当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下の通りです。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものです。
1.経営方針
NSGグループ経営指針「Our Vision」は以下の通り、「使命:NSGの存在意義」、「目指す姿:NSGのなりたい姿」、「コアバリュー:働き方の基盤となる価値観」から構成されています。
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当社グループは、Our Visionを経営の指針とし、お客様と社会が求める多種多様なニーズに対して当社が強みを持つ「ガラスとその周辺技術」に焦点を当てた価値やサービスを迅速かつ適切に提供することにより、社会の持続可能な発展に貢献することを目指しています。
2.マテリアリティ
当社グループでは、中長期的な企業の持続的成長と持続的社会の実現への貢献を両立するために認識すべき重要課題として、「社会にとってのインパクト」と「当社グループにとってのインパクト」を2軸に、マトリクス上で影響度を評価して重み付けを行い決定したマテリアリティを設定しています。2025年3月期を初年度とする中期経営計画「2030 Vision : Shift the Phase」を策定するにあたり、安全は当社事業の前提であるという会社のポリシーを明確にするためこれを見直し、「ヒューマンキャピタル」の一部に含まれていた「健康と安全」を独立させマテリアリティの項目の1つとしたうえで、経営の基本となる要素と競争力の源泉となる要素に区分しました。
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マテリアリティ |
2030年3月期 目指すべき姿 |
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経営の基本となる マテリアリティ |
健康と安全 |
強力なリーダーシップの下、全員が安全を価値と考え、安全な職場づくりに協力する安全文化が醸成されている。すべてのリスクが適切に管理されている。特に重要なリスクについては、高いレベルの管理が行われている。デジタル技術の使用により、管理レベルを大幅に向上する。 |
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倫理・コンプライアンス |
倫理・コンプライアンス(E&C)プログラムの定期的な改善によりグループリスクに対処し、ステークホルダーとのパートナーシップと信頼を獲得する。 |
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安全で高品質な 製品・サービス |
サプライチェーン: 持続可能なサプライチェーン戦略を実施し、環境と社会への悪影響を最小限に抑え、イノベーションを促進し、廃棄物とリスクを削減し、NSGのブランドを高める。
品質: 顧客満足は、当社グループの中核的な使命であり続ける。より高度な自動化とデジタル化をプロセスに取り入れることにより、安全で高品質な製品とサービスの提供を強化する。 |
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競争力の源泉となる マテリアリティ |
環境 |
持続可能なプロセスを導入して環境に配慮した製品を生産し、脱炭素社会と循環型社会に積極的に貢献することで、ステークホルダーの期待を超える。 |
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社会シフト・ イノベーション |
NSG独自のガラス技術を強みに、ステークホルダーの皆様から信頼されるパートナーとなり、持続可能な社会の実現に貢献することを目指す。 |
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ヒューマン キャピタル |
従業員に対する提供価値: グローバルに一貫した雇用者ブランドにより、NSGを競合他社と差別化し、各地域での適応を可能にするとともに、特徴的で希望と信頼性のある価値提供を目指す。
DEI: 誰もがベストを尽くせるインクルーシブな組織となる(“#BeYourselfAtWork”活動)。 外部機関からの受賞に値するリーダーとして認められる。 |
3.NSGグループの中期ビジョン
また中期ビジョンも見直し、2030年に当社グループが目指すゴールを「企業としてのフェーズを変え、持続可能な社会の発展に不可欠な存在を目指す」と設定しました。これに基づき、当社グループが達成すべきコミットメントとして、以下の4つを掲げています。
①私たちは、すべてのステークホルダーのために、そしてステークホルダーとともに、持続可能な社会を実現
する価値を創造する
②私たちは、顧客のソリューションにおいて重要な役割を果たすガラスとその関連技術・サービスを開発し、
提供する
③私たちは、顧客の潜在的なニーズを深く理解し、有形無形の資産を活用して顧客に適したソリューションを
提供する
④私たちは、グローバルで多様性に富み、ガラスに情熱を持ち、才能あふれるチームを誇りとし、人材への投資
を続けていく
4.中期経営計画「2030 Vision:Shift the Phase」
2024年3月期を最終年度とする前中期経営計画について利益率が依然低水準との振り返りを踏まえ、Business Development、Decarbonization、Digital Transformation、Diverse Talentの4つの「D」を戦略の中心に据え、収益性の強化、現金創出力の強化により有利子負債の抜本的な削減を推進し自己資本の増強を目指していきます。
(1)財務目標
(2)戦略方針
5.中期経営計画「2030 Vision:Shift the Phase」の進捗状況
(1)財務目標
欧州経済減速の影響を大きく受けましたが、欧州の建築用ガラス事業および自動車用ガラス事業以外の事業は計画通り進捗しています。引き続き収益性を向上させキャッシュ創出力を高め、財務基盤を改善することに注力していきます。
(2)戦略方針
欧州を中心に厳しい事業環境が続いていますが、中期経営計画と4つの「D」に対するコミットメントは不変であり、引き続きリソースを柔軟に確保しつつ戦略を推進していきます。
6.経営環境および対処すべき課題
(1)当社グループを取り巻く経営環境
2025年3月期は、2024年3月期から続く欧州の景気減速の影響、および世界的なインフレに伴う人件費等のコスト上昇の影響を大きく受けました。建築用ガラス市場は、欧州の経済減速の影響を大きく受けましたが、第4四半期は販売価格の改善による回復の兆しもありました。また太陽電池パネル用ガラスの需要は堅調に推移しており、第4四半期には米国の新設備で生産を開始しています。自動車用ガラス市場は、欧州での自動車生産減少、アジアと北米の一部取引先での生産停止の影響を受け需要の回復が遅れ、欧州を中心に資産稼働率が低下しました。さらに世界的なインフレ傾向により、人件費等その他コスト上昇の影響を受けました。高機能ガラスは、多くの市場で需要の回復が継続しています。
また米国関税政策の影響という不確定要素もありますが、ガラス製品は基本的に地産地消であるためその影響はそれほど大きくはないと想定しており、政策の動向を注視しつつ関税やコスト増加に対して価格転嫁等により対応する方針です。
欧州の経済減速や世界的なインフレ拡大等に伴う人件費等その他コスト増加の影響は暫く継続する見込みではありますが、中長期的には建築用ガラス事業におけるリノベーション需要の拡大、自動車用ガラス事業における自動車生産台数の緩やかな改善に伴う需要回復が期待されます。このような現在直面している厳しい事業環境および中長期的に期待される需要拡大に対して、生産体制の見直し等によるコスト削減とともに、中期経営計画の「Business Development」に基づいて脱コモディティ製品化を進めています。
引き続き、生産コストの更なる引き下げと製品価格への転嫁に取り組み、収益力の回復を進めていく必要があります。
(2)対処すべき課題
当社グループが対処すべき重要な課題は、収益性を向上させキャッシュ創出力を高め、有利子負債の削減および自己資本比率の向上といった財務基盤を改善することです。
前述の通り欧州の経済減速や世界的なインフレに伴う人件費等のコスト上昇の影響は暫く継続する見込みであり、また日本での金利上昇の兆しも見られます。これに対しては、事業環境の変動に伴う業績影響の低減をさらに進め、多額の有利子負債に依存しない事業体質を確立することが非常に重要です。
中期経営計画「2030 Vision:Shift the Phase」では、Business Development、Decarbonization、Digital Transformation、Diverse Talentの4つの「D」を戦略の中心に据え、前述の対処すべき重要な課題の克服を目指していきます。
「Business Development」では、社会の変化に適応し、顧客と共に新たなソリューション・技術を開発することで高い付加価値を創造していきます。具体的には、建築用ガラス事業では、ガラスコーティング技術開発/設備へ集中的に投資するとともに自社製品自体の脱炭素化や地域戦略の継続的見直しを図ることにより、脱炭素を中心に持続可能性に貢献する建築用ガラスのリーディング・サプライヤーを目指します。また自動車用ガラス事業では、ADAS・EVの拡大に対応するためのケイパビリティ強化、アフターマーケットの強化を図るとともに徹底的な収益性改善を図ることにより、安全で環境に優しい自動車をつくるために顧客が必要とする製品製造技術の開発を加速するとともに、重要な戦略的グローバルサプライヤーかつ持続可能な収益事業となるべく変革を継続します。高機能ガラス事業では、隣接市場での事業拡大、新技術の商業化、技術・事業シーズの取捨選択を図ることにより、顧客製品の進化に貢献する独自の素材開発を通じて、新たな収益の柱をつくります。
「Decarbonization」では、2050年のカーボンニュートラルを目指し、持続可能な社会発展への貢献の重要アジェンダとしてサプライチェーン全体を通じた脱炭素化に取り組みます。
「Digital Transformation」では、本中期経営計画期間での取り組みを第二のPMIと捉え、デジタルをフル活用してオペレーションを刷新し、付加価値創出能力を底上げします。データとプロセスの標準化を徹底して情報統合度を高め、グローバルマネジメントの質と速度を飛躍させます。
「Diverse Talent」では、戦略の要である強い人材と組織を築くため、明確な人事戦略をもとに投資を行い、当社が、真に情熱と意思のある人にプロフェッショナルな成長の機会を提供することができる会社であるという魅力をグローバルに示します。このためにも引き続き「Flatな組織、 Frankなコミュニケーション、Fastな意思決定、 そして職場でのFun」の4つのFを組織内でのコミュニケーション文化として浸透させていきます。
これらの戦略を実行し、収益性の強化、現金創出力の強化により有利子負債の抜本的な削減を推進し自己資本の増強に徹底的に注力します。
1.サステナビリティ全般
当社グループは、サステナビリティへの取り組みは、環境や社会課題の解決、および事業の持続的な発展を両立させる重要な活動であると位置づけ、サステナビリティ活動を通じて社会と共に成長することを目指します。
当社取締役会は、このような取り組みに関する経営の基本方針として「NSG グループ サステナビリティ基本方針」を策定しました。当社グループが新たに策定し、2024年5月に公表した中期経営計画では、中長期的な企業の持続的成長と持続的社会の実現への貢献を両立するために認識すべき重要課題として、これまでの「環境」「社会シフト・イノベーション」「安全で高品質な製品・サービス」「倫理・法令遵守」「人材」という5項目に加え、「人材」から新たに独立させた「健康と安全」を含む計6項目のマテリアリティを設定しました。特に、競争力の源泉となる「環境」「社会シフト・イノベーション」「ヒューマンキャピタル」の3つのマテリアリティは、新中期経営計画で企業価値向上のため戦略的に取り組むDevelopment, Decarbonization, Diversity, Digitalの「4つのD」にも対応しています。これらは上記基本方針の下に位置付けられるものでもあり、この基本方針のもと、サステナビリティへの取り組みを行っています。
(1)ガバナンス
取締役会は、当社グループのサステナビリティ活動の基本方針と目標を定めています。サステナビリティに関する取り組みについては、サステナビリティ委員会を中心に推進し、取締役会へ定期的に報告し、そこで示された取締役会の意見をさらに以降の取り組みに反映するようにしています。
サステナビリティ委員会は、当社グループのサステナビリティ戦略を設定し、その活動を統括するとともに、ステークホルダーとの効果的なコミュニケーションを確実なものとすることを目的としております。同委員会は、CEO、会長、CFO(最高財務責任者)、CAO(最高管理部門責任者)、CRO(最高リスク責任者)、CLO(最高法務責任者)兼CE&CO(最高倫理・コンプライアンス責任者)、CHRO(最高人事責任者)、サステナビリティ部統括部長、及び関連グループファンクション部門長、事業部門長により構成され、CEO又はその指名した者が議長を務めます。サステナビリティ委員会には、エネルギーや脱炭素への取り組みについて議論するエネルギー&カーボン委員会やサプライチェーン上の課題について議論するサプライチェーン委員会が下部委員会として設置されています。
2024年5月に発表された新中期経営計画の策定過程において当社のガバナンス体制が見直された結果、倫理コンプライアンス、ヒューマンキャピタル、社会シフト・イノベーションの各分野に関する委員会が、新たに経営会議の下部委員会として設置されました。この結果、主要なマテリアリティに対応する下部委員会が設置されることとなりました。サステナビリティ委員会は、これらのサステナビリティに関する各下部委員会を統括する位置づけにあり、6つのマテリアリティに関する主要な目標・KPI案の決定、及びそれらの進捗管理を行います。下部委員会ではそれぞれのマテリアリティに関して、目標KPI達成のためのより具体的な活動計画の立案および進捗管理を行います。
2025年3月期は、サステナビリティ委員会の開催回数を従来の年2回から年4回に増やしました。気候変動、安全、環境、生物多様性、サプライチェーン、ヒューマンキャピタルなど、サステナビリティに関する様々なリスクと機会について、より広範な課題を議論しました。
サステナビリティ委員会で議論した内容は、経営会議に報告され、主にリスクを中心に定期的に取締役会に報告されます。2025年3月期は、11月に、マテリアリティ目標・KPIの進捗、グループ安全活動と潜在的環境リスク、欧州企業サステナビリティ報告指令への対応状況について取締役会に報告しました。
(2)リスク管理
当社グループは、ISO31000に基づき、戦略的リスク委員会(SRC)が企業リスク管理(ERMプロセス)を実施しています。戦略的リスク委員会は、グループ活動に関連するリスク選好度と許容範囲を定義し、戦略達成のためのリスクを特定し評価するプロセスを定期的に行っており、サステナビリティに関連するリスクは、当戦略的リスク委員会で管理されます。2025年3月期は9月、12月、3月に、気候変動、製品品質不良、人材に関するリスクについて同委員会で報告されモニタリングされました。同委員会は、CEOをはじめとする執行役及び他の関連幹部社員によって構成され、CRO(最高リスク責任者)が議長を務めます。
2.気候変動
気候変動対策が人類共通の課題となった今日、エネルギー集約型・炭素集約型の製造業である当社グループにとって気候変動への取り組みは必要不可欠であり、当社製品を通じて脱炭素社会に貢献することにより「快適な生活空間の創造で、より良い世界を築く」という当社グループの使命を果たすためにも、優先度の高い経営課題であると認識しております。当社グループはTCFDに賛同しており、2022年5月にスコープ1、2、3全ての温暖化ガス削減目標についてSBTi(Scienced Based Targets initiative)認定を取得しました。気候変動を当社グループのマテリアリティの一つである「環境」領域における重要課題と定め、積極的な活動を進めています。
(1)ガバナンス
気候関連のリスクと機会は取締役会によって監督されており、グループCEO及び取締役会は、気候変動を含むグループのサステナビリティ活動の基本方針と目標を定めています。気候変動関連の課題は、すべてのサステナビリティ目標の達成と、関連するすべての事業につなげることを目的として、経営会議、サステナビリティ委員会、戦略的リスク委員会で議論されています。これには、企業の成長と積極的な社会貢献の双方を達成するためのリスク分析と機会分析に基づく戦略や行動などが含まれます。ESG分野の専門家である取締役が、意見と指導を提供します。各事業部におけるエネルギーやCO2排出量削減状況など、それぞれの分野での活動や進捗は、サステナビリティ委員会の下部委員会において管理されています。詳細については、
(2)戦略
当社グループでは、短期、中期、長期の気候変動に関連するリスクと機会について、次の3つの主要シナリオに従ってリスク分析を行い、2100年までのタイムスケールにおける物理リスクと移行リスクを特定しました。
・低炭素世界シナリオ(<2℃)
低炭素経済への移行を目指し、今後30年間に炭素排出量を抑制するための積極的な緩和策を講じるシナリオ。
・RCP 4.5 中位安定化 (2-3℃の温度上昇)シナリオ
現在の政策、誓約、目標が達成されることを想定した、中間的シナリオ。
・RCP 8.5 高位参照シナリオ(>4℃)
物理的リスクを回避するための施策をほとんど何も行わず、排出量を増やし続けた結果、世界の気温は大幅に上昇し続け、壊滅的な結果を迎えるシナリオ。
特定されたリスクと機会には、次の影響が含まれます。
特定されたリスクと機会は、当社グループの標準的なリスク管理フレームワークによって定量化され、分類され、それに応じて優先順位がつけられました。それには、ポリシーと法的側面、技術側面、市場側面、評判の側面における影響も含まれます。
特定されたリスクのうち、影響度や緊急度が高い例は、以下の通りです。
このように特定されたリスクと機会は、当社グループの中期経営計画「2030 Vision: Shift the Phase」における、グループの戦略方針「4つのD」のうちの一つ「Decarbonization」の中でさらに強化され、盛り込まれた結果、例えば、サプライチェーンにおけるCO2排出量を含むさまざまな持続可能性の側面に焦点をあてた「サステナブル・サプライチェーン」プロジェクトの発足や、温室効果ガス排出量削減に向けた研究・技術開発への投資、社会の脱炭素化を支える新製品の開発などにつながりました。このような活動は、「快適な生活空間の創造で、より良い世界を築く」という当社グループの使命と一致しています。
また、前述した複数の温暖化シナリオに基づき、気候変動に対するレジリエンスの定量的・定性的な分析と、今後実施すべき行動の優先順位付けも行いました。その結果、当社グループにとって最も影響度が高く可能性も大きいリスクは、GHG排出量の価格に関連するコストの増加であるとの分析結果に基づき、中長期にわたるグループの脱炭素目標を策定しました。当社グループが策定した削減目標は2019年にSBTiにより認定されましたが、2022年には、パリ協定の2℃を十分に下回る温暖化シナリオに沿った、より野心的な目標に更新されました。
この目標を遵守することで、気候変動に関する物理リスクと移行リスク双方に対するグループのレジリエンスが向上します。
(3)リスク管理
気候関連のリスクは、戦略的リスク委員会が特定・監視するリスクに含まれ、財務への影響、事業への影響、コンプライアンスへの影響、外部評価への影響の4つのベクトルについて定量的基準で評価されます。戦略的リスク委員会は、リスクに対応する統制と緩和策を評価し、必要に応じて追加措置の実施を指示します。リスクオーナーは、グループの許容範囲内でリスクを管理するために、決められたアクションプランに対応する進捗状況をモニターし、報告する責任を負います。個々の統制と対策は、各事業部(SBU)およびグループファンクション内で進捗管理され、経営会議およびサステナビリティ委員会に報告されます。戦略的リスク委員会に報告された特定のリスクと機会は、リスクマネジメントと事業戦略の統合を確実にするため、定期的に(最低6か月に1回以上)経営会議に報告されます。
(4)指標及び目標
当社グループは、グループ内(スコープ1、2)、サプライチェーン(スコープ3)および顧客(スコープ3)全体に影響を与えるすべての温室効果ガス(GHG)排出量をモニターし、GHGプロトコル(2004年)に従って測定しています。
当社グループのSBTiの基準年度(2018年1月から12月の1年間合計)におけるCO2排出量は以下の通りです。
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スコープ1 |
スコープ2(マーケット基準) |
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3,103千トン |
891千トン |
最新年(2024年1月から12月の1年間合計)のCO2排出量は以下の通りでした。
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スコープ1 |
スコープ2(マーケット基準) |
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2,818千トン |
528千トン |
また、2018年から2024年までのCO2排出量の推移は以下の通りです。
二酸化炭素排出量
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二酸化炭素 (千トン) |
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2018年 |
2019年 |
2020年 |
2021年 |
2022年 |
2023年 |
2024年 |
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スコープ1 |
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スコープ2 ロケーション基準 |
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スコープ2 マーケット基準 |
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スコープ3 |
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※CO2排出量は各年度1月から12月の1年間合計
※当社グループはスコープ3の温室効果ガス(GHG)排出量について、より高い精度とカバー範囲を確保し、ベストプラクティスに準拠するよう、計算方法を見直しました。この手法は引き続きSBTiとGHGプロトコルガイドラインに従っています。2023年よりこの計算方法でスコープ3を算出しており、2024年はこの計算を方法用いて2018年の基準値排出量を再計算しました。2019年から2022年までの値は現在再計算中のため、見直し前の値となっています。
また、ガラス製造工程における単位生産量当たりの温室効果ガス排出量を、SBTの目標に合わせ2027年3月期までに前年度対比で毎年3%削減するという目標を立てて取り組んでいます。2025年3月期の進捗状況は、前年度対比で2.5%改善し、順調に推移しました。
当社グループは、スコープ1とスコープ2のCO2排出量を2030年までに21%削減するという目標について、2019年にSBTiによる認定を取得しましたが、この目標を見直し、より野心的な目標に引き上げると共に、スコープ3の目標を設定しました。この改訂された目標は、スコープ1とスコープ2、およびスコープ3のCO2排出量を2030年までに2018年対比で30%削減するというものであり、2022年5月にSBTiにより認定されました。また、2050年のカーボンニュートラルの達成をコミットしました。スコープ1とスコープ2は2024年3月期までに2018年対比で約16%削減しており、30%削減の目標に対して順調に推移しています。
スコープ1の削減については、世界で初めて水素燃料やバイオ燃料によりガラス製造に成功、また化石燃料の
代替として再生可能電力を用いた電気溶融の導入や、より低炭素なガラス製造原料への代替を進めるなど、積極的な技術開発の取り組みを行っています。
スコープ2の削減については、引き続きオンサイト太陽光発電の導入をグローバルで進め、目標達成に向けて取り組んでいます。当社はさまざまな選択肢の中から経済合理性のある最適な調達方法を模索する努力をグローバルで続けています。短期的には財務安定性とサステナビリティの両立を目指しつつ、市場の状況を継続的に注視しながら目標達成に向けて引き続き取り組んでまいります。
スコープ3としては、当社が購入している原材料などサプライチェーンから排出されるCO2が該当しますが、排出量の約半分を占めるカテゴリー1(購入した製品・サービス)を中心に、サプライヤーと協働して積極的な取り組みを進めています。当社は、SBTに沿ったスコープ3の削減量を目標に掲げています。このスコープ3の削減を含むサプライチェーン上における8つの優先課題を特定し、長期的に目指すべき姿を定めたサステナブル・サプライチェーン憲章を一昨年に策定し、当該憲章のサプライヤーへの浸透率を新たに目標として掲げました。サプライヤー業種別に課題を優先順位化し、優先順位の高いサプライヤーから憲章の浸透を図ることで、サプライヤーとのエンゲージメントを強化し、目標達成に向けてサプライヤーと共に取り組んでいます。
以下に掲げるロードマップの実施により、CO2排出量の削減、ひいては環境貢献製品の継続的な開発と当社事業に関連する機会の拡大につなげます。
※スコープ3にかかる計算方法を見直した結果、基準年度における排出量の値が変更されています。
3.人的資本及び多様性
(1)ガバナンス
当社グループは人的資本経営と多様性の推進を経営の中核に位置付け、CEOおよびCHROが参加する「サステナビリティ委員会」を中心として、戦略的な方向性と実行状況を厳格に管理しています。特に人材戦略については、Global Talent Reviewにおいて各事業部門長およびグループファンクション部門長を交え、組織横断的かつ迅速な意思決定を行っています。
人事施策の具体化においては、グローバル統一の人材情報管理システムを軸に、職務評価に基づく報酬体系、パフォーマンス管理、サクセッションプラン、グローバル共通の教育・能力開発プログラムを展開しています。また多様性に関しては、グローバルDiversity, Equity & Inclusion(DEI)運営委員会が主導となり、「個」を尊重したインクルーシブな組織文化の醸成に取り組んでいます。特に女性の活躍推進において、グループ共通のベストプラクティスを共有し、施策の迅速な水平展開を実施しています。
(2)戦略
当社グループは新中期経営計画において、「4つのD」の一つとして「多様な人材(Diverse Talent)」を掲げています。これは、強固な競争力のある人材基盤の構築を意味しており、人材こそが当社の競争優位性の源泉であるという信念に基づいています。変化が激しく先行き不透明な環境下で、情熱と主体性をもって働く従業員に対して、グローバルかつ柔軟なキャリア開発の機会を提供し、その潜在能力を最大限に引き出すことを目指しています。
具体的には、以下の4つの戦略的方向性を明確化し、実行しています。
・リーダーと企業文化の変革(Leadership & Culture)
・人材の獲得・育成・リテンション(Talent Acquisition & Development)
・組織能力の強化(Organizational Capability)
・多様な経験とキャリアパスの提供(Diverse Experiences)
これらを具体化するためのカギとなる施策として、「HRデジタル」、「多様な人材の獲得」、「従業員に対する提供価値の向上」、「ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン」を設定し、さらに当社が掲げる「4つのF」すなわち「Flat(フラットな組織)」、「Frank(率直なコミュニケーション)」、「Fast(迅速な意思決定)」、「Fun(楽しめる職場環境)」を土台に、従業員エンゲージメントの向上と組織の成長を加速させていきます。
(3)リスク管理
当社グループの持続的成長と企業変革を成功させるためには、有能な人材の獲得・育成・維持が不可欠であることを認識しています。CHROが人材リスクのオーナーとして、戦略的リスク委員会の監督のもと、グループ全体の人材に関わるリスク状況を継続的にモニタリングし、必要に応じて迅速なアクションを実行しています。
戦略的リスク委員会では、リスク管理を事業戦略と完全に統合するために、人的資本関連のリスク・機会に関する報告を定期的に経営会議に提出し(最低でも年2回以上)、グループの意思決定プロセスにおいて積極的に活用されています。
(4)指標及び目標
当社グループでは、多様性推進の中心的なKPIとして「女性管理職比率」を設定し、具体的かつ野心的な目標として2027年3月期までにグループ全体の女性管理職比率を24%、2030年3月期までに30%とする新たな目標を設定しています。2025年3月期の実績は18%であり、引き続きこれらの数値目標の達成に向けて、各国、各事業部門における具体的な行動計画を策定し、進捗を定期的に確認しながらさらなる施策を展開してまいります。
また、提出会社及び国内連結子会社における人的資本経営に関連する各種指標の2025年3月期の実績は、
当社グループは、経営指針「Our Vision」の下、中期経営計画「2030 Vision: Shift the Phase」に沿って、持続的成長による企業価値の向上を目指しています。一方で、当社グループを取り巻く事業環境はますます複雑でダイナミックな変化を見せています。当社グループは、このような事業目標の達成に影響を及ぼす内部、外部の要因による不確実性をリスクと捉えています。そのマイナスの影響を最小化し、成果を最大化するため、重要なリスクについて識別、評価し確実に管理するリスクマネジメントは重要な経営基盤の一つと位置付けられます。
当社グループのリスクマネジメントは、会社法やコーポレートガバナンス・コードの原則に基づき、取締役会で決議された「内部統制システム等に関する基本方針」に準じています。また、企業活動上発生するリスクへの具体的な対処については社内規程「リスクマネジメントに関するグループポリシー」に定めています。
当社グループのリスクマネジメント体制は、日々の業務のなかに十分に活かされ、「3つのディフェンスライン」として機能します。第1のディフェンスラインは、それぞれの事業部門や間接部門(ファンクション部門)そのものの中に存在し、日々の業務として当社グループの全ての業務内に存在するリスクを識別、評価、管理することで、当該リスクを統制し、軽減します。第2のディフェンスラインは、ファンクション部門や経営陣によって担われ、業務やリスクマネジメントの方針や基準を定めるだけでなく、効果的なリスク統制活動をモニターします。第3のディフェンスラインは、内部監査部門によって担われ、独立して統制の有効性やリスクマネジメントプロセスを評価します。
全社的リスクマネジメント体制の中心として(主として第2のディフェンスライン)、当社グループは、トップダウンアプローチである戦略的リスク委員会(SRC)とボトムアップアプローチである全社的リスクマネジメントチーム(ERMT)を組み合わせたハイブリッド型の二層式リスクマネジメント体制を採用しています。いずれも経営会議の監督の下で運営され、その運営状況は取締役会に報告されます。
SRCストラクチャーとその目的 – トップダウンリスクレビュー
SRCの議長は、最高リスク責任者(CRO)が務め、SRCは、CEOをはじめとする執行役及び他の関連幹部社員によって構成されます。
SRCは、当社グループ全般にわたるリスク管理ポリシーや枠組みを決定し、その枠組みに従ってグループの戦略的リスクを特定のうえ、各戦略的リスクにつきリスクオーナーを定め、リスク軽減策の進捗等を含めモニターします。
ERMTストラクチャーとその目的 – ボトムアップリスクレビュー
ERMTの議長は、最高財務責任者(CFO)が務め、ERMTは各事業部門のトップや部長、経理、人事、法務といったファンクション部門のトップから構成されます。毎年それぞれの業務の遂行に付随する重要なリスクについて識別、評価、優先順位付けを行い、必要なリスク軽減策を講じることでリスクマネジメントの実効性の向上を図っています。これらのリスクやその軽減策については、状況に応じて都度見直され、とりわけ重要なリスクについては、SRCによってモニターされます。ERMTは、定期的に又は必要に応じて開催され、SRCに報告します。
上記の枠組みにより、当社グループでは、各連結会計年度末時点における事業活動の状況及び財政状態に照らして、主要な財務上及び事業運営上のリスク要因につき、定期的な見直しを行っています。当連結会計年度末時点において、当社グループが認識している主要な財務上及び事業運営上のリスクは、以下に記載の通りです。ただし、これらは当社グループに関するすべてのリスクを網羅したものではなく、現時点では予見しがたいリスク又は重要とみなされていないリスクが顕在化した場合には、これらの影響を将来的に受ける可能性があります。
なお、文中における将来事項に関する記述は、当連結会計年度末時点における、当社グループの合理的な判断に基づくものです。
また、当社グループが将来にわたって事業活動を継続する前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況は、当連結会計年度末時点において存在していません。
外部環境リスク
(1)経済状況、地政学上の影響、事業環境
当社グループは、日本を含むアジア、欧州、米州等、世界各国・地域で事業展開しています。このため、通貨インフレやエネルギー価格の上昇といった世界経済の変化、世界各国における顧客の事業環境の変化、グローバルにつながるサプライチェーンの断絶や米中貿易戦争、米国政府等による関税施策、ロシアによるウクライナ侵攻、中東における紛争、台湾を巡る緊張など世界各地における地政学上の問題が、当社グループの事業に影響を及ぼす可能性があります。
また、南米等の新興市場については長期的には先進国・地域の市場を上回るペースで成長するものと考えていますが、当社グループが事業を展開している先進国・地域の市場に比べてより大きな潜在的リスクがあると考えています。
(2)為替及び金利の変動
当社グループは、世界の多くの国々や地域で事業活動を展開しており、こうした国々や地域において為替レートの変動及び金利の変動のリスクを有しています。また、海外子会社の現地通貨で表示される資産・負債等については、連結財務諸表の作成のために円換算される過程において、為替レートの変動によるリスクも有しています。更に金利の変動は、支払利息や受取利息、あるいは金融資産や金融負債の金額に影響を及ぼす可能性があります。当社グループは為替予約契約や金利スワップ取引等によりこれらのリスクのヘッジに努めていますが、為替レート及び金利の変動は、当社グループの事業、業績及び財務状況に大きな影響を及ぼす可能性があります。
経営戦略リスク
(3)事業戦略
当社グループの事業戦略は、経済、法制環境、原料価格、為替レート、新技術や新製品の開発や提供、現在締結されている又は将来締結される契約の条件等の様々な要因により影響を受けます。そのため、当社グループの事業戦略が成功し、想定した成果を収めることができるという保証はありません。更に当社グループの事業計画の遂行が想定した効果を生まない、あるいは期待された効果を実現できない可能性があります。
当社グループは、競争優位を維持するため、利益率の低い製品から高付加価値製品へのシフトを目的に新技術や新製品の開発に努め、投資を行っています。しかしながら、当社グループが、競合他社に先駆けてより高度な技術の開発やその事業化に成功し、又は結果的に競合他社よりも高い競争力を維持できるという保証はありません。
1「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記述の通り、当社グループは、中期経営計画「2030 Vision: Shift the Phase」の下、企業としてのフェーズを変え、持続可能な社会の発展に不可欠な存在を目指します。しかし、こうした取り組みが計画通りにいかない結果、さらなるリストラクチャリングや事業売却、そのための追加資金調達や金融支援が必要となる可能性があります。
(4)特定の産業・分野への依存
当社グループの売上高の90%以上が、建築用ガラス事業及び自動車用ガラス事業におけるものであり、当連結会計年度では、それぞれ外部顧客への売上高の43%及び51%を占めています。また、当社グループの外部顧客への売上高は、主に建設、住宅産業及び自動車産業の顧客に対するものです。これらの業界では、これまでも消費者マインドの周期的な動きに連動して需要が変動してきました。需要の変動のみならず、顧客のサプライチェーンが、今後当社グループの業績や財務状況に影響を及ぼす可能性があります。
当社グループは、相対的に利益率が高く、将来市場の大きな成長が見込まれる高付加価値製品の売上の増大に努めています。これらの製品は、一般的な製品に比べて価格の変動は通常小さいと考えられ、経済状況が悪化した場合の影響を受けにくいと考えられています。しかしながら、これらの製品が高い利益率を維持し続ける、又はこれらの製品の市場が製品全体の平均を上回るペースで成長し続けるという保証はありません。更に、他のガラスメーカーが技術的な優位を有する製品を市場に投入する結果、当社グループの製品との競合が高まり、高付加価値製品であるにもかかわらず利益率が低下する可能性があります。
また顧客が当社グループに不利な形に戦略を見直す可能性があります。その場合は、当社グループの業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があり、特定の顧客向けの高付加価値製品では影響がより大きい可能性があります。なお、自動車用ガラス事業では、自動車産業における企業間の合従連衡の結果、当社グループの顧客である自動車メーカーの購買力の上昇や販売先上位のメーカーへの顧客ベースの集中が生じる可能性があります。また、自動車産業においては、CASE(コネクテッド、自動化、シェアリング、電動化)の進展など歴史的な産業構造の変化が起こっており、サプライチェーンにも重大な変化をもたらす可能性があります。当社グループは、これらの変化に対応するため、更なる生産性の向上、コスト低減、リソース配分の選択と集中を進めていますが、こうした対応が功を奏さず、当社グループの事業、経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(5)競争
当社グループは、日本及び海外のガラスメーカーと競合関係にあります。また、プラスチックや金属をはじめ、建築分野、自動車分野及び情報電子分野等で使用される各種素材メーカーとも競合関係にあります。当社グループでは、独自技術や独自製品の市場への提供により競争力の確保に努めていますが、市場ニーズの変化、製品を低コストで提供するメーカーの台頭、あるいは強固な顧客基盤や高い知名度を有するメーカーの参入等によって、当社グループの競争優位を維持できない場合、又は当社グループが獲得できないような政府による助成制度を競合他社が受けている場合には、当社グループの業績及び財務状況に大きな影響が及ぶ可能性があります。
(6)製品の開発及び技術革新
当社グループは、既存の事業分野における独自技術や独自製品の開発に注力するとともに、既存分野以外の新しい分野における新製品の開発に注力しています。近年の急速で大きな技術の変化にタイムリーかつ適切に対応することは、製品、サービス、更にはデジタライゼーションやオートメーションといった製造プロセスにおける当社グループの技術優位性を高め、維持するために必要です。そのためには、顧客ニーズを把握するとともに、気候変動等の環境問題対応にかかる技術を含め、関連マーケットや製造業界における技術変化を先読みし、当社グループが強みを持つ技術領域に選択的・重点的にリソースを投入することで、技術開発、商品化、事業化を効果的に実現することが重要となります。しかしながら、新製品や新技術の開発プロセスは相当な時間と支出を要する可能性があり、また新製品の販売による収益や新技術の貢献が得られるまでに、多くの投資が必要となる可能性があります。
また、競合他社が当社グループより先んじて技術開発を行い、特許権等の知的財産を確保し、商品化、事業化を成功させ、早く市場に製品を送り出した場合や、代替技術や代替製品が市場に受け入れられた場合には、当社グループによる製品開発のための投資は、当初想定した利益をもたらさない可能性があります。更に当社グループが技術革新を予測できない場合や、これに迅速に対応できない場合、あるいは顧客のニーズに適応した新製品の開発に成功しなかった場合には、当社グループの事業、業績及び財務状況に大きな影響が及ぶ可能性があります。
(7)知的財産権
特許権等の知的財産権は、当社グループの事業において競争力をもたらす重要な要素です。当社グループは、「グループ知的財産ポリシー」に基づき、保有する知的財産価値を最大化するため、知的財産権の保護や管理に努めています。しかしながら、当社グループが有する知的財産権を常に保護できるという保証はなく、当該知的財産権の競争優位性が失われる可能性もあります。また、当社グループは世界各国・地域で事業を行っているため、知的財産権に関する第三者との紛争のリスクも高まっています。このような知的財産権に関する侵害や紛争が生じた場合には、当社グループの業績及び財務状況に大きな影響が及ぶ可能性があります。
(8)海外における事業
当社グループは、日本、アジア、欧州、北米、南米等、世界各国・地域に生産設備及び販売拠点を有しています。更に当社グループは、南米、中国等の新興国・地域において、子会社、ジョイント・ベンチャー、出資、提携といった様々な形態により事業運営を行っており、これらは当該国・地域における当社グループの生産、販売能力を維持するうえで重要な役割を担っています。
ロシアによるウクライナ侵攻を受け、当社グループは、2022年3月以降、ロシア企業とのすべての通商取引を停止し、保有していたロシアの事業会社を既に売却しています。
また、当連結会計年度では、欧州地域のガラス市場の需給状況を勘案し、ドイツにおいて、建築用ガラスのフロート窯2基の早期生産停止を実施するとともに、自動車用ガラスの生産体制見直しを決定いたしました。
これらの国・地域の市場環境が更に悪化する場合には、将来において追加の減損損失が発生する可能性もあります。また、ジョイント・ベンチャーのパートナー等との間での事業運営等の方針の相違により、事業の継続が困難になるような場合やその他の要因によっては、投資に対する想定外の損失が発生する可能性があります。
(9)人材の確保
当社グループの変革と将来の成長は有能な人材の確保と育成に大きく依存します。当社グループでは、人材確保・育成・リテンションのための各種施策に取り組んでいますが、技術者を中心とする人材獲得競争は更に激化しており、適切なタイミングで優秀な人材が計画通り確保できない、確保した人材の育成が計画通り上手くいかない、又は育成した優秀な人材を維持できず社外流出が生じた場合には、当社グループの業績及び財務状況に影響が及ぶ可能性があります。人的資本に関する取り組みについては、[2「サステナビリティに関する考え方及び取組」3.人的資本及び多様性]をご参照ください。
(10)法規制、倫理・コンプライアンス等
当社及びその子会社、並びにジョイント・ベンチャー及び関連会社では、投資や輸出入に関する規制、公正な競争に関する規制、環境保護に関する規制並びにその他商取引、労働、退職年金、知的財産権、租税、通貨管理、支払い、資本、制裁等に関する所在国・地域の各種法令規則及び国際規則・条約の適用を受けています。これらの法令規則又はその運用の変更は、当社グループの事業活動に対する制約の発生、法令遵守対応に関する費用の発生、あるいは法令規則違反による当社グループに対する過料の賦課、又はこれに派生する民事賠償請求等によって、当社グループの業績及び財務状況に大きな影響が及ぶ可能性があります。
このような状況下において、当社グループは、当社グループの役職員が職務遂行に際し法令及び定款に適合することを確保するため、「NSGグループ倫理規範」を制定し、倫理・コンプライアンス部を設置して、懸念事項報告相談制度の整備、運用を含む倫理・コンプライアンスプログラムを実施し、継続的に倫理・コンプライアンスに関する周知・教育活動を行っています。また、グループ倫理・コンプライアンス委員会を設置し、当連結会計年度では、同委員会を2回開催しました。倫理規範に基づき、各ファンクション部門は、関連グループポリシー等を制定、運用、管理し、コンプライアンスを推進しています。これらファンクション部門による管理に加え、「グループ関係会社管理ポリシー」等を制定し、関係会社ごとの管理の強化にも取り組んでいます。また、気候変動や法令遵守への対応をはじめとする当社グループのサステナビリティ(持続可能性)目標の達成に向けた行動をサプライヤーの皆様と協力して強化・加速するため、「NSGグループ サステナブル・サプライチェーン憲章」を制定するとともに、当社グループの人権尊重へのコミットメントをより明確化するために、「グループ人権ポリシー」を制定しています。しかしながら、当社グループ会社若しくはそれら役職員又は取引先等の第三者による法令又はグループポリシー等の違反が発生した場合には、当社グループの技術情報等が流出したり、当社グループやステークホルダーに直接的又は間接的な損害が発生したりするなど、当社グループの社会的評価、事業、業績及び財務状況に大きな影響が及ぶ可能性があります。
財務リスク
(11)資金調達
当社グループは、①新製品の発売、②事業計画や研究開発計画の実行、③生産能力の拡大、④補完的な事業、技術又はサービスの取得、⑤コスト削減策やリストラクチャリング計画の実行、⑥期限を迎えた負債の返済やA種種類株式の償還等の目的に充当するため、将来において追加的な資金の調達が必要となる可能性があります。当連結会計年度において、当社子会社である NSG UK Enterprises Limited が、米ドル建およびユーロ建普通社債を私募方式により発行いたしました。負債の借入契約に規定される財務制限条項等の条件に抵触することにより想定外のタイミングで当該負債の返済が必要となり、そのために追加の資金調達等が必要になる可能性もあります。当社グループが、借換えのための資金や新たに必要となる資金を想定する条件で調達できない又は全く調達できない場合、既存の製品及びサービスの拡充と改善や新事業開発のための投資を行うことが困難となり、その結果として競合他社よりも高い競争力を確保することが困難となる、又は資金調達コストが増加することなどにより、当社グループの事業活動、業績及び財務状況にも大きな影響が及ぶ可能性があります。
(12)貸借対照表に計上された資産の評価及び減損等
当社グループは、貸借対照表において、減損テストの実施を毎年必要とする多額の資産項目を計上しています。これらの資産には、ピルキントン社買収により発生したのれんや無形資産が含まれますが、これらに限定されるものではなく、各国・地域における税務上の繰越欠損金等に対して認識された繰延税金資産も含まれます。
当社グループは、2023年3月期において、2006年のピルキントン社買収に伴って発生した欧州における自動車用ガラス事業ののれん及び無形資産残高488億円全額について減損損失を計上しました。これは、主に減損テストで使用する割引率が大幅に上昇した結果、減損損失を認識したことによるものです。
当連結会計年度においては、主に南米で事業を展開する「建築用ガラス事業 その他の地域」の資金生成単位(CGU)に係るのれんの減損損失(14億円)を認識しました。これにより当社グループは、2006年6月のピルキントン社買収により生じた「建築用ガラス事業 その他の地域」のCGUに係るのれん全額を減損したことになります。
当社グループのCGUについて、将来において減損損失が全く発生しないという保証はありません。当社グループの今後の業績が以前に減損テストを実施した際の想定通りに改善しない場合には、将来において減損損失が発生する可能性があります。更に、経済状況に応じて事業の縮小・撤退を決める場合には、上述以外の資産を減損する可能性もあります。
当社グループは、年度末に回収可能性を検討し繰延税金資産を再評価しますが、繰延税金資産の算定に使用される適用税率が低下すれば、将来において繰延税金資産の評価減が発生する可能性があります。貸借対照表上の価値は、利益の減少や為替市場の変動リスクといった要素の影響を受け、連結資産価値の減少や資産の評価減、償却を伴う可能性があります。そのような要素は、更に株主資本を減少させ、資金調達や取引活動、ひいては当社グループの事業、業績及び財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。
(13)退職給付債務
当社グループでは、多数の企業年金制度や退職者向け医療給付制度を運営しています。年金資産の時価が大きく変動した場合、又は年金債務計算に使用される割引率や死亡率等が大きく変動した場合には、当社グループの退職給付制度に対する追加的な資金拠出や保全措置が必要となる可能性があります。
当社グループでは、従業員に対して適切な退職給付制度を提供する一方で、追加的な資金拠出が必要となるリスクを低減するため、退職給付債務について定期的に見直しを行っています。過去数年間にわたって、当社グループでは、各国の年金制度に応じ、年金資産の運用構成の見直し、年金受給者に関する長寿リスクのヘッジ、及び現役従業員に関する年金給付額算定のベースとなる給与額の上昇に対する上限の設定等の対応を行ってまいりました。しかしながら、こうした対応によって、将来における当社グループの年金制度に対する資金拠出増加のリスクを完全に除去できない可能性があります。
(14)A種種類株式
A種種類株式には、普通株式を対価とする取得請求権が付されています。今後、当該取得請求権の行使により、A種種類株式が普通株式に転換された場合には、当社の普通株式の発行済株式総数が増加し、また、かかる株式が市場に流入することにより、当社普通株式の1株当たりの株式価値及び持分割合が希薄化するとともに、当社株式の取引及び株価に悪影響を及ぼすおそれがあります。A種種類株式は、引受先から第三者へ譲渡されることがあり得ます。こうした転換や譲渡があった場合には、引受先や譲受先が当社の主要株主に該当する可能性がありますが、その議決権行使及び保有株式の処分等の状況により、当社の事業運営及び当社株式の需給関係に影響を及ぼす可能性があります。
※ A種種類株式: 詳細については、[後掲の第4 提出会社の状況 1「株式等の状況」]をご参照ください。
オペレーショナルリスク
(15)事故・自然災害等による生産中断等のリスク
当社グループは、生産活動の中断により生じる潜在的な影響を最小限に抑えるため、設備に対して定期的な防災点検や保守を行っています。それに加え、生産設備に対する自然災害等(地震、台風、洪水、停電及び当社グループ又は顧客の生産を停止させるその他の事象等)の影響を抑えるべく、主要拠点では事業継続計画(BCP)を策定しています。しかしながら、気候変動による自然災害リスクの増加や事故、サプライチェーンの分断、感染症の大流行などによる当社グループの生産設備等の被害や生産活動の中断等の影響を完全に予防又は低減できない可能性があります。また、当社グループの特定の設備で生産される製品を、他の設備で生産できない場合もあります。したがって、地震及びその他の事象により、当社グループのいずれかの設備において生産の中断があった場合には、特定の製品の生産能力が著しく低下する可能性があり、結果的に当社グループの業績及び財務状況に大きな影響が及ぶ可能性があります。当社グループでは、このような事態を想定して保険に加入していますが、いかなる場合でも当社グループの損害が補償されるわけではなく、保険の対象外である場合又は保険の限度額を上回る損害が発生した場合には、当社グループの業績及び財務状況に大きな影響が及ぶ可能性があります。
(16)気候変動や環境に関する法規制その他の要請への対応
上記(10)の記載にもある通り、当社グループは、気候変動対策を始めとする持続可能な社会への取り組みに注力しています。地球環境に与える負荷を低減するため、温室効果ガス排出削減、省エネ・創エネ、廃棄物削減、有害物質の不使用・除去等の環境課題に取り組み、環境に関する様々な法令規則を遵守しています。しかしながら、環境に関する法令規則やその運用に関する変更が行われた場合には、当社グループの事業活動に対する制約の発生、法令遵守対応に関する費用の発生、あるいは法令規則違反による当社グループに対する過料の賦課等によって、当社グループの社会的評価が低下したり、業績及び財務状況に大きな影響が及んだりする可能性があります。また、社会やステークホルダーから企業に対して気候変動や環境への対策及びその開示を求める要請は年々高まっており、それらについての十分な対応又は開示ができないことによって、当社グループの社会的評価が低下したり、業績及び財務状況に大きな影響が及んだりする可能性があります。気候変動に関する取り組みについては、[2「サステナビリティに関する考え方及び取組」2.気候変動]をご参照ください。
(17)原燃材料の調達及び製品供給
ガラスの製造や販売の過程においては、珪砂やソーダ灰等の原材料、重油や天然ガス、電気等のエネルギー、物流や保管、また国や地域によっては温室効果ガス排出権の状況が大きな影響を持ちます。当社グループでは、商品デリバティブ取引やスワップ取引により、原燃料の価格変動リスクをヘッジしていますが、これらの手法によって原燃料価格の上昇による影響を完全に除去できるわけではありません。これらの調達コストや価格の上昇や変動は、当社グループの業績及び財務状況に大きな影響を及ぼす可能性があります。
当社グループは、原燃材料の調達に関して、仕入先との間で長期間に及ぶ固定価格での購入契約を締結する場合があります。また、当社グループの製品は、当社グループ独自の販売ルートに加え、当社グループ以外の第三者を通じて販売されています。最良の仕入先等の選定、確保に努めていますが、何らかの理由により、主要な仕入先や販売先との関係の終了や重要な変更が生じ、又は主要な仕入先が契約上の義務を履行できなくなった場合には、現在よりも不利な条件での契約の締結が必要となり、又は原燃材料の仕入れや製品の流通に支障が生ずる可能性があり、結果的に当社グループの業績及び財務状況に大きな影響が及ぶ可能性があります。
(18)品質、リコール、製造物責任その他の民事賠償責任
当社グループの製品の欠陥により第三者に損害が発生した場合、当社グループは製造物責任に基づく賠償請求を受ける可能性があり、また、これにより当社グループの社会的評価に大きな影響を及ぼす可能性があります。当社グループでは、このような賠償責任に対して保険に加入していますが、いかなる場合でも当社グループの賠償責任が補償されるわけではなく、当該賠償責任の内容が保険の対象にならない場合や保険の限度額を上回る場合もあり得ます。
また、当社グループでは、「品質に関するグループポリシー」を制定し、安全で高品質な製品とサービスの提供に注力していますが、予期しない品質問題が生じた場合、大規模なリコールが発生する可能性があります。その場合は、当社グループの社会的評価が毀損し、当社グループの業績及び財務状況に大きな影響を及ぼす可能性があります。
(19)情報セキュリティ
当社グループでは、事業活動に関して様々な機密情報やデータを保有・使用しており、適切な情報の管理や効率的な業務の遂行のための情報システムのアップデートやコントロールの重要性はますます高まっています。当社グループは、外部専門サービスによるサポートを得たり、従業員に対する教育を行ったりするなど機密情報・データや情報システムの十分な保護に向けた施策に努めていますが、自然災害、通信トラブル、コンピューター・ウイルスの感染、サイバー攻撃等の事象により情報システムや事業活動の中断や機密情報の漏えい等の事態が発生した場合、当社グループの業績及び財務状況に大きな影響が及ぶ可能性があります。
(1)業績等の概要
(単位:百万円)
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売上高 |
個別開示項目前 営業利益 |
税引前利益 |
当期利益 |
親会社の所有者に帰属する 当期利益 |
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当連結会計年度 |
840,401 |
16,491 |
△8,525 |
△13,466 |
△13,831 |
|
前連結会計年度 |
832,537 |
35,860 |
17,597 |
10,930 |
10,633 |
|
増減率 |
0.9% |
△54.0% |
-% |
-% |
-% |
1)全体の状況
当第4四半期において、当社グループが事業を行う市場の多くでは厳しい状況が続きましたが、改善の兆候が見られる地域もありました。欧州の建築用ガラス市場においては、ガラス価格が非常に低い水準から緩やかに回復しました。自動車用ガラス市場は前年度とほぼ同様で、高機能ガラス市場は改善しました。
2)セグメント別の状況
当社グループの事業は、建築用ガラス事業、自動車用ガラス事業、高機能ガラス事業の3種類のコア製品分野からなっています。
「建築用ガラス事業」は、建築材料市場向けの板ガラス製品及び内装外装用加工ガラス製品を製造・販売しており、当連結会計年度における当社グループの売上高のうち43%を占めています。太陽電池パネル用ガラス事業も、ここに含まれます。
「自動車用ガラス事業」は、新車組立用及び補修用市場向けに種々のガラス製品を製造・販売しており、当社グループの売上高のうち51%を占めています。
「高機能ガラス事業」は、当社グループの売上高のうち6%を占めており、ディスプレイのカバーガラスなどに用いられる薄板ガラス、プリンター用レンズ及び光ガイド、並びにエンジン用タイミングベルト部材などのガラス繊維製品の製造・販売など、いくつかの事業からなっています。
「その他」には、全社費用、連結調整、前述の各セグメントに含まれない小規模な事業、並びにピルキントン社買収に伴い認識された無形資産の償却費が含まれています。
セグメント別の業績概要は下表の通りです。
(単位:百万円)
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売上高 |
個別開示項目前営業利益(△は損失) |
||
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当連結会計年度 |
前連結会計年度 |
当連結会計年度 |
前連結会計年度 |
|
建築用ガラス事業 |
363,025 |
371,777 |
13,574 |
29,087 |
|
自動車用ガラス事業 |
429,444 |
417,558 |
7,667 |
11,343 |
|
高機能ガラス事業 |
46,584 |
39,945 |
7,568 |
7,146 |
|
その他 |
1,348 |
3,257 |
△12,318 |
△11,716 |
|
合計 |
840,401 |
832,537 |
16,491 |
35,860 |
建築用ガラス事業
当連結会計年度における建築用ガラス事業の売上高は3,630億円(前連結会計年度は3,718億円)、個別開示項目前営業利益は136億円(前連結会計年度は291億円)となりました。売上高および個別開示項目前営業利益は欧州を中心に多くの地域で販売数量の減少と販売価格の低下の影響を受け前年度比で減少しました。
欧州における建築用ガラス事業の売上高は、グループ全体における当事業売上高の35%を占めています。売上高
は、需要の低迷が供給過剰と販売価格低下を招いたため、前年度比で減少しました。市況の悪化による影響は、投入コストの低下により一部軽減されました。当第4四半期には、販売価格の上昇と燃料価格の低下により利益率が改善する兆しが見られました。需要が弱い市場に対応するため、当年度にドイツのフロート窯2基の生産を停止しました。
アジアにおける建築用ガラス事業の売上高は、グループ全体における当事業売上高の33%を占めています。売上高および個別開示項目前営業利益は前年度を上回りました。日本では困難な市場環境が継続したため減益となりました。その他東南アジアの市場も依然厳しい状況が続いています。太陽電池パネル用ガラスは2023年11月から稼働開始したマレーシアの生産設備の貢献もあり販売数量が増加しました。
米州における建築用ガラス事業の売上高は、グループ全体における当事業売上高の32%を占めています。個別開示項目前営業利益は前年度比で減少しました。北米では商業用建物市場が力強さを欠き、業績は減速しました。2025年1月16日に公表した通り、米国オハイオ州ロスフォード工場のガラス生産設備の火入れを行いました。以前は一般建築用のガラスを製造していましたが、今後は太陽電池パネル用ガラスを生産します。南米における需要も、アルゼンチンでの厳しい市場環境を反映し減少しました。
自動車用ガラス事業
当連結会計年度における自動車用ガラス事業の売上高は4,294億円(前連結会計年度は4,176億円)、個別開示項目前営業利益は77億円(前連結会計年度は113億円)となりました。売上高は、多くの地域において現地通貨ベースでは前年と同水準でしたが、円安による為替影響の恩恵を受けたため増加しました。
欧州における自動車用ガラス事業の売上高は、グループ全体における当事業売上高の41%を占めています。売上高は現地通貨ベースでは前年度比でやや減少しましたが、日本円ベースでは為替の影響により増加しました。個別開示項目前営業利益については前年度を下回りました。2025年1月24日に公表した通り、欧州市場における需要減少と継続するコスト上昇に対応するためドイツの生産体制の見直しを決定しました。
アジアにおける自動車用ガラス事業の売上高は、グループ全体における当事業売上高の19%を占めています。売上高・個別開示項目前営業利益は前年度比で増加しました。日本の販売数量は第3四半期まで一部の取引先における生産停止の影響を受けたものの、第4四半期には改善しました。
米州における自動車用ガラス事業の売上高はグループ全体における当事業売上高の40%を占めています。売上高は前年度比で増加したものの個別開示項目前営業利益は減少しました。北米の市場は全般的に安定していましたが、販売数量は一部取引先での生産停止の影響を受けました。南米では、前年度比でアルゼンチンの販売数量は減少したものの、ブラジルでは増加しました。
高機能ガラス事業
当連結会計年度における高機能ガラス事業の売上高は466億円(前連結会計年度は399億円)、個別開示項目前営業利益は76億円(前連結会計年度は71億円)となりました。
売上高および個別開示項目前営業利益は、多くの事業で需要が回復したため前年度比で増加しました。ファインガラス事業では、売上高は前年度比で増加しました。情報通信デバイス事業では、プリンターおよびスキャナーに対する需要回復に伴い販売数量が大きく回復しました。自動車エンジンのタイミングベルト用グラスコードは補修用市場での強い需要が継続しました。メタシャイン®の売上高は化粧品向けで増加しました。
その他
当連結会計年度におけるその他の売上高は13億円(前連結会計年度は33億円)、個別開示項目前営業損失は123億円(前連結会計年度は117億円)となりました。
このセグメントには、全社費用、連結調整、前述の各セグメントに含まれない小規模な事業、並びにピルキントン社買収に伴い認識された無形資産の償却費が含まれています。
持分法適用会社
持分法による投資利益は55億円(前年度は51億円)と改善しました。これは主にブラジルの建築用ガラス事業におけるジョイント・ベンチャーであるセブラセ社によるものです。前年度はロシアにおけるジョイント・ベンチャー売却に伴い一過性の利益48億円を計上しています。
(2)会計方針並びに重要な会計上の見積り、判断及び仮定
連結財務諸表において採用している重要性のある会計方針については、第5〔経理の状況〕の1(1)連結財務諸表の「⑤連結財務諸表注記」に記載されている通りです。なお、これらの会計方針に基づく連結財務諸表上の資産・負債並びに収益・費用の額の決定に際しては、当該取引の実態や過去の実績等に照らし合理的と思われる見積りや判断を要することがあります。
当連結会計年度末に実施したのれんの減損テストについては、⑤連結財務諸表注記 15.「のれん」をご参照ください。また、貸付を含むジョイント・ベンチャーへの長期的な投資の回収可能性については、注記 20.「持分法で会計処理される投資」をご参照ください。
(3)財政状態の分析
当社グループでは、今後の予測・見通しを踏まえて、既存の融資枠の範囲内で引き続き事業継続が可能なものと判断しています。当社グループは、既存の融資については、返済期限を迎える前にその更新を金融機関との間で交渉する方針としています。将来の借入条件に関する金融機関との交渉において、当社グループが受諾可能な条件での融資が不可能と想起させるような事実は発生していません。こうした状況を検討し、当社取締役会は、当社グループが予測可能な将来において継続事業として存続するのに十分な経営資源を引き続き有するという、合理的な見通しを持っています。従って、当社グループは、引き続き継続企業の前提に基づいて、当連結会計年度の連結財務諸表を作成しています。
1)総資産
2025年3月末時点の総資産は1兆329億円となり、2024年3月末時点から253億円増加しました。総資産の増加は主にアルゼンチン子会社における超インフレ調整によるもので、為替変動分によって完全に相殺されなかったことによるものです。
2)ネット借入残高
2025年3月末時点のネット借入残高は、2024年3月末より68億円増加して4,543億円となりました。ネット借入の増加の大部分は戦略投資の増加によるものですが、運転資本の減少により軽減されました。為替影響によるネット借入の減少は7億円でした。また、総借入残高は5,248億円となりました。
3)資本
2025年3月末時点の資本合計は1,424億円となり、2024年3月末時点の1,538億円から114億円減少しました。資本合計の減少は、主に当連結会計年度において純損失を計上したことによるものです。
(4)経営成績の分析
1)売上高
当連結会計年度の売上高は、前年度をやや上回りの8,404億円(前連結会計年度は8,325億円)となりました。これは自動車用ガラス事業と高機能ガラス事業における改善によるものです。
2)個別開示項目前営業利益
個別開示項目前営業利益は165億円(前連結会計年度は359億円)と減益で、主に建築用ガラス事業の減益によるものです。
3)税引前利益
当連結会計年度の税引前損失は85億円となりました(前連結会計年度は176億円の利益)。税引前損益の悪化は、個別開示項目前営業利益の減少に加え、個別開示項目費用(純額)が増加したこと、及び前連結会計年度においてはロシアにおけるジョイント・ベンチャーの売却に伴う一過性の利益を計上したことによるものです。これらのマイナス要因は当連結会計年度における金利の引き下げに伴う金融費用の減少によって一部相殺されました。
4)親会社の所有者に帰属する当期利益
親会社の所有者に帰属する当期損失は、個別開示項目前営業利益の減少、個別開示項目費用(純額)の増加の結果、138億円(前連結会計年度は106億円の利益)となりました。
5)1株当たり指標
連結会計年度の基本的1株当たり当期損失は173.20円となり、前連結会計年度の基本的1株当たり当期利益95.40円から悪化しました。基本的1株当たり当期利益は、親会社の所有者に帰属する当期利益からA種種類株式に係る配当金を控除した金額を、発行済普通株式の加重平均数で除して算出しています。当連結会計年度において、A種種類株式に係る配当20億円(前連結会計年度は20億円)がこの計算に含まれています。
(5)キャッシュ・フローの分析
当連結会計年度における営業活動によるキャッシュ・フローは、524億円のプラスとなりました。投資活動によるキャッシュ・フローは、有形固定資産の取得による547億円の支出等により424億円のマイナスとなりました。以上より、フリー・キャッシュ・フローは100億円のプラス(前年度は153億円のプラス)となりました。
財務キャッシュ・フローと為替換算影響を考慮した後のベースで、当連結会計年度末における現金及び現金同等物の残高は、前連結会計年度末に比べて187億円増加し、630億円となりました。
(6)生産・受注及び販売の実績
1)生産実績
当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次の通りです。
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セグメントの名称 |
金額(百万円) |
前年同期比(%) |
|
建築用ガラス事業 |
357,186 |
95.9 |
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自動車用ガラス事業 |
425,070 |
99.1 |
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高機能ガラス事業 |
42,933 |
107.8 |
|
報告セグメント計 |
825,189 |
98.1 |
|
その他 |
2,215 |
66.8 |
|
合計 |
827,404 |
98.0 |
(注)1.金額は、販売価格によっています。
2.上記の金額には、消費税等は含まれていません。
2)受注実績
受注生産形態をとらない製品が多く、セグメント毎に示すことは難しいため記載していません。
3)販売実績
当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次の通りです。
|
セグメントの名称 |
金額(百万円) |
前年同期比(%) |
|
建築用ガラス事業 |
363,025 |
97.6 |
|
自動車用ガラス事業 |
429,444 |
102.8 |
|
高機能ガラス事業 |
46,584 |
116.6 |
|
報告セグメント計 |
839,053 |
101.2 |
|
その他 |
1,348 |
41.4 |
|
合計 |
840,401 |
100.9 |
(注)1.上記の金額には消費税等は含まれていません。
2.セグメント間の取引については相殺消去しています。
3.主な販売先としてFirst Solar, Inc.があり、当連結会計年度(2025年3月期)の販売実績は85,013百万円(前連結会計年度(2024年3月期)64,860百万円)、当連結会計年度の当該販売実績の総販売実績に対する割合は10.1%(同7.8%)です。
当連結会計年度における、重要な契約等は以下の通りです。
(1)企業・株主間のガバナンスに関する合意
改正府令の施行日前に締結された契約については、適用初年度につき経過措置を適用し、記載を省略しているため、該当する契約はありません。
(2)企業・株主間の株主保有株式の処分・買増し等に関する合意
改正府令の施行日前に締結された契約については、適用初年度につき経過措置を適用し、記載を省略しているため、該当する契約はありません。
(3)財務上の特約が付された金銭消費貸借契約または社債
改正府令の施行日前に締結された契約については、適用初年度につき経過措置を適用し、記載を省略しています。
また、金銭消費貸借契約及び社債は、同種の財務上の特約が付されたものについてはそれぞれ合算しております。
ア.提出会社
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締結日 |
2024年4月1日~2025年3月31日 |
|
相手方の属性 |
都市銀行・信託銀行・その他、地方銀行、第二地方銀行、系統金融機関、生命保険会社 |
|
債務の期末残高 |
91,750百万円 |
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債務の弁済期限 |
2025年11月27日~2030年3月31日 |
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当該債務に付された担保 |
該当ありません |
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財務上の特約の内容 |
①連結純資産75%以上の維持 ②個別開示項目後営業利益の2期連続赤字の回避 ③単体純資産75%以上の維持 ④信用格付の維持(BB-以上) |
イ.連結子会社
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子会社名称 |
NSG UK Enterprises Limited |
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住所 |
European Technical Centre, Hall Lane, Lathom, Nr Ormskirk, Lancashire, England, L40 5UF, United Kingdom |
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代表者氏名 |
Iain Smith |
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社債発行日 |
2024年4月17日 |
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社債の期末残高 |
39,785百万円(165百万米ドル、96百万ユーロ) |
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社債の償還期限 |
2031年4月17日~2036年4月17日 |
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社債に付された担保の内容 |
該当ありません |
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財務上の特約の内容 |
同社連結財務諸表における ①ネットデットEBITDAレシオの上限の維持 ②インタレストEBITDAカバレッジレシオの下限の維持 |
研究開発の強化は当社グループの中期経営計画を達成するために必要不可欠です。Business Development(ビジネスデベロップメント)、Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)、Decarbonization(脱炭素化)は当社グループの4つの戦略的な柱のうちの3つであり、これらの各分野における将来の事業の成功に貢献しています。
当社グループは、主要な市場である日本、米国、欧州で研究開発を行っています。これにより、各地域の顧客ニーズに対する理解をより深めることができます。研究開発部門は、顧客と協力して新たな価値を創造できる分野を探索していますが、独自技術をさらに進化させ、その応用範囲を拡大すること、また、社会の動向を踏まえて、サステナビリティに貢献する分野で先進技術を開発することによってそれを実現していきます。
各事業部門は、地域レベルやグローバルレベルで、研究開発プロジェクトの優先順位付けや計画策定に積極的に関与しています。さらに経営レビューというプロセスにおいて、経営会議や取締役会でも、当社グループにおける研究開発活動の貢献度をモニターし、方向性を決めています。
当社グループにおける当連結会計年度の研究開発費は、99億円となりました。
セグメント別の研究開発費は下表の通りです。
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(単位:百万円) |
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セグメントの名称 |
当連結会計年度 |
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建築用ガラス事業 |
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自動車用ガラス事業 |
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高機能ガラス事業 |
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報告セグメント計 |
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その他 |
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合計 |
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(1)建築用ガラス事業
建築用ガラス事業では、脱炭素化に焦点を当て、サステナビリティに貢献するガラスのリーディングサプライヤーとなることを目指しています。
断熱ガラスやソーラーコントロール(遮熱)ガラスの改良を行い、より良い性能、見た目の美しさ、顧客にとっての加工のし易さを追求しています。
液体コーティング技術に対する新たな投資により、装飾ガラス、商業用冷蔵ケース、高度な複層ガラスの市場において、競争力のある様々な新製品の販売が見込まれます。これらの新製品は、これまでは主に自動車用ガラスの用途に限られていた、当社グループのゾル-ゲル法コーティングに関する豊富な経験の成果によるものです。
太陽電池パネル用ガラス事業も建築用ガラス事業に含まれます。太陽光発電に使われるガラスの市場は、エネルギー市場の不確実性、中国産シリコンへの依存の懸念、気候変動や各国政府による奨励策などが後押しとなり、急速に伸びています。研究開発部門は、当社グループの製造プロセスや、顧客製品に組み込まれる当社製品の改良において重要な役割を果たしています。これは既に確立されたCd-Te太陽電池や、新興のペロブスカイト太陽電池、タンデム型太陽電池においても同様です。顧客ニーズは常に進化しており、当社グループの研究者たちは、高い技術力でそのニーズに応えるために改良を加えています。このようにして当社グループは、潜在的な競合他社に先んじています。
太陽電池の開発に取り組んでいる世界の多くの研究チームが当社グループのコーティングガラス製品を技術開発の基板として使用しています。
以上により、建築用ガラス事業における当連結会計年度の研究開発費は35億円となりました。
(2)自動車用ガラス事業
自動車ガラス事業においては、世界中の顧客がより安全で、コネクテッドで、環境に優しい自動車にシフトできるように製造技術を進歩させ、また、同時にグローバル・サプライヤーとして持続的かつ収益性の高い事業に転換していくことを目指しています。
主な戦略目標は、ビジネスをサポートし、顧客と密接に連携して顧客ニーズを満たすための研究開発プログラムの方向性を定めています。
ますます高度化する運転支援システムに対応するため、製品特性を継続的に改善させていくことが求められています。これらのシステムは、ヘッドアップディスプレイに表示されるデータ量が増加し、画像認識を可能にする高度な光学技術が使用されています。
スタイリッシュな形状や、ますます人気が高まっている大型のルーフガラスを収益性の高い方法で製造できるよう、高度なガラス曲げ技術を開発しています。顧客の中には、そのようなルーフガラスに調光機能を付けることができる中間膜の組み込みを求める顧客もいます。顧客のニーズはそれぞれ異なりますが、研究開発部門は顧客と密接に連携し、顧客のニーズに確実に応えていきます。
以上により、自動車用ガラス事業における当連結会計年度の研究開発費は30億円となりました。
(3)高機能ガラス事業
高機能ガラス事業では、光学レンズ製品やガラスファイバー、ガラスフレーク等のガラス繊維製品、超薄板ガラス製品など、当社のコア技術を活用した多くの成長分野で事業を行っています。
2021年より新たな事業開発体制をスタートしました。環境、オプティクス、デジタルの3つの領域にフォーカスし、それぞれの市場が必要としているソリューション(製品)の開発を行っています。
2024年までの3年間に、高強度高弾性ガラス繊維(MAGNAVI®)、カメラ用の高機能光学機能液など、新たな事業の開発に成功しました。その一部はすでに事業化されて、さらに販売の強化拡大を行っています。
また、新しい市場でのマーケティング活動の拡大のために台湾や北米に新たな駐在員事務所を開設し、グローバルでの取り組みも加速しています。
今後も半導体、データセンターや電池用途など、環境、オプティクス、デジタルの3つのフォーカス領域において顧客との緊密な連携を図り、顧客ニーズに合わせたガラス組成や製造プロセスなどを開発して、新たな事業の構築活動を積極的に進めていきます。
以上により、高機能ガラス事業における当連結会計年度の研究開発費は、9億円となりました。
(4)その他
研究開発部門は、各事業部門に特化した業務テーマに加え、すべての事業部門を横断する技術にも取り組んでおり、当社グループの技術の応用や革新的な技術を採用できる新たな機会を追求しています。
2025年に当社グループはインキュベータープログラムを再開しました。革新的な技術を積極的に採用し、多くの潜在的なビジネスパートナーと交流し、研究開発プログラム全体をサポートする学術プログラムを主導しています。
研究開発部門では英国、日本、米国及びドイツの大学との関係を構築しています。また、科学技術、工学、数学(STEM)教育を支援し、地域社会に貢献しています。
デジタル分野において、研究開発部門は長年にわたり中心的な役割を担っています。自動車用ガラスにおける成形、応力、光学特性を予測するためのシミュレーションツールの利用、板ガラスの製造における高度な工程管理ツールの開発、当社製品の性能を測るために建築家が使用するシミュレーションツールの開発などを行っています。研究開発部門は、これらのテーマを継続し、最新の機械学習、AI、ニューラルネットワークを積極的に活用し、材料探索からインライン自動検査システムにおける物体認識まで、幅広い技術的課題に取り組んでいます。
以上により、その他における当連結会計年度の研究開発費は25億円となりました。