第2 【事業の状況】

 

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

   文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。

  (1) 会社の経営の基本方針

当社グループは「医薬品を中核としたトータルヘルスケアで人々の健康で豊かな生活に貢献する」ことを経営理念とし、国内外において存在価値のある企業グループとして発展することを目指しております。

 

  (2) 中長期的な会社の経営戦略

(1)の経営理念の下、2000年以降掲げてきた成長戦略「3つのミッション」について、それぞれのミッションをさらに発展させるべく、「ジェネリック医薬品」、「臨床検査薬」、「新薬開発」という「3つの事業ドメイン」の構成とし、それらの事業ドメインを積極的に海外へ展開してまいります。

 

  (3) 当社グループをめぐる業界や市場の動向等の経営環境

国内の医薬品業界においては、2023年4月に2度目となる薬価の中間年改定が実施され、薬剤費ベースで約3,100億円の削減が行われました。また、ジェネリック医薬品については安定供給の確保に向けた議論が進み、2024年度の薬価制度改革では、不採算品再算定の特例適用や安定供給体制が薬価に反映される新たな評価制度が導入されることとなりました。

このような環境下で、当社グループは引き続き「信頼できるジェネリック医薬品」の普及に貢献するべく、ジェネリック医薬品の品質向上と安定供給に注力するとともに、生産性及び効率性の向上に資する施策を推し進めてきました。

また、ジェネリック医薬品事業と並行して取り組んでいる、「アルカリ化療法剤」や「新薬開発」に関しては、他社とのアライアンスを活用した革新的な創薬テーマへのチャレンジや、国内外企業への導出活動に努めています。当社グループは、まだ十分な治療薬がない病気に苦しむ患者さんのために、画期的新薬の開発に取り組んでいます。

 

  (4) 会社の対処すべき課題

 当社グループは2000年以降掲げてきた成長戦略「3つのミッションプラス1」について、それぞれのミッションが事業として立ち上がるフェーズとなり、「ジェネリック医薬品」、「臨床検査薬」、「新薬開発」という「3つの事業ドメイン」を構成するに至っており、それらの成果を「プラス1」として引き続き「海外に展開」してまいります。

 

 ① ジェネリック医薬品

 2024年度の薬価制度改革ではジェネリック医薬品メーカーの供給体制や供給実績をポイント化して評価(企業指標)し、それに基づいて薬価に差をつける仕組みが試行的に導入されており、これまで以上に安定供給の確保が事業運営の重要なポイントとなっています。また、厚生労働省は新たなジェネリック医薬品のシェア目標として「金額シェアを2029年度末までに65%以上」とする新たな「副次目標」を示しており、今後も一定の市場拡大が見込まれる一方で、オーソライズドジェネリックも含めた市場競争は激しさを増していくことが予想されます。

 当社グループは品質を第一に、製造人員の増強や勤務体系の見直しによる体制の整備や設備投資の実施などにより増産に努めている一方、販売面ではグループ全体の営業活動を一元管理する「グループ医薬営業本部」のもと、多様な販路へ効率的に営業活動を行うため、B to B対応の強化やSFA(Sales Force Automation:営業支援システム)を活用したMR活動におけるPDCAサイクルの最適化や高速化、AIを使った顧客管理・MR活動計画の立案などに取り組んでまいります。

 

② 臨床検査薬

臨床検査薬の主力品であるアレルギースクリーニング機器・試薬「ドロップスクリーン」は、わずか1滴の血液で、41項目のアレルゲンを、30分という短時間で測定することができ、これまで検査センターに外注していたアレルギー検査を院内で測定することを可能にした製品であり、導入された医療機関からは高い評価をいただいています。2023年度は当期の目標である国内累計設置台数1,000台を突破、2025年度には累計設置台数2,000台を目指してまいります。今後も販売体制の拡充や製品の改良、製造コストの低減など、さらなる顧客満足度の向上や収益性の改善に努めていきます。また、ドロップスクリーンは、海外からも注目されており、引き続き製品開発、各国法規制対応、パートナー選定など、海外での発売に向けて取り組んでまいります。

 

③ 新薬開発

(イ)アルカリ化療法剤

 当社グループがウラリットでその技術とノウハウを培ってきたアルカリ化療法剤については、がん領域、CKD(慢性腎臓病)領域などで開発を進めており、加えて、健康食品への展開も図っています。

 そのうち、がん領域については、抗がん剤開発に特化した創薬系バイオベンチャー企業であるDelta-Fly Pharma株式会社(以下、DFP社)とライセンス契約を締結している抗がん剤候補化合物「DFP-17729」が、本剤と他の抗がん剤の併用群、ならびに他の抗がん剤単独群との比較によるフェーズⅡ試験を2022年度中に終了し、現在次のフェーズに向けた準備が進められています。またCKD領域については、当社グループが協力を行いながら東北大学で進められていた臨床研究「CKOALA Study」において、CKDに対するウラリットの有用性が示唆されており、現在は試験で得た結果について責任医師による論文化が進められています。

 アルカリ化療法剤の新領域での展開は、ウラリット発売以来の歴史で培った当社ならではの独自のテーマであり、この画期的なテーマで医療と社会への貢献を果たしてまいります。

(ロ)自社開発創薬

 自社での新薬開発については、有望化合物の探索研究に重点を置き、得られた成果を早期段階で導出することで、開発上のリスクを軽減しつつ効率的に開発を進めていきます。また、パイプラインの拡充やAIなどの新技術を活用した研究開発を進めるため、各分野において最先端の研究を行っている企業・研究機関とのアライアンスにも積極的に取り組んでいます。

 「NC-2600」(P2X4受容体拮抗薬)は神経障害性疼痛に加え、新たに複数の疾患への適応可能性が期待されています。そのうち慢性咳嗽に対しては、新規の作用機序を有する薬剤として開発を進め早期の導出を目指しています。

 国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の「CiCLE事業」に採択されている、抗うつ・抗不安薬NC-2800(オピオイドδ受容体作動薬)は、2023年度にフェーズⅠが終了し、今後はフェーズⅡa実施に向けて準備を進めていきます。また、フェーズⅡbに移行する時点で、全世界をテリトリーとした開発・販売権を得られるオプション権を住友ファーマ株式会社に対して付与しており、オプション権を行使してライセンス契約に至った場合には、開発の進展に伴うマイルストーン及びロイヤリティ収入が期待できると考えています。

 DFP社と日本国内における独占的販売権を取得するライセンス契約を締結している「DFP-14323」(抗がん剤候補化合物)については、DFP社が実施したフェーズⅡ試験において、DFP-14323と標準用量の半量のアファチニブを併用した場合の無増悪生存期間が、アファチニブやオシメルチニブの単剤にて報告されている期間より長いという結果がでました。この結果を基にDFP社は独立法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)と相談を重ねてまいりましたが、EGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺がん患者(ステージⅢ/Ⅳ)を対象に、DFP-14323 とアファチニブ半量の併用群とアファチニブ単独群とのフェーズⅢ比較試験(優越性検証)を開始しました。

 

④ 海外展開

海外での展開状況は、2024年4月時点で 中国など4ヵ国において8品目の承認を取得し販売を行っており、2026年度までに5ヵ国 14 品目の展開を目指しています。

ベトナムでは、Nippon Chemiphar Vietnam Co., Ltd.が2022年9月に承認を取得したレバミピドが、品質を評価されベトナム入札制度下で一番高い薬価での販売が認められる“Group1”を取得していることから、その優位性を活かし、現地卸を通じて病院・薬局チェーン等にマーケティングを行っています。

また中東・アフリカ等においては、2022年3月に世界銀行グループの国際金融公社(IFC)とのアドバイザリー契約を締結し、これまでIFCの助言とネットワークを活用し、中東・アフリカ地区の現地調査を進めてまいりました。現在は進出を図る対象国およびパートナーを絞り込み、現地で販売する具体的な複数品目について交渉を進めています。

 

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものであります。

ガバナンス

当社グループは、持続可能な社会の実現に向け、グループの「サステナビリティ基本方針」を定めるとともに、代表取締役社長を委員長とする「サステナビリティ推進委員会」を設置し、サステナビリティ推進活動を行っております。

1. サステナビリティ基本方針

日本ケミファグループは「医薬品を中核としたトータルヘルスケアで人々の健康で豊かな生活に貢献する」という経営理念のもと、グループの掲げるミッションを達成することで企業価値の向上を目指すとともに、事業活動を通じサステナブルな社会の実現への役割を果たしていきます。

2. 委員会設置の背景と目的

サステナブルな社会の実現に向けた企業や個人の取り組みは喫緊の課題であり、当社グループとして国連の定めた「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標:SDGs)」や気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)が公表した TCFD 提言の中から、グループの事業活動を通じ、環境・社会・経済的課題に関する取り組みを着実に推進するために当委員会を設置しました。

3. 委員会の構成

取締役会をレポーティングラインとし、代表取締役社長が委員長を務めます。また、委員は委員長が指名することとし、社長室、経営企画部、広報室、総務部、人事部、管理部の役職員で構成します。

4. 委員会の役割

委員会は主に以下の活動を行うこととし、その活動内容について定期的に取締役会に報告します。

・サステナビリティに関する目標、指標、施策等の企画・立案・提言

・サステナビリティに関する施策の実施状況や目標の達成状況についてのモニタリング

・サステナビリティに関する見識を深め活動の浸透を図るための教育・啓発・周知

・委員会での協議内容、検討事項及び活動内容等の取締役会への報告・付議提案

・その他、取締役会が必要と認めた事項

戦略

人材の育成及び社内環境整備に関する方針、戦略

当社グループにおける、人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針及び社内環境整備に関する方針は、以下の通りであります。

当社グループが各事業分野において競争力を強化しイノベーションを生むことができる体制を作り出すためには、「人材の確保」が最も重要だと考えております。優秀人材の採用、採用した人材の強化(教育)、社員のエンゲージメント・リテンションなど、継続したキャリア形成のサポートが必要と考えます。具体的には次のとおり取り組みを行っております。

項目

考え方

具体策(主なもの)

採用

柔軟な採用

・新卒採用に偏重せずタイムリーなキャリア採用の実施

・役割に応じた年俸制など柔軟な処遇設計

・外国人、女性の積極的な採用

教育

継続的な基礎教育+リスキリング

・全社員を対象としたDX基礎教育の実施

・ビジネススクールへの派遣、MBAの資格取得支援など

  専門人材の育成

・継続的な階層別マネジメント研修の実施

多様な働き方の受容

キャリア開発とワークライフバランスの両立

・中核人材育成のためのCareer Development Programの明示

・女性管理職の積極的登用

・育児休職制度の使用促進、2歳未満の子を持つ男性社員の

 育児休業取得の義務化

・有給休暇の使用促進、時間外労働削減の徹底

 

 

リスク管理

当社グループにおいて、全社的なリスク管理は、リスク管理委員会において行っておりますが、サステナビリティに係るリスクの識別・優先的に対応すべきリスクの絞り込みについて、サステナビリティ推進委員会の中でより詳細な検討を行い、共有しております。優先的に対応すべきリスクの絞り込みについては、当社グループに与える財務的影響、当社グループの活動が環境・社会に与える影響、発生可能性を踏まえ行われます。

また、サステナビリティ推進委員会においては、当社グループの「サステナビリティ基本方針」のもと、サステナブルな社会の実現に向け、国連の定めた「Sustainable Development Goals」や気候変動関連財務開示タスクフォース(TCFD)が公表した「TCFD提言」の中から、グループの事業活動に関係する環境・社会・経済的課題について取組を推進することを目的としております。

 

指標及び目標

人材の育成及び社内環境整備に関する方針に関する指標の内容並びに当該指標を用いた目標及び実績、指標及び目標

当社グループでは、上記「戦略」において記載した多様な働き方の受容を含む人材育成の方針及び社内環境整備に関する方針について、指標のデータ管理と共に具体的な取り組みが行われている当社及び日本薬品工業㈱の実績を以下に記載しております。

①提出会社

指標

目標

実績(当連結会計年度)

管理職に占める女性労働者の割合

2027年3月まで15以上

12.2

男性労働者の育児休業取得率

100を維持する。

116.7

年次有給休暇取得率

2027年3月まで85以上

60.4

 

②日本薬品工業㈱

指標

目標

実績(当連結会計年度)

管理職に占める女性労働者の割合

2027年3月までに15%以上

9.1%

男性労働者の育児休業取得率

100%を維持する

100.0%

年次有給休暇取得率

2027年3月までに85%以上

77.7%

 

 

※管理職に占める女性労働者の割合、及び年次有給休暇取得率の目標については、一般事業主行動計画として定め労働局に提出しております。

※男性の育児休業取得率については、短期間であっても子の誕生から2年以内に全対象者が取得するように社内ルールとして取得を義務化しているため取得率は原則100%となりますが、年度に区切って算出する場合は100%を下回る場合、上回る場合があります。

 

3 【事業等のリスク】

有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のあるリスクには、以下のようなものがあります。なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。

 (薬価制度・医療保険制度変更に関するリスク)

 薬価については、2年に一度の診療報酬改定の際に行われた薬価改定が、通常改定の中間年にも実施されることとなり、2021年4月の初回に続き2023年4月にも実施され、これまで以上のスピードで取扱い品目の薬価が引き下げられることによって、原価率の上昇が予想されます。また、増大する医療費の抑制を目的として医療保険制度の見直しも行われており、その内容によっては当社グループの業績に影響を及ぼす可能性がありますので、薬価制度改革及び医療保険制度の動向を注視し、経営戦略に反映したいと考えております。

 (医薬品の研究開発に関するリスク)

  当社グループの新薬の研究開発は探索研究に重点を置き、早期段階の導出や、他社とのアライアンス、外部組織からの支援等により、開発リスクの軽減を図っております。しかしながら、臨床試験で新薬の候補品が期待どおりの効果を得られなかったり、安全性が危惧される結果となった場合など、研究開発が計画どおり進行しない場合には、開発期間の延長、開発の中断あるいは中止する場合があります。また、臨床試験が計画どおりの結果となった場合でも、その後の導出交渉において導出条件交渉が長引いたり、条件がまとまらないことにより、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。これらは臨床試験結果をより確実に予想するバイオマーカーの導入や、ターゲットエンゲージメントの取得などを早期から実施するとともに、導出候補先のニーズを的確に情報収集する等のリスク回避を試みています。

 当社グループでは、ジェネリック医薬品についても積極的に開発投資を行い、研究開発活動を進めております。ジェネリック医薬品の研究開発活動は、製造販売承認を取得し開発品目を上市する時期から数年間遡って開始されます。この開発期間においては、各段階のリスクを最小限にする取り組みを種々行っているところですが、必ずしも期待通りに上市を果たし収益獲得に結びつかない可能性があります。その場合には、当社グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。

 (原材料・商品の仕入に関するリスク)

  仕入先会社及び製造国において、規制上の問題、製造上のトラブル、又は火災、地震その他の災害及び輸送途中の事故等により、原材料及び商品の仕入が不可能と判断した場合、当社グループ内関係部門と密接な連携を図り対策を講じていきますが、その仕入が停止しその代替が困難である場合には、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。このようなリスクに対応するために、当社グループでは常に市場の動向を把握し、重要な原材料・商品については適切な在庫管理を行い、また原薬については複数ソースから購買を行うなど、サプライチェーンリスクの管理・対応に努めております。

 (製造の遅滞又は休止に関するリスク)

  当社グループは有事の際のBCP対応として、製品の安定供給に関する規定、災害対応に関する規定等に従った対応を図っております。また、当社グループは国内2工場、海外1工場を有しており、各工場における製造機器の共通化を進めると共に、各製品を複数の工場で製造できる体制(バックアップ体制)を整えるなどのリスク分散を図っております。しかしながら、技術的もしくは規制上の問題、又は火災、地震その他の災害により、製品を製造する製造施設において操業停止又は混乱が発生した場合、当該製品の供給が停止し、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

 (ジェネリック医薬品の競争に関するリスク)

  当社グループは毎年の薬価引き下げによって、利益確保が難しくなっている中で、販売している製品が不採算とならないよう、適正利潤を含めた販売に努めております。また、他社競合品の市場価格が当社製品を含めて、翌年の薬価に反映されるケースや、納入している医療機関・保険薬局との競争により、当社製品も思わぬ価格の低下を強いられることがあります。さらに近年ではオーソライズドジェネリックの浸透により、ジェネリック医薬品市場のシェアに大きな変化が起きており、その動向次第では当社グループが計画していた売上高を確保することが困難となり、それにより安定供給を見据えて製造した製品の在庫が過多となる可能性があります。その場合には、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

 (医薬品の品質に関するリスク)

 適正な製造管理及び品質管理の確保について、全ての製造業者とGQP取決めを締結し、グループ工場をはじめ、原薬や製剤の製造業者に対する定期的な監査実施や、承認書と製造実態の整合性に係る点検を毎年実施しており、また、省令に規定された「三役会議」(総括製造販売責任者、品質保証責任者、安全管理責任者)の定期的な開催をはじめ、品質保証部門と安全管理部門の緊密な連携により健康被害の防止に努めております。しかしながら、当社グループ工場や製造委受託先等における品質や安全性に関する問題等の発生により、製造の中止、製品の回収、あるいは販売の中止を余儀なくされる可能性があります。その場合には、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

 (医薬品の副作用に関するリスク)

 先発医薬品、ジェネリック医薬品ともに製造販売後安全管理について、省令に則り安全確保措置を適正に遂行できるよう努めております。当社グループが主に取り扱うジェネリック医薬品は、先発品で長年の使用実績があり安全性が確認されているため予期せぬ副作用が多発するリスクは小さい一方で、先発医薬品、体外診断用医薬品においては予期せぬ副作用または健康被害が発生するリスクはゼロではありませんが、このようなことが生じれば、製造の中止、製品の回収、あるいは販売の中止を余儀なくされる可能性があります。その場合には、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

 (海外に関するリスク)

  当社グループは、医薬品の輸出、開発、製造、販売等で海外においても積極的に事業を展開しておりますが、当該国の政治不安や経済情勢などの悪化、法規制や行政指導等への抵触、現地の労使関係等に関するリスク等が存在します。これらのリスクが顕在化した場合には、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。当社グループでは、現地子会社や提携企業と定期的に情報収集・情報交換を実施し、問題が発生した場合には連携して迅速な問題解決を行うことにより、リスクの軽減に努めております。

 (「医薬品医療機器等法」等に関するリスク)

 当社グループは、「医薬品医療機器等法」等関連法規の規制を受けており、事業所所在地の各都道府県の許可・登録・免許及び届出を必要としております。当社グループは、十分な法令遵守体制をとっておりますが、医薬品製造販売業の許可等に法令違反があった場合には、監督官庁から業務停止、許可等の取り消し等が行われ、業績に影響を及ぼす可能性があります。

 (訴訟等に関するリスク)

  当社グループが継続して事業活動を行う過程において、製造物責任、環境、労務、その他の事項に関する訴訟を提起される可能性があります。また、当社グループは新薬に加え、ジェネリック医薬品を販売しておりますが、先発医薬品等の特許等については徹底した調査を行った上で販売しているものの、先発医薬品メーカーから特許訴訟を提起される可能性があり、そのような場合には当社グループの業績等に影響を及ぼす可能性があります。

法令違反に関するリスク

  法令違反等が発生した場合には、行政処分等による当社グループの社会的信用やブランドイメージの低下、損害賠償義務等により、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。当社グループでは、法令等の遵守及びコンプライアンスの徹底を図っており、このために「日本ケミファグループ法令等遵守行動基準」や「法令等遵守の推進に関する規程」を制定し、全役職員を対象としたコンプライアンス教育や研修の実施や、内部通報制度及び内部監査の強化などの対策を講じております。

(感染症に関するリスク)

 新型コロナウイルス感染症をはじめ、新興・再興の感染症の地域的な流行や世界的なパンデミックにより、当社グループの本社・工場・研究所等でのクラスター発生による閉鎖または事業活動の停止、原材料調達先であるサプライヤーの操業停止や物流への影響が発生する可能性があります。また医療機関に混乱が生じた場合には製品の安定供給や安全性情報の収集に支障が発生、医療従事者への製品の情報提供や臨床試験の進行が遅延する可能性があり、そのような場合には当社グループの業績等に影響を及ぼす可能性があります。

 当社グループでは、行動指針を策定して感染症拡大防止および予防を徹底し、製造ラインの稼働を維持し医薬品の安定供給に支障が出ることが無いように取り組んでおります

 

上記の他、金融市況・為替変動・原材料価格高騰によるリスク、コンプライアンスを含むコーポレート・ガバナンス関連リスク、システムトラブルによるリスク、情報漏洩によるリスクなど、様々なリスクが存在しており、ここに記載されたものが当社グループの全てのリスクではありません。

 

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の概要並びに経営者の視点による当社グループの経営成績などの状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。

なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。

  (1) 経営成績

当期の事業環境につきましては、国内経済は物価上昇と実質賃金の減少によって個人消費の持ち直しには力強さを欠く一方、好調な企業業績や脱コロナによるインバウンド需要の戻り、金融緩和の継続などにより景気は総じて緩やかな回復傾向が続いた一年となりました。また、海外では高金利・高インフレ、地政学的緊張が米国を除き世界経済の成長を抑制しました。

国内の医薬品業界においては、2023年4月に2度目となる薬価の中間年改定が実施され、薬剤費ベースで約3,100億円の削減が行われました。また、ジェネリック医薬品については安定供給の確保に向けた議論が進み、2024年度の薬価制度改革では、不採算品再算定の特例適用や安定供給体制が薬価に反映される新たな評価制度が導入されることとなりました。

このような環境下で、当社グループは引き続き「信頼できるジェネリック医薬品」の普及に貢献するべく、ジェネリック医薬品の品質向上と安定供給に注力するとともに、生産性及び効率性の向上に資する施策を推し進めてきました。

また、ジェネリック医薬品事業と並行して取り組んでいる、「アルカリ化療法剤」や「新薬開発」に関しては、他社とのアライアンスを活用した革新的な創薬テーマへのチャレンジや、国内外企業への導出活動に努めています。当社グループは、まだ十分な治療薬がない病気に苦しむ患者さんのために、画期的新薬の開発に取り組んでいます。

 

セグメントの経営成績は次のとおりです。

① 医薬品事業

        1) 医療用医薬品

         (a) ジェネリック医薬品

ジェネリック医薬品市場については、2020年ごろから続くジェネリック医薬品の供給不足に対応すべく各社が増産対応に尽力する一方で、その後も新たに行政処分を受けるメーカーが複数出てきたことなどから、未だ解消には至らず、日本製薬団体連合会の2024年3月調査では国内のジェネリック医薬品のうち約3割が何らかの出荷調整を行っているという結果が示されています。

当社グループにおきましては、前述の薬価改定の影響に加え、上期中は前年度に行った出荷調整の影響が残っていたものの、第3四半期以降は解消され、さらに近年発売品の寄与もありましたが、上記の通り2月~3月に抗アレルギー剤が当初想定を下回り、通期でのジェネリック医薬品の売上高は、前年を下回る結果となりました。

また、製品開発面では、2023年6月に血圧降下剤「アジルサルタンOD錠10㎎『ケミファ』」など1成分3品目を発売しました。

 

         (b) 主力品・新薬

主力品・新薬については薬価改定の影響が大きく、5品目合計の売上高は前期を下回る結果となりました。

 

        2) 臨床検査薬

臨床検査薬の主力品であるアレルギースクリーニング機器・試薬「ドロップスクリーン」については、わずか1滴の血液で、41項目のアレルギーを、30分で測定可能な製品特徴が市場から高い評価をいただいており、当社の医薬営業部門によるプロモーションサポートや、2023年6月に契約を締結した富士フイルムメディカル株式会社との販売提携の効果もあり、国内での設置台数が当期目標の1,000台を突破しました。

当期の売上高は引き続き大幅な増収基調のもと推移しました。

 

以上により、医薬品事業全体の売上高は前期比3.1%減の29,611百万円、営業損失は600百万円(前期は営業損失306百万円)となりました。

 

② その他

「その他」の事業については、受託試験事業(CRO)を行う子会社の株式会社化合物安全性研究所において、非臨床事業での競争の激化や水道光熱費および試験材料費の上昇によるコストアップの影響を受けながらも、医療機器および農薬の大型案件の受注に加え、化学物質等のリピーターからの受注も堅調に推移した結果、年間を通して実験室の稼働は高水準を維持できました。また、臨床事業では、BE試験および医師主導治験の依頼に加え、アカデミアの入札受注も増加した結果、同社の通期業績は前期比で増収増益となっています。

 

以上により、ヘルスケア事業及び不動産賃貸事業も含めた「その他」の事業全体の売上高は前期比12.0%増の1,137百万円、営業利益は同64.8%増の106百万円となりました。

 

これらの結果、当期の各セグメントを通算した連結の業績は、売上高が前期比2.6%減の30,748百万円、営業損失が494百万円(前期は営業損失241百万円)、経常損失が219百万円(前期は経常利益58百万円)、親会社株主に帰属する当期純損失が180百万円(前期は親会社株主に帰属する当期純利益339百万円)となりました。

 

 

 (2) キャッシュ・フローの状況

当期における連結ベースの現金及び現金同等物は、営業活動により296百万円増加いたしました。また投資活動においては3,139百万円の減少、財務活動においては1,447百万円の増加となりました。

この結果、当期末の現金及び現金同等物(以下、「資金」という)は9,200百万円(前期末比12.6%減)となりました。

 

 (営業活動によるキャッシュ・フロー)

当期において、営業活動による資金は、主に税金等調整前当期純損失の計上及び売上債権の増加があった一方、棚卸資産の減少及び法人税等の還付などにより、296百万円の増加(前期は916百万円の減少)となりました。

 (投資活動によるキャッシュ・フロー)

当期において、投資活動による資金は、主に有形固定資産の取得による支出及び投資有価証券の取得による支出などにより、3,139百万円の減少(前期は394百万円の減少)となりました。

 (財務活動によるキャッシュ・フロー)

当期において、財務活動による資金は主に配当金の支払があった一方、長期借入金の増加により、1,447百万円の増加(前期は144百万円の増加)となりました。

 

 (3) 財政状態

流動資産は前期末に比べて1,600百万円減少し、31,836百万円となりました。これは、売上債権が増加した一方、主に現金及び預金の減少によるものです。

固定資産は前期末に比べ2,577百万円増加し、17,712百万円となりました。これは、主に建設仮勘定の増加、及び投資有価証券の取得によるものです。

この結果、総資産は前期末に比べて977百万円増加し、49,548百万円となりました。

流動負債は前期末に比べて980百万円減少し、13,786百万円となりました。これは、主に未払費用及び借入金の増加があった一方、仕入債務の減少によるものです。

固定負債は前期末に比べて2,030百万円増加し、17,301百万円となりました。これは、主に長期借入金の増加によるものです。

この結果、負債合計は前期末に比べて1,050百万円増加し、31,087百万円となりました。

純資産合計は前期末に比べて73百万円減少し、18,460百万円となりました。これは、主に親会社株主に帰属する当期純損失の計上等によるものです。

 

(4) 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づいて作成されています。連結財務諸表の作成にあたり、期末時点の状況をもとに、種々の見積りと仮定を行っていますが、それらは連結財務諸表に影響を及ぼします。連結財務諸表に与える影響が大きいと考えられる項目・事象は以下のとおりです。

① 繰延税金資産

当社グループは、繰延税金資産について定期的に回収可能性を検討し、当該資産の回収が不確実と考えられる部分に対して評価性引当額を計上しています。回収可能性の判断においては、将来の課税所得見込額と実行可能なタックス・プランニングを考慮して、将来の税金負担額を軽減する効果を有すると考えられる範囲で繰延税金資産を計上しています。

将来の課税所得見込額はその時の業績等により変動するため、課税所得の見積に影響を与える要因が発生した場合は、回収可能性の見直しを行い繰延税金資産の金額の修正を行うため、当期純損益金額が変動する可能性があります。

② 退職給付債務及び退職給付費用

退職給付債務及び退職給付費用は、主に数理計算で設定される退職給付債務の割引率、年金資産の長期期待運用収益率等に基づいて計算しています。割引率は、従業員の平均残存勤務期間に対応する期間の安全性の高い長期債利回りを参考に決定し、また、年金資産の長期期待運用収益率は、過去の運用実績及び将来見通し等を基礎として設定しています。割引率及び長期期待運用収益率の変動は、将来の退職給付費用に影響を与える可能性があります。

③ 固定資産の減損

当社グループは、固定資産の減損に係る回収可能性の評価にあたり、収益性が著しく低下した資産または資産グループについて、固定資産の帳簿価額を回収可能価額まで減額し、当該減少額を減損損失として計上しています。

固定資産の回収可能価額について、将来キャッシュ・フロー、割引率、正味売却価額等の前提条件に基づき算出しているため、当初見込んでいた収益が得られなかった場合や、将来キャッシュ・フロー等の前提条件に変更があった場合、固定資産の減損を実施し、当社グループの業績を悪化させる可能性があります。

 

 

 (5) 生産、受注及び販売の状況

  ① 生産実績

当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

 

セグメントの名称

生産高(百万円)

前年同期比(%)

医薬品事業

9,219

△16.6

その他

合計

9,219

△16.6

 

(注)  金額は、製造原価によっております。

 

  ② 受注状況

当社グループは、主に販売計画に基づいて生産計画を立て、これにより生産をしております。

受注生産は一部の子会社で行っておりますが、受注残高の金額に重要性はないため、記載を省略しております。

 

  ③ 販売実績

当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

 

セグメントの名称

販売高(百万円)

前年同期比(%)

医薬品事業

29,611

△3.1

その他

1,137

12.0

合計

30,748

△2.6

 

(注) 1 セグメント間の取引については相殺消去しております。

     2 主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合

相手先

前連結会計年度

当連結会計年度

販売高(百万円)

割合(%)

販売高(百万円)

割合(%)

アルフレッサ㈱

5,544

17.6

5,511

17.9

㈱メディセオ

5,436

17.2

5,351

17.4

 

 

5 【経営上の重要な契約等】

特記すべき事項はありません。

 

 

6 【研究開発活動】

当社グループがウラリットでその技術とノウハウを培ってきたアルカリ化療法剤については、がん領域、CKD(慢性腎臓病)領域などで開発を進めており、加えて、健康食品への展開も図っています。

そのうち、がん領域については、抗がん剤開発に特化した創薬系バイオベンチャー企業であるDelta-Fly Pharma株式会社(以下、DFP社)とライセンス契約を締結している抗がん剤候補化合物「DFP-17729」が、本剤と他の抗がん剤の併用群、ならびに他の抗がん剤単独群との比較によるフェーズⅡ試験を2022年度中に終了し、現在次のフェーズに向けた準備が進められています。またCKD領域については、当社グループが協力を行いながら東北大学で進められていた臨床研究「CKOALA Study」において、CKDに対するウラリットの有用性が示唆されており、現在は試験で得た結果について責任医師による論文化が進められています。

アルカリ化療法剤の新領域での展開は、ウラリット発売以来の歴史で培った当社ならではの独自のテーマであり、この画期的なテーマで医療と社会への貢献を果たしてまいります。

自社での新薬開発については、有望化合物の探索研究に重点を置き、得られた成果を早期段階で導出することで、開発上のリスクを軽減しつつ効率的に開発を進めていきます。また、パイプラインの拡充やAIなどの新技術を活用した研究開発を進めるため、各分野において最先端の研究を行っている企業・研究機関とのアライアンスにも積極的に取り組んでいます。

「NC-2600」(P2X4受容体拮抗薬)は神経障害性疼痛に加え、新たに複数の疾患への適応可能性が期待されています。そのうち慢性咳嗽に対しては、新規の作用機序を有する薬剤として開発を進め早期の導出を目指しています。

国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の「CiCLE事業」に採択されている、抗うつ・抗不安薬NC-2800(オピオイドδ受容体作動薬)は、2023年度にフェーズⅠが終了し、今後はフェーズⅡa実施に向けて準備を進めていきます。また、フェーズⅡbに移行する時点で、全世界をテリトリーとした開発・販売権を得られるオプション権を住友ファーマ株式会社に対して付与しており、オプション権を行使してライセンス契約に至った場合には、開発の進展に伴うマイルストーン及びロイヤリティ収入が期待できると考えています。

DFP社と日本国内における独占的販売権を取得するライセンス契約を締結している「DFP-14323」(抗がん剤候補化合物)については、DFP社が実施したフェーズⅡ試験において、DFP-14323と標準用量の半量のアファチニブを併用した場合の無増悪生存期間が、アファチニブやオシメルチニブの単剤にて報告されている期間より長いという結果がでました。この結果を基にDFP社は独立法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)と相談を重ねてまいりましたが、2024年2月にはEGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺がん患者(ステージⅢ/Ⅳ)を対象に、DFP-14323 とアファチニブ半量の併用群とアファチニブ単独群とのフェーズⅢ比較試験(優越性検証)を開始しています。

なお、医薬品事業における研究開発費の総額は2,325百万円であります。

 

  (注) 「その他」の事業では、研究開発活動を行っていないため記載しておりません。