第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

<経営方針>

当社グループは、「私たちは、地球環境に配慮し、たゆまない技術開発と多様な事業活動を通じて、豊かな社会の維持・発展に貢献する企業グループを目指します。」という企業理念のもと、セメントをはじめとする各種製品の安定供給を推進するとともに、持続的発展のため、グループを挙げて事業拡大及びコスト削減等に取り組んでまいります。

 

<事業環境>

今後のわが国経済は、物価上昇や米国の通商政策による影響等が、わが国の景気を下押しするリスクがなお存在するものの、設備投資の持ち直しや雇用・所得環境の改善等の効果もあり、緩やかな回復が続いていくことが期待されます。

セメント業界におきましては、民需は、民間設備投資が堅調に推移することにより、前年並みと見込まれ、また、建設コストの上昇や都市部を中心とした働き方改革のさらなる浸透により、官公需は、減少することが見込まれることから、内需は、減少するものと思われます。

 

<中期経営計画の進捗状況および今後の取組>

 当社グループは、中長期的ビジョンとして2035年のありたい姿「SOC Vision2035」を定めました。本ビジョンにおいては、環境解決をキーワードとして、持続的な成長を通じて、社会から必要とされる存在感のある会社となることを目指しており、その最初のステップとして、「2023-25年度 中期経営計画」を策定しております。

 本中期経営計画の当期の進捗状況および今後の取組は、以下のとおりであります。

 

 ①既存事業収益改善

  (イ)セメント事業収益力回復

 適正価格の確保に努め、セメント工場における化石エネルギー代替物の増量を目的とした設備投資、輸送力の確保を行いました。引き続き、適正価格の確保、化石エネルギー代替物の収集拡大、輸送力の確保に努め、安定収益の確保に取り組んでまいります。

  (ロ)次世代光通信部品の市場シェア獲得による収益改善

 次世代光通信部品の開発に取り組みました。引き続き、次世代光通信部品の開発、量産体制構築に努めてまいります。

 

 ②成長基盤構築

  (イ)半導体製造装置向け電子材料事業へのリソース集中投入による規模拡大・収益力強化

 建設中の新製造棟をはじめとした半導体製造装置向け電子材料の生産能力の増強、次世代半導体製造装置向け電子材料の開発に取り組みました。引き続き、半導体製造装置向け電子材料の量産に向けた準備及び次世代半導体製造装置向け電子材料の開発を進め、規模拡大・収益力強化に取り組んでまいります。

  (ロ)海外事業拡大(豪州事業)

 豪州ターミナル事業の収益安定化を進めるなど豪州事業の拡大に努めました。引き続き、豪州事業の拡大に取り組んでまいります。

  (ハ)脱炭素分野の新規事業開発

 人工石灰石を使用した製品の開発等に取り組みました。引き続き、新規事業の開発に取り組んでまいります。

 これらに加え、鉱産品事業は、秋芳鉱山船積バースの延伸、鉱量確保のための新規鉱画開発を進め、継続して事業の持続的な成長に取り組んでまいります。建材事業は、都市部における建築物の土木工事の受注拡大に努め、引き続き、建設ICTにより更なる省力化と生産性向上に取り組んでまいります。

 

 ③経営基盤強化

  (イ)人財戦略

 人財基本方針を策定し、多様な人財の採用による人財確保や人財育成のための研修強化に取り組みました。

 

  (ロ)研究開発戦略

 高機能品事業分野、脱炭素分野の新規事業創出のための研究開発強化に努めました。

  (ハ)知財戦略

 知財スキル人財育成および知財情報解析の経営戦略への活用(IPランドスケープ)の推進に努めました。

  (ニ)DX戦略

 AIを活用した業務ツールの試行、業務効率化に繋がるデジタル活用に取り組みました。

 デジタル推進部の新設によるDX推進、サイバーセキュリティ対策の強化等、引き続き、経営基盤強化に取り組んでまいります。

 

 これらの取組を通じて利益の最大化を実現し、株主還元方針に沿って、安定配当を含めた持続的な株主還元を図るとともに、政策保有株式の売却を含む資産圧縮等による資本最適化を通じて、2025年度の数値目標として、ROE(自己資本当期純利益率)8%以上及びROIC(投下資本利益率)5%以上を目指してまいります。

 なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

 

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1)基本方針

当社グループは、「信用を重んじ確実を旨とする」住友の事業精神に基づき、「私たちは、地球環境に配慮し、たゆまない技術開発と多様な事業活動を通じて、豊かな社会の維持・発展に貢献する企業グループを目指します。」と企業理念を定め、事業を通じて社会課題の解決に取り組んできました。

当社グループの持続的で健全な発展には、「地球温暖化防止」という国境を越えた社会課題への取組が必要不可欠だと考えており、2020年には、2050年カーボンニュートラルへ向けた長期ビジョン「SOCN2050」を策定し公表しました。また、広範囲に及ぶサステナビリティ(持続可能性)を経営に取り入れていく必要があると考え、カーボンニュートラルの実現とともに、「サプライチェーン等における人権尊重」に対しても、包摂的に取り組んでいきます。

また、当社グループの中長期ビジョン「SOC Vision2035」においても、2035年のありたい姿として「環境解決企業」「脱石炭への挑戦」を打ち出し、ESG目標を設定し経営基盤強化を推進しております。

 

E(環境):「SOCN2050」を基に、2035年まで約1,000億円のカーボンニュートラル投資を実施、セメント

      製造に関わるCO2排出量削減目標(注1)の実現、植林活動や海洋製品事業の展開によって

      生物多様性の保全に貢献

      (注1)セメント製造に関わるCO2排出量削減目標

           …2030年度エネルギー起源CO2排出原単位30%削減(2005年度比)

S(社会):事業拡大を見据えた人財確保・育成・定着、D&I・人権尊重を推進し、社会共存・共生を図る

G(ガバナンス):企業経営の透明性、公平性を継続的に強化し、長期的な企業価値向上を図る

 

(2)マテリアリティ

当社グループは、企業活動を通じて重点的に取り組む社会課題を、5つのマテリアリティとして特定しております。マテリアリティへの取組は、当社グループの成長と社会課題の解決を両立するもので、中長期の経営戦略の基盤となるものです。

マテリアリティ特定に当たり、従前から継続してきた事業やCSR活動を基礎に当社グループの企業理念を踏まえ、社内外のステークホルダーの関心や期待を反映した上で、当社グループが特に重要と考え、今後も取組を続けていく課題を特定しました。

 

(マテリアリティ特定プロセス)

 STEP1:課題の特定…マテリアリティ候補の収集・抽出

 STEP2:優先順位付け…自社視点および社会視点における重要性評価の実施

 STEP3:取締役会における重要性評価の実施

 

 

(マテリアリティ・マトリックス)

 マテリアリティ特定プロセスにおいて、想定される各課題に対する当社における重要度と社内外ステーク

ホルダーにおける重要度をそれぞれ評価しました。

 


 

 ①豊かな社会の維持・発展に貢献

社会インフラを構築するために不可欠で、国民の安全・安心を守る国土強靭化に貢献するセメント製品・サービスの安定供給と、より便利で快適なIoT・ICT社会に必要な光電子事業、新材料事業の展開を通して、産業のイノベーションを支え、豊かな社会の維持・発展を目指します。また、研究・開発を継続して行い、製品の安全と品質を高めていきます。

 

 ②地球環境への配慮

環境負荷の少ない生産・発電・物流を追求して、地球環境保全を図ります。地球温暖化の防止として当社グループの2050年カーボンニュートラルビジョン「SOCN2050」に基づく取組を推進し、セメント工場における化石エネルギー代替となる廃棄物のエネルギー利用の拡大と、CCUS(注2)に繋がる技術開発を進めるとともに、工場・事業所ではエネルギーの効率的な利用、大気・水・土壌の汚染防止を進めていきます。また、鉱山の周りでの採掘後の鉱山跡地における植林活動を通じた森林復元や、海洋製品事業(魚礁・藻場礁)の展開、遊休粘土鉱山におけるツシマヤマネコ保護活動によって、生物多様性の保全に貢献します。

(注2)CCUS…CO2の回収(Capture)、利用(Utilization)、貯留(Storage)に関わる技術

 

 ③循環型社会への貢献

セメント製造を通して、産業廃棄物・一般廃棄物・副産物を安全かつ大量にリサイクルして、循環型社会に貢献します。また、バイオマス発電事業により、地域の間伐材等を受け入れ、クリーンエネルギー創出の役割を担っていきます。

 

 ④人財の育成・活用

社員向け研修や、ダイバーシティ推進など諸施策を通して、人財の育成と活用を図ります。各職場では安全への取組を実施し、人権を尊重し、従業員が心身ともに健康に働けるような環境づくりを推進します。

 

 

 ⑤ガバナンスの充実

企業経営を規律する仕組みであるコーポレートガバナンスの充実により、経営の効率性を向上させるとともに、コンプライアンスを徹底することにより経営の健全性と透明性を確保し、継続的な企業価値の向上を実現させます。

 

(3)サステナビリティ委員会の設置

当社グループの地球環境問題への取組と人権課題への取組を統括する機関として社長を委員長とする「サステナビリティ委員会」を設置し、全社の組織を横断して、事業活動と一体化したサステナビリティ推進に取り組んでいます。

同委員会の下に専門部会として、カーボンニュートラルおよび環境(生物多様性、大気への排出、排水、廃棄物等)への取組を推進する「カーボンニュートラル・環境部会」と、労働・社会(サプライチェーン等における人権尊重等)への取組を推進する「労働・社会部会」を設置しています。

委員会および部会は、議事内容を取締役会に定期的に報告し、重要な事項については取締役会に付議することで、取締役会が監督し、経営と一体としてサステナビリティ課題に取り組んでいます。

 

サステナビリティ委員会 組織図(2025年3月31日時点


 

(4)気候変動に関する取組(TCFD提言に沿った気候変動関連の情報開示)

当社グループは2021年7月に、金融安定理事会(FSB)により設置された気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)による提言に賛同し、当社グループのCO2排出量の大部分を占めるセメント事業を含む全事業における気候変動が及ぼす影響についてシナリオ分析を行いました。

 

 ガバナンス

サステナビリティ委員会の下部組織である専門部会「カーボンニュートラル・環境部会」は定期的に開催され、気候変動問題に関する情報の集約、リスクの想定、対応策の立案、社内教育・啓蒙プログラム推進等、年度活動の計画立案およびその進捗管理を行っています。カーボンニュートラル・環境部会において審議された重要な事項については取締役会へ報告し、審議されます。

また、カーボンニュートラル・環境部会を運営し、気候変動問題を中心としたサステナビリティ課題に関する事項を専属で司る「サステナビリティ推進室」を2021年4月に設置し、2025年4月1日からは「サステナビリティ推進部」へ改組し体制を強化しています。

 

 

 戦略

 <2030年時点において想定されているリスクと機会の財務インパクトの規模とその影響度分析>

当社グループ全事業における気候変動の影響について、2030年を想定し、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)やIEA(国際エネルギー機関)などの専門機関が描くシナリオを参考に、分析を行いました。気候変動がもたらすリスクは、低炭素社会への移行に伴うリスク(移行リスク)と物理的な影響(物理的リスク)に分けられます。地球の平均気温上昇が産業革命前と比べて1.5℃以下または4℃上昇するシナリオを想定してシナリオ分析を行い、それぞれのリスクと機会について、影響度が高いと思われる項目を抽出しました。

2030年時点において想定されているリスクと機会の財務インパクトの規模および影響度は、下記の通り評価しております。

 

分 類

リスク

機会

1.5℃シナリオ

4℃シナリオ

ネガ
ティブ

ポジ

ティブ

ネガ
ティブ

ポジ

ティブ

移行リスク

政策

・規制

・炭素税の

 引き上げ

 

・温室効果 

 ガス排出や

 化石エネ

 ルギーに

 関する規制

・化石エネルギーの価格

 上昇によるコスト増加

 

・保有自家発電設備が、

 更なる非効率石炭火力

 フェードアウト対象と

 なった場合の、売電

 事業の縮小・喪失

 

・工場使用電力を自家発電

 から外部購入に切り替え

 た場合の電力コスト

 増加

 

・石炭代替熱エネルギー

 (廃プラスチック・

 バイオマス燃料)の

 更なる利用促進による

 廃棄物処理事業の収益

 拡大

 

・工場跡地等の遊休地を

 再生可能エネルギー発電

 や植林に活用することに

 より新たな発想で新規

 事業を創出

 

技術

・新技術

 開発

・新技術の研究開発費や

 CN実現のための設備投資

 増加による、コスト増加

・CO2排出削減技術の向上

 に伴う収益獲得

(炭酸塩鉱物化、

 人工光合成水素製造、

 アンモニア・水素利用)

 

・CO2有効利用技術の進歩

 と活用により、新規事業

 を創出

(メタン、メタノール、

 プラスチック素材)

 

・保有未使用特許を

 新たな市場で活用

 

 

 

 

 

 

分 類

リスク

機会

1.5℃シナリオ

4℃シナリオ

ネガ
ティブ

ポジ

ティブ

ネガ
ティブ

ポジ

ティブ

移行リスク

市場

・ユーザー

 行動の変化

・混合セメント使用量増加

 によるクリンカ生産量

 減少

 

・炭素排出コストが低い国

 からの低価格セメントの

 国内への流入

 

・海外低炭素型セメントの

 国内における普及による

 セメントシェア圧迫

 

・低炭素物流の志向による

 物流コスト増加

 

・低炭素型セメント、

 低炭素型コンクリートの

 更なる開発と普及促進による製品差別化に

 伴い、低炭素型建設

 構造物への採用が進む

 ことで事業が拡大

 

ヒートアイランド現象

 低減効果、燃費向上

 効果、耐久性の観点で

 LCAに優れたコンクリー

 ト舗装の普及拡大に

 より、セメント需要が

 増加

 

 

 

・リサイ

 クル市場

・廃棄物、副産物の発生

 減少による収集競争の

 激化に伴う

 ①廃棄物の品質悪化、

  処理費低下

 ②副産物の品質悪化、

  価格高騰

 

・バイオマスエネルギーの

 調達競争激化による

 価格高騰

 

・廃棄物、副産物利用技術

 の進歩による受入品目の

 増加

 

・多様な廃棄物を収集、

 前処理可能な設備を

 活用した、廃棄物からの

 資源抽出、精製、販売等

 の新規事業分野の拡大

 

 

 

・光電子、

 新材料事業

・気温上昇に伴う生活様式

 やワークスタイルの変化

 に起因するデータ通信量

 増加により、省力デバイ

 ス需要が高まり、光通信

 部品や半導体製造装置

 部品の需要増加

 

 

 

 

 

分 類

リスク

機会

1.5℃シナリオ

4℃シナリオ

ネガ
ティブ

ポジ

ティブ

ネガ
ティブ

ポジ

ティブ

移行リスク

評判

・ステーク

 ホルダー

 評価の変化

・温室効果ガス排出企業への評価低下による資金調達難等

 

・下記により企業評価が

 向上し、資金調達や

 社員採用に有利に働く

 ①積極的な気候変動対策

 ②CO2利活用分野の

  新規技術開発

 ③新規事業推進

 ④廃棄物、副産物処理の

  貢献

 

 

 

物理的リスク

 

急性的

・自然災害

 の頻発、

 激甚化

・大型台風、豪雨等頻発に

 よる生産拠点、サプライ

 チェーン寸断による

 支障、復旧コスト増加

 

 

・国土強靭化による

 インフラ整備、構築物の

 補修、補強等に伴う

 セメント関連製品の

 需要増加

 

・災害廃棄物処理による

 社会的価値の向上

 

慢性的

・平均気温

 の上昇、

 慢性的な

 異常気象

 の発生

・気温上昇による現場

 従業員の健康、安全面

 での労働力への悪影響

 

・海面上昇を起因とする

 高潮による臨海拠点の

 浸水被害

・省人化(工期短縮、

 施工効率化)工法の

 需要増加

 

・海洋製品の需要拡大、

 事業創出による新規

 収益源の獲得

 

 

 

 

 

1.5℃シナリオでは、炭素税の引き上げや化石エネルギーに関する規制が強化され、セメント製造及び自家発電設備において石炭を使用するほかに、他社石炭火力発電所から発生する石炭灰・石膏をセメント原料とする当社グループにとって、コスト増加が想定される一方で、石炭に代わる熱エネルギーとして廃プラスチックや木質バイオマスエネルギーの利用を高めることで、リサイクル処理収入による収益拡大と化石エネルギーの代替によるCO2排出量削減が期待できます。

また、CO2の排出削減を推進するためには、研究開発や設備投資によるコストの増加が予想されますが、同時に、技術力向上による新たな事業の創出、収益機会の獲得が期待できます。低炭素社会への移行に際し、ユーザー行動の変容が想定されますが、製造過程でCO2を発生するセメントを敬遠し需要が減少する可能性がある反面、アスファルト舗装よりもライフサイクルコストに優れ、気温上昇を抑える効果も有するコンクリート舗装の評価が高まり、セメント需要が増加する可能性もあります。

 

リサイクル市場では、廃棄物・副産物の発生量が減少することが想定され、廃棄物・副産物の調達に影響を及ぼす可能性がある一方で、廃棄物・副産物処理技術の向上に伴い受入れ可能な品目が拡大し、収益の増加が期待できます。

光電子、新材料事業分野では、ライフスタイル、ワーキングスタイルの変革によるデータトラフィックの増大や脱化石エネルギーによる電力の増加に伴う需給逼迫リスクが増大することから、大容量、高速、省電力デバイスのニーズが高まり、光電子事業の光通信部品や新材料事業の半導体製造装置部品の需要増が期待できます。

4℃シナリオの物理的リスクでは、気候変動を原因とする平均気温の上昇や自然災害の頻発・激甚化により、生産部門での労働力への影響や生産拠点やサプライチェーンの被害増加が生じ、コスト増加が見込まれる反面、国土強靭化に資するセメント関連製品や省人化工法等の需要増加が見込まれます。

 

<2050年カーボンニュートラルへのロードマップ(2050年CNに向けた11のステップ)>

セメント産業におけるカーボンニュートラルの達成のためには、化石エネルギー起源CO2を可能な限り削減した上で、排出量の約6割を占める主原料の石灰石由来のプロセス起源CO2(注3)の削減が不可欠です。当社グループは2050年までに自社の技術革新・事業基盤の革新と共に、国内外のあらゆる削減方策を総動員して組み合わせる「削減ミックス」が重要と考えています。

当社グループが2050年カーボンニュートラルに向けて取り組む11のCO2削減施策を開発段階に応じて3段階に整理し、ロードマップとして策定しました。

 

(注3)プロセス起源CO2とは、セメントの主原料である石灰石の炭酸カルシウム(CaCO3)がセメントの必須

    化合物である酸化カルシウム(CaO)に化学変化する過程で発生するCO2であります。

 


 

・表中の①、②、③、④、⑤:確実性の高い施策

 確実性の高い施策として以下のような施策があり、既に取組を始めています。

 

①化石エネルギー・総エネルギー削減

 エネルギー由来CO2の排出量削減に向けて、セメント工場での原料ミル最新鋭化などの省エネルギー・高効率

な設備導入を進めます。当社グループの化石エネルギー代替率は業界トップクラスであり、エネルギー原単位

についてもトップクラスの効率性を達成しています。

 

 

②バイオマス・廃棄物エネルギー利用

 セメント工場で、リサイクル処理・受入設備の投資を行い、バイオマス・廃棄物エネルギー(廃プラスチッ

ク、廃タイヤ、廃油など)の利用を増やし、化石エネルギー代替を進めます。栃木工場と岐阜工場においては

2023年度で代替率60%を超えており、業界トップクラスに位置しています。

 

③電力削減・クリーン化

 セメント工場で使用する電力は約80%を自家発電設備により供給していますが、バイオマス等非化石エネル

ギーの最大化を図ります。栃木工場のバイオマス発電所では、石炭レス発電を可能としています。またこの

バイオマス発電により、本社オフィス使用電力は実質カーボンニュートラルとなっています。更に、今後石炭

から非化石エネルギーへの転換も検討していきます。

 

④クリンカ比率低減によるセメント低炭素化

 セメント中の少量混合成分の上限を5%から10%に上げて、クリンカ比率低減を図る為のJIS改正に向けて

業界を挙げて取り組んでいます。また高炉スラグの分量増加等、混合セメントの利用拡大を進めていきます。

 

⑤カルシウム(Ca)含有廃棄物原料化による脱炭酸削減

 一般焼却灰、廃コンクリート、廃石膏ボード等のCa含有廃棄物を収集し、「CO2を排出しないCa原料」として

利用することで、天然石灰石の使用量を減らします。

 

・表中の⑥、⑦、⑧:技術開発中の施策

 プロセス由来のCO2削減に関しては排ガスからCO2を回収して有効利用するCCUSが必須です。

 

⑥人工石灰石の製造・利用によるCCU(注4)

 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のグリーンイノベーション基金での採択

事業「多様なカルシウム源を用いた炭酸塩化技術の確立」では、下記図のように、Ca含有廃棄物から酸化

カルシウム(CaO)を抽出し、セメント焼成で発生するCO2と再結合させる「CaとCO2のデュアル・リサイクル

技術」で人工石灰石(CaCO3)を生成するCCUを実現します。(2030年までに総事業費69億円の研究開発プロ

ジェクト)

 本技術は、セメント工場が排出するCO2を「削減」するのみならず、人工石灰石中にCO2を「固定化」する

ことができます。今後国内の製造拠点で人工石灰石を量産し、建設産業はもちろん、様々な産業での用途に

販売していきます。

(注4)CCU…Carbon dioxide Capture and Utilization=二酸化炭素の分離回収と有効利用


 

⑦カーボンリサイクルセメント(CRC)の製造

 上記⑥で製造した人工石灰石を使用したCRCを製造し、ゼネコンや二次製品メーカーに販売していきます。

2025年の大阪・関西万博においては、住友館の建築物や物品の一部に、当社のCRCが使用されています。

 

⑧CO2利用革新技術による新規事業

 ネイチャーポジティブ企業としてセメント工場や発電所を最大限に利用する新規事業に取り組んでいます。

バイオマス発電所の排ガス中のCO2を農林業へ利用する取組や、藻場増殖礁を進化させ、急速に注目を集める

ブルーカーボンによるCO2固定も検討し、多様な新事業を創出し、次世代セメント産業の一つの姿を提案してい

きます。

 

・表中の⑨、⑩:調査検討中の施策

⑨アンモニア・水素・合成メタンの活用

 2030年代後半の実用化を目指し、セメントキルンの燃焼に化石エネルギーとアンモニア・水素の混焼を

用いる焼成技術の開発の検討を進めます。また、セメント工場の排ガスからCO2を分離回収して製造した

合成メタンを燃料として活用する方法も研究していきます。

 

⑩CCS(注5)

 CCUで有効利用できないCO2は地中に貯留(CCS)する必要がありますが、設備規模、コストなどにおいて

課題があります。現在各地で検討が進んでおり、国内法も整備され始めています。サプライチェーンの構築が

必要となる為、パートナーと協働検討を始めています。

(注5)CCS…Carbon dioxide Capture and Storage=二酸化炭素回収・貯留技術

 

・表中の⑪:オフセット

⑪コンクリート供用中のCO2吸収(国際的コンセンサス)

 コンクリートやセメント製品はCO2を鉱物固定するCaなどが豊富に含まれ、大気中のCO2の鉱物固定源として

有望です。国際的にコンクリート構造物が供用期間中を通じて大気中のCO2を吸収・固定化する検討が進んで

います。当社は通常のセメントの2倍以上の大気中CO2吸収固定速度を持つNETs(注6)技術実装製品の開発・

試験施工に成功し、実用化の目途を付けました。今後は定量的な評価方法のコンセンサスを得ることで、CO2

排出量をオフセットする可能性を検討しています。

(注6)NETs…Negative Emission Technologies

       =大気中のCO2を回収・吸収し,貯留・固定化することで大気中のCO2除去に資する技術

 

リスク管理

 当社グループは、サステナビリティ推進部を事務局とする「サステナビリティ委員会カーボンニュートラル・環境部会」においてCO2排出量削減の計画立案、進捗管理をグループ横断的に行っています。当社グループの事業が気候変動によって受ける影響を識別・評価するため、気候変動のリスクと機会を抽出、分析し、必要に応じてサステナビリティ委員会カーボンニュートラル・環境部会や取締役会を通じて適切に対処します。

 

指標及び目標

 当社グループは企業活動を通じて重点的に取り組む社会課題であるマテリアリティ(重要課題)の一つとして「地球環境への配慮」を掲げ、リサイクルによるエネルギー代替の推進やバイオマス発電の活用など地球温暖化防止に取り組んできました。また、2020年12月には、2050年カーボンニュートラルへ向けた長期ビジョン「SOCN2050」を策定し、2050年までのあらゆる方策を通じて、当社グループの企業活動をカーボンニュートラルにすることに挑戦するとともに、サプライチェーンを通じて社会全体の脱炭素化への貢献をするための取組を進めています。

 

 

<2030年度のCO2排出削減目標>

 当社グループのセメント工場は、これまで培ったリサイクル利用技術やその調達の最適化により国内トップクラスの化石エネルギー代替率およびリサイクル品使用原単位を実現しています。加えて、国内外の先端省エネルギー基幹設備やバイオマス自家発電設備をいち早く導入するなど、セメント製造に係る温室効果ガス排出の削減に積極的に取り組んできました。

 

・セメント製造に関わる2030年度エネルギー起源CO2排出原単位を2005年度比30%削減(排出量では45%削減相当)

①リサイクル品の更なる利用拡大により化石エネルギー代替率トップクラスの堅持

 目標:化石エネルギー代替率全社平均50%以上へ

 (当社グループ5工場8キルンのうち4キルンで化石エネルギー代替率80%超)

②熱効率向上・電力消費の最小化により電気エネルギー削減(原料粉砕工程の最新鋭化)

③自家発電で使用する化石エネルギー削減(木質チップなどバイオマス燃料増量)

 

・目標に対する進捗    

                                     (単位:kg-CO2/t-セメント)

セメント製造に関わる

エネルギー起源CO2排出原単位

実績

目標

2005年度

2023年度

2030年度

316

269

220

 

 

                                            (単位:%)

化石エネルギー代替率

(全社平均)

実績

目標

2005年度

2023年度

2030年度

17

39

50

 

 

 

<温室効果ガス排出実績(2023年度)>

 ・Scope1+2

 


 

 ・Scope3

 


 

 

(5)人財の育成及び社内環境整備に関する方針、戦略

当社グループは、従業員が安心して働くことができるように、安全・健康で働きやすい快適な職場環境づくりに努めています。また従業員一人ひとりが長きにわたりいきいきと働ける組織・職場づくりを目指し、能力や適性を活かして社会に貢献できる人財の育成と、活力ある会社づくりを目指しています。

 

①健康経営(well-being)への取組

社員の健康保持増進に取り組むため、健康宣言「住友大阪セメントグループは、すべての社員がノビノビ・イキイキと心身ともに健康で、元気よく働くことができる、活気あふれる会社を目指します。」を制定し、2022年度の初回認定以降、健康経営優良法人2025(大規模法人部門)の認定を継続取得しました。

男女とも仕事と生活を両立させながら意欲高く働き続けられる職場環境づくりを推進するため、法定を上回る育児・介護休業制度や短時間勤務制度の整備や、一事業年度のうち、年次有給休暇取得奨励日を計画的に配置する事で年次有給休暇取得率の向上を図っております。また、テレワーク制度・フレックス制度を整備することで、従業員の多様で柔軟な働き方を実現しております。

健康に関する施策として女性特有の健康課題や運動機会増進・コミュニケーション活性化などを主軸として多様な取組を進めており、今後も明確な目標設定と具体的な取組を実施しながらPDCAサイクルを繰り返し、社員の健康増進に向けて取り組んでまいります。

 

②人財の育成・ダイバーシティの推進

企業の成長エンジンである人財の可能性を最大限に引き出し、企業価値を向上させるためのポリシーとして、2024年度に「人財基本方針」を策定しました。「人財基本方針」は当社の企業理念・行動指針を踏まえた、人財に対する考え方の中核をなす概念です。社員一人ひとりを大切にする原則のもと、当社が求める社員像と社員への約束の原則をうたったもので、この方針をベースに当社の人事施策が実行され、個々の成長と当社の発展を目指します。

当社はものづくりだけでなく、成長エンジンとなる人財の育成に積極的に投資を行っています。研修をはじめとした様々な教育・経験の機会を提供し、環境解決企業の一員として事業の発展に持続的に貢献していく市場価値の高いプロフェッショナル人財の育成と、チームワークで互いの得意分野の知識や技能を認め合い、伝え合い、与え合う風土を高めていくことが当社の目指す人財育成です。階層別研修をはじめとする各種研修・支援制度を通じて、能力や適性を生かし、リーダーシップを発揮する社員の育成を図っています。


 

また、多様な人財がいきいきと働ける企業を目指し、女性の積極採用並びに活躍の場の拡充に加え、育児・介護などと仕事の両立支援に関する諸制度の拡充など様々な取組を行っています。

障がい者雇用にも積極的に取り組み、定着に向けた取組を進めています。加えて、定年退職者を知識・技能経験を保有した貴重な人財と位置づけ、若年世代への着実な技術継承を行う為、希望者全員が65歳まで更新できる再雇用制度を導入しています。キャリアを振り返り、自身の強みを活かした新たな役割を創造するため、57歳と59歳、定年後の60歳にキャリア研修を実施しております。

 

③安全衛生への取組

従業員の安全衛生は企業存立の基盤をなすものであり、安全衛生の確保は企業として重要な責務であると考えています。当社グループは安全に厳しい企業として、災害ゼロを目指しており、職場単位の安全教育や、階層別安全教育、安全体感装置を用いた安全体感教育等を通じ、「安全に厳しい風土づくり」の醸成に努めています。

また、当社グループでは、全社の安全衛生・保安対策本部を設置し、事務局を中心とした定期的な連絡会の実施等、安全に対する一層の取組強化を行っています。

不安全行動と不安全状態の解消を徹底し、安全衛生水準の更なる向上と快適な作業環境の形成を図ります。

 

④人権への取組

住友大阪セメントグループは、住友の事業精神と当社グループの企業理念に基づき、高い社会規範の意識と企業倫理を持って事業活動を行うことを基本としており、人権尊重が経営の根幹であり、最も重要な課題の一つと認識し、サステナビリティ委員会 労働・社会部会と取締役会の審議を経て2023年8月に「住友大阪セメントグループ人権方針」を策定しました。

この人権方針の理解浸透を図るため、毎年12月の国際人権デーに合わせ、全社員を対象としてビジネスと人権に関するセミナーを実施しています。また、リスクの洗い出しとマッピング実施により、当社の課題抽出を行い、重点課題への活動を継続していきます。今後、当社グループおよびサプライチェーン全体で人権デュー・ディリジェンスを進めるなど、人権尊重のための継続的な取組をグループ全体で推進していきます。

 

(6)人財の育成及び社内環境整備に関する方針に関する指標並びに当該指標を用いた目標及び実績

(5)人財の育成及び社内環境整備に関する方針、戦略で記載した、人財の多様性の確保を含む人財の育成に関する方針および社内環境整備に関する方針について、次の指標を用いております。当該指標に関する目標および実績は、次の通りであります。

 

指標

目標

実績(当事業年度)

管理職に占める女性労働者の割合

2027年3月31日までに4.0以上

3.2

男性労働者の育児休業等(育児目的休暇含む)取得率

2027年3月31日までに75.0以上

77.8

新卒採用数(総合職)に占める女性
労働者の割合

その事業年度の採用活動における

採用率20.0以上

18.5

年次有給休暇取得率(組合員平均)

その事業年度において、組合員平均80.0以上の取得率

85.5

 

 

なお、当社グループでは、当該指標については、当社においては、関連する指標のデータ管理とともに、具体的な取組が行われているものの、連結グループに属する全ての会社では行われていないため、連結グループにおける記載が困難であります。このため、上記の指標に関する目標及び実績は、連結グループにおける主要な事業を営む提出会社のものを記載しております。

 

 

3【事業等のリスク】

有価証券報告書に記載した事業の概況、経理の状況等に関する事項のうち、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項には、以下のようなものがあります。

なお、当連結会計年度において、事業を取り巻くリスク環境が変化していること、また当社グループの中長期ビジョン「SOC Vision2035」に対応したリスクマネジメントにするために、事業等のリスクの見直しをしております。

また、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1)市場リスク

 ①セメント国内需要の減少リスク

 セメントの国内需要は、わが国の公共投資や民間設備投資等の動向に強く影響を受けるため、国内の公共投資や民間設備投資が急激に減少した場合、当社グループに重要な影響を及ぼす可能性があります。

 しかしながら、セメントは欠かすことのできないものであり、中長期的には一定規模以上の需要は安定的に確保されることが予想され、また当面の国内需要の減少を見据え、効率的な生産・物流体制の見直しを行うとともに、さまざまなコスト削減や販売価格の改善にも取り組んでいます。

 

 ②原材料の価格高騰リスク

 主力事業であるセメント事業では、石灰石、粘土、石炭等さまざまな原材料を使用しているため、原材料の価格高騰はセメント製造コストの増加を招き、当社グループに重要な影響を及ぼす可能性があります。

 しかしながら、石灰石は当社グループの自社鉱山があるため、長期にわたって安定供給することができる体制が整っている一方、石炭は国際政情により価格が高騰する可能性があるため、カーボンニュートラルへ向け石炭使用量削減を進めるとともに、地政学リスク低減に向けた分散調達を実施し、石炭価格上昇によるコスト増加分は販売価格への転嫁に努め、業績への影響の軽減を図っています。

 

 ③光電子事業、新材料事業の市場変化に対するリスク

 光電子事業、新材料事業が展開する市場は国内外の市場であり、急速な技術革新や技術標準の進展、顧客所要の変化を受けるため、当社グループに重要な影響を及ぼす可能性があります。

 そのため、競争の激しい市場での厳しい要求に応えるべく、経営資源を投入し継続的に研究開発や改良に取り組んでいます。

 

 ④固定資産の減損リスク

 固定資産減損会計の適用に伴い、固定資産が収益性の低下や市場価値の下落により投資額の回収が見込めないと判断された場合、将来の収益計画等に関する予測に基づき、固定資産の帳簿価額を回収可能価額まで減額する固定資産の減損処理が必要となります。事業環境の変化等により、割引前将来キャッシュ・フローが資産グループの帳簿価額を下回ることで減損損失が発生した場合、当社グループに重要な影響を及ぼす可能性があります。

 

(2)地球温暖化・カーボンニュートラルリスク

 当社グループは、高レベルの資源・エネルギー効率でセメントを生産しておりますが、今後CO2の排出や化石燃料の利用に対する新たな規制等が導入された場合には、セメント事業を中心に事業活動が制約を受けコストが増加するなど、当社グループに重要な影響を受ける可能性があります。

 そのため、2020年公表の2050年カーボンニュートラルへ向けた長期ビジョン「SOCN2050」に基づき、CO2排出削減への取組を進めています。

 

 

(3)自然災害リスク

 セメント工場は大型設備を有しているため、自然災害など予期せぬ事態により工場操業に支障をきたした場合、復旧するための時間やコストを浪費するなど、当社グループに重要な影響を及ぼす可能性があります。

 そのため、定期的な設備点検や災害防止パトロールを行い、生産計画に基づいた安定操業を図るべく万全の配慮を払い、また工場操業に支障を来す事態が発生した場合でも、BCP(事業継続計画)を策定・運用していることで、操業リスクを最小限に抑制する施策を講じております。なお、工場で操業に支障を来す事態が発生した場合でも、セメント工場間の操業振替や業務提携先からの仕入等により、取引先に対するセメント供給は安定して行うことが可能であります。

 

(4)安全衛生・感染症リスク

 セメント産業は装置産業であり、多くの操業要員によって製造しているため、労働災害や感染症により操業要員を確保できない場合、当社グループに重要な影響を及ぼす可能性があります。

 そのため、安全に厳しい企業として災害ゼロを目指し、「安全に厳しい風土づくり」を醸成すべく、各種安全教育の実施や全社の安全衛生・保安対策本部での定期的な連絡会の実施等、安全に対する一層の取組強化を行っております。また、感染症に対しては、発生した場合の感染拡大を防止する施策として、当社策定の対応基本マニュアルを運用しています。

 

(5)人権・ハラスメントリスク

 住友の事業精神と当社グループの企業理念に基づき、高い社会規範の意識と企業倫理を持って事業活動を行うことを基本としておりますが、事業活動を通じて直接・間接的に人権問題が発生した場合、当社グループに重要な影響を及ぼす可能性があります。

 そのため、人権尊重に対するコミットメント遵守のために、住友大阪セメントグループ人権方針を策定し、人権リスク評価マップによる重点課題への対応や人権デュー・ディリジェンス、役員や従業員対象の人権セミナーの実施などを通じて、私たちが事業活動において人権を侵害することがないよう取り組んでいます。

 

(6)人財確保リスク

 セメント事業を始め高機能品事業などさまざまな事業活動を永続的に行うためには、労働力の確保として優秀な人財を採用し雇用を維持する必要がありますが、採用人数が充足できない場合や優秀な人財の流出が発生した場合、当社グループに重要な影響を及ぼす可能性があります。

 そのため、労働環境や労働条件を整備するなど魅力ある企業づくりを推進し、また多様な人財がいきいきと働ける企業を目指し、女性の積極採用並びに活躍の場の拡充、育児・介護などと仕事の両立支援に関する諸制度の充実に向けた取組も行っています。

 

(7)DXリスク

 我が国や諸外国において、データ活用やデジタル技術の進化、グローバル化による産業構造の変化が進行している中、デジタル技術の適用が著しく遅延した場合や他社がデジタル技術を活用して生産性や競争力を向上させるなどにより、当社グループに重要な影響を及ぼす可能性があります。

 そのため、2025年4月1日に専門部署であるデジタル推進部を設置し、デジタル技術を活用した業務変革や新規ビジネスを創出するなど、さらなる企業価値の向上に取り組んでいます。

 

(8)情報セキュリティリスク

 取引先の顧客情報を始め社員の個人情報や研究開発に関する機密情報など保有しているため、サイバー攻撃や情報機器の脆弱性に起因した情報漏洩などが発生することで、当社グループに重要な影響を及ぼす可能性があります。

 そのため、外部からのサイバー攻撃などに対して、新たなセキュリティサービスなどの導入やインフラ基盤整備を適宜実施することで、情報セキュリティの強化に取り組み、また巧妙化・多様化していくサイバー攻撃に対して定期的な状況アセスメントを行い、改善および追加対策を実施していきます。情報セキュリティ事故が発生した場合、被害を最小限に留めるため、関係各部と連携した対応チームの設置とその他必要となる対応の手順を定めています。

 

 

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

(経営成績等の概要)

(1)財政状態及び経営成績の状況

当期におけるわが国経済は、物価上昇の影響がみられたものの、設備投資の持ち直しや雇用・所得環境の改善等の効果もあり、緩やかな回復が続きました。

セメント業界におきましては、建設・物流業界の人手不足や時間外労働規制の影響により、官公需、民需ともに減少したことから、セメント国内需要は、前期を5.6%下回る32,656千トンとなりました。一方、輸出は、前期を19.7%上回りました。この結果、輸出分を含めた国内メーカーの総販売数量は、前期を1.4%下回る40,839千トンとなりました。

このような情勢の中で、当社グループは、2023年度から「2023―25年度 中期経営計画」をスタートさせており、「既存事業収益改善」として、セメント事業収益力回復、次世代光通信部品の市場シェア獲得による収益改善、「成長基盤構築」として、半導体製造装置向け電子材料事業へのリソース集中投入による規模拡大・収益力強化、海外事業拡大(豪州事業)、脱炭素分野の新規事業開発、「経営基盤強化」として、人財戦略、研究開発戦略、知財戦略、DX戦略に係る諸施策に取り組んでまいりました。

以上の結果、当期の売上高は、セメント事業および新材料事業で減収となったことから、219,465百万円と前期実績を1.4%下回りました。

損益につきましては、セメント事業等で増益となったことから、経常利益は、9,367百万円と前期に比べ890百万円の増益となったものの、親会社株主に帰属する当期純利益は、当期の投資有価証券売却益が減少したことから、9,008百万円と前期に比べ6,331百万円の減益となりました。

 

 事業別の概況は、次のとおりであります。

 当連結会計年度の期首より、当社の子会社である千代田エンジニアリング(株)において、報告セグメントの区分を「その他」から「セメント」に変更しております。

 なお、以下の前期比については、変更後の報告セグメントの区分に組み替えた数値で比較をしております。

 

1. セメント

セメントの国内販売数量が前期を下回ったことに加え、電力の供給事業において買取価格が下落したことなどから、売上高は、156,440百万円と前期に比べ5,189百万円(3.2%)減となったものの、製造コストの改善等により、営業利益は、877百万円と前期に比べ2,313百万円の好転となりました。

 

2. 鉱産品

海外鉄鋼向け石灰石の販売数量が増加したことなどから、売上高は、17,367百万円と前期に比べ2,812百万円(19.3%)増となり、営業利益は、3,148百万円と前期に比べ7百万円(0.2%)増となりました。

 

3. 建材

コンクリート二次製品の販売数量が増加したことなどから、売上高は、23,591百万円と前期に比べ1,870百万円(8.6%)増となり、営業利益は、1,839百万円と前期に比べ327百万円(21.7%)増となりました。

 

4. 光電子

光電子機器の販売数量が増加したことなどから、売上高は、2,510百万円と前期に比べ468百万円(22.9%)増となり、光通信部品のコスト削減等により、損益は、前期に比べ314百万円の好転となったものの、355百万円の営業損失となりました。

 

5. 新材料

半導体製造装置向け電子材料の販売数量が減少したことなどから、売上高は、15,678百万円と前期に比べ3,034百万円(16.2%)減となり、営業利益は、2,264百万円と前期に比べ628百万円(21.7%)減となりました。

 

6. その他

ソフトウエアの販売が増加したことから、売上高は、3,876百万円と前期に比べ36百万円(0.9%)増となったものの、不動産賃貸物件の補修費が増加したことなどから、営業利益は、1,617百万円と前期に比べ41百万円(2.5%)減となりました。

 

(2)キャッシュ・フローの状況

当期の現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は、営業活動によって24,885百万円増加し、また、投資活動によって21,816百万円減少し、財務活動によって5,341百万円減少したこと等により、前期末に比べ2,150百万円の減少となりました。その結果、当期末の資金残高は16,511百万円(前期比11.5%減)となりました。

 

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

当連結会計年度において営業活動により得られた資金は、24,885百万円(前期比43.1%の収入減少)となりました。これは、税金等調整前当期純利益12,773百万円、減価償却費22,573百万円をはじめとする内部留保等によるものです。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

当連結会計年度において投資活動により使用した資金は、21,816百万円(前期比42.1%の支出増加)となりました。これは、固定資産の取得による支出27,645百万円、投資有価証券売却による収入5,849百万円があったこと等によるものです。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

当連結会計年度において財務活動により使用した資金は、5,341百万円(前期比78.1%の支出減少)となりました。これは、自己株式の取得による支出5,176百万円があったこと等によるものです。

 

 

(生産、受注及び販売の状況)

(1)生産実績

当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次の通りであります。

 

セグメントの名称

金額(百万円)

前期比(%)

セメント

91,819

90.8

鉱産品

11,277

101.5

建材

4,816

109.0

光電子

1,626

109.1

新材料

13,060

89.3

その他

1,270

102.9

合計

123,870

92.4

 

(注) 金額は製造原価ベースによっております。

 

(2)受注状況

当連結会計年度における受注状況をセグメントごとに示すと、次の通りであります。

 

セグメントの名称

受注高
(百万円)

前期比(%)

受注残高
(百万円)

前期比(%)

建材

15,620

92.6

3,965

74.0

その他

401

78.1

合計

16,021

92.1

3,965

74.0

 

(注) 対象は、建材セグメントにおける各種工事、その他セグメントにおける各種ソフトウエア製作であります。なお、上記以外のセグメントについては、受注生産形態をとらない製品がほとんどであるため、記載を省略しております。

 

(3)販売実績

当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次の通りであります。

 

セグメントの名称

金額(百万円)

前期比(%)

セメント

156,440

96.8

鉱産品

17,367

119.3

建材

23,591

108.6

光電子

2,510

122.9

新材料

15,678

83.8

その他

3,876

100.9

合計

219,465

98.6

 

(注)主な相手先別の販売実績及び総販売実績に対する割合については、当該割合が100分の10以上となる取引先が存在しないため、記載を省略しております。

 

 

(経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容)

経営者の視点による当社グループ(当社及び連結子会社)の当連結会計年度における経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は、以下の通りであります。

 

(1)経営成績の分析

当連結会計年度の経営成績の概況については、「(経営成績等の概要)の(1)財政状態及び経営成績の状況」に記載しております。

 

1 セメント需要、当社セメント販売数量の推移(最近5連結会計年度)

 

2021年3月
第158期

2022年3月
第159期

2023年3月
第160期

2024年3月
第161期

2025年3月
第162期

セメント需要

 

 

 

 

 

 国内需要(千トン)

38,670

37,882

37,280

34,577

32,656

 輸出(千トン)

11,113

11,484

8,137

6,855

8,207

当社販売数量

 

 

 

 

 

 国内(千トン)

8,286

8,342

8,145

7,772

7,196

 輸出(千トン)

1,424

1,535

1,150

942

1,268

 計(千トン)

9,710

9,876

9,295

8,714

8,464

 

 

2 売上高、損益の推移(最近5連結会計年度)

 

2021年3月
第158期

2022年3月
第159期

2023年3月
第160期

2024年3月
第161期

2025年3月
第162期

売上高(百万円)

239,274

184,209

204,705

222,502

219,465

営業利益又は営業損失(△)(百万円)

16,631

6,878

△8,555

7,251

9,351

経常利益又は経常損失(△)(百万円)

17,641

9,834

△7,849

8,476

9,367

親会社株主に帰属する当期純利益又は
親会社株主に帰属する当期純損失(△)(百万円)

11,719

9,674

△5,719

15,339

9,008

総資産額(百万円)

329,650

331,107

356,558

356,283

353,029

売上高経常利益率(%)

7.4

5.3

△3.8

3.8

4.3

総資産経常利益率(%)

5.4

3.0

△2.3

2.4

2.6

 

 

 

(2)財政状態(流動性及び資本の源泉)の分析

当連結会計年度末の総資産は353,029百万円となり、前連結会計年度末に比べて3,254百万円の減少となりました。流動資産は104,143百万円となり、前連結会計年度末に比べて5,012百万円の減少となりました。固定資産は248,886百万円となり、前連結会計年度末に比べて1,758百万円の増加となりました。

流動資産減少の主な要因は、受取手形、売掛金及び契約資産の減少等によるものです。固定資産増加の主な要因は、建設仮勘定等の有形固定資産の増加等によるものです。

当連結会計年度末の負債の合計は159,369百万円となり、前連結会計年度末に比べて139百万円の減少となりました。流動負債は83,742百万円となり、前連結会計年度末に比べて5,599百万円の減少となりました。固定負債は75,626百万円となり、前連結会計年度末に比べて5,460百万円の増加となりました。

流動負債減少の主な要因は、短期借入金の減少等によるものです。固定負債増加の主な要因は、社債の増加等によるものです。

当連結会計年度末の純資産は193,660百万円となり、前連結会計年度末に比べて3,114百万円の減少となりました。主な要因は、その他有価証券評価差額金の減少等によるものです。

 

(3)キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報

 当社グループの当連結会計年度のキャッシュ・フローの概況は、「(経営成績等の概要)の(2)キャッシュ・フローの状況」に記載しております。

 当社グループの資本の財源及び資金の流動性について、当社グループの資金需要は、製品の製造販売に関わる原材料費・運搬費や営業費用などの運転資金、設備投資資金及び研究開発などであります。資金調達は、主として内部資金により充当し、必要に応じ金融機関からの借入やコマーシャル・ペーパー、社債の発行などにより確保しております。

最近5連結会計年度においては、2022年度は営業活動によるキャッシュ・フローがマイナスとなったことから、金融機関からの借入やコマーシャル・ペーパー、社債の発行などにより必要となる現金及び現金同等物(以下「資金」という。)を確保いたしましたが、その後は営業活動によるキャッシュ・フローはプラスに転じ、得られた資金は設備投資等に活用いたしました。有利子負債は、2025年3月期には83,334百万円となりました。

今後、当社グループは、2035年のありたい姿である「SOC Vision2035」を目指す中で、収益の改善・拡大に努め、営業活動で獲得した資金は、維持更新に加えてカーボンニュートラルや成長戦略への投資、株主還元などに活用していく方針であります。

 

1 キャッシュ・フローの推移(最近5連結会計年度)

 

2021年3月
第158期

2022年3月
第159期

2023年3月
第160期

2024年3月
第161期

2025年3月
第162期

営業活動によるキャッシュ・
フロー(百万円)

32,797

18,255

△16,146

43,731

24,885

投資活動によるキャッシュ・
フロー(百万円)

△18,884

△16,062

△19,818

△15,350

△21,816

財務活動によるキャッシュ・
フロー(百万円)

△10,869

△7,995

37,292

△24,395

△5,341

現金及び現金同等物の期末残高(百万円)

18,600

13,085

14,500

18,662

16,511

 

 

 

 

2 有利子負債の推移(最近5連結会計年度)

 

2021年3月
第158期

2022年3月
第159期

2023年3月
第160期

2024年3月
第161期

2025年3月
第162期

有利子負債残高(百万円)

51,405

56,641

99,719

79,529

83,334

純資産額(百万円)

205,827

203,173

184,591

196,775

193,660

有利子負債/純資産(%)

25.0

27.9

54.0

40.4

43.0

 

(注) 有利子負債残高は短期借入金、コマーシャル・ペーパー、社債及び長期借入金の合計額であります。

 

 (4)重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成しております。連結財務諸表の作成にあたって用いた会計上の見積り及び仮定のうち、重要なものは「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等(1)連結財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載しております。連結財務諸表の作成にあたっては、会計上の見積りを行う必要があり、固定資産の減損会計や繰延税金資産の回収可能性等については、過去の実績や他の合理的な方法により見積りを行っております。当社グループは、これらの見積りの妥当性に対し継続して評価を行っておりますが、見積り特有の不確実性があるため、実際の結果と異なる場合があります。

 

5【重要な契約等】

該当事項はありません。

 

 

6【研究開発活動】

当社グループ(当社及び連結子会社)は、常に独創技術の開発を基本理念として、主力事業であるセメント・コンクリート、並びにその周辺分野である建設資材等に関する新技術・新製品の研究開発をはじめ、それらの基盤技術をベースとした光電子・新材料事業分野における研究開発に至るまで、幅広く積極的な研究開発活動を行っております。

当社グループの研究開発体制は、セメント・コンクリート研究所、新規技術研究所、建材事業部、光電子事業部、新材料事業部より構成されております。

なお、当連結会計年度における研究開発費は3,552百万円であり、各セグメントの研究の目的、主要課題、研究成果及び研究開発費は次の通りであります。

 

1. セメント

当社のセメント・コンクリート研究所が、セメント事業に係わるセメント、コンクリート及びその関連分野の研究、開発を行っております。なお、当事業に係る研究開発費は723百万円であり、当連結会計年度の主な成果としては以下の通りであります。

①セメント・固化材の品質及び環境負荷低減に対応したセメント製造技術に関する研究

②資源循環型社会に向けたリサイクル資源の原燃料化に関する研究

③コンクリート産業のDX・AIの利用技術に関する技術開発

④重金属汚染対策材の拡販に向けた技術開発

⑤SOCN2050を目指した低炭素化関連技術開発

 

2. 建材

当社のセメント・コンクリート研究所が、建材事業に係わるセメント関連製品の研究、開発を行い、建材事業部が、それをもとに商品化及び改良、用途開発を行い、新商品の初期事業化を行っております。また、建材事業部独自にて、電気防食、海洋製品の開発を手掛けております。なお、当事業に係る研究開発費は209百万円であり、当連結会計年度の主な成果としては以下の通りであります。

①コンクリート床版補修材料の開発、高性能化

②断面修復材の高機能化

③省力化工法の開発

④環境配慮型材料の開発

 

3. 光電子

当社の新規技術研究所が光電子分野の基礎研究及び商品開発を行い、それをもとに光電子事業部がその応用製品の商品化、並びに事業化の研究・開発を行っております。なお、当事業に係る研究開発費は1,142百万円であり、当連結会計年度の主な成果としては以下の通りであります。

①800Gbps/1.2Tbps伝送方式に適応したコヒーレント対応LN変調器の商品化

②1.6Tbps伝送方式に適応したコヒーレント対応LN変調器の要素技術開発

③次世代小型光デバイスに対応した要素技術開発

 

4. 新材料

当社の新規技術研究所が新材料分野の基礎研究及び商品開発を行い、それをもとに新材料事業部がその応用製品の商品化、並びに事業化の研究・開発を行っております。なお、当事業に係る研究開発費は1,477百万円であり、当連結会計年度の主な成果としては以下の通りであります。

①次世代半導体装置向け静電チャックの商品化

②次々期静電チャック高機能化及び低コスト化に対応した要素技術開発

③化粧品材料の商品化、開発品の量産設計及びプロセス技術開発