継続

57.4

開発力指数

研究職人員比率

20以上

2030年度

22.4

エンゲージメント向上

エンゲージメント指数※1

4.7

2030年度

4.55

離職率(自己都合退職)※1

3以下

継続

2.9

人材育成

従業員一人あたり研修費※1

6万円/人以上

2024年度

6.2万円/人

柔軟な働き方

育児休業取得率

男性60%

 

女性100%

2026年度

男性55%

 

女性100%

有給休暇取得率※1

80以上

2030年度

82.8

安全衛生

労働災害度数率※2

0達成

2024年度

0

女性活躍

女性管理職比率

10以上

2026年度

9.1

採用者の女性比率※1

30以上

2030年度

36.8

組織強化・推進力向上

サステナビリティ専任部門創設

(定性的事項)

2021年実施済み

 

(注) 特に記載がない限り、単体の集計値を記載

※1 出向者の取扱いについては、社外への出向者を含め、社外からの出向者を除くものとしております。

※2 単体生産拠点のみで算出しております。

 

3 【事業等のリスク】

 

(1)リスクマネジメント体制

当社グループは、リスク管理の基本方針とその管理体制を「リスク管理規程」において定め、企業リスク管理委員会を組織し、事業を取り巻くさまざまなリスクに対して適切な管理とリスクの未然防止を図っております。企業リスク管理委員会は、代表取締役社長を委員長とし、当社の各事業本部長から構成されております。

当社グループの企業リスク管理委員会は、年2回及び必要に応じて臨時に開催され、リスクアセスメントの取り纏めと対策を優先するリスク(優先重要リスク)等の選定、リスク対策計画の審議、リスク対策の実施状況の確認などを行い、その審議内容は取締役会へ報告されております。

なお、「重要課題(マテリアリティ)」「気候変動リスク」「人権に関わるリスク」等についてはサステナビリティ推進委員会が管轄し、企業リスク管理委員会と連携を取りながら対策の推進を図っております。

 


 

 

(2)リスクマネジメントのプロセス

①リスクアセスメント

当社グループでは、定期的に、各部門の事業構造の変化やグローバルな社会情勢等の当社を取り巻く外部環境の変化を考慮して、リスクの洗い出しと各リスクの影響度と発生可能性の評価を実施しております。これらリスクアセスメントの結果は、企業リスク管理委員会での審議を経て、リスクマップに一覧化しております。

 

②リスク対策計画の立案、推進及びモニタリング

リスクアセスメントの結果に基づき、各リスクに対する責任者や対策部門が選定されます。選定された責任者や部門は、リスクの回避・低減・移転及びその他必要な措置を検討し、対策計画を立案します。この計画の進捗は、別に設定されたモニタリング責任者又は部署によりモニタリングされ、その結果に応じて対策計画の見直しや対策の改善が図られます。

 


 

 

 

(3)当社グループのリスク

当社グループでは、各リスクの対策優先度に基づき、優先重要リスクや重要リスクなどにリスクを区分しております。当社にとって、最も優先度が高いリスクについては、「優先重要リスク」として企業リスク管理委員会の審議を経てリスク対策計画が作成され、その進捗についても企業リスク管理委員会による管理を行っております。

 

① リスクマップ

 

 


 

(注) 1 当社グループの事業活動に影響を与える可能性のあるリスクを記載しておりますが、これらのリスクは必ずしもすべてのリスクを網羅したものではなく、想定していないリスクや重要性が低いと考えられるリスクの影響を将来的に受ける可能性があります。

2 当社では、リスクを「当社に物理的、経済的もしくは信用上の損失又は不利益を生じさせるすべての可能性」と定義しております。 

3 当社では、リスクの大きさ(影響度と発生可能性)については、リスクに対する評価者の認識を揃えるため、リスクシナリオを設定した上で損害額を評価しております。ここでのリスクシナリオは、ワーストシナリオ(発生する可能性がある最大の脅威)を採用しております。

4 リスクの評価は当連結会計年度の期中を通じて行ったものです。

 

 

② リスクと対策

・優先重要リスク

主なリスク

リスクの説明

主なリスク対策

製品の承認・登録等

の遅延・却下

(農薬)

世界的に農薬に関する法規制が強化されていく中、開発中の農薬の新製品が予定していた時期に上市できずに販売延期、もしくは上市を断念せざるを得なくなり、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

・適切な各国登録機関への対応

・他社の農薬の登録評価や他社の登録対応状況の調査

・専門性の高い分野に精通する人員の確保、登録ノウハウの着実な継承

 

製品の承認・登録等

の遅延・却下

(動物薬)

米国での完全承認や欧州での規制当局による承認が拒否された又は遅延した場合、販売が想定を大きく下回り、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

・コンサルタントの活用も含めた、当局の規制・承認に係る動向の情報収集

・製造委託先及び販売パートナーとの連携

 

地震・津波

 

酸化チタンの製造拠点である四日市工場が南海トラフ地震の被災想定地域に存在しているため、大規模な地震が発生し、津波・液状化等による重大被害を受けた場合、四日市工場の設備・製品等の損傷、工場の生産や事業活動の停止、人的被害等を引き起こし、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

・当社四日市工場における老朽化施設の耐震化補強

・四日市での複数諸点(高台等)での製品保管

・事業継続計画の更新

・地震事業継続費用保険(四日市工場)の付保

・金融機関との震災対応型コミットメントラインの締結

原料の調達困難、

外注先の問題

 

当社は多くの原料を海外から調達しております。産出地での操業事故・政情不安や環境規制の強化による生産停止等により、特定の原料を購買調達できなくなることにより、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

また海外における外注委託先についても、相手先国での法規制の強化や取引先での操業事故等により、調達に制約を受ける場合があります。その結果、調達コストの上昇、生産の遅延等が発生し、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

・複数の国の様々な調達先からの購買の実施

・委託先や購買先との緊密な連携

・迅速な計画調整と適正な在庫管理

・使用可能な原料品種の拡大

 

グループ会社の

ガバナンス不全

 

当社は、関係会社管理規程や内部監査等により適正なグループ経営の確保に努めておりますが、海外のグループ会社等に対する統制が完全に行き届かないがために、不正会計や贈収賄、品質不正等が発覚した場合、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

当社はグループガバナンス強化の取り組みを進めております。

・3ラインモデル(事業部門、間接部門、内部監査部門)の機能・役割の整理及び明文化

・グループ会社に関する規程・ルールの精緻化と周知

・内部監査の強化

人材不足、技能非継承

少子・高齢化や労働市場の需給バランスの変化、人材流動化の進展等により、必要とする人材の確保や熟練者から若手への技能継承が十分にできなかった場合、計画していた業務が予定通り進まず、見込んでいた収益を大きく下回り、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

・新卒・キャリアとも多チャンネルによる採用活動の実施

・ノウハウ等の取り纏め(見える化)

・人材育成の推進、離職防止のための働きやすい職場環境・制度の検討

 

 

 

 

・重要リスク(抜粋)

主なリスク

リスクの説明

主なリスク対策

設備・機械の

経年劣化・故障

無機化学事業は装置産業であり、これを生産する当社四日市工場では、多額の設備投資や設備修繕費を必要としております。四日市工場で、重要な設備・機械が経年劣化や腐食等により運転不能となり操業が停止することにより、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

・定期修理時の確実な補修と予防保全の実施

・適切な時期での設備更新

・バックアップ体制の構築の推進

 

 

法令・規制等の

改正・強化

 

農薬の登録要件などの見直しにより、当社グループの製品がその要件等を満たさなくなった場合、再登録が認められず失効し、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

・法令規制、登録要件に関する適切な情報収集

原材料の高騰

酸化チタンの主要原料であるチタン鉱石は、すべて海外からの調達に依存しております。そのような中、サプライヤー側では大手メーカーによる市場の寡占化が進んでおります。チタン鉱石やその他原材料価格の高騰や、調達コストの増加分を販売価格に転嫁し切れない場合、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

・販売価格への転嫁

・複数の国の様々な調達先からの購買の実施

・安価で低品位なチタン鉱石の使用検討

燃料価格の高騰

供給不安や輸送費用の上昇による、石炭や天然ガス等の燃料価格高騰は、当社グループの製造コストの上昇につながります。これらのコストを自助努力で吸収できず、また製品の販売価格にも十分転嫁できなかった場合、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

・省エネルギー活動

・販売価格への転嫁

 

新規参入・競争激化

農薬業界では、世界的な大型再編を通じて大手競合メーカーによる市場の寡占化が進んでおります。また、世界的にジェネリック農薬の普及が進み、価格競争が激しくなる等、農薬市場の競争環境は激しさを増してきております。

一方で、酸化チタンでは、海外競合メーカーが再編による事業拡大を目指し、また、中国メーカーが生産能力を増強している中、販売環境は厳しさを増しております。

これら競争環境の激化が、当社のマーケットシェアの減少を通じて、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

・製造費用の低減による競争力の強化

・農薬分野での新規剤、混合剤開発による差別化

・電子部品材料を主とした拡販

有害物質の流出等の環境リスク

 

生産活動を行う上で発生する排ガス、排水、産業廃棄物等の処理に関して、不測の事態等により生産活動の制限や追加的な対策コストが発生した場合、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

・より厳格な管理基準値による運用(大気への排出、公共用水域への排水等)

・産業廃棄物の適切な処理・管理及び処分場の確保

 

 

主なリスク

リスクの説明

主なリスク対策

農薬薬害

当社グループでは、製品の品質管理体制を整備しながら品質水準の確保に努めております。一方で、農薬製品においては、予期せぬ事象により大きな品質問題が発生する可能性もあり、損害賠償額が生産物賠償責任保険金額を上回る場合があります。その結果、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

・圃場での栽培試験による安全性確認強化

・農薬製品の適切な使用方法の普及・周知

技術流出

当社グループは、保有する技術・営業等の事業に係る機密情報等の外部流出を防ぐため、社内規程の整備とその運用の徹底を通じて万全を期しております。しかしながら、不測の事態によりこれらの技術が漏洩した場合、当社の競争力低下が予測され、当社グループの事業活動に影響を及ぼす可能性があります。

・当社技術についての特許等の知的財産権の出願・権利化

・当社機密情報及び権利の保護に関する契約の締結

異常気象による農薬販売数量の低下

近年、世界的に発生が増加傾向にある台風、豪雨や干ばつ等の異常気象によって、各地域の農薬の需要が減少した場合は、当社農薬の販売数量が減少し、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

・異常気象に係る情報収集と必要に応じ生産調整を行う体制の構築

・適正在庫の維持

・対象市場の複数化

景気低迷

無機化学事業の業績は、主たる製品用途である建築・自動車・電子部品材料などの需要動向に大きく左右されます。世界経済の低迷に伴い、特に主要市場である日本やアジア地域での需要が縮小した場合、販売数量が減少し、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

・電子部品材料を主とした拡販

・迅速な計画調整と適正な在庫管理

 

気候変動に関わる規制の強化

当社四日市工場は石炭ボイラー等を用いた蒸気供給及び発電を行っております。今後、炭素税の賦課や排出規制の強化が進んだ場合、当社グループの事業活動に影響を及ぼす可能性があります。

・エネルギー転換を伴うGHG排出量削減計画

・ロードマップの実現によるカーボンニュートラルの推進

製品・技術開発の

遅延・中止

新製品や新技術の開発期間中に市場変化や技術革新等が発生し、新製品の上市を延期、又は断念せざるを得なくなった場合、当社グループの将来の成長と収益に影響を及ぼす可能性があります。

・開発の進捗状況のチェック

・開発テーマの定期的な見直し

火災・爆発

当社四日市工場や主要グループ会社の生産設備等で、大規模な火災・爆発等が発生した場合、当該施設の操業が中断し生産・出荷等の製造活動が困難となることが予見され、当社グループの業績及び財務状態に影響を及ぼす可能性があります。

・設備保全計画策定と自主保安の推進

・プラントの健全性の評価

 

 

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(経営成績等の状況の概要)

 

(1) 経営成績の状況

当期の世界経済は、ウクライナ情勢の長期化や世界的なインフレによる物価高の継続、各国の金融引き締め政策などにより、依然として景気の先行き不透明な状況が続きました。当社グループの主力事業を取り巻く環境は、有機化学事業においては、主力の農薬について、米州で殺菌剤が減少したものの、欧州では殺虫剤などの需要が増加し、アジアや国内販売も堅調に推移しました。無機化学事業においては、酸化チタンの自動車向けが堅調に推移したものの、国内建築用途向けや海外販売が低迷し、機能性材料も電子部品用材料の販売が積層セラミックコンデンサ(MLCC)業界の在庫調整の影響で減少しました。

このような状況下、当社グループは、長期ビジョンとして「Vision 2030 独創・加速・グローバル。化学の力で暮らしを変える。」を掲げ、2021年度から2023年度の3か年の中期経営計画「Vision 2030 StageⅠ」に取り組む中で、ESG、SDGs視点での経営強化や目標の具体化などを推進することにより、サステナブルな企業価値創造を目指しました。

この結果、当期の連結業績は、売上高1,384億円(前期比72億円増)、営業利益114億円(前期比28億円増)、営業外では為替差益を計上するなどで経常利益148億円(前期比45億円増)、親会社株主に帰属する当期純利益は、硫酸法酸化チタンに関連する固定資産の減損損失67億円を特別損失に計上するなどで79億円(前期比10億円増)となりました。

 

事業の種類別セグメントの状況は次のとおりであります。

 

(有機化学事業)

農薬は、海外販売について、米州では、除草剤が堅調に推移しましたが、ブラジルでの在庫調整の影響などにより殺菌剤の販売が大きく減少しました。欧州では、アフリカでの害虫発生などにより殺虫剤の需要が拡大したことなどで増収となりました。アジアでは、除草剤や殺菌剤などの販売が増加しました。国内販売については、殺虫剤や殺菌剤などの販売が前期を上回りました。

農薬以外では、動物用医薬品や医薬品原末などのヘルスケア事業の売上高が前期を上回りました。

この結果、有機化学事業の売上高は、671億円(前期比34億円増)、営業利益は113億円(前期比7億円増)となりました。

 

(無機化学事業)

酸化チタンは、自動車向けは需要が回復したものの、建築用途向けなどの需要回復が鈍かったことに加え、アジア市況の低迷などが長引き、販売数量は伸び悩みました。その一方で、前期に実施した価格改定の寄与や、為替円安の影響などで、売上高は532億円(前期比37億円増)となりました。機能性材料は、電子部品用材料の車載用と通信向けともに、MLCCメーカーの過剰在庫解消策の影響などにより販売が減少し、売上高は148億円(前期比1億円減)となりました。

損益面では、販売数量減少などに伴う稼働率の低迷などでコストが増加したものの、原料価格の高騰に伴う価格改善の取り組みが寄与したことにより、増益となりました。

この結果、無機化学事業の売上高は680億円(前期比35億円増)、営業利益は32億円(前期比22億円増)となりました。

 

(その他の事業)

売上高は32億円(前期比2億円増)、営業利益は2億円(前期比6千万円増)となりました。

 

 

(2) 財政状態の状況

当連結会計年度末の総資産は、前連結会計年度末比224億円増加の2,243億円となりました。これは、現金及び預金が23億円、受取手形が8億円、売掛金が31億円、棚卸資産が165億円、投資有価証券が15億円それぞれ増加しましたが、有形固定資産が51億円減少したことなどによるものです。
 負債は、前連結会計年度末比137億円増加の1,182億円となりました。これは、長短借入金・社債が141億円、未払法人税等が10億円それぞれ増加しましたが、支払手形及び買掛金が17億円減少したことなどによるものです。
 純資産は、利益剰余金が63億円、為替換算調整勘定が16億円それぞれ増加し、前連結会計年度末比86億円増加の1,061億円となりました。

 

(3) キャッシュ・フローの状況

当連結会計年度末の現金及び現金同等物は、前連結会計年度末に比べ23億円増加し、199億円となりました。

当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況は、次のとおりであります。

 

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

営業活動によるキャッシュ・フローは28億円の支出(前期比32億円の増加)となりました。これは、税金等調整前当期純利益95億円、減価償却費及びその他の償却費53億円、減損損失69億円などの資金増加要因がありましたが、売上債権の増加38億円、棚卸資産の増加150億円、仕入債務の減少35億円などの資金減少要因があったことなどによるものです。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

投資活動によるキャッシュ・フローは、70億円の支出(前期比20億円の減少)となりました。これは、固定資産の取得などによるものです。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

財務活動によるキャッシュ・フローは、115億円の収入(前期比104億円の増加)となりました。これは、長短借入金・社債の純増141億円、リース債務及び割賦債務の返済9億円、配当金の支払16億円などがあったことによるものです。

 

当社グループは、事業の収益力を高めることで経営環境の変化に耐え得る強固な財務基盤の構築を目指しております。具体的には、安定した期間利益を計上し、着実に自己資本比率を高めるとともに、高いキャッシュ・フローの創出力を通じた有利子負債の削減を進めております。

当社グループの資金需要の主なものは、原料費、労務費、委託費など製品の製造にかかわる製造費用の他、販売費や農薬を中心とした研究開発費を含む一般管理費など事業活動に必要な運転資金に加えて、装置産業である酸化チタンを製造するための設備の新設や維持更新を中心とした設備資金であります。

原料鉱石価格の高止まりや設備投資、研究開発による高い資金需要が引き続き想定されることから、今後の資金調達については、手元資金や営業活動によるキャッシュ・フローから創出するとともに、金融機関からより安定的で低コストの借入を実施していきます。さらに突発的な資金需要に備え、主要金融機関との間で250億円のコミットメントライン契約を締結し、手元流動性を確保しております。

 

 

当社の企業集団のキャッシュ・フロー指標を示すと、次のとおりであります。

 

 

2020年3月

2021年3月

2022年3月

2023年3月

2024年3月

自己資本比率(%)

44.5

44.2

49.5

48.3

47.3

時価ベースの自己資本比率(%)

12.8

20.2

23.2

21.1

30.1

債務償還年数(年)

15.8

12.7

3.1

インタレスト・カバレッジ・レシオ(倍)

5.5

8.3

30.8

 

(注)1 各指標は、いずれも連結ベースの財務数値より算出しております。

2 有利子負債にはリース債務等を含んでおります。

3 各指標は以下の算式により計算しております。

※自己資本比率:自己資本/総資産

※時価ベースの自己資本比率:株式時価総額/総資産

 (株式時価総額は期末株価終値×期末発行済株式数(自己株式控除後)により算出しております。)

※債務償還年数:有利子負債/営業活動によるキャッシュ・フロー

※インタレスト・カバレッジ・レシオ:営業活動によるキャッシュ・フロー/利払い

4  2023年3月期及び2024年3月期は、営業活動によるキャッシュ・フローがマイナスであるため、債務償還年数及びインタレスト・カバレッジ・レシオの記載を省略しております。

 

(4) 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されております。この連結財務諸表の作成にあたって、重要な会計方針については、「第5 経理の状況 1連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項」に記載のとおりであります。

なお、連結決算日における資産及び負債の連結貸借対照表上の金額及び連結会計年度における収益及び費用の連結損益計算書の金額の算定には、将来に関する判断、見積りを行う必要があり、当社グループは過去の実績や状況等を勘案し、合理的に判断しておりますが、今後の環境、条件等の変動により、当社グループの連結財務諸表に影響を及ぼす可能性があります。

当社グループとしては、以下に記載する会計上の見積りは当社グループにとって重要であると判断しております。

① 投資の減損

当社グループは、取引関係維持のために販売先や金融機関の株式を保有しております。これらの株式には、価格変動性の高い公開会社の株式と株価の決定が困難な非公開会社の株式が含まれております。公開会社の株式への投資の場合、期末における時価が取得原価に比べ50%以上下落した場合には減損処理を行い、30~50%程度下落した場合には、回収可能性を考慮して必要と認められた額について減損処理を行っております。また、非公開会社の株式への投資の場合、それらの会社の純資産額が取得原価に比べ50%以上下落した場合には減損処理を行い、30~50%程度下落した場合には、回収可能性を考慮して必要と認められた額について減損処理を行っております。

 

② 繰延税金資産

当社グループは、回収可能性がないと判断される繰延税金資産に対して評価性引当額を設定し、適切な繰延税金資産を計上しております。評価性引当額の算定においては、将来の課税所得と実現性の高いタックスプランニングに基づいて検討を行っております。

 

 

(生産、受注及び販売の状況)

 

(1) 生産実績

当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

 

セグメントの名称

生産高(百万円)

前年比(%)

有機化学事業

49,124

40.5

無機化学事業

75,614

6.0

合計

124,738

17.4

 

(注) 1 セグメント間取引については、相殺消去しております。

2 金額は、販売価格によっております。

 

(2) 受注状況

当社グループは、主として見込み生産を行っております。

 

(3) 販売実績

当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

 

セグメントの名称

販売高(百万円)

前年比(%)

有機化学事業

67,171

5.3

無機化学事業

68,043

5.5

その他の事業

3,241

8.2

合計

138,456

5.5

 

(注) 1 セグメント間取引については、相殺消去しております。

2 主な相手先別の販売実績及び総販売実績に対する割合は、次のとおりであります。

なお、当連結会計年度において、三井物産株式会社に対する販売割合は、10%未満であるため、記載を省略しております。

相手先

前連結会計年度

当連結会計年度

販売高(百万円)

割合(%)

販売高(百万円)

割合(%)

三井物産株式会社

16,165

12.3

 

 

 

5 【経営上の重要な契約等】

 

経営上の重要な契約等は、次のとおりであります。

営業上の重要な契約

 

契約締結先

契約発効日

摘要

(スイス)
SYNGENTA AG(シンジェンタ アクチエンゲゼルシャフト)

1997年12月17日

 (契約内容)当社が所有する一定の除草剤、殺菌剤及び殺虫剤(4剤)のアジア・パシフィック地域を除く世界市場における販売に関する権利の供与

 (有効期間)当該製品の登録が継続する期間

 (対価)一時金(クロージング時及び登録取得時)

 

 

6 【研究開発活動】

 

当社グループは「『社会』、『生命』、『環境』に貢献する。」という基本理念に基づき、有機化学、無機化学の各分野における新製品の開発や生産技術の向上に取り組むとともに、世界的な関心が高まる環境、エネルギー、バイオ、IT、食料等の各領域において、有機、無機の垣根にこだわることなく、新規事業の探索にも取り組んでおります。当連結会計年度におけるグループ全体の研究開発費は、9,758百万円となりました。

 

セグメントごとの研究開発は、次のとおりであります。

 

(有機化学事業)

農薬については、自社開発原体を中心に新規製剤や新規混合剤の開発の他、農薬登録国や適用作物の拡大などに向けた研究開発に注力して取り組んでおります。

近年開発したチョウ・蛾類を始め広いスペクトラムを持つ殺虫剤シクラニリプロールは、米国、カナダ、ブラジル、メキシコ等の米州諸国や韓国、日本で販売しております。2023年にはインドでも登録認可され、販売を開始しました。2024年にはフィリピン、ベトナムでの登録認可、販売開始を目指しております。人畜・作物安全性に優れるトウモロコシ用除草剤トルピラレートは、各国での単剤の登録認可販売しております。混合剤開発も行い、米国、日本で2021年に上市しました。加えて、2024年にはCISで混合剤の販売を開始します。引き続き、単剤及び混合剤を米州、インド、東南アジア及びアフリカで開発しております。

さらに、国内の食の安全・安心志向の高まりや、抵抗性発達のために有効な既存化学農薬が不足しているなどの市場ニーズに対応するため、微生物殺菌剤、接触型忌避剤及び天敵昆虫などのバイオロジカル製品群の開発にも注力しております。2019年より食品添加物を有効成分とするコナジラミ忌避剤ベミデタッチを販売開始し、難防除の植物ウイルス病を低減できる剤として好評を得ております。さらに、2023年よりイネの高温ストレス耐性を促すバイオスティミュラント製品「ライスフル」の販売も開始しました。引き続き、安全性の高い剤の開発も進めております。当社は、近未来の植物防疫の姿を見据え、これら一連のバイオラショナル製品と、安全性が高く環境負荷に配慮した当社創製化学農薬群を組み合わせて、独自のIPMやICMプログラムを確立していきます。また、従来の化学農薬のコンセプトである農薬用途以外に、生活環境での防疫や環境保全においても当社製品を含む有機化学技術の普及拡大を目指しております。

当社の農薬事業は、自社の創生・開発の新農薬をベースとしておりますが、環境変化の激しい昨今、他社開発剤の導入や他社との共同開発にも積極的に取り組んでおり、2010年以降、海外企業から導入した水稲除草剤を国内で開発・上市したほか、2015年には韓国FarmHannong社と非選択性除草剤チアフェナシルを全世界で共同開発する契約を同企業と締結しました。2020年に本剤の米国登録取得し、2021年に米国で、2023年6月にカナダで本剤の販売を開始しました。加えて、アルゼンチンでも本剤の登録申請を済ませており、さらに日本、東南アジア、中南米各国でも本剤の開発、登録作業を進めております。さらに、当該成分の混合剤の開発も行っており、2025年に販売開始予定です。

 
 農薬以外では、ヘルスケア事業(動物用医薬品、人体用医薬品・医療機器関連)についても、特色ある商品開発を進めております。動物用医薬品では、フザプラジブナトリウム(一水和物)がイヌ膵炎急性期用抗炎症剤として、日本国内では『ブレンダ』、米国では『PANOQUELL』のブランド名で販売されております。さらに、皮膚系疾患や他の炎症性疾患の治療薬において、後続するパイプラインの整備を推進中であります。

人体用医薬品・医療機器分野では、口腔乾燥症状改善薬であるセビメリン塩酸塩の原薬を1999年より製造し、国内外の製薬会社へ販売しております。その他に、当社の要素技術や独自開発した物質を応用することで生まれた、効能・効果の高い人体用医薬品や医療機器の商品開発を進めております。

 

当事業における研究開発費は、8,278百万円となりました。

 

(無機化学事業)

長年に亘る酸化チタン事業で蓄積されてきた技術をベースに、既存製品の収益改善、新規製品・新規事業の開発に力を入れて取り組んでおります。

既存製品の収益改善に関しては、電気自動車や第5世代通信(5G)用に需要が期待される次世代の積層セラミックコンデンサー(MLCC)用の高純度酸化チタンの開発に注力しております。微粒子で分散性に優れた開発品を含め種々の粒子径サイズ品をラインナップすることで、顧客の汎用から最先端用途までの要求に応えるべく改良を進めております。また、我々の生活に関係する省エネに寄与する遮熱顔料、化粧品用酸化チタンは、市場要望に応じた品質改良に取り組んでおります。

新規製品の開発に関しては、SILKIAブランドとして“シルクのような質感”と“光輝感”を両立した世界唯一の色彩顔料を市場投入するべく、安定製造方法の確立と表面改質に取り組んでおります。また、LUSHADE BLACKブランドとして硫化ビスマス黒色顔料は、特異な反射特性(可視光吸収、赤外線反射)と漆黒度が高いことを特徴に市場開拓を進めており、工業化も含めて商品化検討を加速させております。有機/無機の材料合成技術を活かして開発した酸化チタンの溶剤分散体も、“酸化チタンの特徴である高屈折率”と“微粒子化による透明性”を両立させており、次世代の光学材料用途向けに顧客が要望する改良に取り組んでおります。

一方、新たな新規事業の創出を目的としている新規事業開発は、銅ナノ粒子が既存品より低温で成膜することを特徴にして、市場投入に向けて工業化などの検討を行っております。また、再生可能エネルギーへの取り組みとして、有機薄膜太陽電池材料の開発にも注力しております。さらに、蓄熱材料(ハスクレイ)は、低温排熱利用分野において実証実験で有効性が確認されており、顧客からの問合せも増えており、今後の展開が期待されております。
 

当事業における研究開発費は、1,324百万円となりました。

 

なお、当連結会計年度におけるセグメントに帰属しない全社共通の研究開発費の金額は155百万円となりました。