当社グループは、いかなる経営環境の変化にも対応できる企業体質を確立することを重要課題と認識し、競争力ある事業の育成を通じて、持続的かつグローバルに発展することを経営の基本方針としております。
文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものであります。
(1)経営環境及び対処すべき課題
<当社の経営戦略と課題認識>
当社グループは「企業価値向上」と「持続的成長」に向けて、以下のとおり「2030年のありたい姿」を掲げるとともに、その実現に向けた次なる飛躍への助走として2023~2025年度を対象とした「2023中期経営計画」を推進しております。
(2030年のありたい姿)

(「2023中期経営計画」)

しかしながら、当社のPBRは依然として1倍を下回る状況が長期にわたり続いております。その主な要因として、資本コストを上回る収益を安定的に確保できていない点が挙げられます。収益力は一時期に比べ改善傾向にあるものの、資本コストは依然として高い水準にあり、「業績のボラティリティの高さ」や「当社が掲げる成長戦略の不確実性」が課題として残されていると認識しております。
これに対し持続的な成長を実現するためには、戦略事業の育成等により、景気や需要動向に大きく左右される収益構造からの脱却と、将来の需要構造の変化にも対応可能な事業ポートフォリオへの転換が必要不可欠です。
また事業環境が急速に変化し複雑化する中で想定外のさまざまなリスクが顕在化しており、これらのリスクに対し柔軟に対応できるレジリエンスの高い組織づくりも求められます。
さらに、株主・投資家の皆様との対話や情報開示を通じて、経営の透明性を高め認識ギャップを解消し、資本コストの低減を進めることも重要な課題の一つです。
これらの課題に対し、企業価値向上に向けて「2023中期経営計画」で取り組んでいる各施策の進捗は以下の通りです。
<「2023中期経営計画」の進捗>
「①稼ぐ力の強化」
戦略事業拡大および財務基盤強化の原資とすべく、基盤事業の稼ぐ力の強化を進めています。
基盤事業のマージン維持・拡大に加えて、資本効率を意識した経営の実現に向けROICを導入して事業別にROICと市場成長率を分析し、低採算事業は撤退を含めた抜本的な対策を講じることで、事業ポートフォリオの最適化を進めております。
具体的には、これまでの2年間でマージン改善による損益分岐点の引き下げが進み、足元需要環境が厳しい中でも、着実に利益を生み出すことができています。また、海外事業を中心に構造改革を進めており、成長分野へのリソース集中を進め、当社の成長をさらに加速させていきます。
「②戦略事業の育成」
「環境対応」「海外事業」「EVシフト」をキーワードとして、市場成長率及び高い収益性が期待できる以下の5つの事業と新規事業を戦略事業に定め、2030年に向けて売上比率を現状の30%から50%に拡大することを掲げております。

損益の改善が進んだ海外鋼材事業や大型案件の量産を開始した精密部品事業等、一部では既に成果が出ており、その他の事業についても、今後の市場拡大に向け、拡販や能力増強に向けた設備投資等を行っております。また、新規事業創出に向けては外部の専門家のサポートも受けた社内研修プログラムを実施しており、新規事業を生み出す人材の育成や社内風土の醸成を進めています。さらに戦略事業へのリソース集中を進め、「人材確保」・「育成」の両面で人材ポートフォリオ最適化に向けた取り組みに着手しています。今後は、これらの取り組みを着実に進めるとともに、進捗を開示していくことで、成長に対する蓋然性を高めてまいります。
「③人材への投資」
当社の持続的成長には社員一人ひとりが持つ力を伸ばし、会社の強みとしていく人的資本の活用が不可欠と認識しており、「人材への投資」を重点課題として取り組んでいます。過去最高水準の賃金改善や製造現場の作業環境改善、「健康経営優良法人」の認定取得等の取り組みに加え、人事評価等の制度面の見直しにも着手しています。
また、経営層が直接従業員の意見を聴くタウンホールミーティングを継続的に開催しているほか、定期的にエンゲージメントサーベイを実施し、取り組みに対する成果のモニタリング・評価を行っています。調査で明らかになった課題に対しては、改善に向けた取り組みを進めるとともに「フォーカスサーベイ」を実施して、その進捗をフォローしています。
こうした取り組みを重ねることで、当社の成長を支える「人を活かす」組織づくりを進めてまいります。
「④サステナビリティ経営」
環境負荷低減に対する社会の要請が強まる中で、特にCO2排出量が多い鉄鋼業を営む当社は、カーボンニュートラルも重要課題と認識しています。削減目標に対しては、CO2フリー電力への切り替え等により概ね計画通り進捗しており、引き続き2030年度総排出量50%減(2013年度比)に向け取り組みを進めてまいります。
さらに環境意識の高まりを事業機会と捉え、再生可能エネルギーやサーキュラーエコノミーの分野等、社会全体の環境負荷低減に貢献する製品の開発・販売を進めることで、お客様のニーズにも応えつつ社会課題の解決に貢献してまいります。
また、事業環境が急速に変化し複雑化する中で、グループ経営のレジリエンスをさらに高めるために、2025年4月1日付で組織体制の見直しを行いました。リスクマネジメント機能の拡充を行い、サプライチェーンまで含めた人権の尊重、安全・品質保証やハラスメント対策を含むコンプライアンス遵守、サイバーセキュリティ対策といったあらゆるリスクへ適切に対処してまいります。また、取締役会における議論の活性化や役員報酬制度の見直し等も行い、持続的成長の基盤となるガバナンスの高度化も進めています。
これらの取り組みを進めることで、2030年のあるべき姿を実現し、当社の持続的成長と企業価値の向上を図ってまいります。
(2)各事業における重点施策
[特殊鋼鋼材事業]
国内及びインドネシア海外事業において、引き続き厳しい需要環境が続いていますが、特に海外鋼材事業では製造効率向上によるコスト改善が進み、厳しい環境下においても、安定した利益を確保できる体質への転換が進んでおります。また中長期的な東南アジアの鋼材需要拡大を想定し、能力増強投資を段階的に実施しておりますが、今後の投資計画については、需要動向を踏まえ慎重に判断する方針です。
一方、基盤事業である国内鋼材事業については、需要動向に左右されるボラティリティの高い状況が続いております。中長期的にも国内市場は縮小が想定されることから、工場DX化による要員合理化等のコストダウンを進めると共に、エネルギー関連等、新たな販路拡大を進め、基盤事業としての稼ぐ力を強化してまいります。
また、お客様をはじめステークホルダーからの要請が高まっているカーボンニュートラルについても大きな課題の一つです。当社のCO2排出量の大部分は国内鋼材事業が占めることから、室蘭製作所におけるCO2フリー電力活用の前倒しを行うこと等により、2030年度の全社目標を50%削減まで引き上げました。目標達成に向け着実に取り組みを進めていくとともに、海外事業においても、電炉を活用したカーボンニュートラル鋼製造を含め、検討を進めてまいります。
[ばね事業]
戦略事業の一つである精密ばね事業の大型案件の量産が開始され、収益に貢献しております。足元の受注動向を踏まえ追加で生産設備増強投資も決定し、さらなる収益増を見込んでおります。
一方で、基盤事業である乗用車向けばね事業の業績が低迷しており、戦略事業への依存度が高まっています。EV化の進展による需要構造の変化にも対応しながら、拠点ごとに課題を洗い出し、製品ポートフォリオの見直しや販売先の多様化等を含めさまざまな観点から改善の余地を検討してまいります。
長らく損失計上が続いていた北米子会社においては、生産性改善が進展しているものの、新たに米国関税政策のリスクが浮上し、柔軟な対応が必要となっています。一方で、お客様における米国内での調達ニーズの高まりも期待できることから、当社グループの米国拠点を活用した需要獲得も積極的に図ってまいります。
また、2026年3月期では、前期のドイツばね事業に続き追加の構造改革を計画しています。設備増強を進めるインド拠点や将来的に第2の生産拠点の検討も行っている商用車用板ばね等の戦略事業の育成と併せて、事業ポートフォリオの最適化を進めてまいります。
[素形材事業]
タイ子会社で生産している精密鋳造品では、インフレや為替変動によるコスト増の影響を受けており、売価転嫁に取り組んでおります。
また自動車内燃機関向け偏重からの脱却を図るべく、戦略事業の一つである特殊合金粉末の技術開発の進展と拡販を進めております。足元は中国・台湾におけるスマートフォン等のデジタル機器向け需要の減少影響を受けましたが、特に重点分野と位置付ける軟磁性粉末については、新鋼種の量産開始を予定しており、来年度からの増産を見据え、能力増強投資を実施しています。今後の受注拡大に向け、新たな販路獲得による拡販や顧客の新製品開発にマッチした高性能粉末製品の開発を進めてまいります。
[機器装置事業]
足元の受注状況は好調であり、引き続き環境課題の解決等をテーマに事業拡大を図ってまいります。また足元では防護装備品の受注が増加しており、防衛予算増額に伴い、今後も需要増が期待されます。
さらに戦略事業の一つである洋上風力発電関連機器向けでは、設備導入を進めていたベンディングロールが稼働し、同分野の製品大型化ニーズに応えられる体制が整いました。「製品大型化への対応」は当社グループの強みであり、国内有数の生産設備体制を活かして、次期中計期間中で本格化するプロジェクト案件の受注に向け、生産準備やマーケティング等を進めてまいります。
文中の将来に関する事項は、当社グループが有価証券報告書提出日現在において合理的であると判断する一定の前 提に基づいており、実際の結果とはさまざまな要因により大きく異なる可能性があります。
(1)サステナビリティ戦略
当社グループでは、社会課題解決への取り組みを企業が果たすべき重要な責務の一つと認識し、ESG(環境・社会・ガバナンス)をはじめとする諸課題解決に向けた取り組みを進めています。
また、2023年度~2025年度を対象とする「2023中期経営計画」の基本方針の一つに「サステナビリティ経営」を掲げ、カーボンニュートラルや人的資本等をはじめとしたESG関連の各種取り組みを推進し、持続的成長と企業価値向上を図っていくこととしています。
① ガバナンス
当社では、サステナビリティ委員会(委員長:社長執行役員)を原則として3か月に一回以上開催し、サステナビリティに関する事項を審議するとともに、重要事項については取締役会に付議または報告し、サステナビリティに関する重要事項の決定や対応状況のモニタリング等を行っています。
サステナビリティ委員会の下部組織として「地球環境委員会」、「カーボンニュートラル委員会」、事務局として「ESG推進室」を設け、サステナビリティ関連のリスク及び機会に関する評価、管理を含む当社のサステナビリティ推進に向けて、全社横断的に対応できるマネジメント体制としております。
また、2024年4月より、従来の「ESG分科会」を「ESG推進室」として組織化し、事務局としての機能を強化することで、ESG各課題への取り組み強化や情報開示の更なる充実・高度化を図っていく体制としています。

② 戦略
三菱製鋼グループは、「経営理念」と「三菱製鋼グループ企業行動指針」「三菱製鋼グループ行動規範」に基づき「サステナビリティに関する基本方針」を策定し、これに即してサステナビリティ活動を推進しています。「事業活動」「コンプライアンス」「情報開示」「社員の尊重」「環境保全」「国際化」の6つの柱からなる「三菱製鋼グループ企業行動指針」で、11項目を明文化するとともに、さらにそれを細分化した「三菱製鋼グループ行動規範」を定めることで、事業を通じた企業価値の向上と、持続可能な健全な社会の実現に向けて取り組むべき姿勢を従業員と共有しています。
(サステナビリティに関する基本方針)
三菱製鋼グループは、いかなる経営環境の変化にも対応できる企業体質を確立することを重要課題と認識し、競争力ある事業の育成を通じて、持続的かつグローバルに発展することを経営の基本方針としております。この方針の下、「経営理念」と「三菱製鋼グループ企業行動指針」「三菱製鋼グループ行動規範」に基づき、自らの社会的使命を果たすことでより信頼される企業を目指し、お客様・お取引先様・株主・従業員・地域社会など各ステークホルダーとの対話を通じて、持続可能な社会の実現に貢献します。
〔Environment(環境)〕
三菱製鋼グループは地球環境の保全が人類共通の最重要課題の一つであると認識し、事業活動のあらゆる面で環境の保全に積極的に取り組みます。
〔Social(社会)〕
三菱製鋼グループは人権、人格、個性と多様性を尊重し、安全で働きやすい職場環境を確保するとともに、人材の育成を通じて企業活力の維持・向上を図ります。
〔Governance(ガバナンス)〕
三菱製鋼グループはグローバルな事業活動において法令や社会規範を遵守し、公正で透明、自由な競争並びに適正な取引を行うとともに、企業価値の最大化を図るため常に最良のコーポレートガバナンスを追求し、その充実に継続的に取り組みます。
また当社は、サステナビリティ経営をより効果的に推進するため、「社内における重要度」と「社外から当社グループへの期待度」を軸としてテーマを洗い出し、5つの重要課題を特定しました。これらの課題は、SDGs(持続可能な開発目標)との関連性を整理しています。
なお、重要課題については、社会環境や事業環境の変化を踏まえ、適宜再検証・見直しを行っています。今後、これらの活動をより拡大・進めることで、持続可能な社会の実現に貢献するとともに、当社グループの企業価値向上と持続的成長を目指します。

③ リスク管理
当社では、サステナビリティ関連のリスク管理プロセスとして、リスク管理委員会およびサステナビリティ委員会を通じて、全社的な短期・中期・長期リスクの特定、評価、対応策の検討を行っています。またこれに基づき、取締役会にてリスク管理状況の監督を行っています。

④ 指標と目標
当社が掲げているサステナビリティに関する指標と目標は、以下のとおりです。
[気候変動関連]
・CO2削減目標(2030年度削減目標及び2050年度カーボンニュートラル)
※詳細は、「(2)気候変動(TCFD提言に基づく情報開示)-④指標と目標」をご覧ください。
[人的資本関連]
・有給休暇取得率
・女性従業員比率、女性管理職比率
・エンゲージメントサーベイ結果
※詳細は、「(3)人的資本-④指標と目標」をご覧ください。
[役員報酬における非財務項目の導入]
非財務項目の施策に対するインセンティブを目的として、取締役(社外取締役を除く)及び執行役員を対象に、業績連動報酬(賞与及び株式報酬)におけるKPIとして、以下を導入しています。
[賞与]
E:CO2削減、S:安全成績(労災件数)、G:取締役会実効性評価(執行役員は担当部門の内部統制・業務監査結果)
[株式報酬]
E:CO2削減、S:エンゲージメントサーベイ、G:取締役会実効性評価(執行役員は担当部門の内部統制・業務監査結果)
(2)気候変動(TCFD提言に基づく情報開示)
当社は2021年11月に、「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」による提言への賛同を表明いたしました。
当社では、このTCFD のフレームワークに基づき、気候変動に起因する事業リスクやビジネス機会とその財務的影響等についての情報開示を行っております。
気候変動に関するガバナンスについては、サステナビリティ戦略のガバナンスに組み込まれています。詳細は、「(1)サステナビリティ戦略-①ガバナンス」をご覧ください。
また、当社グループでは「ISO14001環境マネジメントシステム」の構築や全社的な体制整備により、環境管理の継続的な改善を図っています。
当社は、国内事業を対象とし、2030年、2050年の時間軸にて、今世紀末の平均気温上昇を1.5℃未満に抑えるために、世界的な気候変動対策が成功するシナリオ(気候変動関連規制等により主に「移行リスク」が顕在化する1.5℃シナリオ)と、不十分なままとなるシナリオ(自然災害の増加等により主に「物理リスク」が顕在化する4℃シナリオ)の2つのシナリオを用いてシナリオ分析を実施いたしました。
◆リスク・機会と時間軸・影響度

◆移行リスク・機会への対応策

なお当社は、シナリオ分析において大きな財務的影響を与える機会への対応策として特定した各製品を、今後育成すべき戦略事業として「2023中期経営計画」へと織り込んでおります。これらの戦略事業の育成を進め、戦略事業構成比率を50%に引き上げることで事業ポートフォリオの変革を進め、サステナビリティ経営を実現してまいります。

③ リスク管理
気候変動に関する主なリスクについては、サステナビリティ戦略のリスクに含めて管理しています。詳細は、「(1)サステナビリティ戦略-③リスク管理」をご覧ください。
なお、移行リスクはサステナビリティ委員会、物理リスクやその他のリスクはリスク管理委員会で管掌しています。
また、カーボンニュートラル関連を含む設備投資については、経営企画部を主体とした投融資委員会で事業計画及びリスクを精査し、審議を実施しています。
BCPについては、リスク管理委員会にて、災害発生時に各部門・事業所・子会社での対応や復旧が滞りなく行われるよう、策定・検証及び見直しを行っています。
④ 指標と目標
[中長期ビジョン]
三菱製鋼グループは、以下の中長期環境ビジョンに則り、2050年のあるべき姿に向けて活動してまいります。

[GHG排出量削減目標 (国内Scope1,2)]

[GHG排出量削減実績]
(単位:㌧-CO2)
※2023年度の値は第三者保証値です(集計範囲は三菱製鋼とその国内連結子会社)
なお、2024年度数値についても、今後第三者保証を取得する見込みです。
[Scope3 カテゴリー別GHG排出量]
(単位:㌧-CO2)
※2023年度の値は第三者保証値です(集計範囲は三菱製鋼とその国内連結子会社)
なお、2024年度数値についても、今後第三者保証を取得する見込みです。
[インターナルカーボンプライシング(ICP)の導入]
当社は、2022年度下期より国内事業においてICPを用いてCO2削減効果を仮想金額で上乗せすることで、カーボンニュートラル関連の設備投資を推進しております。
- 内部炭素価格:10,000円/t-CO2
- 適用範囲:国内外すべての設備投資
※「TCFD提言に基づく情報開示」の詳細につきましては、当社ウェブサイト「サステナビリティ」ページ(https://www.mitsubishisteel.co.jp/sustainability/environment/tcfd/)をご覧ください。
(3)人的資本
当社グループでは、社員一人ひとりが持つ力を伸ばし、会社の強みとしていく人的資本の活用が、当社グループにとって持続的成長の必須条件であると認識し、人材育成とダイバーシティ、職場環境の改善を重視し、社内におけるサステナビリティ対応として取り組みを進めています。
① ガバナンス
「(1)サステナビリティ戦略-①ガバナンス」をご覧ください。
② 戦略
[従業員エンゲージメントの向上]
当社では、人的資本経営の実現に向けて、毎年以下のサイクルを継続して実施し、経営層が先頭に立って変革を推進していくことで、“すべての社員がその能力を十分に発揮できる環境”をつくり、生産性向上とイノベーションの実現を目指してまいります。
具体的には、「2030年のありたい姿」の実現に向けて、人的資本経営に向けた各施策を進めつつ、経営トップとの各階層別タウンホールミーティング実施による当社ビジョンや価値観の共有と意見の吸い上げや、エンゲージメントサーベイを通した評価・分析を行うことで、継続的に改善を進めています。

1.課題達成に向けた計画の立案
当社グループでは、2023年度~2025年度を対象とする「2023中期経営計画」にて、2030年のありたい姿「人を活かし、技術を活かし、時代の波に乗り続ける企業でありたい」に向けた4つの基本方針の一つとして「人材への投資」を掲げています。
・人を活かす職場環境づくり
・人を活かす仕掛けづくり
・人材の多様性がもたらす柔軟な創造力
に向けた各施策を進めるとともに、人材への投資として、教育・資格取得支援、福利厚生充実等として中計3年間で5億円の予算を設けています。
2.改善施策・実行
当社では、中期経営計画で掲げた「人材への投資」の方針のもと、従業員が「働きやすく、やりがいを持って働くことのできる」職場環境づくりに向けて、さまざまな取り組みを実施しています。
・エンゲージメントサーベイによる従業員の期待値や評価の可視化・モニタリング
(詳細は「3.モニタリング・可視化(エンゲージメントサーベイ)」)
・2024年に引き続く高水準の賃金改善や福利厚生・手当の拡充
・等級・評価制度等の制度面の見直しによる「人を活かす仕掛けづくり」を推進中
・教育・研修制度、資格取得支援制度の拡充等
・製造現場の作業環境改善や独身寮の新設
・健康増進活動および職場環境の整備に向けた取り組みの成果として、2024年度で当社として初めて「健康経営優良法人(大規模法人部門)」に認定される。
3.モニタリング・可視化(エンゲージメントサーベイ)
当社では、従業員の期待値や評価の可視化・モニタリングを目的として、2023年度よりエンゲージメントサーベイを実施しています。
初回となった、2023年度の調査の結果、主に以下の点が当社の弱みとして明らかになりました。
・職場環境(施設・設備面)
・上司と部下のコミュニケーションや部下の育成
こうした調査結果の分析をもとに、課題として挙がった項目の改善を中心に、従業員エンゲージメント向上に向けた取り組みを進めています(詳しくは「4. さらなる改善に向けた結果の分析と共有」をご覧ください)
また2024年7〜8月にかけて、第2回のエンゲージメントサーベイを実施しました。中計で掲げた「人材への投資」については、質問に対する肯定的回答率が大幅に改善するなど、施策に対して一定の効果が見られました。また、従業員の中にも「声を挙げれば会社も動いてくれる」といった意識が徐々に浸透し、経営と従業員間のコミュニケーションがより深まってきています。
一方で、全体のスコアも前年比僅かに改善したものの、依然として満足のいく水準とはいえず、さらなる取り組みが必要と考えています。前回明らかになった「職場環境(施設・設備面)」や「上司と部下のコミュニケーションや部下の育成」は、引き続き重要な課題であり、これらの課題解消に向けた施策の実行と定期的な効果の測定を行うことで、持続的な改善を図ってまいります。
4.さらなる改善に向けた結果の分析と共有
[結果の共有]
エンゲージメントサーベイの結果については、経営会議・取締役会で報告を行うとともに、社内広報媒体にて、結果概要の報告を行っています。また管理職については、各拠点にて別途「エンゲージメントサーベイ結果共有会」を実施し、サーベイ結果の読み解き方やそれに対するアクションプランの立て方を外部の専門業者の方から説明いただく機会を設けています。
さらに各部署で立案・実行したアクションプランの進捗評価として、フォーカスサーベイ(個別の項目に絞った意識調査)を実施するとともに、各部署のプラン推進者を対象とした相談会を開催し、アクションプランの推進における課題や悩みを外部の専門家に相談する機会を設けることで、調査で明らかになった課題の解決に向け、全社レベルだけでなく、各部署単位でも取り組みを進めています。
[改善に向けた取り組み]
サーベイで明らかになった課題に対し、現在以下の取り組みを進めています。
・職場環境(施設・設備面)
主に各製作所の現場において、夏季の暑さ対策や、駐車場・風呂場等の職場環境の改善の要望が多く挙がりました。これを受け、各事業所における施設環境の改善費用として約5億円の予算を設け、施設環境の改善を進めました。
・上司と部下のコミュニケーションや部下の育成
ロールプレイングを用いた研修を実施し、部下の自律性を促進し、モチベーションを維持するための効果的なコミュニケーションの習得を図るとともに、個々のレベルを測定し課題の抽出を進め、マネジメント層の質の底上げを行うことで、部下育成の強化を進めています。
●改善サイクルを支える仕組み(会社と従業員の対話の機会)
当社では、会社と従業員が対話できる機会を積極的に設けることで、さらなるエンゲージメント向上に向けた改善活動を進めています。
従来から、人事部や各事業所と労働組合との対話の機会を定期的に設けているほか、「生活総点検活動」として、従業員の要望を労働組合から書面で会社側に提出する仕組みを構築しています。
また2022年より、経営トップより当社のビジョンや価値観・ミッションを伝えるとともに、従業員の日頃の困りごとや要望等の“生の声”を吸い上げることを目的に、タウンホールミーティングを実施しています。ここで出た意見や要望は、エンゲージメントサーベイの結果等とあわせて、改善に向けた施策に取り入れることで、より実効性の高い従業員エンゲージメントの向上策につなげてまいります。
[持続的成長に向けた人材戦略について]
当社では、2030年のありたい姿を「人を活かし、技術を活かし、時代の波に乗り続ける企業でありたい」と設定し、現行の「2023中期経営計画」では、ありたい姿に向けた土台づくりを進めてきました。
(人材育成・教育の強化)
・教育・研修制度、資格取得支援制度の強化等
[1人当たり教育投資額] 105千円(前期比25%増)
・新規事業の創出に向けたイントラプレナーシップ人材の育成(「新規事業創出チャレンジ」)
・デジタル化の進展に対応したDX人材の育成
(中途採用の強化)
・従来の欠員補充から、戦略的な人材確保へ(戦略事業の技術的知見・経験を持つ人材獲得等)
・様々なバックグラウンドや経験による多様性創出
さらに今後は、ありたい姿の実現に向け戦略事業への人材の配置や必要スキルの育成等、「戦略事業を伸ばす人的資本投資」を具体的に加速させ、持続的成長を実現させてまいります。
(戦略事業を伸ばす人的資本投資)
・戦略事業に直結した採用・配置計画を明確化し、経営戦略と人材戦略の連動を強化
・高機能素材・デジタル技術など重点分野の専門研修を拡充し、必要スキルを計画的に育成
・異動の仕組みを見直し、適材を迅速に戦略事業へ配置できる体制を整備
・「新規事業創出チャレンジ」の取り組みを継続し、成果連動型の評価・処遇で挑戦人材の成長と事業の芽を育む
「(1)サステナビリティ戦略-③リスク管理」をご覧ください。
④ 指標と目標
(ア)従業員エンゲージメントに関する指標
当社では、従業員エンゲージメントに関する指標として、「エンゲージメントサーベイスコア前年比改善」を掲げています。
当社として2回目となる2024年度のエンゲージメントサーベイの結果については、中計で掲げた「人材への投資」の質問に対しては肯定的回答率が大幅に改善した一方で、全体のスコアとしては前年比僅かな改善に留まりました。
引き続き、調査で明らかになった課題解消に向けた取り組みを進めることで、従業員エンゲージメントの持続的な向上を図ってまいります。(詳細は「3.モニタリング・可視化(エンゲージメントサーベイ)」をご覧ください)
(イ)多様性向上に関する指標
「多様な人材がいきいきと働く環境づくり」に向けて、育児・介護等と仕事の両立に向けた制度の充実やテレワークやフレックスタイム制、時差出勤の活用に加え、2022年度より「年次有給休暇取得75%達成」を目標に掲げ、休日前後の有給休暇を取得しやすくする「プラスONEキャンペーン」を実施するなど、「有給休暇を取得しやすい」職場風土づくりに取り組んでいます。こうした取り組みの成果により、2024年度では昨年に引き続き2年連続で目標達成となりました。
また「女性活躍の推進」に向けては、女性従業員・管理職の比率を指標として掲げ、管理職向けのダイバーシティ教育に加え、女性社外役員による管理職及び候補層の従業員へのキャリア教育を行う等、取り組みを進めています。なお女性管理職比率については目標に対して大きく未達となっていますが、管理職候補層の女性比率は、2022年度1.8%から2024年度では9.8%と大きく改善しており、次世代管理職の女性人材の育成が進んでいます。
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものであります。
[リスク管理体制]
当社グループのリスク管理体制は、最高リスク管理責任者(CRO)を中心に、リスク統括部が事業継続に必要なリスクの管理を担い、各部署の責任者で構成するリスク管理委員会が重大リスクの選定と対策立案を行う仕組みを構築しています。また、事業の投融資案件に関連するリスクについては、事業部門から独立した投融資委員会が中立的な立場で事業性とリスク評価を実施し、経営判断に資する役割を担っています。これらの体制により、重大リスクの未然防止と迅速かつ的確な対策を通じて、リスク管理の実効性を高めています。

[事業環境に関するリスク(外的要因)]
(1)市場・需要動向に関するリスク
当社グループの主要製品の多くは主に自動車・建設機械業界に納入されており、同業界の製品需要の動向は、当社グループの業績に影響を与える可能性があります。特に、国内鋼材事業では、主要需要先である建設機械業界向けは需要変動のボラティリティが高い傾向にあるほか、将来的には国内市場の縮小が想定されています。
これらを踏まえ、今後の市場成長が期待できる戦略事業の育成を進めることで、業績ボラティリティの低減と持続的成長を図ってまいりますが、これら製品の市場成長が想定通りに進まなかった場合には、当社業績や中長期計画に影響が生じる可能性があります。
これらに対しては、各事業の市場動向等を注視していくとともに、ROICを用いた事業分析で適切な事業ポートフォリオを形成することで、当社の持続的成長を図ってまいります。
(2)市場競争に係るリスク
当社グループは、基盤事業である国内鋼材事業と自動車ばね事業をはじめ、当社グループと同種の製品を供給する競合会社が存在しており、価格競争や研究開発の遅れ等により、当社の市場シェアが低下する可能性があります。また、当社の持続的成長に向け拡大を図っている戦略事業について、当初の想定通りに拡販・受注獲得が進まなかった場合に、当社グループの成長性や収益性を低下させ、当社業績や中長期計画に影響が生じる可能性があります。
これに対し、長年の操業で培った高度なノウハウの蓄積をはじめとした当社の強みを生かし、お客様のニーズに応える製品の開発・販売強化を進めるほか、戦略事業については設備投資や人的資本等の経営資源のリソース投入を適切に配分することで、競争優位性を高めてまいります。
(3)原材料・副資材・エネルギー価格等の変動に関するリスク
当社グループの主要製品は、鉄鉱石・原料炭を主原料とした溶鋼から製造しており、製造コストの多くを主原料価格が占めております。鉄鉱石・原料炭は市況の変動影響を受けることに加え、輸入による外部調達であることから為替変動の影響も受けます。他にも電極・耐火物等の副資材や電力・ガス等のエネルギーを外部から調達していることから、これらの主要原料及び副資材等の市況変動により、当社グループの業績に影響が生じる可能性があります。
これらコストの上昇に対しては、一部お客様とは売価連動のフォーミュラを構築しているほか、それ以外のお客様についても、適切なマージン確保に向け、売価転嫁の交渉を行っております。
(4)海外拠点における地政学及び為替変動リスク
当社グループは、北米・中国・東南アジア等に海外事業拠点を有しております。当該国及び周辺国における政治・経済・社会的混乱(戦争・内乱・紛争・暴動・テロを含む。)や法的規制等、更には国際的な貿易規制や関税の変更、国家・経済圏間における貿易協定に起因する影響を受けるリスクがあり、これらの影響を受けた場合には、業績に影響が生じる可能性があります。貿易規制や関税の変更等に対しては、適切な対応を行い、影響の軽減に努めております。
また、当社グループは原材料等の輸入及び製品等の輸出における外貨建取引や、連結財務諸表作成のための海外子会社の財務諸表数値は、外貨から円貨へ換算しているため、為替相場変動の影響を受けることとなります。為替相場変動のリスクを完全に排除することは困難であるものの、ヘッジ契約や親子ローンを実施している海外拠点への増資等の対応を行い、為替変動リスクを低減させております。
(5)金融市場の変動や資金調達環境の変化に関するリスク
当社グループは、事業活動に必要な資金を金融機関からの借入により調達しており、金利情勢、その他の金融市場の変動が業績等に影響を与える可能性があります。また、健全な財務体質の維持に努めておりますが、景気の後退や金融市場が悪化した場合や、当社グループの信用低下等により必要な資金を必要な時期に適切な条件で調達できない場合には、資金調達コストが増加することにより、当社グループの業績に影響が生じる可能性があります。
特に足元では、インドネシアなどの高金利国の事業拠点における資金調達コストの影響を受けております。これに対し、運転資金圧縮等により営業キャッシュ・フローを創出し、借入金返済を進めることで、有利子負債の圧縮を図ってまいります。
(6)自然災害・感染症等の発生リスク
当社グループは、大規模な自然災害等不測の事態の発生に備え、耐震面の強化など防災対策を強化しております。また、新型コロナウイルス等の感染症が世界的に流行した場合には、感染拡大防止による法令等に基づく事業活動及び社会活動の自粛要請等により、当社グループの事業活動に制約が生じる可能性があります。
これらの不測の事態に備えるため、BCP(事業継続計画)を策定するとともに、定期的な事業継続の周知教育やBCP発令に対応する訓練の実施により、BCPの検証及び有効性の見直しを行い、事業継続の実効性向上を図っています。
(7)環境規制や気候変動に関するリスク
当社グループでは、事業活動において廃棄物、副産物等が発生いたします。そのため、環境マネジメントシステムを構築・運用し国内外の法規制を遵守し、環境保全活動を行っております。過去、現在、将来の事業活動に関し、環境に関する責任リスクを有しており、関連法規制の強化等によっては対応するための費用が発生し、当社グループの業績に影響が生じる可能性があります。
また、気候変動が進行した場合には、炭素税などの規制強化や脱炭素化の進展による調達・製造コストの増加により、当社グループの業績に影響を与える可能性があります。さらに、環境関連需要の高まりに対し当社の対応が遅れた場合に、当社の市場シェアが低下する可能性があります。これに対し、2050年カーボンニュートラルを掲げ、GHG削減の取り組みを進めるとともに、環境関連製品の開発・販売を進めることで、需要構造の変化にも対応してまいります。
気候変動に関するリスクの詳細につきましては、「2.サステナビリティに関する考え方及び取組-(2)気候変動(TCFD提言に基づく情報開示)」をご覧ください。
[事業運営に関するリスク(内的要因)]
(8)製品の瑕疵・欠陥に係るリスク
当社グループの製品の中には、重要保安部品など高い信頼性が求められる製品が多数含まれています。そのため、仮に瑕疵や欠陥のある製品、あるいは顧客とあらかじめ取り決めた仕様を満たさない製品が市場に流出した場合、補修・交換・回収対応や損害賠償請求、訴訟対応等にかかる費用が発生し、当社グループの評価および業績に重大な影響を及ぼす可能性があります。
このようなリスクに対し、当社グループでは、各製造拠点において国際的に認証された品質管理基準に基づき、製品の製造を行っております。また、瑕疵・欠陥のある製品や仕様不適合製品の市場流出を未然に防ぐための厳格な品質管理体制を構築しています。さらに、品質データの改ざん・偽装を未然に防止することを目的とした品質監査マニュアルを策定し、これに基づいて各拠点への定期監査を実施することで、品質不正の抑止と是正体制の実効性向上に努めています。
(9)設備事故・労働災害のリスク
当社グループの生産設備の中には、高温、高圧での操業を行っている設備があり、高熱の生産物等を取り扱っている事業所もあります。対人・対物を問わず、事故の防止対策には万全を期しておりますが、重大な労働災害の発生や、設備事故等の発生により当社グループの業績に影響が生じる可能性があります。
これに対し、各事業所における安全パトロールや各種コンクールの開催による安全意識・技量の向上等の取り組みに加え、各拠点の安全担当者による「安全担当者会議」を継続的に開催し、管理レベルの向上や情報・問題認識の共有を図るほか、災害発生時には「安全協議会」を開催し、原因・対策について部署間を超えて協議を行うことで、設備事故・労働災害の撲滅を図っています。
(10)人材確保と育成に係るリスク
当社グループは、事業の維持、成長のため、必要な人材の確保に努めておりますが、今後、国内生産年齢人口の減少や人材の流動化の進展等により、人材の確保が想定どおりに進まない可能性があります。また、戦略事業育成に向け、当該事業のノウハウを持つ人材の確保・育成を進めていますが、想定通りに人材の確保・育成が進まなかった場合に、当社グループの成長性や収益性を低下させ、当社業績や中長期計画に影響が生じる可能性があります。
これに対し、当社グループでは「2023中期経営計画」で「人材への投資」を基本方針の一つに掲げ、従業員エンゲージメント向上に向けた取り組みを進めるとともに、ありたい姿の実現に向け戦略事業への人材の配置や必要スキルの育成等、「戦略事業を伸ばす人的資本投資」を具体的に加速させてまいります。人的資本の取り組みの詳細は、「2.サステナビリティに関する考え方及び取組-(3)人的資本」をご覧ください。
(11)情報システムの障害・情報漏洩等のリスク
当社グループの事業活動は、情報システムの利用に大きく依存しており、情報システムの利用とその重要性は増しております。震災等による情報システムのBCP対策としてシステムのクラウド化または二重化等でより安定的なシステム運用の取り組みを行っております。また、自社及び顧客・取引先の営業機密や技術情報、個人情報等の機密情報を保有しておりますが、機密情報の漏洩対策については最重要の経営課題として認識し、システムによる防御対策に加えて従業員への教育を含む、情報セキュリティ強化を行っております。しかしながら、当社グループの情報システムにおいて、悪意ある第三者からのウイルス感染等のサイバー攻撃により、システム停止、機密情報の外部漏洩や棄損・改ざん等の事故が起きた場合、生産や業務の停止、知的財産における競争優位性の喪失、訴訟、社会的信用の低下等により、当社グループの業績に影響が生じる可能性があります。なお、これら万が一の不測の事態に対し被害を最小限に留められるよう、グループ全社でサイバーセキュリティ保険の加入等、リスク度に応じた対策を講じています。
(12)人権侵害のリスク
当社グループは、国内外で事業を行い、サプライヤーも国内外多数の国に及んでいます。当社グループやサプライチェーンにおいて、差別やハラスメント、強制労働や児童労働など人権に係る問題が発生し、適正に対応がされなかった場合、訴訟や行政罰、社会的信用の低下等が生じ、当社グループの業績に影響が生じる可能性があります。
当社グループは人権の尊重が事業活動の基本であるとの考えのもと、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づき、「三菱製鋼グループ人権方針」を定めております。また従業員向けの人権に関する研修により意識の浸透を図っているほか、国内外のグループ会社に加え、主要サプライヤーを対象に人権デューデリジェンスを実施し、当社のサプライチェーンにおいて人権侵害が発生していないか調査を実施しています。
(13)その他の法令・公的規制に関するリスク
当社グループは、日本及び事業展開する各国において、環境、労働・安全衛生、通商・貿易・為替、知的財産、租税、独占禁止法等の事業関連法規、その他関連する様々な法令・公的規制の適用を受けており、万が一、遵守できなかった場合、課徴金や行政処分を課されるなどにより業績等に影響を及ぼす可能性があります。また、これら法令・公的規制が改正もしくは変更される場合、当社グループの業績に影響が生じる可能性があります。
これに対し、法令やコンプライアンス違反などの防止に向け内部通報制度の制度見直し・社内浸透策の実施や一部海外拠点への導入により体制の充実を図っているほか、2025年4月よりリスク統括部に法務グループを設置し、同部にて法務・コンプライアンス・情報セキュリティ等を一元的に所管することで、当社グループを取り巻く法規制リスク全般について、把握・評価、管理・モニタリング、対処等、一連のプロセスの可視化を図り、リスク対応機能の拡充を行っています。
当連結会計年度における当社グループ(当社、連結子会社及び持分法適用会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の概要は次のとおりであります。
当連結会計年度(2024年4月~2025年3月)において、当社グループの主要需要先である建設機械業界は前下期に急減した需要は回復しつつあるものの、引き続き力強さを欠きました。また自動車業界は国内外で一部メーカーの販売不振や生産調整等の影響を受けました。
調達コスト面は、原材料市況は下落しているものの、エネルギー価格をはじめ諸コストの上昇や為替変動影響を受け、高位に推移しました。
このような状況下、当社グループの連結売上高は、戦略事業である精密ばね部品の大型案件量産開始があったものの、建設機械向け及び自動車向け等の売上数量減により、前期比103億5千9百万円(6.1%)減収の1,595億8千4百万円となりました。連結営業利益は、売上数量減があったものの、戦略事業である精密ばね部品・海外鋼材事業の収益貢献等により、前期比17億5千5百万円(36.5%)増益の65億6千4百万円となりました。
また、親会社株主に帰属する当期純利益は、ドイツばね事業からの撤退等による特別損失を計上したものの、営業増益及び営業外費用の削減等により、前期比33億3千3百万円増益の23億6千3百万円(前期は親会社株主に帰属する当期純損失9億6千9百万円)となりました。
セグメントの業績を示すと、次のとおりであります。
特殊鋼鋼材事業の売上高は、前期比73億2千4百万円(8.2%)減収の815億2千6百万円となりました。国内における建設機械向け等の売上数量減に加え、インドネシア海外事業においては同国及びタイにおけるローン審査厳格化に伴う自動車販売の不振等により売上数量減となり、減収となりました。営業利益は、前期比10億6百万円(43.5%)増益の33億1千8百万円となりました。売上数量減の影響を受けたものの、国内外ともに売価やコストの改善を進め、増益となりました。特にインドネシア海外事業は製造コスト改善により損益分岐点を引き下げたため、厳しい環境下においても安定的に収益を確保できる体質への転換が進んでおります。
ばね事業の売上高は、前期比44億7千1百万円(6.3%)減収の660億9千8百万円となりました。戦略事業として注力している精密ばね部品の売上数量増があったものの、自動車向け及び建設機械向け製品の売上数量減の影響が上回り、減収となりました。営業利益は、前期比10億4千2百万円(108.3%)増益の20億5百万円となりました。精密ばね部品の大型案件に伴う収益貢献等により、大幅増益となりました。
素形材事業の売上高は、前期比1億9千7百万円(2.1%)減収の92億2千1百万円となりました。中国・台湾におけるスマートフォン等のデジタル機器向け特殊合金粉末の売上数量減により、減収となりました。営業利益は、前期比3億4千万円(45.3%)減益の4億1千1百万円となりました。特殊合金粉末の売上数量減に加え、精密鋳造品の製造コスト上昇に対する売価転嫁が遅れていることにより、減益となりました。
機器装置事業の売上高は、鍛圧機械等の増収により、前期比4億3千7百万円(4.4%)増収の104億5千5百万円となりましたが、営業利益は製品構成により、前期比4百万円(0.7%)増益の7億9百万円と前期並みとなりました。
なお当期の受注は前期を上回る実績となり、次期以降の収益に貢献してまいります。また次期以降の受注も好調に推移する見通しです。
その他の事業は、流通及びサービス業等でありますが、売上高は、前期比2億6千2百万円(7.7%)増収の36億7千3百万円、営業利益は、前期比6千7百万円(86.1%)増益の1億4千5百万円となりました。
当連結会計年度末の総資産は1,386億6千7百万円で、前連結会計年度末と比較し84億3百万円の減少となりました。その内訳は次のとおりであります。
1 流動資産:96億3千5百万円減少
借入金の返済等による現金同等物の減少60億7千4百万円、棚卸資産の減少27億9千4百万円等によるものであります。
2 有形固定資産:1億7千4百万円減少
設備投資による増加40億7千7百万円、減価償却等による減少38億3千2百万円、MSSC Ahle GmbHの連結除外による減少10億6千1百万円等によるものであります。
3 無形固定資産:1億2千9百万円減少
設備投資による増加1億6千6百万円、減価償却による減少2億7千6百万円等によるものであります。
4 投資その他の資産:15億3千5百万円増加
破産更生債権の増加44億1千7百万円、貸倒引当金の増加33億2千3百万円等によるものであります。
当連結会計年度末の負債総額は888億1千5百万円で、前連結会計年度末と比較し104億2千2百万円の減少となりました。その内訳は次のとおりであります。
1 流動負債:32億2千9百万円減少
買掛金の減少56億9千4百万円等によるものであります。
2 固定負債:71億9千3百万円減少
長期借入金の返済73億9千4百万円、退職給付に係る負債の減少8億8百万円等によるものであります。
当連結会計年度末の純資産は、498億5千1百万円となり、前連結会計年度末と比較して20億1千8百万円の増加となりました。これは当期純利益による利益剰余金の増加8億4千1百万円、為替換算調整勘定の増加9億8千9百万円等によるものであります。
この結果、自己資本比率は30.8%となり、前連結会計年度末と比較して2.8%増加いたしました。
また、1株当たりの純資産額は、前連結会計年度末の2,704円29銭から2,820円29銭となりました。
当連結会計年度のキャッシュ・フローは営業活動で60億1千万円の収入、投資活動で51億7千1百万円の支出、財務活動では65億4千1百万円の支出となりました。
この結果、現金及び現金同等物は当連結会計年度に56億6千8百万円減少し、当連結会計年度末残高は161億4千1百万円となりました。
〔営業活動によるキャッシュ・フロー〕
仕入債務の減少額64億5百万円の支出があった一方、税金等調整前当期純利益42億9百万円、減価償却費41億1千9百万円、棚卸資産の減少額23億9千9百万円等の収入がありましたので、営業活動全体として60億1千万円の収入となりました。
〔投資活動によるキャッシュ・フロー〕
有形固定資産の取得による支出46億2千万円等の支出がありましたので、投資活動全体として51億7千1百万円の支出となりました。
〔財務活動によるキャッシュ・フロー〕
借入金による収入58億5千万円等の収入があった一方、借入金の返済111億2千8百万円、配当金の支払い10億2百万円等の支出がありましたので、財務活動全体として65億4千1百万円の支出となりました。
当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
(注)金額は販売価格によっております。
当社グループでは、主に国内外の需要家への最近の納入実績、各需要家の予測情報などに基づいた生産を行っており、該当事項はありません。
当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
(注)最近2連結会計年度の主な相手先別の販売実績金額及び総販売実績に対する割合は、次のとおりであります。なお、最近2連結会計年度の主要な相手先別の販売実績のうち、当該販売実績の総販売実績に対する割合が10%未満の相手先につきましては記載を省略しております。
(注)当連結会計年度における販売実績の総販売実績に対する割合が10%未満であるため、記載を省略しております。
経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。
1 資金需要
当社グループの主な資金需要は、製品製造のための材料や部品の購入及び設備投資によるものであります。
2 財務政策
当社グループは、設備投資を厳選して実施することで財務の健全性を保ちながら、営業活動によるキャッシュ・フロー収入を基本に、将来必要な運転資金及び設備資金を調達していく考えであります。
当社グループの連結財務諸表は、我が国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成しております。当社グループが採用している会計方針において使用されている重要な会計上の見積り及び前提条件は、以下の事項及び「第5 経理の状況(重要な会計上の見積り)」に記載しております。
連結財務諸表の作成にあたって、当社経営陣は決算日における資産・負債の金額、並びに報告期間における収益・費用の金額のうち、見積りが必要となる事項につきましては、過去の実績・現在の状況を勘案して可能な限り正確な見積りを行っておりますが、実際の結果は、見積り特有の不確実性があるため、これら見積りと異なる場合があります。連結財務諸表に関して、認識している特に重要な見積りを伴う会計方針は、以下のとおりです。
当社グループは、固定資産のうち減損の兆候がある資産又は資産グループについて、当該資産又は資産グループから得られる将来キャッシュ・フローの総額が帳簿価額を下回る場合には、帳簿価額を回収可能価額まで減額し、当該減少額を減損損失として計上しております。減損の兆候の把握、減損損失の認識及び測定に当たっては慎重に検討しておりますが、事業計画や市場環境の変化により、その見積り額の前提とした条件や仮定に変更が生じた場合、将来キャッシュ・フローや回収可能価額が減少し、減損損失が発生する可能性があります。
当社グループは、「第5経理の状況 1連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項 (重要な会計上の見積り) [1.MSSC CANADA INC.のばね事業に係る固定資産の減損」(3)識別した項目に係る重要な会計上の見積りの内容に関する情報に記載のとおり、当連結会計年度において営業損失を計上し、減損の兆候を識別しました。事業計画より割引前将来キャッシュ・フローを算出し、資産グループの帳簿価額と比較した結果、割引前将来キャッシュ・フローが帳簿価額を上回るため、減損損失は不要と判断しました。
(1) 技術導入
該当事項はありません。
当社グループは、技術開発センターに各セグメントの研究開発機能を集約し、材料から製品までの一貫した研究開発を進めてまいりました。また、産学連携等の共同研究により新しい分野も効率的に取り込んでまいりました。
当連結会計年度における研究開発費は
特殊鋼鋼材事業関連では、鍛造・熱処理省略など省エネに関わる製品力向上に関する開発に取り組みました。
ばね関連では、ばね軽量化への対応(材料の開発、製造技術の開発)、原価低減に寄与する技術開発に取り組みました。
素形材関連では、特殊合金粉末の開発や生産技術の研究に取り組みました。
機器装置関連では、鍛圧機械、計装機器や環境装置の開発に取り組みました。