第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

 当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりであります。

 なお、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書の提出日現在において、当社グループが判断したものであります。

 

(1)経営の基本方針

 ステンレス鋼線並びに金属繊維(ナスロン®)を主力製品とする当社グループは、長年にわたり培ってきた技術力と新しい分野への挑戦により、お客様にとって価値のある商品とサービスの提供を通じて社会の発展に貢献することを経営の基本理念としております。

 産業構造が環境・エネルギーのクリーン化、デジタル化へと進むなか、ステンレス分野への期待はさらに高まり、「より細く、より強く、より精密な」方向が求められています。ステンレス鋼線のトップメーカーとして、これらの期待に適応すべく『Micro & Fine Technology』をスローガンに掲げ、次世代素材、技術開発をこれからもリードし続けてまいります。

 また、株主並びにお客様など、内外の関係先からの信頼と期待に応えるため、常に市場の変化に迅速に対応できる柔軟な経営体制の構築を通じて、安定した収益基盤の維持・拡大を図るべく事業活動を展開してまいります。

 

(2)中長期的な経営戦略及び目標とする指標

 当社グループは2024年4月より『中期経営計画(NSG26)』(最終年度2027年3月期、NSG : Nippon Seisen Sustainable Growth)をスタートさせ、「サステナビリティ成長分野へ高機能・独自製品の開発・拡販と企業価値向上により持続的成長を図る」を中期スローガンとして掲げ、資本コストや株価を意識した経営を推進してまいります。NSG26の検討にあたっては、高齢化社会や技術イノベーション、地球環境保護などの環境変化を想定し長期的な視点で2035年の「ありたい姿」を設定し、それを起点にNSG26として取り組むべき基本方針を策定しました。NSG26の経営目標として連結売上高500億円、連結経常利益52億円、連結ROE8%以上、連結配当性向50%程度などに加え、2030年CO2排出量削減目標▲30%(2013年度比)を引き続き掲げESG経営を推進しています。なお、NSG26の基本方針については、後述(5)新中期経営計画(NSG26)の基本方針に記載しております。

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 高機能・独自製品とは、当社グループで独自開発した技術を用いることなどにより実現可能となったシェアナンバーワンやオンリーワンの製品群となります。高機能・独自製品は、お客様の製品に高い付加価値をもたらす役割を担っています。

 

《高機能・独自製品の一例》

 

製品名

説明

ばね用材

「ステンレス鋼線」とは、ステンレス鋼線材に二次加工を施し、表面性状、線径、機械的特性などの精度の高い機能を付加し、それを保証したワイヤーの総称をいい、ばね・ねじ・金網などに加工されます。

当社のばね用材については、高強度や高耐熱、超非磁性などのお客様のニーズに応じ、線ぐせや光沢などを調整したオーダーメイド製品を提供しています。医療関連や精密電子機器、次世代の水素社会を支える素材となります。

極細線

線径100μm未満の製品を総称し、フィルター用途やスクリーン印刷用途に用いられています。細径化ニーズに対応してきた結果、現在9μmという単線としてはステンレス鋼線の極限の細さを実現しており、スクリーン印刷用途で用いられる極細線は、高精度・高細密が要求される太陽光発電パネルや電子部品の製造プロセスに欠かせない素材となります。

金属繊維(ナスロン®)

当社が独自の技術で開発したステンレス鋼繊維であり、その線径は1~50μmと非常に細く柔軟性を有します。金属の性質を保持しながら有機繊維と同様にニット状やフェルト状などへの加工が可能となります。このナスロン®を用いた高機能メタルフィルターは、より高強度、より高耐熱で耐食性も優れており、フィルムや樹脂、炭素繊維などの製造の濾過プロセスで利用されています。

超精密ガスフィルター(NASclean®)

金属繊維(ナスロン®)をもとに製作した薄層のメタルメンブレンフィルターであり、半導体・フラットパネルディスプレイ、太陽電池パネル等の生産過程に用いられるガスの濾過に用いられ、半導体製造装置などに組み込まれています。社会のデジタル化に伴いデータ処理の高速化と機器の低発熱化・省電力化が必要となり、カーボンニュートラルに向けたより高性能な半導体が必要となるに伴い、超精密ガスフィルター(NASclean®)に対する需要も高まっています。

 

(3)サステナビリティ経営

当社グループは、中期経営計画スローガン「日本精線リニューアル(NSR)継続推進と高機能・独自製品でサステナビリティに貢献」を基に、環境問題、人権尊重、健康経営、公正な取引、事業継続マネジメント(BCM)などの重要な経営課題に対して計画的に取り組んでいます。

製造業である当社では、生産プロセスで排出されるCO2や廃棄物の削減といった社会的な責務を意識しており、その中でも、事業活動に伴うCO2排出削減の目標(2030年目標30%削減(2013年度比)、2050年目標:カーボンニュートラル)を設定し持続可能な社会の実現を目指しています。また、当社グループの製造する高機能・独自製品は、最終製品の付加価値を高めるために不可欠な素材であり、サステナビリティ追求の潮流を大きなビジネスチャンスとして位置づけています。

また、当社グループは、ビジネス規範に対するコンプライアンス教育の徹底、健康・安全や生産性向上など働きやすい環境の整備、多能工化やスキルマトリクス評価による人的資本の質の向上など、人的資本への投資を通じて持続的成長の基盤を培っています。知的財産の活用・拡張に対しても、伸線加工や金属繊維ナスロンなどのコア技術を活かした新たな高機能・独自製品の創出のほか、水素関連などのサステナビリティ成長分野に対する中長期視点での研究開発の推進に取り組んでいます。

当社グループは、2022年3月に「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」提言への賛同を決議・表明し、気候変動に係るリスク及び収益機会が当社の事業活動や収益等に与える影響について、必要なデータの収集と分析を行い、リスクと機会を特定するとともに、シナリオ分析による戦略のレジリエンスを検証しています。また、投資家等とのエンゲージメントにも資するよう、TCFDが推奨する開示項目である「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」を含め、同提言に沿った情報開示を当社ウェブサイトにて行っています。「TCFD提言への賛同」に関する詳細な情報は、「サステナビリティ報告書2023」(17頁から18頁)をご参照ください。「サステナビリティ報告書2023」は、当社ウェブサイト(URL:https://www.n-seisen.co.jp/sustainability/report/)に掲載しております。

 

 ※ TCFD:(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)

 

(4)前中期経営計画(NSR23)の総括

①定量目標の達成状況

2021年度は、半導体関連業界向け超精密ガスフィルター(NASclean®)や太陽光発電パネルなどの製造プロセスで使用される極細線に代表される高機能・独自製品に対する需要の強さが継続したことに加え、ステンレス鋼線の販売数量の回復による粗利増加及び操業度損圧縮の効果が寄与し、過去最高の経常利益4,599百万円を計上できました。

2022年度は、ロシアによるウクライナ侵攻がサプライチェーンの混乱や資源価格の高騰を惹き起こし、欧米ではインフレ対策のための利上げによる景気の減速傾向が現れてきました。中国でもゼロコロナ政策転換による感染症急拡大が経済活動の大きな制約となりました。売上高は過去最高の490億55百万円となりましたが、ステンレス鋼線の流通在庫の調整による販売量減少が操業度損増につながり減益を余儀なくされました。

2023年度は、太陽光発電パネルなどの製造プロセスで使用される極細線に対する需要の強さは継続したものの、サプライチェーン各社の在庫調整並びに実需低迷の影響を受けステンレス鋼線の販売量減少による操業度損増加や、これまで収益の牽引役だった半導体関連業界向け超精密ガスフィルター(NASclean®)の受注減少によって、売上高447億円、経常利益約37億円と減収減益の結果となりました。

NSR23の3年間で売上高及び経常利益ともに過去最高となりました。目標とした売上高を3期とも超過し、経常利益についても3期平均では目標達成となりました。NSR23以前からの戦略的な投資によって整えてきた生産能力を活かして旺盛な需要に対応できたことと、サステナビリティ成長分野に対する高機能・独自製品を開発し貢献できたことが成長ドライバーとなりました。

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②前中期経営計画の成果

a.日本精線リニューアル計画の継続・推進

 ステンレス鋼線部門においては、高機能・独自製品の機能・能力増強に資する設備投資を計画どおり展開しました。枚方工場では、ばね用材や極細線の増産投資を行い生産能力の上方弾力性を確保するとともに、老朽化した設備の更新投資によって省エネの効果を実現しました。また、新設の製品倉庫が本格稼働し製品置き場集約による構内物流改善や製品出荷動線の車歩分離による安全対策を行いました。東大阪工場では、酸洗設備に関する第2期合理化計画や耐震補強工事に関する投資を進めています。両工場ではCO2排出の削減を図るために蒸気配管改善や高効率なリジェネバーナーを使用した熱処理炉への更新等によってカーボンニュートラルに向けた計画的な投資を行いました。THAI SEISEN CO.,LTD.では、ばね用材の高機能化を目的にニッケル鍍金設備の導入や極細線の増産投資を実施しました。

 金属繊維部門においては、老朽化した製造設備のリフレッシュ投資を推進しています。リーフフィルター向け自動超音波洗浄装置の導入により生産性向上や騒音対策などの作業環境の改善が実現できました。老朽化した熱処理炉の更新投資によってナスロンフィルター製造設備の生産基盤強化を図るとともに、省エネハイブリッド型を採用することによりカーボンニュートラル計画を推し進めました。生産現場のレイアウト見直しによって生産性向上と将来の増産体制構築に向けた布石を打ちました。耐素龍精密濾機(常熟)有限公司では、ナスロンフィルターの生産基盤強化のために熱処理炉の更新投資を実施するとともに、ナスロンフィルターのウエブ成形プロセスの増産投資も実施しました。

 

b.新製品開発と新市場開拓 : サステナブル社会に貢献

 ステンレス鋼線部門においては、11μmの超極細線の量産化体制を確立し、内製ダイスの量産化も実現しました。次世代の9μmも製造技術を確立し市場投入を開始しました。新製品としては、医療用途向けに特殊な高精度溶解により不純物を低減させたステンレス鋼線(INS304V)や、半導体検査装置に組み込まれるばね用材に求められる超高強度と高弾性係数の特性を有するステンレス鋼線(ハーキュリーEH)、船舶ディーゼルエンジンの排気ガスのクリーン化に不可欠な耐熱性や耐摩耗性に優れた溶接線などを開発し、サステナビリティ成長分野の市場開拓を展開してきました。

 金属繊維部門では、より低圧損かつ高い濾過精度を有する超精密ガスフィルター(NASclean®)の新製品開発と拡販に注力しています。具体的には、1.5ナノまでのパーティクル(粒子)の除去ができる大流量フィルターや、腐食性ガスを使用する工程で採用される高耐食性合金の集積フィルターが評価され、国内外の半導体製造装置に採用されました。新製品としては、半導体ガス用小型精製器が完成し量産化体制も確立しました。さらなる製品ラインナップの拡充に向けた新製品開発も展開し、ナスロンフィルターの機能向上などの成果をあげました。

 

c.水素を巡る新事業の探索

 水素回収の触媒に独自開発したクラッド線を利用して、水素キャリアである有機ハイドライド(MCH)から水素を回収する技術(水素貯蔵回収モジュール)を開発しました。本技術を基に連続運転が可能な小型プラントを用いて有機ハイドライド(MCH)から水素を回収する実証実験を開始しました。新中期経営計画のなかで、水素の品質や反応器の耐久性、安全性を検証し、水素回収コスト等を検証するとともに、回収した水素は工場内で活用することを計画しています。

 また、当社が保有する金属フィルター加工技術、並びに特殊な独自の接合技術により開発した水素分離膜モジュールを用いることによって、超高純度の水素を精製することができます。水素製造装置における水素精製装置(PSA「Pressure Swing Adsorption」)代替や、半導体産業で使用される超高純度水素ガス精製分野など、極めて高い純度の水素ガスを要求される用途としての活用に期待しています。

 

d.コーポレート・ガバナンスとコンプライアンスの充実

当社グループは、東証市場区分再編に際しプライム市場を選択し、プライム市場上場企業に求められる改訂CGコードのフルコンプライに向け、2022年1月25日に大同特殊鋼株式会社の形式支配力基準による連結子会社となり、同社関係者の役員派遣の制約が外れました。2022年度は、社外取締役3名体制(うち女性取締役の1名選任)として独立社外取締役の選任割合を増やしガバナンス体制の強化を実現しました。さらに、大同特殊鋼株式会社を親会社とする当社では、独立社外取締役及び独立社外監査役全員を構成員とする特別委員会を設置し、支配株主と少数株主との利益が相反する重要な取引行為について審議・検討を行う体制を導入しました。

また、代表取締役社長を委員長とする「サステナビリティ委員会」にて気候変動などの地球環境問題への配慮、人権の尊重などサステナビリティ課題への取組みを組織的に推進しており、「CDP気候変動質問書」に2年連続で「B」評価を取得し「水セキュリティ質問書」は「B-」の評価を受けました。また、「サステナビリティ報告書」を通じて、株主・投資家をはじめとする様々なステークホルダーに対する非財務情報の開示充実に取り組んでいます。2023年9月には「日本精線グループ贈収賄防止方針」を制定しコンプライアンス強化を展開しました。

 

(注)

CDPとは企業や自治体を対象とした世界的な環境情報開示システムを運営する国際環境非営利団体。CDPは2003年以来、世界の主要企業を対象に、温室効果ガスの排出や気候変動による事業リスク・機会などの情報開示を求める質問書を年1回送付し、その回答をもとに企業の気候変動問題への対応を「A」から「D-」の8段階で評価しています。

 

健康・安全や生産性向上など労働災害の撲滅や働きやすい環境の整備にも注力し、ダイバーシティの推進にも努めています。2023年3月に「日本精線グループ人権方針」を制定し、5年連続での「健康経営優良法人」認定などの実績を残すことができました。また、2024年3月には「取引先への健康経営推進ガイドライン」を作成し、当社だけではなくサプライチェーン全体の共存共栄を目指しています。

事業継続マネジメント(BCM)の推進で認識した耐震対策や受配電設備等の補強を計画的に取り組みました。引き続き、コロナ影響の再拡大や大地震、水害等の自然災害など不測の事態が発生しても、従業員の健康・安全の確保と製品供給責任を果たせるように計画しています。

 

(5)新中期経営計画(NSG26)の基本方針

新しい中期経営計画(NSG26)では、従来の日本精線リニューアル計画(NSR)で培った経営リソースや事業計画を承継するとともに、企業価値のさらなる創造を目指すために以下の4つの基本方針を掲げています。

a.サステナビリティ成長分野に向けた高機能・独自製品の開発深化

b.生産基盤強化と生産性向上

c.水素回収技術の深化

d.ESG経営 : 資本コストや株価を意識した経営(PBR1倍以上を目指して)

 

a.サステナビリティ成長分野に向けた高機能・独自製品の開発深化

 従来より注力してきた高機能・独自製品に関する機能能力を高めるとともに技術力向上のための設備投資・開発投資に注力していきます。また、需要増大が見込まれるサステナビリティ成長分野向け製品の生産能力の上方弾力を確保するための増産投資も計画的かつ機動的に展開していきます。こうした取り組みを通じて圧倒的な競争力を備え、競合他社が追随できない領域を目指していきます。具体的なアイテムとしては、極細線、極細ばね用材、超精密ガスフィルターの開発深化を展開していきます。また、サステナビリティ成長分野として、①再生可能エネルギー ②医療 ③IoT/AI ④自動車CASE を取り上げ、これらの分野で求められる要求特性の高度化に対応するため、当社の「Micro & Fine Technology」を駆使した製品で社会に貢献していきます。

カーボンニュートラルによる気候変動対策と安定的なエネルギー需給構造を考えるうえで再生可能エネルギーは欠かせない重要テーマとなっています。太陽光発電や風力発電、水素エネルギーなどを支える部材・素材や製造プロセスに不可欠な製品を提供しており、エネルギー効率のさらなる向上を図っていきます。スクリーン印刷に用いられる極細線の細径化は太陽光発電パネルの発電効率の向上に寄与するため、量産化が始まった線径9μmに続き、線径8μmも量産できる体制を整えていきます。

高齢化及び少子化の進行により経済成長や社会保障制度、医療人材不足などの医療分野の社会的な課題を認識しています。治療により生じる身体の損傷を極力抑えQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を高めるとともに健康寿命を延ばし医療体制の維持に貢献できる素材を開発深化させていきます。具体的にはカテーテルガイドワイヤーやインシュリン自己注射器用ばねの素材提供を通じて貢献していきます。

目覚ましいAIやIoTの技術革新は、業務効率化や省人化など第4次産業革命を惹き起こすと期待されています。膨大な計算量やセンシング技術などを支える半導体やデジタルデバイスの製造プロセスにおいて超精密ガスフィルターは不可欠な位置づけとなっており、機能向上と供給能力アップを続けていきます。また、半導体検査装置に組み込まれる超高強度の極細ばね用材の提供を通じてデジタル社会のイノベーションに貢献していきます。

カーボンニュートラル、高齢者ドライバーによる交通事故の増加、地方で増加する交通弱者などの課題解決アプローチとして自動車CASEが注目されています。自動車のIoT、自動運転、電動化の技術プラットフォームの革新に必要となる素材の開発・提供を通じて、社会的な課題解決に貢献していきます。

 

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b.生産基盤強化と生産性向上

 当社グループでは従来より ①高機能・独自製品の機能能力増強 ②新商品・独自製品開発 ③生産基盤強化 を中心に設備投資を展開してきましたが、NSG26においては、将来起こりうる少子化影響による人材不足に対応するための設備の省人化や自動化、さらなる極細線の細線化や受注拡大に対応した能力増強、ワールドワイドの拡販を意識した海外拠点の機能拡大などに対応するための設備投資に注力していきます。

具体的には、カーボンニュートラルの潮流もあり、太陽光発電パネル製造に必要な極細線の需要拡大を見込んでいます。細径化が進み、11μmから9μmの量産化を実現し、中期経営計画では8μmの量産化を目指しています。こうした環境を踏まえて極細線の能力増強投資を推進していきます。また、省力化投資や自動化を通じて生産性アップを推進するとともに、女性やシニアが活躍できる労働環境整備による労働力確保、作業の安全性やエネルギー効率の向上、環境負荷低減につなげていきます。さらに、IoTの活用によって生産現場に限らず、販売や管理の効率性や品質管理の高度化を推進していきます。THAI SEISEN CO.,LTD.、耐素龍精密濾機(常熟)有限公司、大同不銹鋼(大連)有限公司は、生産及び販売における海外展開の拠点として重要な位置づけを担っています。日系企業の海外展開のニーズに止まらず、グローバルニッチな素材を海外企業にも提供するため、さまざまな連携を図っていきます。

 また、製造業である当社はエネルギー使用が不可欠であり、カーボンニュートラルに向けた取り組みは社会的な責務として認識しています。エネルギーの使用効率向上、漏れや放熱などのロス低減、排熱再利用などの省エネ投資やプロセス見直しを継続的に推進しSDGsに貢献していきます。

 

c.水素回収技術の深化

 NSR23において整備した枚方工場内の「MCHからの水素回収、貯蔵、分離精製一体型の小型プラント」により実証実験を推進し、商用化を展望した改良を重ねていきます。具体的には、安全を最優先とした設計、水素回収の高効率、長期耐久性、エネルギーロスの極小化など、連続運転により装置性能における信頼性の検証を進めていきます。実験による分離精製された水素は、熱処理炉の雰囲気ガスとして社内利用して実用化に向けたアプローチを確認していきます。

また、アンモニアからの水素回収に関する技術についても研究開発を加速させていきます。MCHとアンモニアという既存インフラの流用が可能な2つの水素キャリアに対するアプローチを展開することで、水素の事業化の選択肢を広げていきます。水素キャリアをタンクローリー輸送し、過疎地域や郊外の工場や発電設備などにおいてオンサイトの小型プラントで水素を消費するような利用シーンを想定しています。

今後の水素社会においては、燃料電池自動車や発電のために水素を燃焼させるほかに、半導体や液晶ディスプレイの製造プロセスの雰囲気ガスとして利用するなど、水素の多様な用途活用の可能性があります。当社が保有する金属フィルター加工技術、並びに特殊な独自の接合技術により開発した水素分離膜モジュールを用いることによって、超高純度の水素を精製することができます。当社が培ってきた技術を複合的に組み合わせるとともに外部リソースとの連携によって、将来の事業の柱となるよう努めていきます。

 

d.ESG経営 : 資本コストや株価を意識した経営(PBR1倍以上を目指して)

 環境(E)については、2030年度に2013年度比でCO2排出量を30%削減、2050年度にはカーボンニュートラルを目指すため、排熱回収や断熱化などを行いエネルギーの使用効率向上を図るとともに、電気炉への更新投資によって都市ガス使用量を削減していきます。また、既に導入済のCO2フリー電力の使用拡大についても状況に応じて進めていきます。さらに、サプライチェーン排出量(Scope1+2+3)削減と情報開示の充実についても積極的に取り組んでいきます。そのほか、化学物質の管理強化や廃棄物量の低減やリサイクルの推進、水資源の保全などを行うことにより、サーキュラーエコノミーへの移行を推進していきます。

 社会(S)については、人的資本経営に注力していきます。経営理念や2035年のありたい姿の実現には「成長し続ける組織の構築」が必要不可欠と考え、変革を実現する人材の育成と多様な人材・多様な働き方の確保をキーワードに人的資本の充実に向けた施策を推進していきます。体系的な教育研修の実施、女性活躍推進を中心としたダイバーシティ&インクルージョン、ワークライフバランスの推進、人権の尊重、ワークエンゲージメントの強化、健康経営の推進の各項目それぞれにKPIを設定し、一層充実した人的資本経営に取り組んいきます。

 ガバナンス(G)については、ステークホルダーとのコミュニケーション強化を図るために経営トップによる説明会や工場見学会を開催するなど、SR・IRの拡充を通じて市場から適正な評価を得られるよう努めていきます。また、サステナビリティ経営の推進や、コーポレート・ガバナンスのレベルアップとコンプライアンスの充実、CDPスコアなどの非財務情報も含めた情報開示の充実など、ステークホルダーに対して経営の透明性を確保することで、期待株主資本コストの抑制に努めていきます。研究開発部門の将来投資や非財務戦略投資を積極的に行い持続的成長の基盤の整備にも注力し、ROEや資本コストを意識し資本収益性の維持・向上を図りPBR1倍以上の維持・向上を目指していきます。NSG26においては、NSR23で目標とした配当性向40%を一段引上げ50%程度とし、株主還元も強化していきます。

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(6)経営環境、優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題

①経営環境

2023年度の世界経済は、ロシアによるウクライナ侵攻に加えてイスラエルとハマスの対立も激化し、世界各地での地政学リスクの増大のほか、米国におけるインフレ対策の金融引き締めの長期化や中国での不動産市場の調整など、景気の下振れリスクが増えてきました。日本経済は年後半に自動車生産の挽回が本格化し景気を牽引しましたが、海外経済の減速や半導体市況の回復の遅れのほか、円安、物価高、人手不足といった構造的な課題も顕在化してきており、景況感の先行きに対する不透明感が大きくなってきています。

中長期的な視点では、ステンレス鋼線の汎用品に対する需要が頭打ちとなるニューノーマル経済のリスクシナリオを想定しつつも、サステナブル成長分野に対する高機能・独自製品の需要の増大を見込んでいます。地球環境保護や人口減少、デジタル社会の進展に向けたイノベーションなど、当社を巡る経営環境は「リスク」と「ビジネス機会」の両面を包含しています。

 

②優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題

今後については、米中露や中東などでの地政学リスクがインフレ再燃や先端半導体の輸出制限などの経済安全保障上の制約となることのほか、中国の不動産市場の調整、為替・金利や人手不足などを発端とする景気の下振れリスクなど、多くのリスクシナリオを認識しております。

当社グループの主力製品であるステンレス鋼線は、中国や韓国のステンレス鋼線メーカーとの競争激化による収益低下などの懸念があり、同様に、金属繊維(ナスロン®)も化合繊維向けなどの一般汎用製品については競争が激しくなっております。

このような経営環境を踏まえ、当社グループは今年度より最終年度を2027年3月期とする『第16次中期経営計画(NSG26)』をスタートさせ、「サステナビリティ成長分野へ高機能・独自製品の開発・拡販と企業価値向上により持続的成長を図る」を中期スローガンとして掲げ、①サステナビリティ成長分野に向けた高機能・独自製品の開発深化、②生産基盤強化と生産性向上、③水素回収技術の深化、④ESG経営(資本コストや株価を意識した経営)を基本方針として企業価値向上に努めてまいります。NSG26の経営目標としては連結経常利益52億円、連結売上高経常利益率(ROS)10%以上、連結総資産経常利益率(ROA)10%以上などに加え、2030年度CO2排出量30%削減(2013年度対比)目標を掲げております。

具体的には、ステンレス鋼線部門の販売面においては、再生可能エネルギー、医療、IоTなどのサステナビリティ成長分野に極細線、極細ばね用材、高強度ばね用材など当社グループの高機能・独自製品の拡販に努めてまいります。生産面においては、今後益々需要が伸びてくる極細線の先を見越した能力増強設備投資や将来起こりうる労働力不足に対応した省人化・自動化、クラウド化やAIなどのIоT活用を含めた生産基盤強化と生産性向上を図ります。また、THAI SEISEN CO.,LTD.や大同不銹鋼(大連)有限公司など海外生産拠点と一丸となった最適生産・販売体制を再構築してまいります。

金属繊維部門においては、今後さらに拡大が予想される半導体製造装置市場の需要拡大に応えて超精密ガスフィルター(NASclean®)の安定供給とともに新製品の開発・供給を行ってまいります。

前中期経営計画から取組んでいます「水素ビジネス」については、MCH(メチルシクロヘキサン)やアンモニアからの水素回収技術をさらに深化させ、水素回収技術、貯蔵技術、分離精製技術を組合せた小型プラントの商用化に向けた取組みを加速させていきます。

ESG経営としては、省エネ投資などの排出抑制を含めたサプライチェーン排出量(Scope1+2+3)削減を推進し、2050年のカーボンニュートラルを目指します。また、資本コストや株価を意識した経営にも注力し、ステークホルダーとのコミュニケーション強化や株主還元策の強化を図ります。働き方改革や人的資本経営への投資も積極的に行うとともにリスク管理やガバナンスの体制強化にも鋭意取組んでまいります。

以上の諸施策を確実に実行することにより、収益の一段の向上を図るとともに、事業のグローバル化推進や高度化・多様化する顧客ニーズへの対応、サステナブル社会への貢献を通じ、『さらなる企業価値の向上』にグループ一丸となって取り組んでまいります。

 

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

 当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は次のとおりであります

 なお文中の将来に関する事項は有価証券報告書の提出日現在において当社グループが判断したものであります

 

(1)サステナビリティ

 当社グループは、ステンレス鋼線のトップメーカーとして、これまでも経営理念並びに環境方針基本理念に基づき社会の発展へ貢献してまいりました。これからも全てのステークホルダーと共にサステナブル社会の実現に向けて貢献し続けます。

 なお、当社グループのサステナビリティ経営の取り組みや当社独自の価値創造プロセスについて、2023年5月に「サステナビリティ報告書2022」を創刊し、株主・投資家をはじめとする様々なステークホルダーに対する非財務情報の開示充実に取り組んでいます。

 最新版である「サステナビリティ報告書2023」は、当社ウェブサイト(URL:https://www.n-seisen.co.jp/sustainability/report/)に掲載しております。同書の記載の対象期間は、2022年度(2022年4月から2023年3月。一部過去の実績、2023年4月以降の情報も含みます。)であります。

 

《経営理念》

私たちは、お客様にとって価値のある商品とサービスの提供を通じて社会の発展に貢献します。

私たちは、情報を重視し、世界の変化に素早く適応するため、技術・知識・行動の革新に挑戦し続けます。

私たちは、利益ある発展と、創造性豊かでいきいきとした企業風土の確立を目指します。

 

《環境方針基本理念》

日本精線はステンレス鋼線の国内トップメーカーとして、環境への負荷の少ない生産・販売活動を追求し、

従業員一人一人の行動を通じて、地球環境の保全・向上に積極的に取り組みます。

 

①戦略並びに指標及び目標

 当社グループは2021年4月より『中期経営計画(NSR23)』(最終年度2024年3月期)をスタートさせ、「日本精線リニューアル(NSR)継続推進と高機能・独自製品でサステナビリティに貢献」を中期スローガンとして掲げ、未来の高機能・独自製品を生み出し続けることを通して社会に貢献し、持続可能性を高める活動を進めています。加えて、足元ではSDGs(持続可能な開発目標)やカーボンニュートラルなどの外部環境が大きく変化しており、これに対応すべく当社の今後の取り組むべき課題を抽出し重要課題(マテリアリティ)を下記のとおり特定し、その指標及び目標を設定しました。

 

 

マテリアリティ

 

2023中期目標・KPI

地球環境の保護

(事業活動)

①気候変動への取り組み

●省エネルギー・脱炭素技術によるCO2排出量削減

●2030年度 当社Scope1・2

 2013年度比 CO2排出量30%削減

 

●供給責任の全う

●BCM達成のためのインフラ整備完了

②環境影響の低減

●管理化学物質の使用量削減

●管理化学物質移動量・排出量(PRTR法)削減

●有害物質等の漏出防止

③サーキュラーエコノミーへの移行

●廃棄物量低減、リサイクルへの取り組み

●副産物 リサイクル率向上

 

●水資源の保全

 

 

●水資源使用量削減

●上水使用比率削減

●各工場排水基準合格

地球環境の保護とQOLの向上

(製品提供)

④エネルギーの効率改善と技術革新

●新エネルギーに貢献する製品・技術の提供

●極細線(太陽光電池パネル印刷用) お客様要求量の供給

●ナスロンフィルター(風力発電用炭素繊維) お客様要求量の供給

 

●高性能半導体・電子部品の製造プロセス革新に貢献する製品・技術の提供

●超精密ガスフィルター(保証度精度1.5nm) お客様要求量の供給

●ナスロンフィルター(MLCC離型フィルム用) お客様要求量の供給

 

●モビリティ革新に対応する製品・技術の提供

●ナスロンフィルター(LiBセパレータ用) お客様要求量供給

●磁性材料 販売開始

 

●省エネルギー化に貢献する製品・技術の提供

●耐熱ボルト用材 お客様要求量の供給

●耐熱ばね用材 お客様要求量の供給

 

 

●船舶エンジンバルブ 補修用溶接線 販売開始

●積層造形用材料(3Dプリンタ)  販売開始

 

●水素社会に対応する製品の提供

●耐水素脆性材料『HYBREM-S』 お客様要求量の供給

●水素貯蔵回収モジュール 実証実験実施

 

 

●水素吸蔵モジュール 基礎研究

●水素分離膜モジュール お客様要求量仕様対応

⑤資源の有効活用

 

 

 

 

●資源の有効活用に貢献する製品・技術の提供

 

 

 

●ナスロンフィルター(リサイクルPET・中空糸) お客様要求量の供給

●ナスロンフィルター再生洗浄 受託加工 お客様要求量の対応

●ハーキュリー®(高強度 省資源) お客様要求量の供給

●302HS(高強度 省資源) お客様要求量の供給

⑥QOLの向上

●高機能な医療用材料の提供

●能動型内視鏡、カテーテルガイドワイヤ用 お客様要求量の供給

●歯列矯正用ワイヤ お客様要求量の供給

 

 

●インシュリン自己注射用ばね用材 お客様要求量の供給

●医療針用 お客様要求量の供給

 

 

●医療用ステンレス鋼線INS304V

社会への責任と貢献

⑦人権の尊重

●様々な価値観・属性を受容し、人権を尊重する企業風土の醸成

●人権方針の制定・浸透

●活動展開・仕組みの整備

⑧労働災害の撲滅

●災害0を目指したソフト・ハード改善

●重大災害件数0件

●労働災害の度数率0.2以下

⑨健康経営の推進

●従業員の健康増進

●健康経営の推進

●疾病/メンタル不調の早期発見

●治療の推進、健康意識向上

⑩ダイバーシティの推進

●多様な人材の確保・育成

●女性活躍推進:定着率、管理職比率の向上

 

●「働きがい」を感じる職場環境づくり

●障がい者の継続的な採用活動実施

●働きがい意識調査

●働きがい創出支援活動

 

 

●IT活用による場所・時間を問わない効率的・柔軟な働き方構築

⑪ステークホルダー・エンゲージメント

●地域社会とのコミュニケーション促進

●操業地域の環境保全と改善の推進

 

●株主・投資家とのコミュニケーション促進

●地域社会とのコミュニケーション深耕

 

ガバナンスの強化

⑫コーポレート・ガバナンスの強化

 

●取締役会、委員会等の体制強化とコーポレート・ガバナンス各種取り組みの推進

●形式支配力基準による大同特殊鋼との連結関係維持

●意思決定の迅速化、中長期的な企業価値の向上→ガバナンス強化に向けた体制・機能強化

●実効性と透明性の向上

⑬リスクマネジメントとコンプライアンスの強化

●リスクの特定と重点リスクの対応

●リスクマップ活用によるリスク評価の徹底

 

●コンプライアンス徹底推進

●全従業員に対するコンプライアンス浸透

 

⑭高品質な製品の安定供給

●徹底した品質管理・品質改善

●品質重大事故0件

 

②ガバナンス

 当社グループは、気候変動などの地球環境問題への配慮、人権の尊重、健康経営、公正な取引、事業継続マネジメント(BCM)などサステナビリティ課題を重要な経営課題であると認識し、これら課題への取り組みを組織的に推進するため、代表取締役社長を委員長とする「サステナビリティ委員会」を設置し、サステナビリティ担当役員を選任いたしました。同委員会の場でサステナビリティに関する諸課題への取り組み報告や議論を継続的に行ってまいります。サステナビリティ委員会は原則として6ヶ月に1回、その他必要に応じて随時開催します。その内容を取締役会に報告・審議し、承認を得る仕組みとしています。

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③リスク管理

 当社グループは、リスクとは経営基本方針(「経営理念・行動規準」)や経営計画(事業方針、中期経営計画、予算)等の達成を阻害する要因であると考えています。事業経営に伴って生じるリスクと、外部環境によって発生するリスクの状況を正確に把握し、適切な管理を行うための体制の整備と、その効果的な運用を実現することで、企業の健全性の確保、ひいては企業の存続可能性の維持に努めています。

 当社グループの事業推進に伴う損失の危険に関しては、執行役員がそれぞれの担当部署のリスクを認識、統括・管理しています。子会社の損失の危険に関しては「関連会社管理規程」に基づき経営企画部が主管部署となり管理し、都度必要な指導を行っています。それら内容については「コンプライアンス・リスクマネジメント委員会」並びに取締役会に報告しています。事業運営上のリスクは、影響度と対策度合によってリスクマップという形で整理しています。

 突発的危機発生時は、経営危機管理規程に基づき、対外的影響を最小限にするための対応策を協議・実施します。

 また、当社グループにおいては、サステナビリティに関するリスクに関しても、①ガバナンスに記載のサステナビリティ委員会における検討・議論の対象としております。

 マテリアリティごとのリスク及び機会への対応に関する詳細な情報はサステナビリティ報告書2023(9頁から10頁)をご参照ください。

 

(2)気候変動

 製造業である当社は、生産プロセスで排出されるCO2や廃棄物の削減に取り組んでまいります。同時に、当社の高機能・独自製品の供給を通じ持続可能な社会の実現に貢献してまいります。

 「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (3)サステナビリティ経営」に記載のとおり、当社は2022年3月に「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」提言への賛同を決議・表明し、気候変動が事業に与えるリスクと機会の両面に関して、「戦略」、「リスク管理」、「ガバナンス」、「指標と目標」の観点から、さらなる情報開示の充実に取り組んでいます。「TCFD提言への賛同」に関する詳細な情報は、「サステナビリティ報告書2023」(17頁から18頁)をご参照ください。

 また、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (4)前中期経営計画(NSR23)の総括」に記載のとおり、2022年度の「CDP気候変動質問書」に初めて回答し、2022年12月に「B」評価を取得しました。2023年度の評価についても「B」評価を取得しています。

 また「水セキュリティ質問書2023」に初めて回答し、2024年2月に「B」評価を取得しました。

 

①ガバナンス

 気候変動に関するガバナンスは、サステナビリティ全般のガバナンスと同様であります。詳細については「(1)サステナビリティ ②ガバナンス」をご参照ください。

 当社では2021年度から2023年度の中期経営計画内において、CO2排出量に関して2030年度に2013年度比30%削減、2050年度カーボンニュートラル達成を目標としています(ともにScope1・2対象)が、更なる取り組み強化のため、2021年9月よりカーボンニュートラル会議を創設し、CO2排出量削減に向けた取り組みについての議論や実施項目のフォローアップを進めています。また、気候変動影響への適応策としての事業継続マネジメント(BCM:Business Continuity Management)にも取り組んでいます。

 こうした活動を含めて、「(1)サステナビリティ ②ガバナンス」にて前述のとおり、サステナビリティ委員会において、気候変動対応に関する諸課題への取り組みが報告され、議論することとされています。

 

②戦略

 中長期的なリスクの一つとして「気候変動」を捉え、関連リスク及び機会を踏まえた戦略と組織のレジリエンスについて検討するため、当社はIEA(国際エネルギー機関)やIPCC(気候変動に関する政府間パネル)による気候変動シナリオ(2℃以下シナリオ及び4℃シナリオ)を参照し、2050年までの長期的な当社への影響を考察し、国内鋼線事業を中心にシナリオ分析を実施しました。

 当社におけるCO2排出量の削減については、①エネルギー使用効率向上、②漏れ・放熱などのロス低減、③排熱などを回収して利用する再利用、④使用するエネルギーをCO2フリー化、の4つの手段を主に考えています。

(注)

2℃以下シナリオ:気温上昇を最低限に抑えるための規制の強化や市場の変化などの対策が取られるシナリオ

4℃シナリオ:気温上昇の結果、異常気象などの物理的影響が生じるシナリオ

 

《気候変動に関する主なリスクと機会及び対応》

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「気候変動に関する主なリスクと機会及び対応」の表は、「サステナビリティ報告書2023」(18頁)に記載しています。

 

③リスク管理

 TCFD提言への賛同表明を検討するにあたり、気候変動リスクに関するワーキンググループを設置してシナリオ分析を実施しました。かかる分析の結果については、「サステナビリティ委員会」における審議を経て、取締役会に報告され、これらを踏まえて、当社取締役会において、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (3)サステナビリティ経営」に記載のとおり、2022年3月に「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」提言への賛同を決議・表明しております。気候関連リスクの優先順位付けとして、リスク・機会の発生可能性と影響度の理由から、上記の影響度の高い事項に注力して取り組みます。現在は、気候関連リスクの管理プロセスとして、「サステナビリティ委員会」を通じて、気候関連リスクに関する分析、対策の立案と推進、進捗管理等を実践しています。「サステナビリティ委員会」で分析・検討した内容は、取締役会に報告し、全社で統合したリスク管理を行っています。

 地球温暖化の進展に伴う気候変動リスクのうち、当社事業活動に最も大きな影響をもたらす事象として、局地的豪雨による水害発生を想定した対策など総合的なBCM(Business Continuity Management)を計画立案し、万一の災害時における影響の最小化対策や、生産活動の早期復旧などに必要なインフラ整備・改善を実施中であり、レジリエンス向上に向けた努力を継続しています。

 

④指標及び目標

 当社では、気候関連問題が経営に及ぼす影響を評価・管理するため、温室効果ガス(CO2)の総排出量を指標として削減目標を設定しています。CO2排出量に関して2030年度に2013年度比30%削減、2050年度カーボンニュートラル達成を目標としています。

 なお、現在の目標設定の対象会社は日本精線株式会社単体ですが、CO2排出量の実績は連結子会社も個別に管理しています。

 当社では、限りある資源を有効活用するために、従来より省エネ投資を行ってきました。これにより2023年度におけるCO2排出量は2013年度対比36%減、CO2排出原単位は26%減となりました。引き続き省エネ投資を行ってまいります。当社におけるCO2排出量の削減については、①エネルギー使用効率向上、②漏れ・放熱などのロス低減、③排熱などを回収して利用する再利用、④使用するエネルギーをCO2フリー化、の4つの手段を主に考えています。当社におけるCO2排出量は都市ガスを燃料としたバーナーを用いて加熱を行う熱処理炉からが約16%を占めており、この炉における高効率化とロス低減が大きな課題となっています。気候変動への取り組みに関する詳細な情報は、「サステナビリティ報告書2023」(13頁から18頁)をご参照ください。

 また、当社グループの製造する高機能・独自製品は、最終製品の付加価値を高めるために不可欠な素材であり、サステナビリティ追求の潮流を大きなビジネスチャンスとして位置づけています。例えば、太陽電池パネル印刷用の極細線や風力発電用炭素繊維の製造プロセスで用いられるナスロンフィルターは、新エネルギー領域で貢献しています。高性能半導体や電子部品の製造プロセスに用いられる超精密ガスフィルター(NASclean®)やナスロンフィルターは、エネルギー効率の改善を支える製品となります。こうした高機能・独自製品の提供を通じて、地球環境の保護に貢献していきます。

 

(3)人的資本

①多様性の確保についての考え方

 日本精線企業倫理憲章に「当社は、社員の多様性、人格・人権を尊重するとともに、労働衛生に関わる諸法令を遵守し、社員がいきいきと働ける労働条件・職場環境と、公正な人事処遇制度の運用・向上に努める」と規定し、当社のダイバーシティへの取り組み姿勢を示しております。当社グループでは、この方針のもと、性別、国籍、採用形態で区分せず、多様な価値観を有する人材の採用を進めています。また、2023年12月には「女性活躍推進チーム」を発足し、当社で働く女性社員がそれぞれのライフステージの中でキャリアアップし、やりがいを持って働き続けられる環境・風土づくりを目指して活動しています。なお、女性活躍推進のKPIは下記のとおりです。

 a. 総合職に占める女性社員の割合を2026年度までに15%以上、2030年度までに20%以上とする。

 b. 技能職に占める女性社員の割合を2026年度までに5%以上、2030年度までに7%以上とする。

 c. 女性管理職数を2023年度に対し、2026年度までに3倍以上、2030年度までに5倍以上とする。

 加えて、2024年3月末現在、当社の管理職における女性比率が1.1%、同外国人の比率が2.1%、同キャリア採用者の比率が10.6%となっておりますが、多様性を持った社員が活躍できる場を創造できるよう、これらの比率の向上にも努めてまいります。

 

②人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針、社内環境整備方針

・人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針

 企業にとって最も重要な財産は人であると考えます

経営戦略上必要となる多様な人材を計画的に採用するとともにその雇用条件のみならず安全及び健康にも意を用いることにより定着を図っております

また社員一人ひとりが日の業務を通じて学びな研修を通じて成長しそのような人材が集うことで企業の成長と発展があるものと考えますその具体策として下記の4項目からなる教育体系を構築し社員に計画的な学びの機会を創出・支援しています

 a.階層別教育 b.目的別教育 c.自己啓発支援 d.若手社員研修

 こうした施策は女性外国人キャリア採用者等の属性を問わず実施しておりますこれらの結果社内に多様な人材が確保され会社の持続的な成長に繋がっていくと認識しております

 

・社内環境整備方針

 様なライフイベントが発生する際でも仕事と両立できるよう制度を整えることで女性外国人キャリア採用者等の属性を問わず全ての社員が継続して働きやすい職場となるよう環境整備を進めております具体的には社員のワークライフバランスの向上と生産性の向上を同時に実現させるためにフレックスタイムや時差出勤在宅勤務制度を導入しておりますまた他にも育児休職制度の拡充や短時間勤務制度有給休暇取得促進などな制度や環境を整備しており多様な人材が仕事と生活を両立し安心してキャリアを積んでいける会社を目指しています

 

③各項目の実績と今後の進め方等

 上記②人材の多様性確保を含む人材の育成に関する方針、社内環境整備方針」において記載した人材の育成に関する方針、社内環境整備方針に関する指標の内容、当該指標に関する実績は、以下のとおりであり、今後、これらの数値を高めていくように努めてまいります。なお、これらの指標について、当社では、関連する指標のデータ管理とともに、具体的な取り組みが行われているものの、連結グループに属するすべての会社では行われていないため、連結グループにおける記載は困難であります。このため、以下の指標に関する目標及び実績は、連結グループにおける主要な事業を営む当社のものを記載しております。

 

・人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針に係る指標目標及び実績

イ.昇給率

 当社では一般職(組合員)の昇給率を指標として用いており継続的・安定的な昇給を行うことを目標としておりますその実績は以下のとおりです

 

2022年

2023年

2024年

一般職の昇給率(%)

3.14

3.02

7.13

 

ロ.採用者数

 当社では採用者数を指標として用いており景況等に左右されず継続的に採用を行うことを目標としておりますその実績は以下のとおりです

 

2021年

2022年

2023年

新    卒

9

16

13

キャリア採用

5

6

2

うち女性比率%)

21.4

31.8

20.0

 

ハ.入社10年後の定着率

 当社では入社10年後の定着率を指標として用いており継続的にその指標を向上させることを目標としておりますその実績は以下のとおりです

 

2012年入社

2013年入社

2014年入社

入社人数(正社員)

16

8

5

10年後退職者人数

2

1

1

定着率(%)

87.5

87.5

80.0

 

ニ.健康経営への取り組み

 当社では働きがい(ワーク・エンゲージメント)生産性(相対的プレゼンティーズム)働きやすさ(社内コミュニケーション指数)を指標として用いており継続的にその数値を向上させることを目標としておりますその実績は以下のとおりです

 

2021年度

2022年度

2023年度

ワーク・エンゲージメント

2.9

2.8

2.8

相対的プレゼンティーズム

1.01

1.04

1.00

社内コミュニケーション

5.9

5.9

 ワーク・エンゲージメントについてはユトレヒト・ワーク・エンゲージメント尺度(9項目版)を用いており、「活力」「熱意」「没頭等の因子を数値化しこの数値を高めていくことを目指しております

 相対的プレゼンティーズムについてはWHO-HPQを用いておりこの数値を高めていくことを目指しております

 社内コミュニケーションについては社員アンケートを数値化したものを指標としておりこの数値を高めていくことを目指しております

 

ホ.多様性の確保

 当社では管理職における女性労働者外国人キャリア採用者の割合と障がい者雇用率を指標として用いており継続的にその比率を向上させること、また、女性活躍として総合職(C職)、技能職(T職)に占める女性社員の割合を継続的に向上させることも目標としております。その実績は以下のとおりです

 

2022年3月末

2023年3月末

2024年3月末

管理職に占める女性労働者の割合

1.0%

1.0%

1.1%

管理職に占める外国人労働者の割合

2.1%

2.1%

2.1%

管理職に占めるキャリア採用者の割合

9.4%

9.4%

10.6%

障がい者雇用率

2.7%

3.0%

2.9%

総合職に占める女性労働者の割合

5.4%

10.3%

9.2%

技能職に占める女性労働者の割合

3.2%

2.7%

2.8%

 

ヘ.人権の尊重

 当社では人の尊重(エンゲージメントドライバースコア)を指標として用いており、継続的にその数値を向上させることを目標としております。その実績は以下のとおりです。

 

2021年度

2022年度

2023年度

自社平均

3.11

偏差値

53.1

評語

BB

 エンゲージメントドライバースコアはエンゲージメントサーベイの指標の一つであります。

 偏差値は、自社平均と製造業全体の平均をもとに算出しております。

 評語は、偏差値に対して10段階で設定されている値で業種内(製造業)でのポジショニングを示しております。

 評語「BB」は、業種内(製造業)で「中位の上」との位置づけとなります。

ト.教育費

 当社では社員一人当たりの教育費を指標として用いており、継続的にその指標を向上させることを目標としております。その実績は以下のとおりです。

 

2021年度

2022年度

2023年度

社員一人当たりの教育費

21.8千円

21.1千円

26.0千円

 

・社内環境整備方針に係る指標目標及び実績

イ.フレックスタイム制度

 フレックスタイム制度が適用される対象者数を指標として用いております2024年3月末日時点の実績としては177名で継続的にその数値を向上させることを目標としております当社は社員が始業・終業時刻を自ら決めることによって生活と仕事の調和を図りながら効率的に働くことができるコアタイム無しのフレックスタイム制度を導入しております

 

2021年度まで

2022年度

2023年度

対象者

171

173

177

 

ロ.有給休暇取得促進

 有給休暇取得率を指標として用いており継続的にその比率を向上させることを目標としておりますその実績は以下のとおりです法令で使用者に義務付けられる年次有給休暇の確実な取得(年5日)を行っております

 

2021年度

2022年度

2023年度

取得率

49.3

70.6

64.6

平均取得日数

9.5

13.7

12.6

 

ハ.育児休業制度

 育児休業取得率を指標として用いており継続的にその比率を向上させることを目標としておりますその実績は以下のとおりです改正育児・介護休業法の施行にあたり全管理職への教育を実施するなど職場における育児休業制度の理解促進を進めるなどの施策に取り組んでおります

 

2021年度

2022年度

2023年度

 

対象者数

取得者数

取得率

対象者数

取得者数

取得率

対象者数

取得者数

取得率

男性

9

1

11.1%

21

3

14.3%

11

6

54.5%

女性

2

2

100.0%

2

2

100.0%

1

1

100%

合計

11

3

27.3%

23

5

21.7%

12

7

58.3%

 

ニ.短時間勤務制度

 短時間勤務制度の利用者数を指標として用いておりその実績は以下のとおりです育児中の従業員が短時間勤務制度を利用しやすい職場環境とすべく各職場における短時間勤務制度の理解促進を進めるなどの施策に取り組んでおります

 

2021年度

2022年度

2023年度

利用者

9

9

9

 

ホ.在宅勤務制度

 在宅勤務制度の実施率を指標として用いておりその実績は以下のとおりです新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付けが2023年5月8日から5類に移行されたこと等に伴い直近の実施率が低下しておりますものの当社では恒久的な制度として在宅勤務制度の整備を行っています

 

2021年5月

2022年5月

2023年5月

2024年5月

 

第3回緊急事態宣言下

2類相当

5類移行後

5類移行後

営業部門

(管理職除く)

66.2%

37.0%

19.0%

20.0%

管理部門

(営業管理職含む)

38.5%

24.0%

13.0%

13.0%

 

ヘ.ワークエンゲージメントの向上

 総合エンゲージメントスコアを指標として用いており、その実績は以下の通りです。エンゲージメントサーベイを通じて従業員の会社への愛着や関心、仕事へのやりがいや意義の感じ方についての現状把握を行い、満足度を総合エンゲージメントスコアとして数値化することで人的資本の見える化を図るなどの施策に取り組んでいます。

 

2021年度

2022年度

2023年度

自社平均

4.45

偏差値

53.3

評語

BB

 総合エンゲージメントとは、エンゲージメントサーベイにおける「会社・仕事・職場」に対して総合的に抱く愛着の状態を示します。

 偏差値は、総合エンゲージメントスコアの自社平均と製造業全体の平均をもとに算出しております。

 評語は、偏差値に対して10段階で設定されている値で業種内(製造業)のポジショニングを示しております。

 評語「BB」は、業種内(製造業)で「中位の上」との位置づけとなります。

 

3【事業等のリスク】

 有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況に関する事項のうち、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある主要なリスク及びその対応状況について、以下に記載いたします。
 当社グループでは、こうしたリスクの可能性を認識した上で、発生を回避し、または、発生した場合の影響を抑制する観点から、現状想定し得るリスクを洗い出し評価した上で、事業運営上のリスクについては経営会議にて、また、コンプライアンス上のリスクについてはコンプライアンス・リスクマネジメント委員会において、サステナビリティに関するリスクについてはサステナビリティ委員会においても、それぞれ優先順位に応じて具体的な対策を講じ、定期的にその妥当性について協議・検討を図っております。

 なお、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書の提出日現在において当社グループが判断したものであります。

(1)自然災害などの不可抗力や外部からの攻撃によるリスク

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)はワクチンの普及もあり収束に目途が付いてきましたが、オミクロン株と大きく病原性が異なる変異株の出現など、新たな感染症の拡大によって、再度、経済活動の自粛を求められることも想定しなければなりません。国内外の工場内での感染発生による製造ライン停止やサプライチェーンの寸断によって、お客様に製品が供給できないリスクを認識しています。また、従業員のほか、お客様や協力会社などの生命・健康を脅かす虞もあります。さらに、工場休業に伴う補償や操業度悪化が損益や資金繰りに与える影響も生じます。

 激甚化する気象災害など気候変動リスクがクローズアップされ、脱炭素社会の実現に向けた取り組みが世界的に加速しています。炭素税導入による調達・操業コストの増加や内燃機関車用部品材料の需要減少などのリスクへの対策の準備が必要となっています。また、当社グループの提供する素材は、お客様の製品を通じてグローバルに提供されることとなるため、世界各地における環境関連法令の適用に対応することが求められます。地球温暖化防止など、環境規制は厳格化の傾向にあり、ひいては当社グループの製造コストを増加させるリスクがあると認識しております。

 当社グループは、気候変動などの地球環境問題への配慮、人権の尊重、健康経営、公正な取引、事業継続マネジメント(BCM)などサステナビリティ課題を重要な経営課題であると認識し、これら課題への取り組みを組織的に推進するため、代表取締役社長を委員長とする「サステナビリティ委員会」を設置し、サステナビリティ担当役員を選任いたしました。同委員会の場でサステナビリティに関する諸課題への取り組み報告や議論を継続的に取り組むガバナンス体制を整備しました。特に、地球環境の保護に対する事業活動の取り組みとしては、『中期経営計画(NSG26)』において事業活動に伴うCO2排出削減の目標を設定し持続可能な社会の実現を目指してまいります。また、当社グループの製品は、エネルギー効率の向上、各種のフィルター機能の提供や水素社会の基盤技術の開発など、高機能・独自製品を通じてサステナブル社会への貢献を図ってまいります。また、「日本精線グループ人権方針」や「日本精線グループ贈収賄防止方針」を制定し社内教育やモニタリングなどを継続的に実施し、当社グループのみならずサプライチェーンを通じてサステナビリティ課題に取り組んでいます。

 南海トラフの巨大地震や当社事業拠点周辺の断層による直下型地震リスクがあり、海外拠点においても当該地毎に大規模災害等のリスクが存在しています。当社グループの生産拠点において大規模災害やテロなどが発生した場合には、生産設備の破損やサプライチェーンの機能停止に伴い操業停止や資産価値の減損を強いられる虞があります。当社グループでは、人命最優先を基本方針としています。安否確認システムやマニュアル整備などの事業継続計画(BCP)については、コロナ禍を教訓に見直しを図るとともに、万が一の際に事業継続計画書が実効的に機能するように日頃からの安全在庫の管理・運用を徹底するとともに、復旧のボトルネックと必要な事前対策をリストアップし、耐震補強・浸水対策や受配電設備等の整備、ITシステムの運用見直しを計画的に推進してまいります。また、地震発生などの際に、誤操作・誤動作による障害が発生した場合にも制御できるように設備のフェイルセーフ化も進めています。事業継続マネジメント(BCM)の取り組み方針・施策の決定や拠点の活動確認などについては、年2回経営会議に報告する体制を整備しました。

 さらに、当社グループでは、製造ノウハウや顧客情報、各種設計図など生産・営業・開発に関して多くの営業的な秘密を保有しています。また、従業員やお客様に関する個人データを保有していますが、一般消費者との取引がないため、データ量は限定的となります。コンピュータウィルスや不正アクセスなど社外からのサーバー攻撃によって、情報が流出し、第三者がこれを不正に取得・使用するような事態が生じると、お客様からの信用力や製品競争力など、当社グループの事業基盤を脅かす虞が認められます。さらに損害賠償責任を負う可能性も含め財務上のリスクもあります。こうしたリスクを抑制するために、従業員へのセキュリティポリシーの徹底や、常に最新のセキュリティ技術を用いた未然防止策を図るとともに、日々のセキュリティログのチェックで被害拡大回避に努めております。

 

(2)外部環境変化に伴うリスク

 当社グループの付加価値の源泉である高機能・独自製品については、その一部のアイテムの販売先が、自動車、エネルギー、IT・半導体、化学製品など先端技術分野の産業・業種に依存する構造となっています。そのため、その業界に属するお客様の需給環境や投資計画、流通在庫の多寡によって、当社グループの受注環境が変動するリスクがあります。

 また、グローバル化しているお客様においては、その販売先のカントリーリスクが間接的に当社グループの受注環境に影響を与えています。またコロナ対応で傷んだ各国の財政問題、米中貿易摩擦の長期化や中東の地政学的リスクが顕在化すると、当社グループの受注減少につながるリスクを認識しています。例えば、半導体関連の禁輸・制裁問題が超精密ガスフィルター(NASclean®)の販売減を引き起こす虞なども想定しています。同様に、為替水準の変動は、お客様の製品・サービスの価格競争力を押し下げる効果があるため、為替リスクも間接的に当社の受注環境に影響いたします。なお、当社グループにおける外貨建て取引は僅少であり直接的な為替リスクは大きくありません。

 このような外部環境の変化による受注・販売の減少リスクに対しては、多能工化などフレキシブルな生産体制で固定費抑制を図るほか、多様な業種・業界のお客様に提供できる製品ポートフォリオの充実によって受注変動リスクの分散を図っています。

 一方、当社グループの材料調達については、主力のステンレス鋼線部門の原材料は主成分であるニッケルやクロムなどのレアメタル相場の影響を受けます。原産国のカントリーリスクの発現などによりレアメタルの需給がひっ迫すると国際市況価格が高騰し当社の調達コストも増加しますが、為替変動リスクも含めた原材料の価格変動に連動してステンレス鋼線の販売価格を変更したり、契約に基づくサーチャージ制度により、原材料変動リスクの影響は限定的となります。ただし、ニッケル価格が極端に高騰すると、お客様が安価な代替品へ移行するリスクを認識しています。同様に、異業種企業や技術革新等により、当社グループのステンレス鋼線や金属繊維製品を代替するような素材や構造などが開発されるリスクもあります。当社グループでは、技術交流会や展示会などを通じて、お客様やマーケットのニーズの変化を的確に捕捉し、タイムリーに新製品の市場投入や品質改善活動に努めています。また、材料調達の大部分を一部の国内大手メーカーに依存しています。主要材料については調達できないというリスクは限定的ですが、メーカー指定の独自鋼種の材料調達に関しては、当該メーカーの生産停止などにより影響を受ける虞があります。

 

(3)安全・健康、品質やヒューマンエラーなどによるリスク

 当社グループにおいては、1トンに及ぶ重量物を取り扱うことや伸線機などの回転する危険な設備があることのほか、健康被害をもたらす特定化学物質の取扱い工程があるため、従業員の安全と健康を脅かす労働災害のリスクがあります。当社グループでは、安全と健康が幸せの原点と捉え、作業者による誤操作・誤動作による障害が発生した場合にも制御できるように設備のフェイルセーフ化を継続的に投資するとともに、人間ドックの費用補助や健康維持向上活動に積極的な支援を行い、働きやすい職場環境づくりに努めています。その結果、4年連続して「健康経営優良法人」に認定されています。

 また、当社製品は、半導体製造装置・医療・自動車関連などの素材として利用されています。そのため、当社製品の欠陥に起因して、重大事故が起きたり、ユーザーの生命・健康に害を及ぼすリスクがあり、当社グループには損害賠償を求められる虞を認識しています。損害保険加入などの対策のほか、異材や疵などの不適合製品の流出防止に向け、品質関連の教育を徹底するとともに、誤入力や識別異常の防止など検査工程のシステム化投資を継続的に実施しています。また、検査データの不正や改ざんによって、お客様や社会からの信頼を失墜し、当社の事業基盤を失うリスクについても重く捉えています。当社グループでは、検査データ不正防止に向け、測定データの自動取込みシステムを導入するとともに、規格外や仕様登録のない材料や製品を取り扱うことのできない仕組みを運用しています

 そのほか、(1)自然災害などの不可抗力や外部からの攻撃によるリスクで記述したとおり、当社グループでは生産、営業、開発などに関して多くの営業的な秘密や個人データを保有しています。過失などによって情報漏洩するリスクがあり、その影響は不正アクセスによる漏洩と同様と認識しています。当社グループでは、機密情報へのアクセスを制限したり、ソフトウェアなどで外部データ持ち出しを防止するほか、定期的にIT監査を通じて牽制を図っています。また、外部メールの運用ルールや重要情報の公開時の手続きの明確化にも努めています。

 

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1)経営成績等の状況の概要

当連結会計年度における当社グループ(当社及び連結子会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりであります。

 

①財政状態及び経営成績の状況

2023年度の世界経済は、ロシアによるウクライナ侵攻に加えてイスラエルとハマスの対立も激化し、世界各地での地政学リスクの増大のほか、米国におけるインフレ対策の金融引き締めの長期化や中国での不動産市場の調整など、景気の下振れリスクが増えてきました。日本経済は年後半に自動車生産の挽回が本格化し景気を牽引しましたが、海外経済の減速や半導体市況の回復の遅れのほか、円安、物価高、人手不足といった構造的な課題も顕在化してきており、景況感の先行きに対する不透明感が大きくなってきています。

このような事業環境の中で、当社及び連結子会社(以下「当社グループ」という。)は2024年3月期を最終年度とする『中期経営計画(NSR23)』において、「日本精線リニューアル(NSR)継続推進と高機能・独自製品でサステナビリティに貢献」を中期スローガンとして掲げ、高機能・独自製品の販売に注力して企業価値向上に努めてきました。

結果として通期の売上高は、447億27百万円(前期比8.8%減)となりました。損益については、太陽光発電パネルなどの製造プロセスで使用される極細線に対する需要の強さは継続したものの、サプライチェーン各社の在庫調整並びに実需低迷の影響を受けステンレス鋼線の販売量減少による操業度損増加や、これまで収益の牽引役だった半導体関連業界向け超精密ガスフィルター(NASclean®)の受注減少によって、減益を余儀なくされました。営業利益35億37百万円(同15.4%減)、経常利益36億99百万円(同14.3%減)、親会社株主に帰属する当期純利益25億92百万円(同16.0%減)となりました。

 

セグメントごとの経営成績は次のとおりであります。なお、セグメントごとの経営成績については、セグメント間の内部売上高又は振替高の相殺消去前の金額を記載しています。

 

[日本]

主力のステンレス鋼線は極細線で好調な受注を確保するも、自動車用途や建材用途における流通在庫の調整長期化により販売が低迷しました。金属繊維は半導体製造装置に組み込まれる超精密ガスフィルター(NASclean®)が調整局面となり、売上高は401億92百万円(前期比8.4%減)、セグメント利益は34億94百万円(同4.8%減)となりました。

 

[タイ]

ステンレス鋼線の販売数量は需要低迷・過剰在庫の調整から減少し、売上高は49億82百万円(前期比15.4%減)、セグメント損失は16百万円(前期は3億79百万円のセグメント利益)となりました。

 

[中国・韓国]

ナスロン®フィルターの需要が低迷し、売上高は13億77百万円(前期比20.3%減)、セグメント利益は1億9百万円(同37.7%減)となりました。

 

当連結会計年度末における総資産は534億2百万円となり、前連結会計年度末に比べ6億52百万円減少しました。流動資産は受取手形及び売掛金や棚卸資産の減少などにより、前連結会計年度末に比べ8億47百万円減少しました。固定資産は有形固定資産が増加したことなどにより、1億95百万円増加しました。

負債は139億12百万円となり、前連結会計年度末に比べ25億36百万円減少しました。流動負債は支払手形及び買掛金の減少などにより、前連結会計年度末に比べ21億83百万円減少しました。固定負債は長期借入金や退職給付に係る負債の減少などにより前連結会計年度末に比べ3億52百万円減少しました。

純資産は利益剰余金が増加したことなどにより394億89百万円となり、前連結会計年度末に比べ18億83百万円増加しました。

 

②キャッシュ・フローの状況

当連結会計年度末における現金及び現金同等物は146億8百万円となり、前連結会計年度末に比べ4億86百万円増加しました。各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりです。

 

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

営業活動によるキャッシュ・フローは46億82百万円の収入となり、前期に比べ28億20百万円増加しました。これは棚卸資産が減少したことなどによるものです。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

投資活動によるキャッシュ・フローは28億23百万円の支出となり、前期に比べ10億41百万円支出が増加しました。これは有形固定資産の取得による支出が増加したことなどによるものです。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

財務活動によるキャッシュ・フローは15億37百万円の支出となり、前期に比べ4億91百万円支出が増加しました。これは長期借入れによる収入が減少したことなどによるものです。

 

(キャッシュ・フロー指標)

なお、キャッシュ・フロー指標のトレンドは以下のとおりです。

 

 

2021年3月期

2022年3月期

2023年3月期

2024年3月期

自己資本比率      (%)

   70.7

   68.2

   68.5

   72.8

時価ベースの自己資本比率(%)

   47.2

   53.3

   52.0

   81.1

キャッシュ・フロー対有利子負債比率

    0.2

    0.1

    0.4

    0.1

インタレスト・カバレッジ・レシオ(倍)

   769.7

   954.3

   534.6

  1,099.5

     ※ 自己資本比率:自己資本/総資産

       時価ベースの自己資本比率:株式時価総額/総資産

             キャッシュ・フロー対有利子負債比率:有利子負債/営業キャッシュ・フロー

             インタレスト・カバレッジ・レシオ:営業キャッシュ・フロー/利払い

      (注)1.各指標はいずれも連結ベースの財務数値により計算しております。

          2.株式時価総額は、期末株価終値×期末発行済株式総数により計算しております。

                  3.営業キャッシュ・フローは連結キャッシュ・フロー計算書の営業活動によるキャッシュ・フローを使用しております。

         4.有利子負債は連結貸借対照表に計上されている負債のうち利子を払っている負債を対象としております。また、利払いについては、連結キャッシュ・フロー計算書の利息の支払額を使用しております。

 

③生産、受注及び販売の実績

a.生産実績

当連結会計年度の生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

当連結会計年度

(自 2023年4月1日

至 2024年3月31日)

前年同期比(%)

日   本(百万円)

37,448

△8.4

タ   イ(百万円)

4,847

△16.3

中国・韓国(百万円)

1,237

△28.1

合計(百万円)

43,532

△10.1

(注)金額は平均販売価格によっており、セグメント間の内部振替前の数値によっております。

 

b.受注実績

当連結会計年度の受注実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

当連結会計年度(自 2023年4月1日 至 2024年3月31日)

受注高

(百万円)

前年同期比(%)

受注残高

(百万円)

前年同期比(%)

日   本

39,706

△6.3

5,056

△6.5

タ   イ

3,738

△3.0

720

52.5

中国・韓国

1,361

2.1

381

91.6

合計

44,806

△5.8

6,158

1.3

(注)金額は販売価格によっており、セグメント間の取引については相殺消去しております。

 

c.販売実績

当連結会計年度の販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

当連結会計年度

(自 2023年4月1日

至 2024年3月31日)

前年同期比(%)

日   本(百万円)

40,192

△8.4

タ   イ(百万円)

4,982

△15.4

中国・韓国(百万円)

1,377

△20.3

 消    去(百万円)

△1,825

△25.2

合計(百万円)

44,727

△8.8

(注)1.金額は販売価格によっており、セグメント間の取引については相殺消去しております。

2.最近2連結会計年度の主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は次のとおりであります。

 

 

相手先

前連結会計年度

(自 2022年4月1日

至 2023年3月31日)

当連結会計年度

(自 2023年4月1日

至 2024年3月31日)

 

 

金額(百万円)

割合(%)

金額(百万円)

割合(%)

大同興業株式会社

11,175

22.8

10,268

23.0

株式会社メタルワン

4,690

9.6

5,456

12.2

 

(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書の提出日現在において判断したものであります。

 

①重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

当社グループの連結財務諸表は、我が国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されています。この連結財務諸表の作成に当たり重要となる会計方針については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等(1)連結財務諸表 注記事項(連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項)」に記載のとおりです。連結財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載のとおりです。

なお、見積り及び判断・評価につきましては、過去実績や状況に応じて合理的と考えられる要因等に基づき行っておりますが、見積り特有の不確実性があるため、実際の結果は異なる場合があります。

 

②財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容

a.財政状態の分析

当連結会計年度末の資産合計は、前連結会計年度末に比べ6億52百万円減少し534億2百万円となりました。負債については、前連結会計年度末に比べ25億36百万円減少し139億12百万円となりました。

当連結会計年度の売上高が減収(前連結会計年度比43億27百万円減)となったために、売上債権(同比4億1百万円減)、棚卸資産(同比9億47百万円減)とも減少しましたが、それ以上に買入債務(同比17億13百万円減)が減少したことから、運転資金は3億64百万円増加しました。また、減価償却費以上の設備投資を実施したこともあり固定資産は1億95百万円増加しました。純資産は、利益剰余金が前連結会計年度末に比べ12億92百万円増加し394億89百万円となりました。結果として、現金及び預金の残高は前連結会計年度末に比べ5億80百万円増加しました。

利益の積み上がりによって自己資本比率は72.8%(前期比4.3ポイント増)に高まりましたが、経常利益が減益(前連結会計年度比6億17百万円減)となったためROA(経常利益/総資産)は6.9%(前期比1.3ポイント減)となりました。

 

b.経営成績の分析

(売上高)

当連結会計年度における売上高は447億27百万円(前期比8.8%減)となり、前連結会計年度に比べ43億27百万円減少しました。

高機能・独自製品が売上高全体に占めるシェアは66.3%(前期比2.3ポイント増)となりました。高機能・独自製品の売上高増加の主な要因は、細径の極細線が好調に推移したことによるものです。

 

0102010_008.png

 

事業部門別の売上状況は、次のとおりとなります。

 

[ステンレス鋼線]

ステンレス鋼線においては、2023年度上半期の販売量が自動車用途や建材用途の荷動き鈍化による過剰在庫の調整が生じたことから月当たり2,587トンと大きく減少し、下半期も需要回復の動きは鈍く、第3四半期月当たり2,677トン、第4四半期月当たり2,756トン(第3四半期比3.0%増)と下半期平均2,717トン(上半期比5.0%増)となりました。一方、太陽光発電パネルの製造プロセスで使用されるスクリーン印刷向け極細線は、お客さまの細径化ニーズに応える高付加価値製品として好調な受注を確保し、年度を通じて堅調に推移しました。

なお、LMEニッケル価格については、ウクライナ情勢の影響もあり2022年度の平均価格がポンド当たり11.63ドル(2021年度平均に比してポンド当たり2.28ドル上昇)と急激に上昇しましたが、2023年度は下落に転じ平均価格でポンド当たり8.68ドル(2022年度平均に比してポンド当たり2.94ドル下落)となりました。一方、2022年度の為替レート平均136.47円が2023年度に平均145.62円と円安で推移したため、円ベースのニッケル価格の下落幅は低減しました。

結果として、通期におけるステンレス鋼線全体の月平均販売数量が2,652トンと大幅に減少(前期比532トン減、同16.7%減)しましたが、値上げによる販売単価上昇や極細線の販売増によって売上高382億66百万円(同5.6%減)と減少幅を低減しました。

海外現地法人であるTHAI SEISEN CO., LTD. 及び大同不銹鋼(大連)有限公司についても、ステンレス鋼線の販売数量が低迷し、減収となりました。

 

[金属繊維(ナスロン®)]

金属繊維においては、2023年度上半期の半導体関連業界向け超精密ガスフィルター(NASclean®)の販売が月当たり2億98百万円と大きく減少し、下半期も半導体メーカーの設備投資の延期や縮小による在庫調整が続いたため半導体製造装置メーカー各社においても生産回復に遅延が生じました。第3四半期月当たり2億82百万円、第4四半期月当たり2億80百万円(第3四半期比0.7%減)と下半期平均2億81百万円(上半期比5.8%減)となりました。

ナスロン®フィルターについては、2023年度上半期の販売は国内外の高機能フィルム向けのフィルター販売が不振であったため月当たり2億23百万円と大きく減少しましたが、下半期は海外の炭素繊維関連の大型案件を中心に化合繊維向けのフィルターの販売増により、第3四半期月当たり2億57百万円、第4四半期月当たり2億88百万円(第3四半期比12.2%増)と下半期平均2億73百万円(上半期比22.5%増)となりました。

海外現地法人である耐素龍精密濾機(常熟)有限公司については、第1四半期(12月決算のため1~3月)に中国のゼロコロナ政策転換による感染症急拡大によって経済活動に大きな制約を受け、回復傾向にあるものの化合繊維用途の販売低迷が継続し減収となりました。

結果として、金属繊維部門の当期における売上高は64億61百万円(前期比24.2%減)となりました。

 

(経常利益及び親会社株主に帰属する当期純利益)

当連結会計年度における経常利益は36億99百万円(前連結会計年度比14.3%減)となりました。経常利益率は8.3%となり前連結会計年度比0.5ポイント下がりました。結果として、親会社株主に帰属する当期純利益は25億92百万円(同16.0%減)となりました。

経常利益が前期比減益となった主な要因は、太陽光発電パネルなどの製造プロセスで使用される極細線に対する需要の強さは継続したものの、サプライチェーン各社の在庫調整並びに実需低迷の影響を受けたステンレス鋼線の販売量減少による操業度損増加や、これまで収益の牽引役だった半導体関連業界向け超精密ガスフィルター(NASclean®)の受注が減少したことにあります。

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③キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報

a.キャッシュ・フローの分析

キャッシュ・フローの分析につきましては、「(1)経営成績等の状況の概要 ②キャッシュ・フローの状況」に記載のとおりであります。

 

b.資金需要

成長投資への支出については、当社グループ中期経営計画の「日本精線リニューアル(NSR)継続推進と高機能・独自製品でサステナビリティに貢献」を実現するために、主力の製造拠点である国内工場及びタイ、中国の在外子会社における生産効率向上や増産を目的とした設備投資を図ってまいります。また、お客様のニーズに対応した新製品開発と新市場創出に向け研究開発にも注力してまいります。将来の成長に向けた戦略的な資金需要に対しては、財務健全性の維持と資本コストを意識しつつ、積極的に対応していくことを方針としています。

運転資金としては、当社グループ製品製造のための材料及び部品の購入のほか、製造費用や営業費用が必要となります。事業運営上の必要資金に加え、大地震等の自然災害、感染症のまん延、テロ等の事件、大事故、サプライチェーン(供給網)の途絶、突発的な経営環境の変化など不測の事態が発生しても、事業を中断させない、または中断しても可能な限り短い期間で復旧に備えるために、後述の退職給付債務の支払い原資の控除後、月商3ヵ月分の現金及び現金同等物の流動性確保を目途としています。

株主還元への支出については、連結業績や財政状態などを総合的に勘案し、連結配当性向40%程度を目途に配当を行うことを基本としています。なお、新たな中期経営計画(NSG26)では連結配当性向の水準を50%程度に引き上げました。

なお、当社グループでは退職一時金制度のみを採用しており、退職給付債務45億35百万円(2024年3月末現在)の支払い原資を、現金及び現金同等物にて実質的に保全しています。

 

c.資金調達

当社グループの運転資金及び投資資金は、原則として営業活動により獲得したキャッシュ・フローにより充当することを基本方針としています。ただし、有事の場合など、必要に応じ銀行借入による資金調達ができるように、取引金融機関との取引関係の維持強化に配慮した財務政策に努めています。

 

5【経営上の重要な契約等】

該当事項はありません。

6【研究開発活動】

当社グループの研究開発活動は、主として、当社の研究開発部を核として、製造部門の技術スタッフとの協業で行われております。ステンレス鋼線では、コア技術を基盤に競争力を強化するための新技術開発とともに、顧客ニーズを迅速に捉えた新製品の開発を行っております。金属繊維では、既存製品群の更なる生産技術の向上と品質改善並びにその応用製品である金属フィルター製品群は、高分子・化学工業分野向けの高機能フィルター及び半導体・液晶産業分野向けの超精密フィルターなどの高付加価値の新製品の研究開発を行っております。更に、2050年のカーボンニュートラルを見据え、脱炭素燃料としての利活用が期待されている水素に関しても、将来の商用化を目指し研究開発を推進しております。

当連結会計年度における研究開発は、すべて「日本」セグメントに属しております。

なお、当連結会計年度の研究費の総額については特定の製品群に区分できない基礎研究費等を含め600百万円となっており、当連結会計年度における主要な新製品の研究開発活動の状況を示すと次のとおりであります。

(1)ステンレス鋼線

①超高強度ばね材(商品名:ハーキュリーEH)の開発

②高強度導電ばね材(商品名:エレメタル e-Fine)の開発

③高硬度銅系合金材(商品名:エレメタル eH)の開発

④耐水素脆性ばね材(商品名:ハイブレム-S)の開発

⑤高精度スクリーン用極細線の開発

⑥高強度コンタクトプロ-ブ用超極細ばね材の開発

⑦医療用ステンレス鋼線(商品名:INS304V)の開発

⑧医療用Co基合金線材の開発

⑨高耐熱溶接材(商品名:1NS701)の開発

⑩3Dプリンタ用溶接材の開発

 

(2)金属繊維

①半導体プロセスガス用小型精製器の開発

②ポリマー用高機能複合フィルターの開発

③半導体ガス用高耐食低圧損フィルターの開発

④半導体プロセスガス用超高精度フィルターの開発

 

(3)その他

①水素分離膜モジュールの開発

②有機ハイドライド(MCH)による水素貯蔵回収小型プラントの実証実験

③アンモニアクラッキングを活用した水素回収装置の開発

④水素吸蔵モジュールの開発

⑤環境対応車(xEV)への磁性材料、及び抵抗材料による用途開発