第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

(1)経営方針

創立50周年という節目を機に、当社グループは社会の中で果たすべき役割を改めて見つめ直すとともに、社員一人ひとりが共有すべき価値観と行動指針を再定義し、事業や組織の在り方に即した、より具体的な企業理念へと2025年5月に改定いたしました。

 

企業理念

私たちは、希少疾病にとどまらず、最も困難とされる治療の課題に挑戦し、答えを創り出していきます。

 

価値観(コアバリュー)

すべての起点は、人である。患者さん、ご家族、医療関係者、そしてともに歩む社員。私たちの取り組みは、ひとりひとりの想いに応えることから始まる。

独創

常識に縛られず、前例にとらわれず。誰にもつくれないものを、自分たちの方法で生み出す。それが、JCRのものづくりの原点にある精神。

進化

私たちは決して立ち止まらない。常に限界に挑み、研究の力で前へと進み続ける。患者さんとそのご家族の未来のために、歩みを止めない。

卓越

患者、社員、パートナー。私たちは人のために、最高水準を追求し続ける。「品質」へのこだわりは、私たちの誇りであり、責任でもある。

 

(2)経営戦略等

当社グループは、2024年度決算において売上高330億72百万円(前期比97億99百万円減)、営業損失66億50百万円(前年同期は75億31百万円の営業利益)を計上いたしました。これは、国内製品売上高は316億55百万円(前期比9億81百万円減)と推移したものの、研究開発費に154億31百万円(前期比41億96百万円増)を要し、年度内に予定していたライセンス契約が締結に至らず契約一時金を計上できなかったためであります。

 

当社グループは、2023年度に5ヵ年の中期経営計画「Reach Beyond, Together」をスタートいたしました。本計画のもと、独自技術である血液脳関門通過技術「J-Brain Cargo」を適用したライソゾーム病治療薬を一日でも早く患者さんの元に届けるため、これまで経験したことのない挑戦を続けてまいりました。

研究開発、特に海外での臨床開発の推進、あるいは生産活動の拡充のため、体制の整備と、人員の拡充をおこなってまいりました。グループ全体の社員数は2023年3月末から108人増加し、2025年3月末には987人となりました。海外での開発体制の整備と積極的な開発活動により、JR-141のグローバル臨床第3相試験は被験者の登録を想定より前倒しで完了できる状態となりました。また、研究領域では、脳指向性を高め、かつ肝指向性を劇的に減少させることで、従来の遺伝子治療の課題解決につながる「J-Brain Cargo」を応用した新たな遺伝子治療技術を開発いたしました。さらに、生産領域では、2021年のワクチン原薬の製造受託を契機として、当社グループの生産技術・ノウハウを活用した製造受託事業の可能性を見出しております。営業領域では、2023年度に主要製品である「グロウジェクト」について競合他社の供給問題が発生いたしました。この際に、生産部門は製造計画を大胆かつ迅速に変更して増産し、営業部門はこれと連携して活動し、代替品としての安定供給義務を果たしました。これにより、「グロウジェクト」の売上高は約1.5倍に急拡大を果たし、今期も高いマーケットシェアを維持しております。「イズカーゴ」については、エビデンスの積上げと情報提供活動に全社を挙げて取り組んだ結果、売上は拡大を続けております。

 

これまで当社グループは、国内製品の売上と外部企業への導出契約等による契約金収入によって、将来に向けて積極的な成長投資を続けてまいりました。しかしながら、今期の結果は、成長投資の原資を契約金収入に依存することのリスクが顕在化したものと認識しております。

現在、我が国では国民に最新の医薬品を迅速に届けるため、創薬力の向上をはじめとした積極的な議論がなされております。また、米国では規制環境に大きな変化が起こりつつあります。当社グループはバイオ医薬品技術、遺伝子治療技術を有する数少ない日本企業のひとつとして、国内外の政策、規制環境の方向性を見極めつつ、独自の基盤技術とそれを応用した画期的な医薬品を我が国から世界に展開できるよう、中長期的な国内事業基盤の強化を優先課題とし、安定性を備えた事業展開を行ってまいります。

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

 文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものであります。

 

(1)サステナブルな社会の実現に向けた挑戦

①サステナビリティに対する当社の考え方

当社グループは、1975年の創業以来、時代を先取りしたバイオ技術、細胞治療・再生医療技術で、希少疾病用医薬品を中心としたアンメット・メディカルニーズ(未だ満たされていない医療ニーズ)に応える画期的な新薬の創製を目指しております。地球環境や社会を取り巻く状況・課題は、年を追うごとに変化しておりますが、当社グループは医薬品メーカーとしての事業活動を通じて持続的な企業価値創造を図り、持続可能な社会の発展に貢献することが重要であると考えており、「希少疾病:Rare Diseases」、「環境:Environment」、「社会:Society」、「コーポレート・ガバナンス:Corporate Governance」を重点領域として取り組みを推進しております。特に、「希少疾病:Rare Diseases」は事業活動と密接に関係し、当社グループだからこそ貢献できる領域であります。患者さんが極めて少ない超希少疾病に対しても治療薬の開発と新たな事業モデルの構築に積極的に取り組むことで、誰一人取り残さない社会の実現を目指しております。

 

②ガバナンス

当社グループは、常に変化する社会および当社を取り巻く状況・課題に対して、経営と一体となって深度ある議論や戦略の策定を行うため、2022年7月に「サステナビリティ諮問委員会」、「サステナビリティ委員会」、「環境委員会」を設立いたしました。この推進体制のもと、全社一丸となって、「当社グループだからこそできるサステナビリティ」の実現に取り組んでまいります。各委員会の役割は、下記のとおりであります。

 

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③戦略

<マテリアリティの特定>

サステナビリティに対する当社の考え方に則り、事業活動を通じた社会課題の解決と企業価値の向上を両立させるため、重点的に取り組むべき事項をマテリアリティ(重要課題)として次のプロセスを経て特定いたしました。

 

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④指標及び目標

<特定されたマテリアリティ>

カテゴリ

マテリアリティ

(重要課題)

重要指標

重要指標に対するFY2024実績

現在の取り組み

希少疾患

(RD)

希少疾病の治療選択肢の提供

臨床試験開始数:

(目標:2027年度までに5品目)

2品目

・希少疾病(Ultra Rareを含む)に対する新薬の創製・開発

・患者の皆さんとご家族を中心とする製品展開と活動・治療機会の拡大

・希少疾病へ持続的に取り組むための事業モデルの構築

[補足事項]

・JR-441:日本での臨床第I相試験の被験者登録完了

・JR-446:日本での臨床第I/II相試験の初回投与完了

環境

(E)

自然環境への配慮

産業廃棄物に伴うCO排出量のリサイクル処理による削減率

38.7%

・低炭素経営

・環境負荷軽減

社会

(S)

革新的な基盤技術の創製

パートナリング数

※公開情報のみ

1件

・革新的な基盤技術の創製

・戦略的パートナーシップの構築

・目的とする組織・臓器への指向性を有し、かつ特定の組織・臓器への移行性を低減した遺伝子治療技術「JUST-AAV」の確立

・複数企業とのフィージビリティ研究が進行中

バイオ医薬品のグローバル供給体制の構築

行政処分の対象となる各国規制当局からの指摘事項(目標:0件)

 

製品の品質による製品の欠品・回収(目標:0件)

各0件

・バイオ医薬品の製造技術力の発展

・品質保証体制・安定供給体制の拡充

・グローバルで求められる品質基準に適合する新製剤工場の建設に着工

成長を支える人材育成

①直近5年新卒採用女性比率平均

 

②社員1人あたりの研修費用

①43.7%

 

 

②120,000円

 

・動的な人材ポートフォリオの構築(能力開発と教育)

・ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンの推進

・働き方改革の推進

・技能承継の推進

・社員一人一人の成長と貢献を最大限にし、組織の生産性を高めるための新たな人事制度の導入

ガバナンス

(G)

高い倫理性のある経営

①役員従業員間コミュニケーション活動実施回数

②取締役会の実効性評価の継続実施及び改善提言事項の対応率(目標:100%)

③社外取締役比率

④内部通報対応数

①17件

 

 

②100%

 

 

 

③54.5%

④11件

・風通しが良く、不正を許さない組織風土の醸成

・高い倫理性のあるガバナンス

・高い透明性の確保

・リスクマネジメントの推進

 

 

⑤リスク管理

当社グループでは、リスクマネジメントの基本方針として、自社製品の安定供給、事業の安定的継続、社員の安全の確保、企業価値の向上によるステークホルダーの信頼維持を掲げております。社長が選任したリスクマネジメント統括管理者の下で、各本部長や指定の部門長からなる経営リスク管理者が参加するリスクマネジメント推進会議を開催し、リスクマネジメント活動の現状分析、課題抽出、改善検討を協議し、必要な情報共有、活動の連携を行っております。

また、サステナビリティ委員会と環境委員会において特性に応じたリスクと機会を特定し、リスクマネジメントと評価を進めております。それぞれの委員会における詳細なリスクシナリオ分析は、現在策定中であります。

 

(2)人と組織の成長(人的資本経営の推進)

①戦略

当社グループは、中長期経営ビジョン「Toward 2030」の実現を目指して、“当社の価値の源泉は「チームJCR」である”という共通認識のもと、多様性に富む社員一人ひとりが輝ける職場環境づくり、人材育成の促進に取り組んでおります。今後の本格的なグローバル事業の展開を見据え、次世代リーダーの育成・採用を強化するため、下記の3つの取組みを積極的に推進しております。

 

・戦略遂行に資する「動的人材ポートフォリオ」の構築

当社グループでは、人事企画部と各部署との間で適切な意思疎通を図るため、定期的に将来的な人材に対する考え方のすり合わせを行い、人員計画を策定しております。また、採用に関するデータ分析や採用活動の効率化に必須となる採用管理システムの最適化、採用サイトのリニューアルを行い、人材採用についてのPDCAサイクルの構築を進めるなど、戦略的に人材採用を行っていくための取組みを推進しております。

 

・ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンの展開と組織浸透

当社グループは、「チームJCR」こそが価値の源泉であるとの確信のもと、性別、年齢、国籍、障がいの有無などの属性の違いを尊重しあい、多様性に富む社員一人ひとりの能力を最大限に活かすことが重要であると考えております。この実現に向け、女性の職域拡大や管理職への登用、事業所内保育所の整備、男性の育児参加促進など、様々な状況や環境の下でも社員の能力や意欲をより活かせる企業風土の醸成を推進しております。

全社の女性比率は42.4%であり、特に研究部門で49.0%、生産部門41.8%、開発部門52.2%と高く、現在の全社女性管理職比率16.7%は今後上昇していくことが期待されます。また、男性の育休取得率は62.5%と近年高い水準で推移しており、女性の育休からの復帰率100%は毎年継続しております。また、障がい社雇用の一貫として、ビジネスサポートグループを人事企画部内に立ち上げるなど、多様な人材が活躍できる体制を整えております。

 

・個人と組織の活性化、エンゲージメントの向上推進

当社グループでは、社員のスキルアップが会社の成長へつながるという観点から社員研修に注力しており、次世代リーダーを育成するための新たな取組みとして、2022年に「JCRアカデミー」を設立いたしました。この取組みでは、グローバルで活躍できるスキルを身に付けたグローバルリーダーを、実践的なプログラムで育成することを目標としており、今後のグローバル事業展開に合わせた人材の育成を推進しております。2025年3月に第2期生がJCRアカデミーを修了いたしました。企業が求める人材像である「誰かがやる、その誰かになる」人材を育成し、企業価値の向上を目指すため、新しい人材マネジメントシステムを構築中であります。

 

②指標及び目標

当社グループは現在業容拡大中であり、「人と組織の成長」の取組みにおける詳細な指標及び目標については現在策定中であります。現在、この取組みの目安としております人材関連投資金額の実績は、下記のとおりであります。

 

 

<人事関連投資額>

(単位:千円

動的人財ポートフォリオ

28,000

DE&Iの展開と組織浸透

51,000

個人と組織の活性化

75,000

合計

154,000

 

 

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(3)社会課題への挑戦(環境保全に向けた取り組み)

①戦略

当社グループは、事業活動を通じた環境負荷を長期的なビジネスや社会に影響を及ぼしうるリスク要因として捉え、下記の3つの取り組みを中心に、環境に配慮した事業活動の実践に取り組んでおります。その上で、気候変動に関する物理的リスク・移行リスクと機会について、事業・戦略・財務に与える短期・中期・長期的な影響の重要性評価を進めております。その結果を踏まえ、経営に与える影響が高いものを「重要リスク」ならびに「機会」として特定し、サステナブルな社会の実現に積極的に取り組んでまいります。

 

・エネルギー使用量

2024年度における総エネルギー使用量(電気、ガス等)は、昨年度と同等でありました。2022年11月に竣工した新原薬工場(神戸サイエンスパークセンター)において太陽光パネルを588枚設置し、本工場の年間電気使用量の内7.1%を再生可能エネルギー由来の、実質的にCO2を排出しない電力で賄うことができました。また、研究所の建屋に設置しました太陽光パネルにより年間53,008kWhの電力を発電し、これを売電することで社会の再生可能エネルギーの活用に貢献いたしました。今後も、エネルギー効率の高い設備の導入やエネルギー使用方法の見直しと、社員一人ひとりが効率的な資源の利用を心がけ、一歩進んだ行動につなげられるよう、さらなる意識の向上に努めてまいります。

 

・水資源

当社グループでは業容の拡大に伴い、水資源の利用量は増加傾向にあります。貴重な資源を有効活用するため、研究および生産工程に使用する水量の削減や廃蒸気の回収・再利用等を積極的に推進し、効率的な資源の利用に努めてまいります。

 

・TCFD提言に沿った情報開示

当社グループは、2021年に英国で開催された国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)で採択された、産業革命以来の気候上昇を「1.5℃」に抑える「パリ協定」に賛同しており、この実現に向けた取り組みを行っております。今後、各企業が設定した温室効果ガス(GHG)の排出削減目標などのイニシアチブと当社の事業計画を踏まえ、中長期的なGHG排出削減目標の設定など、「パリ協定」の実現に向けた取り組みをさらに進めてまいります。

 

②指標及び目標

当社グループは、「社会課題への挑戦」の取り組みにおける詳細な指標及び目標についてマテリアリティとして特定し、進捗を定期的にトラッキングしております。さらに、環境負荷軽減を目指した低炭素経営の取り組みの指標として、国際的な算定基準であるGHGプロトコルに準拠したGHG排出量のScope1、2および3(一部のカテゴリー)の算定をいたしました。2024年度においてGHG総排出量は68,186tCOとなり、前年比で約37.7%の増加となりました。この主な要因は、2026年9月に竣工予定の新製剤工場に着工したため、資本財としてScope3のcategory2に計上するものが増加したことによるものであります。

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GHG排出量

 

 

 

 

 

(単位:t)

 

前期

当期

増減

Scope1

2,756

5.6%

2,779

4.1%

23

0.8%

Scope2

10,884

22.0%

8,392

12.3%

-2,492

-22.9%

Scope3

35,876

72.5%

57,014

83.6%

21,138

58.9%

合計

49,516

100.0%

68,185

100.0%

18,669

37.7%

(注)当期のScope2が前期と比し減少しているのは、活動の主要拠点(工場及び研究所)における算定対象を金額算定から物量算定に変更したものによるものであります。

なお、前期のScope2を同条件で算定した場合は、当期と同等のCO2排出量となります。

 

3【事業等のリスク】

当社グループの戦略・事業その他を遂行する上でのリスクについて、投資家の判断に重要な影響を及ぼす可能性があると考えられる主な事項を以下に記載いたします。

なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。また、提出日現在における状況の変化につきましては、末尾に記載しております。

 

(1)コンプライアンスに関するリスク

医薬品産業等は、医薬品等の有効性及び安全性を担保するために様々な法規制を受けております。さらに、法規制の範囲に限らず、製薬企業が高い倫理観を以て事業活動にあたることが重要であります。当社グループでは、社内規範と企業倫理に沿った経営並びに法令遵守のためコンプライアンス委員会を設置し、コンプライアンス行動基準の制定と従業員へのハンドブックの配布、および研修を通じてコンプライアンス周知・啓発を行っております。加えて、薬機法に基づく法令遵守ガイドラインが施行されており、当社はその体制として、法令遵守担当取締役を含む責任役員を選任したほか社内研修等を実施しております。

しかしながら、社会規範あるいは企業倫理に反する行為が認められ、社会的信用が失墜することにより、結果的に当社グループの業績及び財政状態に重要な影響を受ける可能性があります。

 

(2)特定製品への依存のリスク

当社グループの販売品目のうち、ヒト成長ホルモン製剤の売上高が総売上高に占める割合は、当連結会計年度において54.7%になります。ヒト成長ホルモンは主に小児成長障害に使用される医薬品であることから、日本国内における少子化の影響を受けます。市場統計によれば、ヒト成長ホルモン市場は各社の新たな適応追加や疾患啓発活動の結果、これまでのところ拡大を続けてきましたが、将来的には減少に転じる可能性が高いと認識しております。また、ヒト成長ホルモン市場における競合品として持続性製剤の参入もあり、当社品シェアへの影響も想定されます。したがって、これらの不確定要因が当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

さらに、本製剤は当社グループとPHC株式会社で共同開発した専用注入器グロウジェクター®Lを使用しなければ、自己注射することができません。グロウジェクター®LはPHC株式会社が製造し、同社とはリスク管理も含めた契約を締結しており、繰り返し使用できる機器(耐用年数3年)であることから、同社の生産に支障を生じた場合であっても、業績への影響は低いと認識しております。ただし、長期に渡り支障を生じた場合は、新規患者の獲得や機器の更新が滞り、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

当社グループでは、J-Brain Cargo®(血液脳関門通過技術)を用いた新薬「イズカーゴ®点滴静注用10mg」を2021年5月に薬価基準収載し、上市後の年間売上高は伸長しております。当製品については、海外における上市を計画しております。さらに、イズカーゴ®に引き続き、J-Brain Cargo®技術を基盤とした複数の研究開発を着実に進捗させ、ヒト成長ホルモン製剤への依存状態から脱却することを目指しております。

 

(3)安定供給・設備投資に関するリスク

当社グループでは、国民皆保険制度の下、全国の患者さんに平等かつ安定的に医薬品を供給する責務があると認識しております。そのため、供給不安のリスク対策として、製造に必要な資材及び原料確保状況を定期的に確認し、それら供給元の事業状況を把握しつつ、可能な限りダブルソース化を図っております。また、GLPやGMP等のガイドラインを遵守するなど、品質保証体制を徹底しております。しかしながら、当社グループの製造施設等や原材料供給元において、技術的もしくは法規制上の問題、大規模災害による影響、国際紛争による政治的混乱等が発生することにより、製品の安定供給に支障が発生する可能性があります。特に、昨今の新型コロナウイルス感染症等の新たな脅威や、ロシア・ウクライナ情勢、米国の政権交代による関税政策およびこれに伴う為替変動等の状況によって、世界的に天然資源、建材、電子部品等の供給不足の影響があるなか、今後、新規施設建設計画や研究・生産機器等の発注納期について、影響を受ける可能性は否定できません。その動向によっては、当社グループの業績に影響を与える可能性があります。

 

(4)法規制に関するリスク

当社グループの事業は、関連法規の厳格な規制を受けており、各事業活動の遂行に際して種々の許認可等を受けております。これらの許認可等を受けるための諸条件および関連法令の遵守に努めており、現時点においては当該許認可等が取り消しとなる事由は発生しておりません。しかしながら、法令違反等によりその許認可等が取り消しとなる場合等には、規制の対象となる製商品の回収、または製造ならびに販売を中止することを求められる場合もあり、これらにより当社グループの事業に重大な影響を及ぼす可能性があります。

また、当社グループが取り扱う医療用医薬品の薬価は、医療制度が国民皆保険を前提としていることから、健康保険法の規定に基づき、厚生労働大臣の定める薬価基準収載価格とされております。薬価基準の改定頻度が高まることや、競合品との競争激化など、薬価改定による売上低下のリスクが存在しております。当社は、製品固有の価格リスクを継続的に評価し、製品価値に見合った仕切価の設定を行うなど、対応を行っております。

(5)研究開発に係るリスク

当社グループは、希少疾病領域での積極的な研究開発活動に取り組んでおりますが、医薬品は所轄官庁の定めた有効性と安全性に関する厳格な審査により承認されてはじめて上市することが可能となります。したがって、研究開発の途上において、当該開発品の有効性もしくは安全性が承認に必要とされる基準を満たさない懸念があることが判明し、研究開発の中止もしくは遅延を要する場合は、研究開発費の回収や期待される収益の確保が困難もしくは遅延するリスクがあります。そのような場合は当社グループの業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。

また、当社グループの売上高は、主に医薬品・医療機器・再生医療等製品の製造販売の他、技術ライセンスに基づく契約金収入により構成されております。また、これら契約金収入は、営業利益等の各利益に大きな影響を及ぼすことがあります。したがって、パイプラインの研究開発に中止・遅延を要する事象が発生した場合、当社グループの業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。

 

(6)グローバル展開に向けた活動のリスク

当社グループでは、J-Brain Cargo®という技術基盤を活用し、希少疾病を適応とした革新的医薬品を提供することで、グローバルスペシャリティーファーマを目指しております。しかしながら、各国固有の法規制・特許・医療制度等において事業展開のリスクが異なり、想定外の事態が発生することで、事業の進捗や提携先の企業から得られるロイヤルティの見込み時期もしくは有無に変動が生じるリスクがあり、この規模によっては当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(7)競合品に係るリスク

当社グループの製品およびパイプラインには、いずれも競合となりうる他社の開発品目が存在いたします。これら競合品目の開発が進捗し、発売された場合、当社グループの業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。

 

(8)人的リソースに係るリスク

近年の売上高の増加と研究開発の進捗に伴い研究開発部門、生産部門を中心に人的リソースを拡充しております。今後も複数のパイプラインのグローバル臨床試験、上市を見込んでいることから、引き続き人的リソースの拡大傾向が継続するものと認識しております。近年では、グローバル経験のある人材の確保に取り組み、さらにグローバルに活躍できる人材の教育計画を立案するなど、将来のJCRを牽引する人材を育む取り組みを進めております。しかしながら、人材の採用が困難になる場合あるいは離職率が上昇する場合は、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(9)副作用の発現リスク

現在のパイプラインには、人体にとっては未知の物質に相当する融合たんぱく質であるものが含まれております。新規医薬品では、未知の副作用の発生は常にリスクとして認識すべきものと考えられます。また一般的に、人体は未知の物質に対して抗原抗体反応により体内より排除する機構を持っていることから、これらの薬物が抗原抗体反応を惹起することにより、好ましくない副作用の発現リスクが存在いたします。現在までの臨床試験において、特段留意が必要なリスクは顕在化しておりませんが、今後、長期に投与した際に看過できない副作用が発現した場合は、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(10)知的財産権の侵害リスク

当社グループの血液脳関門通過技術については、競争力のある形で知的財産権の確保に努めております。2020年に米国ArmaGen社を買収することで、米国等におけるJ-Brain Cargo®(血液脳関門通過技術)に関する知的財産権を取得したため、現段階において当該技術に関して他社の知的財産権を侵害するリスクは低いものと判断しております。しかしながら、血液脳関門通過技術を有した他社製品が開発されている状況にあり、将来において知的財産権を巡る訴訟が起こる場合は、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(11)訴訟に関するリスク

当社グループは製造物責任(PL)関連、独占禁止法関連、環境関連やその他に関して訴訟を提起される可能性があります。これらの訴訟に対応すべく、損害保険への加入等のリスク対策を講じておりますが、訴訟が発生した場合、当社グループの業績および財政状態に重要な影響を与える可能性があります。

 

(12)自然災害に係るリスク

当社グループの製品に係る原薬、製剤工場は神戸市西区に集中しております。

地震、風水害には強い立地条件ではあるものの、大規模停電、想定を超える事象が発生した場合は一定期間操業できなくなることで当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(13)筆頭株主との関係

当社グループは、筆頭株主である株式会社メディパルホールディングスとの間で、複数のパイプラインに関する開発投資契約等を締結しており、今後、両社が出資し米国に設立した合弁会社を通じて各種医薬品候補物質の臨床開発を行うほか、2022年には超希少疾病に対するグローバル事業化の独占的交渉権の付与、およびフコシドーシス治療薬の事業化についての実施許諾契約を締結するなど広範囲な業務提携をおこなっております。当社グループは、同社との戦略的提携関係を維持し、両社の更なる企業価値の向上に努める所存でありますが、何らかの理由により同社との戦略的提携に変更があった場合、当社グループの業績および財政状態に重要な影響を与える可能性があります。

 

(14)金融市況の影響について

株式市況、為替相場および金利の動向によっては、保有する有価証券等の時価の下落、原材料等の輸入価格上昇、退職給付債務および支払利息の増加等、当社グループの業績および財政状態に重要な影響を受ける可能性があります。また、新型コロナウイルス感染症の影響により社会情勢が大きく変化する可能性を加味し、運転資金を確保することを目的として、2020年4月にバックアップラインとして各金融機関との間で、既存の当座借越枠に加え、コミットメントライン契約を締結しております。

 

上記のほか、環境保全上の問題の発生、製品を取り巻く環境の変化、ライセンスまたは提携の解消、システム障害および情報流出等、様々なリスクがあり、ここに記載されたものが当社グループの全てのリスクではありません。

 

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1)経営成績等の状況の概要

① 当期の経営成績

売上高は330億72百万円(前期比22.9%減)となりました。

ムコ多糖症Ⅱ型治療剤「イズカーゴ®点滴静注用10mg」は好調に推移し、遺伝子組換え天然型ヒト成長ホルモン製剤「グロウジェクト®」も、2024年4月に薬価改定があったものの販売数量が増加したことにより増収となりましたが、腎性貧血治療薬の減収等により製品売上高は減収となりました。加えて、予定していたライセンス契約が当期中の締結には至らなかったことなどにより、前年同期に比べて減収となりました。

また、積極的な研究開発活動の結果、研究開発費は37.4%増加し154億31百万円(前期比41億96百万円増)となりました。

加えて、コロナ禍において製品の安定供給を継続するために調達した製造関係の資材および治験薬等について、今後使用予定のないものに係る損失を計上したこと、および神戸サイエンスパークセンターの原薬工場(2022年11月竣工)の建設費用に係る補助金の確定が翌期にずれ込んだことにより、予定していた特別利益を計上できなかったことなどから、営業損失は66億50百万円(前期は75億31百万円の営業利益)、経常損失は74億77百万円(前期は72億64百万円の経常利益)、親会社株主に帰属する当期純損失は47億59百万円(前期は55億7百万円の親会社株主に帰属する当期純利益)を計上しております。

 

 

前連結会計年度

(自 2023年4月1日

至 2024年3月31日)

当連結会計年度

(自 2024年4月1日

至 2025年3月31日)

増減

金額(百万円)

金額(百万円)

売上高

42,871

33,072

△22.9

営業利益又は営業損失(△)

7,531

△6,650

経常利益又は経常損失(△)

7,264

△7,477

親会社株主に帰属する当期純利益又は

親会社株主に帰属する当期純損失(△)

5,507

△4,759

営業利益の増減は以下のとおりであります。

・契約金収入の減少による売上高の減少      △9,799百万円

・売上原価の減少                  287百万円

・販売費・一般管理費の増加            △473百万円

・研究開発費の増加               △4,196百万円

 

② 主要な売上

 

 

前連結会計年度

(自 2023年4月1日

至 2024年3月31日)

当連結会計年度

(自 2024年4月1日

至 2025年3月31日)

増減

金額(百万円)

金額(百万円)

ヒト成長ホルモン製剤

 グロウジェクト®

17,913

18,098

1.0

ムコ多糖症Ⅱ型治療剤

 イズカーゴ®点滴静注用

5,171

5,718

10.6

腎性貧血治療薬

 エポエチンアルファBS注「JCR」

 ダルベポエチンアルファBS注「JCR」

4,652

1,994

2,658

3,784

1,690

2,093

△18.7

△15.2

△21.2

再生医療等製品

 テムセル®HS注

3,236

2,904

△10.2

ファブリー病治療薬

 アガルシダーゼベータBS点滴静注「JCR」

1,661

1,149

△30.8

製品計

32,636

31,655

△3.0

契約金収入

7,413

517

△93.0

(注)前連結会計年度の契約金収入は、事業化についての実施許諾契約および共同プロモーションに関する契約が締結されたこと等によるものであり、当連結会計年度の契約金収入はマイルストーンの達成等によるものであります。

 

③ 研究開発の状況

[ライソゾーム病治療薬]

・当社では現在、17種類を超えるライソゾーム病治療薬について、独自の血液脳関門通過技術「J-Brain Cargo®」を適用した新薬の研究開発に重点的に取り組んでおります。

 

・血液脳関門通過型ハンター症候群治療酵素製剤pabinafusp alfa(開発番号:JR-141)については、現在、グローバル臨床第3相試験が進行中であります。また、いわゆる軽症型の患者さんを対象としたCohort Bについて、目標としていた20例の症例登録が完了し、より重症な患者さんを対象としたCohort Aにおいても、95%以上の症例登録が完了いたしました。

 

・血液脳関門通過型ムコ多糖症Ⅰ型治療酵素製剤lepunafusp alfa(開発番号:JR-171)については、現在、日本・ブラジル・米国での13週間の臨床第1/2相試験を完了し、その継続試験を実施しております。また、当該品目については、自社開発ではなくライセンスアウトにより開発を進める方針であり、パートナー候補との導出交渉を進めております。

 

・血液脳関門通過型ムコ多糖症ⅢA型治療酵素製剤(開発番号:JR-441)については、ドイツにて臨床第1/2相試験が進行中であります。また、2024年上半期に予定していた12名の症例登録を完了いたしました。また、日本国内においては、2024年10月に臨床第1相試験での治験薬投与が開始されました。なお、2022年1月に欧州委員会(EC)より、2023年12月に米国食品医薬品局(FDA)より、そして2024年12月に厚生労働省より、オーファンドラッグ(希少疾病用医薬品)の指定を受けております。

 

・血液脳関門通過型ムコ多糖症ⅢB型治療酵素製剤(開発番号:JR-446)については、2023年9月に株式会社メディパルホールディングスと、海外における事業化についての実施許諾契約および日本における共同開発・商業化契約を締結いたしました。2024年12月に日本国内において臨床第1/2相試験での治験薬投与が開始され、2025年4月にはFDAよりオーファンドラッグの指定を受けております。

 

・その他のJ-Brain Cargo®を適用したライソゾーム病治療薬であるフコシドーシス治療薬(開発番号:JR-471)については、2022年10月に締結した実施許諾契約に基づき、株式会社メディパルホールディングスに対し、日本を除く全世界における研究・開発、製造および販売などの事業化に関する再実施許諾権付の独占的実施権を許諾いたしました。現在、臨床試験開始に向けて必要な研究等を進めております。

 

[基盤技術の創出]

・JCR独自の血液脳関門通過技術「J-Brain Cargo®」の様々なモダリティへの応用可能性を広げる研究の他、J-Brain Cargo®技術に続く新たな基盤技術の創出に注力しております。その成果のひとつとして、アデノ随伴ウイルスベクターを用いた新しい遺伝子治療技術「JUST-AAV」を創出しました。脳へと効率的にベクターを送達できるだけではなく、肝臓へのベクターの集積を低減することで副作用の軽減も期待され、新たなプラットフォーム技術として開発を進めております。2023年12月より株式会社モダリスと本技術を用いた新規遺伝子治療の開発に向けた共同研究を開始しており、2025年1月には、本共同研究において初期の技術コンセプトの検証を達成したため、新たな共同研究契約を締結いたしました。

 

[ヒト成長ホルモン製剤]

・長時間作用型遺伝子組換えヒト成長ホルモン製剤redalsomatropin alfa(開発番号:JR-142)の臨床第2相試験の継続試験を実施中であります。また、2024年12月に日本国内において臨床第3相試験での治験薬投与が開始されました。

 

④ キャッシュ・フローの状況

 当連結会計年度末における現金及び現金同等物は、前連結会計年度末に比べ55億59百万円減少して131億96百万円となりました。各キャッシュ・フローの状況および主な要因は次のとおりであります。

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

 営業活動の結果使用した資金は、54億86百万円(前連結会計年度比147億98百万円の支出増)となりました。これは主に、売上債権の減少額26億98百万円、減価償却費の計上額33億74百万円があった一方で、税金等調整前当期純損失の計上額64億14百万円、法人税等の支出額22億84百万円があったことなどによるものであります。

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

 投資活動の結果使用した資金は、98億74百万円(前連結会計年度比71億84百万円の支出増)となりました。これは主に有形固定資産の取得による支出98億88百万円があったことなどによるものであります。

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

 財務活動の結果得られた資金は、97億36百万円(前連結会計年度比117億68百万円の収入増)となりました。これは主に、短期借入金の純増額148億5百万円があったことなどによるものであります。

 

 

⑤ 生産、受注及び販売の実績

(1)生産実績

 当連結会計年度の生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

当連結会計年度

(自 2024年4月1日

至 2025年3月31日)

生産高(百万円)

前年同期比(%)

医薬品事業

34,120

98.2

合計

34,120

98.2

(注) 金額は販売価格により表示しております。

 

(2)受注実績

 当社グループは見込生産によっており、受注生産は行っておりません。

 

(3)販売実績

 当連結会計年度の販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

当連結会計年度

(自 2024年4月1日

至 2025年3月31日)

販売高(百万円)

前年同期比(%)

医薬品事業

33,072

77.1

合計

33,072

77.1

(注) 主な相手先別の販売実績およびそれぞれの総販売実績に対する割合は次のとおりであります。

相手先

前連結会計年度

(自 2023年4月1日

至 2024年3月31日)

当連結会計年度

(自 2024年4月1日

至 2025年3月31日)

販売高(百万円)

割合(%)

販売高(百万円)

割合(%)

株式会社メディパルホールディングス

(注)

25,316

59.0

20,800

62.9

キッセイ薬品工業株式会社

4,756

11.1

3,871

11.7

(注)売上高には、当該顧客と同一の企業集団に属する顧客に対する売上高を含めております。

 

(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識および分析・検討内容は次のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。

 

① 重要な会計方針及び見積り

 当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されております。この連結財務諸表の作成に当たりましては、棚卸資産、有価証券、特許権、貸倒引当金、退職給付に係る負債および繰延税金資産などについて、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項」および「第5 経理の状況 2 財務諸表等 (1)財務諸表 注記事項」に記載のとおり、資産・負債および収益・費用の数値に影響を与える見積りおよび判断を行っております。従いまして、実際の結果は、見積りの不確実性により異なる場合があります。

 

② 財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容

・財政状態

 当連結会計年度末における資産合計は1,048億55百万円(前連結会計年度末比26億29百万円増)、負債合計は574億20百万円(前連結会計年度末比116億69百万円増)、純資産合計は474億35百万円(前連結会計年度末比90億40百万円減)となりました。

 流動資産は、棚卸資産が増加した一方で、現金及び預金および売掛金及び契約資産が減少したことなどにより、前連結会計年度末に比べ65億24百万円減少して510億56百万円となりました。固定資産につきましては、新製剤工場建設に伴う建設仮勘定等の有形固定資産および繰延税金資産が増加したことなどにより、前連結会計年度末に比べ91億54百万円増加して537億98百万円となりました。

 流動負債は、未払法人税等が減少した一方で、短期借入金が増加したことなどにより、前連結会計年度末に比べ138億52百万円増加して439億88百万円となりました。固定負債は、長期借入金が減少したことなどにより、前連結会計年度末に比べ21億83百万円減少して134億31百万円となりました。

 純資産につきましては、その他有価証券評価差額金が増加した一方、親会社株主に帰属する当期純損失の計上、配当金の支払、自己株式の増加および新株予約権の減少などにより、前連結会計年度末に比べ90億40百万円減少して474億35百万円となりました。

 これらの結果、当連結会計年度末における自己資本比率は、前連結会計年度末に比べ9.4ポイント低下して44.8%となりました。

 当社グループがグローバルで持続的な成長を行うため、機動的かつ安定的に資金調達手段を確保する必要があり、各金融機関との間で、バックアップラインとして運転資金を確保する事を目的として、総額495億円のコミットメントライン契約を締結しております。

 なお、このうち265億円については、新製剤工場の建設に関する資金調達のために締結したものであります。この新製剤工場の建設は、経済産業省「ワクチン生産体制強化のためのバイオ医薬品製造拠点等整備事業」に採択されており、同事業における補助金を用いて当該建設を行いますが、当コミットメントライン契約につきましては、補助金受領までの必要資金に充当することを目的としたものであります。

 

 

 

・経営成績

売上高は前連結会計年度に比べ97億99百万円(22.9%)減少して330億72百万円となりました。

主力製品であるヒト成長ホルモン製剤「グロウジェクト®」につきましては、薬価改定の影響はありましたが販売数量が増加したことにより、前期比1億84百万円(1.0%)の増収となりました。2026年3月期につきましては、減収を見込んでおります。

「イズカーゴ®点滴静注用10mg」につきましては、販売開始以降順調に市場への浸透が進んでおり、前期比5億47百万円(10.6%)の増収となりました。2026年3月期につきましても、引き続き増収を見込んでおります。

腎性貧血治療薬につきましては、短期型腎性貧血治療薬「エポエチンアルファBS注JCR」・持続型腎性貧血治療薬「ダルベポエチンアルファBS注JCR」の売上高は、腎性貧血治療薬合計で37億84百万円(前期比868百万円・18.7%減)となりました。2026年3月期につきましても、減収を見込んでおります。

再生医療等製品「テムセル®HS注」につきましては、前期比3億31百万円(10.2%)の減収となりました。2026年3月期につきましても、減収を見込んでおります。

国産初のライソゾーム病治療薬であるファブリー病治療薬「アガルシダーゼベータBS点滴静注JCR」につきましては、前期比5億12百万円(30.8%)の減収となりました。2026年3月期につきましては、減収を見込んでおります。

契約金収入につきましては、前期比68億96百万円(93.0%)の減収となりました。2026年3月期につきましては、新たな契約締結を計画しており増収となる見込みです。

なお、売上高合計としましては、契約金収入が増加する影響により増加する見込みです。

研究開発費につきましては、154億31百万円と前期比41億96百万円(37.4%)の増加となりました。研究開発活動につきましては、将来のさらなる飛躍に向けた重要な位置づけと捉え、ここ数年間は積極的な投資に取り組んでおり、2026年3月期につきましては150億円(当期比2.8%減・対売上高比39.7%)の研究開発費を見込んでおります。

その結果、営業利益は26億円、経常利益は24億円、親会社株主に帰属する当期純利益は30億円を見込んでおります。

 

③ キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報

a.当連結会計年度のキャッシュ・フローの分析

「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1)経営成績等の状況の概要 ④キャッシュ・フローの状況」に記載のとおりであります。

b.当社グループの資本の財源および資金の流動性

・資金需要の主な内容

当社グループにおきましては、原材料等の仕入れ、研究開発費、人件費および販売費などの運転資金、ならびに生産および研究開発を目的とする設備投資に主たる資金需要が生じます。

なお、研究開発費につきましては、将来のさらなる飛躍に向けた重要な位置づけと捉え、ここ数年間は積極的な投資を見込んでおります。

また、株主還元についても、経営上の重要な施策の一つとして位置づけております。剰余金の配当等につきましては、将来の利益の源泉となる新薬開発や経営体質強化のための内部留保を確保しつつ、業績およびキャッシュ・フローの状況を勘案しながら継続的かつ安定的な配当を行うことを基本方針としており、ご期待に応える株主還元と財務の健全性のバランスを重視し、配当性向につきましては30%を目安としております。

・資金調達

これらの資金需要に対しましては、営業活動によるキャッシュ・フローからの充当を基本とし、不足する場合は金融機関からの借入金による調達を実施しております。

当連結会計年度末時点の現金及び現金同等物残高は131億96百万円となっており、事業遂行に必要な資金を十分確保しております。

また、当社グループがグローバルで持続的な成長を行うために、機動的かつ安定的に資金調達手段を確保する必要があり、各金融機関との間でバックアップラインとして運転資金を確保する事を目的として、当連結会計年度に総額495億円のコミットメントライン契約を締結しております。

なお、このうち265億円については、新製剤工場の建設に関する資金調達のために締結したものであります。この新製剤工場の建設は、経済産業省「ワクチン生産体制強化のためのバイオ医薬品製造拠点等整備事業」に採択されており、同事業における補助金を用いて当該建設を行いますが、当コミットメントライン契約につきましては、補助金受領までの必要資金に充当することを目的としたものであります。

 

5【重要な契約等】

(1)技術等導入契約

契約会社名

相手先の名称

契約内容

対価の支払

契約期限

当社

Mesoblast社

移植片対宿主病、表皮水庖症、新生児低酸素性虚血性脳症適応症における骨髄由来ヒト間葉系幹細胞(MSC)の国内独占開発、製造および販売

マイルストーンおよびロイヤルティ

製品発売から15年または適応拡大承認から10年間のいずれか遅い日まで

 

(2)技術等導出契約

契約会社名

相手先の名称

契約内容

対価の受取

契約期限

当社

住友ファーマ㈱

中枢神経系疾患治療薬創製に関する血液脳関門通過技術のライセンス契約

契約金・マイルストーンおよびロイヤルティ

特許期間満了またはロイヤルティの支払終了のいずれか遅い日まで

当社

㈱メディパルホールディングス

超希少疾病4疾患に対するグローバル事業化の独占的交渉権付与およびフコシドーシスに対する治療薬の事業化についての実施許諾契約

契約金およびロイヤルティ

ロイヤルティの支払終了まで

ムコ多糖症IIIB型に対する治療薬JR-446の海外における事業化についての実施許諾契約および日本における共同開発・商業化契約

当社

アレクシオン・アストラゼネカ・レアディジーズ

「J-Brain Cargo®」を適用した非公開の治療薬候補物質の共同研究、選択権およびライセンス契約

契約金・マイルストーンおよびロイヤルティ

特許期間満了またはロイヤルティの支払終了のいずれか遅い日まで

「J-Brain Cargo®」を適用した新規の核酸医薬品創製を目的とした共同研究、選択権およびライセンス契約

当社

アンジェリーニファーマ

「J-Brain Cargo®」を適用したてんかんに対する新規生物学的治療薬の開発と商業化契約

契約金・マイルストーンおよびロイヤルティ

ロイヤルティの支払終了まで

 

 

(3)取引契約等

契約会社名

相手先の名称

契約内容

対価の支払

契約期限

当社

Ferring社

遺伝子組換えヒト成長ホルモン原体の独占輸入権および同製剤の国内独占販売権

2028年10月まで(以降5年毎の更新)

当社

キッセイ薬品工業㈱

腎性貧血治療薬「エポエチンアルファBS注JCR」および持続型赤血球造血刺激因子製剤ダルベポエチンアルファ(一般名)のバイオ後続品の国内独占販売権

2026年3月まで(以降1年毎自動更新)

当社

㈱メディパルホールディングス

㈱メディパルホールディングスによる研究開発費の一部負担および当社によるロイヤルティの支払

ロイヤルティ

ロイヤルティの支払終了まで

米国合弁会社を通じた各種医薬品候補物質の臨床開発の実施

特定期間を定めず

当社

住友ファーマ㈱

ファブリー病治療薬「アガルシダーゼベータBS点滴静注JCR」の国内独占販売権

2032年3月まで(以降1年毎自動更新)

遺伝子組換えムコ多糖症II型治療剤「イズカーゴ®点滴静注用10mg」の日本における共同プロモーション

ロイヤルティ

2028年3月まで(以降2年毎の更新)

 

(4)企業・株主間のガバナンスに関する合意

 2024年4月1日以前に締結された契約のため、記載を省略しております。

 

(5)企業・株主間の株主保有株式の処分・買増し等に関する合意

 2024年4月1日以前に締結された契約のため、記載を省略しております。

 

(6)ローン契約と社債に付される財務上の特約

 該当事項はありません。

6【研究開発活動】

 当社グループにおきましては、医薬品事業において、長年にわたり培ってきたバイオ技術および細胞培養技術を基礎として、小児領域を中心とした難病や希少疾病の分野における革新的な医薬品、再生医療等製品の研究開発に取り組んでおります。

 当連結会計年度における研究開発費の総額は15,431百万円(前連結会計年度11,234百万円)、対売上高比46.7%(前年実績26.2%)となりました。

 

 なお、2025年6月1日現在の医薬品の研究開発状況は下記のとおりであります。

遺伝子組換医薬

開発番号

(物質名)

開発段階

適応症等

備考

JR-141

(血液脳関門通過型遺伝子組換え

 イズロン酸-2-スルファターゼ)

グローバル:

臨床

第3相試験

ムコ多糖症Ⅱ型

(ハンター症候群)

酵素補充療法

「J-Brain Cargo®」採用

JR-142

(遺伝子組換え持続型ヒト成長ホルモン)

日本:

臨床

第3相試験

小児成長ホルモン分泌不全性低身長症

「J-MIG System®」採用

JR-171

(血液脳関門通過型遺伝子組換え

 α-L-イズロニダーゼ)

グローバル:

臨床

第1/2

相試験

ムコ多糖症Ⅰ型

(ハーラー症候群等)

酵素補充療法

「J-Brain Cargo®」採用

「J-MIG System®」採用

JR-441

(血液脳関門通過型遺伝子組換え

 へパランN-スルファターゼ)

ドイツ:

臨床

第1/2相試験

日本:

臨床

第1相試験

ムコ多糖症ⅢA型

(サンフィリッポ症候群A型)

酵素補充療法

「J-Brain Cargo®」採用

JR-446

(血液脳関門通過型遺伝子組換え

 α-N-アセチルグルコサミニダーゼ)

日本:

臨床

第1/2

相試験

ムコ多糖症ⅢB型

(サンフィリッポ症候群B型)

酵素補充療法

「J-Brain Cargo®」採用

JR-471

(血液脳関門通過型遺伝子組換え

 α-L-フコシダーゼ)

前臨床

フコシドーシス

酵素補充療法

「J-Brain Cargo®」採用

JR-479

(血液脳関門通過型遺伝子組換え

 β-ヘキソサミニダーゼA)

前臨床

GM2ガングリオシドーシス

(テイ・サックス病、サンドホフ病)

酵素補充療法

「J-Brain Cargo®」採用

JR-162

(J-Brain Cargo®適用遺伝子組換え酸性

 α-グルコシダーゼ)

前臨床

ポンぺ病

酵素補充療法

「J-Brain Cargo®」採用

JR-443

(血液脳関門通過型遺伝子組換え

 β-グルクロニダーゼ)

前臨床

ムコ多糖症Ⅶ型

(スライ症候群)

酵素補充療法

「J-Brain Cargo®」採用