文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであり、その達成を保証するものではありません。
(1) 経営方針・経営戦略等
当社グループは2029年に創立100周年を迎えます。次の100年も社会から選ばれ続ける企業であるために、「2029年 住友理工グループVision」(2029V)及び、3ヶ年の事業計画として「2025年 住友理工グループ中期経営計画」(2025P)を策定し、2023年5月30日に公表しました。
2029Vで定めているとおり、当社グループは住友事業精神を根幹として、「素材の力を引き出し、社会の快適をモノづくりで支える」というパーパスのもと、コアコンピタンスである「高分子材料技術」「総合評価技術」を磨き続け、グループ内だけではなく、外部との共創による既存事業領域の深化と融合分野の事業探索によって、2029年のありたい姿「理工のチカラを起点に、社会課題の解決に向けてソリューションを提供し続ける、リーディングカンパニー」への変革を目指します。
2029年 住友理工グループVision
(注)1. 投下資本事業利益率(ROIC)=事業利益/(純資産+有利子負債)
2. 親会社所有者帰属持分利益率(ROE)=親会社の所有者に帰属する当期利益/自己資本
2025Pについては、2029Vからのバックキャストによって、「未来を開拓する人・仲間づくり」「柔軟かつ強固な組織づくり」「持続可能な社会に向けた価値づくり」という、ありたい姿実現に向けた3つの方向性への取り組みを強化していきます。
また、「さらなる収益力向上と持続的成長に向けた経営基盤強化」のテーマのもと、事業を推進している中、コロナ禍からの自動車生産台数の回復に伴う生産性改善に加え、構造改革や原価低減活動等が当初想定を上回るペースで進んだことによる2024年3月期の業績と2025年3月期の業績予想を踏まえ、「事業利益」「ROIC」「ROE」の数値目標を修正することとしました。配当については、当初計画通り継続的かつ安定的な配当を行うことを基本方針とし、2026年3月期での配当性向30%以上を目指してまいります。
なお、2025Pにおける、上記以外の企業価値(財務目標)・公益価値(非財務目標)、及び「2029年 住友理工グループVision」(2029V)の目標については、2023年5月の発表内容から変更はありません。
2025年 住友理工グループ中期経営計画(2025P) ※2024年5月末に修正し公表
(注)3. DXコア人材:自部門でIoT・AI活用の企画から実用導入に主導的に取り組む人材
4. DXデータ分析人材:自部門でIoT・AI など専門的ITツールを業務に使用する人材
(2) 経営環境及び対処すべき課題
文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
当社グループを取り巻く環境は、サステナブルな社会実現に向けた世界的な潮流や「CASE」といった自動車業界の大変革に加え、足元では主要国における選挙結果を受けた政策変更リスクの顕在化、地政学的リスクの長期化、中国経済の減速、さらには政策金利の変更による為替の急激な変動リスクがあります。これらの要因が複雑に絡み合い、経済環境の不確実性が一段と高まっている状況ではあるものの、経済活動は緩やかな成長を継続することが期待されます。
このような中、当社グループでは3ヶ年の事業計画である2025Pに基づき事業活動を推進しています。
当社グループの強みであるコアコンピタンス「高分子材料技術」「総合評価技術」を駆使した製品開発と、グローバルでの生産体制を生かした受注の拡大、原価低減活動及び間接費抑制を継続して推進することで、収益性を高め、経営基盤を強化していきます。また財務目標の達成と、ESG経営や資本コスト・株価を意識した経営の推進により、幅広いステークホルダーの皆様と共に持続的な成長と豊かな社会実現を目指していきます。
新製品の開発については、親会社である住友電気工業株式会社との連携を強化し、これまで以上にシナジーを創出できるように進めていきます。
米国の相互関税の影響については、追加関税等の状況も注視しつつ、顧客との適切な協議や原価低減・調達体制の見直し等の自助努力を通じて、収益への影響を最小限に抑えるべく取り組んでまいります。
〔自動車用品部門〕
自動車業界においては、技術革新の波が進行し、企業はこれらへの迅速な対応にとどまらず、カーボンニュートラルに象徴されるような社会課題解決への積極的な関与が求められています。
当社グループにおいては、創業以来培ってきたコアコンピタンスをもとに、CASEにおける「A:Autonomous(自動運転)」「E:Electric(電動化)」2領域を中心に、これからの自動車(モビリティ)に新たな価値を提供する製品の創出と開発を進めています。
また、当社のコア技術より生まれた薄膜高断熱材「ファインシュライト」や放熱する吸音材「MIF®」は、電気自動車(EV)のネックとされる電費や航続距離問題、また更なる静粛性の向上といった様々な課題解決に寄与すると考えています。
防振ゴム事業については、EV時代にあわせ、エンジンマウントから振動制御をより高度化させたモーターマウントやeAxleマウントといった製品へ進化させ、日系自動車メーカーのみならず、海外自動車メーカーへの拡販を進めています。自動車用ホース事業については、EV用の電池やモーターをはじめとする部品の熱マネジメントのニーズの高まりに合わせ、他の製品で培った流体搬送技術を生かした冷却系ホースやバッテリー冷却プレート「クールフィットプレート」などの開発にも注力しています。また、各国の環境規制に対応した燃料ホースやバイオ燃料用の燃料ホースなどの拡販を継続しています。
水素社会の実現に向けては、当社の燃料電池自動車(FCEV)向けの基幹部品がトヨタ自動車株式会社のMIRAIに採用されているほか、燃料電池トラック向け等にも水素タンクマウントや水素ホース、FCセル用ガスケットなどの部品を供給しています。
さらに、一般産業用品部門の製品である「リフレシャイン」は、高透明遮熱・断熱窓用フィルムで、主に建物用としての展開を行ってきましたが、当社グループが2029Vで目指す、技術・事業領域の深化・融合を進めるなかで、車載用フィルムとしての用途を拡大させました。2023年度からマレーシアを中心に採用が進み、今後も東南アジア各国・インドなどへの拡販活動の強化や、用途の拡大に向けた共創やシナジーを広げていく計画です。
当社グループにおける欧州の業績低迷については、先行で構造改革を実施した米州事業やエレクトロニクス事業と同様に、早急に対処すべき経営課題として認識しています。欧州においては、EVをはじめとする市場やOEMの動向の見極めを行うとともに、売価改善や受注活動、工程改善等によるロス低減に継続して取り組むことで、収益性の改善を進めていきます。
今後も課題拠点の構造改革の完遂、売上拡大と原価低減の三本柱によって、2025Pのテーマである「さらなる収益力向上と持続的成長に向けた経営基盤強化」の達成と筋肉質な体質への転換を進めていきます。加えて、他社との協業も通じた付加価値の高い製品や技術の開発により、企業価値の向上と持続的な成長を目指していきます。
〔一般産業用品部門・新規事業部門〕
当社グループは、主力事業の「自動車(モビリティ)」分野に加えて、「インフラ・住環境」「エレクトロニクス」「ヘルスケア」といった、社会環境基盤の構築に不可欠な分野へも事業展開しています。
一般産業用品部門のうち、住環境分野においては、ビル用制振システム・TRCダンパーが新規開業した第2名古屋三交ビル(愛知県名古屋市)に採用されました。同システムのさらなる採用の広がりによって、地震が多い我が国を中心に防災・減災への貢献が期待されます。インフラ分野における高圧ホースについては、原価低減とともに補修品市場への積極的な参入や未進出エリアを中心にグローバル拡販を進め、収益性向上を目指します。エレクトロニクス分野では、事務機器市場の成熟や働き方の変化による需要変動に対して、柔軟に対応できる体制への転換を目的とした構造改革を実施したことで、収益性が改善してきました。ヘルスケア分野では、SRセンサを応用した「モニライフシリーズ」が㈱ナインアワーズの経営するナインアワーズ品川駅スリープラボ等に採用され、宿泊者の睡眠状態を可視化するサービスに活用されています。本製品を通じて、宿泊利用者への睡眠解析サービスや質の高い睡眠環境を提供することで、人々の暮らしと健康への貢献を目指していきます。
新規事業部門では、社会の要請に応えられるよう投資すべき重点事業分野を見極め、事業基盤の強化と新たな収益の柱となる事業の創出を進めていきます。特に、2029Vに沿って、当社グループの技術領域の融合と他社との共創や新領域への挑戦をより一層強化しており、2024年度においてはインテグリカルチャー㈱と共同で開発を進めていた細胞農業向けの細胞培養バッグや生態模倣システムといった分野にて、特許出願の完了や試験販売を開始しています。また、㈱ギンレイラボと共同開発を行っている動物実験代替ツール「生体模倣システム(MPS)」についても、エントリーモデルの販売を開始予定です。
「ファインシュライト」は、その高いレベルでの保温・保冷機能から、食品や医薬品などの定温輸送に活用されてきたほか、アウトドア用品にも採用されています。また、工場設備に取り付けることで、熱効率が向上し省エネにつながったという実証結果も得られており、カーボンニュートラルを目指す社会ニーズにマッチし採用が進んでいます。引き続きファインシュライトの応用性を模索し、新事業展開や更なる用途拡大に向けた協業先探索を行っていきます。
これら以外にも、サーキュラーエコノミーへの取り組みとして、ランザテック社及び住友ゴム工業株式会社・住友電気工業株式会社との協業が進んでいます。製品を供給するだけではなく、廃棄物の回収・再利用といった循環型社会の実現を目指して、長期的な目線をもった取り組みを進めています。
私たちはこれまで、モノづくり企業として90年以上にわたって培ってきたコアコンピタンスを軸に、住友事業精神が謳う「萬事入精(ばんじにっせい)」「信用確実」「不趨浮利(ふすうふり)」を忠実に守りながら、「安全・環境・コンプライアンス・品質(S.E.C.Q.)」の取り組みを積み重ねてきました。これからも世界中で必要とされる“Global Excellent Manufacturing Company”への成長を目指して、創立100周年に向け着実な歩みを続けていきます。
文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであり、実際の結果とは様々な要因により異なる可能性があります。
(1)気候変動への取り組みとTCFDへの対応
当社グループは、住友理工グループ経営理念の一つとして「地球環境に配慮し、よりよい社会環境作りに貢献します。」を掲げ、気候変動を重要な経営課題として位置づけています。また、2023年5月に公表した、創業100周年となる2029年に向けた長期ビジョン(2029V)では、「気候変動・自然資本に配慮した事業活動」をマテリアリティの一つとして掲げ、気候変動への対応を事業戦略に織り込んでいます。加えて、脱炭素対応をはじめとする環境課題解決にフォーカスした行動指針として、環境長期ビジョン2050及びそのバックキャストである環境2029Vision(環境2029V)を策定し、その達成に向けて全社一丸で取り組んでいます。
また、ステークホルダーの皆様とのコミュニケーションを促進する観点から、TCFD提言に沿った分析を行っており、下記のとおり開示いたします。今後も、TNFD提言、ISSB基準や企業サステナビリティ報告指令(CSRD)等の国際的なサステナビリティ開示基準の動向等も踏まえ、分析をより深化してまいります。
①ガバナンス
気候変動を含むサステナビリティ関連の事項については、社長が委員長、役付執行役員らが委員を務めるCSR・サステナビリティ委員会にて活動方針の承認や、活動推進状況のチェック及びフォローを行います。
CSR・サステナビリティ委員会で検討した内容等は、年2回以上取締役会で報告し指示を受けるなど、適切な監督体制を整えています。
(CSR・サステナビリティ委員会の概要)
また環境テーマに関する活動推進のため、環境分野所管の役付執行役員が協議会長を務める全社環境活動協議会をCSR・サステナビリティ委員会の下部組織として設置しています。加えて、当社の各製作所、グループ子会社の環境関連業務の代表者で地域環境部会を組織し、法令・条例改正情報・環境事故情報等を相互に共有することで、グループ一体での環境マネジメントの強化に取り組んでいます。
(全社環境活動協議会)
(地域環境部会)
(Global Management Meeting (GMM) 環境・カーボンニュートラル分科会)
②戦略
a. シナリオ分析
当社グループでは、気候変動が事業にもたらすさまざまなリスクと機会について具体的に把握するために、シナリオ分析を実施しました。シナリオ分析は、2030年の時間軸を中心に、移行面で影響が顕在化する「カーボンニュートラルな世界」に向かうシナリオ(1.5℃シナリオ)と、物理面で影響が顕在化する「悲劇の世界」に向かうシナリオ(4℃シナリオ)の2つにより、実施しています。
(参考)参照した主なシナリオ
b. リスク・機会の特定、分析
上記シナリオを前提に、下表のとおり当社グループが想定するリスク・機会の整理を行いました。
特定したリスク・機会については、当社財務数値への影響度も評価の上、各項目への対応の方向性を設定いたしました。
(移行リスクと機会)
(物理リスク)
※顕在時期 …短期:2025年度(中期経営計画の最終年度)、中期:2029年度(2029Vの最終年度)、
長期:2050年
※影響度 …小:売上50億円/費用5億円未満、中:売上50億円~300億円未満/費用5億円~50億円未満、
大:売上300億円/費用50億円以上
(2029年度時点の想定。移行リスクは1.5℃シナリオ、物理リスクは4℃シナリオを想定。)
c. 戦略のレジリエンス
2030年の世界では、世界平均気温の上昇1.5℃以下を目指して脱炭素に移行させる「カーボンニュートラルな世界」への動きが更に進むと考えました。その際に顕現化するリスクは主として移行リスクであると考えており、GHG規制強化への対応コスト増加や天然ゴムをはじめとする原材料の調達コスト増加、EVシフトに伴う内燃機関向け製品の売上減少といった影響が生じる可能性があります。中でも、自動車市場を主戦場とする当社グループにとって、EVシフトは事業への影響が特に大きい項目であると認識しています。
しかしながら、EVシフトにおいて当社の主力製品の防振ゴムは、現状の「エンジンマウント」用製品から、従来以上の静粛性を有する「モーターマウント」用製品等への置き換えが進むとともに、ウレタン製品はEV 駆動ユニットから発生する特有の音等を抑える「制遮音製品」等製品の更なる付加価値化が可能になります。
また、EV においては不必要となる「燃料用ホース製品」に代わり、EVのサーマルマネジメントに必要不可欠である「ホース製品(冷却系ホース)・バッテリー冷却プレート」や、EVの心臓部である電池の安全性を確保する「電池セル間断熱材」等、電費の向上に資する製品の需要増加が見込まれます。
このような市場ニーズの変化を捉え、素材の配合・合成・改質により高機能な製品を生み出す「高分子材料技術」や、製品の信頼性を精緻に評価・検証する「総合評価技術」をはじめとする当社技術を活かした新製品開発を行うことで、EVシフトも含めた社会変化に柔軟に対応することが可能と考えています。
また、非自動車の事業分野では、建設機械や鉄道車輛のクリーン動力源への移行や、防災・減災のための社会インフラの強靭化、熱対策が必要な電子機器、住宅・構造物等幅広い用途での断熱対策等、脱炭素社会への移行に伴って生じる市場ニーズの変化を捉え、自動車向け先端技術のノウハウと産業用の独自技術を活かし、対応商品の開発を進めてまいります。
なお、「悲劇の世界」に向かう場合(4℃シナリオ)は、主として物理的リスクが顕現化し、異常気象の激甚化等により、操業停止等の影響が生じる可能性があります。当社グループは、このようなリスクも認識の上、リスク評価を継続するとともに、各拠点における災害発生後の「初動対応」と「復旧対応」の毎年の見直し等、BCPの運用管理のしくみを継続的に更新することで、着実に対応の高度化を進めています。
今後も、社会や市場環境の変化を注視しながら分析をアップデートしつつ、各種対応策の推進をより効果的なものとしていくことで、気候変動の影響に対する更なるレジリエンスの強化を図ってまいります。
当社グループは、リスク管理の実行において、社長を委員長とするリスク管理委員会を設置するとともに、同委員会の事務局機能を務めるリスク管理専任組織であるリスク管理室を設置しています。
同委員会は「リスク管理基本規程」及び「グループ危機ガイドライン」に基づき、国内外のグループ会社において毎年リスク調査を実施しています。「重要なリスク」として認識・特定されたリスクを同委員会で共有し、グループ全体でのリスクの把握に努め、その分析・評価に基づき、対応すべき選別・対応方法を選択し、事業運営への影響の極小化に取り組んでいます。
リスク管理室ではリスク管理委員会の執行部門として、平時は地震などの自然災害や工場爆発などの事故に対する防災並びに被災軽減対策、事業継続計画(BCP)の策定と維持運営、グループのリスク調査/評価やリスクの監視、注意喚起、危機発生時のガイドラインやマニュアルの整備など未然防止対策、被災軽減対策の推進を行っています。
緊急時は、初動対応と所管部門の役割分担指示、発生した危機情報の収集・影響把握を行い、必要に応じて緊急対策本部を設置します。また、24時間365日体制で、グループ危機情報の連絡窓口を担っています。
当社事業が世界20ヶ国以上に広がるなかで、当社グループでは企業を取り巻くすべてのリスクに対処するために、大分類で14、さらに中分類で56のリスク項目を抽出し、各リスク項目の所管部署を定めて対応しています。各リスクに対しては「発生の可能性」と「被害の影響度」で評価し、リスクマップにすることで経営における影響度の見える化を図っています。あわせて各所管部署が十分機能できているかを確認しています。
また、各国固有のリスクに対応するため、海外及び国内グループ会社においてリスク調査を実施し、グローバルで対策状況を確認しています。
このリスク調査では、抽出したリスク項目をベースに各拠点が把握するリスクと対策状況を評価しています。評価結果から認識された主要なリスクをグループ全体で共有、リスクの顕在化を防ぐ施策を打つことで、グローバルでの危機管理強化に努めています。さらに、グループ全体のリスクマネジメントを継続的に改善するようにリスク管理委員会を中心としてPDCAサイクルを回す仕組み作りに努めています。
当社グループは、2050年カーボンニュートラルの実現を目指し温室効果ガス削減目標を定め、燃料の燃焼などによるCO2の直接排出(Scope1)、購入した電力等の使用に伴う間接排出(Scope2)といった当社グループ自身の事業活動による排出量だけでなく、原材料の製造・調達や販売した製品の使用・廃棄による排出などサプライチェーン全体で発生する間接排出 (Scope3)をGHG プロトコルに従って把握し、CO2排出削減活動に取り組むことが重要と認識し、目標を明確にして活動しています。
自社排出量削減については、再生可能エネルギーへの転換だけでなく生産エネルギー削減の両面からアプローチし、当社のコア技術であるモノづくりや材料、製品開発力をいかんなく発揮し気候変動の緩和と適応を進めています。サプライチェーンについては、原材料や部品など購入や輸送、廃棄に関わるCO2の削減に向けた企画や実行も進めています。
a. 2025年住友理工グループ中期経営計画
当社グループでは、2025年度を最終年度とする2025年住友理工グループ中期経営計画にてCO2の排出量の削減目標を設定しています。2023年度温室効果ガス排出量 は2018年度に比べ26.6%削減しました。
b. 2029年住友理工グループVision
2050年カーボンニュートラルを見据えた中間目標として、2029年度を最終年度とする長期ビジョン(2029年住友理工グループVision)においてもCO2排出削減目標を設定し、長期的な視点での取り組みを実施しております。
2029年度の目標の内、自社排出の削減(Scope1+2)に対しては、(1)省・少エネ活動、生産性向上、(2)新技術開発(革新製法、新商品)、(3)事業構造改革、(4)再エネ・創エネ活用を四本柱とし、CO2排出削減推進人材の育成とともに取り組んでおります。
上記取組の推進により、Scope1+2削減の実績は既に2029年度の目標並みの進捗である一方、今後の売上成長による生産量増加に伴い、成り行きでは排出量の増加が見込まれますが、取り組みの更なる進展により、目標達成を目指します。
また、当社グループではサプライチェーン全体でのCO2排出量のうちScope3が92.2%を占めることから、環境配慮型製品の提供や技術進化・新製品開発等を通じた排出量削減の取り組みを行っていきます。
(2)人的資本
①考え方
事業環境の変化の激しい現代において、「社会課題の解決に向けてソリューションを提供し続けるリーディングカンパニー」であり続けるためには、多様な視点をもって世界を俯瞰し、素材、設備、組織や多様な人材といった経営資源の力を引き出す人材、社会から必要とされるモノづくりとは何かを自律的に自問・探求し続ける人材が欠かせません。
こうした当社のパーパスを体現する人材を獲得し、成長させて、活躍させることが、当社の成長と企業価値の向上に繋がり、さらには「自然と都市と人の空間が繋がるグリーンで快適な社会」の実現に繋がると考えています。
当社グループの人的資本経営では、事業経営の基本思想である「住友事業精神」のもと、独自に定めた「人的資本向上の方程式」(図1参照)を人材戦略の中心に位置付け、多様性と自律性を備えた従業員が成長し意欲高く働くことができる会社を目指して活動を推進しております。
「人的資本向上の方程式」では、人材戦略を実現する4つの人材マテリアリティを核に方針を定め、その方針に沿った人事施策(図2参照)に取り組むことで2029Vの実現を目指しています。直近では2025年に向けたKPI(2025P)を設定しており、人事部長を中心に定期的に取組状況をモニタリングする体制を取っています。
また、当社グループの人的資本経営の課題は「事業支援」と「グローバル連携」にあると認識しており、2029Vの実現に向けて加速度的に人事施策を推進していくために、「ネットワーキング」と「対話」の強化と拡充が必要であると考えています。
2024年度の取組では、事業部担当人事の検討やキャリア対話シートの導入、特定部門での社内公募トライアルといったキャリア開発支援に関する人事施策の実施等、事業部門と人事部門、上司と部下の対話を支援できる仕組みの構築を開始しており、経営戦略と人事戦略の連携強化について新たな歩みを進めております。
(図1:人的資本の考え方)

(図2:方針及び施策)

②取組
a. 住友事業精神
当社グループの従業員にとって住友事業精神は、全ての事業活動における拠り所であり判断基準です。
事業環境が目まぐるしく変化する中においても、「萬事入精(ばんじにっせい)」「信用確実」「不趨浮利(ふすうふり)」という理念のもと、社会から信頼され、持続的な成長を実現する企業としての発展を目指します。
従業員は、何事にも心を込めて一生懸命向き合うことの大切さを胸に刻み、日々の活動に邁進してまいります。
(住友事業精神に関する教育受講者累計人数)
2024年度は、住友事業精神の教育対象を海外に広げた年となりました。海外展開を進めるに当たり「わかりやすさと自分事化」をテーマとした学習動画を新たに公開しました。400年の時を越えて引き継がれてきた住友の教えをアニメーションで分かりやすくまとめ、従業員一人ひとりが自分事として捉えられるよう、当社の歴史の中で大きな転換期となった自動車用防振ゴムの開発エピソードと住友事業精神とを紐づけたストーリーとしています。住友事業精神の学習動画は、GMM(Global Management Meeting:グローバル責任者会議)での社長プレゼンテーションの中で国内外の幹部社員向けに初披露し、その後国内外全ての拠点が動画を視聴できる環境を整備しました。幾つかの海外拠点ではこの動画を母国語に翻訳し、従業員教育に活用しています。今後は、住友事業精神に触れた従業員の行動変容に繋がるプロモーションを実施していきます。
なお、2024年度のエンゲージメントサーベイでは、企業理念や事業戦略に関するスコアは66点で、日本の製造業基準値をやや下回りました。今後は、日本の製造業平均スコアの73点以上を目指し、住友事業精神と従業員との様々な接点を創出していきます。住友事業精神に触れることで、事業精神を知り、そして自ら実践し、最終的には事業精神に基づく行動が習慣化するという行動変容を促していきます。
(エンゲージメントサーベイについては30頁参照)
b. ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)
当社グループでは、経営理念に「従業員の多様性、人格、個性を尊重し、活力溢れる企業風土の醸成」を掲げ、「住友事業精神」のもと多様性と自律性を備えた従業員が意欲高く働き成長することができる環境づくりに取り組んできました。従来は女性活躍を切り口として取組を進めてきましたが、多様性そのものへの理解が進んだ結果、職場からは「女性以外も含めた多様な人材を受け入れて活かすことができる環境づくり」を進める必要があるとの声が挙がってくるようになりました。こうした機運の高まりを受けて、2025年度からは「Equity」(公正性)を織り込んだDE&Iとして活動を進化させてまいります。
○ 女性活躍推進
女性が安心して就業を継続し、キャリアアップを目指していけるよう、研修や制度整備等の取組を推進しています。2024年度は新たにダイバーシティ講演会を開催し、国内グループ会社の従業員を含む500名以上が聴講しました。また、スタッフ部門を中心に展開したEラーニングについても2,000名以上が受講するなど職場における理解が着実に進んでいます。
女性管理職候補が参加したキャリアアップ研修においては、受講生の上司も参加して受講生のキャリアを一緒に考えるプログラムや役員から受講生へのメンタリングを取り入れ、キャリア形成に対するアドバイスや動機付けを行うなど会社全体で育成に取り組んでおり、今後もこれを継続・強化してまいります。
女性管理職のロールモデルが稀少であるという課題については、「SMARTプロジェクト」(当社版イクボス施策)を通じて性別を問わない管理職の働き方・マネジメントのロールモデルとなる「SMART(スマート)なマネージャー」の育成を推進し、女性のキャリアアップに対するモチベーションを高めるよう働きかけてまいります。
(「SMARTプロジェクト」の全体像については31頁参照)
(注) 育児・介護理由に限定した許可要件を撤廃し、政府の提唱する「新しい生活様式」で示される「働き方の
新しいスタイル」に対応しました。
「
○ 障がい者雇用の推進
当社グループでは、受入れ職場との対話を通じて、障がいを持つ従業員の適性や障がいの種別(身体、知的、精神)・特性に応じた配置と職務の割り当てを行っています。また、2013年11月に障がい者雇用促進と社会貢献を目的として、特例子会社「住理工ジョイフル」を設立し、障がい者の積極的な雇用確保と個性を活かした就労支援に努めた結果、10年を超える長期就業も実現しています。
しかしながら、職場における理解と定着には依然として課題があると認識しています。そのため、これまで取り組んできたジョブコーチの配置等に加えて、2024年度は職制や管理監督者向けに「障がい者を正しく理解して共に働く、共に成長していく」という考え方の浸透を狙いとした講演会・勉強会の開催や障がい者雇用促進アンケートを実施しました。また、併行して採用経路の新規開拓に加え、更なるPR強化を狙った採用WEBサイトの拡充に着手するなど採用強化にも取り組んできました。さらに、事業所間における障がい者向け業務の更なる創出に向けた事例等の共有やDXを活用した業務支援の取組など、全社を挙げて活動を推進しています。
今後も2029Vで設定した国内グループ全体含む目標雇用率(2025年度2.70%、2029年度3.00%)の達成を目指し、引き続き取組を進めていきます。
(障がい者雇用率の推移と今後の目標)
厚生労働省「高年齢者雇用状況等報告及び障害者雇用状況報告」の算出条件に基づく数値
○ グローバル人材の活躍促進
当社グループの全従業員の約8割は海外地域で働いており、もとより外国人と日本人をとりわけ区別して取り扱うことはありません。多種多様なバックグラウンドを持つ従業員がそれぞれの強みを発揮することで、共創による新たな価値創造を目指しています。
当社では、グローバル人材の活躍を象徴するイベントとしてGMM(Global Management Meeting:グローバル責任者会議)を毎年開催しています。2024年度は7月に愛知県名古屋市で実施しました。海外拠点長やローカル幹部従業員ら104名(前年度比20名増加)が来日し、対話や交流を行いました。2024年度のテーマは「2029Vの達成に向けた取組の共有」で、海外拠点からは自社の方針や戦略、具体的な活動計画が発表されました。また、初の試みとして当社の事業の重要テーマである「環境」「人事」「品質」の3つをテーマに分科会を実施。各分野の担当者にてカーボンニュートラルや、エンゲージメント向上、新規品立ち上げや量産品の品質管理などについて活発な議論がなされました。
<参考リンク:当社ホームページ特設サイト>
・ダイバーシティ&インクルージョン
・働きやすい環境に向けた制度や仕組み
c. 人材育成
当社グループでは「人材育成にまさる事業戦略なし」との考え方のもと、当社グループの従業員として相応しい人格と知識を持ち、グローバルに活躍できる人材の育成を目指しています。その実現に向け、従業員の各キャリアステージで求められる知識やスキルを習得できる教育コンテンツを拡充し、様々な学習機会を提供しています。
○ 住友理工の教育体系
「次世代幹部候補者の選抜型教育」「グローバル人材育成」「各部門の専門教育」「全社共通教育」の4領域からなる全社教育体系を整備し、幅広く社員に教育を実施しています。2024年度は、2022年から行ってきた教育体系の見直しと最適化、また、次世代教育環境整備に向けた現状分析と洗い出された課題に対する教育機会の提供に注力しました。
<参考リンク:当社ホームページ特設サイト>
・人材育成
2024年度は、役員と一部基幹職昇格者全33名を対象に当社初めてとなる360度評価を実施しました。また、2023年から基幹職社員を対象にしたビジネススキルアセスメントを定期的に実施しており、これまでに150名が受検しました。これらの調査結果からは、当社は中でも「コミュニケーション」、特に組織や役割を越えた相互理解に課題があることが明らかになりました。
そこで2024年度は「つながり」をコンセプトとした各種教育プログラムを実施しました。11年にわたり実施している選抜型教育経営塾(MCP)の過去の参加者を対象に「経営塾アルムナイ」イベントを実施し、参加者は経営塾卒業生の横の繋がり醸成及び強化を狙ったコミュニケーション主体の教育プログラムを受講しました。また2023年度の基幹職昇格者研修参加者を対象としたフィードバック会を実施しました。昇格者研修受講時に宣言した今後の行動変化について改めて振り返り、行動ができているか、出来ない理由は何かを仲間と共有しました。フィードバック会には社長も参加し、会社方針と各自の活動の紐づきを確認しながら自身の行動変化につなげるためのディスカッションを行いました。
他にも海外赴任予定者を対象に、海外駐在経験の豊富なアドバイザーを招き、少人数かつ対面での質疑応答主体の講義や、国内グループ会社と教育をテーマとしたワークショップを実施するなど、新たな「つながり」の醸成によってコミュニケーションを活発化するための教育施策を実施しました。
さらに、2025年度以降は、仕事における人間関係を円滑にするための手法を学ぶコミュニケーション研修や、今日的なリーダーのあり方を学ぶリーダーシップ研修、キャリア構築に向けたキャリアアップ研修の実施など、グループ全社を対象とした教育機会の拡充を展開していきます。
これらの施策を通じて、組織や立場の枠を越えたコミュニケーションの創出及び活性化を促進し、新たな価値を共に作り上げていく「価値協創」が実現できる環境づくりへの貢献を目指します。
○ DX人材の育成
DXを牽引する人材の確保及び育成は当社グループにとって重要な課題の一つと位置付けています。2024年度はDX人材への教育機会の提供に注力しました。
DX人材教育のコンセプトは「可視化とサイクル」です。まずDX人材に対してはDXアセスメントを実施。各自が強み・弱みを理解した上で、自身のDXにおけるキャリアを明確に描くことのできる環境を用意しました。そして、強みの伸長や弱みの克服ができる教育コンテンツを準備し、対象者が自律的に学習し成長できる学習環境を整備しました。一方で自律的な学習や得られた知識を生かした実践による成果創出は簡単ではありません。そこで、学習に関する相談が気軽にできる社内SNSの構築や、年に2回の成果発表会、イントラサイトを活用した成功事例の社内共有などの支援体制も拡充しました。結果、指名形式ではなく立候補形式でありながら693名がアセスメントを受検し、内337名がアセスメント結果に基づくデジタル分野を中心とした教育を受講しています。また、DXの取組をけん引する基幹職に対してはITパスポート取得支援活動も行い、約50名がITパスポートを取得しました。他にもデジタル技術に関する教育動画の拡充を継続して実施しており、DX能力の底上げを組織全体で行える環境づくりにも取り組んでいます。
これまでは自発的にDX人材への成長を望む従業員に対してのサービス提供が主でした。2025年度は事業をけん引する従業員に対してもアプローチを行い、DXを全社一丸となって推進することのできる人材づくり・環境づくりを進めることでDXによる2029Vの実現に寄与していきます。
d. エンゲージメント
当社グループでは、2024年度に初めてグローバルエンゲージメントサーベイを実施しました。今年度は住友理工と米州2拠点、欧州1拠点、アジア1拠点の計5拠点で調査を行いました。
当社では総合指標となる「持続可能なエンゲージメント」の項目をKPIとして設定していますが、同項目のスコアは「63」と日本基準値よりもやや低い結果となりました。また、当社が事業運営の基本としている「安全」の項目で強みといえる高いスコアが確認できた一方で、リーダーシップのスコアが日本基準値を最も下回り、課題のある項目であることがわかりました。特に総合職や技能職ら現場社員のスコアが低い傾向が見られました。この問題に対しては、各部門において分析と改善のためのアクションプランの策定と実行を推進することや、後述するSMARTプロジェクト(31頁参照)によりエンゲージメントと心理的安全性向上のキーパーソンであるリーダー層への継続的なアプローチによる改善に取り組んでいます。アクションプランの策定については、高い課題認識と改善意欲を有する20を超える部署が人事部門による支援プログラムへの参画を表明しており、2025年度にかけて改善に取り組みます。
エンゲージメントの高い組織の実現のために、誰もが自分の能力を十分に発揮できるよう、各々の心身の安定を図り、互いにコミュニケーションをとりながら事業を進められる環境づくりとそれらをけん引できる人材の育成を積極的に推進していきます。
○ ビジョン浸透の取組
2023年度には、2029V策定メンバーによるGMMでの直接説明や、同メンバーが拠点を訪問し、説明と対話によるビジョン浸透の取組を進めました。2024年2月に第1回サステナビリティアンケートを国内外で実施したところ、国内は79%、海外は86%が「2029Vを聞いたことがある」と回答し、Face to Faceによる対話の効果が見られました。一方で国内においては技能職の認知度が46%と低調な点や、海外では「自部門の2029V」の理解が67%と低い点が課題です。この課題の解決に向けて2024年度は、社長ブログを通じて2029Vを繰り返し訴求したり、昇格者研修や当社独自の教育コンテンツ「Foreman研修(F研修)」の中で、技能職に対して直接2029Vの説明をしたりするなど、理解度向上に努めました。今後も対話や講義などビジョンに触れる機会を継続して創出することで、従業員一人ひとりがビジョンを自分事化し、さらにそれぞれが自律的に判断・行動していく中で未来の目指す姿を具現化していくことのできる企業風土の実現に取り組んでいきます。
○ 健康経営
当社グループは、2017年に制定した住友理工グループ健康経営宣言に基づき、経営トップを健康経営責任者として全社一体で健康経営を推進しています。
従業員の健康を重要な経営資源と捉え、「従業員や家族の健康増進活動への支援」「メンタルヘルス対策」「生活習慣病対策」の3点を重点対策に掲げ、各種研修(全19項目)の展開や健康経営イベントを定期的に開催する等、健康経営の考え方に基づいた各種健康増進に取り組んでいます。
健康経営で解決したい経営課題は主に二つで、一つ目は「従業員の心身両面における健康状態の向上」です。当社グループ従業員のプレゼンティーズム(注)1やアブセンティーズム(注)2を改善するため、国内グループ各社の産業保健窓口とも健康経営方針や健康KPIを共有し、メンタル不調対応における共通のガイドラインづくり、動画ツールを活用した健康教育の展開等、グループ一体となった取組を強化しています。
また、従業員の健康被害の防止並びに健康経営推進の観点より、2026年4月からの敷地内全面禁煙を決定し、段階的な禁煙を進めています。これに合わせ、住友理工健康保険組合と連携し、喫煙者に向けた禁煙サポート活動を強化しています。
二つ目は「従業員の生産性とエンゲージメントの向上」です。定期的に経営レベルで活動をモニタリングしながら会社全体でPDCAサイクルをまわすべく、健康投資の戦略マップや健康KPIを策定しました。また、毎年4月のストレスチェックで測定する「活き生き度(注)3」改善に向けて、各職場で課題の特定、要因分析から対策を進めており、特定部門には深掘アンケート、個人面談など人事勤労部門と連携してサポートを行っています。2024年度全社平均で、活き生き度を4pt、ワークエンゲージメントを0.06pt向上させることができました。さらに、国内グループ会社へ目標や改善手法を共有し、意見交換を始めています。今後もグループ一体となって、健康で活き生きした職場づくりに取り組んでいきます。
また、2024年8月には健康投資の一環として健康支援センターの改修を実施しました。従業員に開かれた健康空間として従業員のエンゲージメント向上に活用していきます。
さらに、健康増進に取り組む従業員への積極的な支援と、組織的な活動施策の推進により、住友理工は9年連続で健康経営優良法人の認定を受けており、2024年度はホワイト500にも選定されました。今後も、従業員とその家族が健康で活き生きと活躍し、当社グループの発展に繋がる取組として健康経営を推進していきます。
(注)1 プレゼンティーズム:疾患や症状を抱えながら出勤し業務遂行能力や労働生産性が低下している状態
2 アブセンティーズム:病欠、病気休業している状態
3 活き生き度:ストレスチェックで測定している職場の活性度を示す当社独自の指標
<参考リンク:当社ホームページ特設サイト>
・健康経営
○ 働き方改革
当社では、働き方改革の一環として従業員が「活き生き」と働くことが組織の活性化、ひいては業績の向上につながるという考え方のもと、「活き生き5活動」を実施しています。
「活き生き5活動」とは、当社の働き方改革の具体的な施策として2017年4月にスタートした取組であり、「活き生き」とは、活力あふれる「活き活き」と健康的な「生き生き」を重ねた当社独自の造語となります。
2017年度から2022年度はVer1.0として総労働時間の低減や働きやすい制度の導入(コアレスフレックスや在宅勤務等)に取り組み、2023年度から2024年度にはVer.1.5として働きがいの向上も含めた活動を行ってきました。
2024年度においては、勤務管理システムの改善による労働時間の可視化や前述の健康経営ホワイト500取得などを実現してきました。また、Ver1.5のもう一つの目的である働きがいの向上に向けてエンゲージメントサーベイや「SMARTプロジェクト」(当社版イクボス施策)を開始しました。
「SMARTプロジェクト」では、①中堅社員だけでなく若手社員からも目指したいと思われるような管理職の姿の追求、②過去の経験や観念にとらわれず、社会の価値観の変化に順応できる管理職への成長を実現するための取組を推進しています。2024年度は、管理職層を中心に心理的安全性の重要性や育児と仕事、介護と仕事に関する講演会など計9回のイベントを開催し、延べ2,200名以上が参加しました。2025年度からは対象を組織全体に拡大し、活動を推進していきます。
(「SMARTプロジェクト」活動概要図)
これらの取組の結果、労働時間や休暇取得において一定の効果が出ています。総労働時間については、活動を始めた2017年度と比較すると6%の低減を達成することができています。さらに有給休暇の平均取得日数についても高い水準を維持しています。
一方で2023年度と比較すると、2024年度は生産現場において高稼働な状況が続いたことから総労働時間は横ばいとなりました。
(総労働時間の推移及び年次有給休暇の平均取得日数)
また、管理職の労働実績にも効果が出ており、およそ80%の管理職の時間外労働がひと月当たり45時間以内に抑えられています。さらに後述する「活き生き5Ver2.0」への移行によって、業務上の成果を出しながらもワークライフバランスを大切にできる姿を数値の推移としても示していきます。
<参考リンク:当社ホームページ特設サイト>
・働きやすい環境に向けた制度や仕組み
2025年度からはVer2.0として更なるエンゲージメント向上に向けた取組を推進し、2029年度のありたい姿である「住友理工グループ全組織のエンゲージメントが高まり、従業員全員が活躍できる会社」を目指します。
(「活き生き5活動」のロードマップ)
(「活き生き5活動Ver.2.0」活動概要図)
○ 柔軟で強い製造現場づくり
当社の製造現場で働く人材が、それぞれの想いやスキルを生かして活躍できるよう各製作所人事勤労部門が継続的に個別ケアを行っています。また、採用チャンネルの多様化を進めることで複数の事業を展開する当社の生産現場を支える多様な人材の確保を実現しています。さらに、配属後の能力開発やモチベーションの維持向上に向けての取組にも力を入れています。
③目標及び進捗状況
(注)1.特に記載がない限り、当社グループの数値を示しております。
2.現時点ではグループ向けの活動を展開中であることから2023年度、2024年度の実績については、住友理工単体の実績値を表示しております。2024年度の実施率が100%を超えているのは、対象者への教育が一巡し2回目の受講者もいるためです。
3.経営幹部プログラム(Executive Management Program)、選抜型教育経営塾(Mirai Create Program)、若手人材育成プログラムなど幹部選抜研修の受講者数を集計しています。
4.2024年度はコア人材とデータ分析人材の分け隔てなく、広く教育機会を提供し、将来のDX人材候補者の発掘と育成に注力しました。
当社グループの経営成績及び財政状態等に影響を及ぼす可能性のある主要なリスクには、以下のものがあります。本項における将来に関する記載は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。
(政治経済情勢・需要変動等に係るリスク)
部品メーカーである当社グループの経営成績は、顧客である完成品メーカーの生産動向の影響を受けますが、特に売上高の9割以上を占める顧客である自動車メーカーの国内外での生産動向の影響を大きく受けます。中長期的には自動車メーカーを取り巻く環境の変化が当社製品の需要に影響を及ぼす可能性があります。
加えて、顧客ニーズの多様化、製品ライフサイクルの短期化、グローバル化の進展による競争構造の変化等により、当社グループの経営成績や財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
また、当社グループでは、海外売上高が連結売上高の約7割を占めており、海外の政治経済や社会情勢が経営成績等に影響を与える可能性があります。
(法律・規制の変更等によるリスク)
当社グループの事業は、国内外の法律・規制の変更等があった場合、その影響を完全に回避することができないため、経営成績等に影響が及ぶ可能性があります。これらの要因としては、輸出入規制や関税率の引き上げ、各国の国内及び国際間取引に係る租税制度の変更、外貨規制等があります。
(訴訟、規制当局による措置その他の法的手続きに係るリスク)
当社グループは、事業を遂行するうえで、訴訟、訴訟規制当局による措置その他の法的手続により、当社グループが損害賠償請求を受け、罰金その他の制裁金を賦課され、又は事業の遂行に制約が課される可能性があります。当社グループは、これらの法的リスクを未然に防止し、また顕在化したリスクに適切に対応する体制の整備を進めていますが、かかる対応にもかかわらず、法的リスクが顕在化した場合には経営成績等への影響が及ぶ可能性があります。
また、当社は海外での事業展開や新事業への進出を積極的に進めており、一方、消費者等の権利意識の高まりや国内外における競争政策、贈賄防止、移転価格、消費者保護等の分野での規制当局の法執行が積極化していることから、国内外における集団訴訟や当局の調査に対し適切に対応するために要する費用により財務負担が増加する可能性があります。
(災害等のリスク)
当社グループは、地震、火災、落雷、破裂・爆発、風・雪・水災、航空機の墜落、伝染病の流行、テロその他の犯罪、戦争等により被災することにより直接・間接の損失を被る可能性があります。特に、当社グループの主要な生産・営業拠点が、東海及び東南海・南海地震の防災対策強化地域や首都直下型地震の地域に所在しているため、地震発生も想定した事業継続計画を策定するなどの対策を進めていますが、顧客、原材料等の供給元の被災、電力・情報通信・物流網等の復旧の状況等により、影響が長期化する可能性があります。
(資金調達に係るリスク)
当社グループは、資金需要、金融市場環境及び調達手段のバランスを考慮し資金調達を行っています。当社グループの資金調達は、設備投資資金として長期固定金利の社債発行や長期借入による調達を中心としています。そのため、金利の短期的な変動による影響は比較的受けにくいものの、金利が中長期的に上昇した場合は、社債等による資金調達コストを上昇させ、当社グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。
また、当社グループの借入金に係る金融機関との契約には、財務制限条項が付されているものがあります。当該財務制限条項に抵触した場合、当社グループの経営成績や財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(為替レートの変動によるリスク)
当社グループは、在外連結子会社及び在外持分法適用関連会社の個別財務諸表を主に現地通貨ベースで作成し、連結財務諸表の作成時に円換算しています。従って、現地通貨ベースでの業績に大きな変動がない場合でも、円換算時の米国ドル、ユーロ等の為替レート変動が経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。
また、中長期にわたる大幅な為替変動は、経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。
(原材料等の調達に係るリスク)
当社グループの製品は、天然ゴム、合成ゴムや鋼材等を原材料として使用しています。これら原材料や副資材、燃料等の市況価格の急激な上昇等があった場合は、製品価格に適切に反映させることができず、経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。
また、原材料等の供給元の倒産や罹災により、必要量の調達が困難になる可能性があります。
(知的財産に係るリスク)
当社グループは、特許権、意匠権、その他の知的財産権の取得により自社技術の保護を図るとともに、他社の知的財産権に対しても注意を払っています。
しかしながら、新事業分野における製品開発の増加や海外での事業活動の拡大に伴う流通経路の複雑化等により、当社グループの製品が意図せず他社の知的財産権を侵害した場合に、販売中止、設計変更等の処置をとらざるを得ない可能性があり、その場合、当社グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。
(保有資産の価値変動に伴うリスク)
当社グループは、様々な有形固定資産や無形資産を保有しております。こうした資産は、価値の下落や、期待通りのキャッシュフローを生み出さない状況になるなど、その収益性の低下により投資額の回収が見込めなくなることにより減損処理が必要となる場合があり、減損処理した場合、経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。
(繰延税金資産の回収可能性に伴うリスク)
当社グループは、将来の課税所得を合理的に見積もった上で回収可能性を判断し、繰延税金資産を計上しておりますが、実際の課税所得が予測と異なり回収可能性に疑義が生じた場合、若しくは税率の変更等を含む各国の税制の変更があった場合には、繰延税金資産の計算の見直しが必要となります。その結果として、繰延税金資産の取崩が必要となった場合には、当社グループの経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
(情報の流出によるリスク)
当社グループは、事業遂行に関連して多くの個人情報や機密情報を有しています。これらの情報の秘密保持については必要な対策を講じていますが、不測の事態により、情報が漏洩する可能性があります。このような事態が生じた場合、事業戦略の遂行に支障が生じたり、損害拡大防止費用や損害賠償責任の負担が生じたりすることにより、当社グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。
(情報システム・セキュリティに係るリスク)
当社グループが事業活動を行う上で、情報システム及び情報ネットワークは欠くことのできない基盤であり、構築・運用に当たっては十分なセキュリティの確保に努めていますが、ハッカーやコンピュータウイルスによる攻撃、不正使用やインフラ障害等により、当社グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。
(製品の欠陥によるリスク)
当社グループは、全社的な品質管理の体制を構築・運用することにより、製品の品質保持に万全の注意を払っていますが、予期せぬ事態により、大規模な市場回収や製造物責任による賠償費用等の負担が生じる可能性があります。
また、顧客との間での品質問題に関する交渉等のために要する費用の負担により、経営成績等に影響を与える可能性があります。
(人事・労務に係るリスク)
当社グループは、事業領域の拡大やグローバル化に対応するため、人材確保・人材育成に努めていますが、事業領域・規模の拡大や新規事業への投資等に伴いグループの人員が増加していることから、人材不足や人事・労務問題が生じた場合には、当社グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。
(新事業展開によるリスク)
当社グループは、「2029年 住友理工グループVision」で定めたありたい姿「理工のチカラを起点に、社会課題の解決に向けてソリューションを提供し続ける、リーディングカンパニー」に向けて、コアコンピタンスである「高分子材料技術」「総合評価技術」を軸に既存事業の強化と新規事業の展開を進めております。特に新規事業には既存事業と異なる事業リスクが存在するため、事業化の検討の各段階において必要に応じて外部専門家の意見も取り入れ、十分な調査に基づく慎重な判断を行うものとしています。
しかしながら、当社グループは新規事業分野での十分な事業経験を有していないことから、事業化の遅延やマーケティング手法の不備などの原因で投資回収の遅延や不能が生じ、経営成績等に影響を与える可能性があります。また、同様の理由から、既存事業と比べ、訴訟、規制当局による措置その他の法的手続きに係るリスクが高まる可能性があります。
当連結会計年度における当社グループ(当社、連結子会社及び持分法適用会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の概況並びに経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末において判断したものであります。
当社グループの連結財務諸表は、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」第312条の規定によりIFRSに準拠して作成しております。この連結財務諸表の作成にあたって、必要と思われる見積りは、合理的な基準に基づいて実施しております。
なお、当社グループの連結財務諸表で採用する重要性がある会計方針、重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 3.重要性がある会計方針及び4.重要な会計上の見積り及び判断」に記載しております。
当連結会計年度における世界経済は、全体として緩やかな成長基調が見られましたが、主要国における選挙結果を受けた政策変更リスクの顕在化、地政学的リスクの長期化、中国経済の減速、さらには政策金利の変更による為替の急激な変動など、複数の要因が複雑に絡み合い、経済環境の不確実性が一段と高まりました。
このような状況の中で、当社グループの主力事業である自動車業界においては、主要顧客による減産の影響を受けたものの、全体としての生産台数はおおむね一定の水準で推移いたしました。
当社グループは、「2029年 住友理工グループVision」(2029V)で掲げた「理工のチカラを起点に、社会課題の解決に向けてソリューションを提供し続けるリーディングカンパニー」への変革に向けて、昨年度より3ヶ年の事業計画である「2025年 住友理工グループ中期経営計画」(2025P)に基づき事業活動を推進しています。
コロナ禍からの自動車生産台数の回復に加え、構造改革や生産性改善、原価低減活動が当初の想定を上回るペースで進展したことを受け、2024年5月には、2025Pの「事業利益」、「ROIC」、「ROE」の数値目標を上方修正いたしました。今後も「さらなる収益力向上と持続的成長に向けた経営基盤強化」という2025Pのテーマに向けて、事業を推進してまいります。
当連結会計年度における連結業績については、売上高は633,331百万円(前期比2.9%増)、事業利益は43,396百万円(前期比17.2%増)、営業利益は41,573百万円(前期比22.4%増)、税引前当期利益は38,633百万円(前期比25.4%増)、親会社の所有者に帰属する当期利益は27,419百万円(前期比47.1%増)となりました。
※事業利益は、売上高から売上原価、販売費及び一般管理費を控除し、持分法による投資損益を含めて算出しております。
各セグメントの業績は、次のとおりです。
<自動車用品>
外部顧客への売上高は、主要顧客による減産の影響があるものの、円安の進行による為替換算の影響により、574,338百万円(前期比2.6%増)となりました。
事業利益は、原価低減活動、生産効率の向上や為替換算の影響により、38,632百万円(前期比12.4%増)となりました。
<一般産業用品>
外部顧客への売上高は、高圧ホース及びプリンター向け機能部品の主要顧客による生産台数の増加や円安の進行による為替換算の影響により、58,993百万円(前期比5.5%増)となりました。
事業利益は、主にプリンター向け機能部品の生産拠点集約等の構造改革進展に伴い、4,764百万円(前期比79.8%増)となりました。
事業セグメント別実績
当社グループの生産・販売品目は広範囲かつ多種多様であり、同種の製品であっても、その容量、構造、形式等は必ずしも一様ではなく、また受注生産形態をとらない製品も多く、セグメントごとに生産規模及び受注規模を金額あるいは数量で示すことはしておりません。
このため生産、受注の状況については、セグメントの業績に関連付けて示しております。
当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
(注) 1.セグメント間の取引19,980百万円については相殺消去しております。
2.主な相手先の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は次のとおりであります。
<資産>
資産合計は、450,432百万円(前連結会計年度末比8,668百万円増)となりました。
流動資産は248,470百万円(前連結会計年度末比9,302百万円増)となりました。これは主に、現金及び同等物が13,007百万円増加したこと、棚卸資産が2,338百万円減少したことによるものです。
非流動資産は201,962百万円(前連結会計年度末比633百万円減)となりました。これは主に、繰延税金資産が2,996百万円増加した一方で、その他の金融資産が5,564百万円減少したことによるものです。
<負債>
負債合計は、207,623百万円(前連結会計年度末比11,684百万円減)となりました。これは主に、借入金の返済により、社債及び借入金が14,006百万円減少したことによるものです。
<資本>
資本合計は、242,809百万円(前連結会計年度末比20,352百万円増)となりました。これは主に、利益剰余金が22,956百万円増加したことによるものです。親会社所有者帰属持分比率は47.7%(前連結会計年度末は44.4%)となりました。
① キャッシュ・フロー
当連結会計年度における連結キャッシュ・フローの状況につきましては、営業活動により66,051百万円の増加、投資活動により31,777百万円の減少、財務活動により23,639百万円の減少、現金及び現金同等物に係る換算差額により2,372百万円の増加の結果、当連結会計年度末には55,015百万円となり、前連結会計年度末(42,008百万円)に比べ13,007百万円(31.0%)の増加となりました。
当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりであります。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動により得られた資金は、前連結会計年度(68,547百万円)に比べ2,496百万円減少し、66,051百万円となりました。これは、税引前当期利益が7,828百万円増加した一方で、棚卸資産の増減額が6,777百万円減少したこと、法人所得税の支払額が4,011百万円増加したことなどによるものです。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動により使用した資金は、前連結会計年度(24,145百万円)に比べ7,632百万円増加し、31,777百万円となりました。これは、有形固定資産及び無形資産の取得による支出が4,407百万円増加したことなどによるものです。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動により使用した資金は、前連結会計年度(32,407百万円)に比べ8,768百万円減少し、23,639百万円となりました。これは、短期借入金の純増減額が19,304百万円減少した一方で、長期借入金の返済及び社債の償還による支出が5,975百万円増加したこと、配当金の支払額が3,738百万円増加したことなどによるものです。
② 資本の財源及び資金の流動性
(財務政策)
当社グループは、「2029年 住友理工グループVision」で設定したROIC、ROE等の目標達成のため、成長投資管理の強化に加え、運転資金を継続的に効率運用することにより資産回転率の向上を目指します。また、親会社所有者帰属持分比率50%以上を中長期的に維持することを財務規律のガイドラインとしています。これにより、営業キャッシュ・フロー増加のため成長投資を推進する局面でも財務安定性を確保しています。なお、当連結会計年度末において、㈱日本格付研究所より「A(長期)、J-1(短期)」の信用格付を取得しております。
(資金需要)
当社グループの資金需要のうち主なものは、事業運営に必要な設備資金や運転資金です。また、企業価値向上の源泉となる営業活動によるキャッシュ・フローの増加を支える成長投資管理は、住友理工グループ投資採算基準と、投資後の事業環境変化への迅速な対応の仕組み及び財務規律ガイドラインにより実施しています。
(資金調達)
当社グループの必要資金については、自己資金の充当及び金融機関からの借入、コマーシャル・ペーパーや社債発行等により、調達しております。なお、突発的な資金需要の発生や市場の流動性が著しく低下したときなどの緊急的な事態に備えてコミットメントラインを設定しております。
(5) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
当社グループの経営成績に重要な影響を与える要因や当該事項への対応については、「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載のとおりであります。
(6) 経営方針、経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社グループは、「売上高」、「事業利益」、「ROIC」、「ROE」、「配当性向」を重要な指標として位置付けております。2024年5月31日に更新した中期経営計画「2025年 住友理工グループ中期経営計画」においては、2025年度の目標として、売上高620,000百万円、事業利益32,000百万円、ROIC10%以上、ROE9%以上、配当性向30%以上をそれぞれ掲げております。
当連結会計年度は、円安の進行による為替換算の影響や原価低減活動、生産効率の向上等により、売上高633,331百万円、事業利益43,396百万円、営業利益41,573百万円となりました。
中期経営計画における目標達成に向けて、「第2 事業の状況1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (1)経営方針・経営戦略等」に記載の施策に取り組んでいきます。
該当事項はありません。
当社グループは、事業を取り巻く環境がダイナミックに変化する中、持続的に成長・発展するために、当社グループのコア技術である高分子材料技術と総合評価技術をベースに、技術領域の融合・協業を推進し、スピーディーな新技術の創出とタイムリーな商品開発を目指しています。また「2029年 住友理工グループVision」に基づき、パーパスである「素材の力を引き出し、社会の快適をモノづくりで支える」に沿って、社会に価値を提供し続けてまいります。
研究開発に当たっては、材料技術統括部、基盤材料開発研究所と新商品開発センターが連携し、新機能・高品質の材料設計開発や当社グループのコア技術の深化、新たな事業領域の開拓と新製品の開発に向け、活動を展開しております。
2024年10月には、名古屋市で開業したオープンイノベーション拠点「STATION Ai(ステーション・エーアイ)」へ入居し、他社や異業種との交流により、新たな価値創造に取り組んでいます。また11月には、小牧本社・製作所にある技術研究所「テクノピア」内ショールームのリニューアルを行いました。リニューアルのテーマは「共創」であり、ステークホルダーの皆様と、より創造的な議論が生まれる環境を目指しております。これらを通じて社内外との連携を一層強化し、既存事業領域の深化に加え、事業部門の枠を超えた新事業・新商品の創出を目指します。また当社グループだけでは取り組みが難しい社会課題などにも挑戦を進め、サステナブルな社会の実現にも貢献してまいります。
親会社の住友電気工業㈱とは、同社の主力製品であるワイヤーハーネスと、当社の制遮音品や内装品、ホースなどの製品とを組み合わせたシステムの提案等をはじめとして、さらなる協業体制の構築を目指していきます。また展示会への共同出展を活用した市場開拓も行うことで、より一層グループ全体での製品開発を推進してまいります。
なお、当連結会計年度における当社グループ全体の研究開発費の総額は
セグメント別の研究開発活動を示すと、次のとおりであります。
① 自動車用品
2024年度では、培ってきた配合技術を生かして開発をした放熱性防音材が、令和6年度愛知発明表彰において「愛知発明大賞」を受賞しました。この放熱性防音材は「磁気誘導発泡成形法:MIF®(Magnetic Induction Foaming)」を用いて開発したもので、一般的な防音ウレタンの10~50倍もの放熱性能を備えた素材です。自動運転や電気自動車(EV)に必要とされる車載電装機器から発する音や熱対策を同時に実現できるため、静粛性や安全性の向上をはじめ、様々な課題解決に寄与するものとして注目度が高まっております。
電気自動車(EV)や燃料電池自動車(FCEV)向けの基幹部品についても、次世代車種を見据えた研究開発を継続しております。特にEVで注目される熱マネジメントへの対応においては、優れた断熱効果を持つ薄膜高断熱材「ファインシュライト」に加え、冷却系ホースや電池用断熱材、バッテリー冷却プレート「クールフィットプレート」等を開発しており、受注に向けた取り組みを進めています。
また、独自の加硫シミュレーション技術の確立による、設計から量産工程まで一貫したDXを推進しております。これを活用することで、より高精度な製品設計と競争力のある量産生産性の実現を目指しております。
当連結会計年度における自動車用品に係る研究開発費は、
② 一般産業用品
エレクトロニクス分野、インフラ・住環境分野においては、高機能・高精度部品の材料開発に加えてコア技術の強化と再構築により、事業体質の強化・新規事業の創出を図っています。
ヘルスケア分野では、SRセンサを応用した「モニライフシリーズ」は、2023年度に令和5年度中部地方発明表彰「文部科学大臣賞」と、令和5年度愛知発明表彰「発明奨励賞」を受賞し、2024年度においては宿泊者の睡眠状態を可視化するサービスへの活用を目的として、㈱ナインアワーズの経営するナインアワーズ品川駅スリープラボに採用されました。また従来からフレイル※予防に関する研究を進めており、2025年1月には小牧本社・製作所がある愛知県小牧市にオープンした健康増進施設「ヘルスラボ・こまき」において、当社のフレイルチェックシステムが導入されました。また口腔機能モニター:Oramo-bfは、㈱ロッテの主催するアスリート向け口腔機能セミナーにて、咬合力を測定する機器として活用されました。引き続き医療機関や研究開発機関、介護施設や企業などへの当社製品・サービスの提供を通じて、ヘルスケア分野での新たな製品開発につなげ、人々の暮らしへの更なる貢献を目指していきます。
このほか、インテグリカルチャー㈱と共同で開発を進めていた細胞農業向けの細胞培養バッグは技術確立が進み、複数の特許出願が完了したことから2024年11月に試験販売を開始しております。また、㈱ギンレイラボと共同開発を行っている動物実験代替ツール「生体模倣システム(MPS)」についても、エントリーモデルの販売開始を予定するなど、新たな事業共創に向けた取り組みは着実に歩みを進めています。
当連結会計年度における一般産業用品に係る研究開発費は、
※「フレイル」とは、加齢とともに身体機能や認知機能が低下して虚弱となった状態のこと。