第2 【事業の状況】

 

1 【業績等の概要】

(1) 業績

当連結会計年度の世界経済は、中国では緩やかな景気減速が続き、他の多くの新興国でも景気に弱さが見られたが、米国の景気は回復が継続し、欧州の景気も持ち直し傾向が続いた。国内経済については、生産や輸出に足踏みは見られたものの、企業収益や雇用・所得環境は引き続き改善し、基調としては緩やかな景気回復が続いた。
 このような事業環境の中で、当社グループは、2014年度から2016年度の3ヵ年を期間とする中期経営課題“プロジェクトAP-G 2016”に基づき、「成長分野での事業拡大」及び「成長国・地域での事業拡大」を要とした成長戦略を実行するとともに、トータルコスト競争力の更なる強化に努めている。
 以上の結果、当社グループの連結業績は、売上高は前連結会計年度比4.7%増の2兆1,044億円、営業利益は同25.1%増の1,545億円、経常利益は同16.8%増の1,502億円、親会社株主に帰属する当期純利益は同26.9%増の901億円となった。

 

セグメント別の業績は、次のとおりである。

 

(繊維事業)

国内では、衣料用途は需要が低調で、産業用途も自動車関連用途向けの一部で顧客による在庫調整の影響が出る中、全般的に拡販に努めるとともに、糸綿/テキスタイル/製品一貫型ビジネスの推進をはじめとする事業の高度化などを進めることで採算の改善に注力した。
 海外では、欧州需要の低迷や中国内需の伸び悩みの影響を受けたが、中国や東南アジアのテキスタイル子会社が拡販と高付加価値品へのシフトを進めた。またエアバッグ用基布や内装材料といった自動車関連用途向けが堅調に推移し、衛生材料向けも東南アジアやインドにおける需要が拡大した。
 以上の結果、繊維事業全体では、売上高は前連結会計年度比4.1%増の8,920億円、営業利益は同23.9%増の689億円となった。

主要な製品の生産規模は、ナイロン糸が前連結会計年度比7.5%減の約469億円(販売価格ベース)、ポリエステル糸が同6.2%減の約631億円(販売価格ベース)、ポリエステルステープルが同14.6%減の約534億円(販売価格ベース)となった。

 

(プラスチック・ケミカル事業)

樹脂事業は、国内では自動車関連用途向けの出荷が生産台数減少の影響を受けたが、それ以外の用途は全体として堅調であった。海外では米国の子会社で自動車関連用途向けの出荷が拡大し、マレーシアの子会社もABS樹脂の出荷が堅調に推移した。
 フィルム事業は、包装用途向けが国内外で堅調であった。また、多くの用途で価格競争の影響を受けたが、高付加価値品の拡販や原価改善に注力することで採算の改善に努めた。
 以上の結果、プラスチック・ケミカル事業全体では、売上高は前連結会計年度比5.0%増の5,212億円、営業利益は同23.1%増の294億円となった。

主要な製品の生産規模は、ABS樹脂が前連結会計年度比1.6%減の約766億円(販売価格ベース)、ナイロン樹脂とPBT樹脂が同11.6%減の約205億円(販売価格ベース)、ポリエステルフィルム ルミラー®が同2.2%減の約698億円(販売価格ベース)となった。

 

 

(情報通信材料・機器事業)

大型液晶パネル向けでは、大画面化が進展し4Kテレビの需要も拡大したが、フィルム・フィルム加工品等の関連材料は、中国をはじめ新興国における需要拡大鈍化を背景とした顧客の生産調整の影響を受けた。スマートフォンやタブレット端末の関連材料は、韓国の子会社で高機能回路材料の出荷が拡大するなど、堅調に推移した。また、国内子会社が液晶カラーフィルター製造装置等の販売を拡大した。一方で、各材料とも引き続き価格競争の影響を受けており、原価改善などにより採算の維持に努めた。
 以上の結果、情報通信材料・機器事業全体では、売上高は前連結会計年度比1.2%増の2,511億円、営業利益は同6.8%増の262億円となった。

主要な製品の生産規模は、ポリエステルフィルム ルミラー®が前連結会計年度比7.6%減の約636億円(販売価格ベース)となった。

 

(炭素繊維複合材料事業)

航空機需要の拡大や風車用途など環境・エネルギー関連需要の拡大を背景に、炭素繊維及び中間加工品(プリプレグ)の出荷が拡大した。また、2014年後半及び2015年前半に生産を開始した新規設備が増産と拡販に寄与したほか、燃料電池自動車向けの製品の出荷が本格的に開始された。
 以上の結果、炭素繊維複合材料事業全体では、売上高は前連結会計年度比17.6%増の1,862億円、営業利益は同37.7%増の361億円となった。

炭素繊維複合材料の生産規模は前連結会計年度比22.2%増の約1,834億円(販売価格ベース)となった。

 

(環境・エンジニアリング事業)

水処理事業は、コストダウンの進展や円安を背景に、逆浸透膜などの日本からの輸出について採算の改善が進んだ。また、海外では米国、中国、韓国の子会社の業績がいずれも堅調に推移した。
 国内子会社は、エンジニアリング子会社でプラント工事が減少した。
 以上の結果、環境・エンジニアリング事業全体では、売上高は前連結会計年度比1.9%増の1,833億円、営業利益は同19.5%増の96億円となった。

 

(ライフサイエンス事業)

医薬事業は、天然型インターフェロンβ製剤フエロン®や経口プロスタサイクリン誘導体製剤ドルナー®の出荷が、代替治療薬や後発医薬品の影響を受けたことなどにより低調に推移した。また、ライセンス収入が減少した。一方、経口そう痒症改善剤レミッチ®*は、国内における慢性肝疾患向けの効能追加承認を取得したことで、販売数量を伸ばした。
 医療機器事業は、ダイアライザーの出荷が拡大したことに加え、輸出採算の改善が進んだことから、業績は堅調に推移した。
 以上の結果、ライフサイエンス事業全体では、売上高は前連結会計年度比2.1%減の558億円、営業利益は同24.7%減の31億円となった。

医療機器の生産規模は前連結会計年度比4.0%増の約224億円(販売価格ベース)となった。

 

*レミッチ®は鳥居薬品㈱の登録商標である。

 

(その他)

売上高は前連結会計年度比2.8%増の147億円、営業利益は同3.2%増の20億円となった。

 

 

(2) キャッシュ・フロー

当連結会計年度における連結ベースの現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は、営業活動による資金の増加が投資活動による資金の減少を417億円上回った一方、財務活動による資金の減少が776億円となり、連結子会社の決算期変更に伴う資金の増加や為替換算差額等を含めると、当連結会計年度末には前連結会計年度末比27億円(2.4%)減の1,098億円となった。

 

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

当連結会計年度において営業活動による資金の増加は、前連結会計年度比549億円(38.8%)増の1,961億円となった。これは、税金等調整前当期純利益が1,378億円(前連結会計年度比233億円増)、減価償却費が912億円(同97億円増)であった一方、売上債権の増加額が208億円(同131億円減)、法人税等の支払額が276億円(同19億円減)であったこと等によるものである。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

当連結会計年度において投資活動による資金の減少は、前連結会計年度比138億円(9.8%)増の1,544億円となった。これは、有形固定資産の取得による支出が1,228億円(前連結会計年度比9億円減)、投資有価証券の取得による支出が113億円(同54億円増)であったこと等によるものである。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

当連結会計年度において財務活動による資金の減少は、前連結会計年度比676億円増の776億円となった。これは、短期借入金の純減少額が433億円(前連結会計年度比445億円増)、長期借入金の返済による支出が669億円(同333億円減)、連結の範囲の変更を伴わない子会社株式の取得による支出が320億円(同320億円増)であった一方、長期借入れによる資金の調達が882億円(同513億円増)であったこと等によるものである。

 

2 【生産、受注及び販売の状況】

当社グループ(当社及び連結子会社)の生産・販売品目は広範囲かつ多種多様であり、同種の製品であっても、その形態、単位等は必ずしも一様ではなく、また受注生産形態をとらない製品も多いため、セグメントごとに生産規模及び受注規模を金額あるいは数量で示すことはしていない。

このため生産、受注及び販売の状況については、「1 業績等の概要」における各セグメントの業績に関連付けて示している。

 

3 【対処すべき課題】

当社は、2011年2月に、10年間程度の期間を見据えた長期経営ビジョン“AP-Growth TORAY 2020”を策定した。“AP-Growth TORAY 2020”では、グローバルな事業拡大を一層推進するとともに、グリーンイノベーション事業の拡大に注力していくことで、「持続的に事業収益拡大を実現する企業グループ」、「社会の発展と環境の保全・調和に積極的な役割を果たす企業グループ」、そして「全てのステークホルダーにとって高い存在価値のある企業グループ」を目指している。

2014年2月には、2014年度から2016年度の3ヵ年を期間とする新たな中期経営課題“プロジェクトAP-G 2016”を策定し、成長戦略の推進と収益基盤の強化に努めることで、業績の更なる向上を目指している。グリーンイノベーションとライフイノベーションという二つの成長分野において、当社グループの持つコア技術やグローバルな事業基盤を活かして事業拡大を進める。また、新興国をはじめ成長が期待される国・地域の需要を当社グループの収益として最大限に取り込んでいくために、アジア・アメリカ・新興国において、新たな事業拠点の設置を含めた積極的な事業展開を進めていく。

当社グループは、すべての製品の元となる素材には、社会を本質的に変える力があるという信念の下、常に世界に先駆けた技術革新に挑戦し、最先端の技術や新素材を生み出し事業化することを目指している。そして、企業活動のあらゆる場面で現場力を重視し、徹底的な現状把握と現状分析に基づいて問題を克服していくことで、企業理念である「わたしたちは新しい価値の創造を通じて社会に貢献します」を具現化していく。

 

 

4 【事業等のリスク】

「第2 事業の状況」、「第5 経理の状況」等での記載事項に関して、投資家の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある主要なリスクは、以下のとおりである。当社グループは、日常的にこれら潜在するリスクからの回避、又はその影響の低減に努めるとともに、不測の事態が発生した場合には迅速な対応と的確な情報開示を実施しうる体制を構築すべく努めている。なお、以下は当社グループに関する全てのリスクを網羅したものではなく、事業等のリスクはこれらに限定されるものではない。また、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日(2016年6月28日)現在において当社グループが判断したものである。

 

(1) 国内外の需要、製品市況の動向等に関わるリスク

当社グループは基礎素材製品を広範な産業に供給しており、世界的あるいは地域的な需給環境の変動や素材代替の進行、取引先の購買方針の変更等により当社グループの製品に対する需要が急速に減退する可能性がある。また、当社グループの様々な事業は他企業との厳しい競争状態にあり、新規参入の脅威に曝されているものもあるほか、医薬・医療事業には薬価並びに償還価格改定による価格変動要因がある。当社グループは持続的に競争優位の確保に努めているものの、これら製品の需要が減少あるいは価格が下落した場合、あるいは取引先の与信リスクが顕在化した場合、当社グループの業績及び財務状況が悪影響を被る可能性がある。

 

(2) 原燃料価格の上昇に関わるリスク

当社グループが使用する石油化学原料や燃料は、価格が大きく変動することがあり、これら原燃料の価格上昇分を製品価格に十分に転嫁できない場合、あるいは品種転換による採算の改善が困難な場合、当社グループの業績及び財務状況が悪影響を被る可能性がある。

 

(3) 設備投資、合弁事業・提携・買収等に関わるリスク

当社グループは広範囲にわたる事業領域で設備投資を実施しており、また、第三者との間で様々な合弁事業や戦略的提携、事業買収等を行っている。これら設備投資、合弁事業・提携・買収等の実施にあたっては、事前に収益性や投資回収の可能性について様々な観点から検討を行っているが、必ずしも確実に予期したとおりの成果が得られるという保証があるわけではなく、事業環境の急変などにより、予期せぬ状況変化や所期の事業計画からの大幅な乖離が生じた場合、固定資産の減損損失や持分法投資損失等が発生し、当社グループの業績及び財務状況に悪影響を与える可能性がある。

 

(4) 為替相場の変動、金利の変動、有価証券等の価値の変動等に関わるリスク

当社グループの海外事業の現地通貨建て財務諸表の各項目は、円換算時の為替レート変動の影響を受ける。外国通貨建て取引については、為替予約等によりリスクを軽減させる措置を講じているが、予測を超えた為替変動が当社グループの業績及び財務状況に影響を与える可能性がある。
 また、予期せぬ金利水準の急激な変動やその他の金融市場の混乱、当社グループの保有する有価証券あるいは年金資産の価値の変動等が当社グループの業績及び財務状況に影響を与える可能性がある。

 

(5) 将来予測等の前提条件の変動に伴う退職給付債務や繰延税金資産に関わるリスク

当社の単独及び連結財務諸表は、将来に関する一定の前提を置いた年金数理計算に基づいて退職給付債務を計上しており、また、将来年度の課税所得の見積額に基づき回収可能性を判断したうえで繰延税金資産を計上しているが、年金数理計算に使用する前提条件に変動が生じた場合、あるいは将来の課税所得の見積額に変動が生じた場合、当社グループの業績及び財務状況に影響を与える可能性がある。

 

 

(6) 海外での事業活動に関わるリスク

当社グループは、アジア・欧州・米国をはじめ海外で広く事業を展開しているが、各地域において以下のようなリスクがあり、これらの事象が発生した場合、当社グループの業績及び財務状況が悪影響を被る可能性がある。

①不利な影響を及ぼす租税制度の変更等の予期しない諸規制の設定又は改廃

②予期しない不利な経済的又は政治的要因の発生

③テロ・紛争等による社会的混乱 など

 

(7) 製造物責任に関わるリスク

当社グループは、世界最高水準の品質を追求しているが、予期し得ない重大な品質問題が発生する可能性は皆無ではなく、そうした重大事態が発生した場合、当社グループの業績及び財務状況が悪影響を被る可能性がある。

 

(8) 訴訟に関わるリスク

当社グループが広範な事業活動を展開する中で、知的財産権、製造物責任、環境、労務等、様々な訴訟の対象となるリスクがある。重大な訴訟が提起された場合、当社グループの業績及び財務状況が悪影響を被る可能性がある。

 

(9) 法規制、租税、競争政策、内部統制に関わるリスク

当社グループは、事業活動を行っている各国及び地域において、環境、商取引、労務、知的財産権、租税、為替等の各種関係法令、投資に関する許認可や輸出入規制、独占禁止法に基づく競争政策等の適用を受けている。当社グループは内部統制システムの整備・維持を図り各種法令等の遵守に努めているが、新たな環境規制や環境税の導入、法人税率の変動等これらの法令の改変があった場合や各種法令に違反したと判定された場合、公正取引委員会による行政処分を受けた場合や税務当局から更正通知を受領した場合、あるいは従業員による不正行為があった場合や財務報告に係る内部統制の有効性が維持できなかった場合、当社グループの業績及び財務状況が悪影響を被る可能性がある。

 

(10) 自然災害・事故災害に関わるリスク

当社グループは、「安全・防災・環境保全」をあらゆる経営課題に優先し、生産活動の中断による損害を最小限に抑えるため、製造設備の定期的な防災点検及び設備保守、また安全活動を推進しているが、突発的に発生する災害や天災、不慮の事故等で製造設備等が損害を受けた場合や原材料等の供給不足が生じた場合、電力・物流をはじめとする社会インフラの機能が低下した場合等には、当社グループの業績及び財務状況が悪影響を被る可能性がある。

 

(11) 情報セキュリティに関わるリスク

当社グループが事業活動を行う上で、情報システム及び情報ネットワークは欠くことのできない基盤であり、構築・運用に当たっては十分なセキュリティの確保に努めているものの、不正侵入、情報の改ざん・盗用・破壊、システムの利用妨害などにより業務の停滞や信用の低下が生じた場合、あるいは機密情報が社外に流出した場合等には、当社グループの業績及び財務状況が悪影響を被る可能性がある。

 

 

5 【経営上の重要な契約等】

 

契約会社名

相手方の名称

国名

契約の内容

内容

契約期間

東レ株式会社

E.I.DuPont de
Nemours and Co.

アメリカ

ポリイミドフィルム等を製造・販売する合弁会社東レ・デュポン㈱の設立及び運営

1963年2月22日から
合弁会社の存続する期間

東レ株式会社

Dow Corning Co.

アメリカ

シリコーン製品等を製造・販売する合弁会社東レ・ダウコーニング㈱の運営

2005年4月19日から
合弁会社の存続する期間

東レ株式会社

Invista, Inc.

アメリカ

ポリウレタン弾性繊維を製造・販売する合弁会社東レ・オペロンテックス㈱の運営

2003年5月1日から
合弁会社の存続する期間

東レ株式会社

Freudenberg SE

ドイツ

不織布及び不織布関連製品等を製造・加工・販売する合弁会社日本バイリーン㈱の運営
 (注)1

2016年4月1日から
合弁会社の存続する期間

Toray Composites
(America), Inc.

Boeing Co.

アメリカ

炭素繊維複合材料の供給
 (注)2

2015年9月30日から
2028年12月31日まで

 

(注)1  当連結会計年度において、当社はドイツのFreudenberg SEとの間で日本バイリーン㈱の運営に関する合弁契約を締結した。

2  当連結会計年度において、当社の連結子会社であるToray Composites (America), Inc.は、アメリカのBoeing
  Co.との間で、2005年11月に締結した契約を延長し、既存の「787」プログラムに加え新型機「777X」プログラ
  ム向けの炭素繊維複合材料の供給契約を締結した。

 

6 【研究開発活動】

当社グループ(当社及び連結子会社)の研究・技術開発は、有機合成化学、高分子化学、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーという当社が培ってきたコア技術をベースに、基幹事業である繊維、プラスチック・ケミカル事業の安定収益基盤強化・収益拡大を推進するとともに、成長する重点4領域(①環境・水・エネルギー、②情報・通信・エレクトロニクス、③自動車・航空機、④ライフサイエンス)に絶え間なく革新的先端材料を供給する役割を担っている。また、地球温暖化防止や環境負荷低減に対して、当社グループの総合力を発揮してソリューションを提供する新たな切り口で、さらなる成長を推進していく。
 2014年2月に策定した中期経営課題“プロジェクトAP-G 2016”では、「グリーンイノベーション」と「ライフイノベーション」を重点分野として設定して、革新的新素材・新技術を創出することにより持続的発展を目指す。また、知的財産戦略による参入障壁の構築により技術競争力の優位性を堅持していく。

 

当連結会計年度のセグメント別の研究・技術開発の概要は次のとおりである。

 

(1) 繊維事業

基幹事業としての安定収益基盤の強化と収益拡大に向け、極限技術追求による高機能製品や繊維先端材料の創出・拡大に主眼を置いた研究・技術開発を推進している。その成果として、性質の異なる2種類のナイロンポリマー(一部植物由来原料を使用)を貼り合わせたバイメタル構造の原糸を開発し、新感覚快適ストレッチテキスタイルPrimeflex®として展開を図る。また、超極細繊維の製造・加工技術を用いることで、爽やかな肌触りと落ち着いた質感を持つUVプロテクト超極細繊維テキスタイル「uts® 50+」や皮革の銀面調の光沢とスエードタッチを兼ね備えたハイブリッド人工皮革 ウルトラスエード®ヌーを開発した。さらに、ここ数年来戦力を重点化し研究・技術開発を進めてきた繊維複合・構造化技術を用い、ポリフェニレンサルファイド(PPS)繊維トルコン®とZoltek Companies, Inc. (連結子会社)製のポリアクリルニトリルからなる耐炎化糸を用いた高性能遮炎ペーパーを開発した。その他、フッ素系化合物を使用せずに高い撥水性能と耐久性を実現した、環境配慮型撥水加工技術を開発した。

 

(2) プラスチック・ケミカル事業

基幹事業として安定収益基盤の強化と収益拡大、そして持続可能な循環型社会の発展に主眼を置いた研究・技術開発に取り組んでいる。その成果として、2種類以上の樹脂をナノメートルオーダーでアロイ化(混合)する当社独自のナノアロイ®技術によりポリフェニレンサルファイド樹脂(以下「PPS樹脂」)が本来有する高い耐熱性や機械強度を維持しながら、PPS樹脂の長年の課題であった靱性(しなやかさ)を飛躍的に向上した高性能PPS樹脂の開発に成功した。また、ナイロン6の原料であるカプロラクタムの合成において、東芝ライテック㈱と共同により、工程で使用するナトリウムランプを新開発のLEDランプに切り替えることで、電力使用量を30%削減する技術を開発した。そのほか、日常的な使用で表面につく、細かな擦り傷が瞬時に修復する自己修復性に加えて、偶発的な強い力による深い傷も修復できる新しい自己修復コートフィルム(高硬度タイプ)を開発した。

(3) 情報通信材料・機器事業

戦略的拡大事業として研究・技術開発に取り組んでいる。その成果として、UV印刷対応CTPサーマルプレート“東レ水なし平版”TAC-GU8の販売を開始した。今回開発したTAC-GU8は、東レ独自のナノ構造制御技術を駆使して版表面のシリコーン層内に存在するナノ空間を精密制御することにより、これまでの版に比べてインキの反発性が向上し、UV印刷における温度条件を広げることに成功した。また、半導体型単層カーボンナノチューブ(Carbon Nano-Tube:以下「CNT」)において、塗布型半導体としては世界最高となる従来比2倍の移動度36cm2/Vsを達成した。今回達成した移動度36cm2/Vsは、現在ディスプレイ等で用いられているアモルファスシリコンの約40倍であり、半導体としてのCNTのポテンシャルを十分に引き出した結果と言える。

(4) 炭素繊維複合材料事業

当社の代表的ナンバーワン事業であり、戦略的拡大事業として、グリーンイノベーション事業拡大、アジア・新興国及び米州での事業拡大のための研究・技術開発に取り組んでいる。その成果として、一般的な発泡シート材料に匹敵する低比重でありながら、繊維強化樹脂レベルの高い剛性を発現する革新的な炭素繊維構造材料「CFRF(Carbon Fiber Reinforced Foam)」を開発した。本材料は、新たに開発した炭素繊維シート基材を原料として、一般的なプレス成形により立体形状を成形することができ、高い曲げ剛性を、超軽量かつ高い生産性で実現できるため、今後、自動車・航空機を中心とした幅広い分野へ展開していく。また、三菱重工業㈱が製造する「Mitsubishi Regional Jet」(以下「MRJ」)向けに、炭素繊維複合材料(CFRP)を適用した尾翼部品(スパー、スキン・ストリンガーパネル、リブ)を開発・製作し、MRJ量産機用部品を初出荷した。

(5) 環境・エンジニアリング事業

情報通信材料・機器、炭素繊維複合材料に続く次の収益拡大の柱とするために、重点育成・拡大事業として研究・技術開発に取り組んでいる。水処理関連では、水中に含まれる汚れ成分の付着を抑制する耐汚れ性逆浸透(RO)膜について、高い脱塩性能及び透水性能を維持しながら、これまでよりも多様な汚れ成分の付着を抑制する基本技術の確立に成功した。本技術を用いた耐汚れ性RO膜は、これまで対策の難しかった汚れ成分を含む水の処理においても長期間安定して高品質のろ過水を提供できることから、より広範な地域の幅広い用途での利用が期待できる。アメニティー関連製品では、当社従来品の約2倍のろ過流量を実現した「時短・高除去」カートリッジを搭載した蛇口直結型浄水器「トレビーノ® カセッティ206SMX」を開発した。本製品は、JIS規格13項目除去の高い除去性能とおいしさはそのままに、ろ過時間を従来品の約半分にすることを可能とした。

(6) ライフサイエンス事業

重点育成・拡大事業として研究・技術開発に取り組んでいる。医薬分野では、特発性肺線維症を対象として㈱ボナックが創製した核酸医薬品に分類される化合物について、日本をテリトリーとしたライセンス契約を締結した。当社はライフイノベーション分野での事業拡大を意識した研究・技術開発力を強化する中、合成医薬と生物医薬の両面から創薬研究を行っている。今回の導入をきっかけとして核酸医薬への取り組みを拡大し、さらなる事業拡大につなげる。医療分野では、世界で初めての高周波を利用したバルーンによる発作性心房細動治療用カテーテル・アブレーションシステムとして開発した「SATAKE・HotBalloonカテーテル」、「SATAKE・HotBalloonジェネレータ」、「トレワルツ」について、厚生労働省より製造販売承認を取得した。今回の承認取得により、発作性心房細動患者の方々におけるカテーテル・アブレーション治療の新たな選択肢として、より安全で短時間での治療が可能となることが期待される。

 

 

上記セグメントに属さない基礎研究、基盤技術開発として、環境関連では、「全ての事業戦略の軸足を地球環境におき、持続可能な低炭素社会の実現に向けて貢献していく」という経営方針の下、革新電池部材の研究・技術開発を推進している。リチウムイオン電池については、当社が情報通信材料分野で長い研究・技術開発の歴史があり多くの知見を持つ、高強度・高弾性のポリイミドを適用し、電池の高容量化に対応するための負極バインダー用水溶性ポリイミドを開発した。また、燃料電池及び水電解装置の部材開発・製造・販売会社であるSolviCore GmbH & Co. KGを買収したことにより、当社の持つ製品や技術とのシナジーを発揮させ、燃料電池及びその関連分野での事業拡大を図る。

 

当連結会計年度の当社グループの研究開発費総額は、588億円(このうち東レ㈱の研究開発費総額は427億円)である。セグメント別には、繊維事業に約9%、プラスチック・ケミカル事業に約14%、情報通信材料・機器事業に約19%、炭素繊維複合材料事業に約10%、環境・エンジニアリング事業に約4%、ライフサイエンス事業に約9%、本社研究・技術開発に約35%の研究開発費を投入した。

当連結会計年度の当社グループの特許出願件数は、国内で1,607件、海外で3,357件、登録された件数は国内で518件、海外で1,215件である。

 

 

7 【財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1)財政状態

当連結会計年度末の財政状態は、資産の部は、有形固定資産や投資有価証券が減少したことを主因に前連結会計年度末比795億円減少の2兆2,784億円となった。

負債の部は、支払手形及び買掛金や繰延税金負債が減少したことを主因に前連結会計年度末比237億円減少の1兆2,535億円となった。当連結会計年度末の有利子負債の残高は前連結会計年度末比40億円増加の7,043億円となった。

純資産の部は、為替換算調整勘定の変動を主因に純資産合計で前連結会計年度末比558億円減少の1兆249億円となり、このうち自己資本は9,456億円となった。当連結会計年度末の自己資本比率は、前連結会計年度末比0.3ポイント低下し41.5%、D/Eレシオは同0.03ポイント悪化し0.74となった。

当連結会計年度のキャッシュ・フローの状況は、「1 業績等の概要(2)キャッシュ・フロー」に記載のとおり
であり、営業活動によるキャッシュ・フローから投資活動によるキャッシュ・フローを差し引いた当連結会計年度のフリー・キャッシュ・フローは、前連結会計年度比411億円増加し、417億円の資金収入となった。

なお、キャッシュ・フロー関連指標の推移は下記のとおりである。

 

回次

第131期

第132期

第133期

第134期

第135期

決算年月

2012年3月

2013年3月

2014年3月

2015年3月

2016年3月

自己資本比率(%)

39.7

41.8

40.5

41.8

41.5

時価ベースの自己資本比率(%)

63.3

59.8

52.4

68.3

67.3

キャッシュ・フロー対有利子負債比率

4.6

5.3

4.1

5.0

3.6

インタレスト・カバレッジ・
レシオ

17.7

18.1

32.5

22.5

37.6

 

(注)1 時価ベースの自己資本比率:株式時価総額/総資産額

  キャッシュ・フロー対有利子負債比率:有利子負債/営業活動によるキャッシュ・フロー

  インタレスト・カバレッジ・レシオ:営業活動によるキャッシュ・フロー/利払い

  株式時価総額は、期末株価終値×期末発行済株式総数(自己株式控除後)により算出している。

  また、利払いについては、連結キャッシュ・フロー計算書の利息の支払額を使用している。

   2 第133期より、一部の在外会社において、IAS第19号「従業員給付」(2011年6月16日改訂)を適用している。当該会計方針の変更は遡及適用されるため、第132期の関連するキャッシュ・フロー関連指標について遡及適用後の数値を記載している。

 

(2)経営成績

当社グループは、中期経営課題“プロジェクトAP-G 2016”に基づき、「成長分野での事業拡大」及び「成長国・地域での事業拡大」を要とした成長戦略を実行するとともに、トータルコスト競争力の更なる強化に努めた結果、連結業績は前連結会計年度比増収・増益となり、売上高、営業利益、経常利益、親会社株主に帰属する当期純利益について、いずれも過去最高を更新した。

「1 業績等の概要(1)業績」に記載のとおり、売上高は、ライフサイエンスを除く全てのセグメントで増収となり、前連結会計年度比937億円、4.7%増収の2兆1,044億円となった。営業利益もライフサイエンスを除く全てのセグメントで増益となり、前連結会計年度比310億円、25.1%増益の1,545億円となった。

営業利益の前連結会計年度比増減要因を分析すると、数量増や原料価格下落などによる増益1,027億円があった一方で、販売価格下落や営業費増加などによる減益△717億円があり、差し引き310億円の増益となった。

営業外損益は、持分法による投資利益が減少したことなどにより、前連結会計年度比94億円の減益となったため、経常利益は前連結会計年度比216億円、16.8%増益の1,502億円となった。

特別利益は投資有価証券売却益が増加したことを主因に前連結会計年度比41億円増の60億円、特別損失は投資有価証券評価損や減損損失が増加したことを主因に前連結会計年度比24億円増の183億円となった。従って、ネット特別損益は前連結会計年度比17億円の増益となったため、当連結会計年度の税金等調整前当期純利益は、前連結会計年度比233億円増益の1,378億円となった。

親会社株主に帰属する当期純利益は、前連結会計年度比191億円、26.9%増益の901億円となった。自己資本利益率は、9.3%と前連結会計年度比1.6ポイント改善した。