第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

 当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりであります。

 なお、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書の提出日現在において、当社グループが判断したものであります。

 

(1)経営の基本方針

 ステンレス鋼線並びに金属繊維(ナスロン®)を主力製品とする当社グループは、長年にわたり培ってきた技術力と新しい分野への挑戦により、お客様にとって価値のある商品とサービスの提供を通じて社会の発展に貢献することを経営の基本理念としております。

 産業構造が環境・エネルギーのクリーン化、デジタル化へと進むなか、ステンレス分野への期待はさらに高まり、「より細く、より強く、より精密な」方向が求められています。ステンレス鋼線のトップメーカーとして、これらの期待に適応すべく『Micro & Fine Technology』をスローガンに掲げ、次世代素材、技術開発をこれからもリードし続けてまいります。

 また、株主並びにお客様など、内外の関係先からの信頼と期待に応えるため、常に市場の変化に迅速に対応できる柔軟な経営体制の構築を通じて、安定した収益基盤の維持・拡大を図るべく事業活動を展開してまいります。

 

(2)中長期的な経営戦略及び目標とする指標

 当社グループは2024年4月より『中期経営計画(NSG26)』(最終年度2027年3月期、NSG : Nippon Seisen Sustainable Growth)をスタートさせ、「サステナビリティ成長分野へ高機能・独自製品の開発・拡販と企業価値向上により持続的成長を図る」を中期スローガンとして掲げ、資本コストや株価を意識した経営を推進してまいります。NSG26の検討にあたっては、高齢化社会や技術イノベーション、地球環境保護などの環境変化を想定し長期的な視点で2035年の「ありたい姿」を設定し、それを起点にNSG26として取り組むべき基本方針を策定しました。NSG26の経営目標として連結売上高500億円、連結経常利益52億円、連結ROE8%以上、連結配当性向50%程度などに加え、2030年CO2排出量削減目標▲30%(2013年度比)を引き続き掲げESG経営を推進しています。なお、NSG26の基本方針については、後述(5)中期経営計画(NSG26)の基本方針に記載しております。

 

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※2025年3月期よりCO2排出量の算定方法を変更しております。それに伴い、公表済の2024年3月期実績を変更後の算定方式による削減率に修正いたしております。

 

 高機能・独自製品とは、当社グループで独自開発した技術を用いることなどにより実現可能となったシェアナンバーワンやオンリーワンの製品群となります。高機能・独自製品は、お客様の製品に高い付加価値をもたらす役割を担っています。

 

《高機能・独自製品の一例》

 

製品名

説明

ばね用材

「ステンレス鋼線」とは、ステンレス鋼線材に二次加工を施し、表面性状、線径、機械的特性などの精度の高い機能を付加し、それを保証したワイヤーの総称をいい、ばね・ねじ・金網などに加工されます。

当社のばね用材については、高強度や高耐熱、超非磁性などのお客様のニーズに応じ、線ぐせや光沢などを調整したオーダーメイド製品を提供しています。医療関連や精密電子機器、次世代の水素社会を支える素材となります。

極細線

線径100μm未満の製品を総称し、フィルター用途やスクリーン印刷用途に用いられています。細径化ニーズに対応してきた結果、現在9μmという単線としてはステンレス鋼線の極限の細さを実現しており、スクリーン印刷用途で用いられる極細線は、高精度・高細密が要求される太陽光発電パネルや電子部品の製造プロセスに欠かせない素材となります。

金属繊維(ナスロン®)

当社が独自の技術で開発したステンレス鋼繊維であり、その線径は1~50μmと非常に細く柔軟性を有します。金属の性質を保持しながら有機繊維と同様にニット状やフェルト状などへの加工が可能となります。このナスロン®を用いた高機能メタルフィルターは、より高強度、より高耐熱で耐食性も優れており、フィルムや樹脂、炭素繊維などの製造の濾過プロセスで利用されています。

超精密ガスフィルター(NASclean®)

金属繊維(ナスロン®)をもとに製作した薄層のメタルメンブレンフィルターであり、半導体・フラットパネルディスプレイ、太陽電池パネル等の生産過程に用いられるガスの濾過に用いられ、半導体製造装置などに組み込まれています。社会のデジタル化に伴いデータ処理の高速化と機器の低発熱化・省電力化が必要となり、カーボンニュートラルに向けたより高性能な半導体が必要となるに伴い、超精密ガスフィルター(NASclean®)に対する需要も高まっています。

 

(3)サステナビリティ経営

当社グループは、中期経営計画スローガン「サステナビリティ成長分野へ高機能・独自製品の開発・拡販と企業価値向上により持続的成長を図る」を基に、環境問題、人権尊重、健康経営、公正な取引、事業継続マネジメント(BCM)などの重要な経営課題に対して計画的に取り組んでいます。

製造業である当社では、生産プロセスで排出されるCO2や廃棄物の削減といった社会的な責務を意識しており、その中でも、事業活動に伴うCO2排出削減の目標(2030年目標30%削減(2013年度比)、2050年目標:カーボンニュートラル)を設定し持続可能な社会の実現を目指しています。また、当社グループの製造する高機能・独自製品は、最終製品の付加価値を高めるために不可欠な素材であり、サステナビリティ追求の潮流を大きなビジネスチャンスとして位置づけています。

また、当社グループは、ビジネス規範に対するコンプライアンス教育の徹底、健康・安全や生産性向上など働きやすい環境の整備、多能工化やスキルマトリクス評価による人的資本の質の向上など、人的資本への投資を通じて持続的成長の基盤を培っています。知的財産の活用・拡張に対しても、伸線加工や金属繊維ナスロン®などのコア技術を活かした新たな高機能・独自製品の創出のほか、水素関連などのサステナビリティ成長分野に対する中長期視点での研究開発の推進に取り組んでいます。

当社グループは、2022年3月に「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」提言への賛同を決議・表明し、気候変動に係るリスク及び収益機会が当社の事業活動や収益等に与える影響について、必要なデータの収集と分析を行い、リスクと機会を特定するとともに、シナリオ分析による戦略のレジリエンスを検証しています。また、投資家等とのエンゲージメントにも資するよう、TCFDが推奨する開示項目である「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」を含め、同提言に沿った情報開示を当社ウェブサイトにて行っています。「TCFD提言への賛同」に関する詳細な情報は、「統合報告書2024」(27頁から28頁)をご参照ください。「統合報告書2024」は、当社ウェブサイト(URL:https://www.n-seisen.co.jp/ir/library/integrated-report/)に掲載しております。

 

(4)コーポレート・ガバナンスとコンプライアンスの充実

当社グループは、東証市場区分再編に際しプライム市場を選択し、プライム市場上場企業に求められる改訂CGコードのフルコンプライに向け、2022年1月25日に大同特殊鋼株式会社の形式支配力基準による連結子会社となり、同社関係者の役員派遣の制約が外れました。2022年度は、独立社外取締役3名体制(うち女性取締役は1名)として独立社外取締役の選任割合を増やしガバナンス体制の強化を実現しました。さらに、大同特殊鋼株式会社を親会社とする当社では、独立社外取締役及び独立社外監査役全員を構成員とする特別委員会を設置し、支配株主と少数株主との利益が相反する重要な取引行為について審議・検討を行う体制を導入しました。当社は、2025年6月27日開催予定の第95期定時株主総会の議案(決議事項)として、「取締役7名選任の件」を提案しており、当該議案が承認可決されると、独立社外取締役4名体制(うち女性取締役は2名)となり、独立社外取締役が過半数となる予定です。

また、代表取締役社長を委員長とする「サステナビリティ委員会」にて気候変動などの地球環境問題への配慮、人権の尊重などサステナビリティ課題への取組みを組織的に推進しており、2024年度は「CDP気候変動質問書」に3年連続で「B」評価を取得し「水セキュリティ質問書」は「B」(前年度はB-)の評価を受けました。また、2024年から「統合報告書」を発刊し、株主・投資家をはじめとする様々なステークホルダーに対する非財務情報の開示充実に取り組んでいます。2023年9月には「日本精線グループ贈収賄防止方針」を制定しコンプライアンス強化を展開しました。

(注)

CDPとは企業や自治体を対象とした世界的な環境情報開示システムを運営する国際環境非営利団体。CDPは2003年以来、世界の主要企業を対象に、温室効果ガスの排出や気候変動による事業リスク・機会などの情報開示を求める質問書を年1回送付し、その回答をもとに企業の気候変動問題への対応を「A」から「D-」の8段階で評価しています。

 

(5)中期経営計画(NSG26)の基本方針

中期経営計画(NSG26)では、従来の日本精線リニューアル計画(NSR)で培った経営リソースや事業計画を承継するとともに、企業価値のさらなる創造を目指すために以下の4つの基本方針を掲げています。

 

a.サステナビリティ成長分野に向けた高機能・独自製品の開発深化

b.生産基盤強化と生産性向上

c.水素回収技術の深化

d.ESG経営 : 資本コストや株価を意識した経営(PBR1倍以上を目指して)

 

a.サステナビリティ成長分野に向けた高機能・独自製品の開発深化

 従来より注力してきた高機能・独自製品に関する機能能力を高めるとともに技術力向上のための設備投資・開発投資に注力していきます。また、需要増大が見込まれるサステナビリティ成長分野向け製品の生産能力の上方弾力を確保するための増産投資も計画的かつ機動的に展開していきます。こうした取り組みを通じて圧倒的な競争力を備え、競合他社が追随できない領域を目指していきます。具体的なアイテムとしては、極細線、極細ばね用材、超精密ガスフィルターの開発深化を展開していきます。また、サステナビリティ成長分野として、①再生可能エネルギー ②医療 ③IoT/AI ④自動車CASE を取り上げ、これらの分野で求められる要求特性の高度化に対応するため、当社の「Micro & Fine Technology」を駆使した製品で社会に貢献していきます。

カーボンニュートラルによる気候変動対策と安定的なエネルギー需給構造を考えるうえで再生可能エネルギーは欠かせない重要テーマとなっています。太陽光発電や風力発電、水素エネルギーなどを支える部材・素材や製造プロセスに不可欠な製品を提供しており、エネルギー効率のさらなる向上を図っていきます。スクリーン印刷に用いられる極細線の細径化は太陽光発電パネルの発電効率の向上に寄与するため、量産化が始まった線径9μmに続き、線径8μmも量産できる体制を整えていきます。

高齢化及び少子化の進行により経済成長や社会保障制度、医療人材不足などの医療分野の社会的な課題を認識しています。治療により生じる身体の損傷を極力抑えQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を高めるとともに健康寿命を延ばし医療体制の維持に貢献できる素材を開発深化させていきます。具体的にはカテーテルガイドワイヤーやインシュリン自己注射器用ばねの素材提供を通じて貢献していきます。

目覚ましいAIやIoTの技術革新は、業務効率化や省人化など第4次産業革命を惹き起こすと期待されています。膨大な計算量やセンシング技術などを支える半導体やデジタルデバイスの製造プロセスにおいて超精密ガスフィルターは不可欠な位置づけとなっており、機能向上と供給能力アップを続けていきます。また、半導体検査装置に組み込まれる超高強度の極細ばね用材の提供を通じてデジタル社会のイノベーションに貢献していきます。

カーボンニュートラル、高齢者ドライバーによる交通事故の増加、地方で増加する交通弱者などの課題解決アプローチとして自動車CASEが注目されています。自動車のIoT、自動運転、電動化の技術プラットフォームの革新に必要となる素材の開発・提供を通じて、社会的な課題解決に貢献していきます。

 

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b.生産基盤強化と生産性向上

 当社グループでは従来より①高機能・独自製品の機能能力増強 ②新商品・独自製品開発 ③生産基盤強化を中心に設備投資を展開してきましたが、NSG26においては、将来起こりうる少子化影響による人材不足に対応するための設備の省人化や自動化、さらなる極細線の細径化や受注拡大に対応した能力増強、ワールドワイドの拡販を意識した海外拠点の機能拡大などに対応するための設備投資に注力していきます。

具体的には、カーボンニュートラルの潮流もあり、太陽光発電パネル製造に必要な極細線の需要拡大を見込んでいます。細径化が進み、11μmから9μmの量産化を実現し、中期経営計画では8μmの量産化を目指しています。こうした環境を踏まえて極細線の能力増強投資を推進していきます。また、省力化投資や自動化を通じて生産性アップを推進するとともに、女性やシニアが活躍できる労働環境整備による労働力確保、作業の安全性やエネルギー効率の向上、環境負荷低減につなげていきます。さらに、IoTの活用によって生産現場に限らず、販売や管理の効率性や品質管理の高度化を推進していきます。THAI SEISEN CO.,LTD.、耐素龍精密濾機(常熟)有限公司、大同不銹鋼(大連)有限公司は、生産及び販売における海外展開の拠点として重要な位置づけを担っています。日系企業の海外展開のニーズに止まらず、グローバルニッチな素材を海外企業にも提供するため、さまざまな連携を図っていきます。

 また、製造業である当社はエネルギー使用が不可欠であり、カーボンニュートラルに向けた取り組みは社会的な責務として認識しています。エネルギーの使用効率向上、漏れや放熱などのロス低減、排熱再利用などの省エネ投資やプロセス見直しを継続的に推進しSDGsに貢献していきます。

c.水素回収技術の深化

 枚方工場内に整備した「MCHからの水素回収、貯蔵、分離精製一体型の小型プラント」により実証実験を推進し、商用化を展望した改良を重ねていきます。具体的には、安全を最優先とした設計、水素回収の高効率、長期耐久性、エネルギーロスの極小化など、連続運転により装置性能における信頼性の検証を進めていきます。実験により分離精製された水素は、熱処理炉の雰囲気ガスとして社内利用して実用化に向けたアプローチを確認していきます。

また、アンモニアからの水素回収に関する技術についても研究開発を加速させていきます。MCHとアンモニアという既存インフラの流用が可能な2つの水素キャリアに対するアプローチを展開することで、水素の事業化の選択肢を広げていきます。水素キャリアをタンクローリー輸送し、過疎地域や郊外の工場や発電設備などにおいてオンサイトの小型プラントで水素を消費するような利用シーンを想定しています。

今後の水素社会においては、燃料電池自動車や発電のために水素を燃焼させるほかに、半導体や液晶ディスプレイの製造プロセスの雰囲気ガスとして利用するなど、水素の多様な用途活用の可能性があります。当社が保有する金属フィルター加工技術、並びに特殊な独自の接合技術により開発した水素分離膜モジュールを用いることによって、超高純度の水素を精製することができます。当社が培ってきた技術を複合的に組み合わせるとともに外部リソースとの連携によって、将来の事業の柱となるよう努めていきます。

 

d.ESG経営 : 資本コストや株価を意識した経営(PBR1倍以上を目指して)

 環境(E)については、2030年度に2013年度比でCO2排出量を30%削減、2050年度にはカーボンニュートラルを目指すため、排熱回収や断熱化などを行いエネルギーの使用効率向上を図るとともに、電気炉への更新投資によって都市ガス使用量を削減していきます。また、既に導入済のCO2フリー電力の使用拡大についても状況に応じて進めていきます。さらに、サプライチェーン排出量(Scope1+2+3)削減と情報開示の充実についても積極的に取り組んでいきます。そのほか、化学物質の管理強化や廃棄物量の低減やリサイクルの推進、水資源の保全などを行うことにより、サーキュラーエコノミーへの移行を推進していきます。

 社会(S)については、人的資本経営に注力していきます。経営理念や2035年のありたい姿の実現には「成長し続ける組織の構築」が必要不可欠と考え、変革を実現する人材の育成と多様な人材・多様な働き方の確保をキーワードに人的資本の充実に向けた施策を推進していきます。体系的な教育研修の実施、女性活躍推進を中心としたダイバーシティ&インクルージョン、ワークライフバランスの推進、人権の尊重、ワークエンゲージメントの強化、健康経営の推進の各項目それぞれにKPIを設定し、一層充実した人的資本経営に取り組んいきます。

 ガバナンス(G)については、ステークホルダーとのコミュニケーション強化を図るために経営トップによる決算説明会や工場見学会を開催するなど、SR・IRの拡充を通じて市場から適正な評価を得られるよう努めていきます。また、サステナビリティ経営の推進や、コーポレート・ガバナンスのレベルアップとコンプライアンスの充実、CDPスコアなどの非財務情報も含めた情報開示の充実など、ステークホルダーに対して経営の透明性を確保することで、期待株主資本コストの抑制に努めていきます。研究開発部門の将来投資や非財務戦略投資を積極的に行い持続的成長の基盤の整備にも注力し、ROEや資本コストを意識し資本収益性の維持・向上を図りPBR1倍以上の維持・向上を目指していきます。NSG26においては連結配当性向50%程度とし、株主還元も強化していきます。

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※2024年度よりCO2排出量の算定方法を変更しております。それに伴い、公表済の2023年度以前の実績及び2030年度の目標値を変更後の算定方式による排出量に修正いたしております。また、2024年度の排出量は第三者検証前の数値となります。

 

(6)中期経営計画(NSG26)の進捗状況

中期経営計画(NSG26)の基本方針に則り、初年度となる2024年度の各施策を着実に実施・展開しました。

 

a.サステナビリティ成長分野に向けた高機能・独自製品の開発深化

ステンレス鋼線部門においては、太陽光発電パネルの高効率化に伴い、その製造プロセスで使用されるスクリーン印刷向け極細線の細径化が加速する中、従来の11μmに加え9μmについても量産対応しその要求にお応えしており、更には8μmの製造技術確立に向け注力いたしております。またインシュリン自己注射器に使用されるニッケル鍍金ばね材増産のための設備投資をTHAI SEISEN CO.,LTD.にて継続的に実施するなど、グローバル拠点の機能拡充も進めております。

金属繊維部門においては、より低圧損かつ高い濾過精度を有する超精密ガスフィルター(NASclean®)の新製品開発と拡販に注力しています。具体的には、近年半導体デバイスの微細化が進み、そのデバイス製造時に使用されるガスが蒸気圧の低いガス種に代わってきており、装置ライン全体の圧力損失を抑えるべくガスフィルターにも低圧損が求められています。この要求に対応すべく、超低圧損かつ高濾過精度を有したフィルターを開発し顧客に提案・評価いただいており、今後の更なる半導体デバイス微細化に対応してまいります。また、樹脂用のナスロン®フィルターにおいては、濾過時の樹脂の滞留低減を目指しフィルター構造や濾材を改良した新製品を顧客で評価いただいており、今後の高機能フィルムの品質向上に対応してまいります。

 

b.生産基盤強化と生産性向上

ステンレス鋼線部門においては、生産基盤強化として極細線の細径化及び需要拡大などに対応する製造工場の増築を先行して行うことを決定いたしました。また、海外向けで需要拡大が見込まれる細物ばね材の増産に向けた伸線機の増設などを実施しております。

金属繊維部門においては、半導体やデジタルデバイスの製造プロセスで使用される超精密ガスフィルター(NASclean®)需要の上方弾力に備えるため、製造工場やその周辺の整備に着手しました。

将来起こりうる少子化影響による人材不足に対応するための省人化・自動化投資につきましては、ナスロン®フィルターの再生洗浄工程での作業のロボット化や識別照合工程でのAIカメラ導入検討など継続的に進めております。カーボンニュートラルに向けた省エネ投資についても、放熱ロスの低減や排熱再利用などを進め、効率的なエネルギー利用を推進しております。

また、THAI SEISEN CO.,LTD.においては、生産基盤となる生産管理システムの導入に着手しております。受注から出荷までをトータルでカバーした効率的なオペレーションの実現により、生産計画・管理の精度向上と識別管理の強化を図ってまいります。

 

c.水素回収技術の深化

枚方工場内に整備した、MCH(メチルシクロヘキサン)からの水素貯蔵回収モジュールにより回収した水素を熱処理炉の雰囲気ガスとして利用する事とし、連続運転による実証実験に向けた装置改造や安全面での整備を進めております。この実証実験により、安全を最優先にしながら水素の回収効率や触媒の耐久性、プロセス内でのエネルギーロスなどを確認し、装置の信頼性とコスト検証を進めてまいります。

アンモニアからの水素回収技術についても継続して開発を推進しており、小型アンモニアクラッキング装置(アンモニアに熱を加えて水素と窒素に分解し、触媒に反応させて水素を取り出す装置)の実用化に向け、エンジニアリング企業や電力会社などとの共同検討を行っております。

また、当社が保有する金属フィルター加工技術並びに特殊な独自の接合技術により開発した水素分離膜モジュールは、超高純度水素精製の更なる流量拡大に向け、モジュールの製作・評価と市場展開を進めております。

これまで当社が培ってきた技術を複合的に組み合わせるとともに外部リソースとの連携によって商用化を目指し、将来の事業の柱となるよう注力します。

 

d.ESG経営 : 資本コストや株価を意識した経営(PBR1倍以上を目指して)

環境(E)については、2030年度に2013年度比でCO2排出量を30%削減、2050年度にはカーボンニュートラルを目指しており、2024年度(第三者検証前)は29%の削減となりました。目標達成に向け、引き続きエネルギーの使用効率向上や電気炉への更新による都市ガス使用量の削減などに取り組みます。また、海外3工場においてもCO2削減に向けたロードマップを策定し、グループ全体としてカーボンニュートラルを推進しています。

サプライチェーン排出量(Scope1+2+3)削減と情報開示の充実については、CDP気候変動質問書の評価B(前年度と変わらず)、同水セキュリティ質問書の評価B(前年度B-)となっており、更なるスコアアップに向け課題解決に取り組みます。

社会(S)については、健康経営推進の成果として「健康経営銘柄」に初めて選定されるとともに、「健康経営優良法人」には6年連続で認定、今年度は上位500法人である「ホワイト500」にも初めて認定されました。また、リニューアルした教育体系に沿った研修の実施、女性活躍推進、人権の尊重、ワークエンゲージメント強化などにより、人的資本経営の強化に引き続き取り組みます。

ガバナンス(G)については、ステークホルダーとのコミュニケーション強化を図るために経営トップによる決算説明会や工場見学会を開催しております。また、コーポレート・ガバナンスのレベルアップに向け取締役会の実効性評価、政策保有株式の縮減などに取り組むとともに、親会社との取引については独立社外取締役及び独立社外監査役が出席する特別委員会でのチェックを強化し、少数株主の利益保護を図っております。ROEや資本コストを意識し資本収益性の維持・向上を図りPBR1倍以上の維持・向上を今後も目指していきます。NSG26では連結配当性向50%程度としており、2024年度は52.8%となる予定です。

 

e.目標とする経営指標

当社グループは、NSG26において以下の指標を経営目標として設定しております。初年度の結果は下表のとおりとなります。引き続きこれらを重要指標とし、企業価値の向上に努めてまいります。

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※第三者検証前のCO2排出量を基とした数値。

 

(7)経営環境、優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題

①経営環境

2024年度の世界経済は、米国の政策動向に絡む不透明さの増大、不動産不況を抱える中国経済の減速懸念などの影響により不安定に推移しました。また、ロシア・ウクライナ戦争や中東情勢などの地政学リスクの解消が見通せないこともあり、景気の先行きの不透明感が大きくなっています。日本経済は緩やかな回復基調にあるものの、不安定な国際情勢の影響に加え、賃上げ以上に進む物価の上昇、幅広い業界での人手不足問題などが景気の先行きに影響する可能性があります。

中長期的な視点では、ステンレス鋼線の汎用品に対する需要が頭打ちとなるニューノーマル経済のリスクシナリオを想定しつつも、サステナブル成長分野に対する高機能・独自製品の需要の増大を見込んでいます。地球環境保護や人口減少、デジタル社会の進展に向けたイノベーションなど、当社を巡る経営環境は「リスク」と「ビジネス機会」の両面を包含しています。

 

②優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題

今後については、米国の相互関税をはじめとする通商政策が世界経済に不確実性の高まりをもたらしており、世界経済の大きな下振れリスクと認識しております。また、地政学リスクの継続、中国の景気減速懸念、株式市場・為替・金利動向を発端とする景気の下振れリスクなど、多くのリスクシナリオを認識しています。

当社グループの主力製品であるステンレス鋼線は、中国や韓国のステンレス鋼線メーカーとの競争激化による収益低下などの懸念があり、同様に、金属繊維(ナスロン®)も化合繊維向けなどの一般汎用製品については競争が激しくなっております。

このような経営環境を踏まえ、当社グループは2024年度より2027年3月期を最終年度とする『第16次中期経営計画(NSG26)』をスタートさせ、「サステナビリティ成長分野へ高機能・独自製品の開発・拡販と企業価値向上により持続的成長を図る」を中期スローガンとして掲げ、①サステナビリティ成長分野に向けた高機能・独自製品の開発深化、②生産基盤強化と生産性向上、③水素回収技術の深化、④ESG経営(資本コストや株価を意識した経営)を基本方針として企業価値向上に努めてまいります。NSG26の経営目標としては連結経常利益52億円、連結売上高経常利益率(ROS)10%以上、連結総資産経常利益率(ROA)10%以上などに加え、2030年度CO2排出量30%削減(2013年度対比)目標を掲げております。

具体的には、ステンレス鋼線部門の販売面においては、再生可能エネルギー、医療、IоTなどのサステナビリティ成長分野に極細線、極細ばね用材、高強度ばね用材など当社グループの高機能・独自製品の拡販に努めてまいります。生産面においては、今後の需要増と細径化に対応した極細線の能力増強投資や将来起こりうる労働力不足に対応した省人化・自動化、クラウド化やAIなどのIоT活用を含めた生産基盤強化と生産性向上を図ります。また、THAI SEISEN CO.,LTD.や大同不銹鋼(大連)有限公司など海外生産拠点と一丸となった最適生産・販売体制を再構築してまいります。

金属繊維部門においては、今後さらに拡大が予想される半導体製造装置市場の需要拡大に応えて超精密ガスフィルター(NASclean®)の安定供給とともに新製品の開発・供給を行ってまいります。

水素ビジネスについては、MCH(メチルシクロヘキサン)やアンモニアからの水素回収技術をさらに深化させ、水素回収技術、貯蔵技術、分離精製技術を組合せた小型プラントの商用化に向けた取り組みを加速させていきます。

ESG経営としては、省エネ投資などの排出抑制を含めたサプライチェーン排出量(Scope1+2+3)削減を推進し、2050年のカーボンニュートラルを目指します。また、資本コストや株価を意識した経営にも注力し、ステークホルダーとのコミュニケーション強化や株主還元策の強化を図ります。働き方改革や人的資本経営への投資も積極的に行うとともにリスク管理やガバナンスの体制強化にも鋭意取り組んでまいります。

また、当社の自助努力では吸収困難な労務費、副資材費、物流費などの製造コストの増加を販売価格へ転嫁するとともに、サプライチェーンの柔軟性確保や適正在庫の運用を図るなど、状況に応じた取り組みを展開いたします。

以上の諸施策を確実に実行することにより、収益の一段の向上を図るとともに、事業のグローバル化推進や高度化・多様化する顧客ニーズへの対応、サステナブル社会への貢献を通じ、『さらなる企業価値の向上』にグループ一丸となって取り組んでまいります。

 

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

 当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりであります。

 なお、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書の提出日現在において、当社グループが判断したものであります。

 

(1)サステナビリティ

 当社グループは、ステンレス鋼線のトップメーカーとして、これまでも経営理念並びに環境方針基本理念に基づき社会の発展へ貢献してまいりました。これからも全てのステークホルダーと共にサステナブル社会の実現に向けて貢献し続けます。

 なお、当社グループのサステナビリティ経営の取り組みや当社独自の価値創造プロセスについて、2023年5月に「サステナビリティ報告書2022」を創刊し、株主・投資家をはじめとする様々なステークホルダーに対する非財務情報の開示充実に取り組んでいます。また、2024年9月にはサステナビリティ関連情報の内容を充実し、サステナビリティ報告書から統合報告書と名称を変更して発行いたしました。

 最新版である「統合報告書2024」は、当社ウェブサイト(URL:https://www.n-seisen.co.jp/ir/library/integrated-report/)に掲載しております。同書の記載の対象期間は、2023年度(2023年4月から2024年3月。一部過去の実績、2024年4月以降の情報も含みます。)であります。

 

《経営理念》

私たちは、お客様にとって価値のある商品とサービスの提供を通じて社会の発展に貢献します。

私たちは、情報を重視し、世界の変化に素早く適応するため、技術・知識・行動の革新に挑戦し続けます。

私たちは、利益ある発展と、創造性豊かでいきいきとした企業風土の確立を目指します。

 

《環境方針基本理念》

日本精線はステンレス鋼線の国内トップメーカーとして、環境への負荷の少ない生産・販売活動を追求し、

従業員一人一人の行動を通じて、地球環境の保全・向上に積極的に取り組みます。

 

①戦略並びに指標及び目標

 当社グループは2024年4月より『中期経営計画(NSG26)』※1(最終年度2027年3月期)をスタートさせ、「サステナビリティ成長分野へ高機能・独自製品の開発・拡販と企業価値向上により持続的成長を図る」※2 を中期スローガンとして掲げ、未来の高機能・独自製品を生み出し続けることを通して社会に貢献し、持続可能性を高める活動を進めています。加えて、2035年の「ありたい姿」を設定し、Micro & Fine Technologyを極めてお客様にとって価値ある製品を独自技術で作り続け、サステナビリティ社会の発展に貢献し、ステンレス鋼線NO.1カンパニーの地位を継続していくことに取り組んでいきます。

※1 NSG:Nippon Seisen Sustainable Growth の略

※2 足元ではSDGs(持続可能な開発目標)やカーボンニュートラルなどの外部環境が大きく変化しており、これに対応すべく当社の今後の取り組むべき課題を抽出し重要課題(マテリアリティ)を下記のとおり特定し、その指標及び目標を設定しました。

 

 

マテリアリティ

 

2026中期(NSG26)目標とKPI

地球環境の保護

(事業活動)

①気候変動への取り組み

●省エネルギー・脱炭素技術によるCO2排出量削減

●2030年度 当社Scope1・2、及びScope3 2013年度比

 Scope1・2 日本精線単体、連結共にCO2排出量30%削減

 Scope3   CO2排出量の削減

 

●供給責任の全う

●BCM達成のためのインフラ整備2030年完了

②環境影響の低減

●管理化学物質の使用量削減

●管理化学物質移動量・排出量 2030年度2013年度比5%低減

●特定化学物質の削減

③サーキュラーエコノミーへの移行

●廃棄物量低減、リサイクルへの取り組み

●廃棄物 リサイクル率向上 2030年度リサイクル率

 枚方・東大阪工場平均値 70%以上

 

●水資源の保全

 

 

●水資源使用量 枚方・東大阪工場合計 2030年度2013年比5%削減

●各工場排水基準合格

地球環境の保護とQOLの向上

(製品提供)

④エネルギーの効率改善と技術革新

●新エネルギーに貢献する製品・技術の提供

●極細線(太陽光発電パネル印刷用)<9μm以下の開発と提供

●ナスロンフィルター(風力発電用炭素繊維) お客様要求量の供給

 

●高性能半導体・電子部品の製造プロセス革新に貢献する製品・技術の提供

●超精密ガスフィルター(濾過精度1.5nm) お客様要求量の供給

●ナスロンフィルター(MLCC離型フィルム用) お客様要求量の供給

 

●モビリティ革新に対応する製品・技術の提供

●ナスロンフィルター(LiBセパレータフィルム用) お客様要求量供給

●xEV車等の消費電力制御に貢献する製品の開発と提供

 

●省エネルギー化に貢献する製品・技術の提供

●耐熱ボルト用材 お客様要求量の供給

●耐熱ばね用材  お客様要求量の供給

 

 

●xEV車等の消費電力制御に貢献する製品の開発と提供

●ステンレス系、及び高合金系の積層造形用材料の開発と提供

 

●水素社会に対応する製品の提供

●耐水素脆性材料『HYBREM-S』 お客様要求量の供給

●回収水素の構内利用と実用化技術の開発

 

 

●吸蔵材のモジュール化と実用技術の開発

●水素分離膜モジュール お客様要求量仕様対応

⑤資源の有効活用

 

 

 

 

●資源の有効活用に貢献する製品・技術の提供

 

 

 

●ナスロンフィルター(リサイクルPET・中空糸) お客様要求量の供給

●ナスロンフィルター再生洗浄 受託加工 お客様要求量の対応

●ハーキュリー®(高強度 省資源) お客様要求量の供給

●302HS(高強度 省資源) お客様要求量の供給

●高硬度銅系合金線(エレメタルeH)の開発と提供

⑥QOLの向上

●高機能な医療用材料の提供

●能動型内視鏡、カテーテルガイドワイヤ用 お客様要求量の供給

●歯列矯正用ワイヤ お客様要求量の供給

 

 

●インシュリン自己注射用ばね用材 お客様要求量の供給

●医療針用 お客様要求量の供給

 

 

●医療用ステンレス鋼線INS304V 高強度仕様の供給

●医療用CCMN合金線の開発と提供

社会への責任と貢献

⑦人権の尊重

●様々な価値観・属性を受容し、人権を尊重する企業風土の醸成

●人権デュー・ディリジェンスの着実な実施

●人権エンゲージメントドライバースコア3.11偏差値53.1評語BB以上

⑧労働災害の撲滅

●災害0を目指したソフト・ハード改善

●重大災害件数0件、労働災害の度数率0.2以下

⑨健康経営の推進

●従業員の健康増進

●健康経営の推進 ●疾病/メンタル不調の早期発見

●治療の推進、健康意識向上 ●要精密検査者の検査受診率100% ●特定保健指導実施率100%

⑩ダイバーシティの推進

●多様な人材の確保・育成

●C職社員(総合職)に占める女性社員の割合を15%以上

●T職社員(技能職)に占める女性社員の割合を5%以上

 

●「働きがい」を感じる職場環境づくり

●女性管理職数を2023年度に対し3倍以上

●障がい者雇用率2.7%以上

 

 

●男性社員の育児休業取得率33%以上

●働きがい意識調査(総合エンゲージメントスコア4.45偏差値53.3

評語BB以上)

⑪ステークホルダー・エンゲージメント

●地域社会とのコミュニケーション促進

●操業地域の環境保全と改善の推進

 

●株主・投資家とのコミュニケーション促進

●地域社会とのコミュニケーション深耕

●企業情報の発信強化と各ステークホルダーとのコミュニケーション促進

 

ガバナンスの強化

⑫コーポレート・ガバナンスの強化

 

●取締役会、委員会等の体制強化とコーポレート・ガバナンス各種取り組みの推進

●形式支配力基準による大同特殊鋼との連結関係維持強化

●意思決定の迅速化、中長期的な企業価値の向上→

ガバナンス強化に向けた体制・機能強化

●実効性と透明性の向上

⑬リスクマネジメントとコンプライアンスの強化

●リスクの特定と重点リスクの対応

●リスクマップの定期的策定/改訂によるリスク評価・リスクの低減

 

●コンプライアンス徹底推進

●全従業員に対するコンプライアンス浸透

 

⑭高品質な製品の安定供給

●徹底した品質管理・品質改善

●品質重大事故0件

 

②ガバナンス

 当社グループは、気候変動などの地球環境問題への配慮、人権の尊重、健康経営、公正な取引、事業継続マネジメント(BCM)などサステナビリティ課題を重要な経営課題であると認識し、これら課題への取り組みを組織的に推進するため、代表取締役社長を委員長とする「サステナビリティ委員会」を設置し、サステナビリティ担当役員を選任いたしました。同委員会の場でサステナビリティに関する諸課題への取り組み報告や議論を継続的に行ってまいります。サステナビリティ委員会は原則として6ヶ月に1回、その他必要に応じて随時開催します。その内容を取締役会に報告・審議し、承認を得る仕組みとしています。

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※2025年6月23日現在

 

③リスク管理

 当社グループは、リスクとは経営基本方針(「経営理念・行動規準」)や経営計画(事業方針、中期経営計画、予算)等の達成を阻害する要因であると考えています。事業経営に伴って生じるリスクと、外部環境によって発生するリスクの状況を正確に把握し、適切な管理を行うための体制の整備と、その効果的な運用を実現することで、企業の健全性の確保、ひいては企業の存続可能性の維持に努めています。

 当社グループの事業推進に伴う損失の危険に関しては、執行役員がそれぞれの担当部署のリスクを認識、統括・管理しています。子会社の損失の危険に関しては「関連会社管理規程」に基づき経営企画部が主管部署となり管理し、都度必要な指導を行っています。それら内容については「コンプライアンス・リスクマネジメント委員会」並びに取締役会に報告しています。事業運営上のリスクは、影響度と対策度合によってリスクマップという形で整理しています。

 突発的危機発生時は、経営危機管理規程に基づき、対外的影響を最小限にするための対応策を協議・実施します。

 また、当社グループにおいては、サステナビリティに関するリスクに関しても、①ガバナンスに記載のサステナビリティ委員会における検討・議論の対象としております。

 マテリアリティごとの「リスクと機会への対応」に関する詳細な情報は、「統合報告書2024」(19頁から20頁)をご参照ください。

(2)気候変動

 製造業である当社は、生産プロセスで排出されるCO2や廃棄物の削減に取り組んでまいります。同時に、当社の高機能・独自製品の供給を通じ持続可能な社会の実現に貢献してまいります。

 「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (3)サステナビリティ経営」に記載のとおり、当社は2022年3月に「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」提言への賛同を決議・表明し、気候変動が事業に与えるリスクと機会の両面に関して、「戦略」、「リスク管理」、「ガバナンス」、「指標と目標」の観点から、さらなる情報開示の充実に取り組んでいます。「TCFD提言への賛同」に関する詳細な情報は、「統合報告書2024」(27頁から28頁)をご参照ください。

 また、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (4)コーポレート・ガバナンスとコンプライアンスの充実」に記載のとおり、2022年度の「CDP気候変動質問書」に初めて回答し、2022年度から2024年度において3年連続で「B」評価を取得しています。

 また、「水セキュリティ質問書2023」に初めて回答し、「B-」評価を取得しました。また、2024年度の評価についてはこれまでの取り組みが評価され「B」評価にランクアップいたしました。

 

①ガバナンス

 気候変動に関するガバナンスは、サステナビリティ全般のガバナンスと同様であります。詳細については「(1)サステナビリティ ②ガバナンス」をご参照ください。

 当社では2024年度から2026年度の中期経営計画内において、CO2排出量に関して2030年度に2013年度比30%削減、2050年度カーボンニュートラル達成を目標としています(ともにScope1・2対象)が、更なる取り組み強化のため、2021年9月よりカーボンニュートラル会議を創設し、CO2排出量削減に向けた取り組みについての議論や実施項目のフォローアップを進めています。また、気候変動影響への適応策としての事業継続マネジメント(BCM:Business Continuity Management)にも取り組んでいます。

 こうした活動を含めて、「(1)サステナビリティ ②ガバナンス」にて前述のとおり、サステナビリティ委員会において、気候変動対応に関する諸課題への取り組みが報告され、議論することとされています。

 

②戦略

 中長期的なリスクの一つとして「気候変動」を捉え、関連リスク及び機会を踏まえた戦略と組織のレジリエンスについて検討するため、当社はIEA(国際エネルギー機関)やIPCC(気候変動に関する政府間パネル)による気候変動シナリオ(1.5℃以下シナリオ及び4℃シナリオ)を参照し、2050年までの長期的な当社への影響を考察し、国内鋼線事業を中心にシナリオ分析を実施しました。

 当社におけるCO2排出量の削減については、①エネルギー使用効率向上、②漏れ・放熱などのロス低減、③排熱などを回収して利用する再利用、④使用するエネルギーをCO2フリー化、の4つの手段を主に考えています。

(注)

1.5℃以下シナリオ:気温上昇を最低限に抑えるための規制の強化や市場の変化などの対策が取られるシナリオ

4℃シナリオ:気温上昇の結果、異常気象などの物理的影響が生じるシナリオ

 

《気候変動に関する主なリスクと機会及び対応》

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「気候変動に関する主なリスクと機会及び対応」の表は、「統合報告書2024」(28頁)に記載しています。

 

③リスク管理

 TCFD提言への賛同表明を検討するにあたり、気候変動リスクに関するワーキンググループを設置してシナリオ分析を実施しました。かかる分析の結果については、「サステナビリティ委員会」における審議を経て、取締役会に報告され、これらを踏まえて、当社取締役会において、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (3)サステナビリティ経営」に記載のとおり、2022年3月に「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」提言への賛同を決議・表明しております。気候関連リスクの優先順位付けとして、リスク・機会の発生可能性と影響度の理由から、上記の影響度の高い事項に注力して取り組みます。現在は、気候関連リスクの管理プロセスとして、「サステナビリティ委員会」を通じて、気候関連リスクに関する分析、対策の立案と推進、進捗管理等を実践しています。「サステナビリティ委員会」で分析・検討した内容は、取締役会に報告し、全社で統合したリスク管理を行っています。

 地球温暖化の進展に伴う気候変動リスクのうち、当社事業活動に最も大きな影響をもたらす事象として、局地的豪雨による水害発生を想定した対策など総合的なBCM(Business Continuity Management)を計画立案し、万一の災害時における影響の最小化対策や、生産活動の早期復旧などに必要なインフラ整備・改善を実施中であり、レジリエンス向上に向けた努力を継続しています。

 

④指標及び目標

 当社では、気候関連問題が経営に及ぼす影響を評価・管理するため、温室効果ガス(CO2)の総排出量を指標として削減目標を設定しています。CO2排出量に関して2030年度に2013年度比30%削減、2050年度カーボンニュートラル達成を目標としています。

 なお、現在の目標設定の対象会社は日本精線株式会社単体ですが、CO2排出量の実績は連結子会社も個別に管理しています。

 当社では、限りある資源を有効活用するために、従来より省エネ投資を行ってきました。これにより2024年度におけるCO2排出量は2013年度対比29%減、CO2排出原単位は27%減となりました。引き続き省エネ投資を行ってまいります。当社におけるCO2排出量の削減については、①エネルギー使用効率向上、②漏れ・放熱などのロス低減、③排熱などを回収して利用する再利用、④使用するエネルギーをCO2フリー化、の4つの手段を主に考えています。当社におけるCO2排出量は都市ガスを燃料としたバーナーを用いて加熱を行う熱処理炉からが約16%を占めており、この炉における高効率化とロス低減が大きな課題となっています。気候変動への取り組みに関する詳細な情報は、「統合報告書2024」(23頁から26頁)をご参照ください。

 また、当社グループの製造する高機能・独自製品は、最終製品の付加価値を高めるために不可欠な素材であり、サステナビリティ追求の潮流を大きなビジネスチャンスとして位置づけています。例えば、太陽電池パネル印刷用の極細線や風力発電用炭素繊維の製造プロセスで用いられるナスロンフィルターは、新エネルギー領域で貢献しています。高性能半導体や電子部品の製造プロセスに用いられる超精密ガスフィルター(NASclean®)やナスロンフィルターは、エネルギー効率の改善を支える製品となります。こうした高機能・独自製品の提供を通じて、地球環境の保護に貢献していきます。

 

(3)人的資本

①多様性の確保についての考え方

 日本精線グループ企業倫理憲章に「社員の多様性、人格、個性を尊重するとともに、安全と健康に配慮した働きがいのある職場環境を整備し、ゆとりと豊かさを実現する。」と規定し、当社のダイバーシティへの取り組み姿勢を示しております。当社グループでは、この方針のもと、性別、国籍、採用形態で区分せず、多様な価値観を有する人材の採用を進めています。また、2023年12月には「女性活躍推進チーム」を発足し、当社で働く女性社員がそれぞれのライフステージの中でキャリアアップし、やりがいを持って働き続けられる環境・風土づくりを目指して活動しています。なお、女性活躍推進のKPIは下記のとおりです。

 a. 総合職に占める女性社員の割合を2026年度までに15%以上、2030年度までに20%以上とする。

 b. 技能職に占める女性社員の割合を2026年度までに5%以上、2030年度までに7%以上とする。

 c. 女性管理職数を2023年度に対し、2026年度までに3倍以上、2030年度までに5倍以上とする。

 加えて、2025年3月末現在、当社の管理職における女性比率が2.2%、同外国人の比率が2.2%、同キャリア採用者の比率が9.8%となっておりますが、多様性を持った社員が活躍できる場を創造できるよう、これらの比率の向上にも努めてまいります。

 

②人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針、社内環境整備方針

・人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針

 企業にとって、最も重要な財産は人であると考えます。

経営戦略上必要となる多様な人材を計画的に採用するとともに、その雇用条件のみならず安全及び健康にも意を用いることにより、定着を図っております。

また、社員一人ひとりが日々の業務を通じて学び、様々な研修を通じて成長し、そのような人材が集うことで企業の成長と発展があるものと考えます。その具体策として、下記の4項目からなる教育体系を構築し、社員に計画的な学びの機会を創出・支援しています。

 a.階層別教育 b.目的別教育 c.自己啓発支援 d.若手社員研修

 こうした施策は女性、外国人、キャリア採用者等の属性を問わず実施しております。これらの結果、社内に多様な人材が確保され、会社の持続的な成長に繋がっていくと認識しております。

 

・社内環境整備方針

 様々なライフイベントが発生する際でも仕事と両立できるよう制度を整えることで、女性、外国人、キャリア採用者等の属性を問わず全ての社員が継続して働きやすい職場となるよう環境整備を進めております。具体的には、社員のワークライフバランスの向上と生産性の向上を同時に実現させるために、フレックスタイムや時差出勤、在宅勤務制度を導入しております。また、他にも育児休職制度の拡充や短時間勤務制度、有給休暇取得促進など、様々な制度や環境を整備しており、多様な人材が仕事と生活を両立し、安心してキャリアを積んでいける会社を目指しています。

 

③各項目の実績と今後の進め方等

 上記「②人材の多様性確保を含む人材の育成に関する方針、社内環境整備方針」において記載した人材の育成に関する方針、社内環境整備方針に関する指標の内容、当該指標に関する実績は、以下のとおりであり、今後、これらの数値を高めていくように努めてまいります。なお、これらの指標について、当社では、関連する指標のデータ管理とともに、具体的な取り組みが行われているものの、連結グループに属するすべての会社では行われていないため、連結グループにおける記載は困難であります。このため、以下の指標に関する目標及び実績は、連結グループにおける主要な事業を営む当社のものを記載しております。

 

・人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針に係る指標、目標及び実績

イ.昇給率

 当社では一般職(組合員)の昇給率を指標として用いており、継続的・安定的な昇給を行うことを目標としております。その実績は以下のとおりです。

 

2023年

2024年

2025年

一般職の昇給率

3.02

7.13

7.05

 

ロ.採用者数

 当社では採用者数を指標として用いており、景況等に左右されず継続的に採用を行うことを目標としております。その実績は以下のとおりです。

 

2022年度

2023年度

2024年度

新    卒

16

13

14

キャリア採用

6

2

6

うち、女性比率

31.8

20.0

35.0

 

ハ.入社10年後の定着率

 当社では入社10年後の定着率を指標として用いており、継続的にその指標を向上させることを目標としております。その実績は以下のとおりです。

 

2013年入社

2014年入社

2015年入社

入社人数(正社員)

8

5

9

10年後退職者人数

1

1

1

定着率

87.5

80.0

88.9

 

ニ.健康経営への取り組み

 当社では働きがい(ワーク・エンゲージメント)、生産性(相対的プレゼンティーズム)、働きやすさ(社内コミュニケーション指数)を指標として用いており、継続的にその数値を向上させることを目標としております。その実績は以下のとおりです。

 

2022年度

2023年度

2024年度

ワーク・エンゲージメント

2026年度目標2.94

(6満点)

2.78

2.78

2.65

相対的プレゼンティーズム

2026年度目標1.09

(1を超えるとパフォーマンス良好な状態)

1.04

1.00

1.02

社内コミュニケーション

2026年度目標6.20

(10満点)

5.94

5.94

5.87

 ワーク・エンゲージメントとは、「活力」「熱意」「没頭」の3つが揃った状態として定義されるものです。各因子を数値化し、この数値を高めていくことを目指しております。

 相対的プレゼンティーズムとは、体調やメンタル不調による労働生産性の低下を表す指標として定義されており、同職種・業務の他者に対する評価と比較して自己評価を行い相対化して点数化するものです。

 社内コミュニケーションについては、コミュニケーションの満足度に関する社員アンケートを数値化したものを指標としており、この数値を高めていくことを目指しております。

 また当社は、経済産業省と東京証券取引所が選定する「健康経営銘柄2025」に初めて認定されました。同時に、経済産業省と日本健康会議が共同で顕彰する健康経営優良法人(大規模法人部門)に6年連続で認定され、なおかつ今回は上位500法人である「ホワイト500」にも初めて認定されました。「健康経営銘柄」は、東京証券取引所に上場している企業の中から原則1業種につき1社、従業員の健康管理を経営的な視点で考え戦略的に取り組んでいる企業を評価、選定するものです。

 

ホ.多様性の確保

 当社では管理職における女性労働者、外国人、キャリア採用者の割合と障がい者雇用率を指標として用いており、継続的にその比率を向上させること、また、女性活躍として総合職(C職)、技能職(T職)に占める女性社員の割合を継続的に向上させることも目標としております。その実績は以下のとおりです。

 

2023年3月末

2024年3月末

2025年3月末

管理職に占める女性労働者の割合

1.0%

1.1%

2.2%

管理職に占める外国人労働者の割合

2.1%

2.1%

2.2%

管理職に占めるキャリア採用者の割合

9.4%

10.6%

9.8%

障がい者雇用率

3.0%

2.9%

2.9%

総合職に占める女性労働者の割合

10.3%

9.2%

13.8%

技能職に占める女性労働者の割合

2.7%

2.8%

2.8%

 

ヘ.人権の尊重

 当社では人の尊重(エンゲージメントドライバースコア)を指標として用いており、継続的にその数値を向上させることを目標としております。その実績は以下のとおりです。

 

2022年度

2023年度

2024年度

自社平均

3.11

偏差値

53.1

評語

BB

 エンゲージメントドライバースコアはエンゲージメントサーベイの指標の一つであります。

 エンゲージメントドライバースコア算出の元となるエンゲージメントサーベイは隔年実施であり、2024年度の実施はありません。

 偏差値は、自社平均と製造業全体の平均をもとに算出しております。

 評語は、偏差値に対して10段階で設定されている値で業種内(製造業)でのポジショニングを示しております。

 評語「BB」は、業種内(製造業)で「中位の上」との位置づけとなります。

 

ト.教育費

 当社では社員一人当たりの教育費を指標として用いており、継続的にその指標を向上させることを目標としております。その実績は以下のとおりです。

 

2022年度

2023年度

2024年度

社員一人当たりの教育費

21.1千円

26.0千円

27.2千円

 

・社内環境整備方針に係る指標、目標及び実績

イ.フレックスタイム制度

 フレックスタイム制度が適用される対象者数を指標として用いております。2025年3月末日時点の実績としては195名で、継続的にその数値を向上させることを目標としております。当社は、社員が「始業・終業時刻を自ら決める」ことによって、生活と仕事の調和を図りながら効率的に働くことができるコアタイム無しのフレックスタイム制度を導入しております。

 

2022年度

2023年度

2024年度

対象者

173

177

195

 

ロ.有給休暇取得促進

 有給休暇取得率を指標として用いており、継続的にその比率を向上させることを目標としております。その実績は以下のとおりです。法令で使用者に義務付けられる年次有給休暇の確実な取得(年5日)を行っております。

 

2022年度

2023年度

2024年度

取得率

70.6

64.6

65.1

平均取得日数

13.7

12.6

12.7

 

 

ハ.育児休業制度

 育児休業取得率を指標として用いており、継続的にその比率を向上させることを目標としております。その実績は以下のとおりです。改正育児・介護休業法の施行にあたり全管理職への教育を実施するなど職場における育児休業制度の理解促進を進めるなどの施策に取り組んでおります。

 

2022年度

2023年度

2024年度

 

対象者数

取得者数

取得率

対象者数

取得者数

取得率

対象者数

取得者数

取得率

男性

21

3

14.3%

11

6

54.5%

13

6

46.2%

女性

2

2

100.0%

1

1

100.0%

合計

23

5

21.7%

12

7

58.3%

13

6

46.2%

 

ニ.短時間勤務制度

 短時間勤務制度の利用者数を指標として用いており、その実績は以下のとおりです。育児中の従業員が短時間勤務制度を利用しやすい職場環境とすべく、各職場における短時間勤務制度の理解促進を進めるなどの施策に取り組んでおります。

 

2022年度

2023年度

2024年度

利用者

9

9

11

 

ホ.在宅勤務制度

 在宅勤務制度の実施率を指標として用いており、その実績は以下のとおりです。新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付けが、2023年5月8日から5類に移行されたこと等に伴い、直近の実施率が低下しておりますものの、当社では恒久的な制度として在宅勤務制度の整備を行っています。

 

2022年5月

2023年5月

2024年5月

2025年5月

 

2類相当

5類移行後

5類移行後

5類移行後

営業部門

(管理職除く)

37.0%

19.0%

20.0%

20.0%

管理部門

(営業管理職含む)

24.0%

13.0%

13.0%

12.0%

 

ヘ.総合エンゲージメントの向上

 総合エンゲージメントスコアを指標として用いており、その実績は以下の通りです。エンゲージメントサーベイを通じて従業員の会社への愛着や関心、仕事へのやりがいや意義の感じ方についての現状把握を行い、満足度を総合エンゲージメントスコアとして数値化することで人的資本の見える化を図るなどの施策に取り組んでいます。

 

2022年度

2023年度

2024年度

自社平均

4.45

偏差値

53.3

評語

BB

 総合エンゲージメントとは、エンゲージメントサーベイにおける「会社・仕事・職場」に対して総合的に抱く愛着の状態を示します。

 エンゲージメントサーベイは隔年実施であり、2024年度の実施はありません。

 偏差値は、総合エンゲージメントスコアの自社平均と製造業全体の平均をもとに算出しております。

 評語は、偏差値に対して10段階で設定されている値で業種内(製造業)のポジショニングを示しております。

 評語「BB」は、業種内(製造業)で「中位の上」との位置づけとなります。

 

3【事業等のリスク】

 有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況に関する事項のうち、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある主要なリスク及びその対応状況について、以下に記載いたします。

 当社グループでは、こうしたリスクの可能性を認識した上で、発生を回避し、または、発生した場合の影響を抑制する観点から、現状想定し得るリスクを洗い出し評価した上で、事業運営上のリスクについては経営会議にて、また、コンプライアンス上のリスクについてはコンプライアンス・リスクマネジメント委員会において、サステナビリティに関するリスクについてはサステナビリティ委員会においても、それぞれ優先順位に応じて具体的な対策を講じ、定期的にその妥当性について協議・検討を図っております。

 なお、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書の提出日現在において当社グループが判断したものであります。

(1)自然災害などの不可抗力や外部からの攻撃によるリスク

 激甚化する気象災害など気候変動リスクがクローズアップされ、脱炭素社会の実現に向けた取り組みが世界的に加速しています。炭素税導入による調達・操業コストの増加や内燃機関車用部品材料の需要減少などのリスクへの対策の準備が必要となっています。また、当社グループの提供する素材は、お客様の製品を通じてグローバルに提供されることとなるため、世界各地における環境関連法令の適用に対応することが求められます。地球温暖化防止など、環境規制は厳格化の傾向にあり、ひいては当社グループの製造コストを増加させるリスクがあると認識しております。

 新たな感染症の発生・拡大によって、再度、経済活動の自粛を求められることが想定されます。国内外の工場内での感染発生による製造ライン停止やサプライチェーンの寸断によって、お客様に製品が供給できないリスクを認識しています。また、従業員のほか、お客様や協力会社などの生命・健康を脅かす虞もあります。さらに、工場休業に伴う補償や操業度悪化が損益や資金繰りに与える影響も生じます。

 当社グループは、気候変動などの地球環境問題への配慮、人権の尊重、健康経営、公正な取引、事業継続マネジメント(BCM)などサステナビリティ課題を重要な経営課題であると認識し、これら課題への取り組みを組織的に推進するため、代表取締役社長を委員長とする「サステナビリティ委員会」を設置し、サステナビリティ担当役員を選任しております。同委員会の場でサステナビリティに関する諸課題への取り組み報告や議論を継続的に行うガバナンス体制を整備しました。特に、地球環境の保護に対する事業活動の取り組みとしては、『中期経営計画(NSG26)』において事業活動に伴うCO2排出削減の目標を設定し持続可能な社会の実現を目指してまいります。また、当社グループは、エネルギー効率の向上、各種のフィルター機能の提供や水素社会の基盤技術の開発など、高機能・独自製品を通じてサステナブル社会への貢献を図ってまいります。また、「日本精線グループ人権方針」や「日本精線グループ贈収賄防止方針」を制定し社内教育やモニタリングなどを継続的に実施し、当社グループのみならずサプライチェーンを通じてサステナビリティ課題に取り組んでいます。

 南海トラフの巨大地震や当社事業拠点周辺の断層による直下型地震リスクがあり、海外拠点においても当該地毎に大規模災害等のリスクが存在しています。当社グループの生産拠点において大規模災害やテロなどが発生した場合には、生産設備の破損やサプライチェーンの機能停止に伴い操業停止や資産価値の減損を強いられる虞があります。当社グループでは、人命最優先を基本方針としています。安否確認システムやマニュアル整備などの事業継続計画(BCP)については、コロナ禍を教訓に見直しを図るとともに、万が一の際に事業継続計画書が実効的に機能するように日頃からの安全在庫の管理・運用を徹底するとともに、復旧のボトルネックと必要な事前対策をリストアップし、耐震補強・浸水対策や受配電設備等の整備、ITシステムの運用見直しを計画的に推進してまいります。また、地震発生などの際に、誤操作・誤動作による障害が発生した場合にも制御できるように設備のフェイルセーフ化も進めています。事業継続マネジメント(BCM)の取り組み方針・施策の決定や拠点の活動確認などについては、年2回経営会議に報告する体制を整備しました。

 さらに、当社グループでは、製造ノウハウや顧客情報、各種設計図など生産・営業・開発に関して多くの営業的な秘密を保有しています。また、従業員やお客様に関する個人データを保有していますが、一般消費者との取引がないため、データ量は限定的となります。コンピュータウィルスや不正アクセスなど社外からのサーバー攻撃によって、情報が流出し、第三者がこれを不正に取得・使用するような事態が生じると、お客様からの信用力や製品競争力など、当社グループの事業基盤を脅かす虞が認められます。さらに損害賠償責任を負う可能性も含め財務上のリスクもあります。こうしたリスクを抑制するために、従業員へのセキュリティポリシーの徹底や、常に最新のセキュリティ技術を用いた未然防止策を図るとともに、日々のセキュリティログのチェックで被害拡大回避に努めております。

 

(2)外部環境変化に伴うリスク

 当社グループの付加価値の源泉である高機能・独自製品については、その一部のアイテムの販売先が、自動車、エネルギー、IT・半導体、化学製品など先端技術分野の産業・業種に依存する構造となっています。そのため、その業界に属するお客様の需給環境や投資計画、流通在庫の多寡によって、当社グループの受注環境が変動するリスクがあります。

 また、グローバル化しているお客様においては、その販売先のカントリーリスクが間接的に当社グループの受注環境に影響を与えています。一方、米国の相互関税をはじめとする通商政策が世界経済に与える不確実性、紛争などの地政学リスク、中国の景気減速懸念などが顕在化すると、当社グループの受注減少につながると認識しています。例えば、半導体関連の禁輸・制裁問題が超精密ガスフィルター(NASclean®)の販売減を引き起こす虞なども想定しています。同様に、為替水準の変動は、お客様の製品・サービスの価格競争力を押し下げる効果があるため、為替リスクも間接的に当社の受注環境に影響いたします。なお、当社グループにおける外貨建て取引は僅少であり直接的な為替リスクは大きくありません。

 このような外部環境の変化による受注・販売の減少リスクに対しては、多能工化などフレキシブルな生産体制で固定費抑制を図るほか、多様な業種・業界のお客様に提供できる製品ポートフォリオの充実によって受注変動リスクの分散を図っています。

 一方、当社グループの材料調達については、主力のステンレス鋼線部門の原材料は主成分であるニッケルやクロムなどのレアメタル相場の影響を受けます。原産国のカントリーリスクの発現などによりレアメタルの需給がひっ迫すると国際市況価格が高騰し当社の調達コストも増加しますが、為替変動リスクも含めた原材料の価格変動に連動してステンレス鋼線の販売価格を変更したり、契約に基づくサーチャージ制度により、原材料変動リスクの影響は限定的となります。ただし、ニッケル価格が極端に高騰すると、お客様が安価な代替品へ移行するリスクを認識しています。同様に、異業種企業や技術革新等により、当社グループのステンレス鋼線や金属繊維製品を代替するような素材や構造などが開発されるリスクもあります。当社グループでは、技術交流会や展示会などを通じて、お客様やマーケットのニーズの変化を的確に捕捉し、タイムリーな新製品の市場投入や品質改善活動に努めています。また、材料調達の大部分を一部の国内大手メーカーに依存しています。主要材料については調達できないというリスクは限定的ですが、メーカー指定の独自鋼種の材料調達に関しては、当該メーカーの生産停止などにより影響を受ける虞があります。

 

(3)安全・健康、品質やヒューマンエラーなどによるリスク

 当社グループにおいては、1トンに及ぶ重量物を取り扱うことや伸線機などの回転する危険な設備があることのほか、健康被害をもたらす特定化学物質の取扱い工程があるため、従業員の安全と健康を脅かす労働災害のリスクがあります。当社グループでは、安全と健康が幸せの原点と捉え、作業者による誤操作・誤動作による障害が発生した場合にも制御できるように設備のフェイルセーフ化へ継続的に投資するとともに、人間ドックの費用補助や健康維持向上活動に積極的な支援を行い、働きやすい職場環境づくりに努めています。当社は6年連続で「健康経営優良法人」に認定されるとともに、本年は上位500法人である「ホワイト500」にも初めて認定されました。さらには「健康経営銘柄2025」にも選定されており、今後も継続して健康経営に取り組みます。

 また、当社製品は、半導体製造装置・医療・自動車関連などの素材として利用されています。そのため、当社製品の欠陥に起因して、重大事故が起きたり、ユーザーの生命・健康に害を及ぼすリスクがあり、当社グループには損害賠償を求められる虞を認識しています。損害保険加入などの対策のほか、異材や疵などの不適合製品の流出防止に向け、品質関連の教育を徹底するとともに、誤入力や識別異常の防止など検査工程のシステム化投資を継続的に実施しています。また、検査データの不正や改ざんによって、お客様や社会からの信頼を失墜し、当社の事業基盤を失うリスクについても重く捉えています。当社グループでは、検査データ不正防止に向け、測定データの自動取込みシステムを導入するとともに、規格外や仕様登録のない材料や製品を取り扱うことのできない仕組みを運用しています。

 そのほか、(1)自然災害などの不可抗力や外部からの攻撃によるリスクで記述したとおり、当社グループでは生産、営業、開発などに関して多くの営業的な秘密や個人データを保有しています。過失などによって情報漏洩するリスクがあり、その影響は不正アクセスによる漏洩と同様と認識しています。当社グループでは、機密情報へのアクセスを制限したり、ソフトウェアなどで外部データ持ち出しを防止するほか、定期的にIT監査を通じて牽制を図っています。また、外部メールの運用ルールや重要情報の公開時の手続きの明確化にも努めています。

 

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1)経営成績等の状況の概要

当連結会計年度における当社グループ(当社及び連結子会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりであります。

 

①財政状態及び経営成績の状況

2024年度の世界経済は、米国の政策動向に絡む不透明さの増大、不動産不況を抱える中国経済の減速懸念などの影響により不安定に推移しました。また、ロシア・ウクライナ戦争や中東情勢などの地政学リスクの解消が見通せないこともあり、景気の先行きの不透明感が大きくなっています。日本経済は緩やかな回復基調にあるものの、不安定な国際情勢の影響に加え、賃上げ以上に進む物価の上昇、幅広い業界での人手不足問題などが景気の先行きに影響する可能性があります。

このような事業環境の中で、当社及び連結子会社(以下「当社グループ」という。)は、2024年度より『第16次中期経営計画(NSG26)』(最終年度2027年3月期)をスタートし、①サステナビリティ成長分野に向けた高機能・独自製品の開発深化 ②生産基盤強化と生産性向上 ③水素回収技術の深化 ④ESG経営(資本コストや株価を意識した経営)を基本方針として企業価値向上に努めてまいりました。

結果として通期の売上高は、467億49百万円(前期比4.5%増)となりました。損益については、太陽光発電パネルなどの製造プロセスで使用される極細線に対する需要増をはじめステンレス鋼線の販売量が増加し、また金属繊維部門の受注も堅調に推移したことから増益となりました。この結果、営業利益45億76百万円(同29.4%増)、経常利益45億85百万円(同23.9%増)となり、親会社株主に帰属する当期純利益は過去最高の32億50百万円(同25.4%増)となりました。

 

セグメントごとの経営成績は次のとおりであります。なお、セグメントごとの経営成績については、セグメント間の内部売上高又は振替高の相殺消去前の金額を記載しています。

 

[日本]

主力のステンレス鋼線は販売数量の増加に加え、極細線も堅調に推移しました。金属繊維は特に下半期が好調に推移し、売上高は416億34百万円(前期比3.6%増)、セグメント利益は42億3百万円(同20.3%増)となりました。

 

[タイ]

ステンレス鋼線の販売数量が増加し、売上高は55億97百万円(前期比12.3%増)、セグメント利益は1億51百万円(前期は16百万円のセグメント損失)となりました。

 

[中国・韓国]

ナスロン®フィルターの需要が堅調に推移し、売上高は17億17百万円(前期比24.7%増)、セグメント利益は2億91百万円(同165.6%増)となりました。

 

当連結会計年度末における総資産は558億84百万円となり、前連結会計年度末に比べ24億82百万円増加しました。流動資産は現金及び預金や棚卸資産の増加などにより、前連結会計年度末に比べ26億36百万円増加しました。固定資産は有形固定資産が減少したことなどにより、1億53百万円減少しました。

負債は139億80百万円となり、前連結会計年度末に比べ67百万円増加しました。流動負債は支払手形及び買掛金や未払法人税等の増加などにより、前連結会計年度末に比べ4億97百万円増加しました。固定負債は長期借入金や退職給付に係る負債の減少などにより前連結会計年度末に比べ4億30百万円減少しました。

純資産は利益剰余金が増加したことなどにより419億4百万円となり、前連結会計年度末に比べ24億15百万円増加しました。

 

②キャッシュ・フローの状況

当連結会計年度末における現金及び現金同等物は164億79百万円となり、前連結会計年度末に比べ18億71百万円増加しました。各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりです。

 

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

営業活動によるキャッシュ・フローは47億19百万円の収入となり、前期に比べ37百万円増加しました。これは税金等調整前当期純利益の増加及び棚卸資産の増加などによるものです。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

投資活動によるキャッシュ・フローは13億41百万円の支出となり、前期に比べ14億81百万円支出が減少しました。これは有形固定資産の取得による支出が減少したことなどによるものです。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

財務活動によるキャッシュ・フローは17億5百万円の支出となり、前期に比べ1億68百万円支出が増加しました。これは配当金の支払額が増加したことなどによるものです。

 

(キャッシュ・フロー指標)

なお、キャッシュ・フロー指標のトレンドは以下のとおりです。

 

 

2022年3月期

2023年3月期

2024年3月期

2025年3月期

自己資本比率      (%)

   68.2

   68.5

   72.8

   73.7

時価ベースの自己資本比率(%)

   53.3

   52.0

   81.1

   70.0

キャッシュ・フロー対有利子負債比率

    0.1

    0.4

    0.1

    0.1

インタレスト・カバレッジ・レシオ(倍)

   954.3

   534.6

  1,099.5

  1,133.6

     ※ 自己資本比率:自己資本/総資産

       時価ベースの自己資本比率:株式時価総額/総資産

             キャッシュ・フロー対有利子負債比率:有利子負債/営業キャッシュ・フロー

             インタレスト・カバレッジ・レシオ:営業キャッシュ・フロー/利払い

      (注)1.各指標はいずれも連結ベースの財務数値により計算しております。

          2.株式時価総額は、期末株価終値×期末発行済株式総数により計算しております。

                  3.営業キャッシュ・フローは連結キャッシュ・フロー計算書の営業活動によるキャッシュ・フローを使用しております。

         4.有利子負債は連結貸借対照表に計上されている負債のうち利子を払っている負債を対象としております。また、利払いについては、連結キャッシュ・フロー計算書の利息の支払額を使用しております。

 

③生産、受注及び販売の実績

a.生産実績

当連結会計年度の生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

当連結会計年度

(自 2024年4月1日

至 2025年3月31日)

前年同期比(%)

日   本(百万円)

39,853

6.4

タ   イ(百万円)

5,533

14.2

中国・韓国(百万円)

1,622

31.1

合計(百万円)

47,009

8.0

(注)金額は平均販売価格によっており、セグメント間の内部振替前の数値によっております。

 

b.受注実績

当連結会計年度の受注実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

当連結会計年度(自 2024年4月1日 至 2025年3月31日)

受注高

(百万円)

前年同期比(%)

受注残高

(百万円)

前年同期比(%)

日   本

41,909

5.5

5,486

8.5

タ   イ

3,788

1.3

653

△9.3

中国・韓国

1,312

△3.7

279

△26.9

合計

47,009

4.9

6,418

4.2

(注)金額は販売価格によっており、セグメント間の取引については相殺消去しております。

 

c.販売実績

当連結会計年度の販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

当連結会計年度

(自 2024年4月1日

至 2025年3月31日)

前年同期比(%)

日   本(百万円)

41,634

3.6

タ   イ(百万円)

5,597

12.3

中国・韓国(百万円)

1,717

24.7

 消    去(百万円)

△2,200

20.6

合計(百万円)

46,749

4.5

(注)1.金額は販売価格によっており、セグメント間の取引については相殺消去しております。

2.最近2連結会計年度の主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は次のとおりであります。

 

 

相手先

前連結会計年度

(自 2023年4月1日

至 2024年3月31日)

当連結会計年度

(自 2024年4月1日

至 2025年3月31日)

 

 

金額(百万円)

割合(%)

金額(百万円)

割合(%)

大同興業株式会社

10,268

23.0

10,926

23.4

株式会社メタルワン

5,456

12.2

5,731

12.3

 

(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書の提出日現在において判断したものであります。

 

①重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

当社グループの連結財務諸表は、我が国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されています。この連結財務諸表の作成に当たり重要となる会計方針については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等(1)連結財務諸表 注記事項(連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項)」に記載のとおりです。連結財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載のとおりです。

なお、見積り及び判断・評価につきましては、過去実績や状況に応じて合理的と考えられる要因等に基づき行っておりますが、見積り特有の不確実性があるため、実際の結果は異なる場合があります。

 

②財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容

a.財政状態の分析

当連結会計年度末の資産合計は、前連結会計年度末に比べ24億82百万円増加し558億84百万円となりました。負債については、前連結会計年度末に比べ67百万円増加し139億80百万円となりました。

当連結会計年度の売上高が増収(前連結会計年度比20億21百万円増)となったために、売上債権(同比20百万円増)、棚卸資産(同比6億62百万円増)、買入債務(同比5億33百万円増)とも増加し、運転資金が1億49百万円増加しました。また、設備投資は減価償却見合いに留まり、政策保有株式の売却もあり固定資産は1億53百万円減少しました。純資産は、利益剰余金が前連結会計年度末に比べ17億34百万円増加し419億4百万円となりました。結果として、現金及び預金の残高は前連結会計年度末に比べ18億27百万円増加しました。

利益の積み上がりによって自己資本比率は73.7%(前期比0.9ポイント増)に高まり、経常利益が増益(前連結会計年度比8億85百万円増)となったためROA(経常利益/総資産)は8.4%(前期比1.5ポイント増)となりました。

 

b.経営成績の分析

(売上高)

当連結会計年度における売上高は467億49百万円(前期比4.5%増)となり、前連結会計年度に比べ20億21百万円増加しました。

高機能・独自製品が売上高全体に占めるシェアは66.4%(前期比0.1ポイント増)となりました。高機能・独自製品の売上高増加の主な要因は、金属繊維部門が好調に推移したことによるものです。

 

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事業部門別の売上状況は、次のとおりとなります。

 

[ステンレス鋼線]

ステンレス鋼線においては、2023年度を通じてサプライチェーン各社で在庫調整が実施されましたが、下落傾向にあったニッケル価格が上昇に転じたことも影響し、2024年度第1四半期から流通在庫を積み増す仮需が一部アイテムに生じました。2024年度上半期の販売数量は月当たり2,858トン(前年同期比10.4%増)となりましたが、その後の需要回復の動きは鈍く、下半期平均2,830トンとなりました。また、太陽光発電パネルの製造プロセスで使用されるスクリーン印刷向け極細線は、お客さまの細径化ニーズに応える高付加価値製品として好調な受注を確保しましたが、中国での太陽光パネルの在庫調整の影響により第3四半期以降調整局面となりました。

LMEニッケル価格については、2024年1月からは価格が反転上昇し4~6月平均価格はポンドあたり8.34ドルとなりましたが、その後下落基調となり7月以降はポンドあたり7ドル前後での推移となりました。

結果として、通期でのステンレス鋼線全体の売上高は388億87百万円(同1.6%増)となりました。

なお、海外現地法人については、THAI SEISEN CO., LTD.、大同不銹鋼(大連)有限公司とも増収となりました。

 

[金属繊維(ナスロン®)]

金属繊維においては、半導体関連業界向け超精密ガスフィルター(NASclean®)に対する需要の調整局面が継続しましたが第4四半期には回復傾向が見られ、また半導体製造装置メーカー各社の中国向け販売需要が底堅く推移しました。2024年度上半期の月当たり売上高は3億23百万円(前年同期比8.2%増)、第3四半期は3億39百万円、第4四半期は3億80百万円となり下半期平均は3億59百万円(上半期比11.2%増)となりました。

ナスロン®フィルターについては、2024年度上半期の販売はポリエステルフィルム用途の販売が減少したものの高機能フィルム用途の販売が堅調に推移したことから、月当たり2億79百万円(前年同期比25.2%増)となり、下半期は海外の炭素繊維関連の大型案件を中心に化合繊維向けのフィルターの販売増も加わり、第3四半期は3億18百万円、第4四半期は3億76百万円となり下半期平均は3億47百万円(上半期比24.6%増)となりました。

結果として、金属繊維部門の当期における売上高は78億62百万円(前期比21.7%増)となりました。

海外現地法人である耐素龍精密濾機(常熟)有限公司については増収となりました。

 

(経常利益及び親会社株主に帰属する当期純利益)

当連結会計年度における経常利益は45億85百万円(前連結会計年度比23.9%増)となりました。ROSは9.8%となり前連結会計年度比1.5ポイント上昇しました。結果として、親会社株主に帰属する当期純利益は過去最高の32億50百万円(同25.4%増)となり、ROEは8.1%(前連結会計年度比1.3ポイント増)となりました。

経常利益が前期比増益となった主な要因は、太陽光発電パネルなどの製造プロセスで使用される極細線に対する需要増をはじめステンレス鋼線の販売数量が増加したこと、また金属繊維部門が堅調に推移したことなどです。

 

③キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報

a.キャッシュ・フローの分析

キャッシュ・フローの分析につきましては、「(1)経営成績等の状況の概要 ②キャッシュ・フローの状況」に記載のとおりであります。

 

b.資金需要

成長投資への支出については、「サステナビリティ成長分野への高機能・独自製品の開発・拡販による持続的成長」を実現するために、主力の製造拠点である国内工場及びタイ、中国の在外子会社における生産効率向上や増産を目的とした設備投資を図ってまいります。また、お客様のニーズに対応した新製品開発と新市場創出に向け研究開発にも注力してまいります。将来の成長に向けた戦略的な資金需要に対しては、財務健全性の維持と資本コストを意識しつつ、積極的に対応していくことを方針としています。

運転資金としては、当社グループ製品製造のための材料及び部品の購入のほか、製造費用や営業費用が必要となります。事業運営上の必要資金に加え、大地震等の自然災害、感染症のまん延、テロ等の事件、大事故、サプライチェーン(供給網)の途絶、突発的な経営環境の変化など不測の事態が発生しても、事業を中断させない、または中断しても可能な限り短い期間で復旧に備えるために、後述の退職給付債務の支払い原資の控除後、月商3ヵ月分の現金及び現金同等物の流動性確保を目途としています。

株主還元への支出については、連結業績や財政状態などを総合的に勘案し、連結配当性向50%程度を目途に配当を行うことを基本としています。

なお、当社グループでは退職一時金制度のみを採用しており、退職給付債務42億12百万円(2025年3月末現在)の支払い原資を、現金及び現金同等物にて実質的に保全しています。

 

c.資金調達

当社グループの運転資金及び投資資金は、原則として営業活動により獲得したキャッシュ・フローにより充当することを基本方針としています。ただし、有事の場合など、必要に応じ銀行借入による資金調達ができるように、取引金融機関との取引関係の維持強化に配慮した財務政策に努めています。

 

5【重要な契約等】

該当事項はありません。

6【研究開発活動】

当社グループの研究開発活動は、主として、当社の研究開発部を核として、製造部門の技術スタッフとの協業で行われております。ステンレス鋼線では、コア技術を基盤に競争力を強化するための新技術開発とともに、顧客ニーズを迅速に捉えた新製品の開発を行っております。

金属繊維では、既存製品群の更なる生産技術の向上と品質改善並びにその応用製品である金属フィルター製品群は、高分子・化学工業分野向けの高機能フィルター及び半導体・液晶産業分野向けの超精密フィルターなどの高付加価値の新製品の研究開発を行っております。更に、2050年のカーボンニュートラルを見据え、脱炭素燃料としての利活用が期待されている水素に関しては、将来の商用化を目指し有機ハイドライド(MCH)による水素貯蔵回収小型プラントにおいて実証実験によりエネルギ-効率や装置の信頼性等の検証を進め、水素社会に向けた研究開発を推進しております。

当連結会計年度における研究開発は、すべて「日本」セグメントに属しております。

なお、当連結会計年度の研究費の総額については特定の製品群に区分できない基礎研究費等を含め633百万円となっており、当連結会計年度における主要な新製品の研究開発活動の状況を示すと次のとおりであります。

(1)ステンレス鋼線

①超高強度ばね材(商品名:ハーキュリーEH)の開発

②高強度導電ばね材(商品名:エレメタル e-Fine)の開発

③高硬度銅系合金材(商品名:エレメタル eH)の開発

④耐水素脆性ばね材(商品名:ハイブレム-S)の開発

⑤高精度スクリーン用極細線の開発

⑥高強度コンタクトプロ-ブ用超極細ばね材の開発

⑦医療用ステンレス鋼線(商品名:INS304V)の開発

⑧医療用新Co基合金線材の開発

⑨高耐熱溶接材(商品名:INS701)の開発

⑩3Dプリンタ用溶接材の開発

 

(2)金属繊維

①半導体プロセスガス用小型精製器の開発

②半導体ガス用高耐食低圧損フィルターの開発

③半導体プロセスガス用超小型集積フィルターの開発

④ポリマー用新加熱方式フィルターハウジングの開発

⑤ポリマー用滞留改善リーフディスクフィルターの開発

 

(3)その他

①水素分離膜モジュールの開発

②有機ハイドライド(MCH)による水素貯蔵回収小型プラントの実証実験、

及び水素の構内利用に向けた取組み

③アンモニアクラッキングを活用した水素回収装置の開発

④水素吸蔵モジュールの開発

⑤環境対応車(xEV)への磁性材料、及び抵抗材料による用途開発