第2 【事業の状況】

 

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

 以下の記載事項のうち将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものである。

 

(1) 会社の経営の基本方針

 当社は「新しい価値の創造を通じて社会に貢献する」ことを企業理念として掲げ、これに基づき経営基本方針を以下のとおり定めている。
 

お客様のために  新しい価値と高い品質の製品とサービスを
 社員のために   働きがいと公正な機会を
 株主のために   誠実で信頼に応える経営を
 社会のために   社会の一員として責任を果たし相互信頼と連携を
 
 即ち、当社は、社会の中でお客様、社員、株主など数多くのステークホルダーによって支えられていることを認識し、それぞれに対して責任を果たし、広く社会に貢献することを経営の基本方針としている。

 

 

(2) 経営環境及び対処すべき課題等

① 東レ理念

東レグループは、「企業は社会の公器である」との考えに基づき、企業理念「わたしたちは新しい価値の創造を通じて社会に貢献します」の実現を目指して、革新的な先端材料と製品を生み出し、市場を開拓することで、新たな価値を創造し、事業を発展させてきた。

今後も「事業を通じた社会貢献」という創業以来の考え方を実践し、持続的成長を実現することを経営の基軸とする。


 

② 東レグループ サステナビリティ・ビジョン(ビジョン)
 人口増加、高齢化、気候変動、水不足、資源の枯渇など世界が直面する「発展」と「持続可能性」の両立をめぐる地球規模の課題に対し、革新技術・先端材料の提供によって、本質的なソリューションを提供していくことが東レグループの使命と考えている。「東レグループ サステナビリティ・ビジョン(ビジョン)」は、「2050年に向け東レグループが目指す世界」、その実現に向けた「東レグループが取り組む課題」及び「2030年度に向けた数値目標(KPI)」を定めている。これは、2020年5月に発表した、新たな長期経営ビジョン“TORAY VISION 2030(ビジョン 2030)”及び中期経営課題“プロジェクト AP-G 2022(AP-G 2022)”の基礎となるものである。

 

 

(2050年に向け東レグループが目指す世界と取り組む課題)


(2030年度に向けた数値目標)

 

2013年度実績(基準年度)

(日本基準)

2030年度目標(2013年度比)

(IFRS)

グリーンイノベ―ション事業 売上高・売上収益

4,631億円

4倍

ライフイノベーション事業 売上高・売上収益

1,196億円

6倍

CO削減貢献量

0.4億トン

8倍

水処理貢献量

2,723万トン/日

3倍

GHG排出量の売上高・売上収益原単位

337トン/億円

30%削減

用水使用量の売上高・売上収益原単位

15,200トン/億円

30%削減

 

 

③ 長期経営ビジョン“TORAY VISION 2030(ビジョン 2030)”

東レグループの長期戦略は、「ビジョン」に示す「2050年に向け東レグループが目指す世界」の実現に向けて、そのマイルストーンとしての「2030年度に向けた数値目標」の達成を目指す。

次期10年の事業環境は、人口分布・環境問題・技術イノベーションなどで大きな変化が想定され、産業構造や社会システムの変化により事業機会が創出される一方で、これまで存在した事業が縮小するリスクもある。産業の潮流の変化を的確に捉えて、「ビジネスモデルの変革」を進めながら「持続的かつ健全な成長」を実現することを目標とする。


 

 

 

④ 中期経営課題“プロジェクト AP-G 2022(AP-G 2022)”
 「ビジョン」で示す「2050年に向け東レグループが目指す世界」及び“ビジョン 2030”に示す「持続的かつ健全な成長」の実現に向けて、中期経営課題“プロジェクト AP-G 2019”に掲げた「積極的な投資による事業拡大」という基本戦略を維持しつつ、その成長戦略を可能にするために、継続的なビジネスモデル革新やトータルコストダウンといった競争力強化と、投下資本効率や財務体質の面から成長投資を可能にする経営基盤強化を両輪で推進することで、東レグループ全体で中長期に創出する価値を最大化していく。
 具体的には、次の3つの基本戦略を推進する。

(ⅰ)成長分野でのグローバルな拡大

   地球環境問題や資源・エネルギー問題の解決に貢献するグリーンイノベーション(GR)事業と、医療の充実と健康長寿、公衆衛生の普及促進に貢献するライフイノベーション(LI)事業を推進する。
 東レグループの持つ先端材料やコア技術を活かして地球規模の社会的課題解決に貢献し、増加する需要を取り込むだけでなく、新たな需要を創出していくことにより事業を拡大する。   

(ⅱ)競争力強化
 トータルコストダウンを引き続き推進する。また、製品の高度化、製品とサービスの融合・組み合わせによる高付加価値化、社外パートナーとの連携を通じた新たな価値の創出、ICTを活用したバリューチェーンの革新などに取り組むとともに、今後想定される産業や社会システムの構造変化について機会とリスクを見極め、「ビジネスモデルの変革」などに対応する。

(ⅲ)経営基盤強化
 財務健全性を確保するために、従来よりも利益、キャッシュ・フロー、資産効率性のバランスに配慮した事業運営を行う。また、新たな成長軌道を描くために、低成長・低収益事業の事業構造改革を推進する。

 

(2022年度の経営目標)

 

2019年度実績

(日本基準)

2019年度実績

(IFRS・概算)

2022年度目標

(IFRS)

売上高・売上収益

22,146億円

20,900億円

26,000億円

営業利益・事業利益※

1,312億円

1,250億円

1,800億円

営業利益率・事業利益率

5.9%

6.0%

6.9%

ROA

4.8%

約5%

約7%

ROE

5.0%

約7%

約9%

フリー・キャッシュ・フロー

(3年間累計)

△581億円

1,200億円以上

D/Eレシオ

0.86

0.9程度

0.8程度

(ガイドライン)

配当性向目標

30%程度

 

※事業利益は、IFRSに基づく営業利益から非経常的な要因により発生した損益を除いて算出している。

 

⑤ 今後の見通し

短期的には世界が新型コロナウイルスの感染拡大防止に向けて取り組む中、生産活動・消費行動の停滞やサプライチェーンの分断により、今後の世界経済は後退が避けられない見通しである。経済が正常化する時期及び正常化までの過程については、新型コロナウイルスの収束時期に大きく左右され、その間、信用収縮の発生や倒産・失業の長期化でさらなる需要の落ち込みなど、世界経済の成長率が一段と低下する可能性もはらんでいる。各国政府・中央銀行が財政出動や金融緩和を実施しているが、金融・資本市場及び原油価格の変動が及ぼす影響等にも留意する必要がある。

 中長期的には、新型コロナウイルスが収束した後に事業環境が変化する可能性も想定したうえで、高齢化、環境問題、技術イノベーション、コスト競争力を有する新興国企業の技術力の向上といった変化へ対応することが重要な課題と考えている。東レグループは、これら変化を新たな事業創出の機会と捉え、強みを活かして課題に取り組むことで持続的な成長を図り、ステークホルダーの信頼に応える経営を実践していく。

 

 

2 【事業等のリスク】

「第2 事業の状況」、「第5 経理の状況」等での記載事項に関して、経営者が当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりである。これらは当社グループに関するすべてのリスクを網羅したものではなく、事業等のリスクはこれらに限定されるものではない。

当社グループは、急激に顕在化するリスクや危機発生時に迅速に対応するための体制を構築し、専任組織によって平常時のリスクマネジメントと危機発生時の即応を統括管理しているが、リスクが顕在化した場合には、当社グループの経営成績や財政状態に影響を及ぼす可能性がある。

なお、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日(2020年6月23日)現在において当社グループが判断したものである。

 

(1) 国内外の需要、製品市況の動向等に関わるリスク

当社グループは多種多様な基礎素材製品を広範な産業及び地域に供給しており、世界的あるいは地域的な需給環境の変動や素材代替の進行、取引先の購買方針の変更等により当社グループの製品に対する需要が急速に減退する可能性がある。個別事業領域におけるリスクは次のとおりである。

①繊維事業では、最終消費におけるEコマース(Electronic Commerce)の進展や小売り業態の変化から、サプライチェーン及び生産拠点がグローバルに変化する可能性がある。

②機能化成品事業では、自動車におけるレシプロエンジンから電動化への移行、5G市場やデジタル革命の進展などから、現行の供給素材が大きく変化する可能性がある。

③医薬・医療事業では、薬価並びに償還価格改定による価格変動要因のほか、後発品の参入によって数量が減少する可能性がある。

また、共通のリスクとして、当社グループの様々な事業は他企業との厳しい競争状態から、新規参入の脅威に曝されているものや、B to B取引を主体とすることから供給先である顧客の市場におけるプレゼンスの影響を受けるものがある。当社グループは持続的に競争優位の確保に努めているものの、これら製品の需要が減少あるいは価格が下落した場合、あるいは取引先の与信リスクが顕在化した場合、当社グループの業績及び財務状況が悪影響を被る可能性がある。

 

(2) 原燃料価格の上昇に関わるリスク

当社グループが使用する石油化学原料や燃料は、原油価格の動静に合わせた投資資金の動き、石油化学品メーカーでの供給制約及び中国の環境規制などの影響から、価格が大きく変動することがある。これら原燃料の価格上昇分を製品価格に十分に転嫁できない場合、あるいは品種転換による採算の改善が困難な場合、当社グループの業績及び財務状況が悪影響を被る可能性がある。
 

(3) 設備投資、合弁事業・提携・買収等に関わるリスク

当社グループは広範囲にわたる事業領域で設備投資を実施しており、また、事業拡大・競争力強化を目的として第三者との間で様々な合弁事業や戦略的提携、事業買収等を行っている。これら設備投資、合弁事業・提携・買収等の実施にあたっては、事前に収益性や投資回収の可能性について様々な観点から検討を行っているが、予期したとおりの成果が確実に得られるという保証が必ずしもあるわけではなく、事業環境の急変などにより、予期せぬ状況変化や所期の事業計画からの大幅な乖離が生じた場合、固定資産やのれんの減損損失や持分法投資損失等が発生し、当社グループの業績及び財務状況に悪影響を与える可能性がある。また事業買収において、当社グループの内部統制が被買収企業において有効に機能せず、コンプライアンス上の問題が発生する可能性も考えられる。

 

 

(4) 為替相場の変動、金利の変動、有価証券等の価値の変動等に関わるリスク

当社グループは、海外事業の現地通貨建て財務諸表の各項目の円換算時において、為替レート変動の影響を受ける。原材料の調達を含む外国通貨建て取引については、為替予約等によりリスクを軽減させる措置を講じているが、予測を超えた為替変動が当社グループの業績及び財務状況に影響を与える可能性がある。また、当社グループの事業資金は、主に金融機関からの借入、コマーシャル・ペーパーや社債の発行等により調達しているが、予期せぬ金利水準の急激な変動やその他の金融市場の混乱があった場合には、資金調達及び調達コストに影響を与えるほか、当社グループの保有する有価証券あるいは年金資産の価値の変動等が当社グループの業績及び財務状況に影響を与える可能性がある。

 

(5) 将来予測等の前提条件の変動に伴う退職給付債務や繰延税金資産に関わるリスク

当社の単独及び連結財務諸表は、将来に関する一定の前提を置いた年金数理計算に基づいて退職給付債務を計上しており、また、将来年度の課税所得の見積額に基づき回収可能性を判断したうえで繰延税金資産を計上しているが、年金数理計算に使用する前提条件に変動が生じた場合、あるいは将来の課税所得の見積額に変動が生じた場合、当社グループの業績及び財務状況に影響を与える可能性がある。

 

(6) 海外での事業活動に関わるリスク

当社グループは、アジア・欧州・米国をはじめ海外で広く事業を展開しているが、各国の保護貿易政策への傾倒をはじめ、各地域において以下のようなリスクがあり、これらの事象が発生した場合、当社グループの業績及び財務状況が悪影響を被る可能性がある。

①不利な影響を及ぼす税制や関税の変更等、予期しない諸規制の設定又は改廃

②予期しない不利な経済的又は政治的要因の発生

③テロ・紛争等による社会的混乱

④人材の採用難・確保難 など

 

(7) 製造物責任に関わるリスク

当社グループは、世界最高水準の品質を追求しているが、予期し得ない重大な品質問題が発生する可能性は皆無ではなく、そうした重大事態が発生した場合、当社グループの業績及び財務状況が悪影響を被る可能性がある。

 

(8) 訴訟に関わるリスク

当社グループが広範な事業活動を展開する中で、知的財産権、製造物責任、環境、労務等、様々な訴訟の対象となるリスクがある。重大な訴訟が提起された場合、当社グループの業績及び財務状況が悪影響を被る可能性がある。

 

(9) 法規制、租税、競争政策、内部統制に関わるリスク

当社グループは、事業活動を行っている各国及び地域において、環境、商取引、労務、知的財産権、租税、為替等の各種関係法令、投資に関する許認可や輸出入規制、独占禁止法に基づく競争政策等の適用を受けている。当社グループは内部統制システムの整備・維持を図り各種法令等の遵守に努めているが、新たな環境規制や環境税の導入、法人税率の変動等これらの法令の改変があった場合や各種法令に違反したと判定された場合、公正取引委員会による行政処分を受けた場合や税務当局から更正通知を受領した場合、あるいは従業員による不正行為があった場合や財務報告に係る内部統制の有効性が維持できなかった場合、当社グループの業績及び財務状況が悪影響を被る可能性がある。

 

(10) 自然災害・事故災害に関わるリスク

当社グループは、「安全・防災・環境保全」をあらゆる経営課題に優先し、生産活動の中断による損害を最小限に抑えるため、製造設備の定期的な防災点検及び設備保守、また安全活動を推進しているが、突発的に発生する災害や天災、感染症の流行、不慮の事故等で製造設備等が損害を受けた場合や原材料等の供給不足が生じた場合、電力・物流をはじめとする社会インフラの機能が低下した場合等には、当社グループの業績及び財務状況が悪影響を被る可能性がある。

 

(11) 情報セキュリティに関わるリスク

当社グループが事業活動を行う上で、情報システム及び情報ネットワークは欠くことのできない基盤であり、構築・運用に当たっては十分なセキュリティの確保に努めているものの、不正侵入、情報の改ざん・盗用・破壊、システムの利用妨害などにより業務の停滞や信用の低下が生じた場合、あるいは機密情報が社外に流出した場合等には、当社グループの業績及び財務状況が悪影響を被る可能性がある。

 

(12) 環境課題に関わるリスク

当社グループは、「東レグループ サステナビリティ・ビジョン」を策定し、気候変動、水不足、資源の枯渇など、様々な地球規模の課題へのソリューションを提供するほか、世界の持続可能性に負の影響を与えない努力を尽くすことを、2030年に向けたKPIも含めて表明しているが、世界的な気候変動対策への懸念や企業に対する期待の向上から、以下のリスクが高まる可能性がある。

①石油化学産業へのレピュテーションの悪化による企業ブランド価値の低下 

②環境負荷の低い素材への代替推進

③世界的なカーボンプライシング等の導入

これらの事象が発生した場合、当社グループの業績及び財務状況が悪影響を被る可能性がある。

 

(13) 新型コロナウイルス感染症に関わるリスク

当社グループは、新型コロナウイルス感染症に対して全社対策本部を設置し、国内外の従業員の健康状況の把握や各事業拠点の情報収集、感染の未然防止策の実施等に努めている。今後とも社内外への感染拡大の防止など、各国の状況に合わせて必要な対策を拡充していくが、感染拡大の経過や収束時期、ひいては世界経済や当社グループが製品を供給する市場に与える影響の深度によっては、当社グループの業績及び財務状況に影響を与える可能性がある。

 

 

3 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の概要並びに経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりである。

なお、文中の将来における事項は、当連結会計年度末現在において判断したものである。

 

(1)重要な会計方針及び見積り

当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成している。連結財務諸表の作成において採用する重要な会計方針は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 注記事項」の(連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項)に記載している。連結財務諸表の作成にあたっては、資産・負債及び収益・費用の報告額に影響を与える見積りが必要となる。これらの見積りについては、過去の実績等を勘案し合理的に判断しているが、実際の結果は、見積り特有の不確実性があるため、これらの見積りと異なる場合がある。なお、新型コロナウイルス感染症の影響に係る仮定は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 注記事項」の(追加情報)に記載している。

 

(2) 経営成績の概要及び分析

当社グループは2017年度から、2019年度までの3ヵ年を期間とする中期経営課題“プロジェクト AP-G 2019”に取り組み、「成長分野での事業拡大」、「成長国・地域での事業拡大」、「競争力強化」を要とした成長戦略を実行した。

一方で、米中貿易摩擦による中国経済の低迷や自動車・スマートフォン関連の需要鈍化等により、生産・販売数量が大きく影響を受けた。また、第4四半期には、新型コロナウイルスの感染拡大により生産活動や消費行動が停滞し、世界経済は急減速した。

 

(業績指標)

(単位:億円)

 

2017年度実績

2018年度実績

2019年度実績

 

“プロジェクト

 AP-G 2019”

2019年度目標

売上高

22,049

 

23,888

 

22,146

 

 

27,000

 

営業利益

1,565

 

1,415

 

1,312

 

 

2,500

 

営業利益率

7.1%

 

5.9%

 

5.9%

 

 

9%

 

ROA

6.3%

 

5.3%

 

4.8%

 

 

約9%

 

ROE

9.1%

 

7.1%

 

5.0%

 

 

約12%

 

 

 

当連結会計年度の売上高は、炭素繊維複合材料事業を除くすべてのセグメントで減収となり、前連結会計年度比1,742億円(7.3%)減収の2兆2,146億円となった。営業利益は、繊維事業、機能化成品事業を中心に減益となり、前連結会計年度比103億円(7.3%)減益の1,312億円となった。

営業利益の前連結会計年度比増減要因を分析すると、原料価格下落による増益288億円があった一方で、生産・販売数量の減少や費用の増加などによる減益△390億円があり、差し引き103億円の減益となった。

営業外損益は、持分法による投資損失を計上したことなどにより、前連結会計年度比209億円の減益となり、経常利益は同312億円(23.2%)減益の1,034億円となった。

特別利益は有形固定資産売却益が減少したことを主因に前連結会計年度比147億円減の77億円、特別損失は減損損失が減少したことを主因に同124億円減の170億円となり、税金等調整前当期純利益は同334億円(26.2%)減益の940億円となった。

親会社株主に帰属する当期純利益は、前連結会計年度比236億円(29.8%)減益の557億円となった。自己資本利益率は、5.0%と前連結会計年度比2.1ポイント悪化した。

 

 

 

当連結会計年度のセグメント別の経営成績は、次のとおりである。

 

(繊維事業)

米中貿易摩擦の長期化と中国経済の減速、及び2年続いた暖冬により各用途で市況低迷の影響を受けた。

国内では、衣料及び産業用途ともに総じて荷動きが低調に推移する中、国内ユニフォーム用途や欧米スポーツ用途等で拡販を進めるとともに、事業体質強化に注力した。

海外では、縫製品やテキスタイルなどの衣料用途のほか、産業用途も主力の自動車関連用途の需要が低調に推移する中、事業構造改革、事業体質強化に注力した。

また、国内外ともに新型コロナウイルスによる生産活動・消費行動停滞の影響を受けた。

以上の結果、繊維事業全体では、売上高は前連結会計年度比9.4%減の8,831億円、営業利益は同16.7%減の607億円となった。

主要な製品の生産規模は、ナイロン糸が前連結会計年度比5.5%減の約442億円(販売価格ベース)、ポリエステル糸が同11.5%減の約529億円(販売価格ベース)、ポリエステルステープルが同17.1%減の約522億円(販売価格ベース)となった。

 

(機能化成品事業)

樹脂事業は、中国経済の減速及び新型コロナウイルスによる生産活動停滞の影響を主因に自動車・家電用途とも低調に推移した。ケミカル事業は、基礎原料の市況下落の影響を受けた。フィルム事業は、リチウムイオン二次電池向けバッテリーセパレータフィルムが需要の伸長を背景に売上を拡大したが、ポリエステルフィルムでは光学用途や電子部品関連において在庫調整の影響を受けた。電子情報材料事業は、有機EL関連部材や回路材料が好調に推移した。

以上の結果、機能化成品事業全体では、売上高は前連結会計年度比11.3%減の7,708億円、営業利益は同13.2%減の587億円となった。

主要な製品の生産規模は、ABS樹脂が前連結会計年度比18.2%減の約850億円(販売価格ベース)、ナイロン樹脂とPBT樹脂が同5.5%減の約263億円(販売価格ベース)、ポリエステルフィルムが同16.6%減の約1,083億円(販売価格ベース)となった。

 

(炭素繊維複合材料事業)

航空機向け需要や、圧縮天然ガスタンク・風力発電翼といった環境・エネルギー関連向け一般産業用途が好調に推移したほか、スポーツ用途の需要が回復するなど、総じて堅調に推移した。

以上の結果、炭素繊維複合材料事業全体では、売上高は前連結会計年度比9.7%増の2,369億円、営業利益は同81.6%増の210億円となった。

炭素繊維複合材料の生産規模は前連結会計年度比15.3%増の約2,258億円(販売価格ベース)となった。

 

(環境・エンジニアリング事業)

水処理事業は、国内外で逆浸透膜などの需要が概ね堅調に推移した。

国内子会社では、建設子会社が高収益案件の受注減少の影響を受けたほか、エンジニアリング子会社でエレクトロニクス関連装置の出荷が減少した。

以上の結果、環境・エンジニアリング事業全体では、売上高は前連結会計年度比2.1%減の2,523億円、営業利益は同8.1%減の112億円となった。

 

 

(ライフサイエンス事業)

医薬事業は、経口プロスタサイクリン誘導体製剤ドルナー®が後発医薬品発売の影響を受けた。経口そう痒症改善薬レミッチ®*も後発医薬品発売の影響を受けたが、市場全体の伸びもあり、堅調な出荷となった。

医療機器事業は、ダイアライザーが国内外で堅調な出荷となった。

以上の結果、ライフサイエンス事業全体では、売上高は前連結会計年度比0.8%減の533億円、営業利益は同24.9%増の16億円となった。

医療機器の生産規模は前連結会計年度比7.3%増の約180億円(販売価格ベース)となった。

 

*レミッチ®は鳥居薬品㈱の登録商標である。

 

(その他)

売上高は前連結会計年度比1.5%減の182億円、営業利益は同10.1%増の34億円となった。

 

 (生産、受注及び販売の状況)

当社グループ(当社及び連結子会社)の生産・販売品目は広範囲かつ多種多様であり、同種の製品であっても、その形態、単位等は必ずしも一様ではなく、また受注生産形態をとらない製品も多いため、セグメントごとに生産規模及び受注規模を金額あるいは数量で示すことはしていない。

このため生産、受注及び販売の状況については、各セグメントの業績に関連付けて示している。

 

(3) 財政状態の概要及び分析

当連結会計年度末の財政状態は、資産の部は、受取手形及び売掛金が減少した結果、流動資産が前連結会計年度末比629億円減少し、固定資産も投資有価証券の減少を主因に同748億円減少したことから、資産合計では同1,377億円減少の2兆6,507億円となった。

負債の部は、支払手形及び買掛金や有利子負債が減少したことを主因に前連結会計年度末比1,033億円減少の1兆4,711億円となった。

純資産の部は、為替換算調整勘定の変動などにより純資産合計で前連結会計年度末比344億円減少の1兆1,796億円となり、このうち自己資本は1兆937億円となった。当連結会計年度末の自己資本比率は、前連結会計年度末比0.7ポイント上昇し41.3%、D/Eレシオは同横ばいの0.86となった。

 

(4) 資本の財源及び資金の流動性についての分析

①キャッシュ・フローの概要及び分析

当連結会計年度における連結ベースの現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は、営業活動による資金の増加が投資活動による資金の減少を834億円上回った一方、有利子負債の減少を主因に財務活動による資金の減少が676億円となったこと等により、当連結会計年度末には前連結会計年度末比106億円(6.1%)増の1,837億円となった。

 

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

売上債権の減少額が前連結会計年度比708億円増加した一方、税金等調整前当期純利益が334億円減少したこと等により、営業活動による資金の増加は同495億円(28.1%)増の2,258億円となった。
 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

連結の範囲の変更を伴う子会社株式の取得による支出が前連結会計年度比1,146億円減少したこと等により、投資活動による資金の減少は同1,179億円(45.3%)減の1,424億円となった。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

社債の発行による収入が前連結会計年度比1,000億円減少したことや、短期借入金の純減少額が674億円であったこと等により、財務活動による資金の減少は同1,865億円増の676億円となった。

 

 

(キャッシュ・フロー関連指標の推移)

 

回次

第135期

第136期

第137期

第138期

第139期

決算年月

2016年3月

2017年3月

2018年3月

2019年3月

2020年3月

自己資本比率(%)

41.5

42.6

42.3

40.6

41.3

時価ベースの自己資本比率(%)

67.3

65.9

62.5

40.6

28.3

キャッシュ・フロー対有利子負債比率

3.6

4.1

6.3

5.5

4.2

インタレスト・カバレッジ・
レシオ

37.6

38.0

25.6

24.8

40.7

 

(注) 時価ベースの自己資本比率:株式時価総額/総資産額

キャッシュ・フロー対有利子負債比率:有利子負債/営業活動によるキャッシュ・フロー

インタレスト・カバレッジ・レシオ:営業活動によるキャッシュ・フロー/利払い

株式時価総額は、期末株価終値×期末発行済株式総数(自己株式控除後)により算出している。

また、利払いについては、連結キャッシュ・フロー計算書の利息の支払額を使用している。

 

②資金需要

当社グループの資金需要の主なものは、設備投資、投融資などの長期資金需要と当社製品製造のための原材料の購入のほか、製造費、販売費及び一般管理費などの運転資金需要である。このうち、設備投資の概要及び重要な設備の新設の計画については、「第3 設備の状況」に記載している。

 

③財務政策

当社グループは、資金需要の見通しや金融市場の動向などを総合的に勘案した上で、最適なタイミング、規模、手段を判断して資金調達を実施している。また、事業拡大と財務体質強化の両立という基本方針の下、運転資金の圧縮、固定資産の稼働率向上、キャッシュマネジメントシステムによるグループ内余剰資金の有効活用等、資産効率の改善にも取り組んでいる。

財務状況は健全性を保っており、現金及び現金同等物、有価証券などの流動性資産に加え、営業活動によるキャッシュ・フロー、借入金、社債等による資金調達により、事業拡大に必要な資金を十分に賄えると考えている。また新型コロナウイルスの感染拡大に伴う業績、キャッシュ・フロー悪化リスク等、緊急に資金が必要となる場合や金融市場の混乱に備え、国内外の金融機関とコミットメントライン契約、当座貸越契約等を締結し、資金流動性を確保している。

 

4 【経営上の重要な契約等】

 

契約会社名

相手方の名称

国名

契約の内容

内容

契約期間

東レ株式会社

DuPont de

Nemours, Inc.

アメリカ

ポリイミドフィルム等を製造・販売する合弁会社東レ・デュポン㈱の設立及び運営

1963年2月22日から
合弁会社の存続する期間

東レ株式会社

The LYCRA Company Global Holdings B.V.

オランダ

ポリウレタン弾性繊維を製造・販売する合弁会社東レ・オペロンテックス㈱の運営

2003年5月1日から
合弁会社の存続する期間

Toray Composite Materials America, Inc.

Boeing Co.

アメリカ

炭素繊維複合材料の供給

2015年9月30日から
2028年12月31日まで

東レ株式会社

Freudenberg SE

ドイツ

不織布及び不織布関連製品等を製造・加工・販売する合弁会社日本バイリーン㈱の運営

2016年4月1日から
合弁会社の存続する期間

東レ株式会社

Dow Silicones
Corp.

アメリカ

シリコーン製品を製造・販売する合弁会社ダウ・東レ㈱の運営

2019年2月1日から
合弁会社の存続する期間

 

 

5 【研究開発活動】

当社グループ(当社及び連結子会社)の研究・技術開発は、有機合成化学、高分子化学、バイオテクノロジー、ナノテクノロジーをコア技術とし、これらの技術をベースに、重合、製糸、繊維高次加工、製膜、有機合成など要素技術の深化と融合を進め、繊維、フィルム、ケミカル、樹脂、さらには電子情報材料、炭素繊維複合材料、医薬、医療機器、水処理事業とさまざまな事業分野で、先端材料を創出し事業化を実現している。

中期経営課題“プロジェクト AP-G 2019”では、「グリーンイノベーション」、「ライフイノベーション」事業に重点を置き新技術・新素材を創出するとともに、そうした技術・素材の持つ本質的価値を顕在化させるための取り組みを進めてきた。新たな中期経営課題“プロジェクト AP-G 2022”でも「成長分野でのグローバルな拡大」と「競争力強化」という基本戦略は維持しつつ、将来の大型テーマにリソースを配分し、「東レグループ サステナビリティ・ビジョン」実現に貢献すると共に基盤技術と固有技術を融合した総合力の強化を推進していく。

 

当連結会計年度のセグメント別の研究・技術開発の概要は次のとおりである。

 

(1) 繊維事業

 基幹事業としての安定収益基盤の強化と収益拡大に向け、極限技術追求による高機能製品や繊維先端材料の創出・拡大に主眼を置いた研究・技術開発を推進した。その成果として、複合繊維の断面形状を任意にかつ高精度に制御する革新複合紡糸技術NANODESIGN®を用いて、環境低負荷と撥水性能を高いレベルで両立する「ナノスリットナイロン」及び艶感、嵩高、絹鳴りといった天然シルクの特徴とプリーツ保持、防シワといったイージーケア性を両立する次世代シルキー素材「KinariTM」を開発した。また、部分植物由来であるPTT(ポリトリメチレンテレフタレート)と、通常廃棄される工程屑をリサイクルしたPET原料を組み合わせることで、構成成分の約68%を環境配慮型素材とした、環境にやさしいストレッチ原糸を実現し、従来、一般的なリサイクルPET原料では、優れたストレッチ性の発現が困難であったが、東レのポリマ-品質制御技術と紡糸技術の組み合わせにより、リサイクルPET原料を用いた場合にもバージンPET使用時と同等レベルのストレッチ性を維持した、新しい環境配慮型Primeflex®の開発に成功した。

(2) 機能化成品事業

 基幹事業として安定収益基盤の強化、戦略的拡大事業として中長期での収益拡大に向け、新製品開発、高付加価値化を目指し、研究・技術開発に取り組んだ。その成果として、新規の光学設計に基づいた樹脂屈折率の高精度制御により、正面からの光を透過し、斜めからの光を反射するという全く新しい機能を発現させたナノ積層フィルム「PICASUS®VT」を開発した。今後AR(拡張現実)やMR(複合現実)用途におけるディスプレイ用フィルムなどへの展開が期待出来る。また、5G通信機器や、自動運転などに用いられるミリ波レーダーの高周波用電子部品に適したポリイミド材料を開発した。ポリイミドが持つ高い信頼性と、低誘電損失の性能を兼ね備えることで、高周波部品の性能向上に大きく貢献する。さらに、従来真球化が困難であった高融点ポリアミド(ポリアミド6、66)を簡便にマイクロレベルの真球粒子にする新しい技術を創出した。本技術により、高い耐熱性、強度を必要とする実用部品向けの造形物を3Dプリンターで実現することが期待出来る。

(3) 炭素繊維複合材料事業

 当社の代表的ナンバーワン事業であり戦略的拡大事業として、グリーンイノベーション事業拡大、アジア・新興国及び米州での事業拡大のための研究・技術開発に取り組んだ。その成果として、オートクレーブを使用せずとも高品位で力学特性に優れた炭素繊維強化プラスチック成形体を得ることが可能な新規航空機一次構造部材向けプリプレグを開発した。

(4) 環境・エンジニアリング事業

 機能化成品、炭素繊維複合材料に続く次の収益拡大の柱とするために、重点育成・拡大事業として研究・技術開発に取り組んだ。その成果として、水質を維持しつつ、世界最高レベルの造水性能を有する海水淡水化向け逆浸透(RO)膜を開発した。また、優れたイオン・有機物の選択分離性能を持ち、造水性能を3倍に高めた世界最高レベルの超高造水ナノろ過(NF)膜を創出した。

 

(5) ライフサイエンス事業

 重点育成・拡大事業として研究・技術開発に取り組んだ。その成果として、2017年3月よりがん免疫治療薬として米国2施設と仏国1施設で臨床試験を実施中の抗体医薬品「TRK-950」は、2019年4月より米国を5施設に拡大し、大腸がん、胆管がん、膀胱がん、卵巣がん、胃がん、腎臓がん、悪性黒色腫などを対象に臨床試験を継続中である。また、早期がん診断用に開発中の当社DNAチップを用いた膵臓・胆道がん検査キットが、2019年4月に厚生労働省の「体外診断用医薬品先駆け審査指定品目」に指定され、2020年度中の申請を目指す。さらに、敗血症又は敗血症性ショックの治療に使用されているエンドトキシン除去向け吸着型血液浄化用浄化器「トレミキシン®」について、カナダにおける新型コロナウイルス感染症の治療に対する暫定的な使用許可をカナダ保健省より取得した。

 

 上記セグメントに共通する取り組みとして、創業の地である滋賀事業場に新たな研究拠点として、未来創造研究センターを設立・開所した。同センターは、未来創造型研究の中枢として革新材料・デバイス・システムのアイデアを創出する融合研究棟と、そのアイデアを基に試作・評価・実証を推進する実証研究棟の2棟から構成されており、東レの研究のDNAである、極限追求、技術融合、超継続などを継承しつつ、最先端の技術を活用し、独自の高分子技術によるファインポリマー&ナノファブリケーションや、マテリアルインフォマティクス(MI)や人工知能(AI)等を駆使したコンピュータ&マテリアルサイエンスの融合により、先端医療、新エネルギー、分離システムなどグリーンイノベーション・ライフイノベーション分野における先端材料・デバイス・システムの創出に取り組むことで研究・技術開発を推進、強化する。

 

当連結会計年度の当社グループの研究開発費総額は、669億円(このうち東レ㈱の研究開発費総額は495億円)である。セグメント別には繊維事業に約9%、機能化成品事業に約28%、炭素繊維複合材料事業に約15%、環境・エンジニアリング事業に約7%、ライフサイエンス事業に約4%、本社研究・技術開発に約37%の研究開発費を投入した。

 当連結会計年度の当社グループの特許出願件数は、国内で1,641件、海外で3,658件、登録された件数は国内で542件、海外で1,961件である。