第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりであります。

なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末(2024年3月31日)現在において当社グループが判断したものであります。

当社は、以下の企業理念、企業ビジョンを掲げ、創業以来一貫して製品の高品質化と安定供給に努めております。また、経営環境も踏まえ中長期経営計画を策定し、年度経営方針を定めております。

(1) 企業理念

1.企業使命

・高度産業社会の期待に新技術で応え、地球に優しく、人々が快適に暮らせる未来の創造に貢献します。

2.経営姿勢

・お客様の視点に立って独自のソリューションを提案します。

・一人ひとりが「働きがい」と「働きやすさ」を実感できる会社を目指します。

・経営環境の変化に対応するため、何事にも積極果敢にチャレンジし、変革し続けます。

・技術と経営の質を高め、法令を遵守し、ステークホルダーの信頼に応えます。

3.行動規範

・お客様の満足を常に考え行動します。

・問題の本質を追求し、迅速かつ確実に解決します。

・夢の実現に向け、熱意・誠意・創意を持ってチャレンジします。

・一人ひとりのアイデアを尊重し、それをカタチにします。

・良き市民・良き国際人として高い倫理観をもって行動します。

 

(2) 企業ビジョン

1.事業アイデンティティ

パウダー&サーフェス分野で世界最高技術を提供し、私たちが理想とする「エクセレントカンパニー」を目指します。

私たちが理想とする「エクセレントカンパニー」とは、業績が優れているだけでなく以下の3つを実現する会社です。

・変化に的確に対応し、未来に向けて持続的に成長する。

・企業理念・ビジョンの実現に向け、一人ひとりが熱意と誠実さをもって、活き活きと仕事に取り組む。

・環境負荷低減とともに持続可能な社会の実現に貢献する。

2.企業文化ビジョン

強く、やさしく、面白い会社を目指します。

・自由闊達で切磋琢磨する風土をつくります。(強く)

・仲間を大切にし、助け合い、感謝します。(やさしく)

・夢をいだき、夢がかなう職場をつくります。(面白い)

3.事業構造ビジョン

既存事業の強化を図りつつ新規分野に積極果敢にチャレンジし、半導体関連分野(シリコン・CMP)と非半導体関連分野の安定した事業バランスの構築を目指します。

 

(3) 全社基本戦略

 当社は、パウダー&サーフェス分野で、お客様のニーズにより早くより正しく対応するために、周辺技術を取り込んだ先進技術と最高の品質を継続的に提供し、お客様から真っ先に依頼がくる信頼関係をつくり上げ、ニッチ市場におけるトップシェアを獲得します。

 

(4) 経営環境

 当社が主たる事業領域としている半導体市場は、コロナ禍を契機に様々な場面で急速にデジタル化が進展し、旺盛な半導体需要が継続しておりましたが、2022年秋以降、PC、スマートフォン及びサーバー市場の低迷に伴い生産及び在庫の調整が見られ、2023年の半導体市場はマイナス成長となりました。しかしながら、生成AI市場への期待が高まり、また、世界各国が半導体を戦略物資と位置づける中、半導体の重要性は益々高まっており、中長期的には更なる拡大が見込まれています。当社のお客様であるシリコンウェハーメーカー及び半導体デバイスメーカーの多くは、将来予想される旺盛な半導体需要に応えるべく積極的に大規模な設備投資計画を公表・実施しております。また、半導体の技術革新の進展に伴い、新製品開発や品質保証に関するお客様からの要求水準も高まっております。

 

 一方で、自然災害は年々激甚化の傾向にあり、物流網に与える影響も深刻化しております。また情報セキュリティインシデント(サイバー攻撃等を含む情報セキュリティにおける事件や事故)については、当社においても2022年2月に発生したシステム障害に対し再発防止に向け必要な対策を講じてまいりましたが、インシデントがますます複雑化していることから、引き続き対応を強化すべき重要な課題であると認識しております。

 

(5) 企業価値向上について

① 当社の企業価値の源泉について

当社の創業以来蓄積されたノウハウと研究開発力から生まれた製品の数々は、シリコンウェハーに代表される半導体基板の鏡面研磨、半導体デバイスの多層配線に必要なCMP(化学的機械的平坦化)、ハードディスクの研磨等、高精度な表面加工が求められる先端産業に欠かせぬものとなっております。なかでも、主力事業分野である半導体基板向け超精密研磨材では世界ナンバーワンのマーケットシェアを維持しており、超精密研磨のリーディングカンパニーとして、市場優位性を維持しております。

当社は、超精密研磨分野において長年にわたってお客様の要求に応え続けるとともに、開発・製造技術の向上・蓄積に努めてまいりました。その過程において、お客様との信頼関係を築き上げ、柱となる3つのコア技術「ろ過・分級・精製技術」「パウダー技術」「ケミカル技術」を確立しました。「ろ過・分級・精製技術」は、砥粒の粒度分布を制御し、研磨対象物の品質に悪影響を及ぼす粗大粒子や不純物を除去する技術、「パウダー技術」は、粒子の形状を制御し、異なる粒子を均一に混ぜ合わせ造粒する技術、「ケミカル技術」は、研磨材の性能向上に寄与する分散・溶解・表面保護作用を発現させる添加剤を適切に設計、配合、調合精製する技術です。

当社のコーポレートスローガン「技術を磨き、心をつなぐ」には、先端技術を通してより良い製品づくりに貢献し、人々の心をつなぎ、生活を豊かにするという意味が込められており、人を尊重し地球環境に配慮した製品づくりが当社の「ものづくり」の根底に流れております。当社はこうした「ものづくりの精神」と従業員一人ひとりが変化に果敢に挑戦するという企業風土により、企業競争力を高めてまいりました。

当社の企業価値の源泉は、こうした製造現場と一体となった高い技術力・開発力、長い歴史のなかで培われたお客様との信頼関係、労使間の健全かつ一体感のある企業風土にあると考えております。今後の技術革新をリードし業績の拡大を目指していくためにも、お客様の信頼度の更なる向上が重要であると考えております。また、従業員のモチベーションやエンゲージメントの向上、インテグリティマインドの強化を図っていくことが、困難な状態にも挫けることなく、自ら目標に向かって最後までやり抜く主体的・積極的な行動に繋がり、お客様のご満足と従業員のウェルビーイングが共に実現できると考えており、当社はこうした方針のもと、引き続き企業価値の向上にグループを挙げ取組んでまいります。

 

② 企業価値向上のための課題

半導体市場において将来的に更なる需要増加が見込まれることを鑑み、当社は供給責任を果たすべく、国内外で段階的に設備投資を進めるべく体制を整備していくこと、新製品開発や品質保証に関するお客様の高まる要求水準を満たすべく研究開発や品質保証のレベルアップを図ること、また、緊急事態に備える事業継続力を強化することが、当社の企業価値向上のための課題であると認識しております。特に、品質保証については、当社が過去から大切にしている「ものづくりへの誇り」のベースとなるインテグリティ(誠実、真摯であること)を強く意識し、社会的規範や倫理を基に自ら考え、直面する課題や問題のみならず、日常の業務プロセスを見つめ直し、「ものづくりへの誇り」を確固たるものにすべく、インテグリティマインドの強化を継続してまいります。

昨今の地政学的な不透明さや新感染症拡大等による、原材料の調達難及び価格高騰、物流の混乱等により、サプライチェーンマネジメントの重要性は増しております。当社としてもより強靭な供給体制を整えるべく、有事においても対応可能なサプライチェーンマネジメントの強化に全社一丸となって引き続き取組んでまいります。

一方で、中長期的な企業価値向上の観点からは、半導体市場に過度に依存しない売上の安定化と更なる拡大を目指し、事業領域を拡大する必要があると認識しております。このため、中長期視点での研究開発と新規事業の探索・育成による事業領域の拡大に努めるとともに、非半導体領域及び非研磨分野での用途拡大を進めていくことも当社の企業価値向上のための課題であると認識しております。

 

③ 企業価値向上のための取組み(中長期経営計画)

当社は、2023年5月10日に中長期経営計画(2024年3月期~2029年3月期。以下「本計画」といいます。)を公表しました。その概略は以下のとおりです。

 

[基本方針]

当社は、企業使命である「高度産業社会の期待に新技術で応え、地球に優しく、人々が快適に暮らせる未来の創造に貢献します」に基づき、既存事業(半導体関連事業等)の更なる拡大と新たな柱となる新規事業の創出を通じて、研磨材メーカーからパウダー&サーフェスカンパニーへの進化を遂げ、持続可能な社会の実現への貢献を目指すことを本計画の基本方針としております。

 

2024年3月期から2029年3月期の6年間を対象とする本計画では、研究開発とグローバルな製品供給体制の拡充に一層の経営資源を投入するとともに、サステナブルな経営の根幹を成す人材投資やESGに係る取組みを積極的に推し進め、前中長期経営計画で定めた中長期企業ビジョン「私たちは一人ひとりの前向きなアイデアとチャレンジを応援します」を継続し、引き続きその実現に向け、各種施策等を策定いたしました。

 

[重要施策]

本計画の基本方針に基づく取組みは以下のとおりです。

(1) 研磨材メーカーからパウダー&サーフェスカンパニーへの進化を実現する新規事業の創出

(2) 半導体関連事業の強靭な基盤構築と次世代半導体向け材料分野での圧倒的な地位確立

(3) コア技術の発展と新技術の開発

(4) 100年企業を実現するGRIT(※)な組織と人づくりへの挑戦

(5) サステナビリティ経営の実践

 ※GRIT:困難な状態にも挫けることなく、目標に向かって最後までやり抜くこと

 

[株主還元]

配当につきましては、連結配当性向を55%以上とすることを目標として、業績に応じた積極的な株主還元を実施するとともに、安定配当の継続にも留意することを基本方針としております。なお、DOE(連結純資産配当率)を配当指標に加えることについても検討してまいりましたが、半導体市況等の事業環境を踏まえて引き続きの検討課題としてまいります。

また、内部留保につきましては、今後予想される経営環境の変化に対応すべく、お客様のニーズに応える開発・生産体制の強化、グローバルな事業戦略の遂行及び事業領域の拡大に役立てる所存であります。

 

[マテリアリティの特定(持続可能な社会の実現にむけて)]

当社は本計画策定に際し、持続可能な社会の実現に向けて、当社が優先して取組む重要課題として18のマテリアリティを特定しました。

 

当社が特定した18のマテリアリティ

分類

マテリアリティ

環境(E)

・気候変動対応

・水資源保全

・循環型社会への貢献

・化学物質管理

社会(S)

・労働安全衛生の確保

・ウェルビーイング実現

・ダイバーシティ推進と人材育成

・地域社会貢献

ガバナンス(G)

・インテグリティ

・コーポレートガバナンス・コンプライアンス

・知的財産保護

・情報セキュリティマネジメント

・リスクマネジメント

価値創造(Ⅴ)

・サプライチェーンマネジメント

・品質管理

・研究開発

・DX推進

・生産性向上

 

 

 具体的な各事業等の施策は以下のとおりであります。

 

[シリコン事業]

半導体基板となるシリコンウェハーを高精度に平坦・鏡面化する研磨工程で用いられる研磨材を研究開発し製造販売する事業です。切断から仕上げ研磨までトータルソリューションを可能とする高品質な製品・サービスを揃えております。益々高度化するお客様の要求に応えるべく、引き続き新技術に支えられた独自性の高い新製品を提供し、「最も信頼されるパートナー」を目指してまいります。

また、電気自動車、ハイブリッド自動車の普及により需要が高まっているSiC基板向け製品の開発を進め、世界各地のお客様へ製品を供給するため、米国及びマレーシア拠点での生産を進めております。

 

[CMP事業]

半導体デバイスの製造工程で用いられる研磨材を研究開発し製造販売する事業です。半導体デバイスの高性能化、高密度化、高集積化に伴い、研磨対象となる膜種とCMPが適用される工程は増加傾向にあります。加えて、近年はシステムとしての性能向上のために、半導体デバイスを3次元に実装する技術が開発されており、その分野でもCMPが検討されつつあります。お客様の製造・開発拠点に近い、日本、米国、台湾に製造・開発拠点を設け、お客様とより密接な関係を構築し、お客様のロードマップに沿った新製品を開発しております。

 

[ディスク事業]

デジタルデータの記録媒体であるハードディスクドライブ用ディスク基板の製造工程に用いられる研磨材を研究開発し製造販売する事業です。お客様の生産拠点が集中するマレーシアに製造拠点を置くとともに技術スタッフを配置し、技術サポートを実施することでお客様との信頼関係を構築しております。近年、ハードディスクドライブはSSD(ソリッドステートドライブ)への置き換えが進んでおりますが、クラウドサービスや5Gにより送受信されるデータ容量の増加が見込まれており、データセンター向けのハードディスク需要も引き続き高まっていくものと思われます。次世代ディスク基板への要求を早期に入手し具現化するため基礎開発の拡充も図り、お客様の要求に合った新製品をタイムリーに提供してまいります。

 

[溶射材事業]

半導体装置、航空機及び鉄鋼等様々な業界の機械部材の長寿命化、高機能化を実現するために、環境に優しい表面処理として使用される溶射用途向けに、主にサーメット、セラミックス等の溶射材を研究開発し製造販売する事業です。独自の粉末造粒技術を一層強化し、タイムリーなソリューション提案を行い、売上拡大を目指してまいります。

 

[研磨ソリューション事業]

様々な用途で用いられる、多種多様な材料(金属、樹脂、セラミック、複合材料等)や形状(2次元、3次元形状)に対応した研磨材等の研究開発および製造販売を行う事業です。

世界の様々な業界のお客様から寄せられる、新たな表面創成のご要望に、研磨材の供給のみに留まらず、用途に応じた様々な研磨方法を提案し、周辺消耗材や装置、加工プロセスまでを含めたトータルソリューションでお応えしてまいります。

具体的な取組みの一例として、自動車外装用研磨コンパウンドを新たに開発し、採用が始まっております。

 

[先端技術・機能材料]

パウダー領域・非研磨事業の拡充を更に推進することを目的として発足した「先端技術・機能材料本部」傘下において、パウダー分野におけるフジミ基幹技術の研究開発を進めると同時に、非研磨分野における新規事業の「創出」と「事業化」を強力に推進してまいります。また、これまで機能材事業や先端技術研究所で養ってきた粒子形状・粒度分布制御及び造粒技術を始めとする当社基幹技術を一体化させ、さらにマーケティング力を強化し、新規用途・お客様層の拡大に一層注力してまいります。

具体的な取組みの一例として、高い放熱性と流動性を備えたセラミックスパウダー、軽量かつ高い耐熱性を備えたセラミックス複合材料、球状・板状・棒状など形状制御技術を活用した新規セラミックスパウダーや3Dプリンター用超硬材料等の開発を進めております。

 

 

④ 年度経営方針

上記の経営環境と企業価値向上のための課題と取組み(中長期経営計画)を踏まえ、2025年3月期(第73期)の年度経営方針及び年度重点課題を以下の通り定めております。

 

[第73期年度経営方針]

・お客様目線の実践

・パウダー&サーフェスカンパニーへの進化

・「働きがい」と「働きやすさ」の醸成

・当事者意識とやり抜く力の確立

・革新への挑戦

 

[第73期年度重点課題]

・インテグリティマインドの強化

・有事に対応可能なサプライチェーンマネジメントの強化

 

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

 当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は以下のとおりであります。

 なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末(2024年3月31日)現在において当社グループが判断したものであります。

 

[サステナビリティについて]

 近年、気候変動影響は激甚化しており、その一因としてGHG排出量の増加が挙げられます。2015年のCOP21で合意されたパリ協定では世界共通の目標として、平均気温上昇を産業革命以前に比べ「2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力を追求」と掲げられました。

 当社も従前より企業使命に「高度産業社会の期待に新技術で応え、地球に優しく、人々が快適に暮らせる未来の創造に貢献します」と掲げており、事業活動と環境保全を両立してきたことからこのパリ協定の考えに賛同しております。また、中長期経営計画2023策定に際し、持続可能な社会の実現に向けて当社が優先して取組む重要課題として18のマテリアリティを特定し、最も重要な課題の1つとして「気候変動対応」を掲げました。

 当社はこれまでも各工場に省エネ委員会を設置し、きめ細やかなエネルギー管理を図るなどGHG排出量の削減を行ってまいりました。今後は拠点ごとの排出量の把握や全社の中長期的な削減目標の設定を行うとともに様々な方策を検討することで環境負荷低減をより一層推進してまいります。

 また、当社ステークホルダーの皆さまへの情報開示の観点から気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures: TCFD)提言に基づく開示を実践しております。TCFD提言はガバナンス、戦略、リスクマネジメント、指標と目標の4つの要素で構成されており、当社もこれに基づく開示を進めております。今後も投資家を含めたステークホルダーの皆さまと対話を通じながら、開示の透明性を高め、内容・取組みについて質・量ともに向上させることで持続可能な社会の実現に貢献してまいります。

 

(1)ガバナンス

 当社は従前より企業使命に「高度産業社会の期待に新技術で応え、地球に優しく、人々が快適に暮らせる未来の創造に貢献します」と掲げ、事業活動と環境保全を両立してまいりました。

 当社の気候変動対応に関する方針・目標は、社長を委員長とするサステナビリティ委員会において、経営計画・事業戦略等を踏まえて審議した後、その結果を取締役会に付議し、監督を受ける体制を構築しております。

 

① サステナビリティ委員会

 グローバルなESG(環境・社会・ガバナンス)課題に対して、戦略的に取組むべく、サステナビリティ委員会を設置しております。

 本委員会は、社長を委員長とし、取締役・本部長・副本部長・部門長で構成されております。年1回定期的に開催し、気候変動を含むサステナビリティに関する方針、マテリアリティ(E:環境・S:社会・G:ガバナンス・V:価値創造)に対する取組状況の取纏め、TCFD提言に基づく継続改善や地球温暖化対策等を審議します。本委員会での審議内容は、社長への報告を経て、取締役会に付議いたします。(年1回)

 

 当社のサステナビリティ委員会の体系図は以下の通りです。

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(2)戦略

 世界全体が脱炭素に向けて挑戦を続けていく中で、企業には大きな不確実性が伴います。

 当社はその不確実性に対する経営のレジリエンス検証のために、TCFD提言が要求するシナリオ分析を実施いたしました。

 シナリオ分析の実施にあたってはIEA(国際エネルギー機関)やIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が公表している気候変動シナリオをベースに、移行リスク・機会の影響が顕著になる「1.5℃シナリオ」、平均気温上昇による物理的な影響が顕著になる「4℃シナリオ」の2つのシナリオで将来の当社に想定されるリスク・機会を分析いたしました。

 今後もシナリオ分析のさらなる深化や見直しをするとともに、TCFDの改訂ガイダンスやISSB(国際サステナビリティ基準審議会)で開示が求められている脱炭素への移行計画の策定に取組んでまいります。

① 参照したシナリオ

設定シナリオ

2℃未満シナリオ(含む1.5℃シナリオ)※1

4℃シナリオ※2

参照

シナリオ

移行面

「NZE※6、APS※7」(IEA WEO※32022)

「NZE、APS」(IEA ETP※42023)

「STEPS※8」(IEA WEO2022)

物理面

「RCP2.6」(IPCC※5 AR5)

「SSP1-1.9、SSP1-2.6」(IPCC AR6)

「RCP8.5」(IPCC AR5)

「SSP5-8.5」(IPCC AR6)

※1 産業革命以前と比較して、気温上昇を1.5℃以下に抑えるために必要な対策が講じられた場合のシナリオ

※2 産業革命以前と比較して、21世紀末に世界の平均気温が4℃上昇するシナリオ

※3 国際エネルギー機関「World Energy Outlook」(2022)

※4 国際エネルギー機関「Energy Technology Perspectives」(2023)

※5 国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)「Shared Socio-economic Pathway」

※6 「Net Zero Emissions 2050」2050年ネットゼロ達成、2100年の温度上昇1.5℃

※7 「Announced Pledges Scenario」ネットゼロ宣言国は全て達成、2100年の温度上昇2.1℃

※8 「Stated Policies Scenario」2021年6月時点のNDCと整合、2100年の温度上昇2.6℃

 

② シナリオ分析(1.5℃)

シナリオ

内容

事業への影響

1.5℃

シナリオ

政策・法規制の強化

(GHG排出規制、エネルギー政策等)

リスク

GHG排出規制による設備投資コストの増加

GHG排出規制による再生可能エネルギー調達コスト等の増加

カーボンプライシングの導入による操業コストの増加

エネルギー政策の変更による操業コストの上昇

サプライヤーの脱炭素対応による原材料調達費増加

機会

省エネ・GHG排出量削減によるエネルギー費用の削減

環境配慮要請の増加に

伴う経営環境の変化

リスク

廃棄物の処分/リサイクルに要する費用の増加

GHG削減に繋がるサーキュラーエコノミーへの要求の高まりへの対応劣後による自社製品需要減少

顧客の環境配慮要求に対応できないことによる需要の減少や競争力の劣後

機会

脱炭素社会の実現に必要な次世代半導体の需要増に伴う自社製品の需要増

顧客の環境配慮要請に対応する自社製品の需要増

気候変動への取組みに対するステークホルダー要請の高まり

リスク

水資源・化学物質管理などの認可・規制への対応の遅れから訴訟を受けるリスク

 

③ シナリオ分析(4℃)

シナリオ

内容

事業への影響

4℃

シナリオ

気温上昇や異常気象の

増加

リスク

異常気象による原材料調達網への影響

異常気象による水資源への悪影響(渇水リスク・水質低下など)

風水害・海面上昇による物流網へのダメージ

気候パターンの変化による洪水・海面上昇等による操業への影響

熱中症等の従業員の健康に及ぼすリスクの増加

気温上昇・異常気象の増加による市場の変化

機会

気温上昇・異常気象の適応に必要な半導体製品の需要増加(半導体の進化による省エネ)に伴う自社製品の需要増加

 

(3)リスクマネジメント

 当社は、リスク低減及び事業機会の創出を推進するため、年2回、社長を委員長とし、取締役、本部長、副本部長及び部門長により構成されるグローバルリスク管理委員会を開催する等、リスクマネジメント活動を進めております。

 気候変動に関わるリスク事象を含め、その重要度・発生頻度等の指標によりリスクレベルを4段階に分類した上で、当該リスク対応の責任部門を定めております。また、極めて高いリスクと判断される事象につきましては、必要に応じて対策プロジェクトチームを組成し、活動を推進するとともに、同委員会においてリスク低減活動及び短期・中長期的な目標に対する進捗状況について、慎重かつ十分な審議を重ねた上で、定期的に取締役会に付議することとしております。

 

(4)指標と目標

 当社は、特定したマテリアリティの一つである「気候変動対応」に対する取組みの方向性を明確にし、着実に実行するべく、GHG排出量Scope1・2の算定に取組んでおります。

 今後は、GHG排出量Scope3の算定およびScope1・2の中長期的な削減目標の設定を実施し、取締役会による定期的なモニタリングを実施してまいります。

 

① 環境関連データ(Scope1・2)のGHG排出量(実績)

a.日本

(単位:t-CO2)

2022年3月期

2023年3月期

2024年3月期

Scope1

2,920

2,895

2,326

Scope2※1

10,682

10,440

8,746

Scope2※2

8,936

9,183

9,352

Scope1+2※1

13,602

13,336

11,072

Scope1+2※2

11,857

12,079

11,679

 ※1 Scope2:ロケーション基準

 ※2 Scope2:マーケット基準

 

b.連結子会社

(単位:t-CO2)

2022年3月期

2023年3月期

2024年3月期

Scope1

146

209

177

Scope2※1

4,457

4,428

4,337

Scope1+2※1

4,603

4,637

4,514

 ※1 Scope2:ロケーション基準

 

 

[人的資本について]

多様性確保への考え方、人材育成方針・社内環境整備方針

 当社は、「グローバルに多様化し、革新的な環境の中で熱意と誠実さを持ち、自らの創造性と問題解決力を駆使して 挑戦していくことのできる従業員の採用」を人材の採用ポリシーに掲げており、同ポリシーに合致する人材は、性別・人種・国籍・信条・障碍・宗教・年齢等に拘らず、採用することとしております。また、社内教育制度や同一役割における処遇にも格差はなく、全ての従業員にとって差別の生じない、安全、安心な環境づくりを推進するとともに、従業員一人ひとりの成長、活躍の機会を尊重した教育制度、人事制度等の拡充を図っております。

 また当社では、法令は企業として最低限守るべきものとの考えから「倫理綱領」を制定し、上記に掲げる「人権の尊重」をはじめ、取締役及び従業員等全員が守るべき規範を定めており、その社内浸透を推進するべく、「コンプライアンス研修」を毎年実施しております。当社は、取締役及び従業員等全員がこの趣旨に従い、公正に行動することで「信頼のフジミ」であり続けたいと考えております。

〔女性〕

 2016年度より10年計画で、女性が活躍できる雇用環境の整備を行うべく、目標及び行動計画を設定し、取組みを推進しております。

 詳細は当社ウェブサイトに掲載しており、そのアドレスは次のとおりです。(https://www.fujimiinc.co.jp/csr/women/plan.html)

〔外国人〕

 当社の海外子会社は、事業運営及び業務執行を現地の経営陣、管理職主体で推進しております。グループ全体における役割としては、FUJIMI CORPORATION(米国)及びFUJIMI TAIWAN LIMITED(台湾)は、グループの主力事業であるCMP製品等の製造・開発・販売において中核的な役割を果たし、FUJIMI-MICRO TECNOLOGY SDN. BHD.(マレーシア)は、当社で開発、現地で製造・販売と一体的な運営を行う等、グループ経営において不可欠な存在となっております。

 現状、当社に外国籍の管理職は2名在籍しております。また当社は、グループ内の役職グレードを統一しており、現地経営陣の中には、当社の業務執行を担う部長級相当以上の役職に就く者も6名在籍しております。今後も、海外子会社との連携を密にし、グループ一体での経営を推進してまいります。

〔中途採用者〕

 全従業員の約57%が中途採用者であり、課長職以上の管理職においても管理職全体の約49%を占めております。中途採用者は、入社後、役割・ポジションに応じた計画的な社内研修の実施等により組織への定着が早期に図れており、各人の前職での経験を含め多様な価値観を取り入れられていることから、現状十分に多様性を確保できているものと考えます。

 

(1)戦略

 ①女性活躍推進施策、両立支援施策の実行

 当社は、女性が活躍できる雇用環境の整備を行うべく、2016年度より10年計画で目標及び行動計画を設定し、取組みを推進しております。また、従業員が仕事と子育てを両立させることができ、従業員全員が働きやすい環境をつくることにより、全ての従業員がその能力を十分に発揮できるよう、2012年度以降2年毎に目標及び行動計画を設定し、取組みを推進しております。

 具体的には、多様な働き方を取り入れた適材適所の人員配置・人材育成・人事評価・昇進基準の設定、男性の育児休業等の取得促進に資する社内標準の改定等に取組んでおり、2016年には厚生労働省より、仕事と子育ての両立支援に取組む企業を認定する「くるみん認定」を取得しております。

 ②グローバル人材及びお客様の課題を解決する力量を備えた人材確保及び育成施策の実行

 当社では、海外子会社からの出向者として、外国籍の管理職が2名在籍しております。引き続き、こうした海外子会社との人材交流等を含む外国籍の管理職登用を進め、多様性確保を推進してまいります。また当社では、グローバルな事業環境に適応するべく、海外派遣制度、海外トレーニー制度、留学制度、語学教育プログラム等を整備・運用するとともに、お客様の課題を解決し、安定供給を継続していくために、階層別研修プログラム、技術・専門スキル向上研修プログラムを推進する等、当社及びお客様が求める人材の育成に取組んでおります。

 ③中途採用者の積極採用及びオンボーディング施策の実行

 当社では既に従業員の約半数が中途採用者でありますが、引き続き、多様な経験を有する中途採用者を積極的に採用するべく、採用競争力の向上に努めるとともに、その活躍を後押しするため、異業種等から採用した従業員が早期に活躍できる環境づくり、体制づくりに取組んでまいります。

 ④ウェルビーイング実現に向けた取組みの推進

 当社は、従業員一人ひとりが働きやすさ、働きがいを実感できる組織文化の醸成を通じ、従業員のウェルビーイング実現を目指しております。ウェルビーイングとは、心身ともに健康で、社会的に満たされた状態(幸福)であることを指す言葉です。当社では、ワークライフバランスの充実に向けた社内環境整備施策に加え、従業員のモチベーション、能力、エンゲージメントの向上に資する人事関連施策の強化により、従業員が困難な状態にも挫けることなく、最後までやり抜く主体的・積極的な行動を生み出すことで、「お客様のご満足」を実現するとともに、それが引いては従業員一人ひとりが「喜び」や「誇り」として実感することにつながる「従業員のウェルビーイング」の実現を目指すべく、取組みを推進してまいります。

 

(2)指標及び目標

 上記戦略に基づき設定している主要指標、実績及び目標値は下記の通りです。

 なお、当社グループでは上記「(1)戦略」に基づく具体的取組みを連結子会社も含めて開始しておりますが、連結子会社での指標のデータ管理が未整備であるため、連結グループにおける記載が困難であります。このため、次の指標に関する実績及び目標は、連結グループにおいて主要な事業を営む提出会社のものを記載しております。

・女性管理職の登用率        :2023年度実績 3.4%   2026年度目標 10%以上

・育児休業制度の取得率(男)    :2023年度実績 46.6%   2024年度目標 30%以上

・育児休業制度の取得率(女)    :2023年度実績 100%   2024年度目標 95%以上

・従業員一人あたり人事部門

 主催の研修受講時間        :2023年度実績 17.9時間  2024年度計画 18.2時間

 

3【事業等のリスク】

 有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりであります。

 なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末(2024年3月31日)現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1)原材料の調達について

当社グループは、原材料、副資材、消耗品、設備、設備部品等を購入しております。購入先の選定にあたっては、生産能力、納期、品質管理能力、コスト、技術開発力、お客様サービス等を総合的に評価し、複数の購入先を確保することを基本としておりますが、一部の品目においては一社購買になっております。そのため、購入先の品質異常、需要の急増等により十分な供給を受けられない可能性があります。

一方、複数の購入先から購入しているものにおいても、購入先が一国に集中している原材料や消耗品があり、資源保有国が自国内への供給を優先させる政策等により、当社グループが十分な供給を受けられない可能性があります。

これらについて長期間供給を受けられない場合、当社グループの生産活動が遅滞し、業績に影響を与える可能性があるため、販売先に対し代替原料の認定を推進する等の対策を講じてまいります。

 

(2)研究開発について

当社グループは超精密研磨材分野においてこれまで高いシェアと利益率を維持してまいりました。しかしながら、予想を超えた技術・市場の変化により、お客様の技術的なニーズを満たす製品を速やかに提供できない場合は、将来の成長と収益性を低下させ、当社グループの業績に大きな影響を与える可能性があります。

このようなリスクに対応するため、当社グループでは、日本のほか、米国、台湾に研究拠点を設け、お客様のすぐ近くで、お客様の求める製品をタイムリーに提供できるよう、お客様と一体となって新製品の開発を推進しております。また、変化の激しい市場環境に対応するために、自社内での研究開発にとどまらず様々な分野で大学・研究機関・企業とも積極的に連携を進めております。

 

(3)企業買収について

当社グループは、事業の成長を加速させる上で必要な技術の獲得や市場における優位性の確立に資するM&Aは有効な手段と考えておりますが、買収後の市場環境や競争環境の著しい変化があった場合には投下資本の回収が困難となり、ひいては当社グループの業績に大きな影響を与える可能性があります。

M&Aの検討にあたっては、対象となる市場の動向や顧客ニーズ、被買収企業の業績、財務状況、技術優位性や市場競争力、将来事業計画及びシナジー効果に加え、M&Aに伴うリスク分析結果等を考慮しております。また、買収前には専門家を活用したデューデリジェンスにより被買収企業の実態及び問題点の有無を調査し、買収後は企業価値の向上と長期的成長を支える新たなマネジメント並びにガバナンス体制を構築、推進いたします。

 

(4)製品保証について

当社グループでは製品の品質保証体制を確立し、製造物責任保険も付保しております。しかし、当社製品に起因する損害が発生した場合、当社グループの業績に大きな影響を与える可能性があります。

このようなリスクに対応するため、当社グループでは品質保証体制を継続的に改善し、お客様からの新たな要求に対する品質改善に努めるだけでなく、品質に関わるクレームを受けた際には原因の根本対策による再発防止を徹底する等、高度化するお客様からの品質要求に応えるための体制を整備しております。

 

(5)競争の激化について

当社グループの主力事業分野である半導体基板向け超精密研磨材では世界ナンバーワンのマーケットシェアを維持しており、超精密研磨のリーディングカンパニーとして、市場優位性を維持しております。しかしながら、国内外に多様な競合企業が存在するため、当社グループの競争優位が脅かされたり、当社製品を上回る性能の新製品が競合企業により開発・上市されるリスクがあります。

このようなリスクに対応するため、研磨機構の科学的解明に基づき、研磨材の重要構成成分である薬液を独自設計することで、研磨性能の向上を図っております。また、半導体基板の研磨工程には、粗研磨から最終研磨まで複数の研磨工程があり、当社グループはその全ての工程の研磨材を手掛け、最終仕上げ面をお客様の求めに応じ高品位かつ効率的に発現させうる、各工程における最適な研磨材とプロセスを提供しております。

 

 

(6)原材料の価格について

当社グループで製造している研磨材には、海外から輸入される天然資源を原材料とするものがあります。近年当該原材料価格が高騰しており、更なる原材料価格の高騰は利益の一層の減少や、ひいては固定資産の減損に繋がり、当社グループの業績に大きな影響を与える可能性があります。

このようなリスクに対応するため、複数購買の推進等、影響を低減する施策に取組んでおります。

 

(7)市場環境の変動について

当社グループが事業活動を行っている日本、北米、アジア及び欧州等の市場において、景気後退により個人消費や民間設備投資が減少した場合、当社グループが提供する製品の需要減少や価格競争の激化が進展し、当社グループの業績に大きな影響を与える可能性があります。

このようなリスクに対応するため、お客様から最新情報を入手し、アナリストや投資家とのコミュニケーションを通じて市場動向の把握、分析及び事業戦略を立案する等、適宜対策を講じております。

 

(8)海外での事業展開について

当社グループでは、日本、北米、アジア及び欧州等において幅広く海外活動を展開しています。そのため、海外における政治経済情勢の悪化、予期しない法律や規制の変更、治安の悪化等のリスクが内在しており、当社グループの業績に大きな影響を与える可能性があります。

このようなリスクに対応するために、有事の際の連絡系統を確立し、グローバルで速やかに情報共有できる体制を取っております。また、年2回グローバルリスク委員会を開催し現地リスクの特定、対策を講じております。

 

(9)情報セキュリティについて

当社グループは技術、営業、その他事業に係る機密情報並びに多数の企業及び個人の情報を保有しております。それらについては、万全の情報管理体制を構築しておりますが、コンピューターウイルス、その他の要因により情報漏洩やそれら情報を使用できない状況等が発生した場合、当社グループの業績に大きな影響を与える可能性があります。

このようなリスクに対応するために、当社グループでは、情報セキュリティに関する各種規程類を整備・運用し、役員従業員への教育研修等を通じて、情報及び情報機器の適正な取扱いを浸透させております。

 

(10)災害等について

地震や台風等大規模な自然災害その他の事象により大きな被害を受けた場合、正常な生産活動や研究開発活動が妨げられ、当社グループの事業活動、業績及び財政状態に大きな影響を与える可能性があります。
 加えて、新規の感染症等の拡大により、供給元、納入先、当社グループの工場等のサプライチェーンに影響が生じた場合や、従業員の感染による操業停止等により、同様の影響を及ぼす可能性があります。

当社グループでは、このようなリスクに対応するべく、事業継続計画(BCP)や災害対策マニュアルの策定、及びその実効性を高めるための定期的な訓練を実施し、災害発生時においても重要な事業の継続、早急な事業復旧が可能な体制の整備を行っております。

 

(11)為替変動について

当社グループは積極的に海外との取引を展開しており、海外連結子会社5社を有しております。2023年3月期及び2024年3月期における連結売上高の海外売上構成比は、ともに77.5%となっており、今後も高い比率で推移するものと想定いたします。外貨建ての取引は必要に応じて先物為替予約によりヘッジを行っておりますが、為替変動が当社グループの業績に大きな影響を与える可能性があります。

 

(12)知的財産権について

当社は技術主導型の企業であり、知的財産を優れた製品の競争力確保のための重要な源泉であると位置付け、その強化に継続的に取組んでおります。しかしながら、当社グループの知的財産権が侵害される可能性や第三者が保有する知的財産権を侵害する可能性があり、当社グループの事業遂行や競争力に影響を与える可能性があります。

更なる技術の差別化を目的とした独自技術の確保に努めるとともに、より強固な知的財産ポートフォリオを確立し、第三者の知的財産権に関する調査・侵害予防活動を遂行するため、海外子会社を含むグループ全体での知的財産の管理・運営体制の整備を進めております。また、訴訟等の発生にもタイムリーかつ効果的に対応できるよう国内及び主要マーケット各国の知財・法務の専門家との連携ネットワークを確立し、その維持強化を図っております。

 

(13)人材について

当社グループが競争力を維持するためには、今後の事業展開に必要な優秀な人材の確保・育成が重要であると認識し必要な施策を実施しております。こうした優秀な人材が確保・育成できなかった場合、当社グループの事業遂行に制約を受け、当社グループの業績に大きな影響を与える可能性があります。

このようなリスクに対応するべく、事業運営に必要なビジネススキルを可視化し、高い専門性や豊富な経験を有する人材の採用を進めているほか、長期的な人材確保の観点から若手人材を継続的に採用し、必要なビジネススキルの習得に資するトレーニング機会の充実を図っております。加えて女性活躍推進や仕事と家庭の両立支援といったダイバーシティ施策を推進し、個々の就業ニーズに対応できる仕組みを強化しております。

 

(14)固定資産の減損について

当社グループでは、固定資産の減損に係る会計基準を適用しております。今後、事業環境の大幅な悪化や原材料価格の高騰及び競争の激化等があった場合には、減損損失が発生し、当社グループの業績に大きな影響を与える可能性があります。

このようなリスクに対して、(2)研究開発について、(5)競争の激化について及び(6)原材料の価格について等に記載しているとおり適宜対策を講じておりますが、当連結会計年度には収益性の悪化により、減損損失を計上しております。

 

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1) 経営成績等の状況の概要

当連結会計年度における当社グループの経営成績、財政状態及びキャッシュ・フローの状況の概要は次のとおりであります。

① 財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容

 当連結会計年度の当社グループを取り巻く環境は、世界的な景気後退と地政学リスクへの懸念が一層高まり、世界経済の不透明感は強まりました。インフレ率は鈍化傾向を見せながらも高水準で推移する中で、中国経済は力強さを欠き、中東情勢は悪化の一途を辿っており、世界経済の下振れ懸念が続いております。

 世界半導体市場は、AI向け半導体デバイスの需要が高まる一方、コロナ特需の反動によるPCやスマートフォン市場の低迷に伴う半導体デバイスの生産及び在庫の調整が継続する等、各々の用途により方向感にバラつきが見られました。また、シリコンウェハーにおいても稼働調整が継続しております。

 こうした状況下、半導体向け製品の販売が減少したことに加え原材料価格等の上昇の影響を受け、当連結会計年度の業績は、売上高51,423百万円(前期比11.9%減)、営業利益8,251百万円(前期比37.7%減)、経常利益8,958百万円(前期比34.1%減)、親会社株主に帰属する当期純利益6,499百万円(前期比38.6%減)となりました。

 

 セグメントの経営成績は、次のとおりであります。

 日本につきましては、主に最先端メモリデバイス向けCMP製品及びシリコンウェハー向け製品の販売が減少したことにより、売上高は28,989百万円(前期比19.5%減)、セグメント利益(営業利益)は売上減少に加え原材料価格等の上昇の影響を受け、7,332百万円(前期比37.7%減)となりました。

 北米につきましては、CMP製品及びシリコンウェハー向け製品の販売が減少したことにより、売上高は7,087百万円(前期比5.7%減)、セグメント利益(営業利益)は222百万円(前期比70.3%減)となりました。

 アジアにつきましては、ハードディスク基板及びシリコンウェハー向け製品の販売が減少したものの、主に先端ロジックデバイス向けCMP製品が売上を牽引し、売上高は13,568百万円(前期比4.8%増)、セグメント利益(営業利益)は3,325百万円(前期比7.6%増)となりました。

 欧州につきましては、CMP製品及びシリコンウェハー向け製品の販売が減少したことにより、売上高は1,777百万円(前期比8.1%減)、セグメント利益(営業利益)は137百万円(前期比25.7%減)となりました。

 

 主な用途別売上の実績は、次のとおりであります。

 シリコンウェハー向け製品につきましては、顧客の稼働調整が継続したことを受け、売上高はラッピング材では5,474百万円(前期比22.4%減)、ポリシング材では9,909百万円(前期比27.2%減)となりました。

 CMP製品につきましては、上期のマチュアロジックデバイスやメモリでの稼働調整を受け、売上高は27,401百万円(前期比4.4%減)となりました。

 ハードディスク基板向け製品につきましては、下期に入り顧客での稼働の回復が見られたものの、上期のHDD(ハードディスクドライブ)市場の生産及び在庫の調整を受け、売上高は1,383百万円(前期比8.1%減)となりました。

 一般工業用研磨材につきましては、売上高は4,479百万円(前期比2.8%減)となりました。

 

 財政状態の概況は、次のとおりであります。

 当連結会計年度末における資産総額は、前連結会計年度末に比べ、2,898百万円増加し、82,999百万円となりました。これは、現金及び預金が1,812百万円減少したものの、土地が1,455百万円、受取手形及び売掛金が967百万円、投資有価証券が950百万円、有形固定資産その他が524百万円それぞれ増加したこと等によるものです。

 負債総額は、前連結会計年度末に比べ、666百万円減少し、10,423百万円となりました。これは、賞与引当金が247百万円増加したものの、買掛金が932百万円減少したこと等によるものです。

 また、純資産は前連結会計年度末に比べ、3,564百万円増加し、72,576百万円となりました。これは、為替換算調整勘定が1,831百万円、利益剰余金が966百万円増加したこと等によるものです。

 

② キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報

 当連結会計年度における現金及び現金同等物(以下「資金」という)は、32,645百万円となり、前連結会計年度に比べ、2,686百万円減少しました。当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりです。

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

 営業活動の結果得られた資金は、7,452百万円の収入となり、前連結会計年度に比べ、74百万円増加しました。これは主に、税金等調整前当期純利益が減少したものの、棚卸資産が減少したこと等によるものであります。

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

 投資活動の結果使用した資金は、5,311百万円の支出となり、前連結会計年度に比べ、4,489百万円増加しました。これは主に、有形固定資産の取得による支出及び定期預金の預入による支出が増加したことによるものであります。

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

 財務活動の結果使用した資金は、5,636百万円の支出となり、前連結会計年度に比べ、503百万円減少しました。これは主に、自己株式の取得による支出が減少したことによるものであります。

(資本の財源及び資金の流動性)

 当社グループの必要な運転資金及び設備資金の財源につきましては、自己資金を基本としております。また、当連結会計年度末の流動比率は667.7%であり、十分な流動性を確保しているものと認識しております。

 当社グループは企業価値向上のために、生産能力の拡大、最先端半導体分野での研究開発や新規事業の創出及びM&Aに活用する資金を必要としております。また一方では、株主に対する適正な利益還元を行うことを経営の重要課題と認識しております。当社グループといたしましては、安定的な事業運営と成長のための投資及び積極的な株主還元を勘案し、持続的な企業価値向上に資する現金及び現金同等物の活用を志向してまいります。

 

③ 生産、受注及び販売の実績

a.生産実績

  当連結会計年度の生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

当連結会計年度

(自 2023年4月1日

至 2024年3月31日)

前年同期比(%)

日本

(百万円)

34,807

80.0

北米

(百万円)

6,824

96.8

アジア

(百万円)

7,972

122.5

合計

(百万円)

49,604

86.9

 (注)金額は販売価格によっており、セグメント間の内部振替前の数値によっております。

 

b.受注実績

  当社グループは、一部受注生産を行っておりますが、受注生産高の売上高に占める割合の重要性が乏しいため、記載を省略しております。

 

c.販売実績

  当連結会計年度の販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

当連結会計年度

(自 2023年4月1日

至 2024年3月31日)

前年同期比(%)

日本

(百万円)

28,989

80.5

北米

(百万円)

7,087

94.3

アジア

(百万円)

13,568

104.8

欧州

(百万円)

1,777

91.9

合計

(百万円)

51,423

88.1

 (注)1.セグメント間の取引については相殺消去しております。

2.主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は次のとおりであります。

相手先

前連結会計年度

(自 2022年4月1日

  至 2023年3月31日)

当連結会計年度

(自 2023年4月1日

  至 2024年3月31日)

金額(百万円)

割合(%)

金額(百万円)

割合(%)

長瀬産業㈱

18,186

31.1

14,102

27.4

TAIWAN SEMICONDUCTOR MANUFACTURING CO., LTD.

8,272

14.2

8,789

17.1

 

 

(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

 文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末(2024年3月31日)現在において当社グループが判断したものであります。

 

① 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

 連結財務諸表の作成にあたって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項 (重要な会計上の見積り)」に記載のとおりであります。

 当社グループは、連結財務諸表の作成において使用される以下の重要な会計方針が特に当社グループの重要な判断と見積りに大きな影響を与えると考えております。

 

a.貸倒引当金

当社グループは、お客様の支払不能時に発生する損失の見積額について、貸倒引当金を計上しておりますが、お客様の支払能力が低下した場合には追加引当が必要となる可能性があります。

 

b.棚卸資産

当社グループは、棚卸資産の将来需要及び市場状況に基づく時価の見積額と原価との間に差額が生じた場合、評価減を実施しております。

 

c.固定資産の減損

当社グループは、固定資産の減損に係る会計基準を適用しております。この適用に当たり、合理的で説明可能な仮定及び予測に基づいて将来のキャッシュ・フロー等の見積りを行っておりますが、その仮定及び予測に変動が生じた場合、減損損失の計上が必要となる可能性があります。使用価値の算定に使用される将来キャッシュ・フローは、経営者により承認された経営計画を基礎とし、貨幣の時間的価値及び当該資産の固有のリスクを反映した税引前割引率を用いて見積もっております。なお、当連結会計年度において、収益及びキャッシュ・フローの早急な改善が見込めないと判断した事業用資産について減損損失を計上しております。

 

d.投資の減損

当社グループは、長期的な取引関係の維持のために、特定のお客様及び金融機関の株式を所有しております。これらの株式の投資価値が下落した場合、減損損失の計上が必要となる可能性があります。この減損処理は、時価が取得原価に対して50%以上下落した場合、加えて30%~50%程度下落した場合で、回復の見込がないと判断される場合に行います。また、将来の市況悪化や投資先の業績不振により、評価損の計上が必要となる可能性があります。

なお、当社グループにおいて回復の見込みがないとは次のいずれかの要件に当てはまる場合をいいます。
イ.株価が過去2年間継続的に30%以上下落し一度も回復傾向のない状態にある
ロ.株式の発行会社が債務超過の状態にある
ハ.株式の発行会社が2期連続で損失を計上しており、翌期も損失計上が予想される

 

e.繰延税金資産の回収可能性

繰延税金資産の回収可能性は、過去の納税状況や将来の事業計画等、現状入手可能な情報を用いて判断しております。当社グループは、回収可能と見込めないと判断した部分を除いて繰延税金資産を計上しておりますが、経営成績の悪化等により将来の課税所得の見積額が減少した場合や法定税率の変更等により繰延税金資産が取崩された場合に、当社グループの業績に影響を与える可能性があります。

 

 

f.退職給付債務等

当社グループの退職給付費用及び債務は、割引率等数理計算上で設定される前提条件や年金資産の期待運用収益率に基づいて算出しております。しかしながら、運用環境の悪化等により、実際の結果がこれらの前提条件と異なった場合、あるいは前提条件の変更が必要になった場合には、退職給付費用や債務が増加し、当社グループの業績に影響を与える可能性があります。なお、詳細につきましては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項 (連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項) 3.会計方針に関する事項 (4)退職給付に係る会計処理の方法」及び「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項 (退職給付関係)」をご参照ください。

 

② 当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容

 当社グループは、持続的な企業価値増大を目指しており、その取組みの概要については、「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (5)企業価値向上について ③企業価値向上のための取組み(中長期経営計画)」に記載のとおりであります。

 中長期経営計画では、連結売上高、連結非半導体売上構成比(%)、EBITDAマージン(%)、ROE(%)を特に重要な経営指標と捉え、目標達成に向けた取組みを進めております。当連結会計年度につきましては、昨年度からの半導体デバイスの生産及び在庫の調整が継続したことから、CMP製品及びシリコンウェハー向け製品の販売が低迷したことに加え、原材料価格の高騰、経費の増加等もあり、連結売上高は514億円、EBITDAマージンは20.0%、ROEは9.2%と目標未達となりました。また、非半導体分野においては、開発品の採用に時間を要したこと等により狙った売上拡大を果たせず、連結非半導体売上高構成比は14.9%と計画を下回りました。

 

2024年3月期

中長期経営計画

2024年3月期

実績

連結売上高(億円)

585

514

連結非半導体売上構成比(%)

15.0

14.9

EBITDAマージン(%)

25.0

20.0

ROE(%)

自己資本利益率

13.9

9.2

 当社グループといたしましては、持続的な企業価値向上のため、引き続き中長期経営計画の取組みを進めてまいります。

 

5【経営上の重要な契約等】

 該当事項はありません。

 

6【研究開発活動】

当社製品は、お客様にて製造される製品の性能を大きく左右するため、原材料の検討から最終製品の開発に至るまでの一貫した研究開発活動を進めております。当社のコア技術である、①ろ過・分級・精製技術、②パウダー技術、③ケミカル技術の強化、並びに新規生産技術の開発と実用化を推進しております。また、個々のお客様のニーズに即したソリューション型プロセス開発を行っております。

当連結会計年度の研究開発費5,012百万円で、日本が3,758百万円、北米が900百万円、アジアが354百万円となりました。

なお、日本においては全ての製品の研究開発活動を、北米及びアジアにおいてはCMP製品の研究開発活動を行っております。

シリコンウェハー用のファイナルポリシング材においては、半導体デバイスの微細化に伴い、ウェハー表面の極微小なディフェクト(パーティクル、欠陥、異物)の低減と表面の平滑性がますます重要となっております。近年、極微小ディフェクトを低減し、同時により高精度な平滑面に仕上げることができるポリシング材を開発しており、大手のお客様で採用されております。また、一次・二次ポリシング材についても、加工精度と生産性向上に寄与する新コンセプトの商品を開発しており、多くのお客様に採用されております。

ラッピング材に関しましては、シリコンウェハー用途を中心に、品質向上及びコスト低減を念頭に置いた量産化技術の開発に取組んでおり、その開発から生まれた製品は一部のお客様に採用されております。

パワーデバイスの分野で用いられるSiC基板やGaN基板等、難加工材料用のポリシング材においては、高速・高面質となる新たな商品・プロセスの開発に取組んでおります。

CMP製品については、半導体デバイスの高集積化がますます進展し、新構造トランジスタを作製するためのポリシング材をはじめとする各種製品の需要拡大が進んでおります。加えて、次世代に向け更なる微細化に対応した各種ポリシング材製品の開発を進めております。新規製品の一部は大手のお客様で採用に向けて評価が進められております。

ハードディスク用ポリシング材に関しましては、主力製品のアルミディスク用ポリシング材は、他社との競争激化に対抗すべく、高性能な次世代品の開発をしており、採用に向けたお客様での評価が進められております。

機能材分野におきましては、プラスチック、ガラス、セラミックを中心に多種多様な材料の研磨材・機能性材の開発に取組んでおります。多種多様なお客様に対応するため、お客様のご要望を的確に捉え、当社の技術力を活用してお客様にご満足していただける開発を推進しています。

 溶射材事業につきましては、半導体及び液晶関連製造装置等に高純度セラミックス材、鉄鋼・発電・航空機及び一般機械部品等にはサーメット材、更に新規の溶射技術・装置に最適な材料の開発を推進し需要拡大を図っております。

 研磨ソリューション本部では半導体フィールド(シリコン/SiCウェハー、ディスク、半導体デバイス用CMP)を除く研磨用途に関わる、研磨ソリューション事業(研磨用消耗材・装置・プロセス・加工等による課題解決の提供)を推進しております。

 多種多様な素材(金属、樹脂、セラミック、複合材料等)や形状(2次元、3次元形状)に対応した研磨材や研磨プロセスの開発に取組み、エレクトロニクス業界、自動車業界をはじめとする、世界の様々な業界のお客様から寄せられる、新たな表面創成のご要望にトータルソリューションでお応えしております。

 先端技術・機能材料本部は、パウダー領域・非研磨事業の拡充を推進することを目的とし、パウダー分野におけるコア技術の深耕・強化を推進しております。

 粒子形状・粒度分布制御及び造粒技術を始めとするパウダーに関する技術を推進しながら、展示会やデーターベースサイトを活用しコア技術の発信を継続するとともに、マーケティング活動も実施しながら新規事業の「創出」と「事業化」を推進しております。