第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社が判断したものであります。

 

(1)当連結会計年度の総括

当連結会計年度(以下「当期」)における世界の経済情勢は、地政学リスクの高まりやインフレの根強さに加え、米国新政権発足に伴う大規模な関税の引き上げ方針をめぐり世界経済の悪化懸念が高まり、先行きに対する不透明感が増大しました。

このような経営環境の下で、当社は中期経営計画(2023年度‐2025年度)において、収益力を回復し再び持続的な成長軌道に戻すことを目指し、事業の稼ぐ力である事業貢献利益の増大に取り組んでおります。また、中期経営計画の中間年度である当期は、覚悟を持って経営改革を完遂する年と位置づけ、事業の選択と集中、及びグローバル構造改革に取り組み、これらを計画どおり完遂しました。

事業の選択と集中については、時間軸も含めて当社の成長戦略との適合性や追加投資の必要性などを判断の軸に取り組み、非重点事業と位置付けた事業群において、事業譲渡や持分譲渡を実施しました。また、方向転換事業と位置付けた事業においても、再編による赤字の縮小や株式譲渡契約の締結を行い、ソリューション・サービス拡大への転換を図り、事業収益力強化に向けた取組として成果を挙げることができました。また、グローバル構造改革の実施と事業譲渡等により、労務費の適正化を実行しました。一方で、データとAIを活用したDXを推進することにより業務生産性と顧客への提供価値の向上に取り組み、各業務遂行の質とスピードを高めております。

当期における当社グループの連結売上高は、為替の影響もあり1兆1,278億円(前期比1.8%増)となりました。事業別の売上高は、前期比でデジタルワークプレイス事業、プロフェッショナルプリント事業、画像ソリューション事業は増収となりましたが、インダストリー事業は減収となりました。

事業貢献利益は、319億円(前期比4.2%減)となりました。当期の監査において、連結調整における未実現利益消去の計算に関して監査法人から指摘があり、114億円を売上原価として計上しました。オフィス事業の継続的なコスト削減やグローバル構造改革効果による販売費及び一般管理費の抑制などが寄与し、デジタルワークプレイス事業は増益となりましたが、先に述べた連結調整における未実現利益消去の計算の影響により、プロフェッショナルプリント事業は減益となりました。また、画像ソリューション事業、及びインダストリー事業は減益になりました。

営業利益は、事業構造改善費用216億円、事業の選択と集中による損失202億円、のれんや有形固定資産等の減損損失511億円等の一過性費用計上などにより、 640億円の損失(前期の営業利益275億円から915億円の減益)となりました。

税引前損失は791億円(前期の税引前利益153億円から944億円の減益)、海外の連結子会社の繰延税金資産の取り崩しなどを行った結果、法人所得税費用として162億円を計上しました。一方、Ambry Genetics Corporationの株式譲渡完了に伴う株式譲渡益などにより450億円を非継続事業からの利益として計上しました。非継続事業を含めた親会社の所有者に帰属する当期損失は474億円(前期の非継続事業を含めた親会社の所有者に帰属する当期利益45億円から520億円の減益)となりました。経営改革として進めた事業の選択と集中により資産を圧縮し、事業譲渡で得た対価を活用して有利子負債を大幅に削減し、バランスシートの改善を進め、財務基盤を強化しました。経営改革の完遂に伴う一過性費用等もありましたが、営業キャッシュ・フローは510億円、投資キャッシュ・フローは事業譲渡による譲渡益等により246億円となりました。この結果、フリー・キャッシュ・フローは、757億円(前期比368億円増)となり、キャッシュ創出力の向上と財務健全性を図っております。

(注)「事業貢献利益」は、売上高から売上原価、販売費及び一般管理費を控除して算出しております。

 

(2)翌連結会計年度の経営方針

翌連結会計年度において、当社は、米国新政権発足に伴う大規模な関税の引き上げ方針をめぐり、米国を含む世界経済の悪化懸念が高まっており、欧米を中心とした物価高と景気減速、為替変動など経営環境の不確実性が高まると見込んでおります。

このような中、2025年度は成長基盤を確立する年として「Turn Around 2025」とし、売上高1兆500億円、事業の成長と当期に完遂した経営改革による利益改善効果を活かし、事業貢献利益525億円、営業利益480億円及び当期利益240億円の利益回復を目指し、中期経営計画で目標としたROE5%以上の達成を目指していきます。

世界的な米国の相互関税による影響の動向を注視しながら、Go To Market戦略の見直し、経費の追加削減、低関税率国への生産のさらなるシフト検討等により影響の吸収を目指します。

(収益基盤の強化)

収益基盤の強化に向けて、2024年度に実施したグローバル構造改革及び事業の選択と集中による効果に加え、各事業で以下の取組を行うことでさらに改善させていきます。デジタルワークプレイス事業のオフィスユニットは、為替の影響を含めて減収を見込みますが、グローバル構造改革の効果創出とともに、さらなるコスト削減やDXを活用した生産・販売・サービスの効率化を進めていきます。

プロフェッショナルプリント事業のプロダクションプリントユニットは新製品投入によるヘビープロダクションプリント(HPP)機シェア1位の堅持とミッドプロダクションプリント(MPP)機の拡販により、中大手商業印刷の顧客を中心にノンハード収益を拡大します。産業印刷ユニットはデジタルラベル機のシェア1位堅持と、一層の市場拡大やUVインクジェット機の新製品投入により市場のデジタル化を加速させ、年度での黒字化を目指します。

インダストリー事業は、センシングユニットでは顧客のディスプレイ設備投資の回復に伴う収益の改善、自動車外観検査及びハイパースペクトルイメージング技術を活用した検査装置の販売伸長、機能材料ユニットでは需要が増加している新樹脂フィルムSANUQIの生産能力強化とあわせ、新素材フィルムSAZMAの投入により大型TV領域のさらなるシェア拡大を目指します。

画像ソリューション事業のヘルスケアユニットでは当社が唯一世界で提供するX線動態解析システムを引き続き拡大させ、インドやアジアを中心とした地域でITやAIを活用した医療のデジタル化の機会を捉えて、収益改善に取り組みます。

(財務基盤の強化)

財務基盤の強化に向けては、経営改革として進めた事業の選択と集中により事業譲渡で得た対価を活用して、有利子負債を大幅に削減し、2025年度末には約1,940億円の削減を目指します。また、のれんは2024年度の減損損失の計上により、2024年度末で約1,260億円となりました。棚卸資産・営業債権の最適化による運転資本の圧縮なども進めて、総資産の圧縮を行います。事業の収益力回復や、有利子負債の削減による金融費用の圧縮、赤字子会社の黒字化等による実効税率の適正化等と併せて財務基盤を強化することで、ROE5%以上を目指します。

 

(3)中長期の成長に向けて

(領域No.1づくり)

まず、事業の成長として、各既存事業のなかで市場セグメントや領域においてNo.1を獲得できる製品やサービスを創出していきます。既にトップポジションにある製品やサービスはNo.1を堅持していきます。

(利益成長につなげる成長の芽を育成)

当社はこれからもサステナビリティを経営の中心に位置付けていきます。当社が目指すサステナビリティは、「事業によって社会・環境の課題を解決することで持続可能な社会の実現に貢献し会社が成長していくこと」です。持続可能な社会の実現に向けた取組の中で、当社にとっても様々な事業機会が生まれております。その中から技術や人財、お客様とのつながりなど、当社の強みをいかせるテーマを厳選して成長につなげてまいります。

具体的には既存事業から派生した精密加工、樹脂成形、材料・製膜、分光計測などのコア技術をAIで強化することで長期の利益成長をけん引する新たなテーマを育てております。インダストリー事業の半導体製造装置向け光学コンポーネントは、強化領域の一部として既に展開しており、2025年度では設備増強も行い生産体制を強化していきます。また、再生プラスチック材料製造、ペロブスカイト太陽電池用バリアフィルム、バイオものづくりのプロセスモニタリングなどは「成長の芽」として、いくつかの技術テーマの中から市場の成長性、競争優位確立の可能性、事業としての収益創出の蓋然性などを評価しながら選別し、利益の拡大に貢献する事業に育てるための投資を実施していきます。

(PBR1倍に向けTSRを意識した経営へ)

2025年度は本中期経営計画の最終年度として、まずはROE5%を確実に達成し、2026年度以降の中期でROEのさらなる改善を目指していきます。また、2026年度以降、執行役に対する株式報酬制度の評価指標としてTSR(株主総利回り)を導入する方針を決定し、評価期間を2025年度から開始します。TSRを意識した経営にシフトしていき企業価値を向上させることにより、早期にPBR1倍を達成します。

 

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1)サステナビリティに関する基本的な考え方 ―中長期の成長に向けて

 当社グループの考えるサステナビリティとは、「事業によって社会・環境の課題を解決することで持続可能な社会の実現に貢献し会社が成長していくこと」です。社会・環境課題の解決を、経済合理性のある事業として実行することで、当社グループの持続的な成長を遂げることができると考えております。

 この考えに基づき、2020年には、10年後の2030年のあるべき「持続可能な社会」の姿を見据えて、取締役会の決議を経て長期経営ビジョンを策定し、当社グループが向き合うべきマテリアリティ(重要課題)を特定しました。

 

① 長期経営ビジョン-2030年の社会と当社グループの存在意義

 当社グループは2020年に2030年の社会を考察し、世界人口の構造変化、デジタル革命の進行、バイオテクノロジーの産業利用拡大、世界構造の多極化、気候変動・温暖化の潮流から、「組織や個人が、爆発的に増加するデータを活用して多様な価値を創造し、持続的に発展する自律分散型の社会」が訪れると考えました。このような社会においては、組織や個人が求める豊かさが個別化・多様化し、それらの充足ニーズが高まる一方、資源不足や気候変動による影響、社会保障費の増大、雇用や創造への機会格差といった課題の解決が求められます。

 この世界観のもと、当社グループは独自のイメージング技術をコアに、ニーズと課題のトレードオフを解消し、「人間中心の生きがい追求」と「持続的な社会の実現」とを高次に両立することが当社グループの存在意義であると結論付け、「Imaging to the People」という長期の経営ビジョンステートメントに集約しました。

 当社グループ発足以来不変の「経営理念」の下、価値創造の源泉としての企業文化・風土である「6つのバリュー」を基盤に経営ビジョンステートメント「Imaging to the People」の実現を目指しております。

 

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②マテリアリティと価値創造プロセス

 当社グループは自社が向き合うべき重要課題として、「働きがい向上および企業活性化」、「健康で質の高い生活の実現」、「社会における安全・安心確保」、「気候変動への対応」及び「有限な資源の有効活用」の5つをマテリアリティとして特定しました。

 2030年に想定される社会課題からバックキャストして、当社グループの強みである無形資産(顧客関係、技術の融合、多様な人財)を融合させ、4つの事業群を通じた顧客との共創により生み出される顧客価値、結果としての経済価値であるキャッシュ・フローを創出し、環境・社会課題の解決のインパクトを拡大していく価値創造プロセスを持続的に繰り返していくことで企業の成長を図ってまいります。

 

価値創造プロセス

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③持続的な価値創造を支える無形資産

 次の3つの無形資産は当社が継続的に価値を生み出すための源泉となるものです。

 

●顧客関係

 当社グループは長年にわたり事業活動を通じて世界各地で顧客との関係性を築いてきました。デジタルワークプレイス事業では、オフィス事業で培ったグローバルな顧客基盤からの知見を活かすとともに、オフィスや病院、物流、製造、教育といった様々な業種・業態における現場の課題に向き合い、顧客のワークフロー改革や価値創造を支援することで、顧客との関係性をより強固なものとしております。インダストリー事業では、業界をリードする先進的な顧客との長期的な関係性に基づき、時代の先を行く技術の実用化やバリューチェーンの変革等、当社グループが社会に大きな価値を提供する機会につなげております。

 

●技術の融合

 当社グループが根源的に持つ強みは、創業以来150年にわたり、社会の“みたい”に応え続けてきた4つのコア技術(材料・光学・微細加工・画像)です。このコア技術にAI技術を組み合わせることに2014年から取り組み、データ利活用によるインダストリー事業の生産性向上や、画像処理AIを活用した医療診断支援ソフトの開発、マルチモーダルセンシングとAI技術によるグリーントランスフォーメーションへの貢献など、成長が期待される領域へのAI技術の応用を進めております。また4つのコア技術を事業をまたいで「融合」させることで新たな価値を創造する取組も行っております。プロフェッショナルプリント事業のデジタル印刷機に対する自動品質最適化ユニット「IQ-601」の搭載はその一例で、「光学」、「微細加工」、「画像」を組み合わせ、印刷作業の自動化によるワークフロー改革を実現しております。

 

●多様な人財

 当社グループの人財における優位性は、グローバルな事業展開や積極的なM&A等を通じて獲得してきた多様性にあります。獲得した多様性を活かすため、人事制度の整備とともに、ポテンシャルのある人財が挑戦できる機会の提供を進めており、特に女性活躍推進は、これを経営課題と位置付けて注力しております。同時にグループとしての一体感の醸成に向け、従業員の満足度調査をグローバルで毎年実施し、経営方針の浸透、職場の課題抽出と解決を行っております。また前述のコア技術とAI、IoTの技術を組み合わせる人財の増強にも目標値を設定して推進しております。

 

(2)重要なサステナビリティ課題への対応に関する基本的な方針

 

① ガバナンス <サステナビリティ関連のリスク・機会を監視及び管理するしくみ(プロセス・統制・手続き)>

 当社グループでは、取締役である代表執行役社長がサステナビリティマネジメント全体についての最高責任と権限を有し、その有効性について責任を担っております。代表執行役社長のもと、サステナビリティを担当する各役員がグループ全体のサステナビリティマネジメントを推進しております。

 

 重要なサステナビリティ課題に関する議論や意思決定は、ほかの重要な経営課題と同様に、社長及び執行役・執行役員が参加する経営審議会その他の会議体の場で行っております。

 サステナビリティ中期経営計画は、担当する各役員が策定し、会社全体の経営計画としてとりまとめ、経営審議会その他会議体での審議・承認を経て、取締役会の承認を得ます。またマテリアリティについても、中期経営計画の策定プロセスの中で、経営企画を担当する役員を中心にサステナビリティを担当する各役員がリスクの変化度合いを見直すローリングを行い、必要に応じて見直しを行い、経営審議会その他の会議体での審議・承認のうえ、取締役会の承認を得ております。

 サステナビリティを担当する各役員は、サステナビリティに関する中期計画を検討・推進する機関として、必要に応じて「推進会議」を設定しております。例えば、環境に関する中期計画を検討・推進する機関として「環境推進会議」を設定しております。経営企画部長が議長となり、各事業部門やコーポレート部門等の各組織長に任命された推進責任者が参加し、環境に関する中期計画、年度計画の審議、四半期ごとの進捗状況の確認やグループの環境課題に関する検討を行っております。

 

② リスク管理 <サステナビリティ関連のリスク・機会を識別・評価・管理するプロセス>

 当社グループは、リスクマネジメントを「リスクのマイナス影響を抑えつつ、リターンの最大化を追求する活動」と位置付け、中長期的な視点でリスクを評価しております。

 サステナビリティ関連の中長期のリスクは、マテリアリティをマネジメントするプロセスの一環として継続的に監視し、必要に応じてマテリアリティの改訂に反映させます。具体的には、中期経営計画の策定プロセスの中で、経営企画を担当する役員を中心にサステナビリティを担当する各役員がリスクの変化度合いに基づいて、必要に応じて見直すことで、その妥当性を継続的に担保しております。

 短期・中期のリスクを含む全リスクはリスクマネジメント委員会において管理しております。

 執行役及び執行役員の職務分掌に基づき、それぞれの担当職務ごとにリスク管理体制の構築と運用にあたっております。リスクマネジメント委員会は定期的(年2回)及び必要に応じて臨時に開催しており、抽出されたリスクとその対応策を策定するとともに、リスクマネジメントシステムが有効に機能しているかどうかの検証・評価を行っております。リスクマネジメント委員会の協議内容は定期的に監査委員会に報告しております。

 なお、当社グループのリスク管理体制・リスクマネジメントプロセスの詳細は、「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」に記載しております。

 

(3)サステナビリティ課題に関する重要性の評価と優先順位付け <サステナビリティ課題を特定するプロセス>

 当社グループでは2020年に、10年後の2030年にあるべき「持続可能な社会」の姿を見据えて、社会・環境課題が当社グループに与える影響をリスクと機会の観点から評価し、そこからのバックキャスティングによって「今なすべきこと」を「5つのマテリアリティ」として特定しました。その際のプロセスは次のとおりです。

 

STEP1:課題のリストアップ

 GRIスタンダードやSDGs等の国際的なフレームワークやガイドライン、各専門分野のマクロトレンド等を参照しながら環境・社会・経済面での課題を広範囲にリストアップしました。ストックホルム・レジリエンス・センターの「SDGsウェディングケーキモデル」をベースとし、「ECONOMY(経済)」「SOCIETY(社会)」「BIOSPHERE(環境)」の関係性を念頭に置きながら、課題を抽出しました。抽出にあたっては、当社グループが関連する、あるいは関連する可能性がある事業領域、そのサプライチェーン/バリューチェーンを範囲として、社会・環境変化や規制・政策動向、ステークホルダーからの要請事項等を考慮して進めております。

 

STEP2:課題の抽出と重要度評価

 リストアップした課題の中から、特に当社グループに関連性の高い分野を抽出したうえで、マテリアリティ分析(重要度評価)を行いました。当社グループのマテリアリティ分析は、リスクと機会の側面をそれぞれ評価している点に特徴があります。リスクと機会をそれぞれ評価することで、SDGsを進めるにあたり、企業に期待されている「社会課題を機会と捉えビジネスを通じて解決することで事業成長を図る」ことを実践しております。マテリアリティ分析は、それぞれ「ステークホルダーにとっての重要度(顧客、取引先、株主・投資家、従業員等)」と「事業にとっての重要度(財務的な影響度)」の2軸で5段階評価し、優先順位を付けました。

 

STEP3:妥当性確認、特定

 経営企画を担当する役員は、これらのマテリアリティの評価プロセス及び評価結果の妥当性を検証し、優先的に取り組むべきマテリアリティを特定しております。特定したマテリアリティは、経営層による審議のうえ、取締役会による承認を受けております。またマテリアリティを定期的にレビューし、必要に応じて見直すことにより、その妥当性を担保してまいります。

 

(4)重要なサステナビリティ課題と、関連するリスク及び機会<特定したサステナビリティ課題の詳細と関連するリスクや機会>

 2024年時点でのマテリアリティと関連するリスクと機会は次の表のとおりです。

 当社グループの各事業はマテリアリティを意識した価値創造に取り組んでおります。例えば、インダストリー事業では、製造現場で熟練工の経験値に基づくスキルに依存していた検査工程を自動化・省人化することで熟練工の技術継承問題解決に貢献すると同時に、最終製品の高品質化に貢献することで「働きがい向上および企業活性化」に寄与しております。また、プロフェッショナルプリント事業では、適時・適量・適所での生産による輸送・保管・廃棄・中間材の低減といった顧客サプライチェーンの変革を通じて「気候変動への対応」と「有限な資源の有効利用」に寄与しております。さらに、ヘルスケア事業では早期発見・早期診断による「健康で質の高い生活の実現」に寄与しております。

 なお、サステナビリティに関するリスクは、マテリアリティのマネジメントやリスクマネジメントのプロセスに落とし込んで対応しております。

 

 

社会・環境課題

(2030年想定)

リスク

機会

働きがい向上

および

企業活性化

デジタル格差

人手不足の解消

雇用や創造への機会格差

ダイバーシティを重視した環境づくりの停滞による、従業員の自律性、イノベーション力の低下

ワークフロー、サプライチェーンの変革による顧客の生産性の向上と創造的な業務へのシフトを支援

健康で質の高い生活の実現

医療や介護の持続性が低下

医療アクセスの制限

社会保障費抑制

イメージングと医療ITサービスによる早期診断、医療費抑制、QOLの向上への貢献

社会における安全・安心

確保

設備老朽化等による労働災害発生のリスク

製品・サービスに起因する重大事故による企業や社会における損害の発生

画像監視による企業や社会の安全・安心の確保

高度な計測・検査による顧客の製品・サービスの品質確保

気候変動への対応

脱炭素社会への移行による変化への適応

気候変動による社会・経済・生態系への影響

持続可能なエネルギーへの転換遅れによる競争力低下

プリントチャージに依存しない収益モデルへの転換の遅れ

異常気象によるサプライチェーンの寸断

ワークフロー、サプライチェーンの変革による顧客企業や社会におけるエネルギー・CO2負荷低減

有限な資源の有効利用

循環型社会への移行による変化への適応

資源枯渇による社会・経済・生態系への影響

持続可能な原料への転換遅れによる競争力低下

資源不足による部材コストアップと供給不安定化

ワークフロー、サプライチェーンの変革による顧客企業や社会における資源の消費抑制・資源の有効利用

 

 

各事業の取組と関連するマテリアリティ(主要なもののみ)

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(5)重要なサステナビリティ課題への取組及び指標

 

① 気候変動

 当社グループの環境経営は、「環境課題を解決していくことで、事業を成長させていくこと」をコンセプトとし、社会から必要とされる会社になることを目指しております。地球規模での気候変動問題を解決するには、自社だけの取組では限りがあります。そのため、当社グループでは、取引先、顧客を中心とするステークホルダーとの連携によって地球上のCO2削減に積極的に関わっていく「カーボンマイナス」の実現を目指しております。カーボンマイナスとは“自社責任範囲と定められるCO2排出量(スコープ1,2,3)(注)に比べて、責任範囲外でのCO2削減貢献量(スコープ1,2,3以外での削減)を多くすること”と当社グループでは定義しております。

 また、自社責任範囲のCO2排出量において「ネットゼロ」を目指す長期の目標を設定しております。ステークホルダーが社会的責任を果たす活動の支援をするだけでなく、自社の社会的責任を果たすことで、脱炭素化の効果を加速するとともに、当社グループとステークホルダーの結びつきを広げ、ともに事業成長していくことを目指しております。

 

(注)スコープ1:燃料の使用などを通じて企業が「直接排出」する排出量

スコープ2:他社から供給された電気、熱、蒸気を使用した事による「間接排出」の排出量

スコープ3:スコープ1,2以外の、原料調達・物流・製品使用などバリューチェーンで発生する自社の事業活動に関連した排出量

 

〔ガバナンス〕 気候関連のリスク及び機会に係る組織のガバナンス

 当社グループでは、気候変動への対応をサステナビリティマネジメントの管理対象の一つと位置付けており、主要な目標値の設定や変更等の意思決定は、最終的には取締役会の承認を得て実施しております。具体的には、2008年、2017年、2020年、2023年に取締役会で目標値の設定や変更の承認を実施しております。

 サステナビリティマネジメント体制については、「(2)重要なサステナビリティ課題への対応に関する基本的な方針 ①ガバナンス」に記載しております。

 

〔戦略〕 気候関連のリスク及び機会に係る組織の事業・戦略・財務に対する影響

 当社グループは気候変動リスクに対処するため、2050年にバリューチェーン全体で温室効果ガス排出ネットゼロを目指すビジョンを設定しております。気候変動に起因するリスクを事業リスクに融合し、気候変動対策にかかわる中期目標及び年度計画を、製品の企画・開発、生産・調達、販売等の事業中期計画と連動させることで、ビジネスを通じて目標の達成を目指しております。

 また機会の観点では、顧客企業や社会におけるエネルギー・CO2削減の貢献度を高め事業成長を図る「カーボンマイナス」を2025年度末までに達成することを目指しております。創業以来150年かけて各事業が育ててきたコア技術を、AI活用(データ駆動型開発・生産)と事業領域を跨ぐ技術融合で“進化したコア技術群”として強化し、ワークフロー、サプライチェーンの変革によるエネルギー・CO2削減の貢献度を高め、インダストリー事業の成長と、社会に必要とされる企業となるための事業創出を進めてまいります。

 

<気候変動シナリオ分析の実施と結果>

 当社グループでは、気温上昇が2℃以下(1.5℃相当)に抑えられ、世界全体が低炭素社会へ移行した場合と、気温上昇が2℃を超え、気候変動の物理的影響が顕在化した場合の2つのシナリオを想定し、2030年の視点で当社グループの業績に影響を及ぼす事業リスクと、気候変動における課題の解決に先手を打って対応することで創出できる事業機会を、それぞれ特定しております。

 シナリオ分析を行う際の枠組みとして、気候変動シナリオ分析の対象事業分野の特定、重要な気候関連リスク及び機会の特定、気候変動に関する既存の科学的シナリオの検討、シナリオに対するリスク及び機会とその財務影響の検討と明確化、今後の対応の方針・戦略の検討のプロセスを経て実施しております。

 

●気温上昇が2℃以下(1.5℃相当)に抑えられ、世界全体が低炭素社会へ移行した場合

 

気候変動の「リスク」への対処

当社グループへの影響

対象セグメント

分類

財務影響

時間軸

対処

調達・製造コストの上昇

ステークホルダーからの再生可能エネルギー調達及び温室効果ガス排出ネットゼロの要求

デジタルワークプレイス事業

インダストリー事業

市場

評判

短期

生産・研究開発・販売拠点における再生可能エネルギー由来電力の導入

化石資源・化石燃料の代替化

インダストリー事業

政策・法律

中~長期

CO2フリー燃料の導入検討、ICP(注1)の導入、調達戦略の最適化

新たな排出規制・税制への対応

デジタルワークプレイス事業

プロフェッショナルプリント事業

インダストリー事業

画像ソリューション事業

政策・法律

短~中期

省エネ生産技術開発

製品開発コストの上昇

新たな製品エネルギー効率規制と市場への対応

デジタルワークプレイス事業

プロフェッショナルプリント事業

政策・法律
市場

短期

環境ラベル新基準相当の製品省エネ設計、公共調達・入札要件への対応

製品サービスの需要変化による売上減少

オフィスにおける紙への出力機会の減少

デジタルワークプレイス事業

市場

短~中期

プリントチャージに依存しない収益モデルへの転換

(注1)インターナル・カーボンプライシング

 

気候変動の「機会」

当社グループへの影響

対象セグメント

分類

財務効果

時間軸

製品サービスの需要変化による売上増加

印刷産業及びアパレル産業のサプライチェーンを変革するデジタルソリューション

プロフェッショナルプリント事業

製品/サービス

短~中期

製品カーボンフットプリントを低減した機能材料、使用済みプラスチックの分別性・リサイクル率向上に貢献する材料技術・センシング技術、インクジェット技術による生産プロセスの変革、メタンガスの漏えいの早期発見と排出量の削減に貢献できるガス漏えい検査システム

インダストリー事業

画像ソリューション事業

製品/サービス

短~中期

 

●気温上昇が2℃を超え、気候変動の物理的影響が顕在化した場合

 

気候変動の「リスク」への対処

当社グループへの影響

対象セグメント

分類

財務影響

時間軸

対処

生産能力減少による収益減

気候パターンの変化に伴う自然資源の供給量不足・供給停止

インダストリー事業

慢性物理

長期

特定の自然資源に依存しない製品設計と開発

大規模気候災害の発生に伴うサプライチェーン分断

デジタルワークプレイス事業

プロフェッショナルプリント事業

急性物理

中期

事業継続管理(BCM)の構築、消耗材の域別分散生産及び供給

製品サービスの需要変化による売上減少

異常気象及び森林火災の発生に伴う森林資源へのアクセス制限

デジタルワークプレイス事業

プロフェッショナルプリント事業

慢性物理

長期

プリントチャージに依存しない収益モデルへの転換

 

気候変動の「機会」

当社グループへの影響

対象セグメント

分類

財務効果

時間軸

製品サービスの需要変化による売上増加

急性的な異常気象・自然災害への防災・減災に貢献するセンシングソリューション

画像ソリューション事業

製品/サービス

中期

 

「リスクと機会の分類」

移行リスク

政策・法律、技術、市場、評判

物理的リスク

急性物理、慢性物理

機会

資源効率、エネルギー、製品/サービス、市場、レジリエンス

 

「財務影響」の定義と評価基準

追加コスト又は利益減少 10億円以上

追加コスト又は利益減少 1~10億円

追加コスト又は利益減少 1億円未満

「財務効果」の定義と評価基準

利益創出 100億円以上

利益創出 10~100億円

利益創出 10億円未満

「時間軸」の定義と評価基準

長期

10年以上

中期

3~10年以内

短期

1~3年以内

 

〔リスク管理〕 気候関連のリスクを識別・評価・管理するために用いるプロセス

 当社は、リスクマネジメントを「リスクのマイナス影響を抑えつつ、リターンの最大化を追求する活動」と位置付け、中長期的な視点でリスクを評価しております。気候変動を含む環境リスクは、中長期的な観点から、「気温上昇が2℃以下(1.5℃相当)に抑えられ、低炭素社会へ移行した場合」と「気温上昇が2℃を超え、気候変動の物理的影響が顕在化した場合」の2つのシナリオで気候変動リスクの影響度と不確実性を評価し、管理しております。またこの環境リスクをグループ全体の経営リスクの一つとして位置付け、リスクマネジメント委員会において管理しております。

 気候変動への対応に関する計画や施策について、四半期ごとにグループ環境推進会議において審議するほか、リスクの変化度合いを見直すローリング作業を同会議にて毎年2回行い、リスクを再評価しております。計画の進捗状況については、グループ環境責任者から代表執行役社長に毎月報告されております。また重要な環境課題についても、グループ環境責任者から経営審議会その他の会議体、リスクマネジメント委員会等に報告されております。取締役会では、気候変動への対応に関する経営計画の進捗について定期的に報告を受け、その執行状況を監督しております。

 なお、当社のリスク管理体制・リスクマネジメントプロセスの詳細は、「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」に記載しております。

 

〔指標と目標〕気候関連のリスク及び機会を評価・管理するために使用する指標と目標

 当社グループでは、気候変動のリスクと機会を管理する指標として前述の「カーボンマイナス目標」、「製品ライフサイクルCO2排出量」(スコープ1,2,3)、「再生可能エネルギー由来電力比率」に加え「CO2削減貢献量(スコープ1,2,3以外での削減)」を定めております。

 「カーボンマイナス目標」においては、当社グループの製品ライフサイクルの範囲外において、私たちが排出するCO2(製品ライフサイクルCO2排出量)よりも多くの排出削減貢献(CO2削減貢献量)を社会・顧客で創出する、「カーボンマイナス」の状態を2025年度末までを期限として実現することを目標としております。

 また、「製品ライフサイクルCO2排出量」には、スコープ1,2の全て(生産段階、販売・サービス段階のCO2排出量)と、主要なスコープ3(調達段階、物流段階、製品使用段階のCO2排出量)を含めております。2025年度末までに2005年度比で61%削減(80万トン)、中期的には2030年までに70%削減(62万トン)することを目標として設定しております。長期的には、2050年にバリューチェーン全体で温室効果ガス排出をネットゼロにする目標を設定しております。

 当社グループではCO2排出量(スコープ1、スコープ2、一部のスコープ3排出量)を含む各非財務実績について、各年度に「環境/社会データ」にて第三者保証を受けており、妥当性を担保しております。なお2024年度のデータは第三者保証を取得予定です。

 

◆製品ライフサイクルCO2排出量削減の推移と目標

2005年度比

2022年度

2023年度

2024年度

2025年度目標

2030年度目標

2050年度目標

製品ライフサイクルCO2排出量

(スコープ1,2,3)

58%削減

(85万トン)

63%削減

(75万トン)

62%削減

(78万トン)

61%削減
(80万トン)

70%削減
(62万トン)

ネットゼロ

◆直近のCO2排出量の内訳

実績

2022年度

2023年度

2024年度

スコープ1

15万トン

15万トン

15万トン

スコープ2

15万トン

14万トン

12万トン

主要なスコープ3

55万トン

46万トン

51万トン(注)

合計

85万トン

75万トン

78万トン

(注)2024年度のスコープ3排出量において、これまで当社グループが未算定であった活動を認識し、その活動は今後も継続するため、算定範囲を見直しております。

 

 「再生可能エネルギー由来電力比率」では、化石燃料を利用できなくなる将来予測を踏まえ、当社グループの事業活動で使用する電力における再生可能エネルギー由来の割合を、中期的には2030年までに50%以上に高め、2050年までに100%にする目標を設定しており、スコープ2の削減に寄与します。再生可能エネルギー由来電力比率は、日本の生産拠点及び研究開発拠点における再エネ電力使用の本格稼働により、2023年度の13.5%から2024年度は約20%程度まで高まりました。

 「CO2削減貢献量(スコープ1,2,3以外での削減)」では、主にプロフェッショナルプリント事業で、アナログからデジタル印刷への作業工程変革による生産性向上を実現するデジタルプリンターの販売拡大に取り組んでおります。その結果「CO2削減貢献量」は2024年度の目標69万トンに対して実績は68万トンでした。

 また、中期経営計画の目標達成へのインセンティブを高めるとともに自社株保有の促進を図るため、中期株式報酬(業績連動型)を構成する評価指標のうち、非財務指標として「施策によるCO2排出削減量(注)」を設定しております。代表執行役社長及びその他の執行役の役員報酬は、中期経営計画の終了後、目標達成度に応じて0%~200%の範囲で決定され、当社株式が交付されます。

 

(注)当初「CO2排出量削減率」を指標として設定した気候変動への対応においては、生産量・販売量の影響を考慮し、「施策によるCO2排出削減量」に改定することを2024年4月23日開催の報酬委員会において決議しました。

② 自然資本

当社グループでは、自然資本による事業への依存とインパクト、その評価及び機会とリスクに取り組んでいく姿勢を明確にするため、「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD:Task Force on Nature-related Financial Disclosures)」の理念と提言に賛同しております。2024年1月、スイスで開催された世界経済フォーラムにおいて、TNFDアーリーアダプター企業として登録し、同年7月にTNFDフォーラムへ加盟いたしました。自然資本の依存とインパクトの評価及びその情報をTNFDフレームワークに沿って開示いたします。

 

〔ガバナンス〕 自然関連のリスク及び機会にかかる組織のガバナンス

 当社では、代表執行役社長が生物多様性への対応を含む環境マネジメント全体についての最高責任と権限を有し、環境マネジメントの有効性について責任を担っております。 サステナビリティマネジメント体制については、「(2)重要なサステナビリティ課題への対応に関する基本的な方針 ①ガバナンス」に記載しております。

 また自然関連の依存・インパクト、リスク・機会を評価・管理する際に考慮すべきステークホルダーの影響については、当社グループの人権方針、人権デュー・デリジェンスに沿って考慮しております。当社グループの人権方針、人権デュー・デリジェンスについては、「(5)重要なサステナビリティ課題への取組及び指標 ④人権」に記載しております

 

〔戦略〕 自然関連のリスク及び機会にかかる組織の事業・戦略・財務に対する影響

当社グループはマテリアリティの1つである「有限な資源の有効利用」について、当社グループの長期的な環境ビジョンである「エコビジョン2050」において2050年の定量的な目標を設定しております。具体的には、地球資源(注)使用ゼロに向けて、自社製品における地球資源使用量を90%以上削減するとともに、自社製品以外での地球資源の削減貢献量を拡大していきます。自社製品やサービスの提供に使用する資源において、枯渇資源に該当する地球資源に依存しない事業形態へ変革するとともに、事業活動を通じた取組により非財務価値を財務と同期させて企業価値を向上することを目指しております。

中期的に取り組む活動計画の具体化にあたっては、2023年9月に発表されたTNFDの提言内容を参照し、当社グループの事業における地球資源及び生物多様性への依存とインパクトを評価しております。TNFDが提唱する9つのグローバル中核指標の視点においてイシューを抽出して事業活動における自然への依存とインパクトを評価し、リスクと機会を特定しております。

(注)地球資源:原油や鉱物資源等の新たな採掘を伴う資源。一般に枯渇性資源と同義

TNFD中核指標

当社への影響

自然の変化要因

9つの中核指標

リスク

機会

依存

土地/淡水/海洋利用の変化

1 土地の総フットプリント

2 土地/淡水/海洋利用の変化の範囲

資源の利用

3 水ストレス地域からの取水・消費

・サプライチェーン:取水制限等による高い水ストレス地域(東南アジア)からの供給量が低下

・捺染ドライプロセス:水ストレスが高い地域(インド、トルコ、イタリア)での水レス染色システム

4 土地/海洋/淡水から調達する高リスクの天然資源

・天然資源:規制強化等によるリスクの高い天然資源の供給不足

・紙:森林資源へのアクセス制限、社会嗜好変化などによる紙利用・出力機会が減少

インパクト

汚染・汚染除去

5 土壌汚染

・有害物質フリー技術:残留性有害物質等のフリー技術の提供

6 排水量

・デジタル印刷/捺染、インクジェット技術:水質汚染の深刻な地域(南アジア)での廃水削減技術

7 廃棄物の発生と処分

・使用済み製品:循環型社会促進策等による製品へのリサイクル義務化

・プラスチック:循環型社会促進策等による製品への再生資源利用への要求

・再生プラスチック技術:循環型社会形成促進策等による再生技術・材料技術・センシング技術の需要増

8 プラスチックによる汚染

9 非GHG大気汚染物質

<自然シナリオ分析の実施と結果>

 当社グループでは、2030年の視点で業績に影響を及ぼす事業リスクと、課題解決に先手を打って対応することで創出できる事業機会を、それぞれ特定しております。政策強化により自然が保護・回復に向かう場合と、現行の延長で自然が劣化し続ける場合の2つのシナリオを想定し、リスクの発現あるいは機会獲得の可能性がある対象セグメント、分類、時間軸及び対処を、それぞれ特定しております。

 シナリオ分析を行う際の枠組みとして、自然シナリオ分析の対象事業分野の特定、重要な自然リスク及び機会の特定、自然に関するシナリオの検討、今後の対応の方針・戦略の検討のプロセスを経て実施しております。分析にあたっては、直接操業だけでなく、上流・下流における自然関連の依存・インパクトを含め、リスク・機会の特定・評価・優先順位付けを行っております。

 

●政策強化により自然が保護・回復に向かう場合

 

自然に関連する「リスク」への対処

当社グループへの依存と影響

自然の変化要因

対象セグメント

分類

時間軸

対処

調達・製造コストの上昇

循環型社会促進策等による製品への再生プラスチック資源利用への要求

インパクト

デジタルワークプレイス事業

プロフェッショナルプリント事業

インダストリー事業

政策技術

短~中期

「最小化(Minimization)」

環境ラベル新基準相当の製品サーキュラーエコノミー設計、公共調達・入札要件への対応

製品開発コストの上昇

使用済み製品へのリサイクル義務化

インパクト

デジタルワークプレイス事業

プロフェッショナルプリント事業

政策

中期

「最小化(Minimization)」

環境ラベル新基準相当の製品サーキュラーエコノミー設計、公共調達・入札要件への対応

製品サービスの需要変化による売上減少

森林生態系保護による森林資源へのアクセス制限

依存

デジタルワークプレイス事業

プロフェッショナルプリント事業

政策市場

短~中期

「回避 (Avoidance)」

プリントチャージに依存しない収益モデルへの転換

 

 

自然に関連する「機会」

当社グループへの影響

自然の変化要因

対象セグメント

分類

時間軸

ビジネスパフォーマンスに関わる機会

印刷産業のサプライチェーンを変革するデジタルソリューション技術

インパクト

プロフェッショナルプリント事業

製品/サービス

短~中期

アパレル産業のサプライチェーンを改革するデジタルソリューション

インパクト

プロフェッショナルプリント事業

製品/サービス

短期

生産ラインのインクジェット化による顧客のワークフロー改革、水・溶剤削減

インパクト

インダストリー事業

製品/サービス

短~中期

水ストレスが高い地域での水レス染色システムの需要増

依存

プロフェッショナルプリント事業

製品/サービス

短~中期

サステナビリティパフォーマンスに関わる機会

循環型社会形成促進策等による再生プラスチック技術・材料技術・センシング技術の需要増

インパクト

デジタルワークプレイス事業

プロフェッショナルプリント事業

インダストリー事業

天然資源の持続可能な利用

中期

残留性有害物質等のフリー技術の提供

インパクト

インダストリー事業

生態系の保護・回復・再生

長期

 

●現行の延長で自然が劣化し続ける場合

 

自然に関連する「リスク」への対処

当社グループへの影響

自然の変化要因

対象セグメント

分類

時間軸

対処

生産能力減少による収益減

気候パターンの変化に伴う天然資源の供給量不足・供給停止

依存

インダストリー事業

慢性物理

長期

「回避 (Avoidance)」

特定の天然資源に依存しない製品設計と開発

水資源の枯渇・取水制限による生産・調達拠点の生産能力低下

依存

デジタルワークプレイス事業

プロフェッショナルプリント事業

インダストリー事業

慢性物理

長期

「最小化(Minimization)」

 生産・調達拠点の水リスク評価、水使用量の削減

製品サービスの需要変化による売上減少

異常気象及び森林火災の発生に伴う森林資源へのアクセス制限

依存

デジタルワークプレイス事業

プロフェッショナルプリント事業

慢性物理

長期

「回避 (Avoidance)」

プリントチャージに依存しない収益モデルへの転換

 

自然に関連する「機会」

 なし

 

リスクと機会の「分類」

移行リスク

政策、市場、技術、評判、法的責任

物理的リスク

急性物理、慢性物理

システミックリスク

生態系不安定化、金融不安定化

ビジネスパフォーマンスに関わる機会

市場、資本の流れと資本調達、製品/サービス、資源効率、評判資本

サステナビリティパフォーマンスに関わる機会

天然資源の持続可能な利用、生態系の保護・回復・再生

「時間軸」の定義と評価基準

長期

10年以上

中期

3~10年以内

短期

1~3年以内

「自然の変化要因」

依存

土地の総フットプリント、土地/淡水/海洋利用の変化の範囲、水ストレス地域からの取水・消費、土地/海洋/淡水から調達する高リスクの天然資源

インパクト

土壌汚染、排水量、廃棄物の発生と処分、プラスチックによる汚染、非GHG大気汚染物質

 

 

〔リスクとインパクト管理〕 自然関連のリスクとインパクトを識別・評価・管理するために用いるプロセス

 当社では、森林生態系等、生物多様性を含む環境リスクは、グループ全体の経営リスクの一つとして位置付け、リスクマネジメント委員会において管理しております。また、特定の自然資源への依存を有する事業においては、事業中期計画の中で、生産・調達リスクを評価・特定して対応を行っております。なお、当社のリスク管理体制・リスクマネジメントプロセスの詳細は、「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」に記載しております。また、自然関連の依存・インパクト、リスク・機会の特定・評価・優先順位付けのプロセスについては、「〔戦略〕」に記載しております。

 

〔指標と目標〕 自然関連のリスク及び機会を評価・管理するために使用する指標と目標

 当社グループの長期的な環境ビジョンである「エコビジョン2050」において、「地球資源使用ゼロに向けて、自社製品における地球資源使用量を2050年までに90%以上削減する」「自社製品以外での地球資源の削減貢献量を拡大する」及び「生物多様性の修復と保全に取り組む」を目標設定しております。この長期目標を達成するためのマイルストーンとして、中期経営計画(2023-2025)に紐づく「中期環境計画2025」において管理指標を設定しております。2025年度末までに自社製品における地球資源使用量を20%削減すること、自社製品以外での顧客・社会における資源削減貢献量を40万トン創出することを目標として設定し、年度計画を策定して四半期ごとに達成度を確認するとともに追加施策の検討を行っております。

 また、各国地域における法規制及び条例順守に関連する環境項目につきましては、排水量、廃棄物、非GHG大気汚染物質を管理指標として設定し、定常的にモニタリングしております。

 

③ 人的資本

〔人財育成方針及び社内環境整備方針〕

[経営戦略に連動した人財育成]

 少子高齢化による生産人口の減少やデジタル革命の進行、加えて新型コロナウイルス感染の拡大による人々の価値観やワーク・ライフスタイルの変容といったマクロ環境の中、当社は、Imaging to the peopleという経営ビジョンを掲げ、新たな成長戦略・事業転換方針を中期経営計画にて打ち出しております。この実現のために当社が求める人財像も大きく変化しており、従業員一人ひとりが、優れた知識・知見や経験に裏打ちされた独自のスキルをもち、課題解決のために自律的に考え、行動する人財、すなわち、プロフェッショナル人財となることに向けて、教育等の人財育成投資を積極的に進めております。

 この活動の一つとして、2023年度までDX専門技術者1,000名を目標に掲げ、必要な教育を提供し、達成に至りました。現在は人財の活用フェイズに移っており、データ活用の優先度が高い部門への配置を進めており、職場内で実践につなげています。

 

[プロフェッショナル人財のポテンシャルとパフォーマンス最大化につながる社内環境の整備]

 当社は、全社員の行動指標となる6バリューと社員の健康を基礎に、「プロフェッショナル人財個々の持つ違い」が有機的につながり、違いが“力”になることによるイノベーション創出、及びエンゲージメント・レジリエンス力の向上が必要と考えており、これにつながる社内環境の整備を進めております。

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〔指標と目標〕

 当社グループでは、会社の持続的成長を担うプロフェッショナル人財を最大限に育成し、活躍させていくために様々な取り組みを進めておりますが、その効果を測る指標として「Your Voice」と名付けたグローバルサーベイを毎年実施し、従業員エンゲージメントをスコア化しており、以下の目標を掲げております。

 

■エンゲージメント

 目標:エンゲージメントスコアが2030  年度に業界上位25%に到達すること

 

 このサーベイにてエンゲージメント及びその推進要因を把握し、そこから各職場で注力すべきポイントを明らかにして次期の取り組みに活かしております。

 具体的には、サーベイを通して経営と従業員の距離感を課題認識し、社長自ら国内外の各拠点を訪問して従業員との直接対話を行っております。また、四半期決算においては、社長からの直接説明に加え、webを通して質問を受け付け、その場で回答しております。毎回、多くの質問があり時間内に答えきれない程であり、事後の回答を含めて、双方向コミュニケーションの場として機能しております。

 各事業部や各社・職場単位でも、調査結果を起点にした対話を通して改善アクションを実行するサイクルを回し続け、2024年度のエンゲージメントスコアは事業構造を見直している状況ではありましたが、前年度スコアを維持しております。2025年度は現場での好事例から導き出した「対話ハンドブック」を作成し、「Your Voice」 の調査結果に基づき、「結果の共有」「メンバーとの対話」「アクションの実行」の3つのステップを着実に回すための「型」を展開していきます。

 これらの取り組みを通して、エンゲージメントスコアを2025年度に業界の平均水準まで、2030年度には業界上位25%に入ることを目標としております。また、エンゲージメントスコアは役員の報酬決定スキームに組み込まれており、重要な経営指標の一つとし、グループ一体となって取り組んでおります。

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〔具体的施策]

 上記方針、目標達成のため実行している代表的な取り組みを以下に紹介します。

 

[個人への投資]

 当社ではプロフェッショナル人財のポテンシャルとパフォーマンスを最大化し、ビジネスへの貢献につなげるため、4つの軸で教育体系を構築しております。すなわち、将来の社長候補やグローバルでの活躍を期待するポテンシャル人財など、人財を定めて必要な投資を行う「選抜育成」、入社時やプロモーションタイミングの人財あるいは組織をリードする立ち位置にある人財を対象とした「階層別教育」、女性リーダー育成に向けたマインドチェンジやメンター教育等の「キャリア形成支援」、最大150万円/年の自己啓発支援、豊富な社内教育プログラム等の自らが学びたいものを定めそこに必要な支援を行う「Re/Up skilling」となります。これらの教育投資とチャレンジ評価や人財公募、副業解禁等の多様な制度をかけ合わせ、個の力の最大化と同時にこれら人財の力を最大限に引き出せる組織風土づくりに取り組んでおります。

 

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[組織開発]

・経営者候補人財の育成

 会社経営を担える次世代リーダーを計画的に配置・育成するため、2020年度よりポテンシャル人財を可視化し、社長と事業トップが1on1で育成の方向性を確認・議論する場を設けております。この議論を通して、次の事業トップ候補はいるか、3~5年後を見据えたらどうか、という組織課題を明確にし、そのうえで、後任候補の特定とさらなる成長に向けて担わせる役割を社長と事業トップが握り、次の1年間の成長度合いを確認する、というサイクルを回しており、150名規模の計画的育成を行っております。

 2024年度は、これに加えて、将来の社長候補に絞って、経営トップ層で人財を共有し、育成のための計画的な配置・教育プログラムを検討するための場として「人財委員会」を設置しました。社長を委員長として、事業担当・経理・人事の担当常務が委員となり、昨年は4回の委員会を通して、2030年代をターゲットとした人財を選定いたしました。また、4月からは、個々の強化領域を見ながら、事業を超えるようなアサインメントの実施や、外部教育機会の提供を具体的に進めております。

 

・グローバルビジネスリーダー育成

 当社グループ約4万人のうち4分の3を占める海外人財の全社での活用も優先順位の高い課題です。それを加速するためにDX関連で実績のあるスイスのビジネススクールIMDと協業し、グローバルビジネスリーダー育成を進めております。全グループの優秀人財を可視化し、選抜された人財に対し、育成プログラムや経営トップによるコーチングの提供、個別育成計画の策定を経て、実際の国境を越えたアサイメントを進めております。

 具体例としては、ヨーロッパのハイポテンシャル人財を日本本社に呼び、中期経営戦略策定メンバーに加えました。その中で、現場意見の計画への反映、そして海外販社施策との整合性を取ること等、目に見える貢献をしてくれております。ほかにもアメリカとオーストラリアの間での戦略的な人財ローテーションを実現する等、このプログラムの成果として表れております。

 ここで選抜した人財が全社の経営人財候補となるよう、育成強化を図っていきます。

 

・ミドルマネジメント強化

 当社では2022年より、いわゆる管理職制度を単線型から複線型に変更しております。昨今のビジネス環境の変化を受け、その中で求められる管理職のミッションを明確化し、専門性を突きつめビジネスに貢献する人財「エキスパート」と、多様な人財の力を引き出し組織に活力を与え実行力を上げる組織リーダー人財「エンパワーメントリーダー」に分け、それぞれの任用要件も大幅に見直しております。またこの変更に伴い、従来の管理を連想させる「管理職」という名称を「エグゼンプト」に変更しております。

 エキスパートに関しては、報酬制度も刷新し、高い成果を上げたエキスパートには執行役員レベルの報酬を提供できることとなっており、これは社外の優秀な専門人財の採用にも大きく貢献しております。

 一方、エンパワーメントリーダーには、コーチングやチームビルディング、コミュニケーションスキルをはじめとしたマネジメントスキル強化のためのプログラムを、実際に現場の組織、チームを率いるいわゆる課長クラス全員に対し、体系的かつ継続的に実施しております。2025年度はこれに加え、V字回復・中長期の利益成長実現のコアとなる部長クラスに対して、意識・行動両面の強化に向けたプログラムを実施していく予定です。

 また、エキスパート・エンパワーメントリーダーともに、求められる行動がとれているかを、半期に1度の多面評価でチェックし、自らの行動を持続的にアップデートできるようにしております。

 これらを通して、継続的な成長を促し、さらなる人財力強化を図っていきます。

 

・レジリエンス力の向上

 組織の変革と成長への回帰を目指すにあたり、この変革はトップから起こすことが重要だと考え、まずは、経営層がプロフェッショナル人財・プロフェッショナル経営チームになるために当社では社長を含む役員と役員候補に対し、「レジリエンスプログラム」を導入しております。

 「レジリエンスプログラム」とは、医学・脳科学・心理学的な観点から、人と組織が最高のパフォーマンスを出すために本質的に必要な要素について学び、それを1年間かけて習慣にしていくプログラムです。

 具体的には、身体・情動・思考・精神性という4つの切り口にわかれております。例えば、脳のパフォーマンスを高めるための運動・栄養・睡眠だけではなく、困難で複雑な状況においても、高い視座と広い視点で自身と組織を統合する「人間性」も高めていくものになっております。

 経営層自らが変革することで、その影響を次世代そして会社全体に波及させ、当社がプロフェッショナル人財集団へ変貌する根幹になると考えております。

 

[多様な人財の活躍推進]

・女性活躍推進

 当社グループはグローバルで女性従業員が約3割を占め、セールス等の売上部門で働く女性は20.5%、STEM関連業務に携わる社員の女性割合も14.4%と、職種によらず女性が活躍しております。

 当社グループ並びに当社での管理職における女性比率を戦略的に高めるべく、2030年度に当社グループ26%以上、当社18%以上という目標を定め、この目標に向け、様々な施策を実行しております。こうした活動を通じて、着実に管理職における女性比率は高まっており、2024年度末に当社グループでは19.2%超、当社においては11.1%に達しており、競合他社の3~9%台の数値と比較しても高い数値となっております。

 例えば当社では、技術系中心の新卒採用において女性比率が30%以上となるよう積極的な女性採用施策を継続しており、また管理職へのプール人財を補強するための採用強化などを行っております。

 また2021年度から、女性リーダーのパイプライン強化のために、エグゼンプト(当社における管理職の呼称)一歩手前の女性従業員に向けて、エグゼンプト登用を見据えた計画的な育成とリーダーシップを発揮するための力を身に付けるための研修を実施しております。これまでの経験を棚卸し経験やスキルの不足を見定めることで、エグゼンプト登用とその先の活躍を含めた成長につながる役割付与や能力開発を計画的に行っております。

 今後も女性活躍における現場の課題に丁寧に向き合い、継続的に働きかけを行ってまいります。

(注)当社グループの女性管理職比率は、全グループ会社での集計が困難なため、当社及び国内連結子会社並びに200名以上の海外連結子会社の主要な約50社を集計したものです 。

 

・海外派遣プログラム「GLOW」

 グローバルに広がる多様な人財の発掘を狙い、将来を担うマネジメント人財のパイプラインを戦略的に強化していく「GLOWプログラム」を進めております。

 このプログラムは6ヶ月短期海外派遣で、2022年度より一新し、適用範囲を日本人のみから海外グループ社員にも広げ、日本から海外だけでなく、海外から日本、海外から海外という派遣も可能としております。

 

 また、このプログラムは会社主導でミッションを与えるのではなく、強い意志をもった社員により、自らの力でミッションを設定する必要がある点も特徴的です。具体的には、派遣候補者は、自ら派遣先への受入交渉を行い、現地での貢献やミッション、そして派遣プラン策定を行う必要があります。自らがチャレンジする機会を掴み、現地の協力を得て目標に挑むことで、これまで培ったスキルや武器を国外でも通用するものに磨き上げながら、派遣者の多様性やグローバル視点を養い、世界と戦える真のグローバル人財の持続的な育成を目指していきます。

 2023年5月から3期にわたり派遣しており、3期合計で31名、そのうち海外人財は10名となります。実際に派遣された際には、現場で短期に成果を上げるために、いかに早く現場に溶け込むか、いかに協力を引き出すか、苦労しながらも必死になって成果を上げてくれております。受入れ先からも派遣者による組織貢献に対して非常に高い評価を得ており、事業課題解決と人財育成両面で成果をあげております。

 現在第3期として2025年4月から派遣を実施しており、次なる第4期の選考を開始しております。今後も、厳しくもリターンの大きいプログラムとして、しっかりと継続していきたいと考えております。

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④人権

●基本的な考え方

 人権は、全ての人間が持って生まれた権利であり、普遍的な価値の一つです。2011年に国連で「ビジネスと人権に関する指導原則(以下「UNGPs」)」が採択されたことにより、人権尊重に関する企業の責任が明確になりました。各国で人権に関連した法規制化や調達要件への組み込みが進み、UNGPsに沿った人権取組の重要性が益々高まっております。このような社会要請に応えていくことはもちろん重要ですが、加えて、人権尊重の姿勢を社内外に示すことでステークホルダーからの信頼の獲得、従業員との信頼構築につながり、結果的にサプライチェーン全体の競争力の向上や持続的な成長が実現できると考えております。

 

●方針

 当社グループは、UNGPsの考えに基づき、経営審議会での承認を経て2021年9月に「コニカミノルタグループ人権方針」を制定いたしました。本方針に基づき、自社内のみならず当社グループの事業に関連するビジネスパートナーやその他の関係者に対しても、人権の尊重を求めております。また2022年4月に取締役会で承認のうえ改訂を行ったコニカミノルタグループ行動憲章においても、事業活動における最も基本的な要件の一つとして人権尊重を規定し、グローバルの従業員を対象に毎年実施するコンプライアンス研修に組み込んで周知を行い、バリューチェーン全体での人権侵害の低減に取り組んでおります。

 

●人権デュー・デリジェンス(以下「人権DD」)プロセス

 当社グループは、UNGPsに則り人権DDの仕組みを構築しております。当社グループの事業活動や取引の結果、潜在的または顕在的に負の影響を受けるステークホルダーとその人権課題を抽出し、抽出した負の影響を受けるステークホルダーとその人権課題に対して影響度を評価し、特に優先度が高いと思われる人権課題を特定しております。評価は定期的に見直すとともに、特に優先度が高いと思われる人権課題に関しては、人事/法務/調達/品質/IT/サステナビリティを担当する各部門がそれぞれ目標設定、施策の検討・実施を行っております。

 また、人権DDを通じて人権侵害の可能性が発見された場合、または人権に関する通報窓口を通じて社内外から人権侵害の申し立てが発生した場合には、ステークホルダーとの真摯な対話と速やかな調査を実行します。その結果、人権に対する負の影響を直接的に引き起こしている(Cause)、直接的または間接的に助長している(Contribute)、取引関係を通じて人権への負の影響との直接関連している(Directly Linked)ことが明確となった場合は、社内外のしかるべき手続きを通じて是正策を講じていきます。

 

<人権DDプロセス>

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<優先的に取り組む課題>

活動領域

優先的に取り組む課題

自組織

・過重労働、労働安全衛生、差別(女性活躍)、ジェンダーに関する人権問題、強制労働、児童労働・若年労働、プライバシーの権利

製品・サービス

・顧客のプライバシー保護

調達品と取引先

・取引先企業での過重労働、労働安全衛生、差別、外国人移民労働者の権利侵害および先住民の人権侵害

 

 

・自組織領域での取り組み

 上述の通り、グローバルの従業員を対象に毎年実施するコンプライアンス研修にて人権尊重の教育を実施しているほか、人権侵害の起きやすい生産機能を有している拠点において、Responsible Business Alliance(以下「RBA」)(注1)のフレームワークを軸にリスク評価の取り組みを進めております。具体的には、RBAが提供している自己診断票(以下「SAQ」)を用いて、労働・安全衛生・環境・倫理・サプライチェーンにおける人権侵害リスクの評価を行い、人権侵害につながる可能性のある課題が発見された場合は是正措置を行っております。また、特に従業員規模が大きく当社グループの主力製品の製造を担っている重要生産拠点においては、定期的にRBA VAP監査(注2)を受審し、人権リスクの低減に取り組んでおります。

 

(注1)RBA:電子機器業界を中心に、グローバルなサプライチェーンにおける責任あるビジネスを促進することを目的とする非営利団体。

(注2)RBA VAP監査:RBA行動規範に対する準拠状況を第三者監査機関が確認する監査。適合レベルに応じてPlatinum、Gold、Silverのランクが付与される。

 

・製品・サービス領域での取り組み

個人や企業を狙ったサイバー攻撃が増加するなかで、その手口はますます高度化・巧妙化しております。当社グループが提供する製品やサービスにおいても、セキュリティの脅威にお客様を晒すリスクを持つ可能性があるため、セキュリティを確保した製品・サービスを提供し、市場における製品セキュリティ事故を未然に防ぐとともに、万が一事故が発生した場合には、お客様の被害を最小限にとどめ、迅速に復旧・解決する取り組みが必要と考えております。

当社グループは、品質担当役員を責任者とする製品セキュリティの全社推進体制を確立し、品質本部主管のもと、事業部門を通じてすべての製品・サービスにおける重大セキュリティ事故の防止に取り組んでおります。セキュア開発・運用を実現するための「製品セキュリティガイドライン」を制定し、グループ全体で製品・サービスのセキュア開発・運用プロセスを推進しております。製品セキュリティガイドラインは、原則としてコニカミノルタグループのすべての製品・サービスの企画・提案から廃棄・サービス終了に至るまでのライフサイクル全体、ならびに開発・運用委託先や取引先などのサプライチェーン全体に適用し活動リスクの低減に取り組んでおります。

 

・調達品と取引先領域での取り組み

 調達品に対しては「責任ある鉱物調達への対応」、取引先に対しては「コニカミノルタCSR調達推進プログラム」を適用してリスクの低減に取り組んでおります。

 調達品に関して、当社グループの製品には多くの鉱物が使用されており、コンゴ民主共和国および周辺地域におけるタングステン、タンタル、金、スズの鉱物資源の採掘が紛争の資金源になっている可能性や、鉱山や精錬所における強制労働や児童労働の問題が指摘されていることを重要なリスクと捉えております。当社グループでは、「OECDによる紛争地域および高リスク地域からの鉱物の責任あるサプライチェーンのためのデュー・デリジェンス・ガイダンス」に従い「鉱物サプライチェーンにおけるリスクに基づいたデュー・デリジェンスのための5ステップのフレームワーク」に準じた鉱物調達の取り組みを行っております。具体的にはResponsible Minerals Initiative (RMI)(注3)が発行している調査票であるCMRTEMRTを使用して精錬所の調査を行い、その結果サプライチェーン上に紛争への関与が否定できない精錬所が存在する可能性がある場合は取引先に対して是正を要請しております。

 取引先に対しては、すべての取引先に対して、当社グループが定める「コニカミノルタ調達方針」、「コニカミノルタサプライチェーン行動規範」および「コニカミノルタ責任ある鉱物調達方針」の遵守を要請し、書面での合意取得を行っております。さらに上流の取引先にも、直接の取引先を通じて要請を依頼しております。また、取引金額やESGリスクの大きさより選定した重要取引先に対してSAQを実施し、リスクが高い結果となった取引先に対して是正指導を実施しております。加えて製品の最終組立を委託している取引先に対しては定期的なRBA VAP監査の受審を要請し、人権リスクの低減に取り組んでおります。

 

(注3)RMI:紛争鉱物や高リスク地域からの鉱物調達に関する企業の責任ある行動を支援する国際団体。

 

●目標と実績

自組織および取引先のリスク管理について、定量的な目標を設定し取り組みを行っております。自組織に関する目標である自社生産拠点のSAQによる自己診断実施率は、2025年度までの累積目標100%に対して2023年度実績は30%(30拠点中9拠点)です。調達品・取引先に関する目標である重要取引先での自己診断(SAQ)実施率は、2025年度までの累積目標100%に対して、2023年度実績は29%(103拠点中30拠点)です。また、鉱物調査票CMRT回収率は毎年95%の目標に対して、2023年度の実績は95%です。なお記載している数値は「サステナビリティレポート2024」にて開示している実績値であり、2024年度実績は2025年7月ごろに確定予定となっております。

 

3【事業等のリスク】

(1)当社のリスクマネジメント体制

 当社は、当社グループの事業活動に関する諸種のリスク管理を所管するリスクマネジメント委員会を設置し、リスクマネジメント委員会規則に従い、取締役会で任命された執行役及び執行役員が以下のリスク管理体制の構築と運用にあたっております。

 当社グループの事業活動に関する事業リスク及びオペレーショナルリスクについては、執行役及び執行役員の職務分掌に基づき各執行役及び執行役員が、それぞれの担当職務ごとに管理しており、リスクマネジメント委員会はそれを支援しております。また、リスクマネジメント委員会は、グループ経営上重要なリスクに関する抽出・評価・見直しの実施、対応策の策定、管理状況の確認を定期的に行っております。

 

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当連結会計年度(以下「当期」)はグループ重要リスクとして、以下の2つのリスク項目を選定しました。

・サプライチェーンにおけるリスクマネジメント

・情報セキュリティにおけるリスクマネジメント

 

(2)当社のリスクマネジメント体制の運用状況

 当社は、リスクマネジメント委員会を定期的(年2回)及び必要に応じて臨時に開催しております。この委員会では、企業活動に関して抽出されたリスクとその対応策を策定するとともに、リスクマネジメントシステムが有効に機能しているかどうかの検証・評価を行っております。当期は、同委員会を2回開催し、特に地政学リスクに起因する国際物流情勢、米中貿易摩擦に係る規制、経済安全保障や人権問題など、当社のグローバルサプライチェーンに与える影響が大きいリスクについて、事業への影響度の高い国・地域に適用される制裁や新たな法規制等の定期的なモニタリングを実施しました。

 また、リスクマネジメント委員会の協議内容は定期的に監査委員会に報告しており、取締役会への報告は必要に応じて実施し、取締役会を構成するメンバーには月次の報告が行われております。

 なお、当社では、リスクが顕在化し企業価値に大きな影響を及ぼす状況を「危機(クライシス)」と定義し、クライシス発生時には上長経由で担当役員と危機管理担当役員へ報告し、さらに担当役員と危機管理担当役員は、代表執行役へ報告を行います。様々なリスクによって発生するクライシスに対し、当社は迅速・適切に対応するためにクライシス発生時の報告ルールを設け、執行役及び執行役員や当社子会社役員等に周知しております。その報告ルールに沿って、世界各地で発生した災害・事故、その他のクライシスに関する情報を危機管理担当役員が集中管理しております。

 

(3)事業等のリスク

 当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況等に重要な影響を与える可能性がある主要なリスクを以下に記載しておりますが、これらのリスクは必ずしも全てのリスクを網羅したものではなく、想定していないリスクや重要性が低いと考えられるほかのリスクの影響を将来的に受ける可能性もあります。

 また、当社は、リスクを「組織の収益や損失に影響を与える不確実性」と捉えております。リスクを単にマイナスの側面からだけではなく、「機会」としてのプラスの側面からも捉えたうえで、リスクマネジメントを「リスクのマイナス影響を抑えつつ、リターンの最大化を追求する活動」と位置付け、収益の源泉としてリスクを管理するため、そのマイナスとリターンのバランスに重きを置いたリスクアペタイトに考慮した取組を行っております。

 リスクへの対応と機会の考え方は、以降、個々のリスクの項目の中に記載しております。

 記載事項のうち将来に関する事項は、当期末現在において入手可能な情報等に基づいて、当社グループが判断したものであります。

 最初に、各リスク項目をリスクマップ上にプロットした図を掲載いたします。

 なお、「発生可能性」については、3年以内に発生する頻度・確率より評価し、「影響度」については、発生した際に営業利益へ与える影響により評価しております。

 また、「発生可能性」と「影響度」について、前連結会計年度(以下「前期」)より評価が変更されているリスクは、評価欄に矢印を用い、前期と当期の評価を記載しております。

 

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①経済環境に関するリスク

1)経済動向・市場環境

発生可能性:高

発生する可能性のある時期:1年以内

影響度:大

 ●リスク

 当社グループは、複合機やデジタル印刷システム、ヘルスケア用機器製品、計測機器や光学部材、ディスプレイ材料及び関連サービス等を世界中の顧客に向けて提供しております。これらの事業の売上及び損益は各国の景気動向に大きく影響を受けます。

 当期の世界経済は比較的順調に推移しましたが、今後については米国の関税政策の影響が世界的な景気悪化に発展する可能性が懸念されます。

 日本経済は、一時停滞感を強めたものの、個人消費の復調やインバウンド需要の堅調な拡大により回復基調を維持し、幅広い分野でインフレ経済への回帰が見られました。物価上昇が落ち着く中、緩やかな回復基調を維持すると見込まれるものの、米国の関税政策等による不確実性が悪影響を及ぼす懸念があります。

 米国経済は、金融引き締めが続く中、安定した雇用情勢と賃金上昇による個人消費を中心とした国内需要に支えられ、堅調に推移しました。しかし、米国の関税政策によりインフレ率に上昇圧力がかかり、消費者の負担が増加することによる国内需要の減速が懸念されております。

 欧州(EU)経済は、雇用情勢が堅調に推移し、所得環境の改善による個人消費の回復により緩やかな回復基調で推移しました。一方、ウクライナ情勢やイスラエル・パレスチナ情勢によるエネルギー価格の高止まりや地政学リスク等により、経済見通しの不確実性は増大しております。

 中国経済は、不動産市場の長期低迷、雇用や所得環境の悪化を受けた個人消費の停滞、地方行政の財政難等により景気は停滞しました。大手不動産会社の破綻リスクが高まる等、不動産市場の低迷に起因した金融不安は解消されておらず、また、米国と相互に関税引き上げ措置を行うことに伴う対米輸出入の減少が、景気回復に悪影響を及ぼすことが懸念されます。

 こうしたリスクが発生し、各国の経済活動が停滞した場合、顧客の投資抑制や消費行動の変化を引き起こし、結果として当社の予想を超えた新規機器購入の減少、競争激化に伴う販売価格下落、在庫増加等、将来にわたり当社グループの経営成績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

2)為替レートの変動

発生可能性:高

発生する可能性のある時期:1年以内

影響度:中

 ●リスク

 当社グループは、高い海外売上高比率が示すようにグローバルに事業活動を展開しており、為替レート変動の影響を大きく受ける状況にあります。また、外貨建ての取引から生じる当社の資産及び負債の円貨額や海外子会社の外貨建財務諸表から発生する在外営業活動体の換算差額も変動するおそれがあります。ユーロにつきましては、為替レートが1円円安に変動した場合、欧州での利益増により、営業利益に約4億円のプラスの影響を与えます。人民元も同様に、1円円安に変動した場合、中国での利益増により、営業利益に約8億円のプラスの影響を与えます。一方、米ドルについては、1円円安に変動した場合、調達・製造コスト増等により、営業利益に約1億円のマイナスの影響を与えます。

 ●対応策

 為替レート変動の影響を軽減するため、米ドル・ユーロ等の主要通貨では為替予約を中心としたヘッジを実施しております。米ドルにつきましては、米ドル建ての調達と米ドル建ての売上を相殺することにより影響を軽減しております。また、多通貨建てのグローバルでのグループ間決済を、金融機関が提供するネッティングシステムを利用し実施しており、子会社が持つ為替変動リスクを当社へ集約することにより為替リスクの集中管理及び効率的なヘッジを実施しております。

 

 

②事業活動に関するリスク

1)デジタルワークプレイス事業 プリント環境の変化に関連するリスク

発生可能性:高 →

発生する可能性のある時期:3年以内

影響度:大

 ●リスク

 先進国や新興国を中心に、情報共有の媒体が紙からタブレット端末やスマートフォン等のデジタル機器に急速に移行しております。さらに、新型コロナウイルス感染症の拡大を契機に、世界中の企業でリモートワーク、ハイブリッドワーク及びワークフローのデジタル化が加速しております。このため、各国のオフィスにおけるプリント需要は今後も継続的に減少することが予測されます。IDC(International Data Corporation)によると、2028年の世界市場における電子写真方式による総プリントボリュームは、2019年と比べて約4割減少すると予測されております。当社グループの注力するカラープリントは2019年比で80.0%に留まる一方、モノクロプリントは46.6%にまで落ち込む予測となっております。プリントボリュームの下落が永続的に続くわけではなく、ある水準で下げ止まるとの見解もありますが、現時点では、中期的に想定を超えるプリント需要の減少が発生することをリスクとして捉えており、このような状況下で顧客動向に迅速に対応できない場合、当社グループの経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 ●機会

 先進国や新興国、各国における大企業を中心に紙文書のデジタル化が進む中、複合機のスキャン需要やプリント出力のセキュリティ対応、ドキュメント管理支援等のオフィスソリューションのニーズが増加すると予想されます。これにより、プリント出力にオフィスソリューションを組み合わせた新たなサービスやソリューションを提供する機会が広がるものと予想しております。

 ●対応策

 当社グループでは、複合機を活用したスキャンサービスやドキュメントマネジメントサービスの拡大を中心に、多様化する顧客ニーズとオフィスにおけるプリント出力機会の減少リスクに対応する取組を進めております。

 また、プリント出力契約においては、顧客における請求管理、支払い業務、予算管理の簡素化を図るため、米国を中心に当社独自のワンレートサービス契約(注)を提供し、好評を博しております。今後は、同契約のさらなる拡大や他地域展開に加え、リモートサービス推進によるサービス効率化・省人化の加速、物価上昇に応じた価格対応、インド等のプリント出力機会に成長余力のある国や地域におけるカラー複合機の設置拡大等を通じて、プリント出力減少の環境下でも安定的な利益創出が可能な体制を構築してまいります。

 

(注)複合機のハードウェア・消耗品・プリント管理・セキュリティ対策を含むサービスを一括提供し、定額の月額課金サブスクリプションモデルにすることにより、顧客の運用管理及び導入コストの削減を図る契約形態

 

 

 

2)各国・各地域の規制

発生可能性:高

発生する可能性のある時期:1年以内

影響度:中

 ●リスク

 当社グループの事業活動の多くの部分は、北米、欧州及びアジア諸国といった日本国外で行われており、その国や地域固有の法制、規制や承認手続きの影響を受けております。米国による各国に対する相互関税の賦課及び各国の対応、特に米中間での技術輸出規制等の経済措置の動向には常に十分な注意を払っておりますが、将来、各国の政府や国際的枠組による規制、例えば税制、輸出入規制、通貨規制、個人情報保護規制、デジタル関税、その他各種規則等が新規に導入される、又は変更された場合には、これらに対応するための費用が発生し、事業活動に支障をきたす可能性があります。特に、個人情報規制や生成AI規制については、巨大IT企業でのターゲティング広告への規制法案、欧州GDPR、欧州AI規制法等、各国で法制化、罰則が強化され、当社で推進している関連事業への影響が高くなります。

 さらに、主要国における予期せぬ戦争状態等の発生により、それに対する各国の制裁措置が発動された場合、当社グループが予期しない法制、規制や承認手続き等の変更に直面するリスクがあります。

 また、特に、当社グループの画像ソリューション事業のヘルスケアユニットでは、事業活動を行っている各国の様々な医療制度や許認可の手続きの影響を受けております。医療制度改革等によって、予測できない大規模な医療行政の方針変更が行われ、その環境変化に速やかに対応できない場合、当社グループの経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 ●機会

 新制度導入や制度改定による市場参入要件の新設・変更に迅速に対応することで、当社にとって販売機会創出あるいは事業継続強化の可能性があります。特に、環境法規制への対応、個人情報保護や情報セキュリティに関する規制への対応は、当社が強みとする環境経営やITサービス・ソリューションに追い風になるものと認識し、対応を進めております。

 また、画像ソリューション事業のヘルスケアユニットでは、各国医療政策の情報収集、専門学会等との連携により対応を行なっております。医療政策による先端技術の導入は新たな市場創出につながります。

 ●対応策

 各国・各地域の法律・規制の動向、及び地政学リスクの変化には、常に十分な注意を払い、情報の収集に努めております。各地域の法務担当者と連携し、海外各地域の実情を把握し、必要に応じ、弁護士・コンサルタント等、専門機関の協力を得て、国あるいは地域ごとにリスクを判断し、対策を講じております。

 画像ソリューション事業のヘルスケアユニットにおいては、近年、診断力向上や医師の負担軽減に役立つAIを用いた画像診断の利用が、新型コロナウイルス感染症をきっかけに増大しております。当社グループは、各国の医療政策に応じた対応を進め、最先端の医療サービス実装に向けた取組を進めてまいります。

 

 

 

3)次世代技術変化

発生可能性:中

発生する可能性のある時期:3年以内

影響度:中

 ●リスク

 生成AIの急速な普及や環境法規制等のグローバル規模での中長期トレンドの進行に伴い、事業環境が大きく変貌するリスクがあります。これらの変化の中で、他社に先んじた技術革新は当社グループにとって重要な競争優位の源泉ですが、競合他社が先行して類似技術や代替技術を開発し事業活用する可能性があります。また、グローバルかつ広範な視点で競争優位になり得る革新的技術を開発対象として見定め、迅速・柔軟に市場に提供できなければ、長期にわたり市場でのポジションを喪失する等、当社グループの経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 ●機会

 中長期トレンドの変化は業界における企業間の競争優位性に大きな影響を持つことが予想され、新規市場への参入機会を生む場合があります。その中で、他社に先んじた技術革新による競争優位性の獲得のためにデジタル技術を駆使した開発の高速化が不可避であり、これに適応することで開発・生産が効率化されると考えられます。特にデジタル技術の変化については、生成AIを積極的に活用することで新たな事業機会を創出する可能性があります。また、競争優位を獲得・維持するために、事業に必要な技術を全て自社で用意するのではなく、オープンイノベーションも積極的に実践し、市場の変化に対して柔軟に対応する能力が欠かせないと認識しております。

 当社グループの技術開発力と、各事業において優れた技術を持つ企業が連携することにより、多様化する顧客課題に対応した解決策を導き出す機会を得ることができると考えております。こうした取組を通して、社会に価値を提供できる企業への変革に取り組んでまいります。

 ●対応策

 当社グループは、広範な技術理解に基づき、材料・光学・微細加工・画像の4分野のコア技術とIoT・AIに代表されるデジタル技術というユニークで幅広い技術ポートフォリオを有しております。研究開発拠点が相互に連携して、幅広い技術横断視点で競争優位を確立するためのコア技術を見定め、マテリアルズ・インフォマティクス等データ駆動型の開発手法を駆使して迅速に製品・サービスを開発してまいります。

 また、すでにコア技術とIoT・AIを融合した「見えないものを見える化する技術」を製品として具現化し、デジタルワークプレイス、プロフェッショナルプリント、インダストリー、画像ソリューションの各事業より顧客へ提供しておりますが、さらに生成AI技術を積極的に活用することにより、新たな顧客価値の提供や業務効率化等の実現を目指して取り組んでまいります。加えて、当社の技術戦略やコア技術資産を外部に積極的に発信し、大学、研究機関、スタートアップ等の幅広いパートナーとの共創活動の強化を進めてまいります。これらの取組により、当社グループは気候変動・デジタル革新に伴う社会課題の解決に向けたイノベーションを起こし、次世代技術変化のもたらすリスクに対応してまいります。

 

 

 

4)新製品への移行

発生可能性:中

発生する可能性のある時期:3年以内

影響度:大

 ●リスク

 当社グループが展開する事業領域では、市場投入されている競合製品・サービスのバージョンアップとの比較、または既存市場の製品やビジネスモデルを非連続的に変革し得る製品・サービスとの比較の2つの観点で、顧客が別の製品・サービスを選択する可能性があり、新製品への移行リスクが常に存在しております。前者は、個別にサービス・機能が追加された場合だけではなく、ユーザー体験自体を変容させるようなサービス・機能が市場投入され、顧客の選定基準が高度化した場合にも起こる可能性があります。後者は、破壊的技術の登場や社会的潮流に起因するビジネスモデルの変革によって引き起こされる可能性があります。

 ●機会

 市場での競争力を維持・拡大するためには、顧客の声に耳を傾け、顧客満足度を向上させていく必要があります。そのためには顧客やパートナー企業と向き合いながら、解決すべき潜在的な課題を深く理解することが重要です。当社グループには、現場に密着した開発姿勢が根付いており、現場を観察しワークフローを洞察することにより潜在的なニーズを抽出できる機会が多くあります。これらの潜在的なニーズを開発にフィードバックすることにより、顧客価値を提供できる製品やサービスを生み出すことが可能になります。

 また、今後予想されるモノづくりの複雑化や環境配慮への社会的要求は、モノづくりにおけるプロセスモニタリングの複雑化を示唆しております。これは、当社のセンシングデバイスを中心としたモニタリング技術にとり新製品投入の機会となり得ると考えております。

 ●対応策

 当社グループは、各事業分野において顧客満足度の継続的な向上を図るとともに、市場変化の激しい状況を考慮し、競合に対して競争力のある新製品やサービスを計画的に市場導入しております。こうした競争力の源泉として、「顧客関係」・「技術の融合」・「多様な人財」という当社の無形資産があります。

 「顧客関係」を起点とした新製品開発の例として、デジタル印刷機の自動品質最適化ユニット「IQ-501(インテリジェントクオリティオプティマイザー)」では、従来印刷現場のオペレーターが時間をかけて行っていた細かな調整作業に着目し、この工程を自動化し再現性を高めることにより、顧客の生産性向上に貢献しました。偏光板用新世代光学フィルム「SANUQI(サヌキ)」では、偏光板メーカーの現場に入ることにより、新たな生産課題を発見し、課題対策を新材料の機能設計に落とし込み具現化した製品を顧客へ提供しております。「技術の融合」を起点とした新製品開発の例として、画像ソリューション事業のヘルスケアユニットでは、X線動画像の撮影に、高度な画像解析AI技術を適応させることで、従来のX線静止画では得られなかった、生体内の組織の動きの情報を診断情報として取得することができる高付加価値なイメージング解析を実現しました。簡便に高度な診療を可能とする製品・サービスの提供を可能にしております。

 また、先端技術の獲得と既存技術との融合を目的とし、大学や研究機関等のパートナー連携を積極的に行い、研究開発体制の構築に取り組んでおります。例えば、世界中からAIの研究人材が集結しているトロント大学と、2020年9月より画像AI技術の応用システムに関する共同研究を実施しており、画像AIの処理性能向上や製造品質管理へのAI活用、分散システムにおけるAI活用時のデータ処理性能向上につながる技術獲得を行いました。多種多様なセンシングデバイスで取得した大量データのAI処理技術で、環境負荷を低減する材料開発や製造工程の無人化実現を目指す「AI強化センシング」への取組に注力しております。

 社会的潮流を踏まえた取組として、循環型社会の実現に向けた再生プラスチックの高度化を実践しております。再生プラスチックに高い機能性を付与してアップグレードリサイクルし、複合機をはじめとするきょう体表面に採用するほか、社外製品への展開もしております。また、生成AI市場の急速な拡大により、演算処理能力の高い半導体に対する需要は今後も増加が見込まれております。半導体製造の多様化や市場拡大を機会と捉え、半導体製造装置用光学製品の提供と先端技術の開発に注力しております。加えて、将来予想される環境対応型モノづくりにおいて市場が形成された際、迅速に製品の市場投入ができるよう、バイオものづくり領域におけるプロセスモニタリングに関する研究開発も、社会実装に向けて、外部機関と連携し実施する等の取組を行っております。これらの施策を通じて、製品のバージョンアップ並びに革新的製品の創出を両立し、当社グループの持続的な事業運営とイノベーションの創出に尽力してまいります。

 

 

 

5)他社との協業、企業買収等について

発生可能性:中

発生する可能性のある時期:特定時期なし

影響度:中

 ●リスク

 当社グループは、事業競争力の強化あるいは効率化の観点から、他社との協業、資本提携・企業買収、譲渡等を進めております。

 企業買収等に伴い、のれん及び無形資産を計上しており、定期的に減損テストを実施しております。事業環境の変化に伴い、買収対象会社にかかる将来キャッシュ・フローの低下が見込まれた場合等では、減損損失を認識する可能性があり、当社グループの経営成績及び財政状況に悪影響を及ぼす可能性があります。

 ●機会

 当社グループが実施する他社との協業や企業買収、譲渡等は、イノベーションの加速による社会課題解決への貢献や、事業競争力強化や効率化を目的とするものであり、事業ポートフォリオ強化にとって有効な手段であると考えております。激しい市場・競争環境の変化の中、双方が有する技術・製品・顧客基盤・人財等の経営資源を積極的に有効活用していくことにより、持続的な事業成長の機会が得られると認識しております。

 ●対応策

 当社グループは、他社との協業や企業買収等に際して、当社との戦略的適合性、計画の蓋然性、投資額の妥当性、リスク対応等の観点から投資評価を行ったうえで、投資の可否を見極めております。具体的には、投資回収期間及び投資額等の妥当性判断のため、投下資本に対する期待収益指標として事業別のハードルレート及び中期経営計画ごとの全社加重平均資本コストを基準の一つとして設定しております。また、投資実施後のモニタリングとして定期的に投資レビューを実施し、上記の加重平均資本コスト及びハードルレートの達成状況に加え、収益性、市場成長等の観点から案件ごとの当社企業価値への貢献状況を見極め、投資時点の計画からの変化に対する迅速な対応を講じられるようにしております。

 加えて、事業単位でのレビューも定期的に実施することで、必要に応じて事業ポートフォリオにおける選択と集中を図れるようにしております。

 

 

 

6)生産・調達等

発生可能性:中 →

発生する可能性のある時期:1年以内

影響度:中 →

 ●リスク

 当社グループの主力事業であるデジタルワークプレイス事業、プロフェッショナルプリント事業及びインダストリー事業では、コスト競争力強化と市場への迅速な製品供給のために海外及び日本での生産活動を継続しております。グローバルに生産活動を行う中で、法規制や労務政策変更、輸出入規制や税制、環境規制の変更、紛争等の地政学リスク等、予測困難な事態が発生する可能性が高まっております。特に米国は、相互関税等の関税政策により、コスト悪化につながるリスクが顕在化しております。また、欧州情勢や中東情勢等の影響も含め、部品・原材料価格や原油価格・エネルギー価格の急激な変動や物流障害が発生するリスクも増大しております。これらの要因により生産コストが上昇する場合、当社グループの経営成績及び成長戦略に悪影響を及ぼす可能性があります。

 当社グループは、特定の製品・部品や材料、エネルギー等を世界中のサプライヤーから調達しておりますが、サプライヤーにおける不測の事態や自然災害、さらには労働争議や地政学リスク等により供給が途絶・遅延した場合には、生産及び供給能力に大きな影響を及ぼす可能性があります。

 また、当社グループの生産活動において使用する鉄やアルミニウム等の金属製品、原油を原料とする石油化学製品、レアアース等の希少天然資源等の原材料価格、及びエネルギー価格の高騰は当社グループの経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 ●機会

 デジタルワークプレイス事業、プロフェッショナルプリント事業では、調達及びトナー領域において他社との協業・アライアンスによりレジリエンス力を高め、グローバル競争力の強化・安定供給、さらなる事業強化を図ることで持続的な事業成長の機会が得られると認識しております。

 ●対応策

 当社グループは、生産に関するリスクへの備え及び流動的な事業環境の変化に対する柔軟性を高めるため、日本・中国・マレーシアにおける製品組立の生産拠点を強化しております。特に近年は、サプライチェーン上のリスクが増大していることを受け、東南アジア諸国連合(ASEAN)と日本での生産比率を高める活動にも注力しております。これにより、複数拠点による分散と相互バックアップ体制を強化し、供給の安定性を確保してまいります。また、部品生産及び印刷用トナーの充填を行う拠点として欧州・北米にも生産拠点を展開し、需要変動への迅速な対応や消費地生産によるコスト競争力の維持を図っております。

 調達面では、主力調達地域である日本・中国・ベトナム・タイ・マレーシアに、規制・制限・経済動向等の情報収集を行う専門部門を配置し、各地域のサプライヤーとの協業を通じて品質・生産性向上とコスト競争力を高める活動を推進しております。具体的には、サプライヤーとの品質改善活動や生産工程の自動化技術の導入支援、DX支援等を進めることで、主要な原材料・電子部品における品質・供給・コスト競争力を継続的に維持・向上させております。さらに、他社との協業・アライアンスによる調達基盤の強化や、新規サプライヤーの開拓、代替部品や材料の評価・検討を実施することで、関税リスクや地政学リスクへの対応力を高めております。

 BCP管理体制については、開発・品質保証・調達・生産各部門が連携する体制を強化し、サプライヤーの材料調達状況、生産稼働状況、物流状況を迅速かつ的確に把握することで早期の意思決定を行い、問題発生時の被害を可能な限り抑制しております。特に、米国の関税政策がもたらす供給網への影響を注視し、代替品の評価・検証から生産投入までのプロセスを最優先課題として対応することにより、当社グループの事業活動に及ぶリスクの最小化に取り組んでおります。

 

 

 

7)グローバルサプライチェーン

発生可能性:高

発生する可能性のある時期:1年以内

影響度:大

 ●リスク

 当社グループの生産、販売活動の多くは日本国外で行われており、サプライチェーンもグローバルに展開しております。各国・各地域の物流上の問題が当社グループのグローバルサプライチェーン全体に波及し、供給遅延により当社グループの経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 当社グループは中国・ASEANにおける生産が多く、その拠点からグローバルに供給を行っております。中国・ASEAN各国で新たな感染症のパンデミック等による活動制限が発生した場合、港湾・空港での荷役作業の停滞・混雑により物流が滞り、販売拠点への供給に大きなリスクを及ぼす可能性があります。

 また、製品の輸出先である欧米主要国では、主要各港での港湾労使交渉の長期化・決裂によるストライキの発生や、スエズ運河航行制限(喜望峰ルートへの迂回)の影響による供給リードタイム延伸とコンテナ輸送費上昇の長期化、及び米国の関税政策、中国建造船への入港料課徴施策によるコンテナ船の船腹供給と輸送需要のバランス悪化・輸送費上昇等により、販売拠点における在庫不足の発生によって顧客への納品遅延による売上機会損失等、当社グループの経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 日本国内においては、2024年の働き方改革関連法の施行に伴うドライバー不足の深刻化により、供給リードタイムの延伸や物流コストの上昇リスクが顕在化し、当社グループの経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 ●対応策

 当社グループの主力事業であるデジタルワークプレイス事業やプロフェッショナルプリント事業では、物流実態に応じた販売拠点の在庫見通しシミュレーションを適宜実施しております。将来の在庫見通しに応じて、各地域への供給量の振り分け、環境の変化に即した適正な販売拠点における安全在庫の確保、物流ルートの柔軟な変更等を適宜実施することにより、販売への影響を回避しております。

 中国・ASEANの港湾課題については、新規フォワーディング会社のサービス利用や通常輸出港以外の代替港利用も含めてフレキシビリティを確保し、課題発生時には、生産拠点からの貨物の優先付けを行うことで、出港地側での供給リスク回避・低減に努めております。

 海上輸送については、従来取引がある主要フォワーダーとのコミュニケーション・情報連携を強化し、コンテナ船のスペースを安定的、かつ柔軟に確保しつつ、コンテナ輸送単価の上昇幅を最小限に留める交渉・調整に努めております。特に、欧州航路においては、イスラエル・パレスチナ情勢に注視しながら、喜望峰迂回ルートによる延伸日数影響を踏まえた適切な供給調整を図り、欧州販売拠点での販売に与える影響や、物流コスト増加による影響を最小化しております。北米航路においても、米国の関税政策の動向に注視しながら、適宜最適な供給調整を図っております。また、日本国内においては、物流委託パートナー業者とともに「2024年問題」による課題へ継続的に最優先で取り組み、運搬できないというリスクを回避・低減しつつ、配送効率化施策等を積み上げ、物流コスト上昇の影響の吸収・最小化を図っております。

 当社グループでは、必要なものを必要な時に必要なだけ必要なところへ供給できる、柔軟な物流体制を構築し、引き続き、顧客の満足度向上に努めてまいります。

 

 

 

8)製造物・品質責任

発生可能性:低

発生する可能性のある時期:特定時期なし

影響度:中

 ●リスク

 当社グループは、国内外のグループ会社や生産委託先において厳格な品質保証体制を構築し、顧客に対して高い性能と信頼性を備えた製品及びサービスを提供しております。万が一、当社グループの製品あるいはサービスに欠陥が発生した場合、その欠陥に起因した損害に対して当社グループは賠償責任を負う可能性があり、また、その欠陥に対して多大な対策費用が発生する可能性があります。さらに、当該問題により、企業ブランドや製品ブランドが毀損され経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 ●対応策

 重大品質問題を起こさない仕組み・取組として、品質に関する責任と権限を担う執行役又は執行役員を議長とする「品質保証責任者会議」を設置し、グループ全体の品質マネジメントを統括しております。品質に起因するリスクの極小化と顧客満足度向上に向けた方針・計画の推進・進捗確認、情報共有及び是正・改善に取り組んでおります。さらに、各事業では、品質課題についてPDCAサイクルを徹底することで継続的な品質向上に取り組んでおります。

 製品品質にかかわる問題が発生した場合は、当社グループ統一の「市場品質速報データベース」に情報を登録することが義務付けられており、登録された情報は即座に品質を担当する役員と事業責任者へ伝達され、関連部門で共有、必要な対策・情報開示が迅速に行えるようになっております。また、過去に発生した品質問題に対し、原因の解析、対策の実施及び技術・評価基準への反映を行い、再発防止に努めております。さらに、法的基準よりも厳しい独自の製品安全基準を設け、製品の様々な箇所について詳細に規定し確認を行っております。これらの施策をより確実に実施するため、「製品安全教育」をグループ内に展開し、品質マインドの定着に努めております。

 また、デジタル社会の進展や新たな技術の進化により、当社が提供する製品やサービスにおいて、セキュリティの脅威にお客様を晒すリスクを持つ可能性があります。当社グループでは、リスクの極小化に向け、サービス事業及びセキュリティ対応に関連する社内規程の運用を強化しております。製品セキュリティ事故発生時の対応と脆弱性への対策・予防として、製品の脆弱性に関する情報を全社で一元管理し必要な対応を推進するとともに、公的機関等とも連携するための全社共通組織として「KONICA MINOLTA PSIRT(注)」活動を展開しております。加えて、AIを活用した製品・サービスの販売も増えており、AIガバナンス体制を構築し、リスクアセスメントの実施と社内外のAI有識者から構成する「AI倫理審査委員会」での審議等により、AI利活用における倫理的・法的な問題発生リスクの低減に努めております。

 さらに、品質コンプライアンス遵守強化に向けては、品質不正のみならず、法規制、認証、契約等の不遵守防止に向けて、ガバナンスの強化を図っております。組織の定期診断や品質従事者に向けた意識調査をもとに、改善活動のPDCAを回すことにより、リスク低減を行うほか、階層別教育や啓蒙により定期的に品質意識の醸成を図っております。

 

(注)KONICA MINOLTA PSIRT (Product Security Incident Response Team)、当社グループにおける製品脆弱性

対応チーム

 

 

③その他のリスク

1)人権

発生可能性:中 →

発生する可能性のある時期:特定時期なし

影響度:中

 ●リスク

 当社グループはグローバルに事業を展開している一方で、東南アジアに多くの部品・材料の取引先があり、サプライチェーン全体での人権が十分尊重されず、児童労働や強制労働等の人権に関する負の影響が発生する可能性があります。その場合、ブランドイメージの毀損等の社会的批判を受け、投資家からの信頼喪失による株価の下落、顧客からの要求に適合できないことによる販売機会の喪失等、経営成績への悪影響を及ぼす可能性があります。

 また、国連人権理事会における「ビジネスと人権に関する指導原則(UNGPs)」の採択に基づき、各国で人権尊重に関する法整備が進んでおります。例えば、米国のウイグル強制労働防止法、ドイツのサプライチェーンにおける企業のデュー・デリジェンス義務に関する法律に加えて、2024年はEUにおいて企業持続性デュー・デリジェンス指令(CSDDD)や強制労働製品禁止規則の施行が決まる等、各国における法規制の強化が加速しております。これらに適合できない場合、輸入禁止や高額な罰金の対象になるおそれがあります。

 ●機会

 各国で政府調達要件や製品ラベルの取得要件に、人権デュー・デリジェンスの実施や社会的責任監査の受審等の人権リスクに関する項目を追加する動きが加速しており、これに対応することは当社グループにとって販売機会の創出につながると考えております。

 また、人権尊重の取組を通じてサプライチェーンにおける労働条件や作業環境の改善を進めることで、従業員の満足度を向上させ、エンゲージメントを高める効果が期待できます。その結果、生産性や品質の向上、離職率の低下等につながり、サプライチェーン全体の競争力の向上や持続的な成長が実現すると考えております。

 ●対応策

 当社グループは、グローバルに事業を展開する企業として、コニカミノルタグループ行動憲章、コニカミノルタグループ人権方針、コニカミノルタサプライチェーン行動規範において、事業活動における最も基本的な要件の一つとして人権尊重を規定しております。また、これらの方針に基づき人権デュー・デリジェンスを実施し、人権尊重に努めるとともに当社グループの事業に関連するビジネスパートナーやその他の関係者に対しても、人権の尊重を求めております。こうした活動では国連グローバル・コンパクト(UNGC)、レスポンシブル・ビジネス・アライアンス(RBA)行動規範等、グローバルに認知された団体の活動理念を反映させております。

 具体的な手順としては、UNGPsの人権デュー・デリジェンスの考えに基づき、潜在的又は顕在的に負の影響を受けるステークホルダーとその人権課題を抽出し影響度を評価することで、特に優先度が高いと思われる人権課題を特定しております。例えば、サプライチェーン(地域住民、先住民を含む)上の強制労働、児童労働、安全衛生等の人権課題に対して、重要取引先に対する「コニカミノルタCSR調達推進プログラム(注1)」の展開をはじめ、経済協力開発機構(OECD)によるガイダンス(注2)に基づく責任ある鉱物調達への対応をグループ全体で推進する体制を構築し、負の影響の防止又は軽減に取り組んでおります。

 人権デュー・デリジェンスを通じて人権侵害の可能性が発見された場合、又は社内外から人権侵害の申し立てが発生した場合には、ステークホルダーとの真摯な対話と速やかな調査を実行してまいります。その結果、人権に対する負の影響を直接的に引き起こしている場合(Cause)、直接的又は間接的に助長している場合(Contribute)、取引関係を通じて人権への負の影響と直接関連している場合(Directly Linked)は、社内外のしかるべき手続きを通じて是正策を講じてまいります。

 

(注1)下記の手順にてサプライチェーンのリスクの発見、改善、予防に取り組んでおります。

1.全ての取引先に対して、当社グループが定める「コニカミノルタ調達方針」、「コニカミノルタサプラ イチェーン行動規範」及び「コニカミノルタ責任ある鉱物調達方針」の遵守を要請し、書面での合意を得ております。さらに上流の取引先にも、直接の取引先を通じて要請を依頼しております。

2.当社グループの全生産拠点、及び取引金額やESGリスクの大きさより選定した重要取引先に対して自己評価質問票(SAQ)を実施。リスクが高い結果となった拠点に対して是正指導を実施しております。

3.自主的な改善が難しい場合は、必要に応じてオンサイト監査を実施し、第三者視点を入れた改善提案を実施しております。

4.社内関係者及び取引先のキャパシティビルディングのため、潜在的なリスク予防のための教育や、顕在化リスクに対する是正指導を実施しております。

(注2)責任ある企業行動のためのOECDデュー・ディリジェンス・ガイダンス

 

 

 

2)大地震・自然災害・感染症等

発生可能性:中

発生する可能性のある時期:特定時期なし

影響度:大

 ●リスク

 当社グループは、研究開発・調達・生産・販売等の拠点を世界各国に置き、グローバルに事業活動を展開しております。地震・火災・気候変動に伴う大規模な台風・洪水・森林火災等の災害、大規模な感染症の発生、また戦争・テロ行為・サイバー攻撃等が起こった場合、当社グループの設備等が被害を受け、一時的に操業が停止し生産及び出荷の遅れにより、当社グループの経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 特に、首都直下、南海トラフ等における巨大地震の発生においては、想定を超えた規模で被害が発生する可能性があり得ると考えられます。

 当社グループは、防災対策や事業継続マネジメントを今後も継続して推進してまいりますが、このような事態が発生した場合、機能停止、設備の損壊、電力・水・ガス等の供給停止、公共交通機関や通信手段の停止、サプライチェーンへの被害等による顧客へのサービスの提供や製品出荷の停止等、当社グループの事業活動の継続に影響を及ぼす可能性があります。

 ●対応策

 当社グループは、災害や、感染症の発生、戦争・テロ行為・サイバー攻撃等が起こった場合の情報を、危機管理担当役員が集中管理し、従業員の安全を最優先として適切な対応をとる体制を構築しております。

 巨大地震をはじめとした日本国内での災害に対しては防災中期計画に基づき、予防・減災対策、応急対策・初動対応、復旧・復興対策の観点でハード・ソフト両面からの対応実践力の強化を図っております。具体的には建物の耐震対策、通信・データ関連の主要サーバーの海外設置、安否確認システム・防災情報収集システム等のITによる被災時情報共有基盤の整備等の対策を講じております。大規模災害時には国内に有する約200のグループ拠点について緊急時の情報ネットワークを構築し、被害情報の迅速な収集と、必要な支援や対策を実施できる体制を構築しております。さらに、各拠点で従業員が災害時に命を守るための自律的行動をとれるよう、定期的に実践的な防災訓練や教育を実施するとともに、働き方の変化に対応すべく、ITツールを活用し、リモートワーク時においても防災体制が機能するよう整備しております。

 また、当社グループでは、事業を継続し企業としての社会的責任を遂行するとともに、顧客が必要とする製品やサービスを安定的に供給するために、主要消耗品の生産拠点の分散化によるリスクの低減、調達リスクの高い品目については代替手段の検討、在庫の確保等、対応策の有効性の確認と改善を図っております。各拠点においては、地域の自治体と連携し、自然災害発生時の避難場所や飲料水及び物資の提供等、地域貢献にも努めております。

 

 

 

3)気候変動・環境規制

発生可能性:中

発生する可能性のある時期:特定時期なし

影響度:中

 ●リスク

 世界全体が低炭素社会へ移行した場合、環境関連の法規制が厳格化するおそれがあり、追加的義務及び費用が発生する可能性があります。ステークホルダーからの再生可能エネルギー調達及び温室効果ガス排出ネットゼロの要求が高まることにより、投融資を受ける機会及び販売機会の逸失、企業ブランドの低下につながる可能性があります。また、オフィスにおける紙への出力の減少、化石燃料や化石資源の代替化による製造・調達コストの増加等も当社グループの経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 一方、世界各地で気候変動による物理的影響が顕在化した場合、森林火災の頻発化や水ストレスの高い地域での大規模な干ばつ発生により、セルロース原材料の調達が不安定になり事業機会の損失につながる可能性があります。また、大規模又は局地的な風水害が発現すると、原材料等の供給量が制限又は一時停止することで、当社グループの拠点及びサプライヤーで一時的に操業が停止し、生産及び出荷が遅延する可能性があります。

 加えて、大気汚染、水質汚染、有害物質の除去、廃棄物処理、製品含有化学物質、製品リサイクル、容器包装、土壌・地下水汚染等に関する様々な環境法及び規則の適用を受けており、それらの遵守のために必要な経営資源を投入しておりますが、現在及び過去の生産活動、及び開発・販売活動にかかわる環境責任に伴う費用負担や賠償責任が発生する可能性があります。

 

気候変動に関するリスクの詳細は、「第2 事業の状況 2 サステナビリティに関する考え方及び取組」に記載しております。

 ●機会

 低炭素社会への移行が加速した社会では、顧客の気候変動に関する課題の解決に貢献することで、事業機会につながる可能性があります。当社グループが培ってきた画像技術とAI技術を融合させ、社会・顧客の移行計画の実現へ貢献する新たなサービスやソリューションを提供することで、売上増大を図ることが期待できます。

 短期から中期的には、印刷産業及びアパレル産業のサプライチェーンを変革するデジタルソリューション、製品のカーボンフットプリントを低減した機能材料、使用済みプラスチックの分別性・リサイクル率向上に貢献する材料技術やセンシング技術、インクジェット技術による生産プロセスの変革、メタンガスの漏えいの早期発見と排出量の削減に貢献できるガス漏えい検査システムを提供してまいります。

 中長期的には、バイオものづくり、再生プラスチック技術等の成長の芽を全社強化テーマとして掲げ、成長基盤の確立を目指してまいります。

 一方で、気候変動の影響が発現する場合においても、事業機会を生み出す可能性があると考えております。

 中期的には、異常気象・自然災害への防災・減災に貢献するセンシングソリューション、災害医療現場で活用できる画像診断ソリューション等、社会の新たな需要を取り込むことができると考えております。

 当社グループでは、こうした社会課題の解決に直結した事業を強化しております。

 ●対応策

 リスク低減策としては、当社グループでは生産工程の効率化を徹底して追求するとともに、生産技術の開発・改善を進め、CO2排出削減とコストダウンを同時に実現する「グリーンファクトリー活動」を推進しております。また、自ら培った省エネ技術・ノウハウをデジタル化して提供し、サプライヤーと一体となりエネルギー削減に取り組む「カーボンニュートラルパートナー活動」を通じて、サプライチェーン全体でのエネルギーコスト削減とCO2排出削減の最大化を目指しております。加えて、再生可能エネルギー100%での事業運営を目指し、国際リーダーイニシアチブ「RE100」に加盟しております。

 気候変動による物理的影響が顕在化した場合への適応策として、原材料の供給ルートを粗原料まで遡り把握し、安定供給リスクが高い原材料は、調達先の複数確保や代替材料の検討に取り組んでおります。また、デジタルワークプレイス事業・プロフェッショナルプリント事業では、消耗品として供給する部品生産並びに印刷用トナーの生産及び充填を行う当社グループの生産拠点を、日本、欧州、北米に展開し、消費地で供給できるレジリエンスの高いサプライチェーン体制を確保するよう努めております。

 機会最大化の仕組みとして、グリーンプロダクツを創出し、事業企画や商品企画の段階で気候変動の課題解決への貢献を最大化してまいります。

 

「第2 事業の状況 2 サステナビリティに関する考え方及び取組」に関連事項を記載しております。

 

 

4)知的財産権

発生可能性:低

発生する可能性のある時期:特定時期なし

影響度:小

 ●リスク

 当社グループは、製品やサービスの開発の中で多くの技術あるいはノウハウを蓄積し、それらを保護するための知的財産権の取得に努めております。しかしながら、一部の地域・国では、知的財産権を保護する制度やその適正な運用が不十分な場合があり、第三者が当社グループの知的財産権を使用して類似製品を製造、販売することを防止できない可能性があります。

 また、当社グループでは他社の権利を侵害しないように製品等の開発を進めておりますが、見解の相違等により他社の知的財産権を侵害しているとされ、製品等の開発や販売に支障をきたす可能性や多額の損害賠償責任を負う可能性があります。さらに、現在当社グループがライセンスを受けている第三者の知的財産権の使用が将来差し止められる、あるいは不当な条件に変更される可能性があります。

 ●機会

 当社グループの事業、製品、サービス等により提供される顧客価値の源泉となる当社独自のビジネスモデル、技術、データ等の知的財産について、特許権等の知的財産権の取得、不正競争防止法によるノウハウ・データの保護要件を満たす管理等、その特性に応じた適切な保護・活用を行うことにより、知的財産を当社グループの持続的な競争優位性の維持、成長のドライバーとしております。なお、各国の産業構造や事業ライフサイクルに鑑み、当社で事業継続するよりも他社で事業化又は事業強化した方がよい場合は、当該事業に関連する特許権等の知的財産権を他社に譲渡又はライセンス供与することにより、産業界全体への貢献及び当社の収益向上を図っております。

 さらに、知的財産による社会貢献にも積極的に取り組み、世界知的所有権機関(WIPO)が運営する持続可能な社会の実現を目指す技術移転のための国際的なプラットフォーム「WIPO GREEN」にパートナー企業として参画し、環境技術関連特許群をWIPO GREENに登録することでSDGsの推進に知的財産面から貢献しております。

 ●対応策

 当社グループは、技術等を保護する知的財産権(例えば特許権)を適切に取得・執行することが困難な国・地域においては、商標権等に基づいて、行政機関と協力し模倣品の押収や輸入差し止めを行う、運営業者と連携し模倣品取扱業者の電子商取引(EC)サイトへの出店差し止めを行う等、様々な方法により類似製品の流通阻止に努めております。

 他社の知的財産権に関しては、製品開発の各フェーズにおいて入念な調査・確認を実施し、他社の知的財産権を侵害していないことを商品化の要件としております。万が一、見解の相違等により他社から知的財産権の侵害を指摘された場合やライセンス条件の変更等の事態に備え、非侵害の主張やライセンス条件等の交渉・訴訟対応を行うための専門人財を当社知的財産部門に配置するとともに、経験豊富な国内外の弁護士と連携し、事案の内容に応じて適切に対応する体制を整えております。

 これらのリスク対応に加え、知的財産が競争優位性の維持・強化の有効なツールであるとの認識に基づき、当社グループの持続的な事業成長を知的財産面から推進するため、各事業の特性や事業ポートフォリオ上の位置付けに対応して事業ごとに知財戦略を構築し、戦略に沿った知財投資及び知財活動を実行しております。

 また、これらの知財戦略構築や知財活動の実効性を高めるため、専門性の高い人財育成のための戦略と施策を策定・実行し、専門知識・スキルとビジネスセンスを兼ね備えたプロ人財の育成に努めております。

 

 

5)人財確保

発生可能性:中

発生する可能性のある時期:3年以内

影響度:大

 ●リスク

 当社グループの新規事業を中心とした将来的な成長には、優秀な人財の継続的な獲得が欠かせないと認識しております。特に、データサイエンティスト等の先端技術人財は、当社事業の競合企業のみならず金融・サービス等、業界を超え、グローバルレベルで獲得上のコンペティターが多く存在しております。

 当社でも雇用環境の整備や採用部門の強化を図っておりますが、会社の魅力や働くことの付加価値への訴求に対する重要性が増しており、多様な働き方のニーズへの適合や、従業員が成長できる環境をアピールできない場合は、人財確保がより困難になる可能性があります。

 ●機会

 当社グループは、様々な製品やサービスを創り出しており、多様な技術領域を有しております。また、BtoBビジネスを営む中で豊富な「データ」を蓄積しております。このデータを活用して、製品とサービスとの組合せ、材料技術とデータとの組合せ等、様々な組合せからなる「形」を無限に創り出せる可能性に魅力を感じる人財は、マーケットに多く存在していると考えております。

 また、当社グループが有する豊富な顧客データは、その存在そのものが、当社グループのデータビジネス展開を有利に進める基盤となっており、データ分析に魅力を感じる優秀な人財を獲得できる機会につながると考えております。

 さらに、副業やリモートワーク、コア時間のない裁量労働等、従業員に柔軟な働き方を認めている点も、当社グループの魅力として訴求できる点になります。

 ●対応策

 先端技術人財の獲得にあたり、データサイエンスやAI開発、アーキテクチャ開発等、複数の長期インターンシップを実施しております。この中で、社内研究開発のテーマに取り組みジョブマッチングを向上させるとともに、当社の持つ魅力を対象者に体感いただくことを通じて、人財の獲得に成功しております。また、比較的手薄であった関西地区に2020年10月、「Innovation Garden OSAKA Center」を新設し、本格的な拠点展開を図ることにより、関西地区での人財確保を進めております。

 さらに、海外の大学から専門性の高い外国籍のIT人財を10年以上にわたり継続採用しており、2022年度からはベトナムの大学に対するリクルート活動を開始しております。これらの活動は、優秀なエンジニアの獲得につながるとともに、日本人の技術者にも大きな刺激となっております。

 DX人財の育成では、社内におけるDX人財の認定制度を設け、スキルアップに必要な教育プログラムを整備しました。2023年度までに1,000名のIT技術者を育成するという目標を達成し、さらなる活用に向けた人財の配置を行っております。また、当社本体及び国内販売子会社の役員・社員全員に2023年度より年2回のDXアセスメントを実施し、社内全体のITスキルの底上げをしております。

 人事制度の見直しも実施しております。管理職制度を「エキスパート」・「エンパワーメントリーダー」の複線型にし、「エキスパート」にはデータサイエンティストを含めた専門人財のキャリアアップの道筋を明確にしました。一方の「エンパワーメントリーダー」には多様なスキルを有する人財を統括し育てる、より高度なリーダーシップを求めております。

 DX推進による業務環境とプロセスや働き方の急速な変化により、IoT機器の一つとしてドキュメントを扱う複合機の利用方法は顧客により多様化しております。グローバル市場における様々な顧客要望に、より迅速に対応し課題を解決するソリューションを継続的に提供するため、2024年4月、ベトナムの大手IT企業と合弁会社を設立しました。これにより継続的に最先端の人財を確保し、当社の技術を進化させてまいります。

 

 

6)情報セキュリティ

発生可能性:高

発生する可能性のある時期:特定時期なし

影響度:大

 ●リスク

 昨今、企業を狙ったサイバー攻撃の攻撃手法が高度化、巧妙化しており、中でも、ユーザーアカウントのログオン認証を窃盗し、集中管理されている社内ネットワークに侵入し管理者権限を奪取、不正操作を行うといった被害事例が国内外で多数発生しております。また、各種IT機器やソフトウェアの脆弱性をついた攻撃も増えており、このようなサイバー攻撃に対するリスクは拡大しております。

 当社グループにおいても、サイバー攻撃により管理者権限が奪取された場合、不正操作等により、技術、営業秘密、人事等にかかわる当社グループの秘密情報が第三者に漏えいし、不正、売買に使用される等の重大な情報セキュリティインシデントが発生する可能性があります。この場合、当社グループの経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 ●機会

 当社グループは顧客の働き方やセキュリティ対策強化支援も継続的に行っております。IT管理のサービスとしてネットワークやアプリケーションの脆弱性の監視・管理サービス、リスクアセスメントを行うとともに、複合機からの情報漏えいを防止するためのデータの暗号化、パスワード設定やログ管理の機能、設定状況の監視と通知サービスを行う「bizhub(ビズハブ)SECURE」をグローバルに展開しております。

 「bizhub iシリーズ」には、社内ネットワークへのウイルス拡散を防止するため、全ての文書・FAXデータのウイルスをチェックする機能を搭載しております。

 また、米国のIT管理サービスにおいては、セキュリティソリューションを包括的に支援できる体制を用意しております。医療保険の携行性と責任に関する法律(HIPPA)、経済的及び臨床的健全性のための医療情報技術に関する法律(HITECH)、家族の教育の権利とプライバシーに関する法律(FERPA)等の規制に準拠できるような支援も行っております。

 国内では、高度化するIT技術活用のために、設計、導入、保守、運用を顧客にあわせてパッケージ化し、マネジメントIT管理サービスである「IT-Guardians(ITガーディアンズ)」による包括的なセキュリティ対策(多層防御システム)も提供しております。

 これらの機能は継続的に更新を行っており、サイバー攻撃の手法が変化する中においても顧客のセキュリティ対策強化支援を行うことができております。

 ●対応策

 情報セキュリティについて、ネットワークの監視を行い、多様化する攻撃によるサービス停止の早期発見に努めるとともに、定期的にネットワーク侵入テストを実施し、悪用される脆弱性を早期確認する対応を行っております。また、攻撃への備えとして、サイバー保険に加入し、事故発生時の対応フローを整備、当社グループ全体を網羅したセキュリティ推進体制において速やかに対処できるようにしております。

 リモートワーク勤務を行う従業員向けとしてセキュリティに配慮した物理的な勤務環境を提供するために、外部からの不正アクセス防止のための暗号化通信によるセキュアなネットワーク環境と会社支給パソコン以外の会社のネットワーク接続制限を実現しております。情報漏えい等の注意喚起のため従業員への教育等も定期的に行っております。

 さらなる対応強化のため、包括的セキュリティマネジメント体制(Security Management Office)下においてグループ各社に対しグローバルセキュリティ基準を制定し、5地域のIT責任者と連携しながら個社ごとのセキュリティ対応レベルの自己評価とその評価に基づく対策計画の策定・実行を確認するプロセスを運用しております。これらの活動を通じグループ全体のセキュリティレベルの向上を実現しております。

 

 

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

 経営者の視点による当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の概要並びにこれらの状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。

 なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。

 

(1)重要性がある会計方針及び見積り

 当社の連結財務諸表は、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」(昭和51年大蔵省令第28号)第312条の規定により、IFRSに準拠して作成しております。この連結財務諸表の作成にあたり見積りが必要となる事項については、合理的な基準に基づき会計上の見積りを行っております。

 重要性がある会計方針及び見積りについては「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記3 重要性がある会計方針」及び「同 注記5 重要な会計上の見積り及び見積りを伴う判断」に記載のとおりであります。

 

(2)経営成績の状況

 当社は中期経営計画(2023年度‐2025年度)において、収益力を回復し再び持続的な成長軌道に戻すことを目指し、事業の稼ぐ力である事業貢献利益の増大に取組んでおります。また、中期経営計画の中間年度である当連結会計年度(以下「当期」)は、覚悟を持って経営改革を完遂する年と位置づけ、事業の選択と集中及びグローバル構造改革に取り組み、これらを計画どおり完遂しました。

 

 事業の選択と集中においては、2024年4月30日にCalyx Services Inc.へのInvicro, LLCの全持分譲渡及び2025年2月3日にTempus AI, Inc.にAmbry Genetics Corporationの全株式譲渡を完了したことに伴い、当期からプレシジョンメディシン事業を非継続事業に分類し、連結損益計算書上、非継続事業からの利益又は損失は継続事業と区分して表示しており、前連結会計年度(以下「前期」)についても同様に組み替えて表示しております。

 

 当期における当社グループの連結売上高は、為替の影響もあり1兆1,278億円(前期比1.8%増)となりました。事業別の売上高は、前期比でデジタルワークプレイス事業、プロフェッショナルプリント事業、画像ソリューション事業は円安の影響もあり増収となりましたが、インダストリー事業は減収となりました。

 売上総利益は4,794億円(前期比0.9%増)となりました。売上高の増加や主にオフィスユニットの継続的な生産コスト削減をしました。なお、当期の監査において、連結調整における未実現利益消去の計算に関して監査法人から指摘があり、114億円を売上原価として計上しました。

 事業貢献利益は319億円(前期比4.2%減)となりました。グローバル構造改革効果による販売費及び一般管理費の抑制などが寄与しました。事業別では、デジタルワークプレイス事業は増益となりましたが、プロフェッショナルプリント事業は先に述べた連結調整における未実現利益消去の計算の影響により減益となりました。また、インダストリー事業、画像ソリューション事業は、減益となりました。

 前述の経営改革の実行、及びのれんや有形固定資産等の減損損失などの一過性費用を計上したため、営業損失は640億円(前期の営業利益275億円から915億円の減益)となりました。一過性費用には以下が含まれております。

 グローバル構造改革に関わる費用、方向転換事業の選択と集中に関わる費用及び中国生産子会社であるKonica Minolta Business Technologies (WUXI) Co.,Ltd.の生産活動終了に伴う費用等を、事業構造改善費用として216億円(前期は8億円)計上しました。また、当第4四半期連結会計期間(以下、当第4四半期)には、事業の選択と集中としてマーケティングサービスユニットのKonica Minolta Marketing Services Holding Company Limitedの株式譲渡契約、及び画像IoTソリューションユニットのMOBOTIX AGの株式譲渡契約を締結したことに伴い、損失202億円を計上しました。

 当第3四半期連結会計期間には、インダストリー事業のセンシングユニットに属するRadiant Vision Systems, LLC及びInstrument Systems GmbHにおいて、236億円ののれんの減損損失を計上しました。また、インダストリー事業の光学コンポーネントユニットに属するKonica Minolta Opto (Dalian) Co., Ltd.は、持分の80%を広州ラックスビジョンズイノベーションテクノロジー有限会社に譲渡する契約を2023年10月26日付で締結しましたが、クロージングに向けた協議の結果、譲渡対象から外れることとなりました。それに伴い、売却目的保有への分類を中止し、通常の資産及び負債に振り替える過程で回収可能価額まで帳簿価額を減額した結果、有形固定資産等の減損損失を45億円計上しました。

 当第4四半期では、プロフェッショナルプリント事業の産業印刷ユニットにおけるフランスの印刷機器メーカーMGI Digital Technology S.A.ののれん、有形固定資産及び無形資産の減損損失139億円、画像ソリューション事業のヘルスケアユニットにおいて有形固定資産及び無形資産55億円、デジタルワークプレイス事業のDW-DXユニットに属する連結子会社3社においてのれん及び有形固定資産等の減損損失25億円を計上しました。

 これらにより、当期における減損損失は511億円(前期は41億円の減損損失)となりました。

 税引前損失は791億円(前期の税引前利益153億円から944億円の減益)になりました。

 Konica Minolta Holdings U.S.A., Inc.等、連結子会社の繰延税金資産の取り崩しなどを行った結果、法人所得税費用162億円を計上しました。

 Ambry Genetics Corporation全株式のTempus AI, Inc.への譲渡による益、株式譲渡完了に伴う在外営業活動体の為替換算差額の調整による益、及び譲渡価額の一部として取得したTempus AI, Inc.の株式の公正価値評価等による株式譲渡益の調整などにより450億円を非継続事業からの利益として計上しました。

 これらの結果、非継続事業を含めた親会社の所有者に帰属する当期損失は474億円(前期の非継続事業を含めた親会社の所有者に帰属する当期利益45億円から520億円の減益)となりました。

 

 当期から報告セグメントの区分を変更しております。前期比較については、前期の数値を変更後の報告セグメントの区分に組み替え、非継続事業を除いた継続事業の数値で比較分析しております。詳細は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 連結財務諸表注記 6 事業セグメント」に記載しております。

(注)「事業貢献利益」は、売上高から売上原価、販売費及び一般管理費を控除して算出しております。

 

セグメント別の状況は以下のとおりであります。

 

 

前連結会計年度

当連結会計年度

増減

 

 

(自2023.4.1

(自2024.4.1

 

 

 

 

至2024.3.31)

至2025.3.31)

 

 

 

 

億円

億円

億円

デジタルワークプレイス

売上高

6,149

6,163

14

0.2

事業

事業貢献利益

327

357

30

9.4

 

営業利益

329

139

△190

△57.6

プロフェッショナル

売上高

2,633

2,846

212

8.1

プリント事業

事業貢献利益

138

129

△8

△6.0

 

営業利益

116

△131

△248

インダストリー事業

売上高

1,235

1,192

△43

△3.5

 

事業貢献利益

176

140

△35

△20.3

 

営業利益

165

△127

△293

画像ソリューション事業

売上高

1,051

1,069

17

1.7

 

事業貢献利益

△83

△103

△19

 

営業利益

△109

△259

△150

小計

売上高

11,070

11,272

201

1.8

 

事業貢献利益

557

524

△32

△5.9

 

営業利益

502

△379

△882

「その他」及び調整額

売上高

6

6

0

1.5

(注2)

事業貢献利益

△224

△205

18

 

営業利益

△227

△260

△33

連結損益計算書計上額

売上高

11,077

11,278

201

1.8

 

事業貢献利益

333

319

△14

△4.2

 

営業利益

275

△640

△915

(注1)売上高は外部顧客への売上高であります。

(注2)売上高は「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 連結財務諸表注記 6 事業セグメント」に記載の外部顧客への売上高の「その他」、営業利益は同記載のセグメント利益(△は損失)の「その他」と「調整額」の合計であります。

(注3)当連結会計年度から、従来「その他」に含めていたFORXAI及びQOLソリューションをユニットとして独立させ「画像ソリューション事業」に含めております。また、当連結会計年度からプレシジョンメディシン事業を非継続事業に分類し、非継続事業を除いた継続事業の金額を表示しております。前期比較については、前連結会計年度の数値を変更後の報告セグメントの区分に組み替え、非継続事業を除いた継続事業の数値で比較分析しております。

 

①デジタルワークプレイス事業

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 デジタルワークプレイス事業の売上高は、為替の影響もあり6,163億円(前期比0.2%増)となりました。先に述べた連結調整における未実現利益消去の計算の影響がありましたが、オフィスユニットの生産コスト削減の実施、グローバル構造改革に伴う効果や、販売費及び一般管理費の抑制により、事業貢献利益は357億円(前期比9.4%増)となりました。また、グローバル構造改革及び中国生産子会社であるKonica Minolta Business Technologies (WUXI) Co., Ltd.の生産活動終了に伴う一時費用などを計上したため、営業利益は139億円(前期比57.6%減)となりました。

 オフィスユニットは前期比で増収となりました。A3複合機の販売台数は、前期比でカラー機が92%、モノクロ機が98%、全体では94%となり、ハードの売上はやや減収となりました。消耗品やサービスなどのノンハードは、為替影響もあり増収、為替の影響を除くとほぼ前年並みになりました。

 ITサービスなどの提供を中心とするDW-DXユニットは、方向転換事業として位置づけており、当期はユニット内で事業の選択と集中及びグローバル構造改革を進めてきました。特にマネージドITサービスで、収益性に基づき、地域と事業領域の絞り込みを実行した結果、前期比で減収となりました。注力しているビジネスコンテンツ管理や業務プロセス管理を提供するサービスは欧州で好調であり、AIを用いた学習支援サービスや通訳サービスなど自社開発のAI SaaS事業も日本で伸長しました。

 

②プロフェッショナルプリント事業

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 プロフェッショナルプリント事業の売上高は2,846億円(前期比8.1%増)となりました。売上高は増加しましたが、先に述べた連結調整における未実現利益消去の計算の影響により、事業貢献利益は129億円(前期比6.0%減)となりました。一方で、営業損益は当期にグローバル構造改革に伴う一時費用を計上したこと、当第4四半期に産業印刷ユニットにおいてフランスの印刷機器メーカーMGI Digital Technology S.A.の減損損失を計上したこと、マーケティングサービスユニットにおいてKonica Minolta Marketing Services Holding Company Limitedの株式の譲渡契約の締結に伴う損失98億円を計上したことなどにより、営業損失は131億円(前期は116億円の営業利益)となりました。

 プロダクションプリントユニットは前期比で増収となりました。ハードは、地域別では米国で減少、欧州で前年並み、中国とインドなどの地域で増加しました。カラー機の販売台数は101%、モノクロ機は92%、全体では99%となり、ハードの売上は為替の影響もあり増収となりました。特に注力している印刷速度が最も速いヘビープロダクションプリント機(HPP)の販売台数は前期比で118%と伸長、その他のセグメントは総じて前年並みとなりました。また、消耗品やサービスなどのノンハードも増収となりました。地域別では、ノンハード売上は、インドで増加、欧米や中国で前期並みとなりました。

 産業印刷ユニットは前期比で増収となりました。ハードは、テキスタイル印刷、加飾印刷の販売台数は減少したものの、インクジェットデジタル印刷機「AccurioJet(アキュリオジェット)KM-1e」、高速デジタルラベル印刷機「AccurioLabel(アキュリオラベル)400」の販売台数が増加し、全体では増収となりました。ノンハードは、デジタル印刷需要の高まりを背景に、インクジェットデジタル印刷、ラベル印刷、テキスタイル印刷、加飾印刷の全ての領域で増収となりました。

 マーケティングサービスユニットは前期比で増収となりました。プリント調達支援ビジネスは、欧米やアジアでの主要顧客の販売促進活動が活発化し、好調に推移しました。オンデマンドプリントは、韓国での売上が増加しました。

 

③インダストリー事業

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 インダストリー事業の売上高は1,192億円(前期比3.5%減)となりました。事業貢献利益は、IJコンポーネントユニットと光学コンポーネントユニットは増益となったものの、機能材料ユニットは棚卸資産の評価損による売上原価の増加などにより、また、センシングユニットは売上減に伴い売上総利益が減少などにより、それぞれ減益となったため、事業貢献利益は140億円(前期比20.3%減)となりました。上述のようにセンシングユニットにおいてRadiant Vision Systems, LLC及びInstrument Systems GmbHの、また、光学コンポーネントユニットにおいてKonica Minolta Opto (Dalian) Co., Ltd.の減損損失をそれぞれ計上したこと、グローバル構造改革に伴う一時費用を計上したことなどにより、営業損失は127億円(前期は165億円の営業利益)となりました。

 センシングユニットは前期比で減収となりました。光源色向け計測器で顧客のディスプレイ設備投資抑制の影響を受け大手顧客を中心に需要が減速したほか、一部用途向けの競争激化により売上が減少しました。物体色向け計測器は前期並みの売上となり、ハイパースペクトルイメージング技術を応用した計測器は、リサイクル用途を中心に販売が好調に推移し増収となりました。自動車外観検査用の計測器は販売が順調に推移し増収となりました。

 機能材料ユニットは前期比で減収となりました。TVの大型化等によるTAC(トリアセチルセルロース)フィルムからCOP(シクロオレフィンポリマー)フィルムへのシフトが進捗し、COPフィルムであるSANUQI-VAは需要の増加と採用拡大により売上が増加した一方、主力のTACフィルムの売上が減少しました。また、ITデバイス用薄膜フィルムはITデバイス向けパネル市場の停滞により売上が減少、スマートフォン用薄膜フィルムは売上が堅調に推移しました。

 IJコンポーネントユニットは為替の影響もあり前期比で増収となりました。サイングラフィックスプリンター向けヘッド販売は、中国では景気停滞の影響を受け鈍化しましたが、欧米や韓国、インドでは堅調に推移し全体では売上が増加しました。また成長領域である工業用途では段ボール印字用途向けの当社独自の長距離吐出ヘッドを2024年12月に上市するなど新規顧客にアプローチし、アプリケーションの拡大を進めております。

 光学コンポーネントユニットは、市場の回復によりプロジェクタ用レンズの売上が増加したものの、Blu-ray等用のピックアップレンズや交換レンズの売上の減少などにより、前期比で減収となりました。なお、注力する産業用途では半導体製造装置向け製品の需要が増加し、売上が想定を上回り伸長しました。今後の事業拡大に向けた設備の増強と超精密加工の新拠点増設による生産体制強化への取り組みを推進しております。

 

④画像ソリューション事業

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 画像ソリューション事業の売上高は1,069億円(前期比1.7%増)となりました。事業貢献利益は、画像IoTソリューションユニット及び映像ソリューションユニットで増益となったものの、ヘルスケアユニットが中国でのX線フィルム需要の減少や日本の病院の投資抑制継続の影響、先に述べた連結調整における未実現利益消去の計算の影響により103億円の損失(前期は83億円の事業貢献損失)となりました。画像IoTソリューションユニットでMOBOTIX AGの株式譲渡契約を締結したことに伴う損失104億円を計上したことと、ヘルスケアユニットで55億円の減損損失を計上したことにより、営業損失は259億円(前期は109億円の営業損失)となりました。

 ヘルスケアユニットは前期比で減収となりました。Ⅹ線フィルムは中国での需要減少に伴い、売上が減少しました。DR(デジタルラジオグラフィー)の売上は日本で減少しましたが、米国とアジアを中心に伸長し、全体では増加しました。医療ITの販売は日米で好調を維持しました。

 画像IoTソリューションユニットは前期比で増収となりました。欧米での当社販売会社におけるネットワークカメラを組み合わせたビデオソリューション・サービスの売上は堅調に推移しました。また、2023年に買収したシステムインテグレーターであるForce Security Solutions, LLC(本社:米国)は好調を維持しました。

 映像ソリューションユニットは前期比で増収となりました。国内事業におけるプラネタリウム直営館での集客が好調に推移しました。

 

(3)財政状態の状況

 

 

前連結会計年度末

当連結会計年度末

増減

資産合計             (億円)

13,880

12,176

△1,704

負債合計             (億円)

8,346

7,435

△911

資本合計             (億円)

5,533

4,740

△793

親会社の所有者に帰属する持分合計(億円)

5,398

4,631

△766

1株当たり親会社所有者帰属持分    (円)

1,091.68

935.99

△155.69

親会社所有者帰属持分比率     (%)

38.9

38.0

△0.9

 

 当連結会計年度末(以下「当期末」)の資産合計は、前期末比1,704億円(12.3%)減少し1兆2,176億円となりました。これは主に、のれん及び無形資産の減少996億円、現金及び現金同等物の減少372億円、営業債権及びその他の債権の減少298億円、有形固定資産の減少166億円、棚卸資産の減少114億円、売却目的で保有する資産の減少103億円、その他の金融資産の増加340億円、その他の非流動資産の増加66億円によるものであります。

 負債合計については、前期末比911億円(10.9%)減少し7,435億円となりました。これは主に、社債及び借入金の減少833億円、営業債務及びその他の債務の減少231億円、その他の流動負債の減少57億円、引当金の増加157億円、売却目的で保有する資産に直接関連する負債の増加50億円によるものであります。

 資本合計については、前期末比793億円(14.3%)減少し4,740億円となりました。

 親会社の所有者に帰属する持分合計は、前期末比766億円(14.2%)減少し4,631億円となりました。これは主に、親会社の所有者に帰属する当期損失の計上474億円、その他の資本の構成要素(主に在外営業活動体の換算差額)の減少253億円によるものであります。

 これらの結果、1株当たり親会社所有者帰属持分は935.99円となり、親会社所有者帰属持分比率は0.9ポイント減少の38.0%となりました。

 

(4)キャッシュ・フローの状況

(単位:億円)

 

前連結会計年度

当連結会計年度

増減

営業活動によるキャッシュ・フロー

833

510

△322

投資活動によるキャッシュ・フロー

△445

246

691

(フリー・キャッシュ・フロー)

388

757

368

財務活動によるキャッシュ・フロー

△968

△1,108

△140

 

 当期の連結キャッシュ・フローの状況は、営業活動によるキャッシュ・フロー510億円の収入と、投資活動によるキャッシュ・フロー246億円の収入の結果、営業活動によるキャッシュ・フローと投資活動によるキャッシュ・フローを合計したフリー・キャッシュ・フローは757億円のプラスとなりました。

 また、財務活動によるキャッシュ・フローは1,108億円の支出となりました。

 そのほかに、現金及び現金同等物に係る為替変動の影響額があり、当期末の現金及び現金同等物の残高は、前期末比367億円減少の928億円となりました。

 

 当期における各キャッシュ・フローの状況は、次のとおりであります。

 

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

 税引前損失791億円、非継続事業からの税引前利益426億円に、減価償却費及び償却費745億円、減損損失525億円等によるキャッシュ・フローの増加と、非継続事業の売却目的で保有する資産に係る減損損失及びその戻入益243億円、営業債務及びその他の債務の減少による減少85億円等によるキャッシュ・フローの減少により、営業活動によるキャッシュ・フローは510億円の収入となりました。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

 子会社の売却による収入661億円、有形固定資産の取得による支出257億円、無形資産の取得による支出155億円等により、投資活動によるキャッシュ・フローは246億円の収入となりました。

 

 この結果、営業活動によるキャッシュ・フローと投資活動によるキャッシュ・フローを合計したフリー・キャッシュ・フローは757億円のプラス(前期は388億円のプラス)となりました。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

 短期借入金の純減少額799億円、社債の償還及び長期借入金の返済332億円、リース負債の返済220億円等による支出と、社債の発行及び長期借入れ282億円等の収入により、財務活動によるキャッシュ・フローは1,108億円の支出(前期は968億円の支出)となりました。

 

(5)生産、受注及び販売の実績

①生産実績

 当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

当連結会計年度

(自 2024年4月1日

  至 2025年3月31日)

前期比

 

百万円

デジタルワークプレイス事業

363,940

105.3

プロフェッショナルプリント事業

インダストリー事業

112,373

95.1

画像ソリューション事業

27,521

136.0

 報告セグメント計

503,835

104.1

その他

合計

503,835

104.1

(注1)金額は、売価換算値で表示しております。

(注2)デジタルワークプレイス事業、プロフェッショナルプリント事業につきましては、共通の設備にて生産を行っておりますので、当該生産拠点における生産実績を記載しております。

(注3)当連結会計年度より報告セグメントの区分を変更しております。詳細は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記6 事業セグメント」に記載のとおりであります。前期比の数値につきましては、前期のセグメント情報を、当期のセグメント区分に変更したものと比較を行っております。

 

②受注実績

 当社グループは見込み生産を主としておりますので、記載を省略しております。

 

③販売実績

 販売状況については、「(2)経営成績の状況」において各セグメントの業績に関連付けて示しております。

 

(6)資本の財源及び資金の流動性

①資本政策の基本的な方針

当社は、事業の選択と集中、コスト削減と経営資源の適正化を進め、中長期的な企業価値向上に向けた持続的な成長を支えるための最適な資本政策を実施していきます。

特にキャッシュ・フロー創出力の強化と資本効率(ROE・ROIC)の向上を重視し、その実現に向けて、「成長投資の実施」、「財務基盤の強化」及び「株主還元の充実」について、これらの最適バランスを目指した資本政策を推進し、資本効率を意識した最適な資本・負債構成を目指します。

1)資本効率の向上

資本コストを重視し、資本コストを安定的に上回るROE・ROICの向上を目指します。ROEの改善ドライバーとして当期純利益率の改善を重視し、バランスの取れた財務基盤を維持しつつ、資本効率の向上を図ります。

加えて、KM-ROIC(注1)及び投下資本収益(注2)という独自指標を設定し、両指標の最大化を通して事業毎の収益性を評価し、資本効率と企業価値の継続的な向上を実現していきます。

2)株主還元の充実

連結業績や成長分野への投資、キャッシュ・フローなどを総合的に勘案し、配当を基本として利益還元の充実に努めます。自己株式の取得については、当社の財務状況や株価の推移等も勘案しつつ、利益還元策の一つとして適切に判断していきます。

3)財務健全性の担保

当社は、財務ガバナンスの強化、財務リスクの最小化、資金効率の向上、株主資本の充実により、財務基盤をより強固なものとしながら、事業の選択と集中に従った成長投資を進めていきます。

 

(注1)KM-ROIC:事業利益を投下資本で除した比率であり、事業活動のために投下した資本を使って、どれだけ事業利益を生み出したかを示す指標であります。

(注2)投下資本収益:事業収益から投下資本コストを控除した収益であり、どれだけ投下資本コストを上回る価値を創造したかを示す指標であります。

     投下資本収益の最大化によりROICの向上を図ります。

 

当社グループの資本の財源及び資金の流動性については、以下のとおりであります。

 

②資金需要

当社グループの主な資金需要は、製造費用、販売費及び一般管理費等の営業費用並びに当社グループの設備新設、改修等に係る投資や、将来の成長及び企業価値向上を目的としたM&Aによる投資であります。

 

③資金の源泉

当社グループの資金の主な源泉は、営業活動によるキャッシュ・フロー、金融機関からの借入や社債の発行による資金調達であります。

 

④資金調達についての方針

当社グループは、円滑な事業活動に必要な流動性の確保と財務の健全性・安定性維持を資金調達の基本方針とし、主に金融機関からの短期借入及び長期借入や社債の発行により資金調達を行っております。社債については、国内社債発行登録枠を有しており、当社の既発行社債の債券格付、発行登録予備格付はともに株式会社格付投資情報センター(R&I)及び株式会社日本格付研究所(JCR)からA格を取得しております。長期資金の調達に際しては、償還や返済の時期を分散することにより借り換えリスクの低減を図っております。また、資金調達は主に当社が行っており、必要資金を関係会社に主にキャッシュ・マネジメント・システムを通じて供給することで資金調達の一元化や効率化を図っております。

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(注)2018年3月31日以降の残高には、ハイブリッドローンが含まれております。格付機関の評価により、資金調達額1,000億円の50%に対して資本性の認定をうけております。

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(注)ハイブリッドローンは、2027年10月以降の各利払日に元本の全部又は一部を返済期限(2057年10月)前に返済することが可能となっております。

 

⑤流動性

当社は営業活動によるキャッシュ・フローに加え、複数の金融機関との間で2026年9月末を期限とする1,000億円のコミットメントライン及び一つの金融機関との間で2025年10月末を期限とする50億円のコミットメントラインを締結するほか、アンコミットメントベースの融資枠も有しております。

また、当社グループ内の資金の効率化については、日本・北米・欧州・アジアパシフィックの各統括拠点においてキャッシュ・マネジメント・システムを導入しており、各地域の余剰資金を当社へ集中し一元的に管理を行うことにより、資金効率の向上と金融費用の極小化及びガバナンスの向上を図っております。なお、一時的な余剰資金は、安全性が極めて高い金融資産で運用しております。

 

 

5【重要な契約等】

(Ambry Genetics Corporationの株式譲渡契約)

 当社は、プレシジョンメディシン事業を展開する米国子会社であるREALM IDx, Inc.(以下「REALM IDx社」)を通じて保有する米国の遺伝子検査企業Ambry Genetics Corporation(以下「Ambry Genetics社」)の全株式をTempus AI, Inc.に譲渡することを、2024年11月5日に決定し、株式譲渡契約を締結しました。なお、本株式譲渡の実行は2025年2月3日に完了しております。

 

(1)異動する子会社の概要

名称

Ambry Genetics Corporation

所在地

1 Enterprise, Aliso Viejo, CA 92656

代表者の役職・氏名

Chief Executive Officer:Tom Schoenherr

事業内容

がん領域を中心とした遺伝子検査サービス

資本金

102米ドル

設立年月日

1999年11月18日

出資者及び持株比率

REALM IDx, Inc. 100%

資本関係等

当社グループが98.6%出資するREALM IDx社が、Ambry Genetics社に100%出資

 

(2)譲渡先の概要

名称

Tempus AI, Inc.

所在地

600 West Chicago Avenue, Suite 510, Chicago, Illinois 60654

代表者の役職・氏名

Chief Executive Officer and Executive Chairman:Eric Lefkofsky

事業内容

データ・AI活用による精密医療テクノロジー提供

資本金

16千米ドル

設立年月

2015年8月

 

(MOBOTIX AGの株式譲渡)

 当社は、ドイツの分散処理型IPカメラシステムを開発しているMOBOTIX AG(以下「MOBOTIX社」)の当社の保有する全株式およびMOBOTIX社への貸付金をCertina Software Investments AGに譲渡することを、2025年3月25日(中央ヨーロッパ時間)に決定し、株式譲渡契約を締結しました。なお、本株式譲渡の実行は2025年4月29日に完了しております。

 

(1)異動する子会社の概要

名称

MOBOTIX AG

所在地

Kaiserstrasse, 67722 Winnweiler-Langmeil, Germany

代表者の役職・氏名

CEO:Thomas Lausten、CFO:Klaus Kiener、CTO:Christian Cabirol

事業内容

分散処理型IPカメラシステム及びビデオマネジメントソフトウェアの開発・製造・販売

資本金

13,271,442ユーロ

設立年月日

1999年6月21日

出資者及び持株比率

コニカミノルタ株式会社 64.9%(議決権所有割合:65.2%)

資本関係等

当社が発行済株式の64.9%(8,615,382株)を保有

 

(2)譲渡先の概要

名称

Certina Software Investments AG

所在地

Robert-Koch-Str. 5 a, 82031 Gruenwald, Germany

代表者の役職・氏名

Management Boardメンバー:Giovanni Santamaria

事業内容

ソフトウェア、IT及びIT関連サービス企業買収による自社資産のマネジメント

資本金

50千ユーロ

設立年月日

2023年3月9日

 

(Konica Minolta Marketing Services Holding Company Limitedの株式譲渡)

 当社は、Marketing Print Management(注)(以下「MPM」)サービスに特化した連結子会社であるKonica Minolta Marketing Services Holding Company Limited(以下「Konica Minolta Marketing Services Holding社」)の全株式を、adm Group Limited(以下「adm Group社」)に譲渡することを、2025年3月26日に決定し、株式譲渡契約を締結いたしました。

 当社は、MPMサービスを展開するKonica Minolta Marketing Services EMEA Limited(本社:英国 ロンドン)、Konica Minolta Marketing Services (Australia) Pty Limited(本社:オーストラリア シドニー)、Konica Minolta Marketing Services Inc.(本社:米国 ニュージャージー州)の3社の株式を直接ないしは間接保有しております。今後、本契約に基づき3社の全株式を、当社の100%子会社であるKonica Minolta Marketing Services Holding社に譲渡し、その後Konica Minolta Marketing Services Holding社の全株式をadm Group社に譲渡いたします。

 なお、本契約における譲渡対象は、Konica Minolta Marketing Services Holding社傘下となる3社に加え、各社の子会社を含めた海外22社(計26社)で、これら資産の譲渡手続き等の条件を充足した後で、本株式譲渡を実行いたします。

 

(1)異動する子会社の概要

名称

Konica Minolta Marketing Services Holding Company Limited

所在地

26-28 Bedford Row, 4th & 5th Floor, London, England, WC1R 4HE

代表者の役職・氏名

Global Chief Executive Officer:Yves Christian ROGIVUE

事業内容

MPMサービス提供関連会社の統括・管理

資本金

1英ポンド

設立年月日

2021年9月27日

出資者及び持株比率

コニカミノルタ株式会社 100%

資本関係等

当社が100%出資

 

(2)譲渡先の概要

名称

adm Group Limited

所在地

16 St. John's Lane, Farringdon, London, England, EC1M 4BS

代表者の役職・氏名

Group Chief Executive Officer:Ed Colflesh

事業内容

世界33か国に拠点を持ちグローバル企業のブランディングやマーケティング活動を支援するグローバル マーケティングサービス事業

設立年

1992年

 

(注)MPM:大手グローバル企業のマーケティング部門を対象としたサービスで、クライアント企業の拠点にスタッフを常駐させ、膨大な数の販促用印刷物の制作業務に携わりながら内容・工程・品質・納期などを一元管理し、投資対効果を最適化することで、クライアント企業の売上増や企業ブランド向上に貢献する。

 

(財務上の特約が付された金銭消費貸借契約)

 当社の借入金のうち、以下の金銭消費貸借契約については、資本及び利益に関する財務上の特約が付されており、これに抵触し貸付人から請求があった場合には、期限の利益を喪失します。

契約締結年月日

相手方の

属性

当連結会計年度末の債務残高

(百万円)

弁済期限

財務上の特約

資本合計(連結)

損益

(連結)

2010年9月7日

都市銀行

10,000

2025年4月2日

直前期、直前中間期及び2010年3月期の75%以上にする

2期連続して営業損失とならない

2010年9月7日

都市銀行

13,000

2025年4月30日

2020年4月21日

都市銀行、

地方銀行及び

協同組織金融機関

8,000

2027年4月23日

直前期及び2019年3月期の75%以上にする

2021年3月26日

都市銀行、

地方銀行及び

協同組織金融機関

10,000

2026年3月31日

直前期及び2020年3月期の75%以上にする

2021年3月26日

都市銀行、

地方銀行及び

協同組織金融機関

5,000

2028年3月31日

2024年7月26日

都市銀行、

地方銀行及び

協同組織金融機関

12,000

2027年7月30日

2023年3月期の75%以上にする

2024年9月25日

都市銀行、

地方銀行及び

協同組織金融機関

15,000

2029年9月28日

直前期の75%以上にする

2期連続して事業貢献損失とならない

(注1)全ての債務に担保は付されておりません。

(注2)事業貢献利益(損失)は売上高から売上原価、販売費及び一般管理費を控除して算出した利益(損失)であります。

 

6【研究開発活動】

当社グループは、経営理念である「新しい価値の創造」及び経営ビジョンとして「Imaging to the People」を掲げ、創業以来150年にわたりこだわり続けてきた材料・光学・微細加工・画像の4つのコア技術を高度化・融合するとともに、IoT・AI技術を組み合わせることで“見えないものをみえる化する”技術として発展させました。そして、この独自技術を活用することで顧客の課題を解決する新たな製品・サービスを各事業セグメントで開発しております。

中期経営計画に基づいた基本方針に対応して、「強化領域への技術資源シフト」、「エキスパート・DX人財活用」、「成長領域への技術の仕込み」の3つを技術戦略の基本方針として推進してまいりました。

「強化領域への技術資源シフト」においては、確かな成長基盤を確立するため、強化領域として主にインダストリー領域、プロフェッショナルプリント領域に対し、技術資源投入を増強しております。

インダストリー領域における技術資源シフトの一例として、コーポレート開発で蓄積を進めるマテリアルズ・インフォマティクス及びプロセス・インフォマティクスのノウハウをディスプレイフィルム生産工場に適応しております。生産工程に設置されたセンサーデバイスにより生産状態がモニタリングされ、製品の高品質化や生産の安定化で効果が得られております。またヘルスケア領域に対しては、次世代の超音波トランスデューサ開発にコーポレート開発の技術資源を投入し、事業拡大の加速を行っております。この開発により、超音波診断装置の感度が飛躍的に向上し、これまで超音波診断装置では見ることができなかった早期の癌を発見することが可能になると期待されます。

「エキスパート・DX人財活用」では、技術やビジネスにおける高い専門性によって変革をリードする「エキスパート」と、AIやデータサイエンス、ITスキル等の社内教育により増強した「DX人財」の活躍により各事業の変革を進めております。全社横断での伴走支援や生成AI活用推進等により、全社の各事業でビジネスや業務プロセスにおけるDXが進み成果が出ております。今後は中長期の成長を見据えたコア技術進化・伝承や後進育成にも取り組み、専門人財の更なる活用促進を進めてまいります。

「成長領域への技術の仕込み」においては、持続的成長に向けた技術開発テーマに投資を行い、イノベーションの加速を実施しております。例えば、次世代のものづくりとして世界中で研究開発が進んでいる、生物の力を活用する「バイオものづくり」への取組として、産業技術総合研究所と共同で「バイオプロセス技術連携研究ラボ」を設立し、実用化への課題解決に向けて取り組んでおります。化石資源由来の材料原料から作るものづくりからの転換として、微生物を用いて非化石資源由来の原料から合成するバイオものづくり技術はカーボンニュートラル実現のキーテクノロジーとして注目されております。この領域では、当社が強みとするセンシング技術とAIを組み合わせた技術をさらに進化させ、バイオものづくりの工業化の課題を解決するための技術として、分光分析技術を応用した“高生産株検出システム”等、従来にない複雑系物質生産工程における物質モニタリング技術を開発し培養槽モニタリングシステムの事業化を目指して取り組んでまいります。また、次世代太陽電池の有力候補である軽くて柔軟なフィルム型ペロブスカイト太陽電池向けに、耐久性の課題を解決するバリアフィルム開発にも着手し、当社の成膜技術と量産化で、再生可能エネルギーのさらなる普及に貢献することを目指しております。その他、循環型社会の実現に向けた再生プラスチックの高度化にも取り組んでおり、高機能性を付与するアップグレードリサイクルにより、自社の複合機だけでなく社外の電子機器製品等への適用展開も進めております。当社は、これらのように環境負荷低減に貢献し将来大きく成長が期待される領域において、強みであるコア技術の高度化と活用を基本方針とし、将来社会が求めるイノベーションの原動力となる研究開発に取り組んでまいります。

研究開発により創出される技術(発明、アイデア、ノウハウ等)については、特許権の取得に加え、著作権法・不正競争防止法等の各種法制度や契約を利用し、知的財産として適切に保護・活用することで、当社グループの競争優位性を維持し、成長のドライバーとしております。

中期経営計画に基づき、事業戦略と密接に連携した知財戦略を策定・実行し、事業の成長、収益力向上を支援しております。具体的には、中期経営計画に対応する「中期知的財産計画」を定め、事業の選択と集中による強化事業の拡大をさらに推進するために、知財投資においても選択と集中を進め、全社の特許出願に占める強化事業の比率を2025年度までに70%近くにまで高めてまいります。

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また、強化事業やその事業拡大のキーとなる製品・サービスについては、競合他社の参入を抑制する強力な知財障壁の構築を進め、事業の成長・拡大を確かなものとしております。例えば、プロフェッショナルプリント事業の強化領域では、デジタルラベル印刷機「AccurioLabel(アキュリオラベル)シリーズ」について知財障壁の構築・強化に取り組んでおります。飲料・食品・雑貨等の生活必需品に欠かせないラベル印刷は、年々需要が増加している分野です。「AccurioLabelシリーズ」は、優れたプリント速度や操作性により高い生産性を実現し、拡大する市場における短納期化の要望に応えるだけでなく、トナーを用いた電子写真方式の採用により高品質な画像出力を可能にし、品質に厳しい市場ニーズに対応し、堅調に販売を伸ばしております。当社では、「AccurioLabelシリーズ」に採用される技術を、強固な知財障壁の構築を目指す重要領域と位置付け、開発部門と連携し、技術開発段階から集中的な特許出願を進め、プロフェッショナルプリント事業の強化領域の成長と拡大に貢献しております。

当社は、確かな成長基盤を確立していくためには、競争力の源泉となる重要な経営資源である知財の活用と、市場参入を促進し市場規模拡大へとつなげる国際標準化の推進という両輪の事業戦略が重要であると考えております。当社技術を軸に、知財活用によってコア領域をクローズ化し当社の市場ポジションを確保すると同時に、標準化推進によって国内外の市場そのものを拡大することで、市場シェアと市場規模の双方を最適化・最大化してまいります。

 

上述した環境負荷を低減する技術開発に加え、持続可能な社会の実現をめざして、省エネルギー、リサイクル可能な環境配慮型製品の開発、使用済み製品の廃材を高機能材料として再活用する技術、バイオマス由来材料を活用する技術の研究開発を進めております。複合機の本体や消耗品(トナー等)に使う化石資源由来材料を再生材料へ転換し、プラスチック由来のCO2排出量の削減を進めてまいります。バイオマス由来材料や廃材を複合機等の高機能材料として活用するためには、一般的に化石資源由来のバージン材に比べて性能が低下するとともに製品品質が安定しにくいという課題があります。当社グループは、この課題を解決するために、長年培ってきたコア技術の1つである材料技術、成形加工技術を発展させ、材料開発、材料選択、加工技術の組み合わせにより、新しい樹脂開発を進めます。複合機への展開だけでなく、様々な企業と本技術を共有し実用化することで、連携の輪をグローバルに広げ、環境価値の効果を飛躍的に大きくしてまいります。

当連結会計年度(以下「当期」)におけるグループ全体の研究開発費は596億円となりました。そのうち、デジタルワークプレイス事業及びプロフェッショナルプリント事業が308億円、インダストリー事業が140億円、画像ソリューション事業が84億円、基礎研究費用が64億円であります。各事業部門別の研究の目的及び研究成果は以下のとおりであります。

なお、当連結会計年度より報告セグメントの区分を変更しております。詳細は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記6 事業セグメント」に記載のとおりであります。

 

(1)デジタルワークプレイス事業

デジタルワークプレイス事業においては、機械、電気、光学、化成品、制御ソフトウェア等を総合したハードウェア開発やITソリューション開発を行い、顧客の働きがい向上に資する製品やサービスを市場に提供し続けております。

オフィスユニットでは、複合機とITサービスを組み合わせることで、オフィス環境の課題解決や最適化に貢献するソリューションの開発を行い、顧客の社員がより創造的な業務に従事することで働きがいを向上させ、事業のさらなる発展と企業価値向上を支援しております。

オフィス用複合機のラインアップ bizhub(ビズハブ)1iシリーズを13機種開発しました。

(カラーA3複合機:bizhub C751i/bizhub C651i/bizhub C551i/bizhub C451i/bizhub C361i/bizhub C301i/bizhub C251i モノクロA3複合機:bizhub 751i/bizhub 651i/bizhub 551i/bizhub 451i/bizhub 361i/bizhub 301i)

「bizhub 1i シリーズ」は、部品調達、生産、使用、使用後のリサイクルに至るまでの環境負荷をさらに低減するとともに、多様な働き方に合わせた多彩な機能と使いやすさで働く人々をサポートします。

環境負荷低減では、より低温で融けるトナーや、新開発の定着ユニット(「C751i」「C651i」「C551i」「751i」「651i」「551i」に採用しております)と高効率電源ユニットの採用により、省エネ性能を高めております。

さらに、使用済みペットボトルとポリカーボネート製ガロンボトルを複合機の外装材にアップグレードリサイクルするために、強度や難燃性、成形容易性を向上させる技術開発に取り組んできました。

機能と使いやすさでは、スマートフォンのような直感的操作とアプリで業務効率化に貢献するとともに、「紙種センサー(IM-103)」が、用紙の種類を判別し、最適な用紙設定を自動で選択します。独自の検知技術で開発されたIM-103は、普通紙よりも薄い紙や、封筒やハガキといった厚めの紙でも、紙づまりの発生を低減させ、プリント画質を最適化します。

ほかにも、オフィス業務だけでなく、マニュアル、チラシ、名刺等の企業内印刷ならではの用途にも対応する1台2役の機能が充実した複合機として「bizhub C751i Premium」を開発しております。

開発体制としては、ベトナムの大手IT企業であるFPTソフトウェアの日本法人FPTジャパンホールディングス株式会社と複合機ソフトウェア開発に関する合弁会社「コニカミノルタFPTソリューションラボ株式会社」を設立しました。これにより、複合機のソフトウェア開発の最適化と顧客への価値提供の維持拡大を進めております。この合弁会社の事業計画を具体的に推進する開発拠点としてベトナムに「KONICA MINOLTA FPT Solution Labs Vietnam Co., Ltd. 」を設立いたしました。グローバルに事業展開し、豊富なハイレベルIT人財を擁するベトナム最大手IT企業であるFPTソフトウェアグループの開発リソースを最大限活用することで、中期経営計画で収益堅守事業と定めたオフィス事業の基盤をさらに強化し、安定的な収益を創出します。

さらに当社は、AIやSaaS等のテクノロジーを活用して社会課題を解決することを目指し、ICW(Intelligent Connected Workplace)事業を展開しております。

2020年に商用稼働した「COCOMITE(ココミテ)」はクラウドで提供される自社開発のオンラインマニュアル作成・運用サービスです。このサービスは、人材育成や技能伝承の課題解決に焦点を当て、従来の業務マニュアルの作成・運用の非効率さを解消するために開発されました。マニュアルの効率的な作成と管理を基本機能としてリリースしたあと、顧客の声やアクセスログ解析を基に新機能の開発や改善を重ね、オンラインマニュアルコラボレーションツールとして進化し続けております。当期には、生成AIを活用したAIインタビューによる技能伝承機能を開発し、静岡県富士市と富士市内の製造業2社との実証活動を行い、高い評価を得ております。

また、AI技術を活用して教育分野における教員の働く現場の課題解決に貢献するため、2019年から文部科学省の学校における先端技術の活用に関する実証事業に取り組んでおります。学習支援サービスや学びの分析サービスを搭載した教育機関向けのトータルソリューション「tomoLinks(トモリンクス)」を通じて、教育のDXを広く展開し、多様な子どもたちが誰一人取り残されることなく社会とつながる個別最適化された協働的・探究的な学びに貢献しております。当期には、生成AIを教育現場で安心安全に目的に沿って活用するための機能を開発し、この機能を通じて、「問題を発見し課題を設定する」「自分の考えを深める」「異なる考えを整理・比較・深堀りする」といった学習プロセスを引き続きサポートしてまいります。

 

(2)プロフェッショナルプリント事業

プロフェッショナルプリント事業においては、プロダクションプリント/産業印刷の生産性と印刷品質、自動化・省人化・スキルレスを訴求し各種印刷機やサービスソリューションに至るまで幅広く研究開発を実施し、顧客のDX支援によるプロセス改善・リモート化・分散印刷を実現してまいります。

生産機としての信頼性を向上させ、白トナーの追加によって表現力を高めたデジタルカラー印刷システム「AccurioPress(アキュリオプレス)C14010/C12010シリーズ」を、印刷工程の自動化・省力化を推進するオプション製品、インテリジェントクオリティーオプティマイザー「IQ-601」、インテリジェントメディアセンサー「IM-104/IM-105」とともに発売しました。

さらに複数のプロダクションプリント機の情報を一括で可視化し管理効率化と工程の継続的な改善を支援するソリューション「AccurioPro(アキュリオプロ)Dashboard」シリーズに「AccurioPro Dashboard JobManager」を追加し、印刷データ入稿から梱包・出荷まで工程全体進捗をリアルタイムでみえる化することで、効率的な生産計画の作成や修正を可能とします。

プリントコントローラでのRIP処理を高速化、検品をこれまで以上に作業フリーにする基準画像登録不要なRIP-Scan比較方式の自動検品、印刷時に複数のパラメーターを監視することでハーフトーン(色味)の安定性をこれまで以上に向上させるインテリジェントカラーコントロールを開発しました。

産業印刷ユニットにおいては、2024年5月にドイツ デュッセルドルフで開催された世界最大規模の印刷・メディア産業展である「drupa(ドルッパ)2024」においてB2サイズインクジェット印刷機の最上位機種となる「AccurioJet(アキュリオジェット)60000」を出展しました。

また、ラベル印刷では使いやすさと導入コストでご好評をいただいた「AccurioLabel(アキュリオラベル)230」とその上位機種である「AccurioLabel 400」を提供しております。当社初の白トナーを搭載し、自動品質最適化ユニット「IQ-520」を導入することで常に安定した画像品質を保ちます。

 

(3)インダストリー事業

インダストリー事業においては、光学・材料・微細加工等のコア技術に、AI等を加えて複合化し、産業界のバリューチェーン変革推進で顧客と社会に貢献するため、産業のモノづくり最適化と安全・安心を提供してまいります。インダストリー事業は、センシング、機能材料、IJコンポーネント、光学コンポーネントの4事業で構成されております。

センシングユニットでは、光・色・外観の計測、ハイパースペクトルイメージング技術をはじめとした計測技術を用いて、ICTやモビリティ、環境・資源といった成長領域へソリューションを提供しております。色計測分野において、製品の高意匠化が進む自動車・スマートフォン等の業界ニーズに対応するため、高精度かつ使いやすさを追求したポータブル分光測色計「CM-17d」を開発し市場投入しました。また、世界最高水準の精度を実現した分光測色計「CM-3700A Plus」を開発し、ものづくり現場における品質管理の高度化に貢献しております。ICT分野では、各種ディスプレイにおける新規評価ニーズに対応すべくカラーアナライザー「CA-527」等を活用したソリューション拡大を図りました。自動車の外観検査においては、トンネル型の塗装欠陥検査、すき間・段差検査装置に加え、自動車ホイールの品質検査が可能な新ソリューションを開発し、顧客への新たな価値を提供しております。環境分野においては、リサイクル分野における材料識別と分類の高度化とともに、鉱物資源の調査や環境モニタリングといった新用途での応用開発・実証実験が進んでおります。

機能材料ユニットにおいては、液晶画面の基幹部材となる偏光板用保護フィルム向けに、従来のTAC製品に加え、新樹脂フィルム「SANUQI」(COP系)、「SAZMA」(アクリル系)等を新プラットフォームとすることでお客様の選択の自由度を高め、さらに 液晶大型TV向けの2.5mの超広幅品やOLED-TV向けの反射防止フィルム等の高付加価値商品の販売及び開発を展開しております。また原材料の使用量を減らすことができる薄型フィルムや、サプライチェーンの環境負荷やロスの低減が可能な長尺フィルム商品等、環境に配慮した商品の準備を進めております。

IJコンポーネントユニットにおいては、優れた長距離吐出性能や幅広いインク選択肢を特徴とした産業用インクジェットヘッド技術の開発、製品化に注力し、サイングラフィック領域からプリントオンデマンドの商業印刷領域、そしてプリント基板上の回路形成をはじめとした工業用途への拡大に向けて、さらなる製品ラインアップの拡充に取り組んでおります。

光学コンポーネントユニットにおいては、主に成長領域である半導体製造装置用レンズに欠かせない超高精度加工技術の開発や、高機能膜、新規光学素子の開発に取り組んでおります。光学設計技術・微細加工技術に材料技術を掛け合わせた高機能コンポーネントの開発に注力し、事業化の推進を図ってまいります。

 

(4)画像ソリューション事業

画像ソリューション事業は、コア技術を起点とした“画像データ×AI”によって価値を提供する事業です。当事業のお客様の業種は、医療・介護、製造業、プラント、社会インフラ等多岐にわたりますが、「医療・介護」「セーフティ&セキュリティ」「製造」といった当社の強みが活きる領域にフォーカスし、お客様に寄り添ったソリューションを構築・展開していきます。

ヘルスケアユニットにおいては、デジタル診断にフォーカスし、データサイエンスの力をフル活用して「早期診断」と「個別化医療」を実現することで、患者様個々のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を追求するとともに、医療費の削減に貢献するべく研究開発を推進しております。近年では、"見えないものをみえる化する"高度なイメージング技術を重要な柱に据え、IoTプラットフォームにAI技術を活用した診断支援機能や患者ポータル等、様々な高付加価値サービスを搭載・展開するための研究開発を推進しております。

当期においては、新生児医療分野において、ノルウェーのPicterus社との連携を開始し、黄疸測定技術の強化に向けた取組を推進しております。また、抗がん剤治療による脱毛抑制を目的とした「頭皮冷却システム DigniCap Delta」の国内販売を開始し、患者様のQOL向上に貢献しております。医療診断機器分野では、「SONIMAGE UX1」及び「SONIMAGE UX1 TRiFOR」において、独自の高画質化技術と新リニアプローブ「X20L」の開発により、深部画質の向上と穿刺針の描出安定性の改善を実現いたしました。さらに、胸部X線画像診断支援AI「CXR Finding-i」において、数十万件以上の画像学習による精度改良を達成し、特異度を69%から88%まで大幅に向上させ、医療現場の診断効率化に貢献しております。また、産婦人科分野向けに高画質を追求した経腟用超音波診断装置「SONOVISTA LX」を発売し、診断精度の向上と患者様の負担軽減に寄与しております。これらの研究開発成果により、さらなる診断価値の向上と医療現場の効率化に貢献してまいります。

画像IoTソリューションユニットにおいては、製造業・プラント・インフラ等の領域を中心に、画像AIや自動化技術を活用し顧客現場の安全・安心確保、生産性・品質向上に貢献するソリューションを展開しております。当期においては、国内では、山間部における厳しい冬季降雪状況について画像AIを活用し遠隔・リアルタイムに状況を把握する「積雪モニタリングソリューション」の開発・実証を長野県との連携で進めております。また、欧州では、工場等における作業員入退場時のヘルメット・マスク等防具の正しい装着状況を画像AIで素早く判定することで現場の安全な環境維持につなげるソリューション「FORXAI Mirror(フォーサイ ミラー)」の展開を開始しております。

さらに、米国では、メタン排出削減に取り組む天然ガス生産・輸送・供給等を含む事業者約50社からなる連合団体ONE Future(ワン フューチャー)が主催する年次イベントにおいて、メタンガス漏えいを映像データから高精度に定量化する「流量推定技術」を搭載した「ガス漏えい検査システム(GMP02)」が「2024 ONE Future Awards」Technology of the Year(Production部門)を受賞しました。世界的に加速する石油ガス事業者のメタン排出削減活動に対し、ガス漏洩検査システムを提供することにより顧客の課題解決に貢献してまいります。

QOLソリューションユニットにおいては、強みである行動認識を向上するためのデバイスとして、3D骨格推定技術を搭載したデバイスの開発とそこから得られるデータを活用したサービスの構築を進めております。これにより介護施設だけでなく病院・大規模介護施設へのデータ利活用を進め、事業領域を拡大していきます。