第2 【事業の状況】

 

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものであります。

 

(1) 会社の経営の基本方針

当社は、グローバルに事業展開を推進する荒川化学グループ全体で、共有すべきグループ経営理念である「個性を伸ばし 技術とサービスで みんなの夢を実現する」のもと、「つなぐを化学する SPECIALITY CHEMICAL PARTNER」をビジョンとして掲げております。「つなぐを化学する」とは、当社の事業領域を表しており、当社の製品は材料の表面や隙間に存在し、機能を付与しています。私たちは、このような製品を通して、取引先はもとより、グループ社員、社会とのつながりを大切にする「SPECIALITY CHEMICAL PARTNER」を目指すことを基本方針としております。

この基本方針を具体的に実現するため、安全を最優先に、国内外の生産・販売拠点および関係会社の整備と拡充を図り、全社をあげて経営基盤の充実と企業体質の強化に取り組み、同時に法令遵守、環境保護、社会貢献などの社会的責任を果たし、グループの発展に努めてまいります。

なお、当社は、グループ経営理念とビジョンの実現に向け、当社が大切にしている価値観・行動指針を明確化した「ARAKAWA WAY 5つのKIZUNA」を荒川化学グループ全社員で共有することで、根幹の部分は変わることのない経営を貫き、適切な判断と迅速な行動を積み重ねてまいります。

 

(2) 目標とする経営指標ならびに中長期的な会社の経営戦略

当社は、2021年4月より第5次中期5ヵ年経営実行計画「V-ACTION for sustainability」(2021~2025年度)を推進してまいりましたが、進捗状況および当社グループを取り巻く事業環境などを踏まえ、見直しをおこないました。第5次中計の基本方針「KIZUNA経営の推進とKIZUNA指標(※1)の達成」に変更はなく、当社が掲げた「ありたい姿」の実現に向け、グループの価値観・行動指針(ARAKAWA WAY 5つのKIZUNA)に基づいた経営(=KIZUNA経営)のもと、2030年のビジョン(※2)と目指す未来像(※3)を設定し、既存事業の収益力の回復、事業ポートフォリオ改革の加速による収益性の向上など、SHIFTの継続による人と事業の新陳代謝を深化させ、事業基盤の持続性を確保いたします。また、持続可能な地球環境と社会を実現するための課題に取り組み、付加価値・新規事業の創出に挑戦いたします。そして、2年後に迎える創業150周年、さらにその先を見据え、歴史と伝統をしっかりと受け継ぎながらも、安全文化の醸成、および働きがいと生産性の向上により成長し続け、KIZUNA指標の達成を通じて「ありたい姿」を目指します。

このような状況下、最終年度にあたる2025年度の計数目標については、売上高は900億円に据え置きましたが、営業利益35億円、経常利益30億円、親会社株主に帰属する当期純利益21億円、営業利益率3.9%以上、EBITDA 87億円以上、ROE3.6%以上に下方修正し、施策の見直しを実施しました。

見直しのポイント

・基本方針は変更せず、最終2025年度の計数目標と施策の見直し

・拠点やプラントの統廃合を含む既存事業の新陳代謝の加速と収益力の回復

・新規事業のステージアップ推進(みつける⇒そだてる⇒のばす)

・経営資源投入の機動性向上(安全文化の醸成、働きがいと生産性向上、人的資本投資等)

・資本コストと株価を意識した経営の実現に向けた対応

 

詳細については、2024年5月14日発表の「第5次中期5ヵ年経営実行計画(2021~2025年度)の見直しについて」をご参照ください。

・第5次中計の見直しについて   https://www.arakawachem.co.jp/jp/ir/20240514midterm5.pdf

 

(※1) 5つのKIZUNAとリンクした優先的な重要課題から設定した指標

(※2) ロジンをはじめとする環境に配慮した素材を活かし、「つなぐ」技術の深化と新たな付加価値の創造に挑戦し続けることで、地球環境と社会の持続可能な未来に貢献する

(※3) 地球環境と社会の持続的な未来に貢献するエコシステムにしっかり入り込み、ライフサイエンス関連などの素材をも手掛け、REALDIGITALを下支えするケミカル・パートナーへの変革を目指す 

 


 

(3) 会社の経営環境と優先的に対処すべき課題

当社は、2021年4月より持続可能な成長の実現に向け、コーポレートガバナンス機能を強化するため、サスティナビリティ委員会を設置し、事業ポートフォリオ改革とTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)などサスティナビリティ関連の情報開示に取り組んでおります。

第5次中期5ヵ年経営実行計画では、コア技術・素材の強化に努めるとともに、環境に配慮した持続可能な開発にも注力しております。さらに、経営環境の急速な変化に対応するため、事業評価機能を強化することによる事業ポートフォリオ改革を推し進めております。事業戦略部主導のもと、各ビジネスユニットの事業評価を実施し、事業ミッションのSHIFTによる選択と集中を迅速に決定することで経営資源の効率的な活用を図り、収益性の向上と新規事業の創出につなげてまいります。

また、2021年度には、日本の化学業界では初となるサステナビリティ・リンク・ボンド(社債)を発行し、当社グループのサスティナビリティ経営のリスクと機会の重要な指標として、CO2排出量の削減率とサスティナビリティ製品の連結売上高指数を設定しています。それぞれの進捗状況については第三者による検証を実施しました。引き続き、両目標達成に向けて、施策を進めてまいります。

2017年12月1日に発生しました富士工場での爆発・火災事故を風化させないため、2021年度からサスティナビリティ委員会の下部組織として安全文化醸成専門委員会を設置し、安全に対する体制を強化しました。コミュニケーション、人財育成、リスクアセスメントの3つの課題の解決に向けて富士工場に設置した荒川安全伝承館ならびに小名浜工場の保安道場にて、全社員対象に安全教育を実施し、加えて安全操業に係る高度専門人財である安全技術者の育成人数も増加しております。引き続き、工場の保安力向上に向けた取り組みも進めております。

 

詳細については、当社ウェブサイトに掲載しておりますのでご参照ください。
・第5次中期5ヵ年経営実行計画    https://www.arakawachem.co.jp/jp/ir/strategy.html
・サスティナビリティ         https://www.arakawachem.co.jp/jp/csr/
・KIZUNA指標             https://www.arakawachem.co.jp/jp/csr/sdgs.html#KIZUNAindex

・サステナビリティ・リンク・ボンド  https://www.arakawachem.co.jp/jp/ir/slb.html

 

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1) ガバナンス

当社グループでは、経営理念に基づいた持続可能な成長の実現に向けて、コーポレートガバナンス機能を強化することを目的としてサスティナビリティ委員会を設置しています。本委員会が中心となり、ESG、SDGs、Society5.0、気候変動などの環境問題やダイバーシティ&インクルージョンなどを含む社会的課題に対して、重要課題や関連目標の設定や見直し、進捗状況のモニタリング・評価、事業ポートフォリオの見直しや中長期的な経営計画、方向性を決定しています。気候変動や自然資本への対応も重要な経営課題の一つとして認識しており、社内の各委員会の議論、活動報告や施策の提言を踏まえて、取締役会のなかで随時開催し、総合的に審議・決定をおこなっています。

 

(2) 戦略

当社グループの第5次中期5ヵ年経営実行計画は2030年のありたい姿をビジョンとして設定しており、気候変動への対応(TCFD提言への取組)、自然資本への対応(TNFD提言への取組)および人財の育成及び社内環境整備に関する方針については、以下のとおり定めております。

 

気候変動および自然資本への対応

2030年時点における気温上昇2℃以下および4℃のシナリオを想定し、気候変動および自然資本に関する重要な物理的リスク・移行リスク・機会として整理しています。IPCC第5次および第6次評価報告書による地球温暖化シナリオ(RCP2.6-8.5、SSP1-8.5)、1.5℃特別報告書、IEA World Energy Outlook、TNFD最終提言を参考にしました。気候変動関連リスクと機会については、重要性評価をおこない、緊急度(顕在化時期)および事業への影響度の観点から「重要リスク」として特定しました。自然資本関連のリスクと機会については、LEAPアプローチにより事業活動における自然資本への「依存」と「影響」を確認しました。

シナリオ分析

特定した重要リスクのうち優先度の高いリスクの事象が2030年時点において発生した際の収益への影響額を算定し、影響度を示しています。

 


 

シナリオ分析の結果、気候変動リスクに対してCO2排出量の削減や持続可能な調達率の向上、自然資本に対してはロジンソースの多様化などすでに着手している取り組みを再確認し、サーキュラーエコノミーへの取り組みやKIZUNA指標の目標達成に向けて適切に対応していくことで当社事業およびサプライチェーンに与える影響を低減できることが可能であると再認識しました。中長期的な視点で予測されるリスクと機会の認識を高め、時間軸を含め戦略の立案と実行につなげてまいります。

 

 

人的資本

<人財育成方針>

「人財」は、当社グループの成長の源泉であり、最も重要な経営資源と位置づけております。

社員一人ひとりが個性を発揮し、それぞれが自律しながらも関わりあい、挑戦し続けることで新たな価値を生み出し、持続可能な社会の実現と、個人と会社の成長に繋がると考えています。この方針のもと、多様な経験・知識・技能を有する人財の確保を強化すると共に、学びと実践の機会を提供し、自ら考え行動できる自律型人財へのキャリア形成を支援しています。

 

<社内環境整備方針>

当社グループの経営理念「個性を伸ばし 技術とサービスで みんなの夢を実現する」の「個性を伸ばし」の部分には社員一人ひとりの個性が当社グループで育まれ、開花させてほしいという思いを込めています。その上で個性の異なる多様な人財が尊重され、すべての社員が個性を最大限に発揮できる企業として、時代に求められる課題に真正面から取り組み、個人と会社が共に成長できる環境づくりと組織風土の醸成を目指しております。

これまで取り組んできた生産性の向上に主眼を置いた業務プロセス改革に加えて、社員一人ひとりの自律した協働が今まで以上に求められると認識しております。それに対応すべく、全社員が幸せにイキイキワクワク働き、生産性の最大化を目指し、育児・介護休暇や短時間勤務制度等のワークライフバランスを考慮した施策、在宅勤務や副業可能な環境の整備、オフィスカジュアル等の施策も実施しております。

 


 

(3) リスク管理/リスクと影響の管理

当社グループは、ESG経営を通じ、長期的な視点で企業活動をおこなっています。地球環境や社会を含むすべてのステークホルダーにとっての関心・影響と当社グループの重要度の観点からマテリアリティ(重要課題)を策定し、さらに優先的に取り組むべき課題を特定した上で、KIZUNA指標を設定し、活動を推進しています。気候変動については、事業活動を通じたCO2排出量削減や環境への配慮および社会的課題解決への貢献などは重要性が高いと捉え、「指標と目標」に掲げる数値目標を設定しています。気候変動や自然資本に係るリスクを含む全社的なリスクに関しては、リスク・コンプライアンス委員会の下、リスク管理専門委員会が中心となり、定期的なリスクマネジメント(優先対応リスクのリスト化と対策の進捗管理)およびリスクアセスメントの強化に取り組んでいます。

 

詳細については、当社ウェブサイトに掲載しておりますのでご参照ください。

TCFD/TNFD提言の対応状況    https://www.arakawachem.co.jp/jp/csr/tcfd.html

 

 

(4) 指標及び目標

気候変動への対応

気候変動への対応に関するKIZUNA指標として、「CO2排出量の削減」「サスティナビリティ製品の連結売上高指数」を選定し、進捗管理をおこなっています。この指標は当社グループの環境・保安中期目標やサステナビリティ・リンク・ボンドのKPIと連動しています。

 

詳細については、当社ウェブサイトに掲載しておりますのでご参照ください。

サステナビリティ・リンク・ボンド  https://www.arakawachem.co.jp/jp/ir/slb.html

 

自然資本への対応

TNFDは生物多様性をテーマとし、気候変動より広範囲が対象で、あらゆる要素が絡み合いますが、当社グループの事業は持続可能な再生原料であるロジンへの依存度も大きく、自然資本への負の影響の低減と正の影響につながるような取り組みとして、KIZUNA指標「マツタロウの森の植林活動およびCO2吸収量評価実施」「バイオマス度換算販売量指数」を管理指標として設定しています。

 

人的資本

当社グループでは、「(2) 戦略」において記載した、人財育成方針及び社内環境整備方針について、次の指標を用いております。当該指標に関する目標および実績は、次のとおりであります。なお、人的資本に対する取り組みを深化させていく中で、設定した指標および目標は外部環境の変化や人的資本施策の進捗に応じて見直しをおこなっております。

当社グループの持続的成長には、変革や新たな付加価値の創造をリードしていく中核人財を育成していくことも重要課題の1つです。次世代を担う多様な中核人財を計画的に育成していくために、キャリアステージの早い段階から見出し、選抜研修を実施しております。加えて、グループ内出向を含む異動も人財育成の効果的な手段と位置づけており、スキルとリーダーシップを養う実践的な機会として、部門長や拠点長などの重要ポジションへの配置転換も積極的におこなっております。次世代中核人財の候補者が常にプールされている状態を目指し、毎年開催する人財戦略会議にて人財ポートフォリオの質および量の観点でモニタリングし、中期的な育成戦略を検討しております。

また、当社グループの経営戦略推進を加速していく上で、多様な専門性の結集も非常に重要であると考えており、安全操業に係る高度専門人財である安全技術者と、研究開発分野におけるデジタル高度専門人財であるデータ解析専門者の各開発部門への設置・育成も取り組んでいます。安全技術者については、リスクアセスメントの主導、設備安全化に適切な助言ができる保安管理のエキスパートを養成しています。1年間の育成プログラムで専門知識を習得した後、各工場・研究所で実践経験を積むことで当社グループの保安管理レベル向上および安全・安定操業への寄与が期待されます。データ解析専門者については、統計、データ解析、モデル構築およびプログラミング基礎の専門知識を身に付ける1年間の育成プログラムを通じてデータ解析・応用のエキスパートを養成しています。専門知識習得後は各研究開発業務で実務適用を試行しながら、データ解析の観点で適切な助言を行い、MIを駆使した研究開発の効率化・高度化の加速への貢献が期待されます。

当社グループの持続的な成長を実現していくために、多様な人財が活躍できる組織風土づくりへの取組みも重要な要素の1つであります。しかしながら、人財確保の面では、化学メーカーとして採用数が多い技術系学生に占める女性の割合が低かった背景や、出産・育児をきっかけに退職するなど勤続年数が短い背景もあり、女性管理職比率および人数の向上には時間を要します。そのため、将来的な女性活躍・登用を見据えて、計画的に採用を実行しており、管理職候補育成のためのワーキンググループ活動や外部研修などを実施し、スキルアップや意識向上を目指しております。

 


 

主なKPI

(=KIZUNA指標)

実績(当連結会計年度)

2025年度目標

重要ポジション後継者準備率
(注1)

216

200%以上維持

安全操業に係る高度専門人財
(安全技術者)の設置・育成

16

20

研究開発分野のデジタル高度専門人財
(データ解析専門者)の設置・育成

18

25

海外駐在員の邦人指数 (注2)

25ダウン

15%ダウン

付加価値労働生産性 (注3)

5.9アップ

15%アップ

従業員満足度調査のスコア
(イキイキタイプ)

50.3

50%以上

男性育児休業取得率

66.7

50%以上維持

女性管理職人数 (注4)

6増加

7名増加

高ストレス者比率の製造業平均比

算出中(注5)

50%以下

障がい者雇用率

2.2

2.5%達成

 

(注) 1 重要ポジション後継者準備率=重要ポジションに対する後継者候補者数÷重要ポジション数×100

2 2019年度の海外関係会社あたり平均邦人人数を基準としたときの指数であります。

3 2019年度の総労働時間あたり付加価値額を基準としたときの指数であります。

4 当社および連結国内子会社における2019年度の女性管理職人数を基準とした増減数であります。

5 高ストレス者比率の製造業平均比については、外部機関から製造業平均を入手する必要があるため、現在集計および算出中であります。算出結果については当社ウェブサイトをご参照ください。なお、当該サイトは2024年9月に更新予定です。(参考)高ストレス者比率の当社実績は8.5%であります。

  KIZUNA指標   https://www.arakawachem.co.jp/jp/csr/sdgs.html#KIZUNAindex

 

3 【事業等のリスク】

有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものであります。

 

(1) 経済状況および需要の動向について

当社グループは、日本、アジア、南北アメリカおよびヨーロッパ等の各地域において事業活動を展開しております。したがいまして、当社グループにおける生産・販売等の事業活動は、これらの国や地域における経済状況の影響を受けます。また、当社グループ製品の主な販売先である製紙、印刷インキ、塗料、粘着・接着剤および電子工業等の各業界が受ける景気後退等による需要減少は、当社グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。当社グループではこうした状況に対して、需要動向などの影響を受け難い収益構造とするため、事業の新陳代謝を促し、いかなる環境変化にも迅速かつ柔軟に対応し、集中的、効率的に経営資源を投入していくことでリスクの最小化を図っております。

(2) 法的規制について

当社グループは、事業活動を展開している国内外の地域において各種許認可や規制等の様々な法令の適用を受けております。したがいまして、炭素税の導入など法規制の大幅な変更や強化、ならびに海外の進出地域における予期せぬ法令の変更等により事業活動が制限される場合や、規制遵守のための費用の増大、また、環境問題や製造物責任、知的財産侵害等による訴訟や紛争による費用の増大で経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。当社グループではこうした状況に対して、取締役会の下部組織であるリスク・コンプライアンス委員会が、事業目的を阻害するさまざまなリスクの発生を未然に防止するとともに、リスクが顕在化した場合、損害の拡大防止や当社グループの社会的信用の維持を図るため、適切な対応をおこなう体制を整備・構築しております。

(3) 災害・事故・感染症について

当社グループは、国内外の拠点において生産活動を行っております。したがいまして、万一、気候変動などによる大規模な自然災害や火災事故、感染症の大流行等が発生した場合には、当社グループを含めたサプライチェーンにおける生産活動の停止等により当社グループの経営成績等に悪影響を与えることがあります。当社グループではこうした状況に対して、災害・事故等による事業活動への悪影響を最小限に留めるために、リスク発生の可能性や結果の重大性に応じた製造設備の定期点検や従業員の教育・訓練等の保安活動、災害防止策の強化に努めるとともに、BCP(事業継続計画)を策定し、定期的な訓練をおこなうことによりリスクの最小化を図っております。また、感染症による事業活動全体への悪影響を最小限に留めるべく、感染防止策を徹底するとともに、テレワークや時差出勤、Web会議の積極活用や生産拠点での入場前チェックなどの対策を実施しております。

(4) 原材料について

当社グループの主要原材料は、石油化学製品およびガムロジンであります。ガムロジンは、松の木に溝を切りつけて滲み出てくる生松脂を蒸留して製造したもので、当社グループは、ガムロジンの調達の多くを最大の生産国である中国に依存しておりますが、中国におけるガムロジンの生産量は年々減少しております。したがいまして、ガムロジンの需給バランスの変動により購入価格が高騰した場合は、当社グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。また、石油化学製品におきましても、グローバルな環境規制や安全規制による需給バランスの変動により購入価格が高騰した場合は、同様に当社グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。当社グループではこうした状況に対して、購入価格の変動に見合った販売価格の見直しをおこなうとともに、主要原材料の調達地域の多様化を進めることによりリスクの最小化を図っております。

 

(5) 為替レートの変動について

当社グループは、アジア、南北アメリカおよびヨーロッパ等の各地域において事業活動を展開しております。したがいまして、外貨建ての取引におきましては、為替レートの変動は当社グループの経営成績等に影響を与えることがあります。当社グループではこうした状況に対して、収入と費用の通貨を一致させる施策を進めること等によりリスクの最小化を図っております。また、当社グループの連結財務諸表作成にあたっては、海外の連結子会社の財務諸表を円換算しており、為替レートが変動した場合、当社グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。

(6) 減損会計について

当社グループの資産の時価が著しく下落した場合や事業資産の収益性が著しく悪化し、回復の可能性が見込めない場合には、減損会計の適用により固定資産の減損処理をおこないます。これらの減損損失の発生は、当社グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。当社グループではこうした状況に対して、各事業の事業採算を的確に把握し、採算悪化の兆候がみられる場合には、速やかに対策を講じて事業採算を改善させることによりリスクの最小化を図っております。

(7) 海外での事業活動について

当社グループは、アジア、南北アメリカおよびヨーロッパ等の各地域において事業活動を展開しております。当社グループにおける事業活動のグローバル化には、進出地域における政治・経済情勢の悪化、治安の悪化、予期せぬ法律または規制、戦争・テロ・感染症等のリスクが潜在しておりますが、当社グループが進出している地域でこれら事象が顕在化した場合には、当該地域での事業活動に支障が生じ、当社グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。当社グループではこうした状況に対して、現地における優秀な人財の確保と育成を進め、いち早く正確な情報を入手し、的確に対応することによりリスクの最小化を図っております。

(8) 情報セキュリティについて

当社グループは、事業活動において顧客情報、個人情報、技術情報などの秘密情報を保有・管理しております。当社グループ内においては、規定や情報インフラ(基盤)などを整備し、加えて情報漏洩防止に関する研修や訓練などの対策を講じ、情報セキュリティ強化に努めております。しかしながら、第三者による不正アクセスやコンピューターウィルスの感染などにより、情報の漏洩や改ざんなどが発生した場合は、当社グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。

 

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1) 経営成績等の概要

当連結会計年度における当社グループ(当社および連結子会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)の状況の概要ならびに経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識および分析・検討内容は次のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。

 

① 財政状態及び経営成績の状況

当連結会計年度の世界経済は、一部の地域を除き持ち直しているものの、地政学リスクの高まりや、原油・エネルギー価格の高止まり、各国の金融政策に伴う影響、中国経済の先行き懸念などが景気の下振れリスクとなり、依然として先行き不透明な状況が継続しております。また、国内経済においても、景気は緩やかに回復し、自動車などの生産は持ち直しの動きがみられます。しかしながら、世界的な金融引き締めや中国経済の停滞など海外景気の下振れや為替変動、物価上昇などのリスクの影響が懸念されます。

このような環境のもと、当社グループにおきましては、2021年度よりスタートしました第5次中期5ヵ年経営実行計画の方針(KIZUNA経営の推進とKIZUNA指標の達成)に沿った重点施策を進め、コア技術・素材を中核とした事業ポートフォリオ改革や新事業の創出などによる持続可能な地球環境と社会を実現するための取り組みに注力しております。業績面では、スマートフォンの出荷台数が回復傾向にあるなど、電子部品の需要環境は底を脱したものの、主力製品の販売が低調に推移し、収益に大きく影響しましたが、引き続き高付加価値製品の拡販、収益改善策に取り組んでまいります。また、2023年5月下旬から連続運転を開始した千葉アルコン製造株式会社の減価償却費負担が大きく影響しておりますが、水素化石油樹脂の中長期的な成長市場の需要に応えるべく、水島工場と合わせた2拠点供給体制によるグローバル販売戦略の再構築を進め、安定供給と高付加価値用途へのシフトによる収益性の向上を図ってまいります。

その結果、当連結会計年度の売上高は722億22百万円(前年同期比9.1%減)、営業損失は26億17百万円(前年同期は営業損失29億7百万円)、経常損失は24億12百万円(前年同期は経常損失26億87百万円)親会社株主に帰属する当期純損失は10億42百万円(前年同期は親会社株主に帰属する当期純損失49億41百万円)となりました。

 

セグメントの業績は次のとおりであります。なお、セグメント区分の売上高はセグメント間の内部売上高を含んでおりません。また、報告セグメントに含まれないその他事業は、売上高は80百万円(前年同期比57.9%減)、セグメント利益は38百万円(同7.3%減)となりました。

 

機能性コーティング事業

電機・精密機器関連業界は、中国における景気減速の影響や市況の低迷などにより、電子部品などの需要が引き続き低調に推移しましたが、下期に入り市況が回復しつつあります。このような環境のもと、当事業におきましては、機能性コーティング材料用の光硬化型樹脂は、スマートフォンやディスプレイ関連分野での在庫調整が一巡し、需要回復の兆しが見られました。また、印刷インキ用樹脂は出版分野の市場縮小が加速しており、売上高は減少しました。

その結果、売上高は149億31百万円(前年同期比4.9%減)、セグメント利益は5億20百万円(同55.2%増)となりました。

 

製紙・環境事業

製紙業界は、eコマース(電子商取引)市場の世界的な成長にともない堅調に推移していた段ボール原紙など板紙の国内需要が低調に推移しています。このような環境のもと、当事業におきましては、国内では原材料価格・エネルギーコストの高止まりや需要低迷の影響を受けましたが、海外での板紙向け紙力増強剤が堅調に推移し、収益性が改善しました。

その結果、売上高は211億20百万円(前年同期比0.6%増)、セグメント利益は13億39百万円(同330.9%増)となりました。

 

 

粘接着・バイオマス事業

粘着・接着剤業界は、世界的には紙おむつ向け接着剤の需要が堅調に推移しました。自動車関連分野では一部で生産停止の影響があったものの、生産・販売が回復傾向にあります。このような環境のもと、当事業におきましては、ロジンや石化原料の価格の高止まりに加えて、販売が低調に推移しました。

その結果、売上高は251億35百万円(前年同期比16.2%減)、千葉アルコン製造株式会社におきまして当期の減価償却費負担に見合った生産量には至らない状況にあることから、セグメント損失は40億48百万円(前年同期はセグメント損失38億71百万円)となりました。

 

ファイン・エレクトロニクス事業

電子工業業界は、中国で景気の停滞感が強まり、電子部品などの需要が低調に推移したものの、スマートフォン、PC、HDDなどにおきましては回復傾向にあります。このような環境のもと、当事業におきましては、一部では緩やかな回復が見られましたが、ファインケミカル製品や精密研磨剤、精密部品洗浄剤などが低調に推移しました。

その結果、売上高は109億55百万円(前年同期比12.8%減)、セグメント損失は3億93百万円(前年同期はセグメント利益3億49百万円)となりました。

 

当連結会計年度末における総資産は、前連結会計年度末に比べ63億83百万円増加し、1,254億18百万円となりました。主な要因は、受取手形及び売掛金が22億21百万円、投資有価証券が33億63百万円、退職給付に係る資産が21億92百万円増加したことによります。

負債は、短期借入金が11億32百万円減少しましたが、長期借入金が84億68百万円増加したことなどにより、前連結会計年度末に比べ59億74百万円増加し、685億円となりました。

純資産は、利益剰余金が減少したものの、その他有価証券評価差額金が増加したことなどにより、前連結会計年度末に比べ4億9百万円増加し、569億18百万円となりました。

 

② キャッシュ・フローの状況

当連結会計年度末における現金及び現金同等物は、前連結会計年度末に比べ1億21百万円減少し、91億64百万円となりました。

営業活動によるキャッシュ・フローは、11億57百万円の増加となりました。これは、税金等調整前当期純損失(14億18百万円)、売上債権の増加(22億81百万円)などにより資金が減少した一方、減価償却費(58億8百万円)、棚卸資産の減少(13億86百万円)などにより資金が増加した結果であります。

投資活動によるキャッシュ・フローは、71億40百万円の減少となりました。これは、投資有価証券の売却による収入(6億55百万円)などにより資金が増加した一方、固定資産の取得による支出(68億57百万円)などにより資金が減少した結果であります。

財務活動によるキャッシュ・フローは、54億84百万円の増加となりました。これは、配当金の支払額(9億52百万円)などにより資金が減少した一方、借入金の純増加(69億68百万円)などにより資金が増加した結果であります。

 

 

③ 生産、受注及び販売の実績

a 生産実績

当連結会計年度の生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

数量(トン)

前年同期比(%)

機能性コーティング事業

14,872

△18.1

製紙・環境事業

220,680

+3.7

粘接着・バイオマス事業

76,549

△18.2

ファイン・エレクトロニクス事業

8,898

△21.8

合計

320,999

△4.5

 

(注) その他事業においては、生産をおこなっておりません。

 

b 受注実績

当社グループは過去の販売実績と将来の予測に基づいて見込生産方式をとっております。

 

c 販売実績

当連結会計年度の販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

金額(百万円)

前年同期比(%)

機能性コーティング事業

14,931

△4.9

製紙・環境事業

21,120

+0.6

粘接着・バイオマス事業

25,135

△16.2

ファイン・エレクトロニクス事業

10,955

△12.8

その他事業

80

△57.9

合計

72,222

△9.1

 

(注) 1 セグメント間取引については、相殺消去しております。

2 主な相手先別の販売実績は、当該販売実績の総販売実績に対する割合が100分の10未満であるため記載を省略しております。

 

(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識および分析・検討内容は次のとおりであります。

なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。

 

① 当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容

当連結会計年度の売上高は722億22百万円、営業損失は26億17百万円、経常損失は24億12百万円、親会社株主に帰属する当期純損失は10億42百万円となりました。業績につきましては、スマートフォンの出荷台数が回復傾向にあるなど、電子部品の需要環境が底を脱した中、高付加価値製品の拡販、収益改善策に取り組みましたが、主力製品の販売が低調に推移して、収益に大きく影響しました。

2024年度も緩やかな回復傾向が続くと思われますが、地政学リスクの高まりや、原油・エネルギー価格のさらなる上昇、各国の金融政策に伴う影響、中国経済の先行き懸念など、先行きは見通しがたい状況です。当社グループにおきましては、千葉アルコン製造株式会社の減価償却費が当面の収益性を押し下げる要因となりますが、光硬化型樹脂やHDD用精密研磨剤などの新プラントを完成させ、将来的な需要増加に対応できる体制を整えており、半導体関連市場などで使用される先端材料用のファインケミカル製品のプラントも建設中であります。また、拠点やプラントの統廃合を含む既存事業の新陳代謝の加速と収益力の回復にも引き続き努めてまいります。

 

なお、第5次中期5カ年経営実行計画(2021年度~2025年度)は、新型コロナウイルス感染症がもたらした需要構造の変化や半導体の需給変動による電子部品の需要環境変化に加え、原材料価格やエネルギーコストの大幅な上昇など、当初の策定時と比較して当社を取り巻く環境が大きく変化しており、見直しを実施しました。見直し後の第5次中計を着実に実行して、成果の最大化を図ってまいります。

水素化石油樹脂は、ウクライナ情勢に起因した欧州におけるエネルギー環境の変化により、荒川ヨーロッパ社での製造を終了しました。千葉アルコン製造株式会社においては、当初の予定から2年遅れとなりましたが、安定稼働を見据えて、水島工場と合わせた2拠点供給体制によるグローバル販売戦略の再構築をおこないながら、収益性の改善に取り組んでまいります。

また、荒川ケミカルベトナム社における紙力増強剤製造設備につきましては、2022年3月に稼働を開始しており、ASEANでのさらなる拡販を目指し、プラント増設を検討してまいります。

さらには、松資源のさらなる機能追及や、微細藻類等の新たな「バイオマス」由来の素材をベースにした用途開発により、「ライフサイエンス」(医療、農業、コスメ)等への事業領域の拡大を図ってまいります。

見直しを実施した第5次中計の最終2025年度における連結業績目標およびセグメント別目標は以下のとおりであります。

(単位:百万円)

 

2023年度

(実績)

2024年度

(予想)

2025年度

(当初

中計目標)

2025年度

(修正

中計目標)

売上高

72,222

82,000

90,000

90,000

営業利益

△2,617

2,000

6,500

3,500

経常利益

△2,412

1,500

6,500

3,000

当期純利益

△1,042

1,800

4,500

2,100

営業利益率(%)

△3.6

2.4

7.2

3.9

EBITDA*(%)

3,190

4.4%

7,700

9.4%

11,200

12.4%

8,700

9.7%

ROE(%)

△1.9

3.2

7.0

3.6

税引前ROIC(%)

△2.5

2.2

4.0

 

*EBITDA:償却前営業利益=営業利益+減価償却費+のれん償却額

(単位:百万円)

 

2023年度

(実績)

2024年度

(予想)

2025年度

(当初

中計目標)

2025年度

(修正

中計目標)

機能性コーティング事業

売上高

14,931

18,000

20,000

20,000

セグメント利益

520

1,000

2,100

1,600

製紙・環境事業

売上高

21,120

23,000

20,000

23,500

セグメント利益

1,339

1,500

1,250

1,600

粘接着・バイオマス事業

売上高

25,135

27,400

31,000

30,500

セグメント利益

△4,048

△700

2,100

400

ファイン・エレクトロニクス事業

売上高

10,955

13,500

18,000

15,500

セグメント利益

△393

550

1,800

700

 

 

(参考)千葉アルコン製造㈱の減価償却費(実績および予想)

 

2022年度

2023年度

2024年度

(予想)

2025年度

(予想)

減価償却費(百万円)

1,043

2,315

約1,900

約1,600

 

 

 

資本の財源および資金の流動性につきましては、次のとおりであります。

短期運転資金は自己資金および金融機関からの短期借入を基本としており、設備投資等の長期的な資金需要に関しては、金融機関からの長期借入や社債の発行により調達しております。

また、グループ会社の資金調達につきましては、当社において一元管理しております。

なお、当社は格付を取得しており、本報告書提出日時点において、日本格付研究所「BBB+」となっております。また、金融機関には充分な借入枠を有しており、当社グループの事業の維持・拡大、設備資金の調達は今後も可能であると考えております。

 

なお、当社グループの経営成績に重要な影響を与える要因および対応策につきましては、「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」に記載のとおりであります。

 

② 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成しております。この連結財務諸表を作成するにあたって、資産、負債、収益及び費用の報告額に影響を及ぼす見積り及び仮定を用いておりますが、これらの見積り及び仮定に基づく数値は実際の結果と異なる可能性があります。

連結財務諸表の作成にあたって用いた会計上の見積り及び仮定のうち、重要なものは「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項 (重要な会計上の見積り)」に記載しております。

 

5 【経営上の重要な契約等】

該当事項はありません。

 

6 【研究開発活動】

当社グループにおいて研究開発活動は、当社、ペルノックス㈱、高圧化学工業㈱および山口精研工業㈱がおこなっております。顧客ニーズに対し提案型の製品開発をおこなうとともに、「つなぐを化学するSPECIALITY CHEMICAL PARTNER」というビジョンに基づき鋭意研究開発活動を展開しております。当社においては、2016年度に研究開発本部を設置し、第5次中期5ヵ年経営実行計画がスタートした2021年度よりコア技術・素材別に再編して一元化しました。加えてAI・MIの活用に注力すると同時に選択と集中による効率化と新規開発、持続可能性への貢献を加速するため、機能性コーティング開発部、水系ポリマー開発部、フォレストケミカル開発部、ファイン・エレクトロニクス開発部、AI・MI推進部、コーポレート開発部に開発推進部を加えた体制にしております。あらためて当社グループのコア技術・素材を事業ポートフォリオの中核に据え、長期的に経営資源を投入し、顧客ニーズに対して研究開発部門の自律性を高め、多面的に対応できる形へと組み替えました。事業分野は機能性コーティング事業、製紙・環境事業、粘接着・バイオマス事業、ファイン・エレクトロニクス事業であり、その研究テーマは多岐にわたっております。

当連結会計年度の研究開発費は2,965百万円であり、主な研究成果は次のとおりであります。なお、研究開発費には、報告セグメントに配賦しない中長期での成長の源泉となるコーポレート研究開発費用408百万円を含んでおり、ライフサイエンス分野などへの本格参入に向けてのコア技術(ロジンや水系ポリマーなど)の展開、および千葉アルコン製造㈱の安定製造に向けた技術的対応を進めております。

(1) 機能性コーティング事業

当事業では、デジタルデバイス関連用途を中心に光硬化型機能性コーティング剤「ビームセット」「オプスター」や熱硬化型機能性コーティング剤「アラコート」の研究開発に注力しております。また、印刷インキや塗料用途において、環境負荷低減に向けた製品の研究開発をおこなうとともに、剥離紙・フィルム用離型剤としてシリコーン樹脂の開発もおこなっております。また、ポリマー合成技術を活かした機能性材料の新規用途開発にも積極的に取り組んでおります。

光硬化型機能性コーティング剤「ビームセット」「オプスター」では、5G関連分野への量産に向け、市場からの高品質要求への対応に注力しております。ディスプレイ用途において、耐傷つき性に加えて、難密着素材への密着性付与、光学調整技術の改良、フレキシブルデバイス用での技術対応を進め、それぞれで採用が得られております。また、光学用透明粘着剤(OCA)としての採用も進んでおり、さらなる拡大に向けて各用途に対応した機能性付与に取り組んでおります。水系化、無溶剤化による環境に配慮した製品の開発にも継続的に取り組んでおり、水系では塗料用を中心に顧客での高評価が得られています。

熱硬化型機能性コーティング剤「アラコート」は、非シリコーン系剥離コーティング剤の開発に取り組み、電子材料用途を中心に着実に実績が拡大しております。

印刷インキ用樹脂では、BCPの観点から各種原料ソースを使いこなす技術開発を進め、顧客での使用形態に応じたワニス製品の開発も進めることで、持続可能な製品供給を目指しています。また、ロジンの研究開発により、バイオマス度向上と機能性付与を両立した製品を開発し、バイオマスインキ用に実績化が始まっています。

塗料用樹脂では、水系製品の有機溶剤中毒予防規則対応や溶剤系製品の特定化学物質障害予防規則対応ハイソリッドの市場要求に応える製品を開発し、顧客での採用が得られました。

剥離紙・フィルム用離型剤「シリコリース」は、硬化方式別に熱硬化型および光硬化型、形態別には溶剤系に加えて、環境に配慮した無溶剤系および水分散系を揃えており、顧客要求に適合した製品開発を進めております。また、従来からの剥離紙用途に加え、電子部材用途での実績が拡大しました。

水系ポリマー技術の展開としては、ポリマー合成技術を活かした高機能化に取り組んでおり、被塗物表面への親水性付与、無機材料のバインダーや分散剤などの機能付与の検討をおこない、顧客での評価が進んでおります。

当事業に係る研究開発費は871百万円であります。

(2) 製紙・環境事業

当事業では、紙の強度を向上させる紙力増強剤や紙へのにじみ止め性を付与するサイズ剤など、紙の機能を向上させる薬品開発に加え、環境視点に基づいた水系ポリマーの技術と用途開発をおこなっております。顧客ニーズや年々悪化する古紙原料や抄紙条件に適応させ、紙のさらなる高機能化ならびに薬品の低コスト化、紙の生産性向上や合理化に寄与する技術の検討をおこなっております。また、水系ポリマー技術を活かした地球環境と社会に貢献できる開発テーマにも取り組んでおります。

紙力増強剤では、内添紙力増強剤「ポリストロンシリーズ」で高分子量化技術を駆使した、高い紙力増強効果を発現する製品の販売が拡大しております。中国,台湾,ASEAN等の海外市場向け製品の開発は積極的に進めており、2022年3月に稼働を開始した荒川ケミカルベトナム社を中心に、特にASEANでの紙力増強剤の販売、マーケティングに注力しております。また、地球環境に配慮した新規製品として、バイオマス由来の機能性成分の配合および高濃度化による輸送頻度の低減を通じて、CO2排出量削減に寄与する製品の実績化が開始し、さらなる拡販に向けた取組みを進めております。

内添サイズ剤では、バイオマス素材であり当社の強みでもあるロジンと、当社基盤技術である乳化剤及び乳化技術を組み合わせ、安定的な製品供給を目指しております。また、国内での長年の技術蓄積を活かしつつ、中国市場さらにはASEAN市場への展開を目指し、新規製品の開発を進めております。

また、環境に配慮した独自の水系ポリマー技術による紙用機能性コーティング剤の製品開発も進めております。ガスバリア性や耐水耐油性などを紙に付与する機能性コーティング剤の開発を進め、脱プラスチックやフッ素系化合物の代替に向けて、顧客での評価が進んでおります。

当事業に係る研究開発費は503百万円であります。

(3) 粘接着・バイオマス事業

当事業では、多様化する粘着・接着剤用樹脂に対する顧客ニーズに対応した高機能性製品の開発に取り組み、グローバルに展開しております。環境に配慮した製品の開発も推進しており、脱溶剤化やCO2削減に貢献する水系エマルジョン型粘着付与樹脂製品の高機能化や光硬化型粘着剤向け粘着付与樹脂の提案も積極的に進めております。また、バイオマス素材としての利点を活かしたロジン誘導体事業の拡大と持続性確保に向けてロジンの基礎技術、変性技術の深化や持続可能な再生原料の有効活用を目指した開発にも取り組んでおります。

ロジンエステル、超淡色ロジンなどのロジン誘導体や水素化石油樹脂は粘着付与樹脂として多く使用されておりますが、これまで培ってきた素材に関するノウハウや変性技術を活用して新規にプラスチック添加剤「PLAFIT」の市場浸透を進めています。流動性向上、相溶化、分散性、低誘電といった特長をキーワードに最近の技術トレンドや社会のニーズに対応すべく、新規顧客への提案を進めております。さらにはライフサイエンス分野での新規開拓を目指し、抗菌・抗バイオフィルム剤の開発にも取り組んでいます。

当事業に係る研究開発費は241百万円であります。

(4) ファイン・エレクトロニクス事業

当事業では、半導体・電子部品およびデジタルデバイス関連用途を中心として、精密部品洗浄剤や洗浄システム、はんだ関連材料、熱可塑性ポリイミド樹脂、機能性ファインケミカル材料、リチウムイオン二次電池向け材料の研究開発をおこなっております。ペルノックス㈱においては、車載用電子部品、各種センサー部品、半導体向けの絶縁封止材料や導電性材料の実績をベースに、最新のLEDやパワー半導体モジュール用の耐熱や信頼性に優れたエポキシ樹脂やシリコーン樹脂製品を大手電機部品メーカーや自動車部品メーカー向けに開発しております。また、山口精研工業㈱においてはハードディスク用アルミ基板やSAWフィルター用基板向けの精密研磨剤の研究開発をおこなっております。

精密部品洗浄剤「パインアルファ」では、今後の伸長が期待されるパワー半導体分野向けにフラックス洗浄剤および洗浄機の実績化が開始しました。はんだ関連材料であるフラックスでは、洗浄性に優れた水溶性フラックスの新製品を開発し、市場への提案をおこなっております。

溶剤可溶型低誘電ポリイミド樹脂「PIAD」では、5Gスマートフォンや5G基地局等に使用される高周波対応フレキシブルプリント回路基板用途、半導体パッケージ基板用途を中心に開発を進め、実績化が進みました。また、当社では初めてとなる一般社団法人日本有機資源協会の「バイオマスマーク認定」をミリ波対応可能な2製品にて取得、高まる環境ニーズに対応していきます。

リチウムイオン二次電池向け材料では、当社のコア技術である水系ポリマーの技術を応用し、負極用バインダーやセラミックコーティングセパレータ用バインダーを市場に提案しており、顧客での評価が進展し徐々に採用が進んでおります。

また、ファインケミカル材料では、半導体向け材料をはじめ各種機能材料の開発を行っています。当社グループの高圧化学工業㈱が保有する、耐腐食性に優れ、高温・高圧・水素化反応にも対応できる設備での新規受託案件数も着実に増加しており、今後さらなる伸長が期待される状況です。

半導体モジュール向け樹脂では、低熱膨張と高流動化を両立した高耐熱性液状注型樹脂の開発に成功し、実績が拡大しました。また、チップLED向け高接着力1液シリコーン樹脂の開発を進め、実績化が進みました。さらに、CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics,炭素繊維強化プラスチック)用バインダーの開発・製造にも携わり、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)のH3ロケット開発及び試験機2号機打上げ成功への貢献に対して当該機構宇宙輸送技術部門長から感謝状が贈呈されました。

精密研磨剤製品では、データセンター用ハードディスクの高容量化に合わせて、研磨剤の品質向上、生産性向上に注力しました。製品開発だけでなく、今後の需要拡大に備えて生産能力への投資を行い、昨年11月には山口精研工業(株)第2工場が完成しました。また、成長分野であるパワー半導体用研磨剤の開発へ人財を増員し、徐々に採用が進んでおります。

当事業に係る研究開発費は939百万円であります。

 

なお、当連結会計年度末における研究開発スタッフは227名であり、取得済特許権保有件数は、国内485件、海外402件、出願中のものは国内157件、海外197件であります。