第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

(1)2050年ビジョン・2030年ビジョン

当社はカーボンニュートラル・循環型社会を見据え、3つの事業領域「一歩先のエネルギー」、「多様な省資源・資源循環ソリューション」、「スマートよろずや」の社会実装を通して、「人びとの暮らしを支える責任」「未来の地球環境を守る責任」を果たしていくことを、2050年ビジョン「変革をカタチに」として定めています。

その手前では2030年ビジョン「責任ある変革者」を掲げ、エネルギー・マテリアルの安定供給責務を果たしながら、カーボンニュートラル・循環型社会に向けた取組みを具現化させる時期と位置づけています。

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(2)2030年基本方針

現行の中期経営計画の期間中、様々な地政学リスクやカーボンニュートラルの世界的潮流において大きな環境変化に直面したものの、当社は掲げた中長期ビジョンを軸にぶれることなく、引き続きエネルギー・マテリアルの安定供給という使命を果たしながら、既存事業の資本効率・収益力の更なる向上と、カーボンニュートラル・循環型社会に向けた準備を並行して進めています。これにより当社は持続的に成長を続け、社会とともに未来に進んでいけるものと考えています。

また、事業構造改革と並んで、当社の経営戦略の根幹となる人財戦略については、人的資本投資を通じて、従業員の成長・やりがいの最大化を図り、競争力の源泉となる人財育成を推進しています。

事業構造改革と人財戦略を柱とする経営戦略を加速させるべく、ビジネスプラットフォームの進化に向けDX戦略やガバナンスの進化にも取組み、変革の基盤を築いていきます。

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(3)中期経営計画2年目の進捗

①事業構造改革の取組み―既存事業の資本効率・収益力向上

当社では、エネルギー・マテリアルの安定供給を果たすためには、既存事業の資本効率・収益力の更なる向上が非常に重要だと考えています。この方針の下、2023年度は機能化学品事業の構造改革、太陽光発電システムのオンサイトでの導入、潤滑油事業では車両の低コスト化や高性能化へ貢献するEVやHEVの駆動ユニット向けオイルなどの高付加価値製品の新開発・販売拡大、また資源事業ではボガブライ鉱山への石炭生産の集約等に取り組みました。さらに2024年度は以下の主な取組みを通じ、資本効率・収益力の向上に加えCO₂排出量の削減を加速させました。

 

<2024年度の主な取組み>

 

 

 

 

 

 

 

精製・製造拠点の競争力の強化

 

 

 

 

 

・西部石油㈱の精製機能停止とCNXセンター化に向けた検討推進

・富士石油㈱との資本業務提携

・三井化学㈱との千葉地区エチレン装置集約による生産最適化検討

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サービスステーション(SS)ネットワークの維持・強化と顧客体験価値の向上

 

 

 

 

 

・「スマートよろずや」に向けた、SSの収益力を強化する各種施策の全国展開

・顧客体験価値を向上させる「DriveOn(アプリ)」の普及拡大(1,100万ダウンロード突破)と

新業態の展開(apolloONE・Type Green)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高機能材、先進マテリアル領域の拡大

 

 

 

 

 

・海外市場における潤滑油“Idemitsu Brand Motor Oil”の販売拡大

・アグロ カネショウ㈱の完全子会社化によるバイオ・ライフソリューション事業の基盤強化

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次世代燃料導入の加速

 

 

 

 

 

・「出光バイオディーゼル5」の販売開始

・「出光リニューアブルディーゼル」の販売開始

・「出光バイオ重油」の船舶燃料実証

 

 

 

 

 

 

 

 

 

②事業構造改革の取組み―カーボンニュートラル・循環型社会を見据えた取組み

当社は前述のとおりカーボンニュートラル・循環型社会を見据え、3つの事業領域「一歩先のエネルギー」「多様な省資源・資源循環ソリューション」、「スマートよろずや」の社会実装を通じて、事業ポートフォリオの転換を推進しています。2024年5月にブルーアンモニア、e-メタノール、SAF、リチウム固体電解質を重点4事業に設定しました。また、使用済プラスチックスの油化ケミカルリサイクル装置の建設を開始しました。

 

<2024年度の主な取組み>

●一歩先のエネルギー

 

 

 

 

 

 

 

ブルーアンモニア

 

 

 

 

 

 

 

石炭や重油の代替として期待されるアンモニアは、石油製品と同様の輸送・保管が可能であり、既存設備やサプライチェーンの活用が可能です。当社は徳山事業所のアンモニア供給基地化及び周南コンビナート各社への供給インフラの構築に向け検討を進めているほか、2024年10月、三菱商事㈱とともに、エクソンモービル社が推進する製造プロジェクトへの参画、アンモニア調達等の共同検討など、2030年までに年間100万トン超の供給体制構築に向けた取組みを進めています。アンモニアの次世代の製造技術の研究開発においても、2024年7月、常温・常圧下で進行するアンモニアの連続電解合成で世界最高性能の達成を発表しました。

 

 

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徳山事業所 (アンモニア貯蔵

検討を進めているLPGタンク)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

e-メタノール

 

 

 

 

 

 

e-メタノールなどのe-fuel(合成燃料)は、自動車等の内燃機関(エンジン)に手を加えることなく利用可能であり、早期の実用化が期待されています。当社は、再生可能エネルギーをベースにした合成燃料製造プロジェクトを推進するグローバル企業、HIF Global社にJOGMECと共同で出資するなど、政府機関とも連携を行いつつ、海外からの調達に向けた検討を進めています。

当社北海道製油所のある苫小牧エリアにおいても、パートナー企業と連携して水素サプライチェーン構築とe-メタノール製造の検討を進めています。これら国内外の拠点において、2030年までに年間28万トン規模の供給体制構築を目指し取組みを進めていきます。

 

 

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北海道製油所

 

 

 

 

 

 

 

 

SAF(持続可能な航空燃料)

 

 

 

 

 

 

 

国内航空業界では、2030年に使用燃料の10%(年間約170万KL)をSAFへ置き換える目標を掲げるなど、近い将来の需要が見込まれています。当社は2030年までに年間50万KLの国内供給体制の構築へ向けた取組みを進めており、2028年度までの生産開始を目指し、千葉・徳山両事業所において製造装置の建設に向けた検討を進めています。海外では、豪州Jet Zero Australia社との協業のほか、安定的な原料確保に向け、2025年1月から豪州にて米国Terviva社と原料(ポンガミア)の試験植林を開始するなど、グローバルサプライチェーンの構築に向けた取組みを進めています。

 

 

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●多様な省資源・資源循環ソリューション

 

 

 

リチウム固体電解質

 

 

 

 

 

 

 

安全面のほか、充電時間短縮や航続距離などの飛躍的な性能向上が期待される、次世代のEVバッテリー「全固体電池」について、主要原料である固体電解質の開発・量産に向けた取組みを進めています。2027~28年度の全固体電池実用化を目指し、トヨタ自動車㈱と固体電解質の量産技術開発、性能向上に向けた協業を行うとともに、製造設備建設に向けた取組みを進めています。2024年10月、大型パイロット装置の基本設計を開始したほか、2025年2月に固体電解質の中間原料である硫化リチウムの大型製造装置の建設を決定しました。

 

 

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固体電解質

 

 

 

 

使用済プラスチックスの油化ケミカルリサイクル

 

 

 

 

 

 

2025年度の商業運転開始を目指し、千葉事業所隣接エリアにて使用済プラスチックスの油化ケミカルリサイクル装置(処理能力年間2万トン)の建設を進めています。2024年3月、㈱本田技術研究所とともに実証実験を実施し、使用済自動車由来プラスチックスからケミカルリサイクル油を生産、あわせて石油化学製品原料としての有用性を確認しました。

 

 

 

③人的資本―人財戦略

当社では事業を通じて人を育てる、「人が中心の経営」を実践することを大切にしています。

現行の中期経営計画では「企業理念・ビジョンの体現」「DE&Iの深化」「個々人の能力・個性の発揮」の3本の柱として各施策を推進し、いかなる環境になろうとも難題を克服できる人財を育てていきます。

人財戦略の詳細については、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (3)人的資本の多様性に関する戦略並びに指標及び目標」に記載のとおりです。

 

④ビジネスプラットフォームの進化―DX人財の育成と生産性向上

当社は、事業構造改革を成し遂げるためにデジタル化を進め、「変革をカタチに」することを目指しています。エネルギーや産業構造の変化に対応し、ITインフラの再構築や様々なデジタルツールを活用し、仕事の質やビジネスモデルの革新に取り組んでいます。この変革の鍵は「ひとのチカラ」であり、DX人財の育成が重要であると考えています。多くの従業員が仕事の中で、自然とデジタル技術を活用できている状態を目指しています。

2024年度は、DX人財の育成と生産性向上を図るべく、以下の主な取組みを行いました。

 

<2024年度の主な取組み>

 

DXを支える人財育成

 

 

 

 

 

・DXリテラシー研修の受講者が4,000名を突破

 

 

AIの活用による生産性向上と価値創出

 

 

 

 

 

・陸上配車・外航船配船システムへのAI活用

・製油所・事業所のデータの一元化

・生成AIによる人財マッチング

 

 

研究領域におけるMI*+AI活用の強化

 

 

 

 

 

体系的研修を導入し、研究者の3割がMIスキル保有者

*マテリアルズ・インフォマティクス(ITを活用した材料開発)

 

 

⑤業績見通し (中期経営計画期間累計及び2025年度)

中期経営計画期間(2023-2025年)累計の業績見通しについては、中期経営計画策定時点(2022年11月)の当初目標を上回る想定です。

2025年度業績見通しは、米国の関税政策による影響を踏まえ、ドバイ原油価格、豪州一般炭市況等の前提を引き下げた結果、前年対比減益を想定しています。不透明な事業環境が想定されるものの、事業所稼働の更なる安定化、海外トレーディング事業の拡大、M&Aの加速といった追加施策を今後具現化し、更なる収益改善に向けた取組みを推進していきます。

 

中期経営計画期間(2023-2025年)累計業績見通し

 

当初目標

最新見通し

増減

営業+持分損益

5,600億円

6,722億円

+1,122億円

当期純利益

3,800億円

4,369億円

+569億円

在庫影響除き

2025年度連結業績見通し

 

2024年度実績

最新見通し

増減

営業+持分損益

2,147億円

1,470億円

△677億円

当期純利益

1,248億円

1,200億円

△48億円

在庫影響除き

主要市況前提

 

 

2024年度

実績

2025年度

見通し

増減

ドバイ原油価格

($/バレル)

78.5

65.0

△13.5

豪州一般炭

($/トン)

134.8

95.0

△39.8

為替

(円/$)

152.6

145.0

△7.6

1~12月平均

⑥資本・財務戦略及び株主還元

投資配分については、戦略投資を中期経営計画より増額し、既存事業の収益力強化のための投資を促進すると共に、重点4事業を中心としたカーボンニュートラル投資を通じてCO₂排出量削減と事業ポートフォリオ転換を推進しています。

株主還元については、2023年11月に年間配当を24円から32円へ増配、さらに2024年11月に年間配当を32円から36円へ増配し、併せて2025年度までの下限配当水準に設定しました。加えて、株価水準を意識した機動的な自己株式取得を推進するなど、株主還元の更なる充実を図っています。

また、財務構成の最適化については、現行格付維持による財務安定性の確保を前提として、資本効率の更なる向上を図るため、株主還元方針に加え1,000億円の自己株式取得を実施する方針を2024年5月に決定し、2024年度中に取得を完了しています。

なお、2025年度の配当については、不透明な事業環境ではあるものの、株主還元方針に基づき1株当たり年間36円(中間18円、期末18円)を予定しています。

 

 

 

 

 

株主還元方針

2023~2025年度の3カ年累計の在庫影響除き当期純利益に対し、総還元性向50%以上の株主還元を実施します。

 

配当

 

1株当たり36円、当水準を下限とする

 

 

 

自己株式取得

 

株価水準を意識し機動的に実施する

 

 

 

 

 

 

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

当社グループは、「真に働く」の企業理念のもと、2050年ビジョンに掲げた「人々の暮らしを支える責任」と「未来の地球環境を守る責任」を果たすべく、サステナビリティ推進を経営課題として位置付けています。2021年に取締役会承認により、「出光グループサステナビリティ方針」を定め、取り組みを推進しています。サステナビリティに関する取り組みを明文化し、当社グループが一丸となって環境課題や社会課題の解決に貢献することを目指しています。

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(1)サステナビリティ(ESG)共通

①ガバナンス

当社では、気候変動や人権といったESGの中心課題はもちろんのこと、各事業の諸課題もサステナビリティへの関連が強いことから、議題は全て経営委員会で議論される体制としています。経営委員会の委員長は社長が務め、議論された内容は適宜取締役会に付議・報告されています。

また当社では、サステナビリティの専任組織であるサステナビリティ戦略室を経営企画部の中に設置しています。サステナビリティ戦略室が、ESG各課題を主管する部署と部門横断的に関与し、当社のサステナビリティ経営を推進しています。サステナビリティ戦略室からは年に1回以上、サステナビリティに関する課題進捗を取りまとめて経営委員会に報告し、詳細については各主管部署からの付議により、経営委員会で十分なサステナビリティに関する議論、モニタリングができる体制としています。

 

サステナビリティ推進体制図

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②戦略

当社は事業活動を通じて、持続可能な地球環境と社会を実現しつつ、企業としての持続的な成長を目指しています。2030年基本方針に則して、当社グループが貢献していく社会課題である「①カーボンニュートラル、循環型社会への貢献」「②地域社会への貢献(エネルギー&モビリティ)」、それらの達成に向けた注力課題である「③従業員の成長・やりがいの最大化」「④DE&Iの深化」、当社グループ活動の基盤となる「⑤デジタル変革の加速」「⑥ガバナンスの進化」、これらの基礎的要件である「⑦健康、安全、遵法、人権擁護の徹底」の7項目をマテリアリティ(重要課題)として特定し、取り組みを進めています。

 

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当社グループが事業を展開している日本を含むアジア・オセアニア・欧米などの各国では、サステナビリティに関する情報開示基準の国際標準化が急速に進んでいます。この国際的な潮流を受け、当社グループはサステナビリティ情報開示の重要性を改めて認識し、各国の基準に則った適正な情報開示を充実させるべく準備を進めています。

具体的には、現状の取り組みと国際基準との差異を把握するため、情報開示のギャップ分析を実施し、今後のサステナビリティ情報開示対応マップを策定しました。当ロードマップに則り、既存及び新規事業領域におけるサステナビリティ観点での重大な影響や、リスクと機会に対する「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」を適宜開示していく方針です。

今後も、多様なステークホルダーの皆さまに対して、当社のサステナビリティに関する取り組みをより分かりやすい形で開示・共有していきます。

 

③リスク管理

当社グループは、事業活動に関わる様々なリスクを未然に認知・評価し、リスクに応じた適切な対応を講じることで、経営の安定を図っています。経営を取り巻く環境が大きく変化する中で事業構造改革を推進するためには、リスクの予防強化に向けてリスクマネジメントをより全社的、統合的に高めていく必要があり、2025年度からの本格運用に向け統合的なリスクマネジメントの強化を図っています。

取締役会が監督する「リスク経営委員会」は、グループ経営に関わるリスクマネジメント方針の決定とマネジメント状況のモニタリングなどを実施しています。他の委員会などに対し重要な全社リスクに関する報告を随時求めるほか、本委員会の実施状況について、原則年1回取締役会に報告しています。なお、全社リスクという概念には、「リスク」も「機会」も両方含まれています。

「リスク経営委員会」の下、リスクに対応する「リスク・コンプライアンス委員会」を設置し、適時、迅速に必要な対策を取ることを通して、リスクに関する全社リスクマネジメントを推進しています。

リスクのうち、網羅性の高さから組織横断的に管理するリスクを「重要リスク」として位置付け、当社グループでのリスク管理のモニタリングに用いているほか、主要事業部門へのリスクヒアリングを通じて「重要リスク」への対応を確認しています。

 

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④指標及び目標

当社グループは2019年にマテリアリティを初めて特定し、当社にとって重要な社会課題を認識し、事業活動に取り組んできました。それらからの連続性を重視しつつ、中期経営計画(2023~2025年度)や2050年ビジョン、社外を取り巻く環境変化も踏まえ、2022年にマテリアリティを見直し、KPI、モニタリング指標を定めて、サステナビリティ戦略を実行しています。

 

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なお、人的資本に関する指標及び目標については、「(3)人的資本の多様性に関する戦略並びに指標及び目標」に記載のとおりです。

 

(2)気候変動対応

カーボンニュートラル(CN)・循環型社会の実現に向けて、当社グループの強みである「社会実装力」を発揮し、「人々の暮らしを支える責任」と「未来の地球環境を守る責任」を果たすことを目指しています。気候変動関連対応の取り組みに関しては、2020年に賛同署名したTCFD提言に沿った形での情報開示を継続しつつ、IFRS S2のフレームワークでの開示を念頭に、開示拡充を進め、ステークホルダーの皆さまのご理解と協働のもとで取り組みを加速させていきたいと考えています。

 

①ガバナンス

化石燃料販売を主たる事業とする当社にとって、気候変動対応は、最重要経営課題の一つであり、中長期の時間軸で大規模な事業ポートフォリオ転換を伴う取り組みです。取締役会は、本課題を様々な角度から多面的に捉えて経営方針を定めるとともに、その方針に基づいたアクションが、迅速かつ着実に実行されることを監督する役割を担っています。気候変動関連の主要な議案は経営委員会に付議され、特に重要な議案は、取締役会に報告されます。これにより、取締役会は全社方針に基づいた執行が着実に行われているかを監督する体制としています。

 

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気候変動対応の取り組みは、全社横断的かつテーマが多岐にわたります。そのため、CN社会の実現に向けた全社戦略の立案・遂行を加速させる必要性を認識し、専門部署(CNX※戦略部)が中心となって推進しています。CNX戦略部は全社CN戦略立案やGHG削減目標設定、CNX人財育成を社内関係部門と連携し主導しています。

※)CNX : Carbon Neutral Transformation

 

②戦略

気候変動対応の具体的な検討は、2050年までを対象とした長期事業環境シナリオを策定し、シナリオのアウトプットを踏まえてリスクと機会を特定し、具体的な戦略立案へと進めています。

2019年に当社として最初となる事業環境シナリオの対外公表以降、社会の環境変化に応じて、随時シナリオの見直しを行い、中期経営計画(2023~2025年度)の検討においては、3つのシナリオを想定しました。

2024年にシナリオの見直しを行った結果、カーボンニュートラル社会に世界が向かうためには、国際情勢、技術進展、人口動態など多くの条件が揃う必要が有り、いまだに、その方向性・道筋には、不確実性が存在していると考えられます。それ故、当社の事業計画においては、複数のシナリオ(「碧天+」、「虹」、「むら雲」)を利用しています。

 

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次項で記載するリスクと機会の全体像を踏まえ、リスク低減と機会最大化に向け、現在の5つの既存事業ポートフォリオを3つの事業領域(「一歩先のエネルギー」「多様な省資源・資源循環ソリューション」「スマートよろずや」)に有機的に結合・再編し、各領域において必要とされる事業の社会実装を通して、2050年ビジョンの実現を目指します。

③リスクと機会

2050年に向けた長期事業環境シナリオに基づき、気候変動に係わるリスクと機会の洗い出しを行っています。各領域別に、想定される時間軸、財務影響レベル、並びに当社の対応を取りまとめ、下表に記載した内容に沿って、具体的な取り組みを進めています。

リスクと機会への対応として、既存事業の収益強化と資本効率化、事業構造改革投資による新規事業の創出、事業ポートフォリオ転換などに取り組みます。これにより2030年時点で、営業利益+持分損益ベース2,700億円を目標としています。

 

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④指標及び目標

カーボンニュートラル社会の実現に向けては、事業遂行に伴う自社の直接・間接排出量(Scope1+2)の削減と、新たな製品・サービスの提供を通じた他者排出量削減への貢献(Scope3削減、削減貢献量創出)の両面からの取り組みが必要と考えています。

本取り組みを進めていくうえでは、排出量を削減するという環境面への貢献とともに、エネルギー供給という社会面への貢献と、企業収益の維持・拡大という経済面への貢献をいかに同時に実現していくか、という点が重要という認識の下、当社は以下に記載する3つの指標を設定して、関連活動の進捗をモニタリングしています。

 

 

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各指標に関する目標値(目指すレベル)は、以下のとおりです。

 

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(サプライチェーンでの取り組み)

顧客を含むサプライチェーン全体での排出削減に関して、環境面への貢献(CO₂削減)と社会面への貢献(社会が必要とする低炭素エネルギー供給)の同時実現の観点から、特に“Carbon Intensity”という指標を用い、目標値を設定して、取り組みを進めています。本分野の社会実装を通じて、カーボンニュートラル社会の実現に貢献していきたいと考えています。

 

(役員報酬における気候関連の業績評価指標)

役員報酬における気候関連の業績評価指標としては、業績連動型株式報酬の評価項目として「CO₂削減」を採用しています(役員報酬体系の表は「4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (4)役員の報酬等 ①役員の報酬等の額又はその算定方法の決定に関する方針に係る事項 (報酬構成)」参照)。

 

(3)人的資本の多様性に関する戦略並びに指標及び目標

①人的資本経営の基本方針

当社は、創業以来「資本は人なり」「人が中心の経営」という考え方を何よりも大切にしてきました。1945年、日本は敗戦により多くの企業が事業を失い、借金を抱え、社員の解雇を余儀なくされていました。当社も例外ではなく、海外から引き揚げてくる800名の社員の雇用の維持が極めて困難になっていました。しかし当社の創業者であり当時の社長である出光佐三は「事業は失われ、借金は残っている。しかし、出光興産には海外に800名の人材がいるではないか。これが唯一の資本であり、これが今後の事業をつくる。人間尊重の出光興産は、終戦の混乱に慌てて馘首してはならない。」と述べ、社員を解雇せずに守ることを宣言しました。その後、社員は一層結束力を高め当社の再建の原動力となりました。「社員がしっかり成長していれば、どんな困難にも立ち向かえる」という創業者の思いは「いかなる場合も会社都合で人員整理を行わない」「世の中の役に立ち、尊重される人の育成こそが企業目的であり、事業はそのための手段である」という基本方針として今日まで受け継がれています。

 

②当社グループが直面している経営戦略上の課題

1949年に元売り指定を受けて以降、当社グループは日本のエネルギーセキュリティを支える使命を担い、国内外に燃料油ビジネスを中心としたネットワークを構築し事業活動を展開してきました。現在当社グループは、「燃料油」「基礎化学品」「高機能材」「電力・再生可能エネルギー」「資源」という5事業セグメントに多様化していますが、この中で化石燃料に由来する収益の割合は9割を超えます。また、燃料油・基礎化学品は、グループ全体の投下資本及び人員数の7割に達しています。もしこのまま手を拱いて事業構造を変革しなければ当社グループは2050年カーボンニュートラル(CN)時代に多くの事業を失うことになります。低廉なエネルギーの安定供給とCNの実現という一見相反する課題の克服を通じて、当社グループは成長機会を見出していかなければなりません。

当社グループの経営戦略上の最大の課題の一つは2050年に向けたリアリティのある成長戦略の構築です。とりわけ、既存事業セグメントはCNエネルギーが事業の柱となる2030年代半ばまでグループを牽引することが期待されており、そのためには従来の延長線上にない視点での商品サービスの拡大、ビジネスモデルの変革が必要です。

 

③経営戦略と連動した人財戦略

2050年CN時代という一大変革期を迎えるに当たり、現中期経営計画では事業構造改革投資と人的資本投資を車の両輪として位置づけ、全社員がその能力や個性を最大限に発揮できる環境を整え、社員の成長を通じて企業が成長することを目指しています。

そして、「企業理念・ビジョンの体現」「DE&Iの深化」「個々人の能力・個性の発揮」を人財戦略の3本柱として推進しています。2024年度に実施した施策の一部を紹介します。

 

図1 人財戦略の3本柱

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ア.企業理念・ビジョンの体現

社長をはじめとする経営層と社員の直接対話の場である全社タウンホールミーティングを半期に一度開催しています。毎回多くの社員が参加し、経営層から会社の経営状況をタイムリーに伝えるとともに、企業理念やビジョンについても語りかけ、社員への理解・浸透を図っています。また、タウンホールミーティング以外にも、各役員が事業所・支店などの各拠点に赴いた時に、社員と直接対話を行う機会を月30回ほど設けています。一方、2024年10月に東京都港区北青山に当社の理念や歴史を紹介する「出光興産ヒューマンギャラリー」をリニューアルオープンしました。社内の研修用途以外に社外の方にもご利用いただいており、半年で約800名が来館されています。

 

イ.DE&Iの深化

女性役職者のリーダーシップ向上を目的に、国内でも先進的な事例である「クロスメンタリング」に取り組んでいます。「クロスメンタリング」とは、メンター(支援者、助言者)とメンティ(支援・助言を受ける立場)が異なる企業同士となる組み合わせでメンタリングを行う、企業横断型のキャリア形成支援の取り組みです。この取り組みのユニークさや、ジェンダーロールバイアスの打破に向けた製造現場における女性社員登用の取り組みなどが評価され、3年連続で2024年度のなでしこ銘柄を受賞しました。また、男女問わず育児休業の取得を推進すべく、取得する育休の最初の一か月間を特別有給休暇として扱う「推奨育休」のトライアルを実施しています。トライアル期間は2025年9月までとし、その期間での抽出した課題を反映後、本格導入に入る予定です。

 

ウ.個々人の能力・個性の発揮

2024年度は「一般社団法人出光社員会」を設立し、より良い会社と組織風土を創るために、役職者含む社員一人ひとりが議論に参加できる「場」を提供することを目的として活動を開始しています。非管理職の社員から選出された社員会の専任理事と各職場の社員会の代表がより良い職場・やりがいのある職場に向けた議論を重ね経営層への提言を行うことを通じて、やりがいのある職場づくりなどに取り組んでいます。

また社員一人ひとりが自律的にキャリアを考えることを支援する「キャリアデザイン部」を設立し、手上げ式の研修やライフキャリアを検討するツールなどの展開を始めています。

 

エ.出光エンゲージメントインデックス向上の取り組み

既存事業の構造改革を通じた持続的な成長を実現するために、当社はゴール指標として出光エンゲージメントインデックス(出光EI)を重視しています。これは、当社が独自に開発した指標で、組織に対する社員のコミットメントを測定するもので、「高い当事者意識」「当社に帰属する誇り」「自己の成長実現」「組織への貢献意欲」「企業理念の体現」「組織の垣根を超え変革に挑戦」の6つの要素で構成されています。この出光EIに強い影響を及ぼす要素を明らかにすべく、やりがい調査の質問項目を独立変数、出光EIを従属変数とした重回帰分析を実施し、特に高い寄与率を示すキードライバー6項目を抽出しています。

 

図2 出光EIとキードライバー

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各キードライバーに対する課題と打ち手を講じ、2024年度の出光EIは70%となりました。(2022年度: 67%、2023年度: 69%)

 

④2025年度の重点課題

中計最終年度を迎えるに当たって、本年重点的に取り組む、人財戦略上の課題を中心に記載していきます。

 

ア.Post Merger Integration(PMI)に区切りをつけ新たな行動指針を制定

主力製品の内需減少は経年の課題であり、慢性的な供給過剰に陥った業界構造を打開すべく2019年、出光興産・昭和シェル石油は経営統合しました。燃料油セグメントを中心として、統合シナジーを速やかに追及、実現する一方、PMI活動については、生い立ちの違う、100年以上の歴史を持つ企業同士の統合であることから、慎重を期して丁寧に進めました。現在の人事制度及び行動指針は、経営統合時にどちらかの会社の制度に片寄せするのではなく、新しいコンセプトを打ち出すという方針のもと策定・制定されました。しかし、行動指針などで使われた用語が汎用的であるために当社らしい価値観が反映されていない、評価の際の基準が曖昧になりやすいという問題点を抱えていました。そこで、2021年4月に成文化した企業理念「真に働く」に基づき、今般当社らしさにこだわり、新たな行動指針を制定しました。制定した新行動指針は、「徹底的当事者意識」「飽くなき成長意欲」「誠実・相互信頼」の3つの基本姿勢と、「大胆に挑み続ける」「常に考え決断する」「相違を乗り越える」「人を活かす」の4つの能力から構成されています。

 

表1 新行動指針

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この行動指針をもとに人事制度を刷新し、社員が日常業務を通じて企業理念を体現し、持続的な成長を遂げることを目指します。約5年かけたPMI活動に名実ともに区切りをつけ新たなスタートを切ることにします。人財戦略のプラットフォームになるのが人事制度であり、評価項目及びその基準となる「新行動指針浸透率」を新たにKPIとして設定し進捗を確認していきます。

イ.出光成長スコアの設定

前述のとおり、これまでの出光EIは漸次改善している一方、2025年度目標: 75%を達成するためには一段と思い切った施策が必要です。

従来の出光EI分析は、平均値をもとにした対応策検討に終始していたという反省を踏まえ、今般各職場のリーダー層30名強を抽出し、匿名かつ記述式のアンケートを実施して現場の社員が実感している課題を抽出することにしました。アンケート結果を分析したところ、

・成長実感が得られない

・職場での貢献実感が得られない

・個人のキャリアを描けない

の3点が課題として浮かび上がってきました。この3点は、特に出光EIとの寄与率が高いキードライバー6項目のうち、「当社には能力を伸ばし成長する機会がある(成長実感)」「現在の仕事に対する自身の取組みと成果に満足している(貢献実感)」「今後当社でのキャリアを思い描ける(キャリアを描ける)」の3項目と一致しています。

 

図3 出光成長スコアの設定

 

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そこで、この3つを新たに中間指標として「出光成長スコア」を設定することにしました。なお、出光成長スコアと出光EIの相関係数は0.8です。現状開示を行っている「出光EI」はゴール指標として継続的に開示を行い、出光EIの向上に繋がる先行プロセスであり、喫緊の重要組織課題達成のための中間指標「出光成長スコア」を経営上の重要指標として追跡し、かつ社員全員で向上のためのムーブメントを起こしていきます。これが結果的に既存事業の成長にも繋がっていくものと考えています。

 

図4 出光成長スコアと出光EIの関係

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なお、2024年の出光成長スコアは64%でしたが(2022年60%、2023年62%)、全45部門を3分割すると、上位3分の1に入る15部門の平均スコアが70%であるのに対し、下位3分の1に入る15部門の平均スコアは58%と12ポイントの差がありました。事業内容、所属するメンバー特性など、部門ごとに出光成長スコアにばらつきがあり、部門別のきめ細かな丁寧なアプローチが必要であることを再認識しました。

 

ウ.出光成長スコアに資する打ち手の展開

出光成長スコアの向上に向けて、本年は以下の4点に取り組みます。

 

(ア)キャリアを主体的に考える機会の拡大

出光成長スコアを構成する「今後当社でのキャリアを思い描ける」のスコアが51%に留まっていることが課題です。当社では様々なキャリア支援策を用意し、社員に選択肢を提供していますが、それを自分事として受け止め、自ら主体的にキャリアを描ける社員の割合がまだまだ不足しているのが現状です。これを打開すべく、全部門が一堂に会し他部門の業務理解、自身のキャリアを考える機会となる「ジョブフェスティバル」、現職務を継続しながら20%の時間を他部門の業務に充てることができる「社内副業制度」、部門を超えたプロジェクトへの参画、社外への越境学習などへ参加した人の割合を測定する「自部門外活動参加率」をKPIとして設定します。また、これらの経験を経て自ら主体的にキャリアに関し意思決定する社員を後押しする「自律的キャリア意向比率」を併せてKPIとして設定しフォローしていきます。これらは出光EIを構成する「組織の垣根を超え変革に挑戦」にも寄与すると考えています。

 

(イ)キャリア支援の実感向上と、次世代リーダー層の拡大

各種キャリア支援策や上司をはじめとする周囲の人たちのサポートが社員にどのように実感されているのかを測定し、適宜軌道修正できるようにしていきます。そのため、「キャリア周辺サポート比率」を新たにKPIとして設定します。また、自らのキャリアプランを明確にする過程で当社において現在の女性役職者比率だけではなく、リーダーとして活躍したいと考えている社員の層に厚みを持たせたいと考えています。そのため「リーダー層希望比率」を中間指標として測定していきます。これにより、性差のない将来のリーダー層・役職者のパイプラインを形成します。

 

(ウ)役職者の面談力向上による、キャリア支援力の向上

部下のキャリア支援に当たって直属の上司の役割は極めて重要です。本年上期は新行動指針に基づく人事制度の考課者訓練、そして本年下期以降、2年をかけて重点的に面談力(傾聴・フィードバック)向上に資する研修を全役職者対象に実施していきます。まずは、上司である役職者に対し、部下の成長実感、貢献実感の向上に資する面談を実施できているかどうかを確認する「効果的面談実施率」をKPIとして設定します。

 

(エ)人的資本の可視化と最大活用

当社は、人的資本の可視化と最大活用を図るため、生成AI技術を活用したプラットフォームを構築しています。これにより、社員のスキルやキャリアポテンシャルを可視化し、最適な配置や育成計画に役立てています。本年は上記で設定したKPI情報を有機的に組み合わせ、経営情報としての活用を図っていきます。

 

当社の人的資本経営に関するKPI及び中間指標は下表のとおりです。

 

図5 当社のKPI及び中間指標

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引き続き、当社は人的資本経営を推進し、社員の成長と企業の持続的成長を両立させるための取り組みを続けていきます。

⑤指標及び目標

人財戦略の

重点取り組み

KPI

2024年度実績

2025年度目標

企業理念・

ビジョンの体現

出光エンゲージメントインデックス

従業員エンゲージメント

70

75%以上

DE&Iの深化

女性採用比率

39

50%以上

女性役職者比率

5

5%以上

男性育児休業取得率

92

80%以上

個々人の能力・

個性の発揮

従業員一人当たり

教育投資額/年

55千円

100千円以上

(国内トップクラス)

 

⑥人的資本に関する外部機関などからの評価

 

3年連続「なでしこ銘柄」

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2年連続PRIDE指標2024ゴールド

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3【事業等のリスク】

当社グループは、事業活動に関わる様々なリスクを未然に認知・評価し、リスクに応じた適切な対応を講じることで、経営の安定を図っています。経営を取り巻く環境が大きく変化する中で事業構造改革を推進するためには、リスクの予防強化に向けてリスクマネジメントをより全社的、統合的に高めていく必要があり、2025年度からの本格運用に向け統合的なリスクマネジメントの強化を図っています。

当社グループの事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、当社グループの財政状態・経営成績及び投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項には以下のようなものがあります。当社の業績に特に大きな影響を与える商品分野につきましては、セグメント別に記載しています。文中の将来に関する部分は、当社が有価証券報告書提出日現在において判断したものです。

 

(1)国際情勢や経済環境等の変化によるリスク

当社グループは日本及び世界各地にビジネスを展開しており、各々の地域の政治動向、景気動向及び経済情勢による影響を受ける可能性があります。特に、ウクライナや中東情勢の緊迫化、米国新政権の関税政策をはじめ、海外諸国の政治的要因又は経済的要因に起因する世界景気の減速及び日本国内における人口構成の変化等がもたらすエネルギー資源及び製品需要の変動や価格の乱高下は、当社の業績へ影響を与える可能性があります。

 

(2)事業を取り巻く外部環境の変化によるリスク

商品市況リスク

(燃料油セグメント)

当社グループは、石油製品の生産に必要な原油の殆どを輸入していますが、原油価格は過去においても大きく変動しており、2022年から続くウクライナ情勢のほか、米国を始めとした世界各国の金融政策の動向、アジアにおける原油需要の変動、中東やアフリカの産油国の政情不安、米国を始め石油消費国における環境規制・税制の動向、投機的な石油取引等により、今後も大きく変動することが懸念されます。

当社グループは、石油製品価格を国内の市場価格に連動させることによりマージンを確保することに努めていますが、原油価格の変動が大きい場合や国内石油市場の激しい競争等により国内の市場価格が低迷した場合、財政状態及び経営成績は重大な影響を受ける可能性があります。

また、当社グループは、棚卸資産を総平均法により評価しています。一般的に総平均法は、原油価格が上昇する局面では、期初の相対的に安価な棚卸資産による売上原価押し下げ影響により損益の改善要因となります。一方、原油価格が下落する局面では、期初の相対的に高価な棚卸資産による売上原価の押し上げ影響により損益の悪化要因となります。

なお、1バレル当たりのドバイ原油価格が1米ドル変動すると、当社の営業利益は年間100億円増減する可能性があります。

 

(基礎化学品セグメント)

①原料コストの変動について

当社グループは、基礎化学品の原料であるナフサを自社製油所で生産するとともに市場から調達しています。ナフサ価格は、原油価格や、ガソリンの需要・価格動向、政治経済情勢あるいはその他の要因、また中国等において進められている石油化学設備の新設による需要増加の影響を受けることがあります。市場における激しい競争等の要因により、ナフサ価格の変動を製品価格に適切に転嫁できない場合、当社グループの財政状態及び経営成績は影響を受ける可能性があります。

②製品市況の変動について

日本を含むアジアの基礎化学品市場は激しい競争状況にあり、需要の変動や供給の増加の影響を受けます。アジアでは経済成長に伴う需要の増加が見込まれますが、近年中国を中心とした基礎化学品を製造する大型の新設プラントが急増しており、アジア市場における供給過多や、新興国の経済成長鈍化に伴う需要低迷の可能性があります。このような市場における競争の激化や需要の低迷や、政治経済情勢あるいはその他の要因により、当社グループの財政状態及び営業利益は影響を受ける可能性があります。

 

(高機能材セグメント)

当社グループは、潤滑油の原料であるベースオイル・添加剤を自社事業所で生産するとともに国内外の市場から調達しています。ベースオイル・添加剤の価格は原油価格のほか、潤滑油需給バランス等の影響を受けることがあります。また、市場における激しい競争等により、原料価格の変動を製品価格に適切に転嫁できない場合、当社グループの財政状態及び経営成績は影響を受ける可能性があります。

 

(電力・再生可能エネルギーセグメント)

当社グループでは、卸電力取引市場を通じた電力取引を行っています。この取引価格は、燃料価格や国内の電力需要及び発電所稼働状況の影響を受け変動する可能性があります。また、燃料価格については、当社グループが保有する発電所の発電コストや、当社の電力小売価格における燃料費調整単価に影響を与える可能性があります。これらの影響により、当社の電力取引価格や発電コスト、燃料費調整単価が大きく変動した場合、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を与える可能性があります。

 

(資源セグメント)

石油・天然ガス開発事業においては、原油・天然ガスを生産し販売していますが、政治経済情勢あるいはその他の要因により将来的に原油・天然ガス価格が下落した場合、当社グループの財政状態及び経営成績は影響を受ける可能性があります。

石炭事業においては、オーストラリアの自社鉱山で石炭を生産し、主に日本向けに販売していますが、政治経済情勢あるいはその他の要因により石炭価格が下落した場合、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を与える可能性があります。

 

調達リスク

当社グループは、原油輸入の大宗を中東地域に依存していますが、原油の安定調達を目的として主要な中東産油国と長期の原油輸入契約を締結し、同地域内におけるリスクの分散を図っています。しかしながら、これらの地域における政情不安、原油の生産調整、石油関連施設の事故並びにシーレーンにおける海上輸送リスクの上昇等により、長期にわたって原油の輸入に制約が生じた場合、当社グループの財政状態及び経営成績は重大な影響を受ける可能性があります。

 

カントリーリスク

(基礎化学品・高機能材セグメント)

当社グループは、主にアジア市場を中心とした基礎化学品の販売及び、潤滑油分野においてはグローバルで事業展開をしていますが、経済の低迷や政治リスク等の要因により市場成長が鈍化する可能性があります。

このような経済環境の変動により、当社グループの財政状態及び経営成績は影響を受ける可能性があります。

 

(資源セグメント)

当社グループは、ベトナムをはじめとする東南アジア及びノルウェーを中心に、石油・天然ガスの探鉱・開発・生産(油ガス田開発)プロジェクトを推進しており、これらの地域における政治経済情勢、税制、規制方針やそのほかの不確定要因の影響を受けることがあります。

また、当社グループは、オーストラリアの自社鉱山で石炭を生産し、主に日本向けに販売しています。石炭鉱山事業につきましても、政治経済情勢、税制、規制方針やその他の不確定要因の影響を受けることがあります。

 

為替リスク

当社グループは、多額の外貨建取引を行い、また外貨建の資産及び負債を有しています。このため、為替相場の変動は外貨建取引の収益や財務諸表の円貨換算額に影響を与えます。

また、原油輸入を米ドル建てで行っているため、原油の調達コストは円の米ドルに対する為替相場の影響を受けるほか、燃料油セグメントにおける在庫評価も影響を受けます。なお、1米ドル当たり1円変動すると、当社の営業利益は年間50億円増減する可能性があります。

 

(3)気候変動に関するリスク

上記の「2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (2)気候変動対応」に記載のとおりです。

 

(4)環境規制に関するリスク

当社グループは、事業展開する日本やその他の国における広範な環境保全やその他の法的規制の下にあります。例えば、当社グループは、製油所や工場からの汚染物質の排出、廃棄物の処理等について規制を受け、基準を超える環境汚染発生に伴う罰則を受ける可能性もあります。また、日本や他の国の当局が新たな規制を行うこと、あるいは現在や将来の環境規制を遵守することにより多額の支出を伴う可能性があります。

 

(5)事業投資に関するリスク

当社グループは、事業資産の規模が大きく、既存の製油所・工場や販売設備等の維持更新、油田の権益取得や探鉱開発等の国内外の事業活動に多額の投資を必要とします。今後も石油、石油化学、資源事業等、既存事業の競争力維持には投資を継続する予定です。一方で、カーボンニュートラル実現に向けて、製油所・工場の機能を低炭素で循環型の事業にシフトするための投資や、潤滑油、機能化学品、電子材料、固体電解質等の高付加価値製品の開発投資、更には水素・アンモニア・SAF・合成燃料といった新たなエネルギーの事業開発投資等、化石燃料以外の新しい事業拡大へ向けた戦略投資を行っていく計画です。このような成長分野への投資においては、必要なキャッシュ・フローを生み出すまでに一定の時間を要するため、期待された収益機会を失う可能性があります。更に国内外における経済情勢や政治動向、市場拡大の遅れ、新素材を含む他社との開発競争等によりこれらの投資が計画どおりの収益をあげられない場合は固定資産の減損損失を計上する可能性もあります。なお、投資の意思決定プロセスにおいて、投資金額をはじめとする様々なリスクの多寡に応じた投資審議を設計することで、投資リスク低減と意思決定の迅速化の両立に努めています。

また、当社グループは、アジア市場における石油及び石油化学事業の海外展開の一環として、クウェート国際石油、ペトロベトナム及び三井化学㈱(以下当社を含め、「スポンサー」という。)と共同でニソンリファイナリー・ペトロケミカルリミテッド(以下「NSRP」という。)を設立し、ベトナム社会主義共和国タインホア省ニソン経済区に20万バレル/日の石油精製設備とパラキシレンをはじめとする石油化学品製造設備を有するニソン製油所・石油化学コンプレックスを操業しています。プロジェクトの総事業費は約90億米ドルであり、このうち50億米ドルは国際協力銀行をはじめとする銀行団によるプロジェクト・ファイナンスにより調達し、約40億米ドルはスポンサーによる出資及び貸付で調達しています。プロジェクト・ファイナンスによる調達額について銀行団に対し行っている債務保証及びスポンサーによる出資・貸付のうち、NSRPへの当社グループ出資比率相当の35.1%については、ベトナムにおける政治経済情勢、法律や規制及び雇用環境の変化等からプロジェクトが計画どおりに進展しない場合、当社グループの財政状態及び経営成績は影響を受ける可能性があります。

 

(6)その他経営全般に係るリスク

人権に関するリスク

当社グループは、人権の尊重は欠くことのできない経営の根幹であり、全ての判断や行動において最優先させるべきことと考え、世界人権宣言やILO宣言で国際的に認められた人権を尊重することを基本方針として定めています。当社グループは、グローバルに事業拠点を持ち、取引するサプライヤーも多国にわたることから、「ビジネスと人権」に関する意識を国際基準で高く持ち、人権デューデリジェンスを通じたリスクの軽減を進めるとともに、ビジネスパートナーにも方針の理解と遵守を要請しています。

しかしながら、事業活動の領域で人権の侵害等が生じた場合には、ステークホルダーの信頼を失い、当社グループの財政状態及び経営成績は影響を受ける可能性があります。

 

コンプライアンスに関するリスク

当社グループでは、コンプライアンス規程等に基づき、国内外の法令その他諸規則等を遵守すべく、コンプライアンス推進体制及び内部統制の強化に努めています。しかしながら、当社グループにおいて法令その他諸規則等を遵守できなかった場合、又は内部統制システムが有効に機能せずコンプライアンス上の問題が完全に回避できない事態が生じた場合には、ステークホルダーの信頼を失い、当社グループのレピュテーションを損ね、当社グループの財政状態及び経営成績が影響を受ける可能性があります。

また、当社グループは確実性の高い品質マネジメントシステムに則り製品を製造していますが、予期せぬ事情で大規模なリコールや訴訟が発生した場合に備え保険を手当てしています。しかしながら、それに伴い法的責任が発生する可能性や、直接的な責任を負わずともバリューチェーンの一部を担う者としてブランドイメージやレピュテーションの低下を回避できない場合もあり、ひいては当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性もあります。

 

知的財産に関するリスク

当社グループは、事業の遂行のために知的財産権を活用しており、特に石油精製技術や、リチウム電池向け固体電解質、潤滑油、機能化学品、電子材料等の付加価値の高い製品・サービスにおいて特許や企業秘密の位置づけは重要です。また、当社グループは、ブランドを商標登録しています。しかしながら、当社グループの知的財産権は、これらに関して紛争が生じたり、無効にされたりする可能性があります。また、当社グループが保有する特許、企業秘密、商標が当社の知的財産を保護するために十分であるとは限りません。

また、当社グループの企業秘密が、従業員や取引先、その他の関係者によって不適切に取り扱われる可能性があります。更に、当社グループの製品やサービスが第三者から知的財産権を侵害しているという主張がなされ、あるいは当社グループが第三者から供与されている技術ライセンスが更新されない可能性があります。当社グループが、事業遂行に必要な知的財産権を保護できない、あるいは全面的に活用できない場合、当社グループの事業や経営成績は影響を受ける可能性があります。

自然災害・事故等によるリスク

当社グループの事業は、地震、津波、台風、豪雨豪雪、火山爆発等の自然災害やこれらに起因する製油所・工場における火災、爆発、油の大規模流出等の事故といったリスクを有しています。また保有する大型タンカーを含む原油や石油製品の輸送は、海賊や悪天候による転覆、衝突、非友好国による拿捕、撃沈等の危険にさらされています。更に当社グループは、労働争議やサイバー攻撃等によるシステムダウンや情報漏洩、感染症の大規模蔓延による事業中断のリスクにも晒されています。

これらのリスクを会社としていち早く認識し、全社を挙げて被害の拡大防止を図るため、「危機発生時の対応規程」を策定し、予兆を含めたトラブルの早期共有のための連絡系統、対応時の優先順位、危機レベルの設定とそれに応じた対策本部の体制等についてまとめています。事業継続計画(BCP : Business Continuity Plan)については、2006年度に首都直下地震版、2009年度には新型インフルエンザ版、2010年度には南海トラフ巨大地震版(2021年度に「南海トラフ含む地域的地震津波版」に拡充)を制定しました。更に2015年度に内閣府より「指定公共機関」に指定されたことを受け、「防災業務計画」を作成しました。BCPに基づく総合防災訓練を毎年実施し、各拠点との連携やリモートを含む本部運用等についての課題を抽出し、実効力の強化に努めるとともにBCPの改定に反映しています。製油所・事業所・工場等においては、各々の危機対応規程類に基づき、拠点ごとに又は相互連携の上、防災訓練を定期的に実施しています。

当社グループは、事故や災害で想定される多額の損失に対し、自家再保険子会社を活用し適正な損害保険や損害保険サービスをグローバルに調達しています。

 

個人情報管理に関するリスク

当社グループは、石油製品販売、電力小売り、クレジットカード事業等で顧客の個人情報を多数取り扱っています。当社グループは、これらの情報の管理不徹底や外部からの不正な搾取、それによってもたらされる問題への対処のために、多額の費用を負担する可能性があります。また、昨今の日本国や欧州を始めとする個人情報保護関連法令の適用拡大・厳格化に対する必要な対応の不備・不足により、多額の制裁金、賠償金の発生、当社グループの信用低下、クレームや訴訟等に繋がった場合、当社グループの事業や経営成績が影響を受ける可能性があります。

 

(7)事業等のリスク管理

上記の「2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (1)サステナビリティ(ESG)共通 ③リスク管理」に記載のとおりです。

 

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1)経営成績等の状況の概要

①経営成績の状況

ア.一般経済情勢及び当社グループを取り巻く環境

当連結会計年度におけるわが国の経済は、雇用や所得環境の改善を背景として、景気は緩やかな回復基調で推移しました。一方で、ロシアによるウクライナ侵攻、中東情勢の緊迫化など地政学リスクの影響の長期化や米国新政権の政策動向等、依然として不安定な状況が続いています。

国内石油製品販売量は、ガソリン等主燃料は2020年以降のコロナ禍における需要減からの回復が一服し、前年度から減少しました。ジェット燃料は需要の回復が続くものの、当社においては官公庁向け入札案件の減少により前年度から減少しました。

原油価格は、ロシアによるウクライナ侵攻やイスラエルとガザ地区での緊張などの地政学リスクの高まりによる一時的な上昇局面はあったものの、米中の経済指標の弱さから景気減速が意識され、年間を通じて下落基調で推移しました。この結果、ドバイ原油価格は前期比3.8ドル/バレル下落の78.5ドル/バレルとなりました。

円の対米ドルレートは、日米の金融政策の差異を背景に円安ドル高が進行し、7月には160円/ドルに近い水準に到達したものの、8月以降は日米金利差を背景に上昇と下落を繰り返し、結果として、平均レートは前期比8.0円/ドル円安の152.6円/ドルとなりました。

 

イ.業績

当社グループの当期の売上高は、円安影響などにより、9兆1,902億円(前期比+5.4%)となりました。

売上原価は、8兆5,008億円(前期比+8.0%)となり、販売費及び一般管理費は、5,272億円(前期比+5.3%)となりました。

営業損益は、燃料油セグメントにおける原油価格下落による在庫影響や基礎化学品セグメントにおける数量減少及び製品市況の下落、資源セグメントにおける石炭市況の下落などにより、1,622億円(前期比△53.2%)となりました。

営業外損益は、持分法投資利益の増加などにより、526億円(前期比+35.1%)となりました。その結果、経常損益は2,148億円(前期比△44.3%)となりました。

特別損益は、固定資産の減損損失の計上などにより、△564億円(前期比+21億円)となりました。

法人税、住民税及び事業税と法人税等調整額を合わせた税金費用は、563億円(前期比△43.6%)となり、非支配株主に帰属する当期純損失は20億円(前期比+22.0%)となりました。

以上の結果、親会社株主に帰属する当期純利益は1,041億円(前期比△54.5%)となりました。

 

セグメント別売上高

(単位:億円)

 

前連結会計年度

当連結会計年度

増減

 

(2024年3月期)

(2025年3月期)

増減額

増減率

燃料油

70,808

76,964

+6,156

+8.7%

基礎化学品

6,016

5,872

△144

△2.4%

高機能材

5,154

5,034

△120

△2.3%

電力・再生可能エネルギー

1,415

1,276

△139

△9.9%

資源

3,705

2,652

△1,052

△28.4%

その他・調整額

95

105

+9

+9.9%

合計

87,192

91,902

+4,710

+5.4%

 

 

セグメント別利益又は損失(△)

(単位:億円)

 

前連結会計年度

当連結会計年度

増減

 

(2024年3月期)

(2025年3月期)

増減額

増減率

燃料油

(在庫評価影響除き)

2,197

(1,672)

1,221

(1,520)

△975

(△152)

△44.4%

(△9.1%)

基礎化学品

220

△80

△300

高機能材

276

282

+7

+2.4%

電力・再生可能エネルギー

△76

△123

△47

資源

1,169

774

△396

△33.9%

その他

5

12

+6

+122.0%

調整額

△161

△238

△77

合計

(在庫評価影響除き)

3,630

(3,106)

1,848

(2,147)

△1,782

(△959)

△49.1%

(△30.9%)

(注)セグメント別利益又は損失(△)は、セグメント別の営業損益と持分法投資損益の合計額です。

 

(ア)燃料油セグメント

燃料油セグメントについては、売上高は原油価格が下落したものの、円安影響などにより、7兆6,964億円(前期比+8.7%)となりました。セグメント損益は、国内製品マージンが堅調であったものの、海外マージン悪化に伴う輸出利益の減少などにより、1,221億円(前期比△44.4%)となりました。

 

(イ)基礎化学品セグメント

基礎化学品セグメントについては、製品市況の悪化及び定期修繕や製造装置トラブルに伴う数量減などにより、売上高は5,872億円(前期比△2.4%)、セグメント損益は△80億円(前期比△300億円)となりました。

 

(ウ)高機能材セグメント

高機能材セグメントについては、機能化学品製造設備の定期修繕に伴う数量減があったものの、潤滑油事業の販売ポートフォリオの改善などにより、売上高は5,034億円(前期比△2.3%)、セグメント損益は282億円(前期比+2.4%)となりました。

 

(エ)電力・再生可能エネルギーセグメント

電力・再生可能エネルギーセグメントについては、トラブルに伴う調達コストの増加やバイオマス原料コストの増加などにより、売上高は1,276億円(前期比△9.9%)、セグメント損益は△123億円(前期比△47億円)となりました。

 

(オ)資源セグメント

(石油・天然ガス開発事業・地熱事業)

石油・天然ガス開発事業・地熱事業については、円安影響があったものの、原油価格の下落などにより、売上高は404億円(前期比+5.4%)、セグメント損益は187億円(前期比△2.3%)となりました。

 

(石炭事業・その他事業)

石炭事業・その他事業については、石炭市況の下落に伴う価格要因などにより、売上高は2,248億円(前期比△32.3%)、セグメント損益は587億円(前期比△40.0%)となりました。

 

以上の結果、資源セグメントの売上高は2,652億円(前期比△28.4%)、セグメント損益は774億円(前期比△33.9%)となりました。

 

(カ)その他セグメント

その他セグメントの売上高は105億円(前期比+9.9%)、セグメント損益は12億円(前期比+122.0%)となりました。

②財政状態の状況

要約連結貸借対照表

(単位:億円)

 

前連結会計年度

(2024年3月期)

当連結会計年度

(2025年3月期)

増減

流動資産

29,168

26,499

△2,670

固定資産

20,955

21,257

+303

資産合計

50,123

47,756

△2,367

流動負債

21,925

20,974

△951

固定負債

10,073

9,405

△668

負債合計

31,998

30,379

△1,619

純資産合計

18,125

17,377

△748

負債純資産合計

50,123

47,756

△2,367

 

ア.資産の部

当期末における資産合計は、原油価格の下落等による棚卸資産の減少や前期末の休日影響等による売掛債権の減少などにより、4兆7,756億円(前期末比△2,367億円)となりました。

 

イ.負債の部

当期末における負債合計は、有利子負債の減少や前期末の休日影響による未払金の減少などにより、3兆379億円(前期末比△1,619億円)となりました。

 

ウ.純資産の部

当期末の純資産合計は、親会社株主に帰属する当期純利益の計上による増加がありましたが、自己株式の取得や配当金の支払いなどにより、1兆7,377億円(前期末比△748億円)となりました。

 

以上の結果、自己資本比率は前期末の35.9%から当期末は36.0%(前期末比+0.1ポイント)となりました。また、当期末のネットD/Eレシオは0.6(前期末:0.7)となりました。

 

③キャッシュ・フローの状況

要約連結キャッシュ・フロー計算書

(単位:億円)

 

前連結会計年度

(2024年3月期)

当連結会計年度

(2025年3月期)

営業活動によるキャッシュ・フロー

3,774

4,767

投資活動によるキャッシュ・フロー

△658

△1,185

財務活動によるキャッシュ・フロー

△2,805

△3,435

現金及び現金同等物に係る換算差額

27

18

現金及び現金同等物の増減額(△は減少)

338

166

現金及び現金同等物の期首残高

1,031

1,369

連結の範囲の変更に伴う現金及び現金同等物の増減額(△は減少)

2

連結子会社の決算期変更に伴う現金及び現金同等物の増減額(△は減少)

106

現金及び現金同等物の期末残高

1,369

1,643

 

当期末の現金及び現金同等物は、1,643億円となり、前期末に比べ、274億円増加しました。その主な要因は次のとおりです。

 

ア.営業活動におけるキャッシュ・フロー

税金等調整前当期純利益や減価償却費等、運転資本の減少などの資金増加要因が、未払金の減少などの資金減少要因を上回ったことにより、4,767億円の収入となりました。

 

イ.投資活動におけるキャッシュ・フロー

製油所設備の維持更新投資等による有形固定資産の取得などにより、1,185億円の支出となりました。

 

ウ.財務活動におけるキャッシュ・フロー

有利子負債の返済や自己株式の取得、配当金の支払いなどにより、3,435億円の支出となりました。

 

④生産、受注及び販売の実績

ア.生産実績

当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。

セグメントの名称

金額(百万円)

前年同期比(%)

燃料油

3,748,763

93.7

基礎化学品

475,859

91.0

高機能材

327,004

107.7

電力・再生可能エネルギー

資源

186,848

74.8

その他

合計

4,738,476

93.3

(注)上記の金額は、資源セグメントは販売金額、その他のセグメントは製品生産額によって記載をしています。

 

イ.受注実績

当社グループでは主要製品について受注生産を行っていません。

 

ウ.販売実績

当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。

セグメントの名称

金額(百万円)

前年同期比(%)

燃料油

7,696,391

108.7

基礎化学品

587,195

97.6

高機能材

503,366

97.7

電力・再生可能エネルギー

127,573

90.1

資源

265,246

71.6

その他

10,452

109.9

合計

9,190,225

105.4

(注)1.セグメント間の取引については相殺消去しています。

2.「主な相手先別の販売実績」に該当する販売相手先はないため、記載を省略しています。

3.各セグメントの販売実績は、外部顧客への売上高を記載しています。

 

(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

①経営成績の分析

経営成績の分析については、「4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1)経営成績等の状況の概要 ① 経営成績の状況」における「イ.業績」に記載しています。

 

②資本の財源及び資金の流動性についての分析

ア.資金需要

当社グループの主な運転資金需要は、製品製造のための原油・原材料の購入のほか、製造費、販売費及び一般管理費等の営業費用及び税金の支払いなどによるものです。

設備投資資金については、エネルギー安定供給のための操業維持投資に加え、販売・供給体制の競争力強化を目的とした投資、一歩先のエネルギーや多様な省資源・資源循環ソリューション及びスマートよろずや等の事業ポートフォリオ転換推進投資、石油開発事業等における保有鉱区の開発・安定生産継続に向けた投資等の需要があります。

 

イ.財務政策

当社グループは、中長期的な成長を維持するために資本効率と財務健全性のバランスを勘案しつつ、必要な運転資金及び設備投資資金を、営業活動によるキャッシュ・フロー、金融機関からの借入、社債、コマーシャル・ペーパーの発行、及び流動性確保のための特定融資枠契約(コミットメントライン契約)の維持等、多様なリソースから効果的に組み合わせて調達しています。

なお、国内子会社は、当社が一括して資金調達し、子会社に融通するグループ金融を通じて運転資金及び設備投資資金を調達しています。また、海外子会社は金融機関からの借入れの他、子会社間のグループ金融を通じて運転資金及び設備投資資金を調達しています。

また、円滑な資金調達を行うため、当社は格付投資情報センター(R&I)、日本格付研究所(JCR)の2社から格付けを取得しています。当連結会計年度末において当社の格付けはR&IがA(方向性:安定的)、JCRがA+(見通し:安定的)となっています。

 

(特定融資枠契約)

当社グループは、運転資金の効率的な調達や十分な流動性確保、また、災害発生時の円滑な資金調達のため、取引先銀行で作られるシンジケート団と短期借入を実行できる特定融資枠契約2,100億円を締結し、機動的・安定的な資金調達が可能な体制を敷いています。当連結会計年度末において同契約にかかる借入残高はありません。

 

③重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

連結財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載のとおりです。

④経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標

当社グループは、2030年ビジョン「責任ある変革者」の実現に向けて、事業構造改革投資と人的資本投資の両輪により事業ポートフォリオの転換を進めるため、自己資本利益率(ROE)、投下資本利益率(ROIC)、ネットD/Eレシオ、自己資本比率を主要な経営指標としています。

2025年3月期の自己資本利益率(ROE)が前期対比で減少している主な要因は、基礎化学品セグメントにおける数量減少及び製品市況の下落、資源セグメントにおける石炭市況の下落などによる、在庫影響除き親会社株主に帰属する当期純利益の減少によるものです。また、同様に実態投下資本利益率(ROIC)の主な増加要因は、燃料油セグメントにおける国内製品マージン堅調などによる在庫影響及びタイムラグ影響を除いた営業利益の増加、自己株式の取得や借入返済に伴う投下資本の減少によるものです。

 

当社グループの主要な経営指標のトレンドは次のとおりです。

 

2021年

3月期

2022年

3月期

2023年

3月期

2024年

3月期

2025年

3月期

自己資本利益率(ROE)(%)

2.6

9.2

14.2

11.3

7.1

投下資本利益率(ROIC)(%)

(全社計)

2.8

6.8

6.2

8.4

6.0

実態投下資本利益率(ROIC)(%)

(既存事業計)

3.4

4.8

6.5

ネットD/Eレシオ(倍)

1.0

0.9

0.9

0.7

0.6

自己資本比率(%)

29.1

30.7

33.2

35.9

36.0

(注)1.各指標は、以下の計算式によって計算しています。

自己資本利益率(ROE):在庫影響除き親会社株主に帰属する当期純利益/自己資本(期首期末平均)

※2024年3月期より算定方法を変更しています。その結果、2021年3月期、2022年3月期及び2023年3月期の指標も変更しています。

投下資本利益率(ROIC):(在庫影響除き税後営業利益+持分法投資損益)/(株主資本+有利子負債)

※2024年3月期より算定方法を変更しています。その結果、2023年3月期の指標も変更しています。

実態投下資本利益率(ROIC):計算式は投下資本利益率(ROIC)と同様。ただし、大きな外部環境影響を除いて比較するため、燃料油セグメントのタイムラグ影響、資源セグメントの石炭価格(実績を2026年3月期計画前提である120USD/tへ)等を補正

ネットD/Eレシオ:(有利子負債-現預金及び短期運用有価証券)/(純資産-非支配株主持分)

自己資本比率:(純資産-非支配株主持分)/総資産

2.有利子負債は、短期借入金、コマーシャル・ペーパー、社債及び長期借入金として連結貸借対照表に計上されている金額及びリース債務の金額を使用しています。

3.2021年3月期及び2022年3月期の実態投下資本利益率(ROIC)については、主要な経営指標に含んでいなかったため記載していません。

 

5【重要な契約等】

(1)財務上の特約が付された金銭消費貸借契約

契約締結日

相手方の属性

期末残高

(百万円)

償還期限

担保

特約の内容

2024年

4月30日

独立行政法人

182,335

2025年

4月30日

(注)

該当

なし

以下の財務制限条項が付されており、これに抵触し、貸付人から請求があった場合には期限の利益を喪失します。

・直近の連結財務諸表が著しい債務超過となったとき

・連結財務諸表の経常損益及び税引後当期損益が3期連続の赤字となったとき

(注)期限どおり返済を完了しました。

 

(2)その他の重要な契約等

以下の契約は、契約終了の合意により、当連結会計年度において、終了しました。なお、本欄に記載すべき事項の一部について、企業内容等の開示に関する内閣府令に基づき、その記載を省略しています。

契約会社名

相手方の名称

国名

契約の種類

契約内容

効力発生日

契約終了日

出光興産

株式会社

シェル・ブランズ・インターナショナル・アー・ゲー

スイス

商標等

使用契約

特定の事業のブランディングに関する商標等のライセンス契約

2016年12月19日

2024年11月11日

 

 

6【研究開発活動】

当社グループは、燃料油、高機能材、資源、更には新規事業創出のための研究開発に取り組んでいます。現在、図に示した研究開発体制の下、互いに密接に連携して研究開発活動を行っています。

なお、研究開発費については、各セグメントに配賦できない全社共通研究費等206億円が含まれており、当連結会計年度におけるグループ全体の研究開発費の総額は前年同期比51億円増加の339億円です。

 

(当社グループの研究開発体制)

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当連結会計年度における各セグメントの研究開発内容、研究開発費及び研究開発成果は次のとおりです。

 

(1)燃料油セグメント

バイオエタノールや動植物油脂からのジェット燃料(SAF:Sustainable Aviation Fuel)、回収したCO₂からの合成燃料、使用済みプラスチックを原料とした油化ケミカルリサイクルなど、カーボンニュートラル及び循環型社会の実現に向けた社会実装のための技術開発を推進しています。当セグメントに係る研究開発費は4億円です。

 

(2)高機能材セグメント

高機能材セグメントでは、環境に配慮した潤滑油製品の開発、機能舗装材(アスファルト)の開発、機能材料及び樹脂加工製品の競争力強化に向けた保有技術の改良や新規材料の開発、電子材料事業、農薬・機能性飼料事業における研究開発を推進しています。当セグメントに係る研究開発費は125億円です。

 

①潤滑油事業では、カーボンニュートラルの実現に向け、3つの海外研究開発拠点と連携し、地域特性に応じた様々な環境対応型高機能・省エネルギー型商品の開発と環境・人・安全に配慮した技術の開発をグローバルで展開しています。当連結会計年度の主な実績は以下のとおりです。

・高機能水溶性切削油(商品名:ダフニーアルファクールEX-NV、WX-NV)は、潤滑油使用量の削減や作業者の健康リスク低減が評価され、「第21回2024年"超"モノづくり部品大賞(主催:モノづくり日本会議、日刊工業新聞社)」を受賞しました。

・スマートフォンのカメラ機能を利用し、潤滑油の色と異物から潤滑油の寿命を予測し、機械の保守管理を行う「Idemitsu Smart OC」を商品化しました。

・環境に配慮したサステナブルな製品開発を進めており、ベースオイルに植物由来の原材料を使用したエンジンオイル「IDEMITSU IFG Plantech Racing」を商品化しました。また、電動車両用トランスアクスルフルード、バッテリー冷却剤、及びそれら兼用オイルについて継続して開発を進めています。

・将来的に成長が期待される半導体産業における材料加工油開発、自然冷媒や低GWP冷媒に対応する冷凍機油の開発、また、データセンターでの電力使用量削減に貢献する高性能液浸冷却油「IDEMITSU ICFシリーズ」の製品開発を進めています。

・当社独自技術であるナノウレアグリースの低トルク、低ノイズ、低温始動性という優れた特長を活かし、自動車や産業用ロボットをはじめとした幅広い分野において環境配慮とユーザー価値の向上を両立する製品の開発を進めています。

・近年では、マテリアルズインフォマティクス(MI)を積極的に活用し、潤滑剤油及びその基材(添加剤、基油)の開発を促進するとともに、分析技術、機械要素評価技術等、トライボロジーにおいて先進的且つ幅広い研究開発を行っています。

 

②機能舗装材(アスファルト)事業では、省資源・省エネルギーや環境に配慮した舗装材料、例えば耐水性を強化し長寿命化を可能にした舗装材などを独自開発しています。また、アスファルトの特性を活かした屋根用防水材や、建物の地盤沈下による損傷を防ぐための基礎杭に塗布するアスファルトなど、工業用製品も開発し日本国内で製造販売しています。特に舗装材の製品開発においては、当社の長年の舗装材開発の実績から、行政機関や施設管理者と、十分連携しながら進めています。当連結会計年度の主な実績は以下のとおりです。

・水に起因する道路の損傷を大幅に抑制する舗装の耐水性強化技術について、高荷重のかかる空港滑走路において開発を行って参りましたが、2025年1月1日より、国内各空港の滑走路や誘導路向け製品として「ミナフォルティスCX」の発売を開始しました。新技術を用いて水の浸透による舗装内部の損傷を抑制することで耐久性を高め、滑走路等の安全性向上や長寿命化による補修工事の回数削減に貢献します。

・京都大学経営管理大学院のインフラ物性産学共同講座に当社社員が特命教授として出向し、また東京大学とのCN領域における包括連携協働研究に参画するなど、学との共創を通じて道路舗装の長寿命化、安全性の向上を追求したイノベーションを創出し社会実装していくことを目指します。

 

③機能化学品事業では、機能材料研究所にてエンジニアリングプラスチックであるシンジオタクチックポリスチレン樹脂やポリカーボネート樹脂の高付加価値商品の開発及び新機能を有した各種機能材料製品や粘接着基材の開発に取り組んでいます。また、出光ユニテック㈱商品開発センターにて様々な機能をもつシート・フィルムの包装材料開発を、出光ファインコンポジット㈱複合材料研究所にてポリオレフィンなど様々なプラスチックの機能を強化させた複合材料開発、にも取り組んでいます。当連結会計年度の主な実績は以下のとおりです。

・シンジオタクチックポリスチレン樹脂(商品名:ザレック™)では、マレーシアの第2装置稼働に合わせ、新規用途開発を更に加速しています。自動車分野では、電動化に伴い軽量、絶縁特性が要求される電装部品への展開を一層強化し、耐ヒートショック性に優れる改良グレードやCAE技術の提案を通じた顧客との関係強化を図り、新規採用に至るまでの期間短縮化を実現しています。また新規用途として、ザレックの特徴を活かしたフィルム、シート、繊維への展開も推進、顧客採用活動を推進しました。

・ポリカーボネート樹脂(商品名:タフロン™)では、透明性や流動性に優れた光学グレードの開発、耐久性や耐薬品性、難燃性に優れる各種用途に適した共重合グレードの開発を行っています。光学グレードにおいて、自動車照明用DRL(Daytime Running Light)部品や液晶ディスプレイ部品向けに、更なる耐久性や導光性に優れた材料の展開、販売強化を図っています。共重合グレード(商品名:TARFLON NEO™)においては、自動車や通信分野をはじめ屋外で使用される製品等に、耐久性や耐薬品性、耐低温衝撃性を活かして新規採用に至っています。

・ポリオレフィンシート(商品名:マルチレイ™)では、東京科学大学の技術指導を受けながら新規表面微細構造設計技術を開発しており、その機能発現メカニズム解明と用途探索を実施しました。メカニズムの解明により目指すべき方向性を見出し、将来の食品ロス低減を目指した撥水撥油包装の実績化に着実に近づけました。また製品の安定供給のため、原料ソースの多様化を目指し、各国原料の調査と評価を実施、重要原料に関しては海外原料の使用を開始しました。

 

・ジッパーテープ(商品名:プラロック™)では、ピロー包装分野への拡販に向けて、内容物の充填を容易にする特殊なジッパーテープ(商品名:ポケットジップ™)付ロールフィルムの開発及び製袋・充填技術の確立を機械メーカーと共創して実施し、大手ハムメーカーで新規採用が決定しました。また生産性向上に向けて新規技術を用いた設備導入の仕様検討を行い、実生産機への導入を決定しました。

・複合材料において、ポリオレフィン系の樹脂コンパウンド(商品名:カルプ™)では、植物由来材料やリサイクル材等の原料化の検討、主力商品である難燃グレードにおける市場ニーズに対応した改良グレードの市場投入及び環境安全性を高める非ハロゲン化グレードの開発を推進しました。また、ポリフェニレンサルファイド系の樹脂コンパウンドにおいては、生成AI普及拡大に伴う情報通信分野での需要増への対応、機械・自動車用途向けに開発した水中・油中において良摺動性を示すグレードや電装部品向けに開発した絶縁熱伝導グレードの顧客採用活動を進めました。さらに、高機能性付与に向けてポリフェニレンサルファイド以外の高耐熱エンジニアリングプラスチック樹脂のコンパウンド開発も進めています。

 

④電子材料事業では、有機EL材料の研究開発を行っています。有機EL材料においては、顧客との連携強化、大学との共同研究などを通じて商材の更なる高性能化から次世代技術の開発まで、幅広い開発活動を推進しています。当連結会計年度の主な実績は以下のとおりです。

・ディスプレイ関連の世界最大の学会であるthe Society of Information Display(以下、SID)において、当社社員の熊均が「2024 SID FELLOW AWARD」を受賞しました。この度の受賞は、青色蛍光有機ELの発光効率を大幅に向上させるTTF(Triplet-Triplet Fusion)技術を中心とした、有機EL材料・デバイス技術の開発、有機ELディスプレイの大幅な消費電力低減への貢献が高く評価されたものです。

・当社社員の舟橋正和が令和6年春の褒章「紫綬褒章」を受章しました。今回の受章は、高効率かつ長寿命の青色発光技術の発明により、有機EL発光において実用レベルでの三原色発光が可能となり、近年の有機ELフルカラーディスプレイを搭載した高機能機器の実用化に大きく貢献したことが評価されました。

・顧客への提案活動を通じて、出光独自技術である積層発光方式を更に浸透させることができました。また、当該技術を更に発展させた技術論文が、SID主催のシンポジウム「Display Week 2025」においてDistinguished Paper Awardに選定されました。

・SK materials JNC CO., LTD.と有機EL材料である、ホウ素系蛍光青色ドーパント材料と、ホウ素系蛍光青色ドーパント材料に最適な蛍光青色ホスト材料の共同開発を目的とした覚書(MOU-Memorandum Of Understanding)を締結しました。

・設立から2年となる出光アドバンストマテリアルズコリアは、有機EL材料の研究開発体制を強化し、材料開発活動を順調に進捗させることができました。また、顧客ニーズを的確に把握するため、顧客との連携強化に努めました。

 

⑤農薬・機能性飼料事業では、主要関係会社のアグロ カネショウ㈱と㈱エス・ディー・エス バイオテックを中心に、商品化に至るまでの一連の研究開発を行っています。

ア.アグロ カネショウ㈱では、高い安全性を有するユニークな新規農薬成分の創生、生産現場のニーズに合致した製品の創出に加え、他社からの製品導入や無形資産の買収に取り組み、ポートフォリオの拡充に努めています。農業生産における社会課題として、欧州の「Farm to fork」や日本の「みどりの食料システム戦略」に掲げられる化学農薬や化成肥料の低減がクローズアップされつつある状況下、様々な防除対策を組み合わせて行う総合的病害虫・雑草管理(IPM)に資する製品群を投入すべく、2023年に新設したバイオロジカル・ソリューション室を軸に、微生物や天然物由来の農薬・資材等の研究開発を加速させています。当連結会計年度の主な実績は以下のとおりです。

・国内農薬登録を芝生用除草剤で1件新規取得、殺虫剤で1件譲渡を受け、国内の適用拡大登録を土壌消毒剤2件、ダニ剤1件、殺虫剤5件、殺菌剤4件取得しました。海外農薬登録をダニ剤で3件(3か国)新規取得し、海外適用拡大登録をダニ剤5件取得しました。

イ.㈱エス・ディー・エス バイオテックでは「食の安全・安心」「増大する食料需要への対応」をキーワードに、合成・微生物培養・生物学的評価・製剤・分析技術といった研究開発力を駆使することで、世界の「食」に貢献する農薬、飼料添加物などの商品のラインアップを拡充しています。当連結会計年度の主な実績は以下のとおりです。

・国内の新規農薬登録を殺菌剤1件、緑地管理用除草剤2件、水稲用植物成長調整剤1件取得し、国内の適用拡大登録を殺菌剤15件、生物農薬殺虫剤3件、生物農薬殺菌剤1件、緑地管理用除草剤2件取得しました。

 

(3)資源セグメント

石炭事業では、顧客ニーズに応える技術サービスと石炭のクリーン利用技術の開発に取り組んでおり、近年では、バイオマス混焼によるCO₂排出量の削減や、排ガス中のCO₂を炭酸塩として固定化させる技術開発を積極的に推進しています。当セグメントに係る研究開発費は5億円です。当連結会計年度の主な実績は以下のとおりです。

・石炭火力のCO₂排出削減に繋がる木質バイオマス(ブラックペレット)の製造・販売の事業化に向け、ブラックペレットを自社コールセンターで受入・貯蔵し、共に取組む需要家の石炭ボイラにて混焼試験を実施することにより、ブラックペレットを安全かつ円滑に取り扱うための技術及び実用的な混焼評価システムの開発を推進しています。これら貯蔵・混焼試験結果を踏まえた自社の知見を基に、ブラックペレットの品質向上や需要家へのコンサルティングに反映させています。

・CO₂を資源として活用するとともにCO₂の排出削減を行うため、廃コンクリートなどに含まれるカルシウムと発電所や工場から排出されるCO₂を作用させ炭酸塩(炭酸カルシウム)を製造するプロセスの研究開発を進めています。

・石炭鉱山での植栽を活用した新規事業創出を目的に、(独)エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)と共同でバイオマス炭素材料の研究開発を実施しました。

 

(4)全社共通(コーポレート研究)

中期経営計画(2023~2025年度)に掲げた事業ポートフォリオ転換に向け、社会や技術のトレンドを踏まえた新規事業創出のための研究開発を実施しています。

 

①次世代技術研究所ではカーボンニュートラル社会、循環型社会の実現に向けたバイオマスやCO₂等を出発原料とするクリーンな素材・燃料を提供する技術の開発を実施しています。また高機能材事業の成長に向けて、保有している有機・無機合成、生物変換技術、触媒・電気・光化学の要素技術を活かしたモビリティ向け軽量/強靭化素材や酸化物半導体材料、宇宙用太陽電池等の開発に取り組んでいます。研究開発の推進にあたっては、高度な分析・解析技術や、MIやAIを駆使して大幅な省力化や各事業部も含めた研究開発のスピードアップに取り組むとともに、国家プロジェクトや国公立研究所、アカデミアとのオープンイノベーションを積極的に推進しています。アカデミアとの連携では東京科学大学との「出光興産次世代材料創成協働研究拠点」、神戸大学との「出光バイオものづくり共同研究部門」に加えて2024年4月から新たに東京大学との「カーボンニュートラル領域における包括連携共同研究」を開始しました。さらに、アカデミア連携を海外大学へと拡大し世界中から最適な技術獲得を図り研究開発の早期成果創出に取り組んでいます。当連結会計年度に公開された主な実績は以下のとおりです。

・NEDO「グリーンイノベーション基金事業/燃料アンモニアサプライチェーンの構築プロジェクト」の課題の1つである「常温、常圧下アンモニア製造技術の開発」において、性能向上・コスト競争力向上にむけ、触媒開発及び電解反応系の改良を進め、窒素と水からアンモニアへの連続電解合成で世界最高収率を達成しました。

 

②リチウム電池材料部では、早期実用化が望まれる全固体電池の材料となる固体電解質を中心に、2027-2028年の全固体電池実用化、その先の事業化を目指して、次世代電池用材料及びその量産化の研究開発を推進しました。当連結会計年度の主な実績は以下のとおりです。

・2024年10月に、固体電解質の大型パイロット装置について基本設計を開始しました。(2025年度内に投資最終決定を予定)

・2025年2月に、固体電解質の原料である硫化リチウムの大型製造装置建設を決定しました。(2027年6月完工を予定)

・2025年3月に、小型実証設備第1プラントの能力増強工事を完了し、お客様へのサンプル供給能力の強化と、次のステージとなる大型パイロット装置での量産技術確立を見据えた、実証設備の拡充を行いました。

・今後の事業領域拡大を見据え、硫黄系正極の開発、及び全固体電池のリサイクルについて技術探索を進めました。