文中における将来に関する事項は、当社グループが当連結会計年度末現在において判断したものです。
当社は、2024年11月に新しい経営方針「KAITEKI Vision 35」と「新中期経営計画2029」を発表しました。(詳細は当社ウェブサイトをご参照ください。https://www.mcgc.com/group/strategy/index.html)
2035年のありたい姿として「社会課題に最適なソリューションを提供し続け、素材の力で顧客を感動させる『グリーン・スペシャリティ企業』になる」ことを掲げ、KAITEKIの実現と企業の持続的成長の両立を打ち出しました。当社はグループ一丸となって収益力の強化と事業の成長を実現させ、企業価値の向上に取り組んでまいります。
(2) 経営環境
当社グループを取り巻く経営環境については、「4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (2) 経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容 ②経営環境と今後の見通し」に記載のとおりです。
(3) 対処すべき課題
当社グループのPurposeは、革新的なソリューションで、人、社会、そして地球の心地よさが続いていくKAITEKIの実現をリードしていくことです。化学に立脚する当社グループは、カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーに対応し、持続可能な社会の実現に貢献することが求められています。
当社は、2024年11月に新しい経営方針「KAITEKI Vision 35」と「新中期経営計画2029」を発表しました。「社会課題に最適なソリューションを提供し続け、素材の力で顧客を感動させる『グリーン・スペシャリティ企業』になる。」ことを2035年のありたい姿として掲げ、これまで培ってきた幅広いリソースをつなぎ合わせて活用し、5つの注力事業領域で成長するというビジョンを明確にしました。
・グリーン・ケミカルの安定供給基盤:化学産業のグリーン化をグローバルにリードする
・環境配慮型モビリティ :環境対応に伴うモビリティの進化を素材で支える
・データ処理と通信の高度化 :半導体高度化のエコシステムを支える
・食の品質保持 :おいしさを長持ちさせて食の流通・加工プロセスを支える
・新しい治療に求められる技術や機器:新しい治療を医療用グレードの高機能素材で支える
ビジョン実現のためには、低迷が続くケミカルズ事業の立て直しが喫緊の課題です。「新中期経営計画2029」では「事業選別の3つの基準」と「規律ある事業運営の3原則」を設け、これらのルールのもとでポートフォリオ変革と収益改善を実現します。ノンコア事業の整理・売却を一層加速するとともに、厳格な価格政策、規律ある成長投資、聖域なきコスト削減と資産最適化によりコア営業利益を拡大させます。
2035年を見据えて諸施策を進めていくうえでのキーワードは「つなぐ」です。組織や領域を超えて技術や知見を共有し、多様な視点を活かすことで、新たな発想によるイノベーションを加速します。複雑化する社会課題や顧客からの多様なニーズに迅速に応えていくためには、社外のパートナーとのつながりも欠かせません。戦略的連携を通して、社会課題に最適なソリューションを提供していきます。
以上に加え、企業の持続的成長の基盤として、安全管理・コンプライアンスの徹底、内部統制システムの適切な運用とグループガバナンスの強化に引き続き取り組んでまいります。
当社グループは、これら経営の諸課題にグループの総力を挙げて対処し、企業価値・株主価値の向上を図ってまいります。
文中における将来に関する事項は、当社グループが当連結会計年度末現在において判断したものです。
当社グループは、「私たちは、革新的なソリューションで、人、社会、そして地球の心地よさが続いていくKAITEKIの実現をリードしていきます。」というPurposeを掲げ、サステナビリティを経営の中核の1つに据えた企業活動を行っています。
カーボンニュートラルの実現や、人材の育成・開発と働く環境の整備などの人的資本の拡充を含めた事業基盤の強化を通じて、サステナビリティの向上に努め、持続的成長をめざしてまいります。
(1)サステナビリティ全般
当社グループは、スペシャリティマテリアルズ、MMA&デリバティブズ、ベーシックマテリアルズ&ポリマーズ、ファーマ及び産業ガスの5つのセグメントで多岐にわたる事業活動を展開していることから、当社グループを取り巻く環境・社会課題は多様であり、また、その解決に貢献するソリューションを提供することが、当社グループの持続的成長につながる事業機会でもあります。そのため、様々な環境・社会課題を踏まえ、当社グループが取り組む重要課題(マテリアリティ)を特定しています。
特定したマテリアリティの詳細については、「②戦略」をご参照ください。
マテリアリティには、目標及び、その進捗を測る指標を設定し、当社執行役社長をはじめとした経営陣のリーダーシップのもと、定期的に進捗をモニタリングすることを通じ、関連施策を着実に推進してまいります。
指標等の詳細については、「④指標と目標」をご参照ください。
当社は、サステナビリティの諸活動のモニタリング、統括に加え、当社グループのサステナビリティに関する方針や関連事項の審議を行う機関として、当社執行役社長を委員長とし、当社の執行役等から構成するサステナビリティ委員会を設置しております。
取締役会は、当社のサステナビリティに関する状況の報告を受け、当社の諸活動が適切に行われるよう監督をしております。

また、経営の透明性の向上という基本方針のもと、サステナビリティに関する情報や指標、データを当社ウェブサイト等で積極的に開示することを通じ、ステークホルダーへの説明責任を果たしてまいります。当社ウェブサイト等に掲載する環境パフォーマンス指標及び社会パフォーマンス指標に対して、独立した第三者保証を取得し、信頼性の高い情報の開示に努めております。
当社は、これらの諸活動の客観的な状況を把握するため、当社が重要と考えるESG評価をベンチマークとしています。その結果、ESG投資の世界的な指数であるDow Jones Sustainability Indicesの構成銘柄に8年連続で選定されるなど、相対的に競争力のある評価を得ております。今後も、評価結果から得られた視点や課題を検討し、関連する諸活動の一層の強化につなげてまいります。
当社は、執行役の報酬を構成する業績連動報酬を、年度ごとの目標値の達成状況の結果に応じて決定し、支払っています。評価は、経済効率性やイノベーションに加え、サステナビリティの向上に係る指標を用いるKAITEKI価値評価及び個人評価にて決定しています。2024年度の業績連動報酬の評価指標のうちサステナビリティに関するものは、温室効果ガスの排出量削減や従業員エンゲージメント向上等、KAITEKI価値評価のなかで執行役が特に注力すべきものを選定しました。詳細については、
当社グループは、グループ理念のもと、成長を実現し、企業価値を向上させることにより、顧客や株主の皆様をはじめとするすべてのステークホルダーへ貢献していくことをめざしております。
このめざす姿の実現に向けた指針として、当社グループを取り巻く経営環境を踏まえ、ステークホルダーの視点を取り入れながら、取り組むべき重要課題(マテリアリティ)を特定しています。
マテリアリティは、当社グループが重要と考える視点に基づき分類、整理した以下の5つのカテゴリーから構成されています。

当社グループは、社会が求める最適なソリューションを提供し続けるグリーン・スペシャリティ企業になることをめざしています。その考え方に基づき、2035年までの期間を対象とする経営ビジョン「KAITEKI Vision 35」では、グリーン・ケミカルの安定供給基盤、環境配慮型モビリティ、データ処理と通信の高度化、食の品質保持、新しい治療に求められる技術や機器を注力事業領域と位置づけています。いずれの領域とも世界的な主要トレンドに沿っていることに加え、エネルギーの有効利用と脱炭素化や、持続可能な資源管理、食・水資源の有効利用といったサステナビリティの観点でも捉えることができます。

ロ 事業基盤として重要な課題
当社グループは、新経営ビジョン「KAITEKI Vision 35」で示す成長を実現するには、人事戦略を経営戦略に同期させ、人的資本の価値の最大化が不可欠という強い思いから、「人材の育成・開発」や、「ダイバーシティとインクルージョン」といったマテリアリティのもと、企業文化の変革を進めております。
詳細については、「(3)人的資本」をご参照ください。
当社グループは、企業活動を通じてステークホルダーに様々な価値を提供する一方、事業特性上、環境や社会に対するインパクトが大きい事業を展開しています。そのため、地球環境への負荷削減という観点からは、環境インパクトの削減やサーキュラーエコノミーといったマテリアリティに対して、ライフサイクル全体を通じて、資源を有効利用する取組みを推進し、最適化された循環型社会の実現をめざしております。また、持続的な成長を達成しつつ、2050年度までにカーボンニュートラルを実現するため、製造プロセスの合理化や、自家発電用設備の燃料転換といった施策を着実に講じてまいります。
当社グループは、「
当社グループは、全社的かつ総合的なリスク管理体制を整備、運用することで、先を見越したリスク管理と適切なリスクテイクを伴う経営を推進しており、サステナビリティに関連するリスクも、一体的な管理を志向してまいります。
当社グループは、特定したマテリアリティに対する目標と、その進捗を測る指標として、「MOS(Management of Sustainability)指標」を設定し、運用しています。各指標について毎年の進捗をモニタリングすることで、マテリアリティへの取組みを着実に推進してまいります。
2024年度実績は、2025年9月以降に当社ウェブサイトをご参照ください。
(注) 2023年度実績は、前連結会計年度(自 2023年4月1日 至 2024年3月31日)の数値です。
上表の指標に加え、従業員エンゲージメント、ウェルネス意識、意思決定層のダイバーシティの3つの指標については、「(3)人的資本」をご参照ください。
(2)気候関連
当社グループは、重要課題(マテリアリティ)に、「GHG低減」「環境インパクト削減」「サーキュラーエコノミー」といった気候変動に関連する課題を定め、取締役会の監督の下、当社の執行役等から構成するサステナビリティ委員会が定期的にモニタリングし、関連施策を着実に推進しています。
詳細については、「(1)サステナビリティ全般 ①ガバナンス」をご参照ください。
また、リスク管理については、「(1)サステナビリティ全般 ③ リスク管理」をご参照ください。
当社グループは、2030年にかけて直面する気候変動による影響のインパクトをシナリオ分析の考え方に基づき評価した結果、炭素税負担の増加や株式市場での気候変動対応の高まりなどにより、操業コストや時価総額へ影響が生じる可能性があることを認識しています。そのため、GHG排出量を2030年度に29%削減(2019年度比)、2050年に実質ゼロとするカーボンニュートラル達成をめざすという目標を掲げ、エネルギー転換や製造プロセスの合理化といったGHG排出量の削減策をロードマップに沿って着実に実行していきます。
ロードマップやその進捗については、当社ウェブサイト上をご参照ください。
また、自然災害の増加に伴い、沿岸地域の工場が災害によって操業停止するリスクに備え、被害の最小化と事業継続性の確保を推進しております。
加えて、これらの取組みには、ステークホルダーの理解と協力が不可欠であるため、気候関連などサステナビリティ情報の開示やエンゲージメントの充実化に努めてまいります。その一環として、インパクトの評価結果を含め、気候関連の情報を、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言に沿った形で開示しております。詳細については、当社ウェブサイトのTCFD提言に基づく報告をご参照ください。
当社グループは、カーボンニュートラルに移行する社会でも競争力のある企業をめざし、 Visionとの整合性、競争優位性、成長性の基準を用いたポートフォリオへの変革を通じて、カーボンニュートラル実現に貢献する事業へ注力していきます。具体的には、新経営ビジョン「KAITEKI Vision 35」で示したグリーン・ケミカルの安定供給基盤、環境配慮型モビリティ、データ処理と通信の高度化、食の品質保持、新しい治療に求められる技術や機器などの注力事業領域について、事業規模の拡大、収益力を強化していきます。
ハ 気候関連の指標と目標
当社グループは、マテリアリティの進捗を測る経営指標(MOS指標)の中に、GHG排出量の削減率を設定し、中期目標を掲げ、毎年進捗を評価していきます。詳細については、「(1)サステナビリティ全般 ④指標と目標」をご参照ください。また、GHG排出量は以下のとおりであります。
2024年度実績は、2025年9月以降に当社ウェブサイトをご参照ください。
GHG排出量
(単位:千t-CO2e)
(注)2022年度は、三菱ケミカル㈱、田辺三菱製薬㈱、㈱生命科学インスティテュート及び日本酸素ホールディングス㈱とこれらの国内及び海外のグループ会社を対象としています。
また、2023年度は、三菱ケミカル㈱、田辺三菱製薬㈱及び日本酸素ホールディングス㈱とこれらの国内及び海外のグループ会社を対象としています。
当社グループにとって、人材は価値創造の源泉であり、企業としての成長やPurpose実現の原動力そのものです。
昨年度、新経営ビジョン「KAITEKI Vision 35」と新たな中期経営計画「新中期経営計画2029」を策定しました。「新中期経営計画2029」は「KAITEKI Vision 35」の実現を加速する重要なステップです。この計画の実現に向け、当社の様々な強みを「つなぐ」ことによる価値創造や、環境変化に対応する事業変革を進めていくべく、人事戦略を経営戦略に同期させ、人的資本の価値を最大化させていきます。

以下に人的資本に関する「戦略」、「ガバナンス」、「リスク管理」、「指標と目標」を示します。
「KAITEKI Vision 35」や「新中期経営計画2029」の実現に向け、会社と個人が同じ目的に向かって歩み、その中で個人のポテンシャルを最大限に引き出せるよう、環境や組織・文化を整備し、挑戦と学びの機会提供に取り組んでいきます。
以下の5つを2029年度の「ありたい姿」として据え、その実現に向けた施策を重点的に進めています。
・「経営戦略・事業戦略と人事戦略の同期」
・「グローバルでの最適な人材配置・登用」
・「ポテンシャルが最大化できる環境」
・「魅力ある企業グループ」
・「リーンで生産性の高い組織」
イ 経営戦略・事業戦略と人事戦略の同期
・経営戦略・事業戦略と人事戦略を同期させ、組織と人材の力を最大限に引き出すことで、持続的な成長と価値創造を実現します。
・人事戦略の実行に向け、経営戦略として重視する「つなぐ」という価値創造のアプローチを実現するために必要な「求める人材」の育成や、「つなぐ」組織・カルチャーの実現に向けた評価制度の見直しのほか、各事業・機能部門との連携を強め、部門戦略の実現に必要な知識・経験・スキルを伸ばすための配置・育成を進めるなど、人事施策を多角的に展開していきます。
ロ グローバルでの最適な人材配置・登用
・次世代・次々世代の経営リーダー育成の仕組みを再構築しています。求める人材要件を再定義した上で候補人材のプールを形成していきます。経営幹部内での議論を踏まえた個人単位の育成プランを策定し、事業/Regionと協力のもと、裾野を拡げた幹部候補の育成も進めながら、強固な人材パイプラインの構築につなげていきます。
(当社の考える経営リーダーの要件定義)
経営リーダーの要件
・グローバルでの最適配置を実現するための様々な取組みも行っています。世界各地の人材情報を一元化・可視化するための共通プラットフォームを構築するとともに、報酬や異動・配置のポリシーをグローバルに定め、国や地域を跨いだ人材活用の基盤を整えていきます。
ハ ポテンシャルが最大化できる環境
・従業員に対し、成長と挑戦の機会提供を行っていきます。適切な権限委譲のもと、当社ならではの学びや挑戦を個々の経験として得られるようにしていくとともに、尖った強みを持つ人材がその強みを活かしてキャリアアップ・活躍できるよう、管理職の人事制度を見直し、マネジャーとしての役割・責任の大きさに加え、「専門性」もより適切に評価・処遇できるものにしていきます。個々の強みを評価する土壌を整え、挑戦機会の拡大と組織全体の底上げにつなげていきます。
・組織の多様性を高め、多様な視点からの意見を活かすことができるよう環境整備を進めていきます。様々な考え方や特性を持つ人材が活躍することが新たな価値創造や職場の活性化につながることから、一人ひとりの違いを尊重する姿勢を大切にします。あわせて、各分野のスペシャリストの採用力強化にも注力し、多様な専門性や視点を持つ人材の力を発揮できる組織づくりを進めていきます。
・従業員が安心して力を発揮し成長していくための土台として減点主義を排した心理的安全性の高い職場環境を整えます。ハラスメントの撲滅や風通しの良い職場作りはもちろん、褒める文化の醸成や適正な評価と報酬の決定も従業員の納得感と安心感を支える要素であることから、これまで以上に事業戦略の実現をドライブできる評価制度をめざし、制度の見直し・改善を進めていきます。
・育児・介護・治療と仕事の両立に向けた制度整備と職場での理解促進にも取り組んでおり、特に育児休業については、男女問わず取得しやすい環境整備を進めています。(男女の育児休業取得率については、「5 従業員の状況 (4) 管理職に占める女性労働者の割合、労働者の育児休業取得率及び労働者の男女の賃金の差異」を参照ください。)また、リフレッシュのための連続休暇の取得も推奨しています。2024年度の主要事業会社3社の有給休暇取得率は78.4%となっており、全社的に計画的な取得を促す文化が醸成されてきました。
ニ 魅力ある企業グループ
・顧客の課題を解決し、社会に価値を提供するためには、従業員一人ひとりが成長と挑戦を重ね、新たな価値を生み出し続ける必要があります。意欲と能力を持った人材が集い、互いを高めあうような「魅力ある企業グループ」をめざし、様々な取組みを行っていきます。
・従業員意識調査によるエンゲージメントスコアについても、組織単位でのフィードバックや要因分析、好事例の横展開を通じ、自部署の長所・短所の把握、改善策の実行を進めていきます。全社施策としても、以前から課題となっていた経営施策の浸透を進めるべく、社長や経営幹部が国内外の各拠点・事業所を訪問し、対面での交流を通じた施策の理解浸透活動を重点的に行っています。その結果、「KAITEKI Vision 35」や「新中期経営計画2029」を踏まえた2024年度のエンゲージメントスコアは70pptと前年比での向上も見られました。今後も引き続き、従業員と会社の関係性がより良いものになるよう進めていきます。
ホ リーンで生産性の高い組織
・リーンで生産性の高い組織をめざすために効率的な組織運営を図っています。適切な決裁権限体系を整備することで内部統制を担保しながら、スピーディな意思決定・実行を可能としています。権限委譲を進めることで従業員のオーナーシップを醸成し、一人ひとりの能力向上にもつなげています。あわせて要員数の可視化を進めたり、ムダな業務の洗い出し・見直しを全社横断プロジェクトとして進めたりと、組織全体の生産性・業務効率の向上にも取り組んでいます。
当社グループでは、人事戦略や人事組織の有効性を確保するために、以下の取組みを行っています。
イ 経営による人事戦略のモニタリング
経営戦略と人事戦略の連動性を高めるとともに、人事戦略・施策の検討には経営メンバーも交えて十分な議論を行うことで組織全体の効果的な運営と成果向上をめざします。
これらの戦略や施策の実効性を高めるために、経営陣による重要施策の執行状況のモニタリングや、定期的な従業員意識調査の結果を活用し、施策の有効性を確認しています。
さらに、当社グループのサステナビリティ指標であるMOS指標には、「従業員エンゲージメント」、「ウェルネス意識」、「意思決定層のダイバーシティ」を人事戦略・施策に関する指標として設定し、執行役社長をはじめとした経営陣のリーダーシップのもとで、その進捗を定期的にモニタリングしています。
ロ 規律ある運営
複雑で変化の激しい事業環境においては、従業員一人ひとりが自律的に考え、行動することが求められます。権限委譲の枠組みを適切に構築した上で、各従業員が一定の裁量をもって主体的に意思決定を行うことをめざしていますが、その基盤となるのが高い「規律」と「遵法意識」です。
当社グループでは、コンプライアンス教育などによる意識醸成に加え、公正かつ規律ある行動・意思決定を支える体制の整備にも取り組んでいます。近年では懲戒に関するガイドラインをグローバルに整備し、一貫性ある対応を可能としました。
こうした取組みを通じて、組織としての信頼性を高め、持続的な成長と価値創出につなげていきます。
③ リスク管理
上述の人事戦略における重要なリスク及びそれに対する主な対応策は以下のとおりです。
④ 指標と目標
当社グループのサステナビリティ指標であるMOS指標において、「従業員エンゲージメント」、「ウェルネス意識」、「意思決定層のダイバーシティ」を人事戦略・施策に関する指標として設定しています。
「従業員エンゲージメント」「ウェルネス意識」は、定期的に実施する従業員意識調査における関連設問に対する好意的回答者の割合を示しており、そのスコアに基づいて目標設定するほか、個別設問の結果を人事施策に反映させるとともに、進捗状況をモニタリングしています。
1.当社グループのリスク管理について
(1)リスクに対する考え方
当社グループにおいては、複雑さと不安定さが増していく経営環境に対応するため、リスクを「目標の達成に好ましい、好ましくないまたはその両方の影響をもたらす不確かな事象」と定義し、全社的かつ総合的なリスク管理体制を整備、運用することで、先を見越したリスク管理と適切なリスクテイクを伴う経営を推進しています。
(2)リスク管理体制
当社グループは、執行役社長を当社グループにおけるリスク管理を統括する最高責任者とし、執行役社長と各執行役・執行役員から構成されるERM委員会を設置しています。ERM委員会においては、グループのリスク管理の基本方針等重要事項を審議し、またグループ全体に大きな影響を及ぼしうる重大リスクを識別・特定し、その管理状況をモニタリングします。また、リスク管理の状況は、取締役会に報告し、その監督を受けています。各組織においては、ビジネスグループ、コーポレートファンクションの長がERM部門責任者となり、その下で実務を担うERM部門管理者及びERM部門担当者を配置して、組織レベルでのリスク管理を推進しています。

(3)リスク管理の推進
当社は、事業ポートフォリオ戦略や事業基盤、環境や社会への影響など、当社グループにとっての課題を分類、整理し、社外有識者へのヒアリング、社外取締役連絡会での討議などを通じて多角的な観点から確認したうえで、当社グループが取り組むべき重要課題(マテリアリティ)を特定しています。リスク管理におけるリスクカテゴリーについては、このマテリアリティに基づき、当社グループの経営に影響を与えうるリスクを抽出、分類し、31個のリスクカテゴリーを定めています。
当社グループにおけるリスク管理は、経営層が当社グループの経営に影響を与えるリスクを予め特定し、グループをあげて全社的に取り組む活動(全社視点リスク)と、各組織においてリスクを特定し、組織毎に対応を行う活動(組織独自視点リスク)を両輪とする活動になっています。全社視点リスクについては、リスク主管役員がリスク主管部門を指揮し、組織独自視点リスクについては、各組織が自ら自組織の保有するリスクを特定・評価し、それぞれ対応策を検討・実行します。各組織で実施しているリスク対応策の実施状況については、リスク主管部門がモニタリングし、ERM委員会に報告するとともに、必要に応じて各組織に対して追加対応策実行の要請をします。この全社視点リスクの一連の活動は、ERM委員会での審議・報告が行われます。

(4)重大リスクへの対応
ERM委員会では、国際情勢や事業環境に照らして、近い将来にグループ全体に影響を与えうる重大なリスクを特定し、重大リスクとして対応を進めています。重大リスクについては、定期的にERM委員会において対応状況の報告がなされ、リスク対応策の有効性を評価し、必要に応じて各組織に対し追加対応策の要請を出すなど、適切にリスク管理が実行されるよう努めています。なお、2024年度は、地政学リスク、サプライチェーンリスク、情報セキュリティリスクなど7つのリスクを重大リスクとして特定し、個別事情に応じた対応策を講じ、当社の経営成績及び財政状態に与える影響の回避・低減に取り組んでおります。
(5)戦略リスクへの対応
中長期の戦略、事業目標や計画、投資など経営判断に起因して顕在化しうる戦略リスクは、機会の側面と脅威の側面の両方を有します。当社は、戦略立案から投資の意思決定に至るまでの成長機会と脅威双方の把握と可視化を行い、将来の期待利益だけでなく、脅威に関する評価を視点に加えた適切なリスクテイクを伴う経営を推進しています。
(6)クライシス(危機)への対応
当社では、グループの役職員等の生命及び安全、並びに事業継続、社会的信用、企業価値等に多大な影響を与えるリスクが顕在化またはそのおそれがある事態が生じた場合に、損害の拡大抑止と早急な復旧を行うための危機管理体制の整備を進めています。対象とする危機事象には、大規模自然災害、大規模情報システム障害・情報セキュリティインシデント、パンデミック、保安及び環境上の重大事故、戦争・大規模テロを含みます。各組織は、危機事象の発生に備え、平時から事前対策の実行、BCPの整備、訓練の実施などの活動を行うとともに、危機事象の発生時には、有事の危機管理体制の下、人命・安全確保を最優先として、当社グループの財産・資産並びに社会に与える影響の最小化、社会的信用の保護を基本方針として、事態の収束に向けて最善を尽くします。
2.事業活動における個別リスク
当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性のある主なリスクには、以下のようなものがあります。なお、以下の事項は有価証券報告書提出日(2025年6月23日)現在において判断した記載となっています。
(1)事業セグメントごとのリスク
当社グループの製品の多くは、国内外の需要や製品市況、原油・ナフサ・ユーティリティ等の原燃料・材料の価格や調達数量、為替、関連法規制等によって影響を受ける可能性があります。事業セグメントごとに想定されるリスクとその対応策は以下のとおりです。なお、現時点における想定・予測を超えて事業環境が変化した場合、また当社の講じるリスク対応策が有効に機能しない場合には、当社の業績及び財政状態に悪影響を与える可能性があります。
①スペシャリティマテリアルズセグメント
②ベーシックマテリアルズ&ポリマーズ、MMA&デリバティブズ及び産業ガスセグメント
③ファーマセグメント
④サービスセグメント(その他)
(2)グループ全体に影響のあるリスク
①サプライチェーン・地政学に関連するリスク
②情報セキュリティに関連するリスク
③DXに関連するリスク
④法規制対応/コンプライアンスに関連するリスク
⑤人権に関連するリスク
⑥大規模自然災害に関連するリスク
⑦事故・事業活動に起因する災害に関連するリスク
⑧品質・安全性に関連するリスク
⑨知的財産権に関連するリスク
⑩為替変動・金利変動に関連するリスク
上記以外にも、サステナビリティに関連するリスク、気候変動等環境問題に関連するリスク、人的資本に関連するリスクを認識しており、当該リスクについては、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組」に記載のとおりです。
なお、本報告書に記載したリスクが発現して当社の事業に悪影響を及ぼした場合には、繰延税金資産の取り崩しや、非金融資産の減損損失が発生する可能性があります。また、当社グループに関する全てのリスクを網羅したものではなく、対応策もこれらのリスクを完全に排除するものではありません。
当連結会計年度における当社グループの経営成績、財政状態及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」といいます。)の状況の概要並びに経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりです。なお、文中における将来に関する事項は、当社グループが当連結会計年度末現在において判断したものです。
ⅰ 業績全般
当連結会計年度(2024年4月1日~2025年3月31日:以下同じ)における世界経済は、米国においては良好な雇用環境が個人消費を下支えしたことにより底堅い成長が続き、欧州においてはインフレの鎮静化や金融政策を背景に持ち直しの動きがみられ、日本においては設備投資の増加やインバウンド需要の拡大に伴い緩やかに回復した一方で、中国においては不動産市場の低迷等による成長の鈍化がみられる等、地域や業種により濃淡のある状況が継続しました。
このような状況下、売上収益は、202億円増(+0.5%)の4兆4,074億円となりました。利益面では、コア営業利益は同903億円増(+43.4%)の2,984億円、営業利益は同651億円減(△24.9%)の1,967億円、税引前利益は同898億円減(△37.4%)の1,507億円、親会社の所有者に帰属する当期利益は同746億円減(△62.4%)の450億円となりました。
(注)1 当社グループは、IFRS(国際会計基準)に基づいて、連結財務諸表を作成しております。
2 コア営業利益は、営業利益(又は損失)から非経常的な要因により発生した損益(事業撤退や縮小から生じる損失等)を除いて算出しております。
3 それぞれ、2023年4月~2024年3月、2024年4月~2025年3月の概算平均値です。
各セグメントにおける売上収益及びコア営業利益の状況は、以下のとおりです。
なお、当社グループは当連結会計年度の期首より報告セグメントを変更しております。また、第3四半期より報告セグメントの記載順序を変更しております。詳細は「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 4.事業セグメント (1)報告セグメントの概要」に記載のとおりです。
(金額単位:億円)
(注) セグメント間の取引については、相殺消去しております。
<コア営業利益 増減要因>
(金額単位:億円)
(注) その他には、在庫評価益の前連結会計年度(65億円)と当連結会計年度(△72億円)の差額△137億円、持分法投資損益の前連結会計年度(76億円)と当連結会計年度(81億円)の差額5億円が含まれております。

セグメント別の業績の概要の詳細は、以下のとおりです。
(ⅰ) スペシャリティマテリアルズセグメント
売上収益は前連結会計年度に比べ375億円増加し1兆813億円となり、コア営業利益は同177億円増加し251億円となりました。
アドバンストフィルムズ&ポリマーズサブセグメントにおいては、事業譲渡及び撤退に伴う影響等があったものの、為替影響に加え、ディスプレイ用途やバリア包材用途等の需要が緩やかに回復したことによる販売数量の増加や、各種製品の販売価格の維持・向上等により、売上収益は増加しました。
アドバンストソリューションズサブセグメントにおいては、為替影響に加え、半導体やディスプレイ用途等の需要が増加したことによる販売数量の増加があったものの、EV用途の欧米における販売数量の減少や、一部事業における販売価格の低下等により、売上収益は減少しました。
アドバンストコンポジット&シェイプスサブセグメントにおいては、C.P.C. S.r.l.の完全子会社化の影響及び高機能エンジニアリングプラスチックの需要が回復したことによる販売数量の増加や為替影響により、売上収益は増加しました。
当セグメントのコア営業利益は、ジェレスト社の生産設備・無形資産を減損したことによる影響があったものの、ディスプレイ、半導体、バリア包材用途等の需要が回復したことによる販売数量の増加や各種製品の販売価格の維持・向上等による売買差の改善等により、増加しました。
当連結会計年度に当セグメントにおいて当社グループが実施又は発生した主な事項は、以下のとおりです。
・半導体デバイスの微細化に伴うArF用及びEUV用フォトレジストの需要拡大に対応するとともにサプライチェーンの強靭化を図るため、九州事業所 福岡地区において、フォトレジスト用感光性ポリマー「リソマックス™」の生産能力を増強することを決定しました。ArFフォトレジスト用「リソマックス™」の生産能力を2倍以上に増強するとともに、EUVフォトレジスト用「リソマックス™」の量産を新たに開始します。稼働時期は、ArFフォトレジスト用「リソマックス™」は2025年10月、EUVフォトレジスト用「リソマックス™」は2025年9月を予定しています。
・事業ポートフォリオ改革の一環として、トリアセテート繊維事業を株式会社GSIクレオス(本社:東京都港区)へ譲渡することで同社と合意し、株式譲渡契約を2024年9月に締結し、2025年3月に譲渡を完了しました。
・半導体市場の拡大に伴い、半導体の製造工程に使用される超純水製造用のイオン交換樹脂について、九州事業所 福岡地区の生産能力を増強することを2024年10月に決定しました。2026年4月の稼働を予定しています。
・液晶ディスプレイの画面サイズの大型化に伴う需要増加と高品質要求に対応するため、偏光板向け光学用ポリビニルアルコール(PVOH)フィルム「OPLフィルム™」の生産設備を、中日本事業所 大垣(神田)地区で増設(生産能力:2,700万㎡/年)することを決定しました。2027年度下期の稼働を予定しており、増設後の合計生産能力は15,400万㎡/年となります。
・半導体市場の拡大に伴い、半導体精密洗浄事業において、福島工場を新設し、岩手工場を増強することを決定しました。いずれも2026年10月の稼働を予定しています。
・半導体市場の拡大に伴い、半導体の製造工程に使用される合成石英粉について、九州事業所 福岡地区の生産能力を+35%増強することを決定しました。2028年9月の稼働を予定しています。
・車載用途リチウムイオン電池向け負極材のサプライチェーンの強化及びカーボンニュートラルに向けた取り組み強化のため、リチウムイオン電池向け負極材について、人造黒鉛系グレードの性能を上回る天然黒鉛系グレードを開発し、香川事業所で生産能力を増強(生産能力:11,000トン/年)することを2024年12月に決定しました。2026年10月の稼働を予定しています。
・事業ポートフォリオ改革の一環として、食品添加物である増粘多糖類の事業から撤退することを決定しました。製造終了は2025年9月末、販売終了は2026年3月末を予定しています。
・SNF Group(本社:フランス)と、機能性高分子材料の原料であるN-ビニルフォルムアミドの製造技術についてライセンス契約を締結しました。当社グループが保有する知的財産を含む無形資産を活用することで、製紙業界や水処理業界をはじめとしたさまざまな業界における環境負荷の低減に貢献していきます。
売上収益は前連結会計年度に比べ541億円増加し4,021億円となり、コア営業利益は同298億円増加し353億円となりました。
MMAサブセグメントにおいては、MMAモノマー等の需要の減少があったものの、MMAモノマー等の市況の上昇に加え、為替影響により売上収益は増加しました。
コーティング&アディティブスサブセグメントにおいては、塗料・接着剤・インキ・添加剤用途等の需要が緩やかに回復したことによる販売数量の増加に加え、販売価格の維持・向上により、売上収益は増加しました。
当セグメントのコア営業利益は、MMAモノマー等の市況の上昇による売買差の改善等により、増加しました。
当連結会計年度に当セグメントにおいて当社グループが実施又は発生した主な事項は、以下のとおりです。
・米国ルイジアナ州ガイスマーにおいて、当社グループの独自技術である「新エチレン法(アルファ法)」によるMMAモノマープラントの新設を検討しておりましたが、米国テネシー州やその他地域における既存のMMAモノマー製造設備により当面の需要に対応できる見通しであることや、インフレ等により増大した設備投資額に基づく取引先との交渉の結果、本投資計画実行後の長期的な取引に対するコミットメントが得られなかったことなどから、本投資計画の検討中止を2025年1月に決定しました。
・事業ポートフォリオ改革の一環として、三菱ケミカル株式会社小名浜工場及び株式会社新菱いわき工場において、アンモニア及びその誘導品、メタノール等の製品の生産を順次終了することを2025年3月に決定しました。当該工場の製品について、2026年3月以降、2027年3月末までに順次生産終了を予定しています。
売上収益は前連結会計年度に比べ1,341億円減少し9,724億円となり、コア営業利益は同98億円増加し156億円の損失となりました。
マテリアルズ&ポリマーズサブセグメントにおいては、為替影響や原料価格の上昇に伴い販売価格が上昇したものの、高純度テレフタル酸事業における特定子会社の株式譲渡の影響や各種製品の需要が減退したことによる販売数量の減少等により、売上収益は減少しました。
炭素サブセグメントにおいては、コークス事業における特定子会社の株式譲渡の影響や需要低迷に伴う販売数量の減少、原料価格の下落等に伴うコークスの販売価格の下落により、売上収益は減少しました。
当セグメントのコア営業利益は、炭素事業を中心に在庫評価損益が悪化したものの、ポリオレフィン等において原料と製品の価格差が拡大したこと等により、改善しました。
当連結会計年度に当セグメントにおいて当社グループが実施又は発生した主な事項は、以下のとおりです。
・2024年5月に公表した「西日本におけるエチレン製造設備のカーボンニュートラル実現に向けた3社連携の検討開始」について、これまでの議論の初期的評価を踏まえ、地区を跨ぐ連携においても意義があることを確認できたため、共同事業体の設立を前提に、西日本におけるエチレン製造設備のグリーン化ならびに将来の能力削減も含めた生産体制最適化をさらに深く検討していくことを旭化成株式会社(本社:東京都千代田区)及び三井化学株式会社(本社:東京都中央区)と合意しました。
・香川事業所で有するコークス炉250門を150門に縮小することを2024年8月に決定し、対象となる100門での生産を終了しました。加えて、国内外の販売ポートフォリオの見直しや追加の合理化策等を実施し、市況変動に左右されない事業構造へ転換します。本構造改革に伴い、炭素事業は2026年3月期からの黒字化をめざします。なお、当社グループ全体の事業ポートフォリオにおける同事業の中長期的な位置づけに関しては、本構造改革を着実に推進し引き続き検討してまいります。
・事業ポートフォリオ改革の一環として、コークス及び副産物の製造並びに販売を行う関西熱化学株式会社(本社:兵庫県尼崎市)の当社グループが保有する全株式を、株式会社神戸製鋼所(本社:兵庫県神戸市)に譲渡することを2024年9月に決定し、同年10月に譲渡を完了しました。
売上収益は前連結会計年度に比べ231億円増加し4,603億円となり、コア営業利益は同91億円増加し654億円となりました。
国内医療用医薬品で薬価改定の影響や、選定療養制度も含む後発品の浸食拡大等の影響を受けたものの、米国で発売した筋萎縮性側索硬化症(ALS)治療薬「RADICAVA ORS®」の大幅な伸長、持続性GIP/GLP-1受容体作動薬「マンジャロ」、沈降精製百日せきジフテリア破傷風不活化ポリオヘモフィルスb型混合ワクチン「ゴービック水性懸濁注シリンジ」の順調な立ち上がりにより、売上収益、コア営業利益ともに増加しました。
当連結会計年度に当セグメントにおいて当社グループが実施又は発生した主な事項は、以下のとおりです。
・米国食品医薬品局より、米国製品「RADICAVA ORS®」(一般名:エダラボン)のALS(筋萎縮性側索硬化症)治療用途に関して、2022年5月12日の「RADICAVA ORS®」承認から7年間の希少疾病用医薬品排他的承認を2024年3月に受けました。
・田辺三菱製薬株式会社は、グローバル市場で成長する企業をめざし、「成長戦略実行に必要なケイパビリティを持つ人員」の配置、「専門性の高い人材、多様な人材が活躍できる組織」の実現に向けた人材ポートフォリオの見直しを加速させるため、希望退職制度の実施を2024年7月に公表しました。
・パーキンソン病治療薬候補品であるND0612について、米国食品医薬品局(FDA)より審査完了報告通知(Complete Response Letter、以下「CRL」)を受領しておりましたが、CRLで指摘されたND0612の成分の一つであるカルビドパの安全性に関する追加情報の提供や、製品の品質、デバイスおよび製造所の査察に関する追加情報についてFDAと協議し、再申請に向けた対応が確認できたことを受け、米国における開発計画を変更しました。2025年中頃の再申請をめざします。また、欧州医薬品庁(EMA)より販売承認申請を受理した旨の通知を2025年2月に受領しました。
・持続性GIP/GLP-1受容体作動薬「ゼップバウンド®」について、日本イーライリリー株式会社が、肥満症*を効能・効果として、日本における製造販売承認を2024年12月に取得し、2025年4月に販売開始しました。なお、日本における「ゼップバウンド®」の提供については、両社が2型糖尿病治療薬として販売中で同分子の「マンジャロ®」同様、田辺三菱製薬株式会社が流通・販売を行い、日本イーライリリー株式会社と田辺三菱製薬株式会社が共同で情報提供活動を行います。
*ただし、高血圧、脂質異常症又は 2型糖尿病のいずれかを有し、食事療法・運動療法を行っても十分な効果が得られず、以下に該当する場合に限る。
・BMIが27 kg/m2以上であり、2つ以上の肥満に関連する健康障害を有する
・BMIが35 kg/m2以上
・選択的DPP-4阻害剤/SGLT2阻害剤 配合剤「カナリア®配合OD錠」について、口腔内崩壊錠(OD錠)の剤形追加承認を日本において2025年2月に取得しました。
(ⅴ) 産業ガスセグメント
売上収益は前連結会計年度に比べ542億円増加し1兆3,011億円となり、コア営業利益は同231億円増加し1,861億円となりました。
国内の事業再編による影響や米国におけるガス需要軟調に伴う、エアセパレートガス以外の製品における販売数量の減少はあったものの、各地域で推進する価格マネジメントや為替影響等により、売上収益は増加しました。コア営業利益は、売上収益の増加に加え、コスト削減の影響等により増加しました。
当連結会計年度に当セグメントにおいて当社グループが実施又は発生した主な事項は、以下のとおりです。
・オーストラリアにおいて、Wesfarmers Chemicals, Energy and Fertilisers社(本社:オーストラリア)のLPG事業を担うWesfarmers Kleenheat Gas Pty Ltd(本社:オーストラリア、以下「Kleenheat社」)のウェスタンオーストラリア州とノーザンテリトリー州のLPG販売事業を取得することについて、Kleenheat社と売買契約書を2024年5月に締結しました。
・エンジニアリング能力を追求・強化するため、プロセス及び分離技術ソリューションにおいて高い専門知識を持つプラントエンジニアリング会社Polaris(本社:イタリア)への投資を2024年10月に合意しました。
・Wesfarmers Limited社(本社:オーストラリア、以下「Wesfarmers」)の傘下であり、オーストラリア及びニュージーランドにて産業ガス事業を展開する、Coregas Pty Ltd(本社:オーストラリア)、Blacksmith Jacks Pty Ltd(本社:オーストラリア)及びCoregas NZ Limited(本社:ニュージーランド)(以下、総称して「Coregas Group」)を買収することにつきWesfarmersと合意に至り、Coregas Groupの全株式の取得に関する契約書を2024年12月に締結しました。2025年半ばの買収完了を予定しています。
・スペインにおける在宅医療・呼吸器事業の強化のため、Corporación Químico-Farmacéutica Esteve(本社:スペイン、以下「CQFE」)及びTeijin Holdings Europe BV(本社:オランダ、以下「Teijin」)と、Esteve Teijin Healthcare(本社:スペイン、以下「ETH」)を買収することにつきCQFE及びTeijinと合意に至り、ETHの全株式の取得に関する契約書を2024年12月に締結いたしました。スペインの国家市場競争委員会による承認を取得し次第、株式取得を完了する予定です。
売上収益は前連結会計年度に比べ146億円減少し1,902億円となり、コア営業利益は同2億円減少し134億円となりました。
当連結会計年度に当セグメントにおいて当社グループが実施又は発生した主な事項は、以下のとおりです。
・昨今の企業内保険代理店を取り巻く経営環境の変化に鑑み、保険代理店事業を、エーオンジャパン株式会社(本社:東京都千代田区)に譲渡することを2024年11月に決定し、2025年3月に譲渡を完了しました。
・保有資産の適正化を図る観点から、不動産賃貸・管理事業の一部と当該事業に関連する保有不動産を、株式会社日本エスコン(本社:東京都港区)に譲渡することを2024年12月に決定し、2025年4月に譲渡を完了しました。
(ⅶ) グループ全般
・2035年のありたい姿を描いた経営ビジョン「KAITEKI Vision 35」、及び2025年度から2029年度の5年間を対象とする「新中期経営計画 2029」を策定し、2024年11月に公表しました。
・2024年11月13日に公表した「KAITEKI Vision 35」及び「新中期経営計画 2029」に基づき、ファーマ事業については、同事業の将来成長の実現を可能とするベストパートナーの探索を検討してまいりました。その結果、今後の田辺三菱製薬株式会社の再成長にむけた経営方針が合致したことなど総合的な見地から、同社を、Bain Capital Private Equity, LP(本社:アメリカ)が投資助言を行う投資ファンドが間接的に株式を保有する特別目的会社である株式会社BCJ-94(本社:東京都千代田区)の傘下に異動することを2025年2月に決議しました。定時株主総会での決議や国内外の競争法その他の法令等に基づき必要なクリアランス・許認可等の取得が完了することを前提条件として、2026年3月期第2四半期に異動が完了することを想定しています。
なお、当社グループの生産品目は広範囲かつ多種多様であり、また、受注生産形態をとらない製品も多く、セグメント毎に生産規模及び受注規模を金額あるいは数量で示すことはしておりません。
また、主な販売先別の販売実績及び総販売額実績に対する割合については、当該割合が100分の10未満であるため、記載を省略しております。
② キャッシュ・フロー
(金額単位:億円)
当連結会計年度の営業活動によるキャッシュ・フローは、税引前利益や減価償却費等に加え、運転資本の減少等により、5,528億円の収入(前連結会計年度比877億円の収入の増加)となりました。
当連結会計年度の投資活動によるキャッシュ・フローは、有形固定資産や子会社の売却による収入があったものの、有形固定資産及び無形資産の取得3,250億円等により、2,754億円の支出(同293億円の支出の増加)となり、フリー・キャッシュ・フロー(営業活動及び投資活動によるキャッシュ・フロー)は、2,774億円の収入(同583億円の収入の増加)となりました。
当連結会計年度の財務活動によるキャッシュ・フローは、有利子負債の返済による支出1,829億円や配当金の支払い633億円等により、2,467億円の支出(同50億円の支出の増加)となりました。
これらの結果、当連結会計年度末の現金及び現金同等物残高は、前連結会計年度末と比べて312億円増加し、3,261億円となりました。
③ 財政状態
(金額単位:億円)
(注) ネットD/Eレシオ=ネット有利子負債(*1)/親会社の所有者に帰属する持分
(*1)ネット有利子負債=有利子負債-(現金及び現金同等物+手元資金運用額(*2))
(*2)手元資金運用額は、当社グループが余剰資金の運用目的で保有する現金同等物以外の
譲渡性預金・有価証券等です。
当連結会計年度末の資産合計は、関西熱化学株式会社等の連結子会社の売却もあり、前連結会計年度末に比べ2,099億円減少し、5兆8,946億円となりました。
当連結会計年度末の負債合計は、社債及び借入金の減少等により、前連結会計年度末に比べ2,190億円減少し、3兆6,100億円となりました。
なお、当連結会計年度末のリース負債を含む有利子負債は、前連結会計年度末に比べ1,597億円減少し、2兆1,785億円となりました。
当連結会計年度末の資本合計は、配当による減少や、在外営業活動体の換算差額の減少等もありましたが、親会社の所有者に帰属する当期利益の計上や、非支配持分の当期利益の計上もあり、前連結会計年度末に比べ91億円増加し、2兆2,846億円となりました。
これらの結果、当連結会計年度末の親会社所有者帰属持分比率は、前連結会計年度末と比べて0.6ポイント増加し、29.5%となりました。なお、ネットD/Eレシオは、前連結会計年度末と比べて0.10減少し、1.06となりました。
(2) 経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
① 経営方針・経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
「新中期経営計画2029」で設定した財務目標に対する達成・進捗状況については、以下のとおりです。
売上収益・コア営業利益推移

注1)定時株主総会において田辺三菱製薬の譲渡の決議が成立した後はファーマ事業は非継続事業に分類され、売上収益及びコア営業利益から除外になります。
収益性・安定性指標推移

注1)EPSは継続事業に係る1株当り利益を表示しています。定時株主総会において田辺三菱製薬の譲渡の決議が成立した後はファーマ事業は非継続事業に分類され、継続事業に係る1株当り利益から除外になります。FY25予想、FY29目標については上記を前提としています。
注2)ROEについては、FY29目標を開示しておりません。
各種指標の算定式
2025年3月期の事業環境は、地域や業種により需要動向に濃淡はあったものの、概ね安定的に推移しました。ディスプレイ関連は中国における補助金政策の効果もあり好調に推移し、半導体関連は生成AI関連需要の牽引により緩やかな回復基調にあった一方で、自動車や食品関連市場等の一部地域・分野においては軟調さがみられました。ケミカルズ事業のコア営業利益は、前期△112億円の赤字から大幅に改善し、当期469億円の黒字となりました。
MMAやベーシックマテリアルズ&ポリマーズを中心に売買差が改善したことに加えて、スペシャリティマテリアルズにおいて一過性の減損損失の計上があったものの、総じて数量差が改善しました。 グループ全体の売上収益は、関係会社株式の譲渡影響等で前期並みながら、コア営業利益は43%の増益となりました。
② 経営環境と今後の見通し
当社グループを取り巻く世界経済は、各国の経済対策による下支えがあるものの、米国における通商政策の動向や、中国における不動産不況の長期化、地政学リスクの高まり、金融資本市場の変動の影響など、先行きに対する不透明感が一段と強まる中、下振れリスクに十分留意する必要があります。
このような状況下、翌連結会計年度の連結業績予想につきましては、当社事業のMMAで市況悪化に伴う減益を見込む一方で、各事業での値上げ活動推進等による増益に加え、ベーシックマテリアルズ&ポリマーズの炭素事業においては構造改革等の効果による黒字化を見込むことにより、売上収益は3兆7,400億円、コア営業利益は2,650億円、営業利益は2,020億円、税引前利益は1,650億円、当期利益は2,130億円、親会社の所有者に帰属する当期利益は1,450億円となる見込みです。
上記の見通しにおける主要指標の想定値は以下のとおりです。
(金額単位:億円)
(注1)2025年3月期について、ファーマ事業を非継続事業に組替えて表示しております。
(注2)それぞれ、2024年4月~2025年3月、2025年4月~2026年3月の平均
(3) 資本の財源及び資金の流動性
① 財務方針
当社グループは、経営方針で定めた財務目標を達成すべく、昨年11月に発表した新しい経営方針「KAITEKI Vision 35」と「新中期経営計画2029」に基づき、企業価値の向上をめざしてまいります。「KAITEKI Vision 35」及び「新中期経営計画2029」の詳細については「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (3)対処すべき課題」をご参照ください。
② 企業価値の向上
当社グループでは、企業価値向上に向けて、管理指標にROICを用い、全社を挙げて資本効率の改善に取り組んでおります。
ROICの向上に向けては、利益の極大化のため、売上総利益の改善余地がある取引先と交渉しマージンを拡大する努力を続けるとともに、投下資本の極小化のため、運転資金の圧縮に加えて定期修繕や設備交換のサイクル見直しなどを進め固定資産の縮減も行っていきます。
「新中期経営計画2029」の最終年である2029年度には想定資本コストを超える7%をめざします。
③ 資金調達及び資金配分方針
当社グループは、運転資金及び設備資金については、内部資金に加え借入金、社債等による調達を実施しているほか、複数の金融機関とのコミットメント・ラインの設定に加え複数の金融機関との間のアンコミットメントベースの当座借越契約、コマーシャル・ペーパー発行枠及び国内社債発行登録枠等の確保により資金調達手段の多様化を図り、十分な流動性の確保を行っております。
資金については、安定的な株主還元・財政基盤の確立と積極的な成長投資を両立させるため、株主還元・負債返済に約25%、設備投資・投融資に約75%を目安として配分する方針です。
(4) 重要な会計上の見積り
連結財務諸表の作成にあたっては、過去の実績や状況に応じ合理的だと考えられる様々な要因に基づき、見積り及び判断を行っておりますが、実際の結果は、見積り特有の不確実性があるために、これらの見積りと異なる場合があります。見積り及びその基礎となる仮定は、継続して見直されます。会計上の見積りの変更による影響は、その見積りが変更された会計期間及び影響を受ける将来の会計期間において認識されます。
当社グループの連結財務諸表に重要な影響を与える可能性のある会計上の判断、見積り及び仮定に関する主な情報は、以下のとおりです。
① 非金融資産の減損
ⅰ 当連結会計年度の連結財務諸表に計上した金額
当社グループは、連結財政状態計算書に、有形固定資産2,004,447百万円、のれん827,604百万円、無形資産442,039百万円(うち、耐用年数を確定できない無形資産及び未だ使用可能でない無形資産67,831百万円)を計上しております。
なお、当連結会計年度において減損損失を94,576百万円計上し、連結損益計算書の「その他の営業費用」に含めております。減損損失の詳細は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記 16.減損損失」をご参照ください。
ⅱ 連結財務諸表利用者の理解に資するその他の情報
(ⅰ)算出方法
当社グループは有形固定資産、のれん及び無形資産について、減損の兆候がある場合、及び資産に年次の減損テストが必要な場合、その資産の使用価値や処分費用控除後の公正価値の算定を行っております。
使用価値の算定にあたっては、貨幣の時間価値及びその資産に特有のリスクについて現在の市場の評価を反映した税引前の割引率を用いて、見積将来キャッシュ・フローの割引現在価値を計算しております。なお、将来キャッシュ・フローの見積りにあたって利用する事業計画は原則として5年を限度とし、事業計画の予測の期間を超えた後の将来キャッシュ・フローは個別の事情に応じた5年を超える期間の長期平均成長率をもとに算定しております。
(ⅱ)主要な仮定
使用価値の算定における主要な仮定は以下のとおりです。
(技術に係る無形資産のうち、仕掛研究開発費、開発段階にある導入契約により取得した権利)
規制当局の販売承認の取得の可能性、上市後の売上収益の予測及び割引率
(有形固定資産、上記を除く無形資産、のれん)
原則として5年を限度とする事業計画における将来キャッシュ・フローの見積り、割引率及び5年を超える期間の長期成長率。
将来キャッシュ・フローの見積額は主として、売上収益の予測及び市場の成長率に影響を受けます。
(ⅲ)翌連結会計年度の連結財務諸表に与える影響
主要な仮定について、経営者は妥当と判断しておりますが、将来の不確実な経済条件の変動の結果によって影響を受ける可能性があり、前提とした状況が変化すれば回収可能価額の算定結果が異なる可能性があります。
② 繰延税金資産の回収可能性
ⅰ 当連結会計年度の連結財務諸表に計上した金額
繰延税金資産(純額) 118,247百万円
ⅱ 連結財務諸表利用者の理解に資するその他の情報
(ⅰ)算出方法
当社グループでは、将来減算一時差異及び税務上の繰越欠損金に対して、予定される繰延税金負債の取崩、予測される将来課税所得及びタックス・プランニングを考慮し、繰延税金資産を計上しております。詳細は「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記 3.重要性のある会計方針 (6) 法人所得税」をご参照ください。
なお、当連結会計年度末において、田辺三菱製薬株式会社に対する投資に係る一時差異について、繰延税金資産を認識しております。詳細は「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記 12.法人所得税」に記載のとおりです。
(ⅱ)主要な仮定
将来課税所得の基礎となる将来の事業計画における主要な仮定は売上収益の予測です。
(ⅲ)翌連結会計年度の連結財務諸表に与える影響
認識された繰延税金資産については、過去の課税所得水準及び将来減算一時差異と繰越欠損金の解消が予測される期間における将来課税所得の予測に基づき、回収される可能性が高いと考えております。将来課税所得の予測及び主要な仮定について、経営者は妥当と判断しておりますが、将来の不確実な経済条件の変動の結果によって影響を受ける可能性があり、前提とした状況が変化すれば繰延税金資産の回収可能性の評価の算定結果が異なる可能性があります。
③ 確定給付制度債務の測定
ⅰ 当連結会計年度の連結財務諸表に計上した金額
退職給付に係る負債 99,050百万円
ⅱ 連結財務諸表利用者の理解に資するその他の情報
確定給付制度に係る負債又は資産は、確定給付制度債務の現在価値から制度資産の公正価値を控除して算定しております。確定給付制度債務は年金数理計算により算定しており、その前提条件には割引率等の見積りが含まれております。主要な仮定について、経営者は妥当と判断しておりますが、将来の不確実な経済条件の変動の結果によって影響を受ける可能性があり、前提とした状況が変化すれば確定給付制度債務の評価額の算定結果が異なる可能性があります。
確定給付制度債務に係る詳細は「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記 28.退職給付」をご参照ください。
④ 金融商品の公正価値
ⅰ 当連結会計年度の連結財務諸表に計上した金額
公正価値ヒエラルキーがレベル3の株式及び出資金(売却目的で保有する資産を除く) 103,486百万円
なお、上記の金額は、連結財政状態計算書の「その他の金融資産」に含めております。
ⅱ 連結財務諸表利用者の理解に資するその他の情報
当社グループにおいて活発な市場における公表価格が入手できない非上場株式及び出資金の公正価値は、合理的に入手可能なインプットにより、類似企業比較法又はその他の適切な評価技法を用いて算定しております。選択された価値評価技法と主要な仮定について、経営者は妥当と判断しておりますが、将来の不確実な経済条件の変動の結果によって影響を受ける可能性があり、前提とした状況が変化すれば公正価値の評価額の算定結果が異なる可能性があります。
詳細は「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記 36.金融商品 (8) 金融商品の公正価値」をご参照ください。
(1) 事業提携、事業再編等
・2024年9月、三菱ケミカル㈱は、子会社である関西熱化学㈱の全株式を、㈱神戸製鋼所に譲渡する旨の株式譲渡契約を締結しました。
・2024年12月、三菱ケミカル㈱は、子会社であるダイヤリックス㈱の不動産賃貸・管理事業の一部と当該事業に関連する保有不動産を、㈱日本エスコンに譲渡する旨の契約を締結しました。
・2025年3月、当社は、子会社である田辺三菱製薬㈱の全株式及び関連資産を、吸収分割(以下「本吸収分割」)により、㈱BCJ-94に2025年7月1日付で承継させる旨の吸収分割契約(以下「本吸収分割契約」)を締結しました。なお、本吸収分割契約は、その承認を2025年6月25日開催予定の定時株主総会の議案(決議事項)として提案しております。本吸収分割の概要は以下のとおりです。
(本吸収分割の目的)
当社は、2025年2月10日に提出した臨時報告書のとおり、田辺三菱製薬㈱をBain Capital Private Equity, LP(そのグループを含み、以下「ベインキャピタル」)が投資助言を行う投資ファンドが間接的に株式を保有する特別目的会社である㈱BCJ-94の傘下に異動することを決定いたしました。本吸収分割は、かかる異動の方法として決議されたもので、田辺三菱製薬㈱の全株式及び関連する権利義務を㈱BCJ-94に承継させることを目的として行うものです。
(本吸収分割の方法)
当社を吸収分割会社、㈱BCJ-94を吸収分割承継会社とする吸収分割です。
(本吸収分割の日程)
本吸収分割契約締結に係る取締役会決議日 2025年3月28日
本吸収分割契約締結日 2025年3月28日
本吸収分割契約承認株主総会 2025年6月25日
本吸収分割の効力発生日 2025年7月1日(予定)
(本吸収分割に係る割当ての内容)
本吸収分割に際して、当社は㈱BCJ-94から約5,100億円相当の金銭交付を受ける予定です。ただし、最終的な対価の金額は本吸収分割契約に定める価格調整等を経て決定されます。
(本吸収分割に係る割当ての内容の算定根拠)
① 割当ての内容の根拠及び理由
当社は、本吸収分割の決定に当たって公平性・妥当性を確保するため、当社の財務アドバイザーであるゴールドマン・サックス証券株式会社(以下「ゴールドマン・サックス」)に田辺三菱製薬㈱の価値に係る財務分析を依頼し、2025年3月24日付の株式価値算定書(以下「GS算定書」)を取得しております。
② 算定に関する事項
イ 本吸収分割の算定機関の名称並びに上場会社及び相手会社との関係
ゴールドマン・サックスは、当社、田辺三菱製薬㈱及びベインキャピタルの関連当事者には該当せず、本吸収分割に関して重要な利害関係を有しておりません。
ロ 算定の概要
ゴールドマン・サックスは、上記のGS算定書において、ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法(以下「DCF法」)を用いた分析を行っております。なお、DCF法については当社の経営陣が現時点で得られる最善の予測及び判断に基づき合理的に作成された財務予測(以下「本財務予測」)に基づいております。DCF法において算定された田辺三菱製薬㈱の価値の範囲は以下のとおりです。
DCF法では、ゴールドマン・サックスは、本財務予測に織り込まれた一定の前提に基づく田辺三菱製薬㈱の将来のフリー・キャッシュ・フローを現在価値に割り引いて田辺三菱製薬㈱の価値を分析しております。ゴールドマン・サックスがDCF法に用いた本財務予測は、2025年3月期から2033年3月期を対象とする9事業年度で構成されております。ゴールドマン・サックスがDCF法に用いた2025年3月期から2033年3月期を対象とする本財務予測には、大幅な増減益を見込んでいる事業年度が含まれております。具体的には、2025年3月期は、希望退職制度を実施したことに伴い退職金の支払い約150億円の発生を見込んでおります。さらに、2030年3月期及び2031年3月期は、田辺三菱製薬㈱の主要製品の一領域における事業環境の変化に伴い、田辺三菱製薬㈱の製品ポートフォリオに変更が加わることを想定しており、コア営業利益ベースで前事業年度に比べて約4割程度の減益が見込まれております。また、2032年3月期は、現在開発中のパーキンソン病治療薬の販売拡大により、コア営業利益ベースで前事業年度対比約4割程度の増益を見込んでおります。なお、本財務予測は、田辺三菱製薬㈱単独のものであり、また、本吸収分割とそれに関連する取引により実現することが期待できるシナジー効果を現時点において具体的に見積もることが困難であることから、当該シナジーを織り込んでおりません。
(分割する資産、負債の項目及び金額)
2024年3月31日現在
(本吸収分割後の吸収分割承継会社の概要)
(2) 合弁会社の設立
(3) 外国との技術提携(技術導入関係)
(三菱ケミカル㈱)
ウルフスピード社と2008年11月7日付にて締結した窒化ガリウム基板特許の実施許諾に関する契約は、2024年11月26日に解約しました。
(田辺三菱製薬㈱)
(4) 企業・株主間の企業統治に関する合意
該当事項はありません。
(5) 企業・株主間の株主保有株式の処分・買増し等に関する合意
該当事項はありません。
(6) 金銭消費貸借契約と社債に付される財務上の特約
該当事項はありません。
当社グループは、各社において独自の研究開発活動を行っているほか、グループ会社間での技術や市場に関する緊密な情報交換や共同研究、研究開発業務の受委託等を通じて、相互に協力し、連携の強化を図るとともに、グループ外の会社等との間でも共同での研究開発を積極的に行うなど、新技術の開発や既存技術の改良に鋭意取り組んでおります。
当社グループの研究開発人員は3,797名、当連結会計年度における研究開発費の総額は
(1) スペシャリティマテリアルズセグメント
アドバンストフィルムズ&ポリマーズ、アドバンストソリューションズ、アドバンストコンポジット&シェイプスに関する研究開発を行っており、当連結会計年度の主な成果は次のとおりです。
・株式会社ダイモンが開発した月面探査車「YAOKI」において、素材知見と構造設計・最適化シミュレーション技術を融合したコンプライアントメカニズムを適用して設計した樹脂部材が採用されました。「YAOKI」は2025年3月、民間プロジェクトとして日本で初めて月面での撮影、地球への画像データ送信に成功しました。
・養殖業における感染症による突然死の抑制につながる有胞子性乳酸菌プロバイオティクス「Heyndrickxia coagulans SANK70258」の効果について、近畿大学大学院農学研究科と共同研究の成果を発表し、成果論文は2024年11月「Frontiers in Aquaculture」に掲載されました。
本セグメントにおける当連結会計年度の研究開発費は
(2) MMA&デリバティブズセグメント
MMA、コーティング&アディティブスに関する研究開発を行っており、当連結会計年度の主な成果は次のとおりです。
・リサイクル原料となる廃プラスチックの種類などの情報を改ざん不可能な形で適切に管理・共有できる透明性・信頼性の高いサプライチェーン構築に向けて、株式会社chaintopeと共同でトレーサビリティシステムの実証試験を実施しました。
本セグメントにおける当連結会計年度の研究開発費は
(3) ベーシックマテリアルズ&ポリマーズセグメント
マテリアルズ&ポリマーズ、炭素に関する研究開発を行っており、当連結会計年度の主な成果は次のとおりです。
・2025年度中に資源循環型カーボンブラックの販売を開始することをめざし、香川事業所のコークス炉において、使用済みタイヤをケミカルリサイクルする検討を2024年7月に開始しました。コークス炉を活用し、使用済みタイヤから再生産した資源循環型カーボンブラックを販売することは世界初の試みとなります。
・植物性由来のポリカーボネートジオールである「BENEBiOL™」について、柔軟性と耐薬品性の両立、耐汚染性、特徴的な触感などの優れた機能は変わらず、さらにバイオマス比率を高めたグレードを2024年10月に提供開始しました。
・タイヤの製造工程で発生するゴム片及び使用済みタイヤの粉砕処理品を用いて、ケミカルリサイクルによってタイヤの主原料のひとつであるカーボンブラックを生産し、再びタイヤの原料として活用する資源循環の取り組みを住友ゴム工業株式会社と協業で2025年1月に開始しました。
・茨城県内におけるプラスチック容器の循環をめざす包括連携協定を鹿嶋市、リファインバース、東洋製罐グループ、キユーピー、カスミと2025年2月に締結しました。回収された使用済みプラスチックをケミカルリサイクルプラントにて再資源化する実証実験を2025年夏頃に開始予定です。
本セグメントにおける当連結会計年度の研究開発費は
(4)ファーマセグメント
医薬品に関する研究開発を行っており、当連結会計年度の主な成果は次のとおりです。
・パーキンソン病治療薬候補品であるND0612について、米国食品医薬品局(FDA)より審査完了報告通知(Complete Response Letter、以下「CRL」)を受領しておりましたが、CRLで指摘されたND0612の成分の一つであるカルビドパの安全性に関する追加情報の提供や、製品の品質、デバイス及び製造所の査察に関する追加情報についてFDAと協議し、再申請に向けた対応が確認できたことを受け、米国における開発計画を変更しました。2025年中頃の再申請をめざします。また、欧州医薬品庁(EMA)より販売承認申請を受理した旨の通知を2025年2月に受領しました。
・選択的DPP-4阻害剤/SGLT2阻害剤 配合剤「カナリア®配合OD錠」について、口腔内崩壊錠(OD錠)の剤形追加承認を日本において2025年2月に取得しました。
本セグメントにおける当連結会計年度の研究開発費は
(5)産業ガスセグメント
産業ガスに関する研究開発を行っており、当連結会計年度の主な成果は次のとおりです。
・石灰製造炉などの高濃度CO2排出源をターゲットとして、10t/日規模のCO2回収装置(回収CO2濃度98%)を開発・商品化しました。中小規模排出源(排ガス量1,000Nm3/hクラス)向けの装置であり、ユニット化して導入・設置が容易に行えます。また、2024年4月、適用可能な原料CO2濃度範囲を20~60%まで拡大し、幅広いCO2排出源からのCO2回収を可能にいたしました。原料CO2濃度が20%未満である排出源からの回収についても、現在、本回収装置の適用を可能にすべく技術開発に取り組んでいます。
・2024年4月、アンモニアから燃料電池自動車(FCV)の水素燃料に求められる品質仕様(ISO 14687:2019 Grade D)を満たす水素の製造実証に成功しました。また、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業「競争的な水素サプライチェーン構築に向けた技術開発事業/大規模外部加熱式アンモニア分解水素製造技術の研究開発」に参画し、大型の水素精製装置の開発を進めています。
・化合物半導体製造装置事業では、MOCVD装置及びHVPE装置の製造・販売するとともに、用途拡大、改良改善のための開発に取り組んでいます。深紫外線ライトを使った除菌装置の開発・販売を手掛けているLit Thinking社より、大陽日酸製MOCVD(SR2000HT-RR)を2024年6月に受注しました。本装置はUVオプトエレクトロニクスのデバイス及びパワーエレクトロニクスの開発促進に必須となる高品質なアルミニウムガリウムナイトライド(AlGaN)の安定的な製造に用いられます。また、サウスカロライナ大学は、大陽日酸製MOCVD装置(型式:SR4000HT)を2025年3月に採用を決定しました。本装置はパワーエレクトロニクスやその他のワイドバンドギャップ半導体製造に用いられ、窒化物半導体の開発に貢献することが期待されます。大陽日酸は同大学と協力し、先進的な窒化物半導体デバイスの研究開発を支援することで、大陽日酸製MOCVD装置のグローバル市場に対する優位性が促進されると期待しています。さらに、ワイドバンドギャップ半導体において世界的に著名なオハイオ州立大学に対し、高性能な化合物半導体デバイスの製造に不可欠な窒化物用MOCVD装置(SR4000HT-RR-LV)と酸化物用HVPE装置を納入することを2024年10月に決定しました。
本セグメントにおける当連結会計年度の研究開発費は
(6) その他
エンジニアリング等に関する研究開発を行っており、その他部門における当連結会計年度の研究開発費は
上記のほか、研究開発費には、特定の事業部門に区分できない基礎研究に要した研究開発費が110億円あります。