当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下の通りです。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものです。
1.経営方針
NSGグループ経営指針「Our Vision」は以下のとおり、「使命:NSGの存在意義」、「目指す姿:NSGのなりたい姿」、「コアバリュー:働き方の基盤となる価値観」から構成されています。
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当社グループは、Our Visionを経営の指針とし、お客様と社会が求める多種多様なニーズに対して当社が強みを持つ「ガラスとその周辺技術」に焦点を当てた価値やサービスを迅速かつ適切に提供することにより、社会の持続可能な発展に貢献することを目指しています。
2.マテリアリティ
当社グループでは、中長期的な企業の持続的成長と持続的社会の実現への貢献を両立するために認識すべき重要課題として、「社会にとってのインパクト」と「当社グループにとってのインパクト」を2軸に、マトリクス上で影響度を評価して重み付けを行い決定したマテリアリティを設定しています。今般、安全は当社事業の前提であるという会社のポリシーを明確にするためこれを見直し、「人材」の一部に含まれていた「健康と安全」を独立させマテリアリティの項目の1つとしたうえで、経営の基本となる要素と競争力の源泉となる要素に区分しました。
3.NSGグループの中期ビジョン
また中期ビジョンも見直し、2030年に当社グループが目指すゴールを「企業としてのフェーズを変え、持続可能な社会の発展に不可欠な存在を目指す」と設定しました。これに基づき、当社グループが達成すべきコミットメントとして、以下の4つを掲げています。
①私たちは、すべてのステークホルダーのために、そしてステークホルダーとともに、持続可能な社会を実現
する価値を創造する
②私たちは、顧客のソリューションにおいて重要な役割を果たすガラスとその関連技術・サービスを開発し、
提供する
③私たちは、顧客の潜在的なニーズを深く理解し、有形無形の資産を活用して顧客に適したソリューションを
提供する
④私たちは、グローバルで多様性に富み、ガラスに情熱を持ち、才能あふれるチームを誇りとし、人材への投資
を続けていく
4.前中期経営計画「リバイバル計画24 (RP24) 」の振り返り
(1)主要施策の達成事項
様々な施策を推進し、厳しい事業環境下でも利益を確保できる体制をととのえ、持続的成長基盤の構築に一定の成果を得ることができました。
(2)財務目標の達成状況
主要施策推進の効果もあり収益性の着実な改善を果たし、自己資本比率およびフリー・キャッシュ・フローの目標は3年連続で達成しましたが、営業利益率と純利益の目標は未達となりました。
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財務目標 |
2022年3月期 実績 |
2023年3月期 実績 |
2024年3月期 実績 |
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2024年3月期目標 |
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営業利益率(注1) |
3.3% |
4.6% |
4.3% |
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8% |
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純利益(△は損失)(注2) |
41億円 |
△338億円 |
106億円 |
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3年累計 300億円以上 |
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自己資本比率 |
15.5% |
10.2% |
12.3% |
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10%以上 |
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フリー・キャッシュ・フロー |
223億円 |
139億円 |
153億円 |
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100億円以上 |
注1 無形資産償却後営業利益率
注2 親会社の所有者に帰属する当期利益(△は損失)
5.新中期経営計画「2030 Vision:Shift the Phase」
前中期経営計画の振り返りを踏まえ、Business Development、Decarbonization、Digital Transformation、Diverse Talentの4つの「D」を戦略の中心に据え、収益性の強化、現金創出力の強化により有利子負債の抜本的な削減を推進し自己資本の増強を目指していきます。
(1)財務目標(ただし、資本・投資効率としてのROEは参考指標としてモニタリング)
(2)戦略方針
6.経営環境および対処すべき課題
(1)当社グループを取り巻く経営環境
当連結会計年度は、主要外国通貨に対する円安、燃料価格の下落の追い風はあったものの、世界的なインフレに伴う原材料費、人件費等のコスト上昇、特に下半期には欧州の経済減速や欧米の金利上昇の影響を大きく受けました。建築用ガラス市場は、上半期は各地域で堅調な需要に支えられましたが、下半期以降欧州の経済減速の影響を大きく受けました。自動車用ガラス市場は、半導体を中心とした自動車部品不足による自動車生産制約の影響の緩和が継続するとともに、多くの取引先との価格交渉がさらに進捗し販売価格改善により高騰した投入コストの影響を軽減した結果、大きく改善しました。高機能ガラスは、事業ごとに需要に濃淡がありましたが、IT市場の減速の影響を受けました。欧州の経済減速やIT市場の減速の影響、世界的なインフレ拡大等に伴う原材料や運送費、人件費等その他コスト増加は暫く継続する見込みであり、引き続き、生産コストの更なる引き下げと製品価格の適正化に取り組み、収益力の回復を進めていく必要があります。
(2)対処すべき課題
当社グループが対処すべき重要な課題は、収益性を向上させキャッシュ創出力を高め、有利子負債の削減および自己資本比率の向上を通じて財務基盤を改善することです。
燃料価格は安定的に推移しているものの、世界的なインフレに伴う原材料費、人件費等のコスト上昇、欧州の経済減速や欧米の金利上昇の影響はしばらく続く見込みであり、また日本での金利上昇の兆しも見られます。これらに対しては、事業環境の変動に伴う業績影響の低減をさらに進め、多額の有利子負債に依存しない事業体質を確立することが非常に重要です。
今般策定した、2025年3月期を初年度とする新中期経営計画「2030 Vision:Shift the Phase」では、Business Development、Decarbonization、Digital Transformation、Diverse Talentの4つの「D」を戦略の中心に据え、前述の対処すべき重要な課題の克服を目指していきます。
「Business Development」では、社会の変化に適応し、顧客と共に新たなソリューション・技術を開発することで高い付加価値を創造していきます。そのために、ガラスおよび周辺領域においてR&D投資の継続と事業開発人材の育成を推進し、事業創出力を強化します。具体的には、建築用ガラス事業では、ガラスコーティング技術開発/設備へ集中的に投資するとともに自社製品自体の脱炭素化や地域戦略の継続的見直しを図ることにより、脱炭素を中心に持続可能性に貢献する建築用ガラスのリーディング・サプライヤーを目指します。また自動車用ガラス事業では、ADAS・EVの拡大に対応するためのケイパビリティ強化、アフターマーケット事業強化を図りつつ、並行して徹底的な収益性改善を進めます。安全で環境に優しい自動車をつくるために顧客が必要とする製品製造技術の開発を加速させ、重要な戦略的グローバルサプライヤーかつ持続可能な収益事業となるべく変革を継続します。高機能ガラス事業では、隣接市場での事業拡大、新技術の商業化を通じて収益成長を目指します。また、技術・事業シーズの創造と取捨選択による資源配分を適切に行ない、顧客製品の進化に貢献する独自の素材開発と事業化を実現し、新たな収益の柱をつくります。
「Decarbonization」では、2050年のカーボンニュートラルを目指し、持続可能な社会発展への貢献の重要アジェンダとしてサプライチェーン全体を通じた脱炭素化に取り組みます。
「Digital Transformation」では、本中期経営計画期間での取り組みを第二のPMI(Post Merger integration)と捉え、デジタルをフル活用してオペレーションを刷新し、付加価値創出能力を底上げします。データとプロセスの標準化を徹底して情報統合度を高め、グローバルマネジメントの質と速度を飛躍させます。
「Diverse Talent」では、戦略の要である強い人材と組織を築くため、明確な人事戦略をもとに投資を行い、当社が、真に情熱と意思のある従業員にプロフェッショナルな成長の機会を提供することができる会社であるという魅力をグローバルに示します。このためにも引き続き「Flatな組織、 Frankな対話、Fastな意思決定、 そして職場でのFun」の4つのFを組織内でのコミュニケーション文化として浸透させていきます。
これらの戦略を実行し、収益性の強化、キャッシュ創出力の強化により有利子負債の抜本的な削減を推進し自己資本の増強に徹底的に注力します。
1.サステナビリティ全般
当社グループは、サステナビリティへの取り組みは、環境や社会課題の解決、および事業の持続的な発展を両立させる重要な活動であると位置づけ、サステナビリティ活動を通じて社会と共に成長することを目指します。
当社取締役会は、このような取り組みに関する経営の基本方針として「NSG グループ サステナビリティ基本方針」を策定しました。当社グループが新たに策定し、2024年5月に公表した中期経営計画では、中長期的な企業の持続的成長と持続的社会の実現への貢献を両立するために認識すべき重要課題として、これまでの「環境」「社会シフト・イノベーション」「安全で高品質な製品・サービス」「倫理・法令遵守」「人材」という5項目に加え、「人材」から新たに独立させた「健康と安全」を含む計6項目のマテリアリティを設定しました。特に、競争力の源泉となる「環境」「社会シフト・イノベーション」「人的資本」の3つのマテリアリティは、新中期経営計画で企業価値向上のため戦略的に取り組むDecarbonization, Development, Diversity, Digitalの「4つのD」にも対応しています。これらは上記基本方針の下に位置付けられるものでもあり、この基本方針のもと、サステナビリティへの取り組みを行っています。
(1)ガバナンス
取締役会は、当社グループのサステナビリティ活動の基本方針と目標を定めています。サステナビリティに関する取り組みについては、サステナビリティ委員会を中心に推進し、取締役会へ定期的に報告し、そこで示された取締役会の意見をさらに以降の取り組みに反映するようにしています。
サステナビリティ委員会は、当社グループのサステナビリティ戦略を設定し、その活動を統括するとともに、ステークホルダーとの効果的なコミュニケーションを確実なものとすることを目的としております。同委員会は、CEO、会長、CFO(最高財務責任者)、CAO(最高管理部門責任者)兼CRO(最高リスク責任者)、CLO(最高法務責任者)兼CE&CO(最高倫理・コンプライアンス責任者)、CHRO(最高人事責任者)、サステナビリティ部統括部長、及び関連グループファンクション部門長、事業部門長により構成され、CEO又はその指名した者が議長を務めます。サステナビリティ委員会には、エネルギーや脱炭素への取り組みについて議論するエネルギー&カーボン委員会やサプライチェーン上の課題について議論するサプライチェーン委員会が下部委員会として設置されています。
2024年5月に発表された新中期経営計画の策定過程において当社のガバナンス体制が見直された結果、倫理コンプライアンス、人的資本、社会シフト・イノベーションの各分野に関する委員会が、新たに経営会議の下部委員会として設置されました。この結果、主要なマテリアリティに対応する下部委員会が設置されることとなりました。サステナビリティ委員会は、これらのサステナビリティに関する各下部委員会を統括する位置づけにあり、6つのマテリアリティに関する主要な目標・KPI案の決定、及びそれらの進捗管理を行います。下部委員会ではそれぞれのマテリアリティに関して、目標KPI達成のためのより具体的な活動計画の立案および進捗管理を行います。
サステナビリティ委員会で議論した内容は、経営会議に報告され、定期的に取締役会に報告されます。2024年3月期は、9月と3月に、マテリアリティの見直しとサステナビリティ全般の進捗について取締役会に報告し、新たなマテリアリティについて取締役会の承認を受けました。2025年3月期はサステナビリティ委員会の開催回数を増やし、より広範な課題について議論してまいります。
(2)リスク管理
当社グループは、ISO31000に基づき、戦略的リスク委員会(SRC)が企業リスク管理(ERMプロセス)を実施しています。戦略的リスク委員会は、グループ活動に関連するリスク選好度と許容範囲を定義し、戦略達成のためのリスクを特定し評価するプロセスを定期的に行っており、サステナビリティに関連するリスクは、当戦略的リスク委員会で管理されます。2024年3月期は9月、12月、3月に、気候変動、製品品質不良、人材に関するリスクについて同委員会で報告されモニタリングされました。同委員会は、CEOをはじめとする執行役及び他の関連幹部社員によって構成され、CRO(最高リスク責任者)が議長を務めます。
2.気候変動
気候変動対策が人類共通の課題となった今日、エネルギー集約型・炭素集約型の製造業である当社グループにとって気候変動への取り組みは必要不可欠であり、当社製品を通じて脱炭素社会に貢献することにより「快適な生活空間の創造で、より良い世界を築く」という当社グループの使命を果たすためにも、優先度の高い経営課題であると認識しております。当社グループはTCFDに賛同しており、2022年5月にスコープ1、2、3全ての温暖化ガス削減目標についてSBTi認定を取得しました。気候変動を当社グループのマテリアリティの一つである「環境」領域における重要課題と定め、積極的な活動を進めています。
(1)ガバナンス
気候関連のリスクと機会は取締役会によって監督されており、グループCEO及び取締役会は、気候変動を含むグループのサステナビリティ活動の基本方針と目標を定めています。気候変動関連の課題は、すべてのサステナビリティ目標の達成と、関連するすべての事業につなげることを目的として、経営会議、サステナビリティ委員会、戦略的リスク委員会で議論されています。これには、企業の成長と積極的な社会貢献の双方を達成するためのリスク分析と機会分析に基づく戦略や行動などが含まれます。ESG分野の専門家である取締役が、意見と指導を提供します。各事業部におけるエネルギーやCO2排出量削減状況など、それぞれの分野での活動や進捗は、サステナビリティ委員会の下部委員会において管理されています。詳細については、
(2)戦略
当社グループでは、短期、中期、長期の気候変動に関連するリスクと機会について、次の3つの主要シナリオに従ってリスク分析を行い、2100年までのタイムスケールにおける物理リスクと移行リスクを特定しました。
・低炭素世界シナリオ(<2℃)
低炭素経済への移行を目指し、今後30年間に炭素排出量を抑制するための積極的な緩和策を講じるシナリオ。
・RCP 4.5 中位安定化 (2-3℃の温度上昇)シナリオ
現在の政策、誓約、目標が達成されることを想定した、中間的シナリオ。
・RCP 8.5 高位参照シナリオ(>4℃)
物理的リスクを回避するための施策をほとんど何も行わず、排出量を増やし続けた結果、世界の気温は大幅に上昇し続け、壊滅的な結果を迎えるシナリオ。
特定されたリスクと機会には、次の影響が含まれます。
特定されたリスクと機会は、当社グループの標準的なリスク管理フレームワークによって定量化され、分類され、それに応じて優先順位がつけられました。それには、ポリシーと法的側面、技術側面、市場側面、評判の側面における影響も含まれます。
特定されたリスクのうち、影響度や緊急度が高い例は、以下の通りです。
このように特定されたリスクと機会は、当社グループの事業戦略である「リバイバル計画24(RP24)」の中でさらに強化され、盛り込まれた結果、例えば、サプライチェーンにおけるCO2排出量を含むさまざまな持続可能性の側面に焦点をあてた「サステナブル・サプライチェーン」プロジェクトの発足や、温室効果ガス排出量削減に向けた研究・技術開発への投資、社会の脱炭素化を支える新製品の開発などにつながりました。このような活動は、「快適な生活空間の創造で、より良い世界を築く」という当社グループの使命と一致しています。
また、前述した複数の温暖化シナリオに基づき、気候変動に対するレジリエンスの定量的・定性的な分析と、今後実施すべき行動の優先順位付けも行いました。その結果、当社グループにとって最も影響度が高く可能性も大きいリスクは、GHG排出量の価格に関連するコストの増加であるとの分析結果に基づき、中長期にわたるグループの脱炭素目標を策定しました。当社グループが策定した削減目標は2019年にSBTiにより認定されましたが、2022年には、パリ協定の2℃を十分に下回る温暖化シナリオに沿った、より野心的な目標に更新されました。
この目標を遵守することで、気候変動に関する物理リスクと移行リスク双方に対するグループのレジリエンスが向上します。
(3)リスク管理
気候関連のリスクは、戦略的リスク委員会が特定・監視するリスクに含まれ、財務への影響、事業への影響、コンプライアンスへの影響、外部評価への影響の4つのベクトルについて定量的基準で評価されます。戦略的リスク委員会は、リスクに対応する統制と緩和策を評価し、必要に応じて追加措置の実施を指示します。リスクオーナーは、グループの許容範囲内でリスクを管理するために、決められたアクションプランに対応する進捗状況をモニターし、報告する責任を負います。個々の統制と対策は、各事業部(SBU)およびグループファンクション内で進捗管理され、経営会議およびサステナビリティ委員会に報告されます。戦略的リスク委員会に報告された特定のリスクと機会は、リスクマネジメントと事業戦略の統合を確実にするため、定期的に(最低6か月に1回以上)経営会議に報告されます。
(4)指標及び目標
当社グループは、グループ内(スコープ1、2)、サプライチェーン(スコープ3)および顧客(スコープ3)全体に影響を与えるすべての温室効果ガス(GHG)排出量をモニターしています。
当社グループのSBTiの基準年度(2018年1月から12月の1年間合計)におけるCO2排出量は以下の通りです。
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スコープ1 |
スコープ2(マーケット基準) |
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3,103千トン |
891千トン |
最新年(2023年1月から12月の1年間合計)のCO2排出量は以下の通りでした。
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スコープ1 |
スコープ2(マーケット基準) |
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2,922千トン |
501千トン |
また、2018年から2023年までのCO2排出量の推移は以下の通りです。
二酸化炭素排出量
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二酸化炭素 (千トン) |
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2018年 |
2019年 |
2020年 |
2021年 |
2022年 |
2023年 |
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スコープ1 |
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スコープ2ロケーション基準 |
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スコープ2マーケット基準 |
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スコープ3 |
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※CO2排出量は各年度1月から12月の1年間合計
また、ガラス製造工程における単位生産量当たりの温室効果ガス排出量を、2018年3月期比で2024年3月期までに8%削減するという目標を立てて取り組んでいます。2023年3月期の進捗状況は、2022年度対比で1.4%改善し、2018年3月期対比で2.7%改善しました。さらに、2024年3月期は対前年で4.9%改善し、2024年3月期までに8%削減という目標を達成しました。
当社グループは、スコープ1とスコープ2のCO2排出量を2030年までに21%削減するという目標について、2019年にSBTi認定を取得しましたが、この目標を見直し、より野心的な目標に引き上げると共に、スコープ3の目標を設定しました。この改訂された目標は、スコープ1とスコープ2、およびスコープ3のCO2排出量を2030年までに2018年対比で30%削減するというものであり、2022年5月にSBTi認定されました。また、2050年のカーボンニュートラルの達成をコミットしました。
今年度発表した新中期経営計画では、気候変動に関し、ガラス製造工程における単位生産量当たりの温室効果ガス排出量の削減目標を、SBTiの目標に合わせて対前年3%削減に引き上げるとともに、新たに、再生可能エネルギー由来の電力比率を2027年3月期までに65%とする目標も掲げました。
スコープ3としては、当社が購入している原材料などサプライチェーンから排出されるCO2が該当しますが、排出量の約半分を占めるカテゴリー1(購入した製品・サービス)を中心に、サプライヤーと協働して積極的な取り組みを進めています。例えば昨年は、活動のレベルアップを目指した新たな取り組みとして、スコープ3の削減などサプライチェーン上における8つの優先課題を特定し、長期的に目指すべき姿を定めたサステナブル・サプライチェーン憲章を策定しました。サプライヤー業種別に課題を優先順位化し、優先順位の高いサプライヤーから憲章の浸透を図ることで、サプライヤーとのエンゲージメントを強化し、目標達成に向けてサプライヤーと共に取り組んでいます。
以下に掲げるロードマップの実施により、CO2排出量の削減、ひいては環境貢献製品の継続的な開発と当社事業に関連する機会の拡大につなげます。
3.人的資本及び多様性
(1)ガバナンス
人材戦略については、サステナビリティ全般を推進するサステナビリティ委員会のもと、テーマごとの下部委員会にて具体的な戦略を設定し、活動内容を統括し、進捗状況を共有しております。
活動はグループ全体で共通の仕組みを導入して推進されています。具体的には、人材情報管理システム、職務評価に基づく報酬設定、パフォーマンス管理、サクセッションプラン、教育体系・ツール等をグループ全体で導入し、CEO、CHROをはじめ事業部門長やグループファンクション部門長が参加するGlobal Talent Reviewで議論されています。また多様性については、個々の従業員に寄り添いそれぞれの環境・状況に応じた最適な機会を提供することを重視して、グローバルDiversity, Equity & Inclusion(DEI)運営委員会にて主に女性活躍について議論しています。それらの結果に基づき、アクションのグループ全体への展開を図っています。
(2)戦略
新中期計画におけるグループの戦略的な柱である4つのDの1つとして「多様な人材(Diverse Talent)」を設定しています。強い人材と組織を築くことは戦略の要であり、明確な人事戦略をもとに投資を行い、情熱と関心を持って働く人に専門的な能力開発の機会を提供する職場としての魅力をグローバルで示すよう施策を推進していきます。
人事戦略として「リーダーと企業文化」「採用・育成・リテンション」「組織能力の育成」「多様な経験」の4つの方向性を定め、「HRデジタル」「人材の獲得」「従業員に対する提供価値」「ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン」をカギとなる施策として掲げ、4つのF「Flat」「Frank」「Fast」「Fun」を踏まえて取り組みを実施していきます。
(3)リスク管理
当社グループの変革と将来の成長は有能な人材の確保と育成に大きく依存します。当社グループでは、人材確保・育成・リテンションのための各種施策に取り組んでおり、リスクオーナーであるCHROは人材不足リスクをグループの許容範囲内で管理するために、決められたアクションプランに対応する進捗状況をモニターし、戦略的リスク委員会に報告する責任を負います。戦略的リスク委員会に報告された特定のリスクと機会は、リスクマネジメントと事業戦略の統合を確実にするため、定期的に(最低6か月に1回以上)経営会議に報告されます。
(4)指標及び目標
当社グループは、グローバルDEI運営委員会においてグループ全体の女性管理職比率を2021年6月末実績の12.7%から2024年3月期までに各事業部門・各ファンクション部門にて現状比+1ポイントとすることを目標としていました。2024年3月期中において、実績は16%まで改善し、目標を上回る3.3%の改善となりました。新たに2027年3月期までにグループ全体の女性管理職比率を24%、2030年3月期までに30%にするという目標を設定し、引き続きベストプラクティスを共有し、さらなる向上に努めます。
なお、提出会社及び国内連結子会社における人的資本経営に関連する各種指標の2024年3月期の実績は、
当社グループは、経営指針「Our Vision」の下、新中期経営計画「2030 Vision: Shift the Phase」に沿って、持続的成長による企業価値の向上を目指しています。一方で、当社グループを取り巻く事業環境はますます複雑でダイナミックな変化を見せています。当社グループは、このような事業目標の達成に影響を及ぼす内部、外部の要因による不確実性をリスクと捉えています。そのマイナスの影響を最小化し、成果を最大化するため、重要なリスクについて識別、評価し確実に管理するリスクマネジメントは重要な経営基盤の一つと位置付けられます。
当社グループのリスクマネジメントは、会社法やコーポレートガバナンス・コードの原則に基づき、取締役会で決議された「内部統制システム等に関する基本方針」に準じています。また、企業活動上発生するリスクへの具体的な対処については社内規程「リスクマネジメントに関するグループポリシー」に定めています。
当社グループのリスクマネジメント体制は、日々の業務のなかに十分に活かされ、「3つのディフェンスライン」として機能します。第1のディフェンスラインは、それぞれの事業部門や間接部門(ファンクション部門)そのものの中に存在し、日々の業務として当社グループの全ての業務内に存在するリスクを識別、評価、管理することで、当該リスクを統制し、軽減します。第2のディフェンスラインは、ファンクション部門や経営陣によって担われ、業務やリスクマネジメントの方針や基準を定めるだけでなく、効果的なリスク統制活動をモニターします。第3のディフェンスラインは、内部監査部門によって担われ、独立して統制の有効性やリスクマネジメントプロセスを評価します。
全社的リスクマネジメント体制の中心として(主として第2のディフェンスライン)、当社グループは、トップダウンアプローチである戦略的リスク委員会(SRC)とボトムアップアプローチである全社的リスクマネジメントチーム(ERMT)を組み合わせたハイブリッド型の二層式リスクマネジメント体制を採用しています。いずれも経営会議の監督の下で運営され、その運営状況は取締役会に報告されます。
SRCストラクチャーとその目的 – トップダウンリスクレビュー
SRCの議長は、最高リスク責任者(CRO)が務め、SRCは、CEOをはじめとする執行役及び他の関連幹部社員によって構成されます。
SRCは、当社グループ全般にわたるリスク管理ポリシーや枠組みを決定し、その枠組みに従ってグループの戦略的リスクを特定のうえ、各戦略的リスクにつきリスクオーナーを定め、リスク軽減策の進捗等を含めモニターします。
ERMTストラクチャーとその目的 – ボトムアップリスクレビュー
ERMTの議長は、最高財務責任者(CFO)が務め、ERMTは各事業部門のトップや部長、経理、人事、法務といったファンクション部門のトップから構成されます。毎年それぞれの業務の遂行に付随する重要なリスクについて識別、評価、優先順位付けを行い、必要なリスク軽減策を講じることでリスクマネジメントの実効性の向上を図っています。これらのリスクやその軽減策については、状況に応じて都度見直され、とりわけ重要なリスクについては、SRCによってモニターされます。ERMTは、定期的に又は必要に応じて開催され、SRCに報告します。
上記の枠組みにより、当社グループでは、各連結会計年度末時点における事業活動の状況及び財政状態に照らして、主要な財務上及び事業運営上のリスク要因につき、定期的な見直しを行っています。当連結会計年度末時点において、当社グループが認識している主要な財務上及び事業運営上のリスクは、以下に記載の通りです。ただし、これらは当社グループに関するすべてのリスクを網羅したものではなく、現時点では予見しがたいリスク又は重要とみなされていないリスクが顕在化した場合には、これらの影響を将来的に受ける可能性があります。
なお、文中における将来事項に関する記述は、当連結会計年度末時点における、当社グループの合理的な判断に基づくものです。
また、当社グループが将来にわたって事業活動を継続する前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況は、当連結会計年度末時点において存在していません。
外部環境リスク
(1)経済状況、地政学上の影響、事業環境
当社グループは、日本を含むアジア、欧州、米州等、世界各国・地域で事業展開しています。このため、通貨インフレやエネルギー価格の上昇といった世界経済の変化、世界各国における顧客の事業環境の変化、グローバルにつながるサプライチェーンの断絶や米中貿易戦争、ロシアによるウクライナ侵攻、中東における紛争、台湾を巡る緊張など世界各地における地政学上の問題が、当社グループの事業に影響を及ぼす可能性があります。
また、南米等の新興市場については長期的には先進国・地域の市場を上回るペースで成長するものと考えていますが、当社グループが事業を展開している先進国・地域の市場に比べてより大きな潜在的リスクがあると考えています。
(2)為替及び金利の変動
当社グループは、世界の多くの国々や地域で事業活動を展開しており、こうした国々や地域において為替レートの変動及び金利の変動のリスクを有しています。また、海外子会社の現地通貨で表示される資産・負債等については、連結財務諸表の作成のために円換算される過程において、為替レートの変動によるリスクも有しています。当連結会計年度の営業利益は、アルゼンチン・ペソの切り下げの影響を受けました。アルゼンチンの子会社については、国際会計基準の超インフレ会計の処理に従い、アルゼンチン・ペソ切り下げ後の期末日の為替レートを用いて日本円に換算しています。更に金利の変動は、支払利息や受取利息、あるいは金融資産や金融負債の金額に影響を及ぼす可能性があります。当社グループは為替予約契約や金利スワップ取引等によりこれらのリスクのヘッジに努めていますが、為替レート及び金利の変動は、当社グループの事業、業績及び財務状況に大きな影響を及ぼす可能性があります。
経営戦略リスク
(3)事業戦略
当社グループの事業戦略は、経済、法制環境、原料価格、為替レート、新技術や新製品の開発や提供、現在締結されている又は将来締結される契約の条件等の様々な要因により影響を受けます。そのため、当社グループの事業戦略が成功し、想定した成果を収めることができるという保証はありません。更に当社グループの事業計画の遂行が想定した効果を生まない、あるいは期待された効果を実現できない可能性があります。
当社グループは、競争優位を維持するため、利益率の低い製品から高付加価値製品へのシフトを目的に新技術や新製品の開発に努め、投資を行っています。しかしながら、当社グループが、競合他社に先駆けてより高度な技術の開発やその事業化に成功し、又は結果的に競合他社よりも高い競争力を維持できるという保証はありません。
1「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記述の通り、当社グループは、新中期経営計画「 2030 Vision: Shift the Phase 」の下、企業としてのフェーズを変え、持続可能な社会の発展に不可欠な存在を目指します。しかし、こうした取り組みが計画通りにいかない結果、さらなるリストラクチャリングや事業売却、そのための追加資金調達や金融支援が必要となる可能性があります。
(4)特定の産業・分野への依存
当社グループの売上高の90%以上が、建築用ガラス事業及び自動車用ガラス事業におけるものであり、当連結会計年度では、それぞれ外部顧客への売上高の45%及び50%を占めています。また、当社グループの外部顧客への売上高は、主に建設、住宅産業及び自動車産業の顧客に対するものです。これらの業界では、これまでも消費者マインドの周期的な動きに連動して需要が変動してきました。需要の変動のみならず、顧客のサプライチェーンが、今後当社グループの業績や財務状況に影響を及ぼす可能性があります。
当社グループは、相対的に利益率が高く、将来市場の大きな成長が見込まれる高付加価値製品の売上の増大に努めています。これらの製品は、一般的な製品に比べて価格の変動は通常小さいと考えられ、経済状況が悪化した場合の影響を受けにくいと考えられています。しかしながら、これらの製品が高い利益率を維持し続ける、又はこれらの製品の市場が製品全体の平均を上回るペースで成長し続けるという保証はありません。更に、他のガラスメーカーが技術的な優位を有する製品を市場に投入する結果、当社グループの製品との競合が高まり、高付加価値製品であるにもかかわらず利益率が低下する可能性があります。
また顧客が当社グループに不利な形に戦略を見直す可能性があります。その場合は、当社グループの業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があり、特定の顧客向けの高付加価値製品では影響がより大きい可能性があります。なお、自動車用ガラス事業では、自動車産業における企業間の合従連衡の結果、当社グループの顧客である自動車メーカーの購買力の上昇や販売先上位のメーカーへの顧客ベースの集中が生じる可能性があります。また、自動車産業においては、CASE(コネクテッド、自動化、シェアリング、電動化)の進展など歴史的な産業構造の変化が起こっており、サプライチェーンにも重大な変化をもたらす可能性があります。当社グループは、これらの変化に対応するため、更なる生産性の向上、コスト低減、リソース配分の選択と集中を進めていますが、こうした対応が功を奏さず、当社グループの事業、経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(5)競争
当社グループは、日本及び海外のガラスメーカーと競合関係にあります。また、プラスチックや金属をはじめ、建築分野、自動車分野及び情報電子分野等で使用される各種素材メーカーとも競合関係にあります。当社グループでは、独自技術や独自製品の市場への提供により競争力の確保に努めていますが、市場ニーズの変化、製品を低コストで提供するメーカーの台頭、あるいは強固な顧客基盤や高い知名度を有するメーカーの参入等によって、当社
グループの競争優位を維持できない場合、又は当社グループが獲得できないような政府による助成制度を競合他社が受けている場合には、当社グループの業績及び財務状況に大きな影響が及ぶ可能性があります。
(6)製品の開発及び技術革新
当社グループは、既存の事業分野における独自技術や独自製品の開発に注力するとともに、既存分野以外の新しい分野における新製品の開発に注力しています。近年の急速で大きな技術の変化にタイムリーかつ適切に対応することは、製品、サービス、更にはデジタライゼーションやオートメーションといった製造プロセスにおける当社グループの技術優位性を高め、維持するために必要です。そのためには、顧客ニーズを把握するとともに、気候変動等の環境問題対応にかかる技術を含め、関連マーケットや製造業界における技術変化を先読みし、当社グループが強みを持つ技術領域に選択的・重点的にリソースを投入することで、技術開発、商品化、事業化を効果的に実現することが重要となります。しかしながら、新製品や新技術の開発プロセスは相当な時間と支出を要する可能性があり、また新製品の販売による収益や新技術の貢献が得られるまでに、多くの投資が必要となる可能性があります。
また、競合他社が当社グループより先んじて技術開発を行い、特許権等の知的財産を確保し、商品化、事業化を成功させ、早く市場に製品を送り出した場合や、代替技術や代替製品が市場に受け入れられた場合には、当社グループによる製品開発のための投資は、当初想定した利益をもたらさない可能性があります。更に当社グループが技術革新を予測できない場合や、これに迅速に対応できない場合、あるいは顧客のニーズに適応した新製品の開発に成功しなかった場合には、当社グループの事業、業績及び財務状況に大きな影響が及ぶ可能性があります。
(7)知的財産権
特許権等の知的財産権は、当社グループの事業において競争力をもたらす重要な要素です。当社グループは、保有する知的財産価値を最大化するため、知的財産権の保護や管理に努めています。しかしながら、当社グループが有する知的財産権を常に保護できるという保証はなく、当該知的財産権の競争優位性が失われる可能性もあります。また、当社グループは世界各国・地域で事業を行っているため、知的財産権に関する第三者との紛争のリスクも高まっています。このような知的財産権に関する侵害や紛争が生じた場合には、当社グループの業績及び財務状況に大きな影響が及ぶ可能性があります。
(8)海外における事業
当社グループは、日本、アジア、欧州、北米、南米等、世界各国・地域に生産設備及び販売拠点を有しています。更に当社グループは、南米、中国等の新興国・地域において、子会社、ジョイント・ベンチャー、出資、提携といった様々な形態により事業運営を行っており、これらは当該国・地域における当社グループの生産、販売能力を維持するうえで重要な役割を担っています。
ロシアによるウクライナ侵攻を受け、当社グループは、2022年3月以降、ロシア企業とのすべての通商取引を停止しています。また、当連結会計年度において、オランダの持分法適用会社SP Glass Holdings B.V.は、同社が保有していたロシアの事業会社を売却しました。
これらの国・地域の市場環境が更に悪化する場合には、将来において追加の減損損失が発生する可能性もあります。また、ジョイント・ベンチャーのパートナー等との間での事業運営等の方針の相違により、事業の継続が困難になるような場合やその他の要因によっては、投資に対する想定外の損失が発生する可能性があります。
(9)人材の確保
当社グループの変革と将来の成長は有能な人材の確保と育成に大きく依存します。当社グループでは、人材確保・育成・リテンションのための各種施策に取り組んでいますが、技術者を中心とする人材獲得競争は更に激化しており、適切なタイミングで優秀な人材が計画通り確保できない、確保した人材の育成が計画通り上手くいかない、又は育成した優秀な人材を維持できず社外流出が生じた場合には、当社グループの業績及び財務状況に影響が及ぶ可能性があります。人的資本に関する取り組みについては、[2「サステナビリティに関する考え方及び取組」3.人的資本及び多様性]をご参照ください。
(10)法規制、倫理・コンプライアンス等
当社及びその子会社、並びにジョイント・ベンチャー及び関連会社では、投資や輸出入に関する規制、公正な競争に関する規制、環境保護に関する規制並びにその他商取引、労働、退職年金、知的財産権、租税、通貨管理、支払い、資本、制裁等に関する所在国・地域の各種法令規則及び国際規則・条約の適用を受けています。これらの法令規則又はその運用の変更は、当社グループの事業活動に対する制約の発生、法令遵守対応に関する費用の発生、あるいは法令規則違反による当社グループに対する過料の賦課、又はこれに派生する民事賠償請求等によって、当社グループの業績及び財務状況に大きな影響が及ぶ可能性があります。
このような状況下において、当社グループは、当社グループの役職員が職務遂行に際し法令及び定款に適合することを確保するため、「NSGグループ倫理規範」を制定し、倫理・コンプライアンス部を設置して、懸念事項報告相談制度の整備、運用を含む倫理・コンプライアンスプログラムを実施し、継続的に倫理・コンプライアンスに関する周知・教育活動を行っています。当連結会計年度末後においては、グループ倫理・コンプライアンス委員会を設置しました。倫理 規範に基づき、各ファンクション部門は、関連グループポリシー等を制定、運用、管理し、コンプライアンスを推進しています。これらファンクション部門による管理に加え、当連結会計年度においては、グループ関係会社管理ポリシー等を改定し、関係会社ごとの管理の強化にも取り組んでいます。また、当連結会計年度においては、気候変動や法令遵守への対応をはじめとする当社グループのサステナビリティ(持続可能性)目標の達成に向けた行動をサプライヤーの皆様と協力して強化・加速するため、「NSGグループ サステナブル・サプライチェーン憲章」を制定するとともに、当社グループの人権尊重へのコミットメントをより明確化するために、「NSGグループ人権ポリシー」を制定しました。しかしながら、当社グループ会社若しくはそれら役職員又は取引先等の第三者による法令又はグループポリシー等の違反が発生した場合には、当社グループの技術情報等が流出したり、当社グループやステークホルダーに直接的又は間接的な損害が発生したりするなど、当社グループの社会的評価、事業、業績及び財務状況に大きな影響が及ぶ可能性があります。
財務リスク
(11)資金調達
当社グループは、①新製品の発売、②事業計画や研究開発計画の実行、③生産能力の拡大、④補完的な事業、技術又はサービスの取得、⑤コスト削減策やリストラクチャリング計画の実行、⑥期限を迎えた負債の返済やA種種類株式の償還等の目的に充当するため、将来において追加的な資金の調達が必要となる可能性があります。当連結会計年度末後において、当社子会社である NSG UK Enterprises Limited が、米ドル建およびユーロ建普通社債を私募方式により発行いたしました。負債の借入契約に規定される財務制限条項等の条件に抵触することにより想定外のタイミングで当該負債の返済が必要となり、そのために追加の資金調達等が必要になる可能性もあります。当社グループが、借換えのための資金や新たに必要となる資金を想定する条件で調達できない又は全く調達できない場合、既存の製品及びサービスの拡充と改善や新事業開発のための投資を行うことが困難となり、その結果として競合他社よりも高い競争力を確保することが困難となる、又は資金調達コストが増加することなどにより、当社グループの事業活動、業績及び財務状況にも大きな影響が及ぶ可能性があります。
(12)貸借対照表に計上された資産の評価及び減損等
当社グループは、貸借対照表において、減損テストの実施を毎年必要とする多額の資産項目を計上しています。これらの資産には、ピルキントン社買収により発生したのれんや無形資産が含まれますが、これらに限定されるものではなく、各国・地域における税務上の繰越欠損金等に対して認識された繰延税金資産も含まれます。
当社グループは、2023年3月期において、2006年のピルキントン社買収に伴って発生した欧州における自動車用ガラス事業ののれん及び無形資産残高488億円全額について減損損失を計上しました。これは、主に減損テストで使用する割引率が大幅に上昇した結果、減損損失を認識したことによるものです。
当社グループの資金生成単位について、将来において減損損失が全く発生しないという保証はありません。当社グループの今後の業績が以前に減損テストを実施した際の想定通りに改善しない場合には、将来において減損損失が発生する可能性があります。更に、経済状況に応じて事業の縮小・撤退を決める場合には、上述以外の資産を減損する可能性もあります。
当社グループは、年度末に回収可能性を検討し繰延税金資産を再評価しますが、繰延税金資産の算定に使用される適用税率が低下すれば、将来において繰延税金資産の評価減が発生する可能性があります。貸借対照表上の価値は、利益の減少や為替市場の変動リスクといった要素の影響を受け、連結資産価値の減少や資産の評価減、償却を伴う可能性があります。そのような要素は、更に株主資本を減少させ、資金調達や取引活動、ひいては当社グループの事業、業績及び財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。
(13)退職給付債務
当社グループでは、多数の企業年金制度や退職者向け医療給付制度を運営しています。年金資産の時価が大きく変動した場合、又は年金債務計算に使用される割引率や死亡率等が大きく変動した場合には、当社グループの退職給付制度に対する追加的な資金拠出や保全措置が必要となる可能性があります。
当社グループでは、従業員に対して適切な退職給付制度を提供する一方で、追加的な資金拠出が必要となるリスクを低減するため、退職給付債務について定期的に見直しを行っています。過去数年間にわたって、当社グループでは、各国の年金制度に応じ、年金資産の運用構成の見直し、年金受給者に関する長寿リスクのヘッジ、及び現
役従業員に関する年金給付額算定のベースとなる給与額の上昇に対する上限の設定等の対応を行ってまいりました。しかしながら、こうした対応によって、将来における当社グループの年金制度に対する資金拠出増加のリスクを完全に除去できない可能性があります。
(14)A種種類株式
A種種類株式には、普通株式を対価とする取得請求権が付されています。今後、当該取得請求権の行使により、A種種類株式が普通株式に転換された場合には、当社の普通株式の発行済株式総数が増加し、また、かかる株式が市場に流入することにより、当社普通株式の1株当たりの株式価値及び持分割合が希薄化するとともに、当社株式の取引及び株価に悪影響を及ぼすおそれがあります。A種種類株式は、引受先から第三者へ譲渡されることがあり得ます。こうした転換や譲渡があった場合には、引受先や譲受先が当社の主要株主に該当する可能性がありますが、その議決権行使及び保有株式の処分等の状況により、当社の事業運営及び当社株式の需給関係に影響を及ぼす可能性があります。
※ A種種類株式: 詳細については、[後掲の第4 提出会社の状況 1「株式等の状況」]をご参照ください。
オペレーショナルリスク
(15)事故・自然災害等による生産中断等のリスク
当社グループは、生産活動の中断により生じる潜在的な影響を最小限に抑えるため、設備に対して定期的な防災点検や保守を行っています。それに加え、生産設備に対する自然災害等(地震、台風、洪水、停電及び当社グループ又は顧客の生産を停止させるその他の事象等)の影響を抑えるべく、主要拠点では事業継続計画(BCP)を策定しています。しかしながら、気候変動による自然災害リスクの増加や事故、サプライチェーンの分断、感染症の大流行などによる当社グループの生産設備等の被害や生産活動の中断等の影響を完全に予防又は低減できない可能性があります。また、当社グループの特定の設備で生産される製品を、他の設備で生産できない場合もあります。したがって、地震及びその他の事象により、当社グループのいずれかの設備において生産の中断があった場合には、特定の製品の生産能力が著しく低下する可能性があり、結果的に当社グループの業績及び財務状況に大きな影響が及ぶ可能性があります。当社グループでは、このような事態を想定して保険に加入していますが、いかなる場合でも当社グループの損害が補償されるわけではなく、保険の対象外である場合又は保険の限度額を上回る損害が発生した場合には、当社グループの業績及び財務状況に大きな影響が及ぶ可能性があります。
(16)気候変動や環境に関する法規制その他の要請への対応
上記(10)の記載にもある通り、当社グループは、気候変動対策を始めとする持続可能な社会への取り組みに注力しています。地球環境に与える負荷を低減するため、温室効果ガス排出削減、省エネ・創エネ、廃棄物削減、有害物質の不使用・除去等の環境課題に取り組み、環境に関する様々な法令規則を遵守しています。しかしながら、環境に関する法令規則やその運用に関する変更が行われた場合には、当社グループの事業活動に対する制約の発生、法令遵守対応に関する費用の発生、あるいは法令規則違反による当社グループに対する過料の賦課等によって、当社グループの社会的評価が低下したり、業績及び財務状況に大きな影響が及んだりする可能性があります。また、社会やステークホルダーから企業に対して気候変動や環境への対策及びその開示を求める要請は年々高まっており、それらについての十分な対応又は開示ができないことによって、当社グループの社会的評価が低下したり、業績及び財務状況に大きな影響が及んだりする可能性があります。気候変動に関する取り組みについては、[2「サステナビリティに関する考え方及び取組」2.気候変動]をご参照ください。
(17)原燃材料の調達及び製品供給
ガラスの製造や販売の過程においては、珪砂やソーダ灰等の原材料、重油や天然ガス、電気等のエネルギー、物流や保管、また国や地域によっては温室効果ガス排出権の状況が大きな影響を持ちます。当社グループでは、商品デリバティブ取引やスワップ取引により、原燃料の価格変動リスクをヘッジしていますが、これらの手法によって原燃料価格の上昇による影響を完全に除去できるわけではありません。2023年3月期の水準と比較すると欧州の天然ガス価格は下落しているものの、依然として高水準にあり、その他世界的なインフレ傾向等により原材料その他のコストは増加しています。これらの調達コストや価格の上昇や変動は、当社グループの業績及び財務状況に大きな影響を及ぼす可能性があります。
当社グループは、原燃材料の調達に関して、仕入先との間で長期間に及ぶ固定価格での購入契約を締結する場合があります。また、当社グループの製品は、当社グループ独自の販売ルートに加え、当社グループ以外の第三者を通じて販売されています。最良の仕入先等の選定、確保に努めていますが、何らかの理由により、主要な仕入先や販売先との関係の終了や重要な変更が生じ、又は主要な仕入先が契約上の義務を履行できなくなった場合には、現在よりも不利な条件での契約の締結が必要となり、又は原燃材料の仕入れや製品の流通に支障が生ずる可能性があり、結果的に当社グループの業績及び財務状況に大きな影響が及ぶ可能性があります。
(18)品質、リコール、製造物責任その他の民事賠償責任
当社グループの製品の欠陥により第三者に損害が発生した場合、当社グループは製造物責任に基づく賠償請求を受ける可能性があり、また、これにより当社グループの社会的評価に大きな影響を及ぼす可能性があります。当社グループでは、このような賠償責任に対して保険に加入していますが、いかなる場合でも当社グループの賠償責任が補償されるわけではなく、当該賠償責任の内容が保険の対象にならない場合や保険の限度額を上回る場合もあり得ます。
また、当社グループでは、高品質の製品の製造に注力していますが、予期しない品質問題が生じた場合、大規模なリコールが発生する可能性があります。その場合は、当社グループの社会的評価が毀損し、当社グループの業績及び財務状況に大きな影響を及ぼす可能性があります。
(19)情報セキュリティ
当社グループでは、事業活動に関して様々な機密情報やデータを保有・使用しており、適切な情報の管理や効率的な業務の遂行のための情報システムのアップデートやコントロールの重要性はますます高まっています。当社グループは、外部専門サービスによるサポートを得たり、従業員に対する教育を行ったりするなど機密情報・データや情報システムの十分な保護に向けた施策に努めていますが、自然災害、通信トラブル、コンピューター・ウイルスの感染、サイバー攻撃等の事象により情報システムや事業活動の中断や機密情報の漏えい等の事態が発生した場合、当社グループの業績及び財務状況に大きな影響が及ぶ可能性があります。
(1)業績等の概要
(単位:百万円)
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売上高 |
個別開示項目前 営業利益 |
税引前利益 |
当期利益 |
親会社の所有者に帰属する 当期利益 |
|
当連結会計年度 |
832,537 |
35,860 |
17,597 |
10,930 |
10,633 |
|
前連結会計年度 |
763,521 |
34,812 |
△21,933 |
△31,017 |
△33,761 |
|
増減率 |
9.0% |
3.0% |
-% |
-% |
-% |
1)全体の状況
当第4四半期において、当社グループが事業を行う市場環境は一部の主要市場でさらに減速しました。特に建築用ガラス事業最大の市場である欧州において、市場が一段と厳しくなりました。自動車用ガラス事業の市場は引き続き徐々に回復し、長く続いた取引先におけるサプライチェーンの問題による制約も正常な状態への回復が進み販売数量が増加しました。高機能ガラス事業においては、改善の兆しが見られた市場もありましたが、多くの市場で需要はやや低調でした。
2)セグメント別の状況
当社グループの事業は、建築用ガラス事業、自動車用ガラス事業、高機能ガラス事業の3種類のコア製品分野からなっています。
「建築用ガラス事業」は、建築材料市場向けの板ガラス製品及び内装外装用加工ガラス製品を製造・販売しており、当連結会計年度における当社グループの売上高のうち45%を占めています。太陽電池パネル用ガラス事業も、ここに含まれます。
「自動車用ガラス事業」は、新車組立用及び補修用市場向けに種々のガラス製品を製造・販売しており、当社グループの売上高のうち50%を占めています。
「高機能ガラス事業」は、当社グループの売上高のうち5%を占めており、ディスプレイのカバーガラスなどに用いられる薄板ガラス、プリンター用レンズ及び光ガイド、並びにエンジン用タイミングベルト部材などのガラス繊維製品の製造・販売など、いくつかの事業からなっています。
「その他」には、全社費用、連結調整、前述の各セグメントに含まれない小規模な事業、並びにピルキントン社買収に伴い認識された無形資産の償却費が含まれています。
セグメント別の業績概要は下表の通りです。
(単位:百万円)
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売上高 |
個別開示項目前営業利益(△は損失) |
||
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当連結会計年度 |
前連結会計年度 |
当連結会計年度 |
前連結会計年度 |
|
建築用ガラス事業 |
371,777 |
365,947 |
29,087 |
33,557 |
|
自動車用ガラス事業 |
417,558 |
354,693 |
11,343 |
4,052 |
|
高機能ガラス事業 |
39,945 |
38,754 |
7,146 |
8,733 |
|
その他 |
3,257 |
4,127 |
△11,716 |
△11,530 |
|
合計 |
832,537 |
763,521 |
35,860 |
34,812 |
建築用ガラス事業
当連結会計年度における建築用ガラス事業の売上高は3,718億円(前連結会計年度は3,659億円)、個別開示項目前営業利益は291億円(前連結会計年度は336億円)となりました。欧州と北米市場では減速し、日本、南米市場及び太陽電池パネル用ガラスでの好調により一部相殺したものの、売上高は前年度と同水準で営業利益は下回りました。
欧州における建築用ガラス事業の売上高は、グループ全体における当事業売上高の38%を占めています。売上高・営業利益は下半期における経済活動の減速による販売数量と販売価格の低下を受けたため前年度を下回りました。市場環境の悪化による影響は、投入コストの減少により一部軽減されました。
アジアにおける建築用ガラス事業の売上高は、グループ全体における当事業売上高の30%を占めています。売上高・営業利益ともに前年度比で増加しました。日本では販売価格の上昇により業績が改善しましたが、その他の東南アジア地域では引き続き市場が停滞しました。太陽電池パネル用ガラスの販売数量は堅調に推移しました。第3四半期には、マレーシアのフロートガラス生産設備について一般建築用から太陽電池パネル用への転換が完了しました。
米州における建築用ガラス事業の売上高は、グループ全体における当事業売上高の32%を占めています。売上高は前年度から増加しましたが、営業利益は同様の水準でした。北米では、域内建築市場は厳しい環境が続きましたが太陽電池パネル用ガラスの販売数量増加により相殺しました。南米における販売数量は、アルゼンチンの新フロート窯稼働に伴い増加しました。
自動車用ガラス事業
当連結会計年度における自動車用ガラス事業の売上高は4,176億円(前連結会計年度は3,547億円)、個別開示項目前営業利益は113億円(前連結会計年度は41億円)となりました。販売数量は、サプライチェーンの問題による制約が解消した結果、取引先における生産が回復し、多くの地域で増加しました。
欧州における自動車用ガラス事業の売上高は、グループ全体における当事業売上高の42%を占めています。売上高は増加した投入コストの一部を取引先に転嫁することができたため、増加しました。販売数量は取引先におけるサプライチェーンの問題による自動車生産制約の解消が続いたことに伴い、自動車販売台数が改善するとともに取引先及び販売網における在庫積み上げの動きもあったため増加しました。
アジアにおける自動車用ガラス事業の売上高は、グループ全体における当事業売上高の19%を占めています。売上高・営業利益ともに前年度比で改善しました。日本の販売数量は自動車販売台数の改善により増加し、営業利益も依然高水準が続く投入コストの影響を緩和するための価格改善交渉が進展したため改善しました。
米州における自動車用ガラス事業の売上高はグループ全体における当事業売上高の39%を占めています。売上高・営業利益ともに前年度比で増加しました。需要は、自動車販売台数の回復と取引先におけるサプライチェーンの問題による生産制約の緩和により改善しました。
高機能ガラス事業
当連結会計年度における高機能ガラス事業の売上高は399億円(前連結会計年度は388億円)、個別開示項目前営業利益は71億円(前連結会計年度は87億円)となりました。需要は事業によって濃淡がありましたが、全体の売上高はわずかに改善しました。営業利益は、一部の事業で市場環境が悪化し投入コストの増加を販売価格に転嫁できず、減少しました。
ファインガラス事業では、販売構成が悪化したため売上高と営業利益が前年度比で減少しました。情報通信デバイス事業では、消費者需要の後退と取引先での在庫削減の影響によりプリンター用レンズの需要が減少しました。エンジンのタイミングベルト用グラスコードは自動車関連市場の改善に伴い回復しており、メタシャイン®の売上高は自動車塗料及び化粧品向けで増加しました。
その他
当連結会計年度におけるその他の売上高は33億円(前連結会計年度は41億円)、個別開示項目前営業損失は117億円(前連結会計年度は115億円)となりました。
このセグメントには、全社費用、連結調整、前述の各セグメントに含まれない小規模な事業、並びにピルキントン社買収に伴い認識された無形資産の償却費が含まれています。
持分法適用会社
持分法で会計処理される投資に係る利益には、持分法による投資利益及び持分法投資に関するその他の利益(損失)が含まれており、当連結会計年度においては、純額で61億円(前連結会計年度は58億円)となりました。
持分法で会計処理される投資に係る利益の増加は、ロシアに子会社を保有していたジョイント・ベンチャーであるSP Glass Holdings B.V.に対する投資について、過去に計上した減損損失の戻入益を認識したためです。SP Glass Holding B.V.によるロシア子会社の売却に伴い、投資の一部について過去に計上した減損損失の戻入益11億円を認識し、持分法投資に関するその他の利益に計上しています。
さらに、同じく売却の結果として、当社グループは過去に計上した持分法適用会社に対する金融債権の減損損失の戻入益37億円を計上しました。
SP Glass Holdings B.V.に伴う損益を除いた、持分法で会計処理される投資に係る損益は前年度をわずかに下回りました。
(2)会計方針並びに重要な会計上の見積り、判断及び仮定
連結財務諸表において採用している重要性のある会計方針については、第5〔経理の状況〕の1(1)連結財務諸表の「⑤連結財務諸表注記」に記載されている通りです。なお、これらの会計方針に基づく連結財務諸表上の資産・負債並びに収益・費用の額の決定に際しては、当該取引の実態や過去の実績等に照らし合理的と思われる見積りや判断を要することがあります。
当連結会計年度末に実施したのれんの減損テストについては、⑤連結財務諸表注記 16.「のれん」をご参照ください。また、貸付を含むジョイント・ベンチャーへの長期的な投資の回収可能性については、注記 21.「持分法で会計処理される投資」をご参照ください。
(3)財政状態の分析
当社グループでは、今後の予測・見通しを踏まえて、既存の融資枠の範囲内で引き続き事業継続が可能なものと判断しています。当社グループは、既存の融資については、返済期限を迎える前にその更新を金融機関との間で交渉する方針としています。将来の借入条件に関する金融機関との交渉において、当社グループが受諾可能な条件での融資が不可能と想起させるような事実は発生していません。こうした状況を検討し、当社取締役会は、当社グループが予測可能な将来において継続事業として存続するのに十分な経営資源を引き続き有するという、合理的な見通しを持っています。従って、当社グループは、引き続き継続企業の前提に基づいて、当連結会計年度の連結財務諸表を作成しています。
1)総資産
2024年3月末時点の総資産は1兆76億円となり、2023年3月末時点から562億円増加しました。
2)ネット借入残高
2024年3月末時点のネット借入残高は、2023年3月末時点から396億円増加して4,475億円となりました。ネット借入の増加は、主に為替影響とエネルギー価格の下落に伴うデリバティブ金融資産の減少によるものです。為替影響によるネット借入の増加は259億円でした。また、総借入残高は5,065億円となりました。
3)資本
2024年3月末時点の資本合計は1,538億円となり、2023年3月末時点の1,249億円から290億円増加しました。資本合計の増加は、主に純利益の計上と円安に伴う為替影響によるものです。
(4)経営成績の分析
1)売上高
当連結会計年度の売上高は、前年度比9%増の8,325億円(前連結会計年度は7,635億円)となりました。増収は、主に自動車用ガラス事業によるものです。
2)個別開示項目前営業利益
個別開示項目前営業利益は359億円(前連結会計年度は348億円)となりました。こちらも自動車用ガラス事業が改善したことにより増益となりました。
3)税引前利益
当連結会計年度の税引前利益は176億円となりました(前連結会計年度は219億円の損失)。
税引前損益の改善は、前連結会計年度でのれん及び無形資産の減損損失488億円を含む一過性の個別開示項目費用(純額)452億円を計上したことが主な要因です。また、当社グループのジョイント・ベンチャーであるSP Glass Holdings B.V.が保有していたロシアの子会社を売却した結果、当社グループは過年度に計上した持分法適用会社に対する金融債権の減損損失の戻入益37億円を計上し、また過年度に認識した同社への投資に対する減損損失の戻入益11億円を持分法投資に関するその他の利益として認識しました。これらによる損益の改善は、主に期中の市場金利上昇により前連結会計年度から増加した金融費用(純額)282億円(前連結会計年度は174億円)により一部が相殺されました。
4)親会社の所有者に帰属する当期利益
親会社の所有者に帰属する当期利益は、個別開示項目前営業利益の改善、個別開示項目収益(純額)、及び持分法投資に関する利益を認識した結果、106億円(前連結会計年度は338億円の損失)となりました。
5)1株当たり指標
連結会計年度の基本的1株当たり当期利益は95.40円となり、前連結会計年度の基本的1株当たり当期損失393.06円から改善しました。基本的1株当たり当期利益は、親会社の所有者に帰属する当期利益からA種種類株式に係る配当金を控除した金額を、発行済普通株式の加重平均数で除して算出しています。当連結会計年度において、A種種類株式に係る配当20億円(前連結会計年度は20億円)がこの計算に含まれています。
(5)キャッシュ・フローの分析
当連結会計年度における営業活動によるキャッシュ・フローは、588億円のプラスとなりました。投資活動によるキャッシュ・フローは、有形固定資産の取得による549億円の支出等により435億円のマイナスとなりました。以上より、フリー・キャッシュ・フローは153億円のプラス(前年度は139億円のプラス)となりました。
財務キャッシュ・フローと為替換算影響を考慮した後のベースで、当連結会計年度末における現金及び現金同等物の残高は、前連結会計年度末に比べて242億円減少し、443億円となりました。
(6)生産・受注及び販売の実績
1)生産実績
当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次の通りです。
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セグメントの名称 |
金額(百万円) |
前年同期比(%) |
|
建築用ガラス事業 |
372,521 |
97.9 |
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自動車用ガラス事業 |
429,013 |
120.2 |
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高機能ガラス事業 |
39,811 |
89.8 |
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報告セグメント計 |
841,345 |
107.6 |
|
その他 |
3,315 |
109.3 |
|
合計 |
844,660 |
107.6 |
(注)1.金額は、販売価格によっています。
2.上記の金額には、消費税等は含まれていません。
2)受注実績
受注生産形態をとらない製品が多く、セグメント毎に示すことは難しいため記載していません。
3)販売実績
当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次の通りです。
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セグメントの名称 |
金額(百万円) |
前年同期比(%) |
|
建築用ガラス事業 |
371,777 |
101.6 |
|
自動車用ガラス事業 |
417,558 |
117.7 |
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高機能ガラス事業 |
39,945 |
103.1 |
|
報告セグメント計 |
829,280 |
109.2 |
|
その他 |
3,257 |
78.9 |
|
合計 |
832,537 |
109.0 |
(注)1.上記の金額には消費税等は含まれていません。
2.販売実績の「主な相手先別」は、当該割合が100分の10以上の相手先がないため、記載は行っていません。
3.セグメント間の取引については相殺消去しています。
当連結会計年度において、経営上の重要な契約等の決定又は締結等はありません。
当社グループの製品とサービスの高付加価値化を進め、新たな成長の柱を確立するためには、研究開発の強化が必要不可欠です。
当社グループは、主要な市場である日本、米国、欧州で研究開発を行っています。これにより、各地域の顧客ニーズに対する理解をより深めることができます。また、前連結会計年度に完成した、日本の伊丹事業所の新研究棟は、現在全面的に稼働しており、当社の研究開発を一段と強化することが出来ました。
当社グループは、事業戦略に基づき研究開発活動に注力しています。研究開発部門は当社グループの新中期経営計画の策定にも関与しています。研究開発部門は、NSGグループの将来の成長にとって重要となる多くの取り組みを主導しており、その中には、脱炭素化、製品開発、デジタル化などが含まれます。
各事業部門は、地域レベルやグローバルレベルで、研究開発プロジェクトの優先順位付けや計画策定に積極的に関与しています。さらに経営レビューというプロセスにおいて、経営会議や取締役会でも、当社グループにおける研究開発活動の貢献度をモニターし、方向性を決めています。
当社グループにおける当連結会計年度の研究開発費は、99億円となりました。
セグメント別の研究開発費は下表の通りです。
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(単位:百万円) |
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セグメントの名称 |
当連結会計年度 |
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建築用ガラス事業 |
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自動車用ガラス事業 |
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高機能ガラス事業 |
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報告セグメント計 |
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その他 |
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合計 |
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(1)建築用ガラス事業
建築用ガラス事業では、住宅や商業用建物向けのガラス製品の拡充に引き続き努めています。顧客ニーズに応えるべく主要な分野で技術革新を行っており、例えば断熱ガラスやソーラーコントロール(遮熱)ガラス、内装用の装飾ガラスの品揃え強化や真空ガラス「スペーシア®」の改良があげられます。
また液体コーティングにおける長年の経験を活かし、様々な機能を有するコーティングガラス製品の新規開発を行っています。
太陽電池パネル用ガラス事業も建築用ガラス事業に含まれます。太陽光発電に使われるガラスの市場は、エネルギー市場の不確実性、中国産シリコンへの依存の懸念、気候変動や各国政府による奨励策などが後押しとなり、急速に伸びています。研究開発部門は、この薄膜太陽電池市場向けの製造工程や製品の改良において重要な役割を果たしています。
当社グループの製品は、Cd-Te太陽電池や急速に存在感を増しているペロブスカイト太陽電池、プラズモニック太陽電池などの薄膜太陽光発電技術を利用する顧客から高い評価を受けています。NSG独自のオンラインCVD(化学気相成長)コーティング技術は業界でもトップクラスであり、特定の顧客ニーズに合わせて対応することができます。
当社グループ外部への製品紹介、推進活動により、ペロブスカイト太陽電池の開発に取り組んでいる多くの研究チームは、NSGのコーティング製品である透明導電膜付きガラス(NSG TEC™)を基板材料として使用しています。実際に、ガラスを用いたペロブスカイト太陽電池に関する多くの公開文書に、NSG TEC™を基板として採用したと記載されています。
研究開発部門は、マテリアルズ・インフォマティクス(情報科学を用いた材料開発)やその他数値的手法を活用して、透明導電性や半導電性をもつ新しい材料の開発を行っています。これらの開発のいくつかでは、コーティング面積を広げて特性評価する段階に入っています。
以上により、建築用ガラス事業における当連結会計年度の研究開発費は34億円となりました。
(2)自動車用ガラス事業
当社グループは、競争優位の源泉であるコア技術に基づき、新製品の開発や核となる製造工程の継続的改善に重点を置いた研究開発を進めています。自動車産業界が求める、安全やセキュリティ、環境、快適さや利便性、スタイルといった領域で技術革新を進めています。「CASE」(Connected(コネクテッド)、Autonomous(自動化)、Shared(シェアリング)、Electric(電動化))と呼ばれる新しい潮流により、新たなビジネスの機会が増えています。
当連結会計年度の継続的なテーマの中には以下のものがあります。
・ガラス上に光学センサーを装着した部位における透明性の向上
・PDLC(高分子分散型液晶)を搭載し、調光機能により車内温度の快適さを提供する大型複合ルーフライト
・進化を続けるヘッドアップディスプレイ技術における新モデルの立ち上げ段階での支援
以上により、自動車用ガラス事業における当連結会計年度の研究開発費は31億円となりました。
(3)高機能ガラス事業
高機能ガラス事業では、光学設計、ガラスファイバー、ガラスフレーク等のガラス繊維製品、超薄板ガラスなど、当社のコア技術を活用した多くの成長分野で事業を行っています。
超情報化社会の到来により、データストレージや高速・大容量通信に関連する製品の需要が飛躍的に高まっています。イメージセンシング技術を用いた産業用検査機や物流ロボット、ドローンなどへの応用は小型で高精度の光学部品へのニーズを拡大し、加速します。さらに、高弾性・高耐熱などの特殊ガラス組成で、新たなガラス繊維や超薄板ガラス製品を加工技術含めて開発し、新市場を開拓していきます。
高機能ガラス事業部門では、ICTを中心に、市場ニーズの変化に合わせた独自性の高い製品の開発・商品化を加速することを研究開発の方針としています。
当社グループは、顧客と緊密に連携しながら、新規の顧客基盤の構築のため積極的に活動しています。研究開発部門は、顧客のニーズに合わせた新しいガラス組成および特殊コーティングの開発により、この活動を支えています。
以上により、高機能ガラス事業における当連結会計年度の研究開発費は、8億円となりました。
(4)その他
研究開発部門は、各事業部門に特化した業務テーマに加え、すべての事業部門を横断する技術にも取り組んでいます。
当社グループは基礎研究や新技術の調査を行うため、外部のパートナーとの協業も強化しています。協業の形態は、優れた大学との長期的な連携や、スタートアップ企業への当社グループ施設の提供など多岐にわたります。
研究開発部門では英国、日本、米国及びドイツの大学との関係を構築しています。
脱炭素化研究開発チームは、2030年のCO2削減目標を達成するためのワークプログラムを開始しました。AIの活用や電気溶融、代替燃料などの先駆的な取り組みに続き、当社グループは当連結会計年度において、英国のフロート窯に小型のCO2分離回収実証設備を設置しました。
以上により、その他における当連結会計年度の研究開発費は26億円となりました。