第2 【事業の状況】

 

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

以下の記載事項のうち将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものです。

 

(1) 東レ理念

東レグループは、1926年の創業以来、「企業は社会の公器であり、その事業を通じて社会に貢献する」との経営思想の下、社会から尊敬される企業体として存在することを目指してきました。

1955年にはこの考え方を初めて明文化した「社是」を制定し、創立60周年を迎えた1986年には現在の「企業理念」を最上位とする経営理念体系を整備しました。この経営理念は一部改定しながら受け継がれており、2020年5月に「東レ理念」として創業以来の考え方を改めて体系化しております。

「東レ理念」は、従来の経営理念である「企業理念」「経営基本方針」「企業行動指針」に加え、企業理念を具現化するための企業姿勢を端的に示した「コーポレートスローガン」、東レグループが将来に向けて進む方向性を示した「ビジョン」、これらの考え方の基礎となる創業以来受け継いできた価値観・経営観などの「企業文化」、「経営者の信条」から構成されております。


 

当社は企業理念の具現化において、社会の中で、お客様、社員、株主など数多くのステークホルダーによって支えられていることを認識し、それぞれに対して責任を果たし、広く社会に貢献していきます。

 

(企業理念)

わたしたちは新しい価値の創造を通じて社会に貢献します

(経営基本方針)

お客様のために

新しい価値と高い品質の製品とサービスを

 

社員のために

働きがいと公正な機会を

 

株主のために

誠実で信頼に応える経営を

 

社会のために

社会の一員として責任を果たし相互信頼と連携を

 

 

(2) 東レグループ サステナビリティ・ビジョン(ビジョン)

人口増加、高齢化、気候変動、水不足、資源の枯渇など世界が直面する「発展」と「持続可能性」の両立をめぐる地球規模の課題に対し、革新技術・先端材料の提供によって、本質的なソリューションを提供していくことが東レグループの使命と考えます。「東レグループ サステナビリティ・ビジョン」は、「2050年に向け東レグループが目指す世界」、その実現に向けた「東レグループが取り組む4つの課題」及び「2030年度に向けた数値目標(KPI)」を定めております。「2030年度に向けた数値目標(KPI)」については、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (1) サステナビリティに関する考え方及び取り組みの状況 ④ 指標及び目標」に記載しております。

 

 

 (2050年に向け東レグループが目指す世界)

 

(3) 長期経営ビジョン“TORAY VISION 2030”

東レグループの長期戦略は、「東レグループ サステナビリティ・ビジョン」に示す「2050年に向け東レグループが目指す世界」の実現に向けて、そのマイルストーンとしての「2030年度に向けた数値目標」の達成を目指します。今後の事業環境は、人口分布・環境問題・技術イノベーションなどで大きな変化が想定され、産業構造や社会システムの変化により事業機会が創出される一方で、これまで存在した事業が縮小するリスクもあります。私たちは産業の潮流の変化を的確に捉えて、「ビジネスモデルの変革」を進めながら「持続的かつ健全な成長」を実現することを目標としております。

 

(4) 中期経営課題“プロジェクト AP-G 2025”

2023年度から2025年度までの3年間を対象期間とする中期経営課題“プロジェクト AP-G 2025”は、「東レ理念」を起点として、「東レグループ サステナビリティ・ビジョン」に示す「『発展』と『持続可能性』の両立をめぐる地球規模の課題の解決への貢献」を通じた「持続的かつ健全な成長」の実現を目指し、その成長戦略を可能にするための価値創造、それを支える人材基盤の強化に注力して、投下資本効率、財務体質、人材の面から成長投資を可能にする経営基盤強化を進めます。

“プロジェクト AP-G 2025”では、「持続的な成長の実現」「価値創出力強化」「競争力強化」「『人を基本とする経営』の深化」「リスクマネジメントとグループガバナンスの強化」を基本戦略として掲げ、成長領域であるサステナビリティイノベーション(SI)事業(注)とデジタルイノベーション(DI)事業の拡大、事業の高度化・高付加価値化及び品質力・コスト競争力強化に取り組みます。同時に、財務健全性を確保するために、利益、キャッシュ・フロー、資産効率性のバランスに配慮した事業運営を行います。また、新たな成長軌道を描くために、高成長・高収益事業の拡大、低成長・低収益事業の構造改革を推進します。

 

(注) サステナビリティイノベーション(SI)事業

「東レグループ サステナビリティ・ビジョン」の実現に貢献する事業・製品群。

 

 

 (“プロジェクト AP-G 2025”の基本戦略と具体的取り組み)

基本戦略

具体的取り組み

1.持続的な成長の実現

① 「東レグループ サステナビリティ・ビジョン」を基軸とする成長領域での事業拡大

② カーボンニュートラル社会実現への貢献

③ 循環型社会実現への貢献

2.価値創出力強化

① 事業の高度化・高付加価値化

② 新事業創出

3.競争力強化

① 品質力強化

② トータルコストダウン

③ デジタル技術活用による経営の高度化

4.「人を基本とする経営」の深化

① 人材育成の強化

② マネジメント人材の育成・登用

③ 「東レ理念」の実践としての発信・対話の充実

5.リスクマネジメントとグループガバナンスの強化

① リスクマネジメントの強化

② 機能軸と地域軸の連携による現場力強化

③ グローバル経営管理の高度化・効率化

 

 
 (“プロジェクト AP-G 2025”の財務目標)

 

2022年度実績

2025年度目標
(注)1

売上収益

24,893億円

28,000億円

事業利益(注)2

960億円

1,800億円

事業利益率

3.9%

6%

ROIC (注)3

2.7%

約5%

ROE (注)4

5.0%

約8%

フリー・キャッシュ・フロー

2,373億円

(3年間累計)

プラス

(3年間累計)

D/Eレシオ

0.62

0.7以下

(ガイドライン)

 

(注) 1.為替レートの前提は、125円/米ドルです。

2.事業利益は、営業利益から非経常的な要因により発生した損益を除いて算出しております。

3.税引後事業利益/投下資本(期首・期末平均)

4.親会社の所有者に帰属する当期利益/親会社の所有者に帰属する持分(期首・期末平均)

 

 (“プロジェクト AP-G 2025”での各セグメント戦略と取り組み)
① 繊維事業

3大合成繊維(ナイロン、ポリエステル、アクリル)を有し、テキスタイル、縫製品までのサプライチェーン一貫型事業をグローバルに展開しております。また衣料用途のみならず、工業、土木、農業、ライフサイエンスといったあらゆる用途で進化しており、近年はサステナビリティへの要請の高まりを受けて、バイオマス由来素材やリサイクル素材の開発・展開を強化しております。

 

当社グループは、(a) 技術開発力と多彩な素材群、(b) サプライチェーンへの対応力、(c) グローバルな事業展開、からお客様にソリューションを提供できることが特徴であり、“プロジェクト AP-G 2025”では「環境配慮型素材を活用した高感性・高機能商品による成長領域での事業拡大」「価値創出力強化による収益力向上」「競争力強化」を成長戦略として推進します。具体的にはリサイクルサプライチェーンの再構築、自動車向け人工皮革、エアバッグ事業の拡大、革新複合紡糸技術NANODESIGN®を活用した高付加価値製品の開発、及び衣料用途におけるファイバー・テキスタイル・縫製品の一貫供給体制の強化に取り組み、お客様と付加価値の創出に取り組みます。

 

② 機能化成品事業
 (樹脂・ケミカル事業)

自動車の動力源が本格的に電動化し、自動化・IoT化が進むほか、サステナブル社会の本格化から、産業構造変化に応じた製品を先行的に投入することが重要となります。

樹脂事業は、多くの自動車用部品や民生用途に採用されておりますが、材料供給に留まらず、設計・加工法まで含めたトータルソリューションを提供することでお客様とともに社会問題を解決するパートナーとしてバリューチェーンを築いており、成長領域であるxEV向けの開発を進めて事業拡大を図ります。また、サステナブル社会への対応として環境対応(リサイクル)材料の事業規模を拡大するとともに、ケミカルリサイクルの技術開発を推進してリサイクルの高度化なども進めていきます。

ケミカル事業は、世界トップシェアであるファインケミカル事業において、食料の安定供給に貢献する農薬原料や半導体製造に貢献する溶剤を拡大するほか、3Dプリンターの造形素材に最適なPPS微粒子の自動車部品等への適用を進めます。

 (フィルム事業)

自動車のxEV台数の拡大や自動化、コネクト化の進化により、車載用需要が拡大するほか、5G、IoTなど情報・インターフェースの進化により、回路材料での高精細化が進むと想定しております。また、世界的に環境規制の強化が進み、廃プラ削減・リサイクルへの要請が強まることから、マテリアルリサイクルの本格運用、ケミカルリサイクルへの参画のほか、モノマテリアル化への設計変更、生分解性フィルムの開発などに取り組みます。

具体的には、世界トップシェアのポリエステルフィルムで、MLCC (積層セラミックコンデンサ)離型用途において薄膜化・高電圧化への特性に対応するほか、半導体関連用途での高精細化の追求によってお客様の製品価値を向上し、サプライチェーンにおける付加価値を創出します。また、サステナビリティ対応の強化として離型用途フィルムの回収システムを構築していきます。

 (電子情報材料事業)

半導体市場では、xEVや再生可能エネルギーの普及でパワー半導体の需要が増加しております。ディスプレイ市場においては、低消費電力の志向から有機EL比率は今後も堅調に上昇していくと想定しております。

高度なコア技術をベースに、お客様との強い信頼関係のもとで将来ニーズを先取りし、早期採用を実現するほか、強固な参入障壁を構築して業界標準化を実現し、有機EL関連材料や、半導体・実装・電子部品用高機能材料における市場拡大を着実に取り込み、事業の成長につなげていきます。

 

③ 炭素繊維複合材料事業

航空機用途において、ボーイング787の生産機数の回復が想定されるほか、新エネルギーの拡大、環境対応ニーズによる風力発電翼や燃料電池車用途(水素タンクや電極基材)、UAM (Urban Air Mobility)といった新しい事業機会が期待できます。

当社グループは50年におよぶ研究開発、データ蓄積に加えて、世界最高性能を有するレギュラートウ、最強のコスト競争力を有するラージトウをグローバルに提案・供給できる事業体制を擁し、世界の有力企業との信頼関係を築いております。“プロジェクト AP-G 2025”においては、圧力容器等産業用途向けの生産設備を増強し、回復する航空機用途の取り込みだけではなく、成長する産業用途の事業拡大を図り、航空用途に依存しない事業基盤を構築します。

 

 

④ 環境・エンジニアリング事業

水処理事業では、人口の急速な増加などにより、自然の浄化作用だけでは「水量」と「水質」の確保が世界的に困難なことから、高品質・高速処理・省エネプロセスの膜処理技術が21世紀の必須技術となっております。当社グループが有する水処理分離膜のうち、海水淡水化・飲料水製造に用いられるRO膜(逆浸透膜)、及び下廃水再利用などに用いられるUF膜(限外ろ過)において高い市場成長を想定しております。

“プロジェクト AP-G 2025”においては、RO膜のグローバル供給体制の強化を推進するとともに、提案力や技術サービスなどの非価格競争力とコスト体質の徹底強化を継続し、グローバルシェアNo.1の獲得を目指します。また、渇水で苦しむ国・地域においては下廃水再利用の動きが加速していることから、RO膜とUF膜とを組み合わせた事業拡大を推進します。

エンジニアリング事業では、ライフサイエンス分野や半導体分野の成長を想定し、プラント事業・エレクトロニクス機器事業において拡大を図ります。

 

⑤ ライフサイエンス事業

医薬事業において、膵がん診断薬の事業化のほか、既存製品の海外展開や適応拡大を目指します。医療機器事業においては、透析事業において、AIを用いた治療法の最適化等によりQOL向上を目指すほか、HotBalloon™の改良品開発を推進して、患者数が増加している心房細動の根治可能な治療法として拡大を図ります。

 

(5) 事業環境変化への対応

新型コロナウイルスの感染拡大を機に、人々の行動が変容したほか、地政学リスクの増大やデジタル技術の進化など、事業環境が大きく変化しました。しかし、地球環境問題や、エネルギー問題、健康長寿、新興国の人口増加など、世界が直面している大きな課題に変わりはなく、それら課題に、素材メーカーとして取り組んでいくという当社の姿勢も基本的には変わりません。“TORAY VISION 2030”で目指す「持続的かつ健全な成長」の実現に向けた事業方針の下、サステナビリティイノベーション(SI)事業及びデジタルイノベーション(DI)事業を推進します。

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

以下の記載事項のうち将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものです。

 

(1) サステナビリティに関する考え方及び取り組みの状況

「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載のとおり、当社グループは「東レグループ サステナビリティ・ビジョン」において、2050年に「温室効果ガスの排出と吸収のバランスが達成された世界」などの東レグループが目指す4つの世界の実現に向けて、革新技術・先端材料を提供し、地球環境問題や資源・エネルギー問題の解決へ貢献することを目指しております(https://www.toray.co.jp/sustainability/four_worlds/)。

 

① ガバナンス

当社グループは、「東レグループ サステナビリティ・ビジョン」の実現に向けた活動の推進に取り組むため、社長を委員長とするサステナビリティ委員会を設置し、サステナビリティに関する重要な方針、議題を協議するとともに、気候変動対策や資源循環問題等に対する中長期的なロードマップや実行計画の策定、及び2030年の数値目標達成に向けた進捗管理を行っております。同委員会は、CSR委員会、リスクマネジメント委員会、安全・衛生・環境委員会、技術委員会と連携して、東レグループ全体のサステナビリティに関する課題に取り組んでおります。

取締役会は、各全社委員会の議論について年1回以上報告を受け、監督と意思決定を行っております。また、事業戦略の策定・経営判断に際して、サステナビリティに関する問題を重要な要素の1つとして考慮し、総合的に審議・決定しております。

 

 

 (サステナビリティ推進体制)

 

② リスク管理

東レグループは、2018年7月に「東レグループ サステナビリティ・ビジョン」を策定した際、パリ協定を前提として、将来のリスクと事業機会を分析・整理しました。2019年5月にTCFDに賛同したことを契機に、気候変動という予測困難で不確実な事象に関する機会・リスクを特定し、それらの機会やリスクが東レグループにどのような影響を及ぼし得るのかを確認するために、TCFD提言に沿う形でシナリオ分析を行いました。その上で、「東レグループ サステナビリティ・ビジョン」の実現に向けた長期戦略(長期経営ビジョン“TORAY VISION 2030”)の強靭性を確認しました。

また、東レグループでは、リスクマネジメント推進のための審議・協議・情報共有機関としてリスクマネジメント委員会を設置しております。当該委員会での定期的なリスク特定・評価において、気候変動に関連するリスクは相対的に重要度の高いリスクと評価しております(詳細は「3 事業等のリスク」に記載)。気候変動に関連するリスクは、その重要度を踏まえ、サステナビリティ委員会の統括・管理の下で詳細なリスクの分析・評価を行っております。気候変動に関する機会とリスクのシナリオ分析の結果、「東レグループ サステナビリティ・ビジョン」は気候変動がもたらす社会の変化に対応したものであり、「東レグループ サステナビリティ・ビジョン」に示すGHG排出実質ゼロの世界などの実現に向けて、「2030年度に向けた数値目標」の達成を目指します。

 

 

 (機会及びリスクの一例)

 

(注) 詳細については、下記Webサイトに掲載の「東レグループTCFDレポート」をご覧ください。

https://www.toray.co.jp/sustainability/tcfd/

 

③ 戦略

「東レグループ サステナビリティ・ビジョン」では、「2050年に向け東レグループが目指す世界」、その実現に向けた「東レグループが取り組む4つの課題」及び「2030年度に向けた数値目標(KPI)」を定め、「東レグループ サステナビリティ・ビジョン」実現に向けた中長期の戦略として、長期経営ビジョン“TORAY VISION 2030”及び中期経営課題“プロジェクト AP-G 2025”を推進します。

カーボンニュートラルの実現に向けては、再生可能エネルギー、電動化、水素・燃料電池関連の素材等、ビジョンの実現に貢献するサステナビリティイノベーション(SI)事業の拡大のほか、水の電気分解によるグリーン水素の製造及び産業・運輸用途での活用、二酸化炭素(CO2)利活用に貢献する製品の開発を進め、社会全体のGHG排出量の削減に貢献します。また、SI事業の拡大を通じて還元される持続可能なエネルギー・原料と、革新プロセス及びCO2を利活用する技術の開発・導入により、東レグループのGHG排出量削減を進めます。

循環型社会の実現に向けては、プラスチック製品のリサイクル・バイオ化等のカーボンリサイクル技術のほか、製造工程で発生した水の再利用等、様々な技術を創出することで、循環型社会の実現を目指します。

新規事業創出・拡大を目指す「FTプロジェクト(Future TORAY-2020sプロジェクト)」においては、次の成長ステージを担う大型テーマにリソースを重点的に投入しており、水素・燃料電池関連材料、バイオマス活用製品・プロセス技術、環境対応印刷ソリューションなどのテーマのほか、CO2やバイオガス、水素などを分離するためのガス分離膜の構造を支える支持層に利用可能な多孔質炭素繊維の用途開発などを進めていきます。

 

 

④ 指標及び目標

「東レグループ サステナビリティ・ビジョン」において、以下のとおり定めております。また、2023年3月に目標を引き上げ、サステナビリティ対応を加速しております。

 

 (「東レグループ サステナビリティ・ビジョン」の2030年度目標)

 

(2) 人的資本への取り組み

当社グループは、「企業の盛衰は人が制し、人こそが企業の未来を拓く」という基本的な考え方の下、人材を最も大切な経営資源と捉え、「東レグローバルHRマネジメント基本方針」(https://www.toray.co.jp/sustainability/activity/personnel/human_resource.html#g-hrm)を定め、「人材の確保と育成」を最重要の経営課題として取り組んでおり、以下を目的に人材育成を進めております。

・「公正で高い倫理観と責任感をもって行動できる社会人」の育成

・「高度な専門知識・技術、独創性をもって課題解決できるプロ人材」の育成

・「先見性、リーダーシップ、バランス感覚をもって行動できるリーダー」の育成

・「グローバルに活躍できる社会人、プロ人材、リーダー」の育成

 

人材の確保に関しては、性別や国籍、新卒/キャリア採用を問わず、高い「志」をもってグローバルに活躍できる優秀な人材の確保に取り組んでおります。

人材の育成に関しては、従業員の健康に配慮した職場環境及び誇りとやりがいのある職場風土を実現し、体系的・計画的な研修制度を設け、人材育成に努めております。あらゆる階層・分野の社員に対して、マネジメント力の強化、営業力・生産技術力や専門能力の向上、グローバル化対応力の強化などを目的とした様々な研修を計画的に実施し、次世代の経営を担い得る経営後継者の育成と、第一線の「強い現場力」を担う基幹人材層の拡大・底上げを図っております。また、当社では、本人の成長を促すための人材育成ツールとして「キャリアシート」を導入しており、社員自身がこれまでの業務経験や、所属する分野で求められるスキルの到達レベルを振り返るとともに、上司・部下間での面談を通じてキャリアに関する話し込みを行っており、対象となる社員の拡大に取り組んでおります。

中期経営課題“プロジェクト AP-G 2025”においても、基本戦略として「『人を基本とする経営』の深化」を掲げ、東レグループが目指す「持続的かつ健全な成長」を実現するための施策を実行していきます。

 

人的資本への取り組みに関する指標及び目標は、以下のとおりです。

指標

目標

2022年度実績

女性採用比率

(当社)

対前期比向上

14.2%

(2021年度実績 24.4%)

女性管理職比率

(当社)

2025年度 6.5%

6.1%

次世代経営リーダー・

海外基幹人材向け研修受講者数

(当社グループ)

毎年150人以上を対象に実施

167人

労働災害度数率

(当社グループ)

世界最高水準の安全管理レベル(休業度数率0.05以下)

0.37 (注)

 

(注) 2022年1月から2022年12月までの実績を示しております。

 

3 【事業等のリスク】

大規模自然災害の増加、軍事侵攻や経済安全保障といった地政学リスクの高まりなど、事業運営にあたっての不確実性は増しております。当社グループは、以下(1)項に記載のとおり急激に顕在化するリスクや危機発生時に迅速に対応するための体制を構築し、専任組織によって平時のリスクマネジメントと有事(危機発生時)の即応を統括管理しておりますが、リスクが顕在化した場合には、当社グループの経営成績や財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

「第2 事業の状況」、「第5 経理の状況」等での記載事項に関して、経営者が当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下(3)(4)項に記載のとおりです。これらは当社グループに関するすべてのリスクを網羅したものではなく、事業等のリスクはこれらに限定されるものではありません。

なお、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在において当社グループが判断したものです。

 

(1) 当社グループにおけるリスクマネジメント体制、活動

当社グループでは、周辺環境の変化により急激に顕在化するリスクへの対応や、危機発生時に迅速に対応するため、経営企画室内に専任組織を設置し、取締役会及びトップマネジメントと緊密に意思疎通を行い、経営戦略の一

環としてリスクマネジメントを推進しております。リスクマネジメント推進のための審議・協議・情報共有機関としては、経営企画室長を委員長とする「リスクマネジメント委員会」を設置しております(図1)。リスクマネジメント委員会における審議・協議内容については、取締役会に定期的に報告しているほか、重要かつ緊急の案件については、発生した都度もれなく報告しております。また、リスクマネジメント委員会の下部組織として海外危機管理委員会、現地危機管理委員会を設置し、平時の社員の海外渡航管理や海外リスク情報収集を行っております。

当社グループでは、平時のリスク管理と有事の即応を統括してリスクマネジメントと定義しております。平時のリスク管理は、後述する「東レグループ優先対応リスク(以下「優先対応リスク」という。)」及び「特定リスク」を管理するPDCAサイクルを構築し、活動しております(図2)。

 


 

 

 

 


 

「優先対応リスク」は、定期的に(3年に1度)網羅的に洗い出したリスクを評価し、潜在リスク度(発生確率×影響度)の高いものから設定され、各リスクの推進責任部署が重点的にリスク低減を図ります。「特定リスク」は、経営企画室内の専任部署が国内外のリスク動向を定常的に注視し、調査・分析を行い、経営に重大な影響を及ぼす可能性のあるリスクを検出、評価し、トップマネジメントと協議の上設定します。「特定リスク」は短期で惹起したリスクへの対応が可能で、3年を1期としている「優先対応リスク」と補完関係にあります。

また、有事においては、社内規程に則り、危機のレベルに応じて即応体制を立ち上げ、対応しております。

 

(2) リスクの洗い出し・評価

2022年に第6期となる「優先対応リスク」の洗い出し・評価を実施しました。第6期は、当社グループ全体を対象に、2023~2025年度の中期経営課題達成を阻害するリスクの洗い出し・評価を主目的とし、以下のプロセスで実施しました。

 

① 当社グループを取り巻くリスク(「経営環境」「災害」「業務」「E(環境)」「S(社会)」「G(ガバナンス)」の区分で網羅的に整理した118項目のリスク(図3))を対象に、当社の機能部署や、国内外関係会社におけるリスクの切迫状況や具体的な懸念の状況を把握するためのアンケート調査を実施。

② アンケート調査で得られた情報を集約・分析の上、リスク関係部署及び経営層を対象にリスク認識・課題や対処についてディスカッションを実施。

③ アンケートの分析、ディスカッションで得られた情報を総合し、「優先対応リスク案」を取りまとめ、リスクマネジメント委員会で審議・決定。各事業本部においてもそれぞれ対処すべきリスクを設定。

 


 

 

 

 

(3) 優先対応リスク

第6期(2023-2025年度)優先対応リスクとして、下記2テーマを推進しております。

戦争危険を踏まえた危機対応リスク

リスク概要

海外の当社グループ所在地域において当地の治安悪化が常態化した場合、あるいは戦争・紛争が勃発した場合、以下のリスクが高まる可能性があります。

・該当地域における従業員の日常生活や身の安全の確保困難

・長期事業停止や事業撤退

・重要資産(建物・装置・技術情報等)の接収・利用不能 など

対応

グローバルに事業展開している当社グループでは、かねてより海外危機管理委員会を設置し、同委員会と海外関係会社(国・地域代表及び各社社長)との連携の下、海外で発生する危機に対する予防的取り組み・危機発生時の対応体制の構築を推進してきました。しかしながら、2022年2月のウクライナ紛争の勃発を契機に、「戦争危険」を踏まえた体制・ルール等の見直しが必要との判断に至り、本テーマを「優先対応リスク」と位置付け対策を強化することとしました。

今後は、経営企画室を本リスク対策の推進責任部署と位置付け、各国・地域の現地危機管理委員会と連携し、当社グループ所在地で想定される危機対応のシナリオを整備するとともに、リスクが高い国・地域に関しては、有事発生時の対応計画を作成・周知・訓練します。本取り組みを通じて、従業員の安全性確保並びに当地での事業継続の判断・行動を迅速化することにより、リスクの低減を図ります。

製品供給途絶リスク

リスク概要

原油価格動静等の市況面、資源保有国の政情等の地政学面、気候変動等の環境面や人権等の社会面の混乱に伴う、生産に必要な原材料・部材等の調達逼迫、取引先からのフォースマジュール条項の発動の顕在化により、以下のリスクが高まる可能性があります。

・原燃料の調達困難を契機とした安定した数量・品質の製品供給困難

・当社の製品供給途絶に伴う最終製品メーカーの事業継続困難

・供給契約の債務不履行に伴う賠償責任の発生 など

対応

当社は社会生活上の必需品や、企業の事業戦略上の重要製品の製造に不可欠な素材を安定的に供給する社会的責任・使命を有しているという認識の下、事業継続計画の策定などを通じ、サプライチェーンの強化を推進してきました。

一方、「リスク概要」に記載のとおり、グローバルサプライチェーンを取り巻く環境の急激な変化により、安定供給のための諸条件・前提が大きく変化していることを踏まえ、本テーマを「優先対応リスク」と位置付け対策を強化することとしました。

今後は、購買・物流部門を中心とした推進体制で、サプライチェーンにおける脆弱性の情報整理を行い、原材料における複数購買化やレシピ変更などのリスク低減策を明確化、実行することにより、製品供給の継続性を強靭化します。

 

 

 

(4) 主要なリスク(区分:「事業」「E(環境)」「S(社会)」「G(ガバナンス)」の順で掲載)

優先対応リスクのほか、当社グループにおいて影響が大きいと評価している主要なリスクは以下のとおりです。これらには、前述のリスク洗い出しから影響が大きいと評価したリスク及び各事業本部で設定した対処すべきリスクも含まれており、全社委員会や専門部署、事業本部が中心となってリスク低減対応を推進しております。

製品の需要・市況の動向と事業計画に関わるリスク

区分

事業

リスク概要

当社グループは、多種多様な基礎素材製品を広範な産業及び地域に供給しており、世界的あるいは地域的な需給環境の変動や素材代替の進行、取引先の購買方針の変更等による当社グループの製品に対する需要減退などにより、以下のリスクが高まる可能性があります。

・景気・市場変動・国内の人口減少による特定顧客・用途の大幅な需要変動並びに価格下落

・新規企業の参入による当社の相対的な優位性低下

・物価上昇圧力による消費マインド減退

・取引先の与信リスク顕在化 など

対応

当社グループは、製品の需要や市況の変化に対応すべく、持続的に競争優位の製品確保に努めており、広範囲にわたる事業領域で設備投資を実施しております。また、事業拡大・競争力強化を目的として、事前に収益性や投資回収の可能性について様々な観点から十分な検討を行った上で、第三者との間で様々な合弁事業や戦略的提携、事業買収等を行っております。

各事業領域においても、中期経営課題“プロジェクト AP-G 2025”の達成に向けて、事業ポートフォリオの改善(事業拡大、新規参入、多用途化)、新たな販売チャネル開発、手戻りのない効率的な差別化商品の開発、サプライチェーン見直し、在庫適正化など、様々な課題を各事業が個別に設定、推進しております。

グローバル事業展開に関わるリスク

区分

事業

リスク概要

当社グループは、アジア・欧州・米国をはじめ海外で広く事業を展開しておりますが、米中対立が長期化の様相を示しているように経済安全保障リスクは高まりを見せており、各地域において以下のようなリスクがあります。

・不利な影響を及ぼす税制や関税の変更等、予期しない諸規制の設定・運用又は改廃

・予期しない不利な経済的又は政治的要因の発生 など

対応

当社グループでは、2021年に経済安全保障に関する専任チームを経営企画室に設置し、リスク対応を進めております。法務、購買・物流、マーケティング、技術など幅広いメンバーで構成し、米中を中心とする各国の情報収集・分析・周知、当社グループの事業活動(サプライチェーン、資金、研究開発、人事管理、データ管理等)の把握を行い、リスク回避・軽減のための仕組みづくり、リスクが顕在化した場合の機動的対処を行っております。

為替相場の変動、金利の変動に関わるリスク

区分

事業

リスク概要

当社グループは、原材料等の調達を含む外国通貨建て取引を行っております。また、海外事業の現地通貨建て財務諸表の各項目は連結財務諸表作成のために円換算されます。事業資金においては主に金融機関からの借入、コマーシャル・ペーパーや社債の発行等により調達しております。これらには以下のようなリスクがあります。

・為替相場の変動による財務諸表の各項目における円換算への影響

・資金調達及び調達コストへの影響 など

対応

当社グループはグローバルに事業拠点を保有する強みを活かしながら、地産地消を推進するとともに、グローバルオペレーションを機動的に展開することで為替変動の影響を受けにくい経営体質の構築に努めております。また本社及び各国・地域代表や各地区財経チーフ・海外関係会社の駐在員などが常に最新の情報を把握・共有化するとともに、外貨建債権・債務に関して為替予約などのリスクヘッジを実施し、急激な為替レート変動にも対応可能な体制をとっております。また、将来の急激な金利上昇に備え、金利動向を注視し、最適な資金調達を実行していきます。

 

 

 

気候変動、水不足、資源の枯渇等の環境課題に関わるリスク

区分

E(環境)

リスク概要

世界的な気候変動対策への懸念や企業に対する期待の向上から、当社グループにおいて、以下のリスクが高まる可能性があります。

・サステナビリティ対応の遅れによる競争力低下(環境負荷の低い素材への代替推進など)

・石油化学産業へのレピュテーションの悪化による企業ブランド価値の低下

・世界的なカーボンプライシング等の導入 など

対応

当社グループは、1990年代に地球環境委員会を設置するなど、気候変動、水不足、資源の枯渇など、様々な地球規模の課題へのソリューション提供に以前より取り組んでおります。「東レグループ サステナビリティ・ビジョン」では、世界の持続可能性に負の影響を与えない努力を尽くすことを、2030年に向けたKPIも含めて表明しており、2021年にはその取り組みを一層加速するため、全社委員会であるサステナビリティ委員会(委員長:代表取締役社長)を設置し、当該委員会の統括・管理の下でグループ横断的・機動的に気候変動関連リスクへの対策を推進しております。

中期経営課題“プロジェクト AP-G 2025”には下記①~④に示すサステナビリティイノベーション(SI)事業の拡大を掲げており、当社グループの成長とバリューチェーンのCO2削減貢献量拡大などにより社会の持続的発展に貢献していきます。

① 気候変動対策を加速させる製品

② 持続可能な循環型の資源利用と生産に貢献する製品

③ 安全な水・空気を届け、環境負荷低減に貢献する製品

④ 医療の充実と公衆衛生の普及促進に貢献する製品

自然災害・事故災害に関わるリスク

区分

E(環境)

リスク概要

気候変動により台風や洪水等といった風水害の規模が大きくなるなど、自然災害へのリスクが高まっており、当社グループにおいても以下のようなリスクがあります。

・突発的な災害や天災、感染症流行、不慮の事故等による製造設備等の損害や原材料等の供給不足

・電力・物流をはじめとする社会インフラ機能の低下 など

対応

当社グループは、「安全・防災・環境保全」をあらゆる経営課題に優先しております。全社委員会である安全・衛生・環境委員会が中心となり、生産活動の中断による損害を最小限に抑えるため、製造設備の定期的な防災点検及び設備保守、また安全活動を推進しております。また大規模地震や水災などに関して、従業員・地域社会への安全対策、事業継続のガイドラインを定め、対策を推進しております。

人材戦略リスク

区分

S(社会)

リスク概要

働き方や就労観の多様化、労働力人口の減少、長寿・高齢化の加速など、人材戦略に関わる環境は変化しており、当社グループにおいても、以下のようなリスクがあります。

・生産継続・事業拡大を支える人材の不足

・人材採用競争激化、賃金上昇によるコスト増加

・キーマン不足による技術・ノウハウ継承の途絶 など

対応

当社グループは創業以来、「企業は人なり」の考えを基本に、社会経済情勢や経営環境の変化に対応しながら様々な施策を講じてきましたが、昨今の人材戦略に関わる環境の複雑化を背景に、中期経営課題“プロジェクト AP-G 2025”において「人を基本とする経営の深化」を基本戦略の一つに掲げ、人事勤労部門や総務・コミュニケーション部門を中心に、各事業、各国・地域と連携して、人を育てる企業文化の継承と発展、個のキャリア形成の充実と働きがいの向上に努めております。

多様な人材の確保・登用、自律的なキャリア形成やスキル習得の支援による人材育成、現場の声を尊重する組織風土の醸成などを通じた働きがいと働きやすさの実現により、当社グループの人材基盤を強化します。

 

 

 

コンプライアンスに関わるリスク

区分

G(ガバナンス)

リスク概要

当社グループは、事業活動を行っている各国及び地域において、環境、商取引、労務、知的財産権、租税、為替、独占禁止法や不正競争防止法等の各種関係法令、投資に関する許認可や輸出入規制の適用を受けており、以下のようなリスクがあります。

・新たな環境規制や環境税の導入、法人税率の変動等これらの法令の改変、各種法令での違反判定

・競争当局による行政処分、税務当局による更正通知

・従業員によるデータ偽装などのコンプライアンス違反

・財務報告に係る内部統制の不備

・知的財産権、製造物責任、環境、労務等の法令違反に基づく訴訟 など

対応

全社委員会である倫理・コンプライアンス委員会を中心に、動機・機会・正当化の観点でのリスク抑止、不祥事を起こさせない組織風土づくり、内部通報制度やAIツール活用などを促進し、当社グループ全体の倫理・コンプライアンス活動の深化及びコンプライアンス意識の徹底を図ります。

また、当社グループは内部統制システムの整備・維持を図り、国内外関係会社の現場力強化を通じて、内部統制のさらなる充実化を図ります。

情報セキュリティ、サイバー攻撃に関わるリスク

区分

G(ガバナンス)

リスク概要

重要技術情報や営業機密を巡っては、悪意のある社内外の者により盗取される事件が巷では継続的に発生しており、情報の取り扱いを巡る問題も複雑化(GDPR、米中対立による情報保護法規制の適用、経済安全保障関連など)していることから、当社グループにおいても以下のようなリスクがあります。

・不正侵入、情報の改ざん・盗用・破壊、システムの利用妨害

・高度化を続けるサイバー攻撃による事業運営の停止

・故意・過失を問わない社外への機密情報流出 など

対応

当社グループが事業活動を行う上で、情報システム及び情報ネットワークは欠くことのできない基盤であり、構築・運用にあたってはこれまでも十分なセキュリティの確保に努めておりますが、2022年に当社グループ会社を一元的に管理する東レグループ情報セキュリティ推進委員会を設置し、各社個別最適からグループ全体最適を行う体制に変更しました。当該委員会の統括・管理の下で、「東レグループ情報セキュリティ基本方針」を定めるとともに、当社グループ全体のリスク状況と世間動向を把握し、グループ共通のセキュリティ管理基準の策定・実施状況フォロー、定期的なセキュリティ診断及びモニタリングを通じて、当社グループ全体での情報セキュリティの維持向上を図っております。

 

 

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

当連結会計年度(2022年4月1日から2023年3月31日まで)における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要並びに経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は以下のとおりです。

なお、文中の将来における事項は、当連結会計年度末現在において判断したものです。

 

(1) 経営成績の状況の概要及び分析

当連結会計年度の世界経済は、ウクライナ情勢に伴う資源価格の高止まりや中国のゼロコロナ政策によるロックダウン、及び欧米を中心としたインフレの進行と利上げの影響により、成長が鈍化しました。国内経済については、コロナ禍からの回復が続いていますが、資源高の進行が、円急落と相まって同回復に対して下押し圧力となりました。

このような事業環境の中で、当社グループは2020年5月より、「持続的かつ健全な成長」を目指し、「成長分野でのグローバルな拡大」、「競争力強化」、「経営基盤強化」を基本戦略とした中期経営課題“プロジェクト AP-G 2022”を実行しました。

以上の結果、当社グループの連結業績は、売上収益は前期比11.7%増の2兆4,893億円、事業利益は同27.3%減の960億円となりました。営業利益は同8.4%増の1,090億円、親会社の所有者に帰属する当期利益は同13.5%減の728億円となりました。

 

 

 

(単位:億円)

 

前連結会計年度

(自 2021年4月1日

至 2022年3月31日)

当連結会計年度

(自 2022年4月1日

至 2023年3月31日)

増減率(%)

売上収益

22,285

24,893

11.7

事業利益

1,321

960

△27.3

営業利益

1,006

1,090

8.4

親会社の所有者に

帰属する当期利益

842

728

△13.5

 

 

セグメントごとの売上収益は、前期に比べ、機能化成品事業を除くすべてのセグメントで増収となりました。事業利益は、繊維事業、炭素繊維複合材料事業、環境・エンジニアリング事業で増益となった一方、機能化成品事業、ライフサイエンス事業で減益となりました。

セグメントごとの売上収益及び事業利益、並びに事業利益の増減要因は、以下のとおりです。

 

(単位:億円)

 

売上収益

前連結
会計年度

当連結
会計年度

増減

繊維事業

8,362

9,992

1,630

機能化成品事業

9,100

9,094

△6

炭素繊維複合材料事業

2,152

2,817

665

環境・エンジニアリング事業

1,993

2,288

295

ライフサイエンス事業

520

538

18

その他(注)1

159

164

5

合計

22,285

24,893

2,608

 

 

 

 

 

 

 

 

(単位:億円)

 

事業利益

増減の内訳

 

前連結
会計年度

当連結
会計年度

増減

数量差

価格差

費用差
ほか

海外子会社の邦貨換算差

繊維事業

422

512

91

 

19

24

13

34

機能化成品事業

910

304

△606

 

△469

△148

13

△1

炭素繊維複合材料事業

16

159

143

 

115

117

△93

5

環境・エンジニアリング事業

165

197

32

 

63

34

△73

8

ライフサイエンス事業

14

2

△12

 

△3

6

△16

1

その他・調整額(注)1、2

△206

△214

△8

 

1

△9

△0

合計

1,321

960

△360

 

△273

33

△167

47

 

(注) 1.「その他」は分析・調査・研究等のサービス関連事業等です。

2.「調整額」はセグメント間取引消去及び全社費用です。

 

・「数量差」は、世界経済の成長鈍化に伴う販売量、生産量の減少を主因に、合計で273億円の減益要因となりました。

・「価格差」は、原燃料価格が前期に比べ上昇しましたが、販売価格への転嫁を進め、合計で33億円の増益要因となりました。

・「費用差ほか」は、運輸費の高止まりの影響や営業費の増加等により、合計で167億円の減益要因となりました。

 

セグメントごとの経営成績の詳細は、以下のとおりです。

 

 (繊維事業)

衛材用途は需給バランス悪化の影響で低調に推移しましたが、衣料用途で、コロナ禍からの回復が見られました。産業用途は一部地域で自動車用途の需要が回復傾向となりました。また、ほぼ全ての用途・地域において、原燃料価格の高騰及び運輸費の高止まりの影響を受けました。

以上の結果、繊維事業全体では、売上収益は前期比19.5%増の9,992億円、事業利益は同21.5%増の512億円となりました。

 

 (機能化成品事業)

機能化成品事業は原燃料価格高騰の影響を受けました。

樹脂・ケミカル事業は、ファインケミカル事業が好調に推移しましたが、樹脂事業は国内及び中国市場の需要減少等の影響により低調となりました。フィルム事業の光学用途・電子部品関連、及び電子情報材料事業の有機EL関連材料・回路材料において、サプライチェーンの在庫調整により、需要が減少しました。

以上の結果、機能化成品事業全体では、売上収益は前期比0.1%減の9,094億円、事業利益は同66.6%減の304億円となりました。

 

 (炭素繊維複合材料事業)

航空宇宙用途の需要が回復傾向となったほか、一般産業用途において圧力容器用途が拡大しました。また、原燃料価格の上昇に対し、価格転嫁を推進しました。

以上の結果、炭素繊維複合材料事業全体では、売上収益は前期比30.9%増の2,817億円、事業利益は同143億円増の159億円となりました。

 

 

 (環境・エンジニアリング事業)

水処理事業は、逆浸透膜などの需要が堅調に推移し、新たに稼働を開始した設備が業績に寄与しました。

国内子会社では、エンジニアリング子会社でリチウムイオン二次電池関連装置の出荷が増加しました。

以上の結果、環境・エンジニアリング事業全体では、売上収益は前期比14.8%増の2,288億円、事業利益は同19.2%増の197億円となりました。

 

 (ライフサイエンス事業)

医薬事業は、経口プロスタサイクリン誘導体製剤ドルナー®が海外向けに数量を拡大したものの、経口そう痒症改善薬レミッチ®(注)において、後発医薬品発売の影響を受けたほか、薬価改定の影響を受けました。

医療機器事業は、血液透析ろ過用のダイアライザーが国内で堅調に推移しましたが、原燃料価格高騰の影響を受けました。

以上の結果、ライフサイエンス事業全体では、売上収益は前期比3.5%増の538億円、事業利益は同86.2%減の2億円となりました。

 

(注) レミッチ®は、鳥居薬品㈱の登録商標です。

 

 (その他)

売上収益は前期比3.4%増の164億円、事業利益は同17.0%減の25億円となりました。

 

 (生産、受注及び販売の状況)

当社グループの生産・販売品目は広範囲かつ多種多様であり、同種の製品であっても、その形態、単位等は必ずしも一様ではなく、また受注生産形態をとらない製品も多いため、セグメントごとに生産規模及び受注規模を金額あるいは数量で示すことはしておりません。

このため生産、受注及び販売の状況については、各セグメントの業績に関連付けて示しております。

 

(2) 財政状態の状況の概要及び分析

当連結会計年度末の財政状態は、資産・負債ともに、円安による海外子会社の円換算額増加の影響がありました。

資産は、棚卸資産や有形固定資産、その他の金融資産が増加したことを主因に、前連結会計年度末に比べ1,502億円増加し3兆1,940億円となりました。

負債は、社債及び借入金が増加したこと等により、前連結会計年度末に比べ140億円増加し1兆5,582億円となりました。

資本は、利益剰余金やその他の資本の構成要素の増加を主因に、前連結会計年度末に比べ1,362億円増加し1兆6,358億円となり、このうち親会社の所有者に帰属する持分は1兆5,350億円となりました。当連結会計年度末の親会社所有者帰属持分比率は、前連結会計年度末に比べ1.9ポイント上昇し48.1%、D/Eレシオは同0.05低下し0.62となりました。

 

 

(3) 資本の財源及び資金の流動性についての分析

① キャッシュ・フローの状況の概要及び分析

当連結会計年度末における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は、営業活動による資金の増加が投資活動による資金の減少を425億円上回った一方、配当金の支払や有利子負債の減少を主因に財務活動による資金の減少が574億円となったこと等により、前連結会計年度末に比べ64億円減の2,240億円となりました。

 

 (営業活動によるキャッシュ・フロー)

営業債務及びその他の債務の減少額が前期比391億円増加した一方、営業債権及びその他の債権の減少額が同373億円増加、棚卸資産の増加額が同423億円減少したこと等により、営業活動による資金の増加は同69億円(5.0%)増の1,452億円となりました。

 

 (投資活動によるキャッシュ・フロー)

有形固定資産及び無形資産の取得による支出が前期比100億円増加したこと、投資の売却及び償還による収入が同326億円減少したこと等により、投資活動による資金の減少は同456億円(79.7%)増の1,027億円となりました。

 

 (財務活動によるキャッシュ・フロー)

社債の償還及び長期借入金の返済が前期比229億円増加した一方、短期借入債務の純増額が同776億円増加したこと等により、財務活動による資金の減少は同441億円(43.5%)減の574億円となりました。

 

② 資金需要

当社グループの資金需要の主なものは、設備投資、投融資などの長期資金需要と当社製品製造のための原材料の購入のほか、製造費、販売費及び一般管理費などの運転資金需要です。このうち、設備投資の概要及び重要な設備の新設の計画については、「第3 設備の状況」に記載しております。

 

③ 財務政策

当社グループは、資金需要の見通しや金融市場の動向などを総合的に勘案した上で、最適なタイミング、規模、手段を判断して資金調達を実施しております。また、財務健全性を維持しつつ、事業拡大を推進することを基本方針とし、運転資金の圧縮、固定資産の稼働率向上、キャッシュ・マネジメント・システムによるグループ内余剰資金の有効活用等、資産効率の改善にも取り組んでおります。

財務状況は健全性を保っており、現金及び現金同等物などの流動性資産に加え、営業活動によるキャッシュ・フロー、借入金、社債等による資金調達により、事業拡大に必要な資金を十分に賄えると考えております。また、業績やキャッシュ・フローの悪化等により緊急に資金が必要となる場合や金融市場の混乱に備え、国内外の金融機関とコミットメントライン契約、当座貸越契約等を締結し、資金流動性を確保しております。

 

 

(4) 経営上の目標の達成状況

① 財務目標

2020年度から2022年度までの3か年を対象とする中期経営課題“プロジェクト AP-G 2022”においては、地球環境問題や資源・エネルギー問題の解決に貢献するグリーンイノベーション(GR)事業、医療の充実と健康長寿、公衆衛生の普及促進に貢献するライフイノベーション(LI)事業を成長分野として、「積極的な投資による事業拡大」という基本戦略を維持しつつ、成長戦略を可能にする事業構造改革や財務構造強化を両輪で推進することに取り組んできました。

2022年度の売上収益は、コロナ禍で落ち込んだ2020年度からの需要回復を取り込み、原燃料価格の転嫁、為替換算差もあって伸長しましたが、“プロジェクト AP-G 2022”計画からはコロナ禍に起因する行動変容や供給制約による航空機、自動車向け等の数量未達により、目標比1,107億円の減収となりました。また、2022年度の事業利益は、数量減及びウクライナ情勢の長期化による原燃料価格高騰の影響を主因に、目標比840億円の減益となりました。フリー・キャッシュ・フローとD/Eレシオは、財務体質強化により、目標比大幅に改善しました。

“プロジェクト AP-G 2022”の財務目標の達成状況は以下のとおりです。

 

2020年度実績

2021年度実績

2022年度実績

 

2022年度目標

売上収益

18,836億円

22,285億円

24,893億円

 

26,000億円

事業利益

903億円

1,321億円

960億円

 

1,800億円

事業利益率

4.8%

5.9%

3.9%

 

7%

ROA (注)

3.2%

4.5%

3.1%

 

約7%

ROE

3.9%

6.4%

5.0%

 

約9%

フリー・キャッシュ・フロー

2,373億円

(3年間累計)

 

1,200億円以上

(3年間累計)

D/Eレシオ

0.79

0.67

0.62

 

0.8程度

(ガイドライン)

 

(注) 事業利益/資産合計(期首・期末平均)

 

② サステナビリティ目標

「東レグループ サステナビリティ・ビジョン」の「2030年度に向けた数値目標(KPI)」に対する進捗は以下のとおりです。

 

2013年度実績

(基準年度)

(日本基準)

2022年度実績

(2013年度比)

(IFRS)

2030年度目標

(2013年度比)

(IFRS)

サステナビリティイノベーション製品の供給

5,624億円

2.3倍

4.5倍

バリューチェーンへのCO2削減貢献量

0.4億トン

9.5倍

25倍

水処理貢献量

2,723万トン/日

2.5倍

3.5倍

生産活動によるGHG排出量の売上高・売上収益原単位

337トン/億円

35%削減(注)

50%以上削減

日本国内のGHG排出量

245万トン

21%削減(注)

40%以上削減

生産活動による用水使用量の売上高・売上収益原単位

15,200トン/億円

32%削減(注)

50%以上削減

 

(注) 基準年度である2013年度の値は、2014年度以降に東レグループに加わった会社分を含めて算出しております。

 

サステナビリティの取り組みについては、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組」に記載しております。

 

 

(5) 重要な会計方針及び見積り

当社グループの連結財務諸表は、IFRSに準拠して作成しております。連結財務諸表の作成において採用する重要な会計方針及び見積りについては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記 3.重要な会計方針」及び「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記 4.重要な会計上の見積り及び判断」に記載しております。

 

5 【経営上の重要な契約等】

(1) 合弁契約

契約会社名

相手先の名称

相手先の所在地

合弁会社名

契約内容

契約締結日

東レ㈱

DuPont de Nemours, Inc.

アメリカ

東レ・デュポン㈱

ポリイミドフィルム等を製造・販売する合弁会社の設立及び運営

1963年2月22日

東レ㈱

The LYCRA Company Global Holdings B.V.

オランダ

東レ・オペロンテックス㈱

ポリウレタン弾性繊維を製造・販売する合弁会社の運営

2003年5月1日

東レ㈱

Freudenberg SE

ドイツ

日本バイリーン㈱

不織布及び不織布関連製品等を製造・加工・販売する合弁会社の運営

2016年2月24日

東レ㈱

Dow Silicones Corp.

アメリカ

ダウ・東レ㈱

シリコーン製品を製造・販売する合弁会社の運営

2019年2月1日

東レ㈱

LG Chem, Ltd.

韓国

LG Toray Hungary Battery Separator Kft.

バッテリーセパレータフィルムを製造・販売する合弁会社の運営(注)

2022年6月16日

 

(注) 本契約では、2022年6月16日の合弁会社設立から2年半経過後に、当社持分の20%をLG Chem, Ltd.に有償譲渡することで当社とLG Chem, Ltd.の持分比率を50:50から30:70とすることも定めております。

 

(2) その他

契約会社名

相手先の名称

相手先の所在地

契約内容

契約期間

Toray Composite Materials America, Inc.

Boeing Co.

アメリカ

炭素繊維複合材料の供給

2015年9月30日から
2028年12月31日まで

 

 

6 【研究開発活動】

当社グループは「わたしたちは新しい価値の創造を通じて社会に貢献します」という企業理念の下、技術センターにすべての研究・技術開発機能を集約し、当社グループの総合力を結集してイノベーション創出に取り組んでおります。

将来にわたる持続的成長のために、研究・技術開発への継続的投資を行っており、コア技術である有機合成化学、高分子化学、バイオテクノロジー、ナノテクノロジーをベースに、重合、製糸、製膜など要素技術の深化と融合を進め、各事業セグメントで先端材料の創出、事業化を実現しております。近年では、素材に関するナノテクノロジーの極限を追求した「スーパーナノテクノロジー」ともいうべき独自技術の各種事業への実用化を加速させてきました。繊維分野での革新複合紡糸技術「NANODESIGN®」、樹脂分野での革新的微細構造制御技術「NANOALLOY®」、フィルム分野での革新的積層制御技術「ナノ積層/NANO-Multilayer」などです。これらの技術は従来になかった特性と特長を有する素材を創出し、社会に付加価値を生み出し続けております。

 

 

当連結会計年度のセグメント別の研究・技術開発の概要は以下のとおりです。

 

(1) 繊維事業

アパレル用新製品に向けたポリマー、紡糸の要素技術の深化に加え、環境調和型の新規繊維の創出や、極限技術追求による高機能製品や繊維先端材料の創出・拡大に主眼を置いた研究・技術開発を推進しております。その成果として、『繊維断面の精密制御による高機能テキスタイルの開発』について、公益社団法人日本化学会より「第71回化学技術賞」を受賞しました。新発想の流動制御技術を用いることで、繊維断面形状の制御を飛躍的に高度化する、革新的な複合紡糸技術NANODESIGN®の創出と工業化が顕著な業績として評価されたものです。NANODESIGN®は、布帛や不織布などの繊維素材に求める機能を、断面形態やそれを構成するポリマーといった繊維の設計に落とし込むことが可能となり、新触感素材Camifu®など、従来素材とは一線を画す快適衣料用繊維の開発が可能となりました。今後、衣料分野での拡大に加え、産業資材用途からライフサイエンス製品まで各分野での応用展開も進めます。また、植物由来比率を世界最高水準に高めた銀面調人工皮革Ultrasuede® nu (ウルトラスエード ヌー)を開発しました。Ultrasuede®は、粗原料の一部に植物由来の再生資源を使用した品種について、2015年に世界で初めて商業生産を開始して以来、環境に配慮した製品開発に注力しており、今後も植物由来比率が向上した素材を使用し商品開発を進めます。

 

(2) 機能化成品事業

樹脂・ケミカル、フィルム、電子情報材料の新製品開発、及び既存製品の高性能・高機能化を目指した研究・技術開発に取り組んでおります。その成果として、高耐熱アラミドポリマーの分子設計技術を駆使し、無孔でありながら電池作動を可能とする空気電池用イオン伝導ポリマー膜の創出に成功しました。リチウム空気電池のセパレータに適用することで、安全性の向上と電池の長寿命化が図れます。今後、電気自動車(EV)や産業用ドローン、UAM (Urban Air Mobility)などの航続距離拡大に向けた早期の技術確立を目指します。また、シンガポール科学技術研究庁A*STARの先端的半導体研究機関であるInstitute of Microelectronics (以下「IME」という。)と、SiC (炭化ケイ素)パワー半導体向け高放熱接着材料の実用化に向けた共同研究を開始しました。SiCパワー半導体は、省エネルギー・カーボンニュートラルの観点から、車載用途をはじめ、スマートグリッドやデータセンターなどへの拡大が期待されております。IMEの設計・試作・評価技術と、東レの材料・プロセス技術を融合することで、半導体の安全性や品質・信頼性の向上に取り組み、2025年の実用化を目指します。

 

(3) 炭素繊維複合材料事業

炭素繊維の高性能化と品質信頼性の追求により世界ナンバーワンを堅持するとともに、地球温暖化問題に貢献する複合材料事業の拡大を目指した研究・技術開発に取り組んでおります。そのような中、航空機部材を熱溶着により高速で接合する技術を開発しました。本技術により、CFRP製機体の高レート生産と機体の軽量化が期待できます。2030年以降の機体実用化に向けて実証を進めるとともに、CFRPのさらなる適用拡大を推進してまいります。

 

(4) 環境・エンジニアリング事業

水処理膜とエンジニアリングを軸に成長分野での事業拡大を目指し、研究・技術開発に取り組んでおります。そのような中、水処理需要の急速な拡大が見込まれるインド市場に新たな水処理研究拠点を開設しました。水処理分野においても豊富な研究実績を有するインド工科大学マドラス校(Indian Institute of Technology Madras)と、東レが保有する水処理膜を用いた下水再利用技術に関する共同研究を行い、同国への展開促進を目指します。

 

 

(5) ライフサイエンス事業

ライフイノベーション事業拡大のため医薬品、医療機器、バイオツールの研究・技術開発に取り組んでおります。その成果として、医療機器分野で、公益社団法人 発明協会が主催する令和4年度の全国発明表彰において『抗血栓性透析モジュールの発明』が「特許庁長官賞」を受賞しました。また、同様の技術である『水の運動性に着目した抗血栓性ポリマーの設計と人工腎臓の工業化』が「2022年度高分子学会賞(技術部門)」を受賞しました。透析治療に使用される透析器等において、従来品に比べて膜の目詰まりが少なく、血液の流れが良い透析器等を実用化し、慢性腎不全及び急性腎不全患者様の生活の質(QOL)の向上や医療スタッフへの負荷軽減に貢献したことが評価されました。また、新規の体外診断用医薬品として、東レが独自に取得した抗体を用い、膵がんが疑われる患者様の血液中のアポリポ蛋白A2 (APOA2)アイソフォーム濃度を測定することで膵がんの診断を補助する検査キットを、厚生労働省へ製造販売承認申請しました。

 

上記セグメントに属さない基礎研究、基盤技術開発として、カーボンニュートラルの実現に向けて、水素社会の実現に貢献する基幹素材の開発に取り組んでおり、電解質膜(Catalyst Coated Membrane)の事業化に向け新たな事業部門としてHS事業部門を設立しました。また、世界的に需要が拡大する環境・モビリティ領域での事業拡大に向け、技術開発力及び技術マーケティング機能の強化、並びにグローバル開発拠点の連携強化を図るため、同領域の開発を一元的に担う「環境・モビリティ開発センター」を発足したほか、社内外の幅広い要素技術を融合させた素材開発を推進し、グリーントランスフォーメーション(GX)や次世代モビリティに対応する新研究棟を名古屋事業場に設置することを決定しております。更に、高度な分析や物性解析で総合的な研究開発支援を行う、子会社の㈱東レリサーチセンターにおいては、新社屋を滋賀に設立し、社外連携の高度化を目的にオープンラボ「先端分析プラットフォーム」を設置しました。社内外のオープンイノベーションの強化を図り、長期的視点での革新的な先端材料・先端技術の創出を通じて、持続可能な未来社会の実現に貢献してまいります。

 

当連結会計年度の当社グループの研究開発費総額は、689億円(このうち東レ㈱の研究開発費総額は498億円)です。セグメント別には繊維事業に約10%、機能化成品事業に約27%、炭素繊維複合材料事業に約15%、環境・エンジニアリング事業に約7%、ライフサイエンス事業に約4%、本社研究・技術開発に約37%の研究開発費を投入しました。

当連結会計年度の当社グループの特許出願件数は、国内で1,514件、海外で3,232件、登録された件数は国内で604件、海外で1,480件です。