文中における将来に関する事項は、本書提出日現在において当社グループが判断したものです。
当社グループは、2019年6月にJX金属グループ2040年長期ビジョンを策定し(2023年5月に一部改定)、「装置産業型企業」から「技術立脚型企業」への転身により、激化する国際競争の中にあっても高収益体質を実現し、半導体材料・情報通信材料のグローバルリーダーとして持続可能な社会の実現に貢献することを基本方針といたしました。この方針のもと、半導体材料セグメントと情報通信材料セグメントからなるフォーカス事業を成長戦略のコアとして位置づけ、先端素材分野での技術の差別化や市場創造を通じて、市場成長以上の利益成長を目指しています。基礎材料セグメントからなるベース事業は、最適な規模の事業体制のもとで、銅やレアメタルの安定供給を通じてフォーカス事業を支えるとともに、ESG課題の解決に貢献してまいります。
近年、デジタルトランスフォーメーションの進展、脱炭素社会形成に向けた動きの加速、資源不足・枯渇懸念の深刻化、企業に求められる社会的責任の高まりなど、当社グループを取り巻く社会環境、事業環境は大きな変化に直面しています。
当社グループを取り巻く経営環境について、報告セグメント別の状況は以下のとおりです。
半導体ロジック・メモリ市場は、2023年は市況の調整が続いたものの、今後は生成AIの伸長による市場牽引が本格化するとともに、電気自動車等の普及拡大により、2023年から2027年にかけて年率7.1%(出所:TechInsights Inc. “Worldwide Silicon Demand History and Forecast” (2025年3月時点、シリコンウエハ出荷面積ベース))の成長が予想されています。特に半導体製造技術の世代における最先端ロジックについて、5nm世代以降は2023年から2027年にかけて年率36.9%(出所:同上)の高い成長が見込まれており、多層化・微細化の進展は継続するものと思われます。
半導体の成膜方法であるPVD(Physical Vapor Deposition:物理気相成長法)に用いられる当社の主力製品である半導体用スパッタリングターゲットはロジック・メモリをはじめとした各種の半導体デバイスの製造に用いられていますが、最先端ロジックほど配線層数が多くなり、半導体用スパッタリングターゲットの使用量が増加する傾向にあることから、その販売量は半導体ロジック・メモリ市場の成長を上回ることが期待されます。また、最先端ロジックほど配線が細かくなり、PVDが適さない微細な配線に対するCVD/ALDによる薄膜形成ニーズも高まることが見込まれます。
さらに、データ演算需要の飛躍的な増加及び生成AIの伸長を背景に、生成AIを搭載したサーバを大量に運用できるAIデータセンターの建設も進んでいます。これに伴いAIサーバの出荷台数の増加も見込まれており、2023年から2028年にかけて年率30.2%(出所:Prismark Partners LLC 「2025 Prismark Workshop, February2025」、出荷台数ベース)の成長が予想されています。AIサーバにはチップ内の配線材料としての半導体用スパッタリングターゲットをはじめとして、光通信向け材料としてのInP基板、タンタルキャパシタ向けの高純度タンタル粉、大容量HDD向けの磁性材用ターゲットなど、半導体材料セグメントの当社製品が多く用いられていることから、このような傾向は本セグメントの収益拡大の追い風になることが見込まれます。
加えて、AIサーバには高速の並列演算を担うために多数のGPUが搭載されており、データセンター向けGPUの出荷数量も2023年から2027年にかけて年率42.4%(出所:富士キメラ総研「2024 データセンター・AI/キーデバイス市場総調査」、出荷数量ベース)の成長が予想されています。GPUに対して高機能を付与するためには多層化・微細化に加えてパッケージング分野における技術革新が必要であり、パッケージングにおいてはチップ間の配線材(TSV・RDL)やチップレット間をつなぐ配線等の用途における成膜機会の拡大からも、当社の半導体用スパッタリングターゲットの需要の増加を見込んでいます。
2025年3月期においては、エレクトロニクス製品のサプライチェーンにおける在庫調整が一巡し、当社主力製品であるFPC向け圧延銅箔の販売は、再び成長軌道に回帰しています。電子機器製品等に搭載されるFPCの面積は、2024年から2029年にかけて年率7.8%(出所:Prismark Partners LLC “The Printed Circuit Report Fourth Quarter / March 2025”)の成長が予想されています。今後は、AI搭載等によるスマートフォンやパソコン向け部材の更なる小型化・高機能化に加え、スマートウォッチやスマートグラスといったウェアラブル等の周辺機器の市場成長により圧延銅箔の使用拡大が見込まれます。また、世界的なEV販売台数の増加に伴い、配線用や誤作動防止のために用いられるシールド材用の圧延銅箔の採用・使用量の拡大が期待されるとともに、中長期的には産業機械、ロボット等の分野において小型化、軽量化が進み、複雑な動きに対して疲労耐性の強い圧延銅箔の使用量拡大が見込まれています。
積層セラミックコンデンサの内部電極に使用される超微粉ニッケルについては、AIを搭載する高機能通信機器の普及や、EVや自動運転の普及に伴う電装化の進展、データサーバやAIサーバ等の成長が需要を牽引し、市場は次第に成長軌道に回帰していくものと想定しています。
また、半導体材料セグメントが属する市場環境において記載しているAIサーバの導入拡大は本セグメントの収益拡大の追い風になることも見込まれており、特にAIサーバ向けのコネクタにおいては高耐熱・高強度などの特性が求められ、要求ニーズに応えるチタン銅の採用が急速に拡大しているほか、高温となるAIサーバ内における冷却液の漏液を検知するための漏液センサーの需要拡大も見込まれます。
③ ベース事業:基礎材料セグメント
脱炭素社会の実現に向けて、再生可能エネルギーの導入が拡大するとともに、様々な産業や領域において電化が進行しており、中長期的に銅素材の需要拡大が見込まれます。例えば、電気自動車では、モーターコイルやバッテリーなどにガソリン車の約4倍の銅が使用されています。銅需要拡大の一方で、既存鉱山からの銅鉱石の供給量には限界があり、銅の需給はひっ迫することが見込まれており、銅価は堅調に推移していくものと考えられます。技術革新、製品寿命の短期化、人口増加等の要因により電気・電子機器の廃棄物であるE-Wasteの発生量が増加傾向にあり、2022年に62百万トンであったものが2030年には82百万トンに達する見通しです(出所:UNITAR “The Global E-waste Monitor 2024”)。一方で、脱炭素に向けた世界的な環境意識の高まりにより、リサイクル原料確保への動きが加速していることに加えて、環境規制強化の流れもあり、リサイクル原料の調達コストは上昇することが予想されます。また、アジア域内での製錬所建設が進むことにより、銅地金のサプライヤーが増加し、銅地金の販売環境の悪化が見込まれています。
当社グループは、長期ビジョンに基づき、「装置産業型企業」から「技術立脚型企業」への転身により、激化する国際競争の中にあっても高収益体質を実現し、半導体材料・情報通信材料のグローバルリーダーとして持続可能な社会の実現に貢献することを基本方針としています。
フォーカス事業を成長戦略のコアとして位置づけ、先端材料分野での技術の差別化や市場創造を通じて、市場成長以上の利益成長を目指します。また、ベース事業は、最適な規模の事業体制のもとで、銅やレアメタルの安定供給を通じてフォーカス事業を支えるとともに、サステナブルな社会の実現に向けて貢献していきます。

半導体の多層化・微細化の進展及び生成AIの普及に伴うデータ転送の高速・大容量化を背景に、半導体ロジック・メモリ市場は引き続き拡大することが見込まれています。このような市場成長を捕捉すべく、半導体用スパッタリングターゲットの生産設備への積極的な拡張投資を推進しており、2028年3月期には2024年3月期対比で約1.6倍の生産能力とすることを目指しています。
上工程(注1)については、既存の磯原工場に加えて、茨城県ひたちなか市において新工場の建設を進めています。下工程(注2)については、日本に加えて台湾、韓国及び米国に生産拠点を構え、主要顧客である半導体メーカーに近接して製造を行っています。特に米国においては、複数の先端半導体メーカーが拠点の新設・拡張を進めていることから、アリゾナ州メサにおいて新工場の建設を進め、2024年11月にこれを竣工しました。この工場では生産能力を拡張するとともに、最新鋭設備の導入による工程の自動化を実現することにより、生産性の向上を見込んでいます。
当社グループは、グローバルで多様な顧客基盤に対応するため、今後も市場の成長を捕捉する強力なグローバル生産体制の構築を目指します。

(注) 1.上工程とは、半導体用スパッタリングターゲット製造プロセスにおける溶解~熱処理工程を指します。
2.下工程とは、半導体用スパッタリングターゲット製造プロセスにおける加工・ボンディング工程を指します。
3.生産拠点は、2025年3月時点における状況を反映しています。
次世代半導体材料として期待されているCVD・ALD材料の本格供給に向け、東邦チタニウム株式会社茅ケ崎工場の敷地内及び当社日立事業所への生産設備及び開発設備投資を決定しています。さらに、TANIOBIS GmbHにおいては近年の市場環境の変化を捉えた生産拠点の再編に取り組んでいますが、当該再編の一環として、ドイツの拠点にCVD・ALD材料の開発・生産が可能な設備を導入し、稼働を開始しています。
また、当社は、長年培った高純度化、表面制御、組成、分析評価等の技術を活かした次世代の収益の柱の確立に取り組んでいます。具体的には、データセンターやモバイル通信量の増加により成長が予想されているInP(インジウムリン)や防衛・メディカルなどの分野での成長が期待されるCdZnTe(カドミウムジンクテルル)といった結晶材料の事業規模拡大を目指しています。今後も、次世代のグローバルトップシェア製品を創出する取組みを継続していきます。
④ サーキュラーエコノミー実現に向けた取組み
脱炭素化社会の進展に伴い、再生可能エネルギー導入の拡大や、様々な産業・領域における電化が進行しており、銅やレアメタルなどの金属資源の需要は今後さらに拡大していくことが見込まれています。こうした中、自動車業界や家電・電子機器業界を中心に、使用済み製品を回収・再資源化し、同一素材として再利用するクローズドループ・リサイクルへの関心が高まっていますが、その処理は必ずしも容易ではなく、実現にあたっては、製品ライフサイクルに関わるサプライチェーン全体が連携して資源効率性を高める仕組みを整備することが不可欠です。
当社は、台湾、米国、カナダ、ドイツ、シンガポールに集荷拠点・営業拠点を有し、世界規模のリサイクル原料集荷体制を整えています。さらに、2024年7月に事業を開始した三菱商事との合弁会社であるJXサーキュ―ラーソリューションズ株式会社(以下、JXCS)を通じ、三菱商事の有する産業横断型のグローバルなネットワーク・知見を活用することで、リサイクル原料の集荷強化や、国内外リサイクラーと協働したリサイクルプロセス変革・デジタル化等を推進し、サーキュラーエコノミーの実現を目指します。
2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】
当社グループはこれまでも様々な社会貢献活動や環境保全活動を実施してまいりましたが、サステナビリティに対する世界的な潮流を受けて、組織的対応を強化し、全社的視点でサステナビリティ経営に取り組む必要があることから、2020年10月、サステナビリティへの取り組みを統括する「ESG推進部」を発足し(注1)、関連会議体を整備しました。
社長の諮問機関である「ESG推進会議」(注2)では、サステナビリティへの対応に関する基本方針や活動計画、及びそれらのモニタリングを行っています。ESG推進会議は社長を議長、当社の経営会議のメンバー(社長が指名した執行役員)を構成員、常勤監査等委員及び社外取締役をオブザーバーとし、原則として年二回開催されます。
また、サステナビリティ活動のグループ全体における推進・浸透を図るため、下部機関として、各部門、グループ会社等のサステナビリティ推進責任者により構成される「ESG推進責任者会議」(注3)を設置しています。サステナビリティに関わる重要事項については、取締役会・経営会議に適宜、付議・報告しています。

ESG推進会議の委任に基づき、活動の分野に応じて下記委員会を設置しています。各委員会における審議結果等はESG推進会議にて報告します。
当社グループにおけるコンプライアンス推進のための教育その他の諸施策及び活動計画の策定、当社グループ各社におけるコンプライアンス推進状況のレビューを行います。
事務局を当社法務部として、年二回及び必要の都度開催しています。
当社グループの安全衛生・環境保全に関する活動計画の策定、当社グループ各社における安全衛生・環境保全に関する活動状況のレビューを行います。
事務局を当社環境安全部として、年二回及び必要の都度開催しています。
当社グループにおけるCO2ネットゼロに向けた取り組み推進のための活動方針及び活動計画その他諸施策の策定、当社グループ各社におけるCO2ネットゼロに向けた取り組みの推進状況のレビューを行います。事務局を当社ESG推進部として、年二回及び必要の都度開催しています。
(注) 1.2025年4月1日付で同部の機能を「コーポレートコミュニケーション部」内に設置する「サステナビリティ推進室」に移管し、情報発信と社内伝達の機能を従前以上に強化していくこととしています。
2.2025年4月1日付で「サステナビリティ推進会議」に改称しました。
3.2025年4月1日付で「サステナビリティ推進責任者会議」に改称しました。
事業を取り巻く様々なリスクに関して、将来予測や内外の環境変化を踏まえて特定・分析及び評価を行い、回避・低減・移転・保有等の対応を実施しています。当社グループでは、当社経営会議において重要リスクの決定、各重要リスクの対応計画の承認及びそれらのモニタリングを実施しています。また、当社総務部リスクマネジメント室が、当社及び当社グループのリスクマネジメントの総括に関する業務を分掌し、全社的リスクマネジメントの推進を担っています。詳細については「
当社グループでは、2040年長期ビジョンの実現に向け、優先的に取り組むべき6つのマテリアリティを特定しています。各マテリアリティはKPIを設定し、ESG推進会議にて達成度合いを測定・評価しながら運用しています。
当社グループのマテリアリティは、世界的な社会課題とSDGsが掲げるゴール、国際ガイドライン(GRI、ISO26000等)、国内外イニシアティブ、同業他社の動向などを踏まえて、以下のステップにより特定しました。なお、特定したマテリアリティは、今後の社会情勢やニーズの変化、経営戦略等に応じて内容の見直しを定期的に実施していく予定です。

Environment
マテリアリティ①:地球環境保全への貢献
Social
マテリアリティ②:くらしを支える先端素材の提供
マテリアリティ③:魅力ある職場の実現
(注) 障がい者の雇用促進と安定を目的として設立される子会社
マテリアリティ④:人権の尊重
マテリアリティ⑤:地域コミュニティとの共存共栄
Governance
マテリアリティ⑥:ガバナンスの強化
当社グループでは、気候変動を地球規模で解決すべき喫緊の課題と捉え、その解決に寄与するべく、CO2ネットゼロを最終目標に掲げ、その達成に向けた取り組みを一層加速しています。
気候変動対応に関する基本方針の策定、重点目標の設定、それらのモニタリング等については、社長の諮問機関であるESG推進会議で行っています。
気候変動に係るリスク・機会についてはESG推進部が各部門と連携し、TCFD提言のフレームワークに沿ってシナリオ分析を含む評価・特定を行っています。シナリオ分析にあたっては、気候変動影響に伴う規制や事業への影響等のリスク要因を幅広く情報収集・分析し、気候変動対応に係る自社のリスク・機会の把握、中長期的な事業戦略上の対策などを検討しています。また、分析の結果や対応策の実施状況等については、ESG推進会議等を通じて経営陣に共有し、それを基に各部門がESG推進部とも連携しながら取り組みを進めています。

当社グループは、気候変動における指標をCO2自社排出量(Scope1,2)と定め、2050年度にCO2自社排出量のネットゼロを目指すことを目標としています。2018年度のScope1,2におけるCO2自社排出量を基準として、2050年度からのバックキャストで2030年度までに50%減とすることを中間目標に設定しています。
気候変動が当社グループ及び当社グループ事業に及ぼすリスク・機会の抽出、リスクへの対応と機会の実現に向けた戦略を検討するにあたって、国際エネルギー機関(IEA)の「World Energy Outlook(WEO)」を参照しました。このほか、国連のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)による地球温暖化シナリオを分析に用いました。
気候変動に伴う脱炭素社会への移行を想定すると、再生可能エネルギーへの電源構成の転換、電動化等の電力利用の変革、サーキュラーエコノミーの社会実装等に向けて当社グループの果たす役割は大きく、製品需要の増加や高機能化などの機会が想定されます。一方、当社グループ自身がグローバルでカーボンニュートラル化を進めることに伴うコスト増加やその遅れによる機会損失などのリスクも存在します。また、国内外の事業所において、異常気象により生産設備や物流網が被害を受け、操業停止に陥る物理リスクの高まりが考えられます。

当社は、銅の生産・利用に関わる様々な企業におけるニーズや資源循環、脱炭素、供給安定性、原料トレーサビリティの向上、並びに経済合理性等の複数の視点に立って、市場への最適な銅の供給スキームを検討してきました。この結果、社会に求められる銅の供給の1つの姿として、マスバランス方式を用いた2種類の100%リサイクル電気銅(PCL100/mb、MR100/mb)(注1)を上市することを2024年1月に発表しました。また、2025年1月には、原料100%リサイクル高機能伸銅品の販売を開始しました。
当社グループが生産する銅製品の資源循環を推進する「Cu again(注2)」プロジェクトのもと、上記の電気銅や高機能伸銅品をはじめとする、様々な製品の社会実装をサプライチェーンに携わる方々とともに進めてまいります。
(注) 1.PCL100/mb(Partnered Closed Loop 100% mass balance method)は、顧客の使用済み製品や工程端材を由来とする銅リサイクル原料を水平リサイクルし、含有されている銅の相当量を100%リサイクル電気銅として返還するもの。MR100/mb(Mixed Recycle 100% mass balance method)は、当社グループがリサイクル原料回収ネットワークを通じて市中から収集した銅リサイクル原料を基に、100%リサイクル電気銅を販売するもの。
2.電気銅(Cu)が、社会での役割を終えてスクラップとして戻り、リサイクルを経て、繰り返し(again)、未来の社会を支えていくという願いを込めたもの。
当社グループでは、2040年長期ビジョンの中で、新規事業創出に向けた施策として技術立脚型経営に向けた組織構築・人材育成を掲げています。これを受け、技術立脚型企業への転身に不可欠な「人」の力によるイノベーションを生み出すために、「人」の意欲・能力を最大限引き出すことを人事戦略上の重要課題と設定しており、こうした考えのもと、人材への投資を積極的に進めています。
当社グループでは、下記のような人材が新たな価値や付加価値を創出していくと定義し、人材獲得の強化を推進しています。
a. 多様性を理解・受容しながら様々な立場の関係者と協働し、革新をリードできる人材
b. オーナーシップ(当事者意識)を持ち、自ら考え、行動・チャレンジできる人材
c. 環境の変化に応じて「ありたい姿」を描き、実現に向け貪欲に策を講じられる人材
上記定義に基づく付加価値創出人材を獲得するために、以下の施策を遂行しています。
当社では、人事部採用担当の組織強化や採用チャネルの多様化により、幅広く優秀な人材を採用しています。新卒採用では、高専卒を含めた技術系人材、留学経験を有する国内外のグローバル人材を積極採用しています。当社にない様々な知見・経験をお持ちの方に活躍いただくキャリア採用も定着しており、直近3年の採用実績においては新卒とキャリアの割合がほぼ5:5となっています。そのキャリア採用拡充のために、社員の知人・友人を紹介いただくリファラル採用、当社退職者に再入社いただくカムバック採用など、チャネルの多様化を進めています。大学卒・高専卒・キャリアと、様々なチャネルを用いることで採用人材の質・量・多様性を確保し、新たな知見や技術、アイデアなどを積極的に共有しようとする闊達な企業風土の醸成につながっています。
当社では、技術立脚型企業への転身に向けた各種施策の確実な実行に向け、競争力の根源となる技術開発力、生産現場力をさらに高めていくため、技術系人材を積極採用しています。
<新卒採用>
・ 大学(院)時の専攻を限定せず、幅広い学部から当社の求める志向と能力を持った人材を採用
・ 学校推薦ではない、自由応募者の採用拡大
・ 高専生の積極採用
<キャリア採用>
・ 新規事業企画や技術開発などのポジションにて、当社にない分野の技術的知見を持つ人材を採用
・ 基幹職以上の重要ポジションでの採用
・ 多様な業界出身(自動車、電機、化学、大学等)の人材を採用
・ 社員紹介(リファラル)や退職者の再入社(カムバック)で自社にマッチした人材を採用
当社では、以下の人材育成方針のもと、各種の施策・支援策を展開しています。

上記方針に基づく具体的な施策は以下のとおりです。
基幹職登用の早期化や職種を超えた異動といったキャリアパスの多様化等の状況に合わせ、2023年度から柔軟かつ能動的な教育体系への見直しを行いました。若手階層別教育では若手の早期戦力化と管理職向け教育の拡充、選択型教育の導入や自己啓発支援などで自律的な学びの促進、社外での実践的な教育の機会、経営幹部候補人材・海外事業展開を担えるグローバル人材・専門的な知見で会社を牽引するスペシャリスト・現場の競争力向上を担う人材の計画的な育成を目指しています。そのほか、財務知識やコミュニケーションの質や問題解決スキルに関する共有認識を醸成するためのトレーニングも実施しています。
社員一人ひとりの能力や資質に応じた様々な研修制度を設けています。具体的には、当社のDNAを取り入れながら自律自走し、チャレンジを行うための基礎力とマインドの獲得を目指す入社3年目までの若手向け研修、マネジメント力向上や経営マインド、スキルを身に付けることを目的とした基幹職向け研修、製造現場の要となる主任職・係長職を対象に、現場の管理者として必要な能力開発・知識の獲得を図る現場管理者向け研修、社員の自律的・自発的な成長のため、従来の階層別教育に加え、各社員の役割期待・力量・志向等に応じて学ぶことができる選択制プログラムなどです。
上記のほか、グローバル人材育成を目的とした海外若手研修や国外留学制度、現在の業務から一度離れ、社外での経験を通じて自身のキャリアを成長させることに挑戦するCGC(越境学習、Career Growth Challenge)制度、自律的なキャリア構築支援を図るキャリア教育などのプログラムを用意しています。また、社員自らの学習意欲をサポートすることを目的に、社員自らが希望する外部研修プログラムを申請して受講し、プログラム終了時に会社が費用の半額(上限50万円/ 1プログラム)を補助する「セルフ・イノベーション・サポート」制度を設けつつ、場所や時間に制約されることなく学習が可能なオンライン動画学習サービス「Udemy Business」を導入しています。
当社では、人事諸制度の改定を2021年度より段階的に進めてまいりました。社員一人ひとりが当事者意識を持ち、互いに尊重・切磋琢磨しながら、よりチャレンジングに課題に取り組める環境の整備を通じて、イノベーションを加速させ、技術立脚型企業への転身を目指してまいります。
職種や部署、等級に拘らず、長期・全社目線でマネジメントを担える優秀な人材を育成・抜擢し、経営の中枢を担えるよう2021年度に制度改定を行いました。具体的には、部下を持つライン長を管理職として区分を明確化したほか、職責の大きさに基づく処遇の徹底、基幹職登用の早期化などの施策を実行しました。
(イ) 一般職人事制度改定
生産現場を支える人材を適切に評価・処遇することによる現場競争力の強化、当社が茨城県で進めているひたちなか新工場の建設に対応するための人材の確保・育成、シニアをはじめとした多様な人材が活躍できる仕組みづくりなどのために2022年度に制度改定を実行しました。具体的な施策は以下のとおりです。
・ 「総合職」と「業務職」のコース区分の明確化
各コースの役割を明らかにしたうえで、それに応じた適切な評価及び処遇ができる仕組みといたしました。また、業務職から総合職・地域総合職へのコース転換制度を設け、本人の挑戦意欲に応じてチャレンジできる仕組みも整えることで、より自律的なキャリア形成に向けた支援や変革に挑戦する企業文化の醸成を図ってまいります。

・ 「地域総合職」の新設
大幅な人員増が見込まれる茨城県エリアを対象に、当社初となる「地域総合職」コースを設置いたしました。本コースでは勤務場所を茨城県内とし、原則として転居を伴う異動は行いません。IターンやUターンを含め、茨城県内での採用や事業運営の強化につなげてまいります。
・ 定年延長の実施
生産現場の安定操業や技能伝承などの観点から定年年齢を60歳から65歳に引き上げ、処遇についても60歳時点の給与水準を維持することといたしました。一方で、若手・中堅層にマネジメント機会を付与し、組織を活性化するという観点から、60歳を上限とする役職定年制度を導入しました。

当社グループでは、国内外の諸法令の定めに従い、高齢者雇用、障がい者雇用、女性の活躍推進及び外国人の雇用などに取り組むとともに、多様な人材が働きがいを感じながら個々の能力を最大限発揮できる環境の実現を進めています。当社では、多様な働き方のための施策として、在宅勤務制度やコアタイムなしフレックスタイム制の導入、障がい者雇用・定着の推進、男性の育児休業取得支援などに取り組んでいます。また出産や育児に関係する制度では、法定の制度に加え当社独自の制度を設けています。


当社では多様な人材がやりがいをもって働くことができる環境を整備しており、育児休業復帰後の定着率・復職率や再雇用者、障がい者雇用率向上にも取り組んでいます。
(注) 1.管理職に占める女性労働者の割合、男性労働者の育児休業取得率及び労働者の男女の賃金の差異については、第1企業の概況 5従業員の状況 (4)多様性に関する指標に掲載
2.育児休業から復職後、12か月経過しても在籍している社員の割合
3.育児休業後に復職した社員の割合
4.2022年10月に定年年齢を65歳に引き上げたため、当面の間発生しない見込み
当社では女性をはじめとした多様な人材がやりがいを持って働くことができる環境整備を行うことで「人と組織の活性化」を図り、従業員がその能力を最大限に発揮できるようにするため、下記のとおり行動計画を策定しています。
(注) 2026年3月までを計画期間として、2023年4月に策定した「次世代育成支援対策推進法」「女性活躍推進法」に基づく行動計画上の目標
当社グループの経営成績及び財務状況に重大な影響を与える可能性がある主要なリスクを以下に記載しています。当社グループでは、事業活動を取り巻く多様なリスクに対して的確な対応を図ることでJⅩ金属グループの経営を支えることを目的に、統合的にリスクを管理するERM(Enterprise Risk Management)を導入しています。特に当社グループにおける重要なリスクに関しては、当社の経営会議において議論・決定し、各リスク所管部署が実施しているリスク対応の状況をモニタリングしています。ERMを運用することで、2040年長期ビジョンの実現をより確実にすることを目指してまいります。なお、文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社グループが判断したものであり、将来において発生の可能性がある全てのリスクを網羅するものではありません。
1. フォーカス事業における競争優位性の喪失リスク
当社では、特にフォーカス事業である半導体材料/情報通信材料セグメントにおいて、顧客との永続的な強い信頼関係を構築することで、顧客要望や最新の開発動向などをいち早く入手し、的確にそれに応え続けることで競争優位性を確保しています。また、そのために、研究開発と先端技術の知的財産権の権利化・第三者による権利侵害の防止、事業運営に必要な人材の採用・育成、複数購買をはじめとするサプライチェーンの強靭化、品質管理体制の強化及び供給責任を果たすための生産能力の拡大等に積極的に取り組んでいます。しかしながら、当社が顧客要望に十分に応えられないケースが続いた場合には、シェアの喪失や販売マージンの縮小、あるいは代替製品の登場や顧客ニーズの変化等の事業環境の変化によっては、競争優位性を失う可能性があります。
現在の製品群が競争優位性を失った場合の対応として、注力領域を定め、新規製品・事業開発の取り組みを進めており、その実現に向けて、社内リソースは元より、当社グループ間の技術のコラボレーション、大学との共同研究及び外部企業とのパートナーシップ等、様々な外部リソースについても積極的に活用しています。しかしながら、新規製品・事業創出に向けた取り組みが、当社の収益基盤に成長するまでには、相応の時間と経営資源の投入が必要となります。そのため、新規製品・事業が創出できていない状況で、半導体材料/情報通信材料セグメントでの競争優位性を喪失した場合、当社グループの経営成績及び財政状態に重大な影響を及ぼす可能性があります。
2. 中長期事業目標の未達リスク
当社グループは、半導体材料・情報通信材料のグローバルリーダーとして、先端素材で社会の発展と革新に貢献することを目指すべく、2024年5月に中長期の事業戦略及び事業目標を公表いたしました。当該中長期の事業戦略及び事業目標は、半導体市場の成長を中心とする事業環境の見通し、為替動向、金利動向、銅価格の見通し等、策定時点における経済・事業環境の認識を中心とした様々な前提に基づいて策定したものであります。しかしながら、半導体をはじめとする先端素材関連市場の成長鈍化や急激な円高進行による外貨建て取引の収益減等、経済・事業環境認識の前提が想定どおりとならない可能性を常に抱えています。
加えて、当社は、収益性及び資本効率の改善を目的として、「構造改革プロジェクト」を実行しています。当該プロジェクトにおいては運転資本の改善、設備投資の最適化、拡販・売価見直し及び全社での間接費を含むコストの最適化を進めており、約1,200件の施策を通じて、2024年3月期においては、約30億円の営業利益の改善(対2023年3月期実績)、約200億円の運転資本改善(対2023年3月期実績)及び約550億円の投資額削減(対2024年3月期予算)を実現いたしました。2025年3月期においても更なる営業利益改善を目指して追加的な施策を実施しており、その効果を当該事業目標の中に織込んでいます。施策の件数や各施策がもたらす財務指標の改善効果については実現可能性や進捗に応じて段階的に管理しています。
このような前提及び施策が想定どおりに実現しない場合には、当該中長期の事業戦略及び事業目標の達成が困難となり、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
3. 市場環境の変化に関するリスク
持続可能な社会の実現に向けて、IT、モビリティ、ヘルスケア、エネルギー、建築など様々な産業でデジタルデータの活用が進展し、各分野に用いられる先端素材のニーズがさらに拡大しています。なかでも半導体市場は、IoT・AI社会の発展や第5世代移動通信システム(5G)の普及、DXの実現に向けたデータ社会への移行が加速するなか、技術革新が続くことで中長期的には更なる成長が見込まれています。当社は、先端素材を通じた社会の発展に貢献することを目指し、半導体メーカーをはじめとする世界各国に存在する顧客に対して製品を製造・販売していますが、世界経済の動向や最終製品の需要増減等の要因により、成長の過程で需給バランスが崩れ市場規模が急激に変動することがあります。例えば、半導体市場が縮小した場合には、需給バランスの崩れから生産過剰や在庫増加等が発生する可能性があります。また一方では、設備投資の実行タイミングの遅れや、市場の成長規模の見誤りなどにより、需要の増加に対応できない場合には、製品の供給において顧客のニーズに応えることができず、機会損失が生じる可能性があります。
かかる状況を想定し、当社では、市場動向や顧客の需要動向の調査・分析結果を基に、生産量・在庫量の適正化を図っています。また、製品ラインナップの多様化や生産体制の増強に向けて時機をとらえた柔軟な設備投資判断に努めています。しかしながら、将来において当社の想定を超える市場環境の著しい変化が起きた場合、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
当社グループでは、先端素材の製造・開発を成長戦略のコアとして位置づけ、そこに良質な原料を供給するため、資源開発から製錬・リサイクル事業を一貫して展開しています。製品の販売や原材料及び資材の購入は、その多くを米国ドルや現地通貨建てで行っています。そのため、金属価格や為替変動等のリスクにさらされており、先物ヘッジ取引の活用等によるリスク低減に努めています。しかしながら、金属価格及び為替等の急激かつ大幅な変動が発生した場合には、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
4. M&Aや事業提携に関するリスク
当社は、事業の成長を加速させるうえで有効な手段となる場合や競争優位性に寄与する場合には、必要に応じてM&Aや事業提携(出資、合弁及びスタートアップ投資等を含む)を実施しています。これらの実施に当たっては、相手企業の財務状況や事業内容について可能な限り情報収集と分析を踏まえた事前審査を行っています。しかしながら、事前審査にも関わらず市場環境の将来的な著しい変化等により、事業を計画どおりに展開することができない場合には、投下資金の未回収等、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
当社グループは世界の各地域に事業拠点を有しており、グローバルなネットワークを構築しています。資源事業においては南米チリのカセロネス鉱山をはじめ銅やレアメタル鉱山への出資、探鉱、開発を行っているほか、金属・リサイクル事業やタンタル・ニオブ事業においても、世界各国から原料を調達し、半導体材料や情報通信材料に不可欠な原料のサプライチェーン強化に向けた取り組みを進めています。また、当社グループではグループ内シンクタンクと連携し、オープンソースだけではなく各分野の専門家とのネットワーキングを駆使して情報を収集し、社内への提供に努めています。
近年、将来における資源枯渇への危機意識や資源需給の不均衡に加え、資源国のロイヤリティ課税や高付加価値化政策の導入といった戦略物資化(いわゆる資源ナショナリズム)や紛争鉱物問題、需要国におけるリサイクル原料などの囲い込みの動きなどが進んでいます。このような動きがさらに進むと、原料の調達がより困難になる可能性があります。こうした原料調達リスクに加え、国際的な政治対立が深まり、当社製品のサプライチェーンが寸断された場合、事業継続に影響を及ぼす可能性があります。
また、当社グループの海外における事業活動が訴訟、紛争、その他の法的手続の対象になることがあります。当社はこのような訴訟における争点及び進捗について定期的にモニタリングを行っており、事業継続にあたって重大な支障をきたす恐れはないものと判断していますが、訴訟には不確実性が伴うことから、複数の訴訟において多額の和解金や損害賠償請求が生じた場合には、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
6. 自然災害リスク
近年の異常気象により自然災害は激甚化する傾向にあります。当社グループは、国内外に多数の事業拠点とグループ会社を有し、グローバルに事業活動を展開しています。地震、津波、洪水、大雪等の規模が極めて大きい自然災害が発生した場合、社会インフラや経済活動の停止によるサプライチェーンの寸断だけではなく、当社資産の甚大な被害により、長期にわたって、顧客への供給遅延や供給停止が発生し、収益を悪化させる可能性があります。また、従業員の被災により、人命にかかわる事態となる可能性があります。このような事態に備え、当社グループでは、危機・緊急事態対応規則に基づき人的・物的被害の最小化及び早期復旧を図るための事業継続計画を策定し、定期的な各種訓練と、その結果に基づく改善を継続的に行っています。しかしながら、当社の想定を遥かに超える被災状況に陥り、早期復旧が困難な場合には、当社グループの事業継続に支障をきたす可能性があります。
7. 感染症流行リスク
新型コロナウイルスの発生時には、JX金属グループ感染症対策基本規則及び感染症対応マニュアルを定め、政府・官公庁・地方自治体等の公的機関等、適切と考えうる国内外の情報を収集し、さらに、基本方針、実施する対策、出社方針・勤務体制の変更、感染した場合の行動等を適宜従業員に対して周知徹底いたしました。上記のとおり、感染症流行時には、適切な対応を実施し、当社グループの事業運営に大きな影響を発生させないよう努めています。しかしながら、将来において予期せぬ強毒性かつ感染力の高い新たなパンデミックが発生した場合には、拠点地域での人流の抑制や既存のサプライチェーンの寸断が発生する可能性があります。また、当社従業員が当該感染症にり患し、生産拠点での必要な人員を確保できない場合、当社グループの事業継続に支障をきたす可能性があります。
8. サステナビリティに関するリスク
近年、ステークホルダーから企業に対して、脱炭素・循環型社会への貢献、生物多様性や水資源の保全、人権の尊重等、サステナビリティに関する各分野に対する取り組みが求められています。当社グループでは、長期ビジョンにおいて、持続可能な社会の実現に貢献することを打ち出し、経営方針として同分野の取り組みを重点課題に定め、その中でも特に優先的に取り組むべき6つのテーマをマテリアリティとして特定し、各種施策の推進・対応を積極的に進めています。しかしながら、将来においてステークホルダーからの要請の厳格化や諸外国の規制強化に対して、十分な対応が取れない場合、顧客との取引関係の解消、操業の縮小に追い込まれる等、当社グループの経営成績及び財政状態に重大な影響が発生する可能性があります。また、当社グループのブランドに対する社会的信用の低下につながる可能性があります。
9. 人事リスク
少子高齢化により国内労働人口が減少するなか、現役世代、特に10-30代の働き方への価値観は、急激に変化かつ多様化しています。また、海外で主流だったキャリア志向は、国内にて近年急速に広く定着したものと認識しています。当社では、優秀な人材の獲得及び定着に向けて、人事制度の見直しによる処遇改善により、雇用市場における競争力を高める取り組みや、自己申告に基づく柔軟な配置転換の実施及び多様な人材が活躍できる仕組み作り等により、事業環境の変化に対応できる組織風土を醸成する取り組みを進めています。しかしながら、当社が、将来的な労働市場の変化に十分に対応できない場合、従業員が当社で働く魅力は相対的に低下し、離職者が増加する可能性があります。また当社が求めるあらゆる人材の層において、新規採用者の確保が困難となることが想定されます。さらに、人員の不足が長期にわたり継続する場合には、事業運営に支障をきたし、当社グループの経営成績及び財政状態に重大な影響が発生する可能性があります。
10. 労務リスク
当社グループは、グローバルにビジネスを展開しており、国内外に多くの従業員を抱えていることから、各国の関連法令、ルール等の定めにしたがって、各種人事制度と内部通報制度を整備するとともに、役員・従業員向け教育を充実することで、コンプライアンス知識や意識の向上を図っています。しかしながら、それらの制度設計やその運用が、将来において関連法規の予期せぬ変更に追従できない場合、当局から課徴金の支払をはじめとする行政処分を受ける可能性があります。また、不適切な労働時間の管理による長時間労働や、モラルの欠如による各種ハラスメント行為、海外の労働慣習からの逸脱行為等が発生した場合、従業員の心身の健康が損なわれたり、人材の流出や訴訟に発展することにより、当社グループの財政状態に影響を及ぼすだけでなく、社会的信用の低下を招く可能性があります。
11. 内部統制に関するリスク
当社グループは、業務の効率性と適正性を十分に確保するための内部統制システムを、取締役会の監督のもと、「内部統制システム整備・運用の基本方針」に基づき整備し運用するとともに、その状況についてモニタリングを実施しています。しかしながら、当社及びグループ各社において、取り組みの範囲を超える予期せぬ事態により、内部統制システムが有効に機能せず、法令・規則違反、巨額な損失リスクの顕在化(契約違反による損害賠償、役員・従業員等の不正の誘発などを含む)、ディスクロージャーの信頼性の毀損等に発展した場合、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
12. 情報セキュリティリスク
サイバー攻撃や誤操作、内部不正により、当社や取引先の情報資産が流出・毀損し、生産・事業運営の停止や、顧客・サプライチェーンへの深刻な影響が発生する可能性があります。当社グループでは、ISO/IEC27001に基づく情報セキュリティマネジメントシステムを導入し、その運用状況について情報セキュリティ委員会でレビューを実施するとともに、サプライチェーン全体における情報セキュリティの強化を推進しています。また、役員・従業員等の情報セキュリティ意識向上に向けて研修を実施することで、情報資産を確実に保護する体制を整備し継続的に改善しています。しかしながら、サイバー攻撃や産業スパイ等による機密情報を狙う手口は巧妙化しており、当社グループの取り組みの範囲を超える予期せぬ事態による情報流出事故等が発生した場合、行政処分による課徴金や刑事訴訟による罰金、民事訴訟による損害賠償金等を課せられ、当社グループの財政状態に影響を及ぼすだけでなく、社会的信用の低下を招く可能性があります。
13. 製品品質リスク
当社グループは、国内外生産拠点において、国際品質マネジメント規格や各業界で求められる基準に従い、多様な製品の品質マネジメントを実施しています。また、独自に保有する品質技術や過去から蓄積する品質トラブルデータを活用し、製品の企画、設計、試作、製造の各段階での設計審査、内部監査、サプライヤーとの協力関係構築・品質監査・指導、工程管理等を通じて製品の信頼性や安全性を十分に確保するため、品質管理体制の構築を図っている他、各拠点における検査自動化、人材育成を継続的に推進しています。
しかしながら、当社グループの取り組みの範囲を超える予期せぬ事態により、品質上の不具合(規制物質含有を含む)や不正が発生した場合、回収コストや賠償費用が発生し、当社グループの財政状態に影響を及ぼすだけでなく、社会的信用の低下を招く可能性があります。
14. 環境問題に関するリスク
当社グループの事業は、国内外で様々な環境関連法令の適用を受けており、それらの法令に基づき、環境保全活動を行っています。
子会社であるグールド・エレクトロニクス社(米国法人、以下、「グールド社」という。)は、過去の事業において生産拠点を展開していた米国内の地域における環境問題に関連して、米国スーパーファンド法等の環境法令に基づき特定のサイトについて潜在的責任当事者として浄化作業を中心とする環境対策等に関する責任の対象とされています。同社の最終的な負担額は、地域指定の原因となった物質の量及び性質、他の潜在的責任当事者の総数及びその財政状態、対応工事の方法及び技術、環境法令の改正、物価の動向など多くの要因に左右され、相応に多額となる可能性があります。グールド社は、上記に関しては、合理的な見積りに基づき引当計上を行っていますが、上記要因により実際の負担額が引当額を上回り、結果として、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
また、当社グループは長年の事業活動の結果、全国各地に休廃止鉱山を所有しています。鉱山保安法に基づき、それらの休廃止鉱山の坑廃水処理などの活動を実施していますが、関連法令の改正や自然災害等が発生した場合には、休廃止鉱山の管理に要する費用が変更となる可能性があります。上記負担額に関しては、合理的な見積りに基づき引当計上を行っていますが、上記要因により実際の負担額が引当額を上回る可能性があり、この場合、当社グループの経営成績及び財政状態に重大な影響が生じる可能性があります。
15. 役員・大株主・関係会社等に関する重要事項等
当連結会計年度末日現在、ENEOSホールディングス株式会社(以下、「ENEOSホールディングス」という。)が所有する議決権数の割合は、42.39%です。
当社グループとENEOSグループとの間には事業上の競合及び当社グループの経営において事前にENEOSホールディングスの承認を要する事項等はありませんが、当社は引き続き経営意思決定の透明性・公正性を確保すべく、取締役11名のうち独立社外取締役を5名選任しているほか、委員の過半数かつ議長を独立社外取締役で構成する指名・報酬諮問委員会において、当社取締役の選解任及び役員報酬に関連する重要事項について審議しています。
なお、当社は、ENEOSホールディングスの監査等委員である取締役を務める塩田智夫氏を監査等委員である取締役として選任していますが、当該人事は、事業運営、財務・会計及びサステナビリティ等の分野における同氏の知見を活かして当社の取締役会の経営機能の一層の強化を図ることを目的としたもので、企業経営の健全性及び少数株主保護の観点からも支障がないとして、指名・報酬諮問委員会に諮問の上で決定しています。
また、当社グループでは、健全な取引を実施し少数株主の利益に十分配慮すべく、ENEOSホールディングスを含む関連当事者との取引を行うに当たっては、関連当事者取引規則に基づき、各取引について合理性及び取引条件の妥当性が担保される場合に限り取引を実施することとしています。
以上を踏まえれば、当社グループの事業運営の独立性は確保されていると判断しています。
文中における将来に関する事項は、本書提出日現在において当社グループが判断したものです。
世界経済は、地域によって景気の推移が異なり、全体では緩やかな拡大にとどまりました。米国では個人消費が堅調に推移し景気の拡大を牽引する一方、中国では不動産不況が長引き成長の鈍化が継続、欧州ではドイツ経済の減速などもあって景気が低迷しました。国内経済は、物価の上昇などもあった一方で賃金の上昇などもあったことで個人消費に持ち直しが見られたほか、設備投資の増加や好調なインバウンド需要などもあり、景気は緩やかに回復しました。
円の対米ドル相場は、日米の金利差拡大を背景に円安が進行し、2024年6月には約38年ぶりとなる161円台の水準に達しましたが、米国経済指標の悪化や日銀の政策金利引き上げ等により円高が進行しました。その後、日米金利差拡大により再び円安が進行し、期平均では前年同期比8円安の153円となりました。
半導体市場は前期までの在庫調整が一巡し、AI関連が牽引した回復の動きがみられました。生成AIの学習や推論に使われるAIサーバ向けの高価格帯製品の需要が堅調で半導体の出荷金額は高い伸びを維持する一方、出荷数量は緩やかな回復となりました。エレクトロニクス市場において、スマートフォンやパソコン・タブレットは、在庫調整一巡後の回復が見られましたが、端末へのAI機能搭載は十分に広がっておらず、買換え需要の促進にまでは至りませんでした。自動車や産業機械向けエレクトロニクス市場は力強さに欠け、分野ごとに濃淡が見られました。
銅の国際価格(LME〔ロンドン金属取引所〕価格)は、期初は1ポンド当たり405セントから始まり、前年度から続く一部銅鉱山の操業停止による供給懸念等に起因して、2024年5月に492セントと史上最高値を更新しました。その後相場は落ち着くも、2025年初以降、米国による銅への関税賦課の懸念により期末にかけて上昇し、期末には439セントとなり、期平均で前期比46セント高の425セントとなりました。
このような経営環境の中、当社の成長戦略のコアであるフォーカス事業の成長をさらに加速させる取り組みや、ベース事業における効率的な資産運用を意識した事業の強靭化など、「JX金属グループ2040年長期ビジョン」の実現に向けた各施策を推進しました。また、次世代半導体向けCVD・ALD材料の本格生産に向けた能力増強や先端半導体材料パッケージの早期事業化などに取り組んできました。
当連結会計年度における当社グループの売上高は、SCM Minera Lumina Copper Chile(以下、MLCC)及びパンパシフィック・カッパー株式会社(以下、PPC)の一部株式譲渡によって両社が連結子会社から持分法適用会社へ変更となり、両社の売上高が連結範囲から外れたことを主因として、714,940百万円(前年同期比52.7%減)となりました。一方、営業利益は、円安基調の継続、金属価格の高止まり、半導体用スパッタリングターゲットや圧延銅箔等の主力製品の増販等により、112,484百万円(同26,312百万円増)となり、税引前利益は107,476百万円(同28,762百万円増)、親会社の所有者に帰属する当期利益は68,271百万円(同34,353百万円減)となりました。
セグメントごとの経営成績は次のとおりです。
当第3四半期にTANIOBIS GmbHにおいてのれんの減損損失を計上したものの、AI関連需要の拡大を受けた半導体用スパッタリングターゲットなどの製品の増販や円安を主因に増収となり、営業利益は前年同期並みとなりました。
半導体材料セグメントの当連結会計年度における売上高は、前年同期比20.2%増の148,041百万円となりました。営業利益は前年同期比328百万円増益の26,738百万円となりました。
サプライチェーンにおける在庫調整の一巡による圧延銅箔の増販、AIサーバ用途での当社高機能銅合金の採用拡大等による増販を主因に、前年同期比増収増益となりました。これに加えて、収益性向上、生産性改善等を目的に推進した収益構造改革も増収増益に寄与しています。なお、2024年8月にタツタ電線株式会社の公開買付が成立し、同社は当社の連結子会社となり、同年11月に完全子会社となりました。
情報通信材料セグメントの当連結会計年度における売上高は、前年同期比41.0%増の265,112百万円となりました。営業利益は前年同期比24,152百万円増益の25,085百万円となりました。
円安や銅価上昇に伴う増益要因はあるものの、2023年7月に実施したMLCC株式の一部譲渡に伴い生じた為替差益や2024年3月に実施したPPC株式の一部譲渡による同社売上高及び利益の剥落を主因として、前年同期比減収減益となりました。
基礎材料セグメントの当連結会計年度における売上高は、前年同期比75.0%減の306,504百万円となりました。営業利益は前年同期比2,723百万円減益の74,517百万円となりました。
当連結会計年度末の資産合計は、1,283,002百万円となり、前連結会計年度末と比べ42,885百万円減少しました。主な内容は、グループ通算制度に基づきENEOSホールディングス株式会社に対して計上していた通算税効果額に関する未収金の入金があり、これを借入金の返済に充当したことによるものです。
負債合計は、571,248百万円となり、前連結会計年度末に比べ33,837百万円減少しました。主な内容は、2024年7月に実施したMLCC株式の一部譲渡に対する受取額を借入金の返済に充当したことによるものです。
資本合計は、711,754百万円となり、前連結会計年度末に比べ9,048百万円減少しました。主な内容は、親会社の所有者に帰属する当期利益を計上した一方で、配当を実施したこと等による利益剰余金の減少によるものです。なお、親会社所有者帰属持分比率は前連結会計年度末比0.7ポイント増加し48.0%となりました。
現金及び現金同等物の当連結会計年度末残高は、前連結会計年度末に比べ21,537百万円増加し、58,316百万円となりました。
当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況は、次のとおりです。
営業活動の結果、資金は215,431百万円増加しました(前期は38,400百万円の増加)。これは、税引前利益や法人所得税の還付及び配当金の受取等によるものです。法人所得税の還付については、グループ通算制度に基づきENEOSホールディングス株式会社に対して計上していた通算税効果額に関する未収入金の入金があったものです。
投資活動の結果、資金は22,118百万円減少しました(前期は90,241百万円の増加)。これは、MLCC株式の一部譲渡等による収入要因があったものの、有形固定資産の取得やタツタ電線株式会社の子会社化のための株式取得等の支出要因が上回ったことによるものです。
財務活動の結果、資金は172,249百万円減少しました(前期は154,360百万円の減少)。これは、主に短期借入金の返済や配当金支払いによるものです。
当社グループの生産・販売品目は広範囲かつ多種多様であり、また連結会社間の取引が複雑で、報告セグメントごとの生産実績及び受注実績を正確に把握することは困難なため、当社の主要な品目等についてのみ「(1) 経営成績等の状況の概要」において、各報告セグメントの業績に関連付けて記載しています。
当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。
(注) 1.セグメント間の取引については、各セグメントに含めて表示しています。
2.基礎材料セグメントにおける販売実績は、前連結会計年度対比で大幅に下落しています。これは、2024年3月31日をみなし売却日として当社が67.8%を保有していたPPC株式の持分のうち20%を丸紅株式会社に譲渡したことに伴いPPCが当社の持分法適用会社となり、以降の基礎材料セグメントにおける販売実績にPPCの事業活動の影響が反映されなくなったことによるものです。
3.主な相手先別の販売実績及び総販売実績に対する割合
当社グループの連結財務諸表は、IFRSに基づき作成しています。連結財務諸表の作成に当たって、過去の実績や状況を踏まえ、合理的と考えられる様々な要因を考慮したうえで、見積り及び判断を行っていますが、見積り特有の不確実性があるため、実際の結果はこれらの見積りと異なる場合があります。詳細は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 3.重要性がある会計方針」及び「同 4.重要な会計上の見積り及び判断」をご参照ください。
MLCC及びPPCの株式一部譲渡によって両社が連結子会社から持分法適用会社へ変更となり、両社の売上高が連結範囲から外れたことを主因として、714,940百万円(前年同期比52.7%減)となりました。
売上高が減少した一方で、円安基調の継続、金属価格の高止まり、半導体用スパッタリングターゲットや圧延銅箔等の主力製品の増販等により、営業利益は112,484百万円(対売上収益比率15.7%)となりました。
(税引前利益)
受取利息や受取配当金、為替差益、デリバティブ利益等の金融収益の発生(2,407百万円)及び支払利息や為替差損、デリバティブ損失等の金融費用の発生(7,415百万円)等により、当連結会計年度の税引前利益は107,476百万円(対売上高比率15.0%)となりました。
(親会社の所有者に帰属する当期利益)
法人所得税費用26,089百万円の計上となり、親会社の所有者に帰属する当期利益は68,271百万円(対売上高比率9.5%)となりました。
財政状態及びキャッシュ・フローの状況に関する認識及び分析・検討内容については、「(1)経営成績等の状況の概要 ① 財政状態及び経営成績の状況」及び「(1)経営成績等の状況の概要 ② キャッシュ・フローの状況」に記載しています。
当社はENEOSグループ金融制度に基づいてENEOSファイナンス株式会社等からの借入れを行っておりましたが、2024年9月までに外部金融機関への借換えを完了することによってこれを離脱し、当社独自のグループ金融制度に移行しています。
当該制度の下、当社グループでは、運転資金及び設備投資等の資金需要に対して、自己資金や必要に応じ金融機関からの借入等で資金調達を行っています。また、子会社の資金調達については、グループ資金の効率性確保の観点から原則として当社が実施し、当社から当社グループ子会社に貸付けを実施いたします。当社グループでは、グループ資金を当社が集中して管理し、グループ全体としての資金の効率的な調達・運用を実現しています。
経営成績に重要な影響を与える要因については、「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」に記載のとおりです。
経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標につきましては、「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載のとおりです。
経営者の問題意識と今後の方針につきましては、「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載のとおりです。
(1) 「合弁契約書」(契約当事者:当社、三井金属鉱業株式会社、丸紅株式会社及びPPC、締結日:2023年12月22日)
PPCにおける銅製錬事業(原料調達、委託製錬、製品販売等)に関する業務提携を約したものです。丸紅株式会社
がPPCの株主になることに伴い、別途丸紅株式会社と締結した「株式譲渡契約書」と同締結日にて、新たに4社間で「合弁契約書」を締結しました。
(2) 「Compraventa de Acciones(株式譲渡契約書)」(契約当事者:当社及びLundin社、締結日:2024年6月26
日)
当社は、当社とLundin社間で2023年7月13日に締結したチリ・カセロネス銅鉱山の運営会社であるMLCCに関する「Shareholders Agreement(株主間契約)」に基づき、Lundin社に対して、同日の1年後から5年の間においてMLCC株式の19%を追加取得できるコール・オプションを付与しておりました。本株式譲渡契約書は、Lundin社がこの権利を早期行使することについて約したものです。これにより、当社からMLCC株式の19%をLundin社の完全子会社であるLMC Caserones SpAに譲渡し、当社からLundin社(当該完全子会社を含みます。)へのMLCC株式の譲渡割合は、2023年7月13日付で譲渡した51%と合わせて、70%となりました。
当社グループは、長期ビジョンとして掲げる『「装置産業型企業」から「技術立脚型企業」への転身』を実現するため、半導体材料/情報通信材料セグメントを成長戦略のコアと位置づけ、研究開発に注力しています。また、脱炭素や資源循環といった地球規模のESG課題解決に向けた製品・技術開発にも取り組んでいます。
新規事業創出においては、次世代半導体材料やフォトニクス材料を初めとする先端素材分野を中心に事業ポートフォリオの拡充を目指しています。特に、データセンターやAI搭載IoTデバイスに使用される高性能半導体の製造に必要な次世代半導体材料の開発に注力をしており、結晶材料では当社のコア技術である高純度化、組成制御、温度制御の技術を駆使し、データセンターの増加やモバイル通信量の増加、センシング技術の高度化等に対応するための高品質な結晶材料を供給すべく体制構築を図っています。また、次世代半導体製造プロセスでの採用拡大が期待されるCVD・ALD用材料については、生産能力の増強とともに新規生産プロセスの開発、新規材料開発の強化を行っています。
研究開発体制は、既存製品の改良や製造プロセスの改善など既存事業の強化を行う各事業部の開発部門と、新規事業の創出を推進する技術本部の開発部門から成り立っています。技術本部には全社的な技術戦略の企画・立案を所管する機能と、開発段階のテーマを事業化に向けて管理するインキュベーション機能、加えて当社グループのコーポレートラボの位置づけで、先端素材の開発、資源開発・製錬・リサイクルの次世代技術に関する研究開発機能を担っています。
当連結会計年度に発生した研究開発費は
報告セグメントごとの研究開発活動の状況は次のとおりです。
高純度化技術及び材料組成・結晶組織の制御技術をベースに、半導体・電子部品用途向け製品に関する開発を進めています。半導体用スパッタリングターゲット、酸化物スパッタリングターゲット、窒化物スパッタリングターゲット、磁性材料用スパッタリングターゲット等の各種ターゲット材料や、化合物半導体用結晶材料、その他電子材料を中心とした新規製品開発及び関連プロセスの技術開発に継続的に取り組んでいます。
特に、生成AI用などに使用される先端半導体製造プロセスにて用いられるスパッタリングターゲットにおいては、更なる低パーティクル化の取り組みとともに、電気抵抗や拡散バリア性の面で新たな合金開発を進めています。また、これらの半導体を格納するパッケージにおいては、インターポーザなどの導通部分が増えるため、電気特性を損なわないよう、半導体めっき液に使われる金属原料についても、高純度化や誤作動の要因となるα線の削減に取り組んでいます。当セグメントに係る研究開発費は
精密な組成制御を実現する溶解鋳造技術、独自の結晶制御を可能にする圧延加工技術、並びにユーザーニーズに適合した評価技術を用いて、強度・導電性・加工性・耐久性に優れた高機能伸銅品の開発を進めています。半導体リードフレームやカメラモジュール用スプリングの次世代材料として、チタン系及びコルソン系新規銅合金の開発に取り組んでいます。また、今後の需要増加が見込まれるロボットや5G・6Gといった高速移動通信に使われるプリント配線板材や電磁波シールド材向けに、屈曲性、高周波特性、微細回路形成性に優れる圧延銅箔の開発に取り組んでいます。マテリアルインフォマティクス(シミュレーション、データ解析等)の活用や外部研究機関との連携を通し、開発のスピードアップを推進しています。当セグメントに係る研究開発費は
サステナブルな資源開発に向け、環境負荷低減を目的とした鉱山操業におけるCO2排出量削減の技術調査・開発を進めています。また、今後先端素材分野での需要拡大が期待されるレアメタルのサプライチェーン確保・責任ある原料調達への貢献のため、鉱石からの回収技術の評価・開発を進めています。
銅製錬事業においては、2040年にリサイクル原料処理比率を50%とするグリーンハイブリッド製錬構想を掲げており、リサイクル原料を効率的に処理するための前処理プロセスを含む新規の製錬技術について試験研究を進めています。また、貴金属及びレアメタル等の回収率アップとともに、不純物許容度の高い精製プロセスの実現に向け技術開発を進めています。当セグメントに係る研究開発費は
次世代半導体に使用されるCVD・ALD用材料及び先端パッケージ材料、3Dプリンター用金属粉、銅微粉、リチウムイオンバッテリーのリサイクル及び電池材料の開発等について、事業部、関係会社等を跨ぎグループ横断で早期事業化に向けた取り組みを強化しています。
CVD・ALD用材料関連では、生成AIの進化によりデータセンターやAI搭載IoTデバイスの市場が拡大し、これらの機器に必要とされる高性能半導体には、高集積化を実現するために更なる微細化や多層化が求められています。当社は2024年2月に「CVD・ALD材料事業推進室」を新設し、同材料の早期事業化を目指してまいりました。これまで同組織のもとで、新規高純度CVD・ALD材料の量産ラインを構築し、顧客へのサンプル出荷を進め、良好な評価を獲得しています。本材料の本格採用により急速な需要拡大が見込まれることから、当社は本材料の生産能力の増強を決定しました。東邦チタニウム株式会社茅ケ崎工場で24年度下期に増強を実施した上で、更に茨城事業所日立地区で25年度上期を目途に生産設備を導入し稼働を開始する計画です。あわせて当事業の今後の展開に向け、新規プロセス開発や新規材料開発に向けた設備強化を行います。これにより、拡大する顧客需要に対応するとともに、高性能化が加速する半導体の進化を支えてまいります。
また、半導体製造の先端パッケージング分野における新規事業の育成推進のため、2024年11月1日付で、「技術本部技術戦略部」内に「先端パッケージ材料事業推進室」を設置しました。当社の主力製品である半導体用スパッタリングターゲットが使用される前工程のみならず、複数のチップを1つの基板上に高密度で実装するチップレットなど、後工程においてもさまざまな新手法が開発されており、こうした手法の高度化に向け、より高機能な材料が求められています。今般設立した新組織においては、当社グループの先端パッケージ材料関連のマーケティング及び開発に関する機能を一元化することにより、よりスピード感を持って、市場の要求に対応をしていきます。また、外部機関との連携も活用しながら、材料の新規開発や実用化に向けた取り組みを推進していきます。当社グループは、こうした活動を通じて、半導体材料分野における製品ラインナップの拡充も目指していきます。
他方、スタートアップやベンチャーキャピタルファンドへの出資も積極的に行い、2022年9月には先端素材の分野において20年以上の投資実績のあるベンチャーキャピタルファンドPangaea Ventures Impact Fund、2023年6月には独自技術の中間膜を開発している東京大学発のベンチャー企業である株式会社Gaianixxなどへの出資を行っています。これら独自の技術を有するスタートアップと当社が保有するコア技術の融合により革新的イノベーションの創出、スピーディな事業化へ向けた取り組みを進めています。
さらに、分析、シミュレーション及びデータ解析技術、生産技術の向上を通して、技術開発の促進、効率化、生産プロセスの最適化を図っています。新規事業及びその他の事業における研究開発費は合計で6,523百万円です。