(経営方針、経営環境及び対処すべき課題)
当社グループは、2023年度より「事業価値創造」「人財価値創造」「経営価値創造」の3つの成長戦略により企業価値を向上させる、経営計画「Mission 2030」を推進してまいりました。
しかしながら、世界情勢のうねりの中で、計画策定時と比べ当社を取り巻く事業環境が想定以上に変化したこともあり、業績が低迷しております。2024年度は、この状況を打開すべく3つの施策に注力いたしました。
1つ目は、「事業価値創造」におけるポートフォリオ改革の着実な実行です。最優先事項のクロロプレンゴム事業の抜本的対策については、米国クロロプレン製造子会社デンカパフォーマンスエラストマー社(以下DPEという)における関連固定資産の減損損失を計上するとともに、同社はクロロプレンゴム製造設備を暫定停止することとなりました。
DPEは、コストの上昇、生産数量の減少、要員面の問題や世界的な需要後退の影響により、当面の収益性の改善は困難な状況にあります。コスト面については、2015年にDuPont社から当該製造設備を取得した時点では必要と想定されなかった、クロロプレンモノマーの排出削減設備の導入・運用に係る多額の費用が発生していることに加え、近年の米国内におけるインフレにより主要原材料費や修繕費の上昇が加速し、コストが増大状態にあります。生産面では、排出削減対策に伴う操業上の制約やサプライチェーンの寸断、自然災害に伴う計画外停止等による生産数量の減少のほか、要員の維持・確保の困難化といった問題にも直面しております。さらに、世界経済環境の変化によるクロロプレンゴムの需要後退の影響も相まって、当社グループの収益を大きく圧迫しております。
このような状況に鑑み、当社はDPEの関連固定資産の減損損失を計上するとともに、同社はクロロプレンゴム製造設備を暫定的に停止することとなりました。今後、同社では、同事業について事業譲渡や資産の譲渡の可能性を含め、あらゆる選択肢を検討することとしており、クロロプレンゴム事業の抜本的対策を着実に進めてまいります。なお、現時点で製造設備の恒久停止は決定しておりませんが、DPE生産品の需要家に対しては、現有在庫に加え当社の青海工場生産品の供給を開始いたしました。
また、大船工場の稼働停止を決定いたしました。同工場の主力製品である合繊かつら用原糸「Toyokalon®」はシンガポール子会社に事業を集約し、構造改革によるコストの削減と新製品へのシフトで収益の向上を図り、高収益事業への転換を進めてまいります。同じく大船工場で生産しております「カラリヤン®テープ」は、販売数量が減少しており、今後の事業の維持・成長が見込まれず、同テープの原料の一部である「カラリヤン® Y フィルム」も単独での事業継続は困難との結論に至り、事業撤退する予定です。なお、工場用地については、グループ内での有効な活用方法がないことから、譲渡することで資本効率の改善を図ることといたしました。
事業の縮小や撤退等を推進する一方で、注力分野である「ICT & Energy」分野の新製品として、次世代高速通信において、電気信号の伝送損失を低減させるために素材に要求される電気特性を備えた低誘電有機絶縁樹脂「スネクトン®」を上市いたしました。各種高速通信機器の銅張積層板向けでの販売を開始したほか、フレキシブル銅張積層板や各種層間絶縁材用途での採用検討が進んでおり、PC、スマートフォン、データセンター、携帯電話基地局、ウェアラブル端末、自動車など幅広い分野への展開が期待されており、新たな事業の柱に成長させていきます。また、当社は、世界各国の最先端の技術を持つスタートアップ企業への出資や提携による新規事業創出を推進しております。2024年度はウェアラブル電子聴診器に関するスタートアップ企業と高性能光学フィルムの技術を保有するスタートアップ企業へ出資しており、既存事業の改革のほか、新規事業の開発にも注力いたしました。
2つ目は、投資計画の見直しです。経営計画「Mission2030」では、当初8カ年累計で戦略投資3,600億円を含む合計5,400億円の投資を計画しておりましたが、これを見直し投資支出1,000億円の削減を目指すことといたしました。投資案件の優先順位明確化や投資計画の更なる厳選、不急案件のスケジュール見直し等、投資額の削減を図る一方で、当社の成長に不可欠な重要投資については、案件を厳選することで、経営資源を集中させております。
2024年度は、注力分野のうち「ICT & Energy」分野では、過年度に投資を決定している次世代高機能球状フィラーや窒化ケイ素の生産能力増強工事、タイの連結子会社でのアセチレンブラック生産プラント建設工事等に加え、新製品である低誘電有機絶縁材料「スネクトン®」の製造プラント建設工事を決定し設備投資を実施いたしました。また、「Healthcare」分野では、抗原迅速診断キットおよび検査試薬の生産能力増強工事等の設備投資を実施しておりますが、これらの投資は、当社の成長に必要不可欠であり、拡大する市場をしっかりと捉えた事業展開を図ってまいります。
3つ目は、2024年4月からスタートした全社をあげたコストダウンプロジェクト/ベストプラクティスプロジェクトです。これまで、コストダウンは社内の知見で実施してきましたが、このプロジェクトでは「コストベンチマーク」や「最適なコストダウン手法」など社外の知見を全面的に活用し、経営トップ直轄体制で徹底的なコストダウン活動を強力に推進いたしました。2024年度は原価低減や販売経費低減、投資の適正化等により、当初目標の10億円に対して、約13億円のコストダウンを実現しております。最終目標である2026年度の100億円のコストダウン達成へ向け、引き続き、やり抜く力を発揮して実績化につなげます。
以上の通り、2024年度は、経営計画策定時の前提条件が変動し業績が低迷していることへの打開策として、3つの施策に注力いたしましたが、DPEの固定資産の減損と製造設備の暫定停止や大船工場の稼働停止等、構造改革を推し進めた結果、特別損失を計上し大幅な赤字決算を余儀なくされました。今後、前提条件の変動をふまえて経営計画の見直しを行うこととしておりますが、基本的な方針や長期的な戦略等に変更はありません。諸施策を確実に成果につなげるべく、当社のコアバリューである「挑戦」を促進するための風土醸成や組織作りを進め、スピード感をもって取り組み業績を成長軌道に回帰させてまいります。
当社は、1915年にカーバイドおよび石灰窒素の製造販売を目的に設立され、本年5月に110周年を迎えました。会社設立以降、先人たちが、モノづくりを通じて社会に貢献することをモットーに、果敢に新しい事業に挑戦し続け、現在では、電子材料から合成ゴム、合成樹脂、そしてワクチンや検査試薬といった医療分野まで幅広い事業を展開しております。この様に、環境変化にしなやかに対応し、社会に有益なものを生み出して貢献することは110年続く当社グループの歴史そのものであり、DNAであると考えております。
そして110年後の現在、当社は、先人から受け継いだ「挑戦」「誠実」「共感」の3つのコアバリューを土台に、「化学の力で世界をよりよくするスペシャリストになる。」ことを道しるべであるパーパスと位置付けました。そして、「2030年までに、人財・経営価値を高めスペシャリティ・メガトレンド・サステナビリティの3要素をそなえた事業価値創造に集中する。」というミッションを加え、ビジョンといたしました。今一度、「安全」「品質」「環境」は企業活動を継続するための絶対条件であることを肝に銘じながら、「One Denka」で臨むことで、業績を早期に成長軌道に回帰させ、ビジョンの実現に挑戦してまいります。
2023年4月、デンカグループは新たな挑戦をはじめました。これまで指針としてきた「The Denka Value」(企業理念)、Denkaの使命、Denkaの行動指針は、従業員の声をふまえ、より未来のデンカを見据えた新たな「ビジョン」へと進化。同時に、2023~2030年度の8ヵ年を対象とする新経営計画「Mission 2030」が始動しました。
デンカの新たなビジョン
新たなビジョンは、デンカのDNAであるコアバリューを土台とし、デンカを導く北極星となるパーパス、2030年に成し遂げたい務めとしてのミッションを重ねた構成とすることで、文字の域を超え、全従業員が自分ごと化できる新しいデンカの未来像を表しました。

コアバリュー
「コアバリュー」とは、デンカのDNA。さまざまな判断をする上での拠り所にもなります。「挑戦」「誠実」「共感」は、デンカが脈々と受け継いできた姿勢を改めて言語化したものです。これからも一層大切にしていくべき信条です。
パーパス
「パーパス」とは、デンカを導く北極星。デンカが存在する根本的理由です。デンカは世界でどのような存在でありたいのか、デンカだからこそできることは何かを突き詰めて考え、「化学の力」「世界をよりよくする」「スペシャリスト」といった言葉一つひとつを選び出しました。
ミッション
「ミッション」は、デンカの務め。大胆で説得力のある野心的目標です。「コアバリュー」や「パーパス」が普遍性を持つものであるのに対して「ミッション」は明確なゴールと期限があり、例えるならば“登るべき山”です。2030年に、その頂上にたどり着くことを目指し、具体的な戦略を経営計画「Mission 2030」に落とし込んでいます。
コーポレートメッセージ
このデンカのビジョンを社内外に分かりやすく伝達する言葉としてコーポレートメッセージ「世界に誇れる、化学を。」を創りました。世界に誇れる唯一無二の存在(=スペシャリスト)として、化学の力で世界をよりよくすることを目指すという想いを込めました。
(ご参考)
経営計画「Mission 2030」
新たなビジョンの実現に向けて、2030年をゴールに取り組む経営計画が「Mission 2030」です。
事業価値創造、人財価値創造、経営価値創造の3つを成長戦略として、企業価値向上に取り組みます。事業価値創造では、デンカの全ての事業を、スペシャリティ・メガトレンド・サステナビリティの3要素をそなえた「3つ星事業」とすることを目指します。

2030年の主なKPI目標
3つの成長戦略
<事業価値創造>
事業価値創造では、想定される未来世界とメガトレンドから導き出された「3つの注力分野」である、ICT & Energy(アイシーティー・アンド・エナジー)、Healthcare(ヘルスケア)、Sustainable Living(サステナブル・リビング)に重点を置きます。そして、2030年までにスペシャリティ・メガトレンド・サステナビリティの3要素をそなえた「3つ星事業」を100%にしていきます。また、「3つ星事業」への転換が困難な事業については、売却・撤退を含め、ポートフォリオ変革を進めていきます。そのために、8年間合計で戦略投資3,600億円、研究開発費1,800億円をかけて、2030年に営業利益1,000億円以上を目指します。
並行して、地球への貢献と、企業のさらなる社会的価値向上を目指し、8年間合計で850億円の環境投資を行い、サステナビリティを追求します。
3つの注力分野
サステナビリティの追求

<人財価値創造>
社員一人ひとりが自己実現と成長を実感できる企業を目指し、人財投資と制度改革を実現します。
<経営価値創造>
ESG経営の観点から、企業存続の前提となる経営基盤の強化に取り組みます。
財務戦略
ROEとROICの改善
下記施策を通じて、ROE(株主資本利益率)とROIC(投下資本利益率)を改善させ、企業価値向上を図ります。
キャッシュアロケーション~総還元性向50%水準を維持~
営業キャッシュフローと負債を有効に活用して、8年間合計で7,400億円のキャッシュを生み出し、それを投資に5,700億円(注)、株主還元に1,700億円(総還元性向50%水準)配分します。
(注)2024年5月10日に公表した「2024年3月期 決算説明会資料」に記載のとおり、投資案件の優先順位明確化や、投資計画の更なる厳選、不急案件のスケジュール見直しなどにより、1,000億円削減し、4,700億円とすることを目指します。
※文中の将来に関する事項は、計画発表時において当社グループが判断したものであり、その達成を保証するものではありません。
当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
当社は、すべての事業活動におけるESG(環境・社会・ガバナンス)課題に対する基本的な方針となる「デンカグループESG基本方針」を、取締役会の決議に基づき、2021年11月に制定しました。当社は、サステナビリティ(中長期的な持続性)を巡る課題への対応が、企業存続を左右する重要な経営課題(マテリアリティ)であると認識し、本基本方針の遵守に努め、高い倫理観に基づく実効性のあるコーポレートガバナンスを構築することで、企業価値の向上を目指します。

当社は、2023年度より開始した経営計画「Mission 2030」に基づき、サステナビリティ(中長期的な持続性)に向けた取り組みを推進し、活動内容に対する審議と提言を行う「サステナビリティ委員会(委員長:社長)」を設置しました。
「サステナビリティ委員会」は、執行部門内の組織として、経営計画「Mission 2030」のサステナビリティに係る活動と非財務目標・KPIの進捗及びリスク・収益機会への対応について、対象部門より定期的に報告を受け、審議・提言を行い、その結果を取締役会へ報告するとともに、経営計画の進捗状況として、ステークホルダーの皆様へご報告いたします。
(a)ESG経営推進体制

(b)主要なサステナビリティ推進主体の活動状況
当社は、企業としての社会的責任を果たし、長期にわたり事業を継続するためには、サステナビリティ関連のリスクと機会に適切に対処する取り組みが大前提であるという考えから、経営計画「Mission 2030」における「3つの成長戦略」において、サステナビリティを巡る重要経営課題(マテリアリティ)を考慮した基本的な方針を定め、施策を推進しています。
「事業価値創造」としては、デンカグループの「2050年までのカーボンニュートラルの実現」「サステナブルな都市と暮らしの充実」「環境の保全・環境負荷の最小化」を方針として、CO2を代表とする温室効果ガスの削減となる、低炭素アセチレンチェーンの確立を含むポートフォリオ変革の実施、再生可能エネルギーの拡大、SDGsに貢献する製品開発、循環型社会の実現となるスチレン系包装材料のサーキュラーエコノミー推進等の施策を進めます。
また、「人財価値創造」としては、社員一人ひとりが自己実現と成長を実感できる企業を目指し、「人財育成体制の強化」「ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョンの推進」「健康経営と働き方改革」を方針として、将来の経営層育成と全社一貫の教育体系の構築および自ら学ぶ文化の醸成、多様な考え方を持った人間が活躍できる職場環境・制度・文化の醸成、「明日も来たくなる職場」のための制度改革を推進します。
そして「経営価値創造」では、ESG経営の観点から、企業存続の前提となる経営基盤の強化を図るため、プロセス革新、人権の尊重、安全最優先、サプライチェーンマネジメント、製品安全、コーポレートガバナンスの高度化を基本方針として掲げています。
(a)事業価値創造~サステナビリティの追求~

(b)人財価値創造

サステナビリティ委員会は、経営計画「Mission 2030」のサステナビリティに係る活動指標と目標を、担当する担当部門から報告を受けて審議と提言を行い、取締役会への報告を行います。重要なテーマである気候変動問題と人権尊重の取り組みに関わるリスク管理および統合リスクマネジメントについては、以下の通り実施しており、さらにこれらの取り組みを推進いたします。
(a) 気候変動(TCFD)
中長期の気候変動問題への対応は、取締役会による監督の下、サステナビリティー推進担当役員が統括しています。目標や基本方針の策定、重要施策、指標の設定・評価などの非財務関連の重要事項は、サステナビリティ委員会(年5回開催)で議論され、取締役会が意思決定を行います。
また、環境対応方針の包括的な管理・運営のため、ワーキンググループを設置しています。毎月行われる会議では、担当役員がリーダーとなり、実務面を含めた議論を行い、対応の促進を図るとともに、重要事項については取締役会への報告を行います。
気候変動に伴うシナリオ分析に基づく、デンカとしてのリスクと機会の抽出
(b) 人権尊重の取り組み
デンカグループは、人権に関する国際規範の遵守を重視し、国際連合「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づいた行動に努めています。2023年9月に取締役会で承認・制定された「デンカグループ人権方針」は、すべての企業活動において人権侵害を排除するための施策を具現化するためのものです。
経営計画「Mission 2030」においては、2030年目標に「グループ・サプライチェーンの人権リスク特定と対応プロセスの確立」を定め、人権尊重の取り組みを進めています。「デンカグループ人権方針」を全グループ社員に周知・浸透させるとともに、人権デュー・ディリジェンスと人権救済メカニズムについて、知見を有する第三者とともに計画的に取り組みます。

<2024年度迄の取り組み>
① 人権に関する社内説明会の実施
デンカグループ全社員を対象とした説明会を実施し、「デンカグループ人権方針」と「今後の人権の取り組み」を取り上げました(2023年11月30日、2023年12月6日)。
② 人権への影響評価(人権リスクアセスメント)
2023年度下期に、重要人権リスク特定のためのヒアリング(対象:本社事業部門・管理部門、労働組合)を実施し、優先的に取り組むべきリスク項目(10個)を特定しました。2024年度以降も対象範囲を広げてヒアリングを実施し、防止・軽減のための対応策を進め、人権デュー・ディリジェンスプロセスの確立を目指します。
<デンカグループ重要人権リスク>
(c)統合リスクマネジメント
当社は、気候変動(TCFD)に関連した社会のレジリエンスの要請の高度化、人権尊重の高度化を含む急速な社会変化、めまぐるしい事業環境の変化や本格化する事業ポートフォリオ変革など、事業をめぐる不確実性が増大する中でも、これらの不確実性を自社の成長の機会と捉え、サステナビリティへの取り組みと事業活動とを統合していきます。
これらの取り組みに際し、デンカグループを取り巻くさまざまなリスクを適切にコントロールし、資本コストを最小化していくため、当社は、社長を委員長とするデンカグループ・リスクマネジメント委員会を組織しております。同委員会は、統合リスクマネジメント(ERM)の仕組みと年間を通じた諸活動を通じて、デンカグループのリスク管理体制の強化を図っています。
デンカグループ・統合リスクマネジメント体制図

デンカグループ・リスクマネジメント委員会は、具体的な、リスクの識別・評価、リスクの管理、サステナビリティ推進活動への統合を、以下の手順で実施しています。
① リスクの識別・評価: 化学業界にある当社にとって脅威と考えられる56の主要なリスク項目を抽出し、それぞれのリスクを、❶発生頻度 ❷影響度 ❸対策度合い の評価軸を用いて5段階で評点化し、更にリスクオーナーとのディスカッションを経て最終的にデンカグループにとっての重大リスクを選定します。2023年度に、下表の10大重要リスクを抽出しています。
② リスクの管理: 重大リスクに対しては、課題の把握とリスク対策の進捗を継続的にモニタリングすることにより、リスク顕在時における業績への影響低減に努めています。2024年度は、特定された優先リスクへの対応として、サイバー攻撃への初動対応強化、事業継続計画の見直しおよび事業所・工場の物理的セキュリティの調査を実施いたしました。
③ 全体への統合: また、デンカグループ・リスクマネジメント委員会は、リスク低減への取り組み状況を、気候変動(TCFD)や人権尊重への取り組みと併せて、定期的に取締役会へ報告しており、それぞれがサステナビリティ推進における機軸として認識されています。同委員会は、年間を通じてこれらのリスク低減活動を実施し、その結果を分析して翌年度のERM実施計画に反映しております。これらの一連の活動により、デンカグループのリスク管理が統合される仕組み・プロセスとなっています。

統合リスクマネジメント(ERM)の全体図

サステナビリティ関連のリスク及び機会に関する連結会社の実績を長期的に評価し、管理し、及び監視するために用いる情報として、当社は、経営計画「Mission 2030」の事業価値創造、人財価値創造、経営価値創造という3つの成長戦略の中で、非財務KPIによる指標を設けるとともに、経営計画最終年度である2030年度目標を設定しています。
経営計画「Mission 2030」における主要なKPI目標は、「
※提出会社単体の状況を記載しています。
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりであります。ただし、ここに記載した事項は、当社グループに関する全てのリスクを網羅したものではなく、現時点では予見出来ないまたは重要と見なされていないリスクの影響を将来的に受ける可能性があります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1)外部事業環境等
当社グループの経営成績は、自動車や電子部品などの需要動向により影響を受けるほか、原油や基礎石油化学製品などの原燃料市況ならびに為替相場の変動、関税の引き上げ等の影響を受ける可能性があります。当社グループは、経営計画「Mission 2030」において、全ての事業をスペシャリティ・メガトレンド・サステナビリティの3要素をそなえた「3つ星事業」とすることを目指し、外部環境の変化に左右されにくい、企業体質の強化を進めてまいります。
(2)品質、製造物責任
昨今の科学技術の急速な発展により、品質保証活動は複雑化しております。当社グループの製品やサービスに品質問題が発生した場合は当社グループの業績と財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。
当社グループは、社会および顧客の信頼を第一に考え、安心して使用できる製品の提供のため、本社コーポレート部門、各事業部門、各生産拠点に品質保証部門を配置する3層の品質保証体制を取っております。当社および主要子会社の全事業所の対象製品における品質管理、および継続的な品質改善に努めることで、ステークホルダーからの当社への満足度向上にむけ推進しております。
(第三者認証等における不適切行為について)
2023年5月29日に公表しました、当社および持分法適用関連会社である東洋スチレン株式会社が製造・販売する樹脂製品の一部における米国の第三者安全科学機関であるUnderwriters Laboratories Limited Liability Company等の認証に関する不適切行為およびその公表後設置した外部調査委員会によるリニエンシー全社アンケートにて認定された一連の不適切行為について、再発防止策を策定、公表し、是正を推進してまいりました。その結果、是正処置の大部分が完了し、再発防止策についてもほぼ計画通り進捗しました。なお、その内容は当社公式ホームページにて適宜公開し、透明性の確保にも努めております。
また、コンプライアンス最優先の経営姿勢をグループ全体に浸透させるべく、経営トップによるタウンホールミーティングを開催し、コミュニケーション基盤の強化を推進しました。
(3)事故・自然災害
当社グループは、安全最優先をすべての生産に係る活動の基盤と位置付けております。2023年の配管破裂事故を教訓に、その再発防止対策であるリスクアセスメントの質的向上、工事安全管理、安全保安教育、安全監査など、すべての現場で災害を起こさないための総合的な対策を進めております。しかしながら、重大な産業事故や、地震、気候変動による集中豪雨および大型台風などの自然災害が発生した場合、従業員や第三者への人的、物的な損害、生産設備の損壊や生産停止等が生じるリスクがあり、当社グループの業績と財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。
(4)環境
当社グループは、環境に関する各種法律、規制を遵守するとともに、パリ協定および日本政府が掲げる目標を念頭に、2050年のカーボンニュートラル達成に向けた温室効果ガスの排出量削減に関する中長期目標を定め、自家水力発電所建設などを通じたクリーンエネルギーの利用拡大、温室効果ガスを回収・固定化・有効利用する革新技術の開発、製品のライフサイクルを通じた地球温暖化ガスの排出削減、グループ各工場の環境負荷物質排出削減など、環境負荷の低減に取り組んでおります。しかしながら、環境に関する規制の強化やカーボンプライシング(炭素税・排出権取引)が発動された場合、事業活動の制限や対応費用の負担等が発生し、当社グループの業績と財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。
(5)海外事業展開
当社グループは、アジア、米国、欧州等の国および地域に進出し、現地生産や販売をおこなうなど、海外展開を推進しております。海外での事業活動には予期できない法律や制度の変更、労使や人材確保の問題、テロや戦争などによる社会的混乱等のリスクが内在しており、これらのリスクが発生した場合、当社グループの業績と財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。
(6)財務
当社グループは、将来の安定的な成長を持続するため、良好な財務バランスを維持することが重要と考えており、資金需要に見合った資金調達をおこなうことを基本的な方針としております。資金の流動性については、適正な水準の現預金を保持した上で、不測の事態に対応するため、取引金融機関と貸出コミットメント契約を締結することで流動性を確保しております。また、長期借入金の金利を固定化する等、金利変動リスクの低減を図っております。しかしながら、金融環境が急激に悪化した場合、資金調達リスクや金利の上昇等が発生し、当社グループの業績と財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。
(7)固定資産の減損
当社グループは、固定資産の減損に係る会計基準を適用しております。当社グループが保有する固定資産について、事業環境の著しい悪化による収益性の低下等があった場合には、減損損失が発生し、当社グループの業績と財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。
(8)訴訟等
当社グループは、倫理規定をはじめ各種社内規定に基づき、国内外の法令遵守はもちろんのこと、当社グループの社会における信頼を維持・確保することに努めておりますが、広範な事業活動を行う中で訴訟やその他の法律的手続きの対象となり、重要な訴訟等の提起を受けた場合には、当社グループの業績と財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。
なお、訴訟等については「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (2) その他 ② 訴訟」をご参照下さい。
(9)新型コロナウイルス等の感染症
当社グループは、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、顧客、従業員、関係先等の安全・安心を第一に考え、国内外の事業所において各国の状況にあわせた感染防止対策をおこなっております。
今後、新型コロナウイルスやその他の感染症の流行が発生した場合には、ロックダウンなどによる活動の制限、サプライチェーンの停滞、世界経済の悪化などにより、当社グループの業績および財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(10)ロシア・ウクライナ情勢
当社グループはESG基本方針に則り、人権の尊重やサステナビリティの観点から、ロシア・ウクライナ情勢に対する国際社会の動きや日本政府の方針を尊重するとともに、日本政府を含むステークホルダーと建設的な対話に努め、適切に対応してまいります。
現下の情勢は長期化しており、今後一部原料の調達難に伴う操業への影響、およびナフサ・天然ガス・石炭など原燃料価格の継続的な高騰などにより、当社グループの業績および財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
その他、国内外の経済・政治情勢、技術革新、株式相場の変動、繰延税金資産の取崩し等が、当社グループの業績と財務状況に影響を及ぼす可能性があります。
当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の概要は次のとおりであります。
当期のわが国経済は、個人消費や設備投資が持ち直すなど、景気は緩やかに回復しました。世界経済は、全体としては持ち直しの動きがみられましたが、中国経済の減速や欧米での物価高など、先行き不透明な状況が続きました。さらに、足もとでは米国の関税政策の影響や為替の急激な変動など景気減速の懸念が高まっています。
このような状況下、当社グループは、2023年度にスタートした8カ年の経営計画「Mission2030」に掲げる「事業価値創造」、「人財価値創造」、「経営価値創造」の3つの成長戦略にもとづく施策を推進し、業容の拡大と収益の確保に注力いたしました。
この結果、当期の業績は、原燃料価格の上昇に応じた販売価格改定および円安による手取り増などにより、売上高は4,002億51百万円と前年同期に比べ109億87百万円(2.8%)の増収となりました。収益面では、販売数量が減少したほか、海外子会社の為替換算影響などによる固定費の増加があったものの、円安による交易条件の改善があり、営業利益は144億13百万円(前年同期比10億36百万円増、7.7%増益)となり、経常利益は76億23百万円(前年同期比21億48百万円増、39.3%増益)となりました。親会社株主に帰属する当期純損益は、特別損失として大船工場の稼働停止に伴う事業整理損や米国の子会社デンカパフォーマンスエラストマー社で固定資産減損損失を計上したことから、123億円の損失(前年同期は119億47百万円の利益)となりました。
<電子・先端プロダクツ部門>
球状アルミナや球状シリカは、パソコンやスマートフォン用半導体向けの需要は緩やかな回復にとどまりましたが、生成AI用半導体向けの需要が拡大し、全体で増収となりました。高機能フィルムも電子部品向けの需要が緩やかに回復し増収となりました。また、アセチレンブラックの販売は、xEV向けは前年を下回りましたが、高圧ケーブル向けは前年を上回り、全体で増収となりました。このほか、LED向けサイアロン蛍光体“アロンブライト”は販売数量が増加し増収となり、高信頼性放熱プレート“アルシンク”も、電鉄向けの需要回復や、再生可能エネルギーの直流送電用途での需要拡大により増収となりました。一方、セラミックス回路基板は販売数量が前年を大幅に下回り減収となりました。
この結果、当部門の売上高は922億3百万円(前年同期比43億64百万円(5.0%)増収)となり、営業利益は91億68百万円と前年同期に比べ1億46百万円(1.6%)の増益となりました。
<ライフイノベーション部門>
インフルエンザワクチンの出荷は前年並みとなりました。一方、POCT検査試薬は、新型コロナとインフルエンザの同時診断キットは、検査需要は旺盛に推移しましたが生産能力増強工事に伴う設備の一時停止により十分な供給量が確保できなかったほか、年度末には流行が収束し、販売数量が前年を下回り減収となりました。このほか、その他の検査試薬の販売は前年並みとなりました。
この結果、当部門の売上高は432億62百万円(前年同期比38億16百万円(8.1%)減収)となり、営業利益は96億2百万円と前年同期に比べ21億31百万円(18.2%)の減益となりました。
<エラストマー・インフラソリューション部門>
クロロプレンゴムの需要は低調に推移しており、販売数量は前年並みとなりました。また、コスト面では、米国の子会社デンカパフォーマンスエラストマー社で物価上昇による固定費の増加や原材料価格の上昇があり、収支を圧迫しました。このほか、農業・土木用途向けのコルゲート管やセメントの販売も前年並みとなりましたが、特殊混和材の販売は工事遅れなどの影響により前年を下回りました。
この結果、当部門の売上高は1,116億73百万円(前年同期比3億18百万円(0.3%)増収)となり、79億62百万円の営業損失(前年同期は営業損失92億95百万円)となりました。
<ポリマーソリューション部門>
当部門は各製品で原燃料価格の上昇に応じた販売価格の改定を進めました。数量面では、デンカシンガポール社のMS樹脂は前年並みとなり、AS・ABS樹脂や透明樹脂は前年を上回りました。このほか、食品包材用シートおよびその加工品や合繊かつら用原糸“トヨカロン”は、需要低迷が続いており前年並みとなりました。
この結果、当部門の売上高は1,353億65百万円(前年同期比111億25百万円(9.0%)増収)となり、営業利益は11億54百万円(前年同期は営業損失1億2百万円)となりました。
<その他部門>
YKアクロス株式会社等の商社は、取扱高が概ね前年並みとなりました。
この結果、当部門の売上高は177億46百万円(前年同期比10億4百万円(5.4%)減収)となり、営業利益は23億95百万円と前年同期に比べ4億98百万円(26.3%)の増益となりました。
当連結会計年度末の総資産は、前連結会計年度末に比べ392億79百万円増加の6,555億24百万円となりました。
流動資産は、棚卸資産の増加などにより前連結会計年度末に比べ50億7百万円増加の2,704億55百万円となりました。固定資産は有形固定資産の増加などにより、前連結会計年度末に比べ342億72百万円増加の3,850億69百万円となりました。
負債は、有利子負債の増加などにより、前連結会計年度末に比べ478億98百万円増加の3,472億28百万円となりました。
非支配株主持分を含めた純資産は前連結会計年度末に比べ86億19百万円減少の3,082億96百万円となりました。
以上の結果、自己資本比率は前連結会計年度末の49.9%から45.2%となり、1株当たり純資産は3,568円69銭から3,436円95銭となりました。
当連結会計年度末における現金及び現金同等物は、370億2百万円となり、前連結会計年度末と比べ16億16百万円の増加となりました。なお、当連結会計年度におけるキャッシュ・フローの状況は以下のとおりです。
営業活動によるキャッシュ・フローは、税金等調整前当期純利益が減少したことなどにより、186億20百万円の収入となりました。
投資活動によるキャッシュ・フローは、設備投資の支払いなどにより、595億86百万円の支出となりました。
財務活動によるキャッシュ・フローは、借入金の増加などにより、401億18百万円の収入となりました。
なお、キャッシュ・フロー指標のトレンドは以下のとおりです。
自己資本比率………………………………自己資本/総資産
時価ベースの自己資本比率………………株式時価総額/総資産
債務償還年数………………………………有利子負債/営業キャッシュ・フロー
インタレスト・カバレッジ・レシオ……営業キャッシュ・フロー/利息支払額
(注) 1.いずれの指標も連結ベースの財務数値により算出しております。
2.株式時価総額は、期末株価終値×期末発行済株式数(自己株式控除後)により算出しております。
3.有利子負債は、連結貸借対照表に計上されている負債のうち利子を支払っている全ての負債を対象としております。
当社グループの生産・販売品目は広範囲かつ多種多様であり、同種の製品であっても、その容量、構造、形式等は必ずしも一様ではなく、また受注生産形態をとらない製品がほとんどであるため、セグメントごとに生産規模および受注規模を金額あるいは数量で示すことは行っておりません。
このため「生産、受注及び販売の実績」については、「①財政状態及び経営成績の状況」におけるセグメントの経営成績に関連付けて記載しております。
文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。
2024年度のわが国経済は、個人消費や設備投資が持ち直すなど、景気は緩やかに回復しました。世界経済は、全体としては持ち直しの動きがみられましたが、中国経済の減速や欧米での物価高など、先行き不透明な状況が続きました。さらに、足もとでは米国の関税政策の影響や為替の急激な変動など景気減速の懸念が高まっています。
このような状況下、当社グループは、2023年度にスタートした8カ年の経営計画「Mission2030」に掲げる「事業価値創造」、「人財価値創造」、「経営価値創造」の3つの成長戦略にもとづく施策を推進し、業容の拡大と収益の確保に注力いたしました。
この結果、当期の業績は、原燃料価格の上昇に応じた販売価格改定および円安による手取り増などにより、売上高は増収となりました。収益面では、販売数量が減少したほか、海外子会社の為替換算影響などによる固定費の増加があったものの、円安による交易条件の改善があり、営業利益、経常利益は増益となりました。親会社株主に帰属する当期純損益は、特別損失として大船工場の稼働停止に伴う事業整理損や米国の子会社デンカパフォーマンスエラストマー社(以下、DPE)で固定資産減損損失を計上したことから、当期純損失と大きく減益となりました。
2024年度は、経営計画「Mission 2030」の策定時の前提条件が変動し、業績が低迷していることを打開すべく、成長軌道回帰への基盤づくりに注力いたしました。その中の最優先事項が、「事業価値創造」のポートフォリオ改革における、クロロプレンゴム事業の抜本的対策です。DPEは、コストの上昇、生産数量の減少、要員面の問題や世界的なクロロプレンゴムの需要後退の影響により、当社グループの収益を大きく圧迫しております。こうした状況に鑑み、当社はDPE関連固定資産の減損損失を計上するとともに、同社はクロロプレンゴム製造設備を暫定停止することといたしました。
また、大船工場の稼働停止を決定しました。同工場の主力製品である合繊かつら用原糸「Toyokalon®」については、需要の構造変化や減少、さらに原料価格高騰や固定費の増加をふまえ、シンガポール子会社への事業集約等により高収益事業への転換を図ることといたしました。
このほか、投資の厳選や、外部の知見を活用し徹底したコストダウンプロジェクトを展開しましたが、2024年度はDPEや大船工場に関する構造改革を推し進めた結果、特別損失を計上し、大幅な赤字決算を余儀なくされました。今後、成長軌道へ回帰するための基盤をさらに強固なものとするべく、クロロプレンゴム事業については、DPEの事業譲渡や資産の譲渡の可能性を含め、あらゆる選択肢を検討し、抜本的対策を着実に進めるとともに、投資の厳選とコストダウンプロジェクトの実績化に引き続き注力いたします。
当社グループの当連結会計年度におけるキャッシュ・フローは、営業活動によるキャッシュ・フローは186億20百万円の収入となりましたが、経営計画「Mission2030」にもとづく積極的な投資による支出をおこない、株主還元方針にもとづく配当を実施した結果、当連結会計年度末のネット有利子負債残高は前連結会計年度末比で416億95百万円増加し、1,806億77百万円となりました。なお、自己資本比率は45.2%、ネットD/Eレシオは0.61倍となり、引き続き良好な財政状態を維持しているものと判断しております。
資本の財源及び資金の流動性については、当社グループでは将来の安定的な成長を持続するため、良好な財務バランスを維持することが重要と考えており、資金需要に見合った資金調達を行うことを基本的な方針としております。
当社グループの資金需要のうち主なものは、運転資金、設備投資資金等であり、必要資金の調達については、自己資金を主とし、運転資金の一部を短期借入金やコマーシャル・ペーパーによって、設備資金等の長期資金の一部を長期借入金や社債によって外部調達しております。
資金の流動性については、適正な水準の現預金を保持した上で、不測の事態に対応するため、取引金融機関と貸出コミットメント契約を締結することで流動性を確保しております。
当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に準拠して作成されております。連結財務諸表の作成にあたっては、重要な会計方針と合理的と考えられる見積りに基づき、収益、費用、資産、負債の計上について判断しております。
当社グループの連結財務諸表の作成においては、例えば一般債権に対する貸倒引当金の引当については主として過去の貸倒実績率を、繰延税金資産の計上については将来の税務計画を、退職給付債務については、昇給率、割引率などを使用して見積っておりますが、見積りにつきましては不確実性があるため、実際の結果と異なる場合があります。
連結財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び仮定のうち、主なものは以下のとおりであります。
(a) 固定資産
当社グループは、固定資産のうち減損の兆候がある資産または資産グループについて、当該資産または資産グループから得られる割引前将来キャッシュ・フローを見積り、その総額が帳簿価額を下回る場合には、帳簿価額を回収可能価額まで減額し、減損損失として計上しております。また、年次の減損テストが必要な場合、資産グループの公正価値を算定し、その帳簿価額が公正価値を超過する場合には、公正価値まで減額を行います。将来キャッシュ・フローの見積りにあたっては、事業計画をもとに最新の事業環境に関する情報等を反映しているほか、必要に応じて外部専門家による評価を活用しております。
減損損失の認識及び測定に当たっては、慎重に検討をおこなっておりますが、将来の予測不能な事業環境の著しい悪化等により見直しが必要となった場合、減損損失が発生する可能性があります。
(b) 繰延税金資産の回収可能性
繰延税金資産の回収可能性は、収益力もしくはタックス・プランニングに基づく将来の課税所得の十分性により判断しており、課税所得の算定にあたっては、各納税主体の事業計画をもとに最新の事業環境に関する情報等を反映し見積っております。
当該見積り及び当該仮定について、将来の予測不能な経営環境の著しい悪化等により見直しが必要となった場合、評価性引当額が変動し損益に影響を及ぼす可能性があります。
(c) 退職給付債務の算定
当社グループでは、簡便法を採用している連結子会社を除き、確定給付制度の退職給付債務および関連する勤務費用について、数理計算上の仮定を用いて算定しております。数理計算上の仮定には、割引率、昇給率、期待運用収益率等の計算基礎があり、これらの計算基礎については、例えば期待運用収益率であれば前提となる企業年金の運用方針などを、定期的かつ合理的な見直しをおこなっております。
当該見積り及び当該仮定について、将来の不確実な経済条件の変動等により見直しが必要となった場合、退職給付債務および関連する勤務費用が変動する可能性があります。
(技術援助契約の概要)
(財務上の特約の付されたローン契約の概要)
2024年4月1日前に締結されたローン契約については、「企業内容等の開示に関する内閣府令及び特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」附則第3条第4項により記載を省略しております。
当社グループは、「一番上手にできる技術」の幅を広げ、持続可能な社会に貢献できるデンカならではの製品開発を推進し、新たな価値を生み出す魅力的な新規事業・製品の創出を加速していきます。そのために、複数の異種技術を融合し、組織の境界、領域を超えたデンカグループ全体のシナジー効果を発揮すべく、グループの総合力を活かす研究開発を推進しております。
デンカイノベーションセンターを中核拠点として、多くの国内外産学官とのオープンイノベーションを推進しております。物質材料研究機構(NIMS)とのNIMS-Denka次世代材料研究センター、山形大学および新潟大学との包括共同研究を展開する等、引き続き積極的な外部連携強化を推進致します。
これらの研究開発、製品化をさらに加速するため、新事業開発部門、コーポレート研究部門・デンカイノベーションセンターを再編するとともに既存事業部門との連携をこれまで以上に強化して、新事業創出の強化と既存事業の更なる発展、研究の責任・運営体制を明確化して、市場の動向を直視し、次世代の市場ニーズに確実かつ迅速に対応することで、早期の実需化につなげたいと考えております。
また、ESG(環境・社会・統治)の視点を常に意識し、国連が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)を羅針盤として研究開発に注力致します。
当連結会計年度におけるグループ全体の研究開発費は
(1)電子・先端プロダクツ
電子部材分野では、市場が拡大するパワーモジュール、車両電動化向けなど電子回路基板や放熱材料の多様なニーズに対応したソリューションを提案すべく、当社固有のセラミックスの開発技術や有機・無機材料の複合化技術の進化による高機能材料や新規部材の研究開発を、産学官との連携も行いながら推進しております。
高機能粘接着分野では、ハードロックSGA(高機能構造用接着剤)の新グレード、新規用途開発を推進するとともに、ハードロックOP/UVでは紫外線硬化技術を応用した特殊高機能接着剤の新製品開発の他、電子デバイス製造プロセス用仮固定剤の開発(TBM)などの新規市場開拓にも取り組んでおります。
高機能フィルム分野では、当社保有の樹脂素材技術、有機・無機複合材料設計技術に加え、シートやフィルムの先端加工技術を活かし、ダイアタッチメントフィルム(DAF)用ダイシングテープをはじめとした、電子部品半導体搬送テープ、半導体ウェハやパッケージの保護・仮固定用粘着テープや5Gの伝送損失低減フィルムなど、最先端ニーズを先取りした新規製品を供給すべく開発を進めております。
先端機能材料分野では、半導体封止材向け球状シリカ、放熱材料向け球状アルミナ等、フィラーの高性能化を進めるとともに、5Gに対応する低誘電正接材料(シリカ等)など、先進的な各種機能材料の開発を積極的に推進しております。新規開発品として、回路基板などに用いられる低誘電有機絶縁材料(LDM、商品名スネクトン)の量産設備の投資を行っており、さらに拡販予定です。
機能性セラミックス分野では液晶ディスプレイ・照明に用いるLED向けサイアロン蛍光体や放熱材料として用いられる各種窒化物等の特性向上、さらに低誘電特性を持つフィラーの開発にも取り組んでおります。
特殊導電材料分野では、車両電動化に必要不可欠なリチウムイオン二次電池市場での事業を更に拡大すべく超高純度かつ高機能なカーボンブラックの新製品開発と事業化に取り組んでおります。
当セグメントに係わる研究開発費は
(2)ライフイノベーション
ヘルスケア分野では、デンカイノベーションセンター(東京都町田市)、五泉事業所(新潟県五泉市)、Denka Life Innovation Research (シンガポール)、Icon Genetics(ドイツ)の4拠点体制で、(ポテンシャル)ニーズ優先の研究開発に取り組んでおります。グローバルな視点で最先端の技術を積極的に導入しつつ、スペシャリティー事業の成長加速化を進めるため、予防・早期診断の取り組みに加え、がん領域・遺伝子領域など新規事業展開のための研究開発を推進しております。
がん治療用ウイルスG47Δについては、製剤の供給が当初の計画よりも低い水準で推移しています。現在、使用をご希望される医療機関と患者の皆様にお届けすることを目指し、製造プロセスの見直しを進めています。G47Δを用いたがんウイルス療法は、従来のがん治療法とは全く異なる新規治療法であり、がん治療の体系を根本から変革する可能性のあるものです。当社は、G47Δ製剤の製造を通じ、この治療法の普及に取り組んで行きます。
遺伝子領域においては、戦略的パートナーであるPlexBio社(台湾)の保有する迅速かつ簡便に同時多項目の細菌同定を可能とする測定技術IntelliPlex™を活用し、感染症領域での遺伝子検査システムの開発を推進しており、敗血症の検査薬は早期上市を目標に取り組んでおります。また、新たな取り組みとして、国立大学法人東北大学との共同研究成果をもとに国内外の内視鏡治療技術発展への貢献を目指した「Medical Rising STAR」プロジェクトを始動しております。プロジェクト第1弾として内視鏡的止血術のシミュレータモデルの試験販売を23年8月に開始し、続いて、プロジェクトの第2弾として胆膵内視鏡シミュレータモデルの開発を行い、24年夏に試験販売を始めました。さらに、製品ラインナップを強化すべく新製品の開発を進めております。
既存事業領域であるワクチン・臨床試薬についても、当社グループの開発リソースを集結させ、次世代mRNAインフルワクチンの開発研究、ならびに各種感染症用迅速検査試薬や健康管理に欠かせない臨床生化学検査試薬や免疫検査試薬の新製品研究開発を、産学連携も活用して推進しており、Mission2030に向けた製品開発活動を活発化させています。
当セグメントに係わる研究開発費は
(3) エラストマー・インフラソリューション
クロロプレンゴム、ERゴムなどのエラストマー分野においては、海外市場を含めた事業拡大のために、スペシャリティー製品の開発および生産技術の強化を進めております。クロロプレンゴムは世界トップシェア維持を確実なものとすべく、独自の技術で差別化した新規グレードを開発し事業の拡大を推進しています。ERゴムは配合技術や新グレードの開発を通じて高付加価値化を図り、事業強化を推進しています。また、エラストマー加工技術を保有するデンカエラストリューション社との連携も強化しております。
特殊混和材分野では、従来からの鉄道や道路などのトンネル建設向けコンクリート混和材に加え、コンクリート製品の製造時に二酸化炭素を吸収・固定化・排出削減できる環境対応技術、3Dプリンティングやコンクリート二次製品の生産性向上、工事現場施工時の仕上げ時間短縮といった省力化に繋がる技術、老朽箇所の修繕・補強、構造物の長寿命化に貢献する技術といった、次世代型技術・製品の開発と事業化に注力しております。
無機製品分野では、無機材料設計の基盤技術を応用し、結晶質アルミナ短繊維と多孔質セラミック材料を複合した耐火炉用高断熱ボードを開発し、事業化を進めております。
アグリプロダクツ分野では国内のみならず海外市場に向けた次世代農業資材として、従来の肥料開発で蓄積した製品技術と遺伝子発現解析技術を基盤とした高機能性バイオスティミュラント製品の開発を推進しております。
当セグメントに係わる研究開発費は
(4)ポリマーソリューション
透明樹脂、耐熱樹脂、シュリンクラベル用樹脂など、特長あるスチレン系機能性樹脂の分野では、市場トレンドにマッチした新規用途展開並びに新規の高機能性樹脂の開発、そして更なる品質向上や生産技術の深耕をシンガポール子会社と一体となり推進しております。
さらに、新しい重合技術やポリマーアロイ技術を駆使した新規高分子材料の開発にチャレンジし、新規機能性樹脂の開発に取り組んでおります。
また、スチレン系製品に関しては、持分法適用関連会社である東洋スチレン社と取り組んでいるスチレンケミカルリサイクルによる使用済みポリスチレンを原料とした再資源化・再製品化や、バイオマス素材の活用(マスバランス方式を含む)など、スチレン系材料の環境対応に関わる各種開発活動にも取り組んでおります。
機能樹脂分野においては、ABS樹脂の耐熱性付与剤であるデンカIP®に関して、当社が長年にわたって高分子樹脂設計で培ってきたスチレン系の精密・重合技術をより深化させ、塗装性等の特性に優れるグレード デンカIPXシリーズの市場開発を進めております。光学用途では、液晶テレビの高輝度化・高精細化に対応した導光板用透明樹脂の市場展開を推進中です。更に今後の市場トレンドにマッチした開発、および環境対応にフォーカスした各種開発も進めております。
化成品分野においては、PVA樹脂の水溶性、生分解性などの特長を活かした開発を推進しております。
樹脂加工製品分野においては、市場のトレンドにマッチしたウィッグ・ヘアピース用合成繊維、食品包装用の耐熱耐油性透明シート、電子レンジ対応容器等に用いる耐熱性透明シートなどの製品群の開発を引き続き推進しております。
食品包装材料分野においては、バイオマス材料の活用等による各種環境対応新規製品、フードロス低減に対応した製品を開発し市場展開を進めております。ウィッグ・ヘアピース用合成繊維 Toyokalon®に関しては、市場ニーズにマッチした製品開発や市場展開および環境負荷低減ニーズに対応した製品開発を進めております。なお本製品の研究活動は、2026年3月末の大船工場稼働停止に伴いシンガポール子会社へ移管予定です。
当セグメントに係わる研究開発費は
(5) その他事業
産業設備の設計・施工等を行なっているデンカエンジニアリング㈱では効率的な粉体の空気輸送設備の技術開発や廃水設備等の研究開発をおこなっている他、各事業所に設置している生産技術部を中心に、デジタル技術を活用した生産性向上について検討する等、研究段階から事業化を見据えたプロセス設計、開発の充実を図っております。
その他事業に係わる研究開発費は