(1)企業理念および基本方針
当社グループは、「病気と苦痛に対する人間の闘いのために」という企業理念のもと、いまだ満たされない医療ニーズに応えるため、真に患者さんのためになる革新的な新薬の創製を行う「グローバル スペシャリティ ファーマ」を目指して積極的な努力を続けています。また、事業活動を通じて持続可能な社会の実現に貢献するため、財務と非財務の経営課題を統合的に捉えて価値創造につなげるサステナブル経営方針を定め、重点課題への取り組みを推進しています。
そして、すべての事業活動において、人の生命に関わる医薬品を取り扱う製薬企業としての責任を深く自覚し、法令遵守はもとより、高い倫理観に基づき行動すべく、コンプライアンスの一層の強化に努めています。
(2)経営課題
新薬開発型医薬品企業として永続的な発展を実現するため、次のとおり現状の課題を定め、対応に取り組んでいます。
<現状における課題と取り組み>
医薬品業界を取り巻く環境は目まぐるしいスピードで日々変化していますが、オープンイノベーションの活発化やデジタルを核とした異業種連携による新しい価値の創出、セルフメディケーションの重要性の高まりなど、新薬開発やヘルスケア領域において様々な成長機会が存在しています。当社では、あらゆる状況に柔軟かつ迅速に対応して世界で通用する企業となることを目指し、4つの成長戦略「製品価値最大化~患者本位の視点で~」「パイプラインの強化」「グローバル事業の拡大と加速」「事業ドメインの拡大」を定めて事業活動に取り組んでいます。さらに、これらの成長戦略を支える経営基盤であるデジタル・IT基盤、人的資本、企業ブランド等の無形資産の拡充に努めます。

成長戦略:製品価値最大化~患者本位の視点で~
患者さんとそのご家族のウェルビーイング(心身的・社会的・生活満足度が満たされている状態)実現に、医療従事者とともに挑み、その結果として新薬が速やかに浸透している状態を目指して、スピーディーかつ効果的な開発、競争力のあるマーケティング、そして精緻な情報提供・収集に取り組みます。
マーケティング、情報提供・収集においては、医療課題に対して医療従事者とともに患者視点で取り組むスペシャリティ人財を育成するとともに、デジタルを活用して効果的かつ効率的な情報提供・収集を実践し、製品のポテンシャルを最大限引き出せるよう取り組んでいます。開発においては現在、重要戦略分野であるオンコロジー領域を中心に、100近くに及ぶ多くの臨床試験を行っています。
オンコロジー領域の主力製品の一つである「オプジーボ」では、パートナー企業である米国ブリストル・マイヤーズ スクイブ社とともに、引き続き製品価値の最大化につながる開発を行ってまいります。
プライマリー領域の主力製品の一つである「オンジェンティス」については、パーキンソン病患者さんのウェアリングオフ発症早期の有用性の浸透とウェアリングオフの顕在化に取り組み、最初に選択されるパーキンソン病補助薬の位置付けを目指しさらなる成長に挑戦します。
成長戦略:パイプラインの強化
世界には現在も治療法のない病に苦しむ人が大勢います。当社は、いまだ満たされない医療ニーズに応えることができる「グローバル スペシャリティ ファーマ」を目指しており、医療ニーズの高いがんや免疫疾患、神経疾患、スペシャリティ領域を重点研究領域に定め、それぞれの領域で疾患ノウハウを蓄積し、医療現場に革新をもたらす新薬を創出していきます。世界をリードする大学や研究機関、バイオベンチャー企業との研究・創薬提携を強化・拡充し、ファーストインクラスが狙える独自性の高いパイプラインの充実を図ります。また、創薬シーズに応じて最適な創薬モダリティを選択し、独自性の高い自社創薬に挑み続けるとともに、ヒト試料を用いた非臨床データや臨床試験で得られたデータを積極的に用いた創薬標的の検証やトランスレーショナル研究の強化により、研究開発の確実性の向上に努めます。加えて、医療ニーズの高い分野での革新的な化合物の導入や新技術の獲得も、積極的に進めていきます。
成長戦略:グローバル事業の拡大と加速
新薬を世界中に提供できるよう、グローバル事業の拡大に取り組んでいます。海外事業を拡大・加速させるために、デサイフェラ社を買収し、パイプラインと研究開発力を強化するとともに、米欧での販売基盤を獲得しました。さらに、デサイフェラ社を米欧事業における拠点として、従来、米国および英国に有していた機能を再編し、集約します。これにより、当社グループ一体となってグローバル事業を一層加速させていきます。短期的には、QINLOCKとROMVIMZAの適応追加や販売地域拡大を通じて製品価値を最大化し、ONO-4059(ベレキシブル錠)の米国での上市に向けた活動を推進します。また、グローバルでの開発体制の強化に取り組み、既存のがん領域に加えて他の疾患領域においても、米欧での開発を推進します。今後も革新的医薬品を世界中のより多くの患者さんに速やかに届けられるよう取り組んでまいります。
成長戦略:事業ドメインの拡大
拡大するヘルスケア分野のニーズを捉え、新たな価値を提供し続けるため、事業ドメインの拡大に取り組んでいます。小野薬品ヘルスケア株式会社では、これまでの医療用医薬品の研究開発で当社が培ってきた資産を最大限に生かした商品の開発に取り組んでおり、第1弾となる機能性表示食品 睡眠サプリメント「REMWELL(レムウェル)」については、継続的に顧客の拡大を進めています。脂質研究のパイオニアとしてリピドサプリ事業を通じて、今後さらに様々な健康課題の解決に取り組みます。また、デジタルを活用し、顧客の未解決課題と向き合い、新たな価値創出に挑戦するため、株式会社michitekuにおいては、がん(大腸がん、胃がん、肺がん、乳がん)患者さんの告知直後の心のケアや医師の話を理解するためのヘルスリテラシー向上をサポートするツール「michiteku」β版を提供しています。加えて、2025年1月には、日常と治療の両立を支援する通院日管理アプリ「michiteku YOHA」の提供を開始しました。さらにこれらの活動と並行して、小野デジタルヘルス投資合同会社による、ヘルスケア分野でのベンチャー企業への投資活動を通じて新たな事業の創出・拡大を目指します。
成長戦略を支える経営基盤:無形資産の拡充
4つの成長戦略を支え、飛躍的な成長を果たすため、人的資本、企業ブランド、デジタル・IT基盤等の無形資産の拡充に取り組みます。人的資本の拡充では、事業の成長を推進するための人財の確保・育成を進めるとともに、高い従業員エンゲージメントを実現するための組織風土・カルチャーの醸成を推進していきます。また、企業認知の向上については、グローバルでの企業ブランドの浸透をデサイフェラ社とともに進めることで、企業価値の向上に取り組みます。さらに全社で、デジタル・ITによる企業変革に取り組み、グローバル化や変化に対応したセキュアなIT基盤を構築・維持するとともに、創薬バリューチェーンの変革をはじめとしたデジタルトランスフォーメーションを推進します。
当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりです。
なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1)サステナブル経営方針
当社は、1717年(享保2年)の創業以来、「病気と苦痛に対する人間の闘いのために」という企業理念のもと、社会とともに歩んできました。社会の一員として当社の存在意義を改めて認識し、「社会から必要とされる企業であり続けたい」という想いを胸に、2021年には持続可能な社会の実現のためにサステナブル経営方針を策定しました。

② 戦略
サステナブル経営方針のもと、当社のリスクと機会を統合的に分析し、マテリアリティを特定しています。各マテリアリティについて、それぞれ取り組みを推進することで、当社と社会、双方の持続可能性向上を図り、長期的に企業価値を高めていきます。


③ リスク管理
サステナビリティに関する主要なリスクは、全社的リスクマネジメント(ERM)に統合し、管理しています。詳細は「
④ 指標と目標
各マテリアリティは中期経営計画の成長戦略と明確に連動させ、KPIを設定してより推進力のあるマネジメント体制に発展させています。また、各マテリアリティの取り組み状況及び進捗は、取締役の業績評価に反映させています。
マテリアリティのKPIおよび進捗状況については、当社サステナビリティWebページ内「
(2)人的資本の拡充に向けた取り組み
当社は中期経営計画の達成に向けて、4つの成長戦略を軸に取り組んでいます。あわせて、企業の永続的な発展を支えるのは「人財」であり、人的資本の拡充に向けた取り組みを推進しています。
① ガバナンス
当社においては、マテリアリティ(経営の重要課題)の1つとして人的資本の拡充を取り上げており、その進捗については取締役会等にて定期的な報告を行っています。
② 戦略
[全ての成長戦略に共通する人財プール]
当社の企業理念の実現に向けて、全ての成長戦略に対し、部門横断的に経営基盤を支える横断人財と、各成長戦略を推進するためのスキルと専門性を持つ専門人財の育成もしくは採用を実施しており、これら多様な人財が連携して組織/プロジェクトのメンバーを牽引することで、持続的な成長を実現するべく取り組んでいます。
部門横断的に経営基盤を支える横断人財は、大きく4つの人財カテゴリ:次世代経営人財、グローバル人財、デジタル人財、イノベーション人財に区分し、それぞれ採用・育成を進めています。
・次世代経営人財については、将来の経営幹部となりうる候補人財を4つの階層に分けて、研修や計画的なタフアサインメントなどを通じて育成しています。
・グローバル人財については、グローバルビジネスを遂行するのに必要な国際的な視野、異文化コミュニケーション、語学力といったスキルを修得するための育成研修(Global Skill Improvement Program:GSIP)や計画的な海外派遣などを通じて、育成を行っています。
・デジタル人財については、デジタル・IT部門以外のビジネスサイド(研究、開発、営業部門他)も含め、各事業のDX推進を通じてデジタルリテラシーの高い人財を育成する取り組みやデジタル人財育成研修を行っています。
・イノベーション人財については、当社独自の取り組みである(Ono Innovation Platform:OIP)を2021年度よりスタートさせ、学習・経験・挑戦の場の3つの分野で構成するプログラムを提供し、育成を行っています。
各成長戦略を推進する専門人財は、4つの成長戦略ごとに人財要件を定義し、計画的な育成と採用を進めています。
・製品価値最大化:患者本位の視点でニーズを顕在化し、解決策を提案、実行できる人財
・パイプラインの強化:グローバルでオープンイノベーション、ライセンス導入、臨床開発を推進しマネジメントできる人財
・グローバル事業の拡大と加速:グローバルで活躍できる多様な人財を束ねて事業を推進できる人財
・事業ドメインの拡大:ニーズを捉え、経済合理性のある解決策を社会実装できる人財
[人財の能力底上げ]
成長戦略を推進し、実現する横断人財、専門人財を継続して輩出するために全ての社員の能力底上げを目的として、階層別必須研修とあわせ、社員の自律的なキャリア形成を支援するために手上げ方式で主体的に参加できる研修の提供、オンライン学習や資格取得等に活用できる自己啓発学習補助金(7万円/人・年)の支給を行っています。
[高い従業員エンゲージメントを実現する組織風土・カルチャーの醸成]
事業の継続的な成長を実現するため、人財の採用・育成・確保(リテンション)にあたっては、「社員が、異なる多様な価値観を尊重しながら安心して働き、活躍している」状態を実現するための取り組みを継続しています。その土台となる組織風土、カルチャーの醸成に向けた取り組みを通じて、従業員エンゲージメントの向上に努めています。上記を達成するために、まず個性を発揮できる仕組みや公平で透明性の高い魅力ある風土、変化に適応できる柔軟な労働環境など、ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)の推進に取り組んでいます。当社はDE&I推進のテーマとして、「異なり」×「一体感」を掲げています。異なるバックグラウンドや考え方を持つ人財が一緒に働くことで新たな気づき、アイディアが生まれます。それら多様性を受け入れる風土を醸成することで一体感のある企業となり、外部からも魅力があり、かつ当社で長く活躍したいと思う人財のあふれる組織を目指します。また、人々の健康に貢献する企業として、社員が安心して働くことができる環境を提供するために、健康経営にも積極的に取り組んでいます。
<企業理念の実現に向けた成長戦略と人財戦略>

③ リスクと機会の管理
人的資本に関するリスクとしては「
④ 指標と目標
[全ての成長戦略に共通する人財プール]
部門横断的に経営基盤を支える横断人財では、2026年度までに次世代経営人財≧250人、グローバル人財≧300人、デジタル人財≧700人(DXプロジェクトを企画・管理・遂行できる人財≧200人+DXプロジェクトに参加して活躍できる人財≧500人)、イノベーション人財≧180人、成長戦略を推進する専門人財では、2026年度までに700人規模を採用・育成していきます。
[人財の能力底上げ]
従業員が主体的に学び、キャリア自律を図れる研修体制とし、正社員一人当たりの研修時間は、単体で、53.8時間(2021年度)→55.9時間(2022年度)→70.6時間(2023年度)→63.5時間(2024年度)と推移しており、現在は対面型とオンライン型の研修を組み合わせ運営しています。今後もスキル向上や自律的なキャリア形成を支援する研修を充実させ、事業へ貢献する人財育成を継続していきます。
研修の質としては、7つある階層別必須研修(*)後の平均行動変容率は84%(上司による評価、2024年度)でした。今後もより質の高い研修を提供し、社員の能力底上げとキャリア自律を図っていきます。
* 4つの昇格者研修、フォローアップ研修、3年次・5年次研修
[高い従業員エンゲージメントを実現する組織風土・カルチャーの醸成]
2022年度より、全社および各部門の状況を“見える化”し、企業理念の体現に向けた課題抽出、仮説設定、施策立案・実行の一助とすることを目的に従業員エンゲージメント調査を実施しています。本調査では、自身が所属する組織が成功するために、自らの力を注ぎ、努力をしたいと考えているかをスコア化しています。このスコア(エンゲージメント指数)をグローバルライフサイエンス企業の平均値をベンチマークとして改善を進めています。
当社の多様性の向上における取り組みとして、「管理職」「個の経験と視点」「働き方」の3つを中心に多様化を推進しています。
管理職の多様化については、当社のこれまでの常識にとらわれず様々な提案が受け入れられることで意思決定の質を向上させる必要があります。特に若手・キャリア入社・女性の3つを柱に管理職の多様化を進めています。具体的には、2025年度より昇格における条件であった滞留年数を撤廃することで、年齢や社歴に関係なく実力のある人財の早期抜擢を可能とするとともに、育児休業などがキャリア形成の阻害要因にならないようにしています。またキャリア入社の管理職も徐々に増え、現在では管理職の21.6%、155人(2025年3月31日時点)の方が活躍しています。また女性の管理職においては、これまで女性がライフイベントを経験しても働き続けられる環境を目指し、両立支援等を実施してきています。しかしながら女性管理職比率は7.4%(2025年3月31日時点)にとどまっており、当社の課題の1つとなっているため、女性管理職候補に向けた成長のきっかけを作ることを目的とし、上司とともにストレッチアサインメントに取り組む研修、また、本部長や統括部長等が女性社員のメンターとなり、女性管理職候補の視座を上げ、管理職へチャレンジすることを後押しする取り組み等を進めています。今後、2026年度までに女性管理職比率10%、2031年度までに20%を目標に取り組みを進めていきます。年齢・社歴・性別に関わらず、公平に人財を採用・育成・活躍できる仕組み・環境を整備していきます。
また女性活躍推進法に基づき、2023年4月から4年間で「女性管理職比率10%以上、男性の育児休業もしくは短時間勤務どちらかの取得率80%以上」の目標を設定し、ジェンダーに関わらず活躍できる仕組みや働き方に取り組んでいます。その結果、2016年には0%であった男性の育児休業取得率は、2024年度には78.8%まで拡大いたしました。
個の経験や視点の多様化に向けては、社内にて公募制度と社内チャレンジジョブ制度(他部署を兼務する制度)を導入しています。公募制度に関しては2024年度には191人の方が応募し、これまで6年間で累積144人の方が公募により他部署に異動しています。また社内チャレンジジョブ制度を2023年度より全社に本導入し、2024年度には62人の方が応募し、導入後2年間で累積77人の方が他部署と兼務することで経験と視点の多様化を進めています。
働き方の多様化については、スーパーフレックス制度(コアタイム撤廃)や在宅勤務制度(上限回数等を各部門で設定)の導入を進めてきました。2024年度は、営業外勤者におけるフレックスタイム制度の導入、勤続年数に関わらず年次有給休暇の付与日数を拡大(一律20日)、ドレスコードをオフィスカジュアルに改定・カジュアルフライデーの導入など、より柔軟で働きやすい環境整備を推進しています。「管理職の多様化」および「個の経験と視点の多様化」を進める上で、多様な個性を活かし高いパフォーマンスを発揮できるよう、今後も働き方の多様化をはじめ、継続的に働きやすい労働環境の整備をしていくことが重要と考えています。
成長戦略の実現、人的資本の拡充に向けた取組みの数々を円滑に進めていくには、社員が健康で安心して働ける環境づくりが重要です。ヘルスアップ宣言2018のもと、2022年度は-1.8歳であった社員の健康年齢と実年齢との差を2026年度には-3.0歳にすることを目標に社員自らが健康保持・増進に取り組むことができる仕組みづくりや環境整備を行っており、2024年度は-1.9歳でした。今後も、「健康経営優良法人2026 ~ホワイト 500~」(大規模法人部門)への8年連続での認定および「健康経営銘柄」への再選定に向け、様々な活動を通じて健康経営を推進していきます。
<人財戦略の実現に向けたKPI>
※①DXプロジェクトを企画・管理・遂行できる人財、②DXプロジェクトに参加して活躍できる人財
(3)気候変動関連開示への対応(TCFD提言への取組)
当社の事業は健全な地球環境のもとで成り立っています。私たちは事業活動による地球環境や地域への負荷を減らすことは重要な企業責任であると考えています。地球環境の保全をマテリアリティの一つとして位置づけ、気候変動などの環境課題の解決に積極的に取り組んでいます。
2019年には、2050年に向けた中長期環境ビジョン「Environment Challenging Ono Vision(ECO VISION 2050)」を策定しました。このビジョンでは「脱炭素社会の実現」、「水循環社会の実現」および「資源循環社会の実現」という3つの重点項目を設定し、それぞれの目標に向かって取り組んできました。
また、2019年には、「気候変動関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」提言への賛同を表明しました。私たちはこの提言を踏まえ、気候変動に関連するリスクと機会の評価や管理を行い、適切な情報開示を進めています。
TCFD提言に基づく情報開示の要旨は以下のとおりです。詳細は、当社サステナビリティWebページ内
① ガバナンス
マテリアリティの進捗、環境ビジョンECO VISION 2050の実現と中長期環境目標の達成に向け、代表取締役社長を環境経営の最高責任者とし、環境担当役員として代表取締役 副社長執行役員を任命しています。
工場や研究所など各拠点の環境課題は、環境委員会にて管理・推進しています。気候変動対策を含むサステナビリティ戦略についての重要事項は、環境担当役員が議長を務め、代表取締役社長を含む経営会議メンバーの多くが出席するサステナビリティ戦略会議にて討議しています。また、これらのサステナビリティ戦略会議および環境委員会で討議される気候変動を含む環境課題への取り組みの進捗は、四半期に1回以上の頻度で取締役会に報告され、取締役が決定事項の遂行を監督する体制を取っています。
② 戦略
気候変動が当社の事業に及ぼす影響を把握し、そのリスクと機会を具体化した上で、レジリエントな体制を構築するため、シナリオ分析を実施しました。分析の範囲は自社拠点からの温室効果ガス排出(スコープ1、スコープ2)に加え、サプライチェーンからの温室効果ガス排出(スコープ3)を対象としました。事業への影響は、短期(~3年)、中期(3~10年)、長期(10~30年)の3期に分類し、その影響度を金額と発生可能性を考慮して総合的に大中小で評価しました(大:事業活動の継続に影響、中:事業の一部に影響がある、小:ほとんど影響がない)。シナリオ分析では、低炭素社会に向かう1.5℃シナリオ(IEA NZE 2050およびIEA SDS (WEO2021))と温暖化が進む4℃シナリオ(IPCC RCP8.5)を選択し、分析、評価を行いました。情報が不足している場合は、STEPSシナリオなども参考にしました。
<気候変動関連のリスク>
シナリオ分析の結果、大規模な事業転換や投資が必要な気候関連リスクは認識されませんでした。しかし、自然災害による製造拠点・調達品への影響、各国・地域の法規制などのリスクを継続して分析していくことが重要だと認識しています。特に、4℃シナリオの物理的リスク「自然災害(豪雨・台風・洪水)」については、高品質な医薬品の安定供給に影響を及ぼすリスクになりうると捉えており、十分な在庫確保や生産・調達の複数拠点対応などBCP対策を徹底します。
<気候変動関連の機会>
気候変動により、感染症や呼吸器疾患、熱中症などの健康被害の増大が懸念されています。当社は革新的な新薬の創製により社会に貢献すべく取り組んでおり、当該疾患に対する治療薬が見いだされた場合は、その機会を最大限に活かしていきます。革新的な新薬の提供によって患者さんやそのご家族に貢献するだけでなく、人々が健康で健全に暮らせる社会であるよう、脱炭素社会の実現に向けて取り組みます。
③ リスクおよび機会の管理
特定したリスク・機会、およびその対応策、ならびに機会推進のための施策の進捗は、環境担当役員を責任者とし、社内各機能の責任者をメンバーとする部門横断のTCFD-WG、および工場や研究所など各拠点の環境課題を管理・推進する部門横断の環境委員会にて管理しています。その状況は、上記ガバナンスに記載の体制を通して、取締役会が管理・監督する体制をとっています。また、気候変動関連のリスクは、リスクマネジメント委員会に共有され、事業継続に影響を与えるリスクはリスクマネジメントグローバルポリシーに基づき全社的リスクとして管理しています。
また、対応策の進捗やその進捗による影響額の変化については、TCFD-WGおよび環境委員会にて毎年見直しを行い、リスク・機会の分析・評価の見直しは、中期経営計画の策定および環境関連の方針や目標の改定に合わせて数年ごとに実施します。
④ 指標および目標
気候変動に伴うリスクの最小化と機会の最大化を目指し、各種環境指標や目標を設定し、モニタリングを継続して実施しています。2023年、取り組みをさらに加速すべく中長期目標を見直し、2025年に自社排出のカーボンニュートラル達成を目指すとともに、自社の温室効果ガス排出ゼロ達成を2050年から2035年に前倒ししました。また、2025年には購入電力の100%を再生可能エネルギーで賄うことを目指して取り組みを進めています。
*実績値は、第三者保証を受けています。保証範囲の詳細については当社
**Scope3のカテゴリ1と9は、算定時点では当社の主要取引先および医薬品卸の2023年度温室効果ガス排出量が公開されていないため2022年度のデータを用いて算定しています。
当社グループの業績は、今後起こり得る様々な事業展開上のリスクにより大きな影響を受ける可能性があります。
以下には、当社グループの事業展開上のリスクとなる可能性があると考えられる主要な事項を記載していますが、すべてを網羅したものではなく、記載以外のリスクも存在し、それらは投資家の判断に影響を与える可能性があります。
なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
<リスクマネジメント体制>
当社グループは、リスクの発生の可能性を認識したうえで、発生の予防に努め、発生した場合には的確に対処する体制を整備しています。
部分最適でなく全体最適のリスクマネジメント活動を目指し、ERM(Enterprise Risk Management:全社的リスクマネジメント)を2019年度より導入しました。リスクマネジメント最高責任者(代表取締役社長)とリスクマネジメント統括責任者(代表取締役副社長/経営戦略本部長)を選任し、リスク・コンプライアンス管理部を主管部署と定め、「リスクマネジメントグローバルポリシー」に基づきリスクマネジメント委員会を定期開催しERMを推進しています。
<ERM体制図>

1線: 事業推進とリスク管理を実践する役割。
2線: 1線の活動をモニタリングし牽制する役割。
3線: 独立した保証を提供する役割。
ERMを推進するにあたり、経営層にインタビューを行い経営層が重要と考えるリスクを抽出したうえで、各本部から選出されたリスクマネジャーとワークショップ形式でリスクの評価・分類を行っています(発生頻度と影響度から各リスクを特大・大・中・小に分類)。「大」以上のリスクについては「主要なリスク」と位置づけ、本部長・統括部長レベルの部門リスクマネジメント統括責任者が、リスクオーナーとして部門横断の対応策に責任を負い、より経営に密着したERMを推進しています。また、各部門のリスクへの対応は、リスク・コンプライアンス管理部がリスクマネジャーと連携してモニタリングします。このような取り組みを通して、リスクマネジメントの精度を継続的に高め、リスクの低減に努めています。「主要なリスク」では、上記で分類したリスクのうち「大」以上のリスクを記載しています。
なお、洗い出したリスクは、「戦略上のリスク」「外部要因リスク」「オペレーショナルリスク(業務遂行に伴うリスク)」に3分類し、リスクへの基本的な対応方針や優先順位を決定しています。リスク分類毎の基本的な対応方針は以下のとおりです。
・戦略上のリスク:事業計画の失敗等、ビジネスそのものに伴うリスクで、中期計画等で対応すべきもの。
・外部要因リスク:管理不能な外部要因により発生するリスクで、BCP等を含めERMで対応すべきもの。
・オペレーショナルリスク:想像力を働かせれば避けえた管理の失敗により発生するリスクで、ERMで対応すべきもの。
この3分類に基づく、当社の「主要なリスク」は以下のとおりです。
<主なリスクとその対応>
(1) 新製品の開発について
当社グループは、「病気と苦痛に対する人間の闘いのために」という企業理念のもと、いまだ満たされていない医療ニーズに応えるため、真に患者さんのためになる独創的で革新的な新薬開発に取り組むことを通して、世界のフィールドで闘える開発型国際製薬企業(グローバルスペシャリティファーマ)を目指しています。そのために、自ら革新的な医薬品の創製に挑むとともに、世界最先端の技術や知見を取り入れるオープンイノベーションを積極的に進めています。
しかしながら、長期かつ多額の研究開発投資が実を結ばず、開発中断を余儀なくされ、結果的に独創的な新薬の上市に至らない事態も予想されます。このような事態に陥った場合には、将来に期待していた収益が得られず、当社グループの経営成績および財政状態は影響を受ける可能性があります。
(2) 海外展開について
当社グループは、独創的かつ革新的な新薬を創製し、世界のフィールドで闘える開発型国際製薬企業(グローバルスペシャリティファーマ)を目指した海外展開に取り組んでいます。すでに、韓国、台湾では、現地法人を設立して自社製品を販売しており、現在は欧米での開発・自販体制等の整備・強化にも努めています。2024年6月、がん領域における優れた研究開発能力と欧米でのコマーシャルケイパビリティを有するデサイフェラ社をグループ企業として迎え入れ、当社グループのパイプラインの拡充およびグローバル展開を加速させていきます。
グローバルな事業活動を行うにあたり、開発リスクに対して、開発パイプライン拡充により複数の上市品候補を揃えると共に、各国の法的規制、経済情勢、政情不安、地域固有の自然災害や事業環境の不確実性等の情報を入手し、必要な対応を検討していますが、リスクを完全に回避することができない場合には、当社グループの経営成績および財政状態は影響を受ける可能性があります。
(3) 特定の製品への依存について
当社グループの売上収益のうち、「オプジーボ点滴静注」および「抗PD-1/PD-L1抗体関連のロイヤルティ」の売上収益は、売上収益合計の約50%台半ば(2025年3月期)を占めています。薬価改定、他の有力な競合品の出現、特許等の保護期間の満了、その他予期せぬ事情により、売上収益が減少した場合には、当社グループの経営成績および財政状態は影響を受ける可能性があります。
かかるリスクに対処すべく、当社グループでは、2017年度から展開している中期経営計画の中で、事業のグローバル展開を加速すべく取り組んでいます。これまで、当社では、日本・韓国・台湾において臨床開発・販売を行い、欧米やその他の地域については新薬候補のライセンスアウトを基本とするというビジネスモデルでした。しかし、そのモデルを転換し、自ら欧米での臨床開発・販売を行うべく取り組んでいます。その一環として2024年6月には米国デサイフェラ社を買収し、欧米での臨床開発体制を強化し、世界40数か国での販売網を獲得しました。デサイフェラ社の持っていたアセットであるキンロック、ロンビムザに続き、当社が創製したベレキシブル、更には2025年3月にIonis社から導入したSapablursenを始め、臨床開発段階にある当社の持つアセットをグローバル市場に速やかに投入していくことで、オプジーボに依存した経営体制を一気に改善していきます。
(4) コンプライアンスについて
当社グループは、事業活動を行う上で、製品の品質、安全、環境関連、化学物質関連の他、取引関連、労務関連、会計基準や税法等の様々な法規制の適用を受けています。また、気候変動の緩和のための各国の政策や法規制強化への対応が必要となります。当社グループおよび委託先等が重大な法令違反を起こした場合は、当社グループへの信用、経営成績および財政状態は影響を受ける可能性があります。また、法規制の変更等により事業活動が制限され、その対応のために投資が必要になる場合には、当社グループの経営成績および財政状態は影響を受ける可能性があります。
当社グループでは、ONOグループ コード・オブ・コンダクトのもとに、コンプライアンスグローバルポリシー等を制定しているほか、グループコンプライアンス委員会やコンプライアンス違反通報窓口を社内外に設置する等、コンプライアンス管理の体制を構築しています。さらに、コンプライアンスリスクの洗い出しとモニタリングを定期的に行うことで、違反の未然防止を実現する体制を確立し、事業活動に関連する法規制が遵守されるよう徹底しています。
(5) 製品の品質管理について
当社グループは、医薬品の品質に係る法的要件のみならず、患者さん・介護者・医療従事者の視点に立った品質の高い医薬品を安定的に提供するため、「品質が高度に保証された医薬品を安定的に供給することにより社会に貢献する」という方針のもと、独自の品質マニュアルに基づいた品質システムを確立するとともに、システムの継続的な改善に取り組んでいます。しかしながら、予期せぬ重大な品質トラブルまたは新たな科学的知見により製品の安全と安心に対する懸念や製造物責任(PL)問題等が発生した場合には、当該製品ブランドだけではなく、当社グループ全体の信用低下や損害賠償責任にもつながり、当社グループの経営成績および財政状態は影響を受ける可能性があります。
なお、当社グループでは、製品の品質、有効性、安全性に関する懸念が生じた際には速やかに評価を行い、回収が決定された場合は速やかに医療従事者へ情報を提供すると共に、当該製品を回収する体制を整えています。
(6) サプライチェーン(安定供給)について
当社グループは、自然災害および事故のリスクや薬機法からの逸脱リスクに対応する体制を構築しています。
しかしながら、地震や台風等の自然災害、大規模感染症の蔓延、火災、システム障害やテロ等の事件、薬機法からの逸脱等により、特定の工場や外部委託先の機能、取引先からの原材料の供給が停止し、生産活動の停滞・遅延が起こった場合には、当社グループの経営成績および財政状態は影響を受ける可能性があります。自然災害および事故への対応策の詳細については、「(13)自然災害(大規模地震・気候変動)、感染症および事故について」に記載しています。
薬機法からの逸脱リスクへの対応については、自社に厳格な品質基準を定め、生産に関する記録書類や照査、変更管理、逸脱管理を徹底して行っています。また、自社工場や委託先への品質監査を行い、それらが適切に運用されているかを定期的に確認しています。さらに、社員には患者さん目線の行動や違和感を持った時には迅速に報告、共有することを推奨し、品質文化の醸成、定着に努め、委託先にも同様の行動をお願いしています。このように規格に適合しない製品が出荷されないよう一貫した高水準の品質管理を徹底しています。
(7) 新たな副作用について
医薬品には、治験段階では経験したことがない新たな副作用が市販後において報告される可能性や、副作用の頻度が高まる可能性があります。新たに重篤な副作用が発生した場合には、損害賠償金の支払いや承認取消等による売上収益の減少等により、当社グループの経営成績および財政状態は影響を受ける可能性があります。
当社グループでは、医薬品ごとにリスク管理計画を策定し、継続的に安全性(副作用)情報の収集と評価を行っています。収集した情報は重篤性や注意喚起の必要性を評価したうえで、必要に応じて添付文書の改訂や医薬品の適正使用に関するお知らせの提供等の安全性対策を実施しています。
(8) 市場環境の変化(競争環境の変化・医療制度改革)への対応について
当社グループの医薬品製造販売事業は、各国の薬事行政によりさまざまな規制を受けています。競合品や後発品の販売状況等の医薬品の市場環境の変化や、日本国内における公定薬価の引下げ、後発医薬品の使用促進等の医療制度改革や海外における様々な医療費抑制策の影響により、売上収益が減少した場合には、当社グループの経営成績および財政状態は影響を受ける可能性があります。
これらに対し、積極的な研究開発活動、全社を横断する迅速な部門間連携の強化による製品価値最大化を図っています。医療制度の変化をいち早く察知・対応することに加え、市場環境においても開発早期からその変化を見据え、競争優位性を担保する戦略で臨んでいます。また、製品ライフサイクルでは絶えず市場動向を捉え、製品のポテンシャルを最大限引き出せるようリソースを準備しています。
(9) 情報セキュリティについて
当社グループは、業務の効率化・高度化はもとより、ビジネス環境に合わせてより柔軟に企業の変革を進めていけるようデジタル・ITの活用を進めています。また、これらのシステムにおいて機密性の高い情報や個人情報を取り扱っています。ビジネスのグローバル化の推進やデータ活用範囲の拡大とともに複雑性が増しており、技術的に発生する可能性がある障害、第三者または社内からの不正アクセスや攻撃によるビジネスオペレーションの停止、重要情報流出の可能性があります。
これらによりコンピュータウイルスの感染、サイバー攻撃等によるシステム障害や事故等の原因により情報の改ざん、悪用、漏えい等が発生した場合には、社会的信用を大きく失うこと等により、当社グループの経営成績および財政状態は影響を受ける可能性があります。
これらのリスクを低減するため、セキュリティ関連ポリシーやガイドラインの整備、社会環境の変化に合わせた適切な技術対策・サービス利用に加え、インシデント対応体制の構築、国内外全社員を対象としたトレーニング、第三者によるセキュリティ評価に基づく継続的な対策強化を行っています。
(10) 人財の採用・育成・確保(リテンション)について
当社グループは、持続的成長のために多様かつ優秀な人財の採用・育成・確保(リテンション)に努めていますが、中長期的に多様かつ優秀な人財が採用・育成・確保できない場合は、事業活動の停滞等が生じ、当社グループの経営成績および財政状態は、影響を受ける可能性があります。
多様な人財の一人ひとりがいきいきと働き、その能力を最大限に発揮するために、多様な働き方ができる制度や職場環境の整備を進めています。また、働きがいのある魅力的な企業に向けた取り組みを通じて人財の採用・確保を図っており、個々人の成長や能力開発に向けたチャレンジ機会の創出や研修制度の充実を進めています。
さらに、環境の変化に迅速かつ柔軟に対応し、企業価値を向上させるためには、人財の多様性を高めるとともに、相互に尊重しあう風土の醸成を重要視しています。事業成長をリードするマネジメント層において、年齢・性別・社歴の多様化の観点から、若手、女性、キャリア採用者の登用を進めています。あわせて、エンゲージメント調査を通じて、多様な人財が意欲高く働ける風土醸成を進めています。
(11) 知的財産について
当社グループは、製造または販売する製品が第三者の知的財産権に抵触することのないように十分に注意を払っていますが、万が一、抵触があった場合には、損害賠償の支払いや製造販売の差し止め等による売上収益の減少等により、当社グループの経営成績および財政状態は影響を受ける可能性があります。
また、当社グループでは、発明者等を適切に決定、管理し、社内規定や契約等で定めた適切な対価を支払っていますが、発明者等から訴訟を受けた場合には、損害賠償の支払い等により、当社グループの経営成績および財政状態は影響を受ける可能性があります。
更に、当社グループが保有、または他社からライセンスを受けている知的財産権が第三者から侵害された場合には、期待される収益が失われることにより、当社グループの経営成績および財政状態は影響を受ける可能性があります。
(12) 減損リスク(販売権・仕掛研究開発費・のれん等)への対応について
当社グループは、予実管理等を通じて業績のモニタリングを行っており、業績悪化の兆候があれば、適時に減損損失の測定等を行う体制を構築しています。今後、「事業等のリスク」に記載している様々なリスクが顕在化すること等により、業績計画との乖離が生じ、将来期待していたキャッシュ・フローが獲得できなくなった場合には、販売権、仕掛研究開発費およびのれんの減損損失が発生する可能性があります。このような場合には、当社グループの経営成績および財政状態は影響を受ける可能性があります。
(13) 自然災害(大規模地震・気候変動)、感染症および事故について
大規模地震や気候変動に伴う自然災害、大規模感染症の蔓延等により、原材料の確保、生産の継続、流通過程等に問題が生じること、あるいは、生産工場の爆発・火災事故、情報・制御システムの障害、電力や水等の社会インフラの機能不全、有害物質による環境汚染、テロ、政変、暴動等が発生することがあります。これらにより、製商品の供給や研究開発活動等に支障をきたした場合には、事業活動の停滞等により、当社グループの経営成績および財政状態は影響を受ける可能性があります。
当社グループは、地震や気候変動に伴う洪水等の自然災害および事故発生時に対して、事業が中断した場合でも速やかに復旧・再開できるよう、事業継続計画(BCP)を策定しています。生産拠点をフジヤマ工場、山口工場の2か所、物流拠点を国内の複数個所に確保することで、当社製品の安定的な供給のためのリスク軽減を図っています。重要拠点である本社、東京ビル、各工場および各研究所には、災害対策として非常用電源設備や電力供給ラインの二重化等の停電対策の設備を採用しています。加えて本社、東京ビル、水無瀬研究所、山口工場には、免震装置を導入し地震に対するリスク軽減を図っています。また、大規模災害に備え、本社と東京ビルの2拠点で対応できる体制の構築、いち早く従業員の安否を確認できるシステムの導入等、社内体制の整備や定期的な訓練等の実施により、継続的な対応力の強化に努めています。事業継続管理(BCM)を担うBCM委員会では自然災害や重大事故だけでなく、様々なインシデントに対応できるオールハザードに対応した事業継続計画の立案に取り組んでいます。さらに、海外子会社を含めたグローバルでの危機対応・事業継続計画の策定を進めています。
(14) 金融市況の変動について
・為替変動
当社グループは、国際的に事業展開を行っており、外貨建てでの受取ロイヤルティや経費支払い等があるため、為替相場の変動により、売上収益の減少や仕入原価、研究開発費の増加、為替差損の発生等のリスクに晒されています。当社グループは上記リスクを緩和すべく、市場リスク管理方針に基づき外貨建て取引の一定の割合について先物為替予約による為替リスクヘッジをしています。しかしながら、外貨の為替変動が想定以上となった場合、当社グループの経営成績および財政状態は影響を受ける可能性があります。
・価格変動
当社グループは、資本性金融商品から生じる株式価格の変動リスクに晒されています。当社グループは、短期トレーディング目的で保有する資本性金融商品はなく、ビジネス戦略を円滑に遂行するために資本性金融商品を保有していますが、定期的に公正価値や発行体の財務状況等を把握するとともに、当該企業との関係を勘案し、必要に応じて保有状況を見直しています。しかしながら、資本性金融商品の公正価値が予想を超えて大幅に変動した場合には、当社グループの経営成績および財政状態は影響を受ける可能性があります。
(15) 環境問題への対応について
当社グループは、環境関連問題への対応として、環境グローバルポリシーに基づいた環境ビジョン(ECO VISION 2050)を定め、脱炭素社会の実現、水循環社会の実現、資源循環社会の実現に向けて全社的に取り組んでいます。加えて、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)提言に基づき、気候変動関連、自然関連のリスクの特定とその対応策について検討をし、情報開示をおこなっています。このように、環境に対する企業の社会的責任を認識し、豊かな地球環境の保全に向けて事業活動の全分野において環境に配慮した活動を推進しています。
医薬品の研究、製造の過程等で使われる化学物質や生物由来試料の中には、人の健康や生態系への負荷が高いものもあり、適切な管理が求められます。当社グループでは事業活動を行う国や地域における有害物質の使用、製造、保管、廃棄等の取り扱いに関して、関連する法規制の遵守はもとより、法規制よりも厳しい自主基準を設け、モニタリングによる適正管理を実施しています。(詳細な取組につきましては、「第2 事業の状況 2 サステナビリティに関する考え方及び取組」に記載しています。)
しかしながら、今後、環境に関する法規制の改定により、より厳しい要請への対応が課せられた場合には、その対応のためのコストが増加することに加え、当社の研究、開発、製造その他の事業活動が制限される可能性があります。また、万が一、環境に関する法規制の不適合や有害物質による予期せぬ環境汚染、それに伴う危害が顕在化した場合には、社会的信頼を損なうとともに、保険の適用からの除外または補償金額を超える費用負担、法的責任を負う可能性があります。このような場合には、当社グループの経営成績および財政状態は影響を受ける可能性があります。
当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は以下のとおりとなりました。
当連結会計年度末の資産合計は、前連結会計年度末に比べ1,504億円増加の1兆640億円となりました。
流動資産は、現金及び現金同等物の増加などから415億円増加の4,551億円となりました。
非流動資産は、その他の金融資産が減少する一方で、デサイフェラ社買収に伴う無形資産の増加やのれんを計上したことなどから1,089億円増加の6,089億円となりました。
負債は、デサイフェラ社買収の資金調達のために金融機関から借入を実施したことなどから1,608億円増加の2,758億円となりました。
親会社の所有者に帰属する持分は、当期利益の計上があった一方で、その他の資本の構成要素の減少や剰余金の配当などがあったことから105億円減少の7,825億円となりました。
(経営成績)
業績の概況<コアベース>
(単位:百万円)
*コアベースの定義
コア財務指標はIFRSの財務ベースの指標から、当社事業の本質的な業績と関連がない項目や単年度の発生など一過性の項目を控除して算出します。調整項目には、買収や導入により獲得した無形資産から生じる償却費、減損損失、訴訟等による賠償または和解費用、災害による損失などが含まれます。
[売上収益]
売上収益は、前連結会計年度比158億円(3.1%)減少の4,869億円となりました。
・国内製品売上
抗悪性腫瘍剤「オプジーボ点滴静注」は、薬価引き下げの影響等により、前連結会計年度比で252億円(17.3%)減少の1,203億円となりました。糖尿病、慢性心不全および慢性腎臓病治療剤「フォシーガ錠」は、慢性腎臓病での使用が拡大したことにより、前連結会計年度比135億円(17.7%)増加の896億円となりました。その他の主要製品では、関節リウマチ治療剤「オレンシア皮下注」は266億円(前連結会計年度比3.0%増)、2型糖尿病治療剤「グラクティブ錠」は183億円(同13.4%減)、抗悪性腫瘍剤「ベレキシブル錠」は105億円(同3.1%増)、多発性骨髄腫治療剤「カイプロリス点滴静注用」は86億円(同5.9%減)、血液透析下の二次性副甲状腺機能亢進症治療剤「パーサビブ静注透析用」は84億円(同2.5%増)、パーキンソン病治療剤「オンジェンティス錠」は76億円(同21.0%増)となりました。
・海外製品売上
デサイフェラ社が販売する消化管間質腫瘍治療剤「キンロック」の売上(7月-3月の9か月)は、255億円となりました。また、2025年2月より腱滑膜巨細胞腫(TGCT)治療剤「ロンビムザ」の販売を開始しました。
・ロイヤルティ・その他
ロイヤルティ・その他は、前期にアストラゼネカ社との特許関連訴訟の和解に伴う一時金収入170億円を計上した反動減や、メルク社などからのロイヤルティ収入がロイヤルティ料率の低下に伴い減少し、前連結会計年度比296億円(15.9%)減少の1,561億円となりました。
[コア営業利益]
コア営業利益は、前連結会計年度比683億円(37.7%)減少の1,127億円となりました。
・売上原価は、前連結会計年度比27億円(2.5%)減少の1,069億円となりました。
・研究開発費は、臨床試験に係る開発費用の増加やLigaChem Biosciences社との創薬提携契約に係る費用に加え、買収したデサイフェラ社の研究開発に係る費用を計上したことなどにより、前連結会計年度比349億円(32.1%)増加の1,433億円となりました。
・販売費及び一般管理費(研究開発費を除く)は、「フォシーガ錠」の売上拡大に伴うコ・プロモーション費用の増加に加え、買収したデサイフェラ社の事業運営に係る費用を計上したことにより、前連結会計年度比219億円(21.8%)増加の1,222億円となりました。
[コア当期利益]
コア当期利益は、前連結会計年度比522億円(36.6%)減少の904億円となりました。
業績の概況<IFRS(フル)ベース>
(単位:百万円)
[売上収益]
売上収益は、コアベースの売上収益に記載のとおりです。
[営業利益]
営業利益は、前連結会計年度比1,002億円(62.6%)減少の597億円となりました。
・売上原価は、前連結会計年度に販売権の減損損失を111億円計上した反動減があった一方で、デサイフェラ社買収に係る無形資産の償却費および公正価値評価された棚卸資産の費用化分を合計215億円計上したことに加え、アストラゼネカ社とのコ・プロモーション契約に基づき販売している「フォシーガ錠」の販売達成マイルストン136億円を費用計上したことなどにより、前連結会計年度比208億円(16.4%)増加の1,479億円となりました。
・研究開発費は、臨床試験に係る開発費用の増加やLigaChem Biosciences社との創薬提携契約に係る費用に加え、デサイフェラ社の研究開発に係る費用を計上したことなどにより、前連結会計年度比377億円(33.6%)増加の1,499億円となりました。
・販売費及び一般管理費(研究開発費を除く)は、「フォシーガ錠」の売上拡大に伴うコ・プロモーション費用の増加に加え、デサイフェラ社の事業運営に係る費用および買収に係る費用を計上したことにより、前連結会計年度比254億円(25.3%)増加の1,257億円となりました。
[当期利益](親会社の所有者帰属)
親会社の所有者に帰属する当期利益は、税引前当期利益の減少に伴い、前連結会計年度比779億円(60.9%)減少の500億円となりました。
② キャッシュ・フローの状況
(単位:百万円)
当連結会計年度における現金及び現金同等物の増減額は、400億円の増加となりました。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
当連結会計年度において営業活動によるキャッシュ・フローは、税引前当期利益593億円や減価償却費及び償却費269億円などがあった結果、825億円の収入となりました。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
当連結会計年度において投資活動によるキャッシュ・フローは、定期預金の払戻による収入2,035億円などがあった一方で、子会社の取得による支出3,648億円などがあった結果、1,368億円の支出となりました。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
当連結会計年度において財務活動によるキャッシュ・フローは、配当金の支払額375億円や長期借入金の返済による支出150億円などがあった一方で、長期借入れによる収入1,500億円などがあった結果、943億円の収入となりました。
当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
(単位:百万円)
(注) 1 金額は、売価換算額によっております。
2 連結会社間の取引は相殺消去しております。
3 当社グループのセグメントは、「医薬品事業」単一であります。
当社グループでは、主に販売計画に基づいて生産計画を策定し、これに基づき生産を行っております。受注生産は一部の連結子会社で行っておりますが、受注残高の金額に重要性はないため、記載を省略しております。
当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
(単位:百万円)
(注) 1 連結会社間の取引は相殺消去しております。
2 当社グループのセグメントは、「医薬品事業」単一であります。
3 主な相手先別の販売実績および総販売実績に対する割合は、次のとおりであります。
(単位:百万円)
(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。
① 経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
医薬品業界においては、新薬創製の成功確率は年々低下し、研究開発費負担が増大するとともに、医療制度改革による種々の医療費抑制政策が強化されるなど、新薬開発型企業にとっては厳しい経営環境が続いています。このような経営環境の中、当社グループでは「製品価値最大化~患者本位の視点で~」「パイプラインの強化」「グローバル事業の拡大と加速」「事業ドメインの拡大」および経営基盤であるデジタル・IT基盤、人的資本、企業ブランド等の無形資産の拡充を経営上の重要課題と捉え、これらの課題を達成していくことにより、持続的な成長に努めています。
当社グループの収益は、医薬品事業の単一セグメントですが、売上収益の内訳としては、「製品商品」「ロイヤルティ・その他」に区分しています。
「製品商品」については、抗悪性腫瘍剤「オプジーボ点滴静注」の売上収益が、経営成績に重要な影響を与えるものと認識しています。「オプジーボ点滴静注」については、これまでの薬価の引き下げに加え、今後も競合他社製品との競争は激化すると予想されるものの、これまで承認取得したがん腫での使用拡大に加え、製品価値の最大化につながる開発等により使用対象患者数の拡大を見込んでおり、持続的に伸長できると考えています。
「ロイヤルティ・その他」については、ブリストル・マイヤーズ スクイブ社やメルク社、ロシュ社等からの「オプジーボ点滴静注」および「抗PD-1/PD-L1抗体」に関する特許に係るロイヤルティ収入等が、経営成績に重要な影響を与えるものと認識しています。海外における「オプジーボ点滴静注」の発売以来、ロイヤルティ収入等は持続的に伸長してまいりましたが、ロイヤルティ料率の変更や各国における当該特許の満了等に伴い、今後も段階的に減少していくものと考えています。
また、「オプジーボ点滴静注」の価値最大化に加え、「オプジーボ点滴静注」のような革新的新薬を継続的に創出できるような研究開発力の強化に取り組んでおり、研究開発費の増大が、経営成績に重要な影響を与えるものと認識しています。いまだ満たされない医療ニーズの高いがんや免疫疾患、神経疾患、スペシャリティ領域を重点研究領域に据えて、経営資源を集中させ、効率的な経費支出に努めることで、利益の確保も図っていきます。
短期的には研究開発費率は増加するものの、中期的には売上収益の拡大により売上収益の20~25%程度を投資しつつ、かつ営業利益率25%以上を目指していきたいと考えています。また、これらの水準を目標としつつ、売上収益の拡大によって利益拡大を図ることがROEの水準を高めていくことにつながるものと考えています。なお、当連結会計年度は、売上収益に対する研究開発費率(コアベース)29.4%(前連結会計年度21.6%)、営業利益率(コアベース)23.1%(前連結会計年度36.0%)、ROE6.4%(前連結会計年度16.7%)でありました。
② 資本の財源及び資金の流動性に関する状況
当社グループは、円滑な事業活動に必要となる流動性の確保と財務の健全性および安全性の確保を資金調達の基本方針としており、市場環境等を考慮した上で、有効かつ機動的な資金調達を実施しています。資金需要としては、研究開発投資に加え、有形・無形の固定資産への投資が中心となります。
当連結会計年度末の流動資産は、4,551億円(内、現金及び現金同等物は2,046億円)、流動負債は1,483億円であり、必要な流動性は十分に満たしていると認識しています。
なお、2024年6月米国デサイフェラ社の買収により生じた資金需要の一部については、金融機関からの借入による資金調達を実施しています。
③ 重要性がある会計方針及び見積り
当社グループの連結財務諸表は、収益および費用、資産および負債の測定に関する経営者の見積りおよび仮定を含んでおります。これらの見積りおよび仮定は過去の実績および決算日において合理的であると考えられる様々な要因等を勘案した経営者の最善の判断に基づいております。しかし、その性質上、将来において、これらの見積りおよび仮定とは異なる結果となる可能性があります。
見積りおよびその基礎となる仮定は経営者により継続して見直されております。これらの見積りおよび仮定の見直しによる影響は、その見積りおよび仮定を見直した期間およびそれ以降の期間において認識しております。
当社グループの連結財務諸表で認識する金額に重要な影響を与える見積りおよび仮定は以下のとおりであります。
(1)無形資産およびのれんの減損
当社グループは、無形資産について、各報告期間末日に減損の兆候の有無を判定し、減損の兆候がある場合には、減損テストを実施しております。また、耐用年数が確定できない無形資産および未だ使用可能でない無形資産、のれんについては、減損の兆候の有無にかかわらず毎年一定の時期に、減損テストを実施しております。
減損テストは、各資産の回収可能価額を算定し、帳簿価額と比較することにより実施しております。個別資産についての回収可能価額の見積りが不可能な場合には、当該資産が属する資金生成単位の回収可能価額を見積っております。
資産または資金生成単位の回収可能価額は、処分コスト控除後の公正価値と使用価値のいずれか高い方の金額で測定しております。回収可能価額は、見積り将来キャッシュ・フローを現在価値に割り引くことにより算定しております。回収可能価額の算定には、研究開発の進捗状況に基づく販売可能期間、想定販売単価、想定患者数および割引率といった経営者による仮定が使用されております。
使用する割引率は、貨幣の時間価値と当該資産に固有のリスクのうち、将来キャッシュ・フローの見積りを調整していないものを反映した利率を用いております。
将来の事象によって、減損テストに用いられた仮定が変更され、その結果、当社グループの将来の業績に影響を及ぼす可能性があります。
(2)繰延税金資産の回収可能性
当社グループは、資産および負債の会計上の帳簿価額と税務上の金額との間に生じる一時差異に係る税効果については、繰延税金資産を回収できる課税所得が生じると見込まれる範囲において、当該一時差異に適用される法定実効税率を使用して繰延税金資産を計上しております。当社グループは、事業計画等に基づいて将来獲得しうる課税所得の時期およびその金額を合理的に見積り、課税所得が生じる可能性を判断しています。
(3)退職給付会計の基礎率
当社グループは確定給付型を含む複数の退職給付制度を有しております。
確定給付債務の現在価値および関連する勤務費用等は、数理計算上の仮定に基づいて算定しております。数理計算上の仮定には、割引率や利息の純額等の変数についての見積りおよび判断が求められます。
当社グループは、これらの変数を含む数理計算上の仮定の適切性について、外部の年金数理人からの助言を得ております。
数理計算上の仮定は、経営者の最善の見積りと判断により決定しておりますが、将来の不確実な経済条件の変動の結果によって影響を受ける可能性があり、見直しが必要となった場合、連結財務諸表において認識する金額に重要な影響を与える可能性があります。
(4)デサイフェラ社の企業結合により取得した無形資産
当連結会計年度において、当社グループは、デサイフェラ社の株式を取得し、連結子会社としております。当該企業結合により取得した取得日時点の無形資産の公正価値は、外部の専門家を利用し、企業価値評価で用いられた事業計画を基礎に、無形資産から生み出すことが期待される将来キャッシュ・フローを割り引くインカム・アプローチ(超過収益法)により算出しております。公正価値の測定に用いた主要な仮定は、研究開発の進捗状況に基づく販売可能期間、想定販売単価、想定患者数および割引率であります。
将来の事象によって、公正価値の測定に用いられた仮定の見直しが必要となった場合には、当社グループの将来の業績に影響を及ぼす可能性があります。
(5) 米国Deciphera Pharmaceuticals, Inc. 買収契約
当社は、米国のバイオ医薬品企業 Deciphera Pharmaceuticals, Inc.との間で、本買収のために新たに設立した完全子会社を通じて、現金を対価として同社を買収することで合意し、2024年4月に契約を締結しました。この契約に基づき、2024年6月11日(米国東部時間)に同社の買収が完了し、同社を当社の完全子会社としました。詳細については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等(1)連結財務諸表 連結財務諸表注記38 企業結合」に記載のとおりです。
(6) タームローン契約
当社は、財務上の特約が付されたタームローン契約を締結いたしました。
契約に関する内容等は、以下のとおりであります。
① 契約締結日
2024年9月25日
② タームローン契約の相手方
株式会社三菱UFJ銀行
株式会社三井住友銀行
三井住友信託銀行株式会社
株式会社りそな銀行
株式会社京都銀行
株式会社伊予銀行
株式会社山陰合同銀行
③ タームローン契約に係る債務の期末残高および弁済期限ならびに当該債務に付された担保の内容
期末残高:1,350億円
弁済期限:2029年9月末日
担 保:なし
④ 財務上の特約の内容
下記のいずれかの財務制限条項に抵触した場合、本契約上の全ての債務について期限の利益を喪失する可能性があります。
A) 2025年3月以降に終了する決算期の末日における連結の貸借対照表における純資産の部の金額を、当該決算期の直前の決算期の末日または2024年3月に終了する決算期の末日における連結の貸借対照表における純資産の部の金額のいずれか大きい方の75%の金額以上にそれぞれ維持すること。
B) 2025年3月以降に終了する決算期およびその直前の決算期の連結の損益計算書上の営業損益に関して、それぞれ2期連続して営業損失を計上しないこと。
当社グループは、「病気と苦痛に対する人間の闘いのために」という企業理念のもと、これまで克服されていない病気や、いまだ患者さんの治療満足度が低く、医療ニーズの高い疾患領域に挑戦し、独創的かつ画期的な医薬品の創製に向けて努力を積み重ねています。
現在、開発パイプラインには、オプジーボに加えて、抗体医薬品を含む抗がん剤の新薬候補をはじめ、自己免疫疾患や神経疾患などを対象とした新薬候補があり、開発を進めています。なかでも、がん領域は医療ニーズが高いことから、重要な戦略分野と位置づけ、デサイフェラ社のパイプラインも加えてさらなる充実を図っています。
創薬研究においては、医療ニーズの高いがんや免疫、神経、スペシャリティ領域を重点領域に定め、それぞれの領域でヒト疾患バイオロジーを掘り下げ、医療ニーズを満たし得る新薬の創製を目指しています。当社が得意とするオープンイノベーションを積極的に推進することで独創的な創薬シーズを見出し、最適なモダリティとデジタル技術などの先進テクノロジーを利用することで創薬力を強化しています。
重点領域において、現在、14品目(内、3品目はデサイフェラ社)の新薬候補が臨床ステージに移行しています。今後さらに創薬のスピードと成功確率を向上させるために、基礎と臨床の橋渡しを担うトランスレーショナル研究も強化しています。研究早期段階からヒトゲノム情報やヒトiPS細胞などの研究ツールとインフォマティクスを有機的に活用することで、標的分子の疾患との関連性を解析し、新薬候補のヒトにおける有効性をより正確に予測・評価できる生理学的指標(バイオマーカー)を見出せるよう努めています。
臨床開発のスピードと成功確率を向上させるために、より早い段階から研究本部と強固に連携して、最適で最良な開発戦略を立案するよう努めています。また、これまでに蓄積した多くの臨床試験データや実際に治験で得られた臨床サンプルを利用して様々な解析を行い、臨床試験結果の解像度を上げることに役立てています。新薬候補の価値を最大化するために、グローバル(日本、米国、欧州) における承認取得を最速で実現可能な開発計画・試験計画を立案するとともに、昨年、新たにグループに加わったデサイフェラ社の米欧における開発機能を最大限活用し、国際共同試験の着実な実施・遂行に努めてまいります。
また、ライセンス活動による有望な新薬候補の導入にも努め、研究開発活動の一層の強化に取り組んでいます。
当連結会計年度における研究開発活動の主な成果(2025年4月23日時点まで)は、以下のとおりです。
[開発品の主な進捗状況]
<がん領域>
「オプジーボ/ニボルマブ」
肝細胞がん
・昨年8月、「オプジーボ」と「ヤーボイ」との併用療法について、日本で「切除不能な肝細胞がん」を効能・効果とした承認申請を行いました。
尿路上皮がん
・昨年7月、「オプジーボ」について、韓国で「根治切除不能または転移性尿路上皮がん(一次治療における化学療法併用)」を効能・効果とした承認を取得しました。
・昨年10月、「オプジーボ」について、台湾で「根治切除不能または転移性尿路上皮がん(一次治療における化学療法併用)」を効能・効果とした承認を取得しました。
・昨年11月、「オプジーボ」と「ヤーボイ」との併用療法について、「尿路上皮がん」を対象とした国際共同試験の最終解析の結果、主要評価項目の一つであるシスプラチン不適応の集団における全生存期間(OS)において、事前に規定した統計仮説を満たすことができなかったため開発を中止しました。
・昨年12月、「オプジーボ」について、日本で「根治切除不能な尿路上皮がん(一次治療における化学療法併用)」を効能・効果とした承認を取得しました。
結腸・直腸がん
・昨年9月、「オプジーボ」と「ヤーボイ」の併用療法について、日本で「治癒切除不能な進行・再発の高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)またはミスマッチ修復欠損(dMMR)を有する結腸・直腸がん」を効能・効果とした承認申請を行いました。
ラブドイド腫瘍
・昨年7月、「オプジーボ」について、日本で「ラブドイド腫瘍」を対象としたフェーズⅡ試験を開始しました。
リヒター症候群
・本年1月、「オプジーボ」について、日本で「リヒター症候群」を対象としたフェーズⅡ試験を開始しました。
卵巣がん
・昨年6月、「オプジーボ」とPARP阻害薬「Rucaparib」との併用療法について、Pharma&社主導の「卵巣がんの初回化学療法後の維持療法」を対象とした国際共同フェーズⅢ試験に日本、韓国および台湾から参加していましたが、主要評価項目の無増悪生存期間(PFS)を達成することができなかったため開発を中止しました。
「ビラフトビカプセル/エンコラフェニブ」および「メクトビ錠/ビニメチニブ」
・昨年5月、「ビラフトビカプセル」および「メクトビ錠」について、日本で2剤併用療法による「がん化学療法後に増悪したBRAF遺伝子変異を有する根治切除不能な甲状腺がん」「BRAF遺伝子変異を有する根治切除不能な甲状腺未分化がん」を効能・効果とした承認を取得しました。
「ビラフトビカプセル/エンコラフェニブ」
・昨年12月、「ビラフトビカプセル」について、日本で「BRAF遺伝子変異を有する治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸がん」を効能・効果とした承認申請を行いました。
「ONO-7018」
・昨年8月、MALT1阻害薬「ONO-7018」について、日本で「非ホジキンリンパ腫、慢性リンパ性白血病」を対象としたフェーズⅠ試験を開始しました。
・本年4月、MALT1阻害薬「ONO-7018」について、「非ホジキンリンパ腫、慢性リンパ性白血病」を対象としたフェーズⅠ試験を実施していましたが、戦略上の理由により開発を中止しました。
「ONO-7428」
・昨年11月、抗ONCOKINE-1抗体「ONO-7428」について、日本で「固形がん」を対象としたフェーズⅠ試験を開始しました。
「DCC-3009」
・昨年12月、Pan-KIT阻害薬「DCC-3009」について、米国で「消化管間質腫瘍」を対象としたフェーズⅠ/Ⅱ試験を開始しました。
「ONO-4578」
・本年2月、プロスタグランジン受容体(EP4)拮抗薬「ONO-4578」と「オプジーボ」との併用療法について、米国で「結腸・直腸がん」を対象とした国際共同フェーズⅡ試験を開始しました。
・本年1月、プロスタグランジン受容体(EP4)拮抗薬「ONO-4578」と「オプジーボ」との併用療法について、日本で「膵がん」を対象としたフェーズⅠ試験を実施していましたが、戦略上の理由により開発を中止しました。
「ONO-0530/Sapablursen」
・本年3月、真性多血症の治療薬としてフェーズⅡ試験を実施中の「Sapablursen」に関するライセンス契約をIonis Pharmaceuticals社と締結し全世界を対象に独占的に開発および商業化する権利を取得しました。
「ONO-7122」
・昨年4月、TGF-β阻害薬「ONO-7122」と「オプジーボ」との併用療法について、ブリストル・マイヤーズ スクイブ社主導の「固形がん」を対象とした国際共同フェーズⅠ試験に日本から参加していましたが、戦略上の理由により開発を中止しました。
「ONO-7226」
・昨年4月、抗ILT4抗体「ONO-7226」と「オプジーボ」との併用療法について、ブリストル・マイヤーズ スクイブ社主導の「固形がん」を対象とした国際共同フェーズⅠ試験に日本から参加していましたが、戦略上の理由により開発を中止しました。
「ONO-4482」
・本年2月、抗LAG-3抗体「ONO-4482」と「オプジーボ」との併用療法について、「肝細胞がん」を対象とした国際共同フェーズⅡ試験をブリストル・マイヤーズ スクイブ社主導で実施しておりましたが、期待した有効性が確認できなかったため開発を中止しました。
「ONO-7914」
・本年2月、STINGアゴニスト「ONO-7914」と「オプジーボ」との併用療法について、日本で「固形がん」を対象としたフェーズⅠ試験を実施していましたが、戦略上の理由により開発を中止しました。
「ONO-7475」
・本年3月、Axl/Mer阻害薬「ONO-7475」と「オプジーボ」との併用療法について、日本で「膵がん」を対象としたフェーズⅠ試験を実施していましたが、期待した有効性が確認できなかったため開発を中止しました。
<がん領域以外>
「ROMVIMZA/DCC-3014」
・昨年8月、CSF-1受容体阻害薬「DCC-3014」について、米国で「腱滑膜巨細胞腫」を効能・効果とした承認申請が優先審査の対象として受理され、本年2月、「外科的切除により機能制限の悪化または重篤な病状が生じる可能性のある腱滑膜巨細胞腫」を効能・効果とした承認を取得しました。
・昨年7月、CSF-1受容体阻害薬「DCC-3014」について、欧州で「腱滑膜巨細胞腫」を効能・効果とした承認申請が受理されました。
・昨年11月、CSF-1受容体阻害薬「DCC-3014」について、米国で「慢性移植片対宿主病」を対象としたフェーズⅡ試験を開始しました。
「ONO-4915」
・昨年9月、PD-1/CD19二重特異性抗体「ONO-4915」について、日本で健康成人を対象としたフェーズⅠ試験を開始しました。
「ONO-2020」
・エピジェネティクス制御薬「ONO-2020」について、昨年11月に日本で「アルツハイマー型認知症に伴うアジテーション」を対象としたフェーズⅡ試験を、本年1月に日米で「アルツハイマー型認知症」を対象としたフェーズⅡ試験をそれぞれ開始しました。
「ONO-1110」
・内因性カンナビノイド制御薬「ONO-1110」について、日本で昨年10月に「帯状疱疹後神経痛」「うつ病」を、昨年11月に「線維筋痛症」「ハンナ型間質性膀胱炎」「社交不安症」を対象としたフェーズⅡ試験をそれぞれ開始しました。
「ONO-2910」
・昨年7月、シュワン細胞分化促進薬「ONO-2910」について、日本で「糖尿病性多発神経障害」を対象としたフェーズⅡ試験を実施していましたが、期待された有効性が確認できなかったため、「糖尿病性多発神経障害」を対象とした開発を中止しました。
・昨年12月、シュワン細胞分化促進薬「ONO-2910」について、日本で「化学療法誘発末梢神経障害」を対象としたフェーズⅡ試験を実施していましたが、期待された有効性が確認できなかったため、「化学療法誘発末梢神経障害」を対象とした開発を中止しました。
[創薬/研究提携活動の状況]
・昨年4月、株式会社PRISM BioLabと、がん領域における新薬候補の創製を目的とした創薬提携契約を締結しました。
・昨年8月、豪州Monash大学と自己免疫疾患および炎症性疾患領域における新たな抗GPCR抗体を創製するためのオプション権付研究提携契約を締結しました。
・昨年12月、カナダCongruence Therapeutics社とがん領域における新たな低分子化合物の創製に向けた創薬提携契約を締結しました。
・昨年12月、米国Jorna Therapeutics社とRNA編集技術を用いた医薬品創製に関する研究提携を開始しました。
・本年3月、株式会社リボルナバイオサイエンスと中枢神経領域におけるRNA標的低分子医薬品の創製に向けた創薬提携契約を締結しました。
[ライセンス活動の状況]
・昨年10月、韓国LigaChem Biosciences社と固形がんを対象とした抗体薬物複合体(ADC)「LCB97」に関するライセンス契約および同社のADCプラットフォームを用いた新規ADC創製に向けた創薬提携契約を締結しました。
・2022年12月に米国Equillium社と締結した抗CD6抗体「itolizumab」に係る独占的オプション権付アセット買収契約について、昨年10月、戦略上の理由によりオプション権を行使しないことを決定しました。
・本年3月、米国Ionis Pharmaceuticals社と真性多血症を対象とした治療薬「Sapablursen」について、全世界を対象に独占的に開発および商業化するライセンス契約を締結しました。
当連結会計年度の研究開発費の総額は、
なお、当社グループの事業は医薬品事業の単一セグメントであるため、セグメントごとの記載を省略しております。