タケダの企業理念と「私たちの約束」
当社の企業理念は、当社が誰であるか、何を行うか、どのように行うか、なぜそれが重要なのかというタケダのストーリーを伝えています。私たちの存在意義は、世界中の人々の健康と輝かしい未来に貢献することにあります。このため私たちは、「Patient」(すべての患者さんのために)、「People」(ともに働く仲間のために)、「Planet」(いのちを育む地球のために)の約束のもとに、データとテクノロジーの力を活用しながら、革新的な医薬品を創出し続けるという「私たちが目指す未来」(ビジョン)を追求しています。当社は、「私たちの価値観」(バリュー)に従い、あらゆるステークホルダーのことを考慮した上で意思決定を行っており、患者さん、株主、社会に対する長期的な価値を創造し、従業員、関わる地域コミュニティ、私たちが暮らす地球に対して良い影響を提供し続けることができるよう努めています。

事業環境
現在の地政学的な環境は、世界的な緊張の高まりと分極化が進む状態にあります。このような状況を背景に、保護主義や貿易紛争が拡大し、世界貿易に圧力をかけるとともに、供給網に影響を及ぼし、世界経済の先行きに不確実性をもたらしています。当社のバリューチェーンは米国、欧州、日本およびシンガポールを中心に構築されており、特に米中間の貿易摩擦の影響を抑える役割を果たしています。また、当社は、患者さんに悪影響を与える懸念がある貿易障壁について、ヘルスケア製品を対象から除外するよう提言しています。
現在、バイオ医薬品業界が直面している最大の課題は、増大する需要に対して医療財源が不足していることにあります。この課題は、欧州や日本において価格圧力を増大させるだけでなく、市場成長を抑制する要因ともなっています。
米国のインフレ抑制法の導入は、医療費の個人負担の予測可能性の向上など、メディケア受給者に利点をもたらした一方、政府によるかつてない薬価交渉制度の設立は、製薬企業による米国内における研究開発投資を減速させる可能性があります。
当社では、がん免疫療法や細胞療法、遺伝子治療などの医療技術の探求に加え、近年急速に普及しているテクノロジーや人工知能(AI)の活用を通じて、イノベーションのスピードをさらに加速させています。また、これらのテクノロジーとAIは、将来的に当社の生産性を向上させるだけでなく、今後も続くと想定される価格圧力に対処する手段としても大きな役割を果たすと考えています。
このように困難で急速に変化する外部環境の中において、当社の患者さんへのコミットメントと、患者さんをサポートするための取り組みは、これまで以上に重要になっています。
Patient(すべての患者さんのために)
当社の研究開発は、3つの重点疾患領域(消化器系・炎症性疾患、ニューロサイエンス、およびオンコロジー)における希少疾患とより有病率が高い疾患において、サイエンスにより、患者さんの人生を根本的に変え得るような非常に革新性が高い医薬品を創製することに注力しています。研究開発プログラムの優先順位付けは、アンメット・メディカル・ニーズ、科学的なバリデーション、開発プロセスの迅速化、および市場機会に基づいて行っています。また、パイプラインの開発加速から、製造工程における品質と効率性の向上、医療従事者や患者さんの対応に至るまで、データ、デジタルおよびテクノロジー(「DD&T」)とAIをバリューチェーンにわたって活用しています。
当社の2030年以降の持続的な成長は、後期開発段階のパイプラインに支えられる見込みです。2026年3月期(2025年度)の開始時点で、6つの臨床第3相開発プログラムを有しています。そのうちの最初のプログラムであるrusfertideは、2025年3月に良好な臨床第3相試験のデータを得ました。また、oveporextonのナルコレプシータイプ1、zasocitinibの乾癬に対する臨床第3相試験のデータ読み出しも、2025年末までに予定しています。これら3つのプログラムの承認申請は、2025年度から2026年度に実施できる見込みです。また、2027年度から2029年度にかけて、後期開発プログラムに係る追加の5つの承認申請も見込まれています。主要な研究開発活動の内容および進捗の詳細については、「6 研究開発活動」をご参照ください。
DD&Tは、医薬品開発のプロセスにおいて、ますます重要な役割を担っています。例えば、現在では、匿名化された大規模な患者データベースに照合することで、臨床試験プロトコルを検証し、より効果的な被験者募集方法を評価することが可能となりました。
タケダの成長製品・新製品は、患者さんやコミュニティに価値を提供し続けています。当社の売上高トップの製品であるENTYVIO(国内製品名:エンタイビオ)の成長は、米国における皮下注射製剤の上市が寄与しています。ENTYVIO Penは中等症から重症の活動期潰瘍性大腸炎およびクローン病を対象としており、世界50カ国以上において患者さんに治療の柔軟性や選択肢を提供しています。
当社は患者さんを最優先に考え、医薬品の研究開発から製造、販売に至るまで、医療アクセスと公平性の観点を事業に取り入れており、価値に基づいた段階的な価格設定や患者さんのための支援プログラムを提供しています。また、世界中の地域コミュニティや政府と協力し、地域の医療システムの強化にも取り組んでいます。
また、デング熱ワクチンQDENGAのグローバル展開にも注力しています。QDENGAは、本ワクチンの需要が最も高い多くの流行国を含め、今や世界約30カ国で接種できるようになりました。特に低所得国や中所得国でのアクセス向上を重視しており、これらの地域での普及促進に力を入れています。当社は現在、生産拡大とともに、デング熱感染率の上昇に対抗するためQDENGAを必要とする世界中のコミュニティと連携することに取り組んでいます。
当社は、2030年までに年間1億回接種分のQDENGAの供給目標を達成するため、インドのBiological E社と提携契約を締結しました。ドイツのジンゲンにある当社工場のワクチン製造能力を補完する本契約により、同社は、年間最大5,000万回接種分を製造する予定です。
People(ともに働く仲間のために)
当社は、科学技術がどれほど進歩しても、知識を核とした「人」の力が会社を支えることを認識しています。当社は、あらゆる種類の差別を排除し、多様性と包括性を推進する職場環境を整備しています。また、従業員の生涯学習とキャリア成長を支援し、心身の健康維持(ウェルビーイング)を推進しています。このようなアプローチが、人々の暮らしを豊かにする治療法を創出する能力の向上につながると考えています。
生涯学習とキャリア成長は従業員のやる気や専門性を高め、新しい発想につながり、結果的に患者さんへの価値創造につながります。当社は、従業員のスキルアップやケイパビリティを開発し、持続的な成長に向けて、機動的で柔軟な組織を構築しています。
また、AIは、人材開発へのアプローチをも変革しています。Career Navigatorのプラットフォームは、従業員が個々のキャリアパスを描くことを可能とし、AIを活用して社内の募集職種やメンターシップ、学習機会に関する情報を個別化することで、従業員が可能性を最大限に発揮できるよう支援しています。さらに、AIによるコーチングやロールプレイを通じて、従業員がリスクのない環境下で新しいスキルを実践できるよう支援しています。
当社は、事業の将来性をより確かなものとするため、従業員のデジタル活用能力をさらに向上させる必要があると考えています。2024年7月には、新たなデジタルデクステリティ(デジタル技術を迅速に習得し、効果的に活用する能力)の最初の重要なステップとして、当社の学習プラットフォームにおいてEveryday AI Learningを立ち上げました。Everyday AI Learningは、AIおよび生成AIに必要なスキルを育成するためのプラットフォームです。
また、当社では、生涯学習への取り組みを全社的に推進しています。例えば、製造部門および品質部門においては、従業員は毎月3時間をスキルの向上やスキルの再習得のために利用することができます。この時間は、必須のトレーニングや業務に関連したトレーニングの時間とは別に提供されています。
当社は、グローバルなバイオ医薬品企業として、世界中の従業員と患者さんの多様性を認識し受け入れるとともに、この強みを活かしてイノベーションを推進し続けています。
当社は、従業員が目標に向かって前進、成長し、可能性を最大限に発揮できるようウェルビーイングの向上に取り組んでいます。当社のグローバルなウェルビーイングプログラムは、精神的、身体的、社会的、経済的な側面を取り入れています。当社の全従業員はThrive Globalプログラムにアクセスし、睡眠、栄養、運動といったウェルビーイングの要素を管理することができます。また、この1年間において、ウェルビーイングの取り組みを強化するためにさらなる施策を講じました。この一環として、従業員支援プログラムをより多くの国に拡大させ、全ての従業員が同じ福利厚生や支援を利用できるようになりました。
当社は、職場における安全確保に取り組んでおり、製造拠点においては重大な傷害や死亡事故防止に焦点を当てた安全文化を醸成しています。リスク評価プロセスでは、事案につながる可能性のあった活動や体系的な安全プログラムの課題を特定しています。また、四半期毎に製造ネットワーク全体で「Lessons Learned(教訓)」イベントを開催し、発生した可能性のあった事案を紹介し、再発防止策について議論しています。
Planet(いのちを育む地球のために)
当社は、「私たちの存在意義」(パーパス)に基づき、地球環境を損なうことのないよう事業を展開しています。公衆衛生は地球環境と密接に関連しており、気温の上昇に伴い、感染症は増加し、影響を受ける地域の患者さんの医療アクセスに係る困難な課題も増加する可能性があります。
当社は、環境課題に対する高い意識を持って積極的に取り組んでいます。「私たちの存在意義」(パーパス)を実現するためには、人々の健康には健全な地球環境が必要であり、人々の健康に貢献するだけでは充分ではないと考えています。当社では、環境負荷を低減するためにクリーンエネルギーを優先的に使用するだけでなく、ネットゼロの達成およびバリューチェーン全体で温室効果ガス排出を無くすべく、ネットゼロのロードマップを進めるための取り組みに注力するとともに、バリューチェーンを超えた自然の力を活かした炭素除去プロジェクトへの投資を継続しています。当社は、2035年度までに当社の事業活動における温室効果ガス排出量を、2040年度までにバリューチェーン全体における温室効果ガス排出量をネットゼロにすることを目指しており、短期、長期を含めた目標について、SBTi(科学的根拠に基づく目標イニシアチブ)の認証を取得しました。
当社は、温室効果ガス排出量削減の目標に向けて、着実に進展を続けています。例えば、最近、デング熱ワクチンを製造するドイツのジンゲンにある製造施設でバイオマス熱プラントの稼働を成功裏に開始したことを発表しました。この新しいバイオマスボイラーは、現在使用されているガスの多くを廃木材に置き換えることを目指しており、CO2排出量を最大80%削減することが期待されています。
また、当社は製品の設計や開発にライフサイクルの視点を取り入れることで、バリューチェーン全体で環境負荷を最小限に抑えることを目指しています。さらに、天然資源保全プログラムにおいては、気候変動以外の環境負荷の低減を目指す活動として水の保全、責任ある廃棄物処理、生物多様性保全などに取り組んでいます。
DD&Tは、当社の環境への取り組みを支える重要な要素でもあります。大阪工場では、水使用の各箇所にセンサーやモニターを設置、データを解析して水の使用量を最適化する方法を検討、成功事例を標準化することで、年間45万リットルの蒸留水の使用量を削減し、年間200万リットル以上の水道水の使用量を削減しました。同様のプロジェクトとして、電力消費量の削減や太陽光やその他のグリーンエネルギーの利用拡大にも取り組んでいます。
財務展望
当社は、持続的な成長と長期的な価値創造を支える確固たる財務基盤を有しており、強固な枠組みのもと、戦略的な取り組みを柔軟に推進し、価値ある成果を生み出すことが可能となっています。
タケダの成長製品・新製品*は、中長期的に売上成長を牽引していく上で非常に重要であり、人々の暮らしを豊かにする治療法の発見や開発へのさらなる投資を支える役割を果たすものと期待しています。これら製品の力強い持続的な売上成長は、差し迫る医療課題に対応し、世界中の患者さんに深い恩恵をもたらす革新的な治療法を推進させることを可能にします。当社は、このようなビジョンを実現するため、組織の機動性を向上させるとともに、DD&TやAIを活用しながら全社的な効率化プログラムにも取り組んでいます。中長期的には、当社はCore営業利益率を30%台前半から半ばまでに引き上げることを目指しており、潤沢なキャッシュ・フローを維持してまいります。
また、当社は、売上成長を実現し事業運営の卓越性をさらに強化するため取り組むとともに、人生を変え得る治療法の発見や開発に対する長期的なコミットメントを堅持しています。研究開発投資は、価値創造を追求する上で重要な投資であり、6つの後期開発パイプラインはグローバルで、合計100億~200億米ドルのピーク時売上収益に達する可能性**を秘めています。これら後期開発プログラムを2030年までに上市し成功を収めることは、持続的な成長と現金の創出に大きく貢献することにつながります。
当社は、重要なフェーズにある開発を着実に進め、これらのプログラムを市場に投入してまいりますが、投資資本に対する魅力的なリターンを実現することについても引き続き注力してまいります。当社は、革新的な治療法の発見と開発に対する戦略的かつ規律ある投資を通じて、社会やすべてのステークホルダーに対して価値を創出していくことを目指しています。後期開発パイプラインを成功裏に上市させることとあわせ、事業運営の卓越性を引き続き高めることで、株主資本利益率やその他の財務指標、さらには企業価値の向上につなげてまいります。
* タケダの成長製品・新製品(2025年度)
消化器系疾患:ENTYVIO、EOHILIA
希少疾患:タクザイロ、リブテンシティ、アジンマ
血漿分画製剤:GAMMAGARD LIQUID/KIOVIG、ハイキュービア、キュービトルを含む免疫グロブリン製剤、
HUMAN ALBUMIN、FLEXBUMINを含むアルブミン製剤
オンコロジー:アルンブリグ、FRUZAQLA
ワクチン:QDENGA
** ピーク時売上収益の範囲は、技術的及び規制上の成功確率を考慮して調整されていない推定値であり、予想または目標とみなされるべきではありません。ピーク時売上収益の範囲は、将来起こりうるとは限らないさまざまな商業的シナリオについての当社の評価に基づきます。
[主要製品一覧]
消化器系疾患領域における主要製品は以下の通りです。
・ENTYVIO(ベドリズマブ):ENTYVIO(国内製品名:エンタイビオ)は、中等症から重症の潰瘍性大腸炎・クローン病に対する治療剤です。ENTYVIOは、2014年に米国および欧州において発売以来、売上が伸長しており、2025年3月期の当社グループの売上トップ製品でした。現在、ENTYVIOは世界70カ国以上で承認され、皮下注射製剤は米国、欧州および日本において承認されました。当社は本剤の可能性を最大化するため、その他の国においても本剤の承認取得を進め、さらなる適応症の開発を行ってまいります。2025年3月期におけるENTYVIOの売上収益は9,141億円となりました。
・EOHILIA(ブデソニド経口懸濁液):EOHILIAは好酸球性食道炎(EoE)の治療薬で、コルチコステロイド薬です。米国食品医薬品局(FDA)による承認を受けた初めてかつ唯一の11歳以上のEoE患者さんへの12週間の投与を適応とする 経口治療薬です。2024年2月に米国FDAによる承認取得後上市しました。2025年3月期におけるEOHILIAの売上収益は55億円となりました。
・タケキャブ/VOCINTI(ボノプラザンフマル酸塩):酸関連疾患の治療剤タケキャブは、2015年に日本で発売され、逆流性食道炎や低用量アスピリン投与時における胃潰瘍・十二指腸潰瘍の再発抑制などの効能により飛躍的な成長を遂げました。タケキャブ(中国の製品名:VOCINTI)は、2019年に胃食道逆流症の治療剤として中国で承認されました。2025年3月期におけるタケキャブ/VOCINTIの売上収益は1,308億円となりました。
・GATTEX/レベスティブ(テデュグルチド[DNA組換え型]):非経口(静脈栄養)サポートを必要とする短腸症候群(SBS)の治療薬です。成人用および小児用の効能を有するGATTEX/レベスティブが米国、欧州、日本において承認されました。2025年3月期におけるGATTEX/レベスティブの売上収益は1,463億円となりました。
希少疾患領域における主要製品は以下の通りです。
・タクザイロ(ラナデルマブ):タクザイロは、遺伝性血管性浮腫(HAE)の発作予防に用いられます。タクザイロは、HAEの患者さんにおいて慢性的に制御不能な酵素である血漿カリクレインに選択的に結合し、減少させる完全ヒト型モノクローナル抗体です。タクザイロは(12歳以上の患者さんへの適応として)2018年に米国と欧州にて、2020年に中国にて、2022年に日本にて承認され、さらなる地理的拡大を目指しています。2023年に、2歳以上の小児患者さんに対する治療薬として、FDAおよび欧州委員会の承認を取得しました。また、2025年2月に、12歳以上の遺伝性血管性浮腫患者さんへの皮下投与用のタクザイロの追加の選択肢である2mLのプレフィルドペンが欧州医薬品庁(EMA)から承認されました。2025年3月期におけるタクザイロの売上収益は2,232億円となりました。
・リブテンシティ (maribavir):リブテンシティは、成人患者さんと小児患者さん(12歳以上で体重35 kg以上)に対する、ガンシクロビル、バルガンシクロビル、ホスカルネット、またはシドフォビルに対して遺伝子型抵抗性(無しも含みます)を示す難治性の移植後サイトメガロウイルス(CMV)感染/感染症治療薬であり、2021年12月に米国において発売され、2022年11月に欧州、2023年12月に中国において承認されました。リブテンシティは、高いアンメット・メディカル・ニーズによる順調な市場浸透、急速なエリア拡大、迅速なマーケットアクセスにより、上市後も好調な業績となりました。2025年3月期におけるリブテンシティの売上収益は330億円となりました。
・アジンマ(遺伝子組換え ADAMTS13-krhn):アジンマは先天性血栓性血小板減少性紫斑病(cTTP)の成人および小児患者さんの予防的治療薬ならびに酵素補充療法であり、欠乏したADAMTS13酵素を補充することによりcTTP患者のアンメット・メディカル・ニーズに対応するFDAに承認された初めてかつ唯一の遺伝子組換えADAMTS13(rADAMTS13)です。 また、アジンマ(一般名: アパダムターゼ アルファ(遺伝子組換え)/シナキサダムターゼ アルファ(遺伝子組換え))が、日本においては12歳以上の患者さん、欧州(EMA市場)においてはすべての年齢層の患者さんを対象としたcTTP治療薬として承認されました。2025年3月期におけるアジンマの売上収益は71億円となりました。
・エラプレース(イデュルスルファーゼ):エラプレースは、ハンター症候群(ムコ多糖症II型またはMPS II)に対する酵素補充治療薬です。2025年3月期におけるエラプレースの売上収益は972億円となりました。
・リプレガル(アガルシダーゼ アルファ):リプレガルは、ファブリー病に対して米国以外の市場で販売され、2020年に中国でも承認された酵素補充療法治療薬です。当社は、2022年2月に大日本住友製薬株式会社から「リプレガル」の日本における製造販売承認を承継し、同剤の販売の移管を受けました。ファブリー病は、脂肪の分解に関与するリソソーム酵素α-ガラクトシダーゼAの活性の欠如に起因する遺伝子性の希少疾患です。2025年3月期におけるリプレガルの売上収益は779億円となりました。
・アドベイト(抗血友病因子(遺伝子組換え型)):アドベイトは、血友病A(血液凝固第Ⅷ因子欠乏)の治療薬であり、出血の制御と予防、周術期管理および出血の頻度を予防または軽減するために行う定期補充療法に使用されます。2025年3月期におけるアドベイトの売上収益は1,118億円となりました。
・アディノベイト/ADYNOVI(抗血友病因子(遺伝子組換え型) [PEG化]):アディノベイト/ADYNOVIは、血友病A治療薬であり、遺伝子組換え型半減期延長第Ⅷ因子製剤です。アディノベイト/ADYNOVIは遺伝子組換え型半減期延長第Ⅷ因子製剤アドベイトと同じ製造工程で作られ、当社がネクター社より独占的にライセンス取得しているPEG化(体内での循環時間を延長し、投与頻度を減らすための化学修飾処理)技術を追加したものです。2025年3月期におけるアディノベイト/ADYNOVIの売上収益は646億円となりました。
・ビプリブ(ベラグルセラーゼアルファ点滴静注用):ビプリブはI型ゴーシェ病に対する長期酵素補充療法治療剤です。2025年3月期におけるビプリブの売上収益は535億円となりました。
血漿分画製剤(PDT)領域における主要製品は以下の通りです。
・GAMMAGARD LIQUID/KIOVIG(静注用人免疫グロブリン10%製剤):GAMMAGARD LIQUIDは、抗体補充療法用免疫グロブリン(以下、「IG」)の液体製剤です。GAMMAGARD LIQUIDは、原発性免疫不全症(PID)の成人および2歳以上の小児患者さんに対して使用され、静注または皮下注のいずれかの方法で投与します。また、GAMMAGARD LIQUIDは、成人の多巣性運動ニューロパチー(MMN)患者さんに対しても静注投与にて使用されます。2024年1月に、米国において、GAMMAGARD LIQUIDが、慢性炎症性脱髄性多発根神経炎(CIDP)の成人患者さんの治療薬として承認されました。GAMMAGARD LIQUIDは、米国以外の多くの国で製品名KIOVIGとして販売されています。KIOVIGは、欧州において、CIDPを含む、複数の適応症への使用が承認されています。
・ハイキュービア(ヒト免疫グロブリン注射製剤10%):ハイキュービアは、ヒト免疫グロブリン(IG)および遺伝子組換え型ヒトヒアルロニダーゼ(Halozyme社よりライセンス取得)からなる製剤です。ハイキュービアは、PID患者さんに対して最長で1ヶ月に1回の投与で、1回あたりの注射部位一ヶ所でIGの全治療用量の投与が可能な唯一のIG皮下注用治療薬です。ハイキュービアは、米国では成人PID患者さんへの使用、欧州においてはPID症候群および骨髄腫患者さんまたは重度の続発性低ガンマグロブリン血症および回帰感染を伴う慢性リンパ性白血病患者さんへの使用、また日本においてはPID患者さんまたは無又は低ガンマグロブリン血症を伴う続発性免疫不全症の患者さんへの使用が承認されております。2024年1月に、ハイキュービアは、米国において、慢性炎症性脱髄性多発根神経炎(CIDP)の成人患者さんの再発予防の維持療法として、また、欧州においては、すべての年齢のCIDPの患者さんの維持療法として承認されました。
• キュービトル(ヒト免疫グロブリン皮下注用20%製剤):キュービトルは、原発性体液性免疫不全症の成人および2歳以上の小児患者さんに対する補充療法に用いられます。キュービトルは、欧州では特定の続発性免疫不全の治療薬としても承認されています。キュービトルは、プロリン不含で、投与部位1ヶ所あたりの耐用量内で最大60 mL(12g)および1時間あたり60 mLまで投与可能な唯一の20%皮下IG治療薬であり、従来の皮下IG治療薬と比較してより少ない投与部位および短い投与時間での使用が可能です。
2025年3月期におけるGAMMAGARD LIQUID/KIOVIG、ハイキュービア、キュービトルを含む免疫グロブリン製剤の売上収益は7,578億円となりました。
・FLEXBUMIN(ヒトアルブミンバッグ製剤)およびヒトアルブミン(ガラス瓶製剤):FLEXBUMINおよびヒトアルブミンは、濃度5%および25%の液体製剤として販売されています。両製品とも、血液量減少症、一般的な原因および火傷による低アルブミン血症、ならびに心肺バイパス手術時のポンプのプライミングに使用されます。また、FLEXBUMIN 25%製剤は、成人呼吸窮迫症候群(ARDS)およびネフローゼに関連する低アルブミン血症、ならびに新生児溶血性疾患(HDN)にも適応されます。2025年3月期におけるFLEXBUMINおよびヒトアルブミン(ガラス瓶製剤入り)を含むアルブミン製剤の売上収益は1,414億円となりました。
オンコロジー領域における主要製品は以下の通りです。
・アルンブリグ(ブリグチニブ):アルンブリグは、非小細胞肺がん(NSCLC)治療に使用される経口投与の低分子未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)阻害剤であり、クリゾチニブ投与中に進行した、またはクリゾチニブに不耐性を示す患者さんに対する治療薬として、2017年に米国で迅速承認され、2018年にEUにおいて、クリゾチニブの治療歴を有する患者さん向けの販売承認を取得しました。2020年に米国とEUの両方において、新たにALK陽性転移性NSCLCと診断された患者さんに対する効能が追加されました。2021年1月に、日本において、ファーストラインおよびセカンドラインの治療薬として承認されました。また2022年3月に、アルンブリグは中国において承認されました。2025年3月期におけるアルンブリグの売上収益は364億円となりました。
・FRUZAQLA(フルキンチニブ):フルオロピリミジン、オキサリプラチン、およびイリノテカンを含む化学療法、抗VEGF療法、および抗EGFR療法(RAS野生型で医学的に適切な場合)の治療歴があるmCRC成人患者に対する治療薬です。FRUZAQLAは、3種類のVEGF受容体キナーゼすべてに対して選択性を有する内服阻害薬として、米国、欧州、日本のほか、世界中の幾つもの国々で承認されております。当社は中国本土、香港、マカオ外でのフルキンチニブのグローバル開発、商業化および製造をさらに進めるための独占的ライセンスを有しています。フルキンチニブは中国ではHUTCHMED社により開発および販売されています。2025年3月期におけるFRUZAQLAの売上収益は480億円となりました。
・リュープリン/ENANTONE(リュープロレリン):リュープリン/ENANTONEは、前立腺がんや乳がん、小児の中枢性思春期早発症、子宮内膜症や不妊治療、子宮筋腫による貧血の症状改善に用いられる治療薬です。リュープロレリンの特許期間は満了していますが、製造の観点から後発品の市場参入は限定的です。2025年3月期におけるリュープリン/ENANTONEの売上収益は1,193億円となりました。
・ニンラーロ(イキサゾミブ):ニンラーロは、多発性骨髄腫(MM)治療に対する初めての経口プロテアソーム阻害剤です。ニンラーロは、再発又は難治性の多発性骨髄腫の効能で、2015年に米国で承認されて以来、2016年に欧州、2017年に日本、2018年に中国で承認されております。日本においては、多発性骨髄腫の維持療法の治療薬としても承認を受けております。2025年3月期におけるニンラーロの売上収益は912億円となりました。
・アドセトリス(ブレンツキシマブ ベドチン):アドセトリスは、ホジキンリンパ腫(HL)および全身性未分化大細胞リンパ腫(sALCL)の治療に使用される抗癌剤で、2020年5月には中国で承認され世界70カ国以上で販売承認を受けております。当社は、現在Pfizer Inc.の完全子会社であるSeagen, Inc.とアドセトリスを共同開発し、米国およびカナダ以外の国での販売権を保有しています。2025年3月期におけるアドセトリスの売上収益は1,290億円となりました。
・アイクルシグ(ポナチニブ塩酸塩):BCR-ABLに作用するチロシンキナーゼ阻害薬であり、慢性骨髄性白血病(CML)とフィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病(Ph+ ALL)の治療に適応となります。2016年に米国において全面的な承認を取得した後、2020年と2024年に米国において適用拡大の承認を取得しました。当社は米国とオーストラリアにおいて販売権を取得しております。米国とオーストラリア以外の地域では、認可を受けたパートナー5社により60を超える市場において販売されており、当社はこれらのパートナーから、供給、ロイヤリティおよびマイルストンの支払を受領しており、その水準はパートナーによって異なります。2025年3月期におけるアイクルシグの売上収益は707億円となりました。
ニューロサイエンス領域における主要製品は以下の通りです。
・VYVANSE/ELVANSE(リスデキサンフェタミンメシル酸塩):VYVANSE/ELVANSE(国内製品名:ビバンセ)は、6歳以上の注意欠陥・多動性障害(ADHD)患者さんおよび成人の中程度から重度の過食性障害患者さんの治療に用いられる中枢神経刺激剤です。2023年以降、米国において後発品が市場に参入したことにより、売上は減少しました。2025年3月期におけるVYVANSE/ELVANSEの売上収益は3,506億円となりました。
・トリンテリックス(ボルチオキセチン臭化水素酸塩):トリンテリックスは、成人大うつ病性障害の治療に適応される抗うつ薬です。トリンテリックスはH. Lundbeck A/S社と共同開発し、当社は米国および日本での販売権を保有しており、米国では2014年、また日本では2019年より販売しています。2025年3月期におけるトリンテリックスの売上収益は1,257億円となりました。
ワクチン領域における主要製品は以下の通りです。
・QDENGA(4価デング熱ワクチン):QDENGAは4種のワクチンウイルス型すべての遺伝子型の“バックボーン”として弱毒化された生の2型デングウイルスをベースに構築されています。QDENGAはテング熱流行国および渡航市場を含む29カ国において販売されています。2025年3月期における QDENGAの売上収益は356億円となりました。
売上収益の地域別内訳は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 4 事業セグメントおよび売上収益」をご参照下さい。
当社の取締役会は、ビジネスリスクおよび財務開示に関連するものを含め、当社の業務運営を監督する責任を有しています。取締役会は、当社グループの事業戦略、内部統制およびその他の重要事項により集中するため、一定の意思決定権を当社の取締役に委譲しています。取締役に意思決定権が委譲された事項は、ビジネス&サステナビリティ・コミッティー(「BSC」)およびリスク・エシックス&コンプライアンス・コミッティー(「RECC」)を含む適切な経営幹部レベルの委員会が議論し、意思決定を行います。BSCは、サステナビリティを含む当社の事業戦略および関連する目標、コミットメントを監督する責任を有しています。RECCは、重要なリスクに対する緩和策を含む当社のエンタープライズ・リスク・マネジメント(ERM)プログラムおよびグローバル・モニタリング・プログラムに関連する監視および決定事項にかかる責任を有しています。取締役会は、社長CEO、その他のタケダ・エグゼクティブ・チーム(「TET」)メンバーおよび各経営会議体から定期的に最新情報を入手しています。
チーフ グローバル コーポレート アフェアーズ&サステナビリティ オフィサー(「CGCASO」)は、「Patient すべての患者さんのために」、「People ともに働く仲間のために」および「Planet いのちを育む地球のために」というサステナビリティに係る3つの「私たちの約束」に対して責任を有するTETメンバーと適切に連携し、サステナビリティの取組みを統括しています。
当社では、サステナビリティ/ESG 外部開示コミッティーを設置しており、グローバル サステナビリティ ヘッドが議長を務め、各分野における社内の専門家で構成されています。同コミッティーは、当社のサステナビリティおよび環境、社会、ガバナンス(ESG)などの情報の適時かつ正確な開示を担保する責任を負っており、サステナビリティに関する義務的開示および主要な任意開示の正確性、一貫性、網羅性を精査、確認しています。
コーポレート・ガバナンス体制の変遷

当社のガバナンス体制のさらなる詳細については、
事業戦略
当社のサステナビリティは、経営の在り方そのものです。当社は、バイオ医薬品企業としての強みと能力を活かして、患者さん、株主の皆様、および社会のための長期的な価値を創造すると同時に、環境への悪影響を最低限に抑えることで、当社の存在意義を果たしていきます。
当社の企業理念はサステナビリティに対する当社のアプローチを示しており、「存在意義(パーパス)」を「目指す未来(ビジョン)」および「価値観(バリュー)」と融合させています。当社は、パーパスとビジョンを達成するためにどこに注力をするべきか(事業戦略)を「私たちの約束」および「優先事項」で定めています。
私たちの約束は、「Patient すべての患者さんのために」、「People ともに働く仲間のために」、および「Planet いのちを育む地球のために」の大きく3つの柱に分けられており、データやデジタル、テクノロジーを活用しながら実行されています。これには、当社およびステークホルダーにとって戦略的重要性が高い非財務関連課題の評価(マテリアリティ・アセスメント)の結果が反映されています。
Patient すべての患者さんのために
当社は、科学的根拠に基づき、治療の選択肢が限られている、または選択肢のない患者さんをはじめ、すべての人々の人生を根本的に変え得るような医薬品およびワクチンの創出に取り組んでいます。これは、当社の存在意義(パーパス)の根幹となるものです。当社の研究開発(R&D)は、主要な疾患領域に焦点を当て、高度に差別化されています。私たちは、研究所の専門的な研究開発能力、社外とのパートナーシップ、患者団体との連携、健康の公平性への取り組み、およびデータ、デジタル、テクノロジーの活用などを通じて、当社製品を患者さんにお届けしています。
私たちは、患者さんに高品質な医薬品を途絶えることなく供給する責任があることを理解しています。この責任を果たすために、堅ろうなグローバルサプライチェーンシステムを構築しています。例えば、戦略上、重要な製品および原薬については、地政学的リスクや自然災害など外的要因によるリスクを軽減し、供給継続性を担保できる調達戦略を有しています。当社は製品の品質と患者さんの安全を守るために、製品のライフサイクル全体にわたり厳格な品質基準を適用しています。当社は、外部規制やガイドライン、社内要件およびGxP基準を遵守するとともに、臨床試験から製造、販売に至るまでの各段階で、製品の品質、安全性、有効性を担保しています。また、市販後調査の実施や規制当局から求められる要件に準拠することで製品の安全性と有効性を担保するとともに、追加的な調査やモニタリングを実施することでさらなる臨床データの収集を行っています。
患者さん、社会および株主の皆様のために価値を創造するためには、治療を必要とする患者さんに、当社の革新的な医薬品およびワクチンを持続可能な形でお届けする必要があります。そのため、当社では次のことに注力しております。
・アンメット・メディカル・ニーズ:人生を根本的に変え得るような非常に革新性が高い新製品を患者さんにお届けできるように、グローバルに「タケダの成長製品・新製品」を創出、開発および上市しています。特に、希少疾患領域では、当社の製品が初めてで且つ唯一の治療薬である場合が多くあります。
・医薬品のアクセスに関するスピード、対象範囲、価値および持続可能性のバランス:医薬品のアクセスおよび価格戦略において、スピード、対象範囲および持続可能性の最適なバランスの実現を目指しています。当社は、保険者、医療システムおよび社会に与える価値を反映した価格設定を行っています。価格に起因するアクセスの障壁を軽減するために、国の経済レベルや医療制度の成熟度などに応じて、国ごとに異なる価格帯を設定しています(ティアード・プライシング)。また、保険者と連携して価値に基づく契約を締結することで、新薬上市時における臨床成績や財務的影響に関する不確実性に保険者が対処できるようにしています。また、患者支援プログラムを提供し、患者さんの個々の状況に応じて経済的な支援を行うことで、革新的な医薬品へのアクセスを可能にしています。
・医療システムの強化および支援を目的としたステークホルダーとの連携:公的セクターや市民社会と連携し、医療システムに内在する当社の医薬品や関連する治療へのアクセスの障壁を特定し、対処しています。これら取組みにおいては、持続可能な方法で、各国それぞれの優先課題に沿い、地域社会と連携しながら医療システムの強化に努めています。また、パートナーと連携して患者さんの治療成績を高めるとともに、患者さんや社会により多くのベネフィットをお届けすることができる価値に基づく医療モデルへの転換を支援し、医療システムの変革を促進しています。
当社では、このように医薬品のアクセスを事業戦略に組み込むとともに、研究開発から販売にいたる当社の事業運営において取り組みを進めています。また、地域主導のアプローチを採用することで、当社の医薬品をお届けするにあたって、各地域における患者さんのニーズに応えるとともに、医療システムにおける特有のアクセス障壁に対処しています。
当社の患者さんに対する取り組みの詳細は、2025年6月30日に当社ウェブサイトに掲載を予定している
People ともに働く仲間のために
当社は、科学技術がどれほど進歩しても、知識を核とした「人」の力が会社を支えることを認識しています。私たちの従業員はイノベーションの源泉であり、患者さん、株主、社会のために長期的な価値を創造することを可能にしています。当社は、人生を根本的に変え得るような医薬品およびワクチンを患者さんや地域社会にお届けするため、人材開発・育成ならびに生涯学習への投資、あらゆる種類の差別を排除し従業員の潜在能力を最大限に引き出す包括性を推進する職場環境の整備、職場において従業員が能力を最大限に発揮できる帰属意識の高い企業文化の醸成に注力しています。
企業文化の醸成と人材の育成
当社の企業文化は、価値観によって形作られています。当社は、法律や規制を順守するだけでなく、常に目的意識と高い倫理的、道徳的基準に基づいて意思決定を行い、それを行動で示すことを重視しています。グローバル行動基準や新任の上級管理職がタケダの伝統や価値観を学ぶ場であるグローバル・インダクション・フォーラム、そしてロールモデルとなり従業員への価値観の浸透を担うバリュー・アンバサダー制度など様々な仕組みや学習プログラムを通じて、価値観に基づく企業文化の醸成に努めています。
また、当社は、従業員自らが自身の学習およびキャリア成長に責任をもって取り組む生涯学習の文化を重視しています。生涯学習およびキャリア成長への取り組みは、従業員の職務経験、モチベーションおよび専門性を高め、新しい発想につながり、結果的に患者さんへの価値創造につながります。当社では、従業員に対して、様々なオンライン学習や対面での学習機会を提供し、必要な知識や学びたい知識を、必要な時に最適な形で習得できるよう、学びをカスタマイズできるようにしています。
従業員の学びとキャリア成長をサポートする取組みの一つは、2024年1月に導入したAIを活用したタレントマーケットプレイス(人材と業務のマッチング)のプラットフォームであるCareer Navigatorの活用です。Career Navigatorを活用することで、従業員は自身のキャリア形成過程で身につけたいスキルや得たい経験に沿ったキャリア機会を追求することができます。2025年には、Career Navigatorに短期のプロジェクト機会に関する情報を追加しました。これにより、当社の事業に貢献しながら、自身のスキルの向上や経験の蓄積を実現することが可能になりました。また、リスクのない環境下で新しいスキルを実践できる、AIによるコーチングやロールプレイの機会も提供することで、従業員の学びや能力開発をサポートしています。2025年は、ライブ講義、自己学習、メンター制度、グループ・プロジェクトやディスカッションを組み込んだ一貫した学習体験を、何千人もの従業員に同時に提供できる新しいオンライン・プラットフォームに投資しています。
当社では、生涯学習への取組みを全社的に推進しています。例えば、製造部門および品質部門においては、従業員は月3時間をスキルの向上やスキルの再習得のために利用することができます。この時間は、必須のトレーニングや業務に関連したトレーニングの時間とは別に提供されています。
当社では、従業員が自らのキャリア成長を明確化し、その意欲を高める上で極めて重要な役割を担うリーダーの育成を最優先課題として取り組んでいます。2024年度には、包括的な育成プログラムおよび革新的なチェンジマネジメントツールキットを導入しました。育成プログラムには、新たに採用した上級管理職や上級管理職に昇進した社員を効果的に受け入れるためのシニアリーダー・インダクション・プログラムと、将来の戦略的役割を担うシニアリーダーの育成を支援する16ヶ月間のタケダ・アスパイア・プログラムが含まれます。
当社では、テクノロジーを業務に組み込み、未来のヘルスケアに対応できる組織にするため、従業員のデジタルスキルやデジタル活用意識の強化に投資しており、自動化プログラムの構築や、個人の生産性向上、生成AIの活用など従業員がデジタル活用能力を向上することができるよう、事業部門や機能全体でスキル向上の機会を提供しています。2024年7月には、新たなデジタルデクステリティ(デジタル技術を高度に活用する能力・意欲)の最初の重要なステップとして、当社の学習プラットフォームにおいてEveryday AIを立ち上げました。Everyday AIは、AIおよび生成AIの必要なスキルを育成するためのプラットフォームです。
当社は、革新的な医薬品を創出し患者さんにお届けするという価値観に基づき、デジタルスキルを含め、生涯学習およびキャリア開発を促進する企業文化を醸成することに取り組んでいます。
当社は、グローバルなバイオ医薬品企業として、異なる考え方や経験を尊重するとともに、あらゆる種類の差別を排除し、包括性を推進する職場環境を整備することで、 優秀な人材をグローバルに惹きつけ、育成し、定着を図っています。当社では、価値観によって形作られた企業文化を醸成することで、従業員一人ひとりが自身の価値を認められ、所属に関係なく、自身の潜在能力を最大限に発揮できるような機会やリソースにアクセスすることができます。
社内環境整備方針
「世界中の人々の健康と、輝かしい未来に貢献する」という当社の存在意義(パーパス)は従業員が心身ともに健康であることを前提に実現されるものです。当社のウェルビーイングプログラムは、精神面、身体面、社会面、経済面の4つの分野から従業員の心身の健康に焦点を当てています。当社の全従業員はThrive Globalプログラムにアクセスし、睡眠、栄養、運動といったウェルビーイングの要素を管理することができます。Thrive Globalプログラムは、ストレスを軽減し生産性を向上させるツールやリソースを提供することで行動変化を促し、ウェルビーイングを改善していくことを目的としたプラットフォームです。
また、この1年間において、ウェルビーイングの取組みを強化するためにさらなる施策を実施しました。この一環として、従業員支援プログラムをより多くの国に拡大させました。同プログラムには、電話や現地語による短期カウンセリング、法的・経済的サポートが含まれ、全ての従業員が同じ福利厚生や支援を利用できるようになりました。
ライフ・ワーク・アライメントは従業員が新しいよりフレキシブルな勤務形態に適応する上で最も考慮すべき点であり、顔を合わせて行う協働と在宅勤務を両方取り入れるなど、従業員の能力を最大限に引き出すために多様な働き方を尊重しています。具体的な勤務形態はチームによって異なりますが、イノベーションを促進するためにオフィスの空間デザインにも工夫を凝らし、従業員のウェルビーイング(心身の健康)とパフォーマンスを向上させ、柔軟性があり、対面でのコミュニケーションの価値を実感できるような環境づくりを行うなど、働き方改革を加速させています。また、レジリエンス(回復力)のスキルを強化するための学習プログラムを活用し、メンタルヘルスについて話すためのツールをマネージャーに提供しています。
当社は、国連グローバル・コンパクトの署名企業として、バリューチェーンやタケダが貢献する地域社会を含む当社事業のあらゆる場面において、国際的に認められた人権の尊重と推進に力を入れて取り組んでいます。
当社の人材、人材育成と企業文化の醸成、および社内環境整備にかかる方針のさらなる詳細は、2025年6月30日に当社ウェブサイトに掲載を予定している
Planet いのちを育む地球のために
当社は、気候変動や環境悪化が患者さんや人々の健康に影響を及ぼすことを理解し、環境の分野において積極的に取り組んでいます。当社は、事業活動およびバリューチェーン全体における温室効果ガス排出量の最小化、天然資源の保全、ならびに持続可能性に配慮した製品設計および生産に重点を置いて、環境サステナビリティ活動に取り組んでいます。「Planet」に係る取り組みは、現在、環境サステナビリティの様々な側面に専念した3つのプログラムで構成されています。
•気候変動対策プログラム
2035年度までに自社の事業活動に起因する温室効果ガス排出量(スコープ1および2)を、2040年度までにバリューチェーン全体における温室効果ガス排出量(スコープ1、2および3)をネットゼロにすることを目標に掲げています。これらの目標は、2024年にSBTi(科学的根拠に基づく目標イニシアチブ)の認証を取得しました。
•環境配慮設計プログラム
製品の設計や開発に、環境ライフサイクルの視点を取り入れることで、バリューチェーン全体で環境負荷を最小限に抑えることを目指します。
・天然資源保全プログラム
水の保全、責任ある廃棄物管理、生物多様性保全活動などを通じて、気候変動以外の事業による環境負荷の低減を目指します。
当社は、気候変動に関連したリスクに対するレジリエンスの強化および機会の特定に積極的に取り組んでいます。気候変動による物理的リスクおよび移行リスクの評価と管理は、コーポレートEHS(環境、健康・衛生、安全)のチームが主導し、組織全体のリスク管理フレームワークに組み込んでいます。事業所に固有の気候変動による業務運営リスクは、事業所や施設レベルのリスク評価からボトムアップのアプローチにより特定しています。また、サプライチェーンにおけるリスクは、第三者リスク管理プログラム(TPRM)を利用したサプライヤーのスクリーニングを通じて特定しています。
当社は、気候変動によるリスクを軽減し、自社の事業活動に起因する温室効果ガス排出量をネットゼロにするため、製造拠点、バイオライフ(血漿収集施設)、オフィスにまたがる拠点において、事業所固有のロードマップを策定し、温室効果ガス排出量を削減するための様々な脱炭素施策を展開しています。これらの施策には、低炭素技術への投資(ハイブリッド自動車や電気自動車など)および可能な場合は100%再生可能電力への移行が含まれます。また、サプライヤーと協力して排出量削減目標を設定し、製品開発に係る排出量を最小化し、航空輸送の代替として海上輸送を増やすことにより、バリューチェーン排出量の削減を目指すとともに、削減が困難な排出に対処するために、新たな外部連携にも戦略的な投資を行っています。当社は、気候変動に係る目標を達成するために、短期および長期の排出量削減戦略を進化・強化しています。
当社は、2024年に、気候変動のリスクと機会についてシナリオ分析を刷新し、特定のサプライチェーンリスクを含め、移行リスクおよび物理的リスクに焦点を当てて評価を実施しました。
移行リスク評価では、2050年までの時間軸について、気候変動に対する世界の対応レベルの違いによって異なる3つの気候変動シナリオ(「迅速な気候変動対策」、「気候変動対策の遅延」、「中道的な気候変動対策」)を設定し、当社の規制、技術、市場および評判(レピュテーション)に関するリスクを評価しました。当該評価では、当社が現在計画しているネットゼロ達成のための施策を考慮した場合と、それらの施策がない場合に、移行リスクにどの程度晒されるかも考慮しました。
物理的リスク評価では、当社の事業運営および第三者である主要な医薬品製造受託機関(CMO)およびサプライヤーについて、気温、水、風および土地に関連する危険性を、国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によって設定された2つの共通社会経済経路シナリオ(SSP2-4.5とSSP5-8.5)に基づいて評価しました。物理的リスクは、グロスベースで評価しており、当社の事業運営またはCMOの事業運営に対して、現在実施中の緩和策あるいは現在計画中の緩和策の更新が及ぼす影響は考慮されていません。
このプロセスを通じて、当社に潜在的に該当するいくつかの気候関連リスクと機会を特定することができました。移行リスクに関しては、潜在的な国レベルおよび地域レベルの炭素税導入に伴って、サプライヤーからのコストが増加する可能性や、化石燃料由来のエネルギー源の価格上昇に起因する事業運営費の増加に晒される可能性があるものの、前述の脱炭素施策を引き続き実施すれば、そのようなコストは大幅に減少することが示唆されました。さらに、低炭素製品に関する市場トレンドの定性的な分析では、当社は製品プロファイルが差別化できており、比較可能な代替品がないことから、低炭素製品における競争リスクが比較的低いことが示されました。
物理的リスクに関して、モデル化されたシナリオでは、当社の直接的な事業運営あるいはCMOの事業運営に対する以下の潜在的な気候関連リスクと影響を特定しました。
(1) SSP2-4.5シナリオ: 温室効果ガス排出量が2050年まで現在のレベルで続き、その後減少するが、2100年までに地球の気温が2.1~3.5℃上昇すると推定される中程度の排出経路を示しています。
(2) SSP5-8.5シナリオ: 現在のCO2排出量が2050年までに約2倍、2075年までに約3倍に増加し、2100年までに地球の気温が3.3~5.7℃上昇すると推定される、非常に高い温室効果ガス排出経路を示しています。
出典:気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書(AR6)政策決定者のための要約
上記の事業運営に対する物理的リスクの中で、水不足によるリスクは最も増加することが予測されており、熱ストレスによるリスクは分析されたリスクの中で最も影響度が大きいと予測されています。いずれも当社の事業全体に加え、現在提携しているCMOおよびサプライヤーに及ぶものです。2つのシナリオのいずれにおいても、影響の深刻度(Impact Severity)はほぼ同等であったものの、特に干ばつと熱ストレスによるリスクについては、SSP5-8.5シナリオにおける影響がやや大きくなっています。さらに、当社の日本の事業運営では、熱帯低気圧と地震のリスクがある一方、ヨーロッパに拠点を置くCMOは地滑りのリスクに晒されていますが、シナリオ評価においては、気候変動によるこれらの危険性の増加は予測されていません。
当社は、これらのリスク評価および得られた知見をリスク管理プロセスに統合し、物理的リスク評価を考慮して各施設の気候変動適応戦略を精査しています。
さらに、2024年度には、生物多様性への影響や取水、水使用および廃棄物の潜在的な影響など、環境への影響に関する初期評価を実施し、環境への取組みや目標の検討に活用しました。当該評価を行うために、エネルギー使用、土地使用、水の消費、廃棄物発生など事業運営に関わる主要な指標を、確立された第三者の科学的データと比較してリスクスコアを算出し、潜在的なリスクエリアおよび対策を優先的に実施すべき事業所を特定しました。
この分析から、当社が環境に与える影響の中で、最も影響度が大きなものはエネルギー使用であることが特定されました。主に製造活動に関連する水および廃棄物関連の影響は、主要な自然関連の直接的な影響として特定されましたが、これらの影響に関連するリスクの財務的な重要性の評価は実施しませんでした。
また、バリューチェーンの上流および下流における環境への潜在的な影響も評価しましたが、利用可能なデータが不足していることから、特に原材料調達に関して、分析は限定的なものとなりました。このような制約があったものの、トウモロコシ(細胞培養、エタノール)、パルプ由来の材料(二次紙パッケージ)、木材(パレット、オフィス用品)、ウシ由来血清(バイオ医薬品製造)、サトウキビ(エタノール、賦形剤)については、バリューチェーンの上流において依存していることが特定されましたが、これらの依存関係に関連するリスクの財務的な重要性の評価は実施しませんでした。
当社は、将来的に、環境への影響および依存関係に関連する財務リスクのさらなる分析を行う予定です。
リスク管理は、当社で働く人材、資産、社会的評価・評判(レピュテーション)を守り、当社の成長と成功に向けた長期的な戦略を支える柱となります。これまでに特定されたサステナビリティに関連するリスクは、既存のグローバルおよび事業場レベルのリスク管理プロセスを通じて対処されています。
全社的なリスク管理プロセスは、取締役会の監督のもとチーフ・エシックス&コンプライアンス・オフィサーが統括しています。また、主要な全社的リスクおよびそれらのリスクの発生防止・低減措置の実効性は、RECCおよび取締役会によって毎年承認されています。
リスク管理は全社的な事業体制に組み込まれており、全社的リスク評価プロセスによって、サステナビリティに関連するリスクを含めたリスクを識別、評価し、またそのリスク低減施策を実施しています。このプロセスは、リスクの全体像を把握し、リスクに基づいた意思決定を行う企業風土を醸成するようデザインされています。関連する各部門は、担当領域ごとに主要なリスクとその対応への責任を担っています。
当社のリスク管理プロセスのさらなる詳細については、
当社は、企業理念に基づく行動を通して、長期的な価値の創造を目指しています。関連する部門で働く従業員が意見を出し合って「企業理念に基づく私たちの指標(corporate philosophy metrics)」を策定しました。従業員は、各評価指標の進捗状況を社内ポータルサイトでいつでも確認できるようになっています。透明性の高い情報共有は、従業員一人ひとりがタケダの持続的な成長に責任を持ち、社外ステークホルダーとの信頼関係の構築を促します。
Patient すべての患者さんのために
(注)2023年度および2024年度の上表の各種指標については、KPMGあずさサステナビリティ株式会社より、国際監査・保証基準審議会(IAASB)によって発行されたISAE(国際保証業務基準)3000及びISAE3410に準拠した限定的保証業務を受けています。その結果、同社より、2023年度の指標については2024年6月25日付で、2024年度の指標については2025年6月24日付で、すべての重要な点において、会社の定める規準(2023年度については当社のウェブサイトに掲載されており、2024年度については2025年6月30日に当社のウェブサイトに掲載予定)に従って算定され、表示されていないと認められる事項は発見されなかったとの結論を受領しております。
People ともに働く仲間のために
(注)2023年度および2024年度の上表の各種指標については、KPMGあずさサステナビリティ株式会社より、国際監査・保証基準審議会(IAASB)によって発行されたISAE(国際保証業務基準)3000及びISAE3410に準拠した限定的保証業務を受けています。その結果、同社より、2023年度の指標については2024年6月25日付で、2024年度の指標については2025年6月24日付で、すべての重要な点において、会社の定める規準(2023年度については当社のウェブサイトに掲載されており、2024年度については2025年6月30日に当社のウェブサイトに掲載予定)に従って算定され、表示されていないと認められる事項は発見されなかったとの結論を受領しております。
Planet いのちを育む地球のために
当社は、スコープ1および2の温室効果ガス排出量を、2025年度までに2016年度基準から40%削減する目標を2020年に設定しました。また、排出量の67%を占めるサプライヤーが2024年度までに科学的根拠に基づく目標を設定する目標も設定しました。これらの目標はSBTi(科学的根拠に基づく目標イニシアチブ)の認証を取得しました。2022年には、2035年度までに当社の事業活動に起因する温室効果ガス排出量(スコープ1および2)を、2040年度までに当社のバリューチェーン全体における温室効果ガス排出量(スコープ3の温室効果ガス排出量の見積もり(注1)を含む)をネットゼロ(注2)にする新しい目標を公表しました。これらのコミットメントは、必要とされる短期的な排出削減目標とともに、2024年にSBTiの認証を取得しました。当社は、2022年度まで、カーボンニュートラルを維持してきましたが、2024年度からは、気候変動対策の目標としてのカーボンニュートラルからの転換を行いました。当社は、ネットゼロに焦点を当てる一環として、自主的炭素市場(Voluntary Carbon Market:VCM)を引き続き支援し、人々の健康に役立ち、SBTiの企業ネットゼロ基準に適合するカーボン除去のソリューションやプロジェクトに優先的に投資していきます。
(注1)実際のスコープ3の排出量は測定が困難であり不透明性が残ることからも、これらは取り組みを進めていく上で今後克服すべき重要な課題です。
(注2)当社は、SBTiの企業ネットゼロ基準に従ってネットゼロ排出量を定義しています。
* 当社の温室効果ガス排出量を計算するための方法の詳細については、2025年6月30日に当社ウェブサイトに掲載を予定している「
(注)2023年度および2024年度の上表の各種指標については、KPMGあずさサステナビリティ株式会社より、国際監査・保証基準審議会(IAASB)によって発行されたISAE(国際保証業務基準)3000及びISAE3410に準拠した限定的保証業務を受けています。その結果、同社より、2023年度の指標については2024年6月25日付で、2024年度の指標については2025年6月24日付で、すべての重要な点において、会社の定める規準(2023年度については当社のウェブサイトに掲載されており、2024年度については2025年6月30日に当社のウェブサイトに掲載予定)に従って算定され、表示されていないと認められる事項は発見されなかったとの結論を受領しております。
データ・デジタル&テクノロジー
(注1)2023年度および2024年度の上表の各種指標については、KPMGあずさサステナビリティ株式会社より、国際監査・保証基準審議会(IAASB)によって発行されたISAE(国際保証業務基準)3000及びISAE3410に準拠した限定的保証業務を受けています。その結果、同社より、2023年度の指標については2024年6月25日付で、2024年度の指標については2025年6月24日付で、すべての重要な点において、会社の定める規準(2023年度については当社のウェブサイトに掲載されており、2024年度については2025年6月30日に当社のウェブサイトに掲載予定)に従って算定され、表示されていないと認められる事項は発見されなかったとの結論を受領しております。
(注2)医療用医薬品の適正使用に関する情報やWeb講演会を提供する日本の医療従事者向け会員サイト。
事業の成長
(注)2023年度および2024年度の上表の各種指標については、KPMGあずさサステナビリティ株式会社より、国際監査・保証基準審議会(IAASB)によって発行されたISAE(国際保証業務基準)3000及びISAE3410に準拠した限定的保証業務を受けています。その結果、同社より、2023年度の指標については2024年6月25日付で、2024年度の指標については2025年6月24日付で、すべての重要な点において、会社の定める規準(2023年度については当社のウェブサイトに掲載されており、2024年度については2025年6月30日に当社のウェブサイトに掲載予定)に従って算定され、表示されていないと認められる事項は発見されなかったとの結論を受領しております。
当社のサステナビリティへの取り組みのさらなる詳細は、2025年6月30日に当社ウェブサイトに掲載を予定している
当社の業績は、現在および将来において様々なリスクにさらされており、リスクの顕在化により予期せぬ業績の変動を被る可能性があります。以下では、当社が事業を展開していくうえで直面しうる主なリスクを記載しています。なお、以下に記載したリスクは当社の全てのリスクを網羅したものではなく、記載以外の潜在的かつ不確実なリスクも存在し、投資家の判断に影響を及ぼす可能性があります。
当社のグローバルリスク管理ポリシーについては、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (1)コーポレート・ガバナンスの概要 3.業務執行に係る事項 <内部統制システムに関する基本的な考え方およびその整備状況> ③ 損失の危険の管理に関する規程その他の体制」をご参照ください。
なお、本項目に含まれる将来に関する事項およびリスクは、当年度末現在において判断したものです。
(1)研究開発に関するリスク
当社は、持続的成長を実現するために、最先端の科学で革新的な医薬品を創出することを目指しています。当社は、研究開発機能の向上および社外パートナーとの提携等により研究開発パイプラインを強化すると共に、世界各国の市場への一日も早い新製品の上市を目指し、質の高い革新的な研究開発パイプラインを構築することで研究開発の成功確率を高める等により効率的な研究開発活動に努めています。しかしながら、医薬品は、自社創製候補物質、導入候補物質にかかわらず、所轄官庁の定めた有効性と安全性に関する厳格な審査により承認されてはじめて上市可能となります。
研究開発の途上において、当該候補物質の有効性・安全性が、承認に必要とされる水準を充たさないことが判明した場合またはその懸念があると審査当局が判断した場合、その時点で当該候補物質の研究開発を途中で断念、または追加の臨床試験・非臨床試験を実施せざるを得ず、それまでにかかったコストを回収できないリスクや製品の上市が遅延するリスク、および研究開発戦略の軌道修正を余儀なくされる可能性があります。
(2)知的財産権に関するリスク
当社の製品は、物質・製法・製剤・用途特許等の複数の特許によって、一定期間保護されています。
当社では特許権を含む知的財産権を厳しく管理し、当社が事業を行う市場における知的財産権や第三者からの侵害状況を継続的にモニタリング、評価および分析し、知的財産権に関するリスクの回避と、受けうる影響の低減を図っていますが、当社の保有する知的財産権が第三者から侵害を受けた場合には、期待される収益が大幅に失われる可能性があります。また、当社の自社製品等が第三者の知的財産権を侵害した場合には製造販売の差止めおよび損害賠償等を請求される可能性があります。
(3)特許権満了等による売上低下リスク
当社は、効能追加や剤型変更等により製品のライフサイクルを延長する努力をしていますが、多くの製品について、特許または規制上の独占権の喪失・満了による後発品の市場参入は避けられず、米国や欧州では後発品が参入すれば通常、短期間で先発品から後発品へ切り替わり、先発品の収益が大きく減少します。国内では、当局が後発品の使用促進を積極的に進め、また、長期収載品のさらなる価格引下げが行われています。これに加え、競合品の特許権満了によるその後発品、および競合品のスイッチOTC薬の出現などによって、国内外の競争環境は格段に厳しいものになってきており、その影響如何で当社製品の大幅な売上低下を招く可能性があります。
なお、特許権満了時期等の詳細については「第2 事業の状況 6 研究開発活動 知的財産」をご参照ください。
(4)副作用に関するリスク
医薬品は、世界各国の所轄官庁の厳しい審査を経て発売されます。当社は発売後の医薬品について安全性情報を収集し有効性とリスクのバランスを評価することを含め、安全性監視活動とリスク最小化活動を実施し、ファーマコビジランス活動を推進し、副作用に関するリスクの回避と受けうる影響の低減に努力していますが、市販後の使用成績が蓄積された結果、発売時には予期していなかった副作用が確認されることがあります。新たな副作用が確認された場合には、添付文書の「使用上の注意」への記載を行う、使用する対象患者を制限する、使用方法を制限するなどの処置が必要となるほか、重篤なケースが認められた場合には、販売中止・回収等を余儀なくされることもあり得ます。また、このような場合において、当社は製造物責任を負うとともに、金銭的、法的および社会的信頼に関する損害を負う可能性があります。
(5)薬剤費抑制策による価格引き下げのリスク
医薬品市場では、多くの国々において医療予算の削減が推進され、医療技術評価および国際価格を参照する政策により医薬品価格が低下しています。最大市場である米国では、医薬品価格を下げるための医療計画や仲介機関による取り組みに加え、継続的な法令および規制の制定により先発品への価格引き下げ圧力が一層高まっています。2022年には、米国議会において、インフレ抑制法(Inflation Reduction Act:IRA)が可決され、薬価上昇率がインフレ率を上回った製薬会社に対するペナルティの賦課、メディケア受給者の自己負担額の上限設定、2026年よりメディケアの対象となる特定の医薬品に関する連邦政府への価格設定権限の付与等、メディケア・プログラムに基づく医薬品の補償条件が大幅に変更されました。また、2025年5月には、米国の処方薬価格を、選定された「同等に発展した国々」での最も低い価格に連動させる価格設定メカニズムである「最恵国待遇(MFN)」価格の導入に関する大統領令が発出されました。日本においては、政府による一層の後発品の使用促進に加え、医療保険制度における多くの製品の公定薬価が、毎年引き下げられています。欧州においても、薬剤費を抑制し、価格透明性を高め、国際価格を参照する政策により、医薬品価格が低下していますが、さらに欧州委員会が、知的財産権に関するインセンティブ、規制当局によるデータ保護、希少疾患用医薬品の市場独占期間の短縮または修正を含むEUの薬事法制の改正案を提案していることから、今後価格引き下げ圧力が高まることが予想されます。また、当社は、中国を含む新興国等のその他の国・地域においても同様の価格圧力を受けています。当社がこれらの国・地域に事業を拡大するに伴い、今後も引き続き価格圧力を受けると予想されます。
当社は、各国の薬剤費抑制策の詳細な分析やモニタリングを行い、医薬品の価格状況を管理する組織体制を構築することでリスクの回避と影響低減の努力を行うと共に、各国政府や医療サービス供給者・保険者等と協力して、革新的な医薬品に対する適切な報酬制度を確立するために、価値に基づく新しい価格設定モデル(バリューベースド・プライシング)等の解決策を追求していますが、これら各国の薬剤費抑制策による価格引き下げにより、当社製品の価格が影響を受け、当社の業績および財務状況に悪影響が生じる可能性があります。
(6)企業買収に関するリスク
当社は、持続的な成長を加速させるため、必要に応じて企業買収を実施しています。世界各国における事業活動は、法令や規則の変更、政情不安、経済動向の不確実性、商慣習の相違その他のリスクに直面する可能性があり、その結果当初想定した買収効果や利益が実現されない可能性があります。取得した資産の価値が下落し、評価損等が発生した場合や、買収した事業の統合から得ることが期待されている利益が実現されない場合には、のれんおよび無形資産等の減損損失の計上等により、当社の業績および財務状況に影響を及ぼす可能性があります。
また、過去の企業買収に関連する金融機関からの多額の借入れを含め、当社は多額の債務を負っています。当社は、利益の創出および選択的な非中核資産の売却等を通じてレバレッジの速やかな低下を進めていますが、将来の当社の財務状況が悪化した場合には、信用格付けが引き下げられ、その結果、既存の債務の借り換えや新規借入れ、その他資金調達の条件にも影響を及ぼす可能性があります。さらに、当社のコミットメントラインは必要に応じて随時資金の引き出しが可能なものであり、これに関連して、一定の財務制限条項が付されています。かかる条項に抵触した場合には、当該コミットメントラインの利用が制限され、また、同コミットメントラインを使用した全ての債務残高等について即時返済が求められる可能性があり、その結果、当社の財務状況に影響を及ぼすおそれがあります。
(7)安定供給に関するリスク
当社は、販売網のグローバル化に確実に対応するとともに、当社製品への需要に対し適切な供給量を確保していくため、供給ネットワークと品質保証体制を強化しており、具体的には、製造設備への適切な投資、必要に応じて複数のサプライヤーと適切な在庫水準を確保するための製造供給戦略の策定、代替サプライヤーの選定、当社内の製造ネットワークに係る危機管理規則の制定、事業継続管理システムの導入および定期的な内部監査等を行っています。しかしながら、当社または委託先の製造施設・物流施設等において、技術上もしくは法規制上の問題、原材料の不足、想定を超える需要、または自然災害の発生や新興感染症の流行、進出国における紛争あるいは各国・地域間における地政学的緊張の高まり等により、製商品の安定的供給に支障が発生する可能性があります。その動向によっては、当社の業績、財務状況および社会的信頼に影響を及ぼす可能性があります。
(8)IT セキュリティ、情報管理およびデジタル技術に関するリスク
当社は、顧客ニーズに合致したデジタルビジネスモデルへ移行するためデジタル変革を加速しています。とりわけデジタル技術活用の強化は、当社の持続的成長に不可欠であり、今後の成長戦略の基盤として位置付けています。一方で、事業の特性上、センシティブな個人情報を含む大量の機密情報を取り扱っていることから、データ保護ならびにセキュリティ対策の重要性がいっそう高まっています。データ活用やデジタルプラットフォームへの依存度が高まる中、大規模かつ複雑なIS/IT システム(アウトソーシング企業のシステムを含む)の利用に伴い、従業員またはアウトソーシング企業の不注意または故意の行為に加え、AIを利用した高度化するサイバーアタックなど、悪意をもった第三者による攻撃により、システムの停止やセキュリティ上の問題が発生するリスクは増大し、影響範囲も拡大しています。さらに、世界的なプライバシー規制の強化、法的要求事項の複雑化、急速に進歩する新たなデジタル技術やソーシャルメディアの普及により、データとテクノロジーの倫理的かつ適切な活用に関するガバナンスや意識向上が不可欠となっています。
当社は、業務効率と収益性の向上を目的としたデジタル変革を推進し、ネットワーク基盤の改修とクラウド移行をはじめとした効果的なテクノロジー投資を行うとともに、重点領域のリスク低減に係る専門チームの配置を含むグローバルレベルでのサイバーセキュリティ戦略の策定等によりセキュリティの継続的な強化に努めています。また、包括的なポリシーや手続きを整備するとともに、事業リスク評価および監査や第三者によるリスク低減テストを実施し、モニタリングを含めデータ管理に関する組織的な意識向上を図るなど、リスクを低減するための戦略的な取組みを進めています。
しかしながら、当社がデジタル変革により期待される効果や利益を創出できない場合、当社の市場競争力が低下する可能性があります。また、システムの停止やセキュリティ上の問題が発生した場合、あるいはデジタル技術が適切に活用されない場合、当社の事業活動への悪影響、業績および財務状況の悪化、ならびに当社に対する社会的信用が失墜する可能性があります。
(9)コンプライアンスに関するリスク
当社は事業の遂行にあたって、薬事規制や製造物責任、独占禁止法、個人情報保護法等の様々な法的規制やGMP (Good Manufacturing Practice)、GQP(Good Quality Practice)、GCP (Good Clinical Practice)、GLP (Good Laboratory Practice)等のガイドラインの適用を受けています。また、当社は多数のエージェント、サプライヤーや卸売業者等の第三者と協力関係にありますが、顧客に対するエンゲージメント戦略の進化に伴うデジタル・オムニチャンネルの利用拡大、希少疾患およびワクチン領域への製品ポートフォリオの拡大およびデータ・デジタル技術の進化に伴う外部ステークホルダーとのパートナーシップの増加など、当社の事業活動の進化に伴い、これらの第三者による業務遂行の影響は増加しています。さらに、当社ではソーシャルメディア・プラットフォームを含むデジタルプラットフォームの使用が増加していますが、これらが法令および社内規定に遵守しない方法により使用される可能性があります。当社は、グローバルエシックス&コンプライアンス部門を設置し、グローバルでコンプライアンスを推進する体制を整備し、当社および当社が関係する第三者の事業活動が法令および社内規定を遵守して実施されていることをモニタリングしています。また、第三者との取引あるいは対話にかかる社内ポリシーを新たに制定あるいは更新し、リスクの低減にも努めています。第三者リスク管理(サードパーティリスク管理)の一環として、デューデリジェンスを強化するとともに、潜在的なリスクを特定できるよう取引業者および取引内容の継続的なスクリーニングについても更なる強化を図っています。しかしながら、当社の従業員や、当社が関係する第三者がこれらの法令等に違反した場合や社会的要請に反した行動をとった場合、法令による処罰や制裁、規制当局による処分、訴訟の提起を受ける可能性があり、社会的な信頼を失うとともに金銭的損害を負う可能性があります。
(10)進出国および地域におけるカントリーリスク
当社は、グローバルな事業展開に伴い、進出国や地域における政治不安、経済情勢の悪化、関税その他の貿易制限措置、新興感染症の流行、社会混乱、進出国における紛争、各国・地域間における地政学的緊張の高まり等に伴う投資、データの越境規制など様々なリスクにさらされています。また、各国においてビジネスと人権に関する法規制の整備が進んでおり、バリューチェーン全体での人権侵害リスクへの対応の必要性が高まっています。当社は、各部門の連携のもと、これらのリスクが当社の事業に与える影響の分析や各地域における社会情勢のモニタリング、人権デューデリジェンスの実施等を通じてリスクに対応する体制を構築しており、患者さんの医薬品へのアクセスを保護することを優先事項として、リスクの抑止策や発生時の対処法を検討する等のリスク管理に努めています。しかしながら、当社または当社と協力関係にある第三者が事業を行っている地域において、不測の事態が生じた場合には、当社の業績、財務状況及び社会的信頼に影響を及ぼす可能性があります。
(11)為替変動、金利変動およびインフレーションに関するリスク
当社の当年度における海外売上収益は4兆1,631億円であり、連結売上収益全体の90.9%を占めており、そのうち米国での売上収益は2兆3,797億円にのぼり、連結売上収益全体の51.9%を占めています。従って、売上収益については円安は増加要因である一方、研究開発費をはじめとする海外費用が円安により増加するため、利益に対する影響は双方向にあります。また、機能通貨以外で実行される事業上の取引、金融取引および投資に関して為替変動リスクにさらされています。さらに、金利変動による資金調達コストの上昇や、世界的なインフレーションの進行が当社の利益を圧迫する可能性があります。当社は為替および金利リスクを集約的に管理し、これらの財務リスクをヘッジするためにデリバティブ取引を行うとともに、取引先との契約条件の見直し等により潜在的な影響の緩和を図っていますが、経済環境や金融市況が当社の想定を超えて変動した場合には、当社の業績および財務状況に影響が生じる可能性があります。
(12)訴訟等に関するリスク
当社の事業活動に関連して、現在関与している訴訟のほか、将来、医薬品の副作用、製造物責任、労務問題、公正取引等に関連し、訴訟を提起される可能性があり、その動向によっては、当社の業績および財務状況に影響を及ぼす可能性があります。なお、係属中の重要な訴訟の詳細については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 32 コミットメントおよび偶発負債」をご参照ください。
(13)環境に関するリスク
環境はウェルビーイング(心身の健康)の基礎であり、私たちは事業活動に欠かせない自然資源を環境から得ています。環境保全に対する責務の遂行は、当社の事業の発展に不可欠であり、当社の価値観(バリュー)に沿うものです。これは、単に正しい行いをするというだけではなく、人生を変えうるような医薬品やワクチンを責任をもって患者さんにお届けできるようにするものです。そのために、当社は、ステークホルダーからの期待に沿いつつ法規制にも遵守した厳格な環境マネジメントシステムおよび社内プログラムを整備するとともに、これらが有効に運用され、期待する結果を実現していることを確認するための内部監査手続を定めています。しかしながら、万が一、予期せぬ汚染や法規制への不適合、不十分な環境保全活動が顕在化した場合には、社会的信頼を損なうとともに、行政措置の対象となり、保険の適用範囲外または補償金額を超える支払義務を伴う改善措置の実施や法的責任を負うことにより、当社の事業活動に悪影響が生じる可能性があります。また、環境法規制の改正や社会の期待の変化により、より厳しい要請への対応が課せられ、当社の研究、開発、製造その他の事業活動に影響が及ぶ可能性もあります。かかる要件の遵守や課題への対応が行われない場合には、法規制上の責任を負い、当社の社会的信頼に影響を及ぼすとともに、当社の業務遂行能力に悪影響が生じ、ステークホルダーに対する魅力が低下する可能性があります。
これまでのところ、気候変動に起因するコンプライアンスまたは訴訟等の重大な影響はありませんが、当社は、気候変動を、人々の健康に大きな影響を及ぼす深刻なグローバル課題であるとともに、当社の事業に財務的なリスクをもたらす可能性のある課題であると認識しています。当社は、2024年に気候関連リスクと機会に関するシナリオ分析を更新し、移行リスクおよび物理的リスクに焦点を当てた評価を実施しました。当該評価には、特定のサプライチェーンリスクも含まれています。移行リスク評価では、規制、技術、市場、および評判に関するリスクを対象とし、気候変動に対するグローバルな対応レベルによる異なる3つの気候変動シナリオ(すなわち、「迅速な気候変動対策(Rapid Climate Action)」、「気候変動対策の遅延(Delayed Transition)」、「中道的な気候変動対策(Middle of the Road)」)に基づき、2050年までの時間軸における当社への影響を評価しました。物理的リスク評価では、当社の事業運営および第三者である主要な医薬品製造受託機関(CMO)およびサプライヤーについて、気温、水、風および土地に関連する危険性を、国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によって設定された2つの共通社会経済経路シナリオ(SSP2-4.5(1)とSSP5-8.5(2))に基づいて評価しました。本プロセスを通じて、当社に潜在的に該当する気候関連リスク・カテゴリーを特定することができました。これには、各国および地域レベルでの炭素税導入に伴うサプライヤーからのコスト転嫁の増加の可能性、および高温ストレス、水資源の不足、洪水による当社の事業運営および医薬品製造受託機関(CMO)への物理的リスクが含まれており、これらが顕在化した場合には、当社の事業、業績および財務状況に影響が生じる可能性があります。また、当社では、気候変動関連リスクを全社的リスク管理体制に組み込んでおり、今後新たに顕在化しうるリスクの傾向を適切にモニタリングできる体制を取っています。当社では、潜在的な影響を緩和するため、低炭素型事業への移行を進めています。当社は、2022年度まで、カーボンニュートラルを維持してきましたが、2024年度からは気候変動対策の目標としてのカーボンニュートラルからの転換を行い、ネットゼロのロードマップを進めるための取り組みにリソースを集中させる一方で、バリューチェーンを超えた自然を活用したカーボン除去プロジェクトへの投資を継続しています。
当社の重要なステークホルダーは当社に対して優れた環境保全活動を遂行することを期待していると認識しており、当社は自社の製品および事業活動から生じる環境への影響を緩和するための方策を継続的に模索しています。当社は、事業活動およびバリューチェーン全体における温室効果ガス排出量の最小化、天然資源の保全、ならびに持続可能性に配慮した製品設計および生産に重点を置いて、環境サステナビリティ活動に取り組んでいます。また、これら取り組みを補完する分野にも引き続き注力しており、水資源の保全を支援するための自然資源保護への取り組み、責任ある廃棄物処理、生物多様性の保全をはじめとし、製品ライフサイクル全体を通じて環境への影響を最小限に抑えるため、製品開発のすべての段階においてサステナビリティの原則を取り入れています。これらの取り組みにより成果が得られた場合には、地球の生態系と人々の健康を守りながら、当社に対する社会的評価の向上と当社事業の強化に繋がることとなり、患者さんに貢献するという当社の揺るぎない使命を果たし続けられることになります。一方で、当社が掲げているサステナビリティの高い目標に向けた行動を実施できない場合や、ステークホルダーの期待に沿う結果が得られない場合には、当社に対する社会的信頼が損なわれ、その結果、従業員の採用・維持や顧客や投資家との関係の構築において問題が生じ、当社の業績および財務状況に影響が及ぶ可能性があります。
(1) SSP2-4.5シナリオ:温室効果ガス排出量が2050年まで現在のレベルで続き、その後減少するが、2100年までに地球の気温が2.1~3.5℃上昇すると推定される中程度の排出経路を示しています。
(2) SSP5-8.5シナリオ:現在のCO2排出量が2050年までに約2倍、2075年までに約3倍に増加し、2100年までに地球の気温が3.3~5.7℃上昇すると推定される、非常に高い温室効果ガス排出経路を示しています。
(14)人材の採用および配置に関するリスク
当社の長期的に持続可能な成長には、人材の獲得競争の激しい市場や地域において、事業を支える適切な人材の採用と配置が重要であると認識しています。当社は、組織の有効性、文化、価値観を維持しながら、働き方の柔軟性をより高め、職場環境をより良くする施策を実施するとともに、継続的なキャリア開発機会の提供やエンゲージメントの推進を図り、従業員に対して魅力的な価値を提案することで、人材採用における競争力の強化と人材の定着を促進しています。しかしながら、計画通りに採用や定着が進まない場合は、人材の喪失や不足を通じて、当社の競争力が低下し、その結果、当社の業績および財務状況に影響が及ぶ可能性があります。
(1) 経営成績等の状況の概要
① 財政状態及び経営成績の状況
当年度の業績および財政状態は以下のとおりとなりました。
なお、当社グループは「医薬品事業」の単一セグメントのため、セグメントごとの経営成績の記載を
省略しております。
② キャッシュ・フローの状況
「(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容」をご参照下さい。
③ 生産、受注及び販売の状況
(a) 生産実績
当年度における生産実績は次のとおりであります。
(注) 1 当社グループは「医薬品事業」の単一セグメントであります。
2 生産実績金額は、販売価格によっております。
(b) 受注状況
当社グループは、主に販売計画に基づいて生産計画をたてて生産しており、一部の受注生産における受注高および受注残高の金額に重要性はありません。
(c) 販売実績
当年度における販売実績は次のとおりであります。
(注) 1 当社グループは「医薬品事業」の単一セグメントであります。
2 販売実績は、外部顧客に対する売上収益を表示しております。
3 主な相手先別の販売実績および総販売実績に対する割合は、次のとおりであります。
(注)当年度におけるカーディナルヘルス Inc.およびそのグループ会社の販売実績および当該総販売実績に対する割合は、当該割合が10%未満のため記載を省略しています。
(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
① 当年度の経営成績等の状況に関する認識および分析・検討内容
(a) 当年度の経営成績の分析
(ⅰ) 当社グループの経営成績に影響を与える事項
事業の概況
当社は、自らの企業理念に基づき患者さんを中心に考えるというバリュー(価値観)を根幹とする、グローバルな研究開発型のバイオ医薬品企業です。当社は、幅広い医薬品のポートフォリオを有し、研究、開発、製造、およびグローバルでの販売を行っています。主要ビジネスエリアは、消化器系疾患、希少疾患、血漿分画製剤、オンコロジー(がん)、ワクチン、およびニューロサイエンス(神経精神疾患)の6つに分けられています。研究開発においては、消化器系・炎症性疾患、ニューロサイエンス、およびオンコロジーの3つの重点疾患領域に取り組むとともに、血漿分画製剤にも注力しています。当社は、研究開発能力の強化ならびにパートナーシップを推し進め、強固かつ多様なモダリティ(創薬手法)のパイプラインを構築することにより、革新的な医薬品を開発し、人々の人生を豊かにする新たな治療選択肢をお届けします。当社は、患者さんやコミュニティに高品質の医薬品をできる限り早くお届けするために、希少疾患および有病率がより高い疾患のいずれにおいても、未だ有効な治療法が確立されていない疾患に対する高い医療ニーズ(アンメット・メディカル・ニーズ)に集中して取り組んでいます。当社は、約80の国と地域で医薬品を販売しており、世界中に製造拠点を有するとともに、日本および米国に主要な研究拠点を有しています。販売においては、米国、日本および欧州において非常に高いプレゼンスを有しており、中国においては急成長している事業を展開しています。また、当社は事業運営をより効果的かつ効率的に行うため、データ、デジタルおよびテクノロジーの活用を促進し、イノベーションの創出の増進およびステークホルダーへの価値提供に取り組んでいます。
当社グループの事業は単一セグメントであり、資源配分、業績評価、および将来業績の予測においてマネジメントの財務情報に対する視点と整合しております。2025年3月期における売上収益および営業利益はそれぞれ4兆5,816億円および3,426億円であります。
当社グループの経営成績に影響を与える事項
当社グループの経営成績は、グローバルな業界トレンドや事業環境における以下の事項に影響を受けます。
関税措置およびその他の貿易制限措置
他の品目と同様に、医薬品も関税措置や貿易制限措置の影響を受ける可能性があります。2025年1月に発足した米国政権は、新たな関税措置として、中国、メキシコ、カナダに対する措置や、医薬品を除く特定の品目に対する世界規模の措置を発表しました。これにより、中国を含む影響を受けた国々が報復措置を講じ、または講じる可能性があります。さらに、米国政権は、1962年通商拡大法第232条に基づき、医薬品および医薬品原料の輸入が国家安全保障に与える影響を評価するため、調査を実施することを発表しました。一部の政府当局者は、この調査の結果として、医薬品に関税が課される可能性があることを示唆しています。米国か他国により実施される、または実施される可能性のある関税措置の期間および範囲は不明であり、関税措置が当社グループの事業に最終的にどの程度の影響を与えるかも不明瞭な状況です。しかしながら、現時点の想定では、米国および中国政府による関税措置の影響は限定的であると見込んでいます。当年度の業績に基づくと、当社グループの米国売上収益の約8~10%(または連結売上収益の約4~5%)は米国以外を原産国とする輸入品の関税評価額に相当し、関税措置の対象となります。また、中国で販売する製品のうち、米国を原産国とする部分の関税評価額は中国売上収益の約12~15%(または連結売上収益の約0.5~0.6%)相当と見込んでいます。当社グループでは、在庫管理やサプライチェーン管理を中心に、グローバルな供給ネットワークにおける関税措置の影響の緩和策を実施しています。2025年5月8日時点において、当社グループはグローバルに22の製造拠点を有しており、そのうち20拠点が米国向けに供給しており、7拠点が米国内に所在しています。
特許保護と後発品との競争
医薬品は特に、特許保護や規制上の独占権によって市場競争が規制されることにより、当社グループの業績に貢献する場合があります。代替治療の利用が容易でない新製品は当社グループの売上の増加に貢献します。ただし、保護されている製品についても、効能、副作用や価格面で他社との競争が存在します。一方で、特許保護もしくは規制上の独占権の喪失や満了により、後発品が市場に参入するため、当社グループの業績に大きな悪影響を及ぼすことがあります。当社グループの主要製品の一部は、特許やその他の知的財産権保護の満了により、厳しい競争に晒されており、あるいは晒されると予想しています。以下は、過去2年間において、後発品またはバイオシミラーが発売された当社の一部の主要製品の業績を示しています。(「CER(Constant Exchange Rate:恒常為替レート)ベース」の増減は、IFRSに準拠した指標ではありません。詳細については、「(d)当社グループが定義および表示するIFRSに準拠しない補足的財務指標」をご参照ください。)
(単位:億円、%以外)
2022年にベルケイドに含まれる有効成分であるボルテゾミブの特許権満了に伴い後発品が参入し、その影響でベルケイドの売上収益は、2024年3月期には55億円、2025年3月期には52億円までに減少しました。2023年8月には米国においてVYVANSEの特許権が満了しました。また、2023年2月にアジルバの後発品が日本の医薬品医療機器総合機構(PMDA)により承認されたことを受け(競合品の薬価収載は2023年6月に承認)、関連する国・地域において、両製品の売上収益が減少しました。VYVANSEの売上収益は2024年3月期の4,232億円から2025年3月期には3,506億円に減少し、アジルバの売上収益は2024年3月期の336億円から2025年3月期には118億円に減少しました。2026年3月期においても、両製品ともに減少傾向が続くと見込んでいます。
後発品を販売する他社が特許権の有効性に対する申し立てに成功する場合、もしくは想定される特許侵害訴訟に係る費用以上のベネフィットを前提として参入することを決定する場合があります。また、当社グループの特許権の有効性、あるいは製品保護に対する申し立てが提起された場合には、関連する無形資産の減損損失を認識する可能性があります。
新製品の開発・商業化および既存製品の拡大
当社は特に売上収益を伸長し、独占権喪失の影響を相殺することを目指しており、当社の事業において、新規のバイオ医薬品の開発・商業化のほか、既存製品の適応拡大および(または)地理的市場拡大による既存製品の拡大は重要な取組みです。これらの目標達成までのプロセスは長期にわたり多額の費用を伴い、多額の研究開発費が発生します。これらは当社の連結損益計算書上営業費用として計上しています。当社の研究開発の取組みに関する詳細については、本報告書の「6.研究開発活動」、製品に関連する研究開発費(償却および減損を含む)および無形資産の会計方針については、本報告書の「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記 3 重要性がある会計方針」をご参照ください。
当社は、当社のポートフォリオのうち、一部の製品を当社の成長製品・新製品として特定しております。特にライフサイクルの初期段階にある製品の多くは連結売上収益への貢献は限定的でありますが、当社の経営者はこれらの製品を将来の主要な成長ドライバーとしてモニターしており、これらの製品に関する情報は、当社が今後成長を見込んでいる領域を投資家に理解していただくにあたり有用であると考えています。当グループを構成する製品は随時変更され、臨床試験の結果や規制当局の認可取得等により、製品を追加または除外する場合があります。
2025年3月期において、当社は次の製品を成長製品・新製品として特定しました:ENTYVIO、EOHILIA、タクザイロ、リブテンシティ、アジンマ、免疫グロブリン製剤(GAMMAGARD LIQUID/KIOVIG、ハイキュービア、キュービトルを含む)、アルブミン製剤(HUMAN ALBUMIN・FLEXBUMINを含む)、FRUZAQLA、アルンブリグおよびQDENGA
2025年3月期において、これらの成長製品・新製品は、当社の連結売上収益の48%を占める2兆2,019億円でありました。2025年3月期の内訳としては、ENTYVIOは9,141億円(当社の連結売上収益の20%)、当社の3つの免疫グロブリン製剤(GAMMAGARD LIQUID/KIOVIG、ハイキュービア、キュービトル)は7,578億円(当社の連結売上収益の17%)、アルブミン製剤は1,414億円(当社の連結売上収益の3%)、タクザイロは2,232億円(当社の連結売上収益の5%)となりました。また、2024年3月期にアロフィセルおよびEXKIVITYの治験が失敗し、これらの製品の商業的予測が変更されたため、2025年3月期の成長製品・新製品(注)から除外しております。一方、新製品FRUZAQLAおよびQDENGAは今後成長し、長期的に収益成長に大きく貢献すると見込まれるため、これらの製品を追加しております。変更後の成長製品・新製品は、2025年3月期における連結売上収益の48%を占める2兆2,019億円となります。
2026年3月期において、rusfertideのFDAへの承認申請、oveporextonとzasocitinibの臨床第3相試験データの読み出しを予定しています。成功した場合には、2026年または2027年に、これらの製品が成長製品・新製品として上市する可能性があります。
(注)本年次報告書日現在において、2026年3月期の成長製品・新製品は、以下のとおりです。
ENTYVIO、EOHILIA、タクザイロ、リブテンシティ、アジンマ、免疫グロブリン製剤(GAMMAGARD LIQUID/KIOVIG、ハイキュービア、キュービトルを含む)、アルブミン製剤(HUMAN ALBUMIN、FLEXBUMINを含む)、FRUZAQLA、アルンブリグおよびQDENGA
買収
当社グループは、研究開発能力を拡大し(新たな手法に展開することを含みます。)、新しい製品(開発パイプラインや上市済み製品)やその他の戦略的領域を獲得するために、新たな事業または資産を買収する可能性があります。同様に、当社グループの主な成長ドライバーに注力するため、また当社グループのポートフォリオを維持するために、事業や製品ラインを売却しております。
これらの買収は企業結合または資産の取得として会計処理されております。企業結合の場合、取得した資産および引き受けた負債は公正価値で計上されております。当社グループの業績は、通常、棚卸資産の公正価値の増加や、取得した有形固定資産および無形資産の償却費により影響を受けます。また、資産の取得の場合、取得した資産は取引価格で計上されております。企業結合または資産の取得の対価が追加的な借入金で賄われている場合、支払利息の増加も当社グループの業績に影響を与えます。
なお、2024年3月期および2025年3月期、ならびに本報告書提出日時点までにおいて、重要な事業または資産の買収はありません。
事業売却
買収に加え、当社グループは、主要な成長ドライバーに注力し、また長期借入金を速やかに返済するための追加キャッシュ・フローを創出するため、事業や製品ラインを売却しております。以下は2024年3月期から2025年3月期および本報告書提出日時点において、実施または発表された重要な事業売却になります。
当社グループは、2025年3月期にTeva Pharmaceutical Industries Ltd.(「テバ社」)と日本国内において展開するジェネリック医薬品および長期収載品を中心とした合弁事業について、これを解消する方向でテバ社と協議することを決定しました。これに伴い、武田テバファーマ株式会社の全株式である関連会社株式を売却目的で保有する資産に分類し、2025年3月期において189億円の減損損失を金融費用に計上しました。2025年3月に当該譲渡が完了したことによる売却収入は508億円の受取配当金を含む565億円であり、2025年3月期に連結キャッシュ・フロー計算書に計上された関連会社株式の売却による収入577億円の大部分を構成しています。また、過去の取引で発生した未実現利益が譲渡完了時に実現したことにより17億円と38億円をそれぞれ売上収益とその他の営業収益に計上しました。
原材料の調達による影響
重要な原材料を社内外から調達することができない場合に、当社グループの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。例えば、ヒト血漿は当社グループの血漿分画製剤において重要な原材料であります。血漿をより多く収集するため、調達および外部との契約を強化し、原料血漿の収集や血漿分画に関連する施設への委託、および規制当局から承認を受けることに成功するための取り組みを行っております。
外国為替変動
2024年3月期および2025年3月期において、当社グループでは日本以外の売上がそれぞれ89.4%、90.9%を占めております。当社グループの収益および費用は、特に当社の表示通貨である日本円に対する米ドルおよびユーロの外国為替レートの変動に影響を受けます。円安は日本円以外の通貨による収益の増加要因となり当社グループの業績に好影響を及ぼしますが、日本円以外の通貨による費用の増加により相殺される可能性があります。とりわけ、2024年3月期および2025年3月期において、他の通貨に対する円安により、当社の売上収益はプラスの影響を受けました。反対に、円高は日本円以外の通貨による収益減少要因となり当社グループの業績に悪影響を及ぼしますが、日本円以外の通貨による費用の減少により相殺される可能性があります。前年度からの為替レートの変動が当社グループの業績に与える影響を投資家がより良く理解できるよう、当社グループは、補足的にCER(Constant Exchange Rate:恒常為替レート)ベースの増減を「CER」の表記で示しています。IFRSに準拠した実勢レート(Actual Exchange Rate)ベースの増減は「AER」の表記で示しています。CERベースの増減率に基づく対前年度の業績比較分析については、下記の「(ⅲ) 当年度における業績の概要」及び「(ⅳ) 当年度におけるCore業績の概要」をご参照ください。
また、「CERベースの増減」は、国際会計基準(IFRS)に準拠した指標ではありません。詳細については、「(d)当社グループが定義および表示するIFRSに準拠しない補足的財務指標」をご参照ください。
なお、為替変動リスクを低減するため、当社グループは重要な一部の外貨建取引について、特定のヘッジ手段を利用しております。これには、主に個別に重要な外貨建取引に対する先物為替予約、通貨スワップおよび通貨オプションが含まれます。
季節的要因
当社グループの売上収益は、2024年3月期および2025年3月期において第4四半期に減少しています。これは、卸売業者は年末年始休暇に向けてあらゆる国・地域における在庫数を増やす傾向にあること、年間にわたって価格が上昇していること、暦年の年初の米国における保険の年間免責額の改定等によるものです。
(ⅱ) 重要な会計方針
当社グループの連結財務諸表はIFRSに準拠して作成されております。当連結財務諸表の作成にあたり、経営者は資産および負債の金額、決算日現在の偶発資産および偶発負債の開示、ならびに報告期間における収益および費用の金額に影響を及ぼす見積りおよび仮定の設定を行うことが求められております。見積りおよび仮定は、継続的に見直されます。経営者は、過去の経験、ならびに見積りおよび仮定が設定された時点において合理的であると判断されたその他の様々な要因に基づき当該見積りおよび仮定を設定しております。実際の結果はこれらの見積りおよび仮定とは異なる場合があります。
経営者の見積りおよび仮定に影響を受ける重要な会計方針は以下の通りであります。なお、見積りおよび仮定の変更が連結財務諸表に重大な影響を及ぼす可能性があります。
収益認識
「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記 3 重要性がある会計方針 (5) 収益」をご参照ください。
のれんおよび無形資産の減損
当社グループは、のれんおよび無形資産について、資産の帳簿価額が回収不能であるかもしれないことを示す事象または状況の変化がある場合には、減損テストを行っております。のれんおよび償却開始前の無形資産については、年次および減損の兆候を捕捉した時点で減損テストを実施しております。2025年3月31日時点において、当社グループはのれんおよび無形資産をそれぞれ5兆3,244億円および3兆6,316億円計上しており、これは総資産の62.9%を占めております。
上市後製品に係る無形資産は特許が存続する見込期間または見込まれる経済的便益に応じた他の指標に基づき、3年から20年の耐用年数を用いて定額法で償却しております。仕掛研究開発品に係る無形資産は、特定の市場における商用化が規制当局により承認されるまで償却をしておりません。商用化が承認された時点で、当該資産の見積耐用年数を確定し、償却を開始しております。
のれんおよび無形資産は、通常、連結財政状態計算書上の帳簿価額が回収可能価額を超過する場合には減損していると判断されます。無形資産にかかる回収可能価額は個別資産、またはその資産が他の資産と共同で資金を生成する場合はより大きな資金生成単位ごとに見積られます。資金生成単位は独立したキャッシュ・インフローを形成する最小の識別可能な資産グループであります。のれんの減損テストは単一の事業セグメント単位(単一の資金生成単位)で実施しており、これはのれんを内部管理目的で監視している単位を表しています。回収可能価額の見積りには以下を含む複数の仮定の設定が必要となります。
·将来キャッシュ・フローの金額および時期
·競合他社の動向(競合製品の販売開始、マーケティングイニシアチブ等)
·規制当局からの承認の取得可能性
·将来の税率
·永続成長率
·割引率
将来キャッシュ・フローの金額および時期を見積るための重要な仮定には、研究開発プロジェクトの成功見込みおよび製品に係る売上予測があります。特にのれんにかかる回収可能価額の見積りにおいては、米国における特定の製品に係る売上予測が重要な仮定となります。これらの仮定に影響を与える事象としては、開発の中止、大幅な上市の遅延、規制当局の承認が得られないことによる研究開発プロジェクトの失敗、もしくは一般的には新たな競合製品の販売開始や供給不足による、一部の上市後製品にかかる売上予測の低下があげられます。これらの事象が発生した場合、プロジェクト獲得以降に実施した当初もしくは事後の研究開発投資額が回収できない、もしくは見積った将来キャッシュ・フローが回収できない可能性があります。
これらの仮定に変更が生じた場合は、当該連結会計年度において減損損失および、のれんを除き、減損損失の戻入れを認識しております。詳細は「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記 11 のれん および 12 無形資産」をご参照ください。
訴訟に係る偶発事象
当社グループは、通常の営業活動において主に製造物責任訴訟および賠償責任訴訟に関与しております。詳細については「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記 32 コミットメントおよび偶発負債」をご参照ください。
偶発負債は、その特性から不確実なものであり複雑な判断や可能性に基づいております。訴訟およびその他の偶発事象に係る引当金を算定する際には、該当する訴訟の根拠や管轄、その他の類似した現在および過去の訴訟案件の顛末および発生数、製品の性質、訴訟に関する科学的な事項の評価、和解の可能性ならびに現時点における和解にむけた進行状況等を勘案しております。さらに、未だ提訴されていない製造物責任訴訟については、主に過去の訴訟の経験や製品の使用に係るデータに基づき、費用を合理的に見積ることができる範囲で引当金を計上しております。当社グループが関与する重要な訴訟のうち、それらの最終的な結果により財務上の影響が見込まれる場合であっても、その額について信頼性のある見積りが不可能な訴訟等については、引当金の計上は行っておりません。また、保険の補償範囲期間内である場合は保険による補償についても考慮しております。補償範囲の検討の際に、当社グループは、保険契約の制限や除外、保険会社による補償の拒否の可能性、保険業者の財政状態、ならびに回収可能性および回収期間を考慮しております。引当金および関連する保険補償額の見積りは、連結財政状態計算書上において負債および資産として総額で計上しております。2025年3月31日現在において、係争中の訴訟案件およびその他の案件について125億円の引当金を計上しております。
法人所得税
当社グループは、税法および税規制の解釈指針に基づき税務申告を行っており、これらの判断および解釈に基づいた見積額を計上しております。通常の営業活動において、当社グループの税務申告は様々な税務当局による税務調査の対象であり、これらの調査の結果、追加税額、利息、または罰金の支払いが課される場合があります。法律および様々な管轄地域の租税裁判所の判決に伴う法改正により、不確実な税務ポジションに関する負債の見積りの多くは固有の不確実性を伴います。税務当局が当社グループの税務ポジションを認める可能性が高くないと結論を下した場合に、当社グループは、税務上の不確実性を解消するために必要となる費用の最善の見積り額を認識します。また、未認識の税務上の便益は事実および状況の変化に伴い調整されます。これらの税務ポジションは、例えば、現行の税法の大幅改正、税務当局による税制または解釈指針の発行、税務調査の際に入手した新たな情報、または税務調査の解決により調整が行われる可能性があります。当社グループは、不確実な税務ポジションに係る当社グループの見積りは、現時点において判明している事実および状況に基づき適切かつ十分であると判断しております。
また、各報告期間の末日において繰延税金資産の回収可能性を評価しております。繰延税金資産の回収可能性の評価においては、予想される将来加算一時差異の解消スケジュール、予想される将来課税所得およびタックスプランニングを考慮しております。収益力に基づく将来課税所得は、主に当社グループの事業計画を基礎として見積られており、当該事業計画に含まれる特定の製品に係る売上収益の予測が変動した場合、認識される繰延税金資産の金額に重要な影響を与える可能性があります。過去の課税所得の水準および繰延税金資産が認識できる期間における将来の課税所得の見積りに基づき、実現する可能性が高いと予想される税務上の便益の額を算定しております。2025年3月31日現在における繰延税金資産を認識していない未使用の繰越欠損金、将来減算一時差異、および未使用の繰越税額控除はそれぞれ1兆1,837億円、4,274億円、および270億円であります。将来における見積りおよび仮定の変更は法人所得税費用に重要な影響を与える可能性があります。
事業構造再編費用
当社グループでは、費用削減に関連した取り組みに関連して事業構造再編費用が発生します。退職金が事業構造再編費用の主な内訳であり、事業構造再編に係る引当金は、事業構造再編に係る詳細な公式計画を策定し、かつ計画の実施や影響を受ける関係者への主要な特徴の公表を通じて、影響を受ける関係者に当該事業構造再編が実行されるであろうという妥当な期待を惹起した時点で認識しております。事業構造再編に係る引当金の認識には、支払時期や、事業再編により影響を受ける従業員数等の見積りが必要となります。最終的なコストは当初の見積りから異なる可能性があります。
2024年5月9日に当社は、事業の成長と利益率の改善を促進するための複数年にわたる全社的な効率化プログラムを実施することについて、公表しました。本プログラムには、人員の最適化策を伴う組織構造の簡素化、組織全体での生産性と効率性の向上を図るためのDD&Tへの投資、サプライチェーンおよびベンダー管理プロセスにおけるコスト削減と効率化が含まれております。主に、2024 年5月に公表した当該取り組みにより、2025年3月期に1,281億円の事業構造再編費用を計上し、2026年3月期には480億円を計上することを見込んでいます。それ以降の年度においても徐々に減少する見込みです。
2025年3月31日現在、140億円の事業構造再編に係る引当金を計上しております。事業構造再編に係る引当金及び対前期比の変動の詳細については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記 23 引当金」をご参照ください。
(ⅲ) 当年度における業績の概要
前年度および当年度の連結業績は、以下のとおりとなりました。
本項において、前年度に対する、国際会計基準(IFRS)に準拠した実勢レート(Actual Exchange Rate)ベースの増減額および増減率は「AER」の表記で示し、国際会計基準(IFRS)に準拠しない恒常為替レート(Constant Exchange Rate)ベースの増減率は「CER」の表記で示しています。「CERベースの増減率」の定義については、「(d)当社グループが定義および表示するIFRSに準拠しない補足的財務指標」をご参照ください。
〔売上収益〕
売上収益は、4兆5,816億円(+3,178億円および+7.5% AER、+2.9% CER)となりました。これは主に、為替相場が円安に推移したこと、消化器系疾患、希少疾患、血漿分画製剤、オンコロジー(がん)およびワクチンにおいて事業が好調に推移したことによるものです。当社の6つの主要なビジネスエリアのうち、ニューロサイエンス(神経精神疾患)については減収となり、これらのビジネスエリアの増収を一部相殺しました。ニューロサイエンスは、円安による増収影響があったものの、米国における注意欠陥/多動性障害(ADHD)治療剤VYVANSEの独占販売期間満了に伴い、2023年8月以降、後発品が参入したことによる影響を引き続き大きく受けて減収となりました。加えて、当社の6つの主要なビジネスエリア以外における減収は、主に日本において高血圧症治療剤アジルバの減収によるものです。アジルバの売上は、118億円(△218億円および△64.9% AER、△64.9% CER)となり、日本において2023年6月以降の後発品の参入による影響を受け減収となりました。
地域別売上収益
各地域の売上収益は以下のとおりです。
(単位:億円、%以外)
(注1) その他の地域は中東、オセアニアおよびアフリカを含みます。
当社グループの売上収益の大部分は、主要な医療用医薬品により占められております。当年度の各ビジネスエリアにおける主要製品の売上は以下のとおりです。
(注1)国内製品名:エンタイビオ
(注2)配合剤、パック製剤を含む。
(注3)一般名:pantoprazole
(注4)国内製品名:ビバンセ
(注5)国内製品名:フリュザクラ
各ビジネスエリアにおける売上収益の前年度からの増減は、主に以下の製品によるものです。
- 消化器系疾患
消化器系疾患の売上収益は、1兆3,570億円(+1,408億円および+11.6% AER、+6.8% CER)となりました。
当社のトップ製品である潰瘍性大腸炎・クローン病治療剤ENTYVIO(国内製品名:エンタイビオ)の売上は、9,141億円(+1,132億円および+14.1% AER、+8.5% CER)となりました。米国における売上は、6,192億円(+731億円および+13.4% AER)となりました。この増収は、炎症性腸疾患に対する生物学的製剤の新規投与の堅調な需要の維持および皮下注射製剤の上市以降、継続的に投与患者が増加したこと、および円安による増収影響によるものです。欧州およびカナダにおける売上は、2,274億円(+316億円および+16.1% AER)となりました。この増収は、皮下注射製剤の継続的な使用拡大に伴い患者が増加したこと、および円安による増収影響によるものです。
短腸症候群治療剤GATTEX/レベスティブの売上は、1,463億円(+270億円および+22.7% AER、+17.2% CER)となりました。この増収は、主に米国における需要増加、処方拡大(小児適応拡大)、および円安による増収影響によるものです。
- 希少疾患
希少疾患の売上収益は、7,528億円(+644億円および+9.4% AER、+4.6% CER)となりました。
遺伝性血管性浮腫治療剤タクザイロの売上は、2,232億円(+445億円および+24.9% AER、+18.9% CER)となりました。この増収は、主に米国、欧州およびカナダにおける高い治療継続率および予防市場の成長により需要が増加していること、および円安による増収影響によるものです。
移植後のサイトメガロウイルス(CMV)感染/感染症治療剤リブテンシティの売上は、330億円(+139億円および+72.9% AER、+64.5% CER)となりました。この増収は、主に米国において市場浸透が継続して好調に進んだことに加え、欧州および成長新興国において引き続き販売エリアが拡大したことによるものです。
酵素補充療法のハンター症候群治療剤エラプレースの売上は、972億円(+57億円および+6.2% AER、+2.1% CER)となりました。この増収は、主に円安による増収影響、および成長新興国における堅調な需要によるものです。
酵素補充療法のファブリー病治療剤リプレガルの売上は、779億円(+43億円および+5.8% AER、+2.1% CER)となりました。この増収は、主に円安による増収影響、および成長新興国での需要の増加によるものです。
血友病A治療剤アドベイトの売上は1,118億円(△112億円および△9.1% AER、△13.4% CER)となりました。この減収は、主に米国における競争激化、および中国における需要減少によるものです。この減収は、円安による増収影響により一部相殺されました。
- 血漿分画製剤
血漿分画製剤の売上収益は、1兆327億円(+1,290億円および+14.3% AER、+8.6% CER)となりました。
免疫グロブリン製剤の売上合計は、7,578億円(+1,132億円および+17.6% AER、+11.5% CER)となりました。3つのグローバル製品の売上は、引き続きグローバルに需要が堅調に推移し供給量が増加したこと、および円安による増収影響により、2桁台の売上増加率となりました。これら3製品には、原発性免疫不全症(PID)と多巣性運動ニューロパチー(MMN)の治療に用いられる静注製剤GAMMAGARD LIQUID/KIOVIGのほか、静注製剤に比べ投薬の利便性が高く、速いペースで成長している皮下注射製剤のキュービトルとハイキュービアが含まれます。
主に血液量減少症と低アルブミン血症の治療に用いられるHUMAN ALBUMINとFLEXBUMINを含むアルブミン製剤の売上合計は、1,414億円(+74億円および+5.5% AER、+1.1% CER)となりました。この増収は、主に円安による増収影響によるものです。
- オンコロジー
オンコロジーの売上収益は、5,604億円(+981億円および+21.2% AER、+17.2% CER)となりました。
大腸がん治療剤FRUZAQLA(国内製品名:フリュザクラ)の売上は、480億円(+379億円および+375.7% AER、+351.3% CER)となりました。この増収は、本剤が転移性大腸がんにおける新たな治療選択肢として、2023年11月に米国で最初に上市して以降、その他の国々でも上市されたことによるものです。
悪性リンパ腫治療剤アドセトリスの売上は、1,290億円(+196億円および+17.9% AER、+14.8% CER)となりました。この増収は、成長新興国および欧州において、主にホジキンリンパ腫の一次治療の使用が増加し堅調な需要となったこと、および円安による増収影響によるものです。
白血病治療剤アイクルシグの売上は、707億円(+160億円および+29.3% AER、+23.0% CER)となりました。この増収は、フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病(Ph+ALL)と新たに診断された患者さんの化学療法併用下での治療剤としての追加効能が2024年3月に米国において承認されたこと、および円安による増収影響によるものです。
子宮内膜症・子宮筋腫・閉経前乳がん・前立腺がん等の治療に用いられるリュープリン/ENANTONEの売上は、1,193億円(+119億円および+11.1% AER、+8.2% CER)となりました。この増収は、主に米国および成長新興国における売上が増加したこと、および円安による増収影響によるものです。
- ワクチン
ワクチンの売上収益は、554億円(+51億円および+10.0% AER、+7.5% CER)となりました。
デング熱ワクチンQDENGAの売上は、356億円(+260億円および+272.3% AER、+259.0% CER)となりました。この増収は、デング熱流行国においてQDENGAのアクセスが拡大したことによるものであり、非流行国も含め、約30ヶ国で利用可能となっています。
その他のワクチンの売上合計は、減収となりました。この減収は、主に新型コロナウイルス(COVID-19)ワクチンであるスパイクバックスの日本における流通契約が2024年3月に終了したことによるものです。
- ニューロサイエンス
ニューロサイエンスの売上収益は、5,658億円(△612億円および△9.8% AER、△14.1% CER)となりました。
ADHD治療剤VYVANSE/ELVANSE(国内製品名:ビバンセ)の売上は、3,506億円(△726億円および△17.2% AER、△21.6% CER)となりました。この減収は、米国において2023年8月から複数の後発品が参入したことによるものです。この減収影響は、円安による増収影響により一部相殺されました。
ADHD治療剤ADDERALL XRの売上は、284億円(△133億円および△31.9% AER、△35.3% CER)となりました。この減収は、主に米国における後発品である競合他社の即放性製剤が増加したことによるものであり、本剤に対してはマイナスの影響となりました。
大うつ病(MDD)治療剤トリンテリックスの売上は、1,257億円(+209億円および+20.0% AER、+14.2% CER)となりました。この増収は、主に米国における価格に関する取引条件の改善、および円安による増収影響によるものです。
〔売上原価〕
売上原価は、1兆5,802億円(+1,535億円および+10.8% AER、+6.5% CER)となりました。この増加は主に、製品構成の変動を含む主要なビジネスエリアの好調な売上の増加および円安による為替影響によるものです。
〔販売費及び一般管理費〕
販売費及び一般管理費は、1兆1,048億円(+509億円および+4.8% AER、+0.6% CER)となりました。この増加は主に、円安による為替影響によるものです。また、効率化の取り組みにより、データ、デジタルおよびテクノロジーへの追加投資ならびにインフレの影響による費用の増加は大部分が相殺されております。
〔研究開発費〕
研究開発費は、7,302億円(+3億円および+0.0% AER、△4.5% CER)となりました。効率化の取り組み、およびmodakafusp alfa (TAK-573)や非小細胞肺がん治療剤EXKIVITYなどの開発プログラムが前年度に終了したことに伴う費用の減少があったものの、円安による為替影響に伴う費用が増加したことにより、前年度と比べ微増となりました。
〔製品に係る無形資産償却費及び減損損失〕
製品に係る無形資産償却費及び減損損失は、6,432億円(△89億円および△1.4% AER、△6.0% CER)となりました。この減少は、円安による為替影響により無形資産償却費は増加(+267億円)したものの、仕掛研究開発品および上市後製品に係る減損損失が減少(△355億円)したことによるものです。減損損失の減少は、前年度の計上額が当年度よりも大きかったことによるものです。前年度の減損損失には、主にクローン病に伴う複雑痔瘻治療剤アロフィセルに係る減損損失740億円、非小細胞肺がん治療剤EXKIVITYの減損損失285億円、およびオンコロジーの仕掛研究開発品の開発中止の決定に伴い計上した減損損失が含まれておりますが、好酸球性食道炎治療剤EOHILIAの減損損失の戻し入れ357億円を計上したことにより一部相殺されております。当年度の計上額には、Maverick Therapeutics Inc.の買収により獲得したTAK-186およびTAK-280の開発中止の決定に伴い計上した減損損失278億円、およびソチクレスタット(TAK-935)の臨床第3相試験において主要評価項目を達成できなかったことにより計上した減損損失215億円が含まれます。
〔その他の営業収益〕
その他の営業収益は、262億円(+68億円および+35.3% AER、+30.8% CER)となりました。この増加は主に、TACHOSIL(フィブリノゲン配合組織接着・閉鎖パッチ剤)の製造施設を含む事業売却が完了したことにより当年度に計上した売却益61億円によるものです。
〔その他の営業費用〕
その他の営業費用は、2,067億円(+2億円および+0.1% AER、△3.6% CER)となりました。当年度において、主に全社的な効率化プログラムにより事業構造再編費用が増加(+468億円)したものの、前年度にAbbVie, Inc.(「AbbVie社」)との供給契約に関する訴訟引当金繰入額およびXIIDRA、EOHILIAに係る条件付対価契約に関する金融資産及び金融負債の公正価値変動による評価損を計上したこと、および当年度に承認前在庫に係る評価損の戻し入れを計上したことにより相殺され、前年度と比べ微増となりました。
〔営業利益〕
営業利益は、上記の要因を反映し、3,426億円(+1,285億円および+60.0% AER、+51.2% CER)となりました。
〔金融損益〕
金融収益と金融費用をあわせた金融損益は1,635億円の損失(△42億円および△2.5% AER、△5.7% CER)となりました。この減少は主に、為替差損益および為替取引に係るデリバティブ評価損益をあわせた損失が減少したことによるものですが、武田テバファーマ株式会社の株式の売却に係る減損損失189億円を当年度に計上したことにより大部分が相殺されております。
〔持分法による投資損益〕
当年度の持分法による投資損益は、40億円の損失(△105億円)となりました。前年度の持分法による投資損益は、65億円の利益でした。
〔法人所得税費用〕
法人所得税費用は、669億円(+1,583億円、前年度は914億円の便益)となりました。この増加は主に、前年度において、2014年にShire社がAbbVie社から受領した買収違約金の取り扱いに係る税務評価について、アイルランド歳入庁と和解したことに伴い和解金を超える部分の未払法人所得税を振り戻したことによる税金費用の減額635億円を認識したこと、当年度における繰延税金資産の回収可能性の評価の見直しによる税金費用の増加、および税引前当期利益の増加によるものです。
〔当期利益〕
当期利益は、上記の要因を反映し、1,081億円(△361億円および△25.0% AER、△33.1% CER)、当期利益(親会社の所有者帰属分)は、1,079億円(△361億円および△25.1% AER、△33.2% CER)となりました。
(ⅳ) 当年度におけるCore業績の概要
補足的分析:Core財務指標に基づく業績(IFRSに準拠しない指標)
IFRSに準拠して作成された業績に加え、当社グループは、補足的に、Core財務指標に基づく業績も表示しております。投資家におかれましては、 Core財務指標の定義、有用性の限界、最も良く対応するIFRSに準拠した財務指標への調整を含む、より詳細な情報については、「(d)当社グループが定義および表示するIFRSに準拠しない補足的財務指標」をご参照ください。当社グループは、また、Core財務指標のCERベースの増減率についても表示しております。詳細については、「(d)当社グループが定義および表示するIFRSに準拠しない補足的財務指標」をご参照ください。
Core業績
〔Core売上収益〕
Core売上収益は、4兆5,798億円(+3,161億円および+7.4% AER、+2.8% CER)となりました。この増加は主に、為替相場が円安に推移したこと、および売上収益の合計が2兆2,019億円(+3,759億円および+20.6% AER、+14.7% CER)となったタケダの成長製品・新製品(注)が当社の事業を好調に牽引したことによるものです。これらの増加は、米国におけるVYVANSEおよび日本におけるアジルバの独占販売期間満了後の後発品の参入による売上の減少により一部相殺されました。
(注)当年度のタケダの成長製品・新製品
消化器系疾患:ENTYVIO、EOHILIA
希少疾患:タクザイロ、リブテンシティ、アジンマ
血漿分画製剤(免疫疾患):GAMMAGARD LIQUID/KIOVIG、ハイキュービア、キュービトルを含む免疫グロブリン製剤、
HUMAN ALBUMIN、FLEXBUMINを含むアルブミン製剤
オンコロジー:アルンブリグ、FRUZAQLA
ワクチン:QDENGA
〔Core営業利益〕
Core営業利益は、1兆1,626億円(+1,078億円および+10.2% AER、+4.9% CER)となりました。Core営業利益の内訳は以下の通りです。
報告期間における上記項目の増減は以下の通りです。
〔Core売上原価〕
Core売上原価は、1兆5,818億円(+1,555億円および+10.9% AER、+6.6% CER)となりました。この増加は主に、製品構成の変動を伴う主要なビジネスエリアの好調な売上の増加および円安による為替影響によるものです。
〔Core販売費及び一般管理費〕
Core販売費及び一般管理費は、1兆1,050億円(+521億円および+4.9% AER、+0.7% CER)となりました。この増加は主に、円安による為替影響によるものです。また、効率化の取り組みにより、データ、デジタルおよびテクノロジーへの追加投資ならびにインフレの影響による費用の増加は大部分が相殺されております。
〔Core研究開発費〕
Core研究開発費は、7,304億円(+7億円および+0.1% AER、△4.4% CER)となりました。効率化の取り組み、およびmodakafusp alfa (TAK-573)や非小細胞肺がん治療剤EXKIVITYなどの開発プログラムが前年度に終了したことに伴う費用の減少があったものの、円安による為替影響に伴う費用が増加したことにより、前年度と比べ微増となりました。
〔Core当期利益〕
Core当期利益は、7,758億円(+189億円および+2.5% AER、△3.4% CER)、Core当期利益(親会社の所有者帰属分)は、7,756億円(+188億円および+2.5% AER、△3.4% CER)となりました。Core当期利益は、Core営業利益に基づき、以下の通り算出されます。
報告期間における上記項目の増減は以下の通りです。
〔Core金融損益〕
Core金融収益とCore金融費用をあわせた金融損益は、1,407億円の損失(△13億円および△0.9% AER、△4.5% CER)となりました。
〔Core持分法による投資損益〕
Core持分法による投資損益は、11億円の利益(△48億円および△81.2% AER、△82.2% CER)となりました。
〔Core税引前当期利益〕
Core税引前当期利益は、1兆231億円(+1,043億円および+11.3% AER、+5.8% CER)となりました。
〔Core法人所得税費用〕
Core法人所得税費用は、2,473億円(+854億円および+52.7% AER、+48.7% CER)となりました。この増加は主に、Core税引前当期利益の増加、当年度における繰延税金資産の回収可能性の評価の見直しによるCore税金費用の増加、および前年度において税務上の不確実事項が有利に解決されたことによる税金費用の減少があったことによるものです。
〔Core EPS〕
当年度のCore EPSは、491円(+7円および+1.5% AER、△4.3% CER)となりました。
〔資産〕
当年度末における資産合計は、14兆2,483億円(△8,604億円)となりました。この減少は、特定の無形資産の取得により一部相殺されたものの、償却、減損損失および為替換算の影響により、無形資産が減少(△6,431億円)したこと、主に為替換算の影響により、のれんが減少(△856億円)したこと、主に武田テバファーマ株式会社の株式の売却により、持分法で会計処理されている投資が減少(△790億円)したことによるものです。
〔負債〕
当年度末における負債合計は、7兆3,124億円(△5,224億円)となりました。社債及び借入金合計は、米ドル建無担保普通社債の発行により一部相殺されたものの、主にシンジケートローンの事前返済および無担保普通社債の償還により減少し、4兆5,153億円(注)(△3,285億円)となりました。また主に米国における無形資産の償却により、繰延税金負債が減少(△786億円)しております。加えて、主にProtagonist Therapeutics, Inc.への支払いを含む、契約一時金に係る前年度の債務が大きかったことにより、当年度の仕入債務及びその他の債務は減少(△720億円)しております。
(注)当年度末における社債及び借入金の帳簿価額はそれぞれ4兆1,906億円および3,246億円です。なお、社債及び借入金の内訳は以下の通りです。
社債:
借入金:
当社グループは、2024年4月25日に、バイラテラルローン500億円を満期返済するとともに、同日に、2031年4月25日満期のバイラテラルローン500億円の借入を実行しました。その後、2024年6月25日には、発行総額4,600億円、償還期日2084年6月25日の60年無担保ハイブリッド社債を発行しました。
2024年7月5日には、発行総額3,000百万米ドル、償還期日2034年7月5日から2064年7月5日の米ドル建無担保普通社債(本社債)を発行しました。本社債の発行により調達した資金を充当することにより、2024年7月12日に2026年9月満期の無担保普通社債1,500百万米ドルを公開買付で繰上償還するとともに、同年7月にコマーシャル・ペーパーを償還しました。
2024年10月3日には、2084年10月3日満期のシンジケートハイブリッドローン400億円の借入を実行しました。2024年10月6日には、2024年6月25日に発行したハイブリッド社債により調達した資金とともに、シンジケートハイブリッドローンにより調達した資金を充当することにより、2019年6月に発行したハイブリッド社債5,000億円を2079年6月6日の償還期日に先立ち繰上償還しました。
2025年3月31日には、シンジケートローン3,135億円および1,500百万米ドルを2026年4月27日から2030年4月26日の満期に先立ち期限前弁済しました。この期限前弁済のため、手元現金、2025年3月31日に借入れた短期ローン500百万米ドル、および短期コマーシャル・ペーパーにより調達した資金を充当しました。なお、当年度末におけるコマーシャル・ペーパーの発行残高は2,700億円となりました。
社債及び借入金の詳細については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記 20 社債及び借入金」をご参照ください。
〔資本〕
当年度末における資本合計は、6兆9,360億円(△3,380億円)となりました。利益剰余金の減少(△2,036億円)は、当期利益1,081億円の計上により一部相殺されたものの、主に配当金の支払いに伴う3,032億円の減少によるものです。その他の資本の構成要素の減少(△1,574億円)は、主に円安の影響による為替換算調整勘定の変動によるものです。
(c)流動性および資金調達源
資金の調達および使途
当社グループにおいて流動性は、主に営業活動に必要な現金、資本支出、契約上の義務、債務の返済、利息や配当の支払いに関連して必要となります。営業活動においては、研究開発費、マイルストン支払い、販売およびマーケティングに係る費用、人件費およびその他の一般管理費、原材料費等の支払いにあたり現金が必要となります。また、法人所得税の支払いや運転資金にも多額の現金が必要となります。
当社グループは、生産設備の能力増強・合理化、減価償却を終えた資産の入れ替え、業務管理の効率化等のために設備投資を行っています。無形資産に係る資本的支出は、主に第三者のパートナーから導入したライセンス製品に対するマイルストン支払い、およびソフトウェア開発費です。連結財政状態計算書に計上されている有形固定資産および無形資産に係る資本支出は、2024年3月期および2025年3月期において、それぞれ4,967億円および3,194億円であります。また、2025年3月31日現在において、有形固定資産の取得に関する契約上のコミットメントは201億円であります。加えて、2025年3月31日現在において、無形資産の取得に関して契約上の取決めを有しております。無形資産に係るマイルストン支払いの詳細については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記 32 コミットメントおよび偶発負債」をご参照ください。また、資本管理の一環として、当社グループは、資金需要、市場等の環境、またはその他の関連する要因に照らして、定期的に資本的支出の評価を行っております。
当社の配当金の支払額は、2024年3月期および2025年3月期において、それぞれ2,885億円および3,039億円であります。2025年3月期については、1株当たり年間配当金額を196円(中間配当金および期末配当金それぞれ98円)としましたが、2026年3月期については、1株当たり、中間配当金および期末配当金をそれぞれ100円ずつとし、年間200円とすることを目指しています。当社の配当政策については「第4 提出会社の状況 3 配当政策」をご参照ください。
当社グループは、有利子負債に対し元本と利息を支払う必要があります。2025年3月31日現在において、1年内に必要となる利息の支払額および負債の返済額は、それぞれ1,128億円、5,489億円であります。詳細は、「有利子負債および金融債務」をご参照ください。
当社グループの資金の主な調達源は、主に現金及び現金同等物、短期コマーシャル・ペーパー、金融機関からのコミットメントラインによる借入、グローバル資本市場における社債発行を含む長期債務による資金調達であります。さらに、当社グループは、コンティンジェンシーの調達源として、2024年3月31日および2025年3月31日現在において、金融機関から極度額1,500億円および750百万米ドルの短期アンコミットメントライン契約を締結しております。
当社グループは、キャッシュ・フロー予測に基づき保有外貨を監視し、調整しております。当社グループの事業の大部分は日本国外で行っており、多額の現金を日本国外に保有しております。日本国内で必要なキャッシュ・フローを創出するために外貨を使用することは国内規制による影響を受ける可能性があり、また比較的影響は小さいものの、日本へ現金を移転することから生じる所得税による影響も受けます。
当社グループは、引き続き、資金調達の状況について注視しており、短期的には、一般的な市況による資金調達不足または流動性不足は現在見込んではおりません。なお、必要に応じた市場およびその他の供給源からの追加の資金調達力に加えて、当社グループの資本支出計画を必要かつ適切な範囲で見直すことによって、資金調達および流動性の需要を管理する場合があります。
2025年3月31日現在において、当社グループは、ワクチン運営および売上債権の売却プログラムに関係して当社が第三者に代わり一時的に保有していた預り金1,058億円を含む、3,851億円の現金及び現金同等物と、7,000億円の未使用のバンク・コミットメントライン契約を保有しております。加えて、公正価値ヒエラルキーにてレベル1に分類される米国債793億円を保持しております。したがって、利用可能な流動性の合計は1兆587億円となり、現在の事業活動に必要となる資金は十分に確保できていると考えております。また、当社グループは、事業活動を支えるため、持続的に高い流動性を保ち、資本市場へのアクセス拡大を追求していきます。
連結キャッシュ・フロー
連結キャッシュ・フローの状況は、以下のとおりであります。
(単位:億円)
〔営業活動によるキャッシュ・フロー〕
営業活動によるキャッシュ・フローは、1兆572億円(+3,408億円)となりました。この増加は主に、引当金および棚卸資産の変動により資産及び負債の増減額が増加したことによるものです。この増加は、非資金項目およびその他の調整項目を調整した後の当期利益の減少により一部相殺されております。
〔投資活動によるキャッシュ・フロー〕
投資活動によるキャッシュ・フローは、△3,671億円(+968億円)となりました。この増加は主に、無形資産の取得による支出の減少、および武田テバファーマ株式会社の株式の売却を含む関連会社株式の売却による収入によるものです。この増加は、米国債の取得による支出、AC Immune SAへの契約一時金の支払いおよびAscentage Pharma Group Internationalへのマイノリティ出資およびライセンスオプションの取得による支出を含む、他の投資活動により一部相殺されております。
〔財務活動によるキャッシュ・フロー〕
財務活動によるキャッシュ・フローは、△7,514億円(△3,970億円)となりました。この減少は主に、短期借入金及びコマーシャル・ペーパーの純増加額の減少、シンジケートローンおよびハイブリッド社債の返済・償還、ならびに自己株式の取得によるものです。この減少は、ハイブリッド社債および米ドル建無担保普通社債等の社債の発行による収入により一部相殺されております。
補足的分析:フリー・キャッシュ・フローおよび調整後フリー・キャッシュ・フロー(IFRSに準拠しない財務指標)
フリー・キャッシュ・フローおよび調整後フリー・キャッシュ・フローは、IFRSに準拠しない(以下、「Non-IFRS」)指標であります。詳細については、「(d)当社グループが定義および表示するIFRSに準拠しない補足的財務指標」をご参照ください。IFRSに準拠した指標の中で、フリー・キャッシュ・フローおよび調整後フリー・キャッシュ・フローは営業活動によるキャッシュ・フローが最も類似します。
(単位:億円)
フリー・キャッシュ・フローは、8,564億円(+3,155億円)となりました。この増加は主に、営業活動によるキャッシュ・フローが増加したことによるものです。
調整後フリー・キャッシュ・フローは、7,690億円(+4,855億円)となりました。この増加は主に、フリー・キャッシュ・フローの増加に加え、無形資産の取得による支出が減少したことによるものです。
有利子負債および金融債務
2024年3月31日および2025年3月31日現在において社債および借入金はそれぞれ4兆8,438億円、4兆5,153億円であります。これらの有利子負債は、当社グループが発行した無担保社債、普通社債、バイラテラルローン、およびシンジケートローン、また、Shire社買収に必要な資金の一部を調達するための借入金、およびShire社買収により引き受けた負債、借り換えた負債を含み、連結財政状態計算書に計上されております。当社グループの借入金は主に買収関連で発生したものであり、季節性によるものではありません。
当社グループは、2024年4月25日に、バイラテラルローン500億円を満期返済するとともに、同日に、2031年4月25日満期のバイラテラルローン500億円の借入を実行しました。その後、2024年6月25日には、発行総額4,600億円、償還期日2084年6月25日の60年無担保ハイブリッド社債を発行しました。2024年7月5日には、発行総額3,000百万米ドル、償還期日2034年7月5日から2064年7月5日の米ドル建無担保普通社債(本社債)を発行しました。本社債の発行により調達した資金を充当することにより、2024年7月12日に2026年9月満期の無担保普通社債1,500百万米ドルを公開買付で繰上償還するとともに、同年7月にコマーシャル・ペーパーを償還しました。2024年10月3日には、2084年10月3日満期のシンジケート ハイブリッド ローン400億円の借入を実行しました。2024年10月6日には、2024年6月25日に発行したハイブリッド社債により調達した資金とともに、シンジケート ハイブリッド ローンにより調達した資金を充当することにより、2019年6月に発行したハイブリッド社債5,000億円を2079年6月6日の償還期日に先立ち繰上償還しました。2025年3月31日には、シンジケートローン3,135億円および1,500百万米ドルを2026年4月27日から2030年4月26日の満期に先立ち期限前弁済しました。この期限前弁済のため、手元現金、2025年3月31日に借入れた短期ローン500百万米ドル、および短期コマーシャル・ペーパーにより調達した資金を充当しました。なお、当年度末におけるコマーシャル・ペーパーの発行残高は2,700億円となりました。
2025年3月31日現在において、当社グループは一定の財務制限条項が含まれるコミットメントファシリティー契約を保有しております。当該財務制限条項には、毎年3月末および9月末において連結財政状態計算書における調整後純有利子負債の過去12か月間の調整後EBITDA(調整後EBITDAはファシリティー契約書にて定義されたもの)に対する比率が一定水準を上回らないことを求める財務制限条項が含まれています。2025年3月31日時点においては、2024年3月31日時点と同様に、当社グループは全ての財務制限条項を遵守しております。また、2019年に設定された7,000億円の未使用のコミットメントラインからの借入を制限する事象はありません。当コミットメントラインの現在の期限は2026年9月であります。
当社グループは、短期の流動性の管理のため、日本の無担保コマーシャル・ペーパープログラムを保有しております。2024年3月31日現在におけるコマーシャル・ペーパーの発行残高は3,170億円、2025年3月31日現在におけるコマーシャル・ペーパーの発行残高は2,700億円となりました。当社グループは、さらに2024年3月31日および2025年3月31日現在において、極度額1,500億円および750百万米ドルの短期アンコミットメントライン契約を締結しておりますが、借入はしておりません。
社債及び借入金の詳細については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記 20 社債及び借入金」をご参照ください。
信用格付け
当社グループの信用格付けは、当社グループの財務の健全性、業績、債務の返済能力等に関する各格付機関の意見が反映されております。本報告書時点における当社グループの信用格付けは以下のとおりです。
この格付けは、社債の購入、売却、保有を推奨するものではありません。この格付けは指定された格付機関によって適宜改訂あるいは撤回される可能性があります。それぞれの財務の健全性レーティングは、独立評価されたものであります。
重要な契約上の負債
2025年3月31日現在における契約上の負債は以下のとおりです。
(単位:億円)
(注1) 2025年3月31日現在における日本円以外の通貨建債務は、期末為替レートで日本円に換算しており、為替レートの変動により金額が異なる可能性があります。
(注2) 利息支払義務を含みます。
(注3) 「3年超5年以内」の契約額には、2024年ハイブリッド社債(劣後特約付社債)の元本4,600億円および2024年シンジケート ハイブリッド ローン(劣後特約付ローン)の元本400億円が含まれております。これは、それぞれ2029年6月25日の初回繰上償還日および同年10月3日の初回期日前弁済日に、全額が償還、弁済される見込みであるためです。ハイブリッド社債およびシンジケート ハイブリッド ローンの元本および利息の詳細については、「第5経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記 20 社債及び借入金」をご参照ください。
(注4) 2026年4月以降の年金および退職後給付制度への拠出額については、拠出の時期が不確実であり、利率、運用収益、法律およびその他の変動要因に依存するため、確定することはできません。
(注5) 確定給付債務、訴訟引当金および長期未払法人税等、時期を見積もることができない契約上の負債、また、金額が公正価値の変動により変化するデリバティブ負債および条件付対価契約に関する金融負債は含まれておりません。なお、2025年3月31日現在のデリバティブ負債および条件付対価契約に関する金融負債の帳簿価額は、それぞれ165億円および44億円であります。また、特定の将来の事象の発生に左右されるマイルストン支払いも含んでおりません。
(注6) 通常の事業活動における購買に関する発注は含んでおりません。
オフバランス取引
マイルストン支払
新製品の開発に係る第三者との提携契約に基づき、当社グループは、パイプライン品目の開発、新製品の上市および上市後の販売等にかかる一定のマイルストン達成に応じた支払義務が生じる場合があります。2025年3月31日現在における潜在的なマイルストン支払の契約金額は1兆743億円であります。これらは、潜在的なコマーシャルマイルストン支払を除いた金額であります。詳細は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記 13 共同研究開発契約、ライセンス契約、その他の資産取得等 および 32 コミットメントおよび偶発負債」をご参照ください。
補足的分析:財務レバレッジ(調整後有利子負債/調整後EBITDA倍率)(IFRSに準拠しない指標)
特に、Shire社買収に伴い、投資家、アナリストおよび格付機関は、当社グループの(調整後純有利子負債/調整後EBITDA倍率で表される)財務レバレッジを綿密にモニターしております。調整後純有利子負債、調整後EBITDAおよび調整後純有利子負債/調整後EBITDA倍率はすべて、IFRSに準拠しない財務指標です。社債および借入金から調整後純有利子負債への調整、当期利益からEBITDAおよび調整後EBITDAへの調整等、最も良く対応するIFRS財務指標への調整を含む詳細については、「(d)当社グループが定義および表示するIFRSに準拠しない補足的財務指標」をご参照ください。各報告日現在における当社グループの調整後純有利子負債/調整後EBITDA倍率および最も良く対応するIFRS財務指標の各比率は以下のとおりです。
(単位:億円、倍率以外)
IFRSに準拠して表示される業績に加えて、当社グループは、IFRSに準拠しない(以下、「Non-IFRS」)補足的財務指標を表示しております。これらの財務指標には、CER(Constant Exchange Rate:恒常為替レート)ベースの増減、Core財務指標、純有利子負債、調整後純有利子負債、EBITDA、調整後EBITDA、フリー・キャッシュ・フロー、調整後フリー・キャッシュ・フローが含まれます。
当社グループの経営陣は業績および財政状態の評価並びに経営及び投資判断を、IFRSに準拠した指標及び本セクションに記載のNon-IFRS財務指標に基づいて行っています。当社グループは、当社グループの経営成績および財政状態の分析における追加情報として、また、当社の経営陣が経営成績および財政状態をどのように評価しているかを投資家に理解いただくにあたり、両指標を表示しております。当社グループのNon-IFRS財務指標においては、最も良く対応するIFRSに準拠した財務指標では含まれることとなる一定の利益、コスト、キャッシュ・フローまたは財政状態計算書上の項目を除外または調整しております。これらの財務指標は、IFRSに準拠するものではなく、補足的なものであり、また、IFRSに準拠した財務指標に代替するものではありません(IFRSに準拠した財務指標を「財務ベース」指標として参照している場合があります)。投資家におかれましては、当社グループの過去の財務諸表全体を確認し、IFRSに準拠して表示されている指標を当社グループの業績評価の主要な指標として使用することを強く推奨します。また、Non-IFRS財務指標の定義と、これらに最も良く対応するIFRSに準拠した財務指標との調整表を併せてご参照ください。さらに、これらのNon-IFRS財務指標に関する記載、特にこれらの財務指標の有用性の限界について把握し、製薬業界における他社が表示している、類似の名称を付した財務指標との相違についてご理解ください。
Core財務指標
当社グループのCore売上収益、Core営業利益、Core当期利益(親会社の所有者帰属分)、Core EPSをはじめとするCore財務指標は、売却に伴う収益、製品(仕掛研究開発品を含む)に係る無形資産償却費及び減損損失、その他、非定常的な事象に基づく影響、企業結合会計影響や買収関連費用など、当社グループの中核事業の本質的な業績に関連しない事象による影響を控除しています。Core売上収益は、財務ベースの売上収益から、当社グループの中核事業の本質的な業績に関連しない売上収益に係る影響(主に、事業売却および清算に係る売上収益および関連する調整)を控除して算出します。Core営業利益は、財務ベースの営業利益から、その他の営業収益及びその他の営業費用、製品(仕掛研究開発品を含む)に係る無形資産償却費及び減損損失、その他、非資金項目または当社グループの中核事業の本質的な業績に関連しない事象による影響を控除して算出します。Core EPSは、財務ベースの当期利益(親会社の所有者帰属分)から、Core営業利益の算出において控除された項目、および特別、非定常的な事象に基づく影響、または当社グループの中核事業の本質的な業績に関連しない事象による影響を控除して算出します。これらには、条件付対価に係る公正価値変動(時間的価値の変動を含む)影響などが含まれます。さらに、これらの調整項目に係る税金影響を控除した後、報告期間の自己株式控除後の平均発行済株式総数で除して算出します。
当社グループがCore財務指標を表示する理由は、これらの指標が、当社グループの中核事業の本質的な業績に関連しない事象による影響を控除するものであり、当社グループ事業の本質的な業績を理解していただくにあたり有用であると考えているためです。控除される項目には、(i) 前年度から著しく変動する項目、もしくは毎年度発生するものではない項目、または(ii) 当社グループの中核事業の本質的な業績の変動とはほぼ相関関係がないと認められる項目が含まれます。同様の指標は、同業他社においても頻繁に使用されていると認識しており、本指標を表示することは、投資家が当社グループの業績を過年度の業績と比較される際だけではなく、同業他社と類似の基準に基づき比較される際にも有用になると考えています。また、当社グループがCore財務指標を表示する理由は、これらの指標が予算の策定や報酬の設定(CEOおよびCFOのインセンティブ報酬を含む、当社グループの短期インセンティブ並びに長期インセンティブ報酬プログラムに係る一定の目標はCore財務指標の結果に関連して設定。「(4)役員の報酬等」をご参照ください)に用いられているためです。
投資家にとってのCore財務指標の有用性には、一例として次の限界があります。例えば、(i) 製薬業界における他社を含む、他社において用いられている類似の名称を付した財務指標とは必ずしも同一ではありません、(ii) 無形資産の売却や償却などの非資金費用の影響を含む、当社グループの業績、価値又は将来見通しの評価において重要とみなされる可能性のある財務情報や事象が除外されています、(iii) 将来にわたって継続的に発生する可能性のある項目又は項目の種類が除外されています(ただし、当社グループの方針として、事業運営に必要な経常的に発生する営業費用の支出については調整していません)、(iv) 投資家が当社グループの業績を理解する上で重要とみなす可能性のあるすべての項目が含まれていない、又は、重要とみなさないであろうすべての項目が除外されていない場合があります。
下表は、各報告期間における、当社グループのCore財務指標とIFRSに準拠して作成し、表示された最も良く対応するIFRS財務指標との間の調整を示しています。これには、(i) Core売上収益とIFRSに準拠して表示された売上収益、(ii) Core営業利益とIFRSに準拠して表示された営業利益、および (iii) Core当期利益(親会社の所有者帰属分)とIFRSに準拠して表示された当期利益(親会社の所有者帰属分)が含まれます。
当年度の売上収益および営業利益からCore売上収益およびCore営業利益への調整は次の通りです。
(単位:億円)
(注1) 製品に係る無形資産には、仕掛研究開発品を含みます。
(注2) その他の営業収益(営業費用)には、条件付対価契約に関する金融資産及び金融負債の公正価値変動額、有形固定資産および投資不動産の売却損益、事業譲渡及び子会社株式売却益、寄付金、 サブリースに係る賃貸借料、事業構造再編費用、承認前在庫に係る評価損、治験終了後投与に係る費用、売却目的で保有する資産の減損、訴訟引当金、オプション権に係る評価損、非定常的なその他の営業収益(営業費用)を含みます。
(注3) その他:売上収益およびその他の営業収益(営業費用)には、2025年3月期に行った武田テバ薬品株式会社(以下、「Teva社」)の株式売却に伴う、テバ社に売却した資産について認識された17億円の繰延収益および38億円のテバ社への事業譲渡に係る繰延利益を含みます。売上原価には、2019年3月期に完了したShire社の買収に関連する有形固定資産の公正価値の費用化を含みます。
前年度の売上収益および営業利益からCore売上収益およびCore営業利益への調整は次の通りです。
(単位:億円)
(注1) 製品に係る無形資産には、仕掛研究開発品を含みます。
(注2) その他の営業収益(営業費用)には、条件付対価契約に関する金融資産及び金融負債の公正価値変動額、有形固定資産および投資不動産の売却損益、事業譲渡及び子会社株式売却益、寄付金、サブリースに係る賃貸借料、事業構造再編費用、承認前在庫に係る評価損、売却目的で保有する資産の減損、訴訟引当金およびオプション権に係る評価損を含みます。
当年度の当期利益(親会社の所有者帰属分)からCore当期利益(親会社の所有者帰属分)への調整は次の通りです。
(単位:億円、%以外)
(注1) その他:金融収益及び費用(純額)には、超インフレ経済下にあり、IAS第29号「超インフレ経済下における財務報告」が適用されている子会社の非資金項目に係る損失、ならびにノン・コア取引に係る金融収益および費用を含みます。持分法による投資損益には、事業売却および清算に係る損益ならびにその他の公正価値調整を含みます。
(注2) IFRS会計基準に基づく業績とCore業績との間の調整に係る税金は、当該調整が計上される管轄地域において項目に適用される法定税率を考慮しています。税引前当期利益に対するCore調整額(8,480億円)に係る法人所得税費用は1,803億円であり、Core調整に係る平均税率は21.3%でした。
前年度の当期利益(親会社の所有者帰属分)からCore当期利益(親会社の所有者帰属分)への調整は次の通りです。
(単位:億円、%以外)
(注1) その他:金融収益及び費用(純額)には、超インフレ経済下にあり、IAS第29号「超インフレ経済下における財務報告」が適用されている子会社の非資金項目に係る損失、ならびにノン・コア取引に係る金融収益および費用を含みます。持分法による投資損益には、事業売却および清算に係る損益ならびにその他の公正価値調整を含みます。
(注2) IFRS会計基準に基づく業績とCore業績との間の調整に係る税金は、当該調整が計上される管轄地域において項目に適用される法定税率を考慮しています。税引前当期利益に対するCore調整額(8,660億円)に係る法人所得税費用は2,533億円であり、Core調整に係る平均税率は29.2%でした。
CER(Constant Exchange Rate:恒常為替レート)ベースの増減
CERベースの増減は、当期の国際会計基準(IFRS)に準拠した業績またはCore財務指標(Non-IFRS)について、前年同期に適用した為替レートを用いて換算することにより、前年同期との比較において為替影響を控除するものです。
当社グループがCERベースの増減を表示する理由は、変動する為替レートが当社グループの事業に与える影響を踏まえ、為替影響がなかった場合の経営成績の増減について投資家に理解していただくにあたり有用であると考えているためです。CERベースの増減は、当社グループの経営陣が経営成績を評価するに際して使用する主な指標になっています。また、製薬業界における各社が為替影響を調整した同様の業績指標を頻繁に用いているため、証券アナリスト、投資家その他の関係者が各社の経営成績を評価するに際しても、本指標が有用であると考えています。
ただし、CERベースの増減の有用性には、一例として次の限界があります。例えば、CERベースの増減は、前年度においてIFRSに準拠した業績を算定するために用いた為替レートと同一の為替レートを用いますが、そのことは必ずしも、当年度の取引が前年度と同一の為替レートで実施され得た、あるいは計上され得たことを示すものではありません。また、類似の名称の指標を用いている同業他社が、当社グループとは異なる方法で指標を定義し、算定している可能性があるため、そのような指標との比較可能性に欠け得るものです。従って、CERベースの増減はIFRSに準拠して作成、表示された業績と切り離して考慮してはならず、また、これらの代替と捉えてはならないものです。
以下は、対前年度の増減率を含む、IFRSに準拠して算定、表示された当社グループの経営成績であり、各項目についてCERベースの増減率を示しております。
CERベースの増減(財務ベース指標)
CERベースの増減(Non-IFRS)
フリー・キャッシュ・フローおよび調整後フリー・キャッシュ・フロー
当社グループのフリー・キャッシュ・フローは、営業活動によるキャッシュ・フローから有形固定資産の取得による支出を控除したものです。調整後フリー・キャッシュ・フローは、営業活動によるキャッシュ・フローから、有形固定資産の取得による支出、無形資産の取得による支出、投資の取得による支出(公正価値ヒエラルキーのレベル1に区分される債券投資の取得による支出の控除後)、関連会社株式の取得による支出、事業の取得による支出(取得した現金及び現金同等物の純額の控除後)およびそれらに実質的に関連または類似していると見做されるその他の支出を控除した上で、有形固定資産の売却による収入、投資の売却・償還による収入(公正価値ヒエラルキーのレベル1に区分される債券投資の売却・償還による収入の控除後)、関連会社株式の売却による収入、事業の売却による収入(処分した現金及び現金同等物の純額の控除後)を加味し、さらに、当社グループが即時的または一般的な業務用に使用できないいかなるその他の現金の支出入を調整し、算出しています。
当社グループがフリー・キャッシュ・フローおよび調整後フリー・キャッシュ・フローを表示する理由は、証券アナリスト、投資家その他の関係者が製薬業界における各社の評価を行うに際して頻繁に用いられる流動性についての同様の指標として、これらの指標が投資家にとって有用であると考えているためです。調整後フリー・キャッシュ・フローは、流動性要件を満たす能力を測り、資本配分方針をサポートする指標として流動性及びキャッシュ・フローの評価を行うに際して、当社グループの経営陣によっても使用されています。また、フリー・キャッシュ・フローおよび調整後フリー・キャッシュ・フローは、投資家が、当社グループの戦略的な買収や事業の売却がどのようにキャッシュ・フローや流動性に貢献するかを理解される上で有用であると考えています。
投資家にとってのフリー・キャッシュ・フローおよび調整後フリー・キャッシュ・フローの有用性には、一例として次の限界があります。例えば、(i) 同業他社を含め、用いられている類似の名称の指標との比較可能性に欠け得るものです、(ii) 当社グループの、資本の使用又は配分を必要とする現在及び将来の契約上その他のコミットメントの影響は反映されていません、(iii) 投資の売却・償還による収入、事業の売却による収入(処分した現金及び現金同等物の純額の控除後)は、中核である継続的な事業からの収入を示すものではありません。フリー・キャッシュ・フローおよび調整後フリー・キャッシュ・フローは、IFRSに基づく指標である営業活動によるキャッシュ・フロー及びその他の流動性指標と切り離して考慮してはならず、また、これらの代替と捉えてはならないものです。IFRSに準拠した指標の中で、フリー・キャッシュ・フローおよび調整後フリー・キャッシュ・フローは営業活動によるキャッシュ・フローが最も類似します。
下表は、2024年3月期および2025年3月期における、IFRSに準拠して表示された最も対応する指標である営業活動によるキャッシュ・フローからフリー・キャッシュ・フローおよび調整後フリー・キャッシュ・フローへの調整を示しております。
(単位:億円)
(注1) 当社が第三者に代わり一時的に保有していたキャッシュの調整は、ワクチン運営および売上債権の売却プログラムに関係して当社が第三者に代わり一時的に保有していた現金の変動を指します。
(注2) 一部の重要性が低い取引を除き、無形資産の売却による収入は、営業活動によるキャッシュ・フローに含まれています。
(注3) 当年度において、公正価値ヒエラルキーのレベル1に区分される債券投資の取得による支出801億円を控除しております。
EBITDAおよび調整後EBITDA
当社グループにおいて、EBITDAは、法人所得税費用、減価償却費及び償却費、並びに純支払利息控除前の連結当期利益を指します。また、調整後EBITDAは、減損損失、その他の営業収益及びその他の営業費用(減価償却費、償却費及びその他の非資金性項目を除く)、金融収益及び費用(純支払利息を除く)、持分法による投資損益及び企業結合会計影響や買収関連費用などの当社グループの中核事業に関連しないその他の項目を除外するように調整されたEBITDAを指します。
当社グループがEBITDA及び調整後EBITDAを表示する理由は、これらの指標が証券アナリスト、投資家その他の関係者が製薬業界における各社の評価を行う際に頻繁に用いられるものであり、投資家にとって有用であると考えているためです。 当社グループは、調整後EBITDAを主に財務レバレッジをモニターするために使用しています。「(c)流動性および資金調達源 補足的分析:財務レバレッジ(調整後有利子負債/調整後EBITDA倍率)(IFRSに準拠しない指標)」 および以下の「調整後純有利子負債/調整後EBITDA倍率」をご参照ください。また、調整後EBITDAは、継続的な事業に関連しない特定の事象(変化に富み予測が困難である一方で、経営成績に重大な影響を与える可能性があり、一定期間にわたる業績を一貫性をもって評価することが困難な事象)から生じる不透明さを排除することから、投資家にとって、事業の動向を把握するに際して有用な指標であると考えています。
投資家にとってのEBITDA及び調整後EBITDAの有用性には、一例として次の限界があります。例えば、(i) 同業他社を含め、用いられている類似の指標との比較可能性に欠け得るものです。また、(ⅱ) 企業買収や無形資産の償却による影響などを含む、当社グループの業績、価値又は将来見通しの評価において重要とみなされる可能性のある財務情報や事象が除外されています、(ⅲ) 将来にわたって継続的に発生する可能性のある項目又は項目の種類が除外されています、(ⅳ) 投資家が当社グループの業績を理解する上で重要とみなす可能性のあるすべての項目が含まれていない、又は、重要とみなさないであろうすべての項目が除外されていない場合があります。EBITDAおよび調整後EBITDAは、IFRSに準拠した指標である営業利益、当期利益、その他の業績指標と切り離して考慮してはならず、また、これらの代替と捉えてはならないものです。IFRSに準拠した指標の中で、EBITDAおよび調整後EBITDAは、当期利益が最も類似します。
下表は、2024年3月期および2025年3月期における、当期利益からEBITDAおよび調整後EBITDAへの調整を示しております。
(単位:億円)
(注1) その他の調整項目には、株式報酬にかかる非資金性の費用およびその他の一過性の非資金性の費用の調整、調整後EBITDAの算出にあたり除外された、当年度におけるテバ社への資産売却に係る17億円の非資金性の収益調整を含む、売却した製品に係るEBITDAの調整が含まれます。
調整後純有利子負債/調整後EBITDA倍率
当社グループは、純有利子負債を連結財政状態計算書上の社債及び借入金の簿価に現金及び現金同等物のみを調整したものと定義しており、当社グループの調整後純有利子負債は、次のとおり算出しています。まず、連結財政状態計算書に記載されている社債及び借入金の流動部分と非流動部分合計を計算します。その上で、(i) 期初に残存する外貨建て負債を直近12か月の期中平均レートを用いて換算し、報告期間中に計上した新規の外貨建て負債および償還した既存の外貨建て負債については対応するスポットレートを用いて換算し、当社グループの経営陣が当社グループのレバレッジをモニターするために使用する方法論を反映しています。また、(ii) 当社グループの劣後特約付きハイブリッド債について、その株式に似た特徴を踏まえ、S&Pグローバル・レーティング・ジャパンの格付手法に基づきエクイティクレジットを適用しています。この数字から、ワクチン運営および売上債権の売却プログラムに関係して当社が第三者に代わり一時的に保有している現金を除いた現金及び現金同等物、およびその他の金融資産に計上され公正価値ヒエラルキーのレベル1に区分される債券投資を控除し、調整後純有利子負債を算出しています。
当社グループが、純有利子負債および調整後純有利子負債を表示する理由は、当社グループの経営陣が、当社グループの現金及び現金同等物控除後の負債をモニター及び分析するためにこれらの指標を使用し、また当社グループのレバレッジをモニターするために本指標を調整後EBITDAと併せて使用しており、投資家にとって有用であると考えているためです(なお、調整後純有利子負債および調整後純有利子負債/調整後EBITDA倍率は、当社グループの流動性の指標を表すものではないことにご留意ください)。また、負債についての同様の指標が、証券アナリスト、投資家その他の関係者が製薬業界における各社の評価を行うに際して頻繁に用いられるものであると考えています。 特に、Shire社買収に伴い、投資家、アナリストおよび格付機関は、当社グループの(調整後純有利子負債/調整後EBITDA倍率で表される)財務レバレッジを綿密にモニターしています。格付機関が本指標を特に重視していることから、これらの情報は、当社グループの財務レバレッジだけではなく、格付機関が当社グループの信用力評価にあたって財務レバレッジの水準をどのように評価しているかについて、投資家が理解していただくにあたり有用であると考えています。そのため、後述のとおり、当社グループは、調整後純有利子負債を調整して、格付機関が一部の劣後債に適用している「エクイティクレジット」を反映しています(ただし、IFRS上、当該債務は資本として取り扱われません)。
調整後純有利子負債の有用性には、一例として次の限界があります。例えば、(i) 同業他社を含め、用いられている類似の指標との比較可能性に欠け得るものです、(ii) 当社グループの負債に係る利息の金額を反映していません、(iii) 負債の早期返済又は償還に係る制限を反映していません、(iv) 当社グループが現金同等物を現金に換金する際に、現金をある通貨から他の通貨に換金する際に、又は当社グループ内で現金を移動する際に係る手数料や費用を反映していません、(v) 有利子負債には、資金調達の契約と整合性のある平均為替レートを適用・調整していますが、これは当社グループがある通貨を他の通貨に換金することができる実際の為替レートを反映していません、(vi) 当社グループの劣後債はIFRS上資本として取り扱われないものの、エクイティクレジットを反映しています。当該調整は、合理的で、投資家にとって有用な調整であると考えています。調整後純有利子負債は、IFRSに基づく指標である社債及び借入金、又はその他の負債指標と切り離して考慮してはならず、また、これらの代替と捉えてはならないものです。IFRSに準拠した指標の中で、純有利子負債は、社債及び借入金が最も類似します。
当社グループの調整後純有利子負債/調整後EBITDA倍率は以下のとおりです。
(単位:億円、倍率以外)
下表は、2024年3月31日および2025年3月31日現在の社債及び借入金から調整後純有利子負債への調整を示しております。
(単位:億円)
(注1) ワクチン運営および売上債権の売却プログラムに関係して当社が第三者に代わり一時的に保有する、即時的または一般的な業務に使用できない現金、およびその他の金融資産に計上され公正価値ヒエラルキーのレベル1に区分される債券投資を調整しております。
(注2) 期中平均レートで換算される調整後EBITDA計算と整合させるため、期初から期中残存する外貨建て負債を期中平均レートを用いて換算しております。報告期間中に計上した新規の外貨建て負債および償還した既存の外貨建て負債については当該日の対応するスポットレートを用いて換算しております。
(注3) ハイブリッド(劣後)社債及びローンの元本総額5,000億円分について、S&Pグローバル・レーティング・ジャパン(格付機関)より認定された50%のエクイティクレジットを適用し、2,500億円を負債から控除しております。これらの金融負債は、レバレッジ評価において一定のエクイティクレジットが認められております。
Nimbus Lakshmi, Inc.の取得
当社グループは、2022年12月13日付で、Nimbus Therapeutics, LLC(「Nimbus社」)の完全子会社であるNimbus Lakshmi, Inc.(「Lakshmi社」)の全株式を取得するため、Nimbus社との間で株式譲渡契約を締結しました。Lakshmi社は、経口アロステリックTYK2阻害薬であるTAK-279(Nimbus社社内コードNDI-034858)に関する知的財産権および他の関連する資産を保有またはコントロールしていました。本契約にもとづき、当社グループはNimbus社に一時金として40億米ドルを本取引完了後に支払いました。また、TAK-279のプログラムから開発された製品の年間の売上高が40億米ドルと50億米ドルとなった場合には、それぞれにつき10億米ドルのマイルストンを同社に支払います。本取引は、2023年2月8日に完了しました。さらに、本取引に関連して、当社グループは、Nimbus社とBristol-Myers Squibbおよびその子会社であるCelgene Corporationとの間の2022年1月の和解契約におけるNimbus社の義務であるTAK-279のプログラムから開発された製品の開発、薬事規制上の承認、および売上に関するマイルストン支払い義務を引き受けることに合意しました。
当年度の研究開発費の総額は
医薬品の研究開発のプロセスは、長期にわたり多額の費用を伴い、その期間は10年を越えることもあります。このプロセスには、新薬の有効性および安全性の評価のための複数の試験、データを審査し販売承認の可否を判断する規制当局に対する申請が含まれます。こうした精査の過程を通過し、臨床での治療に用いることができる候補物質はごく僅かです。承認取得後も、上市後の製品に対しては、ライフサイクルマネジメント、メディカルアフェアーズやその他の投資を含め、継続的な研究開発活動による支援が行われます。
臨床試験は、地域的および国際的な規制ガイドラインを遵守し、通常5から7年もしくはそれ以上を費やして実施されるものであり、相応の費用を伴います。通常、臨床試験は医薬品規制調和国際会議(ICH)が制定したガイドラインに沿って実施されます。これに関わる規制当局は、米国では食品医薬品局(FDA)、欧州連合では欧州医薬品庁(EMA)、日本では厚生労働省(MHLW)、中国では国家薬品監督管理局(NMPA)です。
ヒトの臨床試験は以下の3相で実施されます(各相が一部重複することもあります):
・臨床第1相試験
少人数の健康な成人の志願者を被験者として、薬物の安全性、吸収、分布、代謝、排泄について評価するために実施
・臨床第2相試験
少人数の志願患者さんを被験者として、安全性、有効性、用量および用法を評価するために実施
臨床第2相試験は臨床第2a相と臨床第2b相の2つのサブカテゴリーに分割されることがあります。臨床第2a相試験は通常臨床上の有効性または生物学的活性を示すためにデザインされたパイロット試験であり、臨床第2b相試験は薬物が最少の副作用で生物学的活性を示す最適用量を探索するために行われます。
・臨床第3相試験
大人数の志願患者さんを被験者として、既存の薬剤またはプラセボと比較した安全性および有効性を評価するために実施
これら3相のうち、臨床第3相にかかる開発費用が最も大きく、臨床第3相試験へ進めるか否かの決定は、医薬品開発における重要なビジネス判断となります。臨床第3相試験を通過した候補薬物については、管轄の規制当局に新薬承認申請書(NDA)、生物製剤承認申請(BLA)または医薬品販売承認申請(MAA)を提出し、規制当局より承認を取得した場合に上市が可能となります。NDA、BLA、MAAの作成には、膨大な量のデータの収集、検証、分析が必要であり、多額の費用が伴います。製品上市後も、保健当局により有害事象の市販後調査や、当該医薬品のリスク・ベネフィットに関する追加情報を提供するための市販後試験の実施を求められることがあります。
当社の研究開発は、サイエンスにより、患者さんの人生を根本的に変え得るような非常に革新性が高い医薬品を創製することに注力しております。当社は、「革新的なバイオ医薬品」、「血漿分画製剤」および「ワクチン」の3つの分野において研究開発活動を実施しております。「革新的なバイオ医薬品」に対する研究開発は、当社の研究開発投資費用の中で最も大きい比率を占めております。「革新的なバイオ医薬品」における重点疾患領域(消化器系・炎症性疾患、ニューロサイエンス(神経精神疾患)、オンコロジー)には、希少疾患および有病率がより高い疾患のいずれにおいても、未だ有効な治療法が確立されていない高い医療ニーズ(アンメット・メディカル・ニーズ)が存在する疾患に対し、当社はベスト・イン・クラスあるいはファースト・イン・クラスとなりうる画期的な新規候補物質を創出してまいりました。当社は希少疾患と有病率がより高い疾患のいずれに対してもコミットしており、当社が探求している患者さんの人生を根本的に変え得るような医薬品の多くは、当社の重点疾患領域および血漿分画製剤領域における希少疾患を治療するものとなります。当社では新たな研究開発能力、さらには次世代プラットフォームに対して社内および外部との提携によるネットワークを通じて投資し、細胞療法の領域の強化を図っております。また、当社はイノベーションの質を向上させ、実行を加速させることを目指し、データ・デジタル技術を活用しております。
当社のパイプラインは、当社事業の短期的および長期的かつ持続的な成長を支えるものです。初回の承認取得後も上市後の製品に対して、地理的拡大や効能追加に加え、市販後調査および剤型追加の可能性を含めた継続的な研究開発活動による支援体制が整っております。当社の研究開発チームは、販売部門との緊密な連携を通じ既発売品の価値の最大化を図り、販売活動を通じて得られた知見を研究開発戦略やポートフォリオに反映します。
自社の研究開発機能向上への注力に加え、社外パートナーとの提携も、当社研究開発パイプライン強化のための戦略における重要な要素の一つです。社外提携の拡充と多様化に向けた戦略により、様々な新製品の研究に参画し、当社が大きな研究関連のブレイクスルーを達成する可能性を高めます。
当社の主要な研究開発施設には以下を含みます:
• グレーターボストン地区研究開発サイト:当社のボストン研究開発サイトは米国マサチューセッツ州のケンブリッジおよびレキシントンに位置しています。本サイトは当社の研究開発部門のグローバル本部であり、グローバルでの消化器系・炎症性疾患およびオンコロジー領域の研究開発の中枢です。加えて、血漿分画製剤を含む他の疾患領域の研究開発も支援しています。最先端の細胞療法の製造施設を備えた、当社の細胞療法研究の拠点です。さらに当社は、ケンドール・スクエアに新たに建設中の約60万平方フィートの最新鋭の研究開発およびオフィス施設について、15年間のリース契約を締結し、2026年より入居する予定です。
• 湘南ヘルスイノベーションパーク:日本の神奈川県藤沢・鎌倉地域に位置する湘南ヘルスイノベーションパーク(以下、「湘南アイパーク」)は、当社の湘南研究所を外部に開放する形で、2018年に設立された日本初の製薬企業発サイエンスパークであり、当社のニューロサイエンス研究の主要拠点です。当社はより多様なパートナーを招致し、湘南アイパークのさらなる成功を目指すため、2020年に信託設定、2023年には湘南アイパークの運営事業を当社が設立した会社に承継しました。当社は、アンカーテナントとして今後も日本におけるライフサイエンスの研究活性化に注力します。
• オーストリア ウィーン研究開発サイト:オーストリア ウィーンに位置する当社の研究開発サイトであり、研究開発および血漿分画製剤のプログラムを支援しています。本研究サイトは、生物学的製剤の研究開発に注力するとともに血漿分画製剤の製造施設を備えています。ウィーンのドナウシュタット地区には最高の環境基準に準拠したグリーンビルディングとして新しい研究開発施設が2026年に設立されます。
当社の2024年4月以降の主要な研究開発活動の進捗は、以下のとおりです。
研究開発パイプライン
消化器系・炎症性疾患
消化器系・炎症性疾患において、消化器系疾患(肝疾患を含む)および免疫介在性の炎症性疾患の患者さんに革新的で人生を変え得るような治療法をお届けすることに注力しております。炎症性腸疾患(IBD)においては、ENTYVIO(国内製品名:エンタイビオ)の皮下注射製剤の上市や、IBD治療パラダイムにおけるENTYVIOのバックボーン治療薬としての位置づけを実証し、患者さんの予後をさらに改善する方法への理解を深めるため、実臨床エビデンスを構築する臨床試験を実施するなど、フランチャイズのポテンシャルを最大化しております。Zasocitinib(TAK-279)は、ベスト・イン・クラスとなる可能性を有する次世代の経口チロシンキナーゼ2(TYK2)阻害薬であり、複数の免疫介在性の炎症性疾患の治療薬となる可能性があります。また、fazirsiran(TAK-999)は、α-1アンチトリプシン欠損関連肝疾患に対するファースト・イン・クラスのRNA干渉治療薬となる可能性があり、後期開発段階にあります。Mezagitamab(TAK-079)は、免疫性血小板減少症(ITP)やIgA腎症など複数の免疫介在性疾患に対する疾患修飾薬としてベスト・イン・クラスとなる可能性を有する抗CD38抗体です。さらに、当社は、自社創製、社外との提携および事業開発を通じて炎症性疾患(消化器系、皮膚科系、リウマチ性の疾患に加え、厳選した希少血液疾患および腎疾患(アジンマ、mezagitamab(TAK-079))、肝疾患、神経性消化器疾患における機会を探索し、パイプラインの構築を進めております。
[ENTYVIO/エンタイビオ 一般名:ベドリズマブ]
- 2024年4月、当社は、ENTYVIO点滴静注製剤による導入療法後の成人の中等症から重症の活動期クローン病に対する維持療法として、ENTYVIO皮下注射製剤が米国食品医薬品局(FDA)により承認されたことを公表しました。本承認は、VISIBLE2試験(SC CD試験)のデータに基づきます。本試験は、0週および2週時点に非盲検下にてENTYVIOの点滴静注製剤による静脈内投与を2回実施後、6週時点で臨床的改善を達成した、中等症から重症の活動期クローン病成人患者全409例を対象に、ENTYVIO皮下注射製剤による維持療法の安全性と有効性をプラセボと比較して評価した無作為二重盲検臨床第3相試験です。52週時点における長期の臨床的寛解率において、ENTYVIO皮下注射製剤108mgを維持療法として2週間ごとに投与した群では、プラセボ投与群と比較し統計学的に有意に高い結果(ENTYVIO皮下注射群:48%、プラセボ投与群:34%、p<0.01)を示しました。臨床試験において、ENTYVIO皮下注射製剤の安全性プロファイルは、点滴静注製剤の既知の安全性プロファイルと概ね一致していましたが、皮下注射製剤の副作用として注射部位反応(注射部位の紅斑、発疹、そう痒症、腫脹、挫傷、血腫、疼痛、蕁麻疹、浮腫)が追加されました。
[アジンマ 一般名:アパダムターゼ アルファ(遺伝子組換え)/シナキサダムターゼ アルファ(遺伝子組換え)]
- 2024年8月、当社は、先天性血栓性血小板減少性紫斑病(cTTP)の小児および成人患者のADAMTS13欠乏症の治療薬として、欧州委員会(EC)がアジンマを承認したことを公表しました。本承認は、希少疾病用医薬品指定の確認を含むものであり、2024年5月に当社が発表した欧州医薬品評価委員会(CHMP)の肯定的見解に基づきます。本承認は、cTTPを対象とした初の無作為化、比較対照、非盲検、クロスオーバー第3相試験から得られた有効性、薬物動態、安全性および忍容性データの中間解析を含む包括的エビデンスおよび継続試験の安全性および有効性データに基づくものです。本臨床第3相試験のデータは、2024年5月にThe New England Journal of Medicine誌に掲載されました。
- 2025年3月、当社は、アジンマについて、12歳未満の小児cTTP患者への適応拡大に関する製造販売承認事項一部変更承認申請を厚生労働省に行ったことを公表しました。今回の申請は、主に0歳から70歳のcTTP患者(日本人5名を含む)を対象としたグローバル臨床第3相試験である281102試験における安全性および有効性のデータ、およびグローバル臨床第3b相継続試験であるTAK-755-3002試験における安全性および有効性のデータに基づくものです。
[リブマーリ 一般名:マラリキシバット]
- 2025年3月、当社は、回腸胆汁酸トランスポーター阻害薬リブマーリについて、アラジール症候群(ALGS)・進行性家族性肝内胆汁うっ滞症(PFIC)における胆汁うっ滞に伴うそう痒を効能または効果として厚生労働省から製造販売承認を取得したことを公表しました。ALGSは、胆汁うっ滞により、最終的には進行性の肝機能障害を引き起こす稀な遺伝性疾患です。PFICは、肝細胞の胆汁を分泌する能力が低下し、肝細胞内に胆汁の蓄積が起こることにより、進行性の肝疾患に至る稀な遺伝性疾患です。どちらも小児慢性特定疾病や指定難病に指定されています。本承認は、ALGSを対象とした国内臨床第3相TAK-625-3001試験およびPFICを対象とした国内臨床第3相TAK-625-3002試験、ならびに海外で行われた複数の臨床試験の結果に基づくものです。リブマーリは、Mirum Pharmaceuticals, Inc.社が開発した薬剤であり、当社は、2021年9月に日本における独占的開発・販売に関するライセンス契約を締結しました。
[開発コード:TAK-079 一般名:mezagitamab]
- 2024年6月、当社は、持続性もしくは慢性の一次性免疫性血小板減少症(特発性血小板減少性紫斑病:ITP)の患者を対象としたmezagitamabの安全性、忍容性および有効性を評価する臨床第2b相無作為化二重盲検プラセボ対照試験(TAK-079-1004試験)の良好な結果を第32回国際血栓止血学会(International Society on Thrombosis and Haemostasis Congress:ISTH)の口頭Late-Breakthrough Sessionで発表しました。TAK-079-1004試験は、慢性もしくは持続性のITP患者を対象に、3つの用量(100mg、300mgおよび600mg)を週1回、8週間にわたり皮下投与した後に8週間を超えて安全性追跡調査を行い、プラセボと比較評価しました。主要評価項目は、グレード3以上の有害事象、重篤な有害事象、および投与中止に至った有害事象を含む、試験治療下で有害事象を発現した患者の割合です。副次評価項目は、血小板反応、血小板反応の完全寛解、臨床的に意義のある血小板反応、止血血小板反応です。臨床第2b相試験の結果、評価した3つの用量すべてにおいて、mezagitamabの投与により血小板反応がプラセボと比較して大幅に改善することが示されました。Mezagitamab群では、血小板数の迅速かつ持続的な増加(治療閾値50,000/μL以上)が認められ、その効果が最終投与(8週目)から16週目まで8週間持続したことから、血小板反応に対する迅速な効果および治療後の効果が示されました。本試験で新たな安全性シグナルは検出されず、ITP患者においてmezagitamabの良好な安全性および忍容性プロファイルが示され、安全性プロファイルはこれまでに実施されたmezagitamabの試験と一致していました。当社は、ITP患者を対象としたmezagitamabの国際共同臨床第3相試験を2024年度下期に開始する予定です。なお、mezagitamabは米国食品医薬品局(FDA)よりITPを対象にオーファンドラッグ(希少疾病用医薬品)指定を取得し、本プログラムはファストトラック(優先審査)の対象とされております。
- 2025年6月、当社は、完全ヒト免疫グロブリンIgG1モノクローナル抗体mezagitamabが、慢性特発性血小板減少性紫斑病(ITP)を予定される効能・効果として厚生労働省よりオーファンドラッグ(希少疾病用医薬品)指定を取得したことを公表しました。Mezagitamabは血小板数の迅速かつ持続的な改善をもたらすようにデザインされており、国際共同臨床第3相試験が進行中です。
ニューロサイエンス(神経精神疾患)
当社は、高いアンメット・ニーズが存在する神経疾患および神経筋疾患を対象に、革新的治療法に研究開発投資を集中させ、社内の専門知識や外部パートナーとの提携を生かし、革新的なパイプラインを構築しています。当社のニューロサイエンス(神経精神疾患)における重点領域として、オレキシン生物学、希少神経疾患および神経変性疾患に注力しています。オレキシン生物学の関与が示唆される希少な睡眠・覚醒障害およびその他の疾患に対する標準治療の再定義を目指し、オレキシンの可能性を最大限に引き出すために最適化された治療薬ポートフォリオ(oveporexton(TAK-861)、TAK-360など)の開発を推進しています。また、当社のポートフォリオ全体にわたり、疾患生物学の理解、トランスレーショナルなツール、革新的モダリティ、デジタルイノベーションの進展を活用し、治療薬の開発および患者さんへのアクセスを加速させています。
[開発コード:TAK-861 一般名:oveporexton]
- 2024年6月、米国睡眠学会および睡眠研究学会の第38回年次総会であるSLEEP2024において、ナルコレプシータイプ1(NT1)を対象としたoveporextonの臨床第2b相試験の良好な結果を発表しました。NT1患者112名を対象とした無作為化二重盲検プラセボ対照反復投与試験であるTAK-861-2001試験で、主要評価項目と副次評価項目において統計学的に有意かつ臨床的に意義のある改善が示され、有効性は8週間の投与期間にわたり持続しました。主要評価項目の覚醒維持検査(MWT)では、プラセボと比較して本試験で評価したoveporextonのすべての用量で統計学的に有意かつ臨床的に意味のある睡眠潜時の延長が認められました(プラセボとのLS平均差はすべてp≤0.001)。エプワース眠気尺度(ESS)および1週間あたりのカタプレキシー発現率(WCR)を含む主な副次評価項目でも一貫した結果が得られ、眠気およびカタプレキシー(筋緊張の突然の消失)の頻度に関する主観的評価項目がプラセボと比較して顕著に改善しました。本試験を完了した被験者の大部分は長期継続投与(LTE)試験に登録され、一部の患者は投与期間が1年に達しました。Oveporextonの安全性および忍容性は概ね良好であり、治験薬と関連のある重篤な有害事象または有害事象による投与中止はありませんでした。臨床第2b相試験および現在実施中のLTEにおいて、肝毒性や視覚障害の事例は認められていません。主な有害事象は不眠症、尿意切迫、頻尿および唾液分泌過多でした。大部分の有害事象の重症度は軽度から中等度であり、そのほとんどが投与後1~2日以内に発現し、一過性でした。米国食品医薬品局(FDA)は、臨床第2b相試験のデータに基づき、oveporextonをNT1患者の日中の過度の眠気(EDS)治療薬としてブレークスルーセラピーに指定しました。2025年5月、当社はNT1患者におけるoveporextonの臨床第2b相試験データがThe New England Journal of Medicine誌に掲載されたことを公表しました。
[開発コード:TAK-935 一般名:ソチクレスタット]
- 2024年6月、当社は、ソチクレスタットについてSKYLINE試験およびSKYWAY試験のトップラインデータを発表しました。SKYLINE(TAK-935-3001)試験は、難治性のドラベ症候群(DS)患者を対象としてソチクレスタット+標準治療とプラセボ+標準治療を比較評価した臨床第3相多施設共同無作為化二重盲検試験です。ソチクレスタットは、プラセボと比較した、けいれん発作の発現頻度のベースラインからの減少という主要評価項目をわずかに達成しませんでした(p値=0.06)。6つの重要な副次評価項目のうち、ソチクレスタットは16週間の投与期間にわたり、レスポンダーの割合、介護者および医師による全般印象改善尺度-改善の指標、並びに発作強度および持続時間のスケールにおいて臨床的に意義があり、名目上有意な結果を示しました(すべてp値≤0.008)。SKYWAY(TAK-935-3002)試験は、難治性のレノックス・ガストー症候群(LGS)の患者を対象としてソチクレスタット+標準治療とプラセボ+標準治療を比較評価した臨床第3相多施設共同無作為化二重盲検試験です。ソチクレスタットはプラセボと比較して、major motor drop(MMD)発作の発現頻度のベースラインからの減少という新たな主要評価項目を達成しませんでした。SKYLINE試験およびSKYWAY試験では、事前に特定したサブグループの患者において、ソチクレスタットは16週間の投与期間にわたり、主要評価項目および副次評価項目である介護者および医師の全般印象改善尺度-改善、並びに発作強度および持続時間スケールで臨床的に意義があり、名目上有意な治療効果が示されました。SKYLINE試験およびSKYWAY試験のいずれにおいてもソチクレスタットの忍容性は概ね良好であり、これまでの臨床試験と一致する安全性プロファイルが示されました。
- 2025年1月、当社は、ソチクレスタットの開発プログラムを中止する決定を公表しました。本決定は、2024年6月に公表した、ソチクレスタットのDSを対象とした臨床第3相SKYLINE試験およびLGSを対象とした臨床第3相SKYWAY試験が主要評価項目を達成しなかったことに基づいています。6月の公表以降、当社はソチクレスタットのLGS開発プログラムを中止し、米国食品医薬品局(FDA)とソチクレスタットのDSの治療に関する総合的なエビデンスについて協議しました。FDAは、現在の臨床データパッケージではソチクレスタットのDSに対する新薬承認申請(NDA)を支持するための有効性に関する実質的なエビデンスの要件を満たしていないと当社に通知しました。SKYLINE試験およびSKYWAY試験のデータは、ClinicalTrials.govで公開されています。
オンコロジー
オンコロジー領域では、当社の治療薬のポートフォリオへのアクセスを確立し世界中の患者さんの治療に貢献するとともに、将来治療薬となりうるパイプラインの推進に注力しています。研究開発の取り組みにおいては、3つの疾患領域および4つのモダリティに焦点を当てています。当社は胸部、消化器および血液がんに対する治療薬の開発を推し進めており、血液がん領域では、骨髄性腫瘍に対するrusfertide(TAK-121)、elritercept(TAK-226)を含む治療薬ポートフォリオを拡充しています。注力するモダリティには抗体薬物複合体(ADC)、複雑な生物学的製剤、低分子化合物およびガンマ・デルタT細胞療法が含まれます。また、強固な提携ネットワークを活用することで、社内の専門性とグローバル拠点を補完しています。当社は、患者さんを通じて得られるインスピレーションおよびあらゆるイノベーションを活用することで、がんの治癒を目指しております。
注)2024年度第4四半期より、rusfertideはオンコロジーポートフォリオに含まれます。
[アドセトリス 一般名:ブレンツキシマブ ベドチン]
- 2024年6月、当社とファイザー株式会社は、第60回米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会および第29回欧州血液学会(EHA)年次総会において、German Hodgkin Study Group(GHSG)が、アドセトリスと化学療法との併用療法を評価する臨床第3相HD21試験の良好な結果についてレイトブレーキングオーラルプレゼンテーションにて発表することを公表しました。GHSGが発表する4年時点での解析では、欧州における現在の標準治療レジメンと比較して優れた無増悪生存率(PFS)と忍容性の改善が示されました。HD21試験は、臨床第3相無作為化国際共同前向き非盲検試験であり、IIb/III/IV期古典的ホジキンリンパ腫と新たに診断された患者を対象に、アドセトリスとエトポシド、シクロホスファミド、ドキソルビシン、ダカルバジンおよびデキサメタゾンの併用療法(BrECADD)を、標準治療であるブレオマイシン、エトポシド、ドキソルビシン、シクロホスファミド、ビンクリスチン、プロカルバジンおよびprednisone(eBEACOPP)と比較して評価するデザインです。ASCOにおける発表では、GHSGが実施したHD21試験の4年PFS解析の詳細が発表されます。48ヵ月後、BrECADDはBEACOPPと比較して優れた有効性を示しました[BrECADD群PFS:94.3%、eBEACOPP群PFS:90.9%、ハザード比(HR):0.66(95% CI:88.7-93.1; p<0.035)]。3年時点の解析ですでに報告したように、BrECADDによる治療はBEACOPPと比較して治療関連罹患(TRMB)の発現率の有意な低下(n=738、42% vs 59%、p<0.001)ならびに臨床的に意味のある有害事象の減少とも関連していました。BrECADD群の患者におけるアドセトリスの安全性プロファイルは、承認された他のアドセトリス併用レジメンと一致しており、安全性に関して新たなシグナルは認められませんでした。
- 2025年6月、当社は、欧州委員会(EC)より、リスク因子を有するⅡb期、Ⅲ期およびⅣ期の未治療の成人ホジキンリンパ腫患者に対するアドセトリスとエトポシド、シクロホスファミド、ドキソルビシン、ダカルバジンおよびデキサメタゾン(BrECADD)の併用療法の承認を取得したことを公表しました。本承認は、2025年4月の欧州医薬品評価委員会(CHMP)による肯定的見解に基づくものです。BrECADDとして知られるホジキンリンパ腫のフロントライン治療におけるアドセトリス併用療法の承認は、無作為化臨床第3相HD21試験の結果に基づきます。本試験では、欧州における標準治療であるブレオマイシン、エトポシド、ドキソルビシン、シクロホスファミド、ビンクリスチン、プロカルバジン、プレドニゾンの増量レジメン(eBEACOPP)と比較して、BrECADDが治療関連合併症率(TRMB)において有意に優れた安全性を示し、無増悪生存率(PFS)の非劣性を示したことにより、安全性および有効性の複合主要評価項目を達成しました。
[FRUZAQLA/フリュザクラ 一般名:フルキンチニブ]
- 2024年6月、当社は、フッ化ピリミジン系抗悪性腫瘍剤、オキサリプラチン、およびイリノテカンを含む化学療法、抗VEGF療法ならびに抗EGFR療法による治療歴があり、トリフルリジン・チピラシル塩酸塩配合剤又はレゴラフェニブのいずれかによる治療中に進行した、もしくはこれらに不耐の転移性大腸がん(mCRC)成人患者に対する単剤療法として、FRUZAQLAが欧州委員会によって承認されたことを公表しました。本承認は、国際共同臨床第3相試験であるFRESCO-2試験の結果に基づくものです。
- 2024年9月、当社は、血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)1/2/3に対して選択性を有する経口のチロシンキナーゼ阻害剤フリュザクラカプセル1mg/5mgについて、がん化学療法後に増悪した治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌を効能または効果として、厚生労働省より製造販売承認を取得したことを公表しました。本承認は主に国際共同臨床第3相試験であるFRESCO-2試験の結果に基づくものです。
[ニンラーロ 一般名:イキサゾミブ]
- 2024年8月、当社は、ニンラーロの剤形追加として、厚生労働省よりニンラーロカプセル0.5mgの製造販売承認を取得したことを公表しました。本剤形追加により、多発性骨髄腫における維持療法において、ニンラーロの低用量製剤による新たな治療選択肢(1.5mg用量(0.5mgカプセル×3))を提供することができ、従来よりも低用量の用量調節が可能となることで患者の状態に合わせた、より適切な用量調節の実現を目指すことが可能になります。本承認は、主に国際共同臨床第3相試験であるTOURMALINE-MM3試験ならびにTOURMALINE-MM4試験の結果に基づくものです。
[カボメティクス 一般名:カボザンチニブ]
- 2024年9月、当社は、新規ホルモン療法(NHT)による1回の前治療歴があり、測定可能な骨盤外リンパ節腫大を有する去勢抵抗性前立腺癌(mCRPC)患者を対象に、カボザンチニブと免疫チェックポイント阻害薬であるアテゾリズマブの併用療法と2剤目のNHTを比較した、Exelixis社が主導する国際共同臨床第3相試験(CONTACT-02試験)の全生存期間(OS)に関する最終解析結果が2024年欧州腫瘍学会(European Society for Medical Oncology Congress:ESMO 2024)において発表されたことを公表しました。CONTACT-02試験の主要評価項目は、無増悪生存期間(PFS)およびOSでした。追跡期間中央値24.0ヵ月において、OSの最終解析では、カボザンチニブとアテゾリズマブの併用療法に統計学的に有意な差はないものの、改善傾向が示されました(ハザード比:0.89、95%信頼区間:0.72-1.10、p=0.296)。本試験では、複数の集団(骨転移を有する患者集団、および肝転移を有する患者集団)において特にOSの延長が示唆されました。
[ベクティビックス 一般名:パニツムマブ]
- 2024年11月、当社は、ベクティビックスについて、KRAS G12C変異陽性の治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸がんに対し、KRAS G12C阻害剤であるルマケラス(ソトラシブ)との併用療法として、日本国内における効能又は効果の追加に係る製造販売承認事項一部変更承認申請を行ったことを公表しました。本申請は、KRAS G12C変異陽性の既治療の転移性の結腸・直腸がん患者を対象として、ベクティビックスと、ルマケラスの2用量(240mgまたは960mg)を併用投与した際の有効性および安全性を評価する、臨床第3相、国際共同、多施設共同、ランダム化、非盲検、実薬対照試験(CodeBreaK 300試験)に基づくものです。
[開発コード:TAK-121 一般名:rusfertide]
- 2025年3月、当社とProtagonist Therapeutics社は、臨床第3相VERIFY試験の良好なトップライン結果を公表しました。本試験は瀉血依存の真性多血症(PV)患者の標準治療に追加する治療として、被験者をrusfertide群またはプラセボ群に無作為に割り付け実施されました。Rusfertideは、米国食品医薬品局(FDA)から希少疾病用医薬品(オーファンドラッグ)指定およびファストトラック指定を受けている、ファースト・イン・クラスのヘプシジン模倣薬として開発中のペプチド治療薬です。
- 2025年6月、当社とProtagonist Therapeutics社は、臨床第3相VERIFY試験の詳細な結果を第61回米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会のプレナリーセッションにおいて発表したことを公表しました。本試験は、主要評価項目である臨床的奏功割合を達成しました。臨床的奏効とは、20週から32週の間に瀉血の適格性がないことと定義されました。Rusfertideと現在の標準治療を併用した患者の76.9%が臨床的奏効を達成し、プラセボと現在の標準治療を併用した群では32.9%でした(p<0.0001)。Rusfertide群で観察された反応は、リスクの有無や併用されている細胞減少療法の種類にかかわらず、すべてのサブグループで一貫していました。さらに、VERIFY試験において、rusfertide群はプラセボ群と比較し主な副次評価項目すべてで統計学的に有意な結果を示しました。欧州連合(EU)規制当局に事前指定された主要評価項目でもある、Rusfertide群の患者1人あたりの平均瀉血回数は0.5回であり、プラセボ群の患者1人あたりの平均瀉血回数は1.8回でした(0~32週目;p<0.0001)。Rusfertide群の患者の27%が0週から32週の間に瀉血を必要とした一方、プラセボ群では78%でした。Rusfertide群における0週から32週の平均瀉血回数は、リスクの有無や併用されている細胞減少療法の使用を含むすべてのサブグループにおいて、プラセボ群と比較して減少していました。事前に設定された他の3つの主な副次評価項目であるヘマトクリット値のコントロールおよびPROMIS Fatigue SF-8aとMFSAF TSS-7を使用した患者報告アウトカムも統計学的な有意差をもって達成されました。Rusfertideは概ね良好な忍容性を示し、大半の有害事象は低グレードであり重篤ではなく、rusfertideに関係すると判定された重篤な有害事象は報告されませんでした。主要評価項目の分析の時点で、rusfertide群とプラセボ群の比較においてがんのリスク増加のエビデンスは認められませんでした。最も頻度が高かった治療関連有害事象は、局所注射部位反応(55.9%)、貧血(15.9%)、疲労(15.2%)でした。
その他の希少疾患品目
当社の研究開発は、3つの重点疾患領域(消化器系・炎症性疾患、ニューロサイエンス(神経精神疾患)、オンコロジー)にわたり、希少疾患および有病率がより高い疾患のいずれにおいても、未だ有効な治療法が確立されていない高い医療ニーズ(アンメット・メディカル・ニーズ)が存在する疾患に注力しております。その他の希少疾患品目においては、遺伝性血管性浮腫に対するタクザイロなどの既発売品に加え、高いアンメット・メディカル・ニーズが存在する複数の疾患に焦点をあて取り組んでおります。希少血液疾患においては、アドベイト、アディノベイト/ADYNOVIを通じて、出血性疾患治療における現在のニーズへ対応することに注力しております。また、リブテンシティにおいては、移植後サイトメガロウイルス(CMV)感染/感染症の治療を再定義することを目指しております。当社は、希少疾患の患者さんに対し革新的な医薬品を届けるという当社のビジョンを実現するための取り組みに注力します。当社は、希少疾患において当社が有する専門能力の活用が可能であり、希少疾患に対する当社のコミットメントおよびリーダーシップを高める可能性のある、後期開発段階の事業開発機会の探索を今後も継続する予定です。
[リブテンシティ 一般名:マリバビル]
- 2024年6月、当社は、リブテンシティ錠200mgについて、臓器移植(造血幹細胞移植も含む)における既存の抗サイトメガロウイルス(CMV)療法に難治性のCMV感染症を効能または効果として、厚生労働省から製造販売承認を取得したことを公表しました。本承認は、主にHSCTまたはSOT後で既存の抗CMV治療に難治性のCMV感染・感染症を有する患者を対象とした海外第3相非盲検試験(SOLSTICE 試験)および日本人の造血幹細胞移植(HSCT)または固形臓器移植(SOT)後でCMV 感染・感染症を有する患者を対象とした国内第3相非盲検試験に基づくものです。
[タクザイロ 一般名:ラナデルマブ]
- 2025年2月、当社は、青年期(12歳以上)および成人の遺伝性血管性浮腫(HAE)患者を対象に、タクザイロの2mLプレフィルドペン皮下注射製剤が追加の皮下投与選択肢として欧州医薬品庁(EMA)により承認されたことを公表しました。タクザイロは現在、150mgプレフィルドシリンジ製剤、300mgプレフィルドシリンジ製剤および300mgバイアル製剤が承認されています。追加の皮下注射の選択肢となるタクザイロ300mgプレフィルドペン製剤の承認は臨床試験の結果に基づきます。
[ボンベンディ 一般名:フォン・ヴィレブランド因子(遺伝子組み換え)]
- 2025年6月、当社は、ボンベンディについて、18歳未満のフォン・ヴィレブランド病(VWD)患者に対する用法・用量追加に係る製造販売承認事項一部変更承認申請を厚生労働省に行ったことを公表しました。本申請は、主に海外臨床第3相非盲検試験(071102試験)および海外臨床第3b相継続投与試験(SHP677-304試験)における18歳未満のVWD患者の出血時ならびに周術期に関する安全性および有効性のデータに基づくものです。
血漿分画製剤
当社は、血漿分画製剤(PDT)に特化したPDTビジネスユニットを設立し、血漿の収集から製造、研究開発および商用化まで、エンド・ツー・エンドのビジネスの運営に注力しております。本領域では、様々な希少かつ複雑な慢性疾患に対する患者さんにとって生命の維持に必要不可欠な治療薬の開発を目指しております。本領域に特化した研究開発部門は、既発売の治療薬の価値最大化、新たな治療ターゲットの特定および血漿収集から製造に至るまで血漿分画製剤のバリューチェーン全体にわたる効率性の最適化という役割を担っております。短期的には、当社の幅広い免疫グロブリン製剤ポートフォリオ(ハイキュービア、キュービトル、GAMMAGARD LIQUIDおよびGAMMAGARD S/D)における効能追加、地理的拡大および総合的な医療テクノロジーの活用を通じたより良い患者体験を追求しております。また、当社は、グローバルに販売している20種類以上にわたる治療薬ポートフォリオに加え、20%促進型皮下注用免疫グロブリン製剤(TAK-881)および低IgA含有免疫グロブリン液剤(TAK-880)といった次世代の免疫グロブリン製剤の開発、およびその他の早期段階の治療薬候補(高シアル化免疫グロブリン(hsIgG)を含む)の開発を行っております。
[ハイキュービア 一般名:遺伝子組換えヒトヒアルロニダーゼ含有皮下注(ヒト)免疫グロブリン10%(開発コード:TAK-771)]
- 2024年6月、当社は、慢性炎症性脱髄性多発根神経炎(CIDP)患者におけるハイキュービアの安全性および有効性を評価する長期継続試験である臨床第3相ADVANCE-CIDP3試験のデータを発表しました。本結果はハイキュービアの良好な長期安全性および忍容性と低い再発率を示しており、CIDPに対する維持療法としての使用を支持しております。これらの結果は、末梢神経学会(PNS)年次総会のポスターセッションで発表される予定です。ADVANCE-CIDP3試験はCIDPを対象とした臨床試験として、これまでで最長の延長試験です。本試験はADVANCE-CIDP1試験から85名の患者を登録し、主要評価項目は安全性、忍容性および免疫原性でした。ハイキュービアの投与期間中央値は33カ月(0カ月から77カ月)で、全追跡期間の累積は220人年でした。ハイキュービアの安全性および忍容性プロファイルは既知のプロファイルと一致しており、新たな安全性に関する懸念は認められませんでした。
- 2024年12月、当社は、ハイキュービアについて、無又は低ガンマグロブリン血症を効能又は効果として、厚生労働省から製造販売承認を取得したことを公表しました。無又は低ガンマグロブリン血症は、原発性免疫不全症(PID)または続発性免疫不全症(SID)による抗体が無いまたは減少した状態で、重篤な感染症の再発リスクが増加することを特徴とする疾患です。本承認は、主に有効性、安全性、忍容性および薬物動態を評価するために実施された、日本人のPID患者を対象とした2つの主要な非盲検非対照臨床第3相試験(TAK-771-3004試験、TAK-771-3005試験)に基づくものです。また、本製造販売承認申請の評価資料には、北米のPID患者を対象とした2つの海外臨床第3相試験(160603試験、160902試験)も含まれました。
- 2025年6月、当社は、ハイキュービアについて、CIDP及び多巣性運動ニューロパチー(MMN)の運動機能低下の進行抑制(筋力低下の改善が認められた場合)の適応追加に係る製造販売承認事項一部変更承認を厚生労働省から取得したことを公表しました。本承認は、日本人のCIDP患者およびMMN患者を対象とした国内臨床第3相試験(TAK-771-3002試験)、ならびにCIDP患者を対象とした2つの海外臨床第3相試験(161403試験および161505試験)に基づくものです。
[献血グロベニン-I 一般名:静注(ヒト)免疫グロブリン]
- 2025年2月、当社は献血グロベニン-I 10%静注について、厚生労働省に対し製造販売承認申請を行ったことを公表しました。本剤は、国内で承認を得ている当社の献血グロベニン-I静注用の剤型を凍結乾燥製剤から液状製剤へ改良し、有効成分濃度を既存製剤の5%から10%へと高濃度化した静注用人免疫グロブリン製剤です。有効成分濃度の高濃度化により、投与液量が減少し、投与時間が短縮するとともに、より少ない水分負荷での大量療法が可能になることが期待されます。
ワクチン
ワクチンでは、イノベーションを活用し、デング熱(QDENGA)、新型コロナウイルス感染(COVID-19)(ヌバキソビッド筋注)など、世界で最も困難な感染症に取り組んでおります。当社パイプラインの拡充およびプログラムの開発に対する支援を得るために、日本の政府機関およびWHO(世界保健機関)、PAHO(Pan American Health Organization)、Gavi(Global Alliance for Vaccines and Immunization)を含む主要な世界的機関とのパートナーシップを締結しております。これらのパートナーシップは、当社のプログラムを実行し、それらのポテンシャルを最大限に引き出すための重要な能力を構築するために必要不可欠です。
[ヌバキソビッド筋注 一般名:組換えコロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチン]
- 2024年9月、当社は、2024年4月に製造販売承認申請を行ったヌバキソビッド筋注1mLについて、SARS-CoV-2による感染症の予防を効能または効果として厚生労働省から製造販売承認を取得したことを公表しました。ヌバキソビッドは、オミクロン株JN.1系統に対応した1価ワクチンです。本製剤は、パンデミック下のまん延予防の緊急の必要性に応じた特例臨時接種と異なり、1日に多数の方に接種することを想定しない場合の流通および使用に適した1回0.5mL 接種2回分のバイアル製剤です。本承認は、抗原株の変更に係る臨床および品質のデータに加え、ヌバキソビッドがJN.1およびKP.2、KP.3を含むその下位系統に対しても中和抗体を誘導することが認められた非臨床データに基づきます。
パイプラインの現状
当社グループの各疾患領域および事業分野における研究開発活動の概要は、以下に示すとおりです。後出する主要な疾患領域および事業分野において開示されている当社グループパイプライン上の治療薬の候補物質は、それぞれ異なる開発段階にあり、現在開発中の候補物質の開発中止や新たな候補物質の臨床ステージ入りにより、パイプラインの内容は今後変わる可能性があります。以下に示す候補物質が製品として上市に至るかは、前臨床試験や臨床試験の結果、様々な医薬品の市場動向、規制当局からの販売承認取得の有無など、様々な要因に影響されます。本表では当社が承認取得を目指しているパイプラインの主な効能および2024年度中に承認されたパイプラインを掲載しています。掲載している効能以外にも、将来の効能・剤型追加の可能性を検討するために臨床試験を行っています。以下の表記載は、米国・欧州・日本・中国に限定していますが、当社グループはその他の地域でも開発活動を行っています。以下、「グローバル」の表記は、米国・欧州・日本・中国を指します。下記の表にあるパイプラインのモダリティは、「低分子」、「ペプチド・オリゴヌクレオチド」、「細胞治療」、「生物学的製剤他」のいずれかに分類しています。
2025年5月8日(決算発表日)における当社グループの消化器系・炎症性疾患領域のパイプラインは以下のとおりです。なお、決算発表日以降の主な開発の進捗は注釈に記載しています。
(注1)KMバイオロジクス社との提携
(注2)Mirum社との提携
(注3)Arrowhead Pharmaceuticals社との提携
(注4)Zedira社およびDr. Falk Pharma社との提携、開発はDr. Falk Pharmaが主導
(注5)COUR Pharmaceuticals社との提携
2025年5月8日(決算発表日)における当社グループのニューロサイエンス(神経精神疾患)領域のパイプラインは以下のとおりです。なお、決算発表日以降の主な開発の進捗は注釈に記載しています。
(注1)Alexion社(AstraZeneca社の子会社)との提携
(注2)Denali Therapeutics社との提携、開発は同社が主導
2025年5月8日(決算発表日)における当社グループのオンコロジー領域のパイプラインは以下のとおりです。なお、決算発表日以降の主な開発の進捗は注釈に記載しています。
(注1)HUTCHMED社との提携
(注2)Pfizer社との提携
(注3)German Hodgkin Study Groupが実施したHD21試験のデータに基づく申請
(注4)2025年6月、当社は欧州委員会(EC)より承認を取得したことを公表
(注5)Protagonist Therapeutics社との提携、開発は同社が主導
(注6)Keros Therapeutics社との提携
(注7)ElriterceptのMDSを対象とした試験は被験者登録中
(注8)AbbVie社との提携、プラチナ製剤感受性卵巣がんを対象としたグローバルP-Ⅲ試験は同社が主導
2025年5月8日(決算発表日)における当社グループのその他の希少疾患品目のパイプラインは以下のとおりです。なお、決算発表日以降の主な開発の進捗は注釈に記載しています。
(注1)GSK社との提携
(注2)2025年6月、当社は18歳未満の患者に対する用法・用量追加に係る申請を厚生労働省に行ったことを公表しました。
2025年5月8日(決算発表日)における当社グループの血漿分画製剤のパイプラインは以下のとおりです。なお、決算発表日以降の主な開発の進捗は注釈に記載しています。
(注1)Halozyme社との提携
(注2)2025年6月、当社は、本適応追加に係る製造販売承認事項一部変更承認を厚生労働省より取得したことを公表しました。
2025年5月8日(決算発表日)における当社グループのワクチンのパイプラインは以下のとおりです。なお、決算発表日以降の主な開発の進捗は注釈に記載しています。
(注1)Novavax社との提携
オプション契約:当社が臨床開発かつ/または商業化を将来行う可能性がある契約上の権利を保有するその他のパイプラインの一部
2025年5月8日(決算発表日)における、当社が臨床開発かつ/または商業化を将来行う可能性がある契約上の権利を保有するその他のパイプラインの一部は以下のとおりです。なお、決算発表日以降の主な開発の進捗は注釈に記載しています。
(注1)HQP-1351/olverembatinibは参考情報としてのみ掲載。特定の独占的ライセンスを取得するためのオプション権を当社が行使(規制当局による承認を含む慣習的な条件を満たす必要がある)するまでの間、Ascentage Pharma社は本候補物質を所有し単独で臨床開発を実施
(注2)ACI-24.060は参考情報としてのみ掲載。特定の独占的ライセンスを取得するためのオプション権を当社が行使(規制当局による承認を含む慣習的な条件を満たす必要がある)するまでの間、AC Immune社は本候補物質を所有し単独で臨床開発を実施
パイプラインから削除されたプロジェクト
2024年4月1日以降に中止したプロジェクトは以下のとおりです。
ライセンスおよび共同研究開発契約
①ライセンスおよび共同研究開発契約の概要
当社は通常の事業において、製品開発および商業化のために第三者とライセンス契約や業務提携を行うことがあります。当社の事業は、こうした個々の契約に大きく依存するものではありませんが、これらの契約は全体として、社内外のリソースを組み合わせて活用することで新製品の開発や上市を可能にするという当社の戦略の一部を構成しています。これまで製品上市に寄与してきた契約の一部に関する概要は以下の通りであります。
- アドセトリス:2009年、当社はPfizer Inc.(Pfizer社)(2023年12月にPfizer社が買収したSeagen, Inc.の権利を継承)と、アドセトリスのグローバル共同開発および世界各国(同社が本剤を販売している米国、カナダを除く)における販売の提携契約を締結しました。本提携関係に基づき、当社による開発および販売の進捗に関してマイルストン支払いを行いました。また、契約対象地域におけるアドセトリスの正味売上高に基づき10%台前半から20%台半ばの割合で段階的なロイヤルティを支払います。当社とPfizer社は、本提携関係のもとで実施される選択された開発活動の費用を均等に共同で負担しますが、2025年3月31日現在、当社のアドセトリス提携契約に基づく販売マイルストンの残存支払見込額はありません。本提携関係は、いずれか一方の当事者による正当な事由または両者の合意をもって解除することができます。当社は本提携関係を自由に解除でき、Pfizer社は一定の状況において本提携関係を解除できます。両社により提携解除がなされなかった場合、本契約は全ての支払い義務の満了をもって自動的に終了します。
- FRUZAQLA/フリュザクラ:2023年、当社はHUTCHMED Limited(HUTCHMED社)と、フルキンチニブの全世界(中国本土、香港およびマカオを除く)を対象とした開発、商業化および製造に関する独占的ライセンス契約を締結しました。FRUZAQLA/フリュザクラは、米国、欧州、日本および当社がライセンス権を有するその他の国々で承認を取得しています。本ライセンス契約に基づき、当社による開発、規制上および販売の進捗に関するマイルストンに加え、正味売上高に応じたロイヤルティを支払います。本契約は、当社がライセンス権を有する地域において最後のライセンス品のロイヤルティ期間の満了まで継続しますが、それ以前に終了する場合もあります。当社は書面通知により任意でライセンス契約を終了することが可能であり、またいずれの当事者も正当な事由がある場合にライセンス契約を終了することが可能です。
- トリンテリックス:2007年、当社はH. Lundbeck A/S(ルンドベック社)とライセンス、開発、供給および販売契約を締結し、同社の保有する気分障害・不安障害治療薬パイプライン上の複数の化合物について米国および日本における独占的な共同開発および共同販売権を取得しました。2024年7月、ルンドベック社は、当社が米国におけるトリンテリックスの正味売上高に基づきルンドベック社へロイヤルティを支払うことを定めた契約の変更について合意したことを公表しました。本契約変更により、ルンドベック社との共同販売および同社による開発資金の提供は終了しました。本契約は無期限に存続しますが、両者の合意または正当な事由をもって解除されます。
②将来に向けた研究プラットフォームの構築/研究開発における提携の強化
自社の研究開発機能向上への注力に加え、社外パートナーとの提携も、当社研究開発パイプライン強化のための戦略における重要な要素の一つです。社外提携の拡充と多様化に向けた戦略により、様々な新製品の研究に参画し、当社が大きな研究関連のブレイクスルーを達成する可能性を高めます。
- 2024年4月、当社と公益財団法人がん研究会(がん研究会)は、がん領域の開発提携に関する契約を締結したことを公表しました。当社とがん研究会は、本契約に基づき、グローバル早期臨床試験の推進や橋渡し研究(トランスレーショナルリサーチ・リバーストランスレーショナルリサーチ)を推進すること等を目的として、双方の強みを活かした交流を行い、現在進行している医薬品開発における必要な情報共有や協議を行っていきます。これにより、優れた画期的な抗がん剤を創出し、いち早くがん患者とその家族の元にお届けすることを目指します。
- 2024年4月、当社、アステラス製薬株式会社(アステラス製薬)および株式会社三井住友銀行は、日本発の革新的な医薬品の創出に向けた創薬シーズのインキュベーションを行う合弁会社の設立に関する基本合意契約を締結したことを公表しました。3社は合弁会社の設立に加えて、当社およびアステラス製薬で培われたグローバル創薬研究開発のノウハウに基づいたサポートを合弁会社に提供し、新薬開発のオープンイノベーションならびに創薬シーズの社会実装の促進ならびに革新的な医薬品開発を行うスタートアップ企業創出につなげます。合弁会社は、設立後、国内のアカデミア・製薬企業・スタートアップ企業などが有する有望な創薬シーズへのアクセスをはじめ、共同研究等を通じてインキュベーション活動を開始予定です。
- 2024年5月、当社とAC Immune SA(AC Immune社)は、AC Immune社がもつ毒性アミロイドβ(Aβ)を標的とする能動免疫療法に関する全世界の独占的オプションとライセンス契約を締結したことを公表しました。本契約には、AC Immune社がアルツハイマー病治療薬として開発中のACI-24.060が含まれます。ACI-24.060は、抗Aβ能動免疫療法候補薬で、 プラークの形成やアルツハイマー病を進行させると考えられている毒性Aβに対する強力な抗体反応を誘導するように設計されております。ACI-24.060は、脳内のプラークを除去し、かつプラーク形成を効果的に抑制することで、アルツハイマー病の進行を遅らせる可能性があります。ACI-24.060については現在、前駆期アルツハイマー病の被験者とダウン症候群の成人患者を対象に被験薬の安全性、忍容性と免疫原性を評価する無作為化二重盲検プラセボ対照臨床第1b/2相試験(ABATE試験)を実施しております。AC Immune社は、ABATE試験を完了させる責任を負います。当社がオプションを行使した場合、当社はオプション行使以降の臨床開発を当社の費用負担で行い、世界各地での申請業務と全世界での商業化の責任を負います。
- 2024年6月、当社はAscentage Pharma社とolverembatinibの独占的ライセンスを獲得するためのオプション契約を締結したことを公表しました。Olverembatinibは、慢性骨髄性白血病(CML)およびその他の血液がんを対象に現在開発が進められており、ベスト・イン・クラスとなりうる経口の第三世代BCR-ABLチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)です。当社がオプションを行使した場合、中国本土、香港、マカオ、台湾およびロシア以外の全地域でolverembatinibの開発および商業化に関する全世界的な権利を有することになります。本契約の一環として、Ascentage Pharma社は引き続きライセンスオプション行使前のolverembatinibのすべての臨床開発について単独で責任を負います。Olverembatinibは現在、TKI抵抗性の慢性期CML(CP-CML)またはT315I変異を有する移行期CML(AP-CML)の成人患者、および第一世代および第二世代TKIに抵抗性および/または不耐容を示すCP-CML成人患者の治療薬として、中国で承認・販売されております。
- 2024年12月、当社は、Keros Therapeutics社とelriterceptの中国本土、香港、マカオを除く全世界での開発、製造、商業化に関する独占的なライセンス契約を締結したことを公表しました。Elriterceptは、骨髄異形成症候群(MDS)および骨髄線維症(MF)など一部の血液がんに関連する貧血を治療するために設計された、後期開発段階のアクチビン阻害剤です。Elriterceptは、貧血関連疾患において重要な役割を果たすと考えられているアクチビンAおよびBタンパク質を標的としています。現在2つの臨床第2相試験が進行中であり、1つはvery lowリスク、lowリスク、intermediateリスク MDS患者に対する試験、もう1つはMF患者に対する試験です。very lowリスク、lowリスク、intermediateリスク MDSの輸血依存性貧血の成人患者に対するelriterceptの評価を行う臨床第3相RENEW試験は、まもなく登録を開始します。当社は、これらのがんにおける患者層、治療全体においてelriterceptを評価する予定です。Elriterceptは米国食品医薬品局(FDA)から、very lowリスク、lowリスク、intermediateリスク MDSの治療開発に対して、ファストトラック指定を受けています。
- 2024年12月、当社および東北大学創薬戦略推進機構は、革新的な臨床試験ネットワーク構築と利活用を目的とした戦略的連携を開始したことを公表しました。本戦略的連携は、2024年10月から2027年9月までの3年間で臨床開発の効率化と患者の医療アクセス向上を同時に実現することを目指しています。東北大学病院は、医療データ基盤の構築や統合、また各種解析のためのデジタルツール開発等を行い、地域医療ネットワークや、そこに蓄積される医療関連データを臨床開発で利活用します。これにより、当社が主導する臨床試験への参加に適した患者の特定と登録、当社が主導する臨床試験への参加に適した患者への機会の提供が迅速化することが期待されます。
- 2025年3月、当社は、Blackstone Life Sciences(BXLS社)とmezagitamab(TAK-079)の開発資金調達契約を締結しました。本契約に基づき、当社は、2026年3月期から2029年3月期までの間に、免疫性血小板減少症(ITP)およびIgA腎症の臨床第3相試験の共同資金として、最大300百万米ドルを受領します。当社は、研究開発費の発生に応じて当該資金を研究開発費の減額として認識します。全てのマイルストンを達成した場合、BXLS社は、規制当局による承認に関するマイルストン最大240百万米ドル、および累計売上に基づくマイルストン最大300百万米ドルを受領する権利を有します。加えて、商業化された後、BXLS社は米国における売上に対するロイヤルティを受領する権利を有します。
③研究開発における提携
下表では、「①ライセンスおよび共同研究開発契約の概要」以外の、研究開発における当社の提携および外部化提携を記載しており、全ての共同研究開発活動を記載しているものではありません。「内容/目的」欄の記述は、別途記載されていない限り契約締結時点のものを示しています。
消化器系・炎症性疾患領域
ニューロサイエンス(神経精神疾患)領域
オンコロジー領域
血漿分画製剤
ワクチン
その他/複数の疾患領域
知的財産
特許や登録商標を用いて可能な限り自社の製品や技術を守ることは、当社グループの事業戦略において重要な部分を占めています。当社グループが市場競争力を維持し高めるためには、営業秘密、当社独自のノウハウ、技術的イノベーションおよび第三者との契約の取り決めが欠かせません。当社がビジネス上の成功を収めることが出来るかどうかは、強固な特許を取得し行使する能力や、営業秘密を保護し続ける能力、第三者の知的財産権を侵害することなく事業を行う能力、付与されたライセンスの条件を遵守する能力に依存する場合があります。新薬の開発は長期間にわたり、研究開発は多くの費用を必要とします。また、治療薬候補のうち上市されるものはごくわずかであることから、知的財産の保護は新薬の研究開発への投資の回収において重要な役割を担っています。
当社グループは米国、日本、欧州の主要国において可能な限り当社独自の技術の特許保護を求めていきます。その他の国々についても、可能な国々において、選別したうえで特許保護を求めていきます。いずれの場合にも特許保護自体を取得するか、ライセンサーを通じて特許出願をサポートするよう努めています。特許は、当社グループが使用する技術を保護するための主要な手段です。特許は、特許期間中の医薬品に関する発明に基づく他社による製造、使用、販売、販売の提示を排除する権利を特許権者に付与します。当社グループのバイオ医薬品を保護するために、有効成分をカバーする物質特許、薬の用途、製造方法、製剤に関する特許等、様々な種類の特許を使用しています。
当社グループの医薬品(特に、低分子化合物医薬品)は、主に物質特許によって保護されています。物質特許の存続期間終了をもって当該医薬品の市場独占権は失われる場合がありますが、その後も当該物質の用途、用法、製造方法、新規組成物または剤型に関する特許等の非物質特許によって、商業利益が保護されることがあります。物質特許が満了した場合でも、各国の関連法規制によるデータ保護制度または市場の保護により対象製品が保護されることもあります。
米国では、原則として最も早い通常の特許出願日から20年で特許は満了しますが、米国特許商標庁の審査遅延による特許の発行遅延があった場合は特許期間の調整が行われる可能性があります。また、製品、製品を使用した治療法、製品の製造方法に関する米国の医薬特許は、米国食品医薬品局(FDA)による製品の承認審査期間に応じて特許期間延長の対象となる場合があります。このような場合の存続期間の延長は5年を上限としており、製品の承認取得から14年を超える延長は認められません。FDAの遅延に基づく期間延長が認められるのは、1製品につき1件の特許のみです。FDAは、新規化合物またはオーファンドラッグ(希少疾病用医薬品)に対しては、特許による独占権に加えて、データあるいは市場の独占権を追加付与することがあり、これらは既にある特許保護期間と並行して存続します。データ保護規制またはデータ独占権は、ジェネリック医薬品を発売し得る競合他社が、先発品の安全性および有効性を確立する際にスポンサーが作成した臨床試験データを新規化合物については5年間、オーファンドラッグについては7年間、またはバイオ医薬品については12年間は使用できないようにするものです。市場独占権は、同じ薬剤を同じ適応症で販売することを禁止するものです。
日本では、有効成分については、特許庁により特許が付与されます。患者さんの疾患の治療・診断方法に関する特許請求項は日本では特許の対象となりませんが、特定の疾患、適応症の治療に使用する医薬組成物に関する特許請求項は、特許の対象となります。日本では原則として出願より20年で特許は満了します。医薬特許は、医療品製造承認取得までに要した時間により、5年を限度として延長されることがあります。米国と異なり、日本では1製品につき1つ以上の特許を延長することができます。また、日本では、医薬品の安全性と効能を確認する再審査制度を設けており、その期間は新有効成分含有医薬品については8年、新効能・新医療用配合剤については4年から6年、オーファンドラッグについては10年となっています。
欧州連合(EU)では、欧州特許庁(EPO)または欧州各国の国家特許庁で特許を申請することができます。EPOの制度では、EU全体および英国、スイス、トルコ等のいくつかのEU非加盟国での特許を一括申請することができます。EPOが特許を付与すれば、特許権者が指定する国々において特許が有効となります。特許権者の要請により、統一特許裁判所(UPC)協定に批准した単一特許(UP)制度に参加しているEU加盟国の領域については単一効特許が認められています。EPOまたは欧州諸国のいずれかが認める特許の存続期間は、原則として出願から20年です。医薬品の特許は、補充的保護証明書(SPC)制度のもと、さらに追加の独占期間を付与されます。SPCは、特許権者が欧州医薬品庁または各国の規制当局から販売承認を受けるのに要した時間を補償する制度です。SPCによる特許期間の最長の延長期間は5年であり、欧州で最初の販売承認を取得した日から最長15年まで特許期間を延長することができます。認可された小児臨床試験計画(PIP)によるデータが提出されたオーファン以外の製品であれば、その医薬品に係るSPCのさらなる6ヶ月の小児延長が認められます。SPC制度を含め、承認後の特許は、各国の法制度により運用されています。特許およびSPCに関する規制はそれぞれ欧州特許庁およびEUのレベルで作られましたが、国ごとの運用の違いにより、例えば、EU各国の国内裁判所で無効申立てされた場合など、必ずしも同じ結果にはつながりません。また、EUは承認されたヒト用医薬品につき、特許保護と並行してデータ独占権を与えています。現在承認されている医薬品に関する制度は、通常「8+2+1」と呼ばれています。これは、まず初めに競合他社が関連データに依拠することができないデータ保護期間が8年間、続いて競合他社が販売承認申請のために当該データを使用できるものの、競合品を上市することができない市場独占期間が2年間、さらに、スポンサーが最初のデータ保護期間8年間の間に、他の治療薬が存在しない適応症か「既存治療薬に比べて有意な臨床的有効性」が認められる新たな適応症を追加した場合、追加で1年間の市場独占権を認めるものです。これは各国での承認にもEUの中央審査による承認にも当てはまります。また、EUには米国に類似したオーファンドラッグの独占制度があります。医薬品がオーファンドラッグとして指定された場合、10年間の市場独占権が与えられ、この間当該医薬品と同じ適応症を持つ同様の医薬品には販売承認が付与されません。特定の条件下では、小児臨床試験計画の完了によるさらに2年間の小児用医薬品に係る延長が認められます。規制上のデータ保護等の制度を含む欧州の医薬品法は現在改正が行われており、将来的に異なる独占期間が適用される可能性があります。
当社グループ製品の関連特許満了後の後発品の市場参入や、競合他社によるOTC医薬品の発売等、当社グループは世界中で知的財産に関わる課題に直面しています。当社グループのグローバルジェネラルカウンセルは、法務ならびに知的財産権の業務についても監督責任を負っています。当社グループの知的財産部は、下記3つの優先事項に注力することにより、当社グループの全社的な戦略をサポートしています。
・疾患領域およびビジネスユニットの戦略に沿った自社製品および研究開発パイプラインの価値の最大化および関連する権利の保護
・パートナーとの提携サポートによる外部イノベーションのよりダイナミックな活用の促進
・新興国市場を含む世界各国での知的財産権取得および保護(なお、当社の医薬品へのアクセスを拡大するというコミットメントとして、後発開発途上国および低所得国において、特許を申請または特許権を行使しないことを確約しています)
当社グループの知的財産権が侵害されることは、それらの権利から得ることが期待される収益が失われるリスクとなるため、当社グループは特許やその他の知的財産を管理するための内部プロセスを整備しています。当該プロセスでは、第三者からの侵害に継続的に警戒するとともに、当社グループの自社製品および活動が第三者の知的財産権を侵害しないよう、研究開発段階から注意を払っています。
通常の事業活動において、当社グループの特許は第三者から無効の申し立てを受ける可能性があります。当社グループは、当事者として知的財産権に関する訴訟等に関与しております。係属中の重要な訴訟の詳細については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 32 コミットメントおよび偶発負債」をご参照ください。
下表では、記載された製品について、対象地域ごとに、存続している物質特許および規制上の保護期間(以下、「RP」)(米国およびEU)もしくは再審査期間(以下、「RP」)(日本)ならびに満了日を記載しております。特許期間の延長(PTE)、補充的保護証明書(SPC)、小児用医薬品に係る独占期間(PEP)は当局により認められたものについては満了日に反映され、申請手続中で認められていないものについては、延長された満了日を別途記載しています。
当社グループのバイオ医薬品は、下記の特許満了期間に関わらず、同じ適応症に対する類似製品またはバイオシミラーを製造する他社との競争に直面するか、今後直面する可能性があります。また、欧州の特許の一部は、SPCにより、いくつかの国で下表に記載の満了期限を超えて対象製品に追加的な保護が付与される場合があります。
(注1) 表中の「—」は物質特許の満了または該当なしを表します。
(注2) 日本では、後発品の承認申請は、先発品の再審査期間終了後に行われ、規制当局による審査の後、承認、薬価収載されます。したがって、後発品は再審査期間の満了後から一定の期間を経て市場に参入します。
(注3) 本製品は、第三者への導出契約を締結しているため、全ての地域で当社グループが販売を行っているわけではありません。
(注4) 本製品は、特定の地域限定で第三者からの導入契約を締結しているため、全ての地域で当社グループが販売を行っているわけではありません。詳細については「ライセンスおよび共同研究開発契約」をご参照ください。
(注5) 2025年3月時点で米国において発売された後発品はありません。GATTEX/レベスティブの後発品の正確な参入時期について現時点では定かではありません。
(注6) 当社グループは、ENTYVIOの製剤、投与方法、製造工程といった様々な項目について特許権を保有しており、そのうち一部は2032年に満了する予定です。なお、2032年より前にバイオシミラーの上市を目指す場合には、特許権侵害や関連するすべての特許の有効性を確認する必要があるため、バイオシミラーの正確な参入時期について現時点では定かではありません。
(注7) 次に関する特許期間の延長(PTE): (a) ホジキンリンパ腫(フロントライン)、(b) 再発・難治性のPTCL(ALCLを除く)、および (c) 再発・難治性のホジキンリンパ腫、再発・難治性のPTCLおよびホジキンリンパ腫(フロントライン)の小児用(再発・難治性のホジキンリンパ腫および再発・難治性のALCLのPTEは、2026年4月に満了)。
(注8) 小児ホジキンリンパ腫(フロントライン)のみのRP(再発・難治性のホジキンリンパ腫、再発・難治性のALCL、ホジキンリンパ腫(フロントライン)、PTCLと再発・難治性の小児ホジキンリンパ腫、および再発・難治性の小児PTCLについてのRPは、2024年1月に満了、再発・難治性CTCLのRPは2029年9月に満了。)