第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

 当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、次のとおりであります。なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであり、既知及び未知のリスクや不確実性及びその他の要素を内包するものです。「3 事業等のリスク」などに記載された事項及びその他の要素によって、当社の実際の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況が、こうした将来に関する記述とは大きく異なる可能性があります。

 

<企業理念>

KOBELCOグループの現在のグループ企業理念は、2020年に制定したものであります。2017年に公表した品質事案を契機に、閉鎖的だった企業風土を変えるべく、「我々は何者なのか」「何を目指していくのか」をあらためて見つめ直し、企業理念を明文化するプロジェクトを実施しました。その際重視したのは、ボトムアップでつくり上げるという制定プロセスであります。経営層や特定のメンバーだけでなく、各職場において実施している「語り合う場」等での議論を通じ、グループ社員一人ひとりが考える機会を設けるとともに、そこからグループ社員の思いを抽出したうえで約1年をかけて制定しました。

グループ企業理念は、いわゆるビジョンやミッションにあたる「KOBELCOが実現したい未来」「KOBELCOの使命・存在意義」に、共有すべき価値観や行動規範である「KOBELCOの3つの約束」「KOBELCOの6つの誓い」を加えた4つの要素で構成されております。

「KOBELCOが実現したい未来」には、「末永く安全・安心に使える技術・製品・サービスを提供していくことに加え、社会に新しい価値を提供し、今を、そして、未来をより良いものにしよう」という、創業当時から脈々と受け継がれる精神が込められております。

また、「KOBELCOの使命・存在意義」は、社会のニーズに向き合う中で培ってきた多様な人材・事業・技術のかけ算により、KOBELCOならではの社会課題の解決に挑みつづけるという「あるべき姿」そのものであります。

当社グループは、グループ社員が一丸となって制定したグループ企業理念を胸に「安全・安心で豊かな暮らしの中で、今と未来の人々が夢や希望を叶えられる世界。」の実現を目指してまいります。

 

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<KOBELCOグループのマテリアリティ(中長期的な重要課題)>

KOBELCOグループでは、グループ企業理念を起点としながら中長期的な時間軸の中で社会課題の解決や新たな価値創造を通じて、当社グループが収益力を確保しつつ持続的に成長し、社会にとってかけがえのない存在となるために取り組むべき5つのマテリアリティ(重要課題)を特定しました。

 

(マテリアリティの特定プロセス)

CSR委員会(現サステナビリティ推進委員会)委員長が中心となり、マテリアリティの評価プロセス及び分析結果の妥当性を検証し、優先的に取り組むべきマテリアリティを検討しました。特定されたマテリアリティについては、社外取締役も含めた経営層でグループ企業理念との整合性も確認しながら議論された後、取締役会で最終承認を受けて決定しております。

 

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マテリアリティの各項目については具体的に実現するための指標・目標を設定しており、その進捗を管理しております。2024年度には、マテリアリティの指標・目標について、外部環境の変化等を踏まえて見直しを行いました。当社グループは、5つのマテリアリティに取り組むことで社会課題の解決を推進し、持続的な成長を達成してまいります。

 

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(注)S+3E:Safety + Energy Security, Economic Efficiency, Environment

 

<企業構造と事業領域>

 当社グループは、1905年(明治38年)に鋳鍛鋼メーカーとしてスタートし、機械事業、鉄鋼の圧延、銅、エンジニアリング、建設機械、アルミ、溶接とその事業を徐々に広げてまいりました。110年を超える歴史の中で、社会のニーズに応え、選択と拡大を進めてきた結果、現在、鉄鋼やアルミ等の素材、鋳鍛鋼やアルミ鋳鍛等の素形材、溶接材料等からなる「素材系事業」、産業用機械、エンジニアリング、建設機械からなる「機械系事業」、そして「電力事業」の3つの事業領域で事業を展開しております。これらの幅広い事業分野で培った知見や技術力をもとに、お客様や社会が抱える課題の解決に貢献できる新たな価値を創り出せることこそが当社の強みであると考えております。

 当社グループが提供する製品・サービスは、輸送機、電機、建設・土木、産業機械、社会インフラ等あらゆる産業の基礎資材となっております。当社グループは、独自の技術をもとにした代替困難な素材や部材、省エネルギーや環境に配慮した様々な機械製品やエンジニアリング技術等、当社グループ独自の多彩な製品群を幅広いお客様に供給することで、競争優位性を生みだしております。また、電力事業では、極めて重要な社会的インフラである電力の供給という公共性の高いサービスを提供しており、当社グループは社会的にも大きな責任を担っているものと考えております。

 素材系事業、機械系事業のいずれにおいても、競合メーカーが国内外に多数存在します。

 素材系事業においては、国内外の高炉メーカー、電炉メーカー、アルミメーカー等が競合先として存在しますが、当社グループは、鉄鋼、アルミといった様々な素材と、その圧延・鋳造・鍛造技術を活用した鋳鍛鋼、アルミ鋳鍛といった多様な素形材、加えて溶接材料・溶接技術を有する当社グループの特長を活かしたソリューション提案をお客様に行うことにより、輸送機関連の分野等で競争優位性の維持・強化を目指しております。

 また、機械系事業においても、産業用機械、エンジニアリング、建設機械の製品・サービス毎に国内外に競合先が存在しますが、機械においては、例えば、当社は、スクリュ・ターボ・レシプロの全ての圧縮機タイプを持つ数少ないメーカーの一つであり、お客様の用途に合わせて最適な圧縮機を提供することで競争力の維持・強化に繋げております。エンジニアリングにおいては、例えば、当社グループの持つ天然ガスを還元剤とした直接還元製鉄法(MIDREX®プロセス)が直接還元鉄の生産において世界シェア60%以上を占めております。またMIDREX®プロセスと鉄鋼の高炉操業技術を融合し、高炉工程でのCO₂排出量を大幅に削減できる技術の実証に成功するなど、継続的な技術改良への取組みを進め、加えて、天然ガスの代わりに水素を還元剤とした低炭素製鉄の実証を進め、世界初の100%水素直接還元鉄プラント商業機を受注するなど、技術革新にも挑戦する中で、競争優位性の維持を図っております。建設機械においては、油圧ショベルとクレーン事業に特化する中で、静音性・省エネ技術で高い評価をいただいており、これらの技術をさらに発展させるとともにDXの活用などで競争力強化に取り組んでおります。

 電力事業においては、神戸市に石炭火力発電所を、栃木県真岡市にはガス火力発電所を有しており、いずれも現在、実用化されている発電技術の中で最高効率の発電設備を導入し、省エネルギー法で定められた発電効率基準を満たすことにより、国内の火力発電所の高効率化・環境負荷低減に寄与します。なお、当社の100%子会社である(株)コベルコパワー神戸は、アンモニア20%混焼の既設改修について、電力広域的運営推進機関による長期脱炭素電源オークションへ応札し、落札されるなど、火力発電設備の更なる高効率化・低炭素化を進めております。

 

 

<KOBELCOグループ中期経営計画(2024~2026年度)>

 2024年5月に公表した「KOBELCOグループ中期経営計画(2024~2026年度)」では、「“稼ぐ力の強化”と“成長追求”」、「カーボンニュートラル(CN)への挑戦」の2つを最重要課題といたしました。

 「稼ぐ力の強化」により事業の土台をさらに強固なものとするとともに、経営資源を将来の成長機会に重点的に投入することで、安定的にROIC6%以上、将来の姿としてROIC8%以上を確保し、持続的に成長する企業グループを目指します。

 「CNへの挑戦」については、当社グループの保有する多様な技術により、CO₂排出削減貢献と、新たな事業機会の創出を積極的に推進してまいります。また、当社グループの生産プロセスについても、2030年で2013年度比30~40%のCO₂を削減し、2050年でのCN実現に挑戦してまいります。

 これらを実現・加速させる手段・ドライバーとして、「KOBELCO-X(コベルコ エックス)」と総称する様々な「X=変革・かけ算」に取り組み、当社グループ全体でサステナビリティ経営の強化、魅力ある企業への変革を果たし「未来に挑戦できる事業体」の確立を目指してまいります。

 

 

<当社グループを取り巻く事業環境>

 「KOBELCOグループ中期経営計画(2024~2026年度)」策定時点では、当社グループを取り巻く事業環境は、「持続可能な社会に向けた要請の高まり」や、「原材料調達コストの高騰」、「地産地消へ向かうサプライチェーンの再構築」、「国内人口減少に伴う国内需要逓減や働き手不足の顕在化」、「デジタル技術の急激な進歩」等の変化が起こることを想定していました。足もとにおいては、特に米国政権交代に伴う関税政策やエネルギー政策の変更により、サプライチェーンやCNの潮流に想定以上に急激な変化が生じております。一方で、時間軸に変化はあるものの、長期的な事業環境の想定に大きな変化はなく、引き続き、「“稼ぐ力の強化”と“成長追求”」、「CNへの挑戦」の2つの最重要課題に取り組んでまいります。

 

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<4つの重点施策>

 最重要課題である「“稼ぐ力の強化”と“成長追求”」、「CNへの挑戦」を実現するために、「将来の外部環境を見据えた“事業基盤の再整備”」、「既存事業における“新たな需要の捕捉”、“事業の幅の拡大”による成長」、「生産プロセスのCO削減」、「変革を通じたサステナビリティ経営の強化」の4つの重点施策を着実に実行してまいります。

 「将来の外部環境を見据えた“事業基盤の再整備”」については、収益化に時間を要しているアルミ板分野の自動車パネル事業において、中国鉄鋼業最大手の中国宝武鋼鉄集団有限公司が過半出資する宝武鋁業科技有限公司と、アルミパネルの製造・販売にかかる合弁会社を設立し中国国内における事業競争力の強化に着手いたしました。アルミ素形材事業及び建設機械事業においては、価格改善やコストダウン等のベース収益改善の取組みに注力し収益力強化に取り組んでまいります。加えて、鉄鋼や溶接等その他の素材系事業においても、国内需要の縮小や、新興国での需要の増加、CN対応等、グローバルでの競争力維持への取組みを検討してまいります。

 「既存事業における“新たな需要の捕捉”、“事業の幅の拡大”による成長」については、エネルギー転換等に関連した事業拡大や新規需要を成長の機会と捉え、機械やエンジニアリング事業を中心に、既存製品の拡販強化に加えて、これまでの事業活動で培った情報や技術・ノウハウと、DX関連技術のかけ算により、コト売りやソリューションビジネス等の新たな事業領域の拡大にも取り組んでまいります。

 「生産プロセスのCO削減」については、電力事業において、アンモニア20%混焼の既設改修について、電力広域的運営推進機関による長期脱炭素電源オークションへ応札し、落札されるなど、更なる高効率化・低炭素化への取組みを進めております。鋼材事業では高炉へのHBI多配合等に取り組むなど、生産プロセスにおけるCO削減目標の達成への道筋具体化を進めてまいります。

 「変革を通じたサステナビリティ経営の強化」については、AX~GXの「KOBELCO-X」の活動を通じて、事業戦略の実現を図り、サステナビリティ経営を強化してまいります。

 

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<事業管理指標>

 当社グループは、2024年4月にグループ企業理念の実現に向けた中長期的な重要課題であるマテリアリティに関する指標及び目標を設定しております。引き続き非財務指標も含めたサステナビリティ経営に取り組み、グループ全体で企業価値向上に取り組んでまいります。

 なお、マテリアリティに関する指標・目標については、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組」に記載しております。また、「KOBELCOグループ中期経営計画(2024~2026年度)」の進捗の詳細については、当社ホームページ(https://www.kobelco.co.jp)をご参照ください。

 

 

<財務戦略>

 財務戦略の基本方針は、未来に挑戦できる事業体の確立に向けて「稼ぐ力の強化」や「成長の追求」を行いつつ、 外部環境の変化による業績変動リスクや将来の大型投資に耐え得る財務基盤の更なる強化に取り組み、事業成長を支 える財務体質への変革を図ってまいります。新中期経営計画期間においては、2026年度末の純資産比率40%台前半、 D/Eレシオ※0.7倍台半ばを財務目標数値として定めております。

 ※有利子負債÷自己資本

 

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

 当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりであります。

 なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1)サステナビリティ共通

①ガバナンス

(ⅰ)グループ企業理念に基づくサステナビリティ経営の推進

 当社グループは、事業活動を支える「経営基盤領域」と、事業成長を実現する「価値創造領域」に分けて、グループ企業理念に基づくサステナビリティ経営を推進しております。「KOBELCOが実現したい未来」を見据え、「KOBELCOの使命・存在意義」を果たすことにより、持続的に成長し、中長期的な企業価値向上を追求してまいります。

 なお、「KOBELCOグループ中期経営計画(2024~2026年度)」においては、変革(KOBELCO-X)を通じたサステナビリティ経営のさらなる強化に取り組んでまいります。詳細は「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」をご参照ください。

 

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(ⅱ)サステナビリティ経営の推進体制

 サステナビリティ経営の推進においては、重要課題について経営審議会の補佐機関であるサステナビリティ推進委員会を中心にマネジメントサイクルを回すことを基本としつつ、積極的な情報開示とESG外部評価やSDGs等の推進ツールも活用しながら、取締役会によるモニタリングも行う体制としております。サステナビリティ推進委員会では、重要課題に対応するために、各課題に応じた部会を設けることで、実効性のある活動を推進しております。

 

サステナビリティ推進委員会体制と機能

委員長(責任者):

代表取締役副社長執行役員 永良 哉

取締役会への報告:

1回程度/四半期

開催頻度:

1回程度/四半期

機能:

サステナビリティに関わる課題の抽出/サステナビリティ推進活動のスケジュールの作成/グループ中期経営計画への提言/サステナビリティ推進活動のモニタリング及び提言/イニシアティブへの参画等の表明・発信と取組みの推進/環境、社会、ガバナンスに関わる外部評価等への対応

 

 2024年度にはCO削減推進部会をサステナビリティ推進委員会から独立させてGX戦略委員会とすることで、GX戦略をより一層推進する体制に見直しを行いました。また、全取締役で構成する「サステナビリティ経営会議」を新設し、当社グループのサステナビリティに関する主要な活動について事業部門を含む執行側との幅広い、かつ定期的な認識共有や意見交換を行うことで、取締役会のモニタリング機能を強化しております。

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 また、2024年度より、取締役(社外取締役および監査等委員である取締役を除く)および執行役員を対象とした役員報酬制度に、ESG指標を導入いたしました。詳細については「第4 提出会社の状況 4.コーポレート・ガバナンスの状況等 (4)役員の報酬等」をご参照ください。

 

②リスク管理

 全社規程「リスク管理規程」に則り、国際規格である「COSO」を参照しながら当社グループの持続的発展及び企業価値向上を妨げる要因を抽出し、対策を講じる活動を行っております。全社的なリスク管理の対象として、当社グループ及びステークホルダーの皆様に重大な影響を及ぼし、グループを横断した対応が必要なリスクを「トップリスク」「重要リスク」として選定しております。この「トップリスク」「重要リスク」には人権・安全管理・気候変動・自然災害といったESGリスクが含まれます。全社のリスク管理体制については「3 事業等のリスク」を参照ください。

 

③戦略

 グループ企業理念に基づくサステナビリティ経営をより効果的に推進するために、「価値創造領域」「経営基盤領域」における機会やリスク等も踏まえ、経営資源を重点的に投入する中長期的な重要課題(マテリアリティ)を特定しております。マテリアリティの特定プロセス等も含めた詳細については「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 <KOBELCOグループのマテリアリティ(中長期的な重要課題)>」をご参照ください。

 なお、マテリアリティの一つ「グリーン社会への貢献」内にて「気候変動への対応」を掲げておりますが、気候変動対応については「KOBELCOグループ中期経営計画(2024~2026年度)」においても「カーボンニュートラルへの対応」を最重要課題としておりますとおり、当社グループが取り組まなければならない喫緊の課題と認識しております。

 

(2)気候変動(TCFD提言に基づく関連情報開示)

[基本的な考え]

 当社グループは中期経営計画(2024~2026年度)における最重要課題の一つを2050年に向けた「カーボンニュートラルへの挑戦」としており、2030年に、生産プロセスにおけるCO排出を30~40%削減する(2013年度比)という目標の達成に向けて取組みを進めてまいります。

 当社グループはこれからもCO削減を通じて、「KOBELCOが実現したい未来」である「安全・安心で豊かな暮らしの中で、今と未来の人々が夢や希望を叶えられる世界。」の実現に貢献してまいります。

 

①ガバナンスとリスク管理

 気候関連リスク及び機会に係る課題を専門的に取り扱う組織で、経営審議会の補佐機関であるGX戦略委員会(委員長:取締役執行役員)を設置し、気候変動に関する戦略的な検討を行うこととし、気候関連のリスクと機会について全社横断的に検討・活動を行っております。

 GX戦略委員会の検討結果や活動成果は、四半期に一

度、取締役会へ報告を行ったうえで、取締役会の監督・指導を受けており、取締役会が気候変動に関わるリスクに対して直接ガバナンスを行う体制としております。

 また、サステナビリティ経営会議において、カーボンニュートラルを重要テーマの一つとして、事業部門を含む執行側との幅広いかつ定期的な認識共有や意見交換を行い、モニタリングを強化しております。

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②戦略

 当社グループでは、国際エネルギー機関(IEA)等が提示する社会シナリオ、一般社団法人日本鉄鋼連盟や一般社団法人日本アルミニウム協会等の業界団体が策定・公表している長期ビジョンや、国のエネルギー政策等を考慮し、中長期的な気候関連のリスクと機会の分析を進めております。また、その分析により、当社グループ実行項目の適正性を評価しております。

 

 

<気候関連リスク>

 今後、カーボンプライシング導入をはじめとする気候変動に関する環境規制の強化等が当社グループの業績及び財務状況に大きな影響を与える可能性があります。また、近年、洪水・台風に関する被害が激甚化する傾向にあり、気候変動による災害の増加により、生産量低下、サプライチェーンの混乱等が予想されます。

<気候関連機会>

 気候関連問題の国際的な関心の高まりを背景に、CO₂排出量が少ない製品・サービスへの需要が増加しており、自動車軽量化やMIDREX®プロセスといった当社グループのCO₂削減貢献メニューの需要が中長期的に増加することが期待されます。

 

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③リスクと機会への対応(研究開発)

(ⅰ)生産プロセスにおけるCO₂削減

 製鉄プロセスのCO₂削減に向けて、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が推進する事業に鉄鋼他社とともに参画し、実用化に向けて技術開発を推進しております。その一つ「製鉄プロセスにおける水素活用プロジェクト」は国の「グリーンイノベーション(GI)基金事業」に採択されており、2050年のカーボンニュートラルに向けた取組みを推進しております。

 

(ⅱ)技術・製品・サービスによるCO₂排出削減貢献

 既存の削減貢献メニューである自動車軽量化に貢献する素材・部品、ヒートポンプ等では、更なるCO削減効果の追求を目的として、継続的な技術開発を進めております。また、新たなCO削減貢献技術・製品・サービスの開発にも積極的に取り組んでおり、MIDREX H2™(100%水素直接還元)の競争力維持・強化に向けた開発や、水素利活用システムの実証実験を進めております。

 

④シナリオ分析

 将来の気候関連のリスクと機会を把握するため、短・中期(2030年)及び長期(2050年)におけるシナリオ分析を実施いたしました。シナリオ分析にあたっては、国際エネルギー機関(IEA)が公表する2℃シナリオ(SDS)、1.5℃シナリオ(Net Zero by 2050)、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書の4℃シナリオを用いており、それに加えて一般社団法人日本鉄鋼連盟や一般社団法人日本アルミニウム協会等、当社所属の業界団体が公表する長期ビジョンも参照して分析・評価を実施しております。なお、電力事業については、国のエネルギー政策と密接に関係するため、日本政府のエネルギー政策をベースとしてシナリオ分析を実施しております。また、外部環境の変化も踏まえ、定期的にリスクと機会の分析・評価の見直しを行っております。

 

(ⅰ)ビジネスへの影響

 当社グループのCO排出量の90%以上は製鉄プロセスに由来するため、鉄鋼業の中長期的な動向は当社グループのビジネスに最も大きな影響を与えます。一般社団法人日本鉄鋼連盟の「長期温暖化対策ビジョン『ゼロカーボン・スチールへの挑戦』」によると、経済成長と1人当たりの鉄鋼蓄積量には一定の相関があり、また、人口が増えれば鉄鋼の蓄積総量は拡大することが示されております。したがって、今後、世界の経済成長と人口増加により鉄鋼の需要は増加し続けると予測されます。

 鉄鋼の生産は、天然資源(鉄鉱石)からの生産(主に高炉、直接還元鉄)と、スクラップの再利用(主に電炉)による生産に大別することができ、一般社団法人日本鉄鋼連盟の予測によれば鉄鋼の蓄積総量の拡大によりスクラップの再利用が大きく増加することが見込まれております。一方で、スクラップの再利用だけでは鋼材需要を満たすことはできず、天然資源(鉄鉱石)からの生産も、引き続き現在と同程度必要となることが予測されております。

 気候変動への対応やその情報開示に対する関心が高まる中、鉄鋼業においてもCO削減への取組みの重要性は今後も高まることが見込まれております。そのため、政府・地方自治体の皆様、投資家様、お客様等のステークホルダーの皆様から、自社設備からのCO排出量の削減への取組みと、CO削減貢献メニューの拡販に対する関心等がさらに増加するものと予測しております。

 

(ⅱ)リスクと機会

 当社グループは、主力事業の一つとして鉄鋼製品の生産・販売を行っており、エネルギー多消費型の素材産業に該当します。当社グループのCO排出量は15.6百万t(2023年度、Scope1,2)であり、日本の製造業の中でも上位に位置しております。そのことから、カーボンプライシングをはじめとする将来の気候変動に係る政策、法令・規制の動向は、経営に重大な影響を与える可能性がある移行リスクと認識しております。

 また、物理的リスクとして地球温暖化の進行により、大気中の水蒸気が増加することで降水量が増加し、大雨や台風による被害が激甚化する傾向にあることが各種研究機関や気象庁等から報告されております。当社グループでも、近年の台風や大雨の激甚化による生産停止やサプライチェーンの混乱のリスクが顕在化しつつあり、気候変動に伴う台風や洪水等の自然災害の激甚化は、生産活動の停止につながる、経営に重大な影響を与える可能性があるリスクと認識しております。

 当社グループでは、全社のリスク管理規程上、「気候関連規制」と「自然災害への備え、復旧」を事象発生時の影響が特に重大と予想されるリスクである「トップリスク」に位置付け、リスク管理の強化を図っております。

 一方で機会に関しては、気候関連問題の国際的な関心の高まりを背景に、CO排出量が少ない製品・サービスへの需要が増加しており、自動車軽量化に貢献する素材・部品やMIDREX®プロセスといった当社グループのCO₂削減貢献メニューの需要が中長期的に増加することが期待されます。

 

⑤指標と目標

<指標A 生産プロセスにおけるCO₂削減>

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[目標]

 当社グループは2050年にカーボンニュートラルへ挑戦し、達成を目指します。また、中期的な目標として2030年目標を設定しております。

 

[CO₂排出量の実績]

 日本の鉄鋼業はオイルショックを契機として1970年代以降1990年代までに、工程の連続化や工程省略等による省エネルギーや排熱回収設備の設置によるエネルギーの有効利用を進めてきました。1990年代以降も排熱回収設備の増強や設備の高効率化を進め、廃棄物資源の有効利用の対策にも取り組み、近年では高効率ガスタービン発電設備の導入等を行ってきました。

 当社グループでも、積極的な設備投資により、様々な省エネルギー・CO削減対策を講じてきました。例えば、2009年度から2014年度にかけて、加古川製鉄所に高炉ガスを利用した高効率ガスタービン発電設備を導入し、CO排出量を大幅に削減いたしました。

 2023年度のCO排出量は、前年度と比較して同等で2013年度比20%になりました。

 製鉄プロセスにおいては、MIDREX®プロセスで製造したHBI(還元鉄)を高炉に多量に装入し、高炉工程でのCO排出量を約25%削減できることを実証試験で確認・完了いたしました。2030年度の目標達成に向けて、このHBI装入技術に加えて、バイオマスや再エネなどの活用も組み合わせることでCO排出量の削減に取り組んでまいります。また、2050年カーボンニュートラルに向けては、電炉導入も含めた最適な生産体制の検討を加速してまいります。

 

 

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[エネルギー起源CO₂排出量の実績]

 当社グループは2023年度、グループ全体で15.6百万tのCO₂を排出いたしました。そのうち、約91%が鉄鋼アルミ関連事業、約5%が電力事業、約3%が素形材関連事業で排出されております。

 

 

 

<指標B 技術・製品・サービスによるCO₂削減>

[目標]

 当社グループは、独自の技術・製品・サービスを通じて、社会の様々な分野でCO排出削減に貢献しております。当社グループはCO排出削減貢献量について、2030年目標、2050年ビジョンを設定しております。また、関連製品の売上高について、2030年目標を設定しております。

 排出削減に貢献する技術・製品・サービスについては、 排出削減貢献量を社内認定する制度を設けております。なお、認定における計算式については、国立研究開発法人産業技術総合研究所安全科学研究部門IDEAラボ田原聖隆ラボ長にご指導いただいております。

 

 

 

 

 

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※ MIDREXプロセスの削減貢献量算定方法

一番多く導入されている地域である中東においてMIDREX®法にて鉄鋼製品を製造するケースと、アジアで製造した鉄鋼製品を中東に輸出するケースで排出するCO量を比較することで計算しております。

 

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[CO₂排出削減貢献の実績]

 GX戦略委員会において承認された当社グループの技術・製品・サービスによる2023年度のCO排出削減貢献量は61.2百万tと推計しております。また、関連製品の売上高は4,021億円でありました。

 

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(注)1.「(2)気候変動(TCFD提言に基づく関連情報開示)」に関する詳細データは、「KOBELCOグループESGデータブック2024」15頁から25頁をご参照ください。

2.指標A、指標Bの2024年度の実績については、2025年9月発行予定の統合報告書及びESGデータブックの中で開示を予定しております。

 

(3)人的資本多様性

①当社グループの人材戦略

 当社グループは、企業としての社会的責任を果たし、新たな価値を創造するために、グループ企業理念を理解し実践できる人材を育成することが重要だと考えております。

 幅広い事業分野を有する当社グループにおいて、多様な背景、価値観、技術を持った人材を有し、時代・社会の変化の中で、社会への貢献とその実現に向けて果敢に挑戦することは、更なる強みの強化につながると考え、最大限活躍できる環境を整備してまいります。

 

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②主な施策

(ⅰ)組織の多様性を高める

<ダイバーシティ&インクルージョン>

 当社グループでは、多様な人材が活躍できる職場環境を実現するため、D&I 基本方針を策定し、D&I 推進を強化しております。

 

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(ⅱ)一人ひとりの成長・挑戦を促す

<人材育成>

 職場でのOJTを人材育成の基本とし、業務を通して上司や先輩社員とのコミュニケーションを重ね、早期の業務習得を促しております。また、新たな知識の習得を狙った多様な教育研修プログラムを用意し、OJTと研修を重ねることで、実践力の強化に取り組んでおります。

 

スタッフ職への取組み(管理職・総合職・基幹職事技系)

 新入社員研修をはじめとした各種階層別研修に加え、自律・自走型の人材育成のため、数多くのコンテンツより選択可能な動画教材を導入しており、自律的な学びの習慣化につながる取組みとなっております。

 加えて、社員の学習履歴情報や教材等が一元管理可能な学習管理システム(Learning Management System)を導入し、効率的な学びを促進しております。

 

現場技能職への取組み(基幹職技能系)

 競争力の源泉となる「ものづくり力」の維持・向上のため、職場におけるOJTを基本に、階層別・職種別の各種教育プログラムを整備しております。入社5年目までの若手社員については、毎年、加古川の研修センターに集合し、業務に必要な知識や技能の教育を行っております。また、毎年の技能競技大会の開催、技能検定の取得促進等により、技能レベルの向上に取り組んでおります。

 職場の要となる管理監督者には、安全、環境、品質等の基礎知識は当然ながら、マネジメントやコミュニケーションに特化した教育プログラムを準備し、よりよい職場環境の構築に向けた研修を行っております。今後も、社内外の環境変化に応じて、都度、教育内容・体系の見直しを行ってまいります。

 

 

(ⅲ)活躍できる環境を整備する

<働きがい推進>

 当社グループでは、2015年度から継続して、生産性の向上、働きやすさ・働きがいのある職場環境整備に向けて、様々な活動に取り組んでおります。

柔軟な働き方の推進

 テレワークと出社のハイブリッドワークの定着化や両立支援の拡充につながる新たな休暇制度(KOBELCOライフサポート休暇)の導入、フレックスタイム制のコアタイム廃止、デジタルツールの活用等を推進しております。

 

働きやすい職場環境の整備

 ハード面では、テレワークやオンライン会議の定着にあわせたオフィスの見直しや寮・社宅をはじめとする各種厚生施設の改善を計画的に実施しております。

 ソフト面では、交替勤務の働き方改善を目的に四直二交替勤務の導入や管理監督職の総実労働時間削減の取組みを進めております。

 

働き方に対する価値観の多様化への対応

 社員の働き方に対する価値観が多様化し、とりわけ転勤に対する意識が変化している中で、転勤に対する忌避感や負担感を軽減するための施策を実施し、これまで以上に安心して仕事に取り組むことのできる環境の整備を進めております。

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<人権尊重の取組み>

 当社グループは、グローバルに事業展開する企業グループとして、国際連合で採択された「国際人権章典」を尊重し、国際基準に則った取組みを実施しております。2021年3月には、国際連合が提唱する「国連グローバル・コンパクト」に参加しております。引き続き、人権の保護、不当な労働の排除等の原則に賛同する企業としてその実現に向けて努力を継続し、人権侵害問題を発生させない取組みを強化しております。

 

人権基本方針の改定

 当社グループでは、世界的な人権意識の高まりを受け、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」に則り、従来の人権基本方針を2022年12月に「KOBELCOグループ人権基本方針」へ改定し、本方針に基づき国際規範に準拠した取組みを強化しております。

 本方針は、当社グループのすべての役員及び社員に適用されます。また、サプライヤーを含む当社グループのビジネスパートナーに対しても、本方針の支持と実践をいただけるよう努めます。

 

人権デューディリジェンスの実施

 当社グループの事業活動における人権への負の影響の特定と評価を行い、その防止や軽減を目的に、人権デューディリジェンスプロセスの構築に取り組んでおります。

 人権課題の特定・リスク評価・影響特定に関するリスクアセスメントについては、2022年度に当社単体で実施して以降、2023年度からは国内の主要グループ会社及び海外グループ会社へ対象を順次拡大し計画的に実施しております。特定した人権リスクの軽減措置の検討やステークホルダーの皆様への情報開示を通じ、当社グループ全体において人権デューディリジェンスプロセスを確立することを目指しております。

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<安全衛生>

 「安全・衛生・健康は経営の基盤であり、全ての事業活動に優先する」という基本理念のもと、安全で安心して働くことのできる活気あふれた職場の実現に向けて、関係法令の遵守は当然のこと、様々な安全衛生活動を行っております。

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③指標と目標

 

指標

目標

2023年度

実績

(注)

2024年度

実績

(注)

 

(ⅰ)組織の多様性を高める

 

総合職新卒採用女性比率

毎年:a.総合職事務系 50%以上

b.総合職技術系 15%以上

a.44%

b.13%

a.42%

b.8%

 

基幹職技能系女性社員採用・離職率

毎年:a.新卒採用女性比率 10%以上

b.5年以内離職率 15%以内

a.9%

b.26.3%

a.6%

b.26.6%

 

女性管理職人数

2026年度100

74人

86

 

(ⅱ)一人ひとりの成長・挑戦を促す

 

グループ企業理念の浸透

毎年:社員意識調査関連設問の

ポジティブ回答比率80%以上

a.「私はグループ企業理念に

共感できる」

b.「私はグループ企業理念に

沿った行動ができる」

a.77%

b.78%

a.79%

b.80%

 

社員研修の拡充

2026年度:一人当たりの年間平均

研修受講時間40時間以上

33.0h

44.2h

 

(ⅲ)活躍できる環境を整備する

 

男性社員の育児休業及び育児の

ための特別休暇取得率 (注)2

毎年100%

167.8%

157.4%

 

年次有給休暇取得日数

毎年:平均15日/年・人

18.0日

16.8

 

人権DD実施会社

2026年までに:a.国内グループ会社

83社(累計)

b.海外グループ会社

41社(累計)

a.3社

b.18社

a.34社

b.29社

 

休業災害度数率

毎年0.10以下

0.31

0.27

(注) 1.KOBELCOグループ中期経営計画(2024~2026年度)で掲げるマテリアリティのモニタリング指標のうち、人的資本に関連する指標の目標及び実績を記載しております。なお、グループ各社は、当社グループの人材戦略のもと、各々の課題に応じた指標と目標を設定しているため、代表として提出会社における指標を設定しております。

2.前事業年度以前に出産した子に関して取得した場合も割合を算出する上で分子に含めております。なお、従来は分子のうち育児目的休暇の取得者を「0歳の子を持つ男性労働者」に限定して集計していましたが、2024年度より「満3歳未満の子を持つ男性労働者」へと変更しました。これに伴い、2023年度の実績についても遡及して修正を行っております。

 

3【事業等のリスク】

当社グループの事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項は、下記の(1)事業環境の変化及び(2)グループ経営全般に重大な影響を及ぼす事項のとおりであります。

当社グループでは、事業推進上想定される事業環境変化に伴うリスクについては、経営者の意見を踏まえて、事業部門又は本社部門が中心となってリスク対策に取り組んでおります。また、事故や災害、法令違反等、グループ経営全般に重大な影響を及ぼすリスクについても、経営者の意見を踏まえて抽出しております。

リスクマネジメント体制としては、全体の管理者である全社総括責任者として社長、全社リスク管理統括責任者として内部統制・監査部総括役員を置き、個々のリスクのグループ横断的な管理活動の推進者として担当役員(リスクオーナー)、リスク対策実行責任者には事業部門長や本社担当役員を指名することにより、全社的なリスク管理体制を構築しております。また、経営審議会の補佐機関として設置したリスクマネジメント委員会では、リスクマネジメント全般に関する基本方針の立案・評価、リスクマネジメントの重要課題に関する具体方針の立案、「トップリスク」「重要リスク」のリスク対策実行計画の評価、全社リスク管理計画の立案・評価などを行っております。委員長には全社リスク管理統括責任者、また、委員には全リスクオーナーを指名しております。リスクマネジメント委員会の活動状況は定期的に経営審議会へ報告し、経営審議会での議論結果を踏まえてリスクオーナーへの指示を行っております。

なお、経済安全保障リスクや地政学的リスクへの対応など複数のリスクに跨る場合には、リスクマネジメント委員会の下でグループ横断的な対応を検討しております。

投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項は、「第2 事業の状況」の他の項目、「第5 経理の状況」の注記事項、その他においても記載しておりますので、併せてご参照ください。また、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1)事業環境の変化

①主要市場の経済状況等

当社グループの国内向け販売は、自動車、造船、電気機械、建築・土木、IT、飲料容器、産業機械などを主な需要分野としております。海外向け販売は、当連結会計年度の売上高の34.5%であり、アジア地域が海外売上高の過半を占めております。

当社グループは鉄鋼やアルミなどの素材、鋳鍛鋼やアルミ鋳鍛などの素形材、溶接材料などからなる素材系事業と産業用機械、エンジニアリングや建設機械といった機械系事業、さらに電力事業と複数のビジネスドメインを持つことで、安定性を担保するとともに、たゆまぬ技術開発を行って競争力の維持を図っておりますが、当社グループの業績は、これらの需要分野の動向、需要地域における経済情勢等により、売上高や受注高の減少の影響を受けることに加え、お客様の財政状態の悪化による債権回収の遅延等の影響を受ける可能性があります。また、海外の各需要地域における地政学的リスク、各地域における事業の監督や調整の困難さ、労働問題、関税、輸出入規制、通商・租税その他の法的規制の動向が、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。また、各製品市場において、国内外の競合各社との厳しい競争状態にあり、競合各社による当社製品よりも高性能な製品開発や迅速な新製品の導入等、その状況次第では売上高や受注高の減少等により当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

②製品需給・価格の変動

当社グループは各製品の市場及び地域的な市場において競合他社との競争を行っております。経済市況や市場動向の変化、地政学的リスク、法規制及び競争環境の変化等を受けて需要家の事業戦略や購買方針に当社グループの想定を超えて変更が発生する場合、売上高や受注高の減少等により当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

特に鉄鋼事業において中国における過剰生産能力問題が十分な解決に至っておらず、過剰供給に起因する国際市場での厳しい競争は国内外での鋼材の需給状況や製品価格の変動の原因となっております。当社グループの国内鋼材販売の形態は、大きくは製品数量・規格等を直接お客様との間で取り決めて出荷する「紐付き」と、お客様が不特定の状態で出荷する「店売り」とに分かれますが、当社の場合ほとんどが「紐付き」であります。鋼材の需給状況が変動した場合、「店売り」価格の方がより敏感に連動するものの、最終的には「紐付き」価格も影響を受けることになります。また、鋼材販売数量のおおよそ25%を占める輸出鋼材の販売数量・価格についても、各需要地域における鋼材需給等により影響を受けます。これらの変動が想定を超えて発生する場合、売上高の減少や収益の悪化等により当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

機械系事業においては、汎用品、受注生産品ともに、その製品需給が当社グループの想定以上に急激に変動する可能性があり、価格については、特に海外市場向けの製品について、通貨価値の変動等により影響を受ける可能性があります。これらの急激な変動を受け、売上高の減少、契約キャンセルによる損失の発生、債権回収の遅延等により当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

③原材料等の価格変動等

当社グループが調達している鉄鉱石、石炭、合金鉄・非鉄金属、スクラップ等の鉄鋼原料価格及びそれらの輸送に関わる海上運賃等は、国際的な市況、為替相場、法規制、自然災害、地政学的リスク等により影響を受けます。特に、鉄鉱石及び石炭については、大きな消費国となった中国における需給状況と世界的にも限られた原産国や供給者の供給能力が、国際市況に与える影響が大きくなっております。調達先の分散や調達先との関係強化などを通じてこれらの安定調達に努めるとともに、原材料等の価格変動の製品価格への転嫁にも努めておりますが、原材料価格・運賃が大幅に変動する場合には、コストの変動等により当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

また、アルミ、銅につきましては、地金価格の変動は基本的にお客様に転嫁する仕組みとなっておりますが、地金価格の市況が短期間に大きく変動した場合には、会計上の在庫評価影響などによって、当社グループの業績に一時的に影響が生じる可能性があります。

さらに、当社グループは、耐火物等の副資材、機械製造関連と設備投資関連の資材及び電装品、油圧機器、内燃機器等の資機材を外部調達しており、価格変動を抑える取組みはしているものの、調達先の賃金上昇や物価上昇等によりこれら資機材の価格が変動する場合、機械製造コストや設備投資コストの変動につながり、当社グループの業績に影響を及ぼします。

 

④サプライチェーンにおけるリスク

当社グループのサプライチェーンにおいて、調達先の分散や調達先との関係強化などを通じて原材料や資機材等の安定調達に努めておりますが、調達先との取引関係に重大な変更があった場合や、災害や事故、急激な関税政策の変更や地政学的リスク等による混乱が生じた場合、売上高の減少やコストの増加等によって当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。また、当社グループではCSR調達基本方針を策定し、お取引先の皆様と社会的責任を共有し、“責任あるサプライチェーンの構築”に向けた取組みを推進しておりますが、サプライチェーンで法令違反や人権・労働等に関する問題が発生した場合には、調達や生産への影響に加えて、当社グループの信頼の毀損に繋がり、売上高の減少によって当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(2)グループ経営全般に重大な影響を及ぼす事項

①労災、設備事故等

当社グループの生産設備の中には、鉄鋼の高炉、転炉など高温、高圧での操業を行っている設備があります。また、高熱の生産物、可燃性のガス、化学薬品等を取り扱っている事業所もあります。日常的に、高温高圧部分や可動部の多い設備の取扱い、高所での作業、危険物の取扱いがあるなど、従業員の労働環境としても、労働災害の主要な原因となる、「転落・墜落」や「挟まれ・巻き込まれ」、「飛来・落下」等の事象が他業種に比べ発生しやすい環境にあります。対人・対物を問わず、安全や防災に関する法令を遵守し、事故の防止対策には万全を期しておりますが、万一重大な労働災害や設備事故等が発生した場合には、当社グループの生産活動等に支障をきたし、生産量減少に伴う売上の減少や破損設備の復旧に伴う費用の発生、事故に関連する補償の実施等、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

②自然災害、パンデミック、戦争・テロ

当社グループの国内外の製造拠点等においては、大規模地震や台風等の自然災害、感染症等の大規模流行、戦争やテロ、暴動に対して発生時の損害を最小限に抑えるため、緊急対応策の準備、連絡体制の整備、定期的な見直しや訓練の実施等を行っております。しかし、これら大規模災害等により直接的に被害を受ける、もしくは物流網や供給網の混乱、インフラの障害等により事業活動に支障が生じた場合には、売上高や受注高の減少、生産コストの上昇や復旧コストの発生等により当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

なお、感染症等のパンデミックへの対策として、感染者が増加した場合には、事業継続のため、勤務体制の見直しや補助人員の確保等を行うこととしております。加えて、政府が発出する要請事項や市中感染状況を踏まえ、事業活動継続と感染リスク抑制の両面の観点より、当社グループ全体に対して感染予防のための行動ガイドラインや関連する通達を適宜発信し、感染予防・感染拡大防止の周知・徹底を図っております。しかしながら、当社グループの事業所において大規模な感染が発生して事業運営が一時的に困難になる場合や、国内・海外ともに需要家の活動水準が低下し、製品需要の大幅な下振れが発生する場合、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

 

③品質に関するリスク

当社グループは、品質不適切行為を踏まえ、品質ガバナンス体制を再構築するなどの活動を鋭意遂行し、信頼の回復に努めてまいりました。前中期期間では、お客様からの更なる信頼回復と向上、不適切事案の風化防止等を目的とした「信頼向上プロジェクト」を設置し、社長直下で、各事業のマネジメントを強化し、お客様や社会に役立つために課題を設定し、全員参加でこれを達成することを目的にした「KOBELCO TQM推進会議」と、「お客様信頼向上会議」にて、お客様との接点を強化する活動や現場への信頼回復・向上活動の意義浸透を推進する活動を進めてまいりました。2024年度より、これらの活動を、経営審議会の補佐機関である「KOBELCO TQM推進委員会」に移行することで、グループ全体でKOBELCO TQM活動の取組みを強化・推進することといたしました。

JIS等の規格を基に社内で設定した基準のもと、製品の品質と信頼性の維持向上に努めておりますが、万一、品質ガバナンス体制に運用上の問題が発生した場合や製品に品質上の欠陥が発生した場合、訴訟もしくはその他のクレームによる費用の発生や、販売量の減少等により当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

④環境規制、気候関連規制等の影響

鉄鋼やアルミ、銅を中心に、その生産活動の過程において廃棄物、副産物等が発生します。当社グループでは、国内外の法規制に則った適切な対応に努めておりますが、関連法規制に違反するような事象が発生した場合、原状回復や対策実施に多額の費用が発生する可能性があります。また、関連法規制の強化等によって、過去に売却した工場跡地等であっても土壌汚染の浄化のための費用が発生するなど、業績に影響を及ぼす可能性があります。

当社グループはCO2排出量が多いと指摘される鉄鋼事業や電力事業を主要な事業として営んでおり、CO2削減関係の重要事項は経営に重要な影響を与えうることから、全社横断的に検討・活動を行っております。しかし、今後CO2等の排出に関連して新たな規制や排出量取引制度や炭素賦課金が導入された場合には、鉄鋼や電力を中心に当社グループの事業活動が制約を受け、売上高の減少やコストの増加等により当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

なお、CO2削減への取組みの詳細は「第2 事業の状況」、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組」の「(2)気候変動」をご参照ください。

 

⑤法令・公的規制

当社グループは、国内、海外において多岐にわたる分野で事業活動を行っており、その遂行にあたっては、当社グループが展開している様々な事業に関連する法令(安全保障貿易管理、独占禁止、贈収賄規制などに関するもの)、その他の公的規制や社会規範を遵守し、公正で健全な企業活動を行うことを指針としております。しかしながら、法令違反等を理由として罰金等を科される状況が発生した場合には、当社グループの業績や社会的信用力に影響を及ぼす可能性があります。

 

⑥訴訟等のリスク

当社グループは国内、海外において多岐にわたる分野で事業活動を行っており、その遂行にあたってはそれぞれの国の法令や公的規制、社会規範を遵守することを指針としております。万一これらに反する事象が発生し、訴訟等が提起された場合もしくは、すでに提起された訴訟等において当社グループに不利な判断がなされた場合には、損害賠償等の関連する費用の発生等により当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

また、当社グループは、国内外において多岐にわたるJV契約や受注契約、購買契約、技術契約、電力供給契約、プロジェクトファイナンス関連契約などを締結しております。これらの契約の締結に際し、当社グループに不利もしくは履行不能な条件や、必要条件の欠落が無いかなど、社内で十分な審査を行うよう努めております。しかし、契約締結後に当初想定できなかった経済環境の変化や契約内容の検討不足、予測できない商務的もしくは技術的なトラブルが発生し、契約相手との間でペナルティーの支払い、追加費用の発生、事業上の制約の発生等により、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

⑦人材確保に関するリスク

当社グループは、事業の維持・成長に必要な人材の確保のために、多様な背景を持つ社員一人ひとりが持てる能力や専門性を最大限発揮し、活き活きと働くことが出来るよう、労働条件の改善、職場環境の整備や人材育成の取組みを進めております。しかし、今後、少子化や人材の流動化の加速、また労働市場の需給バランスの変化等によって人材の確保が想定どおりに進まない場合には、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

⑧財務リスク

a)為替レートの変動

当社グループの外貨建取引は主として米ドル建で行われております。当社グループは、短期的な対応として為替予約等を実施しておりますが、変動リスクを完全に排除することは困難であり、為替レートの変動は、外貨建取引に関わる損益の変動や海外子会社の業績の変動等により当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

b)金利率の変動等

当連結会計年度末における当社グループの有利子負債残高は8,863億円であります。当社グループは新規の長期借入金・社債等に関し、固定金利での調達や金利スワップ契約等を実施しておりますが、中長期的な金融情勢の変化等による金利率及びその他の条件の変動等が、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

c)融資・債務保証等

当社グループは、関係会社等に対して融資等、及び関係会社やお客様等における一部の金融機関借入等に対して債務保証等を行っております。将来、これらの融資等の回収が滞ったり、債務保証等の履行を求められる状況が発生した場合には、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

d)棚卸資産の価値下落

当社グループが保有している棚卸資産について、収益性の低下等に伴い資産価値が低下した場合は、当社グループの業績に影響が生じる可能性があります。

e)投資有価証券の価値変動等

当社グループが保有する投資有価証券の当連結会計年度末の連結貸借対照表計上額は2,141億円であります。上場株式の株価変動などに伴う投資有価証券の価値変動は、当社グループの業績に影響を及ぼします。

加えて、年金資産のうち退職給付信託を構成する上場株式の株価変動により、退職給付会計における数理計算上の差異が生じ、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。退職給付信託を除く年金資産については、年金制度の予定利率や財政状態を勘案したうえで、元本毀損リスクの極力低い安全性資産中心の運用を行うよう努めております。

f)繰延税金資産の計上

当社グループでは繰延税金資産について、将来の課税所得を合理的に見積り、回収可能性を判断して計上しております。しかしながら、今後将来の課税所得の見積り等に大きな変動が生じた場合には、繰延税金資産の取崩しが発生し、当社グループの業績に影響が生じる可能性があります。

g)固定資産の価値下落

当社グループが保有している固定資産について、時価の下落・収益性の低下等に伴い資産価値が低下した場合は、当社グループの業績に影響が生じる可能性があります。なお、詳細な内容については「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 注記事項 (重要な会計上の見積り)」をご参照ください。

h)資金調達

当社グループは、主に銀行借入、社債発行及びコマーシャル・ペーパーの発行等により事業活動に必要な資金を確保しております。従って、景気の後退や金融環境の悪化、当社グループの信用低下等により、資金調達が想定どおりの条件で適時に実施できない場合には、事業計画の変更や資金調達コストの上昇等により当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

また、当社グループはカーボンニュートラルの実現に向けて、CO₂排出量の削減に取り組んでおりますが、ダイベストメントの動向次第では、その影響を受け、資金調達が想定どおり行えなくなる可能性があります。

 

⑨中期経営計画の実現等

当社グループは、2024年5月に「KOBELCOグループ中期経営計画(2024~2026年度)」を策定し、公表しております。主要な取組みとして、「稼ぐ力の強化と成長追求」と「カーボンニュートラルへの挑戦」を掲げております。本中期経営計画は、策定時点で入手可能な情報による判断及び仮定に基づいており、判断や仮定に内在する不確定性及び今後の事業運営や内外の状況変化による変動可能性など様々な要因によって、計画した成果が得られない可能性があります。

 

 

⑩知的財産権の保護及び第三者の権利侵害

当社グループでは保有する知的財産の適切な保全(特許・実用新案・意匠権等の取得や技術情報の秘密管理)に努めております。しかし、第三者により製品や技術等が模倣されたり、意図せぬ技術流出が発生した場合、当社グループの製品や技術等が陳腐化するなどの影響が発生し、売上高の減少等により当社グループの業績に影響を与える可能性があります。

また、当社グループでは、製品等の開発やエンジニアリング、製造、使用及び販売、その他の事業活動によって、第三者の知的財産権、その他の権利を侵害しないよう、あらかじめ調査を行い、必要に応じて実施許諾を受けるなどの措置を講じております。しかし、第三者からの知的財産権、その他の権利の侵害に関して紛争が生じた場合、紛争に関連する製品等の製造・販売等の差し止めや多額の損害賠償金・和解金の支払い等により、当社グループの業績に影響を与える可能性があります。

 

⑪情報セキュリティ

当社グループは事業活動において顧客情報・個人情報等を入手することがあり、また営業上・技術上の秘密情報を保有しており、グローバルに様々なシステムを構築し事業活動を行っております。当社グループはサイバー攻撃等による不正アクセスや情報漏洩等を防ぐため、管理体制を構築し適切な安全措置を講じております。しかし、顧客情報・個人情報等の漏洩や滅失等の事故が発生した場合には、損害賠償や当社グループの社会的信用の低下等により、当社グループの業績に影響を与える可能性があります。また、営業上・技術上の秘密情報の漏洩や滅失等の事故が発生した場合や、第三者に不正使用された場合、サイバー攻撃等によるシステム障害が発生した場合には、生産や業務の停止、競争優位性の喪失、社会的信用の低下等により当社グループの業績に影響を与える可能性があります。

 

なお、当連結会計年度末現在では予測できない上記以外の事象の発生により、当社グループの財政状態及び経営成績が影響を受ける可能性があります。

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

当連結会計年度における当社グループ(当社、連結子会社及び持分法適用会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要並びに経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1)経営成績の状況

当連結会計年度の我が国経済は、物価上昇や世界的な需要低迷を背景に一部で足踏みが見られるものの、賃金、雇用情勢の改善等による個人消費や企業の生産活動を中心に持ち直しの傾向が継続しました。海外経済は、米国では、物価高や金融引き締めによる影響があるものの、堅調な個人消費を背景に景気は底堅く推移しました。欧州では製造業や建設業の低迷は継続しておりますが、サービス業を中心に景気は緩やかな回復を辿りました。中国では不動産市場の低迷の継続や個人消費の伸び悩み等により、景気回復のペースは鈍化しました。

このような中、当社はKOBELCOグループ中期経営計画(2024~2026年度)に掲げた「稼ぐ力の強化」と「成長追求」に取り組むとともに、物価上昇に対する価格転嫁の推進や自助努力によるコストアップの抑制に取り組んでまいりました。

この結果、当連結会計年度の売上高は、前連結会計年度比118億円増収の2兆5,550億円となり、営業利益は、鉄鋼アルミや素形材での物価上昇分の価格転嫁の進展や機械・エンジニアリングでの既受注案件の進捗による売上高の増加等があったものの、固定費を中心としたコストの増加に加え、電力での燃料費調整の時期ずれによる増益影響の縮小や売電価格に関する一過性の増益影響(売電価格の指標となる石炭の輸入貿易統計価格と当社購入価格の差異)の縮小等により、前連結会計年度比279億円減益の1,587億円となりました。経常利益は、前連結会計年度に計上した自動車向けアルミパネル事業の再構築に伴う持分法による投資損失の解消や、建設機械における欧州でのエンジン認証に関する補償金収入の増加等があったものの、営業利益の減益により、前連結会計年度比37億円減益の1,571億円となりました。特別損益は、関西熱化学(株)の子会社化に伴う負ののれん発生益の計上があったものの、建設機械等で固定資産の減損損失を計上したこと等から161億円の損失となりましたが、税金費用の減少等により、親会社株主に帰属する当期純利益は前連結会計年度比106億円増益の1,201億円となりました。

 

当連結会計年度のセグメント毎の状況は、次のとおりであります。

 

<素材系事業>

[鉄鋼アルミ]

(鉄鋼)

鋼材の販売数量は、自動車向けの需要が減少した一方、厚板工場・仕上圧延機の更新完了による増加等から、前連結会計年度並となりました。販売価格は、物価上昇分の価格転嫁は進展したものの、原料価格の下落の影響等により、前連結会計年度並となりました。

この結果、売上高は、前連結会計年度比2.6%増の9,144億円となりました。経常利益は、米国関係会社の業績の改善等があったものの、自動車向け販売数量の減少等の販売構成の悪化や固定費を中心としたコストの増加等により、前連結会計年度比149億円減益の243億円となりました。

(アルミ板)

アルミ板の販売数量は、自動車向けの需要が減少したこと等により、前連結会計年度を下回りました。販売価格は、地金価格が上昇したこと等により、前連結会計年度を上回りました。

この結果、売上高は、前連結会計年度比5.6%増の2,017億円となりました。経常損益は、ハードディスクドライブ向けの販売数量の増加に加えて、前連結会計年度に計上した自動車向けアルミパネル事業の再構築に伴う持分法による投資損失の解消により、前連結会計年度比224億円改善の6億円の損失となりました。

 

鉄鋼アルミ全体では、売上高は、前連結会計年度比3.1%増の1兆1,161億円となり、経常利益は、前連結会計年度比75億円増益の236億円となりました。

 

 

[素形材]

素形材の販売数量は、自動車向け需要を取り込んだ銅板で、前連結会計年度を上回りました。一方、中国での一般産業向け需要の減少により、チタンは前連結会計年度を下回りました。

この結果、売上高は、前連結会計年度比6.4%増の3,171億円となり、経常利益は、価格転嫁の進展等により、前連結会計年度比74億円増益の107億円となりました。

 

[溶接]

溶接材料の販売数量は、自動車・建築向け需要の減少、東南アジアでの需要減少等により前連結会計年度を下回りました。販売価格は、価格転嫁の進展等により、前連結会計年度を上回りました。

この結果、売上高は、前連結会計年度並の939億円となり、経常利益は、販売数量は減少したものの、価格転嫁の進展等により、前連結会計年度比3億円増益の52億円となりました。

 

<機械系事業>

[機械]

受注高は、エネルギー・化学分野を中心に需要が堅調に推移したものの、前連結会計年度における大型案件の受注の反動等により、前連結会計年度比4.1%減の2,625億円となり、受注残高は2,544億円となりました。

売上高は、既受注案件の進捗やサービス案件の増加により、前連結会計年度比13.1%増の2,651億円となり、経常利益は、本体・サービス売上が堅調に推移したこと等から、前連結会計年度比29億円増益の325億円となりました。

 

[エンジニアリング]

受注高は、廃棄物処理関連事業で複数の大型案件を受注した前連結会計年度に比べ、23.1%減の1,647億円となり、受注残高は4,419億円となりました。

売上高は、既受注案件の進捗等により、前連結会計年度比2.5%増の1,748億円となり、経常利益は、前連結会計年度比36億円増益の161億円となりました。

 

[建設機械]

油圧ショベルの販売台数は、金利の高止まり等により、北米、欧州の需要が低迷したこと等から、前連結会計年度を下回りました。一方、クローラクレーンの販売台数は、エンジン認証問題対応の進展等で北米を中心に増加したことにより、前連結会計年度を上回りました。

この結果、売上高は、前連結会計年度比4.0%減の3,880億円となり、経常利益は、固定費を中心としたコストアップがあったものの、価格転嫁の進展やエンジン認証問題に関する補償金収入等により、前連結会計年度比96億円増益の187億円となりました。

 

<電力事業>

[電力]

販売電力量は、前連結会計年度を下回りました。販売電力単価は発電用石炭価格の変動に伴い前連結会計年度比で下落しました。

この結果、売上高は、前連結会計年度比18.1%減の2,588億円となり、経常利益は、神戸発電所3・4号機における燃料費調整の時期ずれによる増益影響の縮小や神戸発電所1~4号機における売電価格に関する一過性の増益影響の縮小等により、前連結会計年度比334億円減益の523億円となりました。

 

<その他>

売上高は、前連結会計年度比17.4%減の89億円となり、経常利益は、前連結会計年度比9億円減益の38億円となりました。

 

 

(2)財政状態の状況

当連結会計年度末の総資産は、法人税等や配当金の支払等により、現金及び預金が減少したこと等から、前連結会計年度末に比べ287億円減少し2兆8,910億円となりました。負債については、支払手形及び買掛金や未払法人税等が減少したこと等から、前連結会計年度末に比べ1,384億円減少し1兆6,539億円となりました。純資産については、親会社株主に帰属する当期純利益を計上したこと等から、前連結会計年度末に比べ1,097億円増加し1兆2,370億円となりました。

 

(3)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標

目標指標推移

目標指標

目標

(2024年度

以降)

2021年度

(実績)

2022年度

(実績)

2023年度

(実績)

2024年度

(実績)

ROIC

(税引後事業利益/投下資本)

6%以上

4.7%

4.9%

6.7%

6.9%

D/Eレシオ

(有利子負債/自己資本)

0.7倍半ば

1.19倍

1.00倍

0.83倍

0.76倍

純資産比率

(純資産/総資産)

40%台前半

32.0%

34.0%

38.6%

42.8%

 

 

(4)生産、受注及び販売の実績

a.生産実績

当連結会計年度における下記セグメントの生産実績は、次のとおりであります。

セグメントの名称

区分

生産数量(千トン)

前連結会計年度(2023年4月~

  2024年3月)

当連結会計年度(2024年4月~

  2025年3月)

差異

前期比 (%)

鉄鋼アルミ

粗鋼

6,020

6,013

△7

△0.1%

アルミ板

319

307

△12

△3.8%

素形材

アルミ押出

42

44

2

4.9%

銅板

53

54

1

2.0%

(注)粗鋼には、高砂製作所の電炉の生産数量を含めております。

 

b.受注実績

当連結会計年度における下記セグメントの受注実績は、次のとおりであります。

セグメントの名称

区分

受注高(百万円)

前連結会計年度(2023年4月~2024年3月)

当連結会計年度(2024年4月~2025年3月)

差異

前期比

(%)

機械

国内

119,103

114,045

△5,058

△4.2%

海外

154,692

148,469

△6,222

△4.0%

合計

273,795

262,515

△11,280

△4.1%

エンジニアリング

国内

141,905

104,265

△37,639

△26.5%

海外

72,394

60,448

△11,946

△16.5%

合計

214,300

164,713

△49,586

△23.1%

 

セグメントの名称

区分

受注残高(百万円)

前連結会計

年度末

(2024年3月)

当連結会計

年度末

(2025年3月)

差異

前期比

(%)

機械

国内

69,791

74,352

4,561

6.5%

海外

182,073

180,119

△1,954

△1.1%

合計

251,864

254,471

2,607

1.0%

エンジニアリング

国内

312,950

306,847

△6,103

△2.0%

海外

120,702

135,123

14,421

11.9%

合計

433,653

441,971

8,318

1.9%

 

 

c.販売実績

当連結会計年度におけるセグメント毎の販売実績は、次のとおりであります。

セグメントの名称

金額(百万円)

前連結会計年度

(2023年4月~

  2024年3月)

当連結会計年度

(2024年4月~

  2025年3月)

差異

前期比 (%)

 

鉄鋼

891,621

914,422

22,800

2.6

 

アルミ板

191,101

201,738

10,637

5.6

鉄鋼アルミ

1,082,722

1,116,160

33,437

3.1

素形材

298,105

317,129

19,024

6.4

溶接

93,529

93,911

382

0.4

機械

234,515

265,157

30,641

13.1

エンジニアリング

170,644

174,848

4,204

2.5

建設機械

404,056

388,038

△16,018

△4.0

電力

315,950

258,807

△57,143

△18.1

その他

10,804

8,928

△1,876

△17.4

調整額

△67,186

△67,949

△763

合計

2,543,142

2,555,031

11,889

0.5

(注)主な相手先別の販売実績及び総販売実績に対する割合は次のとおりであります。

 

相手先

前連結会計年度

(2023年4月~2024年3月)

当連結会計年度

(2024年4月~2025年3月)

金額 (百万円)

割合 (%)

金額 (百万円)

割合 (%)

神鋼商事(株)

280,071

11.0

289,835

11.3

 

 

(5)資本の財源及び資金の流動性に関する情報

①資本の財源及び資金の流動性

a.財務戦略

「KOBELCOグループ中期経営計画(2024~2026年度)」における財務戦略の基本方針は、未来に挑戦できる事業体の確立に向けて「稼ぐ力の強化」や「成長追求」に取り組むとともに、外部環境の変化による業績変動リスクや将来の大型投資に耐え得る財務基盤の更なる強化を図り、事業成長を支える財務体質への変革を目指すこととしております。本中期経営計画期間においては、2026年度末の純資産比率40%台前半、D/Eレシオ※0.7倍台半ばを財務目標数値として定めておりますが、2024年度末の純資産比率は42.8%、D/Eレシオは0.76倍と着実に改善しております。

引き続き、稼ぐ力の強化・成長追求に向けた投資、将来の資金需要を踏まえた資産売却・現預金水準の圧縮等による資本効率の最大化を推進してまいります。

 ※有利子負債÷自己資本

 

b.資金需要の主な内容

当社グループの資金需要は、営業活動については、生産活動に必要な運転資金(材料・外注費及び人件費等)、受注獲得のための販売費、製品競争力強化・ものづくり力強化に資するための研究開発費が主な内容です。投資活動については、設備老朽化に伴う更新投資や事業伸張・生産性向上を目的とした設備投資及び事業遂行に関連した投融資が主な内容です。

今後、将来見込まれる成長分野での資金需要や、最新の市場環境及び受注動向も勘案し、資産の圧縮及び投資案件の選別を行う一方、必要な設備投資や研究開発投資等を継続してまいります。

 

②当連結会計年度の実績

a.キャッシュ・フローの状況の分析

当連結会計年度のキャッシュ・フローは、税金等調整前当期純利益の計上等により、営業活動によるキャッシュ・フローは1,482億円の収入となりました。一方、投資活動によるキャッシュ・フローは、有形及び無形固定資産の取得による支出等から△1,138億円の支出となり、その結果、フリーキャッシュ・フローは343億円の収入となりました。

また、財務活動によるキャッシュ・フローは、借入金の返済等により△962億円の支出となり、当連結会計年度末の現金及び現金同等物の残高は前年度末比で588億円減少し、2,198億円となりました。

 

当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況は次のとおりであります。

 

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

 前連結会計年度と比べて、棚卸資産の増加や支払債務の減少等により運転資本が増加したことに加え、法人税等の支払額が増加したことから、570億円収入が減少しました。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

 前連結会計年度の固定資産売却による収入が剥落したこと等から、前連結会計年度に比べて601億円支出が増加しました。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

 有利子負債の返済による支出の増加や子会社株式の取得による支出の増加等から、前連結会計年度に比べて150億円支出が増加しました。

 

 

 

 

(単位:億円)

 

2023年度

2024年度

差異

営業キャッシュ・フロー

2,052

1,482

△570

投資キャッシュ・フロー

△537

△1,138

△601

フリーキャッシュ・フロー

1,515

343

△1,171

財務キャッシュ・フロー

△812

△962

△150

(うち、株主還元)

(△276)

(△355)

(△78)

株主還元後のフリーキャッシュ・フロー

1,238

△11

△1,250

現金及び現金同等物の期末残高

2,787

2,198

△588

 

b.有利子負債の状況

 有利子負債は、借入金の返済が増加した一方で、関西熱化学(株)を完全子会社化したこと等から、前連結会計年度から128億円増加の8,863億円となり、株主資本は、親会社株主に帰属する当期純利益の計上等により、873億円増加の1兆17億円となりました。

 当社グループは比較的工期の長い工事案件が多く、生産設備も大型機械設備を多く所有していること等から、一定水準の安定的な運転資金及び設備資金を確保しておく必要があり、当連結会計年度末の有利子負債の構成は、返済期限が1年以内のものが2,571億円、返済期限が1年を超えるものが6,291億円となっております。

 

 

(単位:億円)

 

2023年度

2024年度

有利子負債(注1)

 (リース債務を含む)

8,735

8,863

株主資本

9,143

10,017

D/Eレシオ

 (有利子負債/自己資本)

0.83倍

0.76倍

 

 

(注1)当連結会計年度末現在の有利子負債の内訳

(単位:億円)

 

合計

1年内

1年超

短期借入金

481

481

長期借入金

6,213

1,421

4,791

社債

1,650

350

1,300

リース債務

518

318

199

合計

8,863

2,571

6,291

 

 

(6)重要な会計方針及び見積り

 当社グループの連結財務諸表は、我が国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に基づき作成されております。この連結財務諸表の作成にあたっては、不正又は誤謬による重要な虚偽表示のない連結財務諸表を作成し適正に表示するために経営者が必要と判断した内部統制を整備及び運用しております。

 

 連結財務諸表の作成にあたり、経営者は、連結貸借対照表上の資産及び負債の計上額、並びに、連結損益計算書上の収益及び費用の計上額に影響を与えるような会計上の見積りを行う必要があります。会計上の見積りは、過去の経験やその時点の状況として妥当と考えられる様々な要素に基づき行っておりますが、前提条件や事業環境等に変化が生じた場合には、見積りと将来の実績が異なることがあります。

 会計上の見積りが必要となる項目のうち、経営者が当社グループの財政状態又は経営成績に対して重要な影響を与える可能性があると認識している主な項目は「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 注記事項 (重要な会計上の見積り)」に記載のとおりであります。

 

5【重要な契約等】

 

(1) ローン契約と社債に付される財務上の特約

当社の連結子会社である(株)コベルコパワー神戸第二は、財務上の特約が付された金銭消費貸借契約を締結しております。その内容は次のとおりであります。

1)連結子会社の名称、住所及び代表者の氏名

連結子会社の名称

(株)コベルコパワー神戸第二

住所

神戸市灘区

代表者の氏名

木本 総一

2)契約締結日

2018年8月31日

3)金銭消費貸借契約の相手方の属性

都市銀行等

4)金銭消費貸借契約に係る債務の期末残高及び弁済期限並びに当該債務に付された担保の内容

債務の期末残高

1,786億円

弁済期限

2036年3月

担保の内容

当該子会社の保有する電力供給設備等

5)特約の内容

当該子会社のキャッシュ・フローが、ローン契約に定める水準を下回る状態が一定期間継続した場合、当該子会社は期限の利益を失うものとされております。

 

(2) その他の重要な契約

1)United States Steel Corp.との契約

1990年3月に、当社はUSX Corp.(現 United States Steel Corp.)と米国において溶融亜鉛めっき鋼板の製造・販売に関する合弁事業契約を締結し、合弁会社「PRO-TEC Coating Company(現PRO-TEC Coating Company,LLC)」を設立いたしました。2010年12月に同契約を改定し、既存事業に加え、高張力冷延鋼板の製造・販売に関する合弁事業も行うことといたしました。

2017年9月には、同契約を再度改定し、現有の製造設備に加え、新たに溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備を1基増設いたしました。

 

2)鞍鋼股份有限公司との契約

2013年10月に、当社は鞍鋼股份有限公司と中国において自動車用冷延ハイテンの製造・販売に関する合弁事業契約を締結し、2014年8月に、合弁会社「鞍鋼神鋼冷延高張力自動車鋼板有限公司」を設立いたしました。

 

3)Millcon Steel Public Company Ltd.との契約

2016年2月に、当社はMillcon Steel Public Company Ltd.とタイにおいて線材の圧延・販売に関する合弁事業契約を締結し、合弁会社「Kobelco Millcon Steel Co., Ltd.」を設立いたしました。

 

4)Novelis Korea Ltd.との契約

2017年5月に、当社はNovelis Inc.の100%子会社であるNovelis Korea Ltd.と韓国においてアルミ板圧延品を製造する合弁事業契約を締結し、2017年9月に、合弁会社「Ulsan Aluminum, Ltd.」を設立いたしました。

 

5)宝武鋁業科技有限公司及び宝山鋼鉄股份有限公司との契約

2024年8月に、当社は宝武鋁業科技有限公司及び宝山鋼鉄股份有限公司と中国における自動車用アルミパネルの製造・販売に関する合弁事業契約を締結し、2025年1月に合弁会社「宝鋼神鋼汽車鋁板(上海)有限公司」を設立いたしました。

 

6)電力供給事業に関する契約

当社の連結子会社である(株)コベルコパワー神戸、(株)コベルコパワー真岡、(株)コベルコパワー神戸第二における電力供給事業に係る契約は次のとおりであります。

契約会社

相手会社

契約内容

契約期間

(株)コベルコパワー神戸

(連結子会社)

関西電力(株)

電力受給に関する契約

(石炭火力発電140万kW

[1、2号機各70万kW])

2017年4月1日から

2029年3月31日まで

(1号機の受給開始の日から12年間)

(株)コベルコパワー真岡

(連結子会社)

金融機関等16社

電力供給事業の事業資金に関する限度貸出契約(2025年3月31日現在の借入残高354億円)

2016年3月31日から

2031年3月31日まで

(借入金返済期限)

(株)コベルコパワー真岡

(連結子会社)

東京瓦斯(株)

電力供給に関する契約

(ガス火力発電124.8万kW

 [62.4万kW2基])

2014年9月29日から

2034年12月31日まで

(後発機の受給開始の日から15年間)

(株)コベルコパワー神戸第二

(連結子会社)

金融機関等12社

電力供給事業の事業資金に関する限度貸出契約(2025年3月31日現在の借入残高1,786億円)

2018年8月31日から

2036年3月31日まで

(借入金返済期限)

(株)コベルコパワー神戸第二

(連結子会社)

関西電力(株)

電力供給に関する契約

(石炭火力発電130万kW

 [65万kW2基])

2015年3月31日から

2052年1月31日まで

(先発機の受給開始の日から30年間)

 

7)日本製鉄(株)との契約

当社は、事業競争力の強化を目的に日本製鉄(株)と提携関係にありますが、これに係る契約は次のとおりであります。

 

契約会社

相手会社

契約内容

契約期間

(株)神戸製鋼所

(当社)

日本製鉄(株)

スラブ取引に関する合意書

2005年6月17日から

2033年5月14日まで

(株)神戸製鋼所

(当社)

日本製鉄(株)

提携施策の検討継続及び買収提案を受けた場合の対応に関する覚書

2022年11月14日から

2027年11月14日まで

但し、5年毎の自動更新条項あり

 

8)関西熱化学(株)の株式取得

当社は、2024年9月30日開催の取締役会において、当社の関連会社である関西熱化学(株)の株式を三菱ケミカル(株)より取得することについて決議し、同日付けで株式譲渡契約を締結、10月31日付で株式を追加取得いたしました。詳細は、「第5 経理の状況 1.連結財務諸表等 注記事項(企業結合等関係)」に記載しておりますので、併せてご参照ください。

 

 

6【研究開発活動】

当社グループ(当社及び連結子会社)は、幅広い技術分野での高度な技術力を源泉として、当社グループならではの顧客価値を実現する製品の創出と、それに必要な「ものづくり力」の強化を中心に取り組み、また拡販のための技術支援、ソリューション提案など多くの成果をあげています。

 

技術開発本部では、①既存事業と新規事業創出に資する課題形成と解決、②足元/将来にわたり競争力の源泉となる技術の強化、③技術資産の掛け合わせによる総合力の発揮、の3点に注力します。技術力を軸に、2030年代以降の挑戦に資する技術分野の取組みを強化し、技術起点での新たなアイデアやビジネス機会を持続的に創出していきます。

また、清水建設(株)及びシーカ・ジャパン(株)と共同で、構成材料における産業副産物の活用率を最大96%(重量比)まで高められる資源循環促進型のジオポリマーコンクリートの配合技術を開発しました。本技術では、ジオポリマーの活性フィラー(粉体)に利用する高炉スラグ微粉末やフライアッシュのみならず、コンクリートの骨材と練混ぜ水にも産業副産物を有効活用することで、産業副産物の活用率を最大化しています。同時に、ジオポリマーの課題とされてきた施工性や硬化後の強度発現についても、一般的なコンクリートと同等の性能を確保することに成功しました。

 

当連結会計年度における当社グループの研究開発費は435億円であります。なお、本費用には、当社技術開発本部で行っている事業部門横断的又は基礎的研究開発などで、各事業区分に配分できない費用として計上する費用66億円が含まれています。主な事業の種類別セグメント毎の研究開発活動の状況は、次のとおりであります。

 

[鉄鋼アルミ]

鉄鋼アルミでは、特殊鋼線材、自動車用高強度鋼、ディスク用アルミ板などの戦略製品の差別化による拡販と生産性・歩留まり向上による収益改善のための技術開発に注力しています。また、CO₂排出量削減に直接貢献できる技術開発にも引き続き取り組んでいます。

なお、当連結会計年度における研究開発費は72億円であります。

 

[素形材]

素形材では、輸送機や半導体分野を中心に、特徴ある製品開発や生産技術開発に取り組んでいます。あわせてカーボンニュートラルや革新的ものづくりなど、将来の価値創造に向けた研究開発も推進しています。

なお、当連結会計年度における研究開発費は22億円であります。

 

[溶接]

溶接では、「世界で最も信頼される溶接ソリューション企業」の実現を目指し、お客様の溶接に関する課題解決を図ります。溶接材料と溶接プロセス・溶接機器・ロボットによる「溶接ソリューション」を提供する溶接総合メーカとして、特徴ある製品の開発に注力しています。

溶接システムでは、2018年にコベルコROBOTiX(株)よりREGARCTM搭載石松TMを建築鉄骨市場に投入し、その低スパッタ性と能率向上効果に対して高い評価を頂いてきました。この度、タッチパネルを採用した新型コントローラに、New REGARCTMを搭載したデジタル溶接電源SENSARCTMRA500と本プロセス専用ワイヤであるFAMILIARC™ MG-56R(A)を組み合わせたNew REGARCTM搭載石松TMを新たに商品化し、初号機をお客様に納入しました。更なる低スパッタ化と高能率化を実現するとともに、操作性も大きく向上しており、溶接技能者不足を課題としている建築鉄骨市場に対して、今後、技量レスや生産性向上、品質安定化を果たす溶接ソリューションとして提案していきます。

また、大型仕口部材の溶接工程を自動化する「反転仕口・コア兼用溶接ロボットシステム」を新たに開発しました。近年、首都圏や都市部の再開発物件、データセンターや大規模倉庫などでは、構造部材の大型化が進み、柱-梁の交差部である仕口部材も大型化しています。一方、鉄骨ファブリケータでは、溶接技能者不足の中、ロボット溶接の適用拡大が望まれており、仕口部もその対象となっていました。当社は既に広く導入頂いている鉄骨溶接向けロボットシステムや溶接総合メーカとしてのノウハウを活かし、大型サイズにも適用可能な仕口溶接ロボットシステムを開発しました。本システムは、ウェブのすみ肉溶接にも当社独自のREGARCTMプロセスを適用し高品質で高能率な溶接を実現しています。本システムの初号機を2025年初めに納入しお客様の生産に寄与しています。今後も、お客様の溶接工程の自動化ニーズ・社会課題の解決に貢献すべく活動していきます。

なお、当連結会計年度における研究開発費は42億円であります。

 

[機械]

機械では、2030年に向けコアビジネスをより強化するとともに、カーボンニュートラル社会の実現に向けた新規事業を創出・育成し、機械事業部門として取り組むべき社会課題に挑戦することで、全社の安定収益の最大の柱となることを目指します。

回転機・機器関連分野では、高砂製作所において、液化水素用オープンラック式気化器(Open Rack Vaporizer、以下、ORV)※1を新たに設置し、気化性能の実証試験(以下、本実証)を2025年3月に開始することを決定しました。大規模液化水素気化器の候補であるORVで実際の液化水素を使用しての実証は、世界的にも先進的な取組みとなります。本実証では、当社グループが提案する「ハイブリッド型水素ガス供給システム」の実証試験を発展させる位置付けとして、液化水素気化器の製品ラインナップを以下3つのタイプへと拡充し、水素エネルギーの社会実装に向け、様々なニーズや陸上での使用から船舶への搭載といった使用環境での液化水素利用への対応を目指します。

①中間媒体式気化器(Intermediate Fluid Vaporizer、以下、IFV):液化水素による気化実証試験は2023年3月に完了。

②マイクロチャネル熱交換器(Diffusion-bonded Compact Heat Exchanger、以下、DCHE):液化水素による気化実証試験は2024年3月に完了。

③オープンラック式気化器(ORV):2025年3月から液化水素による気化実証を開始(本実証)。

なお、本実証では、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)助成事業において、2023年3月末に完了した「液化水素冷熱の利用を可能とする中間媒体式液体水素気化器の開発」の液化水素供給設備を利用することにより、短い準備期間で液化水素用ORVの伝熱挙動や気化性能の確認を実現します。

産業機械関連分野では、燃料電池用セパレータを代表とする燃料電池や水電解装置の構成部品に特化したPVD

※2コーティングの受託事業に参入します。1986年からPVD事業を展開してきた当社は、600台以上の装置をグローバルに供給してPVD技術の普及に貢献して参りましたが、今後はこれまで培った技術を燃料電池や水電解装置という新たな分野に応用し、水素利活用の発展に貢献します。燃料電池や水電解装置は、セルを数十~数百枚積み重ねて構成されます。セルを構成する各部品の耐久性や電気的特性向上のためにPVDコーティングが近年注目されており、生産性の高いインライン型PVD装置※3が求められています。当社は本装置を導入し受託事業に参入することで、付加価値の高いPVDコーティングを低コストでお客様に提供することを目指しています。

また、次世代の電池として期待される全固体電池※4の開発を手掛けるLASAGNA.ONE INC※5(所在地 : 米国カリフォルニア州・サンノゼ、以下、LO社)に資本参加しました。LO社の全固体電池は、シンプルな構造による電池セルの高電圧化、急速充電、広い温度範囲での安定作動などの特徴を有し、2023年には単セル構造での400Vの電池実証に成功しました。これを足掛かりに新たな資金調達のもと、将来の量産を見据えた新規設備投資により革新的な全固体電池の開発を加速させる計画です。

また、分析・試験技術分野では、水素環境下の材料評価、新型二次電池の試作・評価、材料リサイクル等、グリーントランスフォーメーションに寄与する技術開発を進めています。また、ターゲット材料・半導体ウェハ検査装置分野に関しては、高移動度酸化物ターゲット材料の用途拡大や、半導体ウェハ向け検査・測定装置の高精度、高機能化のための開発にも取り組んでいます。

なお、当連結会計年度における研究開発費は62億円であります。

 

※1 ORVは、世界中のLNG受入基地において、海水を熱源とした主力のLNG気化器として使用されており、当社ORVは40年以上の実績と高い信頼性を有しています。

 

※2 PVD(Physical Vapor Deposition)は、物理蒸着と呼ばれる薄膜コーティング技術の総称です。固体材料を真空中で気化もしくはプラズマ化して対象物にコーティングするプロセスで、形成される薄膜は密着性が高く緻密であることが特徴です。

 

※3 PVDコーティング装置の形態の一つで、真空引き、エッチング、コーティング、大気解放の役割を持つ複数の炉を直列に繋げた構成になっており、装置に投入された対象物は、一つの処理が終わると次の炉に自動搬送されます。生産性の高さが特徴で、サイクルタイムは数分程度です。

 

※4 従来型の液系電池は正極、負極、これらを隔てるセパレータと電解液(電解液+電解質塩)で構成されていますが、電解液を固体材料に置き換え、構成材の全てを固体とした電池が「全固体電池」です。出力(電気自動車では走行距離)、寿命、安全性等の点で、電解液を使用する電池を超える特性を持つことが期待されていますが、実用化に向けては克服すべき様々な課題が存在しています。

 

※5 同社は、シリコンバレーに本社を構え、全固体電池の開発・製造を行うスタートアップです。全固体電池の強みを最大限に活かし、従来のリチウムイオン電池では実現が難しい電池構造や特性の追求に取り組んでいます。固体内におけるイオンの動きを活用することで、数分レベルの急速充電や広範な温度範囲における性能の安定性が期待されます。

 

 

[エンジニアリング]

エンジニアリングでは、循環型社会、脱炭素社会の実現に向け、将来の成長が見込まれる分野における独自プロセス・技術の開発、更なる差別化、競争力強化に向けた開発を推進しています。

還元鉄関連分野では、天然ガスを還元剤とするMIDREX NG™に加え、天然ガスを最大100%まで柔軟に水素に置き換えることが出来るMIDREX Flex™や、水素を100%還元剤として用いるMIDREX H2™の競争力維持・強化に向けた開発を継続しています。

水処理関連分野では、下水汚泥を固形燃料化する「湿式炭化」の実証実験を富士市西部浄化センターで行い、日本下水道事業団が定める新技術Ⅰ類に選定されました。湿式炭化では、汚泥を低温かつ湿式状態で炭化することで固形燃料化に要するエネルギーの大幅削減が可能となります。今後は下水汚泥のメタン発酵と本技術を組み合わせて導入することにより、下水処理におけるカーボンニュートラルの実現に貢献していきます。

廃棄物処理関連分野では、廃プラスチックのガス化及びメタノール化に関する開発を継続しています。これまで廃棄されていたプラスチックについて、ケミカルリサイクルによる資源循環システムの構築を目指します。

水素事業では、グリーン水素需要の高まりを見据え、水電解式水素発生装置の大型化や次世代技術の開発を推進しています。水素の普及拡大及び低炭素化社会の実現に向け、水電解式水素発生装置の新商品開発に取り組んでいきます。

なお、当連結会計年度における研究開発費は38億円であります。

 

[建設機械]

建設機械では、主力製品である油圧ショベル、クローラクレーンなどの安全性向上、省エネ性向上、排ガス対応・騒音低減などの環境対応に加え、建設リサイクル機械・金属リサイクル機械の開発に取り組んでいます。クラウドやAI、IoT等の先進テクノロジーの活用により「建設現場のテレワーク化」を実現し、深刻化する建設技能者の不足に対する多様な人材活用、現場生産性の向上、現場無人化による本質的な安全確保などを目指しています。また、カーボンニュートラルに向けた取組みの一環としてゼロエミッション建機の開発に取り組んでいます。

ショベルでは、コベルコ建機(株)(以下、コベルコ建機)は、燃料電池ショベルのプロトタイプ機を開発中であり、実用化に向けた取組みを進めています。2024年5月22日には幕張メッセで開催された「第6回 建設・測量生産性向上展(CSPI-EXPO)」にプロトタイプ機を展示、水素を燃料に稼働するデモを初めて社外公開しました。

また、コベルコ建機が、(株)冨島建設、鹿島建設(株)と取り組んだ、土砂災害対策工事現場での「K-DIVE®」を活用した重機遠隔操作の実用化検証が、一般社団法人日本建設機械施工協会が主催する「日本建設機械施工大賞部門 優秀賞」を受賞しました。

また、コベルコ建機は、燃料電池ショベルの開発を加速するため、2025年2月に当社の高砂製作所に水素燃料電池ショベルの高圧水素充填設備の整備を完了し、水素燃料電池ショベル・プロトタイプ機に水素充填できることを確認しました。コベルコ建機の水素燃料電池ショベル・プロトタイプ機は、すでに広島事業所にて基礎評価を完了しています。今後は、2026年度に国内で行われる実証実験での活用に向けて、2025年3月以降、高砂製作所にて連続掘削作業など本格稼働評価を行い、水素燃料電池ショベルの現場導入に向けた取組みを推進していきます。

クレーンでは、コベルコ建機は、Autodesk社製3D-CADのアドインソフトとして開発した、クレーン施工計画策定支援ソフト「K-D2 PLANNER®」に、コベルコ建機と(株)タダノのクレーンに加えて、新たに(株)加藤製作所と住友重機械建機クレーン(株)のクレーンを標準搭載しました。2社モデルを追加搭載したことにより、同社製クレーンを利用する現場において「K-D2 PLANNER®」を利用出来るようになりました。これにより、国が推進する働き方改革や現場の安全性・生産性向上へ貢献します。

また、コベルコ建機は、ドローンを活用した移動式クレーンの点検ソリューション「K-AIR REAL」(ケイ・エア・リアル)を開発し、2024年5月末より提供を開始しました。クローラクレーンはブームを立ち上げると数十メートル以上になり、通常は地上にブームを伏せて点検を実施します。またブームを地上に伏せるスペースのない狭隘な現場では、双眼鏡で確認する手法が一般的ですが、見えない部分が多いという課題があり、本課題を解決するため、「K-AIR REAL」を開発しました。ドローンの自動飛行機能を活用し、確実に狙った場所を撮影でき、撮影予定の画角やアングルを3Dシミュレーションシステム上で事前に確認できるため、高所の点検作業を短時間で行うことができます。

なお、当連結会計年度における研究開発費は129億円であります。

 

[電力]

電力では、発電所設備の予防保全および低炭素化等に関する研究開発を行っています。

なお、当連結会計年度における研究開発費は1億円であります。

 

[その他]

上記外の事業セグメントに係る当連結会計年度における研究開発費は0億円であります。