文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社、連結子会社及び持分法適用会社(以下、「当社グループ」)が判断したものです。
(1) 経営方針・経営戦略等
① 当社グループミッション等
当社グループでは、「世界の人びとの“いのち”と“くらし”に貢献します。」というグループミッション(存在意義)のもと、「健康で快適な生活」と「環境との共生」の実現を通して、社会に新たな価値を提供することをグループビジョン(目指す姿)として掲げています。
また、グループバリュー(共通の価値観)として「誠実」「挑戦」「創造」を定めており、すべてのステークホルダーの皆様に対し「誠実」に経営することを通じて、社会の課題解決や事業環境の変化に積極果敢に「挑戦」し、絶えず新たな価値を「創造」することで、事業を通じて企業の社会的責任を果たしていくことを基本方針としています。
<経営環境・経営課題>
当社グループは、創業以来100年間、「生活基盤の確立」「物資豊富な生活」「豊かで便利・快適な生活」「新興国での需要」といった各時代のニーズに応えてきました。
国連で採択された「SDGs」(持続可能な開発目標)に象徴されるように、社会課題に対する意識は世界的に高まっています。特に、2020年より感染拡大したCOVID-19による世の中の変化は、「地殻変動」とも言うべき、私たちがかつて経験をしたことがない大きな変化をもたらしました。人びとの価値観は大きく変化し、社会課題や環境課題の顕在化を加速させています。いのちや健康、衛生に対する意識が高まるとともに、リモートワークの普及などを通じて人びとの働き方や暮らしが大きく変わり、個人の生きがい、働きがいがより一層重要視されるようになりました。また、「誰一人取り残さない」というSDGsの原則にあるように、自社のみならず、取引先を含めたサプライチェーン全体における人権尊重の取り組みが、企業活動の前提として求められています。
地球環境への関心も急速に高まっており、特に気候変動リスクの主要因である温室効果ガスの排出量の削減は、人類の喫緊の課題です。また、プラスチックについて、不適切な廃棄による環境汚染問題や資源の有効活用の観点などから、海洋プラスチック汚染対策やサーキュラーエコノミー(循環型社会)に向けた取り組みが求められるなど、各国での規制がより一層強化されています。
これらの課題は1つの企業・産業で解決できないものも多く、企業や産業を超えた共創が益々重要になってきます。例えば、住宅とエネルギー、医療と住宅等のように、これまでの産業の境界を越えて相互に関連しあうテーマ・課題が多く存在しています。また、デジタル技術の急速な進歩普及が、これらの共創を加速させ、産業間の垣根は益々低くなっていくことが予想されます。このような環境は、マテリアル・住宅・ヘルスケアの3つの領域を持つ当社にとっては大きな事業機会であると認識しています。当社は、3つの領域にまたがり人財・コア技術・マーケティングチャネル等、多様な資産を有しており、これらをデジタルの力で繋げ、活かすことで、当社独自のアプローチで社会課題の解決に貢献できると考えています。不確実性の高い時代だからこそ、当社の持つ多様な資産を最大限活用しながら先手を打ち、「持続可能な社会への貢献」と「持続的な企業価値向上」の2つのサステナビリティの好循環を追求していきます。
ⅰ サステナビリティマネジメントの強化
サステナビリティを追求していくためには、社会、環境の変化に応じて「持続可能な社会」に高い価値を提供する事業体へと、事業ポートフォリオの転換を進めていくことが重要です。当社グループにとって特に影響度が大きい課題であり、かつ社会にとっての影響度が大きい課題をマテリアリティとして定めて、「環境貢献事業の推進」「健康・長寿への貢献」「安心で快適なくらしへの貢献」を目指した事業を推進していきます(下図参照)。さらには、安全/品質/リスク管理/コンプライアンスの強化を含む、全社を挙げたサステナビリティマネジメントもより一層強化していきます。
旭化成におけるマテリアリティ

また、当社グループは、2021年度に「サステナビリティ基本方針」を制定しました。これは、サステナビリティに関する方針をより具体的に記述することで、当社グループの方針を明示するとともに、サステナブルな社会の実現に向けた行動を一段と推進していくことを狙いとするものです。

ⅱ 前中期経営計画「Cs+(シーズプラス) for Tomorrow 2021」の振り返り
2019年4月より3ヵ年の中期経営計画「Cs+(シーズプラス) for Tomorrow 2021」の実行を進めてまいりました。米国と中国のデカップリングによる国際情勢の変化やCOVID-19の感染拡大、原燃料高騰等、大きな経営環境の変化の中、前中期経営計画の最終年度である2021年度の売上高は、当初計画を達成しましたが、営業利益・当期純利益・ROIC・ROE等は未達となりました。前中期経営計画期間の実績は以下のとおりです。

前中期経営計画期間では、ヘルスケア・住宅領域における積極的なM&Aを中心に、中期的成長に向けた取り組みを加速したほか、事業評価に基づき選定した「戦略再構築事業」の改革の推進、当社グループの柱となりうる水素関連やCO2ケミストリー等の技術開発・事業化を加速しました。
また、経営基盤強化の視点では、Green、Digital、People(GDP)の視点で取り組みを強化しました。具体的な取り組み例として、Greenの視点では、当社のGHG排出量削減において、2050年にカーボンニュートラルを目指すことを宣言し、実現に向けた動きを推進しました。Digitalの視点では、DX Vision2030の策定、デジタル共創本部の設置、全従業員向けのDX教育として「旭化成オープンバッジ制度」をスタートするなど、DX推進のための基盤の強化を着実に進めるとともに、約400を越えるDXプロジェクトに取り組みました。また、People(人財)の視点では、マネジメント強化、若手のキャリアデザインプログラム、女性活躍推進等を実施しました。
当社グループでは、提供する製品・サービスの全てのライフサイクルにおいて環境・安全・健康・品質に配慮する「環境安全・品質保証活動」を実施しています。しかしながら、前中期経営計画期間において、重大な工場事故が発生しました。事故の原因究明と再発防止策の実行を徹底し、さらにグループ全体で再発防止策を共有することで、組織及び従業員一人ひとりの安全に対する意識を高めています。人命の尊重と安全は事業の根幹をなす価値であり、地域社会や従業員の安全確保にこれまで以上に真摯に取り組み、信頼の回復に努めます。
<経営方針・経営戦略>
・ 新中期経営計画2024「~Be a Trailblazer~」の策定
当社は、2022年4月に新中期経営計画2024~Be a Trailblazer~を発表しました。“「持続可能な社会の実現」への貢献と「持続的な企業価値の向上」”を掲げた前中期経営計画「Cs+(シーズプラス) for Tomorrow 2021」の基本的な考え方は変わらず追求し、変化の大きな経営環境の中で、よりスピードを意識した取り組みを推進していきます。新中期経営計画を2030年の目指す姿に向けたファーストステップとして位置付け、推進していきます。
● 旭化成の2030年の目指す姿
COVID-19をはじめとする社会の大きな変化は、人類が取り組むべき課題を浮き彫りにしました。その課題は、当社が掲げてきた「Care for People」「Care for Earth」(人と地球の未来を想う)と重なるものであり、世界共通の課題の解決に向けた貢献を加速させていきます。その課題に対して、当社は5つの価値提供分野であるカーボンニュートラル/循環型社会に貢献する「Environment & Energy」、安全・快適・エコなモビリティに貢献する「Mobility」、より快適・便利なくらしに貢献する「Life Material」、人生を豊かにする住まい・街に貢献する「Home & Living」、生き生きとした健康長寿社会に貢献する「Health Care」にフォーカスして事業展開を進めていきます。
前述のとおり、我々が直面する課題は、産業の垣根が低くなるにつれて、様々な業界にわたって相互に関連してきます。これは多様な事業を持つことで、様々な分野での知見を有する当社にとって大きな事業機会であると認識し、この事業機会に対して当社グループの「コア技術」「変革のDNA」「多様な人財」を強みとし、更なる成長を目指します。その結果として、2030年近傍には、営業利益4,000億円、ROE15%以上、ROIC10%以上を展望します。また、当社グループのGHG排出量目標として2013年度比で30%以上の削減を目指します。

・ 新中期経営計画2024「~Be a Trailblazer~」における基本方針
新中期経営計画では、2030年の目指す姿の実現に向けて、「次の成長事業への重点リソース投入」とともに、「成長投資の刈り取りと戦略再構築事業の改革」も並行して進めていきます。加えて、中期視点での抜本的構造転換に着手し、事業ポートフォリオの進化を追求していきます。2024年度の目標として、営業利益2,700億円、ROE11%以上、ROIC8%以上を目指します。

ⅰ 事業ポートフォリオ進化の基本方針
事業ポートフォリオの進化にあたっては、“成長の為の挑戦的な投資”と“構造転換や既存事業強化によるフリー・キャッシュ・フローの創出”の両輪を回すことが重要と考えています。その実現に向けて、「スピード」「アセットライト」「高付加価値」の3つを強く意識しながら推進をしていきます。「アセットライト」については、旧来の設備産業的な考えにこだわらず、各事業に応じて最適なビジネスモデル、スキームを創出していきます。この考え方には2つの視点があり、既存事業の視点では、既存のアセットを最大限活用していかに利益を創出するかを追求していきます。その中でも特にマテリアル領域ではカーボンニュートラルに向けたGHG排出量削減の視点から、EXITの可能性等も含め検討を進めていきます。また、新規事業の立ち上げの視点では、研究開発投資を一から自前で行い、事業化の設備も自己所有で行うことにこだわらず、他社資本の活用など、最適な資本のかけ方は何かを徹底的に追求していきます。新規事業展開において「アセットライト」を志向することは「スピード」の向上にも繋がり、結果的に旭化成が優位なポジションを築ける分野にフォーカスされ「高付加価値」に繋がると考えています。

ⅱ 成長戦略
新中期経営計画2024においては、次の成長を牽引する10の事業を「10のGrowth Gears(以下、GG10)」として設定しました。Growth Gearには旭化成の成長を回すギアとともに、社会の変革を回していくギアという2つの意味を込めており、持続可能な社会の実現に向けての貢献を加速していきます。今後、「次の成長の為の挑戦的な投資」については、このGG10にフォーカスしていきます。
GG10は、具体的には次の事業になります。マテリアル領域では「水素関連」、「CO2ケミストリー」、セパレータを含む「蓄エネルギー」、「自動車内装材」、「デジタル関連ソリューション」の5つです。住宅領域では「北米・豪州住宅」の展開に加えて、「環境配慮型住宅・建材」です。ヘルスケア領域では、「クリティカルケア」、「グローバルスペシャリティファーマ」、「バイオプロセス」の3つになります。
このGG10においては、M&Aの機会も積極的に探索し、大胆な投資も実行していきます。GG10の規模は、現時点ではグループ全体の営業利益の約35%ですが、2030年近傍には70%超を目指していきます。

ⅲ 構造転換や既存事業強化からのフリー・キャッシュ・フロー創出
新中期経営計画2024においては、前中期経営計画「Cs+ for Tomorrow 2021」期間中より進めている「戦略再構築事業」の改革の完遂を目指しながら、中期視点での「抜本的構造転換」に着手します。
事業ポートフォリオの転換を進めるため、事業ごとの「成長性(売上高成長率)」×収益性(営業利益率)の評価をベースに、「資本効率(ROIC)と資本コストの視点」「サステナビリティの視点(温室効果ガス(GHG)排出量等定量指標)」「利益額、利益の変動性や事業ステージの視点」などを加えた事業評価を実施し、当社グループの約60事業のうち、特に「マテリアル」セグメントの汎用製品を扱う事業を中心に、15事業を「戦略再構築事業」として抽出し、社長を含む経営メンバーと各事業側のメンバーとで戦略討議を実施してきました。「戦略再構築事業」には、戦略見直しにより利益回復を遂げている「Recovery」事業、立て直し戦略を立案・実行中の「Follow」事業、事業縮小や売却等の検討を進めている「Exit」事業があり、今後は「Follow」事業の見極めと「Exit」事業の実行を可能な限り速やかに完了させつつ、定期的に事業ポートフォリオ評価を行い、業績低迷事業は速やかに戦略再構築に着手していきます。
さらに「抜本的事業構造転換」として、業績が悪化している事業でなくとも、旭化成の目指す姿との適合性から構造転換を進めていきます。「ベストオーナー」「カーボンニュートラル」「競争優位性」「成長性」「収益性・資本効率」の5つの視点で事業の見極めを行い、新中期経営計画2024の期間では、その実行のロードマップを作成し、具体的に実行を進めていきます。ここで得られたリソースを10のGrowth Gears(GG10)に振り分けて、ポートフォリオ進化を加速させていきます。
ⅳ 財務・資本政策
(外部環境・課題)
前中期経営計画「Cs+ for Tomorrow 2021」期間においては、米中対立やCOVID-19感染拡大、半導体不足等のサプライチェーンの混乱、原燃料の高騰等、経営環境の変化を踏まえて財務規律を重視しながらも、中期的成長に向けた投資を積極的に実施致しました。営業キャッシュ・フローは経営環境変化の影響を受けましたが、財務健全性を表すD/Eレシオを想定の水準に維持しながら、株主還元は中期経営計画で想定していた配当性向で実施致しました。今後も不透明な経済情勢がしばらく続くと思われ、健全な財務状態を保ちながら、事業ポートフォリオの転換や中長期的な成長に資する案件の投資を着実に実行することで、当社グループのキャッシュ創出力や資本効率を持続的に高め、「持続可能な社会の実現」への貢献と「持続的な企業価値の向上」の好循環を実現していきます。
(具体的な方針・戦略)
■ 資金の源泉と使途の枠組み
米中対立やCOVID-19感染拡大の影響を最も強く受けた「マテリアル」セグメントでは、事業ポートフォリオ転換を通じた収益性や資本効率の向上、「住宅」セグメントでは、継続的に投資を進めている新事業の利益成長と生産性向上による継続的なキャッシュ・フローの創出、「ヘルスケア」セグメントでは、過去の投資からのリターン創出を通じた利益成長と収益性を追求し、グループ全体としてキャッシュ創出力や資本効率を向上させていきます。新中期経営計画2024においては、営業キャッシュ・フローとして3年間の累計で7,500~9,000億円、投資キャッシュ・フローとして設備投資・投融資の3年間の累計は8,000~9,000億円の水準を見込んでいます。株主還元については利益成長に合わせて1,500~1,800億円を計画し、資金調達は有利子負債で行うことを計画しており、状況に応じて500~3,000億円を見込んでいます。D/Eレシオは0.4~0.7のレンジを想定しており、財務健全性を保ちながら、適切なレバレッジとなるような最適な資本構成を追求します。

■ 設備投資・投融資
新中期経営計画2024の3年間において、前中期経営計画期間を上回る累計で1兆円を超える意思決定を行う計画です。そのうち約6,000億円を次の成長を牽引するGG10に重点的に投入する予定にしています。また、投資案件の選定にあたっては財務規律を重視し、「環境価値」「投資効率」「投資スキーム」の3点の視点で案件を精査していきます。「環境価値」視点ではカーボンプライシング等を考慮しても投資価値があるか、「投資効率」視点では最終的にその事業のROICが向上するか、「投資スキーム」視点では他社資本の活用等、より適した投資形態になっているか、このような視点を持って成長に向けたメリハリのある投資を実行していきます。

■ 株主還元
中期的なフリー・キャッシュ・フローの見通しから株主還元の水準を判断していきます。配当による株主還元を基本とし、1株当たり配当金の維持・増加を目指していきます。配当性向については30~40%(中期経営計画の3年間累計)を目安としながら、配当水準の安定的向上を図ります。自己株取得は資本構成適正化に加え、投資案件や株価の状況等を総合的に勘案して検討・実施していきます。配当政策については、「第4 提出会社の状況 3 配当政策」と合わせてご参照ください。
■ 資本効率の向上
当社グループは株主資本コストを意識し、持続的にこれを上回る自己資本利益率(ROE)を追求します。最適資本構成を追求するとともに、各事業の投下資本利益率(ROIC)の向上に向けた事業ポートフォリオの転換、競争優位性の構築、生産性の向上、投資案件の精査と投資効果の追求等を進めていきます。
ⅴ 経営基盤の強化
経営環境の不透明さが増す中では、事業を支える土台となる経営基盤をより強固にすることが重要であると考えています。経営基盤強化として、「無形資産の最大活用」「Green(グリーントランスフォーメーション)」「Digital(デジタルトランスフォーメーション)」「People(人財のトランスフォーメーション)」「責任ある事業活動」に重点的に取り組んでいきます。
■ 無形資産の最大活用
当社グループでは、3領域にまたがり、人財、コア技術、マーケティングチャネル等、多様な無形資産を持ち、活用できることが強みであり、デジタルを活用し、これらの無形資産を最大限コネクトさせることによって、戦略構築や新事業の創出を推進しています。
具体例はモビリティ分野におけるマーケティング活動です。当社グループは自動車の付加価値向上に繋がる多様な技術・製品を多く有しており、各事業が培ってきた自動車OEMとのネットワークや、これまで蓄積してきたマーケティングデータを活用することで、グループ全体として、OEM各社との戦略的パートナーシップを構築することができ、当社の事業機会を大きく拡大することができます。
また、当社グループでは、従来から知財情報の戦略的活用を志向しており、事業戦略に知財情報を活用するIPランドスケープ(以下、IPL)活動を全社的に推進してきました。知財部門の強みであるIPLと知財の実務能力を融合させることで、知財部独自の視点に立った事業戦略モデル案の策定・提言活動を実施しています。IPLの詳細は「5 研究開発活動 2 基盤的な取り組み (2) 知的財産の活用」もご参照ください。
企業の強みとなる無形資産を活用して競争力の維持・強化を図り、中長期的な企業価値を創造するサステナブルなビジネスモデルを構築し、それを巡る企業経営者と投資家との間の相互理解と対話・エンゲージメントを促進させる必要性が増し、企業価値向上に知財面から貢献する意義が益々高まってきました。上記の背景から、当社グループでは、経営/事業戦略策定への貢献を主なミッションとして、社長直下に“知財インテリジェンス室”を創設しました。今後は、グループ全体での無形資産の活用をさらに加速し、企業価値向上に繋げていきます。
■ Green(グリーントランスフォーメーション)
・ カーボンニュートラルでサステナブルな社会の実現に向けた活動
(温室効果ガス(GHG)の削減)
持続可能な社会の実現に向けて、当社グループは2021年5月に、2050年時点でのカーボンニュートラル(実質排出ゼロ)を目指すことを表明しました。当社グループの事業活動に直接関わるGHG排出量であるScope1(自社によるGHGの直接排出)、Scope2(他社から供給された電気・熱・蒸気の使用に伴う間接排出)の排出量を対象としています。カーボンニュートラルを実現するため、エネルギー使用量の削減、エネルギーの脱炭素化、製造プロセスの革新、高付加価値/低炭素型事業へのシフトなど、実現に向けたロードマップを策定し、目標達成に向けて取り組みを加速させていきます。また、2030年には、2013年度対比でGHG排出量を30%以上削減することを目指しています。
2021年度の具体的な取り組みとしては、当社グループが自社保有する火力発電所のうち石炭を燃料とするものについて、CO2排出の低減を図ることとしており、進めていた液化天然ガス(LNG)への転換工事は、2022年3月に完了しました。当社グループが保有する水力発電設備については、今後も長く活用できるよう、設備の更新と効率化の工事に順次取り組んでいます。また、集合住宅「ヘーベルメゾン™」の屋根に当社グループの太陽光発電設備を設置し、発電した電力を当社グループの川崎製造所に供給する取り組みを実施しており、さらに2022年4月からは、東京都千代田区の本社に向けても電力の供給を開始しました。
GHG排出量削減を加速するための経営管理制度として、社内炭素価格を設備投資の採算性算定に織り込むこととしており、さらにこれを社内表彰制度の判定に活用するようにしました。また、当社グループの事業活動におけるGHG排出量削減の施策推進に資すると同時に、お客様も含めたバリューチェーン全体でのGHG排出量削減を進めるため、製品のカーボンフットプリント(原料採掘から製品生産までのGHG排出量)算定に関する取り組みも推進しています。
カーボンニュートラル実現に向けた事業化の検討と推進も引き続き加速しています。水素関連においては、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)に創設されたグリーンイノベーション基金事業のうち、「大規模アルカリ水電解水素製造システムの開発及びグリーンケミカルプラントの実証」と題したプロジェクトを日揮ホールディングス株式会社と共同提案し、採択されました。また、注力しているCO2分離・回収システムの開発、次世代CO2ケミストリー技術等の環境貢献技術・製品の開発も着実に進捗しています。詳細は、「5 研究開発活動 3 主な研究開発活動 (1) 当社グループ全体(「全社」) 「アルカリ水電解システムの開発」「CO2ケミストリー技術、CO2分離回収システムの開発」」をご参照ください。
一方、当社グループの既存の製品やサービスで世界のGHG排出量削減に貢献することも重点テーマです。当社では第三者の専門家の視点を入れて妥当性を確認した、GHG排出量削減効果を期待できる製品・サービスを「環境貢献製品」として拡大・普及することを進めています。2021年度は5つの事業・製品を追加し、累計で18事業・製品を「環境貢献製品」として位置付けました。これらの「環境貢献製品」によるGHG削減貢献量を、2030年度には2020年度の2倍以上、また、売上高に占める割合も高めていくことを目標とし、様々な取り組みを実施しています。例えば、バイオマス由来原料を利用したポリアミド66(バイオポリアミド66)の実用化検討に取り組んでいます。詳細は、「5 研究開発活動 3 主な研究開発活動 (1) 当社グループ全体(「全社」)「バイオマス原料由来のポリアミド66の実用化検討」をご参照ください。
なお、気候変動が企業の財務に与える影響を分析し開示するよう求める「TCFD提言」に基づく検討を行い、結果を開示しています。詳細は、「2 事業等のリスク (3) 主なリスク ① 当社グループ全体に係るリスク 「気候変動リスク」」をご参照ください。当社グループは気候変動リスクの低減とともに、適応策、緩和策を新たな事業機会としながら、環境と共生する企業への進化を継続し、サステナブルな社会の実現に貢献していきます。
(プラスチックの課題への対応)
当社グループでは、プラスチックが海洋に流出することや、マイクロプラスチックとして地球環境、生態系に悪影響を及ぼすことを防ぐのはもとより、限りある資源を持続可能なものとして活用していくための取り組みを進めています。例えば、世界で広く用いられている汎用プラスチックの1つであるポリスチレンについて、グループ会社のPSジャパン㈱がケミカルリサイクルの実証設備建設を決定し、具体化を推進するなど、ポリスチレンのリサイクル性を高めるための取り組みを進めました。また、ポリエチレンについては、消費財メーカー、成型メーカー、リサイクル業者等のサプライチェーンの関係者や大学と協力し、リサイクル技術の開発に関する取り組みを推進しました。ただし、使用済みプラスチックを廃棄物とせずに資源として活用していくためには、技術の開発だけでなく、消費者も含めた社会全体の取り組みが必要です。そのため当社ではBLUE Plastics(Blockchain Loop to Unlock the value of the circular Economy、ブルー・プラスチックス)プロジェクトを発足しました。詳細は、「5 研究開発活動 3 主な研究開発活動 (1) 当社グループ全体(「全社」)「BLUE Plasticsプロジェクトの取り組み」」をご参照ください。
また、当社グループは2021年10月に、サーキュラーエコノミーに関心を持つ皆様で議論を行う「BLUE Plastics Salon」を立ち上げました。現在、定期的な会合を開催し、サーキュラーエコノミーに関する情報や課題の共有を行っています。なお、プラスチックの課題への対応は、各社共通のテーマでもあることから、当社グループはJaIME(海洋プラスチック問題対応協議会)、CLOMA(クリーン・オーシャン・マテリアル・アライアンス)、一般社団法人 日本化学工業協会、日本プラスチック工業連盟等のアライアンスや業界団体の活動にも積極的に参画し、プラスチックの課題への取り組みを他社と協力しながら推進しました。

当社グループが持つ多様な無形資産を活用し、ビジネスモデルを変革し価値創造をリードするものとして、デジタル技術の活用を積極的に推進しています。推進にあたっては、全体ロードマップを策定し、2021年度までを現場に密着し実課題をデジタル技術で解決する「デジタル導入期」ないし、事業軸・地域軸・職域等に横串を刺しデジタルを展開する「デジタル展開期」として、デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)推進の基礎固めを進めてきました。2022年度からは無形資産の価値化など新しいビジネスモデル新事業を創造「デジタル創造期」として、さらに推進し、グループ会社全体、全社員がデジタルを活用するのが当たり前になる「デジタルノーマル期」を目指していきます。これまでの取り組みにより、当社は経済産業省が東京証券取引所と共同で選定する「DX銘柄2021」「DX銘柄2022」に2年連続で選出され、IPA 独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)が発刊する「DX白書2021」にもその取り組みが掲載されました。
(DXビジョンの策定)
DXの推進をさらに加速するために、2021年度に「Asahi Kasei DX Vision 2030」を策定しました。「私たち旭化成はデジタルの力で境界を越えて繋がり、“すこやかなくらし”と“笑顔のあふれる地球の未来”を共に創ります」という当社グループが2030年にDXを通じて実現していく世界を表現し、社内外に示しました。
(DX推進体制の強化)
グループ全体でDXを加速していくために、推進体制の強化に取り組んできました。2021年4月にはデジタル共創本部を設置し、営業・マーケティング、研究開発、製造・生産の各機能におけるDX推進、IT基盤・サイバーセキュリティ関連などの各機能を集約し、社内外とのデジタル分野における共創・連携体制を整えました。このような共創・連携を進めるべく、デジタル共創ラボ「CoCo-CAFE」を開設し、社内外のデジタル関連人財の交流を促進し、DX基盤の強化とビジネス創出を目指しています。また、各事業部門のトップとデジタル共創本部の連携体制(リレーションシップマネージャー制度)を整え、各事業における課題・重点テーマ等を共有し、具体的な取り組みを進めています。
(人財の育成・獲得)
デジタル人財の育成・獲得も積極的に実施しています。グループ全従業員がデジタルリテラシーを身につけ、全社員がデジタル活用のマインドセットで働く「4万人デジタル人財化」の施策を進め、DX人財の基盤を固めるとともに、事業責任者をDXリーダーに育成する等、各事業部でDXを自律的に推進できる人財の育成を行っています。また、育成プログラムの実施や採用を通じて、高度なデジタル技術とデータを活用し、事業の課題解決や、新しい価値・ビジネスモデルを創出できるデジタルプロフェッショナル人財の育成・獲得を進めてきました。2021年度末にデジタルプロフェッショナル人財230名を育成・獲得するという目標は予定どおり達成しました。
(デジタル創造期における3つの柱)
2022年度からは「デジタル創造期」と位置付け、旭化成グループの「多様なデータ」を有するデータマネジメント基盤をベースとして、ビジネス変革・経営の高度化、デジタル基盤強化の3つの柱で推進していきます(下図参照)。ビジネス変革では、無形資産の価値化/共創の加速、マーケティングの革新、サプライチェーン連携、新事業創出、スマートファクトリー等に取り組んでいきます。経営の高度化では、経営の見える化/意思決定への活用、知的財産活用の高度化、人財を活かすための活用、先端研究開発、品質保全、カーボンフットプリントの見える化等に取り組んでいきます。デジタル基盤の強化では、デジタル人財の育成・獲得の加速、デザイン思考等を活用したアジャイル開発のグループ全体への浸透、データ活用促進等を進めていきます。また、DXの進捗を測るKPI(2024年度目標)として「DX-Challenge 10-10-100」を定めました。具体的には、デジタルプロフェッショナル人財を2021年比で10倍(グローバル全従業員のうち2,500名程度)、グループ全体のデジタルデータ活用量を2021年比で10倍、そして通常活動のDX活用による利益貢献に加え、選定した重点テーマで100億円の増益貢献(2024年度までの3年累計)を目指します。デジタルで多様な資産を最大限に活用し、ビジネスモデルを最速で変えていきます。

■ People(「人財」のトランスフォーメーション)
・ 従業員が活躍できる基盤づくり
(多様な“個”の「終身成長+共創力」で未来を切り拓く)
当社グループが目指す、人財・技術・事業の「多様性」と「変革力」による新たな価値の創出に向けて、「人は財産、すべては『人』から」という基本思想のもとに、従業員の自律的成長を後押しし、多様な「個」が活躍できる基盤づくりを推進しています。不連続かつ予測困難な事業環境の変化に適応し、先手を打っていくためには、社員一人ひとりが挑戦・成長し続ける「終身成長」、当社の多様性を活かし、コラボレーションを推進する「共創力」の2つの視点が重要と考えています。
挑戦・成長し続ける「終身成長」に関しては、一人ひとりが自らのキャリアを描き、成長に向けた学び・挑戦を進めること、そして、個とチームの力を最大限引き出し成果に結び付けるマネジメント力の向上に、より一層取り組んでいきます。
多様性を活かして「共創力」を高めるには、多様性を“拡げる”という視点と多様性を“つなげる”という視点から、様々な取り組みを実行していきます。
具体的には、多様な人財の活躍及びワークエンゲージメントの向上を目的として、高度専門職制度※の拡充によるプロフェッショナル人財の育成強化や、「KSA(活力と成長アセスメント)」という新たなエンゲージメントサーベイに基づいた組織の活性化・人財の成長施策、女性を含めた多様な人財が活躍できる環境整備を進めています。グループの経営を担う人財の拡充の視点では、次世代リーダー候補者にコーチング等を通じて自らの成長を促すとともに、リーダーシップやチームワークを強化するためのプログラムを通じた育成を行っています。
また、COVID-19感染拡大後のニューノーマル環境下においては、制度やITインフラの観点等で従業員が働きやすい環境づくりを実施しています。今後は、人財の見える化とコネクトを進めるためのデジタルツールも活用し、多様な「個」が世代を問わず専門性を高め成長し、知の結合・融合を通して、社会に価値を提供し続けられるよう、KPIを設定し施策の実行を進めていきます。
※高度専門職制度:新事業創出、事業強化へ積極的に関与し、貢献できると期待できる人財を「高度専門職」として任命、育成、処遇することで、社内外に通用する専門性の高い人財を増やしていく取り組みを進めています。
(健康経営の推進)
従業員が生き生きと活躍し、「終身成長」を目指すためには、心身ともに健康であることが前提となります。当社グループでは、2019年度に健康経営担当役員・同補佐、及び健康経営推進室を設置し、2020年度より健康経営を本格的に推進しています。
「人は財産、すべては『人』から」という基本思想のもと、従業員と家族の心身の健康保持・増進を健康経営の基盤と位置付けています。そして、一人ひとりの活躍・成長の機会を創造すること(休業率低減)や従業員の働きがい向上、活気あふれる強い組織風土の醸成を通じた生産性向上、さらには当社グループが目指すサステナビリティへの貢献を健康経営の目的としています。
その中でも、「メンタルヘルス」「メタボリックシンドローム」「がん」「喫煙」「睡眠」「個人・組織活性化」を重点項目として取り組んでいきます。また、当社グループの「ヘルスケア」セグメントの事業にも関連して、AED救命講習の継続的実施やグループ会社での骨粗鬆症検診補助制度の導入などを実施しています。

■ 責任ある事業活動
・ 環境安全・品質保証活動
当社グループは、提供する製品・サービスのすべてのライフサイクルにおいて環境・安全・健康・品質に配慮する「環境安全・品質保証活動」を実施しています。しかし、誠に遺憾ながら、以下のとおり、工場事故が発生しました。原因究明及び再発防止に努めるとともに、近年発生している事故を本質的に見つめ直し、従業員一同「安全は経営の最重要課題」であることをあらためて認識し、危機感を持って安全活動に取り組んでいきます。
・ ベンベルグ工場の火災事故について
2022年4月9日に宮崎県延岡市にある当社のベンベルグ工場で火災が発生しました。当社では事故調査委員会を発足して出火原因調査を進めており、また、当局の調査にも協力しています。事故原因を究明した後、再発防止策の検討と実施の徹底をします。
当社グループでは、リスクの発現の未然防止の観点から、リスクアセスメントの展開及び製造プロセスの設備改善のほか、現場での重篤労災の発生を防止するための安全行動活動(ライフ・セービング・アクション)を2020年度から開始しています。加えて、最近の異常気象にも備えた自然災害リスクへの対応も開始しています。
製品安全を含む品質活動においては、eラーニング等のオンラインでの教育ツールも活用しながらグループ品質方針の徹底を図り、全従業員が「品質の重要性」と「確信の品質」への理解を高める活動を行いました。
・ コンプライアンス、人権・多様性の尊重
当社グループは、コンプライアンスを重視し、事業・業務に関する法令・諸規則や社内ルールの遵守を徹底しています。また、事業活動において、社会的な規範を含む、より高いレベルの企業倫理を実践し、グループ理念に基づくグループバリュー(共通の価値観)にかなった「誠実な行動」を目指しています。その実効性を高めるため、2021年度には引き続き「グループ行動規範」の読み合わせ活動を各部署で行いました。「グループ行動規範」の読み合わせ活動では、議論する事例の追加や修正を毎年行い、各部署においてより実効性の高まる取り組みになるよう改善を重ねています。
また、「人権・多様性(ダイバーシティ)の尊重」については、当社グループは国際人権憲章(世界人権宣言並びに国際人権規約)を支持し、基本的人権と多様性の尊重に取り組んでいます。また、国連グローバル・コンパクトの署名企業として、グローバル・コンパクトの人権に関する原則、及び国連「ビジネスと人権に関する指導原則」「子どもの権利とビジネスの原則」にも賛同しています。当社グループでは、従来より、多様性の尊重を含む人権に関するグループの考え方を「グループ行動規範」にて明示し、従業員研修等を通じてグループ内浸透を図っていますが、今般、人権尊重の重要性を踏まえ、「旭化成グループ人権方針」を取締役会で決定し、公開しました。今後、「旭化成グループ人権方針」のグループ内での普及啓発を進めるとともに、人権に関するリスクを抽出し、軽減・対応を行う「人権デューデリジェンス」への取り組みを進めていきます。
・ ステークホルダーとの対話の強化
当社グループでは、ステークホルダーの皆様に適切な情報開示を行うとともに、双方向のコミュニケーションを取ることが重要と考えています。そこで、2021年度は、前年度に引き続き、投資家、メディアの皆様に対し、当社グループのサステナビリティに対する考え方と実行の状況を説明するため、「サステナビリティ説明会」を開催しました。2021年度の説明会では、サステナビリティへの基本的な構え、持続可能な社会への貢献による価値創出、価値源泉の基盤の強化の点から当社グループの考えと取り組みを説明しました。
・ サステナビリティマネジメント体制
サステナビリティを推進するため、当社では専任部場であるサステナビリティ推進部を社長直下組織として設けているほか、社長を委員長とし、技術機能、経営管理機能、事業領域のそれぞれを担当する役員などを委員とするサステナビリティ推進委員会を設置し、取り組みを推進しています。サステナビリティ推進委員会では、地球環境対策としての当社グループ及び社会の脱炭素化実現に向けた取り組みを検討するとともに、リスク・コンプライアンス委員会やグループ環境安全・品質保証委員会等の関連する委員会との連携を取りながら、ESG(環境・社会・ガバナンス)全般に関する方針立案や課題への対応の検討を進めています。
サステナビリティマネジメント体制

ⅵ 財務・非財務主要KPI
新中期経営計画2024の実行、そして、その先の目指す姿の実現のために、財務・非財務のKPIを明確にして、各施策を実行していきます。財務KPIにおいては、利益成長・資本効率・事業ポートフォリオ転換の視点で、2024年度目標・2030年度目標を設定し、具体的な施策の実行を進めていきます。非財務KPIに関しては、10の成長を牽引する事業(GG10)における有効特許件数の割合、デジタルプロフェッショナル人財と高度専門職の育成・獲得、そして、当社GHG排出量、環境貢献製品を通じたGHG削減貢献量を主要なKPIとして設定し推進を加速していきます。
新中期経営計画2024で設定した財務・非財務主要KPI一覧

③ 各セグメントの経営方針・経営戦略等
各セグメントにおいて次の成長を牽引する事業(GG10)に重点的にリソースを投入していきます。GG10の詳細は「②当社グループ全体の経営方針・経営戦略等 <経営方針・経営戦略> ⅱ 成長戦略」をご参照ください。各セグメントの経営方針・経営戦略は以下のとおりです。
Ⅰ 「マテリアル」セグメント
本セグメントにおいては石油化学関連の収益安定化を図りながら、付加価値の高い事業の構成比を高めることで利益成長を目指します。
●基本戦略:カーボンニュートラルの実現に向け、既存の延長線ではない戦略・戦術でポートフォリオ変革を図り、収益性と投資効率の向上を目指す
●経営指標:営業利益成長、営業利益率、ROIC
<経営環境・経営課題>
本セグメントにおいては、これまでの製品を軸とした組織から、マーケットを強く意識した事業運営へ転換するため2022年より新しい組織体制で運営をスタートしました。「第1 企業の概況 3 事業の内容」に記載のとおり、セパレータや石油化学関連製品を中心とする環境ソリューション事業、自動車用途向け製品を中心とするモビリティ&インダストリアル事業、電子部品・電子材料、繊維、消費財を中心とするライフイノベーション事業を運営しています。これらの事業において、ビジネスモデルや市場の状況、競争優位性等の事業環境は、製品群によって大きく異なるため、各事業が置かれている環境認識に基づいた経営課題に対して取り組んでいます。マテリアル領域全体の観点では、事業ポートフォリオの転換を最も重要な経営課題と認識し、次の成長分野への重点的な投資を行う一方で、既存アセットを最大活用することでのキャッシュ創出や事業の構造改革を推進しています。各価値提供分野における経営環境は以下のとおりと認識しています。
ⅰ 「Environment & Energy」分野
・カーボンニュートラルの動きを受けた、石化関連製品の中長期視点でのサステナビリティ対応の加速・脱炭素に貢献する技術やソリューションに対するニーズの急速な高まり
ⅱ 「Mobility」分野
・次世代モビリティで求められる安全、快適、環境にやさしい素材ニーズの高まり
ⅲ 「Life Material」分野
・これからのデジタル社会に求められるニーズの高まり
・次世代通信の進展や衛生意識の変容、新しいライフスタイルによる新たなニーズの高まり
<経営方針・経営戦略>
価値提供注力分野である「Environment & Energy」「Mobility」「Life Material」における主な取り組みの方針・進捗は、以下のとおりです。
ⅰ 「Environment & Energy」分野
■ 価値提供の方向性:独自の技術・知見を活かした新しい価値の創出
・これまでに培った技術や知見などの事業基盤を活かした、旭化成が目指す2つのサステナビリティ(“持続可能な社会への貢献”と“持続的な企業価値向上”)の好循環の実現への貢献
■ 主な取り組み
・グリーンソリューション推進(水素関連の事業化推進、CO2ケミストリーの多面的展開)
・蓄エネルギー分野の深耕(セパレータ事業の成長追求、知見を活かした新しい事業展開)
・カーボンニュートラルに向けた取り組み推進(石化事業の中期的な転換、グループ横串体制での取り組み加速)
ⅱ 「Mobility」分野
■ 価値提供の方向性:提案型事業へのシフト
・電気自動車等の環境対応車に求められるサステナビリティ要求に対する、軽量かつ安全な製品のコンセプト提案、環境調和型素材の提案・キーカスタマーへの横断的なマーケティング強化
■ 主な取り組み
・自動車内装ファブリック事業:Sage Automotive Interiors, Inc.を中心とした事業の拡大と合理化、買収したAdient plcの自動車内装ファブリック事業や環境にやさしい人工皮革「ラムース®」との相乗効果の追求
・エンジニアリング樹脂事業:自動車構造部品や自動車用リチウムイオン電池構造部品に向けたエンジニアリング樹脂発泡体「サンフォース®」展開の加速やCAE(Computer Aided Engineering)等のデジタル技術活用を通じた自動車メーカーの開発パートナーとしての価値提供
・CO2センサー、アルコールセンサー事業:各種センサーを活用した快適・安全・安心な車室空間ソリューションの提供
ⅲ 「Life Material」分野
■ 価値提供の方向性:先進・独自技術による高付加価値素材の提供
・デジタル社会の進展で求められるニーズへの、特徴ある部品・部材、ソリューションの提供
・生活者の視点に立った、健康で快適な暮らしに貢献する製品・サービスの提供
■ 主な取り組み
・電子材料、基板材料事業:最先端半導体を支える革新材料の開発加速
・電子部品:省エネ・快適市場において魅力あるセンシングデバイス・ソリューションの展開
・電子材料と電子部品との融合による特徴ある部材・部品、ソリューションの展開
・新事業の展開加速:ウイルスや菌の不活化に効果の高い、高出力殺菌用深紫外LED「Klaran™」の空調機器への展開、CO₂センサーを用いた適切な換気モニタリング等の感染症対策を推進する新たなソリューションの提供
Ⅱ 「住宅」セグメント
●価値提供分野:「Home & Living」
●基本戦略 :国内事業は生涯にわたる顧客価値の最大化、海外事業は成長投資継続とこれまでの投資からのリターン創出による、高いROSとROICの維持と、キャッシュ創出力の向上
●経営指標 :営業利益成長/ROS、売上高FCF率
<経営環境・経営課題>
日本国内の建築請負事業においては、昨年度に引き続き、COVID-19感染拡大の影響で、住宅展示場来場者数の減少により、新規集客・受注活動に影響が出ていますが、デジタル技術を活用した様々なチャネルで集客・受注活動を強化し、集客数・受注数の向上を図っています。依然として先行き不透明な状況が続くため、従来の住宅展示場に依った集客・受注活動からデジタル技術を活用した新たなビジネスモデルへ転換することが課題です。一方、自然災害の多発化、COVID-19による顧客意識の変容、人生100年時代におけるライフスタイル・ワークスタイルの多様化、さらに脱炭素化の加速により、住宅を取り巻くニーズは変化し続けています。今後は、災害に強く安心できるレジリエンス(防災力)の高い住宅、環境負荷を低減する住宅やシニア、子育て世帯が安心かつ快適に生活できる住宅等の事業機会は益々広がっていくと考えています。これらの機会に対応し、都市で培ったノウハウを活かし、日本国内の関連市場へ新事業を展開していくこと、また、日本国内市場の成長の鈍化を踏まえて、海外市場へ事業展開を加速していくことが課題であると考えています。
<経営方針・経営戦略>
価値提供分野である「Home & Living」における主な取り組みの方針・進捗は、以下のとおりです。
ⅰ デジタル技術を活用したマーケティング等による集客、受注活動の推進や生産性の向上
ⅱ サステナビリティ実現に向けた取り組み強化
・旭化成ホームズ㈱が参加しているRE100目標達成に向けた早期実現の推進
・ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)・ZEH-M(ゼッチ・マンション)普及に向けた取り組みの推進
・集合住宅「ヘーベルメゾン™」の太陽光発電設備で創出した環境価値による旭化成及び旭化成ホームズ㈱の本社使用電力のグリーン化の推進
・環境貢献度の高い断熱材「ネオマフォーム™」の拡販
・環境省による「生物多様性のための30by30アライアンス」への旭化成ホームズ㈱の参加
ⅲ レジリエンスの強化
・耐震性・耐火性の高い住宅や防災科学技術研究所とのリアルタイム地震被害推定システム研究など、安心できる住まいを実現させる取り組みの推進
・DX技術を活用したプッシュ型の災害時無人対応システムによる、お客様へ災害時における安心の提供
・倉敷市等とともに推進してきた「倉敷市阿知3丁目東地区第一種市街地再開発事業」に関して、「ジャパン・レジリエンス・アワード(強靭化大賞)2022」の最高位となる「グランプリ」を受賞
・東京都中央区築地にて地権者38名と共同で行った等価交換事業に関して、「ジャパン・レジリエンス・アワード(強靭化大賞)2022」において、最優秀賞を受賞
ⅳ 海外事業の展開加速
・ 豪州事業
当社グループが株式の40%を保有するMcDonald Jones Homes Pty Ltdの株式を追加取得し、当社持分80%の連結子会社化。スチールフレームメーカーSteel Building Systems Australia Pty Ltdと垂直統合し、ビルダー単独・サプライヤー単独では成しえない競争優位性の高い豪州モデルを確立させることで、豪州における注文住宅の建築請負及び分譲住宅の販売において、トップブランドを目指す。
・ 北米事業
戸建住宅の壁や屋根を製造、施工するErickson Framing Operations LLCに、戸建住宅の住宅用電気設備・基礎工事・空調設備工事を行うAustin Electric Services, LLC、Austin Concrete & Stone LLC、Austin HVAC LLC、戸建住宅などの配管工事を行うBrewer Companies, LLC、Brewer Enterprises, Inc.、Brewer Commercial Services, LLC、JBKB LLC (dba Benjamin Franklin Plumbing)、T-Plug LLCを水平統合し、製造や施工現場での多岐にわたる工程を合理的に担えるサプライヤーモデルを確立させることで、施工合理化と高品質な建物の提供を目指す。
Ⅲ 「ヘルスケア」セグメント
●価値提供分野:「Health Care」
●基本戦略 :医薬・医療機器の双方でグローバル市場の幅広い事業機会を捉え、グループの利益成長を牽引
●経営指標 :EBITDA成長/EBITDA率、ROIC
<経営環境・経営課題>
短期的には、医薬事業において、COVID-19の感染拡大による患者の通院制限、不急治療の延期やMR(医薬情報担当者)の対面活動の制限が影響したものの、オンラインでの企画の強化やチャネルの拡大など病院訪問を前提としないMR活動を強化したことや、米国における感染拡大影響の緩和により売上は堅調に増加しています。また、医療事業においては、生物学的製剤市場の継続的な成長に加え、COVID-19向けの治療薬、ワクチン開発によりウイルス除去フィルターの需要が高まっています。今後もこの基調が継続するものと予測しており、安定生産と生産能力増強を通じて供給責任を果たしていきます。クリティカルケア事業においては、2020年度にみられたCOVID-19治療のための人工呼吸器の需要増加が概ね終息しましたが、この一時的な需要増の影響を除けば除細動器、AED(自動体外式除細動器)、「LifeVest®」などの心肺蘇生事業が堅調な成長を続けています。
中長期的には、医療費削減圧力が高まることによる国内の市場成長の鈍化が予想される一方、先進諸外国においては、より良い医療に対するニーズの高まりや長寿社会の進展に伴い、引き続き安定的な市場成長が継続すると認識しています。そのため、「ヘルスケア」セグメントの中長期的な成長のための課題は、グローバルにおける事業展開を加速することであり、当社グループに足りない経営資源を追加・補強する手段としてM&Aやライセンス導入による事業開発を位置付けています。2021年度は、クリティカルケア事業において、Respicardia, Inc.(中枢性睡眠時無呼吸症治療のための植え込み型神経刺激デバイスの製造販売)とItamar Medical Ltd.(睡眠時無呼吸症在宅検査・診断ソリューションの提供)の2社のM&Aを実行し、心不全と関連の深い睡眠時無呼吸症への診断・治療への事業展開を行いました。
今後は、ZOLL Medical Corporationとこれらの2社の経営統合を進めるとともに、心肺蘇生を中心とした既存事業とのシナジー創出を進めることで、心肺蘇生の周辺領域の取り込みとクリティカルケア事業の更なる拡大を目指していきます。当社は、引き続き、既存事業の成長とM&A等の事業開発を活用した成長により、医薬・医療機器の双方でグローバル市場における幅広い事業機会を捉え、当社グループの成長を牽引する柱となることを目指します。
<経営方針と経営戦略>
価値提供分野である「Health Care」における主な取り組みの方針・進捗は、以下のとおりです。
ⅰ クリティカルケア事業
心肺蘇生を中心とした既存事業の持続的成長、及び企業買収を通じた既存事業強化と周辺領域への拡大による重篤な心肺関連疾患領域での成長。近年、買収した企業は以下のとおりです。
・2019年6月 Cardiac Science Corporation(自動体外式除細動器(AED))
・2019年6月 TherOx, Inc.(急性心筋梗塞治療用機器)
・2021年4月 Respicardia, Inc.(中枢性睡眠時無呼吸症治療 植え込み型神経刺激デバイス)
・2021年12月 Itamar Medical Ltd.(睡眠時無呼吸症在宅検査・診断ソリューション)
ⅱ 医薬事業(海外)
・免疫・移植周辺を中心とした疾患領域、及び大病院市場へフォーカスし、旭化成ファーマ㈱とVeloxis Pharmaceuticals, Inc.の連携のもとで事業開発、臨床開発、販売を推進しています。また2021年度より、両社協同でART-123の化学療法誘発性末梢神経障害(CIPN)の発症抑制に関する日米国際共同第1相臨床試験を開始しました。
・Veloxis Pharmaceuticals, Inc.の腎移植手術患者向け免疫抑制剤「Envarsus XR」の着実な伸長、及びOSE Immunotherapeutics SAから導入したCD28阻害薬「FR104」(臓器移植における新規免疫抑制薬)を開発しています。
ⅲ 医薬事業(国内)
重点領域(整形外科領域、救急集中治療、免疫)における新薬上市と販売の拡大を継続します。整形外科領域においては、骨粗鬆症治療薬「テリボン®オートインジェクター」の更なる市場への浸透を図ります。免疫領域においては、関節リウマチ治療剤「ケブザラ®」の更なる市場浸透に加え、2021年度にサノフィ株式会社より免疫調整剤「プラケニル®」を導入し、販売を開始しました。研究開発においては、オープンイノベーションや事業開発を活用し、重点領域におけるパイプラインを拡充しています。医療事業生物学的製剤の市場成長に合わせたウイルス除去フィルター「プラノバ™」の市場ポジション・販売拡大と生産能力の増強及び製薬企業向けバイオセーフティ試験受託サービス事業やバイオ医薬品CDMO事業への参入による事業スコープを拡大します。
近年、買収した企業は以下のとおりです。
・2019年10月 Virusure Forschung und Entwicklung GmbH (ウイルス等安全性試験受託サービス等)
・2021年12月 Bionique Testing Laboratories LLC (マイコプラズマ試験受託サービス)
・2022年4月 Bionova Scientific, LLC (次世代抗体医薬品CDMO)
(2) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
① 「マテリアル」セグメント
「(1) 経営方針・経営戦略等 ③ 各セグメントの経営方針・経営戦略等」 Ⅰ 「マテリアル」セグメントに記載の項目に加えて、以下の事業上の課題があります。
Ⅰ 「Environment & Energy」分野
リチウムイオン電池用セパレータ事業については、2015年度に買収したPolypore International, LPの製品群も含めて、湿式・乾式の特徴が異なる両タイプの製品を提供し、世界市場で高いシェアを維持しています。特に、今後も需要が拡大すると考えられる、電気自動車等の環境対応車向けのリチウムイオン電池用途では、更なるビジネス拡大の機会があると考えています。また、需要拡大に伴い競合他社との競争も厳しくなってきています。そのため、市場動向を見極めつつタイムリーに需要に対応し、競争優位性のある高付加価値製品を供給し続けていくことが課題であると認識しています。タイムリーな能力増強と継続的な高付加価値製品の開発を進めていきます。
Ⅱ 「Mobility」分野
2021年度は、COVID-19に加え、半導体不足による影響を受け、自動車生産台数の減少による関連製品の需要減が見られました。また、事業運営は、COVID-19影響によるサプライチェーン混乱の厳しい環境下にあり、2022年度もロシア・ウクライナ情勢による原燃料の高騰、中国のロックダウン等の影響の顕在化が予想されます。
一方、中長期的には自動車の「CASE」と呼ばれる技術革新の進展が加速し、又は変化していくことにより、新たなニーズが生まれてくると考えています。特に低炭素社会の実現に向けて、電気自動車等の環境対応車の需要拡大や資源の有効活用など、欧州を中心に自動車業界における環境負荷低減の動きが今後加速するものと考えており、このような社会ニーズに向けた対応が必要です。
車室空間には、これまでにない快適性やデザイン性に加えて、リサイクル原料の使用等環境負荷低減に繋がる製品が求められており、環境特性に優れた人工皮革「ラムース®」の需要増加に対応するため、供給能力を増強しています。また、米国子会社のSage Automotive Interiors, Inc.との連携を強化しつつ、2020年度に買収した大手自動車シートサプライヤーの米国Adient plcの自動車内装ファブリック事業との統合効果を発現させていきます。加えて、自動車の燃費向上・電動化等による車体軽量化のニーズが拡大しています。これらの顧客のニーズに合わせて、車体軽量化に寄与する構造部品向けのエンジニアリング樹脂製品や樹脂発泡体の展開をグローバルに加速していくとともに、このようなニーズへ対応すべく、グローバル市場におけるキーカスタマーへの横断的なマーケティングを強化していきます。
また、自動車の安全性の更なるニーズも機会として認識しています。2018年度に買収したSenseair ABのアルコールセンサーによる飲酒運転防止等、快適・安全・安心な車室空間への新たな価値提供を実現するため、開発を推進していきます。
Ⅲ 「Life Material」分野
DXの進展や次世代通信の普及に伴う情報通信高度化の需要は益々拡大しており、情報通信機器に用いられる電子材料や部品のニーズは増加しています。また、急速なEV(電気自動車)化がもたらす変化として、様々なセンシングデバイスの高度化・高信頼性化が求められています。このようなニーズに対応するため、組織運営の見直しにも着手し、今後も市場動向を注視しながらデジタル社会で求められる最先端のニーズを捉えて、電子材料と部品の双方を有するユニークさを活かし、特徴ある材料・部品、ソリューションを提供していきます。
② 「住宅」セグメント
「(1) 経営方針・経営戦略等 ③ 各セグメントの経営方針・経営戦略等」 Ⅱ 「住宅」セグメントの項目をご参照ください。
③ 「ヘルスケア」セグメント
「(1) 経営方針・経営戦略等 ③ 各セグメントの経営方針・経営戦略等」 Ⅲ 「ヘルスケア」セグメントの項目をご参照ください。
「(1) 経営方針・経営戦略等 ② 当社グループ全体の経営方針・経営戦略等 <経営方針・経営戦略> ⅳ 財務・資本政策の項目をご参照ください。
当社グループは、その広範にわたる事業により安定的な事業運営を実現していますが、個々の事業では事業の性格により異なる市場リスク・投資リスクをはじめ様々なリスクを内在しています。これらのリスクは予測不可能な不確実性を含んでおり、当社グループの財政状態や業績に重要な影響を及ぼす可能性があります。これらのリスクの回避及び発生した場合の対応に必要なリスク管理体制及び管理手法を整備し、リスクの監視及び管理等の対策を講じますが、これらすべてのリスクを完全に回避するものではありません。
将来の事項に関する記述につきましては、有価証券報告書提出日現在において入手可能な情報に基づき、当社グループが合理的であると判断したものです。
(1) グループのリスク管理・コンプライアンス基本規程
「グループリスク管理・コンプライアンス基本規程」において、事業運営に関わるリスク管理と有事における対応の基本的事項を定めています。

(2) グループリスク管理・コンプライアンス基本規程に定めるリスク・コンプライアンス管理体制
社長を委員長とし、各事業本部と事業会社の長を委員とするリスク・コンプライアンス委員会を設置し、同委員会の事務局が各スタッフ部門と連携し、事業部門とのやりとりを通じてリスク対策の進捗状況とコンプライアンスの徹底状況のモニタリングを行っています。また、委員会での審議結果等については、年に2回、取締役会に報告しています。なお、この管理体制に加え、環境、品質、労働安全衛生、災害などに関するリスクへの対応については、それぞれの所管部場において規程の制定、教育・啓発を実施し、状況を監査等を通じて確認し、継続的に改善を図ることでリスクのミニマイズに努めています。

(3) 当社グループ全体に係るリスク
① 気候変動リスク
当社グループは、気候変動に関して生じる変化を重要なリスク要因として認識しています。当社グループではTCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures。気候関連財務情報開示タスクフォース)提言に賛同するとともに、TCFD提言の枠組みに基づき、気候変動が事業に及ぼす影響の分析、対応策の検討を行っています。
産業革命前からの気温上昇を+2℃未満に抑えるシナリオ(主として移行リスク)においては、社会の脱炭素化に向けた規制強化によるコストの増加が、業績に影響を与える可能性があります(例: 2020年度のGHG排出量約400万tに、仮に炭素税等として10,000円/tを乗じた場合、年間400億円程度)。このようなリスクに対して、当社グループは、再生可能エネルギーの活用拡大、エネルギー消費の低減、脱炭素化の工業プロセスの開発・実用化、事業ポートフォリオの転換等により、影響の抑制を図っていきます。また、脱炭素社会で必要となる電気自動車等の環境対応車の普及、政策によるZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の普及、再生可能エネルギー拡大に伴う水素利用の普及は、当社グループにとって、事業展開・拡大の機会であると分析しています。
一方、温暖化が十分に防止されず、産業革命前からの気温上昇が+4℃となるシナリオ(主として物理的リスク)においては、風水害の甚大化による工場の被災・生産停止、原材料供給網の寸断、また、酷暑による住宅建設現場等での屋外作業の労働環境・生産性の悪化が懸念され、業績に影響を与える可能性があります。これらのリスクに対して、当社グループは、BCP(事業継続計画)の継続的見直し、事前対応の強化(在庫水準見直し、複数購買・拠点化の検討等)、住宅建設の更なる工業化・IT技術の活用等により、影響の抑制を図っていきます。また、災害に強い住宅ニーズの高まり、熱中症、感染症の拡大による治療薬やクリティカルケア事業の需要拡大は、当社グループにとって事業展開・拡大の機会であると分析しています。
以上のとおり、気候変動は中長期的に財務面に少なからぬ影響を与えうると想定されるものの、多様な事業からなる事業ポートフォリオが機会とリスク対応を生み出すことから、グループ全体に与える財務リスクは限定的であると分析しています。また、多様な技術・事業によって、気候変動に関する新たな機会を獲得できるポテンシャルを当社グループは有していると認識しています。
② COVID-19感染拡大によるリスク
COVID-19の研究や人びとへのワクチンの接種が進んでいますが、感染力が強く重症化リスクが高いとされる変異株が確認され、再び感染者数が増加するなど、感染拡大が経済活動に及ぼす影響の程度、期間については見通しが依然不透明であり、当社グループの業績に影響を及ぼすリスクがあります。また、感染者増加の抑制や各地域政府による操業規制等の方針により、当社グループの製造・営業・物流・工事・建設等の拠点において、事業活動が制約を受ける可能性があるため、引き続き、オンラインでの業務対応等によりその影響を軽減していきます。加えて、COVID-19感染拡大による影響の内容や程度により、需要が大きく変動する製品もあるため、注意深く需要動向をモニタリングし、適正な水準の在庫の維持や安定的な供給対応を進めていきます。
③ グローバルなサプライチェーンに関するリスク
当社グループは、「マテリアル」「住宅」「ヘルスケア」の3つのセグメントからなる多様な事業を運営しており、事業ごとに原材料や部品、施工業者、物流経路、倉庫、販売先に至るまで、国内外で多様なサプライチェーンを構成しています。そのため、世界中で発生する自然災害、保安事故、人権問題、紛争、経営破綻等による、取引先との取引回避や取引先の機能不全により、サプライチェーンが途絶するリスクがあり、ロシア・ウクライナ情勢も注視が必要です。サプライヤーの選定におけるリスク評価や監査の実施、サプライヤー及び販売先のモニタリングなどを通じて、リスクを低減させることに加えて、主要製品・事業における原材料の調達ルートの多様化や適正な水準の在庫の確保を通じて、安定操業に向けた取り組みを強化しています。
④ 通商・経済制裁等規制に関するリスク
・ 通商に関するリスク
当社グループは、原材料の購入や製品の輸出、海外における現地生産等、幅広く海外で事業を展開し、国際貿易や資金決済に関する二国間あるいは多国間の協定や枠組みのメリットを享受しています。これらの協定や各種枠組み等の変更や新規規制の導入などにより、関税の増加、通関の遅延・不能、資金決済の遅延・不能が生じ、代金回収や事業遂行の遅延・不能、業績悪化等が発生するリスクを負っています。当社グループでは、適時に規制内容を理解することや、関係当局に事前に相談し、対策を講じることによって、これらのリスクの低減に努めています。
また、グループ会社間の国際的な取引価格については、当社グループ税務方針に基づき、日本国政府及び相手国政府の移転価格税制を遵守していますが、税務当局から取引価格が不適切であるとの指摘を受ける可能性や、協議が不調となった場合に二重課税や追徴課税を受ける可能性があります。そのため、重要性の高いグループ会社間取引については、事前確認制度の活用、あるいは、外部専門家の意見も参考にしながら、各国の移転価格税制を踏まえた独立企業間価格を設定しています。
・ 経済制裁、各種規制に関するリスク
当社グループは、製品の輸出や海外における現地生産等、幅広く海外で事業展開をしており、安定的な国際通商のメリットを享受しています。そのため、何らかの理由により二国間あるいは多国間の通商環境が変化することにより、海外の会社との取引や出資、その他事業活動に影響を受けるリスクがあります。特に、米中対立やロシア・ウクライナ情勢等、近年国際関係の緊張が高まっており、これに伴って日本や諸外国において、経済安全保障の観点から経済制裁、輸出管理規制、外国直接投資規制を強化する動きが続いています。これらの動向には常に注意を払っており、適時に規制内容を理解することや関係当局に事前に相談することに加えて、経済制裁については外部の顧客スクリーニングシステム等を利用して慎重な取引審査を行うなどにより、適切な対応に努めています。これらの規制に対応することにより、取引先との取引の停滞・中断、資金の移動の遅延・停止、事業遂行の遅延・不能等により、業績に影響を及ぼすなどのリスクがあります。
⑤ 事業競争力に関するリスク
当社グループは、「マテリアル」「住宅」「ヘルスケア」の3つのセグメントにおいて、付加価値の高い製品・サービスを提供していますが、類似の製品や技術による競合企業のキャッチアップ、新たな競合企業の参入等によって競争環境が激化することや、デジタル技術や脱炭素化に貢献する技術等急速な技術革新による産業構造の変化、急激な需要構造・市場構造の変化などにより、当社グループの各事業の競争力を損なう可能性があります。当社グループでは、競合製品の競争力や産業構造の変化をタイムリーかつ的確に見通すことに努めるとともに、製品やサービスの絶え間ない差別化や模倣困難なビジネスモデルの構築、知的財産等による高い参入障壁を設けることにより、これらのリスクの低減に努めています。
⑥ M&Aに関するリスク
当社グループは、事業ポートフォリオの進化にあたっては、「成長の為の挑戦的な投資」と「構造転換や既存事業強化からのフリー・キャッシュ・フロー創出」の両輪を回すことが重要と考え、事業投資、新規事業の創出や事業ポートフォリオの転換の手段として、国内外におけるM&Aを通じた事業展開を行っています。これまでZOLL Medical Corporation(2012年度)、Polypore International Inc.(2015年度)、Sage Automotive Interiors, Inc.(2018年度)、Veloxis Pharmaceuticals A/S(2019年度)など、大型買収を行ったことからのれん及び無形固定資産残高は増加傾向にあります。M&Aの結果取得した無形固定資産の企業結合日時点における時価については、コスト・アプローチ、マーケット・アプローチ、インカム・アプローチなどによって合理的に算定された価額を基礎として算定しており、事業計画等の不確実性を伴う仮定が反映されています。
そのため、事業計画等において初期に期待した投資効果が発現しなかった場合や合弁会社の経営が悪化した場合、被買収企業との事業統合が遅延した場合など、のれんや無形固定資産の減損等により当社グループの業績に影響が及ぶ可能性があります。当社グループでは、買収検討の対象企業のデューデリジェンス(詳細調査)を慎重に行い、買収後の事業統合の計画を入念に検証することで、リスクの低減に努め、過去の大型買収に関する減損損失の計上はありません。しかし、過去の大型買収が海外での新規市場や成長市場に関する案件であり、想定外の事業環境の変化への対応を誤ると、投資額の回収が困難となるリスクを抱えています。
⑦ 市況変動によるリスク
・ 原油・ナフサ価格変動リスク
当社グループは、原油やナフサを原料とした石油化学製品の製造・販売事業を展開しています。また、各原料市況並びに需給バランスから固有の市況を形成しており、その変動は当該事業や誘導品からなる当社グループの各事業に影響を及ぼします。特に、事業規模が大きいアクリロニトリル事業は市況の変動の影響が大きいため、販売価格のフォーミュラの見直し等、収益の安定化に努めています。
・ 為替変動リスク
当社グループは、輸出入及び外国間等の貿易取引において、外貨建ての決済を行うことに伴い、円に対する外国通貨レートの変動による影響を受けます。そのため、取引においては、先物為替予約等によるヘッジ策やCMS(キャッシュ・マネジメント・システム)の活用による、安定的かつ効率的な資金活用を目指しています。当社グループは、収益の多くが外貨建てであることに加え、当社の報告通貨が円であることから、外国通貨に対して円高が進むと、当社グループの業績にマイナスのインパクトを与えます。当社の試算では、米ドル・円レートが1円変動すると連結営業利益に年間14億円の変動をもたらします。
⑧ その他のリスク
上記のリスクのほか、大規模自然災害、保安事故、製品の欠陥に起因する事故、知的財産権、人権問題、新たな法令に起因する事業上のリスクが想定されますが、担当専門部署にて、予防策を講じることでリスクのミニマイズに努めています。また、リスクが顕在化した場合の復旧費用等に充当する目的で損害保険付保によるリスクファイナンス(資金確保)を行っています。
(4)各セグメントに係るリスク
① 「マテリアル」セグメント
「Environment & Energy」分野においては、リチウムイオン電池用セパレータの世界的な需要変化及び競合他社の販売政策により販売量・販売価格が当社予測を下回る可能性があります。そのため、当社グループは、多様化する顧客ニーズに対応すべく、中長期で需要が増えると予測する電気自動車等の環境対応車や蓄電システム(ESS)用途を中心に生産能力の増強を推進し、安定的かつ高水準の品質を強みに様々な顧客ニーズに対応します。また、同事業は、各国の規制・環境問題等によるサプライチェーンの変化、テクノロジーの変化により、事業環境が急激に変化することが中期的なリスク要因と考えられるため、事業環境の動向の把握と迅速な対応を続けていきます。
「Mobility」分野の事業は、世界の自動車業界の動向に影響を受ける場合があります。自動車部材用のエンジニアリング樹脂や低燃費タイヤ向けの合成ゴム、自動車内装材等については、COVID-19の感染拡大による需要減少からの回復は進むものの、足元ではロシア・ウクライナ情勢による原燃料の高騰、中国ロックダウンの影響など、サプライチェーンを含めた環境変動が見通しにくい状況が続いています。各国の自動車関連市場を注視するとともに、サプライチェーンの管理を強化し、適正な水準の在庫を保有することで、変化する需要に柔軟に対応します。一方、自動車の「CASE」と呼ばれる技術革新をはじめとした業界の変化は、今後も進展していくと考えています。特に脱炭素社会の実現に向けて、電気自動車向け素材等、環境負荷低減に対応した素材が求められており、自動車に求められる社会ニーズは加速的に変化しているため、顧客要求が大きく変わる可能性があります。このようなニーズや顧客要求に対応した、素材のラインナップ拡充や展開エリアの拡張を図り、持続的に成長できるビジネスモデルの構築を推進していきます。
「Life Material」分野においては、デジタルトランスフォーメーションの普及や電気自動車へのシフト等により半導体のニーズが益々拡大する一方で、世界各国の半導体ファウンドリ(foundry)やOSAT(Outsourced Semiconductor Assembly & Test)を活用する分業体制が業界全体として展開されているため、半導体製造に関わるサプライチェーンの動向に影響を受ける可能性があります。半導体生産に必要なレアガス(希ガス)やレアメタル(希少金属)などの原材料不足やCOVID-19感染拡大の影響を受けての需要変化による製造リードタイムの長期化など、電子部品事業において環境変動が見通しにくい状況となっていますが、半導体製造関連の主要サプライチェーンの状況(特に米国、中国、台湾)の動向をモニタリングし、リスクの発生状況を常時評価し、迅速に対応していきます。
② 「住宅」セグメント
「Home & Living」分野の国内事業においては、日本国内の個人消費動向・金利・地価・住宅関連政策ないし税制の動向に大きく影響を受ける場合があります。COVID-19感染拡大により、顧客とのコミュニケーションのあり方が大きく変わるなどの影響を受けていますが、一方で、在宅勤務等により暮らしや働き方の新たなニーズが生まれる機会でもあると考えています。当社グループは、デジタル技術を活用したマーケティング等による集客、受注活動の推進等により、新たな顧客とのコミュニケーションのあり方を確立し、ニーズに対応していきます。
北米、豪州の事業においては、各国の住宅市場の影響を受けることから、現地の関係会社を通じ、市場動向をモニタリングしていきます。また、国内事業同様に、住宅需要増、半導体不足や災害等により、原材料や建築資材の需給バランスが崩れて価格が変動する可能性があるため、原材料や建築資材価格をモニタリングし、影響の抑制に努めていきます。
加えて、事業の特性上、大量の個人情報を扱っているため、個人情報の漏洩等があれば、当社グループの信用を毀損するリスクがあります。そのため、個人情報保護の徹底した対策を講じています。
③ 「ヘルスケア」セグメント
医薬品や医療機器等の「Health Care」分野の事業においては、一般的に、その販売数量や販売単価等が定期的な薬価・保険償還価格の改定の影響を受ける場合があります。特に新薬の研究開発期間は長期にわたることに加え、新薬が承認取得に至る確率が高くないことなどから、製品化の確度や時期について正確な予測が困難な状況にあり、計画どおりに製品化できなかった場合は業績に影響を与える可能性があります。医薬品や医療機器が製品化した場合でも、競合品の開発・上市の動向、有害事象の報告、後発品の上市等により、業績に影響を与える可能性があります。そのため、当社では医薬事業と医療事業の両方を持つことで、多様な成長力・競争力を獲得し、イノベーション獲得機会の増加を図るとともに、医療規制等将来の不確実性への対応力を高めていきます。また、パイプラインの拡充、製品導出・導入、共同開発、グローバル展開の加速等に努めることで持続的な安定成長を図ります。
また、COVID-19感染拡大による患者様の受診抑制や医療従事者への対面での情報提供活動の制限等の影響により、国内医薬品やクリティカルケア製品の一部の需要が減少する可能性がありますが、オンラインでの面談やe-プロモーション等の新たな手法を積極的に活用しながら医療従事者への情報提供活動を継続するとともに、需要動向を注視して需要変動に応じた柔軟な生産対応を実施していきます。
(5) リスク管理の強化・高度化
当社グループを取り巻く環境が急激に変化する中で、複雑化するリスクが当社グループに及ぼす影響がこれまで以上に大きくなっていることから、リスク管理のさらなる強化・高度化を以下の2つの観点で実施します。
・ 全社的な対応を要する重大リスクについて
従前から認識しているリスクも踏まえ、特に全社的な対応を要する重大リスクの選定方針や対応方針を再整理し、取組状況をモニタリングします。
・ 各事業の重要リスクについて
各事業の経営計画の重点課題の達成を阻害する可能性があるリスクや各事業特有のリスクのうち、重要なものについて、取締役会で審議・承認される当社グループ全体の年度経営計画の施策に織り込みます。各事業の経営計画の社長によるモニタリングを通じ、当該リスクへの対応状況を評価します。
本項の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの分析は、将来のリスク、不確実性及び仮定を伴う予測情報を含んでいます。これらの記述は、現時点で当社が入手している情報を踏まえた一定の前提条件や見解に基づくものであり、「2 事業等のリスク」等に記載された事項及びその他の要因により、当社グループの実際の業績はこれらの予測された内容とは大幅に異なる可能性があります。
(1) 経営成績等の状況の概要及び経営者の視点による分析・検討内容
① 経営成績
当社グループの当連結会計年度(2021年4月1日~2022年3月31日、以下、「当期」)における世界経済は、各国の財政・金融政策による下支えが行われ、COVID-19感染拡大防止のための経済活動制限措置が各国で段階的に緩和されたことを受け、欧米を中心に景気が世界的に持ち直す一方で、需給が逼迫し、原材料不足や原燃料価格の高騰が生じるなど、経営のかじ取りが難しい経済環境が継続しました。
このような環境を受けて、当社グループの連結業績は、マテリアル及び住宅領域ではCOVID-19の感染拡大による影響を大きく受けた前連結会計年度(以下、「前期」)比で大幅な増収となりました。また、ヘルスケア領域では、前期のCOVID-19の治療等に貢献する事業の増収要因がなくなったものの、それ以外の事業が堅調に推移したことにより微増収となったことから、売上高は2兆4,613億円となり前期比3,553億円の増収、営業利益は2,026億円で前期比308億円の増益、経常利益は2,121億円で前期比340億円の増益となりました。また、親会社株主に帰属する当期純利益は、前期に発生した半導体工場火災関連の費用やVeloxis Pharmaceuticals, Inc.の組織再編に伴う税金費用の低減があったことから、1,619億円と前期比821億円の大幅な増益となりました。その結果、EPS(1株当たりの当期純利益)は116.68円と前期比59.19円の増加となりました。
資本効率については、2021年度はROIC:6.6%と前期比1.7%の改善、ROE:10.3%と前期比4.7%の改善となりました。当期の資本効率改善の主な原因は、利益成長に伴う自己資本の増加や、M&A等成長のための投資に伴う資金調達による有利子負債の増加の一方で、営業利益及び親会社株主に帰属する当期純利益が上述のとおり増益したことによるものです。
財務健全性については、D/Eレシオは前期末から横ばいの0.45となりました。
〈当社グループの業績〉
Ⅱ セグメント別
ⅰ 「マテリアル」セグメント(価値提供注力分野:「Environment & Energy」「Mobility」「Life Material」)
自動車関連市場の回復に伴うエンジニアリング樹脂等の販売数量増加及び原材料価格高騰に伴う価格転嫁、半導体市況の活況を背景としたデジタル関連ソリューション事業の販売数量増加に加え、需要回復等を背景に石化製品市況が急速に上昇したことなどから、売上高は1兆1,982億円で前期比2,070億円の増収、営業利益は1,103億円で438億円の増益となりました。
・ 基盤マテリアル事業
世界経済の回復に伴い、各製品の販売数量が増加したことや在庫受払差が増益方向に作用したことなどにより増収増益となりました。主力事業であるアクリロニトリル事業については、市況が上昇し、交易条件が改善したことにより増益となりました。なお、同事業では、販売価格の原材料連動フォーミュラ化を進めるなど、市況の影響を受けにくい安定的な収益を創出できるよう努めています。
・ パフォーマンスプロダクツ事業
本事業は、繊維、エンジニアリング樹脂や合成ゴム等、自動車用途の製品の割合が大きいため、その業績は、グローバルでの自動車生産台数増減の影響を強く受けます。エンジニアリング樹脂については、COVID-19による需要減少からの回復により販売量が増加したことや、原燃料価格高騰の一方で価格転嫁が進み、交易条件が改善したことにより増収増益となりました。繊維事業については、COVID-19感染拡大による需要減少を受けた前期に対して、自動車関連市場向けや衣料関連市場向けで販売量が増加したことや、前期に買収したAdient plcを新規連結したことにより、増収増益となりました。
・ スペシャルティソリューション事業
リチウムイオン電池用セパレータの業績は、電気自動車等の環境対応車やスマートフォン等の民生機器、また蓄電システム(ESS)等の需要動向に影響を受けます。セパレータ事業については、湿式タイプの「ハイポア™」は、上期においては増設が寄与し販売数量を伸ばしたものの、下期においては半導体不足などによる車載用途の需要減退の影響を受け、通期では前年並みの販売数量となり、自動車向けの鉛蓄電池用セパレータがCOVID-19の影響を大きく受けた前年から販売数量を伸ばしたことなどから増収となりましたが、鉛蓄電池用セパレータや乾式タイプの「セルガード®」で原燃料価格や物流コスト高騰の影響を大きく受けたことにより、減益となりました。一方で、機能性コーティング材料が工業・建築用途等で販売堅調だったことや、電子材料事業が半導体市況活況の恩恵を受けたことなどから、事業全体としては増収増益となりました。
ⅱ 「住宅」セグメント(価値提供注力分野:「Home & Living」)
北米事業が木材価格変動に伴い大幅に増益となったことに加え、建築請負部門で、COVID-19影響による前期の受注減や原材料価格高騰の影響を受けたものの、物件の大型化・高付加価値化が進んだことにより、売上高は8,334億円で前期比1,407億円の増収、営業利益は732億円で前期比96億円の増益となりました。
・ 住宅事業
建築請負部門については、前期のCOVID-19感染拡大の影響を受けて受注が減少し、販売棟数は減少した一方で、大型化・高付加価値化へのシフトにより平均単価が上昇したことや固定費減により、増収増益となりました。海外事業については、北米事業の伸長と豪州のMcDonald Jones Homes Pty Ltdの新規連結により、増収増益となりました。
ⅲ 「ヘルスケア」セグメント(価値提供注力分野:「Health Care」)
クリティカルケア事業は、COVID-19の影響により前期に需要が急増した人工呼吸器の販売数量が世界的な需給バランスの正常化に伴い大幅に減少したものの、除細動器等の主力事業が好調に推移したことにより減益幅は抑えられた一方で、医薬・医療事業は、主力製品の販売が堅調に推移したものの、ライセンス導入等の将来の成長に向けた施策により販管費が増加したことにより、売上高は4,159億円で前期比80億円の増収、営業利益は522億円で前期比154億円の減益となりました。
・ 医薬・医療事業
医薬事業においては、「テリボン®オートインジェクター」、「ケブザラ®」、「プラケニル®」、「Envarsus XR」の販売数量が伸びましたが、MR(医療情報担当者)のオンライン活動拡大のための経費などの増加やライセンス契約の導入費用等の支払いにより、増収減益となりました。医療事業においては、生物学的製剤の市場拡大に加えて、COVID-19治療薬関連の需要の増加により、ウイルス除去フィルター「プラノバ™」の販売数量が増加し、増収増益となりました。
・ クリティカルケア事業
COVID-19の影響により前期に需要が急増した人工呼吸器の販売数量が世界的な需給バランスの正常化に伴い大幅に減少したものの、除細動器や「LifeVest®」が前期のCOVID-19感染拡大の影響から回復して販売量を拡大させたことにより、減益幅を抑えられました。
Ⅲ 生産、受注及び販売の状況
当社グループの生産品目は広範囲かつ多種多様であり、同種の製品であっても、その容量、構造、形式等は必ずしも一様ではないため、セグメントごとに生産規模を金額あるいは数量で示すことはしていません。
このため、生産の状況については、「Ⅱ セグメント別」における各セグメントの業績に関連付けて示しています。
当社グループは注文住宅に関して受注生産を行っており、その受注状況は次のとおりです。その他の製品については主として見込生産を行っているため、特記すべき受注生産はありません。
当期における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。
(注) 1 セグメント間の取引については、相殺消去しています。
2 前期及び当期において、主要な販売先として記載すべきものはありません。
当期末の総資産は、市況上昇や円安による売上債権、棚卸資産の増加に加え、買収に伴いのれんや無形資産を計上したことなどから、前期比4,301億円増加し、3兆3,491億円となりました。
流動資産は、受取手形、売掛金及び契約資産が960億円、棚卸資産が588億円、現金及び預金が229億円増加したことなどから、前期比1,974億円増加し、1兆3,342億円となりました。
固定資産は、投資有価証券が398億円減少したものの、無形固定資産が1,425億円、有形固定資産が880億円、繰延税金資産が332億円増加したことなどから、前期比2,327億円増加し、2兆149億円となりました。
流動負債は、前受金が161億円減少したものの、短期借入金が949億円、未払法人税等が368億円、支払手形及び買掛金が360億円、コマーシャル・ペーパーが290億円、未払費用が196億円増加したことなどから、前期比2,207億円増加し、9,239億円となりました。
固定負債は、社債が500億円増加したものの、長期借入金が666億円減少したことなどから、前期比148億円減少し、7,064億円となりました。
有利子負債は、前期比1,073億円増加し、7,663億円となりました。
純資産は、配当金の支払472億円があり、その他有価証券評価差額金が256億円減少したものの、親会社株主に帰属する当期純利益を1,619億円計上したことや為替換算調整勘定が1,168億円増加したことなどから、前期末の1兆4,945億円から2,243億円増加し、1兆7,188億円になりました。
その結果、1株当たり純資産は前期比158.72円増加し1,216.33円となり、自己資本比率は前期末の50.3%から50.4%となりました。D/E レシオは前期末から横ばいの0.45となりました。
③ キャッシュ・フローの状況
Ⅰ キャッシュ・フローの状況
当期のフリー・キャッシュ・フロー(営業活動によるキャッシュ・フローと投資活動によるキャッシュ・フローの合計額)は、固定資産の取得や連結の範囲の変更を伴う子会社株式の取得による支出等による支出が税金等調整前当期純利益などを源泉とした収入を上回り、377億円の支出となりました。財務活動によるキャッシュ・フローでは、短期借入金の増加などにより、423億円の収入となりました。
以上の要因に加え、現金及び現金同等物に係る換算差額等により、現金及び現金同等物の期末残高は、前期末に比べて267億円増加し2,429億円となりました。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
当期の営業活動によるキャッシュ・フローは、棚卸資産の増加733億円、法人税等の支払591億円、売上債権及び契約資産の増加459億円などの支出があったものの、税金等調整前当期純利益2,151億円、減価償却費1,197億円、のれん償却額284億円などの収入があったことから、1,833億円の収入(前期比704億円の収入の減少)となりました。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
当期の投資活動によるキャッシュ・フローは、投資有価証券の売却による収入334億円などがあったものの、有形固定資産の取得による支出1,423億円、Itamar Medical Ltd.及びRespicardia, Inc.の買収やMcDonald Jones Homes Pty Ltd株式の追加取得などにより連結の範囲の変更を伴う子会社株式の取得による支出809億円、無形固定資産の取得による支出275億円などがあったことから、2,210億円の支出(前期比633億円の支出の増加)となりました。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
当期の財務活動によるキャッシュ・フローは、長期借入金の返済による支出511億円、配当金の支払額472億円などの支出があったものの、短期借入金の増加656億円、社債の発行による収入500億円、コマーシャル・ペーパーの増加290億円などの収入があったことから、423億円の収入(前期比1,382億円の収入の増加)となりました。
当社グループの連結キャッシュ・フローの推移
(単位:億円)
(資本の財源及び資金の流動性について)
2023年3月31日に終了する連結会計年度においては、各セグメントが安定的なキャッシュ・フローを創出することを見込んでいます。加えて、財務規律の強化や事業ポートフォリオ転換などを通じた収益体質の強化にも取り組み、更なるキャッシュの創出に継続的に努めています。
また、当社グループでは、D/Eレシオ0.4~0.7を目安に健全な財務体質を維持しつつ、これを背景に金融情勢に機動的に対応し、金融機関借入、社債やコマーシャル・ペーパーの発行など多様な調達手段により、安定的かつ低コストの資金調達を図ります。同時に資金の年度別返済の集中を避けることで借り換えリスクの低減も図っています。
これらの資金を、経営基盤の強化・変革、持続可能な社会の実現と企業価値の継続的な向上のための戦略的な投資、及び株主の皆様への還元に活用していきます。
なお、当社グループでは、CMS(キャッシュ・マネジメント・システム)とグローバル・ノーショナル・キャッシュ・プーリングを導入しており、国内外の金融子会社、海外現地法人などにおいて集中的な資金調達を行い、子会社へ資金供給するというグループファイナンスの考え方を基本としています。グローバル拡大への対応とグループ経営の深化の視点から、今後も連結ベースでの資金管理体制の更なる充実と資金効率化を図ります。
(2) 重要な判断を要する会計方針及び見積り
当社グループの連結財務諸表は、我が国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されています。この連結財務諸表を作成するにあたり重要となる会計方針については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 注記事項(連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項)」に記載されているとおりです。
当社グループは、退職給付会計、税効果会計、貸倒引当金、棚卸資産の評価、投資その他の資産の評価、訴訟等の偶発事象などに関して、過去の実績や当該取引の状況に照らして、合理的と考えられる見積り及び判断を行い、その結果を資産・負債の帳簿価額及び収益・費用の金額に反映して連結財務諸表を作成していますが、実際の結果は見積り特有の不確実性があるため、これらの見積りと異なる場合があります。
当社グループの財政状態又は経営成績に対して重大な影響を与え得る会計上の見積り及び判断が必要となる項目は以下のとおりです。なお、COVID-19の影響に関する仮定についての情報は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 注記事項(追加情報)」に記載しています。また、連結財務諸表の作成にあたって用いた会計上の見積り及び仮定のうち、重要なものは「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 注記事項 (重要な会計上の見積り)」に記載しています。
当社グループで保有する棚卸資産は取得原価をもって貸借対照表価額とし、収益性の低下により期末における回収可能価額が取得原価よりも下落している場合には、回収可能価額まで棚卸資産の評価を切り下げています。回収可能価額は、商品及び製品については正味売却価額に基づき、原材料等については再調達原価に基づいています。経営者は、棚卸資産の評価に用いられた方法及び前提条件は適切であると判断しています。ただし、当社グループは、主に「マテリアル」セグメントを中心として市場価格の変動リスクに晒されており、将来、経営環境の悪化等により市場価格が下落した場合には棚卸資産の簿価を切り下げることになります。
当社グループは、企業結合取引の結果取得した無形固定資産の企業結合日時点における時価について、コスト・アプローチ、マーケット・アプローチ、インカム・アプローチなどの合理的に算定された価額を基礎として算定しています。
経営者は、無形固定資産の時価の見積りに用いられた、事業計画に含まれる将来の販売数量の見込みや割引率等についての主要な仮定について合理的であると判断しています。
③ 有形固定資産及び無形固定資産(のれんを含む)の減損
当社グループは、有形固定資産及び無形固定資産(のれんを含む)について、帳簿価額が回収できない可能性を示す事象や状況の変化が生じた場合に、減損の兆候があるものとして、減損損失の認識の判定を行っています。減損の存在が相当程度に確実と判断した場合、減損損失の測定を行い、当該資産の帳簿価額を回収可能価額まで減額し、当該減少額を減損損失として計上しています。回収可能価額は、使用価値と正味売却価額のうち、いずれか高い金額としています。使用価値は、将来の市場の成長度合い、収益と費用の予想、資産の予想使用期間、割引率等の前提条件に基づき将来キャッシュ・フローを見積もることにより算出しています。
経営者は、減損の兆候及び減損損失の認識に関する判断、及び回収可能価額の見積りに関する評価は合理的であると判断しています。ただし、予測不能な市場環境の悪化等により有形固定資産及び無形固定資産(のれんを含む)の評価に関する見積りの前提に重要な変化が生じた場合には、減損損失を計上する可能性があります。
当社グループは、繰延税金資産のうち、回収可能性に不確実性があり、将来において回収が見込まれない金額を評価性引当額として設定しています。繰延税金資産の回収可能性については、課税所得及びタックスプランニングの見積りにより計上していますが、特に課税所得の見積りには将来に関する予測や情報が含まれています。将来の予測や情報に基づき、繰延税金資産の一部又は全部が回収できない可能性が高いと判断した場合には、将来回収が可能と判断される額までを繰延税金資産に計上しています。経営者は、繰延税金資産の回収可能性の判断及び前提となる課税所得やタックスプランニングの見積りは適切であると判断しています。ただし、将来、経営環境の悪化等により、想定していた課税所得が見込まれなくなった場合は、評価性引当額を設定することにより繰延税金資産が取崩される可能性があります。
当社グループは主として従業員の確定給付制度に基づく退職給付債務及び費用について、割引率、昇給率、退職率、死亡率、年金資産の長期期待運用収益率等の前提条件を用いた数理計算により算出しています。割引率は測定日時点における、従業員の給付が実行されるまでの予想平均期間に応じた長期国債利回りに基づき決定し、各前提条件については定期的に見直しを行っています。長期期待運用収益率については、過去の年金資産の運用実績及び将来見通しを基礎として決定しています。
経営者は、年金数理計算上用いられた方法及び前提条件は適切であると判断しています。ただし、前提条件を変更した場合、あるいは前提条件と実際の数値に差異が生じた場合には、数理計算上の差異が発生し、当社グループの退職給付債務及び費用に影響を与える可能性があります。
(2) Respicardia, Inc.株式の取得について
当社の連結子会社であるZOLL Medical Corporationは、中枢性睡眠時無呼吸症に対する植え込み型神経刺激デバイス「remedē®(レメディー)System」の開発・製造・販売を行う米国の医療機器メーカーRespicardia, Inc.(本社:米国ミネソタ州(※)、CEO:Peter Sommerness)を買収することを決定し、その手続きを2021年4月9日(米国東部時間)に完了しました。
なお、詳細については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 注記事項 (企業結合等関係)」に記載しています。
※登記上の本社は米国デラウェア州ですが、実際の本社業務は米国ミネソタ州で行っています。
(3) McDonald Jones Homes Pty Ltd株式の追加取得について
当社の連結子会社であるAsahi Kasei Homes Australia Pty Ltdは、当社の持分法適用関連会社であるMcDonald Jones Homes Pty Ltd(本社:オーストラリア ニューサウスウェールズ州、CEO:Andrew Helmers、以下、「McDonald Jones社」)の株式を追加取得する契約を2021年4月16日付で締結し、2021年6月11日付で当該株式の取得を完了しました。これによりMcDonald Jones社は当社の連結子会社となりました。
なお、詳細については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 注記事項 (企業結合等関係)」に記載しています。
(4) Itamar Medical Ltd.株式の取得について
当社の連結子会社であるZOLL Medical Corporationは、2021年9月13日付で心臓病患者への医療に睡眠時無呼吸症の診断を加えることにフォーカスした、医療機器及びデジタルヘルスのリーディングカンパニーであるItamar Medical Ltd.(本社:イスラエル・カイザリア、President & CEO:Gilad Glick、以下「Itamar社」)とItamar社の全ての発行済み普通株式を取得することで合意し、その手続きを2021年12月16日(米国東部時間)に完了しました。
なお、詳細については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 注記事項 (企業結合等関係)」に記載しています。
当社及び連結子会社(以下、「当社グループ」)の主たる研究開発活動の概要、成果及び研究開発費(総額
1 コーポレートの研究開発における基本方針
(1) ミッションとあるべき姿
コーポレートの研究開発のミッションを以下のとおり定め、サステナビリティ(カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーなど)及びヘルスケア領域で、当社グループの技術フロンティアとして、新事業創出に繋がる新しい価値を創造し続けることを、あるべき姿として目指していきます。
(コーポレートの研究開発のミッション)
(2) 重点戦略分野・重点技術プラットフォーム
重点戦略分野として、「脱炭素・水素(カーボンニュートラル)」「資源循環(サーキュラーエコノミー)」「ヘルスケア」の3分野を設定し、サステナビリティの実現に貢献するための研究開発テーマに資源配分を進めていきます。また、これらを含めた研究開発を進めるにあたっては、「R&D DX」を重点技術プラットフォームとして設定し、デジタル技術を駆使した研究開発のDXを推進します。具体的には、マテリアルズ・インフォマティクスやIPランドスケープ、デジタルプラットフォーム等を駆使し、技術戦略の策定やマーケットトレンドの先読み等を積極的に実施していきます。
2 基盤的な取り組み
(1) ステージゲート制度によるテーマの取り組み
研究開発テーマのポートフォリオ管理や適切な資源配分を目的として、ステージゲート制度を導入しています。探索、研究、開発、事業開発、事業化準備の各ステージの要件や、各研究開発テーマのステージ上の位置付けを明確にし、研究開発テーマを次のステージに移行させる判断にあたっては、技術視点のみならず、ビジネスモデル、事業戦略、特許戦略、環境安全対応等、ステージごとに必要な審査を強化しています。また、審査プロセスを通じて、適切なテーマの管理を可能にするだけではなく、研究開発部門の内外のメンバーから多面的な助言を得ることや、各事業との連携を深め、研究開発テーマの意義、既存事業との関係性の整理・明確化、研究開発の加速に取り組んでいます。
(2) 知的財産の活用
当社グループにおける知的財産に関する重点活動として、①知的財産権の活用シナリオに基づいた事業に貢献する知財網の構築、②事業遂行を保証する知財クリアランス、③事業のグローバル化を支える知財活動の実践、④DXによる業務高度化への知的財産面からの貢献、の4つに取り組むとともに、そのベースとなる計画的な人財育成プランを進めています。DXによる事業高度化については、IPランドスケープ(以下、IPL)活動を積極的に活用し、市場における当社グループの事業のポジションや強み、発展性等についての議論を行い、事業強化、知財戦略の構築、新事業の創出等に繋げています。最近では、新事業の創出を後押しする活動として、①IPLを活用し、当社の多様なコア技術とエマージング技術(将来変革をもたらす可能性のある技術)の結び付きを俯瞰するマップを経営陣や事業部門へ提供、②コア技術に関する社内専門家をリコメンドする社内知財情報を活用したシステム(SPACE)を提供、③コア技術、マーケティング機能、企画機能を結び付け、気づきの連鎖を起こさせることで、新事業創出の前段階であるイノベーション創発を促す社内コネクトイベント(IPL de Connect)を主導するなど、全社を牽引する取り組みも行っています。
IPLや当社の知的財産情報の戦略的活用については、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (1) 経営方針・経営戦略等 ② 当社グループ全体の経営方針・経営戦略等 <経営方針・経営戦略> v 経営基盤の強化 ■ 無形資産の最大活用」もご参照ください。
(3) CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)の活動
当社グループは、2008年に日本国内でCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)を設立し、2011年から米国を拠点として、ベンチャー企業への投資を通して最先端技術・ビジネスを獲得し、新事業の創出を行ってきました。現在は、米国のみならず、ドイツ、中国の拠点として加え、グローバルな活動の幅を広げています。具体的な活動としては、当社グループと親和性のあるベンチャー企業を発掘するための情報ネットワーク構築と関連部門への情報発信、投資・買収の交渉と関連実務の遂行、投資先企業のサポートを通じた事業化推進を行っています。3年間で7,500万ドルの投資枠を設けており、1社当たり500万ドルまでの投資に関しては本社での決裁を不要とするなど、スピーディな意思決定、手続きができるような仕組みを運用しています。これまで既存事業から少し離れたテクノロジー、住宅及びヘルスケア関連数十社へ投資を実施してきましたが、今後は新中期経営計画における重点分野(GG10)であるサステナビリティ領域への投資機会の探索を加え、当社グループの新事業創出活動に幅広く貢献していきます。
3 主な研究開発活動
(1) 当社グループ全体(「全社」)
・ アルカリ水電解システムの開発
カーボンニュートラルを実現するための取り組みとして、再生エネルギーを活用したアルカリ水電解システムの開発を実施しています。国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下、NEDO)の事業の一環として、福島県双葉郡浪江町にて10MW級大型アルカリ水電解システムの開発に取り組んでおり、また、NEDOに創設された「グリーンイノベーション基金事業/再エネ等由来の電力を活用した水電解による水素製造」に対し、2021~2030年度を事業期間と想定した「大規模アルカリ水電解水素製造システムの開発及びグリーンケミカルプラントの実証」と題したプロジェクトを日揮ホールディング株式会社と共同提案して採択されるなど、NEDOや協力企業とともに、水素を用いたエネルギー貯蔵・利用の実用化に向けた技術開発事業の拡充・強化を行っています。現在では、水電解システムに掛かるトータルコストは、水素・燃料電池ロードマップ目標値より依然として高く、さらなるイノベーションが必要と認識しています。電解槽のコストダウン検討を継続して取り組み、EPC(設計・調達・建設)費用の割合も大きいため、技術力を有する企業との連携を進めていきます。
・ CO2ケミストリー技術、CO2分離回収システムの開発
当社グループでは、CO2を原料に使用するポリカーボネート(PC)樹脂製造プロセスを世界で初めて確立し、有毒な化合物(ホスゲン)を使用しない、CO2を原料に代替することによる地球環境にやさしい製法で、社会へ新たな価値を提供してきました。また、2018年に実証が完了したCO2を原料とするジフェニルカーボネート製造プロセスや、現在開発中であるCO2誘導体利用技術のイソシアネート製法など、更なる展開を進めていきます。加えて、ゼオライトを吸着材として用いたCO2分離回収システムの開発も進めています。
・ バイオマス原料由来のポリアミド66の実用化検討
当社は、協力会社との提携により、開発の初期段階から「バイオマス原料をベースにしたヘキサメチレンジアミン(HMD)」を優先的に利用し、ポリアミド66用原料としての可能性を評価・検討する権利を取得し、バイオマス由来原料を利用したポリアミド66(バイオポリアミド66)の検討を加速しています。この検討は、当社グループが目指す2050年までのカーボンニュートラル実現に寄与するものと考えており、当社自身のGHG排出量の削減や、お客様の製品のライフサイクル全体での環境負荷の低減への貢献を進めていきます。
・ BLUE Plasticsプロジェクトの取り組み
BLUE Plastics(Blockchain Loop to Unlock the value of the circular Economy、ブルー・プラスチックス)プロジェクトを発足し、サーキュラーエコノミーを実現するための取り組みとして、再生プラスチックのリサイクルチェーンの情報をブロックチェーン上で管理・可視化し、消費者が安心して再生プラスチックを利用できる環境の整備に取り組んでいます。本プロジェクトでの実証実験を通じて得られた知見をもとに、実証実験の規模、製品や素材の種類を拡大させ、再生プラスチックの利活用促進と本プロジェクトの早期の社会実装に向けて取り組んでいきます。
・ XRP(セルロースナノファイバーコンポジット)の開発
バイオ由来のセルロースナノファイバーと、エンジニアリング樹脂をナノコンポジット化することで、素材の高機能化と環境技術を両立し、サステナビリティに貢献する製品の実現を目指しています。当社グループでは、セルロースナノファイバーからセルロースナノファイバーコンポジットまでの一貫製造プロセスを保有していることの特長を活かし、今後は低コスト、低環境負荷、高機能を満たす製品開発及びマーケティング活動を通じた事業化の検討を進めていきます。
・ エンジニアリング樹脂発泡体の開発
自動車の車体軽量化に寄与する、構造部品向けのエンジニアリング樹脂発泡体の開発を進めています。ポリアミド発泡体では、高い発泡倍率と吸音性能を強みとして展開を加速し、各自動車メーカーや自動車部材メーカーとの関係を活かしたマーケティングを進めています。また、独自のCAE(Computer Aided Engineering)技術の高度化を推進し、部品設計の提案まで手掛けることにより、提供価値の創出に努めています。
・ 深紫外LED/深紫外レーザーの開発
現在、殺菌、ウイルス不活性化に最も効果の高い、波長265nmを高出力で実現できる深紫外LEDの展開を実施していますが、更なる高出力化に向けた研究や、基板の大口径化や高品質化にも継続して取り組んでいます。また、名古屋大学との協力により、深紫外レーザーの開発を行っており、2019年にはUV-C帯の世界で最も短波長のレーザー発振に成功しました。今後は、ガス分析等センシングへの応用、局所殺菌、DNAや微粒子などの計測・解析といった、ヘルスケア・医療分野への応用の検討を進めていきます。
当社グループ全体(「全社」)に係る研究開発費の金額は、13,712百万円です。
(2) 「マテリアル」セグメント
・ 基盤マテリアル事業
アクリロニトリル事業では当社の強みである触媒のブラッシュアップに継続的に取り組んでいます。
・ パフォーマンスプロダクツ事業
繊維事業では、自動車内装材、アパレル、おむつの3つを重点マーケット領域と定め、人工皮革「ラムース®」、ナイロン66繊維「レオナ®」、キュプラ繊維「ベンベルグ®」、ポリウレタン弾性繊維「ロイカ®」及び各種不織布を軸に、独自性を活かし、かつ、サステナビリティに対応した付加価値の高い製品創出や生産プロセス革新のための研究開発を進めています。
また、生活者の視点と健康で快適な暮らしへの貢献を意識し、新事業領域として、新規セルロース素材の事業化や、高機能テキスタイル、新基軸不織布の開発などにも取り組んでいます。
高機能ポリマー事業では、新たなポリマー設計による高剛性・易成形性のポリアミドや次世代低燃費タイヤ用変性S-SBRなどの開発が進捗しています。また、環境負荷低減に貢献するバイオマス由来原料化に加え、リサイクル原材料の積極的な活用を検討しています。さらに、独自のCAE(Computer Aided Engineering)技術の高度化を推進し、機能樹脂事業において新規用途開拓と海外展開を加速していきます。
・ スペシャルティソリューション事業
電子材料事業では、最先端半導体・実装プロセス革新に向け、感光性ポリイミド「パイメル™」や感光性ドライフィルム「サンフォート™」など先進・独自の技術による高付加価値製品の展開を進めています。さらに電子部品事業との融合を図り、デジタル社会で求められるニーズに対し特徴ある部品、部材、ソリューションを展開していきます。
セパレータ事業では、高分子設計・合成や、製膜加工や塗工などのコア技術を活かして、「省資源・省エネルギー」「環境負荷軽減」「再生可能エネルギーの普及」に貢献する新規材料の開発を推進しています。電気自動車等の環境対応車、電子機器、電動ツールや蓄電システム用途に展開するリチウムイオン電池用高機能セパレータや鉛蓄電池用セパレータ等の環境・エネルギー関連素材の展開に注力していきます。
電子部品事業では、デジタル社会の進展に対応し、「音」「磁気」「ガス」のセンシング技術を主軸に、省エネ・健康・快適に繋がるソリューションを提供できる技術及び製品の開発を推進しています。豊富な技術資産と柔軟なエンジニア組織運営により、センサ・ミックスドシグナルLSI・アルゴリズム技術等を融合し、独自のソフトウェアを活かした高機能電子部品の開発のみならず、モジュール型ビジネスへの展開にも積極的に取り組んでいきます。
当セグメントに係る研究開発費の金額は
(3) 「住宅」セグメント
住宅事業では、「ロングライフの実現」を支えるコア技術について、重点的な研究開発を続けています。シェルター技術については、安全性(耐震・制震技術、火災時の安全性向上技術)、耐久性(耐久性向上・評価技術、維持管理技術、リフォーム技術)に加えて、居住性(温熱・空気環境技術、遮音技術)、環境対応性(省エネルギー技術、低炭素化技術)の開発を行っています。また、住ソフト技術については、都市部における二世帯同居やシニア等の住まい方についての研究を推進するとともに、住宅における生活エネルギー消費量削減と人の生理・心理から捉えた快適性を研究し、健康・快適性と省エネルギーを両立させる、環境共生型住まいを実現する技術開発に注力しています。
建材事業では、「良質空間を追求し、グッドマテリアルを通じて、未来を見据え新たな価値を創造する」を事業ビジョンとし、軽量気泡コンクリート(ALC)、フェノールフォーム断熱材、杭基礎、鉄骨造構造資材の4つの事業分野において基盤技術の強化を推進しています。
当セグメントに係る研究開発費の金額は
(4) 「ヘルスケア」セグメント
医薬事業では、自社オリジナル製品の研究開発で培った経験をもとに、免疫領域(SLE、移植等)、整形外科領域(骨、疼痛等)及び救急領域を中心に、有効な治療方法がない医療ニーズを解決することによって、「健康でいたい」と願う世界中の人びとのQOL(Quality of Life)向上を図ることを目指して、積極的な研究開発を行っています。創薬技術や創薬シーズ、創薬テーマについては、世界中の企業や大学とのコラボレーションを積極的に推進することによって、絶えざる革新を日々進めています。
医療事業では、治療の可能性を広げ、医療水準を向上させる製品、技術、サービスを提供するために、グループ総力を挙げた研究開発に取り組んでいます。これまで培ってきた豊富な基礎技術と研究開発の応用により、人工腎臓、血液浄化治療、輸血製剤の白血球除去、製剤のウイルス安全性確保をはじめとしたバイオプロセス分野における技術をさらに発展させていきます。
クリティカルケア事業では、突然の心停止からの生存率を向上する技術開発を原点とし、新規領域にも研究開発を広げています。予後が悪く医療ニーズの高い、急性心筋梗塞・脳卒中・呼吸困難等の救急医療に対する新規治療法や技術の発展と提供を通じ、患者様と臨床医に役立つことを使命としています。
当セグメントに係る研究開発費の金額は
(5) 「その他」
エンジニアリング分野等に関する研究開発を行っています。当セグメントに係る研究開発費の金額は