当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりであります。なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
当社グループは、企業理念として「キョーリンは生命を慈しむ心を貫き、人々の健康に貢献する社会的使命を遂行します。」を掲げています。その具現に向けて、10年後の創業110周年に向けた長期ビジョン「Vision 110」を策定いたしました。目指す姿は「医療ニーズに応える価値の高い新薬を継続的に提供する新医薬品事業を中核に据え、健康関連事業を複合的に展開し、人々の健康に幅広く貢献する企業」とし、その実現を目指します。
当社グループは、社内外ともに事業環境が劇的に変化する中、中核会社である杏林製薬㈱の創業100周年を迎えた2023年を機に長期ビジョン「Vision 110」を策定し、2023年度より、その第1段階である中期経営計画「Vision 110-Stage1-」を開始しました。
①長期ビジョン「Vision 110」(2023年度~2032年度)について
医療ニーズに応える価値の高い新薬を継続的に提供する新医薬品事業を中核に据え、健康関連事業を複合的に展開し、人々の健康に幅広く貢献する企業を目指します。
②中期経営計画 「Vision 110-Stage1-」(2023年度~2025年度)について
長期ビジョン「Vision 110」は、最終年度までの期間を3つのステージ(Stage1:2023年度~2025年度、Stage2:2026年度~2029年度、Stage3:2030年度~2032年度)に分け、その第1段階である中期経営計画「Vision 110-Stage1-」では、Statementに「Vision 110の実現に向けた事業体制への変革」を掲げ、以下の5つの事業戦略を推進し、成果目標の達成とステークホルダーの皆様からの支持・評価の向上を目指します。
事業戦略
a.医療ニーズに応える価値の高い新薬の創出力強化
b.導入による開発パイプラインの拡充
c.新薬比率の最大化
d.新医薬品事業と相乗効果のある健康関連事業の推進
e.持続可能な企業基盤の構築
a.数値目標(連結ベース)
成長性:「売上高」年平均成長率+2%以上
収益性:「研究開発費控除前営業利益(営業利益+研究開発費)」対売上高16%以上
b.資本政策と株主還元
資本政策においては、健全な財務基盤を維持しつつ、常に資本コスト・資本収益性を意識した上で、成長投資と株主還元を通じて、資本効率の向上を図ることを基本方針とします。株主還元については、DOE(株主資本配当率)を勘案して、安定した配当を継続します。
詳細は、「第4 提出会社の状況 3.配当政策」をご覧ください。
[中期経営計画「Vision 110-Stage1-(2023~2025年度)」の進捗と2024年度(2025年3月期)の取り組み]
中期経営計画「Vision 110-Stage1-」の初年度である2023年度は、長期ビジョンの実現に向けた事業体制への変革を行うべく、経営方針に「事業体制の刷新と新たな取り組みによる成長」を掲げ、事業活動として①創薬体制の刷新 ②パイプラインの拡充 ③新薬の普及最大化 ④コスト競争力の向上に積極的に取り組みました。
創薬体制の刷新では、外部の創薬シーズや技術導入を目的としてわたらせ創薬センターに研究企画部及び基盤研究所を新設しました。疾患研究から見出された新規作用機序による創薬に加えて、革新的な技術により新たな価値を創出する創薬に取り組むとともに、これまで注力してきた低分子創薬のみならず、核酸創薬などの革新的な技術の活用を目的として外部機関へ積極的にアプローチしました。さらに研究領域としては、肺線維症、疼痛、自己免疫疾患の3領域に注力して創薬研究に取り組むこととしました。2024年度は、これらの取り組みをさらに進め、価値の高い新薬を生み出す創薬イノベーションに挑戦していきます。
臨床開発プロジェクトの進捗状況としましては、間質性肺疾患治療薬「KRP-R120」の第Ⅲ相臨床試験及び過活動膀胱治療薬「KRP-114VP」の第Ⅰ相臨床試験が着実に進展しました。また耳鳴治療用アプリ「KRP-DT123」について、医療機関による特定臨床研究が2023年9月に開始されました。
パイプラインの拡充では、導入品獲得力の強化を目的とした事業開発本部を新設し、組織改革を行うとともに人的資源を拡大・投入しました。新規導入品の獲得に向け、導入対象とするモダリティ・疾患領域を拡大するだけでなく、導入品の評価・獲得スピードの向上に努めましたが、2023年度は契約には至りませんでした。2024年度は、これまで強化してきた組織機能を発揮して、複数品目の獲得を目指します。
新薬の普及最大化では、薬価改定(中間年改定)が実施されたものの、新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけが5類感染症に移行したこともあり、患者さんの受診行動が同感染症拡大前の水準に回復し、医療用医薬品市場は一定の成長を見せました。当社においては、主力製品である過活動膀胱治療剤「ベオーバ」、ニューキノロン系抗菌剤「ラスビック」、咳嗽治療薬「リフヌア」の早期市場浸透に注力するとともに、喘息治療配合剤「フルティフォーム」、アレルギー性疾患治療剤「デザレックス」の普及の最大化に努め、新医薬品等(国内)の売り上げは、前期比10.4%増となりました。中期経営計画では新薬比率の最大化を事業戦略の一つとしており、2024年度も新薬5製品の成長加速に最大限、注力することにより新薬の普及最大化を図ります。
コスト競争力の向上としては、本社の移転等を実行するとともにグループ会社全ての部門においてコストを徹底的に削減する取り組みを進めました。また人的資本の充実に向け、新たな人事制度への改定、人材育成、多様な考え方に応える働き方改革などを推進するとともに、環境、コンプライアンス、コーポレート・ガバナンスへの対応にも積極的に取り組みました。引き続き、持続可能な企業基盤の構築を目指し、様々な施策に取り組みます。
2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】
当社は、時代とともに変化する社会の動き・課題を捉えながら、企業理念「キョーリンは生命を慈しむ心を貫き、人々の健康に貢献する社会的使命を遂行します。」のもと、企業行動憲章に基づく事業活動を通じてサステナビリティ課題(社会と企業の持続的発展)に積極的に対応することが、企業価値の中長期的な向上に結び付くものと考えています。この考え方に沿って、長期ビジョン、中期経営計画において、自社の強固な財務基盤や人的資源など様々なリソースを有効に活用し、コーポレート・ガバナンスを向上し事業を展開します。
当社グループは、これまでの中長期的な事業活動におけるサステナビリティを巡る様々な課題から、解決に取り組むべきと考える重要課題(マテリアリティ)を「価値創造(事業活動に直結する課題)」、「価値創造を支える基盤(事業活動の基盤に関する課題)」の観点で10項目抽出し、長期ビジョン「Vision 110」及び中期経営計画「Vision 110 -Stage1-」のもと、実践しています。
詳細は、別項「
<「価値創造」マテリアリティ>
<「価値創造を支える基盤」マテリアリティ>
当社グループは、「事業は人にあり」という創業者の思いから、人材の成長こそ事業の強化を支える原動力と考え、人的資本の充実に取り組んでいます。また、全社員が全ての人々の人権を尊重し、高い倫理観を持って行動することが重要だと考えています。そのためには社員一人ひとりの多様性・人格・個性を尊重し、健康への配慮や安全で働きやすい社内環境を整備します。
同時に、全社員の倫理観の高揚と成長を促し、働きがいのある企業を目指すという基本的な考え方に基づき企業経営を行います。
人的資本の充実においては、社員を大切にし、人と組織を活性化することが、事業戦略を遂行し成果を具現するための重要課題であると認識しています。当社グループは、「社員と会社は、双方から期待される責務を、長期にわたって継続的に果たすことを通じて、相互の利益(社員は会社の発展に、会社は社員の生活の充実・自己実現に貢献する)を実現するパートナーである」という、人材マネジメントシステムの基本的な考え方のもと、採用、配属、成長(育成)、評価、異動、報酬、福利厚生等の仕組み(制度・基準・規程など)の構築と適正な運用を推進します。
グループ各社で毎年実施している「働きがいアンケート」において、その主要スコアの上昇を目指すとともに、人材マネジメントシステムに関する意見を汲み上げ、制度の見直しや改善を行っています。
<戦略>
①多様な価値観を尊重した働き方改革の推進
多様な価値観を尊重し、自律的で柔軟な働き方を推進することにより、人と組織の活性化(多様な社員の自律的成長・活躍の実現、組織の生産性向上や変化への対応力強化)を図り、持続的な企業価値の向上を目指します。
a.女性活躍推進
女性活躍推進においては、全女性社員を対象にアンケート調査を実施し、それにより特定した課題に対する対応策として、社員教育(e-learningや外部講師による講演聴講、職場ディスカッション、キャリアデザイン研修等)と多様な働き方を支援する制度の充実(在宅勤務制度、フレックスタイム制度、時差出勤制度、男性育児休業取得促進等)に取り組んでいます。
b.男性育休取得率促進
当社は男性女性を問わず、育児がしやすい、多様な働き方を尊重する企業風土を醸成するために、育児休業の取得を希望する男性社員に対し、制度や事例の紹介などを通じて取得の後押しをしています。
c.障がい者雇用
健常者と同様に障がいのある方も自らの能力を最大限に発揮し、適性に応じた職場に就き、自立できる社会の実現のために企業としての社会的責任を果たしていきます。
聴覚障がい者向けアプリを活用する等、障がいのある方が働きやすいと感じる職場環境の整備にも取り組んでいます。
②健康経営
当社グループは、企業理念の具現及び長期ビジョンの実現のためには、その根幹である社員一人ひとりの“こころ”と“からだ”の両面において健康であることが不可欠であると考え、「健康経営®」を推進すべく、2020年6月16日「キョーリン製薬グループ健康宣言」を制定しました。社員一人ひとりが自分自身の健康増進に意欲的に取り組み、いきいきと仕事に打ち込める職場環境づくりを目指します。
主な取り組み
a.会社と健保組合が連携し、さらなる健康増進施策を展開しています。
b.健康診断100%受診を徹底し、社員の健康保持・増進に役立てています。
c.生活習慣(喫煙、飲酒、運動習慣、睡眠、食生活)の改善を促す施策を実施しています。
d.メンタル不調の未然防止、早期発見・早期対応から復職支援及び再発防止までの対策を推進しています。
e.プレゼンティーイズム※調査を行い、健康増進施策の効果検証を図っています。
※疾病就業のこと。出社していても、何らかの不調のせいで頭や体が思うように働かず、本来発揮されるべきパフォーマンスが低下している状態
<指標及び目標>
(3)気候変動への対応
当社グループは、気候変動への対応が事業の持続可能性に不可欠であると認識し、2023年4月に策定した中期経営計画「Vision 110-Stage1-」において、“環境に配慮した事業活動”をマテリアリティの一つに特定し、取り組みを強化しています。
また当社は、気候関連財務情報開示タスクフォース(以下、TCFD)の提言への賛同を表明するとともに、TCFD提言に基づき、気候関連リスク/機会を特定した上で気候変動、環境問題への対応を進めています。
気候変動対応を含む環境対策の実行・推進に関して、総務部担当執行役員を委員長とする「環境委員会」を設置し、グループ全体の環境対策等を検討する体制を構築しています。総務部を統括部署とする同委員会では、地域社会の環境に関係する事業活動を行う工場、研究所及び経営戦略に関わる役員/執行役員が中心となって、環境問題に関する対応(ビジョン、目標、ロードマップ等)の検討・見直しを行います。同委員会はEHS活動とも連携し、気候変動におけるリスク、機会の特定、評価、さらなる対応等を含めて環境問題への対応について総合的に取りまとめ、経営会議における意思決定の後、取締役会に報告します。
環境問題については、長期的なビジョンとして「2050年カーボンニュートラルの実現」への挑戦を掲げ、「CO2排出量を2030年度に2015年度比46%削減」という目標に向けて、再生可能エネルギーへの段階的切替や新規設備投資の検討を進めることで、CO2排出量削減に取り組んでいます。また環境保全については、「地球温暖化防止」「資源保護」「自然環境との調和」を重点テーマとして目標を設定し、限りある資源の有効利用を推進します。また当社グループの全ての工場は環境マネジメントシステムの国際基準であるISO14001を取得しており、今後も維持・推進します。
地球温暖化や気候変動そのものの影響、及び気候変動に関する長期的な政策動向による事業環境の変化が当社グループの事業や経営に及ぼしうる影響について、脱炭素社会への移行リスク・気候変動に起因する物理的リスク・収益機会に分け、シナリオ分析を行っています。
シナリオ分析にあたっては、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書のSSP1-1.9(1.5℃シナリオ)、SSP5-8.5(4℃シナリオ)等を参考にしています。
■1.5℃シナリオ 移行リスク
■4℃シナリオ 物理的リスク
収益機会
<指標及び目標>
環境問題への取り組みは人類共通の課題であり、企業の活動と存続に必須の要件として主体的に行動し、「2050年カーボンニュートラル」の実現に挑戦します。具体的には、CO2排出量を2030年度に2015年度比46%削減することを目標値に掲げています。
当社グループにおきましては、薬事行政の下、薬機法をはじめとする医薬品の開発、製造、流通等の諸規制及び海外における各国の各種規制を遵守して事業を推進しております。しかしながら、関係法令の大幅な改定や医療制度改革、市場環境の急激な変化、大規模な自然災害などの要因により、経営成績及び財務状態に重要な影響を与えるリスクがあると認識しております。
当該リスクのうち、投資家の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項には以下のようなものがあります。当社グループでは、これらのリスクに関し、組織的・体系的に対処することとしておりますが、影響を及ぼすリスクや不確実性はこれらに限定されるものではありません。
リスク管理体制につきましては、「第4 提出会社の状況 4.コーポレート・ガバナンスの状況等 (1)コーポレート・ガバナンスの概要 ③企業統治に関するその他の事項 a.内部統制システム及びリスク管理体制等の整備状況 ロ」に記載しております。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1)研究開発に関するリスク
医療用医薬品の開発には、多額の研究開発投資と長い期間が必要なうえ、開発候補品が医薬品として上市できる確率も決して高くはありません。開発候補品に安全性の問題が生じたり期待する有効性が確認できない等の理由で、開発遅延や開発中止となった場合、当社グループの経営成績及び財務状態に重要な影響を与える可能性があります。
当社グループでは、医療ニーズに応える価値の高い新薬の創出力を強化するとともに、導入品獲得力の大幅な強化により、開発パイプラインの拡充に努めております。
当社グループの製品及び原材料の一部は、特定の取引先にその供給を依存しており、想定外の事象の発生により製造活動や仕入が遅延又は停止した場合、製品の安定供給に悪影響を及ぼす可能性があります。さらに、医薬品は各種法規制の下で製造しておりますが、取引先等における品質管理等に問題が発生し製品の回収等を行うことになった場合、当社グループの経営成績及び財務状態に重要な影響を与える可能性があります。
当社グループでは製品の安定供給のため、一定量の製品及び原材料を確保するとともに、製造委託先との生産計画や在庫調整、調達先の複数化や代替先の開拓に努めております。また、高岡に新工場を建設し医薬品生産能力の強化を図ります。品質管理については、信頼性保証を取り巻く環境に迅速かつ確実な対応を推進し、薬事に関する法令遵守体制の強化を図っております。
日本国内におきましては、医療用医薬品の薬価改定を含む医療制度改革が実施されており、予測可能な範囲を超えた薬価改定や医療保険制度の改定が実施された場合、当社グループの経営成績及び財務状態に重要な影響を与える可能性があります。
当社グループでは、新薬比率の最大化により収益力の向上を図るとともに、医薬品製造原価の低減やグループ全体のコスト適正化によりコスト競争力の向上を図っております。
当社グループでは、外部資源の有効活用を目的としてアライアンス戦略を推進し、国内外の製薬企業等と技術導出入・販売委受託・共同販売・共同研究等の事業提携を行っており、これらの提携関係を解消することになった場合または提携先における事業戦略若しくは事業環境に大幅な変化が生じた場合、当社グループの経営成績及び財務状態に重要な影響を与える可能性があります。
当社グループでは、提携先の事業戦略や研究開発動向をふまえた関係性の向上を図り、継続的提携関係の維持・発展に努めております。
医薬品市場の競争環境は厳しく、同領域の他社製品との競合や先発医薬品の特許切れ後のジェネリック医薬品の参入、高い技術力を活かした他業種からの参入等が激化した場合、当社グループの経営成績及び財務状態に重要な影響を与える可能性があります。
当社グループは、FC(フランチャイズカスタマー)戦略をベースとして、ソリューション提供型営業(課題解決策の提案)による新薬の普及最大化を中期経営計画の重点戦略に掲げ、積極的に活動を展開しています。また、後発医薬品事業では、オーソライズド・ジェネリックの製造・販売を中心に、当社グループの特色を活かした事業展開を図っております。
医薬品の開発段階での臨床試験は、限られた被験者を対象に実施されておりますが、市販後に予期せぬ重篤な副作用が発現した場合、使用方法が制限される可能性や場合によって販売を中止する可能性があり、当社グループの経営成績及び財務状態に重要な影響を与える可能性があります。
当社グループは医薬品の市販後に安全性情報を幅広く収集・分析し、適正情報を医療現場に迅速に提供しております。
当社グループの事業活動が他社知的財産権を侵害した場合、また、第三者による当社知的財産権の侵害により被害を受けた場合に、事業の中止・係争等により、当社グループの経営成績及び財務状態に重要な影響を与える可能性があります。
当社グループでは知的財産権を厳しく管理し、第三者からの侵害にも継続的に注意を払っております。
(1)ITセキュリティ及び情報管理に関するリスク
当社グループでは、業務上ITシステムを多数利用しており、機密性の高い情報や個人情報を取り扱っております。システムの不備やコンピューターウイルス、サイバー攻撃等の要因により、オペレーションの停止や情報の流出のリスクがあり、予期せぬ業務の妨害や情報等の外部流出により社会的信用を著しく毀損した場合、当社グループの経営成績及び財務状態に重要な影響を与える可能性があります。
当社グループでは、ITセキュリティサービスの導入、定期的データバックアップの実施、ならびに各種情報管理規程を制定し従業員の教育をすることでITセキュリティ対策、情報管理体制の構築を図っております。
当社グループは、人材の成長こそ事業の強化を支える原動力と考え、事業戦略を遂行し成果を具現化する重要課題としておりますが、人材獲得競争の激化や労働環境の急激な変化等により、優秀な人材や女性を含む人材の多様性を確保できない場合、事業活動の成長の停滞により、当社グループの経営成績及び財務状態に重要な影響を与える可能性があります。
当社グループでは、社員と会社は相互の利益を実現するパートナーであるという基本的考えのもと、人材マネジメントシステムの適切な運用を図っております。また、「女性活躍の推進」等に取り組み、多様な価値観を尊重した働き方改革の推進を積極的に図っております。
当社グループの国内外での事業活動において、特許等の知的財産権、製造物責任(PL法)、環境保全、労務などに関連する訴訟リスクがあり、これらに関連する訴訟が提起された場合、当社グループの経営成績及び財務状態に重要な影響を与える可能性があります。
当社グループでは事業活動を行う過程において、専門家の助言を踏まえながら適切な対応を行っております。
当社グループは環境に配慮した事業活動を行っておりますが、事業活動を行う過程において万が一の事故等により関係法令等の違反が生じた場合、当社グループの経営成績及び財務状態に重要な影響を与える可能性があります。
当社グループでは、環境・安全衛生に関して、関係法令等の遵守はもとより、さらに高い自主基準を設定してその達成に努めております。また、環境マネジメントシステムと労働安全衛生マネジメントシステムを統合し、当社グループ全体でEHS活動を推進しております。特に気候変動対策については重大な課題の一つとして捉えており、環境委員会を設置し、グループ一体で環境への影響に配慮した事業活動を行っております。
地震、台風などの大規模な自然災害、火災などの事故及びインフルエンザ、新型コロナウイルス等のパンデミックが発生した場合、当社生産子会社であるキョーリン製薬グループ工場㈱や調達先等において工場の閉鎖・操業停止が考えられ、工場の閉鎖・操業停止が長期間に及ぶ場合、当社グループの経営成績及び財務状態に重要な影響を与える可能性があります。
当社グループでは、大規模災害等に備え、各種対応マニュアルを作成し、訓練を実施しております。また、製品の安定供給の観点から一定量の製品在庫を確保しております。
為替相場の変動により、輸出入取引において当社グループの経営成績及び財務状態に影響が生じます。想定を上回る金融市場の変動があった場合、仕入れ価格の高騰、年金資産額、退職給付債務額、保有する株式評価額等の変動等により、当社グループの経営成績及び財務状態に重要な影響を与える可能性があります。
当社グループでは、経営計画立案の段階で金融市場動向を確認し、為替・金利水準の見直しを行うことで金融市場の変動に対応しております。
当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、経営成績等)の状況の概要は次のとおりであります。
当期における国内医療用医薬品業界は、薬価改定(中間年改定)が2023年4月に実施されたものの、新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付けが5類感染症に移行したことから、患者さんの受診行動が同感染症拡大前の水準に回復し、医療用医薬品市場は1桁台半ばの成長率で推移しました。
当社グループは、創業100周年を機に新たな長期ビジョン「Vision 110(2023年度~2032年度)」及び中期経営計画「Vision 110-Stage1-(2023年度~2025年度)」を開始しました。その初年度となる2024年3月期は、経営方針に「事業体制の刷新と新たな取り組みによる成長」を掲げ、事業活動として①創薬体制の刷新 ②パイプラインの拡充 ③新薬の普及最大化 ④コスト競争力の向上に積極的に取り組みました。
当連結会計年度における売上高は、薬価改定(杏林製薬㈱7%台)の影響はあったものの、新薬の伸長により、新医薬品等(国内)が前期を上回る実績となりました。後発医薬品の売上高は減少しましたが、全体の売上高は119,532百万円と前期比6,262百万円(前期比5.5%増)の増収となりました。
利益面では、売上原価率は上昇したものの増収により売上総利益は前期に対して1,240百万円増加しました。他方、販売費及び一般管理費が前期に対して350百万円増加(研究開発費は2,884百万円減少)した結果、営業利益は、前期比890百万円増の6,013百万円(前期比17.4%増)となりました。親会社株主に帰属する当期純利益は、特別利益として投資有価証券の売却益等1,404百万円を計上し、特別損失として希望退職プログラムに関わる費用等987百万円を計上した結果、5,322百万円(前期比12.7%増)となりました。
当連結会計年度の業績
売上高の状況につきましては、以下のとおりです。
薬剤費の抑制を目的として継続的に実施される薬価改定等の施策により、国内医療用医薬品事業を取り巻く環境は一層厳しさを増しています。このような環境に対応し持続成長すべく、杏林製薬㈱は新薬比率の最大化を中期経営計画の重点戦略の一つに掲げており、営業部門では「新薬の普及最大化」を目指して、積極的な活動を展開しました。当連結会計年度においては、新型コロナウイルス感染症が5類感染症に移行するなか、MRによる訪問面談を各医療機関の意向に沿って行うとともに、デジタルプロモーションの効果的な活用により複合的な情報提供を実施することで営業力の補完・強化を図り、新薬の成長加速に取り組みました。その結果、主力製品である過活動膀胱治療剤「ベオーバ」、ニューキノロン系抗菌剤「ラスビック」、喘息治療配合剤「フルティフォーム」、アレルギー性疾患治療剤「デザレックス」の売り上げが増加するとともに、2023年5月に処方日数制限解除となった咳嗽治療薬「リフヌア」も売上増加に寄与しました。また気道粘液調整・粘膜正常化剤「ムコダイン」については、厚生労働省からの要請もあり供給量の増加に努めた結果、売り上げは前期を上回りました。同製品については、引き続き増産体制の構築を推進します。他方、長期収載品である潰瘍性大腸炎・クローン病治療剤「ペンタサ」等の売り上げは減少しました。
診断事業に関わる取り組みとしては、2023年3月期に発売した体外診断用医薬品(新型コロナウイルス核酸検出キット、インフルエンザウイルス核酸キット)の拡販に注力しました。2024年3月期には百日咳菌核酸キット「GeneSoC 百日咳菌検出キット」の製造販売承認を取得し、研究用試薬「GeneSoC 梅毒トレポネーマ検出キット(研究用)」及び「GeneSoC HIV-1 検出キット(研究用)」を発売しました。今後とも呼吸器・性感染症領域等において、GeneSoC専用の研究用試薬及び体外診断用医薬品の開発・販売を推進し、これらの製品を通して感染症の予防・診断・治療への貢献に積極的に取り組みます。
以上の結果、新医薬品等(国内)の売上高は82,581百万円(前期比10.4%増)となりました。
新医薬品(海外)の売上高は386百万円(前期比25.1%増)となりました。
安定供給不安への対応に最大限注力するとともに、新規追補収載品の売上拡大に努めましたが、オーソライズド・ジェネリックが前期を下回り、売上高は36,564百万円(前期比4.3%減)となりました。
品質確保の取り組みについては、杏林製薬㈱、キョーリン リメディオ㈱、キョーリン製薬グループ工場㈱の全てのグループ会社が一丸となり、GMP※などの法令遵守の徹底を図るとともに、品質管理体制のより一層の強化に努めました。今後とも信頼性の確保に注力し、高品質で安心・安全な製品を提供していきます。
※医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準
営業活動によるキャッシュ・フローは、1,549百万円の収入であり、これは主に税金等調整前当期純利益7,019百万円、減価償却費4,290百万円、投資有価証券売却益993百万円、希望退職関連費用869百万円、棚卸資産の増加5,444百万円、希望退職関連費用の支払額604百万円、法人税等の支払額2,975百万円によるものです。
投資活動によるキャッシュ・フローは、3,187百万円の支出で、これは主に有形固定資産の取得による支出5,778百万円、投資有価証券の売却及び償還による収入2,044百万円、子会社の清算による収入921百万円によるものです。
財務活動によるキャッシュ・フローは、3,347百万円の支出で、これは主に配当金の支払額3,013百万円によるものです。
この結果、当連結会計年度末の現金及び現金同等物の期末残高は、前連結会計年度末と比較して4,930百万円減少し、13,886百万円となりました。
当社グループは医薬品事業のみの単一セグメントであり、当連結会計年度の生産実績は次のとおりであります。
(注)上記金額は、消費税等抜きの売価換算によっております。
当社グループは医薬品事業のみの単一セグメントであり、当連結会計年度の商品仕入実績は次のとおりであります。
(注)上記金額は、消費税等抜きの実際仕入れ額によっております。
当社グループは販売計画に基づいた生産を行っておりますので、該当事項はありません。
当社グループは医薬品事業のみの単一セグメントであり、当連結会計年度の販売実績は次のとおりであります。
(注)最近2連結会計年度における主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は次のとおりであります。
経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。
当連結会計年度末における総資産は、前連結会計年度末と比較して1,634百万円増加し、177,679百万円となりました。このうち、流動資産は119,310百万円と前連結会計年度末と比較して279百万円の増加となりました。主な増減要因は、現金及び預金の減少5,508百万円、売掛金の増加594百万円、仕掛品の増加5,543百万円、流動資産のその他の減少196百万円等によるものです。また、固定資産は58,369百万円と前連結会計年度末と比較して1,355百万円の増加となりました。主な増減要因は、有形固定資産の増加3,115百万円、投資有価証券の減少872百万円、繰延税金資産の減少868百万円等によるものです。
負債総額は、前連結会計年度末と比較して3,687百万円減少し、46,896百万円となりました。主な増減要因は、1年内返済予定の長期借入金の増加10,200百万円、未払法人税等の減少1,103百万円、流動負債のその他の増加516百万円、長期借入金の減少10,200百万円、退職給付に係る負債の減少3,604百万円等によるものです。
純資産は、前連結会計年度末と比較して5,322百万円増加し、130,783百万円となりました。主な増減要因は、利益剰余金の増加2,378百万円、退職給付に係る調整累計額の増加2,736百万円等によるものです。
当連結会計年度の経営成績の分析につきましては、「(1)経営成績等の状況の概要 ①財政状態及び経営成績の状況」に記載しております。
当社グループは、中期経営計画「Vision110-Stage1-」において、連結ベースでの売上高年平均成長率2%以上、研究開発費控除前 営業利益対売上高16%以上を数値目標としております。当連結会計年度における連結売上高は前期比5.5%増、研究開発費控除前 営業利益対売上高は11.7%でした。これらの指標を達成するための取り組みにつきましては、「1.経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (2)中長期的な会社の経営戦略及び会社の優先的に対処すべき課題」に記載しております。
当連結会計年度のキャッシュ・フローの分析につきましては、「(1)経営成績等の状況の概要 ②キャッシュ・フローの状況」に記載しております。
当社グループの資本の財源及び資金の流動性につきましては、次のとおりです。
(資金需要)
当社グループの運転資金需要の主なものは、製品製造のための原料・材料の購入、商品仕入のほか、製造費用、研究開発費、人件費の支払いであります。
また、継続的に設備投資を行っておりますが、当連結会計年度において6,587百万円の設備投資を実施いたしました。
(財務政策)
当社グループの運転資金及び設備投資資金の調達は、自己資金及び借入金等により賄っております。
2025年3月期においては、工場設備の拡充等、固定資産取得による支出約6,600百万円を予定しております。
当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されております。この連結財務諸表の作成に当たりましては、重要な会計方針及び見積りによる判断をおこなっております報告数値があり、実際の結果は見積りによる不確実性のために異なる結果となる可能性があります。
なお、当社グループの連結財務諸表で採用する重要な会計方針、会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定は、「第5 経理の状況 1.連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 [注記事項](重要な会計上の見積り)」に記載のとおりです。
※契約当事者は、キョーリン リメディオ㈱(連結子会社)
※コ・プロモーション権の許諾
※契約当事者は、キョーリン製薬グループ工場㈱(連結子会社)
当社グループは、医療ニーズに応える価値の高い新薬を継続的に提供し、人々の健康に貢献することが使命だと考えています。杏林製薬㈱は、疾患研究から見出された新規作用機序による創薬に加え、革新的な技術により新たな価値を創出する創薬にも取り組みました。これまで注力してきた低分子創薬のみならず、新たなモダリティとして核酸創薬等、外部技術の活用により創薬基盤の強化に取り組み、疾患研究との組み合わせによって価値の高い新薬を生み出す創薬イノベーションに挑戦しました。
また導入による開発パイプライン拡充を最重要課題と位置付け、資金及び人的資源を最大限投入することとし、ライセンス・アライアンス機能を強化しましたが、新規導入品の獲得には至りませんでした。
当連結会計年度における国内外開発の進捗状況としましては、臨床試験の相移行はありませんでしたが、杏林製薬㈱が開発中の間質性肺疾患治療薬「KRP-R120」、過活動膀胱治療薬「KRP-114VP(ベオーバの小児適応)」などは着実に進展しました。また耳鳴治療用アプリ「KRP-DT123」について、医療機関による特定臨床研究が2023年9月に開始されました。
以上の結果、研究開発費は