(経営方針)
日本製鉄グループは、常に世界最高の技術とものづくりの力を追求し、優れた製品・サービスの提供を通じて、社会の発展に貢献することを企業理念に掲げて事業を行っています。
<日本製鉄グループ企業理念>
基本理念
日本製鉄グループは、常に世界最高の技術とものづくりの力を追求し、優れた製品・サービスの提供を通じて、社会の発展に貢献します。
経営理念
1.信用・信頼を大切にするグループであり続けます。
2.社会に役立つ製品・サービスを提供し、お客様とともに発展します。
3.常に世界最高の技術とものづくりの力を追求します。
4.変化を先取りし、自らの変革に努め、さらなる進歩を目指して挑戦します。
5.人を育て活かし、活力溢れるグループを築きます。
(経営環境)
中長期的な環境変化については、次のとおり想定しています。
世界の鉄鋼需要については、インドも含めたアジア地域を中心に確実な成長が見込まれます。また、カーボンニュートラルに向けた新規ニーズを含め高級鋼の需要は拡大が見込まれます。一方で、国内の鉄鋼需要については、人口減少・高齢化や需要家の海外現地生産拡大等に伴い引き続き減少していくことが想定されます。また、製造業における地産地消・自国産化の傾向が、グローバルに繋がっていた市場の分断を進展させると考えられます。さらに、世界の鉄鋼生産量の5割強を占める中国における需要の頭打ち等により、海外市場における競争が一層激化することが想定されます。
世界的に気候変動に関する問題意識が高まるなか、カーボンニュートラルの実現は官民を挙げた総力戦となり、他国に先駆けたカーボンニュートラルスチールの製造技術の確立が、今後の鉄鋼業界における競争力、収益力、ブランド力を決める鍵となると考えています。
2025年度については、世界鉄鋼需要は、中国経済の低迷等を背景に一段と厳しさを増しており、製品・原料価格ともに大幅下落している足元の外部環境は極めて厳しい状況にあります。また、米国関税政策の動向が現時点では見通せないなか、国内外の多方面のお客様に製品・サービスを提供している当社への間接影響が甚大となる可能性があります。
(経営戦略、優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題)
当社グループは、製鉄事業を中核として、鉄づくりを通じて培った技術をもとに、エンジニアリング、ケミカル&マテリアル、システムソリューションの4つのセグメントで事業を推進しています。製鉄セグメントは、当社グループの連結売上収益の約9割を占めています。
当社は、2020年度に断行した抜本的コスト改善による損益分岐点の大幅な引下げに加え、紐付き価格の是正、一貫能力絞込みによる注文選択の効果、海外グループ会社の収益力の向上等により、外部環境に関わらず高水準の事業利益を確保し得る収益構造の構築に取り組んできました。2025年度については、先述した状況下でも、今後、さらなる収益改善施策の実行により利益最大化を図っていきます。
2021年3月に策定した「日本製鉄グループ中長期経営計画」の概要と進捗は次のとおりです。
<日本製鉄グループ中長期経営計画(2021年3月5日公表)の概要と進捗>
当社は、「総合力世界No.1 の鉄鋼メーカー」を目指し、日本製鉄グループ中長期経営計画を定め、その4つの柱である「国内製鉄事業の再構築とグループ経営の強化」、「海外事業の深化・拡充に向けた、グローバル戦略の推進」、「カーボンニュートラルへの挑戦」及び「デジタルトランスフォーメーション戦略の推進」の実現に向け、諸施策に着実に取り組んでいます。
1.国内製鉄事業の再構築とグループ経営の強化
「戦略商品への積極投資による注文構成の高度化」、「技術力を確実に収益に結びつけるための設備新鋭化」、「商品と設備の取捨選択による生産体制のスリム化・効率化」を基本方針として、国内製鉄事業の最適生産体制を構築するとともに、競合他社を凌駕するコスト競争力の再構築と適正マージンの確保による収益基盤の強化を推進しています。
ベース操業実力の着実な向上を継続するなかで、生産設備構造対策のロードマップに沿って鹿島第3高炉を含む鉄源1系列等を休止するとともに、注文構成の高度化を推進し、生産能力と固定費規模の適正化を図っています。さらに、本体及びグループを含めた国内製鉄事業のさらなる競争力強化を目的として、当社グループの国内電縫鋼管事業再編、当社による日鉄ステンレス㈱の吸収合併、山陽特殊製鋼㈱の完全子会社化に向けた公開買付けを実施しました。原料事業においては、カーボンニュートラル鉄鋼生産プロセスに必要不可欠な製鉄用原料炭や高品位鉄鉱石の確保、及び原料権益投資を通じた外部環境に左右されにくい連結収益構造の強化を目指しています。この取組みの一環として、豪州Blackwater 炭鉱の権益の20%を取得するとともに、カナダKami 鉄鉱石鉱山の権益の30%取得、新規鉱区の開発・操業を行う合弁会社の設立について関係者と基本合意しました。商社・流通分野では、日鉄物産㈱と当社・グループ会社の連携を強化し、シナジーの追求を図っています。具体的には、カーボンニュートラル原料調達・出資、一貫サプライチェーン強化・最適化、成長分野への拡販等の取組みを推進しています。
2.海外事業の深化・拡充に向けた、グローバル戦略の推進
世界の鋼材消費は、2025年さらに2030年に向けて引き続き緩やかな成長が見込まれています。当社は、規模及び成長率が世界的に見ても大きいインド・アジアを中心に事業を展開しており、マーケットの規模や成長を当社の利益成長につなげ得るポジションにあります。
このような環境のもと、需要の伸びが確実に期待できる地域において、当社の技術力・商品力を活かせる分野で、需要地での一貫生産体制を拡大し、現地需要を確実に捕捉することで、日本製鉄グループとして、「グローバル粗鋼1億トン体制」を目指しています。
なかでも、将来的な市場の拡大及び自国産化のさらなる進展が見込まれるインド市場においては、ArcelorMittal Nippon Steel India Limitedの既存拠点であるハジラ製鉄所にて、現在、能力拡張を進めています。加えて、今後の新たな一貫製鉄所の建設等、さらなる能力拡張に向けた投資も検討しており、こうした取組みを通じて市場におけるプレゼンスの向上を図っていきます。また、最大の高級鋼需要国であり、当社が長年培ってきた技術力・商品力を活かすことができる米国市場においては、当社米国子会社とUnited States Steel Corporation(以下、USスチール)の合併(以下、本合併)に取り組んできました。2024年4月に開催されたUSスチールの臨時株主総会で承認を得て、米国以外の規制当局からの承認も取得しましたが、2025年1月にバイデン前大統領が本合併を阻止する禁止命令を下したため、当社とUS スチールは、同大統領が不適切な政治的理由によりかかる禁止命令を下したとして、当該禁止命令の無効化及びCFIUSの再審査を求めて訴訟を提起するとともに、米政権との協議を続けてきました。その後、同年6月13日に、トランプ現大統領が国家安全保障協定(以下、NSA)の締結を条件に本合併を承認する旨の大統領令を発し、同日、当社とUSスチールは米国政府とNSAを締結したことから、本合併の実行に必要なすべての規制当局からの承認取得が完了し、同年6月18日、本合併が成立しました。これにより、インドとホームマーケットであるASEANに米国を加えた3つの重要拠点を確保することになり、当社のグローバル粗鋼生産能力は8,600万トンに達する見通しです。当社は、グローバル粗鋼1億トン体制の実現を目指し、今後も主要な海外市場における一貫生産体制の拡大を通じた、収益力の向上に取り組んでいきます。
3.カーボンニュートラルへの挑戦
脱炭素社会に向けた取組みにおいて欧米・中国・韓国との開発競争に打ち勝ち、引き続き世界の鉄鋼業をリードするべく、「日本製鉄カーボンニュートラルビジョン2050」を掲げ、経営の最重要課題として諸対策を検討・実行しています。
東日本製鉄所君津地区における小型試験炉でのSuper COURSE50開発試験において、世界で初めてCO2排出量43%削減を実現し、開発目標を前倒しで達成しました。また、波崎研究開発センター「Hydreams」では小型試験電炉が完成し、2024年12月より大型電炉での高級鋼製造技術開発に向けた試験を開始しました。このように、カーボンニュートラル実現に向けた「高炉水素還元」、「水素による還元鉄製造」及び「大型電炉での高級鋼製造」の3つの革新技術の開発が着実に進展しています。また、当社はカーボンニュートラルの実現を通じて、2つの価値をお客様に提供しています。1つ目は「鉄鋼製造プロセスにおけるCO2排出量を削減したと認定される鉄鋼製品~『NSCarbolex® Neutral』」、2つ目は「社会におけるCO2排出量削減に寄与する高機能製品・ソリューション技術~『NSCarbolex® Solution』」です。これらの価値の提供を通じて、お客様の脱炭素ニーズに応え、国際競争を支えていきます。これらの取組みに対し、脱炭素化における鉄鋼業の役割の重要性が再認識され、グリーンイノベーション基金の鉄鋼業への配分が大幅に拡大されたことを受け、当社としても開発・実機化を加速し、前倒しを行うこととしています。なお、当社のCO2排出量削減目標及び気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の枠組み等に基づく気候変動リスク情報については、統合報告書2024にて開示しています(https://www.nipponsteel.com/ir/library/annual_report.html)。さらに、当社のカーボンニュートラル施策の推進状況やGXスチール市場の形成についてご理解いただくこと等を目的としたGX 説明会と、実際のGX 研究開発設備をご覧いただく見学会を開催しました。説明会・見学会には、機関投資家、金融機関、アナリスト、環境保護団体及びメディアより多くの方々にご参加いただきました(https://www.nipponsteel.com/ir/library/pdf/20250313_100.pdf)。
4.デジタルトランスフォーメーション戦略の推進
デジタルトランスフォーメーション戦略に5年間で1,000億円以上を投入し、鉄鋼業におけるデジタル先進企業を目指しています。
当期の具体的な取組みの一例として、原料の海上輸送における配船管理において、リアルタイムな運行情報の取得を可能にするシステムを構築し、日々の運行情報を管理できるようになったことに加え、複雑かつ無数にある配船パターンから最適な輸送計画を策定するアルゴリズムを開発・運用し、輸送効率の大幅な向上を実現しました。さらに、東日本製鉄所君津地区で本格運用を開始した、製鋼工程における生産計画を高速立案する出鋼スケジューリングシステムについては、現在、各製鉄所へ順次導入を進め、全社での生産計画の効率化・高度化を推進しています。そのほか、現場に設置した無線IoTセンサのデータを一元管理可能な無線IoTセンサ活用プラットフォーム(NS-IoT)を全社の製銑工程に整備しました。これらのIoT及びAIを活用した操業・設備保全の遠隔管理、予兆監視、自動化並びに実績管理・一貫生産計画の一元化・迅速化等の各DX施策にも引き続き取り組んでいます。
(経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等)
「日本製鉄グループ中長期経営計画」の収益・財務体質目標等については、本報告書「第一部 企業情報 第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」に記載しています。
(注) 上記(経営環境)と(経営戦略、優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題)の記載には、本有価証券報告書提出日時点の将来に関する前提・見通し・計画に基づく予測や目標が含まれている。これらはその発表又は公表の時点において当社が適切と考える情報や分析、一定の前提等に基づき策定したものであり、かかる見積りに固有の限界があることに加え、実際の業績は、今後様々な要因によって大きく異なる結果となる可能性がある。かかる要因については、後記「3 事業等のリスク」を参照されたい。
当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組みは、次の通りです。なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社が判断したものです。
当社は、日本製鉄グループ企業理念において「常に世界最高の技術とものづくりの力を追求し、優れた製品・サービスの提供を通じて、社会の発展に貢献」する旨を定めており、サステナビリティ課題への対応が当社グループの存立・成長を支える基盤であると認識しています。
当社は、このような認識のもと、取締役会において、安全衛生、環境(気候変動対策を含む)、防災、品質、人材育成やダイバーシティ&インクルージョン等、サステナビリティ課題におけるマテリアリティ(重要課題)を定め、それぞれの主管部門が中心となって取組みを推進しています。リスク及び機会を含めたこれらの取組み状況については、目的・分野別に副社長を委員長とする全社委員会等で審議した後、経営会議・取締役会に報告されています。また、各分野のリスク管理に関する事項等を含む内部統制全般については、内部統制担当の副社長を委員長とし、四半期毎に開催する「リスクマネジメント委員会」において、取組み状況を審議・確認し、重要事項については経営会議・取締役会に報告されています。当社の取締役会は、これらの仕組みを通じて、経営上の重要なリスク管理の監督を行っています。なお、当社のガバナンスの仕組みについては、「
当社は、気候変動対策を経営の最重要課題と位置付け、当社独自の取組みとして「日本製鉄カーボンニュートラルビジョン2050」を公表し、2050年カーボンニュートラルの実現に向けてチャレンジしています。当社グループのCO2排出量は当社が約9割を占めることに加え、グループ各社の事業特性により気候変動対策は異なることから、以降は当社の取組みについて記載します。
当社は、全社委員会として設置した、環境政策課題を管掌する代表取締役副社長と環境技術課題を管掌する代表取締役副社長が共同して委員長を務めるグリーン・トランスフォーメーション推進委員会において、気候変動に関するリスクの認識、カーボンニュートラル推進に向けた諸施策の進捗確認、方針決定等の報告を行い、審議しています。審議内容のうち、重要な事項については、経営会議・取締役会に報告されています。取締役会は、定期的に報告を受けることにより経営上の重要なリスク管理の監督を行っています。
当社は、2050年カーボンニュートラル社会実現に向け、2021年3月に「日本製鉄カーボンニュートラルビジョン2050」を公表しました。当社は、2050年カーボンニュートラルの実現にチャレンジし、「社会全体のCO2排出量削減に寄与する高機能鋼材とソリューションの提供」及び「鉄鋼製造プロセスの脱炭素化によるカーボンニュートラルスチールの提供」という2つの価値を提供することで、サプライチェーンでのCO2削減の実現を目指します。

当社は、2050年カーボンニュートラルの達成に向けて、2030年にCO2排出量を2013年比30%削減する目標を掲げています。これについては、大型電炉での高級鋼製造、高炉水素還元(COURSE50)、既存プロセスの低CO2化、効率生産体制構築等により実現を目指しています。
2050年に向けては、大型電炉による高級鋼の量産製造、Super COURSE50等の高炉水素還元法の開発を通じたCO2排出の抜本的削減、水素による還元鉄製造等の超革新的技術にチャレンジし、CCUS等によるカーボンオフセット対策等も含めた複線的なアプローチでカーボンニュートラルを目指します。



なお、CO2排出量の前期の確定値及び当期の暫定値については、2025年9月頃発行予定の
これらの取組みを通じて、当社が提供する「社会全体のCO2排出量削減に貢献する製品・ソリューション技術」を総称するブランドとしてNSCarbolex®を立ち上げています。NSCarbolex®は、当社が提供する2つの価値を表すNSCarbolex® Neutral と NSCarbolex® Solutionの2つのブランドにより構成されます。
「NSCarbolex® Neutral」は、当社が実際に削減したCO2排出量をプロジェクト毎に把握し、マスバランス方式を活用して任意の製品に割り当てた鉄鋼製品で、この排出削減量、任意の製品への割当量は、ともに第三者機関の保証を受けたものです。社会における脱炭素ニーズが急速に高まるなか、いち早く脱炭素化に取り組むことは、お客様の競争力を高めることに繋がるものと考えています。当社は、NSCarbolex® Neutralの安定的な供給体制を早期に構築することで、お客様の脱炭素化に貢献していきます。
また、「NSCarbolex® Solution」は、社会におけるCO2排出量削減に寄与する高機能製品・ソリューション技術です。自動車の製造時・走行時のCO2排出量削減に寄与する「NSafe®-AutoConcept」、モーターの高効率化や送配電網におけるエネルギーロス削減に寄与する「高効率電磁鋼板」、建設現場の生産性向上等に寄与する建材ソリューションブランド「ProStruct®」、水素社会の実現に寄与する高圧水素用ステンレス鋼「HRX19®」などの高機能製品・ソリューション技術を通して、社会の様々な場面においてCO2排出量の削減に貢献していきます。

(3)人的資本に関する戦略、指標及び目標
当社グループは「常に世界最高の技術とものづくりの力を追求し、優れた製品・サービスの提供を通じて社会の発展に貢献する」ことを基本理念に掲げています。また、経営理念において「人を育て活かし、活力あるグループを築きます。」と掲げ、従来から重要なテーマとして人材育成に取り組んでいます。
当社グループでは、事業戦略を共有しグループ一体となった経営を行いつつも、人材育成及び社内環境整備については、グループ各社の事業特性を踏まえた取組みを各々で実施しているため、以降は当社の取組みについて記載します。
当社は上記経営理念の実現に向けて、「総合力世界No.1の鉄鋼メーカー」を目指して成長し続けることを念頭に、中長期経営計画の4つの柱の諸施策に加え、外部環境に左右されない厚みを持った事業構造への転換にも取り組んでいます。これらの事業戦略を確実に実行するためには、人事戦略との緊密な連携が欠かせません。当社はこれらを着実に実行するため、「人材確保」、「人材育成」、「ダイバーシティ&インクルージョン」の3つの施策を推進しています。
また、これらの施策の土台となる風通しの良い職場風土醸成に向けて、社内の対話・コミュニケーション促進の取組みを実施しています。こうした人への継続的な投資により、社員が持つ力を最大限に引き出し、生産性、及び実力を更に向上させることが、経済的・社会的価値の創出、ひいては、持続的な企業価値の向上につながると考えています。
<人的資本経営の考え方(価値創造プロセス)>

b.人材育成及び社内環境整備に関する方針
近年の人口減少による採用競争の激化や個人のキャリア観の多様化・労働市場の流動化等の大きな環境変化のなかにおいて、当社経営戦略の実現に向けては、人材の確保と従業員のさらなる活躍推進が極めて重要です。
当社では経営の最重要課題の一つとして、「人材確保」と活躍推進に資する「人材育成」、及び基盤となる「ダイバーシティ&インクルージョン」の3つの施策を推進しています。
これまで実施している安定的な新卒採用や、高い専門性を有する博士人材を活用するポスドク研究員の採用等に加えて、アルムナイ採用を含む積極的な経験者採用の実施や、学生等の求職者のみならず、幅広い世代での当社認知度向上に向けた広報施策も展開しています。
また、2024年度には初任給の大幅な引き上げを実施しており、従業員の処遇条件については、足元の物価上昇を上回る大幅な改訂を2年続けて実施しました。引き続き製造業トップクラスとなる一流の処遇水準を維持することで、経営の最重要課題の一つである人材の確保・活躍推進や従業員の一層の定着を目指しています。
ⅰ) 経営人材育成
当社の将来を担う経営人材の育成として、経営層との対話等を通じた方針・課題の共有を行うとともに、経営幹部候補者としての高い視座の獲得を目的とした研修を役職の段階に応じて設けています。具体的には、「経営・組織マネジメント」、「財務・経営戦略等の事業管理スキル」、「グローバルマネジメント」等の習得を行い、人材の交流・連携の強化にもつながる内容としています。

ⅱ) 経営戦略の実現を支える育成施策
企業理念や経営方針に基づく組織戦略をもとに、人材育成を効果的に実行し定着していくために、「人材育成PDCA」を定めています。個人別の育成計画を策定し、上司・部下間のアサイン・コミットメント(アサコミ)シートによる対話を基軸としたOJTを行っています。2025年度からは、対話の実効性のさらなる向上を企図してアサコミシートを見直すとともに、上司・部下間の1on1も開始しており、上司・部下間の対話の質・頻度をさらに高めることで、社員の主体的・自律的な能力の伸長と最大発揮につなげています。こうした仕組みを通じて、各組織の戦略を遂行できる人材を計画的に育成しています。
また、各役割・役職に求められる知識やスキルを各人が習得し、社員全体の能力向上を図る階層別教育、各人の育成ニーズに応じた選択型研修に加え、経営戦略の実現を支える育成施策を織り込み、人材育成を進めています。
<経営戦略の実現を支える人材育成>


ⅲ) キャリア形成
対話・コミュニケーションの促進や、中堅・若手社員の海外派遣等の挑戦・成長の機会付与を通して、従業員のエンゲージメント向上施策を強化しています。配置・育成施策の一環として、2023年度より社内公募・社内起業制度を開始しています。社内公募では従業員のキャリア形成を支援するとともに、新しい視点やスキルを持つ人材が異動することにより、組織全体の活性化につなげています。また、社内起業では起業を通じた人材の育成に加えて、既存の枠組に囚われず新しい仕事にチャレンジする風土の醸成等を意図しています。
3) ダイバーシティ&インクルージョン
ⅰ) 女性活躍の推進
従来から法定水準を上回る制度の導入や24時間対応可能な保育所等、女性従業員が働きやすい労働環境を整備するとともに、採用の拡大に取り組んできました。より一層の活躍推進に向けて、女性管理職数の中長期目標を設定し、キャリア研修や女性先輩社員とのオンラインによる交流企画の実施、ライフイベントを見越した育成施策の充実、社内の風土醸成のためのダイバーシティマネジメント及びアンコンシャスバイアスに関わる教育等を進めています。
ⅱ) 多様な事情を抱える人材が活躍できる働き方・休み方の実現
多様な属性・事情を抱えるすべての人材が、有限である時間を最大限有効に活用し、個々人の能力を最大限発揮するという観点から、より柔軟で多様な働き方を追求すべく、テレワークの活用はもとより、勤務制度の拡充を進めています。昨年度は、単身赴任者に関わる制度の拡充や、育児・介護等のため短時間勤務を利用する社員について、フレックス勤務の適用を可能とする制度改定等を行っており、社員がさらに活き活きと生産性高く持てる力を最大限発揮する働き方を追求することで、生産性の向上及びワークライフバランスの実現を目指しています。
また、個々の事情に合わせた柔軟な休み方の実現に向けた環境整備も進めています。年次有給休暇の取得促進に加え、育児期の子を持つ男性社員の積極的な育児参画を促す観点から、配偶者が出産した男性社員全員に、育児休業・関連休暇の取得を推奨する取組みを進めています。さらに、高齢化が進展するなかでの仕事と介護の両立支援制度や様々な用途で利用できる失効年休積立て制度等を設けるとともに、社員が制度を利用し易い風土の醸成にも努めています。
ⅲ) 65歳までの能力最大発揮を目指した健康マネジメントの展開
「安全と健康はすべてに優先する最も大切な価値であり、事業発展を支える基盤である」という当社グループの安全衛生基本方針のもと、当社では、65歳に引き上げた定年退職まで、社員一人ひとりが心身ともに健康で最大限のパフォーマンスを発揮しながら働き、活力溢れる会社になることを目指し、疾病の未然予防及び早期発見・早期治療を確実に実行する健康推進施策に取り組んでいます。具体的には、「こころとからだの健康づくり」推進として、健康診断メニューの充実、検診受診の促進・受診後のフォロー強化及び脳心疾患対策としての生活習慣改善保健指導等の取組みを行っています。
また、グローバル事業展開を支えるため海外で勤務する社員が安心して働けるよう、帯同家族も含めた定期的なフォロー、当社産業医の海外事務所巡回、現地の医療機関や生活環境の調査及び海外勤務者との面談等により必要なアドバイス等を実施し、施策の充実を図っています。
上記人事戦略を着実に推進するため、女性活躍、働き方・休み方、人材育成等に関するKPIを設定し、取組みを加速しています。当社グループではグループ各社の事業特性を踏まえた各々の取組みを実施しており、連結グループとしての目標設定は実施していないため、当社の指標及び目標を記載します。
*1 各年度の昇格実施日現在の数値である。
*2 定量目標を設定していない。
本報告書に記載した当社グループの事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある主な事項には、下記各項のものがあります。ただし、これらは当社グループに関するすべてのリスクを網羅したものではなく、記載された事項以外の予見しがたいリスクも存在します。また、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項は、本報告書「第一部 企業情報 第2 事業の状況」の他の項目、本報告書「第一部 企業情報 第5 経理の状況」の各注記、その他においても個々に記載していますので、あわせて御参照ください。
なお、当社グループは、これらのリスクの低減を図るため、本報告書「第一部 企業情報 第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等」に記載のとおりの企業統治体制を整え、内部統制システムを整備・運用し、各社・各部門が自らの事業上のリスクの把握・評価を行ったうえで、組織規程・業務規程において定められた権限・責任に基づき業務を遂行しています。
文中の将来に関する事項は、本有価証券報告書提出日現在において当社が判断したものです。
<経営環境(鉄鋼市場)に関するリスク>
(1)日本及び海外の経済状況の変動等
製鉄事業を中核とする当社グループにおいては、連結売上収益の約9割を製鉄事業が占めています。自動車、建設、エネルギー、産業機械等、鋼材の主要な需要家が属する業界と同様に、製鉄事業は国内及び海外のマクロ経済情勢と相関性が高く、日本や世界経済の景気に大きく影響されます。
当社は、資産の多くを日本に保有しており、日本の政治的、経済的又は法的環境が大きく変わると、その資産価値が大きく変動するリスクがあります。また、日本は、当社グループの最も重要な地理的市場の一つであり、国内売上収益が当期の連結売上収益の約6割を占めます。先行きを見通すことは困難ですが、日本の経済情勢が悪化すれば、当社グループの事業活動、業績、財政状態や将来の成長に悪影響が生じる可能性があります。
また、当社グループは、グローバル戦略の深化・拡充を事業戦略の一つに掲げており、当社グループの海外売上収益は、連結売上収益の約4割を占めます。海外では政情不安(戦争・内乱・紛争・暴動・テロを含む。)、日本との外交関係の悪化、経済情勢の悪化、商習慣、労使関係や文化の相違から不測のリスクが生じる可能性があります。これらに加えて、鋼材需要の減退、価格競争の激化、大幅な為替レート変動、自然災害の発生、感染症の拡大、保護主義の台頭、投資規制、輸出入規制、為替規制、現地産業の国有化、税制や税率の大幅な変更等、海外各国における事業環境が大きく変化する場合は、当社グループの事業活動、業績、財政状態や将来の成長に悪影響が生じる可能性があります。2025年度については、世界鉄鋼需要は、中国経済の低迷等を背景に一段と厳しさを増しており、製品・原料価格ともに大幅下落している足元の外部環境は極めて厳しい状況にあります。これに対し、当初見込んでいたインドでの能力増強投資の立ち上げが2026年度以降に遅れるものの、2024年度までに完遂した構造対策効果や設備投資効果のフル発揮等を通じ収益の底上げを図ることで、一定の収益改善効果が期待されます。しかしながら、外部環境の変動による影響には引き続き注意が必要です。また、米国政権による関税政策の動向が現時点では見通せないなか、国内外の多方面のお客様に製品・サービスを提供している当社への間接影響は甚大であり、こうした広範なサプライチェーン全体への影響を定量的に把握することは現段階では困難な状況にあるため、今後の様々な要因によって大きく異なる結果となる可能性があります。
(2)鋼材需給の変動等
鋼材の国際的な需給の変動が当社グループの業績等に影響を与える可能性があります。特に、中国における鉄鋼の過剰生産・輸出拡大を背景とした各国の通商措置拡大や米国政権による関税政策等が、世界の鋼材需給や鋼材価格の悪化要因となり、当社グループの事業活動、業績及び財政状態に悪影響が生じる可能性があります。また、原油・天然ガス等の価格変動も、販売先のひとつであるエネルギー分野の鋼材需要の変化につながることから、当社グループの業績等に影響を与える可能性があります。
また、当社グループの製鉄事業における需要家の多くは、鋼材を大量にかつ長期にわたり購入しており、主要な需要家が事業戦略や購買方針を大幅に変更した場合や、鋼材等の販売先である商社・需要家等において与信リスクが顕在化した場合には、当社グループの業績及び財政状態に影響が生じる可能性があります。
(3)原燃料価格の変動等
当社グループは、鋼材の生産に必要な鉄鉱石、石炭等の主原料の大半をオーストラリア、ブラジル、カナダ、米国等の海外から輸入しています。また、当社グループは、主原料をはじめ、合金、スクラップ、天然ガス等の原燃料の調達に際し、調達ソースの分散等を通じて安定調達に努めていますが、その価格や海上輸送にかかる運賃は国際的な需給状況により大きく変動しており、市況が高騰した際に、当社グループがこれを鋼材の販売価格に転嫁できなければ、当社グループの事業活動、業績及び財政状態に悪影響が生じる可能性があります。また、原燃料生産国における大きな自然災害、ストライキやトラブルの発生、政治情勢の悪化や戦争・テロ、感染症の拡大等により、原燃料の生産・出荷・貿易量が減少すると、当社グループの事業活動、業績及び財政状態に悪影響が生じる可能性があります。
(4)為替相場の変動
当社グループは、製品等の輸出及び原燃料等の輸入において外貨建取引を行っており、また外貨建ての債権債務を保有しています。製品等の輸出による受取外貨を原燃料等の輸入の際の支払外貨に充当することにより為替変動影響の大部分を排除したうえで、実需原則に基づいて先物為替予約を実施していますが、為替相場の変動が当社グループの業績等に影響を与える可能性があります。円高が進んだ場合、鋼材を中心とする当社グループの国内製品の輸出競争力が損なわれることや、自動車、家電、エネルギー、産業機械等、製鉄事業の主要な需要産業の輸出競争力も損なわれて国内鋼材需要が減退することにより、当社グループの業績及び財政状態に悪影響が生じる可能性があります。一方、円安が進んだ場合、輸出市場においては相対的に価格競争力が増しますが、原燃料等の価格が高騰している状況においては、急速な円安によるコスト影響が従来以上に大きくなる可能性があります。
(5)他素材との競合
鉄鋼製品は、アルミニウム、炭素繊維、ガラス、樹脂・プラスチック、複合材、コンクリート及び木材のような他の素材と常に競合しています。近年、特に電気自動車(EV)の普及等により素材へのニーズが多様化している自動車向け用途においては、当社グループも独自に鋼材のさらなる軽量化や高機能鋼材の研究・開発・製造等を進めていますが、需要家がアルミニウム、樹脂、炭素繊維複合材等の他素材への転換を選択し鋼材の需要が減少すると、当社グループの業績及び財政状態に悪影響が生じる可能性があります。
<事業戦略・計画の遂行に関するリスク>
(1)中長期経営計画の遂行
当社グループは、2021年3月に「日本製鉄グループ中長期経営計画」(本項において、以下「中長期経営計画」という。)を策定し、その計画に掲げた具体的諸施策を推進しています。中長期経営計画は、策定当時において適切と考えられる情報や分析等に基づき策定されていますが、こうした情報や分析等には不確定要素が含まれています。今後、事業環境の悪化や本「事業等のリスク」として記載したすべての事項を含めたその他の要因により、期待される成果の実現に至らず、中長期経営計画で掲げた投入計画、財務目標も達成できない可能性があります。
(2)カーボンニュートラル実現に向けた取組み
当社は、2021年3月に「日本製鉄カーボンニュートラルビジョン2050」を策定し、2050年に向けて電炉による高級鋼の量産製造、Super-COURSE50等の高炉水素還元法の開発を通じたCO2抜本的削減、水素による直接還元鉄製造等の超革新的技術にチャレンジし、CCUS等によるカーボンオフセット対策等も含めた複線的なアプローチでカーボンニュートラルを目指すこととしました。こうした極めてハードルの高いイノベーションに対し、当社は約5,000億円の研究開発費、設備実装、増加する操業コストに約4~5兆円以上の投資が必要であることに加え、2050年段階での外部条件を含むベストケース想定でも大幅なコストアップになると想定しています。これに対し、非連続的イノベーション等のための研究開発や設備実装、増加する操業コストに対する長期かつ継続的な政策措置、莫大なコストを社会全体で負担する仕組みの構築等を、政府をはじめとする関係部門に対して要望していますが、十分な政策措置等が講じられない場合、当社グループの業績及び財政状態に悪影響が生じる可能性があります。また、鉄鋼業界にとって不利となる制度変更、研究開発の成果が得られない等の要因により、期待される成果の実現に至らない可能性があります。
(3)コスト改善の取組み
当社グループは、中長期経営計画に掲げたとおり、「戦略商品への積極投資による注文構成の高度化」、「技術力を確実に収益に結びつけるための設備新鋭化」、「商品と設備の取捨選択による生産体制のスリム化・効率化」を基本方針として最適生産体制の構築を進めることとしています。そのうち生産体制のスリム化・効率化については、2020年2月に決定した生産設備構造対策による効果とあわせ、2025年までに2019年度対比で1,500億円/年の構造対策効果を見込んでいます。しかしながら、様々な外部要因や内部要因等により、国内製鉄事業において計画している鉄源工程や製品製造工程のスリム化・効率化の進捗が遅れるなど、コストを計画通り改善することができない場合、当社グループの業績及び財政状態に悪影響が生じる可能性があります。
(4)設備投資
製鉄事業は資本集約型産業であり、継続的に多額の設備投資及び設備修繕支出を必要とします。当社グループは、高炉・コークス炉改修を含む設備の新鋭化・健全性維持並びに成長分野の需要捕捉に向けた瀬戸内製鉄所及び九州製鉄所におけるハイグレード無方向性電磁鋼板能力対策や名古屋製鉄所における次世代熱延ライン新設を含む生産対応等を推進するために必要な設備投資を計画的に実施していますが、減価償却費が増加するほか、当初想定した効果が十分に得られないこと等により、当社グループの業績及び財政状態に悪影響が生じる可能性があります。なお、当社グループは中長期経営計画に掲げたとおり、「戦略商品への積極投資による注文構成の高度化」、「技術力を確実に収益に結びつけるための設備新鋭化」、「商品と設備の取捨選択による生産体制のスリム化・効率化」を基本方針に、2021年度から2025年度までの5年間で約2兆4,000億円の設備投資を実施し、その投資効果の最大化に取り組んでいます。
(5)組織再編、海外投資等
当社グループは、2017年3月の日新製鋼㈱の子会社化(2020年4月に吸収合併)、2018年6月のスウェーデン Ovako AB社の買収、2019年3月の山陽特殊製鋼㈱の子会社化、2019年12月のインド エッサールスチール社のアルセロールミッタル社との共同買収、2022年2月のタイ G Steel Public Company Limited及びG J Steel Public Company Limitedの買収、2023年4月の日鉄物産㈱の子会社化、2023年11月のカナダの原料炭事業会社Elk Valley Mining Limited Partnershipへの出資、2024年12月のカナダKami鉄鉱石鉱山の権益の30%取得及び新規鉱区の開発・操業を行う合弁会社の設立についての関係者との基本合意、2025年3月の豪州Blackwater炭鉱の権益の20%取得、2025年6月の当社米国子会社とUnited States Steel Corporationの合併等の組織再編・投資によって成長をしており、今後も国内及び海外において、合併や買収、合弁会社の設立等の組織再編や投資を継続する可能性があります。当社グループは、慎重な事業評価、契約交渉、社内審議等のプロセスを経たうえで投資等の実行を判断し遂行していますが、当初計画通りにシナジー効果が創出されなかったり、連結財政状態計算書に計上したのれんに減損が生じたりする場合は、当社グループの業績及び財政状態に悪影響が生じる可能性があります。特に、海外での投資案件は、様々な要因(適切な投資対象を見つけられない可能性や合弁事業におけるパートナーとの関係等も含む)から不確実性が高まります。
(6)事業構造・生産体制の見直し
国内鉄鋼需要の縮小や海外鉄鋼市場における競争激化及び主要生産設備の老朽化に対応すべく、国内製鉄事業においては、商品と設備の取捨選択による集中生産等を基軸とした、体質強化の徹底的な推進を目的に、設備の休止や不採算品種からの撤退等の生産設備構造対策を実施していますが、今後の経営環境の変化や収益動向等を踏まえ、さらなる対策を実施する可能性があります。海外においても、既存の事業についてこれまでに選択と集中を積極的に推進しました。なお、経営環境の悪化等により、将来的に収益回復の見込みがない不採算事業や投資目的が希薄化した事業を中心に、引き続き再編・撤退を行う可能性があります。これらのさらなる再編・撤退等を実施する場合、減産や一時的な損失の発生等により、当社グループの事業活動、業績及び財政状態に悪影響が生じる可能性があります。なお、当期においては、事業再編損として1,352億円の損失を計上しています。
(7)人材確保・育成、ダイバーシティ&インクルージョンへの取組み、省力化対策
当社グループの将来の成長は、有能な人材の確保及び育成に依拠する部分も大きいことから、仕事と生活の調和の取れた働き方の実現や関連諸制度の浸透・定着等によって就労環境の整備を図りつつ、育成体系の整備等を行いながら、安定的な人材確保と人材競争力の強化に努めています。また、有能な人材の確保及び育成とともに、会社人生で発生し得るライフイベントや健康に起因する労働損失を最小化し、様々な事情を抱える多様な人材が生産性高く、誇りを持って活躍できる働き方を実現するために、ダイバーシティ&インクルージョンへの積極的な取組み等を通じ、多様な従業員が誇りとやりがいを持って活躍できる企業を実現していくべく、具体的な取組みの強化に努めています。加えて、人口減少による人手不足に対応するべく、省力化対策の設備投資を進めています。当社グループは、有能な人材の確保と育成、また省力化対策の設備投資の確実な実行に努めていますが、計画通り達成できない場合、当社グループの事業活動、業績及び財政状態に悪影響が生じる可能性があります。
<事業運営に関するリスク>
(1)設備事故、労働災害等
当社グループの中核事業である製鉄事業の生産プロセスは、高炉、コークス炉、転炉、連続鋳造機、圧延機、発電設備等の特定の重要設備に依存しています。当社グループは、安定生産の確保を図るため、製鉄所等の強化・再建を基本経営課題に据えて、設備と人材の両面で製造実力の強化策を推進していますが、これらの設備において、電気的又は機械的事故、火災や爆発、労働災害等が生じた場合、一部の操業が中断し、生産・出荷が遅延すること等により費用や補償の支払いが発生し、当社グループの業績及び財政状態に悪影響が生じる可能性があります。なお、当社グループは、これらの事故等に関連し、一定の保険を付しています。
(2)品質問題等
当社グループは、鉄鋼製品をはじめ、様々な製品・サービスを顧客に提供しています。当社は、「品質は生産に優先する」という基本的なものづくりの価値観のもと、一般社団法人日本鉄鋼連盟が定めた「品質保証体制強化に向けたガイドライン」等に沿った様々な取組みを実施していますが、製品やサービスに欠陥が見つかり品質問題が生じた場合は、顧客等から代品の納入や補償を求められるほか、製造・品質管理オペレーションの中止や見直しを行う必要が生じたり、当社グループ又は当社グループの製品やサービスに関する信頼が損なわれて売上が減少すること等により、当社グループの業績及び財政状態に悪影響が生じる可能性があります。なお、当社グループは、これらの事故等に関連し、一定の保険を付しています。
(3)知的財産権の侵害等
当社グループは、技術開発等の成果である知的財産について、特許権等の知的財産権を取得、保有又は営業秘密として秘匿することにより、事業活動における競争優位性を確保しています。これらの知的財産について第三者による権利侵害や無断使用等がなされた場合又は第三者から権利の有効性が争われた場合、当社グループは速やかに法的措置等を検討・実施するものの、必要な法的保護が受けられない可能性、また、損害の回復が十分になされない可能性があります。この場合、当社グループの競争優位性の喪失を招き、当社グループの業績及び財政状態に悪影響が生じる可能性があります。
当社グループは、各国・地域の知的財産法を遵守し、また第三者の知的財産を尊重し、事業活動を展開しています。しかしながら、第三者から知的財産の侵害訴訟等を提起され、当社グループに不利な判断がなされた場合は、当社グループの事業活動、業績及び財政状態に悪影響が生じる可能性があります。
(4)情報システムの障害、情報漏洩等
当社グループの事業活動は、情報システムの利用に大きく依存しており、また、自社及び顧客・取引先の営業機密や個人情報等の機密情報が情報システムに保管されています。当社においては、技術情報をはじめとする機密情報の漏洩対策を最重要の経営課題として認識し、システムのセキュリティ強化に加えて、業務ルール、社員教育等の対策を推進していますが、当社グループの情報システムにおいて、悪意ある第三者からのウイルス感染等のサイバー攻撃等により、システム停止、機密情報の外部漏洩や棄損・改ざん等の事故が起きた場合、生産や業務の停止、知的財産における競争優位性の喪失、訴訟、社会的信用の低下等を招き、当社グループの事業活動、業績及び財政状態に悪影響が生じる可能性があります。
<その他のリスク>
(1)自然災害、戦争・テロ・感染症等
当社グループは、製造、販売、研究開発等の活動をグローバルに展開しており、世界中に拠点を有しています。製鉄所をはじめとするこれらの各拠点においては、台風、地震、津波、洪水等の自然災害、戦争やテロ行為が生じた場合に備え、ハード面(設備対策)、ソフト面(事業継続計画の策定等)において、一定の対策を施していますが、大規模な自然災害等に見舞われた場合は、各拠点の設備、情報システム等が損害を被り、一部の操業が中断し、生産・出荷が遅延すること等により費用や補償の支払いが発生したり、原料・製品・燃料の輸送手段等のインフラが停止したりすること等により、当社グループの業績及び財政状態に悪影響が生じる可能性があります。また、当社グループの拠点の有無にかかわらず、大規模な自然災害や戦争・テロ行為が生じた場合や強力な新型インフルエンザ等の感染症が世界的に流行した場合には、当社グループの事業活動に制約が生じる可能性があります。また、これに伴い、需要家の活動水準の低下やサプライチェーンの混乱等の影響による景気の急速な悪化等を通じて、当社グループの生産活動及び販売活動等に支障をきたす可能性があります。
(2)事業活動にかかる環境規制
当社は、製鉄所毎に異なる環境リスクへのきめ細かな対応や各地域の環境保全活動を通じた環境リスクマネジメントを推進し、グループ全体での環境負荷低減に取り組んでいます。当社グループは、事業活動を行う日本及び海外各国において、大気・水・土壌の汚染、化学物質の利用、廃棄物の処理・リサイクル等に関する広範な環境関連規制の適用を受けており、今後、当社グループに不利な法規制の導入・改正・運用・解釈がなされることにより、当社グループの事業活動の継続が困難となったり、法令遵守のための費用が増加したりする可能性があります。
また、当社グループは、「持続可能な開発目標(SDGs)」の一つのゴールに掲げられた気候変動対策にも貢献すべく、世界最高レベルの資源・エネルギー効率で鋼材を生産し、中長期的なCO2排出量削減の観点から革新的な技術開発と長年培った技術の海外への移転・普及にも積極的に取り組んでいますが、今後、CO2の排出や化石燃料の利用に対する新たな規制等が導入された場合には、製鉄事業を中心に当社グループの事業活動が制約を受けたり、費用が増加したりする可能性があります。
(3)非金融資産の減損及び繰延税金資産の回収可能性
当社グループは、製鉄所設備等の有形固定資産や無形資産等の多額の非金融資産を所有していますが、経営環境の変化等に伴い、その収益性が低下し投資額の回収が見込めなくなった場合には、将来的な回収可能性を踏まえて非金融資産の帳簿価額を減額し減損損失を計上するため、当社グループの業績や財政状態に悪影響が生じる可能性があります。当期末における有形固定資産の残高は3兆6,355億円、無形資産の残高は2,632億円となっています。
また、当社グループは、将来の課税所得の見積りに基づき繰延税金資産を計上していますが、経営環境の変化等に伴い将来課税所得の見積りの変更が必要になった場合や税率等の税制変更があった場合、繰延税金資産の取崩しにより、当社グループの業績及び財政状態に悪影響が生じる可能性があります。なお、当期末における繰延税金資産(繰延税金負債との相殺前)の残高は3,341億円となっています。
(4)有価証券等の保有資産(制度資産を含む。)価値の変動
当期末において、当社グループは株式等の資本性金融商品、関連会社・共同支配企業に対する投資を合計1兆9,384億円保有しています。このうち、取引先や提携先の政策保有株式については、すべての株式を対象に、保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し、保有の適否を確認しており、時価が一定額を超える政策保有株式については、取締役会において毎年検証しています。しかしながら、投資先の業績不振、証券市場における市況の悪化等により、評価損が発生する可能性があります。また、上記のほかに、当期末において、制度資産(退職給付信託財産を含む。)が当社グループ合計で5,938億円あり、この資産を構成する国内外の株式、債券等の価格変動や金利情勢の変動が財政状態等に影響を与える可能性があります。
(5)金融市場の変動や資金調達環境の変化
当期末における当社グループの連結有利子負債残高は、2兆5,074億円であり、金利情勢、その他の金融市場の変動が業績等に影響を与える可能性があります。また、当社グループは、事業資金を金融機関からの借入及び社債の発行等により調達しています。当社グループは、「中長期経営計画」に掲げた親会社の所有者に帰属する持分に対する有利子負債の比率(劣後ローン・劣後債資本性調整後D/Eレシオ)0.7以下を目標とし、健全な財務体質の維持に努めていますが、金融市場が不安定となり又は悪化した場合、金融機関が貸出を圧縮したり格付機関が当社の信用格付の引き下げをしたりした場合等においては、必要な資金を必要な時期に適切な条件で調達できず、資金調達コストが増加することにより、当社グループの事業活動、業績及び財政状態に悪影響が生じる可能性があります。その結果として、「中長期経営計画」に掲げた上記目標を達成できない可能性もあります。
(6)海外の主要市場における関税引上げ、輸入規制
これまで当社グループにおける一部の鋼材の輸出取引において、米国や東南アジア諸国等から反ダンピング税等の特殊関税を賦課されています。当社グループは、輸入規制を受ける可能性を認識のうえ輸出取引を行うなど、適切に対応するよう努めていますが、将来、海外の主要市場国において関税引上げ、特殊関税の賦課、数量制限等の輸入規制が課せられた場合には、輸出取引が制約を受けることにより、当社グループの業績及び財政状態に影響が生じる可能性があります。
(7)会計制度や税制の大幅な変更
当社グループが事業活動を行う国において、会計制度や税制が大きく変更され又は当社グループに不利な解釈や適用がなされたりした場合、当社グループの業績及び財政状態に悪影響が生じる可能性があります。なお、当社は、グローバル展開の一層の推進による企業価値の向上と資本市場における財務情報の国際的な比較可能性の向上を目的に、連結財務諸表において国際会計基準(IFRS)を任意適用しています。
(8)人権に関する国際規範等への対応
当社グループは、人権に関する国際規範等を踏まえ、人権の尊重へのコミットメント、人権デューディリジェンスや是正・救済措置等の取組みを定め、人権尊重に対する当社グループの企業姿勢を内外に示すため、「日本製鉄グループ人権方針」を制定しています。本方針は、当社グループの役員・従業員のみならず、サプライヤーを含むすべてのステークホルダーにも本方針を理解し、支持していただくことを求めています。当社グループは、人権の尊重に最大限配慮しつつ、高い倫理観を持って事業活動に取り組む方針としていますが、当社グループ及びそのステークホルダーに人権の尊重に関する問題が発生した場合には、調達や生産・販売への影響に加えて、社会的信用の低下等により、当社グループの事業活動、業績及び財政状態に悪影響が生じる可能性があります。
(9)各種法的規制、訴訟等
当社グループの事業活動はグローバルに展開しており、日本及び海外各国・地域の法規制に従って事業活動を行っています。法規制には、商取引法、競争法、労働法、証券関連法、知的財産権法、環境法、税法、輸出入関連法、個人情報保護関連法、刑法等に加えて、事業活動や投資を行うために必要とされる様々な許認可及び経済安全保障に関連する規制等があります。今後、当社グループに不利な法規制の導入・改正・運用・解釈がなされることにより、当社グループの事業活動の継続が困難となったり、法令遵守のための費用が増加する可能性があります。
当社グループは、法令遵守が事業活動の基盤であることを認識し、国内外の役員・従業員に対し、様々な形で法務・コンプライアンス教育を実施していますが、当社グループが何らかの法規制に違反したと認定された場合には、課徴金等の行政処分、罰金等の刑事処分を受ける可能性があり、当社グループの業績及び財政状態に悪影響が生じる可能性があります。
また、当社グループの広範な事業活動から、様々な第三者から訴訟を提起される可能性があり、重要な訴訟において当社グループに不利な判断がなされた場合には、事業活動の停止・制約、補償等により、業績及び財政状態に悪影響が生じる可能性があります。
(1) 経営成績等の状況の概要
当期における当社グループの経営成績の状況の概要は、本報告書「4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容 ①当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容」に記載しています。
② 当期末の資産、負債、資本及び当期のキャッシュ・フロー
当連結会計年度末における資産、負債、資本については、下記のとおりです。
連結総資産は10兆9,424億円と、前連結会計年度に比べて2,278億円増加しました。負債は5兆390億円と、前連結会計年度に比べて3,196億円減少しました。資本は5兆9,033億円と、前連結会計年度に比べて5,475億円増加しました。なお、当期末の親会社の所有者に帰属する持分は5兆3,833億円となり、有利子負債は当期末2兆5,074億円となりました。この結果、親会社の所有者に帰属する持分に対する有利子負債の比率(D/Eレシオ)は0.47倍(劣後ローン・劣後債資本性調整後0.35倍)となりました。
(総資産)
現金及び現金同等物は、前期末(4,488億円)から2,236億円増加し、当期末6,725億円となりました。これは、高水準の事業利益による営業活動キャッシュ・フローの収入等によるものです。
営業債権及びその他の債権は、前期末(1兆5,879億円)から1,575億円減少し、当期末1兆4,304億円となりました。これは、売掛金の減少等によるものです。
棚卸資産は、前期末(2兆2,766億円)から775億円減少し、当期末2兆1,990億円となりました。これは、原料価格下落等によるものです。
有形固定資産は、前期末(3兆3,804億円)から2,551億円増加し、当期末3兆6,355億円となりました。これは、名古屋製鉄所への次世代熱延ライン、瀬戸内製鉄所阪神地区(堺)及び九州製鉄所八幡地区への電磁鋼板設備等、戦略商品の能力・品質向上対策への投資を含め競争力優位な設備への選択投資を実行したこと等によるものです。
無形資産は、前期末(1,778億円)から853億円増加し、当期末2,632億円となりました。これは、豪州Blackwater炭鉱の権益の20%を取得したこと等によるものです。
持分法で会計処理されている投資は、前期末(1兆5,379億円)から624億円増加し、当期末1兆6,003億円となりました。これは、持分法による投資利益(1,269億円)等によるものです。
非流動資産のその他の金融資産は、前期末(6,759億円)から2,145億円減少し、当期末4,613億円となりました。これは、政策保有株式の売却を主体とした資産圧縮を実行したこと等によるものです。
(負債)
有利子負債は、前期末(2兆7,116億円)から2,042億円減少し、当期末2兆5,074億円となりました。これは、劣後特約付シンジケートローンや公募劣後特約付社債の発行等による増加があった一方で、転換社債型新株予約権付社債の新株予約権の行使等による減少があったこと等によるものです。
営業債務及びその他の債務は、前期末(1兆8,907億円)から2,193億円減少し、当期末1兆6,713億円となりました。これは、買掛金の減少等によるものです。
その他の非流動債務は、前期末(3,497億円)から712億円増加し、当期末4,209億円となりました。これは、2021年3月5日に公表した中長期経営計画に基づく生産設備構造対策の推進に伴い、東日本製鉄所鹿島地区の鉄源1系列・厚板ライン・大形ライン、並びに関西製鉄所和歌山地区の第4コークス炉等の廃止決定に基づき発生する解体費用等を計上したこと等によるものです。
(資本)
資本金及び資本剰余金は、前期末(8,187億円)から3,292億円増加し、当期末1兆1,479億円となりました。これは、転換社債型新株予約権付社債の新株予約権の行使等があったことによるものです。
利益剰余金は、前期末(3兆5,255億円)から2,943億円増加し、当期末3兆8,199億円となりました。これは、親会社の所有者に帰属する当期利益(3,502億円)等による増加があった一方で、配当金の支払による減少(1,620億円)があったことによるものです。
その他の資本の構成要素は、前期末(4,915億円)から179億円減少し、当期末4,736億円となりました。これは、為替相場の変動による在外営業活動体の換算差額の増加(981億円)等があった一方で、その他の包括利益を通じて公正価値で測定される金融資産の公正価値の純変動による減少(1,236億円)があったことによるものです。
当連結会計年度におけるキャッシュ・フローについては、下記のとおりです。
営業活動によるキャッシュ・フローは9,785億円の収入となりました(前期は1兆101億円の収入)。
投資活動によるキャッシュ・フローは4,624億円の支出となりました(前期は7,106億円の支出)。
この結果、フリーキャッシュ・フローは5,161億円の収入となりました(前期は2,995億円の収入)。
財務活動によるキャッシュ・フローは3,133億円の支出となりました(前期は5,439億円の支出)。
以上により、当期末における現金及び現金同等物は6,725億円(前期は4,488億円)となっています。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
税引前利益5,243億円に、減価償却費及び償却費(3,852億円)の加算、事業再編損(1,352億円)の加算、営業債権及びその他の債権の減少(2,046億円)等の収入がある一方で、持分法による投資損益(1,269億円)の控除の調整に加え、営業債務及びその他の債務の減少(1,045億円)、法人所得税の支払(1,808億円)等による支出がありました。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資有価証券の売却による収入(2,310億円)等がある一方で、名古屋製鉄所への次世代熱延ライン、瀬戸内製鉄所阪神地区(堺)及び九州製鉄所八幡地区への電磁鋼板設備等、戦略商品の能力・品質向上対策への投資を含め競争力優位な設備への選択投資を実行したこと等による有形固定資産及び無形資産の取得による支出(5,979億円)等がありました。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
劣後特約付シンジケートローンや公募劣後特約付社債の発行等による資金調達を通じた有利子負債の実質的な増加を伴う収入(717億円)等がある一方で、前期末及び当第2四半期末の配当の支払(1,620億円)、連結の範囲の変更を伴わない子会社株式の取得による支出(645億円)等による支出がありました。
③ 生産、受注及び販売の状況
当連結会計年度における生産実績をセグメント毎に示すと、次のとおりです。
(注) 1 金額は製造原価による。
2 上記の金額には、グループ向生産分を含む。
当連結会計年度における受注状況をセグメント毎に示すと、次のとおりです。
(注)1 上記の金額には、グループ内受注分を含まない。
2 「製鉄」、「ケミカル&マテリアル」は、多種多様な製品毎に継続的かつ反復的に注文を受けて生産・出荷する形態を主としており、その受注動向は、生産実績や販売実績に概ね連動していく傾向にあり、また、需要動向等についても、本報告書「4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容 ①当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容」において記載していることから、金額又は数量についての記載を省略している。
当連結会計年度における外部顧客に対する販売実績をセグメント毎に示すと、次のとおりです。
(注) 1 前連結会計年度及び当連結会計年度における輸出販売高及び輸出割合は、次のとおりである。
(注) 輸出販売高には、在外子会社の現地販売高を含む。
2 主な輸出先及び輸出販売高に対する割合は、次のとおりである。
(注) 輸出販売高には、在外子会社の現地販売高を含む。
3 主な相手先別の販売実績及び総販売実績に対する割合は、各販売先への当該割合が100分の10未満のため、記載を省略している。
(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
①当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
(経営成績の分析)
当期の世界経済は、インフレ及び金融引締めの長期化等の影響により、下押し圧力が継続しました。日本経済については、持ち直しが期待されたものの、内需は力強さを欠いたまま推移しました。こうした経済状況の下、世界の鉄鋼需給は、未曾有の厳しい経営環境が一段と悪化する危機的な状況が継続しました。需要の低迷に加え、中国経済の減速による需給ギャップの拡大を受けた過剰生産・輸出増加は構造的であり改善の兆しがなく、不透明感が一層増しています。
当社は、こうした厳しい経営環境を早くから想定し、2021年3月に策定した「日本製鉄グループ中長期経営計画」において、4つの柱として「国内製鉄事業の再構築とグループ経営の強化」、「海外事業の深化・拡充に向けた、グローバル戦略の推進」、「カーボンニュートラルへの挑戦」及び「デジタルトランスフォーメーション戦略の推進」を掲げ、他社に先んじて収益構造改革を進め、いかなる経営環境にあっても実力ベース連結事業利益(※)6,000億円以上を確保し得る収益構造の構築に向け、諸施策に取り組んできました。2024年度以降、中長期経営計画策定時の想定を上回る規模とスピードで経営環境が悪化しているものの、他社に先駆けて取り組んできた各種の構造対策や収益改善施策が奏功し、世界の同業他社に対し相対的に高水準の収益力を維持しています。
(※)事業利益より在庫評価差等を控除し、当社グループとしての実力を表すと認識しているもの。
当期の連結業績については、極めて厳しい事業環境が継続するなかにおいても、従来からの抜本的な収益構造対策等の継続により収益の最大化に取り組むことで、通期の売上収益は8兆6,955億円(前期は8兆8,680億円)、事業利益は6,832億円(前期は8,696億円)、親会社の所有者に帰属する当期利益は3,502億円(前期は5,493億円)となりました。
セグメント別の業績は以下のとおりです。当社グループは、製鉄事業を中核として、エンジニアリング、ケミカル&マテリアル、システムソリューションの4つのセグメントで事業を推進しており、製鉄セグメントが連結売上収益の約9割を占めています。
(当期のセグメント別の業績の概況)
<製鉄>
製鉄セグメントの売上収益は7兆8,743億円(前期は8兆763億円)、セグメント利益は6,210億円(前期は8,210億円)となりました。
製鉄セグメント利益の前期に対する増減△2,000億円の主な要因は次のとおりです。
当社は従来からの抜本的な収益構造対策等の継続により収益の最大化に取り組んできましたが、極めて厳しい事業環境が継続するなか、生産・出荷数量(△200億円)やマージン(△300億円)、本体海外事業(△580億円)等の影響が大きく、前期比2,000億円減益のセグメント利益となりました。
<エンジニアリング>
日鉄エンジニアリング㈱においては、高い水準の受注残工事を実行しつつ、各事業における成長のための具体的な取組みを着実に進めました。組織・運営面では、セクター制の廃止を柱とする組織改正を実施し、事業遂行面では、昨年度に引き続き収益力強化に向けた取組みを進展させるとともに、ISO9001に則った品質保証体制を強化しました。当期は、廃棄物発電プラント事業や建築工事事業等で大型案件が順調に進捗・完工するとともに、環境O&M事業や電力ビジネス事業等で順調に業績が伸び、売上収益については前年度とほぼ同じレベルを維持しました。事業利益については、売上収益が高水準を維持しているなか、前年度における保有海洋作業船故障のような損失事案等がなく堅調に事業が進捗したことにより増益となりました。エンジニアリングセグメントの売上収益は4,004億円(前期は4,092億円)、セグメント利益は146億円(前期は△13億円)となりました。
事業形態別の売上収益(連結調整前)は以下のとおりです。
(当期の事業形態別の売上収益の概況)
EPC分野については、廃棄物発電プラント等の国内建設工事や、タイにおけるガス田開発関連施設等の大型案件を実行したことや、建築工事・建築鉄構事業の大型案件の完工により、前期(2,824億円)とほぼ同規模の2,751億円となりました。O&M・サービス分野については、廃棄物処理O&M、オンサイト、電力取引量の増加により前期(874億円)を上回る999億円を計上しました。部材等販売分野についても堅調で、前期(203億円)とほぼ同水準の187億円となりました。
<ケミカル&マテリアル>
日鉄ケミカル&マテリアル㈱においては、世界的な原燃料価格の高騰等により需要低迷が続く厳しい事業環境下、コールケミカル事業部鹿島製造所の休止等の抜本的な収益体質強化等に最大限努め、事業利益は前年比で増益となりました。ケミカル&マテリアルセグメントの売上収益は2,691億円(前期は2,608億円)、セグメント利益は189億円(前期は153億円)となりました。
事業別の売上収益(連結調整前)は以下のとおりです。
(当期の事業別の売上収益の概況)
コールケミカル事業では、主力の黒鉛電極用ニードルコークスの需要低迷が継続し、タイヤ向けカーボンブラックは、自動車検査不正による需要減が下期に回復したものの、前年度並みの販売数量となり、610億円(前期は580億円)となりました。化学品事業では、ベンゼン市況は概ね安定的に推移しましたが、スチレンモノマーは国内誘導品需要の回復遅れによる販売減に加え、中国での新増設継続により市況は低迷し、1,080億円(前期は1,100億円)となりました。機能材料事業では、半導体市場におけるデータセンター向け投資やAI関連需要等ハイエンドゾーンでの成長、スマートフォン・TV・二輪車等の最終製品の需要回復を受け、販売は堅調に推移しました。特に、機能樹脂はAIサーバー・データセンター向け需要が伸長し、原料高騰の影響は受けたものの、円安基調の継続もあり、販売は堅調に推移しました。炭素繊維複合材料の販売は、土木・建築向け補強材料は減少し、産業材料向けは増加しました。炭素繊維については、スポーツ分野向けハイエンド品が堅調に推移し、機能材料と複合材料をあわせて1,000億円(前期は930億円)となりました。
<システムソリューション>
日鉄ソリューションズ㈱においては、旺盛なDXニーズを最大限に捕捉し、事業拡大に取り組んでいます。当社に導入した生産管理システムをアセット化した新生産管理パッケージ「PPMP」を他のお客様へ展開するなど、操業現場で得られた長年の業務知見やノウハウを活用した各種ソリューションを提供しています。また、クラウドネイティブ化を包括的に支援する「CloudHarbor」の提供も開始し、お客様のDX推進を強力に牽引しています。事業基盤強化・拡大を目的として、運用・保守に強みを有する㈱OSPソリューションズを完全子会社化するなど、資本業務提携も積極的に進めています。AI技術を有する企業への出資や業務提携を通じ、AI領域の対応力強化にも取り組んでいます。システムソリューションセグメントの売上収益は3,393億円(前期は3,115億円)、セグメント利益は388億円(前期は355億円)となりました。
事業別の売上収益(連結調整前)は以下のとおりです。
(当期の事業別の売上収益の概況)
ビジネスソリューションは、当社及び製造分野向けが好調であったこと並びに金融分野向けのプロダクト販売の増により、2,506億円と前期(2,281億円)に対して増加しました。コンサルティング&デジタルサービスは、クラウドソリューション分野及びオラクルビジネスが好調であったことから、876億円と前期(825億円)に対して増加しました。
(経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等)
2021年3月に策定した「日本製鉄グループ中長期経営計画」に掲げた収益・財務体質目標、株主還元とそれに対する当期の状況は以下のとおりです。
2024年度の連結業績につきましては、従来からの抜本的な収益構造対策等の継続により収益の最大化に取り組み、通期の売上収益は8兆6,955億円(うち上期4兆3,797億円、下期4兆3,157億円)、事業利益は6,832億円(うち上期3,757億円、下期3,074億円)、ROSは7.9%(うち上期8.6%、下期7.1%)となりました。
(*) 劣後ローン・劣後債資本性調整後
②キャッシュ・フローの状況の分析・検討並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報
キャッシュ・フローの状況の分析については、本報告書「4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1) 経営成績等の状況の概要 ②当期末の資産、負債、資本及び当期のキャッシュ・フロー」 に記載しています。
文中の将来に関する事項は、本有価証券報告書提出日現在において当社グループが判断したものです。
(資本政策)
一定水準の財務健全性が維持されることを前提として、当社グループは投下資本の運用効率を重視し、投資先への資本の投入(資本的支出、R&D、M&A含む)によって企業価値を最大化する資本政策を推進しています。それは、資本コストを超過する収益の創出が期待され、持続的な成長を可能にすると同時に、株主への利益還元によって株主の要求を満たすものです。
当社グループは、上記資本政策の達成に必要な資金を、主として「稼ぐ力」の維持と向上によって生み出される営業キャッシュ・フローから獲得することに加え、必要に応じて銀行借入や社債の発行等、外部からの資金調達も実施しています。
また当社グループは、ROS、ROE及びD/Eレシオを中長期的な収益の成長と財務体質の健全性を達成するうえでの主要な経営管理指標としています。
剰余金の配当等につきましては、本報告書「第4 提出会社の状況 3配当政策」に記載しています。
また、自己株式の取得については、機動性を確保する観点から、定款第33条の規定に基づき取締役会の決議によることとします。取締役会においては、機動的な資本政策等の遂行の必要性、財務体質への影響等を考慮したうえで、総合的に判断することとしています。
(資金需要の動向に関する経営者の認識と資金調達の方法)
1)中長期経営計画の実行状況
2021年3月に公表した「日本製鉄グループ中長期経営計画」では、成長の実現に向けた経営資源投入として、5年間で2兆4,000億円規模の設備投資と6,000億円規模の事業投資に加え、カーボンニュートラル生産の実現に向けた研究開発や設備投資の実行、デジタルトランスフォーメーション戦略への資金投入を計画しています。この中長期経営計画に掲げた投資を実行する前提で、2025年度断面では、D/Eレシオ(※)0.7倍以下を実現することを目標としています。
(※)劣後ローン・劣後債資本性調整後
上記方針のもと、設備投資については、強靭な国内生産体制を再構築するための投資や戦略商品の対応力強化に資する投資等を積極的に進めてきました。具体的には、自動車業界において一層高まっていくと想定される車体の軽量化・高強度化ニーズに応えるべく、超ハイテン鋼板等の高級薄板の生産体制を抜本的に強化するため、戦略的な投資として約2,700億円を投入し、自動車鋼板製造の中核拠点である名古屋製鉄所に次世代熱延ラインを新設することを2022年5月に決定しました。また、電磁鋼板についても、カーボンニュートラルに向けた社会的ニーズを踏まえ、既決定投資に加え、新たに約900億円を投入し、瀬戸内製鉄所阪神地区(堺)・九州製鉄所八幡地区においてハイグレード無方向性電磁鋼板の能力対策を実施することを2023年5月に決定しました。
また、事業投資については、将来的なグローバル粗鋼1億トン体制及び外部環境に左右されない厚みを持った事業構造への進化に向けた施策を推進しています。2024年8月に、経営戦略上不可欠な製鉄用原料炭権益確保と、優良な原料権益確保による連結収益の安定化を目的に、高品質製鉄用原料炭サプライヤーである豪州Whitehaven Coal Limitedが保有する豪州クイーンズランド州Blackwater炭鉱の権益20%を約1,080億円で取得することを決定し、2025年3月に取得完了しました。2025年1月には、特殊鋼棒線事業の一体化・最適化を通じた収益機会の拡大、事業戦略の強化、並びにさらなる最適生産体制の追求のため、当社グループ連結子会社の山陽特殊製鋼㈱を705億円で完全子会社化することを決定し、2025年4月に完了しました。また、最大の高級鋼需要国であり、当社が長年培ってきた技術力・商品力を活かすことができる米国市場においては、当社米国子会社とUnited States Steel Corporation(以下「USスチール」という。)を合併すること(以下「本合併」という。)、及びUSスチールとの間で本合併に関する合併契約を締結することを決定し、2025年6月に総額約142億米ドルで本合併が成立しました。
環境面では、カーボンニュートラルの実現に向けて、2021年4月に専任プロジェクトを設置し、3つの超革新技術(高炉水素還元、100%水素直接還元プロセス、大型電炉での高級鋼製造)を他国に先駆けて開発・実機化するための取組みを推進しています。国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から公募された「グリーンイノベーション基金事業/製鉄プロセスにおける水素活用プロジェクト」に、当社を含む4社による共同提案を行い、2021年12月に採択されました。2024年3月までには、脱炭素化における鉄鋼業の役割の重要性の認識のもと、同基金の鉄鋼業への配分が大幅に拡大され、支援規模の総額は4,499億円となりました。また、2025年5月には、高炉プロセスから電炉プロセスへの転換投資について、GX推進法に基づく「排出削減が困難な産業におけるエネルギー・製造プロセス転換支援事業(事業Ⅰ(鉄鋼))令和7年度~令和11年度事業」に採択され、それを受けて当社は本投資の実行を決定しました(合計投資額8,687億円、政府支援額(上限額)2,514億円)。
2)資金調達
中長期経営計画に関して多額の資金所要が見込まれるなか、調達コストを抑制しながら成長投資資金を確保し財務基盤を強化することを目的として、2021年10月に転換社債型新株予約権付社債3,000億円を発行しました。2023年3月には、脱炭素社会に向けた取組みを推進していくための所要資金を調達する手段として、グリーンボンド(無担保社債)500億円を発行しました。2024年5月には、当社米国子会社とUnited States Steel Corporationの合併に必要な資金の調達等、中長期経営計画に基づく成長投資と財務健全性の両立に資する資金調達手段として、劣後特約付シンジケートローン及び公募ハイブリッド社債(公募劣後特約付社債)による総額2,500億円の調達を実行しました。
また、フリーキャッシュ・フローの状況に応じて、調達環境、金利条件等を勘案して、最適なタイミングで資金調達面での対応を図ります。
2025年3月末における劣後ローン・劣後債資本性調整後のD/Eレシオは0.35倍となり、中長期経営計画の目標である0.7倍以下を維持しています。当社米国子会社とUnited States Steel Corporationの合併直後のD/Eは一時的に0.8倍程度まで悪化するものの、合併後の最適なパーマネントファイナンスにより早期に0.7倍以下を目指します。 中長期的に機動的かつ確実な成長戦略の遂行を継続するため、財務規律を重視した キャッシュ・マネジメントを引き続き実行していきます。
(流動性管理及び資金調達の方針について)
当社グループの円滑な事業活動に必要な資金を確保するため、手許資金及び外部借入を有効に活用しています。手許資金については、実需に見合った最低限の現預金を保有する方針としており、過去及び将来の資金繰りを勘案し、最適な保有残高を志向しています。外部借入については、安全性・安定性・柔軟性を担保する観点から基本的な調達の枠組みを決定しています。具体的には、不測の事態発生時における、当社の支払余力を確保すべく、適正な長期固定適合比率を維持するとともに、安全性の補完のためにコミットメントライン(当社連結:5,997億円)契約を締結しています。
また、短期資金と長期資金のバランスを踏まえた有利子負債残高の設計により自由度を確保しており、当該枠組みの範囲内で、最適な資金調達の実現を志向しています。
③会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社の連結財務諸表は、国際会計基準に基づき作成されています。重要な会計方針については、本報告書「第一部企業情報 第5 経理の状況」に記載しています。連結財務諸表の作成にあたっては、会計上の見積りを行う必要があり、引当金の計上、非金融資産の減損、繰延税金資産の回収可能性の判断等につきましては、過去の実績や他の合理的な方法により見積りを行っています。ただし、見積り特有の不確実性が存在するため、実際の結果はこれら見積りと異なる場合があります。
当社が特に重要と判断している会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定は以下です。
a.非金融資産の減損
当社グループは、資産が減損している可能性を示す兆候のいずれかが存在する場合、資産又は資金生成単位の処分コスト控除後の公正価値と使用価値のいずれか高い金額を回収可能価額として見積り、回収可能価額が資産又は資金生成単位の帳簿価額を下回る場合、当該資産の帳簿価額を回収可能価額まで減額し、減損損失として認識しており、使用価値は見積将来キャッシュ・フローを現在価値に割り引くことにより算出しています。当該キャッシュ・フローは中長期経営計画及び最新の事業計画を基礎としており、これらの計画には鋼材需給の予測及び製造コスト改善等を主要な仮定として織り込んでいます。鋼材需給及び製造コスト改善の予測には高い不確実性を伴い、これらの経営者による判断が将来キャッシュ・フローに重要な影響を及ぼすと予想されます。なお、当期末における有形固定資産の残高は3兆6,355億円、無形資産の残高は2,632億円となっています。
b.繰延税金資産の回収可能性
当社グループは、鋼材需給の予測及び製造コスト削減等の仮定に基づいて算定された将来における課税所得の見積り等の予想等、現状入手可能な全ての将来情報を用いて、繰延税金資産の回収可能性を判断しています。当社グループは、税務上の便益が実現する可能性が高いと判断した範囲内でのみ繰延税金資産を認識していますが、経営環境悪化に伴う中長期経営計画及び事業計画の目標未達等による将来における課税所得の見積りの変更や、法定税率の変更を含む税制改正等により回収可能額が変動する可能性があります。なお、当期末における繰延税金資産(繰延税金負債との相殺前)の残高は3,341億円です。
(注) 上記「契約会社名」及び「相手方当事者」の欄には、開示上重要でない者については記載していない。
*1 当社は、本契約について、それぞれ契約期限を延長した。
*2 詳細は「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 連結財務諸表注記 36 後発事象」を参照。
*3 当社と日鉄ステンレス㈱の合併について
当社は、2025年4月1日を効力発生日として、当社の完全子会社である日鉄ステンレス㈱(以下「日鉄ステンレス」)を吸収合併すること(以下「本合併」)に関し、2024年10月11日開催の取締役会決議により決定し、合併契約を締結した。
本合併の概要は、以下のとおりである。
1.本合併の目的
日鉄ステンレスは、当社の完全子会社としてステンレス鋼の製造・販売を行っているが、ステンレス鋼板事業に特化した事業規模を活かし、スピーディかつ効率的な組織・運営体制のもとで、営業・品質・コスト・商品開発等を強化するとともに、スリムで強靭な生産設備体制の構築を図るなど、ステンレス鋼板固有の事業環境に根差した課題への対処を実行し、安定した収益基盤を確立してきた。
一方で、今後の人口減少や自動車電動化等による国内需要の減少、アジア市場における過剰供給能力問題の長期化等、ステンレス鋼板事業を取り巻く環境も変化しているなか、従来にも増して高度化・多様化する経営課題に的確に対応していくために、今般、当社は日鉄ステンレスを吸収合併することとした。これにより、両社が有するリソースを最大限に活用し、ステンレス鋼板事業の強化とシナジー最大化を進め、一層の利益成長に取り組んでいく。
2.本合併の条件等
(1)本合併の日程
取締役会決議日(両社) 2024年10月11日
合併契約書締結日 2024年10月11日
効力発生日 2025年4月1日
なお、本合併は、当社においては会社法第796条第2項に規定する簡易合併、日鉄ステンレスにおいては会社法第784条第1項に規定する略式合併に該当するため、両社いずれにおいても、合併契約承認のための株主総会は開催しない。
(2)本合併の方式
当社を存続会社、日鉄ステンレスを消滅会社とする吸収合併方式とし、本合併と同時に、日鉄ステンレスは解散する。
(3)本合併に係る割当ての内容
当社の完全子会社との合併であり、株式その他の金銭等の割当ては行わない。
(4)本合併に係る割当ての内容の算定根拠
当社の完全子会社との合併であり、株式その他の金銭等の割当ては行わないため、該当事項はない。
(5)新株予約権及び新株予約権付社債に関する取扱い
該当事項はない。
3.本合併による引継資産・負債の状況(日鉄ステンレスの2025年3月31日現在における資産・負債の状況)
4.本合併後の会社の資本金・事業の内容等(2025年3月31日現在)
*4 USスチール合併完了時におけるNS Kote社の譲渡を通じたAM/NS Calvert社の当社持分の譲渡について
当社は、2024年10月11日開催の取締役会において、当社による当社米国子会社とUnited States Steel Corporationの合併(以下、本合併)が実現した場合、当社完全子会社のNS Kote, Inc.(以下、NS Kote)の全株式をArcelorMittal, S.A.(以下、ArcelorMittal)に譲渡すること(以下、本株式譲渡)を決定し、ArcelorMittalとの間で株式譲渡契約を締結した。NS Koteは、当社持分法適用会社であるAM/NS Calvert LLC(以下、Calvert)の当社全持分を有する持株会社である。
本株式譲渡は、本合併実行後に当社がCalvertの持分保有を継続することから生じ得る、米国競争法上の懸念に対応することを目的としている。当社は、本株式譲渡が、本合併に関する規制当局からの承認を適時に取得するための、最も確実な対応であると判断し、本決定に至ったものである。2025年6月18日に本合併が実現したことから、同日をもって本株式譲渡も実行された。
1.譲渡対象会社の概要
2.本株式譲渡の内容
(参考)ArcelorMittalの概要
3.本株式譲渡の日程
*5 国内電縫鋼管事業の再編について
当社は、国内電縫鋼管事業のより効率的な事業構造への変革とさらなる競争力強化を企図し、2025年4月1日を効力発生日として、当社の完全子会社である日鉄鋼管㈱(以下「日鉄鋼管」)の建材管の商権を中心とした事業を会社分割することで当社の完全子会社である日鉄建材㈱(以下「日鉄建材」)が承継し、残るメカニカル鋼管事業を当社が日鉄鋼管を吸収合併すること(以下「本合併」)で承継し、さらに、日鉄建材の完全子会社である日鉄めっき鋼管㈱(以下「日鉄めっき鋼管」)のメカニカル鋼管商権を当社に移管すること等(以下「本事業再編」)に関し、4社の間で基本合意書を締結していたが、2025年2月14日に取締役会からの委任に基づく取締役の決定により、日鉄鋼管との間で本合併に係る合併契約を締結した。
本合併の概要は、以下のとおりである。
1.本合併を含む本事業再編の目的
当社、日鉄建材、日鉄鋼管及び日鉄めっき鋼管は、これまで建材管分野及びメカニカル鋼管分野を中心に、各社の強みを活かして顧客の様々なニーズに応え貢献してきた。一方、国内鋼材需要の低迷長期化、国内労働力不足、自動車の電動化、顧客・競争環境のグローバル化等の構造変化も加速しており、当社グループを取り巻く事業環境は今後一層厳しいものになると想定している。このことから、より効率的な事業構造への変革・さらなる競争力強化を目的として事業再編を実行すると同時に、各社における生産構造の最適化を行うものである。
2.本合併の条件等
(1)本合併の日程
合併契約書締結決定日(当社) 2025年2月14日
合併契約書締結日 2025年2月14日
効力発生日 2025年4月1日
なお、本合併は、当社においては会社法第796条第2項に規定する簡易合併、日鉄鋼管においては会社法第784条第1項に規定する略式合併に該当するため、両社いずれにおいても、合併契約承認のための株主総会は開催しない。
(2)本合併の方式
当社を存続会社、日鉄鋼管を消滅会社とする吸収合併方式とし、本合併と同時に、日鉄鋼管は解散する。
(3)本合併に係る割当ての内容
当社の完全子会社との合併であり、株式その他の金銭等の割当ては行わない。
(4)本合併に係る割当ての内容の算定根拠
当社の完全子会社との合併であり、株式その他の金銭等の割当ては行わないため、該当事項はない。
(5)新株予約権及び新株予約権付社債に関する取扱い
該当事項はない。
3.本合併による引継資産・負債の状況(日鉄鋼管の2025年3月31日現在における資産・負債の状況)
4.本合併後の会社の資本金・事業の内容等(2025年3月31日現在)
*6 詳細は「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 連結財務諸表注記 36 後発事象」を参照。
第99期有価証券報告書で開示しています以下の契約は、当連結会計年度において、終了しました。
*7 本契約は、関係当局の承認が得られること等を条件(以下「前提条件」)に、宝鋼日鉄自動車鋼板有限公司(以下「BNA」)の当社出資持分のすべてを宝山鋼鉄株式有限公司(以下「宝鋼」)に譲渡することにより、2024年8月29日をもって終了させることを宝鋼と合意していたが、当該日までに前提条件の充足には至らなかったことから、前提条件が充足されるまでの間、BNAの経営を継続するため、契約内容を一部改訂したうえで、経営期間を2024年12月31日まで延長した。その後、前提条件の充足に至ったことから、2024年10月29日に持分譲渡が完了し、本契約は同日をもって終了した。
また、第100期半期報告書で開示しています以下の契約は、当連結会計年度において、終了しました。
*8 本契約は、2025年2月14日に当社、日鉄建材㈱、日鉄鋼管㈱及び日鉄めっき鋼管㈱が国内電縫鋼管事業の再編に関する契約を締結したことにより、同日終了した。
また、第100期半期報告書で開示しています以下の契約は、「NS Kote, Inc.の株式譲渡を通じたAM/NS Calvert LLC の持分譲渡に関する契約」に基づく持分譲渡が2025年6月18日に実行されたことから、同日をもって終了しました。
当社は、需要家のニーズや環境・エネルギー等に対する社会的ニーズが多様化するなかで、「技術先進性」の拡大を通じた利益成長とカーボンニュートラルの実現を含む環境に配慮した製鉄技術構築に資する研究開発分野に対し、重点的に経営資源を投入しています。鉄鋼研究所、先端技術研究所及びプロセス研究所の3つの中央研究組織と各製鉄所に配置した技術研究部が強固な連携体制を構築し、「リサーチ・アンド・エンジニアリング」の理念のもと、基礎基盤研究から、応用開発、エンジニアリングまでの一貫した研究開発を推進しています。
当社の強みは、①研究開発とエンジニアリングの融合による総合力及び開発スピード、②需要家立地の研究開発体制と需要家ニーズに対する的確なソリューション提案力、③高度な基盤技術に基づく新技術の開発力、④製鉄プロセス技術を基盤とした環境・エネルギー課題への対応力、⑤産学連携、海外アライアンス及び需要家との共同研究です。当社はこれらの強みを活かし、鉄を中心とした新しい機能を持つ商品開発をはじめ、カーボンニュートラルの実現を含む環境に配慮した革新的生産プロセスの創出と迅速な実用化を図り、持続可能な開発目標(SDGs)に沿った社会の発展に貢献していきます。
当連結会計年度における当社及び連結子会社全体の研究開発費は
(製鉄)
当セグメントに係る研究開発費は
当社は、3地点の研究開発センター(富津市、尼崎市、波崎市)を軸に、①鉄鋼研究所では、鉄鋼材料・商品と利用技術・ソリューション研究開発、②先端技術研究所では、共通基盤技術研究及びCO2の分離回収や再利用に関する研究、新素材事業を中心とした製鉄以外のセグメント事業支援開発、③プロセス研究所では、設備エンジニアリングと設備保全技術開発を担当する設備・保全技術センターと密接な連携を図りながらCO2削減も考慮した製鉄プロセス関連の研究開発に取り組み、開発の短期化・効率化を目指し、鉄源コストの削減・基幹ラインの生産性の抜本的向上・省CO2化等の研究開発の加速化を進めてきました。
<薄板>
・当社は、生産設備の新設・更新時のCO2排出量削減を目的として、制御盤筐体の仕様標準に塗装工程を省略できる着色高耐食めっき鋼板「スーパーダイマ®GB」を追加しました。スーパーダイマGBは、高耐食めっき鋼板スーパーダイマの後処理に顔料を用いて、一般的な電設資材に用いられる色調マンセル値「5Y7/」近似色を着色した鋼板です。従来、制御盤等の電設資材は塗装による防錆機能を担保していましたが、当社が提供する高耐食めっき鋼板(スーパーダイマ、ZAM®)を適用することで、製造工程でのCO2排出量を削減することが可能です。今回、当社は㈱TMEIC及び㈱ティエスイーと共同で、溶接以外の接合方法等の諸課題を解決し、名古屋製鉄所の制御盤91面(鋼材ベースで約45トン)、東当社所君津地区の制御盤4面(同2トン)での適用を決定し、すでに製造・設置を開始しています。スーパーダイマGBは、当社の高機能製品・ソリューション技術NSCarbolex® Solutionの構成製品の一つであり、社会におけるCO2排出量削減に寄与します。当社は今後も、高機能製品・ソリューション技術の提供を通じて、サプライチェーン全体でのカーボンニュートラルの実現に貢献していきます。
・当社が提供するグリーンスチール「NSCarbolex® Neutral」は、様々な企業やプロジェクトで採用されています。日産自動車㈱の量産車に採用され、Scope3上流におけるCO2排出量削減に貢献しています。また、㈱㈱田窪工業所の鋼製物置製品や㈱日立製作所の電動機、南電機㈱の電路支持材商品にも採用され、各社のカーボンニュートラル目標達成に寄与しています。さらに、大阪万博コロンビア館の建築にも採用され、持続可能な開発目標(SDGs)達成に貢献しています。当社は、NSCarbolex Neutralを通じて、社会全体のCO2排出量削減とカーボンニュートラル社会の実現に向けて取り組んでいます。
<厚板>
・当社は、国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所及び今治造船㈱と共同で開発した「衝突安全性に優れた船体用高延性厚鋼板」により、令和6年度文部科学大臣表彰 科学技術賞(開発部門)を受賞しました。この技術は、船舶からの大規模油流出を防止し、海洋環境を保全するために開発されました。最先端の数値シミュレーションと大型構造実験を駆使し、従来規則値の1.5倍以上の鋼材の伸びの目標を技術的に示し、延性向上のための冶金原理を確立しました。これにより、厚鋼板の製造条件の高度化と量産化が実現しました。高延性厚鋼板を船側部に使用することで、衝突による超大型原油タンカー等の油漏洩リスクを低減し、強度・靭性、溶接性等の加工性も従来鋼と同等であるため、造船所の施工負荷は変わりません。この技術を採用した船舶は、国土交通省告示第356号の「先進船舶」として税制優遇され、国際的な入港料減免制度の評価項目にも追加されています。すでに超大型原油タンカー8隻を含む63隻(計画を含む)に実装され、日本の海事産業の競争力向上に寄与しています。
<鋼管>
・当社は、化学工業・ボイラ用鋼管製品において、一般社団法人サステナブル経営推進機構(SuMPO)の環境ラベルプログラム「SuMPO EPD」認証を新たに5件取得しました。これにより、資源採取から製造、物流、使用、廃棄・リサイクルまでの製品のライフサイクル全体を考えた環境情報を定量的に開示することが可能となり、公共調達物品におけるCO2排出量表示への対応も容易になります。当社の化学工業・ボイラ用鋼管は、耐食性・耐熱性・低温特性に優れ、石油精製、石油化学、電力・ガスのエネルギー分野で広く採用されています。また、原子力発電や高圧水素用途等の脱炭素、新エネルギー分野でも高機能製品・ソリューション技術「NSCarbolex® Solution」を提供しています。
・当社は、熱押形鋼製品において、一般社団法人サステナブル経営推進機構(SuMPO)の環境ラベルプログラム「SuMPO EPD」認証を新たに3件取得しました。当社の熱押形鋼は「自由設計」、「小ロット製造」のミル特性を活かし、物流機器、建築、土木、特殊車両、工作機械、食品・医療機器、半導体製造装置等の様々な分野で採用されています。また、NSCarbolex® Solutionの構成製品として、鋼材加工時に溶接や切削を要する作業を省略することでCO2排出量の削減に寄与しています。当社は、リサイクル性に優れた環境に優しい鉄鋼製品の環境性能開示に積極的に取り組み、カーボンニュートラル社会の実現に貢献していきます。
<棒線>
・当社、日鉄溶接工業㈱及び日鉄ボルテン㈱は、日本政府によるバヌアツ共和国への無償資金協力事業「テオウマ橋災害復興計画」において、大日本土木㈱/㈱横河ブリッジに塗装周期延長鋼「CORSPACE®(コルスペース)」の鋼板(SM490YB-CORSPACE他)、溶接材料(SF-・PX他)、高力TCボルト(S10TCR)を納入しました。CORSPACEが海外橋梁工事に採用されるのは初めてです。CORSPACEは鋼中に微量のスズ(Sn)を添加し、塗膜欠陥部の鋼材腐食量や塗膜剥離面積を従来鋼に比べ大幅に抑制し、塗装の塗り替え周期を延長することでライフサイクルコスト低減を実現します。当社グループは今後もODA道路(橋梁)整備事業に対してCORSPACEを積極展開し、「質の高いインフラ」の輸出に貢献していきます。
<建材>
・当社は、建設ソリューションブランド「ProStruct™(プロストラクト)」の海外版を立ち上げ、2024年10月より運用を開始しました。ProStructは、高性能な鋼材製品と高度な鋼構造技術を組み合わせた「鋼材×利用技術」パッケージを提供し、構造物の強靭化・高機能化・最適化、工期短縮やコスト削減、CO2排出量削減に貢献します。海外版の第一弾として、建築分野向け「NSHYPER BEAMTM×Semi-rigid Composite Joint」、土木分野向け「Widest Hot rolled Sheet pile×Reusability」及び「Hat-type sheet pile×Close-proximity installation」の3パッケージを展開しました。当社は今後もProStructを通じて、社会・産業基盤の強靭化と発展に貢献していきます。
・当社と㈱テノックスが提供する「TN-X工法」が、MCデジタル・リアルティ㈱のNRTデータセンターキャンパスに連続採用されました。NRT10(2021年9月)での初採用以降、NRT12(2024年3月)、そして2025年2月稼働予定のNRT4においても採用されています。TN-X工法は油圧式の拡縮掘削ヘッドにより杭先端部に最大直径2400㎜の根固め球根を築造し、大きな支持力を発揮します。この工法は、大型物流倉庫、庁舎、病院、空港施設等の重要建築構造物に採用されており、高い耐震性能と低排土特性が評価されています。当社は今後もTN-X工法を通じて、日本の社会・産業基盤の強靱化と発展に貢献していきます。
・当社は、国内初かつ最高強度の高強度ハイパービーム「NSYP®385B」の販売を2024年4月に開始しました。この製品は、熱加工制御圧延法(TMCP)による製造技術を用いており、強度クラス550N/mm2を実現しています。NSYP385Bは高い強度と靭性を両立し、溶接性も向上しています。設計基準強度(F値)は385N/mm2で、ウェブ高さ700~1000mm、フランジ幅300~400mmのサイズバリエーションを提供しています。今回のNSYP385Bの販売開始により、建築物の大型化に伴う部材の高強度化ニーズ、深刻化する人手不足を背景としたさらなる工期短縮ニーズ、さらにはCO2排出量削減ニーズにも最大限にお応えできるとともに、需要の高まる超高層建築物等での採用拡大が期待されます。
・当社は、鋼管杭・鋼管矢板製品において、一般社団法人サステナブル経営推進機構(SuMPO)の「エコリーフ宣言」認証を新たに3件取得しました。特にスパイラル鋼管製品としての認証取得は当社が初めてです。エコリーフ宣言は、製品のライフサイクル全体を考えた環境情報を定量的に開示するEPD認証制度であり、これにより鋼管製品の環境負荷を客観的に評価することが可能となります。
<チタン>
・当社は、チタン厚板、チタン線材及び純ニッケル薄板製品において、一般社団法人サステナブル経営推進機構(SuMPO)の環境ラベルプログラム「SuMPO EPD」認証を取得しました。チタン厚板では標準のチタン厚板とTranTixxii®-Ecoの2種類が認証され、チタン線材では一般材とTranTixxii-Ecoの2種類が認証されました。TranTixxii-Ecoはチタンスクラップを50%以上使用し、製錬工程でのCO2発生量を大幅に削減する環境配慮型素材です。純ニッケル薄板は耐食性や高温強度に優れ、苛性ソーダプラントやリチウムイオン二次電池等で採用されています。これにより、製品のライフサイクル全体での環境負荷を客観的に評価し、公共調達物品におけるCO2排出量表示への対応が容易になります。当社は、カーボンニュートラル社会の実現に向けた取組みを強化していきます。
・当社は、2025年1月より意匠性チタン「TranTixxii®」及び「TranTixxii®-ECO」の一部対象素材について、腐食による穴あきに関し30年間の耐用年数保証を開始します。さらに、所定の条件を満たす場合、最大4回の保証期間の追加延長が可能で、最長累計150年間の保証が提供されます。TranTixxiiは超長寿命、軽量高強度、優れた環境性能を持ち、独自技術で色彩美と色調美を発揮する最先端素材です。今回の保証開始により、建築家やデザイナーが手がける建築物の長期使用における経済性・環境負荷低減の観点でTranTixxiiの優位性を具体的に認識できるようになります。
<交通産機品>
・当社は、交通産機品製品において、一般社団法人サステナブル経営推進機構(SuMPO)の環境ラベルプログラム「SuMPO EPD」認証を新たに9件取得しました。認証された製品は、鍛鋼品、輪軸、環状品、型鍛造品(非調質鋼・調質鋼)、車輪、歯車、車軸、台車枠です。これにより、交通産機品のライフサイクルでの環境負荷を客観的に評価し、公共調達物品におけるCO2排出量表示への対応が容易になります。当社は、NSCarbolex Solutionを活用し、サプライチェーン全体でのカーボンニュートラルに向けた取組みを強化しています。
<製鉄プロセス>
・当社は、「当社カーボンニュートラルビジョン2050」を掲げ、国の支援を受けながら「高炉水素還元」技術の開発に取り組んでいます。この技術は、高炉での鉄鉱石の還元を石炭の代わりに水素を用いることでCO2排出を大幅に削減するものです。2024年1月から12月に実施した試験では、世界初となるCO2削減43%を実現し、開発目標を前倒しで達成しました。この成果は、国内外で開示されている実績値を大きく上回り、当社が脱炭素技術開発において世界のトップランナーであることを示しています。今後、当社はスケールアップ技術の開発を進め、製鉄プロセスからCO2排出を50%以上削減する技術の実用化に向けた取組みを加速していきます。この開発は、NEDOのグリーンイノベーション基金の支援を受け、JFEスチール㈱、㈱神戸製鋼所、一般財団法人金属系材料研究開発センターとのコンソーシアムで進められています。
・当社は、公益社団法人発明協会による令和6年度全国発明表彰で「クロム資源循環・環境調和ステンレス製鋼プロセスの発明」により「発明賞」を受賞しました。この発明は、ステンレス製鋼プロセスにおけるクロムの還元回収能力を高め、クロム資源の有効活用と副産物であるスラグの環境負荷低減を実現する技術です。クロム資源は一部の国に偏在しており、日本では重要鉱物として国家備蓄の対象となっています。従来の製鋼法では、酸化精錬後に同じ炉内で還元精錬が行われていましたが、還元回収能力は不十分でした。本発明では、酸化精錬と還元精錬を完全に分離し、還元精錬を行う電気炉で溶鉄成分やスラグ成分を制御する技術を開発しました。還元時の溶鉄中の炭素濃度を高めることで還元力を大幅に向上させ、クロムの酸化ロスを低減しました。また、環境負荷のないアルミナや石灰を用いた最適なスラグ成分に制御することで、蛍石を使用せずに溶解性と反応性の両立を実現しました。これにより、高速・高効率なクロム還元回収プロセスを確立しました。
<スラグ・セメント>
・日鉄興和不動産㈱が発注する『(仮称)BIZCORE飯田橋計画』の地上躯体のスラブコンクリート工事において、㈱鴻池組が環境配慮型BFコンクリート「CELBIC」を適用し、コンクリート材料に由来するCO₂排出量を約28%削減しました。CELBICは、普通ポルトランドセメントの30%を高炉スラグ微粉末に置き換えたA種クラスのコンクリートで、高炉スラグ微粉末には日鉄スラグ製品㈱製のエスメント®を使用しています。また、杭についても普通ポルトランドセメントの40~45%を高炉スラグ微粉末に置き換えた高炉セメントB種を適用し、CO₂排出量を約43%削減しました。CELBICは、製鉄所で生成される副産物である高炉スラグ微粉末を使用することで、天然資源の使用削減にもつながります。今後も脱炭素社会の実現に向けて、環境配慮型コンクリートの普及を進めていきます。
・当社が開発し、日鉄スラグ製品㈱が販売を代行している鉄鋼スラグ製品「カタマ®SP」は、2009年の販売開始以来、簡易でコストパフォーマンスの良い舗装資材として広く採用され、2024年12月に累計出荷1,000万トンを達成しました。カタマSPは鉄鋼スラグを原料とし、散水と重機による転圧で固化が進行する特性を持ちます。これにより、林道や農道、ソーラー発電所、遊休地、中央分離帯等での簡易舗装工事や防草対策に利用され、維持管理費や除草費用の軽減に貢献しています。さらに、鉄鋼副産物を有効活用する環境に優しい資材として、天然石材の保護や環境負荷の低減にも寄与しています。当社グループは、持続可能な開発目標(SDGs)に合致した活動を通じて、社会の発展に貢献していきます。
(エンジニアリング)
当セグメントに係る研究開発費は
日鉄エンジニアリング㈱における研究開発への取組みは以下のとおりです。
・環境・エネルギー分野 廃棄物発電プラント競争力強化、コージェネレーションの高効率化、
カーボンリサイクルに向けた研究開発
・海洋分野 洋上風力発電施設の開発、海底パイプライン敷設の開発
・都市インフラ分野 免制震デバイス商品の開発、次世代商品の探索、土壌浄化技術の開発
・陸上パイプライン分野 陸上パイプライン溶接技術の開発
(ケミカル&マテリアル)
当セグメントに係る研究開発費は
日鉄ケミカル&マテリアル㈱における研究開発への取組みは以下のとおりです。
・コールケミカル製品、化学品、機能材料、複合材料等に関する研究開発
(システムソリューション)
当セグメントに係る研究開発費は
技術進化・ビジネストレンド・社会環境・人々の価値観の変化等の不確実な状況を踏まえ、新技術の探索、評価・検証、顧客企業への新技術導入支援等において長年にわたって蓄積してきた経験とノウハウを基に、社会全体の「サステナビリティ」の実現に向けた将来像を3つの「未来目標」として設定し、取り組みました。
・未来目標1「究極のデジタルツイン(注)」 - すべてをデジタルな世界に転写して再現しよう
・未来目標2「業務を理解・実行できる人工知能」 - 機械の知的能力をとことん人間に近づけよう
・未来目標3「サステナブルな企業情報システム」 - 変化への対応力があり長持ちするシステムにしよう
(注) デジタルツイン:工場の設備・製品等の実世界のオブジェクトをデータとしてデジタルな空間に転写・再現することで、リモートからの監視・制御や、過去の状況の再現・未来の予測シミュレーション等を可能にすること。