文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものであります。
(1) 会社の経営の基本方針
当社グループの経営理念は、次のとおりであります。
「創業者精神を持って、空気、水、そして地球にかかわる事業の創造と発展に、英知を結集する」
当社グループの事業の原点は、社名に冠した「空気」と「水」であり、このかけがえのない地球の資源を活かして事業を創出し、社会や人々の暮らしに貢献していくことが当社グループの使命であります。当社グループは、この経営理念の下、目まぐるしく変化を続ける経営環境の中でグループの総合力を発揮し、社会の発展に役立つ多種多様な製品・サービスを提供する企業であり続けることを目指しております。
(2) 前中期経営計画の振り返り
当社は、2030年度に目指す姿として「terrAWell30」を定め、当社グループが有する多様な事業領域と、気候変動や超高齢化といった社会課題を踏まえた2つの成長軸である「地球環境」と「ウェルネス」に沿って、事業活動を通じた社会課題の解決に貢献し、持続的な成長と企業価値の向上を図ってまいりました。前中期経営計画「terrAWell30 1st stage」では2010年からグループ全社を挙げて取り組んできた「売上収益1兆円」を2022年度に達成し、新たな企業ステージに立ちました。グループ経営資源の最適化によってシナジーを創出し、成長領域である海外およびデジタル・半導体関連事業の拡大とともに国内事業の収益力強化を図り、社会課題解決に貢献する新事業の創出を推し進めた結果、1st stageにおける売上収益、営業利益の年平均成長率(CAGR)はそれぞれ6.6%、4.9%と着実に伸長しました。
(注) 1 親会社所有者帰属持分当期利益率
(親会社の所有者に帰属する当期利益÷親会社の所有者に帰属する持分(期首期末平均))
2 投下資本利益率=(営業利益×(1-税率))÷(資本合計+有利子負債)(期首期末平均)
3 2024年5月9日公表の通期業績予想
(3) 「terrAWell30 2nd stage」の位置づけ
2025年度を起点とする新中期経営計画「terrAWell30 2nd stage」においては、売上収益1兆円に向けた「規模の拡大」から「収益性の追求」へと経営をシフトしていきます。既存事業を徹底的に見直し、生み出した経営資源を効率的に成長事業へ投資するとともに、低成長・低収益事業を中心に改善・合理化を実践し、事業ポートフォリオを変革していきます。3rd stage(2028~2030年度)での「持続的成長への進化」につなげ、2030年に向けて時価総額1兆円規模(現状の2倍水準)を目指してまいります。詳細につきましては、当社WEBサイトをご参照ください。
https://www.awi.co.jp/ja/ir/management/plan.html

(4)経営環境、経営方針及び対処すべき課題
世界経済は、米国の関税政策動向を中心に不確実性が高く、景気後退、金融市場への影響などが懸念されます。一方で我が国経済においても経済影響への不透明感があるものの、所得環境の改善が継続することに伴う個人消費も底堅く推移する見込みであること、またデジタルや脱炭素、サプライチェーンの強化を中心とした設備投資が堅調に推移する見通しです。
このような事業環境のもと、当社グループは、「terrAWell30 2nd stage」にて掲げる下記の5つの経営方針のもと、さらなる成長を目指してまいります。

当社は持続可能な成長と企業価値の向上を達成するために、以下の課題について取り組みを推進してまいります。
(成長領域及び収益力の磨き上げ)
産業ガス、医療ガスなどの高収益事業から創出したキャッシュは、インド・北米の産業ガス事業や、半導体関連分野、カーボンニュートラル分野(グリーン産業ガス、バイオメタン、液化水素プラントなど)の当社の成長事業へ重点的に配分します。併せて、低成長・低収益の事業の効率化を目指すことにより、収益力の強化に取り組みます。
(バランスシートのスリム化による資金創出)
適正在庫管理やキャッシュコンバージョンサイクルの改善をはじめとした運転資本効率の向上に取り組むとともに、政策保有株式や不動産・遊休資産の売却を推進することによりバランスシートをスリム化し、資金効率の最大化を図ります。
(社会課題解決への貢献)
当社の中長期的な注力テーマである「カーボンニュートラル」と「アグリ」領域で、社会課題解決に向けた新たな事業の創出を目指します。カーボンニュートラル領域については、カーボンニュートラル達成のために、自社の温室効果ガス(GHG)排出量を減らす「責務」を果たすことと、製品・事業を通じて社会のGHG排出削減に「貢献」することの両面から取り組みを推進しています。特に、社会のGHG排出削減に「貢献」することは、当社にとって大きなビジネスチャンスであり、当社独自の攻めの取り組みと言えます。今後、拡大する脱炭素市場に対し、産業ガス事業で培った水素やCO2回収をはじめとするGHG排出を削減する商材や技術・ノウハウを組み合わせることにより、市場の先駆者になることを目指して取り組んでまいります。アグリ領域については、日本の農業は、食料安全保障や食料自給率の問題に加えて、異常気象により本州の作物が育ちにくくなっていることや、高齢化による農業の担い手不足といった課題があります。また、インフレや円安などによる物価上昇なども含めて、食料事情は刻一刻と変化をしております。当社は、契約農家からの直接購入や、収穫などの農作業を機械化して代行するアグリサポート事業を伸ばし、一大農産地である北海道での調達力を強化しています。また、アグリ関連の資本業務提携先との連携強化とともに、当社独自のガスを用いた鮮度保持技術、食品加工技術を磨くことで、今後、さらに深刻になるであろう食の課題に対応しつつ、事業としても成長させていきます。
(新規事業創出に向けた研究開発体制の刷新)
当社は、新規事業の創出等を目的として、2025年4月1日付にて、3つの研究開発部門を新設いたしました。
○海水技術研究所
海水からの有価物回収技術、淡水化システム、および海水成分を利用した機能性素材等それぞれの研究を通じて、カーボンニュートラルや資源循環型社会の実現に貢献します。
○再生医療研究所
幹細胞を用いた再生医療(歯髄再生治療)技術確立のための細胞培養関連技術及び細胞バンク関連技術の研究により、先進的な再生医療技術及び神経系の新たな治療法等の発展に貢献します。
○ガス技術研究所
当社の競争力の源泉であるガス基幹技術を深化させるとともに、医療や食品分野等へのさらなる応用を研究し、新たなガスアプリケーションの可能性を追求します。
(人的資本投資の強化)
グローバル人材、エンジニアの育成に資する人的資本投資を強化するほか、優秀な若手層の早期抜擢や女性管理職比率の向上に継続して努め、グループの成長を牽引する次世代経営人材の育成に注力します。また、人材確保の難易度が高まる中、従業員のエンゲージメント向上のための施策、環境整備が急務です。優秀な人材の確保に向けて、中長期的な賃金政策に基づくグループ全体の賃上げを行うほか、AI・DX領域を中心にリスキリングを促進し、従業員全体のスキルの底上げを図ります。
(AI・DXの活用)
経営・事業・業務など、あらゆる分野においてAIとDXを活用することにより、営業効率向上、運転資本効率向上、生産効率向上に取り組みます。また、会計情報等の様々なデータを共通データ基盤に統合し、的確な経営判断と実行に活かす仕組みを構築します。
(株主還元の一層の充実)
当社は、継続的な企業価値の向上を図るべく経営基盤の強化を進めていくと同時に、株主の皆様への利益還元を経営の最重要課題の一つとして位置付けております。その一層の充実を図ることを目的として、原則として減配しない「累進配当」の導入及び配当性向については、親会社の所有者に帰属する当期利益の35%を基準とし(現行は30%)、業績に見合った安定的な配当を行うといった剰余金の配当等の決定に関する方針を変更することといたしました。
なお、対処すべき課題を踏まえた各セグメントの取り組みは、次のとおりであります。
(デジタル&インダストリー)
エレクトロニクス分野は、デジタル・半導体の製造拠点の増強に対応した大型プラント投資や新規取引先の開拓によってガス需要を獲得すると同時に、特殊ケミカルやガス精製装置、関連工事といった半導体製造を支えるグループ商材・サービスを総合的に提供できる当社グループの強みを活かして、最先端ニーズから周辺分野まで幅広い需要に対応し事業拡大を図ります。
産業ガス分野では、鉄鋼・化学などの素材分野をはじめ国内の産業ガス需要が減少基調となる中、各種ガスの安定供給体制を構築するとともに、低採算案件の見直しを含めた価格マネジメントを徹底するとともに、生産性の向上をはじめとした収益強化策に取り組みます。
(エネルギーソリューション)
低・脱炭素需要が高まる中、工業用向けエネルギー供給分野は、顧客に対して重油から液化天然ガス(LNG)への燃料転換を積極的に進めるとともに、輸送機器や供給設備の拡販に取り組みます。
社会のカーボンニュートラルの実現へ向け、2024年5月に家畜ふん尿由来のクリーンエネルギー「液化バイオメタン」の商用利用を開始しました。その他、垂直ソーラー発電システム「VERPA」の販売拡大、小型CO2回収装置「ReCO2 STATION」など、脱炭素ソリューションの社会実装化に注力していきます。北海道を中心とした家庭向けLPガス供給事業は、販売店の商権取得等による直販体制拡大、IoT技術を活用した配送の効率化など、収益力の強化に取り組みます。
(ヘルス&セーフティー)
医療用ガスの供給基盤を活かして、医療機関のニーズを把握し、医療機器の開発をするとともに、中長期の成長に向けては、健康寿命の延伸や在宅医療体制の構築といった社会的ニーズを踏まえ、人々の健康増進、リハビリによる予後の改善、在宅患者様のQOL(生活の質)向上につながる医療機器や介護用製品の開発体制を強化していきます。
医療分野では、SPD(病院物品物流管理)や病院向け滅菌受託といった医療現場のサポートに関して、低収益取引の見直し、更なる効率化を目指していきます。また、手術室の改修など病院設備工事においては、直接受注による収益力強化に取り組みます。
防災分野では、旺盛な需要が続くデータセンター向けガス消火設備工事の案件獲得による事業拡大を図ります。
コンシューマーヘルス分野では、グループリソースの最大化、サプライチェーン拡充など体制強化を進め、衛生材料、注射針の販売拡大、化粧品・エアゾール受託増により事業拡大や収益局強化に取り組みます。
(アグリ&フーズ)
持続可能な農業と食料安定供給システムの実現を目指し、スマート農業・鮮度保持関連の技術開発の強化や農産品の取扱量拡大に取り組んでいます。
当社の物流基盤を活かし、原料野菜の調達や青果流通・加工・販売におけるサプライチェーンプラットフォームの構築も進め、事業拡大を図っていきます。
また、フーズ分野においては、原料高影響を受け、価格マネジメントや、低採算取引の見直し、飲料製造の紙容器充填ライン増強による生産性向上などで収益性改善もすすめていきます。
(その他の事業)
グローバル&エンジニアリング事業は市場の拡大に伴う成長と高い収益性が見込めること、また既存事業とのシナジーによって新たな需要創出ができると判断した以下3つの事業分野を成長領域として事業拡大に取り組んでいます。インドの産業ガス分野については、政府による積極的なインフラ投資政策を背景に、鉄鋼をはじめとしたガス需要の拡大が見込まれます。オンサイト供給案件の新規獲得、自社液化ガス工場の稼働によるローリー・シリンダー事業の拡充を進めていきます。北米での産業ガス及び低温機器分野は、現地産業ガスディストリビューターの連携・M&Aを通じて事業展開エリアを拡大し、自社のオンサイトプラントを設置し、産業ガスの製造から販売まで一貫した事業インフラを構築してまいります。高出力無停電電源装置(高出力UPS)分野は、データセンターや半導体工場のBCPに不可欠な「バックアップ電源ソリューション」を提供しており、需要拡大を背景とした新規受注獲得による成長を目指します。
物流事業は2025年2月に「千葉低温センター」開設するなど低温物流ネットワークの拡充を図るなど、食品物流や一般貨物、協業による青果物等の荷扱量の増加により、事業拡大を図ります。
電力事業はFIT制度(再生可能エネルギーの固定価格買取制度)により売電価格が保証されている一方、発電燃料となるPKS(パームヤシ殻)や木質ペレットなどは海外から輸入しており、為替を含むコスト変動が収益に影響を与えます。そのため、為替予約に取り組み、リスクを低減するとともに、荷揚港湾施設の運用改善などによりコストの低減を図っていきます。
当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりであります。
なお、文中に将来に関する事項は、当連結会計年度末において当社グループが判断したものであります。
当社グループでは、経営理念「創業者精神を持って空気、水、そして地球にかかわる事業の創造と発展に、英知を結集する」の下、「空気」と「水」を事業の原点とし、このかけがえのない地球の資源を活かして事業を創出し、社会や人々の暮らしに貢献しております。
当社グループは、パーパス(存在意義)である「地球の恵みを、社会の望みに。」をSDGsコミュニケーションコンセプトとして掲げ、空気や水に代表される地球資源を活用し、技術やビジネスモデル、ノウハウを掛け合わせることで、人々の暮らしや産業になくてはならない製品、サービス、ソリューションを生み出してまいりました。当社グループの事業活動を継続するためには、その源泉となる地球環境に対して持続可能な事業活動でなくてはなりません。
そのような中、2019年7月には、2050年の当社グループのあるべき姿として、サステナブルビジョン「地球、社会との共生により循環型社会を実現する」を定め、その実現のために国際社会が目指すSDGsを2030年のマイルストーンとして位置づけ、2021年10月には、「エア・ウォーターグループ環境ビジョン2050」を制定しました。これらの方針の下、気候変動やスマート社会に対応する「地球環境」と、人生100年時代や世界人口の増加に対応する「ウェルネス(健やかな暮らし)」の軸に沿って、経営資源である多様な事業、技術、人材を活かしてグループシナジーによる新事業を創出しながら、経済価値と社会価値の両面から企業価値を向上すべく、事業活動を通じてSDGsに取り組み、社会課題解決への貢献を果たしていきます。
同時に、サステナブルビジョン実現のために、地球、社会とともに将来にわたり持続的に存続、発展するための重要課題として、7つの「マテリアリティ」である「気候変動への対応」「資源循環の実現」「環境影響物質の抑制」「地域社会との共存共栄」「ウェルネス(健やかな暮らし)」「働く人々のWell-beingの実現」「グループガバナンスの強化」を定め、KPIを設定し、取り組みを進めております。マテリアリティの特定プロセス、KPIおよび取り組みは、当社WEBサイトにおいて開示しております。なお、マテリアリティは今年度に改訂する予定です。
当社グループは、この中で特に「気候変動への対応」「資源循環の実現」「環境影響物質の抑制」と「働く人々のWell‐beingの実現」を企業価値に大きな影響をもたらす要因として捉えております。
当社グループは、気候変動や資源不足などの環境問題、人と自然との共存、人材の多様性や人的資本への投資、地域社会への貢献、健康寿命の延伸、食料の安定供給等、サステナビリティに関わる重要課題について事業横断的な取り組みを統括するため、2025年度からサステナビリティ推進委員会を設置しました。サステナビリティ推進委員会は、方針の策定や各担当部門における取組状況の把握および管理、また、サステナビリティに関する情報開示等を行います。中長期的な経営課題への対応方針や取組計画等については、代表取締役会長・CEOを議長とした最高経営委員会で審議し、その中で重要な事項は取締役会に報告され、取締役会は、報告された内容に対し適切に監督する態勢を構築しております。取締役会は、毎月1回以上開催され、サステナビリティに関する知識、経験を有した取締役も含まれております。取締役会ではサステナビリティに関わる重要課題への取り組みだけでなく、サステナビリティに関するリスク及び機会への対応の観点からも監督を行っております。

その中で気候変動と自然資本に関しては、カーボンニュートラルに向けた先進的かつ戦略的な取り組みにより、エア・ウォーターグループ全体の脱炭素を推進するためにカーボンニュートラル推進室を設置し、当社グループの気候変動と自然資本対応活動推進のための諸施策を立案・実施しているほか、当社グループ内に気候変動と自然資本対応の取り組みの浸透を図るとともに、方針の周知と進捗の確認を行っております。また、気候変動および自然資本に関わる課題解決の取り組みの具体的な内容については事業グループ・ユニットにカーボンニュートラル推進責任者を選任し、全社的な推進を行っております。
当社グループでは、経営の健全性・安定性を確保しつつ企業価値を高めていくために、業務やリスクの特性に応じてリスクを適切に管理し、コントロールしていくことを経営上の重要課題の一つとして認識し、リスクマネジメント体制を整備しております。
サステナビリティ重要課題におけるリスクと機会については、2025年度からはサステナビリティ推進委員会にてその抽出・検討を行い、事業への影響度の大きい重要リスク及び機会を特定し、その対応策の策定と実行管理を行っていきます。サステナビリティ推進委員会で審議したリスクと機会を最高経営委員会及び取締役会に付議・報告する体制としております。
また、気候変動並びに自然関連のリスクと機会については、「カーボンニュートラル推進室」がTCFD並びにTNFDの推奨する分析手法に基づいて、事業グループのカーボンニュートラル推進責任者と共に評価・分析する体制としております。
1.気候変動に関する取り組み
1-1.戦略
気候変動問題は当社グループが取り組むべき社会課題であると同時に大きな事業機会と捉え、マテリアリティの一つとして事業戦略との統合を進めております。具体的には自らのGHG排出量削減という<責務>と製品・事業を通じた社会のGHG排出削減という<貢献>の両面からサプライチェーン全体でカーボンニュートラルに取り組んでおります。
また、脱炭素化を加速し、持続可能なビジネスモデルへの転換を促すための効果的な手段として、目に見えないCO2の価値を金銭的指標で評価し、事業や投資に潜在的に含まれるCO2排出コストを可視化するインターナルカーボンプライシング(ICP)制度の運用を2024年度から開始しました。
なお、当社グループは、2021年8月、金融安定理事会(FSB)「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の提言に賛同を表明し、TCFDの提言に沿って気候変動関連の重要情報を当社WEBサイトにおいて開示しております。本項目は、その抜粋を掲載しております。
1) 責務
当社グループは自らが排出するGHGの削減として、2030年の30%削減目標達成までの道筋や課題、期日などを明確化するためにロードマップを策定しております。このロードマップに基づき、以下の削減方針によりGHG排出量を削減致します。2024年度に山口県防府市にPPAのスキームを利用した4MW級のメガソーラー設備導入を進めており、2025年12月の稼働を予定しております。
また、当社グループは2025年3月にScope3(自社の事業活動を通じた他社のGHG排出量)の削減方針を定めました。今後はサプライチェーン全体でのGHG削減に取り組んでいきます。
<GHG排出量の削減方針>
2) 貢献
製品・事業を通じた社会のGHG排出削減は社会課題の解決に通じる取り組みと考えており、この社会課題解決力を示す指標としてGHG削減貢献量を設定し、2030年度に15品目以上、2,000千t-CO2達成を目指しております。
近年の取り組みとしては、地域毎に特色あるエネルギー資源を活用し、産官学で連携、社会価値のある地域事業へと育成していくために、2024年は実証事業であった家畜ふん尿由来のバイオメタンの商用化、バイオディーゼル燃料を活用したB5軽油の製造販売、温泉からの未利用天然ガスを活用したCO2フリー水素サプライチェーン構築を進めております。
3) インターナルカーボンプライシング(ICP)
カーボンニュートラルに向けた投資の促進をするため、当社グループでは2024年度よりICPを反映した内部収益率を算出し、投資判断の一つの指標としております。2025年度からは先進国では18,000円/t-CO2、途上国では5,000円/t-CO2として、国際的な炭素価格高騰と地域格差を反映することで事業活動の脱炭素に関する行動変容を促進いたします。
4) シナリオ分析によるリスクと機会の検証
気候変動という予測困難で不確実な事象に関するリスクと機会を特定し、それらのリスクと機会がどのように事業の戦略に影響を与えるのかを確認するためにシナリオ分析を行いました。2024年度は全ての事業ユニットとその他主要事業を対象に、世界の気温が今世紀末に産業革命前と比較して1.5℃上昇するシナリオ「1.5℃シナリオ」、4℃上昇するシナリオ「4℃シナリオ」を用いて、事業への影響について分析を行いました。また報告対象は短期(2025~2027年)、中期(2028~2030年)、長期(2031~2050年)を想定しております。
シナリオ分析の結果、リスク、機会共に「1.5℃シナリオ」の方が影響は大きいが、「1.5℃シナリオ」、「4 ℃シナリオ」のいずれも十分な対応策や機会獲得・拡大を見込んでおり、不確実な長期的な将来に対し、当社の基本戦略は十分なレジリエンスを有していることを確認しました。なお、リスクは機会とトレードオフの関係にあると認識しており、例えば炭素税の影響を全社共通のリスクとしておりますがGHG削減ロードマップに基づくGHG排出量の削減をコストの低減につなげることで弊社の市場での競争力を強化してまいります。事業部門ごとのシナリオ分析の詳細については、当社WEBサイトをご参照ください。
気候変動に関するリスクと機会一覧(抜粋)
(注) 1 長期:2031年~2050年(サステナブルビジョン2050)
中期:2028年~2030年(経営計画terrAWell30)
2 大:売上収益/コスト 100億円以上 中:売上収益/コスト 10億円以上100億円未満
1-2.指標及び目標
1) 気候変動の指標(GHG排出量)
当社グループでは、気候変動に係るリスクと機会を測定・管理するための指標として温室効果ガス(GHG)排出量(Scope1,2,3)を選定しております。算定は2020年度からGHGプロトコルを参考にして行っております。
2) GHG排出量の削減目標
① Scope1,2の削減目標
当社グループは2030年度における削減目標を2020年度比で30%削減することを定め、2021年度より自社のGHG排出量の削減に取り組んでおります。※国内連結会社のエネルギー起源CO2が対象。
② Scope3の削減目標
当社グループは2030年度における削減目標を2024年度比で売上原単位30%削減することを定め、2025年度よりサプライチェーン排出量の削減に取り組んでいきます。※国内連結会社のカテゴリ1(購入した製品・サービス)とカテゴリ11(販売した製品の使用)の合計が対象。
3) GHG排出量の実績
GHG排出量の詳細については、当社WEBサイトをご参照ください。
(注) 1 Scope1,2(エネルギー起源CO2)の算定対象は全連結対象会社としております。
2 2022年度以降、旧エア・ウォーター&エネルギア・パワー山口㈱は連結対象外のため算定対象に含めておりません。
3 Scope2の国内は各拠点の契約電力会社の事業者別排出係数で算定しております。海外はIEA公表の国別排出係数で算定しております。
4 Scope3の算定対象は国内の連結対象会社としております。確定値は9月に公表予定です。
Scope1,2排出量のエネルギー種別について、当社グループは産業ガスを製造する工場において原料空気から酸素・窒素・アルゴンを分離・精製するために、多くの電力を使用しており、電力使用が排出量の8割以上を占めております。またScope3については、各カテゴリの中で購入した製品・サービスに伴い排出されるGHG(カテゴリ1)が約5割と最も多く、次いで、販売した製品・サービスの使用に伴い排出されるGHG(カテゴリ11)が多くなっております。Scope別ではScope3が最も多く、サプライチェーン排出量の約7割を占めております。
4) GHG排出量の削減状況
① Scope1,2の削減状況
2024年度のScope1,2排出量は、電力会社の変更、製造プロセスの効率化及び再エネの導入などの削減施策により、国内のエネルギー起源CO2において、基準年度比で2.9%削減、前年度比で3.3%削減となっております。
② Scope3の削減状況
2024年度のScope3の売上原単位を基準値として定め、2025年度より削減状況を報告していきます。
2.自然資本に関する取り組み
2-1.戦略
当社グループは「地球の恵みを、社会の望みに。」というパーパスのもとで事業を行っており、事業活動において直接的・間接的に自然資本に依存しております。また、生物多様性の保全と自然資源の持続可能な利用は気候変動対策とともにグローバルでの重要な課題であると考えております。そこで2021年には生物多様性に関する基本方針を定め、自らの生産活動に伴う環境への悪影響の低減という<責務>と製品・事業を通じた環境課題の解決という<貢献>の両面から取り組んでおります。今後、この生物多様性についての取り組みを加速させるために、2025年5月、TNFD「自然関連財務情報開示タスクフォース」提言への賛同を表明し、TNFDの提言に沿った自然関連の重要情報を当社ウェブサイトにおいて開示しております。
本項目は、その抜粋を掲載しております。
1) 責務
責務として水資源の保全、廃棄物の発生低減など環境負荷を低減する取り組みを行っております。
2) 貢献
貢献としては、工場の有毒な排気ガスを無害化する排ガス処理装置、汚濁水を処理するREADシリーズ、廃プラと未利用木材から製造する人工木材のエコロッカの製造と販売により環境課題の解決に努めております。
3) LEAPアプローチによるリスクと機会の検証
TNFDが2023年9月に開示枠組みの正式版である最終提言書を開示したことから、TNFDの推奨するLEAPアプローチに従って、事業活動における自然資本への影響と生態系サービスへの依存に対するリスクと機会の分析を実施しました。
具体的には当社グループの各事業の生産活動(直接操業)について自然への依存関係と影響のスクリーニングをTNFDの推奨するENCOREを用いて分析し、重要度をVH(とても高い)からVL(とても低い)までの5段階で評価して一覧表(ヒートマップ)にまとめました。また、重要度がVH(とても高い)またはH(高い)と評価された項目がある事業の生産工場について、TNFDが推奨するIBATで法的保護地域など自然保護のため重要な地域(要注意地域)との近接度合いを調査しました。
その結果、重要度が高く、要注意地域と近接する工場のある、肉の加工・保存業、清涼飲料製造業、バイオマス発電事業を調査する対象と定め、リスクと機会の特定と評価、財務影響評価、対応策の検討を行いました。
リスクと機会の分析の結果、当社の自然資本に対するリスクと機会について、リスクの方が機会より財務影響が大きいものの、リスクへの十分な対応策や機会獲得が見込まれていることを確認しました。
事業部門ごとのリスクと機会分析の詳細については、当社WEBサイトをご参照ください。
自然資本に関するリスクと機会一覧(抜粋)
(注) 1 長期:2031年~2050年(サステナブルビジョン2050)、中期:2028年~2030年(経営計画terrAWell30)
短期:2025年~2027年(中期経営計画terrAWell30 2nd stage)
2 大:売上収益/コスト 100 億円以上 中:売上収益/コスト 10 億円以上 100 億円未満 小:売上収益/コスト 10 億円未満
2-2.指標及び目標
1) 自然資本の指標と目標の設定
当社グループの自然への依存と影響を調査した結果、重要度が高い項目は、自然が浄化し供給する水への依存、自然の行う地下水位の調整、自然が供給するバイオマス燃料への依存、工場が排出する廃棄物による自然への影響、バイオマス燃料燃焼で発生する大気汚染物質による自然への影響でした。このうち全社的に幅広く関連するものは自然から供給される水と工場から排出する廃棄物に関わるものです。
このことを踏まえ、当社グループは2025年度より自然関連リスクに関する全社的な管理指標を水使用量原単位と廃棄物排出量原単位と定めました。また、目標をそれぞれ2021年度比で2030年度に10%削減することといたします。
2) 自然資本の指標の実績
自然資本に関するデータの詳細については、当社WEBサイトをご参照ください。
<自然資本のリスクの指標と目標達成状況(2024年度)>
(注) 算定対象は国内の主要連結会社としております。
当社グループの産業廃棄物は、バイオマス発電に伴うばいじんと燃え殻が全体の半分以上を占めており、続いて製塩やマグネシウム化合物工場から排出される汚泥、食品や飲料製造工場から排出される動植物性残渣が多くなっております。
また、水(淡水)使用量は工業用水が半数を占め、続いて飲料事業で使用される地下水、上水の順になっております。
3) 従来の廃棄物に関する管理指標達成状況
廃棄物排出量に関する目標は従来、2030年度においてリサイクル率80%を掲げておりましたが、排出量削減の取り組みなどにより77%となっております。
<廃棄物に関する従来目標の達成状況>
3.人的資本に関する取り組み
3-1.戦略
当社グループは「多様な事業と人材」を柔軟に掛け合わせることで生み出されるシナジーによって、『社会課題の解決を通じた新たな企業価値の創造』を目指しております。そのなかでも重要となるのが「人材」であり「人を活かす経営」が当社グループの人的資本経営の基軸にあります。「次世代経営人材の育成」「多様性の尊重(DE&I)」「生産性向上と継続的な賃上げ」「健康経営の推進とエンゲージメントの向上」等4つの取り組みを重視し、「自主自立」「個の尊重」「人が育つ風土の醸成」を人事基本方針に掲げながら、人事戦略を推進しております。
複雑化する社会課題に向き合い、答えを出していくためには、多様な人材が自らを高め、磨き続ける必要があります。ミッショングレード制やチャレンジグレード制等、挑戦を促す人事制度への刷新をはじめ、社内公募制度の導入やグループ内の人事交流の推進、2024年度にはグローバル人材育成に向けた取り組みとして、新入社員全員を対象とした海外研修などを実施しました。また、グループ一体での人的資本経営の推進を目的として、主要グループ会社合同で初めてのエンゲージメントサーベイを実施しました。現状を認識し、課題に対する具体的取組を定め、それを継続的にモニタリングする体制を整えることで、従業員の意欲と組織としての活性度を高めるとともに、誰にとっても働きやすい職場環境の実現に努めていきます。特に多様な事業を展開する当社グループは、グループ一体となり将来の成長を牽引する経営人材を採用・抜擢・異動・育成することが事業戦略上も重要となります。同時に、育児・介護支援をはじめ福利厚生制度の充実を含めて、下記の方針を立て、さまざまな取り組みを進めるとともに、従業員のWell-beingの向上を目指します。
1) 人材育成方針
当社グループは、「人を活かす経営」の実現に向け、新たな成長を牽引できる経営人材を育成・輩出するとともに、当社では従業員に挑戦の機会を提供し、従業員個人も会社もともに発展できる好循環を創出するため、経験・薫陶・研修の3つの観点から人材育成に取り組んでおります。2024年度においては、新入社員に対し、エア・ウォーターグループの基盤事業の理解を深めるための国内研修に加えて、特に注力している海外事業に資するグローバル人材の育成を目的として海外(アメリカ、インド)実習を実施しました。2030年度の海外売上高比率20%(2024年度11.3%)の実現に向けて、新入社員のみならず、中堅以上の社員も対象とした海外実習や異文化理解研修などの充実も図っております。また、自らキャリアを形成することを促すため、年代別のキャリア研修や社内公募制度を実施しており、自発的な異動により、多様な経験を積むことで成長へと繋げております。これらに加え、評価者・被評価者研修の実施により評価の納得性を高め、効果的なフィードバックを行い、成長へと繋げる取り組みも実施しております。このように様々な従業員の自立的キャリア形成を支援し、従業員が積極的に挑戦し、登用・抜擢される風土を醸成していきます。
2) 社内環境整備方針
さまざまなライフイベントを迎える従業員が、それぞれの能力を最大限に発揮するためには、「安心して働ける職場環境づくり」が求められます。当社はこれまで、育児中の従業員を支援する育児休業制度、短時間勤務制度、子の看護休暇制度に加え、配偶者転勤時の休職を認める配偶者休職制度、ジョブリターン制度を整備してきました。2023年11月には、当社のワークライフバランス推進に関する取り組みが評価され、プラチナくるみんマークを取得・維持しております。一方で、高齢化の進展により、介護保険制度上の要支援・要介護認定者数が急速に増加しており、介護をしながら働く従業員の就業をいかにサポートしていくかが大きな社会課題となっております。そこで介護支援に関する相談窓口の設置や介護セミナーなど、全社的な取り組みを進め、継続してキャリアを形成できる環境を整備していきます。このほか、柔軟な働き方を通じた生産性の向上を図るため、フレックスタイム制度や在宅勤務制度を導入しております。
3-2.指標及び目標
◇女性活躍の推進
多様性ある組織の構築によって企業が一層の成長をしていくために、女性活躍推進法に基づく行動計画では、重点取り組みとして、女性管理職比率を10%以上とする目標を掲げておりました(2024年度実績:5.7%)。メンター制度によるキャリア構築支援や女性リーダー育成プログラムの強化を図っておりますが、今後もこれらの取り組みを継続した上で、新たな取り組みとして候補者の上司への研修を通して周囲の意識変化にも取り組んでいきます。また、将来的な女性管理職登用を見据えた取り組みとして、女性社員の積極的な採用と女性主任・係長層の登用も進めております。新卒採用者に占める女性比率目標40%以上に対し、22‐24年度における平均値は43.2%と、目標を上回る結果となっております。女性主任・係長層の登用については2024年度末で27.6%と3割に近づいており、着実に育成が進んでおります。
(注)人的資本に関する連結数値目標は、現在検討中のため、単体数値として記載。

◇男性育児休業・休暇の取得推進
男性社員の育児参加を後押しする取り組みが奏功し、提出会社における2024年度の取得率は71.4%となっております。今後エア・ウォーターグループとしての男性育児休業・休暇の取得推進は重要な取り組みであると考えており、グループ会社、事業ごとでの働き方の違いも見受けられるものの、育児休業・休暇の取得に向け座談会やセミナー等取り組みを進めます。

(注) 1 上記「育休」には、育児休業(育児・介護休業法第2条に基づく休業)および育児休暇
(年休特別積立規則に基づく育児を目的として取得する5日以上の休暇)を含みます。
2 人的資本に関する連結数値目標は、現在検討中のため、単体数値として記載。
当社グループの事業展開上、事業の状況、経理の状況等に変動を与え、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項には、以下のようなものがあります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものであります。
(1) 当社のリスクマネジメント体制
当社グループの事業活動において特に重要なリスクであると認識しているコンプライアンス、保安防災及び環境保全に係るリスクについては、代表取締役の直轄組織である「コンプライアンス室」がその統括部門として、当社及び子会社を横断的に管理する体制としております。
情報セキュリティ、知的財産、海外事業展開および契約などに関わる個別リスクについては、それぞれの担当部門において、社内規程の制定、マニュアルの作成ならびに教育研修の実施などを行うとともに、事前審査や決裁制度を通じて当該リスクを管理する体制としております。また、コンプライアンス室を事務局とするリスクマネジメント検討会を定期的に開催し、当グループにおける主要なリスクの把握とその対策状況についての検討などを行い、グループ全体におけるリスク管理体制の強化を推進しております。海外子会社については、当該会社を管理する事業ユニットと連携し、リスクマネジメント体制を構築しております。各海外子会社を対象に、年一回、リスクの特定、影響度合いと発生確率に応じたリスクの分析・評価、リスク対応策の検討という一連のプロセスでリスクアセスメントを実施し、その結果を踏まえてBCP(事業継続計画)を策定しております。コンプライアンス室では、これらのリスクアセスメントおよびBCPに対して指導・助言を行うことにより、全社的なグローバルリスクを管理しております。
また、事業活動への影響が大きいと想定されるリスクが発生した場合には、「危機管理規程」に基づき、直ちに危機管理委員会を社内に設置し、発生したリスクに対し迅速かつ適切に対処する体制を整えております。

(2) 事業等のリスク
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。
当連結会計年度の売上収益は1兆759億2千9百万円(前期比105.0%)、営業利益は752億4千6百万円(同110.2%)、親会社の所有者に帰属する当期利益は490億7千4百万円(同110.6%)となり、過去最高業績を更新いたしました。
当連結会計年度の我が国の経済は、雇用・所得環境の改善が進み、企業の設備投資も堅調に推移する一方で、物価上昇や大幅な為替変動に加え、経済活動における不確実性が世界的に高まるなど、先行き不透明な状況が続きました。
このような中、当社グループは、成長領域と位置付けるデジタル・半導体関連事業やインド、北米等の海外の産業ガス関連事業の強化を図ってまいりました。国内既存事業においては、低採算案件の見直しを含めた価格マネジメント、生産性向上や効率化など、収益力の強化に取り組みました。
成長戦略実現のため、北海道の社会課題解決に関わる新事業の創造、開発、発信拠点「エア・ウォーターの森」を2024年12月に開業。2025年1月には、半導体・電池材料開発の中核拠点となる新研究棟「湘南イノベーションラボ」を開所いたしました。オープンイノベーションの推進により、地域課題解決に貢献する新事業の創出に取り組むとともに、技術者を集約し育成を強化することでグループ各社が保有している知見・技術のシナジーを最大化し、新製品開発を加速してまいります。また、2024年5月には、カーボンニュートラルの実現へ向け、家畜ふん尿由来のクリーンエネルギー「液化バイオメタン」の商用利用を開始するなど、製品・事業を通じた取り組みを推進いたしました。
セグメントの業績及び概況につきましては、次のとおりであります。
<デジタル&インダストリー>
当セグメントの売上収益は3,510億9千4百万円(前期比102.9%)、営業利益は362億6千7百万円(同108.0%)となりました。
鉄鋼・化学などの素材分野をはじめ国内の産業ガス需要が減少基調となる中、デジタル・半導体産業における製造拠点の増強に対応した大型プラント投資や新規取引先の開拓によってガス需要を獲得するとともに、特殊ケミカルやガス精製装置、関連工事といった半導体製造を支えるグループ商材・サービスを総合的に展開しました。
売上収益は、機能材料分野で無水フタル酸等の有機酸製品やシール材の需要低迷による影響を受けた一方、半導体工場向けガス供給の他、特殊ケミカルおよび同供給装置や半導体製造装置向け熱制御機器などデジタル・半導体関連事業が好調に推移したことで前期を上回りました。営業利益は、機能材料分野やヘリウム調達コストの影響を受けましたが、デジタル・半導体関連事業が好調に推移したことに加え、産業ガスの価格マネジメント効果やプラント稼働における生産性の向上も寄与し、順調に推移しました。
<エネルギーソリューション>
当セグメントの売上収益は709億1千8百万円(前期比106.5%)、営業利益は45億1千万円(同111.6%)となりました。
低・脱炭素需要が高まる中、顧客に対して重油から液化天然ガス(LNG)への燃料転換を積極的に進めた他、社会のカーボンニュートラル化に寄与する共同実証などに取り組みました。北海道を中心とした家庭向けLPガス供給事業は、販売店の商権取得等による直販体制拡大、IoT技術を活用した配送の効率化など、収益力の強化に取り組みました。
LPガス、灯油、LNG等製品全般が市況価格に連動し、年間を通して販売価格が高水準で推移したこと、LNG関連機器の拡販が寄与したことにより売上収益は、前期から大きく伸長しました。営業利益は、LPガス販売における低採算取引の見直しなども加わり、増益となりました。
<ヘルス&セーフティー>
当セグメントの売上収益は2,460億8千3百万円(前期比106.6%)、営業利益は150億9千9百万円(同100.1%)となりました。
医療用ガスの供給基盤を活かして医療機関のニーズを把握し、医療機器の開発、病院業務のアウトソーシング受託に注力しました。手術室の改修案件など病院設備工事の直接受注による収益力強化に取り組みました。
コンシューマーヘルス分野では、事業拡大に向け、グループリソース最大化、サプライチェーン拡充など体制強化を進めました。
国内における病院向けの新規工事案件やエアゾールの受託製造が前期に比べて減少したものの、医療機器や医療消耗品の販売拡大や衛生材料の価格改定効果がありました。また、一酸化窒素吸入療法の症例数が増加した他、介護用シャワー入浴装置の販売が好調に推移しました。防災分野は、海外での病院向け工事案件、国内でのデータセンター向け工事案件が堅調に進展しました。これらの結果、売上収益、営業利益は前期を上回りました。
<アグリ&フーズ>
当セグメントの売上収益は1,744億8千万円(前期比107.3%)、営業利益は62億1千9百万円(同89.9%)となりました。
持続可能な農業と食料安定供給システムの実現を目指し、スマート農業・鮮度保持関連の技術開発の強化や農産品の取扱量拡大に取り組みました。協業強化に取り組み、当社の物流基盤を活かし、原料野菜の調達や青果流通・加工におけるサプライチェーンプラットフォームの構築も進めました。
野菜・果実系飲料等の受託製造が増加したことに加え、北米市場での冷凍ブロッコリーや北海道産馬鈴薯や人参等の販売が拡大、青果仲卸事業を展開する丸進青果㈱を前期に新規連結したことが寄与しました。これらの結果、売上収益は前期を上回りました。一方、営業利益は、ハム・デリカにおける豚肉の原料高やスイーツにおけるコンビニエンスストア向けの採用が減少した影響、一過性費用を計上したことから前期を下回りました。
<その他の事業>
当セグメントの売上収益は2,333億5千3百万円(前期比104.5%)、営業利益は125億8千6百万円(同115.8%)となりました。
物流事業は一般貨物及び食品輸送が堅調に推移する中、受託料金適正化の取り組みやデジタル技術活用による業務効率化を進めました。加えて、協業による青果物等の荷扱量、産業廃棄物の取扱量が増加したことから前期を大きく上回りました。
㈱日本海水は電力事業における燃料ガス価格上昇の影響がありましたが、塩事業における融雪塩や食品事業における海苔・ふりかけの販売が好調に推移したことで前期を上回りました。
電力事業は小名浜バイオマス発電所は、大規模点検により例年に比べ稼働日が減少した影響がありましたが、発電燃料であるPKS(パーム椰子殻)の市況低下やコスト低減の取り組みが寄与したことから営業利益は前期を上回りました。
グローバル&エンジニアリング事業はインド市場は、鉄鋼向けオンサイト供給が堅調に推移した他、新規顧客に対してローリー・シリンダー供給による産業ガスの拡販が順調に推移いたしました。北米市場は、建設中の自社ガスプラント稼働に向け、新規取引先獲得に努めました。また、前期に新規連結した産業ガス関連2社が収益に貢献しました。高出力UPS(無停電電源装置)分野はデータセンター及び半導体メーカーの設備投資の増加を背景に、引き続き好調に推移しました。
これらの結果、その他の事業セグメントは売上収益・営業利益ともに前期を上回りました。
生産、受注及び販売の実績は、次のとおりであります。
(注) 金額は、販売価格によっており、セグメント間の内部振替前の数値によっております。
製品のほとんどが見込生産であります。
当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
(注) セグメント間の取引については、相殺消去しております。
(2) 財政状態
(資産の部)
総資産は、有形固定資産及び棚卸資産の増加などにより前連結会計年度末に比べて274億5千2百万円増加し、1兆2,501億4千9百万円となりました。
負債は、社債及び借入金の減少などにより前連結会計年度末に比べて9億1千9百万円減少し、7,132億9千万円となりました。
資本は、親会社の所有者に帰属する当期利益の積み上げなどにより前連結会計年度末に比べて283億7千2百万円増加し、5,368億5千8百万円となりました。
以上の結果、1株当たり親会社所有者帰属持分は前連結会計年度の2,140.68円から2,256.72円に増加しております。また、親会社所有者帰属持分比率は前連結会計年度の40.0%から41.4%となりました。なお、親会社所有者帰属持分当期利益率は前連結会計年度9.7%から9.8%となっております。
(3)キャッシュ・フロー
① 資本政策の基本的な考え方
当社は、持続的な成長を通じた中長期的な企業価値の向上のため、財務の健全性を維持しながら資本効率性と収益性を意識した財務運営を行っており、2030年度における資本効率性に関する目標水準をROE12%以上、ROEIC8%以上に設定し、目標達成にむけた取組を強化しております。
当連結会計年度では、既存事業の収益性改善や運転資本の最適化で営業キャッシュ・フローの最大化に取り組んだほか、投資有価証券や有形固定資産売却などのアセットライトの徹底で、フリー・キャッシュ・フローが大幅に増加しました。今後もより一層、効率性と収益性を重視し、キャッシュ・フローの創出に取り組んでまいります。
資金配分の方針については、規律ある投資判断を前提とした成長投資を最優先した上で、業績に見合った安定的な株主還元を行ってまいります。
なお、株主に対する利益還元の一層の充実を図る目的として、これまで親会社所有者に帰属する当期利益の30%を配当性向の基準としておりましたが、当連結会計年度の期末配当金から35%へ引き上げをすると同時に累進配当を導入いたしました。
② キャッシュ・フローの状況
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
当連結会計年度における営業活動によるキャッシュ・フローは、税引前当期利益及び減価償却費などから法人所得税の支払などを差し引いた結果、前連結会計年度に比べ136億1千1百万円収入が増加し、932億3千6百万円の収入となりました。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
当連結会計年度における投資活動によるキャッシュ・フローは、有形固定資産の取得による支出が増加したものの、連結の範囲の変更を伴う子会社株式の取得による支出が減少したこと及び投資有価証券や有形固定資産の売却による収入が増加したことなどにより、前連結会計年度に比べ358億円支出額が減少し、621億6千6百万円の支出となりました。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
当連結会計年度における財務活動によるキャッシュ・フローは、社債の発行による収入が減少したことや有利子負債の返済などによる支出が増加したことから、前連結会計年度に比べて420億5千9百万円減少し、273億3千5百万円の支出となりました。
(現金及び現金同等物)
当連結会計年度末における現金及び現金同等物は、前連結会計年度末に比べ56億3千4百万円増加し、706億9百万円となりました。
③ 資本の財源及び資金の流動性に係る情報
中長期的に企業価値を高めていくために必要な成長投資の資金については、事業で創出されるキャッシュ・フローを充当し、不足する分は銀行借入或いは社債発行による負債調達を基本としております。
手元資金については、資金効率を重視し事業継続に必要な適正水準を維持する方針としております。なお、資金の機動的かつ安定的な調達に向け、取引銀行3行との間に総額200億円のシンジケーション方式によるコミットメントライン契約を締結しております。
成長投資については、経済活動の停滞が長期化した局面に備えて十分な財務の安全性を維持するため、今後のM&A投資及び設備投資は、事業環境の変化を慎重に見極めながら厳選してまいります。
(4) 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社グループの連結財務諸表は、IFRSに基づいて作成しております。この連結財務諸表の作成にあたって、経営者による会計方針の選択・適用、資産・負債及び収益・費用の報告金額及び開示に影響を与える見積りを必要としております。経営者は、これらの見積りについて、過去の実績や現状を勘案し合理的に判断しておりますが、実際の結果は、見積り特有の不確実性があるため、これらの見積りと異なる場合があります。
翌連結会計年度の事業環境については、インフレや大幅な為替変動に加え、米国関税政策の動向を中心に経済活動における不確実性が世界的に高まるなど、不透明な経済環境が当面の間継続することを仮定しております。その前提に基づき、当連結会計年度において会計上の見積りを行った結果、当連結会計年度における連結財務諸表に及ぼす影響は軽微なものと判断しております。
当社グループの連結財務諸表で採用する重要性がある会計方針は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記」の「3.重要性がある会計方針」に記載しておりますが、特に以下の重要性がある会計方針が連結財務諸表における重要な見積りの判断に大きな影響を及ぼすと考えております。
① 非金融資産の減損
当社グループは決算日において、棚卸資産及び繰延税金資産を除く非金融資産が減損している可能性を示す兆候があるか否かを判定し、減損の兆候が存在する場合には当該資産の回収可能価額に基づき減損テストを実施しております。のれんは償却を行わず、減損の兆候の有無にかかわらず年に一度、又は減損の兆候がある場合はその都度、減損テストを実施しております。資産の回収可能価額は資産又は資金生成単位の処分コスト控除後の公正価値と使用価値のいずれか高い金額としており、資産又は資金生成単位の回収可能価額が帳簿価額を下回る場合には、 当該資産は回収可能価額まで減額し、減損損失を認識しております。使用価値の算定に際しては、資産の耐用年数や将来キャッシュ・フロー、成長率、割引率等について一定の仮定を用いております。
これらの仮定は過去の実績や当社経営陣により承認された事業計画等に基づく最善の見積りと判断により決定しておりますが、事業戦略の変更や市場環境の変化等により影響を受ける可能性があり、仮定の変更が必要となった場合、認識される減損損失の金額に重要な影響を及ぼす可能性があります。
② 繰延税金資産の回収可能性
繰延税金資産は、税務上の繰越欠損金、繰越税額控除及び将来減算一時差異のうち、将来の課税所得に対して利用できる可能性が高いものに限り認識しております。繰延税金資産は毎決算日に見直し、税務便益の実現が見込めないと判断される部分について減額しております。
当社グループは、将来の課税所得及び慎重かつ実現性の高い継続的なタックス・プランニングの検討に基づき繰延税金資産を計上しており、回収可能性の評価に当たり行っている見積りは合理的であると判断しておりますが、見積りは予測不能な事象の発生や状況の変化等により影響を受ける可能性があり、実際の結果が見積りと異なる場合、認識される費用及び計上される資産に重要な影響を及ぼす可能性があります。
(5) 経営方針・経営戦略等又は経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
経営方針・経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標の進捗状況については、「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載のとおりであります。
該当事項はありません。
なお、2024年4月1日前に締結した財務上の特約が付された金銭消費貸借契約については、「企業内容等の開示に関する内閣府令及び特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」附則第3条第4項により記載を省略しております。
当連結会計年度の研究開発活動につきましては、各事業グループの開発センターは、主要グループ会社と連携し技術や商品の開発を推進いたしました。また、グループテクノロジーセンターを廃止し、グループ全体の新事業創出に資する技術開発、製品開発を加速するために、技術戦略部門として、社長直下に技術戦略部、知財戦略部、ガス技術開発センターを設置いたしました。
加えて、オープンイノベーションの取り組みをさらに進めるために、2024年12月に、北海道札幌市に「エア・ウォーターの森」を、また、2025年1月に、神奈川県平塚市に半導体・電池・機能材料開発の中核拠点となる新研究棟「湘南イノベーションラボ」をそれぞれオープンいたしました。
「エア・ウォーターの森」では、北海道の豊富な資源を活用し、大学、研究機関、自治体、企業などと連携し、新たなアイデアや事業を創出することで、地域課題解決に貢献することを目指しております。「湘南イノベーションラボ」では、半導体・電池材料に関わる知見・技術のシナジーを最大化し、新製品開発を加速してまいります。
エア・ウォーターグループの全事業の基盤であるガス関連技術と事業グループのコア技術を磨きながら、これまで以上に事業部門との密接な関係を構築し、様々な分野での社会課題の解決のため、応用展開を図ってまいります。また、オープンイノベーションによる積極的な技術開発により、事業の継続的な成長と社会に貢献できる新事業成果の結実に取り組んでまいります。
事業グループごとの研究開発活動につきましては、次のとおりであります。
(デジタル&インダストリー)
デジタル化の急速な進展に伴い、データセンターの処理能力やデータ通信速度の更なる高速化に対応できる材料のニーズが高まっております。また、脱炭素社会の実現に向け、電気自動車の航続距離の伸長や急速充電に対応できる材料が求められております。これらに対応するため、半導体や二次電池などのエレクトロニクス分野における幅広い領域を中心として、エア・ウォーターグループ内外の技術シナジー発現による差別化商品創出に注力しつつ、新たな材料開発を推進しております。
・エア・ウォーター・パフォーマンスケミカル㈱においては、高機能を有する電子材料や食品機能材料の開発に注力しております。また、かねてより湘南工場の敷地内に建設を進めていた「湘南イノベーションラボ」が2025年1月に開所し、開発拠点の集約ならびに技術の集中・高度化による開発速度の向上を図ってまいります。
・脱炭素社会でますます重要となる蓄電デバイスについては、リチウムイオン電池高性能化のための電解液添加剤の開発の他、リチウムイオン電池及びナトリウムイオン電池でも寿命・容量を向上させる負極用真球状ハードカーボンの材料開発を推進しており、大学との共同研究も継続して実施しております。
・脱炭素社会の実現に向け、低濃度CO2回収・利活用に関する技術を推進しております。エア・ウォーターグループは、CO2の回収・精製・液化・輸送・利用一連の技術の深耕と同時に大学との共同研究により、新規の低濃度CO2回収技術の研究開発を行っております。様々な需要に対応した適切な回収・利活用技術を提供するために、今後も継続的に技術開発を行ってまいります。
・㈱FILWELでは、ハードディスクドライブ、シリコンウエハなどの精密研磨に使用されるパッド材の技術を有しております。SiCバルク基板用の研磨パッドを上市し、顧客各社より高評価を受けており、更なる性能向上に向け技術開発を進めております。また、次なるターゲットとなるデバイスCMP向け研磨パッドの技術開発も進めております。
・陸上養殖事業では、「地球の恵みファーム・松本」にて、完全閉鎖型プラント開発に必要な要素技術である脱炭酸装置について、酸素供給機能と脱炭酸機能を一体化したモジュール式システムの開発を進めております。モジュール構造を採用することで、現場条件に応じた柔軟な構成変更や機能拡張が可能となり、運用の効率化と設備の汎用性向上の両立を目指しております。また、「杜のサーモンプラント」にて、中小規模の陸上養殖プラントの事業性向上のため、天然でしか漁獲できないサクラマスの発眼卵からの陸上養殖による量産化にむけた飼育技術の開発を進めております。
(エネルギーソリューション)
2030年までに2013年と比べてCO2を46%削減するという政府方針の実現に向けて、カーボンニュートラルエネルギー関連技術について、産・官・学との連携を通じて、技術の蓄積、洗練、高度化を推進しております。
・2022年に発表した小型CO2回収装置「ReCO2 STATION」の商用機を開発し、販売を開始いたしました。「ReCO2 STATION」の技術を応用し、「グリーンイノベーション基金(以下、GI基金)事業/廃棄物・資源循環分野におけるカーボンニュートラル実現」にて、カナデビア株式会社が受託した「CO2高濃度化廃棄物燃焼技術の開発」の再委託を受け、焼却炉排ガスからCO2を分離回収するシステムを開発しております。また、CO2回収に係るエネルギーの省力化を目的とし、「GI基金事業/CO2の分離回収等技術開発プロジェクト」において、「Na-Fe系酸化物による革新的CO2分離回収技術の開発」を推進しており、大阪・関西万博において実証展示を行っております。
・家畜糞尿などに由来するバイオガスを活用した新たなバイオエネルギーサプライチェーンの構築に取り組んでおります。バイオガスを用いて液化バイオメタン(LBM)に加工することでLNGの代替燃料として活用する実証を完了し、2024年5月よりバイオメタンの商用販売を開始しております。さらに、バイオメタンの原料となるバイオガスを製造するためのバイオガスプラントについても、中小規模の酪農家をターゲットとしたユニット型バイオガスプラントの開発に着手し、2025年度中の上市を目指しております。ユニット型バイオガスプラントは、現地工事を最小化することで従来よりもイニシャルコストを低減させるとともに、ユニット型とすることで、発酵槽の増設、移設が可能なサスティナブルプラントをコンセプトとしております。今後も自治体や企業とのさらなる連携を通じて、環境負荷の少ない地産地消エネルギー社会の実現に貢献してまいります。
・NEDO脱炭素化・エネルギー転換に資する我が国技術の国際実証事業として、「バイオエネルギーローカルサプライチェーンを実現するための未利用資源からのバイオメタン製造システム実証研究(インド)」を進めております。インドに適したユニット型バイオガスプラントを開発し、インドでのバイオメタン事業化に向けて、取組みを推進してまいります。
(ヘルス&セーフティー)
医療事業において、医科向けや歯科向けの病院内機器製品やサービスの開発ならびにOEM事業を推進してまいります。今後はウェルネス分野へと拡大してまいりますが、医療事業は軸であり中心と考えております。
・医療事業では、慶應義塾大学発GI型POF(屈折率分布型プラスチック光ファイバー)技術を応用し極細内視鏡の開発を推進しております。また、慶應義塾大学、東京医療センター、北陸先端科学技術大学院大学のそれぞれと共同研究を同時並行で進めており、製品化としては2026年に上市を計画しております。極細硬性内視鏡の使用により、患者の負担が大きく軽減され、また医療プロセスを大きく変える可能性があり国内の課題である医療費についても適正にすることが可能になります。
・アエラスバイオ㈱(現エア・ウォーター・アエラスバイオ㈱)では、祖業であるガス技術を歯髄幹細胞の培養・保管技術に応用することで、臨床向けの細胞の提供を行っております。同社が提携するRD歯科クリニックではその細胞を用いて世界で初めて歯髄再生治療を実用化いたしました。2025年2月には、RD歯科クリニックが、他人の歯髄幹細胞を用いた歯髄再生治療(他家臨床研究)に着手しており、同治療の普及が期待されます。今後は歯髄幹細胞の用途拡大のため、神経変性疾患治療への適用に向けた細胞培養技術の研究開発に取り組み、不要歯から歯髄幹細胞を取り出し、将来の疾患に備える「アエラスバイオ歯髄幹細胞バンク」を実現してまいります。
・エア・ウォーター・リアライズ㈱では、エアゾール事業、化粧品事業、注射針事業を展開しております。高付加価値製品の開発、産学連携による新技術と新素材の開発、顧客・消費者のニーズを先取りする提案型開発研究に
て事業の拡大を目指しております。化粧品の開発においては、付加価値研究の成果として国際化粧品技術者(IFSCC)カンヌ大会(2025年9月開催)での発表が決定し、特許出願と併せ、高い技術力発信による企業価値の向上に努めております。
(アグリ&フーズ)
農作物の栽培・加工・保存技術や食品・飲料の品質向上、分析・機能性及び新技術・商品開発の推進により、食料問題対策とともに健康社会の実現に向けた取り組みを進めております。
・農業従事者の減少や異常気象など、食糧問題への対策をするべくスマート農業の研究開発を東京大学生産技術研究所と推進しており、収穫から加工まで合理的に自社管理できる仕組み構築を進め、食品ロスの低減を目指しております。さらに、ドローンセンシング技術を活用して畑のモニタリングをするだけでなく、畑から生じている食品ロスの定量化・可視化することで、ロス低減に向けた様々なアプローチを検討し、日本の食糧生産力向上に貢献してまいります。また、室蘭工業大学とは鮮度保持と連携した分析技術を活用し、地域ブロックチェーンへの導入の試みを引き続き行っております。
・農作物における食品ロスのもうひとつの大きな課題である、鮮度保持技術への取り組みを、北海道大学、東京大学、その他協業する他社などと共同で推進しております。老化ホルモンであるエチレンガスに着目し、この制御によって流通・販売・加工における農作物の品質・鮮度の維持を目指しております。実証試験と基礎試験の実行により、プラチナ触媒のエチレンガス制御効果と実用性を確認いたしました。同時に、カビの抑制に関する基礎試験を実施し、独自手法による低減試験に成功いたしました。品質及び歩留向上実現に向け、エチレンガス制御とカビ抑制技術を応用し独自に組合せた開発中の試験機を開発中であります。
・農産自社資源の活用・分析による機能性研究において、食と健康の付加価値向上に取り組んでおります。小林再生研究所及び北里大学との協働により、みかんの皮を利用した老犬の挙動改善に関する論文をMetabolitesに掲載し当社技術の有用性を発表いたしました。今後は、廃棄されるみかんの皮及び摘果品を活用するスキーム検討段階に入り事業貢献を目指しております。
(その他の事業)
・㈱日本海水では、「海水資源の活用」をキーワードに、産学官との技術連携を積極的に進めることで、新たなビジネスを創出するとともに、SDGs実現に向けた研究開発を行っております。NEDOの研究開発助成事業に採択された「海水を用いたCO2鉱物化法の開発」については、発電所や工場などから排出されるCO2の固定化、資源化を検討し、CO2削減のための社会実装に向けた研究開発段階へと進んでおります。また、2050年にむけたカーボンニュートラル宣言、脱炭素化の流れの中、現在は、主に排煙脱硫剤として使用されている水酸化マグネシウム製品の需要減に対応するため、水酸化マグネシウム製品を原料とした新たな事業へと展開を図るべく、産学官協働でマグネシウム関連製品の開発を進めております。
なお、当連結会計年度の研究開発費用の総額は