文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末において当社グループが判断したものであります。
(1)会社の経営の基本方針
当社グループは、「人と自然が調和する豊かな環境づくりに貢献する」ことを基本理念に掲げ、社会基盤、産業基盤などの社会資本の形成に貢献しております。また、地球環境保全のため自然資本保護を重視した事業活動に積極的に取り組むとともに、常に新しい技術開発にチャレンジし、建設事業を通じて安全で高品質な建設生産物を供給することにより持続可能な社会を実現し、ステークホルダーの信頼と期待に応えていくことを経営の基本方針としております。
(2)中長期的な経営戦略及び対処すべき課題
当社グループは、2030年をゴールとした長期ビジョンの実現に向け、「中期経営計画2022(2022年度~2024年度)」に取り組んでまいりました。最終年度である2024年度業績においては、良好な事業環境を背景に売上高・売上利益は順調に推移し、計画値を上回る結果となりました。
当社グループを取り巻く事業環境においては、民間設備投資あるいは公共建設投資が堅調に推移し、豊富な手持工事を有する一方で、建設業界における就労人口の減少は顕著であり、労働需給バランスの不均衡に起因する人件費・輸送費上昇に加え、設備工事費の高騰による収益面でのリスクが懸念されます。現場支援体制の整備により生産性向上に対する一定の効果は得られたものの、労働時間の大幅な短縮につながる省人化・省力化には至っておらず、技術革新や施工・設計プロセスのデジタル化についてはさらにスピード感をもって対処しなければならない重要事項であると認識しております。また、持続可能な社会の実現に向けて環境負荷低減に係る事業活動が求められており、取り組むべき課題は多岐にわたります。
当社グループでは、現行の経営環境を踏まえ、長期経営ビジョンを再検討し、その実現に向けた「中期経営計画2025(2025年度~2027年度)」を策定いたしました。長期経営ビジョンとして「プレストレストコンクリート(PC)技術を中核とした高度な技術力により、地球にやさしく安全で快適な社会の実現に貢献する」ことを掲げ、5つの「基本方針」を本計画の基軸としております。社員一人ひとりがその能力を最大限に発揮できる環境を整備し、長期経営ビジョンで示した企業像の実現に向けて邁進してまいります。
●中期経営計画2025(2025年度~2027年度)の概要
①長期経営ビジョン
新たな中期経営計画がスタートするにあたり、新たな長期経営ビジョンを策定しました。
②基本方針・事業戦略
③業績目標
④投資計画
⑤財務指標
当社グループは、「人と自然が調和する豊かな環境づくりに貢献する」という基本理念のもと、「人権と多様性の尊重」、「安全最優先」、「コンプライアンスの徹底」及び「サステナビリティの貢献」を行動指針として掲げ、次のとおりサステナビリティ基本方針を制定しております。
《サステナビリティ基本方針》
・地球環境に配慮した安全・安心で高品質な社会資本を提供する。
・安全最優先と人権尊重を企業活動の基盤とし、多様な人財が活躍し、活気あふれる職場環境を構築する。
・マルチステークホルダーとの積極的なコミュニケーションを通し相互理解を深め信頼を獲得し続ける。
・リスクマネジメントを徹底し、様々な重要リスクへの対応を事業機会ととらえ、新たな価値を創出する。
・公正な企業活動を推進するとともに、コンプライアンスを徹底する。
当社グループは、サステナビリティ推進委員会を中心とするサステナビリティ推進体制を構築し、社会・環境問題をはじめとするサステナビリティを巡る課題を理解したうえで、事業活動を通じた課題の解決に取り組み、持続可能な社会の実現を目指してまいります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1)ガバナンス
当社及び当社グループ全体のサステナビリティ経営の強化・推進を目的として、サステナビリティ推進委員会を経営会議の下に設置しています。同委員会の委員長は社長執行役員が務め、原則として年3回開催しています。サステナビリティに関わる活動方針及び年度計画、活動実績の評価、その他サステナビリティ推進に関する事項について審議を行っています。審議内容については、適宜経営会議に上申し、必要な決議を得ています。同様に取締役会に報告・付議し、適切に監督する体制を構築しております。また、サステナビリティ推進委員会の下に重要課題と定めたテーマごとに7つの部会を設置しており、各部会は該当する課題に特化した情報収集や共有と新たなリスクや機会に対する検討を行い、対処方針を策定、立案しサステナビリティ推進委員会に適宜上申・提言しています。
サステナビリティ推進委員会は、サステナビリティ推進室が窓口となり、各支店・関係会社サステナビリティ推進委員会へ支援や管理監督を行い、各場所でのサステナビリティ活動を推進してまいります。
サステナビリティ推進体制図
(2)戦略
①気候関連戦略
当社グループは、「人と自然が調和する豊かな環境づくりに貢献する」の基本理念のもと、気候変動をはじめとした環境課題への対応を重要な経営課題と捉え、環境方針に「持続可能な環境配慮型社会の実現」を掲げ、その達成を目指しています。
■THE GREEN VISION
当社グループは、「『つよさ』と『やさしさ』を兼ね備えた建設技術を追求し、人と地球が共生する持続可能な未来を実現する」という環境ビジョン「THE GREEN VISION」を策定しています。さらに、大成建設グループの長期環境目標「TAISEI Green Target 2050」に沿って、「脱炭素社会」「循環型社会」「自然共生社会」の3つの社会の実現と「森林資源・森林環境」「水資源・水環境」の2つの個別課題の解決に向けた取り組みを進めています。それぞれについて、当社グループでは以下のとおり目標を設定しております。
<3つの社会>
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2030年目標 |
2050年目標 |
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脱炭素社会
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CO2排出量(2022年度比) ・スコープ1+2 ▲42% ・スコープ3 ▲25% |
CN|カーボンニュートラルの実現・深化 ・スコープ1+2 CO2排出量0 ・スコープ3 サプライチェーンCO2排出量0 |
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循環型社会
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・グリーン調達の推進 ・建設廃棄物の最終処分率1.0%以下 |
CE|サーキュラーエコノミーの実現・深化 ・グリーン調達率100% ・建設副産物の最終処分率0% |
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自然共生社会
|
・ネイチャーポジティブに貢献する プロジェクトの推進 5PJ/年以上 ・自然環境保護活動の推進 |
NP|ネイチャーポジティブの実現・深化 ・建設事業に伴う負の影響の最小化 ・自然と共生する事業による正の影響の最大化 |
<2つの個別課題>
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目標 |
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森林資源・森林環境
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・森林破壊ゼロを前提とした木材調達により、森林資源・森林環境への負の影響を最小化 ・森林資源・森林環境の保全と再生の取り組みの推進 |
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水資源・水環境
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・適切な管理の徹底と使用量の削減により、水資源・水環境への負の影響を最小化 ・水資源・水環境の保全と再生の取り組みの推進 |
■当社グループの気候関連のリスクと機会及びその対応策
気候関連のリスクと機会については、気候関連の政策や市場の変化への対応といった脱炭素社会への「移行」に起因するものと、自然災害や異常気象の増加による急性的な影響、気温上昇や海面上昇といった慢性的な影響などの「物理的変化」に起因するものが考えられます。
これらの環境・社会の変化に柔軟に対応した経営戦略を立案するため、複数の気温上昇シナリオ(4℃・2℃・1.5℃)別に将来環境(2030年)を想定し、主要事業別にリスクと機会の洗い出しを行っています。抽出した個別のリスク・機会の財務影響評価を行い、重要なリスク・機会を特定し、その対応策の検討を行い、中期経営計画に反映しております。当社グループにおけるリスクと機会及びその対応策は、以下のとおりです。
<当社グループの気候関連のリスクと機会及びその対応策>
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分類 |
項目 |
リスクと機会 |
影響度 |
対応策 |
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|
4℃ シナリオ |
1.5℃ シナリオ |
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移行リスク |
政策 |
炭素税によるコスト増加 |
リスク |
・事業活動により排出されるCO2が課税対象になることで、建設コストが増加 |
小 |
中 |
・低炭素素材のサプライチェーンの確保 ・脱炭素技術導入以外の部位のコスト競争力の強化 ・PSCSA※重点実施項目の確実な実施 ※PS Construction Sustainable Actionの略。グループ全社員が参加する環境負荷低減活動 |
|
・自社工場製品の部材(鉄・セメント等)の調達コストが増加 |
小 |
大 |
|||||
|
増税による建設市場縮小 |
リスク |
・増税により民間企業の設備投資が減少 ・市場縮小に伴う受注競争の激化 |
大 |
大 |
|||
|
CO2排出量による事業の制限 |
リスク |
・施工工事に対してCO2排出量規制が導入された場合、規制未達による公共工事の失注 |
大 |
大 |
・排出量規制を達成するために重機の電化を推進 ➣発電機から商用電力の利用 ➣電動化率が高い運搬業者の選択等 |
||
|
CO2排出量の少ない工事の需要増加 |
機会 |
・新設工事からCO2排出量が相対的に少ない修繕工事へのトレンド変化 |
大 |
大 |
・修繕工事に対応した技術の開発 ・構造物の劣化状況を遠隔で監視するモニタリング技術 ・鉄筋やPC鋼材の補強材の防錆技術 |
||
|
ZEB市場の拡大 |
機会 |
・法規制・補助金制度の充実・環境意識の高まり等により、ZEB・ZEHの新築建設・リニューアルの需要拡大 |
大 |
大 |
・ZEB・ZEH提案力の強化 |
||
|
市場 |
低炭素化技術の進展・代替資材の普及に伴うコスト増加 |
リスク |
・低炭素型の代替資材使用に伴う調達コストの増加 |
大 |
大 |
・低炭素コンクリート等の代替資材を導入 ・低炭素素材のサプライチェーンの確保 ・木質化・木造耐火市場へのシフトに備え、木質・木造の自社施工力の向上 |
|
|
・発注者側の低炭素工法・低コスト要求により、民間工事の受注競争激化・既存市場の縮小 |
大 |
大 |
|||||
|
・木質化・木造耐火ビル普及によりコンクリート系建築物の市場が縮小 |
小 |
中 |
|||||
|
物理リスク |
急性 |
国土強靭化の取り組み・防災意識の高まり |
機会 |
・災害復旧・復興工事の増加・防災施設工事の増加・国土強靭化のためのインフラ建設の増加 ・浸水、BCP対策としてプレキャスト工法の評価の高まりに伴い受注機会の増加 |
大 |
大 |
・国土強靭化関連工事に対応した土木工事技術の開発 ・道路を供用しながらの床版取替技術 ・RC中空床版橋の架け替え技術 ・防火型の施設拠点の需要増加、浸水・BCP対策としてのプレキャスト工法の需要増加に対し、タイムリーな提案を実施 |
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慢性 |
平均気温の上昇 |
リスク |
・作業効率の低下による生産性の低下・作業時間シフト等による労務費への影響 ・労働環境悪化による作業者不足・工期延伸のリスク影響悪化 |
大 |
中 |
・施工の省力化・省人化施工技術の推進 |
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②人的資本関連戦略
■人財育成に関する方針
当社は、「人財の確保・育成」を中期経営計画2025で取り組むべき重要事項に掲げており、事業環境の変化に即応でき対応力の秀でた人財や新技術開発に積極的に取り組む人財を育成し、多様な人財が活躍できる組織基盤を確立するとともに、キャリアアップをサポートいたします。
・階層別研修及び部門別OJTを拡充し、従業員のスキルアップをサポートします。
・目標管理制度及びキャリアマップの活用により個人のキャリア形成を後押しします。
・公的資格取得の支援及びサポートを実施します。
■社内環境整備に関する方針
サステナビリティ基本方針のひとつである「安全最優先と人権尊重を企業活動の基盤とし、多様な人財が活躍し、活気あふれる職場環境を構築する」に基づき、働きがいのある就労環境の構築を目指してまいります。
・多様な人財が活躍できる人事制度及び福利厚生制度を拡充いたします。
・従業員満足度調査を実施し、スコア検証の上、環境改善に取り組んでまいります。
・差別、ハラスメント、プライバシーの侵害など人権侵害に関する教育を拡充いたします。
・人権方針に基づき、人権デュー・ディリジェンスの仕組みを構築し、継続的に実施してまいります。
(3)リスク管理
当社は、リスクマネジメントを円滑かつ適切に実施するため、サステナビリティ推進委員会の下部組織としてコンプライアンス・リスクマネジメント部会及び支店・関係会社サステナビリティ推進委員会を設置しています。コンプライアンス・リスクマネジメント部会は、リスク分類表に基づき、リスク担当部を指定し、全社重点リスクの選定・対策を検討するとともに重点リスク以外のリスクの統括を行っています。また支店・関係会社におけるリスクマネジメント活動の管理・監督を行い、適宜サステナビリティ推進委員会に審議事項や活動状況を上申・報告しています。
さらに、2024年度には環境・人権デュー・ディリジェンスの仕組みを構築しました。当社グループの事業活動が環境・人権に及ぼす影響について、「負の影響の特定・評価」、「負の影響の予防・軽減」、「対応の実効性の追跡調査」、「情報開示」といったPDCAサイクルを回し、適宜見直し・改善を図っていきます。その実施状況については、サステナビリティ推進委員会、経営会議で審議の上、取締役会に報告し監督を受けていきます。
当社グループが負の影響の原因となった、或いは助長したことが判明した場合には、適切な手段により速やかにその是正に取り組みます。
なお、当社グループの気候関連のリスクと機会及びその対応策につきましては、上記「(2)戦略」をご参照ください。
<環境・人権デュー・ディリジェンスの実施フロー>
(4)指標及び目標
①気候関連指標及び目標
当社グループは、環境ビジョン「THE GREEN VISION」において、2050年のカーボンニュートラルを最終目標として、大成建設グループ全体の目標に沿った削減目標を設定しています。具体的には、2022年度におけるCO2排出量を基準として、2030年度までにScope1+2を42%削減、Scope3を25%削減することを目標とし、中間の目標として2026年度目標を設定しています。その他のサステナビリティに関する課題に対する指標や目標についても適宜策定し、取り組んでまいります。
■CO2排出量削減目標(2022年度比)
総排出量:千t-CO2 | 排出量原単位:t-CO2/億円
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基準年 |
THE GREEN VISION CO2排出量削減目標 |
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2022年度 |
2026年度 |
2030年度 |
2050年度 |
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|
Scope1+2 |
総排出量 削減率 |
24.7
|
19.9 ▲19% |
14.3 ▲42% |
排出量0 |
|
Scope1+2 |
排出原単位削減率 |
25.3
|
18.1 ▲28% |
11.0 ▲57% |
|
|
Scope3 カテゴリ1+11 |
総排出量 削減率 |
691.2
|
- |
518.4 ▲25% |
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②人的資本関連指標及び目標
人的資本関連の指標及び目標は、以下の2つの指標について目標を設定いたしました。それ以外の人的資本関連指標については、引き続きモニタリングを実施しながら、今後適切な目標の設定を検討してまいります。
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指標 |
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2024年度実績 |
備考 |
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「課長級」に相当する者を対象 |
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|
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|
実績には育児目的休暇の取得を含む |
人的資本関連指標及び目標について、提出会社では、目標達成に向けた具体的な取組みが行われておりますが、連結グループに属する全ての会社では行われていないため、連結グループにおける記載が困難であります。
そのため、指標の目標及び実績は、提出会社におけるものとなります。
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1)公共事業の発注減少
当社グループの土木事業において、公共事業への依存度が高く、予想以上に公共事業の削減が行われた場合には、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
(2)競争の激化
当社グループが属する建設業界において、市場の縮小や受注競争の激化が生じた場合には、受注機会の逸失、工事採算の悪化等により当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
(3)海外展開に伴うカントリーリスク
当社グループは、アジア・アフリカを中心に様々な地域で事業を展開しているため、これらの国の政治・経済情勢の急激な変化、大幅な法規制の予期せぬ変更等が発生した場合には、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
(4)取引先の信用不安
景気の減速や建設市場の縮小等により、発注者、協力業者、共同施工会社等の取引先が信用不安に陥った場合には、工事代金の回収不能や工事遅延等の事態が発生し、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
(5)労務費及び資材価格の変動
請負金額に転嫁することが困難になるほど労務費及び原材料価格が高騰した場合には、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
(6)工事災害の発生
労働災害等を未然に防ぐ様々な安全対策の徹底を図っておりますが、重大事故や人身事故が発生した場合、その復旧に多大な費用負担や工事遅延が生じ、当社グループの業績や工事成績等の企業評価に影響を及ぼす可能性があります。また、指名停止等による受注機会の逸失も想定されます。
(7)契約不適合責任及び製造物責任
品質管理には万全を期しておりますが、契約不適合責任及び製造物責任に起因する多額の損害賠償が発生した場合には、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
(8)法的規制等
当社グループが属する建設業界において、建設業法、建築基準法、宅地建物取引業法、国土利用計画法、都市計画法、労働安全衛生法、独占禁止法等により法的規制を受けております。当社グループにおいて違法な行為があった場合には、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。また、これらの法規の改廃や新たな規制等が行われた場合には、業績に影響を及ぼす可能性があります。
(9)訴訟等
国内外の事業等に関連しての訴訟、紛争、その他法的手続きに係る判決、和解、決定等により、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。とりわけ、独占禁止法違反から派生する指名停止等により、受注機会が減少する可能性があります。
(10)人財の確保
当社グループが属する建設業界においては、人財の確保が課題となっています。当社グループは、業務の効率化・IT化を進めておりますが、継続的に必要な人財を確保できない場合には、事業規模の縮小を余儀なくされ、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
(11)金利の変動
当社グループの主たる事業における工事の大型化・長期化に伴い、工事代金の回収期間が長期化しているため資金の立替が著しく増加しております。当社グループは運転資金を主に金融機関から調達しているため、経済環境等の変化により借入金の金利が予想以上に高騰した場合には、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
(12)保有資産の価格及び収益性の変動
予想を超える経済的な変動により当社の保有資産の価格の時価が著しく下落した場合、又は収益性が著しく低下した場合には、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
(13)大規模災害の発生
事業に関し大規模災害が発生した場合には、業績に影響を及ぼす可能性があります。また、大震災又は自然災害等の発生により、経営機能や事業拠点が莫大な損傷を受けた場合、若しくは事業領域における経済活動が停滞等した場合には、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
(14)感染症の蔓延
新たな感染症が蔓延した場合、従業員等の感染による事業停止等、円滑な事業推進が困難になる可能性に加え、建築事業の主な発注者である民間事業者の事業計画が縮小又は変更となる可能性があります。その場合には当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
(15)情報セキュリティ
当社グループは、事業活動の多くをITシステムに依存しており、停電、災害、ソフトウェアや機器の欠陥、サイバー攻撃等によって、事業活動の混乱、機密情報の喪失、個人情報の漏洩、詐欺被害等が発生する可能性があります。このようなリスクが顕在化した場合には、事業の中断、損害賠償請求や情報セキュリティ対策費用の増加等により、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
(16)気候変動等環境課題リスク
当社グループは、企業活動における環境負荷の低減に取り組んでおりますが、気候変動等環境課題への対応が不十分な場合には、当社グループの業績や企業評価に影響を及ぼす可能性があります。
(17)人権に関するリスク
企業における人権に関する社会的要請は、ますます高まっております。当社グループは、人権方針に基づき人権尊重に取り組んでおりますが、人権を侵害する事象等が発生した場合には、当社グループの社会的信用の失墜に繋がり、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
(1)経営成績等の状況の概要
当連結会計年度における当社グループ(当社、連結子会社及び持分法適用会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況は以下のとおりです。
なお、文中の将来に関する事項は当連結会計年度末現在において判断したものであります。
①財政状態及び経営成績の状況
当連結会計年度における我が国の経済は、自然災害や実質賃金の回復の遅れなどにより一時停滞感を強めたものの、賃金・物価上昇の持続性が高まったことを受け、金融政策の正常化が進み回復基調を維持しました。一方で、人手不足や円安進行をはじめとした不安要因の継続や世界的な経済動向の減退が懸念され、日本経済の先行きは不透明な状況にあります。
当社グループが属する建設産業においては、物価上昇の影響を受けながらも民間設備投資は堅調に推移し、建築市場は好況感を維持しております。土木事業においては防災・減災、国土強靭化政策を受けた公共建設投資の継続強化により良好な事業環境にあり、今後も暫くは堅調に推移すると見込まれます。
このような状況下において、当社グループでは「中期経営計画2022(2022年度~2024年度)」の基本方針に基づき、建設DXの推進と多様な人財活用により生産性の向上に努めてまいりました。土木事業においては、成長分野に掲げている高速道路会社の大規模更新・修繕工事を新設橋梁分野と同水準の事業規模へ成長させることができました。建築事業においては、資機材・燃料価格、設備工事費の高騰が懸念されておりましたが、選別受注の徹底と手持工事の原価低減により収益性を大幅に好転させることができました。一方で、中期経営計画2022で掲げていた人財の確保やDXの推進については十分な成果には至っておらず、今後も引き続き高い収益性を確保しつつ、これらの課題解決に向けた取り組みを進めてまいります。
この結果、当連結会計年度の業績は、売上高は1,356億27百万円(前年同期比4.9%増)、営業利益123億15百万円(同57.3%増)、経常利益122億52百万円(同58.2%増)、親会社株主に帰属する当期純利益82億17百万円(同62.6%増)となりました。
1株当たり情報に与える影響は当該箇所に記載しております。
なお、個別の業績は、 売 上 高 1,218億30百万円 営業利益 99億89百万円
経常利益 103億47百万円 当期純利益 72億73百万円 であります。
セグメント業績は、以下のとおりであります。
土木事業については、売上高は795億80百万円(前年同期比0.6%増)、セグメント利益は167億50百万円(前年同期比29.1%増)となりました。順調な手持工事の進捗、設計変更獲得等により売上高、売上総利益ともに増加しました。事業の中核となる大規模更新・修繕事業については、市場は減少傾向ではあるものの、今後も安定的に継続する見込みです。受注高については、大規模更新の新規及び継続契約案件、新設橋梁工事等を獲得し、期初計画を上回りました。今後も当面はこの傾向が継続すると予想され、年度ごとの売上高とそれに対応する配置要員状況を踏まえた受注計画が重要となることから、工事の生産性及び利益率を向上させる施策の実行に取り組んでまいります。
建築事業については、売上高は532億3百万円(前年同期比9.6%増)、セグメント利益は51億86百万円(前年同期比6.8%増)となりました。事業環境としては、企業の設備投資意欲が堅調に推移しており、豊富な繰越工事が順調に進捗し、売上高、売上総利益ともに前連結会計年度に比べ増加しました。受注高については食品工場や共同住宅等の建設工事の獲得、新規顧客への取り組み等により期初計画を上回りました。引き続きPCa建築を代表する当社の強みを強化するとともに、収益性、生産性を重視した取り組みを継続し、安定した受注・収益を確保できるよう取り組んでまいります。
製造事業については、売上高は80億19百万円(前年同期比4.5%増)、セグメント利益は7億59百万円(前年同期比21.1%増)となりました。現在老朽化設備の更新と品質管理の徹底及びICTの活用で生産性の向上を目指しており、効率的な生産体制の整備を図っております。
その他兼業事業については、売上高は9億33百万円(前年同期比4.1%増)、セグメント利益は4億1百万円(前年同期比5.2%増)となりました。
なお、セグメントの業績は、報告セグメントの売上高、セグメント利益を記載しております。
当連結会計年度末の総資産は1,308億36百万円となり、前連結会計年度末に比べ87億18百万円増加いたしました。
流動資産は1,046億16百万円となり、前連結会計年度末に比べ91億12百万円増加しております。これは主に契約資産が76億35百万円減少しましたが、現金及び預金が109億37百万円、未成工事支出金が9億69百万円増加したことによるものであります。
固定資産は262億20百万円となり、前連結会計年度末に比べ3億94百万円減少しております。これは主に機械、運搬具及び工具器具備品が4億70百万円増加しましたが、投資有価証券が4億91百万円減少したことによるものであります。
負債合計は729億55百万円となり、前連結会計年度末に比べ30億7百万円増加いたしました。
流動負債合計は617億42百万円となり、前連結会計年度末に比べ74億48百万円増加しております。これは主に支払手形・工事未払金等が45億92百万円減少しましたが、契約負債が80億16百万円、1年内返済予定の長期借入金が40億円増加したことによるものであります。
固定負債合計は112億13百万円となり前連結会計年度末に比べ44億40百万円減少しております。これは主に長期借入金が43億60百万円減少したことによるものであります。
純資産の部は、主に親会社株主に帰属する当期純利益82億17百万円の計上により、578億80百万円となりました。
②キャッシュ・フローの状況
当連結会計年度における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は、税金等調整前当期純利益122億円、契約負債の増減額80億16百万円、預り金の増減額14億80百万円の増加要因、仕入債務の増減額△52億18百万円、工事損失引当金の増減額△5億13百万円、法人税等の支払額33億9百万円、配当金の支払額23億22百万円等の減少要因により、前連結会計年度末に比べ109億37百万円増加し、当連結会計年度末には221億円となりました。
当連結会計年度の各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりであります。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動の結果、獲得した資金は159億52百万円(前年同期は159億44百万円の獲得)となりました。これは主に売上債権のうち工事資金収支の好転によるものであります。(売上債権、契約負債、棚卸資産、仕入債務の増減額)
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動の結果、使用した資金は8億7百万円(前年同期は19億18百万円の使用)となりました。これは主に工場設備の更新によるものであります。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動の結果、使用した資金は42億6百万円(前年同期は122億19百万円の使用)となりました。これは主に配当金の支払、借入金の返済によるものであります。
③生産、受注及び販売の実績
(1)受注実績
当連結会計年度の受注実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
|
セグメントの名称 |
当連結会計年度 |
前年同期比(%) |
|
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土木事業 |
(百万円) |
78,893 |
△4.1% |
|
建築事業 |
(百万円) |
59,283 |
22.9% |
|
製造事業 |
(百万円) |
3,182 |
87.3% |
|
その他兼業事業 |
(百万円) |
756 |
3.6% |
|
合計 |
(百万円) |
142,115 |
6.9% |
(2)売上実績
当連結会計年度の売上実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
|
セグメントの名称 |
当連結会計年度 |
前年同期比(%) |
|
|
土木事業 |
(百万円) |
78,737 |
0.4% |
|
建築事業 |
(百万円) |
53,203 |
9.9% |
|
製造事業 |
(百万円) |
2,929 |
72.4% |
|
その他兼業事業 |
(百万円) |
756 |
3.6% |
|
合計 |
(百万円) |
135,627 |
4.9% |
(注)1.セグメント間の取引については相殺消去しております。
2.当社グループ(当社及び連結子会社)では、生産実績を定義することが困難であるため「生産の実績」は記載しておりません。
3.売上高総額に対する割合が100分の10以上の相手先別の売上高及びその割合は、次のとおりであります。
前連結会計年度
|
中日本高速道路株式会社 |
26,192百万円 |
20.2% |
当連結会計年度
|
中日本高速道路株式会社 |
20,998百万円 |
15.5% |
|
西日本高速道路株式会社 |
16,000百万円 |
11.8% |
なお、参考のため当社単独の事業の状況は次のとおりであります。
①受注高、売上高、繰越高及び施工高
|
期別 |
種類別 |
前 期繰越高 (百万円) |
当 期受注高 (百万円) |
計 (百万円) |
当 期売上高 (百万円) |
次期繰越高 |
当 期施工高 (百万円) |
||
|
手持高 (百万円) |
うち施工高 (百万円) |
||||||||
|
|
|
|
|
|
|
|
% |
|
|
|
前事業年度 (自 2023年4月1日 至 2024年3月31日)
|
土木工事 |
123,069 |
69,195 |
192,264 |
66,372 |
125,892 |
1.9 |
2,355 |
66,238 |
|
建築工事 |
47,981 |
47,986 |
95,967 |
45,337 |
50,630 |
1.4 |
728 |
45,231 |
|
|
工事計 |
171,050 |
117,181 |
288,232 |
111,710 |
176,522 |
1.7 |
3,084 |
111,470 |
|
|
製品 |
3,880 |
2,039 |
5,919 |
4,002 |
1,916 |
24.0 |
459 |
4,105 |
|
|
不動産事業 |
16 |
386 |
403 |
386 |
16 |
- |
- |
386 |
|
|
兼業計 |
3,897 |
2,425 |
6,322 |
4,389 |
1,933 |
23.8 |
459 |
4,491 |
|
|
合計 |
174,948 |
119,607 |
294,555 |
116,099 |
178,455 |
2.0 |
3,543 |
115,961 |
|
|
当事業年度 (自 2024年4月1日 至 2025年3月31日)
|
土木工事 |
125,892 |
69,540 |
195,432 |
67,868 |
127,564 |
2.1 |
2,730 |
68,243 |
|
建築工事 |
50,630 |
57,944 |
108,574 |
51,035 |
57,539 |
1.3 |
751 |
51,058 |
|
|
工事計 |
176,522 |
127,484 |
304,007 |
118,903 |
185,103 |
1.9 |
3,482 |
119,301 |
|
|
製品 |
1,916 |
1,477 |
3,394 |
2,523 |
871 |
18.4 |
160 |
2,224 |
|
|
不動産事業 |
16 |
403 |
420 |
403 |
16 |
- |
- |
403 |
|
|
兼業計 |
1,933 |
1,881 |
3,814 |
2,926 |
887 |
18.0 |
160 |
2,627 |
|
|
合計 |
178,455 |
129,366 |
307,822 |
121,830 |
185,991 |
2.0 |
3,642 |
121,929 |
|
(注)1.前期以前に受注した工事で、契約の更改により請負金額に変更あるものについては、当期受注高にその増減を含んでおります。
2.次期繰越高の施工高は手持高のうち工事及び製品の支出金より推定したものであります。
3.当期施工高は、(当期売上高+次期繰越施工高-前期繰越施工高)に一致します。
②受注工事高の受注方法別比率
工事の受注方法は、特命と競争に大別されます。
|
期別 |
区分 |
特命(%) |
競争(%) |
計(%) |
|
前事業年度 (自 2023年4月1日 至 2024年3月31日) |
土木工事 |
23.1 |
76.9 |
100.0 |
|
建築工事 |
17.0 |
83.0 |
100.0 |
|
|
当事業年度 (自 2024年4月1日 至 2025年3月31日) |
土木工事 |
26.1 |
73.9 |
100.0 |
|
建築工事 |
18.7 |
81.3 |
100.0 |
③完成工事高
|
期別 |
区分 |
官公庁(百万円) |
民間(百万円) |
合計(百万円) |
|
前事業年度 (自 2023年4月1日 至 2024年3月31日) |
土木工事 |
10,034 |
56,338 |
66,372 |
|
建築工事 |
3,815 |
41,522 |
45,337 |
|
|
計 |
13,849 |
97,860 |
111,710 |
|
|
当事業年度 (自 2024年4月1日 至 2025年3月31日) |
土木工事 |
12,902 |
54,966 |
67,868 |
|
建築工事 |
1,235 |
49,799 |
51,035 |
|
|
計 |
14,137 |
104,765 |
118,903 |
(注)1.完成工事高のうち主なものは、次のとおりであります。
前事業年度請負金額10億円以上の主なもの
|
西日本高速道路株式会社 |
中国自動車道(特定更新等)成羽川橋他2橋床版取替工事 |
|
首都高速道路株式会社 |
(修)構造物改良工事1-206 |
|
東京応化工業株式会社 |
2023倉庫建設工事 |
|
滋賀県 |
大津能登川長浜線補助道路整備工事 |
|
中日本高速道路株式会社 |
東海環状自動車道 北勢第三高架橋第一工区(PC上部工)工事 |
当事業年度請負金額10億円以上の主なもの
|
阪神高速道路株式会社 |
PC桁等大規模修繕工事(2019-3-松) |
|
中日本高速道路株式会社 |
東海環状自動車道 上保高架橋(PC上部工)工事 |
|
医療法人博仁会 |
(仮称)医療法人博仁会 福岡リハビリテーション病院増築工事 |
|
西日本高速道路株式会社 |
中国自動車道(特定更新等)四十八瀬川橋他1橋床版取替工事(その2) |
|
株式会社シーアールイー |
ロジスクエア成田新築工事 |
2.完成工事高総額に対する割合が100分の10以上の相手先別の完成工事高及びその割合は、次のとおりであります。
前事業年度
|
中日本高速道路株式会社 |
26,174百万円 |
22.5% |
当事業年度
|
中日本高速道路株式会社 |
20,984百万円 |
17.6% |
|
西日本高速道路株式会社 |
15,647百万円 |
13.2% |
④手持工事高
|
(2025年3月31日現在) |
|||
|
区分 |
官公庁(百万円) |
民間(百万円) |
合計(百万円) |
|
土木工事 |
21,661 |
105,903 |
127,564 |
|
建築工事 |
1,408 |
56,130 |
57,539 |
|
計 |
23,070 |
162,033 |
185,103 |
(注)手持工事のうち請負金額10億円以上の主なもの
|
公益財団法人JKA |
(仮称)日本競輪選手養成所(JIK)次世代型総合 トレーニングセンター新築工事 |
2026年12月完成予定 |
|
西日本高速道路株式会社 |
米子自動車道(特定更新等)山生高架橋床版取替工事 |
2027年4月完成予定 |
|
東日本高速道路株式会社 |
東北自動車道 苗代沢橋耐震補強工事 |
2029年2月完成予定 |
|
株式会社イワキ |
株式会社イワキ三春工場 新工場棟建設工事 |
2026年5月完成予定 |
|
独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構 |
北海道新幹線、都橋りょう(PCけた) |
2027年7月完成予定 |
(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は当連結会計年度末現在において判断したものであります。
①重要な会計方針及び見積り
当社グループの連結財務諸表は、我が国において一般に公正妥当と認められる会計基準に基づき作成されております。この連結財務諸表の作成にあたって、連結貸借対照表上の資産、負債の計上額、及び連結損益計算書上の収益、費用の計上額に影響を与える見積り、仮定を使用する必要があります。当社グループの重要な会計方針のうち、見積り及び仮定の重要度が高いものは以下であります。
・原価進捗度に基づく収益認識
なお、詳細は「第5 経理の状況 1連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項 (重要な会計上の見積り)」に記載のとおりであります。
②当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
a.経営成績等
当社グループの当連結会計年度の経営成績等は、売上高は、前連結会計年度に比べ63億32百万円(4.9%増)増加し、1,356億27百万円となりました。
土木事業は、大規模更新継続契約案件及び新設橋梁工事等の受注、大規模更新・修繕事業等の工事が進捗し、また、設計変更の獲得等により売上高は前連結会計年度に比べ2億86百万円増加し、787億37百万円となりました。建築事業は、食品工場や共同住宅等の受注、豊富な繰越工事が順調に進捗し、売上高は前連結会計年度に比べ47億89百万円増加し、532億3百万円となりました。製造事業は、前連結会計年度に比べ12億30百万円増加し、29億29百万円となりました。その他兼業事業につきましては、前連結会計年度に比べ26百万円増加し、7億56百万円となりました。
売上原価は、前連結会計年度に比べ20億88百万円(1.9%増)増加し、1,125億94百万円となりました。売上原価については、省力化、合理化により原価低減に努めたため、売上原価率が減少しました。売上総利益率は、売上原価率の減少により前連結会計年度の14.5%から2.5ポイント上昇し17.0%となっております。
販売費及び一般管理費は、前連結会計年度に発生があった大成建設株式会社による当社株式取得に対するFA費用が無くなったこと等により、前連結会計年度に比べ2億42百万円(2.2%減)減少し、107億17百万円となりました。
営業外収益は、前連結会計年度に比べ主に為替差益が16百万円減少しましたが、持分法による投資利益が33百万円、受取配当金が30百万円それぞれ増加したことにより、28百万円増加の3億5百万円となりました。
営業外費用は、前連結会計年度に比べ主に支払保証料が12百万円減少しましたが、支払利息が36百万円増加したことにより、6百万円増加の3億67百万円となりました。
特別利益は、固定資産売却益の計上により47百万円となりました。
特別損失は、棚卸資産評価損44百万円等の計上により1億円となりました。
親会社株主に帰属する当期純利益は、主に売上高、売上総利益率の増加に伴う売上総利益の増加等により、前連結会計年度に比べ31億63百万円(62.6%増)増加し、82億17百万円となりました。
b.経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
当社グループは、2030年をゴールとした長期ビジョンの実現に向け、「中期経営計画2022(2022年度~2024年度)」に取り組んでまいりました。最終年度である2024年度業績においては、良好な事業環境を背景に売上高・売上利益は順調に推移し、計画値を上回る結果となりました。
当社グループを取り巻く事業環境においては、民間設備投資あるいは公共建設投資が堅調に推移し、豊富な手持工事を有する一方で、建設業界における就労人口の減少は顕著であり、労働需給バランスの不均衡に起因する人件費・輸送費上昇に加え、設備工事費の高騰による収益面でのリスクが懸念されます。現場支援体制の整備により生産性向上に対する一定の効果は得られたものの、労働時間の大幅な短縮につながる省人化・省力化には至っておらず、技術革新や施工・設計プロセスのデジタル化についてはさらにスピード感をもって対処しなければならない重要事項であると認識しております。また、持続可能な社会の実現に向けて環境負荷低減に係る事業活動が求められており、取り組むべき課題は多岐にわたります。
当社グループでは、現行の経営環境を踏まえ、長期経営ビジョンを再検討し、その実現に向けた「中期経営計画2025(2025年度~2027年度)」を策定いたしました。長期経営ビジョンとして「プレストレストコンクリート(PC)技術を中核とした高度な技術力により、地球にやさしく安全で快適な社会の実現に貢献する」ことを掲げ、5つの「基本方針」を本計画の基軸としております。社員一人ひとりがその能力を最大限に発揮できる環境を整備し、長期経営ビジョンで示した企業像の実現に向けて邁進してまいります。
c.資本の財源及び資金の流動性
当社グループは、従来から工事売上等の営業活動により多くのキャッシュ・フローを得ており、現在及び将来にわたって必要な営業活動及び債務の返済などに備えるために、自己資金のほか金融機関からの借入により資金調達を図っております。当社は、国内金融機関からの借入れについて相対での借入枠を十分確保しており、かつ合計173億円を借入極度額とするコミットメントラインを設定し、長期・短期のバランスを考慮して安定的に資金調達しております。なお、国内グループ会社の資金については当社にて一元管理しており、必要に応じて当社より資金を融通しております。また、海外事業で必要な資金については当社の判断によりグループ会社に直接投資を行っております。
これらの営業活動及び財務活動により調達した資金については、事業運営上必要な流動性を確保することに努め、機動的かつ効率的に使用することで金融負債の極小化を図っております。今後の投資についてはICT関連投資、老朽化した工場設備への計画的な更新、機械化施工に向けた設備投資等を進める方針でありますが、これら投資資金については自己資金及び金融機関からの借入れにより調達する予定であり、不要な有利子負債の圧縮のため、投資計画の妥当性を考慮して資金の使用時期と金額を判断しております。
今後とも入出金の厳格な管理により「営業活動によるキャッシュ・フロー」の獲得を実現し、財務体質の向上に努めていく所存であります。
d.経営方針・経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社グループは、「中期経営計画2022(2022年度~2024年度)」において収益力・資本効率向上について指標を定めております。各指標の達成状況は下グラフに記載した計画対比のとおりです。
中期経営計画2022の最終年度となる当連結会計年度は、大企業を中心とした設備投資が堅調に推移しており、市場全体が回復基調にある事業環境となりました。土木事業では、高速道路各社の大規模更新・修繕事業や東海環状自動車道路工事等のプロジェクトの進行により、受注高は土木、建築とも中計目標を大幅に上回りました。売上高についても、豊富な繰越工事が順調に進捗し、土木、建築とも中計目標を大幅に上回りました。
利益については、増収と設計変更の獲得や原価改善等により増益となり、営業利益、経常利益、当期純利益とも中計目標を上回りました。
各部門についての分析・検討は以下のとおりです。
土木事業については、受注高は高速道路各社の大規模更新継続契約案件や新設橋梁工事の獲得等により、売上高、売上総利益は豊富な手持ち工事の順調な進捗や大規模更新・修繕事業の設計変更の獲得等により目標を大幅に上回りました。
建築事業については、全体として、企業の設備投資意欲が堅調に推移しており、食品工場や共同住宅等の建設工事を受注しました。売上高・売上総利益についても土木事業と同様、豊富な繰越工事が順調に進捗し、目標を上回りました。
営業利益率、ROE、ROAは目標値を上回る結果となりました。D/Eレシオは借入金残高の減少等によりほぼ目標値に達しております。配当については利益の積み上がりにより自己資本比率の上昇を受け、増配を継続する結果となりました。
設備投資では、工場設備の更新や、工事用機械の取得等を実施しました。
セグメントごとの経営成績及び財政状態の状況に関する認識及び分析・検討内容は(1)経営成績等の状況の概要、①財政状態及び経営成績の状況に記載のとおりであります。
(資本業務提携契約)
当社は、2023年11月9日の取締役会において、大成建設株式会社(以下「大成建設」という。)との間で資本業務提携契約(以下、本契約という。)を締結することを決議し、同日付で本契約を締結しております。
(1)契約の目的
当社は、大成建設との間で、両社の連携を強化しグループシナジーを発揮することで、両社の企業価値の向上を図ることを目的として、本契約を締結しております。
(2)本契約の主な内容
①国内PC橋梁事業
・大成建設グループにおける国内PC橋梁事業について、当社を中心とした体制に移行させる。
・大成建設グループの国内PC橋梁事業を当社に移管するために、両社は、それぞれ2026年の年末を目途に具体的な方策を定めること及び2028年の年末を目途に当社に移管することについて協議する。
②建築事業
・大成建設は、当社において、大成建設グループ傘下に入ることによる他社からの受注減少並びに所属する企業グループからの離脱に関連する受注減少等を上回るシナジーが創出されるよう、大成建設の持つPC・PCa案件やリニューアル案件をはじめとした営業情報並びに最新技術やノウハウ等の提供、その他必要な協力を行う。
③取引先等
・当社は、既存の取引先及び協力会社のネットワーク、資材の調達先等のサプライチェーン等を維持できるとともに、当社の判断により、取引先、協力会社及び調達先等を決定できる。
・当社が大成建設のネットワーク及びサプライチェーンの活用を希望する場合、大成建設はこれに協力する。
④経営体制等
・大成建設は、当社株式の上場廃止原因に該当することとなることが合理的に見込まれる行為を行わない。
・大成建設は、当社の経営上の独立性を維持するとともに、当社の意思決定について、株式発行を行う場合等の一定の事項を除き、大成建設の承諾を要しないものとする。
・大成建設は、当社の取締役が上場会社の取締役としての忠実義務及び善管注意義務を尽くす上で親会社以外の少数株主を含む株主共同の利益を図ることが必要となることを認識するとともに、当社の取締役会が、株主共同の利益を図る観点から業務を遂行するために必要な施策を採択し、これを実施することを尊重する。
・大成建設は、当社の常勤取締役1名、非常勤取締役1名、監査役1名に限り指名することができる。
⑤株式の取扱い
・大成建設は、当社の事前の同意がある場合を除き、直接又は間接を問わず、単独で又は第三者と共同して、当社株式を取得又は承継しない。但し、議決権割合が50.1%を下回ることが合理的に確実であると両社間で合意した場合、議決権割合が50.1%を下回った場合、大成建設は、議決権割合を50.1%に維持し又は到達させるために最低限の数の当社株式を取得することができる。
(財務制限条項が付された借入金契約)
当社が金融機関と締結しているコミットメントライン契約と一部の長期借入金契約には、財務制限条項が付されております。
(1)コミットメントライン契約
|
契約日 |
: |
2017年3月28日 |
|
主な借入先 |
: |
株式会社三菱UFJ銀行、株式会社みずほ銀行、株式会社三井住友銀行他 計12行 |
|
契約極度額 |
: |
17,300百万円 |
|
当事業年度末借入実行残高 : 0円 |
||
(2)長期借入金契約
|
契約日 |
: |
2023年10月27日 |
|
借入先 |
: |
株式会社埼玉りそな銀行 |
|
契約金額 |
: |
900百万円 |
|
借入実行総額 |
: |
900百万円 |
|
当事業年度借入金総額 : 900百万円 |
||
|
期間 |
: |
5年 |
なお、詳細は、「第5 経理の状況 1連結財務諸表等(1)連結財務諸表 注記事項(連結貸借対照表関係)」に記載しております。
当社グループの研究開発活動は、社会のニーズを的確に把握し効率的に成果を上げるため、本社に技術開発部門を配置して行っています。プレストレストコンクリートの従来技術の改良に加え、新たなニーズに対応するため、市場調査や最新技術情報の収集を積極的に行っています。また、自社研究やグループ内連携に加え、産・学・官との共同研究にも積極的に取り組んでいます。
当連結会計年度に支出した研究開発費の総額は
(1)土木事業及び建築事業共通
生産性向上は当社の喫緊の課題であり、迅速な成果が求められています。そのため2019年に「PSMAX推進委員会」を設立し、グループ全体で情報を共有・管理し、ICT技術を活用した独自の建設システム構築に取り組んできました。
2024年度は、より進化させたピーエス・コンストラクショングループの建設システム『ピーエス・コンストラクション More Advanced Construction System』の構築を新しい開発ビジョンに掲げ、①建設プロセスのデジタライゼーションと自動化、②デジタル技術を活用した技術の伝承と人財育成の推進など業務プロセス全体の変革に向けたDXロードマップを作成しました。
2025年度、人的資源の減少や技術伝承の遅延といった経営課題に対し、DXによる課題解決と全社的展開をより一層推進するために「DX推進委員会」と専門部署として「DX推進室」を新設しました。「DX推進委員会」では、今までのPSMAXの取組に加え、管理部門の業務効率化、共通プラットフォームの構築とデジタル人財の教育など全社的な活動を推進していきます。
(2)土木事業
①環境負荷低減コンクリートの開発
地球温暖化の抑制策として、プレキャスト部材の製造工場からのCO2排出量を削減する取組と、CO2排出量が少ない材料を用いたコンクリートの開発を行っています。
従来、プレキャスト部材の製造時にはコンクリートの初期強度発現を促進させるため蒸気養生を行っており、これには重油を燃料とするボイラーが必要で多くのCO2が排出されます。当社では、蒸気養生なしに必要な初期強度を得られる「スチームレスプレキャストコンクリート」を開発し,2024年度に岡山県発注のプレキャストPC桁において初採用されました。
またコンクリート材料においては製造時に多くのCO2を排出するセメントを、CO2排出量が少ない高炉スラグ微粉末に70%以上置換し、材料由来のCO2排出量を大幅に削減可能なコンクリートを開発しています。
今後も使用材料及び部材製造時におけるプレキャストコンクリートに関する環境負荷低減技術をグループ内で連携して開発・実用化していきます。
②高強度コンクリートを用いた低桁高PC桁工法の開発
近年、河川改修や都市再開発事業において桁下空間の確保など、建築限界の制限による厳しい架橋条件に対して低桁高橋梁の需要が増えています。このニーズに応えるため、高強度コンクリートを用いた低桁高PC桁工法「ダックスビームHC工法」を開発しました。本工法は設計基準強度100N/mm2の高強度コンクリートを用いることで、設計基準強度が50~60N/mm2の一般的なPC桁に比べ、より低桁高でより大きな支間に適用することができます。本工法の実橋への適用も進んでおり、初適用の橋梁が2024年10月に、2橋目が2025年3月に完成しています。今後、これらの施工実績を基に、低桁高や軽量化(少主桁化)が要求される橋梁工事への適用拡大が期待されます。
③大規模更新関連技術の開発
大規模更新工事に対応する技術として、2023年度に開発した低空頭型床版架設機を床版更新工事において初適用しました。高圧電線などの上空制限があり、大型クレーンでは施工が不可能な環境における施工の高速化など良好な結果を得ることができました。
取替え用のプレキャストPC床版については、床版上面の薄層を超緻密高強度繊維補強コンクリートに置換することで,橋面防水を不要として耐久性の向上と現場工程を短縮する技術の開発を行い現場実装に向け計画中です。
また、耐震補強では既設の中空床版橋に対し、従来の手法では設置が困難であった落橋防止等の定着用アンカーを容易に設置する工法「UB-WALL工法」を開発し、2025年度の施工に向け更なる技術の改善を実施中です。
④大規模修繕関連技術の開発
脱塩工法は、コンクリート表面に配置した陽極材と内部鉄筋との間に電流を流すことで、コンクリートに浸透した塩化物イオンを抽出する工法です。しかし、塩化物イオンをコンクリート外部へ抽出する一方、アルカリイオンを内部鉄筋周辺に集積させる特徴があり、鋼材周辺のアルカリイオン濃度が極端に大きくなることで、アルカリシリカ反応性骨材を使用したコンクリートでは膨張性を示し、ひび割れや剥落などを誘発する恐れがあります。この反応はアルカリ骨材反応(ASR)と呼ばれています。
弊社が開発した「LAC脱塩工法」は、コンクリート部材に応じた電流調節機能、陽極からの電気をコンクリートに伝える電解質溶液の材料変更と循環方法の改良、各部への通電量を詳細管理する遠隔監視技術を使用し、ASRが懸念される構造物にも脱塩工法が適用できるように改良しました。
現在、改良した「LAC脱塩工法」の他、グラウト再注入工法「リパッシブ工法」や電気防食工法など各種独自メンテナンス工法を施工中であり、本格化する大規模修繕工事に向け更なるブラッシュアップを進めていきます。
(3)建築事業
PCa部材接合構造の開発
建築部門におけるプレキャスト化の拡大・推進に向けて、新たなプレキャスト部材接合構造の開発を実施しています。本開発はプレキャストRC部材の接合に関する現場作業の省力化を図るものです。2024年度は鉛直荷重に対する基本性状を確認する載荷実験を実施し、2025年度は地震時水平荷重に対する性状確認の載荷実験を進めます。