文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
当社グループは、世界有数の製薬企業であるロシュとの戦略的アライアンスのもと、「革新的な医薬品とサービスの提供を通じて新しい価値を創造し、世界の医療と人々の健康に貢献する」ことをMission(存在意義)とし、「患者中心の高度で持続可能な医療を実現する、ヘルスケア産業のトップイノベーター」となることをEnvisioned Future(目指す姿)に掲げ、社会とともに発展することを経営の基本方針としています。
その実践にあたっては、当社グループのCore Values(価値観)である、「患者中心」、「フロンティア精神」、「誠実」に沿った事業活動を行っています。
この基本方針のもと、革新的な創薬を柱とするイノベーションに集中し、一人ひとりの患者さんにとって最適な医療の提供による社会課題の解決を目指すとともに、持続的な企業価値拡大を図ります。
このように、社会と自社が共に発展するための共有価値を創造する上で、重点的に取り組むべき事項を重要課題(マテリアリティ)として策定しています。Envisioned Future(目指す姿)でも掲げる「持続可能な医療」を始め、ESGやSDGsに代表される社会課題に積極的に取り組んでまいります。こうした活動は、社会全体の持続性向上に寄与するとともに、当社グループの長期的な発展を支える基盤になると確信しています。
当社グループはイノベーションの創出による企業価値の向上を重視し、革新的な新薬の創出に優先的に経営資源の配分を行っています。長期にわたる投資効率の指標としてCore ROICを重点的に管理するとともに、短中期的にも安定的な利益成長を達成できるよう、機動的で柔軟な事業運営に努めています。そして、個別の開発テーマ等の投資判断におきましては、資本コストを踏まえた投資価値評価を行い、収益性と効率性を重視した意思決定を行っています。
このような方針のもと、近年では、当社の収益構造が大きく変貌を遂げ、収益面ではイノベーティブな自社開発品がもたらす割合が大きくなりました。そして、その収益の源泉は世界各国の市場へと広がり、これまで以上に海外市場の動向に収益が影響を受けるようになりました。また、外部環境においては、ヘルスケア産業におけるデジタル化、創薬技術の進化、医療財源の問題、企業結合や提携の活発化など競争環境が大きく変化しています。
このような変化の激しい事業環境を背景に、2030年に向けた成長戦略「TOP I 2030」(後述)を策定し、「R&Dアウトプット倍増」「自社グローバル品毎年上市」という目標を掲げました。同時に、中期(3年)計画を廃止し、長期目標からバックキャストして現状とのギャップを埋めるための中間地点(3~5年後)の目標を中期マイルストンとして設定・管理することといたしました。これにより、計画の進捗や環境変化に応じてアジャイルかつ柔軟に軌道修正を図りながら、長期的な目標達成を目指しています。これまでどおり経営戦略や研究開発パイプラインの見通しの説明を通じて事業活動の進捗の状況を開示し、その達成に道筋を示していくことには変わりはなく、引き続き、年間業績予想の公表や各説明会等の場で経営状況を説明し、当社の掲げる経営戦略の進捗を適時報告してまいります。
世界人口の増加と各国における高齢化進展、そして2020年から続く新型コロナウイルス感染症の世界的流行などによって、医薬品への期待・ニーズが一層高まっています。同時に、各国において医療費等の社会保障費増加により財政が逼迫し、薬剤費を含む医療費の抑制政策はますます厳しくなり、持続可能な医療の実現が世界共通の課題となっています。限られた資源のもとで高度かつ持続可能な医療を実現するため、「真に価値あるソリューションだけが選ばれる」VBHC(Value Based Healthcare)の流れはますます加速しています。
そして、ライフサイエンスやデジタル技術の飛躍的な進歩によって、医療課題解決に向けたイノベーション創出機会が拡大する中、デジタルをはじめとする多様なプレーヤーがヘルスケア領域に参入しています。その結果、既存業界の枠を超えた競争もこれまで以上に熾烈化してきています。
そのような中、革新的な医薬品の提供を使命とする私たちの最重要課題は、やはり「イノベーションの追求」だと考えています。患者さん一人ひとりにとって最適な医療の実現に向けて、新たな治療ターゲットの探索や創薬技術のさらなる革新により、アンメット・メディカルニーズに応える新薬の創出が求められます。さらに、ビッグデータやAIなどのデジタル技術の進化を柔軟に取り入れ、従来の創薬力にとどまらない能力を獲得・強化することが競争優位性を確保する鍵となります。また、グローバル規模での財政圧力の増加によって製薬企業の経営環境が厳しさを増す中、限られた資源をイノベーションに集中投資できる体制への変革が一層求められています。
当社グループは、革新的な新薬の創出とロシュとの戦略的アライアンスを基盤として、国内トップクラスの成長を実現してまいりました。ロシュの充実した新薬パイプラインによる安定した収益基盤を確保しながら、後期開発や販売ではロシュのグローバル・プラットフォームを活用し、高い生産性を実現することで、自社創薬に資源を集中し、革新的な研究開発プロジェクトを連続的に創出しています。その結果、これまで6つの当社創製医薬品(アクテムラ、アレセンサ、ヘムライブラ、エンスプリング、ネモリズマブなど)が米国食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)から「画期的治療薬(Breakthrough Therapy)*」に指定されるなど、当社グループの創薬力は世界的に高い評価を受けています。
今後、これらの成長ドライバーをグローバル市場で確実に価値最大化すること、そして後続の革新的新薬をいち早く創出し、高い患者価値を証明しつつ迅速な開発を成し遂げることで、今後も持続的な利益成長を目指してまいります。また、新型コロナウイルス感染症に対する診断・予防・治療の必要性が高まる中、アクテムラやロナプリーブの安定供給を始め、引き続き革新的な治療薬の開発・提供に取り組んでまいります。
上述の持続可能な医療の実現における課題に加え、近年、世界的な課題として地球環境変動や経済格差の拡大など社会システムの持続性への危機が高まっています。当社としてもこれらの社会課題をマテリアリティの一つと定め、その解決に向けて継続して取り組んでまいります。
* 画期的治療薬(Breakthrough Therapy):重篤または致命的な疾患や症状に対し、既存治療を上回る改善が期待される治療薬候補
当社グループは、ミッションステートメントに掲げたEnvisioned Future(目指す姿)の実現を目指し、2030年に到達すべきトップイノベーター像を具現化するとともに、その実現に向けた成長戦略「TOP I 2030」を策定し、2021年から展開しています。
2030年トップイノベーター像
1)「世界の患者さんが期待する」
世界最高水準の創薬力を有し、世界中の患者さんが「中外なら必ず新たな治療法を生み出してくれる」と期待する会社
2)「世界の人財とプレーヤーを惹きつける」
世界中の情熱ある人財を惹きつけ、ヘルスケアにかかわる世界中のプレーヤーが「中外と組めば新しい何かを生み出せる」と想起する会社
3)「世界のロールモデル」
事業活動を通じたESGの取組みが評価され、社会課題解決をリードする企業として世界のロールモデルである会社
「TOP I 2030」の二つの柱は、「世界最高水準の創薬の実現」と「先進的事業モデルの構築」です。
独自のサイエンスと技術を駆使して数々の革新的新薬を生み出してきた当社は、今後10年間でさらに創薬力を大きく向上させ、世界のアンメット・メディカルニーズに応えるソリューションを継続的に世に送り出せる体制構築・強化を目指します。具体的には、現在のR&Dアウトプットを10年間で2倍に拡大し、革新的な自社開発グローバル品を毎年上市できる会社を目指します。
そして、環境変化や技術進化を踏まえた先進的事業モデルの構築にも取り組んでまいります。特にデジタルを活用したプロセスや価値創出モデルの抜本的な再構築によって、バリューチェーン全体にわたる生産性の飛躍的向上と、一人ひとりの患者さんにとっての価値・製品価値の拡大を目指してまいります。
具体的な取組みとして、バリューチェーンに沿った「5つの改革」、すなわち「創薬改革」「開発改革」「製薬改革」「Value Delivery改革」及び「成長基盤改革」を掲げています。
①創薬改革

「TOP I 2030」では、たんぱく質エンジニアリング技術をはじめ、これまで積み上げてきた自社創薬の強みをベースにしながら、独創的な創薬アイデアを具現化する創薬技術基盤の一層の強化を目指します。そして、最大の価値創出源である創薬及び早期開発に全社資源を集中し、十分な投資によって成果を創出してまいります。特に、当社グループの今後の中長期的な成長の牽引を期待する中分子医薬では、早期の実用化に向けた技術開発・臨床プロジェクトに資源を優先的に投入します。また、AIを含むデジタル技術の効果的な活用と積極的な外部連携を通じて、創薬技術の多様化、スピードの加速を図ります。
②開発改革

画期的なプロジェクトをより速く、より多くの患者さんに届けるため、数理モデルやデジタル技術を最大限活用した業界トップクラスの臨床開発モデルを構築します。生体反応を精緻に理解し、自社に蓄積されたあらゆる疾患・治療データやリアルワールドデータ(RWD)を徹底活用することで、用法用量・有効性・安全性の予測性を高めるとともに、デジタル・バイオマーカーやデジタル・デバイスで、患者さんのQOLを早期に実証していきます。また、後期臨床開発の業務効率化とRWD等を活用した試験規模の縮小や期間短縮など、オペレーション・モデルの抜本的な改革にも取り組みます。
③製薬改革

R&Dアウトプットの大幅な拡充を目指す一方で、革新的創薬を確実に製品化する世界水準の製薬技術の追求も重要な課題となります。創薬・早期開発~製薬の機能間の連携を一層強化し、最先端技術を駆使して中分子などの高難度の薬物に対応した製薬技術開発を進めてまいります。引き続きコア技術として進化が期待される抗体医薬についても、さらなる技術開発の推進と開発スピードの向上に努めます。
一方で、デジタル・ロボティクスの活用により生産性を飛躍的に向上させる次世代工場の構築や、内製・外製の最適化などによって、世界水準でのコスト競争力と原価の低減を追求します。
④Value Delivery改革

デジタルツールの発達や、新型コロナウイルス感染拡大の影響を背景に、製薬企業の顧客タッチポイントのあり方も大きく変容しました。そのような変化も踏まえながら、医療従事者や患者さんが求める情報を、高い専門性を担保しながら的確かつ迅速に届けるため、革新的な顧客エンゲージメントモデルの構築を目指します。具体的には、リアル(対面)・リモート・デジタルの最適活用と、営業・安全性・メディカルの各専門機能の適切な連携によって、顧客に対して価値ある情報を、迅速かつ最適な形で提供できる体制を強化します。
製品ポートフォリオの変化に伴い、成長領域や新規領域へ集中したリソース投入を行うなど、資源シフトも進めてまいります。
また、創薬や開発を通じて蓄積された各種データベースや、リアルワールドデータを統合的に解析・活用することで、個別化医療を促進するエビデンス創出を高度化し、患者さんごとに有効性・安全性を的確に予測するバイオマーカーの開発も加速します。
⑤成長基盤改革

各バリューチェーンにおける改革と並行して、イノベーションの創出と成長戦略の実現を支える全社基盤の強化として、特に下記5つのテーマを重点分野として掲げて取り組んでまいります。
「人・組織」:2020年より開始した人事制度の運用を通じて、ポジションマネジメントとタレントマネジメントの高度化による適所適財の推進、果敢なチャレンジを推奨する組織風土の強化、データサイエンティストをはじめとするデジタル人財やサイエンス人財など戦略遂行上の要となる高度専門人財の獲得・育成・充足に注力するとともに、D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)の推進によりイノベーション文化の醸成を図ります。
「デジタル」:「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」のもと、デジタル技術を活用した革新的な新薬創出に注力するとともに、すべてのバリューチェーンにおけるDXを推進し、効率化を図ります。その実現に向けてソフト・ハード両面のデジタル基盤の構築とロシュ・グループとの連携を通じた社内の各種データの統合や解析基盤構築によるグローバル水準のIT基盤の確立を行います。
「環境」:マテリアリティとして特定した気候変動対策、循環型資源利用、生物多様性保全の3つの課題について、「中期環境目標2030」を設定し、その達成に向けた先進的な取り組みを通して、持続可能な地球環境を実現します。特に気候変動対策については、2050年にCO2排出量ゼロを目指し、長期的に取り組んでまいります。
「クオリティ」:これまで取り組んできた製品品質の確保に加えて、薬事対応やビジネスプロセス全体にわたるクオリティ・マネジメントの高度化に努めています。さらに、多様な技術進化や新モダリティへの挑戦に伴う規制への対応、デジタル・コンプライアンスの強化、外部との協業拡大を見据えた品質保証体制の整備など、変化するビジネスプロセスに適した質と効率を両立するクオリティ・マネジメント手法の整備・運用を強化します。
「インサイトビジネス」:ロシュ・グループ各社とも協働しながら、創薬、開発、製薬、Value Deliveryの各段階で得られるデータやリアルワールドデータを含む外部データを集積し、高度な解析を加えることにより、自社の創薬・開発や医薬品の価値最大化に資するさまざまなインサイトを抽出し活用する取り組みを推進します。
世の中には、未だ治療法が存在しない、或いは治療満足度が低いアンメット・メディカルニーズが数多く存在し、世界中の患者さんが有効な治療の登場を待ち望んでいます。これらアンメット・メディカルニーズを一つひとつ解決することこそが社会のニーズであり、私たち中外製薬グループの使命であり、そして企業としての成長機会でもあります。ミッションステートメントに掲げた「ヘルスケア産業のトップイノベーター」を目指し、成長戦略「TOP I 2030」で策定した5つの改革を着実に実行することで、引き続き当社グループはイノベーションによる社会の発展と自社の成長を追求してまいります。
ERM(Enterprise Risk Management=全社的リスクマネジメント)とは、企業価値の最大化を図るため、事業活動に係るあらゆるリスクを可視化し、統合された仕組みで管理を行うリスク管理手法のことを言います。当社グループでは、従来から部門ごとにリスクの抽出・評価、対策実施状況のモニタリングなどERMを行っておりましたが、リスク管理の高度化に向け、2021年からは、戦略に関するリスク管理を包含する新たなERMのフレームワークの導入・運用を行っております。具体的には、リスク選好に係る方針を「リスクアペタイト ステートメント」として明示し、健全なリスクカルチャーの醸成を目指します。そして、全社的に対処すべきリスクを「戦略リスク(=戦略の意思決定に内在するリスクや戦略の遂行を阻害するリスク)」と「オペレーショナルリスク(=事業の円滑な運営を阻害するリスク)」に分け、これらのリスクを一元的に把握・整理・可視化し、全社的に共有・議論を行うことで、効果的・効率的なリスク管理を図るとともに、社外のステークホルダーへの説明責任をさらに強化していきます。

全社的なリスク情報の把握・分析・フィードバックを効率的に推進するため、独自のリスクマネジメントシステムを開発し、グローバルで運用しております。このシステムでは、各部門がリスクマップや年間リスク対応計画、インシデント報告を登録し、それらの情報をデータベース化して一元管理することで、グループ全体のリスク分析や各部門での対策の状況をモニタリングしております。

当社グループでは、社会との共有価値を創造し、企業価値を高める企業活動の根幹となるミッションステートメント(=企業理念)を基点とした事業経営において、経営目標の達成や戦略遂行を阻害する事象を「リスク」と捉えております。
戦略の意思決定や事業の円滑な運営を適切に行うために、リスクへの対応方針である「リスクアペタイト ステートメント」を定め、リスクカルチャーの醸成を図るとともに、従業員の一人ひとりがこれに基づいた判断・行動を徹底します。
当社グループの業績は、今後起こりうる様々な要因により重大な影響を受ける可能性があります。以下において、当社グループの事業展開上のリスク要因となる可能性がある主な事項を記載しております。
当社グループはこれらリスク発生の可能性を認識したうえで、発生の予防及び発生した場合の対応に努める方針であります。
なお、これらは当社グループにかかるあらゆるリスクを網羅したものではなく、記載以外のリスクも存在し、投資家の判断に影響を及ぼす可能性があります。また、文中における将来に関する事項は当連結会計年度末現在において当社が判断したものであります。
① 技術・イノベーションについて
当社グループは、ロシュとの戦略的アライアンスのもと、自社の強みであるサイエンス力と技術力をさらに強化することで、革新的な医薬品の創出に努めております。特にこれまでの低分子・抗体医薬では解決できなかったアンメットメディカルニーズ(有効な治療方法が見つかっていない疾病に対する治療薬への要望)を満たす中分子創薬技術の開発に注力するとともに、デジタル技術を活用し研究プロセスの効率化に積極的に取り組んでおります。
しかしながら、サイエンス、創薬技術、デジタルという日進月歩の分野では、自社創薬・技術開発の遅れや失敗、競争優位性の高いソリューションの出現などにより、自社技術・製品の価値低下や開発計画の見直しなどのリスクがあります。また、当社グループは業務活動上様々な知的財産権を使用しており、それらは当社グループ所有のものであるか、あるいは適法に使用許諾を受けたものであると認識しておりますが、当社グループの認識の範囲外で第三者から侵害を受けたり、第三者の知的財産権を侵害する可能性があります。当社グループの業務に関連する重大な知的財産権を巡って係争が発生した場合、期待される収益の減少、製造販売・技術使用の停止や使用料の発生など戦略遂行に重大な影響を与える可能性があります。
こうしたリスクに対しては、最先端のサイエンス・技術へのアクセスを怠らず、経営資源の選択と集中により自社技術の優位性を高めるとともに、外部連携の強化により多様性を高めることに努めております。さらに中分子医薬の開発にあたっては関連する社内組織(創薬・開発・製薬)の連携強化、知的財産権については知財戦略のさらなる強化を図ってまいります。
当社グループはリスクアペタイトに基づき、リスクをとって積極果敢にイノベーション創出の機会を追求するとともに、職場環境や組織文化、人財育成などの面からもイノベーションを奨励する仕組みを強化し、イノベーション創出を妨げるリスクの低減に努めております。
② 医療制度・薬事規制について
当社グループは、アンメットメディカルニーズに応えるべく、ファーストインクラス(新規性・有用性が高く、これまでの治療体系を大幅に変えうる独創的な医薬品)、ベストインクラス(同じ分子を標的にするなど、同一カテゴリーの既存薬に対して明確な優位性を持つ医薬品)となりうる革新的な新薬の連続的な創製に注力しております。
一方、国内外において高齢化の進展や医療費高騰などによる財政逼迫を背景とした薬剤費引き下げ政策の強化が進められています。さらに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行に伴う多額の財政出動により、各国が進める医療費抑制はさらに加速することが予想されます。特に日本においては2年に一度行われる薬価改定に加え、2021年から中間年改定がスタートしました。こうした薬価引き下げ政策や後発品振興政策が拡大すると、これまで以上に収益の低下を招き、研究開発への投資を妨げるリスクがあります。
また、こうした政策により今後ますます「Value Based Healthcare(価値に基づく医療)」が進展し、患者さんにとって真に価値のあるソリューションだけが選ばれる傾向がより一層強まると考えております。日本のみならず、世界各国の制度・薬事規制改革の内容や環境動向を適時適切に把握する海外インテリジェンス機能の強化に取り組むとともに、引き続き、イノベーション追求により新たな価値の提供と収益構造の強化を図ってまいります。
③ 市場・顧客について
近年、競合品や後発品/バイオシミラー(バイオ後続品)の浸透加速に加え、再生医療、細胞/遺伝子治療、核酸医薬など新たな治療手段(モダリティ)の進展や、予防・診断・治療・予後まで一貫した価値提供が求められるようになっております。ITプラットフォーマーのヘルスケア産業参入によるデータ寡占等、ライフサイエンスやデジタル分野での新たな技術・脅威が台頭しており、ヘルスケア産業における競争環境は急激に変化しています。さらに、新型コロナウイルス感染拡大の影響を背景に、製薬企業における医薬品の情報提供体制、すなわち顧客タッチポイントのあり方も大きく変容しています。
このような状況におきまして、市場での地位や製品競争力が低下するリスク、あるいは顧客タッチポイントの急速な変化により、医薬品の情報提供体制の抜本的な見直しを迫られる可能性があります。
こうしたリスクに対応するべく、当社グループでは連続的な新薬の創出と製品ラインアップの多様化に努めるとともに、遺伝子パネル検査によって一人ひとりの患者さんに最適な診断を行う個別化医療の高度化に取り組んでおります。また、新たな顧客エンゲージメントモデル、すなわち顧客のニーズに合わせて、リアル(対面)・リモート・デジタルを融合させたアプローチにより、迅速かつ的確に顧客に価値を提供する体制を強化しております。
④ 事業基盤について
ⅰ.ロシュとの戦略的提携
当社グループはロシュとの戦略的提携により、日本市場におけるロシュの唯一の医薬品事業会社となり、また日本以外の世界市場(韓国・台湾除く)ではロシュに当社製品の第一選択権を付与し、多数の製品及びプロジェクトを同社との間で導入・導出しております。独自のビジネスモデルによって安定的な収益基盤を確立できることが提携の大きなメリットです。
一方、何らかの理由により戦略的提携における合意内容が変更された場合、業績に重大な影響を与える可能性があります。また、ロシュの創薬・グローバルネットワークが不調に陥り、ロシュからの導入品による安定的な収益源が低下するリスクやロシュに導出した自社品のグローバル市場浸透の遅延や収益低下などのリスクがあります。
当社グループとしてはイノベーションを追求し、革新的な医薬品を連続的に創出することにより、引き続き、ロシュグループ全体の価値創造に対し貢献できるよう努めてまいります。
ⅱ.人事・組織
当社は2020年に新たな人事制度を導入し、適所適財に基づく人財配置の徹底、タレントマネジメントの高度化、そして果敢なチャレンジを推奨する組織風土の醸成を図っております。また、データサイエンティストをはじめとするデジタル人財やメディカルドクター(MD)など、戦略遂行上の要となる高度専門人財の獲得・育成・充足に注力しております。
一方、人財獲得ニーズの競合等による獲得の遅れや社内育成に要する時間、目まぐるしい環境変化により求められる業務の質の変化による人財のミスマッチや不足、余剰等が発生するリスク、あるいは期待される組織文化が醸成されず、イノベーションの創出が阻害されるリスクなどが想定されます。
こうしたリスクに対応するべく、戦略遂行上の要となる人財の要件を明確に定義し、社外にも積極的に開示するとともに、社内では定着・育成に向けた施策の強化に努めております。組織・人財への投資を強化し、環境動向を見極めた組織体制と戦略的な採用計画を実施してまいります。
ⅲ.デジタル基盤
すべてのバリューチェーンで生産性の飛躍的向上を図るべくデジタル投資を加速する一方、デジタル技術が進展しない可能性や社内のデジタルケイパビリティ不足、デジタルコンプライアンスの理解不足等によりデジタルトランスフォーメーション(DX)の停滞やトラブルが発生する可能性があります。タイムリーにDX戦略を見直し、ケイパビリティの強化に努めるとともに、外部専門人財を積極的に活用してまいります。
ⅳ.収益構造
製薬産業における技術の進歩は顕著であり、国内外製薬企業等との厳しい競争に直面する中、R&D費などの投資・コスト増加が収益構造に影響を及ぼす可能性があります。このため、デジタルを活用したプロセス改善と生産性の向上によるオペレーションコストの最小化に取り組むとともに、投資プロジェクトの見極めが重要と考えております。
① 品質・副作用について
患者さんに価値の高い製品・サービスを安定的にお届けするにあたっては、何よりも製品の有効性や安全性、それらを担保する品質が重要であると考えます。当社グループでは、製品のライフサイクルにおける業務プロセスの妥当性の確認・評価を行い改善するとともに、グローバルITシステムの導入・運用によりデータの信頼性を確保しております。また、恒常的な品質確保に向けて、社内及び社外パートナーとの連携強化を重視し、品質について考え話し合う場を定期的に設けています。しかしながら、何らかの原因により製品品質に懸念が生じた場合には、販売中止・製品の回収や社会的信頼の喪失などにより、業績に重大な影響を与える可能性があります。
医薬品・医療機器は各国規制当局の厳しい審査を受けて承認されておりますが、当社グループでは、承認後も医薬品の安全監視活動を強化・徹底するとともに、「調査・副作用データベースツール(DB)」による患者さんの特性に応じた迅速な情報提供や、患者さんと医療関係者とのコミュニケーションを円滑にし、患者さんにより安心して治療を受けていただくための「服薬適正化支援アプリ」の運用、安全性専属スタッフである「セイフティエキスパート」を中心とした、医療関係者への安全性コンサルテーション・ネットワーク体制の構築など、適正使用に向けた安全性情報提供活動の強化を図っております。しかしながら、その特殊性から、使用にあたり、万全の安全対策を講じたとしても副作用等の健康被害を完全に防止することは困難であり、副作用、特に新たな重篤な副作用が発現した場合には、「使用上の注意」への記載を行うほか、販売中止・製品の回収等に至ることもあり、業績に重大な影響を与える可能性があります。
② ITセキュリティ及び情報管理について
業務上、各種ITシステムを利用しており、従業員・アウトソーシング企業の不注意または故意による行為や、サイバー攻撃等の外部要因によりシステム障害や社外提供サービスの停止、提供情報の改ざん等が生じた場合、事業活動の停止・遅延・計画の見直しや、突発的な対応・対策費用などが発生する可能性があります。また、万が一、研究開発等にかかる営業秘密や個人情報等が社外に流出した場合、競争優位性の喪失、社会的信頼の喪失、損害賠償などにより、業績に重大な影響を与える可能性があります。
当社グループはこれらのリスクに備え、関連規程を整備し、従業員に対する教育・訓練を定期的に実施するとともに、システムの堅牢性・可用性の強化、サイバー攻撃・ウイルス感染の検知機能・監視体制や情報セキュリティインシデント対応体制の強化を図っております。また、これらの対策状況をグループ横断的に評価し強化するためのセキュリティマネジメント体制を構築し、継続的なリスクの低減に努めております。
③ 大規模災害等による影響について
地震、台風、洪水等の自然災害、火災等の事故により、当社グループの事業所・営業所及び取引先の建物・設備等が深刻な被害を受けた場合、または新型インフルエンザ等のパンデミックの発生により、事業活動が制限された場合には、医薬品の供給停止や設備修復などの費用計上の発生、新製品の浸透遅延、それらによる収益の低下など、業績に重大な影響を与える可能性があります。
当社グループは、これらのリスクに備え、損害保険の加入や、事業継続計画(BCP)の策定・訓練の実施、耐震対策、安全在庫の確保など、従業員の安全と医薬品の安定供給のための体制を整備し、リスクの低減に努めております。
④ 人権について
職場におけるハラスメントや労働安全衛生を含む人権問題への対応遅延が生じた場合、従業員の健康やメンタルヘルスの悪化、離職率の増加など人財力の低下、社会的信頼の喪失により、業績に重大な影響を及ぼす可能性があります。
当社グループでは、これら人権問題に対し、役員、従業員に対する継続的な人権研修の実施や、ハラスメントに関する相談窓口の設置、また健康経営の一環として安全衛生活動に取り組んでいます。
サプライヤーに対しても人権尊重に対する理解を求め、協力して人権問題に関する課題解決に努めております。
⑤ サプライチェーンについて
自然災害、事故、パンデミックの発生等により当社の原材料調達先や外部製造委託先などのサプライヤーに被害や事業活動の制限が生じた場合、また、サプライチェーンにおけるコンプライアンス違反や環境問題などへの対応が遅延した場合、原材料の確保や生産の継続が困難となる可能性があり、社会的信頼の喪失や売上・シェアの低下により業績に重大な影響を及ぼす可能性があります。
当社グループは、これらサプライチェーンに係るリスクに備え、損害保険の加入や、事業継続計画(BCP)の策定、安全在庫の確保、サプライヤーとの情報共有体制の構築など、医薬品の安定供給のための体制を整備しております。
また、サプライチェーンにおけるコンプライアンスや環境問題など当社グループだけでは解決できない課題に関し、サプライヤーと協力して課題解決に努めております。
⑥ 地球環境問題について
環境関連法規等の遵守はもとより、さらに高い自主基準を設定してその達成に向けて努めており、今後も強化と充実を図っていきます。しかしながら、万が一、有害物質による予期せぬ汚染やそれに伴う危害が顕在化した場合、対策費用や損害賠償責任を負うなどにより、業績に重大な影響を与える可能性があります。
気候変動については、地球環境保全のための重大な課題の一つと考え、温室効果ガス排出量の削減に取り組んでおります。その一環として、エネルギー消費量削減に加え、2025年までに温室効果ガスを排出しないサステナブル電力比率100%、並びに2030年までにスコープ1(事業者自らによる温室効果ガスの直接排出)及びスコープ2(他者から供給された電気、熱、蒸気の使用に伴う温室効果ガスの間接排出)の60~75%削減を目指しております。しかしながら、これら気候変動に対する技術・設備対応の遅れが発覚した場合、設備投資計画の見直し、追加的な費用計上が生じる可能性があります。
また、将来における環境関連法規制の強化により、対策費用の増加や当社グループの研究、開発、製造、その他の事業活動が制限される可能性があります。
なお、当社グループは、透明性・信頼性の高い環境情報を開示するため、毎年、環境パフォーマンスデータの第三者保証を取得しております。また、「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言」のフレームワークに基づき、気候変動が当社へもたらすリスクと機会を織り込んだ定性評価及びシナリオ分析を実施し、長期的に大規模な事業転換や投資を必要とする重大な気候関連リスクは特定されませんでした。今後も継続的に分析・評価を行い、プロアクティブな環境課題の解決に取り組んでいきます。
⑦ 新型コロナウイルス感染拡大の影響について
当社グループは、新型コロナウイルス感染拡大を受け、テレワークなど柔軟性の高い働き方と生産性の維持・向上を実現する「新しい働き方」の定着に向けた取り組みを進めております。また、患者さんに対する医薬品の安定供給という社会的責務を担っており、緊急事態宣言発令時においても、必要な医薬品の提供体制を維持することを基本方針としております。
引き続き、従業員及び事業関係者への感染防止策に取り組みながら、医薬品の安定供給に努めてまいりますが、今後、さらなる感染拡大等により事業活動が制限された場合、サプライチェーンの停止・遅延により製品供給に重大な影響を及ぼす可能性があります。また、研究・臨床試験の進行や、MR活動の制限による新製品等の浸透に遅延が生じる可能性があります。
① 経営成績の状況
(単位:億円)
(注)当社は2020年7月1日を効力発生日として普通株式を1株につき3株の割合で株式分割を行っております。前連結会計年度の期首に当該株式分割が行われたと仮定してCore EPSを算定しております。
<連結損益の概要(IFRSベース)>
当連結会計年度の売上収益は9,998億円(前年同期比27.1%増)、営業利益は4,219億円(同40.1%増)、当期利益は3,030億円(同41.1%増)となりました。これらには当社が管理する経常的業績(Coreベース)から除外している無形資産の償却費22億円、無形資産の減損損失45億円及び事業所再編費用等55億円が含まれています。
<連結損益の概要(Coreベース)>
当連結会計年度の売上収益は、製商品売上高、ロイヤルティ等収入及びその他の営業収入ともに大幅に伸長し、9,998億円(前年同期比27.1%増)となりました。
売上収益のうち、製商品売上高は8,028億円(同26.8%増)となりました。国内製商品売上高は、薬価改定や後発品の影響を受けたものの、主力品のテセントリク、ヘムライブラ、カドサイラ、アクテムラの好調な推移や、新製品のエンスプリング、ポライビー等の順調な市場浸透に加え、ロナプリーブの政府納入により、前年比で大幅に増加しました。海外製商品売上高は、ロシュ向けのアクテムラ輸出が大きく減少しましたが、ヘムライブラ輸出が大幅に増加したため、前年を大きく上回りました。ロイヤルティ等収入及びその他の営業収入は、一時金収入が減少したものの、ヘムライブラに関するロイヤルティ及びプロフィットシェア収入の増加等により、1,969億円(同28.2%増)となりました。製商品原価率は、製品別売上構成比の変化等により41.8%と前年同期比で1.2%ポイント改善した結果、売上総利益は6,643億円(同29.1%増)となりました。
経費については、2,302億円(同11.4%増)となりました。デジタルマーケティングの推進等により販売費は758億円(同6.0%増)、研究開発費は開発テーマの進展に伴う費用の増加等により1,298億円(同14.4%増)、一般管理費等は主に法人事業税(外形標準課税)及び諸経費等の増加により246億円(同13.4%増)となりました。以上から、Core営業利益は4,341億円(同41.0%増)、Core当期利益は3,115億円(同42.0%増)となりました。
※Core実績について
当社はIFRS移行を機に2013年よりCore実績を開示しております。Core実績とはIFRS実績に当社が非経常事項と捉える事項の調整を行ったものであり、ロシュが開示するCore実績の概念とも整合しております。当社ではCore実績を、社内の業績管理、社内外への経常的な収益性の推移の説明、並びに株主還元をはじめとする成果配分を行う際の指標として使用しております。
株主還元を行う際の指標には、Core EPS及びCore配当性向を指標として使用しております。Core EPSは、Core実績をもとに算出された、当社株主に帰属する希薄化後1株当たり当期利益であり、Core配当性向は、Core EPS対比の配当性向です。
※Core EPS:当社が定める非経常的損益項目を控除したうえで算出された、当社株主に帰属する希薄化後1株当たり当期利益であります。
<製商品売上高の内訳>
(単位:億円)
[国内製商品売上高]
国内製商品売上高は、一昨年及び昨年4月の薬価改定と後発品浸透の影響を受けたものの、主力品及び新製品の好調な市場浸透により、5,189億円(前年同期比26.8%増)となりました。
オンコロジー領域の売上は、2,615億円(同12.6%増)となりました。後発品浸透の影響により抗悪性腫瘍剤/抗HER2ヒト化モノクローナル抗体「ハーセプチン」や抗悪性腫瘍剤/抗CD20モノクローナル抗体「リツキサン」などの売上が減少したものの、適応拡大した主力品の抗悪性腫瘍剤/抗PD-L1ヒト化モノクローナル抗体「テセントリク」や抗HER2抗体チューブリン重合阻害剤複合体「カドサイラ」が堅調に推移しました。あわせて、昨年5月に発売した抗悪性腫瘍剤/微小管阻害薬結合抗CD79bモノクローナル抗体「ポライビー」や、昨年8月に新たに血液検体による検査サービスを開始した遺伝子変異解析プログラムFoundation Medicine*の検査数の伸長により売上が増加しました。
プライマリー領域の売上は、2,574億円(同45.6%増)となりました。後発品や薬価改定の影響により、骨粗鬆症治療剤「エディロール」や持続型赤血球造血刺激因子製剤「ミルセラ」などの売上が減少したものの、主力品の血液凝固第Ⅷ因子機能代替製剤「ヘムライブラ」及びヒト化抗ヒトIL-6レセプターモノクローナル抗体「アクテムラ」が好調に推移しました。新製品では昨年7月に特例承認された抗SARS-CoV-2モノクローナル抗体「ロナプリーブ」の政府納入による売上が計上され、pH依存的結合性ヒト化抗IL-6レセプターモノクローナル抗体「エンスプリング」に加え、昨年8月に発売したSMN2スプライシング修飾剤「エブリスディ」も寄与しました。
* 「FoundationOne Liquid CDx がんゲノムプロファイリング」及び「FoundationOne CDx がんゲノムプロファイリング」
[海外製商品売上高]
海外製商品売上高は2,839億円(前年同期比26.6%増)で、前年比での円安影響も加わり前年を大幅に上回りました。ロシュ向け輸出については、通常出荷価格での輸出の本格化に伴い「ヘムライブラ」が前年比で大幅に増加し、抗悪性腫瘍剤/ALK阻害剤「アレセンサ」も堅調に推移しました。一方、「アクテムラ」は前年比で大幅に減少しましたが、これは前年同期において、新型コロナウイルス肺炎を対象とした臨床試験用を含む輸出が増加したためです。
② 財政状態の状況
当連結会計年度末における純営業資産(NOA)は前連結会計年度末に比べ1,266億円増加し、7,726億円となりました。うち、純運転資本は、主に営業債権の増加により前連結会計年度末に比べ701億円増加し3,701億円となりました。また、長期純営業資産は主に中外ライフサイエンスパーク横浜及び藤枝工場における合成原薬製造棟(FJ3)への投資により前連結会計年度末から564億円増加し、4,024億円となりました。
次項「③ キャッシュ・フローの状況」で示すとおり、有価証券や有利子負債を含むネット現金は前連結会計年度末に比べ934億円増加し、4,720億円となりました。その他の営業外純資産は、主に未払法人所得税の増加により前連結会計年度末から119億円減少し、△565億円となりました。
これらの結果、純資産合計は前連結会計年度末に比べ2,080億円増加し、11,880億円となりました。
※純営業資産(NOA)及び純資産について
連結財政状態計算書は国際会計基準第1号「財務諸表の表示」に基づいて作成しております。一方で、純営業資産(NOA)及び純資産は、連結財政状態計算書を内部管理の指標として再構成したものであり、ロシュも同様の指標を開示しております。なお、純営業資産(NOA)及び純資産にはCore実績のような除外事項はありません。
※純営業資産(NOA)について
純営業資産(NOA:Net Operating Assets)は金融取引や税務上の取引とは独立に当社グループの業績を評価することを可能としております。純営業資産は純運転資本及び有形固定資産、使用権資産、無形資産等を含む長期純営業資産から引当金を控除することで計算しております。
③ キャッシュ・フローの状況
(単位:億円)
営業利益から、営業利益に含まれる減価償却費などのすべての非現金損益項目及び純営業資産に係るすべての非損益現金流出入を調整した調整後営業利益は、4,664億円(前年同期比39.0%増)となりました。
純運転資本等の増加831億円、有形固定資産の取得による支出660億円等があった一方で、営業利益の増益等により、営業フリー・キャッシュ・フローは3,014億円(同49.8%増)の収入となりました。純運転資本等の増加要因は前項「② 財政状態の状況」に記載したとおりです。
営業フリー・キャッシュ・フローから法人所得税1,041億円を支払ったこと等により、フリー・キャッシュ・フローは1,894億円(同39.9%増)の収入となりました。
フリー・キャッシュ・フローから配当金の支払986億円等を調整したネット現金の純増減は934億円の増加となりました。
また、有価証券及び有利子負債の増減を除いた現金及び現金同等物は555億円増加し、当期末残高は2,678億円となりました。
※フリー・キャッシュ・フロー(FCF)について
連結キャッシュ・フロー計算書は国際会計基準第7号「キャッシュ・フロー計算書」に基づいて作成しております。一方で、FCFは、連結キャッシュ・フロー計算書を内部管理の指標として再構成したものであり、ロシュも同様の指標を開示しております。なお、FCFにはCore実績のような除外事項はありません。
当社グループは医薬品事業のみの単一セグメントであり、当連結会計年度の生産実績は次のとおりであります。
(注)IFRSに基づく金額を記載しております。また、金額は消費税等抜きの売価換算(仕切単価ベース)であり、百万円未満を四捨五入して記載しております。
当社グループは医薬品事業のみの単一セグメントであり、当連結会計年度の商品仕入実績は次のとおりであります。
(注)IFRSに基づく金額を記載しております。また、金額は消費税等抜きの実際仕入高であり、百万円未満を四捨五入して記載しております。
当社グループは見込み生産を行っているため、該当事項はありません。
当社グループは医薬品事業のみの単一セグメントであり、当連結会計年度の販売実績は次のとおりであります。
(注)1.最近2連結会計年度の主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は次のとおりであります。
2.IFRSに基づく金額を記載しております。また、金額は消費税等抜きであり、百万円未満を四捨五入して記載しております。
3.販売高は売上収益(製商品売上高とロイヤルティ及びその他の営業収入)であります。
① 財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容
財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容については、「第2 事業の状況 3. 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー状況の分析 (1)経営成績等の状況の概要 ① 経営成績の状況 及び ② 財政状態の状況」に記載しております。
② キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報
キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容については、「第2 事業の状況 3. 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー状況の分析 (1)経営成績等の状況の概要 ③ キャッシュ・フローの状況」に記載しております。
当社グループは、これまで、運転資金並びに設備投資及び研究開発活動を自己資金で賄ってきております。2021年度に始動しましたTOP I 2030 は「R&Dアウトプットの持続的な創出」に代表されるイノベーションへの継続的な経営資源の配分を掲げています。引き続き資金流動性の確保と事業活動からくるキャッシュ・インフローの最大化に努めるとともに、継続的なイノベーション投資に必要な財務健全性を維持していく方針です。また、計画外の急な資金需要が生じた場合の財源につきましては、金融機関からの借入や短期社債等を利用するなどの体制を整えており、既存の手許資金も含めて十分な流動性を確保しております。
従いまして、今後とも資本財源は事業活動を通じて獲得した資金を基盤とする方針であり、継続的なイノベーションへの投資を通じ、持続的な企業価値の向上を目指す方針です。なお、資本配分としての配当につきましては、継続的で安定的な配当の実施を目標としており、Core EPS 対比45%(5年平均)を目安としております。
③ 経営方針・経営戦略・経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当連結会計年度においては、昨年10月22日に公表した修正予想に対して、売上収益は、主にヘムライブラのロシュ向け輸出の上振れの他、アクテムラ及びヘムライブラに関するロイヤルティ及びプロフィットシェア収入の増加や、国内製商品売上の好調により9,998億円(修正予想比3.1%増)となりました。製商品原価率は、製品別売上構成比の変化等により41.8%と修正予想を1.6%ポイント改善、経費は2,302億円(同0.3%減)となりました。この結果、Core営業利益は、修正予想を上回る4,341億円(同8.5%増)となり、5期連続で過去最高の売上収益・営業利益を達成しました。また、長期にわたる投資効率の指標として重点的に管理することとしているCore ROICの実績は、前年を上回る44.3%となりました。
成長戦略「TOP I 2030」の実現に向けて、初年度の2021年は、定性面においても創薬、開発、製薬、Value Delivery、成長基盤という5つの改革分野で設定している中期マイルストン(3~5年後の目標)に対し、順調な進展が見られました。
創薬においては、抗体、低分子に続く第3のモダリティとして注力する中分子医薬品について、初のプロジェクトである抗がん剤LUNA18が臨床開発段階に入るとともに、がんや免疫など非臨床段階の後続プロジェクトも進展しました。また、自社の強みとする抗体医薬品においても、次世代抗体技術の開発とプロジェクトの創出を進めています。こうした自社の技術基盤を強化するとともに、外部連携の活用等によりマルチモダリティ創薬を推進しています。
開発プロジェクトの進展については、2021年は合計9プロジェクトが承認・発売され、新薬・適応拡大を含め10個のプロジェクトが承認申請に移行しました。また、ロシュ品・自社品含めて計10プロジェクトの第Ⅲ相国際共同治験、前述の中分子LUNA18をはじめ7プロジェクトの第Ⅰ相臨床試験を開始しました。引き続き、画期的な医薬品をより速く、より多くの患者さんにお届けできるよう、臨床予測性の向上や複数疾患の同時開発、後期臨床開発オペレーションの進化に向けた活動に取り組んでいます。
製薬では、中分子医薬品の製造体制・プロセスの確立に向けて、藤枝工場に建設中の低・中分子治験原薬製造棟(FJ2)に加え、後期臨床試験用原薬の製造と上市後の初期生産への対応を目的とする製造棟(FJ3)の追加投資を決定しました。また、R&Dアウトプット倍増という高い目標に対応すべく、バイオ原薬開発・製造体制の構築をはじめ、生産性向上に向けた生産技術の強化、IT基盤整備、ロボティクスの活用に取り組んでいます。
Value Deliveryにおいては、多様化する顧客ニーズに対応すべく、リアル・リモート・デジタルを組み合わせた最適な顧客エンゲージメントモデルを構築し、医療従事者や患者さんが求める情報を的確かつ迅速に提供できる体制の強化を図っています。また、個別化医療に資する独自エビデンスの創出を目指し、社内外データの統合的な活用にも取り組んでいます。
成長基盤については、D&Iの推進とともに、会社のビジョンや目標の達成に向けて自発的・能動的に行動できる人財の増加を目指す「人・組織」、新薬創出力の高度化・効率化やすべてのバリューチェーン効率化の柱である「デジタル」、世界水準でのサステナブル基盤としての「環境」、新モダリティ・新ビジネスプロセスを見据えた質と効率を両立する次世代クオリティマネジメントを目指す「クオリティ」、そして事業化を目指す「インサイトビジネス」など、イノベーション創出に必要な成長基盤の強化を図っています。
なお、女性活躍推進に優れた上場企業として「なでしこ銘柄」に選定されたほか、「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)」に2年連続で選定されました。また、世界の代表的なESG評価指数である「Dow Jones Sustainability Index World」の2年連続選定(医薬品企業で世界2位)、国際環境非営利団体CDPによる最高A評価獲得(気候変動対策と水セキュリティ対策の二部門)、温室効果ガス削減目標のSBT(Science Based Target)認定など、当社の事業活動を通じたESGの取り組みが高く評価されました。
※ROICについて
投下資本利益率(ROIC:Return On Invested Capital)は事業活動のために投じた資金(投下資本)を使って、企業がどれだけ効率的に利益に結びつけているかを知ることができます。
④ 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社グループはIFRSに準拠して連結財務諸表を作成しております。この連結財務諸表の作成にあたり、必要と思われる見積りは合理的な基準に基づいて実施しております。詳細については、「第5 経理の状況 1.連結財務諸表等 連結財務諸表注記 1.重要な会計方針等 (2)重要な会計上の判断、見積り及び前提」に記載のとおりです。
当社グループは、医療用医薬品に関して国内外にわたる積極的な研究開発活動を展開しており、国際的に通用する革新的な医薬品の創製に取り組んでおります。国内では、御殿場、鎌倉に研究拠点を配置し、連携して創薬の研究を行う一方、浮間では工業化技術の研究を行っております。また、海外では、中外ファーマ・ユー・エス・エー・インコーポレーテッド(米国)、中外ファーマ・ヨーロッパ・リミテッド(英国)、日健中外科技(北京)有限公司(中国)、台湾中外製薬股份有限公司(台湾)が医薬品の開発・申請業務を、中外ファーマボディ・リサーチ・ピーティーイー・リミテッド(シンガポール)が医薬品の研究開発を行っています。
当連結会計年度におけるCoreベースの研究開発費は
2021年1月1日から2021年12月31日までの研究開発活動の進捗状況は以下のとおりであります。
「がん領域」
・抗CD79b抗体薬物複合体「RG7596」(製品名:「ポライビー」)は、2021年3月に、再発又は難治性のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫を適応症として承認を取得し、同年5月に発売しました。また、同年12月に未治療のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫を対象として承認申請を行いました。
・改変型抗PD-L1モノクローナル抗体「RG7446」(製品名:「テセントリク」)は、2021年3月に肝細胞がん(intermediate ステージ)(RG435との併用)、同年5月に筋層浸潤性膀胱がん(アジュバント)を対象としてそれぞれ第Ⅲ相国際共同治験を開始しました。また、同年7月に非小細胞肺がんの術後補助療法を対象として承認申請を行いました。
・抗VEGF(血管内皮増殖因子)ヒト化モノクローナル抗体「RG435」(製品名:「アバスチン」)は、2021年3月に肝細胞がん(intermediate ステージ)(RG7446との併用)を対象として第Ⅲ相国際共同治験を開始しました。
・選択的エストロゲン受容体分解薬「RG6171」は、2021年8月に乳がん(アジュバント)を対象として第Ⅲ相国際共同治験を開始しました。
・抗CD20/CD3バイスペシフィック抗体「RG7828」は、2021年10月に濾胞性リンパ腫を対象として第Ⅲ相国際共同治験を開始しました。
・RET阻害剤「RG6396」は、2021年7月に固形がんを対象として第Ⅰ相臨床試験を開始しました。また、同年11月に非小細胞肺がんを対象として第Ⅲ相国際共同治験を開始しました。
・腫瘍溶解性5型アデノウイルス「OBP-301」は、2021年1月に肝細胞がんを対象として第Ⅰ相臨床試験(「RG7446」及び「RG435」との併用)を開始しました。
・抗潜在型TGF-β1モノクローナル抗体「SOF10/RG6440」は、2021年6月に固形がんを対象として第Ⅰ相臨床試験を開始しました。
・RAS阻害剤「LUNA18」は、2021年10月に固形がんを対象として第Ⅰ相臨床試験を開始しました。
・ヒト化抗FAP抗体改変IL-2融合蛋白「RG7461」は、ロシュ社による複数の海外試験の結果に鑑み、固形がんを対象とする開発を中止しました。
・AKT阻害剤「RG7440」は、国際共同治験「IPATunity150試験」の結果に鑑み、乳がんを対象とする開発を中止しました。
「腎領域」
・NaPi-IIb, PiT-1, PiT-2阻害剤「EOS789」の日本を含む全世界・全適応症における開発・製造・販売の独占的実施権を中外製薬が許諾する、オプション・ライセンス契約を2021年7月に、Alebund社と締結しました。
「自己免疫疾患領域」
・BTK阻害剤「RG7845」は、ロシュ社による複数の海外試験の結果に鑑み、関節リウマチを対象とする開発を中止しました。
「神経疾患領域」
・SMN2スプライシング修飾剤「RG7916」(製品名:「エブリスディ」)は、2021年6月に脊髄性筋萎縮症を適応症として承認を取得し、同年8月に発売しました。
・pH依存的結合性ヒト化抗IL-6レセプターモノクローナル抗体「SA237/RG6168」(製品名:「エンスプリング」)は、2021年6月に欧州にて視神経脊髄炎スペクトラム障害を適応症として承認を取得しました。また、同年10月に全身型重症筋無力症を対象として第Ⅲ相国際共同治験を開始しました。
・抗アミロイドベータ/TfR1融合蛋白「RG6102」は、2021年7月にアルツハイマー病を対象として第Ⅰ相臨床試験を開始しました。
「その他の領域」
・SARS-CoV-2中和抗体カクテル「RG6413/RG6412」(製品名:「ロナプリーブ」)は、2021年3月にCOVID-19を対象として第Ⅰ相臨床試験を開始し、同年6月に承認申請し、同年7月にCOVID-19を適応症として特例承認を取得しました。また、同年10月に承認申請し、同年11月にCOVID-19の発症抑制の適応拡大について特例承認を取得しました。
・抗血液凝固第Ⅸa/Ⅹ因子ヒト化二重特異性モノクローナル抗体「ACE910/RG6013」(製品名:「ヘムライブラ」)は、2021年11月に後天性血友病Aを対象として承認申請を行いました。
・ヒト化抗ヒトIL-6レセプターモノクローナル抗体「MRA/RG1569」(製品名:「アクテムラ」)は、2021年12月に新型コロナウイルス肺炎を対象として承認申請を行いました。
・抗VEGF/Ang2バイスペシフィック抗体「RG7716」は、2021年6月に糖尿病黄斑浮腫及び中心窩下脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性を対象としてそれぞれ承認申請を行いました。また、同年3月に網膜静脈閉塞症を対象として第Ⅲ相国際共同治験を開始しました。
・抗補体C5リサイクリング抗体「SKY59/RG6107」は、2021年10月に非典型溶血性尿毒症症候群を対象として第Ⅲ相国際共同治験を開始しました。
・抗FGFR1/KLBバイスペシフィック抗体「RG7992」は、2021年6月に非アルコール性脂肪肝炎を対象として第Ⅰ相臨床試験を開始しました。
・RNAポリメラーゼ阻害剤「RG6422」は、2021年4月にCOVID-19を対象として第Ⅲ相国際共同治験を開始しましたが、同剤に対する共同グローバル開発に関するロシュ社とアテア社の提携解消を受け、今後について検討した結果、開発を中止しました。
・PTH1受容体アゴニスト「PCO371」は、第Ⅰ相臨床試験結果に鑑み、副甲状腺機能低下症を対象とする開発を中止しました。
・ヒアルロン酸ナトリウム製剤「NRD101」(製品名:「スベニール」)は、経営戦略上の理由から、中国における変形性膝関節症/肩関節周囲炎を対象とする開発を中止しました。