第2 【事業の状況】

 

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中における将来に関する事項は、当社グループが当連結会計年度末現在において判断したものです。

(1) 経営方針

当社は、2024年11月に新しい経営方針「KAITEKI Vision 35」と「新中期経営計画2029」を発表しました。(詳細は当社ウェブサイトをご参照ください。https://www.mcgc.com/group/strategy/index.html)
 2035年のありたい姿として「社会課題に最適なソリューションを提供し続け、素材の力で顧客を感動させる『グリーン・スペシャリティ企業』になる」ことを掲げ、KAITEKIの実現と企業の持続的成長の両立を打ち出しました。当社はグループ一丸となって収益力の強化と事業の成長を実現させ、企業価値の向上に取り組んでまいります。

 

(2) 経営環境

当社グループを取り巻く経営環境については、「4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (2) 経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容 ②経営環境と今後の見通し」に記載のとおりです。

 

(3) 対処すべき課題

 当社グループのPurposeは、革新的なソリューションで、人、社会、そして地球の心地よさが続いていくKAITEKIの実現をリードしていくことです。化学に立脚する当社グループは、カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーに対応し、持続可能な社会の実現に貢献することが求められています。

 当社は、2024年11月に新しい経営方針「KAITEKI Vision 35」と「新中期経営計画2029」を発表しました。「社会課題に最適なソリューションを提供し続け、素材の力で顧客を感動させる『グリーン・スペシャリティ企業』になる。」ことを2035年のありたい姿として掲げ、これまで培ってきた幅広いリソースをつなぎ合わせて活用し、5つの注力事業領域で成長するというビジョンを明確にしました。

・グリーン・ケミカルの安定供給基盤:化学産業のグリーン化をグローバルにリードする

・環境配慮型モビリティ      :環境対応に伴うモビリティの進化を素材で支える

・データ処理と通信の高度化    :半導体高度化のエコシステムを支える

・食の品質保持          :おいしさを長持ちさせて食の流通・加工プロセスを支える

・新しい治療に求められる技術や機器:新しい治療を医療用グレードの高機能素材で支える

 ビジョン実現のためには、低迷が続くケミカルズ事業の立て直しが喫緊の課題です。「新中期経営計画2029」では「事業選別の3つの基準」と「規律ある事業運営の3原則」を設け、これらのルールのもとでポートフォリオ変革と収益改善を実現します。ノンコア事業の整理・売却を一層加速するとともに、厳格な価格政策、規律ある成長投資、聖域なきコスト削減と資産最適化によりコア営業利益を拡大させます。

 2035年を見据えて諸施策を進めていくうえでのキーワードは「つなぐ」です。組織や領域を超えて技術や知見を共有し、多様な視点を活かすことで、新たな発想によるイノベーションを加速します。複雑化する社会課題や顧客からの多様なニーズに迅速に応えていくためには、社外のパートナーとのつながりも欠かせません。戦略的連携を通して、社会課題に最適なソリューションを提供していきます。

以上に加え、企業の持続的成長の基盤として、安全管理・コンプライアンスの徹底、内部統制システムの適切な運用とグループガバナンスの強化に引き続き取り組んでまいります。

 当社グループは、これら経営の諸課題にグループの総力を挙げて対処し、企業価値・株主価値の向上を図ってまいります。

 

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

文中における将来に関する事項は、当社グループが当連結会計年度末現在において判断したものです。

 

当社グループは、「私たちは、革新的なソリューションで、人、社会、そして地球の心地よさが続いていくKAITEKIの実現をリードしていきます。」というPurposeを掲げ、サステナビリティを経営の中核の1つに据えた企業活動を行っています。

カーボンニュートラルの実現や、人材の育成・開発と働く環境の整備などの人的資本の拡充を含めた事業基盤の強化を通じて、サステナビリティの向上に努め、持続的成長をめざしてまいります。

 

(1)サステナビリティ全般

① ガバナンス

当社グループは、スペシャリティマテリアルズ、MMA&デリバティブズ、ベーシックマテリアルズ&ポリマーズ、ファーマ及び産業ガスの5つのセグメントで多岐にわたる事業活動を展開していることから、当社グループを取り巻く環境・社会課題は多様であり、また、その解決に貢献するソリューションを提供することが、当社グループの持続的成長につながる事業機会でもあります。そのため、様々な環境・社会課題を踏まえ、当社グループが取り組む重要課題(マテリアリティ)を特定しています。

特定したマテリアリティの詳細については、「②戦略」をご参照ください。

マテリアリティには、目標及び、その進捗を測る指標を設定し、当社執行役社長をはじめとした経営陣のリーダーシップのもと、定期的に進捗をモニタリングすることを通じ、関連施策を着実に推進してまいります。

指標等の詳細については、「④指標と目標」をご参照ください。

当社は、サステナビリティの諸活動のモニタリング、統括に加え、当社グループのサステナビリティに関する方針や関連事項の審議を行う機関として、当社執行役社長を委員長とし、当社の執行役等から構成するサステナビリティ委員会を設置しております。

取締役会は、当社のサステナビリティに関する状況の報告を受け、当社の諸活動が適切に行われるよう監督をしております。

 


 

また、経営の透明性の向上という基本方針のもと、サステナビリティに関する情報や指標、データを当社ウェブサイト等で積極的に開示することを通じ、ステークホルダーへの説明責任を果たしてまいります。当社ウェブサイト等に掲載する環境パフォーマンス指標及び社会パフォーマンス指標に対して、独立した第三者保証を取得し、信頼性の高い情報の開示に努めております。

 

当社は、これらの諸活動の客観的な状況を把握するため、当社が重要と考えるESG評価をベンチマークとしています。その結果、ESG投資の世界的な指数であるDow Jones Sustainability Indicesの構成銘柄に8年連続で選定されるなど、相対的に競争力のある評価を得ております。今後も、評価結果から得られた視点や課題を検討し、関連する諸活動の一層の強化につなげてまいります。

当社は、執行役の報酬を構成する業績連動報酬を、年度ごとの目標値の達成状況の結果に応じて決定し、支払っています。評価は、経済効率性やイノベーションに加え、サステナビリティの向上に係る指標を用いるKAITEKI価値評価及び個人評価にて決定しています。2024年度の業績連動報酬の評価指標のうちサステナビリティに関するものは、温室効果ガスの排出量削減や従業員エンゲージメント向上等、KAITEKI価値評価のなかで執行役が特に注力すべきものを選定しました。詳細については、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (4)役員の報酬等」をご参照ください。

 

② 戦略

当社グループは、グループ理念のもと、成長を実現し、企業価値を向上させることにより、顧客や株主の皆様をはじめとするすべてのステークホルダーへ貢献していくことをめざしております。

このめざす姿の実現に向けた指針として、当社グループを取り巻く経営環境を踏まえ、ステークホルダーの視点を取り入れながら、取り組むべき重要課題(マテリアリティ)を特定しています。

マテリアリティは、当社グループが重要と考える視点に基づき分類、整理した以下の5つのカテゴリーから構成されています。

 


 

 

イ 事業ポートフォリオ戦略として重要な課題

当社グループは、社会が求める最適なソリューションを提供し続けるグリーン・スペシャリティ企業になることをめざしています。その考え方に基づき、2035年までの期間を対象とする経営ビジョン「KAITEKI Vision 35」では、グリーン・ケミカルの安定供給基盤、環境配慮型モビリティ、データ処理と通信の高度化、食の品質保持、新しい治療に求められる技術や機器を注力事業領域と位置づけています。いずれの領域とも世界的な主要トレンドに沿っていることに加え、エネルギーの有効利用と脱炭素化や、持続可能な資源管理、食・水資源の有効利用といったサステナビリティの観点でも捉えることができます。

 


 

(出典:当社ウェブサイト 企業情報 経営戦略から引用)

 

ロ 事業基盤として重要な課題

当社グループは、新経営ビジョン「KAITEKI Vision 35」で示す成長を実現するには、人事戦略を経営戦略に同期させ、人的資本の価値の最大化が不可欠という強い思いから、「人材の育成・開発」や、「ダイバーシティとインクルージョン」といったマテリアリティのもと、企業文化の変革を進めております。

詳細については、「(3)人的資本」をご参照ください。

 

ハ 環境や社会への影響として重要な課題

当社グループは、企業活動を通じてステークホルダーに様々な価値を提供する一方、事業特性上、環境や社会に対するインパクトが大きい事業を展開しています。そのため、地球環境への負荷削減という観点からは、環境インパクトの削減やサーキュラーエコノミーといったマテリアリティに対して、ライフサイクル全体を通じて、資源を有効利用する取組みを推進し、最適化された循環型社会の実現をめざしております。また、持続的な成長を達成しつつ、2050年度までにカーボンニュートラルを実現するため、製造プロセスの合理化や、自家発電用設備の燃料転換といった施策を着実に講じてまいります。

 

ニ リスク管理上の重要な課題及び存立に関わる重要課題

当社グループは、「3 事業等のリスク」に記載のとおり、事故・災害、法規制・コンプライアンスを認識し、事業活動の最優先事項として、そのリスク低減のための対策をとっております。これに加え、情報セキュリティや人権といった重大リスクに対し、加速度的に変化する事業環境や社会ニーズを踏まえ、適切な対応を図ってまいります。

 

③ リスク管理

当社グループは、全社的かつ総合的なリスク管理体制を整備、運用することで、先を見越したリスク管理と適切なリスクテイクを伴う経営を推進しており、サステナビリティに関連するリスクも、一体的な管理を志向してまいります。

 

④ 指標と目標

当社グループは、特定したマテリアリティに対する目標と、その進捗を測る指標として、「MOS(Management of Sustainability)指標」を設定し、運用しています。各指標について毎年の進捗をモニタリングすることで、マテリアリティへの取組みを着実に推進してまいります。

2024年度実績は、2025年9月以降に当社ウェブサイトをご参照ください。

 

マテリアリティ

MOS指標

目標

2023年度実績

目標値

目標年度

環境や社会への影響として重要な課題

GHG排出量の削減率

(2013年度比・国内)

15.0%

2025

29.0%

COD(国内)

現状水準の維持:

約1,600t(2019年度)

2025

1,270t

LCA活動の進捗度

100%

2025

56%

廃棄物最終処分量の削減率(2019年度比、国内)

50%

2025

19%

事業基盤として重要な課題

休業度数率

0.71

2025

1.16

顧客満足度

80ポイント

2025

80ポイント

ESG株式指数に関する評価

DJSI、FTSE4Good等の
 スコア維持・向上

2025

次のようなESG株式指数に継続的に組み入られています。

・DJSI World Index

・FTSE4Good Index Series

・FTSE Blossom Japan Index

存立に関わる重要課題/リスク管理上重要な課題

重大コンプライアンス違反件数

 0件/年

2025

1件/年

保安事故

16件/年

2025

14件/年

環境事故

 0件/年

2025

 0件/年

情報セキュリティ研修受講率

95.0%

2025

93.1%

 

(注) 2023年度実績は、前連結会計年度(自 2023年4月1日 至 2024年3月31日)の数値です。

上表の指標に加え、従業員エンゲージメント、ウェルネス意識、意思決定層のダイバーシティの3つの指標については、「(3)人的資本」をご参照ください。

 

(2)気候関連

① ガバナンス及びリスク管理

当社グループは、重要課題(マテリアリティ)に、「GHG低減」「環境インパクト削減」「サーキュラーエコノミー」といった気候変動に関連する課題を定め、取締役会の監督の下、当社の執行役等から構成するサステナビリティ委員会が定期的にモニタリングし、関連施策を着実に推進しています。

詳細については、「(1)サステナビリティ全般 ①ガバナンス」をご参照ください。

また、リスク管理については、「(1)サステナビリティ全般 ③ リスク管理」をご参照ください。

 

② 戦略及び指標と目標

イ 気候関連のリスクと対応

当社グループは、2030年にかけて直面する気候変動による影響のインパクトをシナリオ分析の考え方に基づき評価した結果、炭素税負担の増加や株式市場での気候変動対応の高まりなどにより、操業コストや時価総額へ影響が生じる可能性があることを認識しています。そのため、GHG排出量を2030年度に29%削減(2019年度比)、2050年に実質ゼロとするカーボンニュートラル達成をめざすという目標を掲げ、エネルギー転換や製造プロセスの合理化といったGHG排出量の削減策をロードマップに沿って着実に実行していきます。

ロードマップやその進捗については、当社ウェブサイト上をご参照ください。

https://www.mcgc.com/sustainability/environment/carbonneutral.html

 

また、自然災害の増加に伴い、沿岸地域の工場が災害によって操業停止するリスクに備え、被害の最小化と事業継続性の確保を推進しております。

加えて、これらの取組みには、ステークホルダーの理解と協力が不可欠であるため、気候関連などサステナビリティ情報の開示やエンゲージメントの充実化に努めてまいります。その一環として、インパクトの評価結果を含め、気候関連の情報を、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言に沿った形で開示しております。詳細については、当社ウェブサイトのTCFD提言に基づく報告をご参照ください。

https://www.mcgc.com/ir/library/tcfd.html

 

ロ 気候関連の事業機会と対応

当社グループは、カーボンニュートラルに移行する社会でも競争力のある企業をめざし、 Visionとの整合性、競争優位性、成長性の基準を用いたポートフォリオへの変革を通じて、カーボンニュートラル実現に貢献する事業へ注力していきます。具体的には、新経営ビジョン「KAITEKI Vision 35」で示したグリーン・ケミカルの安定供給基盤、環境配慮型モビリティ、データ処理と通信の高度化、食の品質保持、新しい治療に求められる技術や機器などの注力事業領域について、事業規模の拡大、収益力を強化していきます。

 

ハ 気候関連の指標と目標

当社グループは、マテリアリティの進捗を測る経営指標(MOS指標)の中に、GHG排出量の削減率を設定し、中期目標を掲げ、毎年進捗を評価していきます。詳細については、「(1)サステナビリティ全般 ④指標と目標」をご参照ください。また、GHG排出量は以下のとおりであります。

2024年度実績は、2025年9月以降に当社ウェブサイトをご参照ください。

 

GHG排出量

(単位:千t-CO2e)

区分

2022年実績

2023年度実績

Scope1+2

14,369

14,026

Scope1

6,685

6,727

Scope2

7,685

7,299

 

(注)2022年度は、三菱ケミカル㈱、田辺三菱製薬㈱、㈱生命科学インスティテュート及び日本酸素ホールディングス㈱とこれらの国内及び海外のグループ会社を対象としています。

また、2023年度は、三菱ケミカル㈱、田辺三菱製薬㈱及び日本酸素ホールディングス㈱とこれらの国内及び海外のグループ会社を対象としています。

 

(3)人的資本

当社グループにとって、人材は価値創造の源泉であり、企業としての成長やPurpose実現の原動力そのものです。

昨年度、新経営ビジョン「KAITEKI Vision 35」と新たな中期経営計画「新中期経営計画2029」を策定しました。「新中期経営計画2029」は「KAITEKI Vision 35」の実現を加速する重要なステップです。この計画の実現に向け、当社の様々な強みを「つなぐ」ことによる価値創造や、環境変化に対応する事業変革を進めていくべく、人事戦略を経営戦略に同期させ、人的資本の価値を最大化させていきます。

 


 

以下に人的資本に関する「戦略」、「ガバナンス」、「リスク管理」、「指標と目標」を示します。

 

① 戦略

「KAITEKI Vision 35」や「新中期経営計画2029」の実現に向け、会社と個人が同じ目的に向かって歩み、その中で個人のポテンシャルを最大限に引き出せるよう、環境や組織・文化を整備し、挑戦と学びの機会提供に取り組んでいきます。

以下の5つを2029年度の「ありたい姿」として据え、その実現に向けた施策を重点的に進めています。

・「経営戦略・事業戦略と人事戦略の同期」

・「グローバルでの最適な人材配置・登用」

・「ポテンシャルが最大化できる環境」

・「魅力ある企業グループ」

・「リーンで生産性の高い組織」

 

イ 経営戦略・事業戦略と人事戦略の同期

・経営戦略・事業戦略と人事戦略を同期させ、組織と人材の力を最大限に引き出すことで、持続的な成長と価値創造を実現します。

・人事戦略の実行に向け、経営戦略として重視する「つなぐ」という価値創造のアプローチを実現するために必要な「求める人材」の育成や、「つなぐ」組織・カルチャーの実現に向けた評価制度の見直しのほか、各事業・機能部門との連携を強め、部門戦略の実現に必要な知識・経験・スキルを伸ばすための配置・育成を進めるなど、人事施策を多角的に展開していきます。

 

ロ グローバルでの最適な人材配置・登用

・次世代・次々世代の経営リーダー育成の仕組みを再構築しています。求める人材要件を再定義した上で候補人材のプールを形成していきます。経営幹部内での議論を踏まえた個人単位の育成プランを策定し、事業/Regionと協力のもと、裾野を拡げた幹部候補の育成も進めながら、強固な人材パイプラインの構築につなげていきます。

  (当社の考える経営リーダーの要件定義)

   経営リーダーの要件

求める人材

・オーナーシップ
・尖った強みとチーム貢献
・誠実な挑戦
・「つなぐ」人材

資質

これまでの業務の実績に加え、以下を有する人材
・事実や状況に対する本質の理解力と迅速な決断力
・アンテナを高く張り学ぶ意欲
・仕事に対する情熱・エネルギー
・リーダーシップ特性
・高い倫理観・遵法精神

特性

・戦略的思考
・決断力・実行力
・困難な状況での成果創出
・コンフリクトへの対処
・ネットワークの活用
・後進の育成

経験

・経営チームの経験
・戦略策定
・組織変革
・損益責任
・専門性
・グローバルでの事業・機能責任
・複数組織の経験

スキル

・英語コミュニケーションスキル
・財務諸表・ファイナンス
・ガバナンス

 

 

・グローバルでの最適配置を実現するための様々な取組みも行っています。世界各地の人材情報を一元化・可視化するための共通プラットフォームを構築するとともに、報酬や異動・配置のポリシーをグローバルに定め、国や地域を跨いだ人材活用の基盤を整えていきます。

 

ハ ポテンシャルが最大化できる環境

・従業員に対し、成長と挑戦の機会提供を行っていきます。適切な権限委譲のもと、当社ならではの学びや挑戦を個々の経験として得られるようにしていくとともに、尖った強みを持つ人材がその強みを活かしてキャリアアップ・活躍できるよう、管理職の人事制度を見直し、マネジャーとしての役割・責任の大きさに加え、「専門性」もより適切に評価・処遇できるものにしていきます。個々の強みを評価する土壌を整え、挑戦機会の拡大と組織全体の底上げにつなげていきます。

・組織の多様性を高め、多様な視点からの意見を活かすことができるよう環境整備を進めていきます。様々な考え方や特性を持つ人材が活躍することが新たな価値創造や職場の活性化につながることから、一人ひとりの違いを尊重する姿勢を大切にします。あわせて、各分野のスペシャリストの採用力強化にも注力し、多様な専門性や視点を持つ人材の力を発揮できる組織づくりを進めていきます。

・従業員が安心して力を発揮し成長していくための土台として減点主義を排した心理的安全性の高い職場環境を整えます。ハラスメントの撲滅や風通しの良い職場作りはもちろん、褒める文化の醸成や適正な評価と報酬の決定も従業員の納得感と安心感を支える要素であることから、これまで以上に事業戦略の実現をドライブできる評価制度をめざし、制度の見直し・改善を進めていきます。

・育児・介護・治療と仕事の両立に向けた制度整備と職場での理解促進にも取り組んでおり、特に育児休業については、男女問わず取得しやすい環境整備を進めています。(男女の育児休業取得率については、「5 従業員の状況 (4) 管理職に占める女性労働者の割合、労働者の育児休業取得率及び労働者の男女の賃金の差異」を参照ください。)また、リフレッシュのための連続休暇の取得も推奨しています。2024年度の主要事業会社3社の有給休暇取得率は78.4%となっており、全社的に計画的な取得を促す文化が醸成されてきました。

 

ニ 魅力ある企業グループ

・顧客の課題を解決し、社会に価値を提供するためには、従業員一人ひとりが成長と挑戦を重ね、新たな価値を生み出し続ける必要があります。意欲と能力を持った人材が集い、互いを高めあうような「魅力ある企業グループ」をめざし、様々な取組みを行っていきます。

・従業員意識調査によるエンゲージメントスコアについても、組織単位でのフィードバックや要因分析、好事例の横展開を通じ、自部署の長所・短所の把握、改善策の実行を進めていきます。全社施策としても、以前から課題となっていた経営施策の浸透を進めるべく、社長や経営幹部が国内外の各拠点・事業所を訪問し、対面での交流を通じた施策の理解浸透活動を重点的に行っています。その結果、「KAITEKI Vision 35」や「新中期経営計画2029」を踏まえた2024年度のエンゲージメントスコアは70pptと前年比での向上も見られました。今後も引き続き、従業員と会社の関係性がより良いものになるよう進めていきます。

 

ホ リーンで生産性の高い組織

・リーンで生産性の高い組織をめざすために効率的な組織運営を図っています。適切な決裁権限体系を整備することで内部統制を担保しながら、スピーディな意思決定・実行を可能としています。権限委譲を進めることで従業員のオーナーシップを醸成し、一人ひとりの能力向上にもつなげています。あわせて要員数の可視化を進めたり、ムダな業務の洗い出し・見直しを全社横断プロジェクトとして進めたりと、組織全体の生産性・業務効率の向上にも取り組んでいます。

 

 

 

② ガバナンス

当社グループでは、人事戦略や人事組織の有効性を確保するために、以下の取組みを行っています。

イ 経営による人事戦略のモニタリング

経営戦略と人事戦略の連動性を高めるとともに、人事戦略・施策の検討には経営メンバーも交えて十分な議論を行うことで組織全体の効果的な運営と成果向上をめざします。

これらの戦略や施策の実効性を高めるために、経営陣による重要施策の執行状況のモニタリングや、定期的な従業員意識調査の結果を活用し、施策の有効性を確認しています。

さらに、当社グループのサステナビリティ指標であるMOS指標には、「従業員エンゲージメント」、「ウェルネス意識」、「意思決定層のダイバーシティ」を人事戦略・施策に関する指標として設定し、執行役社長をはじめとした経営陣のリーダーシップのもとで、その進捗を定期的にモニタリングしています。

 

ロ 規律ある運営

複雑で変化の激しい事業環境においては、従業員一人ひとりが自律的に考え、行動することが求められます。権限委譲の枠組みを適切に構築した上で、各従業員が一定の裁量をもって主体的に意思決定を行うことをめざしていますが、その基盤となるのが高い「規律」と「遵法意識」です。

当社グループでは、コンプライアンス教育などによる意識醸成に加え、公正かつ規律ある行動・意思決定を支える体制の整備にも取り組んでいます。近年では懲戒に関するガイドラインをグローバルに整備し、一貫性ある対応を可能としました。

こうした取組みを通じて、組織としての信頼性を高め、持続的な成長と価値創出につなげていきます。

 

③ リスク管理

上述の人事戦略における重要なリスク及びそれに対する主な対応策は以下のとおりです。

リスク

主な対応策

人材確保に関するリスク

経営戦略の実現に必要な人材を確保できない場合、経営戦略の遂行や経営計画の進捗に遅れが生ずるおそれがあります。

必要な人材を継続的に確保できるよう、当社グループで働くことの価値や従業員エンゲージメントを高め、採用競争力の向上とリテンションの強化につなげています。優秀な人材が長期的に活躍できるよう、キャリア支援や成長機会の提供、適正な評価・処遇の運用を強化しています。個人のキャリア志向やライフステージに応じた制度を整備するとともに、定期的なキャリア対話やフィードバックを通じて、従業員のモチベーションとエンゲージメントの維持・向上に取り組んでいます。

また、心理的安全性の高い職場づくりや、働きがいを感じられる環境整備を進めており、結果だけでなくプロセスを重視した評価や、従業員を積極的に称賛する姿勢を通じて、挑戦を後押しし、会社への信頼感や成長実感の醸成につなげています。合わせて、アルムナイやリファラルといった採用チャネルの拡大を通じ、着実な採用も行っています。

こうした取組みにより採用競争力・リテンションの強化を図り、経営戦略の実現に向けて多様な価値観を持ち、企業価値の向上に責任をもって取り組んでいくことのできる人材の確保・育成を行っていきます。

DE&Iに関するリスク

価値創造の源泉である多様性が欠如することで企業としての成長が阻害されたり、レジリエンスが低下したりするおそれがあります。

多様な人材が、それぞれの個性や背景にかかわらず能力を発揮できる環境づくりを進めています。属性に基づく人事管理を廃止し、グローバルでの適所適材を実現する人材登用を行っています。性別、国籍、年齢、障がいの有無、価値観、キャリアの違いなど、多様な人材が、それぞれの強みを活かして活躍できるよう、制度や職場環境の整備に加え、マネジメント層を含めた従業員への意識啓発にも取り組んでいます。

また、DE&I推進を阻害する要因について改めて分析を行い、PR活動やイベント参加など、中長期的な視点での取組みも進めています。こうした施策を通じて、多様な人材が安心して挑戦・活躍できる環境を整えていきます。

 

 

④ 指標と目標

当社グループのサステナビリティ指標であるMOS指標において、「従業員エンゲージメント」、「ウェルネス意識」、「意思決定層のダイバーシティ」を人事戦略・施策に関する指標として設定しています。

 

指標

目標年度

目標値

2024年度実績

従業員エンゲージメント

2029年度

80ppt

70ppt

ウェルネス意識

2029年度

85ppt

78ppt

意思決定層のダイバーシティ

2030年度

40%

29%

 

 

「従業員エンゲージメント」「ウェルネス意識」は、定期的に実施する従業員意識調査における関連設問に対する好意的回答者の割合を示しており、そのスコアに基づいて目標設定するほか、個別設問の結果を人事施策に反映させるとともに、進捗状況をモニタリングしています。

 

 

 

3 【事業等のリスク】

 

1.当社グループのリスク管理について

(1)リスクに対する考え方

 当社グループにおいては、複雑さと不安定さが増していく経営環境に対応するため、リスクを「目標の達成に好ましい、好ましくないまたはその両方の影響をもたらす不確かな事象」と定義し、全社的かつ総合的なリスク管理体制を整備、運用することで、先を見越したリスク管理と適切なリスクテイクを伴う経営を推進しています。

 

(2)リスク管理体制

当社グループは、執行役社長を当社グループにおけるリスク管理を統括する最高責任者とし、執行役社長と各執行役・執行役員から構成されるERM委員会を設置しています。ERM委員会においては、グループのリスク管理の基本方針等重要事項を審議し、またグループ全体に大きな影響を及ぼしうる重大リスクを識別・特定し、その管理状況をモニタリングします。また、リスク管理の状況は、取締役会に報告し、その監督を受けています。各組織においては、ビジネスグループ、コーポレートファンクションの長がERM部門責任者となり、その下で実務を担うERM部門管理者及びERM部門担当者を配置して、組織レベルでのリスク管理を推進しています。

 


 

(3)リスク管理の推進

当社は、事業ポートフォリオ戦略や事業基盤、環境や社会への影響など、当社グループにとっての課題を分類、整理し、社外有識者へのヒアリング、社外取締役連絡会での討議などを通じて多角的な観点から確認したうえで、当社グループが取り組むべき重要課題(マテリアリティ)を特定しています。リスク管理におけるリスクカテゴリーについては、このマテリアリティに基づき、当社グループの経営に影響を与えうるリスクを抽出、分類し、31個のリスクカテゴリーを定めています。

 

 

マテリアリティ

マテリアリティから分類された31個のリスクカテゴリー(2024年度)


 

 

当社グループにおけるリスク管理は、経営層が当社グループの経営に影響を与えるリスクを予め特定し、グループをあげて全社的に取り組む活動(全社視点リスク)と、各組織においてリスクを特定し、組織毎に対応を行う活動(組織独自視点リスク)を両輪とする活動になっています。全社視点リスクについては、リスク主管役員がリスク主管部門を指揮し、組織独自視点リスクについては、各組織が自ら自組織の保有するリスクを特定・評価し、それぞれ対応策を検討・実行します。各組織で実施しているリスク対応策の実施状況については、リスク主管部門がモニタリングし、ERM委員会に報告するとともに、必要に応じて各組織に対して追加対応策実行の要請をします。この全社視点リスクの一連の活動は、ERM委員会での審議・報告が行われます。

 


 

(4)重大リスクへの対応

ERM委員会では、国際情勢や事業環境に照らして、近い将来にグループ全体に影響を与えうる重大なリスクを特定し、重大リスクとして対応を進めています。重大リスクについては、定期的にERM委員会において対応状況の報告がなされ、リスク対応策の有効性を評価し、必要に応じて各組織に対し追加対応策の要請を出すなど、適切にリスク管理が実行されるよう努めています。なお、2024年度は、地政学リスク、サプライチェーンリスク、情報セキュリティリスクなど7つのリスクを重大リスクとして特定し、個別事情に応じた対応策を講じ、当社の経営成績及び財政状態に与える影響の回避・低減に取り組んでおります。

 

(5)戦略リスクへの対応

中長期の戦略、事業目標や計画、投資など経営判断に起因して顕在化しうる戦略リスクは、機会の側面と脅威の側面の両方を有します。当社は、戦略立案から投資の意思決定に至るまでの成長機会と脅威双方の把握と可視化を行い、将来の期待利益だけでなく、脅威に関する評価を視点に加えた適切なリスクテイクを伴う経営を推進しています。

 

(6)クライシス(危機)への対応

 当社では、グループの役職員等の生命及び安全、並びに事業継続、社会的信用、企業価値等に多大な影響を与えるリスクが顕在化またはそのおそれがある事態が生じた場合に、損害の拡大抑止と早急な復旧を行うための危機管理体制の整備を進めています。対象とする危機事象には、大規模自然災害、大規模情報システム障害・情報セキュリティインシデント、パンデミック、保安及び環境上の重大事故、戦争・大規模テロを含みます。各組織は、危機事象の発生に備え、平時から事前対策の実行、BCPの整備、訓練の実施などの活動を行うとともに、危機事象の発生時には、有事の危機管理体制の下、人命・安全確保を最優先として、当社グループの財産・資産並びに社会に与える影響の最小化、社会的信用の保護を基本方針として、事態の収束に向けて最善を尽くします。

 

2.事業活動における個別リスク

 当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性のある主なリスクには、以下のようなものがあります。なお、以下の事項は有価証券報告書提出日(2025年6月23日)現在において判断した記載となっています。

 

(1)事業セグメントごとのリスク

 当社グループの製品の多くは、国内外の需要や製品市況、原油・ナフサ・ユーティリティ等の原燃料・材料の価格や調達数量、為替、関連法規制等によって影響を受ける可能性があります。事業セグメントごとに想定されるリスクとその対応策は以下のとおりです。なお、現時点における想定・予測を超えて事業環境が変化した場合、また当社の講じるリスク対応策が有効に機能しない場合には、当社の業績及び財政状態に悪影響を与える可能性があります。

 

①スペシャリティマテリアルズセグメント

セグメント

スペシャリティマテリアルズセグメント

想定されるリスク及び影響

 スペシャリティマテリアルズセグメントの製品は、品質・性能面で絶えず高度化が求められており、市場ニーズに合致した製品を適時に開発・提供する必要があります。市場ニーズが当社グループの予想を超えて大きく変化した場合または市場ニーズに合致した製品を適時に提供できない場合は、当社グループの業績に影響を与える可能性があります。また、特定の地域やサプライヤーに依存している原材料もあり、必要な原材料を適時に確保できない場合は、業績に影響を与える可能性があります。

情報電子関連製品の中には、アジア等海外のメーカーから原材料を購入しているものも多く、その生産拠点で災害その他の要因により生産が停滞するなど、供給体制に不測の事態が生じた場合は、業績に影響を与える可能性があります。また、各種フィルム、シート製品については液晶パネル等の需要に負うところが大きく、需要動向が予測以上に変化した場合は、業績に影響を与える可能性があります。

リスク対策

 このような事業の特性を踏まえ、当社グループにおいては業績に影響を及ぼす機会の追求とリスクの最小化を図るべく、以下の対策を講じております。

・製品の品質・性能面での継続的な高度化

・原材料の複数購買化及び代替原料の検討

・販売動向予測に基づく生産計画の調整及び在庫管理の徹底

・製造コストダウンによる競争力の確保

・新規顧客の獲得及び新規用途の開発

 これらの対策により、急激な価格変動や需給バランスの変化、特定地域・サプライヤーの供給体制の変動に備えています。

 

 

②ベーシックマテリアルズ&ポリマーズ、MMA&デリバティブズ及び産業ガスセグメント

セグメント

ベーシックマテリアルズ&ポリマーズ、MMA&デリバティブズ及び産業ガスセグメント

想定される

リスク及び

影響

 ベーシックマテリアルズ&ポリマーズ、MMA&デリバティブズ及び産業ガスセグメントでは、ナフサ等の原料を大量に消費するとともに、製造プロセスにおいて相当量の電気や蒸気を使用しております。そのため、原油価格、原燃料またはナフサの需給バランス、為替レート等の影響による急激なナフサ・燃料等の価格変動に対し、製品価格の是正を十分に行うことができない場合または製品価格の是正が遅れた場合は、業績に影響を与える可能性があります。また、特定の地域やサプライヤーに依存している原燃料もあり、必要な原燃料を適時に確保できない場合は、業績に影響を与える可能性があります。さらに、世界的な景気後退や他社による生産能力増強等により、各製品の需給バランスが崩れ、設備投資に見合う収益、成果を上げられない場合などには、業績に影響を与える可能性があります。

 また、ベーシックマテリアルズ&ポリマーズ、MMA&デリバティブ及び産業ガスセグメントの製品には特定の取引先への依存度が高いものがあり、例えば、特定の鉄鋼メーカーへの依存度が高いコークス事業は、粗鋼の需給状況の大きな変動等により当該鉄鋼メーカーの粗鋼生産量が減少した場合はその影響を受けるなど、特定の取引先における需要等が、業績に影響を与える可能性があります。

リスク対策

 このような事業の特性を踏まえ、当社グループにおいては業績に影響を及ぼす機会の追求とリスクの最小化を図るべく、以下の対策を講じております。

・原燃料価格動向の早期の情報収集

・販売動向予測に基づく生産計画の調整及び在庫管理の徹底

・原燃料の複数購買化の実施

・製造コストダウンによる競争力の確保

・特許対応による知的財産の保護

・コークス炉の減門によるキャパシティの適正化とコスト構造の改善

 生産及び販売体制の最適化に向けた構造改革等対策により、急激な価格変動や需給バランスの変化、特定の取引先の需要変動に備えています。

 

 

③ファーマセグメント

セグメント

ファーマセグメント

想定される

リスク及び

影響

 一般的に新薬の研究開発期間は他業種に比べて長期にわたる上、新薬が承認取得に至る確率も高くないことから、製品化の確度及び時期について正確な予測が困難な状況にあり、計画どおりに新薬を製品化できなかった場合には、業績に影響を与える可能性があります。新薬が製品化した場合においても、新薬が広く普及した段階で新たな副作用等が報告されたことにより販売数量が減少した場合、または承認が取り消された場合などは、業績に影響を与える可能性があります。

 ファーマセグメントは、診療報酬や薬価基準等の各種医療保険制度による影響を強く受けることから、各国の医療費抑制策の動向等によっては、業績に影響を与える可能性があります。

 共同研究・開発、製品導出入、製造、販売など各種業務に関する委受託を行っております。提携先との契約の変更・解消、提携先の経営環境の悪化及び経営方針の変更並びにこれら企業からの医薬品供給の遅延または停滞が発生した場合、業績に影響を与える可能性があります。

リスク対策

 このような事業の特性を踏まえ、当社グループにおいては業績に影響を及ぼす機会の追求とリスクの最小化を図るべく、以下の対策を講じております。

・中枢神経・免疫炎症・がんを注力領域に研究資源の集中

・外部からの導入によるパイプラインの充実

・パイプラインの定期的な評価を通じた成功確度の向上

・開発段階から市販後における安全性情報の収集・分析を行うグローバルな安全性管理体制の構築

・製品の品質管理の厳格化、原料調達体制の多様化・分散化による安定供給

・提携先やサプライヤーとの信頼できるパートナーシップの構築

 これらの対策により、計画通りに新薬が製品化できない影響及び医薬品の供給遅延・欠品、副作用の発生による影響に備えています。

 

 

④サービスセグメント(その他)

セグメント

サービスセグメント(その他)

想定されるリスク及び影響

 エンジニアリングや物流といった当社グループのサービス業務を担う会社において、これらの会社は当社グループ外からの受注もあります。これらの顧客とは、日常的にコミュニケーションをとり、顧客要望の的確な把握、提案型営業の強化に努めていますが、グループ内外の需要や市況等の大幅な変動があった場合には、業績に影響を与える可能性があります。

リスク対策

 エンジニアリングや物流等のサービス業については、各事業の特性を踏まえ、業績に影響を及ぼす機会の追求とリスクの最小化を図るべく、以下の対策を講じております。

・DX(デジタルトランスフォーメーション)ツールの導入による各種管理活動の自動化、効率化の推進

・市場動向の早期情報収集

・物流業界や建設業界における、いわゆる2024年問題を踏まえた適切な労働環境の整備や従事者の処遇改善

 これらの対策により、市場環境の変化、特定の取引先の需要変動に備えています。

 

 

 

(2)グループ全体に影響のあるリスク

①サプライチェーン・地政学に関連するリスク

リスク項目

サプライチェーン(地政学リスク・経済安全保障リスクを含む)

想定されるリスク及び影響

・当社グループの事業に関連する国・地域における大規模な自然災害、パンデミック、重大事故・トラブル、政治的・軍事的緊張の高まり(地政学リスク)、貿易摩擦や経済制裁の影響、その他、法規制面、税務面、労働環境や当該国・地域固有のリスクに起因する予測困難な事態の発生などにより、サプライチェーンが分断され、業績に影響を与える可能性があります。

・原材料ソースが偏在している国・地域で上述のリスクが顕在化し、原材料の調達が困難な事態が発生した場合には、当社グループの生産・供給体制に影響が生じ、業績に影響を与える可能性があります。

・昨今のグローバルでのインフレ進行による、原材料・エネルギー価格、物流費の高騰の影響により、業績に影響を与える可能性があります。

・当社グループ製品が、法令違反、サプライチェーンにおける環境影響及び人権侵害に係る問題、経済安全保障に係る問題に抵触(関係)した場合、または、経済安全保障に関して他国・地域から経済的な外圧影響等を被るなどした場合に、原材料の調達や製品の販売に影響が生じ、業績に影響を与える可能性があります。

・原材料の調達及び製品の販売における物流・サービスに関する人材不足の影響により、調達コストの増加や製品納入遅延などが生じ、業績に影響を与える可能性があります。

・当社グループの事業に関連する国・地域における紛争、テロリズム、内乱、暴動、デモ、治安悪化等の地政学的問題、法規制や税務面、その他労働環境や慣習等に起因する予測困難な事態の発生などのカントリーリスクにより、当社グループ製品の生産・販売活動に支障を来し、業績に影響を与える可能性があります。

リスク対策

・調達先の分散や代替原材料の検討、また、安全操業による製品の生産や製品の品質の維持・向上に努め、安定的な調達・生産・供給体制を構築していくとともに、売上債権についても保険等の活用により、保全に努めています。

・取引先への人権デューデリジェンスを実施することで、事業活動を持続可能なものとするよう努めています。

・経済安全保障にかかるリスク対応推進体制を構築し、国際情勢や法令の制定・改正、規制動向などの情報収集・分析・提供をするなど、経済安全保障関連法令リスクについて適切な対応を行っています。

・当社グループ会社での情報収集や外部機関等を通じて事業を展開している国・地域のカントリーリスクの調査・情報収集・評価を行い、リスク対応のアクションプランの高度化を推進しています。

有事に備えた安全管理体制の整備・運用、事業継続計画(BCP)の強化などを行っています。

 

 

 

②情報セキュリティに関連するリスク

リスク項目

情報セキュリティ

想定されるリスク及び影響

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・ハードウェア・ソフトウェアの脆弱性や利用者の情報セキュリティリテラシー不足などのため、サイバー攻撃によって自社システムや利用するクラウドサービスが侵害されると、企業活動(生産、販売、出荷、決済、開発等)が停止し、取引先にも多大な影響を及ぼします。その結果、復旧や補償などの対応に費用が生じるだけでなく、社会的信用の失墜やブランド価値の低下を招く可能性があります。

・自社が扱う技術情報が漏洩し競合他社や他国に渡ると、不正な転用がなされ競争力低下を招く恐れがあります。さらに、秘密保持契約違反を問われる可能性もあります。

・個人情報については犯罪に利用されることにより、個人から損害賠償請求を受ける可能性、個人情報保護委員会など各国監督当局から指導・制裁を受ける可能性、刑事罰(個人情報保護法など)を受ける可能性があります。

・自然災害や事故等による大規模システム障害が発生することにより、自社の技術情報、個人情報が漏洩・消失する可能性があります。

リスク対策

 

・情報管理委員会を設置し、情報セキュリティに関するポリシーや規則の制定、各種セキュリティ施策をグローバルで進めています。

・セキュリティインシデント対応チーム(CSIRT)やセキュリティオペレーションセンター(SOC)を設置し、日々社内ネットワークやインターネット通信の監視、アンチウイルスソフト(NGAV)やふるまい検知(EDR)機能を利用したPCの挙動監視により、不正侵入の兆候の早期検知、対処に努めています。また、継続的にインシデント対応訓練を実施して対応強化を図っています。

・サイバー攻撃は日々変化し巧妙化しているため、対策は継続して実施するとともにそのレベルを向上させていきます。

・IT資産(ハードウェア、ソフトウェア等)の脆弱性を定期的にチェックし、必要に応じパッチやその他の対策を講じることで、セキュリティレベルを維持・向上させています。またインターネットなど外部に公開されている情報資産についても、そのリスクの把握と対策に取り組んでいます。

・サイバー攻撃を早期に、未然に対処することができるよう、最新のサイバー脅威情報を収集し、それを基にセキュリティ対策の更新・強化に努めています。

・情報資産管理レベル毎に保管区分や持ち出し/閲覧の手続きを厳格化するとともに、PCの管理者権限の制限やデータの読み取り/書き出しの制限等を通じて、容易に情報の持ち出しができないよう管理を強化しています。

・情報セキュリティに関する知識と意識を向上させるために、全従業員を対象に、E-learning(情報セキュリティ、情報管理等)や標的型攻撃メール訓練を継続的に実施しています。

・自然災害や事故による情報システム障害に備え、システムや情報資産の重要度に応じて冗長化を実施し、一部のシステムが停止しても情報が消失せず、業務を継続できるような環境を構築します

 

 

 

③DXに関連するリスク

リスク項目

デジタルトランスフォーメーション(DX)

想定されるリスク及び影響

 

・レガシーシステムの残存により、旧式のシステムやプロセスが適切にアップグレードされず、業務の円滑な運営やプロセス改革が効率的に行われない可能性があります。

・進化するデジタル技術を効果的に活用することができず競合他社に対して競争力で後れを取ることにより、新たな市場機会を失うだけでなく、既存の製品についても市場ニーズに対応できず売上収益を失うなど、将来における当社グループの業績に大きな影響を与える可能性があります。

・優秀なデジタル人材の確保及び育成が継続的になされないことにより、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進が遅れる可能性があります。

・DX投資が計画的かつ適切な投資が行われないことにより、将来に過大な投資が必要になるなど財務的な悪影響が生じるだけでなく、必要な改革プロジェクトの進行が遅れ、将来のビジネス機会を失う可能性があります。

リスク対策

 

・当社グループの業績改善に貢献するプロセス改革や効率化につながるデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進することで、「デジタルケミカルカンパニー」となることをめざしています。

・従業員一人ひとりがデジタル技術やデジタルビジネスモデルを活用した働き方を実現する「スマート人材」となることをめざした教育体系の整備を進めています。

・事業部門でのDX推進(市民開発)とそのための教育・サポート、ガイドラインの整備(DXツール、生成AI利用等)を進めています。

・ビジネスプロセスの標準化・自動化の加速に取り組んでいます。

・データ戦略をもとにした全社データ基盤整備と利活用の推進に取り組んでいます。

・基幹システムの統合をはじめ、DXツールやソリューションの標準化によるグローバルでの全体最適化を推進しています。

・デジタルインフラの整備・更新のための計画的かつ継続的な投資を行っています。

 

 

④法規制対応/コンプライアンスに関連するリスク

リスク項目

法規制対応/コンプライアンス

想定されるリスク及び影響

・法令・社内規則違反等のコンプライアンス違反が発生した場合、違反の内容によっては、業務停止・許認可の取消・課徴金の支払等の行政処分、取引停止・取引先への損害の賠償、刑事罰等が課せられる可能性があります。これらの場合、当社グループに多額の損失が発生するだけでなく、当社グループのブランドイメージ・社会的信用力が著しく低下することも予想され、当社グループの業績に大きな影響を与える可能性があります。

・上記の違反に対しては、是正及び再発防止措置をとる必要があり、その程度によっては業務負荷が大幅にかかることになり、従業員の疲弊、モチベーションの低下、離職率の増加につながるおそれがあります。

・当社グループが事業活動を進めるなかで影響し得る国内外の各種法規制の変更や強化、新たな法制度の整備等により、事業活動の機会も影響を受け、法規制への対応のために投資や労務負荷などの追加コストが発生する可能性があります。

リスク対策

・チーフコンプライアンスオフィサーを頂点とする「コンプライアンス推進体制」を整備するとともに、グループワイドに適用される「コンプライアンス推進プログラム」を制定しています。活動の方向性として、「不正のトライアングル」を意識しています。

・上記コンプライアンス推進プログラムに沿って、経営トップによるコンプライアンスメッセージの発信や必要な規則類の整備、各種の啓発・教育活動や内部通報制度の整備・運用に加えて、従業員のコンプライアンス意識に係る定期的なモニタリングを実施しています。

・各法分野、各地域に担当の部門を設置し、現地法律事務所などを活用しながら各国の法規制動向をモニタリングしています。

・コンプライアンス違反が発生した場合には、その迅速な是正対応や適切な社内処分を行う体制を整備しています。

 

 

⑤人権に関連するリスク

リスク項目

人権

想定されるリスク及び影響

・近年欧米を中心とした児童労働や強制労働などを禁止する人権に関する法規制の強化がなされるなか、当社グループだけでなく、当社グループと取引のあるサプライチェーン先において、人権侵害に関与する事案が発生することにより、社会的信頼やブランド力の低下、取引停止などにつながり、業績に影響を与える可能性があります。

・職場で差別やハラスメント行為が発生した場合には、従業員の健康の悪化やモチベーションの低下、離職率の増加などにつながるだけでなく、当該行為が悪質だった場合、または、その対応が遅れたり、対応を誤った場合には、当事者による訴訟の提起やマスメディアによる批判など社会的な信用度の低下を招くおそれがあります。

リスク対策

・世界人権宣言、国連グローバル・コンパクト、国連のビジネスと人権に関する指導原則、及びISO26000などの国際規範に準拠した具体的な指針として「人権の尊重並びに雇用・労働に関するグローバルポリシー」を定めて、従業員への啓発や教育への取組みを行い、また、人権侵害の是正・救済体制の整備も実施しております。

・各国で適用される法令や人権に関する最善の慣行の遵守、従業員満足度の向上に努めています。

・適切なサプライチェーンを運営しながらグローバルな事業活動を持続的に展開していけるよう、社内や取引先等への人権デューデリジェンスを進めております。

 

 

 

⑥大規模自然災害に関連するリスク

リスク項目

大規模自然災害

想定される

リスク及び

影響

・地震、津波、台風、洪水、山火事等の大規模な自然災害が発生することにより、従業員とその家族への人的な被害の発生、事業所、製造所等における建屋や設備の損壊、道路、公共交通機関や社会インフラ(電気・ガス・水道)の寸断が生じ、当社グループにおける開発・製造・販売等の事業活動が一時的に停止する可能性があります。

・当社グループに対する自然災害の直接の影響が軽微であったとしても、サプライチェーンや物流関係が被害を受けることで、原材料の調達不足、輸送手段の確保困難により製造や出荷等の遅延、停止が想定され、市場への製品供給に支障が出るおそれがあります。

・自然災害の被害が広範囲に及び、その復旧・復興が長期にわたる場合には、製造設備等の復旧費用の増大、事業計画の大幅な見直し、消費マインドの冷え込みによる需要減少など、当社グループの業績に多大な影響を与える可能性があります。 

リスク対策

・大規模自然災害が発生した場合に備え、BCM(Business Continuity Management)ガイドラインや災害対策本部マニュアル等を策定するとともに、いち早く従業員とその家族の安否確認を行う仕組みを導入しています。

・各製造所において事業継続計画(BCP)を策定するとともに、有事発生時の情報収集体制を整備し、平時から製造所間及び本社との情報共有にも力を入れています。

・平時より緊急時に備えた訓練を各事業所において実施するとともに、想定される最大規模の被害を基準として、これに耐え得る設備の防災性能強化を継続的に図り、対策の改善に努めています。

・万一大規模自然災害が発生した場合には多大な損害が生じることが想定されるため、損害を軽減させるために損害保険へ加入するなどの対策を講じております。 

 

 

⑦事故・事業活動に起因する災害に関連するリスク

リスク項目

事故・事業活動に起因する災害

想定される

リスク及び

影響

・製造プラントにおいて火災爆発などの事故が発生した場合、設備復旧の費用だけでなく、製造、販売などの事業活動の停止による影響も想定され、当社グループの事業目標や業績に多大な影響を与える可能性があります。また、死傷者などの人的被害や地域社会へ影響を与えた場合、補償や復旧のための費用だけでなく、社会的信頼性の低下を招く可能性があります。

・製造プラントにおいては様々な化学物質を取り扱っており、これらの化学物質が製造所外に漏洩した場合、人的被害や環境汚染などの地域社会に影響を生じさせるだけでなく、これを解決、解消するための費用やレピュテーションによる社会的信頼性の低下を招き、業績に影響を与える可能性があります。

リスク対策

・製造プラントの運転管理、設備管理、プロセス安全評価、変更管理等の安全活動を継続的かつ確実に実施することで、事故・災害等の未然防止、被害・影響の拡大防止、再発防止に努めています。

・DX技術(ビッグデータやAI等)を使用した類似災害防止システムの構築等の災害防止のためのシステム開発にも取り組んでいます。

・万一事故が発生した場合には多大な損害が生じることが想定されるため、損害保険への加入や事業継続計画(BCP)に基づく情報収集体制を整え、中核となる事業の継続や事業の早期復旧への取組みを進めています。

 

 

 

⑧品質・安全性に関連するリスク

リスク項目

製品の品質・安全性

想定されるリスク及び影響

・当社グループで製造・販売している各種製品において品質・安全性上の問題が発生した場合には、製品の出荷停止や回収のための追加費用が発生する可能性があります。さらに、品質や安全性上の問題に起因して人的被害が発生した場合には、その補償を含め多大な損害が発生することになります。また、取引先や社会からの信頼も失墜し、当社ブランドの価値が著しく低下する可能性があります。

・当社グループで製造・販売している各種製品の品質・安全性上の問題が製造物責任(PL)問題に発展した場合は、業績に多大な影響を与える可能性があります。

・当社グループで製造・販売している医薬品において、安全対策を講じてはいるものの、予期せぬ有害事象が発現した場合には、製造・販売中止や製品回収を行う可能性もあり、業績に影響を与える可能性があります。

リスク対策

・国際的な品質マネジメントシステム規格であるISO9001等に従って各種製品を製造・販売しており、また、各国・地域の法規制にも対応したそれぞれの事業特性に最適な品質保証体制を構築しています。

・万一重大な品質問題が発生した場合に備え、社内外の関係者と連携し、適切な対応を協議した上で、速やかに対応するとともに、再発防止に向けた対応を協議・実施する体制を整えています。

・新製品上市時や品質改善時には、事前に製造物責任(PL)のリスク検討を確実に実施することでPL問題の未然防止を図っております。

・当社グループで製造・販売した製品等に起因する製造物責任賠償への対策として、PL保険に加入し、万一の事態に備えております。

・当社グループの医薬品については、規制当局や社外内の関係者と連携し、患者さんや医療機関への迅速かつ適切な情報提供体制を構築する等により、適正使用に向けた安全性情報提供活動を実施しております。

 

 

⑨知的財産権に関連するリスク

リスク項目

知的財産

想定されるリスク及び影響

・当社グループが製造・販売する各種製品が他社の知的財産権等を侵害していた場合、第三者から差止訴訟や損害賠償請求訴訟を提起され、その解決にともなう訴訟費用がかかるだけでなく、当社の主張が認められないときには、対象製品の販売停止や商標の使用禁止、賠償金や当該製品の販売継続のためのロイヤルティー等の支払いが発生し、当社グループの業績に影響を与える可能性があります。

・第三者によって当社グループの知的財産権が侵害されることによって、当社製品の売上の減少、当社グループのブランドイメージの低下等の影響が考えられます。

リスク対策

・当社グループは、新商品の開発や既存製品の改良などに即して、第三者の知的財産権の監視、対策を継続的に実施しています。

・商標の使用可否判断を網羅的、継続的に実施しています。

・当社グループは、知的財産を適切に保護し、権利化を継続的に実施しています。

・第三者による当社グループの知的財産権の侵害を発見した場合には、適切かつ厳正な措置対応を実施しています。

 

 

 

⑩為替変動・金利変動に関連するリスク

リスク項目

為替レートの変動/有利子負債・金利変動

想定されるリスク及び影響

・当社グループは、海外において広く生産・販売活動を展開しており、輸出入を中心とした外貨建て取引に係る為替相場の変動が業績に影響を与える可能性があります。また、連結財務諸表においては、各地域における外貨建の売上、費用、資産、負債等は日本円に換算して表示しているため、換算に使用する為替相場の変動が業績及び財政状態に影響を与える可能性があります。

・金融マーケットで金利が上昇した場合や当社グループの業績変動等に伴い格付けが低下した場合には、借入や社債発行等の財務活動において条件が悪化し、支払利息が増加するなど、当社グループの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。

リスク対策

・当社グループでは、為替予約等を使ったヘッジにより、為替相場の変動が業績や財政状態に与える影響を低減するように努めております。

・当社グループは、国内外における事業の資金需要や社債償還、長期資金の期限到来に伴う返済に対し、フリー・キャッシュ・フローの状況を見ながら、資金調達手段及びソースの多様化を図り、安定的な資金調達を行っています。また、長期資金調達を固定利率にて行うこと等により、金利変動リスクの抑制に努めるとともに、継続的に財務体質の強化に取り組み、資金調達力の維持、向上を図っています。

 

 

上記以外にも、サステナビリティに関連するリスク、気候変動等環境問題に関連するリスク、人的資本に関連するリスクを認識しており、当該リスクについては、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組」に記載のとおりです。

 なお、本報告書に記載したリスクが発現して当社の事業に悪影響を及ぼした場合には、繰延税金資産の取り崩しや、非金融資産の減損損失が発生する可能性があります。また、当社グループに関する全てのリスクを網羅したものではなく、対応策もこれらのリスクを完全に排除するものではありません。

 

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

当連結会計年度における当社グループの経営成績、財政状態及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」といいます。)の状況の概要並びに経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりです。なお、文中における将来に関する事項は、当社グループが当連結会計年度末現在において判断したものです。

 

(1) 経営成績等の状況の概要

① 経営成績

ⅰ 業績全般

当連結会計年度(2024年4月1日~2025年3月31日:以下同じ)における世界経済は、米国においては良好な雇用環境が個人消費を下支えしたことにより底堅い成長が続き、欧州においてはインフレの鎮静化や金融政策を背景に持ち直しの動きがみられ、日本においては設備投資の増加やインバウンド需要の拡大に伴い緩やかに回復した一方で、中国においては不動産市場の低迷等による成長の鈍化がみられる等、地域や業種により濃淡のある状況が継続しました。

このような状況下、売上収益は、202億円増(+0.5%)4兆4,074億円となりました。利益面では、コア営業利益は同903億円増(+43.4%)2,984億円、営業利益は同651億円減(△24.9%)1,967億円、税引前利益は同898億円減(△37.4%)1,507億円、親会社の所有者に帰属する当期利益は同746億円減(△62.4%)450億円となりました。

 

 

 

 

 

(金額単位:億円)

 

前連結会計年度

2023年4月1日
2024年3月31日

当連結会計年度

2024年4月1日
2025年3月31日

増減額

増減率(%)

売上収益

43,872

44,074

202

0.5

コア営業利益 (注2)

2,081

2,984

903

43.4

営業利益

2,618

1,967

△651

△24.9

税引前利益

2,405

1,507

△898

△37.4

当期利益

1,784

1,056

△728

△40.8

 

親会社の所有者に帰属する当期利益

1,196

450

△746

△62.4

ナフサ (円/KL) (注3)

69,100

75,600

6,500

 

為替 (円/$)  (注3)

145.3

152.6

7.3

 

 

(注)1 当社グループは、IFRS(国際会計基準)に基づいて、連結財務諸表を作成しております。

2 コア営業利益は、営業利益(又は損失)から非経常的な要因により発生した損益(事業撤退や縮小から生じる損失等)を除いて算出しております。

3 それぞれ、2023年4月~2024年3月、2024年4月~2025年3月の概算平均値です。

 

 

ⅱ  各セグメントの業績

各セグメントにおける売上収益及びコア営業利益の状況は、以下のとおりです。

なお、当社グループは当連結会計年度の期首より報告セグメントを変更しております。また、第3四半期より報告セグメントの記載順序を変更しております。詳細は「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 4.事業セグメント (1)報告セグメントの概要」に記載のとおりです。

(金額単位:億円)

セグメント

前連結会計年度

当連結会計年度

増減額

売上収益

コア営業利益

売上収益

コア営業利益

売上収益

コア営業利益

スペシャリティマテリアルズ

10,438

74

10,813

251

375

177

MMA&
デリバティブズ

3,480

55

4,021

353

541

298

ベーシック
マテリアルズ&ポリマーズ

11,065

△254

9,724

△156

△1,341

98

ファーマ

4,372

563

4,603

654

231

91

産業ガス

12,469

1,630

13,011

1,861

542

231

その他

2,048

136

1,902

134

△146

△2

調整額

△123

△113

10

合計

43,872

2,081

44,074

2,984

202

903

 

(注) セグメント間の取引については、相殺消去しております。

 

<コア営業利益 増減要因>

(金額単位:億円)

 

 

 

前連結

会計年度

 

当連結

会計年度

 

増減

 

 

 

 

 

 

売買差

数量差

コスト

削減

その他

(注)

全社

 

2,081

 

2,984

 

903

540

210

601

△448

 

スペシャリティマテリアルズ

 

74

 

251

 

177

79

202

81

△185

 

MMA&デリバティブズ

 

55

 

353

 

298

282

28

33

△45

 

ベーシック
マテリアルズ&ポリマーズ

 

△254

 

△156

 

98

206

△25

67

△150

 

ファーマ

 

563

 

654

 

91

△1

85

27

△20

 

産業ガス

 

1,630

 

1,861

 

231

△35

△72

357

△19

 

その他

・調整額

 

13

 

21

 

8

9

△8

36

△29

 

(注) その他には、在庫評価益の前連結会計年度(65億円)と当連結会計年度(△72億円)の差額△137億円、持分法投資損益の前連結会計年度(76億円)と当連結会計年度(81億円)の差額5億円が含まれております。

 

 

 

 

 

 

為替影響

117

146

△29

 

 

 

 

 

 

 

内、換算差

92

 

 

 

 

 


 

 

セグメント

前連結会計年度から当連結会計年度への主なコア営業利益の増減要因

スペシャリティマテリアルズ

売買差:販売価格の維持・向上により各種製品の売買差が改善したことにより増益。

数量差:ディスプレイ用途及び高機能エンジニアリングプラスチック等の需要が回復したことにより増益。

コスト削減:事業構造改革、調達最適化、生産性向上等により増益。

その他:ジェレスト社の生産設備・無形資産減損、労務費等の固定費増加、シーピーシー社連結子会社化に伴う無形資産償却費の増加により減益。

MMA&デリバティブズ

売買差:MMAモノマー等の市況上昇による売買差改善により増益

ベーシック
マテリアルズ&ポリマーズ

売買差:ポリオレフィン等において原料と製品の価格差が拡大したこと等により増益。

その他:炭素事業を中心に在庫評価損益が悪化したことにより減益。

ファーマ

数量差:米国で発売した筋萎縮性側索硬化症(ALS)治療薬「RADICAVA ORS®」が伸長したこと等により増益。

産業ガス

コスト削減:DX活用、プラント操業最適化などの生産性向上活動により増益。

 

 

セグメント別の業績の概要の詳細は、以下のとおりです。

 

(ⅰ)  スペシャリティマテリアルズセグメント

売上収益は前連結会計年度に比べ375億円増加1兆813億円となり、コア営業利益は177億円増加251億円となりました。

アドバンストフィルムズ&ポリマーズサブセグメントにおいては、事業譲渡及び撤退に伴う影響等があったものの、為替影響に加え、ディスプレイ用途やバリア包材用途等の需要が緩やかに回復したことによる販売数量の増加や、各種製品の販売価格の維持・向上等により、売上収益は増加しました。

アドバンストソリューションズサブセグメントにおいては、為替影響に加え、半導体やディスプレイ用途等の需要が増加したことによる販売数量の増加があったものの、EV用途の欧米における販売数量の減少や、一部事業における販売価格の低下等により、売上収益は減少しました。

アドバンストコンポジット&シェイプスサブセグメントにおいては、C.P.C. S.r.l.の完全子会社化の影響及び高機能エンジニアリングプラスチックの需要が回復したことによる販売数量の増加や為替影響により、売上収益は増加しました。

当セグメントのコア営業利益は、ジェレスト社の生産設備・無形資産を減損したことによる影響があったものの、ディスプレイ、半導体、バリア包材用途等の需要が回復したことによる販売数量の増加や各種製品の販売価格の維持・向上等による売買差の改善等により、増加しました。

 

 

当連結会計年度に当セグメントにおいて当社グループが実施又は発生した主な事項は、以下のとおりです。

 

・半導体デバイスの微細化に伴うArF用及びEUV用フォトレジストの需要拡大に対応するとともにサプライチェーンの強靭化を図るため、九州事業所 福岡地区において、フォトレジスト用感光性ポリマー「リソマックス™」の生産能力を増強することを決定しました。ArFフォトレジスト用「リソマックス™」の生産能力を2倍以上に増強するとともに、EUVフォトレジスト用「リソマックス™」の量産を新たに開始します。稼働時期は、ArFフォトレジスト用「リソマックス™」は2025年10月、EUVフォトレジスト用「リソマックス™」は2025年9月を予定しています。

・事業ポートフォリオ改革の一環として、トリアセテート繊維事業を株式会社GSIクレオス(本社:東京都港区)へ譲渡することで同社と合意し、株式譲渡契約を2024年9月に締結し、2025年3月に譲渡を完了しました。

・半導体市場の拡大に伴い、半導体の製造工程に使用される超純水製造用のイオン交換樹脂について、九州事業所 福岡地区の生産能力を増強することを2024年10月に決定しました。2026年4月の稼働を予定しています。

・液晶ディスプレイの画面サイズの大型化に伴う需要増加と高品質要求に対応するため、偏光板向け光学用ポリビニルアルコール(PVOH)フィルム「OPLフィルム™」の生産設備を、中日本事業所 大垣(神田)地区で増設(生産能力:2,700万㎡/年)することを決定しました。2027年度下期の稼働を予定しており、増設後の合計生産能力は15,400万㎡/年となります。

・半導体市場の拡大に伴い、半導体精密洗浄事業において、福島工場を新設し、岩手工場を増強することを決定しました。いずれも2026年10月の稼働を予定しています。

・半導体市場の拡大に伴い、半導体の製造工程に使用される合成石英粉について、九州事業所 福岡地区の生産能力を+35%増強することを決定しました。2028年9月の稼働を予定しています。

・車載用途リチウムイオン電池向け負極材のサプライチェーンの強化及びカーボンニュートラルに向けた取り組み強化のため、リチウムイオン電池向け負極材について、人造黒鉛系グレードの性能を上回る天然黒鉛系グレードを開発し、香川事業所で生産能力を増強(生産能力:11,000トン/年)することを2024年12月に決定しました。2026年10月の稼働を予定しています。

・事業ポートフォリオ改革の一環として、食品添加物である増粘多糖類の事業から撤退することを決定しました。製造終了は2025年9月末、販売終了は2026年3月末を予定しています。

・SNF Group(本社:フランス)と、機能性高分子材料の原料であるN-ビニルフォルムアミドの製造技術についてライセンス契約を締結しました。当社グループが保有する知的財産を含む無形資産を活用することで、製紙業界や水処理業界をはじめとしたさまざまな業界における環境負荷の低減に貢献していきます。

 

(ⅱ)  MMA&デリバティブズセグメント

売上収益は前連結会計年度に比べ541億円増加4,021億円となり、コア営業利益は同298億円増加353億円となりました。

MMAサブセグメントにおいては、MMAモノマー等の需要の減少があったものの、MMAモノマー等の市況の上昇に加え、為替影響により売上収益は増加しました。

コーティング&アディティブスサブセグメントにおいては、塗料・接着剤・インキ・添加剤用途等の需要が緩やかに回復したことによる販売数量の増加に加え、販売価格の維持・向上により、売上収益は増加しました。

当セグメントのコア営業利益は、MMAモノマー等の市況の上昇による売買差の改善等により、増加しました。

 

 

当連結会計年度に当セグメントにおいて当社グループが実施又は発生した主な事項は、以下のとおりです。

米国ルイジアナ州ガイスマーにおいて、当社グループの独自技術である「新エチレン法(アルファ法)」によるMMAモノマープラントの新設を検討しておりましたが、米国テネシー州やその他地域における既存のMMAモノマー製造設備により当面の需要に対応できる見通しであることや、インフレ等により増大した設備投資額に基づく取引先との交渉の結果、本投資計画実行後の長期的な取引に対するコミットメントが得られなかったことなどから、本投資計画の検討中止を2025年1月に決定しました。

・事業ポートフォリオ改革の一環として、三菱ケミカル株式会社小名浜工場及び株式会社新菱いわき工場において、アンモニア及びその誘導品、メタノール等の製品の生産を順次終了することを2025年3月に決定しました。当該工場の製品について、2026年3月以降、2027年3月末までに順次生産終了を予定しています。

 

(ⅲ)  ベーシックマテリアルズ&ポリマーズセグメント

売上収益は前連結会計年度に比べ1,341億円減少9,724億円となり、コア営業利益は同98億円増加156億円の損失となりました。

マテリアルズ&ポリマーズサブセグメントにおいては、為替影響や原料価格の上昇に伴い販売価格が上昇したものの、高純度テレフタル酸事業における特定子会社の株式譲渡の影響や各種製品の需要が減退したことによる販売数量の減少等により、売上収益は減少しました。

炭素サブセグメントにおいては、コークス事業における特定子会社の株式譲渡の影響や需要低迷に伴う販売数量の減少、原料価格の下落等に伴うコークスの販売価格の下落により、売上収益は減少しました。

当セグメントのコア営業利益は、炭素事業を中心に在庫評価損益が悪化したものの、ポリオレフィン等において原料と製品の価格差が拡大したこと等により、改善しました。

 

当連結会計年度に当セグメントにおいて当社グループが実施又は発生した主な事項は、以下のとおりです。

・2024年5月に公表した「西日本におけるエチレン製造設備のカーボンニュートラル実現に向けた3社連携の検討開始」について、これまでの議論の初期的評価を踏まえ、地区を跨ぐ連携においても意義があることを確認できたため、共同事業体の設立を前提に、西日本におけるエチレン製造設備のグリーン化ならびに将来の能力削減も含めた生産体制最適化をさらに深く検討していくことを旭化成株式会社(本社:東京都千代田区)及び三井化学株式会社(本社:東京都中央区)と合意しました。

・香川事業所で有するコークス炉250門を150門に縮小することを2024年8月に決定し、対象となる100門での生産を終了しました。加えて、国内外の販売ポートフォリオの見直しや追加の合理化策等を実施し、市況変動に左右されない事業構造へ転換します。本構造改革に伴い、炭素事業は2026年3月期からの黒字化をめざします。なお、当社グループ全体の事業ポートフォリオにおける同事業の中長期的な位置づけに関しては、本構造改革を着実に推進し引き続き検討してまいります。

・事業ポートフォリオ改革の一環として、コークス及び副産物の製造並びに販売を行う関西熱化学株式会社(本社:兵庫県尼崎市)の当社グループが保有する全株式を、株式会社神戸製鋼所(本社:兵庫県神戸市)に譲渡することを2024年9月に決定し、同年10月に譲渡を完了しました。

 

(ⅳ)  ファーマセグメント

売上収益は前連結会計年度に比べ231億円増加4,603億円となり、コア営業利益は同91億円増加654億円となりました。

国内医療用医薬品で薬価改定の影響や、選定療養制度も含む後発品の浸食拡大等の影響を受けたものの、米国で発売した筋萎縮性側索硬化症(ALS)治療薬「RADICAVA ORS®」の大幅な伸長、持続性GIP/GLP-1受容体作動薬「マンジャロ」、沈降精製百日せきジフテリア破傷風不活化ポリオヘモフィルスb型混合ワクチン「ゴービック水性懸濁注シリンジ」の順調な立ち上がりにより、売上収益、コア営業利益ともに増加しました。

 

 

当連結会計年度に当セグメントにおいて当社グループが実施又は発生した主な事項は、以下のとおりです。

・米国食品医薬品局より、米国製品「RADICAVA ORS®」(一般名:エダラボン)のALS(筋萎縮性側索硬化症)治療用途に関して、2022年5月12日の「RADICAVA ORS®」承認から7年間の希少疾病用医薬品排他的承認を2024年3月に受けました。

・田辺三菱製薬株式会社は、グローバル市場で成長する企業をめざし、「成長戦略実行に必要なケイパビリティを持つ人員」の配置、「専門性の高い人材、多様な人材が活躍できる組織」の実現に向けた人材ポートフォリオの見直しを加速させるため、希望退職制度の実施を2024年7月に公表しました。

・パーキンソン病治療薬候補品であるND0612について、米国食品医薬品局(FDA)より審査完了報告通知(Complete Response Letter、以下「CRL」)を受領しておりましたが、CRLで指摘されたND0612の成分の一つであるカルビドパの安全性に関する追加情報の提供や、製品の品質、デバイスおよび製造所の査察に関する追加情報についてFDAと協議し、再申請に向けた対応が確認できたことを受け、米国における開発計画を変更しました。2025年中頃の再申請をめざします。また、欧州医薬品庁(EMA)より販売承認申請を受理した旨の通知を2025年2月に受領しました。

・持続性GIP/GLP-1受容体作動薬「ゼップバウンド®」について、日本イーライリリー株式会社が、肥満症を効能・効果として、日本における製造販売承認を2024年12月に取得し、2025年4月に販売開始しました。なお、日本における「ゼップバウンド®」の提供については、両社が2型糖尿病治療薬として販売中で同分子の「マンジャロ®」同様、田辺三菱製薬株式会社が流通・販売を行い、日本イーライリリー株式会社と田辺三菱製薬株式会社が共同で情報提供活動を行います。

ただし、高血圧、脂質異常症又は 2型糖尿病のいずれかを有し、食事療法・運動療法を行っても十分な効果が得られず、以下に該当する場合に限る。

 ・BMIが27 kg/m2以上であり、2つ以上の肥満に関連する健康障害を有する

 ・BMIが35 kg/m2以上

・選択的DPP-4阻害剤/SGLT2阻害剤 配合剤「カナリア®配合OD錠」について、口腔内崩壊錠(OD錠)の剤形追加承認を日本において2025年2月に取得しました。

 

(ⅴ)  産業ガスセグメント

売上収益は前連結会計年度に比べ542億円増加1兆3,011億円となり、コア営業利益は同231億円増加1,861億円となりました。

国内の事業再編による影響や米国におけるガス需要軟調に伴う、エアセパレートガス以外の製品における販売数量の減少はあったものの、各地域で推進する価格マネジメントや為替影響等により、売上収益は増加しました。コア営業利益は、売上収益の増加に加え、コスト削減の影響等により増加しました。

 

当連結会計年度に当セグメントにおいて当社グループが実施又は発生した主な事項は、以下のとおりです。

・オーストラリアにおいて、Wesfarmers Chemicals, Energy and Fertilisers社(本社:オーストラリア)のLPG事業を担うWesfarmers Kleenheat Gas Pty Ltd(本社:オーストラリア、以下「Kleenheat社」)のウェスタンオーストラリア州とノーザンテリトリー州のLPG販売事業を取得することについて、Kleenheat社と売買契約書を2024年5月に締結しました。

・エンジニアリング能力を追求・強化するため、プロセス及び分離技術ソリューションにおいて高い専門知識を持つプラントエンジニアリング会社Polaris(本社:イタリア)への投資を2024年10月に合意しました。

 

・Wesfarmers Limited社(本社:オーストラリア、以下「Wesfarmers」)の傘下であり、オーストラリア及びニュージーランドにて産業ガス事業を展開する、Coregas Pty Ltd(本社:オーストラリア)、Blacksmith Jacks Pty Ltd(本社:オーストラリア)及びCoregas NZ Limited(本社:ニュージーランド)(以下、総称して「Coregas Group」)を買収することにつきWesfarmersと合意に至り、Coregas Groupの全株式の取得に関する契約書を2024年12月に締結しました。2025年半ばの買収完了を予定しています。

・スペインにおける在宅医療・呼吸器事業の強化のため、Corporación Químico-Farmacéutica Esteve(本社:スペイン、以下「CQFE」)及びTeijin Holdings Europe BV(本社:オランダ、以下「Teijin」)と、Esteve Teijin Healthcare(本社:スペイン、以下「ETH」)を買収することにつきCQFE及びTeijinと合意に至り、ETHの全株式の取得に関する契約書を2024年12月に締結いたしました。スペインの国家市場競争委員会による承認を取得し次第、株式取得を完了する予定です。

 

(ⅵ)  その他

売上収益は前連結会計年度に比べ146億円減少1,902億円となり、コア営業利益は同2億円減少134億円となりました。

 

当連結会計年度に当セグメントにおいて当社グループが実施又は発生した主な事項は、以下のとおりです。

・昨今の企業内保険代理店を取り巻く経営環境の変化に鑑み、保険代理店事業を、エーオンジャパン株式会社(本社:東京都千代田区)に譲渡することを2024年11月に決定し、2025年3月に譲渡を完了しました。

・保有資産の適正化を図る観点から、不動産賃貸・管理事業の一部と当該事業に関連する保有不動産を、株式会社日本エスコン(本社:東京都港区)に譲渡することを2024年12月に決定し、2025年4月に譲渡を完了しました。

 

(ⅶ) グループ全般

・2035年のありたい姿を描いた経営ビジョン「KAITEKI Vision 35」、及び2025年度から2029年度の5年間を対象とする「新中期経営計画 2029」を策定し、2024年11月に公表しました。

・2024年11月13日に公表した「KAITEKI Vision 35」及び「新中期経営計画 2029」に基づき、ファーマ事業については、同事業の将来成長の実現を可能とするベストパートナーの探索を検討してまいりました。その結果、今後の田辺三菱製薬株式会社の再成長にむけた経営方針が合致したことなど総合的な見地から、同社を、Bain Capital Private Equity, LP(本社:アメリカ)が投資助言を行う投資ファンドが間接的に株式を保有する特別目的会社である株式会社BCJ-94(本社:東京都千代田区)の傘下に異動することを2025年2月に決議しました。定時株主総会での決議や国内外の競争法その他の法令等に基づき必要なクリアランス・許認可等の取得が完了することを前提条件として、2026年3月期第2四半期に異動が完了することを想定しています。

 

なお、当社グループの生産品目は広範囲かつ多種多様であり、また、受注生産形態をとらない製品も多く、セグメント毎に生産規模及び受注規模を金額あるいは数量で示すことはしておりません。

また、主な販売先別の販売実績及び総販売額実績に対する割合については、当該割合が100分の10未満であるため、記載を省略しております。

 

 

② キャッシュ・フロー

(金額単位:億円)

 

前連結会計年度

当連結会計年度

営業活動によるキャッシュ・フロー

4,651

5,528

投資活動によるキャッシュ・フロー

△2,461

△2,754

フリー・キャッシュ・フロー

2,191

2,774

財務活動によるキャッシュ・フロー

△2,417

△2,467

為替換算差等

204

5

現金及び現金同等物の期末残高

2,949

3,261

 

 

当連結会計年度の営業活動によるキャッシュ・フローは、税引前利益や減価償却費等に加え、運転資本の減少等により、5,528億円の収入(前連結会計年度比877億円の収入の増加)となりました。

当連結会計年度の投資活動によるキャッシュ・フローは、有形固定資産や子会社の売却による収入があったものの、有形固定資産及び無形資産の取得3,250億円等により、2,754億円の支出(同293億円の支出の増加)となり、フリー・キャッシュ・フロー(営業活動及び投資活動によるキャッシュ・フロー)は、2,774億円の収入(同583億円の収入の増加)となりました。

当連結会計年度の財務活動によるキャッシュ・フローは、有利子負債の返済による支出1,829億円や配当金の支払い633億円等により、2,467億円の支出(同50億円の支出の増加)となりました。

これらの結果、当連結会計年度末の現金及び現金同等物残高は、前連結会計年度末と比べて312億円増加し、3,261億円となりました。

 

③ 財政状態

(金額単位:億円)

 

前連結会計年度

当連結会計年度

資産

61,045

58,946

負債

38,290

36,100

 

(内、有利子負債)

23,382

21,785

資本

22,755

22,846

親会社所有者帰属持分比率()

28.9

29.5

ネットD/Eレシオ (注)

1.16

1.06

 

(注) ネットD/Eレシオ=ネット有利子負債(*1)/親会社の所有者に帰属する持分

(*1)ネット有利子負債=有利子負債-(現金及び現金同等物+手元資金運用額(*2))

(*2)手元資金運用額は、当社グループが余剰資金の運用目的で保有する現金同等物以外の

譲渡性預金・有価証券等です。

 

当連結会計年度末の資産合計は、関西熱化学株式会社等の連結子会社の売却もあり、前連結会計年度末に比べ2,099億円減少し、5兆8,946億円となりました。

当連結会計年度末の負債合計は、社債及び借入金の減少等により、前連結会計年度末に比べ2,190億円減少し、3兆6,100億円となりました。

なお、当連結会計年度末のリース負債を含む有利子負債は、前連結会計年度末に比べ1,597億円減少し、2兆1,785億円となりました。

当連結会計年度末の資本合計は、配当による減少や、在外営業活動体の換算差額の減少等もありましたが、親会社の所有者に帰属する当期利益の計上や、非支配持分の当期利益の計上もあり、前連結会計年度末に比べ91億円増加し、2兆2,846億円となりました。

これらの結果、当連結会計年度末の親会社所有者帰属持分比率は、前連結会計年度末と比べて0.6ポイント増加し、29.5%となりました。なお、ネットD/Eレシオは、前連結会計年度末と比べて0.10減少し、1.06となりました。

 

(2) 経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容

① 経営方針・経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等

「新中期経営計画2029」で設定した財務目標に対する達成・進捗状況については、以下のとおりです。

 

売上収益・コア営業利益推移


注1)定時株主総会において田辺三菱製薬の譲渡の決議が成立した後はファーマ事業は非継続事業に分類され、売上収益及びコア営業利益から除外になります。

 

収益性・安定性指標推移


注1)EPSは継続事業に係る1株当り利益を表示しています。定時株主総会において田辺三菱製薬の譲渡の決議が成立した後はファーマ事業は非継続事業に分類され、継続事業に係る1株当り利益から除外になります。FY25予想、FY29目標については上記を前提としています。

注2)ROEについては、FY29目標を開示しておりません。

 

 

各種指標の算定式

指標

算定式

ROE

親会社の所有者に帰属する当期利益/親会社の所有者に帰属する持分(期首・期末平均)

ROIC

NOPAT(*1)/投下資本(期首・期末平均)(*2)

 

(*1) NOPAT=(コア営業利益-コア営業利益に含まれる持分法による投資損益)×
(1-税率)+コア営業利益に含まれる持分法による投資損益+受取配当金

 

(*2) 投下資本=資本合計+有利子負債

 

 

2025年3月期の事業環境は、地域や業種により需要動向に濃淡はあったものの、概ね安定的に推移しました。ディスプレイ関連は中国における補助金政策の効果もあり好調に推移し、半導体関連は生成AI関連需要の牽引により緩やかな回復基調にあった一方で、自動車や食品関連市場等の一部地域・分野においては軟調さがみられました。ケミカルズ事業のコア営業利益は、前期△112億円の赤字から大幅に改善し、当期469億円の黒字となりました。

MMAやベーシックマテリアルズ&ポリマーズを中心に売買差が改善したことに加えて、スペシャリティマテリアルズにおいて一過性の減損損失の計上があったものの、総じて数量差が改善しました。 グループ全体の売上収益は、関係会社株式の譲渡影響等で前期並みながら、コア営業利益は43%の増益となりました。

 

② 経営環境と今後の見通し

当社グループを取り巻く世界経済は、各国の経済対策による下支えがあるものの、米国における通商政策の動向や、中国における不動産不況の長期化、地政学リスクの高まり、金融資本市場の変動の影響など、先行きに対する不透明感が一段と強まる中、下振れリスクに十分留意する必要があります。

このような状況下、翌連結会計年度の連結業績予想につきましては、当社事業のMMAで市況悪化に伴う減益を見込む一方で、各事業での値上げ活動推進等による増益に加え、ベーシックマテリアルズ&ポリマーズの炭素事業においては構造改革等の効果による黒字化を見込むことにより、売上収益は3兆7,400億円、コア営業利益は2,650億円、営業利益は2,020億円、税引前利益は1,650億円、当期利益は2,130億円、親会社の所有者に帰属する当期利益は1,450億円となる見込みです。

 

上記の見通しにおける主要指標の想定値は以下のとおりです。

(金額単位:億円)

 

2025年3月期

(注1)

2026年3月期

設備投資額

3,313

3,590

減価償却費      

2,624

2,690

研究開発費

574

680

為替(円/US$)     (注1)

152.6

140.0

ナフサ価格(円/KL) (注2)

75,600

65,000

 

(注1)2025年3月期について、ファーマ事業を非継続事業に組替えて表示しております。

(注2)それぞれ、2024年4月~2025年3月、2025年4月~2026年3月の平均

 

 

(3) 資本の財源及び資金の流動性

① 財務方針

当社グループは、経営方針で定めた財務目標を達成すべく、昨年11月に発表した新しい経営方針「KAITEKI Vision 35」と「新中期経営計画2029」に基づき、企業価値の向上をめざしてまいります。「KAITEKI Vision 35」及び「新中期経営計画2029」の詳細については「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (3)対処すべき課題」をご参照ください。

 

② 企業価値の向上

当社グループでは、企業価値向上に向けて、管理指標にROICを用い、全社を挙げて資本効率の改善に取り組んでおります。

ROICの向上に向けては、利益の極大化のため、売上総利益の改善余地がある取引先と交渉しマージンを拡大する努力を続けるとともに、投下資本の極小化のため、運転資金の圧縮に加えて定期修繕や設備交換のサイクル見直しなどを進め固定資産の縮減も行っていきます。

「新中期経営計画2029」の最終年である2029年度には想定資本コストを超える7%をめざします。

 

③ 資金調達及び資金配分方針

当社グループは、運転資金及び設備資金については、内部資金に加え借入金、社債等による調達を実施しているほか、複数の金融機関とのコミットメント・ラインの設定に加え複数の金融機関との間のアンコミットメントベースの当座借越契約、コマーシャル・ペーパー発行枠及び国内社債発行登録枠等の確保により資金調達手段の多様化を図り、十分な流動性の確保を行っております。

資金については、安定的な株主還元・財政基盤の確立と積極的な成長投資を両立させるため、株主還元・負債返済に約25%、設備投資・投融資に約75%を目安として配分する方針です。

 

 

(4) 重要な会計上の見積り

連結財務諸表の作成にあたっては、過去の実績や状況に応じ合理的だと考えられる様々な要因に基づき、見積り及び判断を行っておりますが、実際の結果は、見積り特有の不確実性があるために、これらの見積りと異なる場合があります。見積り及びその基礎となる仮定は、継続して見直されます。会計上の見積りの変更による影響は、その見積りが変更された会計期間及び影響を受ける将来の会計期間において認識されます。

 

当社グループの連結財務諸表に重要な影響を与える可能性のある会計上の判断、見積り及び仮定に関する主な情報は、以下のとおりです。

 

① 非金融資産の減損
 ⅰ 当連結会計年度の連結財務諸表に計上した金額

当社グループは、連結財政状態計算書に、有形固定資産2,004,447百万円、のれん827,604百万円、無形資産442,039百万円(うち、耐用年数を確定できない無形資産及び未だ使用可能でない無形資産67,831百万円)を計上しております。

なお、当連結会計年度において減損損失を94,576百万円計上し、連結損益計算書の「その他の営業費用」に含めております。減損損失の詳細は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記 16.減損損失」をご参照ください。

ⅱ 連結財務諸表利用者の理解に資するその他の情報

(ⅰ)算出方法

当社グループは有形固定資産、のれん及び無形資産について、減損の兆候がある場合、及び資産に年次の減損テストが必要な場合、その資産の使用価値や処分費用控除後の公正価値の算定を行っております。

使用価値の算定にあたっては、貨幣の時間価値及びその資産に特有のリスクについて現在の市場の評価を反映した税引前の割引率を用いて、見積将来キャッシュ・フローの割引現在価値を計算しております。なお、将来キャッシュ・フローの見積りにあたって利用する事業計画は原則として5年を限度とし、事業計画の予測の期間を超えた後の将来キャッシュ・フローは個別の事情に応じた5年を超える期間の長期平均成長率をもとに算定しております。

(ⅱ)主要な仮定

使用価値の算定における主要な仮定は以下のとおりです。

(技術に係る無形資産のうち、仕掛研究開発費、開発段階にある導入契約により取得した権利)

規制当局の販売承認の取得の可能性、上市後の売上収益の予測及び割引率

(有形固定資産、上記を除く無形資産、のれん)

原則として5年を限度とする事業計画における将来キャッシュ・フローの見積り、割引率及び5年を超える期間の長期成長率。

将来キャッシュ・フローの見積額は主として、売上収益の予測及び市場の成長率に影響を受けます。

(ⅲ)翌連結会計年度の連結財務諸表に与える影響

主要な仮定について、経営者は妥当と判断しておりますが、将来の不確実な経済条件の変動の結果によって影響を受ける可能性があり、前提とした状況が変化すれば回収可能価額の算定結果が異なる可能性があります。

 

② 繰延税金資産の回収可能性

ⅰ 当連結会計年度の連結財務諸表に計上した金額

繰延税金資産(純額) 118,247百万円

ⅱ 連結財務諸表利用者の理解に資するその他の情報

(ⅰ)算出方法

当社グループでは、将来減算一時差異及び税務上の繰越欠損金に対して、予定される繰延税金負債の取崩、予測される将来課税所得及びタックス・プランニングを考慮し、繰延税金資産を計上しております。詳細は「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記 3.重要性のある会計方針 (6) 法人所得税」をご参照ください。

 

なお、当連結会計年度末において、田辺三菱製薬株式会社に対する投資に係る一時差異について、繰延税金資産を認識しております。詳細は「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記 12.法人所得税」に記載のとおりです。

(ⅱ)主要な仮定

将来課税所得の基礎となる将来の事業計画における主要な仮定は売上収益の予測です。

(ⅲ)翌連結会計年度の連結財務諸表に与える影響

認識された繰延税金資産については、過去の課税所得水準及び将来減算一時差異と繰越欠損金の解消が予測される期間における将来課税所得の予測に基づき、回収される可能性が高いと考えております。将来課税所得の予測及び主要な仮定について、経営者は妥当と判断しておりますが、将来の不確実な経済条件の変動の結果によって影響を受ける可能性があり、前提とした状況が変化すれば繰延税金資産の回収可能性の評価の算定結果が異なる可能性があります。

 

③ 確定給付制度債務の測定
 ⅰ 当連結会計年度の連結財務諸表に計上した金額

退職給付に係る負債 99,050百万円

ⅱ 連結財務諸表利用者の理解に資するその他の情報

確定給付制度に係る負債又は資産は、確定給付制度債務の現在価値から制度資産の公正価値を控除して算定しております。確定給付制度債務は年金数理計算により算定しており、その前提条件には割引率等の見積りが含まれております。主要な仮定について、経営者は妥当と判断しておりますが、将来の不確実な経済条件の変動の結果によって影響を受ける可能性があり、前提とした状況が変化すれば確定給付制度債務の評価額の算定結果が異なる可能性があります。

確定給付制度債務に係る詳細は「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記 28.退職給付」をご参照ください。

 

④ 金融品の公正価値

ⅰ 当連結会計年度の連結財務諸表に計上した金額

公正価値ヒエラルキーがレベル3の株式及び出資金(売却目的で保有する資産を除く) 103,486百万円

 なお、上記の金額は、連結財政状態計算書の「その他の金融資産」に含めております。

ⅱ 連結財務諸表利用者の理解に資するその他の情報

当社グループにおいて活発な市場における公表価格が入手できない非上場株式及び出資金の公正価値は、合理的に入手可能なインプットにより、類似企業比較法又はその他の適切な評価技法を用いて算定しております。選択された価値評価技法と主要な仮定について、経営者は妥当と判断しておりますが、将来の不確実な経済条件の変動の結果によって影響を受ける可能性があり、前提とした状況が変化すれば公正価値の評価額の算定結果が異なる可能性があります。

詳細は「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記 36.金融商品 (8) 金融商品の公正価値」をご参照ください。

 

 

5 【重要な契約等】

(1) 事業提携、事業再編等

・2024年9月、三菱ケミカル㈱は、子会社である関西熱化学㈱の全株式を、㈱神戸製鋼所に譲渡する旨の株式譲渡契約を締結しました。

・2024年12月、三菱ケミカル㈱は、子会社であるダイヤリックス㈱の不動産賃貸・管理事業の一部と当該事業に関連する保有不動産を、㈱日本エスコンに譲渡する旨の契約を締結しました。

・2025年3月、当社は、子会社である田辺三菱製薬㈱の全株式及び関連資産を、吸収分割(以下「本吸収分割」)により、㈱BCJ-94に2025年7月1日付で承継させる旨の吸収分割契約(以下「本吸収分割契約」)を締結しました。なお、本吸収分割契約は、その承認を2025年6月25日開催予定の定時株主総会の議案(決議事項)として提案しております。本吸収分割の概要は以下のとおりです。

 

 (本吸収分割の目的)

  当社は、2025年2月10日に提出した臨時報告書のとおり、田辺三菱製薬㈱をBain Capital Private Equity, LP(そのグループを含み、以下「ベインキャピタル」)が投資助言を行う投資ファンドが間接的に株式を保有する特別目的会社である㈱BCJ-94の傘下に異動することを決定いたしました。本吸収分割は、かかる異動の方法として決議されたもので、田辺三菱製薬㈱の全株式及び関連する権利義務を㈱BCJ-94に承継させることを目的として行うものです。

 

 (本吸収分割の方法)

  当社を吸収分割会社、㈱BCJ-94を吸収分割承継会社とする吸収分割です。

 

(本吸収分割の日程)

本吸収分割契約締結に係る取締役会決議日  2025年3月28日

本吸収分割契約締結日                    2025年3月28日

本吸収分割契約承認株主総会              2025年6月25日

本吸収分割の効力発生日            2025年7月1日(予定)

 

(本吸収分割に係る割当ての内容)

本吸収分割に際して、当社は㈱BCJ-94から約5,100億円相当の金銭交付を受ける予定です。ただし、最終的な対価の金額は本吸収分割契約に定める価格調整等を経て決定されます。

 

  (本吸収分割に係る割当ての内容の算定根拠)

① 割当ての内容の根拠及び理由

当社は、本吸収分割の決定に当たって公平性・妥当性を確保するため、当社の財務アドバイザーであるゴールドマン・サックス証券株式会社(以下「ゴールドマン・サックス」)に田辺三菱製薬㈱の価値に係る財務分析を依頼し、2025年3月24日付の株式価値算定書(以下「GS算定書」)を取得しております。

② 算定に関する事項

イ 本吸収分割の算定機関の名称並びに上場会社及び相手会社との関係

ゴールドマン・サックスは、当社、田辺三菱製薬㈱及びベインキャピタルの関連当事者には該当せず、本吸収分割に関して重要な利害関係を有しておりません。

ロ 算定の概要

ゴールドマン・サックスは、上記のGS算定書において、ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法(以下「DCF法」)を用いた分析を行っております。なお、DCF法については当社の経営陣が現時点で得られる最善の予測及び判断に基づき合理的に作成された財務予測(以下「本財務予測」)に基づいております。DCF法において算定された田辺三菱製薬㈱の価値の範囲は以下のとおりです。

 

 

算定結果

DCF法

4,518億円~5,451億円

 

 

DCF法では、ゴールドマン・サックスは、本財務予測に織り込まれた一定の前提に基づく田辺三菱製薬㈱の将来のフリー・キャッシュ・フローを現在価値に割り引いて田辺三菱製薬㈱の価値を分析しております。ゴールドマン・サックスがDCF法に用いた本財務予測は、2025年3月期から2033年3月期を対象とする9事業年度で構成されております。ゴールドマン・サックスがDCF法に用いた2025年3月期から2033年3月期を対象とする本財務予測には、大幅な増減益を見込んでいる事業年度が含まれております。具体的には、2025年3月期は、希望退職制度を実施したことに伴い退職金の支払い約150億円の発生を見込んでおります。さらに、2030年3月期及び2031年3月期は、田辺三菱製薬㈱の主要製品の一領域における事業環境の変化に伴い、田辺三菱製薬㈱の製品ポートフォリオに変更が加わることを想定しており、コア営業利益ベースで前事業年度に比べて約4割程度の減益が見込まれております。また、2032年3月期は、現在開発中のパーキンソン病治療薬の販売拡大により、コア営業利益ベースで前事業年度対比約4割程度の増益を見込んでおります。なお、本財務予測は、田辺三菱製薬㈱単独のものであり、また、本吸収分割とそれに関連する取引により実現することが期待できるシナジー効果を現時点において具体的に見積もることが困難であることから、当該シナジーを織り込んでおりません。

 

 (分割する資産、負債の項目及び金額)                         

2024年3月31日現在

資産

負債

項目

帳簿価額

項目

帳簿価額

流動資産

580,610百万円

流動負債

122,968百万円

非流動資産

381,878百万円

非流動負債

34,813百万円

合計

962,488百万円

合計

157,781百万円

 

 

 (本吸収分割後の吸収分割承継会社の概要)

商号

株式会社BCJ-94

本店の所在地

東京都千代田区丸の内一丁目1番1号 パレスビル5階

代表者の氏名

代表取締役 杉本 勇次

資本金の額

5千円

純資産の額

現時点では確定しておりません。

総資産の額

現時点では確定しておりません。

事業の内容

1.会社の株式又は持分を所有することにより、当該会社の事業活動を支配、管理する業務

2.上記1に付帯関連する一切の業務

 

 

 

 

 

(2) 合弁会社の設立

契約会社名

契約締結先

内容

契約締結日

出資比率

日本ポリケム㈱

日本ポリオレフィン㈱

ポリエチレン樹脂の製造及び販売を主たる目的とする日本ポリエチレン㈱の設立

2003年6月30日

出資比率58%

日本ポリケム㈱

JNC石油化学㈱

ポリプロピレン樹脂の製造及び販売を主たる目的とする日本ポリプロ㈱の設立

2003年5月21日

出資比率65%

三菱ケミカル㈱

三菱瓦斯化学㈱

エンジニアリングプラスチック事業に関する三菱エンジニアリングプラスチックス㈱の設立 

1994年1月31日

出資比率25%

三菱ケミカル㈱

旭化成㈱

水島地区における基礎石化原料に関する事業の共同運営を主たる目的とする三菱化学旭化成エチレン㈱(現 三菱ケミカル旭化成エチレン㈱)の設立

2015年5月28日

出資比率50%

三菱ケミカル㈱

UBE㈱

ABS樹脂の製造及び販売を主たる目的とするユーエムジー・エービーエス㈱の設立

2001年12月26日

出資比率50%

三菱ケミカル㈱

三養ホールディングス社
ジーエス・カルテックス社

韓国におけるテレフタル酸の製造及び販売を主たる目的とする三南石油化学社の設立

1987年9月10日

出資比率40%

日本サウディメタクリレート合同会社

サウジ基礎産業公社

MMAモノマー、アクリル樹脂等の製造を主たる目的とするザ・サウジ・メタクリレーツ社の設立

2014年1月28日

出資比率50%

三菱ケミカル㈱

ロッテ・ケミカル社

MMAモノマー及びアクリル樹脂等の製造及び販売を主たる目的とするロッテ・エムアールシー社(現 ロッテ・エムシーシー社)の設立

2006年5月2日

出資比率50%

 

 

(3) 外国との技術提携(技術導入関係)

(三菱ケミカル㈱)

ウルフスピード社と2008年11月7日付にて締結した窒化ガリウム基板特許の実施許諾に関する契約は、2024年11月26日に解約しました。

 

(田辺三菱製薬㈱)

 

契約締結先

内容

契約締結日

有効期間

対価

(アメリカ)

 

 

 

 

ヤンセン・
バイオテク社

抗ヒトTNFαモノクローナル抗体製剤「レミケード」の販売権の許諾

1993年11月26日

1993年11月から

田辺三菱製薬㈱が販売する間

一時金及び
マイルストーン

(アイルランド)

 

 

 

 

ヤンセン・サイエンシィズ・アイルランドUC社

ヒト型抗ヒトTNFαモノクローナル抗体製剤「シンポニー」の開発・販売権の許諾

2006年8月3日

2006年8月から
発売後一定期間経過時まで

一時金及び
マイルストーン

 

 

(4) 企業・株主間の企業統治に関する合意

該当事項はありません。

 

(5) 企業・株主間の株主保有株式の処分・買増し等に関する合意

該当事項はありません。

 

(6) 金銭消費貸借契約と社債に付される財務上の特約

該当事項はありません。

 

 

6 【研究開発活動】

当社グループは、各社において独自の研究開発活動を行っているほか、グループ会社間での技術や市場に関する緊密な情報交換や共同研究、研究開発業務の受委託等を通じて、相互に協力し、連携の強化を図るとともに、グループ外の会社等との間でも共同での研究開発を積極的に行うなど、新技術の開発や既存技術の改良に鋭意取り組んでおります。

当社グループの研究開発人員は3,797名、当連結会計年度における研究開発費の総額は1,239億円となっており、各事業部門別の研究内容、研究成果及び研究開発費は次のとおりであります。

(1) スペシャリティマテリアルズセグメント

アドバンストフィルムズ&ポリマーズ、アドバンストソリューションズ、アドバンストコンポジット&シェイプスに関する研究開発を行っており、当連結会計年度の主な成果は次のとおりです。

・株式会社ダイモンが開発した月面探査車「YAOKI」において、素材知見と構造設計・最適化シミュレーション技術を融合したコンプライアントメカニズムを適用して設計した樹脂部材が採用されました。「YAOKI」は2025年3月、民間プロジェクトとして日本で初めて月面での撮影、地球への画像データ送信に成功しました。

・養殖業における感染症による突然死の抑制につながる有胞子性乳酸菌プロバイオティクス「Heyndrickxia coagulans SANK70258」の効果について、近畿大学大学院農学研究科と共同研究の成果を発表し、成果論文は2024年11月「Frontiers in Aquaculture」に掲載されました。

本セグメントにおける当連結会計年度の研究開発費は257億円であります。

(2) MMA&デリバティブズセグメント

MMA、コーティング&アディティブスに関する研究開発を行っており、当連結会計年度の主な成果は次のとおりです。

・リサイクル原料となる廃プラスチックの種類などの情報を改ざん不可能な形で適切に管理・共有できる透明性・信頼性の高いサプライチェーン構築に向けて、株式会社chaintopeと共同でトレーサビリティシステムの実証試験を実施しました。

本セグメントにおける当連結会計年度の研究開発費は68億円であります。

(3) ベーシックマテリアルズ&ポリマーズセグメント

マテリアルズ&ポリマーズ、炭素に関する研究開発を行っており、当連結会計年度の主な成果は次のとおりです。

・2025年度中に資源循環型カーボンブラックの販売を開始することをめざし、香川事業所のコークス炉において、使用済みタイヤをケミカルリサイクルする検討を2024年7月に開始しました。コークス炉を活用し、使用済みタイヤから再生産した資源循環型カーボンブラックを販売することは世界初の試みとなります。

・植物性由来のポリカーボネートジオールである「BENEBiOL™」について、柔軟性と耐薬品性の両立、耐汚染性、特徴的な触感などの優れた機能は変わらず、さらにバイオマス比率を高めたグレードを2024年10月に提供開始しました。

・タイヤの製造工程で発生するゴム片及び使用済みタイヤの粉砕処理品を用いて、ケミカルリサイクルによってタイヤの主原料のひとつであるカーボンブラックを生産し、再びタイヤの原料として活用する資源循環の取り組みを住友ゴム工業株式会社と協業で2025年1月に開始しました。

・茨城県内におけるプラスチック容器の循環をめざす包括連携協定を鹿嶋市、リファインバース、東洋製罐グループ、キユーピー、カスミと2025年2月に締結しました。回収された使用済みプラスチックをケミカルリサイクルプラントにて再資源化する実証実験を2025年夏頃に開始予定です。

 本セグメントにおける当連結会計年度の研究開発費は86億円であります。

(4)ファーマセグメント

医薬品に関する研究開発を行っており、当連結会計年度の主な成果は次のとおりです。

・パーキンソン病治療薬候補品であるND0612について、米国食品医薬品局(FDA)より審査完了報告通知(Complete Response Letter、以下「CRL」)を受領しておりましたが、CRLで指摘されたND0612の成分の一つであるカルビドパの安全性に関する追加情報の提供や、製品の品質、デバイス及び製造所の査察に関する追加情報についてFDAと協議し、再申請に向けた対応が確認できたことを受け、米国における開発計画を変更しました。2025年中頃の再申請をめざします。また、欧州医薬品庁(EMA)より販売承認申請を受理した旨の通知を2025年2月に受領しました。

・選択的DPP-4阻害剤/SGLT2阻害剤 配合剤「カナリア®配合OD錠」について、口腔内崩壊錠(OD錠)の剤形追加承認を日本において2025年2月に取得しました。

本セグメントにおける当連結会計年度の研究開発費は665億円であります。

(5)産業ガスセグメント

産業ガスに関する研究開発を行っており、当連結会計年度の主な成果は次のとおりです。

・石灰製造炉などの高濃度CO2排出源をターゲットとして、10t/日規模のCO2回収装置(回収CO2濃度98%)を開発・商品化しました。中小規模排出源(排ガス量1,000Nm3/hクラス)向けの装置であり、ユニット化して導入・設置が容易に行えます。また、2024年4月、適用可能な原料CO2濃度範囲を20~60%まで拡大し、幅広いCO2排出源からのCO2回収を可能にいたしました。原料CO2濃度が20%未満である排出源からの回収についても、現在、本回収装置の適用を可能にすべく技術開発に取り組んでいます。

・2024年4月、アンモニアから燃料電池自動車(FCV)の水素燃料に求められる品質仕様(ISO 14687:2019 Grade D)を満たす水素の製造実証に成功しました。また、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業「競争的な水素サプライチェーン構築に向けた技術開発事業/大規模外部加熱式アンモニア分解水素製造技術の研究開発」に参画し、大型の水素精製装置の開発を進めています。

・化合物半導体製造装置事業では、MOCVD装置及びHVPE装置の製造・販売するとともに、用途拡大、改良改善のための開発に取り組んでいます。深紫外線ライトを使った除菌装置の開発・販売を手掛けているLit Thinking社より、大陽日酸製MOCVD(SR2000HT-RR)を2024年6月に受注しました。本装置はUVオプトエレクトロニクスのデバイス及びパワーエレクトロニクスの開発促進に必須となる高品質なアルミニウムガリウムナイトライド(AlGaN)の安定的な製造に用いられます。また、サウスカロライナ大学は、大陽日酸製MOCVD装置(型式:SR4000HT)を2025年3月に採用を決定しました。本装置はパワーエレクトロニクスやその他のワイドバンドギャップ半導体製造に用いられ、窒化物半導体の開発に貢献することが期待されます。大陽日酸は同大学と協力し、先進的な窒化物半導体デバイスの研究開発を支援することで、大陽日酸製MOCVD装置のグローバル市場に対する優位性が促進されると期待しています。さらに、ワイドバンドギャップ半導体において世界的に著名なオハイオ州立大学に対し、高性能な化合物半導体デバイスの製造に不可欠な窒化物用MOCVD装置(SR4000HT-RR-LV)と酸化物用HVPE装置を納入することを2024年10月に決定しました。

本セグメントにおける当連結会計年度の研究開発費は50億円であります。

(6) その他

エンジニアリング等に関する研究開発を行っており、その他部門における当連結会計年度の研究開発費は3億円であります。

 

 上記のほか、研究開発費には、特定の事業部門に区分できない基礎研究に要した研究開発費が110億円あります。