第2 【事業の状況】

 

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。

 

(1) 経営方針・経営戦略等

① 当社グループミッション等

当社グループでは、「世界の人びとの“いのち”と“くらし”に貢献します。」というグループミッション(存在意義)のもと、「健康で快適な生活」と「環境との共生」の実現を通して、社会に新たな価値を提供することをグループビジョン(目指す姿)として掲げています

また、グループバリュー(共通の価値観)として「誠実」「挑戦」「創造」を定めており、すべてのステークホルダーの皆様に対し「誠実」に経営することを通じて、社会の課題解決や事業環境の変化に積極果敢に「挑戦」し、絶えず新たな価値を「創造」することで、事業を通じて企業の社会的責任を果たしていくことを基本方針としています

 

② 当社グループ全体の経営方針・経営戦略等

<経営環境・経営課題>

国連の「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に示されるように、持続可能な社会に向けては様々な課題があり、世界中で取り組みが進められています。しかし、国連の2024年の報告によれば、持続可能な開発目標(SDGs)のうち、進捗が順調であると評価されたのはわずか17%に過ぎません。課題解決にはなお多くの挑戦が必要です。

例えば、2024年には世界の年間平均気温が産業革命以来の上昇幅で初めて1.5℃を超えたと報告されており、地球温暖化は進行し、災害も多発しています。また、世界の人口増加による資源不足、生物多様性の喪失などが広がる一方で、健康や安心・快適な生活への期待がますます高まっています

創業以来の1世紀にわたり、各時代のニーズに応えながら成長してきた当社グループにとって、これらの持続可能な社会に向けた課題は、自らの挑戦課題であると同時に、事業機会として位置づけ、積極的に取り組むものです。これらの課題は1つの企業・産業で解決できないものも多く、企業や産業を超えた共創がますます重要になってきます。例えば、住宅とエネルギー、医療と住宅等のように、これまでの産業の境界を越えて相互に関連しあうテーマ・課題が多く存在しています。このような環境は、マテリアル・住宅・ヘルスケアの3つの領域を持つ当社にとっては大きな事業機会であると認識しています。また当社は100年の歴史で培った人財・コア技術・ブランド・経営ナレッジ等、多様な資産を有しています。グループの特長である多様性(Diversity)を活かし、競合との差別化を重視したアプローチによって高付加価値・高収益(Specialty)のイノベーティブな製品・サービス・ビジネスモデルを持続的に創出していくことを目指します。

一方、足元の状況を見ると、経営環境は急激に変化し、不確実性が著しく高まっています。世界各地で発生している紛争、政情不安、社会的分断や、政策予見性の低下は、エネルギーや原材料などのサプライチェーンの不安定化、金融市場の変動、世界経済の下振れなどのリスク要因となっています。そのような経営環境をしっかりと見極めた上で、グループ全体が1つのチームとして力を結集し、お客様や同業他社、投資家など様々なステークホルダーとともに道を切り拓いて、価値を提供することで、「持続可能な社会への貢献」と「持続的な企業価値向上」の2つの持続可能性(サステナビリティ)の好循環を追求していきます。

 

ⅰ サステナビリティマネジメントの強化

当社グループは、2021年度に「サステナビリティ基本方針」を制定しました。これは、サステナビリティに関する方針をより具体的に記述することで、当社グループの方針を明示するとともに、持続可能な社会の実現に向けた行動を一段と推進していくことを狙いとするものです

 


 

ⅱ 「中期経営計画2024 ~Be a Trailblazer~」の振り返り

2022年度から2024年度までの「中期経営計画2024 ~Be a Trailblazer~」(以下、「前中計」)では、「スピード」「アセットライト」「高付加価値」の3つを強く意識しながら、成長投資と構造転換の両輪による事業ポートフォリオ変革を進めました。中期視点での持続的な成長に向けて、スウェーデンの製薬企業Calliditas Therapeutics ABの買収や車載リチウムイオン電池用セパレータの工場建設などの投資決定を行いました。

一方、構造転換については、血液浄化事業の譲渡など合計売上高800億円以上の事業を対象に意思決定を行いました。石油化学チェーン関連事業では、アクリロニトリル事業等を運営するタイのPTT Asahi Chemical Co., Ltd.(PTTAC)の事業撤退の決定や、中長期視点で西日本におけるエチレン製造設備のグリーン化並びに将来の能力削減も含めた生産体制最適化の検討を開始しました。

経営指標に関しては、経営環境の悪化を受けマテリアル領域を中心に収益が低迷した影響で、2022年度には減損を計上しROEが大きく低下しました。最終年度の2024年度においては、住宅領域、ヘルスケア領域の堅調な成長に加え、マテリアル領域の利益回復により、営業利益は過去最高となりました。営業利益、当期純利益等は当初計画未達となりましたが、財務健全性については、積極的な投資を進めながらも概ね高い水準を維持しました。2024年度の業績は営業利益:2,119億円、ROE:7.4%、ROIC:5.5%となっています。

今後はこれまでの投資成果の創出と、構造転換や生産性向上の取り組みを通じて、利益成長と資本効率の改善を目指します。

 

経営方針・経営戦略>

● 旭化成が2030年に目指す姿

当社はグループビジョンに掲げている「健康で快適な生活」と「環境との共生」の実現を通して、社会に新たな価値を提供するべく企業活動を行っています。持続可能な社会に貢献すると同時に、それを当社グループの企業価値の向上につなげていく、という2つのサステナビリティの好循環の実現を目指しています。それに向けて、マテリアル、住宅、ヘルスケアの3つの領域がそれぞれのあり方に基づき、様々な課題の解決、及び実現したい姿に向けて事業を展開しています。多様な事業が社会課題に正面から対峙して、価値提供することで、“持続的にイノベーティブな製品・サービス・ビジネスモデルを創出”することを目指しています。その結果として、高い利益成長と資本効率の向上を実現し、当社グループとして2030年近傍には、営業利益3,800億円、ROIC8%以上、ROE12%以上を目指します。

 


 

● 旭化成の特長 「Diversity × Specialty」

当社の特長を表す「Diversity × Specialty」は当社の価値提供の源泉となっています。

「Diversity」は多様な事業展開による成長機会の豊富さや安定的な収益創出力を、「Specialty」は競合との差別化を重視した事業アプローチを通じた高付加価値、高収益の実現を示しています。

DiversityとSpecialtyを掛け合わせる事で、「高い経営安定性」と「成長・新しい事業への挑戦」、「持続的なイノベーションの創出」の好循環が生み出されています。

グループの経営基盤を各領域が共有し合い、柔軟に相互活用することで、それぞれが旭化成らしい勝ち筋で価値を提供する、という姿は旭化成独自のエコシステムとなっています。


 

 

● 「中期経営計画2027 ~Trailblaze Together~」の概要

2025年4月に発表した「中期経営計画2027 ~Trailblaze Together~」(以下、「本中計」)は、当社が目指す「持続可能な社会への貢献」と「持続的な企業価値向上」の2つのサステナビリティの好循環の実現に向けた、2025年度から2027年度の3年間の経営計画になります。

投資成果創出による利益成長、構造転換や生産性向上による資本効率改善に加え、経営基盤のさらなる強化・活用により、「Diversity × Specialty」を進化させ、最終年度の2027年度には営業利益2,700億円、のれん償却前営業利益3,060億円、ROIC6%、ROE9%を目指します。

 

ⅰ 投資成果創出による利益成長

2027年度の利益目標である2,700億円に向けては、医薬、クリティカルケア、海外住宅が主な利益成長ドライバーとなります。特に医薬と海外住宅については、M&Aを中心とした先行的投資から確実に利益を創出することが極めて重要です。加えてエレクトロニクスの着実な利益成長や、エナジー&インフラにおけるセパレータの収益改善を見込んでいます。

中期視点での持続的な利益成長に向けては、リソースアロケーションをより明確にし、成長が期待できる事業へ重点的に投入します。本中計においては、事業を10の区分に分け、事業ポートフォリオの方向性や各事業の戦略をより明確にしています。「重点成長」「戦略的成長」事業への投資継続による利益成長の実現と並行して、「収益改善・事業モデル転換」事業の改革も進めます


 

ⅱ 構造転換や生産性向上による資本効率改善

収益性・資本効率の低い事業については、構造転換・事業モデルの再構築を進め、資本の最適配置を図ります。本中計においてはマテリアル領域のポートフォリオ変革をさらに加速させ、同領域の2024年度売上高の約20%に相当する事業の構造転換を目指します。特にケミカル事業においては、「ベストオーナー視点での改革」「他社連携による最適化・強化」「自社での構造転換」の3つのアプローチで構造転換を推進しています。これにより、ROICやROEの継続的な改善を目指します。


ⅲ 「Diversity × Specialty」の進化

前中計期間においては、マテリアル領域は事業環境変化を受け構造転換に注力する一方で、住宅領域、ヘルスケア領域は順調に成長しました

その結果として、2024年度においては住宅領域の営業利益額が3領域の中で最も大きくなり、2030年度に向けては各領域がほぼ同水準の利益目標を目指す形になります。それに合わせる形で今後の成長投資はヘルスケア領域や住宅領域へのアロケーションを増加させます。マテリアル領域は事業ポートフォリオ転換と重点成長事業の投資からの利益創出を通じて2030年度の利益目標の達成を目指します

「Diversity × Specialty」の進化により、マテリアル領域を中心とする事業構成から、3つの領域における高付加価値事業が高水準の利益貢献を果たす姿へシフトさせていきます。


 

ⅳ 財務・資本政策

(外部環境・課題)

前中計期間においては、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー価格の高騰や中国経済の成長鈍化等の厳しい経営環境の中でも、当初計画に沿った形で中期的な成長に向けた成長投資を決定しました

財務健全性を示すD/Eレシオは想定の水準を維持できているものの、生産性向上やコスト削減などによる体質強化を図り、アセットライトを意識した事業モデルへの転換などを通じてキャッシュ創出力や資本効率を持続的に高めていきます。

 

(具体的な方針・戦略)

■ 資金の源泉と使途の枠組み

本中計の3年間においては、約1兆2,000億円のキャッシュ・インとキャッシュ・アウトを計画しています。キャッシュ・インにおいては営業キャッシュ・フローが約75%を占め、残りの約25%は有利子負債、事業売却、他社資本の活用などにより調達する予定です。

キャッシュ・アウトに関しては成長に向けた投資と株主還元のバランスを重視し、約80%を事業投資、約20%を株主還元とする計画です。

財務健全性指標としてD/Eレシオは0.7程度、有利子負債/EBITDA倍率は3.0程度を目安として、資本のバランスをマネジメントします。


 

 

■ 設備投資・投融資

本中計の3年間においては累計で約1兆円の投資(意思決定ベース)を計画しており、そのうち拡大関連投資としては6,700億円を見込んでおります。ヘルスケア領域におけるM&Aを中心とした成長投資に加え、住宅領域においても国内外で中期的成長のための投資を検討する予定です。一方で、マテリアル領域については厳選した事業にフォーカスした投資をすることで、優先順位をより明確にしたリソースアロケーションとしていきます

投資の意思決定にあたっては、他社資本や補助金を戦略的に活用することを検討します。また、主要な案件ごとに事業の収益性・資本効率や事業ポートフォリオ上の位置づけ等を踏まえた上でのハードルレートを定めています。今後も財務規律を強く意識した上で投資判断を行います。


■ 株主還元

株主還元の基本的な考え方としては、累進配当を特に重視した上で、還元水準の継続的向上を図っていきます。その方針をフォローするため、DOEを指標とした上で、DOE3%程度を目安に中長期的な累進配当を目指します。2024年度は上記の方針に基づき、1株当たり年間配当金として38円と、前期比で2円増配します。2025年度以降も引き続き配当金維持・向上を予定しています。自己株式取得は資本構成適正化に加え、投資案件やキャッシュ・フロー、株価の状況等を総合的に勘案して検討・実施していきます。配当政策については、「第4 提出会社の状況 3 配当政策」と合わせてご参照ください。

 

■ 資本効率の改善と企業価値の向上

本中計においても、前中計に引き続き資本効率を重視しています。ROEについては、減損を計上した2022年度から改善しているものの、現状では株主資本コストの8%を下回っており、PBRについては2021年度以降1倍を下回る状況が続いています。本中計の最終年度では9%を計画していますが、足元においてもROE改善策を進め、まずPBRが1倍を早急に超えるように最善を尽くします。改善に向けて次の5つの取り組みに注力します

事業ポートフォリオ変革加速

②収益力向上

③投資マネジメント強化

④資本構成の最適化

⑤資本コスト低減

この中でも特に「事業ポートフォリオ変革加速」と「収益力向上」に重点的に取り組み、それらの成果創出を通じてPBR水準の向上、及び企業価値の向上を追求します。


ⅴ 経営基盤の強化

経営環境の不透明さが増す中では、事業の土台となる経営基盤をより強固にすることが重要であると考えています。経営基盤強化として、「グリーントランスフォーメーション」「人財のトランスフォーメーション」「無形資産の活用」「リスクマネジメントの強化」「コーポレート・ガバナンスの最適化」について重点的に取り組んでいます。

 

 

■ グリーントランスフォーメーション

当社グループは持続可能な社会の実現に向けて、2050年時点でのカーボンニュートラル(実質排出ゼロ)を目指しています。また、GHG排出量を2013年度対比で2030年には30%以上の削減、2035年には40%以上の削減を目指しています。カーボンニュートラルの実現に向け、エネルギー使用量の削減、エネルギーの脱炭素化、製造プロセスの革新、高付加価値/低炭素型事業へのシフトなど、様々な取り組みを加速させていきます。自社のGHG排出量の削減への注力に加え、製品やサービスでバリューチェーン全体のGHG排出量削減に貢献することも重要なテーマとして取り組んでいます。当社では第三者専門家の視点を入れて妥当性を確認した、GHG排出量削減効果を期待できる製品・サービスを「環境貢献製品」として拡大・普及することを進めています。これらの「環境貢献製品」によるGHG削減貢献量を、2030年度には2020年度の2倍以上、2035年度には2.5倍以上とすることを目標としています


 

■ 人財のトランスフォーメーション

当社は挑戦・成長を自ら求めていく「終身成長」と、多様性を促す「共創力」を人財戦略の柱としています。これらは当社が100年かけて培った、グループバリュー、多様性、自由闊達な風土などの無形資産をさらに磨き、活かしきるということでもあります

その取り組みを加速させるために、挑戦的風土の強化を狙った新しい人事制度への移行を進めています。「Fair+Open」のコンセプトの下、社員が新たなことに挑戦したり、高い成果・貢献をあげた場合に、これまで以上に積極的に評価・報酬・昇格につなげる形にしていきます

これらの取り組みが、「従業員の活力と働きがいの向上」と「旭化成グループの持続的成長」の好循環につながると考えています。主要KPIとしては、「従業員エンゲージメント(成長行動指標)」「ラインポスト+高度専門職における女性比率」「従業員エンゲージメント(活力指標)」を掲げています

具体的な施策概要は「第2 事業の状況 2 サステナビリティに関する考え方及び取組 [個別重要課題] (2) 人的資本・多様性」に記載しているほか、当社統合報告書及びサステナビリティウェブサイトにも記載しています。

統合報告書;

https://www.asahi-kasei.com/jp/ir/library/asahikasei_report/

サステナビリティウェブサイト;

https://www.asahi-kasei.com/jp/sustainability/social/human_resources/

 

 


 

■ 無形資産の最大活用

当社は3領域にわたり、人財、コア技術、マーケティングチャネル等、多様な無形資産を持ち、活用できることが強みであり、これらの無形資産を最大限活用することにより、戦略構築や新事業の創出を推進しています。特にマテリアル領域においては「ソリューション型事業」や「ライセンス型事業」の展開を推進しています

中でも「ライセンス型事業」は新たな収益源として期待を寄せており、本中計の3年間で、10件の新規のライセンス契約締結を目標としています。2030年までの累積の利益貢献として100億円以上を目指します。

デジタル基盤については、通常の業務の中でDX(デジタルトランスフォーメーション)を当たり前のものとして進める「デジタルノーマル期」に入っており、AIの積極的導入による全社横断型の経営基盤づくりや事業モデルの変革、さらなる業務の高度化や生産性向上などにつなげていきます。当社は経済産業省が東京証券取引所と共同で選定する「DX銘柄」に2021年から2025年まで5年連続で選出されました。


 

 

■ リスクマネジメントの強化

詳細は、「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」をご参照ください

 

■ コーポレート・ガバナンスの最適化

詳細は、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等」をご参照ください

 

ⅵ 財務・非財務主要KPI

本中計の実行にあたっては、財務・非財務のKPIを明確にして各施策を実行していきます。財務KPIにおいては、利益成長・資本効率の視点で、営業利益、ROE、ROICの2027年度の目標と2030年度の展望を設定しています。非財務KPIに関しては、GXの観点では当社GHG排出量、環境貢献製品を通じたGHG削減貢献量、無形資産の活用の観点ではライセンス契約の新規締結件数、人財の観点では従業員エンゲージメント調査の活力指標を主要なKPIとして設定しています。

 

中期経営計画2027で設定した財務・非財務主要KPI一覧


 

③ 各セグメントの経営方針・経営戦略等

中期経営計画に定める各セグメントの目標に向けて、以下の経営方針・経営戦略を実行していきます。

 

 「マテリアル」セグメント

本セグメントにおいては、3事業本部制から一体運営へ変更し、併せてコーポレートの研究開発とDX関連の機能の一部を本セグメントへ再編することで、構造転換やキャッシュ・フロー及び投下資本管理の徹底など体質強化を図りながら、半導体関連やカーインテリア、エナジー&インフラ分野での事業拡大による利益成長を目指します

●事業の方向性:

「カスタマーオリエンテッド型」「ソリューション型」事業の拡大による持続的成長と他社との連携や外部リソースを活用した事業価値の最大化

 

●注視する事業環境:

DX・AI技術を支える半導体の市場成長、欧米自動車メーカーの動向、グローバルEV市場動向

 

 

経営環境・経営課題

本セグメントにおいては、事業ポートフォリオの転換を最も重要な経営課題と認識し、次の成長分野への重点的な投資を行う一方で、既存アセットを最大活用することでのキャッシュ創出や事業の構造改革を推進しています。なお2025年4月より、本セグメント内の事業をエレクトロニクス、カーインテリア、エナジー&インフラ、コンフォートライフ、パフォーマンスケミカル、エッセンシャルケミカルという6つの事業分野に再編し、運営しています。これらの事業において、ビジネスモデルや市場の状況、競争優位性等の事業環境は、製品群によって大きく異なるため、各事業が置かれている環境認識に基づいた経営課題に対して取り組んでいます。本セグメントにおける経営環境は以下のとおりと認識しています

ⅰ エレクトロニクス事業

・生成AIの普及やデータセンター拡大に伴う、先端半導体技術のニーズの高まり

・通信技術の高度化等、新たなライフスタイルによる様々なセンシングニーズの高まり

 

ⅱ カーインテリア事業

自動運転の普及に伴う、車室空間の「居心地」に対するニーズの多様化

デザイン性や機能性を両立し、かつ環境負荷の低い素材へのニーズの高まり

 

ⅲ エナジー&インフラ事業

主要国における電気自動車等の環境対応車の需要の立ち上がりと、それに向けたリチウムイオン電池需要の高まり

・米国の規制強化によるアスベスト製隔膜法プラントからイオン交換膜法食塩電解へ転換する動きや、インドや東南アジアでの電解プラントの新増設等に伴う、イオン交換膜需要の高まり

 

ⅳ コンフォートライフ事業

欧米ジェネリック医薬品向け製造拠点としてのインドや高齢化が進展する中国など、グローバルな医薬品市場の成長に伴う医薬品添加剤需要の安定成長

 

ⅴ パフォーマンスケミカル事業

「CASE」と呼ばれる自動車業界の変革と、それに伴う技術革新の進展や新たなニーズの高まり

低炭素社会の実現に向けた電気自動車等の環境対応車の需要拡大や資源の有効活用など、自動車業界における環境負荷低減の動き

 

 

ⅵ エッセンシャルケミカル事業

中国の設備増強と内製化進展による石油化学製品のアジア輸出需要の変化、またこれに伴う日本国内の石油化学コンビナート再編の動き

カーボンニュートラルの動きを受けた、石油化学関連製品の中長期視点でのサステナビリティ対応の加速、脱炭素に貢献する技術やソリューションに対するニーズの高まり

 

<経営方針・経営戦略>

本セグメントにおける主な取り組みの方針・進捗は、以下のとおりです。

ⅰ エレクトロニクス事業

■ 価値提供の方向性:カスタマーオリエンテッド型による高付加価値素材の提供

デジタル社会の進展で求められるニーズへの、特徴ある部品・部材、ソリューションの提供

■ 主な取り組み

電子材料、基板材料事業:AI活用等、DXの加速による先端半導体の進化を支える革新材料開発の強化

・電子部品:省エネ・快適市場において競争力のあるセンシングデバイス・ソリューションの展開

電子材料と電子部品との融合による特徴ある部材・部品、ソリューションの展開

 

ⅱ カーインテリア事業

■ 価値提供の方向性:カスタマーオリエンテッド型の商品ラインアップ、対応力による提案力強化

キーカスタマーへの横断的なマーケティング強化

■ 主な取り組み

Sage Automotive Interiors, Inc.の事業を軸にして、ファブリック、合成皮革、さらに環境特性に優れたスエード調人工皮革「Dinamica®」を加えた幅広い素材ラインアップと高いデザイン力を融合させた内装材プラットフォームの構築

・地域、素材ごとの最適な生産供給体制構築による、コスト競争力の強化

・環境に配慮した製法による高級感ある新素材、新製品の開発

 

ⅲ エナジー&インフラ事業

■ 価値提供の方向性:独自の技術・知見を活かしたソリューション提供

・これまでに培った技術や知見などの事業基盤を活かした、旭化成が目指す2つのサステナビリティ(「持続可能な社会への貢献」と「持続的な企業価値向上」)の好循環の実現への貢献

■ 主な取り組み

・グリーンな素材とソリューションの提供(水素関連の事業化推進、CO2ケミストリーの多面的展開)

・蓄エネルギー分野の深耕(セパレータ事業の成長追求、知見を活かした新しい事業展開)

イオン交換膜法食塩電解事業を起点とした製造型リカーリングビジネスの拡充と高度化

 

 

Ⅱ 「住宅」セグメント

●事業の方向性:

国内住宅は継続的な収益力強化に加え、中期的な成長機会を探索。海外住宅は独自のビジネスモデルによる展開を通じた持続的成長を追求

 

●注視する事業環境:

国内の戸建住宅、不動産関連の市場動向、米国・豪州における景気や金利政策の住宅需要影響

 

 

<経営環境・経営課題>

国内の住宅市場では、住宅ローン金利が上昇傾向にあることに加え、資材価格高騰や労務費の増加による建設コストの上昇及び物価上昇による消費マインドの低下などもあり、住宅需要について引き続き注視が必要な状況が続いています。このような状況の中、引き続き社会課題の解決と、お客様満足のさらなる向上に取り組んでいます。国内の住宅事業においては、DXを活用したオンライン集客・紹介活動の拡大等による集客におけるビジネスモデルの転換や、都市・近郊・郊外それぞれのエリア特性・お客様のニーズに合わせたサービスの実施、高付加価値化へのさらなるシフトを通じ、引き続き高品質な住まいの提案に努めていきます。また、気候変動に伴う自然災害の多発化、脱炭素化の加速、環境への配慮による省エネ性能の高い住宅の需要の高まり等、住宅を取り巻くニーズは変化し続けており、環境関連においても積極的に取り組みを行っています。

海外の住宅市場では、経済政策の動向や為替変動、住宅価格の高騰、住宅ローン金利高止まりの影響等について引き続き注視が必要な状況が続いていますが、供給不足を背景とする潜在的な需要は高く、今後も事業展開の拡大を行っていく必要があると考えています

 

<経営方針・経営戦略>

本セグメントにおける主な取り組みの方針・進捗は、以下のとおりです

ⅰ デジタル技術を活用したマーケティング等による集客、受注活動の推進や生産性の向上

ⅱ サステナビリティ活動の推進

旭化成ホームズ㈱が、事業活動で消費する電力を100%再生可能エネルギーで調達することを目標とする国際的イニシアチブである「RE100」において、2023年度に「RE100」達成

・旭化成ホームズ㈱が、国際的イニシアチブ「RE100」が主催する「RE100 Leadership Awards 2024」において、「RE100 enterprising leader」を受賞

・旭化成ホームズ㈱が、一般社団法人産業環境管理協会主催の「令和6年度 資源循環技術・システム表彰」において、経済産業大臣賞を受賞

・旭化成ホームズ㈱が、環境省の「エコ・ファースト制度」において、「エコ・ファースト企業」に認定

旭化成ホームズ㈱が、環境省主催の令和6年度「気候変動アクション環境大臣表彰」において、「ハウスメーカー由来の電力事業による循環型エネルギー社会の実現」の取り組みを評価され先進導入・積極実践部門 緩和分野を受賞

・旭化成ホームズ㈱が、経済産業省の「GX率先実行宣言」の枠組みに賛同し、2025年1月に同宣言を公表

・旭化成富士支社の工場跡地に設けた環境再生ゾーンである「あさひ・いのちの森」が、公益財団法人都市緑化機構が主催する「SEGES(シージェス:社会・環境貢献緑地評価システム)そだてる緑」においてSuperlative Stage認定を取得

・ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)・ZEH-M(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス・マンション)普及に向けた取り組みの推進

・環境貢献度の高い断熱材「ネオマフォーム™」の拡販

ⅲ レジリエンスの強化

・耐震性、耐火性の高い住宅の提供や防災科学技術研究所とのリアルタイム地震被害推定システム研究など、安心できる住まいを実現させる取り組みの推進

旭化成ホームズ㈱の「HEBEL HAUS トータルレジリエンス2.0」(総合防災力強化の取り組み)が、一般社団法人レジリエンスジャパン推進協議会主催の「第11回ジャパン・レジリエンス・アワード(強靭化大賞)2025」において、「ジャパン・レジリエンス・アワード 優秀賞」を受賞

 

ⅳ 海外事業の展開加速

・豪州事業

大手戸建住宅会社であるNEX Building Group Pty Ltdを中心に、同社の創業の地であるニューサウスウェールズ州以外にも新たなビルダーの買収を通じてエリアを広げ、現在は計5州で事業を展開しています。引き続き生産性・収益性向上に向けた業務プロセスの高度化や、拡販による各エリアのシェアアップでの利益拡大を目指し、ビルダー単独・サプライヤー単独では成しえない多様な価値提供による競争優位性の高い豪州モデルを確立させることで、豪州における注文住宅の建築請負及び分譲住宅の販売においてトップブランドを目指します

北米事業

北米のホールディングカンパニーであるSynergos Companies LLCは、建築部材を手掛けるErickson Framing Operations LLCやFocus Companies LLC、基礎・電気・空調設備工事を行うAustin Companies LLC、配管工事を行うBrewer Operations LLCなどのサブコンストラクターを中心に、建築工程の中核となる業種を統合し工業化建築を推進することで、米国の建築業界に施工の効率化という新たな価値を生み出し、高品質な住まいの提供に貢献しています。また、住宅需要の高いアリゾナ州、ネバダ州、フロリダ州に厳選して地域展開を図り事業規模を拡大しています。今後さらなる成長を追求すべく、テキサス州への展開等さらなるエリア拡大も検討し、より一層の成長に向けて事業を推進していきます。

 

Ⅲ 「ヘルスケア」セグメント

●事業の方向性:

医薬を中心にこれまでの成長投資を結実させ、グループの利益成長を牽引。中期視点での持続的高成長に向けた拡大投資を継続

 

●注視する事業環境:

対象疾患の患者数・ガイドライン、血漿製剤・バイオ医薬品の市場動向、米国の景気動向・保険会社の動向

 

 

<経営環境・経営課題>

医薬事業においては、2024年5月にCalliditasの買収を発表し、2020年に買収したVeloxisと合わせてグローバルな事業展開を進めており、日米における主力医薬品の販売が伸長したことにより売上高は堅調に増加しています。医療事業においては、生物学的製剤市場の継続的な成長と製薬会社における新薬の開発及び商業生産化へのニーズの高まりにより、ウイルス除去フィルターの需要が増加しています。顧客の在庫調整による一時的な需要停滞は落ち着き、既に増加基調へと転じており、安定生産と生産能力増強を通じて供給責任を果たしていきます。クリティカルケア事業においては、主力のAED(自動体外式除細動器)の販売が前期の出荷増加に伴う在庫調整により一時的に停滞していましたが、足元では改善しており、今後は市場環境回復に合わせた成長を継続していく見通しです。なお、2024年度は医薬事業において診断薬事業などの、医療事業においては血液浄化事業の事業譲渡を決定致しました

中長期的には、国内では医療費削減圧力が高まることによる市場成長の鈍化が予想される一方、先進諸外国においては、より良い医療に対するニーズの高まりや長寿社会の進展に伴い、引き続き安定的な市場成長が継続すると認識しています。そのため、本セグメントの中長期的な成長のための課題は、グローバルにおける事業展開を加速することであり、当社グループに足りない経営資源を追加・補強する手段としてM&Aやライセンス導入による事業開発を推進していきます

今後は、2021年度にクリティカルケア事業のZOLLが買収したRespicardia, Inc.やItamar Medical Ltd.、2022年度に医療事業の旭化成メディカル㈱が買収したBionova Scientific, LLC、2024年度に当社が買収したCalliditasなど、過去に投資実行した案件の収益成長による投資成果の刈り取りを図るとともに、既存事業の成長とM&A等の事業開発の活用を継続し、医薬・医療機器の双方でグローバル市場における幅広い事業機会を捉え、当社グループの成長を牽引することを目指します

 

 

<経営方針と経営戦略>

本セグメントにおける主な取り組みの方針・進捗は、以下のとおりです

ⅰ 医薬事業

旭化成ファーマ㈱とVeloxisの強みを活かしたグローバルスペシャリティファーマへの進化が着実に進んでいます。事業開発、臨床開発における両社の知見を統合し、免疫・移植の周辺領域での成長の可能性を最大限に追求します。2024年度からは日米の医薬事業を統合した「One AK (Asahi Kasei)Pharma体制」への移行を開始しています。免疫・移植周辺を中心とした疾患領域、及び大病院市場へフォーカスし、旭化成ファーマ㈱、VeloxisとCalliditasの連携のもとで事業開発、臨床開発、販売を推進していきます。

・Veloxisの腎移植手術患者向け免疫抑制剤「Envarsus XR™」の販売が着実に伸長しています。また将来に向けたパイプライン強化のため、OSE Immunotherapeutics SAから導入したCD28阻害薬「VEL-101」(臓器移植における新規免疫抑制薬)の開発を進めています。

・Calliditasを買収し、IgA腎症の治療薬として初めて承認された医薬品「TARPEYO™」の販売拡大を目指します。

・国内市場では重点領域(整形外科領域、救急集中治療、免疫)における新薬上市と販売の拡大を継続します。整形外科領域においては、骨粗鬆症治療薬「テリボン®オートインジェクター」のさらなる市場への浸透を図ります。免疫領域においては、関節リウマチ治療剤「ケブザラ®」と、2021年度にサノフィ㈱より導入した免疫調整剤「プラケニル®」のさらなる市場浸透を図ります。研究開発においては、オープンイノベーションや事業開発を活用し、重点領域におけるパイプラインを拡充しています。2022年度には、発作性夜間ヘモグロビン尿症に対する補体C3阻害薬「エムパベリ®」及び慢性肝疾患における血小板減少症改善薬「ドプテレット®」に関して、日本国内における独占販売契約をSwedish Orphan Biovitrum Japanと締結し、2023年度に販売を開始しました。2023年度よりBasilea Pharmaceutica International Ltdより導入した深在性真菌症治療剤「クレセンバ®」の販売を開始し、さらなる市場浸透を図ります。

ⅱ 医療事業

・生物学的製剤の市場成長に合わせたウイルス除去フィルター「プラノバ™」の市場ポジション・販売拡大を目指し、生産能力増強、生産効率化及び製品開発を引き続き進めていきます。

2019年度にウイルス等安全性試験受託サービス等を手掛けるVirusure Forschung und Entwicklung GmbHを、2021年度にマイコプラズマ試験受託サービスを手掛けるBionique Testing Laboratories LLCを買収し、製薬企業向けバイオセーフティ試験受託サービス事業へ参入しています

2022年度に次世代抗体医薬品CDMOのBionova Scientific, LLCを買収し、バイオ医薬品CDMO(Contract Development and Manufacturing Organization)事業へも参入しています。これらの多様な事業展開を通じて、製剤の安全性と生産性向上に貢献する製薬企業にとってのプレミアムパートナーとなることで製薬市場の成長を取り込みます。

ⅲ クリティカルケア事業

心肺蘇生、心疾患、睡眠時無呼吸症などの重篤な心肺関連疾患領域をターゲットとし、既存事業の持続的成長、及び企業買収を通じた既存事業強化と周辺領域への拡大により成長を追求します。

・医療従事者向け除細動器や公共施設向けAEDなどの救命救急医療の市場リーダーとして、引き続き技術革新や製品・サービス開発に投資して新製品を投入し、製品ポートフォリオを多様化するとともに、米国外も含めたグローバルでの市場成長を着実に捉えていきます。

着用型自動除細動器「LifeVest®」は臨床的価値の訴求により市場浸透率をさらに高め、標準的な治療法として確立させることを目指します。

2021年度に、中枢性睡眠時無呼吸症の治療用機器を手掛けるRespicardia, Inc.、及び睡眠時無呼吸症の在宅検査・診断ソリューションを手掛けるItamar Medical Ltd.の買収により、心疾患患者が併発することの多い睡眠時無呼吸症の診断や治療のための画期的なデバイスを獲得し、新たな分野に進出しました。当該2社の事業拡大と既存の心疾患関連事業とのシナジー創出により、確実な成果の結実を目指します。

 

 

(2) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題

① 事業上の課題

「(1) 経営方針・経営戦略等 ③ 各セグメントの経営方針・経営戦略等」に記載の項目に加えて、以下の事業上の課題があります。

 

Ⅰ 「マテリアル」セグメント

ⅰ エレクトロニクス事業

情報通信機器に用いられる電子材料や電子部品のニーズは、AI需要の高まり、デジタルトランスフォーメーションの進展や次世代通信の普及に伴う情報通信高度化の需要が益々拡大することに伴い、年々増加しています。特に自動車の電動化がもたらす変化として、車両の高機能化だけでなく、充電設備の整備も急速に進められており、様々なセンシングデバイスの高度化・高信頼性化が求められています。半導体のニーズが益々拡大する一方で、米中デカップリングによるサプライチェーンの混乱や分断がもたらす影響を的確に捉えて、対応を進めていきます。

特に世界各国の半導体ファウンドリやOSAT(Outsourced Semiconductor Assembly & Test)を活用する分業体制が業界全体として展開されているため、半導体製造に関わるサプライチェーンの動向に影響を受ける可能性があります。半導体生産に必要なレアガス(希ガス)やレアメタル(希少金属)などの原材料不足や、大規模災害・パンデミック・地政学的問題などの影響を受けての需要変化による製造リードタイムの長期化など、電子部品事業において環境変化を見通しにくい状況となっています。そのような中で、半導体製造関連の主要サプライチェーンの状況(特に米国、中国、台湾)の動向をモニタリングし、リスクの発生状況を常時評価し、迅速に対応していきます。

今後も市場動向を注視しながらデジタル社会で求められる最先端のニーズを捉えて、電子材料と部品の双方を有するユニークさを活かし、特徴ある材料・部品、ソリューションを提供していきます。

 

 カーインテリア事業

車室空間には、これまでにない快適性やデザイン性に加えて、リサイクル原料の使用、車体軽量化による自動車燃費の向上、電動化等、環境負荷低減に繋がる製品が求められています。環境特性に優れたスエード調人工皮革「Dinamica®」は、需要増加に対応するため供給能力を増強するとともに、米国子会社のSage Automotive Interiors, Inc.との連携を強化し、2020年に買収した米国Adient plcのファブリック事業や、中国の合弁会社のパートナーであるOmnova社の塩化ビニル樹脂系合成皮革事業との統合効果を発現させていきます。今後も顧客要求に迅速に対応するべく、グローバル市場におけるキーカスタマーへのアプローチやデジタルマーケティングを継続するとともに、価値提供領域をカーシートに加えて天井やドア等の車室空間全体に拡大することで、持続的に成長できるビジネスモデルの構築を推進していきます

本事業は世界の自動車業界の動向に影響を受ける場合があります。2024年度の自動車内装材事業については自動車生産台数の回復による関連製品の需要増が見られました。事業運営は、ロシア・ウクライナ情勢や中東情勢等の影響によるサプライチェーンの混乱、及び米国関税政策や中国景気の減速に伴う世界経済の成長鈍化等、年間を通じて見通しづらい環境下にあります。そのような中で各国の自動車関連市場を注視するとともに、サプライチェーンと在庫管理を強化し、変化する需要に柔軟に対応していきます。

 

 

 エナジー&インフラ事業

リチウムイオン電池用セパレータは、着実に成長する電気自動車の需要とともに競合他社のキャパシティ増加や販売政策により価格競争が激化していく可能性があります。需要の拡大及び新たなサプライチェーン構築が見込まれる北米に生産拠点を先行して構え、顧客と強いパートナーシップを結びつつ、安定的かつ高水準の品質を強みに、リチウムイオン電池用セパレータのリーディングサプライヤーとして、様々な顧客ニーズに対応していきます。併せて、米国、日本での塗工能力増強を図りつつ、生産技術の大幅な改良を図り、コスト競争力の高い製品を追求していきます。

イオン交換膜法食塩電解は、米国の規制強化によるアスベスト製隔膜法プラントからのプロセス転換や、インド・東南アジアでの電解プラントの新増設等で需要が高まるなか、競合他社の能力増強による競争激化が見込まれます。さらなる事業価値向上に向けて、2020年に買収したRecherche 2000 Inc.の食塩電解用モニタリング装置・システムから、モノ売りとサービスを融合させたソリューションの提供を加速させていきます。

本事業は、各国の規制・環境問題や関税政策、供給制約の顕在化等によるサプライチェーンの変化、テクノロジーの変化により、事業環境が急激に変化することが中期的なリスク要因と考えられるため、事業環境の動向の把握と迅速な対応を続けていきます。

 

Ⅱ 「住宅」セグメント

国内の住宅市場では、税制の動向や地政学的問題等の発生によりサプライヤーからの部材調達に影響を受ける場合があります。当社は、発注情報の早期確定やスペックの見直し、内製化、複数社からの購買等リスク軽減を検討し対応していきます。北米の住宅市場では、高水準で推移する住宅ローン金利や関税政策が、住宅着工に影響を与える可能性があります。豪州の住宅市場では、住宅価格やローン金利の高止まりにより、住宅着工は調整局面にあります。このような状況の中、供給不足を背景とする潜在的な需要は高いため、北米事業では施工の効率化という新たな価値を生み出し、高品質な住まいの提供に貢献し、豪州事業ではビルダー単独・サプライヤー単独では成しえない多様な価値提供による競争優位性の高い事業モデルの確立に引き続き注力していきます。

また、カーボンニュートラルに向けた対応や脱炭素等の環境意識が高まる中、対応の遅れにより競争優位性や企業ブランド・製品ブランドへの影響が考えられます。「RE100」や「SBT(Science Based Targets)」のフレームワークに基づいた評価・管理・報告を実施し継続的にPDCAを循環させ、サステナビリティへの取り組みを推進しながらビジネスを成長させることで、持続可能な社会貢献に取り組んでいきます

 

Ⅲ 「ヘルスケア」セグメント

医薬品や医療機器等の事業においては、一般的に、その販売数量や販売単価等が定期的な薬価・保険償還価格の改定の影響を受ける場合があります。また新薬の研究開発については、期間が長期にわたることに加え、承認取得に至る確率が高くないことなどから、製品化の確度や時期について正確な予測が困難であり、計画どおりに製品化できなかった場合は業績に影響を与える可能性があります。医薬品や医療機器が製品化した場合でも、競合品の開発・上市の動向、有害事象の報告、後発品の上市等により、業績に影響を与える可能性があります。そのため、当社グループでは医薬事業と医療事業の両方を持つことで、多様な成長力・競争力を獲得し、イノベーション獲得機会の増加を図るとともに、医療規制等将来の不確実性への対応力を高めていきます。また、パイプラインの拡充、ライセンス導出・導入、共同開発、グローバル展開の加速等に努めることで持続的な安定成長を図ります。

加えて、大規模自然災害・パンデミック・地政学的問題などによる原材料・部品の不足、調達リードタイムの長期化、調達コストの増加の影響を受ける可能性があります。当社の医薬品、医療機器を必要とする患者や医療従事者へ安定的に製品供給するため、原材料や製品在庫の管理、サプライヤーとの関係強化などサプライチェーン強化を進めていきます

 

 財務上の課題

「(1) 経営方針・経営戦略等 ② 当社グループ全体の経営方針・経営戦略等」 <経営方針・経営戦略> ⅳ 財務・資本政策の項目をご参照ください。

 

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

[サステナビリティ全般]

当社グループでは、サステナビリティの追求を経営の柱として位置づけており、「サステナビリティ基本方針」として明確にしています。すなわち、当社グループはグループミッションである「世界の人びとの“いのち”と“くらし”に貢献」するため、「持続可能な社会への貢献」と「持続的な企業価値向上」の2つのサステナビリティの好循環を追求すること、その実現に最適なガバナンスを追求すること、そして、持続可能な社会への貢献による価値創出/責任ある事業活動/従業員の活躍の促進の3点を実践すること、を方針としています

 

<サステナビリティマネジメント及び旭化成グループのマテリアリティ>

■ ガバナンス

当社では、サステナビリティ全般に関する課題を共有し議論する「サステナビリティ推進委員会」に加え、特に重要なテーマについては、個別の委員会である「リスク・コンプライアンス委員会」「環境安全・品質保証委員会」「DE&I委員会」を設置しています。これらの委員会では、委員長である社長の下、事業部門責任者や関係するスタッフ部門の責任者を委員として議論や方針確認などを行い、グループ全体戦略の立案・推進や事業経営の実行等につなげています。

サステナビリティ推進委員会の実施状況は議論内容とともに取締役会に報告され、取締役会は監督と助言を行っています。取締役会はスキル・マトリックスに記載のとおり、カーボンニュートラル、サーキュラーエコノミー、人権対応等をはじめとするサステナビリティの課題を経営レベルで監督した経験や専門性を有するメンバーを複数含んでおり、幅広いサステナビリティの課題について、リスクと機会を多面的に認識し、監督できる構成としています。

役員報酬においては、業績連動報酬について、グループ連結の売上高、営業利益、ROIC等の財務指標の達成度とともに、サステナビリティの推進を含む個別に設定する目標の達成度を踏まえた総合的な判断を踏まえて算出することとしています。

サステナビリティマネジメント体制


・サステナビリティ推進委員会の目的、構成メンバー、開催頻度

(目的)

サステナビリティに関する社内外の情報共有、及びこれに基づく活動方針についての審議など

(構成メンバー)

委員長:代表取締役社長

委員:グループ全体をカバーする事業部門とスタッフ部門の役員

オブザーバー:取締役会長、常勤監査役

事務局:サステナビリティ推進部

(開催頻度)

年1回

 

 

 

■ 戦略

当社グループが目指す「持続可能な社会」を実現するための取り組みの重要性は年々高まっています。「持続可能な社会」への課題とは、人と地球環境についての課題であることから、当社グループは、グループビジョンに示している「健康で快適な生活」「環境との共生」の追求が、「持続可能な社会」につながるものと考えています

創業以来の1世紀で培ってきた多様な人財・技術・事業を活用し、事業活動を支える基盤的な活動を強化しながら、2025年度からの中期経営計画に示す「取り組む課題・実現したい姿」(「カーボンニュートラル/循環型社会」「デジタル革新による新しい価値創出」「より快適・安全・安心なくらし」「人生を豊かにする住まい・街」「生き生きとした健康長寿社会」)の実現に向けて、「マテリアル」「住宅」「ヘルスケア」の各分野において、持続的にイノベーティブな製品・サービス・ビジネスモデルを創出します。

 

■ リスク管理

サステナビリティを追求する上では、多様なリスクを的確に認識して対応するとともに、事業機会を積極的に捉えていくことが必要です。その観点で、「サステナビリティ推進委員会」をはじめとした各委員会で情報共有や議論を行うとともに、中期経営計画の毎年の見直しや年度経営計画の議論の中で適宜リスクと機会の確認を行っています。

特にリスク管理については体系的な管理体制のもと、グループレベルのリスク、事業に固有のリスクの両面からリスク管理を行うこととしており、リスク項目の選定やリスク対応の推進状況などは取締役会でも定期的にモニタリングをしています。サステナビリティに関する事項を含む具体的なリスクに関する認識と管理体制は3 事業等のリスク」をご参照ください。

 

 

■ 指標と目標

当社では、経営における重要課題(マテリアリティ)を以下のように定めています。いずれもサステナビリティを追求していく上で重要な要素であり、これらに重点を置いた経営活動を行い、定量的な管理が可能なものは、指標や目標を設定して管理しています。

旭化成グループのマテリアリティ


「中期経営計画2027 ~Trailblaze Together~」では、以下を主な目標としています。

・GHG排出量(Scope1+Scope2): 2035年度 40%以上削減(2013年度比)

・GHG削減貢献量: 2035年度 2.5倍以上(2020年度比)

・ラインポストと高度専門職における女性比率: 2030年度 10.0%

・従業員の活力指標: 従業員エンゲージメント調査における好意的な回答者割合 2027年度 60.0%

また、前提の一つである「安全」については、「休業災害件数」「休業度数率」等により管理し、徹底を図っています。

 

 

[個別重要課題]

(1)気候変動

■ ガバナンス

当社では気候変動に関する取り組みを中心とするグリーントランスフォーメーション(GX)を重要な経営課題と捉え、経営戦略の中核テーマの一つと位置づけて取り組んでいます。気候変動に関する方針や重要事項は取締役会で、また、関連する具体的事項は経営執行の意思決定機関である経営会議で、審議・決定を行っています(中期経営計画、GHG排出量の削減目標、設備投資計画などの決定と実績の進捗確認等)。なお、2025年度からの中期経営計画の策定においては、GXに関する方向性や目標の見直し等について議論を行い、取りまとめた上で、経営会議・取締役会に提案し、審議・決定をしています

当社では、取締役会・経営会議でのこれらの決定を事業レベルで推進するため、社長を委員長とする「サステナビリティ推進委員会」を設置し、事業の各執行責任者が気候変動を含むサステナビリティに関する課題の共有と議論を実施しています。委員会の結果は取締役会に報告し、全社での取り組みのあり方等についての議論につなげています。さらにサステナビリティ推進委員会の下部組織である「地球環境対策推進委員会」では、GX推進担当役員を委員長として、事業、製造統括、生産技術、研究・開発の本部長等が環境全般についての課題の共有、議論を実施しています。

また、当社ではGHG削減目標達成に向けて、担当役員のもと、専任のプロジェクト体制(カーボンニュートラル推進プロジェクト)で、シナリオを検討しています。検討においては、社長・経営企画担当役員を中心に方向性を定期的に議論しながら内容の深化を進めています。

なお、当社GHG排出量の9割超を占めるマテリアル領域では、2025年4月にカーボンニュートラル、カーボンフットプリント担当部署をそれぞれ設置しました。カーボンニュートラルに向けた取り組みを事業部門、コーポレートで連携しながら、さらに推進していきます

 

■ 戦略

[分析の前提]

産業革命前からの気温上昇を「+1.5℃」に抑制するための移行リスクのシナリオは、WEO: Net Zero Emissions by 2050 Scenario(NZE)を、対策が進まずに気温上昇が「+4.0℃」になる物理的リスクのシナリオは、IPCC SSP3-7.0を適用しています。

 

マテリアル、住宅、ヘルスケア各領域における機会とリスクは以下のとおりです。

[機会]

当社はカーボンニュートラルな社会への転換をはじめとするメガトレンドを見据え、事業ポートフォリオ変革を推進しています。2025年度からの中期経営計画では、重点成長領域、戦略的育成領域と位置づけている水素、セパレータ等のエナジー&インフラ、エレクトロニクス、海外住宅、ヘルスケア等に、3年間で約6,700億円の拡大関連投資の意思決定をする計画です。その内数として、2027年度までの3年間で1,000億円規模のGHG削減関連投資を実行する構えとしています

また、気候変動対応を含む環境分野のスタートアップ企業を対象として、2023年度から2027年度の5年間に1億ドルの投資枠を設定しています

当社の事業展開の方向性は、気候変動の緩和及び適応において様々な製品・サービスを事業機会として提供しうると認識しています

具体的には、「+1.5℃シナリオ」では、水素社会到来に向けたアルカリ水電解システムの開発・事業化、将来的なEV普及拡大を踏まえたLIB用セパレータ等の事業拡大など、「+4.0℃」シナリオでは、気象災害の甚大化や気温上昇の中で、強靭かつ高断熱な住宅「ヘーベルハウス™」や高い断熱性能を発揮する断熱材「ネオマフォーム™」の需要拡大などです

 

 

[リスク]

「+1.5℃」シナリオでは、主としてカーボンニュートラル化に向けたカーボンプライシング等の政策による規制が強まるとともに、カーボンニュートラルに適した素材への需要シフトをリスクとして想定しています。さらに、循環型経済への移行加速やカーボンニュートラルな社会に向けた革新技術の登場による市場構造変化もリスクとして想定しています

「+4.0℃」シナリオでは、主として酷暑・大雨・洪水などの物理的リスクを想定しています。特に、風水害の甚大化により、当社の国内外における主要製造拠点の被災とその損害想定額をリスク認識しています

これらのリスクは濃淡がありながらも、今後の気候変動の中でいずれも発現しうるものと捉えており、当社はリスク低減の取り組みを進めていきます

具体的には、「+1.5℃」シナリオでは、エネルギー使用の効率向上、再生可能エネルギーの活用拡大、リサイクル技術の開発・社会実装等を進めていきます。「+4.0℃」シナリオでは、BCP(事業継続計画)の継続的見直しや事前対応強化(在庫水準見直し、複数購買検討等)、住宅建設現場での熱中症対策等を進めていきます。

 

■ リスク管理

当社は気候変動リスクを「グループ重大リスク」の一つとして位置づけるなど、リスクと機会について重点的な管理を行っています

GHG排出量のScope1、Scope2及びScope3(主要なカテゴリー)について、第三者保証を伴う排出量実績を毎年把握するとともに、目標への進捗状況と併せ、カーボンニュートラル推進プロジェクトで共有し、今後の取り組みを議論・確認しています。

また、中期経営計画の策定や毎年の見直しの中でも、GHG排出量削減への取り組み等を確認し、事業戦略や施策につなげています

設備投資においては、インターナルカーボンプライシングを適用して採算性を評価し、投資判断を行っています。なお、インターナルカーボンプライシングは、国際エネルギー機関(IEA)が予測する炭素価格や市場価格、当社でのカーボンニュートラルに関するコスト見通しなどを考慮し、設定しています。

 

■ 指標と目標

当社は、以下の指標を気候変動のリスク・機会に関係するものとして位置づけています。

 

目標と実績

指標の意味

GHG排出量

目標:

2030年

30%以上の削減(国内:46%削減)

Scope1,2の削減状況を示します

2035年

40%以上の削減(国内:60%削減)

 

※いずれも2013年対比

2050年

カーボンニュートラルの達成

実績:

2023年度

317万t-CO2e(38%削減)

GHG排出量/営業利益

実績:

2023年度

0.23万t-CO2e/億円

低下は炭素税リスクの低減を示します

ROIC

(投下資本利益率)

目標:

2027年

6.0%

向上は変化対応力ある高収益事業体への進化を示します

2030年

8.0%以上

実績:

2023年度

5.9%

 

 

その他関連事項

インターナルカーボンプライシング(ICP)

15,000円/t-CO2で投資判断、表彰制度等に活用

役員報酬における気候変動課題の反映

取締役報酬の30%を占める金銭業績連動報酬は、財務目標の達成度とサステナビリティの推進(GHG排出量削減等)を含む非財務目標の達成度の両面を組み合わせて構成

 

* GHG排出量はScope1,2が対象。算定対象ガスは7種類(CO2、CH4、N2O、HFCs、PFCs、SF6、NF3)

また、バリューチェーン全体の観点から社会のGHG排出量の削減等に貢献する製品・サービス(環境貢献製品)のGHG削減貢献量を2020年度比で2030年2倍以上、2035年2.5倍以上にするという目標を掲げています。

 

(2) 人的資本・多様性

■ 戦略、指標と目標

当社は1922年に創業し、2022年に100周年を迎えましたが、この間事業ポートフォリオを大きく変革してきました。1960年代には石油化学事業と繊維事業が売上高の大半を占めていましたが、社会課題の解決に向けた事業展開により、現在は「マテリアル」「住宅」「ヘルスケア」からなる3領域経営を進めています。大きな変革を遂げながら成長してきましたが、今後も、持続可能な社会への貢献と持続的な企業価値向上の2つのサステナビリティの好循環に向けてさらなる変革が必要です

当社では、従業員に求める心構えとして「A-Spirit」という言葉を掲げています。旭化成の「A」と、アニマルスピリットの「A」をかけたもので、具体的には、野心的な意欲、健全な危機感、迅速果断、進取の気風、という4つのことを強く意識し、チャレンジングな人間、チャレンジングな人財であってほしいと伝えています。また、そのような想いから、社員一人ひとりが挑戦・成長を自ら求めていく「終身成長」と、当社の多様性を活かしコラボレーションを推進する「共創力」を人財戦略の柱としています


A-Spiritの体現に向けて、課題と考えているのは次の3つです。

① 自律的なキャリア意識向上と組織の成長との好循環

A-Spiritや「終身成長」は、他律的、受動的な姿勢では体現できません。実現したい夢や意思、自身で思い描くキャリア、それらを原動力にして様々なテーマにチャレンジすることが重要です。今後事業ポートフォリオ転換を進め、高付加価値事業を創出するためには、自ら成長・挑戦機会を求め自律的に動く人財が従来以上に必要であり、社員と組織双方の成長につなげていくことが大切だと考えています。

② 個とチームの力を引き出すマネジメント力の向上

失敗を恐れず思い切って挑戦し、その挑戦(失敗も含め)から学び、また次の挑戦に繋げていくためには、マネージャーによる支援が不可欠です。当社には高い専門性を持った人財や挑戦心あふれる人財が数多く在籍していますが、それを最大限に活かしきりビジネス上の成果に繋げられるよう、マネジメント力の向上も課題と考えています。

③ 多様な人財の活躍

当社の強みは幅広い技術、多様な事業、多様な市場との接点を通じた無形資産であり、これらのポテンシャルを最大限に引き出し、価値創造に活かしていかなければなりません。そのためにも国籍やジェンダーなど属性における多様化をこれまで以上に推し進めながら、質的に多様な人財がつながり合い、化学反応を起こすことで企業価値向上につなげていきます。

 

 

以上の課題認識に対して、当社では従来、様々な人事施策を講じてきており、2025年4月に発表した中期経営計画では、あらためて心身の健康を重視し、当社の強みである自由闊達なコミュニケーションをベースとしながら、挑戦的風土の強化を進めることが肝要であるとの認識のもと、各種施策を一層推進していきます。

 

主要KPIとしては「従業員エンゲージメント(成長行動指標)」「ラインポスト+高度専門職における女性比率」「従業員エンゲージメント(活力指標の好意的回答者比率)」を掲げており、従来そのうちの「ラインポスト+高度専門職における女性比率」を役員報酬に連動させていましたが、2025年度より「従業員エンゲージメント(活力指標が好意的な状態の回答者の割合)」についても連動させることとしました。

 

(人財育成方針)

 高度専門職制度の拡充によるプロフェッショナル人財の育成強化

 概要:高度専門職制度とは、新事業創出、事業強化へ積極的に関与し、貢献できると期待できる人財に対しふさわしい処遇を行い、社内外に通用する専門性の高い人財を増やしていく仕組みです。各事業の拡大に必要な専門領域を特定し、各専門領域で課長待遇のエキスパートから執行役員待遇のエグゼクティブフェローまで役割定義を定め、その定義に沿って任命を行っています。高度専門職を設置する専門領域は事業方針に合わせて毎年見直しを行い、事業戦略と人財育成方針をリンクさせているほか、就任者のミッションの一つに「自身の後進の育成」を明確に位置づけることで、技術レベルをサステナブルに維持向上させる仕組みとしています。

 KPI:前中計においては高度専門職の人数をKPIとして注視しており、2024年度は目標360名に対し373名と達成することができました今後は、高度専門職の活動が新事業創出及び事業強化にこれまで以上につながるよう、各領域で活動ロードマップの策定や領域内外の連携を積極的に行う等の取り組みを強化していきます。


 

 

エンゲージメント向上 「KSA(活力と成長アセスメント)」

 狙い:個人と組織の状態を可視化しマネジメントのPDCAを回すことで、活力や挑戦・成長行動を高めること。

 概要:毎年1回、全従業員を対象にサーベイを実施し、3指標「上司部下関係・職場環境」「活力」「成長につながる行動」の組織毎の結果をラインマネージャーにフィードバックしています。各組織が当事者意識を持ち課題や目指したい状態、今後の取り組みについて話し合う「職場対話」を推進し、職場づくりを学ぶ研修も展開してきました。これまでの取り組みから、職場対話を効果的にするための環境整備も必要なケースがあることが分かってきており、今後は、個々の職場の状態に応じて対話にとどまらないアプローチも検討していきます

 KPI:モニタリング指標に定める「成長につながる行動」は2024年度3.73まで向上しました(2023年度3.72、2022年度3.71、2021年度3.69)。上司向け研修の拡大(延べ832名受講)により、2020年の導入時から推奨してきた「職場対話実施率」は2024年度73%と順調に推移しています。今後は、「活力」指標が好意的な状態の回答者(5段階中3.5以上)の割合を高めていくことをKPIに加え、2025年度以降、役員報酬にも連動させます

 


 


 

DE&I、ジェンダーバランスの実現

 狙い:急速に変化する事業環境に対応し継続的に新たな価値を生み出していくためには、人財の多様性を活かし共にビジネスを創り出していく「共創力」を高めることが不可欠であると考え、当社ではDE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)を経営課題の1つとして位置づけています。「共創力」を発揮していくためには、多様性を“拡げる”“つなげる”という2つの視点が重要であり、多様な技術・事業・人財を有機的につなげることで、当社ならではの価値が発揮できると考えています。

 概要・KPI:ジェンダーバランスの実現に向けて、2022年度からKPIとして、管理職の中でも真に指導的役割を果たすポジション(ラインポスト及び高度専門職)の女性比率を2030年度までに10%以上にするという目標を掲げ、その比率を役員報酬にも連動させています(2024年度目標:5.0%以上、実績:4.9%)。

上記を達成するとともに、女性リーダーを継続的に輩出できる仕組みとして、候補者母集団を形成するための様々な取り組みを実施しています。2013年より継続的に実施しているメンタープログラムでは累計165名の新任女性管理職が参加し、直属の上司ではない斜めの関係の上位職が、各自のキャリア形成や課題解決に向けて主体的に考える機会を提供し成長を促すとともに、その後の自己成長に対する意欲を高めています

また、ラインポストに就く女性管理職のさらなる成長意欲の喚起や視座向上を目的に、2023年度に女性の社外取締役(2名)、2024年度には女性の執行役員(2名)と女性管理職とのラウンドテーブルを実施しました。女性役員が自らのキャリアや経験談、女性管理職への期待を語るとともに、女性管理職同士が意見交換を行うことで経営に必要な視点を養い、参加者の挑戦意欲を高め、意識と行動変革を促す機会となっています。

ジェンダーバランスの実現を目指し、多様な働き方やキャリア形成を支援する施策としては、女性の管理職や高度専門職、育児休業を取得し家事・育児にも積極的に携わる男性社員など、社内で活躍する多様な人財を紹介する「ロールパーツモデルチャンネル」をイントラネットで展開しています。「自身の周囲にロールモデルが少ない」という社員の意見に対応して、様々なロールモデルとなる社員を紹介することで女性社員のキャリアアップへの挑戦意欲を高め、仕事と家庭を両立させるなど中長期的なキャリア形成のイメージを持ってもらうことを狙いとしています。

また、一人ひとりの多様性を活かし組織力に繋げていくためには、各自に内在するアンコンシャスバイアスを知り、コントロールする方法を習得することが重要であるとの考えから、2023年度に役員及び部長職全員に対してアンコンシャスバイアス研修を実施しました。2024年度には課長職全員にも展開し、職場の心理的安全性を高め、多様な社員の活躍を支援できる管理職の育成を図っています。

指導的立場に就く女性社員を増やしていくための上記の全社施策と並行して、各領域・事業会社においてバイネームでの女性人事計画を立て、実際の登用に繋がる取り組みを実施しています。また、2023年度に社長を委員長とするDE&I委員会を設置し、グループ全体における進捗状況の確認や課題改善に向けて、定期的にモニタリング及び意見交換を行っています。これらの様々な取り組みにより、1994年に3名だった女性管理職は2024年度335名に増加しています。また女性の執行役員は2名、取締役は2名、監査役は1名となっています(2025年6月現在)。

 


 

 

障がい者については特例子会社「旭化成アビリティ」での雇用を中心に、継続的に法定雇用率の達成を維持しています。2024年度の障がい者の法定雇用率2.5%のところ、グループ全体での年間雇用率は2.66%でした。直近の2025年3月末時点では2.61%(720名)となっており、2026年7月法定雇用率2.7%への引き上げに対しても備えを進めています。


 

キャリア採用に関しては、グループの強みである人財の多様性をさらに強化するために、多様な経験やバックグラウンドを有する人財の中途採用を積極的に行ってきました。また、管理職への登用についても同様の考え方で、2024年度はグループ国内正社員における管理職の16.0%をキャリア採用者が占めています。

当社グループにおける海外従業員比率は現在4割強を占めています。海外拠点の主要なポジションへの外国籍及び現地採用の人財登用を拡大し、優秀な人財は各事業に留めることなくグループ全体に貢献する人財として育成を行っています。その結果、グループ経営への参画も進み、現在4名の外国人が旭化成株式会社の執行役員に就任しています

女性・外国人・キャリア入社者の中核人材登用に関してはコーポレート・ガバナンスに関する報告書にも記載しているほか、障がい者雇用に関する取り組みや各種データ類はサステナビリティレポートを参照ください。

https://www.asahi-kasei.com/jp/sustainability/social/human_resources/

 

終身成長とシニア人財の活躍

 狙い:「終身成長」というコンセプトのもと、シニア人財がさらに専門性を磨き、環境に合わせて挑戦し変化し続けることができるよう支援し、シニア人財の持てる力をより一層引き出すこと

 概要:シニア人財のさらなる活躍の支援の施策として、2023年度から定年を65歳に引き上げました。60歳到達前の社員が自分のwill/can/mustを考えて、それに沿って職務をマッチングする、という仕組みで運用しています。50歳、55歳到達前の社員(2024年度300名程度)は、社内キャリアコンサルタント及び上司との面談を組み入れた節目研修を通じて、キャリアについて深耕する機会を持つことで、マッチングの質を高めていきます。さらに、60歳超の社員及びその上司への実態ヒアリングを行っており、施策の充実に反映していく予定です。

 

マネジメント力強化並びに次世代経営人財の育成

 狙い:マネジメント層の成長、経営層候補の充実を旭化成グループ全体の成長につなげること

 概要:組織マネジメントで重要度の高い新任部長向けのプログラムを継続的に充実させています。新任部長一人ひとりに半年間のコーチングと集合研修で受講者間でのグループコーチングの機会を設けています。当プログラムでは、KSAを用いた自組織の課題分析と自己課題の整理を通じて、改善に向けたアクションプランの実行を支援しています。本プログラム受講者の上司の93%が部下である部長の行動や意識の変化を感じており、柔軟性、他者理解といったヒューマンスキル、組織を牽引しようという意識が向上したと回答しています。

また、次世代経営人財育成プログラムとして、各事業領域や事業会社のリーダー層からアセスメントや経営層との対話により選抜されたメンバーをグループ役員*1)候補として毎年プールし、エグゼクティブコーチングや異業種交流研修により個々の強みの発揮を支援しています。2024年度の活動ではプール人財の候補者拡大を目的に40歳前後を対象とした新たなプログラムを導入し、より若い層の育成を通じて人財プールの活性化に向けた取り組みを強化しています。

 KPI:次世代経営人財育成の取り組みの結果、2024年度はグループ役員35ポジションに対して98名(事業部長41名・部長層57名)をプール人財としており、「グループ役員の後継準備率」は280%に達しています。また、2018年度以降、当プール人財から継続的にグループ役員が任命されており、現在のグループ役員35名の過半数が本プログラムから選出されています

*1) 執行役員の中から旭化成グループ全体の企業価値向上に責任と権限を有する者として、旭化成の取締役会決議に基づきグループ役員を任命しており、具体的には旭化成株式会社の上席執行役員以上及びそれに相応する事業会社の執行役員がこれにあたります

 

(社内環境整備方針)

経営戦略と人財戦略を連動させる仕組み

人事部門トップが経営会議メンバーであるほか、社長と人事担当役員・人事部長によるミーティングを定期的に実施し、経営戦略と人財戦略が常に連動する仕組みにしています。また各事業部門トップと人事担当役員・人事部長の定期ミーティングも実施し、事業ポートフォリオ転換を含めた事業課題を人事課題に落とし込み、施策に反映させています。さらには、人事施策が各事業現場にてうまく活用されていくため、HRBP(Human Resource Business Partner)が各事業部門のトップと日常的に議論を行い、人事施策の目的を共有し、企画段階から具体的な活用場面を想定した検討を行うようにしています

また、経営戦略と人財戦略の連動をさらに進めるため、人事処遇制度を見直すこととし、制度改定に向けた準備を進めています。従来以上に挑戦・成長を評価し、力のある人を早期に登用する、また多様な人財の活躍を促進する仕組みとすることで、「A-Spirit」の体現に繋げていく考えです

 

自律的なキャリア形成、「CLAP」の活用、みんなで学ぶ「新卒学部」

 狙い:従業員一人ひとりの自律的なキャリア形成と成長の実現を通し、組織活性化や成果につなげること

 概要:1万超の社内外コンテンツを提供する学習プラットフォームCLAP(Co-Learning Adventure Place)を活用し、全従業員がいつでも学べるような環境を整備し、一人ひとりのキャリア自律を支援しています。その一例として、若手人財が主体的に学び続けるための取り組みとして、「みんなで学ぶ」環境を作るラーニングコミュニティを展開しています。2023年度からは新入社員を対象とした「新卒学部」という同期とともに学び合う9か月のコミュニティ活動を導入したことで、一人当たりのeラーニング学習時間は前年度新入社員の3.5倍に増え、キャリア不安の解消に繋がる結果となりました。この取り組みは、『日本の人事部』が主催する「HRアワード2024(後援:厚生労働省)」の企業人事部門最優秀賞を受賞しました。今後も継続的に学び続ける従業員の増加に向けて、ラーニングコミュニティを取り入れた学び方の変革に継続的に着手していきます。

 KPI:2024年度は、CLAPアカウント所有者の約9割(20,800名程度)がCLAPにアクセスし、約8割(19,500名程度)が一つ以上の学習コンテンツを終了しています。外部コンテンツの提供に加えて、2024年度は200超の社内カリキュラムも提供し、キャリアの可能性を広げる学びや専門能力を習得できる環境を整えています。今後も社員の自律的キャリア形成の実現に向けて、社内知見を活かしたカリキュラム提供に向けた活動を推進していきます

 

人財の可視化、事業領域を超えた人事異動、公募人事制度

 狙い:多様な人財を活かしきること

 概要:幅広い技術、多様な事業、多様な市場との接点といった当社グループの強みを活かすべく、以前より事業領域を越えた人事異動を積極的に行っています。一例としては、当社の住宅事業は近年海外に進出しましたが、この事業展開にあたっては、グループ全体の人財・ノウハウなどの経営基盤を活用することで、スピーディに展開することができました。海外事業の拡大によって業績も伸び、キャッシュ創出力も高めています。2022年度からはタレントマネジメントシステムも導入し、人財の可視化を進め、グループ全体での人財の活用力を一層高めていきます。

また、公募人事制度については2003年度から運用しており、累計で約600名の人財が自らの意思で部署を異動し、新たな環境に挑戦しています

 

人事部門の組織ケーパビリティの向上

 狙い:人的資本経営を実践するための実働部隊である人事部門の組織能力を強化すること。

 概要:人事部門に今後必要となる能力について改めて定義づけを行い、その中でもデータ利活用スキルとキャリアコンサルティング能力については特に力を入れて向上に努めています。データ利活用スキルについては、人事部門全体でデータドリブンな働きができることを目指し、大阪大学開本教授監修のもと独自のプログラムを内製しました。組織行動論等の人・組織に関する諸理論、データ収集や統計分析に関するノウハウを人事部門の社員の多くが習得しています。また、国家資格キャリアコンサルタントの資格取得も奨励しており、2025年4月時点で40名程度が資格を取得しています

 

人財戦略及び具体策については、統合報告書にも記載がありますので、あわせて参照ください。

また、人事関連の諸データに関しては当社サステナビリティレポートにも掲載しています。

https://www.asahi-kasei.com/jp/sustainability/esg_data/

 

(3) その他

① サーキュラーエコノミー

社会がカーボンニュートラルを実現していく上でも重要な課題がサーキュラーエコノミーの実現です。当社グループでは、限りある資源を持続可能なものとして活用していくための取り組みを様々な切り口から進めています。

例えば、当社グループの住宅事業では、サーキュラーエコノミーの実現に資する長寿命な住宅(商品・サービス)を提供しています。LONGLIFEを体現するために、住宅のライフサイクルを考えた仕様開発、邸別設計・施工、60年無料点検に代表されるアフターサービス、ストックの高付加価値化、改修や相続時のコンサルティング等で全体システムを構築しており、当システムをお客様及びパートナー企業とともに機能させることで、世代を超えた住宅の循環利用を可能としています。本件がサーキュラーエコノミーへの移行に大きく寄与するものとして、旭化成ホームズ㈱は、2024年10月に一般社団法人産業環境管理協会主催の「令和6年度 資源循環技術・システム表彰」において、経済産業大臣賞を受賞しました。

また、基礎化学品である苛性ソーダと塩素を製造するプロセスを販売するイオン交換膜法食塩電解事業においては、プロセスの部材である電解セルについて、顧客での予備品保有を不要とする電解セルレンタルサービスの提供に取り組んでいます。これは資源利用効率の向上と貴金属などの有効活用に繋がる取り組みです。当事業では、顧客の電解プロセス運転状況のモニタリングも進めており、従来のモノ売りからソリューション型事業への転換を進めるなど、サーキュラーエコノミーに適合した事業への展開を図っています。

外部との協業の点では、当社は2025年1月に国立研究開発法人産業技術総合研究所、AIST Solutions株式会社と「旭化成-産総研 サステナブルポリマー連携研究ラボ」を設立しました。同ラボは、「サステナブルポリマーの提供を可能にする社会システムの実現」を目標に、リサイクルシステムの社会実装及びリサイクルしやすい設計を実現する技術・システムの提供を目指します。また、当社は消費者も含めた社会全体での資源循環の取り組みの視点で、プラスチックの循環を可視化するプラットフォーム「BLUE Plastics(Blockchain Loop to Unlock the value of the circular Economy、ブルー・プラスチックス)」に取り組んでおり、幅広い業種の企業や団体と議論しながら、サーキュラーエコノミーに関する活動を進めています。

当社グループでは複数の製品について、持続可能な製品の国際的な認証制度の一つであるISCC PLUS認証を取得しています。当認証は、製品がバイオマス原料や再生原料等を使用して製造されていることを、サプライチェーンでのマスバランス方式管理の観点も含め、第三者機関が確認・認証します。今後、当社グループは、顧客や社会からの期待に応じ、当認証取得製品を提供していきます。なお、プラスチックや循環経済に関する諸課題への対応は、同業他社を含むバリューチェーンの各社での共通的なテーマでもあることから、当社グループはCLOMA(クリーン・オーシャン・マテリアル・アライアンス)、循環経済パートナーシップ(J4CE)、サーキュラーパートナーズ(CPs)、一般社団法人日本化学工業協会、日本プラスチック工業連盟等のアライアンスや業界団体の活動にも参画し、課題への取り組みを他社と共に推進しています。

 

② 責任ある事業活動

■ 環境安全・品質保証活動

当社グループは、あらゆる事業活動において健康、保安防災、労働安全衛生、品質保証及び環境保全を経営の最重要課題と認識し、開発から廃棄に至る製品ライフサイクルのすべてにわたり配慮する環境安全・品質保証活動を実施しています。ここ数年では、当社のベンベルグ工場での火災など重大な事故が発生していますが、経営層・従業員一同、危機感を持って環境安全活動に取り組んでいます。また、全員参加の品質経営を実現するため、品質担当役員による経営層向け品質経営セミナーの実施、品質担当役員が各事業所を訪問し、現場最前線で働くメンバーと双方向でコミュニケーションをするタウンホールミーティング、及び国内海外各拠点における品質教育(グループ全員が品質リスクを理解し、日々の業務を行うために必要な教育)の実施など、様々な施策を行っています。環境安全・品質保証に関するリスクマネジメントの詳細は「第2 事業の状況 3 事業等のリスク (3) 当社グループ全体に係るリスク」もご参照ください。

 

 

■ コンプライアンス

当社グループは、事業・業務に関する法令・諸規則や社内ルールの遵守を徹底し、グループミッションに基づくグループバリュー(共通の価値観)である「誠実な行動」を実践するため、「グループ行動規範」を定め、浸透を図っています。具体的な施策として、日常の業務で発生するような事例をもとに職場で討議するとともに、グループ行動規範と照らし合わせ、従業員がとるべき行動に関する理解を深める活動(Cs Talk)を継続しています。また、必要に応じてeラーニングを活用し、従業員教育を実施しています。さらに、従業員のコンプライアンスに関する意識調査を隔年で実施しており、全体の状況把握に加え、職場ごとに結果を報告し職場における活動に反映しています。経営層においては、社長を委員長としたリスク・コンプライアンス委員会を通じ、当社グループで発生した事案の共有、対応策の水平展開を行い、注意喚起や再発防止の徹底を図っています。

 

■ 人権の尊重

当社グループは持続可能な社会の実現に向け、自社だけではなくバリューチェーン全体における様々な人権課題に対して主体的に責任を果たすことが、事業に係る人びとの人権を守るのみならず、当社グループが社会からの信頼を向上させ、ひいては企業価値の向上につながると考え、人権尊重を重要課題として捉えています。

当社グループは国際人権章典(世界人権宣言並びに国際人権規約)、ILO(国際労働機関)の「労働における基本的原則および権利に関する宣言」、国連グローバル・コンパクトの10原則等の人権に関する国際規範を支持するとともに、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づき、人権尊重の取り組みを推進します。

当社グループでは、従来、人権に関するグループの考え方を「旭化成グループ行動規範」にて明示し、従業員研修等を通じてグループ内浸透を図っておりましたが、人権尊重の重要性を踏まえ、考え方や実践事項等を整理した「旭化成グループ人権方針」を2022年に取締役会決定により制定しました。また、同方針に基づく取り組みを推進するため、人権尊重に関する情報共有や、取り組みに関する議論・方向付けを行う場として、社長を委員長とする人権専門委員会を設置し、運営しています。2024年度には第3回委員会を開催し、世の中の動向、当社グループにおける人権尊重の取り組み状況や計画等について、共有と議論を行いました。

当社グループは「旭化成グループ人権方針」のグループ内での普及啓発を継続するとともに、当社の事業活動に関する人権への負の影響を排除するため、「人権リスク発現の予防」と「発現したリスクへの対処」の両面において取り組みを進めています。リスク管理については、「第2 事業の状況 3 事業等のリスク (3) 当社グループ全体に係るリスク」もご参照ください。

 

■ ステークホルダーとの対話

当社グループは、お客様、株主・投資家の皆様、お取引先、地域の方々、国内外の一般市民、従業員など、多様なステークホルダーとの信頼関係の上に成り立っています。それぞれのご意見や期待をしっかりと受け止めて事業活動に反映していけるよう、様々なコミュニケーションの機会を設けています。

特に、国内外の株主・投資家の皆様に、当社の目指す姿や経営戦略、ガバナンス等の持続的な企業価値向上に向けた道筋をご理解いただくため、事業説明会での情報開示や、工場・事業所の見学機会を積極的に設けています。2024年度は、経営説明会、決算説明会(年4回)に加え、セパレータ事業のカナダ工場建設投資やCalliditas買収など、成長投資に関する説明会の他、人財・R&D・知財戦略など、当社グループの無形資産戦略に関する説明会も開催しました。また、トップマネジメントは説明会への登壇や面談、スモールミーティング等を通じ、中長期的な企業価値向上に向けたコミュニケーションを積極的に推進しています。資本効率の更なる向上など、対話を通じて示された株式市場の要望も踏まえながら、事業ポートフォリオ変革の加速や各種KPIの向上を図っています。

 

 

3 【事業等のリスク】

当社グループはマテリアル、住宅、ヘルスケアの3つの領域にわたる多様な事業を有し、幅広い分野でグローバルに事業活動を展開しています。事業を取り巻く環境は激しく変化しており、当社グループの経営や事業活動に影響を与える変化や不確実性に対し、脅威を低減し、機会を逃さず捉えるべく、領域や事業ごとの特性に応じた対応とグループ横断的な対応を組み合わせ、グループ一体となったリスクマネジメント活動を展開しています。

将来の事項に関する記述につきましては、有価証券報告書提出日現在において入手可能な情報に基づき、当社グループが合理的であると判断したものです

 

(1) リスク管理プロセスとリスクマネジメント体制

取締役会の監督のもと、リスクマネジメント全体についての責任者である社長をリスク・コンプライアンス担当役員が補佐します。同役員は、社長の指示のもとリスクマネジメント活動を推進しており、個別のリスク対策について各部門長(スタッフ部門担当役員・事業部門長等)に指示・支援を行います。また、リスク・コンプライアンス担当役員のもとにリスクマネジメントチームを設置し、同チームは社内各部門の活動のモニタリング、具体的なリスク対策支援、スタッフ部門と事業部門の組織間連携強化を推進します。そして、社長は委員長としてリスク・コンプライアンス委員会においてリスクマネジメントに関する経営レベルの決定事項や指示事項を各部門長に周知徹底しています

 

<リスクマネジメント体制>


 

 

(2) グループ横断的な活動と各事業部門の活動によるリスクマネジメント

スタッフ部門、事業部門のリスク対応責任者を明確にして各組織の自律的なリスク管理を基本とした上で、定期的にグループ横断的な視点を入れてリスクをマネジメントしています。

「グループ重大リスク」は、経営に大きな影響を及ぼすグループ全体に関わるリスクであり、取締役会の決議をもって設定し、スタッフ部門が主導して横断的に取り組んでいます。「事業重要リスク」は、事業の特性上影響の大きいリスクや年度経営計画の達成を阻害する可能性があるリスクであり、事業部門が選定・対応し、対応状況は取締役会へ報告しています。当社グループではこれら二つの活動を組み合わせることでリスクマネジメントを実践しています。

なお、2024年度から、より現場に近い組織のリスクマネジメント活動を拡充させて現場への意識付けを強化する取り組みを進めています。

 

リスクマネジメントのPDCAサイクル(グループ重大リスクと事業重要リスク)


(3) 当社グループ全体に係るリスク

グループ重大リスクとして設定したリスクについて

① 国内外の生産拠点における事故発生リスク(環境事故、保安事故、労災)

国内外に広く生産拠点を展開している当社グループにとって、事故発生による事業への影響は大きく、事業継続に支障をきたす可能性があります。当社グループでは、安全な操業を継続することは、社会からの信頼、従業員や地域社会の安全、環境配慮等における価値を守るための最重要事項と認識しています。そのため重篤な労災や保安事故の防止に向け、発生した事故の教訓を生かし、不安全行動による重篤災害撲滅を目指したLSA(ライフセービングアクション)活動の推進や、工場等の機械のリスクアセスメント実施における専門技術者の育成及び工場設備等の点検強化、各生産拠点におけるプロセス安全技術の維持を目的とした保安防災伝承活動の展開、防消火技術の向上等を進めています。また、現場の監査における専門家等第三者の視点の導入、人材育成を含む安全文化の醸成強化に努めています。今後はこれらの活動の全社レベルでのさらなる活動定着を進めていきます。

 

② 国内外の品質不正リスク

製品の設計・検査の不備、不適切な顧客対応や報告が行われた場合や、法規制・規格等の遵守不備があった場合、リコール、当社ブランドに対する社会的信頼の喪失、及び製品の生産・流通の停止等により、当社グループの業績に影響が生じる可能性があります。当社グループでは、領域ごとに様々な製品を提供しており、それぞれの製品の品質を確保することは、お客様をはじめ、全てのステークホルダーの方々の信頼をいただくために最重要と認識しています。品質不正の発生を防ぐため、各拠点の品質保証活動の健全性を確認する点検、現場従業員の品質意識向上を目的として品質担当役員が現場を訪問し双方向でコミュニケーションをするタウンホールミーティング、及びグループ全員が品質リスクを理解し日々の業務を行うための品質教育を国内海外の各拠点で実施しています。

 

③ 国内外の環境安全・品質保証に関わる法規制要求事項の未遵守リスク

環境安全・品質保証に関わる法規制等の未遵守の状態が発生した場合、リコールや当社ブランドに対する社会的信頼の喪失や製品の生産・流通の停止等により当社グループの業績に影響が生じる可能性があります。環境安全・品質保証に関わる法規制等の遵守を徹底するために、関連法規等の内容を定期的に更新するとともに専門家等の第三者による確認も経たうえで社内へ周知し、チェックシート等を活用し現場従業員がその遵守状況を確認できる仕組みを構築しています。また、上記取り組みの継続とともに、当社グループにおいて様々な製品に使用している化学品の法規制等の管理を徹底するためのシステムの運用も実施しています。

 

④ 経済安全保障・グローバルサプライチェーンにおけるリスク

当社グループは、事業ごとに原材料や部品、施工業者、物流経路、倉庫、販売先に至るまで、国内外で多様なサプライチェーンを構成しています。そのため、経済安全保障に関する世界各国の政策動向が事業運営やサプライチェーンに影響を及ぼす可能性があり、また、世界中で発生する自然災害、保安事故、人権問題、地政学的問題、経営破綻等による、取引先との取引回避や取引先の機能不全に起因してサプライチェーンが途絶する可能性があり、主なリスクとして以下のものを認識しています

 

・ 経済制裁・輸出管理規制の強化等の経済安全保障リスクや地政学的問題による企業活動に関するリスク

当社グループは、製品の輸出や海外における現地生産等、幅広く海外で事業展開をしており、安定的な国際通商のメリットを享受しています。そのため、何らかの理由により二国間あるいは多国間の通商環境や地政学的情勢が変化することにより、海外の会社との取引や出資、その他事業活動に影響を受けるリスクがあります。特に、米中デカップリング、ロシア・ウクライナ情勢の長期化、中東情勢の不安定化等、近年国際関係の緊張が高まっており、これに伴って日本や諸外国において、経済安全保障の観点から経済制裁、輸出管理規制、外国直接投資規制を強化する動きが続いています。これらの規制に対応することにより、取引先との取引の停滞・中断、資金の移動の遅延・停止、事業遂行の遅延・不能等により、業績に影響を及ぼすなどのリスクがあります。地政学的問題や法規制の動向には常に注意を払っており、経営層及び事業部門・スタッフ部門の責任者や担当者への情報共有を通じてグループ全体の感度向上を図るとともに、対応部署の明確化を通じて社内体制強化の検討も進めています。また、適時に規制内容を理解することや関係当局に事前に相談することに加えて、経済制裁については外部の顧客スクリーニングシステム等を利用して慎重な取引審査を行うなどにより、適切な対応に努めています。

 

 

・ サプライチェーン/バリューチェーン上の人権課題に関するリスク

昨今、紛争や少数民族に対する弾圧、移民や外国人労働者の不当な扱い、様々なハラスメント(パワーハラスメント、セクシャルハラスメント他)など、国内外において人権を脅かす動きが多発しています。当社グループの事業活動に関しても、バリューチェーンにおける人権課題の発生、特に人権課題への不適切な対応に起因する取引の停止、法令による罰則、当社グループに対する社会的信頼の喪失等は、企業価値にも大きな影響を及ぼしうるリスクです。そこで、当社グループは、様々な人権に関する負の影響を適切に排除するため、「人権リスク発現の予防」と「「発現したリスクへの対処」の両面に取り組んでいます。前者では、外部の顧客スクリーニングシステム等を利用し、リスクの予兆を未然に把握して予防するとともに、当社グループにおける人権リスクの全体像を明らかにし、負の影響の防止・軽減等に向けた取り組みを進めています。後者では、人権侵害やその可能性を従業員が認識した時に、迅速に経営層に情報が伝達されるよう報告ルートを新たに制定して運用を開始しました。

今後も関係する部門が連携し、実効性のある人権尊重の取り組みを進めていきます。

 

・ 原料・資材の調達リスク

サプライチェーンが各国・地域の法規制の動向や突発事象などにより影響を受ける場合に、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。当社グループではサプライヤーの選定におけるリスク評価や監査の実施、サプライヤー及び販売先のモニタリングなどを通じてリスクを低減させることに加えて、主要製品・事業における原材料の調達ルートの多様化や適正な水準の在庫の確保を通じて、安定操業に向けて取り組んでいます。また、強靭で持続可能なサプライチェーンを維持するための、体系的かつ継続的なサプライチェーンリスクマネジメント(SCRM)の実施へ向けて、2022年度からグループを横断して、リスクの洗い出し・評価・対策の設定を開始しました。サプライチェーンに関連する各部門(製造、経営企画、営業、技術開発などの各部署)との連携や、実効性のあるリスク対策の実施に取り組んでおり、進捗状況を定期的にモニタリングしてSCRMを推進しています。

 

⑤ サイバーセキュリティ、通信インフラに関するリスク

昨今のサイバー攻撃の急増・巧妙化が進む一方で、サイバーセキュリティ対策が不十分であった場合は、システム停止により事業継続が困難になる可能性があります。安心・安全・安定したIT基盤の運用は経営の大前提であり、当社グループは情報セキュリティ対策を重大な経営課題と認識し、サイバー攻撃の検知・対応ツールの強化、インシデント発生時の迅速で漏れのない情報フローの構築を推進するほか、eラーニングやメール訓練等による従業員のセキュリティ意識の向上施策を実施しています。今後は、経営陣とのサイバーセキュリティ対策に関するディスカッションを強化しつつ、グローバル全体でのサイバーセキュリティ対策や従業員のセキュリティ意識向上施策を継続展開していきます。

 

⑥ 自然災害やパンデミック、海外有事(テロ、紛争)に関するリスク

自然災害対応については、各製造拠点でリスク想定、減災計画、緊急時対応計画を策定し、継続的に訓練を含めた対応を進めています。また、本社地区では2024年度に、大規模地震への備えとしてグループ安全対策本部マニュアルを整備し、訓練を実施して大規模災害の発生を想定したグループ安全対策本部の初動対応の確認をしました。今後は異なる想定での自然災害訓練の実施や、BCPの整備、充実化を進めていきます。

パンデミックへの備えについては、過去の対応を踏まえたマニュアルを整備しました。海外有事(テロ・紛争)対応についても従業員の安全確保や事業継続に関する対応についてマニュアルを整備しました。

 

下記の「M&Aに関するリスク」と「気候変動に関するリスク」については、当社の経営に重大な影響を及ぼすリスクとして取締役会でモニタリングしています。

 

⑦ M&Aに関するリスク

当社グループは、事業ポートフォリオの進化にあたっては、成長投資と構造転換の両輪を回すことが重要と考え、事業投資、新規事業の創出や事業ポートフォリオの転換の手段として、国内外におけるM&Aを通じた事業展開を行っています。ZOLL Medical Corporation(2012年度)、Polypore International Inc.(2015年度)、Sage Automotive Interiors, Inc.(2018年度)、Veloxis Pharmaceuticals A/S(2019年度)、Calliditas Therapeutics AB(2024年度)などの大型買収や近年の「住宅」セグメントや「ヘルスケア」セグメントを中心とした買収などにより、のれん及び無形固定資産残高は増加傾向にあります。M&Aの結果取得した無形固定資産の企業結合日時点における時価については、コスト・アプローチ、マーケット・アプローチ、インカム・アプローチなどによって合理的に算定された価額を基礎として算定しており、事業計画等の不確実性を伴う仮定が反映されています。

そのため、事業計画等において初期に期待した投資効果が発現しなかった場合や関係会社の経営が悪化した場合、被買収企業との事業統合が遅延した場合など、のれんや無形固定資産の減損等により当社グループの業績に影響が及ぶ可能性があります。当社グループでは、買収検討の対象企業のデューデリジェンス(詳細調査)を慎重に行い、買収後の事業統合の計画を入念に検証することで、リスクの低減に努めています。しかし、過去の大型買収が海外での新規市場や成長市場に関する案件であり、想定外の事業環境の変化への対応を誤ると、投資額の回収が困難となるリスクを抱えています。業界動向を見通すことが難しい事業については、より一層の精査をすることやリスクをより慎重に見積もることで対処していきます。

 

⑧ 気候変動に関するリスク

当社グループは、気候変動に関して生じる変化を重要なリスク要因として認識し、気候変動が事業に及ぼす影響の分析、対応策の検討を行っています。詳細は「第2 事業の状況 2 サステナビリティに関する考え方及び取組 [個別重要課題] (1)気候変動」の記載をご参照ください。

 

上記以外のリスクについて

上記に記載したリスク以外にも、当社グループの事業運営全体に係るリスクに対して日々の事業活動の中でリスク低減に努めており、主なリスク項目は以下のとおりです

 

① 通商に関するリスク

当社グループは、原材料の購入や製品の輸出、海外における現地生産等、幅広く海外で事業を展開し、国際貿易や資金決済に関する二国間あるいは多国間の協定や枠組みのメリットを享受しています。これらの協定や各種枠組み等の変更や新規規制の導入などにより、関税の増加、通関の遅延・不能、資金決済の遅延・不能が生じ、代金回収や事業遂行の遅延・不能、業績悪化等が発生するリスクを負っています。当社グループでは、適時に規制内容を把握することや、関係当局に事前に相談し、対策を講じることによって、これらのリスクの低減に努めています。

米国の追加関税については、動向が流動的であるものの、米国に所在する当社グループの現地法人の原材料調達コストの上昇に繋がる懸念があります。コスト上昇分については、顧客との対話により売値への転嫁に努めるほか、必要に応じてサプライチェーンの変更などの検討を進めます。また、日本やその他の国に所在する当社グループから米国への輸出については、米国の顧客の関税負担増加により需要が減少するリスクがあります。そのため、グローバルに事業戦略を適宜見直していくほか、価格競争の影響を受けにくい高付加価値品の研究、開発を進めます。

また、グループ会社間の国際的な取引価格については、当社グループ税務方針に基づき、日本国政府及び相手国政府の移転価格税制を遵守していますが、税務当局から取引価格が不適切であるとの指摘を受ける可能性や、協議が不調となった場合に二重課税や追徴課税を受ける可能性があります。そのため、重要性の高いグループ会社間取引については、事前確認制度の活用、あるいは、外部専門家の意見も参考にしながら、各国の移転価格税制を踏まえた独立企業間価格を設定しています

 

 

② 事業競争力に関するリスク

当社グループは、「マテリアル」「住宅」「ヘルスケア」の3つのセグメントにおいて、付加価値の高い製品・サービスを提供していますが、類似の製品や技術による競合企業のキャッチアップ、新たな競合企業の参入等によって競争環境が激化することや、デジタル技術や脱炭素化に貢献する技術等急速な技術革新による産業構造の変化、急激な需要構造・市場構造の変化などにより、当社グループの各事業の競争力を損なう可能性があります。当社グループでは、競合製品の競争力や産業構造の変化をタイムリーかつ的確に見通すことに努めるとともに、製品やサービスの絶え間ない差別化や模倣困難なビジネスモデルの構築、知的財産等による高い参入障壁を設けることにより、これらのリスクの低減に努めています

 

③ 市況変動によるリスク

・ 原油・ナフサ価格変動リスク

当社グループは、原油やナフサを原料とした石油化学製品の製造・販売事業を展開しています。また、各原料市況並びに需給バランスから固有の市況を形成しており、その変動は当該事業や誘導品からなる当社グループの各事業に影響を及ぼします。特に、事業規模が大きいアクリロニトリル事業は市況の変動の影響が大きいため、販売価格のフォーミュラの見直し等、収益の安定化に努めています。

 

・ 為替変動リスク

当社グループは、輸出入及び外国間等の貿易取引において、外貨建ての決済を行うことに伴い、円に対する外国通貨レートの変動による影響を受けます。そのため、取引においては、先物為替予約等によるヘッジ策やCMS(キャッシュ・マネジメント・システム)の活用による、安定的かつ効率的な資金活用を目指しています。当社グループは、収益の多くが外貨建てであることに加え、当社の報告通貨が円であることから、外国通貨に対して円高が進むと、当社グループの業績にマイナスのインパクトを与えます。当社の試算では、米ドル・円レートが1円変動すると連結営業利益に年間14億円の変動をもたらします。

 

(4) 各セグメントに係るリスク

「マテリアル」「住宅」「ヘルスケア」の各セグメントでは、事業上の課題やリスクへの対策検討を実施するなかで事業重要リスクのPDCA管理も実施しています。各事業の課題やリスクに関する詳細は「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (2) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題」をご参照ください。

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

本項の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの分析は、将来のリスク、不確実性及び仮定を伴う予測情報を含んでいます。これらの記述は、現時点で当社が入手している情報を踏まえた一定の前提条件や見解に基づくものであり、「3 事業等のリスク」等に記載された事項及びその他の要因により、当社グループの実際の業績はこれらの予測された内容とは大幅に異なる可能性があります。

 

(1) 経営成績等の状況の概要及び経営者の視点による分析・検討内容

① 経営成績

Ⅰ 当社グループ全体

当社グループの当連結会計年度(2024年4月1日~2025年3月31日、以下、「当期」)における連結業績は、「マテリアル」が石化市況の上昇による交易条件の改善や、半導体・電子機器関連市場の好調な需要に伴う拡販などにより改善し、「住宅」「ヘルスケア」は堅調に推移したことから、売上高は3兆373億円で前連結会計年度(以下、「前期」)比2,524億円の増収となり、営業利益は2,119億円で前期比712億円の増益となりました。経常利益は1,935億円で持分法による投資損失の減少などにより前期比1,033億円の増益となりました。また、前期比で減損損失は減少しましたが、税金費用が増加したことなどにより、親会社株主に帰属する当期純利益は1,350億円で、912億円の増益となりました。その結果、EPS(1株当たり当期純利益)は97.94円と前期比66.34円の増加となりました。

資本効率について、当期のROICは5.5%で前期比0.4%の悪化、ROEは7.4%で前期比4.8%の改善となりました。

財務健全性については、有利子負債の増加を受けて、D/Eレシオは0.62となりました。

 

〈当社グループの業績〉

 

経営指標

2022年度

2023年度

2024年度

前期との

差異

収益性

売上高

(億円)

27,265

27,849

30,373

+2,524

営業利益

(億円)

1,277

1,407

2,119

+712

売上高営業利益率

(%)

4.7

5.1

7.0

+1.9

EBITDA

(億円)

3,050

3,229

3,980

+751

売上高EBITDA率

(%)

11.2

11.6

13.1

+1.5

親会社株主に帰属する当期純利益又は当期純損失(△)

(億円)

△919

438

1,350

+912

EPS

(円)

△66.30

31.60

97.94

+66.34

資本効率

ROIC

(%)

4.0

5.9

5.5

△0.4

ROE

(%)

△5.5

2.5

7.4

+4.8

財務健全性

D/Eレシオ

 

0.57

0.51

0.62

+0.12

 

 

Ⅱ セグメント別

ⅰ 「マテリアル」セグメント

売上高は1兆3,688億円前期比1,070億円の増収となり、営業利益は874億円で前期比448億円の増益となりました。

環境ソリューション事業は、セパレータ事業における分社や北米投資に伴う費用の増加、経時的な価格対応などによる減益影響を受けましたが、基盤マテリアル事業における交易条件の改善や固定費低減により、大幅な増益となりました。

モビリティ&インダストリアル事業は、円安影響や価格転嫁が進捗したことによる交易条件の改善に加え、自動車内装材事業の販売量も増加したことから、増益となりました。

ライフイノベーション事業についても、円安影響に加え、AIサーバーやハイエンドスマホ向けの電子材料や電子部品など、デジタルソリューション事業を中心に主力製品の販売が堅調に推移し、増益となりました。

 

ⅱ 「住宅」セグメント

売上高は1兆359億円前期比815億円の増収となり、営業利益は959億円で前期比130億円の増益となりました。

住宅事業は、建築請負部門が、数量が減少する一方で、物件の大型化・高付加価値化による平均単価の上昇やコストダウンによる限界利益率の改善により、増益となりました。不動産部門は、開発事業の営業利益は前年並みとなったものの、賃貸管理事業が管理戸数を順調に伸ばし、増益となりました。海外事業部門は、円安に加えて、北米事業の数量回復と豪州事業の価格転嫁により、増益となりました。

建材事業についても、価格転嫁が進み、増益となりました。

 

ⅲ 「ヘルスケア」セグメント

売上高は6,159億円前期比621億円の増収となり、営業利益は640億円前期比155億円の増益となりました

医薬・医療事業は、スウェーデンの製薬会社Calliditas Therapeutics ABの買収に伴う費用の計上があった一方、「Envarsus XR™」など主力製剤が好調に販売数量を伸ばし、増益となりました。

クリティカルケア事業は、円安影響に加え、除細動器の価格転嫁や原価低減、「LifeVest®」の新規患者数が増加したこと等により、増益となりました。

 

 

Ⅲ 生産、受注及び販売の状況

ⅰ 生産実績

当社グループの生産品目は広範囲かつ多種多様であり、同種の製品であっても、その容量、構造、形式等は必ずしも一様ではないため、セグメントごとに生産規模を金額あるいは数量で示すことはしていません

このため、生産の状況については、「Ⅱ セグメント別」における各セグメントの業績に関連付けて示しています

 

ⅱ 受注状況

当社グループは注文住宅に関して受注生産を行っており、その受注状況は次のとおりです。その他の製品については主として見込生産を行っているため、特記すべき受注生産はありません

セグメントの名称

受注高(百万円)

前期比(%)

受注残高(百万円)

前期比(%)

住宅

426,399

108.2

567,132

109.0

 

 

ⅲ 販売実績

当期における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。

セグメントの名称

販売実績(百万円)

前期比(%)

マテリアル

1,368,770

108.5

住宅

1,035,860

108.5

ヘルスケア

615,901

111.2

その他

16,781

112.2

合計

3,037,312

109.1

 

(注) 1 セグメント間の取引については、相殺消去しています。

2 前期及び当期において、主要な販売先として記載すべきものはありません。

 

 

② 財政状態

当期末の総資産は、Calliditas Therapeutics ABを買収したことなどにより、前期比3,525億円増加し、4兆152億円となりました。

流動資産は、現金及び預金が554億円、棚卸資産が405億円増加したことなどから、前期比1,194億円増加し、1兆7,694億円となりました。

固定資産は、投資有価証券が199億円、繰延税金資産が153億円減少したものの、無形固定資産が1,758億円、有形固定資産が673億円、退職給付に係る資産が323億円増加したことなどから、前期比2,331億円増加し、2兆2,458億円となりました。

流動負債は、支払手形及び買掛金が197億円減少したものの、未払費用が291億円、短期借入金が252億円、前受金が213億円増加したことなどから、前期比500億円増加し、9,646億円となりました。

固定負債は、退職給付に係る負債が118億円減少したものの、長期借入金が1,413億円、社債が800億円、繰延税金負債が354億円増加したことなどから、前期比2,371億円増加し、1兆1,367億円となりました。

有利子負債は、前期比2,404億円増加し、1兆1,575億円となりました。

純資産は、配当金の支払500億円や自己株式の取得300億円があり、為替換算調整勘定が226億円減少したものの、親会社株主に帰属する当期純利益を1,350億円計上したことや退職給付に係る調整累計額が289億円増加したことなどから、前期末の1兆8,486億円から653億円増加し、1兆9,139億円になりました。

その結果、1株当たり純資産は前期比60.96円増加し1,369.16円となり、自己資本比率は前期末の49.5%から46.3%となりました。D/E レシオは前期末から0.12ポイント増加し0.62となりました。

 

③ キャッシュ・フローの状況

Ⅰ キャッシュ・フローの状況

当期における営業活動によるキャッシュ・フローは3,015億円の収入、投資活動によるキャッシュ・フローは3,811億円の支出となり、フリー・キャッシュ・フロー(営業活動によるキャッシュ・フローと投資活動によるキャッシュ・フローの合計)は797億円の支出となりました。財務活動によるキャッシュ・フローは1,446億円の収入となり、これらに加え、現金及び現金同等物に係る換算差額による減少85億円などがありました。以上の結果、現金及び現金同等物の当期末残高は、前連結会計年度末に比べ565億円増加し、3,900億円となりました。

 

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

当期における営業活動によるキャッシュ・フローは、法人税等の支払455億円、投資有価証券売却益325億円、棚卸資産の増加321億円、仕入債務の減少267億円などの支出があったものの、税金等調整前当期純利益1,946億円、減価償却費1,535億円、のれん償却額326億円、未払費用の増加211億円、前受金の増加210億円などの収入があったことから、3,015億円の収入(前期比62億円の収入の増加)となりました。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

当期における投資活動によるキャッシュ・フローは、投資有価証券の売却による収入369億円、貸付金の回収による収入128億円などの収入があったものの、有形固定資産の取得による支出2,017億円、Calliditas Therapeutics AB及びODC Construction, LLCの買収による連結の範囲の変更を伴う子会社株式の取得による支出1,912億円、無形固定資産の取得による支出163億円、貸付けによる支出92億円などの支出があったことから、3,811億円の支出(前期比2,386億円の支出の増加)となりました。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

当期における財務活動によるキャッシュ・フローは、長期借入金の返済による支出725億円、配当金の支払500億円、自己株式の取得による支出300億円、社債の償還による支出300億円などの支出があったものの、長期借入れによる収入2,061億円、社債の発行による収入1,000億円、非支配株主からの払込みによる収入163億円などの収入があったことから、1,446億円の収入(前期比2,389億円の収入の増加)となりました。

 

当社グループの連結キャッシュ・フローの推移

(単位:億円)

 

2022年度

2023年度

2024年度

営業活動によるキャッシュ・フロー①

908

2,953

3,015

投資活動によるキャッシュ・フロー②

△2,136

△1,426

△3,811

フリー・キャッシュ・フロー③(①+②)

△1,228

1,527

△797

財務活動によるキャッシュ・フロー④

1,118

△943

1,446

現金及び現金同等物に係る換算差額⑤

157

297

△85

現金及び現金同等物の増減額⑥(③+④+⑤)

47

880

564

現金及び現金同等物の期首残高⑦

2,429

2,479

3,335

連結の範囲の変更に伴う増減額⑧

2

-

1

会社分割に伴う減少額⑨

-

△24

-

現金及び現金同等物の期末残高(⑥+⑦+⑧+⑨)

2,479

3,335

3,900

 

 

Ⅱ 流動性と資金調達の源泉

(資本の財源及び資金の流動性について)

2026年3月31日に終了する連結会計年度においては、各セグメントが安定的なキャッシュ・フローを創出することを見込んでいます。加えて、財務規律の強化や事業ポートフォリオ転換などを通じた収益体質の強化にも取り組み、更なるキャッシュの創出に継続的に努めています。

また、当社グループでは、D/Eレシオ0.7を目安に健全な財務体質を維持しつつ、これを背景に金融情勢に機動的に対応し、金融機関借入、社債やコマーシャル・ペーパーの発行など多様な調達手段により、安定的かつ低コストの資金調達を図ります。同時に資金の年度別返済の集中を避けることで借り換えリスクの低減も図っています。

これらの資金を、経営基盤の強化・変革、持続可能な社会の実現と企業価値の継続的な向上のための戦略的な投資、及び株主の皆様への還元に活用していきます。

なお、当社グループでは、CMS(キャッシュ・マネジメント・システム)とグローバル・ノーショナル・キャッシュ・プーリングを導入しており、国内外の金融子会社、海外現地法人などにおいて集中的な資金調達を行い、子会社へ資金供給するというグループファイナンスの考え方を基本としています。グローバル拡大への対応とグループ経営の深化の視点から、今後も連結ベースでの資金管理体制の更なる充実と資金効率化を図ります。

 

(2) 重要な判断を要する会計方針及び見積り

当社グループの連結財務諸表は、我が国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されています。この連結財務諸表を作成するにあたり重要となる会計方針については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 注記事項(連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項)」に記載されているとおりです。

当社グループは、退職給付会計、税効果会計、貸倒引当金、棚卸資産の評価、投資その他の資産の評価、訴訟等の偶発事象などに関して、過去の実績や当該取引の状況に照らして、合理的と考えられる見積り及び判断を行い、その結果を資産・負債の帳簿価額及び収益・費用の金額に反映して連結財務諸表を作成していますが、実際の結果は見積り特有の不確実性があるため、これらの見積りと異なる場合があります。

当社グループの財政状態又は経営成績に対して重大な影響を与え得る会計上の見積り及び判断が必要となる項目は以下のとおりです。なお、連結財務諸表の作成にあたって用いた会計上の見積り及び仮定のうち、重要なものは「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 注記事項 (重要な会計上の見積り)」に記載しています。

 

① 棚卸資産の評価

当社グループで保有する棚卸資産は取得原価をもって貸借対照表価額とし、収益性の低下により期末における回収可能価額が取得原価よりも下落している場合には、回収可能価額まで棚卸資産の評価を切り下げています。回収可能価額は、商品及び製品については正味売却価額に基づき、原材料等については再調達原価に基づいています。経営者は、棚卸資産の評価に用いられた方法及び前提条件は適切であると判断しています。ただし、当社グループは、主に「マテリアル」セグメントを中心として市場価格の変動リスクに晒されており、将来、経営環境の悪化等により市場価格が下落した場合には棚卸資産の簿価を切り下げることになります。

 

② 企業結合取引の結果取得した無形固定資産の企業結合日時点における時価

当社グループは、企業結合取引の結果取得した無形固定資産の企業結合日時点における時価について、コスト・アプローチ、マーケット・アプローチ、インカム・アプローチなどの合理的に算定された価額を基礎として算定しています。

経営者は、無形固定資産の時価の見積りに用いられた、事業計画に含まれる将来の販売数量の見込みや割引率等についての主要な仮定について合理的であると判断しています。

 

③ 有形固定資産及び無形固定資産(のれんを含む)の減損

当社グループは、有形固定資産及び無形固定資産(のれんを含む)について、帳簿価額が回収できない可能性を示す事象や状況の変化が生じた場合に、減損の兆候があるものとして、減損損失の認識の判定を行っています。減損の存在が相当程度に確実と判断した場合、減損損失の測定を行い、当該資産の帳簿価額を回収可能価額まで減額し、当該減少額を減損損失として計上しています。回収可能価額は、使用価値と正味売却価額のうち、いずれか高い金額としています。使用価値は、将来の市場の成長度合い、収益と費用の予想、資産の予想使用期間、割引率等の前提条件に基づき将来キャッシュ・フローを見積もることにより算出しています。

経営者は、減損の兆候及び減損損失の認識に関する判断、及び回収可能価額の見積りに関する評価は合理的であると判断しています。ただし、予測不能な市場環境の悪化等により有形固定資産及び無形固定資産(のれんを含む)の評価に関する見積りの前提に重要な変化が生じた場合には、減損損失を計上する可能性があります。

 

④ 繰延税金資産の評価

当社グループは、繰延税金資産のうち、回収可能性に不確実性があり、将来において回収が見込まれない金額を評価性引当額として設定しています。繰延税金資産の回収可能性については、課税所得及びタックスプランニングの見積りにより計上していますが、特に課税所得の見積りには将来に関する予測や情報が含まれています。将来の予測や情報に基づき、繰延税金資産の一部又は全部が回収できない可能性が高いと判断した場合には、将来回収が可能と判断される額までを繰延税金資産に計上しています。経営者は、繰延税金資産の回収可能性の判断及び前提となる課税所得やタックスプランニングの見積りは適切であると判断しています。ただし、将来、経営環境の悪化等により、想定していた課税所得が見込まれなくなった場合は、評価性引当額を設定することにより繰延税金資産が取崩される可能性があります。

 

⑤ 退職給付債務及び費用

当社グループは主として従業員の確定給付制度に基づく退職給付債務及び費用について、割引率、昇給率、退職率、死亡率、年金資産の長期期待運用収益率等の前提条件を用いた数理計算により算出しています。割引率は測定日時点における、従業員の給付が実行されるまでの予想平均期間に応じた長期国債利回りに基づき決定し、各前提条件については定期的に見直しを行っています。長期期待運用収益率については、過去の年金資産の運用実績及び将来見通しを基礎として決定しています。

経営者は、年金数理計算上用いられた方法及び前提条件は適切であると判断しています。ただし、前提条件を変更した場合、あるいは前提条件と実際の数値に差異が生じた場合には、数理計算上の差異が発生し、当社グループの退職給付債務及び費用に影響を与える可能性があります。

 

 

5 【重要な契約等】

(1) 合弁会社株主間契約

契約会社名

契約締結先

内容

合弁会社名

契約締結日

契約期間

旭化成㈱

(当社)

PTT Global Chemical Public Company Limited

合弁会社株主間契約 等

(注)

PTT Asahi Chemical Co., Ltd.

2008年3月24日

締結日から合弁会社の存続する期間

旭化成㈱

(当社)

本田技研工業株式会社

合弁会社株主間契約

Asahi Kasei Honda Battery Separator Corporation

2024年11月1日

締結日から合弁会社の存続する期間

 

(注) PTT Global Chemical Public Company Limitedと協議の結果、PTT Asahi Chemical Co., Ltd.が今後事業を継続することは困難との判断で一致し、本合弁事業を終了することで合意したため、2024年11月15日に事業撤退計画等を反映した修正契約を締結しました。

 

(2) 米国ODC Construction, LLCの持分の取得について

当社の連結子会社である旭化成ホームズ㈱(以下「旭化成ホームズ」)は、旭化成ホームズの米国子会社を通じて、住宅の建築工事を請負うサブコントラクター、ODC Construction, LLC(本社:米国フロリダ州、CEO:Tony Hartsgrove)の持分100%を取得する契約を2024年8月6日(米国東部時間)に締結し、8月29日(米国東部時間)に当該持分の取得を完了しました。

なお、詳細については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 注記事項 (企業結合等関係)」に記載しています。

 

(3) スウェーデン製薬企業Calliditas Therapeutics ABの株式の取得について

当社は、スウェーデンの製薬企業である Calliditas Therapeutics AB(本社:スウェーデン ストックホルム、CEO:Renée Aguiar-Lucander、以下、「Calliditas社」)に対し、Calliditas社を買収することを目的に、当社による株式公開買付(以下、「本公開買付」)を行うことを決議し、2024年9月2日(スウェーデン時間)をもって本公開買付けを完了しました。また、その後当社がスウェーデン法に従って実施したスクイーズアウトの手続きにより、Calliditas社は当社の100%連結子会社になりました。

なお、詳細については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 注記事項 (企業結合等関係)」に記載しています。

 

(4) Calliditas Therapeutics ABの買収に係る資金借入について

当社はCalliditas Therapeutics AB買収に係る所要資金調達のために、株式会社三井住友銀行等との間で当座貸越契約を締結し、2024年9月6日に以下のとおり借入を実行しています。

① 借入人    当社

② 借入先     株式会社三井住友銀行、株式会社みずほ銀行

③ 借入形式    円建てローン

④ 借入金額    1,620億円

⑤ 資金使途    Calliditas Therapeutics ABの株式取得資金、Calliditas Therapeutics ABの既存借入債務の弁済資金、Calliditas Therapeutics AB買収に関する費用の支払い

⑥ 借入利率      基準金利+スプレッド

⑦ 借入日     2024年9月6日

⑧ 契約期限    2025年9月5日等

⑨ 担保の有無   なし

⑩ 保証      なし

⑪ 財務制限条項  なし

 

(5) 連結子会社による優先出資受入れ及び株式譲渡等による血液浄化事業のアイエーホールディングス株式会社への譲渡について

当社は、2024年9月18日の取締役会の決議において、当社の完全子会社であり、透析・アフェレシス等の事業等を行う旭化成メディカル㈱(以下「旭化成メディカル」)が、インテグラル株式会社(代表取締役パートナー:山本礼二郎、本社:東京都千代田区)が設立し、その関連会社が運営するファンドが保有する特別目的会社であるアイエーホールディングス株式会社(以下、出資会社)による出資を受けること、及び当社が保有する旭化成メディカルの株式を譲渡することについて決議し、出資会社と合意しました。

なお、詳細については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 注記事項 (重要な後発事象)」に記載しています。

 

(6) 連結子会社による会社分割及び株式の譲渡による診断薬事業などの長瀬産業への譲渡について

当社の連結子会社である旭化成ファーマ㈱は、診断薬事業、大仁医薬工場及び大仁統括センターを長瀬産業株式会社(本社:東京都千代田区、社長:上島宏之)へ譲渡すること等を内容とした最終契約を2024年9月24日付で締結しました。

なお、詳細については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 注記事項 (追加情報)」に記載しています。

 

6 【研究開発活動】

当社グループにおける研究開発活動は、次世代の事業を創出するためにグループ横断的に中長期的なテーマを開拓するコーポレートの研究開発機能と、事業競争力の強化に必要なテーマを深掘りする各事業の研究・技術開発機能の体制で推進しています。当社及び連結子会社の研究費、主たる研究開発活動の概要及び成果は以下のとおりです。

 

 

当連結会計年度

 

マテリアル

43,511

百万円

 

住宅

3,814

百万円

 

ヘルスケア

52,247

百万円

 

その他

137

百万円

 

99,708

百万円

 

全社

10,933

百万円

 

合計

110,641

百万円

 

 

 

1 コーポレートの研究開発における基本方針

(1) ミッションとあるべき姿

コーポレートの研究開発のミッションを以下のとおり定め、研究開発におけるコア技術の育成・獲得・深耕及びイノベーションによる新事業創出を当社グループの成長戦略の両輪として、様々な社会課題を成長のエンジンへ転換し、持続的な成長を実現する原動力とすることを、あるべき姿として目指していきます。

(コーポレートの研究開発のミッション)

コア技術の育成・獲得・深耕

差別性・優位性の高い製品・サービス開発のためのコア技術の深化及び外部技術獲得・育成

イノベーションによる新事業創出

自社の研究開発のマネジメントの強化に加え、CVCやオープンイノベーション等、社外との連携も加速

技術基盤機能の深化と進化

当社グループを支える技術基盤機能の深化と進化

 

 

(2) 重点戦略分野等

重点戦略分野として、「脱炭素・水素(カーボンニュートラル)」「膜・セパレーション技術」「化合物半導体」の3分野を設定して研究開発テーマに資源配分を進めています。また、これらを含めた研究開発を進めるにあたっては、オープンイノベーションを通じて共創による開発を進めるとともに社会実装を加速し、さらに、DXや知的財産権のフル活用により無形資産の価値の最大化を図り、新事業創出による持続可能な社会への貢献を目指していきます。無形資産の価値の最大化については、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (1) 経営方針・経営戦略等 ② 当社グループ全体の経営方針・経営戦略等 <経営方針・経営戦略> ●「中期経営計画2027 ~Trailblaze Together~」の概要 v 経営基盤の強化 ■ 無形資産の最大活用」もご参照ください。

 

2 新事業創出に向けた研究開発の加速のための取り組み

(1) CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)の活動

当社グループは、2008年に日本国内でCVCを設立し、2011年から米国を拠点として、スタートアップ企業への投資を通して最先端技術・ビジネスを獲得し、新事業の創出を行ってきました。現在は、米国、ドイツ、中国の拠点でグローバルな活動の幅を広げ、3年間で6,000万ドルの投資枠を設けて、1社当たり500万ドルまでの投資に関しては本社での決裁を不要とするなど、スピーディな意思決定、手続きができるような仕組みを運用しています。

2023年4月には、「Care for Earth」投資枠を設定し、水素、蓄エネルギー、カーボンマネジメント、バイオケミカルなどの環境分野の課題解決に取り組むアーリーステージのスタートアップ企業を対象に、2027年度までの5年間にグローバルで1億ドルの出資を実施していく予定です。この投資枠を使い、2023年12月にはアニオン交換型の水電解装置用の膜を開発するカナダのIonomr Innovations Inc.への出資参画を決定しました。詳細は「3 主な研究開発活動 (1) 当社グループ全体(コーポレート) ② 膜・セパレーション技術の開発」をご参照ください。

 

(2) オープンイノベーションによるミッシングパーツの取り込み

研究テーマの探索/研究開発/事業開発のそれぞれの段階で、アセットライト、高付加価値化、スピードアップの実現へ向けて産官学のパートナーと連携を進めています。外部のオープンイノベーションプラットフォームも積極的に活用し、例えば、サステナブルな価値の提供を目指すオープンイノベーションプログラム「Asahi Kasei Value Co-Creation Table 2024」を前期に引き続き進めており、従来の商流にとらわれない新たなパートナーとの共創を加速しています。

 

(3) 社内基盤の強化(事業開発視点を重視した独自のアジャイル型ステージゲート管理や、オープンイノベーション文化の醸成)

研究開発テーマのポートフォリオ管理や適切な資源配分を目的として、アジャイル型ステージゲート制度を導入しています。探索、研究、開発、事業開発、事業化準備の各ステージの要件や、各研究開発テーマのステージ上の位置付けを明確にし、研究開発テーマを次のステージに移行させる判断にあたっては、技術視点のみならず、顧客価値視点を重視し、ビジネスモデル、事業戦略、特許戦略、品質保証、製造、環境安全対応等、ステージごとに必要な審査を強化しています。さらに、審査プロセスを通じて、研究開発部門の内外のメンバーから多面的な助言を得ることや、各事業との連携を深め、既存事業との関係性の整理・明確化、パートナー連携の活用強化や出口戦略の多様化に取り組んでいます。

また、研究開発に関わる高度専門人材があふれ出る仕組みの構築と風土の醸成へ向けて、働き方やDE&I、キャリア支援、組織の支援や個の支援の各場面において、挑戦・成長を促して多様性を拡げるためのキャリア施策とマネジメント施策を進め、社内での対話を通じた共創・イノベーションを目指しています。

 

3 主な研究開発活動

(1) 当社グループ全体(コーポレート)

① 炭素・水素循環型社会実現への貢献

 ⅰ バイオエタノールからのバイオ化学品製造の実証

バイオエタノールからバイオ基礎化学品を製造するプロセス開発・設計を進めており、4~5万トン規模のプラントについて2027年稼働を目標に検討を進めています。GHG排出量を削減し、自社基礎化学品や誘導品のCFP低減を推進するとともに、ISCC PLUS認証やバイオマスバランスアプローチを適用したバイオ化学品サプライ事業を目指し、実証実験を通じたデータ取得や技術のパッケージングを実施していきます。

 

 ⅱ アルカリ水電解システムの開発

カーボンニュートラルを実現するための取り組みとして、再生エネルギーを活用したアルカリ水電解システムの開発を実施しています。国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構の「グリーンイノベーション基金事業/再エネ等由来の電力を活用した水電解による水素製造」において、2021~2030年度を事業期間と想定した「大規模アルカリ水電解水素製造システムの開発及びグリーンケミカルプラントの実証」と題したプロジェクトとして、福島県浪江町での10MW級アルカリ水電解システム及び中規模グリーンケミカルプラントの検証や、マレーシアでの60MW級アルカリ水電解システム及びグリーンケミカルプラントの実証を、日揮ホールディングス株式会社と進め、水素を用いたエネルギー貯蔵・利用の実用化に向けた技術開発事業の拡充・強化を行っています。また、同基金の助成を受けて、多様な実証実験が可能な水素製造用のアルカリ水電解パイロット試験設備が2024年5月に当社川崎製造所にて本格稼働しました。同設備に組み込む電解セルは商業機と同じサイズの設備であり、部材の性能や長期耐久性といった開発品の評価試験から、水電解システム全体の信頼性を確認することができるため、当社の水電解技術の開発と事業化を大きく加速させていきます。

 

 ⅲ CO2ケミストリー技術、CO2分離回収システムの開発

当社グループでは、有毒な化合物(ホスゲン)を使用せず、CO2を原料に使用する地球環境負荷の低いポリカーボネート(PC)樹脂製造プロセスを世界で初めて確立し、社会へ新たな価値を提供してきました。また、2018年に実証が完了したCO2を原料とするジフェニルカーボネート製造プロセスや、現在開発中であるCO2誘導体利用技術のイソシアネート製法など、さらなる展開を進めていきます。加えて、ゼオライトを吸着材として用いたCO2分離回収システムの開発も進めており、岡山県倉敷市との間でバイオガス精製システムの性能評価、実証を行う契約を締結し、倉敷市の児島下水処理場においてゼオライト系CO2分離回収システムの実証運転を2025年2月に開始しました。

 

膜・セパレーション技術の開発

当社グループのコア技術である相分離技術をベースに膜・セパレーション技術の研究開発を進めることにより、既存事業の強化に加えて、新たな事業展開を加速しています。

 ⅰ バイオプロセスFO(正浸透)膜

医薬品製造プロセスで使用されるバイオプロセスFO(正浸透)膜は、FOシステムとMD(膜蒸留)システムのハイブリッドにより、非加熱・非加圧で濃縮できるため医薬品の変性を防ぐとともに、凍結時間の短縮やエネルギー負荷の低減の実現を通じて医薬品製造プロセスを革新するものであり、既に複数の顧客候補と実証実験に取り組んでいます。

 

 ⅱ アニオン交換型の水電解装置用の膜

水電解にはアルカリ水電解型を含めていくつかの方式がありますが、性能・コストの両面で大幅な改善が期待される次世代膜として、アニオン交換型の水電解装置用の膜(Anion-Exchange Membranes、AEM)への展開にも取り組んでいます。2023年12月にCVCの「Care for Earth」投資枠で出資参画したカナダのIonomrが手掛けるアニオン交換型の水電解は、再生可能エネルギーを利用する際に特に求められる負荷変動対応で優れる他、希少金属を使わないことからコスト面でのポテンシャルも期待されています。今後、研究開発面での同社とのコラボレーションを進め、AEMに関する知見を蓄えるとともに、当社が保有する知見・技術を活用し、同社の膜の性能向上も支援していきます。

 

③ 化合物半導体の開発

 ⅰ 深紫外LED/深紫外レーザー

現在、殺菌、ウイルス不活性化に最も効果の高い、波長265nmを高出力で実現できる深紫外LEDの展開を実施していますが、さらなる高出力化に向けた研究や高効率化のための開発に取り組んでいます。また、名古屋大学との協力により、深紫外レーザーダイオードの開発を行っており、2019年には世界で最も短波長のレーザーダイオードの発振に成功しました。また、その技術をさらに進化させ、2022年11月には深紫外半導体レーザーの室温連続発振に世界で初めて(※)成功し、電池駆動も可能なレーザー発振の成功により、実用化に向けて飛躍的に前進しています。今後は、計測・解析、殺菌などの用途での実用化を目指した取り組みを進めていきます。

 

 ⅱ 窒化アルミニウム(AlN)系材料

窒化アルミニウム(AlN)系材料は、低い電力損失と高い耐圧の特徴を併せ持ち、炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)よりも高いエネルギー効率を実現するポテンシャルを有することから、次世代のパワーデバイスへの適用やRF(高周波)アプリケーションへの展開が期待されています。2023年8月には当社グループのCrystal IS, Inc.が4インチ(直径100mm)のAlN単結晶基板の製造に世界で初めて(※)成功しました。また、名古屋大学との協力により、同年12月には電流-電圧特性、耐電圧特性において非常に良好な特性を示す、理想的なAlN系の「pn接合」の実現に世界で初めて(※)成功しました。さらに、2024年11月には実用デバイスにも用いられるHEMT構造で従来から2倍程度向上した2.2MV/cmという耐電圧の向上にも成功しました。また、Crystal ISが製造する4インチ(直径100mm)AlN単結晶基板の使用可能面積が99%を超えてきたことから、国内外の半導体デバイスメーカーへのサンプル基板の提供を2024年度下期より開始しました。各種デバイス生産能力・効率の大幅な向上への貢献を目指してさらなる改善を行っていきます。

 

※これまでの学会発表や論文などから当社グループ調べによるもの

 

 

セルロースナノファイバー系材料の開発

バイオ由来のセルロースナノファイバーと、樹脂又は繊維をナノコンポジット化することで、素材の高機能化と環境技術を両立し、サステナビリティに貢献する製品の実現を目指しています。当社グループでは、セルロースナノファイバーからセルロースナノファイバーコンポジットまでの一貫製造プロセスを保有していることの特長を活かし、低コスト、低環境負荷、高機能を満たす製品開発及びマーケティング活動を通じた事業化の検討を進めています。2023年6月には、プラスチックの合成繊維にセルロースナノファイバーを10質量%混ぜて成形した材料で、一般的なフェルトの防音材と比べて厚さが40分の1の0.5mmという薄さながら同等の防音性能を実現しました。開発品は幅広い周波数領域で吸音かつ遮音性能を併せ持ち、薄膜でも立体的に成形できる特徴があります。モーターやコンプレッサーなどの形状に合わせたケースに成形し、騒音源を囲うような使い方を想定し、今後、自動車向けの防音材としての製品化を目指していきます。

 

⑤ 「旭化成-産総研 サステナブルポリマー連携研究ラボ」の設立

当社と産総研グループは、サステナブルポリマーの提供を可能にする社会システムの実現を目標に、2025年1月1日に「旭化成-産総研 サステナブルポリマー連携研究ラボ」を設立しました。本連携ラボでは、「リサイクル材の確保と利用」を可能にするポリマーリサイクルシステムの社会実装、及び「機能を伴ったリサイクルしやすい設計」を実現する技術・システムの提供を目指します。具体的には、「リサイクル材の確保と利用」に向けた課題の一つである品質確保に向けたグレーディングのモデルケースの創出を目指します。また、「機能を伴ったリサイクルしやすい設計」の実現のために、易解体接着剤に着目し、使用材料の再生・再利用につながる易解体ソリューションの提供に向けた開発を行います。

 

(2) 「マテリアル」セグメント

・ 環境ソリューション事業

セパレータ事業では、高分子設計・合成、製膜加工や塗工などのコア技術を活かして、「省資源・省エネルギー・コストダウン」「環境負荷軽減」「再生可能エネルギーの普及」に向けた開発を推進しています。電気自動車等の環境対応車、電子機器、電動ツールや蓄電システム用途に展開するリチウムイオン電池用高機能セパレータ等の環境・エネルギー関連素材の展開に注力していきます。また、セパレータの知見を通じて取得できるデータをもとにした、電池の耐久性や寿命、航続距離を伸ばすソリューションの開発も併せて検討していきます。

イオン交換膜事業では製造型リカーリングを推進しており、「メンテナンス最適化」「トラブルレス」「運転条件最適化・簡易化」の顧客課題をソリューション開発により解決するため、顧客とのデータ基盤の構築やシステムの構築に向けた取り組みを行い、ソリューション提案を推進しています。また、イオン交換膜法食塩電解事業で構築した事業基盤を、アルカリ水電解水素製造のビジネスへ展開していきます。中期的には、グリーン水素製造用/イオン交換膜法食塩電解プロセス用が併産できる生産設備を稼働させる予定であり、イオン交換膜事業と水素ビジネスが一体となって成長を目指します。

 

・ モビリティ&インダストリアル事業

自動車内装材事業では、環境負荷低減に貢献する取り組みとして、スエード調人工皮革「Dinamica®」のリサイクル原料比率向上やモノマテリアル化などを通じたサステナビリティ強化、米国スタートアップNFW社との非石油由来レザーの共同開発など、リサイクル性の高い素材やバイオマス由来原料の積極的な活用を検討しています。

 

・ ライフイノベーション事業

電子材料事業では、微細化、高集積化、高速化を支える最先端半導体・実装プロセス革新に向け、感光性ポリイミド「パイメル™」や感光性ドライフィルム「サンフォート™」など先進・独自の技術による高付加価値製品の展開を進めています。特にDXの加速によって、知財データの活用や、マテリアルズインフォマティクス(MI)などによる、開発競争の強化を図っています。自律成長に加え、技術導入等による価値創出を模索し、電子部品事業との融合も図り、デジタル社会で求められるニーズに対し特徴ある部品、部材、ソリューションを展開していきます。

電子部品事業では、デジタル社会の進展に対応し、「音」「磁気」「ガス」のセンシング技術を主軸に、省エネ・健康・快適に繋がるソリューションを提供できる技術及び製品の開発を推進しています。豊富な技術資産と柔軟なエンジニア組織運営により、センサ技術、アナログ信号処理技術、アルゴリズム技術等を融合し、独自のソフトウェアを活かした高機能電子部品の開発のみならず、モジュール型ビジネスへの展開にも積極的に取り組んでいきます。特に電気自動車(EV)化に伴うパワー系のセンシングソリューション、またサウンドマネジメントソリューションのトレンドを的確に掴んだ、特徴のあるソリューション提案を進めています。

また、生活者の視点と健康で快適な暮らしへの貢献を意識し、新事業領域として、新規セルロース素材の事業化や、高機能テキスタイルの開発などにも取り組んでいます。

繊維事業では、アパレルと衛生材料を重点マーケット領域と定め、キュプラ繊維「ベンベルグ®」やポリウレタン弾性繊維「ロイカ®」を軸に、独自性を活かし、かつ、サステナビリティに対応した付加価値の高い製品創出や生産プロセス革新のための研究開発を進めています。

 

(3) 「住宅」セグメント

住宅事業では、「ロングライフの実現」を支えるコア技術について、重点的な研究開発を続けています。シェルター技術については、安全性(耐震・制震技術、火災時の安全性向上技術)、耐久性(耐久性向上・評価技術、維持管理技術、リフォーム技術)に加えて、居住性(温熱・空気環境技術、遮音技術)、環境対応性(省エネルギー技術、低炭素化技術)の開発を行っています。また、住ソフト技術については、都市部における二世帯同居やシニア等の住まい方についての研究を推進するとともに、住宅における生活エネルギー消費量削減と人の生理・心理から捉えた快適性を研究し、健康・快適性と省エネルギーを両立させる、環境共生型住まいを実現する技術開発に注力しています。さらに、AIとデータサイエンス技術を活用して、お客様の暮らしを豊かにする多角的なサービスを提供するデジタルサービスプラットフォームの構築を目指した取り組みを行っています。2021年にはIoTを活用した宅配物の受け取りやセキュリティレベルを選択可能にした収納空間「スマートクローク・ゲートウェイ」の運用を開始し、2023年には、他社と開発を進めているAI 技術を用いて自律移動ロボットを活用し、宅配物をロボットが受け取り、自動で居住空間に運ぶ未来の暮らしの提案を行っています。今後もさらに生成 AI の開発を進め、住宅全体への展開を目指していきます。

建材事業では、「良質空間を追求し、グッド・マテリアルを通じて、未来を見据え新たな価値を創造する」を事業ビジョンとし、軽量気泡コンクリート(ALC)、フェノールフォーム断熱材、杭基礎、鉄骨造構造資材の4つの事業分野において基盤技術の強化を推進しています。

 

(4) 「ヘルスケア」セグメント

医薬事業では、自社オリジナル製品の研究開発で培った経験をもとに、免疫領域(SLE、移植等)、整形外科領域(骨、疼痛等)及び救急領域を中心に、有効な治療方法がない医療ニーズを解決することによって、「健康でいたい」と願う世界中の人びとのQOL(Quality of Life)向上を図ることを目指して、積極的な研究開発を行っています。創薬技術や創薬シーズ、創薬テーマについては、世界中の企業や大学とのコラボレーションを積極的に推進することによって、絶えざる革新を日々進めています。

医療事業では、治療の可能性を広げ、医療水準を向上させる製品、技術、サービスを提供するために、グループ総力を挙げた研究開発に取り組んでいます。グループのコア技術である膜、フィルター、吸着材等による濾過・分離技術を、化学、機械工学、医薬分野での幅広い知見や保有技術と高度に融合させることで、血液製剤や生物学的製剤のウイルス安全性確保やプロセスエンジニアリングをはじめとしたライフサイエンス分野における技術をさらに発展させていきます。2024年10月には高い透水性を特徴とした次世代ウイルス除去フィルター「プラノバ™ FG1」を発売開始しました。

また、製品のみならずCRO(Contract Research Organization)やCDMO等のサービスを通じて、独自の価値を提案する事業への進化に注力し、ウイルス除去フィルターの提供を超えて医薬品製造の安全性と製造効率向上に貢献することを目指します。2024年6月にはBionovaにおいて、遺伝子治療や細胞治療の重要な原材料であるプラスミドのCDMO拠点を米国テキサス州に新設することを決定しました。

クリティカルケア事業では、革新的医療の提供と収益成長の実現に注力します。従来の心肺蘇生や心疾患領域における市場ポジションの継続的な強化に加えて、睡眠時無呼吸症領域に事業拡大していきます。Respicardia、Itamar、及びZOLLの「LifeVest®」が持つ強みと市場チャネルを統合することで、心疾患と関連があると言われる睡眠時無呼吸症に対して高度な診断・治療ソリューションを提供していきます。