当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものです。
(1)経営方針、経営環境
当社は、創立90周年を機に、グループパーパス「地球上の笑顔の回数を増やしていく。」を制定しました。創業以来、先進的かつ独自の技術に基づいた商品やサービスの提供を通じて、人々の「笑顔」に寄り添ってきました。これから迎える100周年、さらにその先においても、当社は全事業を通じて社会課題の解決に貢献するとともに、世界中の人々に幸せな笑顔が何度も訪れるよう、従業員一人ひとりが「アスピレーション(志)」を持って挑み続けていきます。このグループパーパスを実現するためには、①事業の持続的成長につながる新製品開発や設備投資、②環境・人権・サプライチェーンマネジメント等のESG課題への取組み、③人材育成や労働環境の向上、賃金引き上げ等、従業員の働きがいや能力発揮につながる取組み、④株主への還元を確実に実行し、多様なステークホルダーに価値を提供することが成功の鍵となります。当社グループは、これらの活動の原資となる利益を生み出すために、競争優位性を長期にわたって維持できる力強いビジネスにフォーカスすることで「稼げる力」を向上させ、経済的価値と社会的価値の両方を追求しながら、「稼げる会社」に進化させていきます。そして、獲得した利益を上記①②③④に再投資することにより、永続的な好循環を実現させます。
当社は、2017年8月に長期CSR計画「Sustainable Value Plan 2030」(以下、「SVP2030」と記載します。)を策定しました。2024年4月に発表した中期経営計画「VISION2030」(以下、「VISION2030」と記載します。)は「SVP2030」の具体的なアクションプランとして位置付けています。「VISION2030」では、収益性と資本効率を重視した経営により当社グループの価値を向上させ、世界TOP Tierの事業の集合体として、世界をひとつずつ変え、様々なステークホルダーの価値(笑顔)を生み出すことを「2030年度のあるべき姿」としました。2024年度は、「VISION2030」の1年目にあたり、「売上高」「営業利益」「当社株主帰属当期純利益」は3年連続で、過去最高を更新しました。「事業ポートフォリオマネジメント」と「キャッシュフローマネジメント」の強化により確保した原資を、バイオCDMO事業や半導体材料事業を中心とした成長分野の設備投資に充てる等、「VISION2030」達成に向けて順調なスタートを切りました。
2025年度は、国内では金利上昇がデフレ型経済からの脱却を後押しし、世界的には物価高や金利高の収束に多くの期待が寄せられる一方で、持続的な回復を実現するためには多くの課題が残されています。特に、米国が発動した関税の大幅な引き上げに対し、各国の対抗措置やそれに伴うサプライチェーンの混乱、不確実性が増すことでの企業の投資抑制、堅調だった米国の景況感の悪化等により、世界経済が景気後退に陥るリスクが高まっています。また、終わりの見えないロシア・ウクライナ情勢やイスラエル・ガザ紛争を発端とした中東情勢の悪化も、依然として世界経済の不安定要因です。このような状況下においても、当社グループは全事業の収益力向上に努め、安定的なキャッシュ創出を進めるとともに、ヘルスケア・エレクトロニクスの成長加速や、持続的な成長を可能とする強靭な事業基盤の構築をさらに強化し、「稼げる会社」へと進化させることで、この難局を乗り越えていきます。
経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等につきましては、次のとおりであります。
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(単位:億円) |
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2024年度 |
2025年度 (次期の見通し) |
対前年度 |
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2026年度 (中期経営計画) |
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売上高 |
31,958 |
32,800 |
842 |
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34,500 |
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営業利益 |
3,302 |
3,310 |
8 |
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3,600 |
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当社株主帰属当期純利益 |
2,610 |
2,620 |
10 |
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2,700 |
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ROE |
8.0% |
7.7% |
0.3ポイント減 |
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8.1% |
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ROIC |
5.9% |
5.5% |
0.4ポイント減 |
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5.8% |
(2)対処すべき課題
「ヘルスケア部門の成長戦略」
ヘルスケア部門では、高齢化社会におけるQOL(Quality Of Life)向上や新興国における医療環境の整備といった医療分野の社会課題に対し、当社独自のAI技術やバイオ技術等、最先端の技術を駆使した製品やサービスを提供し続けます。これにより、2025年度にはヘルスケア部門として2024年度に到達した売上高1兆円を上回る増収を目指します。
メディカルシステム事業では、重点課題である、AI・ITを活用した製品やサービスを拡充し、サービス・消耗品等のリカーリングビジネスを拡大する成長戦略を確実に進めていきます。また、健診サービス事業では、2024年12月にインド・ケララ州に医療スタッフ向けトレーニングや遠隔読影機能を有する戦略拠点「NURA Global Innovation Center」を設立し、2025年1月にはアラブ首長国連邦に「NURA」の運営ノウハウを取り入れた健診センターを開設しました。2025年度も引き続き「NURA」の展開を加速させます。
バイオCDMO事業では、抗体医薬品の旺盛な需要に応えるべく建設を進めてきた、デンマーク拠点の大型製造設備が2024年11月に稼働開始し(既存の20,000リットル動物細胞培養タンク6基に加え、新たに6基を増設)、2025年後半には米国ノースカロライナ拠点で大型製造設備8基を稼働開始させます。米国ノースカロライナ拠点においては、2023年11月にJohnson & JohnsonグループのJanssen Supply Group, LLCと長期にわたる製造受託を発表、2025年4月には、Regeneron Pharmaceuticals, Inc. と10年間にわたる総額30億ドル超の製造契約を締結する等、今後の大型製造設備を中心とした事業拡大に向けて、順調に受託が進んでおります。一方、バイオテック企業への投資環境の冷え込みに起因する細胞・遺伝子治療薬の開発停滞等により、英国や米国拠点の中小型製造設備による受託ビジネスは依然として低調であるものの、市場ニーズの高い、生産効率を高める技術開発や品質保証・ITセキュリティに対する整備をいち早く実現することで、競争優位性を確保し、事業の成長を加速させていきます。
ライフサイエンス事業では、創薬支援材料分野において、基礎研究から製造・安全性・品質試験までの広範囲にわたり、顧客ニーズに対応した培地・試薬・細胞等多種多様な製品とサービスを提供し、また、iPS細胞技術・ノウハウを生かした細胞治療薬の開発支援ビジネスも拡大します。
医薬品事業では、ペニシリン等の抗菌剤の製造販売とともに、脂質ナノ粒子製剤の製造受託を展開していきます。また、既存の富山拠点を活用し、平時は抗体医薬品・抗体薬物複合体、パンデミック時はmRNAワクチン・遺伝子組換えタンパクワクチンの製造が可能なデュアルユース設備を有する国内バイオ医薬品CDMO拠点の立ち上げ(2027年より稼働予定)に向けた準備を確実に進めます。
コンシューマーヘルスケア事業では、主力ブランドのASTALIFT(化粧品)、メタバリア(サプリメント)の通販強化に加え、男性向け化粧品「ASTALIFT MEN」や、機能性表示食品の「ヒザテクト」の拡販を進めます。
CRO事業では、当社独自のAI技術や化合物ライブラリ、iPS細胞等を駆使した特徴的なサービスを展開し、主に基礎研究から非臨床試験までの創薬初期段階の顧客に広めていきます。
「エレクトロニクス部門の成長戦略」
エレクトロニクス部門では、「エレクトロニクス戦略本部」の下、同領域の顧客アプリケーション軸での製品ポートフォリオの構築・戦略マネジメントを通じて既存事業の拡大と新規事業の開発を進めていきます。
半導体市場は、生成AI向け等先端半導体を中心に需要は引き続き拡大しており、半導体のパフォーマンス向上のため、微細化に加えて、前工程の技術・材料を活用した後工程での高集積化が加速するとみられています。また、地政学上の背景から各国が半導体メーカーへの支援・誘致を強化しており、サプライチェーン確立のため、半導体材料メーカーの現地対応が求められています。
半導体材料事業では、2023年度のプロセスケミカル事業買収により、当社の製品ラインアップが拡充され、半導体製造プロセスのより多様な工程に当社製品を提供できるようになりました。今後、新製品開発によりさらなる拡充を進めるとともに、複数プロセスに材料を供給している強みを生かし、単一材料では解決できない複雑な顧客課題を解決していく等、「ワンストップソリューション」を提供することで事業成長を加速させます。また、地産・地消・“地援*1“を重視し、現在世界に20ヶ所ある製造拠点への積極的な投資によりグローバルに拡大する大手顧客の要望に確実に応えるとともに、半導体市場の成長が見込まれるインドへの製造拠点投資を検討開始する等、新市場にもいち早く取り組んでいきます。
アドバンストファンクショナルマテリアルズ事業では、液晶パネル向けTAC製品の強いマーケットポジションの維持、OLED向け材料のシェア向上を推進するとともに、データセンターで使用されるデータテープ、半導体やディスプレイ等デバイス製造工程に使用される圧力測定フィルム「プレスケール」等、当社が持つ技術を駆使して、エレクトロニクス分野向けに差別化した製品の供給を拡大します。加えて、エレクトロニクス材料グループの技術(フロー合成、高純度液化、無機粒子形成、液晶を用いた光学制御等)を基盤に、これまで蓄積してきた顧客接点も活用し、通信市場及びエネルギー市場の、顧客ニーズに応じた新規材料の提案を行っていきます。
*1 「地援」とは、顧客の課題に現地で対応できるサポート体制を指します。
「ビジネスイノベーション部門の成長戦略」
ビジネスイノベーション部門では、2024年度にグラフィックコミュニケーション事業をビジネスイノベーションに統合し、オフィスから商業印刷(アナログ・デジタル)・産業印刷まで全領域をカバーする業界唯一の「ソリューションパートナー」として事業展開を進めています。
ビジネスソリューション事業では、ITリソースが不足しDX(デジタルトランスフォーメーション)のニーズがある中堅・中小企業向けに、ITインフラ環境の構築・運用を支援する「IT Expert Services」、顧客企業のインフラのクラウド化、顧客企業の業務プロセス変革・DXを支援するクラウドサービス「FUJIFILM IWpro」、「Microsoft Dynamics 365」を主力としたERPソリューション等、顧客企業のステージに合わせたIT環境の構築と運用を提供し、リカーリングビジネスを拡大します。加えて、当社グループのAI・IT技術アセットを活用し、ビジネスソリューションを含むビジネスイノベーション部門全体の成長を加速してまいります。
オフィスソリューション事業では、プリントボリュームが漸減する中で、当社がトップレベルのシェアを有するA3カラー領域に注力し、環境対応と生産基盤の強化を図ります。2025年1月には、コニカミノルタ㈱との原材料、部材調達連携の合弁会社である「グローバルプロキュアメントパートナーズ㈱」を設立し、業界をリードする供給体制構築を推進します。販売では、効率的な販売体制への転換による収益性の維持・向上、及び、欧州各国や北米の有力代理店による当社複合機の新規取り扱いや新規OEM等、新たな市場での販売拡大を目指します。
グラフィックコミュニケーション事業では、商業印刷・パッケージ印刷市場におけるトレンドシフトに対応しています。大ロットのアナログ印刷やモノクロ印刷が減少する一方で多品種・小ロット印刷やカラー印刷の需要が増加する中、当社は刷版、デジタル印刷機、産業用ヘッドにおいてトップレベルのシェアを持つ強固な顧客基盤を中心に販売を拡大し、デジタルシフトをさらに加速させます。2025年1月には戦略商品として、1パス5色印刷を可能にしたミドルレンジモデルのプロダクションプリンター「Revoria Press EC2100S」「Revoria Press SC285S」を発売し、ワールドワイドで拡販していきます。インクジェットインク・ヘッドについては、生産体制の再編で収益性改善を図るとともに、インクやヘッドといった基幹部材を自社でもつ強みを活かし、プリンターメーカーに加え、さらに上流のブランドオーナー向けの販売を拡大し、商業印刷及びパッケージ印刷のデジタル市場の成長に応えていきます。
「イメージング部門の成長戦略」
コンシューマーイメージング事業では、2025年4月に発売したクラシックモデルのアナログインスタントカメラ「instax mini 41」をはじめとした魅力的な新製品をタイムリーに市場投入し、ユーザー層の拡大を図ります。また、トナー方式フォトプリンター機の展開拡大や異業種パートナーとのアライアンスによる若い世代との新たなタッチポイント創出等を通じて、新規プリント需要の掘り起こしを進めていきます。
プロフェッショナルイメージング事業では、デジタルに最適化された色再現が特徴のデジタルカメラ「Xシリーズ」「GFXシリーズ」のマルチブランド戦略を強化することで、スマートフォンでは満足できない潜在ニーズを掘り起こし、当社ファンの拡大を図ります。また、2025年中の発売を目指し開発発表した当社初の映像制作用カメラ「FUJIFILM GFX ETERNA(エテルナ)」で映像制作市場へ本格参入し、幅広い分野での高品質かつ効率的な映像制作に貢献していきます。また、プロジェクター・遠望監視カメラの新規用途/エリア展開、最先端の光学技術・画像処理技術・AIを駆使したインフラ点検DXといった新規分野の立ち上げも進めていきます。
「SVP2030の下での重点分野と取組み」
当社グループは、長期CSR計画である「SVP2030」の下、「事業を通じた社会課題の解決」と「事業プロセスにおける環境・社会への配慮」の2つの側面から、4つの重点分野「環境」「健康」「生活」「働き方」と、事業活動の基盤となる「サプライチェーン」及び「ガバナンス」における各分野で設定した目標達成に向けた取組みを進めています。
「環境」分野においては、気候変動への対応や水資源を含む生物多様性の保全、資源循環の促進等を重点課題として取り組んでいます。脱炭素化については、パリ協定で定められている「1.5℃目標」に整合した目標「自社の製品ライフサイクル全体での温室効果ガス(GHG)排出を2030年度までに50%削減(2019年度比)」を掲げています。本目標は「Science Based Targets(SBT)イニシアチブ*2」より、パリ協定の「1.5℃目標」を達成するための科学的根拠に基づいた目標として認定されています。また、2022年度から「インターナルカーボンプライシング(社内炭素価格)」を導入し、この仕組みを通じて低炭素投資を促進することで、脱炭素社会の実現に貢献しています。加えて、水資源管理については、2014年度より国内外の全事業拠点を対象に水リスクを評価し、リスクの程度を踏まえた水の投入量抑制やリサイクル利用を行っております。当社グループでは環境戦略「Green Value Climate Strategy」の下、環境負荷の少ない生産活動や、優れた環境性能を持つ製品・サービスの創出・普及を推進しており、これら活動が評価され、当社は国際的な非営利団体CDP*3が実施する調査において「気候変動」と「水セキュリティ」の2分野で最高評価である「Aリスト企業」に認定されました。「気候変動」分野は3年連続4回目、「水セキュリティ」分野では5回目の認定を受けています。
「健康」分野においては、2024年度に115ヶ国まで拡大した、医療AI技術を活用した製品・サービスの導入国を、2030年度には世界196の全ての国に導入することを目標としています。また、2024年度に8拠点まで展開した、新興国におけるがん検診を主とした健診センター「NURA」の拠点数を、2030年度には100拠点にまで増やす計画です。これにより、より多くの人々への医療アクセス向上を目指しています。さらに、当社は内視鏡システム、超音波診断装置、デジタルマンモグラフィ、CT、MRI等、疾病の早期発見に貢献するための診断用医用機器及びサービスを幅広く提供しています。これらを活用することで、医師の診断を支援し、人々の健康維持増進に貢献しています。2024年7月にはアンメットメディカルニーズへの対応や医療アクセス向上を目的に、バイオCDMO事業に関連した資金調達手段として、ソーシャルボンド(社会貢献債)を発行しました。発行金額は2,000億円であり、国内社債市場におけるソーシャルボンドの発行額としては最大規模となります。また、当社は従業員の健康意識の向上やがん対策等の取組みが評価され、経済産業省と東京証券取引所が共同で選定する「健康経営銘柄」に5年連続で選ばれました。さらに、経済産業省と日本健康会議より、優良な健康経営®*4を実践している法人として「健康経営優良法人ホワイト500」に9年連続で認定されています。今後もヘルスケア事業を通じた社会課題の解決に取り組むとともに、健康長寿社会の実現に向けて貢献していきます。
「働き方」分野においては、ビジネスに革新をもたらす当社のソリューション・サービスを利用し、働く人の生産性向上と創造性発揮を支援する働き方を2030年度まで累計5,000万人に提供していきます。当社は、DXにおける目指す姿を明文化した「DXビジョン」を2021年に制定し、代表取締役社長・CEOをトップとしたグループ横断型のDX推進体制を構築しています。この体制では、トップダウンによる戦略的なガバナンスと、現場起点・現場主導のボトムアップのアプローチを融合させ、一貫性の高い全社規模のDX推進を実現しています。具体的な成果として、経営情報分析システム「One-Data」により、グループ全体の「連結経営KPI」の進捗状況を可視化し、それに基づいて販売、調達、生産等の現場におけるデータ活用を強化しています。これにより、グローバルな連結経営管理の迅速化が進み、生産性の向上に寄与しています。こうした取組みが評価され、経済産業省が東京証券取引所及び独立行政法人情報処理推進機構と共同で選定する「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)2025」において「DX銘柄2025」に選ばれました。今後もDXのさらなる推進を通じて、2030年度までにより多くの製品やサービスの価値を向上させ、イノベーティブなお客様体験の創出や社会課題の解決に貢献していきます。
「ガバナンス」分野においては、コーポレート・ガバナンスを経営上の重要な課題と位置づけ、その強化に取り組んでいます。2024年6月には取締役会の上程基準を見直し、より中長期的な課題及びその進捗に関する議案を充実化させ、監督機能の一層の強化を図っています。2024年度にはグローバル共通の設計として株式報酬制度を一新するとともに、社外取締役にも業績非連動型の株式報酬を導入しました。さらに、中期業績連動型株式報酬における新たなESG指標としてエンゲージメントスコアを追加しました。当社は誠実かつ公正な事業活動を通じて、当社グループの持続的な成長と企業価値の向上を図るとともに、社会の持続的発展に貢献することを目指していきます。
*2 CDP、国連グローバル・コンパクト、WRI(世界資源研究所)、WWF(世界自然保護基金)による国際的な共同イニチアチブ。科学的根拠に基づいてGHG排出削減目標の検証や削減施策のベストプラクティスを推進しています。
*3 CDPは、740以上の機関投資家を代表して企業の気候変動対策や水資源管理等を調査しており、2024年は約23,000社が回答。本調査の結果は、ESG(環境、社会、統治)の観点から企業活動を評価する世界の代表的な社会的責任投資指標(SRI Index)にも活用されています。
*4 「健康経営®」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
「2025年度グループ基本方針」
当社グループの2025年度の経営方針は「アスピレーション(志)を持って卓越した価値を届けよう!」です。「VISION2030」の2年目となる2025年度は、本計画に織り込んだ主要アクションをスケジュール通りに遂行し、その達成を確実にするための重要な一年です。グループパーパスの下、全てのステークホルダーの笑顔(価値)を生み出していくためにも、従業員一人ひとりがアスピレーション(志)の具現化に向けた行動を起こし、卓越した価値を届けていきます。
文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものです。
当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組みの状況は、次のとおりであります。
(1) 気候変動への対応
当社グループは、脱炭素社会の実現に向け、2021年12月にCO2排出削減目標を設定しました。エネルギー利用効率の最大化と再生可能エネルギーの導入を両輪で進めることで、2040年度までに自社が使用するエネルギー起因※1のCO2排出を実質的にゼロとすることを目指すとともに、原材料調達から製造、輸送、使用、廃棄に至るまでの自社製品のライフサイクル全体において、2030年度までにCO2排出量を50%削減(2019年度比)します。当社グループの目標は「Science Based Targets (以下、「SBT」と記載します。)イニシアチブ」より、パリ協定の「1.5℃目標」を達成するための科学的根拠に基づいた目標として認定※2を受けています。
本削減目標の達成に向け、当社グループ環境戦略「Green Value Climate Strategy※3」を策定しました。電力のみならず合成メタンや水素等のCO2排出を実質伴わない燃料の導入と実装による環境負荷の少ない生産活動や、優れた環境性能を持つ製品・サービスの創出・普及を推進していきます。また、インターナルカーボンプライシング(社内炭素価格)制度の運用を2022年度に導入し、低炭素化に向けた施策の遂行を加速させています。
※1 自社からの直接排出(Scope1)と他社から供給された電気・蒸気の使用に伴う間接排出(Scope2)。
※3 Green Value Climate Strategyについては下記をご覧ください。
「2022年4月13日 環境戦略説明会」
(https://ir.fujifilm.com/ja/investors/ir-materials/presentations/session/main/0118/teaserItems1/0/tableContents/019/multiFileUpload2_1/link/ff_presentation_20220413_002j.pdf)
① ガバナンス
当社グループの気候変動に対する活動は、社長を委員長として定期的に開催されるESG委員会で審議・決定され、取締役会に報告されます。取締役会はESG委員会からの報告に対し指示・助言を行い、そのプロセスの有効性を担保します。気候変動対応に関する目標や施策は、重点課題としてESG委員会で審議されます。これまで、CO2排出削減目標や再生可能エネルギー導入目標設定のほか、TCFD提言への賛同、RE100加盟やSBT認定取得等の気候変動に関するイニシアチブへの参加の意思決定、インターナルカーボンプライシング制度の導入、脱炭素目標達成率の中期業績連動役員報酬への反映、北米エリアにおけるグループ全拠点のバーチャルPPA(Power Purchase Agreement:電力購入契約)による再生可能エネルギーの導入の審議がなされてきました。
2023年度には、全社の方針、戦略及びESG委員会での決議事項を各事業部門及び事業場の活動に実効性をもって反映させるため、同委員会の下にGX委員会を設置しました。GX委員会は全事業部長及び生産・調達・研究開発の統括責任者で構成され、環境パフォーマンス改善の進捗管理や対策方針の検討、全社施策のESG委員会への提案と報告、ESG委員会での決議事項の具体的な活動の落とし込みをタスクとします。
② リスク管理
当社グループでは、気候変動に関連するパフォーマンスをグローバルで監視するシステムを導入しています。本システムにより、CO2排出量・フロン類等の温室効果ガスの排出量や、使用エネルギー量等を各国・地域の拠点毎に監視し、リスクの抽出に活用しています。これらリスクはエネルギー戦略推進委員会で要因分析を行い、重要なリスクについてはESG委員会に報告がなされ適切な対応が決定されます。気候変動に対するリスク評価のために、インターナルカーボンプライシングを活用し、想定される影響と今後の対応を検討しています。また、TCFD提言に準拠したシナリオ分析を行うことで、自社の環境パフォーマンスに起因するリスクに加え、サプライチェーンや事業場の所在地域で発生するリスクも特定し、必要事項について対策がなされます。
TCFDシナリオ分析では、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告書の中で示された代表濃度経路(Representative Concentration Pathways:RCP)2.6~8.5をもとに、脱炭素社会に向けた厳しい対策がなされ2100年までの気温上昇が産業革命時期比で1.5℃に抑えられる「1.5℃シナリオ」と、現状を上回る対策が講じられず産業革命時期比で3.2~5℃上昇する「4℃シナリオ」を設定し、評価しました。
③ 戦略
<シナリオ分析結果>
「4℃シナリオ」
現状を上回る対策が講じられず、2100年までに平均気温が産業革命時期比で3.2~5℃上昇する
・事業リスク(物理リスク)
4℃シナリオでは異常気象による生産設備への影響や原材料の供給停止、停電による工場停止等のリスクがあることが分かりました。これらリスクに対しBCP※4の策定による生産拠点や原材料調達先の分散化、安定電源の確保等の対策を進めています。特に近年、異常気象に起因する台風や豪雨により、重要なライフラインである送電網の寸断による被害が各地で発生しています。当社グループは安定的な電源確保のために、1960年代から主要生産拠点に自家発電設備を順次導入することで、停電による操業停止リスクを回避しています。
その他気温や降水パターンの変化により動植物の生息地域の変化、個体数の減少や死滅が発生するリスクがあります。これらの影響により、植物由来原料の不安定化・価格高騰が発生するほか、化石燃料の枯渇により石油由来原料の供給不安定化や価格高騰も想定されます。当社グループでは使用後溶剤の再資源化(蒸留精製リサイクル等)、複合機の部品や使用後カートリッジ(トナー・ドラム・トナー回収ボトル)の回収とリサイクル、梱包材の削減と薄手化等により、原材料供給不足リスクの低減を図っています。
※4 Business Continuity Planning(事業継続計画)。自然災害やテロ、大規模なシステム障害等の危機的状況が生じた場合に、重要な業務を継続し早期復旧できるように計画しておくこと。
・事業機会
気温の上昇に伴い極端な高温、海洋熱波、大雨、干ばつ、熱帯性低気圧の発生頻度や強度が増します。このような異常気象や、異常気象に伴う生態系や健康への影響に対して、社会が適応するための製品・サービスの需要が高まると予測しています。
『社会インフラの強靭化』
異常気象が頻発する状況において、社会インフラの強靭化は重要な課題の一つです。当社グループは、レンズの高精度加工製造技術を活用し、夜間や荒天時でも河川や海面を監視できる高感度カメラの提供や、高精度画像解析・AI技術を用いた橋梁、堤防等の劣化診断技術により、気候変動への適応に貢献できると考えています。また、災害発生時における自治体の罹災対応プロセスのデジタル化により、自治体業務と住民の早期生活再建支援に貢献するソリューションはその必要性が高まると予測しています。
『医療従事者の負担軽減及び医療アクセスの向上』
気温上昇は人々の健康にも大きな影響を与えます。感染症等想定外の疾病拡大による医療従事者の負担増加や、台風や集中豪雨、熱波の発生頻度の増加により患者や医療従事者の往来が困難になり、医療従事者が少ない国地域において医療崩壊につながる可能性があります。当社グループは、医療IT技術や医用画像診断・AI技術をグローバルで展開することで、医療従事者の負担軽減や遠隔診断等の医療アクセス向上に貢献していきます。
「1.5℃シナリオ」
脱炭素社会に向けた厳しい対策が講じられ、2100年までの気温上昇が産業革命時期比で1.5℃に抑えられる
・事業リスク(移行リスク)
1.5℃シナリオでは、脱炭素社会へ移行する過程で、化石燃料の使用を制限し技術革新を促す政策としての炭素税や、各国・地域の炭素税額格差による産業移転を抑制するための炭素国境調整措置の導入による財務リスクがあります。2023年度に当社グループが直接及び間接排出したCO2は954千トンでした。炭素税価格を2024年度下期に設定した社内炭素価格13,000円/トン-CO2とした場合、2023年度製造段階で排出したCO2は954千トン-CO2であり、約124億円(≒954千トン-CO2×13,000円/トン-CO2)の財務リスクとなります。
当社グループは2021年12月に、CSR計画「SVP2030」の気候変動対応目標を引き上げ、2040年度に自社で使用するエネルギーによるCO2排出量ゼロを目標とし、省エネルギーの推進と再生可能エネルギーの導入を両輪で推進しています。2023年度に自社で直接排出するCO2排出量については、省エネや再生可能エネルギーの導入により、本目標の基準年である2019年度に対し、15%削減しました。
・事業機会
人為的に排出されるCO2は主にエネルギー起因であるため、エネルギー利用効率を究極的に高め、CO2排出を伴わない自然エネルギー(風力・太陽光・水力等)を主に利用する社会に移行することが予想されます。
『省エネルギー』
社会全体のエネルギー利用効率を高めるためには、まず製品やサービスにおいてエネルギー効率の高い方式が優先して採用されます。当社グループは、データ保存時のCO2排出を削減する大容量磁気テープによるデータアーカイブストレージシステムや、省電力性能を高めた複合機を提供することで、お客様使用先でのCO2削減に貢献しています。
『創エネルギー』
自然エネルギーを利用するために様々なインフラ整備が進みます。そのうち海上も含め世界的に設置拡大が予想される風力発電設備は、高所や遠隔地等点検が困難な環境に設置されるため、設備の劣化診断や点検に対する技術向上が必要となります。当社グループは、撮像技術や精密成型技術を活用した高性能防振・超望遠カメラと、高精度画像解析・AI技術の組み合わせにより、風の強い海岸や洋上等の過酷な環境下でも、風力タービンのブレード欠陥を稼働中に点検診断可能な技術開発を風力エネルギー供給会社と協働で進めており、風力発電設備の普及・安定稼働に貢献していきます。
『CO2の回収・固定化』
脱炭素社会に移行する過程では、CO2を排出する化石燃料の使用が避けられない産業においてCO2捕捉や大気中のCO2固定化が必要になります。この領域ではバイオエンジニアリング技術によるCO2を原料とした有用物質のバイオ生産が貢献できると考えています。
『分散型社会に適応したソリューション・サービス』
自然エネルギーとの親和性を高めるためには、大都市への集中型社会から地方への分散型社会へ移行することが求められ、分散型社会での生活や事業活動を支えるソリューションが普及すると考えています。
当社グループが提供している業務プロセスのデジタル化・自動化、ペーパーレス化を促進するソリューション・サービスは、リモートワークやハイブリッドワークといったビジネス面での分散型社会への対応と、省移動・省時間・省スペースによるCO2排出削減の両面で必要となり、今後さらに需要は高まるものと思われます。
また、生活を支える医療の側面では、4℃シナリオと同様、「医療IT、医療画像診断・AI技術活用による医療従事者支援や医療アクセス向上に貢献するソリューション」が地域毎に必要不可欠であり、大きな事業機会になると考えています。メディカルシステム事業を通じて、分散型社会に対応した地域医療への貢献を行っていきます。
当社グループは、今後もコア技術を磨き、レジリエントなエネルギー社会の実現に必要となる様々な製品・サービスの開発を進めていきます。
④ 指標と目標
当社グループは、SVP2030にて気候変動に対する下記目標を設定し、省エネルギーと再生可能エネルギーの導入を推進するほか、環境負荷低減に優れた製品・サービスを社内認定する「Green Value Products」制度を運用し、社会でのCO2排出削減貢献を今後も進めていきます。
ⅰ)製品ライフサイクル全体でのCO2排出削減目標と進捗
目標:2030年度末までにCO2排出量50%削減(2019年度比)
進捗:2023年度末時点で5%削減(2019年度比)
ⅱ)自社が使用するエネルギー起因CO2排出削減目標と進捗
目標:2030年度末までにCO2排出量50%削減(2019年度比)
進捗:2023年度末時点で15%削減(2019年度比)
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単位:千トン-CO2 |
2019年度 |
2020年度 |
2021年度 |
2022年度 |
2023年度 |
2024年度 |
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Scope1 |
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Scope2 (マーケットベース) |
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合計 |
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削減率 |
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6% |
3% |
10% |
15% |
18% |
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目標達成率 |
- |
13% |
5% |
19% |
30% |
36% |
(注)
2025年6月25日時点の見込値であり、第三者保証を取得した最新の確定値については、
ⅲ)再生可能エネルギーの導入目標
目標:2030年度までに購入電力の50%を再生可能エネルギー由来の電力に転換
進捗:2023年度末時点で、購入電力の11%を再生可能エネルギー由来の電力に転換
ⅳ)製品・サービスを通じた社会でのCO2排出削減貢献の目標
目標:2030年度までに社会でのCO2排出削減累積量90百万トンに貢献
進捗:2023年度末時点で、累積13百万トンの排出削減に貢献
(2) 人的資本
当社グループでは、イノベーションの源泉は従業員の力と位置づけ、経営戦略と連動した人材戦略を進めています。長期CSR計画(SVP2030※1)、中期経営計画の実現に向け、人材戦略の3つの柱と企業文化の継承・進化の4つの考え方を描いております。
人材戦略の3つの柱としては、
・事業戦略の実現に向け、4つのセグメントにおける人材ポートフォリオの最適化
・一人ひとりの従業員がしっかりと成長する、意欲高く働く、挑戦する環境の構築
・多様な人材の採用
の実現を目指しております。
その柱を支えるのが企業文化であり、ⅰ 人材開発、ⅱ 健康経営®※2、ⅲ 多様性、ⅳ 組織開発の4つの領域で、企業文化の継承・進化に取り組んでおります。
「人材開発」
仕事の基盤となる課題形成力を強化するための「See-Think-Plan-Do(STPD)※3」の浸透と、従業員の自己成長の基盤となる「+STORY(プラストーリー)※4」の展開、さらに、多種多様な教育プログラムによる人材育成を行っており、特にDX人材を強化しています。
「健康経営®」
従業員が心身ともに健康で意欲高く働くための健康増進は重要な経営課題です。健康推進施策の展開を通じて、5つの重点領域のKPIの実現に向け7つの健康行動を実践し、ワークエンゲージメントの向上に繋げます。
「多様性」
多様な従業員一人ひとりが個性や能力を最大限発揮することが、変化を作り出す企業のイノベーションの源泉です。管理職に占める女性比率の向上や外国籍従業員の基幹ポストへの登用等、目標値を設定し推進しています。
「組織開発」
各グループ会社をエンゲージメントの高い状態にするため、エンゲージメントサーベイを活用し、継続的に組織開発を進めます。
※1 2017年8月発表の長期CSR計画「Sustainable Value Plan 2030」
※2 健康経営®は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
※3 富士フイルム独自のマネジメントサイクル「S(See:情報収集)-T(Think:分析)-P(Plan:計画)-D(Do:実行)」
※4 自己成長の基盤を身に付けるための支援プログラム
(ⅰ)人材開発
~変化を成長のチャンスと捉えて、挑戦し、主体的に成長する意欲の高い従業員の育成~
「オープン、フェア、クリア」な企業風土のもと、従業員の成長と組織の成長がスパイラルアップし、従業員エンゲージメントが向上することを目指しています。そのために仕事の基盤と自己成長の基盤をしっかり身に付けていることを重視しています。
「実践」と「学び」をスパイラルで身に付けながら、変化に適応できるコアコンピタンシー(軸・拠り所)を持った従業員を育成します。
① 仕事の基盤となる課題形成力を強化する「See-Think-Plan-Do(STPD)」の浸透
当社グループでは、全ての事業、機能において仕事をしていく上で大事にする共通の基盤をFFメソッドと定め、展開しています。具体的には事実情報を大切にして(SEE)、深く考えて本質を見抜き(THINK)、課題を設定し(PLAN)、実行する(DO)というSTPDという業務サイクルです。新入社員から海外現地法人の社員までFFメソッドを身に付ける教育を行い浸透させています。また海外現地法人では主体的な教育展開を目指したトレーナー育成を開始しています。
② 従業員の自己成長の基盤となる+STORY(プラストーリー)展開
当社グループでは、従業員一人ひとりがアスピレーションを持って挑戦することを目的として、自己成長支援プログラム「+STORY」を展開しています。本プログラムのひとつである「+STORY対話」では、全ての経験を自分の糧としながら自分のストーリーを積み重ねることを大切にするために、一年に一度、上長との対話を通じて経験を振り返ります。上長はこの対話を通じて価値観や考えを理解した上で、部下の+STORYをサポートしアスピレーションを醸成します。また、従業員が自身の+STORYを紹介する社内WEBセミナー「+STORY LIVE」や「+STORYアカデミー」によって、従業員が主体的に学ぶ環境をつくっています。100人いれば100通りの+STORYが紡がれ、従業員の多様な+STORYが当社グループの成長の原動力になると考えています。欧州地域、アジアパシフィック地域でも+STORY対話を実施しており、2025年2月には、+STORY LIVEをフィリピンから配信する等、+STORYの取組みは海外も含めたグループ全体に拡大しています。
③ DX人材育成強化
当社グループでは、基幹人材育成プログラムやグローバル人材育成プログラム等、多種多様な教育プログラムによる人材育成に力を入れています。
DX人材の育成は重要視しており、2024年度も引き続き注力して取り組んでおります。
当社がDXに取り組む必要性を理解し、知識やスキル習得を通して、成果を創出するという段階を踏むことで、一人ひとりが自らの仕事にDXを取り込むことを目指しています。基盤領域の施策としては、セルフBI初級講座を約40,000人の従業員が受講し、さらに実務適用を目的とした上級コースを300名が修了しました。また個々のITスキルアップを目指したオンラインイベントの開催をはじめ、各部門におけるIT効率化を推進する研修を展開しています。加えて全従業員を対象にITパスポートの資格取得を奨励し、6,000人以上が合格しています。
専門人材育成としては、部門全体の課題を解決するために、意欲の高い人材がIT部門を兼務することで、事業とITを行き来して活躍するハイブリッド人材の育成を進めており、マテリアルズインフォマティクスを活用した材料開発等で成果が出ています。このようにDXの実践を担うコア人材として活躍を促し、変革のスピードアップにつなげていきます。
DX人材育成体系
(ⅱ)富士フイルムグループならではの健康経営を推進
従業員が心身ともにいきいきと働ける健康づくりを目指し、当社グループでは2019年に「富士フイルムグループ健康経営宣言」を制定し、社長を「健康経営最高責任者」、人事部長を「健康経営責任者」とする推進体制を構築して、グローバルで健康経営を推進しています。国内ではグループ全社の従業員を対象とした健康づくりのために、生活習慣病、喫煙、がん、メンタルヘルス、長時間労働の5つの重点領域ごとにKPIを設定し、実現に向けて健康増進の具体的な活動を推進しています。また、健康な生活習慣を身につけるために日々取り組むべき行動として富士フイルムグループ「7つの健康行動」を設定し、従業員一人ひとりに実践を促しています。海外においても各国、各地域の医療事情や文化、習慣等特性に合わせて従業員の健康増進のための活動を推進しています。
2022年4月には富士フイルムグループ健康保険組合が、従業員向けの健康診断を実施するための施設として、神奈川県横浜市のみなとみらい地区に「富士フイルムメディテラスよこはま」を開設しました。2023年6月から人間ドックサービスを、2024年1月からCT検査を、2025年5月からMRI検査を開始しています。当社グループの最新の内視鏡やマンモグラフィ、CT等の医療機器、AI技術を活用した医療ITシステムを導入して従業員に高品質な健康診断サービスを提供しています。これらの健康増進の取組みが評価されて、「健康経営銘柄」に5年連続選定される等、当社の健康経営は社外からも高く評価いただいています。
富士フイルムグループ 健康課題におけるKPI、中期目標と実績
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重点領域 |
KPI |
中期目標
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実績 |
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2023年度 |
2024年度 |
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生活習慣病対策 |
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26.2% |
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8.6% |
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喫煙対策 |
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17.4% |
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がん対策 |
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99.3% |
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83.1% |
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77.5% |
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90.7% |
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84.0% |
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71.7% |
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※対象:富士フイルムグループ国内従業員(胃・大腸がん検診受診率は40歳以上)
(ⅲ)多様性
~多様な従業員が活躍できるための仕組み・職場づくり~
当社グループは、2023年10月にDE&I推進委員会を立ち上げ、「多様なストーリーを認め合う」をDE&Iのビジョンとして掲げました。一人ひとりの個性、価値観、経験を大切にし、お互いの多様性を認め合い、高め合うことで、安心して働くことができる環境整備・風土醸成を推進していきます。2024年10月にはDE&Iフォーラムを開催し、海外で活躍する女性駐在員のストーリーを紹介する+STORY LIVEや、外部の有識者を招いて介護セミナー等を実施しました。また、各拠点でのファミリーデーの開催や、富士フイルムグループ従業員とそのご家族が参加したスマイルスポーツフェスティバルの開催等、従業員のDE&Iへの理解促進や多様性推進の風土醸成を目的とした施策を積極的に行っています。
女性社員の活躍推進では、リーダー層の女性社員を対象に、これまでの経験(ストーリー)の棚卸とリーダーとしての成長を後押しする研修として「+STORY for Women―自分らしいリーダー像を考える―」の実施や、社内・社外の女性社員で交流し視野を広げる「+STORY for Women交流会」や「異業種女性社員交流会」を実施しました。
仕事と育児・介護の両立支援では、男性の育休取得率100%を目標として掲げ、お子さんが生まれた従業員に特別休暇20日間を付与する「Good Parental Leave制度」を導入しました。
また、育休明けの従業員とその上長を対象にした「仕事と育児の両立セミナー」や、従業員同士の交流の場「+STORY子育てサロン」等の施策を展開しました。性別に関わらず、誰もが当たり前に育休を取得することができる風土を醸成し、男性育休取得率100%の実現を目指します。
2024年度のグループ全体の基幹ポストにおける外国籍従業員比率は26.7%です。国籍や性別を問わない登用の機会を設けることを推進し、2030年度までに基幹ポストにおける外国人比率を35%、国内グループにおける管理職に占める女性比率を15%(2024年度実績 7.3%)とする目標を設定しています。
(ⅳ)組織開発
当社グループは、従業員がグループパーパスに共感し、主体的に行動しているエンゲージメントの高い組織を維持していくことが、企業の成長に繋がると考えています。2022年度より、グループ全体でのエンゲージメント状況を測るため、富士フイルムグループ全体の従業員を対象に「従業員エンゲージメントサーベイ」を開始しました。
2024年度は11月に第3回エンゲージメントサーベイを実施しました。調査の回答率は94%と高い水準であり、エンゲージメントスコア※5も81%で「全体として良好である」という結果が得られました。
今後も調査を毎年実施し、グループ全体の課題を継続的に把握するとともに、調査結果をもとに、自組織の強みや改善課題について職場でディスカッションすることで、グループ全体の従業員エンゲージメントの向上と、従業員と組織の双方の成長の実現に繋げていきます。
※5 各設問の選択肢のうち「肯定的回答(5段階の上位2つ)」を選んだ割合。この数値が高いほど、従業員の
主体性や貢献意欲が高いことを示す。
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年度 |
回答率 |
回答数 |
エンゲージメントスコア |
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富士フイルムグループ全体 (日本含むグローバルの結果) |
2024年度 |
94% |
70,640 |
81% |
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2023年度 |
91% |
70,862 |
80% |
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2022年度 |
90% |
68,485 |
80% |
当社グループは、グループ全体のリスクマネジメントの基本方針及びリスクマネジメント体制を定めた「リスクマネジメント規程」に基づき、事業を取り巻く様々なリスクに対し、未然防止のための課題抽出とクライシス事案発生時の適切な対応を実施しており、特に重要項目については当社の社長を委員長とするESG委員会を設置し、審議及び対応方針を決定しております。
ESG委員会の活動は定期的に取締役会に報告され、取締役会により、グループ全体のリスクマネジメント活動の有効性を担保しております。また、監査役会にて内部統制の仕組みが適切に機能しているかを監査しております。
当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があると認識している主なリスクには以下のようなものがあります。
なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものです。
(1)経済情勢・為替変動による業績への影響に係るリスク
当社グループは、世界の様々なマーケットにおいて製品及びサービスを提供しており、連結ベースでの海外売上高比率は当連結会計年度において約66%です。当社の連結財務諸表は世界中の各子会社の現地通貨ベースの業績を円換算して作成していることから、世界各地の経済情勢、とりわけ為替レートの変動は業績に大きく影響を及ぼすリスクがあります。
為替レートの変動が連結営業利益に与える影響は、米ドルに対して円が1円変動した場合は年間約10億円、ユーロに対して円が1円変動した場合は年間約8億円と試算しております。
当社グループでは、為替変動による業績への影響を軽減するため、米ドル、ユーロにおいて先物予約を中心としたヘッジを行う等で対策を行っておりますが、為替の変動の程度によっては当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。さらに、設備投資に関わる建築資材や人件費及びエネルギー関連の費用、関税引き上げ等の経済情勢によって左右される費用の変動も、程度によっては当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
(2)ヘルスケア領域における環境変化・競合に係るリスク
ヘルスケア領域においては、がんや希少疾患、新たな感染症等に対する治療・予防手段として、バイオ医薬品の需要が拡大しており、生産プロセスの開発や製造を受託するCDMO事業の市場規模は年率13%(当社推定)で成長していく一方で、医療制度改革による予測できない大規模な医療行政の方針変更や医療機器における法規制の強化、創薬難易度が高まる中での製薬企業における新薬開発の延期・中止や経営環境の変化、技術革新によるバイオ医薬品のプロセス開発・製造受託市場の競争激化等を主なリスクと考えております。その環境変化に対応できない場合や、事業活動に必要な各国の許認可を適時に取得することができない場合、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
当社グループでは、高度な画像処理技術・AI技術、化合物合成・設計力やナノテクノロジー、一定条件製造技術や品質管理技術を保有しているという競争優位性を活かして、今後も技術に裏付けされた新たな製品・サービスの研究開発と、これをサポートするマーケティング活動を継続的に実施してまいりますが、その成否によっては売上の減少等により当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
(3)エレクトロニクス領域における環境変化・競合に係るリスク
エレクトロニクス領域においては、生成AI・ITインフラの発展やEV・自動運転の普及等により半導体産業が長期的に成長し、また車載用途等TV・モニター以外での液晶や有機EL向けディスプレイ材料の需要が拡大している一方で、資源価格高騰に伴う原材料費の高騰や、新技術の開発・実用化による代替素材との競争激化に加え、経済安全保障意識の高まりや経済ブロック化による原材料調達リスク及びサプライチェーンの混乱等を主なリスクとして考えております。
当社グループでは、機能性分子技術や高度な製膜・塗布技術等の先進・独自の技術を保有しているという競争優位性を活かして、今後も技術に裏付けされた新たな製品・サービスの研究開発とこれをサポートするマーケティング活動を継続的に実施してまいりますが、その成否によっては売上の減少等により当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
(4)ビジネスイノベーション領域における環境変化・競合に係るリスク
ビジネスイノベーション領域においては、サイバー攻撃の脅威やリモートワークの普及等を背景にした、セキュリティ・ネットワーク等を強化したオフィス・ITインフラ環境の構築・運用支援ニーズが拡大し、オフィス業務のDX・生産性向上を実現するAIやクラウドを活用した業務ソリューション・サービス市場も拡大している一方で、ペーパーレス化の流れやリモートワークの普及によるオフィスでのプリントボリュームの長期的な減少傾向を主なリスクとして考えております。
当社グループでは、日本及びアジア・オセアニア地域における強固な直販体制を強みに構築した優良な顧客基盤、お客様の複雑化・多様化する経営課題の解決を支援できる強力な営業力、課題解決のためのソリューション・サービスのラインアップと、それを支えるドキュメント関連の独自技術、大手市場からSMB(Small to Medium Size Business)市場までの幅広いお客様との強固な信頼関係という競争優位性を活かしてまいりますが、こうした市場動向に対応した製品やサービスを提供できない場合、売上の減少等により当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
(5)イメージング領域における環境変化・競合に係るリスク
イメージング領域においては、インスタントフォトシステムを始めとするプリントビジネスやデジタルカメラの需要拡大、映像の4K/8K化によるレンズ需要の増加や、需要が増加しているインフラ点検分野に貢献する新規ビジネス伸長等により事業機会が拡大している一方で、ハイエンドミラーレスデジタルカメラ市場の競争環境の激化、スマートフォンのカメラ性能向上によるデジタルカメラ需要の減少や、環境関連の法規制強化、地政学的リスク等によるサプライチェーンの混乱等をリスクとして考えております。
当社グループでは、入力(撮影)から出力(プリント)までのサービスを提供できる総合力や、高度な光学技術・精密加工・組立技術等を保有しているという競争優位性を活かして、ユーザーのニーズをとらえたイノベーティブな新たな製品・サービス等を提供してまいりますが、その成否によっては、製品販売単価の下落、代替製品の出現等による売上の減少、製品ライフサイクルの短縮化による研究開発コストの増加等により、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
(6)生産活動に係るリスク
当社グループでの生産に必要な原材料・部品等について、急激な価格高騰や、自然災害又は人災、サプライヤーの不測な事態による製造中止等をリスクとして考えております。
当社グループでは、急激な原材料価格高騰時には適切な売価への反映を検討するとともに、製品開発及び量産化検討時において、代替材料の探索や可能な限り複数調達先の検討を行うことでリスク分散化の対策を行っておりますが、想定を上回る市況の変化や不測の事態が発生した場合には、収益性の低下や販売機会の消失等により当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
(7)製品品質・製造物責任に係るリスク
当社グループは、厳しい品質管理基準に従い各種製品を生産しておりますが、将来にわたり製品に欠陥が発生する可能性がないとは言えず、重大な製品事故や製品に対する安全性や環境問題において懸念が発生するリスクがあります。
当社グループでは、新製品開発にあたっては、品質の到達度だけでなく、法規制を遵守し、環境・安全に配慮した製品開発を行うとともに、製品安全情報のお客様への周知や製品安全に関する従業員への教育を徹底する等の対策を図り、万一、製品事故等が発生した場合の体制構築等を整えておりますが、実際にこうした事態が発生した場合には、その対応費用が発生するだけでなく、企業ブランドや製品ブランドが毀損され当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
(8)医薬品事業・再生医療事業に係るリスク
当社グループにおける一部のグループ会社では、医薬品及び再生医療等製品の研究開発及び製造販売を行っております。新規の医薬品及び再生医療等製品の開発・薬効追加等には多額の研究開発投資を行う必要があり、承認・販売までには長期間を要するとともに、研究開発が計画通りに進行せず、開発の遅延や中止等のリスクがあります。また、販売後に予期せぬ重大な副作用その他の安全性に関する問題が発生する可能性もあります。
当社グループでは、開発の不確実性のリスクに対しては、複数のパイプラインを保有することによりリスクの分散化を図っております。また、医薬品は開発段階において必要な安全性の試験を実施し、監督官庁の審査を経て承認されておりますが、万一、販売後に予期せぬ重大な副作用等が見つかった場合には、損害賠償の負担や社会的信頼の失墜等により当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
(9)物流に係るリスク
当社グループの事業活動において、原油価格の高騰等を原因とする運賃の高騰は、当社グループの物流コストの増加をもたらす可能性があります。また、地震・津波・洪水等の大規模災害の発生、ロシア・ウクライナ情勢緊迫化や国際的な政治・経済の状況等により、人的・物的被害や物流機能の麻痺、インフラ機能断絶等が生じ、当社グループの生産・販売活動に支障が生じるリスクがあります。
当社グループでは、生産拠点を複数の地域に分散化する等の対策を図り、不測の事態により一部の地域で生産・販売活動が停止した場合でも影響を軽減できるような体制をとっておりますが、完全に影響をゼロにすることはできず、こうした事態が生じた場合には、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
(10)特許及びその他の知的財産権に係るリスク
当社グループは、様々な特許、ノウハウ等の知的財産権を保有し、競争上の優位性を確保していますが、将来、特許の権利存続期間の満了や代替技術等の出現に伴って、優位性の確保が困難となることが起こり得ます。
当社グループが関連する幅広い事業分野においては、多数の企業が高度かつ複雑な技術を保有しており、また、かかる技術は著しい勢いで進歩しています。事業を展開する上で、他社の保有する特許やノウハウ等の知的財産権の使用が必要となるケースがありますが、このような知的財産権の使用に関する交渉が成立しないことのリスクがあります。
当社グループでは、他社の知的財産権の調査を行い、他社の権利を侵害することがないよう常に注意を払って事業展開をしておりますが、訴訟に巻き込まれるリスクを完全に回避することは困難であります。このような場合、係争費用や敗訴した場合の賠償金等の負担により、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
(11)企業買収・業務提携等に係るリスク
当社グループは、持続的な成長のため、これまでに複数の企業買収を実施しており、今後も実施する可能性があります。また、業務提携、合弁事業、戦略的投資といった様々な形態で、他社との関係を構築しております。これらの活動は、当社グループの成長のための施策として重要なものであります。
当社グループでは、企業買収にあたって慎重に検討を行い、一定の社内基準をもとに、将来の当社グループの業績に貢献すると判断した場合のみ企業買収を実行するとともに、重要な投資案件に対しては業績が当初計画から大きく乖離していないかを確認し、必要に応じて業績改善のための対策を講じておりますが、景気動向の悪化や政情不安、法令や規則の変更、対象会社もしくはパートナーの業績不振、業務統合に想定以上の時間を要する等により、期待していた買収効果や利益を実現することができなくなる可能性があります。また、当社グループは、企業買収に伴う営業権及びその他の無形固定資産を貸借対照表に計上しておりますが、予測される将来キャッシュ・フローの低下により、投資に対する回収可能性が低下した場合には減損損失を認識することで、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
(12)人材の確保に係るリスク
当社グループの将来の経営成績は、有能な人材の継続的な会社への貢献に拠るところが大きく、それらの人材を採用・育成し、良好な関係を維持していくことが重要になります。一方、当社グループの事業領域での労働市場における人材獲得競争は、近年ますます激しさを増してきており、研究開発、製造、マーケティング及び販売、ICT、マネジメント分野等に関する高度な専門性を持った人材を確保していく必要がありますが、そのような人材には高い需要があり、必要な人材を確保できない可能性があります。
当社グループでは、人材を企業価値の源泉の一つと位置付け、社会の変化に対応し、自らイノベーションを起こすことのできるグローバル人材や基幹人材の育成に長期的な視点で注力するとともに、多様な人材が能力を発揮できる環境作りに努めておりますが、そうした人材が育成できなかった場合や社外に流出してしまった場合には、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
(13)内部統制に係るリスク
当社グループは、財務報告の適正性と信頼性並びに業務の有効性と効率性を確保するため、内部統制体制を構築・整備し、運用するとともに、継続的な改善を図っています。また、「人権の尊重」を企業が果たすべき概念と認識し、自社及びビジネス・パートナーに対して、人権への悪影響の防止、軽減に努めております。しかしながら、想定外の問題が発生して内部統制が有効に機能しなかった場合、従業員等の悪意あるいは重大な過失に基づく行動等、様々な要因により内部統制システムが適切に機能しない可能性があります。
当社グループでは、富士フイルムグループ企業行動憲章・行動規範を定め、法令及び社会倫理に則った活動、行動の徹底を図るとともに、当社グループ内外にコンプライアンスに関連した相談・連絡・通報を受ける窓口を設置して、違反行為の早期発見に努めております。また、内部監査体制を整え、自ら問題の早期発見を行っておりますが、このような対策が適切に機能しなかった場合、法令違反や当社グループの財務報告に関する投資家の信頼低下による当社株価の下落、当社グループの社会的信用の失墜により事業に悪影響が生じる等、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
(14)情報システムに係るリスク
当社グループは、様々な情報システムを使用して業務を遂行しており、適切なシステム管理体制の構築やICT人材の確保、セキュリティ対策等を行っておりますが、サイバー攻撃等による不正アクセス、従業員等の悪意あるいは重大な過失に基づく行動や、停電、災害等の要因により、データの改ざん、破壊、個人情報の漏洩、情報システムの障害、事業活動に支障をきたす等の事態が起こる可能性があります。
当社グループでは、ソフトウェアや機器によるセキュリティ対策の実施や、定期的に従業員への教育及び訓練を実施し、本件リスクが顕在化しないよう努めておりますが、万一、こうした事態が発生した場合には、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
(15)公的規制に係るリスク
当社グループが事業を展開している地域においては、事業・投資等の許認可、輸出入、通商、公正取引、知的財産、消費者保護、租税、為替管理、環境、薬事等の法規制の適用も受けており、万一、規制に抵触した場合、制裁金等が課される可能性があります。
当社グループでは、国内外の法的規制に関する情報収集を行うとともに、事業活動に係る法規制の遵守を徹底すべく各種ガイドライン・マニュアル等を制定し、定期的な従業員への教育等を通じてコンプライアンス徹底を図っておりますが、今後規制が強化・大幅な変更等なされた場合、当社グループの活動の制限や、規制遵守のため、あるいは規制内容の改廃に対応するためのコストが発生する等により当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
(16)環境規制に係るリスク
当社グループは、気候変動対策、製品リサイクルを含む資源保全、有害物質の使用制限、土壌・地下水・大気汚染防止及び廃棄物処理等に関する様々な環境関連法令の適用を受けており、これらの規制により法的又は社会的責任の観点から、環境に関する費用負担や賠償責任が発生するリスクがあります。
当社グループでは、製品の企画・開発の段階から環境負荷の低減を考慮し、生産、物流、使用、リサイクル又は廃棄に至るライフサイクル全体を対象とし、CO2の排出削減、資源循環の促進、製品・化学物質の安全確保等に取り組んでおります。さらには、各事業場において環境マネジメントシステムを活用し、所在国・地域の法規制遵守、環境汚染の防止、化学物質の適正使用、生物多様性の保全を徹底しております。しかし、将来、環境に関する規制の厳格化や義務の拡大等の変化が生じた場合、あるいは社会的な環境意識の高まりに伴い当社グループが環境問題への取組みをより一層推進する場合には、かかる取組みへの支出の増加や、当社グループの事業活動への制限等を受ける可能性があり、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
(17)気候変動に係るリスク
気候変動に伴う移行リスクとして、今後各国・地域における脱炭素社会に向けた政策の強化、炭素排出に関連する法令等の改定・新規制定が想定外の短期間で実施された場合に、かかる取組みへの支出の増加や、当社グループの事業活動への制限等を受ける可能性があります。
当社グループは、パリ協定に代表される脱炭素社会への動き等、気候変動への対応に対して世界的に関心が高まるなか、いち早くその重要性を受け止め、1990年代から生産プロセスでエネルギー利用効率を高める活動を開始しました。現在も、「2030年度までに当社が使用するエネルギーによるCO2排出を50%削減(2019年度比)、2040年度までに当社が使用するエネルギーによるCO2排出実質ゼロ」を目標に掲げ、エネルギー利用効率の最大化及び再生可能エネルギーの導入・活用によるCO2排出削減を進めております。なお、2030年度の温室効果ガス(GHG)排出削減目標は、「Science Based Targets(SBT)イニシアチブ」より、パリ協定の「1.5℃目標」を達成するための科学的根拠に基づいた目標として認定されています。
さらに、当社グループは、2018年12月に「気候変動関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の提言への賛同を表明し同提言に則った情報開示を進めており、2019年4月には事業活動での100%再生可能なエネルギー利用を目指す国際的なイニシアチブ「RE100」に加盟しております。
また、当社グループでは、気候変動が顕在化した場合の物理リスクへの対応として、調達・生産拠点の分散、BCP(事業継続計画)の策定等の対策を行っているものの、異常気象による原材料・部品の供給停止・価格高騰や、工場操業停止、サプライチェーンの寸断による製品サービスの中止等が発生した場合、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
(18)大規模災害・感染症等に係るリスク
当社グループは、世界各地で生産・販売等の事業活動を行っております。このため、地震、津波、洪水等の大規模な自然災害に見舞われた場合や、火災、テロ、戦争、感染症の蔓延といった要因により、事業活動に支障をきたすリスクがあります。
当社グループでは、自然災害が発生した際にいち早く従業員の安否を確認できるよう安否確認システムを導入するとともに、定期的に地震・火災に備えた訓練を実施しております。また、実際に災害が発生した際には早急に被災地の被害状況を把握した上で対策を講じられるように事業継続への影響を軽減できる体制を整えておりますが、事業活動の復旧までに長期の時間を要した場合や施設等の改修に多額の費用が発生した場合には当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
(1) 経営成績等の状況の概要
① 財政状態及び経営成績の状況
当連結会計年度における連結売上高は、エレクトロニクス部門の半導体材料事業や、イメージング部門等を中心に売上を伸ばし、3,195,828百万円(前年度比7.9%増)となりました。営業利益は、330,155百万円(前年度比19.3%増)となりました。税金等調整前当期純利益は340,594百万円(前年度比7.3%増)、当社株主帰属当期純利益は260,951百万円(前年度比7.2%増)となりました。
事業セグメント別の業績は次のとおりであります。
(事業セグメント別の連結売上高)
|
セグメント |
前連結会計年度 (百万円) |
当連結会計年度 (百万円) |
増減額 (百万円) |
増減率 (%) |
|
ヘルスケア |
975,081 |
1,022,564 |
47,483 |
4.9 |
|
エレクトロニクス |
358,427 |
432,797 |
74,370 |
20.7 |
|
ビジネスイノベーション |
1,157,750 |
1,198,494 |
40,744 |
3.5 |
|
イメージング |
469,658 |
541,973 |
72,315 |
15.4 |
|
連結合計 |
2,960,916 |
3,195,828 |
234,912 |
7.9 |
ヘルスケア部門の連結売上高は、前年度の975,081百万円に対し、メディカルシステム事業、バイオCDMO事業等で売上を伸ばしたことにより47,483百万円増加し、1,022,564百万円となりました。エレクトロニクス部門の連結売上高は、前年度の358,427百万円に対し、半導体材料事業、ディスプレイ材料事業等で売上を伸ばしたことにより74,370百万円増加し、432,797百万円となりました。ビジネスイノベーション部門の連結売上高は、前年度の1,157,750百万円に対し、ビジネスソリューション事業等で売上を伸ばしたことにより40,744百万円増加し、1,198,494百万円となりました。イメージング部門の連結売上高は、前年度の469,658百万円に対し、コンシューマーイメージング事業、プロフェッショナルイメージング事業で売上を伸ばしたことにより72,315百万円増加し、541,973百万円となりました。
(事業セグメント別の営業利益)
|
セグメント |
前連結会計年度 (百万円) |
当連結会計年度 (百万円) |
増減額 (百万円) |
増減率 (%) |
|
ヘルスケア |
97,389 |
77,635 |
△19,754 |
△20.3 |
|
エレクトロニクス |
46,270 |
77,315 |
31,045 |
67.1 |
|
ビジネスイノベーション |
67,425 |
74,614 |
7,189 |
10.7 |
|
イメージング |
102,033 |
139,214 |
37,181 |
36.4 |
|
全社費用等 |
△36,392 |
△38,623 |
△2,231 |
- |
|
連結合計 |
276,725 |
330,155 |
53,430 |
19.3 |
※当連結会計年度より、グラフィックコミュニケーション事業をエレクトロニクス(旧マテリアルズ)セグメントからビジネスイノベーションセグメントへ変更しております。前連結会計年度のセグメント情報は、変更後の区分方法により作成したものを記載しております。変更の概要については連結財務諸表注記23「セグメント情報」に記載しております。
ヘルスケア部門の営業利益は、前年度の97,389百万円に対し、バイオCDMOの一時費用等により19,754百万円減少し、77,635百万円となりました。エレクトロニクス部門の営業利益は、前年度の46,270百万円に対し、生成AI向け半導体材料やOLED向け材料の増収に伴う増益等により31,045百万円増加し、77,315百万円となりました。ビジネスイノベーション部門の営業利益は、前年度の67,425百万円に対し、DX関連ソリューション等の販売増加や欧米市場の増収に伴う増益等により7,189百万円増加し、74,614百万円となりました。イメージング部門の営業利益は、前年度の102,033百万円に対し、インスタントフォトシステムやデジタルカメラの販売が好調に推移したことにより37,181百万円増加し、139,214百万円となりました。
当連結会計年度末では、総資産は有形固定資産の増加等により466,448百万円増加し、5,249,908百万円(前年度末比9.8%増)となりました。負債は社債及び長期借入金の増加等により287,081百万円増加し、1,897,226百万円(前年度末比17.8%増)となりました。純資産は当社株主帰属当期純利益の計上等により179,367百万円増加し、3,352,682百万円(前年度末比5.7%増)となりました。
② キャッシュ・フローの状況
当連結会計年度における連結ベースの現金及び現金同等物(以下、「資金」と記載します。)は、前連結会計年度末より7,604百万円減少し、当連結会計年度末において172,111百万円となりました。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
当連結会計年度の営業活動により得られた資金は428,162百万円となり、当期純利益、減価償却費、持分証券に関する損益が増加したこと等に起因して、前連結会計年度と比較して20,221百万円増加(前年度比5.0%増)となりました。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
当連結会計年度の投資活動に使用した資金は541,953百万円となり、前連結会計年度と比較して14,537百万円増加(前年度比2.8%増)しておりますが、これは有形固定資産の購入額が増加したこと等によるものです。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
当連結会計年度の財務活動により得られた資金は108,883百万円となり、前連結会計年度と比較して109,345百万円増加(前連結会計年度は462百万円の支出)しておりますが、これは長期債務による調達額が増加したこと等によるものです。
③ 生産、受注及び販売の実績
当社グループの生産・販売品目は多種多様であり、同種の製品であっても、その容量・構造・形式等は必ずしも一様ではなく、セグメント毎に生産規模及び受注規模を金額あるいは数量で示すことは行っておりません。
販売の実績につきましては、「① 財政状態及び経営成績の状況」の記載に含めております。
(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものです。
① 資本の財源及び資金の流動性
ⅰ)キャッシュ・フロー
当連結会計年度のキャッシュ・フローの分析につきましては、「(1) 経営成績等の状況の概要 ② キャッシュ・フローの状況」に記載のとおりです。
(連結キャッシュ・フロー指標)
|
|
前連結会計年度 |
当連結会計年度 |
|
株主資本比率(%) |
66.3 |
63.8 |
|
時価ベースの株主資本比率(%) |
84.8 |
65.3 |
|
キャッシュ・フロー対有利子負債比率(年) |
1.2 |
1.6 |
|
インタレスト・カバレッジ・レシオ(倍) |
48.1 |
48.9 |
|
(注)株主資本比率 |
:株主資本/総資産 |
|
時価ベースの株主資本比率 |
:株式時価総額(期末株価終値×期末発行済株式数*)/総資産 *自己株式を除く |
|
キャッシュ・フロー対有利子負債比率 |
:有利子負債(社債、短期・長期借入金)/営業キャッシュ・フロー |
|
インタレスト・カバレッジ・レシオ |
:営業キャッシュ・フロー/利払い(支払利息) |
ⅱ)財務政策
当社グループの資金需要には、運転資金需要及び投資を目的とした資金需要、株主還元のための資金需要が含まれます。
運転資金需要のうち主なものは、原材料等の購入費用、製造費用、販売費及び一般管理費、研究開発費等の営業費用によるものであり、投資を目的とした資金需要のうち主なものは、設備投資、事業買収を含む投融資等によるものであります。また、株主還元の方針は次のとおりであります。
(株主還元方針)
配当につきましては、連結業績を反映させるとともに、成長事業のさらなる拡大に向けたM&A、設備投資、研究開発投資等、将来にわたって企業価値を向上させていくために必要となる資金の水準等も考慮した上で決定いたします。また、その時々のキャッシュ・フローを勘案し、株価推移に応じて自己株式の取得も機動的に実施していきます。株主還元方針については、配当を重視し、配当性向30%を目安としております。
これらの資金は、主として内部資金により充当し、必要に応じ金融機関からの借入や社債による資金調達を実施しています。
なお、当連結会計年度末における短期の社債及び借入金の残高は215,103百万円、長期の社債及び借入金の残高は470,805百万円であります。
② 経営成績
ⅰ)売上高、営業費用及び営業利益
当連結会計年度の売上高は、前年度の2,960,916百万円に対し、234,912百万円増加し、3,195,828百万円(前年度比7.9%増)となりました。国内売上高は1,099,302百万円(前年度比4.7%増)、海外売上高は2,096,526百万円(前年度比9.7%増)となりました。実績為替レートは152円/米ドル(前年度比7円安)、164円/ユーロ(前年度比7円安)となりました。
販売費及び一般管理費は、前年度の752,427百万円に対し、54,098百万円増加し、806,525百万円(前年度比7.2%増)となりました。販売費及び一般管理費の売上高に対する比率は25.2%となりました。
研究開発費は、前年度の157,108百万円に対し、6,291百万円増加し、163,399百万円(前年度比4.0%増)となりました。研究開発費の売上高に対する比率は5.1%となりました。
事業セグメント別の業績は次のとおりであります。
「ヘルスケア部門」
本部門の連結売上高は、1,022,564百万円(前年度比4.9%増)となりました。営業利益は、77,635百万円(前年度比20.3%減)となりました。
メディカルシステム事業では、中国における医療機材の需要減等の影響を受けるも、内視鏡やCT・MRI、体外診断(IVD)等の分野で販売が好調に推移したことにより、売上が増加しました。X線画像診断分野では、日本におけるデジタルマンモグラフィ撮影装置「Amulet SOPHINITY」及び「Amulet ELITE」の販売伸長に加え、日本・欧州を中心とした、契約率向上による保守サービス事業の拡大等により、売上が増加しました。医療IT分野では、電子カルテ・レセプト関連事業を2023年10月に譲渡した影響があるも、医用画像情報システム(PACS)「SYNAPSE」や3D画像解析システム「SYNAPSE VINCENT」を中心としたシステム・サービス販売が日本・米国・欧州・中東・東南アジア等で好調に推移し、売上が増加しました。超音波診断分野は、米国及び中国の販売が堅調に推移し、売上が増加しました。内視鏡分野では、日本・米国・欧州をはじめとする主要市場で販売が伸長し、売上が増加しました。日本では、画像処理エンジンを一新し高画質を追求したフラッグシップモデル「ELUXEO 8000システム」(2024年5月発売)が、売上拡大に寄与しました。体外診断(IVD)分野では、血液生化学検査「富士ドライケム」機器・スライドの販売が好調に推移したことにより、売上が増加しました。CT・MRI画像診断分野では、米国・欧州・中南米を中心に販売が伸長したこと等により売上が増加しました。
バイオCDMO事業では、中小型製造設備では細胞・遺伝子治療薬の市況低迷や、テキサス拠点の商用製造拡大に向けた体制強化のために実施した稼働調整の影響がありましたが、デンマーク拠点の大型製造設備において抗体医薬品の受託製造が堅調に推移したこと等により、売上が増加しました。2024年11月には、デンマーク拠点にて、20,000リットルの動物細胞培養タンク6基を増設する第1次設備増強工事を完了し、稼働を開始しました。高い成長を続けるバイオ医薬品市場に対して、生産プロセスの開発受託に加え、小規模生産から大規模生産、原薬から製剤・包装の受託等、お客様のニーズに一貫してお応えできる体制を整備し、事業の成長を一段と加速していきます。
ライフサイエンス事業では、前年度にiPS 細胞を用いた網膜疾患治療法の開発・商業化に関するライセンスを供与したことに伴い、一時的なライセンス収入を計上したことの反動があるも、創薬支援向け細胞・培地・試薬の販売が安定して推移し、売上が増加しました。
医薬品事業では、COVID-19国産ワクチンの治験薬受託製造が寄与するも、前年に特許ライセンス収入 を計上した反動等により、売上が減少しました。
コンシューマーヘルスケア事業では、ASTALIFT MENシリーズや、2024年3月に発売した化粧品「ASTALIFT WHITE ADVANCED LOTION」「ASTALIFT WHITE ADVANCED CREAM」の販売が好調に推移したものの、その他化粧品、及び市場全体が停滞したサプリメントの販売減少等により、事業全体では売上が減少しました。
CRO事業では、当社独自のiPS 細胞技術や AI 技術を活用し、新たな医薬品のシーズ探索や有効性・安全性評価等のサービス提供を進めています。
「エレクトロニクス部門」
本部門の連結売上高は、432,797百万円(前年度比20.7%増)となりました。営業利益は、77,315百万円(前年度比67.1%増)となりました。
半導体材料事業では、生成AI向け先端半導体の需要拡大に加え、2023年10月に米国Entegris社から買収を完了した半導体用プロセスケミカル事業が寄与したこと等で、売上が増加しました。2025年2月には、ベルギーの生産拠点において、先端半導体材料のCMPスラリーの生産設備を新たに導入するとともに、フォトリソグラフィー周辺材料の既存設備を増強することを発表しました。当社は、今後も積極的な成長投資を継続し、日米欧アジアの主要国に製造拠点を有するグローバルな安定供給体制や高い研究開発力を生かして、半導体製造工程を幅広くカバーし、最適な材料を提供するワンストップソリューションの推進により、事業の成長を一段と加速していきます。
2024年6月に、ディスプレイ材料事業、産業機材事業、ファインケミカル事業を統合し、アドバンストファンクショナルマテリアルズ事業部を設立したのに伴い、当該事業をAF事業として開示しています。AF事業では、人材、ビジネス資産を一元化し、近接領域での相乗効果を創出、また、コア技術や、市場への深い理解に基づく新規ビジネス開発の知見を事業・市場軸で共有することで、市場開拓力を強化・向上させていきます。当期は、OLED向け反射防止材料の受注好調等により、売上が増加しました。
「ビジネスイノベーション部門」
本部門の連結売上高は、1,198,494百万円(前年度比3.5%増)となりました。営業利益は、74,614百万円(前年度比10.7%増)となりました。
ビジネスソリューション事業では、自治体向けサービス売上やWindows10サポート終了に伴う買い替え需要を梃子にしたDX関連ソリューション販売が伸長したこと等により、売上が増加しました。2025年2月には、Microsoft Dynamics 365の導入コンサルティングサービスを展開する㈱パシフィックビジネスコンサルティングの買収を完了しました。今回の買収に伴う中堅・中小企業向け基幹システム販売・導入支援の事業基盤強化により、更に基幹ビジネスを成長させていきます。
オフィスソリューション事業では、中国の景気減速を中心としたアジア地域における販売減や低採算の欧米向けプリンターの販売を終了したこと等により、売上が減少しました。2024年10月には、A3デジタルカラー複合機「Apeos」シリーズ3機種10商品の販売を開始しました。また、イタリア、イギリスに続き、スペインとフランスでオフィス向けデジタルカラー複合機の販売を開始し、新たに欧州地域での販売エリアを拡大しました。当社は今後も、グローバルでの複合機販売を強化していきます。2025年1月には、コニカミノルタ㈱との合弁で、原材料・部材の安定調達とコストダウンを推進する、グローバルプロキュアメントパートナーズ㈱を設立しました。両社が保有する幅広いサプライヤーネットワークを活用し、商品の強固な供給体制の構築や業務プロセスの効率化等、事業基盤の強化に取り組んでいきます。
グラフィックコミュニケーション事業では、デジタル印刷分野におけるプロダクションプリンターの欧米向け販売伸長、インクジェット分野におけるインクジェットヘッドの販売伸長等により、売上が増加しました。2025年1月には、プロダクションプリンター「Revoria Press」シリーズのミドルレンジモデルの新商品として、CMYKの4色トナーに加え特殊トナー*を搭載し、1パスで5色印刷を可能にした「Revoria Press EC2100S」、「Revoria Press SC285S」を発売、また、業界トップクラスの高速印刷と高精細な画質を両立する新開発の技術を搭載した、商業印刷用の高速ロール紙カラーインクジェットプリンター「Jet Press 2160CFG」の国内受注を開始しました。当社は、オフセットからデジタル印刷、さらには印刷ワークフローに関するDXソリューションまでを、ワールドワイドのお客様にお届けするソリューションパートナーとして、印刷ビジネスの拡大に貢献していきます。
*クリア・ピンク、カスタムレッド、ゴールド、シルバー、ホワイトの特殊トナー(ゴールド・シルバー・ホワイトの特殊トナーは後日発売予定)。
「イメージング部門」
本部門の連結売上高は、541,973百万円(前年度比15.4%増)となりました。営業利益は、139,214百万円(前年度比36.4%増)となりました。
コンシューマーイメージング事業では、インスタントフォトシステム「instax」の好調な販売が継続し、売上が増加しました。当期は、ワイドフォーマット対応アナログカメラ「instax WIDE 400」や、ARエフェクト機能を強化したスマホプリンター「instax Link 3」、シリーズ最多のエフェクトを搭載したハイエンドモデル「instax WIDE Evo」等多彩な新製品を展開し、幅広い年齢層や多様なニーズに応える新しい写真体験を提供しています。またイベント向けアプリ「instax Biz」を通じ、ゲームやスポーツ、音楽等様々な分野で「instax」のファン層拡大を進めており、今後も“撮ったその場で”、すぐにプリントが楽しめる「instax」の世界を広げ、写真の価値と楽しみを広めていきます。
プロフェッショナルイメージング事業では、デジタルカメラの販売が好調に推移したことにより、売上が増加しました。当期は「FUJIFILM GFX100S II」、「FUJIFILM X-T50」、「FUJIFILM X-M5」の新製品を発売し、2025年3月には、「GFXシリーズ」初となるレンズ一体型デジタルカメラで、フルサイズ1.7倍の大型センサーによる高画質と小型・軽量ボディを両立した「FUJIFILM GFX100RF」を発表しました。今後も、「GFX シリーズ」ではラージフォーマットによる圧倒的高画質を、「X シリーズ」では画質とサイズのベストバランスを実現し、デジタルカメラユーザーや映像業界に魅力的な製品を提供していきます。
ⅱ)営業外損益及び税金等調整前当期純利益
営業外収益及び費用は、前年度40,563百万円の営業外収益に対し30,124百万円減少し、10,439百万円の営業外収益となりました。
税金等調整前当期純利益は、前年度の317,288百万円に対し23,306百万円増加し、340,594百万円となりました。
ⅲ)法人税等
法人税等は、前年度の78,102百万円に対し507百万円減少し、77,595百万円となりました。
ⅳ)持分法による投資損益及び非支配持分帰属損益
持分法による投資損益は、前年度4,111百万円の利益に対し5,431百万円減少し、1,320百万円の損失となりました。
非支配持分帰属損益は、前年度の212百万円の利益に対し940百万円減少し、728百万円の損失となりました。
ⅴ)当社株主帰属当期純利益
当社株主帰属当期純利益は、前年度の243,509百万円に対し17,442百万円増加し、260,951百万円となりました。基本的1株当たり当社株主帰属当期純利益は、前年度の202.29円に対し、216.67円となりました。また、希薄化後1株当たり当社株主帰属当期純利益は、前年度の202.05円に対し、216.46円となりました。
なお、当社は、2024年4月1日付で普通株式を1株につき3株の割合で株式分割を行っております。1株当たり当社株主帰属当期純利益の各金額は、前連結会計年度の期首に当該株式分割が行われたと仮定して算定しております。
③ 次期の見通し
|
|
|
|
(単位:億円) |
|
|
2025年度 (次期の見通し) |
2024年度 (実績) |
増減率・増減額 |
|
売上高 |
32,800 |
31,958 |
2.6% |
|
営業利益 |
3,310 |
3,302 |
0.3% |
|
税金等調整前当期純利益 |
3,430 |
3,406 |
0.7% |
|
当社株主帰属当期純利益 |
2,620 |
2,610 |
0.4% |
|
ROE(%) |
7.7 |
8.0 |
0.3ポイント減 |
|
ROIC(%) |
5.5 |
5.9 |
0.4ポイント減 |
|
為替レート(円/米ドル) |
145円 |
152円 |
△7円 |
|
為替レート(円/ユーロ) |
155円 |
164円 |
△9円 |
2025年度業績は、連結売上高は3兆2,800億円(前年度比2.6%増)、営業利益は3,310億円(前年度比0.3%増)、税金等調整前当期純利益は3,430億円(前年度比0.7%増)、当社株主帰属当期純利益は2,620億円(前年度比0.4%増)を予想しております。
通期での対米ドル円為替レートを145円、対ユーロ円為替レートを155円で想定しております。
④ 重要な会計上の見積り
当社の連結財務諸表は、米国において一般に公正妥当と認められた会計基準に準拠して作成されております。これらの財務諸表の作成にあたっては、財政状態及び経営成績に影響を及ぼす見積り及び仮定を行う必要があります。連結財務諸表の作成にあたって用いた会計上の見積り及び仮定のうち、重要なものは次のとおりであります。
ⅰ)企業結合
企業結合は取得法で処理しております。取得法では、取得した全ての資産及び引き受けた全ての負債を、支配獲得日における公正価値に基づき認識及び測定します。公正価値の決定には、将来キャッシュ・フローの予測、割引率及び永久成長率等の、重要な見積りを伴います。
企業結合の処理における公正価値の算定に用いられた見積りは合理的であると考えていますが、見積りの根拠となる前提条件の予測不能な変化に伴い公正価値が修正され、取得した資産の将来における減損損失の計上、引き受けた負債の増加につながる可能性があります。
ⅱ)営業権の減損
営業権は償却せず、毎年1月1日時点で減損の有無を検討しております。営業権の減損テストは、当社の報告単位毎に見積将来キャッシュ・フローの現在価値に基づく公正価値に基づいて行われており、使用される割引率は、報告単位のWACC(加重平均資本コスト)に基づいて算出しております。また、客観的事実や状況の変化により当該資産の公正価値が帳簿価額を下回る可能性がある場合には、その都度減損の有無を検討しております。
見積将来キャッシュ・フローの現在価値に基づく公正価値の算定には、将来キャッシュ・フローの予測、割引率及び永久成長率等の、重要な見積りを伴います。
営業権の減損判定に使用した公正価値の算定に用いられた見積りは合理的であると考えていますが、見積りの根拠となる前提条件の予測不能な変化によって公正価値が減少し、将来において営業権の減損損失を認識することになる可能性があります。
なお、事業セグメント毎の営業権の残高については、連結財務諸表注記「8 営業権及びその他の無形固定資産」に記載しております。
ⅲ)長期性資産の減損
営業権及び耐用年数を確定できないその他の無形固定資産を除く、保有及び使用予定の長期性資産について、客観的事実や状況の変化により当該資産の帳簿価額の回収可能性に疑いのある場合には、減損の有無を検討しております。減損の兆候があると判断されるときは、その資産に関連する見積割引前将来キャッシュ・フローとその資産の帳簿価額を比較し、帳簿価額の減額が必要かどうかを検討しております。この結果、帳簿価額が割引前将来キャッシュ・フローを超過すると判断される場合は、当該資産の帳簿価額を見積公正価値へ減額処理しております。公正価値を決定するにあたり、当社は市場取引価格又はその他の評価方法を使用しております。市場取引価格を利用できない場合には、主に資産の使用や最終的な処分から生じる見積将来キャッシュ・フローに基づく割引現在価値法、ロイヤルティ免除法又は超過収益法を使用しております。
これらの手法は、将来見積利益又はキャッシュ・フローの予測及び割引率等の、重要な見積りを伴います。
長期性資産の減損判定に使用した公正価値の算定に用いられた見積りは合理的であると考えていますが、見積りの根拠となる前提条件の予測不能な変化によって公正価値が減少し、将来において長期性資産の減損損失を認識することになる可能性があります。
ⅳ)退職給付引当金及び退職給付費用
当社の一部の子会社は確定給付企業年金制度を採用しており、当該制度に係る退職給付引当金及び退職給付費用は、数理計算上の仮定に基づいて算出しております。これらの仮定には、割引率、年金資産の長期期待収益率、予想再評価率、退職率、死亡率等が含まれております。
数理計算上の仮定は、最善の見積りにより決定しておりますが、見直しが必要となった場合には、退職給付引当金及び退職給付費用が増加する可能性があります。
なお、数理計算上の仮定については連結財務諸表注記「10 退職給付制度」に記載しております。
ⅴ)信用損失引当金
金融資産の信用損失引当金は、残存期間において将来的に発生すると予測される全ての信用損失を見積っています。
信用損失引当金の計上において、当社は、信用の質を一括評価債権及び個別評価債権として管理しており、債務者の財政状態や支払の延滞状況等、過去の信用損失実績及び合理的かつ裏付け可能な予測に基づき、金融資産について一括評価及び個別評価を行っています。
なお、信用損失引当金の残高については、連結財務諸表注記「20 金融資産の信用の質及び信用損失引当金」に記載しております。
ⅵ)繰延税金資産
資産及び負債の財務会計上の金額と税務上の金額の差異に基づいて繰延税金資産及び負債を認識しており、その算出にあたっては差異が解消される年度に適用される税率及び税法を適用しております。また、繰延税金資産のうち回収されない可能性が高い部分については、評価性引当金を計上しております。
回収可能性の検討にあたっては、評価時点で利用可能な情報に基づいた最善の見積りを行っておりますが、見積りの前提とした仮定や条件に変更が生じた場合には、繰延税金資産の回収可能性の評価を見直す可能性があります。
なお、繰延税金資産の残高については、連結財務諸表注記「11 法人税等」に記載しております。
ⅶ)棚卸資産
棚卸資産については、原則として移動平均法による低価法により評価しております。また、当社は定期的に陳腐化、滞留、又は過剰在庫の有無を検討し、該当する場合には正味実現可能価額まで評価減しております。
評価損の見積りにあたっては、過去の出荷実績や評価時点で入手可能な情報等を基に、合理的と考えられる様々な要因を考慮した上で判断しておりますが、市場環境が予測より悪化して正味実現可能価額が下落する場合には、追加の評価損計上が必要となる可能性があります。
該当事項はありません。
当社グループは、写真事業等で培った材料化学、光学、解析、画像等の幅広い基盤技術のもと、機能性材料、ファインケミカル、エレクトロニクス、メカトロニクス、生産プロセス等の技術領域で多様なコア技術を有しています。現在、様々な分野でビジネスを展開している当社グループでは、これらの基盤技術とコア技術を融合した商品設計によって、重点事業分野への研究開発を進める一方、将来を担う新規事業の創出も進めています。
バイオ医薬品の開発・製造受託会社であるFUJIFILM Diosynth Biotechnologiesはデンマーク拠点の20,000リットルタンク6基の第1次設備増強工事を完了し、稼働を開始しました。同拠点で進行中の第2次投資ではさらに8基の増強を行い、2026年の稼働を予定しています。これにより同拠点は、既存設備を含め抗体医薬品の原薬製造能力は合計20基、欧州最大のCDMO拠点となる見込み※1です。さらに米国ノースカロライナでは、20,000リットルの動物細胞培養タンク16基を有する新拠点の建設を進めています。第1次投資の8基は2025年、第2次の8基は2028年に稼働予定です。また、デンマーク・ノースカロライナの両拠点には、製剤設備も新たに導入し、バイオ医薬品の原薬製造から充填・最終製剤化まで一貫して受託できる体制を構築します。
また、当社は2027年3月までの3年間で、半導体材料事業の成長投資として設備投資及びR&Dに合計1,700億円を投じる予定です。この投資により、グローバルなサプライチェーンをさらに強化し、拡大する先端半導体材料の需要に応えてまいります。その取組みとして、半導体材料事業の中核会社である富士フイルムエレクトロニクスマテリアルズ㈱が、静岡と大分にある2つの開発・生産拠点において、先端半導体材料の開発・生産・品質評価の設備を増強します。静岡拠点では、極端紫外線(EUV)向けフォトレジスト※2をはじめとする先端レジストや、Wave Control Mosaic(ウエイブ コントロール モザイク)™※3の開発・生産・品質評価機能を強化するために約130億円を投資し、新棟を建設します。新棟内にクリーンルームを設置するとともに、最新鋭の検査装置等を導入し、開発のスピードアップとともに生産能力の拡大、品質評価体制の拡充をさらに進めていきます。また、大分拠点では約70億円を投資し、半導体製造プロセスの基幹材料であるポストCMPクリーナー※4の生産設備や検査装置を導入することで、生産能力を約4割拡大します。このほか、熊本拠点では約20億円を投じ、銅配線用を含めたCMPスラリーの生産能力を約3割拡大します。当社は、半導体製造の研磨工程で使われる材料として、CMPスラリーのほか、ポストCMPクリーナーを提供しています。連続する工程で使用される2つの材料を組み合わせて提案できる強みを生かして顧客が抱える課題を解決していきます。上記のほか、当社はエレクトロニクス製造業界大手のTata Electronics Private Limitedとインドでの半導体材料の生産体制及びサプライチェーンの構築に向けた提携に関する基本合意書を締結しました。今後大きな成長が見込まれるインド半導体関連市場の需要を取り込むことで半導体材料事業の成長をさらに加速させるとともに、同国における強固な半導体材料エコシステムの構築に寄与していきます。
当社グループでは、富士フイルム㈱、富士フイルムビジネスイノベーション㈱及びその他の子会社とのグループシナジーを強化するとともに、他社とのアライアンス、M&A及び産官学との連携を強力に推進し、新たな成長軌道を確立していきます。
当連結会計年度における研究開発費の総額は
当連結会計年度の研究開発の主な成果は次のとおりであります。
※1 2024年11月5日現在。当社調べ。
※2 半導体製造の工程で、回路パターンの描画を行う際にウエハー上に塗布する材料。
※3 広範囲な波長の電磁波(光)をコントロールする機能性材料群の総称。デジタルカメラやスマートフォンに用い
られる CMOSセンサー等のイメージセンサーのカラーフィルターを製造するための着色感光材料を含む。
※4 CMPスラリー(硬さの異なる配線や絶縁膜が混在する半導体表面を均一に平坦化する研磨剤)による研磨後に、
金属表面を保護しながら、粒子、微量金属及び有機残留物を洗浄するクリーナー。
(1)ヘルスケア セグメント
メディカルシステム事業では、CTやMRI等で撮影された医用画像に対して放射線科医が作成する読影レポートを構造化する、富士フイルム独自の自然言語処理※5技術「読影レポート構造化AI」を開発しました。今回、放射線科医の専門知識に基づき書かれた読影レポートを構造化することで、医師特有の言い回しや医学専門用語を含む読影レポートを効率的にデータベース化し活用することが可能になります。今後、当社は、この「読影レポート構造化AI」を用いて、より高度な画像診断支援機能の開発を加速させます。また、装置開口部70cmの大口径で液体ヘリウムを全く使わない完全ゼロヘリウムを実現したワイドボア1.5テスラ超電導MRIシステム「ECHELON Synergy ZeroHelium(エシェロン シナジー ゼロヘリウム)」※6を2025年6月に発売しました。安定稼働に貢献する高い可用性や自由度の高い設置性といったゼロヘリウムによる特長に加え、AI技術※7を活用して開発した機能により検査ワークフローの効率化を実現し、病院経営をサポートします。このほか、当社とアストラゼネカ㈱は、切除不能なステージIII非小細胞肺がんに対する化学放射線療法の過去症例を検索できる医療情報システムを共同で開発しました。本システムは、医師がCT画像を入力し腫瘍の位置や検索条件を指定すると、データベースから腫瘍の中心の相対位置が近い過去症例を検索し、医師が参照したい症例の放射線治療計画の情報を表示して、医師による放射線治療計画の作成をサポートします。
コンシューマーヘルスケア事業では、紫外線の中で最も長い波長をもつ最長波UVAがシミ・くすみを引き起こす一因であることを解明しました。また、血糖値のコントロールに効果があるとされる生薬成分「オオバナサルスベリ葉エキス」に、最長波UVAが皮膚に当たることにより皮膚中で増加するシミ・くすみ関連因子「GDF-15」の発現を有意に抑制する効果を発見しました。今後、これらの研究成果を化粧品の開発に応用していきます。
ライフサイエンス事業では、富士フイルム和光純薬㈱にて、in vitro※8で発熱性物質を検出するMAT法※9用試薬キット「LumiMAT™(ルミマット) Pyrogen(パイロジェン) Detection(ディテクション)Kit(キット)(以下、「LumiMAT™」と記載します。)」及び、カブトガニ血液抽出成分を使用しないエンドトキシン測定用組換えLAL試薬※10「PYROSTAR™(パイロスター) Neo+(ネオプラス)」を2024年7月に発売しました。欧州では、ウサギ発熱性物質試験が2026年までに欧州薬局方から削除されることが決まっており、LumiMAT™は、その代替試験法として開発されたMAT法用の試薬キットになります。また、PYROSTAR™ Neo+は汎用のエンドトキシン測定装置に対応し、医薬品や医療機器の承認申請における安全性評価のみならず、医薬品の原材料検査や医薬品製造用水の水質管理等、幅広い品質管理の用途で使用できます。
本部門の研究開発費は、
※5 人間がコミュニケーションで使う自然言語を、コンピュータが人と同じように利用するための技術。
※6 「ECHELON Synergy」にZeroHelium磁石を搭載した液体ヘリウムを一切使わないMRIシステムの呼称。
※7 AI技術のひとつであるDeep Learningを用いて開発した。導入後に自動的に装置の性能・精度が変化することは
ない。
※8 培養容器等の中でヒトや動物の細胞や組織を用いて行う試験。
※9 Monocyte Activation Test(単球活性化試験)の略。ヒト単球系細胞が発熱性物質により活性化され、炎症性
サイトカイン等を産生することを利用して、発熱性物質を検出する試験法。
※10 Limulus Amebocyte Lysateの略。カブトガニ血球抽出物から調製したエンドトキシン測定用試薬。
(2)エレクトロニクス セグメント
半導体材料事業では、先端半導体の製造プロセスに用いられるネガ型の極端紫外線(EUV)※11向けフォトレジスト(以下、「EUVレジスト」と記載します。)及び現像液(以下、「EUV現像液」と記載します。)を発売しました。当社は、現在広く普及しているネガ型レジストの現像工程であるNTIプロセス※12を世界で初めて開発・実用化し、ArF露光※13を用いた半導体の微細化をリードしてきました。今回、EUV向けに進化させたNTIプロセスに対応するEUVレジストとEUV現像液を組み合わせて提供することで、回路パターンの形成プロセスを最適化し、さらなる微細化に貢献します。
AF事業では、富士フイルム和光純薬㈱にて、機能性ポリマーに分解性能を付与することで、紙おむつの再生・再利用における課題に貢献する酸化分解性架橋剤「WOD-001」を開発しました。「WOD-001」は、独自の分子設計技術により、機能性ポリマーに分解性能を付与する架橋剤※14です。次亜塩素酸ナトリウム水溶液等の一般的な酸化剤で高吸収性ポリマーを低粘度の溶液へと迅速に分解し、高吸収性ポリマーの分解スピードを従来比3倍以上※15に高めます。さらに、水のみならず、有機溶剤にも溶けることから、アクリル系ポリマー等の機能性ポリマーに分解性能を付与することも可能です。建材用アクリル系接着剤等の材料として用いられることで、建築物の解体や、金属とプラスチック等の異種材料でつくられた建材の分別・回収を容易にすることが期待できます。
本部門の研究開発費は、
※11 極端紫外線を用い、10ナノメートルより微細な世代に必要とされる最先端リソグラフィ技術。
※12 Negative Tone Imaging プロセス。露光後に感光しなかった部分を現像液で除去して回路を作るネガ型の現像工
程。
※13 ArF(フッ化アルゴン)エキシマレーザー光(波長193ナノメートル)を用いる露光手法で、現在最も普及してい
る先端リソグラフィ技術。
※14 ポリマー鎖間に架橋(化学結合)を形成する機能性材料。紙おむつの原料である高吸水性ポリマー等の機能性
ポリマーの材料として使用されている。
※15 当社品との比較において。
(3)ビジネスイノベーション セグメント
ビジネスソリューション事業では、AI技術を活用したクラウド型マーケティングプラットフォームである「Revoria Cloud Marketing」や、企業が保有するデータを利用し、自社の業務に最適化されたAIモデルを自動で作成するクラウド型データ分析サービスである「FUJIFILM IWpro Intelligent Assistantオプション」の提供を開始しました。
オフィスソリューション事業では、リユース率最大84%※16の再生機「ApeosPort-VII C R」シリーズを2024年7月より、新しいA3デジタルカラー複合機「Apeos」シリーズ3機種※17、10商品を2024年10月より発売しています。当社は、これらの新製品やサービスによる、幅広いビジネスの場面での効率化や持続可能性への貢献を通じ、DX推進と環境保全への取組みを行っています。
グラフィックコミュニケーション事業では、ミドルレンジモデルのプロダクションプリンターとして「Revoria Press EC2100S」「Revoria Press SC285S」を2025年1月より国内外で発売しています。特徴としては、CMYK(一般的なカラー)に加え、特殊トナー(クリア、ピンク、カスタムレッド、ゴールド、シルバー、ホワイト)を用い、一度の作業で5色の印刷が可能です。また、高速ロール紙カラーインクジェットプリンター「Jet Press 2160CFG」の受注も2025年1月より開始しました。水性顔料インクと高精細な画質を両立しているのが特徴です。
今後も、ビジネスイノベーションパートナーとしてお客様のビジネス変革をリードしていきます。
本部門の研究開発費は、
※16 重量比。設計上の最大値。
※17 「Apeos C7071」シリーズ:フラッグシップモデル。「Apeos C3067」「Apeos C3061」シリーズ:中小企業向け
コンパクトモデル。「Super EA-Ecoトナー」から約15℃低い定着温度を実現した新トナーを採用。
(4)イメージング セグメント
コンシューマーイメージング事業では、instax™“チェキ”シリーズに4モデルを追加しました。「instax mini LiPlay(インスタックス ミニ リプレイ)™」をリニューアルし、USB Type-C充電用端子を採用し、専用アプリでファームウェアバージョンアップを可能とする等、使いやすさを向上させて2024年7月に発売しました。また、レバー操作のセルフタイマーでグループショットを手軽に撮影できる「instax WIDE 400(インスタックス ワイド フォーハンドレッド)™」を2024年7月に、立体的なARエフェクトやコラージュプリントで撮影・プリント体験を盛り上げるスマホプリンター“チェキ”「instax mini Link 3(インスタックス ミニ リンク スリー)™」を2024年9月に、instax™ “チェキ”シリーズ最多のエフェクトを搭載し「想像を超える一枚」を生み出すハイブリッドインスタントカメラの最上位モデル「instax WIDE Evo(インスタックスワイドエヴォ)™」を2025年2月に発売しました。当社は今後も、“撮ったその場で、すぐにプリントが楽しめる”インスタントフォトシステムinstax™の世界を広げていきます。
プロフェッショナルイメージング事業では、独自の色再現技術による卓越した画質と小型軽量を実現する「Xシリーズ」の最新モデルとして、ミラーレスデジタルカメラ「FUJIFILM X-T50」を2024年6月に、また同月に35mm判の約1.7倍となるラージフォーマットセンサー※18を搭載した「GFXシリーズ」で最軽量の「FUJIFILM GFX100SⅡ」を、シリーズ初のレンズ一体型の「FUJIFILM GFX100RF」を2025年4月に発売しました。このほか、シネマライクな映像表現と放送用レンズの操作性を両立した放送用ズームレンズ「Duvoシリーズ」から、初の広角ズームレンズとなる「FUJINON HZK14-100mm」を2024年9月に発売しました。上記社初の映像制作用カメラ「FUJIFILM GFX ETERNA(エテルナ)」を開発しており、2025年中の発売を目指します。ラージフォーマットセンサーを生かした階調豊かで立体的な映像表現や、大量の撮影データの高速処理、自由度の高いポストプロダクションで、映像制作に新たな価値を提供していきます。
本部門の研究開発費は、
※18 対角線の長さが55mm(横43.8mm×縦32.9mm)で、35mm判の約1.7倍の面積を持つイメージセンサー。