第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中における将来に関する事項は、本報告書提出日現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1) 経営方針

「素材の可能性を追求し、人と社会の未来を支え続けます」が大同特殊鋼グループの経営理念です。高機能素材を追求するMissionを達成し、人と社会の未来に貢献していくことが当社グループの存在意義(Purpose)であると認識しております。高機能素材の価値を極め、顧客ベネフィットを創造し、サステナブル社会の実現に貢献することで持続的な企業価値の向上を目指してまいります。

 

(2) 経営環境及び対処すべき課題

今後は、米国における関税政策を含む通商政策の変動にともなって様々な影響が想定されます。さらに、米国通商政策に対する中国における対抗措置の動向、国際貿易の不安定化など国際的なサプライチェーンの分断リスクが増大しております。また、各国物価変動にともなう個人消費の変化、企業活動における生産、販売戦略への影響、各国の金利政策、為替変動にともなう影響など世界経済へ様々な影響があると考えられ、不確実性が増加しております。これらに加え、ウクライナ情勢、台湾をめぐる米中対立など地政学リスクも内包した経営環境となっております。

当社の主要需要先である自動車関連の需要は、中国を中心とした日系自動車メーカーのシェアの低迷などを受けて需要が減少しております。また、産業機械関連においても2024年度にかけて緩やかに回復してきましたが、日系メーカーの生産活動水準は低迷しており2025年度にかけて大幅な需要の回復は想定しづらい環境と考えております。半導体製造装置関連需要においても2024年度にかけて一部ユーザーでは在庫調整が進展してきたものの、2025年度後半まで調整が継続するものと考えております。

このような状況の中、コスト面においては、引き続き徹底したコスト削減努力を継続するとともに、労務コストや物価などのコストプッシュに対し価格転嫁を適切に進めることにより適正マージンの確保に努めてまいります。また、ベースとなる鋼材売上数量が低迷する中で、数量変化に応じた生産体制の検討、設備投資案件の厳選など生産数量変化に柔軟に対応するとともに、当社にとって競争力の高い成長市場製品の拡販に取り組んでまいります。

中長期的な視点では、国際情勢が一段と不安定化し不確実性が高まる中、世界経済は低い成長率に留まるものと想定されます。また日本国内における人口減少・少子高齢化の進展、脱炭素社会や循環型社会への転換など、暮らしの中の社会基盤にも大きな変化が起こるものと想定されます。

一方、当社の事業環境においては、自動車における電動化の進展、情報・通信分野におけるAI用途拡大・高度化などを背景とした半導体市場の成長、宇宙など通信衛星開発市場の拡大、世界的な人口増加を背景とした航空需要の増加、再生可能なクリーンエネルギー需要の拡大、高齢化社会の到来にともなう高度医療市場の拡大など産業構造の変化が予想されます。

このように当社を取り巻く外部環境が大きく変化していく中、2024年6月に2026年度までの3ヵ年を計画期間とする2026中期経営計画を公表しました。当社は、この2026中期計画を、2030年の“ありたい姿”「高機能素材の価値を極め、顧客ベネフィットを創造し、サステナブル社会の実現に貢献する」を達成するための変革の時期“トランジション・マネジメント”であると位置づけ、以下の経営方針に沿った行動を全力で推進してまいりたいと考えております。

 

[2026中期計画 経営方針]-トランジション・マネジメント-

社会経済・産業構造の変化を事業好機とし、事業ポートフォリオの変革を遂行し、

新たなビジネス・ドメイン(顧客×提供価値×手段)で持続的な利益成長を実現する

 

<行動方針>

① 事業ポートフォリオの変革

今後の成長市場である半導体関連分野、CASE*(自動車)、クリーンエネルギー分野、航空宇宙分野、医療分野の需要を捕捉するための取り組みを進めてまいります。お客様との密接なコミュニケーションを通じた顧客ニーズの把握、新たな生産技術の開発、市場拡大にともなう需要増加を捕捉するための適時適切な設備投資、海外を含めたサプライチェーンの構築を進めることで、高収益製品を生み出し成長市場に提供していきます。情報・通信分野で成長が期待される半導体関連については高耐食材料開発を進めるとともに、グローバルにサプライチェーンを強化していきます。2024年度には中長期的な市場拡大に対応していくために、知多第2工場に特殊溶解設備の真空アーク再溶解炉の導入を行いました。e-Axle用特殊鋼製品に関しましては、これまでの製造技術に関する知見を活かし、さらに信頼性の高いソリューションを提供してまいります。また、主機、補機、センサー用磁石については、重希土類フリーなど特長ある製品を提供するための戦略的な投資を実施してまいります。クリーンエネルギー分野においては、高温・高圧水素環境下で耐え得る耐水素脆化用鋼の開発、工業炉用水素バーナーの実用化を進めることなどでお客様のニーズに応えてまいります。より一層の拡大が期待される航空宇宙分野における自由鍛造品や医療分野のチタン製品に関し、将来的な需要増加を見据え、戦略的に設備投資を行ってまいります。なお、足元の状況も踏まえ、投資効果については十分に精査を行い、中長期的に企業価値向上が見込める案件への投資を実行し、事業ポートフォリオ変革を進めてまいります。

*CASE:Connected (コネクテッド) Autonomous (自動運転) Shared & Services (シェアリングとサービス) Electric (電動化)

 

② 経営基盤の強靭化

長期的な成長を支える経営基盤の強靭化を進めてまいります。事業基盤においては、製品の高付加価値化、成長市場に向けた新規製品の開発、既存事業の品質向上およびコスト競争力の強化を目的に、ヒト・モノ・カネの経営資源の最適配分を行うことで、生産アロケーションの最適化を進めてまいります。体制面では、2023年度にCQM部を発足しており、品質マネジメントのさらなる強化も進めてまいります。

人的資本に関しましては、事業成長に必要なグローバル人材および高度専門人材の確保、グループを含めた次世代経営人材の育成、さらに高度技術人材およびDX推進人材の育成などにより従業員のスキル向上を図り、労働生産性を高めてまいります。なお、2024年度においてエンゲージメントスコアとして「安心して働ける職場」「働きやすい職場」「働きがいのある職場」の肯定回答率を可視化しました。2024年度調査では肯定回答率は78.5%であり、2026年度に向け80%以上という基準を新しいKPIとして設定しました。これを目指しエンゲージメント向上施策を進めてまいります。

財務基盤としましては、マイナス金利政策の解除など今後の緩やかな金利上昇を背景に借入金利の上昇が想定される中、事業ポートフォリオ変革にともなう設備投資資金、運転資金の増加が見込まれます。一方で、安定的にPBR1倍以上を確保するための資本効率向上も求められ「財務健全性の維持」「資本効率の向上」を両立させる必要があります。これらに対応するため、運転資金、CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)管理強化やROICによる投資判断を導入するなど、財務基盤の強靭化にも取り組んでまいります。なお、2024年11月には、資本効率の向上と経営環境の変化に対応した機動的な資本政策を可能とすること、および株主還元の拡充を図ることを目的とし、自己株式の取得(取得株式数7,398,900株)を実施いたしました。

 

③ ESG経営の高度化

持続的な企業価値向上を目指し、ESG経営を推進するため、「ESG推進統括部」主導のもと、地球環境の保護、社会への責任と貢献、ガバナンスの各種取り組みを強化してまいりました。

今後におきましても、長期的な視点でステークホルダーの期待を上回る「特殊を超える価値」=“Beyond the Special”を創造する企業であり続けるため、自律的なサステナビリティ活動を推進するとともに、サプライチェーンへの展開を進めてまいります。気候変動に関しましては、「2030年でのCO排出量を2013年対比で50%削減、2050年でのカーボンニュートラル実現」に向け、CO排出量の削減を着実に実行しており、2024年度は30%削減を達成いたしました。社会への責任と貢献に関しましては、特に人的資本投資の加速、ダイバーシティの推進、健康経営の推進、ウェルビーイングの追求とエンゲージメント向上などの人的資本戦略を推進してまいります。ガバナンス面としては、政策保有株式に関して、2024年度に6銘柄241億円の売却を行い、みなし保有株式を含めた純資産に対する比率を17.7%まで引き下げました。今後については2026年度までに15%、長期的には10%以下の水準を目指し継続的に縮減を進めてまいります。

 

   <政策保有株式(みなし保有株式を含む)純資産比率>

 

2023年度末

2024年度末

2026

中期計画

2030年

目標

政策保有株式

純資産比率

23.9%

17.7%

15%以下

10%目安

 

   <2026中期経営目標>

   2026年度“めざす姿”

営業利益

ROE

(親会社所有者帰属持分当期利益率)

D/Eレシオ

投資額

(3年累計決裁額)

株主還元

(一過性損益を除く)

600億円以上

9%以上

0.5目安

2024-2026年累計

1,500億円

配当性向

30%以上

 

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

文中における将来に関する事項は、本報告書提出日現在において当社グループが判断したものであります。

 

(サステナビリティ基本方針)

当社グループは「素材の可能性を追求し、人と社会の未来を支え続けます」を経営理念に掲げます。そして当社グループの経営理念に則ったサステナビリティ基本方針に基づき、社会課題の解決と当社グループの永続的な成長の実現に向け事業活動を推進してまいります。

 

「大同特殊鋼グループサステナビリティ基本方針」

 

大同特殊鋼グループは、創業以来「お客様を何よりも大切にする」という精神を受け継ぎ、

モノづくりを通して社会からの要請・期待に応えてきました

 

いま世界は地球環境や社会問題などの課題が山積しています

各企業がその知見、経験を活かしたサステナビリティへの取り組みを進め、

SDGsの達成を目指していく必要があります

 

当社は、社会の声に真摯に向き合い、素材の可能性を切り拓いていくことを

経営理念(Mission)として掲げています

 

サステナビリティへの取り組みが経営理念の実践に繋がり、

社会課題の解決と当社グループの永続的な成長に繋がることを

めざして取り組んでまいります

 

(ESG戦略)

サステナビリティ活動の自律化とグループ展開による企業価値最大化への貢献

 

社内の各部門や各グループ会社でサステナビリティ推進活動が根付き、自律的に課題解決がすすむようになることを目指します。また、サステナビリティ推進活動が当社グループの持続的な成長に繋がることを意識し、企業や従業員の成長課題として着実に推進します。

 

(ガバナンス)

サステナビリティに関する事項を検討・審議する組織としてサステナビリティ委員会を設置しております。当委員会は社長執行役員を委員長とし、ここで審議、決定した事項を取締役会に上程します。サステナビリティ委員会には常勤の取締役(監査等委員である取締役を含む)も出席し、適切な委員会運営がなされていることを監督し、また審議時の意見交換にも参加しています。非常勤の社外取締役(監査等委員を含む)は、取締役会に上程される個別のESG案件の審議、座談会および統合レポート発行前の意見聴取等を通じて監督機能を発揮しています。なお、サステナビリティ委員会の事務局は、ESG推進統括部に置かれております。

 

0102010_001.png

 

 

会議名

役割

取締役会

(議長:代表取締役会長 石黒武)

・サステナビリティ基本方針その他重要事項の決議

・業務執行の監督

サステナビリティ委員会

(委員長:代表取締役社長執行役員

清水哲也)

・サステナビリティ経営の基本方針およびサステナビリティ推進活動の基本計画の策定に関する事項

・全社および各部門、各委員会におけるサステナビリティ推進状況の確認に関する事項

・TCFD(気候変動関連財務情報開示タスクフォース)において要求される気候変動リスク低減に向けた施策に関する事項

・CSR(人権、社会貢献活動、健康経営等)およびこれらに関わるガバナンスに関する全社方針、施策に関する事項

・統合レポートの編集および発行に関する事項

 

2024年度 サステナビリティ委員会開催実績と討議内容

開催日

議題

2024年4月22日

・2024年度ESG予算

・サステナビリティ基本方針改定

2024年6月20日

・気候変動(TCFD)

・人的資本WG活動方針

・健康経営

2024年7月19日

・コーポレート ガバナンス

・ESG情報開示

2024年9月19日

・統合レポート2024

2024年10月23日

・人的資本WG活動報告(DX人材育成、働き方改革)

2024年11月20日

・人的資本WG活動報告(経営理念浸透)

・サステナビリティ教育体系

2024年12月19日

・人的資本WG活動報告(ダイバーシティ、働きがい)

・コーポレート ガバナンス

2025年1月22日

・気候変動(TCFD)

・TNFD(水セキュリティ、生物多様性)

2025年2月18日

・社会貢献

・腐敗防止WG活動報告

2025年3月14日

・人権尊重WG活動報告

・サプライチェーン マネジメント

 

(リスク管理)

当社は、サステナビリティの管理プロセスとして、サステナビリティ委員会において、マテリアリティとそのマテリアリティごとのリスクと機会を特定し、それぞれの進捗管理等を実施しております。サステナビリティ委員会において審議、決定された内容は取締役会に上程され、リスクおよび機会の評価を図っております。

なお、気候変動への取り組みにおいては、シナリオ分析を実施し、気候関連リスクの優先順位付けを行い、影響度の高い事項に注力して対策に取り組んでまいります。また、人的資本経営への取り組みにおいては、関係部門が多く全社横断的な活動が必要であることからサステナビリティ委員会の下部組織として人的資本WGが活動を推進しています。

 

重要なサステナビリティ項目

① 気候変動への取り組み

(戦略)

気候変動が当社に与えるリスク・機会とそのインパクトを把握し、当社の中長期的な戦略のレジリエンスと、さらなる施策の必要性の検討を目的に、2030~2050年についてシナリオ分析を実施しました。シナリオ分析では、国際エネルギー機関(IAEA)や、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)による気候変動シナリオ(1.5℃シナリオおよび4℃シナリオ※)を参照しております。リスク、機会の抽出は幅広く行い、「発生する可能性が高いもの」と「発生したときに影響が大きいもの」の観点から、当社の事業に及ぼす影響が高いリスクと機会を選定し、対策を検討しました。また、今回分析の対象としなかったリスク・機会についても、継続的に注視してまいります。

各リスクと機会への対策を検証した結果、脱炭素に向かう社会変容に対して、中長期経営計画の基本戦略を軸に、今後の成長市場であるCASE(自動車)、クリーンエネルギー分野向けの高機能材料や革新的な環境対応エンジニアリング製品を開発し販売拡大していくことで、企業価値を向上させていくことができると結論付けました。以上より、当社戦略はレジリエンスを有していると評価しました。

 

※1.5℃シナリオ :気温上昇を最低限に抑えるための規制の強化や市場の変化などの対策が取られるシナリオ

 4℃シナリオ :気温上昇の結果、異常気象などの物理的影響が生じるシナリオ

 

TCFDシナリオ分析

 

シナリオ

要因

変化

当社への影響

当社の対策

1.5℃

 

EV化の進展

EV化の進展によるエンジン/排気系部品の需要減少

リスク

0102010_002.png

□内燃機関車(ICE)向けの需要は2030年までは横ばい程度を見込むが、EV化の進展で、2030年以降、大幅な減少が想定される

□今後の成長市場である、CASE(自動車)、半導体関連製品、クリーンエネルギー分野の売上を拡大し、持続的な事業成長を果たす

 

EV化の進展による高機能材料の需要増

機会

0102010_003.png

□EV化の進展で2030年時点ではICE向けの需要の減少を上回る高機能材料の需要が想定される

※e-Axle部材、バッテリー部材、制御系部品などに使用される高強度鋼、磁性材料等

□各製品ニーズに対応した材料開発

□需要増加に対応した生産能力向上

□次世代自動車向けの新製品・新事業の立上げおよび市場参入

GHG排出規制を含む各種規制の強化

再生可能エネルギーの利用による電力コスト増加

 

リスク

0102010_004.png

□再生可能エネルギー使用比率増加により電力コストが増加する

□省エネ、製品歩留向上などによるコスト改善で電力コスト増を吸収

□再生可能エネルギーの自社導入

カーボンプライシング導入

操業コストの増加

リスク

0102010_005.png

□カーボンプライシング導入により操業コストが増加する可能性がある

□CO削減投資と全電力の再生可能エネルギー化によりコスト負担を回避

電炉材の需要増

機会

0102010_006.png

□脱炭素要請の強化や低排出製品の志向の高まりなどを受け、相対的にCO排出量の少ない電炉材の需要増加が見込まれる

□当社開発の先進イノベーション電気炉「STARQ®」から製造した「低CO排出特殊鋼鋼材」を積極拡販

□再生可能エネルギーへのシフトを進め、更なる差別化を促進

□正確なCFP提示による顧客ニーズの取り込み

スクラップ原料の需要増

スクラップ調達コストの増加

リスク

0102010_007.png

□世界的に電炉材ニーズが高まり、高品位スクラップ需要が増加する

□これにより、価格の高騰や調達難の影響が出る可能性がある

□お客様と連携したスクラップ回収スキームの拡大、および低品位スクラップの利用が可能な技術確立により、価格高騰の抑制と必要なスクラップ量の確保

環境対応や新エネルギー関連技術の普及

革新的な環境対応エンジニアリングの需要増

機会

0102010_008.png

□脱炭素に向けて、エネルギー効率の向上に資する投資が増えることで、当社の環境対応エンジニアリングの需要が高まる

□当社ブランド省エネ製品の積極拡販

※STARQ®、DINCS®、モジュールサーモ®、プレミアムSTC®炉 等

□顧客ニーズに合わせたエンジニアリング製品(水素燃焼工業炉等)開発の推進

1.5℃

環境対応や新エネルギー関連技術の普及

水素関連技術・製品の需要増

機会

0102010_009.png

□水素社会の進展により、耐水素脆化用鋼などの高機能材の需要が高まる

※水素ステーション、燃料電池車、水素内燃機関などに使用される高機能材

□各製品ニーズに対応した材料開発

□新規のお客様、市場の開拓

4℃

気象災害の

激甚化

(急性)

お取引先様や生産拠点が被災する事による操業停止リスク

リスク

0102010_010.png

□お取引先様や主要工場が自然災害に見舞われ、操業が停止する可能性が高まる

□お取引先様と連携したリスク管理や適正な在庫確保などのBCP対策を推進

□主要工場は浸水対策を継続実施中

大中小の影響度は、現時点で当社の前提、想定に基づいて評価したものです。

今後、状況に応じて変化するものと捉えており、継続的に評価の見直しを行います。

 大:事業および財務への影響が非常に大きくなることが想定される

 中:事業および財務への影響がやや大きくなることが想定される

 小:事業および財務への影響が軽微であることが想定される

 

(指標及び目標)

大同特殊鋼では、気候関連問題が経営に及ぼす影響を評価・管理するため、温室効果ガス(CO2)の総排出量を指標として削減目標を設定しております。

2021年4月にDaido Carbon Neutral Challengeを公表し、「2013年度対比2030年CO排出量50%削減、2050年カーボンニュートラル実現を目指す」という削減目標を策定しました。

さらに、2026中期経営計画策定の際に、対象範囲を、国内および海外の関連会社を含めた大同特殊鋼グループに拡大しました。グループ一丸となって、CO2排出量削減活動を推進しております。

 

Daido Carbon Neutral Challenge

0102010_011.png

 

0102010_012.png

※集計範囲:大同特殊鋼、および関連会社31社のScope1+Scope2(エネルギー起源)

※電力排出係数:(国内)電気事業者・メニュー別調整後排出係数 を使用

(海外)IDEA Ver.3.4 (2024/04/30) 国立研究開発法人 産業技術総合研究所 安全科

学研究部門 IDEAラボ を使用

※2024年度排出量実績は第三者検証対象項目です

 

② 人的資本経営への取り組み

当社グループは経営理念である“素材の可能性を追求し、人と社会の未来を支え続けます”を実現する人材像として、5つの行動指針を定めております。

 

<行動指針>

〔高い志を持つ〕   時代の先を読み、パイオニア精神を持つ

プロフェッショナルとして、自身のミッションに最後まで取り組む

〔誠実に行動する〕  相手の立場で考え、多様な価値観と存在を認め合う

ステークホルダーの期待に応える

〔自ら成長する〕   常に成長を意識して仕事に取り組む

進んで経験を重ね自分を磨く

〔チームの力を活かす〕組織を超えてグループの知恵を結集する

スピード感をもち、協力してやり遂げる

〔挑戦し続ける〕   自由な発想で時代を切り開く

失敗を恐れず困難に立ち向かう

 

この5つの行動指針は創業からの歴史を振り返り、当社グループの強み(Core competence)を生み出してきた人材の行動様式を端的にまとめたもので、我々にとってサステナブルな人的資本の姿であると考えております。当社の事業は素材の可能性を追求し、人と社会の未来を支え続けることを使命としており、それを体現できる人材の育成が不可欠です。これらの行動指針を体現し事業戦略を推進する人材およびその人材を育む職場環境を実現するために、3つの人材マテリアリティを特定いたしました。

 

1.自律エキスパート※人材の獲得

2.共創スタッフ人材の獲得

3.DE&Iが浸透した職場の実現

※エキスパート:当社では現業系従業員を「エキスパート」と定義しています。

 

そして、以下の人的資本戦略に沿って、人材の採用・育成・制度設計、および人材(マインドセット)、働きがい、働く環境の向上に向けた取り組みを推進していきます。

 

0102010_013.png

 

当社グループでは、事業戦略を共有しグループ一体となった経営を実施しております。また、人材育成や社内環境整備などの人的資本についての活動においては、グループ各社の業態が多岐に渡るため、各社がそれぞれの特性に応じた取り組みを策定、実施しております。以降は当社の取り組み、指標および目標について記載しております。

 

a.事業戦略を推進する人材の育成・確保に向けた取り組み

("自律"エキスパート人材の獲得)

当社の高品質な素材を安定して生産しつづける力の源泉は、高いスキルをもった信頼性の高いエキスパート人材(製造現場人材)です。当社は入社後約1年間の初期教育ならびに階層別教育を実施しています。初期教育は、1952年に設立した入社採用者向け教育施設である「大同特殊鋼技術学園」にて特殊鋼製造のエキスパートとしての知識・技術の基礎を身に付けるとともに、社会人・企業人としての心構え、自立した生活の支援を行っております。そして職務遂行能力別に階層別教育を実施し、製造現場のモノづくり力強化を図っております。

 

("共創"スタッフ人材の獲得)

管理部門および営業・製造技術・開発部門においては、海外での新市場・新顧客開拓を遂行できる人材や、これまでの事業分野とは異なる専門性をもつ人材の育成(リスキリング)・確保に向けた施策を検討・推進するとともに、業務改革を推進できるDXリーダーの育成を目的とした選抜育成カリキュラムを策定中です。

また、従業員を対象とした独自のe-ラーニングシステム「Star-D」を活用し、グループ企業理念、コンプライアンス、DE&I、人権他、ESGに関する各種教育を実施しています。作成コンテンツは随時追加しており、グループ各社へも展開しています。

 

Star-D コンテンツ内容(抜粋)

項目

コンテンツ

経営理念

Purpose & Mission (グループ経営理念)

コンプライアンス

コンプライアンス、社長メッセージ、大同特殊鋼グループ行動基準、内部統制、重要法規

DE&I、人権

人権の尊重、ハラスメント、LGBT、育児休業

安全、健康

毒物・劇物の適正管理、メンタルヘルス

 

指標

実績(2023年度)

実績(2024年度)

従業員一人当たり研修受講時間(当社)

37.8時間

37.0時間

従業員一人当たり研修費用(当社)

64千円

66千円

 

b. DE&Iが浸透した職場の実現に向けた取り組み

(ダイバーシティへの取り組み)

当社では2014年にダイバーシティ推進プロジェクトを発足し、<ダイバーシティ推進3Step>としてStep1〔多様性の理解・受容〕、Step2〔多様性の活用・促進〕、Step3〔多様性による創造性の発揮〕を定め、これまで段階を踏みながら活動してまいりました。現在はStep2〔多様性の活用・促進〕の段階であり、人事部内のダイバーシティ推進室を中心に活動を推進しております。

具体的には、多様な人材が活躍できる風土形成と、多様性を活かした個人、組織成果の最大化、心身の健全化を図り、環境変化対応力に優れ、持続的に成長する企業となるための基盤構築を推進しております。女性活躍推進の取り組みとして、キャリア形成支援を目的に、中堅層にキャリア面談の実施やマインドセット研修を行い、働きがいを自ら生み出すマインドを育てる取り組みを継続しております。今後は女性に留まることなく、社員一人ひとりが「いきいきと働くことができる会社」を目指し、ダイバーシティ経営実現のための基盤構築に取り組んでいきます。なお、女性管理職については、2030年には2021年対比人数を倍増(15人から30人)させる目標を定め、環境整備等に取り組んでいます。

指標

目標(2030年度

実績(2024年度)

女性従業員の10年定着率

80

66.7

次世代管理職(係長級)の女性従業員人数・比率

35(17%)

27人(11.1%)

女性管理職人数・比率

30(4.4%)

19人(2.7%)

 

(働き方改革への取り組み)

生産年齢人口の減少や働くニーズの多様化など、『働く姿』を取り巻く環境は大きく変化しています。当社においても、生産性向上を図るための「価値を生み出す時間の創出」支援と、従業員がその能力を自律的に発揮できる「働きがいを感じられる職場づくり」の実現を目的に、多様で柔軟な働き方の選択を可能とする取り組みを推進しております。そして、コミュニケーションの活性化による心理的安全性のある職場づくりを目的に「明日も行きたくなる会社を作ろうプロジェクト」活動を通じて職制や階層、職場毎へのアプローチ等を行い、対話を促進する取り組みを行っています。2024年度からは当プロジェクトの活動を基に「職場活性化」に向けた取り組みへと段階を進め、更なる「働きがいを感じられる職場づくり」の実現を目指し「明日も行きたくなる会社を作ろうプロジェクトpartⅡ」活動を開始しました。また、2024年度においてエンゲージメントスコアとして「安心して働ける職場」「働きやすい職場」「働きがいのある職場」の肯定回答率を可視化し、2026年度に向け80%以上という基準を新しいKPIとして設定しました。これを目指しエンゲージメント向上施策を進めてまいります。

 

指標

目標(2026年度

実績(2024年度)

エンゲージメントスコア*

80

78.5

*「安心して働ける職場」「働きやすい職場」「働きがいのある職場」の肯定回答率

 

 

指標

実績(2023年度)

実績(2024年度)

1人当たり有給休暇取得平均日数

13.5日

13.8

育児休業取得率(男性)

36.4%

45.1

育児休業取得率(女性)

100%

100

 

(安全・健康への取り組み)

当社は「安全と健康は幸せの原点であり企業経営の基盤である」という基本理念を掲げ、労働災害の撲滅と健康経営の推進に取り組んでおります。従業員が安心して働くことができる職場づくりと、一人ひとりが心身とも将来にわたって健康であり続けることは、人的資本経営の骨格です。当社では社長を頂点とした安全健康管理体制を整備し、専門組織である安全健康推進部を主体にグループ一体となった活動を継続しております。取り組みの一例として各生産職場に安全教育に精通したエキスパートを「安全伝道師」として配置し、若年層や経験値の浅いメンバーへの現地指導、危険感受性の向上を図っております。また健康経営としては、メンタルヘルス・フィジカルヘルス向上のための4本柱〔感染予防/疾病予防、フィジカル、受動喫煙防止対策、メンタル〕をキーワードに取り組んでおり、最終目標として「心身活力を持って業務に取り組めている評価割合(※)50%以上」を目標に活動しております。

これらの活動が評価され経済産業省と日本健康会議が実施する健康経営優良法人認定制度において2018年度から8年連続「健康経営優良法人」認定されました(2025年は「健康優良法人」上位認定である「健康経営優良法人(ホワイト500)」(2年連続、通算6度目)。

 ※健康診断時の問診表回答より評価割合は測定します

指標

目標(2030年度

実績(2024年度)

休業度数率(労働災害の発生頻度についての指標)

0.20

0.38

有所見率(健康診断を受けた者のうち所見があった者の割合)

55

69

「心身活力を持って業務に取り組めている」評価割合

50

46

 

3【事業等のリスク】

当社グループの経営成績および財務状況等に影響を及ぼす可能性のあるリスクを、以下の表にて発生の可能性や時期、影響の大きさの観点から重要性が高いと判断している項目順に記載しております。ただし、すべてのリスクを網羅したものではなく、現時点では予見できない、または重要とは見なされていないリスクの影響を将来的に受ける可能性があります。

なお、文中における将来に関する事項は、本報告書提出日現在において当社グループが判断したものであります。

 

項目

リスクの内容

主要な取り組み

(1) 事業環境の動向

発生可能性:高

影響度:大

 

・国内外の景気悪化、公共投資・民間設備投資の抑制、個人消費の低迷、特に当社グループの主要需要業界である自動車メーカーの減産、電動化の進展加速、当社グループの価格交渉力低下による経営成績および財政状態への影響

・需要環境の構造的変化による事業用資産の減損および戦略的投資を行った事業の計画未達に伴う固定資産の減損

・戦争、紛争を含む政情不安、金融政策の転換等に伴う金融不安、為替の急速な変動、貿易相手国の過度な通商政策、感染症の蔓延、自然災害等による上記リスクの顕在化、および当社グループに与える影響の拡大

・経営企画部門による経済環境のモニタリング、事業計画の審査

・競合に対する差別化、技術の向上

・経営会議・技術投資検討会を通じた経営戦略、投資の妥当性の審議および収益獲得に向けたフォローアップ

・外部環境変化を見据えた新規製品事業の強化

(2) 自然災害

発生可能性:中

影響度:大

 

・南海トラフ巨大地震や気候変動に伴う大規模洪水等の自然災害による知多工場、星崎工場の操業への甚大な影響

・人命保護を最優先とし建物の耐震補強や津波避難場所の確保等防災対策

・大規模停電等による爆発等、二次被害の防止

・被災時の生産復旧を円滑にするための設備投資の検討実施

(3) 設備事故・労働災害

発生可能性:中

影響度:大

 

・特殊鋼関連を主とする大規模主要設備の、過酷な環境下での操業による重大な設備事故や労働災害の発生

・製造現場を中心とした自主的なリスク抽出と設備本質改善の継続

・作業中の変化点管理指針の明確化による「止める・呼ぶ・待つ」感性のスキル化

・転倒災害対策の推進(体力維持活動、環境改善、安全用品)

・安全研修会等により他社改善事例を社内へ展開

(4) 環境規制・カーボンニュートラル

発生可能性:中

影響度:大

 

・環境保全に対する法規制の強化・厳格化に伴う対応のための事業活動の制約、費用の発生

・当社渋川工場の鉄鋼スラグ製品および直下の土壌からの環境基準を超えるふっ素等の検出によって、追加的な対策が必要となった場合の、応分の費用負担発生

・CO削減対策費用の増大、再生可能エネルギー調達コストの上昇

・社会貢献も含めた環境配慮の経営への取り組み

・当社グループの事業活動に関連する各種法規制の洗い出し、および遵守状況のモニタリング

・国や群馬県をはじめとした各自治体および民間との協議の上、調査および措置を継続

・継続的な省エネ、コスト改善の実行

(5) 人材

発生可能性:高

影響度:中

 

・少子高齢化等による必要な人材の確保、育成の未達

・各種ハラスメント防止やダイバーシティへの対応が不十分だった場合の人権侵害および人材定着率の低下

・通年採用、キャリア採用の拡充

・階層別・専門教育の拡充

・働きがいのある職場づくり

・人権デューデリジェンス体制の整備および実施

(6) 原料、エネルギーの価格変動および安定調達

発生可能性:中

影響度:中

 

・価格の変動(鉄スクラップ、合金鉄、レアアース、電極や耐火物、電力、LNG等)

・需給バランスの崩れによる調達の不安定化、電力使用制限の発生に伴う生産活動への支障

・ロシア・ウクライナ情勢長期化による一部品目の価格高騰、供給懸念

・製品価格転嫁の推進

・製品価格の原材料サーチャージ制の実施

・調達ソースの複数化、数量に柔軟性を持たせた契約の締結

・調達先との密な情報交換

・電力に関する契約の交渉・更改

(7) 法令・規範の変更

発生可能性:中

影響度:中

 

・労働、安全衛生、カルテル、輸出管理、個人情報保護、その他事業活動に関連する法令・規範の変更や社会の諸要求の厳格化による課徴金や行政処分の発生

・法令その他の社会的規範の遵守、変更や厳格化への速やかな対応、公正で健全な企業活動の展開

・法的要求事項等で違反認定された事例の水平展開

・e-ラーニングシステムのさらなる有効活用

(8) IT環境・情報セキュリティ

発生可能性:中

影響度:中

 

・不正アクセスによる情報漏洩

・デジタル技術革新への対応遅延による競争力の低下

・基幹システムの肥大化およびブラックボックス化によるシステムトラブルの発生

・サイバーセキュリティ体制の強化

・IT技術とデータの利活用推進

・レガシーシステム整備に向けた課題抽出と中長期方針策定

・情報管理強化に向けた組織横断的ワーキンググループ

・CSIRT運用の開始

(9) 海外事業展開

発生可能性:中

影響度:中

 

・海外における政治経済状況の混乱、法令、規制等の予期せぬ変更

・その他の社会的混乱等に起因する事業活動への弊害

・現地情報のタイムリーな収集、関連グループを含めた迅速な情報共有

・駐在員管理強化

・海外法規の調査

・e-ラーニングシステムの海外展開

(10)関係会社のガバナンス

発生可能性:中

影響度:中

 

・関係会社における各種の不正行為や不適切な会計処理等の発生

・内部統制、重要法規の教育および本社監査部門による監査の実施

・関係会社各社監査役の会合、教育を通じた監査役監査の充実

・内部統制、リスクマネジメント等のグループ内啓蒙活動

・e-ラーニングシステムのさらなる有効活用

(11)製品品質保証・製造物責任のリスク

発生可能性:中

影響度:中

 

・大規模な製造物責任賠償やリコールによる多額の費用発生や社会的な信用低下

・検査データの不正による顧客への補償および売上減少による業績、財政状態への悪影響

・品質安定化の追求、厳格な検査・保証管理体制構築、損害保険加入等

・当社グループの品質保証に特化した部の設立

(12)金融商品の価値変動

発生可能性:低

影響度:中

 

・投資先の業績不振、証券市場における市況の悪化による投資有価証券の価格下落

・資産圧縮によるリスク低減

 

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

当連結会計年度における当社グループ(当社、連結子会社及び持分法適用会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)の状況の概要並びに経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。

文中における将来に関する事項は、本報告書提出日現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1) 経営成績

 当連結会計年度のわが国経済における景気は、緩やかに回復してきました。個人消費は、雇用・所得環境の改善の動きが続く中で持ち直しの動きがみられています。また、企業の設備投資も回復傾向にあります。一方で足元では、米国の通商政策の動向など不透明感がみられます。通商政策による影響の広がりから、景気動向の下振れリスク、物価動向、為替水準、各国による金融政策などの変動影響を注視していく必要があります。

 当社グループの当連結会計年度の経営成績は、次のとおりであります。

(単位:百万円、%)

 

売上収益

営業利益

調整後営業利益

税引前利益

親会社の所有者に

帰属する当期利益

当期

574,945

39,408

43,953

42,653

28,314

前期

578,564

42,250

40,448

45,068

30,555

前期差

(増減率)

-3,618

(-0.6%)

-2,842

(-6.7%)

3,505

(8.7%)

-2,414

(-5.4%)

-2,241

(-7.3%)

(注)調整後営業利益は、営業利益から、特別損益に該当する項目、為替差損益、在庫評価損益、環境費用引当、固定資産税(平準化)、有給休暇引当を調整し算出しております。

 

 当連結会計年度の売上収益は、主要需要先である自動車関連の受注減少などにより、前期比36億18百万円減収の5,749億45百万円となりました。なお、売上収益の詳細はセグメントごとの経営成績をご覧ください。

 主要原材料である鉄屑価格は、価格水準としては高位であるものの第2四半期以降は弱含んで推移しました。また、ニッケル価格は、下期にかけて緩やかに低下しました。原油・LNG市況は引き続き高値で推移したことにより、電力などのエネルギーコストは高位で推移しました。全般的に原燃料価格は高位であり、徹底したコスト削減および販売価格への反映に継続して取り組み、適正マージン確保に努めております。なお、当連結会計年度において、清算手続き中の中国磁石子会社で発生した21億93百万円の追加費用を営業利益に含めて計上しております。

 この結果、前期にイオンモール熱田の転借地権付建物信託受益権の売却益72億30百万円を計上したこともあり、営業利益は、前期比28億42百万円減益の394億8百万円、税引前利益は前期比24億14百万円減益の426億53百万円、親会社の所有者に帰属する当期利益は前期比22億41百万円減益の283億14百万円となりました。

 

セグメントごとの経営成績は、次のとおりであります。

(単位:百万円、%)

 

売上収益

営業利益

前期

当期

前期差

(増減率)

前期

当期

前期差

特殊鋼鋼材

218,743

210,162

-8,581

(-3.9%)

13,724

12,088

-1,635

機能材料・

磁性材料

202,384

200,863

-1,520

(-0.8%)

10,275

11,028

753

自動車部品・

産業機械部品

104,996

113,031

8,034

(7.7%)

5,719

11,337

5,618

エンジニアリング

23,091

24,067

975

(4.2%)

2,136

2,201

64

流通・サービス

29,347

26,820

-2,526

(-8.6%)

10,369

2,770

-7,599

 

特殊鋼鋼材

 構造用鋼においては、中国などにおける日系自動車販売不振の影響で需要が減少したこと、また産業機械関連の需要も低調であったことにより数量が減少しました。また、工具鋼に関しても自動車関連の需要低迷を受け数量は減少しました。この結果、当セグメントは前期比で減収減益となりました。

 

機能材料・磁性材料

 ステンレス鋼は、産業機械関連の需要回復に一部足踏みの動きがみられますが、データセンター用のHDD(ハードディスクドライブ)向け需要が上期に増加したこともあり、数量は増加しました。高合金は電機・電子関連の需要が回復したことにより、数量が増加しました。磁石製品は産業機械関連などの需要減少に加え中国磁石子会社清算により、売上収益は減少しました。チタン製品は、医療関連など足元で一部在庫調整はあるものの原料市況や円安の影響もあり、売上収益は増加しました。この結果、当セグメントの売上収益はニッケル市況が弱含んで推移したことなどにより前期比で減収となりましたが、営業利益は前期比で増益となりました。

 

自動車部品・産業機械部品

 エンジンバルブ部品は北米などにおける需要増加を受け、売上収益は増加しました。精密鋳造品はターボ関連の需要が増加しました。型鍛造品は自動車およびトラック関連の需要減少などにより、数量は減少しました。自由鍛造品は、航空機関連および重電関連の需要が堅調に推移したことに加え、掘削関連の製造認定取得が進んだことで受注が増加し、売上収益は増加しました。この結果、当セグメントの売上収益は前期比で増収、営業利益は大幅な増益となりました。

 

エンジニアリング

 鉄鋼用溶解設備の売上が増加したことなどにより、当セグメントは前期比で増収増益となりました。

 

当社グループが目標とする経営指標につきましては、「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載のとおりであります。2026年度の当該指標の達成を目指し、行動方針として掲げた①事業ポートフォリオの変革、②経営基盤の強靭化、③ESG経営の高度化を推進してまいります。

 

生産、受注及び販売の実績は、次のとおりであります。

 

① 生産実績

当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

 

セグメントの名称

金額(百万円)

前期比(%)

 

特殊鋼鋼材

209,922

△4.0

 

機能材料・磁性材料

201,655

+0.2

 

自動車部品・産業機械部品

113,967

+7.7

 

エンジニアリング

24,067

+4.2

 

合計

549,613

+0.2

(注)金額は販売価格によっており、セグメント間の取引については相殺消去しております。

 

② 受注状況

当社グループ(当社および当社の連結子会社)の受注・販売形態は、素材供給等のグループ間取引が多岐にわたり、また受注生産形態をとらない製品もあるため、セグメントごとに受注規模を金額あるいは重量で示すことは行っておりません。

 

③ 販売実績

当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

金額(百万円)

前期比(%)

特殊鋼鋼材

210,162

△3.9

機能材料・磁性材料

200,863

△0.8

自動車部品・産業機械部品

113,031

+7.7

エンジニアリング

24,067

+4.2

流通・サービス

26,820

△8.6

合計

574,945

△0.6

(注)1 セグメント間の取引については相殺消去しております。

2 主な相手別の販売実績は、総販売実績に対する販売割合が100分の10以上の相手先がないため、記載を省略しております。

 

(2) 財政状態

 当社グループの当連結会計年度末の資産合計は、前期末に比べ57億59百万円減少し7,829億74百万円となりました。資産合計の増減の主な内訳は、有形固定資産の増加144億38百万円、その他の金融資産(非流動資産)の減少272億45百万円であります。

 資産合計の増減の主な要因は、下記のとおりであります。

・有形固定資産は、自動車部品・産業機械部品事業および機能材料・磁性材料事業を中心とした成長分野への戦略設備投資等を推進したことにより増加しております。

・その他の金融資産(非流動資産)は、政策保有株式の縮減のため、株式の売却等を行ったことにより減少しております。

 なお、現金及び現金同等物が増加、営業債権及びその他の債権が減少しているのは、主として前連結会計年度において期末日が金融機関の休日であった影響によります。

 また、当社グループの当連結会計年度末の非支配持分を含めた資本は、前期末に比べ118億30百万円増加し4,691億44百万円となりました。資本の増減の主な内訳は、利益剰余金の増加206億45百万円、自己株式の増加84億4百万円であります。

 資本の増減の主な要因は、下記のとおりであります。

・親会社の所有者に帰属する当期利益283億14百万円の計上等により利益剰余金は増加しております。

・資本効率の向上と経営環境の変化に対応した機動的な資本政策を可能とすること、および株主還元の拡充を図ることを目的とし、自己株式を取得したことにより、自己株式が増加しております。

 この結果、当連結会計年度末の親会社所有者帰属持分比率は54.8%となりました。

 

(3) キャッシュ・フロー

 当連結会計年度末の現金及び現金同等物(以下「資金」という)は、前期末に比べ152億10百万円増加し、612億18百万円となりました。

 当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりであります。

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

 営業活動の結果得られた資金は、535億16百万円(前期は502億39百万円の資金の増加)となりました。増加の主な内訳は、税引前利益426億53百万円、営業債権及びその他の債権の減少235億78百万円であり、減少の主な内訳は、法人所得税の支払額254億円であります。

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

 投資活動の結果使用した資金は、155億86百万円(前期は136億18百万円の資金の増加)となりました。支出の主な内訳は、有形固定資産、無形資産及び投資不動産の取得による支出416億46百万円であります。収入の主な内訳は、資本性金融商品の売却による収入242億3百万円であります。

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

 財務活動の結果使用した資金は、227億15百万円(前期は764億84百万円の資金の減少)となりました。支出の主な内訳は、借入金の返済による支出308億33百万円、配当金の支払額100億33百万円であります。収入の主な内訳は、借入れによる収入180億90百万円であります。

 

当社グループでは、原燃料価格の高位継続、労務コストの上昇、高付加価値品の拡大等により運転資金が高止まりしていることから、コスト上昇に応じた販売価格の改定を進めるとともに、生産リードタイム短縮による棚卸資産の削減や原価低減活動、固定費等の圧縮を推し進め、安定的なキャッシュ・フローを創出するよう事業活動を続けてまいります。設備投資資金は長期借入金や社債により、運転資金は短期借入金により安定的に調達することを基本方針としております。また、手元流動性の適正レベルは時々の環境を考慮し、弾力的に運営してまいります。

 

(4) 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

当社グループの連結財務諸表は、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」(以下「連結財務諸表規則」という。)第312条の規定によりIFRS会計基準に準拠して作成しております。この連結財務諸表の作成に当たって、必要と思われる見積りは、合理的な基準に基づいて実施しております。

当社グループの連結財務諸表で採用する重要性がある会計方針、会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記 3.重要性がある会計方針 4.重要な会計上の判断、見積りおよび仮定」に記載しております。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

5【重要な契約等】

(1) 技術援助等を与えている契約

契約会社名

相手方の名称

国名

契約内容

契約締結日

契約期間

大同特殊鋼㈱

(当社)

Metallus Inc.

米国

特殊鋼製造・供給に関する協業テーマの推進

2007年1月16日

2007年1月16日から

2028年1月16日まで

 

(2) 日本高周波鋼業株式会社の全株式の取得

当社は、2025年5月12日付けで、株式会社神戸製鋼所(以下「神戸製鋼所」といいます。)との間で、日本高周波鋼業株式会社の発行済株式の全て(自己株式を除く)を、神戸製鋼所から取得する旨の契約を締結しました。

詳細は、連結財務諸表における「注記39.後発事象」に記載のとおりであります。

 

6【研究開発活動】

当社グループは特殊鋼をベースにした高い技術力を背景に「素材の可能性を追求し、人と社会の未来を支え続けます」を経営理念とし、「新製品・新事業の拡大」「既存事業の基盤強化」のため、積極的な研究開発活動を行っております。現在、当社「技術開発研究所」を中心に、新製品、新材料、新技術の研究開発を推進しており、研究開発スタッフはグループ全体で294名であります。

当連結会計年度におけるグループ全体の研究開発費は6,596百万円であり、各セグメント別の研究の目的、主要な研究成果および研究開発費は次のとおりであります。

 

(1) 特殊鋼鋼材

主に当社が中心となり、自動車用構造材料、工具鋼などの素材開発および溶製から製品品質保証までプロセス革新等の研究開発を行っております。当事業に係る研究開発費の総額は1,614百万円であり、当連結会計年度の主な成果は次のとおりであります。

・溶解・鍛造プロセス一貫評価による工具鋼のザク圧着予測

特殊鋼の製造プロセスでは、鋳造中に溶鋼の凝固収縮によって空隙状の欠陥(以下、ザク)が鋼塊内に生成されます。ザクの残留は製品特性へ影響を及ぼすため、後の鍛造・圧延工程で完全に圧着される必要がありますが、その最適条件は、最終製品形状や鋼塊寸法によって制限されるため、鋳込み条件や鋳型形状など鋳造の工程設計からザク圧着の鍛造条件までプロセス一貫で決定することが求められます。当社は、溶解から鍛造工程まで工程全体を通じてプロセスを最適化するシミュレーション技術を開発いたしました。本技術は、第74回塑性加工連合講演会で「優秀論文講演奨励賞」、第159回圧延理論部会で「優秀賞」を受賞するなど、学会関係者からも高く評価されています。今後は、開発した技術を実機製造ラインへ適用し、工具鋼の高品質化に繋げてまいります。

・自動車部品向け構造用鋼の熱処理異常組織予測技術の開発

歯車を始めとする自動車部品製造時のCO2排出抑制として、熱間鍛造から冷間鍛造への変更、表面硬化処理時間短縮を狙った熱処理温度高温化が志向されています。その際の課題として、寸法精度悪化や疲労強度低下を引き起こす異常組織形成(オーステナイト異常粒成長)が課題として挙げられます。当社では、その予測精度および計算時間の面でバランスが良いシミュレーション手法(セルラーオートマトン法)を活用した予測技術を名古屋大学と共同で開発いたしました。今後は、工業的な活用に向け、引き続き精度向上を図ってまいります。

・水素脆化を活用した特殊鋼鋼材清浄度評価方法の開発

特殊鋼鋼材には極僅かな非金属介在物が不可避で存在し、部品に必要な疲労寿命に悪影響を及ぼす場合があるため、非金属介在物の存在状態を正確に把握する必要があります。その把握手法について、種々の手法が開発されておりますが、評価可能な領域が限られることや、評価対象となる部位が限定されることから、正確な評価が困難であるという課題がありました。そこで当社では、この課題を解決するため、一般的な製品使用において悪影響とされる水素脆化現象を有効活用することで、特殊鋼鋼材中の非金属介在物を従来の手法よりも高精度かつ効率的に評価する方法を開発いたしました。本評価手法を活用した鋼材製造技術開発を通じて、お客様の最適部品設計に貢献してまいります。

 

(2) 機能材料・磁性材料

主に当社が中心となり、耐食・耐熱材料、高級帯鋼、接合材料、電磁材料等の素材開発および電子デバイスの研究開発を行っております。当事業に係る研究開発費の総額は3,498百万円であり、当連結会計年度の主な成果は次のとおりであります。

・耐水素環境材料の開発

近年、カーボンニュートラルの実現に向けて、自動車や発電等のさまざまな分野で水素エネルギー利用が検討されています。水素はしばしば金属材料の特性を劣化させてしまうため、水素雰囲気に曝露される部品には水素に強い耐水素材料が必要であり、当社の高Ni当量SUS316やSUH660は耐水素脆化鋼として利用されていますが、普及拡大に向けて、耐水素脆化鋼にはコスト低減や強度等の特性向上が求められています。当社では、導入した高圧水素ガス雰囲気材料試験機を活用して耐水素脆化特性に優れる材料を開発しユーザー様にて高圧水素環境部品への適用評価中です。また、当社の規格標準化活動の中で、耐水素脆化特性に優れるDSN9と呼ぶ当社ブランド鋼(ニッケル添加系ステンレス鋼)を、世界的に幅広い分野で使用されるASTM規格*へ登録いたしました。幅広いお客様にご使用いただけることが期待されます。

*ASTM規格:世界最大級の民間規格制定機関である米国試験材料協会が策定している規格

・電磁鋼板を上回る飽和磁束密度をもつモータコア用軟磁性材

近年、電気自動車やドローンをはじめとした新しい形態の移動装置の普及に伴い、従来よりも出力が大きく、また小型化されたモータの需要が高まっています。これらを達成するために、コア材として、従来の電磁鋼板よりも高い飽和磁束密度を有する軟磁性材料が求められています。一方、最も飽和磁束密度が高い軟磁性材料であるパーメンジュールは加工性が悪く、高価であることが課題でした。そこで当社は、電磁鋼板に比べて高い飽和磁束密度を保有し、かつ加工性に優れる材料を開発いたしました。この材料をモータコアに適用することで、モータの小型化・高出力化と加工コスト低減に貢献します。また一部のモータメーカーで、この材料を適用したモータコアの実機試作が進んでおります。

・半導体製造装置向け材料の開発

AIやIoTの発展とともに半導体市場は成長を続けており、半導体製造装置市場も堅調な成長が見込まれます。半導体製造工程における電子回路のエッチングや化学蒸着(CVD)工程では塩素やフッ素などを含む腐食性ガスが使用され、また、材料の不純物はコンタミとなり半導体の歩留を悪化させますが、当社の高清浄SUS316L鋼「クリーンスター」は特殊な製造プロセスで不純物を低減させているため、半導体製造装置で多く使用されています。今後も半導体市場の成長に伴い、回路の精細化や腐食条件の一層の過酷化が予想され、より耐食性に優れる材料の需要が拡大すると見込まれます。こうした市場の動向を踏まえ、当社は半導体製造装置向け材料の耐ガス腐食特性を評価するため、高温ガス腐食試験装置を導入いたしました。本装置により、エッチング装置やCVD装置における腐食ガス環境を再現し、実環境に近い環境下で材料の耐ガス腐食特性を評価することが可能です。当社は本装置を活用し、耐食性に優れる新しい材料の開発を通じて、半導体市場の拡大に貢献してまいります。

・極異方性磁石を用いた自動車駆動用高速・大出力モータに関する研究

当社では、熱間加工磁石のネットシェイプ技術を活用し、磁石を構成する結晶粒の配向を制御することで効率的に磁力を活用できる極異方性磁石の開発を推進しております。その極異方性磁石の付加価値を創出するため、自動車駆動用モータの次世代ニーズ、具体的には高速・大出力モータに対応するべく、大学との共同研究において極異方性磁石を用いたモータ設計を検討いたしました。モータの高速回転時に課題となるロータの機械強度確保と渦電流損の低減に取り組み、高速回転に適したモータ構造を提案しております。今後は、開発中の極異方性磁石およびモータの試作と性能評価を進めるとともに、モータメーカーに対して極異方性磁石と本検討モータの提案を進めてまいります。

 

(3) 自動車部品・産業機械部品

主に当社が中心となり、ターボチャージャーやエンジンバルブ等の自動車部品および各種産業機械部品の研究開発を行っております。当事業に係る研究開発費の総額は1,214百万円であり、当連結会計年度の主な成果は次のとおりであります。

・Ni基超合金における結晶粒径予測の高度化

近年、オイル&ガス、航空機向けのNi基超合金の需要は旺盛で、今後も増加が見込まれています。Ni基超合金は製品の特性上、厳しい耐熱・耐食環境下で使用されますが、材料特性を発揮するためには結晶粒径をはじめとした組織制御技術が重要となります。そのため、当社では塑性加工シミュレーションを用いた結晶粒径の予測技術を開発し、品質向上に取り組んでまいりました。直近では、更なる予測手法の高度化を目指し、結晶粒径分布を考慮した予測技術の開発を進めております。また、データベースを取得するための粒径分布の定量化には、効率的に結果が得られるよう機械学習と画像処理技術を組み合わせた独自の計測システムも開発いたしました。今後は、開発中のシミュレーション技術適用により、Ni基超合金の品質およびコスト競争力の強化が期待されます。

 

(4) エンジニアリング

主に当社が中心となり、環境保全・リサイクル設備や省エネルギー型各種工業炉等の開発を行っております。当事業に係る研究開発費の総額は267百万円であり、当連結会計年度の主な成果は次のとおりであります。

・電化と真空によるカーボンニュートラル熱処理が可能な連続式真空焼鈍炉の開発

当社は自動車部品の熱処理が可能な連続式真空焼鈍炉を独自に開発し、その初号機を受注しました。従来の焼鈍炉はバーナ燃焼を用いて処理部品を加熱していましたが、本設備はカーボンフリー電力が使用可能な電気ヒータ加熱式を採用することで、化石燃料を使用せず、お客様のCO2排出量ゼロを実現します。また、炉内を真空状態にして焼鈍処理することで、化石燃料を原料とする炉内雰囲気ガスは使用せず、処理部品表面の品質においても従来と同等以上であることを確認しております。当社は本技術を通じて、お客様が使用する設備のCO2排出量削減に貢献してまいります。