第2 【事業の状況】

 

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中の将来に関する事項は、当社グループが有価証券報告書提出日現在において合理的であると判断する一定の前提に基づいており、実際の結果とは様々な要因により大きく異なる可能性があります。

 

1.会社経営の基本方針

当社グループは、社会の一員として、社会との調和を図りながら持続的に発展し、さらにステークホルダーの期待に積極的に応えていくことの重要性を強く認識しており、「新しい潮流の変化に鋭敏であり続けるアグレッシブな先進企業を目指す」「世界とともに生きる」を経営理念として、独自性のある優れた技術で、時代の先端をいく製品と顧客ニーズに合った製品を提供し、企業の社会的責任を果たしていくことを経営の基本方針としています。
 

2.目標とする経営指標、中長期的な会社の経営戦略

当社グループは、中長期的な目指すべき方向性を示した2030年のありたい姿『ADEKA VISION 2030~持続可能な社会と豊かなくらしに貢献するInnovative Company~』を掲げ、SDGs(持続可能な開発目標)の達成に向けて、幅広い事業を世界中で展開し、革新的な技術で世界をリードすることで、持続可能な社会と人々の豊かなくらしに貢献する企業となることを目指しています。
 『ADEKA VISION 2030』の実現に向けたセカンドステージとして、2024年度から2026年度の中期経営計画『ADX 2026』をスタートしました。

「ADX」は「ADEKAは変わります(ADEKA Transformation)」という決意を表しています。『ADX 2026』は、『ADEKA VISION 2030』の実現に向けて、変革を続ける3年間と位置付け、成長戦略としてサステナビリティを推進し、社会価値の創出を通じた稼ぐ力の強化を図ります。また、環境貢献製品の拡大やカーボンニュートラルの実現に向けたGHG排出量削減の推進に努め、より強靭な経営基盤のもと企業価値のさらなる向上を目指してまいります。

 


 

 

〔基本方針〕

〔基本戦略〕

 社会価値と利益の共創による企業価値のさらなる向上を目指し、「稼ぐ力の強化、高収益構造への転換」「環境貢献製品の拡大、及び事業構造の変革によるGHG削減」「経営基盤の強靭化」を進めます。

 

◆稼ぐ力の強化、高収益構造への転換

収益の柱である半導体材料に積極的に経営資源を投下していく一方、将来を見据えた事業の再構築を進めます。各事業の成長戦略を遂行し収益性向上を図るとともに、将来の成長の柱となる新製品の拡大や新規事業を推進します。また資本効率性の向上に向けた施策を実行し、当社の稼ぐ力の向上を図ります。稼ぐ力の強化により、規模拡大から利益を重視した事業成長を図ります。

 

◆環境貢献製品の拡大、及び事業構造の変革によるGHG削減

環境貢献製品の拡大と創出を進め、社会課題解決の機会を取り込んだ成長戦略を遂行します。また、カーボンニュートラルの実現に向けて各事業でGHG排出量削減に取り組み、持続可能な社会の実現に貢献してまいります。DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)を推進し、多様な人財活躍の機会を創出するとともに、人権デュー・ディリジェンスの実行により、サプライチェーン全体で人権を尊重します。

 

◆経営基盤の強靭化

各事業における戦略製品群の安定生産に向けて、重要原料を把握・管理し、外部環境が激しく変化した際にも事業継続できる強靭なサプライチェーンを構築します。人的資本活用の基盤を整備し、各事業の成長ステージにあわせた人財の配置・育成を推進します。デジタル技術を取り入れ、継続的に業務改革を進めていきます。

 

3.2024年度の取り組み

中期経営計画『ADX 2026』の初年度となる当期は、基本戦略のひとつである「稼ぐ力の強化、高収益構造への転換」の下、各事業における成長市場への領域拡大を実現するための基盤構築を推し進めました。

 

◆4つの事業本部体制への移行、研究技術統括本部の設置

当社は、2024年7月1日付で、化学品営業本部と研究開発本部を「電子材料本部」と「環境材料本部」の2つの事業本部に再編し、食品本部、樹脂添加剤本部を含めて4つの事業本部体制へ移行しました。

さらに、2025年4月1日付で、電子材料本部を「半導体材料本部」と改称するとともに、半導体材料本部と環境材料本部の研究所、営業部、及び企画部の組織改定を行いました。

あわせて、2025年4月1日付で、無形資産(知的財産、許認可情報など)の管理・活用の強化、コーポレート研究の強化等を図るため、「研究技術統括本部」を設置いたしました。

 

≪各本部のミッション≫

◆半導体材料本部

今後成長が見込まれる半導体市場にフォーカスし、新製品開発や生産・品質管理の基盤強化など、半導体材料開発へ経営資源を集中し、半導体前工程の拡大と後工程への領域拡大を推進します。

 

◆環境材料本部

カーボンニュートラル対応や戦略製品・環境貢献製品の拡大に注力します。成長戦略として電池材料の早期事業化を図るとともに、ディスプレイ関連製品群を半導体材料本部から移管を受け、技術・ノウハウを結集することで新規市場を開拓し、持続的な成長を目指します。

 

◆研究技術統括本部

各事業本部の技術情報を統括管理します。DX・AI活用による研究開発の効率化を図り、「社内技術(コアコンピタンス)の活用」「社外技術の導入」「社外連携による新たなバリューチェーン構築」「DX技術の導入と人財育成」を強化していきます。新規事業・新規テーマの創出、無形資産の積極的な活用、効率的な管理等により、当社の研究技術力を維持・強化していきます。

 

また、既存の事業本部においても、「稼ぐ力の強化、高収益構造への転換」の取り組みを進めています。

 

◆樹脂添加剤本部:トップシェア製品の育成・強化

当社は、樹脂添加剤の新ブランドとして透明化剤「トランスパレックス」(以下、トランスパレックス 英名:「TRANSPAREX」、製品名:「アデカトランスパレックス CAシリーズ」)を立ち上げ、2024年11月から米国、アジア圏を中心に販売を開始しました。

トランスパレックスは、プラスチックの一種であるポリプロピレンに少量添加することで世界最高の透明性(2024年11月1日時点、当社調べ)を実現します。電子レンジ加熱に対応した透明性の高い食品容器、耐薬品性が求められる医療器具や化粧品ボトルなどをはじめ、様々な市場の要望に応えることができる、今までにない透明化剤です。

ADEKAグループは、トランスパレックスの市場投入により、2030年までに同製品を含む透明化剤全体の連結売上高を300億円超とし、透明化剤世界シェアNo.1を目指します。

 

4.サステナビリティを意識した企業経営

当社グループは、中長期的な視点に立ち「サステナビリティ」における課題に取り組むことで、グループの持続的かつ安定的な成長による企業価値の向上を実現し、持続可能な社会と人々の豊かなくらしに貢献していきます。

ADEKAグループ サステナビリティ基本方針「ADEKAグループは、公正・透明な企業活動を通じて、技術と信頼でステークホルダーの期待に応え、持続可能な社会に貢献します。」は、当社グループが社会の一員としての基本的責務を果たしつつ、本業を通じて持続可能な社会に貢献すること、ひいては自らの持続的成長を目指す基本姿勢を表現したものです。

同基本方針に基づいた企業活動を具体的に推進するため、サステナビリティ委員会(委員長:代表取締役社長)では、環境(E)・社会(S)・ガバナンス(G)の3分野にわたるサステナビリティ優先課題と、SDGs達成の目標年度である2030年を念頭に置いた目標(2030年KPI)を定め、全社横断的な取り組みを行っています。

2024年度は、中期経営計画『ADX 2026』において、「環境貢献製品売上高」、「GHG排出量」、「女性管理職比率」の3項目をサステナビリティ指標として新たに導入しました。環境(E)においては「オールADEKAでアイデアを結集し2050年にカーボンニュートラルを目指す」ため、生産工場におけるエネルギーロスの削減や再エネ導入を進めるとともに、引き続き適正な情報開示を行うための国内外グループ会社との目線合わせ及び浸透活動を実施しました。社会(S)では、人権に関する取り組みの高度化に向け、人権デュー・ディリジェンスの推進/苦情処理メカニズムの運用継続/人権教育・啓発活動の推進を図り、さらに、第二期DE&Iプロジェクトチームを編成し、女性活躍推進も加速させました。ガバナンス(G)では、グループリスクマネジメント体制の強化、取締役会実効性向上等、コーポレートガバナンスの強化など、下掲の取り組みを実行しました。

 

〔2024年度の主な活動〕

環境(E)

・「カーボンニュートラル推進戦略」の実行及び浸透活動

・非生産拠点を中心に国内13拠点において再生可能エネルギー由来電力を導入(その内、使用電力の実質再生可能エネルギー100%は9拠点)

・中期経営計画『ADX 2026』において、GHG削減量をサステナビリティ指標として新たに加え、カーボンニュートラルへの取り組みを推進

・「環境貢献製品」2024年度売上高は、2019年度比1.9倍へ拡大。

社会(S)

・人権に関する取り組みの高度化に向け、人権デュー・ディリジェンスの推進/苦情処理メカニズムの運用継続/人権教育・啓発活動を推進

・第二期DE&Iプロジェクトチームを編成し、女性活躍推進を加速

・2024年度(単体)実績では女性管理職比率5.8%となり、一般事業主行動計画2025年度目標(5%以上)を前倒しで達成

・エンゲージメントサーベイを活用し、従業員エンゲージメント向上策を推進

・「健康経営優良法人2025(大規模法人部門)ホワイト500」初認定

ガバナンス(G)

・グローバルで「ADEKAグループ行動憲章」の理解・浸透を図る

・グループ全体での平時及び有事リスクマネジメント体制の強化(ERM(統合型リスク管理)の運用強化)

・地政学リスク対応の強化(台湾有事対応)

・取締役会実効性の向上(社外取締役の現場を知る・感じる機会の拡充等)

・取締役のスキルマトリックスの見直し

・後継者計画の運用

・情報セキュリティ強化(インシデント対応見直し、グループ会社情報セキュリティ体制強化、情報管理教育の拡充)

 

 

5.グループ戦略課題

2025年度の世界経済は、低成長ながらも底堅く推移する見込みですが、米国の関税政策によるサプライチェーンの分断、インフレの再燃などが懸念され、先行きには多くの不確実性を伴っています。相互関税や金融資本市場の変動が世界経済や当社事業に影響を及ぼす可能性を孕んでいますが、その動向は不透明な状況です。

当社グループの主要ターゲットである自動車、半導体、食品、農業等の各分野は、個人消費の持ち直しやデジタル技術の進展と普及、おいしく、安心・安全な食料の安定供給のニーズといった背景から、緩やかな需要回復が続くと予想しています。

このような状況のなか、中期経営計画『ADX 2026』の2年目としては、引き続き、基本戦略に掲げる稼ぐ力の強化、サステナビリティの取り組み推進、外部環境の変化に対応できる強靭なサプライチェーン構築などの施策を実行し、社会価値と利益の共創を実現してまいります。

 

報告セグメント別の2025年度の見通し

事  業

売上高・営業利益

要  因

樹脂添加剤

増収・増益

新規透明化剤の販売本格化。家電向け難燃剤、自動車向け核剤、

光安定剤の販売拡大。コストダウンによる競争力強化。

半導体材料

増収・減益

フォトレジスト向け材料や高誘電材料の販売拡大。メモリ向け一部材料で販売価格下落影響が続く。積極投資に伴う固定費増。

環境材料

増収・増益

自動車向け堅調。建築塗料向け反応性乳化剤、光学フィルム向け

光硬化樹脂の販売拡大。化粧品原料の販売復調。

食品

増収・微増益

練り込み油脂等の高機能製品、プラントベースフードの国内・海外での販売拡大。中国での販売復調。販売価格の適正化。

ライフサイエンス

増収・減益

農薬は国内の果樹・野菜等市場への展開加速。インドでの販売復調、欧州での販売拡大。研究開発強化に伴う固定費増。

 

(注)1. 2025年4月1日付の組織改定に伴い、化学品事業のサブセグメント「電子材料」を「半導体材料」に改称しました。報告セグメント別の2025年度の見通しにある半導体材料の売上高・営業利益項目につきましては、半導体材料に係る製品区分に組み替えた後の数値で対前年度比較を行っています。

   2. 将来の予測などに関する記述は、現時点における将来に関する前提・見通し・計画に基づく予測が含まれています。
当社グループの事業を取り巻く経済情勢、市場の動向、為替の変動などに関わるリスクや不確定要因により、実際の業績が、記載と異なる可能性がありますことをご承知おき下さい。

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

1.基本的な考え方

(1) ガバナンス

ADEKAグループは、社会の一員としての基本的責務を果たしつつ、“素財”メーカーとしての価値提供を通じて、持続可能な社会への貢献、ひいては自らの持続的な成長を目指します。

「ADEKAグループ サステナビリティ基本方針」

ADEKAグループは、公正・透明な企業活動を通じて、
「技術」と「信頼」でステークホルダーの期待に応え、
 持続可能な社会に貢献します。

 

サステナビリティ推進体制

    当社グループでは、サステナビリティの意思決定機関「サステナビリティ委員会」、その下に「サステナビリティ推進部会」を設置し、全社的な取り組みを推進しています。

  サステナビリティに関する事項のリスクと機会の適切な評価・管理を推進していくために、サステナビリティ委員会は、委員長は代表取締役社長、委員は常勤取締役及び常務執行役員、上級執行役員、環境・安全対策本部長が務めています。

 


 

 下部組織であるサステナビリティ推進部会での討議によりサステナビリティ委員会への上程案を作成し、サステナビリティ委員会では、方針決定、施策の審議とモニタリングを行います。(2024年度は6回開催)

 従って、サステナビリティ委員会の委員長である代表取締役社長は、サステナビリティに関する事項の方針決定、リスクや機会への取り組み推進、目標達成等について責任を負っています。

 重要な決議事項に関しては、取締役会に報告しており、取締役会の監督が適切に図られる体制を整えています。

 

2024年度 取締役会における主なサステナビリティ議題

開催日

主な審議・報告事項

2024年8月22日

サステナビリティ優先課題の取り組みにつき進捗報告

〈取り組み全般について〉

2024年11月19日

サステナビリティ優先課題の取り組みにつき進捗報告

〈人権尊重、DE&I推進の取り組み〉

 

 

(2) リスク管理

当社グループでは、全社レベルのリスク管理として、グローバルリスクマネジメント、クライシスマネジメント、事業継続マネジメント、情報セキュリティ等のほか、当社独自の概念である「4つの安全」(労働安全、環境安全、品質安全、設備安全)によるPDCAサイクルを用いた継続的な取り組みを行っています。一方、サステナビリティに関する事項のリスク・機会の識別・評価を行うことに関しては、以下のマネジメント体制を敷いています。

 

・当社グループでは、サステナビリティ委員会の直下にサステナビリティ推進部会を設置し、会社全体を包括する重要なサステナビリティ関連リスクと機会の抽出・評価を行っています。

・重要リスクと機会の評価は、サステナビリティ委員会で審議の上決定し、取締役会に報告しています。

 

当社グループでは、サステナビリティ優先課題の一つとして「人権の尊重」を掲げています。当社グループ従業員をはじめ、すべてのステークホルダーを対象に、 2030年KPI「人権に関する取り組みの高度化」に向けた取り組みを推進しています。

 

 

・人権デュー・ディリジェンス(人権DD)の推進

2024年7月より人権DDの仕組み構築に着手し、まずは化学品事業(樹脂添加剤・電子材料・環境材料)を対象に、人権への影響評価を実施しました。その結果、化学品事業における顕著な人権課題を特定し、現在は防止・軽減策の検討を進めています。2026年度までに全事業領域における人権DDを実施する予定です。

※人権DDとは、企業が、自社・グループ会社及びサプライヤー等における人権への負の影響を特定し、防止・軽減し、取り組みの実効性を評価し、どのように対処したかについて説明・情報開示していくために実施する一連の行為のこと

 

・苦情処理メカニズムの構築・運用

 当社グループでは、従業員からの通報を受け付ける内部通報制度「ADEKAほっとライン」に加え、2024年4月よりサプライチェーン上での人権侵害等があった場合に通報を受け付ける窓口として、国内外ステークホルダーの皆様向けに「苦情処理通報フォーム(日本語・英語・中国語で通報可能)」を当社ホームページに設置しました。両窓口ともに、通報者の匿名性の確保、通報者に対する不利益取り扱いの禁止、情報漏洩の防止が図られています。

 

・人権教育・啓発活動の推進

 2024年度は、事業活動に関わるすべてのステークホルダーの人権を尊重することの重要性について、役員・従業員(契約社員含む)・派遣社員を対象に、人権に関する動画研修を実施しました。また、ビジネスと人権への理解を深めることを目的に、経営層向けの勉強会を開催しました。

 

(3) 戦略

サステナビリティ優先課題 決定プロセス

当社グループが、社会の一員として持続的成長を遂げていくためには、本業を通じた社会課題解決により、積極的に社会の発展に寄与していくことが求められます。こうした考えをグループ全体で共有し、一丸となって取り組んでいくために、社内外のステークホルダーにとっての重要性や、当社ビジネスに対する重要性を踏まえ「サステナビリティ優先課題」を特定しました。

 

2030年の外部環境イメージ

・モビリティの進化(CASE)

・途上国の人口増・急激な都市化

・樹脂産業の持続的な発展への対応

・食品ロス削減

・ICTでつながる社会

・食糧不足

・希少資源不足

・新たな部材・機能素材の開発

・持続可能な原料調達

・仮想空間と現実空間の融合

・脱炭素社会

・高度医療技術への対応

・クリーンエネルギーの活用

 

・高齢化社会

・地球温暖化

・代替食品・栄養素の提供

・地球環境の保全

 

 


 

 

(4) 指標と目標

サステナビリティ優先課題 2030年KPI

サステナビリティ優先課題(4つの優先領域、7つの優先課題)を特定し、『ADEKA VISION 2030』の達成に向けたKPI(重要業績指標)を設定しました。事業活動をKPIで管理し、目標達成に向けて取り組んでいきます。


※1:2019年度「環境貢献製品」売上高は、対象製品追加による遡及適用後の数値「452億円」とする。

    (2024年4月1日時点)

※2:認定単位を「製品」に統一する。(2024年4月1日より)

 

2.重要なサステナビリティ項目

(1) 気候変動

① ガバナンス

TCFDとADEKAグループの方針

ADEKAグループは2022年2月に、TCFD賛同を表明しました。

世界的に脱炭素社会実現への取り組みが加速するなかで、当社グループは特に環境面において、サステナビリティ優先課題として掲げる「地球環境の保全(GHG排出量削減等)」「環境貢献製品の提供」を積極的に推し進め、サプライチェーン全体での環境負荷低減に貢献してまいります。

今後もTCFD提言に沿って気候変動が事業活動に与える影響を分析・評価し、複数のシナリオに基づく対応策を策定し、事業のレジリエンス向上を図るとともに、これらの取り組みをステークホルダーの皆さまにより分かりやすくお伝えできるよう発信してまいります。

 

気候関連リスク・機会に対する取締役会の監督

・当社グループでは「サステナビリティ優先課題」を決定する際に「気候変動への対応」を、優先して取り組む社会的課題のひとつに挙げています。

・GHG排出削減量のKPI検討(2030年、2050年)などの重要な審議は、代表取締役社長が委員長を務める「サステナビリティ委員会」にて実施しています。

・気候変動に関連する課題を含む重要な決議事項に関しては、取締役会に報告しており、取締役会の監督が適切に図られる体制を整えています。

 

気候関連リスク・機会を評価、管理する上でのマネジメントの役割

・事業活動における気候変動関連のリスクと機会の適切な評価・管理を推進していくために、サステナビリティ委員会は、委員長は代表取締役社長、委員は常勤取締役及び常務執行役員、上級執行役員、環境・安全対策本部長が務めています。

・下部組織であるサステナビリティ推進部会での討議によりサステナビリティ委員会への上程案を作成し、サステナビリティ委員会では、気候変動関連課題の方針決定、施策の審議とモニタリングを行います。

・従って、サステナビリティ委員会の委員長である代表取締役社長は、気候変動対応に関する方針決定、リスクや機会への取り組み推進、目標達成等について責任を負っています。

 

② リスク管理

気候関連リスクのマネジメントプロセス

・ADEKAグループ・サステナビリティ優先課題の中で、気候変動問題は重要な課題として、優先課題「地球環境の保全」「環境貢献製品の提供」の両方に含まれています。

 ・当社グループでは、気候変動問題における取り組みの進捗を定期的にサステナビリティ推進部会で討議し、さらにサステナビリティ委員会に報告して審議・承認を行っています。

 ・進捗を評価する項目

 サステナビリティ優先課題で定めているKPI

①「地球環境の保全」・・・GHG排出量

②「環境貢献製品の提供」・・・「環境貢献製品」売上高

 

  戦略

考え方

TCFD提言は、戦略の開示にあたり、2℃以下のシナリオを含む複数の気候シナリオで分析を行うことを推奨しています。そこで移行面での影響が顕在化する「1.5℃/2℃未満シナリオ」と、物理面での影響が顕在化する「4℃シナリオ」を設定しました。

 

対象とする事業を選定し、以下のステップに基づいて、原料調達から製品需要のバリューチェーン全体を考慮して、気候変動リスク・機会を抽出し、事業へのインパクトや対応策の検討を行っています。

 

①リスク・機会の特定→②影響度の評価→③影響分析→④対応策の検討

 


 

シナリオ分析の対象は、当社グループの全事業としました。(樹脂添加剤、電子材料、環境材料、食品、ライフサイエンス)

 

中期経営計画における「カーボンニュートラルに向けた取り組み」を踏まえ、中期的なマイルストーンとして排出量削減目標を設定した「2030年」と、長期なマイルストーンとしてカーボンニュートラル達成を目指す「2050年」について、シナリオ分析を行っています。

 

シナリオとしては、具体的には、国際エネルギー機関(以下、IEA)によるNZE(1.5℃シナリオ)やSDS(2℃未満シナリオ)、国連気候変動に関する政府間パネル(以下、IPCC)によるRCP8.5(4℃シナリオ)やRCP2.6(2℃未満シナリオ)などを参照しています。

 

 

設定シナリオ

設定シ
ナリオ

移行シナリオ(1.5℃/2℃未満シナリオ)

物理シナリオ(4℃シナリオ)

社会像

今世紀末までの平均気温の上昇を1.5℃や2℃未満に抑え、持続可能な社会を実現するため、大胆な政策や技術革新が進む。脱炭素社会への移行に伴う変化が、事業に影響を及ぼす。

<事例>

  炭素税の導入

  自動車のEVシフト など

パリ協定に即して定められた約束草案などの各国政策が実施されるも、今世紀末までの平均気温が成り行きで最大4℃まで上昇する。気候の変動が事業に影響を及ぼす。

<事例>

  風水害による被害の増大

  平均海面水位の上昇 など

参照シ
ナリオ

  「NZE」(IEA WEO2022)

  「SDS」(IEA WEO2021/ETP2020)

  「RCP2.6」(IPCC AR5)

  「RCP8.5」(IPCC AR5)

  「STEPS」(IEA WEO2022/ETP2020)

リスク
と機会

移行リスク・機会が顕在化

物理リスク・機会が顕在化

 

 

財務影響評価

・設定したシナリオに基づき、当社グループにおける気候変動関連のリスク・機会を整理し、その規模や時間軸についても評価しました。

・2030年時点の想定(GHG排出量、炭素税による影響)を下記のとおり行いました。

2030年 当社グループGHG排出量見通し

 (排出量削減目標を達成・事業成長も考慮)

2030年 炭素価格の将来予測に基づく

炭素税による追加コスト負担の想定

123千トン(Scope1+2)

20億円

 

※外部シナリオ「WEO2022 NZEシナリオ」における、2030年時点の炭素価格

(先進国:140$/t-CO2、新興国:90$/t-CO2)、1$=130円想定での日本円換算。

 

 

主要なリスクと機会、影響度、対応策

対象事業全体→「全」、樹脂添加剤→「樹添」、電子材料→「電材」、環境材料→「環材」、食品→「食品」、ライフサイエンス→「ライフ」


※リスク・機会の影響度 「大」・・・利益への影響が、規模「20億円以上」と想定される

            「中」・・・利益への影響が、規模「5億円以上、20億円未満」と想定される
            「小」・・・利益への影響が、規模「5億円未満」と想定される 

 

ビジネスチャンス

下記の5製品群は、気候変動対応の観点から、中長期的に当社グループのビジネスチャンスと判定されました。これらの分野の、より一層の伸長に注力することにより、社会価値と経済価値の同時追求を目指します。

 


 

 

④ 指標と目標

ADEKAグループ カーボンニュートラル・ロードマップ

ADEKAグループとして「2050年カーボンニュートラル」の実現に向けた取り組みとして

ⅰ.「2030年:GHG排出量46%削減(Scope1+2)」

ⅱ.「技術・製品の創出によるGHG削減貢献」

上記を二本柱として推し進める旨を示したロードマップを定めています。

 

削減目標の対象範囲は自社グループにおける排出=Scope1+2としますが、社会のカーボンニュートラルに貢献する製品・技術の創出にも並行して取り組み、市場や社会におけるGHG排出量削減への貢献を目指します。

(Scope3を含むサプライチェーン全体での排出量は、現時点では精査中であり、算出対象とするカテゴリ選定、排出量精査、削減方針策定などに注力中です。体制整い次第Scope3、サプライチェーン全体含めた排出量削減に努めます)

 

サステナビリティ優先課題「地球環境の保全」のKPI

オールADEKAでアイデアを結集し 2050年:カーボンニュートラルを目指す

(2030年:2013年度比46%削減(Scope1+2))

 

 

GHG排出量(Scope1,2,3)、排出原単位実績推移

ADEKAグループでは、GHG排出量(Scope1,2,3) 、排出原単位の実績推移を公開しています。削減に向けて製品の安定供給を維持するとともに、生産効率化などの改善を進めており、社長工場監査及び環境・安全対策本部監査にて進捗を確認しています。

 


 

「環境貢献製品」の開発・提供加速

ADEKAグループでは、サステナビリティ優先課題の1つである「環境貢献製品の提供」の2030年KPIを「『環境貢献製品』売上高:2019年度比3倍に拡大」と定めています。これはADEKAグループの気候変動に伴うビジネスチャンスの拡大を目指す指標でもあります。

「環境貢献製品」は、「気候変動対応」「環境負荷低減」「資源有効活用」の3分野のいずれかで社会に貢献する製品・技術を当社サステナビリティ委員会で認定したものです。(現在17製品群、2019年時点売上高:約452億円)


 

今後、持続的な企業価値向上に資する一連の取り組みを通じて、外部環境や市況の変化を見据えながら、定期的に、気候変動シナリオ分析において特定したリスクと機会を確認・更新し、それらの影響度の測定、指標と目標の具体化・充実化、事業戦略への反映等を図りながら、適宜ステークホルダーの皆さまへ情報開示し、説明責任を果たしてまいります。

 

(2) 人的資本

  戦略

ⅰ.多様性の確保に向けた人財育成方針及び社内環境整備方針

当社では、人事理念の一つとして「社員の人間性と個性の尊重」を掲げています。当該理念に基づき多様な価値観やキャリア、経歴をもった人財を採用するとともに、全ての社員がその能力と個性を最大限発揮し、グローバルに活躍できるよう、キャリアディベロップ研修をはじめとした各種育成施策を実施する方針です。また、多様な人財が活躍するためには、ワーク・ライフ・バランスを図り、各個人のニーズにあった柔軟な働き方を可能とする制度が必要と考えています。当社では、フレックスタイム制度や専門型・企画型裁量労働制、テレワーク勤務制度といった、時間や空間にとらわれない働き方を導入しています。今後は、試行中の勤務間インターバル制度の正式導入等さらなる制度改定に取り組んでまいります。加えて、個々の人財が組織の中で活躍していくためには、一人ひとりの適性を把握し、個々に合ったキャリア構築や研修プランを策定する必要があると考えています。そのため、業務適性や本人の希望、モチベーション等を踏まえて、より適した業務へのアサインメントや個別の研修プランを提供することを企図し、タレントマネジメントシステムの活用を進めています。また、互いの個性を受け入れ、尊重し合う環境の整備に向けて、LGBTQ+への理解促進も含めたダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン研修を実施しています。引き続き多様性の確保に向けた取り組みをハード・ソフト両面から進めてまいります。

 

ⅱ.ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(ⅮE&I)の推進

当社グループはサステナビリティ優先課題に「人財活躍の機会拡大」を掲げ、「誰もが活躍できる魅力的な組織」を目指してⅮE&Iを推進しています。多様な年代・経験・知識をもつメンバーから成るⅮE&Iプロジェクトを2022年に立ち上げ、2030年女性管理職比率10%以上(ADEKA単体)に向けて、女性活躍推進及び風土醸成に関する取り組みを進めてきました。現状分析により明らかになった課題に対して、部門横断的又は職群※1独自の施策を展開しています。現在は9つの分科会を編成し、計35名のメンバーが参加しています。

今後は、女性活躍推進を継続しつつ、女性のほかに取り組むべき多様性※2や当社グループ全体への展開を検討してまいります。

 ※1 「研究」「生産」「営業」「スタッフ」の職種区分

 ※2 年齢、障がい有無、国籍、LGBTQ+、ライフスタイル、雇用形態、 価値観、学歴、経験など

 

 

ⅲ.健康経営の推進 

当社は、サステナビリティ優先課題の一つである「人財活躍の機会拡大」の一環として健康経営に取り組んでいます。2021年に「ADEKAグループ健康経営宣言」を表明し、社員がいきいきと働くうえで基盤となる健康の維持向上及び職場環境づくりと、社員の恒常的なパフォーマンスの発揮による生産性の向上を目指しています。

 

産業医・産業保健スタッフや健康保険組合と連携し、心身の健康基盤づくりや職場の健康基盤づくりとして、定期健康診断とストレスチェックの確実な実施及びフォロー、柔軟で多様な勤務を可能とする制度の導入などを継続的に実施しています。取り組みの結果、経済産業省と日本健康会議が共同で選定する「健康経営優良法人認定制度」におきまして、2022年以降連続して「健康経営優良法人(大規模法人部門)」に認定されました。更に、健康管理アプリの導入や研修の強化などを進めた結果、2025年には上位500法人が顕彰される「健康経営優良法人2025(大規模法人部門)ホワイト500」に初めて認定されました。今後も、各種施策を通じて、健康経営を積極的に推進します。


 

■ ADEKAグループ健康経営宣言

ADEKAグループは、「社員一人ひとりが会社の大切な財産である」と考え、健康の維持向上と安全にいきいきと働くことが出来る職場環境づくりに取り組んでいきます。

 

■ 健康経営の推進体制

社長直轄のプロジェクトを立ち上げ、「人事部」、「産業医・産業保健スタッフ」、「健康保険組合」が三位一体となり、労働組合と連携を図りながら健康経営を推進しています。


健康経営に関する取り組みについては、当社HP『健康経営に対する取り組み』(https://www.adeka.co.jp/csr/kenko_keiei.html)でも紹介しています。

 

ⅳ.人的資本への投資

社員は企業にとって重要な経営資源であるという認識のもと、人的資本への投資を積極的に進めています。当社における2024年度の一人当たりの研修費用は68千円でした。

 

 

  ② 指標及び目標

(女性・外国人・経験者採用者の管理職登用に関する目標・状況)

当社グループでは、ありたい姿『ADEKA VISION 2030』においてサステナビリティ優先課題の1つに「人財活躍の機会拡大」を掲げ、多様な人財の視点や価値観を活かし、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に努めています。人財の多様性を確保・強化することが、環境の変化に強い、しなやかで強靭な経営基盤をつくり、当社グループの持続可能な成長につながるという考えのもと、性別、年齢、国籍などを問わず、一人ひとりが個性を活かして能力を発揮できる職場環境を整えています。女性、外国人、経験者採用者、高齢者、障がい者など、多様な人財の採用を積極的に行っています。当社グループのありたい姿に関する詳細は、当社のHP『ADEKA VISION 2030・中期経営計画』(https://www.adeka.co.jp/ir/strategy.html)をご参照願います。

 

ⅰ.女性社員の登用

当社では、女性社員が十分に能力を発揮できる環境、仕事と子育てが両立できる職場づくりを目指して、育児休業制度の拡充やワーク・ライフ・バランスの促進に取り組んでおり、育児のための積立特別休暇制度の拡充や育児・介護に関する制度を周知するためのパンフレット作成等の取り組みを積極的に進めています。また、前述のDE&Iプロジェクトチームの活動を通じて、より一層女性が活躍できる風土醸成に向けた取り組みを実施しています。現在、当社在籍人数に占める女性社員の比率は約17%であり、管理職に占める女性の比率は5.8%です。2030年度までに管理職に占める女性の比率を10%以上にすることを目標に掲げています。女性活躍に関する現況や目標の詳細は、当社のHP「次世代育成支援/女性活躍推進行動計画」(https://www.adeka.co.jp/csr/ngns.html)をご参照願います。


ⅱ.外国人の登用

当社では、2020年度から2024年度までの5年間で8名の外国籍社員を採用しています。当社グループではグローバル展開の拡大が進み、2020年度には海外売上高比率が5割を超えました。当社グループの外国人比率は4割を超え、海外にも多くの拠点を有し、海外拠点(含む子会社)における外国人の割合は9割を超えています。海外拠点ではローカライゼーションを推進していることから、多くの外国人役員や外国人管理職が活躍しており、前述のタレントマネジメントシステムの導入を進めることで、当社グループ全体で外国人を含むグローバル人財の適材適所への登用を加速させていきます。当社に現在在籍している14名の外国籍社員のうち、管理職に登用されている社員は現時点では1名です(現在出向中)。当社社員に占める外国籍社員の比率は約0.7%です。引き続き積極的な採用を進めていきます。また、2030年には当社社員に占める外国籍社員比率と同等の水準にまで管理職比率を引き上げられるよう、管理職への登用・育成を進めていきます。

 

 

ⅲ.経験者採用者の登用

当社では、バリューチェーンでの川上や川下業界の経験者や高度の専門性を有する人財の登用は、新たなイノベーションの推進や業務革新のために欠かせないと考え、経験者採用を積極的に行っています。現在当社社員に占める経験者採用者の比率は16%ですが、近年経験者採用の比率は高まっており、2022年度から2024年度までの3年間で54名の経験者採用を行い、3年間の平均経験者採用比率は28%になりました。現在の管理職に占める経験者採用者の比率は11%ですが、2030年には当社社員に占める経験者採用者比率と同等の水準にまで管理職比率を引き上げられるよう、管理職への登用・育成を進めていきます。

 

ⅳ.エンゲージメントの向上

当社グループが価値創造・価値提供を続けていくために、それぞれの人財が持つ経験、能力、適性といった情報の把握が不可欠であると考え、タレントマネジメントシステムを活用した人財管理を実施しています。加えて、個々の成長実感や会社に対する満足度・結びつきの強さを把握し、エンゲージメント向上への施策に活用すべく、2023年度からエンゲージメントサーベイを開始しました。

エンゲージメントに関するKPIとして、エンゲージメントサーベイにおける「総合的満足度」でのポジティブ回答率を2030年度に75%以上にすることを目標としています。2024年度のエンゲージメントサーベイでのポジティブ回答率は68%(前回比1ポイント増)でした。エンゲージメントサーベイから得られた結果を各種施策に活用し、KPIの達成を目指していきます。

 

指標

2024年度実績

2030年度目標値

エンゲージメントサーベイにおける
「総合的満足度」でのポジティブ回答率

68

(前年度比1ポイント増)

75%以上

 

 

 

3 【事業等のリスク】

有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、当連結グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を及ぼす可能性のある事項は以下のようなものです。

なお、ここに記載しました事項は、当連結会計年度末現在において、当連結グループがリスクと判断したものであり、当連結グループに関する全てのリスクを網羅したものではありません。

 

1.経済状況、地政学リスク等

グローバル事業展開の拡大を進めている当連結グループは、海外に多数の生産・販売拠点を有しており、当連結グループが製品を販売する国や地域の経済状況、地政学リスク、天候等による影響を受ける可能性があります。

また、当連結グループは多様な事業ポートフォリオを有しており、提供する製品は幅広い業界で産業用中間素材として使用されています。このため、当社の関連需要業界における景気や市場動向、公的規制等による需要の減少と、それに伴う取引先の倒産による貸倒れリスクや棚卸資産の長在化リスク等、直接的、間接的な影響を受けます。

地政学リスクに関しては、ロシアによるウクライナ侵攻が続いています。当連結グループは、ロシア・ウクライナに生産・販売拠点を有しておらず、直接的な影響は少ないものの、両国の軍事的対立の長期化による原燃料価格の高止まりや物流停滞、世界的なインフレの加速といった間接的なリスクが業績に影響を及ぼす可能性があります。また、台湾情勢は緊迫化しており、台湾有事リスクが懸念されています。当連結グループは、台湾に複数の生産・販売拠点を有しており、万一、台湾で有事が発生した場合、従業員の生命・身体への危険、台湾封鎖に伴う供給網の寸断、対中金融制裁による決済の滞りや、サイバー攻撃による情報流出・事業中断など、様々な影響が想定されます。さらにイスラエル・パレスチナ地域における紛争は、今後の紛争の動向によっては中東地域の顧客との取引に大きな影響が発生する可能性があります。これらの他、米国の関税政策により当連結グループが事業展開する業界の市場動向に影響を及ぼす事象が発生した場合、当連結グループの経営成績に悪影響を与える可能性があります。

地政学リスクに対しては、リスクマネジメント委員会を中心として、各国法制や政策の動向など外部情報をタイムリーに入手し、事業影響分析を行う等、グループにおける体制の強化に取り組んでいます。

 

2.感染症防止対策について

当連結グループの従業員に感染症が蔓延した場合、一時的に当連結グループの事業及び業績に影響を及ぼす可能性があります。新型コロナウイルス感染症は、2023年5月に第5類に移行しましたが、当連結グループでは、引き続き、新型コロナウイルスやインフルエンザを含めた感染症に関する情報収集に努めるとともに、従業員の感染防止対策を徹底し、万一、感染症の世界的な蔓延が発生した場合にも、製品・サービスの提供に支障が生じないよう、業務のデジタル化、事業継続計画(BCP)の整備と、サプライチェーン網の維持等に努めます。また、在宅勤務・サテライトオフィス等でのリモートワーク、会議のオンライン化やペーパーレス化を推進し、従業員のパフォーマンスの向上と業務効率化に向け、きめ細かなITサポートを拡充していきます。

 

3.原材料の調達について

当連結グループの事業で用いる主要原材料である石油化学原料及び油脂原料、電力等ユーティリティの購入価格は、国内・国外の市況、為替相場の変動の影響を受けます。

業績に及ぼす影響は、販売価格への転嫁、為替リスクヘッジ等により極力回避していますが、予期せぬ異常な変動が生じた場合には、販売価格への転嫁の時間的ギャップ等により、業績に影響を及ぼす可能性があります。

① 産油国の地政学リスク等により、投機資金が大量に流入若しくは流出すると、原油価格、ナフサ価格及び天然ガス価格が影響を受け、石油化学原料にも大きな影響を及ぼす可能性があります。
② 油糧作物、穀物の価格は天候により大きな影響を受けますが、温暖化、大規模森林火災の発生等、異常気象(旱魃・豪雨等)が頻発しています。また、パーム油や大豆油等の原料価格は、生産国の地政学リスク等や、中国・インドといった大口需要国の動向による影響を受けます。昨今は、搾油量の減少、石油代替燃料としての需要拡大や、人口増加等により、動きが激しくなっています。

③ 原材料価格に関しても米国による関税引き上げ政策の影響を受ける可能性があります。

④ 日本国内のエチレン設備の統廃合が検討・実行されていく中で、当連結グループの原材料の安定調達に影響が出る可能性があり、複数購買化の検討を進めることでそのリスクに備えていきます。

 

4.為替の変動について

当連結グループは世界各国で事業を展開しており、連結子会社の財務諸表項目は連結財務諸表の作成のために円換算されています。換算時の為替レートにより、これらの項目は元の現地通貨における価値が変わらなかったとしても、円換算後の価値が影響を受ける可能性があります。また、輸出入等の外貨建て取引においても、同様の可能性があります。これに対し、当連結グループでは、主要通貨の為替動向を注視するとともに、ヘッジ等を通じて為替リスクの低減に努めていますが、為替相場が大きく変動した場合、業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

5.新製品開発

当連結グループは、自社技術を活用した優位性のある新製品開発に注力していますが、関連業界では、技術進歩、変化が著しく、それに伴う企業間の技術競争が激しくなっています。また、近年は、開発・製造技術の進歩により、新興国をはじめとする国内外の競合他社による追随の速度が速まっています。

このような状況の中、次のようなリスクが想定されます。

① 顧客との共同研究により新製品開発を進めるケースが増えています。関連業界でパートナー企業の最終製品が優位となれば、当社製品の需要も拡大しますが、逆の場合には、当社製品の需要が実現しない可能性もあります。
② 技術の急速な進歩により、当社製品・技術の一部が陳腐化する可能性があります。また、技術の急速な普及や国内外の競合他社の新規参入に伴う価格競争の激化により、製品価格が想定以上に下落する可能性があります。
③ 新製品の開発や生産、販売を行うにあたり、競合他社の知的財産権を侵害することがないよう、事前に調査していますが、見解の相違等により、競合他社から知的財産権の侵害を主張される可能性があります。その場合、当該製品を販売できなくなる可能性や、損害賠償責任、訴訟費用等が発生する可能性があります。

上記のリスクを含め、当連結グループが、業界や市場の変化を十分に予測できず、顧客のニーズにあった魅力ある新製品を開発できない場合には、将来の成長と収益性に影響を及ぼす可能性があります。

 これらリスクが顕在化する時期や影響の程度は、現時点で想定していません。

 

6.製品の欠陥

当連結グループは、人体や環境への安全性に配慮して、製品の品質規格と安全審査基準を定めており、新製品を開発・販売する際に厳しくチェックしています。また、化学品ではSDS、イエローカードにより、食品では製品規格書により、安全な使用と取扱いのための情報提供を行っています。加えて、工場は、ISO9001、FSSC22000等の品質や食品安全に対するマネジメントシステム、トレーサビリティシステム等を導入し、製造を行っています。

製品検査値の改ざん・転記ミス防止対策を含む品質安全管理は、統一したルールに基づき実施されていることを監査により確認しています。

しかし、全ての製品について欠陥がなく、将来的にリコールが発生しないという保証はありません。また、製造物責任賠償については保険に加入していますが、この保険が最終的に負担する賠償額を十分にカバーできるという保証はありません。

 

7.災害・事故等のトラブル

当連結グループを取り巻くステークホルダーに安全・安心を提供すべく、「4つの安全(労働安全、環境安全、品質安全、設備安全)」活動を推進しており、ISO45001、ISO14001、ISO9001、FSSC22000、ISO22301等の国際標準に基づくマネジメントシステムを導入し、運営しています。当社では保安力の向上活動に注力し、生産工場における事故・災害の予防を図っています。また、自然災害、パンデミック等による予期せぬ事業停止に備えた事業継続マネジメントシステム(BCMS)の構築に取り組み、2010年に国内の化学工業として初めて、当社化学品の一部製品の製造についてBCMS規格 BS25999-2の認証を取得しました。さらに、2013年にISO22301を取得、2015年には適用範囲に物流関係会社を加え、顧客への安定供給体制を構築し運営しています。

グループ全体でトラブル情報を共有化しており、監査により安全管理状況を確認しています。

4つの安全活動を当社の重点テーマとし、パトロール、入出管理の強化、安全教育と技術継承、設備点検とメンテナンス、緊急時対応訓練、海外拠点、OEMを含めた併産工場の確保及び取引先事業者への監督指導等の強化に努めています。

しかし、当連結グループ又はサプライチェーンにおいて以下のトラブルが発生した場合には、工場停止又は稼動率低下による供給不能又は供給困難、製品の品質・環境・地域住民や従業員の安全への影響が発生する可能性があります。

① 地政学的リスクやパンデミック等によるサプライチェーン供給網の寸断、調達への影響

② 無差別テロによる食品への異物・毒物混入、化学品等の危険物漏洩

③ 天災による工場破損、製品在庫の滅失・毀損
④ 爆発・火災・人為的ミスによる事故災害
⑤ 集団食中毒や伝染病・感染症の蔓延による操業停止
⑥ コンビナート関連企業、公共機関の事故災害による影響
⑦ 単一工場での工場トラブルによる生産停止
⑧ 原料サプライヤー、外注先、OEM依頼先における工場トラブル等による製品供給停止
⑨ 物流事故

 

8.情報漏洩、セキュリティ・インシデント

当連結グループは、研究開発の強化・生産技術の深化によるイノベーションの創出と競争力の強化を目指しています。技術立地なハイテクメーカーとして、技術情報等の営業秘密の保護は不可欠であり、また、各国における個人情報保護法制の強化に伴い、個人情報保護対策が重要性を増しています。近年では、サイバー攻撃等による情報漏洩やセキュリティ事故等が発生した場合、当局による行政処分・制裁、利害関係者からの損害賠償請求による経済的損失や、当連結グループの競争力やレピュテーションの低下につながり、業績に影響を及ぼす可能性があります。当連結グループでは、コンプライアンス推進委員会の下部組織である情報管理部会が中心となり、情報セキュリティ・ポリシー及びセキュリティ関連規定に基づき、ハッキング、コンピューターウイルス、サイバー攻撃への対策や、従業員教育等、情報セキュリティと情報管理の強化に向けた様々な取り組みを実施しています。

 

9.システムトラブル

(1) ソフトウエアの更新・改良に伴うトラブル

多様化する業務に対応すること等を目的として、ソフトウエアの更新・改良を行う場合があります。ソフトウエアの更新・改良にあたっては、システム保守体制等の万全を期していますが、更新・改良に伴う予期せぬ障害等によりシステムトラブルが発生した場合には、当連結グループの業務に影響を及ぼす可能性があります。

(2) 災害等によるシステムトラブル

データセンター等に設置しているシステムが災害等により稼働できなくなった場合に備え、遠隔地へのデータ複製のほかバックアップ用回線等の整備を行っていますが、予期せぬ災害等によりシステムトラブルが発生した場合には、当連結グループの業務に影響を及ぼす可能性があります。

 

10.公的規制

事業を取り巻く様々な政府規制、法規制について、特に近年は、欧州REACH規則やPFAS規制をはじめとして、世界各国で化学物質規制法の強化・改正が行われています。規制に関する重大な変更がなされた場合には、当連結グループの活動が制限され、あるいはコストが増加し、業績に影響を及ぼす可能性があります。また、米国・中国間の対立激化に伴い、米国の安全保障貿易関連規制等が強化され、中国で2020年12月に輸出管理法が施行されるなど、幅広い分野で規制措置の応酬が繰り広げられています。当連結グループは、両国の幅広い業界で産業用中間素材として使用される製品を供給していることから、このような米中対立に伴う規制強化により、製品の販売に、直接的、間接的な影響を受ける可能性があります。当連結グループでは、各部門・グループ各社における年度コンプライアンス活動計画の遂行を通じ重要法令への対応を図り、コンプライアンス推進委員会においてモニタリングしています。コンプライアンス推進委員会その他の各種委員会の活動を通じて、引き続き情報収集力の強化と法規制対応に注力していきます。

 

11.プラスチック規制

プラスチックは車の軽量化に貢献する等のメリットが多く、世界的な需要量は今後も増加が見込まれているものの、使い捨て用途の部材で使用が見直される等、一部で環境問題から敬遠されるケースも見受けられます。当社のプラスチックに関係する製品は、万一プラスチックの規制に関する国際条約案による規制が行われた場合、その影響を受ける可能性がありますが、サーキュラーエコノミーの推進への取り組みやプラスチックの長寿命化を含めた高機能化を推進する製品供給により、社会とプラスチック産業に貢献していきます。

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、経営成績等)の状況の概要及び経営者の視点による経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は、以下のとおりです。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末において判断したものです。

 

(1) 業績等の概要

当期における世界経済は、中国経済の低迷や中東情勢の緊張により先行きが懸念されましたが、欧米でのインフレ鈍化と政策金利の引下げ、個人消費の持ち直しが景気を下支えし、緩やかに回復しました。

このような情勢のもとで、当期の業績につきましては、以下のとおりとなりました。

通期の売上高、営業利益、経常利益、親会社株主に帰属する当期純利益は、いずれも過去最高を更新しました。

 

連結経営成績                                         (単位:億円)

 

当期

2025年3月期

前期

2024年3月期

増減

増減率(%)

売上高

4,071

3,997

73

1.8

化学品

2,184

2,041

142

7.0

 樹脂添加剤

1,054

1,004

49

4.9

 電子材料

419

390

29

7.6

 環境材料

710

646

63

9.9

食品

825

840

△14

△1.8

ライフサイエンス

999

1,030

△30

△3.0

その他

62

86

△23

△27.7

営業利益

410

354

55

15.8

化学品

280

236

43

18.3

 樹脂添加剤

108

79

28

36.2

 電子材料

100

97

2

2.2

 環境材料

71

59

12

20.7

食品

43

41

2

6.8

ライフサイエンス

77

59

18

31.5

その他

8

17

△8

△52.0

経常利益

393

357

35

10.0

親会社株主に帰属する当期純利益

250

229

20

8.9

 

(注) 金額は億円未満を切捨て、増減率は小数点第2位を四捨五入。

 

報告セグメント別の概況は以下のとおりです。

なお、2024年7月1日付の組織改定に伴い、化学品事業のサブセグメント名称を変更しました。

従来の「情報・電子化学品」を「電子材料」に、「機能化学品」を「環境材料」にそれぞれ改称しました。また、コーポレート研究を進めてきた電池材料を「環境材料」に組み入れました。

 

 

(化学品事業)増収・増益

化学品事業を構成する樹脂添加剤、電子材料、環境材料の概況は以下のとおりです。

 

① 樹脂添加剤 増収・増益

市場での樹脂生産は依然として低水準ながらも前期比では改善し、家電筐体向け難燃剤やワンパック顆粒添加剤などの販売が持ち直しました。また、自動車用途のエンジニアリングプラスチック向け酸化防止剤の販売が好調でした。

 

〇主要因

売上高

(好調)難燃剤(家電筐体)

(堅調)ワンパック顆粒添加剤(プラスチック製品全般)

(好調)酸化防止剤(エンジニアリングプラスチック)

営業利益

(+)価格、数量、為替 (-)固定費

 

 

② 電子材料 増収・増益

半導体では、生成AI関連の需要拡大が続くなか、先端DRAM向け高誘電材料や先端フォトレジスト向け光酸発生剤及び周辺材料の販売が好調に推移しました。ディスプレイでは、ブラックマトリクスレジストの販売が中国や台湾での拡大により好調でした。

 

〇主要因

売上高

(好調)高誘電材料(先端DRAM)

(好調)ブラックマトリクスレジスト(ディスプレイ)

(堅調)光酸発生剤及び周辺材料(先端フォトレジスト)

(低調)エッチング薬液(ディスプレイ)

営業利益

(+)数量、為替 (-)価格、固定費 

 

 

③ 環境材料 増収・増益

自動車用途では、ハイブリッド車向けや東南アジアの二輪車向けエンジンオイル用潤滑油添加剤、自動車部品等に使用される特殊エポキシ樹脂の販売が好調に推移しました。また、インドや中国の建築塗料向け反応性乳化剤の販売が好調に推移しました。

 

〇主要因

売上高

(好調)潤滑油添加剤(自動車用エンジンオイル)

(好調)特殊エポキシ樹脂(電子・電装機器、自動車)

(好調)反応性乳化剤(建築塗料)

営業利益

(+)数量、為替 (-)固定費、価格

 

 

 

(食品事業)減収・増益

子会社再編の影響、中国での販売低調により減収となりました。一方、東南アジアでは機能性油脂の販売が好調に推移しました。機能性マーガリン「マーベラス」シリーズ、プラントベースフード「デリプランツ」シリーズの販売が国内を中心に好調でした。

 

〇主要因

売上高

(好調)練り込み油脂や機能性マーガリン「マーベラス」シリーズ等(製パン)

(好調)プラントベースフード「デリプランツ」シリーズ(製パン、カフェ等)

営業利益

(+)価格、数量 (-)固定費

 

 

 

(ライフサイエンス事業)減収・増益

農薬は、天候不順の影響によりインドでの販売が低調に推移しました。一方、損益面では、ブラジルでの原材料価格の下落により収益性が改善しました。医薬品は、国内の爪白癬向けで需要が減少し、外用抗真菌剤「ルリコナゾール」の販売が低調でした。

〇主要因

売上高

(低調)インド/農薬全般

(低調)国内/爪白癬向け外用抗真菌剤「ルリコナゾール」

(好調)北米/除草剤、欧州/殺ダニ剤

(堅調)ブラジル/殺菌剤等

営業利益

(+)価格、数量、為替 (-)固定費

 

 

 

(2) 財政状態の分析

連結財政状態                                      (単位:億円)

 

当連結会計年度

前連結会計年度

増減

増減率(%)

流動資産

3,498

3,465

32

0.9

有形固定資産

1,258

1,268

△9

△0.8

無形固定資産

146

164

△18

△11.2

投資その他の資産

527

531

△4

△0.8

資産合計

5,431

5,430

0

0.0

流動負債

1,222

1,344

△121

△9.1

固定負債

690

689

1

0.2

負債合計

1,913

2,033

△120

△5.9

純資産合計

3,517

3,396

120

3.6

 

(注) 金額は億円未満を切捨て、増減率は小数点第2位を四捨五入。

 

〇主要因

(流動資産)現金及び預金の増加、受取手形、売掛金及び契約資産の減少

(有形固定資産)建物及び構築物の減少

(無形固定資産)技術資産の減少

(投資その他の資産)退職給付に係る資産の減少

(流動負債)短期借入金の減少

(固定負債)長期借入金の増加、社債の減少

(純資産合計)利益剰余金の増加

 

 

(3) キャッシュ・フローの状況

 連結キャッシュ・フローの状況                                                       (単位:億円)

 

当連結会計期間

前連結会計期間

増減

増減率(%)

営業活動による

キャッシュ・フロー

462

419

42

10.2

投資活動による

キャッシュ・フロー

△125

△230

105

△45.6

財務活動による

キャッシュ・フロー

△222

△45

△177

388.8

 

(注) 金額は億円未満を切捨て、増減率は小数点第2位を四捨五入。

 

〇主要因

(営業活動によるキャッシュ・フロー)売上債権及び契約資産の増減による収入の増加

(投資活動によるキャッシュ・フロー)有形固定資産の取得による支出の減少

(財務活動によるキャッシュ・フロー)短期借入金の返済による支出の増加

以上の要因に加え、現金及び現金同等物に係る換算差額等により、当連結会計年度末における現金及び現金同等物の残高は、前連結会計年度末より108億67百万円(前連結会計年度末比+11.2%)増加して、1,077億68百万円となりました。

 

(キャッシュ・フロー関連指標の推移)

 

2021年

3月期

2022年

3月期

2023年

3月期

2024年

3月期

2025年

3月期

自己資本比率(%)

52.1

52.6

52.2

52.5

54.6

時価ベースの自己資本比率(%)

51.3

58.6

46.3

60.6

50.4

キャッシュ・フロー対有利子負債比率(年)

1.6

2.8

4.0

1.9

1.5

インタレスト・カバレッジ・レシオ(倍)

40.4

26.4

8.3

13.0

10.9

 

(注) 1.自己資本比率:自己資本/総資産

時価ベースの自己資本比率:株式時価総額/総資産

キャッシュ・フロー対有利子負債比率:有利子負債/営業キャッシュ・フロー

インタレスト・カバレッジ・レシオ:営業キャッシュ・フロー/利払い

2.各指標は、いずれも連結ベースの財務数値により算出しています。

3.株式時価総額は、期末株価終値×期末発行済株式総数により算出しています。

営業キャッシュ・フローは、連結キャッシュ・フロー計算書の営業活動によるキャッシュ・フローを使用しています。有利子負債は、連結貸借対照表に計上されている負債のうち利子を支払っている全ての負債を対象としています。また、利払いについては、連結キャッシュ・フロー計算書の利息の支払額を使用しています。

4.2023年3月期より、一部の在外子会社等の収益及び費用は、在外子会社等の決算日の直物為替相場により円貨に換算する方法から、期中平均為替相場により円貨に換算する方法に変更し、2022年3月期のキャッシュ・フロー関連指標について、遡及処理後の数値を記載しています。

 

(4) 生産、受注及び販売の状況
イ.生産実績

当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。

 

 

(単位:百万円)

セグメントの名称

当連結会計年度
(自 2024年4月1日
 至 2025年3月31日)

前年同期比(%)

化学品事業

167,018

9.8

食品事業

64,478

0.1

ライフサイエンス事業

61,484

△1.2

報告セグメント計

292,981

5.1

その他

合計

292,981

5.1

 

(注) 1.金額は、販売価格によっており、セグメント間の内部振替前の数値によっています。

2.その他については、生産は行っていません。

 

ロ.受注実績

その他の一部で受注生産を行っていますが、金額僅少のため省略しています。

 

ハ.販売実績

当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。

 

 

(単位:百万円)

セグメントの名称

当連結会計年度
(自 2024年4月1日
 至 2025年3月31日)

前年同期比(%)

化学品事業

218,426

7.0

食品事業

82,540

△1.8

ライフサイエンス事業

99,954

△3.0

報告セグメント計

400,922

2.5

その他

6,222

△27.7

合計

407,145

1.8

 

(注) 1.セグメント間の取引については、相殺消去しています。

2.販売実績の総販売実績に対する割合が100分の10以上である販売先はありません。

 

(5) 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成しています。また、この連結財務諸表を作成するにあたっては、資産、負債、収益及び費用の報告額に影響を及ぼす見積りを用いています。これら繰延税金資産の回収可能性や固定資産の減損等の見積りは、過去の実績やその他の様々な要因を勘案し、合理的に判断していますが、見積り特有の不確実性が存在するため、実際の結果と異なる可能性があります。

なお、固定資産の評価に係る会計上の見積りに用いた仮定については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」及び「第5 経理の状況 2 財務諸表等 (1)財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載のとおりです。

 

(6) 資本の財源及び資金の流動性についての分析

当連結グループは、事業活動のための適切な資金確保、流動性の維持、並びに健全な財政状態を常に目指し、安定的な資金調達手段の確保に努めています。当連結グループの成長を維持するために将来必要な運転資金及び設備投資・投融資資金は、主に手元のキャッシュと営業活動からのキャッシュ・フローに加え、借入及び社債により調達しています。

当連結会計年度末現在において、当連結グループの流動性は十分な水準にあり、資金調達手段は分散されていることから、財務の柔軟性は高いと考えています。

当連結会計年度末の現金及び現金同等物の総額は1,077億68百万円となっています。

 

(7) 経営成績に重要な影響を与える要因

経営成績に重要な影響を与える要因については、「3 事業等のリスク」に記載のとおりです。

 

 

5 【重要な契約等】

会社名

契約締結先

契約年月日

内容

技術料

契約期間

当社

AMFINE CHEMICAL
CORP.(アメリカ)

1994年

4月1日

樹脂添加剤の製造・
販売追加技術供与

頭金及び販売金額に対し一定率のロイヤリティー(収入)

販売開始日から
10年間(継続中)

ADEKA POLYMER
ADDITIVES EUROPE
SAS(フランス)

2002年

11月1日

樹脂添加剤粉砕の
製造・販売技術供与

販売金額に対し一定率のロイヤリティー(収入)

販売開始日から
10年間(継続中)

ADEKA KOREA CORP.

(韓国)

2003年

10月1日

樹脂添加剤の製造・
販売追加技術供与

販売金額に対し一定率のロイヤリティー(収入)

販売開始日から
10年間(継続中)

ADEKA FINE CHEMICAL
(THAILAND) CO.,LTD.

(タイ)

2004年

6月15日

安定剤の製造・販売
技術供与

頭金・販売金額に対し一定率のロイヤリティー(収入)

販売開始日から
10年間(継続中)

艾迪科食品(常熟)
有限公司(中国)

2004年

7月1日

マーガリン、ショートニング等の製造・販売技術供与

頭金・販売金額に対し一定率のロイヤリティー(収入)

販売開始日から
10年間(継続中)

台湾艾迪科精密化学股份有限公司(台湾)

2004年

12月1日

情報化学品の製造・
販売技術供与

頭金・販売金額に対し一定率のロイヤリティー(収入)

販売開始日から
10年間(継続中)

ADEKA KOREA CORP.

(韓国)

2006年

7月1日

誘電材料の製造・
販売技術供与

販売金額に対し一定率のロイヤリティー(収入)

販売開始日から
10年間(継続中)

艾迪科精細化工
(常熟)有限公司
(中国)

2015年

4月1日

難燃剤の製造・販売技術供与

販売金額に対し一定率のロイヤリティー(収入)

2015年4月1日
から11年間

艾迪科精細化工
(浙江)有限公司

(中国)

2019年

8月26日

化学品・樹脂添加剤の製造・販売の技術供与

販売金額に対し一定率のロイヤリティー(収入)

販売開始日から
10年間

ADEKA AL OTAIBA

MIDDLE EAST LLC

(UAE)

2020年

3月16日

樹脂添加剤の製造・販売の技術供与

販売金額に対し一定率のロイヤリティー(収入)

販売開始日から
10年間

ADEKA KOREA CORP.

(韓国)

2021年

11月15日

半導体材料用充填容器整備の技術供与

販売数量に対し一定率のロイヤリティー(収入)

2021年11月15日から10年間

日本農薬㈱

全国農業協同組合連合会

2003年

12月11日

農薬製品の売買に関する売買基本契約(更改)

2003年10月1日から1年間とし、文書による別段の意思表示なき時は1年ごとの自動延長(継続中)

 

 

 

6 【研究開発活動】

当社の研究開発体制は、事業部が統括する7つの開発研究所(樹脂添加剤開発研究所、情報化学品開発研究所、電子材料開発研究所、機能化学品開発研究所、機能高分子開発研究所、電池材料開発研究所、食品開発研究所)と、コーポレート研究及び事業間の技術融合やイノベーション創出を担う研究企画部により構成されています。

国内の連結子会社である日本農薬㈱、ADEKAクリーンエイド㈱、ADEKAケミカルサプライ㈱、及びADEKA総合設備㈱でも、独自の研究開発を行っています。また海外拠点においては、国内の研究所と連携しつつ研究開発のローカライゼーションを推進しています。

なお、2025年4月1日付の組織改定に伴い、情報化学品開発研究所及び電子材料開発研究所を廃止し、半導体材料開発研究所を、機能化学品開発研究所及び機能高分子開発研究所を廃止し、環境材料開発研究所をそれぞれ新設しました。また研究企画部は、研究技術企画部、技術情報管理部、先進技術開発部へ再編し、新設した研究技術統括本部に組み入れました。

当連結会計年度の研究開発費の総額は、17,569百万円です。

 

(1) 化学品事業

① 樹脂添加剤分野

ポリプロピレン(PP樹脂)において世界最高レベルの透明性を実現する新規高性能透明化剤アデカトランスパレックスを開発しました。PP樹脂の可能性を更に広げることで、カーボンフットプリントの低いPP樹脂への転換やリサイクルしやすいモノマテリアル化への貢献を通じて事業の拡大につなげるべく、様々な新規用途への展開を推進しています。また、高性能イントメッセント系難燃剤や、アデカシクロエイドシリーズでは、バイオマス原料を活用した塩ビ用可塑剤、リサイクルプラスチックに従来と同等以上の機能を付与する添加剤パッケージの開発を更に進めています。

② 電子材料分野

電子材料本部のあるべき姿として「サステナブル社会を支えるSociety5.0の実現に向け、基盤技術である最先端半導体を素財でリードする」ことを掲げ、以下の製品群を中心とした研究開発活動を推進しました。

(ⅰ) メモリ半導体材料

DRAMやNANDメモリの微細化・高容量化・省電力化の実現を目指し、素子構造の変化に対応した最先端ALD材料の開発を進めました。

(ⅱ) ロジック半導体材料

トランジスタ素子や配線構造の変化を見据え、業界トップ企業や半導体装置メーカーと新規ALD材料の共同開発を進めました。

(ⅲ) 半導体リソグラフィ材料

ArF・EUVといった先端リソグラフィにフォーカスした研究開発を行い、EUVレジスト用光酸発生剤や次世代レジスト材料などの採用が拡大しました。

(ⅳ) 半導体後工程材料

当社の基板技術や既存製品を半導体後工程分野に応用展開する研究活動を進め、シードエッチング剤、放熱樹脂シート、絶縁接着フィルム、銅ペーストなどの性能評価が各ユーザーで進展しています。

(ⅴ) ディスプレイ材料

中国市場にフォーカスして研究開発を進め、ブラックマトリクスレジストや光学フィルム向け光硬化樹脂などの採用が拡大しました。また、中国での技術サポート体制を拡充しました。

③ 環境材料分野

モビリティ・エレクトロニクス・環境関連市場へ経営資源の集中と当社化学品の基盤技術・ノウハウを結集し、戦略製品・環境貢献製品を中心とした主製品群の拡大・新規事業の創出に向けて研究開発に注力しています。

機能化学品開発研究所及び機能高分子開発研究所では、潤滑油添加剤・接着材料・化粧品原料などの新製品開発を進めました。「アデカレミロップ」シリーズでは、省エネルギー・高接着力を特徴とするエレクトロニクス向け接着剤の開発を進めています。また、接着材料分野において当社研究員が合成樹脂工業協会賞・学術賞を受賞しました。化粧品原料では、バイオマス原料を活用し100%自然由来の化粧品用グリコール「アデカノール EHG eco」を開発しました。自然派化粧品のトレンドを受け国内外からサンプルの引き合いを頂いています。電池材料開発研究所では、モビリティー用途を中心にSPANとグラフェンの市場開発を進めています。SPANの研究開発では、顧客・産学連携のもと樹脂箔を用いた軽量リチウム-硫黄二次電池の試作に成功しました。

 

(2) 食品事業

人々の健康で豊かな暮らしに貢献する食品の創造を目標に掲げ、サプライチェーン全体での環境負荷の低減や食品ロスの削減、労働力不足への対応といった社会課題や、消費行動の変化を捉えた新製品開発を推進しています。

2025年3月には、『Healthy & Sustainable ~世界の食卓のあたり前に~ 』をテーマとして、以下の製品を中心とした新製品8品を発表しました。年度新製品で原料にパーム油を配合している製品は、RSPO認証製品となります。

① プラントベースフード「デリプランツ」シリーズ

非動物性原料のみで“プラントベースフードの常識を覆すおいしさ”を実現した「デリプランツ」シリーズに以下4品を拡充しました。

(ⅰ) オーツ麦のおいしさを活かした、冷凍耐性のあるホイップクリーム「デリプランツ ホイップEX」
及び手軽にお使いいただけるホイップ済みの冷凍三角袋タイプ「デリプランツ フローズンホイップ」

(ⅱ) 加熱、非加熱の両用途でお使いいただけるシュレッドタイプ「デリプランツ チーズ(シュレッド)」

(ⅲ) 卵不使用でもふんわりとした焼き菓子が作れる練込素材「デリプランツ EG-W」

② 練込油脂 

パンの経時的な品質低下を抑制することで消費期限を延長し、食品ロス削減に貢献する機能性練込油脂「マーベラス」シリーズに、多様な粉原料を配合したパンの品質を向上させる練込油脂「マーベラス LG」を追加しました。

③ ホイップクリーム

多量の液体原料を混合可能であり、素材を活かした多様なホイップを作ることが出来る、新しいコンセプトの機能性クリーム「フレシオホイップ」に、洋菓子店舗、ホテル、レストランでも使いやすい1L品を追加しました。

上記製品を加え、より多彩となったラインナップでターゲット市場の拡大と展開を進めてまいります。

 

(3) ライフサイエンス事業

連結子会社である日本農薬㈱では、新規剤創出に向けた創薬力基盤強化と新規事業分野(作物保護資材、医薬・動物薬、新生産技術)の研究開発力向上を目標に掲げ、探索研究では化学農薬パイプライン剤の拡充とそれらの最速ステージアップに注力しました。また、将来を見据え、DX推進やAI活用を含むデータ駆動型創薬を精力的に展開しています。開発研究では、新規開発剤の価値最大化に向け、これまでに構築した世界同時開発・登録体制を実践に移すとともに、既存剤の販売維持・拡大を含め、海外グループ会社とも連携して戦略的かつグローバルな研究活動を継続しています。

当期における主な成果は以下のとおりです。

① 新規汎用性殺虫剤シベンゾキサスルフィル(開発コード:NNI-2101)

本年度も一般社団法人日本植物防疫協会が実施する新農薬実用化試験に供試し、農薬登録申請に必要な有効な試験事例を集積しました。これら知見により幅広い殺虫スペクトル、既存剤に感受性の低下した害虫に対する有効性、優れた浸透移行性など、本剤の特長を示すことができたと考えています。また、多くの害虫や作物を対象に散布に加えて灌注処理での実用性が確認され、利便性の高い害虫防除剤として2025年に農薬登録を申請予定です。本剤はグローバル市場でも広く開発を検討しており、韓国やインドなど登録性や市場性の見込まれる国や地域から開発を開始しています。さらにこれに続く新規パイプライン候補として2剤を開発検討中です。

② 水稲用殺虫剤ベンズピリモキサン

日本ではオーケストラフロアブルに加えて混合剤(オーケストラロムダンモンカットエアー、オーケストラスタークルエアー、オーケストラロムダンモンカット粉剤DL)の販売を開始し、これら製品ラインアップにより本分野の市場シェア拡大及び水稲本田散布剤としてのブランド確立を進めています。また、水稲の農薬市場が大きいインドでは、既に販売を開始したOrchestra剤に加え、速効性に優れるピメトロジンとの混合剤Orchestra Duetの販売を開始し、本剤ビジネスの最大化を目指した混合剤開発を継続してまいります。他の国ではベトナム(2023年12月登録)に加え、水稲栽培の盛んなアジア広域において市場ニーズに合わせて単剤及び混合剤の開発を進めてまいります。

③ 汎用性園芸殺菌剤ピラジフルミド

国内では無人航空機散布やセルトレイ処理など幅広い処理法での適用拡大(登録内容の拡大)を進め、市場拡大を目的とした混合剤の開発を進めました。また、カナダ、ペルーでは販売開始に向けた準備を進めており、ベトナム(2025年2月登録)、ウクライナ(2024年7月登録)では新規に登録を取得しました。米国、エジプト、シリア、パキスタン、ブラジル、コロンビア、チュニジアでは登録申請中であり、インドでは混合剤を開発中です。今後もさらなるビジネス拡大を目指し、その他の地域でも開発の可能性を検討してまいります。

 

(4) 新規事業の推進

ライフサイエンス及びカーボンニュートラル実現に資する研究開発を推進しています。ADEKAグループの強みと将来ニーズを意識し、組織の壁を越えた技術の融合とオープンイノベーションにより、早期事業化に向けて取り組んでいます。

ライフサイエンス分野では、脱細胞化材料の研究開発や、日本農薬㈱との動物用医薬品創出を目指した共同研究を継続しています。カーボンニュートラル実現に資する研究では、各種バイオマスの資源化や高付加価値化、CO2の利活用、GHG排出量の削減を意識した製造プロセスの開発に取り組んでいます。