第2 【事業の状況】

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものであり、その達成を保証するものではありません。

 

当社は、国際的な視野に立ち、企業集団の総合力を結集して、「研究と創造」の精神で高い技術による魅力ある商品を提供することにより、株主、顧客、社会に貢献することを経営の基本方針としております。この経営の方針は、「経営理念」として掲げており、その内容は次のとおりです。

 

-経営理念-

国際的な視野に立ち、活力に溢れ、信頼される企業体質をもとに、

魅力ある商品を提供することによって社会に貢献する。

1.研究と創意につとめ、常に時流に先んずる。

2.相互の信頼と理解のもとに、一致協力する。

3.責任ある判断と行動のもとに、常に最善を尽くす。

 

この経営理念を実践することにより、年々変化する経営環境においても持続的な成長を続けると共に、広く社会から信頼され、必要とされるべく、「世界中で選ばれる会社」を目指しています。

その実現に向けて、「愛知製鋼グループが将来目指す姿」を示した「愛知製鋼グループ 2030年ビジョン」(2020年8月4日公表。以下、「2030年ビジョン」という。)及びその実行計画である「愛知製鋼グループ 2024-26年度 中期経営計画」(2024年5月30日公表。以下、「中期経営計画」という。)を策定、公表しております。

 

1.中期経営計画の基本方針

2030年ビジョンの実現に向け、社会課題解決の重要性の高まりや常に変化する環境を先読みしつつ、お客様のお役に立ち、必要とされる会社を目指し、社会的価値の創造と持続的成長へ繋げる3年間としてまいります。

 

2.中期経営計画の重点施策

24-26年度の中期経営計画の3年間で、当社が社会から必要とされる「良き企業」であり、「成長する企業」であることを改めてお約束し、社会的価値の創造と成長戦略を確かなものにし、持続的な社会に貢献してまいります。そのうえで、地球環境・社会への貢献を進めつつ、お客様のお役に立ち続けることを通じて、2030年ビジョンの実現を見据えた、連結営業利益150億円を目指してまいります。

 

(1)稼ぐ力を強化し、成長戦略を確かなものにする

①スピード感ある価値創造

・お客様の困り事解決に向け素材メーカーの知見、技術を活かし営業、開発一体で部材、部品ニーズへ貢献

②鋼・鍛のポテンシャルを最大発揮

 (鋼)・創業から培った鋼づくりを極めカーボンニュートラル(CN)へ貢献

    ・パートナー協業による成長市場のモビリティ社会実現に貢献

 (鍛)・業界再編を見据え新たな工法開発でのサプライチェーン維持、鍛鋼一貫で電動化進展へ貢献

③新事業の成長促進

・電子部品:一貫生産の強みを活かし電動化進展へ確実な供給対応と品質保証度を高め競争力に貢献

・GMPS :実証から「構内物流」での社会実装により、少子高齢化、物流の運転手不足問題解決へ貢献

・磁石 :調達リスク高まる重希土類不使用のマグファイン®の技術力を高め、安定供給に貢献

④素材を通じた社会への貢献

・ステンレス: 生産能力増強とエンジニアリング機能拡大・技術力強化でインフラ老朽化対策へ貢献

・鉄供給材:カンキツグリーニング病の症状軽減を通し世界の農業問題解決に貢献

 

(2)社会的価値の創造を推進する

①サステナビリティ課題への対応

・当社のアイデンティティである資源循環型のモノづくりを強化し、会社の力・基盤強化につなげ持続的社会へ貢献

②厳しく温かく人が育つ風土の醸成 

・社会課題を素早く認識し、正しく問題解決できる人材育成でサステナブル社会に貢献

③将来の持続的成長に向けた財務戦略 

・長期目線に立った成長戦略を軸に「成長投資」と「株主還元」にキャッシュを積極配分しPBR改善

 

3.経営指標

目標とする経営指標につきましては、2030年時点での連結営業利益200億円以上を達成するため、中期経営計画の最終年度にあたる2026年度に連結売上収益3,338億円、連結営業利益150億円の達成を目指してまいります。

 

4.対処すべき課題

当社グループを取り巻く環境は、春季労使交渉での高い賃上げ率や物価上昇とも相まってデフレからの脱却の兆しが見え、個人消費の改善や企業の強い投資意欲、自動車の生産回復で輸出増加、インバウンド需要の増加など緩やかな回復が期待されます。一方、幅広い業種で人手不足が深刻化しつつあるなど、景気回復テンポが鈍るリスクもあり、予断を許さない状況にあります。

また、自動車業界では、足元ではBEVの成長スピードが鈍化しておりますが、中長期的には世界のBEVシフトは再加速する可能性が高く、自動車メーカーによる競争は激しさを増すことが予想されます。当社は創業以来、特殊鋼や鍛造品など素材や部品を通じてクルマの可能性を広げてまいりましたが、今後はお客様のニーズの変化にしっかりとお応えするため、開発と一体となった提案型の営業体制により、鍛鋼一貫の強みを活かして、「お客様が何にお困りか」「その解決には、どんな素材・技術・部品が必要か」を全員で考え、変化に応じた良品廉価な製品・サービスを提供していくことで、お客様のお役に立ち続ける会社を目指してまいります。

目指す姿に必要な、変化に強い企業体質を作るため、これまで注力してきた「モノをつくる力」に加えて、カンパニーをまたぐ課題への対応や、製品・サービス軸の事業運営へのシフト、さらには、コーポレートの横串機能を強化し、リソーセスの最適配分を図るなど、全方位での収益構造改革を推進することで、「稼ぐ力」を向上してまいります。

さらに、2050年度を目標としているCNの早期実現も見据え、7工場のうち5工場は2022年度までにCNを達成しており、CNなエネルギーの使用も含め、2030年でのCO2排出量50%削減(2013年度比)の目途付けも進んでおります。その先の2050年でのCN実現には水素活用における技術的なブレークスルーが必要と考えられるため、先に紹介しました、刈谷工場での水素・都市ガス兼用バーナでの実証実験、実用化に向けた取り組みなど、計画的に進めてまいります。

上記のとおり、当社グループは“世のため、人のため”、“お役に立つ”という創業の精神に立ち戻り、課題に現地現物で正面から向き合うことで、変化に強い企業体質を作りながら、次世代への成長戦略推進に、愛知製鋼グループ一丸で取り組み、企業価値を高めてまいります。

具体的には、「2030年ビジョン」実現を目指し、新しい中期経営計画期間となる24-26年度において、「変革のリーダー、私。」をスローガンに掲げ、一人ひとりが主役となって、以下の方針に則り、施策に取り組んでまいります。

 

1.創業の精神に則り、正直で真っ当な企業をもう一度目指す(コンプライアンス・ガバナンスの強化)

1-(1):常にお客様を意識し、期待に応える

1-(2):安全・品質は絶対である

1-(3):持続可能性を自覚し、社会的責任を果たす

2.足元の稼ぐ力を取り戻し、将来の成長戦略を明確にし、未来への責任を果たす

2-(1):(稼ぐ力)鋼・鍛のポテンシャルを最大限に発揮する(TPSの徹底・拡販)

2-(2):(成長戦略)2030年ビジョン達成に向けた実現性のある“ロードマップ”の作成と更なる事業

      戦略・開発戦略の策定

2-(3):チャレンジを可能とする安定的な財務基盤の構築

3.厳しく温かく人が育つ風土の醸成

3-(1):問題解決を通した人材育成の強化(改善マインド・改善能力)

3-(2):アイチの価値観の共有・徹底を通じた一体感のレベルアップ

 

当社グループは、PBRを踏まえ企業価値について市場から大変厳しい評価をいただいていると自覚し、従来以上に、企業価値向上を図ってまいります。当社グループの資本収益性は資本コストを大幅に下回る状況にあり、改善には利益率の改善が急務と考えておりますので、上記の諸施策により、営業利益の回復を進めてまいります。その過程で資産の売却など資産のスリム化や、生み出したキャッシュを持続的成長のために振り向けていくとともに、配当方針の変更や自己株式の取得など、資本政策も併せて検討してまいります。

 

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、次の通りであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1) サステナビリティに関する考え方

当社グループは「国際的視野に立ち、活力に溢れ、信頼される企業体質をもとに、魅力ある商品を提供することによって社会に貢献する」という経営理念に基づき、事業活動を通じて持続可能な社会の実現に貢献することが、中長期的な企業価値の向上につながると考えています。その実現に向け、「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載のとおり、2030年ビジョンの基本方針として「事業とモノづくり力の変革で収益力を向上させESG経営を実践」を掲げ、サステナビリティ活動を積極的に推進しています。

特に気候変動に対しては、エネルギー多消費産業であり鉄スクラップを原材料にモノづくりを行う資源循環型企業として重要な経営課題の1つと認識し、重点的に取り組んでいます。

また、当社グループは人的資本が価値創造の源泉であるとの認識に基づき、これまでも人を大切にする経営に取り組んできましたが、更なる人的資本の高度化に向け多様性、人材育成、社員の健康・安全の実現を目指し、重点的に取り組んでいます。

 

(2) ガバナンス

経営に重大な影響を及ぼすサステナビリティ全般に関するリスク・機会への対応方針・取り組み状況・事業戦略は、業務執行における最上位の意思決定機関であり、経営に関わる重要事項を審議する「経営トップミーティング(原則月2回開催、議長:取締役社長)」で議論・審議しています。取締役会はその報告を受け、特に重要案件は審議することで監督機能を果たしています。2024年度には、全社横断したサステナビリティ施策を企画、推進するサステナビリティ推進室を設置し、サステナビリティに関する取り組みの更なる充実を図っています。

 

(気候変動への対応)

地球環境会議(年2回開催、議長:取締役社長)では、気候変動に係る戦略の実行や活動の進捗を管理しており、その内容は経営トップミーティング及び取締役会にて報告されています。また、地球環境会議の下に6つの分科会を設置し、担当範囲を明確にすることで効率的・重点的に活動を推進しています。経営トップミーティングでは気候変動への対応方針・戦略、CO2排出削減目標計画の策定・見直しなどを審議・決定しています。

 

(人的資本経営)

社外役員が過半数を占める任意の役員報酬・人事案策定委員会(年3回開催、委員長:社外取締役)における経営陣幹部のサクセッションプラン、HRコミッティ(年2回開催、議長:取締役社長)における経営視点での人事課題などの議論を経て、経営トップミーティングにて人材戦略及び具体的な課題や施策(組織の新設・改編、主要ポストの任免、重要な人事施策の新設・改廃など)に関する検討・決議、進捗状況の共有を行っています。特に人材戦略や経営陣幹部の選任については、取締役会で検討・決議することで監督機能を確保しています。

 

 

(サステナビリティのガバナンス体制図)


 

(3) リスク管理

当社グループではリスク管理体制や、事前の予防対策、緊急事態発生時の対応などを定めた「危機管理規程」を制定し、想定されるさまざまなリスクに備えています。危機管理最高責任者であるCRO(チーフリスクオフィサー)はリスクマネジメント本部長が担当し、平素の予防管理の推進および危機事象の予見/発生時の対応を推進しています。

リスク管理のプロセスにおいては、各部門・グループ各社が現場で各種施策を立案する際に、業態、事業特性及び社会状況からサステナビリティを始めとしたリスクを抽出しています。抽出されたリスクは各種機能会議体等にて報告され、影響度・発生頻度・時間軸などから経営に重大な影響を及ぼすリスクを特定、重要度を評価しています。経営に重大な影響を及ぼすリスクは経営トップミーティングにおいて、対応策と管理指標を設定し、経営計画に落とし込み、継続的な監視と予防・軽減策を実施しています。取締役会では経営計画の審議、定期的な執行状況と管理指標の進捗を確認することで監督機能を果たしています。

万が一リスク事象が発生または予見される際には、対策本部を設置し、被害の未然防止、最小化、早期収束に向け、社内外関係先とも連携のうえ、対処することとしています。

 

(リスク管理プロセス)


 

(4) 戦略と指標・目標

当社は、サステナビリティを経営の軸に据えた2030年ビジョンを策定し、「事業とモノづくり力の変革で収益力を向上させESG経営を実践」を基本方針に「持続可能な地球環境への貢献」「事業の変革で豊かな社会を創造」「従業員の幸せと会社の発展」という3つの経営指針に基づき、事業活動を推進しています。

その実現に向けて優先的に取り組むべき経営重要課題であるマテリアリティとして掲げ、SDGsにおける169のターゲットを整理・紐づけし、重要課題KPIとして具体的な指標と目標を設定することで、計画的に実行しています。各指標の進捗状況は各業務推進会議でモニタリングすることで、必要に応じ迅速な活動の改善を図っています。

 

(指標・目標と実績)

重要課題

KPI(指標)

単位

2030年度

目標

2023年度

実績

備考

資源循環

副産物埋立量

t(トン)

2,000

2,430

 

大気汚染物質排出:

   規制値の8割以上

0

0

窒素酸化物(NOx)及び

硫黄酸化物(SOx)を対象

工場排水汚濁負荷量:

   規制値の8割以上

0

1

COD、窒素及びリンを対象

調達

グリーン調達

ガイドライン周知率

100

100

 

下請け法違反件数

0

0

 

技術革新

特許出願件数

61

2022年度 64件

サイバー

セキュリティ

重大インシデント件数

0

0

 

品質

客先流出不具合件数

0

19

 

生産

粗鋼生産量

千t

943

2022年度 891千t

鍛造品生産量

千t

242

2022年度 225千t

電子部品生産量

百万

セット

45.6

2022年度 39.8百万セット

人権の尊重

職種別研修の人権教育実施率

100

100

 

法令遵守

重大な法令違反件数

0

0

 

内部統制システムの

重要な不備件数

0

0

 

 

(注)気候変動への対応及び人的資本経営の指標・目標は下記の「気候変動への対応」及び「人的資本経営」に記載しています。

 

(気候変動への対応)

当社は2021年に「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」に賛同表明し、2022年よりTCFDフレームワークに基づき、情報開示を実施しています。戦略においては、気候変動による事業への影響の把握と気候関連リスク・機会に対応するため、シナリオ分析を実施しました。

 

1.5℃シナリオでは主要顧客である自動車業界のCASE進展、鉄鋼業界への脱炭素化要求などはリスクであると同時に、次世代電動アクスル部品、電子部品などの電動車向け部品の拡大や自動運転支援システムの普及拡大など新たなビジネス機会の創出につながることを認識しました。4℃シナリオでは自然災害等によるサプライチェーンへの影響を改めて確認しました。

上記の結果を踏まえ、引き続き脱炭素に貢献する技術・製品の開発・製造・販売を進めるとともに、サプライチェーンの強靭化やステークホルダーとのコミュニケーションの強化に努めていきます。
 

 

■参照シナリオ


 

■シナリオ分析結果


 

① CO2排出量削減目標

当社の事業活動におけるCO2排出量を「2030年までに50%削減(2013年度比)及び2050年までにカーボンニュートラルの実現に挑戦」と目標を掲げ、その実現と前倒し達成に向け、取り組んでいます。


(注) 1 排出量は全て提出会社のScope1、Scope2の合計値

2 「エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律」(資源エネルギー庁)及び契約電力会社の各年度の排出係数に基づき算定。ただし、2023年度は2022年度排出係数を適用した速報値

 

② 実現に向けたロードマップ

上記の目標の実現に向けて「①省エネの深化・追求」「②再生エネルギーの活用」「③脱炭素技術の開発・導入」を軸に活動を推進しています。


上記の戦略に関する指標及び実績は次のとおりです。

指標

CO2排出量(千t-CO2

2023年度

削減率

(2013年度比)

2013年度

(基準年度)

2021年度

(実績)(注)

2022年度

(実績)(注)

2023年度

(速報)

Scope1

239

258

220

229

8.4%

Scope2

556

380

397

414

24.0%

合計

795

638

617

643

19.1%

生産量排出原単位

(kg-CO2/t)

546.4

442.3

509.0

514.1

5.9%

 

(集計範囲)提出会社

(算定方法)「エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律」(資源エネルギー庁)及び

      契約電力会社の各年度の排出係数に基づき算定しています。ただし、2023年度は2022年度排出係数を適

      用した速報値となっています。CO2排出量の実績は「愛知製鋼統合レポート」にて公表しています。

      (https://www.aichi-steel.co.jp/ir/library/integrate_report/)。

      2023年度実績を記載した「愛知製鋼統合レポート2024」は2024年9月発行を予定しています。

(注)集計値の見直しと係数等の変更に伴い、過年度数値を遡及して修正しています。

 

(人的資本経営)

当社は、社員が幸せを感じられる「価値ある会社人生」を追求することが、結果として会社の成長につながると考え、2030年ビジョンの経営指針の一つとして「従業員の幸せと会社の発展」を掲げ、その実現に向けた人材への投資を積極的に行っています。

 

① ダイバーシティ&インクルージョン

多様な属性や、感性・能力・価値観・経験を持った社員が、互いに理解し認め合い、能力を高めあい、存分に発揮することではじめて、新たな価値が生まれると考えています。そのために、多様な人材を計画的に採用することや、能力を発揮できる環境整備などに取り組み、全ての社員が活躍できる会社づくりを進めています。

 

a.女性の活躍支援

定期採用においては、従来から女性の採用比率目標を設定して積極的な採用を実施しています。また、入社後に女性がライフイベントなどに応じてワーク・ライフ・バランスを取りながら積極的なキャリア形成を図るためには、より柔軟な働き方を選択できる環境が重要と考え、研修等を通して自身のキャリア計画を支援する活動などに取り組んでいます。また、ライフイベントと仕事を両立できる勤務制度として「コアタイムのないフレックスタイム勤務」「在宅勤務制度」などに加え、育児支援制度、介護支援制度を軸とした「ナイスファミリー制度」を導入し、柔軟な働き方ができる環境の整備を進めてきました。今後も、継続的に働き方改革に取り組み多様性を尊重する職場づくりを推進します。

 

b.シニアの継続的な活躍

希望者の全員が定年後も継続して働くことができる「ナイスシニア制度」を設けています。身体的負担を軽減する作業環境の整備や後進の指導・育成、技能伝承の役割を担ってもらうなど、働くことへのモチベーションを維持できるよう労使で協議したうえで処遇の改善・見直しを進めています。また60歳の定年後であっても必要であればリーダーを継続できる制度を導入し、65歳現役社会の実現に向けた取り組みを積極的に推進しています。

 

c.障がい者のイキイキ職場拡大

製造現場から事務部門まで幅広い職場で、障がいのある社員が活躍しています。法定雇用率を踏まえた計画的な定期採用・中途採用に加え、障がい特性と業務のマッチングを重視し、採用の段階から職場実習や面談を重ねて、配属職場を決めています。入社後も、ともにイキイキと働けるよう、「障がい者職場生活相談員」などによる当該社員との定期的な面談や受入職場へのフォローアップなどの就労支援に継続して取り組んでいます。

② 人材育成

当社は2030年ビジョンの一つとして「人材育成」ビジョンを定めています。「素材でモノづくりの可能性を広げる会社」として、これからもお客様から選ばれ続けるには、世の中の変化に柔軟に対応する力の向上が必要と考え、「専門性」と「基礎力」両面からの人材の育成・確保に取り組んでいます。それぞれの職務に必要な「専門性」に加え、変化に即応できる「基礎力」として、モノづくり企業として永年培ってきた「技能」と「問題解決力」、DX(デジタルトランスフォーメーション)に必要な「デジタルリテラシー」の強化を重点施策として実施しています。

 


 

a.問題解決力

「問題解決力」は、「職場でのOJT」を通して身に付けることを基本とし、その効果を「集合研修」で高めるという考え方のもと、研修体系の充実を図ってきました。また、「集合研修」でも指導者向けの教育を受けた管理・監督者が後進を指導を指導することでOJTとOff-JTの相乗効果を高めています。

 

b.デジタルリテラシー

業務において必要かつ適切なデジタル技術を適用できる「DX人材」の育成に2021年度より取り組んでいます。2023年度は「デジタルリテラシー基礎教育」に加え、「DXアセスメント」により個人別に到達レベルを見える化し、最適な教育プログラムを実施することで、改革を牽引する「DXリーダー」の育成・選抜の更なる推進に繋げていきます。また、DXによる業務改革を体験できる「さわれるDX展示会」を開催するなど、社員の意識醸成にも取り組み、全社でのDX活用促進に努めています。

 

③ 社員の健康・安全

心身ともに健康で、活動的な生活を送ることは、「価値ある会社人生」のために欠かせない要素であり、社員とその家族の「幸せ」にもつながると考えています。当社は「健康・安全」を重要課題と位置づけ、社員の心と身体の健康保持・増進を図り、人にやさしく、安全・安心な職場環境づくりを推進しています。

 

a.健康経営の実践

社員の健康保持・増進に取り組むことは、活力向上や生産性の向上などの効果をもたらすと考えています。特に生活習慣病予防・メンタルヘルスを重点事項に掲げ、会社・健康保険組合・労働組合のコラボヘルスにより、課題の共有と諸施策の充実を図っています。生活習慣病予防では、「治療」から「予防」へと軸足を移すための取り組みとして、健康習慣の改善を促す「健康チャレンジ8(※)」普及活動に取り組んでおり、職場主体の活動を展開することで従業員の意識向上を図っています。メンタルヘルスでは、メンタル相談窓口の設置、本人・管理監督者双方への教育、ストレスチェックに基づく個人・職場へのケアなどに加え、メンタルヘルス専門の顧問医制度を新たに導入し、不調者の発生未然防止と早期発見・早期ケアの取り組みを強化しています。こうした活動が認められ、当社は2024年3月に7年連続で「健康経営優良法人」に認定されました。

※「①適正体重、②朝食、③飲酒、④間食、⑤禁煙、⑥運動、⑦睡眠、⑧ストレス」の8つの生活習慣に着目し、1つでも多くの健康習慣の実践を促進する活動

 

④ 社員エンゲージメント

会社と個人の目的・目標が一体となり、ともに成長していけるしくみを築くことが、社員一人ひとりの挑戦を促し、どんな環境変化にも対応できる組織力につながると考えています。そのためには、仕事を通して成長し続けられること、仕事に対する意欲を持ち続けられることが重要であり、これを定期的に調査・確認することで各種人事施策に反映しています。

また、「人が育つ土壌(=風土)」としての職場づくりにも注力しており、2021年度から3年間かけて実施した「風土改革プロジェクト」での議論をたたき台に作成したリーダー育成のための教育プログラムを2024年度より開始します。管理監督者の「ふるまい」や「めんどう見」の見える化から始め、今後は、管理監督者の相互研鑽の場の設定や、さらなる改善につなげるための評価方法の確立を進めていきます。また、老朽化した独身寮は2023年2月に竣工した第1ステップに続き、2023年12月に第2ステップが竣工し快適な住環境を提供しているほか、多様な社員の要望に応じて福利厚生を選択できるカフェテリア制度を導入するなど、福利厚生の充実に向け更なる環境整備を進めています。

 

上記の戦略に関する指標、目標及び実績は次のとおりです。

指標

単位

2030年度

目標

2023年度

実績

備考

ダイバーシティ&インクルージョン

女性管理職数

10

5

対2022年度+1名

高齢者満足度
(5点満点)

4.00

3.61

モラールサーベイ(注2)

における60歳以上の調査結果

人材育成

研修トレーナー資格
取得人数(累計)

135

59

対2022年度+6名

DXリーダー育成人数

125

17

 

DXメンバー育成人数

870

127

社員の健康・安全

重大災害件数

0

0

 

全災害度数率

0.0

1.1

 

傷病休業日数率

0.25

0.95

 

メンタル起因による
傷病休業日数率

0.00

0.34

 

適正体重超過者率

32

BMI(Body Mass Index)

25以上

社員

エンゲージメント

社員満足度(5点満点)

4.00

3.34

モラールサーベイ(注2)

における全社員の調査結果

年次有給休暇取得日数

日/人・年

20.0

15.2

 

1人あたりの残業時間(スタッフ)

時間/人・年

120

167

 

 

(注) 1 管理職に占める女性労働者の割合、男性労働者の育児休業取得率及び労働者の男女の賃金の差異についての実績は、「第1 企業の状況 5 従業員の状況 (4)管理職に占める女性労働者の割合、男性労働者の育児休業取得率及び労働者の男女の賃金の差異」に記載しています。

2 モラールサーベイは、会社の経営や施策、仕事への意欲などに対する社員の意識調査です。

 

 

3 【事業等のリスク】

有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績等に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものであります。 

 

(1) 経済状況

当社グループの主力製品である鋼材及び鍛造品の主要需要先は自動車業界であります。経済状況により自動車業界が影響を受ける場合、製品需要の大幅な変動で、当社グループの財政状態、経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。

 

(2) 原材料、エネルギー及び副資材価格の変動及び市場環境の変化 

当社グループが主要原材料として調達する鉄スクラップや合金鉄の価格は、国際商品市況の影響を受けて大きく変動することがあります。また、生産活動全般において大量の電力やLNGなどのエネルギー、製鋼工程等において電極・耐火物等の副資材を消費しており、これらの価格上昇分の売価への転嫁に努めておりますが転嫁できない場合は、当社グループの財政状態、経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

また、供給元については、その分散や関係強化により安定調達に努めていますが、地政学的リスクや供給元の災害、事故等による供給能力の制約で調達が困難となった場合、当社グループの財政状態、経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。

 

(3) 為替相場の変動

当社グループは、製品の一部を輸出するとともに、原材料である合金鉄の大部分を輸入に依存しています。為替相場の変動は、当社グループにおける製品、原材料の輸出入価格及び電力やLNGなどのエネルギー価格に大きな影響を及ぼす可能性があります。また、当社グループの外貨建取引及び連結財務諸表作成のための海外子会社の財務諸表数値は、外貨から円貨への換算において、為替相場変動の影響を受け、当社グループの財政状態、経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。

 

(4) 価格競争

当社グループの主要需要先である自動車業界をはじめとする各業界は、厳しいコスト競争の下にあります。激化する価格競争の環境下で、経済変動による需要の減少などに伴い製品価格の大幅な低下や、市場シェア低下の可能性があります。このような場合、当社グループの財政状態、経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。

 

(5) 製品の品質不具合

当社グループは、厳格な品質管理体制や品質管理基準に従い、鉄鋼製品はじめ、各種製品を製造しています。しかしながら、製品の品質不具合が生じた場合、多額のコストや当社グループの評価に重大な影響を与え、当社グループの財政状態、経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。

 

(6) 人材確保・育成

当社グループは、国内において少子高齢化が進むなかで、有能な人材の確保、一人ひとりの能力向上及びその最大限の発揮に取り組んでいますが、計画通りの人材確保、人材育成が進まない場合、当社グループの競争力低下を招き、財政状態、経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。

 

(7) 製造設備の故障

当社グループの製造設備は、安定生産に向けて日々の点検や定期補修に努めていますが、設備トラブルが発生し、操業が中断した場合、生産量の減少や修繕コストの増加等により、当社グループの財政状態、経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。

 

(8) 特定販売先への依存

当社グループの製品の売上収益は、トヨタ自動車株式会社及びトヨタグループ企業集団に対する依存度が非常に高いため、同社の自動車販売台数の動向が、当社グループの財政状態、経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。なお、同社は、2024年3月31日現在、当社の議決権の23.9%(間接所有含む)を所有しております。

 

(9) グローバルな事業展開

当社グループは、さまざまな国で商品の生産及び販売を行っています。その国々における、不利な政治的又は経済的な要因や予期せぬ法律又は規制の変更、ストライキ、テロ、戦争、疾病等の要因による社会的又は経済的な混乱で、生産・出荷活動が遅延・停止する可能性があります。遅延・停止が長期間にわたる場合、当社グループの財政状態、経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。

 

(10) 気候変動

当社グループは、資源循環型企業として、気候変動への対応を経営の最重要課題と捉え、2021年に気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)に賛同を表明し、CO2排出量を2030年50%削減(2013年度比)、2050年にカーボンニュートラルの実現を目指しています。今後、顧客からの要求や法規制の強化による生産コストの上昇や新たな税負担で、当社グループの財政状態、経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。

 

(11) 気候変動への対応を除く環境規則

当社グループは、国内外の環境法規制を遵守するとともに、「アイチ環境取り組みプラン2025」を策定し環境への負荷低減に努めています。しかし、環境に関する法規制は、改正・強化される傾向にあり、その対応のため費用が増加し、当社グループの財政状態、経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。

 

(12) 有形固定資産及び無形資産の減損

当社グループが保有する有形固定資産及び無形資産について、経営環境の著しい悪化等により収益性が低下し、投資額の回収が見込めなくなった場合、その資産の減損損失の計上を行うことにより、当社グループの財政状態、経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。

 

(13) 情報セキュリティ

当社グループは、顧客及び取引先の機密情報や個人情報、また、当社グループの機密情報や個人情報を有しております。サイバー攻撃を含む意図的な行為や過失等により、システム障害が生じる場合や、機密情報及び個人情報の外部流出が起きた場合、当社グループの事業活動の停滞や社会的信用の低下等で、当社グループの財政状態、経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。

 

(14) 自然災害

当社グループの国内工場や取引先の多くが中部地区に所在するため、この地域で大規模地震などの自然災害が発生した場合、生産・出荷活動が遅延・停止する可能性があります。遅延・停止が長期間にわたる場合、当社グループの財政状態、経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。

 

(15) 人権

当社グループは世界各国から原材料や副資材を調達するとともに、国内外の拠点でグローバルな事業活動を実施しています。当社グループでは、すべての役員・従業員が、当社グループの人権に関する最上位方針である「愛知製鋼グループ人権方針」の遵守を基本として事業活動を進めていますが、サプライチェーンにおいて人権問題が発生した場合、生産・出荷活動が遅延・停止する可能性があります。遅延・停止が長期間にわたる場合、当社グループの財政状態、経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。

 

(16) その他の法令・公的規制の変更

当社グループは、事業を展開する日本及び各国において、労働・安全衛生、通商・貿易・為替、知的財産、租税等の様々な法令・公的規制の適用を受け、遵守に努めています。今後、これらの法令又は公的規制が改正もしくは変更される場合、対応費用の増加等により、当社グループの財政状態、経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。

 

(17) 訴訟

当社グループは、事業活動を遂行するうえで、訴訟を提起される可能性があります。訴訟の結果によっては、当社グループの財政状態、経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。

 

(当社及び当社取締役等に対する訴訟の提起)

2022年5月16日に、当社及び当社取締役等は、マグネデザイン株式会社及び本蔵義信氏より損害賠償請求訴訟を提起されております。詳細は「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記」の「32.偶発事象」をご参照ください。

 

(18) 株価の変動

当社グループが保有する投資有価証券の価値が、投資先の業績不振、証券市場における市況の悪化等で大幅に変動した場合、当社グループの財政状態、経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。

 

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものであり、その達成を保証するものではありません。

 

(経営成績等の状況の概要)

(1) 経営成績の状況

当連結会計年度における世界経済は、米国においては雇用者数の増加や個人消費の拡大を背景に景気は堅調に推移しましたが、欧州ではインフレの進行により景気に弱さが見られ、中国では不動産市場の調整と雇用・所得の回復の鈍さを背景に低成長にとどまりました。我が国では、所得の伸びが物価の伸びを下回り、内需は力強さを欠いております。

このような環境のもと、当連結会計年度の売上収益は、販売価格の値上がりにより、前連結会計年度(285,141百万円)に比べ4.0%増296,516百万円となりました。 

 

なお、セグメント区分ごとの売上収益は、次のようになっております。 

 

鋼(ハガネ)カンパニー

主力製品である特殊鋼の販売数量は減少したものの、販売価格の値上がりにより、当連結会計年度の売上収益は108,216百万円と、前連結会計年度(105,687百万円)に比べ2.4%増加しました。 

 

ステンレスカンパニー

主力製品であるステンレス鋼の販売価格の値上がりがあったものの、販売数量の減少により、当連結会計年度の売上収益は41,259百万円と、前連結会計年度(42,244百万円)に比べ2.3%減少しました。 

 

鍛(キタエル)カンパニー

主力製品である自動車用型打鍛造品の販売数量の増加及び販売価格の値上がりにより、当連結会計年度の売上収益は124,262百万円と、前連結会計年度(114,463百万円)に比べ8.6%増加しました。

 

スマートカンパニー

電子部品の売上収益は増加したものの、磁石の売上収益の減少により、当連結会計年度の売上収益は19,940百万円と、前連結会計年度(20,243百万円)に比べ1.5%減少しました。 

 

その他事業

当連結会計年度の売上収益は2,838百万円と、前連結会計年度(2,502百万円)に比べ13.4%増加しました。 

 

利益につきましては、販売価格の値上がりや鉄スクラップ・購入鋳片・エネルギー等購入品価格の値下がり、原価低減などの収益改善活動の効果などが増益要因となり、営業利益は前連結会計年度(3,260百万円)に比べ218.2%増10,372百万円となりました。また、税引前利益は前連結会計年度(4,099百万円)に比べ167.0%増10,947百万円、親会社の所有者に帰属する当期利益は前連結会計年度(1,610百万円)に比べ309.4%増6,593百万円となりました。 

 

(2) 財政状態の状況

当連結会計年度末の資産合計は、退職給付に係る資産及びその他の金融資産の増加などにより、前連結会計年度末に比べ57,659百万円増443,108百万円となりました。

負債合計は、借入金の減少があったものの、営業債務及びその他の債務及び繰延税金負債などの増加により、9,970百万円増181,097百万円となりました。

資本合計は、確定給付制度の再測定及びその他の包括利益を通じて公正価値で測定する金融資産に係る純変動の増加などにより、47,688百万円増262,010百万円となりました。

 

(3) キャッシュ・フローの状況

当連結会計年度の現金及び現金同等物の期末残高は、前連結会計年度末(47,534百万円)に比べ987百万円減少し、46,546百万円となりました。 

 

(営業活動によるキャッシュ・フロー) 

当連結会計年度における営業活動による資金の増加は33,817百万円と前連結会計年度(13,028百万円)に比べ20,788百万円増加しました。これは、税引前利益が10,947百万円と6,847百万円増加、棚卸資産の減少による資金の増加1,185百万円(前連結会計年度は、棚卸資産の増加による資金の減少4,560百万円)、営業債権及びその他の債権の減少による資金の増加1,776百万円(前連結会計年度は、営業債権及びその他の債権の増加による資金の減少2,075百万円)、営業債務及びその他の債務の増加による資金の増加1,037百万円(前連結会計年度は、営業債務及びその他の債務の減少による資金の減少2,864百万円)があったことなどによるものであります。 

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

当連結会計年度における投資活動による資金の減少は18,895百万円と前連結会計年度(15,958百万円)に比べ2,936百万円増加しました。これは、有形固定資産の取得による支出が18,304百万円と3,584百万円増加したことなどによるものであります。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

当連結会計年度における財務活動による資金の減少は16,283百万円(前連結会計年度は、財務活動による資金の増加16,998百万円)となりました。これは、前連結会計年度は、長期借入れによる収入20,038百万円(当連結会計年度は、該当なし)があったことに対して、当連結会計年度は長期借入金の返済による支出が12,702百万円増加したことなどによるものであります。

 

(生産、受注及び販売の実績)

(1) 生産実績

当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

生産高(百万円)

前期比(%)

鋼(ハガネ)カンパニー

151,430

4.6

ステンレスカンパニー

40,920

△6.6

鍛(キタエル)カンパニー

124,754

9.2

スマートカンパニー

19,872

△0.7

その他事業

16,765

1.0

合計

353,742

4.2

 

(注) 1 セグメント間取引については、内部振替前の金額によっております。

2 金額は、販売価格によっております。

 

(2) 受注実績

当連結会計年度における受注実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

なお、スマートカンパニー及びその他事業は見込生産を行っているため、記載しておりません。

セグメントの名称

受注高(百万円)

前期比(%)

受注残高(百万円)

前期比(%)

鋼(ハガネ)カンパニー

108,601

4.2

16,777

2.3

ステンレスカンパニー

40,651

△5.5

8,535

△6.7

鍛(キタエル)カンパニー

123,576

3.1

38,021

△1.8

 

(注) セグメント間の内部受注金額は、消去しております。

 

(3) 販売実績

当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

販売高(百万円)

前期比(%)

鋼(ハガネ)カンパニー

108,216

2.4

ステンレスカンパニー

41,259

△2.3

鍛(キタエル)カンパニー

124,262

8.6

スマートカンパニー

19,940

△1.5

その他事業

2,838

13.4

合計

296,516

4.0

 

(注) 1 セグメント間取引については、相殺消去しております。

2 最近2連結会計年度における主な相手先別の販売実績及び総販売実績に対する割合は、次のとおりであります。

相手先

前連結会計年度

(自 2022年4月1日

至 2023年3月31日)

当連結会計年度

(自 2023年4月1日

至 2024年3月31日)

販売高(百万円)

割合(%)

販売高(百万円)

割合(%)

豊田通商㈱

70,124

24.6

80,373

27.1

㈱アイシン

24,476

8.6

27,087

9.1

トヨタ自動車㈱

18,151

6.4

17,209

5.8

 

 

 

(経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容)

経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は以下のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。 

 

(1) 重要な会計方針及び見積り 

当社グループの連結財務諸表は、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」(昭和51年大蔵省令第28号。以下、「連結財務諸表規則」という。)第93条の規定により、IFRSに準拠して作成しております。

当社グループの連結財務諸表で採用する重要な会計方針及び重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記」の「2.作成の基礎 (4)重要な会計上の判断、見積り及び仮定」及び「3.重要性がある会計方針」に記載しております。

 

(2) 当連結会計年度の経営成績

当社グループの当連結会計年度の売上収益は、販売数量は減少したものの、販売価格の値上がりにより、前連結会計年度と比較して4.0%増加し、296,516百万円と過去最高となりました。

セグメント別の売上収益については、鋼(ハガネ)カンパニーは特殊鋼の販売数量は減少したものの、販売価格の値上がりにより、前連結会計年度と比較して2.4%増加、ステンレスカンパニーはステンレス鋼の販売価格は値上がりしたものの、販売数量の減少により、前連結会計年度と比較して2.3%減少、鍛(キタエル)カンパニーは鍛造品の販売数量増加や販売価格の値上がりにより、前連結会計年度と比較して8.6%増加、スマートカンパニーは電子部品の売上収益は増加したものの、磁石の売上収益の減少により、前連結会計年度と比較して1.5%減少しました。

利益につきましては、販売数量は減少したものの、販売価格の値上がりや購入品価格の値下がり、原価低減等が増益要因となり、当連結会計年度の営業利益は10,372百万円となり、前連結会計年度(3,260百万円)に比べ7,112百万円増加しました。税引前利益は10,947百万円となり、前連結会計年度(4,099百万円)に比べ6,848百万円増加しました。親会社の所有者に帰属する当期利益は6,593百万円となり、前連結会計年度(1,610百万円)に比べ4,982百万円増加しました。

 

(3) 資本の財源及び資金の流動性

当連結会計年度末の現金及び現金同等物の期末残高は、前連結会計年度末(47,534百万円)に比べ987百万円減少し、46,546百万円となりました。

これは、営業活動によるキャッシュ・フローが33,817百万円の資金の増加、投資活動によるキャッシュ・フローが18,895百万円の資金の減少、財務活動によるキャッシュ・フローが16,283百万円の資金の減少であったことによるものであります。

当社グループは、中期的には製造設備の合理化や生産能力増強、安定供給のための設備保全に対応するための設備投資を計画的に行っていく予定でありますので、今後も、営業活動及び投資活動によるキャッシュ・フローの状況を睨みながら、必要に応じて外部資金の調達や政策保有株式等の資産の売却を行い資金の流動性を維持するとともに、営業活動によるキャッシュ・フローの増加に努めていく所存であります。

なお、当連結会計年度末の親会社所有者帰属持分比率は56.6%(前連結会計年度末は52.9%)となっており、安定した財務基盤を維持しております。今後も、グローバルで金融機関との良好な関係を維持し、資金流動性と調達力を確保してまいります。

 

(4) 経営方針、経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等

当社グループが目標とする経営指標につきましては、「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載のとおりであります。当連結会計年度の経営成績は2023年度を最終年とした「21-23年度 中期経営計画」の目標としていた経営指標(連結売上収益2,508億円、連結営業利益150億円)に対して、当連結会計年度の売上収益は296,516百万円、営業利益は10,372百万円となっております。想定を超える電動化の進展や中国経済の減速により販売数量が伸び悩んでおりますが、20年度以降のエネルギー等購入品価格の高騰分の販売価格への反映は概ね完了いたしました。今後は、さらなるモノづくり力の向上に励むとともに、お客様や世の中のニーズの変化をいち早く捉え、タイムリーに、良品廉価な製品・サービスを提供していくことで、5月30日に公表いたしました「愛知製鋼グループ 2024-26年度 中期経営計画」の達成を目指してまいります。

 

5 【経営上の重要な契約等】

該当事項はありません。

 

 

6 【研究開発活動】

当社グループは、「つくろう、未来を。つくろう、素材で。」のスローガンの下、「素材業のDNA」を活かした用途・商品開発と展開、スマート社会に向けた次世代事業の着実な育成と強化をめざして、自動車向け特殊鋼及びステンレス鋼の開発、特殊鋼を素材とする自動車部品用鍛造品の開発、電子機能材料・部品及び磁石応用製品の開発等を中心に積極的な研究開発活動を行っております。

主力製品である特殊鋼・鍛造品では、自動車の電動化(HEV、BEV、FCEV)時代の機構革新による、部品機能変化、新規搭載部品、ユニットの更なる小型軽量化、そしてグローバルコスト競争激化に対し、鍛鋼一貫の技術力を活かし、材料設計から部品製造までを見据え、プロセススルーで開発を推進、新素材と既存開発鋼を駆使した高機能・高付加価値部品の提供を目指してまいります。

当連結会計年度の研究開発活動に関する支出は、5,203百万円、研究開発人員は約300名であります。

なお、研究開発活動に係る支出は無形資産に計上された開発資産を含んでおります。

セグメント別の研究の目的、研究の成果及び研究開発活動に関する支出は、次のとおりであります。

 

(1) 鋼(ハガネ)カンパニー

自動車部品用の新しい特殊鋼の開発を行っております。

当連結会計年度の主な成果は次のとおりであります。

鋼材開発では、省資源・低コストを実現した省Mo(モリブデン)鋼「SCrH20」の拡販を推進、更に他の鋼種についても省Mo化を検討しております。また、カーボンニュートラルへ貢献するため、部品の製造工程の省略を実現する鋼材開発や、CO2の発生の少ない環境対応プロセスに対応した鋼材開発を推進しております。

また、電動ユニット部品の小型・軽量化に対応した高強度用鋼の開発や、鍛鋼一貫開発として、鍛(キタエル)カンパニーに関わる革新的な工法開発の競争力をより引き出す材料開発にも注力しております。加えて、次世代モビリティ時代を見据え東北大学との「次世代電動アクスル用素材・プロセス共創研究所」の設立や、当社での電動アクスル開発挑戦で得た設計技術・評価技術を活かし、更なる高強度鋼・高機能鋼の研究開発を推進しております。

鋼(ハガネ)カンパニーに係る研究開発活動に関する支出は1,826百万円であります。

 

(2) ステンレスカンパニー

インフラ関連や自動車部品用のステンレス鋼の開発を行っております。

当連結会計年度の主な成果は次のとおりであります。

ステンレス鋼ではエネルギー/社会インフラの高寿命化に貢献する商品であるステンレス鉄筋バーや二相系ステンレス形鋼の商品レパートリーの拡充、また、ステンレス構造部材ビジネスの拡大や、水素社会に対応する安心安全な省資源・低コストの鋼材開発に取り組んでおります。

特に燃料電池車向けの高圧水素用ステンレス鋼の開発に注力しており、2013年に高圧水素用ステンレス鋼「AUS316L-H2」を開発し、同年より水素ステーション向けに、2014年からはその高強度仕様鋼がトヨタ自動車㈱の燃料電池自動車初代MIRAIに採用されております。2020年には、新たにレアメタルであるMoを使用せず、既存の「AUS316L-H2」と同等の強度と耐水素脆化特性を確保すると共に、省資源化によるコスト低減と、お客様の部品加工性の向上にも大きく寄与する省資源高強度高圧水素用ステンレス鋼「AUS305-H2」を開発し、新型MIRAI向けに供給を開始いたしました。加えて、これら開発鋼の強度やサイズレパートリを拡充し、水素インフラへ供給拡大してきております。

また、これらの開発に必要不可欠な、高圧水素ガス環境下での評価技術の構築にも注力しており、世界で初めて90MPa高圧水素ガス環境における回転曲げ疲労試験装置を開発、試験評価を開始しました。この装置により、長時間を要する疲労試験時間を10分の1以下に短縮することを実現しました。

当社は、1993年より水素社会実現に向けたNEDO事業に継続的に参画しており、2023年度から始まったNEDO事業「競争的な水素サプライチェーン構築に向けた技術開発事業/共通基盤整備に係る技術開発/水素社会構築に向けた鋼材研究開発」にも採択されました。NEDO事業を通して、水素社会実現に向けた基盤構築を進めるとともに、そこで得た確かな技術知見を高圧水素用ステンレス鋼の開発に活かしております。

今後、更にこれまで培った技術知見や開発設備により開発を加速し、水素社会の早期実現に貢献していきます。

ステンレスカンパニーに係る研究開発活動に関する支出は726百万円であります。

 

(3) 鍛(キタエル)カンパニー

自動車部品用の鍛造品製造プロセス開発、製造方法の開発を行っております。

当連結会計年度の主な成果は次のとおりであります。

次世代の電動ユニット車における部品の高機能化・低コスト化ニーズを受け、2017年に導入した研究開発用サーボ式鍛造プレスラインをフルに活用し、革新的な工法開発や、より高度な鍛造製品の開発を推進しております。また、新たな計測技術開発やCAEを用いた成形シミュレーションの精度向上、型設計自動最適化技術の開発などのデジタル技術の活用により、商品力の進化や飛躍的に開発スピードを向上させるためのDXの取り組みも推進しております。更に、熱間鍛造品メーカーから部品完成品メーカーへ進化を目指し、部品の付加価値を向上する設計技術開発、機械加工領域も含めた開発にも取り組んでおります。

特に電動ユニット向けの部品開発に注力しており、鍛造技術と材料技術の融合による鍛鋼一貫の温間鍛造技術の開発でニアネットシェイプと熱処理省略を実現、それにより低コスト化とCO2排出量低減を達成し、2022年に量産を開始し、適用を広げてきております。また、更なる受注拡大に向けて、部品の付加価値向上やコスト競争力向上により、自動車部品のカーボンニュートラルへ貢献する技術開発にも取り組んでおります。

鍛(キタエル)カンパニー に係る研究開発活動に関する支出は549百万円であります。

 

(4) スマートカンパニー

車載電子機器用放熱部品の開発、MIセンサの開発、モータ用磁石の開発など、進化を続けるスマート社会に向けた新しい素材、製品の開発等を行っております。

当連結会計年度の主な成果は次のとおりであります。

MIセンサ開発の分野では、セキュリティ・医療分野に向けたワイドレンジ型MIセンサの技術開発に成功し、2022年6月からサンプル販売を開始しました。微小磁場の高感度な検出と広い測定範囲(ワイドレンジ)を両立する「磁気フィードバック技術」を採用したセンサを展開することにより、強力な磁気を発するMRI検査室周辺での金属検知や、製造ラインでの異物混入検知、磁気式セキュリティゲートなどへの応用の拡大を目指しております。

当社が開発した「磁気マーカシステム」は、2017年から国土交通省、内閣府などと共に様々な場所/環境で実証実験を行い、その性能、信頼性において高い評価を得ており、従来からの公道、公共交通分野では、JR東日本の気仙沼線BRT(※1)にて、2022年12月より柳津駅から陸前横山駅間で実用化された自動運転バスに導入されたほか、中部国際空港島などで更に実証を積み重ね、実用化に向けて着実に進捗させております。2023年度は特に工場敷地内の牽引車の自動走行化について開発を推進し、量産ラインでの実用化を達成し、事業化を開始いたしました。

モータ開発の分野では、2022年2月に、34,000回転/分の小型軽量モータに、小型高減速機を組み合わせ、省資源・小型軽量化に貢献する高速回転・高減速の次世代電動アクスルの技術実証に世界で初めて成功しました。その電動アクスル挑戦で得た要素技術・評価技術を活かし、魅力ある高機能部品・素材の開発・実用化を推進しています。2023年度は世界最軽量の60kWクラスの電動アクスルの設計・試作を完了し、車両搭載し実車走行を達成しました。

また、国公立大学法人や公益財団法人などとイネ科植物が根から分泌する天然の鉄キレート剤(※2)「ムギネ酸」(※3)の化学構造を改良した環境調和型の鉄キレート剤「プロリンデオキシムギネ酸(以下、PDMA)」を開発しました。

全世界の陸地の約3分の1は農耕に適さないとされるアルカリ性不良土壌で占められています。PDMAは世界の食料問題を解決する手段の一つとして今後の実用展開が期待されています。2021年9月には国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)に当社が代表企業機関となる「高活性生分解性キレート鉄肥料の実用化研究」が採択され、国公立大学法人とともにPDMAの低コスト化の研究開発と、作用メカニズムの深堀、海外のアルカリ土壌での実証を進めており、論文や学会発表を積極的に進め、その認知度も上がってきています。

スマートカンパニーに係る研究開発活動に関する支出は2,101百万円であります。

 

※1 Bus Rapid Transitの略。バス専用道等を用いた高速輸送システム。

※2 「キレート」はギリシャ語で「蟹のはさみ」の意。鉄イオンを取り囲んでアルカリ土壌中でも安定に存在させる物質。

※3 植物が分泌する天然の鉄キレート物質。1976年に岩手大学の高城成一博士が「ムギの根から分泌する酸」として発見し、1978年にその化学構造式が竹本常松博士らによって決定され、この名が付けられた。